グリモワール魔法学園【七属性の魔法使い】 (ゆっけめがね)
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第1部 始まり
プロローグ


※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


燃え盛る炎に包まれた町・・・

崩れた瓦礫に押し潰された両親の遺体を見つめて、膝から崩れたまま呆然とする少年。

 

「なんで・・・なんで・・こんな事に・・・!」

 

~数時間前~

 

「う~ん・・・朝かぁ・・・」

 

ベッド起き上がり伸びをする少年。

名前は早田 良介(はやだ りょうすけ)

普通の高校生だ・・・まだこの時は。

 

「良介ー、起きなさい!

 朝ごはんできてるわよー!」

 

母親から降りるように呼ばれる。

 

「わかった。

 今降りるから!」

 

そう言って、ベッドから飛び起きて、即座に寝間着から私服に着替え、

部屋を出た。

リビングには父親がいた

 

「おはよう、良介。」

 

「おはよう、父さん。」

 

いつものように挨拶を交わし、朝を食べに椅子に座る。

 

「「「いただきまーす!」」」

 

いつもと同じように朝食を食べる。

 

「良介、突然だが今日、母さんと買い出しに行こうと思ってな。

お前も一緒に来るか?」

 

「んー?そうだなぁ・・・

ちょうど欲しい漫画があるから一緒に行くよ。」

 

父さんから買い物に行かないかと誘われたのですぐに了承した。

まぁ、どうせ母さんの買い物の量は凄まじいから、

父さんと一緒に荷物持ちすることは確定だな。

 

「それじゃ、朝食を食べたらすぐに行きましょうか。」

 

母さんそう言って、一番早く食べ終わり、すぐに準備しに自分の部屋に戻っていった。

これが両親との最後の晩餐になるとは、良介はまだ知らなかった。

 

   ***

 

父さんの車に乗り行きつけのデパートに着く。

 

「それじゃ、俺は本屋に行ってくるよ。」

 

良介はすぐに本屋に向かおうとする。

 

「良介、父さん達は先に買い物行くからな。

用が済んだら、すぐに来いよ。」

 

「わかったよ、父さん。」

 

両親と軽い会話した後、本屋に、向かった。

これが両親との最後の会話だった。

 

   ***

 

「え~と、あの本は・・とっ・・・」

 

本屋に入り目的の漫画を購入しようと、漫画を探していた。

 

「お、あったあった。」

 

目的の漫画を見つけ、手に取る。

ファンタジー系の漫画でストーリーは王道的なものであるが、そこそこ面白い。

 

「よし、早速買いに・・・」

 

手に取った漫画を購入しようとレジに向かおうとした時だった。

唐突な爆発音、地震のような揺れが起こった。

 

「なんだ・・・地震か?」

 

良介はそう思った瞬間、とてつもない地響きが起こり、デパートは突然崩れだした。

 

「え!?うわあぁぁぁ!!??」

 

良介は落ちてきた巨大な瓦礫に押し潰されてしまった。

 

   ***

 

「うーん・・・痛っ・・・」

 

目を開けると真っ暗だった。

何が起きたのかわからなかったが自分の上に何かが覆い被さっていることに気づいた。

 

「くっ・・・邪魔だな・・・!」

 

手と足を使って自分の上に被さっているものを退ける。

自分と同じくらいの大きさのある瓦礫だった。

どうやら、瓦礫に潰されたが運良く軽い傷で済んだようだ。

 

「一体何が起きて・・・!!っ」

 

周りを見渡してみると、街全体が火の海になっていた。

 

「なんだよ・・・これ・・・!

何が起きたんだよ!?」

 

状況が掴めず困惑する良介。

だが、すぐに両親のことを思い出す。

 

「そ、そうだ!!

父さんと母さんは!!」

 

瓦礫だらけでわかりにくかったが、記憶と少ししか残っていない店の特徴を頼りに、

両親が向かったと思われる場所に向かった。

 

「父さん、母さんっ!!

一体どこに・・・っ!!!」

 

良介はその状況を見て呆然としてしまった。

両親は見つけた。

見つけたが・・・見つけた両親は瓦礫の下にいた。

・・・・血の海に沈んで。

 

   ***

 

そして冒頭に戻る。

 

「なんで・・・なんでこんな事に・・・!!」

 

自問自答を何度も繰り返す。

どうしてこうなってしまったのか、未だに状況が掴めずにいた。

と、後ろで獣のような遠吠えが聞こえた。

 

「なっ・・・!!??」

 

見てすぐにわかった。

霧の魔物だ。

しかも一体だけじゃない。

その場だけで三体いた。

恐らく、他の場所にもかなりの数がいそうだ。

普通なら、ここで恐怖に駆られるが、良介は違った。

 

「てめぇらか・・・てめぇらが、父さんと母さんを・・・!!」

 

拳を握り締め、ギリギリと歯軋りをする。

良介は完全に怒りに駆られていた。

少し周りを見て、近くで倒れている人を見つける。

 

「皆を・・・街の皆を・・・よくも・・よくも・・・っ!!!」

 

魔物が襲いかかってきた。

良介はその攻撃を避けようとせず、拳に力を込めて殴りにかかった。

 

「許さねぇぞ・・・この野郎っっ!!!」

 

良介の拳が魔物に当たった瞬間、爆発が起き、魔物が後方に吹き飛び、霧に戻った。

 

「えっ・・・今のって・・・!!」

 

自分の手を見ると両手から光のようなものが出ていた。

そこだけじゃない。

よく見ると自分の体から色々な属性の魔法が出ていることに気付く。

 

「こ、これって・・・魔法!?」

 

いきなりの出来事に困惑する良介。

 

「けど・・・これなら!」

 

即座に出したい魔法を頭でイメージして、放つ。

 

「おりゃああっ!!」

 

すぐ近くにいた二体の魔物も魔法で纏めて倒した。

イメージ通り、風属性の魔法がでた。

 

「これ・・・俺・・魔法使いに目覚めた・・・ってことだよな?」

 

両手を見つめ、そう呟いた・・・と、

 

「ぐっ・・・!!

があああぁぁ!!??」

 

体から何かが爆発して、弾けそうな感覚に襲われる。

魔法が強力な為、体にかなりの負荷がかかっていた。

 

「ぐぅぅぅ・・・こうなったらっ!」

 

またすぐに頭でイメージを作る。

できるかわからないが、自分の能力を部分的に封印することにした。

 

「鍵で・・・封じるような・・・っ!」

 

いったいどれだけの能力を持っているのかわからないが、

三段階に分けて封印することにした。

 

「ぐっ・・・はぁ・・・はぁ・・・。

うまく・・・できたのか?」

 

さっきのような感覚が無くなり、多少楽になった。

どうやらうまくいったようである。

すぐに後ろを振り返り、父親と母親の遺体に目を向ける。

 

「・・・・・」

 

夢であってほしい。

そう思ったが、どうやらこれが現実らしい。

 

「おい!あそこに誰かいるぞ!」

 

後ろで声がした。

どうやら国軍が来てくれたらしい。

 

「君、大丈夫か。

けがは?」

 

「あ・・・はい、大丈夫です・・・」

 

力なく返事を返す良介。

 

「ん?君・・・もしかして魔法使いに?」

 

「・・・・はい」

 

「・・・そうか、とりあえず避難だ。

まだ完全に魔物がいなくなっていないからな。」

 

そう連れられて国軍の人達と共にその場を後にした。

その後知ったことだが、その街の生存者は俺だけだったらしい。

それを知った俺は心に決めた。

 

「この魔法で・・・力で・・・魔物を全て滅ぼしてやるっ・・!

父さんと母さん・・・街の皆の仇を取るためにっ!」




人物紹介
早田 良介(はやだ りょうすけ)17歳
主人公。
困っている人がいたら放っておけない性格。
気は長い方だが、一度キレると手がつけられない。
料理が趣味で家庭で作れる料理は大体作れる。
ファンタジーものやSFもののゲームや小説が大好き。
生まれつき運動神経がよく特技でバク転やバク宙ができる・・・が、なぜか帰宅部。
本人曰く、「スポーツするのが面倒くさいから」とのこと。


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第1話 魔法学園

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


あの事件から早くも一週間が経過した。

けがはそんなに多くなかったが魔法使いに目覚めたせいか、治りが早かった。

仮住まいを少ししていたが、ある日、あるものが届いた。

魔法学園の入学届だった。

魔法使いに目覚めたら、魔法学園に通うことが義務付けられている。

 

「魔法学園か・・・

ここに通えば、今よりも魔法が使いこなせるようになれるのか。」

 

いち早く、能力をコントロールして強くなりたかった良介にとっては、

願ったり叶ったりだった。

すぐに入学の手続きをした。

そこから2日後・・・

魔法学園の制服にカバン、戦闘の時に変身して着る戦闘服、なぜか武器まで付いていた。

無論、教科書等も入っていたのだが・・・

 

「魔法関係のものばっかりだな・・・」

 

ほぼ魔法関連の教科書ばっかりだった。

入学届に戦闘服はどんなものがいいか書いてあったが、

冒険者のような服に青いマントと書いたが、

まったくイメージ通りの物が届いた。

ただ、武器に関しては頼んだ覚えはない。

事件から2日ぐらい経った時に、検査みたいなものを受けたが、

それが関係しているのだろうか。

武器は、西洋風の剣で、柄の部分に金の装飾が入っていた。

どうやら名前は【七聖剣】と言うらしく、魔法を吸収しやすい特殊な金属でできているらしい。

しかも、戦闘服と同じで変身した時だけ出てくるようだ。

翌日、早速通う予定である【グリモワール魔法学園】に荷物を纏めて向かうことにした。

  

   ***

 

魔法学園に向かう前に、あるところに寄り道することにした。

父さんと母さんのお墓に向かった。

 

「・・・父さん、母さん、行ってきます。」

 

手を合わせて、そう言ってその場を後にした。

バスに乗り、大体20分ぐらいで風飛市に到着した。

荷物を詰めたトランクを引っ張り学園に向かった。

 

  ***

 

学園に到着すると、校門に謎の物体が浮遊しているのを見つけた。

 

「なんじゃありゃ・・・」

 

良介は口からそんな言葉を出しながら校門に近づいた。

 

「お!お前が今度転校してくる新しい生徒だな!」

 

うさぎのぬいぐるみのような形をした物体がいきなりしゃべりだした。

 

「あぁ・・・まぁ・・・うん、そうだけど・・・」

 

この状況をなんと言えばいいかわからず、困惑する良介。

 

「名前は・・・早田 良介であってるよな?

あ、俺は兎ノ助っていうんだ!よろしくな!」

 

どうやらこの物体は兎ノ助というらしい。

 

「あ、あぁ・・・よろしく・・・」

 

「男子寮は学園から少し離れたところにある。

俺は普段、学園から離れられないが寮のあるところまではOKみたいだから、

早速案内するぜ!」

 

どうやら普段は学園から離れることができないようだ。

兎ノ助に連れられて男子寮に来たが・・・

 

「なんか・・・閑散としているような・・・」

 

なぜか男子がほとんどいない。

 

「魔法使いに目覚めるのはほとんど女子だからな。

この学園の女子と男子の比率は8:2ってところだな。」

 

つまりほぼ女子校と言っても過言ではないようだ。

 

「ここが良介の部屋だ。

とりあえず今日は荷物の整理だな。

明日から学園に通ってもらうからな。」

 

「わかった。」

 

とりあえず、この日は荷物の整理だけをして明日の行く用意だけをしてこの日は終了した。

 

  ***

 

翌日、朝6時に寮のベッドから起きた。

朝食を食べて、制服に着替え、いつでも行ける準備をする。

 

「おおーい、起きてるか?」

 

兎ノ助の声だ。

どうやら迎えに来てくれたらしい。

 

「ああ、起きてるよ。」

 

返事を返して部屋を出る。

兎ノ助に着いて行き、学園に着いた。

職員室に向かい、担当の先生に挨拶をすませ、教室に向かった。

 

  ***

 

教室に着き、中で朝礼が行われる間、廊下で呼ばれるのを待つ。

 

「今日から転校してきた生徒がいます。」

 

そう言われて入るよう言われたので、教室に入る。

 

「早田 良介です。

よろしくお願いします。」

 

教室を見ると、ほとんど女子で埋め尽くされていた。

男子が入ってきたということで珍しいものを見るような目で、

ほとんどの女子が見てきているが気にしないことにする。

空いている席に座るように言われ、席に座る。

そのまま、授業が開始した。

 

  ***

 

昼休み、弁当が無いので食堂に向かおうとした。

 

「おい、転校生。ちょっといいか?」

 

呼ばれたので振り向くと一人の男子生徒が立っていた。

 

「一緒に飯、食わねえか?」

 

昼の誘いに来たようだ。

 

「俺、食堂だけど?」

 

「俺もだよ。だから誘いに来たんだよ。」

 

どうやら向こうも食堂に向かおうとしていたようだ。

その男子生徒と話をしながら食堂に向かうことにした。

その生徒の名は、新海 誠(しんかい まこと)。

良介が転校してくる一か月前に転校してきた生徒らしい。

誠も良介と似たような境遇で魔法使いに目覚めたそうだ。

趣味も良介と似たようなものだったのですぐに意気投合した。

 

「いやー、男子生徒がほとんどいないもんだからどう友達を作ろうか、

迷ってたんだよ。

お前が転校してきてくれて嬉しいぜ、良介。」

 

良介は食堂で誠と雑談しながら、昼食をとっていた。

どうやら誠はこの一か月の間、ほぼ一人で行動していたらしい。

 

「まぁ、男子生徒がほとんどいないから辛かったんじゃないのか?」

 

「辛いっていうか、周りが女子だらけだったからすごい居づらかったんだよな。」

 

どうやら結構な苦悩があったらしく、色々な出来事を教えてくれた。

あっという間に昼がすぎ、放課後になった。

 

「なぁ、誠。

ちょっといいか?」

 

誠に少し頼みごとをしようと思い、呼びかけてみた。

 

「悪い、ちょっと用事があるんだ。

明日なら大丈夫だけど?」

 

「ああ、用事があるならいいんだ。」

 

どうやら用事があるらしいので、そのまま誠と別れた。

 

「(さて、どうしたものか・・・

学校案内を頼もうかと思ったんだけどなぁ・・・)」

 

教室を見渡してみたが、ほとんど誰もいない状態だったので帰ることにした。

 

  ***

 

次の日になり、学校の校門に着くといきなり兎ノ助に呼び止められた。

 

「良介、お前、学校案内まだされてないよな?」

 

「?まだだけど・・・」

 

「実はある生徒に学校案内するように頼んどいたから、今から行ってくるといい。

あ、それとこれ渡しとくよ。」

 

兎ノ助からスマートフォンのようなものを手渡された。

 

「これは?」

 

「それは『デバイス』。

電話や、クエストを受けたりするのに必要なものだ。」

 

「クエスト?

それってどういう・・・」

 

クエストとは何なのかを聞こうとしたときだった。

 

「おまたせしました!

あなたが噂の転校生さんですか?」

 

一人の女子生徒が現れた。

ショートカットの髪をしたかわいらしい女の子だ。

 

「たしかにそうだけど・・・」

 

「初めまして!

南 智花(みなみ ともか)といいます!

今日は学校案内を頼まれていますので早速案内しますね!」

 

智花という女子生徒に連れられて、案内してもらおうとしたときだった。

いきなりデバイスが鳴った。

 

「なんだ?」

 

良介がデバイスを取り出すと、智花もデバイスを取り出した。

どうやら生徒全員のデバイスにきているようだ。

 

「これは・・・クエストが出されたみたいですね。」

 

「クエストって具体的にどういうことをするんだ?」

 

「クエストは基本的に霧の魔物の討伐を指しているんです。」

 

どうやら、生徒たちにとっては仕事のようなものらしい。

霧の魔物の討伐・・・良介は率先して受けたいという気持ちに駆られた。

 

「(でも、確か二人一組になって行動しなきゃいけないんだよなぁ・・・)」

 

「あの~、良介さん・・・でしたっけ?」

 

「ん?どうした?」

 

「突然ですけど・・・私とクエストを受けてもらえませんか?」

 

突然、智花からクエストに行かないかと誘われた。




人物紹介
新海 誠(しんかい まこと)17歳
準主人公。
火、風、土、水の魔法が使える。
ライトな性格で、よくボケるが、たまにツッこむ。
良介と同じく、ファンタジーもの、SFもののゲームを好んでいる。
風紀委員からセクハラが多いということで目を付けられている。


南 智花(みなみ ともか)16歳
良介と同じクラスの女子生徒。
何かと目が合う女子高生。
誰とでも親しく話すことができ、面倒見もよい。
転校してくる生徒が多いこの学園で【最初の友達】と言えばだいたい彼女のことだ。
手先も器用で料理以外はたいていできる。料理以外は。
料理をさせてはいけない。絶対に。絶対ダメ。


兎ノ助(うのすけ)
魔法学園の生徒指導官。
兎のような外見をしている。
ロボット等の類ではなく、元々魔法使いだったらしく精神移植をして今の姿になった
という。
人間だったころの記憶はないが、魔法使いだったことは覚えているらしい。
学園には50年ぐらいいてるらしい。


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第2話 クエスト

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
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智花に突然クエストに誘われた良介は、クエストを受け、

智花と共にクエストが発令された場所にいた。

 

「本当に突然すいません。」

 

いきなり智花が謝ってきた。

 

「いや、別にいいよ。

今の自分がどれくらいの魔法が扱えるか確かめるにはちょうどいいし。」

 

「そう言ってくれると助かります。

そういえば、良介さんの能力って確か、自分の魔力を他人に渡すことができるんですよね?」

 

「ああ、どうも自分の魔力は無尽蔵みたいだからな。」

 

歩きながらお互いの能力について話をすることにした。

智花はそこまで強力ではないが、そこそこの魔法が使えるらしい。

 

「良介さんの使える魔法の属性はなんですか?

私は火と雷が少し使えますけど・・・」

 

「んー、どれだけかはまだわからないけど、

今のところ、わかってるのは七属性かな?」

 

「七属性!?」

 

突然、智花が大声をあげる。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「あ、すいません。

あまりにも多くの属性を扱えることを知って驚いてしまいました。」

 

「そんなに珍しいのか?」

 

「珍しいというよりかは、七属性も扱える魔法使いは今まで現れたことがないんですよ。

三属性でも多いぐらいなんで・・・」

 

「へー、初めて知ったよ。」

 

「同じクラスにいる新海くんが四属性使えるんですよ。

学園で四属性以上使える魔法使いは彼ぐらいだったんですけど・・・」

 

良介でどうやら二人になったということらしい。

 

「主にどんな属性が使えるんですか?」

 

「火、風、土、水、雷、光、闇が、今のところ使えることがわかってる属性かな?」

 

「五属性のうちどれかならよく聞きますけど、

光と闇の属性の魔法使いというのはあまり聞かないですね。

特に、両方持ってる方となると一度も聞いたことがないです。」

 

どうやら良介はかなり特別な魔法使いらしい。

 

   ***

 

そんなこんな話しているうちに、魔物が出現した箇所に到着する。

 

「それじゃ、変身しましょう!」

 

そういって、智花は戦闘服に変身する。

 

「んじゃ、俺も。」

 

良介も戦闘服に変身する。

 

「・・・おお~。」

 

「・・・どうした?」

 

良介が変身し、青いマントをはためかすと、智花は感嘆の声をあげた。

 

「いえ、結構かっこよかったので、つい声が・・・」

 

どうやらマントをはためかす動作がかっこよく見えたらしい。

変身し終えた二人は早速、魔物を探しに入る。

 

「ん?あれじゃないのか?」

 

良介が何かを見つけた。

ミノタウロスのような格好をした魔物だ。

 

「間違いありません。霧の魔物です。

ここは私が行くので、良介さんはサポートお願いできますか?」

 

「魔力の補充と、魔物の位置だろ?

まかせてくれ。」

 

「はい!お願いします!」

 

智花は早速、魔物に立ち向かった。

 

「これで・・・えいっ!!」

 

小さな火の玉を作り出し、魔物にぶつける。

魔物は瞬く間に、倒された。

 

「やりました!」

 

「いや、まだだ。

他にも何体かいるらしい。」

 

良介は剣を抜きながら、周りを見渡す。

少し離れたところにさっきと同じ姿をした魔物を見つける。

 

「今度は俺がやる。

サポートを頼む!」

 

良介は剣を構え、魔物に突撃する。

 

「(剣に魔力を込めて・・・!)」

 

良介の剣から火があがり、刀身を火で覆う。

 

「せぇぇぇぇい!!」

 

渾身の一撃を魔物にあたえる。

魔物は一瞬にして消え去った。

 

「さすがですね。

来て間もないのに、そういうことができるなんて!」

 

智花の目がキラキラと輝いていた。

 

「いや、まだまださ。

さて、どうやら魔物はまだ一体いるようだな。」

 

少し先に、残り一体の魔物がいた。

 

「それじゃ、ここは私が・・・」

 

智花が魔物に向かおうとした途端、動きが止まる。

 

「・・・どうした?」

 

「け・・・毛虫~~!!??」

 

近くの木の枝に毛虫がいたようで、それに驚いて見当違いの方向に走っていってしまった。

 

「ちょっ・・・嘘だろ!?」

 

走っていってしまった智花を追いかけようとしたところ、魔物が襲撃してきた。

 

「うおっ!危ねぇ!?」

 

紙一重で避ける良介。

すぐに体勢を立て直し、攻撃を行う。

 

「これで・・・どうだっ!」

 

今度は刀身に風属性の魔法をかけて斬りにかかる。

魔物は一刀両断にされ消えた。

 

「ふぅ・・・終わったか。」

 

ちょうど倒したところで智花が帰ってきた。

 

「す、すいません。

取り乱してしまいました・・・」

 

「あ~、まぁ、仕方がないよ。

次、気をつければいいだけだしな。」

 

とりあえず、クエストを完了したことを報告しに学園に戻ることにした。

 

   ***

 

「はい、良介さん。

飲み物どうぞ!」

 

クエストを終えた二人は、購買の前にいた。

すると、黒いロングの髪に、腰に日本刀を持った女生徒がやってきた。

 

「初めましてだな。私は神凪 怜(かんなぎ れい)。

風紀委員のもので、智花の友人だ。」

 

「ああ、これはどうも。

早田 良介です。よろしく。」

 

「敬語はいい。

お互いに同い年だからな。」

 

そういって怜は優しく微笑む。

 

「それで、智花。

彼とクエストに行ったんだろ?

どうだった?」

 

「うん、魔力の受け渡しっていうのがすごくいいね。

魔力の量を気にせず撃てるから。

ただ、今回は良介さんに迷惑かけちゃったけど・・・」

 

「ん?何かしたのか?」

 

「魔物の目の前で毛虫に驚いちゃって、逃げ出しちゃったんだ。

戻ってきたら、良介さんがもう魔物倒してたし・・・」

 

智花そういってため息をつく。

 

「さっきも言ったけど、次驚かなければいいだけだから気にする必要はないって。」

 

「あう・・・ありがとうございます。」

 

良介はジュースを飲み干し、ゴミ箱に捨てる。

 

「あ、ジュースのおかわり、入ります?」

 

「あー、そうだな。

もう一本貰おうかな。」

 

「わかりました。

ももちゃーん!」

 

智花が購買のレジで誰かの名前を呼んだ。

 

「はーい!」

 

元気のいい返事と共に、一人の女の子がやってきた。

 

「智花先輩、神凪先輩!いらっしゃいませ!」

 

どうやら購買部の子らしい。

 

「あれ?そちらの方は?」

 

「新しい転校生だ。」

 

「ああ、なるほど!

初めまして!購買部でバイトをしている桃世 もも(ももせ もも)です!

何かお探しのものがあったら御遠慮なく声をかけてくださいね。」

 

「初めまして。早田 良介です。よろしく。」

 

どうやらももは、良介たちよりも一つ年下らしい。

 

「あ、そうだ。

夏海先輩、見てませんか?」

 

「夏海ちゃん?今日はまだ見てないけど・・・」

 

どうやら夏海という生徒を探しているらしい。

 

「新しいフィルムが入荷したので、もうすぐ取りに来ると思うんですけど・・・」

 

「なら、もし見かけたら言っておくとしよう。」

 

   ***

 

「それじゃ、私は仕事に戻るとしよう。」

 

怜は風紀委員の仕事に戻っていった。

 

「えーと、それじゃ、私たちは・・・

あ、そうだ!クエストを受けるとその日の授業は免除になるんですよ。

なので、これを利用して学校の案内をしますね!」

 

「あー、そうだな。

朝、そういう話だったな。

完全に忘れてた。」

 

「それじゃ、まず・・・」

 

智花は先に歩き出したのでそれに付いていこうとした時だった。

 

「ちょっとちょっと!」

 

誰かに呼び止められた。

振り向くとツインテールの女の子がいた。

 

「ふふふ、やっと見つけた!

どこにいるのかと思えばクエストに行ってたのね!

智花が教えてくれないから走り回っちゃったじゃない。」

 

「えーと・・・俺に何か用?」

 

カメラを持った女の子が何か独り言のようなことを言っている。

 

「あれ?良介さーん?」

 

智花が良介を探しに来たようだ。

 

「やばっ!こっち来て!いいから!

あたしと智花は親友だから!

だからちょっとくらいは大丈夫なの!ほらこっち!」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと!?」

 

その女の子に手を引っ張られて良介は連れ去られてしまった。

 

   ***

 

女の子に連れてこられた場所は報道部の部室だった。

 

「ふぅ・・・報道部にようこそ!

噂の転校生!」

 

「は、はぁ・・・」

 

一体今から何をされるのか、良介はおおよそ予想がついていた。

 

「さっそくなんだけど、

初めてクエストに出かけた感想を聞かせてくれない?

あ、あとなんか珍しい体質なんだってね!

その詳細もよろしく!」

 

やっぱりインタビューだった。

 

「あの~、俺、今から学校案内・・・」

 

「そうそう、一緒にいた智花、かわいいでしょ?

どう?どう?」

 

まったく話を聞いていない

 

「・・・あ、ごめん。」

 

「(よかった、ようやく話を・・・)」

 

「取材するときは最初に名乗るのがマナーよね。」

 

まったく聞いていなかった。

 

「あたし、岸田 夏海(きしだ なつみ)!

報道部所属のジャーナリスト・・・の卵よ。」

 

ジャーナリストの卵というより、パパラッチの卵といった方が過言ではないような気がする。

カメラ持ってるし。

 

「あのね、今度、最近入学した転校生の特集やるのよ。」

 

「え?ということは、俺以外にも最近入学したやついるの?」

 

誠は良介が来る一か月前に入学したので、最近には恐らく入らないだろう。

 

「え?知らないの?

何人かいるのよ。

グリモアって【魔法使いに覚醒したら入学】だからね。」

 

「(そういやそうだったな。忘れてた。)」

 

「ほぼ100%転校生なのよ。

で、最近では2、3人くらい転校してきてるの。」

 

「結構いるんだな・・・」

 

「その中でも一番注目されてるあんたに、インタビューするの!」

 

それはあんただけだろう、と心の中でツッコミをいれた。

 

「ふっふっふ。

【転校生の謎!その身に秘められた超魔法力!

果たして彼は世界を救うことができるのか!?】

どう?インタビューの見出し!完璧じゃない!?」

 

勝手にテンションを上げて舞い上がっている夏海を見て、

呆れる良介。

 

「(アホらし・・・)」

 

「・・・そ、そんな顔しなくたっていいじゃない。」

 

   ***

 

「夏海。あんまり人を困らせちゃいけないよ。」

 

気がつくと後ろに誰か立っていた。

 

「あ、あれ?部長!?

なんでいるんですか!?」

 

どうやらこの人が報道部の部長らしい。

 

「部長が報道部部室にいてなにがおかしい・・・

やあ、良介くん。」

 

突然自分の名前を呼ばれ、驚く良介。

 

「報道部部長の遊佐 鳴子(ゆさ なるこ)だ。

お見知りおきを。」

 

「は、早田 良介です・・・よ、よろしく・・・」

 

良介は自分のことをどこで知ったのかが気になって仕方がなかった。

 

「ぶ、部長!転校生のインタビューはあたしが・・・!」

 

「それは構わないけどね。

彼は今学校案内の最中だ。

しかもしてもらう直前だった。

そこを無断で連れてくるのは感心できることじゃないね?」

 

「う・・・い、1日でも早く・・・って・・・」

 

「まだ締切までは時間があるし、彼は今日から完全なグリモアの生徒だ。

焦る必要なんてない。

悪かったね、夏海はたまに突っ走ることがあってね。」

 

「いや、そんなに迷惑はしてないですけど・・・」

 

「さ、南君が探している。

連れいていってあげるんだ。」

 

ようやく戻れるようで安心する良介。

 

「は、はい。」

 

「僕たち報道部は、真実を追い求めるジャーナリストだ。

もし報道に興味があれば歓迎するよ。」

 

「そうですね・・・考えときます。」

 

そういって報道部を後にした。

 

   ***

 

「ちぇー、スクープ独り占めできると思ったのに・・・」

 

やはり、考え方がパパラッチだ。

 

「ま、しょーがないか。切り替え切り替え。」

 

「(立ち直り速いな・・・)」

 

「学校案内が終わったら、改めてインタビューするから。」

 

「まぁ、終わってからだったら別にいいけど・・・」

 

「よろしくねん。

・・・あ、いた。

智花ー!連れてきたわよー!」

 

「良介さん!よかった、迷子になったのかと・・・」

 

「いやいや、この歳で迷子はさすがにねーよ。」

 

即座にツッコミを入れる良介。

 

「夏海ちゃんが連れてったんだね。」

 

「や、やだなぁ、怒らないでよ。友達じゃん。」

 

いくら友達でも怒るのは当たり前だろう。

 

「それに部長から言われて、すぐに返しに来たんだからさ。」

 

「(すぐではないような気がするんだが・・・)」

 

「部長?報道部の部長って・・・遊佐先輩?」

 

どうやらあの人は結構有名な人らしい。

 

「そーよ。」

 

「そ、そうなんだ・・・良介さん、何かその、

変なことされたり・・・」

 

「へ、変なことってなによ!」

 

「だって私、遊佐先輩のことはよく知らないけど・・・

ほら、生徒会と争ったり、いろんな人を脅したりって噂があるから。」

 

「(なんかとんでもない人と知り合ってしまった気がする・・・)」

 

「そんなのデタラメよ!

報道部が反生徒会だから圧力かけてるの!

あたしたち報道部は、正々堂々とペンで勝負するんだから!」

 

「・・・・ん?」

 

良介が何か見つけた。

 

「・・・良介さん、どうかしました?」

 

「・・・なぁ、これ・・・」

 

「・・・これは・・・小型マイク!?」

 

良介の上着のポケットに小型マイクが入っていた。

 

「・・・ぴ~ぴぴぴ~。」

 

「夏海ちゃん!も~!」

 

「(この先、大丈夫なのか?

俺の学園生活・・・)」




人物紹介
神凪 怜(かんなぎ れい)17歳
学園にほど近い神凪神社の見習い巫女。
学業の傍ら、休みの日には神社の手伝いをしている。
まじめで誠実、カタブツを体現したかのような生徒だが、それだけに頼もしさは学園屈指。
魔物との戦いでは家に伝わる神戯一刀流を用い、仲間を守る。


桃世 もも(ももせ もも)15歳
朝起きて新聞配達、放課後は曜日変わりでゲーム屋、
ファミレスをかけ持ちする生粋のアルバイター。
お金の心配がほとんどないこの学園で、なぜここまで稼ぐのか、
理由を知るものは少ない。
ちょっと周りが見えなくなることがある。


岸田 夏海(きしだ なつみ)16歳
報道部ゴシップ記事担当。
あらゆる三面記事をかき集めるべく走り回っている。
その性質上、彼女自身がトラブルの原因となることが多く、
たまに窓枠に引っかかっていたりも。
ジャーナリストとしての腕はまだまだ未熟だが、決してメゲない根性は本物。


遊佐 鳴子(ゆさ なるこ)17歳
壁に耳あり障子に目ありを体現する報道部部長。
秘密のノートには学友のご飯から政治家のスキャンダルまでありとあらゆる情報が
詰まっているという。
気味が悪いほどなんでも知っているが、まともに教えてくれはしない。
嘘まみれな彼女の言葉から真実を探せ。


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第3話 生徒会

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


「それでは気を取り直して、学校案内をしますね!」

 

夏海と別れた二人は、学校案内に行こうとした。

 

「あれ?」

 

その途端、二人のデバイスが鳴った。

 

「なんだ?」

 

二人共デバイスを取り出した。

 

「良介さんにもメッセージが?

宍戸さんからでしょうか?

ええと・・・」

 

二人共、内容を確認する。

 

「せ、生徒会!

会長から呼び出しが!」

 

智花が大声をあげる。

良介は愕然とする。

 

「俺たち、何かしたっけ?」

 

智花は肩を落とした。

 

「学校案内、できるのかなあ?」

 

   ***

 

二人は、生徒会室の前にまで来た。

良介は軽くノックをする。

 

「入れ。

鍵はいつでも開いているぞ。」

 

中から声がしたので、静かにドアを開ける。

 

「ようこそ、私立グリモワール魔法学園へ。

あたしが生徒会長の武田 虎千代(たけだ とらちよ)だ。」

 

白い服を来た女性が椅子に座っていた。

 

「こ、こんにちわ、会長!」

 

智花が元気よく挨拶をする。

声で緊張しているのがわかる。

 

「二人共すまないな。

クエストから戻っていると聞いた。

時間は取らせないから、少しだけ彼と話をさせてくれ。」

 

「あ、はい・・・わかりました。

それでは、外で待ってます。」

 

そう言って、智花は先に廊下に出た。

 

「・・・さて、改めて、グリモアへようこそ。」

 

「は、初めまして、早田 良介です。」

 

明らかに他の生徒とは違う雰囲気を纏っていた。

さすがは生徒会長といったところか。

 

「良介か、いい名前だな。

とりあえず、座るといい。」

 

良介は近くの椅子に腰を掛ける。

 

「まずはこの学校について説明しようと思う。

このグリモアは生徒自治を行っている。

普通の学校にはないシステムだな。」

 

「確かに、生徒自治なんて聞いたことがないですね。」

 

恐らく、やっているのは魔法学園ぐらいだろう。

 

「簡単に、自分たちのことは自分たちでなんとかすると考えてくれ。

教師も運営者も、あたしたちの学園生活に口を出さない。

そのかわり、あたしたちは魔法使いとして正しく生きる義務がある。

その範囲内なら、生徒会の責任において何をするのも自由というわけだ。」

 

「なるほど・・・」

 

かなり普通の学校よりも変わっているようだ。

 

「おいおいいろんな生徒と知り合うと思うが、皆いろんな事情を抱えている。

君と同じような事情を持っている者もいるだろう。」

 

「俺と・・・同じような・・・」

 

良介すぐに誠のことを思い出した。

 

「年齢も幅広い。

それらをまとめるのがあたしたち生徒会だ。」

 

どうやら、生徒会が学園の中心にいるようだ。

 

「特に伝えておきたいのは・・・お前のその体質、能力のせいで、

とても注目されている。」

 

「無尽蔵の魔力と、七属性の魔法か・・・」

 

「学園の大人から、身柄を預かるとか言われるかもしれん。

だがそれに応じる必要はない。

そのための生徒自治だ。」

 

確かに、この能力目当てで学園の大人が寄ってきてもおかしくはない。

 

「困ったら生徒会を頼れ。

必ず守ってやる。

お前も、学園の生徒だからな。」

 

「(できれば、あまり他人に頼りたくないんだがなぁ・・・)」

 

「この生徒自治は少し複雑でな。

慣れるまで時間がかかると思う

わからないことがあったら、他の生徒にいつでも聞いてくれ。

もちろん、側にいるのがあたしのときはあたしでも構わない。

有意義な学園生活を送れるように、バックアップするからな。」

 

夏海のような生徒がいたら送れないようなと思ったが、声に出さないことにした。

 

「よし、今回は簡単だが、これで済ませよう。

行くといい。」

 

「ありがとうございました。」

 

良介は席を立ち、外に出ようとした。

 

「クエストの魔物は弱い魔物だったろうが、

魔法使いに覚醒したばかりでは恐ろしかったはずだ。

だが、南は5年目でベテランの部類に入る。

安心だったろう。

魔物を倒すのは、気持ちがよかっただろ?」

 

「ええ・・・まぁ・・・」

 

良介は苦笑しながら返事をする。

言えない。

5年目のベテランが覚醒したばかりの魔法使いの足を引っ張っていたなんて。

 

   ***

 

良介は廊下に出た。

 

「あ、お話は終わりました。」

 

智花はドアの横に立っていた。

どうやらずっと待っていてくれていたらしい。

するとすぐ近くに二人の女性が立っていた。

 

「こんにちは。」

 

長い髪をした女性が挨拶してきた。

 

「ど、どうも・・・」

 

「貴様が新しい転校生か。

私たちは生徒会役員だ。」

 

どうやら生徒会の役員のようだ。

 

「副会長の水瀬 薫子(みなせ かおるこ)です。」

 

長い髪をした女性が自己紹介をする。

 

「会計の結城 聖奈(ゆうき せな)だ。」

 

眼鏡をかけた女性も名乗った。

 

「早田 良介です。

よろしくお願いします。」

 

良介も同様に自己紹介をする。

 

「用事を終えて戻ってきたら、南さんが立っていて驚きましたよ。

クエストに出ていたはずでしたから。」

 

すると、あわてて智花が謝る。

 

「す、すみません。

終わったので戻ってきて、そしたら会長に呼ばれて・・・」

 

すると聖奈は目を鋭くする。

 

「終わったのなら言うことではないかもしれんが、クエストの遂行は学園生の義務だ。

忘れたりしないように気をつけろ。」

 

「はい、わかってます。」

 

智花が返事を返すと二人は生徒会室に入ろうとした。

 

「では、またいずれ。

あなたの【体質】・・・見せていただきますよ。

じっくりと。」

 

薫子は笑みを浮かべながら中に入っていった。

 

「他の生徒はどうか知らないが、私は怠け者を学園生とは認めない。

そのかわり会計として、働きに応じた妥当な報酬を用意する。

魔物討伐のクエスト遂行ももちろん対象だ。

よく励むように。

・・・忘れるな、労働には対価、だ。」

 

説教じみたようなことを言って聖奈も中に入っていった。

 

「あ、あはは・・・ちょっと怖いですけど、頼もしい人たちですよ。」

 

「いや・・・今のはさすがに嫌味にしか聞こえねぇよ。」

 

そういって良介はため息をつく。

 

「そうでしょうけど、結城さんなんか、私より年下なのにとっても威厳があって・・・」

 

そう言っていると、突然ドアの中から声がした。

 

「無駄話か?」

 

「う・・・!?」

 

良介はへんな声を上げてしまった。

 

「い、行きましょう!

学校案内にです!」

 

   ***

 

そこから話をしながら良介は智花に案内をしてもらっていた。

 

「あ、そういえばですね、さっき会った夏海ちゃんは報道部なんですが、

報道部と生徒会って仲がよくないので、注意してください。」

 

良介は夏海が言っていた言葉を思い出す。

 

「ああ、そういえばさっき夏海がなんか言ってたな。」

 

「はい、あともう1つ、怜ちゃんの所属してる風紀委員とも対立してて・・・

こう、三角形になってるんです。」

 

智花が手で三角形を作って、関係を表現する。

 

「なるほどねぇ・・・(報道部ってどんだけヤバイ部活なんだよ・・・)」

 

「あんまり詰め込んでもしかたがないんで、そんな話もあった、と。」

 

そういっていると、良介はある疑問に気がついた。

 

「あれ、風紀委員と報道部も対立してるわりには、怜と夏海って仲良くないか?」

 

「ええ。

怜ちゃんと夏海ちゃんは仲良しですよ!

たまに夏海ちゃんが校則違反して、叱られてたりしますけど・・・」

 

どうやら犬猿の仲というわけではないらしい。

そうやって話をしていると、一人の生徒が突っ込んできた。

 

「あっ!」

 

「きゃっ!」

 

その生徒は智花とぶつかってしまった。

 

「おいおい、大丈夫か二人共。」

 

良介が二人に話しかける。

 

「あいたた・・・ん?

ちょっと智花、気をつけてよね!」

 

ぶつかってきた生徒が怒ってきた。

 

「あ、ご、ごめんね、月詠ちゃん。」

 

とっさに謝る智花。

 

「あっ!

こんなことしてる場合じゃないの!

早く行かなきゃ訓練に遅れちゃう・・・ん?」

 

月詠が良介の方を見る。

 

「アンタ・・・もしかして・・・」

 

「新しい転校生の人。

良介さん、こちら、精鋭部隊の守谷 月詠(もりや つくよ)ちゃん。」

 

「はぁ、精鋭部隊・・・」

 

名前からしていかにも強そうな感じの名前の部隊である。

 

「ふーん・・・噂はずっと聞いてたけど・・・

ふつーじゃん。

むしろ弱そうじゃない?」

 

「・・・あっ?」

 

突然喧嘩を売ってきたも当然のようなことを言われた。




人物紹介

武田 虎千代(たけだ とらちよ)17歳
5年連続生徒会長という快挙を成し遂げた前代未聞のカリスマ。
在学生の中で総合的な戦闘力がトップであり、非常識なまでに強い。
知名度は世界クラス。
一癖も二癖もある学園をまとめ上げる人望もさることながら、
自ら前線に赴くバトルマニアの面も併せ持つ。

水瀬 薫子(みなせ かおるこ)17歳
生徒会副会長として実務を取り仕切る才女。
カリスマと戦闘に特化しすぎてなかなか事務ができない生徒会長、
武田虎千代を完璧にサポートする。
黒いものでも虎千代が白と言えば白に変えてしまうほど心酔し、
彼女以外の人間を基本的に見下している。

結城 聖奈(ゆうき せな)15歳
生徒会会計。
金の管理ならとにかく彼女に任せておけば安心。
【労働には対価、与えられた仕事は完璧に】がモットーで、
仕事ができない人に対して恐ろしく冷たい。
彼女とまともに話したかったら、どんな些細な仕事でもいい、
きちんとこなしてからにしよう。

守谷 月詠(もりや つくよ)13歳
軍師という言葉に並々ならぬ執着を見せる少女で、
諸葛亮をも超える天才軍師を目指している。
負けん気が強く努力家だが、いかんせん貧弱すぎる体と経験のなさが目立つ。
同じ指揮官タイプの主人公に対してやたら突っかかってくることが多い。


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第4話 精鋭部隊

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



「つ、月詠ちゃん!」

 

挑発じみた月詠の発言に対して智花が声を張り上げる。

 

「みんなから期待されてても、

そうじゃなかったってこといっぱいあるからね。

ふふん、精鋭部隊のツクの方が絶対に強いわよ!」

 

見ただけでこの自信、一体どこから来るのか。

 

「もう、まだ転校してきたばっかりで、

魔法の使い方も教わってないんだよ?」

 

「な、なによ。

強さなんて見ただけでわかるわよ!」

 

その発言を聞いて良介はため息をつく。

 

「人は見た目によらないって言葉知らないのか?

そんなことで判断ばかりしてたら痛い目に遭うぞ?」

 

良介は鼻で笑いながら挑発するように言った。

 

「こいつっ・・・!

よーし、いいわよ!

こうなったら勝負しようじゃないの!

その体質、だっけ?

よく知らないけど、それ含めて能力も判定してあげるわ。」

 

そう聞いた瞬間、智花が慌て出す。

 

「え?ちょ、ちょっと待って!

もしかして・・・」

 

「訓練所に来なさい!

今からよ、今から!」

 

月詠は訓練所に向かってしまった。

 

「へ、いいだろう。

ちょうど魔法で試したい事があったんだ。

行ってやるか。」

 

「あぁ・・・案内行きたかったのに・・・

ちょ、ちょっとだけ行きましょうか。

今ならすぐ終わりますし、多分。」

 

良介と智花は訓練所へ向かうことにした。

 

「確かこの時間は、精鋭部隊が訓練所を貸し切ってるはずなので。」

 

「精鋭部隊が?

というか、精鋭部隊ってどんな部隊なんだ?」

 

良介は智花に質問した。

 

「精鋭部隊って言うのは、グリモアの軍隊みたいなものです。

ちょっとややこしいんですけど、私たち学園生は生徒会の管轄で、

精鋭部隊は執行部の管轄なんです。

この辺はおいおい説明しますね。」

 

「ああ、わかった。」

 

良介は訓練所に向かおうとしたが、智花が注意するように言った。

 

「それで・・・ビックリしないでくださいね。」

 

「・・・?

何が?」

 

「精鋭部隊の人たち、その・・・ビックリしないでくださいね?」

 

どういう意味なのかわからないまま、訓練所に向かった。

 

   ***

 

「ついたついた。

みんなー!」

 

訓練所につくと、月詠はその場にいた大勢に声をかけた。

すると、眼帯をつけた女性がこっちに来た。

 

「遅い!

10分も遅刻だぞ、守谷!

言っただろう!

私が着任したからには、だらけることは許さんぞ!」

 

中々、厳しそうな人である。

 

「わ、わかってるわよ、エレン・・・でも聞いて!

転校生、連れてきたわよ!」

 

「転校生?

それがどうした。

貴様の遅刻とはなんの関係もない。

私が転校生を連れてこいと言ったか?」

 

「うぅ・・・」

 

エレンと呼ばれた女性にかなりきつく言われ、落ち込む月詠。

 

「よーよー、まぁいいじゃねーか。

さっさと始めちまおーぜ。

遅刻の罪は体でわからせてやるよ。」

 

そういって金髪の女性が出てきた。

 

「(金髪・・・アメリカ人か?

それに二人共、明らかに雰囲気が違うな・・・)」

 

「あ、あの、訓練を始めるなら私たちは・・・」

 

智花は良介の腕を引っ張って帰ろうとする。

 

「いいや?

アタイはその【体質】と【能力】に興味あるぜ?」

 

「そんなぁ・・・メアリーさん・・・」

 

メアリーと呼ばれた女性にすぐに呼び止められてしまった。

 

「メアリー、やめろ。

精鋭部隊のエレン・アメディックだ。

守谷が勝手に連れてきて悪かった。

こちらの都合で悪いが、今は貸切だ。」

 

「みずくせーこと言うよなぁ、エレン。

せっかく来てもらったんだ。

見せてもらおうじゃねーか。

【人類の希望】様の実力をよ。」

 

「(【人類の希望】?

そんな風に言われてるのか、俺・・・)」

 

なぜか良介の能力を披露するはめになってしまった。

 

   ***

 

「・・・仕方ない。

今日は訓練時間を延ばすか。」

 

エレンは呆れたように言った。

 

「えっと・・・こ、こうなったらやってみましょう。」

 

「そうだな、試したいこともあるし。」

 

「試したいこと?

それってなんですか?」

 

「まぁ、見てたらわかるよ。」

 

そう言って、良介は変身する。

 

「おーし、準備できたな。

やってみろや。」

 

「ふん!

ツクより才能あるわけないでしょ。」

 

そう言われるなか、良介は魔法を準備する。

すると、一人の生徒が入ってきた。

 

「はぁ、はぁ・・・走ってきたぞ、エレン!

・・・あぁ?」

 

その生徒は現状を見て呆気にとられる。

 

「来栖、戻って来たか。

今、新しい転校生の実力を見るところだ。

貴様も見ておけ。

話が本当なら、いい経験になる。」

 

そう聞くと、その生徒はため息をついた。

 

「時間の無駄だ。

1人で訓練してくる。」

 

「来栖 焔(くるす ほむら)。」

 

「・・・チッ。」

 

焔と呼ばれた生徒は舌打ちしながら良介のいる方を見る。

 

「それじゃあ、あの的に向かってどうぞ!」

 

「よしっ!」

 

良介は両手を自分の前でクロスさせて溜めるような動作をする。

そして唱えるように言った。

 

「能力、第1封印・・・開放っ!」

 

そう言った瞬間、

良介の体から金色のオーラのようなものが出てくる。

 

「ええっ!!??」

 

あまりにも突然のことに変な声をあげる智花。

 

「(あの時ほどじゃないが、少しきついな・・・

でも、苦しいってわけでもない。

これなら・・・!)」

 

良介はその状態で光属性の魔法を的に向かって撃つ。

的はあまりの威力に粉々になった。

 

   ***

 

「・・・・・」

 

周りは完全に沈黙していた。

 

「ふぅ、こんな感じで・・・って、どうした皆・・・」

 

良介は周りの状況に驚く。

 

「・・・逆の意味で時間の無駄だったぜ。

あれのどこがいい経験になるんだよ・・・」

 

焔はため息をつく。

 

「・・・ありえない、ありえないわ!

ツクより才能があるなんてありえないわ!」

 

月詠は絶望したかのように言っていた。

 

「・・・ふむ、なるほど。

それがお前の能力か。

それじゃ、次は【体質】の方を見せてもらおうか。」

 

エレンは笑みを見せながら良介に言った。

 

「え?」

 

「南。

転校生の体質を使って、今度はお前が魔法を撃ってみろ。

それで終わりでいい。」

 

「は、はい・・・じゃあ、良介さん。

クエストの時みたいに・・・」

 

今度は智花が魔法を撃つ準備をする。

 

「わかった。

それじゃ、行くぞ。」

 

良介は智花に魔力を渡す。

 

「行きますよ!

えーいっ!」

 

智花が魔法を撃つと同様に的が粉々になった。

 

「・・・え、ええ?」

 

月詠さらに驚いたような声をあげる。

 

「・・・・っ!」

 

焔は睨むように良介の方を見る。

 

「・・・なるほど。」

 

エレンは笑みを浮かべる。

 

「なーにがなるほどだ。

ケッ。」

 

「な、なによ智花、その威力・・・」

 

月詠がそう言うと、メアリーが月詠に向かって言った。

 

「オラ、お楽しみは終わりだ。」

 

「つ、ツクの方が強いんだからね!

今度勝負しなさいよ!」

 

「勝負にならねーよ。

来いっつの。」

 

月詠はメアリーに引きずられるように連れて行かれた。

 

「・・・えーと、これでよかったのか?」

 

良介は引きずられていく月詠を見ながらぼやいた。

 

「よく、見せてもらった。

なるほど。

腑抜けた顔で心配していたが・・・噂通り、いや、それ以上の力はあるようだ。」

 

なんやかんやでよかったようだ。

 

   ***

 

「・・・な、なんとかなりましたね。」

 

訓練所を後にして、智花は再び学校案内をしていた。

 

「本当にこれでよかったのか?

個人的にはイマイチなんだが・・・」

 

「エレンさんがああ言っていたのでいいと思いますよ。

それよりも、精鋭部隊の人と話すときは、いつも緊張しちゃうんですよね。

あちち・・・」

 

智花が手を押さえる。

 

「ん?

智花、手、どうかしたのか?」

 

良介は智花に尋ねる。

 

「え?

あ、さっきの魔法でちょっと火傷しちゃって。

だって、良介さんが馬鹿にされたことに頭にきたというか・・・

だからちょっとムキになっちゃったって言うか・・・」

 

そういうと、智花は笑みを見せる。

 

「私が勝手に暴走しちゃったんで、気にしないでください。」

 

「そうは言ってもなぁ・・・」

 

良介は回復魔法が使えたら・・・と思った。

 

「でも、ちょっと保健室に寄っていっていいですか?」

 

「え?

ああ、別にいいけど。」

 

二人は保健室に向かった。

保健室はそんなに離れていない場所にあった。

 

「こんにちは~・・・」

 

智花が開けながらそういうと奥から声が聞こえてきた。

 

「はいは~い。

ちょっと待ってね。」

 

そういうと一人の生徒が出てきた。

 

「南さん。

あら、どうしたの、その手?」

 

「ちょっと魔法で失敗しちゃって。

手当てしてもらっていいかな。」

 

そういうと、その生徒は笑いながら言う。

 

「ええ、もちろん・・・あら?」

 

その生徒が良介に気づく。

 

「あぁ!

転校生の人ね!

ようこそグリモアへ!

クラス委員長、兼保健委員の椎名 ゆかり(しいな ゆかり)です。

よろしくね。」

 

「早田 良介です。

よろしく。」

 

お互いに自己紹介する。

 

「本当は私が案内するはずだったんだけど、忙しくて南さんにお願いしたの。

ごめんね、ありがとう。」

 

「えへへ、任せてもらって嬉しいよ。」

 

そういって早速智花はゆかりに治療してもらう。

 

「クエスト終わりだったんでしょ?

魔物の攻撃・・・じゃないわね、火傷?

南さんが珍しいわね。」

 

「ちょっと、ね。

でも本当に軽い火傷だから。」

 

智花がそう言うと、ゆかりは注意するように言った。

 

「軽いからって油断しちゃだめよ。

よく見せてね・・・」

 

ゆかりは回復魔法を使って火傷を治した。

 

「はい、これでよし。

訓練所でのケガだから、回復魔法の使用許可が下りてよかったわ。」

 

「(回復魔法を使うのに許可なんかが必要なのか・・・)」

 

良介は回復魔法ぐらいいいのでは、と思った。

 

「ありがとう。」

 

智花はゆかりに礼を言った。

 

「無茶はしないでね。

それじゃ、改めて良介君。」

 

「ん?

何ですか?」

 

「学園では対抗戦やクエストなんかで、戦ったりする機会が多いの。

もちろんケガも多くなる。

魔物との戦いでは重傷を負ったりもする。

あんまりひどい時は入院もあるけど、大抵はここで何とかなるわ。

だからケガをしたら、なにはともあれ、ここに来てね。」

 

「わかりました。(回復魔法を覚えればいいか・・・)」

 

回復が自分でできればいい、とういう風なことを少し考えた。

 

「間違っても、自分でなんとかしようと思わないこと。

場合によっては回復魔法を使って治したりもするからね。」

 

自分の考えが見抜かれたのではと、良介は一瞬躊躇した。

 

「回復魔法、使える人が少ないんですよ。

適正がない人はどれだけ訓練しても使えないし、貴重なんですよ。」

 

「(なんだそういう意味か・・・)」

 

良介は少し安堵する。

 

「普通は物理的な手当てをするから、過度な期待はしないでね。」

 

すると、智花は元気よく良介に呼びかけた。

 

「よし、それじゃあ、案内行きましょうか!」

 

「気をつけてね。

ケガしたら、いつでもいらっしゃい。」

 

二人は保健室を後にした。

 

   ***

 

一通り案内を終え、下駄箱の所にやってきた。

 

「お疲れさまです!

案内はこれで終わりです!」

 

「うん、お疲れ様。

おかげでよくわかったよ。

ありがとう。」

 

良介は智花に礼を言った。

 

「いえいえ、どういたしまして。

そういえば、初めてのクエスト、どうでした?

楽しい、とは思わないでしょうけど・・・

意外と弱かったとか、そう感じてくれたら嬉しいです。」

 

「まぁ、ちょっと弱かったかな。」

 

良介は笑みを見せた。

 

「私たち学園生が戦う魔物は、弱いものが多いです。

でも初めて魔物と対峙したとき、やっぱり恐怖を覚える人はいて、

クエストを拒否しちゃうようになったりするんですよね。」

 

「なるほどね、まぁ、少なくとも俺はそうは感じなかったけど・・・」

 

良介は腕組みをして軽く息を吐く。

 

「私たちが全力でお守りします。

だから、よければ、これからもよろしくお願いしますね!」

 

「ああ、これからもよろしく。」

 

そういうと、智花は良介の手を引っ張る。

 

「それじゃあ行きましょう!

実は歓迎会があるんです!」

 

「歓迎会?

俺の?」

 

良介は智花に引っ張られながら、聞く。

 

「はい!

歓談部の子たちが用意してくれているので、ご案内しますね!」

 

「わかった、それは楽しみだな。」

 

良介は歓談部の部室に向かった。

 

   ***

 

生徒会室に虎千代が一人で誰かを待っていた。

 

「さて・・・む、来たか、東雲。

転校生は見てきたか?」

 

東雲と呼ばれた少女が入ってきて、虎千代に質問される。

 

「遠目からじゃったが、しかと見たぞ。」

 

少女は笑みを見せる。

 

「そうか。

彼の体質と能力、どう思った?」

 

「どいつも欲しがるはずじゃ。

まだ本格的な魔力測定はやっとらんのじゃろ?

さっさとやらせてみろ。

目ん玉飛び出すような結果が出るぞ。」

 

その言葉に虎千代は顔をしかめる。

 

「そこまでか?」

 

「ああ、膨大な魔力と、それを他人に受け渡す力、

底がわからない強力な七属性の魔法・・・

ちょっとシャレにならんな。

他に渡す手はない。

絶対に科研に付け込ませるなよ。」

 

そう言うと、虎千代は少し手に力を入れる。

 

「ああ、もとよりあいつは学園生だ。

そのつもりだ。」

 

虎千代は窓の方に向かい、目を瞑ってぼやくように言った。

 

「世界で唯一の力・・・か。」




人物紹介

エレン・アメディック 17歳
国連軍機甲師団に所属していた元軍人。
対魔物戦闘の経験者だけあって戦闘慣れしており、
特に指揮において卓越した技術を誇る。
平和ボケした学園生に喝を入れようとヤル気満々、
根性さえあれば優しく厳しくシゴいてくれる。
血ヘドを吐かないように注意。

メアリー・ウィリアムズ 17歳
国連軍歩兵師団に所属していた元軍人。
人類の最前線で魔物と対峙していた対魔物戦のエキスパート。
相手を蹂躙することが大好きで、そのためならばどんな卑怯な手も使うし、
睡眠時間を削って作戦を練る。
ある種徹底したリアリストである。

来栖 焔(くるす ほむら)13歳
常日頃より集団からはぐれて過ごすネクラな少女。
魔物に対して異常ともいえる憎悪を燃やしており、
通常授業をフケてまで魔法の練習に励む。
弱冠13歳でありながら精鋭部隊に所属するだけあって実力は高いが、
まだまだ幼いのも事実。

椎名 ゆかり(しいな ゆかり)17歳
見た目通りのクラス委員長で見た目通りの保健委員で見た目通りの世話焼き。
頼みごとをされれば最後まで付き合うし、
怪我をしたら優しく優しく手当てしてくれる。
校則や学園の文化を懇切丁寧にレクチャーしてくれる隣のお姉さんタイプ。


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第5話 狙われた街

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



魔法学園に入学して2週間が経過した。

大方魔法学園の仕組みも理解し、普通の学園生活を送っていた良介。

そんなある日、夏海に報道部に来るように言われた。

あのインタビューの件だろう。

 

「そういや、約束してたな。」

 

良介は完全に忘れていた。

休み時間に来るように言われたので、休み時間に報道部の部室に向かった。

報道部の部室に着き、ドアを静かに開ける。

 

「失礼しまーす・・・」

 

「やあ、良介くん。

君が来てくれるなんて嬉しいね。」

 

部室には鳴子がいた。

 

「実は夏海に用がありまして・・・」

 

「今日は夏海に呼ばれてきたって聞いたけど、夏海も勧誘熱心だね。

なんにしろ、ちょっと待っててくれ。

先に、桃世君。」

 

そういうと、鳴子は椅子に座っていたもものところに向かう。

 

「いつものネタ提供、感謝するよ。」

 

「いえいえ、こっちも商品の宣伝になるんで・・・

あ!先輩!

購買部の桃世です!

またお会いしましたね!」

 

ももが良介に気づく。

 

「よう、もも。」

 

「先輩?

在学年数は君の方が長いだろう?」

 

鳴子はももの呼び方に疑問を抱く。

 

「ええ、そうなんですけど、なんとなく、先輩っぽい感じで。」

 

そうやって雑談していると、デバイスが鳴った。

 

「お、もしかして・・・」

 

良介はとっさにデバイスを取り出す。

 

「あ、クエストが発令されましたね。」

 

ももがそういうと、誰かが走りながら部室に入ってきた。

 

「スクープスクープ!

大スクープよ!

ま、街に魔物が出たって・・・!」

 

「えっ!?」

 

「何だと!?」

 

良介は大急ぎで発令場所を確認する。

確かに近くの風飛市が発令場所になっていた。

 

「夏海、スクープを大声で叫ぶのは報道部員だけのときにしてくれ。

桃世君と良介君だったからいいけど、すっぱ抜かれるぞ。」

 

「あ、す、すみません・・・」

 

こんなときでも、報道のことを気にしているとはさすが報道部部長といったところか。

 

「それに魔物発生は15分前で、確認がとれたのは3分前。

みんなのデバイスにクエスト発令が届いたのが今だ。

遅いよ。」

 

「(き、厳しいな・・・)」

 

というかなぜそんな詳しいことを知っているのかが良介は気になった。

 

「ぶ、部長、知ってたんですか!?

じゃあ、早く取材・・・受注しなきゃ・・・!」

 

「今回は君だけで行ってくるんだ。

魔物の取材は任せた。

そろそろ僕も卒業だ。

実力を見せてもらおう。」

 

「ぶ、部長・・・わかりましたっ!

行ってきます!」

 

夏海は足早に部室から出て行った。

 

「・・・良介君には気づかなかったみたいだ。」

 

鳴子は呆れたように笑った。

 

「まぁ、別に構いませんが・・・

あ、そうだ俺もクエスト受けるかな。」

 

「許してやってくれ。

慌てん坊でね・・・そうだ、ちょっと届け物をしてくれないかな?」

 

そう言って、鳴子は色々と取り出し始めた。

 

「届け物?

別にいいですけど・・・一体何を?」

 

「確かカメラのデータがいっぱいだったはずだ。

メモリーカードと、バッテリー。」

 

予備として常備しとかなければいけない物を忘れていた。

 

「で、よければ、ついでに手伝ってやってくれないか。

頼むよ、マイクはつけてないからさ。」

 

「・・・わかりました。

俺もクエストに行くつもりだったんで、ついでに届けてきますよ。」

 

良介は届け物を持って部室を出た。

 

   ***

 

「大変!

バイト先が・・・あ、あたしもクエストを請けなくちゃ!」

 

クエストを請けようと慌てるもも。

 

「魔物の発生場所はビジネス街だから、ファミレスは無事だよ。

君のバイト先は全部心配ない。

行きたいというなら止めないけど、オススメはしないな。」

 

「ど、どうしてですか?」

 

鳴子にももは質問した。

 

「ヌルヌル気持ち悪いからだよ。

魔物はゲル化してるからね。

スライム。」

 

「す、スライムですか?

なんで夏海先輩をそこに・・・」

 

「夏海はネタのためならどんな危険地域でも出かけると言っている。

だから魔物に慣れる必要があるんだ。

いつもは僕が一緒に行ってたけど、そろそろ独り立ちしなきゃね。

その点、今回の魔物はうってつけだ。

気持ち悪いだけで、脅威度は低い。

もちろん一般人はひとたまりもないけどね。」

 

「は、はぁ・・・」

 

不敵な笑みを浮かべながら説明する鳴子に、少し引きながら返事をするもも。

 

「そういうわけで、夏海の訓練にはちょうどいい相手なのさ。」

 

「その魔物って、発生したばかりですよね?

ゲル化した魔物も初めて・・・

なんでそんなに詳しいんですか?

危険があまりないとか・・・」

 

あまりにも詳しく知りすぎている鳴子に疑問を抱くもも。

 

「そりゃ、僕がジャーナリストだからだよ。

だから、安心して待っているといい。

さて、僕も行くか。」

 

鳴子は部室から出ようとした。

 

「えっ?

い、行くんですか?」

 

「夏海の実力を見るって言っただろう?

行かなきゃ見られないじゃないか。」

 

鳴子はそう言うと部室から出て行った。

 

   ***

 

クエストを請け、街についた良介は夏海を探す。

 

「やっほー良介!

けっこー元気そうじゃない。

学園生活は順調?」

 

向こうの方から来てくれたようだ。

 

「よう、夏海。

まあまあかな。」

 

「そのうち報道部で取材させてくれない?

噂の転校生特集やりたいんだー。」

 

「ああ、わかってるよ。

ちゃんと受けるから。

その前にクエストの方。」

 

良介の言葉に夏海は思い出したかのように街の方を見る。

 

「ああ、そうね。

先にクエスト片付けてからね。」

 

夏海はすぐに表情を変える。

 

「被害状況、ニュースで流れてるから知ってるかもだけど、街中に現れちゃったんだよね。

ホント珍しいことに!」

 

良介は街を見渡しながらあることに気づく。

 

「軍はどうしてるんだ?

普通ならもう来てもおかしくないとは思うんだけど・・・」

 

「軍は遠いから来るのに時間がかかるんだ。

だから、あたしたち。」

 

「ははぁ、なるほどねぇ・・・」

 

その言葉に納得する良介。

夏海は文句のようなことをグチグチと言い始めた。

 

「いやこれ絶対、学園があるから遠いところに施設作ったと思うのよ。

あたしたちに押し付けてさあ。

ま、スクープに事欠かないからいいけど。」

 

最後の言葉以外はたしかに一理あるかもしれない。

 

「あ、ごめんごめん、話それちゃった。

オフレコね、これ。

それで!

住民の避難は完了してるからやることは一つ!」

 

「ま、ちゃっちゃとやるとしますかね。」

 

変身して戦闘準備を整える良介。

 

「魔物をぶってぶってぶちのめすだけ!

はりきっていくよ!

しゅっぱーつ!」

 

二人は魔物がいるところへ向かった。

 

   ***

 

「お、良介じゃねえか。

おーい。」

 

遠くから声がしたので振り向いた。

 

「ん?

誠じゃねえか。

お前もクエスト請けてたのか。」

 

「ああ、今回の魔物、結構広範囲で出現してるらしいらな。」

 

まるで狩人のような格好をした誠がこっちにやってきた。

折りたたみ式の弓を背負っていた。

 

「お前、まるでハンターみたいな格好だな。」

 

「そういうお前こそ、どこぞのファンタジーの主人公みたいな格好じゃねえか。

まぁ、どっちもどっちだろうが。」

 

そういって軽く笑う誠。

 

「うーん・・・けっこう大きく支配地域を増やしてるわね。

ちょっとまずいかも。」

 

良介は大きく唸る夏海の方に顔を向けた。

 

「なんだ?

まずいことなのか?」

 

「まぁ、いろいろ例外はあるんだけど、支配地の広さイコール強さかな。

魔物って時間がたつほど強くなるから、それにつれて支配域も広がるの。」

 

「たしかに、ちょっとばかし、見つかってから少し時間が経ってるな。」

 

納得する良介。

さっき誠も同じことを言っていたことを思い出す。

 

「普通はさ、街中で実体化した魔物ってすぐ見つかるから、対応も早いのよ。

だからこんな風に、スライムが街にあふれるってことないんだけど・・・

多分、下水とかでゆーっくり力を蓄えていったのね。」

 

「そりゃ、面倒だな。

俺もあまりうかうかしてられないな。」

 

誠が弓を構え、魔力で矢を作る。

 

「女の子対スライムなんて嫌な予感しかしないけど・・・

あたしは女の子である前に真実の探求者だから!」

 

「何言ってんだ、あいつ・・・」

 

弓を構えながら呆れる誠。

 

「まぁ、いつも通りだ。

いつもあんな感じだから。」

 

剣を抜きながら、苦笑する良介。

 

「なにもかも激写しつくしてやるわ!

ふふふ、覚悟してなさい。

あたしに見つかった時、あんたの姿は哀れ全世界に大公開よ。

オモシロおかしく恥ずかしく、隅から隅まで記事にしてあげるからね!」

 

変な笑いを浮かべながら変なこと言い始める夏海。

 

「あいつ・・・誰に向かって言ってんだ?」

 

呆れて肩を落とす良介。

 

「さぁ、魔物か、はたまたはお前にじゃね?」

 

苦笑しながら魔物を探す誠。

 

「俺撮ってもしゃあないだろ。」

 

ため息をつきながら、同じように魔物を探す良介。

 

「そういや、誠。

お前、一人で来たのか?」

 

「ん?

ああ、俺?

どうせ他にも請けてる奴いるだろうと思ってね。

ここまでは一人で来たよ。」

 

「俺はこのまま夏海のフォローに入るけど、お前はどうするんだ?」

 

魔物を探しながら質問する良介。

 

「俺は適当にうろつきながら魔物を倒すよ。

もしかしたら、他の奴に会えるかもしれないし。」

 

笑いながら魔物を探し続ける誠。

良介と同じ境遇にあった人間とは思えない考えである。

 

「お前・・・魔物が憎くないのか?」

 

「憎いさ。

けど、突っ走っちまったら終わりだろ?

それに俺の仇の魔物は覚醒した時に倒しちまったからな。

今、俺にできるのは自分たちと同じ境遇の人間を出さない事。

違うか?」

 

笑いながら、良介の方を向く誠。

 

「・・・へ、違いない。」

 

良介も笑みを見せる。

 

「あ、噂をすれば影だよ。

あそこ、ちょっと山みたいなデカさのスライム。」

 

確かにかなりのデカさのスライムの影が見える。

 

「悪いが俺は反対側にスライムの影を見つけたから、そっち行ってくるわ。

健闘を祈るぜ。」

 

そういって、夏海が見つけた方向とは逆の方向にあるスライムの影に向かって走って行く誠。

 

「行くわよ良介!

突撃取材開始!」

 

スライムの影に向かって走って行く夏海。

 

「戦いも全て取材なのか、あいつにとっては・・・たくっ・・・」

 

呆れながら、良介も続いた。

 

   ***

 

その先にはかなりの大きさのスライムがいた。

しかも一体だけじゃない。

軽く3体ぐらいいた。

 

「よーし、行っくわよー!」

 

スライムに突撃する夏海。

すぐさまに、蹴りをかます。

スライムは吹っ飛んだあと空中で破裂した。

 

「なるほど、肉弾戦か・・・よしっ!」

 

良介は足に肉体強化の魔法を使う。

少し前に授業で習ったものだ。

 

「おらっ!!」

 

スライムを思いっきり蹴っ飛ばす。

夏海が蹴った時よりもさらに空高く舞い、破裂した。

 

「やるじゃない、良介!」

 

夏海が良介の活躍を見ていると、一体こっちに突っ込んできた。

 

「そうだ・・・肉体強化に属性は付けれるかな?」

 

そういって、良介は自分の手に肉体強化をかける。

 

「え、ちょっと良介、何する気なの!?」

 

突っ込んできたスライムの攻撃をかわしながら、良介の方を見る夏海。

 

「肉体強化・・・火属性!」

 

すると、良介の手に火がついた。

 

「えっ!?」

 

いきなりの光景に驚く夏海。

ぶっつけ本番だったがうまくいったようだ。

 

「でりゃあっ!!」

 

スライムに強力なアッパーかます。

スライムは体が火に包まれながら吹っ飛び、爆散する。

 

「ふっー、うまくいったか。」

 

大きく息を吐く良介。

と、向こうの方で、大きな爆発音がした。

2、3体ぐらいのスライムが空中で吹っ飛んで破裂した。

どうやら、誠がやったようだ。

 

「あいつ・・やるなぁ・・・」

 

良介は感心する。

 

「うっわ、べとべと。

なにかやるたびに破裂するのやめてほしいわ・・・

カメラは・・・だいじょぶだいじょぶ。

死守してるから濡れてないよ!」

 

とんだジャーリスト魂というか、逆に呆れてしまった。

 

「そこはさあ、もっと安心した顔を見せるところじゃないの?

スライムと戦いながら写真撮るの大変なんだからね。」

 

「(戦いながら撮る必要ないだろ・・・)」

 

「・・・今、写真撮らなかったらもっと楽にとか考えてるでしょ。」

 

ほぼ合っているが、良介はとぼける。

 

「さぁ、どうだろうな?」

 

「報道に携わる者としてそこは譲れないの!

写真を撮る、敵も倒す!

両立してこそパパラッチよ!」

 

「(あ、認めた。)」

 

とうとう自分のことをパパラッチと言い始めた。

 

「スクープのためならたとえ火の中スライムの中・・・」

 

「入るのか?

スライムの中に?」

 

変な笑みを見せる良介。

 

「いやさすがにスライムの中は・・・は、入るわよ。

入ってやろうじゃないの!

報道部ゴシップネタ班副班長の実力、見せてやるわ!」

 

「いや、入らなくていいよ。

助けるのが面倒臭い。」

 

「な、そこは男として助けるのが普通でしょうが!」

 

「そうは言われても・・・ん?」

 

良介があることに気づく。

後ろのすぐ近くまでスライムが来ていた。

 

「っ!!

危ない!!」

 

「えっ!?

ちょっと!?」

 

とっさに夏海を抱え、攻撃をよける良介。

抱え方はお姫様抱っこである。

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫だけど・・・その、恥ずかしいから早く下ろして!」

 

すぐに夏海を下ろす。

 

「・・・ありがと。」

 

「どういたしまして。

それじゃ、倒すか。」

 

スライムに今度は足に肉体強化の火属性をかけ、蹴りをかます。

吹っ飛んで、スライムは空中で爆散する。

 

「よし、他の場所に行くか。」

 

「・・・そうね。」

 

ため息を吐く夏海。

 

「どうした?」

 

「なんでもないわよ。

行きましょ。」

 

先に行き始める夏海。

すると、少し離れたところで爆発音と共にスライムが3体ぐらい舞い上がり、

空中で爆散する。

と、その瞬間、

 

「どえええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」

 

と、どこかで聞いたような声が聞こえた。

 

「今の・・・誠か・・・」

 

苦笑する良介。

 

「ご愁傷様ね・・・」

 

苦笑いする夏海。

恐らく今の誠は夏海よりも酷いことになっているであろう。

 

   ***

 

スライムを倒しながら街を回る二人。

 

「改めて見ると、ひどい状況ね、これ。」

 

夏海が街の見ながらぼやくように言う。

 

「普段文明に恩恵にあずかっている現代人としてはショックよね。

魔法使いも軍隊も人類の一部に過ぎないってことがよくわかるわ。」

 

「確かにな・・・」

 

良介は街の状況を見て、顔をしかめる。

 

「それ以外の力を持たない人たちは、魔物に手も足もでない。」

 

夏海の言う通りである。

歯痒くて仕方がない話だ。

 

「・・・政府批判するつもりはないんだけどさぁ。

もうちょっとマジメに対処してくれてもいいんじゃない?」

 

「まぁ、確かにその通りだな。」

 

良介は納得する。

 

「なんちゃって。

でもあたしの最終目標はそれなんだよ。

揚げ足をとったり、ただ不平不満を言うだけの報道じゃ、世界は変わらない。

真実を追求して、解決策を提案する。

あたしは、そんな記者になりたいの。」

 

「へぇ、けっこうマジメに考えてるんだな。」

 

良介は感心した。

 

「今は身近な事件を追いかけて力を磨いてるって感じ。

・・・どう、立派だと思う。」

 

「ああ、立派だよ。

大きな夢を持って追いかけることは大事だからな。」

 

そういうと夏海は笑みを見せる。

 

「そーだよね!

だから良介も協力してくれるよねー!」

 

「・・・はい?」

 

今の言葉に呆気にとられる良介。

 

「これが終わったら独占密着取材、よろしく!」

 

良介は呆れてしまった。

 

「結局そうなんのかよ・・・」

 

「そうと決まればちゃっちゃと終わらせちゃおう!」

 

そういうと夏海は残りのスライムを倒しに向かう。

 

「これじゃ、断るに断れねぇな・・・」

 

良介は呆れながら夏海の後を追いかけた。

 

   ***

 

その後、良介や夏海、誠の活躍もあって、早々に片付いた。

ただし、誠のみその代償が大きかったが。

 

「おつかれー。

ほい、ウーロン茶でいいでしょ?」

 

「ん?

ああって、お前、それどこから取ってきたんだよ。」

 

ウーロン茶を受け取りながら、良介は聞いた。

 

「そこの壊れた自販機から取ってきたの。

このくらいいいでしょ。」

 

「・・・まぁ、それぐらいなら・・・」

 

そういって、二人でウーロン茶を飲む。

 

「まあ、さ。

なんだかんだ愚痴っちゃったけど・・・倒した後はすっきりするよね。

あたしも人の役にたってるんだって。」

 

「そうだな。」

 

「それに、スライムも間近で撮れたし。

スゴくおいしい写真。

今回は街の人にも死者とか出なかったし、万々歳だね。」

 

写真のことはともかく、死者が出なかったのはとても大きいことだ。

良介も魔法使いとして少し成長した自分を感じれてよく思っていた。

 

「それじゃ一休みしたら帰ろうか。

急いで急いで。」

 

「へ?

なんで急ぐ必要があるんだ?」

 

良介の質問に、夏海は当然のように答えた

 

「決まってるじゃない。

独占密着取材。

今夜は帰らせてあげないからね。」

 

「マジかよ・・・」

 

良介は顔を手で覆って、呆れた。

 

「・・・・俺のことは、無視か・・・」

 

すぐ近くでびしょ濡れになっていた誠がそうぼやいていた。



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第6話 風紀委員

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


クエストから戻った二人は校門前にいた。

すると、一人の生徒がいた。

 

「ふーっ、危ない危ない。

まさか街に魔物が出るなんて。

撮影終わっててよかったー・・・」

 

「・・・誰だ?

あの生徒・・・」

 

すると夏海がその生徒に声をかけにいく。

 

「あっ、純!

今日、撮影って言ってなかったっけ?」

 

「魔物が出たから逃げて来たの。

変身しようと思ったら止められてさ。

あーもー、ストレス溜まるわぁ。」

 

そういって、純と呼ばれた生徒は不満そうな顔をする。

 

「ん?

その人、誰?」

 

純が良介に気づく。

 

「え?

あ、これね、転校生よ。

ホラ、魔力を人に渡せる・・・」

 

「ああ、噂の転校生ね。」

 

すると、夏海が何かに気づいたように良介に話しかける。

 

「はっ!

そーだ!

良介!

モデルの鳴海 純(なるみ じゅん)って知ってる!?

この子よ!」

 

「あー、名前ぐらいなら・・・」

 

テレビとかで何度か名前を耳にしたことがあるくらいである。

 

「あ、そ、そんな大声で言わないでよ。」

 

「どう!?

芸能人よ!

仲良くなりたかったらあたしが世話してあげるから・・・」

 

どうも嫌な予感がする。

 

「見返りに独占インタビュ・・・」

 

その途端、純が夏海の方を睨む。

 

「・・・夏海?」

 

「ひっ!

か、考えといてね!」

 

「いや、興味ないし・・・」

 

そういうと、一人の生徒がこっちにやってきた。

 

「あ、純ちゃんも避難してたんだ。」

 

「あちゃー、絢香もかー。

今日はもう仕事になんないね、これ。」

 

そういうと、絢香と呼ばれた生徒が落ち込む。

 

「うん。

みんな無事に避難できたけど、まさか街が襲われるなんて・・・

しばらくなかったよね?」

 

「・・・なんか、どこかで見たような・・・」

 

そういうと、また夏海が気づいたように良介に話しかける。

 

「はっ!

今来たのはMAGIC☆STARの絢香よ、絢香!

まさかあの魔法使いアイドルを知らないってこと、ないでしょーね!?」

 

「・・・ああ、何度かテレビで見た気がするな。」

 

そういうと、絢香がこっちに気づく。

 

「な、夏海ちゃん?

どうしたの急に・・・」

 

「仲良くなりたかったらあたしが世話してあげるから、独占インタ・・・」

 

「な・つ・み・ちゃん?」

 

「(またかい・・・)」

 

その状況に呆れる良介。

 

「ひょえっ・・・あ、転校生のインタビューに行かないと!

じゃね、二人とも!

今度インタビューさせてね!」

 

足早に去ってゆく夏海。

良介はその後を追いかける。

 

「・・・あれが転校生かぁ・・・」

 

そうぼやくと、純が絢香に聞く。

 

「あれ?

絢香、アイツが転校生って知ってたの?」

 

「えっ!?

あ、えっとね!

見たことない顔だったからもしかしてって!」

 

純はそう聞くと、感心する。

 

「ふーん、いいカンしてんじゃん。

ね、早く教室いこーよ。」

 

純は教室に向かった。

 

「・・・ふーっ、危なかった。」

 

絢香そうぼやくように言った後、教室に向かった。

 

   ***

 

学校に入ると、いきなり夏海を見失った。

 

「まぁ、どうせ部室にいるんだろう・・・」

 

すると、誠がすぐ近くにいた。

 

「よう、良介。

お前、今からどうするんだ?

俺はちょっとしたら、適当に街に行くつもりなんだが・・・」

 

「すまん、ちょっと用事があるんだ。」

 

そういってると、一人の生徒が学校に入ってきた。

 

「・・・しょせん街に出る魔物など、あんな程度か。

・・・つまらん。」

 

そういって、こっちに近づいてくる。

誠は一歩下がる。

 

「・・・はぁ。

・・・・・む。」

 

その生徒と良介の目が合う。

 

「・・・・・・」

 

無言でこっちを見た後、そのまま去っていった。

 

「・・・誰だ、あの生徒。」

 

「今のは、生天目 つかさ(なばため つかさ)。

戦うことしか興味なくて、授業サボっては魔物退治に行ってる奴さ。

かなり問題児なんだが、かなり強いんだ。

だから、取り締まるのも難しいんだとよ。」

 

「問題児・・・ねぇ。」

 

良介はその生徒の後ろ姿を見る。

 

「魔物だけじゃなくて、強そうな相手を見るとケンカ吹っかけるそうだ。」

 

「・・・お前は大丈夫だったのか?」

 

良介は誠に尋ねる。

 

「俺?

吹っかけられはしなかったけど、目星みたいなものは付けられちまってる。」

 

「目星?」

 

「さっき、ジロっと見てただろ?

あれも俺にされてな。

将来的に強くなりそうな奴にはああするんだ。」

 

誠はため息をつく。

 

「(つまり、俺は将来的にかなり強い魔法使いになる可能性があるってことか・・・)」

 

良介はそう思い、手に力を入れる。

すると、怜がやってきた。

 

「良介、ちょうどよかった。

今、大丈夫か?」

 

「今?

まぁ、大丈夫だけど・・・」

 

「今から、研究室に来てくれないか?」

 

「・・・研究室?」

 

怜と共に研究室に向かうことになった。

 

   ***

 

誠と別れ、研究室に向かう。

研究室につき、ドアを開ける。

 

「うわぁ!?」

 

一人の生徒と眼鏡をかけ、白衣を身につけた生徒がいた。

 

「・・・・・」

 

「ななな、なんだお前ら!

急に入ってきて!」

 

「いや、なんか検査を・・・」

 

「検査・・・あ、あなたの転校生の・・・思い出したわ。」

 

どうやら、忘れていたようだ。

 

「ボクの検査、もう終わった!?」

 

「ええ。」

 

「じゃあ帰る!

じゃな!」

 

そういうとその生徒は出て行った。

 

「今のは楯野 望(たての のぞみ)か。

まだ授業に出るつもりはないのか?」

 

「気にしないで・・・大人数ね。」

 

良介はそう言われ、後ろを振り向くと、何人か生徒がいた。

 

「すまない。

風紀委員として、転校生である良介の力を把握しておきたくてな。」

 

怜はそう言って白衣を着た生徒に微笑む。

 

「良介、忙しい合間に悪いが、最初だけだ。

つき合ってくれ。」

 

「ああ、いいよ。

ところで、この人は・・・?」

 

良介はすぐ近くにいる生徒について怜に聞いた。

 

「紹介しよう。

風紀委員長だ。」

 

「どーも、水無月 風子(みなづき ふうこ)です。

こんなナリですが、いちおー風紀委員長やってます。」

 

「は、はぁ・・・」

 

まるでやる気がないような喋り方で風子は自己紹介をする。

 

「さっそくですがね、アンタさんの話、聞きましたよ。

訓練所とクエストで、さっそく力の片鱗を見せたとか。

・・・ちょーっと、危険、ですね?」

 

風子は眉間に皺をよせる。

その言葉に怜は顔をしかめる。

 

「委員長、そのような言い方は・・・」

 

「いーえ、言っておきましょーね。

自覚がないのはいけません。

アンタさんの力は、とっても危険なんですよ。

検査しながらお話しましょ。」

 

そうして、検査をうけることになった。

 

   ***

 

「キルリアン法を使うわ。

アナログな方法だけど・・・」

 

「キルリアン法?」

 

首を傾げる良介。

 

「どれくらい魔力が充実しているか一目でわかる。

このフィルムに手を乗せて。

電気を通して写真を取る。

聞いてたよりもずっと多い、あなたの魔力量がこれではっきりするわ。」

 

「他人に魔力を渡すという力。

前代未聞だと、きーてますね?」

 

「ああ、聞いてるよ。」

 

「アンタさんといれば、お手軽に高威力の魔法が撃てる。

時には自分のキャパシティを超えて。

それはとても危険なんですよ。」

 

それを言われ、良介は智花が火傷した時を思い出す。

 

「(あれは、キャパシティを超えて撃ったから・・・)」

 

そうしてる間に、検査が終了していた。

白衣を着た生徒が写真を見せてきた。

 

「キルリアン法は、魔力の充実具合を判定する最初の手段だったわ。

手のひらを映したものだけど、真っ白になっているのがわかるわね?」

 

「ええ、わかります。」

 

「影も薄い所もないな。」

 

怜も横から顔を覗き込む。

 

「ええ。

これが彼の特性を端的に表しているわ。」

 

「で、具体的に彼の魔力量は?」

 

「測定不能よ。

この白は粒状の【魔素】と呼ばれる、魔力の源。

その分布具合、濃さで魔力量をはかるのだけれど・・・

この通り、密集した魔素で塗りつぶされている。」

 

風子が顔をしかめる。

 

「どうにかわかりませんかね。」

 

「魔素は質量を持たない。

だから理論上は1センチ四方内に無限に存在できる。

一定以上の魔力量になると、この方法でも魔力量の測定は不可能ね。

この結果から言えることは1つ。

彼の魔力は、並の魔法使い千人分。

それが下限で、上限は計り知れないわ。」

 

そういうと、良介の方を見る。

 

「とても・・・とても興味深いわね。」

 

   ***

 

良介は風子たちと訓練所に来ていた。

 

「・・・上限がないって、どういうことだよ・・・」

 

出た結果に良介は額に手をあてる。

 

「宍戸 結城(ししど ゆき)でもわからないってそーとーですよ。」

 

風子はため息をつく。

 

「彼女は国連の研究所に勤めてましてね。

はい、飛び級で。」

 

「こ、国連の研究所を飛び級で・・・?」

 

その言葉に呆然とする良介。

 

「日本の研究所に移った後、魔法使いに覚醒して学園に来たんです。

とってもオーバースペックで、わからないことなんかない、

と思ってましたが、そういったこともあるんですねー。」

 

そうぼやく風子に良介は質問する。

 

「あの~、ここに来たってことは前と同じように・・・?」

 

「そです。

アンタさんに前と同じことをしてもらおうと思って。

上限がわからないのは仕方がない。

ですがもう一つの【魔力譲渡】。

こっちはウチらが体験できますからね。

後、七属性の魔法も見せてもらおうかと。

とゆーわけで、アンタさん方にも来てもらいました。」

 

風子は他の風紀委員の方に目を向ける。

 

「これから順番に試してみましょ。

ウチは最後でけっこーです。」

 

「(こんだけの人数試すのかよ・・・)」

 

「じゃあ、氷川から行きましょーかね。」

 

すると、氷川と呼ばれた生徒が動揺する。

 

「わ、私が最初ですか!?」

 

「ええ、良介さん。

風紀委員の氷川 紗妃(ひかわ さき)です。

どーぞ遠慮なく、魔力をあげちゃってください。」

 

「は、はぁ、それじゃ・・・」

 

良介は紗妃に魔力を渡す。

紗妃はその魔力で魔法を撃った。

 

「な・・・なな、なんですかこれっ!?

魔法の威力が段違いに・・・!」

 

驚いている紗妃を放っといて風子は次の生徒を指名する。

 

「はい、次。

神凪。」

 

「・・・はい。」

 

同じことを怜にも行う。

 

「・・・なるほど、全力で魔法を撃っても、まだ充実している。

良介の魔力を補充しているからですね。」

 

「はい、次は冬樹。

冬樹 イヴ(ふゆき いぶ)。」

 

イヴと呼ばれた生徒は指名されたが、前には出なかった。

 

「・・・不要です。

よくわかりました。

彼の力も、問題点も。

ですから、失礼します。

勉強があるので。」

 

そう言うと、イヴは訓練所が出て行った。

 

「ふ、冬樹さんっ!」

 

紗妃がイヴの後を追いかけようとする。

 

「(問題点がわかったなら、教えてくれてもいいだろ・・・

まぁ、どうせ隙が多いとかだろうけど。)」

 

「まーまー。

彼女はあれでいーです、今のところ。

んじゃ服部、アンタさんの番ですよ。」

 

「あ、自分も結構です。

どれだけヤバいか理解したっス。

うーん、これはこれは。」

 

なぜか服部と呼ばれた生徒は顔がにやけている。

 

「では、最後はウチですね。

よろしくお願いします。」

 

   ***

 

「・・・で、良介さん自身に魔法を使ってもらいましたが・・・」

 

「・・・なんですか、この威力・・・」

 

呆然とする紗妃。

良介は以前とは違い、通常の状態で魔法を撃った。

 

「(やっぱり、こうして使ってみてわかったけど・・・

まだ、第一封印の能力、制御しきれてなかったな・・・)」

 

「いやー、これだけ魔力がある上に、

七つの属性の魔法が撃てるって結構やばいっスね。」

 

「これらの結果からわかることは1つ。

アンタさんの役割です。」

 

「俺の役割?」

 

良介は風子の言葉に首を傾げる。

 

「七属性の魔法も凄いですが、それでも魔力は無尽蔵です。

アンタさんの【魔力譲渡】を求めて、いろんな人が組みたがるはず。」

 

「俺の能力を求めて・・・か・・・」

 

良介は自分の手のひらを見る。

 

「いえ、学園生ならいーんですよ。

パーティ組んで、クエストに出る。

それはとてもけっこーなことです。

問題は・・・学外です。」

 

その言葉に良介は顔をしかめた。

 

「アンタさんの力、できる限り隠匿するつもりですが、完全には無理です。

いずれ、テロリストやら反政府組織に嗅ぎつけられたりもするでしょー。

わかりますね。

この重要性が。」

 

「・・・はい。」

 

怜は真剣な顔をして返事をする。

 

「俺の能力が・・・テロリストや反政府に・・・」

 

「良介さん。

アンタさんの外出は宍戸 結城及び風紀委員によって監視されます。

出来るだけ目立たないように注意しますが、ご了承くだせー。」

 

「・・・ああ、わかった。」

 

「それほどの重要人物だということを、ご理解いただきますよーに。

以上。」

 

そう言われ、訓練所を後にした。




人物紹介

鳴海 純(なるみ じゅん)17歳
モデル兼女子高生兼魔法使い兼格ゲーマー。
通称【美人過ぎる格ゲーマー】。
仕事と学業の傍ら、ゲーセンに繰り出しては野試合を繰り広げる。
ゲーマー仲間にはモデルであることは秘密だが、あまり隠せていない。
その多忙ぶり?の影響か休みすぎて落第寸前。

皇 絢香(すめらぎ あやか)15歳
アイドルユニット【Magic☆Star】に所属する、歌って踊れる魔法少女。
誰にでも愛想よく振る舞うアイドルの鑑で、学校でもそれは健在。
だがひとたび仮面を取れば普通の少女なのも確か。
落差が酷くてもガッカリしないであげよう。

生天目 つかさ(なばため つかさ)18歳
闘争に命を賭ける正真正銘のバーサーカー。
戦うこと以外に全く興味がない。
強い相手を求めてふらりと学園からいなくなり、魔物を討伐して戻ってくるのが日常。
武田 虎千代とタイマンで張り合える数少ない人物で、
格闘においては彼女を上回る強さを誇る。

楯野 望(たての のぞみ)14歳
一度登校したきり不登校に陥った引きこもり。
寮の部屋でゲームばかりしている。
当然、昼夜逆転の生活で不健康さにおいては他の追随を許さない。
そのせいなのか別に理由があるのか、慢性的な気怠さと頭痛にさいなまれているらしい。
低気圧の日は特に酷いとか。

水無月 風子(みなづき ふうこ)16歳
メインヒロイン。
幼い外見、ヤル気のなさそうな言動とは裏腹に、違反を見つけたら瞬く間に拘束、
処罰を与える【鬼の風紀委員長】。
学園の治安を乱す報道部を目の敵にしており、特に部長の遊佐鳴子との、
知力を駆使した対決は一種の風物詩。
生徒会に対しても不満を抱いている。

宍戸 結希(ししど ゆき)15歳
学園どころか、世界でも有数の頭脳を誇る天才少女。
授業を免除され、いつも自分の実験室で研究に勤しんでいる。
魔法と科学を合わせた【魔導科学】が専門分野。
彼女の功績で30年は技術が進んだという、人類側の懐刀。
【ヒト】の作成が最終目標だという噂。

氷川 紗妃(ひかわ さき)16歳
校内の治安に責任を負う風紀委員の一人。
わずかな違反も見逃さない苛烈な取り締まりで生徒達から恐れられている。
校則違反さえしなければ無害で優しいお姉さんなのだが、
違反のハードルが低すぎる…怒られたい人向け。

冬樹 イヴ(ふゆき いぶ)14歳
人とのコミュニケーションを拒否し、学業に没頭する少女。
誰よりも秀でることを絶対唯一の目的とし、不要なものは全て切り捨てている。
そのせいか学園では孤立気味だが、特に本人は気にしていない。
魔法の実力も高いが、ワンマンな戦い方には賛否両論。

服部 梓(はっとり あずさ)14歳
現存する唯一の魔法使い兼忍者。
かなりの実力者のはずだが根っからの舎弟気質で、
たいてい誰かにパシられて学園を飛び回っている。
そのおかげで人脈は幅広く、仲の良い生徒も多いようだ。
怪物・生天目 つかさが一目置くほどの逃げ足を誇る。


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第7話 図書館

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


訓練所を後にした良介は紗妃から校則について廊下で説明をうけていた。

 

「では良介さん、これから学園生活を送るに当たり、校則の説明を・・・」

 

すると、向こうから二人の生徒が歩いていた。

 

「ふんふ~ん、ふふん。

よーし、暴れるぜ~っ。

沙那!

今日の試験って何の奴だっけ?」

 

「ジンライSPです。

護身用の対魔物用拳銃です。」

 

「ちぇっ。

デクの試験じゃねーのか。

やめよっかな。」

 

紗妃は、二人に気づくとそっちに向かってしまった。

 

「え、あ、ちょっと・・・」

 

良介もその後に続く。

 

「神宮寺 初音(じんぐうじ はつね)さんっ!」

 

「ん?

げっ、風紀委員。」

 

初音と呼ばれた生徒がこっちに気づく。

 

「(ん?

神宮寺?

どっかで聞いたような・・・)」

 

「げっ、とはなんですか!

生徒から苦情が来ているのですよ!

この歳にもなって、スカートめくりなどという下品な悪戯を・・・!

風紀委員室に来てください!

呼び出しているのにいつもいつも・・・!」

 

「スカートめくりくらいいいじゃんか。

セクハラって一番反応がいいんだぜ?

みんなキャーって。

いやー、女の子の悲鳴っていーねー。」

 

「(こいつ何言ってんだ・・・

お前もその女の子のくせして・・・)」

 

すると、一緒にいた生徒が前に出てきた。

 

「氷川さん。

初音様には私から言い聞かせておきます。

試作兵器の試験のあと、風紀委員室へ向かうように言っておきますので。」

 

「(初音・・・様?

それじゃ、この人はメイドか何かか?)」

 

「月宮さん。

神宮寺のお嬢様だからといって、甘やかしてはいけません。」

 

「重々承知しております。」

 

「・・・まぁ、あなたの言うことですから、信じましょう。

よろしくお願いしますよ。」

 

そう話していると初音が良介に気づく。

 

「ん?

なーなー、この兄ちゃん、新しい転校生?

・・・・じーっ・・・ニヤッ。」

 

初音がなにか思いついたように笑みを浮かべる。

 

「(なんか嫌な予感がするな・・・)」

 

   ***

 

「へー、アンタ、そんな体質なんだ。

変なの。」

 

良介は初音に自分の体質について説明した。

 

「ああ、自分自身でも変な体質だと思うよ。」

 

すると紗妃と話をしていたメイドがこっちに来た。

 

「初音様、お時間が迫っております。

遅れたら試験ができなくなってしまいます。」

 

「わーってるわーってる。

ふーん。

あのさ、アタシ、神宮寺のお嬢様。

知ってるだろ?

JGJインダストリー。

対魔物用兵器の巨大企業。」

 

「・・・ああ、あのJGJか。」

 

「世界でも圧倒的シェアを誇るパワードスーツ!

個人でも使える防護グッズ!

・・・の神宮寺のお嬢様。

すげーだろ。」

 

「あー、まぁ・・・そうだな。」

 

正直、あまりすごいとは思わない。

ああ、そうなんだ程度である。

 

「学園に親衛隊もあるんだぜ!

男子少ねーから小さいけど・・・

アンタも入る?

試験あるけど、将来アタシのお婿さんになれる!

・・・かも?」

 

「初音様・・・」

 

メイドが困ったような顔をする。

 

「ほら。

兄妹がいるから社長とかになれるわけじゃねーけどさ。

天下のJGJだぜ?

いろいろやりたいほーだい。」

 

「いや、あまり・・・」

 

「初音様、それ以上は・・・」

 

「神宮寺さんっ!」

 

紗妃が声を張り上げて初音の名前を呼ぶ。

 

「あ、やべ。

風紀委員忘れてた・・・」

 

「学園内に私設軍隊を作るなとあれほど言っているでしょう!」

 

「おいおい、私設軍隊って・・・」

 

「ば、ばかゆーなよ。

私設軍隊なんて。

ファンクラブ、ファンクラブ。」

 

「なんのファンクラブだよ・・・」

 

「親衛隊と言ってるではありませんか!」

 

「ええ・・・ファンクラブのこと親衛隊ってゆーだろ・・・」

 

「それでは、初音様は急いでおりますので、これで。」

 

そういうと、メイドは初音を連れて去っていった。

 

「あっ!

待ちなさい!

待ちなさーいっ!」

 

そういうと、紗妃は二人を追いかけていってしまった。

 

「えっ!?

おい、ちょっと!」

 

良介は追いかけようとしたがすぐに見失ってしまった。

 

「・・・校則の説明・・・誰がするんだよ・・・」

 

呆れて、ため息をつく良介。

 

「騒がしいな・・・ん?

氷川はどこに行った?」

 

怜がこっちに気づき来てくれた。

 

「ああ、実は・・・」

 

   ***

 

「そうか、神宮寺を追って・・・では、私がある程度、説明をしようか。

といっても見回りがあってな。

歩きながらでもよければだが。」

 

「ああ、構わない。

してくれないよりマシだ。」

 

そのまま良介は怜と歩きながら説明をうける。

 

「なるほどねぇ・・・ありがとう、校則について大体わかったよ。

そういえば、さっきいた神宮寺って・・・」

 

「ああ、神宮寺はJGJインダストリーの社長令嬢だ。

8人兄妹の一番下らしい。

詳しく知らないが。」

 

「8人兄妹か・・・」

 

「学園の購買はJGJフーズから仕入れていたり、新しい兵器を作ったら、

まずは学園でテストしたりと、なにかと縁がある。」

 

「ふーん、なるほどねぇ・・・」

 

すると、怜は眉間に少し皺をよせる。

 

「ただ、神宮寺 初音には気を付けておけ。

悪戯好きだからな。

そこまで深刻なものじゃないが、油断するとズボンを下ろされるぞ。」

 

「・・・男子も標的にはいるのかよ・・・」

 

良介は呆れた。

そう話しているといつの間にか廊下を出て、校内の噴水前にまで来ていた。

よくみると、噴水前のところに誰か座っている。

 

「・・・ちくちく・・・ちくちく・・・」

 

「ん・・・ちょうどいい、紹介しよう。

引っ込み思案だから、驚かせないように頼む。」

 

「へ?

わかった・・・」

 

怜は、その生徒のところに行く。

 

「楠木、おはよう。」

 

「っ・・・!!」

 

怜は挨拶しただけだったがかなり驚いているように見える。

すると、その生徒の近くにいた人形がいきなり喋りはじめた。

 

「おっす!

今日もいい天気さね!」

 

「えっ・・・人形が喋ってる・・・?」

 

動揺する良介に怜はその生徒を紹介する。

 

「紹介しよう。

楠木 ありす(くすのき ありす)だ。」

 

「・・・ぁ・・・・ぅ・・・」

 

怯えたようなありすに対し、人形は驚いていた。

 

「ほげっ!?

男じゃねえか!

珍しいもんだな!」

 

「(・・・見た目女の子なのに喋り方男なんだな、この人形・・・)」

 

「やいやい!

オレっちの可愛いありすには紳士的な態度を取れよ!

じゃないとこの拳でノックアウトしてやるさね!」

 

「(いや・・・無理だろ・・・)」

 

「落ちつけ。

良介が驚いている。

すまなかったな。」

 

「いや、大丈夫だよ。」

 

「楠木は人形を介して喋る。

口は悪いが、いずれ慣れるだろう。

つきあい方を学んでいる最中なんだ。

大目に見てやってくれ。」

 

「あ、ああ・・・(人形を介して・・・?

どうみても、あの人形に意思が宿っているように見えるが・・・)」

 

人形を疑う良介。

すると、怜はありすに再び話しかける。

 

「楠木、一緒にコロシアムに行かないか?

良介を案内している途中なんだ。」

 

「・・・・・・」

 

ありすは無言で首を横に振る。

 

「そうか。

また見かけたら誘おう。

新しい人形、完成したら見せてくれ。」

 

「・・・・・・」

 

ありすは無言でうなずいた。

 

   ***

 

良介は怜とコロシアムに来た。

とすぐ近くに二人の生徒がいた。

 

「おーやってるやってる。

千佳、見ろよ。

あれって千佳が告った先輩じゃね?」

 

「う、うっさいし!

全然タイプじゃないし!

律は一言多い!」

 

「なんだ、またふられたのか。

よく飽きねーなー。」

 

「飽きるとかそーゆーのじゃないっしょ!?」

 

「んなことよりバンドやろうぜ、バンド。

ギター教えてやっからさ。」

 

「あんたギター、ゼンゼン弾けないじゃん。

なに教えるのよ・・・

それより、見てアレ。

対戦相手の方!

ちょっとイケメンじゃん?」

 

「そうか?

あんまロックじゃねーなー。」

 

そんな話をしている二人の生徒の元に怜は向かう。

 

「不純異性交遊は校則違反だぞ。」

 

「ひぃっ!

・・・って神凪じゃん!

ビビらせるようなことしないで!」

 

「私も風紀委員なんだぞ?」

 

そう話しているとギターケースを持った生徒が良介に気づく。

 

「おっ。

隣の、誰?

見ない顔だな。」

 

「転校生だ。」

 

「転校生?

あー、あの転校生か!

あたし、音無 律(おとなし りつ)。

よろしくな!

千佳、転校生だってよ!」

 

「ふーん。」

 

「ふーんってお前な・・・」

 

その後、怜にコロシアムについて説明してもらい、後にした。

 

   ***

 

良介は図書館登録しに図書館に向かった。

すると、図書館で智花に会った。

智花に怜のことを話した。

 

「怜ちゃんが?

よかった!

仲良くなったんですね!」

 

「ああ、ある程度だけどな。」

 

「今度、神社に遊びに行ってみます?

行事のあるときは賑やかなんですよ。」

 

「へ~、それは楽しみだな。」

 

そう話していると、イヴがこっちにやってきた。

 

「・・・図書館では、静かにしていただけませんか。

気が散ります。」

 

「あっ・・・ごめんなさい。」

 

「お喋りするなら、食堂でも噴水でもいいでしょう。」

 

そういうと、イヴは去っていった。

 

「あいつ・・・たしか・・・」

 

「あ、怜ちゃんと同じ風紀委員の冬樹さんです。

とっても成績がいいんですよ。

さ、行きましょうか。」

 

そういうと、智花は奥のほうへ行く。

 

「萌木ちゃん、こんにちは。」

 

「南さん、こんにちは。

それと・・・えっと・・・」

 

「ああ、俺は・・・」

 

「良介さんの図書館登録しにきたんだ。

お願いしていいかな?」

 

すると、萌木と呼ばれた生徒はなにか思い出したかのように反応する。

 

「あ!

わ、わかりました・・・ちょっと待ってくださいね。」

 

少し奥に行ったかと思うと、何か持ってきた。

 

「それでは生徒証と、こちらの書類に必要事項の記入を・・・

あとサインですね。

お、終わったら呼んでくださいね。」

 

「ああ、ところで君は・・・」

 

「・・・・・あっ!

わ、わたし、き、霧塚といいます。

霧塚 萌木(きりづか もえぎ)です。

よ、よろしくお願いします。」

 

「俺は早田 良介。

よろしく。」

 

挨拶を交わした後、書類に記入をする。

 

「こ、これで利用登録は終わりです。

後は・・・はい、生徒証があればいつでも・・・」

 

「ああ、わかったよ。」

 

「わたし、なにか借りていこうかなぁ。

良介さんもどうですか?」

 

良介は少し考え込む。

 

「そうだなぁ・・・

自分好みの本があったら・・・」

 

「萌木ちゃん、またオススメしてもらっていいかな?」

 

「うん。

それじゃあ、どんな本が読みたいですか?」

 

「例えば、読んだら魔法の実力が上がるような・・・ないよね、そんなの?」

 

「・・・魔導書じゃねえか・・・」

 

呆れる良介。

 

「【魔導科学の高等応用】なんかどうかな。」

 

「難しそうだな、それ・・・」

 

「えっ?

でも魔導科学って、機械の方じゃ?」

 

「一般的にはそうだけど、分類的には魔法は魔導科学の一分野だから。

実際には魔法の本だよ。」

 

それを聞いて良介は感心する。

 

「へ~、勉強になるなぁ。」

 

「でも高等って・・・だ、大丈夫なのかな?」

 

「ある程度基礎がある人たちって、セオリーもだいたい身につけてるでしょ?

でも逆に、セオリーを逸脱した選択肢を採りにくくなるの。

だから戦い方が一本調子になりがちなんだけど・・・

この本はその【セオリー外】で有用な例を挙げて、理由を書いているんだ。

だから南さんなら、読むだけでいいと思うよ。

基本はしっかりできてるし、後は選択肢を増やすだけだと思うから。

もし難しかったら、一般書で読みやすい【意外と知らない役立つ魔法】。

日常生活の中で便利に使えるテクニックを紹介してるの。

でも魔法をよく知らない一般人向けに紹介してる本だし、

学園生は許可なしで魔法使用はだめだから気をつけてね。」

 

萌木が長々と丁寧に説明してくれた。

 

「(本当に本が好きなんだな・・・)」

 

「丁寧にありがとう。

じゃあ最初に紹介してくれた・・・タイトル、なんだっけ?」

 

「【魔導科学の高等応用】。

じゃあ貸し出し手続きするから、ちょっと待ってて。」

 

「・・・・・・」

 

事細かに説明していた萌木に驚く良介。

 

「あ、ビックリしてます?

萌木ちゃん、とっても詳しいでしょう?

とっても本が好きで、いろんなこと知ってるんです。

良介さんもなにか読みたかったら、オススメ聞いてみるといいですよ!」

 

「そうだな・・・なにか聞いてみるか・・・」

 

萌木が本を持って戻ってきた。

すると、智花はある事に気づく。

 

「・・・ん?

そこに積んでるの、沖縄関連の本?

もしかして、沖縄旅行!?」

 

「ううん、そうじゃなくて・・・」

 

萌木が説明しようとすると、向こうから誰かが萌木を呼んだ。

 

「萌木ー。

全然わかんないのだー。」

 

「あ、リナちゃん。

もうちょっと待ってね。」

 

「リナ、勉強全然だめさぁ・・・」

 

一人の生徒が嘆いていた。

 

「転校してきたばっかりだから仕方ないよ。

早く追いつこう?」

 

萌木が励ますように言った。

 

   ***

 

「ん? 

智花、こいつ誰だ?」

 

リナと呼ばれた生徒がこっちに気づいたようだ。

 

「こ、こいつって言っちゃ駄目だよ!」

 

「いや、別にそんなの気にしないから・・・」

 

「転校生の良介さんだよ。

新しく来たの。」

 

「へーっ。

リナもそうだけど、転校生多いんだなぁ、やっぱ。

リナ、リナっていうのだ。

沖縄から来たさ。

よろしくな。」

 

良介と智花は気づいた。

 

「あ、その本ってもしかして・・・」

 

「ん?

あーっ!

それ、リナが頼んでるヤツ!」

 

リナが大声を出す。

 

「し、しーっ!

しーっ!」

 

すると、イヴがこっちを見てため息をつく。

 

「と、図書館では静かに。」

 

「悪い悪い、忘れてたのだ。」

 

リナは笑いながら謝る。

 

「(反省する気ゼロだな・・・)」

 

「そうだ。

良介、お前、水泳部に興味ないか?

リナが作ったんだけど、誰も入ってくれないのだ。

部員募集中だぞ!

まずは見学に来い!」

 

「あ、おい、そんな声出したら・・・」

 

「・・・・・・」

 

イヴがこっちを睨むように見る。

 

「そ、それじゃあわたし、リナちゃんの補習に戻るので・・・」

 

「あ、うん・・・そ、その方がいいね。

じゃあ、わたしたち行こうかな。」

 

図書館を後にする二人。

運動場の方へ向かう。

 

「えーと、あと行ってないところは、運動部のあたりかな?」

 

「(あれ?

いつの間に部活紹介みたいになってるんだ?)」

 

すると、少し離れたところに一人の生徒が立っていた。

 

「・・・・・・」

 

「あ、瑠璃川さん・・・り、良介さん。

この学園で、1つだけ注意しなきゃいけないことがあって・・・」

 

智花が説明しようした時だった。

 

「あぁ~ん!

あきほぉ~っ!」

 

「・・・はい?」

 

突然叫ぶ生徒に唖然となる良介。

 

「えっと・・・瑠璃川さんの邪魔はしないように・・・」




人物紹介

神宮寺 初音(じんぐうじ はつね)15歳
巨大軍産複合体JGJインダストリーの社長令嬢。
魔物と兵器について詳しい。
莫大なお小遣いと成金の図々しさで、
生徒会に勝手に自分のポストを作ったり親衛隊を募集したりと、
ワガママ放題の学園生活を送っている。

月宮 沙那(つきみや さな)18歳
神宮寺初音の付き人兼教育係。
主人の要望には十全をもって応える理想的なメイドで、
プライベートを全て犠牲にして世話を焼く。
ケーキが欲しいと言えばどこかから取り出し、
危険が迫れば暗器を取り出し…いったいどこにそんな大量のブツを隠しているのか。

楠木 ありす(くすのき ありす)13歳
いつも人形を持ち歩いている無口な少女。
びっくりするほどの引っ込み思案で、
腹話術のように人形を介してでなければまともに話せないほど。
人形は自分を【狂った姫様】と呼び、エセ長崎弁で誰彼かまわずなれなれしく喋る。
どっちが本当の彼女なのだろう。
直接は全然話さないが、人形を介して話す。
その際の口調は悪めだが人との接し方を学んでいる所なので大目に見てあげよう。

音無 律(おとなし りつ)16歳
【ロックな生き様】のパンクロッカー・・・にあこがれている音楽少女。
熱いソウルを求めて今日もバンド仲間を求めている。
歌は結構うまいらしいが、ギターの腕と作詞のセンスが致命的。
いまどき当方ボーカル、楽器弾けないではバンド結成は難しいのではないか・・・

間宮 千佳(まみや ちか)16歳
特異なパーソナリティを持つ者が多いこの学園である意味一番の一般人。
年頃の少女らしく恋愛で頭がいっぱいで、
男子へのアプローチに余念がない毎日を送っている。
魔法使いとして、というより女を磨きたい派の代表。
成績も普通。よくフラれる。

霧塚 萌木(きりづか もえぎ)15歳
いつでも本を読んでいる文学少女。
彼女の読書範囲は【文字が書かれているもの】全般に及び、
絵本を読んでいた翌日、
よくわからない言語の分厚い本を手にしていることも珍しくない。
そのせいか言語学も達者。
妄想癖も完備・・・メガネは?

与那嶺 里菜(よなみね りな)17歳
沖縄生まれの元気っ子で、三度のメシより泳ぐことが好き。
魔法使いに覚醒しなければ【うみんちゅ】になっていたのは間違いない。
もちろん水泳部だが、もはや学園の25mプールでは満足できないらしい。
暇を見ては学園を抜け出そうとしている。


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第8話 学園の片隅

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


「秋穂秋穂秋穂あきほあきほあきほ・・・」

 

一人の生徒が誰かの名前を連呼していた。

嬉しそうに。

 

「瑠璃川さんがここにいるってことは・・・」

 

智花が瑠璃川という生徒が見ている方を見る。

 

「ふんふ~ん。

きょうもお天気がいいですねぇ~、シロー。

あきほちゃん。

はるのさんもお誘いして、みんなでおさんぽしましょお?」

 

「ありがとう、さらちゃん。

でもいいんだ。

おねえちゃんに言ってみたんだけど、とっても楽しいらしいから。」

 

「でもわかるよ、その気持ち!

なんかすっごいわかる!」

 

3人の生徒が話をしていた。

 

「そうなんですかぁ?

一緒に歩いた方が楽しいのにぃ~・・・」

 

「違うんだよさらちゃん!

春乃さん的にはいっしょにお散歩してるんだ!

だから、春乃さんは散歩部の一員みたいなものなんだよっ!」

 

「そうなんですかぁ?

ノエルちゃん、よくわかりますねぇ!」

 

「ふふーん。」

 

智花は話し込んでいる3人のところに向かった。

 

「みんな、こんにちわ。」

 

「あっ、南先輩!

こんにちわ。」

 

「こんちはっ!」

 

「こんにちはぁ~!

いいお天気ですねぇ!」

 

3人と智花は挨拶を交わす。

 

「うん。

実はね、みんなに紹介したい人がいます!

新しい転校生の人です!」

 

「わぁ~っ!

わたし、仲月 さら(なかづき さら)ですぅ!」

 

「あたし、冬樹 ノエル(ふゆき のえる)!

よろしくっ!」

 

「瑠璃川 秋穂(るりかわ あきほ)です。

えっと・・・」

 

なぜか向こうを確認する秋穂。

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「俺は早田 良介。

よろしく。」

 

気がつくとさっきの生徒が近くにいた。

 

「あっ!

お、おねえちゃん!」

 

「・・・おねえちゃん?」

 

   ***

 

「おねえちゃん、大丈夫だよ!

ただ自己紹介しただけだから!」

 

「わかってる。

秋穂が可愛いのはちゃんとわかってるから。」

 

会話になっていない。

 

「(なんだこの人・・・)」

 

「・・・転校生だって?

いいか、1つだけ言っておく。

間違っても秋穂に手を出そうと思うなよ。

もし何かしたら・・・こ・・・」

 

「おねえちゃんっ!

大丈夫だからっ!」

 

秋穂が叫ぶように呼びかける。

 

「・・・秋穂・・・怒った秋穂もかわいい・・・天使・・・」

 

「・・・・・(シスコンにも程があんだろ・・・)」

 

その様子を見て呆れる良介。

 

「じゃ、じゃあまたね。

春乃さんにもまた、ちゃんと紹介しますね!」

 

そうしてその場を良介と智花はその場を後にした。

 

「・・・とっても仲がいいんですよ!

瑠璃川・・・春乃さん、秋穂ちゃんのことが大好きなんです。

だから、その、男子には特に厳しくてですね。」

 

「ああ、話しただけなのに殺すって言いかけてたしな・・・

早とちりにも程があんだろ・・・」

 

「でも大丈夫です!

あ、大丈夫っておかしいかな。

普通に接してれば大丈夫ですから・・・たぶん・・・」

 

「・・・・不安だ。」

 

ため息をつく良介。

すると、近くで怒鳴り声のような声が聞こえてきた。

 

「・・・聞いているのか、朝比奈 龍季(あさひな たつき)!」

 

すると、近くに聖奈と一人の生徒がいた。

 

   ***

 

「うっせーな。

鼓膜敗れたらどうすんだよ。」

 

「また喧嘩したそうだな!

一般人相手に!」

 

「それがどーした。

魔法使いは喧嘩しちゃいけませんってか?」

 

「当たり前だ!

魔力による筋力増強を知らんとは言わせん!

魔法使い、ただ魔法使いであるだけで常人よりも筋力に勝る。

相手が死んだらどうするつもりだ!」

 

「ケッ!

そんときゃ年少行くだけだろーが。」

 

「・・・少年院?

馬鹿を言うな。

魔法使いが行くのは・・・七枷矯正センターだ。

魔法使いの義務も、学生の義務も果たせないままだと退学だ。

貴様は矯正センターに送られる。」

 

「へーへー。

好きにしてくれ。

俺は構わねーよ。」

 

「減らず口を・・・!」

 

どうやら問題を起こしたようで注意されているようだ。

 

「おい、男子と女子が歩いてるぜ。

注意しなくてもいいのかよ。」

 

「私は風紀委員ではない。

それに今問題にしているのは、貴様だ。」

 

すると、聖奈がこっちに気づいた。

 

「・・・良介、ちょうどいい。

先ほどの話を聞いていたな?

魔法使いが危険だということは知っているな?」

 

「ああ、ある程度知っているつもりだけど・・・」

 

「もちろん、魔法が使えるからだが・・・もうひとつある。

魔法使いに覚醒した者、つまり【魔力が活性化した者】は、

体内の魔力により筋力が増進される。

撃ち出す魔法の威力耐えるためだ。

だから、一般人と力比べするな。

絶対にだ!」

 

「(まずすることがないと思うんだが・・・)」

 

「下手すると、骨くらいたやすく折ってしまうからな。

魔法を使うのも言語道断だ。

魔法使いのイメージを下げるようなことは、絶対に、絶対にするな。

それが魔法使いに覚醒したものの義務だ。」

 

なにやら説教じみてきて長話になり始めた。

 

「・・・・・」

 

「この朝比奈のように授業にも出ず、街でもめ事ばかり起こし、

校則違反を繰り返していると、退学処分になる。

だが魔法学園を卒業していない魔法使いを、社会は受け入れない。

ここを退学になったら、行き先は【矯正施設】だ。

・・・そうなりたくなければ、正しく毎日を過ごせ、いいな。」

 

「(要するに、問題起こさず、授業に出ればいいんだな。)」

 

「貴様もだ。

いつまでも見逃しておかんぞ。」

 

「お目こぼしなんか頼んでねーだろーが。」

 

聖奈はその場から去っていった。

 

「・・・ケッ」

 

龍季もその場から去っていった。

 

「・・・矯正施設、ねぇ・・・

本当にそんな所、あるのか?」

 

「・・・結城さんが言ったこと、全部本当です。

退学になった人は滅多にいませんが、ゼロだったわけでもないので・・・」

 

「・・・マジか。」

 

「実際、矯正センターに送られた人はいるんです。

・・・で、でも大丈夫ですよ!

真面目に授業に出て、クエストに行って・・・

そうすれば、みんな卒業できますから!」

 

「・・・そうか、わかった。

(・・・ところで、思ったが覚醒する前に問題起こしたとか、

なにか前科あっても送られるのか?)」

 

「・・・・?

良介さん?

どうかしました?」

 

「あ、いや、なんでもないよ。

(・・・絡まれたからって暴走族一つ潰したのは黙っておくか。)」

 

   ***

 

智花と別れた後、良介は再び夏海を探し始めた。

すると、噴水前にいる夏海を見つけた。

 

「夏海、こんなところにいたんだな。」

 

「あ、良介。

やっと見つけたわよ!

早速、独占密着インタビュー、受けてもらうわよ!」

 

「はいはい、約束だもんな。

受けるよ。」

 

二人は歩き始めた。

 

「うわぁ、ヌルヌルして気持ち悪い・・・シャワー浴びたい・・・」

 

「(・・・あれ、今なら・・・)」

 

「あ、もしかして帰ろうとしてる!?

ダメ、ダメだからね!

記事は明日の朝までに作らなきゃいけないの!

あんたの取材と、討伐した魔物の情報共有、

今からやんないと全然終わらないんだから!

さっき言ったでしょ!」

 

「え・・・まさか、マジで夜中まで・・・」

 

「ほら、行くわよ!」

 

そのまま夏海に引っ張られてしまった。

そしてなぜか、まず生徒会室来ていた。

 

「・・・なるほど?

結構壊されたらしいな。」

 

「全部バッチリ!

カメラに収めてきました!

これで明日の一面は・・・」

 

すると、薫子が話しかけてきた。

 

「写真のコピーをいただけますか。」

 

「え、ええっ!?

そんな、これは命よりも大事な写真なの!

やすやすと渡したりなんかしな・・・」

 

「岸田。

頼む。

アタシたちはお前と目的が違う。

写真を公表したりしない。

ただ分析に使うだけだ。」

 

虎千代までもが頼み込んできた。

 

「分析・・・って、デバイスに戦闘記録?

みたいなのが残るんじゃ・・・」

 

「それとは別に、だ。」

 

それを聞いて悩む夏海。

 

「・・・えっと・・・」

 

「いいですか。

生徒会長が報道部にこうして頭を下げている。

本来なら生徒会の権限を利用し、取り上げてもよいのです。

・・・あなたの良心に期待すると、会長はお願いされているのです。」

 

「な、なによー。

そんな恩着せがましい・・・わ、わかったわよ。

あげる。

でも本体も容量がないの。

部室のパソコンでコピーしてくるから、待っててね。

それじゃ。」

 

「・・・あ、俺もこれで失礼します。

(俺、外で待っててもよかったな・・・)」

 

良介と夏海は生徒会室を後にした。

 

「・・・街に魔物、か。」

 

虎千代は椅子に座りながらそうぼやいた。




人物紹介

仲月 さら(なかづき さら)12歳
散歩部の部長。
のほほんとした面々とペットのシローを引き連れていつも学園を練り歩いている。
2歳の時に魔法使いに目覚めたため、学園生活はすでに10年。
年少組だがベテランの風格で、誰に対しても物おじせずに話しかける。
マスコットのような生徒。

冬樹 ノエル(ふゆき のえる)14歳
みんなのサポーターを自称するお手伝い要員。
人手が足りない部活に顔を出しては、ひとしきり遊んで去ってゆく。
どの部にも入部する気はないらしい。
唯一の例外が散歩部で、よく仲月さらと学園内を歩いている。
冬樹イヴとは双子のようだが・・・仲悪い?

瑠璃川 秋穂(るりかわ あきほ)13歳
校内の名物【瑠璃川姉妹】の妹の方。
姉から受ける犯罪まがいのスキンシップに辟易しながらも、
愛情は感じ取っている様子。
このままではいけないと独り立ちの決意を固めているが、
あまりに溺愛されて育ったため、独りになると寂しくて泣き出してしまうようだ。

瑠璃川 春乃(るりかわ はるの)17歳
校内の名物【瑠璃川姉妹】の姉の方。
一見クールビューティであるが、それを台無しにするほど重度のシスコン。
妹以外には一切興味を示さないあたり筋金入りだ。
魔物討伐にも意欲的ではないが、
妹に危険が及びそうなときは情け容赦なく敵を粉砕する。

朝比奈 龍季(あさひな たつき)17歳
授業をサボってケンカに明け暮れる学園一の不良。
寄るもの全て傷つける乱暴者の雰囲気が強いが、
よく見ると犬の毛があちこちについている。
仲月さらの飼い犬シローを撫でている所も結構目撃されており、
彼女にも心を許すものはあるようだ。


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第9話 襲撃の理由

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



2度目のクエストが終わってから約2週間が経過した。

あの後、夏海には日が変わる前後あたりまでインタビューされた。

無論、翌日は寝不足。

授業中に寝てしまった。

まぁ、普段から苦手な教科はよく寝ているのだが。

あれからよく訓練所によく魔法の練習に行くようになった。

ある程度の魔法は使えるようになったのだが、まだ問題点があった。

それは封印されている能力のことだ。

3段階のうち、まだ第1段階の能力しか試してないのだが、

未だに使いこなせないでいた。

まだ火力の調整もできず、魔法も何回か暴発もしかけた。

どうすれば使いこなすことができるのか、毎日苦悩の日々が続いていた。

そして、この日も訓練所に行き、訓練をしていたが、程々にして切り上げた。

 

「早く使いこなせるようになりたいなぁ・・・」

 

一人でぼやきながら廊下を歩いていると、智花に会った。

 

「あ、良介さん。

訓練所の帰りですか?」

 

「ああ、そうだよ。

智花は?」

 

「わたしはなんとなく廊下を歩いてただけです。」

 

そうして話していると、自然と前回のクエストの話になった。

 

「・・・街であんなに魔物が暴れまわるなんて、ほとんどないことなんです。

魔物は発生直後はとても弱く、街には人の目がたくさんあります。

なので、魔物は街などの人がいるところでは成長しにくいんですね。

歴史上では何度かあったことなので、運が悪かったんですね・・・」

 

「なるほどねぇ・・・

(そういや、夏海が下水道で育った可能性があるとか言ってたな。)」

 

話をしていると、デバイスが鳴った。

 

「あ、クエストが発生しましたね。

魔物が発生すること自体は珍しくないんです。

たいていは山や森の中、洞窟や特級危険区域と呼ばれる場所なんですが・・・」

 

すると突然、怜がこっちにやって来た。

 

「あ、怜ちゃん、こんにち・・・」

 

「智花、すまない。

急いでいるんだ。」

 

怜は走り去ってしまった。

 

「どうしたんだ、あいつ・・・」

 

「・・・?

怜ちゃんがあんなに慌てるなんて・・・!」

 

すると、智花がデバイスを見て何かに気づいた。

 

「く、クエストの現場、神凪神社です!

怜ちゃんの実家なんですよ!」

 

「・・・何!」

 

「ま、待って、怜ちゃん!

わたしも・・・!」

 

「俺も行く!

早速クエストを受けねぇと・・・」

 

二人は怜の後を追いかけた。

 

   ***

 

すぐ近くの廊下に風子と紗妃がいた。

 

「・・・神凪はクエストですか。

まぁ、家が襲撃されているなら仕方ありませんねぇ。」

 

「委員長、なぜ隠れていたのですか?」

 

「神凪に会っちゃったら、風紀委員のよしみでついていかなきゃいけねーでしょ。」

 

「・・・・・・?」

 

紗妃が不思議そうな顔をする。

 

「いや、ウチとしても手伝ってやりたいのはやまやまですがね・・・

これから調べなきゃいけねーことがあるんで。」

 

「調べる、とは?」

 

「街から離れているとはいえ、神凪神社は人が大勢訪れます。

通常ありえない場所でクエストが発生しました。

2連続ですよ。

その原因が【わかっているのかどうか】を、とりあえず宍戸 結希に尋ねます。」

 

「はぁ。

しかしクエストは風紀委員の管轄ではないのでは・・・」

 

「いーですか。

ウチは【ありえない場所に魔物が発生した】と言いました。

学園内で魔物が出た場合、まず対処するのはウチらなんです。」

 

「・・・あ・・・」

 

紗妃が何かに気づいた。

 

「今までなら【そんなのありえない】ですがね。

備えましょーよ。」

 

風子と紗妃は結希の元に向かった。

 

   ***

 

良介はクエストを受け、噴水前に来ていた。

怜に一緒に行くと伝え、準備を終えた後、ここで会うことになっていた。

 

「えーと、たしか怜はここらへんにいるって聞いたが・・・お。」

 

良介は怜を見つける。

 

「・・・来たか、良介。

今日はよろしく頼む。

私たちに課されたクエストは、神社を襲っている人面樹の討伐だ。」

 

「その神社って怜の実家・・・なんだよな?」

 

「・・・そうだ。

私の家、神凪神社だよ。

だから志願した。

家を救えずしてだれそれを守るなどとは言えないからな。」

 

「家を救えず・・・・か・・・」

 

その言葉に良介は【あの日】のことを思い出す。

 

「(・・・俺は、絶対にあんな経験を、他のやつにはさせない。

俺が覚醒した以上、絶対に・・・!)」

 

良介は拳を握り締め、決意を新たにする。

 

「前衛はは任せてくれ。

お前には後方支援を頼む。

だから魔力の供給は頼んだぞ。

私は常に全力で戦うつもりだ。

お前の魔力量については智花から聞いている。

信頼しているよ。」

 

「・・・ああ、わかった。

後方は任せてくれ。」

 

「さ、出発しよう。

魔物が街に下りる前に。」

 

二人は神社に向かった。

怜は参道に入らず、わざと森の中に入った。

 

「ここから森に入ろう。

おそらく敵は参道を警戒している。

やつらの大半は知能を持たないが、討伐対象に選ばれるほどなら、

なにがあっても不思議はない、というのが我々の常識だ。」

 

「なるほど、注意していかないとな。」

 

「もちろん、敵は一体ではないから、気を抜くな。

構えろ。

すでに戦いは始まっているぞ。」

 

「了解。」

 

良介は変身し、剣を抜き、構えた。

 

   ***

 

その頃、報道部部室で鳴子が窓際に立っていると、夏海が駆け込んできた。

 

「部長!

あたし、行ってきます!」

 

「ああ、行っておいで。

友達のためだ。

取材抜きで助けてあげるといい。」

 

「写真はもちろん撮ります!

怜がバッサリやってるところ!」

 

「・・・フフ、そのほうが君らしいかもね。

だけど君もこの前の疲れがまだ取れてないだろう。

気をつけてくれよ。」

 

「はい!」

 

「ついでだ。

戦力になりそうな生徒は誘っていくといい。」

 

鳴子がそう伝えると夏海は部室から出て行った。

その後、鳴子も廊下に出た。

 

「街の次は神社・・・ふむ。」

 

すると、廊下に結希がいた。

 

「・・・・・・」

 

「おや、宍戸君。

君が研究室から出るなんて珍しいね。」

 

「あなたも、ミスティックが出たのに残ってるなんて珍しいわね。」

 

「世代交代ってやつさ。

報道部は夏海に任せようと思っているよ。」

 

「・・・生徒会も風紀委員も、今回の件で私を呼び出したわ。

人里に連続で、しかも短期間でミスティックが出現した。

・・・あなたも興味があると思ったのだけど、まったく驚いていないみたいね。」

 

「まさか、僕も同じさ。

なにが起こったのか知りたい。

なにが起こるのかも。。」

 

「根拠はないけれど・・・あなたは全て知っていそうだわ。」

 

「なぜだい?」

 

「・・・いいわ。

私もあなたに情報をあげるつもりはないから。」

 

「それは知っていたよ。

だから聞こうとは思わない。

自分で調べるさ。」

 

鳴子は結希の前から去っていった。

 

「・・・・・・あなたが【なぜ】知っているか・・・いずれ聞かせてもらうわ。」

 

結希は生徒会室に向かった。

 

   ***

 

「悪いな、呼び寄せて。」

 

生徒会室には虎千代と薫子がいた。

 

「いいえ。

まず前提を確認するわ。

街に発生した魔物は通常、弱いうちに駆除される。」

 

「それが今回は、2回続けてそれを逃れた魔物がいた・・・

軍や執行部の怠慢でないとしたら、理由は何が考えられますか?」

 

薫子の質問に結希は黙って考え込む。

 

「・・・・・第7次侵攻。」

 

「・・・・・可能性はどのくらいだ?」

 

「今はまだわからないわ。

ただこれが【前触れ】だとしたら・・・

これから、魔物が発生する頻度が格段に高くなるでしょうね。

それにより強力なものになるはずだわ。」

 

「・・・薫子。

精鋭部隊に伝えろ。」

 

「わかりました。」

 

「侵攻だったら大事件だ。

念のため準備をするぞ。

すぐにできることは訓練メニューの強化と・・・他には何があるか・・・」

 

虎千代は考え始めた。

その頃、別の教室では・・・

 

「う~ん、補習なんてダルいのだ~。」

 

「そ、そんなこと言わないで。

ほら、手伝うから早く終わらせちゃおう?

リナちゃん、転校してきたばかりだから、みんなに追いつかないと・・・」

 

「泳ぎたい泳ぎたい泳ぎたいさ~っ!」

 

「だ、だから早く終わらせよう、ね?」

 

里奈が萌木と一緒に勉強していた。

 

「うぅ~っ・・・大規模侵攻の歴史なんて常識なのだ、いまさら勉強しても・・・」

 

「で、でも魔法使いなんだから、詳しく知っておいた方がいいと思うよ・・・

それにテレビでも、ちょうど騒がれだしてるし。」

 

侵攻について勉強していた。

 

「大規模侵攻って、ようするに魔物がいっぱい出てくることなんだろ?」

 

「そうだね。

正確には、一定期間の総出現数が通常の30倍になったらだよ。

魔物が初めて現れたのが300年前。

それから今まで、6回もあったの。」

 

「6回目はリナもテレビで見たさ。

北海道が占領されちゃったのだ。」

 

「そうだね・・・それで今回、人がいるところに続けて出現して、

北海道のときと似ているから、もしかしたら第7次侵攻かもって・・・」

 

「・・・そうなったら、リナ達は戦いに行くのか?

授業じゃなくて、本番。」

 

「大規模侵攻は世界中で発生するから、連合軍も数が間に合わないと思う・・・」

 

「む~っ・・・どうすれば防げるんだ?」

 

リナは頭を抱えて悩んでしまった。



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第10話 違和感

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


良介と怜は雑魚の魔物を倒しながら森の中を進んでいた。

 

「・・・随分と倒したが、魔力は大丈夫か?」

 

「ああ、全く問題ないが・・・どうかしたのか?」

 

「信頼しているとは言ったが、私も初めてのことだからな。

その様子なら心配はいらなそうだな。

それとは別に、疲れているなら・・・」

 

良介はため息をつく。

 

「・・・全く問題ないって言ったろ?

そっちこそ何かあったら言えよ?」

 

「・・・すまない。

ありがとう。

では少し待て。

ここからはさらに警戒が必要だ。」

 

「・・・というと?」

 

「人面樹は比較的よく現れる魔物でな。

ある程度特徴が明らかになっている。

あそこに見えるだろ?

あれが人面樹だ。」

 

怜が指さした方向を良介は目を向ける。

明らかに少し怪しい木がある。

 

「確かに雰囲気が変な木があるな。

もしかだが、あれが本体か?」

 

「本体ではなく、分身だ。」

 

「・・・分身?

偽物ってことか?」

 

「人面樹は、自らの力を他の木々に分け与えることで、分身を生み出せるんだ。

スライムなどと違い自身の力をかなり使うから、その数に限りはあるが。」

 

「なるほど。

スライムほど面倒な相手じゃなけりゃ、まだ楽かな。」

 

「だから駆逐は丁寧にやらないといけないんだ。

まずあいつからだな。」

 

怜が人面樹に向かっていく。

向こうもこっちに気づいたようで、枝をツルのように伸ばし攻撃してくる。

怜はその攻撃を剣で捌いて、接近する。

 

「なるほど、剣で攻撃を捌いて、か。

けど、ちょっと攻撃の数が多いな。」

 

良介は風属性の魔法を撃つ準備をする。

 

「(ここは森の中だ。

火属性なんか使って下手に引火、なんて洒落にならないからな。)

 

風を無数の刃の形にし、敵目掛けて撃つ。

人面樹のツルが次々と切られていく。

その隙を怜は見逃さない。

 

「そこだ!

せいっ!」

 

人面樹を一発で袈裟斬りにする。

 

「・・・すまない、助かった。」

 

「別に礼を言われるほどじゃないさ。

この調子で行こう。」

 

「・・・ああ。」

 

二人はさらに奥に進んだ。

 

  ***

 

その頃、生徒会室では生徒会が準備を進めていた。

 

「いちおう、カリキュラムを警戒用に変えておこう。」

 

「短期間での学園全体の戦力上昇をはかりましょう。」

 

「万が一のための金もいる。

聖奈。」

 

「はい。

執行部へ支給金増額の通知をしておきます。」

 

すると、結希が話しかけてきた。

 

「・・・学園執行部は特にアクションしないと思うわ。

国軍の装備も更新されているから、学園の出番はないという見解よ。」

 

「それが本当ならケチにも程があるぞ。

・・・通知はしておく。

その上で、こちらはこちらで金を集めよう。

クエストの受け入れ数を増やす。」

 

「魔物討伐数が増えれば、政府からの報奨金も増えますね。」

 

「・・・私もできるだけ協力するわ。

といっても、些細なことだけど。」

 

「じゅうぶんだ。

北海道のようなことが2度とないようにする。」

 

「・・・まだ第7次侵攻だとは決まってないわ。

詳しくわかったら連絡するわね。」

 

結希は生徒会室を後にした。

場所は変わって山奥。

良介と怜はさらに奥に進んでいた。

 

「念のためまた確認するが、魔力は枯渇していないな?」

 

「ああ、大丈夫だ。

いくらでも渡せるぞ。」

 

「・・・なるほど。

頼もしさの理由がわかる。

私ももう気にしないことにしよう。

危なくなったら言ってくれ。」

 

そう話していると、怪しい木が目に入る。

 

「お、あれも人面樹か。」

 

「・・・ふむ、二体目だな。

少し奇妙だ。」

 

「・・・どうした?

奇妙ってどういうことだ?」

 

「いや、この間隔で配置されているなら、本体はすぐ近くのはずだが・・・

まだ神社までは距離がある。

離れたところに分身を作るには力が必要だ。

人面樹が誕生したと推測されるのが二日前。

そこまでの力はまだないはずだ。」

 

確かに怜の言うとおりである。

力をつけたにしてもあまりにも急速すぎる。

 

「・・・二日でそれだけも力を?」

 

「・・・とにかく、斬ろう。

時間は無駄にできない。」

 

怜は先ほどと同じように敵に向かっていく。

良介も先ほどと同じように魔法の準備をする。

風の魔法でツルを切っていく。

怜が魔力を込めて相手に斬りかかる。

だが、怜の剣は途中で止まってしまった。

 

「くっ、意外と硬いっ・・・!」

 

剣を抜こうにも抜けない状態になってしまった。

魔物もまだ息絶えておらず、怜を突き飛ばす。

 

「うっ・・!!」

 

怪我はないようだが、怜はバランスを崩してしまった。

 

「・・・やばい!

(少し距離が離れている・・・ならっ!)」

 

良介は肉体強化の魔法を使う。

なんとそれに風属性の魔法をかけた。

 

「(風属性の肉体強化・・・これならっ!)」

 

良介は風のような速度で敵に接近する。

 

「もらった!!」

 

良介はさらに剣に風属性をかけて怜が斬ったところに斬りかかった。

人面樹は袈裟斬りにされ、消えた。

木に刺さっていた怜の剣が地面に落ちる。

良介はそれを拾い、怜に手を差し伸べる。

 

「大丈夫か?

なんともないように見えるが・・・」

 

「ああ、大丈夫だ。

突き飛ばされただけだからな。」

 

良介の手を借りて怜は立ち上がり、剣を受け取る。

 

「すまない、助かった。」

 

「別に気にしなくていい。

当然のことをしたまでだからな。」

 

「・・・ふふ、そうか。」

 

「・・・なんだ?」

 

「なんでもない。

先を急ごうか。」

 

二人は奥に進んだ。

 

   ***

 

「・・・ふうっ。」

 

神社の前まで来たところで怜は息を吐く。

 

「どうした?

疲れたのなら休憩しようか?」

 

「大丈夫だ。

休憩が必要なほど疲れてはいない。

どちらかというと恐れているんだ。

家族の避難は万全だという連絡だが・・・

それが間違いで、もしかしたら命を落としている者がいるかもしれない、と・・・

人面樹がすでに太刀打ちできないほど成長しているのではないかとな。」

 

「・・・心配性だな。」

 

「クエストではいつもこんな心境だ。

まだまだ精進が足りない証拠だよ。

・・・とはいえ、私は襲われているかもしれない家族を助けに来たんだ。

ここまで来て立ち止まっている理屈はないな。

すまないがあと一息だ。

サポートを頼む。」

 

「ああ、任せろ。」

 

「終わったら茶でも飲むか。

今回の礼にねぎらってやろう。」

 

「いや、そこまでしなくていい。

礼をうけるほどでもない。」

 

「お前には随分と助けられたからな。

当然のことだ。」

 

「・・・それを言うのは敵を倒してからの方がいいんじゃないか?」

 

「・・・ふふ、そうだな。

まだ早いか。

おかげで落ち着けた。

ありがとう。」

 

「・・・どういたしまして。」

 

「では行こうか。

すぐそこだ。」

 

二人は神社に入った。

入ってすぐそこにまた怪しげな木が生えていた。

 

「怜、あれがもしかして・・・。」

 

「ああ、本体だ。

あれを倒せば終わりだ。

・・・頼むぞ。」

 

「わかった。

任せてくれ。」

 

正面から敵の攻撃を捌きながら接近する怜。

魔法の遠距離攻撃で敵の攻撃を潰す良介。

すぐに敵に隙が生じる。

 

「今だっ!」

 

斬りにかかる怜。

またも先ほどと同じように剣が途中で止まる。

しかし、今度は抜こうとはせずそのまま切り裂こうとする。

 

「このまま・・・一気に・・・っ!」

 

すると、魔物もそれを許す訳もなく、攻撃しようとする。

と、その瞬間、敵の攻撃がされる前に全て潰された。

良介が風属性の肉体強化をかけ、一瞬で全て剣で斬ったからだった。

 

「怜っ!

やれ!」

 

「せぇいっ!!」

 

怜はそのまま一気に魔物を斬り裂く。

魔物は霧に戻って消えた。

 

   ***

 

魔物を全て倒した後、敵が残っていないか確認する。

 

「・・・うむ。

どうやら分身はこれ以上いないようだ。

分身と本体の距離が離れていたのが気になったが・・・杞憂だったようだな。」

 

「じゃ、これで終わりか。」

 

「いちおう、報告はしておこう。

もしかしたら見落としなどがあるかもしれん。」

 

「そうだな。

そのほうがいいな。」

 

「よし。

ではこのクエストは終了だ。

学園に戻るぞ。」

 

そのまま二人は学園に戻った。

 

「今日は助かった。

礼を言う。

お前のおかげで神社はこれからも続けられる。

私も家族や働いている人たちを守ることができた。

万々歳だ。」

 

「ああ、みんな無事で何よりだ。」

 

「いつもこのようにありたいものだ。

いずれまた、チームを組むことがあるだろう。

その時はよろしく頼む。」

 

「その時は、また任せてくれ。」

 

「重ねて礼を言う。

ありがとう。

さ、報告に行こう。」

 

少し時間は戻って、神社近くの山。

二人の生徒がいた。

 

「神凪ーっ!

どこじゃーっ!

・・・いかん。

もう相当先にすすんでいるようじゃ・・・さすがに遅れたか。」

 

「・・・あっちで戦闘音が聞こえるッスよ。

ふくぶちょー。」

 

「あっち・・・境内か。

よし、行こう。」

 

和服を着た生徒、南条 恋(なんじょう れん)と忍者の梓がいた。

 

「うす・・・でも、ぶちょーに黙ってきちゃってよかったのかな。

後でキゲン悪くするっすよ、ぶちょー。」

 

「神凪の神社は絵を書くためによく行っておった。

世話になっとったから、わっちは神凪を助けねばならん。

じゃがミナにそのような義理はないじゃろ・・・わっちのワガママじゃからの。」

 

「(うーん、勘違いしてるなぁ・・・意外とふくぶちょーも鈍いんスねぇ

ふくぶちょーに声をかけてもらえないからキゲンが悪くなるのに

それに、足手まといってほど弱くはないんだけどなぁ、ぶちょー。)」

 

「お主には迷惑をかけるのう。

わっちは、でばいすがうまく使えんから・・・

1人じゃと追いかけられんのじゃわ。」

 

「いえいえ、まかせてくださいッス。

そんじゃ、魔物に気をつけて進むッスよ!」

 

二人はそうして進んでいったが、着いた時点で良介と怜が魔物を倒した後だった。

 

   ***

 

良介と怜は報告のため生徒会室に来た。

中には虎千代と薫子がいた。

 

「神凪、ご苦労だった。

報告が終わったら家族に会いに行くといい。」

 

「ありがとうございます。

ですが早退したら父に叱られるでしょうから。

全員の無事は確認したので、授業に戻ります。」

 

「・・・クエストの後は授業免除のはずだぞ。

あいかわらずだな、お前は。」

 

「神凪 怜。

今は報告をお願いします。」

 

「・・・では。

良介やクラスメートの助力もあり、魔物討伐はつつがなく終わりました。

軽傷者はいますが、回復魔法が必要な生徒はゼロです。

先ほど申し上げた通り、民間人の被害もありません。」

 

「不審な点はありませんでしたか。」

 

薫子の質問に怜は疑問を抱く。

 

「特に。

なにか気になることが?」

 

「街、神社と続いて現れたことは注目に値するべきできごとです。」

 

「・・・いえ、ありました。

情報では、人面樹は2日前に生まれた魔物です。

それにしては強かった、と感じました。」

 

「具体性を欠く内容ですね。」

 

「申し訳ありません。」

 

「(厳しいな・・・)」

 

「いい、わかった。

違和感がその程度ならよかった。

報告は以上で大丈夫だ。

戻って休め。」

 

二人は廊下に出た。

 

「ふむ。

戦っている間は気にもとめなかったが・・・確かに魔物は強かったな。

良介、お前はどう思う?」

 

「どう思う・・・って言われてもなぁ・・・」

 

顎に手をやって考え込む良介。

 

「といっても、お前はまだ魔物と戦い始めて日が浅かったな。

今日は疲れただろう。

ゆっくりしておけ・・・なにせ、魔力を随分使った。

またパーティを組むときは、よろしく頼む。」

 

「魔力は全然大丈夫なんだが・・・まぁ、そうしておくよ。

組むときは任せてくれ。」

 

良介は怜と別れた。




人物紹介

南条 恋(なんじょう れん)13歳
自他共に認める【あーちすと】であり、よく絵を描いている。
年齢に不釣り合いなババクサい考え方と喋り方のせいでサバ読み疑惑が根強い。
絵の腕は確かでコンクール入選も珍しくないが、
なぜかどこかに必ず梅干しが描かれている。


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第11話 課題

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


クエストを終えた良介はグラウンドの近くを歩いていた。

 

「さて、授業免除になっているし、魔法の練習のために訓練所にでも行くか。」

 

そう言って、訓練所に向かおうとした。

すると、突然後ろから誰か声をかけてきた。

 

「アンタ!

ねぇ、アンタよ!」

 

「ん?

誰だお前?」

 

「このあいだ会ったでしょう!?

精鋭部隊の守谷 月詠よ!」

 

「・・・・・ああ、あの時のか。

で、俺に何の用だ?」

 

「・・・・・じーっ。

フン。

やっぱりてんで弱そうじゃない。

エレンのヤツ、ちょうどいい相手だってバカにして・・・!

ちょっとクエストを連続で達成したって調子に乗ってるみたいだけどね!」

 

「・・・いや、まったく乗ってないが。

逆にお前のほうが調子に乗ってんじゃないのか?」

 

「今に言っているがいいわ!

このツクの強さ、アンタに見せてやるんだから!」

 

相変わらず自信満々な月詠。

 

「ところで、なんで俺とお前が戦うような話になっているんだ?」

 

「知らないわよそんなの!

エレンがやれっていったの!

コロシアムに来なさい!

相手してあげるわ!」

 

「・・・まあいいか。

魔法の練習をしようと思ってたし、ちょうどいいや。」

 

良介は月詠とコロシアムに向かった。

 

   ***

 

コロシアムに着き、二人は早速戦ったが、結果は一瞬だった。

開幕と同時に良介が風属性の肉体強化で一瞬で距離を詰め、

月詠の首元に剣を突きつけた。

 

「うっ・・・!!」

 

「はい、終わり。

まだやるってんなら相手になるが?」

 

月詠に背を向けて、剣を鞘に戻す。

すると、様子を見に来たのかエレンがやって来た。

 

「・・・結果はどうだ。」

 

「・・・うぅ・・・ふ、フンだ!

まだまだ全然よ!」

 

「見ていたぞ。」

 

「う・・・た、たまたまよ、たまたま!」

 

エレンはそう言う月詠を無視して、良介の方を見る。

 

「良介、お前の力を見た。

確かにお前の能力は本物のようだ。

だが、お前はまだ能力を【完全に】扱いきれていない。

七属性の魔法に魔力の譲渡、他の特殊魔法はまだ価値はあるが・・・」

 

「そ、そうよ!

それがわかってたらツクだって・・・!」

 

「黙っていろ。

負けたという結果は覆らない。」

 

「ぐっ・・・うぅ~っ!」

 

エレンの言葉に悔しがる月詠。

 

「現在、学園全体の戦力を強化するように通達が来ている。

転校してきたばかりのお前の力を一度見ておきたかった。

クエストをよく受けているようだな。

初めて会った時の態度を詫びよう。」

 

「いや、気にしてないから別にいいよ。」

 

「フッ、そうか。

だがまだまだだ。

精鋭部隊に入れとは言わんが、訓練は欠かすな。

もしかしたら、お前の力で我々は楽に戦えるようになるかもしれん。

心にとどめておけ。」

 

「・・・フン!

次に戦うときは、ぎったんぎったんにしてやるんだからね!」

 

月詠がそう言うと、エレンは何か思いついたようだ。

 

「ならば来い。

イチから鍛え直してやる。」

 

「げっ・・・ちょ、ちょっと休んでからでも・・・」

 

「言い訳は聞かん。

来い。」

 

「ひぃ・・・・・」

 

そう言われて、月詠はエレンに連れ行かれた。

 

「・・・帰るか。」

 

突然どっと疲れがきたように感じたので良介は寮に帰ることにした。

 

   ***

 

クエストから数日が経った。

この日も良介は魔法の訓練をするため訓練所に向かった。

だが、訓練所には精鋭部隊がいた。

 

「む、精鋭部隊が使っている時間帯だったか。

また日を改めるか。」

 

良介が訓練所を出ようとしたところで、エレンと月詠に出くわした。

 

「また会ったわね、良介!

今日はツクがアンタに勝つ番なんだから!」

 

「またか・・・・何度やっても結果は変わらないと思うがな。」

 

月詠に良介が呆れていると、エレンが話しかけてきた。

 

「・・・さて、今、カリキュラムが変更され、学園生に課題が配られている。

お前たちには【対抗戦で3勝】という課題になっているはずだ。」

 

「そうね・・・もしかしてエレンがさせたの?」

 

「お前たちは、自分で戦うより指揮をとった方がいい。

特に良介、お前は能力上な。

肉体的な課題よりも、こちらの方が合っているだろう。」

 

「・・・ツクはともかく、良介は自分で戦えるじゃない。

しかも、一人で十分に。」

 

「まあ、確かに。

俺一人でも十分な気がするが・・・」

 

「その状態から脱する必要がある。

良介、相手に勝つために考えなければならないことがこれから増えてゆく。

パーティメンバーの単純な強さだけでなく、個々人の特性、例えば、

狭い範囲に大打撃を与えることを得意とするものや、

広範囲を万遍なく攻撃することを得意とするものがいる。

それぞれの力を加味し、効率的なパーティを作り上げろ。

仲間のスキル・・・それを見逃すな。」

 

「仲間のスキル・・・か。

よし・・・!」

 

良介は課題に取り掛かかることにした。

 

   ***

 

それから約3日間、良介は課題をクリアするために対抗戦に臨んだ。

自分からはできるだけサポートだけに徹し、仲間に的確な指示を出すようにした。

危機が迫れば、自身が前に出たりもしたが、できるだけ出ないようにした。

最初はうまくいかなかったが、仲間のスキル、

特性を理解できてからは的確な指示が出せるようになっていた。

そして課題の3勝を見事クリアした。

 

「・・・よろしい、2人とも課題はクリアだな。」

 

「当然でしょ!

ツクにかかればこんなもの・・・!」

 

「お前は格下ばかりと戦っているな。」

 

「うっ・・・いいでしょ!

勝ったんだから!」

 

「(俺は格上を相手に不慣れなことをしてきつかった・・・何とか全勝でいけたが、

何回危機に直面したことやら・・・)」

 

「間違いではない。

確実に勝てる相手を見極める目も必要だ。

対抗戦の結果だけでなく、魔物と戦う上でそれはとても重要だ。

だが、勝てそうもない相手にどうやって勝つか・・・

それを考えなければいけないときは必ず来る。

その時、仲間を活かすも殺すもお前次第だということを忘れるな。」

 

「・・・わかっているわよ。」

 

「ならば、一層の研さんに励め。」

 

「仲間を活かすか殺すか、か・・・俺の場合は必ず活かすやり方を見つけないとな。」

 

良介は訓練所を後にした。

 

   ***

 

訓練所から出た良介は噴水前にやって来た。

 

「はぁ~・・・課題、きつかったなぁ・・・」

 

大きく息を吐きながら伸びをする。

 

「でも、自分の能力が後方支援の方でも力が発揮できることがわかったし、

魔法も実戦でも大分扱えるようになってきたし、結果オーライかな。

でも、もっと強いパーティの組み方があってもいいんだが・・・

どうすればいいんだ・・・」

 

そう言って、悩みながら噴水前のベンチに座っていると、散歩部の生徒がやってきた。

 

「あ、良介さん、こんにちは!」

 

「こんにちは、お兄さん!」

 

「ああ、こんにちは。」

 

良介はさらたちと挨拶を交わす。

 

「この前はごめんね、お兄さんが噂の転校生だったんだね・・・むむ?

なんだか悩んでる顔をしてるね?」

 

「おなやみちゅうなんですかぁ?」

 

「ああ、ちょっとね・・・」

 

「よし!

ここはみんなのサポーター、ノエルちゃんが解決しちゃうよ!」

 

「・・・そうだな。

他人の意見を聞くのもありか。

実は・・・」

 

良介は二人に強いパーティの組み方について聞いてみた。

 

「・・・ふむふむ、強いパーティの組み方、ねぇ・・・」

 

「ああ、何かいい組み方はないか?」

 

「あたし、いろんなところに助っ人に行くからわかるんだけど・・・やっぱり、

頼める人が多い、ってほうが有利だよね。

その個々人のコセイだっけ?

で、どうしても相性が悪かったりするじゃん。

そういう時、魔物とか対抗戦の相手によってメンバーを入れ替える・・・

そういうのできたら最高だよね!

まぁだいたい、人的資源って足りないけど・・・

だから長い目でみると、頼みごとができる人を増やす、がおススメかな!」

 

「なるほど、もっと知り合いを増やすか・・・」

 

気づいてみると、

良介の知り合いと呼べる相手はまだ数える程度しかいないことに気づいた。

 

「うぅ~。

なんだかお話がむつかしいのですぅ・・・」

 

話の内容を聞いて、さらは難しい顔をする。

 

「お兄さん、もういろんな人と出会ってきたでしょう。

たくさんの学園生の中には、強い人も、すごい人もいるんだよ。」

 

「あいらさんもとてもすごいんですぅ!」

 

「・・・あいら?

誰のことなんだ?」

 

「そうそう・・・凄いんだよねぇ。

見かけによらず・・・お兄さん、会ってない?

みょ~にコビコビでロリっぽい銀髪の子。」

 

「いや、会ってないな。

どういう子なんだ?」

 

「あの子、ホントは吸血鬼なんだって。

何百年も生きてるんだって!」

 

「・・・嘘っぽいな。

ホントか?」

 

「きゅうけつきは血をすうんですよぉ!

とっても怖いんですぅ!」

 

「・・・ま、誰も信じてないけど・・・でも魔法は超強いんだよね。

そういった、なんか知らないけど意外な強さ!

とかあるからさ!

いろんな人と仲良くなるのは、大事だと思うな。」

 

「そうか、わかった。

ありがとう、いい参考になったよ。」

 

「いえいえ、どういたしまして。

それじゃ、あたしたちは行くね。」

 

さらたちは噴水前を後にした。

 

「なるほど、知り合いを増やす・・・か。

まぁ、一人でできることなんて限りがあるからな。

しかし、あいら・・・か。

銀髪の子と聞いたが・・・魔法が強いなら一度会ってみたいもんだ。」

 

良介はベンチから立ち上がり、寮に向かった。



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第12話 再び狙われた街

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


課題を終えてから1週間、良介は再び魔法の訓練をしていた。

 

「パーティのこと考える前に、自分が強くなきゃ話にならねぇからな。」

 

今日も朝から訓練所で訓練をした良介は、何か買うために購買部に来ていた。

 

「いらっしゃいませ、先輩!

あたしのこと、覚えてくれてます?

一度報道部室で会った桃世 ももです!」

 

「ああ、ちゃんと覚えてるよ。」

 

購買に着くと、ももが元気よく挨拶してくれた。

 

「先輩のお噂、聞いてますよ。

転校早々、クエスト3回もこなしたって。

最初はみんな、魔物と戦うのを怖がるんですよね・・・大けがの危険があるので。

だから先輩、とっても勇気があると思うんです!」

 

「・・・そうかなぁ?

別に俺はそうは思わないけど・・・てか、先輩って・・・」

 

「・・・あ、【先輩】って、この学園ではよくある呼び方なんですよ。

転校してくる年齢がみんなバラバラなんで、先輩後輩の区別が難しいんです。

だから年上だってわかってる人のことを先輩って呼ぶんですよね。」

 

「へ~、そうなのか。」

 

「だから先輩も、先輩なんです。

・・・あ、すみません、なにかお探しですか?」

 

良介がももと話しながら買うものを決めていると、もものデバイスが鳴った。

 

「あ、バイト先からですね。

すいません、ちょっと失礼します。」

 

「ああ、構わないよ。」

 

ももが少し離れたところで電話に出る。

 

「もしもし・・・えっ?

て、店長?

店長!?」

 

ももが突然、大声をあげる。

 

「ん?

もも、どうかしたのか?」

 

良介がももに声をかける。

 

「・・・・・嘘。

・・・魔物が・・・また、街に・・・」

 

「おい、どうした、もも!

何があった!」

 

良介が声をかけると、ももは今にも泣きそうな顔で良介の方を見る。

 

「せ、先輩、どうしましょう・・・あ、あたしのバイト先が・・・すいません!

あたし、行かないと!」

 

そう言うと、ももは購買部から飛び出した。

 

「あ、おい、もも!」

 

良介がももの後を追おうとすると、ももが戻ってきた。

 

「・・・あの・・・こんなことお願いできる立場ではないんですけど・・・」

 

「なんだ?

言ってみろ。」

 

「も、もしよかったら、先輩のお力をお借りしたいんですが・・・!」

 

   ***

 

「もも、もも!

アンタのバイト先に魔物が・・・!

あれ?

いない・・・」

 

誰もいない購買部に月詠が走って入ってきた。

 

「・・・まさか、もうクエストに行っちゃったの?

そ、そんな!

ツクを誘ってくれたっていいじゃない!

独りで行かせたりしないんだからね!」

 

月詠は購買部から走って出て行った

その頃、ももと良介は準備をすませ、教室で落ち合うことになった。

 

「おはようございます!

行きましょう!」

 

良介はももと噴水前まで移動した。

 

「しかし、もも、準備終えるの、えらく早かったな。

俺もできるだけ急いだのに。」

 

「・・・え?

あっ!

す、すいません!

いてもたってもいられなくて・・・先日に引き続き、また街中ですから!

こんな短期間で出るのは初めてのことですが・・・それよりも!

あたしのバイト先の近くなんですよう!」

 

「・・・そいつはまずいな。」

 

「もし壊されたりしたらあたしの働くところがなくなっちゃいます!

店長さんやみんなが怪我しちゃってたらどうしよう。

ああ・・・や、やっぱり急いで行きましょう!

一刻も早く討伐しないと!」

 

「街に現れた時点で、急ぐことに変わりはない。

もものバイト先の人たちも含めて、みんなを助けないとな。

さぁ、急ごうか!」

 

「はい!」

 

良介とももは急いで街に向かった。

 

   ***

 

二人は街に着き、魔物の情報を見ながら、魔物をさがしていた。

 

「うう・・・ネズミかぁ。

あたし苦手なんですよね、ネズミ。

あたしがっていうより、飲食で働いてる人はみんな苦手だと思います・・・」

 

「むしろ、ネズミが好きだっていう人は中々いないだろ。

普通に考えて。」

 

「でもすごく大きいから、急に死角から出てくるということはないので・・・

そういう意味での心配はありませんね・・・心臓に悪いんですよ。」

 

「巨体のネズミが死角なんか現れたりしたら気味が悪すぎるだろ。

そういや、ももって飲食って言ってたけど、飲食店で働いてるのか?」

 

「あ、はい。

勤務先はファミレスです。

ちょっと大通りから外れたところの。

チェーン店なので知ってると思いますよ。

意外とオイシイあのお店、です。」

 

「ああ、あのファミレスか。

何度か行ったことがあるな。」

 

そう話していると、ももがまた暗い顔になる。

 

「店長さんたち、どうでしょうか。

避難できたでしょうか。

ネズミって動きが速いんで、今回は犠牲者も出てると聞きました。」

 

そういえば、今回も誠もこのクエストに来ているらしく、デバイスで動き速くて、

狙いづらいと、愚痴を言っていた。

 

「確かに、動きが速いのは面倒・・・ん?

もも!」

 

「大丈夫かな・・・ひゃっ?」

 

良介が何かに気づき、咄嗟にももの手を引っ張る。

 

「あ、な、なんでいきなり手を・・・ああっ!

お、大ネズミですね!」

 

「大丈夫か?

やれるか?」

 

「すいません、気づきませんでした。

行きます!」

 

ももが魔法で大ネズミに攻撃する。

すると、大ネズミはその巨体でできるとは思えないような動きで攻撃を回避する。

 

「え!?

は、速い!?」

 

大ネズミが近づこうとした瞬間、大ネズミの前に突然、良介が現れる。

風の肉体強化をかけ、一気に接近したのだ。

剣に火の魔法をかけ、斬りかかる。

 

「でやあああぁぁぁ!!」

 

大ネズミは一刀両断にされ、消えた。

 

「先輩、あ、ありがとうございます!」

 

「別に構わない。

しかし、思っていた以上に結構素早いな。

誠のやつも苦戦するわけだ。」

 

良介はため息をついた。

 

「えっと・・・先輩、早く・・・」

 

「え、ああ、すまない。

早くもものバイト先に行かないとな。

みんなが無事か確認しないといけないしな。」

 

「はい、早くいきましょう!」

 

二人は、先を急いだ。

 

   ***

 

二人は話をしながら進んでいた。

 

「そういや、学園に通ってから金に困ったことってないよな?

なのに、なんでももはバイトをしてるんだ?」

 

良介は学園に通ってから気づいたことをももに話す。

 

「確かに、学園に通っている限り、お金には困りません。

授業料も寮費も免除。

クエストをこなせば報酬も出ますからね。

バイトが禁止されているわけではないんですけど、する人は少ないです。

あたしがアルバイトをするのはお金のためじゃないんです。」

 

「お金のためじゃない?」

 

「理解できないって、よく言われますけどね。

でも誰にだって、他人にわからない好みやこだわりってあるじゃないですか。

あたしの場合はそれがバイトってだけだと思ってるんです。

言いかたは変ですけど、あたしの欲を満たすためにバイトをしてるんですよね。

お金ではなく、いろんな人と接して笑顔が見たいっていう理由は変でしょうか?」

 

「笑顔が見たいから・・・か。

いいことだと思うよ。

他の奴からしたら、変な理由に思えるかもしれないけどね。」

 

「あは、ですよね。

でも楽しいからいいんです!

そんなあたしの生活を、邪魔なんてさせませんからね!

大ネズミ。

見えました!」

 

大ネズミが見えるとももは咄嗟に魔法で攻撃する。

大ネズミは攻撃を避けると接近してくる。

良介は再び風の肉体強化をかけ、大ネズミに一気に近づき、攻撃する。

 

「でぇぇぇいやっ!!」

 

だが、大ネズミはその良介の攻撃を避け、良介に突進する。

 

「ぐあっ!?

避けた・・・だと!?」

 

電信柱に当たり、膝をついたところで、大ネズミが良介に噛み付きにかかる。

良介は剣を楯にすると、大ネズミは剣にかじりつく。

そのまま良介に噛み付きに行こうとする大ネズミ。

力で押し返そうとする良介。

 

「ぐぅぅぅぅっ・・・!!」

 

良介が少し押し返し始めたところで、大ネズミの後ろから魔法が飛んできた。

魔法は全弾大ネズミに直撃し、大ネズミは消滅した。

魔法を撃ったのはももだった。

 

「先輩!

大丈夫ですか?」

 

ももが良介に駆け寄る。

 

「ああ、大丈夫だ。

助かったよ、もも。

あともうすぐで噛まれるところだった。」

 

「い、いえ。

そんな・・・」

 

良介に礼を言われ、照れるもも。

 

「さあ、もものバイト先に急ごうか。」

 

「はい!」

 

二人は先を急いだ。

 

   ***

 

「もう、バイト先のすぐ近くです。

ここの角を曲がったら見えます。」

 

良介とももは目的地のすぐ近くまで来ていた。

 

「大ネズミも確認されているのはあと一匹。

今までと同じ強さなら大丈夫です。

みんなちゃんと避難できているみたいだし。」

 

「そうか。

なら何も気にせず戦えるな。」

 

「ちょっと建物に被害は出ちゃってますけど、ものは直せますからね。

あたしはこの街の人たちが好きです。

だから、あたしの力が役に立つなら惜しまないです。

みんなの笑顔が見れれば、それで幸せですから。」

 

「そうか。

俺も同じ気持ちだよ。

ほら、魔力。」

 

「魔力をいただいてすいません。

でも、ありがとうございます。

絶対に・・・大ネズミを倒して見せます!」

 

二人は店に近づく。

 

「見えました!

うちのお店のすぐ近く。

まだなにも壊れてない・・・!

今のうちに倒しちゃいましょう!

よろしくお願いします!

行きます!」

 

ももが大ネズミに向かっていく。

良介は後方から魔法を撃ちながら、大ネズミに接近を試みる。

案の定、大ネズミは全ての魔法をかわす。

そのままももに噛み付きにかかった・・・が、その前に良介がももの前に立ち、

剣を楯にして大ネズミの攻撃を受け止める。

 

「うっらぁぁぁぁっ!!」

 

良介は大ネズミを蹴り飛ばす。

大ネズミはバランスを崩すと、ももはすかさず魔法を撃った。

魔法は大ネズミに直撃した。

 

「やりました!」

 

ももは勝利を確信した瞬間、大ネズミは消滅しかけた状態で良介に襲いかかった。

 

「なっ!?」

 

だが、大ネズミは良介の目前で消滅した。

ももがとどめの一撃を入れたからだった。

 

   ***

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

ももが良介の元に駆け寄る。

 

「ああ、大丈夫だ。

しかし、驚いたな。」

 

「ああ、よかった。

大ネズミが先輩に向かったから・・・とどめが間に合ったみたいでよかったです。

でも少しでも傷ついてたら、椎名さんに見てもらった方がいいですよ。

まだ魔物は生態は完全に明かされていません。

もしかしたら毒があるかも。」

 

「傷はないから大丈夫だよ。

それにしてもさっきの魔物の行動・・・」

 

「・・・おかしいですね。

魔物が目の前の敵より遠くを狙うなんてなかったのに・・・

知能があるのはわかってたんですが、そこまで賢くはなかったんです。

まさか、学習してるなんてことは・・・いえ、そんな。」

 

「魔物が学習・・・か。」

 

良介は眉間に皺をよせる。

 

「と、とにかく報告しましょう!

バイト先には傷一つついてませんし!

よかったです!

ありがとうございました!」

 

「・・・そうだな、そうするか。」

 

二人は報告するために学園に帰ることにした。

 

   ***

 

「街の魔物は、順調に殲滅できているようです。

街の魔物は、まだ郊外の魔物よりも弱いようですね。」

 

生徒会室で虎千代と薫子と聖奈が話をしていた。

 

「ふむ・・・まだ魔物出現の法則は健在か。」

 

「【魔物は郊外に出現する】。」

 

「【街に出現する魔物は弱い】。

どちらも、人里は【霧】が薄いという理由からきた法則ですね。」

 

「これが崩れたとき、つまり【街中に強大な魔物が現れる】とき・・・

第7次侵攻が起きる。」

 

虎千代は手に力を込める。

 

「引き続き警戒しておきます。」

 

「・・・聖奈、アタシが執行部に出向こう。」

 

「いたしかたがないかと。」

 

「また暴れてくるさ。

執行部の連中から金をもぎ取ってきてやる。

これからアタシたちは【第7次侵攻】が確実なものとして行動する。」

 

「かしこまりました。」

 

「承知しました。」

 

その頃、街中。

良介とももは学園に向かっていた。

 

「今日は、あたしのワガママに付き合ってもらってすいませんでした。

ちょっと疲れちゃいましたから、休んでいきましょうか。」

 

「休むのは別にいいけど、休憩できる場所、あるのか?」

 

「大丈夫です!

街が襲われた時は、

魔物と戦う人たちのために施設を休憩所として利用させてくれるところがあるんです。

ステッカーが貼られている、そこのカフェもその1つなんですよ。」

 

「へ~、そうなのか。」

 

二人はカフェの中に入る。

 

「あ、変身も解いちゃいましょうか。」

 

二人は変身を解き、座席に座る。

 

「・・・あの・・・先輩ってすごいですね。

クエスト出る前も思ってましたけど、ホントにすごいなって・・・

あたし、結構クエストに出るんです。

街が襲われないように。

だから魔物との戦いは慣れてるんですけど・・・やっぱり、ちょっと怖いんです。

でも先輩が後ろから指示してくれたり、魔力を回復してくれたり、

攻撃の隙を作ってくれたり・・・すごく安心できるんです。

先輩、魔力供給と魔法だけじゃなくて、みんなを元気させる力があるんです!」

 

「元気・・・ねぇ。」

 

「あ・・・少なくとも、私を元気にする力が!

だから・・・その、だから・・・なな、なんでもないです!」

 

「・・・そうか。」

 

話をしていると、外から声が聞こえてきた。

 

「ももーっ! ももーっ!

どこにいるのよーっ!」

 

「ん?

あの声・・・」

 

「あ、つ、ツクちゃん・・・来てくれたんだ!

さ、さぁ!

そろそろ戻りましょうか!」

 

「・・・ああ、そうだな。」

 

二人は席を立ち、外に出た。



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第13話 調査

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



クエストを終えた良介とももは月詠と合流したあと、学園に戻った。

報告を終えたあと、月詠とももと別れた良介は噴水前に来ていた。

 

「さて、魔法の訓練は朝にやったし、今日はどうするかな。」

 

デバイスで誠に連絡をとったところ、誠は今日は寮で休むと言っていた。

良介はベンチに腰掛け、考えていると一人の女生徒が話しかけてきた。

 

「あっ!

ダーリン!

あ、とと・・・こんにちはやよ、良介はん。」

 

「え、ああ、こんにちは・・・」

 

良介はいきなりダーリンと呼ばれたことに困惑していた。

 

「なぁなぁ、良介はん、ようクエストにでとるやろ?

みんなに誘われたとはいえ、こんなに短期間でもう3回?

4回?

それってもの凄いことなんよ。

やからとっても疲れとるやろ?」

 

「いや、別にこれといって疲れてないけど。」

 

即答で返す良介。

 

「えっ?

そ、そうなん。

そりゃよかった・・・そうやぁ、魔力がもの凄いの忘れとったわぁ・・・」

 

女生徒は良介の返答にどことなくがっかりしたようなそぶりを見せる。

 

「で、でもあれやよ!

疲れってのは知らんうちにたまるものやからね!

少しでも取り除いておくにこしたことはないんよ!」

 

「はぁ・・・まぁ、そう・・・だな・・・」

 

歯切れの悪い返答をする良介。

 

「とゆーわけでぇ、一緒にお茶せえへん?

この前も来てもらったけど、茶道部に来たらいつでもおいしいお茶が飲めるえ。」

 

「は・・・はぁ・・・

(そういや、この前学校案内の時に顔合わせだったけど会ったな。

たしか白藤 香ノ葉(しらふじ このは)だったっけ。)」

 

「な? な?

なんなら初心者やから正座せんでもええし、2人で静かにお茶楽しまん?

な? な?」

 

「ええと・・・ごめん、ちょっと用事があるから・・・」

 

良介は何か身の危険のようなものを感じたので断ることにした。

 

   ***

 

「なぁなぁ、ちょっとでいいんよ、ちょっとで。

五分くらいやから。」

 

「いや・・・あの、だから用事があるから速く戻りたいんだが・・・」

 

良介は断ろうとしていたが、香ノ葉はしつこかった。

お茶の誘いをかれこれ10分間もしてきている。

 

「(困ったな・・・こういう時、誠がいればなぁ・・・)」

 

良介は押しが強い女性は苦手だった。

どうしようか迷っていると、一人の女の子がこっちにやってきた。

 

「・・・香ノ葉・・・お主、客引きみたいなことしよるの・・・」

 

その女の子は香ノ葉に話しかける。

 

「きゃ、きゃくひ・・・あ、アイラちゃんやないの!」

 

「あっ、しまった・・・こんにちは、おにいちゃん♪

初めまして、東雲 アイラ(しののめ あいら)だよ♪」

 

「・・・えっ、アイラ?

(ということは、この子がノエルたちが言ってたアイラって子なのか?)」

 

「・・・なんでもないわい。

思わず香ノ葉にツッコんでしまった。

一生の不覚・・・」

 

「ちょっとアイラちゃん!

良介はんに粉かけるのはやめてーな!」

 

香ノ葉はアイラに文句を言い始めた。

 

「え?

なんじゃなんじゃ、急に。」

 

「この人は・・・ダーリンはウチの運命の人なんやよ!」

 

「・・・・・は?」

 

いきなりの発言に呆然とする良介。

 

「・・・ダーリン・・・ウチ・・・ま、いいけど。」

 

「どしたん?」

 

「好きにせい。

妾はコイツの体質に興味があるだけじゃ。

いわば体さえあればいいのじゃ。」

 

「体・・・アイラちゃん、不潔やよっ!」

 

「ククク、この真祖、東雲 アイラがそんなことを気にすると思うか?」

 

「ダーリンはウチのやよっ!」

 

「ククク・・・300年生きる吸血鬼に敵うと思うてか!

見よっ!」

 

すると、突然アイラが良介にデバイスの画面を見せる。

メールアドレスの画面だ。

 

「少年。

これが妾のメルアドじゃ。」

 

「え?

あ、ああ、そうか・・・」

 

良介はデバイスを取り出し登録する。

 

「ああっ!

ひ、卑怯やでアイラちゃん!」

 

「これぞ真祖の力・・・ククク、ではまた逢魔ヶ時に会おうではないか!

じゃまたね~!

おにいちゃん!」

 

アイラはそう言って、去っていった。

 

「(・・・どっちが本当の性格なのやら。)」

 

「・・・・・あ、あの・・・これ、ウチのアドレス・・・」

 

「え?

あ、あぁ・・・わかった・・・」

 

なんやかんやで香ノ葉ともアドレスを交換してしまった。

 

   ***

 

翌日、良介はまた課題が出されたので訓練所に来ていた。

 

「フ○ック!

エレンのヤロウ、自分の仕事を押しつけて行きやがった!」

 

訓練所に来ると、メアリーが文句を言っていた。

隣には焔がいた。

 

「(口悪いなぁ・・・)」

 

「・・・さっさと始めたいんだけど。」

 

「ケッ。

可愛げのねぇヤロウだ・・・ま、いいさ。」

 

メアリーが話を始める。

 

「街、神社、そんで街。

こりゃタダゴトじゃねぇのはわかるな?

まだ一部の人間しか知らねぇが、学園は臨戦態勢だ。

いつ大量のクエストが発生してもおかしくねぇ。」

 

「(確かに、そうだな・・・)」

 

良介は無言で頷く。

 

「・・・・・」

 

「そーいうわけでテメーらには、足を引っ張らねぇくらいの力をつけてもらう。」

 

「(また、指示役の練習かなぁ・・・)」

 

「来栖、良介。

課題は【3勝】だ。

対抗戦でそれだけ勝ってこい。」

 

「・・・エレンのときと同じじゃんか。

また同じことやってどうすんだよ。」

 

「多く勝ちゃあいいってもんじゃねぇ。

どう勝ったかが大事なんだ。

3勝。

だが確実に勝て。

相手を蹂躙してこそ【勝ち】だ。

その為に空っぽのアタマをフル回転させな。

どうすりゃ楽に、確実に勝てるか。

それが3勝でわかりゃ上出来なんだよ。」

 

「(なるほど・・・そうきたか・・・)」

 

少し笑みを見せる良介。

 

「・・・あっそ。」

 

「オラ、良介!

ボーっとしてんなよ!

テメーは精鋭部隊じゃねぇが、その力はアタイが上手に使ってやる。

同じ戦場に立てるくらいにゃなりな!」

 

「・・・了解。」

 

良介は笑みを見せながら対抗戦に向かった。

良介と焔はあっという間に3勝して帰ってきた。

 

「・・・・・ま、いいだろ。

合格で。」

 

メアリーはどことなく不満そうな顔をする。

 

「・・・なんだそれ。

何が不満なんだよ。

きっちり3勝してきただろ。」

 

「相手を蹂躙しろって言ったはずだぜ、アタイは。

いうなれば【無傷で】勝てってこった。

それができてねぇから、Aプラスはやれねぇな。」

 

「・・・無傷だって・・・?」

 

「焔。

テメーはパーティの連中をもっと使え。

ゴリ押ししてんじゃねぇぞ。

テメーのゴリ押しで勝てるんなら、もう魔物はこの世にいねぇ。」

 

「なんだと!」

 

「良介。

テメーはちっとはマシだ。

指揮はちょびっとだけ才能あるな。

だが強敵が来たら今のテメーは【勝てない】。

今のままじゃな。」

 

「(指揮は苦手なんだがなぁ・・・)」

 

「テメーは一人で戦える力を持ってる。

が、仲間にも頼れ。

もっと生徒を口説き落としな。

上手に駒を使ってこそだぜ?

戦いってのはよ。」

 

「・・・そう、か。」

 

良介は課題を終えたので、訓練所を後にした。

 

   ***

 

良介はなんとなくで学園の廊下を歩いていた。

すると、薫子がやってきた。

 

「良介さん。

ごきげんよう。

本日はお願いがありまして出向いてきました。

生徒会からあなたにクエストの依頼をします。」

 

「クエスト?

生徒会からか?」

 

良介が首を傾げる。

 

「以前、街にゲル状の魔物・・・スライムが出たことは覚えていますね?

今回、ネズミ型の魔物討伐が行われましたが・・・

スライムの残党がいないか確認してほしいのです。」

 

「スライムの残党?」

 

「魔物は討伐対象を倒せば【霧を払った】状態になりますが・・・

ごくまれに、掃除し損ねた残党が出る場合があります。

普段は国軍がローラー作戦で確認するのですが、今は人手がたりません。

そのため、学園からも人員を出すことにしました。」

 

「なるほど、それで俺にもそれに協力しろと。」

 

「もちろん、達成したときの報酬は用意しております。

よろしくお願いします。」

 

「ちょうどやることがなくて暇だったんだ。

行ってくるよ。」

 

良介は魔物の残党がいないか確認するために街に向かった。

街に着くと、他にも生徒が何人か来ていた。

すると、その中に誠がいた。

 

「誠、お前も来てたのか?」

 

「おう良介。

実はな、あの副会長、薫子さんが俺にお願いしてきてよ。

依頼を受けることにしたんだ。」

 

誠はどことなく嬉しそうだ。

恐らく、薫子のことが好きなんだろう。

 

「・・・お前、もしかして副会長みたいな人がタイプか?」

 

「え、あ、まぁ・・・大人の女性って感じの人が・・・タイプ・・・かな?」

 

照れくさそうに話す誠。

これは相当ゾッコンなんだろう。

 

「そういう良介は、どういう女がタイプなんだ?

噂によるとかなりの人数の生徒を口説いてるって聞いたが?」

 

ニヤニヤしながら聞いてくる誠。

 

「・・・考えてねぇ。

自分自身でもどういう女性がタイプとかわからん。」

 

「・・・なんでぇ、つまんねぇ返答だな。」

 

誠は良介に背を向け、両手を後頭部にやり、歩き始めた。

 

「でも、たぶん俺のことを全て受け入れてくれるような女性がタイプ・・・かもな。」

 

「お前を全て受け入れる女性ねぇ・・・かなりいるような気がするが。

お前が口説いたり、行動で惚れさせた女とかな。」

 

「誰がいつ口説いたんだよ。

それに、俺はそういう行動したことはないぞ。」

 

「(こいつは口で言ってもわからなさそうだな・・・)」

 

良介の返答に呆れる誠。

そう話をしながら見回りをしていると、多少ながら残党と思われる魔物がいた。

その場にいた魔物を倒し、見回りに戻ったが、それ以上現れなかった。

 

「・・・いないな。

どうやらあれだけらしいな。」

 

良介は変身を解く。

 

「あれだけならいいことじゃないか。

それじゃ早く報告しに行こうぜ。」

 

誠はそう言うと、足早に学園に向かう。

薫子に早く会いたいからか、誠がやけに早かった気がした。

 

   ***

 

「お疲れ様でした・・・確かに、結構な数が残っていたようですね。」

 

生徒会室にいた薫子と聖奈に報告した。

誠は先に報告し終えたようで、生徒会室にはいなかった。

良介と誠以外に見回りに来ていた生徒が倒した数を合わせるとまぁまぁな数になった。

 

「それにしても、この量は・・・そんなすぐ増えるものでもないでしょうに。」

 

「メカニズムはともかく、狩り損ねた残党が増えたことに間違いなさそうです。

国軍にも、注意を促した方がいいかもしれませんね。」

 

「・・・では、私が。」

 

「お願いします。」

 

聖奈は生徒会室を後にした。

 

「ありがとうございます。

仕事をきっちりこなす人は嫌いじゃありませんよ。

それにあなたは類まれな力を持っている・・・生徒会はいつでも歓迎します。

もしかしたら、これからあなたを勧誘するものが増えるかもしれません。」

 

「当たり前のことしてるだけなんだが・・・それで勧誘が増える・・・か。」

 

「しかし、そう言った生徒にはなにか思惑がある。

あなたの力はそれほど貴重。

どうぞ、学園の正義たる生徒会に来て下さるよう。

お待ちしていますよ。

・・・もしくは力づくで。」

 

「ま、まぁ、考えておきますよ。」

 

薫子の最後の一言に動揺しながらも、良介は生徒会室を後にした。




人物紹介

白藤 香ノ葉(しらふじ このは)16歳
一見おしとやかな京美人…のはずが、京都には行ったことすらないという話。
かわいいものなら人だろうが魔物だろうが愛でまくる。
イベント好きの着せ替え好きで、
おまけに一目ぼれした相手のプライベートは知り尽くしていないと気が済まない猪突猛進
な女の子。

東雲 アイラ(しののめ あいら)312歳(自称)
ほぼ誰も信じていないが、自称312歳の吸血鬼。
見た目の割に深い知識を持ち、桁違いな威力の魔法を使いこなせるのは事実で、
しかも恥ずかしげもなく死語を連発するあたり見た目通りの12歳とも考えづらい・・・
授業を免除されていることも含め謎だらけの少女。


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第14話 最大最強吸血鬼

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


街の調査をしてから数日後、良介は昼になったので智花と話をしながら歩いていた。

すると、噴水前にアイラがいた。

なにやらぶつぶつ言いながら歩いている。

 

「うーっ・・・やる気が出んわ・・・ぶつぶつ・・・なんでわざわざ妾を・・・

ぶつぶつ・・・」

 

すると、智花がアイラに話しかけた。

 

「アイラちゃん?

どうしたの?」

 

「おー。

智花か。

いやのう、聞いても涙、語るも涙のいやーな話でのう。」

 

「そ、そんなに嫌な話なんだ・・・」

 

「(どんだけ嫌な話なんだ・・・)」

 

アイラは何があったのか話し始めた。

 

「執行部のヘボがの、妾に魔物の討伐に言って来いとゆーたんじゃ。」

 

「執行部が?

おかしいですね・・・普通、クエストは生徒会を通して・・・」

 

「(・・・何か裏があったりしないだろうな。)」

 

「そこはホレ!

妾って吸血鬼じゃから!

特別扱いじゃからのう!」

 

そう話していると、アイラが良介と目が合うと何か思いついたような顔をした。

 

「おっ。 そうじゃそうじゃ。

智花。 良介をちょいとばかし借りるぞ。」

 

「え!? か、借りるっていうか、それは良介さんの意思で・・・」

 

「いや、俺は別に構わないよ。」

 

「ほーかほーか。

んじゃ良介、妾と一緒にクエスト行こうぞ。

お主の体質、一度試してみたかったんじゃ。

すんげぇ量の魔力・・・妾が搾りつくせるかどうか、試してみようではないか。」

 

アイラは怪しい笑みを見せる。

 

「・・・これ、俺大丈夫なのか?」

 

「な、なんか止めた方がいいのかな・・・」

 

「そうと決まれば早速でっぱつ!

なんかおもろうなって来たぞ!」

 

「・・・出発って言いたいのか?」

 

良介とアイラはクエストに出発した。

 

   ***

 

その頃、生徒会室では聖奈が大急ぎで入ってきた。

 

「会長! 副会長!

執行部が東雲 アイラに直接クエストを・・・!」

 

「・・・知っている。

問い合わせている所だ。」

 

虎千代が落ち着いて返答をしていると薫子が話しかける。

 

「会長・・・返答が来ました。

【東雲 アイラ1人で討伐は可能と判断。

生徒会を通してのクエストは最低2人以上の登録が必要なれば、

厳戒態勢にある学園から、必要以上の戦力を削るのは不適当である】」

 

「・・・もってまわった言い回しだな。

つまりなんだ?」

 

「私たちの対応が生意気なので意地悪してきた、ということです。」

 

「ふむ・・・それで、東雲は請けたのか。

人に命令されて、素直に従うようなやつじゃないだろ?」

 

「ええ。 それは私も知っています・・・簡単には頷かないかと。」

 

そう2人で話していると、聖奈が話しかけてきた。

 

「それが、つい先ほど出発しました。」

 

「はぁ? どうしてだ?」

 

「その・・・よくわかりませんが、早田 良介を連れて・・・呼び戻しますか?」

 

「・・・いや、いい。

東雲がいれば良介も安全だろう。

魔物が現れたなら討伐すべきだ。

こっちは執行部へ抗議するぞ。」

 

虎千代は生徒会室を出た。

その頃、良介は準備を済ませ、校門前に来ていた。

 

「ぶははははは、よく来たな良介!

この最凶にして最強な妾と組めることをありがたく思え!

なにを隠そう、妾ってば超強いんじゃ。

真祖だし。 多分学園で一番。

普段は猫被って大人しくしとるがな。」

 

「・・・そうか、頼もしいな。(さて、一体どれほど強力な魔法を使うのか・・・

お手並み拝見させてもらおうかな。)」

 

「今日はクエストついでに、そのおっそろしい力の一端をみせつけてやろう。

どっかんどっかん蹴散らしてやるからどんと任せるがよい!」

 

アイラはかなり気合が入っているようだ。

 

「それで、今回の魔物は?」

 

「・・・討伐対象はなんだったか。

なんでも一緒だから気にしとらんかった。」

 

良介は呆れた。

 

「・・・調べとけよ。

今回の魔物はサワガニだとよ。」

 

「・・・サワガニ?

サワガニとは、あの佃煮にしたらうまいヤツか?

んん? サワガニということは、妾たちはどこに向かえばいいのじゃ。」

 

「・・・場所まで知らねえのかよ。」

 

良介は額に手をあてる。

 

「・・・うう、なんかイヤな予感がするが・・・まあよい。

行くぞ良介。

どこであろうと構わん。

先導しろ!

なんか出てきたらクチャっとやってやる!」

 

「わかった、ついて来てくれ。(さて、

その場所に連れて行ったらどんな反応をするかな?

少し楽しみだな。)」

 

良介とアイラはクエストの場所に向かった。

 

   ***

 

「・・・こりゃまた、ずいぶん多いな。

こったに食いもんば集めるのか?」

 

生徒会室に聖奈と訛った喋り方をする生徒がいた。

 

「そうだ。

JGJインダストリーにも協力を仰ぐ。

合成食材が主になるが、あくまで非常の措置だ。

保存場所は問題ないはずだが、念のため確認を依頼する。」

 

「・・・まぁ、入るすけ。

なんも大丈夫だ・・・だけどここまで集めるとなると・・・いよいよ、

虎千代は大規模侵攻が起こるって考えてんだな?」

 

「お前には、そうだと伝えておこう。

だが吹聴は困る。

・・・学園生が噂しているのは知っているが、まだ正式発表はしていない。

特に報道部には漏らすな。」

 

「わかってるすけ。

前の大規模侵攻の時・・・この学園からも戦力が出たっきゃ。

軍に比べたら少ねぇけど、死人も出た・・・そのときの話は授業で習ってるすけな。

軽々しく言えねぇ。」

 

「大規模侵攻が起きたとして、学園の犠牲はゼロにする。

それが役目だ。

犠牲者が出た時点で私たち生徒会は無能だったことになる。

会長にそんな汚名を着させはしない。

里中、お前も協力してくれ。」

 

聖奈は里中 花梨(さとなか かりん)に協力を仰いだ。

 

「誰だってメシば食うすけ。

腹減ったら呼べばいいんだぁ。

合成食料でもうまく料理してやっからな。」

 

「・・・・・ああ・・・・・」

 

その後、花梨は調理室に向かった。

調理室に2人の生徒、

雀 明鈴(ちゃお みんりん)と李 小蓮(り しゃおらん)がいた。

 

「メシの量、減らすのカ?」

 

「えーっ!

ご飯減っちゃうのか?

それ、ボクに死ねって言ってるのだ。」

 

「我慢しねぇとな。

代わりに気合い入れて作ってやるすけ。」

 

明鈴が文句を言っていた。

 

「ぶうぶう。」

 

「おらんどはあくまで部活だぁ。

生徒会からいろいろ優遇されてっけどな。

方針には従わねぇといけねぇすけ。

我慢してけろ。

南半球で食いもんば作れねぇすけ、慢性的な食糧不足が続いてるんだすけ。」

 

「合成食料があるネ。

それでも足りないのカ?」

 

「十分あるすけ。

それは心配しねぇでいいべ。

だけど、合成食料ったって無限じゃねぇすけ。

大事にしねぇとな。」

 

「うーっ・・・」

 

まだ明鈴は納得がいかないようだ。

 

「なぁに、なんも大丈夫。

いずれ魔物から土地ば取り返したら、おらがほっぺた落ちるくれぇの料理、

作ってやっからな。」

 

   ***

 

その頃、クエストに向かった良介とアイラは川に来ていた。

 

「うう・・・きいとらん!

妾はきいとらんぞ!

こんな川だらけの場所などとはきいとらんぞ!」

 

「場所ぐらい最初に確認しとけよ・・・」

 

「くっそ、あのヘボめ。

なんかやけにニヤニヤしとると思ったら・・・

妾の唯一の弱点である【流れる水】がスゴいたくさんあるではないか!」

 

「唯一の弱点って・・・日光は克服しているのにか?」

 

「ぐ・・・吸血鬼は流れる水を越えることができんのじゃ。

どうしても越える気にならん、というのが正確じゃな。

理屈は知らんがそういう設定になっとる。

真祖でもそれは変わらん。」

 

その言葉に良介は呆れる。

 

「設定って・・・真祖だったらそれぐらいどうにかしろよ。」

 

「こればっかりは妾も無理じゃ。

良介、おぶれ。」

 

「おぶれって・・・俺が?」

 

「ようするに自分で渡ることができんのだから、誰かに移動させてもらえばよい。」

 

「・・・なんで俺が・・・」

 

ため息をつく良介。

 

「だーいじょうぶじゃ!

見りゃわかるがコンパクトボディでめっちゃ軽いぞ!

ほれほれ、恥ずかしがっとる場合ではない。

さっさと乗せろ。」

 

アイラは良介のマントからよじ登り始める。

 

「ぐえ・・・ちょ、ちょっと、あんまり引っ張るなって。」

 

「うむ、うむ・・・よっしゃ、ベストポジションじゃ!

無駄に乗り心地がよいな!」

 

アイラは良介の肩に腰掛ける。

 

「では行け・・・おい、ありゃなんじゃ。

デカいカニがおるぞ。」

 

「カニ・・・てことは、あれがサワガニか。」

 

視線の先に巨大なカニがいた。

 

「・・・おおっ!

あれが討伐対象か!

おろせおろせ!」

 

「はいはい、わかったから。(大変だなぁ・・・)」

 

「よーく見ておけ。

これが吸血鬼の戦い方じゃ!」

 

アイラは肩からおりると、いきなり魔法を撃った。

だが、他の魔法使いとは比べ物にならないくらいの威力だった。

サワガニは一撃で消え去ってしまった。

 

「見たか!

これが真祖の力じゃ!」

 

「(一瞬であれだけの威力の魔法が出せるとは・・・なるほど、

話は本当だったみたいだな。)」

 

良介がアイラの魔法を見て、なにやら納得していると、

アイラがまたマントからよじ登って来ていた。

アイラが肩に乗ると、行くように指示を出す。

 

「ほれほれ、さっさと行こうぞ。」

 

「はいはい、わかったよ。」

 

アイラを肩に乗せ、さらに奥へと進んだ。

 

   ***

 

良介とアイラは少し川から離れた場所にまで来た。

 

「おう、もういいぞ良介。

ここから先は水場もなかろう。

たぶん。」

 

「わかった。」

 

良介は肩からアイラを下ろす。

 

「で、なんで降りたんだ?

乗ってる方が楽だろ?」

 

「できるだけ低いところにいたいんじゃ・・・日光がな。

妾の唯一の弱点である日光が少しでも弱まるところがよい・・・すなわちだ。

お前の影に入らせてくれんか。

このあたり。」

 

アイラは良介の影に入る。

 

「・・・そんなところでいいのか?」

 

「妾は影の似合う女じゃからな。

ミステリアスなフェロモンむんむんじゃろ。

トランジスタグラマーな妾の魅力にメロメロになっちまうじゃろ。」

 

「あー、そうですな。」

 

適当に返事を返す良介。

 

「・・・そこは頷かんか。

妾がバカみたいじゃ。」

 

「・・・バカじゃないのか?」

 

「うっさいわ!

見ろ、カニがおったぞ!

今夜は佃煮じゃ!」

 

アイラが指さした先にサワガニがいた。

 

「それじゃ、次は俺が相手をしよう。」

 

「うむ、お前の魔法、見るにはちょうどいい相手じゃな。

倒してみせい。」

 

良介が前に出る。

サワガニが近づいて来た。

 

「それじゃ、風魔法で。

おりゃっ!」

 

良介は風魔法でサワガニに撃つ。

しかし、甲羅が硬いのか風魔法を食らってもピンピンしていた。

再びサワガニが良介に近づこうとしたが、その先に良介はいなかった。

すると、サワガニの上に何かが乗った。

良介がサワガニの上に乗っていた。

良介は右手で拳を作り、雷魔法をかける。

 

「でええぇぇいっ!!」

 

サワガニの甲羅を全力で殴る。

甲羅が凹み、まるで感電したかのように、サワガニの体に電気が流れる。

良介がそこから離れるとサワガニは消滅した。

 

「・・・ふむ、雷の強化をかけたか。

強化魔法に属性を付けるとは・・・」

 

良介にアイラが近づく。

 

「ふう、どうだった?

俺の魔法は。」

 

「まぁ、悪くはない。

だが、一発目で倒せていないのはどうもなぁ・・・」

 

「・・・あれは牽制用に撃った奴なんだがな。」

 

「・・・まぁ、よいわ。

ほれ、次に行くぞ。」

 

アイラが先に進んでいく。

 

「・・・手厳しいことで。」

 

良介はその後を追いかけた。

 

   ***

 

少し進んだところでアイラが話しかけてきた。

 

「・・・話は変わるが、お前みたいな体質の人間は人類史始まって以来じゃろう。

魔力を大量に貯蔵できる。

さらにそれを分け与えることができる。

いつの時代も、その技術を確立しようと多くの人間が努力してきた。」

 

「・・・技術として確立・・・か。」

 

「だがついぞ、そんな便利で安直な技術はうまれんかった。

・・・どうじゃ良介。

なんかすごく都合がいいと思わんか。」

 

「・・・都合がいい?」

 

「妾はお前に興味があるぞ。

なぜお前みたいなのが突然出てきたのか。

ただの新種なのか、それともなにか超自然的な裏があるのか・・・

某国の人体実験で生み出された生体兵器かもしれんな!」

 

「・・・まるで俺が生物兵器みたいだな。」

 

良介が呆れたような顔をする。

 

「冗談じゃ冗談。

そんな顔をするな。

いじめすぎた。

まあ、実際のところは突然変異とかそんなんじゃろ。

300年くらい生きとるが、魔法は奥が深いからな。

気にするな。」

 

そう話しているとサワガニが現れる。

 

「綺麗に締めたところでカニ発見じゃ!

今度こそ佃煮にしてやるわ!

続け良介!

季節の味覚は我らにあるぞ!」

 

アイラはサワガニに突っ込んでいく。

 

「・・・倒しても霧に戻るだけだがな。

まぁ、そんなことはどうでもいいか。」

 

良介もアイラに続く。

良介は風の強化魔法を自分にかける。

一瞬でサワガニの後ろをとる。

 

「でりゃあっ!」

 

片側の脚に蹴りを入れ、サワガニはバランスを崩す。

すかさず、アイラは魔法を撃つ。

魔法が直撃し、カニは消滅した。

 

「ふぅ、これで終わりか。

・・・アイラ、念のため言っておくが、霧に戻るから佃煮は無理だぞ。」

 

「わーっとるっつの!

少しは空気を読めっつの!

魔物を倒したら霧に戻ることくらい知っとるっつの!

慰めの言葉なぞいらんわ!

妾を食いしん坊キャラにするな!」

 

「わかったわかった。

怒るなって。」

 

良介は笑いながら、アイラの頭を撫でる。

 

「・・・まぁ、お前の魔力のおかげで妾も久しぶりにストレス発散できたし。

多少いじるくらいは許してやろう。

妾は心も広いのじゃ。」

 

アイラは頭を撫でてもらって嬉しそうだ。

 

「さて、当たり前のようにカニを屠ってやっちゃったわけだが・・・

ま、とりあえず戻ろう。

妾の魔法は威力はあるが消費も大きい。

だいぶ残量が減ったじゃろ。

気持ちよく使わせてもらったからな。

いくら魔法を使っても干からびんというのはいいのう。

いい気分じゃったぞ。」

 

「・・・全然余裕なんだがな。

まぁ、いいか。」

 

良介とアイラは学園に向かった。

 

   ***

 

その頃、学園のとある教室。

 

「お嬢ーっ。

まーだ待つんすかぁ?」

 

「当然です!

完璧な私には完璧な伴侶を!

彼の体質と能力には可能性があります!

じっくりとお話しをしますよ!

刀子、捕まえる準備を!」

 

「はっ!

足の腱を斬れば逃げられぬと愚考いたします。」

 

「なぜあなたはそこまで物騒なのですか・・・」

 

教室には野薔薇 姫(のいばら ひめ)、支倉 刀子(はせくら とうこ)、

小鳥遊 自由(たかなし みゆ)の3人がいた。

 

「いつもお婿さん候補を呼びつけてるお嬢とは思えねーっすね。

まさか惚れちゃったんすか?

すか?」

 

「下世話ですよ、自由。

あの方は有望株なのです。

少しくらい骨を折っても悪くないでしょう。」

 

「しかし・・・聞いたところ、学園の様々な組織が狙っている様子。

あの馬の骨にそのような価値が・・・?」

 

「ふさわしくなければ私が育ててみせますわ。

この野薔薇 姫によりふさわしい、完璧な殿方に・・・

フフフ・・・ホーッホッホッホ!」

 

教室に姫の高笑いが響いた。

その頃、良介とアイラは学園に戻ってきた。

 

「ふむ。

このまま報告してしまえばクエスト終了なんじゃが・・・」

 

「うん?

どうした?」

 

「おい良介!

報告は後じゃ!

めんどくさいから先に屋上でサボるぞ!」

 

「おいおい、いいのかよ。

そんなことして。」

 

「なぁに、今回は執行部も反則手を使ったんじゃ。

構わん構わん。」

 

良介とアイラは屋上にやってきた。

 

「のう良介。

妾はクエスト中、お主に【人類史始まって以来の体質】と言った。

その危険性を、念のため伝えておくぞ。

大規模侵攻が確実となれば、その混乱に乗じて、

お主に近づいてくるヤツが出てくるかもしれんからの。」

 

アイラは鳥の石像に座る。

 

「魔導科学研究所・・・通称【科研】は、その名の通り、魔導科学を研究しとる。

宍戸 結希が魔法使いに覚醒する前、3ヶ月だけ所属しとったとこじゃ。

いいか、科研っぽいヤツが近づいてきたら注意せないかんぞ。

あいつら、魔導科学の発展のためには人権無視が基本じゃからな。」

 

「・・・とんでもない奴等だな。」

 

良介はベンチに腰掛ける。

 

「実のところ、お主が科研に攫われる前に、虎千代と宍戸が手を回したんじゃ。

学園に入学してしまえば、その生徒は自治の名のもとに保護されるけんの。」

 

「・・・そうだったのか。」

 

「お主の体質を理由に接触してくるヤツら、学園内にもおるじゃろ?

お主が実感しとる以上に、お主を欲しがっとるヤツらは多いのよ。

野薔薇の縦ロールなんかは比較的お気楽な方じゃけどの。」

 

「野薔薇・・・聞いたことがある苗字だな。」

 

「まだ結婚のなんたるかもわからんまま伴侶だのムコ探し言うとる。

まぁ、そんな悪いヤツでもない。

気が向いたら相手してやれ。」

 

「ああ、わかったよ。」

 

良介とアイラは報告するために執行部のところに向かった。




人物紹介

里中 花梨(さとなか かりん)15歳
学園随一の料理人で、同時にみんなのお母さん。
南部弁で喋る。
料理に説教に指導に畑仕事に飼育に洗濯に掃除にとオールマイティ。
なにかあれば彼女に相談、が基本。
生徒会すら頭が上がらない影の権力者だが、本人にその自覚はない。

雀 明鈴(ちゃお みんりん)15歳
中国からの留学生。
食(食べる方)を我が道と定めてあらゆるものを食らいつくす。
摂取したカロリーは運動で相殺するタイプらしく、食って動いて食って動いてと忙しい。
嫌いなものがないため料理人にとっては嬉しい反面、生半可な量では満足しない。

李 小蓮(り しゃおらん)15歳
中国からの留学生。
食を我が道と定めて邁進する料理の徒。
里中花梨に師事し、調理室で励んでいる。
結構おいしいと評判なのだが、あまり褒めるといい気になり、
余計な一工夫を加えてしまう困ったクセも。
同じ境遇の雀明鈴と一緒にいることが多い。

野薔薇 姫(のいばら ひめ)15歳
軍閥の名家【野薔薇家】の長女。
【野薔薇たるもの完璧たるべし】の教えのもと、完璧を目指して邁進している。
優秀なのは間違いないがすぐ調子に乗る傾向がある。
2人の従者を従えているが、どちらもクセが強く苦労している様子。

支倉 刀子(はせくら とうこ)16歳
野薔薇姫の護衛役。
古めかしい喋り方が特徴の、武士道精神溢れる侍娘。
姫のためなら他のなにがどうなろうと構わず、呼ばれたら全てを放り出して馳せ参ずる。
かなりの忠臣と言えるが、周りの被害もかなり大きいトラブルメーカー。

小鳥遊 自由(たかなし みゆ)16歳
野薔薇姫の世話役・・・のはずだが、あまりやる気がない。
名前の通り自由に遊びまわる不良メイドで、よく護衛の支倉刀子に注意されている。
ネット中毒でオンラインRPGでは廃人クラス。
最近のオタクに見られる独特な喋り方が特徴。


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第15話 属性の強化魔法

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


クエストを終えた良介はアイラと別れ、一人廊下を歩いていた。

 

「さて、授業免除だし、どうしようか・・・」

 

何しようか考えながら歩いていると、前方から梓がやってきた。

 

「あー忙し忙し・・・おっ。

良介先輩!

どーもどーも、忍者服部ッス!」

 

「・・・ああ、風紀委員の。」

 

「いやー、お噂はかねがね。

クエストに出ずっぱりって聞いてるッスよ。

誘われるのやっぱり体質と能力のせいなんスかねぇ。

大変ッスねぇ。」

 

そう話している梓は両手に買い物袋を持っていた。

 

「それ、どうしたんだ?

買い物にしてはちょっと多くないか?」

 

「あっ、これッスか?

ぶちょーに頼まれて買い出しに・・・」

 

「買い出し?」

 

「自分はみんなの御用聞きみたいなもんッスから。」

 

「・・・それ、ただのパシリじゃないのか?」

 

「パシリ?

まぁ、そんなとこッスかね。

いやいや、へーきッスへーき。

それより先輩も、クエストだけじゃないの知ってるッスよ?

女の子のお願い。

よく叶えてあげてるらしいじゃないッスか。」

 

梓が怪しい笑みを見せる。

 

「んー・・・まぁ、自分ができる範囲でだけど叶えてはいるな。」

 

クラスを始め、いろんな女子に頼まれごとをされてはできる範囲で叶えてはいた。

 

「自分と似たようなもんでしょう。

こう、見返りとか・・・あるッスよね?」

 

「・・・まぁ、少しはな。」

 

そう言っても、100円玉だけだったりというのがほとんどだが。

 

「自分もそんなところッス。

見返りがあるからパシられる。

たとえば生徒会しか知らない、報道部しか知らない情報・・・

忍者ナめてると痛いメ見るッスよ?

・・・なんつって。」

 

最後の一言で良介は呆れてため息をつく。

 

「結構でかい仕事を請け負ってるんだなーと思ったら、違うのか・・・」

 

「自分みたいな半忍前が、んな大それたことはできねーッスよぅ。

ま、素早く動く訓練を日常からやってるようなもんッスね。」

 

「日常が訓練・・・か。」

 

「あ、でも良介先輩の話は、結構気軽に話してくれるんッスよね。

先輩、いろんなところから注目されてるッスよ?」

 

「俺が?

それまた何で・・・」

 

「生徒会も風紀委員も報道部ってお互いに対立しあってるんですけど・・・

どこも先輩が来たら、大きな戦力になるって考えてるッスね。」

 

良介は呆れて、ため息をつき、窓の方を見る。

 

「大方、体質と能力目当てだろ?」

 

「いやまぁ、一番はその体質と七属性の魔法ですけどね。

それだけじゃないッスよ。」

 

「・・・何かあったか?」

 

「先輩って顔がとっても広いッス。

転校してきたばかりとは思えないくらい。

先輩は実力を見せてるッス。

クエストに出るたびに戦いがうまくなってる。

つまり先輩は将来性がとっても高いんです。

お買い得なんですよね。」

 

「将来性が高いって、褒めすぎだろ。

来てあんまり時間たってないのに・・・」

 

「褒めすぎじゃないッス、自覚してないだけッス。

だから梓ちゃんからのアドバイスっす。

大変なのは把握すること。

なにもわからず利用されるのは、あんま楽しいことじゃないッスよ?」

 

「(別に楽しい楽しくないでしてるわけじゃないんだがな・・・

まぁ、なにもわからず利用されるのは嫌だが・・・)」

 

「利用されるフリして、先輩ナシでは生きていけないようにしちゃう・・・

そう! 先輩はジゴロになるべきッス!

そうすればみんなシアワセ、対立も無くなって丸く収まるッス。」

 

「(それはそれで違う対立起きそうなんだが・・・これ、冗談で言ってるのか?)」

 

良介は目を細めながら梓の方を見る。

 

「・・・あ、ジョーダンだと思ってるッスね?

ま、いずれわかるッスよ。

そのときは自分も混ぜてくださいね♪」

 

   ***

 

梓はその後、走り去り、再びやることがなくなってしまった良介。

廊下をブラブラと歩いていると、歓談部部室の前に来ていた。

その部室前で、海老名 あやせ(えびな あやせ)とエミリア・ブルームフィールドの二人に話をしようと誘われたので歓談部部室に入ることになった。

 

「今日もお茶がおいしいですねぇ・・・

よろしければもう1杯、どうぞ。」

 

「えーと、それじゃお願いします。」

 

あやせにお茶を入れてもらう。

 

「遊びに来てくれて嬉しいです。

私は最初、言葉がよくわからなかったので・・・

東雲さんが英語に堪能でなければ、ここにもいなかったでしょうし。」

 

「(あいつ、そんなに英語堪能なのか・・・)」

 

「良介さんも、アイラちゃんと一緒にクエストにでかけたんでしょう?

とても強くて、頼りになりますよねぇ。

いつも助かっています。」

 

「でも、知れば知るほど変わった人なんですよね。

まだ12歳なのに、とても魔力が強く、少なくとも5カ国後を喋れて・・・

その辺の歴史学者顔負けの知識と、おまけに自称吸血鬼・・・」

 

「確かに、吸血鬼みたいですよねぇ。」

 

「(・・・吸血鬼はどうでもよくねぇか?)」

 

すると、突然エミリアが声に力を入れて話し始めた。

 

「でも、吸血鬼なんておとぎ話です。

いません!」

 

「もしかしたら吸血鬼だけでなく・・・お化けもいるかもしれませんねぇ。」

 

「またそういうことを言うから、東雲さんが面白がるんです。」

 

「良介さんはどう思います?

吸血鬼だと思いますか?」

 

あやせの質問に良介は少し考える。

 

「うーん・・・どうだろうな。」

 

クエスト中、アイラから変な違和感のようなものを少しばかり感じてはいたが、

正直、よくわからなかった。

 

「吸血鬼ではないけれど・・・年齢あたりは本物じゃないかな。」

 

「つまり、300年以上生きているから吸血鬼と名乗っていると?」

 

「ま、そんな感じじゃないかなと思う。

本当のことは知らないけれど。」

 

「なるほど・・・そういう考え方もありますねぇ。」

 

あやせがニコニコしながら頷く。

そのまま話をしていると、自然と霧の魔物のことが話に混ざり始める。

 

「・・・霧の魔物が現れてから、すべての怪物たちは消えました。

そういう怪物たちは、かつて大発生する前の霧の魔物だったのでは、と。

つまり自称吸血鬼というのは、自称霧の魔物ということなんです。

誰も本気にしないからいいものの、万が一本気にされたらと考えると・・・」

 

「それでも、アイラちゃんは私たちと一緒に戦ってくれるお友達じゃない。」

 

「だからこそ、ですよ。

あんなにいい子なのに、どうして・・・」

 

「・・・彼女にも事情があるんじゃない?

冗談が多い子だけど・・・どれだけ注意してもやめないなら、理由があるんでしょう。

幼いとはいえ、ただ無邪気なだけの子じゃないわ。」

 

「自分を吸血鬼だと言わなければならない理由があるなら、聞いたいです。

意味のない冗談です。

学園内ならともかく、外で言いふらさないように。

きちんとやめさせないと。」

 

「(さて、そう簡単にいくかな?)」

 

「そうねぇ・・・あまりきつくならないようにね?」

 

そういった話をある程度したあと、良介は歓談部を後にした。

 

   ***

 

特にこれといってやることがなかった良介は訓練所に来ていた。

ちょうど精鋭部隊もいない時間帯の上、誰も使っていない状態だった。

 

「ちょうどいいや。

試したいことがあるし、好都合だ。」

 

良介は変身し、属性の強化魔法を試そうとした。

 

「(今まで一部の属性しか使ってないからどんな効果があるか知らないんだよな。

それじゃ、まず火から・・・)」

 

火の強化魔法を自分にかける。

良介の体から炎がオーラのように取り巻く。

 

「・・・うーん、攻撃に火属性がかかる・・・だけか?」

 

防御の方は実際に受けてみなければわからないので諦めた。

 

「じゃ、次は風を・・・」

 

風の強化魔法をかける。

良介の体を覆うように風が発生する。

 

「・・・あれ、なんか体が軽いような・・・」

 

良介はもしやと思い、軽めにジャンプする。

すると体が空中に浮いた。

そのまま停滞することにも成功した。

 

「なるほど、空も飛ぶことも可能なのか。

こいつは便利だな。」

 

次に土の強化魔法をかけた。

体が黄色のオーラに包まれる。

体が重くなったような感じがするかわりに、力が湧き出るような感じがする。

 

「・・・パワータイプになったって感じだな。」

 

次に水の強化魔法をかけたが・・・

 

「・・・なんか普通の強化と変わらないような・・・」

 

水色のオーラに包まれただけで特にこれといって変化はなかった。

 

「・・・雷、試すか。」

 

雷の強化魔法をかける。

体から火花が散り始める。

 

「んー、風の時よりも軽くなったような・・・」

 

軽くジャンプするが空中に浮いたりはしなかった。

そこで、試しに力強く地面を蹴ってみた。

すると、一瞬で訓練所の壁に到達した。

 

「っとと!!

一瞬で壁まで到達するとは・・・はっ!」

 

もう一度地面を蹴ると、元の場所に一瞬で戻った。

 

「風よりも疾く動けるけど・・・うまく使えるのに時間がかかりそうだな。」

 

その後、雷の強化魔法をうまく使えるように練習していたが、その途中で精鋭部隊が入ってきた。

一番最初に入ってきた焔の目の前で良介は止まる。

 

「うわっ!?」

 

「おお、悪ぃ悪ぃ。

驚かしちまったな。」

 

「・・・お前、今瞬間移動してなかったか?」

 

続いてメアリーが入ってきた。

 

「属性の強化魔法を試してる最中なんだ。

今は雷の強化魔法をな・・・っと!」

 

一瞬で向こう側の壁に移動する良介。

 

「・・・なんか人間やめてきてないか。」

 

「・・・ああ、あいつ雷神かなにかじゃねえのか?」

 

良介は雷の強化を解き、風の強化に切り替える。

体を宙に浮かし、少し空中で移動する。

 

「・・・なんじゃありゃ。」

 

良介の魔法を見て呆然とするメアリー。

 

「うーん、ざっとこんなもんかな。

さて、帰るか。」

 

良介は変身を解き、訓練所を後にする。

 

「・・・ふむ、我々も負けるわけにはいかないな。」

 

後から入ってきたエレンが良介の後ろ姿を見て笑みを見せた。




人物紹介

海老名 あやせ(えびな あやせ)17歳
歓談部を尋ねればお茶とお菓子で出迎えてくれるお姉さん。
どんな話題にも丁寧な返事が返ってくるので、彼女の元を訪れる寂しい生徒が後を絶たないらしい。
だが彼女の話好きはもろ刃の剣。
気が付いたら2時間経っていたというのは日常茶飯事だ。

エミリア・ブルームフィールド 17歳
イギリスの魔法学園からの留学生で下級貴族の出。
正義感溢れる騎士見習いだが、楽観主義が強く、本物の戦場を知る生徒にたしなめられることも多い。
もともとの実力は高いので、ある程度経験を積めば化けるはず。


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第16話 学園襲撃

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



いつもの朝。

良介はいつも通りの時間に登校していた。

 

「ふあぁ・・・やっぱ朝は眠いな。」

 

欠伸をしながら校門を通ったところで誰かに呼び止められた。

 

「良介さん!

良介さん!」

 

「ん?」

 

良介の目の前に野薔薇 姫がやってきた。

 

「なにをこんなところでグズグズしていますの!

行きますわよ!」

 

「いやいや、ちょっと待て!

俺は君が誰なのか知らないんだが・・・」

 

「・・・これは失礼。

私、野薔薇 姫と申します。」

 

「・・・そうか。

俺は早田 良介・・・って知ってるか。

で、何があったんだ?

俺は今、登校したばっかで何も知らないんだけど・・・

(野薔薇・・・アイラが言っていた子ってこの子のことか。)」

 

「あら・・・今しがた登校したばかりですか。

これまた失礼。」

 

姫は何があったのか話し始めた。

 

「私、毎朝バラ園の手入れを行っているのですが・・・

あろうことか・・・あろうことかそのバラ園に、魔物が現れたんですのよ!

なぜ、よりにもよってバラ園なんですか!」

 

「バラ園って・・・学園内に魔物が出たのかよ!」

 

「さあ!

刀子と自由はすでに準備できております!

クエスト発令を待っている暇などありません!

校則違反など知りません!

私のバラ園を、取り戻しにゆきます!」

 

「おいおいおい!

俺は校則違反の仲間入りしたくねえぞ!?」

 

良介の言っていることを無視して良介の手を引っ張っていく姫。

そのまま噴水前に行くと刀子と自由がいた。

 

「お嬢ーっ!

クエスト発令されましたよーっ!

申請しておくっすよ!」

 

「しかし、学園内に魔物が現れるなど聞いたことがないぞ。」

 

「稀によくあるらしいっすよ。

大規模侵攻の前とかはだいたい起きるとか。

ネットの情報ですけど、第6次侵攻の時もあったらしいっす。」

 

「ふむ・・・しかしわからん。

姫殿はなぜ早田 良介を連れて行くなど・・・」

 

「まーだ言ってるすか。

ネチネチしてる人、モテないっすよ?」

 

「モテるモテないの問題ではない!

拙者は野薔薇を守護する支倉として・・・!」

 

話している二人に姫が呼びかける。

 

「連れてきましたよ、2人とも!」

 

「あ、クエスト申請すんでるっすよ。」

 

「結構!

後で面倒くさいことにならずにすみましたね!

では一刻も早く、魔物の手からバラ園を取り戻します!

出発!」

 

「なんやかんやでクエスト受けるハメになったけど・・・

まぁ、いいか。」

 

良介は姫たちとバラ園に向かった。

 

   ***

 

その頃、生徒会室では・・・

 

「9年前の再来、ということでいいな?」

 

「魔物の出現頻度が増え、人里に現れ、そして【学園】にまで現れた。

第6次侵攻の時と流れが同じです。

ここから【タイコンデロガ】の近郊出現・・・

宍戸 結希の提言によれば、それを経て侵攻が発生します。」

 

「よし、学園生の戦力増強は間に合うな。」

 

虎千代と薫子が話し合いをしていた。

 

「政府の情報開示と同時に、学園生に大規模侵攻のことを通達します。

すでに噂として広まっていますが・・・それを確定するためにも。」

 

「その辺は任せるよ。

アタシはちょっとバラ園に行ってくるよ。」

 

「・・・・・は?」

 

虎千代の発言に薫子は少し驚く。

 

「次に出現するのがタイコンデロガなら、生徒会の緊急出動があるからな。」

 

「いえ、タイコンデロガならば、我々ではなく軍が・・・」

 

「アタシがやる。

クエストは久しぶりだからな。

誰にも渡さないぞ。」

 

「し、しかしそうだとしても、会長がバラ園に行く必要は・・・」

 

「生徒会はクエスト免除。

とはいえ、学園に魔物が出て生徒会が一人もいない。

それはマズいだろう。

なに、軽いウォームアップだ。

他の生徒が来たら譲るさ。」

 

虎千代はそう言うと、生徒会室から出て行った。

同じ頃、バラ園では・・・

 

「遅いですよ!

緊急出動のときほどより急がねばなりません!」

 

「・・・5分で準備したんだから大目に見てくれよ。」

 

姫は良介の言葉にまったく耳を傾けていなかった。

 

「まさかこの魔法学園に・・・しかもバラ園に魔物が現れるなど・・・

きいいっ!

私のバラ園があんなエセ薔薇のバケモノなんかに!

この野薔薇 姫が根元から引っこ抜いてあげますわ!」

 

「まぁまぁ、気持ちはわかるが少し落ちつけよ。」

 

「・・・ふう。

すいません、少し取り乱しました。

行きましょう。

前衛は私にお任せなさい。

良介さんは援護を主にお願いします。」

 

「ああ、わかった。」

 

「必ずやバラ園と学園に平和を取り戻して見せます。

その為に志願したのですから!

ついてきなさい、良介さん!」

 

「・・・あ、ああ。

(結構気が強いお嬢様だなぁ・・・)」

 

その頃、コロシアムではイヴと焔が対抗戦に出ていた。

イヴのパーティには誠がいた。

 

「・・・第7次侵攻・・・

これで私の力を見せれば・・・あの子が不要だと知らしめれば・・・」

 

「(・・・何ブツブツ言ってんだ?

冬樹のヤツ・・・)」

 

誠はイヴが何か言っていることを気にしていると、焔がやってきた。

 

「・・・なんだ、あんたが今日の相手か。

あんた風紀委員だろ?

こんなところで対抗戦やってていいのか?」

 

「ご心配なく。

この対抗戦を以て、私は【コロシアム】の警備に当たります。

ここは学園でも重要な場所。

破壊されてはたまりませんから。」

 

「対抗戦で疲れきっちまったら、守るもなにもないだろ。

棄権してもいいんだぜ?」

 

イヴと話している焔に誠が話しかける。

 

「おーい、俺もいるんだが・・・」

 

が、無視された。

 

「あなたも必死に訓練しているようだけど、負けるわけにはいかない。」

 

「うぜーよ・・・そんなのほざくヒマがあったら、準備運動でもしてろ。

負けたときに言い訳されちゃたまんねぇからな。」

 

再び誠が声をかける。

 

「おーい、俺は?

無視? 無視なのか?」

 

完全にスルーされてしまっている。

段々とイライラし始める誠。

 

「・・・・・私は、エリートでなければならない。

あの子と違うところを見せなければ。

負けませんから。

そっちこそ準備運動をどうぞ。」

 

「チッ・・・何度も何度も・・・そう言うのが一番ムカつくんだよ!」

 

と、焔がムカつき始めたところでスルーされまくったことにとうとうキレた誠がイヴと焔をまとめて炎を纏った矢で攻撃した。

 

「うわっ!?」

 

「っ!?

ちょっと、こっちは味方ですよ!」

 

「何度も何度も声かけてんのに無視しやがって・・・!

ナメてんじゃねえぞっ!!」

 

誠が上に向かって矢を放つ。

一定の高さまで飛んだ途端、矢が無数に別れ雨のように降り注ぐ。

 

「えっ!? えっ!!??」

 

「ちょ、何をっ!!??」

 

コロシアム内が大惨事になっているのを、エレンとメアリーが見ていた。

 

「新海 誠だっけ?

敵味方関係なしに攻撃してるじゃねえか。」

 

「だが、実力は本物だ。

精鋭部隊に欲しいくらいだ。」

 

エレンは誠からイヴの方へ目を向ける。

 

「・・・冬樹 イヴか。

精鋭部隊への誘いには全く乗らないが、腕は立つようだ。」

 

「だがありゃー、来栖と同じビョーキだな。

チーム戦なのにまるでタイマンだ。

対抗戦の意味をわかってんのか?」

 

誠の攻撃を凌いだあと、焔とイヴは再び対峙していた。

 

「他を犠牲にして己の腕を磨くものは多い。

お前もかつてそうだったろう。」

 

「遥か昔の話だぜ。

2年前線で戦って、そんなのは夢の彼方に忘れちまった。

しっかし、あれだけ言ったのに来栖のヤロウ、全然進歩がねぇな。」

 

「これまでの戦い方を、そう簡単に否定できるものでもないだろう。

実際、来栖は年間討伐数では上位だし、生天目という前例もいるしな。」

 

「あんなの参考になるかよ。

突然変異みたいなヤツだぜ。」

 

「とはいえ・・・お前の教え方も問題があるぞ。

いくつか気になっている点はあるが・・・その気がないのに何故【手駒】を探す?」

 

「・・・その気がないだ?

駒は必要だ。

アタイは使えるヤツを探してる。」

 

「だがお前は、特にこの学園の生徒と協力関係になるつもりはなさそうだが。

連携が大事だというなら、仲間になろうと努力くらいしてもいいんじゃないか?

使ってやる言って回っているようだが・・・お前の行動は矛盾しているぞ」

 

「一貫してなきゃ裏があるってか。

残念だがアタイはそこまで考えてねぇ。

その時の気分でなんか悪いか?」

 

「そうか。

私はてっきり来栖のためだと思ってたんだがな。」

 

「・・・ああ?

なに言ってんだテメー。」

 

エレンの言葉にメアリーは呆れた。

その頃、報道部部室に薫子が来ていた。

 

「遊佐 鳴子さんはいますか。」

 

部室を尋ねると夏海がいた。

 

「げっ・・・じゃなかった、こんちわ、副会長。

部長になにか用ですか?

はっ・・・とうとう公権力の理不尽な横暴が・・・スクープだわ!」

 

「【理不尽】も【横暴】も間違っています・・・今は言い争いは望みません。

なにを書こうとも結構ですから、 遊佐 鳴子を呼んできてください。」

 

「・・・・・なんかいつもと違う?」

 

そう言っていると、部室の奥から鳴子が出てきた。

 

「いいよ、夏海。

別に難癖つけに来たわけじゃなさそうだ。

水瀬副会長。

君が僕のところに来た、ということは、情報解禁かな?」

 

「ええ。

お昼のニュースで政府が第7次侵攻の発生を発表します。」

 

「ふうん?

それは・・・興味深いね。」

 

鳴子が笑みを見せる。

 

「ご冗談を。

これくらいはご存知のはず・・・まあ、今はいいでしょう。

同時に学園でも発表を行います。

校内放送の機材と、号外の用意を。」

 

「いいとも。

夏海、準備してくれ。」

 

「えっ!?

生徒会に協力するんですか!?」

 

「生徒会が【なぜか】僕らの目の敵にしているとしても、それは関係ない。

みんなが知るべきことは、報道しなければならない。

わかるね?

大規模侵攻は全ての魔法使いに関わる。

これを報道しないのは怠慢だ。」

 

「は、はい・・・」

 

「結構です。

では政府発表の30分前に、会長を連れてきますから・・・

それまでにお願いしますよ。」

 

「了解だ。

歴史に残る演説を頼むよ。」

 

それだけ伝えると薫子は報道部部室から出て行った。



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第17話 第7次侵攻発生宣言

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


良介は姫と共にバラ園の中を進んでいた。

 

「そういや、他の生徒は来てないのか?」

 

良介は姫に質問した。

 

「他の生徒が来ないのは、クエストを私たちが受けているからです。

クエストを受けた生徒以外は、討伐に出向くことを禁じられています。

授業の一環ということもあるのですが、大きくは同士討ちを防ぐためですわ。」

 

「同士討ち?

そんなもん起こるのか?」

 

「このくらいは想像がついてほしいものですね・・・私たちはまだ学生。

未熟な生徒もおります。

魔法の制御が甘かったり、状況判断ができなかったり・・・

ですから、クエストを受けた者たちが責任をもって、一致団結し、遂行する。

それがわざわざ面倒くさい形式を取っている理由でもあります。」

 

「・・・なるほどな。

(魔法の制御か・・・俺もまだ甘いほうだから気を付けないと・・・)」

 

そう良介が思っていると、魔物が現れる。

 

「さ、おしゃべりが過ぎました。

来ますわよ。

今話したことの意味、お分かりですね?」

 

「・・・ああ、わかった。

やるぞ!」

 

良介がそう言うと、姫が敵に向かっていく。

 

「はっ!」

 

鞭で相手を攻撃する。

と、魔物に鞭を簡単に掴まれてしまった。

 

「えっ!?

きゃあっ!?」

 

鞭を引っ張られバランスを崩した上に、そこから足を掴まれ、捕まってしまった。

 

「・・・おいおい、何やってんだよ。」

 

その状況を見て呆れる良介。

姫は助けを求めた。

 

「りょ、良介さん!

た、助けてください!」

 

「はいはい、今助けるよ!」

 

良介が魔物に向かうと、魔物は攻撃を仕掛けてきた。

良介は風の強化魔法で全て避ける。

敵の懐に入ると、スピードを乗せたアッパーを食らわせる。

 

「吹っ飛べ!!」

 

魔物は真上に吹き飛び、姫を手放す。

姫もその衝撃で空中に放り出されたが、落下地点に良介がおり、そのまま姫を受け止める。

 

「大丈夫か?」

 

姫をお姫様抱っこしたまま問いかける。

 

「え、ええ。

大丈夫ですけど、誰も見てないとはいえ、恥ずかしいので早く下ろしてください!」

 

良介は言われた通り、姫を下ろす。

 

「・・・次に行きましょう。」

 

姫は顔を赤くしながら先に進む。

 

「・・・了解。」

 

良介は笑いながら小さくため息をつきながら後に続いた。

 

   ***

 

学園の廊下でさらが外に出ようとしていた。

 

「あっ。

さらちゃん、外にいると危ないよ!」

 

ノエルが気付きさらに注意する。

 

「あう・・・で、でもたつきさんがぁ・・・」

 

さらが今にも泣きそうな目でノエルの方を見る。

 

「朝比奈先輩?

大丈夫だよ朝比奈先輩なら!

あの人、いつもケンカしてるし!

それよりさらちゃんが魔物に会っちゃう方が大変だよ!」

 

「で、でも、でもぉ・・・」

 

「こういうときは風紀委員の人に頼んで探してもらうのがいいと思うよ。」

 

「風紀委員・・・みなづきさんですかぁ?」

 

「そうだね・・・でも風紀委員でも上の人は忙しそうだし・・・

怜ちゃん先輩とかどうかな?」

 

「かんなぎさんですかぁ・・・でも、あぶないことをおねがいするのは・・・」

 

ノエルが笑顔を見せる。

 

「大丈夫だって。

風紀委員ってそのためにいるんだし。

それに怜ちゃん先輩が行ってくれるときは、ノエルちゃんもついて行くから!」

 

「・・・でも・・・あ、あのぅ・・・お、おねがいしますぅ・・・」

 

「おっけおっけ。

さらちゃんにケガなんかさせないよ!

みんなのサポート、ノエルちゃんに任せておいて!」

 

ノエルはそう言うと外に出る。

掲示板前にいた怜に呼びかける。

 

「怜ちゃん先輩ーっ!」

 

「冬樹・・・外は危ない。

屋内にいろ。

今は教師と風紀委員ではぐれ魔物を討伐中だ。」

 

「えーとね、その、ちょっとお願いがあって・・・」

 

「おねがい?」

 

ノエルは事情を怜に話した。

 

「・・・朝比奈か。

しかし、外にいるとは限らんぞ。

校内も広い。

他の校舎にいたら、見つけるのは難しい。」

 

「さらちゃんによると、だいたいいる場所はわかるんだって!

グラウンド外れにいなかったら、多分登校してないから大丈夫って言ってたよ。」

 

「校舎裏・・・しかし魔物の危険がある今、そんなところにいるか?」

 

「朝比奈先輩、ひねくれものじゃん?

危ない今こそ・・・いるかも。」

 

そう言われると怜は少し考え込む。

 

「む・・・まあ、巡回しないわけにもいかん。

行ってみよう。

仲月は頼む。」

 

「あーっ!

ダメダメ、あたしも行くって言ったから!」

 

「それはダメだ。

風紀委員に任せておけ。」

 

「でも、あたしさらちゃんに約束・・・それに怜ちゃん先輩1人じゃ・・・」

 

「その約束は私が引き継ぐ。

冬樹は戻って、討伐完了の報告を待て。

なに。

私は大丈夫だ。

日ごろから戦いの腕を磨いている。

任せておけ。」

 

怜は龍季を探しに向かった。

 

   ***

 

報道部部室では虎千代が連れてこられ演説の台本を読まされていた。

 

「これを読むのか?

・・・わかりづらくないか。

随分事務的だな。」

 

「士気向上ではなく、事実の通達なのでこれで結構です。

それに会長ご自身の言葉で話されると、正しく伝わらない可能性が。」

 

「そうか?

まあ、副会長が言うならそれでいいか・・・」

 

鳴子が虎千代にマイクを渡す。

 

「どうぞ。

マイクのスイッチはここ。

押しながら喋ってくれ。」

 

「ああ・・・よし。

あー、あー。」

 

虎千代が演説を開始する。

 

「生徒会会長、武田 虎千代より学園生へ通達がある。

クエストに行ってない生徒は、各々作業を止め、聞いてくれ。

現在、学園のバラ園に霧の魔物が現れて、多数の生徒が討伐に赴いている。

人数制限のため、もどかしい思いをしている者もいるだろう。

だが事態はそれをはるかに超えつつある。

噂としては聞いたことがあろうが・・・

ここに、第7次侵攻の発生を宣言する。」

 

風子はその放送を聞き、顔をしかめる。

 

「・・・ついに来やがりましたね。

魔物の人里への出現、学園内への出現。

第6次の時と同じ流れ・・・

となれば次はタイコンデロガですかね?

さー、会長。

どーしましょーね。

あの頃より軍事力、戦力は上がっている。

だから大丈夫・・・

それは果たして、正しいんでしょーかね?」

 

同時刻、コロシアムでは・・・

 

「はぁ・・・はぁ・・・死ぬかと・・・思った。」

 

誠が焔以外のパーティを一人で全滅させていた。

というのも、焔とイヴが二人で戦っていたため、その他の生徒はほったらかし状態。

仕方なく、誠が戦っていたが、イヴ側のパーティは誠とイヴを残し早々に全滅。

そのため、誠が一人で焔以外の生徒の相手をするはめになった。

 

「つーか・・・今の放送・・・」

 

誠が放送のことを気にしているとエレンがやってきた。

 

「お前たち、対抗戦はここまでだ。

非常事態宣言が発令された。

少なくとも3日間、全ての学業活動は停止され、クエストに専念する。」

 

「・・・もう少しだったのに。」

 

「こっちのセリフだ!

あと一撃でアタシが・・・!」

 

そう言っていると、ボロボロの上に血だらけの誠が怒鳴りつける。

 

「やかましいぞっ!

クソガキ共がっ!

こっち放置しやがってっ!」

 

イヴと焔が怒鳴り声に怯む。

すると、メアリーがやってきた。

 

「誠だっけ。

落ちつけよ、気持ちはわかるが。

お前らも口で言いあってどーすんだよ。

えーと、フユキっつったっけか。

さっさと警備に行きな。

こっから精鋭部隊とキョードー作戦だ。

対抗戦で疲れました、なんてイイワケしてみやがれ。

大笑いしてやる。」

 

「・・・気遣い無用です。

開始前にも言いましたが、そのことは心得ています。」

 

「あっそ。」

 

イヴはコロシアムから出て行った。

 

「来栖は詰所に行け。

ミーティング後、クエストを最優先で請けろ。」

 

「・・・・・チッ。」

 

焔も出て行った。

 

「・・・俺も・・・戻るか。」

 

誠は傷を押さえながら、パーティメンバーと共に出て行った。

残ったエレンとメアリーは話し始めた。

 

「ずいぶん嫌みが丁寧だな?

お前の狙いがわかってきたぞ。

お前はあの2人にこれからチームワークを延々と押し付けるつもりだろう。

いや、他の生徒にもだな。

自分を敵にすれば、反感を持つ生徒同士が手を組む可能性もある。

メアリー、お前も随分素直に育ったものだな。」

 

「はぁ・・・・?」

 

エレンの言葉に呆れた声を出すメアリー。

 

「バスター大佐がお前を育てたときの真似をするつもりだろう。

図星じゃないか?

日本の女学生にそれが通じるかどうか、考えてみたか?」

 

「オメー、バカじゃねーの。

んなアホなことしてどーすんだよ。

そんなオッサンのことなんか、とうの昔に忘れっちまったぜ。」

 

メアリーは鼻で笑った。

 

   ***

 

その頃、バラ園。

 

「姫、そういえば、野薔薇について俺はそんなに詳しくないんだ。

ちょっとだけ教えてもらえないか?」

 

「あら、野薔薇のことを知りたいとは・・・

珍しいですね。

いえ、野薔薇のことを知らない方が、です。」

 

「・・・世間知らずなもんで。」

 

すると、姫はため息をつく。

 

「お勉強熱心なのはいいですが、今するようなお話ではないでしょう。

ですから、今は【野薔薇は完璧を以て野薔薇とする】とだけ伝えておきます。

野薔薇である以上、完璧であることが求められます。

勉学にも武芸にも、です。」

 

「どんなことにも完璧・・・ね。

窮屈そうだねぇ。」

 

「窮屈?

そんな馬鹿な。

私は誇りに思っていますよ。

野薔薇は歴史上、特別な役割を担ってきました。

これからもそうです。

与えられる役割が重要であるほど、その責任は重いのですから。

名誉ある野薔薇に完璧が求められるのは当然のことですわ。」

 

「・・・あんたも完璧なのか?」

 

「もちろん私も完璧です。

成績優秀、このようにクエストも・・・」

 

姫は話すのをやめた。

 

「・・・やだ、こうして自慢するのは欠点ですね。

直しておきましょう。

ご満足ですか?

では次です。

この不細工な薔薇をとっちめましょう。」

 

「ああ、了解。」

 

2人は目の前にいる薔薇の魔物に向かう。

魔物が攻撃を仕掛けようとする前に、良介が風の魔法で攻撃する。

その隙に、姫が鞭で攻撃する。

だが、魔物はその攻撃に耐える。

 

「くっ!

こちらの攻撃に耐えるとは・・・!」

 

魔物は姫に攻撃しようとした瞬間、横に真っ二つになった。

いつの間にか良介が後ろに回り込み、剣で攻撃していた。

 

「・・・さすがですね。」

 

姫は少し不服そうにする。

 

「まぁ、そう機嫌悪くするなよ。

次は、そっちが倒せるようにフォローするから。」

 

2人は進んでいった。



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第18話 カウントダウン

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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精鋭部隊詰所に焔と結希がいた。

結希は調査について説明していた。

 

「・・・私は顧問ではないのに・・・まあ、いいわ。

私から説明した方がいいわね。」

 

「・・・・・?」

 

「来栖 焔。

あなたには街まで調査に出てもらうわ。」

 

「・・・調査?」

 

「放送にあったとおり、これまでの出来事は第6次侵攻と同じ・・・

次に発生するのは【タイコンデロガ】。

それが発生する場所は・・・

【霧が払われた場所】。

つまり、ここ最近、魔物・・・ミスティックね。

ミスティックが討伐された場所のどこかに出てくるはずなの。」

 

「・・・で、アタシはネズミとスライムが現れた街か。」

 

「そう。

部隊の他の人たちにも地区を割り当ててる。

タイコンデロガの出現は、大きな霧の塊が予兆。

予習はしてるわね?」

 

「ああ、わかってる。

そいつが出たら、ぶっ倒せばいいんだろ。」

 

「それができないことは、あなた自身がよくわかっているでしょう?

あなたに倒せる程度の強さなら、あなたの家族は死なずに・・・」

 

「黙れ!」

 

結希の発言に声を荒げる焔。

 

「・・・・・次、そのことを喋ったら燃やし尽くしてやるからな。」

 

「・・・とにかく、痕跡を見つけたら会長に連絡して。

生徒会が出るから。」

 

「・・・・・ちっ。

わかったよ。」

 

焔は調査に向かった。

結希は説明を終えたので廊下に出た。

すると、背後から初音が呼んできた。

 

「おおーい、結希ー!

結希ー!

待てよーっ!」

 

「・・・神宮寺さん。

今からタイコンデロガの出現地域を予測しないといけないから。

できれば後にしてもらえる?」

 

「ふふーん。

これなんだ。」

 

初音はデバイスを見せる。

 

「・・・あなたのデバイスね。

学園支給のものじゃなく、JGJブランドの。」

 

「学園のはロゴが違うだけで、ウチが作ってるのは一緒だろー?

ま、大事なのはこの中身中身。

ウチが検討したデータがあるぜ。」

 

「検討?」

 

「タイコンデロガの出現予測地域!

アタシが見たところ・・・

西部の大垣峰の方だな!

結構信頼できるぜぇ?」

 

「・・・大垣峰の方は対象外よ。

あそこは特別だから。

それ、あなたが個人的に技術者に依頼したでしょう?」

 

「えっ。

なんでわかんの?」

 

「上の人間なら、大垣峰が【特別】なのは知っているわ。

あそこにはタイコンデロガが当たり前のうように出て・・・

軍以外は立ち入り禁止になってるって。」

 

「・・・大垣峰が立ち入り禁止?

いつからよ。

聞いたこともないぞ?」

 

「ずっと前から。

大垣峰は政府によって【まだ人がいる】と工作されてる。」

 

「・・・なんで?

タイコンデロガがいるなら、特別危険区域じゃん。

間違って遊びに行っちゃったりしたらどうすんのさ。」

 

「ありえないから、安心して。」

 

そう言うと、結希は去っていった。

 

「なんだよー・・・・・

・・・・・いいこと聞いちゃった。

おーい、沙那ー!

沙那ーっ!」

 

初音はニヤリと笑うと走り去り、沙那を呼んだ。

 

   ***

 

教室にはエミリアとあやせがいた。

 

「魔物の討伐が終わるまで休講・・・もどかしいですね。

バラ園のクエストは人数制限があるとはいえ・・・見ているしかできないなんて・・・」

 

「学園生全員が入ったらパンクしちゃうでしょうねぇ~。」

 

「・・・第7次侵攻。

魔物がたくさん出現するんですね。」

 

「20倍?

だったかしら。

多いのは間違いないわねぇ。

北海道の時もそうだったし。」

 

「・・・魔物が出るというこはそれだけ人々が苦しみます。」

 

「そうねぇ・・・一般の人たちは、戦う力を持たないし・・・」

 

「それだけじゃありません!

魔物になった人々も、苦しんでいるんです!」

 

「・・・あらぁ・・・ああ、エミリアちゃん、イギリスの人だものねぇ。」

 

「日本の方々と考え方が違うことは承知の上です。

ですが私は・・・

魔物になってしまった人たちの苦しみを、終わらせてあげたい・・・!」

 

「まあ、この学園はそういう思想の違いには比較的オープンだから・・・

でも、相手には注意してね?」

 

その頃、バラ園では良介と姫は魔物たちの親玉を探していた。

 

「なかなか根元が見つかりませんわね。

これほど巨大になるまで、この学園の誰も気づかなかったなんて・・・

いえ、違いますね。

私と刀子は毎日バラ園を見ていますから。

自由は・・・まあ・・・たまに・・・見ていたのかしら。」

 

「・・・自由って生徒はそんなに不真面目なのかよ。

ま、問題は魔物は隠れていたのか、成長が速かったのか。

どっちなのかって話だがな。」

 

「どちらというと成長が異常に速かったのでしょうね。

およそ一日。

初めてだらけのことですが、結果はいつも通りです。

私が完全に、魔物を消し去る。

これに変わりはありませんわ。」

 

「(これまでの2体はどっちも倒したの俺なんだがなぁ・・・)」

 

そう良介が考えていると、姫が礼を言ってきた。

 

「良介さん。

正直、あなたには助かっています。

その尽きることのない魔力、七属性の魔法、非常に頼もしいですわね。

その調子で私をサポートしてください。

存分に力を発揮できるよう。」

 

「ああ、わかった。

任せてくれ。」

 

すると、魔物が目の前に現れた。

 

「これが最後の花であることを信じ、今度こそ息の根を止めますよ。」

 

姫は魔物に向かっていった。

良介は風の魔法で魔物の攻撃を潰していく。

姫が魔力を込めた鞭で攻撃する。

が、魔物はその攻撃に耐える。

 

「くっ、なら、もう一撃!」

 

もう一度、攻撃しようとすると魔物がその前に攻撃してきた。

すると、姫の前に良介が立ちふさがり、攻撃を受け止める。

土の強化魔法をかけていた。

 

「姫、今だ!」

 

姫は、良介の肩を踏み台にし、魔物にもう一撃を与える。

魔物はそのまま消滅した。

 

   ***

 

報道部部室に鳴子と夏海がいた。

 

「お疲れ様。

サポート助かったよ。」

 

「それはいいですけど・・・なんか部長らしくない気が。」

 

「強引に情報を暴いていくだけがジャーナリストじゃない。

搦め手も必要だよ?

とりあえず数日前から、僕は野薔薇に探りを入れてる。」

 

「野薔薇?

あの縦ロールの姫様?

なんでまた関係なさそうなところを・・・」

 

「野薔薇君じゃない。

本家の方だ。

軍部の最上部に君臨する・・・

戦の野薔薇だよ。」

 

すると、夏海が驚く。

 

「はぁ!?

戦の野薔薇って・・・姫の実家ですか!?」

 

「そうだよ。

今の日本がなにを警戒してるかはね・・・

この学園のご令嬢が通っている野薔薇、冷泉、神宮寺を調べれば・・・

だいたいわかるようになっている。

虎千代会長が第7次侵攻を宣言したということはだね、夏海。

すでに執行部や政府は動き出しているってことだ。

そして先の御三家は政府や学園と密接なつながりがある。

野薔薇は軍事、冷泉は政治、神宮寺は軍需産業の代表としてね。」

 

「・・・じゃあ、第7次侵攻でどこが襲われるかが・・・」

 

「ある程度目星をつけているだろう。

僕はそれを探ろうと思う。」

 

「で、でもタイコンデロガもニュースですよね!?」

 

「そっちは君に任せる・・・といいたいところだが、あまりにも危険すぎる。

さすがに会長に任せるんだ。

遠くから写真を撮ってあげたまえ。」

 

場所は変わってバラ園。

良介と姫は全ての魔物を倒し終えていた。

 

「お疲れ様でした。

多少てこずりましたが、とどめはさせたようです。」

 

「ああ、無事倒せてよかったよ。」

 

「そんなに喜ぶことではありません。

私が出たのだから当然です。

むしろもっと早く倒す方法があったのではないか、と考えると・・・

まだ完璧だと胸を張って言えるわけではありませんわ。

勝って兜の緒を締めよと申しますし、気を緩める時間はありません。

それが野薔薇 姫のありかたです。」

 

「ま、確かに姫の言う通りだな。」

 

「では戻りましょうか。

学園の皆さんに、安全だと伝えねばなりませんからね。

またバラ園に魔物など出ることがあったら・・・いや・・・

この学園に出ることがあれば、私が戦います。

その時はあてにしてくださいな。」

 

「・・・ま、考えておくよ。」

 

2人は報告に戻った。

その頃、天文部部室。

 

「止めるなーっ!

攻め込まれる前に【組織】の本拠地を攻撃するぞ!

聖戦の始まりだ!

大垣峰に行くぞっ!」

 

「たわけ!

ここから大垣峰までどれだけ時間がかかると思っとるんじゃ!

なんの根拠があるか知らんが、許可なしで行けるわけなかろう!」

 

部室では風槍 ミナ(かぜやり みな)が騒ぎ、恋が怒っていた。

 

「・・・大垣峰ッスか・・・あてずっぽうかな・・・それとも・・・?」

 

「は・・・服部さん、何かご存知なんですか?」

 

「え?

あ、いや、なんでもなくてですね!

おまんじゅうおいしかったなんて・・・」

 

「・・・ああ!

また勝手な思い込みで失礼なことを!」

 

「だーっ!

大丈夫ッス!

大丈夫ッスから!

ね?

アメあげるッスからね?」

 

「・・・あ、ありがとうございます・・・こんなゴミみたいなわたしに・・・

なんとお詫びすればいいか・・・!」

 

「そこはどっちかっていうとお礼だと思うッスけど・・・ん?」

 

「あら?」

 

話していた梓と双美 心(ふたみ こころ)のデバイスに呼び出しがかかった。

 

「・・・・・あ、す、すいません、ちょっと呼び出されました。」

 

「こっちもッスわ。

まー、ぶちょーはふくぶちょーが止めてくれるかな・・・」

 

2人は部室から出た。

心は研究室に来た。

中には結希がいた。

 

「・・・どっちかしら。」

 

「・・・・・?

え、ええと、どちら、とは・・・」

 

「そう。

わかったわ。

とりあえずそこに座って。」

 

心は言われた通りに椅子に座る。

すると、結希は心に近づく。

 

「出てきなさい。」

 

「ひっ・・・・・」

 

結希が呼びかけると心の表情が変わった。

 

「・・・・・

もういいですよ。

宍戸博士。」

 

「もう少し・・・自由に出入りできるようにした方がいいわね。」

 

「そうですね。

いらないときに、【出てこなくていい】ように・・・

今は彼女が集中しているとき、勝手に出てしまうことがありますからね。

あの子にも負担を与えますから、邪魔にならないようにしたいです。」

 

「タイコンデロガの出現場所を特定するために、力を貸して。」

 

「・・・博士にはお世話になっていますから。

断ったりはしません。

けれど、あまり【心ちゃん】を脅かさないでください。

あの子は私の・・・大事な主ですから。」

 

「・・・わかったわ・・・さっそく、とりかかるわよ。」

 

2人はタイコンデロガの出現場所特定にとりかかった。

 

   ***

 

バラ園ではクエストの報告に戻った姫と良介、自由と刀子がいた。

 

「お嬢ーっ。

むっちゃダルいっすよー、明日にしましょうよー。」

 

「今回ばかりは自由と同意見にござる。

魔物退治の後にすぐ修復など・・・

本日はお部屋に戻り、静養なさってくだされ。

我らがやっておきます。」

 

「はぁ!?

我らって、もしかして自分も入ってるっすか!?」

 

刀子が説得しようとしたが、姫は聞こうとしなかった。

 

「ダメです!

ダメです!

このバラ園は我らが園芸部の・・・

なによりこの野薔薇 姫の、最初の責任ある場所なのです!

しかもバラがこんなにも無残に散って・・・見過ごすわけにはゆきません!」

 

「し、しかしまだ魔物が残っているやもしれませぬゆえ・・・!」

 

「刀子に任せます!

見事、私の命を守ってくださいな!」

 

「ぎょ、御意にっ!」

 

「・・・マジで今からするのか?」

 

その状況を見て、呆然とする良介に姫が話しかけてきた。

 

「良介さん!

あなたの実力、とくと見せてもらいました!

その上で正式に申し上げましょう。

あなたを私の伴侶候補とします!」

 

「・・・・・はぁ!?」

 

「げっ!」

 

「げっ!

ひ、姫殿、なんというお戯れを!

あれはほんの・・・」

 

「これまでは遊びだったかもしれませんが、私は決めたのです!

野薔薇 姫にふさわしいのは完璧な伴侶!

良介さんには可能性がある!

もちろんまだ未熟ですから・・・これから本腰を入れ、鍛えて差し上げます!

まずはともにバラ園の再建から!

野薔薇の家紋はバラですから!」

 

「え、えぇ・・・俺もするの?

つーか伴侶候補って、まだ早いんじゃ・・・」

 

姫は良介の言葉を無視し、スコップを渡してくる。

 

「さあ、良介さん!

一緒にやりますよ!

スコップを持ってください!」

 

「・・・・マジか。」

 

その状況をアイラは屋上から見ていた。

 

「・・・あいつらナニやっとんじゃ。

のんきすぎて逆におもろいのう。

戦闘中で校内放送をきいとらんかったかの?

ま、どっちでもええわ。

良介・・・本人は気づいとらんが、やっぱなんかあるのう・・・

フフフ、まぁ妾の時間は余っとるけんの。

じっくり調べさせてもらうぞ。」

 

その後、バラ園が完全に戻るまでやらされた良介は寮に戻ろうとしていた。

もう夕方である。

 

「つ・・・疲れた。

早く帰ろう・・・」

 

噴水前まで来て、帰ろうとしたが体がうまく動かなかった。

 

「あ、あれ?

おかしいな・・・なんでこんなに体が重いんだ・・・」

 

不思議に思いながら、帰ろうとしたがちょっとした段差に引っかかってしまった。

 

「あっ・・・」

 

倒れそうになったが誰かが受け止めた。

 

「・・・こんなことだろーと思ってました。」

 

受け止めたのは風子だった。

 

「・・・風子?」

 

「良介さん、ちょっと無理しすぎなんじゃねーですか?

クエスト受けて、訓練して、またクエスト・・・

いつか体壊しちゃいますよ?

少しでもいいので休憩したらどーですか?」

 

「・・・そう言われてもな・・・」

 

「・・・なにを急いでるんですか?」

 

「え?」

 

「なんでそこまでして早く魔法を上達しようとしてるんですか?

なにか理由でも?」

 

「・・・・・・」

 

理由は簡単、自分が封印した能力だ。

魔法のことをなにも知らない状態で使った封印魔法。

不完全なものかもしれない、いつか解けるかもしれない。

そういった不安から早く上達しようと良介は必死になっていった。

そしてそのことをまだ誰にも言っていなかった。

 

「・・・ま、詳しくは聞かねーですけど、息抜きも必要ですよ?

今回はウチが寮まで送りますけど、無理はしねーでくださいよ?

あんたさんが倒れたら悲しむ人が多いんですから。

そこらへん、意識してくだせー。」

 

「・・・ごめん、できるだけ気をつけるよ。」

 

良介は風子に体を支えてもらいながら寮に戻った。




人物紹介

風槍 ミナ(かぜやり みな)13歳
魔法学園の風槍ミナとは仮の姿。
本当は疾風の魔法使いミナ・シルビィアンド・ウィンドスピア。
円卓の騎士をアヴァロンに集め、世界を暗躍する【組織】と戦いを繰り広げているのだ・・・
という設定を頑張って作り上げた中二病患者。そういうのがカッコいい年頃。

双美 心(ふたみ こころ)16歳
様々なガジェットを携帯する電子少女。
加害者意識が尋常でなく、なにかあれば土下座で他生徒をヒかせている。
どんなことにも謝る理由を見いだすのはもはや才能といえるだろう。
PCに熱中しているときは別人のように落ち着いているという。


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第19話 オーシャンパラダイス

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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グリモアの学園生は海に来ていた。

良介と誠は海を眺めていた。

 

「・・・良介。」

 

「・・・なんだ?」

 

「海だな。」

 

「・・・そうだな。」

 

「海といえば、なんだ?」

 

「・・・・サーフィン?」

 

良介がそう答えると、誠は首を横に振る。

 

「わかってねえな。

海と言えば水着!

そして、グリモアには女子が多い!

そうきたら・・・もうわかるよな?」

 

「・・・女子の水着か?」

 

「そう!

今こそ目の保養の時だぜ!」

 

「・・・俺ら警備に来てるんだがなぁ・・・」

 

そう話していると、ゆかりが学園生に呼びかける。

 

「みんなー、集合してー。

今から説明するからねー!」

 

「説明?

何の?」

 

水着に着替えた里奈がやってきた。

 

「あれ?

リナちゃん、なんでもう水着に着替えてるの!?」

 

「ゆかりはなんでまだ着替えてないのだ?」

 

「えっ・・・だってまだ、更衣室開いてないし・・・

ご、ゴホン!

とりあえず説明するわ!」

 

ゆかりは説明を始めた。

 

「えー、いちおう今回は【浜辺の警備をするクエスト】です。

遊びに来たわけではないので、そこのところ、注意してください。」

 

「えーっ!?

だってだって、それはタテモノでジッサイは旅行だって・・・」

 

「タテマエだから、注意しなきゃいけないの。

なにしてるんですかって聞かれたら、ちゃんと【警備中です】って答えてね?」

 

すると、怜がゆかりに話しかける。

 

「なあ、椎名・・・どうしても水着じゃなきゃいけないのだろうか。

警備なら制服でもいいと思うんだが。」

 

「魔法学園の生徒が制服でうろうろしてたら、余計な心配させちゃうからね・・・」

 

「そうか・・・そ、そうだな・・・うん・・・

・・・肌をさらすのか・・・」

 

「それじゃあ、いったん解散しまーす。

みんな楽しんでね!」

 

水着に着替えた良介は適当に歩こうとする。

 

「誠、お前どうするんだ?」

 

「俺は・・・これで色々と・・・うへへ。」

 

同じく水着に着替えた誠はデジカメを構え怪しい笑みを見せる。

 

「・・・・・風紀委員に見つからないようがんばれ。」

 

そのまま走り去っていく誠の後ろ姿を見送る。

気づくと、隣にミナがいた。

 

「ま、まさか天文部から我とサーヴァントだけが抽選を通るとは・・・

こんな時に【組織】の連中が攻めてきたら、我が1人で戦わなければならん・・・!」

 

「誰がサーヴァントだ。

あと、俺は天文部に入った覚えはないぞ。」

 

ミナに怜が話しかける。

 

「風槍、よかったら私と見回りしないか。」

 

「ふぇっ!?

お、お前は神の巫女!

急になにを・・・!」

 

「少し寂しそうにしていたからな。

南条たちと一緒がよかっただろう。

その・・・私は泳げないから、ずっと浜辺を見回っているんだ。

私では心もとないかもしれんが、せっかく同じクエストを請けてるからな。

協力して悪いことはない。

どうだ?」

 

「(怜って泳げないのか・・・)」

 

「あ・・・あ、ぅ・・・な、なんともないわ!

我が心配しているのは・・・

我がいない学園に【組織】の連中が来たら、残りの騎士だけでは、その・・・」

 

「【組織】の話は南条から聞いている。

ならば、仮にここに攻めてきた場合・・・

私は役に立つと思うぞ?」

 

「えっ!?

あ、うん。

そうだな・・・あ、でも・・・ええと・・・」

 

「まあ、良介だけで十分というなら無理強いはしないが。」

 

「あ、そ、そんなことないけど・・・」

 

「普段はあまり話さないしな。

気が向いたら声をかけてくれ。

私はその辺を見回っている。

いつでも駆けつけるぞ。」

 

そう言うと、怜は見回りに向かった。

 

「・・・・・

ふ、フハハハ!

我の眷属になりたいというなら、考えておこう!

だが、今すぐ我らの戦いに巻き込む必要はない。

2人で十分だ!

そうだな!?

・・・そうだな・・・?」

 

「・・・本当は寂しいんじゃねえの?」

 

「・・・さ、寂しくなんかないったら!」

 

   ***

 

ミナと別れ、そこから良介は少し歩くと、海の家があった。

海の家でももが忙しそうにしていたので手伝うことにした。

手伝いながら誠のことを思い出し、浜辺を見てみると、誠は風紀委員3人に追い掛け回されていた。

 

「・・・なにやってんだあいつ。」

 

必死に逃げようしていたところ、浜辺でこけていた。

頭から見事な鯱になっていた。

デジカメを押収され、連行されていくところを見送ったあと、再び手伝いを続けた。

すると、浜辺にいたノエルがこっちにやってきた。

 

「あー、あっつい。

砂浜で遊ぶ・・・じゃなくって、警備のお仕事ってキツイなぁ・・・

あ、ももちゃん先輩。

ジュースください!」

 

「はい、どうぞー。

見回りお疲れ様。

暑いなか大変だねぇ。」

 

「見回りっていっても、遊んでいるようなものだし・・・すごい暑いけど。」

 

「なんか今日、九月とは思えない暑さらしいよ?

熱中症には気をつけてね。」

 

そう、今はまだ九月。

だが、想像を絶する暑さだ。

 

「ももちゃん先輩も、海の家配置ってことはすごく忙しいんでしょ?

あたしは普段から運動部の助っ人に行ってるから、対策はできてるし・・・

ももちゃん先輩も気をつけてね?」

 

「まあ、自分からやるって言ったし・・・それにバイトで接客は慣れてるからね。

良介先輩も手伝ってくれるから、ぜんぜん辛くないよ!」

 

「そうなんだー・・・あたし、バイトで働いたことないからなー。

ももちゃん先輩、きつかったらいつでも呼んでね!

みんなのサポーター、ノエルちゃんがお手伝いするよ!」

 

「あはは、ありがと。

追いつかなくなったらお願いね。」

 

ノエルは再び浜辺に向かった。

 

「良介先輩も、手伝ってくれてありがとうございますね。

とっても助かってるんです。

さすがにお昼が近くなると人が多いので・・・

よかったら、先輩たちも海の家でご飯食べて行ってくださいね!」

 

「ああ、その時はそうさせてもらうよ。」

 

「喜んで!」

 

いつの間にか誠が良介の後ろにいた。

 

「・・・お前捕まってたんじゃ?」

 

「逃げ出してきた。」

 

と、風紀委員が誠を探しにやってきた。

 

「やべ・・・良介、またあとで!」

 

誠は走って逃げたが、速攻見つかり、瞬く間に連行されてしまった。

 

「・・・何がしたいんだあいつ。」

 

   ***

 

砂浜にゆかりと雪白 ましろ(ゆきしろ ましろ)がいた。

 

「沖へおいきましょう。

フフ・・・」

 

「ゾクッ・・・ゆ、雪白さん、沖まで泳げるの?

凄いわね・・・」

 

「私は雪女。

もちろん海を凍らせて、歩いていきます。」

 

「そ、それはダメよ!

凍らせるって魔法をつかうんでしょ?

普段のクエストと違って、魔物が確認されるまで魔法禁止なんだから。」

 

「心配することはなにもありません。

フフ・・・大丈夫です。」

 

「心配しなくてもいい要素がどこにもないんだけど・・・」

 

「ほら、あそこに足のつった人がいますよ。

お急ぎください。」

 

ましろが海を指差す。

その先におぼれている人がいた。

 

「え?

あ、お、おぼれてる!」

 

「一部凍らせますから、その間に救助をお願いしますよ。」

 

「そ、そうね!

あ、でも・・・し、しかたないわ・・・!

凍傷にならないように気をつけてね!」

 

ゆかりがおぼれている人のところに向かった。

 

「はい。

もちろんです。

それ。」

 

ましろは海を凍らせる。

 

「・・・魔法使いは、なにかと魔法に頼りがち。

もちろんその方が確実で早いとなれば、使わない手はありませんが。

・・・クラゲが多い時期ですし、やはり沖に行きましょう。

刺されないように、氷の船で。

フフ・・・」

 

その様子を良介は風子と海の家で昼ご飯を食べながら見ていた。

 

「・・・おい、魔法使ってるぞ。

いいのか?」

 

「助けるためには使わなきゃ間に合いそーにねーんで、あの場合、しかたねーです。」

 

「ま、確かにそうか。

・・・氷の上で全力疾走してんの、誠か?」

 

「誰か走ってますね。

けど、あの速度で走ったら・・・」

 

凍らせた海の上を誠が全力疾走していた。

おぼれた人を助けに向かっているのだろう。

と・・・

 

「「あっ。」」

 

良介と風子が同時に声を出す。

誠は綺麗にずっこけた。

後頭部を強打し、気絶しているのか大の字のままピクリとも動かない。

 

「・・・こけるの、目に見えてたろ。」

 

「必死だったのか、なにも考えてなかったのか。

どちらかは知らねーですが・・・バカですね。」

 

その頃、ももはようやく昼休みになったので、良介を探そうとしていた。

 

「ふぅ、やっとお昼休みー。

良介先輩、どこかで休んでたりしないかなー・・・」

 

すると、里奈がもものところにやってきた。

 

「ももー、ももも昼休み始まったかー!?」

 

「リナちゃん!?

さっき、凄く沖の方まで泳いでなかった?」

 

「そうさー。

あの岩にタッチして戻ってきたのだ。」

 

里奈は海の向こうを指差す。

 

「あの岩・・・って、どこに岩があるの・・・?

遠くに島みたいなのは見えるけど。」

 

「あれ、島じゃなくて3階建てくらいの岩だぞ。」

 

「3階建て!?

それがあんなに小さいって、どのくらい遠いの?」

 

「さあ・・・そんなに遠くなかったぞ?

クラゲが多くて泳ぎにくかったけど。」

 

「そ、そうなんだ・・・凄い・・・」

 

「ももも行ってみるか?

あそこが遠いなら、あっちの近い・・・あれ?」

 

「どうしたの・・・?」

 

ももと里奈はおぼれている人に気づいた。

おぼれている人の周りがどんどん凍っていく。

 

「あっ。

おぼれてる人が・・・!」

 

「あーあー、周り凍らせちゃってるのだ。

あんなところ、リナならすぐなのだ!

クラゲに刺されてるかもしれないから、消毒液とか用意しといてくれ!

おぼれてるヤツ助けるのは力が必要さ!

リナが行ってくるのだ!」

 

「うん、救急セット、持ってきておくね!」

 

里奈は海に、ももは救急セットを取りに向かった。

 

   ***

 

ももは戻ってきたゆかりに話しかける。

 

「椎名先輩、大丈夫ですか?」

 

「あ、うん・・・雪白さんのおかげで海草やクラゲが絡まったりしなかったし・・・

途中でリナちゃんやライフセーバーの人たちが助けに来てくれたし・・・」

 

すると、怜がやってきた。

 

「す、すまん。

私も行こうとしたんだが・・・ノエルに止められて・・・」

 

「あ、大丈夫大丈夫。

ミナちゃんと一緒に救護スペースまで運んでくれたんだし。

私、泳ぐだけで疲れちゃって回復魔法使えなかったから・・・慌てるとダメね。」

 

ちなみに、誠は良介と風子が救護スペースまで運んでいった。

今度は里奈がやってきた。

 

「最初にゆかりが支えてたおかげで、あんまり水飲まなくてすんだんだぞ。

みんなに感謝してたし、大丈夫さぁ。

最初に飛びこんだのゆかりだもんな。」

 

「最初に気付いたのは雪白さんだからね・・・でも、ありがとう。

みんなのおかげで、大事に至らずにすんだわ。」

 

「椎名先輩も、海の家で休んでください!」

 

「そうさせてもらおうかな。

ごめんね、迷惑かけて。」

 

「大丈夫です!

今はピークも過ぎて、お客さんも少ないですから。」

 

と、ノエルがやってきた。

 

「じゃあ、あたしが付き添ってるよ。

運動疲れの対応はバッチリだしね!」

 

「あはは、ありがとね。

お世話になるわ。」

 

ゆかりはノエルと海の家に向かった。

その後、何事もなく夕方になった。

 

「はーい、じゃあみんな、集まってー!

バス出発しちゃうよー!」

 

ゆかりがみんなに呼びかける。

 

「・・・良介。」

 

「どうした、誠。」

 

「・・・俺、今日の記憶、ほとんどないんだけど・・・

気付いたらデジカメ無いし・・・」

 

「・・・たぶん、氷の上で頭強打したからじゃね?

あと、デジカメなら風紀委員が持ってたぞ。

・・・風子がデータ全部消したって言ってたが。」

 

「・・・そういやそんなことが・・・って!

消したっ!?

全部!?

全部無くなったのか!?」

 

「初期化したって言ってたぞ。」

 

「・・・・・俺の・・・夏の思い出が・・・」

 

誠がうなだれながらバスに乗り込む。

 

「へっへー、一番乗りだよ!

先頭のちょっと高い所に座ろっと!」

 

「あーっ!

ノエル!

ずるいのだ!

そこはリナの場所だーっ!」

 

「・・・元気だなー、おい。」

 

ノエルと里奈が乗り込む。

 

「・・・とても・・・元気だな。

私は歩き回ってまいってしまった・・・」

 

「フフフ・・・お疲れ様です・・・」

 

「・・・なんか・・・体がだるい・・・眠い・・・こ、これは【組織】の・・・

むにゃむにゃ・・・」

 

「ミ、ミナちゃん、大丈夫?

ステップから落ちないようにね!」

 

怜、ましろ、ミナがバスに乗り込む。

 

「これでみんなかしら?

今日はお疲れ様。」

 

ゆかりがバスに乗り込んだ。

風紀委員たちは別のバスに乗っている。

 

「・・・風紀委員と同じバスじゃなくてよかったな。

なぁ、誠。」

 

良介が外から窓際にいる誠の方を見ると、誠は泣き寝入りしていた。

相当、悲しいらしい。

 

「・・・そっとしておくか。」

 

良介がバスに乗り込もうとするとももが話しかけてきた。

 

「良介先輩、今日はとっても楽しかったです!

あ、クエストだったんで、楽しいっていうのはダメなんでしょうか・・・

でも、とってもいい思い出ができました!

みんなや先輩と・・・こんな風に海にこれることができて、とっても嬉しいです。

またこんな風に、みんなで遊べたらいいですね。」

 

「・・・そうだな。

こういうクエストが来たら、またできるだろうさ。」

 

良介は窓際で泣き寝入りする誠を見る。

 

「・・・良介先輩とも、たくさん思い出を作れたら嬉しいです。」

 

「ん?

俺と?」

 

「えっと・・・それで・・・なんていうか・・・

ありがとうございました。

でいいのかな・・・?

え、えへへ。」

 

「・・・それでいいんじゃないかな?」

 

「なんだか思いつかないんですけど・・・あ、みんな待ってますね。

ちょっとさみしいですけど、帰らなきゃ、です。」

 

「・・・ああ、帰ろうか。」

 

「それじゃ、行きましょうか。」

 

良介とももはバスに乗り込んだ。




人物紹介

雪白 ましろ(ゆきしろ ましろ)17歳
1人でダジャレを呟いては1人で笑っている、ちょっと怖いお姉さん。
あまりにもサムいので雪女と呼ばれている。
雪だるまを家族と言い張ったり無意味に魔法を使ったり、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
謎の多い生徒。


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第20話 肝試し

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


海の警備から1週間後・・・

良介と誠は鳴子に呼ばれ、報道部部室に来ていた。

 

「あのー、俺たちに何の用ですか?」

 

良介が鳴子に尋ねる。

 

「ああ、君たちにちょっとお手伝いを頼みたくてね。」

 

「手伝いですか・・・俺らにどんな手伝いを?」

 

恐る恐る質問する誠。

 

「実は今日の夜、肝試しをするんだ。

と言っても、本当の肝試しじゃなくてお化け屋敷みたいなものだけどね。」

 

「・・・それってつまり?」

 

良介がなんとなく予想がついていたが、聞いてみた。

 

「うん、お化け役が足りないから君たちに協力してもらおうと思ってね。」

 

そして夜・・・

学園の廊下に白い着物を着た鳴子と肝試しに来た生徒たちがいた。

 

「さて、第一陣が出発したね・・・順番がまだの生徒は怪談をつづけようか?」

 

「も、もういい・・・もうやめろ・・・これ以上すると我は、かっ、覚醒しゅてまう・・・」

 

ミナは明らかに怖がって涙目になっている。

 

「この学園には使われていない教室があるんだが・・・そこに・・・」

 

「ひ、ひいいぃいい!

やだやだ、やめろー!」

 

ミナが思いっきり後ずさりする。

と・・・

 

「あいたぁ!」

 

後ろにいた心にぶつかってしまった。

その頃、すぐ近くで初音と良介がいた。

 

「・・・もうそろそろ、か。」

 

ため息をつく良介。

その後ろで初音が愚痴を言っている。

 

「くっそ・・・涼しい顔しやがって・・・なにが怪談だよ、ばーか!

遊佐め・・・よくもアタシの肝試し特化型デクを乗っ取りやがって。

ま、まぁけしかけたのはアタシだけど・・・開始前の軽いお茶目だっつーのに・・・

風紀委員にチクってやったけど、なんとか一泡ふかせてやりたいぜ。」

 

「(今風紀委員にチクったって言わなかったか?

なんか嫌な予感が・・・)」

 

良介が初音の発言を気にしていると、初音が話しかけてきた。

 

「おい、アンタ誰かと行くの?

ちょっと来いよ。

面白れーことしようぜ。」

 

「え?

いや、俺これからすることが・・・」

 

すると、初音の後ろから鳴子がやってきた。

 

「おやおや、神宮寺君。

相変わらずイタズラの相談かい?」

 

「ギクッ!

遊佐、鳴子・・・」

 

「ふふ、僕も仕掛け側だし、人のことをとやかく言えないがね。

良介君、そろそろお願いできるかな?」

 

「了解・・・はぁ、どうしてこんなことに・・・」

 

良介がため息をつきながら持ち場につこうとする。

 

「は?

こいつはアタシと一緒に来るんだよ。

な?」

 

「・・・いや、俺何も言ってないんだけど。」

 

「・・・まあ、彼が決めることだ。

どっちに行っても構わないよ。」

 

「(どっちに行っても嫌な予感しかしねえ・・・)」

 

そう思いながら、結局鳴子の方に行く良介だった。

 

   ***

 

廊下に千佳と天冠をつけた梓がいた。

 

「みんなダサイわよねー。

こんな子供だましじゃん。

何が怖いんだろ。」

 

「おー?

まみやん先輩、余裕ッスね。」

 

「でしょ?

ウチはこの機会にちょっと実験をねー?

ふふん。」

 

「あれです?

いつものモテる方法ッスか?」

 

「ち、ちがうって!

なに言ってんの?

やめてよね!」

 

「ホホォン・・・ま、そういうことにしとくッス。」

 

梓は怪しい笑みを見せる。

 

「つーかハットリ、あんたお化け役じゃん!

持ち場に帰んなよ。」

 

「いいじゃないスか。

ずーっと隠れてんのヒマなんすよー。」

 

「お化け役がそんなでどうすんの?

本気で怖がらせてくんないと・・・」

 

「くんないと?」

 

「・・・た、楽しくないでしょ。

いろいろと。

怖ければ怖いほどいいんだからね。

マジで脅かしてよ。」

 

「だいじょーぶッスか?

まみやん先輩、心臓止まっちゃわないですか?」

 

梓はまた怪しい笑みを見せる。

 

「んなわけないでしょ!

ウチはこういうの平気だもん。

要するに組む相手がドキドキすればいいのよ。」

 

「ははあ・・・あれッス?

吊り橋効果ッスか?」

 

「なっ、ばっ・・・ちげーし!

んなモン試すわけないでしょ!」

 

「まみやん先輩って意外と古典的なんスよね~。

カワイイ~。」

 

「いいから早くいけっ!

ばかっ!

忍者っ!」

 

「まぁ忍者ッスけど。

んじゃ、行ってきまーす。」

 

梓は持ち場に向かった。

 

「・・・マジビビった・・・鋭すぎでしょ・・・やっぱ忍者だからカンがいいのかな・・・?

さて、あいつどこ行ったんだろ。

つかまえないと。」

 

千佳は笑みを見せながら去っていった。

 

   ***

 

暗い廊下を天文部のメンバーが歩いていた。

 

「わ、我の右目が、うじゅくのだぁ・・・ひぐっ・・・ここにいてはならん・・・」

 

「お主が来たいと言ったんじゃろうが。

ほれほれ、さっさと歩け。」

 

進もうとしないミナの背中を押す恋。

 

「心、すまんのう。

ミナがこれじゃ、先に行ってくれるか?」

 

「えええぇ!

わ、わわ、わたし先頭ですか!?」

 

「あ・・・前方に人の反応があるわ。」

 

立華 卯衣(たちばな うい)が何かに反応した。

 

「ひ、人の反応って・・・先に行った人の反応ですよね?

そうですよね・・・?

 

「先発のグループは複数人で行ってるはず。

反応は1人。」

 

「ひ、ひいいいぃ・・・!」

 

「大丈夫じゃ、どうせおどかし役の・・・」

 

と、突然どこかともなく梓がいきなり現れた。

 

「わあああああああああああっ!」

 

「ふぎゃああああああああああ!」

 

「・・・なんだ梓か。」

 

ミナは驚いたが恋は驚かなかった。

 

「あっはっは、いやー、どうッスか?

みんな楽しんでます?」

 

「あ、あわわ・・・ミナちゃんが・・・」

 

腰を抜かし座り込むミナ。

 

「・・・・・」

 

「ミナ、梓じゃぞ。

怖くないぞー。

しっかり立たんか。」

 

「梓じゃない・・・梓じゃないぅ・・・」

 

「あ?」

 

「もう1人いたんだ・・・あ、あそこ・・・」

 

ミナが梓の後ろを指差す。

 

「え・・・誰もいないですけど・・・」

 

「い、いたの!

我は確かに見たの!

あそこにもう1人いたのっ!」

 

「はて・・・梓、お主以外に誰かいたかの?」

 

「いや?

1人でしたけど。」

 

「うそだ!

絶対にいた!

ああああんなのは、風紀委員かなんかだろ!?

そ、そう風紀・・・【組織】のやつらだ!

そうに決まっている!

そうだな梓!?」

 

パニックになっているミナ。

 

「まったまた~。

風紀委員にはナイショのイベントっすよ~?

そんなわけ・・・

・・・・・まさか・・・ねぇ。」

 

その頃、良介は・・・

 

「・・・はぁ、なんとかここまで来たグループは脅かすことに成功してるが・・・

気が重いなぁ毎回。」

 

天冠をつけ、教室のドアの下で座ってスタンバイしていた。

 

「しかし、初音の発言・・・もしやだが風紀委員が動いてるわけ・・・ん?」

 

突然、良介のデバイスのバイブが鳴った。

誠からのもあっとが来ていた。

 

「なんだなんだ、本物のお化けを見たとか言い出すんじゃないだろうな。」

 

そう軽く笑いながらデバイスを見た良介から笑みが消えた。

 

「・・・は?

【風紀委員長がいた】?

・・・おい、なんの冗談だ。」

 

すると、誠から電話がきた。

 

「もしもし。

おい、なに冗談言ってんだ誠。

あと、電話かけてくんなよ。」

 

「マジなんだよ!

今さっき、すぐ近くを水無月が通っていくの見たんだよ!」

 

小声だったが興奮しているのがわかる。

 

「・・・本当か?

もしそうだとしたら、俺たちやばくないか?」

 

「やべえよ!

このままだったら俺ら懲罰房かもしれねえぞ!」

 

「うーん・・・何かしら手を打たないとな・・・」

 

「とりあえず、また何かあったら電話するから!

それじゃ!」

 

誠は電話を切った。

良介はデバイスをポケットに入れると、ドアの窓から廊下の様子を見る。

 

「・・・鳴子さんと梓に伝えるかな。」

 

   ***

 

「ん~・・・やっぱぶちょーが見たのって、水無月いいんちょですよね?

見間違いじゃなかったか・・・どっから漏れたんだろ、今日のこと。

・・・どうしますかねー。

風紀委員と鉢合わせは避けたいけど・・・」

 

梓が1人で悩んでいると、鳴子がやってきた。

 

「やあ、服部くん。

順調かい?」

 

「どーも、遊佐先輩。

もう全員出発したんスか?」

 

「ああ、あとは帰ってくるのを待つだけさ。

ところで・・・

服部君。

この肝試しはいわゆる反体制側のものだけど・・・

君の立場上、なかなか面倒じゃないのかい?」

 

「・・・遊佐先輩、相変わらずグイグイ来ますねー。

今その話はやめましょーよ。

楽しいイベントごとなんですから。

ぶちょーは自分がちゃんと見張ってますし、そこは目をつぶってもらって。」

 

梓は笑みを見せる。

 

「まあ、こちらとしても手伝ってくれるのは助かるんだけどね。

さすがの君以外の風紀委員にウロつかれると、楽しいイベントも台無しだ。」

 

「・・・あ?

知ってたんスか。」

 

「どこから漏れたんだろうね?」

 

鳴子は不敵な笑みを見せる。

 

「・・・自分は知らないッスよ。

遊佐先輩のほうが詳しいんじゃないスか?」

 

「そんなことはないよ。

疑っている人物はいるけれどね。」

 

「・・・えーと・・・もしかして疑われてます?

自分。」

 

「・・・みんな楽しんでいるし、鉢合わせなければいいんだが。

そろそろ僕は戻るよ。

折り返した生徒達を待ってなくちゃね。」

 

鳴子は持ち場に戻っていった。

 

「・・・・・お前がなんとかしろっつーことっすね。」

 

その頃、廊下を風子が1人で歩いていた。

 

「・・・はー、毎年恒例ってのは知っちゃいましたが遠慮のねーこと・・・

いくらイベントだからってはめをはずいしたらいけませんよ。

ま、今年は運が悪かったと思ってあきらめていただきましょーかね。」

 

すぐ近くの教室に入った。

 

「・・・え?」

 

そこに悪魔の格好に天冠をつけた誠がスタンバイしていた。

 

「おやおや、誠さん。

こんなこところでなにしてんですかねー。」

 

「あ・・・えっと・・・」

 

「居残り許可、とってるんですかー?」

 

満面の笑みを見せながら近づく風子。

 

「・・・・誰か助けてくれええええぇぇぇぇ!!」

 

誠の声は残念ながら誰にも届かなかった。

その頃、良介は梓と机でバリケードを作っていた。

 

「よし、これでいいな。」

 

「いやー、先輩に手伝ってもらわなかったらどうなってたことか。

これでこっちからは来ないはずです。

じゃ、天文部のみんなが来たら、下の階に誘導してください。

頼んだッスよ。」

 

「おう、任せろ。」

 

そういって梓は持ち場に戻り、良介はスタンバイする。

 

「誠のデバイスがずっと音信不通なのが気になるが・・・ま、いいか。

この梓からもらった火の玉でビビらすかな。」

 

と、後ろから風子がやってきた。

 

「・・・・・おやまぁ。

ごたいそーな火の玉が飛んでると思ったら、アンタさんでしたか。」

 

「・・・いっ!?」

 

「よくやりますねぇ。

ま、鉢合わせたのが運の尽きだと思って下さい。

許可なく深夜で校舎で遊ぶのは校則違反。

誠さんと同じく懲罰房行きです。」

 

「(誠・・・お前、捕まったのか・・・)」

 

と、天文部がやってくる声がしてきた。

 

「げっ!?

やばい、このままじゃ・・・ええい、風子、悪い!」

 

「へ?

何を・・・きゃっ!?」

 

風子の手を引っ張り教室に引き込む。

 

「なに考えて・・・むぐっ!?」

 

「(静かに!

他のやつに見つかったらやばいから!)」

 

風子を抱え込み、手で口を閉ざした。

そして、デバイスで梓にもあっとを送る。

 

「(すまん、風紀に捕まった。

後は任せた、と。)」

 

そして、天文部が行った後、風子から手を離す。

 

「ぷはっ・・・まったく何するんですか。

襲われるんじゃないかと思ったじゃねーですか。」

 

「悪い、見つかるわけにはいかなかったからな。」

 

「ま、いーです。

それよりも、覚悟できてますか?」

 

「・・・ああ、懲罰房でも何にでもするがいいさ。」

 

「それでは懲罰房・・・にしようかと思ってたんですが・・・

いーこと思いついちゃいました。」

 

風子は怪しい笑みを見せる。

 

「・・・なんだよ、いいことって。」

 

「アンタさんにウチの頼みごとを聞いてもらおうかと思いまして。」

 

「頼みごと?

なんだよ。」

 

「ええ、それはですね・・・」

 

   ***

 

その頃、梓は・・・

 

「さてと、いいんちょはこっちに来てるはず・・・」

 

良介がいる方向とは反対の廊下に来ていた。

と、いきなり卯衣が話しかけてきた。

 

「・・・服部さん。」

 

「うひゃああああぁっ!

・・・あ、あれ!?

立華せんぱ・・・え?

なんで?」

 

「順路はこっちでしょう?

もしかして間違えたかしら。」

 

「・・・ってことは・・・げ、良介先輩の方にいいんちょが・・・」

 

「間違っているなら教えてほしいのだけど、どっちに進んだらいいかしら。」

 

「え!?

そ、そうッスね・・・とりあえずこっちに・・・」

 

と、梓のデバイスのバイブが鳴った。

 

「へ?

なになに・・・【すまん、風紀に捕まった。

後は任せた。】

・・・立華先輩、やっぱあっちです、あっち!」

 

「わかったわ。

風槍さん、あっちよ。」

 

「やだぁぁ・・・あっち理科室こわいいぃ・・・」

 

「まったく・・・じゃあ迂回するかの?

もうそっちの方が早いじゃろ。」

 

「わかったわ。」

 

天文部は良介と風子がいる方向へ行こうとする。

 

「だぁーっ!

ダメ!

みんなこっち来ないで下さいッスー!」

 

その頃、良介と風子は・・・

 

「・・・そーゆーわけで、お願いできますかね?」

 

「・・・まぁ、それぐらいなら別に。」

 

「それじゃ、おねげーします。

・・・そろそろ全員ゴールしやがる頃ですかね?」

 

風子が近くの時計で時間を確認する。

時間は9時半を回ったところだ。

 

「そうだな、もうゴールしてるはずだろ。」

 

「あとは解散するだけですし、ここまでにしておきやしょーか。

すぐ帰らねー生徒は注意する必要がありますが・・・ん?」

 

風子のデバイスが鳴り始める。

 

「はいはい。

あ、氷川。

どーしました。

今?

校舎にいますよ。

ああ、学園のほーでね、ちょっと生徒が夜遊びしてたんで。

あーあー、来なくてへーきです。

ウチが指導してます。

悲鳴?

・・・そんなに響いてました?

ま、大した事じゃねーですから。

いやね、オバケのふりしておどかしてやったんですよ。

ふっふっふ・・・

効果てきめんです。

天文部の部長が腰抜かしてビビってましたからね。

あれだけおどかされりゃ、当分夜の学園に来よーなんて思わねーでしょ。

見回りがない日ぐらいゆっくりしなさい。

はい、はいはい。

それじゃ。」

 

デバイスの電話を切ると風子はため息をつく。

 

「・・・ふー、氷川が来たらまた大騒ぎになりますよ。」

 

「氷川か・・・学園にいる全員が懲罰房にされそうだな・・・」

 

「加減は大事ですが、たまーのガス抜きは必要です。

ま、委員長の邪魔した服部には、やんわり釘さしておきやしょーかね。」

 

風子は良介の方を向く。

 

「それじゃ、良介さん。

ウチの頼みごと、おねげーしますよ?」

 

「はいはい、わかったよ。

明日あたりだな?」

 

「そです。

そんじゃ、明日たのんますよー。」

 

   ***

 

鳴子たちが生徒全員が戻ってきたのを確認する。

 

「いやぁ、一安心です。

みんな楽しかったみたいッスね。」

 

「服部君、お疲れ様。

大活躍だったじゃないか。」

 

「・・・おかげでグッタリですよ。

もー肝試しはこりごりッスね・・・」

 

すると、初音がやってきた。

 

「おい遊佐っ!」

 

「ん?

神宮寺君じゃないか・・・その様子じゃ、ずいぶん楽しんだみたいだね。」

 

「うるっせえ!

お前はなんで来なかったんだよ!」

 

「なんでって言われても・・・僕は仕掛け側だからね。

ほぼ受付にいたよ。

・・・もしかして、ずっと僕のことを待っててくれたのかい?」

 

「くっそ・・・んなワケねーだろ!

このキツネめ、いつか泣かしてやるからね!」

 

と、突然春乃が現れた。

 

「遊佐。

カメラ返す。」

 

「ひっ・・・!」

 

春乃に驚き、後ずさりする初音。

 

「あぁ、赤外線のヤツか。

いい写真は撮れたかい?」

 

「被写体がいいからね。

でもやっぱりお日さまの下の秋穂が一番可愛いわ。」

 

すると、秋穂がやってきた。

 

「・・・あれ?

遊佐先輩ってあっちのほうにいませんでした?」

 

「・・・僕はずっとここにいたけど。」

 

「え?

だってたしかに・・・あっちの教室に・・・」

 

「えっ?」

 

「えっ・・・?」

 

なんやかんやあったが肝試しは無事終了した。

そして、誠は翌日の朝、紗妃に見つけてもらうまで懲罰房に放置され、

良介は放課後、風子にりんごを使った高級パフェを奢るハメになるのであった。




人物紹介

立華 卯衣(たちばな うい)0歳
無口で無表情。
会話も動きも最小限で省エネに日々を過ごす物憂げな少女。
その実態は魔力で動く人造生命体であり、現在の科学力では実現できないオーパーツである。
自力で魔力を生み出せないため、一日一回の補給と定期的なメンテナンスが必須。


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第21話 タイコンデロガ出現

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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肝試しから数日後・・・

良介はいつも通りに登校していた。

すると、校門に虎千代が立っていた。

 

「おはようございます、会長。

どうかしましたか?」

 

「良介。

登校すぐですまないが手を貸してくれ。

アタシとクエストに行くぞ。

魔物が出た。

正確には昨日出たんだが・・・」

 

「魔物が・・・どうしたんですか?」

 

「どうやらタイコンデロガらしくてな・・・いや、まだ正体不明なんだ。

普通は出現してすぐ、執行部がだいたいのデータを出すものなんだよ。

それがない。

そしてそのまま、生徒会に出撃要請が出た。

様子がおかしいだろう?」

 

「・・・確かに。

ところで、どこに出現したんですか?」

 

「ああ、出現場所は洞窟の奥深く。

人的被害はまだ出ていない。

こういう魔物は、軍が余裕をもってあたるものだ。」

 

「軍はどうしてるんですか?」

 

「国軍は第7次侵攻の準備に手を取られているから・・・

マニュアルに従えば、通常の魔物はいったん放置される。

力量がわからない相手との戦闘はしないのが学園の方針だ。

だが来た。

この魔物は【すぐ退治しなければならない】と判断された。

しかも生徒会長のアタシをご指名の緊急出動だ。」

 

虎千代はため息をつく。

 

「会長をご指名・・・ですか。」

 

「十中八九タイコンデロガだな。

そういうわけで、アタシはすぐに出かける。

そしてアタシからお前への頼みだ。

同行してくれ。

生徒会役員を始め、万全の態勢で臨む。

お前の力が必要だ。」

 

「なるほど。

俺の魔法・・・どこまで役に立つかわかりませんが、ご一緒します。」

 

「さあ、みんなを守るぞ。」

 

その頃、生徒会室には朱鷺坂 チトセ(ときさか ちとせ)と聖奈がいた。

 

「・・・私が仲間はずれなのは、新参だからかしら。」

 

聖奈がチトセに話す。

 

「そうではなく、特級危険区域に行ったばかりだからだ。」

 

「あの程度の魔物で疲れたりしないわ。

ええと・・・もう何年も戦ってるもの。」

 

「その申告を額面通りに受け取るわけにはいかない。

我々は生徒を守り、学園の秩序を守るための組織だ。

可能な限り、生徒の規範でなければならん。

すなわち【役目を果たした後は休め】だ。」

 

「・・・つまんないわぁ。」

 

チトセはため息をつく。

 

「自信に見合う実力があるのは知っている。

だから万が一にも・・・

第7次侵攻の時、体調不良で動けないなどということがないようにすべきだ。

わずかな疲れもためないための措置と考えてくれ。」

 

「第7次侵攻をダシにするなんてズルいじゃない。

仕方ないわね。」

 

「わかってくれてなによりだ。

では私は出発の準備をする。

学園を頼んだぞ。」

 

聖奈は生徒会室から出た。

少しすると、初音が生徒会室に入ってきた。

 

「お姉さまーっ・・・あれ?

いない。」

 

椅子に座っていたチトセが初音に話しかける。

 

「みんな、クエストに行ったわよ。

知らなかったの?

副会長補佐さん。」

 

「むぅ。

えらそーなヤツだな。

アタシのこと知ってんの?」

 

「JGJのご令嬢でしょう。

ちょうどよかったわ、頼みたいことがあるの。」

 

「なんだ?

金欲しいの?」

 

「いいえ、クエストに出た討伐隊が【崩落で分断されたから】・・・

レスキューチームに出動を要請してほしいの。

もちろんデクも連れて。」

 

「崩落で分断?

どういうことだ?」

 

チトセの発言に首を傾げる初音。

 

「どうもこうもないわ。

宍戸さんにも伝えてちょうだいね。

私は休むように言われてるから。

この部屋で待ってるわ。」

 

「・・・・・変なヤツ。

ま、いいけど。」

 

初音は研究室に向かった。

 

   ***

 

「・・・討伐隊が分断?

どういうこと?」

 

初音が結希に事情を話していた。

 

「知らねーよ、アタシも。

でもあの新しい生徒会のヤツが言ってたぜ。

崩落で分断されたって。」

 

「崩落・・・いえ、そんな情報はどこにも・・・待って・・・」

 

突然デバイスが鳴り、結希は内容を確認する。

 

「・・・今、エレンから連絡があったわ、洞窟内で大規模な振動。

連絡は取れたけど、虎千代と良介君が行方不明・・・

崩落した岩石の向こう側に取り残されて」いる可能性があるわ。」

 

「エレンって軍人だろ?

なんでいるんだ?」

 

「国軍の手がいっぱいだから、クエストの進行監視をしているの。

だから彼女からの情報が一番早いはず・・・でも、朱鷺坂 チトセはより早い・・・」

 

「そーそー、なんか来るときモヤモヤしてたんだ。」

 

「なんのこと?」

 

「いや、あの女さぁ、なにか見ながらじゃなかったんだよ。

アンタは今、デバイスで情報を確認してるだろ?

それがなくってさ。

生徒会室って通信機器ないし、どこでそんな情報仕入れたんだ?」

 

「盗聴・・・・・?

いや、説明がつかない。

彼女の方が早かったわ・・・

いえ、今は置いておきましょう。

JGJへのレスキュー要請は?」

 

「ガセだったらまずいからまだしてねーけど、やるよ。

やるやる。

沙那ーっ!

聞いてたなーっ!?」

 

初音は沙那を呼んだ。

すると、どこともなく沙那が現れた。

 

「承知しております。

今、初音様の権限で要請を済ませたところでございます。」

 

「じゃ、アタシたちも行くか!

生徒会として!」

 

「レスキューチームに任せましょう。

タイコンデロガが相手であれば・・・」

 

「私も執行部にかけあってくるわ。

向こうにも伝わってるでしょうし。

今、武田 虎千代を失うのはまずい・・・」

 

その頃、洞窟内。

 

「・・・マジか、崩落しちまった。」

 

洞窟内には良介と虎千代がいた。

 

「・・・揺れはおさまったようだな。

だが・・・脆い洞窟のようだ。

退路がふさがれた。

魔法で掘ることはできるが、どこまで埋まっているかわからん。

他の生徒は心配だが、土砂をどうにかしようとするのはやめた方がいい。」

 

「・・・確かにそうですね。」

 

「お前の魔力が膨大なのは知っているが、永遠に尽きないわけでもないだろう。

ここはおとなしく先に進もう。

運が良ければ合流できるだろう。」

 

「そうしましょうか。

退路をどうにかできないのは歯痒いですが・・・」

 

「念のため、現状を確認するぞ。

今回の討伐対象は不明。

洞窟の奥にいるなにものかだ。

霧から生まれたには違いないが・・・どれほどの強さかもわからん。

ゆえに最小の人数で最大の力を発揮できるメンバーが選抜された。」

 

その選抜されたメンバーには誠もいた。

 

「だが、おそらくその魔物の影響だが・・・地震が起き、洞窟が崩れ・・・

少なくともアタシたちと他のメンバーが離れ離れになった。

最悪なのは今の崩落で死傷者が出ていることだが・・・今は確認できん。

みんなを信じるしかない。

行くぞ。」

 

「・・・ええ、わかりました。」

 

良介と虎千代は洞窟内を進んでいった。

 

   ***

 

同時刻、外。

 

「・・・・・もともと開いていた洞窟を、魔物が掘り進めたようです。

強度が下がっていたのでしょう。

そのため、崩落が起きたと考えられます。」

 

その場には、薫子とエレン、選抜された良介と虎千代以外のメンバーがいた。

 

「ああ・・・椎名がこちらに向かっている。

負傷者は手当を受けろ。」

 

「そのような時間はありません。

別ルートから、すぐ会長と合流せねば・・・」

 

「それは精鋭部隊が引き受ける。

崩落は直接的な被害だけではない。

粉塵が肺や目に入り、傷つける。

これ以上の作戦行動は許さん。」

 

「・・・・・執行部の指令でしょうか。」

 

「執行部の思惑は関係ない。

国連軍の兵士である私が命じる。

あとは任せておけ。

すでに他の入り口に向かって、メアリーが動いている。」

 

「いいえ、聞けません。

私は武田 虎千代の僕です。」

 

「安心しろ。

この程度であいつらが死ぬとは思えん。

必ず見つける。

そして私の予想が外れ、死体として見つかった時は、貴様が生徒総代だ。

責任を自覚するんだな。」

 

「・・・・・結構です。

では私たちはここの瓦礫を掘りましょう。」

 

「なんだと?」

 

エレンは薫子を睨む。

 

「私たちはろくに戦っていないうちに分断されてしまいました。

魔力は有り余っております。

それを用いて、この道を開けましょう。」

 

「待て。

崩落したということは、構造全体が弱体化しているということだ。

下手に刺激を与えると、さらに危険が・・・」

 

「百も承知ですよ。

細心の注意を払いましょう。

生徒会にとって、武田 虎千代は欠かせぬ光。

他人の手に預けるわけにはいきません。

なんと言おうと掘ります。」

 

「・・・・・好きにしろ。

こんな議論で時間を取られてはかなわん。

だが忠告はしたからな。」

 

「ええ、痛み入りますわ。」

 

と、2人に誠が近づいてきた。

 

「副会長、それなら俺も連れていってくれないか?」

 

「誠さん?」

 

「貴様、さっきの話を聞いていたのか?」

 

「悪いが、どっちが何を言おうが止まる気はないぜ。

武力行使をしてでも押し通らせてもらう。

俺も魔力は有り余ってるし、瓦礫をどける、壁に穴をあける。

それなりの威力の魔法なら持ってる。

どうだい、副会長。」

 

「・・・いいでしょう。」

 

「言っておくが、副会長。

俺は会長のためじゃなく【親友】のために動く。

そこんとこ間違えないでくれ。」

 

「親友・・・良介さんのことですね。

いいでしょう、お互い助けたいという気持ちが一緒であれば構いません。」

 

「恩に着るぜ。」

 

その話を聞いてエレンは呆れる。

 

「・・・もう好きにしろ。

私は知らん。」

 

少し経って風紀委員室、風子と紗妃がいた。

 

「水瀬 薫子が新海 誠を連れて洞窟に再突入ですか?

報告するよーなことじゃねーですよ。」

 

「し、しかしすでにクエスト進行の権限は精鋭部隊に移ったわけで・・・

緊急時に執行部の裁定を無視するのは校則違反です!」

 

「現場指揮のエレンが許可したんですから別にいーでしょ。

エレンの判断も正しいですよ。

あんな石頭、受け流すくらいがいーんです。」

 

「い、石頭?

水瀬 薫子がですか?」

 

「トンカチで殴っても割れませんよ。

虎のこととなると頑として聞きませんし。

水瀬 薫子にとっては虎は神様仏様。

いや、唯一神の方がちけーですからね。

とにかく、彼女には虎より優先すべきものなんかねーんですよ。」

 

「・・・・・ええと、それはいったい・・・」

 

「虎の命令であれば人も殺す・・・ま、そんなシチュエーションはねーですけどね。

極端に言えばそんなとこです。

法律も校則も、彼女には障害足りえねーです。」

 

「そ、そんな人が副会長を・・・?

なぜ今まで放置していたのですか・・・!」

 

「虎の下にいる限り安全です。

虎は極端な理想主義者ですからね。

虎が道を誤らないかぎり、有能な副会長で居続けるでしょー。」

 

と、風子は少し血相を変える。

 

「さて・・・ここで問題がありましてね。

精鋭部隊に連絡しなきゃいけません。」

 

「あ、で、ではデバイスを・・・しかし、なにを・・・水瀬 薫子ですか・・・?」

 

「慌てて助けに行くくらいなんで、事態はちょいと深刻です。

万が一、虎が・・・

自分の命より大事な相手が死んだら・・・そのとき、彼女はどうすると思います?」

 

「・・・・・ま、まさか・・・・・」

 

「そのまさかですよ。

自殺しないよう、監視です。

水瀬 薫子は仮にも副会長。

会長になにかあったら、仕事はしてもらわねーと。」

 

と、風子の血相が戻る。

 

「ま、その心配はねーと思いますがね。

虎には良介さんがついていますし。」

 

「良介さんですか?

そんなに強くなってるんですか?」

 

「ええ、今のところ虎、生天目 つかさに一番ちけー実力者だと思ってます。

何かしら力を隠し持ってるみてーなんで。」

 

「隠し持ってる力?

それは一体・・・」

 

「詳しくは知らねーですが、訓練所で金色のオーラを纏っている良介さんが目撃されているよーで。」

 

「・・・金色のオーラ?」

 

「そです。

それが何かは知らねーですがかなりの力を持っているのは確かでしょー。

それより、薫子もですが誠さんがついて行ったのは心配ですねー。」

 

その言葉に紗妃は首を傾げる。

 

「・・・誠さんが?

何故ですか?」

 

「氷川は知らねーかもしれませんが・・・誠さんは、仲間を助けるためなら手段を選ばない人なんですよ。」

 

「・・・手段を選ばない?」

 

「彼はおそらく良介さんを助けるために動いたんでしょー。

良介さんを助けるためなら自分の命も投げ出すことも厭わない。

対抗戦でも自分の身を盾にしてパーティを庇っているところがよく見られてるみてーです。」

 

「・・・本当に大丈夫なんでしょうか・・・」

 

「ま、最悪な事態にならないことを祈るしかねーですね。」

 

   ***

 

洞窟内、良介と虎千代は奥へと進んでいた。

 

「ふぅ・・・会長、大丈夫ですか?」

 

「ザコ相手なら心配するな。

だてに生徒会長はやっていない。

問題は討伐対象だが・・・まあ、相手が魔物である限りどうにかなる。

どれほど強くとも、全ての魔物には対処法がある。

魔法が効かない魔物はいないからな。

今のところ、という条件付きだが。」

 

「魔法が効かない魔物・・・そんなのが出たら絶望的ですね。」

 

「ヤツらは霧でできているが、形を伴ったものの特性を得る。

目があるのならば潰せば見えなくなり、耳を潰せば音が聞こえなくなるんだ。

どうだ?

【魔物】であること以外が不明でも、恐ろしくなくなるだろう。

全ては敵を知ることからだ。

アタシは今までずっとそうしてきたよ。

生徒会長選挙のときも・・・そして、これからもだ。」

 

「なるほど・・・俺もそのやり方、見習いますか!」

 

良介は咄嗟に剣を抜く。

 

「気を抜くなっ!

戦闘準備だ!」

 

良介と虎千代の前に巨大なドラゴンが現れた。

 

「・・・これが、タイコンデロガ・・・」

 

「・・・怖気づいたか?」

 

「逆ですよ。

こんな大物とやり合える・・・最高ですよ!」

 

良介は笑みを見せる。

 

「会長、試したいことがあるんで任せてもらえないですか?」

 

「何?

お前はタイコンデロガとは初戦闘だ。

そう簡単に・・・」

 

良介は真っ直ぐな目で虎千代を見つめる。

 

「・・・わかった。

ただし、ヤバイと思ったら即刻、アタシと交代して援護に入れ。」

 

「すみません。

ありがとうございます。」

 

良介は前に出る。

と、目を瞑り、両手に握り拳を作る。

 

「はああぁぁぁぁ・・・・」

 

良介の体から金色のオーラが出てき始める。

 

「・・・あれは・・・」

 

「第1封印・・・解放っ!」

 

良介の体が金色のオーラで包まれ、目も金色に変わり光り輝いていた。

良介は体の感覚を確かめる。

 

「(・・・痛みも・・・苦しさもない。

使いこなせるようになった証か。)」

 

と、ドラゴンが攻撃してきた。

 

「良介っ!」

 

「っ!」

 

と、良介はドラゴンの攻撃を片手で受け止める。

 

「なっ・・・タイコンデロガの攻撃を・・・片手で・・・」

 

「(力が・・・溢れてくる・・・!)」

 

ドラゴンの攻撃を押し返し、思いっきり剣を下から上へと斜めに斬り上げる。

 

「せぇぇぇいやっ!」

 

ドラゴンは斜めに斬り裂かれ、消滅した。

虎千代が良介に近づく。

 

「・・・見事だ良介。

まさかそんな力を隠し持っていたとは・・・」

 

「隠しているつもりはないんですがね・・・とりあえず、これで少しは会長の手助けになりますかね?」

 

「少しどころじゃない。

百人力だ。

頼むぞ、良介。」

 

「ええ、任せてください。」

 

良介と虎千代は奥へと進んだ。




人物紹介

朱鷺坂 チトセ(ときさか ちとせ)不明
本人が申告したものを除き、年齢、出身など一切の素性が知れない謎のお姉さん。
かなりのベテランと思われるが、なぜこれまで発見されなかったのかも不明。
余裕のある穏やかな態度と、まれに見せる訳知り顔が特徴。
戦闘能力は武田虎千代に匹敵する。


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第22話 ブレイクアウト

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



夕方、チトセは1人生徒会室にいた。

と、誰かノックしてきた。

 

「入るわ。」

 

結希が入ってきた。

 

「あら・・・いらっしゃい。

私しかいないけど、いいかしら?」

 

「【あなたしかいない】から来たの。

聞きたいことがあって。」

 

「答えられることならいいけれど・・・」

 

「・・・あなた、崩落の発生前にそれを神宮寺さんに伝えたそうね。」

 

「・・・それに答えればいいのかしら。」

 

「いいえ。

神宮寺さんから聞いた後に連絡を受けたから、それは間違いない。

聞きたいのは、あなたがどうしてそれを知っていたのか。

【崩落が起こる前に、なぜそれを知っていたのか】。」

 

「女のカンよ。」

 

チトセは笑いながら答える。

 

「予知の魔法が使えるのなら、すぐに教えて。

でないと・・・」

 

「科研の怖い人たちに攫われちゃう?」

 

「・・・そうよ。

科研の科学者は、あなたの引き渡しを要求してくる。」

 

「私が予知を使って・・・危険を顧みずに会長の身に起こる崩落を伝えて・・・

すばらしい自己犠牲ね。」

 

「はぐらかすのはやめてほしい。

世界に3人しかいない【予知】の魔法使い・・・

あなたも使えるとすると、4人になるわ。

人類にとって重要なこと。」

 

「仮に予知を使えたとして、私なら大丈夫よ。

科研の人たち、追い返すから。

あなたには私の心配より、もっと大事なことがあるでしょう?」

 

「・・・・・」

 

チトセに言われ、結希は黙る。

 

「良介君と一緒だから、会長が死ぬことはないわ。

そう・・・良介君がいるからね。」

 

少し経ち、研究室。

心が結希のところにやってきた。

 

「どうも。

この前のタイコンデロガ予測、そして今回。

ここのところ、ずいぶん頻繁ですね。」

 

「あなたの予測のおかげである程度地点が絞れたわ。

だから今回も、ミスティックが巣から出てくる前に対処できた。」

 

「私は博士のお手伝いをしただけです・・・ですが、お仕事はお仕事。

【心ちゃん】のことはお願いしますよ。」

 

「ええ・・・侵入してほしいところがあるの。

執行部、国軍、IMF、科研・・・」

 

「・・・それはまた、難しい所を。」

 

「あなたの魔法なら可能でしょう。

魔法使いのデータベースを洗って。」

 

「誰の情報でしょうか。」

 

「朱鷺坂 チトセ。」

 

心は少し不思議そうな顔をする。

 

「・・・確かに彼女は不思議な人です。

どことなく私に似ています。

不審なところは多い・・・けれど、どうしてこの時期に?」

 

「彼女は【予知】の魔法を使えるかもしれない。」

 

「予知・・・ですか・・・

それが本当なら、心強いですね。」

 

「まだ確定してないわ。

だからそれを調べて。

執行部にないのであれば望みは薄いけど・・・どこかにあるはず。

この地球で生まれた魔法使いなら、どこかに。」

 

「わかりました。

では、すぐに取り掛かります。」

 

   ***

 

洞窟内、良介と虎千代は奥に向かって進んでいた。

良介はまだ第1封印を解除したままだ。

 

「会長、さっきの魔物ですが・・・」

 

「あれはドラゴンだ。

長いこと空想の生き物だったが、もはや違う。

ドラゴン種の魔物はかなりの数が確認されている。

多くは討伐されたがな。」

 

「なるほど・・・ですが・・・」

 

「不思議だとは思わないか。

実在しない想像の幻獣を魔物はどうやって知った?

実態化するまでは意思すら持たない、知能においては獣以下の怪物がだぞ。」

 

「確かに不思議です。

一体どうやって・・・」

 

「わからないんだ。

意味不明な相手はみんな怖い。

だがアタシたちは対処法を知っている。

ならば戦うのに恐れはないだろ。

他の誰が怖がっても、アタシは最後まで勇敢であり続けたいの願う。」

 

「勇敢・・・ですか・・・」

 

「アタシは生徒会長だからな。

それにふさわしくあろう。」

 

「・・・なんだか姫のヤツに似てますね。

言ってること。」

 

良介は少し笑みを見せる。

 

「・・・なるほど、野薔薇に似ているという印象をもたれるのも不思議ではない。

だがヤツとアタシには決定的に違うところがある。

わかるか?」

 

「・・・いえ、わかりません。

答えは・・・」

 

良介は持っていた剣を前に向ける。

 

「・・・答えはドラゴン退治の後だ。」

 

またも巨大なドラゴンが姿を現す。

 

「次はアタシがやる。

全てお前に任せるわけにはいかないからな。」

 

「・・・別に休んでても構いませんが?」

 

「生徒会長が守ってもらってばかりじゃさすがに示しがつかないからな。

それに、アタシもそろそろ暴れたい。」

 

「・・・後者が本音ですね。

ま、援護は任せてください。」

 

「ああ、頼んだ!」

 

虎千代がドラゴンに突っ込む。

良介は牽制として、光魔法を撃つ。

第1封印を解放した状態なので威力があがっていたはずだったが、ドラゴンはビクともしなかった。

 

「・・・頑丈だな。

なら・・・!」

 

良介はその状態で風の強化魔法をかけ、ドラゴンの周りの壁を八艘飛びのように飛び回りかく乱させる。

その隙に虎千代がドラゴンに殴りかかる。

 

「はっ!」

 

次々と連撃を決め、最後は真上に殴り飛ばした。

 

「吹き飛べっ!」

 

ドラゴンの巨体が浮き、空中で消滅した。

 

「・・・これが生徒会長、武田 虎千代・・・」

 

良介はその戦いぶりを見て、体を少し震わせた。

 

「ふぅ・・・どうした良介?」

 

「いや・・・さすが生徒会長だなと思いまして。」

 

「それほどでもない。

それよりお前の方が強いような気がするがな。」

 

「いや・・・俺はまだまだ・・・」

 

「・・・まだ、【力】を隠しているな。」

 

「・・・っ!」

 

良介は驚きを隠せなかった。

 

「隠しているのか、まだ制御しきれていないのか。

どちらかはわからんが、まだあるんだろう?」

 

「・・・・・」

 

「まぁ、そこまで聞く気はないが・・・いつかアタシと戦ってもらうぞ。」

 

「・・・わかりました。

その時、会長を満足できるようがんばらせてもらいますよ。」

 

虎千代は笑みを見せながら進んでいった。

 

   ***

 

外はもう夜になっていた。

そんな山奥に兎ノ助がやってきた。

 

「おーい!

おーい!」

 

兎ノ助が呼びかけると我妻 浅梨(わがつま あさり)がやってきた。

 

「あ、兎ノ助さん。

どうしてこんなところに?」

 

「虎千代と良介が行方不明って聞いてよ!

いてもたってもいられなくて・・・!

ぜひーっ、ぜひーっ・・・つ、疲れた・・・2時間くらい飛びっぱなしだったから・・・」

 

「兎ノ助さん、飛んだら疲れるんですね・・・大丈夫ですよ!

メアリーさん達が別ルートで向かってるので、すぐ見つかります!」

 

「ああ、そうだな・・・お前は留守番か?

ま、そうだよな。」

 

「あーっ、なんですかそれー。

実力不足って言いたいんんですか?」

 

「実力っていうか、洞窟の中、迷路みたいだって話だからな。」

 

「迷路だからこそ私の出番なんです!

とけない迷路はないんです!」

 

「そ、そうか・・・お前、なんでそんな自信満々なんだ・・・

しかしまた、厳重警備だな。

いくらタイコンデロガっぽいとはいえ・・・

生徒会と同時に精鋭部隊が出動してるなんて、第6次侵攻以来だぜ。」

 

「そうなんですよね。

すごく運がよかったというかなんというか。」

 

「運がよかった。」

 

浅梨の言葉に首を傾げる兎ノ助。

 

「はい。

あらかじめ別ルートの位置も地図に記載されていて・・・

普段より人員が多かったおかげで、迅速に救出に行けるって言ってました。」

 

「ふーん。

そりゃ確かに、運がよかったな。」

 

「あのクソビッチ、戻ったら何としても吐かせてやらぁ。」

 

「え!?

な、なに、急に!?」

 

浅梨のいきなりの言動に兎ノ助は動揺する。

 

「そうメアリーさんが言ってました。」

 

「な、なんだメアリーか・・・なんでいきなり口調をまねるんだよ。

しかし・・・その言い方、誰かからの助言でもあったみたいな言い方だな。」

 

「ですよねぇ、誰なんでしょう?」

 

「・・・ま、誰でもいいや。

今は虎千代の無事を祈ろうぜ。」

 

「そうですね・・・それじゃあ、魔物が出てないか、見回りに行ってきます。」

 

そう言うと浅梨は1人で見回りに行った。

 

「待て待て!

誰か一緒に連れていけ!」

 

同時刻、学園のグラウンドでは花梨が兎ノ助を探していた。

 

「兎ノ助ー、兎ノ助ー、どこ行ったんだー?」

 

すると智花がやってきた。

 

「あ、花梨ちゃん。

兎ノ助さん探してるの?」

 

「んだぁ。

科研のお偉いさんが呼んでるんだべ。

学園さ来てる。」

 

「科研・・・魔導科学研究所?

珍しいね、いつも兎ノ助さんが行ってるのに・・・」

 

「なーんか妙に焦ってたべよ。

結希も話聞いて、呼んで来いってよ。

 

と、どこからともなく鳴子が現れた。

 

「兎ノ助君を探してるのかい?」

 

「あ、ゆ、遊佐先輩・・・!」

 

「お、遊佐じゃねぇか。

兎ノ助の居場所知ってるっきゃ?」

 

「2時間くらい前、生徒会長の名前呼びながら飛び出して行ったよ。」

 

「はぁ?

どういうことだ?」

 

「僕にはちょっとわからないな・・・でも、目当てが会長なら・・・

今はクエストの場所じゃないかな?」

 

「・・・外出許可も取ってねぇでなにしてんだ・・・なんかあったっっきゃ?」

 

「さあ、なんとも・・・宍戸君なら場所はわかるだろう。

教えてあげなよ。

2時間前なら、空を飛んでることだし、そろそろついているだろう。」

 

「おー、わかったべ。

おめぇの言うことなら間違いないすけ。」

 

「なんなら僕も行こうか?」

 

「なんも大丈夫。

おらが伝えとくすけな。」

 

「・・・ふふ、このタイミングで兎ノ助を調べに科研が来た・・・

面白いよ、実に。」

 

そう言うと鳴子は去っていった。

 

「・・・・・まぁたなんか企んでるっきゃ。」

 

「か、花梨ちゃん、すごいね・・・」

 

いつの間にか少し距離を離していた智花が話してきた。

 

「智花?

なしたっきゃ?

そったら遠いとこに。」

 

「だって遊佐先輩、怖いんだもん・・・」

 

翌日、歓談部部室では朝からアイラが怒っていた。

 

「なぁにしとるんじゃあのアホわぁ~っ!

はよ帰ってこんか!」

 

「どうしました?

東雲さん、なんだか今日は変ですよ?」

 

エミリアがアイラに話しかける。

 

「ええい、バラしたいがバラせん!

なんとも不愉快よ!

妾はある心配をしとる!

しかし何が心配かなのかは話せん!

あーもうモヤモヤさせおるわ!

妾が行きゃ一発なんじゃが・・・!」

 

「よくわからないけど・・・アイラちゃんが行けばすぐ解決するのかしら?」

 

あやせがアイラに話しかける。

 

「まぁな!」

 

「じゃあ行けばいいんじゃないかしら。」

 

「それがそうもいかんくてな。

生徒会も精鋭部隊も出払っとるから・・・

万が一のために妾はこの学園に残っとらんといかんのじゃ。

すぐ終わるっつっても、往復で2時間はかかるからのう。」

 

「往復で2時間・・・生徒会長のクエストですか?」

 

エミリアが気付いた。

 

「あ、やべ。」

 

「昨日からずっとクエストなのよね。

大規模なうえに長いなんて珍しいわ・・・」

 

「会長がこんなに手こずるなんて、タイコンデロガくらいしかいないですよね。」

 

「・・・むぅ、妾の一言からここまで発掘するとは・・・妾、一生の不覚。

ええい!

どっちにせよ妾は学園から離れられんのじゃ。

関係ないわー。

寝よ。」

 

「ね、寝る・・・?

東雲さん!

これからホームルームですよ!」

 

「吸血鬼は夜行性じゃ。

妾、朝の光嫌いじゃ。

妾、授業免除じゃし。」

 

「まぁまぁ、望ちゃんみたいなこと言ってるわねぇ。」

 

「(・・・・・しかし、まさかホントに死んどらんじゃろうな?

あの女が2日かかるなぞ初めてのことじゃわ・・・)」

 

その頃、掲示板前で夏海がうろうろしていた。

 

「良介と会長が・・・行方不明・・・ど、どうしよう・・・まだ誰も知らないのよね・・・

もう1日経っちゃったじゃない・・・どうすんのよ・・・!」

 

と、怜がやってきた。

 

「夏海。」

 

「ぎゃーっ!

ま、まだ何も言ってないわよ!

言ってないからね!」

 

「・・・なんだ?

なにかあったのか?」

 

「え?

な、なんでもないなんでもない・・・言えないわよ、こんなの・・・

れ、怜こそどうしたの?

なんか用?」

 

「ああ、冬樹を見なかったかと思ってな。」

 

「冬樹・・・ノエル?

イヴ?

どっち?」

 

「イヴだ。

これから風紀委員のミーティングでな。

デバイスにも反応がない。

外出許可は出てないから学園内にいるはずなんだが・・・」

 

「さぁ、見ないわね・・・風紀委員でミーティング?

中休みよね、今?」

 

「ああ、緊急だ。

次の彼女の授業は・・・ノエルに聞いてみるか?」

 

「イヴのことノエルに聞いてもしょーがないでしょ。

萌木に聞くのがいいわよ。

イヴ、よく図書室で本読んでるから。

知ってるならあの子でしょ。」

 

「なるほど。

ではそうしよう。

すまない、助かった・・・」

 

怜は去ろうとしたが戻ってきた。

 

「霧塚の次の授業はなんだろうか。

居場所がわからん。」

 

「えーと、それはリナちゃんに・・・リナちゃんの授業はえーと・・・」

 

   ***

 

洞窟では良介と虎千代はさらに奥に進んでいた。

 

「野薔薇は野薔薇の家に生まれた。

だが私は違う。

それだけだ。

ヤツは強くなることを運命づけられていたが、私は自分で選んだ。

ただ一人、武田 虎千代として強くなるのだ。

この学園の生徒たちを守るためにな。」

 

「学園を守るために強くなる・・・か。」

 

「・・・だが、協力してくれるものは多い。

それは喜ばしいことだ。

お前は転校してきたばかりだが・・・

もし学園をさらによくしたいと思うのなら、手を貸してくれ。」

 

「そうですね・・・こいつを倒したら考えときますよ。」

 

良介は剣を抜き、構える。

 

「さあ、あと少しだ。

運よくアタシたちの前に魔物が現れた。

他のものと合流する必要もあるまい。

このままカタをつけよう。

あそこだ。

援護を頼む。」

 

「了解、任せてください!」

 

虎千代は魔物に突っ込む。

良介は光の魔法で牽制しながら、さっきと同じように相手をかく乱させようとする。

第1封印はまだ解放したままである。

風の強化魔法を自分にかけ、壁に飛び移った瞬間、魔物が良介を攻撃してきた。

 

「なっ!?」

 

良介は回避することができず、攻撃をくらい地面に叩きつけられる。

 

「良介っ!」

 

虎千代が呼びかけると、良介はすぐに飛び起きた。

 

「痛えなこの野郎!」

 

どうやら第1封印に強化魔法をかけていたのでたいしてダメージは入っていないようだ。

だが、剣は落とした上に、魔物の向こう側まで飛んでいってしまった。

 

「チッ・・・どうするか・・・ん?」

 

良介は虎千代の戦い方を思い出す。

 

「・・・よし、やってみるか。」

 

良介は指を鳴らし、構えをとる。

 

「あいつ・・・素手で?」

 

魔物が攻撃してくると、かわして懐に入り込む。

手に魔力を込め、思い切り殴る。

 

「はぁっ!」

 

すると、一発で魔物体が浮く。

すかさず、良介は魔物にラッシュを食らわす。

 

「でやあぁぁぁぁっ!」

 

最後に足に魔力を込め、蹴り上げる。

 

「吹っ飛べぇっ!」

 

魔物が空中で消滅した。

 

「ふぅ・・・素手で戦うのもいいな。」

 

虎千代が話しかけてきた。

 

「アタシは援護を頼むと言ったんだがな・・・」

 

「う・・・すいません。」

 

「別に気にする必要はない。

結果的には魔物を倒すことができたからな。」

 

虎千代は魔物がいた方向を見る。

 

「・・・うむ。

やはり魔物だ。

あのような巨体が霧散するなど、他では考えられん。

よし、と言いたいところだが、アタシたちにはまだ仕事が残っている。」

 

「・・・仕事ですか。

何かありましたか?」

 

「クエストは原則、受けた全員で報告せねばならんからな。

他の生徒を探し、無事を確認。

その後脱出路を探すぞ。」

 

「わかりました。

それじゃ、早速・・・」

 

良介が行こうとすると、虎千代が話してきた。

 

「・・・おい、良介。」

 

「はい?

なんでしょうか・・・」

 

「一度組んだだけだが、確かにお前の魔力と魔法は心強い。

後ろからの注意掛けも危なげない。

助かったぞ。

興味が出たらで構わん。

この虎千代とともに学園の守護者となりたいなら・・・

その時は、いつでも声をかけろ。

アタシはそれに応えるぞ。」

 

「・・・考えときます。」

 

その頃、外ではつかさと梓がいた。

 

「・・・・・・む?

・・・・・風が・・・・・来るのか。」

 

「生天目先輩~。

早く戻らないと、また風紀委員がうるさいッスよ~。

魔物退治もいいッスけど、ちゃんとクエストを請けて・・・」

 

「黙れ。

耳を澄ませろ。」

 

「はい?

どうしたんスか、急に。」

 

「ヤツラの音がするぞ。」

 

「・・・・・音?」

 

「ククク、虎千代よ、早く戻ってこい。

少しでも遅れれば、私が全て喰ってしまうぞ。」

 

いきなりつかさは笑い始める。

 

「・・・なに言ってるッスか?

生天目先輩、詳しく話してくださいッス。」

 

「明日、いや・・・今夜か・・・

いいぞ、私を楽しませてくれよ・・・!」

 

「・・・生天目せんぱ~い?」

 

学園の研究室。

初音と結希がいた。

 

「眠い・・・今日はもう出ないんじゃね?」

 

「小鯛山にミスティック多数、出現確認。」

 

「げっ。

それってまさか・・・」

 

「・・・・・多い・・・!」

 

「おおい、沙那、沙那ーっ!」

 

初音が沙那を呼ぶとすぐに沙那が現れた。

 

「こちらに。」

 

「きやがったぞ!

本社に連絡しろ!」

 

「かしこまりました。

出動を要請いたします。」

 

「連絡は南。

避難開始。

国軍が出動したわ・・・警戒の甲斐があったわね。

けれどこの量、どうしても漏れる・・・学園に出動要請が来るわね。」

 

「マジで?

や、やだなぁ・・・」

 

「生徒会も精鋭部隊も疲労しているわ。

まさかこんな誤算が生まれるなんて・・・

朱鷺坂 チトセと東雲 アイラを呼んで。

あの2人が一番の戦力だわ。

可能なら生天目 つかさと服部 梓も。

最悪の場合・・・

卯衣も出すわ。」

 

「お、おう。

わかった。

沙那、聞いたな?」

 

「承りました。

それでは生天目 つかさは私が探して参ります。」

 

「頼むぞっ。」

 

初音と沙那は研究室から出て行った。

 

「・・・早い・・・国軍の対応がとても早い・・・私の知らないことがある・・・

まるで予知だわ・・・まさか、朱鷺坂 チトセ・・・

学園に来る前は、国軍に・・・?」

 

同時刻、洞窟内。

精鋭部隊が中に入り込んでいた。

 

「ケッ。

いやがったぞ!

誰か上に連絡しろ!」

 

「えっ!?

い、いたの!?

どこ!?」

 

「・・・・・」

 

「テメーら、ここから動くな。

アタイが下に降りるからな。

・・・魔物の気配がねぇ。

まさか、2人で霧を払いやがったのか。」

 

メアリーは焔と月詠に動かないように指示を出し、下に降りた。

 

「タイコンデロガ相手に無補給で2日・・・椎名のヤローがいて運がよかったなぁ。」

 

「なに、良介のおかげで魔力には事欠かなかった。

魔物を倒せたのも、全力を出し続けられていたのと良介の魔法と能力のおかげだ。」

 

「あっそ。

だが魔法は人体に負担をかける。

アンダンスタン?

くらーいくらーい闇の中で、ないかもしれない出口を探して・・・

魔物と延々戦う。

どれだけ体力を消耗するか知ってっか?」

 

「アタシは元気だぞ。

すぐにでも次のクエストを請けられる。」

 

「俺もそんなに疲れてないぞ。」

 

「ククク・・・そうかよ、無敵の生徒会長サマの意外な弱点か・・・

その言葉、聞かなかったことにしといてやるぜ。

感謝しろよ。

・・・ところで良介、それなんだ?」

 

「・・・あ、まだ解放したまんまだった。」

 

良介はすぐ第1封印を解除する。

すると、良介からオーラが消え、目の色も金色から黒色に戻った。

 

「なんだ今の?」

 

「うーん・・・俺の能力の1つかな。

詳しくは言えないけど。」

 

「あっそ。

興味ねえから聞かねえでおく。

オラ、さっさと出るぞ。」

 

洞窟から抜け出し、学園に戻り生徒会室に入った。

 

「ふぅ・・・この椅子に座ると、やはり落ち着くな。

良介も座れ・・・今回はすまなかったな。

アタシが巻き込んでしまった。」

 

良介は近くの適当な椅子に座る。

 

「いえ、別に気にしてないので・・・」

 

「瓦礫を魔法でふっ飛ばすこともできたんだが、それは危険だったからな。

結果的にドラゴン型を倒すことができたとはいえ・・・うん、少し無茶だったな。

メアリーの言っていたことが少しわかってきたぞ。

知らないうちに、アタシはどうやらかなり消耗していたようだ・・・

体がだるくて、しばらくここから動けないな。

ハハ・・・」

 

「・・・大丈夫ですか?」

 

「お前も疲れているだろう。

クエストの後は授業免除だからな。

帰って寝るといい。

今のままだと女子の人気がなくなるぞ。」

 

「いや、人気とかどうでもいいんですが・・・

そうさせてもらいます。」

 

「では、また明日な。」

 

良介は部屋に戻るなり速攻で寝てしまった。

そして夜、生徒会室。

 

「・・・このような寝顔を晒すとは・・・悪条件が重なったとはいえ・・・

タイコンデロガよりも、洞窟深くに無装備だった方がきいているようですね・・・

会長。

お休みの所申し訳ありません。」

 

寝ていた虎千代を薫子が起こす。

 

「む・・・・・うん?

なんだ、薫子か。

今何時だ?」

 

「午前2時です・・・宍戸 結希から連絡がありました。」

 

「こんな時間に?

・・・まさか・・・」

 

「はい。

魔物の大量発生が始まりました。」

 

「よし、関係各所に連絡・・・しまった、体が動かん。」

 

「会長は朝までお休みください。

簡易寝台を用意しています。

会長は生徒を率いて立っていただかねばなりません。

それまでは私にお任せを。」

 

「・・・わかった。

甘えよう。」

 

虎千代は簡易寝台の方へ向かった。




人物紹介

我妻 浅梨(わがつま あさり)13歳
始祖十家と呼ばれる由緒正しい魔法使い一族【我妻】に生まれた生粋のエリート。
素直で前向きだが、その生い立ちからかゆるぎない自信を見せることも。
方向オンチですぐ迷子になるが、全く自覚はない。
母や姉のように立派な魔法少女になることを夢見る、男の子。


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第23話 第7次侵攻①

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


翌日の早朝、学園の校門前。

兎ノ助のところに虎千代が走ってやってきた。

 

「兎ノ助、兎ノ助!

ここにいたか!」

 

「ああ、いるぜ。

わかってるよ。

第7次侵攻だろ?」

 

「伝わっていたか・・・未明に全世界で大規模な魔物の発生が確認された。

一番近いのは小鯛山だ。

風飛を目指して南下してきている。」

 

「小鯛山から南下か。

風飛を通って東京に向かってるのか?」

 

「ヤツらに東京を目指しているという自覚があるかはわからんが、そうだ。

国軍が風飛の北西に展開するのが1時間後。

いちおう、魔物の到来に間に合う。」

 

「学園への要請は?」

 

「全員出動だ。」

 

虎千代の言葉に兎ノ助は驚く。

 

「は!?

全員ってお前、今回は出動すらない可能性があったんじゃないのか?」

 

「事前の予想以上に魔物の数が多い。

厳戒態勢で小鯛山からの避難は迅速だが、それでも被害が出ている。」

 

「うーむ、学園からそんなに離れていないことが救いか。」

 

「進路上に風飛があるのは不幸中の幸いだ。

他の街なら被害はもっと拡大する。」

 

「風飛は歴史的に魔物の対応に慣れている地域だからな。

生徒たちも学園のバックアップの元戦えるし・・・だが、量が多い?

なんか嫌な予感がするな・・・俺はいつも通りでいいのか?」

 

「ああ、お前は3回の大規模侵攻を経験している。

学園生は不安がっているだろう。

勇気づけてやってくれ。」

 

「俺、多分第3次の時に死んでるから、それ含めると4回だな。」

 

「それは言うなよ。」

 

「わーってるって。

魔法が使えない今、俺にできるのはそれくらいだ。

いざとなったらこの身を盾にして、魔物の攻撃を受け止めてやらぁ。」

 

「ああ、頼んだ・・・アタシはすぐに学園生に通達する。

アタシたちができるのは風飛の防衛だ。

全世界を守ることはできない・・・

だがだからこそ、必ず風飛を守り通す。」

 

「お前、自分が強いからって油断するんじゃねぇぞ。

体調もまだ悪いだろ?」

 

「アタシは武田 虎千代だぞ。

学園を代表する、生徒会長だ。

学園生は全員守る。

見ていろ。」

 

その頃、良介はまだ自分の部屋にいた。

 

「う~ん・・・まだ6時かぁ・・・」

 

時計を見て、時間を確認したあと、再び眠りにつこうとする。

と、誰かが勢いよくノックしてきた。

 

「ん~?

誰だ、こんな朝早く・・・」

 

良介は寝ぼけながらドアの前に行く。

 

「良介さん!

早く起きてくだせー!」

 

風子の声だった。

ドアを開け、良介が部屋から出てきた。

 

「どしたぁ?

こんな朝早くから・・・」

 

「うわ、すごい寝癖・・・じゃなくて今日の朝のニュース見てねーんですか?」

 

「さっきまで寝てたからな。

で、どうした?」

 

「第7次侵攻・・・と言えばわかりますよね?」

 

その瞬間、半分閉じていた良介の両瞼が開く。

 

「・・・すぐに準備する。」

 

勢いよくドアを閉め部屋に戻っていった。

良介は準備を済ませ学園に向かう。

道中で誠と合流した。

 

「良介!

聞いたか、全員出動だ!」

 

「ああ、聞いた。

早く向かおう。」

 

学園の噴水前にほぼ学園生全員がいた。

その前に虎千代が立っていた。

 

「生徒諸君!

生徒会会長の武田 虎千代だ。

今朝のニュースで知った生徒もいるだろうが、ここから北西の小鯛山で・・・

大規模な魔物の発生が確認された。

時刻は午前2時。

規模は通常の42倍。

大規模侵攻の発生だ。

国連軍はこれを第7次侵攻と命名した。

そして、政府の要請でこの学園からも生徒が出動することになった。

国軍は日本各地、国連軍、IMFはすでに世界各地に展開し戦っている。

42倍だ。

これは過去の侵攻に比べても多い。

過去最大の規模と言える。

だが、我々人類の戦力も9年前とは比較にはならない!

私立グリモワール魔法学園もまた、9年前とは比較にならない!

虎千代が宣言する!

この防衛戦では誰も死なせない!

そして風飛の街は、一歩たりとも魔物に侵させない!

ここで魔物を退け、北海道奪還の・・・人類反撃の嚆矢とするぞ!

各自、割り切りに従い10人規模のパーティを作り出発!

風飛市の北に陣取り防衛戦を敷く!

これほどの規模の作戦は各人初めてだろうが、怖じることはない。

指示に従い、持てる力をじゅうぶんに発揮すればなにも心配はない!

なにかあればアタシを呼べ。

すぐに駆けつける!」

 

生徒はパーティを編成し防衛線に向かった。

 

   ***

 

良介と誠は同じパーティに組まれた。

 

「誠、後ろからの援護頼むぞ。」

 

「おう、任せとけ。」

 

1人見慣れない生徒がいた。

 

「よろしくお願いします、円野 真理佳(まどかの まりか)です!

先日転校してきました!

噂の良介さんについて行動するようにとのことなので、一緒に行きましょう!

センパイの体質と魔法のことは知っています。

魔物は僕に任せてください!」

 

「・・・テンション高いな。」

 

真理佳の元気さに呆れる良介。

 

「アンタ、エラい元気ね・・・最初っからそんなだとバテるわよ?」

 

「魔法使いに覚醒したときのために、毎日トレーニングしていました!

体力には自信あるので、心配はいりません!」

 

「(そういう問題じゃないんだがなぁ・・・)」

 

「ふうん・・・ん?

転校してきたの、この前?

クエストには出たことある?」

 

「今回が初めてです!」

 

「はぁ・・・で、俺は基本的にどうすればいいって言ってたっけ?」

 

「・・・・・ああ、良介、アンタたちはいろんなパーティの助っ人だって。

魔物が多い所に行って、魔力を渡したり状況を目で把握したり・・・

後は魔物の殲滅をしたりとかしてもらうらしいけど、注意しなさいよ。」

 

「ふむふむ・・・注意しなきゃ、と。」

 

「アンタと他の生徒!

そしてパーティの司令官はアンタなんだからね。

他の生徒がケガしたらアンタのミスだと思いなさい!」

 

「・・・了解、絶対にヘマはしない。」

 

「司令官はセンパイ・・・メモメモ・・・」

 

「・・・何やってんだ、あいつ。」

 

真理佳の行動を見て良介は呆れる。

 

「な、なんかやりにくいわね・・・とにかく!

わかったわね!?

アンタは貴重な戦力なの!

大ケガなんかしたら承知しないんだから!

そこんとこ覚悟しなさいよ!」

 

「・・・・・わかった、善処しよう。」

 

良介たちは魔物の方へ向かった。

 

「良介・・・守谷が言ったこと、守るのか?」

 

「だいたいは守るさ。

大ケガをするなというのは無理かもしれんが。」

 

「・・・したらどうするんだ?」

 

「その状態でもできる限り戦うさ。

できる限り、な。」

 

少し離れたところに虎千代と薫子がいた。

 

「・・・・・」

 

「会長。

国軍と魔物との戦闘が始まりました。

まだ時間はあります。

まだ疲れが残っているでしょうし、今のうちに休まれては・・・」

 

「半日寝たんだ。

これ以上は甘えられん。

ほとんどの生徒が初めての実戦だ。

怖くないはずがない。

そういったとき、アタシの姿を見て安心してくれるだけでも違うからな。」

 

「そうは言っても、せめてもう少し下がってもよろしいのでは。」

 

「薫子。

アタシは生徒会長だ。

その役目を全うするだけの体力はある。

心配してくれるのは嬉しいが、それ以上はアタシを不機嫌にするぞ。」

 

「・・・・・はい、申し訳ありません。

控えます。」

 

「さぁ・・・国軍は上位の魔物は何としてでも食い止めると言っていた。

少なくとも最初はみんなに任せて大丈夫だろう。

東雲やつかさもいるしな。」

 

「グリモアの戦力はここ数年でもっとも高いでしょう。

まるで侵攻に備え、誰かが集めたかのようですね。」

 

「ああ、在籍生徒としてはベストだろう。

特に今年来たのが大きい。

来年はアタシもつかさも、遊佐も雪白もいないからな。」

 

「・・・・・そうですね。」

 

   ***

 

「はぁっ!

このっ!」

 

「良介、行くぞ!」

 

良介ができる限り魔物を倒し、残りを誠の矢で全て射抜く。

真理佳はもう息があがっていた。

エレンが真理佳に話しかけてきた。

 

「ハァ、ハァ、・・・つ、疲れた・・・」

 

「どうした、まだ緒戦が終わっただけだぞ・・・ああ、新入生だったな。

充分に訓練を積むまでは実戦で無理をするな。

倒す必要はない。」

 

「ハァ・・・ハァ・・・で、でも魔物は全部倒さなきゃ・・・

コズミックシューターは、対峙した魔物は逃したことがないんです・・・!」

 

「覚醒したばかりの自分とヒーローを比べるな。

馬鹿のすることだ。」

 

「なっ・・・ぼ、僕はヒーローを目指しているんです!

1日も早くヒーローになるためには、多少の無理なんか苦じゃありません!」

 

「なにふざけたこと言ってんだ、この大馬鹿野郎。」

 

魔物を倒し終えた良介と誠が戻ってきた。

 

「今は作戦行動中だ。

良介、お前が言っておけ。

この戦いが終わったら、私がマンツーマンでしごいてやろう。」

 

エレンは去っていった。

 

「・・・でも、覚醒したばかりの僕だって、魔物を倒せてるんだ・・・!

そうですよね、センパイ!?」

 

「・・・ふざけんな、調子乗るのも大概にしろ。」

 

「・・・っ!」

 

と、月詠がやってきた。

 

「アンタ、良介を困らせるような話の振り方しないの。」

 

「も、守谷センパイ・・・」

 

「エレンはああ言ったけどね、ツクは言ってやるわよ。

アンタ、今日だけで終わりだなんて思ってないわよね?」

 

「え・・・・・?」

 

「魔物の攻撃は明日も、明後日も・・・一週間くらい続くかもしれないの。

いつ終わるかもわからないのに、初日からそんなにヘバっててもつと思う?」

 

「あ・・・・う・・・・」

 

「良介!

こーゆーのはアンタが言ってあげないとダメじゃない!」

 

「・・・今言おうとしたらお前が先に言ったんだよ。」

 

ため息をついて良介は頭を掻く。

 

「ま、ツクの方が優秀だから?

しょうがないけどね。」

 

「あっ?」

 

「まーまー、落ちつけって良介。」

 

イラつく良介を抑える誠。

 

「ま、さっきの戦いでこの辺の魔物は一掃できたし、しばらく休憩ね。

アンタ達も今のうちに休んでおきなさい。

特に良介。

アンタよ、アンタ。」

 

「・・・俺?」

 

「武田 虎千代と一緒に2日も冷えた洞窟にいたんだから、風邪ひくわよ?」

 

「うわぁ・・・良介センパイの心配までできるなんて、凄いなぁ・・・」

 

「しっ、心配!?」

 

「やっぱり戦い慣れてる人って凄いんですね!

よーし、こうしちゃいられない!

僕も頑張って、一人前のヒーローにならないと!」

 

「ちょっと待ちなさいよ!

し、心配なんてしてないわよ、心配なんて!」

 

「弱ってる良介センパイの心配をしてない・・・これが心の通じ合った信頼ですね!」

 

「信頼!?

ち、ちがっ・・・!」

 

「僕だって負けませんよ!

仲間たちとの信頼関係を築いて見せます!」

 

「違うってば!

ツクはこいつのことなんてなんとも・・・」

 

「みんなにも教えてあげないと・・・!」

 

真理佳は走り去っていった。

 

「な、なに言い出すのよ!

良介、アンタ、早く止めてよ!」

 

「・・・たく、しゃあねえな。」

 

良介も真理佳の後を追いかける。

 

「うーっ!

最近の転校生、変わり者が多すぎよ・・・」

 

誠はその様子を見ていた。

 

「(なるほど・・・守谷はツンデレか・・・良介のヤツ、モテるねぇ・・・)」

 

その状況を見てニヤニヤしていた。




人物紹介

円野 真理佳(まどかの まりか)16歳
幼いころからヒーローに憧れて育ったヒーローマニアな女の子。
魔法使いに覚醒したことで、本格的にヒーローを目指し始めた。
困っている人を見かけるといてもたってもいられず助けに飛び込むが、まだ未熟なため状況が悪化することもしばしば・・・


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第24話 第7次侵攻②

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


「・・・ふぅっ。

まあまあか。」

 

魔物を倒し終えて一息ついている焔の背後から魔物が迫っていた。

が、良介が後ろから魔物を殴り飛ばす。

 

「ふんっ!

・・・よう、焔。」

 

「なんだ良介、いたのか。」

 

「・・・魔力はいいか?」

 

「いーよ、まだ元気だ・・・チッ。

まだ魔力は余ってるんだよ。」

 

「ふーん、そうかい。」

 

と、焔が愚痴を言い始めた。

 

「チッ。

メアリーのヤロウ、胸糞悪いぜ。

いっそのこと指揮がヘタクソなら一息に燃やせるんだけどよ。

・・・これが前線で戦ってたヤツの実力・・・クソッ!

メアリーは国連軍じゃ小隊長だった。

まだアタシは小隊長にもとどかねぇのか・・・!」

 

「・・・・あ。」

 

良介は何かに気付き声を出した。

 

「・・・なんだよ。

なにか言いたいことあんのかよ。」

 

後ろにメアリーがいた。

 

「・・・あ?

おい、今なんつった。」

 

「・・・なんだ?」

 

焔がメアリーの元に向かう。

デバイスで誰かと話している。

 

「マジか。

いつだ?

あと何分でここに来る?

・・・チッ。

メンドクセーことになったぜ・・・テメーら、前線を下げるぞ!」

 

「はあ?

ここまで順調じゃねぇか!

なんで下げる必要があるんだよ!」

 

「Silence!

国軍がヘバりやがった。

質問は後だ!

学園生は全員迅速に戻れ!

編成替えして備えるぞ!」

 

「・・・国軍がヘバった?

なにが起きてんだ?」

 

下がっていく生徒を見ていた良介の元に誠がやってきた。

 

「おい、良介!

国軍の防衛ラインを突破されたらしいぞ!」

 

「・・・何?

おい、その突破した魔物はどこに向かっている!」

 

「え?

すぐそこのところに来るかも・・・って、お前、戦う気か!?」

 

「当たり前だ!

どれだけの数が来るかわからんができるだけ数を減らした方がいいだろ。」

 

「・・・わーったよ、それじゃあ、俺も一緒に戦ってやるよ!」

 

「いいのか?」

 

「【親友】を見捨てるほど俺も落ちぶれちゃいねぇよ。

そうと決まれば、行くぞ!」

 

「・・・ああ!」

 

魔物の元に良介と誠は向かった。

 

   ***

 

「なによなによ!

話が違うじゃない!

第7次侵攻だからってキンチョーしてたら最初は弱いのばっかりで・・・

ちょっと安心したとこに強いの来ないでよね!

こっちの都合も考えなさい!」

 

智花と夏海と怜のところに強力な魔物が来ていた。

 

「な、夏海ちゃん・・・気持ちはわかるけど、それはちょっと無理じゃないかな・・・」

 

「しかしこれまでに比べ、魔物の強さと数が明らかに増えた。

国軍はこんなにたくさんの魔物を相手にしていたんだな。」

 

「うん・・・わたしたちも、再来年にはここじゃなくて、もっと前にいるんだね。」

 

「あー、もう疲れた!

良介に魔力回復してもらいたい~っ!」

 

「良介はずっと戦場を走り回っている。

あまり無理はさせるな・・・

とはいえ、私も魔力が尽きかけている。

一度戻って交代した方がいいな。」

 

「・・・あとどのくらい続くんだろう・・・」

 

「悪い方向に考えるな。

国軍が体勢を立て直せば楽になる。

夏海、遊佐に連絡してくれ。

私が殿につくから、下がろう・・・」

 

と、怜が何かに気づく。

 

「・・・しまった、急げ!」

 

「え?」

 

「3体来るぞ!

囲まれたら勝ち目がない・・・!」

 

「さ、3体!?

魔力があってもそんな数・・・!」

 

と、2人の影が3人の前を通り過ぎる。

 

「え?

今のって・・・!」

 

「おらおらおらぁっ!

邪魔だ邪魔だぁ!」

 

誠が矢を放ちながら敵に突っ込む。

 

「誠、なぎ払うから伏せろ!」

 

良介が剣に魔力を込め、一気になぎ払う。

 

「でりゃあっ!」

 

3体の魔物を一気に蹴散らす。

 

「り、良介!?

誠!?」

 

「3人とも、魔力は渡すが、ここは任せておけ。

一匹たりとも通さねえから。」

 

「・・・わ、私はまだ戦える。

2人だけにするわけにはいかない。」

 

「戦い続けて疲れてんだろ?

ここは俺と良介に任せておけ。」

 

「・・・苦戦するようなら呼ぶんだぞ!」

 

3人は下がっていった。

 

「さて、タイコンデロガと戦うのは2度目だな。

一体どれだけの数が来るのか・・・」

 

「俺は初めてだぞ?

タイコンデロガはお前に任せた。

他のザコどもは任せろ。」

 

「了解、んじゃ、いっちょ暴れるか!」

 

良介は第1封印を解放する。

 

「おおう、なんだそれ?」

 

「ああ、これ?

まぁ、封じてる力の解放・・・ってやつかな。」

 

「へえ、面白い力持ってんな・・・と、来たぞ!」

 

次々と大量の魔物がやってきた。

 

「うおお!?

国軍どんだけ突破許してんだ!」

 

「愚痴言わず援護しろ!

来るぞ!」

 

良介が魔物の群れに突っ込む。

その良介に襲いかかろうとするザコの魔物を誠が片っ端から射抜いてゆく。

 

「ぬおお・・・数が多すぎるぞ!?」

 

「はぁっ!

チッ、予想以上にタイコンデロガが多すぎる!」

 

タイコンデロガを殴り、斬りを繰り返す良介。

と、一匹のタイコンデロガが誠の元に向かった。

 

「やべっ、誠!」

 

「げっ!

クソッ、使うしかねぇか!」

 

誠は弓をしまうと、腰についている二本の片手剣を取り出す。

両方の剣に魔力を流し、タイコンデロガに斬りかかる。

 

「うりゃあっ!」

 

タイコンデロガに連続斬りを食らわし、消滅させる。

 

「ふぃー、びっくりしたぜ。」

 

「おい!

援護してくれ!

1人でこの数はきつい!」

 

良介がザコも纏めて相手していた。

 

「わかったわかった!

ちょっと待て!」

 

すぐさま誠は弓を出し、ザコを次々と射抜く。

 

「クソッ!

数が多すぎる・・・こうなったら・・・!」

 

「良介、何する気だ?」

 

「国軍防衛ラインのところまで力で押し返す!」

 

「はぁ!?

お前正気か!?

それよか誰か呼んだ方が・・・」

 

「この数を相手にそんなことできる暇があると思うか?」

 

目の前は魔物だらけになっていた。

 

「・・・わかったよ!

こうなったらヤケクソだ!

とことん付き合ってやるよ!」

 

「悪い!

付き合ってもらうぜ!」

 

2人は魔物の群れに突っ込んでいった。

 

   ***

 

休憩所に真理佳がいた。

そこに智花たちがやってきた。

 

「あ、センパイ方。」

 

「む、君は確か良介のところのパーティに入っていた・・・」

 

「はい、円野 真理佳です。

あの、1つ聞きたいことが・・・」

 

「どうしたの?」

 

智花が真理佳の話を聞こうとする。

 

「良介センパイ、どこにいるか知りませんか?」

 

「良介?

なら、さっき会ったわよ。

今、向こうで誠と魔物の相手をしてるわよ。」

 

「えっ!?

こうしちゃいられない!

僕も・・・!」

 

「待て!

あの2人が戦っているのはタイコンデロガだ。

お前では足手まといになるだけだ。」

 

「うっ・・・」

 

智花が落ち込む真理佳に話しかける。

 

「ねぇ、良介さん、何か言ってた?」

 

「えーと・・・ここで待つようにと・・・

あと、ここに3人のパーティの班が来たら、そこと合流するようにと・・・」

 

「・・・なるほど。

他のメンバーを巻き込まないようにするためにそんな指示を出していたか。」

 

「・・・良介センパイと誠センパイ、帰って来ますよね?」

 

「大丈夫よ。

あの2人、かなり強いって噂だから!

・・・本当かどうか知らないけど。」

 

「夏海ちゃん!

・・・大丈夫、帰ってくるよ。

だから、私たちは信じてあげよう。

あの2人のことを・・・」

 

「センパイ・・・わかりました!」

 

変わって、国軍防衛ライン付近。

 

「はぁ・・・はぁ・・・なんとかここまで押し返せたか・・・」

 

良介は肩で息をしながら話す。

 

「まったく・・・こんなこと魔力が無限のお前しかできない芸当じゃねえか?」

 

「さぁな・・・案外、始祖十家なら軽々とやりそうだが。」

 

「比べる相手間違えてるっつうの。

にしても・・・マジでこの数を相手するのか?」

 

そこには、さっきまで相手していた魔物とは比べ物ならないくらいの数がいた。

 

「やるしかねぇだろ。

こいつらを通したらなんて想像したくもねえ。」

 

良介は剣を構える。

 

「まったく・・・やるしかねぇか!」

 

誠も弓を構える。

 

「行くぞ!」

 

魔物の群れが一斉に襲いかかってきた。

同時刻、休憩所。

虎千代がエレンとメアリーと話していた。

 

「・・・何?

魔物の数が減った?」

 

「そうだ。

急激に減った上にほぼ雑魚しか来なくなった。」

 

「アタイたちのところに関しては一匹も来なくなっちまった。」

 

「・・・どういうことだ?」

 

虎千代が考え込んでいると、薫子がやってきた。

 

「会長!」

 

「薫子、どうした?」

 

「あの、一つ問題が・・・」

 

「何があった?」

 

「・・・行方不明者が出ました。

2人です。」

 

「行方不明?

誰なのかわかっているのか?」

 

「いえ、まだそこまでは・・・学園の生徒だということはわかっているのですが・・・」

 

エレンが薫子に話しかけてきた。

 

「今、ほぼ全員の生徒が休憩所にいるはずだ。

誰がいないのか今なら調べられるんじゃないのか?」

 

「確かに・・・会長!」

 

「ああ、頼んだ。」

 

薫子が調べに向かった。

 

「どうしてこうも連続して問題が起きるのか・・・」

 

虎千代はため息をついた。

その頃、国軍防衛ライン付近。

 

「はぁっ! せぇやっ!

・・・まるで無限に出てくるような感じがするな。」

 

いくら倒しても増える魔物に呆れたように笑う良介。

 

「このっ!

クソッ、国軍はまだ立て直せねぇのか!?」

 

愚痴を言っている誠の後ろに魔物が迫って来ていた。

 

「っ! 誠!」

 

良介が誠を庇いに行く。

 

「良介!?」

 

良介が誠を押し出し、魔物の攻撃を受ける。

 

「ぐっ!」

 

剣で防御するが、突然その魔物の後ろから弾丸のようなものが飛んできた。

 

「がっ!?」

 

それは良介の左脇腹に直撃した。

良介は思わず膝をついた。

 

「良介っ!

この野郎っ!」

 

誠は目の前にいる魔物を全て射抜き、良介の元に駆け寄る。

 

「大丈夫か!

傷は?」

 

「大丈夫・・・じゃないな、こりゃあ・・・」

 

良介の左脇腹には拳銃で撃たれたような傷ができていた。

出血量も多く、その周辺の服を血で赤く染めていた。

 

「・・・良介、これ使え。」

 

誠は懐から包帯を取り出す。

 

「誠・・・なんでそれを?」

 

「念のためってやつさ。

治療は自分でできるな?

時間稼ぎは俺がやっておく。」

 

「・・・すまん、恩に着る。」

 

「礼は終わってからでいい。

さっさとしねぇと全部俺が潰しちまうぞ!」

 

誠は腰の双剣に手をかけ、魔物たちに斬りにかかった。

 

「・・・応急処置が限界か。

まぁ、動けなくなるよりかはマシか。」

 

良介は治療をし始めた。

 

   ***

 

休憩所では虎千代が薫子の帰りを待っていた。

 

「会長、今戻りました。」

 

薫子が帰ってきた。

 

「・・・誰がいないかわかったか?」

 

「はい。

・・・その、人物なんですが・・・」

 

「・・・どうした?」

 

「・・・良介さんと誠さん・・・です。」

 

「何・・・?

最後はどこで目撃された?」

 

「南さんのパーティを逃がすために魔物と戦っているところを目撃されたのが最後です。」

 

「まだその場所で戦っていないのか?」

 

「はい。

探しに行った者たちによるとその周辺にも魔物一匹もいない状態だったそうです。」

 

「・・・一体どこにいるんだあの2人は・・・そういえば国軍は?」

 

「まだ立て直したという話はありません。」

 

「なら、なぜ魔物は来ないんだ?」

 

「今、宍戸博士に衛星写真を撮ってもらっている最中です。

それが届けばわかるかと。」

 

「・・・わかった。

生徒たちには近辺の警戒を怠らないように指示しておけ。」

 

「わかりました。」

 

薫子が去っていくと、虎千代は大きくため息をつく。

 

「まさかとは思うが・・・」

 

その頃、防衛ライン。

 

「ぐはっ!

ぐっ・・・強い・・・!」

 

タイコンデロガの攻撃を受け、膝をつく誠。

 

「良介・・・よくこんな攻撃・・・受けられるな・・・」

 

誠に魔物の群れが襲いかかってくる。

 

「くっ・・・!」

 

身構える誠の目の前で魔物の群れが一瞬で吹っ飛ばされる。

続いて、タイコンデロガも一刀両断された。

 

「悪い!

少し時間が掛かった!」

 

「いや、ナイスタイミングだ・・・良介。」

 

誠の目の前に良介が上からやってきた。

 

「・・・戦えるか?」

 

良介が手を差し伸べる。

 

「そのセリフ、そのまま返すぜ。」

 

誠は話しながら手を掴み、立ち上がる。

 

「それだけ言えれば充分だな。

さて・・・」

 

良介は魔物の方を見る。

 

「・・・少し減ったな。」

 

「たぶん・・・国軍が持ち直し始めたからじゃないのか?」」

 

「わからん。

減ってもタイコンデロガがいる。

気は抜けないな。」

 

「・・・ふぅ、もう少しの辛抱ってか。」

 

「・・・今思ったが、俺たちのやってることみんなに滅茶苦茶言われそうだな。」

 

「遅すぎるっつうの。

こうなった以上は絶対に生き残らねえと何言われるか・・・」

 

「生き残るか・・・そうだな。

生きてみんなの元に帰るか!」

 

「ああ・・・誰1人欠けずにな。」

 

良介と誠はお互いを見る。

 

「行くぞ!」

 

魔物の群れに2人は意を決して突っ込んだ。



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第25話 第7次侵攻③

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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「会長、宍戸博士から衛星写真が届きました。」

 

衛星写真が入った封筒を持った薫子が虎千代のところにやってきた。

 

「ああ、見せてくれ。」

 

虎千代は封筒を受け取り、中身を確認する。

一枚目には魔物しか写っていなかったが、二枚目を見た瞬間、虎千代は驚いた。

 

「・・・っ!

これは・・・!」

 

二枚目にはその魔物の群れ相手に戦う2人の男の魔法使いが写っていた。

青いマントに剣を持った男と弓を使って戦う男、紛れもなく良介と誠だった。

 

「薫子、今すぐ精鋭部隊と他の手の空いている生徒に声をかけてくれ!」

 

「え?

何かあったんですか?」

 

「魔物が来ない理由・・・これだ。」

 

虎千代はその写真を薫子に見せた。

 

「これは・・・良介さんと誠さん!?」

 

「ああ、たった2人で突破してきた魔物と戦っているらしい。

今すぐ頼む!」

 

「了解しました!」

 

薫子は生徒に声をかけに行った。

 

「まったく、あの馬鹿2人め・・・!」

 

その頃、防衛ライン。

 

「ぐっ・・・!

クソッ!」

 

良介は傷の影響で思うような動きができなくなっていた。

魔物は倒しているものの、攻撃がほとんど避けられなくなっていた。

 

「うりゃあっ!

良介、大丈夫か?」

 

誠が双剣で魔物を倒してやってきた。

 

「ああ・・・大丈夫だ。

だから、目の前の魔物だけ集中していてくれ。」

 

「・・・わかった。」

 

誠は再び魔物の方へ向かっていった。

良介はなんとなく左脇腹に手をやってみた。

 

「・・・やっぱりか。」

 

手が血で真っ赤に染まっていた。

 

「頼むから終わるまでもってくれ・・・!」

 

良介は脇腹の傷を手で押さえながら魔物に向かっていった。

 

   ***

 

「薫子、どうだ?

どれぐらい集まった。」

 

「はい、精鋭部隊に風紀委員、保健委員と良介さんのところのパーティが来れるようです。」

 

虎千代たちは防衛ラインのところに向かう準備をしていた。

 

「それにしても、こんだけの魔物どもを2人で相手にするってどんだけ狂ってんだよ。」

 

「だが、2人の行動もあながち間違いではない。

これだけの魔物が一気に来ればこちらもかなりの被害が出ていたかもしれん。」

 

メアリーとエレンは衛星写真を見ていた。

真理佳は良介たちのことを心配していた。

 

「センパイたち・・・大丈夫かな?」

 

月詠が真理佳に話しかけてきた。

 

「大丈夫よ。

2人ともバカみたいに強いから。」

 

「こんなときでもセンパイたちのこと信頼してるなんて・・・

守谷センパイ、すごいなぁ・・・」

 

「なっ・・・

べ、別に信頼なんかしてないわよ!」

 

風紀委員の方では、風子と紗妃が話していた。

 

「神凪は例の2人のところ、服部は天文部のところですか。」

 

「はい、なので実質私たち3人だけということになります。」

 

「そーですか、それにしても国軍を突破してきた魔物を2人だけで相手にするって、

どんだけ無茶してんですかね?」

 

「そうですね、というか一体何匹の魔物がいるのか・・・」

 

「宍戸 結希曰く、軽く300以上はいるらしーですよ。」

 

「さ、300!?

それだけの数をたった2人で!?」

 

「そーです。

しかも良介さんは別の写真からわかったことなんですが・・・

脇腹を負傷しながら戦っているみてーなんです。」

 

「え・・・ち、治療は?」

 

「包帯巻いてるだけみてーです。

あのままじゃ危険ですねー・・・」

 

「保健委員も来るみたいですけど・・・大丈夫でしょうか?」

 

「ま、ウチらが到着するまで無事であることを信じるしかねーですね。」

 

風子は防衛ラインのある方向を見る。

 

「(おねげーですから無事でいてくだせー。

良介さん。)」

 

「・・・よし、みんな準備ができたようだな。」

 

「はい、いつでも行けます。」

 

虎千代は薫子と他の生徒の様子を見ていた。

 

「よし、防衛ラインに向かうぞ。」

 

虎千代たちは防衛ラインに向かった。

その頃、防衛ライン。

 

「ぐ・・・この・・・!」

 

良介は魔物の攻撃を剣で防御したが傷のせいで踏ん張りが効かなくなっていた。

 

「ぐぁっ!」

 

そのまま良介は木に叩きつけられる。

 

「う・・・らぁっ!」

 

なんとか魔物の攻撃を弾き返し魔物に攻撃する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・うっ・・・」

 

良介は脇腹を押さえ膝をついた。

 

「でやぁ!

良介、お前は少し下がってろ!」

 

誠がこっちにやってきた。

 

「・・・そうは・・いかない。

この数を・・・お前に任せるわけには・・・いかないからな。」

 

「だが、さっきより減ったんだ。

タイコンデロガがいるとはいえ、俺でもやれるはずだ。」

 

「・・・タイコンデロガ一匹で苦戦してたくせによく言うぜ。」

 

「・・・うるせぇ。」

 

魔物はかなり数が減っていた。

すると、良介は剣に魔力を流し始めた。

 

「お、おい。

何する気だ!?」

 

「伏せてろ。

一掃する!」

 

恐らくこの一発で第1封印は解けるかもしれないが、それでも良介は放つことにした。

 

「はああぁぁぁぁ・・・!」

 

剣に魔力を流し、大きく上に振りかぶる。

 

「おりゃああぁぁぁっ!」

 

良介は思いっきり剣を振りかざした。

強力な衝撃波が発生し、魔物を次々と消し飛ばした。

 

「うっ・・・ぐっ・・・!」

 

良介の第1封印は解け、脇腹を押さえそのまま膝をつく。

 

「無茶しやがって・・・!

今ので傷開いたんじゃねえのか?」

 

「・・・その前から開いてるよ。

はは・・・もう包帯でも血が止められなくなったか。」

 

良介の脇腹は服の上から流血していた。

 

「このバカ野郎・・・!

もうほとんどいないんだ。

後は俺に・・・!」

 

「お前も人のこと言えねえんじゃねえのか?

その右肩でどうやって戦う気だ?」

 

誠もいつの間にか右肩を負傷していた。

右腕から血が滴り落ちていた。

 

「・・・お前に比べたらマシだ。」

 

「右腕、うまく動かないんだろ?

だったらフォローが必要なんじゃないのか?」

 

良介は脇腹を押さえながら立ち上がる。

 

「・・・もうあれだけなんだ。

2人で一気に終わらせよう。」

 

もう残りの魔物は10匹前後になっていた。

 

「・・・本当に大丈夫なのか?」

 

「ああ、だが時間がない。

行こう。」

 

「・・・わかった。

ただし無理ならすぐにでも下がれよ。」

 

「ああ、わかった。

行くぞ!」

 

良介と誠は魔物に向かっていく。

誠は弓で一気に魔物を射抜く。

魔物の数は減り、5匹になった。

 

「クソッ、でかいのはさすがに倒せないか!」

 

「任せろ!」

 

良介は剣に魔力を込め、一気に斬る。

3匹倒し、残りはタイコンデロガ2体だけになった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ここでタイコンデロガは・・・まずいな・・・」

 

「お互い満身創痍、おまけに全力が出せないときた。

もうここまでやったんだ。

そろそろ下がらないか?」

 

「・・・いや、逃げたところですぐ追いつかれるだろ。

だったらここで戦った方が・・・」

 

そう言って良介が構えようとした瞬間、二つの影が通り過ぎる。

 

「はぁああっ!」

 

「くらえっ!」

 

2体のタイコンデロガが倒される。

虎千代とつかさだった。

 

「はは・・・助かったな、良介。」

 

「・・・ああ。」

 

良介と誠は気が抜けたのか、そのまま倒れそうになる。

すると、良介を風子が、誠を真理佳が受け止める。

 

「大丈夫ですか、センパイ!」

 

「・・・ああ、真理佳か。」

 

「まったく・・・無茶しすぎですよ。

2人とも。」

 

「・・・悪い。」

 

2人の元に保健委員がやってきた。

 

「他の生徒は周りに魔物がいないか見回りを。」

 

虎千代は指示を出すと、2人のところにやってきた。

 

「・・・2人とも、無事でなによりだ。

だが、なんでこんな無茶を?」

 

「・・・ただ単に、あの魔物の群れを通したら・・・

大切なものを失くしそうな気がしたんで・・・」

 

「・・・それだけのなのか?」

 

「ええ、俺がそうした理由はそれだけです。」

 

「・・・誠は?」

 

「俺は・・・1人で突っ込もうとする良介を見捨てられなかった。

ただそれだけです。」

 

「・・・そうか。

2人とも、お前たちの活躍のおかげでグリモアには被害が出ずにすんだ。

礼を言わせてくれ。」

 

虎千代は2人に礼を言おうとする。

 

「・・・会長。

それは、侵攻が終わってからの方がよくありませんか?」

 

「そうでもない。

国軍は持ち直した。

それにお前ら2人で侵攻の6割近くの魔物を倒したんだ。

国軍が押し始めている。

もうアタシらの力も必要ないだろう。」

 

「俺ら・・・そんなに倒してたんだな・・・知らなかったぜ。」

 

誠が右肩を押さえながら、呆れたように笑う。

 

「さあ、治療が終わったら戻ろうか。」

 

   ***

 

虎千代たちは元の防衛線に戻ってきた。

 

「・・・・・長かったな・・・・」

 

つかさが虎千代に話しかけてきた。

 

「ふん、ふんぞり返っていたのでは長くも感じよう。

私にとっては至福のひと時だったぞ。

物足りんくらいだ。」

 

「可能な限り戦ってはいたんだがな・・・まあ、いい。

お前とあの2人のおかげだ。」

 

虎千代は包帯だらけになった良介と誠の方を見る。

 

「フン、おだてて何を期待しているか知らんが、無駄だ。」

 

「・・・だがこれだけの日数、これだけの魔物と戦ったのは初めてだろう?

私もこの前に思い知ったが、自分が考えるより、体は弱いものだ。

休め。

今回は乗り切れたのだから、後8年は大丈夫だろう。」

 

「そうなればいいがな。」

 

つかさは去っていった。

薫子が虎千代のところにやってきた。

 

「・・・生天目 つかさ、やはり常日頃、勝手に魔物討伐に出かけるだけはありますね。」

 

「ああ・・・いつもは対抗戦かタイマンだったからわからなかったがな・・・

まぁ、一番驚いたのはあの2人だ。」

 

虎千代は良介と誠の方を見る。

 

「ええ、無補給であれだけの魔物を、しかもあんな状態で戦っていたのですから。

継戦能力はあの2人がトップ・・・と、私が申し上げておきましょう。

会長が仰る必要はありません。」

 

「いつも変なところに気を使うな・・・さて、私の仕事だ。

ケリをつけよう。」

 

「はい。

生徒は集合させてあります。」

 

「疲れた体に無理をさせるな・・・短めにするか。

いや、一言でいいな。

・・・第7次侵攻は終わった。

勝ったぞ。」

 

その頃、学園の研究室。

結希と望と心がいた。

 

「・・・武田 虎千代が終結宣言をしたわ。

私たちの仕事も終わりね。」

 

「ぜーっ・・・ぜーっ・・・クッソ、こんな霧が濃くなった時に拉致しやがって・・・」

 

「お、終わったんですか?

みみ、みなさんは・・・」

 

「重傷者が2名。

軽症者はほぼ全員。

でも命に関わるケガはいないわ。

死者も。」

 

「ほ、本当ですか!?

よかったぁ・・・」

 

「フン、ボクの方が死にそうだったぞ。

いきなり状況分析なんかやらせて・・・

引きこもりなんかに重労働なんかさせんなっての。」

 

「おかげで国軍の消耗も最小限だったわ。

痛いのは間違いないけれど。」

 

「2割だっけ?

あんだけぶっ込まれてよくそれで済んだよ。

ま、RTSのプロだからな、ボク。」

 

「もう帰って大丈夫よ。

連日お疲れ様。

 

「あー、寝よ寝よ。

あ、新作やっとかないと・・・」

 

「そ、それじゃあ失礼します・・・」

 

望と心は研究室から去っていった。

 

「・・・・・」

 

結希が1人で研究室にいると、デバイスから電話がかかってきた。

 

「もしもし・・・・・あなた、どうしたの?

半年ぶりね。

・・・・・魔物の通り道・・・・・確かに、旧科研があったわね・・・・・なんですって?

魔物の到着に余裕があったのはそのせい?

・・・わかったわ。

こっちで対処する。

なに?

・・・そう、完成したのね。

安全装置はどうなってるの?

言ったはずよ。

あなたが転校してくるのはまだ早い。

魔法を使ったときの負担は、魔法使いでないと耐えられない。

【覚醒していない】あなたが、他の生徒と一緒に戦うのは無理よ。

・・・・・好きにしなさい。

忠告は何度もしたから。

研究のために命を捨てるというなら、もう止めないわ。」

 

   ***

 

「ん・・・あれ?」

 

良介は目を覚ました。

いつの間にか気を失っていたらしい。

体を起き上がらせると周りを見渡す。

 

「・・・保健室か。」

 

外はすっかり暗くなっていた。

時間を見ると11時を指していた。

 

「すー・・・すー・・・」

 

「ん?」

 

気がつくと椅子に座った風子が良介の寝ているベッドに顔を突っ伏して寝ていた。

 

「なんで風子が・・・」

 

「水無月さん、侵攻で疲れているはずなのにずっとあなたの看病してたのよ?」

 

ゆかりがやってきた。

 

「俺は・・・どれぐらい気を?」

 

「大体6時間ぐらいね。

その傷だからまだ目は覚まさないと思ってたけど、案外早かったわね。」

 

「そうですか・・・誠は?」

 

「隣よ。

まだ目を覚ましてないわ。」

 

仕切られていて見えないが、誠は隣で寝ているらしい。

 

「とりあえず、今日はここで大人しくしててね。

間違っても絶対に動いちゃダメよ!」

 

「・・・わかってますよ。」

 

ゆかりは保健室から出て行った。

 

「ん・・・」

 

風子が目を覚ましたようだ。

 

「よう、風子。

起きたか?」

 

「良介さん・・・大丈夫なんですか?」

 

「まだあちこち痛むが・・・ま、なんとかな。」

 

「そーですか・・・」

 

風子はそう聞くと少し俯く。

 

「・・・どうした?」

 

「どうして・・・あんな無茶をしたんですか?」

 

「言わなかったか?

魔物の群れを通したら大切なものを失くしそうだったからって。」

 

「その・・・大切なものってなんですか?」

 

「・・・それは、この学園のみんなだよ。」

 

「・・・みんな?」

 

良介は外に目をやる。

 

「ああ、今いて当たり前になっているみんなの中の誰かがいなくなるのが怖かった。

また、あの時と同じ目に合うんじゃないかって思ってな・・・」

 

「あの時?」

 

「・・・魔法使いに覚醒した日のことだよ。

家族、友達、住んでいた町・・・全部失くした日だよ。」

 

「全部失くした・・・」

 

風子は少し視線を下に向けたあと、謝ってきた。

 

「あ・・・ごめんなさい。」

 

「いや、別にいいよ。

あの日がなかったら今の自分はいないから。」

 

良介は風子の方を見て笑みを見せた。

 

「そういや、なんで風子は俺の看病を?」

 

「え・・・あの・・・その・・・心配・・・だったんで・・・」

 

「・・・そうか。

まぁ、誠よりやばい傷受けてたしな。

当たり前か。」

 

良介は左脇腹の部分に手をやる。

 

「・・・それだけじゃねーんですけどね。」

 

風子はボソッと囁いた。

 

「ん?

何か言ったか?」

 

「いえ、別になんでもねーです。」

 

風子は良介に笑みを見せると、椅子から立ち上がった。

 

「・・・今日は帰ります。

また明日、見に来ますから。」

 

「ああ、おやすみ。」

 

風子はそのまま出ていこうとしたが、ドアの前で止まる。

 

「・・・良介さん。」

 

「ん、どうした?」

 

「ウチをここまで心配させたんですから、傷が治ったらウチのお願い、叶えてもらいますからね。」

 

「はは・・・またあのカフェのパフェか?」

 

「そです。

おねげーしますよ?

良介さん?」

 

風子は良介の方を見て、ニコッと笑ったあと出て行った。

その後、誠は翌日に目を覚まし、2人は驚異的な回復力を見せ、1週間で傷を治してみせた。

そして、良介は後日、風子にりんごの高級パフェを奢るのであった。



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第2部 裏世界
第26話 秋のデート大作戦


※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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良介と誠が完治して4日が経った。

校門前に香ノ葉と冷泉 葵(れいせん あおい)がいた。

 

「ウフフフ・・・しんどい第7次侵攻も終わって、や~っとお休みの日が来たんよ。

あれだけ頑張ったんやから、そんなウチらに自分でご褒美あげないとなぁ。

下調べもバッチリしたし、ダーリンも皆もバッチリ満足いく1日にするんよ!」

 

「白藤さん、今日は1日よろしくお願いします!

わたくし、初めての【でーと】ということで、大変楽しみにしておりました!」

 

「初めてちゃうやろ。

いつも茶道部の皆で遊んでたやん。」

 

「なるほど・・・あれが【でーと】だったのですね。

勉強になります。」

 

2人が話をしていると、あやせとエミリアがやってきた。

 

「みなさん、おはようございます~。」

 

「おはようございます。

お待たせしてしまったでしょうか?」

 

「ぜんぜん待っておらんで。

望ちゃんもまだやからなぁ。」

 

「望ちゃん、おねぼうさんですからね~。

大丈夫でしょうか~?」

 

と、私服を着た月詠と誠がやってきた。

 

「望って?」

 

月詠はエミリアに質問する。

 

「私も名前ぐらいしか知らない方なんですけれど・・・」

 

「望って確か授業免除されてるヤツじゃなかったっけ?」

 

誠が周りに聞いた。

 

「望ちゃんはね、普段は部屋にこもっとるんやけど、すごいかわええ子なんよ。」

 

「引きこもりなのに外出するの?

よくわからないわね・・・」

 

「あら。

噂をしていたら、2人とも来たみたいですよ~。」

 

私服の良介が望を引っ張りながらやってきた。

 

「ダーリーン!

望ちゃーん!

こっちやよー!」

 

「まったく・・・部屋から出すの苦労した・・・」

 

「お疲れさん、良介。」

 

「ふわぁぁ・・・眠っ。

あと5時間ほど後でもよかったのに。」

 

「今から5時間経ったらお昼過ぎになっちゃうじゃない!」

 

「お前、大声はやめろって・・・頭に響くっての・・・」

 

望は頭を抑える。

 

「お前じゃないわ、ツクは守谷 月詠よ。

あんたは?」

 

「楯野 望・・・まぁよろしく。」

 

「楯野さん、今日はずいぶんおめかししていらっしゃるんですね~。」

 

「これは白藤に言われて着たんだよ。

別にボクの趣味じゃない。

そういえばなんで白藤は制服なんだよ!

ボクにだけ私服着せてさ!」

 

望は香ノ葉に怒り始めた。

 

「ウチもホントはおめかししよう思ったんよ?

・・・でも、迷ってる内に朝になってしもたの。」

 

「そうなんですよねぇ。

わたしも一晩中、迷いに迷ってしまいまして~。

結局、いつも通りが一番、ということで制服にしてしまいました~。」

 

「・・・私服でそんなに迷うか?」

 

良介が2人の発言に対して呆れた。

 

「まぁ、良介。

女ってのはそういうもんだ。

女心ってやつを理解しようぜ。」

 

誠が良介に小声で話しかけた。

 

「わたくしも、うっかり私服をお洗濯に出してしまいまして・・・」

 

「くそう、こんなことになるならボクも制服にしてくればよかった・・・」

 

「まぁまぁ。

これも情報代やということで堪忍してぇな。」

 

「・・・穴場情報、間違ってたら帰るからな。」

 

「大丈夫!

ウチの正宗がしっかり確かめてきた情報やからね。」

 

「ま、正宗ぇ・・・?

よく分かんないけど、頼むぞ。

ホント。」

 

「さて、それじゃあ皆、今日は1日、がっつり遊ぼな!」

 

5人は歩き始めた。

 

「・・・ふぅ、久々の息抜きで遊ぶことになったが大丈夫かな。」

 

「どうしたんだよ、良介。

何か嫌な予感でもするのか?」

 

「いや、葵って子、箱入り娘らしいからさ。

何か問題起こさなきゃいいなぁ・・・と。」

 

「大丈夫だろ。

あの人数にお前がいるんだから。」

 

「・・・なんで俺?」

 

「お前のフォロー力がありゃ、なんとかなるさ!」

 

「・・・なんでもかんでも押し付けるのはやめてくれ。」

 

2人は5人の後に続いた。

 

   ***

 

街に到着するなり香ノ葉は服屋に入り、それぞれグループに分かれた。

 

「まずは服ぅ見よな。

女の子は綺麗に着飾らんと♪」

 

「服はもういいよ・・・ボク単独行動でいい?」

 

「ムリよ、結希ちゃんから言われてんよ。

望ちゃんを1人にしたらだめやって。」

 

「くそっ、宍戸のやつ・・・ボクは1人で平気って言ってんのに・・・」

 

「まぁそう言わんで。

一緒に次の服選ぼ?

ダーリンも手伝ってくれるみたいよ。」

 

「・・・えっ、俺も?」

 

「な、なんでこいつも一緒なんだよっ!

自分の服ぐらい自分で選ぶっての!」

 

望は1人で行ってしまった。

 

「あーあ、言ってしもた・・・一応、グループからは離れないみたいやけど・・・

・・・しゃあないやね。

ダーリン、一緒にウチらの服を選ぼな。

ペアルックにする?」

 

「いや、ペアルックは勘弁してくれ・・・」

 

その頃、別のグループ。

 

「ふうん・・・おしゃれ着ってこんなに沢山あるのね・・・

あっ、この上着ちょっと素敵かも・・・ん?

結構高いわね!

こっちのスカートはどうかしら・・・うわ、やっぱり高いわね。

もうっ・・・良さそうなのに限って高いじゃない・・・!」

 

「・・・服ってそんなもんさ。」

 

月詠と誠が服を見ていると望がやってきた。

 

「全く、服だのオシャレだの、バカみたいだっ・・・!」

 

「・・・ずいぶん機嫌悪いわね。

どうしたの?」

 

「決まってるだろ、服屋の空気に毒されてたんだよ。」

 

「ど、毒って・・・楯野さんだって服ぐらい着るでしょ?」

 

「パジャマと替えの下着さえあればいいし、そんなの通販で事足りるだろ。」

 

「・・・完全に引きこもりの考え方だな。」

 

望の発言に呆れる誠。

 

「おしゃれしないの?」

 

「男に色目使うほどボクはヒマじゃないの!」

 

「でもその服、満更でもないんじゃない?」

 

「別に・・・もらいものだからぞんざいにできないだけだし。」

 

その頃、別の場所。

春乃と鳴子がいた。

 

「さて。

今日は過去最大の買い出しになるわ・・・秋穂、楽しみに待っててね!」

 

「カートとリュックを持ってきてよかった・・・これはいつもの10倍以上になるぞ。

そうだな、帰りはワゴンタクシーを手配しよう。

いいね?

春乃君。」

 

「トラックにして。」

 

「僕は構わないけれど、寮の部屋に入りきるかな?」

 

「あたしと秋穂の部屋を合体させて増築すれば問題ないわ。

ああっ!

でもいっそ新しく家を買えば・・・秋穂とあたしの愛・の・巣!」

 

「・・・ローンは平気かい?」

 

「どうにかするわよ。」

 

「そうか・・・じゃあ、後で近くのモデルハウスを見に行こう。」

 

「調べておいて。」

 

「OK。

家は最後だな・・・次はどこを見るんだい?」

 

「そこの服屋よ。

もっとも、秋穂の可愛さに負けちゃう服のが多いけど。」

 

「・・・おや?

あっちにいるのは・・・」

 

鳴子が何かに気付いた。

その先には良介と香ノ葉が服を選んでいた。

 

「なぁなぁダーリン、これなんてどやろ?

ペアルックのパーカーやって!」

 

「・・・俺はこっちの色のパーカーがいいんだけど。」

 

「そんな恥ずかしがることないんよ?

着るのは休日だけやもん。」

 

鳴子が2人に近づいた。

 

「これはこれは。

夏海が見たら喜びそうなシチュエーションだな。」

 

「えっ・・・あっ。」

 

「ひゃあ!?

ゆ、遊佐さん・・・それに瑠璃川さんやないの。

今日は2人で買い物に来とったん?」

 

「ああ。

僕は春乃君の付き添いでね。

妹さんを祝ってあげるそうだよ。」

 

「秋穂ちゃん、愛されとるなぁ。」

 

「うぇへへへ・・・これなら秋穂に合うかな。

こっちも悪くない感じ・・・うふふふ・・・」

 

春乃は1人で変な笑いをしていた。

 

「・・・相変わらず自分の世界に入っとるなぁ。」

 

「・・・傍から見たらただの変人だな。」

 

2人はその様子を見て呆れた。

 

   ***

 

良介たちはファミレスに来ていた。

 

「さて、一休みしよな、みんな。」

 

「やっと休憩だよ・・・あー疲れた疲れた。」

 

「望ちゃん、まだ最初の場所に行っただけやないか。」

 

「引きこもりにとっては外出だけでも苦痛なの!」

 

「せっかくおめかしして来たんやから、もっと楽しんだ方がええんちゃう?」

 

「ボク、その楽しみの場所だけ行って帰るつもりだったんだけど。」

 

「1人で行ったらイヤよ。

結希ちゃんに怒られてまうから。」

 

「・・・ふん、わかったよ。

とりあえず食事だ。

白藤、メニュー。」

 

「あいよ、受け取っておくんなはれ。」

 

香ノ葉は望にメニューを渡した。

 

「えーと・・・ボク、マルゲリータピザとサラミピザ、あとドリンクバーな。」

 

「相変わらずピザなんやなぁ・・・」

 

「ピザ以外選べよ・・・」

 

良介がため息をついていると、葵が話しかけてきた。

 

「あのー・・・ピザとはそんなに美味なものなのでしょうか?」

 

「え?

ああ、ピザはな・・・」

 

誠が葵に説明しようとした途端、望が話しかけてきた。

 

「ん?

そりゃお前、ピザさえあれば他に何もいらないだろ?」

 

「わたくし、ぴざというものを食べたことがありませんので・・・」

 

「そんなに気になるなら注文すりゃいいじゃないか。」

 

「はい!

そういたしますね!」

 

葵はピザを注文した。

 

「・・・・・」

 

その状況を誠は黙って見ていた。

 

「・・・ま、こういうこともあるさ、誠。」

 

良介は誠を励ました。

注文されたものが運ばれてきた。

 

「あの、楯野さん・・・」

 

「なんだよ今度は・・・」

 

「チーズがこぼれてしまって、上手く食べられないのです・・・」

 

「ちょっとぐらいこぼれても別にいいだろ・・・」

 

「(ピザをこぼさずに食べる・・・その気持ち、わからなくはない。)」

 

誠がドリアを食べながらうなづいていた。

 

「・・・お前、何うなづいてんだ。」

 

良介がチーズハンバーグを食べながら呆れた。

その後、皆でデザートを食べることになった。

 

「・・・おっ、みんな、デザート来たで。」

 

皆が注文したデザートが運ばれてきた。

 

「楽しみにしてました!

ここのパフェは絶品ですからね!」

 

「うふふ・・・ウチはおヨウカンや!」

 

「まあ・・・!

いつのまにおヨウカンを取り扱うようになったのですか?」

 

「ええやろ~。

こないだ追加されたのを聞いたってん。」

 

「そうだったのですか・・・わたくしもおヨウカンにすればよかったです。」

 

「よかったら葵ちゃんも一口どう?」

 

「でしたら、わたくしのパフェもお裾分け致しますね!」

 

「皆で交換し合えば、色々食べられてええやんな♪」

 

その状況を望が見ていた。

 

「なんだ、デザート交換会か?

まるで小学生の遠足だな。

お菓子なんて、1人でのんびり食べるに限るっていうのにさ。

・・・・・・・・・・・」

 

望に月詠が話しかけてきた。

 

「・・・・・あのさ。」

 

「・・・ん?

なんだよ。」

 

「一口、食べなさいよ。」

 

「変に気を遣うなよ、同情なんていらないんだからな。」

 

「ちょっと多いから食べて欲しいだけよ。」

 

「・・・・・まぁ、それでいいってんなら。

遠慮なく食べるか。」

 

良介と誠はデザートを食べながら見ていた。

 

「・・・デザート交換、ね。」

 

「どうした良介。

お前も混じりたいのか?」

 

誠がニヤニヤしながら聞いてきた。

 

「誰が混ざるか。

あんなところに男が混ざったら違和感しかねえだろ。」

 

「ま、確かにそうだな。

ところで・・・」

 

「ん?

どうした?」

 

誠が良介が食べているりんごのパフェを見る。

 

「お前がそんなの食べるって珍しいな。」

 

「ああ、普段風子がよく食べてるからおいしいか気になって頼んでみた。」

 

「・・・え、なんでそんなこと知ってるんだ?」

 

「風子とよく来るから。」

 

「・・・え?」

 

「・・・どうした?」

 

「い、いや、なんでもない・・・

(水無月と・・・よく来る?

噂でよく街で一緒にいるって話を聞いたが・・・まさか本当だったとは・・・)」

 

   ***

 

良介たちはファミレスから出てきた。

 

「だいぶ話し込んでしまいましたね。

次はどこへ向かわれますか?」

 

「この後はー、ゲームセンターに行く予定なんよ♪」

 

「ゲームセンター・・・とは、なんですか?」

 

「ああ、それは・・・」

 

誠が説明しようとすると、望に遮られた。

 

「テレビゲームってあるだろ。

あれが一杯あるところだ。」

 

「他にも、プリントシール機やクレーンゲームもあるで。」

 

「テレビゲーム・・・プリントシール機・・・それにクレーンゲーム・・・?

分からないものだらけです・・・どういうものなのでしょう・・・」

 

「口で聞くより、見て確かめた方が早いと思うぞ。」

 

「そうやね。

面白いことはウチが保障するえ。」

 

「そうですね・・・百聞は一見に如かずと言いますし、そうしましょう!」

 

「・・・・・」

 

また黙って固まる誠。

 

「今日は運が悪い・・・そういうことだろう。」

 

良介がみんなの後についていった。

その頃、少し離れた場所。

 

「・・・・・」

 

卯衣が1人でいた。

その場にあやせとエミリアがやってきた。

 

「あら~?

卯衣ちゃんがいますね~。」

 

「た、立ったまま寝てます・・・!

危ないから起こしてあげないと。」

 

エミリアが卯衣を起こしにいった。

 

「立華さん、立華さん。

起きないと危ないですよ。」

 

「・・・ブルームフィールドさん?

それに海老名さんも。」

 

「卯衣ちゃん、今日は1人でお出かけしてたんですか~?」

 

「いえ・・・天文部で来たの。

でも、いつの間にかこうなった。」

 

「大変じゃないですか!

早く連絡を取らないと。」

 

と、卯衣のデバイスが鳴り始めた。

 

「・・・部長、私です。」

 

しばらくすると、ミナがやってきた。

 

「いたーっ!

全く、どこに行ったのかと思ったぞ!」

 

「ごめんなさい。

魔力の消費を抑えていたら寝てしまっていたの。」

 

「こんな人ごみで寝る奴がいるか!

【組織】の刺客に狙われたらどうする!」

 

「以後、気を付けるわ。」

 

「全く、しようのない奴め・・・行くぞ!

皆が待ちかねておる!

ではさらばだ!

この借りはいずれ返すぞ!」

 

ミナは卯衣を連れて去っていった。

 

「ミナちゃん、しっかり部長しててえらいですね~。」

 

「・・・何があったんだ?」

 

誠は終わった後の状況を見て首を傾げていた。

良介たちはゲームセンターに到着し、中に入った。

 

「これがゲームセンター・・・ずいぶん賑やかな場所なのですね!」

 

「な、楽しそうやろ。

女の子もいっぱい来とるし。」

 

「テレビのようなものが沢山ありますが・・・これで遊ぶのですか?」

 

「そうやよ。

望ちゃんは、ああいうので遊ぶのが好きやんな。」

 

葵はクレーンゲームの方を見る。

 

「大変です白藤さん!

そこの人形が盗まれそうになっております!」

 

「泥棒やないよ。

クレーンゲームや。

うまく撮れたら景品をもらえるんやで。」

 

「あれがクレーンゲーム・・・可愛らしい人形が沢山で、とても楽しそうですね。」

 

「やってみる?」

 

「はい!

わたくし、あの大きなぬいぐるみが欲しいです!」

 

「ええよ、やってみよか♪」

 

その頃、別のグループ。

望と月詠がいた。

 

「さて、何で遊ぶかな・・・目的のアレは既にやっちゃったことだし・・・

そうだな、たまにギャラリーにボクの実力を見せつけてやるか。

となると、STG、TPS・・・いや、音ゲーの裏譜面って手もあるな・・・」

 

「ねえ、楯野さん。」

 

「ん?

・・・どしたの?」

 

「ツク、少しやってみたいゲームがあるんだけど。」

 

「やればいいじゃん。

なんでボクに言うのさ?」

 

「やったことないのよ。

ほら、アレ。」

 

月詠が一つのゲームを指差す。

 

「戦国カード合戦・・・ふうん?

このジャンルの元祖みたいなヤツだ。

さすがに今からだとシステム古臭いぞ。

もっと新しいのがいいんじゃないか?

さっきまで最新作のBOのロケテやってたんだけどな。」

 

「ツク、戦国時代が好きなのよ。

他のファンタジーとかピンと来なくて・・・」

 

「これも十分ファンタジーだと思うけど・・・やり方わからないんだな?」

 

「そうそう。

信玄を選ぶにはどうすればいいのかしら?」

 

「選べないぞ。」

 

「えっ?」

 

「スターターパックに信玄は入ってないから・・・

ゲームプレイして、そのあとに出てくるカードで運よく引くしかないな。」

 

「運よくって、引くカード選べないの?」

 

「SRだからな・・・25プレイに1回ぐらいの確率だったかな。」

 

「・・・な、なんで?

どうして!?

信玄って戦国時代を代表する武将じゃない!」

 

「そーいうゲームなの!」

 

その頃、良介と誠は・・・

 

「・・・お、KOFだ。

久々にやるか。」

 

良介が1つの格ゲをやり始めた。

 

「火力ゲーか・・・俺はコンボゲーの方が好きだな。」

 

誠は別の格ゲをしに向かった。

 

「よし、こいつと・・・こいつと・・・こいつだ。」

 

キャラを選び終えやり始める。

望と月詠が良介のプレイを見に来た。

 

「へえ、格ゲーか。」

 

「うわ、凄いわねこのゲーム。」

 

「・・・よし、3ゲージ溜まった。

この体力ならいけるな。」

 

「えっ?

まだ体力7割ぐらいあるぞ?」

 

「よし・・・チェーンドライブからの・・・ヒートドライブ!

よし、決まった!」

 

「嘘・・・全部いっちゃった。」

 

その頃、誠はコンボゲーをやっていた。

望と月詠は今度は誠のところにやってきた。

 

「これは・・・コンボゲーか。」

 

「良介がやっていたのとはまた違うやつね。」

 

「よしよし。

これならいけるな。」

 

「ん?

何する気・・・うわ、ハメだ。」

 

「これは・・・ひどいわね。」

 

「よし、一撃使えるな。

これでジ・エンドだ!」

 

「えっ・・・なんで相手やられたの?」

 

「即死技か。

コンボゲーにはよくあるやつだ。」

 

ちなみにこの後、良介と誠はどちらもラスボスまでクリアした。

 

   ***

 

良介たちはゲームセンターを出て、公園に来ていた。

もう夕方になっていた。

 

「もう夕方かぁ・・・まだまだ遊びたかったんやけど、ぼちぼち終わりやなぁ。」

 

「余り遅くまで出ていると、校則違反になってしまいますからねぇ。」

 

「でも、今日は久しぶりに充実した休日でした。」

 

「エミリアちゃん、さっきは太鼓のゲームで大盛り上がりだったんですよ~。」

 

「太鼓の道は奥が深いですね・・・!

単純に見えて、なかなか難しかったです。」

 

「だいぶいい汗かいたみたいやなぁ。

ええことやね。」

 

「・・・俺たちは格ゲで白熱しすぎたな。」

 

「ああ、対人戦であんなに熱くなったのは久しぶりだったな。」

 

良介と誠は呆れたように笑った。

 

「白藤さん、ぬいぐるみを取っていただきありがとうございます!」

 

「お礼なんていいんよ。

でも、大切にしてくれると嬉しいわぁ。」

 

「はい!

ずっと大事にとっておきますね!」

 

「今回は近場で済ませてもうたけど、今度はもっと遠くへ行きたいやんな。

遊園地・・・動物園・・・ああ、水族館なんてのも雰囲気ええなぁ♪」

 

「また新しい言葉が・・・!

ゆうえんち、どうぶつえん、すいぞくかん・・・」

 

「水族館はいいですね!

日本の魚たち、ぜひ見てみたいです!

 

望は少し離れたところにいた。

 

「あー、疲れた・・・・・

帰ってゲーム・・・いや、もう寝るでいいかな。」

 

すると、月詠が話しかけてきた。

 

「だらしないわねー、1日歩いたぐらいで。」

 

「そういうお前だって【疲れた】って顔に書いてあるぞ。」

 

「つ・・・疲れてなんかないわよ!」

 

「そりゃあ、引きこもりのボクよりは体力がなきゃ困るだろ。」

 

「引きこもりって開き直らないでよ・・・・・」

 

「引きこもりはいいぞー。

人付き合いに煩わされることもないし・・・」

 

「そんなこと言って、結構楽しんでるじゃない・・・」

 

「た、楽しんでなんかいない!」

 

あやせが2人の会話を見ていた。

 

「うふふ。

望ちゃんと月詠ちゃん、仲良しさんですねぇ。」

 

その後、学園に戻ってきた。

 

「さて、学園に戻りましたねぇ。

お疲れさまでした~。」

 

「白藤さん、ご招待して下さって本当にありがとうございます。」

 

「ええってええって。

皆で遊んだ方が楽しいに決まっとるんやし。

それに・・・今日は、ダーリンの楽しそうな顔もぎょうさん見られたからなぁ。」

 

「新しい刺激に満ちた、とても素敵な1日でした。

第7次侵攻に打ち勝ったお祝いに相応しい、記念的な日です!」

 

「今後も魔物は出続けてくるでしょうが、今の私達なら大丈夫ですよ。

あの数とタイコンデロガを払えたんです。

もう恐れるものなんてありません。」

 

「そうよ、なにが来てもツクが追い払ってやるんだから。」

 

「・・・あの数の魔物とタイコンデロガを大半相手してたの俺と誠なんだが・・・」

 

「そうや、タイコンデロガ相手に無双できるダーリンがおるんや!

だから、これからも大丈夫やんな。」

 

「・・・あの、俺は?」

 

誠は完全にスルーされていた。

 

「当面の問題としては、魔物よりも課題の提出だなぁ・・・」

 

「そういえば望ちゃん、だいぶ外おったけど体調は平気なん?」

 

「今日は大したことないぞ。

宍戸がOK出したんだから問題ないだろ、多分。」

 

「楯野さん、なにかあったの?」

 

「気にすんなよ。

ちょっと人より体調が不安定なだけだ。」

 

「・・・・・そ、そう。

ならいいんだけど。」

 

「そんなことより、宍戸の出した課題がめっちゃ残ってんだよな・・・ウツだ・・・」

 

「ああっ!

ツクも宿題が残ってたわ!」

 

「・・・終わってなかったのかよ。」

 

「良介、終わったのか?」

 

「あんなもん、1日あれば終わる。」

 

「ま、マジか・・・」

 

「・・・誠、終わってないのか?」

 

「まったく手をつけてない。」

 

「・・・ま、がんばれ。」

 

「あらあら。

魔物よりも宿題の方が強敵みたいですね~。」

 

「綺麗に締めようとしないでしょっ!」

 

「もうそろそろ、おゆはんの時間やなぁ。

みんな、寮に戻る前に食堂行こか。」

 

皆は食堂で夕飯を食べた後、それぞれ寮に戻った。

そして、誠は宿題が間に合わず、結局朝から良介のを映させてもらうことになってしまった。




人物紹介

冷泉 葵(れいせん あおい)17歳
政界に幅を利かせている冷泉家の箱入り娘。
家から一歩も出ないという恐るべき過保護で育てられたため、家庭教師に教えられたこと以外、世間の常識を何も知らない。
本当に何も知らない。
好奇心が強くなんにでも興味を持つので、優しく教えてあげよう。


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第27話 旧科研

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


第7次侵攻が終わって3週間が過ぎた。

そんなある日、旧魔導科学研究所に向かうクエストが出された。

 

「旧魔導科学研究所・・・か。

名前からして嫌な感じがする場所だな。

・・・ん?」

 

良介が校門に向かっていると、校門前で兎ノ助が1人の生徒と話をしていた。

 

「お、お前ホントに行くのか?

・・・転校してすぐだぞ・・・」

 

「アンタが言いたいのは【魔法使いじゃないから】でしょ?

旧科研の話は知ってるわ。

【部外者】に荒らされないよう、私が来たんだから。」

 

「ああ、科研の隠ぺい体質はそのままか・・・自分たちで始末できねぇくせに。」

 

「かつて旧科研では魔物を洗脳し、人類側の兵器として運用する計画があった。

けれどもちろん失敗・・・魔物は暴走し、施設を放棄せざるを得なくなった。

残されたのは【人類の兵器を装備させられた魔物だけ】・・・哀れね。」

 

「ああ、魔物とはいえ、なんか可哀想・・・」

 

「違うわよ。

理解できないまま危険なものを運用しようとした哀れな科学者よ。

こんな話が外に全然漏れてないなんてありえないわ。

きっと第7次侵攻が無ければ、爆発するまで放置されてたでしょうね。」

 

「研究所が密閉されていたおかげで、年数の割に強さは控えめだそうだ。

とはいえ、タイコンデロガに育ってるやつがいないとも限らない。

特にお前は慎重に行けよ。」

 

「余計なお世話よ。

科学者の始末は科学者の私がつける。

愚かな先人の廃棄物は、このデウス・エクスで焼却処分してやるわ。」

 

その生徒は兎ノ助と話を終えると行ってしまった。

 

「・・・今のは確か新しく来た・・・如月 天(きさらぎ そら)・・・だったか。

あいつも旧科研のクエストを請けてるのか。」

 

良介はさっきの兎ノ助の会話のことを思い出す。

 

「・・・【魔法使いじゃない】?

なら、なんでここに・・・」

 

良介は少し考え込む。

 

「・・・まぁ、いいか。

とりあえず、クエストに向かうか。」

 

良介は旧科研に向かった。

 

   ***

 

良介は旧科研に到着した。

先に来ていた生徒たちがいた。

天も来たばかりのようで、結希と会話していた。

 

「・・・久しぶりね。

最後に会ったのは半年前・・・かしら・・・?」

 

「ちょうど200日よ。

アンタが科研を出て行ってからね。

再開してすぐ旧科研だなんて皮肉なものね。」

 

「・・・あなたは出向扱いになってると聞いたわ。

正確には学園生ではない・・・

クエストを請ける義務はないのだけど。」

 

「アンタね、そんなに私を戦闘させたくないのね。」

 

「あなたの才能は素晴らしいわ。

覚醒してない状態で魔法を使えるようにする・・・

でもその代償は大きい。

あなたはまだ戦うべきではないわ。」

 

「余計なお世話よ。

自分の面倒くらい見られるわ。

人工の魔力線を用い、魔力を魔法に変換。

やってみたら大したことなかったわ。」

 

「・・・誰もそれを【実現しようとしなかった】理由はわかってるでしょう?」

 

「人の心配する前に、自分のやるべきことをやりなさい。

科研の汚点ともいえるこの施設。

もし一般市民に被害が出たら・・・

魔法使いの評判は底抜けだものね。」

 

「・・・しかたないわね。

できるだけ私たちが戦うわ。

あなたはまだ魔法学園に来て間もない。

先に私たちのやり方を見て。」

 

「・・・ま、いいわ。

私もようやく魔法使いと接触できる。

データはどんどん取らせてもらうわよ。」

 

「好きにしなさい。

隠すことは何もない。」

 

良介がその会話を眺めていると、誠がやってきた。

 

「ふーん、あれが新しい転校生、如月 天か。

魔法使いじゃないって本当か?」

 

「ああ、どうやらそうらしい。

人工の魔力線で魔力を魔法に変換してるんだとよ。」

 

「・・・どうやって?」

 

「知るか。

あの機械が関係してるのは確かだと思うが。」

 

そんな話をしていると良介の元に風子がやってきた。

 

「ども、りょーすけさん。

お元気そーで何よりです。」

 

「風子か。

お前も来てたんだな。

それで、何か用か?」

 

「ええ、実は・・・こうやってクエスト請けてやるのは久々でして。

そこで、りょーすけさんにお願いがあるんです。」

 

「お願い・・・何だ?」

 

「ウチのフォローに入ってくれませんか?」

 

「フォローね。

まぁ、それは別に構わないけど。」

 

「そですか。

なら、早速行きましょーか。」

 

風子は良介の手を引っ張り進もうとする。

 

「早速かい。

まったく、面倒なことにならなきゃいいが・・・」

 

良介は風子について行った。

誠は良介と風子を見送った。

 

「・・・さて、俺は科学者2名の護衛でもしますか。」

 

誠は結希と天の元に向かった。

 

   ***

 

結希と天と誠は奥へと進んでいた。

と、突然魔物が現れた。

 

「なんだあれ・・・ただの魔物じゃねえな。」

 

魔物には武器のようなものが組み込まれていた。

 

「ああ、ポチね。

ポチだわ・・・資料では見たことあったけど、おぞましい。

Prototype Of Treasonable Impelement.

反攻兵器試作型・・・無理に英字当てて意味わかんなくなってるわ。

馬鹿みたい。

どこのバカが兵器だけつけたのよ?

洗脳はどこに行ったの?」

 

「魔物の【意思】がなにかわかっていないまま強行したのね。

おそらく、この制服と同じもののはず。

【理屈は分からないけど使う】。

その失敗した例がこの場所というわけね・・・」

 

「当然よ。」

 

「・・・あなたのデウス・エクスもまだ成功とはいえない。

未来の希望になるのだから、命を無駄遣いしないで。」

 

「誰かがやらなくちゃいけないじゃない。

なら私がやるわ。」

 

「魔力が活性化していないあなたには、魔法発動の反動が重い負担になる。

安全装置が完成するまでは、あなたに無理はさせないわ。

私の権限で。」

 

「・・・さっきも言ったけど、私より先に自分の心配したらどうなの。

科研じゃアンタの評判は最悪よ。

言うことを聞かないってね。

アンタ、科研も執行部も敵に回して何をやるつもりなの?

ただ【人間を作る】だけなら、他の生徒の世話なんて必要ないじゃない。」

 

「私の目的はあなたと同じよ。

魔物を殲滅し、世界に平和を取り戻す。

それでこそ、これまでの研究が報われるもの。」

 

「フン、なんでもわかった顔していけ好かないところも変わってないわね。

ただし私はデウス・エクスの危険性もわかってるわ。

だからこそ、私がやるのよ。

そこに口を挟まないで。」

 

「・・・なにを言っても無駄ね。

椎名 ゆかりを紹介するわ。

せめて、治療は万全のものを受けなさい。

魔法も使う治療をね。」

 

誠は2人の会話を聞いていた。

 

「・・・魔法を誰でも使えるようにする・・・人間を作る・・・

どっちも俺からしたらただのマッドサイエンティストにしか思えないな。

特に人間を作るなんて神様にでもなるつもりか?」

 

誠はため息をつく。

と、魔物がこっちに襲いかかってきた。

 

「おっと・・・危ない危ない。

とりあえず、この魔物は倒さないといけないな。」

 

誠は魔物を射抜き、一発で仕留める。

 

「(一匹しかいない・・・はないか。

良介のところ、何もなければいいが・・・)」

 

その頃、良介たちは・・・

 

「兵器を取り付けた魔物・・・か。

旧科研はとんでもない禁忌に手を出したもんだ。

魔物を兵器にしようとは。」

 

「まったくですよ。

その後始末するハメになったウチらのことを考えてほしーですね。」

 

良介と風子は魔物を倒しながら進んでいた。

が、魔物は次々と現れる。

 

「ったく・・・一体何体に兵器取り付けたんだ旧科研は。

いや、増えたのか?」

 

「増えたのなら兵器だけ残ったりしねーですよ。

全部旧科研が洗脳しようとした魔物だと考えたほーがいいですね。」

 

2人は愚痴を言いながら魔物を倒していく。

と、風子が何かに気付いた。

 

「・・・!

りょーすけさん。」

 

「どうした風子。」

 

「ウチら・・・とんでもないハズレくじを引いちまったみてーです。」

 

風子の目線の先を見ると、部屋から魔物が大量に出てきていた。

 

「なるほど、あそこが巣ってことか。」

 

「・・・どーします?

誰か呼びに行ったほーがいーんじゃねーですか?」

 

「それができたら苦労はしねぇよ。

後ろを見ろ。」

 

風子は言われた通りに後ろを見ると、魔物が退路を塞いでいた。

 

「・・・絶対ぜつめーですね。」

 

「いや、そうでもない。

俺にとったら、ハズレじゃなくアタリだ。」

 

「・・・どゆことですか?」

 

「派手に暴れるにはちょうどいいってことだよ!」

 

良介は風の肉体強化をかけた。

 

「風子、ちょっと伏せてろ。」

 

「りょーかいです。

それじゃ、おねげーしますね。」

 

「ああ、すぐに終わらせる。」

 

風子は屈むと同時に良介は高速で魔物に斬りにかかる。

次々と魔物を倒し、風子の前で止まった。

 

「・・・ふぅ、こんなものか。」

 

と、その良介の後ろに魔物が迫っていた。

良介が気付いた時点で、攻撃をする寸前だった。

 

「っ!

やばいっ!」

 

良介は剣で防御の体勢に入ったが、攻撃は来なかった。

防御を解いて見てみると魔物の体に水色の鎖が絡みついていた。

 

「これでだいじょーぶですね。」

 

風子の魔法だった。

良介はすかさず魔物を斬った。

 

「・・・すまん、風子。

助かった。」

 

「別にいーですよ。

さっきあのじょーきょーを打破してくれたりょーすけさんに恩返ししただけですから。」

 

「・・・そうか。

それより、魔物の巣は・・・」

 

良介は部屋の方を見る。

 

「・・・一体も出てこねーんでいないかもしれねーですけど、少し入って確認しますか。」

 

「ああ、その方がいい。

また湧かれても困るしな。

風子、離れるなよ。」

 

「りょーかいです。

もういないといーんですがねー・・・」

 

良介と風子は部屋に入っていった。

 

   ***

 

誠たちは奥へと進んでいた。

誠が前で魔物を倒していた。

と、一体の魔物が天のところに向かった。

が、天の目の前で魔物は消滅した。

 

「きゃあっ!?」

 

いきなりのことに悲鳴をあげる天。

 

「・・・ふぅ、よかった。

どうなるかと思ったぜ。」

 

誠は安心した。

天の目の前に梓がいた。

 

「うっす、宍戸先輩、誠先輩、先の方は片付けたッスよ。」

 

「うわ!?

あ、あんた誰よ!?」

 

いきなり現れた梓に驚く天。

 

「おおっ。

あなたが噂の魔法使いじゃない転校生さんッスね。

忍者の服部 梓ッス。

以後お見知りおきを。

ご用向きの際は天文部までッス!」

 

「・・・なんの宣伝だ。」

 

呆れる誠。

 

「にに、忍者!?

馬鹿言ってんじゃないわよ!

この時代にいるわけないわ!」

 

「・・・忍術、見せてあげたら?」

 

「いやー、ウチの特許なんでマネしないでくださいね?」

 

「結希!

あ、あんた科学者のくせにこんな怪しいヤツと・・・!」

 

「やだなー。

忍者は元祖科学者みたいなもんッスよ?

例えば薬の調合って、もともと忍者の薬草から来てるんですから。

昔は【術】だった火遁なんかも、解明してみれば化学変化の応用だったり。

ちなみに今の爆発も火遁です。

本来逃げるための術なんですが・・・

魔法で弱った魔物を倒すくらいならじゅーぶん使えます。」

 

「・・・な・・・なんてこと・・・!」

 

「忍者は今も実在するわ。

術に科学的な説明ができる分・・・

魔法使いより現実的ね。」

 

「・・・ぐぐ・・・」

 

「まー、魔物には魔法が一番ってことで、忍術は補助ッスけどね。

御用の際は服部 梓をヨロシク!

では、物見に行ってくるッス。」

 

梓は先に進んでいった。

 

「・・・・・あなたは純粋な科学者。

科研で生まれて科研で育った。

これからも信じがたいことが起こると思うわ。

けれど、あなたはあなたは。

全部噛み砕いて吸収しなさい。

デウス・エクスの完成はその先。」

 

「・・・わ、わかってるわよ!

科学の発展のためならなんだってするわ!

もう魔法も科学の一分野だってことを教えてあげる!」

 

天は奥に向かった。

 

「・・・さて、魔物はあとどれくらいいるのか。」

 

誠は周りを気にしながら進んだ。

その頃、良介たち。

 

「これは・・・カプセルか?」

 

良介と風子が入った部屋には大量のカプセルがあった。

カプセルはほぼ全て割れていた。

 

「これ、一体何なんですかねー・・・」

 

割れたカプセルに近づく風子。

 

「・・・風子、答えがすぐ近くにあるぞ。」

 

「え?」

 

良介は奥に進む。

風子は後を追いかけた。

すると、魔物が入ったカプセルが一つあった。

 

「これは・・・!」

 

「このカプセルはこの魔物を造るためのものだったってわけだ。

恐らくここにあるカプセル全てがそうだろう。」

 

「・・・それだけ兵器として使うつもりだったってわけですか。」

 

「ああ・・・風子、下がってろ。」

 

「へ?」

 

良介は風子を下がらせた。

と、突然カプセルが割れ、中にいた魔物が良介に襲いかかってきた。

だが、魔物は良介の目の前で静止した。

下から良介の剣が魔物を貫いていた。

良介はそのまま魔物を斬り裂いた。

 

「ふんっ!」

 

魔物はそのまま消滅した。

 

「・・・ここにいる魔物はこれで最後だろ。」

 

「それじゃ、もうこの部屋には用はねーですね。」

 

「ああ、出るぞ。」

 

良介と風子は部屋から出た。

 

   ***

 

良介と風子は奥に進むと、誠たちがいた。

 

「・・・あなたたち、来てたのね。」

 

「ええ。

科研の依頼のくせに、生徒会も精鋭部隊も動かねーのは不自然でしょ。

気になって参加させてもらいました。

いやー、キツいですね。

入学後にすぐに風紀委員長になって、クエスト免除されてましたから。

6年ぶりのクエストはろーたいには堪えましたよ。」

 

「・・・お前ほとんど戦ってないじゃん。」

 

風子は杖で良介の頭を叩いた。

 

「・・・痛いな。」

 

「あんたさんは黙っててくだせー。」

 

「・・・なによ、なんなのよ!」

 

「科研の科学者たちはには、現場が見えていない。

彼らが思っているより、人間は賢いということよ。

目的を話した方がいいわ。」

 

「ウチには学園の風紀を守るとゆー目的があります。

風紀は安全がほしょーされて初めて守られる。

ウチの縄張りで内緒ごとができるとは思わねーことです。」

 

「・・・・・クッ・・・・・わかったわ。

どうせいつか事件になる。

いい?

口外無用よ。

年内は動かないはず。

だけど・・・

【霧の護り手】が近いうちになにかするわ。」

 

「・・・霧の護り手?

意外な名前が出てきましたね。

霧の護り手が科研と何の関係が・・・

・・・まさか、ここの電気が生きているのは・・・」

 

風子は周りを見渡す。

 

「そうよ。

科研はこの施設を封印したまま放置していた。

自分たちの愚かな所業から目を背けるようにね!」

 

「・・・だからこの旧科研を【霧の護り手】が利用していたことも気づかなかったってことか。」

 

良介は眉間に皺をよせる。

 

「・・・ちょっと待て。

話がおかしいぞ。

魔法使いでもない霧の護り手が、こんな魔物だらけの場所でどうやって?」

 

誠は疑問を抱いた。

 

「・・・かつて科学者はポチから身を守る手段としてレジストフィールドを作った。

素材はミストファイバーよ。

私たちの制服と同じ。

幼い魔物なら、これで攻撃をシャットアウトできる。」

 

「まさか・・・あれは希少性が高くて加工のむつかしー素材でしょう。

テロリストが手に入れられるわけがねーじゃねーですか。」

 

「裏切り者がいるんだろう。

科研かJGJか、どこかに。」

 

良介は天の方を見る。

 

「私の役目はここでその痕跡を見つけることよ。」

 

「・・・確かに、使用された形跡はありましたが・・・まさか霧の護り手とは・・・

そんなもんを黙ってたってゆーんですか。

ブチキレますよ。

霧の護り手がここで【何を】してたか知りませんがね!

そんなもん、学園をどーにかすることに決まってるじゃありませんか!」

 

「・・・風子、そうと決まったわけじゃねぇだろ。」

 

良介は風子を睨みつけた。

 

「うっ・・・」

 

風子は少し怯んだ。

 

「第7次侵攻で、魔物はこの封印を破った。

進撃を止めてでもね。

それが無かったら、最悪の時まで気づかなかったでしょうね。」

 

「・・・とにかく、痕跡を探す。

それに異論はないと思うわ。」

 

「そうだな。

まだ魔物も残っているし、殲滅するか。」

 

誠はそう言うと他の魔物を探しに行った。

良介たちも残った魔物を倒しに向かった。

 

   ***

 

誠たちは魔物を全て倒し終え、痕跡を探しに行っていた。

 

「・・・良介たちも終わったみたいだな。」

 

誠はもあっとで良介と連絡をとった後、結希たちと研究所の中心部に向かった。

 

「お、これにHDDが入ってるみたいだ。

・・・て、壊れてんな。」

 

誠が一つの機械にHDDが入っているのを見つけたが、既に壊されていた。

 

「HDDが物理的に破壊されてたら、データの回収は無理ね。」

 

「・・・双美 心。」

 

結希は心を呼び出した。

 

「ひ、ひぃ!

ななな、なんでしょう・・・!」

 

心はオドオドしながらやってきた。

 

「任せたわ。

サルベージをお願い。」

 

「わ、わかりましたぁ!

す、すいませんが少々お待ちください!

・・・・・」

 

心は持っているパソコンでなにかし始めた。

 

「・・・なるほど、そういうことか。」

 

誠は納得したように心の方を見る。

 

「・・・な、なによ。

サルベージをお願いってどういうこと!?

破壊されてんのよ!

魔法で精密機械を直すって言うの!?」

 

「・・・双美 心は・・・遊佐 鳴子の天敵。」

 

「はぁ!?」

 

「ケーブルを繋げばあらゆる物理的、セキュリティ制約を無視することができる。

・・・はず。

今はまだ成長途中。

それが彼女の得意とする魔法よ。

破壊されてようが関係ないわ。

ただ一つ、立華 卯衣の内部情報だけは見られないけれど。

理由は不明。」

 

「な、なに言ってんのよ!

そんなの論理的じゃないわ!」

 

「魔導科学がその論理にたどり着いていないだけだろ。」

 

「【魔法は科学】なんでしょ?」

 

「・・・ぐぐ・・・ぐぅ!」

 

誠と結希の言葉に悔しそうな表情をする天。

 

「・・・お、終わりました・・・あの、こ、これ多分外に出るとまずいものでは・・・

魔物の洗脳方法、更新されて新しい理論が付け加えられてます。」

 

「私が預かるわ・・・まさか、そんな理論がうまくいくはずがないと思うけど・・・」

 

「天。

わかってると思うけれど。」

 

「わかってるわよ!

【破壊されてたから復旧はムリでした】で通すわ!

あんな愚か者たちにこれ以上間違わせたら、人類は滅びるもの・・・!

さあ!

魔物も殲滅したしやることはやった!

帰るわよ!」

 

「ええ・・・霧の護り手の対策を考えましょう。」

 

誠たちは研究所を後にした。




人物紹介

如月 天(きさらぎ そら)16歳
魔導科学研究所より出向してきた科学者。
覚醒していないにも関わらず、自身の発明【デウス・エクス】によって魔法を使用可能にしている。
勝ち気で負けず嫌い。
研究のためなら自分を実験台にすることもためらわないほどの情熱家。


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第28話 心機一転

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


旧科研のクエストから数日後・・・

良介は訓練所にいた。

主に魔法の感覚を確かめる程度で終わらせた。

 

「んー・・・ま、こんなもんか。」

 

荷物をまとめ、校門に向かった。

校門にエミリアがいた。

 

「あ、良介君。

第7次侵攻、お疲れ様でした。」

 

「ああ、エミリア。

お疲れ。

そっちは第7次侵攻は大丈夫だったか?」

 

「現役学園生にとって初めての大規模な作戦・・・学ぶことが多かったです。

良介君がやったこと、聞きましたよ。

あんなに頑張ったことを聞いて、私も頑張らなきゃって思ったんです。

勝ってカブトのヲを締めよ、とあやせさんから教えてもらいました。

ですから日本のことわざにならい、油断することなく訓練するつもりです!」

 

「それはいい心がけだな。

まぁ、俺がやったことはマネしないように。」

 

「わかりました。

・・・そうだ!

良介君、よかったら一緒に訓練しませんか?

何度か歓談部には来てもらってるけど、訓練やクエストはまだですもんね。」

 

「えっ、もしかして今から?」

 

「あ、もちろん今日じゃなくて大丈夫ですよ。

時間のあるときに・・・」

 

と、2人のデバイスが鳴った。

 

「ん?

これは・・・」

 

「・・・ああ、ちょうどクエストですね!

明日・・・一緒にどうです?」

 

「そうだな。

明日、行こうか。」

 

その頃、研究室。

虎千代と結希がいた。

 

「・・・今さら検査するのか?

あの後はゆっくり休んだから、体調は万全だぞ。」

 

「ただの洞窟ならあれほど疲弊はしなかったわ。

あなたならね。」

 

「・・・・・?

なにが言いたい。」

 

「【霧】が入り込んでいないか、確認する必要がある。」

 

「馬鹿な。

制服が結界になって、霧が入り込むことはないはずだろ?」

 

「ええ、でもタイコンデロガを倒したでしょう。

魔物は倒すと霧に戻る。

タイコンデロガ級の霧は相当な量よ。

誤算は2つ。

洞窟の入り口がふさがれ、もう片方の入り口が遠かったこと。

もう1つは、あなたがそこで一晩過ごさなければならなかったこと。」

 

「つまり、霧の濃さが尋常でなければ、体に入り込む可能性があるのか?」

 

「考えられるわ。

極度の疲労は濃い霧にあてられたからなのに間違いない。

・・・でも、私はあまり心配してないわ。

良介君がいたから。

魔力の充実は制服よりも信頼できる結界になる。

彼のおかげで、あなたの魔力は常に最大容量だった。

だから、念のための検査。」

 

「待て。

と言うことは良介の魔力は減っていた訳だろ?

アタシより良介の方が危ないんじゃないか?」

 

「問題ないわ。

彼の魔力量は桁違いよ。

多少減ったところで、霧が入り込めるような隙にはならない。」

 

「・・・そんなにか。

今さらながら、どこもアイツを欲しがるのがわかるな。」

 

「ええ、そうね・・・

この後、第7次侵攻でタイコンデロガと戦った人が来るから、早速検査を開始するわ。

服を脱いでちょうだい。」

 

虎千代が服を脱ぎ始めた。

と、

 

「おーい、結希。

言われた通りに来たぞ。」

 

研究室のドアが開き、誠が入ってきた。

 

「あ・・・今入ったら・・・」

 

「・・・っ!?」

 

「・・・え?」

 

その後、研究室から爆発音が鳴り響いた。

 

   ***

 

翌日、良介とエミリアは校門前に来ていた。

 

「おはようございます。

良介君。

今日は無理なお誘いを受けていただいてありがとうございました。」

 

「おはよう。

別に構わないけど、なんで俺と?」

 

「ええと、男性のお友達が良介君だけ、というのもあるのですが・・・

なにより、先日のドラゴン型を倒したというお噂を伺いまして。」

 

「ああ、侵攻の前に倒したあのタイコンデロガか。」

 

「最近、良介君に対するみんなの評価が上がってるんですよ。

だから、引っ張りだこになる前に、是非ご一緒したくて・・・」

 

「ふーん・・・そうなのか。

まぁ、とりあえず今回はよろしく。」

 

「ええ、よろしくお願いします。

それで、今回の討伐対象なんですが、洞窟の奥にすむ・・・

コウモリ、のようです・・・あまり被害は出ていませんね。」

 

「コウモリか・・・また洞窟か・・・」

 

良介はため息をつく。

 

「私たちが転校間もないから、難度の低いクエストを、ということでしょうか。

まあ・・・腕試しにはちょうどいい相手、と考えましょう。」

 

「そうだな・・・とりあえず、クエストの場所に向かうか。」

 

良介とエミリアはクエストの場所に向かった。

その頃、教室。

智花、夏海、怜の3人がいた。

 

「さあ、反省会だ。」

 

「第7次侵攻のとき、あんまり役に立たなかったもんね。

はぁ・・・自信なくなっちゃうなぁ・・・」

 

「なーに言ってんのよ。

規格外と比べてもしょうがないじゃない。

あたしたちはあたしたちのやり方で戦えばいいの。」

 

「その通りだ、智花。

あんな風に強くなろうとしてもなれるものじゃない。

個人の力量で追い付かなければ別の手段を模索すればいい。

そのための反省会だぞ。」

 

「・・・そうだね!

うん!」

 

「じゃ最初の議題。

智花、あんた最近良介と距離置いてない?」

 

「あ、そうだね。

最近はあまり・・・ええっ!?

きゅ、急になに言い出すの!?」

 

「お、おい夏海!」

 

「いやさ、アイツが転校してきた時はすごーく親密そうにしてたのに・・・」

 

「あ、あれはわたしが学園を案内してあげて・・・!」

 

「いつの間にかいち友達だもんねー。

面白くないよ。」

 

「な、なんで夏海ちゃんが面白がるの!?」

 

「・・・ゴホン。

夏海。

今は第7次侵攻の振り返りだ。

マジメにやるぞ。」

 

「ほいほい。」

 

怜は咳払いすると話を戻した。

 

「正直なところ、私は甘かったと思っている。」

 

「え?

だって怜ちゃん、わたしたちの中じゃ1番強いのに・・・」

 

「討伐対象クラスの魔物が3体出た時の対処法に手が回ってなかった。」

 

「でもそれってあれでしょ?

国軍が食い止めるって言ったから・・・

本当なら、あたしたちは時々くる漏れを倒していけばいいって・・・」

 

「戦いが予想通りに進んだら、人間はとっくに勝っているよ、夏海。

国軍は1度戦線を崩した。

私たちがほとんど無傷だったのは良介と誠のおかげだ。」

 

「・・・確かに、あのとき良介さんたちが来てくれなかったら・・・」

 

「・・・むー。」

 

「ようするに、私たちは運がよかった。

そこから学ぶことは多いはずだ。」

 

「・・・良介にこれからも守ってってお願いするとか。」

 

「・・・・・」

 

怜は夏海を睨みつける。

 

「や、やだな、冗談じゃない。

ようするに、あたしたちじゃどうしようもできない状態でしょ?

逃げるしかないんじゃない?」

 

「た、例えばだけど、魔法を撃って目を眩ましたら安全に逃げられるかも・・・」

 

「退路の確認ももちろんだが、とっさに逃げ込める空間は確保すべきだと思う。」

 

「さっきのは半分冗談だけど、助けてくれる人材はいた方がいいわよ。

部長がいつも言ってるもの。」

 

「なんだか・・・やらなきゃいけないこと、いっぱいあるね。

頑張らなきゃ!」

 

   ***

 

良介とエミリアは廃墟に来ていた。

 

「良介君の体質は伺ってましたけど、実際に体験すると凄いですね。

魔法をどれだけ使っても全然疲れませんし、それに・・・

常に全力で放てる、というのが初めてのことで。

南さんの言ったやみつきになりそう、といのもわかる気がします。」

 

「やみつきって・・・」

 

「・・・決して、変な意味ではないんですよ?

私たちの魔力は一般の人々を凌駕していますが、それでも多いとは言えません。

ですから、全力で魔法を使っているとすぐに枯渇してしまうんです。

ですが良介君から魔力を分けてもらうことで、何度でも使うことができます。

制限から解き放たれた、と言うのがいいでしょうか。

なので、みんな気持ちよく魔法を使えるんですよ、一緒にいると。」

 

「・・・そうなのか。

俺にはわからない感じだな。

・・・ん、何だ?」

 

良介は立ち止まる。

エミリアも立ち止まった。

 

「・・・待ってください。

この気配は・・・」

 

と、向こうに魔物らしき姿が見えた。

 

「・・・おい、冗談だろ。」

 

「嘘、あれは・・・きますっ!」

 

魔物は良介たちに突っ込んできた。

良介は剣で攻撃を受け止める。

エミリアはすかさず魔物に攻撃した。

 

「はぁっ!」

 

魔物はエミリアの攻撃を受け、怯んだ。

その隙を逃さず、良介は剣に魔力を込め、斬り裂いた。

 

「・・・まったく、なんだったんだ。

騎士みたいな姿をした魔物だというのはわかるが・・・」

 

「とりあえず、先を急ぎましょう。」

 

「ああ、そうだな。」

 

良介とエミリアは先を急いだ。

その頃、学園掲示板前。

アイラとチトセがいた。

 

「ええい犬川のクソジジイめ!

せっかく妾が忠告してやったのに!

学園長だか何だか知らんが、妾に比べたら生まれる前の赤ん坊じゃろが!」

 

「・・・・・」

 

「むっ。

貴様は朱鷺坂。

妾になんの用じゃ。

妾にはないぞ。

じゃあな。」

 

「・・・嫌われちゃったわねぇ。」

 

「当たり前じゃ!

なんか知っておる風だが、言わなければ意味がないわ!

チクチクもったいぶっておるのは言いたいからじゃろ?

わかっておるぞ。

ホレ、言え、言ってしまえ。

楽になるぞう?」

 

「・・・やっぱりあなた、察しがいいのね。

でも違うわ。

私は【言えない】の。

肝心なことは言えないまま・・・

でも、言わなければいけないことがある。

助けなければならない人もいる。」

 

「・・・ようわからんが、それはアレか。

侵攻前のタイコンデロガ討伐のことか。

精鋭部隊に別の入り口の情報をリークしたのはお主じゃな。

崩落前、宍戸にそれを伝えたのもお主。

ふふん、わかる、妾にはわかるぞ。」

 

「あら・・・いい情報筋を持っているのね。

誰かしら・・・まさか遊佐 鳴子?」

 

「ふふーん、まぁ敵の敵は味方と言うしな。

多少協力してもらったわ。」

 

「・・・あなたと、遊佐さんが協力・・・フフフ・・・そういうこともあるのね。」

 

チトセは不敵な笑みを見せる。

 

「・・・なんじゃまた訳知りか。

ここまで引っ張ったんじゃから、一つくらい話せ。」

 

「じゃあ1つ。

私とあなたは知り合いよ。」

 

「・・・なんじゃと?」

 

「あなたの秘密・・・【吸血鬼などではない】という秘密を知っているのは・・・

あなたがアイザックのおかげで長らえているという秘密を知っているのは・・・

親友でもなければおかしいと思わない?」

 

「アイザック!

お主、そいつが何者か・・・知っておるな、その言い方は・・・」

 

「私には話してはいけないことが多すぎる。

でも伝えたいことがあるの。」

 

「じゃからそれをはよ言えというとる!

あ!

妾のこと信用しとらんな?」

 

「いいえ、信用してるわ。

他の誰よりもね・・・だからこそ、もう少し待って。

今の私には、あなたたちが【生きながらえるよう】助言することしかできない。」

 

「生きながらえるよう・・・?

な、なんじゃと・・・!

お主、まさか・・・あのときリークが無ければ・・・!」

 

「いいえ、武田 虎千代は死ななかったでしょうね。

けれど【霧】が体内に侵入、重態で侵攻に参加できず・・・」

 

「ま、待て待て!

なにを言っとる!

そりゃまるで・・・」

 

「体内に【霧】が入り込んだ人間・・・ロクな最期は迎えられないわ。」

 

「・・・お、おい、おかしいぞ!

霧が入らなかったのは良介がおったからじゃろが!」

 

「ええ、そうよ。

私もそれが不思議なのよ。

私の知っている範囲では、彼は武田さんに同行しないはずだったもの。」

 

「お主・・・なんじゃ、予知の魔法使いか!?」

 

「ごめんなさい。

言えないわ・・・でも私は、この学園の歒じゃない。

今は、あなたの歒でもない・・・ただ、正体を明かせないだけ。」

 

チトセはそう言うと去っていった。

 

「・・・ぐぅっ。

なんじゃアイツ・・・!

なにを言うておる・・・!」

 

掲示板の後ろに誠がいた。

 

「・・・たまたま通りすがっただけだったのに変な会話聞いちまったな。

朱鷺坂 チトセ・・・俺が思った以上に謎なヤツだな。

そしてアイラも。

アイザックって言ったら、アイザック・ニュートンのことだな。

だが、問題はチトセだな。」

 

誠はその場で少し考え込む。

 

「・・・あの出来事を知っていた。

だが予知の魔法使いじゃない。

となると・・・未来から来た・・・なわけないか。」

 

誠は掲示板の後ろから少し顔を出す。

 

「・・・チトセ、少し注意して接した方がいいな。」

 

誠はその場から離れた。



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第29話 人型の魔物

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。




良介とエミリアは廃墟の奥へと進んでいた。

 

「あれは・・・コウモリでは、ありませんでしたね。

群体性の魔物も報告されていますが、コウモリは洞窟から出ませんし・・・

何よりあの騎士は、群体などではありませんでした・・・

異なる魔物です。

しかも人型は・・・私も初めて見ました。」

 

「俺も人型は聞いたことがあるだけで見るのは初めてだ。

けど、何か問題でもあるのか?」

 

「人型は珍しいんです。

霧の魔物は変化にいくつか法則がありまして。

一般的に、戦闘に適した姿形を取ることが多いのです。

なので、生身ではあまり強くない人間の形は取りません。

ほとんどが獣の姿です。

他にも過去に存在した異形の生物などですね。」

 

「そういや、俺が戦ってきた魔物もほとんどがそうだったな。」

 

「不思議ですね。

霧の魔物は【なぜそうなるのか】がほとんどわかりません。

なぜ生まれるのか、なぜ人を襲うのか。

なぜ多様な形態を取るのか。

なぜ、私たちの文化圏にのみ存在する空想の生き物の姿も取れるのか。」

 

「・・・わからないことだらけだな。

・・・ん?」

 

良介は何かに気付き、前を見る。

 

「・・・うっ!

ま、またあの騎士が・・・!

構えてください!」

 

「チッ!

まだいたのか!」

 

良介は剣を構え、魔物に突っ込む。

魔物に攻撃をしたがバックステップで避けられた。

 

「何!?」

 

そのまま魔物は良介に攻撃する。

 

「くっ!」

 

かろうじて剣で防御したがバランスを崩してしまった。

魔物が追撃をしようとしたところエミリアが魔物に攻撃した。

 

「はぁっ!」

 

魔物は攻撃を受けたが、構わずエミリアに攻撃しようとした。

と、後ろから光弾が飛んできて魔物に命中し、魔物は消滅した。

良介の光の魔法だった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・危なかったな。」

 

良介はフラつきながら立ち上がる。

 

「大丈夫ですか!?」

 

エミリアが良介の元にやってきた。

 

「ああ、大丈夫だ。

しかし今のは・・・」

 

「はい、あの騎士も、およそ魔物とは思えない動きです・・・

まるで人間のよう。

ヒットアンドアウェイで着実に狙ってきている・・・」

 

「ああ・・・どうなってんだ?」

 

「・・・思考能力が発達しているようにも見えます。」

 

「・・・何だって?」

 

エミリアの言葉に良介は首を捻る。

 

「魔物はあまり知能が高いとは言えませんでした。

ですが、ここ最近・・・

よくわからない動きを取る魔物が増えてきていると言います。

考え込んでいるようだったり、明らかに何かを守ろうとしていたり。」

 

「魔物なのにか?」

 

「・・・ご存じの通り、魔物は霧が実体化して生まれるものですが・・・

その霧は、もちろん自然現象の霧とは別のものです。

それがどこから生まれ出るのか、やはりそれも明らかになっていません。

答えがあるとしたら、そこなのでしょうけど・・・」

 

「わからないなら、気にしても仕方ないな。

それよりも・・・」

 

「はい。

もう驚いたりはしません。

襲撃の感覚は把握しています!」

 

「そうか。

よし・・・!」

 

良介とエミリアは構えた。

 

「来ます!」

 

   ***

 

魔物が2人のところに突っ込んできた。

良介が魔物の攻撃を受け止める。

そのまま魔物に攻撃しようとした。

魔物は読んでいたかのように避けようとした。

 

「引っかかったな!」

 

良介は風の肉体強化をかけ、後ろに回り込み、攻撃する。

 

「おりゃっ!」

 

攻撃を受け魔物はバランスを崩す。

エミリアがすかさず魔力を込めた一撃を食らわした。

 

「せぇやっ!」

 

魔物は消滅した。

 

「ふぅ・・・終わったか。」

 

良介とエミリアは武器を収める。

 

「・・・消えました。

やはり霧の魔物でしたね。」

 

「なんだよ。

ここにきて、魔物かどうか疑ってたのか?」

 

「あ、いえ、わかってましたよ?

ですが人型は噂でしか聞いていなかったので・・・やっと実感しました。」

 

「そうか。

しかし・・・困ったな。」

 

「・・・これは、今日はコウモリの方は無理ですね。

いったん学園に戻り報告しましょう。

突然現れた魔物と、それを討伐したこと。

コウモリのクエストは日を改めて、ですね。

私たちが受けるとは限りませんが、もしそうなったらお願いします。」

 

「ああ、いくらでも頼ってくれ。」

 

「・・・ありがとうございます。」

 

2人は学園に向かった。

その頃、学園、風紀委員室。

風子と紗妃がいた。

 

「転校生?

これまたまたポンポン入ってきやがりますね。

如月 天とは別ですよね?」

 

「はい。

例年に比べて多いですね。

資料が来たのでお渡ししておきます。」

 

紗妃は風子に資料を手渡した。

 

「・・・あー、まーた厄介なのが・・・予知の魔法使いですか。

世界に3人しかいないうちの1人。

しかも一番若い・・・

出身がニュージーランドって、なんでまたウチを希望したんですかねぇ。」

 

「さあ・・・それはわかりませんが・・・噂では学園長の招きだと・・・」

 

「学園長の噂なら確かですね。

自分で言いふらしてんですから、あのジーサン。

食えねー人ですよ、ホントに。

今何歳でしたっけ?」

 

「100近いと聞いていますが、正確なところは・・・」

 

「早く引退すりゃいーのに・・・」

 

と、イヴが入ってきた。

 

「・・・・・委員長。」

 

「お、来ましたね。

よかったよかった。」

 

「私は、所属しているだけのはずですが。」

 

「ええ、ウチはそれでいーって言ってましたがね。

ちょいとばかし、やってもらわにゃいけなくなりました。」

 

「・・・・・?」

 

「あなたもきょーみあることだと思いましてね。

ウチと一緒に成績あげるチャンスですよ。」

 

「・・・・・っ!」

 

少し経って学園、校門前。

良介とエミリアが戻ってきた。

 

「はぁ・・・なんだか、学園に入るのがおっくうですね・・・

結果的に許可がでたとはいえ、クエストを無視して別の魔物を討伐・・・

罰はあるでしょうか。

良介君には申し訳ないことをしてしまいました・・・」

 

「別に気にすることはないさ。

あの状況だとああするしかなかった。

仕方のないことだよ。」

 

「・・・でも、良介君のおかげで、1人の騎士を救うことができました。

一緒に戦ってくれて、ありがとうございます。

どうにか、罰は私だけになるようにお願いしてみますね。

それじゃあ行きましょうか。」

 

「(・・・恐らく、俺の方が重い罰になりそうな気がするが・・・)」

 

2人は生徒会室に向かった。

 

   ***

 

「・・・ふむ・・・ああ、まぁ、校則違反には間違いない。

クエスト放棄と非討伐対象との戦闘は結構な違反だからな。」

 

生徒会室に虎千代と風子がいた。

 

「2人とも初めてだから、水無月風紀委員長、お手柔らかに。」

 

「ええ。

わかってますよ。

まずエミリア・ブルームフィールド。

しばらくウチらと一緒に校門で取り締まりです。

7時に登校してくだせー。

ルール遵守の大切さを叩き込んであげます。」

 

「わかりました。」

 

「で、りょーすけさん。

あんたさんは彼女を止めなかったんで厳重注意です。」

 

「・・・だろうな。」

 

良介はため息をつく。

 

「氷川とセンセからみっちりお仕置きされてくだせー。

あと、2人とも【人型】について講義を受けるよーに。

確かまだでしたよね?」

 

と、エミリアが風子に質問した。

 

「・・・すいません、今回の魔物が人型ということですが・・・なにが問題なのでしょうか。

確かに珍しいですが、講義を取るほどのものとは思えませんが・・・」

 

「そりゃそーでしょ。

イギリスは人類根源説じゃねーですか。

人間から生まれた魔物が人間に似てても不思議に思わないでしょ。

ですがグリモアは違いましてね。

【武器を使う知能】を持つ魔物・・・

放っておくべからず、なんで。

そーいう意味で、これでも減刑してるんですよ。」

 

「・・・はぁ・・・わかりました。

人型の魔物については、認識を改めます。」

 

「結構。

郷に入っては郷に従えといーます。

きちんと理由も説明しますんで。」

 

良介が風子の話を聞いていると、風子が良介の方を向いた。

 

「りょーすけさん。

アンタさんもですよ。

知恵のついた魔物なんて、そーぞーするのもイヤです。」

 

「・・・確かに嫌だな。」

 

「そーゆーわけであんたさんもしっかり受けるように。」

 

「ああ、わかった。

・・・なぁ、ちょっといいか?」

 

「なんですか?」

 

良介は風子に質問した。

 

「俺の方も減刑されてんだよな?」

 

「そりゃそーでしょ。

それがどーかしましたか?」

 

「・・・俺は減刑しないでくれ。」

 

「・・・え?」

 

他の2人も驚きの表情をしていた。

 

「・・・良介、正気か?」

 

「ええ、俺は正気ですよ。

元はといえば止めなかった俺に非がある。

あの時、その判断ができなかった俺の責任だ。

だから別に減刑しなくていい。」

 

「・・・それだと、あんたさんに言ったものと彼女と同じ罰、2つが合わさりますが。」

 

「別に構わない。」

 

「・・・わかりました。」

 

良介とエミリアは生徒会室を出た後、すぐに別れた。

良介が1人で廊下を歩いていると、後ろから誰か話しかけてきた。

 

「りょーすけさん。」

 

「・・・風子か。」

 

良介は立ち止まったが振り向かなかった。

 

「・・・俺になんの用だ?」

 

「1つ聞きたいことありまして。」

 

「・・・何だ?」

 

「・・・もしかしてですが、さっきの罰を受けながら放課後に訓練・・・なんてしよーとは思ってませんよね?」

 

「・・・・・」

 

良介は風子の方を見たが、一言も喋らなかった。

 

「おねげーですから、それだけはやめてくだせー。

ほんとーに倒れますよ。」

 

「・・・何でそんなことを聞いてくる。」

 

「第7次侵攻の疲れ・・・取れてねーんでしょ?」

 

「・・・それがどうしたんだ?」

 

「前にもいーましたが、あんたさんが倒れたら皆心配するんですよ。」

 

良介はフッと鼻で笑った。

 

「・・・お前も俺のことを心配してる、てか?」

 

「そりゃそーでしょ。

侵攻でもあんな無茶しましたし、心配するのは当たり前です。」

 

すると、良介は風子の頭に手をのせ、ポンポンと軽く叩いた。

 

「安心しろよ。

倒れるようなマネはしないさ。

自分の体のことはちゃんとわかってる。」

 

「・・・ほんとーですか?」

 

「ああ、本当だ。

無茶しないと約束しよう。」

 

「・・・わかりました。

破ったら、またあのパフェ、奢ってもらいますからね。」

 

風子は上目遣いで良介を見つめた。

 

「ああ、わかったよ。」

 

良介は風子の頭を優しく撫でた後、紗妃たちのところに向かった。



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第30話 聖夜協奏曲(前編)

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



12月、夜の学園。

良介と誠は体育館に向かっていた。

 

「・・・12月末、クリスマスか。

早いなぁ・・・」

 

「ああ、俺と良介が入学してしばらく経っているはずなのに早く感じたな。」

 

2人が話しながら歩いていると体育館に到着した。

 

「ここがパーティ会場か。

学園内でこんなことしてるんだな。」

 

「毎年恒例らしいぜ。

そんじゃ、中に入るか。」

 

2人はパーティ会場に入った。

その頃、パーティ会場内。

初音と沙那が料理を食べようとしていた。

 

「・・・なんか今年のディナー、ショボくね?」

 

「お口に合いませんか?」

 

「いや、料理は悪くねーんだけど、なんか減りが早えーなぁって。」

 

「確かにそうですね・・・向こうの食卓は全皿とも無くなっているようですし。」

 

「あー見た見た。

あの三つ編みの・・・なんだっけ?

中国からの留学生。」

 

「留学生の雀さんですね。

今はあちらの食卓にいますよ。

それに今年は留学生を含め、例年以上の転校生が入学されましたから・・・」

 

「えーっ、だったらもっと多く入荷しときゃいいじゃん・・・

これじゃアタシが食う分がねーしー・・・沙那ー、腹減ったー。」

 

「かしこまりました。

では、すぐにお持ちします。」

 

「あ、ちょっと待った・・・せっかくなら、会場全体に追加で持って来ようぜ?

・・・あ、あとお姉様への差し入れにアワビ料理も欲しいなぁ。」

 

「承知しました。」

 

「にししし・・・こりゃ面白いことになるぜ。」

 

「この規模ですと、もう少し人手があった方がよさそうですね・・・」

 

「親衛隊・・・いや、あいつらより適任なのがいたか。」

 

初音は誰か探し始める。

その頃、良介と誠。

 

「・・・おい、料理少なくねぇか?」

 

良介は料理の数を見て疑問に思う。

 

「明鈴っていう中国の子が大量に食べてんだよ。

誰かあの馬鹿止めてくれ。

俺らだけじゃなく全体の分が無くなっちまう。」

 

「うーん、どうしたものか・・・」

 

良介が考え込んでいると、初音がやってきた。

 

「あっ、いたいた!

どこ行ってたんだよ、良介!」

 

「初音?

どうしたんだ、いきなり・・・」

 

初音と沙那が事情を説明した。

 

「・・・なるほど、わかった。

俺でよければ力になるよ。」

 

「ありがとうございます。

それではよろしくお願いしますね。」

 

「ああ、よろしく。」

 

「オッシャ、行って来い!

タップリ用意してガッツリ食わせてくれよ!」

 

「それでは参りましょう。」

 

「了解。」

 

良介と沙那と共に食料を取りに向かった。

 

   ***

 

良介と沙那は食料が置かれている倉庫に来ていた。

 

「結構あるな。」

 

「では、良介さんはこの倉庫から食材をお持ちください。

私は急ぎ業者から受け取って来ますので調理室で合流しましょう。」

 

「わかった。」

 

と、シャルロット・ディオールが2人のところにやってきた。

 

「月宮さん、こちらをどうぞ。」

 

シャルロットはクリスマスカードを沙那に渡してきた。

 

「可愛らしいクリスマスカードですね。

ありがとうございます。」

 

「お急ぎのようでしたが、何かございましたか?」

 

「ええ。

少々、パーティのディナーを追加することになりまして。」

 

「あら?

ディナーでしたら、料理部の皆さんが担当スタッフのはずですが。」

 

「はい。

ただ、このままですとお料理が不足してしまいそうでしたので・・・

お力添えできればと思い、独断で動かせていただいておりました。」

 

「奉公の精神ですね。

素敵です。

わたくしも、手が空いていればお手伝いに回りたいところでしたが・・・」

 

「いえ、お構いなく。

今なさっているお仕事をご優先下さい。」

 

「そうですか・・・わかりました。

ディナーをよろしくお願いいたします。」

 

「はい、お任せ下さい。」

 

「あなたに主の祝福がありますように。

ジョワイユー・ノエル!」

 

シャルロットは行ってしまった。

 

「・・・あれ?

俺のクリスマスカードは?」

 

その頃、パーティ会場。

 

「あー!

それ、ボクのお肉!」

 

「はっはっは、残念だったな!

取ったもん勝ちなんだよ!

諦めな!」

 

「うー・・・じゃ、このお肉ボクがもらうのだ!」

 

「あ!

バカ野郎!

人の皿から取るな!」

 

「取ったもん勝ちって言ったのは誠なのだ!」

 

「この野郎!」

 

誠と明鈴が料理の取り合いをしていた。

 

   ***

 

良介と沙那は調理室に来ていた。

調理室には花梨と小蓮がいた。

 

「悪りぃなぁ、スタッフでもねぇのに手伝わせてよ。」

 

「いえ、お気になさらず。

初音様のご希望ですから。」

 

「俺も初音から頼まれただけだから。」

 

「あぁ、神宮寺なぁ。

ひょっとして面白半分で月宮と良介に頼んだっきゃ?」

 

「かもしれませんが、私はメイドです。

不要な詮索はいたしません。」

 

「・・・なんのことネ。

話がよく見えないヨ。」

 

「手ぇ空いたら説明するすけな。

今それどころじゃねぇっきゃ。」

 

「そうですね。

料理の準備をしましょう。」

 

「んだんだ。

だば、下ごしらえしてるの、そっちだすけな。」

 

「俺も手伝おう。

普段から料理してるから。」

 

良介と沙那は料理の手伝いを始めた。

 

「オーブンに入れましたので、次の料理に取り掛かりましょうか。」

 

「いい手際ネ。

普段から料理してるのカ?」

 

「料理をこなせなければ、メイドとして勤まりません。」

 

「月宮は神宮寺のメイドだすけ、炊事洗濯なんでもできるべよ。」

 

「なんかでかい家に仕えてるのネ、月宮は。

ぜんぜん想像つかないヨ。

やっぱり専属のコックとかいるのカ?」

 

「本家にはいますよ。

さすがに魔法学園に常駐することは許されませんでしたが。」

 

「アナタより料理うまいカ?

ぜひ一度、お目にかかってみたいもんだヨ。」

 

「機会がありましたら、そのときに。」

 

「待てないヨ!

知り合いの知り合い~、みたいなツテですぐ頼めないカ?」

 

「魔法学園へ来るのもJGJへ行くのも、それなりの理由が必要ですので・・・」

 

「ウムムム・・・!

ならばセキュリティの穴を突いてでも・・・!」

 

「・・・そんなに会いたいのかよ・・・」

 

「小蓮?

そったらムチャ言ってはなんねぇど。

月宮が困ってるっきゃ?」

 

「むぅ、残念ネ・・・」

 

4人は料理を次々に作っていった。

 

「ふぅ、なんとか完成したど。」

 

「この調子なら十分に食べる時間も残りそうネ。」

 

「今日はほんにありがとねぇ月宮、良介。

みんな喜ぶじゃ。」

 

「いえ、初音様のご希望に従ったまでですから。」

 

「俺は・・・まぁ、役に立てたならいいや。」

 

「遊びのノリでもよ、今回はあんたらを寄越した神宮寺に感謝だなぁ。

けんど、せっかくだすけ次は神宮寺もスタッフさなって欲しいべ。

月宮、あんたから伝えといてくれっか?」

 

「わかりました、お伝えしておきます。」

 

「よし、会場に戻るか。」

 

良介と沙那はパーティ会場に戻った。

 

   ***

 

沙那は初音のところにやってきた。

 

「お待たせしてしまい申し訳ありません、ただいま戻りました。」

 

「お、待ってた待ってた。

いやー、作戦成功だぜ!」

 

料理が運ばれてきた。

 

「ホレ見ろ!

みんな出てきた料理に目ぇ回してるぜ!」

 

「作った甲斐があったというものです。」

 

「フヒヒ、こうやってビックリさせんの気持ちいーなー。

なあなあ、そういやさ、お姉さま用のアワビどうなってる?」

 

「肝醤油と合わせてお持ちしております。

お渡しください。」

 

「おっし!

後でお姉さまのとこ行くからな!」

 

「かしこまりました。

それと里中さんから伝言がございまして。」

 

と、いきなりノエルが会場の皆に話しかけてきた。

 

「ディナー中ちょっとごめんねー!

今から出し物やるよー!」

 

「おっ?

なんだなんだ?」

 

その頃、良介。

 

「・・・誠、なんでそんなに疲れてんだ。」

 

誠がテーブルの上でグッタリしていた。

 

「・・・明鈴と・・・取り合いしてた。」

 

「何やってんだまったく・・・ほら、しっかりしろ。

料理が運ばれてきたからよ。」

 

「おう・・・」

 

誠が体を起こすと、ノエルの声が聞こえてきた。

 

「ん?

なんか出し物やるみたいだぞ。」

 

「なんだ・・・?」

 

2人は運ばれてきた料理を食べながらそっちを見た。

 

「みなさん、ジョワイユー・ノエル!

パーティ、お楽しみいただいてますか?

これから少しの間、皆さんとクリスマスソングを歌いましょう!

日本でも有名なものですが、わからなくてもカードに歌詞が書かれてますねで・・・

では、まず【Vive Le Vent】、ジングルベルから始めましょう!」

 

「・・・俺、クリスマスカードもらってないんだが・・・」

 

「安心しろ、良介。

ほら。」

 

誠がクリスマスカードを渡してきた。

 

「なんでお前が持ってんだ。」

 

「シャルロットさんに言って、お前の分もらっておいたんだよ。」

 

「そうだったのか、ありがとな、誠。」

 

「おう。

それじゃ、出し物を楽しむとしますか。」

 

シャルロットは歌い終えるとノエルがやってきた。

 

「お疲れ様!

はい、お水!」

 

「ありがとうございます。

さすがに、続けて歌うと汗をかきますね・・・」

 

「あたしもなんか汗かいちゃった。

踊ってたからかな?」

 

「うふふふ♪

気に入っていただけましたか?」

 

「うん、すっごく!

でも赤鼻のトナカイがなかったのは残念だったなぁ。」

 

「ああ、トナカイさんですものね。

では来年に歌いましょうか。」

 

「やりぃ~っ!

じゃあ来年もトナカイ着なきゃね!」

 

「わたくしも楽しみにしていますよ。」

 

と、智花がやってきた。

 

「シャルロットさん、アンコールです!」

 

「まあ・・・・・!」

 

「あわわわ、伴奏準備しなきゃ・・・シャルロットさんも大丈夫?」

 

「はい!

わたくしもいつでも始められますよ。」

 

「オッケー!

じゃあ選曲、選曲っと・・・」

 

「主よ、今日という日に感謝いたします・・・!」

 

シャルロットは再び歌い始めた。




人物紹介

シャルロット・ディオール 19歳
ヴィアンネ教司会】から派遣された魔物退治のエキスパート、らしい。
正確には生徒ではないが、みんなと一緒に授業を受けて魔物討伐にでかける。
狂信者っぽい一面を垣間見せることもあるが、異教に対しておおらかな面もある。
気分で変わるのか、それとも・・・


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第31話 聖夜協奏曲(後編)

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



学園で行われていたクリスマスパーティは次の出し物をしようとノエルと智花が準備していた。

 

「ともちゃん、そろそろ出番だよ!」

 

「こんな大勢の前に立つの、久々で緊張しちゃうなぁ。」

 

「イベントは多いけど、こんなに生徒が集まるのって珍しいもんね。」

 

「そうそう、それこそ入学式とか卒業式の時ぐらいで。」

 

「ともちゃんも長いスピーチやってみる?

30分ぐらいするやつ。」

 

「ええっ!?

そんなにもたないよ~。」

 

と、兎ノ助がやってきた。

 

「おい、やべえことになった!

聞いてくれ、2人とも!」

 

「どうしたの?

まさか、またお食事が足りなくなっちゃったとか!?」

 

「いや、そうじゃねーんだが・・・ビンゴ1等の学内ギフトカード、あれな。

執行部の方からダメって言われて、出せなくなっちまってさ。

どうやら【景品に金券】ってのがNGだったみたいでなぁ・・・」

 

「ええっ!?

そ、そう言われても・・・もう、ビンゴ始まっちゃうよ?」

 

「悪い、上が決めたことだからな・・・別の景品にしてくれ・・・」

 

「そうだよね・・・どうしよう、ノエルちゃん。」

 

「あたしが用意するよ。

ともちゃんは司会だし、ウノっちも裏でお手伝いだし。」

 

「わかった!

じゃあ、わたしもそれに合わせて司会進行にするね。」

 

「【プレゼントは最後のお楽しみに】ってすりゃいいワケだな。」

 

「他のスタッフの子にはなんて伝えたらいいかな?」

 

「別々に行動して、何かピンときたら連絡するってことで!」

 

「うん!

いいものが見つかったら、すぐノエルちゃんに連絡してもらうね!」

 

「よろしく!

それじゃ、ともちゃんにウノっちも頑張ってね!」

 

「おう!

任せな!」

 

「ノエルちゃんも頑張ってね!」

 

   ***

 

その頃、良介と誠。

 

「ビンゴねぇ。

何かいい景品あるのか?」

 

「誰かとの1日デート券とかあったりして?」

 

誠が変な笑みを見せる。

 

「・・・そんなもんがあるか。

俺は・・・んー、日用品ねぇかな?」

 

「・・・えらく健全な欲だな。

なんか俺みたいな欲はないのか?」

 

「俺はお前みたいに欲望にまみれてないんだよ。」

 

「つまんねぇなぁ・・・お、始まるみたいだ。」

 

智花が前に出てきた。

 

「お待たせしました!

これからビンゴ大会を始めます!

皆さん、スタッフの方に配られたカードを用意して下さい。

やりかたは分かっていると思いますが、念のため説明しますね。

ええと、このガラガラ・・・でしたっけ?

を回していきますので・・・

カードの数字をミシン目通りに開けて下さい。

一列揃った人は、元気な声で【ビンゴ!】と叫んでくださいね。

素敵な景品を用意しています。

早い者勝ちですよ!」

 

その頃、学園の廊下。

ノエルがいた。

 

「さて、ともちゃんも頑張ってるし、あたしも頑張らないと!

でも何にすればいいかなぁ。

今から街に出ても間に合わないし・・・

他のスタッフのみんなに聞いてみよっかな・・・なになに・・・?」

 

ノエルはもあっとで他のスタッフと連絡をとってみた。

 

「えーと、最新式パソコン、高級アクセサリーにライブチケット・・・

うーん、今すぐ探して買えるかなぁ・・・?

購買で買うとしたら・・・チョコ?

シャンプー?

アロマ?

いくつか買っておけば、後で調整は利くから・・・この辺でいいよね。」

 

ノエルは購買に向かった。

 

「あちゃー、だいぶ減ってるよぉ・・・

考えてみればそうだよね、みんなだってプレゼント買うんだから。

でも・・・今から街に行く時間はないし・・・

・・・よし!

ひとまず買っちゃおう!

派手なのは無いけど、2位以下の人のも必要だもんね!」

 

ノエルはひとまず買うことにした。

 

「えーと、じゃあこのアメと、お茶の素と・・・んー、あと鏡餅も持って・・・

店員さん!

これ全部プレゼント包装で下さいっ!」

 

すこし経って会場。

良介と誠は・・・

 

「んー、なかなかならねぇな。

2つほどリーチにはなってるんだが・・・」

 

「・・・俺なんで一個も合う数字がないの?」

 

良介のカードは2つほどリーチができていたが、誠はまだ1つも開いていなかった。

 

「逆にすごいなお前。

1つも合わないなんて相当だぞ。」

 

「・・・もしかしてこのまま1つも開けられないまま終わったり?」

 

「もしそうなったら伝説だな。

よかったな誠。」

 

「よくねぇよ!

ああ・・・1個でもいいから開けさせてくれぇ・・・」

 

その頃、あやせたち。

 

「あら~?

どこの行っちゃったんでしょうか~。」

 

「今度は22番、と・・・どうしました?

あやせさん。」

 

何かを探すあやせにエミリアが聞いてきた。

 

「それが、うっかりビンゴのカードを落としてしまいまして・・・」

 

「どちらへ行ったか見当はつきませんか?」

 

シャルロットもあやせに聞いてきた。

 

「足元を見たときにはもう、見当たらなくなっていました・・・」

 

「もう1枚、スタッフの人にもらったらどうでしょう?」

 

「そうですねぇ。

見つからないようでしたら、そうした方がよさそうです~。」

 

と、荷物を持ったノエルがあやせのところにやってきた。

 

「やっほー!

その落としものって、コレだったりしない?」

 

ノエルはカードをあやせに見せる。

 

「ノエルちゃん・・・ええと・・・ああっ、これだわ!

 

「どーぞ!

今度は落とさないでね♪」

 

「はい、ありがとうございます~。

ところでノエルちゃん、荷物いっぱいですけど、どうしたんですか~?」

 

あやせはノエルの荷物を見て聞いてきた。

 

「あー、これのこと?

えーとねー・・・

(・・・おっと!

みんなには黙っておかないと)」

 

「あら?

そういえばさっき、誰かが【景品どうしよう】って言ってたような・・・」

 

「あやせさん、しーっ!

それは言っちゃダメ・・・!」

 

「あら、ごめんなさい・・・やっぱり本当だったんですか~。」

 

「あ、いけなっ・・・ひ、秘密にしててね・・・」

 

「それは構いませんけど・・・ノエルちゃん、大丈夫そう?」

 

「うーん・・・正直、ちょっと困ってるかな。」

 

「そうでしたか~・・・困りましたね~、なにかできればいいんですが~・・・」

 

と、ノエルはあやせの持っていた編みぐるみを見た。

 

「・・・あっ、編みぐるみ・・・ねえ、あやせさんって編み物するの?」

 

「ええ、しますけど・・・ほんの趣味程度ですよ~?」

 

「あ、あのさ・・・!

編み物・・・余ったり、してないかな・・・!?」

 

「ええと・・・1つだけなら余っていますけど~・・・」

 

「・・・お願いっ!

それ、景品としてもらうこと・・・できないかな!?」

 

「ええっ、景品ですか~・・・?

う~ん、大丈夫でしょうか~・・・」

 

「お願いっ!

今度スイーツ食べ放題おごるから!」

 

「そこまで頼まれたら、断れませんね~。

どうぞ、こちらを受け取ってください~。」

 

あやせはノエルに編み物を渡した。

 

「こ、これは・・・・・」

 

誠はその状況をたまたま目撃した。

 

「・・・ん?

今、あやせさん、ノエルに何か渡さなかったか?」

 

「どうした誠。

まだ開けられないのか?」

 

「それもそうだが・・・今、あやせさんがノエルに何か渡していたような・・・」

 

「プレゼントか何かだろう。

おい、もうすぐで終わるかもしれないぞ。」

 

「マジかよ・・・俺、何も開けて・・・あっ!」

 

「おっ、やったじゃないか。

やっと1つ開いたな。」

 

「ああ、やっと・・・あっ、まただ。」

 

「後半に来てようやくか。」

 

「このままいけば景品あたるかも・・・!」

 

「よかったな誠。

・・・それにしても俺はリーチのままから進展なしか・・・

何か当たればいいんだがなぁ・・・」

 

   ***

 

ビンゴはどんどん進んでいた。

その頃、初音は愚痴を言っていた。

 

「ちぇー、ついてねーなぁ。

2マスしか当たってねーじゃん・・・」

 

「私のカードと交換しましょうか?」

 

沙那が交換を持ちかけてきた。

 

「いんや、どーせ交換してもツキが回ってねー気がするし。

ビンゴ飽きたし、お姉さまんとこ行ってくる!」

 

初音は走り去っていった。

 

「さあ、リーチの方は多いようですが、いまだにビンゴが出ていません!

果たして、1等賞は誰のものとなるでしょうか?

運命を決める次の番号は・・・58番です!」

 

「ありましたね・・・あら。

南さん、ビンゴです。」

 

沙那がビンゴになり1等賞になった。

 

「月宮さん、1等賞おめでとう!」

 

ノエルが祝いにきた。

 

「ありがとうございます。」

 

「ええと・・・い、1等賞は、こちらでーす!」

 

ノエルはマフラーを沙那に手渡した。

 

「・・・手作り感あふれるマフラーですね。

こちらの模様は?」

 

「ウノっちなんだって!」

 

「そ、そうですか・・・兎ノ助さんでしたか・・・」

 

「その・・・グリモアならではって感じでいいでしょ!」

 

「クスッ・・・言われてみればそうですね。

ありがたく頂戴します。」

 

「それと、お料理の手伝いの件、ホントにありがとね!」

 

「初音様のご希望に従ったまでのことです。」

 

「じゃあ、初音ちゃんにもお礼言わないと!」

 

「ぜひ。

きっとお慶びになるでしょう。」

 

あやせはその様子を見ていた。

 

「うふふふ♪

マフラー、気に入っていただけたみたいですね~。」

 

「うーむ、結局ビンゴは当たらずじまいか・・・残念じゃ。

アメちゃんの1個でも当たれば嬉しかったんだがのう。」

 

いつの間にか隣にアイラが来ていた。

 

「あら~?

アイラちゃん、来ていたんですか~。」

 

「おう、海老名か。

今夜はすまんの、色々あってな。」

 

「事情があるなら仕方ないですよ~。

それよりも・・・」

 

あやせはマフラーを取り出した。

 

「うおっ!

こ、これはあの兎ノ助マフラー・・・あやせのものじゃったか。」

 

「ええ。

もともとは、歓談部の皆さんにと思って編んでいたんですよ~。

ただ、編み始めたら楽しくなって、人数ぶん以上できちゃいました~♪」

 

「うーむ、よくできとる。

兎ノ助ってトコがなんともアレじゃが・・・」

 

「よく似合ってますよ~。

皆さんにもお見せしに行きませんか~?

シャルロットさん、アイラちゃんに会おうと探し回っていましたし~。」

 

「それじゃが、シャルロットには手紙を渡しといたぞい。」

 

「直接お話しないんですか~?」

 

「あー、なんだ・・・あれじゃ、積もる話もあるじゃろ、長くなると思うてな。

妾、そろそろ寝るつもりなんじゃ。

ちぃとダルくてな。」

 

「具合が悪いんですか~?

でしたら、一緒に寮に行きましょうか~。」

 

「いやいや構わん構わんって。

みんな待っとるじゃろ。」

 

「御遠慮なさらず~。

アイラちゃんが誰と会ってたのかも聞きたいですし~。」

 

「【誰と】って言われてものう・・・せいぜい良介と会っとったぐらいじゃぞ?」

 

「そうなんですか~、良介さんと~♪」

 

「おうとも、良介と甘酸っぱ~い青春の1ページを作っとったんじゃよ。」

 

「あら、素敵ですね~。

なにかプレゼントをもらったりしました~?」

 

「そりゃあもう、熱くてイキのいいのを・・・ぶえっくしゅん!」

 

「あらあら大変、早く温かくしてぐっすり寝ないといけませんよ~?」

 

「いや、だから1人で帰れるって言うとるのに・・・」

 

「ほら、マフラーもちゃんと巻いて~・・・」

 

あやせはアイラにマフラーを巻いた。

 

「(ううっ・・・周囲の視線が痛いわ・・・)」

 

誠はその様子を見ていた。

 

「ははっ、まるで嫌がる子供と母親だな。」

 

「ま、そんな風にも見えるな。

・・・で、結果はどうだ。」

 

「2つしか開けられませんでした。」

 

「・・・酷い有様だな。

まぁ、俺もリーチのまま終わったし人のこと言えないか。」

 

「リーチだっただけまだマシじゃねえか。

ああ、もうこうなったら、残ってる料理食べるか。

食い直しだ。」

 

「よく食べるなぁ。

まぁ、俺も少しもらうか。」

 

2人はまた料理を食べ始めた。

その頃、あやせはエミリアとシャルロットにマフラーを渡していた。

 

「うふふ、実はお2人にもマフラーを用意してきたんです~♪」

 

「う、うわぁ・・・あ、ありがとうございます、あやせさん!」

 

「この温もりもまた、主の賜った有難い恵み・・・大切にしますね。」

 

「お揃いのマフラーで初詣というのも楽しそうですね~♪」

 

「(ど、どうしよう・・・このマフラー、正直恥ずかしい・・・!)」

 

沙那のところには初音が戻ってきていた。

 

「ちぇーっ。」

 

「お帰りなさいませ。

薫子様には渡して来られましたか?」

「アワビなら渡せたんだけどよ、すぐ追い返されちまったんだ。

忙しいって。

つまんねーのー。

せっかくのクリスマスだってのによー。」

 

「こちら、どうぞお受け取り下さい。」

 

沙那はマフラーを渡した。

 

「ん?

マフラー・・・うわ、なんだこの子供っぽいデザイン・・・いらねー、返す。」

 

初音は沙那に返した。

 

「そう言うと思っていました。

では、私が使いましょう。」

 

「恥ずかしくね?

それ。」

 

「慣れればそれほどでも。

それに、とても暖かいですよ。」

 

同じ頃、ノエルと智花。

 

「いやっほーう!

やったー!

無事に終わったよーっ!」

 

「色々あったけど、なんとか終わってよかったね。」

 

「終わりよければ全てよし!

これでオッケーオッケー!」

 

「の、ノエルちゃん、テンション高いね・・・もう遅いよ?」

 

「サンタさんとトナカイさんは、今からが本番だからねっ!」

 

「クスッ・・・ノエルちゃん、面白い。」

 

「・・・ホントのこと言うと、ちょっといいことあったんだ。」

 

「どんなこと?」

 

「プレゼントしてきたんだ・・・とても、大切な人に。」

 

「いい思い出になった?」

 

「うん!

すっごく!」

 

こうしてクリスマスパーティは幕を閉じた。



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第32話 鐘の音は遠く

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



クリスマスパーティ終了から30分後。

生徒会室に風子と薫子がいた。

 

「・・・あー、知ってますよ。

数日前にトラックが襲われた奴でしょ?」

 

「ええ、そうです。

そして魔物の移動経路を追跡すると・・・」

 

「この学園が標的だったと。

まあ、そーでしょーね。

どっちかって言うとあのれんちゅーの【通り道】にトラックが入り込んだ・・・

そのほーが正しいでしょーね。

念のため第1報のときから準備してました。」

 

「それは僥倖です。

クリスマスパーティの最中に申し訳ありませんが。」

 

「心にも思ってないこと言わなくていーので。

こっちも仕事です。」

 

「・・・まあ、よいでしょう。

魔物は散開した国軍を【無視】して進攻中です。

戦うにあたっては、1度彼らの足を止めなければ、素通りするでしょう。」

 

「風紀委員が出るのはそのためですか。」

 

「生徒会は年末の調査に向けて手続きが忙しく、手を貸せませんが・・・

精鋭部隊がバックアップにつきます。

うまく使ってください。

それでも足りない場合は、パーティ中でも構いません。

一般生徒に出動を。」

 

「ウチの判断でいーんです?」

 

「もちろん。

今回の作戦はあなたに一任します。

信頼してますよ。」

 

「アンタさんに信頼されても嬉しくねーですが、いーでしょ。

やりましょ。

元から断るつもりはありませんでしたがね。」

 

と、生徒会室のドアが開き、良介が誠を引きずりながら入ってきた。

 

「遅れてすみません。

このバカが食べ過ぎたもんで。」

 

「ぐえー・・・ぐるじい・・・」

 

誠は腹をさすりながら苦しんでいた。

 

「・・・こちらのりょーすけさんと誠さんは?」

 

「ご協力をお願いしました。

特に良介さんが普段からあなた方のお手伝いされているそうで。」

 

「ふーん。

わざわざウチらのためにりょーすけさんを呼んでいただけるとは・・・

虎の情けでしょーかね?

アンタさんは呼んでないですよね。」

 

「どちらでもよいこと。

さあ、良介さん、誠さん。

お楽しみの所申し訳ありませんが・・・

風紀委員の【面倒見】をお願いしますね。」

 

「わかりました。

任せてください。」

 

良介は風子の方を見る。

 

「どもども。

一緒にクエストに出るのは二度目ですね。

なに、心配ありゃしません。

どーんと構えてくだせー。

ヨロシク。

・・・あ、いざとなったらフォローよろしくおねげーします。」

 

「ああ、わかった。

・・・で、こいつどうする?」

 

まだ腹をさすって苦しんでいる誠。

 

「りょーすけさんが引きずって連れてきてくだせー。

場所についてる頃には復活してるでしょ?」

 

「そうだな。

んじゃ、向かうか。」

 

良介は誠を引きずりながら風子とクエストに向かった。

少し経って、生徒会室。

薫子と虎千代がいた。

 

「会長、風紀委員でよろしいのですか?」

 

「よろしいってなんだ?

強さに不安はないだろ?

良介もいるし。」

 

「しかし水無月 風子は、これまで入学時にクエストに1度出たきりで・・・

風紀委員長になってからは1度も出ていません。」

 

「この前、旧科研に行ってたじゃないか。」

 

「あれは科研からの圧力で正式なクエスト発注はされていませんでした。」

 

「それって屁理屈って言わないか?」

 

「例え過去1回が2回だったとしても、実戦経験のなさが目に付きます。

リーダーは良介さんにすべきだったかと。」

 

「風紀委員なんだから、委員長がリーダーを務めるべきだろ。

それだけじゃない。

クエストに出てなくても、アイツの強さはわかる。

特に今回のように、走り続ける魔物への足止め魔法が得意だしな。

ダテに5年も取締りをやってないさ。

任せておこう。」

 

「・・・・・はぁ・・・・・かしこまりました。」

 

「さ、じゃあアタシ達は執行部だ。

【あの下】に入る許可を取り付けないとな。」

 

   ***

 

雪の降る郊外の公園、紗妃と怜がいた。

 

「・・・微かに鐘の音が聞こえますね。

街の方でしょうか。」

 

「たぶんそうだろう・・・風飛の街がルートに入ってなくてよかった。」

 

と、風子たちがやってきた。

 

「【ここ】もいちおー風飛市ですよ。

神凪。

ほんの端っこですけどね。

市民避難終わり。

イルミネーションだけ残ってるのが不気味ですねー。」

 

「委員長・・・風紀委員の仕事は学園の風紀を維持することです。

やりたくない、というわけではありませんが、外部の魔物と戦うより・・・」

 

「はっちゃけるかも知れない生徒の監視のほうがいいと?」

 

「・・・ええ・・・単刀直入に言えば。」

 

「だいじょーぶですよ。

それは服部にやってもらいますから。」

 

「・・・おい、風子・・・」

 

良介が呆れたように風子の隣を見る。

 

「え?

自分、ここにいるッスよ?」

 

「たまに学園まで様子を見に行ってくだせー。

ま、事態が事態なんで。

過度な取締りは不要です。」

 

「え、ええー・・・ここまで30分くらいかかったッスけど・・・」

 

「アンタさんの足なら10分でしょ。

おねげーしますよ。」

 

「もしもだったら俺の肉体強化は他人にもかけられるからかけてやるよ。

そしたら5分で往復できるだろ。」

 

「・・・だそーです。」

 

「あふぅ・・・ラ、ラジャっす・・・」

 

風子は紗妃の方を向き直る。

 

「さて、氷川。

風紀委員の仕事は学園の風紀を維持する。

せーかいです。

つまり、学園生だけじゃなく不審者や反魔法使い勢力、それに・・・

魔物が来たらお引取り願う。

第7次侵攻で1番軽傷だったのがウチらです。

こーゆーときくらい、目立ちましょ。

・・・あ、ここに2人命に関わるほどの重傷だった人がいましたね。」

 

「そうでもないさ。

左脇腹がえぐれて、背骨にヒビ入ってただけだ。」

 

「右肩の鎖骨が粉々になっただけだ。」

 

「いや・・・十分重傷なんですけど・・・」

 

いつの間にか誠が復活していた。

少し離れたところ、イヴが1人でいた。

 

「・・・・・」

 

と、風子がやってきた。

 

「いや、すいませんね。

頼っちゃって。」

 

「・・・・・」

 

「成績でアンタさんを釣ったのは謝ります。

パーティ行けず残念ですね。」

 

「興味ないので。」

 

「さいですか。

ま、早く片付けたら残り物も食べられるかもしれません。

風紀委員、総勢15名。

行きましょ。」

 

「・・・私は1人で。

では。」

 

イヴは1人で行ってしまった。

 

「・・・・・せっかくキメたのに。」

 

風子はため息をついた。

 

   ***

 

良介たちはやってきた魔物を倒していた。

 

「ふん!

・・・タイコンデロガで慣れすぎたせいかあんまり強く感じないな。」

 

「食後の運動にはちょうどいいけど・・・もう少し強くてもいいんじゃないか?」

 

良介と誠が最前線に立ち、そこから倒し損ねた雑魚を他の生徒が倒していた。

良介たちの後ろに怜と紗妃がいた。

 

「・・・ふぅ。

まだ雑魚のようだ。

本命は到着していないか。」

 

「ええ・・・まだしばらくは楽でしょう。」

 

「では今のうちに・・・いや、詮索などするものではないか。」

 

「なんのことです?

あなたにしては珍しく歯切れが悪いですね。」

 

「少し気になったんだ。

委員長は5年前に風紀委員長になったんだろ?

まだ10だか11だかでなれた実力も凄いが、なぜなろうとしたのか。」

 

「・・・ああ、幼い子供のときに風紀委員長を目指した理由ですか。

いえ、私はまだ3年目ですから・・・転校してきた時はすでに・・・

あなたのほうが詳しいのでは?」

 

「私は、風紀委員になった時期がお前と同じくらいなんだ。

仲のいいお前なら聞いているかもしれないと思っただけでな。」

 

2人が話していると、後ろから風子がやってきた。

 

「2人とも、ウチの前で内緒話ができると思わねーことです。」

 

「あ・・・委員長。

すみません、警備に戻ります。」

 

「別に風紀委員長を目指したのに特別な理由はねーですよ。」

 

「・・・そ、そうなのですか?」

 

「えーまー。

たぶん、アンタさんがたと同じですよ。

学園に転校してきた生徒は、あるいは覚醒後に友人も恋人も無くしたかも・・・

あるいは己の力を過信し、うぬぼれているかもしれない。

そんな人はね、ほっといたら社会に出ることは困難です。

魔法が使える、体が強化されるという肉体的な変化に加え・・・

魔物と戦うことで一般人とは常識が変わってくるわけですから。

誰かが正してやらねーといけねーでしょ。

ウチが言ってるのはそれですよ。

体も社会的地位も人間扱いされねーんで、せめて心だけはね。

ま、なにがどうしてといえば、あるときふと目覚めた、くらいですかね。」

 

「・・・・・・」

 

良介は風子の言葉を黙って聞いていた。

 

「・・・良介?

どうかしたか?」

 

「いや、別に。」

 

良介は誠と共に魔物を探しに向かった。

 

「委員長・・・」

 

「さ、みなさんが清く正しく過ごせるよーに、魔物を追い払っちまいましょう。」

 

その頃、良介たち。

 

「なあ、良介。」

 

「・・・なんだ?」

 

「お前、魔法使いとしてこんな力が欲しいって思ったことあるか?」

 

「・・・いや、ないな。

誠はあるのか?」

 

「入学当初はな。

今は何も思ってないけど。」

 

「どんな力が欲しかったんだ?」

 

「厨二病かって思うかもしれないが・・・神も悪魔も滅ぼせる力が欲しいって。」

 

「それまたなんで。」

 

「全部失ったのが神様、または悪魔の仕業だとしたら、それらを全部否定できる力が欲しいって思ってたな。」

 

「神も悪魔も滅ぼす力か・・・手に入れてたらどうしたんだ?」

 

「さあ・・・後先のこと何も考えてなかったからな。」

 

「あの頃の誠さんは今とは違う方向で問題児でしたねー。」

 

気がつくと風子が後ろにいた。

 

「風子、聞いてたのか。」

 

「ええ、あの頃の誠さんは常に殺気立ってましたからね。

転校して間もないのにクエストは1人でこなすし、呼び出ししても来ないし・・・

完全に頭痛の元でしたよ。」

 

「完全に風紀委員、生徒会に喧嘩売るようなことしてたんだなお前・・・」

 

良介は驚いたような顔をしていた。

 

「半月の間だけだよ。

そんなことしてたの。」

 

「その半月でなにがあったのかウチらは知らねーんですがね。

気づいたら今の誠さんになってましたよ。

ま、今もじゅーぶんに頭痛の元ですがね。」

 

「・・・何か問題起こしましたかね?」

 

「多数のセクハラの報告が来てるんですが・・・これは何ですかねー?」

 

「・・・一体なんのことやら。」

 

「・・・自覚なしか。」

 

「懲罰房行き、確定ですねーこれは。」

 

「・・・俺を懲罰房にするなら2人のあの情報・・・報道部に流しちゃおっかな~?」

 

誠が変な笑みを見せる。

 

「おや、一体誰と誰の情報なんですかねー?」

 

「そりゃあ、君ら2人に決まってんじゃんー。」

 

誠が良介と風子を指差す。

 

「・・・俺たちの情報?

何かあったか?」

 

「さあ・・・知らねーですね。」

 

「おや、とぼけるつもりですか。

カフェで仲良くパフェを食べてるって情報が・・・」

 

良介と風子が同時に誠を殴りつける。

 

「ぐびゅっ!?」

 

誠はそのまま後方に吹き飛ばされた。

 

「・・・風子、行くぞ。」

 

「りょーかいです。」

 

「ちょ・・・置いてかないでくれ・・・」

 

先に進む良介と風子を誠は後から追いかけた。

その頃、イヴ。

 

「・・・体も社会的地位も人間じゃない・・・

・・・そんなことは認めない・・・!」

 

と、梓がやってきた。

 

「あ、冬樹先輩ー。」

 

「っ!?」

 

「・・・あ、すいません。

集中の邪魔しちゃいました?」

 

「いえ・・・なにか用?」

 

「自分、今から学園に行ってくるんで、30分ほど前線をお願いします。」

 

「30分?」

 

「あ、いえ、良介先輩の強化魔法があるとはいえそれ以上短くするのは難しいかなーなんて・・・」

 

「・・・ここに来るだけで30分かかってるのに、巡回も入れて30分というの?」

 

「あ、あーっ。

そっちッスか。

いやまぁ、巡回っていっても本気で取り締まりは・・・」

 

「・・・いえ、いいわ。

時間が惜しいから早くいって。」

 

「そッスか?

しからば、ちょいとだけ失礼するッス。」

 

梓は行ってしまった。

 

「・・・そう、往復と巡回で30分は・・・なんでもないことなのね・・・

・・・才能なのかしら・・・努力なのかしら・・・いいえ、どちらでもいいわ。

足の速さよりも、魔物を倒す方が重要だもの・・・!」

 

イヴは1人で前線に向かった。



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第33話 鐘の音の元へ

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



良介たちはやってくる魔物をひたすら倒していた。

 

「・・・キリがねぇな。」

 

良介が愚痴を言っていると、梓がやってきた。

 

「お、梓か。」

 

「ひーっ、ひっー。

に、にんにんッス先輩。

なにか・・・飲み物を・・・」

 

「・・・スポーツドリンク飲むか?

まだ飲んでないから。」

 

良介は懐からペットボトルを取り出し梓に渡した。

 

「ありがとうございます・・・ゴクゴク・・・うーっ。

ただでさえ魔物と戦って疲れるのに・・・

いいんちょも人使い荒すぎッス・・・えーと・・・うしっ。

往復と警備で15分!」

 

「・・・早いな。」

 

「あ、いえ取締りって言っても本格的にやるわけじゃなくてですね。

こう、自分がツインテにして影をいいんちょそっくりにして・・・

声マネしながら人が少ない校舎を歩けば、みんな自重してくれるって寸法で・・・

相手は見つかりたくないですから、本格的な変装もいらないですし。

やることは自体は単純なんで、体力ッスね後は・・・」

 

「なるほどね・・・ま、大変なことには変わりはないか。」

 

「あ、ちびっとだけ魔力いただいていーですか?

魔力が多いと体力の回復も速いですから。

あんまこっちに参加できてませんし。」

 

「ん、そうなのか。

ほら。

(ということは、俺は魔力がほぼ無限だから疲れることがあまりないのか。)」

 

良介は梓に魔力を渡す。

 

「いやーすんませんね。

このお礼はいつか体で・・・」

 

「え、いや・・・体は流石に・・・」

 

梓の言葉に顔を赤くする良介。

と、風子がこっちを見ていた。

 

「・・・・・」

 

「な、なんでもパシってくださいね!

エロくない範囲で!」

 

「パシリはしないよ。

あと、エロい範囲は絶対にないから・・・」

 

「そこは是非ともエロい方向でって言えよー。

つまんねぇな。」

 

良介の後ろにいつの間にか誠がいた。

良介は無言で誠を殴りつける。

 

「あべばっ!?」

 

「・・・ちょっと黙ってろお前。」

 

と、風子が梓のところにやってきた。

 

「お疲れ様です。」

 

「あ、あれーっ!

いいんちょ、こんなところにいたんですね!

ちょーど報告しよーと思ってたところです!

よかったよかった!」

 

「(魔力渡してる最中にもういたんだがな・・・)」

 

「どーぞ。

お聞きしますよ。」

 

「あ、はい・・・いや別にどーということはなかったんですが・・・

運営委員がいい子ばっかッスから、みんなそれに引きずられてるッスね。

アルコールもケンカも特になし。

逢引きはまあ、散らしましたけど・・・」

 

「けっこー。

で、もーひとつの方は?」

 

「あ・・・え、えーとその・・・」

 

梓は良介の方を見て、オドオドしている。

 

「・・・?

(なんだ、俺がいたらまずい話か?)」

 

「りょーすけさんたちなら気にしなくていーです。」

 

「は、はぁ。

んじゃま・・・遊佐先輩も特に怪しい動きはないッスね。

どこか盗撮してましたけど、自分らじゃなさそうでした。

生徒会は執行部のとこでしたね。」

 

「けっこーです。

遊佐 鳴子も生徒会も、地下に目がいってるよーですね。

ウチらが出て行った後にあやしー動きがないか・・・それがわかればいーです。

服部。

もう学園には戻んなくていーんで、魔物討伐に参加してくだせー。」

 

「ウス、改めてお願いします。

じゃあ冬樹先輩に合流するッス。」

 

「そろそろ第3波が来ます。

強いのも来るころなんでみんなでいきましょ。

油断してたら、取り逃しちまいますよ。」

 

風子たちは行ってしまった。

良介はさっきの会話を思い出していた。

 

「・・・地下?

学園の下に・・・何かあるのか?」

 

と、誠がやってきた。

 

「何かあるらしい。

俺も噂でしか聞いたことがないがな。」

 

「・・・その時になったらわかるか。」

 

良介と誠は風子たちの後を追いかけた。

 

   ***

 

良介たちのところにイヴも合流していた。

 

「・・・この魔物は鳥取で生まれてまっすぐ学園を目指していると聞きました。」

 

「さいです。

意味わかんねーでしょ?

近場の人里には目もくれず・・・

トラックと衝突しても、積み荷の飾りが絡まったまま一直線に。」

 

「魔物が学園を狙って・・・?

不可解だな。」

 

良介は疑問の思った。

 

「学園になんか恨みでもあるッスかねー。

いやまあ魔物の歒っすけど、学園。」

 

「魔物が1か所を狙ってきたケースはいちおーあります。」

 

「・・・第6次侵攻・・・」

 

「せーかい。

あのちきは、そもそもほとんどが北海道に出現しましたが・・・

東北に出た魔物も、一直線に北海道へ渡ったらしいです。

海を越えてね。」

 

「海が苦手なのに、本州を襲わず北海道へ?

そりゃ・・・ええと・・・」

 

「・・・これも学園に魔物が現れる前兆ってことか?」

 

「どーでしょーね・・・もしかしら地下のことが関係してるのかもしれません。」

 

「・・・地下・・・ね。」

 

良介はその言葉に疑問を抱く。

 

「あ、いーえ、きっと氷川の声が鳥取まで届いたんでしょ。

うるせーっつって来たんですよ。」

 

「・・・・・

(なんだその誤魔化し方・・・)」

 

風子の発言に呆れる良介。

その後、それぞれ別れ、魔物の討伐にあたっていた。

 

「これで・・・あと何体?」

 

イヴは魔物を倒し、残りの数を確認しようとする。

 

「半分くれーです。

まだまだ油断は禁物。」

 

「油断など・・・そんな余裕はありません。」

 

「妹さんにケガさせるわけにはいきませんものね?」

 

「・・・あの子は関係ありません。

成績に加点されるからです。」

 

「ふーん。

つまんねーですね。」

 

「あなたを楽しませるために生きているわけではありませんから。」

 

「ま、いーでしょ。

アンタさんの成績がよくなることは・・・

妹さんを守ることにながりますもんね?」

 

「・・・行きます。」

 

イヴは先に行ってしまった。

 

「・・・なんだよあいつ。」

 

「あっ・・・いじめすぎましたかね。

しかしね、冬樹 イヴ。

ケンカしてるわけでもないのに双子が話さないってのは悲しいじゃねーですか。」

 

「・・・はぁ、相変わらずか。

あの双子は・・・」

 

イヴが合流してからずっと黙っていた誠が口を開いた。

 

「・・・誠さん。

アンタさん、1度氷川と神凪のグループに行ってくだせー。」

 

「あ?

なんで。」

 

「アンタさんの中規模魔法で一掃して・・・

全員で戻ってくるよーに。

宍戸 結希から連絡がありました。

次の波が最後です・・・おーきいですよ。」

 

「・・・わかった。

んじゃ、さっさと一掃して戻ってくるよ。」

 

誠はいつになくダルそうに怜のグループに向かった。

 

「・・・どうしたんだ、あいつ・・・

イヴが合流してからずっと黙ってたが・・・」

 

「割が合わねーみてーなんです。

対抗戦で一緒になることが多いみてーなんですが、すぐ口論になるとか。」

 

「ふーん・・・あいつにもそういうやつがいるんだな・・・」

 

「さ、りょーすけさん。

ウチらも冬樹を追いかけますよ。」

 

「ああ、わかった。」

 

良介と風子はイヴの後を追った。

その頃、イヴは1人で魔物と戦っていた。

 

「(・・・私が、ノエルのことを?

だからここに来た?

いいえ、私は【エリート】にならなければ・・・

あの子は関係ない。

私が国連に入って・・・始祖十家を超える力を得て・・・

そして・・・そして・・・)」

 

と、風子の声が聞こえてきた。

 

「冬樹っ!!」

 

「っ!?

いけない、敵は・・・」

 

と、イヴの目の前に魔物がいた。

 

「クソッ、仕方ねえ!」

 

良介がイヴを庇いに入った。

 

「きゃぁっ!?」

 

同時刻、怜のグループ。

 

「・・・なんだ今のは。

冬樹の悲鳴か?」

 

「急ぎましょう。

なにか起こったのかも・・・」

 

「・・・まさか、冬樹のヤツ・・・」

 

3人は良介たちのところに向かった。

 

「良介!

冬樹!

委員長!」

 

「あたた・・・いや、やっちまいました。

服部が止めてくれることを祈ります。」

 

風子が倒れていた。

 

「お怪我は!?」

 

「打ち身だけです。

ウチのことはいーんで、りょーすけさんと冬樹を。

誠さん、神凪、まだ敵が来てます。

アンタさんたちなら大丈夫でしょ。」

 

「了解しました。」

 

「・・・ったく、しょうがねえな。」

 

「ウチは誠さんと神凪のバックアップに回ります。

氷川、りょーすけさんと冬樹を。」

 

「はい。」

 

誠と怜と風子は敵に向かっていった。

紗妃は良介たちのところへやってきた。

 

「ぐっ・・・!」

 

良介が額を抑えて倒れていた。

手の間から血が流れていた。

 

「良介さん!」

 

「紗妃か・・・俺は後でいい・・・!

先にイヴを・・・!」

 

「・・・わかりました。」

 

紗妃はイヴのところに向かった。

 

「なぜ・・・?

侵攻ほどの魔物じゃないのに、なぜ冬樹さんと良介さん、こんなケガを・・・」

 

「・・・う・・・」

 

「冬樹さんっ!

良介さん、回復魔法を使います。

私は回復魔法がうまくありません。

すぐに魔力が枯渇するので、お願いします。」

 

「・・・わかった。

急いで頼む・・・!」

 

良介は体を起こし、紗妃に魔力を渡し始める。

 

「・・・ガードをした形跡がない・・・不意打ちだったのでしょうか・・・」

 

「・・・ノ、ノエル・・・」

 

「・・・・・あ、ノエルさん・・・?」

 

「・・・・・ごめ・・・な・・・?」

 

と、イヴが目を覚ました。

 

「私は・・・魔物の攻撃を・・・?」

 

「動いてはいけません!

回復してからでないと・・・!」

 

「いえ・・・失態は・・・取り戻さなくては・・・!」

 

「冬樹さん!」

 

「無用です。

油断・・・していただけです。

怪我はひどくありません。」

 

「・・・・・」

 

「戦線に戻ります。

ご迷惑を。」

 

イヴは行ってしまった。

 

「・・・冬樹さんたち、仲が悪いと聞いていましたが・・・

先ほど、妹さんの名前を・・・まさか・・・」

 

「ぐっ・・・あのバカが・・・!

ふざけやがって・・・!」

 

良介が顔から血を流しながら立ち上がった。

 

「良介さん!

あなただけでも治療を・・・!」

 

「いらん!

あのバカを止める方が先だ!」

 

良介は紗妃の制止を振りほどき、イヴの後を追いかけた。

良介が通った後には血が点々と続いていた。

 

「良介さん・・・」

 

   ***

 

しばらくして、風子たちは残りの魔物をだいぶ倒していた。

 

「さて・・・相手の残りの数も少なくなってきました。

ちょいとトラブルはありましたが、大事なく終われそーです。」

 

「・・・・っ・・・・・」

 

「うっ・・・・ぐっ・・・・」

 

傷を気にするイヴ。

良介は頭の出血した部分を押さえる。

 

「委員長、今は・・・」

 

「いいわ。

そういうのは・・・いらない・・・」

 

「・・・・・」

 

「おい、良介、大丈夫か?

肩で息してるけど。」

 

誠が良介のところにやってきた。

 

「ああ、大丈夫だ。

・・・ちょっと気分悪いけど。」

 

「・・・全然大丈夫じゃないな。

治療受けりゃいいのに・・・」

 

呆れる誠。

 

「ほらほら、くれーですよ。

勝ちが近いってのに。

冬樹、さっきのが失態なら、それを引き起こしたのはウチです。

よけーなことをいーましたね。

よかれと思ったんですが浅はかでした。

ウチもその失態を取り返さなきゃなりません。

りょーすけさんにも迷惑をかけるはめになりましたしね。」

 

「・・・・・」

 

「トドメは3人でやりますよ。

委員長命令です。

この1回だけ、チームプレイをやりましょ。

気に入らなかったら次はなくていーです。

わかりましたね?」

 

「・・・・・はい・・・・・」

 

「・・・わかった。」

 

「では、良介さん、ウチらの魔力を回復してください。

あのデカいのをウチらでやりますよ。

他の皆さんは、まだ残ってる雑魚を確実にやっちゃってくだせー。」

 

と、メアリーとエレンがやってきた。

 

「だめだ、司令官は後ろにいろ。」

 

「あ、あれ?

来るのはえーですね。」

 

「テメー左の手首折れてんだろ。

後、良介。

お前、出血多量による貧血、左肩も脱臼してるな。

・・・よく見たら、左腕も折れてんな。

足手まといだ、消えな。」

 

「手首!?

それに良介さん、貧血に脱臼に骨折って・・・」

 

「あっ!

よけーなことを言って!

このくらいへーきですから!」

 

「これぐらいどうってことはない。

大きなお世話だ!」

 

「だが、戦い続けて負傷した貴様らより私たちのほうが戦力になる。

合理的に考えろ。

いつもそうしているだろう?」

 

「・・・・・しかたねーですね。

りょーすけさん、冬樹。

アンタさんたちも・・・」

 

「・・・仕方ねぇな。」

 

「結構です。」

 

「ああ?

テメー、ちょーしこいてんじゃねーぞ。

成績がそんなに大事かよ。

足手まといだっつってんだ。」

 

「・・・今は・・・少なくとも今は、成績のためではありません。

・・・なんのためかはわかりませんが・・・あれは私が倒さなければ。」

 

「テメーがいうと嘘くせーな・・・ほっとけ。

アタイらで行くぞ。」

 

「お先に。」

 

イヴは魔物に向かっていった。

 

「ッザけんな人のモン盗るとぶん殴るぞ!

待ちやがれ!」

 

メアリーがその後を追いかけていった。

 

「・・・私に任せておけ。

イヴとメアリーが【協力】するよう動かそう。」

 

「俺も行くか。

大物は俺も倒したいからな。」

 

誠も向かおうとする。

 

「はぁ・・・ま、無理しなくてもいーですけどね。

珍しーセリフが聞けたんで。

それだけでじゅーぶんです、ウチは。」

 

「・・・俺も何も言うことはない。」

 

「・・・・・そうか。」

 

エレンは魔物ところに向かった。

 

   ***

 

全て魔物を倒し、皆集まっていた。

 

「・・・ふしょーしゃ10名。

軽傷9名、重傷1名。

手首が折れるって軽傷なんですねぇ。」

 

「・・・重傷って俺か?」

 

左手首にギブスを巻いた風子に左腕全体にギブスを巻き、頭にも包帯を巻いた良介が聞いてきた。

 

「・・・いや、あたりめーでしょ。

そのナリで軽傷ですなんておかしーでしょ。」

 

怜が話してきた。

 

「冬樹は怪我自体は軽くてよかった。

不意をつかれて気絶していたようです。」

 

「さいですか。

りょーすけさんが庇ってくれたおかげですかね。

ま、これで彼女も自分の問題点に気づけたでしょ。」

 

「問題点・・・1人で先行することですか?」

 

「それもですがね。

1番はメンタルですよ。

ふくしゅーとか正義感ならまだ大丈夫です。

ですが彼女は違う。

聞きましたよ。

うわごとで妹の名前を言ってたらしーじゃねーですか。」

 

「氷川が言ってました。

本人は気づいてなさそうですが。

てっきり仲が悪いとばかり・・・」

 

「心からどーでもいいと思えないんなら、そんなフリしてもダメですよ。

自分がエリートになることで妹を戦いから遠ざける・・・

事情は知りませんが、そんなふーに考えているふしがあります。」

 

「・・・それは・・・理屈が通っていないのでは・・・」

 

「もちろん。

いくら冬樹 イヴが強くなったところで・・・

もう片割れは不要、とゆーことにはなりません。

その解決策のめども立っていない。

けれど妹に戦わせたくない。

過去になにがあったか知りゃしませんがね。

不器用にも程がある。

そんな心配抱えたままちゅーとはんぱに戦うくらいなら、伝えりゃいいんです。」

 

「・・・話さなきゃなにも解決しないからな。」

 

良介がため息混じりに言った。

 

「・・・それを冬樹には?」

 

「矛盾するよーですが伝えてません。

伝え方を模索してるとゆーか・・・」

 

「下手な伝え方すると、かたくなになるからな。」

 

「・・・・・難しいですね。」

 

「ホントに。

みょーなねじくれかたしちゃって。

ま、今日はもしかしたら、前進できたのかもしれませんがね。」

 

少し離れたところにイヴとゆかりがいた。

 

「大丈夫?

わたしが待機しててよかったわ・・・」

 

「・・・・・」

 

「自分の体を大事にしてね。

ノエルちゃんも心配してるから。」

 

「・・・・・!

あの子は、関係ありません・・・」

 

「そう?

とっても似てるのにね、あなたたち。」

 

「似ている?」

 

「どこが、って具体的に言えるわけじゃないけどね。

保健室に来たとき、たまに間違えるもの。

服も性格も全然違うのにね。」

 

「・・・・・」

 

と、風子と良介がやってきた。

 

「さーっ、応急手当てがすんだらひきあげますよ!

こんなとこでゆっくりしてちゃ風邪ひきますからね!

帰りはバスをよーいさせたんで、さっさと帰りましょ!

・・・さて、これでパーティに出られますね。

せっかくなんで楽しみましょ。」

 

「・・・私は、帰ったら図書館で勉強します。」

 

「・・・疲れたまま勉強しても効率悪いぞ。」

 

「それでも勉強は進むので。」

 

イヴは行ってしまった。

 

「・・・んー。

まだまだですかねぇ。

あ、誠さん。

後で様子を見に行ってやってくだせー。」

 

「・・・は?

なんで俺が?」

 

たまたまバスに向かおうとした誠に風子が話しかけた。

 

「アンタさん、よく対抗戦で一緒になってるって聞いてるんで。

おねげーします。」

 

「・・・仕方ねぇな。

わかったよ。

この後、パーティに出るつもりなかったから、ちょっと見てくるよ。」

 

誠はバスの方へ向かっていった。

風子は良介の方を向いた。

 

「・・・いや、すいませんね。

風紀委員じゃねーのに来てもらって。」

 

「いや、別に構わないよ。」

 

「これを期にぜひ風紀委員に・・・とまでは言いませんがね。

感謝しますよ。

ずいぶん楽に戦えましたし。

戻ったらゆっくり休んでくだせー。

お手伝いいただいた分は報いますんで。」

 

「別にいいんだがなぁ・・・ま、そっちがそうしたいんなら別にいいか。」

 

「ハッピークリスマス、良介さん。」

 

そのまま2人はバスに乗った。

その帰りのバスにて。

 

「・・・いやー、見るからに怪我人って感じですねー。」

 

「風子も手首折れてるから一緒だろ。」

 

「ウチはりょーすけさんほど本格的じゃねーんで。」

 

「・・・そうかい。」

 

「・・・りょーすけさん。」

 

「どうした?」

 

「他の皆どうしてます?」

 

「えーと・・・」

 

良介は他の座席を見る。

良介たち以外は疲れたのか皆眠っていた。

 

「・・・寝てるな。」

 

「・・・そですか。

あのー、りょーすけさん。」

 

「どうした?」

 

「明後日辺り、空いてます?」

 

「ああ、空いてるよ。」

 

「ウチと一緒に、街、行きません?」

 

「・・・いいな。

なんか食べに行ったりとかするか。」

 

「・・・はい。」

 

「・・・それまでに俺の怪我が治ってたら。」

 

「・・・頑張って治してくだせー。」

 

良介と風子は約束をし、学園に着くまで他愛もない話をした。



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第34話 温泉物語

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


クエストから2日後。

とある山奥。

 

「んん~!

故郷の空気、やみーですねー!

電車が長かったから、歩くの気持ちいいです。」

 

越水 ソフィア(こしみず そふぃあ)は伸びをした。

 

「ああ、しんど・・・九州って遠いわぁ。

おしりが痛くなってもた・・・」

 

香ノ葉はお尻をさすった。

 

「ほとんど寝てたから気にならなかったな。

で、ソフィアの実家ってどれぐらいかかるんだ?」

 

誠はあくびをしながら尋ねる。

場所は九州の大分。

誠、香ノ葉、葵はソフィアの実家に向かっていた。

本来は良介が付いて行くはずだったのだが、先日のクエストの負傷、そして風子と約束をしてしまったため、急遽誠が行くことになった。

無論、良介が風子とそんな約束していたことは香ノ葉たちも知らないことである。

 

「そうですね・・・徒歩270分くらいでしょうかー?

山の上ですよ!」

 

「に、にひゃくななじゅっぷんー!?」

 

「・・・約4時間半・・・だと・・・」

 

香ノ葉と誠は絶句した。

 

「あのう・・・それは車ですと何分でしょうか?」

 

葵がソフィアに尋ねる。

 

「いま車が通れないんです。

この前、崖が崩れたみたいで。」

 

「う、うそやろ・・・?」

 

「なんでこういう時に限って・・・」

 

「歩いていくのですか?

わたくし、こういったことが初めてでして。」

 

「お散歩しながら行きましょう。

山道も楽しいものがいっぱいですよー!

山の景色は、とってもびゅーりほーで美しいです!

とはいえ日が沈んだら危ないので、なるべく早足で。」

 

「あうぅ・・・話聞いただけで気絶しそうや・・・」

 

「帰りてぇ・・・」

 

香ノ葉と誠は嘆いた。

 

「誠さん、香ノ葉さん、ほらほら、そこにいいものが生えてますよー。」

 

「草やん。」

 

「いや、これは山菜だな。

山に入ってすぐなのにこんなところに生えてるんだな。」

 

「山菜?

山菜は山で採れるのですか?」

 

「おふこーす!

きれいなキノコもたくさん採れますよ!

 

「・・・きれいなキノコって、食べたらあかんのとちゃう?」

 

「へ?

そうなのですか?

おいしいと思いますけど・・・」

 

「色がきれいなキノコはほとんど毒キノコだからな・・・」

 

「ソフィアちゃん、可愛い顔して結構ワイルドやなぁ・・・」

 

「ささ、誠さんも元気出していきましょう。

ごーいんぐまいほーむ!」

 

「はぁ・・・良介のやつ・・・運がいいなぁ・・・」

 

誠は嘆きながら進み始めた。

その頃、良介。

 

「・・・で、風子。

街に来たのはいいが、どうするんだ?

俺は特に決めてないぞ?」

 

「だいじょーぶです。

実は映画のチケットを手に入れまして。」

 

良介と風子は風飛の街中に来ていた。

風子は左手首に、良介は左腕にギプスを巻いたままだった。

 

「映画・・・どんな映画なんだ?」

 

「今話題の恋愛映画だそーで。

かなり人気あるみてーです。」

 

「へえ、それは楽しみだな。

じゃ、早速映画館に向かうか。」

 

「はい、行きましょー。」

 

良介と風子は映画館に向かった。

 

   ***

 

再び山奥。

ソフィアがあるキノコを見つけた。

 

「あっ、このキノコおいしいんです。

小さい時よく食べました。」

 

「まあ、なんと鮮やかな!

自然の恵みですねえ。」

 

「・・・俺には禍々しい色にしか見えないんだけど。」

 

「ちょ、ちょっと!

やめや!

その色完全に毒キノコやないの!」

 

「え?

食べても大丈夫ですよ?

りとるクセがありますが。」

 

「誠さん、香ノ葉さん、わたくし、食べてみたいです。

これも人生経験のため!」

 

「いやいや、それ食べたら経験した瞬間人生終了するぞ!」

 

「んー・・・あ、そしたらこっちの茶色い傘のはどうですか?

これは美味しいですよー。

間違いないです!

色も普通ですし。」

 

ソフィアは近くにあった別のキノコを採ってきた。

 

「・・・あ、ほんまや。

普通のキノコやなぁ。

うーん、でも・・・」

 

「・・・ちょっと待て。

その、キノコ・・・どっかの図鑑で見た記憶が・・・」

 

「生で食べられますよ!

はむっ・・・」

 

ソフィアはキノコにかぶりついた。

 

「あっ!

あらら・・・食べてもた。」

 

「んん!

やみー♪」

 

「・・・大丈夫?

お腹壊さんの・・・?」

 

「のーぷろぶれむです!

歯ごたえ・・・シャキシャキしてます・・・」

 

「本当ですか?

わたくしも・・・」

 

「ちょい待ち、葵ちゃん。

食べたらあかん。」

 

「あっ・・・思い出した。

確かそのキノコ・・・」

 

「美味しいでしゅし、食べるとなんだか楽しい気分になれるんでしゅよ!

ふふ・・・むふふふふ・・・」

 

突然笑い出すソフィア。

 

「・・・ソフィアちゃん?」

 

「そういえば、このキノコが好きな天狗さんがいてですねー。」

 

「まあ、天狗様が。

昔話の中だけかと思っていましたが・・・」

 

「そうでしょう?

ワタシが小さい時からいつも遊んでくれるんでしゅよー。

んは・・・ふふふふ・・・」

 

「・・・毒は無いけど強力な幻惑効果が・・・」

 

「誠はん、それをはよ言ってーな。

吐き出させよ。

誠はんそっち押さえて。」

 

「あいよ、わかった。」

 

誠と香ノ葉が押さえようとする。

 

「しょわねぇしょわねぇ!

吐かんでん平気やきな!」

 

「!?」

 

「・・・なんて言ったんだ、今。」

 

「はよう来ちよ、誠さん!

あんげにしんけんエラしい花あっちね、見ちょくれんかえ!」

 

ソフィアは誠の手を引っ張り連れて行こうとする。

 

「待て待て!

どこに行こうとしてんだお前!?」

 

「ソフィアちゃん、危ない!

そっち崖やで!」

 

「ソフィアさん、急に言葉が変わりましたね。」

 

「コテコテの大分弁やで。

普段のしゃべりはなんなん?

演技?」

 

「ちがうちゃ、ソフィな、東京ン言葉よう話されんきなぁ・・・

英語ン方がようできっき・・・やき・・・

そげんくされ言わんじくり!」

 

ソフィアは香ノ葉に抱きつく。

 

「ぐあー、重いわぁ!

ちょっと誠はん、手伝ってぇな!

あ、あんまり変なトコ触らんといてよ。」

 

「へいへい、わかってるわかってる。

たく、早く元に戻れよ・・・」

 

「あんな、もうちょっとで見えちくるきね。

お父さんもお母さんもさかしーしよるかなぁ。

なー、会っちょくれね。

お父さん大分人やきちょっとおじーかもしらんけど、こばしちょるだけやきね。

お母さんアメリカんしやき、ひとすばえするように見ゆるき。

やけど・・・

2人とも優しいでな、温泉のよーでな・・・

あんなあ、わがんじょうにちょっと似ちょるんな。

うふふ。」

 

「・・・ソフィアさんの言葉、あまりわかりませんが・・・

なんだか幸せそうですね!

とってもほほえましいです。」

 

「そりゃそうだろうな。

離れ離れになってた家族に会うんだから。

家族がいるのは・・・いいことだからな。」

 

誠の表情が少し暗くなる。

 

「(そうや、誠はんの家族もダーリンと同じで魔物に・・・)」

 

香ノ葉が誠のことを気にかけていると、ソフィアが何かに反応する。

 

「あ!!

あっ!!」

 

「どうしましたか、ソフィアさん?」

 

「天狗さん・・・」

 

ソフィアは香ノ葉の方を見ていた。

 

「・・・ウチは香ノ葉やよ。

早くお家行こうな。」

 

「・・・大丈夫かこいつ。」

 

誠は呆れていた。

 

   ***

 

山の中、4人は何かを探していた。

 

「ソフィアさん、そこの温泉はどうですか?」

 

「あ、それは余所の旅館のですー!

看板が立ってます。」

 

「そない簡単に新しい源泉なんて見つからんわなぁ。」

 

「うーん、まだ見つかってない源泉はありそうな気がするんだがなぁ・・・」

 

「うう、ごめんなさい。

家の事情に巻き込んでしまいまして・・・」

 

「ええんよ。

越水温泉の危機なんやろ?

さっきの話・・・」

 

数時間前、越水旅館。

ソフィアがなんとか元に戻った後、温泉に入る話になっていた・・・が。

 

「どうやら、露天風呂がおさるさん達に占拠されているらしくて・・・

困りました。

温泉が使えなくなったら、ウチの旅館はどうすれば・・・」

 

「こうなったら俺が無理やり猿たちをどかすしか・・・」

 

「いや、あかんやろ。

返り討ちにあうだけやって。」

 

誠たちが話していると葵が話しかけてきた。

 

「あの・・・わたくし、お父様から聞いたことがあります。

出るまで掘れば・・・日本のどこからでも、温泉は出るのだと!」

 

「り、りありー!?

それはほんとですかー!?」

 

「いくら温泉大国、日本でもどこからでも出たりはしねえよ。」

 

「・・・それって、めぇ~・・・っちゃ、掘らんとあかんやつやないの?」

 

「そうですね。

めぇ~・・・っちゃ掘らないとならないかもしれません。」

 

「そんな深く、人力で掘れんよ。

現実的やないで。」

 

「いえ・・・あきらめるのはすとっぴっつです!

その案なんとかなるかもしれません・・・!」

 

「(・・・まさか、新しい源泉を見つけるとかじゃないだろうな。)」

 

そして、現在。

 

「・・・で、こうして新しい温泉を探しにきたわけやけど。」

 

「この辺は源泉が多いので、頑張って掘れば新しいのが見つかるかもなのです!

新しい温泉のために、掘って掘って掘りまくりますよー!」

 

「ど根性やなあ。

ま、ここまで来たんやし、ウチも付き合うで。

いざとなったら男手もあるしな。

なぁ誠はん。」

 

「お、おう・・・

(良介・・・なんでお前はこういう時に限って・・・!)」

 

「ソフィアさん、わたくしも頑張りますね。」

 

「葵さん、香ノ葉さん・・・誠さんも・・・さんきゅーべりーべりーまっちです!」

 

誠たちはその後、源泉が出ると思われる場所を掘っていた。

 

「しんどくなってきたわ・・・ほんまにここ掘ったら出てくるん?」

 

「間違いなっしんぐです。

この下にほっとなふぃーりんぐを感じます!」

 

「ソフィアさんは温泉がどこにあるかわかるのですか?」

 

「フフフ・・・あんだすたん。

ワタシの得意魔法はなんと・・・

水と火の相反する属性を融合させる・・・つまり・・・お湯を操ることなのですー!

びこーず、源泉があればそれを操るなど容易なことです、フフフー。」

 

「まぁ!

それではお湯をばーっと吹き出させたりできるんですか?」

 

「できますよ!」

 

「すごい!」

 

「やろうと思えば俺や良介もできることだが・・・それ以前に学園外で魔法禁止じゃなかったか?」

 

「ばっと!

学園外で魔法を使ったらいけませんので!

やっぱりシャベルで掘りますねー。」

 

「・・・・・

今ドッと疲れたわ・・・休憩しよか。」

 

「・・・そうだな。」

 

誠と香ノ葉は休憩に入ろうとした。

 

「疲れましたかー?

マッサージしましょうか!

 

「え、してくれるん?

嬉しいなぁ。

ウチ結構肩こるんよ。」

 

「ワタシマッサージ得意です。

いきますよー。」

 

「(あ、嫌な予感・・・)」

 

「ぬぇい!」

 

ソフィアは香ノ葉を突いた。

 

「うぐっ!」

 

香ノ葉は倒れてしまった。

 

「香ノ葉さん?

香ノ葉さーん!」

 

「誠さんもお疲れでしたらぜひー!」

 

「い、いや俺は別に・・・」

 

後ずさる誠。

ソフィアは誠にも容赦なく突いた。

 

「ぬぇい!」

 

「あべしっ!」

 

数十分後・・・

 

「う、うーん・・・」

 

誠は目を覚ました。

 

「・・・大丈夫ですかー?

どうです!

身体が軽くなったでしょう?」

 

「軽くって・・・あれ、身体が・・・」

 

「す、すごく楽やわ・・・どういう原理なん?」

 

「旅館仕込みのマッサージですからー!」

 

誠たちは再び掘り始めた。

 

   ***

 

「あれ、お隣の源泉だったんですね。

こっちで掘り当てた途端お湯が減っていってびっくりしました。」

 

誠たちは源泉を掘り当てたと思いきや、隣の源泉に当たってしまった。

 

「ふぅ・・・まったく、塞ぐの大変だったぞ。」

 

「ううぅ・・・失敗でした。

あいむそーりーです。」

 

と、突然香ノ葉の悲鳴が聞こえてきた。

 

「きゃああぁ!」

 

「どうしました、香ノ葉さん!」

 

「おさるが・・・おさるがウチの荷物とってったぁ!」

 

「何!?」

 

「まあ!

いけないおさるさんです!」

 

「あの猿め・・・!

とっ捕まえて駆逐してやる・・・!」

 

誠は猿を追いかけようとする。

 

「誠さん待ってください、ワタシも追いかけますー!」

 

誠とソフィアは猿を追いかけた。

 

「クソッ・・・どこ行きやがったあの猿!」

 

「はあ、はあ・・・ずいぶん遠くまで逃げましたね」

 

と、ソフィアは何かを見つけた。

 

「・・・おー・・・

すごい、大きな源泉・・・」

 

「確かにでかい源泉だな・・・あっ!」

 

「!

あそこ!

いました、おさるさん・・・あれ?

家族連れでしょうか・・・わぁ、ちっちゃいおさるさんがいっぱい・・・

みんな温泉に入ってますね。

あれがお母さんかな・・・」

 

「見た限り、誰も見つけてない感じだな。」

 

「そうですね・・・ここはきっと、誰も知らない源泉だと思うんですけど・・・

・・・・・・・・ここはおさるさんふぁみりーのお風呂ですから、また他に探しましょうー!

のーぷろぶれむです!

きっとまた見つかりますよ。」

 

「そうだな・・・ここはこのまま置いとくか。」

 

「あ、もし香ノ葉さんや葵さん・・・誠さんも、疲れていたら・・・

旅館に戻っていてください。

遅くなっちゃいますから・・・」

 

「いや、そういうわけにはいかない。」

 

「で、でも・・・」

 

「良介ほどじゃないが、俺もお人好しなんでね。

だから、手伝わせてくれ。」

 

「・・・ありがとうございます。

誠さんもじぇんとるまんです。

ふぁみりーにも、ふれんどにも恵まれてて・・・ほんとにワタシは・・・

・・・幸せ者ち・・・英語でどげんゆうやろ・・・」

 

「(最後の最後で素に戻ったな・・・)」

 

「・・・・・あ!

香ノ葉さんの荷物、返してもらわないとですー!

返してもらったら、香ノ葉さんと葵さんのところ、戻りましょう!」

 

「ああ、さっさと返してもらおう。」

 

   ***

 

誠たちは旅館に戻っていた。

 

「結局見つからんかったなぁ、新しい源泉。」

 

「うぅ・・・残念です。

せっかくみなさんが手伝ってくれたのに・・・」

 

「仕方ないさ。

源泉ってのはそう簡単に見つかるものじゃないからな。」

 

「ソフィアさん、あまり気を落とさないでくださいまし。」

 

「露天風呂に入ってもらいたかったです・・・」

 

「でもあの、お部屋についている狭いお風呂はすごく珍しいです!」

 

「(普通の家庭にあるお風呂はあんなもんなんだが・・・)」

 

「葵ちゃん葵ちゃん、やめや。

追い打ちみたいになっとるで。」

 

と、ソフィアの母親がやってきた。

 

「あ、お母さん・・・どげんしたん?

・・・え!?」

 

誠たちは露天風呂に向かった。

 

「お、おさるさんいなくなってますー!

どうして・・・お風呂が使えなくなるくらいいたはずなのに。」

 

「あれ?

これ、ウチの櫛や。

なんでこんなとこにあるん?

荷物に入れといたやつやのに・・・」

 

「荷物・・・!

もしかして、あのときのおさるさんファミリー・・・?

おさるさんファミリーが、新しい温泉を見つけたから・・・

だから、どいてくれたんでしょうか・・・?」

 

「かもな。

とりあえず猿たちがいなくなってよかった。」

 

「よかったですねソフィアさん!

これでお風呂使えますね。」

 

「は、はい!

おさるさん・・・みなさん。

ありがとうございます・・・」

 

「ほな、早速お風呂の掃除せななぁ。

念願の露天風呂や!

ウチらは女湯、誠はんは男湯な。」

 

「俺男湯1人で掃除すんの!?」

 

「あああ、掃除はワタシがやりますのでー!

越水旅館のおもてなし、めにーめにーさせていただきますよー!」

 

誠たちはその後、露天風呂を堪能した。




人物紹介

越水 ソフィア(こしみず そふぃあ)16歳
日米ハーフの帰国子女で九州にある温泉旅館の跡継ぎ。
厳密にはアメリカで生まれた1か月後に日本へ渡ったため、帰国子女ではなく英語も喋れない。
小さいころから温泉に浸かって育ったため、自らも大の温泉好き。
実家を盛り立てるために宣伝を欠かさない。
温泉好き。
九州の実家は温泉ほてる。


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第35話 テスタメント

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


誠が温泉に行ってから2日後。

生徒会室には西原 ゆえ子(さいばら ゆえこ)と虎千代がいた。

 

「・・・・・この学園の地下、ですか。」

 

「転校早々、こちらの都合で悪い。

だがお前の魔法が必要だ。」

 

「ゆえ子の魔法は、近い未来を具体的に予知するのには不向きです。

レネイ女史やアンクル・ツォフのような預言者とは違います。

ご期待には添えられないかもしれませんが。」

 

「もともとお前は覚醒してそんなに日が経っていない。

承知の上だ。

アタシには年内にやっておきたいことがあった。

お前をダシに使ったようなものだ。」

 

「・・・むにゃむにゃ・・・生徒会長さん。

あなたの先は辛く険しいです。

ですがその先にある光を見失わないよう。

これをどうぞ。」

 

ゆえ子は虎千代に何かを差し出す。

 

「・・・・・?」

 

「ゴールデンカルサイト・・・栄光と繁栄の力を持つ石です。」

 

「ふむ・・・せっかくだがそれは受け取らないでおこう。

アタシの目標は国造りだ。

それを成し遂げるための力をつけねばならん。

自分の限界までやってみて、それでもだめだったら使ってみるとするよ。」

 

「そうですか。

お強いのですね。」

 

「さて、地下にいくわけだが、もちろんお前に護衛をつける。」

 

と、生徒会室のドアが開き、良介が入ってきた。

 

「会長、言われた通りに来ましたが。」

 

「こちらの方ですか?」

 

「ああ、早田 良介だ。

良介。

お前には西原の護衛を頼む。

もちろんお前だけではない。

何人か選んで行け。

アタシたち生徒会も行く。

見つけるのは【最奥部】だ。

この学園の地下迷宮の一番奥。

そこに何かがあるらしい・・・詳しいことはわからないが・・・」

 

「なるほど・・・地下ですか。

(地下・・・風子が言ってたあれか。)」

 

「第7次侵攻が終わった後に探すよう、代々の会長に受け継がれてきたんだ。

・・・1つ注意しておく。

学園の地下に少なくとも今、魔物は確認されていない。

だが霧はどこにでもある・・・アタシは地下に閉じ込めれられて、著しく消耗した。

日をまたいでの探索は厳禁だ。

それだけ、守ってくれ。

頼むぞ。」

 

「わかりました。

それじゃ、任せてください。」

 

良介はゆえ子と共に地下に向かった。

 

   ***

 

地下の洞窟。

瑠璃川姉妹、龍季、さら、ノエルがいた。

 

「・・・凄い。

コロシアムの地下がこんなになっていたなんて。」

 

「秋穂、危ない。

お姉ちゃんに任せて。」

 

シローがいきなり吠え始める。

 

「シロー、どうしましたか?

こわいですか?

だいじょうぶですよぉ。

たつきちゃんにはるのさんも来てくれましたし。」

 

「ノエルちゃんもいるからね!

バッチリサポートするよ!」

 

「・・・クソ。

来なきゃよかったぜ。

瑠璃川とかメンドクセーヤツがいたもんだ・・・

おいさら!

お前、わざわざ参加する必要なかっただろーが。」

 

「わたし、じゅうねんがくえんにいますから!」

 

「・・・だから?」

 

「がくえんのことはなんでも知ってるんですから!」

 

「・・・この地下のことも?

 

「いいえ・・・はじめて知りました。」

 

「だからなんなんだよっ!」

 

と、春乃がノエルに話しかけてきた。

 

「・・・冬樹。

コロシアムの地下、なにか情報はある?」

 

「うーん。

途中までの地図は渡されたけど、それがない所の探索だから・・・

あんまり役に立たないかも。

でも崩落の心配はないって。」

 

「魔物は?」

 

「魔物?

ううん、特に・・・それに、出てたらとっくに大騒ぎじゃない?

学園の敷地内は魔物は滅多に出ないし・・・」

 

「・・・・・魔物が、いない?

なら、こんな嫌な感じはしないわ・・・」

 

「・・・お姉ちゃん、どうしたの?

ううん!

なんでもないよ秋穂!

なにがあってもお姉ちゃんが守ってあげる!」

 

秋穂に抱きつく春乃。

 

「ひゃっ!

ち、近い、近いよお姉ちゃん!」

 

「・・・出なけりゃそれでいいけどね。

なんであろうと、妹に手出しさせないわ。」

 

その頃、良介たち。

月詠がゆえ子と話していた。

 

「・・・・・アンタが予知の魔法使い?」

 

「西原 ゆえ子です・・・むにゃむにゃ・・・」

 

「・・・最近の転校生って・・・いや、なんでもないわ・・・」

 

「・・・・・チッ。」

 

「予知の魔法使いって言うからもっと違うイメージ持ってたが・・・

結構幼い子が来たな。」

 

「幼いって・・・俺たちより年上だぞ。」

 

「え!?

と、年上!?

あの見た目で・・・」

 

護衛には月詠と焔、良介と誠が来ていた。

月詠が良介に話しかけてきた。

 

「良介!

アンタたちとツクたち精鋭部隊がこの子の護衛よ!

万が一にも傷つけないよう、ツクが指揮をとるからね!」

 

「うぜー・・・」

 

「ちょっと!

なんか言った!?」

 

「うるせぇ。

そのキーキーわめくの、やめろ。」

 

「・・・な、な、何よ!

アンタなんぁねぇ!

今は偉そうにふんぞり返って・・・」

 

「黙れ、燃やすぞ。」

 

焔と月詠が揉めだした瞬間、紫のオーラを纏った誠が2人に割って入り双剣を突きつける。

 

「これ以上揉めたら話が進まないんだよ。

黙らねえと首、掻っ切んぞ。」

 

焔と月詠を紫に光った誠の瞳が睨みつける。

 

「ぐっ・・・・」

 

「うっ・・・・」

 

2人が引いたのを確認すると誠は元に戻った。

 

「・・・誠、今のはなんだ?」

 

「ああ、今のか?

侵攻が終わってから突然使えるようになったんだ。」

 

「へー・・・俺の封印能力みたいなものか。」

 

「ああ、そんな感じだ。

ただ違うところは少しばかり好戦的になっちまうところかな。」

 

「確かに少し性格変わってたよな、今。」

 

「だから、俺は【魔神化】って呼んでる。」

 

「・・・なんで魔神化?」

 

「なんか思いついたから。」

 

良介と誠が話していると奥から音が聞こえてきた。

 

「・・・・・・?

な、なに、今の?」

 

「・・・むにゃむにゃ。

この先は安全ではなかったんですか?

黒いもやが見えます。

きっと魔物でしょう。」

 

「・・・やっぱり出たか。」

 

「・・・そ、そんな。

だって学園の地下なのよ?

魔物がいたら・・・!」

 

「んなのわかってたことだろ。

アタシたちも生徒会も行くんだ。

なんも出ねぇワケあるか。

さっさと進むぞ。

魔物が出てきたら、全部アタシが燃やしてやるよ。」

 

「・・・いや、俺がやるから護衛に専念しててくれ。」

 

良介はそう言うと1人で進んでいった。

 

「ふざけんな!

魔物は全部アタシが燃やすんだ!」

 

焔もその後に続く。

 

「ちょっと待ちなさいよ!

ツクを置いてかないでよ!」

 

月詠も続く。

 

「・・・はぁ、結局俺だけで護衛しなきゃいけないのか。」

 

誠はため息をつく。

 

「むにゃむにゃ・・・誠さん・・・でしたか。

あなたは行かないんですか?」

 

「あんたの護衛しなきゃいけないからな。

そっちに合わせて進むさ。」

 

「そうですか。

それでは、お願いしますね誠さん。」

 

「ああ、任せてくれ。」

 

誠とゆえ子は3人の後を追った。

 

   ***

 

里奈と萌木が地下で魔物と戦っていた。

 

「うわーっ!

この魔物キモいのだー!

戦いたくないのだ!」

 

魔物から逃げようとする里奈。

 

「だ、大丈夫だよリナちゃん!

他の魔物と何も変わらないから!」

 

「見た目が違うだろーっ!」

 

「うっ・・・言い返せない・・・どうしよ、わたしもちょっと気持ち悪い・・・ん?

あれは・・・ま、まさか・・・!」

 

萌木が何かに気付き走り始めた。

 

「あ、お、おい!

萌木、待てーっ!

魔物を押し付けて行くなーっ!」

 

里奈は魔物を倒し、萌木の後を追いかけた。

萌木は村のような場所に来ていた。

 

「ひぃ、ひぃ、・・・も、萌木、お前酷い奴だな・・・おい?

おーい?」

 

「・・・魔法使いの村だ・・・」

 

「魔法使いの村?

なんだそりゃ。」

 

「昔、魔物は地下から来ると考えられてたんだよ。

最初に現れた魔物がそうだったし、地獄の悪魔だって認識だったから。

だから魔法使いは、地下に防衛拠点を作って魔物と戦っていたの。」

 

「・・・ふーん・・・ん?

でも魔物は霧から生まれるんだろ?」

 

「それが判明するまでに時間がかかったんだ。

地上で魔物が現れたときは・・・

魔法使いが止められなかったって非難を受けた。

そして霧から生まれることがわかったら、地下の防衛拠点は引き払われた。

ずっと前のことだし、破壊していったから遺跡みたいになってるのが普通なの。

でもここは・・・風化しているとはいえ、ほぼ原形を保っている。

風は入らなくても湿度が高いのに・・・不思議・・・」

 

「・・・おーい、萌木?

あちゃあ。

こうなったらしばらく動かないなー。」

 

「魔法でコーティングされてるのかな。

でもそれだったら術者は・・・」

 

「仕方ないなー。」

 

里奈はデバイスで連絡を取ることにした。

 

「こちら里奈。

萌木があっち行っちゃったからしばらく足止めだー。」

 

少し離れた場所。

良介たちも魔法使いの村に来ていた。

月詠が里奈と連絡を取っていた。

 

「・・・了解・・・まったくもう、萌木ったら!

ただの古い家じゃない!

てゆーかなんで魔物が出るのよ!

学園でしょここ!?」

 

「ここは・・・何だ?」

 

「あー、たぶん・・・魔法使いの村ってやつじゃないのか?

昔、本で見たことある。」

 

「誠、知ってるのか?」

 

「ああ、と言っても海外の遺跡化したやつだけどな。

日本にあるのは知らなかった。

・・・しっかしよー、よく魔物出るな。」

 

「・・・・・」

 

魔法使いの村を見て黙る焔。

 

「・・・焔、アンタなにか知ってそうね。」

 

「テメーには関係ねぇよ。」

 

「止めていた人がいたんですね。」

 

「え?」

 

「会長さんから聞きました。

精鋭部隊の一部優秀者だけがここに入れると。

ゆえはよく知りませんが、たまに魔物退治にきてたのですね、きっと。」

 

「・・・そんな、ツク、聞いてないわよ!」

 

「・・・知ってたか誠。」

 

「知らん。

初耳だ。」

 

「・・・クソッ!

あのヤローが許可されてアタシはダメだってのかよ・・・!」

 

と、突然誰かが呼びかけてきた。

 

「みなさーん!」

 

どこかともなく浅梨がやってきた。

 

「あ、アンタ・・・!

なんでここに!

討伐パーティには入ってなかったでしょ!」

 

「ええと、そうなんですけど・・・寮に帰ろうとしたらここを通らないと・・・」

 

「なんでよ!

・・・はっ!

アンタ、いつも通る洞窟ってここのことだったの!?」

 

「そうですよ?

皆さんも通りますよね?」

 

「どうやったら通るのよ!

いつもは封印されてて入れないじゃない!」

 

「そうなんですか?」

 

「・・・ずいぶん派手な方向音痴な子がいるんだな。」

 

誠は引いていた。

 

「(・・・誠はもしかしてこいつが男だってこと知らないのか?)」

 

「・・・・・むにゃむにゃ。

魔物は悪魔の使者。

扉を抜けて現世に姿を現し、人に害をなす。」

 

「・・・・・ああ?」

 

「・・・どっかで聞いた言葉だな。」

 

顎に手をやり、考え込む誠。

 

「魔物の脅威から人々を守るには最終儀式を行わなければならないのです。」

 

「・・・きゅ、急になにを言い出すのよ、この子・・・」

 

「我妻、浅梨さんですね。」

 

「はい?

そうですよ。

自己紹介しましたっけ。」

 

「こちらを。」

 

ゆえ子は何かを浅梨に手渡す。

 

「わぁ、かわいいお人形ですね!」

 

「身代わり人形と言います。

持ち主に降りかかる災厄をかわりに受けてくれます。」

 

「災厄?」

 

「はい。

いつかわかりませんが、最終儀式が行われるとき・・・

あなたの身に危険が迫るのです。

その時のために、持っててください。」

 

「はぁ・・・」

 

「・・・アンタね、預言者だか知らないけど、あんまり不吉なことばっか言わないの!」

 

「すみません。

謝ります。

ゆえ子の予知はあいまいで、ぼやけています。

でも見えたなら、それを止めるのがゆえの義務です。

では次は・・・こちらの道ですね。」

 

良介たちは先に進んだ。

 

   ***

 

良介たちは魔法使いの村の奥へと進んでいた。

魔物はかなりの強さになっていた。

 

「・・・クソッ。

魔物が強くなってきやがった。

霧が集まってんだ・・・」

 

「この奥から、霧が?

どこかに通じているのかしら・・・」

 

良介と誠は先頭で戦っていた。

 

「はぁっ!

魔物が強くなってきたな・・・誠!」

 

「でぇいっ!

オッケー、良介、言わなくてもわかるぜ。」

 

良介と誠は同時に第1封印と魔神化を発動させた。

 

「よし、行くぞ!」

 

「おう!」

 

良介は剣で、誠は双剣で次々と魔物を切り裂いていく。

 

「あの2人頼もしいけど強すぎでしょ。

侵攻のときよりも強くなってるんじゃないの?」

 

「・・・チッ、気に入らねえ。

後から来たくせに・・・!」

 

「わぁ・・・2人ともお強いですねぇ。

お姉ちゃんが見たら喜びそう。」

 

「ふぅ・・・ふぅ・・・」

 

ゆえ子は息が上がっていた。

 

「ん?

・・・あ、アンタ、もうへばったの?」

 

「すいません・・・ゆえはずっと寝ていたので・・・体力がないのです・・・」

 

「寝てた?

お寝坊さんなんですね。」

 

「器用にボケないでよね!」

 

「ふぅ・・・あまり自分から言うことではないですが、ご迷惑をかけてますね。

ゆえは生まれつき虚弱だったのです。

ニュージーランドに住めるほど。」

 

「ニュージーランドにいたの?」

 

「はい。

なぜか300年で、1度も魔物が現れていない国・・・

ゆえが生まれてすぐ、家族のニュージーランド居住許可が出ました。

ゆえは・・・日本では生きられないと判断されたのです。」

 

「・・・で、でも魔法使いに覚醒したんなら、普通の人よりは体力が・・・」

 

「だからニュージーランドを退去したんだろうが。

言わせんな。」

 

「あ・・・そ、そうよね。

ごめんなさい。」

 

「ご迷惑をおかけします。

まだゆえは長時間の運動に慣れていません。」

 

「魔力だな。

俺が満タンになるまで入れてやるよ。」

 

前方にいる魔物を全て倒した良介と誠がやってきた。

 

「・・・・・?」

 

「ゆえ子、魔力が漏れてるぞ。

予知の魔法が発動しっぱなしだ。」

 

「体力がねぇのもそうなんだろうが、魔力ほとんど残ってねぇだろうが。」

 

焔も口を挟んできた。

 

「そのようですね。

ゆえの予知は・・・自分で制御できないので・・・」

 

「魔力が充実してりゃ、疲れが取れるのも速い。

アタシはさっさと進みてぇんだ。

動けねぇんなら良介か誠が背負いな。

クソったれが。

テメーがいねぇとこの迷路は抜けられねぇ。

なにをしてでも連れていくからな。」

 

「・・・とりあえず、魔力を渡す。

動けなくなったら言ってくれ。」

 

「・・・わかりました。

ありがとうございます。」

 

良介たちはさらに奥へと進んだ。

 

   ***

 

「ぜーっ、ぜーっ・・・つ、疲れた・・・どんだけ広いの、この地下・・・」

 

さらに深くまで良介たちは進んでいた。

村はまだ続いていた。

 

「・・・もうどれだけ下ったんだ?

さすがにこんな広さ・・・

ここまで施設があるなんて異常だ。

深すぎるぞ。」

 

「こんな深くまで施設あるのか・・・そんなところにまで魔物は出てきていたのか。」

 

「しかも深くになるにつれ魔物も強くなってやがる。

下手したらタイコンデロガレベルの魔物が出てきてもおかしくねぇな。」

 

4人が愚痴を言っていると、ゆえ子がまた何か言い始めた。

 

「・・・むにゃむにゃ・・・ですが、そんなに遠くではないです・・・

変な景色が見えるのです。

きっとそれが1番奥なのです。」

 

「でもちょっと休みましょう・・・変な景色って、なに?」

 

「・・・空です。」

 

「空?」

 

「はい・・・空が見えます。

それに・・・削り取られた山、地平線・・・」

 

「どういうこと?

地下に降りて行ってるのに、なんで空なのよ。」

 

「むにゃむにゃ・・・すいません、これ以上は・・・ぼやけていてはっきりしません。」

 

「チッ・・・今はそんなのはいい。

それよりなにもなかったらただの無駄足だ。」

 

「なにかはあります。

それが目的のものかはわかりませんが・・・」

 

「アタシはアンタを信じてねぇ。

ついてからだ。

今は余計なことは言うな。

ただ分かれ道さえ指してればいい。」

 

良介たちはさらに奥へと進む。

と、行き止まりになっていた。

 

「・・・おい、行き止まりだ。」

 

「も、もーだめ・・・はぁ、はぁ・・・歩けない・・・え?

い、行き止まり?」

 

「・・・どうなってるんだ?」

 

良介が周りを見渡し何かないか探す。

 

「何もありませんでしたってのは勘弁してくれよ。」

 

誠も一緒になって探す。

と、焔が何かを見つけた。

 

「なにかあるぞ。」

 

「なんでしょう?」

 

焔と浅梨が見つけた物へと近づく。

 

「ロクなものじゃなけりゃいいが・・・」

 

「・・・こんなところに何があるんだ?」

 

良介と誠も向かった。

 

「あっ!

ふ、ふしんなもの・・・近づいちゃ・・・らめ・・・」

 

「・・・行き止まり・・・変ですね・・・」

 

「変って、な・・・なによ・・・はぁ・・・最奥部、よかったじゃない・・・」

 

「ですが・・・この先には空が・・・空が、見えるのです・・・」

 

「・・・適当言ってるわけじゃないみたいだけど・・・なさそうよ、空なんて。」

 

「はい・・・ゆえも行ってみるのです。

なにかわかるかも。」

 

ゆえも向かった。

 

「・・・うーん・・・動けない・・・」

 

月詠は身動きができなくなっていた。

良介たちは見つけた物のところに来ていた。

 

「・・・なんだこれ。」

 

誠は呆れたように嘆いた。

本が置いてあった。

 

「これは・・・本・・・魔道書か?

なんでこんな深い所に・・・んっ。

・・・・・ぐっ!

ぐぐぐ・・・!

なんだこりゃ、開かねぇ・・・!」

 

「貸してください。

私なら・・・

えいっ!

開きません・・・」

 

「貸してくれ。」

 

焔は良介に手渡す。

良介は第1封印に土の肉体強化をかける。

 

「おいおい、良介、大丈夫なのかそれ。

肉体強化の重ねがけと一緒だぞ。」

 

「大丈夫だ。

何回も試してるから。」

 

良介は本を開こうとする。

 

「うおおおおっ・・・!

ぐっ・・・この・・・・!」

 

渾身の力で開こうとするが開かない。

 

「・・・別に糊付けされてるとかじゃねぇな・・・」

 

「良介で開かないなら、俺の魔神化でも意味はないな。」

 

「・・・土の肉体強化かけようか?」

 

「体ぶっ壊れるからやめてくれ。」

 

話しているとゆえ子がやってきた。

 

「魔法がかかっているようです。

変な色になっています。」

 

「魔法?

本が開かなくなる魔法なんてどこのアホが作ったんだってんだ。」

 

「・・・何か封じ込めてるのか?」

 

良介は本を色々な方向から見た。

 

「理由はなんとも。

魔道書には危険な魔法がかけれているものもあるのです。」

 

「読むだけでどーにかなっちまうってのかよ。」

 

「ネクロノミコン血液言語版とかか。」

 

「良介、よく知ってるなそんなの。」

 

「あるいは開いただけで。

許可された人以外が読まないようにしたり・・・

単純に、読んだ人を害するための悪意であったり。」

 

ゆえ子の瞳が怪しく光る。

 

「・・・っ。

どっちにしろ開かねーんだ・・・だけど、これしかねぇってことは・・・

これが生徒会の探していたものなのか確認しねぇとおわらねーぞ。

・・・クソッ。

この表題・・・なんだ?

テスタ・・・」

 

「・・・テスタメント・・・かな?」

 

良介と焔が英語で書かれている表題を読もうとする。

 

「TESTAMENTです。

ええと・・・日本語ではなんていうんでしたか・・・」

 

と、どこからともなく萌木が現れた。

 

「テスタメント・・・聖書、もしくは遺書という意味です。」

 

「ああ?

なんだ追いついてきたのか・・・聖書って宗教かよ。」

 

「いえ、この表題・・・やっぱり、表紙をナイフで彫ったものですね。

これが聖書なら、旧約や新約を示す単語が無ければ不自然です。

どちらかと言えば、遺書と訳すのが正しいかと・・・」

 

「そうか・・・なら、問題は誰の遺書かってことになるな。」

 

良介は本を見つめる。

 

「・・・誰が書いたのかわかるか?」

 

「貸してください・・・いえ、そもそもこの本自体が無銘ですね・・・

TESTAMENTの傷をつけた人も、名前を残していません。」

 

良介から本を手渡された萌木はそう言った。

 

「・・・魔法の力で開かねぇなら・・・結局、意味わかんねぇんじゃねぇか。」

 

そのまま立ち往生していると守谷がやってきた。

もうしばらくしていると、秋穂たちのグループがやってきた。

 

「あ、守谷さん。」

 

「秋穂・・・アンタたちもついたのね・・・ふぅ・・・やっと体力が回復してきたかも・・・」

 

「ここが一番奥ですか?」

 

「まだあるでしょ。

この先に。

そんな気がする。」

 

春乃は向こうの方を見る

 

「この先・・・行き止まりだったがな。

俺も何かあるような気がするが・・・」

 

良介も向こうを見た。

 

「・・・魔法で道隠されてたりとかか?」

 

誠が呆れたように言った。

 

「アンタまで変なこという・・・そんなわけないでしょ。

この先の土壁が見えない?

ここで行き止まりよ。」

 

「・・・・・」

 

春乃は黙って進んだ。

ノエルが秋穂に話しかけてきた。

 

「お姉さんのカンが外れたのって珍しいね~。

あ、まだ外れてないか。

もしかしたら壁の向こうになにかあるかも知れないもんね。」

 

「うん・・・でも変な感じ。

お姉ちゃん、いつもはカンが外れても・・・

どうでもいいって風なのに。

こんなに気にするなんて初めて。」

 

「あ、壁叩いてる。

確かに、いつもは確かめたりしないのにね。

蹴りだしたよ・・・それでもビクともしないから・・・魔法・・・」

 

「・・・ちょっと皆下がっててくれ。」

 

「え、良介。

何する気だ?」

 

良介は春乃のところに向かうと、第1封印を解放する。

 

「お、おいおいまさか・・・」

 

右手に光の魔力を集中させる。

 

「きゃーっ!

やめて!」

 

秋穂が悲鳴をあげると同時に良介は思いっきり壁に魔法を撃った。

 

   ***

 

結果、ビクともしなかった。

 

「一体どうなってんだ・・・」

 

途方に暮れているとアイラがやってきた。

アイラは本を見ていた。

 

「俺の魔神化で強化された魔法も効かない壁って・・・

あっちも魔法がかかってんのか?」

 

誠は壁の方を見て呆れていた。

 

「よう、アイラ。

その本にかかってる魔法、わかるか?」

 

「ふぅむ・・・お、良介か。

お主も気になっとるのか?」

 

「そりゃあ、開かない本なら気になるのが普通だろ。」

 

「アイラさん、そろそろ戻らないと・・・お姉ちゃんが・・・」

 

「わかっとるよ。

しかし虎千代のヤツめ、どっから情報を仕入れてきた。」

 

「・・・・・

私立グリモワール魔法学園・・・グリモワール・・・」

 

春乃が何やらブツブツと言い始めた。

 

「・・・どうしたんだ、あいつ。

グリモワールがどうした?」

 

良介が呆れる。

 

「フフフ・・・お主、ホンキで全部カンかそれ?

その通りじゃ。

この魔道書があるからこそ【グリモワール】魔法学園なんじゃろ。」

 

「・・・何?」

 

「え?

え?

どういうことですか?」

 

「中身を見んと断定はできんがな。

コイツは多分、魔道書に間違いない。

なぜならコイツにかかっとるのは時間停止・・・妾にかかっとるのと同じ魔法じゃ。」

 

「時間停止?

そんな魔法、聞いたことない。」

 

春乃がこっちにやってきた。

 

「(時間停止・・・どっかの本でそんな魔法があるって読んだことあるな。)」

 

「そりゃそうじゃ。

妾とアイザックが一緒に作った魔法じゃもの。」

 

「・・・アイザック?

魔法使いのアイザック・・・ニュートン?」

 

「お主、ちょっと気味悪いくらい鋭い・・・ま、今のところはそれでよいでな。

おそらくグリモアは、この魔道書を守るか・・・あるいは封印するか・・・

そのために作られたんじゃろ。」

 

「なんでわかるんですか?

偶然かも知れないですし・・・」

 

「時間停止はともかく、もちだせないようにする魔法は時代が浅い。

学園ができてからも、定期的に魔法をかけとったんじゃろな。

やっとったのは精鋭部隊の一部・・・フフフ、つまりこれは執行部管轄か。

新参のエレンたちも多分知らんな。

しかし妾からも隠すとは・・・犬川のジジイめ。」

 

「・・・東雲。

時間停止の魔法、今も使える?」

 

「ん?

・・・ククク、妾の話を本気にするとは珍しいヤツ。

どうした?

誰かかけたい相手でもおるんか?」

 

「・・・秋穂を・・・

秋穂を天使のまま保存したい・・・!」

 

「・・・お姉ちゃん・・・」

 

「(・・・今、少しだけ春乃の様子がおかしかったような・・・気のせいか?)」

 

秋穂は呆れたが良介は少し疑った。

 

「・・・ふーん?

ま、残念じゃと言っておこう。

あれはアイザックの魔法じゃ。

妾には使えん。

つまり・・・

(この魔道書にもヤツがかけたということになる。

妾に隠しごととは、さすがアイザックじゃ。

一筋縄ではいかんのう。)」

 

アイラはゆえ子の方を見る。

 

「それにしても、に、にしはら?」

 

「さいばらです。」

 

「そうじゃ。

お主が言うとったことも気になるでな。

この先に空が見える・・・地平線も見える・・・とゆーとったそうじゃないか。

春乃よ。

お主もここが最奥だと信じとらんじゃろ?」

 

「帰る。」

 

「えっ?」

 

「魔物が出たら危ないから、帰るわ。

どうせクエストは終わりなんでしょう。」

 

「あ、お姉ちゃん・・・東雲さん、すいませんすいません!」

 

春乃は去っていき、秋穂はその後を追った。

 

「なんとドライなヤツめ・・・本気で妹以外に興味ないのか・・・

ま、よいわ。

今はこの【遺書】の存在意義じゃわ。」

 

「ど、どういうことよ!

意味わかんないわよ!」

 

月詠がこっちにやってきた。

 

「中が読めんと遺書とはこれいかに。

この傷をつけた輩は・・・

妾たちに謎かけをしとるようじゃの。

中身が気になるではないか。

時間停止の魔法を使ってまで見られたくない遺言とはなんぞや?」

 

「・・・アンタ、知ってるんでしょ。

アンタの知り合いの魔法なんでしょ、これ?」

 

「そうじゃとも。

ヤツは優秀な科学者じゃったが、晩年に魔物が出現してからは・・・

魔導科学を専門にした。

妾もいっしょに魔法の研究をしたものじゃ。

・・・じゃが、ヤツの魔法をここで見るとは思わなかった。

(そもそも時間停止の魔法は莫大な魔力を必要とする・・・

妾に匹敵する魔力を持つ輩がホイホイ見つかるわけがないんじゃが・・・

この時間停止、アイザックは【誰と】やった?)」

 

アイラは少し考え込むと西原のほうを見る。

 

「のう西原。

まだ空や大地は見えるか・・・」

 

「むにゃ・・・はい、見えるのです。

ぼんやりと霧に包まれたようですけど。」

 

「じゃがこの先はない。

レーダーや魔法で探索してみたが、ずっと地中じゃ。

お主が嘘を言ってるのではなく、ポンコツでもないのなら理由はなんじゃ?」

 

「・・・ここに、まったく違う場所への入り口があるのです。」

 

「そう。

物理学的にどうだろうが説明がつくのはそれじゃ。

空間同士をつなぐ魔法はもう少しで実用化できるし、不思議でもなんでもない。」

 

「・・・アンタ、が言いたいのって・・・まさか、魔物が・・・」

 

「じゃよ?

風景が見える【予知の魔法使い】、アイザックが封じた魔道書・・・

ちなみに妾もそうなんじゃが・・・時間停止の魔法は1年に1度、効力が弱まる。

この本にかけられた魔法が弱まる時期・・・それが今として・・・

時間停止で抑えられていたこの本が【開いて】霧と魔物が現れた。」

 

「・・・テメェ、マジで言ってやがんのか!」

 

「モチ、大マジじゃ。

これらの要素を繋ぐものは1つ。

この【テスタメント】は、どっか知らんが地球でない場所と繋がっておる。

というか開いたら繋がる。

いわゆる【魔物の故郷】への入り口・・・

そういう話はどうじゃ?」

 

「だ、誰が信じるのよ!

ただの侵略説じゃない!」

 

「しかし政府上層部でもまことしやか【ゲート】とゆー単語が飛び交う。

上はすでに知っとるかもしれんのう。」

 

「・・・クソッ!

聞いたアタシがバカだったぜ!

帰る!」

 

焔は帰っていった。

 

「・・・状況証拠ばっかりじゃない。」

 

「霧に関しての研究はいつもそうじゃ。

今の説以外にも可能性はあろう。

・・・次にこれが弱まった時、もし道が開くのなら・・・飛び込んでみてもいいのう。

そう思わんか、良介。

もしかしたら魔物を一網打尽にできるやもしれんぞ。」

 

「・・・一網打尽にね・・・そう都合よくできたらいいがな。」

 

良介はため息をつく。

時間が時間なので良介たちは帰ることにした。

 

「(開かない魔道書・・・ゆえ子にしか見えない空と大地・・・謎が深まるばかりだな。)」

 

良介は色々考えながら学園に戻った。




人物紹介

西原 ゆえ子(さいばら ゆえこ)18歳
世界で3人しか確認されていない【未来予知】を使える魔法使いの1人。
オカルトに傾倒しており、パワーストーンを始めとした怪しいグッズを持ち歩いている。
いつも眠そうな顔とマイペースが特徴。
とても小さい。


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第36話 神凪神社捕物帖(前編)

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


年が明け、1週間が経った。

良介は私服で校門前に来ていた。

デバイスで時間確認していた。

 

「・・・そろそろか。」

 

良介は校舎の方を見ると、着物を着た結希がやってきた。

 

「・・・それじゃ、行きましょう。」

 

「了解。」

 

良介は結希と歩いて行った。

その後ろ姿を花梨が見ていた。

 

「良介と初詣に行くみたいだべなぁ。」

 

と小蓮がやってきた。

 

「驚いたネ・・・あの宍戸が白衣を脱ぐだなんて、一大事ヨ。」

 

「めんこくなったなぁ。

白藤には感謝しねぇとなんねぇべ。」

 

「白藤?

・・・あぁ、なるほど。

人に着せられたものなのカ。

ふーん、意外と押しに弱いのネ。」

 

「宍戸はあれで融通の利く性格だすけ。

研究に必死なだけだっきゃ。」

 

「その研究に必死すぎるのが問題なのヨ。」

 

「そうだべなぁ・・・休み方とか知ってんのか、アイツ。

もう仕込みも終わってるすけ、後はおらに任せるべよ。

小蓮は宍戸ば見てこいじゃ。

心配でなんねえべ。」

 

「なら確かにワタシはいらないな。

それじゃあ、日本の初詣を楽しんで来ようかネ。」

 

「おう、楽しんどいで。

宍戸のこともよろしく頼むすけな。」

 

小蓮は初詣をしに神凪神社に向かった。

 

   ***

 

小蓮は神凪神社にやってきた。

 

「おー、ここが神凪神社ネ。

パッと見はお寺と大差ないけど・・・」

 

小蓮は周りを見渡す。

 

「みんな線香を持ってないナ。

爆竹も鳴らしていないみたいだし・・・

日本では、厄除けのおまじないはしないのかネ?

出店は・・・夏のお祭りと似た感じカ。

あの時は明鈴がやたら食べてたナ・・・

今日は1人で来てることだし、取り合いになる心配も・・・おや?」

 

小蓮は周りを見てあることに気づく。

 

「アイヤー!

宍戸はどこに・・・まさか見失ったのカ・・・?

ま、まずいヨ・・・ホントにこの中から宍戸を探すことができるのか・・・?」

 

と、良介が1人で歩いてるのを小蓮が見つけた。

 

「あっ、良介!

アナタ、宍戸と一緒に来たんじゃないのカ?」

 

「小蓮か。

実はさっき一瞬目を離したらもういなくてな・・・

今、探している最中なんだ。」

 

「やっぱりはぐれたのカ・・・駄目じゃないカ、見失ったら・・・」

 

「デバイスで電話しても出ないから本当困ったもんだ。」

 

「電話も繋がらないってどういうことヨ!

電波は通じてるんでショ!?」

 

「そのはずなんだがなぁ・・・」

 

「ほら、ついてくるネ!

捜しに行くヨ!」

 

「あ、ああ・・・」

 

良介は小蓮に連れられ、結希を捜しに向かった。

少し進んだところで、着物姿の天文部がいた。

 

「お、天文部か。

みんなで初詣か。」

 

「あれ?

良介先輩も来てたんッスね。

それに料理部の小蓮先輩も・・・」

 

「シンネンハオ!

いい所で会ったネ。」

 

「わっちらに何か用かの?」

 

「ああ、実は結希の奴見てないか?

さっきまで一緒だったんだが、はぐれてさ・・・」

 

「なんと、あやつが初詣に来とるのか。」

 

「来てるのヨ。

それも晴れ着姿で!」

 

「ほおー、珍しいこともあるんじゃな。

しかし、ならば見ればわかろう。」

 

「普通はな。

人が多すぎて中々見つけられないんだ。」

 

「この辺で見つからんなら、境内におるじゃろ。

わっちらも行くとこじゃぞ。」

 

「サーヴァントもついてくるがいい。

共に暦の再生を祝おうではないか。」

 

ミナは良介の手を引っ張ろうとする。

 

「何わけわからんこと言ってるんだ。

後、普通に名前で呼んでくれ。」

 

良介はため息をつく。

 

「なーに言ってるネ、良介はワタシの手伝い中なのヨ?」

 

「何を言う!

サーヴァントは我のものだ!」

 

「不然!

今はワタシのものネ!」

 

「おいおい、こんなところでいがみ合うなよ。」

 

「こりゃ、こんなところで騒ぐな。

全員でお参りしながら宍戸も探す。

それでよかろう。」

 

「ああ、そうすれば自然と見つかるかもな。」

 

「まあ・・・それでいいとサーヴァントが言うのなら・・・」

 

「構わないヨ。

案内も頼もうかナ。」

 

「わっちらがはぐれては仕方ない、注意するんじゃぞ。」

 

良介たちは境内に向かった。

 

   ***

 

良介たちは境内の近くに来ていた。

 

「だいぶ列がキツくなってきたのじゃ・・・」

 

「これじゃあ、参拝が終わるまで宍戸を探すのは無理ネ・・・

出店料理を買ってくればよかったナ、研究用に。」

 

「研究ならお参りの後でもよかろう。

・・・そういえば、中国の新年はどんな食事を食べるのじゃ?」

 

「新年というか2月の春節ネ。

餅や餃子を作って食べるヨ。」

 

「ふむ、おせちみたいなものか。」

 

「そうカ・・・おせちと雑煮の他に、餃子、作ればよかったナ・・・」

 

と、誰かが小蓮に当たった。

 

「アイヤー!

今誰か押しのけてったヨ!

痛かったネ!」

 

今度は恋が誰かに当たる。

 

「おっと危ない・・・気をつけて欲しいもんじゃの。」

 

「ぐおぉ!

押される、押される~ッ!」

 

「ひぃ~っ!

ごめんなさぁ~い!」

 

「痛ででっ!

狭い狭い!

あっ、ミナと心が・・・」

 

ミナと心とはぐれてしまった。

 

「む、しまった、2人が・・・ああ、しかしもう拝殿がそこに・・・」

 

「迷ってる場合じゃないヨ!

参拝だけ先にするネ!

ええと、賽銭を投げて手を叩いて・・・あれ、違ったカ?」

 

「二礼二拍手一礼をするんだよ。

まずだな・・・」

 

良介が小蓮に教えようとすると、恋が小蓮に話しかける。

 

「ほら、わっちの真似をすれば大丈夫じゃ。」

 

「・・・ああ、そうか。

こっちの真似をしてやればいいんだよ。」

 

恋と良介が参拝を始める。

 

「おお、そうするのカ・・・えーと、願いごと願いごと・・・」

 

「今年もよろしく頼むのじゃ・・・む、いい絵がひらめきそうじゃぞ。」

 

「(もっと魔法が使えるように・・・あ、ついでにいい出会いあるように。)」

 

「終わったヨ。

ええと、どっちに行けば・・・

アイヤー!

ジュウミンアー!!」

 

小蓮が良介たちとはぐれてしまった。

 

「ああ、小蓮まで・・・」

 

「いかん、小蓮だけでも追いかけねば・・・!

ぬおー!

む、無理じゃったかー!」

 

恋ともはぐれてしまい、良介は1人になってしまった。

 

「・・・俺どうすりゃいいの?」

 

良介は呆れながら頭を掻いた。

 

   ***

 

「恋ーッ!

恋ーッ!

どこに行ったー!」

 

「あの、部長・・・電話を使えば・・・」

 

恋とはぐれたミナと心が恋を探していた。

 

「恋ーッ!

我を置いて行くなーッ!」

 

すると、人ごみの中から恋が出てきた。

 

「そう大声で呼ぶな、みっともない。」

 

「恋!

どこに行ってたのだ・・・し、心配・・・かけさせて・・・」

 

「迷子になったぐらいで泣くな。

まったく、しょうがないのう。」

 

「だ、誰が泣くものか!

泣いたりなどせぬわ!」

 

「ぐすっ・・・わたしは泣いてしまいました~・・・」

 

「よしよし、心はお疲れさまじゃな。」

 

恋は心の頭を優しくなでる。

 

「あっ、心ばかりずるいぞっ!」

 

「ひいっ!

よ、よくわからないけどごめんなさいっ!」

 

「ミナもお疲れさまじゃ。

けど、心を困らせるでないぞ。」

 

「う、うむ・・・」

 

今度は梓が出てきた。

 

「小蓮先輩とはぐれてしまったッスね、合流しないと。」

 

「そうじゃのう。

宍戸もいるとは聞いたが、どこにいるのやら・・・」

 

「恋!

神のアミュレット欲しい!」

 

「分かった分かった、小蓮と合流した後でな。

どれ、今の内に小銭を用意しとくか・・・む?」

 

財布を取り出そうとした。

その頃、良介と小蓮。

 

「けっきょく天文部ともはぐれてしまったヨ・・・」

 

「小蓮と合流できたが・・・この状況じゃさすがになぁ・・・

仕方ねえ、そこのスペースで少し待つか。」

 

2人で待とうとした時、結希と誠がやってきた。

 

「あれ?

良介と小蓮じゃん。」

 

「・・・こんにちは。

季さんもお参りに来ていたのね。」

 

「し、宍戸 結希・・・ここにいたのカ!」

 

「つーか、誠。

なんでお前が結希と一緒にいるんだ?」

 

「ん?

いや、俺1人で参拝しようとしたら偶然会ってな。

そのまま2人で参拝してうろついてたんだ。」

 

「なるほど、そうだったのか。」

 

「里中さんたちと一緒なの?」

 

「いいや、今日はワタシだけヨ。

宍戸を見てくるように花梨に言われてネ。

そしたら見失うし、電話しても出ないし・・・」

 

「デバイスだったら、白衣に入れたままだったわ。

滅多に脱がないから忘れてたの。」

 

「・・・そうカ。

ま、無事ならそれでいいヨ。

それより、久々の休暇は楽しいカ?」

 

「着物は身体が冷えるわね。

もう1枚上に着たいわ。」

 

「我慢するのヨ。

後で熱いお雑煮をごちそうするネ。

そうヨ、小腹が空いてたのヨ。

何か食べるカ・・・あれ?

財布・・・あれ?」

 

「ん?

どうした、小蓮。」

 

ポケットから財布を出そうとした小蓮がしきりにポケットの中を探す。

 

「な・・・ない・・・財布がなくなってるヨ・・・!!」

 

「・・・何?」

 

小蓮は血相を変えた。



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第37話 神凪神社捕物帖(後編)

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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神凪神社で小蓮は無くした財布を探していた。

 

「お、おかしいナ・・・落とした覚えはないんだガ・・・」

 

「無いなら戻ってみたらどうだ?」

 

「この人ごみの中をカ・・・トホホだナ・・・」

 

小蓮は人ごみを掻き分けながら戻っていった。

数分後、小蓮が戻ってきた。

 

「お、戻ってきたか。

どうだ、あったか?」

 

良介が話しかける。

 

「うう・・・どこにもなかったヨ・・・わけがわからないネ・・・」

 

「別の場所で落としたのか?」

 

と、結希が話しかけてきた。

 

「・・・さっき、少し気になる話を聞いたわ。」

 

「気になる話?

なんだ?」

 

誠が尋ねる。

 

「財布を無くした人、李さんの他にもいるらしいの。」

 

「・・・ナヌ?」

 

「【どこを探しても見つからない。

誰かに盗まれたんじゃないか・・・】。」

 

「・・・なるほど、こいつは・・・」

 

良介が面倒くさそうに頭を掻いた。

 

「スリだヨ!

きっとスリが現れたのヨ!」

 

「あくまで推測の段階よ。

けど、可能性はあるわね。」

 

「可能性だけで十分ネ!

なんとしても取り戻してやるネ!」

 

小蓮はそう言うと、行ってしまった。

 

「ふぅ、俺も行くか。

スリならまだ近くにいるはずだしな。」

 

良介も後を追うように行った。

2人が行ってすぐ、入れ替わるように怜がやってきた。

 

「あけましておめでとう。

綺麗な晴れ着だな、よく似合ってるぞ。」

 

「お、怜か。

あけましておめでとう。」

 

「おめでとう。

今は巫女のお仕事かしら。」

 

「見習いだがな。

儀式の関係は父が担当している。

厄払いしていくか?」

 

「いえ。

今はいらないわ。」

 

「俺も大丈夫だ。」

 

「そうか。

しかし宍戸が初詣に来るのは久しぶりになるな。

何年ぶりだったか・・・」

 

「すっかり忘れてしまったわ・・・それよりも、李さんの件、聞いた?」

 

「いや、全く・・・何かあったのか?」

 

「ああ、実は・・・」

 

誠が怜に説明した。

 

「スリの可能性か・・・分かった。

注意しておこう。

ひとまずは、事件でないことを祈るばかりだ。」

 

「だといいんだがなぁ・・・」

 

誠がため息をついていると、恋がやってきた。

 

「神凪、財布を探しとるんじゃが、どこかに落ちてなかったかの?」

 

「・・・事件の香りがするわね。」

 

「落し物だったら社務所で預かっている。

それでも無い場合は・・・少し待っていてくれ。

私が取り戻してくるから。」

 

「取り戻して?

なんじゃ、まさか盗人か?

厄介事ならわっちらも手伝うぞ、遠慮するなよ。」

 

「ありがとう。

けど、できるだけのことは神社側で済ませるよ。」

 

「そうか?

・・・では、社務所に行ってくるかのう。」

 

恋は社務所のところに向かった。

 

「・・・慌ただしい正月になりそうだ。」

 

怜はため息をついた。

 

   ***

 

少し経って、誠と結希は神社を歩いていた。

 

「魔法が広まった今も、お守りや占いに興味を持つ人々は絶えない。

・・・現に、西原 ゆえ子の魔法は未来視。

まるで心霊現象めいている。」

 

「ま、あんなに的確に当ててたら気味が悪いだろうな。」

 

「【魔法は自然現象の代替物】。」

 

「・・・もしかしたら、未来視にも科学的な要素が存在するかもな。」

 

「・・・タキオン粒子を捉えているのかしら・・・」

 

「そんな超光速で動いてて、存在もわからない粒子を捉えてたら凄い話だな。」

 

「・・・今考えることじゃないわね。

お守りを買いましょう。」

 

「・・・そうだな。」

 

誠と結希はお守りを買いに売り場に向かった。

 

「さて、どれだけ買うつもりなんだ?」

 

「李さん、里中さん、それに、良介君と誠君・・・あとは・・・天の分も。」

 

「あ、俺と良介の分はこっちで買うよ。」

 

「そう?

それじゃ・・・」

 

結希は売り子のところに向かった。

 

「売り子さん。

どの種類がいいか教えて欲しいのだけど・・・

ええ、学園生の・・・そうね。

なら必勝祈願にしようかしら。

所願成就・・・こちらも悪くないわね。

じゃあこっちも。」

 

「えーと、まず恋愛成就に・・・良介には縁結びを・・・

俺には・・・厄除けでも買っとくか。

・・・良介に子授けでも買っといてやろうかな・・・いや、殺されるからやめとくか。

よし、こっちは終わったぞ。」

 

「これでいいわ。

そろそろ会計・・・」

 

結希が金を払おうとした瞬間、後ろを誰かが通りすぎた。

 

「・・・今、何か・・・・・」

 

「今の奴、財布を・・・!」

 

「ああ・・・財布が・・・そう、そういうこと・・・」

 

結希は向こうを歩く男に目を向ける。

 

「・・・見つけたわ。

今ポケットに手を入れた男。」

 

誠と結希はお守りを置き、男のところに向かう。

男は2人に気付き、走り始めた。

 

「チッ、逃がすか!」

 

「逃がさないわ。

待ちなさい。」

 

誠と結希は追いかけ始めた。

しかし、結希は追いつけない。

 

「っ・・・速い。

いえ、私の足が遅いのね・・・」

 

誠は男を捕まえようと差を詰めていたが結希はどんどん引き離されていた。

 

「クソッ、以外に足速いな・・・」

 

「駄目・・・ペースの隔たりが大きい・・・このままでは・・・」

 

と、結希のところに良介がやってきた。

 

「結希、スリの犯人がいたのか?」

 

「良介君、誠君が追っているわ。

私の財布を盗んでいる。

他の子のも持ってるかもしれない。」

 

「誠がもう追ってるんだな。

OK、後は俺たちに任せてくれ。」

 

「・・・ありがとう。

なんとしても捕まえて。」

 

良介はスリの後を追った。

その後、良介と誠はスリの犯人を捕え、警察に突き出し、盗られた分の財布を取り返した。

ちなみに、誠はドサクサに紛れて財布を何個か頂戴しようとして良介にボコボコにされたという。

 

   ***

 

誠と結希は怜のところにやってきた。

 

「・・・やっと参拝が終わったわ。」

 

「はぁ・・・良介の奴、本気で殴りやがったな・・・」

 

誠は頬をさする。

 

「さっきは助かった。

おかげで犯人を捕まえることができたよ。」

 

「大したことはしてないわ。」

 

「当たり前のことをしたからな。」

 

「そうつれなくするな。

礼ぐらい言わせてくれ。」

 

「・・・どういたしまして。」

 

「ふふっ、わかっているじゃないか。」

 

「そろそろ私は帰るわ。

研究があるから。」

 

「ん?

もう帰るのか?」

 

「今日は休みじゃなかったのか?」

 

「休みはもう十分に取れたわ。

そろそろ戻らないと。」

 

「今日1日ぐらい休めばいいのによ・・・」

 

誠はため息をついた。

 

「・・・そうか。

わかった、また会おう。」

 

結希は帰っていった。

その頃、良介と小蓮は天文部と合流していた。

小蓮が何かに気付く。

 

「こっちの木の板は何ネ?」

 

「絵馬だよ。

願い事を裏に書いて吊るすんだよ。」

 

「クックックッ・・・古の神よ、我が遠大な野望を叶えたまえ・・・」

 

「ちょ、ちょっとでも卑屈な部分を治して下さいぃ・・・」

 

「おー、なかなか楽しそうネ。

ワタシもやってみようかナ。」

 

「ああ、そうするか。」

 

良介と小蓮も絵馬を書く事にした。

 

「できたヨ、これネ!」

 

「【世界一の中華料理】・・・ほほほ、これはまた大きく出たの。」

 

恋は小蓮の絵馬を見て笑った。

 

「そういう南條は何にしたのヨ?」

 

「わっちは【あーとで稼いで隠居生活】。

これで決まりじゃ!」

 

「アートしたいのか、金稼ぎたいのか、はっきりしろよ・・・」

 

良介は呆れる。

 

「隠居じゃよ、隠居。

まったーり、のんびーりできれば・・・」

 

すると、恋が何かに気付いた。

 

「・・・おや。

裏返ってる絵馬が・・・む?

これは・・・」

 

絵馬には【研究の完成と戦いの終わり。

宍戸 結希】と書かれていた。

 

「2つも書くとは意外と欲張りじゃのう。」

 

恋は笑みを見せた。

 

「確かに少しばかり欲張りだな。

・・・ん、これは誠か?」

 

良介が1つの絵馬を見つけた。

【神を超え、悪魔を滅ぼせる力が得られますように。

新海 誠】と書かれていた。

 

「・・・あいつ、何も思ってないって言ってたくせにこれか。」

 

良介はため息をついたが、よく見ると右下に何か書かれていることに気がついた。

 

「ん?

何か小さく書いてるな。

何なに・・・」

 

そこには、【彼女ができますように。】と書かれていた。

 

「・・・こっちが本心だな、あいつ。」

 

良介は呆れたように笑った。

 

「んじゃ、俺も本心を書きますかね。」

 

良介は、【いい出会いがありますように。】と書いて、絵馬を吊るした。



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第38話 真実を求めて

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


学校が始まり、1月も終わりに入った頃、良介は朝から鳴子に呼ばれた。

 

「鳴子さんから・・・か。

何もなければいいんだが・・・」

 

良介は鳴子の名前を見ただけで不安をよぎった。

報道部の部室に着き、ノックをして入った。

 

「失礼します・・・。」

 

「やぁ、良介君。

クエストに行こう。」

 

「・・・へ?

クエスト・・・ですか?」

 

意外な言葉が出てきたため、良介は驚きを隠せなかった。

 

「・・・・・行かないかい?」

 

「・・・なんか裏があったりしませんよね?」

 

「フフ、なにも企んでないさ。

僕も一度くらい君を独占したいだけだよ。

それに今は、君も少し学園から離れた方がいいと思う。」

 

「離れた方が・・・て、どういうことですか?」

 

「第7次侵攻からこっち、科研、魔道書と随分いろんなことがあった。

頭が混乱してると思ってね。

たまにはいつものクエストでリフレッシュしよう。」

 

「リフレッシュ・・・ですか。

(怪しいな・・・これは何か裏がありそうだ。)」

 

「僕は君のことをよく知ってるけど、君は僕のことをそれほど知らないと思うし。

ちょうど今はひと休み時期だ。

改めて自己紹介しようよ。

これを期に仲良くしてくれ。

お互いのためにね。」

 

「・・・まぁ、それなら構いませんが。」

 

「・・・フフ、実のところ、君の実力を間近に見ておきたいっていうのもあるんだ。」

 

「俺の?」

 

「僕が卒業したら次の部長は夏海にしようと思っている。

ただし夏海は少し力不足だ。

今はまだ、誰かの協力が必要だからね。」

 

「なるほど、それで俺ですか。」

 

良介は納得した。

 

「・・・君は夏海のいい友人だ。

だからとりあえず、僕が姑の役をしようってわけさ。

といっても、最優先は魔物、ミスティックの退治にかわりはない。

だからもののついでだよ。

気負わないでくれ。」

 

「・・・わかりました。

(とりあえず納得しといたが本当に何を考えてるかわからないな。

何もなければいいが・・・)」

 

「教室に荷物を置いたら集合。

クエストには申し込んでおく。

よろしく頼むよ。」

 

良介は報道部部室を後にし、荷物を置きに教室に向かった。

その後ろ姿を梓が隠れながら見ていた。

 

「・・・ホントにクエスト行っちゃったッス。

なんで今、わざわざ・・・

うーん、いちおう・・・報告しとくかなぁ、でも誰にしよう。

一番カドが立たないのは・・・やっぱり宍戸先輩ッスね・・・」

 

梓は研究室に向かった。

 

   ***

 

梓は鳴子のことを結希に報告した。

 

「・・・彼女が良介君を連れてクエストに・・・どうして今なのかしら。」

 

「確かに遊佐先輩、あの人に対して興味津々でしたけど・・・

今はもっと知りたいことがあるハズなんですよねぇ。」

 

「・・・もしかして、もう科研のことも魔道書のことも知ってるのかしら。

だから良介君を【調べ始めた】・・・」

 

「ええと・・・ちょっと理解が追い付いてないんスけど・・・」

 

「魔道書の件でわかったことは、時間停止の魔法がかかっていることと・・・

その魔法が使えたのは、1727年に死んだニュートンだけだったこと。

そして行使に莫大な魔力が必要であること。

問題は【その魔力を誰が用意したのか】・・・」

 

「莫大な魔力・・・ハハハ、まさか遊佐先輩、それがあの人だって思ってるスか?

さすがに先輩が300歳って言うのはムリがあるッスよ。」

 

梓は呆れたように笑った。

 

「そこまでは言わないわ。

けれど彼女は理由がなければ動かない。

他の謎よりも良介君を優先したなら、その理由が必ずあるわ。」

 

「・・・ふうむ。

遊佐先輩のことッス。

後をつけても言葉にはしないッスよね。」

 

「良介君に対しても適当なことを言って本音は伝えないはずよ。

彼女自身を調べて出てくるものはないわ。

嘘やごまかしばかりのはず。

なら探すべきは、もっと別の・・・関係なさそうで、でも共通点がある・・・」

 

「朱鷺坂先輩ッスな。

自分があたりましょ。」

 

「今回はずいぶん積極的ね。」

 

「いやぁ、自分的に興味があるだけッスよ。

遊佐先輩、面白いッスからね。」

 

「・・・里の要請かしら。」

 

「まさかぁ、里のおじん達と遊佐先輩にどんなつながりが・・・

・・・・・あるんスかぁ。

ほんじゃ、行ってきます。

にんにん。」

 

梓は研究室から去っていった。

 

「科研、執行部。

どちらも秘密主義者の固まりのはずだったのに。

これまで隠匿されてきたものが、ここにきて露わになりだした・・・

・・・第7次侵攻、ただの大規模侵攻ではなかったということかしら・・・?」

 

その頃、校門前。

良介と鳴子がいた。

 

「ふふ・・・やあ、良介君。

やっと君と組むことができたよ。

君の体質と能力はたいそう重宝されているようだ。

順番待ちが長くてね。」

 

「そんなにですか。」

 

「だがどうも理由はそれだけじゃないらしい。

ま、いろいろ考えて・・・」

 

「考えて・・・?」

 

「一人の男子に女子がこれだけ群がるとは考えにくいからね。」

 

「は、はぁ・・・」

 

「別に君をけなすつもりはないんだ。

だけど、あの虎千代までが評価するとなると・・・

報道部部長として、俄然興味をそそられるわけさ。」

 

「そ、そうですか・・・

(この言ってることも本当かどうか怪しいな・・・)」

 

「今回のクエストも実に僕好みだ。

まさに一石二鳥ということだね。

取材は道中おこなうとして、まずは討伐対象の確認をしよう。」

 

「ええ、確か・・・」

 

良介はクエストを確認する。

 

「森のはずれから赤ん坊の泣き声がするって噂・・・でしたか。」

 

「ああ、そうだ。

どうも調べたところ、【いるはずのない赤ん坊】がいるらしい。」

 

「・・・調べたんですか。」

 

「僕も興味があって調べてたんだ。

どうも幽霊の類だね。」

 

「・・・幽霊ですか。」

 

「そう・・・お化け退治だよ。」

 

良介と鳴子はクエストの場所に向かった。

 

   ***

 

少し経って地下、魔法使いの村。

天、結希、アイラ、誠の4人がいた。

 

「ふん!

こんなジメジメしたところでよくカビが生えなかったわね!」

 

「・・・うるせーなぁ。」

 

「・・・おい、なんじゃあのやかましいヤツ。

なんでここにおる?」

 

「例の本のことを知って、参加を希望したの。

元科研よ。」

 

「なんとあの若さでか。

しかしお主・・・科研の人間ならなおさらではないか。」

 

「なぁにをコソコソしてるの。

面と向かって言ったらどう?」

 

「・・・ならば言うてやろ。

信用できんからさっさと出て行け。」

 

「なんですって?」

 

「結希の同僚ならば、こいつが疎まれてるのは知っとるじゃろ。

きゃつらの欲しがる情報を寄こさんからよ。」

 

「・・・私があの連中に、この本のことを漏らすって言いたいの?

あの○○○に?

×××に?

本気で言ってるの!?」

 

「フ、フフン・・・意外にやるのうお主。

まさか科研の連中を×××に例えるとは・・・」

 

「・・・下品な女どもだ。」

 

誠は小さくぼやき、ため息をついた。

 

「・・・クソ、妾だけが警戒しても仕方ないではないか。

おい宍戸。」

 

アイラは結希の方を向く。

 

「信用していいんか。

さっきからなにも言わんが。」

 

「・・・信用するもしないも、あなたの自由。

私はなにも言わないわ。

ただ彼女がいれば、謎は早く解ける。

それだけ。」

 

「ほーかほーか。

研究以外のことにはきょーみないか。

(・・・とはいえ、政治的な立場も考慮するこ奴のことじゃ。

信用の置けん人間を側に置くとは思えん・・・仕方ない。)」

 

アイラは天がいた方向へと向き直る。

 

「如月 天。

ゆーとくが妾はまだお主を信用したわけでは・・・」

 

だが、天はいなかった。

 

「・・・・・おや?」

 

「そっちだ、そっち。」

 

誠が指差す方向をアイラは向いた。

 

「だいたいアンタ、あの良介の魔素濃度が図化できるわけないでしょうが。

それもキルリアン法なんて前世期の遺物なんか持ち出してきて・・・」

 

「あなたの試した魔力量測定も意味がないわ。

デウス・エクスの魔素放出量なんて知れたものでしょう。

武田 虎千代のホワイトプラズマくらい使わないと。」

 

「あっそ?

ならアンタがそれをしなかったのは何ででしょうね?」

 

「彼の魔力量はホワイトプラズマでも僅かも減らないでしょうから。」

 

「あのねぇ!

魔力の受け渡しはわかるわよ!

できるかも、とは思う!

実用的なのもそっちよ!

だから理解できる。

でもね!

私からしてみたら、あの魔力量の方が異常よ!

異常!

魔力はビタミンCみたいな、貯蓄できない要素なのよ!」

 

「(長くなりそうだな・・・・あっちで魔神化のコントロールの練習でもするか・・・)」

 

誠は少し離れる。

 

「・・・フ、フフフ。

妾を無視するとはいい度胸じゃ・・・

(しかし・・・ちょいと聞いてみるか・・・)」

 

アイラは2人に近づく。

 

「魔力は栄養素とは違う。

その仮設は覆されているわ。」

 

「【再考の余地あり】でしょうが!

もし貯蓄できたとしてもね!

人間が摂取したエネルギーが数パーセント、意味不明に消えていた!

今ではそれが【魔素の精製に使われている】ことがわかってる!

その数パーセントじゃとてもね!

彼の体を満たす魔素なんて作れないの!」

 

「おおっと、ちょい待ち。

それ以上話す前に前提を思い出せ。」

 

「・・・・・」

 

「魔素は現代物理学に反逆する】。

魔素それ自体に質量はない。

ならば体内に摂取した数パーセントが、莫大な魔力に変わってもよかろ?」

 

「そ、そんな・・・個人差は僅かじゃない・・・」

 

「個人差はある!

今はそれでよしとしろ。

墓穴を掘ったお主が悪い。

それと邪魔するならホントに出てけ。

魔導書が調べられん。」

 

「・・・・・っ!」

 

「なぁに、ここで論破されても、どうせ違う材料を見つけるじゃろ。

論争ならヒマな時にいつでも付きおうてやる。

じゃから先に魔導書じゃ。」

 

「・・・わかったわよ。」

 

天は向こうに行ってしまった。

 

「さぁて、あの女が来る前にあらかた調べておかんとなぁ。」

 

「・・・・・女?」

 

「ああ、あの女じゃ。

絶対に来る・・・妾の推測が正しければな。」

 

「お、やっと終わったか。

これで魔導書が調べられるな。」

 

魔神化状態の誠がこっちにやってきた。

 

「・・・なんじゃ、お主。

それはいったいどうした?」

 

「・・・とんでもない力ね。」

 

「ああ、魔神化って俺は呼んでるんだけど・・・」

 

「・・・・!」

 

「・・・アイラ?」

 

誠の言葉の一瞬反応したアイラ。

 

「・・・どうしたの?」

 

「いや・・・なんでもないわ。

さっさと調べてしまおう。」

 

「ああ、わかった。」

 

誠たちは魔導書を調べ始めた。

 

   ***

 

良介と鳴子は山奥に来ていた。

 

「ことの発端はこう。

かつてこのあたりには貧しい村があった。

草をはみ、泥をすすり、生きてゆくのにも苦労したらしいよ。」

 

「そうだったんですか。」

 

良介は鳴子の方を見ずに聞いていた。

 

「ずっと耐えてきたけれど、とある年の大寒波でいよいよ作物がなくなった。

食べるものはない。

だが食べねば餓死は必然・・・それで、人々はどうしたと思う?」

 

「・・・カニバリズムですか。」

 

「・・・そう、食べた。

本来、食べるべきではないものをね。

それ以来、この地域には犠牲になった子供たちの霊がさまよい出て・・・

こう尋ねるんだそうだ。

【あなたを食べさせて】・・・って。」

 

「はぁ・・・そうですか。」

 

良介は鳴子の方を見て、立ち止まりながら聞いていると鳴子がこっちを見ていた。

 

「・・・?

どうしました?」

 

「・・・おい、良介君、君の後ろ・・・」

 

「はい?

後ろ?」

 

良介はきょとんとした顔をした。

 

「後ろにきてるぞっ。」

 

「・・・え?」

 

良介は振り向くと、巨大な赤ん坊、魔物がいた。

魔物は良介が振り向くと同時に攻撃してきた。

が、なぜか良介の姿が消えていた。

 

「良介君!?

どこに・・・」

 

鳴子も見失ってしまったようで見回していると近くの木の上から声がした。

 

「ここですよ、ここ。」

 

「良介君、いつの間にそこに・・・」

 

木の枝の上に良介は立っていた。

良介の体は帯電していた。

雷の肉体強化をかけていた。

 

「そんじゃ、さっさと終わらせますよ。」

 

良介は剣を抜くと、雷の魔法をかける。

鳴子はそれに合わせ、雷の魔法を魔物に撃った。

魔物が鳴子の魔法で怯んだ隙を逃さず、良介は魔物を上から一刀両断にした。

 

「お見事だ。

それじゃ、次に向かおうか。」

 

「了解です。」

 

良介と鳴子は次の魔物の元へと向かった。



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第39話 ゲート

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


良介と鳴子がクエストに行ってる頃、生徒会室。

虎千代とチトセ、聖奈の3人がいた。

 

「そろそろ生徒会の仕事には慣れたか?」

 

虎千代がチトセに訪ねた。

 

「会長・・・学園の地下を捜索したのは【歴代会長に伝えられていた】からよね?」

 

「そうだ。

だがアタシも驚いてる。

まさかこんなに早く許可が出るとはな。

しかも出てきたのが意味不明な代物・・・いったいなんなのか。」

 

聖奈も話に入ってきた。

 

「あれが重要なものでなければ、そもそも秘匿されていなかったでしょう。」

 

「それだ。

なんなのかわからんが、重要なものに違いない。

それは確かだ。」

 

「東雲さんはあの本から霧が入ってくると言っていたけれど?」

 

「今のところ・・・時間停止の魔法もあいつが言ってるだけだ。

わかっているのは未知の魔法がかかっていることだけ。

鵜呑みにはできん。」

 

「生徒会の資料を漁ってみた?

歴代に伝えられていたなら・・・

少なくとも、最初に言いだした誰かは魔導書がなにか知っていることになる。

第7次侵攻後、という細かい指定までしているのだから・・・

執行部が簡単に折れた理由も、その誰かは知っていたんじゃなくて?」

 

「お前は知らないのか。

アタシのクエストのときも、他のときも・・・

まるで見てきたかのように先のことを言ってたお前だ。

知ってることを話してくれれば、膨大な資料を探す手間が省ける。」

 

「・・・会長。

私が調べましょう。

書記が何を言ったところで・・・

裏を取らなければならないことに変わりはありません。」

 

「私は学園の地下にそんな魔導書があることなんて知らなかったわ。」

 

「なぜだ?

これまでのことと今回のことになんの違いがある。」

 

「私が知っているのは【あなたがクエストの際に重傷を負い、引退】。」

 

「お前の助言と良介の活躍のおかげで助かったぞ?

回りくどかったがな。

健康そのものだ。」

 

「だから、あなたは【執行部に地下探索のことをかけあうことができた】。

あなたが引退していたら地下探索はなく、魔導書も発見されない。」

 

「・・・アタシが、引退したから?」

 

虎千代は眉間に皺をよせる。

 

「だから私は、その魔導書の意義についてなにも知らない。」

 

聖奈がチトセに注意する。

 

「・・・生徒会室で荒唐無稽な物語を口にするな。

創作物を発表する場ではない。」

 

「そう?

じゃあ実務的な提案をしましょう。

魔導書の魔法は私が解くわ。」

 

「心当たりがあるのか。」

 

「ええ。

東雲さんの言っていることは間違っていない。

あれは時間停止の魔法だし、使えたのはアイザック・ニュートンだけ。

そして私も、ニュートンについては詳しいつもりよ。」

 

チトセは笑みを見せる。

 

「・・・よし。

すでに東雲と宍戸、誠が着手していて、薫子に人材を探させている。

お前も合流してくれ。

聖奈、お前は生徒会の過去資料を頼む。」

 

「はい。」

 

チトセと聖奈は生徒会室を後にした。

 

   ***

 

同じ頃、風紀委員室。

風子と紗妃がいた。

 

「事件は多けれど・・・学内は平和ですね。

いいことです。」

 

「えーまー、平和ですね。

遊佐 鳴子がおとなしいですから。」

 

「・・・彼女が動かないだけで、そんなに変わるものですか?」

 

「半分じょーだん、半分ホンキですよ。

少なくとも彼女は・・・

教師部と執行部、開発局の人間を脅迫していることがわかっています。」

 

「・・・きょ、脅迫?」

 

風子はいきなり立ち上がると近くの棚に近づき、何かを取り出す。

 

「ここにも・・・ホラ、盗聴器。

こんなに簡単に見つかるってことは、他にもあるんでしょーね。」

 

「ま、まさかそこまで非常識な方とは・・・」

 

「甘いですよ、氷川。

ブドウ糖みてーにあまあまです。

そんなんじゃ遊佐 鳴子にパックリいかれちゃいます。

好物ですからね。」

 

「しかし彼女は立場としてなんの権限も持ってないはず・・・

一般生徒立入厳禁の執行部管轄区域にどうやって入るんですか?」

 

「彼女にとっちゃ、物理的に繋がってればなんの障害もねーのといっしょ。

そーゆー意味じゃ、生天目 つかさと同じくらい厄介ですね。

あの魔導書が見つかってから少しだけ大人しかったですが・・・

新学期が始まってから、また動き出しましたね。

年末年始暇ですかね。」

 

「・・・・・」

 

紗妃が不安そうな顔をする。

 

「じょーだんです。

遊佐 鳴子が【動かない】なら、それなりの理由がある。

動き出したならやはりそれ相応の理由がある。」

 

「・・・なにか思い当たるふしがありそうですね。」

 

「ええ。

彼女がなぜ、今になってりょーすけさんの実力を確認する気になったか・・・

なぜ、見つかった魔道書をほっぽって仲良くクエストに出かけたか・・・

理由ははっきりしませんが、行動から推測はできます。」

 

風子は一瞬、殺気立った表情をした。

 

「は、はぁ。」

 

「遊佐 鳴子はあの魔導書のことをすでに知っている。

から興味をもたない。

ただし、魔導書が見つかったのは予想外のことだった。

だから急遽、りょーすけさんの実力を確認する必要に迫られた。」

 

「・・・・・?

なぜ魔導書が見つかったのが予想外のことだと?」

 

「みんなが彼女の行動に疑問を抱いているからですよ。

【なぜ興味をもたない?】

・・・これまで、そんなこと一度もありませんでした。

要するに彼女は、工作をする時間がなかったんです。」

 

「・・・なるほど・・・では、なぜそれで良介さんとクエストに出る必要が?」

 

「近いうちに何かが起こるからです。

それにりょーすけさんが関わっている。」

 

「・・・そこは論理の飛躍があるようですが。」

 

「否定はしません。

ですがいーセンいってると思いますよ。

前提として、彼女は焦っている。

思わぬ【なにか】に焦っています。

なので、ウソで何重にも塗り固められた彼女の意思が見えてきました。」

 

「・・・全て、それを逆手にとった罠だとしたら・・・」

 

紗妃が再び不安そうな表情をする。

 

「そのときは潔く負けを認めましょう。

なぁに、それでもただの1敗。

それよりこれが本当だと仮定し・・・彼女を焦らせている【なにか】。

それを突き止めたら一発逆転ですよ。」

 

   ***

 

その頃、山奥。

 

「鳴子さん・・・なんですぐに言ってくれなかったんですか。

驚きましたよ。」

 

「いや、ごめん。

見事なタイミングで現れたものだね。」

 

「しかし、魔法、効きましたね。」

 

「・・・そりゃあ、魔法は効くさ。

魔物だからね。

人型の魔物は珍しいんだ。

君とブルームフィールドは騎士と戦ったようだけど。」

 

「ああ、あの時の。」

 

良介はエミリアとのクエストを思い出す。

 

「それが今度は赤ん坊だってさ。

ふふ、魔物の生態も驚きに満ちているね。」

 

なぜか嬉しそうに話す鳴子。

 

「・・・やっぱりあの話は作り話ですか。」

 

「・・・ん?

まさかあの話を信じてたわけじゃないだろ?」

 

「ええ、この地域にそんな話があるならとっくに知ってるはずですからね。」

 

「怪談は僕の作り話だ。

子供を食べた事実なんかない。

ここに村があったとか、そういうのも知らない。」

 

「やっぱりそうですか。」

 

良介はため息をつく。

 

「敵は全部、霧の魔物だよ。

それは間違いない。」

 

「・・・断言できる理由はあるんですか?」

 

良介はなんとなくで聞いてみた。

 

「なぜ断言できるかは・・・そうだね。」

 

鳴子は前を向いた。

目の前に魔物がいた。

 

「ここを切り抜けたら話そうか。」

 

「・・・わかりました。」

 

良介も魔物の方を向いた。

 

「はあっ!」

 

鳴子が両手から電撃を魔物に放つ。

しかし、魔物はその攻撃に耐える。

 

「む、倒しきれないか。」

 

そう言うと、良介の方を向く。

 

「・・・俺が倒せばいいんですね。」

 

「ああ、君の実力も見たいからね。」

 

良介は右手に電撃を溜め始める。

そして、溜まった電撃を魔物に放った。

 

「くらえっ!」

 

魔物は一撃で消し飛んだ。

 

「さすがだね。

それじゃ、次に行こうか。」

 

「わかりました。」

 

良介と鳴子は3体目の魔物の方へと向かった。

その頃、学園の廊下。

梓とつかさがいた。

 

「・・・・・つまらん。」

 

「(あ、やば。)」

 

梓はつかさを見つけた途端、逃げようとする。

 

「おい、どこへ行く。」

 

「え?

え、ええーと・・・自分、今お仕事中でして・・・」

 

「魔物を殺しに行くなら私も行こう。

貴様が受けるクエストだ、強いだろう?」

 

つかさは笑みを浮かべる。

 

「ま、まさかぁ!

自分が進んでクエストなんて受けないッスよ!

ちょっとした探偵の真似事みたいなもんで・・・

てゆーか生天目先輩、最近の一斉出動には参加してないッスよね?」

 

「弱いだろう、あれらの魔物は。」

 

つかさはため息をつく。

 

「よわ・・・そ、そっすか?

ポチもフェイスレスも雪だるまもそれなりに・・・」

 

「それなりだろうが。

侵攻のときに出てきたあいつらには及ばん。

それどころか、侵攻を経てから魔物全体が弱くなっているようだ。」

 

「あぁ・・・大規模に霧を払ったッスからね。

侵攻のあとはだいたいこんなの・・・」

 

「それではつまらん。

私はエジプトに行くぞ。」

 

「ええ、エジプト!?

まさか、いくら生天目先輩でも。」

 

「でも、なんだ?」

 

「・・・にゅ、入国できないっすよ!

あそこに入れるのってIMFと国連軍だけ・・・」

 

「知らん。

エジプトから南半球に渡る。

卒業まで待っていたら死んでしまう。」

 

「(あ、あわわ・・・な、生天目先輩がこんなに思いつめていたなんて・・・

確かに最近、妙に無理して元気出してた風ではあったッスけど・・・)」

 

梓はつかさを止めるため必死に考える。

 

「(どうにかして止めなきゃ・・・し、仕方ないッス・・・)」

 

梓はつかさに話しかける。

 

「ちょ、ちょっとタンマ!

今出てったらオイシイとこに立ち会えないッスよ!」

 

「・・・・・ほう?」

 

「え、ええと、オフレコでお願いしたいッスが・・・

この学園が、魔物のウヨウヨいる所と繋がる可能性があるッス。」

 

「信じがたいことだな。

ん?

なにかあるのか?」

 

「情報源は言えねッスが、確かッス!

遅くても卒業までには!」

 

「・・・なるほど?

もしそれが叶わなかった場合は?」

 

「あぅ・・・じ、自分が先輩と立ち会うッス。」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

しばらく無言が続いた後、つかさは高笑いをした。

 

「ハハハハ!

そこまでか!」

 

「(ホッ・・・)」

 

「いいだろう!

待ってやる!

期待して待っているぞ、服部!」

 

つかさは笑いながら去っていった。

 

「(・・・アレがゲートじゃなかったらどーしよ・・・魔法解けなかったらどーしよ・・・

・・・逃げるか・・・いや、良介先輩にぶつけるのもありッスね。)」

 

梓も後にした。

 

   ***

 

その頃、山奥。

 

「鳴子さん、魔物だと断言できる理由はなんですか?」

 

「魔物だと断言できるのは、僕たちにクエストが下りてきたからさ。

正体不明のものは多少時間がかかっても公権力が対応する。

魔物だということが判明したら、学園に依頼が来る。

つまり・・・」

 

「幽霊の正体はわかっている、と。」

 

「そう。

君が今まで戦ってきた魔物と同じだよ。」

 

「・・・本当ですか?」

 

良介はわざとらしく疑う。

 

「・・・本当だって。

学園に戻ったら誰かにきいてみるといい。

年度初めのオリエンテーションで伝えられるんだ。」

 

「・・・俺、知らないんですけど。」

 

「君は転校生だから知らなかったんだろう。

神凪たちを叱っておかないと。

ちなみに、魔物とそれ以外を見分ける方法は簡単だ。

わかるね?」

 

「倒して消えれば魔物。

なにか残れば違うってことですね。」

 

「ああ、多少荒っぽいがそれが確実なんだ。

だから・・・目の前にいる赤ん坊を倒して消えれば、それは魔物だってことだよ。」

 

「そうですか、わかりました・・・!」

 

良介は目の前にいる魔物に向かう。

雷の肉体強化ですばやく攻撃し、魔物の体勢を崩す。

その隙に鳴子が電撃で魔物を倒す。

 

「倒せましたね。」

 

「良介君、何故今の魔物は僕に倒させたんだい?

君ならさっきの攻撃で即に倒せていただろう?」

 

「ここまでの2体は俺が倒してましたからね。

1体ぐらいは鳴子さんに、と。」

 

「フフ、君は優しいんだね。」

 

「・・・よく言われます。」

 

良介と鳴子は周りを見渡し、魔物がいないことを確認する。

 

「お疲れ様。

全部片付いたようだ。

僕たちの報告が終わったら、正規の部隊がこの一帯を調べて回る。

人海戦術のローラー作戦だよ。

ご苦労なことだね。」

 

「魔物が残っていないか確認するためですか。」

 

「そう、仕事に漏れがないか・・・それと、なにかヒントがないかを探すんだ。

魔物の正体につながるようなものがないかをね。」

 

「魔物の正体・・・ですか。」

 

「・・・僕の目的はそれだよ。

魔物はある日突然、現れるようになった。

なぜ?

いかにして?

とても魅力的な謎だと思わないかい?」

 

「・・・謎ですか。」

 

「自然のものじゃない。

人為的なものとも考えにくい。

では答えはなんだろう。

人類を脅かす、異形の魔物。

その正体はいかに。

・・・というわけで、この辺にしておこう。」

 

「は、はぁ・・・そうですか。」

 

突然、鳴子の態度が変わり良介は少し気が抜けた。

 

「今日は興味深い体験をありがとう。

君が頼られる理由は、その人のよさだね。」

 

「人のよさ・・・ですか。」

 

良介と鳴子は学園に向かった。

 

   ***

 

すこし経って、魔法使いの村。

 

「違うわよ、そこは引いちゃダメなの。

罠なんだから。」

 

「ちがわっ!

あやつの性格からしてただの遊びじゃ!

だいたいなんで貴様がここにおるんじゃ!

不愉快な!」

 

「だって生徒会長に頼まれちゃったし・・・」

 

「この前【私を信じて・・・】とか言っとったじゃろが!

せめてその伏線を消化してから妾に近づけ!」

 

「いやだわ、伏線だなんて・・・あ、そこ、術式が途切れてるわよ。」

 

「ん?

むおぉ・・・やり直しじゃ・・・!」

 

「・・・ほら、途切れる寸前まで戻しといたぞ。」

 

「あら、やるわね誠君。」

 

「なんでお主までそんなことできるんじゃ・・・」

 

「今までいろんな本読んできたからな。

こういうことに関する本ももちろん読んだことがある。」

 

チトセ、アイラ、誠の3人が魔導書の魔法を解こうとしていた。

その状況を天と結希が見ていた。

 

「・・・なにやってるの、この人ら。」

 

「調べるのが面倒くさいから、術式分解と同時に解除魔法の作成してるの。」

 

「は、はぁ!?

魔法の作成がそんな簡単にできるわけないでしょ!?」

 

「常人にはね。

私にも無理。」

 

「・・・この学園、なんなのよ・・・」

 

「まあ東雲 アイラにとっては、短期間とはいえ家族だった相手だから。

ゼロからやるよりは簡単でしょうけど・・・」

 

「まだアイザック・ニュートンがなんたらって話を信じてるの?

そのニュートンが時間停止の魔法を使えたっていう文献もないのに。」

 

「私が信じなくても、魔法が解除できればいいわ。

それに彼女には間違いなく時間停止の魔法がかかってるし・・・

彼女が書いたと思われる魔導書も古くからある。

10年程度で、あそこまで魔法の造詣に深くはなれないしね。」

 

「そう?

私の側にも似たようなのいるけどね。」

 

「本当?

よかったら紹介してくれないかしら。」

 

「(・・・わざと言ってんのかしら・・・)」

 

3人の方はまたもめていた。

 

「おい、そこ違うくないか?」

 

「ええい、口を出すな!

妾1人ならとうにできあがっとったのに!」

 

「あらやだ。

私と誠君がいたからここまで進んでるんでしょう?」

 

「バカな!

てゆーかお主、なんでも知っとるんならこれもじゃろ!

サクッとやったらんかい、サクッと!」

 

「・・・いいの?」

 

「フン。

どーせそんなことじゃろーと思ったわ。」

 

「アドバイスが的確だからな。

解除魔法、できてるんだろ?」

 

「・・・ええ。

といっても、私の解除魔法は制限時間付よ。」

 

「ほーう?

何時間じゃ。」

 

「2秒。」

 

「ぶっ!

全然使い物にならんではないか!」

 

「たったの2秒・・・か。」

 

誠は少し考え込む。

 

「私1人ではそれが限界だったの。

だからあなたたちに完成させてもらおうと・・・」

 

「・・・いや、一度解除してみよう。」

 

誠がチトセにもちかけた。

 

「確かにそうじゃな。

これで霧が出たら・・・面白いことになるぞう。」

 

同時刻、報道部部室。

良介と鳴子が戻ってきていた。

 

「ふむ・・・東雲君と宍戸君だけじゃなく、誠君・・・如月 天・・・それに朱鷺坂 チトセ・・・

如月君はあの性格だ。

宍戸君への対抗心が強いんだろうが・・・

朱鷺坂 チトセがあの本を【調べている】・・・

どうやら、なんでも知ってるわけじゃなさそうだな。」

 

「・・・あの~、なんの話ですか?」

 

独り言を言っている鳴子に良介が尋ねる。

 

「ん?

いやいや、こっちの話だよ。

さあ、魔物を倒した報告に行こう。」

 

良介と鳴子は報告に向かったが何故か生徒会室に呼ばれた。

 

「・・・なんで僕がここに呼ばれるんだい。

事務室でいいはずだろ。」

 

「(なんで俺まで・・・)」

 

虎千代は鳴子に話しかけてきた。

 

「お前と話がしたい。」

 

「・・・過去の生徒会長の【遺言】は見つかったのかい?」

 

「それも含めてだ。

話しにくいこともあるだろうが、2人でどうだ。」

 

「当代の権力者と反体制ゲリラのリーダーが密会・・・そそるよ。

いいね。

だけど僕からの条件は【3人】だ。

良介君も含めてね。」

 

「・・・俺も?」

 

良介は驚愕した。

 

「彼を巻き込むな。

協力してもらってはいるが、一般生徒だ。」

 

「僕だって一般生徒さ。

それも善良な。

嫌なら僕も出て行く。」

 

「・・・・・」

 

虎千代は鳴子を睨みつける。

 

「どちらにしろ関係のあることだ。

今、聞いてもらった方がいい。」

 

「なぜそれがわかる。」

 

「いずれあなたにもわかるさ。

だけど僕には確信がある。

裏も取っている。

ジャーナリストが動く理由は好奇心と根拠だ。

それだけあればいい。」

 

「・・・・・」

 

すると、薫子が結希に話しかけた。

 

「・・・会計、行きますよ。」

 

「は、はっ・・・しかし・・・」

 

薫子は鳴子の方を見る。

 

「遊佐 鳴子。

会長を惑わせるような発言をすれば、私が許しませんよ。」

 

薫子は結希と共に生徒会室から出て行った。

 

「・・・悪いね、良介君。

少しだけ付き合ってくれたまえ。」

 

「・・・ええ。」

 

虎千代と鳴子は話し始めた。

 

「まずはそっちの話を聞こうか。」

 

「こちらに隠すことはもうない。

生徒会の資料を漁った。

【報道部主将と互いに約束を交わした後、封ずる】と書かれていた。

このことを知っていたな。」

 

「(・・・約束?)」

 

「もちろん。

報道部が生徒会に敵対していたのはそのためさ。

執行部に、この繋がりを突き止められないようにという措置だ。

時が経つにつれ忘れ去られたけどね、本来、仲がよかったんだよ。」

 

「書かれていた内容はこうだ。

第8次侵攻に備え、魔導書を開くべし。

第7次侵攻が終わった今、次の侵攻は早くて8年後。

通常なら10年後・・・

なんですぐに準備をする必要がるかアタシにはわからん。」

 

「簡単なことだろ?

魔導書をすぐに調べるようにと遺言があるなら・・・

第8次侵攻は【すぐに】来るってことだ。

それ以外になにがある。」

 

「すぐに・・・侵攻が・・・」

 

良介は少し驚く。

 

「あり得ない。

常識で考えればあり得ない・・・だが、驚いてないな。

魔物には常識が通じない。

そもそもスパンは短くなる傾向にある。

初回の侵攻後、第2次侵攻は70年後だった。

理屈はそれと同じだ。」

 

「魔導書についてもだ。

報道部主将にも同じ遺言が伝わっていただろう。

侵攻後、すぐに読んだはずだ。

なのにお前は魔導書に興味をもたない。

なぜだ?

お前はなにか、決定的なことを知ってるんじゃないのか。」

 

「・・・いいだろう。

ここからは交渉だ。

1つ条件を出す。

朱鷺坂 チトセの情報をもらいたい。」

 

「・・・朱鷺坂の?

お前なら自分で調べられるだろうに。」

 

「出すのか、出さないのか。

それ以外の曖昧な回答は許さない。」

 

鳴子は笑みを見せた。

 

「・・・いいだろう。

出す。」

 

「フフ、目的のためなら仲間を差し出すドライさもあなたのいいところだ。」

 

「生徒のデータベースにアクセスできるお前のことだ。

アタシたちの持っている情報なんて、そう大差ないのはわかってるだろ。」

 

「そうとも。

僕が聞きたかったのはあなたの覚悟だ。

これまで、まがりなりにも敵対してきた僕の要求を呑むかどうか。」

 

「・・・アタシには敵対しているという気持ちはなかった。

まあいい。

魔導書について知っていることを話せ。」

 

良介は鳴子の方を見つめた。

 

「西原 ゆえ子君が空と大地を見たと言っていたね。

瑠璃川君もあの空間の先になにかあると言っていた。」

 

「(あの時に言っていたことか・・・)」

 

「・・・ああ。

それであの本が【ゲート】じゃないかという話になってる。」

 

「・・・ゲート・・・」

 

良介はつぶやくように言った。

 

「あの本は【ゲート】さ。

そしてあの本の向こう側には、確かに世界がある。

いわば【裏】とも言うべき、もう1つの世界だ。」

 

「・・・お前はオカルトや陰謀論が得意だったな。

信用するための・・・」

 

と、突然鳴子は机に手を置いた。

 

「証拠ならある。

あなたが受け入れるかは知らないがね。

僕はアレが【ゲート】で、【もう1つの世界】に繋がっていると知ってる。

魔導書の正体も知ってるから、わざわざ調べる必要もない。

なぜなら・・・行ったことがあるからさ。」

 

「もう1つの・・・世界に・・・?」

 

鳴子の発言に良介は驚きを隠せなかった。



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第40話 阿川奈鬼譚

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


鳴子とクエストに行ってから数日後。

別の場所にクエストが発令された。

 

「阿川奈城砦跡・・・こんなところに魔物が・・・」

 

良介は呆れたように阿川奈城を見上げる。

近くには天文部がいた。

 

「・・・つまり我々の目的は!

この愚かな戦いに終止符を打つことだ!」

 

いつも通り、ミナがかっこよく決めようとセリフを言っている。

 

「長い!

他のものは行ってしもうたぞ!」

 

恋が呆れたように言った。

 

「今回は我がサーヴァントを召喚している!

聖戦を始めるぞ!」

 

「・・・そろそろ俺のこと名前で呼んでくれ。」

 

良介は頭を掻きながら言っていると、卯衣がやってきた。

 

「・・・良介君、魔力が少なくなったら、お願いね。」

 

「ああ、わかった。」

 

「すまんのう。

急に連れて来てしもうて・・・

じゃが、来てもらったからには頼りにしとるぞ。」

 

「おう、任せてくれ。」

 

良介は指をパキパキと鳴らしながら、ミナたちと進み始めた。

その後ろから梓がやってきた。

 

「うーん、ぶちょーの思いつきもたまにはいいもんスねぇ。

自分が良介先輩誘うと怪しいもんなぁ・・・ん?」

 

突然、梓のデバイスが鳴りだしたので、梓はデバイスを取り出す。

 

「・・・ほうほう。

夏海先輩たちが・・・了解、と。」

 

梓は返信をすると、デバイスを直した。

 

「ま、いーでしょ。

これまでのに比べると簡単ッスから。

・・・簡単ッスよね・・・?」

 

   ***

 

「あっち!

あっち!

まもの!」

 

相馬 レナ(そうま れな)はそう言うと阿川奈城の方へ向かった。

 

「あっちって・・・ここ阿川奈じゃん・・・え?

ここの魔物が人を食うの?

執行部からの情報にはそんなこと書かれてないけど・・・」

 

すると、紗妃が夏海のところにやってきた。

 

「げっ!

ふ、風紀委員がなんでこんなところに!?」

 

「また後ろ暗いことをしているのですか?」

 

「またってなによ!

ちゃんとクエスト請けてきてんだからね!」

 

「でしたら驚く必要はないでしょう。

私は生徒の監督のために来ています。」

 

「監督?

どういうことよそれ。」

 

夏海は首を傾げる。

 

「阿川奈城砦跡は観光地です。

安土桃山時代の城砦を再現しています。

落書きなどしないように注意してくださいね。」

 

「落書きって・・・修学旅行じゃないんだからさ・・・

ま、そういうことならオッケー。

今日の目的は取材だからね。」

 

「取材ではないでしょう。

クエストを請けたなら、魔物と戦うのが目的です。」

 

「ああいえばこういう!」

 

「グリモアの学園生として当然のことです!」

 

と、レナが戻ってきた。

 

「な、な、なつ、み!

いく!

はよ、いく!」

 

「あ、レナ、あんた戻ってきたんだ。」

 

「そ、相馬さんですか?

見たところ里中さんも白藤さんもいないようですが・・・」

 

「(おっ?

もしかしたら・・・)」

 

夏海は紗妃に話しかける。

 

「・・・そーよ、レナも学園に来て結構経つし、いつまでもあの2人のお世話じゃね。

他の生徒ともっと交流できるように、あたしから始めるってワケ。」

 

レナは2人のところに近づく。

 

「・・・・・ん?

なに?」

 

「なるほど・・・そういうことでしたか。」

 

「そういうことなのよ。」

 

紗妃が納得しているところを見て夏海は安心した・・・が。

 

「では私も行きましょう。」

 

「えっ!?

なな、なんで!?」

 

「心配だからです。

岸田さんも、相馬さんも。

危なっかしいですからね。」

 

「だ、大丈夫だって!

ねぇ、レナ!」

 

「なに?

なに?」

 

レナは全く理解できてない様子。

 

「・・・怪しい・・・」

 

「ひぇっ!?」

 

「やけに慌ててますね。

これは是が非でもついてゆかなければ・・・」

 

「(ぼ、墓穴掘ったかしら・・・)」

 

「諦めろよ、どうせ氷川が行かなかったら俺が行くことになってるだろうし。」

 

誠が3人のところにやってきた。

 

「あれ、誠?

なんであんたがここに?」

 

「私が連れてきました。」

 

「なんで?」

 

夏海は紗妃に聞く。

 

「一昨日の午前中の授業をサボったからです。」

 

「だって仕方がねぇだろ。

疲れてたんだから。」

 

誠はそう言うと肩をバキバキと鳴らす。

 

「言い訳は聞きません!

どういう理由であれ、授業に出ることは学園生どころか、学生としての義務なんですから!」

 

「あー、わかったわかった。

どうせこのクエストは受けるつもりだったからちょうどいいや。

それに・・・」

 

誠はレナの方を向く。

 

「まこ!

まこ!」

 

レナは嬉しそうに誠のところにやってきた。

 

「よう、レナ。

元気にしてたか?」

 

誠はレナにあいさつする。

 

「花梨からレナのこと頼まれてるからな。」

 

「どういうことですか?」

 

紗妃は誠に質問する。

 

「あー、花梨からレナはまだ他人に慣れてないから一緒にいてやってくれって。」

 

誠は咄嗟に嘘をついた。

 

「(ナイス、誠!)」

 

夏海は心の中でそうつぶやいた。

だが、

 

「そうですか。

ですが、私も一緒に行きますからね。」

 

紗妃がそう言うと、誠は夏海の方を向く。

 

「・・・な?」

 

「そ、そんなぁ・・・」

 

夏海はがっくりとうなだれた。

 

   ***

 

ミナたちが奥に進んでいると、ミナが何かに反応した。

 

「・・・そこかっ!?」

 

「ひぃっ!」

 

心が驚いて悲鳴をあげる。

 

「こりゃ、ミナ!

無暗に驚かせるな!」

 

「い、いる気がしたのだ!

我が邪眼が捉えられぬものなどない!」

 

「そもそもお主、今回の魔物がなんなのか、ちゃんと資料を読んでないじゃろ!」

 

「フハハハハ!

疾風の魔法使いは全ての識る!」

 

「じゃ、言ってみろよ。」

 

良介は呆れながら言った。

 

「魔物だ!

組織の陰謀によりバイオ生成された危険な生物兵器だ!

弱点は疾風、こいつらを全滅させないとヤツラの【計画】が第2段階に・・・」

 

と、良介はミナの頭を叩いた。

 

「痛いっ!?」

 

「俺が一から説明してやる。

黙って聞いてろ。」

 

「や、やめろ!

執行部は組織に騙されているんだ!

そんな情報は信用できない!」

 

良介はまたミナの頭を叩いた。

 

「あだっ!?」

 

「黙って聞け。

今度はグーで行くぞ。」

 

その状況を梓と卯衣が見ていた。

 

「立華先輩。」

 

梓が卯衣に話しかけてきた。

 

「・・・なに?」

 

「オニは普通の魔物に比べてムキムキでして。

とにかく怖いんッスよ。

だからぶちょーもふくぶちょーもビックリするかも。

そんときはいちお、自分が前で盾になるんで攻撃お願いしますね。」

 

「・・・・・わかったわ。」

 

「出来ればソッコーで片付けてもらえると、みんな自信がつくかと・・・」

 

「どんな相手でも羽を使うわ。

良介君が来てくれているから。」

 

「いや、ありがたいッス。

ちょっと先を見てくるッスね。」

 

梓は先に進んでいった。

良介の説明はまだ続いていた。

 

「・・・で、弱点が疾風なわけが・・・」

 

「・・・ぶーっ。

わかったよ。」

 

ミナは拗ねてしまった。

 

「やれやれ。

いつもこんな調子じゃ。

出発前に見ておればすむものを・・・」

 

恋がため息をつきながら言った。

と、心が話しかけてきた。

 

「・・・あ、あの。

すいません、ちょっと気になったことがあって・・・」

 

「どうかしたのか?」

 

良介が心に話しかけた。

 

「こ、ここ、観光地だったじゃないですか・・・魔物出現時、人がいっぱい・・・」

 

「ああ、避難はすんでるが、逃げ遅れた奴がいるかどうか・・・

それも俺たちの仕事だな。」

 

「そ、それでですね、今ネット上で・・・」

 

「ねっと上?」

 

恋は首を傾げた。

 

「・・・あ、や、やっぱりいいです・・・ただの噂ですし・・・す、すいません。」

 

「そこまで話しておいてやめるとは・・・のう、バカにしたりせんから言うてみ。」

 

「・・・え、ええと・・・あくまで噂なんですけど・・・」

 

「ふむ。」

 

「出現時にここにいた人たちの呟きで【人が食べられた】と・・・」

 

「・・・何?」

 

良介は眉間に皺をよせる。

 

「そ、それが一人じゃなくて、何人も・・・今は削除されてますけど、動画や画像も・・・

ちょっといじってDLしましたけど・・・見ます?」

 

「作り物じゃないのか?

最近、色々できるだろ?」

 

「か、加工されているものは多いですが、この時間で動画となると・・・」

 

「ふうむ・・・魔物が人を食うとはにわかに信じがたいが・・・」

 

恋が考え込んでいると、ミナが食いついてきた。

 

「人を食う魔物だと!?

見せろ見せろ!」

 

「なんでお主はいつも大声なんじゃ・・・」

 

「・・・あ、あの、本当に見ます・・・?

スナッフムービーというか・・・」

 

「構わん!

これから戦う相手だ!」

 

「で、では・・・このファイルを・・・」

 

心はその動画を再生させ始めた。

 

「・・・・これは・・・」

 

「う・・・うぅ・・・ひっく・・・」

 

「お、おい、そこまでじゃそこまで!」

 

「こ、怖くないもん!

怖くなんかないもん!」

 

ミナは良介に後ろから抱きついていた。

 

「わかった、わかったから。

心、お前はそれが本物だと思うんだな?」

 

「は、はい・・・すいません・・・!

ぶ、部長がそんなに怖がるとは・・・」

 

「別に構わん。

それより学園に連絡だ。

いつもと違うなら、このまま進むわけにはいかないぞ。」

 

良介は一度学園に連絡することにした。

 

   ***

 

その頃、誠たち。

紗妃が魔物について説明していた。

 

「・・・・・なに?」

 

レナは首を傾げた。

 

「なに、ではなくオニ。

日本古来の【鬼】と区別するためにカタカナ表記です。」

 

「要するに鬼に似てるんでしょ?」

 

「ええ、そうですね。

どちらかというと鬼瓦ですが。

オニは日本にしか出現しない特殊な型の魔物です。」

 

「あたし、ちゃんと調べてるわよ。

世界各地に、そこにしかでない・・・

言ってみればご当地魔物みたいなのがいるのよね。」

 

「ごとーち・・・ごとーち?」

 

レナはまた首を傾げた。

 

「そんなに能天気なものではありませんが・・・まぁ、近いですね。

オニは第3次侵攻以来の出現です。

とはいえ、その頃の強さではないでしょう。

場所が阿川奈城砦跡というのも不気味です。」

 

「どういうこと?」

 

と、誠が突然説明し始めた。

 

「阿川奈城砦は【鬼】との戦いが伝説として残ってるんだ。」

 

「孟山はご存知ですか?」

 

「か・・・かし・・・ら・・・やま?」

 

レナは首を傾げながら言った。

 

「そうだ。

阿川奈の南にある孟山は鬼の伝説が残っててな。

そこから攻めてくる鬼の軍勢と、中上氏が戦いを繰り広げ・・・

最期には城内の人々が全て鬼に食われ、残る者なしという話さ。」

 

「・・・ぞーっ・・・そ、そんなものがあるなんて知らなかったわ・・・」

 

「鬼というのはその時攻めてきた敵方。

それを怪奇譚として仕立てたのが【阿川奈奇譚】さ。」

 

「あがーなきた!」

 

紗妃が話し始める。

 

「歴史上、どこの勢力に滅ぼされたかはなぜかわかっていませんが・・・

位置関係上、松谷氏というのが有力ですね。

あまりにも小さい勢力だったのが原因でしょうか。」

 

「ふーん・・・つまり怪談なのね。

でもそんな話があるって言われたら・・・

・・・ちょっと怖いじゃない。」

 

「・・・放棄するか?」

 

誠がにやけながら言った。

 

「ば、バカ言わないでよね!

あたしだってジャーナリストのはしくれよ!

人を食う魔物、じょーとーじゃない!

あたしがその全貌を全世界に公表してみせるわ!」

 

「言っておきますが・・・」

 

「もちろん、ちゃんとクエストをこなしたうえでね!」

 

「結構です。

では・・・あら?

相馬さんはどちらに・・・?」

 

「え?

レナならそこに・・・」

 

誠が指差した方向にはレナはいなかった。

 

「あれ?

今の今までそこにいたのに・・・レナー?」

 

夏海がレナを呼ぶと、レナがやってきた。

 

「なつみ!

ここ、ここ!」

 

レナはある場所を差し始める。

 

「ここ?

そこになにがあんのよー!」

 

「にんげん!

にんげん!」

 

「・・・人間?

もしかして・・・」

 

「要救助者・・・行きましょう!」

 

夏海と紗妃はレナの指差した方向に進み始めた。

 

「・・・ん?

人の気配とか感じないが・・・まさか!」

 

先に進んだ夏海たちを誠は追いかけた。

 

「待て!

救助者じゃない!

恐らく・・・!」

 

と、奥から、

 

「きゃーっ!!」

 

夏海と紗妃の悲鳴が聞こえてきた。




人物紹介

相馬 レナ(そうま れな)17歳(推定)
狼に育てられた狼少女。
かなり眉唾な生い立ちだが、実際に喋るのにも苦労している様と驚異の運動神経を見れば信じざるを得ない。
人間の常識と野生の常識の狭間で苦しんでいるが、【ニンゲンになる】という目標を掲げて今日も社会勉強に励む。


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第41話 人と人

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



阿川奈砦跡。

先に進んだ梓が魔物に囲まれていた。

 

「・・・あちゃー・・・なんかクリスマスから、あんまり運がないッスねぇ・・・

ひいふうみぃ・・・なんで自分の周り、こんな魔物が集まるんでしょ。」

 

すると、ミナの声が聞こえてきた。

 

「梓ーっ!

どこにいるんだーっ!」

 

「あっ、まず!

ぶちょーっ!

こっちは魔物ばっかッス!

来ちゃダメっす!

自分、逃げますから、ちょっと戻って合流しましょっ!」

 

だが、ミナは梓のところにやってきた。

 

「できるか愚か者がっ!

お前は円卓の騎士の一員だ!

我は疾風の魔法使い!

最強にして騎士団のリーダーだ!」

 

「ぶ、ぶちょー、なんで来ちゃったんスか!

気持ちはありがたいッスけど・・・

(あちゃー・・・もっと言い方考えないとなぁ・・・)」

 

と、他のメンバーもミナを追ってやってきた。

 

「待たんかミナ!

梓の指示にちゃんと・・・!」

 

「ひ、ひぃぃ・・・こんな魔物がいっぱいいるところに・・・!」

 

「・・・・・やるわ。」

 

「こりゃあ凄い数だな。

この人数とはいえ時間がかかりそうだな。」

 

「む、むぅ・・・全員来ちゃったッスか。

仕方ないなぁ・・・

(さっきの悲鳴・・・みんなに聞こえてなかったみたいッスけど、夏海先輩・・・

アレのせいで魔物呼んじゃったみたいッスね。

何があったんだろ・・・?)」

 

「行くぞ!

聖戦の後に残るのは我らの勝利だけだ!」

 

「(さっき、誰かの悲鳴が聞こえたな・・・無事だといいが・・・)」

 

良介はかすかに聞こえた悲鳴を気にしながら魔物に向かった。

数分後・・・

 

「うぅ・・・動けない・・・痛い痛い痛いぃ・・・」

 

ミナは傷を押さえて痛がっていた。

 

「なんじゃ、ただのかすり傷じゃ。

そもそも良介に任せっきりじゃったろ。

あれだけ大見得きったんじゃからしゃんとせんか。」

 

「最強の魔法使いでも痛いのは痛いのだぁ・・・」

 

と、突然ミナは壁に寄りかかって座り込んだ。

 

「・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

ミナはそのまま眠ってしまった。

 

「・・・寝たか・・・それだけ疲れてたんだな。」

 

良介は呆れたようにため息をついた。

 

「・・・あ、あのっ・・・こ、こんなクズぅなわ、わわわたしを守っていただいて・・・!」

 

「別に気にするなよ。」

 

良介は心に対して笑みを見せた。

今度は卯衣が良介に話しかけてきた。

 

「・・・良介君、魔力をもらってもいいかしら。」

 

「ああ、いいぞ。」

 

良介は卯衣に魔力を渡した。

 

「羽を出すのに魔力消費が多くなるわ。

これ以上比率的にするのは難しいかしら・・・」

 

と、梓が良介のところにやってきた。

 

「にんにん、ただいま戻ったッス。」

 

「戦闘の後ですまないな。

それで、どうだった?」

 

「結構、この辺に集まってたみたいッスね。

近くに魔物はいませんでした。」

 

「それはよかった。

一息つけるな。」

 

「ええ、そーしましょ。

後から来る人たちと合流した方がいいかもしれません。

量が多かったとはいえ、オニの強さはちょっと想定以上ッス。

良介先輩がいたから切り抜けはできたでしょうが・・・

これ以上先行するのは、得策じゃないッスね。」

 

恋が話に混ざってきた。

 

「うむ・・・さすがんいミナも懲りたじゃろ。

最近はクエストも安全じゃないからのう。」

 

「なんかみょーに想定外のことが多いんですよね・・・ま、仕方ないか。

自分、もう一度回ってくるッス。

少数のパーティがいたら、集まるよう助言しておきます。」

 

梓は行ってしまった。

 

「おい、お前は休まなくてもいいのかって、行ったか・・・」

 

良介は呆れていると、恋が話しかけてきた。

 

「・・・のう良介。

お主、梓のことはどのくらい知っとる。」

 

「伊賀の忍者・・・てことぐらいしか知らないな。」

 

「フフフ、わっちもな、伊賀忍者というのが本当らしい・・・

それぐらいしか知らん。

それだけじゃない。

心も卯衣も、同じ天文部でも驚くほどなにも知らん。」

 

恋はミナの方を向いた。

 

「・・・のうミナ。

お主もなにか、人に言えん秘密があるんじゃないか?」

 

「・・・すぅ・・・すぅ・・・恋・・・・・」

 

ミナは完全に眠っていた。

 

「・・・寝てるな。」

 

「・・・ま、よい。

わっちにとって、天文部ほど楽しい所はない。

それでよかろ。」

 

「・・・そうだな。」

 

良介たちは梓が戻ってくるのを待った。

 

   ***

 

その頃、誠たち。

 

「う、うぅ・・・気持ち悪い・・・イヤなもの見ちゃった・・・」

 

「大丈夫か?」

 

気分を悪くしている夏海に誠と紗妃が話しかける。

 

「あ、あんたたち、あんなの見てよく平気でいられるわね・・・」

 

「まぁ・・・な。」

 

「平気なはずがありません・・・とはいえ、私たちの仕事ですから。

相馬さん、魔物は近づいていませんね?」

 

紗妃はレナに確認をとる。

 

「ない!

まものない!

まもの、ちがう!」

 

「・・・よし、夏海、カメラ貸せ。

写真撮るから。」

 

誠は夏海からカメラを借りようとした。

 

「え!?

ま、マジで!?」

 

「逃げ遅れて、隠れたが見つかったってところか。

身元を確認して報告しないといけないからな。」

 

「私たちが送った写真は今回の資料にもなります。」

 

それを聞いて夏海は、少し黙った後、口を開いた。

 

「・・・・・わかった。

あたしが撮るわ。」

 

「は?

お前が?」

 

「で、ですがあの死体をまた見るのは・・・」

 

「ジャーナリストが自分のカメラ他人に預けてどうすんのよ!

カメラを持ってる以上、あたしは写真を撮る責任があるの。

やるわ。」

 

誠はそれを聞いて少し黙ったが、すぐに口を開いた。

 

「・・・わかった、任せた。」

 

それを聞いて誠たちは、死体のところに向かった。

 

「う・・・やっぱグロい・・・」

 

「すんすん・・・にんげん・・・」

 

「見りゃわかるわよ。

ほら、ちゃんと手を合わせて。」

 

「て?

あわせ?」

 

「まだわからないだろうから、とりあえず真似してくれ。」

 

そう言うと、誠たちは手を合わせた。

レナも真似して手を合わせる。

 

「・・・・・なに?」

 

「今は真似だけでいいんだ。

そのうちわかるだろうからな。」

 

「じゃ、撮るわ。」

 

そう言うと、夏海は写真を撮り始める。

 

「(しかし・・・ほとんどわからんがこの顔、どこかで見たような・・・)」

 

誠が死体に近づいて見て考え込んでいると、梓がやってきた。

 

「うおっ。

こりゃまたヒサンな・・・おっと、自分は知らない、知らない・・・」

 

「服部さんではないですか。

天文部の皆さんはどうしました?」

 

紗妃が梓に話しかける。

 

「あ、お疲れ様です・・・ちょっと魔物との戦いが激しくて休憩中ッス。

かくかくしかじかで、他のパーティを回ってる最中ッスね。」

 

「・・・わかりました。

私たちも天文部に合流しましょう。」

 

「助かります。

それでそこの・・・逃げ遅れた人ですか?」

 

「おそらく。

魔物とはいえ、無残な殺され方です・・・」

 

「・・・ちょいといいですか?」

 

梓は死体の近くで屈んで見ている誠の隣にやってきた。

 

「ふぅむ・・・これが魔物に?

現場は見ました?」

 

梓は誠に聞いた。

 

「いや、俺らが到着してから悲鳴は聞いてないが・・・」

 

「早朝ッスな・・・」

 

「・・・だよな、それに・・・」

 

「まものない!

まもの、ちがう!

にんげん、にんげん!」

 

いきなりレナが騒ぎ出した。

 

「相馬さん。

もう魔物がいないかはいいのですよ。」

 

「・・・・・そッスな。

相馬先輩が正しいッス。」

 

「は?」

 

いきなりのことに紗妃は変な声を出した。

 

「やっぱり服部も気づいたか。」

 

屈んでいた誠が立ち上がった。

 

「ズタズタになってるんでわかりづらいですけど、よく見ると弾痕があります。

魔物じゃねーッスね。

人間ッス。

知ってる限り学園から銃を使う人は来てない。」

 

「そ、それはつまり・・・?」

 

「もういないとは思うが、注意しろ。

あと身元確認も急ごう。」

 

「執行部に送るとき、一緒に遊佐先輩にも送ってください。」

 

「そ・・・それはダメです!

遊佐さんに送ると悪用されかねません!」

 

「するわけがないだろう。

そんな小さい人間じゃないし。

それに、執行部よりも速く身元確認してくれるからな。」

 

「どうしてもだめなら、ふたみんでもわかると思いますよ。」

 

「・・・・・あんたたち、部長のことよく知ってるの?」

 

夏海が2人に聞いた。

 

「いや、俺はあんまり。」

 

「夏海先輩以上には知らないッスよ・・・じゃ、ここはお任せします。」

 

そう言うと梓は行ってしまった。

 

   ***

 

良介たちは梓が帰ってくるのを待っていた。

 

「・・・梓はまだか。

あやつに限ってケガで動けないということはないじゃろうが・・・」

 

「う・・・うーん・・・やみのこくいん・・・」

 

ミナは寝言を言っている。

 

「そろそろ起きるかな。

心、卯衣、休めたか?」

 

良介は2人に話しかけた。

 

「は、はい・・・お役に立てないならせめて見張りを・・・!」

 

「私がしているから問題ないわ。」

 

「うぅ・・・い、いつもいつもわたし・・・」

 

落ち込む心を、恋が励ます。

 

「心、お主にはじゅうぶん助けられとる。

人には得意分野がある。

卯衣はれーだーみたいな魔法を使えるでな。

・・・れーだーであってたかのう?」

 

「さあ、たぶんそうじゃないのか?」

 

恋が良介に確かめようとすると、卯衣が答えた。

 

「科学技術でいえばレーダーで間違いないわ。」

 

「ようするに苦手なことはそれが得意なものに任せておけ、ということじゃ。

わっちはこの中の誰にも勝っとるものがない。

じゃが平気じゃぞ。」

 

「そ、そんなことありません!

・・・そ、その・・・」

 

と、ミナが目を覚ました。

 

「・・・なんのはなし・・・?」

 

「起きたか。

クエスト中に寝るとは図太い奴だ。

魔物を片付けたから、他のパーティを待つために休憩してたんだよ。」

 

「ん・・・そう・・・れん、どっかいっちゃいや・・・」

 

「まぁだ寝ぼけとるんか。

ホレ、起きろ。」

 

恋がミナの頬を叩いた。

しばらくすると、誠たちがやってきた。

 

「服部さんが言ってた場所はこの先・・・」

 

「なんか迷路みたいね。

砦って全部こんなんなの?」

 

「ここは防御に特化した城砦だからな・・・お、見えたぞ。」

 

誠たちが良介たちと合流した。

 

「おお?

氷川。

お主、外におったのではないのか?」

 

「はぁ、事情が変わりまして・・・それより、お話しなければならないことが・・・」

 

紗妃は事情を話した。

 

「・・・殺人?

それだと、最初と話が違うぞ。」

 

「レナは人を食う魔物がいるって言ってたのよね・・・でも、実際は・・・」

 

「心が見つけた動画や噂とも違う。

話が合わないな・・・」

 

良介は少し考え込む。

 

「我々が考えることではありません。

合流した今、まずは魔物の殲滅を第一に。」

 

「・・・じゃのう。

わっちらが考えても答えが出るとは思えんのう・・・」

 

「それと・・・双美さん・・・」

 

紗妃は心に話しかけた。

 

「ひ、ひぃ!

な、なにか不始末をしましたでしょうか!

ど、土下座を・・・」

 

「やめてください。

服が汚れます・・・お願いがあるんです。

その・・・直視しにくいものですが、この写真の人物を調べてほしくて・・・」

 

紗妃は写真を心に手渡した。

 

「・・・あ、あの、こちらは・・・」

 

「お話した、殺されていた人物です。

身元照会をかけましたが・・・

受理されただけで、こちらは知る必要のないものだと。」

 

「・・・わ、わかりました。

調べてみます・・・さ、幸い顔ははっきりしているので・・・

なぜでしょう・・・誰かが殺しても魔物のせいに見せかけたいなら・・・顔も・・・」

 

「・・・双美さん?」

 

「あっ!

す、すいませんすいません!

お話、途中から、あの!」

 

「いいえ、大丈夫です・・・よろしくお願いしますよ。」

 

その頃、梓。

 

「・・・にんにん。

これでクエスト中の生徒は全員ッスな。

不審者の影もなし・・・すると、やっぱあの誰かが殺されたのは早朝・・・

今回、妙にネット上に流れてる魔物の動画に噂・・・ふぅむ・・・」

 

梓は少し考え込む。

 

「相馬先輩のカンが外れた・・・?

でも本人は疑問に思ってない・・・

・・・うーん・・・まーためんどくさいことッスかねぇ。

霧の護り手もテスタメントも解決してないのに・・・

しかたないッスね。

頭のいい人に任せて、自分は体をうごかしましょ。

戻って合流。

氷川先輩の言うように、まずはここの魔物の殲滅ッスな。」

 

梓は合流しに向かった

 

   ***

 

「はぁっ!」

 

良介は剣に火の魔法をかけて切り裂いた。

 

「よし、残りは?」

 

良介は紗妃に何体かを聞いた。

 

「先ほどの魔物で最後ですね。

残存ゼロ、です。」

 

「終わりか。

少し疲れたな。」

 

良介は剣を鞘に収め、ため息をついた。

 

「霧を払ったぞ。

帰ってゆっくりしようでないか。」

 

「眠い・・・学園、まだ?」

 

ミナが目を擦りながら聞いてきた。

 

「あと少しガンバレ。

まったく、威勢がいいのは最初だけじゃ。」

 

「もう危険はありませんし、よいでしょう。

執行部のヘリが待っていますよ。」

 

「来るときもそうじゃったが、わっちはヘリは苦手じゃ・・・」

 

恋はため息をついた。

 

「・・・・・なに?

まもの、にんげん、くう、なに?」

 

「ふたみん、例の写真、なにかわかったッスか?」

 

レナのところにいた梓が心に問いかけた。

 

「す、すいません。

もう少々お待ちを・・・で、出ました!」

 

「ん?

・・・おっと、これは・・・」

 

梓がパソコンを見つめていると誠がやってきた。

 

「わかったみたいだな。

どれどれ・・・」

 

誠もパソコンを覗き込む。

 

「まがやま・・・間ヶ岾 昭三。

霧の護り手の幹部・・・か。」

 

誠が顎に手をやりながら言った。

 

「・・・おやぁ?

ふたみん、もーちょっとわかったりしません?」

 

「え、ええと・・・どんなことでしょう。」

 

「例えばッスよ。

例えば・・・この間ヶ岾ちゅーおっさんが・・・

旧魔導科学研究所で魔物を操る研究をしてた、とか。」

 

「・・・ええと・・・うぅ・・・ど、どうでしょう。

やってはみますが・・・」

 

心は実行を試みようとする。

 

「あ、難しいようなら大丈夫ッスよ?

(危なそうだし、遊佐先輩に聞くのがいいかもしれねッスな)」

 

「・・・にんじゃ。」

 

レナが後ろから梓に話しかけてきた。

 

「おおっ!?

そ、相馬先輩、まさか忍者とゆー言葉を・・・!」

 

「にんじゃ、まもの、ころす。」

 

「あ・・・う、うーん。

ホントは違うんスけどね、忍者は。

まあいいや。」

 

「レナ、魔物が人を食うって本当か?」

 

誠がレナに聞いてみた。

 

「まもの、にんげん、くう。

くう、くう。」

 

「さっきのおっさんは魔物じゃなくて人に殺されてましたが。」

 

「まものない、まもの、ちがう!」

 

「(やっぱちゃんと区別してるな・・・だとすると・・・

あの遺体が霧の護り手だったことを踏まえて、魔物を使役できるようになった。

もしかしたら生み出すことも可能に?

そうすれば絶えたはずのオニが出たことにも説明がつく・・・

通常の魔物も人間を襲う。

それとの違いをはっきりさせるため、人間を食わせた。

それがネットに上がっている動画・・・

食われた死体がないのは霧の護り手が掃除したからか?

霧の護り手が騒ぎの元凶だとすると、あの遺体の人間を撃ったのは・・・

国軍はオニを掻い潜って暗殺できるとは思えない。

すると・・・)」

 

誠が考え込んでいるとレナが声をかけてきた。

 

「まこ!

はよ!

がっこ!」

 

「ん、ああ。

わかったよレナ。」

 

誠はレナのところに向かう。

 

「(・・・撃ったのは、オニに襲われず近づける・・・霧の護り手の誰か?

うーん・・・わからんな。)」

 

誠は考えながらレナと共にヘリに向かった。



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第42話 バレンタイン(前編)

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


2月、良介は教室で伸びをしていた。

 

「あ~・・・さて、風紀の手伝いでもしに行くか。」

 

良介が席から立ち上がったところで誠がやってきた。

 

「良介、今日は何の日かわかるか?」

 

「今日?

・・・2月14日・・・ああ、バレンタインか。

それがどうかしたのか?」

 

良介がカレンダーを見て日付を確認し、誠に訪ねた。

 

「おいおい、バレンタインと言えば何か。

わからないなんて言わないよな?」

 

「・・・チョコだな・・・で?」

 

「いい加減わかれよ。

お互いにもらったチョコの数を競おうって言ってんだよ。」

 

「は?

いや、俺はそんな言うほどもらえるわけ・・・」

 

「放課後だ。

絶対に教えに来いよ。

何個もらったのか、絶対にな!」

 

そう言って誠は行ってしまった。

 

「・・・はぁ~、風紀行くかぁ・・・」

 

良介はため息をつきながら風紀委員のところに向かった。

良介は風紀委員と合流し、見回りに向かった。

 

「あっ・・・さすがにあれはまずいと思います!

近すぎます!」

 

紗妃がチョコを渡している男女を見て、声を荒げる。

 

「・・・大丈夫だろ?」

 

良介はその様子を見て、風子に確かめる。

 

「だいじょーぶでしょ。

どう見ても義理チョコですし。」

 

「そうでしょうか・・・とても親しげに見えますが・・・」

 

「お友達なら問題ねーです。

あんまり厳しくしても逆に燃え上がっちゃいますよ。」

 

「委員長。

女同士の場合は・・・」

 

女子同士でチョコを渡しているところを見ながら怜が風子に確かめる。

 

「ちゅーしてたらアウト。」

 

「なるほど。」

 

「基本いつもと一緒で問題ねーです。

人気のないところは注意してくだせー。

チョコをあげるくらいなら、大目にみてあげても・・・」

 

と、すぐ近くの廊下から声が聞こえてきた。

 

「ダイジョブ、ダイジョブ。

ボクのカンは当たるアル。」

 

「駄目ヨ。

そゆコト言ってるヤツほど、結局金巻き上げられて終わりネ。」

 

「ボクは学園長だと思うのだぁ!

ワイロは偉いヒトのところに集まるアル!」

 

「め、明鈴!

めったなコト言うもんじゃないヨ!

ワイロじゃないヨ!」

 

「そお?

ボクはワイロにチョコくれたらひいきしちゃうのだ!」

 

「とにかく駄目ヨ!

賭けなんて不良の始まりネ!」

 

声は明鈴と小蓮のものだった。

 

「・・・風子。」

 

良介は風子の方を向いた。

 

「ええ、氷川、神凪。」

 

「はい。

どうしました?」

 

「・・・ちーとばかし方針変えます。

気になることが出てきましたんで。

不純異性交遊につての取り締まりは、とりあえずそのまま続行するとして・・・

まずは問題児のあぶり出しから始めましょーかね。

はぁ・・・」

 

「苦労が絶えないな。」

 

「まったくですよ・・・ホント。」

 

そこからそれぞれにわかれて見回りをすることになった。

 

   ***

 

良介は風子と見回りに向かうことになった。

 

「すみませんねー、いつも頼らせていただいちゃって。」

 

ここ最近、良介はほぼ風紀委員にしか顔を出していない。

 

「別に構わないけど、俺がいて何か変わることでもあるのか?」

 

「いやいや、りょーすけさんがいると生徒の反応が違いますんで。

【風紀委員】から【友達といるヤツ】に軟化するんですよ。」

 

「なるほどね。」

 

良介は納得した。

 

「もちろん例外もあります。

りょーすけさんに気を寄せてる子なんかはね。」

 

「俺に気を寄せてるなんて・・・そんな奴がいんのかね?」

 

良介はため息をつく。

 

「・・・謙遜なんていーんですよ?

ちゃーんと把握させてもらってます。」

 

「そんなバカな。

俺にいるわけないだろ?」

 

良介は鼻で笑った。

 

「照れない照れない。

ま、学生らしいおつきあいであれば問題ねーんで。

と言われてもピンときませんかね。

今も一緒に見回りしてますが・・・

取り締まりの対象として、不純異性交遊。

学園内でのイチャつきはNGです。」

 

「主にどんなものだ?」

 

「いわゆる過度なスキンシップ。

ちゅーしてたらアウト。

風紀を乱す卑猥な格好。

飲酒、喫煙、ケンカ、サボリ。」

 

「あと魔法の無断使用だな。」

 

「見つけたら厳罰処分です。

即引っ立ててくだせー。」

 

「了解、んじゃ行こうか。」

 

良介が先に行こうとすると、風子に呼び止められる。

 

「あ、そうそう。

荒事になるかもしれませんから、気をつけてくだせー。」

 

「・・・なんで?」

 

「・・・バレンタイン程度で、そんな物騒なことにはならねーと思いますか?」

 

「ならないと思うが・・・どうかしたのか?」

 

「いえね、ちょっと気になることがありまして・・・チョコなんですが。

異様に数をあげてるとか、もらってるような生徒には注意してください。」

 

「異様にもらってる奴・・・ねぇ。」

 

良介はふと誠を思い出す。

 

「ま、ゆーたらりょーすけさんも怪しいですが、それはこーして隣で監視してるんで。」

 

「・・・ところで異様にあげてる、もらってる奴を注意する理由は?」

 

「・・・バレンタインにかこつけて、賭博やってる輩がいるかもしれねーんですよ。

グリモアの生徒は報酬余らせてますから、その場合額もでけーでしょ。」

 

「・・・なるほどね。

確かにやってそうではあるな。」

 

「まだ確信はもてねーです。

主導でやってる奴もわかりませんし。

けど、念には念をね。

注意しすぎるってことはないです。

ウチの取り越し苦労で済めば、それはそれでいーんですから。」

 

「ま、確かにそうだな。

んじゃ、行くか。」

 

「ええ、行きましょー。」

 

良介は風子と共に見回りに向かった。

 

   ***

 

良介と風子は見回りをしていると、一組の男女を良介は見つけた。

 

「風子、あれいいのか?」

 

異様に距離が近い気がした。

 

「・・・ん?

どれどれ・・・ああ、あれくらいなら大丈夫です。

チョコを渡してるだけですから、取り締まる必要はねーです。」

 

「・・・そうか、ならいいか。」

 

「ウチらの守ってるのは、学園とそこにいる人たちです。

その守るべき対象を、むやみに縛るよーなまねはしませんよ。

だって、生徒をいじめたくてやってるわけじゃねーですもん。

せっかくのせーしゅん時代、楽しく過ごしてほしーですし。」

 

「ま、確かにそうだな。」

 

「・・・ただね、一線を超えると守れなくなるもんもあるんで。

その線引きはウチらがきっかりやらせてもらう、ってだけです。

アンタさんの場合は・・・フフフ、信用してねーわけじゃねーんですよ。

けど、間違いってのは、片方が心がけたところで防げねーんで・・・」

 

「・・・もしかしてだが・・・・」

 

良介は嫌な予感がしていた。

 

「・・・わかってもらえました?

アンタさんの身体が狙われてること。」

 

「・・・マジか。

今の言葉でもしやと思ったが・・・」

 

良介はため息をついた。

 

「とゆーわけで、今回のよーに各所が荒ぶるよーなイベント時は・・・

ウチと一緒にいてもらってるほうが都合がいーんです。

・・・・りょーすけさんといる時間が増やせますし。」

 

「・・・最後なんか言ったか?」

 

「いや、なんでもねーです。

あ、もちろんお嫌でしたら言ってくだせー。

アンタさんの意思は尊重します。」

 

「まさか、そんなわけないだろ。

自分の意思でここにいるだから。」

 

「ふふ、アンタさんならそう言ってくださると思ってました。

恋愛するのは、誰でもじゆーですからね。

どーしても好きになったら、止めてもムダってもんです。

中にはヒマだからという理由で男女交際に意欲的なのもいますが・・・」

 

「暇だからって・・・いいのかそれ?」

 

「いーんじゃないですか?

ヒマってことは平和ってことです。

このご時世にらぶあんどぴーす、なんて素敵じゃねーですか。」

 

「確かにそうだな。」

 

すると、風子はさっきよりも良介に近づいて歩き始めた。

 

「・・・風子、これ勘違いされたりしないか?」

 

手をつないでないだけで、ほぼ密着している状態と言ってもおかしくない距離だった。

 

「大丈夫です。

さ、行きましょー。」

 

2人はそのまま見回りに向かった。

 

「この時期はがっつり見回りしてますから、思ったより平和ですね。」

 

「そんなに見回ってるのか?」

 

「ふっふっふ、そりゃーもー。

毎年脅して回ってますよ。

規律は恐怖によって守られる。

原始的ですがね。

真面目な生徒を無差別に叱ったりはしませんので、ご安心くだせー。」

 

「そうか。

ならいいけど。」

 

「違反するとこーなる、ってのは見せしめとしてやりますが・・・

要所要所でだけです。

こっちも疲れちゃいますからね。」

 

「見せしめっていいのかよそれ・・・ん?」

 

一人の女子が風子のところにやってきた。

 

「おっと、少々お待ちを・・・どーしました。

ん?

ウチじゃなかったんですか・・・あぁ、アンタさんに用事だそーですよ。」

 

「俺に?

一体なんだ?」

 

良介は女子の方を向いた。

 

「どーぞ。

やりづらかったら後ろ向いててあげますんで。」

 

「(その方がよけい気まずいんだよなぁ・・・)」

 

良介は女子からチョコを受け取った。

 

「風子、終わったぞ。」

 

「もういーんですか?

じゃ、見回り続けましょうか。」

 

「てっきり取り締まられるかと思ったんだが・・・」

 

「いえいえ、チョコを受け取っただけで取り締まったりはしませんよ。

・・・なんか後ろめたいことでもあるんですか?」

 

「いや・・・別に。」

 

「義理でも本命でも、お好きなよーに受け取ってもらって・・・・・あ。」

 

風子が何かに気付いた。

 

「・・・ちょっとお聞きしてーんですが・・・アンタさん、いくつもらったんですか?」

 

「え"。」

 

良介は変な声をあげてしまった。

 

「あのー・・・何をかな?」

 

「チョコですよチョコ。

大丈夫ですよ、参考までにお聞きするだけで。」

 

「えーと・・・今で・・・30はいったか?」

 

「ははぁ。

それはそれは・・・

そんなことはないと思いますけど、万が一。

万が一ですよ。」

 

「ああ・・・」

 

「八百長に加担してるとか・・・そーゆーことはないですよね?

もしそんなことがあったら・・・懲罰房ではすまねーかもしれねーですよ?」

 

「懲罰房ですまないって・・・一体どうなるんだ?」

 

良介は後ずさりしながら聞いた。

 

「ぷっ!

くひひひ!」

 

「・・・どうした?」

 

風子は突然笑いだした。

 

「アンタさんは顔に出ますね!

わかりやすい人は嫌いじゃねーですよ。」

 

「・・・わかりやすいか、俺。」

 

「ま、せっかくのバレンタインに、イジワルはやめましょーか。

見回りの続きしましょ。

終わったら渡したいものもあるんで、サクッとね。」

 

「渡したいものねぇ・・・期待していいか?」

 

「それはお好きにしてくだせー。」

それじゃ、行きましょ。」

 

2人は見回りを再開した。

 

   ***

 

良介と風子はギャンブルに加担していた律を校門前で捕まえた。

 

「ちがうって、あたしはそんなダメとか知らなくて・・・!」

 

「知らねーで済んだら風紀委員はいらねーです。

ギャンブルは不良のはじまりですからねー。

観念してくだせー。」

 

「助けて!

良介はあたしの味方だよな!?

ソウルメイトだよな!?

なあ、一緒にバンドやろうって誓った仲だよなっ!?」

 

律は良介に助けを求めた。

 

「ソウルメイトなのかはともかく、バンドは誓ってはいないな。

あくまで、【考えておく】って言っただけだからな。」

 

それは割とここ最近の話。

律にバンドをやらないかと誘われ、考えておくと返事した時のことだった。

 

「そ、そんなぁ~!」

 

「はいはい。

バンドの編成は反省が終わってからにしてくだせー。」

 

「ま、待って!

待っ・・・・・あ、いい詩が浮かびそう・・・」

 

と、律の背後から紗妃がやってきた。

 

「行きますよ。

じっくり反省してもらいますからね。」

 

「うわーん!

見てないで助けろよぉ、良介ー!」

 

律は連行されていった。

 

「・・・はー、完全にあっちこっち飛び火してますね。

結構な規模じゃねーですか。

煽ってんのは・・・まあ大体見当つきますけど。

親や先生にギャンブルやっちゃいけねーって教わらなかったんですかね?」

 

「教わってても手を出したくなるものってあるもんだ。

仕方ないだろ。」

 

「まあ、魔法使いってのは特殊な環境下で育つことも多いですが・・・

道徳の時間でも、増やすよーにお願いしましょーか。」

 

「・・・あんま効果ないと思うがな。」

 

良介と風子は同時にため息をついた。

 

「とりあえず見回りを続けます。

アンタさんも、シャンとしてくだせーよ。」

 

風子は良介の背中をポンと叩いた。

 

「ん・・・そうだな。

見回り、続けるか。」

 

「ええ、まだまだバレンタインは終わってねーんですから。」

 

2人は校舎に向かった。



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第43話 バレンタイン(後編)

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


誠は1人バラ園の近くを歩いていた。

 

「はぁ・・・全然貰えねぇな・・・」

 

誠は未だに1個もチョコを貰っていなかった。

それに対し良介は即に50個近いチョコを貰っているという話を耳にした。

 

「あいついくらなんでも貰い過ぎだろ。

1個ぐらいよこせよなぁ・・・ん?」

 

バラ園を歩いていると誰かいるのに気付いた。

秋穂と春乃の2人がいた。

 

「うーん・・・先輩どこいったんだろ・・・」

 

秋穂は誰かを探している様子だった。

 

「先輩・・・十中八九、良介か・・・」

 

それを聞いて2人の様子を見始める誠。

 

「秋穂、誰を探してるの?」

 

「あっ・・・おねえちゃん・・・べ、別に誰も探してないよ。」

 

「そう・

人探ししてるならお姉ちゃんも手伝ってあげるからね。」

 

「うん・・・」

 

「お姉ちゃん、秋穂の望むことならなんでもしてあげる。」

 

「春乃は相変わらずか・・・」

 

ため息をつく誠。

 

「あ・・・あのね、おねえちゃん・・・実は・・・」

 

「ん?

なあに?」

 

「お世話になってる人に、渡したいものがあって・・・」

 

「あれ?

もう渡したよね?

散歩部のみんなに、チョコ。」

 

「あの・・・・・その・・・・・せ、先輩に・・・・・」

 

「・・・先輩?

んー・・・あぁ、アイツ・・・?

渡したいって・・・チョコじゃないよね?」

 

「う、うん・・・」

 

「・・・見た限りでは、チョコは渡し終えて、それ以外に渡したいものがあるってところか・・・」

 

誠は様子を見ながら、推測していた。

 

「(チョコは朝渡せたから、渡し忘れたカードを渡したいんだけど・・・

正直に言ったら怒るよね・・・どうしよう・・・)」

 

「アイツねえ・・・今頃たらしこんできた女達のチョコの海に沈んでるかもねえ・・・」

 

「そんな、たらしこんでるなんて言っちゃ失礼だよ・・・」

 

「(たらしこんでるのは事実なんだよなぁ・・・一番問題なのは本人は自覚がないってだけで。)」

 

誠はそう言って2人の様子を見続ける。

 

「でも事実なのよ。

どうせチョコの数で優越感に浸りたいだけなのよ。

見境なく襲って来る霧の魔物と一緒なの。

妖怪チョコくれ男よ。」

 

「それは・・・たしかにモテるけど、妖怪って・・・」

 

「(あいつに優越感とか無いんだよなぁ。

チョコの数に関してはただの偶然としか思ってなさそうだし・・・)」

 

「大丈夫よ秋穂。

お姉ちゃんがついてる。

万が一つきまとわれたとしても・・・

そんな妖怪は捕まえて、晴れの時に天日干しにしてあげるからね。」

 

「(つきまとわれる心配無いよ。

晴れの日は風紀委員長と絶賛デート中だから。

つーか、今も見回りデート中だし。)」

 

「な、なんでそういうこと言うの!?

そんなに嫌い!?

わたし知ってるよ?

先輩がおねえちゃんのことも助けてくれてるの。

おねえちゃんだって、本気でそんなに悪い人だとは思ってないんでしょ!?」

 

「(へえ、そいつは初耳だな。)」

 

「・・・・・秋穂。」

 

春乃は秋穂を見つめる。

 

「・・・・・そっか・・・秋穂はちゃんとわかってるんだね。

・・・秋穂は・・・お姉ちゃんのこと、ちゃーんと見てくれてるんだねぇ~!」

 

「(・・・やっぱりかい。)」

 

「えぇ!?

そ、そういう話じゃな・・・・・あぁ~、もう~!」

 

「・・・はぁ、別のところ行くかぁ・・・」

 

誠はため息をつきながらバラ園を離れた。

 

   ***

 

誠は校舎に入り、廊下を歩いていた。

 

「あっちもカップル・・・こっちもカップル・・・一人もんにはきつい状況だな。」

 

誠は呆れ笑いをする。

 

「はぁ・・・ん?

あれ・・・メアリーか?」

 

誠はメアリーが他の女子と話をしてるのを見つけた。

 

「アイツにやんねーの?

仲いいんだろ?

よく魔力分けてもらってんじゃねーか。

アタイは味方だぜ?

大丈夫だって、誰も来ないように見張っといてやるよ。

ぜってー嬉しいから。

断られるとかねえ、保障するって。」

 

「(魔力を分ける・・・また良介か。

あいつ、魔力と一緒に何か変なもんでも送り込んでるんじゃねえだろうな。)」

 

すると、メアリーが何かに気付いた。

 

「・・・ん?

ちょい待ち・・・なんだあのトラックは・・・JGJのヤローか・・・?」

 

「なんだあのトラック・・・JGJのトラックなのはわかるが・・・何入ってんだ?」

 

メアリーが見ている方向を見ると、グラウンドに一台のトラックが来ていた。

そのトラックの前には初音がいた。

 

「くひひ・・・こんだけありゃ、お姉さまの一人勝ちだろ。

自分が学園で一番モテてるなんつったら、お姉さま喜ぶぞー。

さてと、この量のチョコをどうやって生徒会室まで運ぶか・・・」

 

「初音の差金か。

何考えてんだあいつ・・・」

 

誠は窓から様子を見ながら呆れた。

すると、初音のところに良介と風子がやってきた。

 

「なんだこのトラック。

もしかして全部チョコか?」

 

「おやおや、何事かと思って来てみれば・・・」

 

「う、うわあっ!

ふ、風紀委員・・・!」

 

風子と良介を見て後ずさりする初音。

 

「(お、夫婦登場だ。)」

 

誠は風子と良介がやってきたのを見て、笑みを見せた。

 

「どーしたんですか?

こんなに沢山のチョコ。」

 

「ば、ば、バレンタインだよ。

そう、バレンタインの!

みんなに配るヤツ!」

 

「・・・ほお?

この数なら学園みんなになるな。

太っ腹だな。」

 

良介は笑いながら初音の方を見た。

 

「まあ・・・誰か1人にこれ全部あげる、なーんてことは・・・ないですもんねぇ?」

 

「ははは・・・あったりまえじゃねーか。」

 

「なら、風紀委員が見回りがてら手伝うのがいいな。」

 

「え?

い、いやいいって!

そんなことしたら・・・」

 

「そういえば神宮寺 初音。

アンタさんにちょっと聞きたいことがあったんですよ。

どーですか?

このチョコをいただきながら、お茶でも。」

 

「お、そいつは名案だな風子。

それじゃ、ちょっとご同行願えるかな?」

 

良介と風子は初音に近づいた。

 

「いやアタシは・・・く、くそっ!

誰だよチクったの・・・!」

 

誠はその様子を見て呆れた。

 

「何考えてたのかは知らんが・・・バカだろ。」

 

すると、メアリーは初音の方を見て笑い始めた。

 

「プッ・・・これでアタイの一人勝ちだな。

詰めが甘すぎんだよJGJ。

日本円ならいくらあっても困らねーし万々歳だぜ。

あとは集計を待つだけ・・・間違いなく1位はアイツだ。

ククク・・・」

 

「(・・・1位?

集計?

なんのことだ?

あ、そういえば噂でトトカルチョやってるって聞いたような・・・

あー、こうなるなら俺もやればよかったなぁ・・・)」

 

誠はため息をつきながらその場を離れた。

 

   ***

 

少し経って夕方、ある教室にメアリーと鳴子がいた。

 

「メアリー・ウィリアムズ。

約束のデータだ。」

 

「おっせーよ。

いつまで待たせやがる。」

 

「遅れてすまない。

集計に時間がかかってしまった。

今年はやけに風紀委員がよく見回りしていたから少し手間取ってね。」

 

「いいから早くよこせ。

結果が見れりゃなんでもいい。」

 

「今日の17時までのものでいいんだったよね?」

 

鳴子はファイルから紙を一枚取り出した。

 

「デバイスでも見られるよ。

できればオフラインの端末の方が安全だけど。」

 

「別にこれ自体は大した情報じゃねえだろ。

今確認するわ。」

 

「フフフ、ひどいな。

結構大変だったんだよ?」

 

「そりゃご苦労さん。

じゃーこれ、そっちも確認してくれ。」

 

メアリーは一つの封筒を手渡す。

 

「はい、毎度どうも。」

 

封筒を受け取ると、鳴子は集計した紙をメアリーに渡す。

 

「・・・?

帰っていいぞ。

もう用事ねーよな?」

 

「データに不備があったら困るかと思ってね。」

 

「まーいいけどよ・・・」

 

メアリーは集計されたデータに目を通し始める。

 

「・・・ん?

んんん!?

おい、これ本当に合ってるヤツか?」

 

「どうしたんだい?

正真正銘、チョコを一番多くもらった人の名前だよ。」

 

「あぁ!?

ウソだろ!?

どうなってんだよ!!

だってアイツは・・・!?」

 

「武田 虎千代。

毎年沢山のチョコをもらっている。

結果としては例年通りだね。」

 

「・・・クソ、なんだそりゃ・・・狂ってるぜ・・・!」

 

「フフフ・・・なにか不都合でもあったかい?」

 

「・・・んっだよ・・・良介じゃねーのかよ・・・」

 

「まあ体感だとそうかもしれないね・・・だけどうちの情報はいつでも正確だよ。

また知りたいことがあったらいつでも言ってくれ。

今後とも報道部をよろしく。」

 

鳴子は笑みを見せながら教室を後にした。

その頃、屋上。

良介と風子の2人がいた。

 

「協力、ありがとごぜーます。

おかげでなんとかなりましたよ。」

 

「ああ、別に構わないよ。

また何かあったら言ってくれ。」

 

良介はそのまま帰ろうとする。

と、風子が良介の上着を掴み、引き止めた。

 

「ん、どうした?」

 

良介が風子の方を向いた。

 

「渡すものがあるってウチ、いーましたよね?」

 

「・・・ああ、言ってたな。

すまん、忘れてた。

で、何をくれるんだ?」

 

「・・・これです。」

 

風子は懐から小さな包装紙で包まれた物を取り出した。

 

「それって・・・」

 

「チョコです。

ウチの手作り・・・ですから。」

 

風子は少し顔が赤くなっていた。

 

「ありがたくもらうよ。」

 

「あの・・・できればここで食べてほしいんですけど・・・」

 

「ここで?

いいのか?」

 

「・・・はい。」

 

「じゃあ、遠慮なく・・・」

 

良介はチョコを取り出し、早速一つ口に入れた。

 

「お・・・おいしいな。」

 

「そうですか、それはよかったです。」

 

風子は嬉しそうに笑った。

 

「ありがとな、風子。」

 

良介は風子の頭を優しく撫でた。

 

「・・・どーいたしまして。」

 

風子は顔を赤くしながら、嬉しそうに笑った。

 

「よし、それじゃ、帰って・・・ん?」

 

帰ろうとしたところ良介は何かに気付いた。

 

「・・・どーしました?」

 

風子は良介が向いている方向を見た。

ちょうど校庭に誠がいた。

 

「・・・はぁ、結局貰えず終いかぁ・・・」

 

誠はため息をつきながら歩いていた。

 

「良介・・・あいつ貰い過ぎだろ・・・まぁ、一番貰ったのは会長らしいが。」

 

誠は校庭の自動販売機のジュースを1本買い、近くのベンチに座った。

 

「・・・来年は貰えると思っとくか。」

 

誠はそうぼやくとジュースを1本飲み干した。

 

「・・・帰るか。」

 

誠はベンチから立ち上がり、帰っていった。

 

「誠のやつ、結局1個も貰えなかったのか。

あんなこと言ってきたくせに。」

 

「あんなこと?

何言ってきたんですか?」

 

「どちらが多くもらえるか勝負だって。」

 

「それはそれは。

残念な結果になってしまいましたねー。」

 

「ま、俺も来年貰えるか怪しいが。」

 

「最低でも1個は貰えるのは確定ですよ。」

 

「ん?

何でだ?」

 

「アンタさんの目の前にいる人は渡すでしょうから。」

 

風子は笑いながら良介を見る。

 

「そうか。

それじゃ、来年も期待して待ってるよ、風子。」

 

良介は風子の頭を優しく撫で、風子と共に屋上を後にした。



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第44話 ゲレンデ

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


ある日、良介と誠は校門前に来ていた。

 

「兎ノ助、話ってなんだ?」

 

良介が兎ノ助に聞いた。

 

「ああ、なんと・・・文科省からのご通達でな。」

 

「文科省・・・文部科学省か。

ん?

魔法学園は防衛省の管轄じゃなかったか?」

 

誠が良介に聞いた。

 

「私立だから複雑とか言ってなかったか?

まあいいや。

で、文科省がなんだって?」

 

「ああ、井端山ゲレンデの見回りしてもらうぞ!

井端山は温泉が近いからな。

ゲレンデの後は温泉旅館とってるらしいぞ。

いちおう温泉のほうも警備って名目だが、体休めてこいよ。」

 

「ほう、温泉か・・・」

 

誠がニヤけ始めた。

 

「お前なぁ・・・」

 

良介は呆れた。

 

「とりあえず去年の海と同じことするみたいだな。

スキーは始めてだな。」

 

「俺も始めてだ。

楽しみだな。

特に温泉・・・」

 

「覗くなよ。」

 

「の、覗かねえよ!」

 

良介と誠は寮にゲレンデに向かう準備をしに向かった。

 

   ***

 

生徒たちはスキー場に来ていた。

 

「ヒャッハ!

こんだけ積もってたらベイルのスキー場思い出すな!」

 

「べいる、ですかぁ?」

 

スキー場を見て興奮しているメアリーにさらが聞いてきた。

 

「コロラド州のベイルっていう場所にあるでかいスキー場のことだよ。」

 

良介がさらに説明した。

 

「へえぇ~。

アメリカにもこんなに綺麗なところがあるんですねぇ。」

 

「アメリカにも、じゃねぇよ。

こんなん序の口だぜ。

でっかくなったら行ってみな。

目ん玉飛び出すぞ。」

 

「ええ、おめめが飛び出しちゃうんですかぁ・・・

こ、怖いですぅ・・・」

 

「いや、そういう表現してるだけで・・・」

 

「おめめ・・・ハハハハ!

オメー笑えるぜ!」

 

さらの反応に爆笑するメアリー。

 

「うぅ~・・・メアリーさん、いじわるです・・・」

 

「あれ?

シローのやつどこいった?」

 

良介はシローがいないことに気付く。

 

「おい、シロー。

どこに・・・痛っ!?

あ、シローそんなとこに・・・わかった見えてるから噛み付くな!」

 

「ぶぁははは!

白くて見えねぇとかベタすぎんだろ・・・!」

 

少し離れたところに誠とエミリアと初音がいた。

 

「メアリーのやつ・・・なんであんな薄着で平気なんだよ・・・」

 

「メ、メアリーさんがあんなに楽しそうに話してるなんて・・・」

 

誠は寒がり、エミリアはメアリーが楽しそうに話している姿に驚愕していた。

 

「せっかくスキー場に来たんだからさあ、そこらへんに穴掘って・・・」

 

「おいおい、俺らは人助けで来てるんだぞ。

そんなことしてどうすんだ。」

 

初音の発言に対し、注意する誠。

 

「あーもー、アタシが人助けってガラかよ・・・」

 

初音はどこかに行ってしまった。

 

「さて・・・それじゃあ私も・・・」

 

エミリアもどこかに歩いて行ってしまった。

 

「・・・・・体動かして体温めるか。」

 

誠も適当に歩くことにした。

 

   ***

 

良介たちはスキー教室に参加していた。

さらとエミリアは話をしていた。

 

「困っている人、たくさんいますねぇ。」

 

「そうですね・・・でも命に関わるような事故などが起きてないのはいいことです。

できれば、スキー教室のまま終わりたいですね。」

 

「(そうなってくれたら嬉しいが・・・どうも嫌な予感がするんだよなぁ・・・)」

 

良介は2人の会話を聞きながら滑っていた。

 

「えみりあさん、とってもお上手なんですねぇ!

びっくりしましたぁ。」

 

「イギリスの魔法学園のときはよくスキーにでかけていましたからね。

スコットランドのほうでは、雪は珍しくありませんし。」

 

「イギリスですかぁ。

行ってみたいですねぇ。」

 

「もちろん歓迎しますよ。

ぜひ遊びに来てください。」

 

すると、エミリアは何かに気付いた。

 

「あら、あちらでも子供たちが・・・あの辺りは・・・」

 

「最初に注意されていたところだな。」

 

滑っていた良介がエミリアの隣で止まった。

 

「あそこ、雪崩が起きやすいから立ち入り禁止じゃなかったか?」

 

「いけません、急いで連れ戻さないと!」

 

良介とエミリアは子供たちのところに向かった。

少し離れたところに初音とメアリーがいた。

 

「・・・おい。」

 

「ひぃっ!?

お、おお、グンジンじゃねーか!」

 

メアリーに話しかけられ驚く初音。

 

「アタイらはここに遊びに来たのかよ。」

 

「何が言いたいんだ?」

 

すぐ近くで滑っていた誠がやってきた。

 

「魔物はどーしたんだよ。

こっちゃヤル気マンマンで来てんだぜ。」

 

「あ、いや、魔物は・・・そんなでないんじゃねぇかな・・・

社会奉仕活動だしな。

はは・・・」

 

初音は少し引き気味に言った。

 

「チッ・・・なんでぇ。

せっかく雪山でバトれると思ったのに。」

 

「こんなところに魔物が出てこられても戦いにくいから嫌だけどな。」

 

誠はため息をつきながら言った。

 

「そ、そーかそーか。

そりゃ残念だ・・・そんじゃアタシは落とし穴彫りに・・・」

 

初音はそこから離れようとしたがすぐにメアリーに呼び止められてしまった。

 

「まー待てよピクシーガール。

テメー、JGJの娘だったな。

せっかくの機会だ。

いっちょ仲良くなっとこーじゃねーか、ん?」

 

「な、なんで仲良くなる必要が・・・」

 

「そりゃオメーよ、アタイが使ってるマシンガンはJGJ製だぜ?

つまりアタイはテメーのお客さんだ。

客と仲良くなるってな商売人の鑑だねぇ。」

 

「い、いいよっ!

別にアタシはJGJに入社するわけじゃねぇしさ!」

 

「まぁまぁ、第6世代デクの話でもしよーじゃねーか。

そーだな・・・いくらで流す?」

 

「だからそーいう話をアタシとやっても意味ねーっての!」

 

「・・・巻き込まれないうちに別の場所に行くか。」

 

誠がそこから離れようとした途端、突然謎の音が聞こえてきた。

 

「・・・ん?

なんだ今の音。」

 

あたりを見渡すメアリー。

 

「音?

なにも聞こえなかったぞ?」

 

「俺にも聞こえた。

たぶんあそこ・・・」

 

誠が音が鳴った方向に振り向いた。

 

「ありゃぁ・・・雪崩だ。」

 

雪崩が起きていた。

 

   ***

 

良介は子供たちを避難させた後、急いでゲレンデに戻ってきた。

 

「良介~っ!

こっちなのだぁ!」

 

里奈が良介を呼んで来た。

 

「すまない、待たせた。」

 

「あ、良介君。

来てくれたんですね。」

 

その場にはエミリアとさらがいた。

 

「あの、あのですね!

男の子が1人、ゆくえふめいなんだそうです!」

 

「行方不明?

・・・雪崩に巻き込まれたか?」

 

「ええと・・・そうとは限らないそうですが・・・」

 

すると、メアリーがやってきた。

 

「おい、雪崩が起きたってのになにボーッとしてやがんだ。

さっさとそこのガキ共、連れて帰りやがれ。」

 

メアリーはまだ残っていた子供たちの方を見て言ってきた。

 

「ま、待ってください!

もしかしたら1人、巻き込まれてるかも・・・」

 

「いま聞いたぜ、イギリスガール。

だから返せっつってんだ。

そこの犬連れもだ。

埋まってんなら雪掘るんだ。

足手まといは帰ってな。」

 

「うぅ・・・」

 

足手まとい呼ばわりされて少し悲しそうにするさら。

 

「オラ、行くぞ良介と・・・えっと、ヨナミネだったな。

アタイは軍で救助もやってんだ。

見つけてやるから黙って言うこと聞きな。」

 

「・・・お、お願いします・・・」

 

メアリーはそのまま捜索に向かおうとしたが、すぐに立ち止まった。

 

「あ、そーだ犬連れ。

オメーよ、JGJのガキ連れてけ。」

 

「・・・はつねちゃんですか?」

 

「ただの迷子かもしれねーんだろ。

探せ。

そのクソガキが見つかったら、さっさと切り上げられるってもんだ。」

 

「は、はい!」

 

「イギリスガール!

テメーはガキども預けたらタンカ持ってこい!」

 

「はい!」

 

メアリーたちは捜索に向かった。

 

「いいか!

小規模な雪崩だが、雪崩ってもんは巻き込まれたら生存率は低い!

ただのガキだ。

ビーコンも持ってねぇし、対処法も知らねぇ。

発生から5分!

ガキの体力だったら残り5分と考えろ!

だが言っておくことはある。

30秒で言うから耳の穴かっぽじって聞け。」

 

メアリーは里奈の方を向いた。

 

「色黒。

テメーは耳がいい。

声を出してないか聞き取れ。」

 

「おうさ。

任せるのだ。」

 

「探す間は魔法を使うな。

なにやっても傷つける恐れがある。

アンダスタン?

手で掘るんだよ。

だが見当は付ける。

ゾンデ棒使え。

使い方のレクチャー受けただろ。

道具は使うもんだ。

いいな。

もしガキが埋まってるんなら、助けなきゃ死ぬ。

覚悟しておけ。」

 

「わかった。

誠、行くぞ!」

 

「おうよ!」

 

良介は誠と向かった。

少し経って、メアリーは1人で掘っていた。

 

「残り1分。

チッ、ここも違ぇ・・・埋まってんならさっさと出てこいっつの。」

 

すると良介の声が聞こえてきた。

 

「いたぞー!」

 

「!!」

 

メアリーはすぐに良介のところに向かった。

 

「掘り出すぞ!

誠、土の強化をお前にもかける!

周りを掘るんだ!」

 

「了解だ!」

 

良介は肉体強化をかけると誠と周りを掘り始める。

 

「オラァ!

よし、抜けたぞ!」

 

良介は子供を引き抜くことに成功した。

と、エミリアがタンカを持ってきた。

 

「お待たせしました!

タンカです!」

 

「Good!

おせーが間に合やどうでもいい!

乗せろ!」

 

良介が子供をタンカに乗せた。

 

「色黒!

後ろ持て!

アタイが前だ!

イギリス、ぼさっとしてんな!

テメーは回復魔法が使えるだろうが!

かけ続けろ!」

 

「エミリア、俺が魔力を流す。

魔力残量考えずにやれ。」

 

「わ、わかりました!」

 

エミリアは良介の魔力を使いながら回復魔法をかけ始めた。

 

   ***

 

「はぁ・・・あの後に遊ぶとさすがに疲れるな・・・」

 

良介は疲れきった様子で戻ってきた。

 

「俺みたいにゆっくりしてりゃいいのに・・・」

 

誠が近くの売店から出てきた。

 

「お前、どこ行ってたんだ?」

 

「暖かいもん飲んでゆっくりしてた。

さすがに遊ぶ気にはなれないからな。」

 

と、里奈の声が聞こえてきた。

 

「おーい、帰りの電車、もうすぐだぞー。」

 

「あ?

・・・もうそんな時間か。

雪くらいゆっくり見せやがれってんだ。」

 

メアリーはため息をついた。

良介がその言葉を聞いて、メアリーに聞いてみた。

 

「・・・雪国の生まれなのか?」

 

「はっ。

雪見てたら雪国生まれってのかよ。

いくらなんでも単細胞すぎんだろ。」

 

「単細胞はないだろ。

まったく・・・」

 

「さて、次はフロか。

ロクに体動かしてねえ。

バカンスみたいなもんだな。」

 

メアリーは向こうに行ってしまった。

 

「あんなに懐かしそうに雪見てたんだ。

隠すことないだろ。」

 

「ま、そう言うなよ良介。」

 

「さ、お前たちも帰るぞー。」

 

「ああ、わかったよ。」

 

良介と誠も帰る準備をしに向かった。



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第45話 魔法使いの基本

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


ゲレンデのクエストから数日後、クエストが発令されたので良介は校門に向かっていた。

すると、校門にゆかりがいた。

 

「良介君、急いで!

阿川奈と同じ位の被害が出てるわ!

茨城の山奥なんだけど、突然現れた魔物と訓練中の国軍が鉢合わせたの。」

 

「新兵ばっかりで現場が混乱したせいで、対応が遅れているみたいですね。」

 

「急がないと、重篤な人もいるんだって。」

 

「それじゃ、行きましょう。」

 

良介は向かおうとすると、ゆかりが良介に聞いてきた。

 

「良介君、なんか気になってること、ある?

なんか地下のこととか、いろいろあったりしてみんな騒いでるけど・・・」

 

「え?

いや、特にないですね。

あるとしたら今回のクエストの魔物に関してのことぐらいですね。」

 

「今回は援軍が到着するまでの一時しのぎなんだけどね。」

 

「あ、時間稼ぎですか・・・」

 

良介は呆れたように笑った。

 

「それじゃ、行きましょ。

じゃんじゃん回復魔法使うから、覚悟しといてね♪」

 

「わかりました。

行きましょうか。」

 

良介とゆかりはクエストに向かった。

その頃、魔法使いの村。

 

「・・・うむ、よし。

準備は万端・・・とはいえんが・・・

例えゲートから霧がなだれ込んできても、お主らがおればなんとかなろう。」

 

アイラが魔導書を開く準備をしながら、誠とつかさの方を向いた。

 

「貴様らがなんの話をしているのかわからんが・・・

この本から魔物が現れるのか。」

 

つかさが魔導書を見つめた。

 

「妾の推測・・・いや、予感・・・そんな気がする、というくらいじゃ。」

 

「フン。

与太だった場合は貴様に相手をしてもらうぞ。」

 

つかさは笑みを浮かべながらアイラの方を見る。

 

「ククク・・・・・やだ。

誠か良介にしてもらえ。」

 

「なんで良介はともかくとして俺の名前が出てくんの!?

嫌だぞ俺!」

 

誠は慌てながらアイラに話した。

 

「とにかく話は本を開いてからじゃ。

朱鷺坂、やってしまえ!」

 

アイラはチトセに指示を出した。

 

「生天目 つかさがこの時期にも学園にいるなんて・・・

フフフ、ずいぶん変わっちゃったわね・・・」

 

「なにしてんのよ。

さっさとしなさい。」

 

一人で笑みを浮かべていたチトセに天が話しかけた。

 

「あなたは避難しておかなくていいの?

宍戸さんの側が安全よ?」

 

「アンタが使う魔法を記録しておくの。

この魔導書の研究するために・・・

いちいちアンタの手を借りるなんて面倒だからね。

すぐに魔法を解析して、結希でも使えるものにするんだから。」

 

「いつでも力になるわよ?

・・・ああ、生徒会と執行部の関係のせいね。

この学園も面倒くさいわね・・・じゃあ、解除するわ・・・

術式を説明する?」

 

「その方が捗るわ。

そっちが構わないなら全部言って。」

 

「研究のためならプライドも捨てる・・・一途なのね。」

 

「科学者のプライドは未知の真理を発見することよ。

勘違いしないで。

アンタが開発した術式をまたイチから解くなんて無意味だわ。」

 

「一本取られたわ。

じゃあ解説してあげる。

役立ててね。」

 

「必要な情報は骨までしゃぶりつくしてやるわ!」

 

チトセは解説しながら解除し始めた。

 

   ***

 

少し経って山中の川の近く。

良介とゆかりが国軍の治療を終えて、一息ついていた。

 

「ふう。

ちょっと休憩してもいいかな。」

 

「大丈夫ですか?

結構疲れてるように見えますが・・・」

 

「さすがに魔法を使い続けると、魔力が減らなくても疲れるよ。

・・・こんなにたくさんの怪我人を見るのが初めてだからかもね。」

 

ゆかりは国軍の兵たちの方を見た。

 

「それにしても、こんな状況になるまで対応が遅れるなんて・・・

この近くだけで十数人。

命に関わる重傷の人もいるし・・・」

 

「・・・大丈夫ですか?」

 

「ごめんね。

良介君がいて助かったよ。

私一人だと魔力がもたなかったはずだから。

ありがと。」

 

「いえ、お礼を言われるほどのことじゃありませんよ。」

 

良介は笑みを見せた。

 

「じゃ、休憩がてら見回りに行こうかな。

ざこ退治。

来るでしょ?」

 

「え?

一時しのぎじゃ・・・」

 

「気分転換だよ。

体動かしたら気がまぎれるしね。」

 

良介とゆかりは見回りに向かった。

 

   ***

 

同じ頃、教室。

 

「えっ?

アイラ達が消えた?」

 

月詠が律の話を聞いていた。

 

「地下で見つかった魔導書?

を調べてたらいきなり消えちゃったってさ。」

 

「だからアンタ、どこでそんなの聞いてくるのよ・・・」

 

千佳が呆れた。

 

「そ、それホント?

じゃあ魔導書ってホントに・・・」

 

「アレだろ、昔のアニメに絵本の中に入る靴とか出てきたよな。」

 

「そうそれ・・・じゃないわよ!

そんなお気楽なのじゃなくて!

ほ、ホントにもう一つの世界に・・・?

こうしちゃいられないわ!

エレンたちがなにか知ってるか聞かないと!」

 

月詠は急いで教室から出て行った。

 

「・・・なんであんなに慌ててんだ?」

 

「えっ。

行方不明ってけっこー深刻じゃん。

フツー慌てるっしょ?」

 

「だって東雲だぜ?

生天目先輩もいるんだぜ?

おまけに誠までいるんだぜ?」

 

「確かに・・・そんなもんかって思えてきたわ。」

 

「だろ?」

 

同時刻、研究室。

聖奈が入ってきた。

 

「宍戸!

宍戸はいるか!」

 

「後にしてもらえる?

まだ報告できるようなことはないわ。」

 

「なっ・・・5名が行方不明になったのに報告しないなどと・・・!」

 

「行方不明じゃないわ。

生徒会には説明したはずよ。

ゲートを開くと。」

 

「ゲートを開く・・・ま、まさか最初から・・・!」

 

「ゲートは裏世界に繋がった。

東雲 アイラ、朱鷺坂 チトセ、如月 天・・・

そして生天目 つかさと新海 誠の5名は、裏の世界にいる。」

 

「な、なにを勝手なことを・・・!」

 

「4人がいればよほどのことがない限り危険はない。

天がいればよほどのことがない限り暴走はしない。

あの子は【魔法使いじゃない】から、魔法の限界をよく知っている。」

 

「・・・今からでも報告に来い!

許可を得なかったことについては追って・・・」

 

「だから後にして・・・今も情報が送られてきている。」

 

結希は聖奈の話を遮った。

 

「・・・情報?

どこからだ。」

 

「天からよ。」

 

その頃、噴水前。

鳴子がいた。

 

「良介君はクエストか・・・タイミングがよかったな。

彼が朱鷺坂君と裏に行かなくてよかった。

・・・しかし、思ったより早くゲートが開いたな。

僕が知っている話じゃ、少なくとも1ヶ月は先だったはずなのに・・・

やっぱり朱鷺坂君が来てから齟齬が大きくなっている。」

 

すると、鳴子はデバイスを取り出すと誰かに電話をかけ始めた。

 

「もしもし。

君かい?

【そっち】に生徒が5人、到着したか調べてもらってもいいかな。

1人は例の悪魔っ子だよ。

無理に接触しないよう気をつけてくれ・・・」

 

電話を切った瞬間、夏海がやってきた。

 

「うわっ・・・あれ?

部長もクエスト請けたんですか?」

 

「いや・・・もう僕はクエストを請けるつもりはないよ。

単位は足りてるし、他にやることが多いからね。」

 

「そうなんですかぁ・・・ちょっと寂しいなぁ・・・」

 

「そんなことを言ってられるのも今のうちだけだ。

部長になったらすぐ忙しくなるぞ。

今のうちに腕を磨いておくんだ。」

 

「わかってますよう・・・あ、待って待って!」

 

夏海はクエストに向かおうとする智花たちのところに走って行った。

鳴子はその後ろ姿を黙って見ていた。

 

「夏海、今度こそ僕は間に合ってみせるぞ。

運命は変わりつつあるんだ。

絶対に死なせやしない。

君のお父さんと約束したからね。」

 

鳴子はそう呟いた。

 

   ***

 

川の近く。

良介とゆかりが見回りをしていた。

 

「狼、数が多いね。

それになんだか統率された動き・・・

普通、このくらいの大きさの魔物は知能も低いはずだけど・・・」

 

「確かにそうですね。

まるで本当に群れで動く獣みたい・・・痛っ。」

 

良介は手の甲の部分を抑えていた。

殴った際に牙が当たり切れたようだ。

 

「あ、けがしたら見せて、なおすから。」

 

「え?

あ、いや、これぐらい大丈夫ですよ。」

 

「いいのいいの!

あなたが倒れちゃったら私もみんなを治療できなくなるもん。」

 

「あ、すいません。」

 

「回復魔法ってコスパ悪いのよ。

ケガの重さに比例するし。

使える人少ないから、一人の負担が大きいしね。

正直、あなたがこれから重宝されるのってそういう場面だと思うんだ。

偉い人たちがどう判断するかはわからないけど、特に現場ではね。

だから、私も頼りにしてるよ・・・」

 

ゆかりは話している最中に向こうを見て固まった。

 

「ん?

どうしました?」

 

「ちょ、ちょっと、あれ、なに?」

 

ゆかりが見ている方向を見ると、巨大な狼のような魔物がいた。

 

「・・・!

こっちに来る・・・!」

 

良介は身構えた。

魔物は突進してきた。

 

「ゆかりさん、失礼します!」

 

「へ?

きゃっ!?」

 

良介はゆかりの腰に手を回して抱き抱えると、横に飛んで突進を避けた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「う、うん・・・大丈夫・・・」

 

良介はゆかりに手で少し離れるよう指示を出す。

ゆかりが少し離れると再び魔物が向かって来た。

良介は剣を抜くと、刀身に火の魔法をかけた。

この頃、良介はいわゆる魔法名や技名などを考えるようになった。

というのも、他の生徒たちは皆必殺技や得意な魔法に名前をつけていた。

つけていないのは良介と誠ぐらいだった。

なので2人して名前を考えるようになり、技名や魔法名を付け始めた。

というか、その方が魔法や技を出す際、イメージしやすかった。

良介は考えた技を一つ使ってみることにした。

 

「・・・来い!」

 

向かってきた魔物が噛み付こうとしてきた。

それと同時に良介が魔物に斬りかかった。

 

「烈火刃!」

 

一瞬で良介は魔物の背後に移動すると、魔物の体に無数の火のついた傷口ができ、魔物は炎に包まれて消えた。

 

「ふぅ・・・やっぱ名前つけた方が魔法の出が早いな。」

 

良介は剣を鞘に収めるとゆかりの方を向いた。

 

「良介君、大丈夫?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。

見回り続けますか?」

 

「うん、もう少し続けようか。」

 

「わかりました。

それじゃ、行きましょう。」

 

良介とゆかりは再び見回りに向かった。



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第46話 帰還

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


学園の研究室。

ミナと結希がいた。

 

「・・・なにしてるんだ?」

 

ミナが結希に尋ねる。

 

「大気中の成分を分析しているの・・・霧の濃さ以外はこちらと変わらないわね。

もういいわ、帰ってきて。

今回はここまでにしておきましょう。」

 

「・・・誰と話してるんだ?」

 

「東雲 アイラ。

それよりあなたの目、また見えるようになったと言ったわね。

眼帯の下、見せてもらっていいかしら。」

 

「い、1年くらいなんでもなかったのだ。

それが急に・・・」

 

ミナは眼帯を外し、結希に見せた。

 

「いつから?」

 

「・・・秋くらい。」

 

「それまでは普通の視力だった。

間違いないわね?」

 

「・・・・・うん。」

 

「なにが見えて気づいたの?」

 

「ええと・・・大垣峰の方に、魔法陣と真っ黒なもやが・・・」

 

「それは他の人に見えてない?」

 

「・・・うん、見えてないみたい・・・」

 

結希は顎に手をやり、考え始めた。

 

「(大垣峰が特級危険区域だということは、一般生徒には伏せられている。

この前、卯衣が代表生徒に選ばれたから?

彼女が教えたのかしら。

いえ、あの子は規則を破らない・・・他の生徒からは更にありえない。

知らない者から見れば、少しずれた場所に大垣峰という町は存在している・・・

そうではない正しいところに魔法陣ともや・・・霧が見えたとなれば・・・

・・・再発・・・)」

 

結希はミナの方を見た。

 

「少し検査しましょう。

このバイザーを当てておいて。」

 

「う・・・こ、これかぁ・・・」

 

ミナは嫌そうな顔をしながらバイザーを受け取った。

 

「私は作業を続けてるから、なにか変なことがあったら呼んでちょうだい。」

 

結希は再び作業へと戻った。

 

「(・・・次から次へと変化が起こるわね・・・異常事態が・・・起きつつある?)」

 

結希は不安になりながら作業を再開した。

 

   ***

 

良介とゆかりは見回りを続けていた。

 

「・・・さっきの・・・狼たちのボス、だよね・・・霧から生まれたのは間違いないけど・・・

あいつが狼たちを統率しているの?」

 

「そのように見えましたね・・・」

 

「魔物が野生の獣みたいな動きをするなんて、あったっけ?

私、そんなに学校の授業真面目に聞いてるわけじゃないけどさ。

毒を持つ魔物がいないかとか、結構自分で調べるのよ。

でも・・・そんな知能を持つ魔物なんて・・・」

 

良介は少し考えた後、口を開いた。

 

「これは・・・増援を待ってる時間はなさそうですね。

ゆかりさんはケガ人の方に・・・」

 

「私の他にも回復魔法が使える子がいるから、ケガ人はその子に任せよう。

また襲撃してくる前に、私たちで倒すの!

こっちから行こう!」

 

「・・・わかりました。

それじゃ、行きましょうか。」

 

良介とゆかりは魔物のところに向かった。

少し進むと魔物を見つけた。

 

「・・・やっと見つけた

なにしてるんだろう。

大人しいね。」

 

「・・・こっちに気づいてないみたいですね。」

 

魔物は屈んだまま動こうとしない。

 

「今なら倒せるかもしれないよ・・・!

気づかれる前にっ!」

 

「了解です!」

 

良介とゆかりは魔物の方へと向かった。

魔物は2人に気付き、咄嗟に立ち上がり、仲間を呼び寄せた。

 

「チッ、仲間呼びやがったか!」

 

良介が舌打ちしながら雑魚に斬りかかる。

ゆかりが後方から魔法を撃ち、援護する。

すると、魔物のさらに後方から雑魚が来ていることに気付いた良介は一掃することにした。

 

「まとめて倒す!

風刃閃!」

 

良介は風の斬撃を雑魚目掛けて放った。

すると、魔物は雑魚の前に立ち、斬撃を防ごうとした。

 

「何!?」

 

良介はその状況に驚愕した。

しかし、魔物は斬撃を防げず、雑魚共々倒されてしまった。

良介は唖然としたまま立っていた。

 

「良介君・・・次、行こ?」

 

「え、あ、はい・・・」

 

良介はゆかりに言われて別の魔物がいる場所に向かった。

 

   ***

 

少し離れたところでももが怪我人を治療していた。

 

「ひぃ~っ・・・ほ、保健委員ってこんなに大変だったんだ・・・

椎名先輩も良介先輩も・・・すごい、あんなに走り回って・・・

・・・・・おに、あい・・・・・

ううん!

違うの!

そんなこと思ってない!」

 

すると、怪我人から文句を言われてしまった。

 

「ああっ!

す、すいません!

すぐに手当てしますね!

・・・あ、魔力が・・・

ちょっと待ってくださいね!

回復魔法が使えるようにしてくるので・・・!」

 

ももは少し走ったところでため息をついた。

 

「はぁ・・・どうしよう・・・」

 

別の場所ではシャルロット、あやせ、エミリアの3人がいた。

 

「ふぅ、こちらはある程度すみました。」

 

「こっちもだいたい終わりよ~。

すこし休めるわねぇ。」

 

「よかった・・・回復魔法でお役に立つことができました。」

 

「そういえばエミリアちゃん、回復魔法が使えるのよねぇ~。

どうして保健委員に・・・あ、留学生だからかしら。」

 

「そうですね。

留学生は委員会活動より文化を学べと言われてますから。

部活は自由なんですけどね。」

 

「まぁ、こういう時に使っていいなら、無駄にはならないわねぇ~。」

 

「羨ましいですね。

わたくしはあまり得意ではないので。」

 

「あはは・・・コツ、は人それぞれなんですけど、もし使えるようになったら・・・

概要をお伝えすることはできるので。

いつでもどうぞ。」

 

「お世話になります。」

 

すると、あやせはあることに気がついた。

 

「あら・・・ゆかりちゃんと良介さんの姿が見えないわねぇ。」

 

「本当ですね。

どこに行ったんだろう?」

 

「あらあら?

あらぁ~。」

 

あやせは周りを見渡した。

 

「どうしたんですか?」

 

エミリアはあやせに聞いた。

 

「まさか、クエスト中にないと信じていますよ。」

 

シャルロットの顔が真剣になった。

 

「やだぁ、冗談よ。

まだ国軍の援軍も来てないし、心配だわ。

少し探した方がいいかしら?」

 

「そうですね。

さすがに姿が見えないと心配ですからね。」

 

3人は2人を探すことにした。

その頃、良介とゆかりは魔物を探していた。

 

「あのさ・・・さっきの狼・・・子供を守ってたみたいだった・・・よね?」

 

「ええ、俺の攻撃を防ごうとしたように見えました。」

 

「ホントに魔物なのかな?

だって魔物にそんな感情はないって聞いてるし・・・

それとも新種なのかな・・・ううん。

考えちゃだめだよね、こんなこと。」

 

「魔物は魔物。

その脅威から守るのが俺たちの仕事。

多くの人は戦う力を持たない。

自分の持てる力で助ける。

それより嬉しいことはないですからね。」

 

「強制はしないけど、クエストをただの点数稼ぎとしか思ってない人も多いんだ。

独善的、なのはわかってる。

でも、私はただの突然変異で生まれたと思いたくないの。

魔法を授かって生まれてきた私たちには何か意味がある。」

 

「意味、ですか。」

 

良介はその言葉を聞いて少し考え込む。

 

「ごめん、シリアスになっちゃった。」

 

「いや、別に気にしてないですよ。」

 

すると、魔物が2人の目の前に現れた。

 

「見つけたよ。

倒さなきゃ!」

 

「ええ、行きましょうか!」

 

良介は刀身に土の魔法をかけ、地面に沿って斬撃を放った。

 

「疾空刀!」

 

しかし、魔物は斬撃を避け、良介に突進した。

 

「うおっ!」

 

良介はギリギリで避けることに成功した。

ゆかりが魔法で魔物に攻撃する。

と、良介は何かに気付いた。

奥から雑魚がやってきていた。

 

「クソッ、まだいやがったか!

なら・・・!」

 

良介は風の魔法を雑魚目掛けて撃った。

 

「ルストトルネード!」

 

すると、魔物が雑魚のところに向かい、良介の魔法を防ごうとした。

が、雑魚諸共そのまま消滅してしまった。

 

   ***

 

良介とゆかりは他に魔物がいないか確認していた。

 

「やっぱり、最後まで子供を守って・・・

しかも倒したら、子供たちも消えちゃった。

これって・・・」

 

良介とゆかりは魔法が当たっていないのに消滅した雑魚のことを考えていた。

 

「小さな魔物は、大きな魔物の一部だった、ってことでしょうね。」

 

「・・・やっぱりなんでもない。

考えないって言ったばかりだもんね。

ごめんね、なんか変な話しちゃって。

私たちはみんなの平和を守る。

これでいいんだよね。」

 

「ええ、それでいいと思います。」

 

「私にできるのは回復魔法くらいだから・・・

それを精一杯頑張るようにする。

今日はありがとね。

じゃあみんなのところに戻ろう?」

 

「はい、戻りましょうか。」

 

良介とゆかりは他の生徒たちのところに向かった。

同時刻、魔法使いの村。

アイラたちが戻ってきていた。

 

「ぷはぁっ!

戻ったぞ!」

 

「データをもらうわ。」

 

「ほいほい。

つまらん奴じゃの。

おかえりー、とってもしんぱいしてたのよーっ。

くらい言ってもバチはあたらんぞう。」

 

アイラはデータを結希に渡した。

 

「裏は予想以上だったようね。」

 

「・・・・・無視か。」

 

「フン。

ロクに探索もできなかったわよ。

次から次へとミスティックが・・・」

 

天が愚痴っていた。

 

「そうみたいね・・・でも相手のデータは取れたわ。

あれはブルイヤール・・・だと思うけど、見たことがない・・・」

 

「ブルイヤール。

原種だな?」

 

つかさが聞いてきた。

 

「ええ、通常の魔物がある程度モチーフを持って生まれるのに対し・・・

何ものでもない【霧の魔物】・・・それが原種、ブルイヤール。

現在確認されているのは3種。

トロワまで。」

 

「大垣峰にいたのはドゥだったかしら?」

 

今度はチトセが聞いてきた。

 

「ええ・・・ブルイヤールが確認されているのは全て特級危険区域。」

 

「つまり・・・少なくとも私たちが行った場所は、特級危険区域並ってことね。」

 

「けれど、大気分析の結果が少しおかしいわ。」

 

「霧が濃くなかった。

特級危険区域とは思えんぞ、ありゃ。

意味がわからん。

やっぱもう一度行くべきじゃな。」

 

「とはいえ、準備はすべきだわ。

向こうに世界があるとわかった・・・

指定でクエストを発注する。」

 

「指定でクエスト?」

 

チトセが首を傾げた。

 

「指定した生徒は必ず参加せにゃならんというクエストじゃ。

そうでもせんと・・・行きたがらん奴がおるでの?」

 

チトセはつかさの方を見た。

 

「なるほど。」

 

「ま、お主が考えとるんは遊佐じゃろ。

アイツは【行ったことがある】と・・・

そうゆーとったそうじゃないか。」

 

アイラは帰ろうとしたがあることに気がついた。

 

「む?

誠はどこいったんじゃ?」

 

アイラは見渡すと少し離れたところに誠がいた。

 

「誠、お主そこでなにを・・・」

 

アイラが近づこうとした瞬間、異変に気がついた。

誠の体から蒸気のように煙が出ていた。

 

「・・・誠?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・あ?

あ、アイラか。」

 

誠は明らかに辛そうにしていた。

 

「お主、どうした?」

 

「たぶん・・・魔神化の使いすぎだろ。

ずっと発動させてたからな。

一日休んだら・・・治るさ。」

 

誠は帰ってしまった。

 

「・・・誠、あやつ・・・」

 

アイラはその後ろ姿を見送った。

少し経って校門前。

良介たちが帰ってきていた。

 

「報告終わり!

お疲れ様だね。

良介君、ケガ、大丈夫?

痛くなくたって、ケガしてるとことが見えてないだけだったりするからね。」

 

「はい、わかりま・・・痛っ!」

 

良介は左手の甲を抑えた。

手からは出血していた。

 

「ひゃっ!

手、すりむいてるじゃない!

こんなのガマンしちゃダメだよ!

ほら、手当てしてあげるから!」

 

「あ、いや、そんな大げさな・・・」

 

ゆかりは良介の手を治療し始めた。

 

「もう・・・なんだか良介君とは手当したりされたり・・・

変な感じだね。

フフ。」

 

「・・・そうですね。」

 

良介は少し顔を赤くしながら返事した。

 

「はい、おしまい。

クエスト終わっちゃったから、回復魔法は我慢してね?」

 

「すみません、ありがとうございます。」

 

治療を終えたゆかりが何かに気付いた。

 

「なんだか学園が騒がしいわね?」

 

すると、聖奈がやってきた。

 

「椎名!

戻ったな!」

 

「結城さん?

そんなに慌ててどうしたの?」

 

「生徒会室に来い!

伝えることがある!」

 

聖奈は行ってしまった。

 

「ど、どうしたのかしら。」

 

「さぁ・・・」

 

良介とゆかりは生徒会室に向かった。

 

「もう1つの世界?」

 

ゆかりは虎千代の言葉に首を傾げた。

 

「ああ。

信じがたいと思うが、そういう場所がある。

東雲たちが行って、戻ってきた。

詳細は今、副会長がまとめている。」

 

「誰かケガしたの?

それならすぐに見せて。」

 

「いや、そういうのはなかった。

だが向こうに強力な魔物がいることがわかった。

だから次のクエストに、桃世を連れて参加してほしい。」

 

「つまり、私もその・・・もう1つの世界に?」

 

「ああ。

良介、お前もだ。

予想していたことだが、向こうは酷い。

ゲートは一定時間で閉じ、また向こうで魔法を使わなければならない。

ゲートを開ける東雲と朱鷺坂はどちらも向こう側に必要だ。

だから次の探索のときには考えられる学園の最大戦力を用意して臨む。

戦闘要員、バックアップ要員を合わせて、侵攻後最大のクエストになる。」

 

「侵攻後最大・・・ですか。」

 

良介はため息をついた。

 

「フフフ・・・すでに仕事はないと思っていたが、ここにきてこれだ。

死人を出すわけにはいかない。

協力してくれ。」

 

「了解です。」

 

「わ、わかったわ。

でも無茶は・・・」

 

「なにも向こうの魔物を全滅させようってワケじゃない。

あくまで偵察だ。

危険だと判断したらすぐに帰る。」

 

「武田さんには前科があるんだからね。

良介君も。」

 

「それを言われると痛い・・・予期できないことは多いからな。」

 

「あれは少しばかり仕方ないような・・・」

 

良介は呆れ笑いをした。

 

「まぁ、いいわよ。

なにかあった時のために私がいるんだし。

日程が決まったら教えてね。」

 

「ああ、頼む・・・良介。」

 

「どうしました?」

 

虎千代が良介の方を向いた。

 

「向こうは少なくとも・・・ここのような平和な所じゃない。

お前の魔力と七属性の魔法を頼りにしている。

便利屋のように使ってすまないと思うが・・・

補給も満足にできない場所だ

お前の力が絶対に必要だ。

頼む。

アタシたちを助けてくれ。」

 

「言われずとも協力しますよ。

なので、安心してください。

それでは、これで。」

 

良介は生徒会室を後にした。



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第47話 ゲートの向こう側

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
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生徒会室。

虎千代とつかさがいた。

 

「魔導書は他の世界への入り口だった。

・・・確かだな?」

 

「他の世界かは知らん。

見渡す限りの廃墟に移動したのは確かだ。

これから貴様らもすぐに見る。

自分で確認するといい。」

 

「【ゲート】。

そこから霧が入り込んできて人類を脅かしている。

まさか本当にそんなことがあるとはな。

まさか宇宙からの方が現実味がある。

特級危険区域の中心には全てゲートがあるのか?」

 

「そんなものは知らん。

だがあの場所が特級危険区域並に危険なのは間違いない。

原種どもがウヨウヨしていたからな。」

 

「ブルイヤールか。

あいつらは・・・また厄介だな。」

 

虎千代は時計を見た。

 

「む、そろそろだな。

アタシは出迎えに行く。」

 

「出迎え?

誰をだ。」

 

「国軍が到着する。

この前の礼だと言ってな、優秀な部隊をよこしてきた。

なんのことはない。

【あちら】の情報は国軍も必要としてるってことだ。」

 

虎千代は生徒会室から出て行った。

少し経ち魔法使いの村。

 

「よしっ!」

 

智花は気合を入れていた。

すると恋がやってきた。

 

「あれ?

恋ちゃん、今日はミナちゃんはいないの?」

 

「少し体調を崩しおってな。

土産話のために行くのよ。

ホントはヤツについておった方がいいんじゃが、行って来いと急かすでな。

わっちもちょうど絵のモチーフを探しておったところじゃからのう。」

 

「大丈夫?

一緒にいた方が安全かも。」

 

「自分の護り方くらい心得とるよ・・・じゃが・・・おお、ぱーてぃを組むのはいいな!」

 

「うん、普段は別々なことが多いけど、たまにはいいよね。」

 

同じ頃、別のパーティ。

 

「ひ、姫殿!

御再考くだされ!

聞けばゲートなる穴の先には奇怪な世界が広がっているとのこと。

如何な危険が待ち受けているかわからぬゆえ、まずは報せをお待ちくだされ!」

 

刀子が姫を説得していた。

 

「魔物の本拠とも聞いておりましたよ、刀子。

世界中のどの軍よりも先に、そこに向かい魔物の世界を見る・・・

野薔薇の責務はそこにあります。

この事件を静観など愚の骨頂。」

 

近くで黙って見ていた自由が話しかけてきた。

 

「えーと、行くってことでいいんすかね?」

 

「行かいでか!

この目で見ねば気がすみません。」

 

「姫殿が陣頭指揮をとる必要はありませぬ!

野薔薇は軍部の最高責任者!

卒業してからでもよろしゅうございましょう!」

 

「刀子。

あなたの言葉は私を思ってのことでしょうが・・・

それでは野薔薇ではありません。」

 

姫は一人で先に行ってしまった。

 

「ひ、姫殿っ!」

 

「まーまー刀子先輩。

今回はみんな強い人ばっかですし。

国軍の人がいるなら、野薔薇の長女はさりげなく守ってくれるっすよ。」

 

「な、なにを根拠にそんなことを!」

 

「お嬢のことは本家に報告する義務があるんで、自分から伝えておきました。

お嬢が拉致されてないってことは、本家の方で根回ししてるってことでしょ。」

 

「むむ・・・・・むぅ・・・・・」

 

「だいたい大丈夫でしょ。

いざとなったら刀子先輩が本気出せばいいし。」

 

「・・・・・?

拙者の本気とはなんだ?」

 

「あれっしょ?

【空気を斬る】とかそういう奥義っぽい奴・・・」

 

「なにを言ってるんだお主。」

 

「頑張って守りましょーね。」

 

自由と刀子は姫の後について行った。

少し離れたところに良介と誠がいた。

 

「誠、お前先に別世界に行ったんだよな?」

 

「ん、ああ、行ったが・・・どうかしたのか?」

 

「魔物はどうだった?」

 

「・・・正直に言う。

最初から全開で行ったほうがいい。」

 

「・・・それぐらい敵が強いってことか。」

 

「ああ、遭遇したら即効で第1封印の能力を解放したほうがいい。」

 

「なるほどね・・・誠はどうだったんだ?

魔神化使ってどれぐらいだったんだ?」

 

「え、あ、まぁ・・・そこそこかな。」

 

「そこそこ?」

 

誠の曖昧な返事に首を傾げる良介。

 

「まぁ、行ってみたらわかるよ。」

 

「・・・そうか。」

 

良介はゲートの方へと歩き始めた。

 

「(・・・別世界で魔神化を使った時に起きた【あれ】はなんだったんだ。

一体、俺の使っている【魔神化】ってどういう魔法なんだ。

ああなった以上、魔神化はただの肉体強化、魔法強化と判断しない方がいいな。)」

 

誠も良介の後について行った。

 

   ***

 

裏世界。

良介と鳴子がいた。

 

「ここが裏世界・・・か。」

 

「良介君。

前にも言った通り、僕はこの世界に来たことがある。

6歳のときだ。

僕は事故でここに来た。

霧の嵐は知ってるかい?」

 

「霧の嵐?

いえ、聞いたことはないです。」

 

「霧が竜巻のように突然発生し、巻き込まれた人は行方不明になる・・・

ようするにゲートがほんの短期間だけ開いていたんだね。

行方不明になった人は、そこを通って裏世界に・・・ほとんどは帰れない。

僕は運がよかった。

いろいろなことを知ることができたしね。」

 

「いろいろなこと・・・とは?」

 

良介は首を傾げた。

 

「例えばここ、おかしいと思わないかい?

【どこか別の世界】、【霧の魔物の世界】・・・なんでもいいんだけど・・・

このガレキは人工物だろ?」

 

「確かに・・・となると・・・」

 

「そう、こちらにも【人】がいる。

まだ秘密にしておいてくれ。」

 

「・・・わかりました。」

 

「僕は運よく助けられ、運よく霧の嵐に巻き込まれて帰ってきた。

だけど・・・ここは前と別の場所みたいだ。」

 

「どこかわかったりは?」

 

「どこかはわからないけど、どちらにしろ他の生徒は初めてだし。

まずは調べてまわろうじゃないか。

僕も探し物があるんだ。」

 

「わかりました。

それじゃ、行きましょうか。」

 

良介と鳴子は歩き回り始めた。

その頃、つかさは単独行動をしようとしていた。

 

「・・・こっちか。」

 

すると、虎千代がやってきた。

 

「待てつかさ。

今回ばかりは勝手に動かれては困るんだ。」

 

「・・・なぜだ?」

 

「こちら側は正式に認められていない。

お前が目の届かないところで・・・

動けなくなったりしたら、アタシたちに探す余地があるかわからない。」

 

「探す必要などない。

闘争に敗れ動けなくなったら、死ぬのが摂理だ。

それが本望でもある。」

 

「まだお前は学園の生徒だ。

アタシには止める義務がある。」

 

「ククク・・・都合のいいときだけ生徒会長になるな。」

 

「タイコンデロガまでなら心配はしてないさ。

だが・・・ここは魔物の本拠だ。」

 

つかさは黙って虎千代の方を見ていた。

 

「ムサシが出ないとも限らん。

1人では動くな。」

 

「なにかと思えば・・・ムサシが相手なら願ったりかなったりだ。」

 

「つかさ、アタシはお前との決着をまだつけていない。

いや、それ以上に・・・

お前と卒業したい。

こんなところで死なせはしないぞ。」

 

「ああ、まだどちらが上か、生死の境まで及んだことはなかったな。

・・・ハハハハ!

いいだろう!

私が生きて戻ったら・・・決着をつけるぞ!」

 

つかさは1人で行ってしまった。

 

「な、お、おい!

話を聞いていなかったのか!

くそっ!

つかさを失うわけにはいかん。

朱鷺坂!

良介!」

 

虎千代が呼ぶとチトセと良介がやってきた。

 

「はいはい。

あの子のお守りね?」

 

「様子は見てましたが・・・面倒なことになりましたね。」

 

良介は面倒くさそうに頭を掻いた。

 

「アイツが鯨沈を使おうとしたら止めろ。

いいな。」

 

「げいちん?

魔法のこと?」

 

「俺の第1封印の解放みたいなものですかね。」

 

「第1封印?

何よそれ。」

 

チトセは不思議そうに良介の方を見た。

 

「・・・後で説明します。

それよりも、会長。」

 

「ああ、特別な魔法というわけじゃない。

ただの肉体強化だ。

ただし重ねがけをする。

肉体の限界まで負荷をかける。」

 

「・・・なるほど。」

 

「そんなの、体がもたないじゃない。」

 

「目の前の相手を倒すためなら、アイツは命を捨てることも厭わない。

魔物を見つけたら殺さずにはいられないヤツだ。

ためらうこともないだろう。」

 

「わかったわ。

お馬鹿さんね。

魔物を全滅させるなら生きなきゃいけないのに。」

 

良介とチトセはつかさの後について行こうとした。

が、良介が何か思いついたように虎千代に話しかけ始めた。

 

「会長、誠の奴、連れて行っていいですか?」

 

「む、別に構わないが・・・なぜだ?」

 

「もしもの為ってやつです。

あいつも結構強いですからね。」

 

「そういえば、お前と共に第7次侵攻で魔物の大群と戦って生き残ったんだったな。

わかった、誠も連れて行け。」

 

「了解です。

誠、聞こえてるか?」

 

良介が呼ぶと誠がすぐに現れた。

 

「おう、事情は大体聞こえてたから話さなくてもわかる。

つかさのヤツについて行けばいいんだろ?」

 

「ああ、そうだ。

もしかしたら、第7次並みの魔物が現れてもおかしくないって考えたほうがいいかもしれない。」

 

「俺は先にこっちの世界に来てんだぞ。

言われなくてもわかってる。

それよりも早く行くぞ。

つかさの奴がもう戦っていてもおかしくないんだからな。」

 

「ああ、確かにそうだな。

それじゃ、行くか。」

 

良介と誠はつかさのところに向かい始めた。

 

「フフ、頼もしい2人ね。」

 

チトセは笑みを浮かべながら2人について行った。



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第48話 アナザーワールド

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


つかさと合流した良介たちは地下に来ていた。

 

「ふむ・・・地下か。

こんなところがあるとはな。」

 

チトセはつかさを見ていた。

 

「本当に強いわね。

この子・・・見くびってたわ・・・

ブルイヤールを肉体強化だけで倒すなんて意味わかんない。

まぁ、それよりも・・・」

 

チトセは良介たちの方を見た。

 

「ふーん・・・言うほど強くないな。

まだ第1封印解いてないんだけどな。」

 

「良介・・・お前また強くなってないか?」

 

「さぁ、どうだかね。

てか、お前もなんやかんやで魔神化せずにいるじゃねぇか。」

 

「ほとんどお前が倒すからな。」

 

チトセはため息をついた。

 

「剣も使わず、肉体強化も使わずに素手で倒すなんて・・・

一体どうなっているのかしら、彼。」

 

チトセは再びつかさの方を向き、話しかけた。

 

「それで、この地下になにかあると思うの?」

 

「なにかではなく魔物だ。

いる・・・息をひそめた強者が。

殺気までは隠せんようだな。

天敵がいないと油断しているな。」

 

それを聞いて誠は良介に聞いた。

 

「て言ってるけど、わかったか?

いることに。」

 

「なんとなくだが、気配みたいなものは感じるな。」

 

「よくわかるな。

俺はまったくわからんぞ。」

 

チトセは地下の先の方を見た。

 

「野生のカン、というべきかしらね?

まぁ、いいわ。

確かにいるわ。

それもこれまでに比べて遥かに強い魔物が・・・」

 

誠はそれを聞いて唖然とした。

 

「・・・あれ?

わからないの俺だけ?」

 

「しっかりしろよ誠・・・」

 

良介はため息をついた。

 

「まず間違いなくタイコンデロガね。

さすがにこれ以上は危険よ。

一度戻って、報告しましょう。」

 

チトセは帰ろうしたが、つかさは構わず進もうとした。

 

「勝手に行け。

私はこのまま進む。

貴様の命令に従う理由はない。」

 

つかさは止めようとするチトセを睨んだ。

だが、チトセは微笑んでいた。

 

「会長さんから無理をさせるなと言われてるの。

あくまで進むというなら力ずくでも止めるわよ。」

 

「ん?

やる気になったのか。

ならば・・・始めるか?」

 

黙って聞いていた良介が口を開いた。

 

「・・・ここで始めるつもりなら2人とも俺が止めなきゃならんな。」

 

「なんだ、貴様もやる気になったか?」

 

つかさが嬉しそうに笑った。

 

「良介君は下がってて。

ここは私が・・・」

 

「いや、俺がやる。

ここまでわからず屋なら徹底的にやらなきゃダメだからな。」

 

「うわ~、良介の奴、久々にイラついてやがる。

まぁ、ここまで我儘だったら当たり前か。」

 

誠は呆れた。

良介はつかさの前に立ち、つかさを見上げ睨みつけた。

 

「・・・いい殺気だ。

お前は中々楽しめそうだ。」

 

「・・・今に笑えなくしてやるよ。」

 

と、良介が何かに気付いた。

 

「ん?」

 

チトセが2人を止めに入った。

 

「待って・・・遅かったわね。」

 

「ククク、地下の深くから魔物がやってくる・・・

邪魔するなよ。」

 

つかさは笑みを浮かべた。

 

「1体じゃないわ。

さすがにそれは聞けないわね。

地上に出すわけにはいかない。

私も戦うわ。」

 

誠も前に出てきた。

 

「ここまで来て俺にもようやくわかったぜ!」

 

「かなりの数だな。

4人でも骨が折れそうだな。」

 

良介は剣を抜いた。

 

「不要だ!

私から離れないのなら見ているだけにしろ!」

 

つかさは1人で進もうとした。

が、チトセに止められた。

 

「そうはいかないわよ。

いくらなんでもあなた・・・

私たちを止めながら、この強さの魔物と戦うことができて?」

 

その頃、地上。

姫たちがいた。

姫が何かに気付いた。

続いて隣にいた刀子も何かに気付いた。

 

「む・・・今の音は・・・」

 

と、突然地面が崩落し、姫が下に落ちた。

 

「きゃあっ!?」

 

「な、なんだとっ!?」

 

その様子を自由が少し離れたところから見ていた。

 

「あ、お嬢が落ちた・・・

えっ!?

な、なんで!?」

 

自由はその場に走って向かった。

刀子が穴に向かって名前を呼んでいた。

 

「ひ、姫殿っ!」

 

「刀子先輩!

今のいったい・・・ゲッ。

なんすかこの穴。」

 

「なんということだ、崩落してしまった・・・姫殿が・・・

ぬ、ぬおおっ!

自由、人を呼んで来い!

拙者は行くぞっ!」

 

「ちょタンマ!

魔法使わずに飛び降りちゃダメでしょ!

自分、国軍の人と立華氏呼んで来るっすから!

ちゃんと肉体強化してから飛び降りるんですよ!」

 

自由は人を呼びに向かった。

 

   ***

 

少し前、地下。

良介たちが魔物と戦っていた。

 

「邪魔だぁっ!」

 

良介がゼロ距離から魔物に魔法を放ち、魔物は魔法の爆発に巻き込まれて消滅した。

と、その衝撃で天井の一部分が崩れ落ちた。

 

「む、崩落が起きたか。」

 

つかさが崩れ落ちたところを見た。

 

「気をつけて戦っていたつもりだけど、予想以上に地盤が脆いみたいね。」

 

「危ねー、崩れ落ちたか。」

 

崩落部分の近くにいた良介のところにチトセがやってきた。

 

「良介君、大丈夫?

怪我しなかった?」

 

「ああ、俺は大丈夫だ。

・・・ん?」

 

良介が何かに気付き、上を見上げた。

刀子が降ってきた。

 

「姫殿ーっ!」

 

「あら・・・あの子・・・」

 

刀子は着地すると、良介たちに聞いてきた。

 

「ハァ、ハァ・・・お、お主ら姫殿見なんだか!?」

 

「姫・・・野薔薇さんのこと?」

 

「姫がどうかしたのか?」

 

良介の表情が少し険しくなった。

 

「左様!

崩落に巻き込まれて落ちてしまわれた!」

 

つかさが崩落部分の方を見た。

 

「この先が岩と土砂でふさがった。

このあたりにいないなら向こう側だな。」

 

「なんだと!

い、今すぐっ!」

 

急いで向かおうとする刀子をつかさが止めた。

 

「待て、小娘・・・ククク、朱鷺坂といったか。

これでも止めるか?」

 

「私も行くわ。

野薔薇さん1人では、長くはもたないでしょう。

気絶してる可能性が高いわね。

瓦礫を魔法で吹き飛ばすのは得策じゃない。」

 

「なら、別の道から行くしかないか。

行くぞ!」

 

良介は脇道から回っていくことにした。

その頃、地上。

自由が卯衣を呼びに向かっていた。

 

「立華氏ーっ!

あ、あれ?

立華氏はどこっすか?」

 

卯衣はおらず、結希と天しかいなかった。

 

「調査に出してるわ・・・どうしたの?

急いでいるようだけど。」

 

「あ、あああのですねっ!

地面が突然崩れてお嬢が落ちて・・・」

 

「さっきの地響き、それ?」

 

天はため息をついた。

 

「たぶんそれっす!

刀子先輩が飛び降りて、引き上げるために立華氏が・・・

空飛べるじゃないっすか!」

 

結希は手元の時計を見た。

 

「崩落から5分も経ってないわね。

落ちた場所は見えた?」

 

「え?

い、いや、自分たちからは・・・」

 

「卯衣を呼び戻すには時間がかかるわ。

結構遠くに行かせてるから。

ここは南条さんにお願いしましょう。」

 

結希はデバイスを取り出した。

 

「な、南条?

あのお子様っすか?」

 

自由は唖然とした。

その頃、恋は智花と一緒に行動していた。

デバイスが鳴ったので取り出した。

 

「む、またミナ・・・ではない。

智花。

宍戸からじゃ。

ちと待っとってくれ。」

 

「うん、いいよ。」

 

恋はデバイスに出た。

 

「もしもし・・・ふむ。

ああ、さっきの・・・わかった。

わっちの魔法が役に立つのう。

ではすぐに行こう。」

 

恋はデバイスを消した。

 

「智花、さっきの崩落場所に行こうぞ。

野薔薇が巻き込まれた。」

 

「え、ええっ!?

野薔薇さんが!?」

 

2人は崩落場所に向かった。

 

   ***

 

崩落場所。

梓がいた。

 

「これはまた、とっても深いッスな・・・

しかしこんなとこに地下洞窟があったとは。

生天目先輩も野生のカンっすなぁ・・・

見たとこ良介先輩に誠先輩、生天目先輩と朱鷺坂先輩、支倉先輩・・・

自分が率先していかなくてもだいじょーぶだとは思いますが・・・」

 

梓のところに恋がやってきた。

 

「おおい、梓ーっ!」

 

「おや、ふくぶちょー。

この辺危ないッスよ。

避難した方が・・・」

 

「宍戸からのお達しでな。

わっちがここに階段を作る。」

 

「おおっ。

なるほど。

ナイスアイデア!」

 

遅れてやってきた智花がその会話聞いて首を傾げた。

 

「恋ちゃんの魔法?

階段を作る?」

 

「フフフ、まぁ下の者が戻ってきたら見ておれ。

わっちの魔法は特別製よ。」

 

その頃、地下。

良介たちは姫を探していた。

 

「姫殿ーっ!

どこにおられるかーっ!」

 

「おい、刀子!

あまり声出すな!

魔物が寄ってくるだろうが!」

 

良介が寄ってくる魔物を殴りながら刀子に注意した。

 

「はぁ、これだけ大声で騒がれると魔物がどんどん寄ってくるわね。

その分、彼女の元に向かう魔物が減るのはいいことだけれど・・・」

 

チトセはため息をついた。

 

「構わん。

もっと騒げ。

私も腕の振るいがいがある。」

 

つかさは嬉しそうに笑った。

 

「はぁ・・・結局こうなるのね。」

 

チトセは再びをため息をついた。

今度は良介の方を向いた。

 

「良介君、あなたは気をつけてね。

明かりをともしてるけど、影が多いから。

死角から突然、魔物が飛び出してくるかもしれないわよ。」

 

「ああ、わかってる。

まぁ、死角から来ても、誠が倒してくれるよ。

そうだろ、誠。」

 

良介は誠の方を向いた。

 

「ああ、良介が対応できない部分は俺が補う。

そのためについて来てるんだからな。」

 

「フフ、いいコンビね。」

 

チトセは静かに笑った。

その頃、地上。

梓が何かに気付いた。

 

「ん?

ちょっとここ、お願いしていいッスか?」

 

「あ、うん・・・どうしたの?」

 

「怪しいもの・・・あ、いやいや、お花摘みに。」

 

その場を智花に任せると気になったところに向かった。

 

「よいしょっ。」

 

梓は何かを拾った。

 

「えーと・・・えーと・・・なんじゃこりゃ。

と、とりあえず報告しなきゃ。

ええと、だ、誰にだっけ。

総領、じゃなかった、長官、でもない。

ぶちょーは来てない。

あっ、かいちょーッスわ!

いかんいかん、取り乱したッス。」

 

梓は恋たちの方を見た。

 

「ふくぶちょーたちは・・・ま、だいじょぶッスかね。

しからば、にんにん。」

 

梓は静かにその場から離れた。

その頃、地下。

良介たちは姫のところにたどり着いた。

 

「ひ、姫殿っ!

刀子が参りましたぞ!」

 

「う・・・・・うぅ・・・・・」

 

姫の足が岩に挟まっていた。

 

「いかん、足が岩に・・・くっ!」

 

岩をどけようとする刀子のところにチトセがやってきた。

 

「どいて・・・土砂に巻き込まれてこれなら運がいいわ。

死んじゃったらさすがに治せないものね。

生天目さん、岩、動かせる?」

 

「よかろう。

貴様が手当する間、私が魔物を近づけさせん。」

 

つかさは魔物と戦う気マンマンだった。

 

「っていって、戦えればそれでいいのよね・・・しかたないわ。

さすがにこれが終わったら戻るから。

あなたもいっしょよ。」

 

「ふん、好きにしろ。」

 

「それじゃ、岩をどけるか。

離れててくれるか?」

 

良介は肉体強化をかけると岩を軽々と持ち上げ、放り投げた。

 

「よし、これでいいな。」

 

「さあ、良介君。

野薔薇さんの足はすぐに治療しないと危ない。

支倉さん、あなたは見ない方がいいわ。

無いとは思うけど・・・

魔物が生天目さんと誠くんを抜けてこないか、見張っててちょうだい。」

 

「し、しかし姫殿をこのままにしては・・・!」

 

「あなた、回復魔法使える?」

 

「・・・むぐ・・・」

 

「治療中は戦う余裕もない。

あなたが頼りなの。

それに彼女のケガを見て、卒倒でもされたら運ぶ荷物が増えるから。」

 

「あ、あいわかった・・・助けて下され・・・」

 

「大丈夫よ。

命に別状はないし、ケガも治るわ。

彼の魔力があるからね。」

 

チトセは良介の方を見た。

 

「そういうことだ。

刀子、自分のすることに集中してろ。」

 

良介たちは治療を始めた。

その頃、つかさと誠は魔物と戦っていた。

 

「ぐはっ!

つ、強ぇ・・・!」

 

「足手まといだ!

失せろ!」

 

魔物の攻撃を受け、膝をつく誠に魔物と戦うつかさ。

 

「ふざけんな!

この数、お前1人で倒せるわけないだろ!」

 

2人の前には尋常ではない数の魔物が押し寄せてきていた。

 

「ふん、私にとってはちょうどいいぐらいだ。

そこで見ていろ!」

 

「ぐっ・・・くそっ!」

 

誠は弓を直し、双剣を取り出し魔神化を使おうとした。

が、以前裏世界で起きた自分の異変を思い出し、そのまま止まってしまった。

 

「うっ・・・!」

 

「何をしている!

前を見ろ!」

 

誠は気がつくと目の前に魔物が来ていた。

誠は攻撃を受け、吹き飛ばされた。

 

「がはっ!」

 

「バカが!

敵を目の前にして立ち尽くす者がいるか!」

 

つかさは魔物と戦っていたが少しずつ押され始めていた。

 

「(マズイ、このままじゃつかさの奴が鯨沈を・・・!)」

 

誠は意を決して立ち上がり魔神化を使うことにした。

 

「おおおおおおっ!」

 

と、突然誠の紫のオーラに混じり、紫の電撃が迸り始めた。

 

「ぐっ、ぐうううっ!?」

 

誠は胸の辺りを抑え、膝をついた。

明らかに苦しそうにしていた。

 

「何をしている!」

 

つかさが戦いながら声をかけてきた。

誠はつかさの方を見ながら立ち上がる。

 

「ぐ、クソっ・・・はぁ、はぁ・・・」

 

誠は苦しそうにしながら魔物に斬りかかった。

 

「おおおっ!」

 

一撃で魔物を倒したが、後方の壁が崩壊するほどの斬撃が飛び出た。

 

「ほう、中々やるではないか。」

 

つかさは笑みを浮かべたが、誠が苦しんでいるのに気付いた。

 

「・・・力が制御できてないのか?」

 

「ぐぅ・・・いい・・・加減にしろよ・・・この野郎・・・!」

 

誠は歯ぎしりしながら双剣を強く握った。

 

「俺の・・・言うことを・・・聞きやがれっ!」

 

誠は飛びかかって来た魔物を双剣の柄で殴り飛ばすと、強く目を瞑った。

 

「はぁあああっ!」

 

誠の体から無数の紫の電撃が迸り、突然誠のオーラの色が変わった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ようやく・・・俺のものになったか。」

 

誠は自分の手を見て笑みを浮かべた。

オーラの色は紫から赤紫に変わっていた。

同時に誠の目も赤紫に光っていた。

 

「・・・よし、行くぞ!」

 

誠は魔物に向かっていった。

つかさはその姿を見て笑った。

 

「クハハハ、また強くなったか、新海 誠!

それでこそ私の獲物の1人だ!」

 

つかさも魔物に向かっていった。

 

   ***

 

その頃、地上。

梓が虎千代のところに来ていた。

 

「それで・・・見つけたものはなんだ?」

 

「えーと、イタズラでもなんでもないってことをですね・・・」

 

「そんときは蜂の巣にしてやっから心配すんな。」

 

虎千代の隣にいたメアリーが笑みを浮かべながら話してきた。

 

「えぇ・・・ま、まぁ、とりあえず状況から報告しますと・・・

生天目先輩たちが地下の洞窟で派手にやらかしたじゃないッスか。」

 

「あれはやはりつかさたちだったのか・・・」

 

虎千代は呆れた。

 

「それで瓦礫が崩れたんで、試しに見に行ってみたら・・・これが・・・」

 

梓は拾ったものを虎千代に渡した。

 

「な、なんだこれは・・・!」

 

虎千代は驚愕した。

メアリーも隣からそれを見た。

 

「私立グリモワール魔法学園・・・

おい、どーゆーことだよこれは。」

 

それには魔法学園の名前が刻まれていた。

 

「ええと・・・その、自分でもよくわからなくて・・・」

 

「バカな・・・ここが風飛市だというのか?」

 

「その、そうッスね。

そういうことになります。

・・・なにが起きてるんでしょ?」

 

「・・・くそ、遊佐のところに行くぞ。」

 

虎千代は鳴子のところに向かった。

その頃、結希と天。

こちらも驚愕していた。

 

「なによこれ、ここ・・・地球じゃない・・・」

 

「冬の大三角形が見えるわ。

それを構成するオリオン座、おおいぬ座、こいぬ座・・・

気候、大気の成分、植物、そして・・・これが空中から撮影した写真。」

 

結希は写真を取り出す。

 

「風飛・・・随分変わってるけど、山や川の位置が同じ・・・ね・・・」

 

「詳しく調べないとわからないけど・・・

ここは正しく、裏側だったのよ。」

 

「未知の世界でもなんでもない。

ここは地球で、日本で、風飛・・・

けれどグリモアも風飛も、魔物に滅ぼされている・・・この一帯は全て・・・

どういうことなのよ!」

 

その頃、鳴子は地上に出てきたつかさのところにやってきた。

 

「お疲れ様、生天目君。

君が満足できるような相手はいたかな?」

 

「多少は体がほぐれた程度だ。

あの男に獲物をほとんど奪われた。」

 

つかさは親指で誠を指差した。

 

「ああ、そうみたいだね・・・でも君たちが派手に暴れてくれたおかげで・・・

ホラ、生徒会長と宍戸君がこっちに来ているよ。」

 

虎千代と結希が鳴子のところにやってきた。

 

「遊佐!

なぜ何も言わなかった!」

 

「ゲートの先にもう1つ風飛があるって言ったところで、信じたかい?

いや、君が信じたとしても取り巻きはどうだい?

国軍は?

説得に時間をかけるほど暇じゃないんでね。

どうせ・・・いつかわかることだ。

自分で気づけた分、感動もひとしおだろ?」

 

鳴子は笑みを浮かべた。

 

「少なくとも、お前をこんなに自由に動かしはしなかった。

なにか探すと言っていたな。

そのために黙っていたのか?」

 

「予想通り、見つからなかったけどね。

運が悪かった。」

 

「今はそれはいい。

お前がかつて訪れた裏世界とは、ここのことか?」

 

「【もう一つの地球】。

その通りだ。

僕は事故でここに来た。

霧の嵐に呑みこまれたショックで魔法使いに覚醒・・・

ここである人に拾われて、しばらく魔法使いとしての訓練を受けた。

なにせ、もう表に帰れる保証はなかったからね。」

 

「それは人間なんだな?」

 

「もちろん。

こちらには【僕たちと同じ】人間がいる。

ただし、魔物の侵攻を防げず、表よりもずっと数を減らし・・・

細々と生きるしかない、哀れな敗北者たちだ。」

 

その頃、恋は魔法で階段を作っていた。

 

「す、すごい・・・階段ができちゃった・・・」

 

智花は唖然としていた。

 

「ふぅ・・・いまじねーしょんを形にできるのがわっちの魔法じゃよ。

絵さえ描けば、たいていのものは召喚できる。

といっても原理は他の魔法と同じでな。

魔力を物質に変換しとるだけじゃ。

じゃから穴の底とつなぐ大きさの怪談はそれ相応の魔力を使うし・・・

他の魔法と同じく、短期間で霧散してしまう・・・むぅ・・・」

 

恋はその場に倒れてしまった。

 

「あっ!

れ、恋ちゃん!」

 

ちょうど階段から良介たちが出てきた。

 

「はぁ・・・しんどかった。

ん、あれ、恋?」

 

「ふぅ・・・あら、良介君、出番よ。

魔力切れなら回復してあげればすぐ治るわ。

ついでに私が運ぼうかしら?」

 

「いや、俺が運ぶよ。」

 

良介は恋に魔力を送った。

続いて刀子と姫が出てきた。

 

「姫殿、あと少しでござる・・・」

 

すると、自由がやってきた。

 

「刀子先輩!

うわっ!

お、お嬢大丈夫っすか!?」

 

「ああ、朱鷺坂殿と良介・・・あと生天目殿と誠のおかげで助かった。」

 

「な、生天目先輩?

なんでまたそんな・・・あ、椎名先輩待機してるっすよ!」

 

「ありがたい。

では行こう。」

 

刀子は姫を担いでゆかりのところに向かった。

 

「はぁ・・・死ぬかと思った・・・」

 

自由は大きく息を吐いた。

その頃、鳴子と虎千代が話をしていた。

 

「その、お前が世話になった相手と連絡は取れるか?」

 

「残念ながらデバイスが通じなかったね。

【運が悪かった】よ。」

 

「では少なくとも、その人間はまだ生きているわけだな。」

 

「ああ、生きていると思う・・・僕も会いたかった。」

 

「クソッ!

わかった、撤収の時間だ!

帰ったら詳しく聞かせてもらうぞ。」

 

「いいよ。

僕に不都合でない範囲ならなんでも話そう。」

 

「撤収だ!

魔物に気をつけて、順次ゲートをくぐれ!」

 

虎千代は他の生徒に呼びかけた。

 

「アタシたちは来月で卒業だ。

どうするんだ?」

 

「さぁ・・・留年でもしようかな。」

 

鳴子は笑みを浮かべた。

良介と誠は話をしながらゲートに向かっていた。

 

「で、誠。

新しい力に目覚めたって?」

 

「ああ、名付けて、【魔神化第2形態】ってところだな。

なにが原因で強くなったか不明だが。」

 

「以前、裏世界に来てから魔神化がおかしくなり、そして今回暴走しかけた力を制御し、パワーアップか。」

 

「ああ、一体なぜ暴走しかけたのか、未だに不明だけどな。」

 

「・・・霧が関係してんじゃねえのか?」

 

「霧が?

なんでだ?」

 

「結構霧が濃かったじゃないか、さっきの地下。

それにこの世界自体も自分たちの世界に比べたら少し濃く感じる。」

 

誠は少し考えた。

 

「そういや、魔神化が使えるようになったのも第7次侵攻で霧がかなり濃い場所にいてからだったな。

霧が深く関係してるかもな。」

 

「まぁ、帰ってからゆっくり考えよう。

それじゃ、帰るぞ。」

 

良介はゲートをくぐった。

誠もそれに続いた。



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第3部 花は散り
第49話 花に囲まれて


※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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3月上旬。

学園生は課外授業で汐浜ファンタジーランドに来ていた。

その中、紗妃は他の生徒の格好に困惑していた。

 

「・・・・・・?????」

 

「どしたの?」

 

純が紗妃のところにやってきた。

 

「ど、どうしてみなさん私服なのですか?」

 

「え・・・どいしてって、氷川さんこそなんで制服なのさ・・・」

 

「な、なぜって、今日は学園の課外授業なのですよ!?

確かに遊びにきたのは違いありませんが、先生も言ってたでしょう!」

 

「やだなー、あんなの口だけ口だけ。

誰も守るなんて思ってないよ。

そもそも先生たち来てないんだし、自由に遊んで来いってことでしょ。」

 

「な、なんですって・・・!

そ、そんな態度ではグリモアの・・・」

 

「制服着てないんだからグリモアの生徒かどうかもわからないじゃん。

氷川さんも着替えてくれば?

あたし一度汐浜ファンガールやったことあるし・・・

服、みてあげるよ?」

 

「あ・・・け、結構です!

他の生徒がどうであれ!

風紀委員の私は規律正しく行動しなければ!」

 

「遊びに来たときくらい気にしなくてもいいのに・・・

そんじゃ、気が変わったらもあっとしてね。

氷川さんカワイイから、服、絶対選ばせてよ。」

 

「で、ですから!」

 

「まーまー。

そんじゃ後でね。

ばーい。」

 

純は行ってしまった。

 

「な、なんということでしょう!」

 

その頃、焔は一人で行動していた。

 

「クソッ!

なにが課外訓練だ、エレンのヤロウ!」

 

焔は一人で愚痴を言っていた。

 

「なんか変だと思ったんだ・・・

あいつめ、なんだかんだ理由つけてサボりやがって・・・!」

 

焔は少し黙って考え始めた。

 

「チッ。

帰るか。」

 

焔は帰ろうとしたが、姫が話しかけてきた。

 

「来栖さん。

あなたは魔法使い失格ですよ。」

 

「あぁ?」

 

「強い魔法使いを目指すなら・・・

訓練のときは訓練に集中!

そうでないときは訓練のことは考えない!

そうやってオンとオフをハッキリと区別せねばならないのです。

いいですか、私は幼いころから野薔薇としてふさわしくなるよう教育を・・・」

 

焔は黙ってその場から去っていった。

姫は気づかず話し続けていた。

 

「ですから野薔薇は魔法使いの家系ではありませんが、方針はあなたにも・・・

聞けばあなたはいつも1人でいらっしゃる様子、これを機にぜひとも・・・あら?」

 

ようやく焔がいなくなっていることに気がついた。

良介は誠と共にいた。

 

「汐ファンか。

俺は来るのは初めてだな。」

 

良介は周りを見渡した。

2人とも私服で来ていた。

 

「俺は小学生の時に一度来たな。

10年近く前だったかな。」

 

「一度来たことあるならオススメのアトラクション教えてくれよ。

一緒に回っていこうぜ。」

 

「ああ、いいぜ。

それじゃ、まずジェットコースターに乗るか!」

 

「よし、行こうぜ!」

 

良介と誠はジェットコースター乗り場に向かった。

 

   ***

 

焔は出入り口の近くに来ていた。

 

「はぁ・・・タイミング逃しちまった。

さっさと出入り口から離れろよな。」

 

出入り口には大量の客が並んでいた。

 

「だから嫌いなんだよ、団体行動なんて・・・」

 

焔が一人で愚痴を言っていると、汐浜のマスコットのハートがやってきた。

 

「あ?

なんだよ、なんか用か。」

 

「邪魔。」

 

ハートは焔を押しのけた。

 

「うぉっ!?」

 

ハートは黙って向こうを見つめていた。

 

「て、てめぇ、瑠璃川・・・」

 

焔は誰が入っているのか気付いた。

 

「そ、そこまでして妹見張るのかよ・・・一緒にいりゃいいじゃねぇか・・・」

 

「今日、あたしは来てないから。」

 

「ワケわかんねぇよ・・・」

 

その頃、良介と誠はコーヒーカップの近くにいた。

2人して屈んでいた。

 

「うおおぉぉ・・・気持ち悪いぃ・・・・」

 

誠は胸を抑えながらそのまま倒れた。

 

「ううぅぅ・・・このバカ野郎・・・やめろって言ってんのに回しまくりやがって・・・

あぁ・・・クラクラする・・・」

 

良介はなんとか近くのベンチに座った。

さっきまで2人でコーヒーカップに乗っていたのだが、誠が調子にのってハンドルを回しまくった結果、カップはコマのように回転し、そして現在に至る。

 

「と、とりあえずここで少し休憩にしよう・・・」

 

誠も這いずりながらベンチに向かう。

 

「ああ・・・ふぅ、少しマシになったな。

ジュース買ってくる。

なんでもいいよな?」

 

「・・・任せた。」

 

良介はジュースを買いに行き、誠はベンチに寄りかかるように座った。

少し経って、焔は一人で歩いていた。

 

「なんだよ、どいつもこいつも間抜けなツラしやがって。

いつ魔物が襲ってくるかわからねーのに、なんでこんな緩みきってんだ・・・」

 

焔は黙って周りを見渡した。

 

「つまんねーな・・・」

 

焔は黙って歩き始めた。

 

「ん?」

 

すると、姫たちが走ってやってきた。

 

「あっ!

そこにいるのは来栖さん!」

 

「ゲッ!

ま、まだなにかあんのかよ!」

 

「御免あそばせ!

今は野薔薇最大の戦いの最中なのです!

残念ですがお茶はまたのお機会としましょう!」

 

姫は走り去っていった。

刀子もそれに続いて行った。

 

「御免!」

 

少し遅れていた自由は焔と当たりそうになった。

 

「ひぇっ!」

 

自由はギリギリで避けた。

なぜか自由は戦闘服姿になっていた。

 

「び、びっくりしたー・・・なんでこんなところに来栖さんが・・・」

 

すると、焔が自由に話しかけてきた。

 

「おい。」

 

「ぎくぅ!

く、来栖さんじゃないっすかぁ!

ごごご機嫌麗しゅう!」

 

「さっきのはなんだ?」

 

「え?」

 

「野薔薇最大の戦いってなんだって聞いてんだよ。」

 

「え?

え?

あ、別にあれはそーゆー意味ではなくて・・・」

 

「退屈してんだ。

あの野薔薇がやけにテンション高いじゃねーか。

軍事の野薔薇が戦いって言ったらそーゆー意味だろ。

おい、連れてけ。」

 

「ええ・・・あ、あの、戦いなんかじゃないっすよ?

ホントに・・・」

 

焔は自由を睨みつけた。

と、姫が自由を呼び始めた。

 

「自由ーっ!

なにをしているのですか!

今日こそあのにっくき仇敵に・・・」

 

「あ、お、お嬢!

そんな言い方しちゃったら誤解が・・・」

 

「おい。」

 

「ひっ・・・も、もーどーなっても知らねっすよ!」

 

焔は姫たちについて行った。

 

   ***

 

少し経って、良介たちは迷路の前に来ていた。

 

「誠、次はここに入るのか?」

 

「おう、この迷路は小学生の時は入ってないから道順とか俺は知らないからな。」

 

「まぁ、こういうのは勘で進んだ方が割と行けたりするもんだ。

行こうぜ。」

 

2人は迷路の中に入っていった。

その頃、出口に姫と刀子がいた。

 

「自由が遅いので先に入ってしまいましたが・・・

出てきませんね。」

 

「入る直前、誰かに捕まっていたように見えました。」

 

2人は自由を待っていた。

 

「ふむ・・・せっかくこれまでで最高のタイムを出したというのに・・・

自由が中で迷ってしまったら、予定が狂ってしまいますね。」

 

「まだ時間はございますゆえ。

待ちましょう。」

 

同時刻、自由と焔は迷路の中にいた。

 

「マジでこの迷路のことなのか?」

 

「だーかーら、最初から違うってゆってたじゃないっすかぁ。

汐ファンは自分らにとっては思い入れのあるとこでして。

特にこの迷路に全アトラクション制覇の妨害されたんで。」

 

「バカらしい。」

 

「だーかーら最初からゆってたでしょ。

もう、せっかちさんなんすね。」

 

「うるせえ、黙ってろ。」

 

「なんすかなんすか。

こっちは強引についてこられてるんすよ?

文句ぐらい言っていいじゃないすか。」

 

「・・・クソッ。」

 

少し経って、良介と誠。

 

「お、また2つに分かれてるぞ。」

 

良介は分かれ道を見つけた。

 

「うーん・・・多分右だろ。」

 

誠が進もうとしたが、良介は進まず誠に話しかけた。

 

「・・・なぁ、ずっと言おうと思ってたんだが・・・」

 

「ん、どうした?」

 

「同じところ回ってないか?」

 

「・・・気のせいだろ。」

 

誠は進み始め、良介はそれについていった。

すると、また分かれ道が出てきた。

 

「これは右・・・」

 

「よし、左行こう。」

 

良介は誠を無視して左に向かった。

 

「おい、勝手に進むなよ。」

 

「はっきり言ってやる。

ずっと同じところ回ってるんだよ。

しかも、お前はずっと右ばっかり選んでる。

いい加減気づけよ。」

 

「まぁまぁ、気のせいだって。

ここは俺に任せて・・・」

 

「コーヒーカップもそうだが、お前に任せているとロクな目に合わねえ。

迷路ぐらいは俺に任せてくれないか。

このままだと終わりまでここを彷徨うことになりだからな。」

 

「・・・わかった。

ただし、少しでも同じところ回ってると思ったら諦めてくれよ?」

 

「ああ、わかった。

それじゃ、俺についてこい。」

 

良介は左を選択し進み始めた。

その頃、姫と刀子はまだ待っていた。

 

「遅いですね。

迷っているのでしょうか。」

 

「あやつめ、昨晩あれだけ豪語しておいて・・・」

 

「少し賭けになりますが、もう1度入って自由を探しましょう。」

 

「し、しかしすぐに出てくるやもしれませんぞ。」

 

「あなたはここで待っていなさい。

中は私のほうが詳しいので。」

 

「で、ですが拙者は姫殿から離れるわけには・・・!」

 

「遊園地の迷路に危険などありません。

デバイスで連絡を取りましょう。」

 

「しかし!」

 

「しかしもなにもないでしょう。

たまには私を信じてくださいな。」

 

姫は迷路へと向かった。

その頃、自由と焔は開けた場所にやってきた。

 

「おや、ここは・・・」

 

「学園のバラ園じゃねーか・・・」

 

「迷路の中の休憩場所っす。

ここからリタイアすることもできます。

バラの安息所、でしたっけ?」

 

すると、姫が別の道からやってきた。

 

「そうです。

私の好きな場所です。

バラ園はここを参考にしました。」

 

「おおっ!?

お、お嬢、なんでここに・・・」

 

「遅かったので探しに来たのです。

まあ、来栖さん。」

 

焔は黙って姫のほうを見た。

 

「ごきげんよう。

どうして自由と?」

 

「あ、それがっすね。

ちょっとした勘違いで。」

 

「バラだから好きなのか?」

 

焔は自由を無視して姫に聞いた。

 

「いいえ。

それだけではありません。

私と自由と刀子。

その思い出の地だからです。」

 

焔は黙って聞いていた。

 

「えーと、自分ら、野薔薇の本家と分家の関係でですね。

最初は結構ぎくしゃくしてたんですよ。

4歳くらいでしたっけ。

で、始めてここにきて迷路に入って・・・1時間ぐらい迷っちゃいまして。

3人して泣いちゃったんですよね。

一生出られないんだって。

ま、それからっすな。

今みたいになったのは。

いい思い出です。」

 

「誰も昔話なんか聞いてねぇや。」

 

「そうすか。

サーセンした。」

 

「では出ましょうか。

来栖さんもどうぞ。」

 

「いらねえ。

ここでひと休みしていくよ。」

 

「そうですか?

それではいざというときのために道順をお伝えしておきますわ。

もあっとのフレンド登録しておきますね。」

 

「勝手にしろよ。」

 

姫はデバイスを取り出し、もあっとのフレンド登録をした。

 

「ではごきげんよう。

よろしければ、また。」

 

「うーす。」

 

姫と自由は迷路の出口へ向かった。

 

「思い出の場所、か・・・ん?」

 

すると、良介と誠がやってきた。

 

「ほら見ろ、違うところに出たじゃねえか。

だから言っただろ。

お前に任せたらロクな目に合わないって。」

 

「俺が途中でこっちじゃねえかって言ったおかげだろ。」

 

「全部はずれてたじゃねえか。

少しでもお前を信じた俺がバカだったよ。」

 

良介と誠は言い合いをしていた。

 

「・・・なにやってんだよ。」

 

焔は2人を見て呆れた。



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第50話 帰るまでが

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



紗妃は一人で見回りをしていた。

 

「違反者は・・・いませんね。」

 

すると、純がやってきた。

 

「おっす氷川さん。

まーだ風紀委員してるの?」

 

「ああ・・・鳴海さん。

もちろん、私は風紀委員ですから。」

 

「まま、そんなカタいこと言わないで。」

 

純は紗妃に近づこうとする。

 

「え、あ、あの・・・なにを・・・」

 

「実はプレゼントがあるんだー。」

 

「な、なぜそんなに近寄る必要が・・・」

 

「だってつけてあげないとね。

手渡すだけじゃつけないでしょ?」

 

「つ、つける?

なにを・・・」

 

純はなにか取り出すと、紗妃の髪に取り付け始めた。

 

「ちょ、ちょっと鳴海さん!

いったい何を・・・!」

 

   ***

 

紗妃は純から離れ、走っていると、沙那と会った。

 

「おや、氷川さんではありませんか。

そんなに急いでどちらへ?」

 

「い、いえ、特に目的があるわけでは・・・」

 

「かわいらしいシュシュですね。

よくお似合いですよ。」

 

「あっ・・・こ、これは自分で着けたわけでなく・・・

す、すぐに取らなければ!」

 

紗妃はシュシュを外そうとした。

 

「そんなに乱暴にしては御髪が乱れてしまいます。

お任せ下さい。」

 

沙那は紗妃に近づいた。

 

「ひゃっ!?

・・・あ、す、すいません・・・」

 

「いえ、それでは少し、じっとしててくださいね。」

 

すこし経って、沙那は紗妃のシュシュを外さず綺麗に留めた。

 

「あの、これは一体・・・」

 

「しっかり留めておきましたから、もう大丈夫です。」

 

「えっ!?

ち、ちがっ・・・私は外そうと・・・!」

 

「校則違反ではないでしょう?」

 

「確かにそうですがっ!」

 

「お綺麗ですよ。

羨ましいです。」

 

「そ、そうではなく・・・」

 

「申し訳ありませんが、私は初音様をお探ししなければなりません。

ごきげんよう。」

 

沙那は去っていった。

 

「あっ!

つ、月宮さん!」

 

紗妃は沙那の後を追いかけようとした。

 

   ***

 

紗妃は一人で歩いていた。

 

「な、なんだか落ち着かない・・・みんなに見られてる気がする。

私のようなものがこんな可愛らしいシュシュなど似合わないというのに・・・

ああ、やはり返した方が・・・で、ですが一度着けてしまったら・・・」

 

紗妃が右往左往しているとすぐ近くに絢香がやってきた。

 

「(ああ、やっぱり困ってる・・・)」

 

すると、絢香は紗妃に話しかけた。

 

「氷川さん。」

 

「はっ!

す、皇さん!

ちょうどよかった!

あ、あの私はどうしたらよいでしょうか!

理由もなくこんなものをいただいて、しかも私には到底・・・」

 

「似合ってるよ?」

 

「えっ・・・あ、あの、そうではなくて・・・」

 

「ゴメンね。

純ちゃん強引だから・・・

でもイタズラなんかじゃなくて、純ちゃん、15分くらいかけて選んだから。

1番似合うものをって。

制服だとちょっと浮いちゃうかもだけどね。

帰ったら1度、私服と合わせてみて?

絶対気に入ってもらえるはずだから。」

 

「え・・・ええと・・・はあ・・・」

 

「あっ。

ほら、今見つかったら着せ替え人形にされちゃうから・・・

純ちゃんがこっちに来る前に、行った方がいいかも。」

 

「あ、わ、わかりました。

そ、それでは・・・」

 

「うん、また後でね。」

 

紗妃が離れると純がやってきた。

 

「あれ?

誰かと話してたの?」

 

「え?

あ、ううん。

少し景色を眺めてただけ。」

 

「ふーん・・・なんだ。

じゃあもっといいとこあるよ。

ちょっと高い所。

あそこ、見える?」

 

「うーん・・・あそこ?」

 

絢香は純が指差した方を見た。

 

「そうそう、そろそろ夕焼け近くなるし、夜は園内のネオンが綺麗なの。

10分かからないし、行ってみよ?」

 

「うん。

じゃあ行ってみよっかな。

あ、途中でアイス買っていい?」

 

すると、純が不安そうな顔をした。

 

「だ、大丈夫だよ、今日は歩き続けてるから!」

 

「ふうん?

ま、いいんじゃない?」

 

純は先に歩いて行った。

 

「あ、ちょっとなにそれ!

待ってよ~っ!」

 

絢香は純の後を追いかけていった。

その頃、紗妃は一人で歩いていた。

 

「選んでくれたんですね・・・

本当に似合ってるのかしら・・・?」

 

   ***

 

生徒たちは帰る時間になったのでバスの前に集まっていた。

 

「帰るまでが課外授業ですっ!

さあみなさん!

きりきりと整列してください!

だらけているとその分帰るのが遅くなりますよ!」

 

紗妃が生徒に指示を出していると、純がやってきた。

 

「おおー、ずっとつけてくれてたんだ。

よかった。」

 

「あ、いえっ!

そ、それは・・・」

 

「普段使いにはちょっと派手だけど、余所行きの時は可愛いからヨロシクね。」

 

「あっ、あの・・・わかりましたから、整列してください!」

 

良介と誠も戻ってきた。

 

「おい、誠。

迷路だけで時間半分以上食ったじゃねえか。」

 

「そんなの俺に言われても知らねえよ。」

 

紗妃が2人のところにやってきた。

 

「さあ、早く整列してください!」

 

「へいへい、わかりましたよ。」

 

誠がため息をつきながら整列した。

 

「はぁ・・・ん?」

 

良介は紗妃の髪のシュシュに気がついた。

 

「ん?

良介さん、どうかしましたか?」

 

「そのシュシュ、似合ってるよ。」

 

「え・・・!」

 

紗妃の顔が赤くなった。

 

「は、早く整列してください!」

 

「わかったよ。」

 

良介は整列した後、バスに乗り込んだ。

紗妃は学園に着くまで、終始顔が赤くなったままだった。



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第51話 マリオネットの棺

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



ある日の教室。

良介と誠はクエストの話をしていた。

 

「古い洋館?」

 

良介は首を傾げた。

 

「ああ、汐浜の丘の上に建っているらしい。

昔、有名な人形収集家が住んでたとか。」

 

「へえ・・・それで、その収集家どうしたんだ?」

 

「ある日、突然気が狂って死んだらしい。

不思議なことに死体から人形の手足が出てきたらしい。」

 

「それが今回のクエストの場所か。

ちなみに、その話本当か?」

 

「さあ、わからん。

千佳の奴から聞いただけだから。

案外、ただの都市伝説なのかもな。」

 

「まぁ、クエストが出てる時点で魔物の仕業だと考えた方がいいな。」

 

良介はため息をついた。

 

「それで、誠。

クエスト請けるのか?」

 

「もちろん、良介も行くだろ?」

 

「当たり前だ。

それじゃ、申請しに行くか。」

 

良介と誠はクエストを請けることにした。

 

   ***

 

洋館の中、ゆかりと聖奈がいた。

 

「もー、どこ行っちゃったのよう音無さん・・・」

 

「フン、普段威勢がいい割には逃げ足は速いのだな。

戦場では常に冷静でいられるようにしてほしいものだが・・・」

 

ゆかりが何かに気付いた。

 

「あっ、あれ良介くんじゃない?

なんだあっち側にいたのね。」

 

ゆかりが良介のところに向かう。

 

「おーいっ!

良介くーん!

神凪さん、ありすちゃんも!」

 

「ん?

ゆかりさんと聖奈か。」

 

良介は2人に気付いた。

 

「2人とも、会えてよかった。」

 

怜は2人を見て安心した。

 

「すまん。

音無が先行してしまったから、追おうとしたのだが・・・」

 

「すごい悲鳴あげて奥へ走ってちゃったのよ。

怖いの苦手だったのね。

シャルロットさんと誠くんが追っかけてくれたんだけど、見失っちゃって。」

 

「この洋館、結構入り組んでいるみたいだな。」

 

良介が辺りを見渡した。

 

「まあ広いと言っても洋館の中だ。

すぐ会えるさ。

音無はともかく、あのシスターと誠がいれば心配はいらないだろう。」

 

「そうなの?

シャルロットさん、いつも優しくて、おっとりした感じだけど・・・」

 

「ヴィアンネ教司会は魔物退治の先駆け。

そこから派遣された【使徒】だ。

彼女らは魔物を神の敵であるとしてえ、絶対に容赦はしない。

性格がどうあれ使徒である以上、あのシスターも例外ではないだろう。」

 

「へえ・・・すごいのねえ。

歓談部でおせんべ食べて勧誘してるイメージしか・・・」

 

すると、ゆかりがあることに気付いた。

 

「あれ?

良介くんは?」

 

「奴ならたった今、私の後ろを歩いていたはずだが。」

 

「そこのドアに入ったりしたのかな?」

 

「いや、なにも物音は・・・椎名?

神凪と楠木はどうした。」

 

聖奈は怜とありすもいなくなっていることに気付いた。

 

「え?

あれ・・・いない、なんで・・・?」

 

「これは・・・単独行動にならんよう気をつけろ。

私の側から離れるなよ。」

 

聖奈とゆかりはできるだけ引っ付きながら奥へと進んだ。

 

   ***

 

良介と怜とありすの3人は周りを気にしながら歩いていた。

 

「ありす、足元に気をつけろよ。

もしもだったら手貸そうか?」

 

ありすは不安そうな顔をしていた。

 

「・・・ゆかりさんと聖奈のことが心配なのか?」

 

「気にすんなぃ。

あいつらだって強いんだ。

大丈夫さね。」

 

「そうだな。

2人ともしっかりしている。

わかっているじゃないか楠木。」

 

怜は人形に話しかける。

 

「いやオレっちはありすじゃねーよ?」

 

「ああ、なんだったか、名前があるのだったな。」

 

「おうさ!

【狂った姫様】と書いて、クレイジープリンセスと読む!

姫様でもクレプリでも好きなように呼・・・んぁっ!?」

 

突然ありすは走り出した。

 

「ありす、その人形は・・・」

 

良介も後を追いかけた。

 

「心配ないさね。

もうこのマリオネットは動かねえ。」

 

「ぅ・・・」

 

ありすは悲しそうな顔をした。

 

「だが相手は魔物だ。

動かないからといって不用意に近寄るな。」

 

怜がありすに注意した。

 

「神凪よう、あんまりありすを叱らねえでやってくれ。

ただでさえ人形達が無残な姿になってハートが傷ついてるんさ。」

 

クレプリが怜に話しかけた。

 

「む・・・楠木は人形が好きなのだったな。

しかしこの館のは・・・愛らしいとはいいがたいが・・・」

 

怜は人形を見つめた。

 

「ありすにとっちゃみんな可愛いお友達さね。

なあありす。

こいつらは霧で操られてるだけなんだよな?」

 

「ぅん・・・かわ・・・ぃ、そ・・・」

 

ありすは悲しそうな目で人形を見つめる。

 

「けど手を抜けばこっちがやられる。」

 

良介は人形に背を向けた。

 

「でも・・・ぁ・・・!!」

 

ありすが何かに気付き、走り始めた。

 

「あっ!

おいっ、そっちは強そうなのが・・・

ダメ!

ダメだってありす!

良介、ありすを止めてくれぇ!」

 

ありすはクレプリを振り切って走っていってしまった。

 

「はぐれたらまずい!

行くぞ、怜!」

 

「ああ!」

 

良介と怜もその後を追いかけた。

 

   ***

 

ありすは敵の人形に魔法をかけ、動かし始めた。

 

「ぅご・・・ぃ・・・た・・・

いぃ、子。」

 

ありすは人形を見て安心した。

 

「凄いな、敵の人形も操れるのか?」

 

良介がありすに質問する。

 

「正確には物を動かす魔法さね。

ありすは特に人形を操るのが得意ってわけさ。」

 

質問にクレプリが答えた。

 

「ぅ。

で、でも・・・た、くさん・・・は・・・」

 

「10体ぐらいいけるよな?

良介が手伝ってくれれば多分もっといける。」

 

「もしかして館中の人形を全て操るつもりか?」

 

今度は怜が聞いてきた。

 

「全部はさすがに無理さね。

バラバラに壊れているやつらもいるし。

物を動かす魔法に加えて、霧の魔物からイニシアチブを奪うわけだからな。

霧だけドバーッと払えりゃいいんだがね・・・うまい方法がないもんか。」

 

「なるほど・・・ありす、無理はするなよ。

怪我したら元も子もないからな。

今はなるべく霧を払うことを優先するんだ。」

 

良介の言葉を聞いてありすは哀しそうな表情になった。

 

「良介のいう通りさね、ありす。

あいつらを救いたいのはわかる。

オレっちだってそうさ。

だが1人でどうにかしようとすんな。

霧の魔物はエグいぞ。

油断したらすぐ殺されちまう。」

 

「でも・・・ほ・・・っとけ、な・・・」

 

「だーっもう、わからず屋さね!

良介、なんとか言ってやってくれよ!

 

「なんとかと言われてもな・・・」

 

良介が考え始めると怜がありすに話しかけた。

 

「楠木、私からの提案だ。

襲ってくるマリオネット以外は極力壊さないようにする。」

 

ありすは怜の言葉に驚いた。

 

「だが、お前の身に危険が及ぶようなら倒す。

その上でお前が救えそうな奴がいたら一緒に助けよう。

良介もそれでいいか?」

 

「まぁ、ありすがOKなら俺はそれでいいけど。」

 

「は・・・ぃ!」

 

ありすは嬉しそうに返事をした。

 

「よし、では約束だ。」

 

すると、怜は良介の方を向いた。

 

「良介、少しいいか?」

 

「ん?

どうした怜。」

 

怜と良介は少しありすから離れた。

 

「くれいじー・・・なんだったか。

楠木の人形だが。」

 

「ああ、クレイジープリンセスね。

それがどうかしたか?」

 

「あれは腹話術で動かしているのではないのか?

自分を制したり、文句を言ったり、とてもそうは思えないのだが・・・

あの人形は一体なんなんだ?

お前は知っているのか?」

 

良介は少し沈黙した後、口を開いた。

 

「わからん。

少なくとも腹話術らしきものでしゃべっているとは思えない。

人形自体に人格があるとしか・・・」

 

「そうか・・・」

 

少ししたあと、怜はありすのところに向かい始めた。

 

「これ以上話していると変な疑いをかけられそうだ。

戻ろう。」

 

「ああ、そうだな。」

 

良介と怜はありすのところも向かった。



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第52話 おやすみなさい

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



洋館の中、律は人形に追いかけられていた。

 

「ぎゃあああああ!!

いやだああああああ来ないでええええぇぇ!!

うわああああぁぁああああぁぁああああ!!」

 

律が悲鳴をあげると、人形が次々と破壊された。

 

「うおっ!?

すごい声だな。

これが律の魔法か。」

 

誠は両耳をふさいだ。

 

「これは使用を禁止されていても仕方がありませんわね。」

 

「ぎゃああああやだやだやだこわいいいいいぃぃいいいい!!」

 

シャルロットが律に話しかけに行った。

 

「音無さん、音無さん!

お気を確かに!」

 

「だ、だってこわいんだもっ・・・口が、口がパカっって・・・うえぇ・・・」

 

「ただの人形じゃねえか。

ほら、木で出来た・・・」

 

誠が人形の頭を持って、律に近づいた。

 

「ひゃあぁっ!

やだやだ見せんな!!

近づけんなぁあ!!」

 

律は咄嗟に離れた。

 

「うぅ、気軽にクエスト代わるんじゃなかった・・・千佳のバカぁ・・・!

もうやだ・・・こっから出たいよぉ・・・たすけて・・・」

 

「恐れることはありません。

神が御加護をくださいますわ。

ね?」

 

「神でも仏でもなんでもいいから・・・ひっ!?」

 

律がシャルロットの後ろを見て、固まった。

 

「う、うし・・・」

 

「うし?」

 

「うしろ!

うしろーっ!」

 

シャルロットが後ろを見ると人形がいた。

 

「あら。

気配を消していたのですね、やはり悪魔の子は姑息ですわ。

神の名の元、退けましょう。

我らの領域を侵す悪しき霊に裁きを!」

 

シャルロットが魔法を放つと人形はバラバラになった。

 

「まぁ・・・中身までよくできていること。

そうして人を惑わせるのですね。」

 

「うえぇ・・・ぐ、ぐろいぃ・・・!!」

 

「結構残酷なやり方に見えるなぁ。

・・・ん?」

 

誠は自分の横を見るといつに間にか人形がいた。

 

「いつの間にいたんだよ。

まったく・・・」

 

誠は拳銃を取り出すと、人形の額を撃ち貫いた。

 

「あら?

誠さんの武器は弓だと聞いていましたが?」

 

シャルロットが誠の武器を見て、聞いてきた。

 

「第7次侵攻以降になってから、一気にガタが来ちまってな。

だから新しい武器に変えてみたんだ。

今は二丁拳銃さ。

魔力を弾に変えて撃つ魔導銃のな。」

 

「なるほど、そうだったんですか。

・・・おや?」

 

シャルロットが前を向くと、さらに人形がやってきていた。

 

「いかに人の形を真似ようと、神の許しは得られません。

己の浅はかさを悔いながら、哀れな木偶と共に滅しなさい!!」

 

シャルロットは次々と人形を破壊していった。

だが、それでも人形は出てきていた。

 

「さてと、俺も少し暴れるかな。」

 

誠は二丁拳銃を構えると、人形に話しかけた。

 

「さて、どこから撃ち抜かれたい?

今ならリクエストに答えてやるぞ?」

 

人形は誠に襲いかかったが、その前に誠は額に銃口を押し付けた。

 

「・・・時間切れだ。」

 

誠は人形を撃ち抜き、その後方にいた人形たちも次々と撃ち抜いていった。

 

「ひっ・・・ひぃぃ・・・!!」

 

シャルロットと誠はその場にいた全ての人形を破壊して律のところに戻ってきた。

 

「音無さん、もう大丈夫ですよ。」

 

「ひゃああぁ!」

 

律は近づいてきたシャルロットから離れようとする。

 

「ふふふ・・・悪魔は滅しました・・・当然の報いです・・・」

 

「律、怪我はないか?」

 

誠が銃を直しながら律に近づく。

 

「あわわわ・・・だ、だだだいじょうぶ、で、ございます、です・・・!」

 

律は2人を見て怯えていた。

 

「どうしました、音無さん。

わたくしの顔になにか?」

 

「(まぁ、今の状況を見て怯えない方がおかしいか。)」

 

誠は呆れたように笑った。

 

   ***

 

良介たちは洋館を進んでいた。

 

「楠木。

魔力は足りているか?

辛くなったらすぐに良介に言え。」

 

怜がありすに話しかけた。

 

「ぃ・・・じょぶ、ぇす。」

 

「うん?」

 

怜がありすの返事に首を傾げた。

 

「大丈夫だとさ。

声が小せえからな、ありすは。」

 

代わりにクレプリが答えてくれた。

 

「め、なさ・・・」

 

「気にするな。

私も話すのは得意ではない。」

 

「でもよかったなぁありす、病弱な頃はこんなに動けなかったのに。」

 

「体が弱かったのか?」

 

「そうさね・・・昔はずっと部屋に引きこもりがちだったなぁ。

だからありすはあんまり人と話すのが得意じゃないんさ。

友達も・・・」

 

「もだち・・・た・・・から・・・」

 

「そうさね。

オレっちや他の人形やぬいぐるみが友達だった。」

 

「なるほど、楠木には大切な友達が沢山いるのだな。」

 

「・・・・・!」

 

ありすは怜になにか言い始めた。

 

「んな、ぎ・・・さ・・・の、っ・・・ぁた、し・・・」

 

「なんだ、ゆっくりでいいぞ。」

 

「たす、け・・・たい、です。

おに・・・ぎょ・・・ん、みん、な・・・」

 

「ああ。

私にできることは最善を尽くそう。」

 

「はぃ・・・!」

 

良介は2人の会話を聞いて、笑みを浮かべた。

 

「(俺もできる限り最善を尽くすか。)」

 

   ***

 

良介たちは洋館を進んでいると、ゆかりと聖奈と合流した。

 

「椎名、結城!」

 

「わあぁやっと会えた~!

よかった・・・!」

 

ゆかりは胸を撫で下ろした。

 

「音無さんとシャルロットさんと誠君には会ってないみたいね。」

 

「部屋を片っ端から調べたがいなかった。

結構な数、調べたんだがなぁ・・・まだ続いてんのか?」

 

良介が廊下の奥の方を見た。

 

「それなんだけどね。

私たちもおかしいなって思って実験してみたのよ。

柱に印をつけておいて先に進んだら、またその印があったの!」

 

「ということは・・・」

 

良介は聖奈の方を見た。

 

「なんらかの魔法でこの館の空間が歪められている、もしくは・・・」

 

「霧か。」

 

怜が答えた。

 

「そう。

建物ごと霧が憑りついて魔物になっているケースだ。」

 

「珍しいけどそういうこともあるみたいね。

授業で習ったでしょ?

で、その場合は大規模な魔法で一斉に霧を払わないといけないんだけど・・・」

 

ゆかりは怜の方を見た。

 

「む・・・私は魔法より剣が得意だからな・・・」

 

「わたしも回復魔法は得意なんだけど・・・あ、結城さんて背中に羽があるよね。

卯衣ちゃんみたいに羽から魔力出して、どばーって払えないの?」

 

「私の得意魔法は光の槍だ。

あの羽は自由に出すことはできない。」

 

「え、そうなんだ。

じゃあありすちゃんは・・・」

 

「ありすはオレっちみたいのが得意だぜ!」

 

クレプリが代わりに答えた。

 

「おぉ・・・り、良介君は・・・」

 

「結構な数の魔法は使えるけど・・・大規模魔法が使えるかはやってみないと・・・」

 

「あ、あはは・・・どーしよっか?」

 

ゆかりは呆れ笑いをした。

 

   ***

 

少しして、誠たちもやってきた。

 

「良介様!

みなさまもご無事で!」

 

「ぐぅぅ、ぐずっ・・・もーやだ・・・がえるぅ・・・」

 

「わ、音無さん声ガラガラじゃない。

大丈夫?」

 

「叫びすぎだ・・・づらい・・・」

 

「ずっと叫んでたからな・・・」

 

誠は呆れ笑いをした。

 

「音無、まさか自分の声で戦ったのか?

あの魔法は範囲を限定するのが難しいから禁止されていたはずだろう。」

 

「だっでぇ!

じょーがないじゃんか、死ぬかと思っだんだから!」

 

「まさかあそこまで周囲に影響する魔法だとは思いませんでしたわ。

あれだけ無差別ですと禁止されても仕方がありませんね。

おかげでわたくしも耳が・・・うふふふ。」

 

「ひぐぅ・・・ごべんだざい・・・」

 

すると、ありすが何か思いついた。

 

「お、どうしたありす?」

 

クレプリがありすの方を向いた。

 

「そうか音を使う魔法だったら・・・おい良介!

出番さね!」

 

「え、俺の出番?」

 

良介はクレプリの話を聞いた。

少しして、良介は律に魔力を渡した。

 

「うっひょおぉー!

すっげぇ魔力!

良介お前すげーな!?」

 

「もう戻ったのか。

早いな。」

 

誠が律の声が戻ったのに驚いていた。

 

「良介、限界まで注ぎ込め。

館全体の霧を払わねばならんからな。」

 

「わかった、ギリギリまで注ぐぞ。」

 

良介は聖奈に言われた通りに魔力を注ぎ続ける。

 

「音無、魔物相手に遠慮はいらん、思いっきり叫べ。

椎名、誠、準備は?」

 

「う、これでいいのかな・・・防壁とか普段張らないから自信ないよ・・・」

 

「俺の防壁も張ってるから大丈夫ですよ。」

 

良介は自分で防壁を張っていた。

 

「んじゃいっくぞー!

すーっ・・・」

 

「おっと、全員耳ふさげ!」

 

クレプリが言うと、全員耳をふさいだ。

律の大声が洋館に響き渡った。

 

   ***

 

霧が晴れた洋館に良介とありすがいた。

 

「よかったな。

キレーに霧が晴れた。

大したもんだ、律ちゃんは。

音響兵器っていうのか?

建物も人形もヒビが入ったくらいで済んだし。」

 

クレプリは感心していた。

ありすは悲しそうに人形たちを見つめていた。

 

「ありす、そろそろ出よう。

みんな外に出たからな。」

 

良介がありすに話しかけた。

 

「も、ちょっと・・・だけ・・・」

 

「1体くらい連れてきゃいいのに。

オレっちは嫉妬なんかしないぜ。」

 

「だめ・・・」

 

「まあなぁ。

どうせご主人様の館にいたいんだっつーんだろー?

しょーがないさね。

オレっちだってありすの側がいいもんよ。」

 

良介は目を瞑りながらありすに話しかけた。

 

「行こう、ありす。

あまり長くいても、お別れが辛くなるだけだ。」

 

「ん。」

 

良介に促されてありすは出口へと向かった。

出口の前で、ありすは再び人形の方を向いた。

 

「みんな・・・おやすみなさい・・・」

 

ありすは笑顔でそういうと良介と共に館から出た



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第53話 部活ロワイヤル

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



良介は自分の部屋のベッドの上で座っていた。

 

「・・・今日で会長たちがいなくなる・・・か。」

 

良介はため息をついた。

 

「そして、今年は智花たちが卒業か・・・」

 

良介は時計を見た。

日付が変わろうとしていた。

 

「もうこんな時間か。

寝るか。」

 

良介は寝る準備をしようとした。

ちょうど時計の針が12時を指した。

 

「・・・っ!?」

 

その瞬間、一瞬空間が歪んだ様に見えた。

 

「今のは・・・気のせい、か?」

 

良介は周りを見渡す。

特に変わったところはない。

 

「・・・寝るか。

たぶん疲れてるんだろ。」

 

良介はベッドに入り眠りについた。

翌日、校門前に兎ノ助とミナがいた。

 

「いやー、今日から年度初めだな。

心機一転、真面目にやらなきゃな。」

 

「心機一転・・・ククク、確かに心機一転は重要だな・・・」

 

「お前、意味わかってねーだろ。」

 

すると、虎千代がやってきた。

 

「おはよう。

朝早くから元気だな。」

 

「・・・あれ?」

 

ミナは不思議そうな目で虎千代を見た。

 

「おー虎千代。

アレだな、お前もついに来年卒業だな。」

 

「ああ。

まあ、会長職の激務から解放されるのは少し嬉しいかもしれん。」

 

「バカ、会長職より国連軍の兵卒の方が忙しいって多分。」

 

「かもな。

まあ、できることをやるだけだ。

じゃあ始業式の準備があるから、アタシは行くぞ。」

 

「おう、頑張れよ。」

 

虎千代は先に学校内に入っていった。

ミナはそれを見て困惑していた。

 

「た、武田 虎千代が・・・あれ?

なんで?」

 

「どした?」

 

「ど、どうしたじゃないっ!

ヤツは昨日で卒業したじゃないかっ!

なんで平然と登校しているんだ!」

 

兎ノ助は不思議そうな顔をしていた。

 

「卒業?

誰が?」

 

「武田 虎千代が!

あと生天目 つかさと雪白 ましろと遊佐 鳴子・・・」

 

「おいおい、エイプリルフールにしたって下手なウソだぞ。

そいつらの卒業は今年度・・・つまり来年の3月じゃんよ。」

 

「ななな・・・はあ?」

 

2人が話していると良介と怜がやってきた。

 

「おはよう、兎ノ助に風槍。」

 

「おはよう、兎ノ助、ミナ。」

 

「おはよう、怜に良介。

お前たちも心機一転だぞ!」

 

「あっ!

怜、神の巫女!

さっき虎千代が登校してきて・・・」

 

「ん?

どういうことだ?」

 

「あいつら昨日で卒業だったろ!

それなのに兎ノ助が来年とか言ってて・・・」

 

「なんだって?」

 

怜が不思議そうな顔をした。

 

「エイプリルフールだ、エイプリルフール。」

 

「にしたって、本人が登校してきてるのはおかしいじゃないか!」

 

「風槍・・・もしかしたらただの計算違いかもしれないぞ。

会長達の卒業年度は今年度のはずだ。

今年で6年目だからな。」

 

「れ、怜まで・・・

うぅ・・・ぅ・・・」

 

ミナは頭を抱えながら学校内に入っていった。

 

「風槍はどうしたんだ?

嘘にしては・・・うろたえ方が普通じゃないぞ。」

 

「うーん、確かにちょっと簡単にあしらいすぎたかも。

でも虎千代たちが卒業したって、意味わかんねぇだろ?」

 

「ふむ・・・確かに、妙な物言いだな。

私の方で調べてみるか。」

 

「え?

別に風紀委員が働くようなことじゃないだろ?

フフフ、私は夏以来、風槍とは友達なんだよ。」

 

怜は笑みを浮かべながら学校内に入っていった。

 

「確かに、あんなウソ言って喜ぶヤツじゃないしなぁ・・・」

 

と、兎ノ助が良介の方を向いた。

 

「お、良介。

ちょっとミナの様子見てくれないか?

なんか様子がおかしいんだ。

虎千代たちが昨日卒業したって・・・」

 

良介は驚いたような顔をしていた。

 

「え?

な、なんだよその顔・・・」

 

「会長たちが・・・学校にいるのか?」

 

「やめろよな、ハハハ・・・いるいる、いるよ。

だって卒業してねえし。

今年度だよ、あいつらの卒業は・・・」

 

「今年度・・・?

でも確か昨日・・・」

 

良介は困惑していた。

 

「だからなんだよその顔。」

 

「・・・すまん、なんでもない。

ところで、ミナの様子を見に行きゃいいんだな。

わかった。」

 

良介は学校内に入っていった。

 

「どうしたんだ、良介まで・・・」

 

兎ノ助は不思議そうな顔をしていた。

良介は顔に手をやり考えていた。

 

「(どういうことだ・・・確かに昨日会長たちは卒業したはず・・・

なのに、今日、登校してきている・・・どうなっているんだ?)」

 

良介は学校の校舎の方を見た。

 

「俺とミナがおかしいのか・・・それとも・・・」

 

良介は色々考えながら教室に向かった。

 

   ***

 

数日がすぎたある日。

校門前に良介と誠と兎ノ助がいた。

 

「いやー、今年もこの時期だなー。」

 

「部活の仮入部か。

良介、お前どこに行くんだ?」

 

「適当だけど、恐らくお前と一緒になるんじゃねえか?」

 

「かもしれねえな。」

 

誠は楽しそうに笑った。

兎ノ助は2人の会話を見ていた。

 

「今年も面白くなりそうだ。

俺は見物してるからがんばれよ。」

 

兎ノ助は2人に話しかけた。

 

「ああ、それじゃ行くか。」

 

「おう。」

 

良介と誠は部活を見に行った。

噴水前、ゆえ子がいた。

 

「ゆえの占い、なんと百発五十中。

御代金はいただきません。

・・・危ない勧誘もいたしません。

・・・オカルト研究部にどうぞ。」

 

すると、そこに良介と誠がやってきた。

 

「お前やる気なさすぎだろ。」

 

良介は呆れていた。

 

「・・・危ない勧誘もいたしません。」

 

「勧誘してるじゃねえか。」

 

誠はツッコミを入れた。

 

「お二人はここで何を?」

 

「まだ何処に入るか決まってなくてうろついてるんだよ。

誠がここもいいあそこもいいって迷っててよ。」

 

良介は誠を親指で指差し呆れていた。

 

「いやあ、正直どこでもいいんだけどよ。

どの部活見ても楽しそうだから・・・」

 

「それなら、オカルト研究部でお二人と占いができたら楽しそうです。」

 

「・・・一応聞くが、オカルト研究部の部員は何人だ?」

 

良介は勧誘してきたゆえ子に尋ねた。

 

「15人です。」

 

「それが、あの狭い部屋にいるのか?」

 

誠は部室がある校舎の方を見た。

 

「はい。

みなさん人見知りなので、勧誘が苦手のようです。」

 

「勧誘の必要ねえじゃねえか。」

 

良介は呆れてため息をついた。

 

   ***

 

良介と誠はグラウンドに来ていた。

 

「・・・ん?」

 

良介はグラウンドにましろとノエルがいることに気付いた。

 

「・・・誠、ちょっと待っててくれるか?」

 

「ん?

ああ、わかった。」

 

良介は2人のところに向かった。

 

「おや?」

 

ましろとノエルが良介に気付いた。

 

「お兄さん?

お兄さんも仮入部するの?」

 

「いや、ましろさんに用があってな・・・」

 

「わたくしですか?

光栄です。

なんでしょうか。」

 

「・・・あんた、国軍に採用されたんじゃないのか?」

 

「・・・?

まだ国軍の採用試験は始まってませんよ。

年明けからです。

それより・・・わたくしが国軍志望であることはいつお話しました?」

 

「・・・いや、悪い、他の人と間違えたみたいだ。

なんでもない。

今聞いたことは忘れてくれ。」

 

良介は2人のところから立ち去った。

 

「お兄さん?」

 

ノエルは不思議そうに良介の後ろ姿を見ていた。

 

「わたくしが国軍に採用された・・・?」

 

ましろは首を傾げていた。

良介は誠のところに戻ってきた。

 

「何を話してたんだ?」

 

「・・・ちょっとした世間話だよ。」

 

「(まあ、実を言うと聞いてたんだがな。

良介も今起きてる現状を把握してるみたいだな。)」

 

良介と誠は再び歩き始めた。

少しして再び噴水前に戻ってきた。

望がなぜか浮き輪を持って立っていた。

 

「あっ!

良介!

いいトコに来た!

よな・・・よなみねってヤツ知らないか!?」

 

「与那嶺・・・里奈がどうしたんだ?」

 

良介は不思議そうな顔で望を見た。

 

「アイツからもあっとで水泳部の勧誘来たんだけど顔わからないんだ!」

 

「ははあ、なるほど。

ところで、なんで水泳部に?」

 

「え?

あ、ま、まぁボク、もたまに泳いで見てもいいかなって思ってさ!

疲れたらすぐ帰るし、頭痛くなったら帰るし、授業には出ないかんな!

で、プールにいっても誰もいないし、よなみねは誰かわからないし・・・」

 

「まあ、里奈の顔は知ってるっちゃ知ってるが・・・」

 

「知ってる?

じゃあ連れてってよ!

てか立ち続けて疲れたからおぶって!」

 

「ええ・・・しょうがねえな。」

 

良介は望をおぶった。

 

「誠、里奈ってどこにいたっけ?」

 

「ああ、確かあっちに・・・」

 

3人はグラウンドに来た。

 

「さーっ!

残り2球なのだーっ!

きばっていくさーっ!

これがウォーターストリーム投法なのだーっ!」

 

「あれが里奈だ。」

 

良介は野球のユニフォームを着た里奈を顎で指した。

 

「え?

アレがよなみね?

な、なんで野球やってんだよ!

水泳部はどうしたんだよ!」

 

良介たちは里奈に話しかけた。

 

「や、野球部に仮入部?」

 

望は呆れていた。

 

「そーなのだ。

この学園、今はかけ持ちしまくっていいらしいからな。

野球部の部員を水泳部に引き抜くために仮入部してるのだ。」

 

「仮入部!

仮入部生!

ここにいるぞ!」

 

望は自分を指差した。

 

「ん?

誰だっけ。」

 

里奈はまったく覚えてない様子だった。

 

「もあっとで送ってきただろーがっ!

あ、ダメだ頭痛い・・・プールで冷やしたい・・・プール・・・プール・・・」

 

「プールは使えないさー。

冬だったから水張ってないのだ。」

 

「・・・へ?」

 

望は驚いた顔をして里奈を見た。

 

「あ、だから浮き輪持ってきたのか?

すまんすまん。

でも里奈はともかく、まだ泳ぐには寒いのだ。

そーだな、こっちこっち。」

 

里奈は体育館の方へ向かった。

 

「・・・誠。」

 

「なんだ、良介。」

 

「この学園、温水プールあったっけ?」

 

「なかったはずだぞ。」

 

「・・・ああ、もしかして・・・」

 

良介たちも里奈の後を追いかけた。

 

「ここで泳ぎの練習するのだ。」

 

里奈は何もない体育館を指差した。

 

「・・・やっぱり。」

 

良介はため息をついた。

 

「フォームをちゃんと練習するんだぞ。

こーやって、まずはクロール・・・」

 

里奈はクロールの泳ぐ真似をし始めた。

 

「帰る。」

 

望は体育館から出て行った。

 

「あ、おい!?

陸の上で泳ぐのも楽しいぞーっ!」

 

里奈は望の後を追いかけていった。

 

「・・・ま、こうなるわな。」

 

誠は呆れて笑っていた。

 

「さて、俺たちも行くか。

早く仮入部する部活決めないと。」

 

「そうだな。

どこに入ろうかな・・・」

 

良介と誠も体育館から出て行った。



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第54話 期間終了

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
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噴水前、智花がいた。

 

「もー、どこ行っちゃったんだろ・・・

みちるちゃん、わたしを誘ったままどっか行っちゃうんだから・・・」

 

すると、そこに良介と誠がやってきた。

 

「智花、どうかしたのか?」

 

良介が智花に話しかけた。

 

「あっ、良介さん、みちるちゃん見ませんでした?

ずっと探してるんですけど、見当たらなくて・・・」

 

「・・・すまん、みちるって誰だ?」

 

良介が智花に聞いた。

 

「あ、みちるちゃんって良介さんと面識ありませんでしたっけ?」

 

「ああ、悪いが会ったことはないな。」

 

「それじゃあ、今度紹介しますね。

ええと・・・もしかして体育館かな?

ちょっと行ってみようかな。」

 

智花が体育館に向かおうとしたところ、千佳と律が話をしながらやってきた。

 

「マジむかつく・・・もー、ホントやめてよね・・・あんな昔のこと・・・」

 

「千佳、どんな秘密ばらすって言われたんだ?」

 

「アンタは?」

 

2人はしばらく見つめ合った。

 

「な、なんでもいいよな!」

 

「だよねー!」

 

「律ちゃんに千佳ちゃん・・・」

 

智花が声をかけると千佳が智花に気付いた。

 

「あれー、智花っち、なんでこんなとこに・・・あ、アンタも?」

 

「わ、わたしも?

なにが?」

 

智花は不思議そうな顔をした。

 

「なんだよ、智花知らないのか。

なんか学園生のデバイスにさ。」

 

「脅迫文が送られてきてんのよね。」

 

「きょ、脅迫文!?」

 

「バラされたくなかったら誰にも言わず、報道部に入れって。」

 

「ムカツクから文句言いに行くの。」

 

「誰にも言わず・・・?

言ってるけど大丈夫?」

 

「だってさー、これバラされたくないからなに言っても入んなきゃだし・・・」

 

「入部してずっと文句言い続けてやる。」

 

「報道部がみんなに脅迫を?

まさか・・・」

 

良介はその話を聞いて、顎に手をやり考え始めた。

 

「ふむ、どう思う、誠。」

 

「まぁ、俺も良介と同じ考えだろうな。

犯人が誰なのか。」

 

「まぁ、そうだろうな。

・・・ん?」

 

すると、良介のデバイスが鳴った。

 

「お、とうとう良介にも脅迫が来たか?」

 

誠は笑みを浮かべた。

良介は黙ってデバイスを見た。

と、良介の目つきが変わり始めた。

 

「お、おい良介?

一体どうし・・・お?」

 

今度は誠のデバイスが鳴った。

誠はデバイスを見た。

と、誠の表情が変わった。

 

「・・・良介。」

 

「ああ、行くぞ。」

 

良介と誠は報道部に向かった。

 

   ***

 

少し経って、体育館。

刀子と怜が剣道をしていた。

 

「参った。

拙者の負けでござる。」

 

「なに、薙刀をやっているだけあって、剣も筋がいい。

間合いを覚えさえすれば、すぐに超えられてしまうかもしれない。」

 

「拙者のごとき若輩者に、そのような称賛はもったいのうございます。」

 

「そ、そこまで畏まらなくとも・・・」

 

すると、2人のところに姫がやってきた。

 

「ふむ。

刀子。

剣道部へ入りますか?」

 

「いえ、やはり拙者には薙刀の方が合います。

それに部活をかけ持ちすれば、姫殿を御守りすることができなくなります。」

 

刀子は怜の方を向いた。

 

「お時間を割いていただいたうえで申し訳ないが・・・」

 

「だ、だからそんなに畏まらなくていい。

仮入部なんだ。

それに私も楽しかった。

暇があるときでいいから、またやろう。

薙刀を相手にするのも新鮮で楽しそうだ。」

 

「は・・・では、日を改めて。」

 

と、突然夏海が駆け込んできた。

 

「はぁ、はぁ・・・あっ!

いた!」

 

夏海が怜のところまで走ってきた。

 

「れ、怜!

匿って!」

 

「夏海!

どうした、そんなに慌てて。」

 

「いいから!

あっ、ヤバ・・・」

 

夏海は咄嗟に近くの物陰に隠れた。

そこに良介と誠がやってきた。

 

「すばしっこいな・・・どこ行きやがった。」

 

明らかに殺気立っている良介が周りを見渡す。

 

「その辺探そうぜ。

そんなに隠れるところねぇだろ。」

 

誠が指をバキバキ鳴らしながらすぐ近くを探そうとした。

そんな2人に怜が話しかけてきた。

 

「なにか探し物か?」

 

「夏海の奴を探してんだよ。」

 

「夏海?

夏海がなにかしたのか。」

 

「怜のデバイスには届いてないのか?

脅迫文。」

 

「脅迫文?

私は・・・デバイスはそこに置いている。」

 

怜はデバイスを置いている場所を指差した。

 

「夏海のヤツ、いろんなヤツに脅迫文送ってやがるんだ。

秘密をバラされたくなかったら報道部に入れってよ。」

 

「な、なんだと!?

それは確かに夏海なのか?」

 

「ああ、他の報道部員に聞いた。」

 

「やってやるってはりきってたみたいだ。」

 

「そ、そうなのか・・・」

 

「で、夏海はどこだ?」

 

「ちょいとばかしシメないとな。」

 

「わかった。

ここにいるぞ。」

 

怜は夏海がいるところを指差した。

 

「あっ!

ちょ、なんでバラすのよ!」

 

「そこかぁ・・・!」

 

「生きて帰れると思うなよ・・・!」

 

良介と誠は不気味な笑みを浮かべながら夏海に近づいた。

 

   ***

 

少し経って、体育館。

良介と誠を含めた多数の生徒がいた。

 

「というわけで、風紀委員からよく言い聞かせておく。

その秘密も全て忘れさせるから、私に免じて許してやってくれ。」

 

怜が生徒たちの前に立っていた。

 

「忘れさせる・・・?」

 

誠は怜の発言に首を傾げた。

 

「怜がそう言うならいいか。

紗妃に説教させといてくれ。」

 

「ああ。

さあ、みんな、今日のところはこれで終わろう。

ちょうど仮入部期間も終わる。

明日からいつもの学園生活だ。」

 

「なっ・・・!?

け、結局どの部活にも仮入部せずに終わるとは・・・」

 

誠は膝から崩れ落ちた。

 

「それじゃ、後はよろしく。

行くぞ、誠。」

 

「くそう・・・来年は・・・来年こそは・・・!」

 

誠は良介に引きずられていった。

入れ替わりで智花がやってきた。

 

「あっ!

な、夏海ちゃん!

大丈夫?」

 

智花は怜の後ろにいた夏海に話しかけた。

 

「うぅ・・・ほ、ホントにお説教?」

 

「ああ。

やっていいことと悪いことがある。

お前も子供じゃないんだ。

充分に反省しろ。

学園生の生活を壊すところだったぞ。」

 

「で、でもやるつもりなかったんだよ。

なんでか知んないけど、年度末に仕込んでたものがバラまかれたみたいで・・・」

 

「お前がやったのには変わりない・・・だが、なぜこんなリスキーなことをした?」

 

「それは、えーと・・・なんでだろ。

なんか、あたしが頑張らなきゃって思ってた気がするんだよね・・・」

 

「どういうこと?」

 

夏海の発言に智花は不思議そうな顔をした。

 

「部長がいなくなっちゃうから、あたしがって・・・でもよく考えたら変なんだ。

部長の卒業、今年だし、そもそもあたしにこんなことする権限ないし・・・」

 

「遊佐がいなくなる・・・?

夏海、少し話を聞かせてくれ。」

 

怜は険しい顔で夏海から話を聞き始めた。

その頃、良介と誠は男子寮に向かっていた。

 

「あ~あ、どこにも入らず終いか。

もう、今のうちに来年入る部活決めとくか。

な、良介。」

 

誠は良介の方を向くと、良介はなにか考えている様子だった。

 

「良介?

聞いてるか?」

 

「ん?

ああ、悪い、考え事をしてた。

どうした。」

 

「いや、別にいいよ。

どうでもいいこと言っただけだからな。」

 

「・・・そうか。」

 

そう言うと、再び良介は考え始めた。

 

「・・・時間が繰り返されていることを考えてるのか?」

 

誠の発言に良介は驚愕した。

 

「なっ・・・!?

誠・・・お前、気づいてたのか?」

 

「ああ、どうしてこうなったのかまではわかってないが、一応わかったことがある。」

 

「わかったこと?

それは?」

 

「ああ、それは・・・巻き戻っているのは年月日だけで出来事などは戻ってないこと。」

 

「どうしてそれを?」

 

「よく考えてみろ。

全てが巻き戻っているなら、俺たちも魔法使いに覚醒する前に戻っているはずだ。」

 

「確かに・・・そうだな。」

 

誠の発言に良介は納得した。

 

「だから、第7次侵攻が起きることはない。

まぁ、近いものが来ないとも限らんがな。」

 

「確かにそうだな。

けど、少し気が楽になったよ。」

 

「どうしてだ?」

 

誠は不思議そうな顔をした。

 

「一番信頼できる【親友】が自分と同じだったからな。」

 

「へっ・・・そうかよ。」

 

誠は照れくさそうに笑った。

 

「少しずつでいいから、なぜこうなったのか。

俺たちで調べていこう。」

 

「ああ、必ずな。」

 

良介と誠はお互いを見て、頷いた。



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第55話 クロージングアクト

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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ある日の学園。

校門前に良介と誠と兎ノ助がいた。

 

「フェス?

なんかあったか良介。」

 

今回のクエストの内容に首を傾げる誠。

 

「WIND FESTAのことじゃないのか?」

 

「そうだぞ。

毎年春にやってるアレ。

今回の課外活動はそのフェスの警備と雑用だ。

はぁ・・・」

 

兎ノ助はなぜかため息をついた。

 

「フェスねえ。

そんなところにクエストで行けるとはな。」

 

誠は嬉しそうに笑った。

 

「いちおうな、遊園地とは違って遊びじゃないからな。

会場設営からトラブルへの対応まで、やることいっぱいありそうだからな。

はぁ・・・」

 

兎ノ助はまたため息をついた。

 

「世界的に有名なアーティストも来るらしいな。

スタッフだったら話すことができるかもな。」

 

良介も嬉しそうに笑った。

 

「そんじゃ、早速準備しに行きますか。」

 

良介と誠は準備しに行こうとした。

 

「おいっ!?」

 

「ん?

どうした兎ノ助。」

 

良介は呼び止めてきた兎ノ助の方を向いた。

 

「気遣えよ!

俺を!

さっきからため息ついてる俺を!」

 

「どうしたんだよ。」

 

「俺も行きたい!」

 

「行けばいいじゃねえか。」

 

誠が即答で返した。

 

「だって俺、こういうとこに出るの禁止されてるって知ってるだろ?」

 

「知らねぇよ。」

 

今度は良介が即答で返した。

 

「ひでえ・・・」

 

兎ノ助はその場でうなだれた。

 

   ***

 

フェス会場、ももとあやせがいた。

 

「うわぁ・・・人がいっぱい・・・」

 

ももは嬉しそうに周りを見渡す。

 

「これだけ人がいたら、危ないことも起きるかもしれないわねぇ。」

 

「大丈夫ですっ!

侵攻後初めてのWIND FESTAですから!

みんなと協力して、絶対に成功させましょう!」

 

「まあまあ。

元気ねぇ~。

わたしも負けてられないわね~。

それじゃあ、頑張って困ってる人を探しましょうか~。」

 

近くで良介と誠が2人の会話を聞いていた。

 

「今の会話を聞く限り、第7次侵攻の記憶はあるみたいだな。」

 

「ああ、普通なら忘れるはずなんだがなぁ・・・」

 

誠はため息をついた。

 

「まあ、クエストをこなすとしますか。」

 

「ああ、ついでにフェスも楽しんどかないとな。」

 

誠は楽しそうに笑った。

同時刻、少し離れたところに明鈴と恋がいた。

 

「ウィンドフェスタ・・・風飛だからウィンドなの?」

 

「フフフ、それもあるし、春一番ともかけておる。

夏でなく、冬が終わるこの時期にやるのも春一番だからじゃ。」

 

「おおー、物知りアル!」

 

「そうじゃろそうじゃろ・・・

(さっきすたっふに教えてもらったんじゃが、まあいいか。)」

 

「で、春一番ってなんなのだ?」

 

恋は呆れた顔をした。

また別の場所、結希がいた。

 

「まあいいわ。

何事もなく終わるように祈っていましょう。

・・・誤報だといいのだけれどね。」

 

   ***

 

恋は1人で絵を描いていた。

そこにももがやってきた。

 

「あれ?

恋ちゃん、なにしてるの?」

 

「見てわかろう。

絵を描いておる。

思ったより客が多いらしくてな。

会場が負けてしまわんように、急遽彩ることになった。

じゃからその手伝いと言うわけよ。」

 

「なるほど・・・いいなあ、得意な分野があって。」

 

「お主がそれを言うか。

お主ほど接客に向いとる者はおらんじゃろ。

客が困ってるときは任せるぞ。」

 

「そ、そうだねっ!

がんばるよ!

ここにいちゃダメだよね!

もっと人がいるところに行ってくる!」

 

ももは客が多いところへと向かっていった。

 

「うむ。

その意気じゃ・・・

なぜ年下のわっちが・・・」

 

恋がため息をついていると良介がやってきた。

 

「よう、恋。」

 

「む、良介、お主も御用聞きがよいじゃろ。

桃世と行ったらどうじゃ?」

 

「そうだな・・・そうするか。

そんじゃ、俺も向こうに行くとするか。」

 

良介もももと同じく客が多いところに向かった。

その頃、結希のところに明鈴と誠がやってきた。

 

「ししどゆきー!

ししどゆきー!」

 

明鈴が結希の名前を連呼していた。

 

「フルネームはやめてちょうだい。」

 

結希はため息をついた。

 

「結希、ミキサーってやつが壊れたらしい。

直せるか?」

 

「ミキサー?」

 

「果物とかジュースにするやつアル。」

 

「それじゃねえよ。」

 

明鈴に誠が即座にツッコミを入れた。

 

「私より詳しい人がいると思うけど。」

 

「完全に壊れてるから交換しなきゃいけないらしい。」

 

「なら私が行くまでもないんじゃないかしら。」

 

「交換するやつまで壊れてたんだよ。

機械に詳しいやつじゃないと直せない状況なんだよ。

他にもアンプ、スピーカー、それに・・・」

 

「機材が、全部?」

 

「それで、なんか演奏が止まっちゃって再開できないって!」

 

「どうする?」

 

2人の話を聞いて結希は少し沈黙したが、すぐに口を開いた。

 

「行きましょうか。

見たら何が起きているかわかると思う。

やってみましょう。」

 

結希は機材のところに向かった。

 

   ***

 

その頃、客たちは文句を言っていた。

 

「あ、あわわ・・・どうしちゃったんだろ。」

 

ももは狼狽えていた。

 

「み、みなさん落ち着いてくださいー!

そ、そうだ!

こんなときはホウレンソウ!

なにが起きたか聞きに行かないと!」

 

すると、もものところにあやせがやってきた。

 

「桃世さん。

ここにいたのね。」

 

「海老名先輩。

急に音楽が止まっちゃって、お客さんたちが騒ぎ出して・・・」

 

「なんだか機材が全部壊れちゃったみたいなのよ。

だから音が流せないのよねぇ・・・」

 

「ええっ!?

ぜ、全部ってそんなことあるんですか?」

 

「ありえないってみんな言ってるけど、現になってるし・・・

とにかく、今宍戸さんが修理してくれてるから・・・

みんなを落ち着かせましょう。」

 

その頃、結希は誠と明鈴と恋と共に機材を修理していた。

 

「後は、雀さん、ここをネジ止めお願いね。」

 

「わかったアル。

これ、もう直ったの?」

 

「ええ、とりあえずね。

スタッフの人に確かめてもらって。」

 

「わかったアル!」

 

明鈴は機材を持ってスタッフのところに向かった。

 

「私が来てよかったわ。

他の生徒が気づいていたかどうか・・・」

 

すると、恋が聞いてきた。

 

「どういうことじゃ?」

 

「いえ、後にしましょう。

南条さんはこっちをお願い。」

 

「うむ。

重いものは苦手じゃが、今日は絵ばかり描いてたからのう。

肉体労働もせんといかんな。」

 

恋も機材を持ってスタッフのところに向かった。

 

「結希、これでいいか?」

 

誠も修理を終えて、結希に聞いてきた。

 

「ええ、それじゃあお願いね。」

 

「ああ、わかった。」

 

誠もスタッフところに向かった。

 

「これで最低限の機材は用意できたわね。

ねえ、良介君。

お願いがあるんだけど・・・」

 

「ん?

どうした結希。」

 

結希は修理を終えた良介に話しかけてきた。

 

   ***

 

明鈴はあやせのところにいた。

 

「お腹減ったアル・・・」

 

「明鈴ちゃん、お疲れ様。

重い機材を運んで疲れたでしょう?」

 

「疲れてないけどお腹はペコペコアル。」

 

「フフフ、スタッフのみなさんが軽食を用意してくれたみたいよ~。」

 

「ホント!?

うわーい、全部食べるアル!」

 

明鈴は喜んで走っていった。

 

「ぜ、全部食べちゃだめよ~?」

 

別のところ、ももと恋がいた。

 

「なんとか、騒ぎが大きくなる前に再開できたね。

宍戸さんのおかげかな。」

 

「うむ・・・ん?

おお、良介。

お主、どこに行っておった。」

 

恋は戻ってきた良介に気付いた。

 

「最後のステージの時、どこにもおらんかったのう。」

 

「ああ、それは・・・」

 

良介が答えようとしたところ、結希がやってきて答えた。

 

「私が用事を頼んでおいたの。

機材のレンタル元、どこだった?」

 

「レンタル元?」

 

ももは首を傾げた。

 

「このイベントの機材は、全て1つの会社からレンタルされてたんだ。」

 

「そして、故障した機材には少量の霧が入り込んでいたわ。」

 

「霧?

霧が機械を壊すのか?」

 

恋も首を傾げた。

 

「霧は一定濃度になると実体化する。

その場所が機材の中だったりすると・・・

断線させたり、あたかもそれを操っているように見える。」

 

「じゃ、じゃあ機材の中に魔物がいたんですか!?」

 

「ごく小さな魔物で、おそらくは何らかの衝撃で霧散してしまった。

だからこの近辺は安全よ。

でもそのレンタル会社の所在地は・・・」

 

「霧が濃くなっている・・・ということでよいのか?

となるとこの会社か、その倉庫が郊外にあるのかの。」

 

「警告しておきましょう。

壊れたのが今でよかった。

知識が無い人が見たら、ただの故障にしか見えなかったでしょうから。」

 

「あ、危なかったんですね。」

 

「早期に発見できたからもう大丈夫。

さあ、撤収しましょう。」

 

「あ、そ、そうだ。

お客さんの誘導しないと・・・

それじゃあ良介先輩、宍戸さん、また後で!」

 

ももは走っていった。

 

「むう、わっちも看板やポスターを片付けに行くか・・・

ではまた後でな。」

 

恋も行ってしまった。

 

「・・・別の可能性もあるわ。」

 

「別の可能性?」

 

良介は不思議そうに結希の方を見た。

 

「その会社がわざと霧を混入して、このフェスの失敗を狙っていた可能性。

どんな理由があるのか知らないけど、全ての機材に均等に霧が混入していた・・・

少なくとも、故障箇所からはそう見えたわ。」

 

「もしそうだとしたら、誰が・・・」

 

「実はリークがあってね。

その為に私が来たの。

真偽の確認はこれからだけど・・・

今はその会社を監視するしかないわね。

神宮寺さんに頼みましょうか。」

 

「そうだな、その方がいいだろうな。

さて、俺たちもそろそろ行くか。」

 

「そうね、そうしましょうか。」

 

良介と結希は会場の出入り口へと向かった。



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第56話 ご乱心

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朝の校門前。

良介が登校すると、初音がいた。

 

「よーっ!

ヒマしてる?

ヒマじゃなくてもクエスト行こうぜ!

なんかその辺に魔物が出たって!」

 

「なんで俺が・・・それに、初音が自分からクエストに出るはずがないだろ。」

 

良介は嫌そうな顔をした。

 

「ま、しょーがない。

実はウチの開発部から面白いものくすねてきてさ。

その実地試験をやろーっての。」

 

「おいおい、いいのかそんなことして・・・」

 

「自分からJGJに貢献しよーなんて神宮寺一族の鑑だろ?」

 

「確かにそうかもしれだろけど・・・ところで沙那は?」

 

良介は周りを見渡した。

 

「沙那?

沙那はダメダメ。

見つかったら取り上げられるから。

だから内緒なんだよ。

ほら、早くクエスト受注して。」

 

「ったく、しょうがねえな・・・」

 

良介は渋々クエストを受けた。

 

「見つかる前に出かけるぞ。

おっー!」

 

初音は良介の手を引っ張りクエストに向かった。

少し離れたところから沙那が見ていた。

デバイスで誰かと連絡をとっていた。

 

「ええ。

ジンライSPを持って出発されました。

私におまかせください。

初音様を危険には晒しません。

それでは・・・」

 

沙那は電話を切った。

 

「では、私もクエストを受注しましょうか。」

 

沙那はクエストを受けた。

その頃、生徒会室。

虎千代と薫子と聖奈がいた。

 

「神宮寺は・・・クエストか。

珍しいな。」

 

「良介さんといっしょのようですね。」

 

「そうか・・・遊佐といい神宮寺といい、会いたいときに連れ出されているな。」

 

「今からクエスト登録を解除して、連れ戻すこともできますが。」

 

聖奈が話に混ざってきた。

 

「そこまでするほどじゃない。

少し聞きたいことがあるだけだ。」

 

「執行部とJGJの業務提携ですね。」

 

「ああ。

裏世界に行っていた間に進んでいてな。

侵攻が起きてからこっち、面倒なことばかり起きる。」

 

「内容を読みましたが、契約が成立するとJGJの技術者が常駐するとか。」

 

「裏世界の調査だそうだ。

学園の研究者を補助する為のものと言っているが・・・

我々が詳細も知らんまま決定されてはことだ。

学園内をうろつくんだからな。」

 

「この時期に外部の者をいれるのは危険ですね・・・特にJGJは巨大です。

どこにテロリストが入り込んでいるかわかりません。」

 

「それでこちらは神宮寺 初音を担ぐことにした。

派遣される技術者は、アイツの知っている者にしてもらおう。」

 

「それは信頼できるのでしょうか?」

 

薫子は不安そうな顔をした。

 

「勝手にリストアップされるよりマシだ。

というわけで、神宮寺が帰ってくるまでアタシは休もう。

これから1年、忙しいからな・・・朱鷺坂は地下か?」

 

「いいえ。

学園内を歩き回って、なにか調べているようです。」

 

「ふむ・・・あいつにもそろそろ生徒会の戦力になってもらわないとな。」

 

「では案件を1つ与えますか?」

 

「聖奈のタスクから裏世界関連のものを引き継がせろ。

この時期、会計は地獄のように忙しいからな。

予算が決まったら、JGJ関連を聖奈に任せる。」

 

「かしこまりました。

私は変わらず、霧の護り手・・・

会長は第8次侵攻ですね。」

 

「そうだ。

遊佐ともまた時間を設けないとな。」

 

「では、調整いたします。」

 

「ああ、頼む。」

 

虎千代は休みに向かった。

 

   ***

 

洞窟、良介と初音がいた。

 

「いやぁ、突然声かけちゃって悪いなぁ。

手伝ってほしいことがあってさぁ。」

 

「はぁ・・・それでくすねた物ってなんだよ。」

 

「これ、見てこれ、クックック。

なんだと思う?」

 

初音は機関銃のような兵器を取り出した。

 

「なんだって言われても・・・ただの銃のような兵器にしか・・・」

 

「じゃじゃーん!

JGJが開発した新型対ミスティック用護身兵器!

その名も【ジンライSP-MJ706】だ!

国連軍が正式採用してるジンライシリーズの最新作。

すげーだろ。」

 

「いいのかよ、そんなもん持ってきて。」

 

「将校用の護身用ピストルは殺傷力はあんまりないのがセオリーだったんだけど・・・

これは1つあればじゅーぶん、魔物と渡り合える優れものだ!

くすねてくるの大変だったんだぜ?

いやまあ、協力者がいるんだけどな。」

 

「誰だよ、そんなことしてんの。」

 

良介は呆れてため息をついた。

 

「アタシと気が合う開発者が、たまぁにテスト用に横流ししてくれるんだよ。

今回、沙那じゃなくてアンタを誘ったのもこいつのためなんだ。

沙那に見つかったら取り上げられちゃうからなー。

頭固いんだから。

ほんじゃ、まぁ実地テストと行くぜぇ。

ククク、アタシのお眼鏡にかなうかな?」

 

初音は笑みを浮かべながら進んでいった。

 

   ***

 

学園の廊下、誠が1人で歩いていた。

 

「やっと暖かくなってきたな。

やっぱ寒いのは苦手だなぁ・・・」

 

すると、メアリーが鼻歌を歌いながらやってきた。

 

「ゆさー、ゆさー、ふんふ~ん・・・」

 

「ん、メアリーか。」

 

メアリーは誠に気づくと誠のところにやってきた。

 

「ん?

なんだ、セクハラヤロウじゃねえか。」

 

「誰がセクハラ野郎だ。

もうしてないだろうが。」

 

「もうしてないねぇ・・・ここ最近した的な話を聞いたような気がするんだがなぁ?」

 

メアリーは不敵な笑みを見せた。

 

「まったくしてないっつうの。

誰かと間違えてんじゃねえのか?

(そもそも現状でそんなことする余裕なんかないっつーの。)」

 

「ふーん、そうかい。

あ、そーだ、遊佐見なかったか?」

 

「遊佐?

鳴子さんか、見てないな。」

 

「あっそ。

じゃ用はねーよ。」

 

メアリーは去っていった。

 

「なんだあいつ。」

 

誠は頭を掻きながらメアリーの背中を見ていた。

 

   ***

 

洞窟内、良介と初音は奥へと進んでいた。

 

「JGJインダストリーが魔物と戦うための兵器を作ってるのは有名だろ?」

 

「ああ、よく聞く話だな。」

 

「なにせ業界シェア27%だかんな。

国連軍から傭兵まで・・・

ウチの兵器を使ってないところはそうそうないんだ。

ぼろ儲けだよ。」

 

「だろうな。」

 

「ま、ぼろ儲けってことは、それだけ売れてるってことで・・・

それだけ売れてるってことは、それだけ壊れてるわけだ。

壊れてるってことは、持ち主がダメになってる可能性も高い。」

 

「・・・嫌な話だな。」

 

良介は顔をしかめた。

 

「特にデクなんかは、致命的なダメージくらったら脱ぐヒマもないからな。

つまりウチが儲けてるってのは、それだけ前線に犠牲が出てるってことでさ・・・」

 

「実際は、ニュースとかでやってる以上に、死人が多いんだろ。」

 

「ま、戦わなきゃもっと人が死ぬから、しゃーないっちゃしゃーないよ。

兵隊さんが頑張ってくれるおかげで、こうやって学園生活を満喫できてるワケ。」

 

すると、2人の前に魔物が現れた。

 

「お、魔物発見!

こいつの威力を試す時だ!」

 

初音は嬉しそうに笑った。

 

「そんじゃ、俺が隙を作るからその時に撃てよ。」

 

「りょーかい!」

 

良介は光弾を撃ち魔物の足を止めると、魔物の上を飛び越すと、闇属性の魔法を撃った。

 

「止まれ!」

 

魔物は動こうとしても動けない状態になっていた。

 

「重力魔法だ。

これで威力を確かめることができるだろ?」

 

「ナイス、良介!

そんじゃ、行くぞー!」

 

初音がジンライを構え、魔物に向かって撃った。

光線が放たれ、魔物に当たると、魔物は少しひるんだ。

 

「あれ?

なら、もう一発!」

 

初音が再び撃つと魔物は消え去った。

 

「結構威力あるんだな。」

 

良介はジンライの威力に感心していた。



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第57話 ネクストステージ

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



報道部部室の近くの廊下。

誠が一人で歩いていた。

 

「(さて、どうしたものか。

良介とは2人で原因を探すって言ったが、正直なんの手がかりもない状態だ。

こういう場合はあの人に頼るしか・・・でもなんて言えばいいんだろう・・・)」

 

誠は部室のドアの前で立ち止まり考え始めた。

と、部室内から話し声が聞こえてきた。

 

「ん?

誰と誰が話してるんだ?」

 

誠は聞き耳をたてた。

 

「神凪君。

風紀委員がここに来るとは珍しい。

特に君が来るなんて、よほどのことが・・・あったみたいだね?」

 

「調査の仕方に相談させてほしい。

私の友人が狼少年にならないよう。」

 

「狼少年?」

 

中では怜と鳴子が話をしていた。

 

「(怜と鳴子さんが話してるって珍しいな。

一体なんの話をしてるんだ?)」

 

誠はそのまま話に聞き耳をたてた。

 

「彼女の言葉をウソと断じるのは簡単だが、それでは・・・あまりにも薄情で。」

 

「なるほど。

その子が言っていることが嘘なのか、本当なのか調べたいのか。

調べる必要はあるのかい?」

 

「どういうことだ?」

 

「調べれば真実が姿を現す。

その結果、その子が嘘を言っていた・・・

もしくは勘違いだった・・・となると、その子に恥をかかせて終わる。

盲目的に信じてやるのも親切だと思うよ。」

 

怜は黙って鳴子の方を見た。

 

「それでも調べるというなら、力になれるかもしれない。」

 

「助言をもらえればいい。

気を悪くしないでほしいが・・・報道部と風紀委員だ。」

 

「協力するのも・・・難しいものだね。

じゃあベストじゃないけど、なんにでも使える調査方法だ。

関わってる人を調べるんだよ。」

 

「関わっている・・・人間?」

 

「ああ。

およそどんなことであれ、最低1人は人間が関与している。

その関係者を1人1人調べて行けば、いずれ何らかの事実にたどり着く。

それを正しく解釈すれば、答えが出る。

単純だろ?」

 

「人か・・・」

 

「まあ、その正しく解釈っていうのが意外と難しいんだけどね。

カエサル曰く、多くの人は見たい現実しか見ない。

気をつけてくれ。」

 

「ありがとう。

いくつか指針はできた。

1つだけ質問をしていいだろうか。」

 

「なんでもどうぞ。

僕に不都合がない範囲でなんでも答えるよ。」

 

怜は真剣な顔で鳴子の方を見た。

 

「遊佐 鳴子。」

 

怜が次の言葉を出そうとした瞬間、ドアが開き誠が出てきて言った。

 

「あんたは3月で卒業したはずじゃないのか?」

 

「ま、誠!?

何故それを・・・!」

 

怜は驚きながら誠の方を見た。

鳴子は真顔で誠と怜の方を見た。

 

「それは・・・とても興味深い質問だね・・・君たちの言う友人とは誰のことだい?」

 

鳴子は笑みを浮かべた。

 

   ***

 

洞窟内、良介と初音がいた。

 

「うーん・・・なんか、期待はずれな威力。

これならアタシが魔法使った方がまだマシだぜ?

つっても、たいてい魔法の方が兵器より強いからなぁ。」

 

「そうだとしてもあれだけの威力が出たんだから充分じゃないのか?」

 

「そうだな。

一発であれだけひるんだんだから上出来かな。」

 

良介はそれを聞いて進もうとすると初音は進みながら話しかけてきた。

 

「魔法使いってさ、強いんだよ。

実感あるか知らないけど。

覚醒した瞬間から筋力が強化されるし、兵器を携行する必要がないし・・・

しかも、銃弾とかと違って、攻撃リソースが回復するだろ?

オマケに魔物に対して一番効率がいい武器が魔法だ。

な、できすぎだろ?」

 

「確かに出来過ぎだな。」

 

「入学したときにエロウサギが言ってたこと、よーく覚えてるよ。

魔法使いが魔物と戦うのは運命だってさ。

一番それを実感してんの、たぶんアタシだぜ?

ウチの兵器って質が結構高いんだけどさ・・・

それが魔物に対しては、たったこれっぽっちなんだもんなぁ。」

 

「確かにな・・・さて。」

 

良介は正面を向いた。

その先には魔物がいた。

 

「またそのジンライってやつで威力試すのか?」

 

良介は初音に聞いてみた。

 

「いや、今度はあんたの魔法の威力を見てみようと思ってさ。」

 

「俺の魔法か。

わかった、そこで見ていてくれ。」

 

「おう、わかった!」

 

初音は少し下がった。

良介は前に出ると、手を正面に出した。

すると、青い魔法陣が出てきた。

 

「水魔法・・・行け!」

 

魔法陣から大量の水弾が放たれ、魔物は撃ち抜かれ、消滅した。

 

「おー、凄え!

やるなぁ!」

 

「そうか?

とりあえず、次の魔物のところに行くか。」

 

良介と初音は次の魔物のところに向かった。

 

   ***

 

良介と初音は進みながら話をしていた。

 

「デクっていう、いわゆるパワードスーツなんだけどさ。

最近になってやっとマシになったんだけど、最初はそりゃヒデーものでさ。

【歩く棺桶】とか言われてたんだぜ?

乗り込むヤツは遺書とか書いてて。」

 

「そんなに酷かったのか?」

 

「関節部の故障頻度がヤバかったんだ。

魔物を前に一歩も動けなくなる・・・

そんな欠陥品を売りつけてたんだから、鬼畜だよなー。」

 

「確かに、そりゃ酷い話だな。」

 

「それでも、ないよりマシだったから売れたんだけどな。

フツーの人間がさ、あんま効かない武器を持って魔物と戦ってんだぜ?

魔法使いが頑張らなきゃいけねーよなぁ。

だからさ・・・アタシ、魔法使いだろ?」

 

「ああ・・・それがどうかしたのか?」

 

「わかるんだ。

きっと学園を卒業して、軍に就職して、前線で死ぬほど戦って・・・

んで、五年くらいもてば御の字だって。

アタシ、才能ねーからさー。

そんなに長く生きられねーんだから、将来のこと考えてもしょうがないだろ?」

 

「俺は・・・そうとも限らないとも思うがな。」

 

良介は目の前に現れた魔物の方を見た。

 

「良介、もう一度、こいつの威力確かめたいから、いいか?」

 

「わかった。

それじゃ、行くぞ。」

 

良介は風の肉体強化をかけ、魔物の背後を取ると、重力魔法で身動きをできなくした。

 

「初音、やれ。」

 

良介が呼びかけると、初音は何度も魔物目掛けてジンライで撃った。

魔物が消滅すると同時にジンライは壊れてしまった。

 

「あーあー、壊れちった。

まだ信頼性に難アリだなぁ。」

 

すると、初音は良介の方を見ると、ジンライを良介の方に向けた。

 

「な?

アタシもこの銃と同じだよ。

信頼性に難アリの、兵器。

先がないからさ、今を楽しく生きたいワケ。

いたずらとかしてさ。

ホント、みんななんであんなに能天気なんだろーな。

前線のこと、まったく知らないってワケでもないだろーに。

アタシは会社の資料とか盗み見てるから、いろんな数字、知ってんだ。」

 

「おいおい、いいのかよそんなことして・・・」

 

「みんなに見せてやろーかな。

そしたら、アタシと同じになるかな・・・」

 

「まさかと思うが、本気でやろうとか思ってないだろうな。」

 

良介は初音の方を睨みつける。

 

「やだな、そんな悪趣味なことやんねーよ。

恨まれるのはイヤだもん。」

 

「・・・なら、いいが。」

 

「さて!

魔物も倒したことだし、帰ろーぜ!

アンタも、武器とか興味あったらアタシに言ってよ。

使わせてやるから。

どんだけ頼りないか、よーくわかるぜぇ?」

 

「機会があったらな。」

 

良介と初音は洞窟の出口へと向かった。

 

   ***

 

研究室、結希とアイラが話をしていた。

 

「はぁ?

妾たちが幻惑されとる?

バカを言うな。

そんなことされとったら妾が気づく。

なんせ誰よりも生きて、誰よりも魔法の知識を持つんじゃぞ。」

 

「なら、風槍 ミナの目については知ってるはずだけれど。」

 

「もちろんじゃ!

ヤツの瞳は全ての魔法による幻惑を見通す!

ようするにヤツに魔法によるまやかしは通用せん、ということじゃな。

で、それが・・・いっ・・・たい・・・」

 

アイラの顔色が悪くなり始めた。

 

「じゃあ、もし風槍 ミナが・・・会長たちが【卒業したはず】と言ったら?」

 

「その目は魔法の影響を受けず、世界を認識する。

我らの記憶が改竄されたということじゃな。」

 

「そう単純な話じゃないわ。

これがこの1週間、とりつづけた星図のデータ。」

 

結希は星図のデータはアイラに手渡した。

 

「見てもわからん。

じゃがお主は、確かに今年が【同じ】じゃと言いたいのだな。」

 

「ええ。

私たちは【会長が卒業する前のグリモア】に戻っているわ。」

 

「バカな!

そんなことができる魔法があったとして、宇宙規模ではないか!

そんなありえん範囲に影響を及ぼすにはいったいどれだけの魔力量が・・・」

 

アイラは悔しそうな顔をした。

 

「魔力量が・・・くそ、用意できるではないか・・・」

 

「良介君にも話は聞くつもりよ。

まさか彼が・・・とは考えにくいけど。」

 

「良介の魔力を他人が使う場合、ヤツの承諾が必要になるはずじゃ。

つまり・・・良介自身か、良介に魔力を貸せと頼んだヤツの仕業か。」

 

「問題は目的。

なぜ1年巻き戻したの?」

 

「待て、巻き戻したという表現はおかしい。

1年前、妾もお主も学園にはおらんかったではないか。

それに巻き戻ったのなら、第7次侵攻はなかったことになる・・・

じゃが妾には第7次侵攻の記憶がある。

お主もそうじゃろう?」

 

「ええ・・・単純に巻き戻ったわけではないのね。」

 

すると、突然チトセが入ってきた。

 

「話を聞かせてもらったけど・・・理由なら1つ、思い当たるわよ。」

 

「なんじゃ急に・・・いや、聞かせてみろ。

今は巻き戻しでよかろう。

1年巻き戻すことで・・・どんなメリットがある?」

 

「誰も死ななくなる。」

 

「ほう?

なかなか面白そうな意見じゃのう。」

 

「私の知っている歴史では、第7次侵攻の翌年・・・つまり今年・・・

第8次侵攻が起きて、風飛とグリモアは壊滅する。

けれど今の話が本当で【今年が去年】なら、第8次侵攻は起きない。」

 

「いい加減言うつもりはないか。

お主、何ものじゃ。

これ以上混乱させると、マジでのけ者にするぞ。」

 

「いいわ。

裏世界も確認できたし、私の正体を隠す必要もなくなった。

私は未来から来たの。

50年程度、未来からね。」

 

「なにゆえに?」

 

「人類が滅ぶという歴史を変えるために。」

 

その頃、良介と初音は街中を歩いていた。

 

「ちぇーっ。

やっぱ沙那が見張ってたんだってさ。」

 

「やっぱりそうだったのか。」

 

良介は苦笑いした。

 

「なんか魔物が少ないし弱いと思ったんだよなー。

お節介焼きめ。」

 

すると、沙那がやってきた。

 

「お帰りなさいませ、初音様。」

 

「よく言うよ。

せっかく内緒にしてたのにさ。

疲れたから部屋に戻ろーぜ。

ケーキ食べたい。」

 

「申し訳ありませんが、先に生徒会室へ行かれますように。」

 

「生徒会室~?

なんでだよ。

薫子お姉さまがいるなら行く。」

 

「いらっしゃいますし、生徒会への協力要請ですよ。」

 

「マジで!?

アタシもついに生徒会入りか!?

やった~!」

 

「生徒会に勧誘されるかはわかりませんが・・・」

 

初音たちは生徒会室に向かった。

 

「おねーさま!

なんのご用ですかっ!」

 

初音が入ると虎千代と薫子がいた。

 

「どうも。」

 

「悪いな、神宮寺。

話し相手はアタシだ。」

 

「追い出されないだけでもじゅーぶん。

で、なに?

JGJの、なんか使いたいんだろ?

別にいいけど、あんま高いのは無理だぞ。」

 

「いや、兵器の話じゃない。

人材だ。」

 

虎千代は詳しく初音に説明した。

 

「ふーん。

執行部とウチが提携ねぇ。

今まで通りじゃダメなのか?」

 

「これまでの契約だと、JGJの人間は裏世界に行けないからな。」

 

「それで、派遣されてくる人材を信用できるヤツにしたい。

テロリストの危険ねぇ・・・だからアタシが知ってる技術者がいいってことか。」

 

「そうだ。

ただそれなりの腕を持ったものでないと意味がない。

誰か心当たりのある者がいたら、それをJGJに伝えようと思う。」

 

「ふーん。

じゃちょっと待って。

聞いてみる。」

 

初音はデバイスで連絡をし始めた。

 

「い、いけません!

執行部を通さずに打診するのは・・・」

 

「だいじょーぶだいじょーぶ。

漏えいとかしない立場の人だから。」

 

と、デバイスから返事が返ってきた。

 

「あ、返事来た。

速っ!」

 

初音はデバイスを直した。

 

「いいってさ。」

 

「待て待て。

下手な人間じゃダメなんだぞ。

だれなんだ?」

 

「姉さま。」

 

「に、肉親か?」

 

「うん、まつり姉さま。」

 

「字はどのような?」

 

「茉理って書くんです・・・神宮寺の人間なら信用できるだろ?

たぶん。」

 

「い、一族なら他よりは・・・だが、研究者としての実力派どうなんだ?」

 

「そりゃ茉理姉さまデク開発研究局の技術者だったから。

今は局長。

てゆーか兄さま姉さまはみんなその辺できるから、誰でもいいんだけどさ。

一番ノリがいいのが茉理姉さまだから。」

 

「そ・・・そうか・・・」

 

「だけどJGJの社員だからさ。

JGJの利益を一番に考えるぜ?」

 

「それはいい。

目的がはっきりしてくれた方が対処もしやすい。

ま、裏世界の調査は長くなるだろう。

アタシは1年で学園からいなくなる。

問題は後任に投げるさ。」

 

すると、初音は虎千代の顔を見つめた。

 

「アタシはどう?」

 

「考えておく。」

 

「ひゃっほー!

いい知らせ待ってるぜー!」

 

初音は走り去っていった。

 

「神宮寺 茉理について調べましょう。」

 

「ああ、頼む・・・神宮寺 初音か・・・

アイツが生徒会長になったら、どんな学園になるかな・・・フフ・・・」

 

虎千代は笑みを浮かべた。



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第58話 過去の風飛

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


ある日、良介と誠は魔法使いの村に来ていた。

すると、そこにはゆかり、つかさ、鳴子、エレン、アイラがいた。

 

「あっ。

良介君と誠君。

どうしてここに・・・あなたたちも呼ばれたの?」

 

「ああ、そうだ。」

 

良介はアイラの方を向いた。

 

「この人選は・・・」

 

「ただの見学、というわけではなさそうだな。」

 

鳴子とエレンもアイラの方を向いた。

 

「諸君、よく来た。

特に生天目よ、お主の協力に感謝するぞ。」

 

「裏世界に行けるというから来ただけだ。

さっさとゲートを開け。」

 

「まぁ待て。

裏世界には行かせてやるが、あくまでクエストでじゃ。

お主に要求することは1点。

生きて規定の時間に戻ってこい。

その他のメンツも・・・特に遊佐。

お主には聞きたいことが山ほどある。

向こうの住人と是が非でも連絡を取ってもらうぞ。」

 

「前回、そのつもりだったよ。

運が悪くて通じなかったけどね。

それより朱鷺坂君はどこに?」

 

「知らん。

あやつ、最近は別のことに執心の様子じゃ。」

 

「(別のこと・・・時間が巻き戻っていることか?)」

 

誠は顎に手をやった。

 

「では、いちどゲートの封印を解くぞ。」

 

と、突然地面が揺れた。

 

「な、なに!?」

 

ゆかりが周りを見渡す。

 

「た、多分なんでもなかろう。

開くぞ。」

 

再び地面が揺れた。

 

「げっ!

じ、地震か!?」

 

「これは!」

 

鳴子は何が起きるのかわかったらしい。

 

「みんな!

【移動したら】すぐに連絡を取るんだ!

いいね!」

 

「移動!?

どういうことだ!?」

 

誠は理解ができていないらしく右往左往していた。

 

「良介君と誠君も・・・覚悟しておいてくれ。」

 

「覚悟?

どういうことですか?」

 

良介は鳴子に聞いた。

 

「もしかしたら魔物の群れの真ん中に出るかもしれない。」

 

「えっ・・・!」

 

「呑み込まれるぞ!」

 

良介と誠の目の前が暗転した。

気がつくと見慣れた街の中に良介は立っていた。

 

「ここは・・・誠やみんなはどこに・・・」

 

良介は辺りを見渡していると鳴子の声が聞こえてきた。

 

「良介君!」

 

良介が振り向くと、つかさと鳴子がいた。

 

「つかさに鳴子さん、無事だったんですね。」

 

「よかった・・・少なくとも、ここに飛ばされたのなら、誰かが死ぬ危険はないな。」

 

鳴子は安堵した。

 

「さっきのことは後で説明しよう。

今はすぐに連絡を・・・ん?」

 

鳴子は何かに気付き、向こうを向くと、そこに子供がいた。

 

「きゅ、きゅうに・・・お化け・・・?」

 

「なんだ、子供か。」

 

と、つかさが子供の姿を見て驚いた。

 

「な、なんだと・・・あれは・・・」

 

「つかさ?

どうし・・・」

 

良介が聞こうとした瞬間、また子供の声が聞こえてきた。

 

「うわーっ!

今のすごい、すごい!」

 

「・・・ん?」

 

良介が声が聞こえてきた方向を向いた。

 

「キミも見ただろ!?

いきなりパッって現れたぞ!

パッて!」

 

もう1人別の子供がやってきていた。

その子供の姿を見て、鳴子は納得したような顔をした。

 

「あ・・・なるほど・・・

フフ、そうか・・・ここは・・・

【風飛市】か・・・」

 

「・・・え?」

 

良介はその言葉を聞いて唖然とした。

 

   ***

 

過去の鳴子が興味津々に良介たちに話しかけてきた。

 

「ねーねー!

キミたち、宇宙人!?」

 

それに対し過去のつかさは誰かを探しているようだった。

 

「あ、あれ・・・お兄ちゃん、どこにいっちゃったの・・・?」

 

その状況を見てつかさは声を荒らげながら鳴子に聞いてきた。

 

「遊佐!

これはどういうことだ!」

 

「お、驚いたな。

君がこれほど動揺するなんて・・・」

 

鳴子は子供の方を向いた。

 

「まさか、あの子供は・・・

妙な偶然があったものだ。

あれは僕と・・・君か・・・」

 

「あれが過去の鳴子さんとつかさってことですか。」

 

良介も子供の方を向いた。

 

「うわ、ケンカ始めるぞ!

光線銃は?

分子破壊兵器は!?」

 

「お、お兄ちゃん・・・お兄ちゃん、どこ・・・?」

 

良介は鳴子とつかさの方を見た。

 

「落ち着け、生天目君。

説明する。

だけど同じことを何度も言うのは面倒だ。

デバイスで東雲君と宍戸君に連絡を取ろう。」

 

鳴子は良介の方を向いた。

 

「良介君、あれは【幼いころの】僕たちだ。

逃がすと面倒だから・・・」

 

「・・・面倒だから?」

 

「適当に相手していてくれ。」

 

「・・・え、えぇ・・・」

 

良介は愕然としていると、過去の鳴子は話を聞いていたらしく良介に話しかけてきた。

 

「逃がすと面倒?

もしかしてお兄さんたち、僕を誘拐するんだ!?」

 

と、鳴子の持っているデバイスの方を気にし始めた。

 

「あ、違うな。

アレはPDAに見えるけど、あんな小さいの初めてだ・・・

じゃあ秘密警察?

もしくは未来?

んー、おもちゃにしては実用的だし・・・」

 

と、過去のつかさも良介に話しかけてきた。

 

「ね、ねぇねぇ、お兄ちゃん知らない?」

 

「え?

お兄ちゃん?」

 

すると、過去の鳴子は過去のつかさを止めた。

 

「ちょっと待って!

僕の推理によると・・・お兄さんたちは未来の魔法学園の人だ!」

 

「え・・・」

 

良介は過去の鳴子の言葉に驚いた。

 

「う、うぅ・・・ま、まほう使いの人なの?」

 

過去のつかさが過去の鳴子に聞いた。

 

「推理を聞きたいかい?

あのね、あの制服は魔法学園のものだけど・・・

今のものに比べるとデザインが洗練されてて・・・」

 

過去のつかさは良介の方を向くと話しかけてきた。

 

「あ、あの!

お兄ちゃんのこと知りませんか?

ふうびにすんでて、つかさ、遊びにきたんです。

こくぐんで働いているので、まほうがくえんの人ならもしかして・・・」

 

「あの・・・えーと・・・」

 

すると、再び過去の鳴子が止めた。

 

「待った!

お兄さんたちがどうしてここにいるか知らないけど・・・

僕たちを逃がさないっていうのはぶっそうだね。」

 

「・・・・・・。

(いかん・・・言葉が出ない・・・)」

 

鳴子がその様子を見てため息をついた。

 

「やれやれ、あの子たちも説得しないといけないか。」

 

鳴子はつかさに説明し始めた。

 

「デバイスが通じない。

先に簡単な説明をするよ。

ここは裏世界だ。」

 

「前に訪れた裏世界は、全て崩壊していたぞ。」

 

「だからここは【崩壊する前の裏世界】なんだよ。

僕たちが地下にいた時、地震のような揺れがあっただろ?

あれは【霧の嵐】。

局地的にゲートが開き、霧が噴出する自然現象だ。

そして、一瞬繋がったゲートは換気口の役割をして・・・

巻き込まれた者を裏世界に運ぶ。」

 

「霧の嵐・・・あれがそうなのか・・・」

 

「今日は妙に素直だね?

まあ、僕にとっても都合がいい。

僕は過去、霧の嵐に巻き込まれている。

その経験から答えを言うと・・・ゲートの先は、同じ裏世界だが・・・

【時代はゲートごとに違う】。」

 

「ゲートごとに時代が違う・・・か。」

 

良介はため息をついた。

 

   ***

 

鳴子は過去の鳴子、つかさは過去のつかさの相手をしていた。

過去のつかさがつかさに話しかけてきた。

 

「あ、あの・・・」

 

「兄はあっちだ。

向こうも探しているが、少し時間がかかるぞ。」

 

「お兄ちゃんのこと、ごぞんじなんですか!?」

 

過去のつかさは驚いていた。

一方、過去の鳴子はデバイスに興味津々だった。

 

「ねえねえ!

そのケータイ見せて!

見せて!」

 

「フフ・・・自分とはいえ・・・この好奇心は少しうざったいね。

君、何歳だい?」

 

「6歳!」

 

「なるほど・・・12年前だね。」

 

「12年前・・・?

ということは・・・もしかして12年後から来たの!?」

 

「そうだぞ。

君を未来の世界に連れ去ってやろう。」

 

「うわぁ~っ!

やったぁ!」

 

「良介君。」

 

鳴子は呆れた表情で良介に話しかけた。

 

「どうしました?」

 

「帰る方法を探そう。

思った以上に懐かれてしまったよ。

このままだとついて来かねないぞ・・・」

 

すると、なにか考え込んでいるつかさに鳴子が話しかけた。

 

「今考えていることを実行しようなんて思わないことだ。

お兄さんに会いたい気持ちはわかるけどね。」

 

「私の兄は死んだ。

この娘は・・・私ではない別人だ。

裏世界のな。」

 

「同じ顔、同じ性格、同じ・・・同一人物だとしても?」

 

「ここには魔物がいない。

私のいるべき場所ではないな。」

 

良介はつかさの言葉を聞いてため息をついた。

 

   ***

 

過去の鳴子が過去のつかさに話しかけた。

 

「ねぇ、キミ、あの人たちと知り合いなの?」

 

「え?

・・・ううん、知らない人・・・あなたも・・・」

 

と、鳴子が2人に話しかけた。

 

「君たち。

今日、僕たちと会ったことは誰にも言わないでおいてくれるかい?」

 

「どうして?」

 

過去の鳴子は首を傾げた。

 

「さっき言った通り、僕たちは未来から来た。

ここにいたことが広まると、歴史が変わってしまうかもしれないだろ?

君もだよ。

安心してくれ。

さらおうとなんてしてない。

ただ、これだけ約束してくれればいいんだ。」

 

鳴子は過去のつかさの方を向いた。

 

「でもお兄ちゃん、あやしい人との約束はしちゃいけないって・・・」

 

「君は正直だね。

心配しなくてもいいよ。

君の望むとおりにしよう。

このまま行っても止めないし、なんならお兄さんを探すのに協力してもいい。」

 

「僕、もうちょっとついていくよ!

まだ5時まで時間はあるし!」

 

「あ、あの・・・つかさ・・・」

 

過去の鳴子は過去のつかさの方を向いた。

 

「君もおいでよ!

こんな経験、めったにできないよ!」

 

「あの、でも・・・」

 

過去のつかさは少し考え込んだ後、過去の鳴子の方を向いた。

 

「は、はい・・・あのお姉ちゃん・・・つかさに似てる・・・」

 

「君に?

そうかな・・・似てるかい?」

 

「そんな気がします・・・」

 

良介は2人の会話を聞いていた。

 

「(やっぱり未来の自分だと直感的にわかったりするもんなんだなぁ・・・)」

 

良介は他の仲間が近くにいないか辺りを見渡した。

 

   ***

 

過去の鳴子はつかさを見ていた。

 

「お姉さん・・・お姉さんだよね?」

 

過去のつかさは寂しそうにしていた。

 

「お兄ちゃん、はやく会いたい・・・」

 

すると、つかさは声を荒らげながら鳴子に話しかけた。

 

「遊佐!

まだ状況は変わらんのか!」

 

「ひっ!」

 

「うわっ!

お、お姉さん、声大きいよ!」

 

過去の鳴子とつかさは声の大きさに驚いた。

 

「つかさ・・・目立つからあまり大声出すなよ。」

 

良介はため息をついた。

鳴子がこっちにやってきた。

 

「援軍が来る。

といっても、霧の嵐が最大化するのは一瞬だ。

子供でも通り抜けられないと思うけど・・・」

 

「・・・ん?

おい、あれ・・・」

 

良介が何かに気付いた。

1人の子供がいた。

鳴子がその子供を見て、誰なのか気付いた。

 

「き、君は・・・立華君か?」

 

「そう。」

 

「卯衣なのか?

なんで子供に・・・」

 

「ドクターと東雲さんのメッセージを伝えるわ。」

 

卯衣は良介の質問を無視し、本題を伝えようする。

 

「先に君の状況を教えてくれ・・・まさか12年前の立華君じゃないだろ?」

 

「あなたなら理解していると思うけれど。」

 

「僕にだって知らないことはある。

君が人造人間なのが関係してるんだろうけど。」

 

「私の体組織は、厳密には魔力だから。

目に見える液体のようなものよ。

だから半分だけこちらによこしたの。」

 

「君は分裂できるのか。

となると・・・ロボットなんか目じゃないオーパーツだな。」

 

「今は関係ないわ。

2時間後に朱鷺坂さんがゲートを開くから、帰る準備をして。」

 

「ゲートを開く?

でも学園のゲートは、ここには通じてないだろ?」

 

「霧の嵐によってできたゲートをこじ開けると言っていたわ。

方法は知らないけれど、それしか帰る方法はない。」

 

「朱鷺坂・・・東雲・・・」

 

鳴子は何か気にしているようだった。

 

「ふむ。

じゃあ行こうか。

場所はどこだい?」

 

「デバイスに送られてくるわ。

それよりも、後の3人はどこに?」

 

「後の、3人?」

 

鳴子は首を傾げた。

 

「誠くんと椎名さんとアメディックさん。」

 

「ああ・・・そういや、忘れてたな・・・」

 

良介は呆れて、頭を掻いた。



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第59話 相違点

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


鳴子は他にも飛ばされた者がいたことを思い出した。

 

「いたいた。

僕としたことが・・・他に飛ばされた人がいてもおかしくなかったのに。」

 

「ちょっと・・・て、俺も言われるまで忘れてたから人のこと言えないな。」

 

良介は頭を掻いて苦笑いをした。

 

「もっと注意力と観察眼を磨かないとね!」

 

過去の鳴子は鳴子の方を向いて言ってきた。

 

「言うね。

さすが僕だ。」

 

鳴子は感心した。

つかさは過去のつかさと話をしていた。

 

「兄は心配するな。

お前が1人でいることの方が危険だ。」

 

「知らない人についていっちゃダメって・・・

でも、お姉ちゃんといると、なんだかなつかしい気持ちです。」

 

「錯覚だ。

すぐにお前も忘れるだろう。」

 

その後、良介たちは他の生徒のいる場所に向かった。

 

「おっ、ゆかりさん、来たぞ。」

 

誠がゆかりに伝えるとゆかりはやってきた良介たちに気付いた。

 

「あっ!

り、良介君!

遊佐さん、生天目さん!」

 

「椎名君。

怪我はなさそうだけど・・・大丈夫かい?」

 

「え、あ、うん・・・」

 

ゆかりは困ったような表情で返事した。

 

「わぁ、他にも仲間がいたんだね!」

 

そう言ってきた過去の鳴子の方をゆかりは向いた。

 

「あの・・・この子、もしかして・・・」

 

「察してくれ。

まあ、あまり影響はないと思う。」

 

すると、鳴子はゆかりの後ろにいる子供に気付いた。

 

「その子は・・・?」

 

「ええと・・・その・・・」

 

「おいおい・・・まさか・・・」

 

良介は呆れたような表情をした。

と、後ろからエレンが子供を連れてやってきた。

 

「椎名。

どうやらここは風飛のようだ。

信じがたいが・・・私たちはどうやら過去にいるぞ。」

 

   ***

 

子供になっている卯衣が過去のエレンを見ていた。

過去のエレンは卯衣に気づくと話しかけた。

 

「こんにちは。」

 

「エレン・アメディックさん?」

 

「はい、なぜ私のことを?」

 

「既存の情報から推測しただけよ・・・」

 

卯衣はエレンの方を向き、話しかけた。

 

「アメディックさん。

あなたは風飛にすんでいたの?」

 

「いや・・・軍に入るまでは日本に来たことは・・・

いや、ある。

風飛かどうかは覚えていないが・・・

1度だけ、両親に連れられて日本に来たことがあった。

今の今まで忘れていた・・・では、今はそのときか?」

 

卯衣はそれを聞くと、過去のエレンの方を向いた。

 

「アメディックさん。

あなたは外国人のようだけど、旅行で来ているの?」

 

「はい。

両親と。

ですが詳しいことはいえません。

あの方がお母様に似ていたので間違えてついてきてしまいましたが・・・」

 

「いいえ、大丈夫よ。

それだけ確認できれば。」

 

「(ふーん、エレンは母親似なのか・・・)」

 

誠は話を横から聞いていた。

卯衣は再びエレンの方を向いた。

 

「興味深い偶然ね。

風飛出身の遊佐さん、椎名さんはともかく・・・

生天目さん、そして国外にいるはずのあなたが風飛にいた【今】。

そこにちょうど、あなたたちが移動してきた。」

 

「なにかあるというのか?」

 

エレンは質問した。

 

「なにかなかった?」

 

卯衣は聞き返した。

 

「しかしここは裏世界だ。

私の記憶など・・・」

 

「だから確かめるの。

グリモアがあって、魔物がいて、魔法使いがいる。

裏世界は表とどこが同じで、どこが違うのか。

それを確かめる必要がある。」

 

「待ってくれ。

もう12年も昔のことだ。

思い出すのに時間がかかる。

なにか違和感があるのは確かだが・・・」

 

エレンは顎に手をやり思い出そうとした。

 

   ***

 

過去のゆかりはゆかりと話していた。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」

 

「はいはい、なにかな~。

(自分にお姉ちゃんって言われるの、思ったより複雑ね・・・)」

 

「あっちの方だよ!

さっきも言ったでしょ!」

 

過去のゆかりは向こうを指差しながら言った。

 

「あ・・・そうだった。

忘れてたわ。」

 

「椎名さん。」

 

卯衣がゆかりに話しかけてきた。

 

「あ、卯衣ちゃ・・・え?

う、卯衣ちゃん?」

 

ゆかりは小さくなった卯衣を見て困惑していた。

 

「事情は後で説明するわ。

デバイスで言っていたことの詳細を教えて。」

 

「ええと・・・」

 

ゆかりが話そうとすると、過去のゆかりが話を遮った。

 

「急いで、急いでったら!

はやくしないと・・・」

 

ゆかりはそっちの方を向いた後、再び卯衣の方を向いた。

 

「すっかり忘れてたんだけど・・・今日って、街中に魔物が出る日なのよ・・・」

 

「今日というのは、ここの今日のことかしら。」

 

「そう。

当時、街のはずれにボロ屋敷があってね。

そこが急に崩れて、子供たちが巻き込まれそうになったの。

後の痕跡から、魔物が出現したのは間違いなさそうなんだけど・・・

なんでか、その屋敷以外は被害が出ないまま消えちゃったのよね・・・」

 

「知っていたわけではないのよね。」

 

すると、卯衣は過去のゆかりに話しかけた。

 

「椎名さん。」

 

「あなた、だあれ?」

 

「お友達はもう町はずれの屋敷に行ってるの?」

 

「そうだよ!

先生が危ないって言ってるのに・・・」

 

「あなたはお友達を止めに行こうとしてるの?」

 

「うん。

だってゆかり、みんなのお姉さんだもん!」

 

と、過去のつかさがやってきて、過去のゆかりに話しかけてきた。

 

「あ、あの・・・お兄ちゃん、知りませんか?」

 

「お兄ちゃん?」

 

卯衣はゆかりの方を向いた。

 

「その事件で、誰か死者は出た?」

 

「いいえ、子供たちは魔法学園の学園生に止められて、無事。

おそらく魔物もその学園生が倒したんだろうけど、学園外の魔法使用・・・

校則違反で処罰されるはずが、その学園生が誰なのかわからなかったのよね。」

 

少しゆかりは沈黙したあと、何かに気付いた。

 

「ま、まさか・・・」

 

「そうかもしれないわ。

行ってみましょう。」

 

卯衣は屋敷の方へ歩き始めた。

 

   ***

 

卯衣はつかさと話していた。

 

「そうか、【今日】はあの日か・・・魔物がいるなら私が行く。

よもや行くなと言うまいな。

話を聞いていたが・・・

その【謎の学園生】が誰かを確認するのだろう。」

 

「相変わらずだなぁ・・・」

 

良介はため息をついた。

 

「ええ、椎名さんとあなたの様子を見る限り・・・

表と裏で、同じ日に同じ事件が起きている。

なにか違う点がないか思い出して。」

 

つかさの隣にいたゆかりが困っていた。

 

「そ、そんなこと言ったって・・・すごく昔のことだし・・・

とにかく行きましょう!

 

良介たちは屋敷の方へ向かった。

屋敷の近くに着くと、良介は子供たちがついて来ているのに気付いた。

 

「おいおい、お前ら・・・」

 

良介が注意しようとすると、つかさが先に子供たちに注意した。

 

「お前たちは来るな。

魔物が出る。

闘争の邪魔だ。」

 

「大丈夫だよ、見てるだけ!」

 

「後学のために、魔法使いの戦いを見せてください。」

 

「先に行っちゃったみんなを連れ戻さないと・・・!」

 

「つ、つかさ、お姉ちゃんの側がいいです・・・」

 

つかさは呆れたような表情をすると、良介の方を向いた。

 

「良介。

任せるぞ。」

 

「え?」

 

良介は驚いていた。

 

「子供たちを邪魔にならないようにしていろ。」

 

「・・・マジかよ。」

 

良介はため息をついた。

その頃、エレンと鳴子は話をしていた。

 

「ああ、だんだんと思い出してきた。」

 

「僕もだよ。

確かに赤毛の女の子とあった気がする。

僕はさっきからびっくりしっぱなしだよ。」

 

「お前が驚くとはよほどのことだろうな。」

 

「いやいや、君、なにも感じないのか?」

 

エレンは不思議そうな顔をしていた。

 

「まあ、最近の激務で疲れているんだと解釈しておくよ。」

 

すると、鳴子は誠の方を向いた。

 

「誠君、君は気づいているだろ?」

 

「ああ、すぐに気づいた。」

 

「じゃあ、説明してあげてくれ。」

 

「俺がするんですか・・・」

 

誠は面倒くさそうに説明し始めた。

 

「エレン、あんたはドイツ生まれの軍人。

生粋のゲルマン民族だよな?」

 

「それがどうした?」

 

「あんた、魔法使いに覚醒した後に日本語を覚えたんじゃないのか?」

 

エレンは少し考えた後、驚いた。

 

「な、なんだと・・・!

12年前の私が、に、日本語を話している・・・?」

 

「よかった。

僕の持っている情報が不正確だったら自信喪失するところだった。」

 

鳴子は安堵した。

 

「表とは違うみたいだな。」

 

誠は険しい表情をしていた。

 

   ***

 

エレンは過去のエレンと話していた。

 

「雨が降りそうですね。

傘、どうしよう。」

 

「1つ聞いていいか。

嫌なら答えなくてもいいが・・・日本語はいつ覚えた?」

 

「父が日本の方と知り合いでしたので、その方に。

日本に来るたびに教えていただいて、すっかり上達しました。

なにか?」

 

過去のエレンは不思議そうな顔をした。

そうしていると、屋敷に着いた。

 

「あれか・・・街のはずれで人通りが少ないな。

国軍も警察もすぐには来ないだろう。

私が始末してくる。」

 

「気をつけてくれよ。

犠牲者を出すと後味が悪い。

あの辺りにいる子供は椎名君と僕が保護する。

それまで全力は出さないでくれ。」

 

「私はそれほど器用にできていない。

急げ。」

 

「よし。

小さい僕たちは良介君と誠君と立華君にまかせよう。

立華君が半分だから、念のためアメディック君に守ってもらう。

いいね?」

 

「闘争の邪魔をしなければなんでもいい。」

 

つかさは屋敷に入ろうとした瞬間、立ち止まった。

 

「ああ、いたな。」

 

「なにがだい?」

 

鳴子は不思議そうな顔をした。

 

「乱暴そうな女が、魔物を倒したのを・・・見たことを思い出した。

あの女は私か。」

 

「フフフ、どうかな。

今起きていることが、君の過去にあったとは限らない。

なにせここは裏世界だ。

表とは違う。」

 

鳴子は楽しそうに笑った。

 

「本当に違うのか?

ここは【過去】ではないのか?

ならば私が見た【乱暴そうな女】は誰だ?

どうでもいいことか。

魔物がいるなら、私が潰すだけだ。

屋敷への配慮はせん。

怪我をしたくなければ、迅速に動け。」

 

つかさは屋敷へと入っていった。

 

「やれやれ・・・扱いに苦労するね。」

 

鳴子は苦笑した。

子供たちは不安そうにしていた。

 

「みんな大丈夫かな・・・ねえ、あの人たち、強い?」

 

「あそこに魔物がいるのですか?」

 

「まだわからないな。

でも本当に出るなら・・・本当の未来人だ。」

 

「お姉ちゃん・・・大丈夫かな・・・」

 

「お兄ちゃん、みんな死んじゃったりしないよね?

ケガもしないよね?」

 

過去のゆかりは良介に話しかけてきた。

 

「大丈夫だよ。」

 

良介は優しく笑みを見せた。

と、突然爆発音が鳴った。

 

「ひっ!」

 

「・・・っ!」

 

「ま、魔法だっ・・・!」

 

「あ、あ・・・あっ!

みんないた!」

 

過去のゆかりが屋敷の方へと走り出した。

 

「あっ!

い、いけません!

止めてください!」

 

「チッ!

誠、子供たち頼んだぞ!」

 

「おうよ、任せとけ。」

 

良介は過去のゆかりを追いかけた。

 

   ***

 

子供たちは魔法を見て驚いていた。

 

「ほ、本物の魔法使い・・・」

 

「すっごい!

僕、魔法を生で見たの初めてだよ!

でもお姉さんの魔法、どっかんって出るんじゃないんだね。」

 

つかさが子供たちのところにやってきた。

 

「私たちは帰る。

お前たちも戻るがいい。

そろそろ兄や両親が現れるころだ。

面倒になる前に消える。」

 

「お姉さん、お兄ちゃんが来ることを知ってるんですか?」

 

過去のつかさは不思議そうな顔をした。

 

「ああ。

理由は聞くな。」

 

「ありがとうございました。」

 

「じゃあね、お姉さん!」

 

その頃、良介は過去のゆかりを抱えていた。

 

「あ、危ねぇ・・・危機一髪だった・・・」

 

過去のゆかりを下ろすと、ゆかりがやってきた。

 

「り、良介君。

私、ケガなかったよね?

もし大けがしちゃってたら、私消えちゃうかも・・・?

あ、でも裏と表は違う歴史なんだよね・・・で、でもよかった・・・

自分になんともないとしても、自分がケガするのは嫌だもんね。」

 

「みんなのお手当しなきゃ!」

 

「あ、あらあら・・・私って全然変わってないのね・・・複雑・・・

もう少し、時間はあるわよね?」

 

「ええ、もう少しだけあると思いますよ。」

 

良介はため息をつきながら答えた。

その頃、鳴子は安堵していた。

 

「ふぅ・・・やれやれ、僕たちのことをなにも喋らなければいいけど。

いくら制服のデザインが違うとはいえ、こちらの魔法学園生が迷惑するよ。」

 

「大丈夫だと思う。

あなたたちは歴史の通りに動いただけ。

裏世界はある程度・・・というより、ほとんど表と同じ歴史をたどっている。

それが確認できればいい・・・でも、論理的でない点がある。」

 

「ん?」

 

鳴子は卯衣の発言に不思議そうな顔をした。

 

「ここは裏世界。

表からあなたたちが来て、彼女たちを助けた。

では表世界の当時、あなたたちを助けたのは誰?

あなたたちが18歳の時、裏世界は・・・すでに崩壊しているというのに。」

 

「宍戸君たちは、なかなか苦労しているようだね。」

 

「あなたは裏世界の人間と連絡を取っているという。

なにもかも知っているのではない?」

 

「いいや。

期待されるほど知ってるわけじゃない。

でも・・・そうだな。

戻ったら宍戸君に情報を共有しようか。

週明け位に研究所に行く、と伝えておいてくれ。」

 

「わかったわ。」

 

「ただし1つ条件がある。

僕と、宍戸君と、会長の3人だけだ。

他の人間には絶対に聞かせない。」

 

「東雲さんや朱鷺坂さんも?」

 

「ああ、もちろん。

僕は東雲君や朱鷺坂君も信用してないんだ。」

 

鳴子は不敵な笑みを浮かべた。

 

「わかったわ。

けれど1つ、質問していいかしら。

なぜ情報共有する気になったの?

これまで隠してきたのでしょう?」

 

「事情が変わった。

これ以上、事態がややこしくなると面倒だ。

裏世界について、確証が得られるまでは誰にも話すつもりはなかったけど・・・

宍戸君には【まき戻り】の件に集中してもらいたい。」

 

過去のエレンはエレンと話していた。

 

「申し訳ありません。

エレンのせいで・・・

あの、お詫びと言ってはなんですが、両親に会っていただけませんか?」

 

「いや、もう時間がない。

次の機会にしよう。」

 

「また会えますか?

親戚の方にお礼をしないままなのは辛いです。」

 

「縁があればな。

そのときは、私ももっと落ち着いているだろう。」

 

「よろしくお願いしますね。」

 

「ああ。」

 

卯衣はエレンのところにやってきた。

 

「あなた以外は、ほとんど記憶との相違点は見られなかったわ。

私の中にあるあなたのデータとも違っている。

これをもとに、先を進むかもしれない。」

 

「ああ・・・」

 

「もうすぐ時間よ。

移動しましょう。」

 

卯衣がその場を離れると、今度は鳴子がやってきた。

 

「アメディック君。」

 

「遊佐・・・お前は、このことに関して答えを持っているか?」

 

「いいや。

確たる根拠は持っていない。

いくつか予想していることはあるけどね。」

 

「予想でもいい。

なにか示唆してくれ。

私にはわからん。」

 

鳴子は少し黙った後、口を開いた。

 

「ここは、僕たちの歴史とは違う。

あのエレン・アメディックが成長しても君になるわけじゃない。

ここと僕たちの世界は【繋がっていない】。

それだけは確かなことだ。」

 

エレンは黙って聞いていた。

 

「君が当事者だとわかった今、招待しないわけにはいかないな。

今度宍戸君の研究室に来るといい。

僕の知っている【世界の仕組み】を話そう。」

 

良介は誠と話していた。

 

「さて、ここは別世界の過去・・・てことでいいんだな?」

 

「鳴子さんが言うにはそうらしい。」

 

誠は頭を掻きながら話した。

 

「けど、どうやってそんな確証が・・・?」

 

「エレンの過去が一致しなかったからだ。」

 

「エレンの過去が・・・?」

 

「ああ、エレンは覚醒してから日本語を覚えた。

だが、こっちのエレンは既に日本語を覚えている。」

 

「そういえば・・・そうだな。」

 

「だから、ここは俺たちの世界の過去じゃないってわかったんだ。」

 

良介は顎に手をやり考え始めた。

 

「じゃあこの世界は・・・あの裏世界に繋がっているのか?」

 

「さあ、それはわからん。

ともかくだ、もうすぐ時間だ。」

 

「・・・わかった。

行こうか。」

 

良介たちは卯衣が指定した場所へ向かった。



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第60話 イメージアップガールズ

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


ある日、競技場のある運動公園。

葵が走ってやってきた。

 

「はあぁ~、いいお天気!

す~、は~・・・いい気持ちです!

新緑が鮮やかで、ウキウキしてしまいますね!

今日は頑張りましょうね♪」

 

葵を追いかけて萌木と誠がやってきた。

 

「ハァ、ハァ・・・冷泉さん、待っ・・・あ、足はや、い・・・!」

 

「まったく、元気だなぁ・・・」

 

「霧塚さん、疲れるのはまだ早いですよ。

これから運動場なのですから!」

 

遅れて風子と良介がやってきた。

 

「ずいぶん楽しそーですね。

ウチらが運動するわけじゃねーですからねー?

けど忙しーんで覚悟しといてくださいよ。

お客さん多いみたいですから。

救護室にも人員振り分けますからね。

そんなにないとは思いますが・・・

もし大きなケガの場合は桃世に回復魔法の許可を出してますんで。

そん時は良介さん、おねげーしますよ。」

 

「わかった。

その時は任せてくれ。

で、今日は大きな試合があるんだっけ?」

 

「そそ、名門大学のね。

テレビやマスコミもちょこちょこいますよ。

とゆーわけで、わかっていますね?

我々魔法使いがすること。」

 

「ああ、社会貢献として施設の警備や案内をし、自らの立場を学ぶ。

そういったことで、魔法使いのイメージ向上をはかる・・・だな?」

 

「さすがですねりょーすけさん。

で、取材頼まれたらちゃんと対応すんですよ?」

 

すると、萌木は暗い表情になった。

 

「うっ・・・やっぱりあるんですかねぇ・・・断っちゃだめですかねぇ・・・

わたし、知らない人とお話するの苦手で・・・」

 

「だからやるんですよ。

苦手だからは言い訳になりません。

コミュニケーション能力は鍛えるもんです。

霧塚、頑張りましょ。」

 

「あ、あうぅ・・・でもわたし、ただでさえ声も小さくて・・・あがり症で・・・

人前で・・・あんなこと、できるんでしょうか・・・」

 

「いっぺんやっちゃえばどーってことねーですって。

女は度胸です。」

 

「もう今から心臓が破裂しそうです・・・」

 

と、葵も風子に話しかけてきた。

 

「あの、わたくしもなにかおかしなことを言うかもしれないので!

霧塚さんが一緒にいて下さると心強いです。

がんばりましょう!」

 

「そですね。

なるべくおかしなことは言わないよーに。

間宮 千佳と桃世 ももが先に着いてるはずです。

合流したら仕事内容を訊くこと。

やるからには徹底的にイメージアップしよーじゃないですか。

グリモアが問題児収容施設でないこと、世に知らしめてやります。」

 

「そんな風に思われてんのか、学園は・・・」

 

良介は呆れた。

 

「水無月さん、いつも眠そうでいらっしゃるのに、気合いが入っていますね!

わたくしも尽力いたします!

皆で一緒に知らしめましょう♪」

 

「ほ、ほんとにだいじょぶかな・・・?」

 

萌木は不安そうな顔をした。

 

「もう不安しかねえわ、俺・・・」

 

誠は苦笑いをしていた。

 

   ***

 

競技場内、千佳と葵がいた。

 

「あっちー・・・もう夏じゃん、この暑さ。」

 

「間宮さん!

脱水症状をおこしてはいけません。

すぽーつどりんくを!」

 

葵はスポーツドリンクを渡そうとした。

 

「千佳でいいって。

てか、うちより競技場のお客さん見てないと。」

 

「あっ、す、すみません間宮さん!

わたくしったら・・・」

 

「だから千佳でいいって・・・

で、あのさ。

あそこでテニスしてるイケメン見える?」

 

「イケメン・・・イケてるメンズですね?

どちらのメンズでしょう?」

 

「手前側のコートの、今こっちむいてる人いんじゃん。

あれ完全にバテてない?

助けてあげたら恋のチャンスだと思うんだけど。」

 

「あのメンズがバテていらっしゃるのですね!

早速行ってまいります!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよっ!

うちが声かけようと思ってんだから!」

 

「はっ・・・申し訳ありません、わたくしったら出すぎた真似を!

では、あのイケてるメンズを間宮さんが介抱している間・・・

わたくしはさらに、間宮さんにすぽーつどりんくを・・・?」

 

「だーから、うちのことはいいんだってば!

あんたは観客案内っ!」

 

2人の会話を良介と風子が見ていた。

 

「なにをじゃれあっているんですか、あそこは・・・」

 

「知らん。

で、千佳は放っておいていいのか?」

 

「間宮はほっといても失敗するんで大丈夫でしょ。

良介さんはナンパしちゃだめですよ。

健全におねげーしますね。」

 

「それは嫌でもわかって・・・おい、風子。」

 

良介は風子の後ろを指差した。

 

「こっちはこっちで・・・あ、はいどーぞ、臨時救護テントはあちらです。」

 

「うん?

足を痛めた?

よかったら俺の肩を使ってください。

風子、そっち支えてくれ。」

 

「りょーかいです・・・うっし。」

 

「歩けますか?

ゆっくりでいいですからね。」

 

良介と風子は救護テントの方へ向かった。

 

「おいおい、ずいぶん列があるな。」

 

テントの前の行列を見て驚いた。

 

「今日は暑いですからねぇ。

熱中症が朝から何人も・・・」

 

「だとしても、こんなにいるか?」

 

「確かに。

テントから人が溢れてるじゃねーですか。」

 

「仕方ねえ、すいません。

とりあえず冷やす物持ってきますね。」

 

良介と風子は救護テント中に入った。

 

   ***

 

テント内、ももは困惑していた。

 

「うわ!

また熱中症?

手が足りなすぎるよ~!

回復魔法とかそんなに使わないってきいたんだけど・・・

あたしじゃ役不足かも・・・椎名先輩いたほうがよかったかな・・・」

 

もものところに良介と風子がやってきた。

 

「桃世。

なんか急病人多くねーですか?」

 

「あっ、良介先輩に水無月さん。

やっぱ多いよね?

暑いからかなぁ。

怪我人も多いんだよー。

頭がクラクラしちゃうのかな。」

 

「だとしてもいくらなんでも・・・」

 

今度は千佳と葵がやってきた。

 

「桃世さん!

この方がグッタリしていらっしゃって。」

 

「あああ、ごめんなさい、ちょっと待ってて・・・みんな並んでるから順番に!」

 

「もぉ~はやく助けてあげてよっ!

苦しそうじゃん!」

 

「無茶言うな。

見たところ脱水症状みたいだが・・・」

 

さらに萌木までやってきた。

 

「熱中症には経口補水液が効きますよ!

作り方は水1リットルにお塩を・・・」

 

「霧塚。

アンタさん案内係でしょ、なにやってんですか。

早く持ち場に戻る。」

 

「ふぁ、ひゃい・・・」

 

「あの、あのっ!

けーこーほすいえきとはなんでしょう!?」

 

「冷泉も競技場に戻る。」

 

「は・・・はい・・・」

 

「吸収しやすいお水のことです。

自分でも作れますよ。」

 

「まあ!

本当ですか?

わたくし世間知らずなもので、教えてくださいまし!

それをみなさんに飲ませればよろしいのでしょうかっ!」

 

黙って聞いていた良介が口を開いた。

 

「あのよ、こっちのことはこっちがなんとかするから・・・持ち場に戻れぇっ!!」

 

良介の怒号が響いた。

 

「ははは、はいぃっ!」

 

「なんとっ!

そのお水はお薬なのですか!?」

 

「冷泉さん!」

 

萌木は葵の腕を引っ張っていった。

 

「千佳、お前も競技場に戻れ。」

 

「やだ。

ここにいる。

イケメンの目が覚めて【君が助けてくれたのか】ってなるかもだし・・・」

 

「てめぇ・・・いいかげんにしろや、ゴルァ・・・!」

 

良介は指をバキバキ鳴らしながら千佳を睨みつけた。

 

「りょーすけさん、どーどー、落ち着いてくだせー。」

 

「わ、わかったよぉ・・・行きゃいいんでしょ・・・」

 

千佳は早々にテントから離れた。

 

   ***

 

少し経って、葵は犬を追いかけていた。

 

「お待ちください!

犬さん、盗んだものをお返しください!」

 

「もーいいじゃん、ほっときなって!

どうせペットボトルでしょ!?」

 

千佳が呼び止めた。

 

「でも、こんなに暑い中、飲み物がないと倒れてしまいますっ!」

 

「あの犬、足速すぎるよ・・・捕まえるのムリくない?」

 

「むーっ・・・これで何度目でしょうか。

次来たらとっちめます!」

 

「とっちめ・・・」

 

「ひ、ひいぃぃぃ~!

助けてください~!」

 

萌木が悲鳴をあげながらやってきた。

 

「あぁ、だめだめっ、や、ぶけ、あぁっ・・・!」

 

萌木は盛大にこけた。

 

「あっちも犬にやられてる・・・」

 

「霧塚さん、大丈夫ですか!?

ここにもいけない犬さんが!

こら、犬さん!

めっ、ですよー!」

 

葵は犬を追いかけていった。

 

「うぅ。

足を噛まれました・・・犬も追い払えないなんて警備員失格です・・・」

 

「犬ってすぐ本気出してくるよねー。

なんなのって感じ。

うわー、ストッキングうしろビリビリじゃん。

ムカつくねー。

血とか出てない?

へーき?」

 

「はい、少し痕ができただけで・・・びっくりしましたけど・・・」

 

「てか、あれホントに犬?

なんかキモイよ?」

 

「それなんですけど・・・わたしもなんかおかしいなって。」

 

「間宮さん!

間宮さ~ん!」

 

葵が帰ってきた。

 

「あれ?

犬はどしたの?」

 

「あちらに倒れてらっしゃる方が・・・お助けしないと!」

 

「え、また?

もおぉ~、忙しすぎない!?」

 

そこに良介と風子がやってきた。

 

「こらっ!

アンタらなにやってるんです!

売店の列が伸びてますんで整備してください!」

 

「ぜんっぜんイケメンアスリートと話す暇ないんだけど~!」

 

千佳は列の方へ向かっていった。

 

「犬ねえ。

デバイスが反応するってことは、そういうことなんでしょーけど・・・」

 

「人も多いから、騒ぎにならないように対処しないとな。」

 

   ***

 

千佳は怒っていた。

 

「やっぱ魔物だったんじゃん!

おかしいと思ったんだよー!」

 

「あわわわ・・・すみません、わたしがもっと早く気付いていれば・・・」

 

「アレは見分けるの難しーんで、しゃーないですね・・・」

 

「気づくのが遅れたのは俺たちも反省点だ。

気をつけなきゃな。」

 

「いきなり向かってきたから何かなと思ったよ。」

 

誠はため息をついた。

ちなみに倒したのは誠である。

 

「しかしおかしいですね。

魔物があれだけはっきりと犬の姿取るには・・・

タイコンデロガ級の強さが必要なはずなんですけどねー。」

 

「だよな。

やっぱり気になるな。」

 

良介は顎に手をやった。

 

「弱い魔物は出来損ない。

強くなるに連れ完成に近づいてゆく・・・それが原則。

なのにあの魔物、子犬っぽさはかなりのレベルでしたよ。

弱かったのに。」

 

「まるで他の力を犠牲にして、犬の姿を取ろうとしたように見えるな。」

 

「魔物にそんな知性があると仮定してもおかしい話ですよ。

弱い子犬の姿をとって、アスリートたちをケガさせる・・・

それって、魔物にとってどんなメリットがあるんですかねー?」

 

「ねえねえ、うち、そろそろ、行っていい?

あの人むっちゃカッコいいから、ちょっと声かけてくる。」

 

「千佳は当事者意識を持てよ・・・」

 

良介は呆れた。

 

「ま、データは持ち帰って分析してもらいましょ。

今はそれより・・・」

 

「みなさーん、もうすぐパフォーマンスの時間ですよー!」

 

「ポンポン、ばっちり用意してきましたからね!」

 

葵とももがやってきた。

 

「おっ、いいじゃん、かわいー!」

 

「ありがとーごぜーます。

さすが購買部、備品の手配も確実。」

 

「うぅぅ・・・ほんとにやるんですか・・・?

チアガール・・・」

 

「やりますよ。

ここで魔法少女の魅力をアピールしないと。

社会奉仕、魔物退治、チアガール・・・好印象間違いなしです。」

 

「そ、そうかもですけど・・・なんだか手足震えてきましたぁ・・・」

 

「大丈夫!

毎日練習したんだし、自信持って踊っちゃいましょー♪」

 

「霧塚さん、お気持ちはとてもよくわかります。

わたくしも短すぎるとは・・・

いざとなったらポンポンで隠しますので、どうぞ思いっきり!」

 

「や、スカートの長さとかじゃなくて・・・あの・・・!」

 

「よーし、そんじゃ着替え終わったら準備運動しましょー。

これも社会奉仕のうちです。

やるからにゃー、全力でいきますよ!」

 

「それじゃ、俺たちは違うところで見てるから。

頑張れよ。」

 

「ええ、わかりました。

見ててくださいね、りょーすけさん。」

 

風子は良介に笑みを見せた。

 

「(相変わらずイチャイチャして・・・)」

 

誠は呆れ笑いをした。

 

「(風紀委員長と良介、結構仲良いみたいだけど・・・もしかして・・・まさか、ね。)」

 

千佳は2人の関係を疑いながら更衣室に向かった。



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第61話 2人の心

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



良介はいつも通りに学園に登校すると、校門前に心がいた。

 

「おはようございます、良介さん。」

 

「おはよう心。

どうしたんだ?」

 

「突然ですが、クエストを請けました。

まだ私ひとりです。

それで、あなたにご一緒していただきたいと思いまして。

ここでお待ちしていました。

天文部のメンバーはいません。

私と、あなたの、2人です。」

 

「・・・なにか理由があったりするのか?」

 

「もちろん、裏はありますよ。

他の人を交えず、お話したいことがあります。

ようやく、デバイスが圏外になる場所のクエストが発令されました。

この機会を逃すと、しばらくチャンスがありません。

ぜひ、とも。

あなたの進退にかかわることです。」

 

「わかった。

俺の事情で、心の事情じゃないんだな?」

 

「ええ。

私の事情ではなく【あなたの事情】・・・いいですね。

無理にでも来てもらいます・・・あなたには部長がお世話になってますし・・・

【心ちゃん】もお世話になっていますから。

・・・よろしくお願いしますね。」

 

「わかった。

行こうか。」

 

良介はクエストを請けることにした。

 

   ***

 

場所は変わって研究室。

結希と鳴子がいた。

 

「あなたが協力するなんて、どういう風の吹き回しかしら。」

 

「ここは風飛だよ。

風はなにもかもを流転させる。

刻一刻と移りゆく。

まぁ・・・情緒的な言い回しは性に合わないから・・・

端的に、君につまづかれたら困ると言っておこうか。」

 

「つまづいてる、とはどういうこと?」

 

結希は質問した。

 

「君が対処しなければいけない案件は、実はそんなにない、ってことさ。」

 

結希は黙って鳴子の方を見ていた。

 

「科研、霧の護り手、裏世界、巻き戻り、そして裏世界のエレン・・・

これらを繋げて考えるのはある種正解だが、同時に迷宮への入り口だ。

ご存知の通り、魔法は条件さえそろえば無限の力を持つことができる。

だから全ての事態は【そういう魔法がある】、可能性がある。

逆に言えば・・・今、君は、解決のための糸口をなにもつかめていない状態だ。

この中のどれかが【魔法が関係しなければ】楽になると思わないか?」

 

「それをあなたが与えてくれるというの?」

 

「僕はそう考えている。

だが・・・その情報は君をさらなる迷宮に誘う・・・

かもしれない。

君が僕の想像より賢いことを願うよ。」

 

鳴子は不敵な笑みを見せた。

 

「回りくどい言い方はいらないわ。

有益な情報があるのなら教えて。

あなたが巻き戻りのことを、どの程度のとして認識しているか・・・

それも教えて。」

 

「いいとも。

でも少し待ってくれ。」

 

「生徒会長とエレンを待つの?」

 

「その通り。

それと少し、この部屋を調べさせてほしい。

余人には聞かれたくない話でね。」

 

「この部屋になにかあるとでも?」

 

「ああ、思っているよ。

君のいいつけで僕のサーバーに侵入したのは双美君だろ?」

 

結希は黙っていた。

 

「電子戦で彼女の方が1枚上手なのは承知済みだ。

僕はアナログで対策させてもらう・・・ああ、そうだ。

みんながそろう前に1つ。

僕が入手した情報によると・・・

未来から来た生徒がいる。

そうだね?」

 

「ええ。

真偽は別にして、そういう発言した生徒はいるわ。」

 

「それは事実だよ。

だけどその手段は未知の魔法なんかじゃない。

彼女は裏世界から来た。

現在、地球上に7つあるゲートのどれかを通ってね。

そのゲートは今から【50年後】に繋がっているんだ。」

 

「彼女は、裏世界の住人?」

 

「【未来から来た】はそれと同義だ、ということを認識しておいてくれ。

これがこんがらがった事態を紐解くカギになる。」

 

そう言うと鳴子は、部屋を調べ始めた。

 

   ***

 

良介と心は廃墟に来ていた。

 

「それでは、よろしくお願いします。

クエストへ向かいましょう。」

 

「ああ、わかった。」

 

良介が進もうとすると、心はすぐに立ち止まった。

 

「何度かお会いしていますが、もう一度自己紹介した方がいいでしょうね。

双美 心です。

わかりやすく表現するなら【もう一人の】双美 心です。」

 

「もう一人・・・二重人格、か?」

 

良介は首を傾げた。

 

「やはり、混乱しているように見えます。

未だに信じられませんか?

【心ちゃん】の演技だと思いますか?

まあ、どちらでもよいのですが。

いずれ私は消えますし。」

 

「消える・・・?」

 

良介は少し驚いた。

心は気にせず話を続けた。

 

「それより、私のクエストに付き合っていただいて、ありがとうございます。

あの子には内緒で受注しました。

気になることがあるので。

あなたにも関係することです。

お伝えしなければ、と思いまして。

まずは先に進みましょう。

普段通りに振る舞う必要があります。

そして、どこかで国軍の監視を避け、お話します。」

 

「わかった。

視線を感じなくなったら伝える。」

 

「ありがとうございます。

途中、交代するかもしれないので、その時はうまくはぐらかして・・・」

 

すると、突然心の雰囲気が変わった。

 

「あれ?

なな、なんでわたし、こんなところに・・・」

 

「・・・突然すぎるだろ。」

 

良介はため息をついた。

 

   ***

 

場所は変わって天の研究室。

天となぜかアイラがいた。

 

「ヒマじゃヒマじゃヒマじゃー!

なぜ妾がのけ者にされるんじゃーっ!

ちっくしょう、遊佐 鳴子め。

妾のことをいつまでも疑いおって。」

 

アイラは1人で騒いでいた。

 

「だからって私の研究室に来ることないじゃないの!

邪魔!」

 

「だってー、この前シャルロットと会ってから歓談部行きにくいんじゃもん。」

 

「吸血鬼じゃないんなら、怖がる必要ないんじゃない。

体に霧が入るなんて珍しいもんじゃないわ・・・それで生きてるのは珍しいけど。」

 

天はあるプリントを見た。

 

「ホント、霧が血液に混じってるわね・・・症状が進行しないのは魔法?」

 

天はプリントを机に置いた。

 

「時間停止の魔法じゃ。

1年に1回、効果が弱まるからその間は結界じゃがの。」

 

「ふうん。

結界・・・それは大垣峰に張られているものと同じ?」

 

「似とるよ。

じゃが魔法で進行が抑えられているっつーだけじゃな・・・

問題はヤツらの教義よ。

魔物は悉く殲滅すべし、例外はナシ。

体内に霧を抱える妾は、ヴィアンネ教司会にとっては討伐対象になりかねん。」

 

「まさか・・・人間を討伐対象にするわけないでしょう?」

 

「妾と、他に体内に霧が入って魔物になってしもうたヤツはどう区別する?

妾が魔物になる前に殺した方がいいとは思わんか。」

 

天は黙っていた。

 

「ま、むざむざ殺されるつもりはないがの。

いざ本気を出せば、何人来ようと返り討ちじゃ。

じゃがのう・・・

歓談部の雰囲気が壊れるのは・・・嫌じゃな・・・」

 

「話は変わるけど、アンタなんで例のメンツに呼ばれてないの?」

 

「むきっ!

そーじゃそーじゃ!

遊佐のぶぁかものめが~っ!

妾がおった方が話が進むのじゃ!

絶対!

ふん、簡単じゃ。

遊佐は妾のことを信用しておらん。」

 

「どうして?」

 

「妾が何者か知らんからよ。

吸血鬼が嘘と言うのはさすがに知っとるじゃろうが・・・

300年前のどこの誰なのか、さすがにヤツでも調べられんからな。」

 

「どこの誰かわかったら、アンタを信用できるの?

地位のある人とか?」

 

「ちゃうちゃう。

遊佐にとっては相手をどれだけ把握しているか、じゃ。

要するにあいつは人見知りでな。

知らん相手とは話したくないんじゃ。」

 

「じゃあ、自己紹介したら混ぜてくれるんじゃない。」

 

「自己申告で晴れるような不信なら苦労せんわ。

とはいえ・・・話の内容は予想できんこともない。

教えてやろか?」

 

「いらない。

もうすぐ神宮寺が来るから帰ってくれない?」

 

「ええ・・・お主冷たい・・・構って・・・」

 

少し経つと、ドアからノックが聞こえてきた。

 

「来たわね。

アンタ、どうするの?」

 

「悪名高い神宮寺一族の1人じゃろ?

ちぃと見てみたいわ。」

 

「変わり者だっていう話だけど、フォローしないからね。」

 

「貴様にフォローされるなんて世も末じゃわ・・・」

 

「鍵は開いてるわ。

入って。」

 

すると、誠が1人の女性と入ってきた。

 

「はぁ・・・なんで俺が案内役しなきゃならないのやら・・・」

 

女性は誠の前に出ると自己紹介しようとした。

 

「どうもー、JGJインダストリー私立グリモワール魔法学園たい・・・」

 

女性は天の方を見た。

 

「ぎゃああああーーーっ!」

 

女性は悲鳴をあげた。

天とアイラと誠は驚いた。

女性は天のところに駆け寄った。

 

「さ、作業用マニュピレータを背負ってる・・・

やばっ、なにこれっ・・・か、かわいいいっ・・・!」

 

「はぁっ!?

ちょ、ちょっと、いきなりなによ!

失礼じゃない!」

 

「あああ~、見た目よりずいぶん軽いのね、デザインもそれっぽいわぁ。

ここの曲線が美しい・・・対数螺旋をモチーフにしてるのね・・・フフフ・・・」

 

「わ、私のデウス・エクスに触らないで!」

 

「やだ、デウス・エクスなんて野暮ったい名前・・・ん?

デウス・エクス?」

 

女性は天から離れた。

 

「あなた・・・

あなたが如月 天ね?

人工的に魔法を使う方法を発見したって子・・・

元デク開発局の神宮寺 茉理。

あなたの研究にも協力するように言われてるわ。」

 

「な、なんのことよ。」

 

「フフフ、あなたは理論より行動派って聞いてる。

それも偶然なんでしょう?

私がそれに理論を与えてあげる。

人を選ばず魔法が使える夢の発明・・・

グリモアの中なら科研とJGJに境界はないわ。」

 

天は黙って茉理を見ていた。

 

「おいーっ!

妾をのけ者にするでないーっ!

つまらんじゃろが!」

 

「ん?

あなた、誰?」

 

「妾は真祖の吸血鬼、東雲 アイラなるぞ!

ちぃとでも機嫌を損ねてみぃ!

お主の血を根こそぎ吸い尽くしてやる・・・フフフ・・・!」

 

「悪いけど、私、そいうの興味なくて・・・」

 

「ふぎっ!

な、なんじゃと・・・!」

 

「まぁ、そうなるだろうな・・・」

 

誠はため息をついた。

 

「科学的素養のない人はお呼びじゃないの。

ねぇ天ちゃん・・・」

 

「ちゃん!?」

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけだから中見せてくれない?

その機械・・・

ハァ、ハァ・・・い、いけない、我慢できないわ・・・」

 

「あ、あの・・・」

 

アイラは呆れていた。

 

「ちぇーっ。

こやつも変人ではないか・・・ん?

1729?

なんじゃお主、そのアクセ・・・ラマヌジャンが好きなのか?」

 

「ラマヌジャン様を呼び捨てにしないでっ!

えっ?

な、なんだ。

この数が何か分かったの?」

 

「ちょっとした雑学のようなもんじゃろ、それ。」

 

「ふうん・・・でもラマヌジャン様のことも知ってるのよね?」

 

「おうよ。

妾は数学は専門じゃないがな。

長い生のなかで様々な科学者と面識があるぞい。

そやつらと短い場合は数か月、長い場合は数年、共同研究を行っとるから・・・

科学的素養はあると思ってもらってよいぞ。

骨頂品の知識じゃがのう。」

 

「ラマヌジャン様は好き?」

 

「ん?」

 

「ラマヌジャン様は好き?」

 

「え?

あ、うーん・・・そ、そうじゃな。

嫌いじゃない。」

 

茉理はその言葉を聞くと笑みを見せた。

 

「ラマヌジャン様が好きな人に悪い人間はいないわ。

ヨロシクね!」

 

「し、知り合わん方がよかったかも・・・こいつなんかおかしい・・・」

 

「・・・疲れた、帰ろ。」

 

誠は研究室を後にした。

 

   ***

 

良介と心は進んでいたが、心は動揺していた。

 

「あ、あの・・・ほほ、本当にわたし、クエストを請けたんですよね・・・」

 

「ああ、そうだ。

どうかしたのか?」

 

「い、いえ!

心あたりがないというか・・・

うう・・・ほ、ほんとに請けてる・・・いつの間に・・・」

 

「俺がパートナーとして心を選んだからだよ。」

 

良介は咄嗟に嘘をついた。

 

「そ、そうですよね!

パートナーに選ばれたんですよね!

な、なんでこんな大事なことを忘れちゃうんでしょうね。

あはは・・・」

 

「なんでそんなに自信なさげなんだ?」

 

「だ、だってわたし、クエストで活躍したことなんかないし、魔物は怖いし・・・

落第にならない最低限のものだけ請けてるはずなのに・・・や、やっぱり無理・・・

それなのに無意識に・・・はっ!」

 

「どうした?」

 

「まま、まさかあなたと2人になりたいなんて思ってません!

そんな恐れ多い・・・」

 

「でも、仕方ないだろ?」

 

「は、はい。

請けてしまったからには仕方ありませんね。

ここ、こうなれば玉砕も辞さず、わたしがあなたを守ります!

もしもの時、骨は拾ってくださいね・・・と、突撃ぃ!」

 

「あ、おい!」

 

心は魔物に突撃していった。

 

「まったく・・・しょうがねえな!」

 

良介は風の肉体強化で心と魔物の間に入ると、魔物を蹴り飛ばした。

そして、すぐに剣に水の魔法をかけると、水の斬撃を連続で放った。

魔物に全ての斬撃が当たると消滅した。

 

「怪我はないか。」

 

「あ、ありがとうございます~・・・わたしなんかのために・・・」

 

「当然のことをしたまでだ。

次に行こう。」

 

良介と心は先に進んでいった。



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第62話 世界の仕組み

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



生徒会室、聖奈とチトセがいた。

 

「裏世界が私の管轄に?

私でいいの?」

 

「やることが多くなって手が回らん。

お前にも働いてもらわないとな。

労働には対価を。

逆に言えば、義務を果たしてこそ報酬だ。

働かない人間を私は認めん。

任せるからには誠実な対応を望むぞ。」

 

「私に裏世界を任せると決めたのは誰?

会長さん?」

 

チトセは質問した。

 

「それがなにか関係あるのか。」

 

「いいえ・・・わかったわ。

私が裏世界に関して知っていることを報告する。」

 

「知っていること?」

 

聖奈は首を傾げた。

 

「ええ。

もうすでに・・・1人ではどうしようもない状態なのがわかったから。」

 

聖奈はチトセの言っていることが理解できなかった。

 

「JGJとの協力体制を取ることはもう聞いてるけど、人選は?」

 

「初音の姉、神宮寺 茉理だ。」

 

「そう・・・じゃあ彼女に伝えてちょうだい。」

 

チトセは笑みを見せた。

 

「なにをだ?」

 

「裏世界が滅びた原因の1つは、人類側の不調和。

霧の護り手が邪魔をしたから、人類が一丸となって魔物に対抗できなかった。

そして・・・発端は、JGJが霧の護り手に与したこと。」

 

「JGJと霧の護り手が?

まさか・・・JGJは対魔物路線じゃないか。」

 

「科研と同じように、JGJにも裏切り者がいる。

その裏切り者によって・・・今のJGJの中核をなす8人兄妹。

彼らが全員死ぬわ。

その後、JGJは規模を縮小。

護り手の息がかかった幹部により・・・

テロ組織のフロント企業になる。」

 

「受け入れるには突飛な話だな。

だいたい、貴様はなぜそれを知っている。

それと・・・誰が裏切り者かはわかっているのか?」

 

「ずっと調べていたけど、JGJは1人を探すには大きすぎる。

でも彼らが死んだ状況を考えると、かなりの上役のはずよ。」

 

「生徒会では私がJGJを担当する。

その前に貴様の言動に証拠が必要だ。」

 

「霧の嵐でのびちゃったけど、来月にはJGJの人間を連れて裏世界に行くのよね?

地下のゲートから行ける裏世界なら、JGJはまだ残っている。

遊佐さんの協力者・・・事情に精通してると思うわ。」

 

「わかった。

真偽はどうあれ、それまでこの件は私が預かる。

神宮寺 茉理についても、充分に注意しておくように伝えておく。

引き続き裏世界についての情報を精査しておいてくれ。

それと・・・貴様がなぜ裏世界の事情に詳しいのかも話してもらう。」

 

聖奈は生徒会室から出て行った。

 

「裏と表は違う。

魔導科学の技術自体が大きく躍進した。

デクの技術も進化し、JGJの立ち位置自体が多少異なっている・・・

裏世界の通りに進むとは限らないけれど、でも・・・

なにもなければ、と思うけどね。」

 

チトセは不安そうな顔をした。

 

   ***

 

良介と心は廃墟の奥へと進んでいた。

 

「あ、ああ、死んでない、死んでない・・・!

生き残ってしまいました・・・またあの恐怖と戦わないといけません・・・!

ど、どうしましょう!

つ、次に会ったら、絶対にクチャッと・・・プチッと・・・

そうだ、今のうちに遺書を書いていかないと・・・ちょっとPC触りますね・・・」

 

「おい、あのさぁ・・・」

 

良介が話しかけようとした瞬間、心の雰囲気が変わった。

 

「あいかわらず、心ちゃんは後ろ向きですね。

進歩しません。

ですが、私の大切な主人格です。

【本物】ではない私にとっては・・・

彼女はとても羨ましい。

そして神々しいんです。」

 

「そうか・・・で、心。

今、ちょうどなんだが・・・」

 

良介は周りを見渡した。

 

「すいません、お話ししなければいけないのはあなたのことでしたね。

ですが、今はやめておきましょう。

デバイスに魔物の反応があります。

これを倒して・・・おそらく一度、心ちゃんが出ますが、そのあとということで。

この魔物は私が倒します。

フォローをお願いします。」

 

「わかった。

心に任せるよ。」

 

魔物が2人の目の前に現れると、良介は次々と光弾を放つ。

魔物が足止めされている間に心は魔力を溜めて、強力な一撃を放つと、魔物に直撃し消滅した。

 

「よし、次だな。」

 

「はい、次に行きましょう。」

 

良介と心は次の魔物のところに向かった。

 

   ***

 

学園の噴水前、智花のところに松島 みちる(まつしま みちる)がやってきた。

 

「智ちゃん、おはよー。」

 

「みちるちゃん、おはよう。

もう学園には慣れた?」

 

みちるはまだ学園に転校してきたばかりだった。

 

「まーね。

魔法学についていくのは大変だけど、それ以外はもうやってるから。

ところで良介君、見てない?」

 

「良介さん?

ううん、今日は見てないかな・・・」

 

「そっかー、なんだ、残念。」

 

みちるは肩を落とした。

 

「なにか用事?」

 

「いや、ほら、前に話したこと。

体質の相性がいいって。」

 

「あっ・・・う、うん。

魔力量と放出ができる量がちょうどいいことだよね?」

 

「そーそー、あたし、ちょっとスタートダッシュ遅れたから・・・

ばんばんクエスト請けて、取り戻そうと思っててね。

だから良介君誘いに来たんだけど、いないんならしょうがないや。

もあっと送ってみる。

あ、今日の練習、顧問の先生遅れるって。」

 

みちるは智花の様子を見て不思議そうな顔をした。

 

「どしたの?」

 

「えっ!?

あ、ううん、なんでもない!」

 

「体調悪いなら保健室行く?

付き添うよ?」

 

「ちょっと考えごとしちゃっただけだから。

大丈夫。」

 

「そう?

ならいいけど・・・あたし、智ちゃんにはお世話になってるからね。

恩返しするから、なにかあったら言ってね。」

 

少し離れたところから夏海がその様子を見ていた。

後ろから怜がやってきた。

 

「おい、夏海、さっきから通行の邪魔になってるぞ。」

 

「ほらー、智花、ボケッとしてるからー。」

 

「智花がどうかしたのか?」

 

怜は夏海に質問した。

 

「怜はいいのいいの。

でもこれは・・・あたしがどうにかしないと・・・!

グフフ、楽しい記事になりそう・・・」

 

夏海は不気味に笑った。

 

「お、おい、この前のこと忘れるなよ。

悪質な取材は取り締まるからな!」

 

「だいじょびだいじょび。

ちょっと用があるから行ってくるねーん。」

 

夏海は走り去ってしまった。

 

「あ、おい・・・しまった。

話を切り出せなかった。

風槍に関わっているものとなると天文部だが・・・

大人しく南条に聞いた方がいいのかな。

どうすべきか。」

 

怜は1人で悩んだ。

その頃、夏海は教室にいる香ノ葉のところにいた。

 

「なっ!

なんやて!」

 

「ほらー。

あんたって良介のことは見てるけど周りがダメなのよねー。」

 

「1回クエストに行っただけで彼女ヅラして・・・

フ、フフフ・・・ここはウチがズバッと思い知らせんとあかんなぁ。」

 

「別に彼女ヅラはしてないけど。」

 

すると、すぐ近くになぜかももがいた。

 

「あ、あの、わたしはどうしてここに・・・」

 

「いーや、ようやったで夏海ちゃん。

ここはいったん手を組も!

ダーリンに想いを寄せる乙女の会や!」

 

ももはそれを聞くと少し引いた。

 

「あたしは面白ければなんでもいいんだけど。

ふんふん、ももはアタリ、と。」

 

「ななな、なんですか!?」

 

「やだなー、なんでもないわよ。

あと何人か聞いていい?」

 

「いや、これ以上は増やさんほうがええな。」

 

「え?

なんで?」

 

夏海は首を傾げた。

 

「あんまり多くなってもダーリンに堂々とアプローチする子が増えるだけやん?

自分から競争率あげてってもしょうがないんやよ!」

 

「えー・・・それが目的だったのに・・・」

 

夏海は肩を落とした。

 

「ここは少数精鋭でな!

あ、もちろんももちゃんは同士やえ!

でもライバルでもあるんよ!

手加減はせえへんからね!」

 

「あ、あの、その・・・ええと・・・」

 

ももは困っていた。

 

「ダーリンは・・・まだ心ちゃんとクエストやな・・・

あの子がダーリンにどうするとも思えんし、今は安全やな。

作戦練るで!

ダーリン渡してなるものか!」

 

夏海はそんな香ノ葉に聞いてみた。

 

「智花はどうする?」

 

「うぐっ・・・」

 

「うぐ・・・」

 

「あ、あの子なぁ・・・ええ子なんやけど・・・

ダーリンのこととなると・・・最大のアレやから・・・」

 

「ふーん。

そんな風には見えないけどなー・・・」

 

「智ちゃんは親友やけどな!

ダーリンのこととなったら話は別やで!

女の戦争にルールはないんよ・・・フフフ・・・」

 

「まいっか。

面白くなりそうだし。」

 

その教室の近くの廊下に誠がいた。

 

「なんか・・・嫌な予感がすごいするな・・・」

 

誠は苦笑いしながらその場を離れた。

 

   ***

 

結希の研究室、虎千代、鳴子、エレンが結希のところに来ていた。

 

「始めましょう。

この後、神宮寺 茉理がここに来る。

それまでに終わらせておきたいわ。」

 

「遊佐。

この前の子供の私との違い・・・本当に答えがあるんだろうな?」

 

虎千代がエレンの言葉を聞いた後、口を開いた。

 

「報告は受けているが、正直さっぱりわからん。

手間でなければ、整理からやってくれないか。」

 

「いいとも。

複雑に絡み合っている・・・ように見える話だ。

まずは年度末にかけて、僕たちは異常な世界を2つ経験している。

地下の魔導書から繋がる【裏世界】と1年を繰り返していると思われる・・・

そうだな、ループ世界とでも言おうか。」

 

「ループ?」

 

エレンは首を傾げた。

 

「会長。

あなたは風槍君の不思議な言動を見たはずだ。」

 

「アタシが卒業したはず、だろ?

あれに冗談以上のなにかがあるのか?」

 

「ある。

それが根拠の1つでもあるけど、僕なりに彼女のことを調べてみた。

彼女はみんなが思うよりも常識人でね。

普段のホラは、南条君に怒られたら引っ込むんだよ。」

 

「ああ・・・確かにな。」

 

「そもそも南条君が風槍君を叱らない時点で、この件は決着している。

風槍 ミナの言っている事は、少なくともただの冗談ではない、ということだ。

言っていることの中身と、彼女の力を考えれば答えは1つ。

僕たちの卒業は、なんらかの魔法により【なかったことになった】。

ここまでは君もわかっているね、宍戸君。」

 

鳴子は結希の方を見た。

 

「正しくは、私たちの記憶や体験を保持したまま、時間が巻き戻っている。

いえ、もっと奇妙な状態よ。

第7次侵攻や裏世界を見つけたこと・・・

それらの事実もそのまま、ただ時間だけが巻き戻っている。」

 

「もし1年戻ったのなら、私は南アメリカにいるはずだ。」

 

「私もこの時期は科研にいた。

だから単純に時間が巻き戻ったとは言えない。」

 

「まぁ、今は詳細はいいだろう。

2人とも、認識してくれればいい。

僕たちは来年度に進めなかった。

これがまず1つ起きていることだ。

で、もう1つ・・・

ここからが本題でね。

裏世界のことだ。

アメディック君。

君は僕と同じで、今のところ一番多くの裏世界を見ている。

裏世界の風飛市を訪れて、なにか感じたことは?」

 

「私たちのいる世界と、裏世界は違う。

裏世界の私は・・・日本語を話した。

何度も日本に来ていて、父が霧の護り手の幹部と交流している。」

 

「それは、本当ならば・・・大問題になるぞ。」

 

「違う!

もし父に間ヶ岾と親交があったのなら・・・

私がここにいられるはずがない。

絶対に露呈し、父は軍法会議だ。

裏切り者の娘と言われ、軍隊に入れたかどうかも・・・」

 

「そもそも君の渡航歴が改竄された様子はない。

日本語能力を偽ったというようなこともない。

君と裏世界のエレン・アメディックは明確に違う。

すなわち、裏世界と僕たちの世界の歴史が異なるということ。

なぜ異なると思う?

そもそもなぜ、2つも世界があると思う?」

 

「SFの世界では、多世界解釈が存在する。

分岐した世界が。」

 

「そう。

そしたら僕たちは・・・【分岐した世界の住人】だ。

僕たちの世界はより良い選択肢を選ぶよう、操作された。」

 

「な、なにを言っているのかわからんぞ・・・」

 

エレンは困惑していた。

 

「ゲートでアクセスできるのは、オリジナルの歴史。

そこでの失敗を繰り返さないよう、誰かがこちらの世界に干渉している。

誰かが、人類の敗北という歴史を辿った世界を作りかえようとしている。

その誰かによって、アメディック君の父親は霧の魔物と【無関係】になり・・・

デクの技術がブレイクスルーを迎え、武田 虎千代の遭難情報をリークした。」

 

結希は黙って聞いていた。

 

「その結果、エレン・アメディックと言う優秀な兵士が誕生し・・・

軍の奥深くまで霧の護り手が入り込むこともなく・・・

第7次侵攻で半減するはずだった人類はほぼ無傷と言ってもよく・・・

武田 虎千代の体内に【霧が入り込まなかった】。

早めに話をつけることだね。

彼女にこれ以上好き勝手させるつもりかい?」

 

鳴子は不敵な笑みを見せた。

 

「それよりも、あなたの言いたいことを確認させて。

【裏世界】と【ループ】は無関係・・・別個の事象だということでいいのね?」

 

「ああ、時間を操ることと【未来からやってくること】は全く違う理屈だ。

だからループが彼女のせいだとか。裏世界が関係しているのかとか・・・

そういうことに思い悩む必要はない。

単独の事象として考えてくれ。」

 

そう言うと、鳴子はデバイスを取り出した。

 

「根拠がないと思うなら、これを。

裏世界の人間に聞いてみるといい。」

 

「繋がっているの?」

 

「ああ。

今日は運がよかった。

【僕の協力者】だよ。」

 

鳴子は結希のデバイスを手渡した。

 

   ***

 

良介と心は廃墟の奥へと進んでいた。

 

「心、ここまで来れば大丈夫だろ。」

 

「わかりました、話しましょう。

先日、学園のデータバンクに侵入しました。

調べ物をしていたためです。

あなたに伝えなければいけないのはただ一点。

あなたの命が脅かされていること。

それも、遠い先の話ではない。」

 

「俺の・・・?」

 

「すいません。

大雑把な言い方ではわかりませんよね。

ではこう表現しましょう。

【霧の護り手】、【ライ魔法師団】、【キネティッカ】等々・・・

これら複数のテロ組織に、あなたの情報が洩れています。

第七次侵攻の時の活躍のため・・・というのも理由の一つではあります。

けれど、私が伝えなければならないのはそういうことではありません。

よく聞いてください。」

 

「ああ・・・」

 

「あなたの情報を、テロ組織にリークした人物がいます。」

 

「・・・何?」

 

良介は眉間に皺を寄せた。

 

「誰かはわかりません。

もしかしたら、と思う人物はいますが・・・

まともに教えてくれないでしょうが、遊佐 鳴子に尋ねるのも手です。

今回、このことに気付いたのは偶然です。

そもそも私が調べているのは・・・

【私たち】のことなのですから。

この件について追跡調査をするつもりはない。

ですがあなたには、心ちゃんも私もお世話になっている。

ですから、そのお礼として、手に入れた情報をお伝えしました。」

 

「そうか・・・ありがとう。」

 

「テロ組織は、おそらく動き始めるでしょう。

あなたを攫いにくるはずです。

これから、身辺に気をつけてください。

使えるコネは全て使ってください。

あなたの体質は、100万の宝石に勝る・・・いつ刺客が現れてもおかしくない。

忘れないでください。

あなたは魔法使いにとって希望であり・・・

そして、悪しき者にとっての希望でもあるということを。」

 

「ああ、わかった。

(俺を攫いにか・・・上等だ・・・!

その時は俺はそんな簡単に攫える奴じゃないってことを知らしめるだけだ!)」

 

良介は笑みを浮かべると右目だけが金色に光った。

 

   ***

 

良介と心は街中まで戻ってきた。

心の雰囲気が変わっていた。

 

「はっ!?

ここは・・・ま、街ですか!?

い、生きて戻ってこれたんですね・・・やったー!

いつの間に倒したのか知りませんが、よかったですぅ~っ!」

 

心は喜んでいた。

 

「で、でもどうやってここまで?

もしかしてわたし、意識を失ってたんでしょうか。

そして良介さんにここまで・・・あああ、なんと申し開きをすればよいか・・・

ここは、もう腹を斬って詫びるしか・・・」

 

また心の雰囲気が変わった。

 

「あまり時間が経つと、さすがの心ちゃんも怪しみますからね。

これでクエストが終わったとあの子も認識したでしょうから、大丈夫です。

さあ、戻りましょう。」

 

「あ、ああ、わかった・・・

(本当にそれでいいのか?)」

 

良介と心は教室まで戻ってきた。

 

「お疲れ様でした。

あとは心ちゃんと話を合わせてくれれば大丈夫です・・・」

 

「わかった。」

 

「あなたにお伝えしたことは、決して作り話ではありません。

科研、執行部、国、テロ組織・・・あなたが現れてから一年ほど経ちますが・・・

その間、あなたへの関心は高まっています。

ご自身では覚えがなくとも、期待とはそういうもの。

こちらに、私が手に入れたテロ組織の情報が入っているUSBがあります。

誰にも奪われない、という自信があるなら、受け取ってください。

閲覧するときは絶対にネットに繋がっていない端末で。

それえとも、知らないまま過ごしますか?」

 

「いや、ありがたく頂く。

言われた通りにしとくよ。」

 

良介はUSBをポケットに入れた。

と、心がパソコンを見ていた。

 

「どうした?」

 

「少々お待ちを・・・

学園長が亡くなったそうです。

どうやら、ギリギリ間に合ったようですね。」

 

「な、学園長が・・・?」

 

良介は驚愕した。

 

「学園長にお会いしたことはありますか?」

 

「何回か会ったことがある。」

 

「私も顔を見たのは数回ですが、元気そうにふるまっていました。

誰も、死ぬとは思っていなかったと思います。

つまり・・・

ご老人は、自分が末期ガンだということを最後まで隠し通したということです。

そして彼が亡くなったということは・・・グリモアを守る壁の1つが、消えた。

グリモアには物理的な障壁、電子的な障壁の他に、政治的な障壁があります。

執行部と学園長は対立していましたが、外敵に対しては協力しました。

その片方がなくなる・・・学園長にはちょうどいい年齢の跡継ぎがいません。

しばらくグリモアの政治的な壁には混乱が起きるでしょう。

そうなれば、テロ組織はそこを突いてきます。

私は心ちゃんを守ることで精一杯です。

どうかあなたは・・・

自分を守る力を、手に入れてください。」

 

「ああ・・・肝に銘じておくよ。」

 

良介は教室を後にした。




人物紹介

松島 みちる(まつしま みちる)15歳

入学時の適性試験で低評価を受けたためクサっていたが、良介との相性が抜群だったことで一躍目立つようになる。
気分屋で調子に乗りやすいが、それがいい方に作用した時の実力は計り知れない。


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第63話 救出部隊

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



良介は目を開けた。

だが、目の前は真っ暗だった。

 

「(な、なんだ・・・?

一体何が・・・)」

 

良介は起き上がろうとしたが、重い物がのしかかっているのか起き上がれなかった。

 

「(くそっ・・・なら・・・!)」

 

良介は土の肉体強化をかけた。

その頃、碧万千洞に聖奈とヤヨイ・ロカの2人が歩いていた。

 

「本当にこの先からするのか?」

 

「うん、人の気配がするよ。」

 

2人は少し歩くと巨大な岩が道を塞いでいた。

 

「む・・・これでは先に進めんな。

別のルートを・・・」

 

聖奈は別に道を探そうとしたが、ヤヨイは動かなかった。

 

「何をしているんだ?

早く別の道を探すぞ。」

 

「あの岩の下から感じる。

人がいるよ。」

 

その言葉を聞いて聖奈は驚愕した。

 

「あの岩の下からだと?

どうみてもあの下に人は・・・」

 

聖奈が話している最中だった。

突然岩が上に動き始めた。

 

「な、なんだ!?」

 

聖奈が驚いていると、ヤヨイが気づいた。

 

「あ、あそこ!」

 

ヤヨイが指差した先に岩を持ち上げている良介がいた。

 

「ぐ・・・ぐおおおぉぉ・・・!」

 

「り、良介!?」

 

聖奈は驚いていた。

良介はちょうどよい横穴を見つけるとそこ目掛けて岩を放り投げた。

 

「おらあっ!」

 

岩を投げたあと、良介は膝をついた。

そこに聖奈とヤヨイが駆けつけた。

 

「ん・・・お前ら・・・」

 

「どうも!

救出部隊だよん!」

 

ヤヨイは元気よく話しかけてきた。

 

「よ、よく見つけたな。

信号が消えた地点と大幅にずれていたのに・・・

というか、お前もよくあの状態で生きてたな・・・」

 

「意識はしっかりしてるね?

事故が起きた時のこと、覚えてる?」

 

「事故・・・?」

 

良介は一体何があったのか思い出そうとした。

 

「あれからまだ2時間。

だけどこの洞窟、予想以上に広いよ。

しばらく前から霧が高濃度になってたみたいだね。」

 

良介はその話を聞いて、思い出した。

 

「内部構造の変化・・・人形館の時と同じってことか。」

 

良介は自分の体が無事であることを確認すると、立ち上がった。

 

「こういう洞窟は危険なんだ。

意志を持っている迷路だから。

ま、見つかってよかったよかった。

この分だと他の人もすぐだね。

兄さん、体調はどう?

怠かったり、鈍痛が続いてたりしない?」

 

良介は再び自分の体を確認した。

特に動きに異常をきたすほどの傷は無いようだ。

 

「大丈夫だ。

問題はない。」

 

「ならおっけ!

道順がわかれば帰れる・・・と言いたいところだけど・・・」

 

「ああ、来た道が消えた。

まるで図ったかのようにな。」

 

良介は2人が来たはずの道を見てみると、道は消えていた。

 

「魔物はそんな賢いわけじゃないけどね。

中に入ったら飲みこむんだ。

そういうわけだから兄さん、こんな時に悪いけど、ちょっと協力してね。

まだ兄さんが最初なんだ。

ええと・・・」

 

「瑠璃川か?

あいつらがどうかしたのか?」

 

「兄さんとパーティを組んでた2人が見つかってない。」

 

「何・・・?」

 

聖奈はデバイスを取り出した。

 

「おそらく崩落だと思うが・・・瑠璃川のデバイス反応が無い。

壊れたのかものしれん。

お前の情報が必要だ。

すまんが同行してくれ。」

 

聖奈は先に進んでいった。

良介はその後ろ姿を見たあと、ヤヨイの方を見た。

 

「そういえば、君は?」

 

「あ、アタシ、転校してきたばっかりなんだ。

ヤヨイ・ロカ。

冒険家の娘やってます!

覚醒したのはついこないだだけど・・・

こういう洞窟とか得意だから、困ったら頼ってね。

噂は聞いてるよ。

ヨロシクね、お兄さん。」

 

「ああ、よろしくな。」

 

良介とヤヨイは聖奈の後を追った。

 

   ***

 

少し時間は遡り、4時間前、碧万千洞。

良介と春乃の2人がいた。

春乃は霧の濃さに驚いていた。

 

「なにここ。

霧の濃度が高すぎる・・・クエストのレベルじゃない。

どうしてこんなに調査が雑なのよ。」

 

すると、2人のところに秋穂がやってきた。

 

「おねえちゃん。

どうしたの?

立ち止まちゃって。」

 

「なんでもないよぉ!

秋穂は心配しなくていいからね!

良介とお話があるから、ちょっとだけ見張りしておいてもらえない?」

 

「あ、うん。

わかった。」

 

秋穂が見張りに向かうと春乃は良介に話しかけた。

 

「良介。

すぐにここを出る。

いったん退却するわ。

こんな場所に秋穂を長い間いさせるわけにはいかないわ。」

 

「秋穂じゃなくてもだ。

だが、すぐに出れるか?」

 

「まだ突入して30分。

すぐに出られる。

入り口に戻るまで、秋穂が傷つかないように守るんだ。

いいな?」

 

「ああ、わかった。

すぐに戻ろう。」

 

その頃、秋穂は1人で見張りをしていた。

 

「綺麗な場所だなぁ・・・これが霧のせいだなんて、不思議。」

 

すると、秋穂は何かを見つけた。

 

「あれ?

あれ、なんだろう?」

 

秋穂は見つけた何かのところに向かい始めた。

 

「ん?

秋穂?」

 

春乃は秋穂の方を向いた。

 

「っ!

秋穂!

あたしから離れたら・・・」

 

「まったく、面倒なことになる前に・・・!」

 

良介と春乃は秋穂のところに向かおうとした瞬間、爆発音がした。

 

「っ!?

い、今のは・・・

秋穂っ!!」

 

春乃は秋穂のところに走っていった。

 

「な、なに?

今の・・・?」

 

秋穂が周りを見渡していると、再び爆発音がした。

 

「ひっ!」

 

そこに春乃がやってきた。

 

「秋穂!

こっちに!」

 

「おねえちゃん・・・!」

 

「秋穂っ!!」

 

「っ!

あれは!」

 

良介は2人の真上に巨大な岩が落ちてきていることに気づいた。

 

「2人とも、避けろっ!」

 

良介はそう叫ぶと2人を押し出した。

その瞬間、良介は岩に押し潰されてしまった。

そして、現在。

 

「・・・という感じだな。」

 

良介は事故が起きた時のことを説明していた。

 

「ふんふん・・・爆発音ね。」

 

ヤヨイはそれを聞いてうなづいていた。

 

「それが4時間前・・・だが崩落の跡などない。

すでに変化しているな。」

 

「ずっとギシギシ言ってるから、壁をぶち抜くのはやめた方がいいね。

ここの真下に位置する場所まで続く道を探そう。」

 

「道も変わっているんだぞ?

【真下】をどうやって見極めるんだ。」

 

「ま、ここはパパから叩きこまれたロカのフィールドスキルを信じてよ。

兄さんも見つかったでしょ?」

 

「む・・・確かに探索や探し物については、ずば抜けていると聞いているが・・・

命がかかっているんだ。

忘れないようにしてくれ。」

 

「ガッテン。

南は安全なときの方が珍しかったよ。

任せといて。」

 

3人は秋穂と春乃を探しに向かった。

 

   ***

 

その頃、誠と千佳と律の3人が碧万千洞にいた。

 

「ちょ、ちょっとぉ・・・ホントに道が変わってんじゃん・・・」

 

「そ、そりゃ変わるって説明うけたんだから変わるだろ。」

 

「だからって霧ってやなのよーっ!

もっとフツーにやってよフツーに!」

 

「何バカなこと言ってんだ・・・」

 

誠は呆れていた。

 

「この前の人形館はあたしの魔法で全部ふっ飛ばしたけど・・・

ここって広いからなー。

どうすんだろ。」

 

「そんなことよりも、事故にあった奴らを見つけることが先決だ。」

 

「良介と瑠璃川の姉妹なー・・・散歩部からも頼まれたし・・・

早く見つけないとな。」

 

「ん・・・?」

 

誠はデバイスを取り出した。

 

「お、良介は見つかったみたいだな。」

 

「マジで!?

あと2人は!?」

 

「まだみたいだ・・・少し急いだ方がいいな。」

 

誠はデバイスを直した。

 

「ま、まだ奥に行くわけ!?

勘弁してよ・・・行くけど、行くけどさ!」

 

律は千佳の様子を見ていた。

 

「てゆーかアンタも怖がりのくせに、なんでそんなに落ち着いてんの!」

 

「いやー、いっしょにいる人がパニクってると落ち着くことってあるよな?」

 

「はぁ!?

ま、マジでそんな理由なの?」

 

「うん、まぁ。」

 

「おい、早く行くぞ。」

 

3人は奥へと進んでいった。

同時刻、春乃が1人で倒れていた。

 

「あ、秋穂・・・早く見つけないと・・・」

 

春乃は起き上がった。

 

「岩盤が緩い・・・爆発のせいか・・・

ヘタに壊したら、また大規模な崩落が・・・クソッ!

秋穂・・・待ってて・・・絶対に見つけてみせるから・・・」

 

春乃は秋穂を探しに向かった。

 

   ***

 

場所は変わって学園。

噴水前を鳴子が歩いていた。

 

「さて、宍戸君と彼女の連絡はついたし・・・次回は遠出だ。

裏世界で長時間の活動ができるように、根回ししておかないとな。

・・・・・ん?」

 

鳴子は近くにさらとノエルがいることに気づいた。

 

「あきほちゃん、大丈夫かな・・・」

 

「大丈夫だって!

ホラ、なにがあっても離れないお姉さんがいるでしょ?

ちょっと事故があっても、なにがなんでも秋穂ちゃんのとこにいくからさ。」

 

「はい・・・でも、でもぉ・・・」

 

「瑠璃川君になにかったのか?」

 

「あっ!

ゆささん!」

 

さらが鳴子に気づいた。

 

「やぁ。

2人ともどうしたんだい?」

 

「あのですねぇ、実はあきほちゃんがじこにあって・・・」

 

「事故?」

 

鳴子は不思議そうな顔をした。

 

「遊佐先輩に知らないことがあるんだ・・・」

 

ノエルは驚いていた。

 

「クエストで、はるのさんと離れ離れになっちゃって・・・」

 

「待ってくれ。

久しぶりに睡眠時間が確保できたところでね。

まだ頭がぼやっとしてる・・・」

 

鳴子はデバイスを取り出し、クエストを確認した。

 

「6時間前?

2人はまだ合流していない?」

 

「はいぃ・・・助けにいこうとしたんですが、あぶないからって・・・」

 

「あたしたち、クエストの許可が下りなかったんです。」

 

「しまった・・・6時間前も離ればなれだって・・・?」

 

鳴子はデバイスを直した。

 

「ごめん、2人とも。

ちょっと用を思い出したよ。

確かに春乃君がいれば安心だ。

良介君もいればね。

実力はよく知ってるだろ?

お菓子でも食べながら待っていなよ。

じゃ。」

 

鳴子は早足で去っていった。

 

「そうだね。

歓談部に行ってよっか?」

 

ノエルは行こうとしたが、さらは動かず、鳴子の後ろ姿を見ていた。

 

「ゆささん、ようすがおかしかったです・・・」

 

「え?」

 

鳴子は報道部部室に来ていた。

 

「6時間!?

最後に魔法をかけたのはいつだ!?

2人のデバイスは死んでる。

だけど春乃君には・・・みつけた!」

 

鳴子は何か取り出した。

 

「前に貸したペンサイズのカメラ・・・ふ、フフ・・・探知できるようにしてよかった・・・

良介君は別の場所、ロカ君といっしょ・・・

もう一方は・・・近いのは誠君・・・

どうして、どうして僕に発信しなかった!

何のためにカメラを貸したんだ!

君たちのことを知ってるのは僕だけなんだぞ!

本当に1人でどうにかするつもりなのか・・・!

待ってろ、春乃君!」

 

鳴子は何か準備をし始めた。




人物紹介

ヤヨイ・ロカ 15歳
世界を股にかける冒険者アンドリュー・ロカの一人娘。
南半球で生まれ、魔物の脅威に囲まれて育ったため、危機回避と度胸は人一倍。
父親仕込みのサバイバル能力で他の生徒をサポートする。
ビックリするほどの楽観主義で、慣れない人は不安に思うことも。


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第64話 瑠璃色万華鏡

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



碧万千洞、誠と律と千佳は捜索を続けていた。

すると、突然誠のデバイスが鳴り出した。

 

「ん、誰だ?

こんな時に・・・え?」

 

誠が驚いた顔をした。

 

「なんだよ。

誰からだ?」

 

律が聞いてきた。

 

「鳴子さんからだ。」

 

「ゲッ!!」

 

「ゲッ!

誠、お前なにしたんだよ!」

 

律と千佳は同じ反応をした。

 

「なにもしてねえよ。

シカトするわけにはいかないな・・・出るか。」

 

誠は鳴子からの電話に出た。

 

「もしもし・・・瑠璃川の居場所?

・・・本当ですか?

アプリ・・・わかりました。

終わったら消していいですか?

はい、わかりました。」

 

誠がデバイスを切ると、律と千佳が不安そうな顔をして見ていた。

 

「なんて脅された?」

 

律が不安そうな顔のまま聞いてきた。

 

「瑠璃川 春乃の場所がわかるアプリをくれたんだよ。

今ダウンロード中だ。」

 

誠はデバイスで何かダウンロードし始めた。

 

「でもアイツのデバイス、壊れてるんだろ?」

 

「知らん。

お、出たか・・・こっち・・・壁だな。」

 

誠はデバイスを見ながら言った。

 

「どれどれ・・・確かに壁だな。

回り込まなきゃ。」

 

律も誠のデバイスを覗き込んできた。

 

「うし、行くか。」

 

誠たちは春乃がいるはずの場所へ向かった。

変わって良介と聖奈とヤヨイ。

良介のデバイスが鳴った。

 

「ん・・・俺か。」

 

良介はデバイスに出た。

 

「もしもし・・・」

 

「よかった。

つながった。

良介君、そこにヤヨイ・ロカがいるね?

ちょっと代わってくれないかい。」

 

「鳴子さんですか。

わかりました。

ヤヨイ。」

 

良介はヤヨイにデバイスを手渡した。

 

「え?

アタシ?

アタシに・・・誰だろ・・・もしもし?

ヤヨイ・ロカです。

・・・遊佐、鳴子?

ええと、学園生の遊佐 鳴子さん?」

 

「遊佐だと・・・?

なぜこんな時に・・・なぜロカを・・・」

 

聖奈は不思議そうな顔をした。

 

「うん、うん・・・霧を追いかけて・・・あの、もしかしてその子って・・・

・・・うん、わかった。」

 

ヤヨイは連絡が済むと、デバイスを良介に返した。

 

「ありがと。

おかげで探すのが捗りそうだよ。」

 

「どうも・・・で、鳴子さんから何を聞いたんだ?」

 

「秋穂って子の探索方法だよ・・・今からアタシ、集中する。」

 

ヤヨイは目を閉じると、集中し始めた。

少しするとヤヨイは目を開けた。

 

「確かに、霧が一定方向に流れて行ってる・・・

崩落があってから何時間だっけ?」

 

ヤヨイは聖奈に聞いた。

 

「そろそろ7時間だ。」

 

「急ごう。

アタシに任せといて。

これから1時間で、見つける。」

 

良介たちは秋穂がいると思われる方へ向かい始めた。

 

   ***

 

歩きながら聖奈はヤヨイに聞いてきた。

 

「状況を説明しろ!

霧の流れとはいったいなんだ!」

 

「霧は一定濃度になると可視化するけど、見えなくてもそこにある。

そして基本的には、たゆたっている。

でもいくつかの条件で・・・」

 

「移動を始めるってことか。」

 

「さすが兄さん、その通りだよ。」

 

「貴様、霧が見えるのか?」

 

「見えないよ。

でもわかる。

感じ取れる。

パパに鍛えられたから。

南で魔法使いじゃない人間が生き残るには、戦う力よりも・・・

霧の集まりを見定めて、逃げる力が必要だったから。」

 

「霧を追って行けば、なぜ瑠璃川が見つかる。」

 

聖奈は質問を続けた。

 

「霧を引き寄せる体質、って知ってる?」

 

「怪我をした際に霧が入り込み、その霧が周りの霧を集める。

それが、【霧が集まる体質】ってことだな。」

 

「さすが兄さん。

よく知ってるね。」

 

「まさか、瑠璃川のどちらかがそうなのか?」

 

「どちらかっていうか・・・

秋穂って子がそうだね。」

 

「何・・・?」

 

「っ!?」

 

良介と聖奈は驚愕していた。

 

「え・・・し、知らなかったの?

なんであの子、今日まで生きてたの?」

 

良介は顎に手をやった。

 

「霧が入り込んだ人間は魔物化が進行する。

それを止めるには障壁で、魔法的に遮断するしかない。」

 

「霧を取り除く手段が見つかってない以上、魔法をかけ続ける必要がある。

お姉さんだっけ?

誰にも気づかれずやってたの?

その人、すごい根性だね。

お友達になりたいよ。」

 

「まさか、あの溺愛ぶりにはそんな事情があったとは・・・

その障壁はどのくらいもつものなんだ?」

 

聖奈はヤヨイに聞いた。

 

「人によるし、最後にかけた時間にもよるからね・・・

今回はそろそろ半日だし、もしかたら・・・もう切れてるかも・・・

・・・なんとかなるなる。」

 

「ヤヨイも不安なんじゃないか・・・」

 

良介は、ヤヨイが誤魔化したような顔を見て、呆れた。

すると、ヤヨイは一人で少し進み始めた。

 

「しっ・・・あっちあっち。」

 

ヤヨイが指差した方向を良介と聖奈は黙って見た。

 

「霧が集まってる。

あの中心が例の子だよ!」

 

良介たちは秋穂を見つけた。

 

   ***

 

秋穂を見つけた良介たちは霧を払おうとしていた。

 

「良介!

霧を払うぞ!

私の羽で・・・ロカ!

こういうときはどうするんだ!」

 

「いやぁ、こういうときは逃げるんだよねぇ・・・ま、仕方ないか。

今攻撃したら、女の子まで一緒にやられちゃうから、ちょっと待ってて。」

 

そう言うと、ヤヨイは秋穂のところに向かい始めた。

 

「うひーっ。

自分から霧に突っ込むバカが・・・どこにいんのっ!」

 

ヤヨイは秋穂を抱えながら戻ってきた。

 

「よっし!

秋穂ちゃんゲット!

ロカなめんなっ!

あ、あわわ、霧が・・・もういいからぶっ飛ばしてーっ!」

 

良介と聖奈は魔法を撃つ準備をしていた。

 

「言われずとも・・・!

良介、全力でやるぞ。

霧を跡形もなく散らすぞ!」

 

「ああ、わかった!

俺の火属性最強魔法を使ってやる!」

 

良介の両手から大量の赤い炎が出てきた。

 

「ファイヤァァァブラスタァァァッ!!」

 

聖奈もそれに合わせて魔法を撃った。

2人の魔法が霧を吹き飛ばす。

 

「お、おお~。

魔法ってスゴ・・・あれ?」

 

ヤヨイは何かに気づいた。

 

「霧が集まってくるスピードが速くなってる・・・ヤバいかも。」

 

その頃、誠たち。

 

「えーと、こっち?

それともあっち?」

 

「そっちは遠ざかるだろ?」

 

誠は千佳の発言に呆れていた。

誠たちは未だに春乃と合流できずにいた。

 

「だって近づこうとしても、道が続いてるかどうかわからないんだもん。

すっごい勢いで移動してるしさ。

ほっといても1人で脱出すんじゃない?」

 

「会長でも1日洞窟に閉じ込められたとき、動けなくなったんだ。

あれは霧の影響だったらしいし、いくら春乃でも危ないだろ。

・・・ん?」

 

誠は何かに気づいた。

 

「どした?」

 

律が不思議そうに見てきた。

 

「近づいてきてる・・・もうすぐそこだ。」

 

誠がそう言うと、春乃がやってきた。

 

「秋穂・・・どこ・・・」

 

「うしっ!

これで外に出られるわね!」

 

千佳は喜んだ。

 

「つってもなぁ、多分来た道も変わってるだろうし・・・」

 

律は不安そうな顔をした。

 

「秋穂は・・・秋穂はどこ!?」

 

春乃は誠に迫ってきた。

誠は冷静に春乃の質問に答えた。

 

「大丈夫だ。

さっき良介たちが見つけたって連絡が来たから。

魔物が出てるが・・・」

 

「場所は!?」

 

春乃は誠に掴みかかった。

誠はそれでも冷静に返した。

 

「場所はここだ。

そんなに遠くない。」

 

誠は春乃にデバイスを見せた。

 

「ここから10分・・・ずいぶん近づいてたのか・・・」

 

「疲れてるんだ。

無茶はするな。」

 

「礼は後でする。

今は妹のところに・・・!

時間が・・・っ!」

 

春乃は秋穂のところへ行こうとした。

 

「お、おい、どーする、マジだぜ・・・」

 

律が誠に聞いてきた。

 

「そうは言ってもな・・・」

 

「でも血とか結構出てっからさ、さすがにあぶねーって・・・」

 

「でもうちら、回復魔法なんかできないし!」

 

そう言い合いをしている間に春乃は1人で向かおうとし始めた。

誠が春乃を呼び止めた。

 

「待て。

それで戦いに行くのはダメだ。」

 

「そ、そーよ!

もうヘトヘトじゃんか!」

 

千佳も春乃に呼びかけた。

 

「あたしのことなんかどうでもいい。」

 

そう言うと、1人で走って行った。

 

「チッ、面倒な奴・・・待てっ!」

 

誠が走って追いかけていった。

 

「え!?

うちらも行くの!?

帰っちゃダメ?」

 

律と千佳もその後を追いかけた。

 

   ***

 

その頃、良介たちは霧から逃れようとしていた。

 

「う、うひーっ・・・次から次に・・・」

 

「クソッ、キリがねえな。」

 

「私たちの中に障壁の魔法を使えるものがいない。

呼び寄せた別働隊が間に合うかどうか・・・!

良介、もっと魔力をよこせ!

私と貴様で死守するぞ!」

 

「ああ、わかってる!」

 

すると、秋穂が小さく声を出した。

 

「ぅ・・・・・」

 

「お?

こん睡状態のはずだったのに・・・

大丈夫だよ、アタシは南で何度も死にかけたけど、なんとかなった。

ロカ家には幸運の女神さまがついてるんだ。

だからあなたもダイジョブ!

聞こえてるといいけど・・・」

 

ヤヨイは秋穂に話しかけた。

 

「ぉ・・・ぉね・・・ちゃん・・・」

 

「お姉ちゃん?」

 

ヤヨイは不思議そうな顔をした。

 

「秋穂ーっ!!」

 

すると、春乃がやってきた。

春乃は魔法を撃つと魔物は消えた。

 

「ま・・・魔物が・・・消えた・・・

今のは・・・る、瑠璃川 春乃っ!」

 

春乃は秋穂のところに駆け寄ってきた。

 

「秋穂・・・秋穂っ!」

 

「落ち着いて、まだ大丈夫だよ。

でも汚染は確実に進んでる。

影響が出る前に障壁を。

あなたが張ってたんだよね。」

 

春乃は障壁を張ろうとした。

 

「魔力が・・・

良介・・・お願いだ・・・

妹のために、魔力を・・・」

 

「わかってる、渡すぞ。」

 

「全員みつけた。

近くにいる別働隊と合流して、帰還するぞ。」

 

聖奈は他の部隊に連絡した。

少し経って、学園の保健室。

春乃はゆかりに見てもらっていた。

 

「あなたも治療が必要なのよ?」

 

「いい。

あたしよりベッドが必要な生徒はいるだろ。」

 

「あの子たちは仮病だから・・・まあ、どうしてもっていうならしょうがないけど。

そういえば、入学してきた時もそんな感じだったわね。」

 

ゆかりがそう言うと、春乃は黙ってゆかりを見た。

 

「じゃじゃーん!

わらわ、登場!」

 

突然、アイラが入ってきた。

 

「し、東雲さん?」

 

ゆかりは驚いていた。

 

「椎名よ、ちょっと席を外してくれんか。

ちょっとじゃちょっと。」

 

「ええ・・・容態が変化したら教えてね。」

 

ゆかりは保健室から出た。

 

「聞いたぞ。

瑠璃川の。

お主の妹、霧が体に入り込んどるとな。」

 

「誰から聞いた!」

 

「情報源は明かせぬぞえ。

ったく、こんな重大なことを隠しおってからに・・・

以前、妾に時間停止の魔法のことを聞いたことに合点がいったわ。」

 

春乃はアイラを睨んでいた。

 

「よいよい。

時間停止の魔法をかけることはできんがな。

霧が入って間もないのであれば、やりようはある。」

 

「どうすれば?」

 

「そーじゃ、ババアの知恵は素直に聞くがよい。

つっても完治するわけではない。

房総半島の時に入り込んだ霧は・・・

おそらく取り除けんじゃろう。」

 

「血を入れ替えるのか?」

 

「フフ、やはりお主は賢いのう。

霧は血液を通って体に染み込む。

その前にさっさと瀉血してしまうわけじゃ。」

 

「あたしの血を使え。

全部でもいい。」

 

「血縁者からの輸血はせんほうがいい。

大人しく科学に頼れ。

じゃが霧が体内に入っとると、科研が出張ってくる可能性が高い。

秋穂はほぼ確実に収容される。

どうする?

隠匿することもできるが。」

 

「収容なんてさせるものか!

あたしが守るんだ!」

 

「秋穂の命にとっては、そちらの方がマシかもしれんぞ?」

 

「母さんと約束した。

秋穂を守るのはあたしだ。」

 

「よかろ。

結城、聞いたな。」

 

そう言うと、聖奈が入ってきた。

 

「ああ。

正式な報告はしないでおこう。

私は・・・生徒会失格だろうな。」

 

「なぁに、虎千代なら許すじゃろ。

とはいえ・・・数人の学園生が知った。

春乃。

秋穂は根治が望めんのが現状じゃ。

ここまで隠し通したのは見事じゃが、これから先、同様のことが起きうるぞ。」

 

「あたしが、もっと強くなればいいだけの話だ。」

 

「お主がどれほど強くても、人の力には限界がある。

ま、すぐ決めんでもよい。

覚悟ができたら妾に言え。

ちょっとした裏技を教えてやるからの。」

 

「お前は、どうしてそんなに秋穂のことを気にかける。」

 

「お主、妹の体に霧が入っとるから、時間停止の魔法を望んだんじゃろ?」

 

「まさか・・・」

 

「そーゆーことじゃわ。

妾の方が先輩じゃからの。

面倒見たくなってもおかしくはなかろ?」

 

「わかった。

悪かったな。」

 

「ホホホ、お主らしくもない・・・ま、しばらく養生せい。」

 

アイラは笑いながら保健室から出て行った。

春乃は秋穂が寝ているベッドの方を向いた。

 

「秋穂・・・・・

ごめんな・・・」

 

春乃は秋穂に向かって、一言囁いた。



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第65話 シークレット・シュガー

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



ある日の街中。

良介、誠、薫子、葵、浅梨の5人が歩いていた。

 

「あれぇ?

道、こっちじゃなくないですか?

私の記憶だと駅の工事のところを曲がった気がするんですよ。」

 

浅梨は見当違いの方向へ進もうとする。

 

「我妻さん、工事現場を目印にしてはいけませんよ。」

 

薫子が注意した。

 

「でも、駅っていつも工事してますよね?」

 

「何を言ってるんだお前は・・・」

 

「なるほど、予想以上にこれは・・・」

 

良介と薫子は呆れてしまった。

葵が浅梨に話しかけた。

 

「我妻さん、今日は良介さんも誠さんも副会長さんも一緒ですから大丈夫ですよ。」

 

「大丈夫って、なにがですか?」

 

「よく迷子になってらっしゃるので!」

 

「うぅ、迷子じゃないですよぅ!

ちゃんと着いてるじゃないですか~!」

 

「俺たちがいればの話だがな。」

 

誠はため息をつきながら頭を掻いた。

 

「今回は我妻さんを指名してきたクエストです。

あなたが遅れることがあっては学園全体の評判に響きますので・・・」

 

「そ、そうですよね・・・どうしても時間がかかっちゃってごめんなさい。

私、とろいのかなぁ・・・2日くらいあったらバッチリ間に合うんですけど。」

 

「一緒に来て良かったですわ。」

 

「評判どころの話じゃなくなるところだったな。」

 

薫子はため息をつき、良介は苦笑いをした。

 

「概要に特記事項はありませんでしたが、我妻さんはなにか聞いていますか?」

 

「別にヘンなことはないですよ。

知り合いが結婚式をするので・・・

私が魔法使いだから、ホテルの警備をしてくれないかって頼まれたんです。」

 

「そうですか・・・いえ、理由がそれだけであれば大丈夫です。」

 

「はい!

ずっと6月に挙式できるよう準備してたし、私もお手伝いしたくて。」

 

話を聞いていた葵が不思議そうにしていた。

 

「今月お式を挙げることに、なにか意味があるのですか?」

 

「ありあり、大ありですよっ!

6月に結婚した花嫁は、幸せになるんですよ!」

 

浅梨は嬉しそうに話した。

 

   ***

 

少し経ってホテルロビー。

薫子はため息をついていた。

 

「はぁ・・・」

 

「どうしたのですか?

副会長さん。

お疲れでしたら、ここはわたくし達におまかせいただければ!」

 

葵が薫子に話しかけてきた。

 

「あ、すみません。

なんでもないんですよ。」

 

「そうですか?

無理はなさらないでくださいましね。」

 

葵は先ほど通っていった花嫁が行った方向を見た。

 

「副会長さん、さっき通った花嫁さんを見ましたか?」

 

「ええ、お綺麗でしたね。

ご家族も幸せそうで。」

 

「わたくし、興奮してしまって!

ドレスって素敵ですねぇ!

副会長さんはお嫁にいく時にどんな衣装を着てみたいですか!?」

 

「わ、私ですか?

私が・・・?」

 

薫子は困惑していた。

 

「ふわーっとした、豪華なものでしょうか?

それともシンプルな?」

 

「うぅん・・・そ、そうですね。

どちらかといえば・・・シンプル、でしょうか・・・」

 

「やっぱり!

そうではないかと思っていました!

副会長さん、スタイルがよくていらっしゃるので・・・そう!

あれあれ!

あそこに展示してあるようなドレスがお似合いになるんじゃないかと!」

 

葵は展示されているドレスのところに向かっていった。

 

「あっ・・・ちょっと・・・」

 

「副会長さ~ん!

このドレスはいかがでしょうか!

お持ちしますか!?」

 

「れ、冷泉さん!

いけません、それは展示物ですよ!」

 

薫子は葵のところに向かった。

 

   ***

 

違うホテルロビー。

絢香が撮影を行っていた。

 

「はい、階段をのぼって、振り返る感じですね?

はい、はい・・・わかりました・・・あ、社長は見学していかれます?

・・・・・うぇ!?」

 

絢香は向こうを見て驚いた。

絢香の視線の先に良介たちがいた。

 

「あ、たしかアイドルの・・・皇 絢香さん。」

 

「皇さ~ん!

どうしたのですか?

お仕事ですか~?」

 

「へ?

あ、おい!」

 

葵と浅梨が絢香のところに向かったことに気づいた良介は2人の後を追いかけた。

 

「わわっ、ちょ・・・!

すみません!

グリモアのクラスメイトで・・・

あ、あのね、ホテルだからあまり大きい声だと・・・」

 

「こんにちはっ!

奇遇で・・・むぐっ!?」

 

「むぅっ!?」

 

良介が咄嗟に後ろから2人の口を塞ぎ、自分の方へと引き寄せる。

 

「よう、絢香。

邪魔して悪かった。

すぐに出て行くから。」

 

「あれ?

良介君も一緒なんだ?」

 

「ああ、クエストだからな。」

 

「ふーん・・・今日ここでクエストがあるなんて知らなかったな・・・」

 

絢香は少しむくれた。

 

「仕事か?」

 

「うん。

ウェンディングドレスを着て撮影するんだ。

あ・・・事務所の人待ってるから、ごめんね。

また学園でね。

良介君も・・・またね?」

 

「おう、頑張れよ!」

 

良介は2人を引きずりながら離れた。

少ししたところで2人を離した。

 

「ったく、状況を考えろよ。」

 

「す、すみません・・・」

 

「ごめんなさい。」

 

良介はため息をついた。

すると、絢香の声が聞こえてきた。

 

「え、ええ~っ!?

でも、えっと、学園側のOKがでるかどうか・・・」

 

「なんだ?」

 

「どうしたんでしょう?」

 

絢香が良介たちのところにやってきた。

 

「あの・・・うちの社長がね。

みんなの写真も撮りたいっていってるんだけど・・・花嫁衣裳の。」

 

「え。」

 

「え?」

 

「え?」

 

「なっ・・・俺たちも花嫁衣裳をぼげぶっ!?」

 

誠は良介に黙って殴り飛ばされた。

 

   ***

 

ホテルロビーに秋穂とありすが来ていた。

 

「わぁあ・・・!

お嫁さん、きれいだね!」

 

「き・・・れ・・・」

 

「すっかり元気になったなぁ、秋穂っち。」

 

クレプリは安心していた。

 

「うん!

みんなのおかげだよ。

ありがとね!」

 

「もうちょっと休んでたほうがよかったんじゃねえかい?」

 

「おねえちゃんにも止められたんだけど、ずっと寝てるわけにもいかないから。

あとね、花嫁さん見たくて・・・えへへ。

なかなかこんなチャンスないもん!」

 

「なるほどなー。

ありすもきれーなドレス着たいさね!」

 

「ぅ・・・やめ、ゃめ・・・て・・・」

 

「ありすちゃんなら、ひらひらの服きっと似合うよ!」

 

「ぁ・・・ぅ・・・」

 

「照れるな照れるな~。

ま、ありすの婿はオレっちが決めるんだけどな。」

 

「も、もぅ・・・・・らかゎ、なぃ・・・で・・・」

 

ありすはクレプリを睨んだ。

 

「うふふっ、ありすちゃんの腹話術、すごいね!」

 

「腹話術じゃねーって!

オレっちは【狂った姫様】こと・・・」

 

「クレイジープリンセス!

でしょ?」

 

「お、おう・・・なかなかノリがいいじゃねーか。」

 

クレプリは先に言われて残念そうにした。

 

「お人形さんにもドレス着せたいね。」

 

「オレっちはありすの仕立てた一張羅があるさね・・・秋穂っちは着たいのか?」

 

「そうだなぁ、いつかはね・・・えへへ。」

 

秋穂は嬉しそうに笑った。

 

「うんうん、いいよなぁ女の子は。

夢があるさね。」

 

「もし、わたしがウェンディングドレスを着る時があったら・・・

だ、誰と結婚するんだろ・・・?」

 

秋穂は色々と妄想し始めた。

 

「あ、そういえば良介があっちで・・・」

 

「ひゃっ!

ななななんで!?

声に出てた!?

うそ、うそ!」

 

秋穂は顔が赤くなっていた。

ありすは秋穂を黙って見ていた。

 

「あ、ありすちゃん・・・?」

 

「・・・った・・・きほ、ちゃ・・・って。」

 

「え?」

 

「ぁ・・・きほ、ちゃ・・・げん、き・・・な、て・・・よか、た・・・」

 

「あ、ありがと・・・!」

 

秋穂は嬉しそうに笑った。

 

   ***

 

ホテルロビーに良介と秋穂と絢香がいた。

 

「あ、あの・・・お仕事の邪魔しちゃって、ごめんなさい!」

 

「ああ、大丈夫だよ~!

ちょっとびっくりしただけで。

ここでみんなと会うと思わなかったから驚いて・・・やっぱり、あの人の警備?」

 

「あの人ってだれですか?」

 

「え、知らないの?

もしかしてお忍びなのかな・・・」

 

「我妻さん指名で執行部から依頼が来たとしか聞いてないんですけど・・・」

 

「ほんと?

あー・・・ごめん。

聞かなかったことにして。」

 

「皇先輩は、今回の依頼主が誰か知っているんですか?」

 

「ううん、はっきり確信があるわけじゃないから。

マスコミ・・・政治や芸能の記者がいるからそうかなって思っただけなのよ。

顔知ってるから。

ほら、あそこにいる人たち。

だからやっぱり、警備が必要なくらいの人なのかなあって・・・」

 

絢香は向こうにいる人たちを指差した。

 

「へーっ、すごいですね!

ってことは、有名人・・・?」

 

「いやぁ、あたしの勘違いかもしれないし!

あはは・・・」

 

「でも、結婚式に警備がいるってどういうことだろう?

邪魔されそうってことかなぁ?

世間的に祝福されてないとか・・・?」

 

「(す、するどいわね、この子・・・)」

 

絢香は良介の方を向いた。

 

「良介君なら我妻さんと仲良いし、知ってるんじゃない?」

 

「ん?」

 

「そうなんですか、先輩?」

 

「いや、残念ながら知らないな。」

 

「そう。

良介君も知らないんだね。」

 

「悪いな。

知ってたら教えれたんだが・・・」

 

「いいのいいの。

そーんなになんでもかんでも知ってるわけじゃないよね♪」

 

「(あれ?

皇先輩、急にご機嫌になったような・・・)」

 

秋穂は不思議そうに絢香を見た。

 

「(うぐっ!

やっぱするどいっ!)」

 

絢香は見てくる秋穂を見て、少し苦笑いをした。



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第66話 サムシング・ブルー

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



結婚式が行われているホテルのロビー。

花嫁衣裳に身を包んだ薫子と葵がいた。

 

「副会長さん、お似合いですよ!

きっといい写真になりますね♪」

 

「あ、ありがとうございます・・・冷泉さんもやはり着物が堂に入っていますね。」

 

2人のところに絢香がやってきた。

 

「他のお仕事中なのにごめんなさい・・・なるべく早めに終わるようにしますね。」

 

「緊急依頼として許可を取ったので問題ありませんよ。

皇さんの事務所でしたら、素材をおかしなことには使わないでしょうし。

きっとグリモアの印象アップにつながりますわ。」

 

薫子は笑顔を見せた。

 

「そういってもらえると嬉しいです。

うちの社長、強引なところあるから。」

 

「いえいえ、こんなに上等なお着物を貸していただけて。

ところで皇さん!

皇さんはまだ着替えないのですか?」

 

「あっ、あたしはインタビューの収録もあるから後回しで。

それより他の人は?

我妻さんは・・・」

 

少し離れたところに浅梨は1人でいた。

そこに絢香がやってきた。

 

「我妻さん、いいかな?

衣裳の準備するから選んでほしいんだけど・・・」

 

「ふぁい!?

は、はい!」

 

「どうする?

色は白がいいかな。

青とか黒も似合いそうだけど。

で、ええと・・・タキシードでいいのかな?」

 

浅梨はその言葉に少し動揺した。

 

「あの、我妻さん?」

 

「・・・です・・・」

 

「ん?」

 

「私、あのドレスがいいですっ!」

 

浅梨は飾ってあったドレスを指さしながら言った。

 

   ***

 

絢香と葵はロビーで話をしていた。

 

「さっき秋穂ちゃんと話したんだけど、今回のって誰の警備なのか知ってる?」

 

「我妻さんのお知り合いのようですよ。

お名前は存じませんが・・・」

 

「我妻さんは?」

 

「さっきまであそこに・・・あら?」

 

葵はさっきまで浅梨がいた場所を指差したが、そこに浅梨の姿はなかった。

浅梨はホテルの外で、見知らぬ男性に手を引っ張られていた。

 

「あ、あの・・・知らない人についていったらいけないので・・・

ちがうんです、もう戻らないといけないんですけど・・・

建物が急にどこかにいっ・・・ひゃっ、や、やめ・・・」

 

ホテルから出てきた葵と絢香は浅梨を見つけた。

 

「我妻さん!」

 

「なっ、ナンパされてる・・・!?」

 

「なんぱ・・・間宮さんが待ち焦がれてらっしゃる、アレでございますか!?」

 

「やっ・・・あっ!

困りますぅ、離してください・・・!」

 

浅梨は手を離そうとしていた。

 

「でも、ひどく強引に見えます。

もしやお助けしたほうがよいのでしょうか?」

 

「(どうしよ、ヘタにあたしが出て騒ぎになったら・・・)」

 

絢香が悩んでいると良介が颯爽と浅梨のところに行った。

 

「そこのアンタ。

そいつ、俺のところの学園の生徒だが、なにか失礼なことでもしたか?」

 

「良介さん!」

 

「すまないが、そいつはこれから仕事が控えててな・・・

名前と住所を・・・

ああ、世話になったら後日お礼に伺わせるよ。

いや、こっちの生徒が迷惑をかけているなら当然のことだ。

すべて・・・グリモワール魔法学園執行部に報告させてもらうから。

安心してくれよ。

学園生が人に危害を与えることはないから。

訓練中の身だから、力の制御に手いっぱいだが・・・

自衛せざるをえない状況以外では、安全を約束するよ。」

 

浅梨は良介を黙って見ていた。

 

「理解いただけて結構。

それじゃ、名前を・・・」

 

男性は浅梨の手を離すと走り去っていった。

 

「あ・・・逃げちゃいました・・・」

 

「大丈夫か?

なにもされなかったか?」

 

「あっ、は、はい!

ありがとうございます。」

 

浅梨は良介の方を見つめた。

 

「良介さん・・・」

 

「ん?」

 

「かぁっこいいぃ・・・!」

 

「浅梨、もう少ししっかりしろよ。」

 

良介はため息をついた。

 

   ***

 

ホテルロビーで絢香と葵と良介が話していた。

 

「冷泉さんのお家は、きっと結婚式も盛大だよね?」

 

絢香は葵に聞いた。

 

「そうですねえ。

お相手の家柄にもよると思いますが。」

 

「相手の家柄・・・?」

 

良介は首を捻った。

 

「はい。

おそらく、わたくしは親が決めた人と結婚すると思いますので。」

 

「え!

今の時代にそんなコトってあるんだ!?

冷泉さんは、好きでもない人と結婚なんてイヤじゃないの?」

 

「幼少の頃からそう言われて育ちましたから。

皇さんは、夫となる人をご自分で選べるのですか?」

 

「自分で選べるっていうか・・・普通はそうだと思うよ。

いやでも、うーん・・・アイドルやってる間は無理だろうな。

アイドルって、誰のものにもなっちゃいけない風潮あるからね。」

 

「なんと!

ははぁ、そういうものなんですね。

皇さんはいつまでアイドルを続けられるのですか?」

 

「うぐっ!

そ、それは・・・今の時点で答えにくいかな?

いずれ歳がいったらアイドルではいられなくなるだろうけど。

そのころにはもう恋愛してくれる相手はいないかも・・・ははは。」

 

「大変なお仕事なのですね。」

 

「冷泉さんだって、大変じゃない・・・」

 

「いえいえ、わたくしなどは恵まれていますので!」

 

「いやいや、あたしも今は結構幸せだよ!」

 

「ということは・・・?

あまり、思い悩むことでもないのでしょうか?」

 

「そうかもね。」

 

2人は突然、良介の方を向いた。

 

「そういえば、良介さんのことも気になりますね!」

 

「は・・・?」

 

良介は唖然とした。

 

「確かに。

良介君の恋愛観とか気になるかも。」

 

「ねえよ。

俺には。」

 

良介は即答した。

 

「ない?

どういうことでしょうか。」

 

葵は首を捻った。

 

「俺は魔物に両親を殺された。

その上、魔法使いに覚醒した。

そうなった以上、魔物と戦うことが俺の全てだ。

恋愛感情なんかに走っていられるか。」

 

「なんか・・・生天目さんみたいだね。」

 

絢香は良介を悲しそうな目で見た。

 

「俺とあいつは違う。

あいつはただの欲で戦っているだけだ。

俺は自分みたいに魔物に肉親、大切な人を亡くした奴を出したくないだけだ。」

 

「良介さんは、そのことだけでご自身の人生を捧げるおつもりですか?」

 

「もしも、あなたのことが好きだって言ってきた人がいたらどうするの?」

 

「出てこなくていいよ。

その方が・・・みんな幸せだと思うから。」

 

良介は笑みを見せると歩いてどこかに行ってしまった。

2人は良介の背中を見ていた。

 

   ***

 

ホテルロビーに葵、浅梨、薫子、誠がいた。

葵は新郎の姿を目撃した。

 

「あ、やっぱりそうです。

確かに以前会合でご挨拶した・・・」

 

「どうしました、冷泉さん?」

 

薫子は葵に聞いた。

 

「我妻さん、今回依頼してくださったお知り合いの方なのですが。

与党の議員さんでしょうか?」

 

「あ、はい!

どちらかというとお嫁さんの方に縁があるんですけど。

お嫁さんが我妻の血縁者なんですよ。」

 

「まぁ!

・・・ということは、花嫁さんは・・・」

 

「はい!

魔法使いなんです!

軍人さんですよ。

来月から前線に配備されるっていってました。」

 

「そいつは・・・」

 

「雑誌なんかで一時的話題になったので、結構知られてるかもですね。

最近、街中に魔物とか、霧の護り手とか物騒ですから・・・

比較的都合のつきやすい私が、警備を引き受けたんです。」

 

「けれど、そんなに魔法使いの結婚は難しいのでしょうか?」

 

葵は首を傾げた。

 

「戦いの場に赴く以上、魔法使いは短命だからな。

立場上、いわれのない差別を受けることも珍しくないからな。

その後の生活も含めると、困難だろうな。」

 

誠はため息をついた。

 

「そう!

だから私、小さい時からずっと思っているんです。

普通、魔法使いは人を助けるべき、っていいますけど・・・

お母さんやお姉ちゃん、軍人さん・・・それにグリモアのみなさん。

魔法使い自身の幸せも、ちゃんと守らなきゃいけないって!」

 

薫子と葵は浅梨の方を笑顔で見ていた。

誠は真顔で見ていた。

 

「それが、始祖十家としての志、ということですか。」

 

「はい!

それが我妻として・・・

魔法少女としての使命です!」

 

「浅梨、そうやって自分の使命を忘れるなよ。」

 

誠が話しかけてきた。

 

「そういえば、誠さんも使命みたいなものがあると聞いたんですが・・・」

 

浅梨が聞いてきた。

 

「誠さんもあるのですか?」

 

薫子も誠の方を見た。

 

「ああ、あるよ。」

 

「それは・・・?」

 

「自分みたいに、大切なもん全部失う奴を出さないこと。」

 

「大切なもの・・・?」

 

葵は首を傾げた。

 

「ああ、そうだよ。

俺は両親を・・・兄妹を・・・妹を魔物に殺されたからな。」

 

「え・・・?」

 

薫子は驚いた。

 

「そういう奴を出さない為に俺は魔物と戦うつもりだ。」

 

「あの・・・さっき良介さんに聞いたのですが。」

 

葵が誠に聞いた。

 

「ん?」

 

「誠さんは、ご自身は幸せになろうとは思わないんですか?」

 

「無い。

そんな資格なんて俺にあるわけないだろ?」

 

誠は当たり前のように答えた。

 

「なぜ・・・そう思うのですか?」

 

薫子が聞いてきた。

 

「家族を1人も救えない奴にそんな権利あると思うか?

俺は思わないね。」

 

「誠さん・・・!

あなたは・・・!」

 

「俺は・・・自分以外のみんなが幸せになってくれたらそれで充分だよ。」

 

「誠さん・・・良介さんも同じようなことを言っていました。

なぜそんなことが言えるのですか?」

 

葵は悲しそうに聞いてきた。

 

「良介もか・・・まぁ、同じ経験をした者にしかわからないんだろうな。

この気持ちってやつは。」

 

誠は暗い笑みを浮かべるとその場から去っていった。

3人はただ誠の背中を見ることしかできなかった。

 

   ***

 

夕方の街中、怜が走っていた。

 

「もうこんな時間か、急がねば。

特殊な家業とはいえ、理解があることに甘えてはいけないな。

しかし、これから忙しいシーズンだ。

屋根の補修はどうするか・・・

ん?

このホテルか?

JGJのマーク・・・よし、間違いない。」

 

怜はホテルに入った。

ホテルに入ると、花嫁姿の葵が出てきた。

 

「神凪さん!

みなさん、神凪さんが着きましたよ。」

 

今度は花嫁姿の薫子が出てきた。

 

「ご実家は大丈夫でしたか?

とりあえず我妻さんと交代してもらいますので・・・」

 

怜はその状況を見て、驚愕した。

 

「っ!?

な、なん・・・え!?」

 

花嫁姿の絢香まで出てきた。

 

「あっ、えーと、これは・・・」

 

「皇まで!?

なぜそんな格好を!?

まさか、みんな嫁に行くのか!?」

 

「ええと、話すと長くなるのですが・・・」

 

「あのですね、全員花嫁衣裳で、良介さんと誠さんと一緒に・・・」

 

「全員花嫁で・・・?

良介と・・・?」

 

怜の後ろから花嫁姿の浅梨が出てきた。

 

「あ、神凪さんだ。

せんぱぁい、神凪さんが来ましたよ。」

 

「ああ、来たか。

怜、家は大丈夫か?」

 

白いタキシードに身を包んだ良介が出てきた。

誠は制服のままだった。

 

「り、良介・・・お前、男とまで・・・」

 

「怜・・・?

お前、何を・・・」

 

「えへへ、誠先輩ったらとっても優しいんですよぉ。

さっき動きにくくて、つまづきそうになったんですけど、支えてくれて。

私、キュンとしちゃいましたぁ♪」

 

「ははは・・・そいつは・・・よかったな・・・

(つい先日に男だと知ったから全然嬉しくねえな・・・)」

 

誠は引き気味に笑った。

が、怜は誠の方は見ずに良介を睨みつける。

 

「あのー・・・怜?」

 

「良介・・・私はお前を信じていたのに・・・

やはり何股もかけるような不誠実な男だったのかっ!」

 

「えぇっ!?」

 

良介はその言葉に驚愕した。

 

「きゃっ!

神凪さん!?」

 

「か、神凪さん落ち着いて・・・」

 

「止めてくれるな!

風紀委員として見逃すわけにはいかない!

そこに直れ良介!

私がお前の性根を正してくれる!」

 

怜は腰の真剣を抜いた。

 

「ま、待て!

違うからっ!

お前の勘違いだから!」

 

そう言いながら、良介は剣だけを出した。

 

「問答無用っ!」

 

怜は良介に斬りにかかった。

 

「あれ・・・?

俺は完全に無視・・・?」

 

誠はその状況をただ呆然と見ていた。



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第67話 晴れ乞い

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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ある日の学園の校門前。

雨の中、兎ノ助がいた。

 

「んぐっ・・・こ、今回こそは・・・!

ダメだ。

カラダが・・・オモイ。」

 

体を動かそうとする兎ノ助のところに恋がやってきた。

 

「よし。

では行ってくるでの。」

 

「おぉ・・・もう準備できたのか?」

 

「うむ。

善は急げと言うじゃろ。

それに、他でもない神凪のぴんちじゃ。

早く行ってやりたくてな。」

 

「頼んだぜ。

この時期の神凪神社はまじで忙しーからな。」

 

「分かっておる。

わっちもあの紫陽花が好きでのう。

あれを目当てに遥々参拝に来るのも、もっともじゃろ。」

 

「ああ。

それにしても、怜のじーさん大丈夫かな。

あまりの忙しさで、倒れたとか・・・なんとか。」

 

「うむ、そっちも心配じゃな。

つい先日まで元気だったというのに・・・」

 

「くっそ~!!

俺も体が動けばな・・・はぁ。」

 

兎ノ助はため息をついた。

 

「お主、さっきから苦しそうじゃがどうした?」

 

「なんかこう・・・雨がつづくと体が、ギシギシする・・・気がする。」

 

「機械の体も難儀じゃのう。」

 

「不甲斐ないぜ・・・結希に診てもらおうかな。」

 

「気にするな、わっちらに任せい。

では、行ってくる。」

 

「き、気ぃつけてな!

いつになったら俺も行けるんだ。」

 

兎ノ助はため息をついた。

そのすぐ近くを良介と誠が通り過ぎた。

 

「はぁ~・・・雨の中行かなきゃいけないとか・・・」

 

誠はため息をついた。

 

「そんなに行きたくないなら帰れよ。」

 

「いや、行くよ。

帰っても何もすることがないからな。

ただ、雨なのがなぁ・・・」

 

「梅雨なんだから仕方ないだろ。

つべこべ言わず行くぞ。」

 

「お前なんでそんなに元気なんだよ・・・」

 

誠は良介を見て、再びため息をついた。

 

   ***

 

神凪神社。

怜は神社の様子を見てため息をついた。

 

「困ったな。

もうこんなに奉納されているとは・・・」

 

すると、そこに良介、誠、恋、ましろがやってきた。

 

「怜、待たせたな。」

 

良介は怜に話しかけた。

 

「思ったより時間がかかりました・・・梅雨は、足元が【つゆ】っとしますね。」

 

「ぶぇっきしっ!」

 

ましろのギャグの後に誠がくしゃみをした。

 

「良介、誠、南条、雪白・・・雨の中すまない。

世話になる。」

 

「気にするなよ。

それより、そのてるてる坊主は・・・?」

 

良介は神社に吊るされているてるてる坊主を見た。

 

「ああ。

うちの神社に伝わるジンクスのようなものでな。

てるてる坊主を奉納すると、天気に恵まれるというものだ。

最近、雨が続いているせいか、奉納が多くてな・・・」

 

「すごい数ですね・・・【てるてる坊主】に【困ってる坊主】。

フフフ。」

 

「いっきし!

・・・ギャグのせいで余計に寒く感じるな。」

 

「ましろよ・・・とにかく、わっちらはこれを運べばよいのじゃな。」

 

「助かる。

あっちに奉納室があるから案内しよう。」

 

「そういえば怜。

お前の爺さんは大丈夫か?」

 

良介は怜に尋ねた。

 

「それが・・・ただの関節痛だったんだ。」

 

「関節痛?」

 

誠がキョトンとした。

 

「気圧が低くなると、ギシギシと痛むらしい。

心配かけてすまなかった。」

 

「いやいや、無事ならそれでいいのじゃよ。」

 

「じとじとする日は、じーっとしていませんとね。

フフフ。

さきほども、小さなおじい様が辛そうでしたし。」

 

「小さなおじい様?

もしかしたら、私の祖父かもしれん。

まったく。

休んでいろと言ったのに・・・今、どこに?」

 

「ソフィアさん達が、休憩場までお連れしましたよ。」

 

「あやせさんがいるから大丈夫だろ。

俺たちはこのてるてる坊主を片付けるか。」

 

良介たちはてるてる坊主を持とうとした。

 

「では、それっ・・・むっ。

おわっ・・・す、すべっ・・・!」

 

「っと・・・大丈夫か恋。」

 

倒れそうになった恋を良介が支えた。

 

「おお・・・すまん。

良介、助かったぞ。

いかんな、足元が不安定で。

やはりこういう時は、お主は頼りになる。

では、一緒に持っていこう。

なに、わっちも少しは持てるぞい。」

 

「そうかい。

それじゃ、持っていこうか。」

 

良介と恋はてるてる坊主を2人で持っていった。

 

   ***

 

学園の女子寮。

望が自分の部屋にいた。

デバイスが鳴っていた。

 

「さっきからうるさいなぁ。

行かないって言ってるのに・・・

写真・・・?

すご。

こんなに咲いてるんだ。

ま、関係ないけど。

どーせ出れないし・・・

はぁー。

家の中なのにだるい・・・ほんとに梅雨とかやめてくれ・・・

あたまいたー・・・だる・・・あー・・・

ゲームするか。

雨の日は、部屋でゲームに限る。

良介でも誘ってやるかな。

良介ならボクの相手務まるだろうし。

い、ま、か、ら、こ、い・・・と。

はい、送信ー。」

 

望は良介にもあっとを送った。

と、すぐに返信がきた。

 

「はや・・・即レス?

もしや、ボクからの連絡待ちだったとか・・・

警備中?

なんだよ、みんな一緒かよー。

あーだめだ。

何にもする気おきない・・・みんなばっかずるい・・・

やっぱ、ゲームしよ。」

 

望はゲームをし始めた。

 

   ***

 

神凪神社。

良介たちはてるてる坊主を運んでいた。

 

「よいしょ!

よし、これで全部か?」

 

良介はてるてる坊主を下ろした。

 

「助かった。

しばらくはこれで大丈夫そうだ。

雨が止むまでは奉納されるだろうから・・・まだ安心はできんが。」

 

「そろそろお日様が恋しいですね・・・雪女は、溶けちゃいますけど。

太陽は、どこに行っ【たいよう】・・・なんて。

フフフ。」

 

「これじゃあしばらく晴れそうにないな。」

 

誠は引き気味に笑った。

と、突然デバイスが鳴り出した。

 

「なんだ?

緊急警報?」

 

良介はデバイスを見た。

 

「大雨の影響で停電・・・まずい。

この辺りも警告が出てるぞ。」

 

「さすがにそれは困るの・・・たとえ天のさだめとはいえ・・・

どれ。

一筆、祈願絵でも書こうかのう。

神凪、そこで絵を書いてもよいか?」

 

「絵?

かまわないが、何を書くんだ?」

 

「まぁ、見ておれ。

気休め程度じゃが、良いものが書ける気がするんじゃよ。」

 

そう言うと、恋は絵を書き始めた。

 

「南条さんの絵、初めて見ました。

すごい気迫ですね。」

 

「私もあれほど気合い入っている南条は初めて見るな。」

 

「【きあい】の入った南条さんも、【きらい】じゃない・・・フフフ。」

 

「大丈夫かねぇ・・・」

 

誠はましろの方を見ながら言った。

 

「よし、完成じゃ。」

 

「これ・・・【八咫烏】か?」

 

良介は恋の絵を見ながら尋ねた。

 

「そうじゃ。

太陽の化身と言われておってな、晴れ乞いには持ってこいじゃ。

最後に、この目を入れて・・・むんっ!

晴天祈願!!」

 

恋は最後の目を書いた。

その頃、学園の女子寮。

望がゲームをしていた。

 

「んぁー、なんだよ今のラグ。

絶対いけたのに。

なんで?

急所取って・・・わ、また食らった。

なんなんだよもー。

さっきからヘンだぞ・・・ん?

【雨で停電。

通信障害も発生】?

はー。

もーやってらんないなー。

ゲームくらい、やらせろってのに・・・

だいたい雨くらいで遅延すんなよ。

う、頭いた・・・

あ・・・ダメだ。

クラクラしてきた。

また気圧が・・・

ホントだったらこんな雨、ボクの魔法で一瞬で消してやれるのに・・・!

いや。あの魔法はしんどすぎる。

魔力も無くなっちゃうし・・・無理。

宍戸にも絶対バレるし・・・危険すぎ。

やっぱ、やめやめ・・・」

 

すると、突然電気が消えた。

 

「ひぃぃっ!

て、停電・・・?

あ、ピザ落ちた・・・

ボクのピザ・・・最後の・・・ピザが・・・ああっ、ああ!!

んだー!

知るか知るか知るか!

雨なんか嫌いだ!

校則違反がなんだ・・・!

ボクを・・・ボクを怒らせたな!!」

 

望は大きく叫んだ。

 

「雨め・・・消えされぇぇっ!!」

 

   ***

 

学園の女子寮。

望は息が上がっていた。

 

「ぜぇ、ぜぇ。

どうだ見たか・・・ボクの・・・まっ、まぶし!」

 

部屋の停電は直っていた。

 

「あ、ダメだ。

やっぱ魔力足りな・・・クラクラす・・・る・・・」

 

望はその場で倒れた。

その頃、神凪神社。

 

「おい、見ろ!

雨が・・・上がっている。」

 

「もしや・・・本当にこの絵で晴れ乞いを?」

 

「まさか信じられんが、急に陽が出るとは・・・」

 

ソフィアとあやせの2人がやってきた。

 

「みなさーんっ!

お日様がかむばっくしましたよーっ!」

 

「あらあら、ソフィアちゃん。

走ったら危ないですよ。

不思議ですねぇ。

さっきまであんなに降っていたのに。

奇跡みたいです。」

 

「ふふ。

お天道様が見に来てくださったようじゃ。

よかったよかった。」

 

「おおーっ!

ぐーれいと!

これは見事な絵ですねぇ・・・【カラス】?」

 

「おかげですっかり【カラッス】した陽気になりました。

フフ。」

 

「おかげで??

からっす??」

 

「ふふふ。

ましろさん、今日は絶好調ですね~。」

 

すると、良介のデバイスが鳴った。

 

「結希からか・・・望が?

悪いみんな。

今から学園に戻る。

望が魔力切れで倒れたらしい。

供給に行ってくる。」

 

「あら?

望ちゃん、クエストにでも行ってたのかしら?」

 

「いや、私用で魔法を使ったらしい。

始末書も頼まれてる。」

 

「あらあら。

どうしたのかしら・・・」

 

怜はみんなに礼を言った。

 

「皆、手伝ってくれてありがとう。

またゆっくり遊びに来てくれ。」

 

「なに、普段のお礼じゃよ。

力になれてよかった。」

 

「のーぷろぶれむでぇす!

びゅーてぇふるなアジサイも見れました!」

 

「あら?

見てください。

虹がでていますよ~。」

 

「むむ?

どこですか?

んー、【にじんで】て見えないです。」

 

「にじがにじんで・・・あら。

一本取られました。」

 

「なっ!

誤解です!

ダジャレを言ったわけじゃありません!」

 

「【ダジャレ】を言ったわけ【だじゃれ】・・・フフフ。」

 

「あうあう・・・誠さん、へるぷみー!」

 

「俺はまだ心の中が雨模様だよ・・・」

 

誠はため息をついた。

 

「一件落着か。

学園に戻るとするか。」

 

良介はそう言うと、学園へと歩き始めた。



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第68話 ベテランの一角

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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朝の学園の校門前、良介が1人で歩いていた。

 

「良介さん、良介さん!」

 

「ん?」

 

良介は誰かに呼ばれたので振り向くと、さらがいた。

 

「おはようございますぅ!

あのですね、実はですね・・・

わたし、クエストに行くんですよぅ!」

 

「クエスト・・・ああ、商店街のクエストか。」

 

良介はデバイスでクエストを確認した。

 

「はい!

商店街のひとたちが困ってるみたいなんですぅ!

副会長さんから、行ってみたらって言われましたのでお請けしました!」

 

「へえ、薫子さんにか。」

 

「わたし、やっとクエストを自由に請けられるようになりまして・・・

ですから、今日は頑張っちゃいますよぉ!」

 

「よし、それじゃ俺も請けるかな。」

 

「では、よろしくお願いしますね!」

 

さらはそう言うと、先に行ってしまった。

だが、なぜかすぐに戻ってきた。

 

「ん?

どうした、さら。」

 

「商店街・・・前に行ったことがあるんですけど・・・どこでしたでしょうか?」

 

「バスに乗って行くんだよ。」

 

良介は呆れ笑いをしながら言った。

 

「あ、バスですね!

ありがとうございますぅ!

それでは、シロー、出発ですよう!」

 

良介とさらはクエストに向かった。

その頃、生徒会室。

虎千代と薫子がいた。

 

「仲月に単独のクエストを許可したのか。

アイツもそんな歳になったんだな。

フフフ、いつまでも小さいから気づかなかったぞ。」

 

「学園生活は私たちなどよりずっと長いのですけれどね。

今までも誰かのパーティに所属して、という形で後方支援をしていましたが・・・

まずは簡単なクエストから、徐々にこなせるようになってもらいましょう。」

 

「なんといっても、物心ついたころから学園にいるのは仲月だけだからな。

ある意味、アイツが一番グリモアの生徒らしいかもしれん。」

 

「今日のクエストは商店街に出現した魔物の掃討です。

規模は少数。

全て幼体で、人に危害を加える力は持っていません。

ですが出た場所が場所だけに、急いで討伐することになりました。

仲月さんなら、商店街の方々へのイメージも悪くないでしょうし。」

 

「こんなに小さい子を戦わせるなど不届き千万、となるんじゃないか?」

 

「仲月さんはみなさんを助けるために全力を尽くしてくれます。

良介さんがいっしょですし、戦いが終わっても元気でしょう。

小さくてもこんなに強く、自分たちのことを考えてくれている・・・

と受け取ってもらえれば僥倖ですね。」

 

「まあ、仲月を送り出す時点である程度の打算は仕方ない。

だが、魔法使いはみんながそうでないといけない。

強く、人々のことを考えている・・・誰が行っても、そういう印象じゃなきゃな。」

 

「ええ、もちろんですわ。」

 

2人が話していると、聖奈が入ってきた。

 

「会長、副会長。

対策開発局局長がお見えになりました。」

 

「そうか。

誰だっけそれ。」

 

虎千代がそう言うと、茉理が入ってきた。

 

「ほら~、だから茉理ちゃんって呼んでって言ったのにぃ!」

 

「あ、あなたは学園生ではない!

年も離れています!

馴れ馴れしく呼ぶなどできるわけがありません!」

 

「やぁん、お堅いところもカ・ワ・イ・イ。

背伸びしてるのねぇ~。」

 

「ああ、神宮寺の。

ようこそ、生徒会室へ。」

 

「なんの用事でしょうか。」

 

「おっと・・・いやね、そろそろ初音ちゃんと話してもいいんじゃないかなって。

試用期間?

終わってほしいな~って・・・まだ信用できないかな?」

 

「ああ、そういうことか。

ふむ・・・まあ、いいんじゃないか?」

 

「会長・・・!」

 

「もともと神宮寺に【信用できる人材】として紹介してもらったんだ。

それなのにあまり疑うと、なにがなにやらだからな。

局長。

一般生徒と同様の行動制限をあなたに与える。

学園生の入れる場所ならどこでも行っていい。

誰と話してもいいぞ。」

 

その言葉を聞くと茉理は嬉しそうに笑った。

 

「アリガト。

今までは関係者?

しか話せなかったからね。

グフフ・・・・・」

 

茉理は怪しい笑みを浮かべた。

 

「ただし、一般生徒は授業がある。

その邪魔はしないように頼むぞ。」

 

「ラジャ・・・あ、生徒会長さん。

その喋り方だけど・・・」

 

「年上のあなたに偉そうな話し方をして申し訳なく思うが、それが仕事だか・・・」

 

「いやいやいや、違うのよ。

全然オッケー!

でもね、呼ぶときは茉理ちゃんって呼んでね。

それくらいいいでしょ?」

 

「わかった、茉理ちゃん。」

 

茉理は嬉しそうに笑った。

 

「ごちそうさま!」

 

茉理はスキップ気味に生徒会室から出て行った。

 

「あの方は本当に成人しているのですか?」

 

「こら、薫子。

そういうことは言うもんじゃない。」

 

「JGJ関連は私の担当です。

お任せ下さい。」

 

「ではまず、茉理ちゃんと呼べるようになってくださいね。」

 

聖奈はその言葉に困惑した。

 

「会長がそう呼んだのですから、もう失礼は当たらないでしょう。」

 

「は、はい。

善処します。」

 

聖奈はため息をつきながら出て行った。

 

   ***

 

良介とさらは話しながらバス乗り場に向かっていた。

 

「良介さん、今日はよろしくお願いしますねぇ。」

 

「ああ、よろしくな。」

 

「わたし、あんまりクエストに出ないのでみんな心配してましたけど・・・

良介さんといっしょなら、きっと大丈夫ですぅ!

それに、ししどさんがお守りをくれましたし!」

 

「お守り・・・?

結希が?」

 

「この・・・えーと、発信機で、わたしたちの場所がわかるって・・・

危なくなったら、ししどさんがすぐにきてくれるっていってましたぁ!」

 

「そ、そうか。

しかし、結希がそんなもの渡すとは珍しいな。

(どう考えてもGPSとかそういうやつの類だな・・・)」

 

「ゆきさん、よくシローと遊んでくれるんですぅ。」

 

「結希が・・・シローと・・・?」

 

良介はその姿を妄想してみたが、まったく思いつかなかった。

 

「ふぇぇ?

そんなにふしぎですかぁ?

ししどさん、シローのことをとってもきょーみぶかいっていってました。

ほかには・・・えーと・・・いいコンビになれるっていってくれました!

だから今日は・・・練習のせいかを、良介さんにみせてあげますぅ!」

 

「そうか・・・

(興味深い・・・?

シローには何か秘密でもあるのか?)」

 

良介は首を捻りながら、バス乗り場に向かった。

 

   ***

 

少し遡って、数日前。

良介は噴水前にいた。

そこに春乃がやってきた。

 

「良介。

ちょっと待て。」

 

「ん・・・春乃か。

何か用か?」

 

「この前、秋穂を助けてくれたことに礼を言う。

あのときは1人じゃどうしようもなかった。」

 

「そうか・・・。」

 

2人は少し無言になった。

 

「それだけ。」

 

春乃が去ろうとすると、良介は呼び止めた。

 

「春乃、秋穂は大丈夫なのか?」

 

「ん?

ああ、秋穂はすぐによくなったわ。

この前、結婚式場の警備に行ったでしょう。」

 

「ああ、確かにそうだったな。」

 

「後遺症がなくてよかった・・・」

 

「そう・・・だな。」

 

「アンタも秋穂のことを知った。

でも、あの子には言うな。

随分よくなったけど、あの子はまだお母さんのことを思い出して泣く。

自分のことを知ると、ただでさえ辛い人生が耐えがたいものになってしまう。

アンタもあのときの秋穂を見れば、伝える気なんか失せるわ。」

 

「(その気持ち・・・なんとなくわかるような気もするな・・・)」

 

「今まで、ずっとあの子に障壁を張り続けてきた。

それしか方法がないと思っていたから。

1度、霧が入り込んだらどうしようもない・・・なにを読んでもそう書いてあった。」

 

「それで・・・春乃はどうする気なんだ?」

 

「探す。

治すための方法を、探す。

あたしと秋穂は、そこからだ。

・・・それだけ。」

 

「そうか。」

 

良介が背を向けると春乃は続けて話した。

 

「あともう1つ。」

 

「ん?」

 

「これで秋穂を付け回すことを許すと思うな。」

 

「フッ・・・」

 

良介は鼻で笑った。

 

「何が可笑しい。」

 

春乃は良介を睨んだ。

 

「お前に、そして秋穂に伝えておけ。

死にたくなかったら俺に関わろうとするなと。」

 

「・・・何?」

 

「俺は助けをするが、俺を助けようとする必要はない。」

 

「どうして、そんなことを言う。」

 

「これ以上、何も失いたくない。

それだけだ。」

 

良介はそう言うと、去っていった。

 

   ***

 

商店街。

良介は変身し、さらと歩いていた。

すると、さらが話しかけてきた。

 

「この前のこと、大変でしたねぇ・・・おケガ、ありませんでした?」

 

「ああ、大丈夫だよ。

もう治ったから。

けど、どうしたんだ?」

 

「わたし、ずっと学園にいるのです。

いち、にぃ・・・じゅうねんですねぇ。

最初のころはあんまり覚えてないんですけど・・・

たくさんの先輩たちに優しくしてもらったのですよぉ。」

 

「へぇ、そうだったのか。」

 

「先輩たちはほとんど卒業してしまいましたけど・・・

ひとりだけ、卒業の前に亡くなっちゃったんです。

そのときの生徒会長さんで、とっても強かったんですよぉ。」

 

「そうなのか・・・生きていたら、是非とも会ってみたかったな。」

 

「お話では、魔物と戦ったときのちっちゃなケガがもとで・・・

うちどころが悪かったっていってました。

ですから、良介さんもおきをつけてくださいねぇ!

たくさんクエストに出てる良介さん、とっても心配です。」

 

「あ・・・うん・・・気をつけるよ。

(ほぼクエストに行くたびにボロボロになることが多いから、なんとも・・・)」

 

と、さらのポケットに入っていたシローが何かに反応した。

 

「ふぇ?

シロー、どうしましたか?」

 

「さら、魔物だ。」

 

「あっ、こっちに来ますぅ!」

 

良介とさらは身構えると、魔物は突進してきた。

良介は軽く体を捻って躱すと、魔物に拘束魔法をかけた。

 

「さら、今だ。」

 

良介が言うと、さらは魔法を撃つと、魔物は消滅した。

 

「やりましたぁ!」

 

「よし、この調子で行こう。」

 

良介とさらは次の魔物のところへと向かった。

 

   ***

 

購買部前。

チトセと薫子がいた。

 

「ええ、そうでしたね。

新しく作られた歴史はわからない。

あなたはただ、前の歴史と【同じところ】を見つけて、変えていく・・・」

 

「その通り。

だからこのゲートの謎を宍戸さんが解いてくれるなら・・・

全力でお手伝いするわ。」

 

「初めて裏世界に行った後、あなたは急に自分のことを話しだした。

なぜですか?

裏世界にいくことに、どんな意味が?」

 

「なにも変わっていなかったから。」

 

「こちらを変えたのなら、元の歴史である裏世界に変化がないのは当然では?」

 

「もちろんそうよ・・・でも・・・なにかありそうなの。

完全に2つに分かれている・・・にしては、不自然な点があるもの。」

 

薫子は不思議そうな顔をした。

 

「私もずっと、世界は2つあると思っていた。

でも、この前過去の裏世界に行った人たちの話を聞いたでしょう?

表世界の彼女たちが子どもだったころ・・・大人の彼女たちと会っている。

裏世界から来た?

いいえ、裏世界はその頃、ゲートは見つかっていない。

彼女たちは・・・どこから来たの?」

 

薫子は無言でチトセを見た。

 

「ね?

この世界には何かがある。

まだ、誰も知らない何かが。

それを突き止めなければ、問題は解決しない・・・」

 

チトセは去っていった。

薫子は購買部に入ると、ももがあいさつしてきた。

 

「副会長、こんにちは!」

 

「(この子には【生まれていないからわからない】といった・・・

けれど実際は、彼女は虎千代の運命について知っている・・・

あえて嘘をついたとすれば・・・

裏世界の第8次侵攻・・・おそらく学園の生徒は・・・)」

 

薫子は顎に手をやったまま考え込んでいた。

 

「副会長さん?」

 

ももはその様子を見て首を傾げた。

少し離れた廊下に誠がいた。

誠はこれまでの話を全て聞いていた。

 

「(完全にチトセがももに話した内容は嘘だな。

恐らくあいつは裏世界の第8次侵攻時点で生まれている・・・いや、もしかしたらその時を知る当事者かもしれない・・・

そうでなければ会長のことを知っているのはおかしいからな。

となれば・・・)」

 

誠は頭の中を整理した。

 

「裏世界の誰かが化けて、偽名を使ってやってきた・・・」

 

そう言うと、誠は鼻で笑った。

 

「まさか・・・な。」

 

誠はその場から去っていった。



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第69話 第2回裏世界調査

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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学園の廊下。

夏海が歩いているとみちるがやってきた。

 

「夏海ちゃん夏海ちゃん。」

 

「ん?

どうしたの?

嬉しそうね。」

 

「良介くんって来てる?」

 

「えっ!?」

 

夏海はみちるの発言に驚いた。

 

「ヒマだったらクエストに誘おうかなって。」

 

「い、いやーどーかなー。

見てないし、またクエスト出ちゃってるんじゃない?」

 

「ホント?

うーん、いつも間が悪いなぁ~・・・

それじゃ智ちゃん誘って訓練所に行こうかな。」

 

「ええっ!?」

 

夏海が再び驚いた。

 

「ん?

ど、どーしたの?」

 

「なんでもないなんでもない!」

 

「それならいいけど・・・智ちゃんいるかな~。」

 

みちるはそう言うと行ってしまった。

 

「みちる、悪気はないんだろうな~・・・

いろんなことには気が利くのに、良介のことになるとガバガバなのよね・・・

智花のこと、気づいてないのかな?」

 

今度は怜がやってきた。

 

「夏海。」

 

「ん?

あんたも良介?」

 

「私も、とはどういうことだ?」

 

「うーん・・・

(尻尾ださないなぁ。

あたしの見立てでは怜もアタリなんだけどなぁ・・・)」

 

すると、夏海は話を逸らした。

 

「あ、それともミナ?

部長から聞いたわよ。

あんた、変なこと聞いたんだってね。」

 

「ん・・・ああ、風槍はすこしずつ元気になっている。

正直なところ、彼女が言っていたことの真偽はさっぱりなんだが・・・

遊佐や宍戸が、難しい話をしているみたいでな。

私などでは到底及ばないことじゃないか、と思いはじめた。」

 

「でもあんた、やめないんでしょ?」

 

「その通りだ。」

 

「じゃあ協力するわよ。

せっかくだから智花も・・・あっ。」

 

「どうした?」

 

「い、今はやめた方がいいかな?

なんかこっちに関わってるヒマ、ないかも。」

 

「そうなのか?

まあ、用事があるなら無理に誘ってもな。」

 

「そうそう!

とりあえず部長がどこまで知ってるか聞いてみるから!

それからでも遅くないでしょ?」

 

「ああ、たのむ。」

 

場所は変わって訓練所。

みちると智花がいた。

智花はぼーっとみちるを見ていた。

 

「智ちゃ~ん、今日、調子悪い?」

 

「えっ!?

あ、う、ううん!?」

 

「なんか、心ここにあらずって感じなんだけど。」

 

「そ、そうかなぁ!

そんなことないと思うよ!」

 

「ふうん・・・?

まあ、大丈夫ならそれでいいけどね。」

 

「(み、みちるちゃん・・・良介さんのこと、どう思ってるのかぁ・・・)」

 

智花はみちるを見ていた。

 

   ***

 

生徒会室前。

誠が歩いていると薫子が話しかけてきた。

 

「誠さん、こんにちは。」

 

「む・・・薫子さんか。」

 

誠は薫子の方を向いた。

 

「クエストは順調にやっていますか?

まあ、心配はしていませんが。」

 

「ええ、まあ、それなりにやってますよ。」

 

「入学時に比べればだいぶ落ち着きましたね。

当時のあなたは心の中で苦しんでいて、攻撃的になっていた。」

 

「あの時は、頼れるやつがいなかったので・・・」

 

「ですが、私に虎千代がいるように今のあなたには良介さんがいる。」

 

「確かに、良介が入学して以降の自分とそれ以前の自分は変わった気がしますね。」

 

少し沈黙が続いた後、薫子は口を開いた。

 

「あなたにお願いがあります。」

 

「なんでしょうか?」

 

「良介さんが、この先どんな道を歩むかどうか・・・

見届けていただけませんか。

私にはやらねばならないことが多いので・・・

可能であれば。」

 

「そんなことですか。

俺に任せといてくださいよ。

あいつが間違った道を進みそうになったら、それを正すのは俺の仕事ですから。」

 

「くれぐれもあなたも無理はしないでくださいね。

第7次侵攻のようなことは特に。」

 

「・・・善処します。」

 

誠は少し顔を下に向けながら答えた。

 

   ***

 

商店街。

さらと良介は話しながら歩いていた。

 

「亡くなった先輩、とってもたくさん遊んでくれました。

ですから、わたし、お約束したんです。

先輩みたいな、りっぱな魔法使いになって・・・

先輩のぶんも、たくさんの人を守ってあげるんですぅ!

なので、たくさんたくさん練習して、魔法もがんばって・・・

こうやって、クエストにも出させてもらえるようになりました!」

 

「そうか、さらは偉いな。」

 

「あんまりいっぱいは出られないのですけど・・・

もっともっとがんばって、体もおっきくなって、強くなって・・・

そうしたら、先輩みたいに活躍するんです!

シローも協力してくれますし、きっとなれますぅ。」

 

「ああ、さらならすぐになれるさ。」

 

「シローってとってもすごいんですよぉ。

こうやってさっきみたいに・・・

魔物さんが近づいたらほえて・・・あれ?

またほえてますねぇ。」

 

「さら、魔物がすぐそこまで来ている。

戦うぞ。」

 

「はい!

わかりましたぁ!」

 

良介とさらが構えると魔物がやってきた。

良介は隙を作るつもりで剣で攻撃した。

が、その攻撃だけで魔物を倒してしまった。

 

「あ・・・倒しちゃったか。」

 

「良介さん、お強いですねぇ!」

 

さらは目をキラキラさせながら見ていた。

 

「ははは・・・次、行こうか。」

 

「はい!」

 

さらは元気よく返事をすると次の魔物の元へと歩いて行った。

 

   ***

 

研究室。

鳴子と結希がいた。

鳴子は誰かとデバイスで通話していた。

 

「盗聴されている可能性が高いんだろ?

場所は直前に教えてくれ。

ああ、前に頼んでおいたものも受け取る。

後は・・・君を見れば、みんな理解するだろうさ。

それじゃ、たのんだよ。

宍戸君も楽しみにしている・・・フフ・・・」

 

鳴子は通話を切った。

 

「あなたの協力者・・・12年前に霧の嵐にのまれたあなたを助けた人物・・・

世界は狭いわね。」

 

「まあ、ありがたい偶然だったね。

だからこそ僕がここにいるわけだけど。」

 

「あなたが裏世界や他の生徒たちについて詳しい理由はわかったわ・・・

政府関係者や軍事関係者への脅迫が妙に的確なのもわかった。

でも、あなたの本当の目的はわからない。

あなたはそれらの情報を集めて、なにをしようというの?」

 

「僕の目的は前からたった1つだ・・・世界の謎を解き明かすこと。

残念なことに、裏世界といくら情報をやりくりしたところで・・・

【なぜ霧が突然現れたのか、なぜ裏と表という2つの世界があるのか】・・・

それはわからないままだ。

だから僕は、ある1点に絞って調査している。」

 

結希は黙って聞いていた。

 

「【表と裏の相違点】だ。

2つの世界でなにが違うのか、なぜ違うのか。

例えばデクはこちらの方が進歩している。

50年前にブレイクスルーがあった。

これに関しては、本人の言葉を信じるなら、朱鷺坂君がやったんだろう・・・

年齢が合わないのが気になるけどね。

サン=ジェルマン伯爵のようだな。

彼女も裏世界に来るんだろう?」

 

「そう聞いてるわ。」

 

「なら・・・観察する機会は十分にあるわけだ。」

 

「学園地下のゲートが繋がっているのは【12年後】・・・

あなたの協力者は、第8次侵攻から12年間、生き続けてきた。

情報は期待していいのね?

とにかく量が膨大だから、どれかは役に立つだろう。

さて、僕は準備に戻るよ・・・彼女を助ける準備をしよう。」

 

「盗聴されている可能性を疑っていたわね。

彼女は追われているの?」

 

「ああ。

12年後の裏世界にも、まだ人類の組織はある。

彼女が独自に集めた情報は・・・絶滅が確定した状態でも、貴重だ。」

 

「では、彼女が追われているのは政府?

それとも霧の護り手?」

 

「いいや、そのどちらももう存在しない。

彼女を狙っているのは、JGJだよ。」

 

鳴子は怪しい笑みを見せた。

 

   ***

 

商店街。

良介とさらは次の魔物のところに向かっていた。

 

「わたし、魔物さんとたたかうの、あまり好きではないんです。」

 

「どうしてそう思うんだい?」

 

「魔物さんだって、きっと死んじゃったら悲しい人がいるんです。

魔物さんのパパやママみたいな・・・でも、倒さなきゃいけないんです。」

 

「ああ、その通りだ。」

 

「たくさんの先輩たちが、たたかいでケガするのをみてきました。

魔物さんは、まだわたしたちと仲良くできてないんですよね・・・

それに、わたしは先輩と約束しましたから!

魔物さんが悪いことをするなら、それからみんなを守るんですぅ。

でも、いつか、みんないっしょに仲良くくらせたらいいですよねぇ。

魔物さんもみんなも、たたかわなくてよくなったら・・・

先輩みたいな人や、兵隊さんみたいなひとも・・・

みんな、ケガしたり亡くなったり、しなくなりますからねぇ。」

 

「・・・そんな時がくればいいがな。」

 

良介は呟くように言うと、魔物の方へと向いた。

良介は魔物に向かって突撃すると、足払いをかけてバランス崩させた。

 

「さら、今だ!」

 

良介の指示と同時にさらが魔法を撃つと魔物は消滅した。

 

   ***

 

最後の魔物を倒したあと良介とさらは他に魔物がいないか確認していた。

 

「シローはわたしよりちっちゃいですけど、わたしよりすごいんですよぉ。

わたしが生まれて、泣いてたときにあやしてくれたそうです。

魔法使いになって、危ないからって学園にあずけられて・・・

そのときもずっと、パパたちのかわりにいっしょにいてくれたんです。」

 

「へぇ、シローは偉いなぁ。」

 

「シローはわたしをずっと守ってきてくれました。

とってもとっても大好きですぅ。

ときどきちょっとわがままですけど・・・

たとえば、さっきみたいに魔物さんがきたときはですね。

ちゃんとリュックにもどらないとダメなんですよぉ。

シローが死んじゃったら、わたし、とっても悲しいのです。

だから、これからもいっしょにがんばりましょうね。

シロー。」

 

さらはシローの頭を撫でた。

 

「あ、もちろん良介さんもごいっしょですよぉ!」

 

「はは、俺も頑張らせてもらうよ、さら。」

 

良介はさらの頭を優しく撫でた。

 

   ***

 

少しして喫茶店。

さらは良介の奢りでパフェを食べていた。

 

「こ、こんなにおいしいものをごちそうになるなんて・・・!

なんだかいけない感じがしますぅ・・・!」

 

「別にそんなに気にしなくてもいいよ。」

 

「ごちそうさまです、良介さん!

こんどお返ししますね!」

 

良介とさらは店から出た。

 

「はぅ~・・・しあわせですぅ・・・

きょうはお手伝い、ありがとうございましたぁ。

良介さんのおかげで、安心してたたかうことができましたよぉ。

シローもいっしょにお礼を言わなくてはいけませんねぇ。」

 

すると、突然さらはじーっと良介の方を見た。

 

「どうした?」

 

「そういえば良介さん、ミナちゃんはどうでしょうか?

ミナちゃん、みんなのおかげで少しずつ元気になってきてるんですけど・・・

やっぱり、良介さんがいないといけませんよぉ。」

 

「ん・・・そうかな・・・」

 

「天文部のみんなと一緒にいるときもですけど・・・

良介さんがいっしょだったら、もっと元気になるんですよぉ。

だからわたし、お願いなんです。

ミナちゃんに言ってあげてください。

だいじょうぶだって。」

 

「そうだな・・・今度会った時に言っとくよ。」

 

「えへへ・・・なんだかきょうのわたし、おとなっぽいですねぇ。」

 

さらは再び良介の方を見た。

 

「わたし、いろんな人におせわになってきました。

だから、がんばってみんなに恩返ししたいんです。

良介さんも、よろしくお願いしますね。

恩返しさせてくださいね。」

 

「・・・ああ。」

 

良介とさらは学園に向かって歩き始めた。

 

   ***

 

生徒会室。

聖奈が虎千代と話していた。

 

「仲月 さらと早田 良介の2人は夕食の後に戻るそうです。」

 

「そうか・・・科研が、急にあの犬に興味を持ち始めたな。

どうにかならないか。

そんなことに関わっている暇はないんだ。」

 

「執行部から圧力をかけるよう依頼するしかありませんね。」

 

「ふむ・・・ま、そうだろうな。

だが、確かにアタシが見てきた間・・・

あの犬は一切成長していないように見える。」

 

「異常なことではあります・・・が、飼い主を見る限り・・・

なにをどうするわけでもないと思いますが。」

 

「まあ、その点は安心だな。

だが科研が・・・

あの犬に注目しているという事実は無視できん。

まったく・・・そのうえ、良介の情報が外部に漏れただと?

これが学園長がいなくなった影響か・・・予想以上だな・・・」

 

「それですが、次の学園長が決定したそうです。」

 

「なんだって?」

 

「犬川学園長の遺言によって指名されていたそうです。」

 

「誰だ?

あの学園長が指名したんだ。

抜け目のないものだといいが。」

 

「それが・・・・・」

 

「どうした?」

 

「犬川学園長の、孫娘です。」

 

「孫娘?

ふむ、若いな。

だが学園長は御年100近かった。

孫も、若くて30代か?」

 

「10歳です。」

 

虎千代はその言葉を聞くと少し沈黙した。

 

「30歳?」

 

「10歳です。」

 

虎千代はまた沈黙した。

 

「な・・・なんだと・・・・・」

 

そして、驚愕した。



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第70話 再び裏世界

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


裏世界。

鳴子はデバイスで連絡を取ろうとしていた。

 

「出ないな・・・」

 

しかし、デバイスには誰も出てこなかった。

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

一緒にやってきた夏海が心配そうに聞いてきた。

 

「大丈夫だよ。

場所と時間はあらかじめ共有しているから。

僕たちがそこに行けば、絶対に会える。

夏海、僕は卒業したら従軍ジャーナリストになるつもりだ。

君もそうなら、今回は貴重な経験になる。

心してくれ。」

 

「は、はい!」

 

近くにいたゆえ子は不安そうな顔をしていた。

 

「ゆえはあまり役に立たないと思うのですが・・・

精一杯、予知しますね。」

 

すぐ近くに誠がいた。

 

「(鳴子さんの協力者・・・誰なんだろうか。

それにしても・・・)」

 

誠は自分の手を見た。

 

「(何故だろうか・・・前と一緒で力が湧いてくるような感じがする。

裏世界に・・・俺に一体何が・・・)」

 

誠は不安そうに街の方を見た。

そこから少し離れたところに結希と卯衣がいた。

 

「準備はいいかしら。」

 

「はい、ドクター。

魔力は100%の状態です。」

 

「前回の襲撃具合を考えるに、すぐ減ると思うわ。

良介君が同行するから、こまめに補給を受けてちょうだい。」

 

「了解しました・・・良介君。

お願いね。」

 

「ああ、わかった。

任せてくれ。」

 

良介は鳴子たちのところに歩き始めた。

 

   ***

 

裏世界の風飛市。

良介たちが歩いていた。

 

「しかしまぁ、変な感じだな。

風飛市がもう1つあるって。」

 

良介はため息をついた。

 

「壊れてるのが裏世界、壊れてないのが表世界。

別のようで同じ場所。

本当に変な感じだな。

それにしても・・・」

 

誠は呆れた顔をして、初音と話している明鈴の方を見る。

裏世界と表世界のことを理解していないようで初音に説明してもらっていた。

 

「なんで表世界と裏世界のことを理解してないあいつがいるのか。」

 

すると、鳴子が誠に話しかけた。

 

「僕がお願いして来てもらったんだよ。

彼女は武闘派だから。

今にも崩壊しそうなビルの近くで、ドカドカ魔法を使うのもなんだからね。」

 

「そういえば、明鈴以外に近距離できるのは俺ぐらいですからね。

誠もどっちかって言うと、遠距離ですし。」

 

誠は無言で頷いた。

 

「JGJの車両は、街の外に待機している。

脱出のときはそこまで走る。

すでにブルイヤールが何体か確認できているから、気を抜かないでくれよ。」

 

「ブルイヤールか・・・何が来ようが関係はないがな。」

 

良介は腰の剣に手をやった。

 

「ランデブーは明日の午後5時。

早すぎても遅すぎても失敗だ。」

 

「明日の午後5時?

そんなにかかるんですか?」

 

良介は不思議そうな顔をした。

 

「かかるんだよ・・・なにが潜んでるかわからない場合はね。

要所要所で建物の中に隠れながら進む。

よろしく頼むよ。」

 

「わかりました。

これは・・・少しきついクエストになるかもなぁ・・・」

 

良介は眉間に皺を寄せた。

 

   ***

 

良介たちは風飛中心街を歩いていた。

すると、鳴子はみんなに話しかけた。

 

「そろそろオフィス街を抜ける。

みんな【表】の風飛中心街を知っていると思う。

ここを抜けたら風飛駅だ。

その駅前に、この前クエストがあった結婚式場・・・JGJグランドホテルがある。

そこまで行ったらいったん休憩しよう。

頼んだよ。」

 

その頃、良介はゆえ子と一緒に歩いていた。

ゆえ子は息が上がっていた。

 

「大丈夫か?」

 

良介はゆえ子に声をかける。

 

「ええ、大丈夫です。

散歩部に仮入部していますから。

戦闘に参加しない分、予知の魔法でお役に立たなければ・・・

良介さんに魔力をいただいているので、後は気持ちの問題です。」

 

すると、そこに沙那がやってきた。

 

「もし、歩けなくなるようでしたらお申し付けください。

お役に立てるかもしれません。」

 

「ありがとうございます・・・おや・・・」

 

ゆえ子は何かに反応した。

 

「どうした?」

 

良介はゆえ子に聞いた。

 

「いえ、これでは間に合いません・・・月宮さん。

しばらく離れてしまいますが、お気になさらず、と遊佐さんにお伝えください。

立華さんの魔力が尽きる前には合流できるのです。」

 

沙那は不思議そうな顔をしていた。

 

「良介さん、霧に覆われても、慌てずに。

ご一緒しますから。」

 

「は・・・?

ゆえ子、それはどういう・・・っ!?」

 

突然、2人の足場が崩れた。

 

「っ!?

西原さん、良介さんっ!」

 

「うおおぉぉぉっ!?」

 

良介はあまりにも突然だったのため、風の肉体強化で空を飛ぶことができなかった。

地下に落ちた良介は周りを見渡した。

 

「痛っ・・・クソッ、なんでいきなり足場が・・・」

 

良介は落ちた際に打った腰を抑えていた。

良介は上を見た。

だが、どこから落ちてきたのかわからなくなっていた。

 

「これじゃ、飛んでも意味ないな。」

 

と、デバイスが鳴ったので出た。

望からだった。

 

「おいっ!

2人とも無事か?

デバイスつながるな!?」

 

「ああ、なんとかだが・・・」

 

「いや、ヤバっ。

感度がどんどん悪くなってる。

手短に伝えるぞ!

そこは【地下】だ!

本隊とは離れたけどそんなに深くない!

東に行け!

チクショウ、洞窟のマップなんて想定してな・・・」

 

デバイスは切れてしまった。

 

「チッ、切れたか。

しかし、東に行けって言われてもなぁ・・・」

 

良介のところにゆえ子がやってきた。

 

「通じませんね。

衛星は地下に弱いと聞いていますから・・・」

 

「一体どうすりゃ・・・」

 

「あ、取り乱さないよう。

魔物の攻撃ですが・・・攻撃と言うより、分断です。」

 

「分断・・・?」

 

「どんな力かわかりませんが、強制的に移動させられたようですね・・・

入り口まではかなり遠いですが、ゆえの魔法で探しましょう。」

 

「大丈夫なのか?」

 

「大丈夫、細かい所はともかく、みなさんと再会できるところまで視えたのです。」

 

「わかった、それじゃ行くとするか。」

 

良介は地下を進んでいった。

 

「次は右・・・ですね。

おそらく。」

 

「わかった。

右だな。」

 

良介は右に向かって進んでいった。

 

「次は・・・やはり右。

随分と深い所のようですね・・・そもそも出口があるかどうか。」

 

「抜け出せるんじゃないのか?」

 

「予知ははっきりしてます。

ですが・・・もしかしたら魔法で穴をあけるのかも。

ゆえにそんな力はないので、良介さんか向こうの人、ということですね。」

 

「それはそれで面倒だな・・・」

 

良介たちはさらに進む。

 

「それでは、次は左に。」

 

「左か。

わかった。」

 

今度は左に進む。

 

「次は右・・・この洞窟は地図には載っていません。

デバイスもなぜか通じない。

もし霧の魔物がゆえたち2人を狙ったのなら・・・

最も戦力の低いゆえを狙って分断させたのなら・・・注意が必要ですね。」

 

「ああ、気をつけなきゃな。」

 

良介は右に進んだ。

すると、ゆえ子は息が上がり始めた。

 

「すいません、どうやらここまでのようです。

2時間・・・最長記録ですが、ここからおぶってもらえませんか。

良介さんの魔法は威力があります。

なにかあったら・・・

その時はお願いします。」

 

「ああ、こんなところでくたばるわけにはいかないからな。」

 

良介はゆえ子をおぶった。

と、突然洞窟が爆発音と同時に揺れた。

 

「ふぇっ!?」

 

「む・・・あそこに穴が空いたみたいだな。」

 

良介の視線の先に人1人分の穴が空いていた。

 

「おっしゃあ、穴空いた!

2人ともいたぞ!

おい、誰か!

ロープ持ってねえか!」

 

誠の声が聞こえてきた。

 

「おい、ちょっと待て!

今どっから出した!?

まあいい、とりあえず貸してくれ!」

 

その穴からスルスルとロープが降りてきた。

 

「よかったです。

ゆえはなんとか役目を果たせました。

それでは・・・後はよろしく・・・」

 

そう言うとゆえは良介の背中で眠りについた。

 

「はぁ・・・まったく・・・」

 

良介は呆れたように笑った。

 

「おい!

上がる気無いならロープしまうぞ!」

 

「今上がるから!

しっかり持っててくれよ!」

 

そう言うと、良介はロープによじ登り始めた。



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第71話 パンドラ

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



良介とゆえ子は無事地上に戻ってきた。

夏海が眠っているゆえ子を叩き起した。

 

「ちょ、ちょっとゆえ子、大丈夫!?」

 

「ええ・・・すいません、とても眠いんですが・・・

ただ疲れているだけですのでご心配なく。」

 

初音は沙那の方を向いた。

 

「おい、沙那。

さっき、役に立てるかもしれないっていったの、なんだ?」

 

「あちらに用意してあります。」

 

「ん?

ぷっ、くくっ・・・!」

 

初音は沙那が指差した方を見ると笑い始めた。

 

「大声で笑ったら魔物が来るんだから、我慢しなさいよ!」

 

「だってあれ・・・子連れ狼じゃんか・・・う、うひひ・・・」

 

そこには乳母車が置いてあった。

 

「いいじゃない。

良介か誠に押させれば、背負うよりずっとマシだし。

ゆえ子も座れた方が楽でしょ?」

 

「ええ、そうですね・・・よろしくお願いします・・・」

 

「俺たちどっちかが押すのか・・・」

 

「ま、仕方ねえな。」

 

そこに、外を見ていた鳴子がやってきた。

 

「今日はもうすぐ日が暮れるな。

ここで夜を明かした方がいいな。

良介君も西原君も霧の濃い中を歩き通しだったんだ。

僕たちが警戒しておくから、ゆっくり休んでてくれ。」

 

少しして、良介は卯衣に魔力を渡していた。

 

「よし、これでいいな。」

 

「ありがとう。

魔力がいっぱいになったわ。」

 

「あなたと西原さんがいなくなったときは焦ったけれど・・・

彼女の予知、だんだんと精度が増しているみたいね。

私たちの戦闘で開いた穴、絶妙な場所だったわ。

ちょうど魔物が掘った洞窟と地表が一番近い場所だったみたい。」

 

「それについてだが・・・」

 

良介はゆえ子が言っていたことを結希に伝えた。

 

「魔物が西原さんを、狙って?

どうかしら。

12年後の今、魔物の知能は進化しているかしら。

ただ・・・戦力が低いとしてあなたたちを分断したのだとしたら・・・

あなたたちだから、また合流できたのも確かよ。」

 

「どういうことだ?」

 

「あまり気にしないように・・・さ、卯衣。

雀さんと警戒にあたってちょうだい。」

 

「わかりました。」

 

卯衣は見回りに向かった。

少しした頃、良介は鳴子のところに来ていた。

 

「鳴子さん。」

 

「ん?

なにか質問かな。」

 

「確か出発前の話だと、霧の護り手やテロリストがいるんですよね?」

 

「ああ、そうだね。

テロリストはいるよ、【今】も。」

 

「なら、待ち合わせてる人の顔とか教えてくれませんか。

人が出てきたら、どうすればいいかわからないんで。」

 

沙那は良介の話を黙って聞いた後、鳴子に話した。

 

「私も賛成ですね。

特徴を教えてください。

その方以外は、全員倒して構わないですね?」

 

それを聞くと、鳴子は静かに笑った。

 

「フフフ・・・いいよ、教えよう。

みんなも集まってくれ。」

 

鳴子がそう言うと、その場にいた全員が集まった。

 

「メモする必要はないよ。

なぜなら多分、君たちは見ればわかる。

僕が連絡を取っている相手・・・

それは【僕】だ。

この時代・・・12年後の、ね。」

 

「なるほど・・・未来の鳴子さんか。」

 

良介は鳴子の言葉を聞いて納得した。

 

   ***

 

翌日、良介たちは目的地に向かっていた。

 

「よし、今日はいいペースだ。

この分だと昼過ぎにはつけるかな。

この新街を抜けたら、県立風飛高校が見える。

【僕】はそこにいる。」

 

すると、夏海が鳴子に話しかけた。

 

「で、でも部長・・・今って確か、12年後ですよね?

だとすると、部長って・・・」

 

「その通り、30歳だ。

今が何日かわからないが、誕生日を過ぎてればね。」

 

「お、大人の部長!」

 

夏海は嬉しそうだった。

良介は話を聞いて誠と話していた。

 

「30歳の鳴子さんか・・・想像つくようなつかないような・・・」

 

「見たらわかるって言ってたから、あまり変わってないってことだろ。」

 

少し進んだところで鳴子が良介に話しかけてきた。

 

「良介君。

1つ、心配していることがあってね。」

 

「どうしたんですか。」

 

「ゲートの先はここだけじゃない。

ゲートごとにそれぞれの時代がある。

例えばこの前、霧の嵐でできたゲートからは【12年前】に飛んだ。

あのゲートは消えてしまったから2度行くのは難しいけど・・・

世界には、ずっと空いているゲートが【7つ】ある、と言われる。」

 

「7つもあるんですか。」

 

「そのうちひとつは大垣峰だよ。

その7つのゲートを通して、5人の【僕】と連絡を取ってたんだ。

だけど、実はその中に30より上の【僕】はいなくてね。」

 

「ちょっと待ってください。

ここの鳴子さんは・・・」

 

「そう、ここの【僕】は30なんだよね。」

 

良介は鳴子から視線を外した。

 

「(嫌な予感がする・・・少し覚悟した方がいいかもしれないな・・・)」

 

良介は両手に少し力を込めた。

 

   ***

 

鳴子はデバイスを気にし続けていた。

 

「連絡が途絶えたままだ・・・なにか余計なことに巻き込まれていなけりゃいいけど。」

 

「急いだ方がいいですか?」

 

夏海は鳴子に聞いた。

 

「いや、彼女が指定した時間につけば何も問題はない。」

 

夏海は不満そうな顔で鳴子を見ていた。

 

「なにか聞きたいことがあるのかい?」

 

「あ、いえ、今はそんなこと聞いてるヒマは・・・」

 

「答えよう。

場合によっては、君に無条件で物を教える最後の機会かもしれない。」

 

「え?

そ、それってどういう・・・」

 

「最悪の事態の場合だよ。

早く言うんだ。

もう少しで話すのも危険になる。」

 

「あ、あの・・・部長、この時期のことを知ってるってことは・・・

第8次侵攻でみんながどうなったかも知ってるってことですよね?」

 

「ああ。」

 

「ええとですね!

あたしっていったい・・・!」

 

「そこまでだ。

それは聞かない方がいい。」

 

鳴子は夏海の話を止めた。

 

「えっ!?」

 

「僕はね、夏海。

いろんな人間に、今より未来がどうなっているかを話した。

主に脅しとしてだけどね・・・政治家や先生やなんやらに便宜を図ってもらうため。

例え裏世界の方だったとして、自分の最後を知った人間はどうなると思う?」

 

夏海は少し考えた。

 

「わかりません。」

 

「絶望するんだよ。

それが大往生だったとしてもね。

教えるときは確たる情報を添付する。

写真が一例だ。

他にもまあ、いろいろ。

それらを用いて伝えた相手は、その死がいつだろうと絶望する。

自分の時がその時点より先に【ない】ことを知ってしまうからだ。

不思議とね。

寿命まで生きる人でもそうなるんだよ。」

 

「ええと、なんだか難しいです。」

 

「以上の理由から、君が何歳まで生きたということを教える気はない。

第8次侵攻で夏海が死のうと、その後数年間生き続けようと・・・

もしくは幸せな生涯を閉じることになったとしても・・・

君には絶対に教えない。

なおかつ、裏世界と表世界の君は【違う】。

裏世界の君がいつまで生きるのか、それは今の君には関係のないことだ。

実質的な他人の生死で絶望してしまったら僕が困る。

答えを教えないのは、僕からの愛情表現だと受け取ってくれ。」

 

「は、はい。

(その言い方だと・・・生まれてない、なんてことはなさそうね・・・

でも・・・・・)」

 

今度は初音が鳴子に話しかけた。

 

「なーなー、アタシのことは・・・」

 

「君には知っておいてもらうことがある。

君の生死より重要なことだ。」

 

「アタシの生死より重要なこと?」

 

すると、沙那が鳴子の話を止めた。

 

「お戯れはおやめください、遊佐さん。」

 

「君こそ見るべきだ、月宮 沙那。

今、この瞬間に校舎の周りに出てきた、彼らの服と装備を。」

 

そう言うと校舎の周りから人が出てきた。

 

「敵か?

なんだ、アレ。

霧の魔物じゃ・・・ないな。」

 

「っ!

いけません、初音様!

私の後ろに!」

 

校舎の周りから出てきた者たちは良介たちを銃で攻撃してきた。

良介は沙那の前に立つと、剣で銃弾を弾いた。

 

「くっ、こいつら・・・!」

 

「彼らは人間だ。

そして【僕】を狙っていた連中だ。

盗聴で情報受け渡しを知り・・・

接触しに来た間抜けな僕らを一網打尽にしようとしている。」

 

初音はその敵を見て動揺していた。

 

「どど、どうなってんだよ!

沙那!

アレ、ウチの社員じゃねーか!」

 

良介は一気に距離を詰め、相手を殴り飛ばした。

 

「まさか人間の相手をすることになるなんてな。」

 

良介を後ろから撃とうとした敵を誠が蹴り飛ばした。

 

「時間はかけられねえ。

一気に行くぜ!」

 

2人は相手の方へと向かっていった。

 

   ***

 

敵と戦いながら鳴子はみんなに呼びかけた。

 

「宍戸君、立華君は校舎の外までだ!

みんな焦るな!

僕はこの搜索で学園生の死人を出すつもりはない!

時間までに5分ある。

僕たちは【1秒たりとも】時間をずらしてはいけない!」

 

「無茶言ってくれるぜ!」

 

誠は敵の顔面に膝蹴りを入れながら文句を言った。

 

「【僕】が指定した時間だからだ!

この世界で頼れるのはルールだけだ!

余計な情報はシャットしている!」

 

「わけがわからないな!」

 

良介は敵の顔面を地面に叩きつけた後、そのまま後頭部を踏みつけた。

 

「いいかい良介君。

魔法は【なんでもアリ】なんだ。

僕たちの姿を見たところで、はたして信用に値するか?

僕だけにわかる符号があったとして、それが確実だという保証は?

JGJと霧の護り手が手を組んで、どれほど技術が進歩した?

命令式さえ見つければ、なにがどう偽装されててもおかしくないんだ。

それを考えると、なにも信用できない。

だから1つのルールを作った。」

 

それを聞いていた結希は卯衣を止めた。

 

「卯衣、突入は待って。

遊佐さんの言っていることがわかったわ。

未来の遊佐 鳴子は【時間ちょうどに入ってきた相手にデータを渡す】つもりよ。」

 

「は、はぁ?」

 

初音は唖然とした。

沙那は黙って聞いていた。

 

「相手の素性が信用できない以上、そのルールを守った相手を信用するしかない。」

 

「違う時間に入ろうとしたものは、攻撃される・・・」

 

「もしくは、その時点で遊佐 鳴子は消える。

2度目のチャンスはないでしょうね。」

 

「だ、だってあのボロ校舎、今にも壊れそうだぞ!」

 

初音は校舎を指さしながら言った。

 

「JGJってミサイルもあるんだぞ!

核も使うんだぞ!」

 

「そんなものは関係ないわ。

【彼女の指定した場所に指定した時間】・・・

そのときその場所が【どうなっていようと】渡す手段を用意してるはず。

盗聴の可能性はあるけれど、あらかじめ私たちが伝えられていた条件・・・

大丈夫よ。

卯衣。

校舎の入口は他には塞がれてるわね?」

 

「はい。

ここで校舎が破壊されるのを防ぎます。

残り276秒。

私は核を受けても活動可能です。

17時に突入します。

残存魔力量は許容範囲。

場合によっては良介君の魔力か魔法、誠君の魔法を必要とする可能性があります。

マスターに与えられた任務は【生きる】こと。

戦闘終了後、速やかな補給を要請します。」

 

鳴子は卯衣のことを見ていた。

 

「不死身の立華君がいるから、僕たちの勝利は約束されている。

とはいえ・・・うざったいヤツらだ。

僕と僕の感動の対面を邪魔する無粋な連中め。

神宮寺君がショックを受けないよう、穏便に済ませるつもりだったけれど・・・

良介君、魔力を借りるよ。

生徒会長の真似事をしてみよう。」

 

「真似事?

なにをするつもりですか?」

 

良介は敵に頭突きを入れたあと、鳴子のところにやってきた。

 

「ホワイトプラズマ・・・あれのようにとはいかないけどね。

魔力を流し込めっ!

あたり一帯、雷を落としてやる!」

 

鳴子は雷を撃ち始めると、誠もそれに合わせて魔法を撃とうとした。

 

「塵一つ残さず消滅させてやらあ!

インフェルノ・・・ブラスター!」

 

誠は両手から紅い炎を敵に向かって撃った。

雷を撃った鳴子は疲労していた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・山を1つ、なんてバカみたいな威力だな・・・到底無理だ。

しまった。

時計が壊れた。

立華君、余裕はあるね?」

 

鳴子は卯衣に時間を聞いた。

 

「残り12秒。

支障はありません。」

 

すると、敵がまた攻撃してきた。

 

「クソ、ミストファイバー製の装備か。

魔法抵抗が段違いだ。

生きてるなんて・・・」

 

「もうあんまりいないのだ。

僕たちが相手するアル。」

 

明鈴はそう言って、敵の方を向き、構えた。

 

「ああ、任せた。

僕は・・・入ろう・・・」

 

鳴子は校舎に入った。

しかし、鳴子はその目に入った光景を見て笑い始めた。

 

「ク・・・クク・・・

これが最後の謎かけか。

それとも君も・・・絶望してしまったか?」

 

そこには、口から血を流して倒れた鳴子がいた。

 

「これは・・・!」

 

良介は入ってくるやいなや、裏の鳴子に駆け寄った。

 

「良介・・・どうだ?」

 

誠は良介に聞いた。

良介は裏の鳴子の首筋と手首に手をやった後、立ち上がり黙って首を横に振った。

 

「自殺・・・なのか?」

 

誠は胸の撃たれた痕と裏の鳴子が持っていた拳銃を見ながら言った。

 

「いけないね・・・やっぱり僕は僕だ。

今日がその日ってことか。」

 

「どういうことですか?」

 

良介は鳴子に聞いた。

 

「僕は30歳以上の僕と連絡を取れたことがない。

いや、他の僕も同様だ。

薄々感づいていたが・・・ここで死んだからなんだな。

だが、僕はここで約束通りに来た。

いただくよ。」

 

「鳴子さん、なにを・・・」

 

鳴子は裏の鳴子の体を調べ始めた。

 

「ちょうど誰かがドアを開けた場合、【なぜだか知らないが】僕は自殺する。

その後、ここに来た相手にデータを渡す・・・好きなだけ体を調べろってことさ。

(なぜ死んだ・・・何か狙いがあるのか?

絶望しただけか?)」

 

鳴子は裏の鳴子の懐から何かを取り出した。

 

「あった、これだ。」

 

「見つけるの速いな。」

 

誠は呆れた。

 

「本人だからね・・・ま、名誉のために場所は言わないでおくけど。

良介君か西原君、君のデバイスを貸してくれないかい。

僕のはさっき壊れた。」

 

「ゆえのことを忘れないでいてくれてありがとうございます。

あ、ゆえのデバイス、余計なアプリが入っています・・・良介さんのもので・・・」

 

「鳴子さん、これを・・・」

 

良介は鳴子にデバイスを手渡した。

 

「さて、3人とも。

さっきの夏海との会話、聞いていたかい?

実を言うとね、僕は夏海が第8次侵攻で死ぬことを知っている・・・言うなよ?

そのほか、多くの生徒の生死を知っている。

歴史の違う裏世界では、そもそもグリモアに転校して来ていない生徒もいる。

そこの相違と【なぜ違うのか】を、僕はずっと調べていた。

表と裏は【どこが違うから歴史が違うのか】。

【裏で学園にいない生徒はなぜいないのか、何をしているか】とかね。」

 

鳴子はデバイスを触っているとデバイスに一覧が出てきた。

 

「【僕】が調べてくれた、表にいて裏にいない生徒の一覧だ。

ああ、聞いていたことだけど・・・やっぱりな・・・

これはデジタルデータだから、ねつ造の可能性はゼロじゃない。

だけどなんの準備もない良介君のデバイスで閲覧した・・・

それで信憑性を増してくれないかい。」

 

「ここまで来てねつ造もないですよ。

相違のあるクラスメートのことですか?」

 

良介が鳴子に聞いた。

 

「相違なんてものじゃない。

僕がどうして良介君に興味を持っていたと思う?」

 

良介も誠も黙っていた。

 

「結論から言う。

早田 良介、新海 誠、立華 卯衣、相馬 レナ、朱鷺坂 チトセ。

この5人は、この裏世界に【存在していない】。」

 

「俺も・・・?

どういうことだ?」

 

誠は困惑していた。

 

「死んでないし、生まれていない。

【いない】んだ。

少なくとも【今】は。」

 

「俺も・・・良介も・・・立華もいない・・・?」

 

「相馬君もいない。

【狼に育てられた少女】なんて新聞報道はない。

朱鷺坂君は・・・まあ、もっと未来のゲートから来た、と申告している・・・」

 

「良介さんと誠さんは・・・」

 

ゆえ子は鳴子に聞いた。

鳴子は良介と誠の方を向いた。

 

「良介君、誠君。

君たちは、いったい何者だ?」

 

「俺たち2人が・・・いない・・・?」

 

良介と誠はお互いを見た。



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第72話 見知らぬ学園生

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


ある日の朝の校門前。

良介と誠が歩いていた。

すると、そこにメアリーがやってきた。

 

「お?

なんだテメーら、今日は早いじゃねーか。

裏世界のこと、聞いたぜ。

アレ見て一念発起でもしたか。

それとも誰かとナニかの約束でもしてんのかねぇ?」

 

「別に。

たまたま早くに来ただけだ。」

 

良介は頭を掻きながら言った。

 

「それで、メアリーは何しに来たんだ?

挑発でもしに来たのか?」

 

誠はメアリーを睨みつける。

 

「ケッ。

今んとこテメーらは順調だ。

いずれ人類にとって有益な戦力になる。

卒業するときはIMFと国連軍がテメーらを取り合うだろう。

そんときゃ国連軍に来い。

アタイとエレンが再入隊するからな。

やさしくこき使ってやるぜ。」

 

「それで、メアリーはそれを言いに来たのか?」

 

良介はそう言うと、メアリーはため息をついた。

 

「来い。

ドクターに呼び出されてんだろ。」

 

「ドクター・・・結希のことか。

で、なんでお前が?」

 

誠はメアリーに質問した。

 

「アタイが迎えに来たんだよ。」

 

そう言うと、メアリーは先に行ってしまった。

 

「やれやれ、そうならそうと最初に言えよな。」

 

誠はため息をついた。

良介も呆れ笑いをしながらメアリーに付いて行こうとした。

その瞬間、いきなり2人の周りが光り始めた。

 

「な、なんだ!?」

 

誠が狼狽えながら周りを見渡す。

 

「まさか・・・これは・・・!」

 

良介は何が起ころうとしているのか言おうとした瞬間、2人は光に包まれた。

2人は気がつくといつも通りの校門前にいた。

 

「ここは・・・学園・・・だよな?」

 

誠は良介に質問した。

 

「ああ、学園の校門前だな。」

 

2人が周りを見渡していると、声が聞こえてきた。

 

「おい!

そんなとこでなにしてやがんだ!」

 

すると、校門からさっきとは違う格好をしたメアリーやってきた。

 

「その制服・・・テメーら、学園生か?

見ねー顔だな。

それになんで戦闘服じゃねーんだ?」

 

「おい、何言って・・・むぐっ!?」

 

誠が喋ろうとした瞬間、良介が誠の口を塞いだ。

 

「(誠、ここはたぶん裏世界だ。

それも過去のだ。

あまり喋りすぎない方がいい。)」

 

良介が前を見るとメアリーは目の前まで来ていた。

 

「待て。

許可したことだけ口にしろ。

余計な動きをするとシバくぜ。」

 

「わかった・・・あんたは?」

 

「アタイはメアリー・ウィリアムズ。

グリモアの精鋭部隊長だ。

名前とクラスを言え。

テメーら、いったい誰だ?」

 

良介と誠は名前とクラスを教えた。

すると、メアリーはデバイスを取り出すと何か調べ始めた。

 

「念のため確認したが・・・やっぱ学園生じゃねーな。

名簿に名前がねぇ。

その制服はレプリカか?

それとも盗んだのか?」

 

「それは・・・」

 

良介は少し後ずさりしながら答えようとすると、メアリーは銃を突きつけてきた。

 

「おっと、動くなと言ったはずだ。

質問に答えろ。」

 

良介は色々と考えていたがあることに気がついた。

そのことを言ってみた。

 

「エレンは・・・いないのか?」

 

「待て、今なんつった?」

 

メアリーの表情が変わった。

 

「エレンはいないのかと聞いてるんだ。」

 

「エレンってのはエレン・アメディックのことか。」

 

「ああ、そうだ。

エレン・アメディックはいないのか?」

 

「っ!!

テメェ、なんでエレンのことを知ってやがる!」

 

メアリーは良介の胸ぐらを掴んだ。

 

「アイツはただの一兵卒なんだぞ!

アタイと同僚ぐらいしか知らねぇんだ!」

 

「学園に・・・いないのか?」

 

良介は冷静だった。

 

「学園?

はぁ?

学園にいるわけねーだろが!

覚醒してねーんだからな!

答えろ!

なんでてめぇはエレンのことを・・・!」

 

メアリーは良介の額に銃を突きつけた。

良介はいつでも魔法が出せるように準備した。

誠もいつでも変身して攻撃できるようにしていた。

すると、誰かがメアリーを呼び止めた。

 

「おやめなさい。

ウィリアムズさん。」

 

「ああ?」

 

沙那がやってきた。

 

「神宮寺の犬がなんの用だ。

とっとと出てけっつっただろうが。」

 

「愚かな戦闘狂のあなたが騒いでいたので、何事かと思いまして。」

 

「見りゃわかるだろうが。

不審者だよ。

それともその目は節穴か?」

 

「こちらの方たちは?」

 

「自称、学園生だ。

名簿にも載ってねぇ影の薄~いな。」

 

沙那は良介と誠の方を見た。

 

「名簿に載っていない、生徒?

スパイに決まっているでは。

なぜ撃っていないのですか。

銃口が焼けついているのなら、私が。」

 

すると、良介は咄嗟に変身すると第1封印を解放し、メアリーの腕を振り払った。

誠もそれを見るなり変身し、魔神化を発動させた。

 

「クソッ、戦わずに元の世界に帰りてぇだけなのに・・・!」

 

「文句言うな誠。

無力化してから元の世界に戻る方法を考えればいい。」

 

良介と誠が2人を睨みつけていると誰かがやってきた。

 

「おおーい、ちっと待てぇ!」

 

花梨がやってきた。

 

「メアリー、生徒会長がおめさ呼んでるべ、行け。」

 

「生徒会長~?

水無月が今、なんの用だよ。」

 

「呼んで来いとしか聞いてないすけな。

自分で確かめろ。」

 

「チッ・・・おい、里中。

こいつらのこと、しばらく預ける。」

 

「こいつら?」

 

「月宮がこの男どもを殺さないように見張ってろ。

いいな。

こいつらにゃ聞きてーことこがある。

あとでまた来るから、生かしとけ。」

 

「おう、わかった・・・見ねぇ生徒だな。

風紀委員や生徒会には知られねぇほうがいいっきゃ?」

 

「わかってんじゃねぇか。

身元も確認しとけ。

スパイだったらアタイがヤる。」

 

そう言うとメアリーは行ってしまった。

誠は魔神化を解いていたが、良介はまだ第1封印を解放したままにしていた。

 

「ふぅ。

あんたらには自業自得か災難かわかんねぇけんど・・・

のんきな状況じゃねぇのはわかってるっきゃ?」

 

「ああ・・・わかってる。」

 

良介はいつでも剣を抜けるようにしていた。

 

「とりあえずなんか食わせてやるすけ。

ついあえずついて来い。」

 

「何・・・?」

 

良介は花梨の発言に唖然とした。

 

   ***

 

良介は第1封印から戻っていたが、沙那と花梨を警戒していた。

 

「良介・・・いつまで警戒してんだよ。」

 

「まだ敵じゃなくなったと言い切れないからだよ。」

 

2人はまだ変身したままでいた。

沙那は良介と誠の方を見ていた。

 

「月宮、おめさは神宮寺の面倒を見るっきゃ?

ここはおらに任せてけろじゃ。」

 

「あなたはご自分の価値を知りません。

得体の知れない男2人と一緒にはできませんから。」

 

「なに言ってんだぁ?

ただの新しい転校生だっきゃ。

なんも大丈夫。

最近、生徒会も執行部も魔物の対応さ忙しいすけ。

手続きできねぇまま、なんの準備もねぇ生徒もいるすけな。」

 

「この男たちの言うことを聞いて、同じことが言えるなら。」

 

「どういうことだべ?」

 

良介は腕組みをしたまま、自分たちの世界の学園の話をした。

 

「武田 虎千代が生徒会長、水無月 風子が風紀委員長・・・

確かに妙だべ。

あんた、そったのどこで知ったんだぁ?」

 

「警備が混乱しているスキをついて、潜り込もうとしたのでしょう。」

 

「だば、ちゃーんと今の生徒会長言うっきゃ?」

 

「武田 虎千代が生徒会長じゃないのか?」

 

「なぁ。

あんたらの言ってる虎千代は、去年卒業したすけ。

今の生徒会長は水無月 風子だすけな。」

 

「その他の人員も奇妙・・・遊佐 鳴子もまた、卒業していますし・・・

知らない名前がいくつかありますね。

精鋭部隊長のエレン、とは?」

 

「その話メアリーから聞いたことあるべ。

アイツの友達だ。」

 

「友達?」

 

沙那は不思議そうな顔をした。

 

「んだんだ・・・あんたらの話、もうちょっと詳しく聞かせてけろじゃ。

ただのもの知らずやスパイってのとは、ちっと違うみてぇだすけな。」

 

そう言うと花梨は2人を調理室に連れてきた。

沙那も来ていた。

すると、良介は沙那に聞いた。

 

「なあ、初音はどうしたんだ?」

 

「初音様、がどうかしましたか。」

 

「今どうしているのかと思ってさ。」

 

「あなた方に話すことではありません。

あなたもJGJのことはご存知でしょう。」

 

「知らねぇかもしれねぇぞ・・・ほい、できた。

合成食料もなかなか手に入らなくなったすけ、少なくてすまねぇな。」

 

「俺はいらん。

誠、お前が食っとけ。」

 

「いいのかよ。

それじゃ・・・」

 

誠は花梨が出した料理を食べ始めた。

 

「JGJについて知っていることは?」

 

「ん?

軍産複合体で初音に兄妹がいること・・・それだけだ。」

 

「そこまで?

まさか・・・日本中の誰もが噂で知っているはずでしょう。

JGJは人類を裏切り、霧の護り手に与する方針だと。」

 

「そう・・・なのか・・・?」

 

良介は驚いた顔で沙那を見た。

誠も食べながら驚いていた。

 

「本当に知らないのですか?

そのせいで初音様は・・・

執行部はおろか、学園生を守るはずの生徒会からも疑われているというのに・・・」

 

「そんなことが・・・」

 

「こりゃあ・・・こっちはとんでもないことになってるな・・・」

 

良介と誠は驚愕していた。

 

   ***

 

沙那は2人の反応を見て、悩んでいた。

 

「確かに・・・スパイ、曲者と考えるには、奇妙な方ですね。

1年前の組織体制・・・かと思えば、それともわずかに異なります。

学園にいない生徒の名前を出したかと思えば・・・

在校生とどこか関係がある節も。」

 

「まあ、もうちっと話さ聞いてみるべ。

なんでもいいすけ、話してみろ。」

 

「どうする良介。

なにを話す?」

 

誠が良介に聞いてきた。

 

「それじゃあのことを話してみるか。

信じてもらえるかわからんが。」

 

良介はゲート、裏世界、表世界、そして良介のことを話した。

 

「聞くだけ無駄でしたでしょうか。」

 

「いや、信じられねぇけど、魔力譲渡も本当だべ?

魔力を他人に移せるなんて、それがあれば・・・

虎千代はあったらことになんなかったかもしれねぇな。」

 

「確かに、膨大な魔力というのもまた本当なら、あまりにも貴重な力です。

どんな策であろうと、潜入してよい人材ではありませんね。

スパイだなんだというのは非現実的です。」

 

「これで疑いが晴れたか・・・」

 

「いや、まだだ。」

 

誠は安心していたが、良介はまだ安心していなかった。

 

「ですが【もう1つのグリモア】から迷い込んだというのは・・・

そちらもやはり、信じがたい話です。

学園の地下に魔道書があるというのも、大垣峰が特級危険区域という話も・・・

すぐに真偽が判別できるものではありませんし。」

 

「第7次侵攻の後で、そったらことに学園生割く余裕なかったすけな。」

 

「第7次侵攻は去年にあったのか?」

 

誠は花梨に聞いた。

 

「んだ、第7次侵攻。

去年の秋にあったべ。

アレで何人も逝っちまったなぁ・・・」

 

「あなた方の話では【もう1つの第7次侵攻】では被害がほとんど出なかった。

その理由の1つに、国軍に新型配備されたデクの力があった。

宍戸さんがデクの頭脳を作り、初音様が性能試験で遊んでいた・・・」

 

沙那は少し考えた。

 

「信じがたいことですが、部分的に真実味があることも否めません。」

 

「初音は自分の命を軽く扱っていただろ?」

 

良介は沙那に聞いた。

 

「ええ、確かに初音様はご自身の命を軽く扱っておられました。

ですがそれは【魔法使いの使命として】のこと・・・

裏切り者と罵られるのに耐えろというのは無茶な話です。」

 

「会うのは・・・無理か?」

 

「さすがにお会いさせるわけにはいきません。

ご了承ください。」

 

「ま、まぁな!

ここにいてもなんだすけ、あっちさ行くべ。

風紀委員に見つかっては、きっと拘束されちまうすけ。」

 

「ですが帰る方法が霧の嵐では、いつになるか。

私はどちらでも構いませんが・・・

あなた方の立場なら、生徒会なり風紀委員なりに引き合わせた方がよいのでは?」

 

「んだば、魔力譲渡のことも教えねばなんねぇすけ。

今のグリモアには喉から手が出るほど欲しい力だすけな。

誤解が解けたとしても、多分手放そうとはしねぇべ。

もし、良介と誠がいなくなっちまっては、ただのぬか喜びだすけな。

会わせねぇで帰ってもらった方がいいっきゃ。」

 

「あなた方の判断に従いますよ。

私はどちらでも、構いませんので。」

 

良介と誠は考え始めた。

 

   ***

 

沙那と花梨は考えている2人を見ていた。

 

「なあ、月宮。

おめぇはどう思う?」

 

「なんでしょうか。

もはや学園は敵ですから、その点の協力はできかねますが。」

 

「この前のことは悪かったすけ。

今は良介と誠のことだぁ。」

 

「あなたには音がありますから。

できることがあれば仰ってください。

彼らが帰るまで身柄を守る程度なら、私がいたします。」

 

「そったらこと頼めねぇよ。

んだば神宮寺のところ行ったほうがいいべ。

聞きてぇのは・・・もう1つの世界があって、もう1つのグリモアがあって・・・

第7次侵攻を乗り切って、みんなが仲良くやってる・・・

そったらこと、考えたこともないっきゃ?」

 

「ええ、ありませんでしたね・・・ですが・・・

初音様と副会長の仲が良い、というのは、多少羨ましいですね。

副会長はもはや、初音様と話すことすらありませんから。」

 

「んだんだ。

料理部もなぁ、もっとたくさん、部員ばいるんだと。

みんなで料理できるなんてよ、そったら楽しいことねぇべ。」

 

「なるほど、承知しました。

この方々には、無傷で帰ってもらわねばなりませんね。」

 

「んだんだ。」

 

「では、メアリー・ウィリアムズが危害を加えないよう説得しましょう。

ということでよろしいですね?」

 

「ありがとな。

メアリーさえ納得すりゃ、アイツに任せて平気だすけ。

というわけだすけ。

おらはあんたらを信用する。

ちゃんと帰って、むこうのおらによろしく言っておいてけろじゃ。」

 

それを聞くと、良介は笑みを見せた

 

「わかった。

ありがとう。」

 

誠もそれを聞いて安心した。

 

   ***

 

4人は校門前に来ていた。

花梨が現状を教えていた。

 

「いろいろ状況が違うすけ、おさらいしとくぞ。

そっちの生徒の名前、あげてってくれ。

どうなってるか教えるすけ・・・場合によっちゃショックかもしれねぇけどな。」

 

良介と誠はお互いを見ると頷いて、良介が生徒の名前を出していった。

沙那と花梨はその名前を黙って聞いていた。

良介が言い終わると沙那が口を開いた。

 

「そのうち何人かは、第7次侵攻で戦死しています。

侵攻では国軍が崩壊し、学園生と合流。

協力することで何とか退けましたが・・・

結果的に、学園生が最前線で戦うことになりました。」

 

「来栖、与那嶺、霧塚、越水・・・この4人はもういねぇすけ。」

 

「そう・・・か。」

 

良介は下を向いた。

誠も目を背けていた。

 

「あと、私たちが知らない学園生もいましたね。

相馬 レナ、立華 卯衣、朱鷺坂 チトセ、楯野 望、双美 心・・・」

 

「後は、さっき出た料理部と、メアリーの友人のエレンってヤツだな。」

 

「彼女らは学園の名簿にも名前がなく、私も知りません。」

 

「後は卒業生だな・・・人数でいや、それくらいだっきゃ?」

 

「ええ・・・そうですね。

組織体制は先ほど話しましたし。

重要なことなので伝えておきますが、そちらとこちらでは状況が違います。

同じ名前の生徒であっても、やはり状況が違います。

可能な限り、接触は避けてください。」

 

「生徒会や風紀委員にも会わねぇほうがいいな・・・余裕がねぇすけな。

ま、このくらいすけ。

あとはめだたねぇように大人しくしてろじゃ。

沙那がいりゃ、とりあえず怪我の心配はねぇすけ。」

 

「わかった。」

 

良介はそう答えた。

誠も無言で頷いた。

すると、花梨のデバイスが鳴り始めた。

 

「あちゃ、行かねぇと。」

 

「私におまかせください。

ウィリアムズさんが暴れたら・・・」

 

「先にちゃんと話し合ってけろじゃ。

悪ぃな、時間できたら来るすけ。」

 

花梨が走り去ると、入れ替わりでメアリーがやってきた。

 

「ビンゴ、いたな。

この辺だと思ったぜ。

風紀委員の連中が見回る頻度が少ねぇからな、ここは。」

 

「お待ちしておりました。」

 

すると、メアリーは不思議そうな顔をした。

 

「おい、里中はどこにいきやがった。」

 

「生徒会に呼び出されました。

今は私がこの方々をお守りしています。」

 

「お守り・・・していますだぁ?

アタイがいねー間になにがあったんだよ。」

 

沙那はメアリーに理由を話した。

 

「その与太話を信じたってのか、テメーが。」

 

「信じずとも、私には学園にこの方々を差し出すいわれはありませんので。」

 

「へっ。

確かにその体質が本物なら執行部が目ん玉飛び出るくらい驚くぜ。

今さら、そんなの1人いたってどうしようもねぇのによ。」

 

「あなたはもっと、自信に満ち溢れていたと記憶していますが。」

 

「ケッ。

そりゃテメーの目がフシアナだったんだろ。」

 

メアリーは良介たちの方を向いた。

 

「おい。」

 

「ん・・・?」

 

「質問に答えろ。

エレンのことを話せ。」

 

「私は詳しくは知らないのですが、あなたのご友人でしたね。」

 

「ああ、そうだ・・・親友だったよ。」

 

「だった・・・?」

 

「アイツは2年前に、メキシコで死んだ。」

 

「なっ・・・死んだ・・・だと?」

 

「マジかよ・・・」

 

メアリーの言葉に良介と誠は驚愕した。



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第73話 風飛の丘に花は散り

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


良介と誠は校門前でメアリーと沙那と話していた。

 

「2年前に、それも国外で亡くなっているとは・・・」

 

沙那も良介と誠同様にエレンのことを聞いて驚いていた。

 

「アメディック少将の謀反は有名だがな。

娘のこととなると・・・

特にアタイと同じ部隊にいたってのを言い当てられるのは気味が悪ぃ。」

 

「アメディック少将の娘・・・ですか。

授業で習いましたね。」

 

「ああ、やるだろうよ。

なにせ国連軍の将官がテロリストと内通してたんだ。

だが娘がその後、どうなったかってのはなかなか知られてねぇ。

ピンポイトでアタイの友人だって言えるヤツは、ほとんどいねぇ。」

 

「【もう1つのグリモア】では、あなたと共に魔法使いになっていると。」

 

「そこがわからねーんだ。

テメーら、マジで言ってんのか?

裏切り者の娘が機甲師団の指揮官にまでなって・・・

その上、魔法使いになった時に学園を選択できる余地がある・・・

そっちじゃアメディック少将はどうなってんだよ。」

 

「こっちの少将はテロリストと内通している事実はないからな。」

 

良介の言葉を聞いてメアリーはため息をついた。

 

「こりゃあ月宮の言うとおり、風紀委員にゃ渡せねぇな。」

 

「なんとか身の安全は確保できそうだな。」

 

誠は胸をなでおろした。

 

「ああ、これで帰れる手段が見つかればいいんだが・・・」

 

良介がそう言った瞬間、誰かが走ってきた。

 

「メアリーさーん!」

 

「ゲッ!」

 

良介と誠も声がした方を向くと、ノエルがやってきていた。

 

「メアリーさん!

こんなところにいたんだ!

今からわたしとメアリーさんで歩哨だよ!

ほら、行かなきゃ!

あれ?」

 

ノエルは沙那を見ると、表情を変えた。

 

「ど、どうして神宮寺の人と一緒にいるの?

それにこの男の人たち・・・」

 

ノエルは良介と誠の方を見た。

メアリーと沙那は小声で話した。

 

「(いかがいたしますか?)」

 

「(アタイに合わせろ。

いいな。)」

 

すると、メアリーと沙那は言い合いを始めた。

 

「ファ○ク!

さっさと消えやがれ、2度とそのツラ見せんな!

こいつらの身柄を裏切り者に渡すわけにゃいかねぇんだ!」

 

「私も、あなたと話す時間などありませんから。

それでは。」

 

そう言うと沙那は自然に良介に近づいた。

 

「(メアリー・ウィリアムズは精鋭部隊長。

JGJとは明確に敵の状態です。

良介さん。

あなたも話題は出さぬよう。

余計な誤解を招きます。)」

 

「(わかった。

誠にも言っておく。)」

 

沙那は去っていった。

ノエルは沙那の後ろ姿を見ていた。

 

「どうして、あの人がここに・・・?」

 

「2人迷い込んできたからデバガメしてたんだよ。

ノエル。

今は事情はすっ飛ばすが、コイツらを保護する。」

 

「え?

う、うん。

わかった。」

 

「こうなったらテメーも道連れだ。

任務中にじっくり説明してやる。

コイツらが風紀委員や生徒会に見つからねーように隠すぞ。」

 

「どういうこと・・・?」

 

ノエルは困惑していた。

 

   ***

 

ノエルは状況をメアリーに説明してもらっていた。

 

「この人たちが・・・ももも、もう1つのグリモアから!?」

 

「コ、コラッ!

声がでけーんだよ!

シーッ!

シーッ!」

 

メアリーは周りを見渡した。

 

「聞かれてねえな?」

 

「誰もいねえぜ。」

 

誠も周りを見渡していた。

 

「だ、大丈夫みたい・・・

なんか変な気分・・・もう1つのって、海外の魔法学園って意味じゃ・・・」

 

「ちげーよ。

話を聞く限り【もう1つ世界がある】んだとさ。」

 

「ウソ・・・じゃあ、わたしやイヴがもう1人ずつ・・・?」

 

「そーゆーことだな。

良介、冬樹も表にはいるのか?」

 

「ああ、いるぜ。

どうも、仲が良くないみたいだがな。」

 

ノエルは良介の話を聞くと苦笑いした。

 

「ありがとう。

そうなんだ・・・でも表でもやっぱり・・・

ううん。

わたしたちみたいになってないなら、まだなんとかなるよね。」

 

「ノエル。」

 

メアリーは心配そうな顔をしていた。

 

「でも、そのほかにもわたしとイヴのこと、ちょっと違うみたい。

後で時間があったら、そのこと話したいな。」

 

すると、誠は良介に耳打ちした。

 

「(良介、俺はいいからお前が聞け。)」

 

「(いいのか?)」

 

「(ああ、俺はあまり冬樹姉妹には触れたくないんでな。)」

 

「(イヴのことか・・・)」

 

良介はため息をついた。

ノエルはメアリーと話していた。

 

「ねえねえ、メアリーさん。

あとでこの人と2人でお話したいんだけど・・・」

 

「エラい簡単に信じるじゃねぇか?」

 

「信じる・・・っていうのかな。

ちょっと違うかな?

もし違うわたしたちがいるのなら・・・もし可能性があるなら・・・

そっちのわたしたちには、頑張ってほしいもん。

それだけ。」

 

「わかったよ。

どっかでスキを見て、2人にしてやる。」

 

「誠。」

 

「言われなくてもわかってる。

その時は俺も席を外すよ。」

 

「メアリーさんは気にならない?

お友達のこと。」

 

「もう聞いたぜ。

アメディック少将のことも含めて、確認した。」

 

「違うよ!

向こうでエレンっていう人とメアリーさんが・・・

どんな感じで一緒にいるかだよ。」

 

メアリーの表情が変わった。

 

「仲がいいんでしょ?

エレンさんがどんな人になってるか・・・

どんな風にメアリーさんと協力してるのか・・・」

 

「そっちの話が本当だったと仮定してだ。

こっちで死んでんのが変わるわけじゃねぇ。

変わらねぇ、からな・・・」

 

メアリーは辛そうな表情になっていた。

 

「やっぱり、メアリーさんも聞くべきだよ。」

 

「はぁ?」

 

「そうした方がいいよ!

絶対!

ね?

後で2人にしてあげるから!」

 

「お、おい、アタイはいい・・・」

 

「そういうわけだから、お兄さんもそのつもりでね。」

 

「ああ、わかった。

(こっちでもその呼ばれ方するんだな。)」

 

「クソッ・・・わかったよ。」

 

メアリーはため息をついた。

 

   ***

 

ノエルはやる気を出していた。

 

「よーし、それじゃ歩哨任務をがんばって、良介さんに話を聞くぞーっ!」

 

「だから大きな声を出すなっつの・・・それに話を聞いたところで意味はねえんだぞ。

お前とイヴがもう1つの世界でどうだろうと、こっちとは違うんだ。」

 

「わかってるよ。

でも、もしかしたらイヴの気持ちがわかるかもしれない・・・」

 

「チッ。

そんなのアテにしてたら、またイヴと大ゲンカするだけだぞ。」

 

「もう、何回ケンカしてもいっしょだよ。

これ以上悪くならないとこまで来ちゃってるし。

それなら、なにしてもデメリットはないでしょ?

それとも、また魔法が暴発してケガしちゃったら、戦力が落ちちゃうから?」

 

「バカヤロー。

そんなのはどうとでもなるんだよ。

何回ケンカしてもいっしょだって考えはやめろ。

テメーら、どっちも仲良くしてーんだろ?

それなのに、なにをどう間違えたらこんな風になるんだよ。」

 

「あはは・・・冬樹家はプライド高いからね・・・」

 

「いったん、話変えるからな。」

 

そう言うと、メアリーは話を黙って聞いていた良介と誠の方を向いた。

 

「おい、良介、誠。

霧の護り手の間ヶ岾 昭三ってヤツ、知ってるか?

アメディック少将と繋がってたヤツだ。

霧の護り手の幹部でな。

そいつのせいで、エレンは裏切り者の娘になった。

なにか知らねぇか。」

 

「間ヶ岾か・・・俺たちの世界の間ヶ岾はたしか死んだな。」

 

「ああ、遺体は俺も見たぞ。

阿川奈にオニが出たときにな。」

 

メアリーは2人の話を聞いて驚いていた。

 

「死んだ?

間ヶ岾が死んだのか?

おい、そんな話は聞いてねぇよな。」

 

「うん。

あの人、今はJGJのスポークスマンだから・・・

霧の護り手出身ってことは公表してないけどね。」

 

「こっちじゃ間ヶ岾はピンピンしてるぜ。

阿川奈にオニとやらも出てねぇ。

去年の12月くらいに表に出てきた。

侵攻後の混乱を狙ってたんだな。

いつの間にかJGJの顔役におさまってて、同時にJGJは共生派に傾いた。

今じゃ霧の護り手のフロント企業さ。」

 

「もしかして【そっち】でJGJがまだ裏切ってないのって・・・」

 

「ああ、間ヶ岾が死んだからだろうな。

第7次侵攻で被害がほとんど出ず、旧魔導科学研究所の調査で・・・

霧の護り手への警戒心が強まった。

間ヶ岾も自由に動けなかったはずだ。

そうこうしている内に、阿川奈のオニでおっ死んじまったってわけか・・・

そっちじゃ、まだ神宮寺一族は健在なんだよな?」

 

「ああ、全員生きてるぞ。」

 

良介がメアリーの質問に答えた。

 

「こっちだと、あの兄妹で生き残ってるのって2人だっけ・・・」

 

「神宮寺 初音をいれて3人だ・・・間ヶ岾が入社してからバタバタ死んだ。

誰も止められなかったよ。

アイツが手を下してたわけじゃねえからな。」

 

メアリーは悔しそうな顔をした。

 

   ***

 

メアリーはノエルの方を見た。

 

「ところで、まーだ一言も話してねぇのか。」

 

「なんのことだ?」

 

良介がメアリーに聞いた。

 

「侵攻のときに珍しく口きいたかと思いきや・・・

大勢の前でケンカしやがって。」

 

「あ、あのときは・・・うん、やっちゃった。」

 

「なにかあったのか?」

 

誠もメアリーに聞いた。

 

「第7次侵攻で2人ともケガしてな。

互いに余計な心配してんだよ。

あんなもん、魔法ですぐ治るのによ。」

 

「だ、だって回復魔法ってとっても魔力がいるじゃない?

わたしは平気だから、イヴのケガを先にって・・・」

 

「互いにそれでなんでケンカになるんだよ。

どっちかが謝れば、それで解決すんじゃねーか。」

 

「わかってる・・・んだけどねぇ。

どうしてだろ、イヴを目の前にすると、そういうの全部吹っ飛んじゃうんだ。

なんで意地になっちゃうんだろう・・・」

 

「わかんねーよ。

だがあの時は2人とも異常だったぜ。

なにせ怒りすぎて魔法が暴発したんだからな。

朝比奈ぐらい特定の属性と相性がよくなけりゃ、フツーはありえねえんだぜ?」

 

「あのときのこと、あんまり覚えてないんだよね・・・」

 

「な?

記憶が飛ぶくらい激昂してたってわけだ。

はたから見てても、修復不可能だって思うぜ。

だが諦めんなよ。

相手が死んだりしねぇかぎり・・・

話すことはできるんだからな。」

 

「うん・・・!」

 

すると、メアリーは何かに感づき後ろを向いた。

良介と誠も同時に振り向いた。

 

「誰だ!」

 

振り向くと沙那が立っていた。

 

「テメーか。」

 

「様子はどうですか?」

 

「見つかってねーよ。

今はどこでも手が足りねーからな。

ちょっと注意すりゃ、1ヶ月は隠せるぜ、きっと。

逆に言や、そのくらいセキュリティがガタガタだってことだ。」

 

「そのようですね。

それで・・・こちらの方たちは・・・どういたしますか?」

 

「同意見だ。

無傷で元の世界にもどってもらわねーとな。

コイツらの話が真実かどうか、確かめることはできねぇ。

だったら信じるくらいしか、好意的に受け取る方法はねーだろ。」

 

「それってどういうこと?」

 

ノエルがメアリーに聞いた。

 

「向こうでエレンが元気にやってんなら、そりゃ夢があるってことだよ。

そんでコイツらの力があったところで、こっちはどうしようもねぇ。

ならまだ夢がある向こうで、力は使ってもらった方がいいって考えただけだ。」

 

そう言うとメアリーは笑みを見せた。

 

   ***

 

少しして、花梨が合流して話を聞いていた。

 

「ん。

わかったすけ。

なんも大丈夫だあ。

良介、誠。

いつ帰れるかわかんねえすけな。

それまでおらの部屋さいろじゃ。」

 

「えっ!?

で、でも・・・さすがにそれだと・・・」

 

「それは・・・さすがに気まずいような・・・」

 

誠は少し引いていた。

 

「どうせおらはずっと学園にいるすけな。」

 

「ま、いいだろ。

学園の教室は原則、誰でも出入りできるからな。

危険だ。」

 

「メアリー、すまねぇな。

協力してもらえて嬉しいべ。」

 

「う、うっせぇ。

コイツらが風紀委員に見つかってゴタゴタが増えると面倒だろ。

それに、少なくとも魔力譲渡の力が【今日まで存在しなかった】のは確かだ。

精鋭部隊にいて知らなかったんだからな。

そんなのが知れ渡ったら、また寝る暇もなくなっちまうぜ。

メンドクセー。」

 

「私はこれ以上関わらない方がよいでしょう。」

 

「そうだな。

悪ぃが、コイツらの前には出てこねぇほうがいい。

この件じゃ協力してるが、JGJが裏切りものには変わりねーからな。

アタイの権限で歩哨はクビだ。

神宮寺と2人で引きこもってな。」

 

「メアリーさん・・・」

 

「お心遣い、痛み入ります。」

 

「ケッ。

裏切りものから礼言われるなんて、世も末だ。」

 

メアリーたちが話していると、良介と誠は汗を拭っていた。

 

「ん?

お兄さんたち、また様子がおかしいよ?」

 

「いや、妙に暑くてな・・・」

 

「そりゃそうだよ。

だって今、9月だもん。」

 

「9月?

俺たちのところまだ7月だったよな。」

 

「ああ、そうだ。」

 

誠の言葉に良介は頷いた。

 

「なんだ、そっちはまだ7月なのか。」

 

「では、1つだけ謎が解けましたね。」

 

「あ?」

 

沙那の言葉にメアリーは首を傾げた。

 

「汐浜の件です。

汐浜ファンタジーランドが襲われたのは7月末ですから。」

 

「ああ・・・なるほど、そっちじゃまだ起きてねぇのか。

2か月・・・2か月、こっちが未来なんだな・・・

なんか意味があるのか?」

 

すると、いきなり鐘が鳴り始めた。

 

「っ!?」

 

「えっ!?」

 

「な・・・・・」

 

「この鐘は・・・」

 

「なんかの合図か?」

 

メアリーは全員に呼びかけた。

 

「総員戦闘配置につけっ!

ノエルっ!

学園生全員集めろ!

出動するぞっ!!」

 

その場にいる全員が大急ぎで動き始めた。

 

   ***

 

花梨がメアリーに聞いた。

 

「お、おい!

良介と誠は部屋さ連れてくでいいのか!?」

 

「チックショウ!

運が悪りーな!

学園生が全員集まるじゃねーか・・・

里中、しばらくここにいろ!

出動したら学園から人がいなくなる!

そしたら寮に連れてって、こっちに合流しろ。」

 

「あ、ああ、わかったすけ。」

 

「お兄さん!

あっちのわたしたちに、よろしくね!

がんばってって・・・伝えておいて!

じゃあね!

バイバイ!」

 

「ノエル・・・!」

 

ノエルは走り去っていった。

 

「では、私も。

初音様とご兄妹に、くれぐれも霧の護り手に注意されるようにと・・・

そして私には、後悔のないように、と。」

 

沙那も行ってしまった。

 

「沙那・・・」

 

良介は後ろ姿を見ていた。

 

「チッ。

遺言みてーな言い方だな。

だが、テメーらとはもう会えねー気がするのも確かだ。

きっと戦ってる間に帰っちまうんだな。

ああ、それがいい。

向こうのアタイに伝えておけ。

調子に乗るんじゃねぇってな。

テメーらは強ぇ。

けど、調子に乗ると、絶対に大事なものを失う。

仲間がいるんなら、それを失わねぇように、気張っときな。」

 

メアリーも行ってしまった。

 

「メアリー・・・」

 

「縁起でもねぇことを・・・!」

 

「まあ、遺言みたいなものだべな。

あの鐘・・・第7次侵攻の後につけられたすけ、知らねぇかもな。

ありゃあ、大規模侵攻が始まったって知らせだ。」

 

「何だと・・・!」

 

「まさか、1年経たずに来るなんて思わなかったすけな。

こうなっちまったら、寮にいてもダメかもしれねぇけど・・・」

 

すると、地面が揺れ始めた。

 

「っ!?

な、なんだ!?

魔物がもう来たべか!?」

 

「お、おい、まさか・・・!」

 

「このタイミングで・・・」

 

誠は良介の方を向いた。

良介は悔しそうな顔をしていた。

 

「あ、わ・・・悪ぃな・・・なしたっきゃ?」

 

「帰る時が・・・来たみたいなんだ。」

 

「おっ・・・こ、これであんたら、帰れるのか?」

 

「ああ・・・」

 

「あぁ・・・そりゃよかった・・・よかったなぁ・・・

じゃあ、やっぱおらの分も伝えてくれじゃ。」

 

「俺が聞こう。」

 

誠が花梨の話を聞くことにした。

 

「そっちはたくさん友達がいて羨ましいすけな。

おらの分も、料理作ってやってくれってな・・・」

 

「お前は来れないのか?」

 

「いや、そっちには行けねぇべ。

こっちにも守らねばなんねぇもんあるすけな。

あんたらに会えて、よかった。

じゃ、な。」

 

「か、花梨・・・!」

 

誠が去ろうとする花梨に手を伸ばそうとした瞬間、良介と誠は光に包まれた。

 

   ***

 

良介は目を開けた。

すると、声が聞こえてきた。

 

「おい!

オラ、起きろ!

アサヒナ!

電気ショックだ!」

 

「やんねーよ。

ホラ、もう起きるぜ。」

 

「痛てて・・・ここ、山か?」

 

良介は起き上がった。

いつの間にか戦闘服から制服に戻っていた。

戻ってくる際に変身が解けたらしい。

目の前にはメアリーと龍季が立っていた。

 

「チッ。

なにこんなとこで寝てんだ。

つーか半日も行方不明ってどういうことだよオラ!

テメーらが途中で消えたからな・・・

アタイがなんかやったんじゃねぇかって疑われてんだよ!」

 

「わかったわかった。

何があったかは今から説明する。

だから聞いてくれ。」

 

「オーケー、今から一歩でも道をそれたら蜂の巣にしてやる。

黙ってついて来い。

事情は全部そこで話せ。

誠はもう連れてったからな。」

 

「わかったよ・・・」

 

良介はため息をついた。

すると、龍季が話しかけてきた。

 

「テメェ、なんて顔してんだ・・・誠もそうだったけど、嫌な夢でも見たのかよ。」

 

「ああ・・・まぁ・・・嫌な夢、かもな。」

 

「行方不明・・・まさか、霧の嵐・・・か?

テメェら、裏でなんか見てきたってえのか?」

 

「わかるか・・・まぁ、色々とな・・・」

 

「クク、ちょうどいい。

それも話してもらおーじゃねーか。

来い。

ドクター・宍戸の研究室だ。

今度こそ行くぜ。」

 

「ああ、わかったよ。」

 

メアリーは良介の顔を見た。

 

「なんだよその顔。

ケンカ売ってんのかよ?」

 

「いや、別に。」

 

「調子狂うぜ・・・」

 

メアリーはため息をついた。

良介はメアリーの後を黙ってついていった。



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第4部 チトセの正体
第74話 動物は心を映す鏡


※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



7月、ある日の校門前。

さらが歌いながら歩いていた。

 

「アルパッカパッカ~♪

馬ぱっかぱっか~♪

よっちゃばれ~、ぼくじょ~お♪」

 

兎ノ助はさらの歌を聞いて今回のクエストのことを思い出した。

 

「あぁ。

牧場の警備って、あのCMの牧場だったのか。

なんかアルパカだらけで、すげーインパクトだよな。

あのCM。」

 

「わたし、アルパカさんにお会いするのはじめてですぅ!」

 

すると、シローも嬉しそうに鳴いた。

 

「ふふふ。

シローもお友だちできるといいですねぇ。」

 

「まっ、今回はクエストっていうより、地域交流がメインだから・・・

おもいっきり楽しんでこいっ!」

 

「はいぃっ!

おまかせですよぉ!」

 

すると、さらは何かに気づいた。

 

「あれ?

あそこにいるのは・・・たつきさん?」

 

少し離れたところに龍季がいた。

兎ノ助も龍季に気づいた。

 

「ん?

なんだ、龍季。

見送りか?」

 

「い、いや・・・たまたま通りかかっただけだ。」

 

「とかいって・・・お前、一緒に行きたいんじゃねーの?」

 

「べ、別に!

動物とかきょーみねーし!

やることあるし、俺は忙しーんだよ。」

 

「そだった!

お前、今日訓練日だったな!」

 

「うぐっ・・・」

 

龍季は悔しそうな顔をした。

 

「たつきさん・・・

写真、たくさん送りますねぇ!

たのしみにしてくださいっ!」

 

「ああ・・・頼む。」

 

さらはクエストに行ってしまった。

龍季はさらの後ろ姿を黙って見ていた。

 

「行きたかったんじゃねーの?」

 

「るせっ!」

 

兎ノ助のからかいに龍季は顔を赤くしていた。

良介と誠は少し離れたところから見ていた。

 

「よっちゃばれ牧場ね・・・誠、行ったことは?」

 

「ねぇな。

名前なら聞いたことはいくらでもあるんだが・・・」

 

「牧場の警備・・・作業を手伝えばいいのか?」

 

「恐らくそうだろうな。

力仕事が多そうだなぁ・・・」

 

誠は引き気味に笑った。

 

「力仕事か・・・俺はむしろその方がいいな。」

 

良介は嬉しそうに笑った。

 

「動物との触れ合いも多そうだ。

アルパカには・・・気を付けねえとな。」

 

「安心しろ。

唾飛ばされたら笑ってやるから。」

 

「その時はお前に唾付けられた部分を擦り付けてやる。」

 

良介と誠は話をしながらクエストに向かった

 

   ***

 

牧場に着くと、さらは楽しそうに周りを見渡した。

 

「わ~!

牧場、ひろいですぅ!」

 

シローも楽しそうに鳴いた。

 

「シロー、やるきまんまんですねぇ。

えらいですよぉ。

よーし!

良介さんっ!

さっそくおしごとしましょお!」

 

「ああ、そうだな。」

 

良介は牧場を歩こうとすると、さらはすぐに立ち止まった。

 

「さら?

どうしたんだ?」

 

「けいびって、何をすればいいんでしょう?」

 

「ああ、主にだな・・・」

 

良介が説明しようとした途端、シローが吠え始めた。

 

「あっ・・・イヴさん!」

 

さらがシローが吠えている方向を見るとイヴが立っていた。

さらはイヴのところに向かい、話しかけた。

 

「イヴさんも、牧場けいびだったんですねぇ!」

 

「え、ええ・・・まさか、こんな遊び半分のクエストだとは思わなかったけれど。

単位が出るとはいえ・・・魔法に関わる勉強はできなさそうね。」

 

「ふふふ。」

 

さらは突然笑い始めた。

 

「なにか?」

 

良介は呆れながらイヴの後方を指差した。

 

「あ~・・・イヴ、ヤギが服噛んでるぞ。」

 

「え・・・?」

 

イヴが後ろを見ると、ヤギがイヴの服に噛み付いていた。

 

「あっ!

こら、離しなさい!

これは食べ物ではないわ!

ひ、ひっぱっちゃダメ・・・!

こ、こら・・・や、やめ・・・」

 

イヴはヤギに引っ張られていってしまった。

さらはその状況を見て笑っていた。

 

「ふふふ。

イヴさん、モテモテですねぇ。」

 

「やれやれ、助けに行ってやるか。」

 

2人がイヴの後を追いかけようとした途端、地響きのような音が聞こえてきた。

 

「ん?」

 

「なんでしょうこの音・・・?」

 

2人が音のする方を向くとアヒルの大群が迫ってきていた。

 

「きゃああああっ!」

 

「へぇああっ!?」

 

良介とさらはアヒルの大群をなんとか回避した。

 

「今の、アヒルさん?

だっそう・・・ですか?

つ、捕まえましょう!!」

 

「いきなりアクシデントかよ、まったく・・・!」

 

2人はアヒルの大群の後を追いかけていった。

 

   ***

 

その頃、牛がいるところに花梨がいた。

 

「おお~。

いい牛だな、こりゃ。

たーんと食え?

いい乳出すんだぞぉ?」

 

花梨が牛に餌をやっていると小蓮やってきた。

 

「花梨~!

たくさん搾れたヨ!

タンク、どこ置くカ?」

 

「おぉ、こっちさ置いてけろじゃ。」

 

「アイサ~!」

 

すると、小蓮はタンクを持ってきた。

 

「どっっこーいショッ!!」

 

「お・・・おお。

小蓮、よく一人で運べたな。」

 

「クニではこのくらいアタリマエだったネ!

まずしい村だったからナ・・・市場まで野菜なんか担いでたヨ。」

 

小蓮が話していると片手にタンクを一個ずつ担いだ誠がやってきた。

 

「そらよっ!」

 

誠はタンクを2人の前に置いた。

 

「誠、おめえ本当に力持ちだなぁ。」

 

「そうネ。

片手に一個ずつは結構キツイはずヨ。」

 

「魔法使いに覚醒する前はこうはいかなかったさ。

さて、まだ向こうにあるから取ってくるよ。」

 

そう言うと、誠は再びタンクを取りに行った。

 

「それにしても、珍しい食材はどこカ。

変わった動物いると思ったのにナ・・・」

 

すると、地響きが聞こえてきた。

 

「ん?

ナニか、この地響き・・・」

 

小蓮が地響きが聞こえる方に向かった。

 

「アイヤーッ!!

な、何カ!

あの白い塊・・・アヒル!?」

 

アヒルの大群がやってきていた。

 

「な、なんだ・・・ふおぉっ!?」

 

アヒルの大群の進路方向にいた誠は踏み潰されてしまった。

 

「たまげたなぁ・・・アヒルの大行進だべ。」

 

アヒルの大群の後ろに良介とさらが走ってきていた。

 

「花梨!

小蓮!

そのアヒル、捕まえてくれ!」

 

「良介、仲月、なしたっきゃ?」

 

「とり小屋から逃げちゃったんですぅ~。」

 

「アイ、任せるヨ!

とわちゃーっ!」

 

小蓮はアヒルの後を追いかけ始めた。

 

「一匹残らず美味しい北京ダックにしてやるヨロシー!」

 

「えぇっ!?」

 

「あっ!

待つネ!

ワタシの食材ーっ!」

 

「小蓮!

それは食用じゃねぇぞ!」

 

良介とさらも小蓮の後を追いかけていった。

花梨のところに頭や顔に羽や足跡をつけた誠がやってきた。

 

「一体、なんだったんだ・・・」

 

誠は呆然としていた。

花梨は足元にいる一匹のアヒルを見つけた。

 

「ん?

まだ一匹・・・おめさ、置いてかれたっきゃ?」

 

アヒルは花梨に甘え始めた。

 

「な、なんだべ。

そんなに甘えてもなんもねぇぞ?」

 

誠は良介たちの後を追いかけようとしていた。

 

「あ、誠!

ちょっと待ってけろじゃ。

このアヒルば持ってけ。

こいつも逃げたんだっきゃ?」

 

「たぶんそうだろうな。

それじゃ・・・」

 

誠は花梨からアヒルを受け取ろうとしたが、アヒルは暴れ始めた。

 

「お、おお?

おめ、そったに嫌がらんでも・・・わっぷ。

な、なんか気に入られっちまったみてぇだすけ・・・

とんだ【おませさん】だべ。

女がいいっきゃ?」

 

「どうするんだ?」

 

「しょうがないすけ。

こいつはもう少し、おらが預かるすけな。

他のアヒルば頼むぞ。」

 

「ああ、わかった。」

 

誠は良介たちの後を追いかけた。

 

   ***

 

エレンは牛の世話をしていた。

 

「まさか魔法使いになって、日本に来て、牛の世話をするとはな。

動物は従順でいい。」

 

すると、そこにヤギに服を引っ張られているイヴがやってきた。

 

「うっ・・・だから離しなさいって・・・!

ほら、餌はこっちに・・・なんでこの服にこだわるのよ・・・」

 

「冬樹?

何をしている。」

 

「なんでもありません。」

 

「随分、ヤギに気に入られたようだな。」

 

「っ!」

 

「怒鳴りつけたところで、離してはもらえんぞ。」

 

「私のことは放っておいてください。」

 

エレンはイヴのことを黙って見た。

 

「悪意がない相手には根気が必要だ。

短気を起こすな。

時間をかけて心を通じさせろ。

人間でも動物でも同じだ。」

 

「動物と心を通わせるとは、軍人らしくない夢のある言い方ですね。」

 

「馬鹿な。

軍隊は動物も使う。

動物を操る者は、毎日、朝から晩まで動物の世話をし、心を通わせるのだ。

私は見ていただけだが、言葉などなくても、種族が違っても・・・

親友や家族となることはできる。

現実的な話だ。」

 

すると、そこにさらと良介がやってきた。

 

「おいエレン、こっちにアヒル・・・

ん、イヴ、まだヤギと・・・」

 

良介とさらはイヴがまだヤギに服を引っ張られていることに気づいた。

 

「これは・・・その、ちょっと・・・!」

 

さらはヤギに近づいた。

 

「めっ、ですよぉ。

イヴちゃん困ってますぅ。」

 

「そんなの、口で言っても伝わるわけ・・・」

 

ヤギは簡単に服を離した。

 

「え・・・は、離した?」

 

「ふふふ。

いいこですねぇ~。」

 

さらはヤギの頭を撫でていた。

 

「ふむ。」

 

エレンはさらを見つめ、イヴは呆然と見ていた。

良介はイヴとエレンに話しかけた。

 

「なあ、こっちにアヒルの群れが来なかったか?」

 

「いや、見ていないが。」

 

「む・・・困ったな。」

 

「もしこのまま捕まらなかったら・・・どうしよう・・・」

 

困った表情の良介と泣きそうなさらをイヴは見ていた。

イヴにエレンが話しかけた。

 

「冬樹。

一緒に探してやれ。」

 

「なんですって!?」

 

「私も、牛を戻したら手伝いに向かおう。

さすがに、犬と家族なだけはある。」

 

エレンはさらを見ながら言った。

さらは不思議そうにエレンを見ていた。

 

「ハンドラーを目指すのもいいかもしれないな。

興味があったら紹介するぞ。」

 

「はんどらー・・・ですかぁ?」

 

エレンは牛を戻しに行った。

 

「か、勝手に決めて・・・」

 

「イヴ。」

 

良介はイヴに話しかけた。

イヴは無言で良介とさらの方を見た。

 

「頼む。」

 

「わ、分かったわ。」

 

アヒルを探すのにイヴも手伝うことになった。

 

   ***

 

少し経って、良介たちはアヒルの群れを見つけた。

小蓮がまだアヒルと格闘していた。

 

「ああっ!

また逃げられたネ!

チョコマカと・・・!」

 

「うう~・・・どうして逃げるんですか・・・アヒルさん~!」

 

「ああ・・・ダメだ、すり抜けられる。」

 

良介が捕まえようとしても逃げられてしまっていた。

 

「このっ・・・待っ・・・痛いって・・・へぶしっ!」

 

誠は嫌われているのかアヒルに攻撃ばかりされていた。

 

「これじゃ、キリがないわね。」

 

イヴは状況を見て、諦めかけていた。

そこに花梨がやってきた。

 

「おー、ずいぶんお祭り騒ぎだべ。」

 

「里中さん、そのアヒルは・・・?」

 

イヴは花梨が抱えているアヒルに気づいた。

 

「ん?

なんか、懐かれちまってなぁ。

アヒルは怖がりさんだすけ。

知らない人が来て怖がってるんだべなぁ。」

 

「怖がっている?」

 

すると、イヴは花梨の抱えているアヒルに近づいた。

 

「ア、アヒル。

こっちに・・・おいで。

大丈夫。

あなた達に危害を加えるつもりはないのよ。

(動物と話すなんて、ありえないことだけど・・・

敵意がないことを示す・・・声のトーンでなんとか・・・)」

 

イヴはアヒルに語りかけ続けた。

 

「突然知らない人が来て、怖かったのでしょう?」

 

すると、アヒルは大人しなった。

 

「大人しくなった・・・やっぱり・・・」

 

「あれっ?

アヒルさんがおとなしくなりましたぁ・・・」

 

「ふ、フユキ、どんな魔法を使ったカ・・・」

 

「魔法じゃないわ。

予想しただけ。

最初に逃げ出した理由はわからないけど・・・

犬と人間が走って追いかけてきたら、アヒルにとっては怖いのでしょう。

だから逃げていた、ただそれだけだったんじゃないかしら。」

 

さらは笑顔でイヴを見ていた。

 

「うっ・・・」

 

「フユキ・・・たまげたな!」

 

「イヴちゃん、カッコいいですぅ・・・」

 

「アヒルはパニックになってたから難しいと思っていたが・・・勘違いだったみたいだな。」

 

「俺・・・まだ攻撃されてんだけど・・・」

 

誠はまだアヒルに足を噛まれたりしていた。

 

「じゃあワタシが料理にするって言ってたのも聞いていたカモ・・・

大丈夫ヨー!

アナタたちを料理にしないと関帝に誓うヨー!」

 

「シローも、ちょっと肩の上で大人しくしててくださいねぇ。」

 

すると、アヒルたちは突然イヴの方へと集まり始めた。

 

「むっ?」

 

「ほぇ?

アヒルさんたちが・・・」

 

「きゃっ・・・な、何?

そんなに一気に集まらないで!

ふっ・・・ふふ。

くすぐったいから・・・や、やめなさいって。」

 

「ふっ、さっきまで逃げてたのにな・・・」

 

良介は笑みを浮かべながら見ていた。

 

「自分から寄ってきたネ・・・なんということダ・・・

おっ。

ついてくるネ。

このまま柵に誘導してしまうヨ!」

 

「イヴちゃん。

イヴちゃん。」

 

さらはイヴに話しかけた。

 

「あ・・・えっと・・・何かしら?」

 

「やっぱりイヴちゃんはノエルちゃんのおねえちゃんですねぇ。」

 

「あ、あの子は関係ないでしょう!」

 

「笑っているイヴちゃん、ノエルちゃんとそっくりでしたよぉ!」

 

「私と・・・ノエルが?」

 

「はいぃっ!

すてきなおねえさんですぅ!」

 

すると、イヴは黙ってどこかに向かってしまった。

 

「あっ!

フユキ、柵はそっちではないヨ!

アイヤー、アヒルたちがフユキについてっちゃうヨ!」

 

「お、追いかけましょお!」

 

さらと小蓮はイヴの後を追いかけていった。

良介は黙って見ていた。

 

「ノエルを受け入れられない・・・か。」

 

良介はため息をついた。

少し離れたところに花梨とエレンがいた。

 

「なかなか上出来だな。」

 

「んだ。

イヴのお手柄だべ。」

 

「今日は誘ってもらって悪かったな。

正直、少しまいっていたところだった。

気晴らしができてよかった。」

 

「そうか、ちょっと顔色、よくなってるっきゃ?

なんも大丈夫だぁ。

一件落着、だすけな。」

 

その頃、誠はまだアヒルに攻撃されていた。

 

「なんでイヴに懐いてるのに俺は・・・!

痛い痛い!

誰か助けてくれっ!」

 

良介はそれを見てため息をついた。

 

「なにしてんだお前・・・」

 

花梨とエレンもその状況を見ていた。

 

「あいつ、なにしてるんだっきゃ?」

 

「ふむ、理由はわからんがなにか気に入らないらしいな。」

 

2人とも呆れていた。



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第75話 天文部のクエスト

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


学園近くの山奥。

良介は天文部に呼ばれて来ていた。

ミナが良介を待っていた。

 

「サーヴァントよ・・・久しぶりだな。

我は長く苦しい戦いに趣いていた。

だが・・・ここに復活したのだ!

我ら円卓の騎士団は【組織】の魔の手から世界を守らねばならん!

しばらくできなかったが、パトロールに行くぞ!

そういうわけでサーヴァントも来い!

我らの手で世界を守るぞ!」

 

ミナは先に行ってしまった。

 

「普通にできないのかあいつは・・・」

 

良介はため息をついていると、梓がやってきた。

 

「いやー、ひさしぶりッスねぇ、この感じ。

なんか楽しくなってきたッス。」

 

梓が行くと、今度は心がやってきた。

 

「ひぃ・・・ま、まま魔物と戦うなんて・・・遺書、遺書を書きます!」

 

心が行くと、卯衣がやってきた。

 

「まだ部長の心拍は不安定。

どうなるか予想はつかないけれど・・・

魔物に関しては、私がどうにかする。

部長のことは任せていいかしら。」

 

「ああ、わかった。」

 

卯衣が行くと、最後に恋がやってきた。

 

「なんとか元気を出してくれたのはよかったが・・・

ふうむ、先は長い・・・良介よ、お主にあまり迷惑をかけたくないが・・・

ミナはお主を気に入っておる。

なにかあったら、そのときは頼むでな。」

 

「ああ、任せてくれ。」

 

2人が話しているとミナが大声で呼んできた。

 

「おーい!

はやく来ないか!

今日の魔物は幻術使いだ!

我が円卓の騎士にとって恐るまでもない!

我がやっつけてしまうぞ!

いいな!」

 

「やれやれ・・・空元気を出しおって。

まあ、このクエストがきっかけで、復活してくれればよいがな。

では行こうぞ、良介。」

 

「ああ・・・今回はいつもより疲れそうだなぁ・・・」

 

良介と恋もミナたちの後を追いかけていった。

 

   ***

 

山奥、良介とミナは2人きりになっていた。

 

「えー・・・サーヴァント!

状況を説明しろ!

我はどうしてこんなところにいるんだ!?

どうして恋たちとはぐれているんだ!?」

 

良介は片足をトントンと鳴らしながら黙ってミナを見ていた。

 

「ええい、もういい!

自分で考える!」

 

そう言うと、ミナは考え始めた。

 

「そうだな・・・たしかあれは曙光の優しい朝・・・

今日は強大な魔物が深淵から現れると、我が第六感が告げた!

その通りにクエストが発令されたから請けた!

我が円卓の騎士を連れ、やってきたが引き裂かれた!

うむ、完璧だ・・・完璧じゃない!

ダメじゃないか!

サーヴァント!

これより円卓の騎士の搜索に赴く!

暗黒の大魔王に立ち向かうためには騎士が揃わなければならん!

騎士が揃ってこそ、太陽の奔流が闇を穿つ最終兵器となる!」

 

「怖いなら怖いって言えよ。」

 

良介がそう言うと、ミナは少し狼狽えた。

 

「え、ええい!

怖いんじゃない!

みんなが必要なの!

では行くじょ!

・・・行くぞ!」

 

「はいはい、わかったよ。」

 

2人は他のメンバーを探しに向かった。

 

   ***

 

学園の訓練所。

龍季が魔法の制御をしようとしていた。

 

「またか・・・クソッ。

勝手に放電するのは・・・どうやって抑えりゃいいんだ・・・

やっぱ最初になにがなんでもやっとかなきゃダメだったのか・・・?」

 

すると、そこにチトセがやってきた。

 

「朝比奈さん、もしかして制御の訓練、してる?」

 

「あ?

ただの暇つぶしだっつの。」

 

「あなたが・・・制御の訓練だなんて・・・珍しいこともあるものだわ。」

 

「ケンカ売ってんのか?」

 

「そんなまさか。

応援するわよ。

なんだったら手伝おうかしら。

 これでも魔法のことには自信があるからね。」

「いらねーよ。

前に言われたことをやり直ししてるだけだ。

こんくらい、すぐにやってやるさ。」

 

龍季は訓練所から出ようとした。

 

「待って。」

 

だが、チトセが龍季を呼び止めた。

 

「なんだよ。」

 

「あなたの体は、あなたが思ってる以上に雷と相性がいい。

それはもう、危険なほどにね。」

 

「わかってるっつの。」

 

「制御の訓練も、他の生徒と同じようにいくとは考えないように。

これから卒業までかかるつもりでいなさい。

それがあなたの体質なんだから。」

 

「見てきたようなことを言うじゃねーか。

余計なおせわだ。

チッ。

勝手にやるさ。

・・・それより、あっちの方を気にかけた方がいいんじゃねえか?」

 

そう言うと龍季は出て行った。

 

「なんてこと。

あの子が魔法制御の訓練を始めるなんて・・・

一体、どこにきっかけが・・・誰に触発されたの・・・?

仲月さんだけじゃ、あんなにやる気を出さなかったのに・・・

もう、私の手を離れて変わっていくのかしら・・・

それより、あの子言ってる通り、今は彼かしら?」

 

チトセは向こうの方を向くと、魔神化第二形態になっている誠がいた。

 

「グゥ・・・・ガァァ・・・ッ!」

 

体中から赤紫のオーラを出しながら苦しそうにしていた。

 

「誠く・・・っ!?」

 

チトセが話しかけようとした途端、誠は突然チトセに向かって魔法を撃った。

チトセは咄嗟に障壁で防いだが、障壁にはヒビが入っていた。

すると、誠の魔神化が解けてしまった。

 

「ハァ・・・ハァ・・・チ、チトセ・・・いきなり・・・話しかけるなよ・・・」

 

「驚いたわ・・・いきなり攻撃してくるなんて・・・」

 

「ちょっと意識が飛びかけてな・・・無意識に攻撃しちまった。」

 

「想像以上に扱いが難しいみたいね。

その魔法。」

 

「ああ、これ使ってるとどうも体に痛みが走って意識が飛びそうになるんだよな。

最初はそんなことなかったのにな・・・」

 

「体に・・・痛み?」

 

「ああ、時間が経てば経つほど痛みが増して・・・

て、どうしたんだチトセ。」

 

チトセは誠の話を聞いて、なにか考えていた。

 

「誠くん、あまりその魔法、多様しないほうがいいかもしれないわ。」

 

「へ・・・?

どういうことだよ。」

 

「自分の体を壊すことになるかもしれないからよ。」

 

「俺の体が・・・?」

 

チトセは訓練所から去っていった。

 

「俺の体が・・・か。

そんなこと言われてもなぁ・・・」

 

誠はただ呆然と立ち尽くしていた。

 

   ***

 

山奥、良介とミナは他のみんなを探していた。

 

「まだ見つからん。

一体どんな罠が我々を・・・」

 

「おい、デバイスは?」

 

「え?

そういえば・・・」

 

「お前・・・もしかして知らなかったのか?」

 

「ち、違わい!

光の小箱に仲間の場所が映るなんて知ってたもん!

お、お前が気づくか試してたんだ!

まあ、合格でいいぞ!」

 

「(忘れてたくせに・・・どうして誤魔化すかなぁ・・・)」

 

ミナはデバイスで他のみんなの居場所を確認した。

 

「では・・・うん。

結構近いな・・・

一番近いのはマインドシーカーだな。

1人で泣いているぞ、きっと。」

 

ミナはデバイスを直した。

 

「でも、なんでまた突然散らばっちゃったんだ?

やはりこれは魔物の卑怯な罠なんじゃいのか!?」

 

良介は呆れた顔でミナを見ていた。

 

「あ、信じてないな、サーヴァント。

自慢ではないが、我ら円卓の騎士の団結力は世界一だ。

これまではぐれたことなど一度も・・・い、一度も・・・」

 

ミナは良介の後ろを見て固まった。

 

「ん・・・?」

 

良介は後ろを振り向くと魔物がいた。

 

「な、なんだこいつ・・・うわあああ~っ!」

 

ミナは一目散に逃げてしまった。

 

「そうやって走るから逸れるんだよ。」

 

良介はそういうと、魔物のほうを向いた。

魔物は振り向くと同時に攻撃してきたが、良介はジャンプして避けた。

そして同時に魔物に風魔法で上から攻撃した。

 

「ルストトルネード!」

 

魔物は一撃で倒された。

 

「さて、ミナを探しに行くか。」

 

良介はミナが走っていった方向へと向かった。

 

   ***

 

学園の研究室。

結希が裏世界の鳴子のデータを解析していた。

 

「終わったわ・・・」

 

「終わった?

早くない?」

 

一緒にいた天が結希に話しかけた。

 

「あらかじめ分類されてたから。

あとは直近で必要な情報をより分けただけ。」

 

「で、いつ?」

 

「9月。

第8次侵攻は、第7次侵攻の翌年9月に発生する。

良介君と誠君の話とも一致するわ。」

 

「すぐじゃない!」

 

「来るかしら。」

 

「歴史が違うっていっても、第7次までの発生日時は同じだったのよね?

じゃあ、ほぼ確実に来るわよ。」

 

「でも、決定的に異なることがある。

今のわたしたちの世界は・・・

【年度が替わっていない】。」

 

「アンタ、あの子の言うことを本気にしてるの?

なんだっけ。

中二病?

なんでしょ?

そういう設定が好きな。」

 

「風槍さんに関しては、普通とは順序が違う。

彼女は【見たくないものが見えるから、そこから逃避している】。

だから、彼女が演技を忘れて、違和感を感じたことに注目すべき。

それに・・・朱鷺坂さんの言ったことも気になるわ。」

 

「確かに、妙なことはあるわよ。

ひっかかりはあるわ。

私が去年、入学したときは確か・・・

生徒会長は最終学年だったような気がしなくもないってくらいわね。

でも本当に時間が巻き戻ってるなら、ここにいる私はなんなのよ!

第7次侵攻の後に転校してきた私が今いるのはおかしいでしょう!?

それに・・・時間が巻き戻ってるっていうなら、第7次がもう一回来る!

そんなことがあると思う!?」

 

「そう、おかしい・・・でも時間が過ぎているならなおおかしい。

なぜ武田さんや生天目さんはまだ在籍して・・・それを気にしていないの?」

 

「【それこそが間違い】ってこともあるでしょう?

確かに1年も経ってない記憶が曖昧になるのはおかしいわ。

でも普通に考えて、ここいるってことは【卒業年度が違った】ってことよ。

武田 虎千代の卒業年度は今年だった。

それでいいでしょう。」

 

「どちらにせよ、今できることは・・・備え。

9月に起こるかもしれない、第8次侵攻への備え・・・でも・・・」

 

「でも?

まだ何かあるの?」

 

天は首を傾げた。

 

「良介君はクエスト中だったかしら。」

 

「霧の嵐に巻き込まれたって、アレも本当なの?」

 

「もう一度、彼らの話と照らし合わせるわ。

本当に裏に行ったのなら不思議でもないけれど・・・

JGJやアメディックさんの状況について、ほぼ一致している。

彼らの話は、裏世界の遊佐 鳴子が残した情報と一致しているの。

彼らから聞いた録音を、再精査するわ。

戻ってきたら話も聞きましょう。」

 

結希は準備を始めた。

 

   ***

 

風紀委員室に風子と薫子いた。

 

「これらの情報は確かに遊佐 鳴子が?」

 

「ええ。

とはいえ、どこまでが本当かわかりませんが。」

 

2人は鳴子から送られてきた情報の資料に目を通していた。

 

「ふーむ。

とはいえ、ウチらじゃできるこにゃー限りがあります。

とりあえず霧に護り手とJGJの動きには気をつけましょ。

間ヶ岾が死んだとはいえ、JGJを乗っ取るという計画・・・

それが本当なら、簡単には諦めねーでしょーし。」

 

「まさに。

その点をお願いしますよ。」

 

「それより、ウチにはもっと由々しーことがあるんですよね。」

 

風子はため息をついた。

 

「なんとなく、想像はつきますけれど。」

 

「5月に1回、そしてこの前に1回。

いくらなんでも【霧の嵐】が起きすぎです。

しかも両方とも関わっているのは良介さん。」

 

「誠さんもです。

どちらも偶然でしょう。

霧の嵐は自然現象ですから。」

 

「にしてもできすぎです。

しかも移動した先が・・・

【2ヶ月後】の裏世界。

さらに裏の生徒と仲良くなって・・・

戦力として使い倒されないよう丁重に扱われ、無事に帰ってきた。

霧の嵐は【行って帰って】だけでも例がほとんど無いんですよ。」

 

「私も知っているのは、遊佐 鳴子の他には良介さん、誠さんがらみですね。

では、良介さん、誠さんが霧の嵐の原因だと?」

 

「んなわけねーです。

ふつーはね。

アンタさんの言うとおり自然現象です。

しかし彼らはふつーじゃない。

でしょ?」

 

「どうすれば?」

 

「いくつか憶測が立てられますがね、良介さんの体質が関係してるかも。

例えば魔力の多寡が霧の嵐に影響するとかなんとか。」

 

「まさか。

霧の嵐は一般人が巻き込まれる例のほうが多い。」

 

「もーろくせんでほしーですね。

一般人も魔力は持ってるでしょ。

誰かに調べさせてください。

もし良介さんが原因なら・・・

学園の治安を守る者として、良介さんを隔離しなきゃいけません。」

 

「そんなことをすれば良介さんも、誠さんも激しく抵抗すると思いますが・・・」

 

「他の学園生が巻き込まれるのは防ぎますよ。

なんとしてもね。」

 

薫子はため息をついた。

 

「結構です。

しかし、宍戸さんも如月さんも手がいっぱいです。」

 

「魔法に詳しー人ならいるでしょ、他にも。

朱鷺坂 チトセも手いっぱいってんなら、東雲 アイラを動かしてください。」

 

「彼女がおとなしく頼みを聞いてくれるかどうか・・・」

 

「聞きますよ。

なにせ良介さんは彼女のお気に入りですから。」

 

「わかりました。」

 

薫子は風紀委員室から出て行った。

 

「ふー・・・いちど、良介さん自身に話を聞きませんとね。

しかし、新しい学園長も頼りねーですし・・・

JGJからよそ者は入ってくるし・・・

裏世界ではそのJGJが人類に仇を為す、ですって?

この学園、呪われてんじゃねーですかね。

まあ、そこらへんも良介さんに話を聞くついでに愚痴でも聞いてもらいましょーかね。」

 

風子はため息をついた。

 

   ***

 

その頃、山奥。

良介はミナと合流していた。

 

「お、おい、サーヴァント。

ここ、どこだ?」

 

「魔物倒して、この辺に心がいるはずだが・・・」

 

「も、もう一度光の小箱を見ろ!

場所、違うって絶対!」

 

「デバイスね。」

 

良介はデバイスを取り出すと現在地を確認した。

 

「ん?」

 

「ほら、さっきと全然違うところにいる・・・ほらな!?

ほらな!?

ふん!

我の目に狂いはなかった!

でも・・・

いつの間にこんなに移動しちゃったんだ?

遠すぎやしないか?」

 

「さあ、なんでだろうな。」

 

良介はデバイスを直した。

 

「これは、やはり魔物の卑劣な罠・・・!」

 

「アホらし・・・」

 

良介はため息をついた。

 

「だから信じろってぇ!

いっつもいっつもバカにしてぇ!

それでも我のサーヴァントか・・・さ、行こう。

はやく見つけないと。」

 

「いい加減に名前で呼んでくれ。

行くぞ。」

 

行こうとすると、ミナは目を気にし始めた。

 

「どうした?」

 

「なんか変・・・目がかゆい・・・い、いや、うずくぞ・・・」

 

すると、魔物が現れた。

 

「ミナ、俺が援護するから止めはお前が刺せよ。」

 

「わ、わかった。

我に任せろ!」

 

良介は魔物に向かいながら、足元に落ちている葉っぱを複数拾った。

それを手のひらに乗せると、風魔法で魔物に向かって放った。

葉は刃物の如く魔物の体に刺さっていった。

 

「名付けるならリーフストーム・・・てところかな。」

 

魔物が葉に気を取られている間にミナは魔力を込めた風魔法を魔物に向かって撃った。

 

「くらえーっ!」

 

魔物はミナの魔法が直撃したと同時に消滅した。

 

「よし、早く他のみんなを探しに行こうか。」

 

「ああ、行こうサーヴァント!」

 

「あのー・・・名前で呼ぶつもりはないのか?」

 

良介はミナの発言に呆れつつ、他のメンバーを探しに向かった。



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第76話 未来の過去は今

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


茶道部部室。

夏海が茶道部の3人と話していた。

 

「ってことで、天文部の特集組むつもりなんだ。

とりあえず、部長のミナについて知ってることとか、聞かせてくれない?」

 

「わたくしの知らないことをたくさんご存知ですね!

ええと・・・神話というものですか?

あんなに詳しいのは凄いと思います!」

 

「おー!

詳しいと言えば、いんぐりっしゅにも詳しいですねー!

まいんど・・・なんとかとか、ふぉーりん・・・なんとか!」

 

葵とソフィアは楽しそうに話した。

 

「アレはあだなみたいなもんだからね・・・」

 

「絶賛中二病中なんやろ?

ホントカワイイわ~っ♪」

 

「ちゅうにびょう・・・風槍さんは御病気なのですか!?」

 

葵は香ノ葉の言葉を聞いて驚いた。

 

「あ、それは後で説明するから。

それで最近なんだけどさ。

ちょっと調子悪かったみたいじゃん?

なんか変わったこと言ってなかった?」

 

「あの子いっつも変わったこと言っとるやん?

あー、でもなんか騒いでたのは見たなぁ。」

 

「お、どんなこと?」

 

「生徒会長に向かって【卒業したんじゃないの】みたいなこと言ってたんよ。

すごい変なことやったから、よう覚えてるんよ。

5月やったかなぁ?」

 

「ふむふむ・・・やっぱり卒業したはず、か。」

 

夏海はメモを取った。

 

「でもまぁ、いつも通りやから。

そんな重要なことやないと思うえ。」

 

「いつも通りで、体調崩すほどふさぎ込むかなぁ?

ま、いいや。

ミナのその言葉、ソフィアや葵は聞いてない?」

 

「いえ、わたくしはその場におりませんでしたから。」

 

「ワタシも聞いてませんねー!

いんぽーたんとなことでしょーか?」

 

「あ、ううん。

そんなでも・・・ありがとね!」

 

夏海は茶道部部室から出た。

 

「ふーむ・・・やっぱりこれ以上のことはわからないわねぇ・・・

それもそうか。

みんなにループしてるかもって意識がなければ・・・

ミナが嘘ついてるってだけだもんねぇ。

あたしもどっちが正しいやら・・・

ま、怜の責任感を満足させるためのことだからね!

こっちをはやく片付けて・・・怜には良介に集中してもらわないと!

一触即発!

良介をめぐる恋の行方は!?

まさかの風紀委員参戦!

だと思うんだけどなぁ。

怜ったら自覚なさそうなんだから、どうしよ。」

 

夏海は悩みながら廊下を歩いていった。

 

   ***

 

山奥。

良介とミナは歩きながらデバイスを見ていた。

 

「やっぱり飛んだ!!

飛んだって!

ほら見ろ!」

 

ミナはデバイスを良介の顔をに突きつけた。

 

「わかったわかった。

デバイスの画面を近づけるな。」

 

「さっきの場所がここだろ、で、今はここだって!

おかしいだろ!?

我は見たぞ!

魔物が【異界の言霊】を口にした途端、我らの体が飛んだ。」

 

「なに言ってるんだお前・・・」

 

「なんで気づかないんだ!

あんなにはっきり時空がねじれただろ~!」

 

ミナは良介のマントをグイグイと引っ張った。

 

「首締まるから引っ張るな!

まったく・・・」

 

マントをミナから離させた。

 

「あ、あの・・・ホントに気付かなかったの?」

 

「ああ、まったくなんのことかわからんな。」

 

「ホントに?

だ、だってあれ、あんなに暗い闇が我ら2人を覆って・・・」

 

「俺はそんなの見てないぞ。」

 

「ミナ、変なことなんて言ってない。

ホントに見たのに・・・」

 

良介はあることに気づき、ミナになんとなくで聞いてみた。

 

「ミナ、それはいつ見たんだ?」

 

「見たときのこと?

あ、ああ、確か眼帯が取れかけて・・・」

 

「両目で見たのか?」

 

「両目?

う、うん、そうだったな。

両目で見たら、ヤツの放った闇が・・・」

 

すると、ミナは何かに反応した。

 

「わっ!

ま、また来るぞ!

あっちだあっち!」

 

ミナが指差した方向には魔物がいた。

すると、良介は咄嗟に反応し、地面に右手をつけると、魔法陣が現れた。

魔物は風の拘束魔法で身動きができなくなった。

 

「ミナ。

拘束魔法ごとやれ。」

 

「わ、わかった。」

 

ミナは魔力を溜め、強烈な一撃を放った。

 

「はぁっ!」

 

魔物はミナの魔法が直撃すると、拘束魔法ごと消え去った。

 

   ***

 

魔物を倒し終えた良介とミナは周りを見渡していた。

 

「な・・・なんか知らんが、魔物の力で強制転移させられてたみたいだ・・・

しかも我以外、それに気づかないとは・・・やはり【組織】の手先か!

まあ!

こうやって屠ってしまえば、なんの問題もない!

そうだろ?」

 

「ミナ、目は大丈夫なのか?」

 

良介はミナの目のことを心配していた。

 

「あ、目?

う、うん、今はもなんとも・・・向こう側とか見えない・・・

魔法も使ってないのに目が変になったなんて・・・気味が悪いだろ・・・」

 

「そんなに気味悪く感じるなら変な言い回しとか呼び名とかもやめたらどうだ?」

 

「か、疾風の魔法使いはいいんだよ!

カッコいい!

サーヴァントもいいんだ!

本に書いてあったから!

【組織】も、【円卓の騎士】もいいんだ!

ホントだったらカッコいいだろ!?

で、でも目が変なんて、ホントだったら、怖いじゃないか!

普通、目は物をすかしたりできないんだから!」

 

「とりあえず、眼帯しておいたらどうだ?」

 

ミナは外れた眼帯を付け始めた。

 

「うん、眼帯、しておく・・・これでごまかせると思う・・・」

 

ミナは眼帯を付けると、2人は他のメンバーを探しに行った。

 

   ***

 

良介とミナは学園へと戻ってきた。

 

「だ、大丈夫だよな?

我のこと、黙っていてくれるな?」

 

「ああ、もちろんだ。」

 

「うむ、よし!

サーヴァントたるお前は知っていても問題ないだろう!

我とお前は秘密を共にする関係になったのだ!

ありがたく思え!」

 

「まーたいつもの調子に戻ったか・・・」

 

良介はミナを見て呆れた。

 

「あまり調子に乗ってはいかんぞ、ミナ。」

 

ミナの背後から恋がやってきた。

 

「わっ!

な、なんだ恋か。」

 

「どうじゃ、良介に知られてしまったんじゃ。

天文部の他のメンバーも信用してはどうかな。」

 

「う・・・で、でも、サーヴァントみたいに信じてくれるかわからない・・・

変な奴だって嫌われるかも・・・」

 

「信じてやれ、とは気軽に言えんがのう。

ヤツらもお主のことが好きなんじゃぞ。

わっちに負けないくらいのう。」

 

「ほ、ほんとに・・・?」

 

「ほんとじゃとも。

じゃないとこれまでついてきておらんわ。」

 

ミナは良介の方を向いた。

 

「サ、サーヴァント・・・どうしよう。

我は言った方がいいのか?」

 

「どうしてそんなこと聞くんだ?」

 

「だって・・・こんな苦しみなんて、知っても面倒くさいだけだろう・・・」

 

すると、恋がミナに話しかけた。

 

「例えば、心が急に体調が悪くなったとする。

なにか心配事があってそうなったように見えるが、理由は話さん。

どんどん悪くなっていくが、やっぱりなにも話さん。

お主、どうする?」

 

「そ、それは・・・なにがあったのか知りたい。」

 

「知ってどうする?

たいてい、お主じゃ解決できんことじゃぞ。」

 

「そ、そんなのわかってるよ!

でも、一緒に何か考えることはできるだろ!

それができなくても、心は我の・・・と、友達だから・・・」

 

恋は黙って話を聞いていた。

 

「のう?」

 

「うん・・・わかった。」

 

良介はミナの様子を見て、笑みを浮かべた。

 

「サーヴァント、恋、一緒に来い!

我の目について、みんなに話す。

話してこれまでのことを謝る!」

 

ミナは先に行ってしまった。

 

「他の生徒には話せんことじゃわ。

じゃが天文部は・・・

一心同体でおりたい者たちの集まりじゃからのう。

わっちはこれで絆が深まると確信しておるよ。」

 

「俺もそう思うよ。」

 

「さあ、良介。

お主も来い。

みんなで一緒に報告に行こう。

クエスト中、ミナを守ってくれてありがとう。

感謝するぞ。」

 

恋はミナの後を追いかけていった。

 

「秘密・・・か。」

 

良介は自分の胸を見ると、胸に手をやった。

 

「俺もいつか話さなきゃいけない時がくるのかね。

誠以外のやつに封印のことを・・・」

 

良介はそう呟くと、ミナと恋の後を追いかけていった。



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第77話 あらかじめの出動

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



ある朝の学園。

校門前でシャルロットと聖奈が話をしていた。

 

「では、行ってまいります。」

 

「ああ、頼んだ。」

 

「何も起こらないことを神に祈っておりますわ。」

 

そう言うと、聖奈は学園の中に入っていった。

すると、入れ替わりで茶道部の皆がやってきた。

 

「皆さんも、突然のお願いを聞いてくださり感謝します。」

 

「のーぷろぉ!

ちょうどみんなでお話してたところですから!」

 

「わたくしたちも、もっとクエストをたくさん受けて、足手まといにならぬよう・・・」

 

「っていっても、出ない可能性もあるんよね?

魔物が出る前に、警備やなくて警戒って初めてやよ。」

 

「わたくしは教司会からの指令で向かいます。

みなさんは学園のクエストを請けて行かれます。

別段、それ以上の違いがあるというわけではありませんが・・・

念のため認識しておきましょう。」

 

「よくわかりませんがわかりました!」

 

「ヴィアンネ教司会の討伐指令、本当にあったのですね・・・」

 

「あれやろ?

エクソシストやったっけ?」

 

「今はエクソシストではなく【使徒】とお呼びください。

では出発しましょう。

みなさんに神のご加護のあらんことを。」

 

4人はクエストに向かった。

少し経って、兎ノ助は校門前に立っていた

 

「ふぅ・・・魔物に襲われるかもしれねーってのに・・・

小人数しか戦力を出せないってのも、妙な話だな・・・」

 

すると、龍季が愚痴を言いながら校門から出てきた。

 

「あー、クソ。

クソッ!」

 

「むっ。

おい龍季。」

 

兎ノ助は龍季に話しかけた。

 

「ああ?

なんだよ。」

 

「前から言おうと思ってたんだが、女の子がクソとか言っちゃダメだぞ。」

 

「テメーは俺の母親かなんかかよ。」

 

「進路指導官だ!

あ、そうだ。

聞いたぞ。

クエストに出る許可が出たみたいじゃねーか。

てかお前、ここ数か月クエスト出られなかったんだな。

最近初めた制御の特訓の賜物か?」

 

「知らねーよ。

そんなこと・・・全然うまくいかねーしよ。」

 

「ま、なにごともうまくはいかないものだ。

今回のクエストも。」

 

「なんのことだよ?」

 

「いや、なんてゆーか・・・もしかしたら努力の割にむくわれな・・・ん?」

 

突然兎ノ助のデバイスが鳴った。

 

「なんだ、虎千代か。

なになに、なんか用?

えっ!?

マジで?」

 

兎ノ助が虎千代からの連絡の内容に驚いていると、紗妃が走ってやってきた。

 

「兎ノ助さん!

ここでしたか!」

 

「あっ!

紗妃!

お前、もう出られるか?」

 

「はい、準備しています!

とり急ぎ他の人を・・・」

 

龍季は黙っていると、兎ノ助は黙って龍季の方を見た。

すると、紗妃は龍季がいることに気づいた。

 

「朝比奈さん!

こんなところに!

一緒に汐浜まで来ていただけませんか?」

 

「なんの話だ?

全然わかんねーぞ。」

 

「道中お話します!

汐浜ファンタジーランドが魔物に襲われているんです!」

 

「シャルロットたちが対応にあたってるが、規模が大きくて手が足りねーんだ!」

 

「いいのかよ。

ちょっと前までクエスト制限させられてた生徒だぞ?」

 

「今、そうでないならなにも問題はありません!」

 

すると、そこに良介と誠がやってきた。

 

「紗妃、汐浜に魔物が出たんだってな。」

 

「あっ!

良介さんと誠さん、いつの間に・・・!

ちょうどよかった!

よろしくお願いします!

ファンタジーランドを、救いましょう!」

 

「ああ、行くぞ!」

 

良介たちは汐浜に向かった。

 

   ***

 

良介たちが汐浜ファンタジーランドに着くと、ファンタジーランドは既に崩壊しかかっていた。

 

「こいつは・・・酷いな。」

 

良介は周りを見渡しながら、少し苦しそうな顔をした。

 

「な、なんということでしょうか・・・この前はあんなに賑やかだったのに・・・」

 

龍季は黙って目の前の光景を見ていた。

すると、龍季は良介に話しかけた。

 

「おい、確か良介が、今月末にここが襲われるって言ってたよな。

裏世界だかの生徒に聞いたんだろ?

なんで対策できなかったんだよ。」

 

「詳しくは聞いていない・・・確証がなかったからな。」

 

「ああ?

それじゃあ、向こうが嘘つきだってことか?」

 

龍季は良介を睨みつけた。

 

「違う。

こっちと向こうじゃ歴史が異なるからだよ。

裏世界で起きたことがこちらでも起きるとは限らない。

もしここが魔物に襲われなかった場合、クエストを発令するのは無駄遣い・・・

そういう判断だ。」

 

「基本的に、討伐は魔物が出てからでなければクエスト発令されないのですよ。」

 

紗妃が良介の後に説明を付け足した。

 

「じゃあ他のところみてーに、ここに警備でくりゃよかったんじゃねーのか?」

 

「警備のクエストは一定期間中の発令上限が決まっています。

今回はそれをオーバーしており、苦肉の策として出されたのが・・・

シャルロットさんからヴィアンネ教司会に働きかけるというものでした。」

 

「めんどくせーな・・・その結果がこれかよ。」

 

「悩ましいことですね・・・ですがここに来たらすることは1つです。」

 

「ああ、魔物を倒し、人を助ける。

行くぞ!」

 

良介が真っ先に走っていくと紗妃と龍季はその後を追いかけていった。

 

「悪いが、俺は少し別行動させてもらうか。」

 

誠は3人が走っていく姿を見た後、二丁拳銃を手に別の方へと走っていった。

その頃、茶道部の3人は避難者の先導をしていた。

 

「あわわ・・・ホントに魔物がくるとは思わんかったんよ・・・」

 

「ええ。

気を引き締めて救助活動をしましょう!」

 

「せ、せやな・・・!

それに魔物が現れたんならダーリン来るし!

かっこ悪いところは見せられへん!」

 

「おー、香ノ葉さんがめらめらです。」

 

「あのおっぱ・・・じゃなかった、シャルはんが安全なところを用意してくれるえ。

その間に、ウチらで危なそうなところを回るんよ!」

 

「はい!

らじゃーです!」

 

「行きましょう!」

 

ファンタジーランド内、別の場所になぜか望と風子がいた。

 

「なんでボクがここにいるんだ?」

 

「これに出なきゃ落第するんでしょ?

聞ーてますよ。

過去の功績で、アンタさんがオペレーターに向いてることが証明されてます。

今回もよろしくおねげーしますよ。」

 

「くっそー!

宍戸のヤツめ!

単位をエサにするのもここまでだぞ!

フ、フフ・・・学園の制度を調べあげた上でシステムの穴を突いてやる・・・!」

 

「マンチキンみたいな人ですね・・・とにかく、おねげーしますよ。

体調についても伺ってますから、気分が悪くなったらすぐ言ってくだせー。」

 

「わーってるよ、もー。」

 

「しかし、完全に初動が遅れましたね。

根拠がないと動けないとはいえ・・・

ミスった感はぬぐえませんねー・・・」

 

風子のところに怜がやってきた。

 

「委員長。

ラビットプールは魔物の排除が済んでいるとのことです。

避難者をシャルロット・ディオールと茶道部が先導しています。」

 

「さすがというかなんというか・・・彼女らだけでも先発しててよかった。

とはいえ、彼女に任せっきりでもいけません。

さっそく働いてもらいますよ。」

 

「ちぇっ・・・」

 

望は風子の言葉に舌打ちした。

風子は怜の方を向いた。

 

「そういえば、良介さんは来てるんですか?」

 

「ええ、副委員長と共に行動しているらしく、かなりの勢いで魔物を倒しているようです。」

 

「さすが良介さんですねー。

しかし、良介さんにも頼りっぱなしにならないようウチらも頑張りますよ。」

 

「わかりました。」

 

「はぁ・・・」

 

望はダルそうにため息をついた。

 

   ***

 

良介たちは魔物と戦っていた。

 

「着ぐるみに寄生・・・ふざけたヤツらだな、おい。」

 

龍季は魔物の姿にイラついていた。

 

「発見が早かったため、魔物の強さ自体はそうでもありません。

そのため、着ぐるみに逃げ込んで成長の時間を稼いでいるそうです。

知性はなくとも、隠れるという本能は持っているようですね。」

 

「ま、そんなところに逃げたところで無駄なんだがな。」

 

良介はそう言うと指をバキバキと鳴らした。

 

「ふうん・・・別に着ぐるみを焼いても、弁償しなくてもいいんだよな?」

 

「ええ。

それは問題ありません。」

 

「ま、いいだろ。

俺が魔法使うときは離れてろよ。

まだ制御ができてねーんだ。

どこに雷が飛ぶかわかんねーからな。」

 

「ええ、そのように・・・あなたのことは聞きました。

ですが、あなたは街でケンカを繰り返してしるはず。

魔法は使わないと言いましたね?

制御できないのにどうしていたのですか?」

 

「んなことどーでもいいだろうが、今はよ。」

 

「魔法使いたるもの、みなの規範にならねばなりません。

この戦いを通して成長されることを期待していますよ。」

 

「ちっ。

メンドクセーな・・・魔物をやっちまえばいいだろ。」

 

「いけません!

私たちが何のために魔物を倒すのか、よく確認・・・」

 

すると、良介が何かに気づいた。

 

「おい、下がれ!」

 

良介が紗妃の腕を掴んで後ろに引っ張った。

 

「きゃっ!」

 

同時に龍季が前に出た。

 

「また出やがったな・・・ぶっ飛ばしてやる!」

 

龍季は魔物が攻撃してくると同時に雷を撃った。

魔物を倒せたが、龍季は魔物の攻撃を受けてしまった。

 

「ってぇ・・・くそ、魔法が遅かったか。」

 

「あ、ありがとうございます・・・朝比奈さん、頬に怪我が・・・!」

 

「いい。

こんなのツバつけときゃ治る。」

 

「い、いけません!

傷が残っては・・・」

 

「んなヒマはねーよ・・・クソッ。

まだ全然ダメだ・・・」

 

そう言うと、龍季は先に行ってしまった。

 

「やれやれ、少し面倒な奴だな。」

 

良介はため息をついた。

 

「良介さん、朝比奈さんに魔力をお願いします。

魔力が充実していたら、傷の治りも早いですから・・・

ですが・・・なにがまだなのでしょうか?」

 

すると、良介は無言で紗妃の戦闘服の一部分を指差した。

 

「あ、私の戦闘服・・・焦げてますね・・・」

 

「指向性の制御・・・それが龍季の【まだ】なんだろ。

それより、早く行くぞ。」

 

「はっ!

わ、わかりました!

追いかけましょう!

1人では危険です!」

 

良介と紗妃は龍季の後を追いかけた。



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第78話 一歩前進

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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汐浜ファンタジーランド。

望が魔物を分析していた。

 

「魔物は強くないけど、思ったより量が多いな。

ってゆーか・・・

この現れ方、もとから大量にいたってわけじゃなさそうだ・・・」

 

望のところに風子がやってきた。

 

「どうしました?」

 

「いや・・・なんてこたないんだけどさ。

1回倒した魔物って、どのくらいでまた魔物になるんだっけ?」

 

「それこそ魔物によりますがね。

一朝一夕で再度魔物化する、てのは聞ーたことありませんね。」

 

「うーん・・・ま、今考えてもしょうがないからなー。」

 

「倒した魔物がすぐ現れるよーなちょーこーがあります?」

 

「払った霧がどこに行くか見えないから、そうかもしれないってくらい。」

 

「ヤヨイ・ロカを連れてくるべきでしたかねー。」

 

「まあこの程度の魔物なら、いくら出てきても大丈夫だろ。

良介がいるし。

それより、そろそろキツ・・・ん?」

 

「む?」

 

望が何かに気づいた。

 

「あ、あっちだ!

魔物!」

 

「んー?」

 

風子は望が指差した方を見た。

 

「あそこは魔物を倒した後に回収した着ぐるみですよ。

あれが魔物って言うのは・・・」

 

そう言った瞬間、着ぐるみが動き始めた。

 

「う、動き出しましたね・・・なんでわかったんです?」

 

「そんなのどーだっていいだろ!

ボクを守れーっ!」

 

「釈然としませんが・・・ま、いーでしょ。

神凪、行きますよ。」

 

「はい。」

 

すぐにやってきた怜と共に風子は魔物に向かっていった。

望は残っているエリアの確認をしていた。

 

「えっと、残りはハートのお家エリアか・・・」

 

「さあ、ちゃっちゃとやっちゃいますよー。」

 

「避難者への道をふさぎます!」

 

「うー、気が散る・・・なんか頭も痛くなってきたし・・・」

 

すると、突然望がフラつき始めた。

 

「あ、あれ?

ヤバッ・・・」

 

望はその場に倒れてしまった。

 

「おい・・・保健委員を・・・」

 

「魔物の攻撃を受けてねーですか?」

 

「いえ、外傷は特に・・・」

 

怜と風子が話していると望は体を起き上がらせた。

 

「う・・・あ、いたっ!

頭痛い・・・」

 

「目を覚ましましたね・・・楯野 望、アンタさんを今から脱出させます。

ですが原因がわからないと対処しよーがありません。」

 

「だ、大丈夫・・・別になんてことない・・・」

 

「一点お聞きしますが・・・まさかアンタさんにも霧が入り込んでるとか・・・

ねーですよね?」

 

「違う・・・ボクはただの霧過敏症だ。」

 

「霧・・・過敏症?

聞ーたことありますが・・・なんでしたっけ。」

 

「字の通りだよ。

ボクは霧に敏感なんだ。

普通の人じゃ感じないような濃度の霧でも、気分が悪くなる・・・」

 

「せ、戦場に出ていい体じゃないんじゃないか?」

 

「閉鎖されてなきゃ、なんてことないんだ。

魔物が霧を吸収するから。

だから・・・こんなに早く体調が悪くなるなんて、ありえないのに・・・」

 

「わかりました。

とりあえず通常搬送で問題ありませんね?」

 

「うん・・・大丈夫。

でも頭痛いから優しく・・・」

 

望は保健委員に連れて行かれた。

 

「保健委員のみなさん、頼みましたよ。

霧過敏症・・・後で椎名 ゆかりに聞いてみましょーか・・・」

 

風子は他の魔物を倒しに向かった。

 

   ***

 

その頃、誠は1人で魔物を倒していた。

 

「ふぃー、やっぱ1人で行動するとキツイな・・・」

 

誠は二丁拳銃で魔物を撃ちながらため息をついていた。

 

「んー・・・シャルロットさんあたりと合流するか?

どうせ、シャルロットさんなら1人で動いているだろうし・・・

ソフィアたちと合流するのもアリか。

さて、どうしたものか・・・」

 

誠は独り言を言いながら進んでいると、逃げ遅れた女子高生たちを見つけた。

女子高生たちは魔物に襲われそうになっていた。

 

「まだ避難していないやつがいたのかよ。

仕方ねえ・・・!」

 

誠は大きくジャンプすると、女子高生たちの真上に跳んだ。

 

「お前ら、そこ動くなよ!」

 

そう言うと、女子高生たちの周りにいる魔物だけを二丁拳銃で上から撃ち抜いた。

誠は撃ち終わると同時に着地した。

 

「よし、ケガはないか?」

 

「は、はい、ありがとうございます・・・あ、そうだ!」

 

「ん・・・どうかしたのか?」

 

「実は・・・友達がいなくて・・・」

 

「友達が・・・?

どのあたりにいるかとかわかるか?」

 

「ハートのお家ってところです!」

 

「ハートのお家・・・あそこ、あんまり隠れるないじゃねえか。

急がねえとな。」

 

「あ、その子、ここのこと凄く詳しくて・・・

たぶん裏道やバックヤードとか通って逃げ回ってると思うの。」

 

「それでも、やられるのは時間の問題だな。

よし、その子のことは俺に任せて君たちは避難するんだ。

避難場所はわかるか?」

 

「はい!

お願いします!」

 

女子高生たちは避難場所へと走っていった。

 

「ハートのお家か・・・よし、行くか!」

 

誠はハートのお家があるエリアへと向かった。

 

   ***

 

その頃、良介たちは魔物を倒し続けていた。

 

「だんだん・・・制御できているのではないですか?」

 

「そ、そうか?」

 

紗妃に言われ、龍季は少しの間黙った。

 

「おだててもなんも出ねーぞ。」

 

「そ、そういうことは好きではありません!

あいた・・・」

 

「紗妃・・・その指・・・」

 

良介は紗妃が指を怪我していることに気づいた。

 

「なんでもありません!

魔物の攻撃で少し怪我をしただけです!」

 

「そのケガ・・・どうみても火傷にしか見えないが・・・」

 

「っ!

こ、これは・・・その・・・」

 

「俺の電気がテメーに飛んでるじゃねーか・・・クソッ!

全然制御なんかできてねぇってことじゃねえかよ!」

 

「お、落ち着いてください!

隠したことは謝ります。

ですが・・・

私が油断しただけ・・・最初に比べたら、魔法が飛んでくる頻度が減っていたから・・・

ここに来た時と比べても驚くほど制御できています!」

 

龍季は黙って見ていた。

 

「ですから、自分を卑下しないでください!」

 

「チッ。

別に気を使ってもらうような人間じゃねーよ、俺は。

テメーはいつもみたいに説教してりゃいいんだ。

不良なんだからよ。」

 

「そんなことだからいけないのです!

いいですか!

あなたがこれまで授業欠席、街でケンカをしてきたのは事実!」

 

「な、なんでテメーがキレてんだよ!」

 

「あなたの不良というレッテル・・・

ちょっと努力をしたくらいで、帳消しになるなどと思わないでください!」

 

「ああ!?

んなこと言われなくてもわかってら!」

 

「わかってません!

それがさっきの言葉から明白です!

あなたが不良だったのは事実ですが、生まれ変わろうとしているのも事実!

それなのにいまだに自分で【不良】というなど・・・!

それではいずれ、元に戻ってしまいますよ!」

 

「だから何が言いてーんだよ!

おい、良介!

行くぞ!」

 

「お待ちなさい!

あなたが未だに自分を卑下しているのが問題なのです!

制御の訓練を始めたのですから、もっと自信を持ってください!」

 

龍季は黙って紗妃を見た。

 

「フン・・・勝手に言ってろ・・・」

 

「まだ終わってませ・・・」

 

「そこまでだ。

周りを見ろ。」

 

良介の言葉に2人は周りを見渡した。

 

「なんだ・・・1匹、2匹・・・7匹!?」

 

「し、しまった!

囲まれています!」

 

「クソッ・・・どこから生えてきたんだ?」

 

「すいません・・・頭に血が上ったばかりに・・・」

 

「いや・・・ちょうどいい。

ちまちました戦い方でイラついてたところだ。

囲まれたなら仕方ねぇ、全開で雷落としてやる。」

 

「い、いけません!

あなた1人では・・・」

 

すると、1体の着ぐるみがやってきた。

 

「ひっ!?」

 

着ぐるみは紗妃の手を引っ張った。

 

「きゃあっ!?」

 

「な、なんだテメェ!」

 

「待て、龍季。」

 

着ぐるみに向かおうとした龍季を良介が止めた。

着ぐるみは龍季に話しかけてきた。

 

「たまにはストレスを発散しておけ。

良介。

障壁かけて、アイツに魔力を渡してやれ。」

 

「なるほど・・・そういうことか。

わかった。」

 

そう言うと、良介は自分自身に障壁をかけた。

 

「氷川はアンタの魔法が届かないところに避難させる。

好きに暴れろ。」

 

「て、テメー、妹のところにいなくていいのかよ。」

 

「アンタが心配することじゃない。

すぐに戻る。」

 

着ぐるみは黙って龍季を見た。

 

「制御できるようになれば、妹の側にいることを許してやる。」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「アンタは過保護すぎだ。

少しくらい放任した方が朝比奈にはあってる。」

 

「(過保護なのはお前も一緒だと思うんだけどなぁ・・・)」

 

良介は着ぐるみの発言に苦笑いした。

 

「勘違いするな。

妹のためだ。

制御できないままだったら・・・

仲月 さらが妹のそばにいるときは、絶対に近寄らせないからな。」

 

「ま、待ってください!

ああ・・・!」

 

紗妃は着ぐるみに連れて行かれてしまった。

 

「わざわざ着ぐるみまで着やがって。

そんなに顔見せるのが恥ずかしいのかよ。」

 

龍季は着ぐるみの方を黙って見た。

 

「アイツ・・・あんなヤツだったのか・・・」

 

「おい、龍季!」

 

龍季は良介の声を聞いて魔物が近づいていることに気づいた。

 

「あぶねぇ。

魔物のこと忘れてたぜ・・・

よし!」

 

龍季は魔法を撃つ体勢に入った。

 

   ***

 

龍季は魔法を撃つ前に良介に話しかけた。

 

「良介!

いちおうテメーに魔法が当たらねぇように努力する!

だけど感電したら言え。

あとでワビいれらぁ。

まず・・・一匹!」

 

龍季は魔物に向かって雷撃を放った。

 

「(別に当たっても問題ねぇし、よっぽどな威力じゃない限り壊れないようにしてるが・・・

さて、龍季の全力はどれほどの威力なのか・・・)」

 

良介は龍季が次々に魔物を倒していく姿を見ていた。

 

「ふぅっ・・・まだ終わらねぇのかよ、ゴキブリみてぇに湧きやがって。

こうなりゃまとめてぶっ飛ばしてやる。

良介!

魔力よこせ!」

 

「別に構わないが・・・どんな魔法を撃つつもりだ?」

 

「俺が魔法で1つ信用してるのが、雷の威力だ。

危険すぎる程相性がいい・・・障壁があっても怪我するかもしれねぇ。

覚悟しとけよ!」

 

「上等だ。

俺の障壁を破るつもりで撃つといい。」

 

良介は笑みを浮かべた。

その頃、着ぐるみは紗妃をある程度離れたところで離した。

 

「ぷはぁっ!

あ、あなた瑠璃川さんですか!?

なぜ魔物の中に朝比奈さんと良介さんを・・・協力しなくては!」

 

「過去を調べた。

魔法使いに覚醒したとき、友人を傷つけたそうね。」

 

「え、ええ。

そう記録されています。」

 

「朝比奈にとって、ずっと魔法は傷つけるものだった・・・

その力で誰かを守ろうとするには、自信が必要だ。

この力をうまく使えれば、守ることができるという自信。」

 

「それと、私を遠ざけたことになんの関連が・・・」

 

「魔法が嫌いなあいつは、きっと全力で戦ったことがない。

一度それをさせて・・・

自分の雷がどれだけ強いかを認識させる必要がある。」

 

着ぐるみを着た春乃は良介たちがいる方向を向いた。

その頃、龍季は魔法を撃とうとしていた。

 

「いくぜ・・・

蒸発しちまえっ!」

 

龍季が魔法を撃とうとした瞬間、魔物は少女を盾にしていた。

 

「いや!

離して!

やめて!

きゃあっ!」

 

「何っ!?」

 

「っ!?

しまっ・・・と、止まら・・・

ねぇっ・・・!」

 

龍季の雷撃が放たれ爆発が起きた。

 

「う・・・うぇっ・・・ま、魔力がカラになっちまった・・・気分悪ぃ・・・

や、ヤベェ!

さっきのヤツ・・・ど、どこだ!?」

 

龍季が爆発が起きた方を見た。

良介も爆発が起きた方を見た。

すると、少女を背中から黒煙を出している誠が抱き寄せていた。

 

「ぐっ・・・!

こいつは・・・効くなぁっ・・・!」

 

誠は少女を地面に下ろすと、その場に倒れた。

 

「りっ、良介!

誠とそいつだっ!

魔法が止まらなかった!

クソ、クソ・・・止まらなかったんだ!」

 

良介は誠の側に駆け寄った。

 

「誠・・・大丈夫か、誠!」

 

誠は顔を顰めながら良介に聞いてきた。

 

「り、良介・・・女の子は・・・無事か?」

 

「待ってくれ・・・今確かめる!」

 

良介は少女の体を揺すった。

 

「う、うぅ・・・」

 

「お、おい・・・生きてるのか?」

 

「だ、大丈夫ですかっ!?」

 

紗妃と春乃も戻ってきた。

春乃は少女に駆け寄った。

 

「お、俺の魔法で・・・人が・・・」

 

「あ、あんなタイミングで盾にされたら、誰だって止められません・・・!

あの威力で生きているのは誠さんが自らを盾にしてくださったおかげです!

保健委員を・・・」

 

春乃は少女の様子を見続けていた。

 

「あたしが障壁を張ったから、どっちにしろ死にはしなかった。」

 

「そ、そうか・・・だよな、信用できねぇもんな・・・」

 

「だけど、当たってない。

障壁に全く損傷がない。

魔法の影響範囲が制限されていた証拠だ。」

 

「ということは、朝比奈さんが?」

 

「誠は庇う直前で当たっただけ。

奇蹟みたいなものよ。」

 

「痛ぇー・・・結構痛いな。

ということは、俺の怪我がこの程度で済んだのも奇蹟ってことか。」

 

誠は背中を押さえながら立ち上がった。

 

「その通りだ・・・もう一度やれって言われてもできねぇよ・・・

死んでないなら・・・いい・・・」

 

数十分後、クエストに来ていた皆が無事か確かめるため、一度集まっていた。

誠は背中を押さえながらため息をついていた。

 

「はぁ・・・生きてたのはよかったけど、魔物の攻撃で重傷・・・しばらく入院が必要・・・か。」

 

誠は肩を落としていた。

 

「まぁ、怪我する前に助けれなかったのは残念だったが、結果的には助けること自体はできたからよかったじゃないか。」

 

良介は誠の肩に手を置いた。

 

「名前は・・・ちひろっていうのか。」

 

誠は再びため息をついていた。

 

「おい、俺は帰るぜ。」

 

龍季が帰ろうとすると、誠が龍季を呼び止めた。

 

「おい、待ってくれ。

あの子から伝言がある。」

 

「はぁ?

伝言?」

 

誠は手紙らしきものを懐から出した。

 

「【ありがとうございました】・・・だってよ。」

 

誠が手紙の内容を読むと、龍季は少しの間黙っていた。

 

「フン・・・なにも出ねぇよ。」

 

そう言うと龍季は行ってしまった。

 

「正直じゃないな、龍季は。

ところで誠。

お前、背中は大丈夫なのか?」

 

良介は誠の怪我の具合を聞いた。

 

「ああ、問題ない。

言うほど重度な火傷とかじゃなかったからな。」

 

「おいおい、あれだけの爆発が起きたのにか?

クレーターできてたんだぞ?」

 

「どうも、【奇蹟的】に威力調整までできていたらしい。」

 

「奇蹟的に・・・か。

つまり本来なら・・・」

 

「俺もこの程度の傷で・・・あの子も無事じゃなかったってことだ。」

 

誠は背中を摩りながら龍季の後ろ姿を見ていた。



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第79話 なにかいる

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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夏、沖合。

一隻の小さな船が走っていた。

 

「青い海!

白い雲!

カンカンの太陽っ!

楽しみすぎて、うっかりこのまま飛び込んじゃいそうですっ!」

 

真理佳は1人で燥いでいた。

 

「円野、今からそんなにテンションあげると持たないわよ。

それに今回はいつものとこだからね。

ハワイじゃないから。」

 

純が真理佳に注意した。

 

「ハワイでも国内でも、海は海です!

あぁ~、早く着かないかな・・・」

 

「ま、気持ちはわかるけどさ。」

 

「あっぢいぃぃ・・・はぁ、まだ着かんのか・・・?

干からびそうじゃ・・・」

 

アイラは苦しんでいた。

 

「一便ならフェリーだったから屋根があったんだけどね。

遅刻者はこうして地元の漁師さんに乗っけてもらうしか・・・」

 

「そうはゆーても、吸血鬼が朝の6時に起きれるかっちゅーんじゃ!」

 

「寝坊じゃ仕方ないわね。

あたしは仕事だったけど・・・」

 

「あづいぃ~、眠い~、お腹すいたぁ~、眠い~!」

 

「うるせぇなぁ・・・」

 

良介はため息をついた。

ちなみに良介は本当なら間に合っているはずだったが、アイラを起こすのに時間がかかってしまい遅れてしまった。

 

「良介、アンタこんなの抱えてきたの?

大変だったわね。」

 

「いやあ、こやつってば妾のお世話慣れしとるもんね。

のう、良介?

見ろ、如月なんてまだ寝とるぞ。

この炎天下でよく爆睡できるのう。」

 

天は座ったまま寝ていた。

 

「僕も起こしたんですけど全然起きないんですよ。

おぉーい!」

 

真理佳が呼びかけたが天に反応はなかった。

 

「ゆすってみましょうか。

き、さ、ら、ぎ、センパーイ!」

 

「や、やめんかっ!

船が揺れるじゃろうが!」

 

「疲れてんじゃないの?

寝かせといてあげなよー。」

 

「あぁ・・・暇だ・・・」

 

良介は何もない水平線を見つめた。

少しして、無事目的地の浜辺に着いた。

 

「あー、やっと着いたー!

バカンスバカンス!」

 

「いやーっほおお、おぅ・・・

っとと、いけないいけない!

忘れるところだった!

鳴海センパイ、僕たちは遊びに来たわけじゃないんですよ!」

 

「わかってるって。

毎年恒例、海辺の警備クエストでしょ?」

 

「円野、お前だって遅刻したじゃろが。」

 

「ひ、ヒーローは遅れて来るものなんですっ!」

 

「こんな遅れ方、あってたまるか。」

 

良介は呆れた。

 

「暑いし着替えようよ。

こないだの撮影で、可愛い水着買い取ったんだー。」

 

数分後、皆が着替え終わって戻ってきた。

 

「それにしても、やけに静かですね。

集合場所ってここでいいんですか?」

 

「そのはずだよ。

漁師さんも確認してくれたし。」

 

「おーい!

誰かいませんかぁ?

到着しましたよーっ!」

 

「ああぁ、やかましい!

だから声がでかいっちゅーんじゃ!」

 

真理佳が呼びかけたが、返事は帰ってこなかった。

 

「ほんとにシーンとしてるわね。

大丈夫なのかしら、これ。」

 

「おかしいのう、こんだけ騒げば誰かしらすっ飛んで来そうなもんじゃが。」

 

「も、も、もしかして、これは・・・

僕たち、無人島に来てしまったんじゃ!?」

 

「何言ってんだか・・・」

 

良介は浜辺の周りを見渡した。

 

   ***

 

良介たちは海の家を調べていた。

 

「海の家、電気は通ってるみたいだな。

店員は?」

 

「おっほ、美味そう!

イチゴのシャーベットじゃって!」

 

「ちょ、ダメですよ、お店のもの勝手に食べちゃ!」

 

「ぎゃんぎゃん騒ぐな。

金なら置いとくわい・・・

あ、サイフ忘れた。

良介、出しといて。」

 

「なんで俺が・・・」

 

「あれ!?」

 

「ん・・・真理佳、どうした?」

 

良介は変な声をあげた真理佳の方を向いた。

 

「センパイ、僕もサイフ忘れちゃいました・・・」

 

良介は唖然とした。

 

「しょうがないヤツじゃ。

じゃあ良介、頼むわ。」

 

「うぅ、すみませんセンパイ・・・」

 

「おいおい・・・今月あんまり卸してないんだぞ・・・」

 

良介は愚痴を言いながら財布を出した。

 

「しかし食糧もある、電気も水も通っとる・・・

本当に人だけがおらん状態じゃな。

どーしたんじゃろ。

散歩?

遠足?」

 

「もしかして・・・集団失踪事件じゃないですか!?」

 

「なーにが失踪事件だ。

無人島じゃないかとか、たかがこれぐらいのことで・・・」

 

良介が真理佳の方を向くとそこに真理佳はいなかった。

 

「ん・・・?

真理佳?」

 

「あれ?

円野どこいった?」

 

良介とアイラは周りを見渡した。

どこにも真理佳は見当たらなかった。

 

「急にいなくなった・・・のか?」

 

「そんなアホなことあるわけなかろう。

いやぁ、ただ見てないうちにどっか行ったんじゃろ・・・」

 

「まさか本当に失踪したんじゃないだろうな?」

 

良介は再び周りを見渡した。

 

   ***

 

その頃、天は目を覚ましていた。

 

「まったく・・・行かないつったのに誰が勝手に連れてきたのよ・・・」

 

「円野が抱えてきたんだよ。

覚えてないの?

【せっかく海なのに行かないと損ですよ!】っていってた。」

 

「機械が錆びるほうが損でしょうが!

余計なお世話よ!」

 

「そのわりには可愛い水着着てるじゃない。」

 

「こんなクソ暑いところで白衣着込んでるワケにはいかないでしょ。

てか、私が持って来たわけじゃないから。

気がついたらあって・・・」

 

「素直じゃないわねぇ。

似合ってるのに。」

 

突然良介の声が聞こえてきた。

 

「おーい!

純!」

 

良介とアイラが走ってきた。

 

「こっちに真理佳来てないか?」

 

「円野?

来てないよ。

どっか行ったの?

 

「海の家調べてたら急にいなくなって・・・」

 

すると、謎の音が聞こえてきた。

 

「なんの音じゃ?

誰もおらんな。

はて・・・」

 

アイラは謎の音がした方向を見たがなにもなかった。

 

「真理佳じゃないのか?

ヒーローごっことかで遊んでるんじゃ?」

 

「その可能性がないとは言い切れんな・・・しかしせっかく妾が探しているのに・・・

かよわい妾を置いて、1人でビーチをエンジョイなんてずるいぞ!」

 

「なんなら、合流のめどがつくまで東雲も遊んでくれば?」

 

「む、そうじゃな。

そしたらもう一本アイス食べちゃおうかの・・・

そうじゃ!

砂遊びしよ。

良介、日傘持ってこーい。」

 

アイラは先に走って行ってしまった。

 

「やれやれ、純はどうする?」

 

「あたしは一応先に行った人と連絡とらなくちゃって思ってるけど・・・

せっかくだから遊んできなよ。

そんなに心配いらなそうだしさ。」

 

「純がそう言うならそう・・・っ!?」

 

良介には一瞬、雄叫びのような声が聞こえた。

 

「どうしたの、良介。

なんか聞こえた?」

 

「純は聞こえなかったのか?」

 

「いや、あたしはなんも聞こえなかったけど・・・」

 

「鳴海ー!

冷却材になりそうなもの持ってきてー!」

 

天が純を呼んだ。

 

「えぇ?

なによ、人をアゴで使って・・・しょうがないなぁ。」

 

純が天のところに向かった。

その途端、再び雄叫びのような声が聞こえてきた。

 

「気のせい・・・じゃないな。

何事もなければいいんだが・・・」

 

良介は雄叫びが聞こえてきた方向を凝らすように見ていた。

 

   ***

 

少し経って浜辺。

 

「あぢぃ・・・吸血鬼がミイラになっちゃう・・・」

 

「暑いの苦手なら日よけの帽子貸したのに。」

 

「み、みずぅ・・・みずをくれぇ・・・」

 

すると、天がやってきた。

 

「ホラ、ついでに塩タブレットでも舐めときなさいよね。」

 

「うえぇ、しょっぱい・・・マズい・・・」

 

「さて、どうするかだ。

先発組と連絡が取れない状態だが・・・」

 

「頼みのデバイスも電波が良くないのよね。

困ったな・・・

いつもバスで来てるんだけど、今回は島のほうっていってたからなぁ。

うーん、船に乗る前にちゃんと地図で確認するべきだったか・・・」

 

「乗っけてきたっていう地元の漁師?

そいつが間違えたんじゃないの。

円野も戻ってこないし、なんかめんどくさいことになっちゃってるわね。」

 

「このまま日が暮れたらマズイからな。

備えだけはしとこう。」

 

「明後日までに迎えが来なかったら、仕事ヤバイな・・・

いやでも、もしそうなったら非常事態だし、仕事どころじゃ・・・?」

 

「ぐわ、なにす・・・うぎゃぁ!」

 

「ん?

アイラ?」

 

良介はアイラの声がした方を見るとアイラの姿が消えていた。

 

「良介、東雲は?」

 

「今さっきそこに・・・フラフラだったんだぞ・・・」

 

「だよねえ。

そんな状態で早く動けるとは思えないんだけど。」

 

「アイラのことだ。

どっかにいるんじゃないのか?」

 

「そんなまさか、急に消えたりするはずないじゃん。

あははは!

あはは・・・は、は・・・」

 

純の笑いが少しずつ消えていった。

 

「アイラと真理佳だから大丈夫だと思うが・・・」

 

良介は顎に手をやり考えるような仕草をした。

 

「う、うん・・・」

 

すると、純は良介の方を向いた。

 

「あのさ、良介。

念のため単独行動しないようにしてよね・・・」

 

「怖いのか?」

 

「怖くて言ってるわけじゃないからね!」

 

「ならいいが・・・」

 

良介は顎に手をやったまま周りを見渡していた。

 

   ***

 

数十分後、良介たちは物音がした方へと向かっていった。

 

「今、こっちで音がしたな。」

 

しかし、そこには何もなかった。

 

「うーん・・・やっぱ誰もいないか?

他のとこ探したほうがいいかな。」

 

「そうね、目視できる範囲では・・・あー、役に立ちそうなもの全然持ってない・・・

まだまだ不便だわ。

身一つでも色々できるように改善しないと。

やっぱり体内に埋め込むチップを増やして・・・うん。

帰ったらやってみるか・・・」

 

「なにブツブツ言ってんだか・・・」

 

良介はため息をつきながら周りを見渡していた。

 

「良介、どう?

なんか見える?」

 

「なにも見当たらんが・・・こっちに行ってみるか。」

 

良介は1人で動こうとした。

 

「ま、待ちなさいよ、そっちに行くならあたしも・・・」

 

突然、近くの草むらから物音がした。

 

「誰だ・・・!」

 

良介が草むらの方を向くと、そこから真理佳が出てきた。

 

「う、せ・・・センパイ・・・?」

 

「真理佳!

どこ行ってたんだお前・・・!」

 

すると、真理佳はその場に倒れた。

 

「真理佳!?」

 

良介たちは真理佳に駆け寄った。

 

「うわ、怪我してんじゃん!

大丈夫?

手当しないと・・・」

 

「す・・・すみません・・・急に後ろからやられて・・・」

 

「後ろから・・・?

一体何が・・・」

 

「歩けそう?

あたしも肩貸すから、とりあえず海の家まで戻ろ。」

 

「セ・・・センパイ・・・」

 

「いいから、無理に喋るんじゃないわよ。」

 

「き、気を・・・つけて・・・

この、島・・・なにか・・・いま、す・・・」

 

「何かいる・・・一体何がいるっていうんだ?

この島に・・・」

 

良介は生い茂った木々の方を見て呟くように言った。



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第80話 島の真実

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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真理佳が戻ってきて少し経った。

 

「どう、落ち着いた?」

 

純が座っている真理佳に話しかけた。

 

「はい・・・ありがとうございます、鳴海センパイ。」

 

「まったく人騒がせなんだから。

ただの擦り傷じゃない。」

 

天が傷を見ながらため息をついた。

 

「うぅ、海水が染みて痛かったんですよぅ・・・」

 

「ちょっと待ってなさい。

たしか消毒薬はこっちに・・・」

 

天が消毒薬を取ろうとした瞬間だった。

 

「ぎ、ぎぃえぁああぁぁ~!!」

 

アイラの声が聞こえてきた。

 

「今の声は・・・!」

 

「アイラか!」

 

良介たちは声が聞こえてきた方へと走っていった。

すると、浜辺にアイラが倒れていた。

 

「あ、う・・・・・」

 

「東雲センパイ!?

泳いで疲れたんですか?」

 

「ば、ばっかもん・・・!

この状態をどう見たらそうなるんじゃ・・・」

 

アイラはすぐに起き上がった。

 

「どうしたのよ、びしょ濡れで。

水苦手なんじゃないの?」

 

「頭から・・・海水をかけられた・・・」

 

「襲われたんですか!?

もしかして僕を襲ったヤツと同一犯じゃ!?」

 

「もうダメ・・・妾死んじゃう・・・力がモリモリ抜けてく・・・」

 

「水をかけられたくらいで大げさね。」

 

純はため息をついた。

 

「なにが大げさなものか!

妾の弱点を突いてくるなど・・・うぅ・・・」

 

「マジで動けないの?

今のうちにちょっと検体をもらっていい?」

 

天はアイラに近づいた。

 

「ぎゃあ!

なにをするんじゃ、やめんか!」

 

「なによ、いいじゃない。

ちょっと減ったってすぐ増えるわよ。」

 

「か、科学者ってこれだからいやじゃ・・・!」

 

「あ?

今、結希とひとくくりにしたわね?」

 

「まあ、勘弁してやれよ。」

 

良介は天を止めた。

 

「うぅぅ、おのれ・・・魔物だか人間だか知らんが・・・

妾にケンカを売りおって・・・目にもの見せてくれるわ!」

 

「そうだそうだっ!

ヒーローが成敗してやる!」

 

「ク、ククク・・・よくいった円野。

妾に従うがよい。

犯人探しじゃ。

とっつかまえてギッタンギッタンのぐっちょんぐっちょんにしてやる・・・」

 

「そうだそうだっ!

ギッタンギッタンのバッコンバッコンだッ!」

 

「元気だな2人とも・・・」

 

良介は2人の様子を見て呆れた。

 

   ***

 

少し経って、アイラと真理佳は逆襲の準備をしていた。

 

「おっし!

武器が木の棒くらいしかないがまぁいいじゃろ。」

 

「よーし、行くぞぉ!

東雲センパイの仇討ちです!」

 

「うぉい!

死んどらんっちゅーの!」

 

「あ・・・すみません。

えーと、こういう時ってなんて言ったら・・・」

 

「クックック・・・【逆襲】じゃ!」

 

「ぎゃ、ぎゃくしゅう!?」

 

「円野を襲い、妾に海水をぶっかけた犯人に逆襲するのじゃ!」

 

「むむ・・・逆襲かぁ。

確かにそういうヒーローもいますけど・・・

あ、そんじゃ僕、あっち側見に行きますね。」

 

真理佳は別の場所に歩いて行った。

 

「気をつけていけよ。

どこに潜んでいるかわからんからな!

妾や円野の不意をつくヤツじゃ。

良介、お主も用心して・・・」

 

すると、近くで物音がした。

 

「そこかっ!」

 

物音がした方向から真理佳が出てきた。

 

「そういえばセンパイ・・・」

 

「どぅおりゃあぁっ!」

 

「あいたーっ!」

 

アイラの木の棒が真理佳の頭に直撃した。

 

「あれ、円野!?

ゴメン敵かと思った!」

 

「あいたたぁ・・・びっくりした・・・」

 

「すまん、紛らわしかったからつい・・・だいじょうぶか?」

 

「す、すみませんこっちも不用心でした・・・気をつけます!」

 

「ごめんね?

ごめんね?

妾も気をつけるね。

いやはや、歳をとると判断力が鈍るわい・・・」

 

アイラは違う方向へと歩いて行った。

 

「東雲センパイ、なんかいたら呼んでくださいねーっ!」

 

「それで?

真理佳、俺に何か用があるんじゃないのか?」

 

「あ、それでですね!

センパイはどうします?

なんなら僕と・・・」

 

「そういや、お前頭は大丈夫なのか?」

 

「え?

あはは・・・平気です、このくらい。

頭は丈夫なんで・・・」

 

すると、近くの茂みから音がした。

 

「て、敵かっ!?

危ない!

センパイは僕の後ろに!」

 

「いや、おい、ちょっと待っ・・・」

 

茂みの中からアイラが出てきた。

 

「良介!

なんでついてこないんじゃ、はよせんか・・・」

 

「うりゃあああぁっ!」

 

「あだああぁぁ!」

 

真理佳の木の棒がアイラの頭に直撃した。

 

「うわあああ東雲センパイ!!

すすす、すみませんッ!!」

 

「ま、円野おぉぉ・・・!

お主、もしやわざとか!?」

 

「ないない!

わざとじゃないですってば!」

 

「めっちゃいい音がしたろが!

絶対憎しみがこもってたじゃろ今!」

 

「わああん!

東雲センパイ、ヴィランより怖いんですけどおぉ!」

 

「完全に足の引っ張り合いだな・・・」

 

良介は2人の様子を見てため息をついた。

 

   ***

 

天が真理佳の怪我を治療していた。

 

「出会い頭にぶっ倒れたから、どんだけ負傷したのかと思ったけど・・・

たんこぶ以外は大したケガじゃないわね。」

 

「はい!

ありがとうございます!

東雲センパイのほうが強敵でした!」

 

「ここへ来てチャンバラごっことか、なにやってんのホント・・・」

 

天はため息をついた。

 

「すみません、つい盛り上がっちゃって・・・でも如月センパイすごいです。

薬に湿布に包帯・・・いつも持ち歩いているなんて、準備いいですね!」

 

「ん、んん・・・まあね。

持ってないと自分が困るし・・・」

 

「へへへ~。」

 

真理佳はニヤニヤし始めた。

 

「あ?

なによ、ニヤニヤして。」

 

「如月センパイ、なんだかんだいってやっさしーですよね♪」

 

「バカなの?

負傷者ほっといたら余計面倒でしょうが。

化膿だ感染だってことになったら周りが迷惑なのよ!」

 

「そ、そっか・・・すみません。

でも、やっぱり手当してくれるんだから優しいです。

僕、知ってますよ。

そういうのツンデレっていうんですよね!」

 

天は黙って真理佳の頬を抓った。

 

「あたたたた!

な、なんで怒るんですかぁ~!」

 

「軽口たたいてる元気あるなら、あと自分で巻いといて。」

 

すると、そこに良介がやってきた。

 

「真理佳、聞こうと思ってたんだが、1人の時に何があったんだ?」

 

「うーん、咄嗟のことでよく覚えてないんですけど。

ここらへんを見渡せるくらい高い所ないかなって思って・・・

岩場っていうか崖みたいなとこ調べてたんですよ。

で、急に後ろから誰かに組みつかれて、びっくりして海に落ちたんです。」

 

「組みつかれた・・・?

人間だったのか?」

 

「人間・・・?

うぅん、動物だったとしても、そのくらい大きい感じでしたね。」

 

「ふーん・・・どっちにしろ襲ってくるのは危ないわね。

一応、デウス・エクスのメンテを急ぐわ。

有り物の部品で賄えるかしら・・・」

 

「でも、安心してください!

この島に悪の権化がいたとしても・・・

ウィンディ・ガールとして鍛えた力で、みんなを守りきってみせますから!

あ、ウィンディ・ガールって僕の変身した時の名前なんですけど。

もし変身した時は、そう呼んでくださいね。」

 

「はぁ。

別に普通に円野でいいじゃん。」

 

「ダメです、ウィンディ・ガールです!

ちゃんとおぼえてください!」

 

「め、めんどくさっ・・・!」

 

良介は何も言わず、鼻で笑いながら去っていった。

 

「ちょっと、良介センパイ!

何が可笑しいんですか!」

 

真理佳は良介の後を追いかけて行った。

 

   ***

 

良介たちは浜辺を歩いていた。

すると、何かの鳴き声が聞こえてきた。

 

「い、今の・・・なんかの鳴き声ですよね?」

 

「なんじゃ、霧の魔物か・・・?

いや、ちと判断しづらいのう・・・」

 

「魔物なら真面目に対策考えたほうがよくない?」

 

「あ、あのさ、みんな心配しすぎだって。

ただの野犬かもしれないし・・・」

 

「野犬ってあんな声で鳴くことできたか?」

 

良介は首を傾げた。

 

「わからんぞう。

妾や円野の不意を突くヤツじゃ。

鳴海なんか一瞬でパクッといかれちゃうかもしれんぞぉ~。」

 

「そうね。

その場合頭からいってもらわないと怖いのよね。

意識があるままで・・・自分のちょんぎれた胴体が、目の前に・・・」

 

「や、やめてよ!

いや、もし魔物だとしても、魔法使いがこんだけいれば・・・」

 

「魔法使いが集まってもどうにもならんこともあるぞぉ・・・

この歳になるとのう、人知の及ばぬ存在は嫌というほどのう・・・」

 

「ちょっと、なんで脅かしてくるのよ、やめてってば!」

 

「いやぁ、暑いしちょっと涼しくなる話でもと思うて。」

 

「もう、良介!

アンタもなんとかいってやってよ・・・」

 

「うわあぁ!」

 

突然真理佳が大声を出した。

 

「ん?

どうした真理佳。」

 

良介は真理佳の方を見た。

 

「み・・・・・見てください、こんなにでっかい蚊が!

いやぁ、さっきから羽音がブンブンうるさいなぁと思ってたんですよ。」

 

「蚊よりお主のほうがうるさいわい。」

 

「え?

えへへへ・・・」

 

「全然ホメてないからね、円野。」

 

純は座り込んだまま動けなくなっていた。

 

「おい、純。

どうした?」

 

良介が話しかけたが反応はなかった。

 

「完全に腰が抜けてるな。

脅かし過ぎたな。」

 

良介は呆れた。

 

   ***

 

少し経って、天が何か用意していた。

良介と純は天に話しかけた。

 

「なにそれ。

でっかいバネ・・・ネズミ取りみたいな?」

 

「ネズミ取りよ。

拾える材料じゃ原始的なヤツしか作れなかったけどね。」

 

「ネズミ取りって・・・で、このエサ・・・」

 

良介は仕掛けてあるエサを見た。

 

「フランクフルトよ。

海の家にあったヤツ。」

 

「おい、引っかかるのか?」

 

良介は少し呆れながら聞いた。

 

「魔物に有効かはわかんないけど、動物ならイケるんじゃない?

ものは試しよ。

やってみて失敗したらまた考えるわ。」

 

そういうと、天は罠を仕掛けた。

 

「確かに野犬とかだったら、捕まえられるかもね・・・

ひとまず身の安全のためでもあるけれど、最悪助けが来なかった場合・・・

今後こうして狩りをすることも想定しておいたほうがいいわ。」

 

「か、狩り・・・!?

そっか・・・もし助けが来なかったら・・・」

 

「シッ!

静かに・・・」

 

天がそう言って罠の方を見た。

罠の近くには真理佳とアイラがやってきていた。

 

「うわあ~!

ソーセージだぁ~!」

 

「なんじゃと?

円野、妾の分は!」

 

「こんなところに置いといたら腐っちゃいますよ!

もったいないです!

食べ物を粗末にするわけにはいきません、このソーセージは僕が・・・」

 

「ちょうど妾、腹が減っとったんじゃ!」

 

「あっ!

ちょっと僕が先に見つけたんですよ!?」

 

「ええい、ひっぱるな馬鹿力!

こういうのは年功序列で・・・」

 

その途端、罠が発動し、真理佳は手を挟まれてしまった。

 

「あいたぁ!

な、なにこれぇ!」

 

「わはははー!

ざまみよ!

この隙に・・・」

 

すると、アイラの手も挟まれてしまった。

 

「あいたぁ!

なんじゃこれ、トラップ!?」

 

天は呆れながらその様子を見ていた。

 

「新しい餌、用意するか。」

 

良介と純は新しい餌を準備しにいった。

 

   ***

 

少し経ったころ、何かが罠にかかった。

 

「よし、かかったな!

成功したぞ!」

 

「でかした!

おのれ、ここで会ったが百年目・・・」

 

アイラが罠に近づくと、レナがかかっていた。

 

「ああう、ううぁ!

がるっ・・・ぐるるっ・・・グオ・・・ォォ・・・」

 

「そ、相馬 レナ!?」

 

「うぅ、あ!

り、りょー!

りょー、レナ、たすける!

い、いや、ぐるる・・・ご、ぐおぉ・・・グオオォ・・・」

 

するとレナはさっきまで皆が聞いていた鳴き声をした。

 

「なんじゃその声、お主だったのか!?

紛らわしい鳴き方しおって、魔物にでも育てられたのかお主はっ!」

 

「いやーっ!

レナいやーっ!

に、にく・・・にくくうーっ!」

 

「もしかして、僕たちを襲ってきたのも・・・」

 

「れ、レナ、いや。

オマエ、たすけるくれる。

あうぅ・・・

うみ、あそぶ・・・レナ、たすける。

りょー、うみいっしょ・・・きゅぅ。」

 

「とりあえず罠をはずさないと・・・」

 

真理佳はレナから罠を外した。

 

「ふぁ!

おおきに!

レナ、あそぶ!

オマエ、いっしょ、あそぶ!」

 

「うわああぁ!

あ、暴れないでっ!」

 

「うほ、うほほ!

レナ、うみ、オマエ、あそぶ!

うほほ!」

 

「うご・・・テンション上がりまくりね。

海で興奮しちゃったのかな。」

 

「確かにすばやい、人間程度の大きさ、海水ぶっかけることもできる・・・

こやつが犯人じゃったか・・・」

 

「オマエ、あそぶ?

ぬれる、いや?

オマエ、レナ、あそぶ、いっしょ。」

 

「妾、これ以上海水とかムリ。

良介、お主が遊んでやって・・・」

 

「ん?」

 

良介は人の気配を感じ取ると後ろを振り向いた。

すると、薫子がやってきていた。

 

「あら?

みなさんお揃いで・・・ずいぶん遅かったですね。」

 

「うおっ!?

水瀬、なんでここに・・・!?」

 

「事前にお配りした予定表の通りです。

巡回の時間ですので・・・

あなたたちこそ、今までどこに?」

 

「着いてからずっとここの辺にいたんだ。」

 

良介が答えた。

 

「ずっとですか?

まあ・・・どこで行き違ったのかしら?

島のこちら側は開発工事のためにJGJが封鎖しますから警備は不要ですよ。

海の家は業者が休憩所に使いますから、荷物を置いているなら早く撤収を・・・」

 

「ええぇ?

そんなの知らないよ~!」

 

「ブリーフィングの時に説明したはずです。

聞いていなかったのですか?」

 

「それは・・・えーと・・・」

 

「聞いてなかったっちゅーか、なんちゅーか・・・」

 

「ち、遅刻したんで・・・」

 

「俺はそもそもその場にいなかったからなぁ・・・」

 

4人の言葉を聞いて薫子はため息をついた。



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第81話 田舎へ行こう

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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ある日の学園の校門前。

良介とミナと恋がいた。

 

「えー!

ミ、ミナだけ・・・?

なんで!?

恋は!?

天文部のみんなは!?」

 

ミナはクエストに行くメンバーを聞いて、天文部のメンバーが入っていないことに驚いていた。

 

「だから、今回は選ばれた生徒しか行けないんじゃって。

最近クエストに出た者や、働きすぎな生徒が優先で行くんじゃろ。」

 

「あー、だから俺が一番最初に選ばれたわけか。」

 

良介は恋の説明を聞いて納得した。

実際、良介はかなりの数のクエストを受けていた。

 

「それなら、みんなだって一緒に行ったじゃん!

なんでミナだけなの・・・?」

 

「今回は初田村だろ?

あそこはいい静養地なるだろ。」

 

「でも、ミナ・・・一人で大丈夫かな・・・恋、いないし・・・」

 

「大丈夫じゃって。

ほら、良介もついとる。

なぁ、そうじゃろ?」

 

「ああ、大丈夫だって。」

 

良介はミナの肩を軽く叩いた。

 

「サーヴァント・・・ククッ。

いいだろう、我もたまには、つかの間の安息を得るとしよう。

サーヴァントよ、行くぞ!

いざ、未開の桃源郷へ!」

 

ミナは走って行ってしまった。

 

「あ、ミナ!

そうは言っても、クエストだから遊んでばかりじゃ・・・!」

 

恋の声はミナには聞こえていないようだ。

 

「やれやれ、もういつもの通りになったか。」

 

良介はミナの背中を見ながらため息をついた。

 

「すまんな、良介。

ミナをよろしく頼む。」

 

「わかった。

けど、本当に恋がいなくて大丈夫なのか?」

 

「なあに、お主がついとるからわっちは心配しとらんよ。

お主も、ゆっくり休んでこい。

学園は任せておけ。」

 

「・・・わかった。

んじゃ、行ってくるよ。」

 

良介は恋に軽く手を振ると、ミナの後を歩いて追いかけていった。

良介が行った後、校門前に兎ノ助が遅れてやってきた。

 

「うぉ~い!

ワリィ、遅くなった!

今回のクエストはだな・・・

あ、あれ?

誰もいない・・・もしや、もう行っちまった?」

 

兎ノ助のところに恋がやってきた。

 

「ちょっと遅かったようじゃの。」

 

「あ~やっちまった。

ちゃんと説明するように言われてたのに。

ま、いっか。

休むのがメインのクエストだし、なんとかなるだろ。」

 

「そういえば、なんで初田村の警備は休養がメインなんじゃ?」

 

「人里を離れると、魔物が出やすいだろ?

帰省シーズンで、みんなが田舎にいる間に魔物が発生したら事だからな。

何かあってもすぐに出動できるように、俺らが特別警備にあたるってわけだ。

と、言っても。

過去に一度も魔物が出たことはない。

だから、警備と言いつつ、休んでもらうのが目的だったりする。」

 

「ふむ・・・それで、休養を兼ねているということか。」

 

「あそこはいい所だぞ!

自然がいっぱいで、すげー癒される。」

 

「お主、行ったことあるのか?

学園から出られないと聞いておったが。」

 

「写真で見ただけです。」

 

兎ノ助の言葉を聞いて恋はため息をついた。

 

   ***

 

良介たちは初田村に到着した。

 

「見ろ!

見ろ!

サーヴァント!

山があるぞ!

川があるぞ!」

 

「おい、ミナ・・・」

 

ミナはすぐ近くの木に走っていった。

 

「あ、あれは、魔樹に宿りし双角の精霊・・・またの名をクワガタ!

サーヴァント、そやつをひっとらえろ!

早く!

逃げちゃうだろ!」

 

「おい、今・・・」

 

2人のところに聖奈がやってきた。

 

「おい。

さっきから何をはしゃいでいる。

クエスト中だぞ。」

 

「なっ。

お、お前は、闇を統べる金庫の番人・・・!」

 

「番人・・・?

なんのことか分からないが、遊びは後だ。

衣食住は村の人に提供してもらう。

その分はしっかり働け。

働かざる者食うべからずだ。

分かったら手伝いくらいしてこい。」

 

ミナは聖奈の話を聞くと肩を落とした。

 

「え・・・ミ、ミナ・・・そんなつもりじゃ・・・なかったのに・・・」

 

そこに花梨がやってきた。

 

「まぁまぁ、結城。

それくらいにしとけ。

ミナも、ちょっとくらい浮かれてただけべ。

なぁ?」

 

「か、花梨?

花梨も来てたの?」

 

ミナは花梨を見て驚いた。

 

「んだ?

知らなかったかぁ?」

 

「あ、あのさ。」

 

「ん?

なしたっきゃ?」

 

「こないだの・・・ハンバーグ、ありがと。

お・・・おいしかった。」

 

「なあんも。

どういたしまして。

夕飯頼まれてるすけ、今夜もハンバーグにすっかぁ?」

 

「ほんと!?

食べたい!

花梨のハンバーグ!」

 

「だば、いっぱい働いて、お腹空かしておけよぉ?」

 

「よし!

サーヴァント、魔境へ行くぞ!

ほら、人助け!」

 

ミナは走っていった。

 

「お見事だな。」

 

聖奈は花梨に話しかけた。

 

「なんのことだぁ?」

 

「いや、何でもない。

私も村の人を手伝わなくては。」

 

「おめさもよ、あんまりムリするなんね。

今日くらい羽伸ばせ。」

 

「ああ。

そうだったな。

気をつけよう。」

 

聖奈も人助けに向かった。

 

   ***

 

少し経った頃、ミナは地べたに膝をついていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・疲れた。

もう走れない・・・

クク・・・しかし、これだけ世の理に関われば、あの金庫番も我を認めて・・・

くれるかな。

またきっと遊んでるって思われるかな・・・

いや、いいのだ!

我にはサーヴァントがいるんだから!

さあ、双角の精霊狩りの途中であったな!

いざ、聖戦へ・・・!」

 

ミナは走り始めた。

 

「おい、あまり走ったら・・・」

 

すると、ミナは盛大に転倒した。

 

「ぷぎぇっ!」

 

その近くにはゆえ子がいた。

 

「はっ。

なにかが今、倒れたような・・・」

 

ミナはすぐに立ち上がった。

 

「な、なんだお前!

こんなところで寝るな!」

 

「ゆえ子、こんなところでなにやってるんだ?」

 

良介は座り込んでいるゆえ子のところにやってきた。

 

「すみません。

暑さで気を失っていたようです・・・」

 

「ん?

その闇に染められたローブ・・・お前、まさか・・・

幻影の魔術師、サーチアイだな!」

 

「ふぁんと・・・マジシャ・・・?

はぁ。

ゆえにそのようなあだ名が・・・」

 

「こいつぐらいしか言ってねえよ。」

 

良介はため息混じりに言った。

 

「クックックっ・・・噂で聞いていたが、こんなところで会うとは・・・

サーチアイ、我に未来の神託を与えよ!

千里眼!」

 

「千里眼はありませんが・・・では、占ってみましょう。」

 

ゆえ子は占いを始めた。

 

「むむ。

ほほぉ・・・むにゃ・・・むむ・・・

なるほど・・・では、これをどうぞ・・・」

 

ゆえ子はミナに何かを手渡した。

 

「星図?

ほほう?

我に献上品とな・・・サーチアイよ。」

 

「はい。

あなたがこれを持つ姿が視えました・・・」

 

「ふむ。

では、我の邪眼によって、この星やどりの銀盤を・・・

あ、あれ?

おかしいな・・・盤面が2重に見える。

おい、これおかしいぞ!

去年の星図が重なってて見にくいではないか!」

 

「おかしいですね。

これは今年のしか記されていませんが・・・」

 

「ミナ、どうしたんだ。」

 

「そ、そんなこと・・・!

だって、2重に見え・・・」

 

「どうかしましたか?」

 

「う、ううん・・・なんでもない。

もしかして・・・またミナにしか、見えてないの・・・?」

 

ミナが星図を見ながら首を傾げていると、花梨がやってきた。

 

「お~い。

夕飯できたぞー。」

 

すると、ミナは星図を花梨に見せた。

 

「か、花梨!

これ!

土星、何個に見える?」

 

「お?

んー、土星は1個じゃねぇかなぁ?」

 

「花梨まで・・・まさか、この目が・・・?」

 

「なしたっきゃ?

その星図、買ったのか?」

 

「えっと・・・サーチアイがくれた。」

 

「あら、よかったなぁ。

ちゃぁんとお礼を言ったか?」

 

「ま、まだだった・・・あの・・・ありがと。」

 

ミナはゆえ子にお礼を言った。

 

「いえ。

どういたしまして。」

 

すると、ミナはどこかに歩いて行ってしまった。

 

「どれ、みんなで夕飯にするべ。

ミナの大好きなハンバーグにしたすけな。

たーんと・・・」

 

花梨はミナのいた方を見ると、ミナはそこにいなかった。

 

「あ、あれ?

ミナ?

どこさ行ったべ?」

 

良介は黙ってミナが歩いて行った方向へと向かった。

 

   ***

 

ミナは村の近くの川に来ていた。

 

「やっぱ、違う。

この星図、今年のじゃない。

だって、み、見たもん。

天文部で・・・卯衣が・・・

星は毎年違うって、言ってたんだもん・・・だから・・・

ミナは間違ってないのに・・・なんで信じてもらえないんだろう。」

 

ミナは星図と星空の星の位置を見比べていた。

そこに良介と花梨がやってきた。

 

「ミナ、こったらとこさいたべ。

心配しちゃうじゃよ?」

 

「何やってんだよ、こんなところで。」

 

「か、花梨・・・!

それに、サーヴァント!

な、何でここに!?」

 

「星図持ってたからな。

見晴らしいいところにいるんじゃないかと思ってな。」

 

「ミナ、さっきの土星のこと気にしてるっきゃ?」

 

「あれは・・・我の見間違いだ。

気にするな。」

 

「おらには見えなかったけんど、ミナは本当に見えたっきゃ?

だったら、おらはそれを信じるすけ。」

 

「し、信じるだと・・・!?

ミナを!?

な、なんで・・・」

 

ミナは花梨の言葉を聞いて驚いた。

 

「良介から、あんたの目のこと聞いたすけ。

苦労してたんだなぁ。

ずっと不安だったんじゃねえか?」

 

「か、花梨・・・ミナの目のこと、信じてくれるの?」

 

「んだんだ。

あんたはさ、難しい言葉使うけんど、ちゃぁんと正直すけな。」

 

「でもミナだけ、みんなと違うこと言うから・・・変なやつって思われてる。」

 

「そっかぁ?

おらみんな、あんたのこと心配なように見えるけんど。

だすけ、ミナも。

よーくみんなの話、聞いてみてけろ。

あんたが嘘つきなんてよ、だぁれも思ってないすけ。

なぁ?」

 

「ああ、実際ミナは本当のことしか言ってないしな。

変な言葉を言うことが多いだけで。」

 

「そんなこと言ったって・・・」

 

すると、聖奈とゆえ子がやってきた。

 

「風槍!

ここにいたのか!

夕飯も食わずにこんなところに・・・心配したぞ!」

 

「や、闇の金庫番・・・!!

わわわ、我を永遠の呪縛に陥れようと・・・!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・よかった・・・ゆえは、もうダメで・・・す・・・」

 

ゆえ子はその場に倒れてしまった。

 

「サ、サーチアイ!?」

 

「西原!

もう休んでいろ。

よくやった。

まったく、山歩きなど不向きなのに・・・頑張ったな。」

 

「なんで・・・どうして2人がここに・・・?」

 

「お前は大事な学園生だ。

生徒会として、お前を守るのが私の役目だ。

勝手な行動は慎め。

事件が起きてからでは遅いのだ。

それから・・・

何かあったなら話せ。

突然消えて、心配したぞ。」

 

「き、金庫番・・・

ミナのこと・・・本当にみんな、心配してくれてたんだ・・・」

 

ミナは少し黙るとみんなに頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい。

ミナ、何も分かってなかった。」

 

「謝らなくていい。

早く宿に戻るぞ。

それと、良介。

西原をおぶってやってくれ。

こういう時は男手が頼りになる。」

 

「わかった。

それじゃ、戻るか。」

 

良介はゆえ子をおぶると、宿に戻りに向かった。

 

   ***

 

翌日、校門前。

恋がみんなの帰りを待っていた。

 

「そろそろ帰ってくるはずじゃが・・・」

 

すると、ミナの声が聞こえてきた。

 

「そして奴は組織を抜け、我が眼に主従の刻印を・・・」

 

「やけに元気な声じゃのう?」

 

「ククク・・・そして我は双角の精霊の召喚に成功・・・

あ、恋!

我が宿命に、血の盃を交わせし友の生誕を祝うぞ!」

 

「お、落ち着け。

一体、何があったんじゃ。」

 

そこに、花梨がやってきた。

 

「ミナなぁ、西原や結城、みんなとすっかり仲良くなっちまってなぁ。」

 

「何っ?

ミナがか?」

 

「これから2人を天文部へ案内する約束となっている。

恋!

今すぐ円卓の騎士達を集めよ!

宴の準備だ!」

 

ミナは走って行ってしまった。

 

「ミナがわっちら天文部以外と親しくなるとはな・・・一体、何があったんじゃ?

ふむ・・・良介。

きっとお主のおかげじゃろ。」

 

「さあ、どうかな。」

 

「話はミナからゆっくり聞くとしよう。

ありがとう。」

 

恋もミナの後を追いかけていった。

 

「それにしてもよ、すっかり元気になったべ。

あいつが見たものは何かは分かんねぇけんど・・・

いつか、みんなで解決してやりてぇなぁ。」

 

「そうだな、いつか解決することができればな。」

 

「そうだ。

良介、腹減ってるっきゃ?」

 

「ん?

まぁ、少しは・・・何でだ?」

 

「小蓮が、たくさん料理準備してるらしいすけ。

一緒に行くっきゃ?

みんな待ってるすけな。」

 

「待ってくれてるなら行くしかないな。

それじゃ、向かうとしますか。」

 

良介と花梨は料理部の部室に向かった。



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第82話 精鋭部隊隊長

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ある日の校門前。

良介がやってくると、エレンが待っていた。

 

「良介、待っていた。

突然で悪いがクエストに出るぞ。」

 

「今からか?」

 

「今日、今からだ。

ちょうど腕試しに適した魔物が現れた。

お前も入学当初に比べたらかなり腕をあげただろう。

だが・・・バスター大佐に紹介する前に、私の目でいちど、見ておきたい。

今日は精鋭部隊を数人連れて行く。

お前の立ち位置は副官だ。

私の隣で指示を出し、精鋭部隊を動かしてみろ。」

 

「なるほど・・・で、精鋭部隊のメンバーはどんな感じなんだ?」

 

「知り合いは外してある。

お前の、指揮官としての純粋な実力を見たい。

志願制とはいえ、それなりに訓練を積んできた者達だ。

動きは保証する。」

 

「なら、余計な心配はしなくてよさそうだな。」

 

「なにかあれば私がカバーする。

思うとおりに動かしてみろ。」

 

良介はデバイスで早速クエストを請けた。

 

「よし、行くか。」

 

「ハワイへの出発がある。

万が一にも遅れられん。

昼過ぎにはケリをつけるぞ。

ブリッツクリークだ。」

 

「制限時間があるってことか・・・やってやるとしますか。」

 

良介は笑みを浮かべながらクエストに向かった。

その頃、精鋭部隊詰所。

月詠と浅梨がいた。

 

「もーっ!

エレンのヤツ、ツクたちは留守番だなんて・・・」

 

「良介さんとよく組んでるから、逆にダメだって言ってましたね?」

 

すると、メアリーが2人のところにやってきた。

 

「今日は良介のナマの実力を見る。

関わりの薄い生徒に、どのくらい有効な指示が出せるか・・・

いわゆる軍隊的ソシツってのがあるかどうかを判断する。」

 

「ツクは!?

ツクの方がアイツより優秀でしょ!?」

 

「笑わせんな。

比べもんにならねーよ。

それにテメーは精鋭部隊だろーが。

今さらなに見るんだよ。」

 

「え、えっと・・・」

 

「寂しいんですよね、守谷先輩。」

 

「な、な、なっ、なにがよ!」

 

「エレン先輩と良介さんがいっしょにお出かけしちゃって。

私も、仲間はずれにされたみたいでちょっと寂しいです。」

 

「は、はぁ!?

知らないわよそんなの!

ツクは、良介を連れて行くならツクの方が100倍得だってことを・・・!」

 

メアリーはため息をついた。

 

「もういい。

黙れ・・・おい、来栖はどこにいやがるんだ?」

 

「ん・・・さっき、訓練所に行くって出てったわよ。

ねえ、焔、どうにかなんない?」

 

「なにがだよ。」

 

「だってあの子、この前裏世界のことを聞いてから、見てられなくて・・・」

 

メアリーは月詠を黙って見た。

 

「つ、ツクだって、今は大丈夫だけど、裏の方は・・・その・・・」

 

「裏は裏だ。

他人のことでゴタゴタ抜かすな。」

 

「だって!

表でも、みんなが死んじゃったらツク・・・えっと・・・」

 

「裏のアタイがどれだけお優しかったのかわからねーけどな・・・アタイはそんなヌルいしごき方はしてねーよ。」

 

メアリーは詰所から出て行った。

 

「ですって。」

 

月詠はメアリーが出て行ったドアを見つめていた。

 

「も、もしかて精神改造とかされてるのかしら・・・?」

 

月詠は震えながらドアを見ていた。

 

   ***

 

良介はエレンと精鋭部隊のメンバーを連れて森に来ていた。

 

「良介。

よく来たな。

今日は私とクエストだ。

すでにお前はよく戦っているが、これから更に重要な立場になるだろう。

お前はただの魔力タンクではない。

その期待に応えろ。」

 

「魔力タンクねえ・・・そんな風に見られてんのか・・・」

 

良介はため息をついた。

 

「クエスト目標は対象の討伐。

だが、お前が一皮むけることを期待する。

そのために今一度、私の指示で動け。

基本からやり直すぞ。」

 

「了解、やるか。」

 

良介は少し前に出た。

 

「大規模侵攻を乗り切ったとはいえ、やはり一時しのぎに過ぎん。

魔物を倒すには、世界で大攻勢をかけなければならないだろう。

そこで問題になるのが・・・」

 

「霧はなくならないってことか。」

 

「そうだ、魔物を倒しても霧に戻るだけ。

霧自体は燃やすことも消滅させることもできない。

これまでずっと、一番の問題はそれだった。

だが・・・そこに希望が見えたとなったら、士気は上がるだろう。」

 

「ま、よく聞く話ではあるな。」

 

良介たちは魔物の方へと向かった。

 

   ***

 

生徒会室、虎千代のところに結希と心がやってきていた。

 

「さて、情報流出の経路がつかめたと聞いたが・・・」

 

虎千代は心の方を見た。

 

「双美の様子がいつもと違うな?」

 

「気にしないで。

こういう子だから。」

 

「ふむ。

まあ、話ができるならいいが・・・それで、犯人もわかったと。」

 

心が話し始めた。

 

「はい。

良介さんの情報は、遊佐 鳴子が漏出させていました。」

 

「なるほど。

ならひと段落だな・・・」

 

虎千代は少し無言になった後、驚愕した。

 

「な、なんだとっ!?

遊佐が・・・!?」

 

「正確には遊佐 鳴子と服部 梓が2人でおこなっていました。」

 

「生徒会長、落ち着いて。」

 

「だ、だが学園の機密を勝手に漏らしたとすると・・・」

 

虎千代は明らかに困惑していた。

 

「漏らしてはいないわ。」

 

「はぁ?

アタシにもわかるように説明しろ!」

 

「彼女は流出させるにあたって、何重もの罠を張っていた。

流出した情報がこれ。」

 

結希は手に持っていた書類を虎千代に渡した。

 

「ああ、アタシも確認してる。

学園生名簿の良介のものだ。」

 

「これなら、全くの部外者はともかく・・・軍部程度なら閲覧は難しくはない。」

 

「だが、それに添付された情報が問題なんだろう?

良介の体質や能力、これまでお前がやってきた検査結果・・・交友関係すら書いている、と言っていたじゃないか。」

 

心は笑みを浮かべていた。

 

「遊佐さんには騙されました。

私が早くそこまで辿りつくのを見越していた。」

 

「この子の魔法は電脳上でもっとも効果を発揮するの。

どんなセキュリティでも【それが存在しないかのように】すり抜けてしまう。

電子的な暗号も、ファイアウォールでも・・・抜けられない防御はないわ。」

 

「知っている。

それがどれだけ危険なことかもな。」

 

「それで彼女の暗号を解いてもらったの。

だけど・・・」

 

「情報自体が罠でした。

添付ファイルを開くとこのような文字の羅列・・・」

 

心はデバイスを虎千代に見せた。

 

「さらなる暗号が出てきます。

これは電子的なものではありません。」

 

「つまり、お前にも解けないものということか?」

 

「はい。

これは電子的なセキュリティでなくロジカルな・・・ようするに発想力を問う謎かけです。

これを解くとアイラ・ブリードの名前。

続いてさらなる暗号が出てきて、それを解析するとURLが・・・」

 

虎千代は心を止めた。

 

「いい、経過はいい。

ようするにそれを解くのに今までかかったんだな?」

 

「ええ、そう。

その中で公開された良介君の情報は・・・女好きであること。

振り回されやすいタイプであること。

多様な趣味を持っていること・・・ばかばかしいけど、要するに・・・」

 

「どうでもいいことばかりか・・・」

 

「ええ。

でもいかにも【それらしい】仕掛けが施されてある。

良介君の情報が欲しい人たちは、必死になって暗号を解いたでしょうね。」

 

「遊佐と服部を呼べ。

なんでこんなことをしたのか・・・」

 

「目的はわかってるわ。」

 

虎千代は不思議そうな顔をした。

 

「彼女はテロリストたちを足止めしたの。」

 

少しして、梓が生徒会室にやってきた。

 

「あー、ふたみんがいるってことは・・・バレちゃいました?」

 

「服部っ!!」

 

虎千代は凄い速さで梓に迫った。

 

「ひっ!

ま、まぁまぁ。

黙ってやったのは謝りますが・・・あんまり表沙汰にできることじゃなかったですし。」

 

「余計なことに手間を取られたわ・・・」

 

「それが一番アレだったッスねぇ。

しばらくなんでも言うこと聞きますから。」

 

「今の言葉、忘れないでちょうだいね。」

 

「うぐ・・・で、タネ明かししますと・・・自分、結構知ってまして。」

 

「裏世界のことか?」

 

「さいです。

遊佐先輩からいろいろ聞いてました。

JGJやら霧の護り手・・・ライ魔法師団がどう関わってくるかの、ある程度は。」

 

「いつからだ?」

 

「最初に裏世界にいったあたりッスね。

遊佐先輩に話を聞くようになったのは。

あ、今回のお漏らしトラップ、これ【風の術】って言うんですが・・・【偽書の術】の方が近いかな。

これを仕掛けたのは春ごろッス。」

 

「そこまで仲がいいようには見えなかったが。」

 

「そりゃもう、自分と遊佐先輩が繋がってることがバレたら終わりッス。

臭いは完璧に消したつもりッスよ。

で、まぁ目的はテロリストの手を止めることで・・・要するに美味しそうなエサを撒いたんですね。」

 

「良介君の情報はどこも喉から手が出るほど欲しいもの。

解けそうな暗号が落ちてたら、手を伸ばすでしょうね。」

 

「こっちのもくろみでは、暗号解読にかまけてもらえれば・・・JGJ内部の共生派汚染やその他諸々、要するにテロ活動ですね。

それが鈍るはずでした。

まあ、おそらく成功したと思います。」

 

「だが、良介の安全はどうなる?

そのエサはヤツ本人なんだぞ。

安全だったからいいものの、もしあいつが拉致されたりしたら・・・」

 

「それはあり得ません。

先輩本人が強いのもありますが、守ってましたから。」

 

結希が梓に話しかけてきた。

 

「服部さん、4月からどこの仕事も請けてなかったでしょう?」

 

虎千代はそれを聞いて首を傾げた。

 

「アレは、風槍の面倒を見ていたんじゃないのか?

そんな風に言ってなかったか。」

 

「それもしてましたよ。

先輩を守ってたことは言ってませんでしたが・・・実際は自分だけじゃなくて、里から何人か貸してもらいまして。

たぶん4月から今まで、世界中で一番、先輩が安全でしたでしょーね。」

 

「それで、アタシたちや宍戸にも黙っていた理由はなんだ。」

 

「敵を騙すにはまず味方からというッス。

みんなが【情報が流出した】と緊張してくれたから・・・テロリストもそれが本物だと思ってくれました。」

 

「結果として、真剣に暗号を解いてくれたというわけか・・・水無月を呼んで来い。」

 

「ゲッ。」

 

梓は少し引いた。

 

「魂胆はどうあれ、校則違反なのは間違いない。

お前たちのことだ。

それも覚悟していただろう?」

 

虎千代はニヤリと笑った。

 

「にんにん。

お、おたすけ~っ。」

 

梓はその場から逃げようとした。

 

   ***

 

訓練所。

焔が一人で訓練していた。

 

「はぁっ!

はぁっ!

チクショウ、まだだ・・・!」

 

焔が次の魔法を撃とうとした時、メアリーがやってきた。

 

「待てよ、おい。」

 

「はぁ、はぁ・・・ああ?

ミーティング入ってたか?」

 

「ねーよ。

今日はそーゆーのはなにもねぇ・・・テメー、全然成長してねーな。」

 

焔は黙ってメアリーを見た。

 

「第8次がどーのこーのでもう時間がねぇ。

この際だ、正直言ってやる。

テメーが武田 虎千代や生天目 つかさ、早田 良介や新海 誠になるのは無理だ。

永遠にな。」

 

そう言われると焔はメアリーを睨んだ。

 

「わかってるよ、んなことは!

そこまで強くなんかならなくていい!

アタシはただ・・・」

 

「傷の魔物か。」

 

「な、なんでそれを・・・」

 

「調べたらすぐに出てきたぜ。

いわゆるフォークロアってヤツだ。

ネット上にまことしやかに伝わる【傷の魔物】・・・30年前から戦場にときおり現れる、左目に傷を負った魔物。

テメーはそいつに家族を殺されたんだな?」

 

「バカじゃねーのか。

魔物は霧の集合体だ。

傷がずっと残るなんてことがあるか。」

 

「その通りだ。

魔物の傷は、時間と共に【確実に消える】。

そもそも1体の魔物が10年も20年も生きるなんてことはありえねぇ。

それだけ生きてりゃタイコンデロガなんてもんじゃねぇからな。

強くなる前に、どこかで討伐されてるはずだ。

絶対にな。

だが、テメーの目的はその魔物。

おかしいじゃねーか。」

 

「おかしいなら、ほっとけよ。」

 

「おかしくなかった。」

 

焔は不思議そうにメアリーの方を見た。

 

「そんな魔物がいるんなら、科研かCMLに資料がある。

カウンターミスティックラボだ。

入り込んでみたら・・・いたぜ、傷の魔物。

時代によって姿形は違うが、必ず左目に傷がある。

戦闘中のカメラが捉えてる。」

 

「左目に傷があるからって、その魔物って証拠はねぇだろーが。」

 

「なにか特別でなきゃ、奴らは写真を撮らせねーよ。

傷の魔物はいる・・・よかったな。

テメーもあの世で家族に会えるぜ。」

 

「な、なにが言いてーんだ!」

 

「1人で戦ったら負けるって言ってんだよ。

いいか?

その傷の魔物が本当に30年前からいるとしてだ、強さはどのくらいだと思う?

今まで明確な被害がなかったのがビックリなくらい強えんだよ。

魔物は半年でタイコンデロガ級になる。

30年なら・・・ムサシ級だ。」

 

「頭湧いてんのか!

そうなる前に討伐されるって言ったのはテメーだろーが!」

 

「そんなもん知るか。

事実、傷の魔物はいる。

それが同一個体かはわからねぇ。

だがテメーがケンカを売るのはそいつだ。

そんでそいつの戦力が、ひょっとしたらムサシ級かもしれねえんだ。

どれだけ信憑性がなくとも、テメーが想定すべき強さは【そこ】なんだよ。

実際戦ったら弱かったです、ならいい。

生き残れるんだからな。

実際戦ったら強くて死にました、じゃただの負け犬だぜ、お前。」

 

メアリーはため息をついた。

 

「すっげえ昔に、テメーに優しく教えてやったはずだ。

個人の力には限界があるってな。

あの後、虎千代が死にかけたのは覚えてるか?」

 

焔は黙っていた。

 

「アイツが助かったのは良介がいたからだ。

良介のクソみたいな多い魔力が、虎千代の体を満たしたおかげで・・・アイツの体に霧が入り込まなかった。

わかるな?

もう一度言うぞ。

武田 虎千代も1人ならその程度だ。

その武田 虎千代とテメーの差はどれくらいあると思う?」

 

焔は黙り続けていた。

 

「テメーの狙ってる傷の魔物、30年でなくても・・・テメーが家族を殺された時期からせいぜい10年だとしてもだ。

その間にどれだけ強くなっていると思う?

いいか!

アタイはシャレやジョークであの話をしたんじゃねーんだ!

それを無視して、アタイ程度にも強くなれると思うなよ!

友情を築いてもいい、力で押さえつけてもいい。

ホレさせたっていい!

個人でどうにもならねぇ成果を出すには、他人を使うしかねぇ。

テメーがクサしてた野薔薇の連中な、どうして優秀成績をとったかわかるか!?」

 

「し、知るかよ・・・運がよかったんだろ。」

 

「それを本気で言ってんならブン殴るぞ。」

 

焔は再び黙った。

 

「テメーは弱ぇ。

自分でもわかってるだろうが。

だからこそ、自分のやり方が間違ってることもわかってるはずだ。

なんでやめねぇ?

どうしてチームをそんなに嫌う?」

 

「アンタには関係・・・っ!」

 

「あるんだよ。

精鋭部隊にいりゃ、テメーはアタイの部下だ。

そいつが次の侵攻で死にそうなら、先に矯正しとかねーとなぁ。」

 

「次の侵攻で・・・て、テメェ!

アタシが侵攻で死ぬだと!?」

 

「当たり前だろうが。

1人で戦って生き残れる実力なら・・・そもそもアタイがこんなこと言う必要ねーだろうが。

それもわかんねーのか。」

 

「ば、バカにしやがって・・・」

 

「そうだよ。

テメーはバカだ。

なにがしてーのかわかんねーかな。

傷の魔物を倒してぇんなら、1人で戦おうとするのはやめろ。

部隊の兵士が死ぬのは、もう飽きてんだよ。」

 

メアリーは去っていった。

焔はメアリーの後ろ姿を見ていた。

 

「わかってる・・・わかってるんだよ・・・」

 

焔は歯を食いしばり、拳を強く握った。

 

   ***

 

良介たちは森の中を歩いていた。

良介はエレンと話をしていた。

 

「消滅させることができなければ、追い出せばいい・・・か。」

 

「要するに霧を集め、地球上から放り出してしまえば・・・魔物を生む霧自体がなくなる。

魔物の数も減ってゆく。」

 

「で、問題はどこに放り出すか・・・か。

宇宙は非現実的だな。

打ち上げだけで膨大な費用が必要だからな。」

 

「ああ、それに、これまで何度も、打ち上げのタイミングで魔物が襲い掛かってきた。

我々の動きに敏感なのだ。

かといって、霧は地球のどこにでもある。

だが、宇宙ではない別の場所・・・それが見つかったな?」

 

「裏世界・・・未来とも言える世界か。」

 

「ああ、そこに霧を排出する。

愚かな考えだが、背に腹は代えられんということだな。」

 

そう話していると魔物が現れた。

 

「さて、エレン。

戦い方は・・・最初に話したとおりで?」

 

「当たり前だ。

やってみせろ。」

 

「了解。

それじゃ、行くぞ。」

 

良介は速さに自信がある奴を囮役に任命し、魔物の気を惹かせた。

そこに良介が魔物の足を攻撃しバランスを崩させた。

 

「今だ、やれ!」

 

そういうと、他のメンバーは魔物に攻撃すると魔物は消滅した。

 

「基本はこんなところか。」

 

「ああ、もう少し複雑な動かし方を次はしてもらうぞ。」

 

「了解・・・手厳しいねぇ。」

 

良介は愚痴を言いながら次の魔物のところに向かった。



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第83話 ハワイへ出発

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


学園の研究室。

結希が書類に目を通していると、天がやってきた。

 

「さっきからなに見てるの?」

 

「エレンの経歴を。

未来の遊佐さんの情報によると、もっともこちら側と違うのが彼女。

そこになにか、ヒントがないかと思って。」

 

「朱鷺坂に聞けばいいんじゃないの?」

 

結希は天を黙って見た。

 

「彼女が自分から言ってるじゃない。

裏世界の人類壊滅という歴史・・・それを変えるために、ゲートを通ってきたんだって。」

 

「その【変える】という意味なんだけど、どう思う?」

 

「どうって・・・第8次侵攻で負けてしまわないように、戦力増強を・・・」

 

「それで変わるのはこちらだけでしょう?

彼女の言動は違和感があったわ。

【裏世界を確認したから、もう秘密にする必要はない】。

新学期が始まったころの彼女の言動よ。

もともと裏世界から来た彼女は・・・いったい裏世界の【なに】を確認したの?」

 

天はその言葉を聞いて少し沈黙した。

 

「アンタは、【変化】を確認したと思ってるのね?」

 

「ええ。

でも彼女の予想と違って、裏世界は何も変化していなかった。

朱鷺坂 チトセがしたことはデクの技術向上に、多くの魔法的発展。

結果的に、遊佐さんの情報にあった裏世界の人類戦力の数倍規模になっている。

それでも、裏世界はなにも変化していない。

それを確認したから・・・彼女は自分の目的を話したんじゃない?

自分ではどうにもならないから。」

 

「つまり・・・・・朱鷺坂は、表と裏の歴史は地続きだって考えてるの?」

 

「ええ。

その証拠に、良介君たちが過去に行った後は、私たちだけでなく・・・生徒会にも協力をあおいでいる節がある。

おそらく、あの時のエピソードにいくつかの不都合な点があったから。」

 

「だって、そもそも彼女は50年先から来たんでしょう?

なら、12年前のことには関わってないはず・・・じゃない。」

 

すると、天は不思議そうな顔をした。

 

「彼女が関わっていないのに・・・エレン・アメディックの運命が変わった・・・?

どういうこと?」

 

「デクのことも50年前でしょう?

他に裏世界から来た人間がいるか・・・やはり彼女が関わっているか、よ。」

 

その頃、学園の屋上にチトセがやってきていた。

すぐ近くに卯衣がいた。

 

「ちょっと話し相手になってくれないかしら。

聞いてくれるだけでいいの。

問題をまとめたい・・・ドクターの許可はもらってるわ。」

 

「ええ、構わないわ・・・あなたから聞いた情報は削除するから、心配ない。」

 

「ありがとう。

終わったらお礼に、良介君を連れてきてあげる。」

 

「それよりも、私は裏世界に存在しないようだけど。

いいの?」

 

「いいわよ、もちろん・・・私にわからない問題はいくつかあるんだっけ・・・1つ目は、テスタメントの【時間停止】・・・あれを誰がかけたか。

アイザックしか使えないはずの魔法・・・他にも誰かが使えた?

それとも、アイザックが日本に来た・・・いえ、これは信じがたい・・・彼が1ヶ月ほども母国を離れたことはなかった・・・」

 

「1年間で得た知識で申し訳ないけれど・・・アイザック・ニュートンは日本への渡航歴がないわ。」

 

「ありがとう。

なら、ここにゲートを封印したのは他の誰か・・・ってことね。」

 

すると、チトセは何かに気がついた。

 

「ん?

あら?

あらあら?

ねぇ、ここの【風飛】って地名、昔からそうなのかしら?」

 

「詳しい情報はないけれど・・・江戸から明治に移る頃・・・その時期に今のものになったはず。」

 

「風飛・・・フウビが、昔はフウヒだったとして・・・封扉・・・まさかこの地域、ゲートが封印されたからこの名前になったの・・・?」

 

「根拠となるデータは確認できないわ。」

 

「いちど、この線を進めてみましょう。

江戸、明治期の著名な魔法使い・・・あ、検索はいいわ。

あとで自分でやるから。」

 

「そう。」

 

「もう1つは、なぜ表と裏が生まれたか。」

 

「あなたが改変をしたから・・・ではないわね。

2つの世界があったからこそ、移動することができたのだから。」

 

「そうよ。

私が不思議に思っていることがそれ。

まず2つの世界ありき。

私が改変したからこそ、表と裏には差が出ているけれど・・・もともとは全く同じ歴史をたどる、2つの世界があった。

私は最初にゲートを通った時、こう思ったの。

私は【過去】に来たんだって。」

 

「タイムトラベル?」

 

卯衣は首を傾げながら聞いてきた。

 

「そう。

でも、違ったわね。

優秀な軍人だったウィリアムズさんは、同僚の死を引きずっていた。

だから私はその同僚・・・エレン・アメディックの歴史を変えた。

まさか彼女まで覚醒するとは思ってなかったけどね。

結果的は成功。

とっても仲がいいでしょ、あの2人・・・けれど、裏世界は変わっていなかった。

そう・・・私は過去を改変すれば、未来も変わると思っていた・・・けれど、裏は何も変わっていないわ。

変わったのは【表の今】だけ。

裏と表は切り離されていた。」

 

「ねえ、私は聞くのが役目だけど・・・質問をしてもいいかしら。」

 

「ええ。

もちろん。

相談にのってもらってるんだし。」

 

「あなたは、何年前から表世界にいるの?」

 

「それは。」

 

「遊佐さんは、あなたがアメディックさんの死を改変したと確信している。

それより昔の、デクのブレイクスルーにも関わっていると言っていた。

遊佐さんは時折、無意味なブラフを言うことがあるけれそ・・・アメディックさんの件については、今、あなたの口から確証を得られた。

朱鷺坂 チトセ。

あなたは、少なくとも12年前にこちらに来ているの?」

 

卯衣はそう言うとチトセを見つめた。

 

   ***

 

その頃、良介たちは森の中を進んでいた。

良介はエレンと話をしていた。

 

「結果的に自分の首を絞めることになっても、今が大事なのだ。

先がない私たちにとってはな。

例えば、300年前と今の魔物で、強さが比較にならないのは知っているな。

【ムサシ】こそでなくなったものの、個体の強さは年々、上がり続けている。」

 

「人型も出てきてるし、知性が芽生えているのもいるな。

特に人型、第7次侵攻後に出現数が跳ね上がっているみたいだな。」

 

「なぜかはわからん。

だがもし魔物が人間をまね始めているとしたら・・・一刻も早く、行動しなければならないのだ。

裏の世界では人類は絶滅寸前だ。

今さら魔物が増えたところで大して・・・と、連中は考えている。

軍人としては正解に近いだろう。

だが、私は反吐が出そうだよ。」

 

「俺も同じだな。」

 

良介はそう言うと、目の前に現れた魔物の方を向いた。

 

「うし、やるか。」

 

良介は早速、指示を出す。

まずは良介が威力の低い魔法で魔物の気をそらさせると、魔物の後方に回った者が魔物に魔法を撃つ。

これも魔物の気をそらさせるためだった。

良介は先ほど魔物を倒した際に弱点を見抜いていた。

魔物が後方に回った方に気を取られた際に残りの者に指示を出した。

 

「今だ、やれ!」

 

魔物の弱点となる腹部に向かって魔法が放たれると魔物は一瞬で霧散した。

 

「よし、次行くか。」

 

良介が行こうとすると、エレンが暇そうにしているのに気づいた。

 

「次、参加してもらうから。」

 

「ああ、そうしてもらわないと困る。」

 

良介たちは次の魔物のところへと向かった。

 

   ***

 

学園の報道部部室。

鳴子と虎千代がいた。

 

「もういいのか?」

 

「マイクのスイッチはここ。

押しながら喋ってくれ・・・覚えてるかい?」

 

「全然。

よし・・・」

 

「本当に通達するのかい?

もしかしたら侵攻は起きないかもしれないんだろ?」

 

「意図を言わないと、わざわざハワイで訓練する目的がわからないだろ。

それに、学園生には知っていてほしいからな。」

 

「結構だ。

始めてくれ。

歴史に残る演説を頼むよ。」

 

「歴史に残る・・・確か前も聞いたが、今は複雑な気分だな。

あー、あー。

入ってるな。」

 

虎千代は演説を始めた。

 

「生徒会執行部会長、武田 虎千代より学園生へ通達がある。

クエストに行っていない生徒は、各々作業を止め、聞いてくれ。

8月の後半より、2回にわけてハワイへの旅行が行われる。

組分けは通知している通りだ。

間違えないように確認しておいてくれ。

さて、ハワイへの旅行の目的だが、民間軍事企業との合同訓練を行う。

魔法使いではないが、対魔物のプロだ。

学べることは多い。

PMC・ナチュラルエネミーとの訓練による戦力のレベルアップをはかり・・・我々は、9月の第8次侵攻に備える。」

 

学園の屋上で誠は立ちながら放送を聞いていた。

 

「PMCとの合同訓練・・・か。」

 

そう言って誠は目を瞑ると、少しして目を開けた。

 

「チトセか。」

 

「う・・・よくわかったわね。」

 

誠の後ろにチトセが立っていた。

 

「なんとなくな。

で、何か用か?」

 

「魔神化・・・どこまで使えるようになったのかなって思って。」

 

「ああ、前、意識飛んでたからな。

心配なるのは当たり前か。」

 

「あまり使わない方がいいって言ったけど、あなたのことだから使えるように練習してると思ったのよ。

それで、どうなの?」

 

「もう、意識が飛ぶようなこともないし、体に痛みが走るようなこともなくなったよ。」

 

「つまり、マスターしたってこと?」

 

「いや、まだだ。

魔法の威力の制御ができてない。」

 

「もしかして、肉体強化だけでなく、魔力強化まで同時にかかってるの?」

 

チトセは少し驚いたような顔をした。

 

「ああ、軽く撃ったつもりでもとんでもない威力が出ちまう。

これさえ、どうにかできれば完璧なんだがな。」

 

「一種のリミッター解除みたいなもの?」

 

「そうだな、似たようなもんだ。

こればかりは練習を繰り返すしかない。」

 

誠はその場から立ち去ろうとした。

 

「待って。

聞きたいことがあるの。」

 

「聞きたいこと?

俺のことか?」

 

「いいえ、良介くんのことよ。」

 

「良介の?」

 

「ええ、良介くんにもあなたと似たような能力があると聞いたのよ。

それを教えてくれないかしら?」

 

「第1封印の能力のことか。

でも、それ他人に言っていいかどうか本人に聞いてないし・・・」

 

「ダメかしら?」

 

誠は少し考えた。

 

「まあ、あいつも能力のことに関して色々と考えているみたいだし。

あいつの力になれるかもと思えば・・・」

 

「それじゃ、教えてもらうわよ。

良介くんの封印された能力について。」

 

誠は良介の能力について説明し始めた。

 

   ***

 

少し経って学園のグラウンド、荷物を纏めた生徒たちが集まっていた。

そこに薫子と聖奈がやってきた。

 

「全員そろってるな!

これより前期ハワイ旅行組、出発の準備に入る!

忘れ物など最終確認をしておけ!

1時間後にいないものは・・・問答無用で置いていくからな!」

 

「では、よろしくお願いしますよ。」

 

「はい。

副会長も、待機の間、よろしくお願いします。」

 

「あなたたちが帰ってきたら、今度は私たちの番です。

合同訓練とはいえ、ハワイ。

羽を伸ばしてきてくださいね。」

 

「ほどほどに。

あくまでクエストですから。

後は・・・エレン・アメディックと良介だな。

あの2人のことだ。

遅れはしないだろうが・・・念のため、連絡を取るか。」

 

聖奈はデバイスを取り出した。

 

   ***

 

その頃、良介たちは次の魔物のところに向かっていた。

 

「愚問かもしれないが・・・エレン、大丈夫なのか?」

 

「このくらいなら手こずりはしない。

クエストの魔物は平均より弱いからな。

だから、討伐対象は少々手強い相手を選んだ。

お前の力が必要な相手だな。」

 

「わかった。」

 

良介が前に出ると、エレンが続けて話してきた。

 

「いいか、前々から言っているように、お前はこれから重大な責務を背負う。

望むと望まざると、人類の旗頭になる可能性がある。

そうでなければ、実験体として闇に消えるかだな・・・そうなる前に、お前は自分を守れる方法を1つでも作っておけ。

大人は思っている以上に残酷で強引だからな。」

 

「そうなったら、誰に関わろうとしたか思い知らせてやるだけさ。」

 

良介はニヤリと笑みを浮かべた。

エレンもそれを見て笑みを浮かべた。

 

「お前には愚問だったか。

話が長くなった。

魔物はすぐそこだ。

やるぞ。

多少強くとも、私たちなら苦も無く倒せるはずだ。」

 

「ああ、行くか。」

 

魔物が姿を現すと、良介は周りに指示を出そうとしたが、エレンが遮った。

 

「良介、お前と私、2人でやるぞ。」

 

「2人で?」

 

「ああ、ただしお前が指示を出せ。」

 

「了解、行くぞ。」

 

良介とエレンが前に出ると、良介は早速、魔法で足止めをした。

さらに、そこから拘束魔法で動きを止めると、エレンに弱点を突くよう手で指示を出した。

エレンは指示通り、魔物の弱点目掛けて銃を撃つと魔物は一撃で霧散した。

 

   ***

 

魔物を倒すとエレンは銃を直した。

 

「よし、魔物の消滅を確認した。

【霧を払った】ぞ。

残党がいるかもしれんが、それは私たちの仕事ではない。

今は速やかに帰り、報告することだ。

今日話した内容は、秘匿されているわけではない。

別に機密事項でもないから心配無用だ。

だから、覚悟し、準備をしておけ。

お前を取り巻く環境は、ただ女子が取り合うという単純なものではない。

少なくとも、宍戸 結希、如月 天、そして武田 虎千代・・・魔法使いの傑物がどうにか押しとどめているほどの事態だ。」

 

「それじゃあ、いずれことが起きるだろうな。」

 

「ああ、だから、備えを、怠るな。

これが私からのアドバイスだ。」

 

「わかった、胸に留めておくよ。」

 

良介たちは学園に向かい始めた。

 

   ***

 

良介とエレンが学園に向かって街中を歩いていると突然エレンが立ち止まった。

 

「どうした、エレン。」

 

「ふむ。

待て。

学園に帰る前に、飯でも食おう。

話しておくことがある。」

 

「・・・わかった。

あそこのファミレスに入るか。」

 

2人は近くのファミレスに入った。

料理を注文すると、エレンは話し始めた。

 

「詳しい説明はしなかったが、今回のクエストには2つの目的があった。

1つは私の憂さ晴らしだ。

つきあわせて悪かったな。

お前も知っての通り、最近は裏世界について、なかなかしんどかったんだ。

そのストレス発散にお前を使わせてもらった・・・去年の夏合宿から1年ぶりだな。

フフ、また溜まったら頼む。」

 

「ああ、それくらいならいくらでも付き合ってやるさ。」

 

すると、エレンは少し沈黙してから話した。

 

「もう1つは出がけに話した通りだ。

グリモアはハワイで、ナチュラルエネミーというPMCと合同訓練する。」

 

「ナチュラルエネミーって【天敵】って意味だな。」

 

「魔物にとっての天敵・・・それがバスター大佐の言い分だよ。」

 

「バスター大佐ってナチュラルエネミーの社長だったな。」

 

「そうだ、私とメアリーの、かつての上司だ。

今は退役している。

お前をバスター大佐に会わせようと思い、実力を見た。

問題ないだろう。

1年でここまで上達しているなら上出来だ。

お前は戦闘で自分が戦うと同時に戦う者に力を与える立場だ。

そのための価値・・・いわばブランドを作ることに、成功していると思う。

だが、もっと己を高めろ。

あらゆる状況でスムーズに魔力を供給できる柔軟さ・・・戦況を把握できる見識と経験・・・仲間たちの連携を滞りなく行うための人心掌握・・・それを鍛えていけば、いずれお前を中心とした1つの軍ができあがる。

おそらくそれは世界最強だ。

霧の完全消滅はともかくとして・・・ヘタな魔物に負けることはないだろう。

それがどれほど救いになることか。

まずはハワイだ。

バスター大佐に己の力を見せつければ・・・いずれ、お前の力になってくれる。

あの人はそういう人だ。

裏世界で【裏切り者】になった私を拾ってくれた人だからな。」

 

すると、エレンのデバイスが鳴った。

エレンはデバイスを取り出した。

 

「結城から連絡だ。

まだ余裕があるが、出るか。」

 

「ああ、余裕があった方がいい。

行くか。」

 

2人は出る準備をし始めた。

 

「私は、この学園にいる間に、精鋭部隊を始め精強な軍を作ろうとした。

私が指揮する立場になれば、より強くなると思っていたが・・・必要となれば、お前が私を使え。

その方が早そうだ。」

 

「ま、その時が来たら存分に使わせてもらうよ。」

 

2人はファミレスから出て、学園に向かった。



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第84話 マーセナリーズヘヴン

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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ハワイ、ラウバホエホエ・ビーチ。

千佳が智花と歩いていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はーっ・・・やっと終わった・・・なにあの訓練・・・朝から晩まで運動して食べて運動して食べて・・・筋肉ついちゃうじゃん。」

 

「わたしたちは魔力の肉体強化があるけど・・・軍人さんは普通の人なんだよね?

それであの訓練量・・・凄いなぁ・・・ハワイ島は海からの魔物を食い止めるところだから、PMCが集まるだって。

JGJもあるみたい。

高いビル、たくさんだよね。

びっくりした・・・」

 

「あーあ、オアフ島がよかった。

贅沢言えないけどさ。

てか、PMCの人、声かけてこないでやんの・・・ダイエットしたのに!」

 

すると、ノエルがやってきた。

 

「あ、あはは・・・言わない方がいいかな。」

 

「なにがよ。」

 

「仲良くなった人に聞いてみたんだけど、学園生に手を出したら殺されるって。」

 

「こ、殺される?」

 

「バスター大佐の言うことは絶対なんだYO~っ!

って言ってた。

たぶん・・・英語だったけど・・・」

 

「あーもー、偉い人だか知んないけど、うちの努力を無駄にしてぇ・・・」

 

「げ、元気出して、千佳ちゃん。

ハワイだから他にもたくさん人いるし・・・」

 

智花は苦笑した。

今度はみちるがやってきた。

 

「ていうか、ちょっとよそよそしかったのってそれが理由なのかな?

ほら、わたしたちが近づくとさりげなく距離とってたでしょ、軍人さん。」

 

「魔法使いだからかと思ってたんだけど・・・もしかしたらそうかも。」

 

話していると、望がやってきた。

 

「PMCが魔法使い怖がるはずないだろ?」

 

「あ、望ちゃん・・・そっちも終わったの?」

 

「ふふん、向こうの参謀とシミュレーションゲームさせられてさ!

ハワイに来てレベルの高いウォーゲームができるとは思わなかったよ。」

 

望は嬉しそうに笑った。

 

「ゲームぅ?

ちょっと、こっちが必死こいて訓練してたってのに・・・」

 

「ゲームっていっても実戦形式なんでしょう?

そんな難しいことできないよ。」

 

「ま、もう終わったし、ボクその辺でダラダラしてるから。

そんじゃなー。」

 

望は行ってしまった。

 

「あいかわらずマイペースだなぁ。」

 

「ねえ、智花っち。」

 

「ん?

どうしたの?」

 

「あんな子いたっけ?」

 

「あ、あはは・・・」

 

智花は苦笑した。

すると、地面が揺れた。

 

「ね、ねぇ。

今、揺れた?」

 

「ん?

そう?」

 

すると、再び地面が揺れた。

 

「う、嘘・・・」

 

みちるは海の方を見て絶句した。

今度は智花のデバイスが鳴った。

 

「あ、もしもし・・・エレンさん!?」

 

「魔物が現れた!

戦闘態勢だ!」

 

「え、ええ・・・ど、どうすれば・・・!」

 

「私と結城は本部にいて遅れる!

メアリーと良介を行かせている!

メアリーの指示に従い、ナチュラルエネミーと共に共同戦線をはれ!

いいな!

訓練通りにやれば問題ない!

メアリー到着まで動くなよ!」

 

デバイスは切れた。

 

「ど、どうしよう・・・」

 

その頃、良介とメアリーとビーチに向かっていた。

 

「チッ!

せっかくの久しぶりのハワイを満期してたってのによ!」

 

「【海からの魔物】か。

いつもとはワケが違うな。」

 

「良介、グリモアの連中はビーチの東だ!

行くぞ!」

 

「ああ、わかった!」

 

良介とメアリーはビーチの東の方へと向かった。

 

   ***

 

少し時間が経ち、良介とメアリーが到着した。

 

「よし、全員の居場所は確認できたな。」

 

「あ、あのさ。

うちらって本当に戦わなきゃダメ?

PMCの人たち、無茶苦茶強いんだけど・・・」

 

「お前、魔法使いのくせに何言ってんだ?

魔法使いは強いんだよ。

魔力の充実による肉体強化は常人とは段違いだ。

それに魔法は、魔法使いしか使えない魔物への有効打だ。

そんな魔法使いが戦わないってのはありえないんだよ。

俺たちは強い。

自覚したほうがいいぞ。

魔法使いの強さと集団で戦うことの強さをな。」

 

良介は狼狽えている千佳に向かって言った。

 

「アタイの指示に従えば、こんな雑魚ども、楽勝だ!」

 

メアリーは笑みを浮かべながら言った。

 

「魔法使いの強さ・・・」

 

「そ、そんなこと言ったって!」

 

「わ、わたし、やってみる。」

 

「ええ!?」

 

智花の発言にみちるは驚いた。

 

「自信がないから、あんな夢見ちゃうんだ・・・だから・・・だから・・・」

 

「さて、男子、俺たちは戦闘服に着替えるぞ。

20分以内に再集合して、魔物を出迎えるぞ。」

 

良介が指示を出すと、男子たちは着替えに向かった。

良介はいつの間にか戦闘服に着替えていた。

すると、アイラがやってきた。

 

「お主・・・よくもまぁあんなこと言えたもんじゃ。」

 

「まぁな。」

 

「何人かヤル気出したんだ。

別にいいじゃねーか。」

 

メアリーは笑みを浮かべながら言った。

 

「ま、そうじゃのう。

しかし、20分も待っとれん。

妾は勝手にやるぞ。」

 

「好きにしろ。

アタイのミッションは全員を生き残らせることだ。

テメーやバケモンどもは心配してねぇ、好きにしろ。」

 

「よし・・・まぁ、いざとなったら妾が助けちゃる。

心配するな。」

 

「アイラ、海は大丈夫なのか?」

 

「いいいい言うなっ!

頑張って忘れようとしとるのに!

くっ。

学園生は任せるぞ。」

 

そう言うと、アイラは魔物の方へと向かって行った。

 

   ***

 

20分後、全員が戦闘服に着替え終わり集合していた。

 

「いいな。

クエストは観光客の保護だ。

アタイらで安全なルートを作るぞ。

ここはラウバホエホエ・ビーチだ。

魔物は東海岸を狙って海から来てやがる。」

 

メアリーの指示を聞いていた望がメアリーに聞いた。

 

「オアフ島とかの方が観光客が多いんじゃないか?」

 

「オアフはずっと西だ。

どうせ海渡らねーといけねぇ。

州軍に任せとけ。

ハワイ島じゃ・・・キラウエアだ。

あそこでのトレッキングがブームだからな。」

 

「NE・・・ナチュラルエネミーももう到着してる・・・な。」

 

「今回は共同戦線っつったろ。

NEは観光客を無視する。

魔物と戦うだけだ。

だから・・・学園生を6班に分けて守るぞ。」

 

「それ、ボクも入ってる?」

 

「当たり前だ。」

 

メアリーはデバイスを取り出すと連絡を取り始めた。

 

「エレン、聞いてるな?

テメーはそっちに残って、大佐と総合指揮でいいな?」

 

「今は社長だと怒っているぞ。」

 

「どーでもいい。

こっちは観光客や住民が多い所を重点的にやる。

1班。班長武田 虎千代。

こっから南にヒロって街がある。

生天目と2人で守らせろ。

それが最大戦力だ。

楯野と椎名を後方に。」

 

「異存はない。」

 

「班長は2班、野薔薇 姫。

3班、月宮 沙那。

4班、神凪 怜。

5班、仲月 さら。

それとアタイだ。

適当に班員を振り分けてホノム以南に展開する。

良介はアタイの班に入れる。

その辺のビーチにいる観光客をヒロまで誘導するぞ。

それでいいな。

精鋭部隊はバラして突っ込む。

他の連中よりデキるだろう。」

 

「問題ない・・・移動にはNEの車両を・・・むっ。

ま、待て!」

 

「あ?」

 

「MARY!」

 

「うぉっ!?

~っ・・・Colonel Buster!」

 

突然デバイスから男性の大きな声が聞こえてきた。

少しの間メアリーは話をしていた。

 

「じゃあな!

クソッったれ!

誰が会いに行くかっつの!」

 

メアリーはデバイスを切った。

 

「チッ!

あいかわらず声がでけぇんだよ・・・」

 

すると、望がメアリーに話しかけてきた。

 

「なぁなぁ。

なんで仲月なんだ?

他の班は実力者優先なのに・・・東雲じゃだめなのか?」

 

「アイツは自由にさせとく。

それに・・・仲月なら、面倒な連中が従うんだよ。」

 

そう言うと、メアリーは生徒たちに指示を出しに向かった。

 

   ***

 

良介たちはハワイアンビーチズの東に来ていた。

 

「この辺、ちっと変わったか・・・?

前は砂浜らしい砂浜はなかったはずだ・・・」

 

メアリーは周りを見渡していた。

 

「あっ!

あそこ!

魔物です!」

 

智花が指差した方向に魔物がいた。

 

「で、デカッ!

あれってタイコンデロガ?」

 

「普通の魔物は海には入らない。

だが、タイコンデロガ程じゃないな。」

 

「見てろ。

あの程度ならNEの敵じゃねぇ。」

 

すると、NEは一瞬にして魔物を倒した。

 

「ひっ!」

 

「い、今のミサイルですか!?

どこから・・・」

 

良介は近くの茂みを目を凝らしながら見ていた。

 

「茂みか。

目がある魔物は視界に頼るからな。

隠れりゃ見つかりにくいわな。」

 

「陸の方に樹木を植えて、天然の防壁にする。

海側には何もねぇからな・・・ああ、迎え撃ちやすいように砂浜にしたのか。

東全域を砂浜たぁ、ロクなもんじゃねーな・・・ハワイもそういう島になるか。」

 

「ね、ねぇ!

ウチら、ここにいていいの!?」

 

「千佳ちゃん?」

 

「あの兄さんたち、ケガしてんじゃん!

ほら、良介もさ!

いいの!?」

 

良介はため息をついた。

 

「俺たちよりも迅速な救護隊がいる。

それよりもこの街だ。

観光客がここを通って逃げる。

だから魔物は、ここを通ってくる人間を狙ってくる。

そうだろ?」

 

良介はメアリーの方を見た。

 

「その通りだ。

砂浜まではNE、そこを超えたら良介、さらに超えたらアタイらの獲物だ、いいな?」

 

「は、はい・・・!」

 

「よし!

NEは、狙った奴らは基本的に仕留める。

多少素通りさせてでも、頭数を減らす方針だ。

つまりここまでくる魔物は元気だが単独。

冷静に相手すりゃ楽勝だ。

奴らで厄介なのは触手だ。

平均15ヤード。

体のサイズにもよるが、民間人の50ヤード以内には近づけさせるな。」

 

すると、千佳が手を上げた。

 

「はいはい!

ヤードって何メートル!?」

 

「ああ?

あー・・・1ヤードは1メートルでいい。

1メートルの方が長ぇからそっちで考えた方が安全だ。」

 

「だ、大丈夫?

なんかテキトーっぽいけど・・・」

 

メアリーはみちるを指差した。

 

「オラ、そこの無個性!」

 

「む、無個性!?」

 

「キモは触手に捕まらねぇ位置取りを忘れんなってことだ。

下らねぇポルノみたいになりたくなかったら、頭にピンで留めとけ。

良介もだ。

オメエがしっかりしてもらわねえと、アタイらがポルノみたいにされちまうからな。

頼むぜ?」

 

メアリーは薄ら笑いをしながら良介の方を見てきた。

 

「はぁ・・・軍人とはいえ、自分が女って自覚持てよな・・・」

 

良介はため息をつきながら前に出た。



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第85話 グリモアの夏

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


ハワイアンビーチズ東。

良介たちは魔物が来るのを待っていたが、未だに一匹も来ていなかった。

 

「こ、来ないね・・・」

 

「ってかNEの人たち強すぎ!

わたしたちの出る幕ないじゃん!」

 

「黙ってろ。

ヤツらが張り切ってんのはトーゼンだ。」

 

「そういや、魔物一匹倒せば謝礼がハワイ州から出るんだったか。」

 

「ん?

あ!

だから民間人をウチらに任せてんの!?」

 

「アイツらはそれで食ってんだ。

こっちのクエストが民間人誘導。

需要と供給が一致してていいだろ?」

 

メアリーは不敵な笑みを浮かべた。

しかし、少し時間が経つと魔物がやってきた。

 

「あ、き、来ます!

来ますっ!」

 

「PMCは生き残ってこそ金が手に入る。

だから加減ってもんがある。

こっちの実力と金を天秤にかけて、最低限を送ってくる。

つまりアタイらならあれくらいやれるってのがプロの判断だ!」

 

「舐められたもんだな・・・!」

 

良介は向かってきた魔物を殴り飛ばした。

 

「おい、良介に続け!

10秒でぶっ飛ばすぞ!」

 

「は、はいっ!」

 

メアリーたちは良介の後に続いていった。

 

   ***

 

みちるは何か念仏のように唱えていた。

 

「できるできる・・・わたしならできる。

せっかく教えてもらったんだもん・・・!」

 

「み、みちるちゃん、前見ないと危ないよ!」

 

「智ちゃん!

千佳ちゃん!

わたし、戦えるからね!」

 

「は、はぁ?

そりゃ良介がいるから戦えるでしょ?」

 

「もうわたし、ガス欠になんかならないから!」

 

「え?

ど、どういうこと?」

 

「魔法に使う魔力を抑えて、でも威力は殺さない・・・裏ワザ!

行くよっ!」

 

「みちる!

待てっ!」

 

突然前で戦っていたはずの良介がみちるの隣に現れた。

 

「それ、1回も試してないだろ!」

 

「だ、だって訓練の時は使う機会が・・・」

 

「実戦で初めてのことはするな!」

 

すると、メアリーが後ろから指示を出した。

 

「間宮!

魔物の目の前の砂を思いっきり熱くしろ!

フライパンみてーにだ!」

 

「あ、う、うん・・・でも時間かかるよ!」

 

「全力でやれ!

良介は間宮に魔力を流し込みながら魔物の相手だ!」

 

「わかった。」

 

「南は雷もある程度使えるな!

ヤツらは海水で濡れてる!

アタイと良介と同時に撃て!

間宮の魔法と合わせて焼き焦がすぞ!」

 

「は、はい!

やります!」

 

みちるは無言で皆の様子を見ていた。

 

「テメーは見てろ!

いいな!」

 

「は、はい・・・」

 

みちるは肩を落としながら返事をした。

 

   ***

 

メアリーの指示と同時に魔法が放たれた。

 

「今だっ!」

 

「はあぁっ!」

 

「サンダーブレーク!」

 

三人の雷撃が魔物を次々と倒していった。

 

「ほとんど倒したのは良介のみたいだったが・・・ま、こんなもんだな。」

 

すると、一匹だけ生き残った魔物がいた。

 

「ん、なんだ、まだいたのか。」

 

「よ、よーし、じゃあトドメ・・・」

 

千佳がトドメを刺そうとすると、メアリーはみちるを呼んだ。

 

「おい、無個性!」

 

「む、無個性って言わないで!」

 

「トドメはテメーだ。

やれ。」

 

「えっ!?」

 

みちるは驚いた。

 

「あの魔物は瀕死だ。

もう動けねぇ。

やりてーんだろ。

テメーのその魔法で、アレが殺れなきゃイチからやり直せ。

今回は学園生の命が最優先だ。

前線から外すからな。」

 

「や、やってやるもん!」

 

「おーし、いい度胸だ。

コイツを片付けたら次、その次!

強えー魔物と有利に戦える機会はそうねぇ!

今の内に慣れとけ!」

 

みちるが魔物に止めと刺して少し後。

 

「避難完了・・・おーし、この辺はもういい。

ちょうど、魔力の少ない奴らがへばってくる頃だ。

最後の民間人と一緒に北上しながら、他の学園生と合流していくぞ。」

 

みちるは立ち尽くしていた。

 

「無個性。

テメーは戦闘から外れろ。

後方支援だ。」

 

みちるは何も言わずにメアリーの方を見た。

 

「テメーは魔法使いになって日が浅ぇ。

まだ成果より命を優先する時期だ。

そこを間違えたら死ぬ。

1発で倒れなかった分、進歩してると思え。」

 

「はい。」

 

「みちるちゃん・・・」

 

「えっと・・・」

 

良介は何も言わずに剣を鞘に収めた。

 

「ほとんど初めての実戦が今回だ。

なにやったって恥じゃねぇ。

今は悔しがっとけ。

あとでアタイを笑ってみな。」

 

すると、メアリーのデバイスが鳴った。

メアリーはデバイスを取り、話を聞いた。

 

「わかった。

すぐ北の仲月班だ!

NEがやられた!

瑠璃川と不良がテメーらを待ってるぞ!

急行!」

 

「はい!」

 

「もー、まだ戦うの・・・」

 

「愚痴言ってないで行くぞ!」

 

良介は第1封印を解放すると、猛スピードで飛んで行った。

 

「あ、待ってくださーい!」

 

智花と千佳はその後を走って追いかけていった。

メアリーはみちるに話しかけた。

 

「松島。」

 

「えっ!?

は、はいっ!」

 

「ついたら仲月をすぐ避難させろ。

他の全員が戦闘に参加する。

テメーの役目だ。」

 

「わ、わかった!」

 

みちるも走って向かった。

 

   ***

 

さらの班に怜がやってきた。

 

「瑠璃川、朝比奈!

大丈夫か?」

 

「怜ちゃん先輩!

来てくれたんだ!」

 

ノエルが嬉しそうに怜の方を見た。

 

「こちらの戦闘が長引いてな・・・もう、魔物はいないのか?」

 

怜の後をありすが息を上げながらやってきた。

 

「はいぃ!

メアリーさん達が来てくれたんですぅ!」

 

さらが嬉しそうに言った。

怜はその言葉を聞くと、ありすの方を見た。

 

「すまない、楠木。

急がせてしまったな。」

 

「ぃ・・・ぃぃ・・・ぇす・・・」

 

その頃、良介とメアリーは2人で被害の確認をしていた。

 

「ナチュラルエネミーの被害は死者6人、重傷12人、軽傷大量か・・・」

 

「この規模なら少ねぇくらいだが、イチ企業にとっちゃ痛手だ。」

 

すると、メアリーは話を変えてきた。

 

「PMCに所属している連中、なんで軍に入らねーと思う?」

 

「ん?

堅苦しいのが嫌とか?」

 

「実感が欲しいのさ。

もともと正義感で戦うのに挫折したヤツラだ。

PMCは営利企業だ。

金っていう明確な目標がある。

憎いアイツを1匹殺れば、このくらいの金が入りますって実感で戦う。

メンドクセェ精神論がない方が戦える・・・そんなヤツらもいるのさ。」

 

「実感や金か・・・」

 

その言葉を聞いて、良介はため息をついた。

すると、メアリーは良介のマントを引っ張り始めた。

 

「どうした?」

 

「オラ、手ぇ出されねーからついて来い。

腕相撲、やらせてやるからよ。」

 

「・・・今からするのかよ。」

 

良介は苦笑いしながらついて行った。



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第86話 社務所でひと休み

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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ある日の夜。

良介は風飛市で行われている祭りの会場に来ていた。

集合場所には着物姿の聖奈がいた。

 

「来たな。

早速だが、見回りのルートを説明す・・・」

 

と、聖奈は良介の後ろにいる着物姿のありすがいることに気づいた。

 

「貴様、見回りをするのに楠木を連れて来たのか。」

 

「う・・・ぁ・・・たし・・・めん、なさ・・・ぃ。

かぇ・・・り、ま・・・」

 

「まぁ、待てって。

帰ることはない。

悪い、ありすのほうと先に約束してたんだ。」

 

「ぇ、も、良・・・介・・・さん、おし、ごと・・・」

 

話を聞いていた聖奈はため息をついた。

 

「あらかじめ申告しておけば、他に頼んだものを・・・しかし、こちらも人出が足りないのでな。

仕事はしてもらうぞ。」

 

ありすは聖奈の話を聞いていた。

 

「楠木、それでもいいか?」

 

「ぇ・・・?」

 

「良介と一緒に回れ。

1人では心もとないだろう。」

 

「いいのかい?

ありすもオレっちも遊びに来たんだぜ。」

 

クレプリが話に入ってきた。

 

「構わん。

目的がどうあれ、祭り会場を回ることにはかわりはないだろう。

良介、いいな。

仕事もだが、楠木をないがしろにするなよ。

お前を誘うのにどれだけ勇気が必要だったか、心に留めておくことだ。」

 

「わかった。」

 

「朝比奈や李、屋台の中で働いている生徒もいるようだが・・・魔法使いというだけでトラブルの可能性があるからな。

注意を払ってくれ。」

 

「なんならオレっちだって見回り手伝ってやるぜ。

なぁ、ありす?」

 

「ぁ、ぃ・・・」

 

クレプリの言葉を聞いてありすも頷いた。

 

「すまんな。

では、社務所が休憩所になっているから、そこを拠点に・・・」

 

「いえーい!

ありす、たこ焼き食べようぜー!」

 

クレプリはありすを引っ張って行ってしまった。

 

「あ、待て。

会場を回るついでに1つ頼みたいことがあるのだが・・・」

 

「頼みたいこと?」

 

「その、実は・・・立華が・・・」

 

「卯衣がどうした?」

 

すると龍季の声が聞こえてきた。

 

「うぉい!

割り込んでんじゃねー!

たこ焼き欲しいんなら並べっ!」

 

「げげっ!

威勢のいいヤンキーさね!」

 

「んだとコラァ!

今、誰がヤンキーっつった、あァ!?」

 

「あいつら・・・」

 

良介は呆れながら頭を掻いた。

 

「後で話す。

行ってやってくれ。」

 

「ああ・・・行ってくる。」

 

良介は面倒くさそうに屋台の方へと向かった。

 

   ***

 

少しして良介は聖奈のところに戻ってきた。

 

「特にこれといって異常はなかったぞ。」

 

「それならいい。

引き続き巡回してくれ。」

 

「わかった。

それより、さっき何を言おうとしたんだ?」

 

「ああ、さっき言いかけたことか。

実はな、天文部の連中が来ているようなのだが・・・立華 卯衣とはぐれたらしい。」

 

「おいおい・・・」

 

「立華は人造生命体だ。

活動の際は魔力を消費し続ける。

しかし、それは宍戸の研究室か、お前からしか供給できん。

彼女の魔力が尽きることは、自身の消滅を意味する。

巡回の際に見つけたら、すみやかに合流してほしい。」

 

「わかった・・・にしても大げさな話だな。」

 

「大げさなものか。

立華を失うことは、人類の損失に繋がる。

魔物にとってそれだけ強力な・・・いや、こういう言い方は良くないな。

友人だ。

万が一のことがあってはいけない。

もちろん、私の方でも探しておく。

デバイスで連絡は取れるだろうし、強制的に帰らせることもできるが・・・あまりそういう手段はとりたくない。

立華は、人間として暮らすことを望んでいる。

こういった学習の機会を奪ってはならないし・・・祭りを楽しむことは、人として当然の権利だろう。

生徒会は、学園生のより良い生活を守るため、尽力する義務がある。

私は、彼女を放っておけないのだよ。」

 

「ふーん、そうかい・・・」

 

良介はえらくニヤニヤしながら聞いていた。

 

「なんだ。

当然の理由を述べただけだぞ。」

 

「いや、なんでもない。

んじゃ、見回りついでに探してくる。」

 

良介はそう言って、見回りに向かうと、すぐにデバイスを取り出しだ。

 

「・・・もしもし、誠か?

お前、今どこにいるんだ?」

 

良介は誠に電話をかけた。

 

「なるほど、見回り中ね。

俺も一緒だ。

それでなんだが卯衣の奴なんだが・・・」

 

良介は誠に卯衣のことを話した。

 

「ああ、そういうことで見つけたら連絡くれ。

それじゃ。」

 

良介は電話を切るとデバイスを直した。

 

「さて、行くか。」

 

良介は見回りに向かった。

 

   ***

 

祭り会場。

卯衣が一人で歩いていた。

近くを歩いていた良介が卯衣に気づき、卯衣のところにやってきた。

 

「卯衣!」

 

「良介くん。

こんばんわ。」

 

卯衣は挨拶をしてきた。

 

「ミナたちとはぐれたって聞いたから、探してたんだ。

見つかってよかった。」

 

「もしかして、迷惑をかけたかしら。

そうだとしたらごめんなさい。」

 

「俺は別に構わないよ。

それより、魔力は大丈夫なのか?」

 

「ええ。

記録量が多いから消耗もそれに比例するけれど、許容範囲内よ。」

 

「そうか・・・全く、あいつらも不注意だな・・・」

 

「そういえば・・・部長が初田村でお世話になったそうね。」

 

「ああ、そうだ。

ミナの様子はどうだ?」

 

「しばらく元気がなかったのだけれど、戻ってきたら回復していた。

あなたの働きもあったのだと推測する。

ありがとう。」

 

卯衣はお礼を言ってきた。

 

「別に礼を言う必要はないさ。

それより、卯衣だ。

俺と行動してもらうぞ。」

 

「どうして?」

 

「卯衣の体質で単独行動は危ないからさ。

ミナたちと合流するか、学園に帰るまで俺が同行する。」

 

「けれど、あなたは見回りの仕事をしているのでしょう?

私が一緒にいると、業務に支障をきたすと思うのだけれど。」

 

「何も問題はないさ。」

 

「残存魔力は充分。

あなたの手をわずらわせるまでもないと思う。

大丈夫よ、お祭りの学習記録を取ったらすぐに帰るから。」

 

「待ってくれ、もしなにかあったら・・・」

 

「気にかけてくれてありがとう、良介くん。」

 

「あ、ちょっと・・・」

 

卯衣の姿が人ごみの中に消えていった。

 

「クソッ・・・見失ったか・・・」

 

卯衣を見失った良介は舌打ちをした。

 

   ***

 

神凪神社社務所。

誠が歩いてやってきた。

 

「あぁ~、歩き疲れた。

足が痛ぇ・・・」

 

すると、怜がやってきた。

 

「誠、社務所はこっちだ。

少し休むといい。」

 

「怜、ありがと。」

 

「麦茶もあるから、自由に飲め。」

 

そこに、良介もやってきた。

 

「はぁ・・・」

 

「良介、疲れたか?

社務所で休むといい。

お前と生徒会が巡回を手伝ってくれているから、とても助かっている。」

 

「怜も家の仕事が忙しいんだ。

任せてくれ。」

 

「ありがとう。

不自由があれば、なんでも言ってくれ。

風紀委員として、お前達と協力できるのは嬉しく思う。」

 

すると、そこに虎千代がやってきた。

 

「ああ。

生徒同士、常に歩調を合わせていたいものだ。」

 

「会長?

なんでここに・・・」

 

良介は不思議そうな顔をしながら聞いた。

 

「あれ、知らないのか?

祭囃子に参加させてもらえることになったんだ。」

 

「え・・・」

 

良介が唖然としていると、誠は驚きのあまり麦茶を口から噴き出した。

 

「げほっ・・・ごほっ・・・はぁっ!?」

 

「祭りはいいなぁ。

血が騒ぐよ。」

 

「会長・・・祭囃子に参加って・・・」

 

「太鼓を打たせてもらうことになっている。」

 

「太鼓!?」

 

「練習は充分したから大丈夫だぞ。」

 

「いやいや、そうじゃなくて・・・」

 

「そうだ。

少し時間があるから、夜店を回ってみるかな?」

 

虎千代はそう言うと、行ってしまった。

 

「大丈夫・・・なのか?」

 

「さぁ・・・」

 

良介と誠は呆然としたまま虎千代の後ろ姿を見ていた。



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第87話 分かち合う

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


休憩を終えた良介は再び見回りに向かっていた。

すると、聖奈と合流した。

 

「見回りはどうだ?

問題ないか?」

 

「ああ、大丈夫だ。

そういえば、ありすは社務所で休憩するらしい。

人ごみで疲れたんだろう。

怜に任せておけばいいだろう。」

 

「そうか。

それでは、私はもう少し巡回してくる。」

 

「聖奈。」

 

「ん?

なんだ。」

 

「少しは休憩したらどうだ?」

 

「私はいい。

生徒達が無事に祭りを楽しめるほうが大事だ。

今のうちにめいっぱい息抜きしてもらおう。

来年は祭りが出来るかどうかわからんからな。」

 

「そうか・・・そういえば、さっき卯衣と会ったんだ。

1人でいいって言われて、逃げられてさ。

軽々と人を避けていってたけど、そういう機能でもあるのか?

多分、夜店を見ているはずだから、このあたりに・・・」

 

すると、聖奈が何かに気づいた。

 

「あれは!」

 

良介は聖奈が向いている方を見ると、卯衣が1人で歩いていた。

 

「いた!

あそこか!」

 

2人は急いで追いかけようとしたがすぐに見失ってしまった。

 

「見失ったか・・・どこだ?」

 

「多分、まだそう遠くに行ってないはずだが・・・もう一度話せば、立華も素直に同行してくれるだろう。

見つけたらすぐ合流してくれ。

頼んだぞ。」

 

「ああ、わかった。」

 

良介は卯衣を探しに人ごみの中に入っていった。

 

   ***

 

少し時間が経った頃、聖奈は1人で人ごみの中を歩いていた。

 

「どこへ行ったんだ・・・」

 

すると、そこへ良介がやってきた。

 

「よう、聖奈。」

 

「ああ、良介。

立華とは会えたか?」

 

「実は・・・さっき一度合流したんだが、一瞬目を離したらいなくなってな・・・」

 

「またはぐれたのか?

ううむ、この人の多さではな・・・魔力切れも心配だが、実は・・・立華と少し話がしたいのだ。」

 

「話?

何かあったのか?」

 

「いや、気になることがあってな・・・なあ、良介。

私は朱鷺坂や遊佐の話をどこか他人事のように聞いていた。

当事者意識が薄かったのだと・・・今になって思う。

お前は裏世界に行って、驚いたか?

動揺したか?

自分があちらに存在しないと知って、どう思った?」

 

「そりゃあ、驚きもしたし、動揺もしたさ。」

 

「そうだろうな。

私も・・・いや、聞き流してくれ。

なにかあったかと言われると、わざわざ話して不安を煽るものでもない。

あくまで推測だと、如月は言った。

けれど・・・なんの気なしの雑談が、謎の引き金になるとはな・・・すまない。

私が少し考えすぎなのかもしれん。」

 

「とりあえず卯衣を探そう。

会えたら、俺も一緒に聞こう。」

 

「ありがとう。

それでは、行こうか。」

 

2人は卯衣を探しに再び歩き始めた。

 

   ***

 

良介は1人で屋台の近くを歩いていた。

すると、話をしている天と龍季に会った。

 

「あら?

良介じゃない。

アンタもあちこち大変よねぇ。

もうすぐ花火だから、目ン玉かっぽじってよく見ときなさいよ?」

 

「良介。

オメー、立華と結城はどうしたんだよ。

放ってきたのか?」

 

「へー、あの羽コンビも来てるの?

こういうトコで遊んだりすんのね。」

 

「羽コンビ?」

 

「2人とも戦闘時に羽を出すでしょ。

知らないの?」

 

「ケンカ相手でもなきゃ、他人がどう戦うかなんてあんま興味ねーよ。」

 

「出た、分析をしないヤツ。

なんでも真正面から殴れば済むと思ってんでしょ。」

 

「あァ?

テメー、殴られてぇのか?」

 

「ほーらね。

好奇心のないヤツは、進歩しないんだから。

その分じゃアンタ、羽のことなんにも知らないんじゃない?

任へなはい。

はふっ・・・ふぁ、わかりやふ~く教えてはぇるわ!」

 

「おい、食いながら喋るな。」

 

食べながら喋る天を良介は注意した。

だが、天はそのまま食べながら説明し始めた。

 

「だぁら、忙しいっつってんだろ。

そういう話は良介に・・・」

 

龍季に話されても天は構わず説明を続けた。

 

「耳の穴詰まってんのか?」

 

「さて、必要以上に巻き込まれない内に行くか。」

 

良介は2人にバレないように静かにその場から立ち去った。

 

   ***

 

良介はその後、聖奈と再び合流し、卯衣を探していた。

すると、1人で歩いている卯衣を見つけた。

 

「結城さんに、良介くん?」

 

「やっと会えた・・・立華、お前と話がしたかったんだ。」

 

「構わないわ。

なんの話かしら・・・」

 

「2人とも、もう少し静かなところに行こう。」

 

3人は人があまりいない神社の近くにやってきた。

そこで、聖奈は卯衣と話をした。

 

「如月さんがそう言っていたのね。

私の羽について、あなたと関連する記録はない。

ドクター・・・宍戸 結希からそういった共有もない。

つまり私に心当たりはないわ。

羽の類似性については、ごくまれに見受けられる事象ではある。

しかし、その確率は低い。

まず、ないことという認識。

私から言えることは、このくらい。」

 

「そうか。

ただの空似だから考えすぎ、と言われたら・・・それまでだ。

確証はないし、勘だと言ったら笑われてしまうかもしれない。

だが、お前と私の羽が似ているのは、偶然ではないと思う。」

 

2人の話を聞いていた良介が話に混ざってきた。

 

「そう考えるのは自然だろうな。」

 

「でも・・・ごめんなさい。

私にも、これ以上はわからないの。」

 

「いい。

確か発見された当時、お前は記憶がなかったのだったな。」

 

「破損データになんらかの情報は含まれていたかもしれない・・・」

 

「なあ、卯衣。

お前はどう思ってるんだ?」

 

「私・・・私は・・・羽の類似性と私達の共通点について、極めて重要だと考える。

それを紐解くことで、私の存在について・・・大きな情報が得られる可能性がある。」

 

卯衣は一度少し黙ってから口を再び開いた。

 

「マスターの願いは、私の願い。

もしかして破損ではなく、最初から記録がない。

もしくは・・・」

 

「故意に消去された・・・か。」

 

「それを知るのは、マスターの意志に反する行為かもしれない。

けれど、あなたと私の類似点が示すことを・・・私も、知りたい。」

 

それを聞いて、聖奈は軽くため息をついた。

 

「どうしたの?」

 

「立華がそう言ってくれたら、なんだか力が抜けた。」

 

「なぜ?」

 

「ほっとしたんだ。

1人で抱えるには、その・・・」

 

「重い案件だったってことだな。」

 

「はは・・・なんだか情けないな。」

 

「そんなことはないわ。

悩みは分かち合うものだと、天文部で教わった。

ましてや、これはあなた1人の問題ではない。

私にも共有してほしい。

話してあなたの気持ちが軽くなるのなら、なおさら。

私にとっても、それは大切なことだと思うから。」

 

「立華・・・ありがとう。」

 

良介は2人の会話を見て、笑みを浮かべながら1人で見回りに向かった。



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第88話 魔法使いじゃなかったら

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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ある日、学園生は風飛市内にあるレジャー施設に来ていた。

 

「これ!

ミナ、先に行くでない!

迷子になるぞ!」

 

恋が走って行ってしまったミナを呼び止めようとしたが、ミナはそのまま行ってしまった。

 

「全く、ミナのやつめ・・・おお!?

子供がたくさんおるぞ!

思った以上じゃ。」

 

恋は子供たちの数に驚いた。

 

「子供たちのためのレジャー施設だと伺っておりましたが・・・

本当に、天使のような子たちばかりですね。

なんて可愛らしいのでしょう。」

 

シャルロットは子供たちを見て笑った。

恋は泣き叫ぶ子供たちを見て、少し引いていた。

 

「・・・天使?」

 

「天使ですわ。」

 

良介は子供たちを見て、ため息をついた。

 

「やれやれ、今回のクエストは大変そうだな。

なぁ、紗妃。

・・・紗妃?」

 

良介は子供たちを見て呆然とする紗妃に話しかけた。

紗妃は良介に話しかけられた途端に我に返った。

 

「はっ!

い、いけません。

呆気にとられていました・・・」

 

紗妃はクエストに来ている学園生の方を向いた。

 

「え、えぇと・・・今回のクエストは【ふうびきっず】の警備です。

ご存知かもしれませんが、ここは・・・子供たちが憧れの職業を体験することができる人気のレジャースポットです。

しかし迷子等のトラブルも多発する為、クエストが発令されました。」

 

紗妃が説明していると鳴子がやってきた。

 

「と、言うのは建前だろ。」

 

「遊佐さん・・・えぇ、その通りです。」

 

「どういうことだ?」

 

良介は鳴子に説明を求めた。

 

「いいかい、良介君。

もし、第8次侵攻が本当に来るのだとしたら・・・この【ふうびきっず】は位置関係的に、最も侵攻の被害が少ない場所になる。

つまり、避難所となるわけだ。」

 

「なるほど・・・避難してきた人たちを守るために、できるだけスムーズな対処をとれるように、施設内の構造を理解するためか。」

 

「本来であれば、学園生全員が把握すべきなんだろうけど・・・【第8次侵攻が来る】と緊張した学園生がここに乗り込むのもおかしいだろう?

ここは予約制でね。

保護者も子供たちも随分前から楽しみにして来るんだ。

そんな中、僕たち学園生が怖い顔で警備をするわけにもいかないからね。

というわけで、今日は優しいお姉さん、お兄さんとして頑張ろうか。」

 

すると、早速恋が子供たちに絡まれていた。

 

「ぎゃぁ!

な、なんじゃお主ら!

えぇい引っ張るな!

縮むであろう!

あ、それはわっちの大事な筆じゃぞ!

だめじゃ!

返さんか!」

 

恋は取られた筆を取り返しに子供たちを追いかけていった。

 

「あらあら、もう仲良しさんなのですね。

羨ましいですわ。」

 

「あのやんちゃ盛りの子供たちを見ていると、昔の自分を思い出すな。」

 

鳴子は笑いながら子供を見ていたが、紗妃は固まっていた。

 

「おーい、紗妃。

リラックス、リラックス。」

 

良介に言われて、紗妃は元に戻った。

 

「はっ!

そ、それでは早速警備に移りましょう。」

 

紗妃に言われて他の学園生は警備に向かった。

 

   ***

 

少し経って、筆を取り返した恋が帰ってきた。

 

「なんちゅう体力じゃ・・・あの子供ら・・・」

 

「南条さんは子供に慕われていらっしゃるのですね。」

 

「好かれるにしても、わっちの大事な筆が持ってかれるようではたまらんぞ。

館内を把握せねばならんというのに、振り回される予感がぷんぷんしよる。」

 

「(誠の奴、こうなることを面倒臭がってクエスト受けなかったんだな。)」

 

「まずは子供たちに集中をしたほうが良さそうだ。

ここまで大勢の子を相手にすることにはまだ慣れていないだろう?

営業時間内に施設を見回ることは出来なくても、閉館後に確認する手もある。

クエストの【警備】がおざなりになっては元も子もないからね。」

 

4人が話していると紗妃がやってきた。

 

「さて、皆さん。

お話し中申し訳ありませんが、このくじを引いてください。」

 

「くじ?」

 

シャルロットが不思議そうにくじ引きを見た。

 

「アトラクションについていただくため、担当をくじで決めます。」

 

「希望はとらんのか?」

 

「希望制ですと、一部に人気が偏ってしまいそうですので・・・ご理解ください。」

 

「では、僕から引かせてもらおうか。」

 

鳴子から順番に学園生はくじを引いていった

 

「警官?」

 

恋は引いたくじを首を傾げながら見ていた。

 

「看護師・・・」

 

「ほ、保育士・・・まさか私が保育士を引いてしまうなんて・・・」

 

「僕は医者だ。

シャルロット君と同じアトラクションみたいだね。」

 

「な、なぁ。

警官とは何をすればいいんじゃ?」

 

恋は良介に聞いてきた。

 

「いや、俺に言われても・・・補導すればいいんじゃね?」

 

「子供たちを・・・?」

 

「子供たちを補導してどうするんですか!

恐らく、パトロールとか・・・そういうものかと・・・」

 

「わたくし、看護師の知識などほとんどありませんが・・・どうしましょう・・・子供たちに看護師はこういう仕事だと伝えなければならないのですよね?」

 

「【魔法使い】という職業はないのかのぅ?

あればわっちはそっちに・・・」

 

「無いだろ。

【普通】の職業体験が出来るレジャースポットなんだから。」

 

「事前に係員がちゃんと説明してくれるさ。

心配することはないよ。」

 

少しして、恋が良介ところにやってきて聞いてきた。

 

「そういや、お主はどこの担当になったのじゃ?」

 

良介は笑みを浮かべながらくじを見せた。

 

「これだ・・・!」

 

「施設案内の担当!?

ぐぬぬ・・・そんなのがあったのか。

お主、運が良いのう・・・」

 

「それで、仕事内容は聞いたのか?」

 

「うむ、一応聞いたぞ。

施設内のぱとろーる、事件の捜査とな。

捜査はな、架空の事件が発生したと想定してするんじゃと・・・

ふふふ。

まるで幼い頃に戻ったようじゃ。

ちょいとばかしわくわくするのぅ。」

 

「・・・勢い余って、事件を迷宮入りとかにするんじゃないぞ。」

 

「わ、わかっておる!

教官として補導を・・・」

 

「いや、補導してどうするんだ。」

 

すると、子供たちがやってきた。

 

「なんじゃお主ら。

迷子か?」

 

「ねぇねぇ、君もこれに参加するんでしょ?

一緒にやろうよ。」

 

「違うぞ。

わっちは参加者ではない。

教官じゃ!」

 

「ならぶならあっちだよ。

はやくいこーよ。」

 

「おねーちゃんそのお洋服どこのなのー?

あたしも着たい!」

 

「これは制服じゃ!

わっちは参加者ではない・・・っておい、引っ張るでない!

どこへ行くのじゃ!?

わっちは警察官として仕事が・・・じゃから違うと言うに!

あ、ミナ!

良いところにきた!

この子らを何とかしてくれぬか!?

ミナー!」

 

ミナには恋の声が聞こえておらず、行ってしまった。

 

「あやつ、全くわっちの声が聞こえてないではないか・・・!

えぇい!

分かった、分かったから纏わりつくでない!

・・・ん?」

 

今度は違う子供がやってきた。

 

「さっきまで一緒だった子がいなくなったじゃと!?

早う言わんか!

そやつの特徴・・・服は覚えておるか?

詳しく教えるのじゃ。探しに行くぞ!」

 

恋は子供たちと行ってしまった。

 

「やれやれ、大忙しだな。

さて、俺も施設案内の仕事をやりますか。」

 

良介も仕事をしに向かった。

 

   ***

 

良介は医者、看護師を体験する施設にやってきた。

 

「ここが医者や看護師の体験をすることができるところだよ。」

 

良介は子供たちに説明すると施設に入った。

ちょうどシャルロットが子供たちに看護師の仕事を教えている最中だった。

 

「患者さまが緊張されないように、お声をかけてくださいね。

そうですわ、お上手ですね。

あなた様は立派な看護師になりますわね。」

 

「シャルロットさん、うまくやってるみたいだな。」

 

「あら、良介様。

えぇ、今ちょうど体験時間中です。

遊佐さんはあちらにいらっしゃいますよ。

もうすぐ終わると思いますが・・・」

 

シャルロットの見ている方向を見ると、鳴子が医者の仕事を教えていた。

 

「駆血帯は巻けたかい?

いいね。

加減もばっちりだ。

じゃあ次に、これで患者さんの腕を拭いてみようか。

そう、良くわかるね。

肘のあたりだよ。

これで準備が整った。

打つときに血管が逃げてしまうから、指で押さえるようにして・・・そう。

うん。

君は本当に上手だね。

完璧じゃないか。」

 

「遊佐さん、子供たちにああやって教えていらっしゃるんです。

わたくし、いくら係員の方から事前に教えていただけたとしても・・・あそこまで手際よくお伝えできる自信ございませんわ。」

 

すると、鳴子がやってきた。

 

「やぁ、良介君。

僕の治療でも受けにきたのかな?」

 

「あの子の回は終わったのですか?」

 

「あぁ。

目をキラキラさせていたよ。

本当に純粋な子ばかりで可愛いね。」

 

「お医者様は子供たちの憧れの職業と言いますからね。

それにしても・・・遊佐さんはいろんなことをご存知ですね。」

 

「好奇心でかじった知識があっただけさ。

大したことじゃない。

それに、保健委員なら簡単な切開くらいは出来るよ。

君も注射くらいなら出来るんじゃないか?

次の回まで時間があるし・・・そこの人形で試してみたらどうだい?」

 

「わ、わたくしがですか!?

そんな・・・もし、失敗したら・・・」

 

「相手は人形だぞ。

何を心配してるんだ。」

 

良介は軽くため息をついた。

 

「わかりました。

遊佐さんの説明は先ほどから何度も聞いてますし・・・きっとできます。

やってみますわ!」

 

そう言うと、シャルロットは早速やり始めた・・・が。

 

「あ、あああ!

遊佐さん、変な音が聞こえます!!」

 

「へぇ、この人形って意外と高性能なんだな・・・動脈を刺したみたいだね。」

 

「ど、動脈?」

 

「あと、勢いよく押し出したんじゃないか?

空気が入ったと認識されてるな。」

 

「おい、殺す気かよ。」

 

良介は引き気味に笑いながらシャルロットを見た。

 

「い、いけません!!

患者さま、すぐに回復魔法をかけますからね!

あぁ、神よ。

どうかこの方をお救いくださいませ!」

 

「人形に回復魔法をかけてどうするんだ。」

 

すると、鳴子のデバイスが鳴った。

 

「南条君、どうかしたのかい?

その子の特徴は?

分かった。

良介君もここにいるから、伝えておくよ。」

 

「鳴子さんは、今度は何事で?」

 

「良介君、子供が迷子になったようだ。」

 

「はぁ・・・まったく、こりゃ想像以上に大変だな。」

 

良介はため息をついた。

 

   ***

 

良介は今度は保育士の体験ができる施設にやってきた。

 

「ここが保育士の体験ができる施設だよ。」

 

良介は子供たちに説明して中に入ると紗妃が教えている最中だった。

 

「えぇと・・・赤ちゃんの抱っこの仕方は腕で頭を支えて・・・あ、ああ!」

 

「おねえさん・・・赤ちゃんの首、ガックンってしたよ・・・いたそう。

かわいそうだよ・・・」

 

「なので、こうならないように腕でしっかりと支えてくださいね!」

 

「なんか・・・嫌な予感しかしないな。」

 

良介は不安になりながらも紗妃の説明を見ていた。

 

「次は赤ちゃんはミルクをあげてみましょうね。

ミルクはお湯で溶いて・・・はい。

出来ました。

これを赤ちゃんに・・・」

 

「え!

ボクのおかあさんは冷ましてたよ!?

赤ちゃんやけどしちゃうよ!」

 

「ふぇ!?

う、うそ・・・そんなこと書いてあった・・・!?」

 

紗妃は説明書を見てみた。

 

「ミルクは作ってから人肌に・・・急ぎの場合は氷水で・・・み、皆さん!

ミルクは人肌まで冷ましてくださいね!」

 

「おねぇさんーひとはだってなにー?」

 

「私たちの体温くらいです!」

 

「だめだ・・・目を逸らしたくなってきた。」

 

良介は目を逸らしたい気持ちを抑えながら紗妃の説明を見た。

 

「おねーさぁーん。

次どうすればいいのー?」

 

「ご、ごめんなさい。

ちょっと待って・・・」

 

「おねえさーん!

この赤ちゃんのおむつ替えたーい!」

 

「え!?

えぇと・・・おむつの替え方は・・・」

 

「ねーねー、おねーさん。

もう遊ぼうよー。

ボク、飽きちゃったぁ。」

 

「だ、だめです!

お仕事はちゃんと最後までしないと・・・」

 

「赤ちゃんすげー泣いてる!

わっ!

なんだこれみず!?

みず出てきた!」

 

「うう・・・!

だめだめ、だめです!

こ、ここでお漏らししたら規則違反ですよ!!」

 

「ああ、もう!

我慢できねえ!」

 

良介は紗妃の説明のところに乱入し、正しいやり方を教えた。

説明を終えると紗妃は良介に話しかけてきた。

 

「いつから見ていたのですか?」

 

「最初からだよ。

何かあるのか?」

 

「いえ、お手伝いいただきありがとうございました。

正直・・・助かりました。

保育士としての仕事内容は理解していたつもりだったのですが・・・子供たちを前にしたら、頭の中が真っ白になってしまって・・・小さい子と接する機会なんて滅多になかったものですから。」

 

「だからってあんな説明の仕方はないだろ。」

 

「だ、だって、子供って壊れ物みたいじゃないですか!

すぐ泣き出しますし・・・何を考えているかも・・・子供たちとどう接すればいいのか分からないというのが正解でしょうか。」

 

「だったら、今から分かるようになれよ。

将来のためにな。」

 

「そうですね。

私もいずれはちゃんと子供たちと接する方法や・・・赤ちゃんのお世話を覚えなくてはいけない時がくるとは思っていますが・・・」

 

すると、紗妃は良介の顔を見た途端、赤面した。

 

「ち、違いますよ!?

私はそういうつもりではなく・・・」

 

「は?

何が?」

 

「別に意識しているわけではありませんからね!?

誤解しないでください!」

 

「は、へ?

何言ってんだ?」

 

「なんだか・・・誘導尋問された気分です。

風紀委員にそのような態度、良い度胸です!

学園に戻り次第すぐに・・・」

 

「だから、お前何言って・・・」

 

すると、アナウンスが流れた。

 

「迷子のお知らせをいたします。

白い・・・をお召しになった・・・お子様を探しております・・・お心当たりの方は・・・」

 

「迷子?

良介さん、もしかして迷子がいることご存知でしたか?」

 

「ああ、知ってたけど。」

 

「なんで言わないんですか!

一刻も早く迷子を探さないといけないのに!!」

 

「お前がちゃんと説明できてたら、こっちもそのことが言えたのにお前が説明できなかったから時間がなくなったんだろうが!」

 

「う・・・たしかにアトラクションで四苦八苦しておりましたが・・・」

 

「が・・・なんだよ?」

 

良介が少しキレ気味に紗妃を睨んだ。

 

「はい・・・申し訳ありません・・・と、ともかく!!

急ぎ皆さんと合流しますよ!」

 

2人は施設の出口に向かった。

 

   ***

 

良介と紗妃は鳴子と合流した。

 

「遊佐さん!

あの、迷子のアナウンスを聞いたのですが・・・!」

 

「ん?

あぁ、迷子か。

安心したまえ。

もう保護されたよ。」

 

すると、恋とシャルロットがやってきた。

 

「無事にお母さまともお会いに出来たみたいですし、ほっといたしましたわ。

これも神のお導きです。

あぁ、神よ。

感謝いたします。」

 

「そうですか・・・私たちが出る幕でもなかったのですね。

安心しました。」

 

「じゃが、見つかった場所が問題じゃな。」

 

「どこで保護されたんだ?」

 

「迷子が居たのは【地下の避難区域】じゃ。」

 

「地下の避難区域って・・・ちょっと待ってください。

本来であればそこは・・・」

 

「僕たちがこの後に確認するはずだった場所。

非常時以外は、責任者によって施錠されているはずだ。」

 

「奇妙だな。

迷子がそこまで行けるか・・・疑問だな。

セキュリティは大丈夫なのか?」

 

良介は鳴子の方を見た。

 

「現状、胸を張って大丈夫だとは言えないね。

軍に安全の確認を急いでもらったほうがいい。

会長にも報告を。

君たちも気付いているかもしれないが、この数か月間・・・人が集まるところで騒ぎが起きている。

偶然で片付けばいいが・・・ここは、万が一の避難所だ。

万全を期して損はない。

これが人為的に・・・意図的に施されていたものだとしたら。」

 

「根は事前に潰すに限るな。」

 

良介は周りを見渡しながら言った。

かなり時間が経ち、閉園時間を迎え、アナウンスが流れた。

 

「まぁ、もう閉園の時間ですのね。

あっという間でしたわ。」

 

「わっちはあちこち振り回されたせいでもうぼろぼろじゃ・・・じゃが、遣り甲斐はあったぞ。

警察官というものは責任が重いのう。

魔法使いも似たようなもんだが、警察官も違う方法で皆を守っているんじゃな。」

 

「看護師のお仕事もとても楽しかったです。

病院にかかることはあっても・・・実際にどのようにお仕事をされているかなんて、知る機会はありませんし。」

 

「氷川は保育士じゃったな?

どうじゃ、楽しかったか?」

 

「そうですね・・・楽しかったというか緊張したというか・・・今後の機会に活かせる勉強になりました。

もし、私たちが魔法使いでなければ・・・この中の、どれかの職業に就いていたかもしれませんね。」

 

「確かに、そういう世界も見てみたいな。」

 

「・・・らね。」

 

良介は鳴子の方を見た。

 

「鳴子さん、今なんて?」

 

「いや、なにも?

そんな世界を僕たちが作ればいいんじゃないか。

霧の魔物を根絶してね。

【魔法使い】が必要ない・・・一般市民として歩めるような、そんな世界をね。」

 

「そうだな。

そのために第8次侵攻に備えないとな。」

 

「施設内を視察し、学園へ帰りましょう。」

 

良介たちは施設を視察に向かった。



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第89話 グリモアの一番長い日

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


ある日の学園の校門前。

焔が1人で立っていた。

 

「クソッ。

なんなんだよ、いったい・・・」

 

そこに学校から出てきた良介がやってきた。

 

「焔、何してるんだ?」

 

良介が話しかけると、焔はため息をついた。

 

「良介・・・執行部のご指名だとよ。

以前にやったあんたと相性のいい生徒の続きだ。

アタシとパーティ組んでクエスト行くんだってよ。」

 

「なんでよりによって今日なんだ?」

 

「執行部の言ってたこと、聞いたか?」

 

「ん・・・たとえグリモアが第8次侵攻を想定し厳戒態勢だったとしても、全世界がそうでない以上、クエスト発令は通常通り行われる・・・だったな。」

 

焔はため息を再びついた。

 

「さっさと・・・行って、帰ってくりゃいいだけだ。

侵攻に間に合えばなにも問題ない。

そうだろ?」

 

「まぁ、確かにな。」

 

そう言うと良介は戦闘服に変身した。

 

「それにこの時期に焔にクエストを振るってことは、何か意味があるんだろうな。」

 

「なんでも知った風な口ききやがって、アタシを弄んでやがる。

執行部の連中、いつか燃やしてやるよ。」

 

良介は焔から視線を外しながらため息をついた。

 

「ま、今のはオフレコにしといてやるよ。」

 

「別に聞かなかったことになんてしなくていい。」

 

「そうかい。

それじゃ行くか。」

 

良介と焔はクエスト発令場所に向かった。

その頃、誠は訓練所近くを歩いていた。

 

「やれやれ、このタイミングで良介が焔とクエストねぇ。

執行部は何を考えているのやら。」

 

「オメーも気になるか?」

 

誠の目の前に戦闘服姿のエレンとメアリーが立っていた。

 

「エレンとメアリーか。

あいつ執行部に反抗でもしたのか?

それとも、執行部の嫌がらせか?」

 

「反抗するようなことはしていない。

精鋭部隊に対して嫌がらせするような理由も・・・」

 

「なら・・・嫌がらせじゃねーんだろ。

心当たりがある。

あとで確認しとくさ。」

 

メアリーは笑みを見せた。

 

「心当たり?」

 

「まさか、来栖の仇か?」

 

「仇?」

 

「たぶんな。

だが仇だったらアイツ1人で行かせるはずがねぇ。

たぶん傷がある、似た魔物だろう。」

 

「傷って・・・傷の魔物のことか?」

 

「なんだ誠。

オメー知ってたのか。」

 

「名前だけだがな。」

 

「傷の魔物を倒すために1人で戦おうとするかぎり・・・今がテッペンだな。」

 

「だが、傷の魔物を倒してしまえば・・・来栖に戦う理由がなくなる。

もともと、戦場に身を投じるのに向かない性格だ。

目的を遂げたら、精鋭部隊を抜けるかもな。」

 

エレンの言葉を聞いて、メアリーは再び笑みを見せた。

 

「アイツにゃそれなりに手間と時間をかけてんだ。

そんなナメたことさせるかっつーの。」

 

誠は2人の会話を聞いて頭を掻いた。

 

「傷の魔物ねぇ・・・自分なりに少し調べてみるかな。」

 

誠はその場を後にした。

 

   ***

 

良介と焔はクエスト発令場所の洞窟にやってきた。

 

「いよいよあんたとクエストかよ。」

 

「やたらと嫌そうだな。

希望したんじゃないのか?」

 

「希望なんかしてねぇ。

勝手に組まれたんだ。

相性がいいのになんでクエストでてねーんだだとよ。」

 

「そんなこと言われてもなぁ・・・」

 

「さっさと終わらそう。

人の予定を無視してねじ込みやがって。

精鋭部隊が下部組織だからって好き勝手命令してきやがるんだよ。

強制だからな。

クソメンドクセェ・・・」

 

焔の言葉を聞いて、良介はため息をついた。

 

「そこまで言うなら精鋭部隊辞めたらどうだ?」

 

「精鋭部隊をやめる気はねぇよ。」

 

「理由は?」

 

「レベルが高い魔物と戦うには精鋭部隊がいいんだ。

めんどくさくてもな。

一般生徒に回るのは本当に弱い奴らだ。

一般生徒じゃ対処できない魔物は精鋭部隊に。

それでもダメだったら・・・」

 

「生徒会か。」

 

「だけど生徒会は入らねぇよ。

クエストに出る頻度が少ねぇ。

事務仕事が多すぎるし、なにより・・・」

 

「なにより?」

 

すると、焔はハッとした。

 

「なんでもねぇ!

なんであんたにこんな話しなきゃなんねえんだ!

黙ってついてこい!」

 

「へいへい、わかったよ。」

 

良介は焔の後をついて行った。

 

   ***

 

同時刻、生徒会室。

虎千代とチトセの2人が椅子に座り話していた。

 

「今日はよっぽどの用がない限り、学園内か寮に待機だ。

窮屈だろうが、侵攻が起きるとなれば、耐えてもらわなければ。

お前を呼んだ理由はわかっているか?」

 

「今日、裏世界で第8次侵攻が起きた日だから。

そして、私が第8次侵攻は起きないと言っているから・・・でしょう?」

 

「そうだ。

念のため、根拠を聞いておこうと思ってな。」

 

「現状ではループ、もしくは時間が経っていないという根拠・・・それは風槍さんだけに委ねられている。

彼女の目だけが頼りでは心もとない。

私の想像は、あくまで想像。

戦う準備はしているわ。

それは心配しないで。」

 

「お前と東雲を、服部に探らせた。」

 

チトセは虎千代を睨んだ。

 

「悪いな。

同じ生徒会といえど・・・やることはやる。」

 

「ただ驚くだけの会長ではなかったのね・・・いえ、ごめんなさい。

私と、なぜ東雲さんを?」

 

「2人とも、今起きている現象に共通の見解を持っているようだからな。

時間停止の魔法が、東雲にはかけられている。

東雲の時間は進まず、霧に侵食されていながら症状が進行しない。

300年生きているというのもあながちデマカセではないということか。」

 

「彼女は実際に300年生きてるわ。

アイラ・ブリードの魔導書・・・あれは彼女が書いたもの。」

 

虎千代は少し沈黙した。

 

「単刀直入に聞く。

お前たちが予想しているのはこの世界に・・・時間停止の魔法がかけられている。

そうだな?」

 

「ええ。

おそらく・・・東雲さんも、同じ見解だと思うわ。

時間停止はとても都合の良い魔法・・・といより・・・魔法はあらゆることが可能。

命令式さえ見つけてしまえばね。

もともとは、霧が東雲さんの体を侵食する・・・それを止めるための魔法だった。

彼女が死ななくなったのは、副作用みたいなものよ。

アイザック・ニュートンが見つけた時間停止の魔法。

その効果はかけた時の状態を維持すること。

それにより、東雲さんはどれだけ体が破壊されたとしても・・・数分後には元通り。

魔力がなくなったとしても、数分後には元通り。」

 

虎千代は少しの間黙って聞いていた。

 

「無敵、か。

確かに都合のいい魔法だ。」

 

「外から見ればね。

本人にとっては生き地獄よ。

でも・・・この魔法の都合のいい所は、もっと別にあるわ。」

 

チトセはそのまま続けた。

 

「霧の侵食を止めるのが目的だったと言ったわね。

つまり、東雲さんが霧に侵食されて魔物になってしまわないようにする・・・この魔法の基本概念は来たるべき未来に到達しないことなの。」

 

「ふむ。

わかってきたぞ。

それが世界全体にかかっているのであれば、術者の目的は・・・第8次侵攻で、人類が全滅するという未来に到達させないことか。」

 

「それ以外に、このタイミングで時間停止の魔法をかける意味がない。

けれど、この理屈はとても危ういの。

いくつものハードルを超える必要がある。」

 

「聞かせてくれ。

それで、誰が魔法をかけたかが絞り込めるかもしれん。」

 

「時間停止の魔法はアイザック以外に使えるものがいない。」

 

「冗談だろう?」

 

虎千代は驚いたが、チトセはそのまま続けた。

 

「それだけ複雑な術式だもの。

時間の流れを止める・・・なんて魔法・・・使いたがる危険な人が絶対いるでしょう?

だからアイザックは、その魔法の理論を残さなかった。」

 

「東雲 アイラはどうだ。

その魔法をかけられた側なんだろう?」

 

「彼女はアイザックとある約束をしたから・・・教えてもらっていないわ。」

 

「誰にも伝承されていない時間停止の魔法が、去年の段階で発動した。

なら術者はニュートンで決まりじゃないか。

ニュートンも時間停止の魔法で生きながらえている。

そう考えるのが自然だ。」

 

「そうね。

もしかしたら・・・東雲さんに知られず、生きているのかもしれない。

彼女はアイザックの死を、確かに見届けたけれど・・・それが偽装だった可能性。

でも、まだ足りないわ。」

 

「言ってみろ。」

 

「消費魔力よ。

これだけはね・・・東雲さん1人の時間を止めるため、東雲さんの魔力をほぼ使い切った。

宇宙全ての時間を止めるためには、どのくらいの魔力が必要だと思う?」

 

虎千代は不思議そうな顔をしていた。

 

「他人の魔力を使う技術があったのか?

あ、いや、いい。

あるが、容易に使えないんだろう。

だが、この学園にはそれを解決できるかもしれない男がいる・・・だろ?」

 

「秘匿されていた良介君の情報をどこから手に入れたと思う?」

 

「東雲とは考えづらいか。

もし東雲なら、もっと確信を持っているはずだ。

ただ、手がないわけじゃない。

相手がアイザック・ニュートンならな。」

 

「そう・・・アイザックが生きていて、どこからか良介君の情報を得て・・・彼の魔力を使って時間停止を発動した。

それが1番現実的・・・現実的なんだけど・・・ね・・・」

 

「アタシはお前に聞きたいことがあるんだが。

お前は・・・アイザック・ニュートンと東雲 アイラのことをよく知っているな。

まるで見てきたかのように。」

 

チトセは少し黙った。

 

「これから私が見せるもの・・・他言無用でお願い。

きっとこれを見れば・・・あなたも理解する。」

 

チトセは真剣な目で虎千代を見た。

 

   ***

 

洞窟内。

良介と焔は魔物のところへと向かっていた。

 

「よくクエストに出てるんだってな。

イヤでも噂を聞く。

なんか理由でもあんのか?

魔物と戦いたい理由。」

 

「俺はお前が戦う理由の方が気になるけどな。」

 

「アタシの理由がなんだっていいだろ。

・・・戦えるくらいの力がいる。

1人でタイコンデロガを倒せるくらいの力だ。

だから精鋭部隊から離れたりしねぇ。

しがみついてでもやってやる。

入学したときはさっぱりだったんだ。

6年かかってここまで強くなった・・・だから卒業まで、まだ伸びる。

卒業までにまだ強くなれる。」

 

すると、2人の目の前に魔物が現れた。

 

「まずはコイツだ。

請けたからにはきっちり燃やしてやる。

あんたは見ときな。

クエストの雑魚くらい、どうってことねぇよ。」

 

「そこまで言うのなら、高みの見物と行こうか。

安心しろ、やばくなったら助けてやるよ。」

 

「そんな必要はねぇ!」

 

焔は魔物に向かって行くと、魔物の攻撃をギリギリで躱し、死角に回り込むと火の魔法を撃った。

 

「くらえ!」

 

魔物は霧散した。

 

「やるな。」

 

良介が焔のところに来たが、焔は振り向きもせずに進んでいった。

 

「ほら、次行くぞ。」

 

「やれやれ、少しくらい愛想よくしたっていいのによ。」

 

良介は焔の後をついて行った。

 

   ***

 

結希の研究室。

心と結希が何か調べていた。

 

「傷の魔物、とはなんでしょうか。

確かに入手したデータには、左目に傷のある魔物がいました。

しかし魔物に傷がつくこと自体は・・・不思議なことではありません。」

 

「そう。

ミスティックは霧の集合体だけれど・・・実体化している状態で傷を負うと、消えるまでにそれなりの時間がかかるわ。

その変わり、それが傷だろうと欠損だろうと、完全に修復されるけれど。」

 

「人間と戦ったことのある魔物は数多い。

傷を負って逃げ出した魔物もいる。

その傷の魔物とは、なにか特別なのですか?」

 

「CMLでは【スカー】と呼ばれていたわ。

この魔物の特徴は、必ず左目に傷があること。」

 

「必ず・・・?

あっ・・・」

 

心は何かに気がついた。

 

「そう。

これらのデータは適当に集められたわけではないわ。

実体化の時点で、最初から、左目に傷がついている・・・と思われる魔物。

それを集めているの。」

 

「魔物が生まれながらに傷を持つこと・・・それもやはり、珍しくない・・・魔物は失敗作・・・この世のものを真似て、失敗した不完全な形をとります。」

 

「不完全ゆえに、彼らは形に縛られないの。

では、なぜわざわざ左目に傷がついているのかしら。

ただの傷じゃない。

世界のいろんな場所で左目に傷がついた魔物・・・それが年間数匹、生まれている。」

 

「なるほど。

魔物がどのようなプロセスで生まれるかわかりませんが・・・傷の位置がランダムだとしたら、ちょうど左目につく確率は・・・相当低いですね。

しかも左目ということは、視力を持つように生まれたのに・・・わざわざ傷を作ることで、それを潰している。

意味不明です。」

 

「霧はもしかしたら記憶を持っているのかもしれない。

霧が払われて粒子となった状態でも、その記憶が保持され・・・次の魔物が形作られるとしたら、魔物が年々強くなる理由もわかる。」

 

「魔物は学習している・・・ですね?」

 

「そう。

同じ位置に傷がある魔物群は、その仮説を証明するかもしれない。

しかも素直に考えればありえない、自分を不利にする特徴をわざわざ選ぶ・・・だからスカーは特別なのよ。

外見にとらわれないはずの魔物に見られる、不思議な共通点。

ただ・・・それが来栖さんとも関係しているなんて皮肉ね。」

 

2人は傷の魔物についてさらに調べることにした。



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第90話 鬼の居ぬ間に

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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洞窟内、良介と焔は次の魔物のところへと向かっていた。

 

「ふぅっ・・・いって・・・」

 

突然焔は右腕を押さえた。

 

「どうした?」

 

「なんでもねぇよ。

ただのかすり傷だ。」

 

「さっきギリギリで避けた時に受けたんだな。

ったく、仕方ねぇな。」

 

「あんたに心配されるほど弱くねぇや・・・お、おい、なにすんだよ!」

 

良介は懐から包帯と消毒液を取り出すと焔の右腕を治療し始めた。

 

「はぁ?

あ、あんた、手当て誰に習ったんだ・・・」

 

「ゆかりさんからだよ。

俺もよくケガするからな。

自分で治療できるようにってことで習ったんだ。」

 

「かすり傷だっつってんだろ・・・勝手にしろ・・・このくらいのケガ、精鋭部隊じゃいつものことなんだ。

慣れてる。」

 

「傷が残ったらどうするんだ?」

 

「傷が残ることなんか気にしてどうすんだよ。

そんな生易しいもんじゃねぇだろ。

相手は霧の魔物だぞ。

見た目を気にして戦える余裕なんてねぇだろうが。

そんな甘ったれた考えしてると、いつまでたっても強くなれねぇ・・・そうだろ?」

 

「ま、確かにそうだな。

けど、最低でもある程度の治療はしておいた方がいいぞ。」

 

「チッ・・・」

 

焔が舌打ちすると同時に良介の治療は完了した。

と、2人の目の前に魔物が現れた。

 

「おっと、向こうの方から来てくれたか。」

 

「あんたは下がってろ。

こいつも・・・」

 

「俺がやる。

お前が下がってろ。」

 

「なっ・・・!?

ふざけんな!

こいつもアタシが・・・!」

 

良介は焔の言葉には耳を傾けず、魔物に向かっていった。

良介は剣を抜くと、剣に光の魔法をかけ、下から剣を振り上げて斬撃を飛ばした。

斬撃が魔物に直撃すると、突然拘束魔法に変化し、魔物を拘束した。

 

「はぁっ!」

 

そのまま良介は剣で魔物を横に真っ二つに切り裂いた。

切り裂かれた魔物は霧散した。

 

「よし、次行くか。」

 

良介がそう言うと、焔は見向きもせずに黙って先に歩いて行った。

 

「ったく、返事ぐらいしろよな・・・」

 

良介は剣を鞘に直しながら焔の後を追いかけた。

 

   ***

 

夜になった学園の噴水前。

誠が歩いていると小蓮と明鈴が話していた。

 

「万姫からメッセージ?」

 

「こっちは自分がいるから心配する必要なしネ。」

 

「なに言ってるアル。

別に万姫がいるから安心してるわけじゃないのだ。

明露はすごくたくさん人がいるから、侵攻が来てもへっちゃらアル。」

 

「万姫って・・・あの始祖十家の周 万姫か?」

 

誠は2人の会話を聞いて混ざってきた。

 

「あ、誠。

その通りアル。」

 

「今ちょうど万姫と会話してたとこネ。」

 

「始祖十家と知り合いって・・・」

 

2人はそのまま会話を続けた。

 

「あと文句が来てるネ。

こっちに魔物よこす気かって。」

 

「魔物よこす・・・?

どういうことなのだ?」

 

「ワタシにわかるわけないネ。

だから今、聞き返してるヨ。」

 

すると、小蓮のデバイスが鳴った。

 

「お、来た来た。」

 

2人はデバイスの内容を見た。

誠も覗き込むように小蓮のデバイスを見た。

その頃、調理室。

花梨とましろがいた。

 

「とりあえず、侵攻が始まった場合に備えてチェックしとくすけ。

悪ぃけんど、協力してけろじゃ。」

 

「ええ、もちろん。

いつもおいしい食事、いただいてますから。」

 

「かりーん!」

 

すると、小蓮の声が聞こえてきた。

 

「マシローっ!」

 

「うおーんっ!」

 

小蓮と明鈴と誠とレナの4人が調理室に入ってきた。

 

「これホントカ!?」

 

「北海道アル!?」

 

「にく!

にく!」

 

「あれ?

レナ、いつの間についてきたんだ?」

 

誠がレナの頭を撫でた。

 

「にくくう!

オマエラ、いく、かりん、にくある!」

 

「俺たちまで腹ペコにしないでくれ。」

 

誠は苦笑した。

 

「うるさいぞーっ。

廊下は走るなって言ったべ?」

 

「あ、マシロいたアル!

万姫が北海道って言ってるアル!」

 

ましろは少し黙った。

 

「北海道、でっかいどう・・・フフフ・・・」

 

「ましろさん、寒いこと言ってないでこれを見てくれ。」

 

そう言うと、誠は小蓮のデバイスを渡した。

 

「あ!

誠、いつの間に取ったのヨ!」

 

「さっきすれ違った時に取ってたアル。」

 

「はいはい、拝見しますよ・・・はいけい・・・っ!?」

 

ましろはデバイスの内容を見て驚いた。

 

「なんだぁ?」

 

花梨もデバイスを見た。

 

「日本が北海道を取り返すらしい。」

 

「はぁ?」

 

花梨は誠の言葉を聞いて首を傾げた。

 

   ***

 

洞窟内の良介と焔は次の魔物のところに向かっていた。

 

「焔、休憩するか?」

 

「休憩なんかいらねぇっつってんだろ!

さっさとやって、終わらせたいんだよ!

ったく、どいつもこいつも・・・指図すんのはエレンだけで十分だ!

そんなにアタシが弱く見えるかよ!

バカにしやがって!」

 

「ああ、俺に比べれば弱いな。」

 

「チクショウ・・・生天目くらい強けりゃ、こんな思いしなくて済むんだ・・・!」

 

すると、焔は1人で進み始めた。

 

「1人で行く。

ついてくんな。

こんなクエスト、1人でやれなきゃダメだ。

2人以上で受注とか関係ねぇ。

アタシができるかどうかだ。

この程度の魔物で躓いてたら・・・仇討ちなんて夢のまた夢だ。」

 

「おい、待て。」

 

「助けなんていらねぇ!

放っとけ!

アタシがどうなっても、あんたには関係ねぇだろ・・・っ!?

し、しまっ・・・」

 

突然、目の前に魔物が現れ、焔に突進してきた。

 

「ったく、しゃあねぇな!」

 

良介は第1封印を解放し、光の肉体強化をかけ、一瞬で焔の前に移動した。

そして、魔物を片手で軽々と受け止めると、魔物に強烈なアッパーを食らわせた。

魔物は洞窟の天井に叩きつけられると霧散した。

 

「ふぅ・・・」

 

良介は元に戻ると、両手で服を軽く払いながら、一息ついた。

 

   ***

 

魔物を倒し終えた良介は焔の方を向いた。

 

「礼は言わねぇぞ。

頼んでねぇし。」

 

「そうかい。」

 

「クソ、なんで助けたんだ。

放っときゃそれでよかっただろ。

会話はログにとられてる。

あんたがどうこうなるわけじゃねぇ。

なんで助けたんだよ・・・1人で強くなれるわけねぇってのかよ・・・」

 

「俺に言われても困るんだがな。」

 

「悪かった。

あんたにはいうことじゃねぇな・・・わかってんだ、ホントは。

魔法使い1人の力はたかが知れてる・・・生天目や生徒会長、あんたや新海の奴は例外だって。

天才でもなんでもねぇアタシは、エレンたちの言うように数を揃えるしかねぇ。」

 

「普通はそうだろ。」

 

「ずっと1人で訓練してたんだ。

それが役にたたねぇって言われたら・・・ムカツクだろうが。

で、意地になってんのが今のアタシだ。

笑いたきゃ笑え。」

 

「いや、笑わねぇよ。」

 

「あんた、お人好しすぎるぜ・・・とにかく、討伐対象は倒した・・・帰ろう。」

 

「俺も・・・1人でガムシャラになってた時があったから笑えないよ。」

 

「え・・・?」

 

焔は驚いた顔で良介を見た。

 

「1人でガムシャラになりすぎて、倒れるはめになったしな。」

 

「倒れた・・・?」

 

「ああ、クエスト行って、戻ってきて即1人で訓練。

また、クエスト行ってはのその繰り返しだ。

おかげで他人に迷惑をかけるはめになった。

そして1人でやれることに限界があると初めて知ったよ。

ちょうど第7次侵攻が起きる手前あたりだ。」

 

焔は良介を黙って見ていた。

 

「今のお前を見てると・・・その時の俺を思い出すよ。」

 

そういうと、良介は先に洞窟の出口に向かった。

 

「何してるんだ、早く行くぞ。」

 

「え、あ、あぁ・・・」

 

立ち尽くしていた焔は、良介を追いかけていった。

 

   ***

 

学園に戻ってきた良介と焔は食堂に来ていた。

 

「クエスト中にメアリーからメッセージがあった。

アタシたちが行ってたあたりで、ちょうど傷の魔物の出現報告があった・・・」

 

「ほう、傷の魔物か・・・」

 

良介は傷の魔物のことは、一応名前だけ知っていた。

 

「おかしいじゃねーか。

あの執行部が、アタシの仇討をサポートするはずがねぇ。

クソッ!

結局あっち行ったりこっち行ったり、夜までかかった!」

 

良介は食堂の定食の味噌汁を啜りながら時間を確認した。

ちなみに良介は普段、自室で晩御飯を作っているがこの日は時間がなかったため食堂で食べていた。

 

「今は8時か。

裏世界での侵攻発生時間は過ぎてるな。

後は4時間待てば、侵攻は回避されたことになる。」

 

「だろうな。

しばらくは厳戒態勢が続くだろう。

アタシはもう行くぜ。

精鋭部隊詰所で、4時間待つつもりだ。」

 

「そうかい。

俺も後4時間は学園内をうろつくつもりだ。」

 

焔は席を立ったが、何かを思い出したかのように良介の方を向いた。

 

「さっきは・・・」

 

「ん?」

 

「いや、なんでもない。

じゃあな。」

 

焔は精鋭部隊詰所に向かった。

良介も食堂から出ると、少し学園内をうろついた後、噴水前のベンチに座っていた誠と合流した。

 

「よう、良介。

戻ってきたんだな。」

 

「ああ、それで、時間は?」

 

「あと5分だ。」

 

良介はデバイスで時間を確認した。

 

「これで来なかったら、俺たちの歴史は裏世界と決裂することになる。」

 

「その後はどうするのかねぇ・・・」

 

「さぁな、それは生徒会が決めることだ。」

 

良介はデバイスで時間を見ていた。

 

「残り5秒・・・」

 

そうして、日付が変わった。

良介はデバイスをズボンのポケットに入れた。

 

「帰るか。

もしかたらすぐに何かあるかもしれない。」

 

「そうだな、そのために帰って寝るか。」

 

良介と誠は男子寮へと戻っていった。



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第91話 第3回裏世界探索

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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校門前、虎千代と兎ノ助が話していた。

 

「まずは第8次侵攻が来なくてよかった・・・けど、すぐさま出る必要あんのか?」

 

「軍備は1日経つごとに金を食う。

もともと、第8次侵攻が起きない場合は・・・すぐに、用意していた国軍、JGJ傭兵部隊と共に裏世界へ行く計画だ。」

 

「なるほどなぁ。

国軍もJGJも、裏世界には興味を持ってる。

決定的証拠がないまま軍事増強してくれたのもそれが理由か。」

 

「ああ。

少し騒がしくなるが、頼んだ。

薫子たちと服部を置いていく。

念のため、警戒は続けてくれ。

9月27日を過ぎた以上、問題はないはずだ・・・が、ゼロじゃないからな。」

 

「え?

お前も行くの?

会長が?」

 

「今回はワケありでな。

つかさも、朱鷺坂も、東雲も連れていく。

精鋭部隊と、あとは良介と誠もだ。」

 

「ま、マジか。

なんだっけ、結希を探しに行くんだっけか?」

 

「そうだ。

2月に裏世界に行った際、ドローンを打ち上げた。」

 

「結希と天が地形を把握するために使ったヤツのことか?」

 

「ああ。

そいつがしばらく、向こうの捜索をしてくれてな。

東の方に、見慣れないビルが建っていた。」

 

「それは・・・こっちにはない建物ってことか?」

 

「そうだ。

破壊されつくした裏世界で、植物に埋もれながらも形を残した・・・住居たりうる建物だ。

裏世界の遊佐の情報が決め手になった。

その建物はゲネシスタワーという。」

 

「ゲネシスタワー・・・仰々しい名前だな。」

 

「国軍の建てた、人類の最終防衛拠点だ。」

 

「えっ?」

 

兎ノ助は虎千代の言葉を聞いて驚いた。

 

「第8次侵攻後、再起をはかった国軍は、戦力をそのタワー周辺に集めた。

おそらくは・・・宍戸 結希も。」

 

「それが、鳴子の情報に?」

 

「全て書かれていた。

宍戸がいるか確証はないが・・・もはやそこ以外に、安全に暮らせるところはないということだ。」

 

「だから、アイラやチトセ、良介や誠を連れていくのか。」

 

「そうだ。

ゲネシスタワーには宍戸以外にも生存者がいる可能性がある。

可能ならば・・・そこの人間全員を、表世界に連れてくるぞ。」

 

虎千代はゲートがあるところへと向かった。

 

   ***

 

裏世界、グリモアの生徒たちはゲネシスタワーの近くまで来ていた。

良介たちはゲネシスタワーへと繋がる道を歩いていた。

 

「しかし朱鷺坂の奴め。

妾を強引に連れてきおって・・・前から思うとったが、ヤツはなにがやりたいんじゃ?」

 

つかさはアイラを見つめた。

 

「まさか貴様、気づいていなかったのか。」

 

「なにをじゃ。

お主、ヤツの目的を知っとるのか。」

 

「いいや。

私の知っていることはもっと別だが・・・ククク、貴様も意外と抜けているんだな。」

 

「はぁ?

お、お主、急になにを・・・」

 

「生天目、そのことを誰かから聞いたのか?」

 

虎千代はつかさに尋ねた。

 

「なぜだ。

戦ってみればすぐにわかるではないか。」

 

「お前、いつ朱鷺坂と・・・ああ・・・最初にここを訪れたときか。

気づいていたならもっと早く言え。」

 

「まるで同じなのに、貴様も気付かなかったのか?

フン、呆れたものだ・・・」

 

「ええい、生天目までバカにしおって!

早う言わんか!」

 

「せっかくの機会だ。

自分で考えてみろ。」

 

つかさは先に行ってしまった。

 

「お、おのれ!

ヤツにバカにされるのがこんなにも歯がゆいとは・・・!」

 

「東雲。

朱鷺坂がお前に頼んだんだな。

この捜索に参加するようにと。」

 

「ああん?

そうじゃよ。

なんじゃ、お主もなんか知っとるんか。」

 

虎千代は少し黙った。

 

「そうか、なら・・・全て話すつもりか。」

 

「おい、お主、ヤツから聞いておるのか。」

 

「全て、聞いた。

アタシに話したのは、心に区切りを付けるためか・・・?」

 

「じゃからなぜ言わん!

そこまで引っ張ったんじゃ、言えっつの!」

 

「おそらくアタシから言っていいことじゃない。

朱鷺坂が自分で伝えなければならないことだろう。」

 

「なぜじゃ。

妾とあやつに関係しとる・・・アイザックのことか?」

 

「それもあるかもしれん。

とにかく、タワーを目指そう。

アタシたちの目的は宍戸だ。

それを忘れるな。」

 

「けーっ。

どいつもこいつも。

妾をのけ者にしおって。」

 

「東雲センパイ!

僕も皆さんがなにを言ってるかわかりません!」

 

真理佳が話に混ざってきた。

 

「よーしよし、お主は妾の味方じゃな!

さすが下僕2号!」

 

「下僕・・・2号?」

 

「1号は良介。

じゃから2号じゃ。」

 

「いつ俺がアイラの下僕になったんだよ・・・」

 

「それで、良介、お主はなにか知っとるか?」

 

「・・・さあな。」

 

「その様子・・・知っとるようじゃな。

妾の下僕のくせに生意気な。」

 

「良介、知ってるのか?」

 

誠が良介に尋ねた。

 

「話とかしてたら雰囲気的になんとなく、な。」

 

「なら、3号、お主はどうじゃ。」

 

アイラは誠を指差した。

 

「え、俺、3号なの?」

 

誠は呆れた顔でアイラを見た。

 

「それで、どうなんじゃ?」

 

「悪いけど、俺も・・・」

 

「なんで、お主まで・・・!」

 

「誠、どうやって知ったんだ?」

 

「俺も話とかする機会が多くてさ。

そのときにもしかして・・・って思ってさ。」

 

「その感じだと本人には聞いてないみたいだな。」

 

「いや、聞いちゃまずいかなって・・・」

 

話をする2人を睨んでいたアイラに虎千代が話しかけた。

 

「東雲。

悪いが円野を借りるぞ。

円野。

お前はこのパーティでは機動力に優れている。

ひとっ走り、タワーまで行ってくれ。

まずあそこに人の気配がするか、確かめて欲しい。」

 

「は、はい!

僕1人でですか?」

 

「むこうのチームからも1人出る。

この途上になにか無いか・・・終点のタワーになにか無いか、チェックしてくれ。」

 

「了解しました!

すぐに行きます!」

 

真理佳は虎千代の指差した方向へと走っていった。

 

「へぇ、あいつしばらく見ないうちに動き変わったな。」

 

良介は真理佳の動きを見て感心した。

 

「アレで実戦を積めば、まだまだ伸びるぞ。」

 

アイラは笑みを浮かべた。

 

「ああ、だが・・・裏世界はなにが起きるかわからん。

まずは様子見からだな。

成長は表のほうでしてもらおう。」

 

虎千代は真理佳の後姿を見ていた。

 

   ***

 

鳴子はデバイスで良介たちの会話を聞いていた。

 

「生天目君と良介君と誠君が気づいていたとはね・・・しかし、そうなると・・・風槍君はなぜなにも言わなかった?

そういう機会がなかったのかな。」

 

「会長パーティの話、なんのことなんだ?

みんな、なんか深刻そうに話してるけど。」

 

望が鳴子に話しかけてきた。

 

「どうやら会長は状況を把握しているらしい。

答え合わせも近いと言ったところか。

僕の推測が正しければいいけど。」

 

「えっと、それって、わたしたちも聞いていい物なんでしょうか?」

 

智花が鳴子に聞いてきた。

 

「もちろんだ。

僕たちはパーティの状況を把握しておかなくちゃいけない。

デバイスからもたらされた情報・・・決して聞き逃さないように。」

 

「は、はい・・・」

 

「ちょっと推理してみるか。

これでもボク、人狼ゲームは得意なんだ。

さっきの会話から、朱鷺坂が話すことは、結構重要なことらしい。

わざわざ東雲を連れてきたと言うことは、ヤツに関係がある。」

 

「2人の共通点はなんだい?」

 

「どっちも偽名を使っていることと、魔法が強いってことかな。」

 

「東雲君が偽名?」

 

「だってアイツ、本当に300年生きてるんだろ?

江戸時代にそんなハイカラな名前のヤツがいるかよ。」

 

「そっちが嘘だとは?」

 

「思えないね。

ボクは定期的に宍戸の検査を受けてるんだけど・・・宍戸が、東雲のことを300年生きているって前提で扱ってるから。」

 

鳴子は黙って話を聞いていた。

 

「後は、さっき言ってたアイザック・・・アシモフ?

ニュートン?」

 

「ニュートンだよ。」

 

「ニュートンはなんだったっけ。

魔法の・・・研究で、なんとかかんとか。

そうだ・・・アルテフィウスの秘本だったかな。」

 

「妙に詳しいね。

正直、驚いてるよ。」

 

「文明を育てるゲームのこと、知ってる?

下手な授業より歴史わかるよ。

アルテフィウスの秘本は、ニュートンが残した魔導書だ。

ボクは中身まで知らないけれど、当時としては先進的なことが書かれていたはず。

後は、生天目の言ってた戦ってみれば一目瞭然・・・戦闘スタイルのことかな?

コンパチキャラ?」

 

望はデバイスを取り出した。

 

「これが朱鷺坂の戦闘データで・・・」

 

「(驚いたな・・・発想が恐ろしく柔軟だ)」

 

「あーっ!

ま、マジか!」

 

智花は少し離れたところで2人の会話を聞いていた。

 

「なんか、難しい話してるなぁ・・・」

 

智花は周りを見渡した。

 

「なんだろう・・・前に来たときも思ったけど・・・ここ・・・とっても・・・」

 

「とっても、なに?」

 

智花の後ろにいつの間にか鳴子が立っていた。

 

「ひゃっ!

あ、あの・・・なな、なんでもありません!」

 

「南君。

悪夢についてだが・・・夏海に悪意はないと言っておく。

誤解しないでくれ。

君を心配してのことだ。」

 

「あ、はい。

それは大丈夫です。

夏海ちゃん、悪い子じゃないですから。

ちょっと・・・やんちゃですけどね。」

 

「うん。

ところでさっきのとってもって、なんだい?」

 

「特別な理由があるわけじゃないんです。

なんとなく・・・なんとなく、この裏世界・・・見覚えがあるような・・・」

 

「そりゃ、表世界と基本的には同じ場所だ。」

 

「いえ、そうじゃなくて・・・そうじゃないんです。」

 

鳴子は少しの間、黙って智花を見つめた。

 

「裏世界はどこでも代わり映えしない廃墟だ。

2月に来たときの光景が目に焼き付いてるだけだろう。」

 

「そうかも・・・しれないんですけど・・・」

 

鳴子は深刻そうな顔をしている智花を黙って見ていた。



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第92話 希望と理想の幻想郷

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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良介たちはゲネシスタワーへ続く道にいた。

 

「しかしゲネシスタワー・・・ゲネシスとはまた・・・良介。

ゲネシスの意味は知っとるか?

ジェネシスともいうがな。」

 

アイラは良介に聞いてきた。

 

「起源とか始まりとか、創世のことだな。

魔物に負けた人類がまた世界を作るために建てたってことか。

新しく世界を作るために。」

 

「悪くない話じゃないか。

少なくともタワーが建てられた時・・・まだ魔物を倒そうとしていたんだろ?」

 

虎千代は感心した。

 

「前向きにはな。

じゃが、こういう見方はどうじゃ。

日本は創世という言葉を使わねばならぬほどに、やられてしまった。

日本には文明がほとんど残っていない・・・というのはどうじゃ?」

 

「JGJの残党・・・が、風飛の街にいた。

人間は絶滅していない。

アタシはそれを信じる。」

 

「前向きなヤツめ・・・おおい、朱鷺坂。」

 

アイラはチトセを呼ぶと、すぐにチトセがやってきた。

 

「なあに?

なにかわかった?」

 

「お主はこの時代よりさらに未来から来たんじゃろ。

そのころの地球はどうじゃ。

創世はできておらんようじゃが。」

 

「ええ、できていないわ・・・この時期は、まだ思ったより人がいるはず・・・そこからさらに減って、絶滅寸前にあるのが私がいた時代よ。

希望を胸に抱く者にとっては、生きづらい世界。」

 

「どうしても魔物に勝てないからか?」

 

良介はチトセに聞いた。

 

「それもあるけど、周りの人間が希望を諦めているのが大きいわね。

戦う者、イコール希望を抱く者は・・・孤独な戦いを強いられていたわ。」

 

良介たちは黙ってチトセの話を聞いていた。

 

「お前もその1人だったんだろ?

だから表世界に、俺たちの時代に来たんだろ?」

 

良介の言葉にチトセは顔を横に振った。

 

「そこははっきりさせておきたいけど・・・違うわ。

私は希望を諦めた。

だからゲートに飛び込んだの。

せめて魔物の本拠地がどうなっているかを知りたかった。

あなたたちの時代にたどり着いたのは、ただの偶然。」

 

「そうか。

裏世界ではゲートが世界をつなぐものとわかっておらんのか。」

 

「魔物の本拠地へ続く道だという認識だったわ。」

 

「表に仲間を連れてこようとは思わなかったのか?

どのゲートを通ったか知らんが、帰ることもできたじゃろ。」

 

「ゲートの側には、基本的に恐ろしい強さの魔物がいる。

霧がもっとも集まる場所だからね。

私も逃げるので精一杯だったわ。

私が使ったゲートは南極のもの。

越えてからは1度も戻っていない。

それに私には、ともに戦う仲間はいなかったし・・・みんな死んだわ。」

 

チトセの言葉にアイラは反応した。

 

「それよ。

聞いておきたかったんじゃがな。

妾はおらんのか。」

 

「あなたが?」

 

「そうじゃ。

妾は不死身ゆえ、お主の時代でも戦っておるはずじゃ。

そもそもお主、妾のことをよう知っとるじゃろ。

妾と知り合いのはずじゃ。

なのに妾を連れてこんのはおかしい。」

 

「そうかしら。」

 

「ようやっと頭が回り出したぞ。

そもそもお主、なぜ学園に詳しい?

グリモアは第8次侵攻で壊滅。

お主が生まれる前のことじゃ。

虎千代が霧に汚染されることをなぜ知っておった?

虎千代の生死は、お主の生きておった時代にはそんなに重要なことなのか?

それに、デクのブレイクスルーもある。

ブレイクスルーは50年前のこと。

ならばお主は現在、70歳ほど。」

 

チトセはアイラの言葉を黙って聞いていた。

 

「辻褄が合わんではないか。

他にゲートを通っていないならな。」

 

「東雲・・・」

 

アイラを見ていた虎千代のデバイスが突然鳴った。

 

「円野か。

今、どこにいる?」

 

「タワーに着きました。

今、位置情報からそっちを認識しています・・・あれ?」

 

「どうした。

異変か?」

 

「注意してください!

魔物の大群がそっちに向かっています!

今までどこにいたんだ・・・?

僕が通った時は静かだったのに!」

 

デバイスから聞こえてくる真理佳の声は明らかに困惑していた。

 

   ***

 

良介たちに大量の魔物が迫っていた。

 

「多いな。

それに、でかい。」

 

「ようやくおでましか。

まずは肩慣らしだ。」

 

つかさは魔物に向かっていった。

虎千代はデバイスを取り出すと連絡を取り始めた。

 

「エレン。

こちらに魔物が出現。

タイコンデロガ級が複数。

こちらは問題ないが、そちらはどうだ?」

 

「我々のほうは静かなものだ。

進軍続行する。」

 

「わかった。

念のため、円野をそちらに合流させる。」

 

「了解。

しかし・・・魔物はあなた方の進路にいるのだろう?

なぜ円野を襲わなかった?」

 

「さあな。

アタシは考えるのは苦手だ。

任せる。」

 

「了解。

幸運を祈る。」

 

虎千代はデバイスを直すと、良介の方を向いた。

 

「良介。

見えるな。

大きさはタイコンデロガ級。

数はたくさんだ。

お前は戦いながら全員に魔力をありったけ供給してくれ。」

 

「わかった。

結構長引きそうだな・・・」

 

良介は剣を抜くと、魔物に向かっていった。

その頃、チトセは魔物と戦っていた。

 

「なに、あの体。

ゴーレムのようだけど・・・違和感があるわね。」

 

チトセに続いて誠が拳銃で魔物を攻撃した。

 

「おいおい、破壊したところが再生してるぞ。」

 

誠はため息をついた。

 

「困ったわ。

倒すのに、通常のタイコンデロガの何倍もかかる・・・」

 

チトセもため息をついた。

 

「ぐぅっ・・・なんか気持ち悪い。

なんじゃあの魔物は!

ポチか!?

いや・・・ポチのようなもの・・・いや、もっと、知っとるぞ・・・あぁ~!

ここまで出とるのに!

なにかに似とるんじゃ!

なにかに!」

 

アイラは頭を抱えていた。

 

「戦う気がないなら失せろ!

邪魔だ!」

 

つかさはアイラに怒鳴った。

 

「うるさい!

考えねばならんことが多すぎるんじゃ!

お主もおかしいとは思わんのか!

体が再生する魔物がおるのか!

魔物は基本的に、長い時間をかけて霧を吸収せねば元に戻らんのじゃぞ!」

 

「知らん!

そういう魔物に今まで出会わなかっただけだろう!」

 

「ヤツらはただの魔物じゃないぞ!

どこまで削ればやれるのかわからん!」

 

「いつもと変わらないではないか。

ヤツらを再生できぬまで殺しつくすか、さもなくば死ぬかだ。」

 

「ああ言えばこう言うだな。」

 

良介は魔物を切りながら苦笑した。

 

「えいくそ!

倒したら霧散してしまう・・・が、仕方ない!

生天目!

1体だけ残せ!

いいな、1体だけじゃぞ!」

 

「そんな心配はいらん。」

 

「ちっとは言うこと聞けっちゅーの!」

 

すると、さらに大量の魔物がやってきた。

 

「まだ出るのか。

こりゃ面倒だな。」

 

良介は魔物を見てため息をついた。

 

「よかろう!

妾も久しぶりに本気をだしてやるぞ!

どっからでもかかってこい!

さっきいじめられてイライラしとる!

この鬱憤を貴様らで晴らしてやろうぞ!」

 

「よし、俺も少し全力で行くか!」

 

良介は第1封印を解放すると、魔物に向かっていった。

 

   ***

 

良介たちは魔物の群れと戦っていたが、魔物は次々と湧いて出てきていた。

 

「ふぅっ。

下がれ!

10メートル後退!

魔物を前方に集めろ!」

 

虎千代は指示を出した。

 

「違う!

南に集めろ!

そこからホワイトプラズマを撃てばタワーに当たるぞ!」

 

すぐに良介は注意した。

 

「む・・・そ、そうか。」

 

「それなら一網打尽にできるが、代償は大きいぞ。」

 

「構わん。

もう決定済みだ。

ホワイトプラズマで全滅するならよし。

仮に増援が現れたなら・・・作戦はここまでだ。

退却する。」

 

その頃、チトセと誠はつかさのところにやってきた。

 

「つかさ、北に回り込むぞ。」

 

「ちっ・・・」

 

「悔しがることはないわ。

ある意味で大規模侵攻より辛い戦い・・・南も、他の場所も、タイコンデロガがこんなに出るところはない。

この場所でなければ、あなたはどこでも戦えるわ。」

 

「今この場所を独力で乗り越えねば意味などない!

だが、いいだろう。

魔物を南に集める。」

 

「やけに聞き分けがいいな。」

 

つかさの対応に誠は驚いた。

 

「そもそも独力ではないのだから、意地もはらん。」

 

「あらあら・・・なにか、2月から、なにか心境の変化でもあったの?」

 

良介はアイラと行動していた。

 

「良介、合図したらヤツに魔力をありったけ注げ!

この辺ぶっ飛ばすぞ!」

 

「ああ、わかった。」

 

虎千代はホワイトプラズマを撃つ準備をしていた。

 

「よし、生天目!

朱鷺坂!

退避しろ!

タイコンデロガが何百体いようと蒸発させてやる!

消え去れ、化け物ども!」

 

虎千代はホワイトプラズマを撃つと、目の前にいた魔物の群れが全て消し飛んだ。

 

「ぐっ・・・!」

 

虎千代はその場に膝をついた。

 

「ハハハハ!

虎千代!

貴様、また威力を上げたな!」

 

つかさは嬉しそうに走ってきた。

 

「ば、バカ、触るな・・・いっ・・・」

 

「それより・・・むぅ・・・いかん、いかんぞ生徒会長。

ヤツラは塵と化したが・・・また新手じゃ。」

 

「くそ・・・よし、退却だ。

そろそろエレンたちが到着するだろう。」

 

すると、虎千代たちの上から光が出始めた。

 

「む?」

 

「な、なんだ?」

 

「ありゃ・・・良介か!?

あやつ何を・・・」

 

良介は空を飛びながら両手で光の球体を作っていた。

 

「みんな、伏せてろ!」

 

良介は作った球体を魔物の群れ目掛けて放った。

 

「ストナーサンシャイン!」

 

球体は魔物に直撃すると同時に大爆発を起こし、大量の魔物を消し飛ばした。

良介は地面に降りると、膝をつき、両手をついた。

 

「ぐぅっ・・・やっぱ・・・反動がすごいな・・・」

 

「フハハ!

お前もそのような魔法が使えるようになっていたとはな。」

 

「威力で言えばホワイトプラズマと同じくらいと言ったところか。」

 

「しかし、お主の奥義も結構な代償が付きまとうみたいじゃな。」

 

虎千代が足を引きずりながら良介に近づこうとした。

 

「良介、手を・・・」

 

良介は虎千代の手を取ろうとした。

と、虎千代は良介の背後に魔物が迫っていることに気づいた。

 

「良介、伏せろ!」

 

「え・・・しまっ・・・!」

 

「~~~っ!!」

 

すると、チトセは良介を突き飛ばした。

 

「朱鷺坂っ!!」

 

アイラの声がその場に響いた。

 

   ***

 

魔物の攻撃はチトセの腹部を貫いた。

 

「あのバカ野郎・・・!」

 

誠は双剣でチトセを魔物から切り離した。

 

「おい、朱鷺坂!

なぜ魔法を使わなかった!

魔法使いが肉体的に強いとはいえ・・・

タイコンデロガの攻撃をまともに食らうバカがあるか!

回復魔法をかけるぞ!」

 

アイラはチトセのところに駆け寄ると回復魔法を使おうとした。

だが、良介がアイラの手を掴んだ。

 

「魔法は使うな。

その方がわかるだろ。」

 

「愚か者が!

離せ!

こやつには聞かなければならんことがある!

死なせてたまるものか!」

 

「や、やっぱり、気づいていなかったのね。

なぜ?

まさか・・・薄々気づいてて、目をそらし続けていた?」

 

「ああ!?

なにをぶつくさ言っとるんじゃ!」

 

「大丈夫よ。

私は死なない・・・わかるでしょう?

時間停止の魔法がかかっているから・・・数分経てば、元に戻るわ。」

 

チトセの言葉を聞いてアイラは驚愕した。

 

「い・・・今、なんと言った・・・」

 

「良介君・・・あなたはわかっていたのでしょう?

私の正体・・・教えてあげて。」

 

「ああ、わかった。」

 

良介はアイラの顔を見た。

 

「アイラ・・・チトセはな・・・お前なんだ。

こいつも東雲 アイラなんだ。」

 

アイラは良介の言葉を聞いて固まった。

虎千代はチトセの傷が治ったのを確認した。

 

「朱鷺坂。

体は治ったな。

アレを見せてやれ。

アタシに見せた、アレだ。」

 

「ええ・・・東雲さん。

今から魔法を解くわ。」

 

すると、チトセの体が白く光った。

光が無くなるとその場にもう1人のアイラが立っていた。

 

「これで、どう・・・じゃ?

わかるか?

朱鷺坂 チトセは魔法で姿をごまかしておった東雲 アイラ・・・裏世界の、50年後よりゲートを通ってきた東雲 アイラじゃ。」

 

「あ・・・あ・・・な・・・なぜじゃ・・・なぜ・・・早う言わんかった。

なれば協力できた・・・」

 

「言うわけにはいかなかった。

本当は今でも、言わない方がいいと思ってる。

あなたが、絶望にたどり着いてしまうから。」

 

「なん・・・じゃと・・・」

 

「絶望ってどういうことだ?」

 

誠はチトセに聞いた。

 

「そ・・・そうじゃ。

やはりお主は嘘をついておる。

妾が・・・裏世界に妾がおって、表世界に来れるはずがないではないか!」

 

「ゲートを通ってきたんだ。

お前の力と不死身という特性を考えれば・・・不可能じゃないだろう。」

 

虎千代はアイラに話した。

 

「黙っておれ!

朱鷺坂 チトセ!

貴様が妾などとは信じんぞ!

妾が希望を諦めたなどと言うものか!」

 

「約束があるからな。」

 

「っ!!

そう・・・じゃ・・・アイザックと交わした約束がある・・・」

 

「魔物を全て討ち滅ぼし、自らの力で時間停止の魔法を解いた暁には・・・あの世で相まみえん。

そのときは世界を作った妾を褒めるがよい。

妾の命を救った、お主への礼じゃ。」

 

「あ・・・あ・・・あああああっ!」

 

「アタシは、難しい話は苦手でな。

良介。

わかるか。」

 

虎千代は良介に聞いた。

 

「アイラは、アイザック・ニュートンとさっきの約束を交わした。

つまり、魔物を倒すまで戦い続けるっていう業を背負ったってわけだ。

例えどれだけ時間が経とうと、1人になろうと・・・世界を救うその日まで、戦い続ける・・・戦い続けなきゃいけない。

だが、チトセは・・・裏世界のアイラは、世界を捨てた。」

 

「360年。

妾が戦い続けた時間じゃ。

これだけの時を費やしても無理じゃった。

妾1人では・・・世界は変わらんかったよ、東雲 アイラ。」

 

「やかましい!

聞く耳もたんわ!

妾の命はアイザックに救われた!

アイザックと約束をした!

自暴自棄になってゲートに飛び込むなど・・・許されることではない・・・」

 

すると、チトセの体が白く光ると、元のチトセの姿に変わっていた。

 

「裏世界は・・・救えなんだか・・・妾の力では・・・50年後に魔物がおったとしても・・・人類が絶滅寸前でも・・・妾が戦っておるという希望だけがあった。

魔物のおらん世界が、いずれ訪れると信じておったんじゃ・・・お主が表に来てしもうたら・・・妾が信じた理想郷は、ただの幻想じゃないか・・・」

 

「そう、幻想。

東雲 アイラ。

けれど、私はゲートを通った。

そこには表世界があって、私は再び希望を手に入れたわ。

過去の風飛を訪れたことで、表と裏の同一人物が会っても問題はない・・・」

 

その場にいる皆が黙ってチトセの話を聞いていた。

 

「なにも起きないことがわかった。

だから私は決断したわ。

あなたと手を組み、今度こそ世界を救う。

東雲 アイラが1人で無理でも、2人ならやれる。

裏世界だけでは無理でも、表と裏が力を合わせればやれる!」

 

「なん・・・なにを・・・」

 

「2人ずつだ。

東雲。

死ぬはずだった裏世界の人間を、全員こちらに集める。

それが朱鷺坂の目的だ。」

 

虎千代はアイラに話した。

 

「じゃが、ゲートは・・・この時代しか・・・それに、遊佐は死んでしまったではないか・・・」

 

「ゲートは8箇所存在する。

グリモアにある1つはこの13年後。

南極のゲートは私の時代。

残りの6箇所のゲートを渡り、その時代を確認する。

そして、そこに学園生や戦力となる人間がいるのなら・・・連れてくる。」

 

アイラはその話を黙って聞いていた。

 

「イヤじゃ・・・妾はもう・・・いい・・・帰る・・・帰って、寝るわ・・・」

 

ちょうどそのタイミングで真理佳がやってきた。

 

「センパイ!

皆さん!

脱出地点を確保・・・アレ?

東雲センパイ・・・」

 

「真理佳、疲れてるんだ。

支えてやってくれ。」

 

「あ、はい・・・東雲センパイ、大丈夫ですか・・・?」

 

良介の指示で真理佳はフラついているアイラを支えながら戻っていった。

 

「面倒なことになったな。

アイラがあんなにショックを受けるとはな・・・」

 

「魔物のいない世界を作れなかったことが・・・そこまでか・・・」

 

「いえ、まだ原因はある・・・裏と表が繋がっていて、霧が通り抜ける・・・霧は払うと移動する・・・つまり・・・」

 

「はぁ・・・」

 

良介はため息をついた。

 

「ゲートの存在を知った時から予想はしていたんだが・・・」

 

「ええ。

東雲 アイラが一番心をえぐられたこと、それは・・・自分が霧を払ったことで・・・裏世界に魔物を送っていたということ。

裏世界が滅んだのは、表世界が強くなったから。

表世界が多くの魔物を倒すことで、霧が裏世界に多く移動したから。

表世界を救うために、私が裏世界を犠牲にしようとしているから。」

 

良介と虎千代だ黙ってチトセの話を聞いていた。

 

「まさか、お前は・・・全ての霧を裏世界に送り込むつもりか?」

 

良介は頭を掻いた。

 

「こりゃあ・・・頭が痛くなる話な上に、嫌な予感がしてきやがった。」

 

良介は腕組みをして、空を見上げた。



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第5部 奪還
第93話 妖怪のしわざ?


※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


良介たちは温泉宿に来ていた。

良介は誠と浴衣姿で通路を歩いていた。

 

「温泉街で失踪事件か・・・」

 

良介は顎に手をやった。

 

「ああ、犯人がいるのか、魔物の仕業かわからないらしい。」

 

誠がタオルで濡れた髪を拭いていた。

 

「まぁ、どっちかわからない以上、どちらでも対応できる俺たちは適任だな。」

 

すると、良介は1つのドアの前で止まった。

 

「んあ、どうした?」

 

「いや、ちょうどよく香ノ葉たちの部屋の前に来たから顔出しとこうかと思って。」

 

「ああ、なるほど。

そうだな、顔出しとくか。」

 

良介はノックすると、ドアを開けた。

 

「よぉ、来たぞ。」

 

「やぁん!

だ、ダーリン!

直接部屋来てしもうたん!?」

 

「あら~!

良介さん、誠さん。

遊びに来てくれたんですか~?

散らかしちゃってるから片づけますねぇ。

もう、来るなら言ってくれれば・・・」

 

「チッ・・・こっそり抜け出して、2人っきりで行こうと思うとったのにぃ・・・」

 

香ノ葉は小さく舌打ちした。

 

「どうしたの?

香ノ葉ちゃん、出かけるの?

あ、そっか。

巡回!

巡回しなきゃよねぇ!

そうだそうだ~。」

 

「あ、そういやそうだったな。

すっかり忘れてたな。」

 

誠は巡回のことを思い出した。

 

「う、ウチらで行ってくるし、あやせはんは誠はんとゆっくりしとってくれても・・・」

 

「だめだめ~、そうもいかないでしょう?

お仕事で来てるんだし。

まかせて。

わたし、ウワサ話とか聞き出すの得意なの~。

もしかして・・・失踪事件の影に、すっごいスキャンダルとかあったりして。

うう、気になってきた・・・本当はどうなのかしら。

魔物?

痴情のもつれ?

いてもたってもいられないわ~。

良介さん、誠さん、行きましょ!」

 

「え、ちょ、ちょっと・・・」

 

「ま、待って、まだ髪が乾いてな・・・」

 

あやせは2人の手を引っ張って行ってしまった。

 

「あああっ、ちょっと、あやせはん、ずるい!

ウチが最初に・・・って待ってぇな!

ダーリンは連れてかんといてぇ!」

 

香ノ葉も3人の後を追いかけていった。

 

   ***

 

温泉街に来た良介たちは聞き込みをしていた。

街の人と話をしていたあやせが戻ってきた。

 

「どうだ?

結構話し込んでたみたいだが・・・」

 

良介はあやせに聞いた。

 

「郵便局の裏のお土産屋さんの、温泉卵がおいしいって~。」

 

「い、いや温泉卵とかじゃなくてな・・・失踪事件のこと聞いたんよね?」

 

香ノ葉があやせに聞いた。

 

「そうねえ。

失踪事件に関しては、あのおばあさんが・・・湯けむり妖怪にやられたんじゃ~って言ってたわねえ。

地元に伝わる伝説なんですって。

良介さん、誠さん、知ってました?

温泉に行くとよくありますよね、こういうの。」

 

「俺は聞いたことねえな。

良介、知ってるか。」

 

誠は首を傾げながら良介に聞いた。

 

「民話だな。

さっきあった看板に書いてあったんだが・・・人を憎んでばかりいると妖怪の湯気にまかれて消える・・・って話らしい。」

 

「ふーん。

神隠しみたいなモンかいな?

なんや、魔物のせいならウチらがいてこましたら済む話なんやけどな。」

 

「妖怪と魔物は違うんじゃないかしら~?

あっ、でも妖怪伝説って、なんだかロマンがあるわよねぇ♪

温泉街の悲劇!

不倫妻と裏切りの湯けむり妖怪伝説・・・みたいな!」

 

「それ、完全にさっきやってたテレビやろ?」

 

「ええ~、でも現実にも絶対あるわよ。

ストーカー監禁事件とか。

愛欲のもつれ!

街ごと巻き込んだ権力者の、後継争い!

うわぁ・・・怖いわねえ、手に汗握っちゃうわねえ・・・」

 

「とりあえず、あやせさん。

サスペンスドラマから離れようか。」

 

良介は苦笑いをした。

 

   ***

 

少し経って、良介たちは雑談していた。

 

「それで、その女性を好きな元夫が襲い掛かるわけなんですけど・・・監禁しちゃったんですよ。

さらになびかない彼女の爪を1本ずつ・・・」

 

「やーん、こわーい。

ダーリン、あやせはんが怖い話するぅ。」

 

「それでそれで、ここからが面白くって~。」

 

「やだやだぁ、聞きとうないんよ~!

ダーリン助けて!

ぎゅ~!」

 

香ノ葉は良介に抱きついた。

良介は無反応だった。

 

「その元夫が、相手の職場にメールを1000通送って・・・」

 

「えっ?

1000通って多いん?」

 

「すごい情熱ですよねえ。

愛と狂気ですよねえ。

本人は、自分では大変なことをしているってわからないんでしょうね。」

 

「そんな大変かなぁ?」

 

「ともかく、ストーカーはわたしたちの日常に潜んでいるんですよ。

昨日の友は今日の敵・・・今回の事件も、可能性としては考えておいた方が。」

 

ずっと黙っていた良介と誠が口を開いた。

 

「私怨とか人間関係のセンは捨てきれないな。」

 

「魔物が襲ったとかはなさそうだな。」

 

「ウチの精霊さん、魔物は特に見つけとらんのやけど・・・なんやちらほら、あやしい人影を感知しとるんよ。」

 

「精霊さん?」

 

あやせが首を傾げた。

 

「ん?

あ、えーと・・・ふふふ~。」

 

「香ノ葉ちゃんったら。

今、笑ってごまかそうと・・・」

 

「な、なにす・・・きゃあぁーっ!」

 

突然、悲鳴が聞こえてきた。

 

「今の悲鳴・・・あっちか!」

 

良介たちは悲鳴が聞こえてきた場所へ向かった。

すると、そこにエミリアが倒れていた。

 

「エミリア!」

 

良介はエミリアに駆け寄った。

 

「しっかりして!

エミリアちゃん・・・エミリアちゃーん!」

 

あやせの声がその場に響いた。

 

「ただ気絶してるだけなのに大げさすぎるだろ。」

 

良介はあやせを見て呆れた。

 

   ***

 

良介たちは起きたエミリアと話していた。

 

「で、すすき野原で転んだと?」

 

良介は頭を掻いた。

 

「は、はい・・・お恥ずかしいです。

すすきが見事だったので、少しはしゃぎすぎて転んじゃいました。

汚れてしまったので、この近くの温泉で洗っていこうと思ったら・・・」

 

「そしたら、何者かにエミリアちゃんが襲われた・・・ってこと!?」

 

「ええと、何者か、というか・・・」

 

「大事件やん!」

 

「え?」

 

香ノ葉の言葉を聞いてエミリアは啞然となった。

 

「そうね、これは大事件よ!

陰謀と愛情のサスペンスだわ・・・!」

 

「え?

陰謀って、え?」

 

「怖かったわねぇ、でも、わたしたちに任せて!

犯人をつきとめてみせるわ!」

 

「あぶないとこやったなぁ。

なんにせよ命があってよかったわ。」

 

「もしストーカーに捕まってたら、監禁されたうえにあんなことやこんなことや・・・あ、あまつさえ、そんなことまで・・・ううっ、エミリアちゃん!

助かってよかったわ、本当に!」

 

「・・・とりあえず、バカ2人は放っといて、話を・・・」

 

「あれ?

先輩、みなさんも。」

 

良介がエミリアに話を聞こうとしたところで秋穂がやってきた。

 

「秋穂か。

風呂に入ってきたのか?」

 

「はい、さっぱりしました。

これからさらちゃんと待ち合わせです!

巡回中なんですよね?

わたしたちも聞き込みがんばりますね。」

 

「ヘンな人がウロついているみたいだから、気をつけてね。」

 

「せやで。

さっきもエミリアちゃんが襲われてなぁ。」

 

「そうなんですか?

あっちのすすき野原のほうへ行こうと思うんですが・・・」

 

「エミリアが転んだところか。」

 

「ふあぁ、あ、あまり広めないでください!」

 

良介の発言にエミリアはあたふたした。

 

「あはは。

そうなんですか?

気をつけますね。

さっき通ったらけっこう賑やかみたいでしたし、大丈夫だと思います!」

 

「え?」

 

秋穂の言葉にエミリアは首を傾げた。

 

「そうか。

なにかあったらすぐに声を上げろよ。」

 

「はい!

行ってきます!」

 

良介に対して元気に返事すると、走っていった。

 

「元気だなぁ。」

 

誠は笑顔で秋穂の姿を見ていた。

 

「あの・・・すすき野原、さっき私行ってきたんですけど・・・」

 

「ん?」

 

「あそこ、賑やかどころか、誰もいなかったですよ・・・?」

 

「・・・は?」

 

エミリアの言葉に良介は固まった。

 

   ***

 

良介と誠は温泉宿に戻ってきた。

 

「ふぅ、歩き疲れたな。

休憩するか。」

 

「結局、妖怪の話しか聞けなかったな。」

 

すると、ゆかりと秋穂が戻ってきていた。

 

「あれ、ゆかりさんと秋穂?

さらはどうしたんだ?」

 

秋穂は落ち込んでいる様子だった。

 

「良介くん、誠くん!

どうしよう、さらちゃんが・・・」

 

「どうしたんだ、ゆかりさん。」

 

取り乱しているゆかりを誠は不思議そうに見ていた。

 

「約束した時間に帰ってこないの。

秋穂ちゃんと待ち合わせしてたみたいなんだけど・・・」

 

「さらちゃん・・・会えなかった・・・」

 

「おいおい、もう暗くなるぞ。

1人でウロついてたらダメだぞ。」

 

誠は外を見ながら言った。

 

「一応さらも魔法使いだし、シローも一緒だが・・・心配だな。

万が一ってこともあるしな・・・ん?」

 

突然、良介が何かに反応して後ろを振り向いた。

 

「誰だ、今そこにいたのは・・・」

 

「へ?

誰もいねぇけど・・・」

 

「そうか?

今、気配を感じたんだがな。」

 

「や、やめてよぅ・・・怖いこと言うの・・・」

 

ゆかりは良介の発言に怖がっていた。

 

「心配だな。

やっぱり俺たちでさらを探しに行くか。」

 

良介はそう言うと、外へと向かった。

 

「あ、良介くん。

まって、上着。

そろそろ冷えてくるから。」

 

ゆかりは上着を持って追いかけていった。

 

「良介の奴、今誰かいたって言ってたが・・・白藤じゃねぇのか?」

 

誠も外へと向かった。

 

「さらちゃん・・・湯けむり妖怪に、連れてかれちゃったの・・・?」

 

秋穂は外を見ながら言った。



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第94話 ストーカーの正体

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


良介たちは温泉宿に戻ってきていた。

 

「本当なんですか!?

さらちゃんが行方不明って・・・」

 

エミリアは良介から話を聞いて驚いた。

 

「ああ、そうだ。

で、今からもう一度探しに行こうかと思ってな。」

 

「さらちゃん誘拐されちゃったんですか?」

 

「まだそうと決まったわけじゃないんだけどね・・・」

 

「でも、その可能性は十分にあると思うんよ・・・ほら、ウチらが調査しとったんも失踪事件やん?

もし・・・さらちゃんが聞き込み中に犯人に出くわしたんやったら・・・」

 

「そんな・・・大事件じゃないですか!」

 

「そうなの!

あぁ、湯けむり妖怪の伝説が残るこの温泉街で・・・謎の連続失踪・・・これはもう、大事件なのよ~!」

 

「おい、まだ連れ去られたと決まったわけじゃ・・・」

 

エミリアは良介の話を聞かずに何か考え込んでいた。

 

「湯けむり妖怪・・・まさか・・・」

 

「エミリアちゃん、なにか心当たりがあるの?」

 

「私、聞いたことがあって、あんちん、きよ・・・ひこ?

っていう伝説なんですが。」

 

「アンチンキヨヒコ・・・誰やん?」

 

エミリアの話を聞いていた良介が口を開いた。

 

「安珍・清姫伝説のことか?」

 

すると、ずっと黙って様子を見ていた誠も話に混ざってきた。

 

「清姫って女が安珍って男に一目ぼれして告白したけど、安珍が嘘をついて逃げたことに清姫が激怒した結果、蛇になって安珍を襲ったって話か。」

 

「そう、それです!」

 

「どんな嘘をついたらそうなるんよ。」

 

「きっと、その人の怨念が・・・妖怪となって今でも愛する人を探して・・・」

 

「あやせさん・・・妖怪はサスペンスじゃないぞ。」

 

良介はため息をついた。

 

「うぅ・・・ごめんなさい。

わたしがしっかりしてたら・・・」

 

「大丈夫よ。

私達で見つけましょう!

湯けむり妖怪蛇女を!」

 

「もちろんです!

さらちゃんを助けないと!」

 

「わ、わたしも・・・絶対にさらちゃんを助けます!」

 

「早速、聞き込みよ!」

 

あやせたちは外へと出ていった。

 

「・・・良介、どうする?

なんか皆変なスイッチ入ったみたいだけど。」

 

「知らん。

俺たちは俺たちで普通に聞き込みするぞ。」

 

良介と誠も続くように外に出た。

 

   ***

 

良介たちは温泉街を歩いていた。

 

「暗くなると危ないから、みんな気をつけてね。」

 

ゆかりは皆に注意を促した。

 

「まず聞き込みだな。

さっき回ったけど、もう一回行くか。」

 

「うん。

なにかあったら教えてね。

はぁ・・・大変なことになっちゃったわね・・・私がちゃんとついてれば・・・」

 

「まぁ、妖怪はないやろけど、心配やなぁ。」

 

「妖怪じゃなくても、ストーカー監禁とかの可能性も・・・」

 

「もう、海老名さん。

縁起でもないこと言わないでよ。

ああぁ、不安になってきた・・・本当にそうだったらどうしよう・・・」

 

「なんや、ゆかりはんたらオロオロしとるわ。

こういう時一番頼れそうなのになあ。」

 

「意外な一面ね・・・こういうの、なんて言うんだったかしら~。」

 

「はぁ・・・こんな時は朝比奈さんがいたら心強いんだけど。

きっと一喝して、パーッと探してくれるんだろうな・・・ダメだね。

私、どんどん悪いほうへ考えちゃって・・・」

 

「あやせさん、もしかしてギャップ萌えって言いたいのか?」

 

誠があやせに言った。

 

「あぁ~!

それだわ。

椎名さんって、普段あんなにしっかりしてるように見えるのに・・・こういう時は、急にかわいい一面が垣間見えちゃって。

男性は思わず、ときめいてしまうんですよね~。

ね、良介さん?」

 

「・・・え?

そこで俺?」

 

良介は驚いた。

 

「かわいい・・・?

ギャップ!?

あかん!

あかんでそれは!

ギャップとか卑怯やわ!

ダーリンの前で意外とかわいいとこなんて、見せんといてーっ!」

 

誠はため息をついた。

 

「良介、また話が脱線し始めたぞ。」

 

良介は呆れたように頭を掻いた。

 

「放っておけ。

聞き込み行くぞ。」

 

良介と誠は聞き込みに向かった。

 

   ***

 

あやせは温泉街の人と話をしていた。

 

「あらあら、なるほど~。

それは怖いですね~。

はい、ありがとうございました。

ではでは~。」

 

あやせは聞き込みから戻ってきていた良介たちのところにやってきた。

 

「あやせさん、どうだった?」

 

良介はあやせに聞いた。

 

「それがね、大変なこと聞いちゃった。

ここ数日、変な人影を目撃したって人が多いらしくて・・・ストーカーじゃないかって。」

 

「ストーカーって、まさか本当に?」

 

「そのストーカーがさらちゃんを・・・可能性はありますね。」

 

「事件ね!

ミステリーだわ~。」

 

ゆかり、エミリア、あやせの3人の反応を見て良介と誠はため息をついた。

 

「それにしても、俺の感じた気配って・・・」

 

良介は顎に手をやった。

 

「きっと、さらちゃんカワイイから見つけて・・・連れ去ったのかも。」

 

「うぅ・・・さらちゃん・・・」

 

秋穂は悲しそうな顔をした。

 

「もし監禁されたりしていたら、今ごろ・・・」

 

「や、やめてってば、そういうこと言うの。

それに!

もしストーカー誘拐とかなら、私たちじゃどうにも・・・」

 

「大丈夫です!

きっと誘拐の犯人もこの温泉街にまだいるはずです!」

 

「犯人は現場に戻る・・・捜査の基本ね!」

 

「でも、警察に・・・」

 

「いや、ウチらで捕まえるんや。

誘拐なんて許せへんもん!

だってそうやん?

かわいいってだけで・・・襲うやなんて・・・」

 

「香ノ葉ちゃん・・・」

 

「ウチだって、さらちゃんに対しては我慢しとるのにっ!」

 

「え?」

 

あやせは香ノ葉の発言に呆気にとられた。

 

「許さへん・・・絶対、しばき倒すで!

さらちゃんはみんなのアイドルなんや!

不可侵なんやで!?

聖域に手ェ出した罪、後悔させたる・・・!」

 

「あの~・・・香ノ葉ちゃん?」

 

良介と誠はその様子を見て、頭を掻いた。

 

「とりあえず・・・俺らは先に聞き込み再開と行くか。」

 

「ああ、そうだな。」

 

良介と誠は聞き込みを再開した。

 

   ***

 

良介たちは聞き込みを続けていたが、少しずつ人が少なくなってきていた。

 

「人も少なくなってきましたね・・・」

 

「わくわく。

なにか起こりそうよね~。」

 

「な、なにか起こるんですか・・・?」

 

あやせの発言に秋穂は不安そうな顔をした。

 

「そろそろ次の犯行が・・・気をつけてね、秋穂ちゃん。」

 

「えぇ・・・わたしなんですか?

うぅ・・・」

 

「でも、ホンマに不気味やなぁ。」

 

「あれ、なんでしょう?」

 

エミリアが何かに気づいて、指差した。

良介と誠がエミリアが指差した方へと行くと、立札があった。

 

「古い立札だな。

良介、なんて書いてあるんだ?」

 

「えー・・・湯けむり妖怪伝説の由来。」

 

「あら?

それって、昼間のおばあさんが言っていたやつね~。」

 

「湯けむり妖怪とは・・・清らかなる心の者に害をなさず、悪しき心の者を食らう妖怪。」

 

「ほうほう、つまり?」

 

「湯けむり妖怪は、悪い心を持っていると襲ってくる。

清らかな心、良い心を持っていると襲われないってことだな。」

 

「なんや、あるあるやなぁ。

結局、悪い子は湯けむり妖怪に襲われるから、ええ子にせなあかんよ~・・・みたいな、子供にいうこと聞かせるための作り話やん?」

 

「だけど、こういうのは大切な教訓が含まれてたりするんだよな。」

 

「よくある、地方の伝説じゃねえの?

頭のいいやつは、そういうのじゃ聞かなさそうだけどな。」

 

話を聞いていたあやせがニヤニヤし始めた。

 

「あらあら~、誠くんはどうしたら言うことを聞くの?」

 

「それは・・・美人な大人の女性だったら聞くかも・・・」

 

「先輩・・・」

 

「ん?

どうした秋穂。」

 

「あの、あれって・・・」

 

「あれ?」

 

「あそこにいる人、さっきからずっとこっち見てるんですが・・・誰でしょうか?」

 

良介は秋穂の指差している方向を見た。

 

   ***

 

良介は秋穂が指差している方を見たが、誰もいなかった。

 

「誰もいないな。」

 

「うーん、確かにこっちにいたんですけど。

あ、あそこの影?

ほら、見えますよ。」

 

「ちょっと、やめてえな・・・秋穂ちゃん。

怖いやん・・・

うちの家康にはなんにも・・・」

 

「でも・・・ほら、向こうの木の下に・・・」

 

「もう、秋穂ちゃんまで変な冗談は・・・」

 

「冗談ではない。

いいから話を聞け!」

 

どこからともなく声が聞こえてきた。

 

「今、声が聞こえたな。」

 

良介は周りを見渡した。

 

「そうね。

わたしにも聞こえちゃったかも・・・」

 

「私、はっきり聞こえました!」

 

「やっぱり。

妖怪の怨念が・・・」

 

「そんな、まさか・・・」

 

「とにかくここを離れようか。」

 

「そうね。

秋穂ちゃんも行きましょ?」

 

「でも、あそこの人が・・・すすき野原のほう指差してて・・・」

 

「そんな人影どこに・・・」

 

「黙って話を聞け!

秋穂がいると言ったらいるんだ!」

 

誠の話を遮るようにまた声が聞こえてきた。

 

「この声・・・まさか・・・」

 

良介の顔をが引きつり始めた。

 

「良介!

後ろだ!」

 

「大人しくしろ。」

 

「はぁ・・・面倒な奴が来やがった。」

 

良介はため息をついた。

 

   ***

 

良介たちは温泉宿の部屋に戻ってきていた。

 

「ご、ごめんなさい!

おねえちゃんがご迷惑をかけて・・・本当にごめんなさい!」

 

秋穂が必死に謝っていた。

 

「それで、結局はエミリアを放り出したのも、声の正体も、街で噂になっていたストーカーも、全部春乃だったのか。」

 

良介は呆れていた。

 

「あはは・・・ずっと言おうとしてたんですけど、タイミングが・・・」

 

「妹の入浴するところを見られたくないってのはわかるけどさぁ・・・」

 

誠も呆れていた。

 

「ごめんなさい!」

 

「まぁ、いいか。

さらも旅館に戻ってきたし。」

 

良介はさらの方を見た。

 

「そうね。

怪我もしてないみたいだし、本当に良かった。」

 

「ごめんなさい・・・すすき野原にいったら、シローが気に入っちゃったんです。

なかなか動いてくれなくて・・・わたしもきもちよくて。

ついウトウトしちゃって・・・気づいたらまっくらで・・・ごめんなさいぃ!」

 

「おねえちゃんがごめんなさい!」

 

「まぁ、そう謝るなよ。

もういいから。」

 

良介は呆れ気味に笑った。

 

「これで、一件落着だな。」

 

誠がそう言うと、テレビでニュースが流れた。

 

「お、失踪事件も解決したみたいだな。

元夫のストーカーが、女性を監禁していた・・・か。」

 

「ホンマに、あやせはんの推理あってたんやなぁ・・・」

 

「やっぱり、愛欲のもつれだったのね~。」

 

「やれやれ、俺たちの出番は無しか。

ま、温泉に入ることができたからよしとするか。」

 

良介はその場に寝転んだ。

 

「でも・・・すすき野原のほう指差してた人って、誰だったんでしょうか?

きっと、さらちゃんの居場所を教えてくれてたんだと思うんです・・・」

 

「見間違いじゃないのか?

あの後、誠と一緒に周りを調べてみたけど、誰もいなかったぞ。」

 

「そ、そうですか・・・本当に見たんだけどな・・・おかしいなあ・・・」

 

秋穂は不思議そうに窓の外を見た。



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第95話 お月見へ行こう

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
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ある日の夕方の学園。

良介と誠と兎ノ助がいた。

 

「よし、誠。

そろそろ行くか。」

 

「おう。」

 

「お月見・・・去年は律がはりきってたなぁ・・・」

 

「いやぁ・・・楽しみだなぁ。」

 

誠は怪しい笑みを浮かべた。

 

「こいつ、本当に月見が目的なのか?」

 

「俺も毎年、楽しみにしてるんだぜ!

それなのに・・・俺は外出禁止ときたもんだ・・・」

 

兎ノ助は肩を落とした。

 

「人形作戦は使えないのか?」

 

良介が兎ノ助に尋ねた。

 

「すっげぇ怒られた・・・いろんな人から・・・」

 

良介は何も言わずに頭を掻いた。

 

「だったら、団子でも持って帰ってきてやるか。」

 

「食えねぇよ!」

 

「撮った写真を見せてやればいいだろ。」

 

「うむ。

よきにはからえ。」

 

「ところでさ、クエスト先の寺は有名な所なのか?」

 

誠が良介に聞いた。

 

「ああ。

小さい寺なんだが、ススキが綺麗で、兎がいて、あと近くに明かりがないから月が綺麗に見えるんだ。

日本一のお月見スポットってことで、観光客が集まるんだよ。」

 

「へえ、そいつは楽しみだな。

明かりがないってことは街から離れてるのか?

魔物が出やすそうだが・・・」

 

「だから俺たちが行くんだよ。」

 

「なるほどね。

それじゃ、行くか。」

 

良介たちは出発した。

 

   ***

 

良介たちはお月見寺にやってきた。

すると、そこに心が走ってやってきた。

 

「はぁ、はぁ・・・間に合った・・・えっと、えっと・・・」

 

「ん?

心、どうしたんだ?」

 

良介は心に話しかけた。

 

「ひっ!

すいません、なんでもないんですぅ!」

 

「何か探してたみたいだが・・・」

 

「そそそ、そんなまさか!

探してなんかいません!」

 

誠は心の様子を見ていた。

 

「いや、探してるな。

何かを。」

 

「ああっ!?

わたし、わたし、やってしまいましたぁっ!」

 

良介と誠は心から話を聞いた。

 

「なるほど、餅か。」

 

「はい・・・すいません、勝手にやっちゃって・・・あの、あの・・・天文部のみんなで、学園でおもちをついたんです。

ここではお団子を作ってるから、持ってきてビックリさせようって・・・」

 

「が、持ってきたはずの餅が見つからないと。」

 

良介は顎に手をやった。

 

「クーラーボックスに入れてるから、衛生には問題ないんですが・・・みんなで探してるんですけど、もしかしたら誰かが持っていっちゃったのかも。

あ、だ、誰にも言わないでくださいぃ!

秘密のことなんですぅ!

本当に申し訳ないんですけど、どうか秘密に・・・すいません!」

 

「なるほど・・・なら、俺も探すか。」

 

「え?」

 

良介の発言に心は啞然とした。

 

「月見が終わるまでに見つければいいんだな。」

 

「そ、そんなお手間をかけさせるようなことは・・・!」

 

「他の奴には内緒しときゃいいんだろ。

んじゃ、俺も探すか。」

 

誠も加わることになった。

 

「あっ・・・ほ、本当にすいません・・・!」

 

良介たちはクーラーボックスを探し始めた。

 

「しかし、クーラーボックスか・・・普通は目立つな・・天文部も探しているなら、もうここらへんにはないのかもな・・・」

 

良介は独り言を言いながら探していた。

 

「もし見つからなかったら・・・みんなの努力が無駄に・・・わたしのせいで・・・」

 

「大丈夫さ。

きっと見つかるって。

別に心がなくしたわけじゃないんだろ?」

 

誠は心を励ました。

 

「そうなんですけど・・・でもとっても申し訳なくて・・・もう散々探したし、誰かが持っていったとしか・・・」

 

「持っていった・・・クーラーボックス・・・」

 

良介は手を顎にやると、何か思い出した。

 

「もしや・・・」

 

突然良介は寺の中に入っていった。

 

「おーい、良介?」

 

誠が呼びかけたが無視して行ってしまった。

数分後、クーラーボックスを持った良介が戻ってきた。

 

「あったぞ。」

 

「え?

ど、どこに・・・?」

 

「寺の中だ。」

 

「お寺の・・・ええええええっ!?

どうしてお寺の中に・・・!?」

 

「ノエルが落し物だと思って持ってきてたらしい。

来た人は寺の中に入るから、落とした人も気づくと思ったらしい。」

 

「あぁ・・・あぁ!」

 

「天文部に伝えてくれ。

餅をふるまってやってくれってな。」

 

「え?

で、でも・・・」

 

「ノエルにも言っておいたから。

見つけたことは秘密にして・・・心が見つけたことにしておいてくれってな。」

 

「そ、そんなこと・・・」

 

「いいんだよ。

俺たちがしたいと思ったんだから。」

 

「す、すいませぇん・・・!」

 

心はクーラーボックスを持って走っていった。

 

「これで一件落着だな。」

 

「良介・・・餅、1個ぐらい貰ってもよかったんじゃ・・・」

 

「バカなこと言うな。

ほら、見回り行くぞ。」

 

「へいへい・・・」

 

2人は見回りに向かった。

 

   ***

 

2人が見回りをしているとノエルがやってきた。

 

「ふんふふ~ん。

いい月夜だねぇ、お兄さん。」

 

「よう、ノエル。」

 

「あ、お団子おいしかったよ~!

こっちも見回り頑張ってるからね!」

 

「そうか、ところで・・・ノエル、クエスト受けたか?」

 

ノエルは良介の発言を聞いて苦笑いをした。

 

「あ、あはは・・・来ちゃった・・・」

 

「え・・・それ校則違反じゃ・・・」

 

誠は少し引いていた。

 

「だ、大丈夫だよ!

1人、体調不良でキャンセルになったから!

時間過ぎてたからちょっと注意されたけど・・・」

 

「風紀委員に怒られても知らねえぞ。」

 

「そ、それでね。

なにかすることないかなって、やること探してたんだけど・・・お兄さん、なにかある?」

 

良介は少し考えた。

 

「そうだな・・・多分、見回りだな・・・団子はあるし、子供も来てるしな。

山の中で迷子にならないよう、見回りは多くいた方がいいからな。」

 

「うんうん、じゃあ見回りするよ!

やっぱり来たからにはお仕事しないとね。」

 

「んじゃ、よろしく。」

 

ノエルは見回りに向かった。

その後ろ姿を良介は不思議そうに見ていた。

 

「ノエル、どうしたんだ?」

 

「どうした?」

 

「いつもは、無理に来るような奴じゃないんだがなぁ・・・イヴとなにかあったか?

・・・よし。」

 

「良介・・・?」

 

良介はノエルの後を追いかけた。

 

「今年は、大丈夫かなぁ・・・」

 

「何が大丈夫なんだ?」

 

いつの間にかノエルの後ろに良介が立っていた。

 

「あ、お兄さん・・・今の、聞いちゃった?」

 

「ああ、それで何を心配してるんだ?」

 

「えへへ・・・ほら、去年のクリスマスなんだけど・・・頑張ってみたんだけど・・・やっぱりね、ね。」

 

「イヴのことか。」

 

「えっと・・・入学の時、お姉ちゃんと喧嘩しちゃったの、話したっけ。

本当に今思えば、なんで?

って理由だったんだけど・・・」

 

ノエルは少しの間黙ってしまった。

 

「なんで、なんだろうね・・・ずっと好きだったのに・・・」

 

「ノエル・・・」

 

「えへへ、ごめんね。

サボっちゃって。

ちゃんと見回りするからね!」

 

ノエルは走っていってしまった。

良介はその後ろ姿を黙って見ることしかできなかった。

近くの木の後ろから誠が出てきた。

 

「すまん、隠れて聞いちまった。」

 

「いや、別に大丈夫だろ。

それより・・・」

 

良介は何か考えているようだった。

と、何か思いついたように手を叩いた。

 

「よし、いっちょやるか。」

 

「ん、何をだ?」

 

「まぁ、俺に任せとけ。」

 

そう言うと良介はノエルの後を追いかけた。

 

「ノエル。」

 

良介はノエルに追いつくと、ノエルを呼んだ。

 

「お兄さん・・・」

 

「少し休憩しよう。」

 

「え?

で、でも始めたばっかりだよ?」

 

「ノエル、疲れてるんだろ?

ほら、座れって。」

 

良介はノエルを座らせると、団子を持ってきた。

 

「ほら、団子。」

 

「い、今食べるの?」

 

「ああ、いいから。」

 

ノエルは団子を食べ始めた。

 

「あっ。

おいしい!

すごくおいしいよっ!」

 

「だろ?

みんなが一所懸命作ったやつだからな。

がんばったから、知らない人にもおいしいって言ってもらうことができるんだ。

その人ががんばったから、ノエルにおいしいって思ってもらえたんだ。」

 

「えへへ。

お兄さん、上手だなぁ・・・おいしいの食べたら、元気出るに決まってるじゃん。」

 

「あ、そっちか・・・」

 

良介は苦笑いをした。

 

「よーし、お姉ちゃんに、おいしいお団子作って帰ろっと!

お兄さん、ありがとうねっ!」

 

ノエルは走り去っていった。

良介は黙って見ていた。

 

「ふぅ・・・ノエル、少し待ってくれ。」

 

良介呆れながらノエルの後を追いかけた。

 

   ***

 

良介と誠の2人が見回りをしていると、ゆえ子が荷物を運んでいた。

 

「うんしょ、うんしょ・・・おと、あとと・・・」

 

ゆえ子が倒れかけたところで良介が支えに入った。

 

「おっと、危なかったな。」

 

「すみません。

お団子を台無しにしてしまうところでした。」

 

「体調が悪いなら、休んでても大丈夫だぞ。」

 

「いえ、少し疲れただけです。

山登りしましたからね。

1年前に比べたら筋肉もついてきましたが、まだなかなか・・・ご迷惑にならないよう、少しお休みさせてもらった方がいいでしょうね。」

 

すると、良介は何か考え始めた。

 

「よし、ちょっと待ってくれよ。

おい、もも!」

 

すると、良介は近くを通りかかったももを呼び止めた。

 

「先輩、どうしました?」

 

「ちょうどいい所に来た。

もも、魔力を分けてやるから、頼めるか?

少し疲れたらしい。」

 

「ああ、なるほど。

わかりました!」

 

ゆえ子は不思議そうに良介たちを見ていた。

 

「あたし、保健委員として、クエスト中の回復魔法の許可をもらってるんです!

だからこうやって・・・」

 

ももはゆえ子に回復魔法をかけた。

 

「ふぅ・・・どうですか?

少しでも楽になってたらいいんですけど・・・」

 

「あ、疲れが・・・消えてます。

今のは回復魔法ですか?」

 

「はい!

疲労回復は効率が悪いんですけど、ちょっとした疲れくらいなら・・・」

 

「はい、元気になりました・・・でも、いいのでしょうか。

足を引っ張ってしまっているみたいで・・・」

 

「全然!

体調管理も保健委員の務めですから!

それに、お月見・・・楽しんでもらいたいですもんね!」

 

「桃世さん・・・」

 

少しして、ゆえ子が運んでいた荷物を無事運び終えることができた。

 

「ありがとうございます。

桃世さんのおかげで、無事に運ぶことができました。」

 

「いや、そこは呼んだ良介・・・」

 

すると、咄嗟に良介が誠の口を塞ぐと、少し距離をとった。

 

「いえいえ。

あたしもとりに来るものがありましたし。」

 

「それではかわりに、ゆえが桃世さんの未来を占いましょう。」

 

「えっ?」

 

「どうですか?

ゆえがお礼できることはこのくらいなので。」

 

「い、いいんですか?

お願いします!」

 

「はい。

特に占ってほしいこととかありますか?」

 

「あ、あの・・・」

 

ももは少し離れた場所で誠と話をしている良介の方をチラッと見た。

 

「れ、恋愛運など・・・」

 

「わかりました。

それでは・・・このタロットで・・・」

 

ゆえ子はタロットカードを取り出した。

 

「うーん・・・」

 

ゆえ子は一枚のカードを引いた。

 

「これは・・・月、ですね。」

 

「月?

えっと・・・前にちょっと聞いたことがあるんですが・・・月ってあまり良くなかったような気が・・・」

 

「不安や戸惑いを意味しますからね。

ですがこれは上下さかさまなので・・・逆に考えてください。

恋愛についてでしたね。

もし恋愛に不安を抱えている場合、それから解放されるようなことが起きます。

恋愛について臆病になっている場合、勇気が出るようなことが起きます。

もし桃世さんに特定の相手がいて、その方が嘘をついていた場合・・・それを見抜くことができます。」

 

「へぇ・・・」

 

「月の逆位置は前向きな意味があります。

今進んでいる道があるのなら・・・それに自信を持ってください。」

 

「わかりました!

なんだか胸のつっかえが取れた気がします。」

 

「お役にたててよかったです。

不安があれば、いつでもどうぞ。」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

ももは嬉しそうに去っていった。

 

   ***

 

心はクーラーボックスの中を見ていた。

 

「よ、よかった・・・みんな、食べてくれました・・・」

 

「おいしかったですよ、お月見餅。」

 

ゆえ子は満足そうな顔をしていた。

 

「ああ・・・!

もしわたしの丸めたものだったらすいません・・・!」

 

「え・・・なにかあるんですか?」

 

「なんでもないはずなんですけど・・・なにかあったらすいませぇん・・・!」

 

そこにノエルがやってきた。

 

「あはは、それ逆に怖がらせちゃうよ!」

 

「えっ!?

そ、そんな、そんなつもりはないんですぅ!

すいません、どげ、土下座で・・・っ!」

 

「むにゃむにゃ・・・視えました。」

 

「え?」

 

「未来を視てました。

なにも悪いことは起きませんから・・・ご安心ください。」

 

「あ・・・そ、それは・・・ご丁寧に。」

 

「そだ、天文部の子たちが探してたよー?」

 

「あっ!

も、もう行かなきゃ・・・すいません、お先に失礼します!」

 

心は走り去っていった。

 

「暗いから気をつけてね!」

 

そこに入れ替わるように、良介と誠とももの3人がやってきた。

 

「よし、片付け終わったな。」

 

「お疲れ様!

こっちも終わってるよ!」

 

「さて・・・おっと、もうこんな時間か。」

 

良介はデバイスで時間を確認した。

 

「こんな時間まで起きてたのは初めてです・・・」

 

「寺の人が泊まって行っていいって言ってくれてるけど、どうする?」

 

誠が皆に聞いた。

 

「わっ!

お泊り会だ!」

 

「お泊り会・・・楽しそうですね。」

 

「学園には申請してくれてるみたいだから、甘えるか。」

 

「天文部の子たちも呼んで来るね!」

 

ノエルは天文部のところに向かった。

 

「良介さん、桃世さん、ありがとうございました。

初めてのお月見だったんですが、お二人のおかげで楽しかったです。」

 

「ううん、あたしも楽しかったから・・・先輩はどうです?」

 

「もちろん楽しかったよ。」

 

すると、良介は怪しい笑みを浮かべている誠に気づいた。

 

「誠、なんだそのニヤケ面。」

 

「だってよ、女子とのお泊り会だぞ?

何も起きないわけ・・・」

 

良介はため息をついた。

 

「俺たちは住職の人と同じ部屋で寝るからな。」

 

「な・・・なん・・・だと・・・!

だったら、夜這い・・・」

 

「なるほど、今のうちに深い眠りに入りたいらしいな。」

 

良介は両手をバキバキと鳴らした。

 

「大人しく眠るので堪忍してください。」

 

ももは良介の方を黙って見ていた。

 

「もしかして、ご不満ですか?」

 

ももは黙ってゆえ子の方を見た。

ゆえ子も黙ってももの方を見た。

 

「ま、まさか!

そんなわけないですよ!」

 

「むにゃむにゃ・・・」

 

「そ、それじゃあ行きましょうか!

残っているお団子、みんなで食べましょう!」

 

ももは寺の中に入っていった。



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第96話 ヴィアンネの使徒

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。




良介はいつも通りに登校すると、校門前にシャルロットがいた。

 

「おはようございます、良介様。」

 

「おはよう、シャルロットさん。

また勧誘しに来たのか?」

 

「いえ、今日は勧誘などではなく、クエストにご一緒できればと思いまして。

学園のクエストではなく、ヴィアンネから発令されたクエストです。」

 

「ヴィアンネから?

俺がそのクエストを請けて大丈夫なのか?

というか、学園のクエストとどう違うんだ?」

 

「ご説明した方がよろしいでしょうか。」

 

「ああ、少しだけ頼む。」

 

シャルロットは説明を始めた。

 

「まずヴィアンネ教司会についてですが・・・ジャン=マリー・ヴィアンネ司祭によって創始された魔法使いの機関です。

困っている人々の元へと使徒を派遣し、魔物を退治するのが使命ですが・・・近年、世界の魔法学園に常駐するようになりました。」

 

「どうしてなんだ?」

 

「理由は様々ですが、基本的には皆様と協力するためです。

クエストを請けて、魔物を退治する。

学園生とあまり変わりませんね。

違うのは今回のように、ヴィアンネからのクエストがあることです。

特に禍々しい魔物が現れた場合、わたくしたち使徒が相手を務めます。

人形館の時がそうですね。

遊園地はまた事情が異なりましたが・・・今回の魔物も、悪魔の如き禍々しさだときいております。

ぜひ、よろしくお願いします・・・お話したいこともあるものですから。」

 

「とりあえず、行くか。」

 

良介はヴィアンネのクエストを請けることにした。

その頃、生徒会室に鳴子が来ていた。

 

「さて、ひとつ問題が明らかになったことで、方針を決める必要がある。

聖奈。

これまでの議論をまとめてくれ。」

 

「はい。」

 

聖奈は虎千代の指示に従って資料を取り出した。

 

「書記は朱鷺坂君じゃなかったかい?」

 

「彼女が当事者であるため、随時で私が書記を務めている。

3回目の裏世界調査までに明らかになったことだが・・・まず・・・裏世界で9月27日に起きた第8次侵攻が、表では起きなかったこと。

それを引き起こしている原因は、おそらく時間停止の魔法であること。

朱鷺坂 チトセの正体。

そして・・・表裏の違いが、彼女によって引き起こされたものだということ。

これが事実です。

そして遊佐・・・裏世界の遊佐 鳴子から得た情報。

第8次侵攻にムサシ級が出ること。

それにより、学園生の半分ほどが死亡すること。

早田 良介、新海 誠、立華 卯衣、相馬 レナの、裏世界における存在が確認できないこと。

裏世界ではJGJが共生派に乗っ取られ、人類を裏切っていること。

その共生派・・・すなわち霧の護り手が、かなりの規模になっていること。

13年後、30年後でもある程度人類が生存していること。

50年後にはほぼ絶滅寸前であること。

どうでしょうか。」

 

聖奈は虎千代に確認をとった。

 

「付け加えろ。

円野が先行して確認したことにより・・・少なくともゲネシスタワーの外から見える部分には、誰もいなかったこと。

ホワイトプラズマを使ったのに、現在も特に動きがないこと。」

 

虎千代は鳴子とチトセの方を向いた。

 

「さて、諸君。

アタシは考えるのは苦手なんだ。

互いの確執を乗り越えて、協力をしてくれないか。」

 

鳴子とチトセは互いを見ていた。

 

「ひとつ、確認しておきたいことがある。」

 

「そうね、私もあなたに聞きたいことがあったの。」

 

「その答えが聞けたら、文句はないか?」

 

虎千代は2人に聞いた。

 

「僕が言えた義理じゃないが、彼女には隠し事が多すぎた。

その上、条件もそろっているんだ。

朱鷺坂 チトセ、君は・・・君が時間停止の魔法を使っているのか?」

 

チトセは笑みを浮かべた。

 

「フフ、まさか・・・まさかよ。

だって私からの質問は・・・あなたが時間停止の魔法を使ったんじゃないの?」

 

鳴子とチトセは無言のまま互いを見ていた。

 

   ***

 

良介とシャルロットはクエスト場所の川に来ていた。

 

「良介様と本格的に組むのは初めてでしたか。

よろしくお願いします。

出発の前に、魔物を見ておきましょうか。

さて・・・こちらは・・・」

 

2人はデバイスで魔物の姿を確認した。

 

「悪魔型の魔物か。

日本で出現するのは珍しいんだったか。」

 

「ヨーロッパでは比較的、ポピュラーな魔物の一種です。

それほど強いわけではありませんが、弱いとあなどるのも危険・・・全力で消滅せしめましょう。

わたくしとあなた様に神のご加護があらんことを。

神よ、願わくは我を守りたまえ。

我なんじに寄りたのむ。」

 

シャルロットは神に祈りを捧げた。

 

「さぁ。

神の敵を倒しにゆきましょう。

正義は我らにあります。

聖戦へ。」

 

シャルロットは先に行ってしまった。

良介はシャルロットを後ろから見ていた。

 

「神とか聖戦とか・・・信者の言ってることはよくわからんな。」

 

良介は頭を掻きながらシャルロットの後をついて行った。

 

   ***

 

学園の校門前。

兎ノ助が1人で独り言を言っていた。

 

「なんか、ちょっと前からすんげーイヤな予感がするんだよな。

そして今まさに、その原因が近づいてきている・・・

お、俺はそいつに立ち向かわなければいけないのか・・・!」

 

「お前・・・何言ってるんだ?」

 

学園の方から誠がやってきた。

 

「おお、誠か。

俺は今からちょっとした戦いがあるんだ。」

 

「何だよ、戦いって・・・」

 

2人が話していると1人の男性がやってきた。

 

「ん?

誰だ?」

 

誠がその男性に気づくと兎ノ助も男性の方を見た。

 

「ウ、ウワーッ!

男だーっ!」

 

「おあーっ!

人形が喋った!」

 

男性は兎ノ助を見て驚いた。

少しして3人は話をしていた。

 

「へぇ、あんたが初音の兄貴なのか。」

 

「神宮寺 樹だ。

それで、そっちがセクハラ進路指導官か。」

 

「な、なんだよソレっ!」

 

「初音も茉理も、こんな形しているなんて一言も言ってなかった・・・」

 

「セクハラなんかするか!

俺は紳士な兎なんだぞ!」

 

「どの口で言っているのやら・・・」

 

誠は呆れた。

 

「誠、お前も人のこと言えないだろ。

セクハラ常習犯。」

 

「お前には言われたくねえよ。」

 

樹は2人を見て鼻で笑った。

 

「フフ、若いな。」

 

「は?

何が?」

 

誠は不思議そうに樹の方を見た。

 

「こちらではスキンシップだと思っていることも・・・相手にはセクハラだと受け取られることはよくあるんだぞ。」

 

「なんか実感籠ってるな。」

 

「それはそうと、魔法学園は初めてなもんでね。

立入許可が欲しいんだが、どこで手続きすればいいんだ?」

 

「えっ。

学園に入るの?」

 

「そりゃ入るさ。

理事長に挨拶しに来たんだ。」

 

「うー・・・む・・・そりゃ許可が下りれば誰でも入っていいんだが・・・ホラ、ここ女子ばっかだから。」

 

「だから?」

 

「男に耐性がない奴がいるんだ。」

 

「男子もちゃんといるんだろ?

ほら、君とか。」

 

樹は誠の肩に手を置いた。

 

「魔法使いは草食系が多いんだ。

誠みたいなのは結構レアなんだよ。」

 

「レアって言うな。」

 

「とりあえず、アンタみたいな遊んでそうな男はかなりショッキングなんだよ。」

 

「そこまで心配するほどか?

ソフィアちゃんなんか普通だったし・・・」

 

「あーっ!

あーっ!

ソフィアちゃんってなんだこのナンパ男!」

 

「もちろん礼儀は尽くすが、なーに、年齢差があると怖がるし。

緊張しないように、こっちが親しみを感じさせることも必要さ。

ま、スキンシップだな。」

 

「うぬ・・・!

俺が同じこと言ったらセクハラ扱いされるのに・・・!

憎い・・・アンタが憎い・・・!

いいか、手出し禁止だからな!

それが発覚したときには・・・」

 

「した時には?」

 

「JGJ会長にチクってやる!」

 

「ゲッ!

ま、まさか爺さまの名前が出てくるとは・・・」

 

「ククク、前学園長とJGJ会長は俺と年が近いからな。

その辺の親交は温めてるぜ。

学園の女子は俺が守る!」

 

「そんな年ならもっと落ち着けよ・・・」

 

誠はため息をついた。

 

「それで、立入許可は?」

 

「あ、連絡しとくから事務室行ってくれ。」

 

「んじゃ、事務室までは俺が案内するよ。」

 

すると、樹は誠の肩に手を回してきた。

 

「どうかしたのか?」

 

「誠くん、君のことも初音から聞いてるよ。

学園一のセクハラ魔神だってね。」

 

「セクハラ魔神って・・・まぁ、否定のしようがないか。」

 

「そんな君に事務室に着くまでに、大人のスキンシップというものを伝授してあげよう。」

 

「なんで俺にそんなことを?」

 

「何故か君を見てると若い頃の自分を見ているみたいでね。

だから少しそういうのを教えてあげたいなと思ってね。

どうだい?」

 

誠は少し考えると軽く頷いた。

 

「それじゃ、少しだけ・・・」

 

「OKOK、それじゃ簡単なやつを教えてあげよう。」

 

2人は話しながら事務室に向かった。

 

「いいなぁ~、俺も少しは教わりてえなぁ~。」

 

兎ノ助は羨ましそうに見ていた。

 

   ***

 

良介とシャルロットは川沿いを歩いていた。

 

「改めて、わたくしの戦い方をお伝えしておきましょう。

ヴィアンネ教司会での修行で授かった力は神の力。

聖なる光と神なる言霊・・・歌ですね。

わたくしの光にも歌にも、魔物を浄化消滅させる力があります。」

 

「まぁ、科学的には光は純な魔力に近いらしいけどな。」

 

「わたくしは6年、ヴィアンネ教司会で鍛えられました。

そして使徒として2年、前線に赴き退魔を行い・・・この学園に派遣されたのです。

全ては学園生のみなさんと協力して魔物を滅却するため・・・神の思し召しなのです・・・さあ、まずは小物がやってきました。

神の名のもとに、天誅をくだしましょう。」

 

2人が話していると、1体の魔物がやってきた。

 

「それじゃ、今回は俺も光魔法を使いますか。」

 

そう言うと、良介は手から光の魔法を撃った。

魔法が直撃すると、魔物は霧散した。

 

「お見事です。

この調子でいきましょう。」

 

「ああ、そうだな。」

 

2人は次の魔物の所へと向かった。



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第97話 来栖 焔のクエスト

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


学園の校門前、明鈴がいた。

 

「あー、ユーウツなのだ・・・」

 

「何が憂鬱なんだ?」

 

そこに誠がやってきた。

 

「あ、食糧難が深刻になりつつあるとか?」

 

誠はからかい半分で言った。

 

「ご飯はたくさんあるのだ。

万姫のことアル。」

 

「ワンヂェン?」

 

「バンキアル。」

 

「バンキ・・・ああ、周 万姫か。

始祖十家の。」

 

「その万姫アル。」

 

「そういえば、前も思ったんだが、なんで明鈴が周 万姫のこと知ってるんだ?」

 

「師姉アル。

えっと・・・同じ老師の弟子だったのだ。」

 

「そうなのか・・・で、なんで憂鬱なんだ?」

 

誠は話を戻した。

 

「万姫が、北海道に攻め込むなって言ってくるアル。」

 

「北海道って・・・奪還計画のことか。

まぁ、あの辺は関係してくるから敏感にもなるか。」

 

「だからってボクたちに言われてもどうにもならないのだ。」

 

「まぁ、確かにな。」

 

「小蓮も意地になって返信するから、あんまりボクの相手してくれないし・・・」

 

「その2人、仲悪いのか?」

 

「ケンカするほど仲がいいアル。」

 

「そうか・・・で、北海道は周辺諸国との協議が必要だろうからな。

これから議論が本格化するんじゃないか?」

 

「ボクたちも正直迷ってるアル。

北海道の霧が大陸に移動しちゃったら・・・同朋たちが危険になっちゃうのだ。」

 

「どうにかして霧を消すことができればいいんだがな・・・うまくいかないもんだな。」

 

誠はため息をついた。

 

   ***

 

噴水前、さらが龍季を探していた。

 

「たつきさん、どこに行ったんでしょう?」

 

ノエルがさらに話しかけてきた。

 

「訓練じゃない?

がんばってるんでしょ?」

 

「今日は午前中にしたって言ってましたけど・・・シロー、なにか知りませんか?」

 

さらはシローに話しかけた。

すると、そこに秋穂が話に混ざってきた。

 

「ねぇねぇ、この前の話なんだけど・・・シローが大きくなって、さらちゃんを守ってくれたって本当なの?」

 

「そうですよぉ!

とってもかっこよかったんですぅ。

良介さんが魔物に吹き飛ばされてしまって・・・もうだめっ!

って思ったら、急にシローが光って・・・こんなにおっきくなって、魔物をたおしてくれたんですぅ!」

 

さらは嬉しそうに話した。

 

「それで、またちっちゃく・・・へぇ~・・・」

 

「あとでししどさんに聞いたんですけど、わんちゃんも魔力があるんです!

もしかしたら、魔法を使った最初の人間以外のほにゅうるいかもって。」

 

「へぇ~!

シローも魔法使いに覚醒したのかもしれないんだ!

それってすごいじゃん!

シローもいっしょに授業受けなきゃね!」

 

「はいぃ!

シロー、とっても凄いんですよぉ!」

 

その頃、風紀委員室。

風子のところに龍季がやってきた。

 

「こんにちは、朝比奈さん。」

 

「説教ならさっさとしろ。

やることがあんだよ。」

 

「フフ・・・アンタさん、最近は品行方正になってきているよーで。

ケンカやってないとか・・・まぁ、サボりはまだありますが・・・放電も少しずつ減ってきているよーですね。

問題ありませんよ。」

 

「じゃあなんのために呼び出したんだよ。

俺はテメーとダベる気はねーからな。」

 

「仲月 さらのことに関して、でもですか?」

 

「どういうことだよ。」

 

龍季は不思議そうな顔をした。

 

「少し前に、彼女の飼い犬、シローに不審な点があったのをご存知ですか?」

 

「ああ・・・前の選抜戦の後だろ。

良介とクエストに出たときの。」

 

「やはりきーてましたか。

あのシローが、なんと成長したと。」

 

「さらには悪ぃけど、んなわけねぇさ。

事実、シローは今もちいせぇ。」

 

「ところがですね。

デバイスに記録されている戦闘情報では違うんですよ。

それで、アンタさんなら気づいてると思いまして。

デバイスはクエストの際、常時周りの情報を収集しています。

とくに戦闘中。

誰がどのような動きをしたのかよくわかる。

確かにシローの体積が変わり、魔物もシローが倒したことになっています。」

 

「デバイスが壊れてたんだろ。」

 

龍季は適当に答えた。

 

「パーティ全員のものが同時に壊れていたといーますか?

真面目に聞いてください。

アンタさんも薄々気づいているでしょう。

ウチは6年、アンタさんは5年、学園にいますが・・・仲月さんはすでに10年。

その間、シローは一切成長していません。

すでに老犬。

彼女が生まれる前からいたとすると、12年以上です。

彼女がなぜペットを許可されているかわかりますか?」

 

「幼いころに家族と引き離されたさらに必要だったからだ。」

 

「そう。

ですが、それだけとは限りませんよね。」

 

「なにが言いてぇんだ!

さっさと言えっつの!」

 

「結構。

では、これは宍戸 結希から聞いた、限りなく信憑性の高い情報です。

仲月 さらの飼い犬、シローの正体は・・・霧の魔物です。」

 

「ちげぇよ。

アイツはただの犬だ。

霧の魔物は人間を襲う。

アイツはさらを襲ったことなんか1度もねぇ。

俺より安全なんだぜ。

それくらい、テメーもわかってるだろ。」

 

「モンスター。」

 

風子の言葉を聞いて、龍季の表情が変わった。

 

「どうやら心当たりがおありのようで。

そりゃそーです。

犬好きのアンタさんなら、シローが不審なことに気付いてたはずです。

調べようともしたでしょう。

そしてたどり着いたのがモンスター。

ネット上でゲートなどと同じように、まことしやかに流れていた噂・・・人類に敵対しない魔物。

それがシローです。」

 

「黙れっ!

それ以上シローをバカにするとぶん殴るぞ!」

 

「バカにしてなんかいやしません。

ウチは警戒してるんですよ、朝比奈 龍季。

宍戸 結希から、モンスターは実在していることを聞きました。

しかしですね。

シローが今、無害だからと言って・・・いつ凶暴になるか、わからねーんですよ。」

 

「んなことがあると思ってんのかよ。」

 

「思ってますよ。

風紀委員は常に最悪の事態を想定するんです。

そして想定していた最悪の事態より深刻な事態・・・ってのが起こり得るんですよ。

朝比奈 龍季。

アンタさんを呼んだのは協力してもらうためです。

学園の安全を最優先にするなら、シローは討伐・・・そうでなくとも、魔導兵器開発局の管理下に置く必要があります。

ですが、宍戸 結希が止めている。

なら自分らで管理するしかないでしょう。

アンタさんが保証してください。

シローが魔物の本能を発露した場合・・・速やかに討伐すると。」

 

龍季は黙っていた。

 

   ***

 

良介とシャルロットは次の魔物のところへと向かっていた。

 

「わたくしの聖歌も戦い方も、果ては信条も全て宗教に依るものです。

特に魔法使いはその観念が薄いので、奇異に映るかもしれませんね。

かつて魔法が初めて現れた時、それは神の奇蹟でした。」

 

「だが、研究が進むにつれ、奇蹟は科学に内包されていき、信仰心もなくなっていった。

まぁ、日本が特に顕著だな。」

 

「ですが私は・・・果て無き戦いに耐えるための拠り所として、宗教は必要だと考えています。

布教に勤めているのもそのためですね。

神のもとへ。

これがあるだけで、わたくしたち使徒は戦えます。

命を捧げることができます。

もし心がおれそうになったときは・・・いつでもお待ちしていますよ。」

 

2人が話していると次の魔物が現れた。

 

「次は私が相手をしましょう。

良介さん、魔力をお願いします。」

 

「ああ、わかった。」

 

良介はシャルロットに魔力を渡した。

 

「魔物よ・・・消えなさい!」

 

シャルロットは光の魔法をかけた拳銃で魔物を撃つと、魔物は消滅した。

 

「次で最後だな。」

 

「はい、最後まで気を抜かずにいきましょう。」

 

2人は次の魔物の所へと向かった。

 

   ***

 

学園長室、犬川 寧々(いぬかわ ねね)が暇そうに座っていた。

 

「みんな、なんの会議やってるんだろ・・・ネネ、のけものヤダなー。」

 

すると、ドアからノックする音が聞こえてきた。

 

「はーい。

どなたー?」

 

ドアが開くと誠が部屋に入ってきた。

 

「よう、俺に何の用だ?」

 

寧々はポカンとしていた。

 

「どなた?」

 

「誠だよ、新海 誠!

デバイスで呼んできただろうが!」

 

「まこと・・・あー、呼んだよ!

ネネが呼んだの!

ごめんね。

忘れちゃってた。」

 

「な、なんて奴だ・・・まぁ、いいか。

それで、俺を呼んだ理由は?」

 

「あのね、ネネが呼んだ理由はね!

転校生がくるからなの!」

 

「転校生?

まぁ、別に珍しくもないけど・・・なんで俺なんだ?」

 

「えっとねー。

知ってる人だから。

ホントはあさひなちゃんも呼んだんだけど、お返事ないの。

だから後で言っておいてね。」

 

寧々の話を聞いて誠は頭を掻いた。

 

「俺と龍季の共通の知り合い?

いたか?」

 

「えー。

いるよぉ!

だってそう書いてあったもん!

ほら、これ!

夏に汐浜ファンタジーランドで・・・」

 

寧々は数枚ほどの報告書を取り出した。

 

「汐ファン?」

 

「そだよ。

そこでね、魔物に襲われた子がいたでしょ?」

 

誠は少し黙って思い出そうとした。

 

「もしかして・・・俺が庇って助けた子か?

けど、あの子は一般人だったはずだぞ。」

 

「じゅうしょうでぜんち2ヶ月だったんだけどね。

途中で魔法使いに覚醒して、入院が延びちゃったんだって。

それで、来月から学園に転校してくるの。」

 

「ま、マジかよ・・・」

 

誠は驚いていた。

 

   ***

 

精鋭部隊控室、エレンとメアリーがいた。

2人は報告書に目を通していた。

 

「これはどういうことだ。

傷の魔物・・・スカーフェイスが出たのはいい。

なぜ来栖と良介が指名されている。」

 

「アタイが聞きてーよ。

執行部の連中、なんのつもりだ。

2人だけで勝てるってマジで思ってんのか。」

 

「そもそも、なぜ来栖には指名のクエストが多いんだ?

魔物に恨みがある人間なんか、特別でもないだろうに。」

 

「良介と相性がいいんだ。

それは聞いてるだろ?」

 

「魔力の受け渡しが他よりスムーズなことが、そこまで特別とは思えん。」

 

「理由は知らねーが、執行部は妙に来栖にご執心だ。

なんかあるのは間違いねぇ。

登録票が閲覧不可だしな。」

 

「登録票?

魔法使いに覚醒した時に提出される、アレか?」

 

「そのアレだ。

つーかこの学園、閲覧不可の生徒多いな。

良介もそうだしよ。」

 

「登録票が閲覧不可・・・それが本当なら・・・」

 

すると、近くのドアが開くと焔が入ってきた。

 

「盛山研究所。」

 

「あぁ?」

 

「来栖・・・」

 

「登録票に書いてあった、アタシの出生地だよ。

たぶん閲覧不可の理由だ。」

 

「盛山研究所・・・聞いたことがないな。」

 

「アタイも知らねーな。

お前、科学者の娘だったのか?」

 

「んなわけねーだろ。

どの県かも書かれてねぇんだぞ」

 

「調べて見たのか?」

 

「いや。

別に復讐には関係ねぇだろ。

終わったら調べるつもりだったよ。」

 

「おい、テメー、クエスト発令見たのかよ。」

 

「ああ。

アタシと良介が指名されてるヤツだろ

さっき請けた。」

 

「1人でやるつもりかよ。」

 

「悪いか。」

 

「チッ!

救えねぇヤツだ!

おい!

アタイはもう知らねーぞ!

愛想が尽きたぜ!

これももう必要ねぇな!

エレン、シュレッダーかけとけ!」

 

「自分でやれ。」

 

メアリーは数枚のプリントを持って出ていった。

エレンは焔の方を向いた。

 

「来栖。

1人でやれるか。」

 

「やる。」

 

「私が聞いているのは可能かどうかだ。

イエス、ノーで答えろ。」

 

「やるじゃダメなのかよ。」

 

「傷の魔物について、メアリーから聞いているはずだ。

にも関わらずイエスと答えないのは・・・いや、いい。

もうお前は精鋭部隊ではない。」

 

「なんだって?」

 

「お前は軍人ではなかった。

それだけのこと。だ

干渉して悪かったな。

最後に仕事を頼む。

その書類をシュレッダーにかけておけ。

幸運を祈る。

できれば生きて帰れ。」

 

エレンは部屋から出ていった。

焔は書類に目を通した。

 

「傷の魔物との・・・戦い方シミュレーション・・・なんだこれ・・・アタシが、1人で戦う場合の、何通りも・・・なんでだよ。

なんで生きて帰れとか言うんだよ!

関係ねぇだろ!

なんで・・・アタシに・・・そんなに・・・ワケわかんねぇんだよ!」

 

焔は書類を破り捨てた。

 

   ***

 

良介とシャルロットは川沿いを歩いていた。

 

「日が陰ってきましたね。

夜は魔物の時間といいます。

黒い霧は闇に親しい。

急いで終わらせましょう。

まだ本体が残っています。

しかし心配はいりませんよ。

神の御力はあらゆる闇を照らしだします。

わたくしが神と共にある限り・・・そのわたくしがあなた様と共にある限り・・・勝利は約束されています。

魔力もあなたのおかげで有り余っていますから。

魔物を燃やし尽くすには十分すぎる程に。

フフフ。」

 

「そ、そうか・・・」

 

シャルロットの笑みを見て、良介は少し引いた。

 

「これが終わったら、あなた様をご招待しましょう。

信徒でなくとも、共に戦ったかたを慰撫するのは使徒の役目。

教会が不安ならば、歓談部の部室でも結構ですよ。」

 

「そうだな・・・魔物を倒した後に返事をするよ。」

 

すると、目の前に魔物が現れた。

 

「これなら、どうだ!」

 

良介は光の拘束魔法で魔物を拘束した。

 

「魔物よ、滅しなさい!」

 

シャルロットは銃で魔物を撃ち抜いた

 

   ***

 

2人は魔物が霧散したのを確認した。

 

「さあ、戻りましょうか。

執行部と教司会へ報告しましょう。」

 

「教司会にも報告するんだな。」

 

「ああ、先ほど申し上げた通り、わたくしは教司会の使徒。

正確には学園生ではないのです。

ですから、学園の戦闘行為は・・・教司会への報告義務があるのですよ。

先に執行部の検閲が入るので、やましいことはございません。

わたくしがどの程度、学園に貢献したかを監査するだけです。」

 

「なんか、裏で色々ありそうだな。」

 

「もちろん、裏では政治的な取引があるのでしょう。

いかにもの知らずのわたくしにも、それはわかります。

ですがわたくしとは関係はありません。

神に仕える使徒として・・・魔物と戦い、学園のみなさんと協力する。

それがわたくしの全てです・・・信じていただけるなら、またお願いします。

共に神の敵を打ち倒しましょう。」

 

「・・・ああ、そうだな。」

 

良介は少し頭を掻いていた。

 

   ***

 

学園に戻ってきた2人は歓談部の部室に来ていた。

 

「というわけで、お疲れ様でした。

あなた様に、神のご加護のあらんことを・・・」

 

2人は椅子に座り、一息ついた。

 

「良介様。

魔法使いには無宗教の方が多いのはご存じですね?

 

「ああ、神の奇跡だとされてた魔法が、科学の発展で解明されて、科学的な事象だと認識されてるからだな。」

 

「全容は解明されていませんが、そう遠いことではないでしょう。

それでもわたくしたちヴィアンネの使徒は、これを神からの贈り物と・・・魔物という悪魔を滅ぼすための奇蹟だと認識しています。

とても大事なことなのですよ。」

 

「まあ、科学的に見れば魔法使いは、突然変異体だからな。

普通の人間じゃない。

その事実に耐えられない奴もいるみたいだしな。」

 

「そういう人たちに心の安寧を与えるために、宗教は役にたちます。

特に思春期の少年少女には、必要といってよいでしょう。

わたくしの宗教でなくともよいのです。

心から信じられる・・・友人などでも構いません。

信じるということが大切なのです。

人々を守るという拠り所。

神からの贈り物だという拠り所。

できるなら、その拠り所を理解してあげてください。」

 

「そうだな・・・でも過度な信頼は選民意識を招くことになるな。

ライ魔法師団のような奴らみたいにな。

モンマスの悲劇・・・だったかな。」

 

すると、シャルロットの表情が変わった。

 

「わたくしがここに派遣された理由は、たった1人の少女のためです。」

 

「・・・誰のためだ?」

 

「来栖 焔・・・そのことが知られないよう、ずっと避けてきましたが。

理由をお話することはできません。

教司会から固く止められています。

ただし、これだけはお伝えしたいのです。

彼女の境遇は、家族を殺されたというような・・・それだけでは、到底語り尽くせないことなのだと。」

 

「語り尽くせない?」

 

「盛山研究所。

この名前はおそらく、宍戸博士も知らないはず。

誰にも言わないでください。

良介様だからお伝えしました。

彼女にどうか、人らしい生を。」

 

「人らしい・・・生・・・」

 

良介はただ事ではないことだとすぐに悟った。

歓談部の部室を出た良介はなんとなくで訓練所にやってきた。

 

「やっぱりいたか・・・」

 

そこに焔がいた。

 

「アンタ・・・戻ってきてたのか。」

 

「ああ・・・」

 

2人の間に少し沈黙が続いた。

 

「これまでのこと、悪かった。」

 

「何言ってるんだ・・・それより、請けたのか?」

 

「ああ、クエスト、請けた。

精鋭部隊はやめた。

てかやめさせられた。

アンタも一応請けてくれ。

クエストは最低2人だからな。

アンタが請けてくれないと、仇討ちができねぇ。」

 

「・・・わかった。」

 

「デバイスで請けてくれれば、後は出発点にいてくれればいい。

そしたら、アタシが勝手に戦いに行く。

それだけだ。

悪いな。最後の最後まで自分勝手で。

1人で、やらせてくれ。」

 

「・・・俺も魔物に家族を殺された身だ。

お前の気持ちは痛いほどに分かる。

好きにするといいさ。」

 

そう言うと、良介は焔に背を向けた。

 

「・・・ただし、俺が絶対にお前を死なせないけどな。」

 

良介は呟くように言った。

 

「・・・?

何か言ったか?」

 

「いや、何も。」

 

良介は訓練所の出入り口の方へ歩いていった。




人物紹介

犬川 寧々(いぬかわ ねね)10歳
逝去した前学園長の、米寿の祝いに生まれた娘。
可愛がられて育ったのでワガママ。
遺言により後を継ぐが、同時に魔法使いへ覚醒したため学園生も兼ねることになった。
まだ幼いが、学園長としての能力ははたして・・・?


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第98話 来栖 焔と精鋭部隊

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


県道707号、良介と焔の2人が歩いていた。

すると、突然焔が立ち止まった。

 

「よし、あんたはここにいろ。あとはアタシ1人でやってくるから。」

 

「悪いが・・・ついていかせてもらうぞ。」

 

「はぁ?

ついてきてなにすんだよ!

あんたが来たってどうしようも・・・!」

 

焔は良介の顔を見て急に黙った。

 

「わ、悪かったよ。

クソ。

別に意地になってるワケじゃねぇ。

今日はあんたとアタシだけで、敵はどのくらい強いかもわからねぇんだ。

いくらアンタが強いとはいえ・・・」

 

「別にいいでしょ。

ツクたちも行くんだし。」

 

突然、2人の前に月詠と浅梨が現れた。

 

「お前ら・・・」

 

良介は少し驚いていた。

 

「最初は後ろからこっそり行こうって言ってたんですけど・・・」

 

「メンドクサイの、そーゆーの!

ツクの頭脳は魔物との戦いのために取っておくんだから!」

 

「お前らがいるということは・・・エレンたちも来てるってことか。」

 

「そりゃいるわよ。

ついでで誠もいるわよ。

傷の魔物は精鋭部隊が倒すんだもん。」

 

「アタシはもう精鋭部隊じゃねぇ。」

 

「エレンから聞いてるわ。

だから、精鋭部隊が倒すの。」

 

「なんだと?」

 

焔は月詠を睨んだ。

 

「アンタが負けて、それで魔物が満足してくれればいいけどね。

討ち漏らしたらもっと被害が出る。

だから、絶対にここで倒さなきゃいけないのよ。」

 

「っ!

好きにしろよ!」

 

焔は先に行ってしまった。

 

「どうだった?」

 

「私、来栖先輩にあんなこと、怖くて言えません!」

 

「こっちだってあんなこと言いたくないわよ。

でも、まぁ・・・精鋭部隊が倒すのには、変わりないでしょ?」

 

「やれやれ、早く行くとするか。

このままだと置いていかれちまうしな。」

 

「良介。」

 

「ん?」

 

良介は月詠の方を向いた。

 

「任せたからね。」

 

「危険が迫った時は、すぐそばにいるので連絡してくださいね!」

 

「お前のデバイス・・・壊れてなかったか?」

 

「大声でも大丈夫です!

駆けつけますから!」

 

良介はため息をつきながら頭を掻いた。

 

「ま、そーゆーこと。

アンタの強さを考えたら大丈夫かもしれないけど、絶対助けるから。」

 

「まぁ、必要になったら頼らせてもらうよ。」

 

良介は焔の後を追いかけた。

 

   ***

 

良介と焔は富士山の方へ歩いていた。

 

「この道を通れば富士山に着くんだな。

青木ヶ原樹海を通るんじゃないかと思ったが、そんなことはなかったな。」

 

良介は安堵した。

 

「森が深いのに変わりねーから、迷っても知らねぇぞ。」

 

「知ってるよ。

そうならないよう気を付けるさ。」

 

すると、焔はため息をついた。

 

「なんでついてきたんだよ。

冗談じゃなく死ぬかもしれねぇんだぞ。」

 

「死ぬかもしれないねぇ・・・過去に何回も死にかけてるけど、今回はどれほどになるのやら。」

 

良介は鼻で笑った。

 

「これだけ言ってるのに、てんで堪えてなさそうなんだからよ・・・なんであんたってそうなんだ。

ホントに・・・他人なんてどうでもいいじゃねぇか。」

 

「ただ単に、こっちが好きでやってるだけだ。

それがなんだ?」

 

「なんか、わかんねぇんだよ・・・」

 

その頃、少し離れたところにメアリーたちがいた。

 

「聞こえてるぜー、来栖。

ククク・・・この盗聴器、こっちからも声、送れるんだっけか?

いざとゆーときゃ使わせてもらうぜ・・・だが盗聴器に気づかねぇってのは・・・よっぽど緊張してるのか、興奮してるのか・・・ちっとヤベェな・・・」

 

「だ、だって2人とも、あんな突き放しかたするんだから!」

 

メアリーは月詠の方を見た。

 

「あぁ?

テメー、あのときいたのかよ。」

 

「隣で着替えてたのよ!

焔がメアリーの書類読んでて出られなかったの!」

 

「む・・・そうか、読んでいたか。」

 

「シュレッダーにはかけたか?」

 

「それだが、歩きながら破れた書類読んでるの見たぞ。」

 

誠が話に入ってきた。

 

「ふむ。

なるほど。

破りはしたがシュレッダーにはかけなかったか。

ならば来栖は、まだ書類上も精鋭部隊だな。」

 

「え?

破ってるのに?」

 

誠は不思議そうにエレンを見た。

 

「最後の仕事をやってねぇからなぁ。」

 

メアリーは笑みを見せた。

 

「精鋭部隊から単独行動での死人を出すわけにはいかん。

本人の意志を尊重し・・・単独でのクエスト続行が不可能と判断されるまで・・・私たちは距離を取って進むぞ。」

 

「やれやれ、素直じゃねぇな。」

 

誠は呆れていた。

 

「あの~・・・誠先輩、守谷先輩。」

 

浅利が誠と月詠に話しかけてきた。

 

「ん?」

 

「何よ。」

 

「このロープ、ずっとつけてないといけませんか?

さっき、国軍の人たちに笑われちゃいました・・・」

 

浅利は腰に巻きついたロープを持ちながら聞いてきた。

ロープの先は誠の背中の双剣の鞘に巻きついていた。

 

「クエスト中に行方不明になるぐらいなら、笑われた方がいいだろ。

そのままつけてろ。」

 

「そんなぁ・・・」

 

浅利は肩を落とした。

 

   ***

 

良介たちや誠たちより少し先の方にイヴがいた。

イヴはデバイスを取り出した。

 

「正常にリアルタイム送信されているみたいね。

もう、今回の目的は果たしたと言っていいけれど・・・傷の魔物・・・スカーフェイス・・・念のため、最後まで続けてみましょう。」

 

イヴはデバイスを直すと、隠れるように脇道に入った。

そこに誠たちがやってきた。

 

「静まりかえっているな。」

 

エレンが周りを見渡した。

 

「街中じゃなくてよかったな。

しかし、なんで山の中なんだ?

意外と臆病だったりするのか?」

 

誠は思っていたことを口にした。

 

「もし意図的に隠れているなら、知性の証明になる。

今回はろくに画像も取られていないし、マーキングもできていない。

手ごわいだろうな。」

 

「手ごわいねぇ・・・良介の奴も同じこと考えてるかもしれないが、何が来ても倒す。

ただそれだけだ。」

 

「フッ、頼もしいな。」

 

エレンは誠の言葉を聞いて笑みを浮かべた。

 

   ***

 

いつの間にか誠たちのところにイヴがいた。

 

「お前が精鋭部隊と同じクエスト請けるなんて珍しいな。」

 

誠はイヴに話しかけた。

 

「違うわ。

私の目的はスカーフェイスの討伐じゃない。」

 

「なら、なんでこっちに来てるんだ?」

 

「話すようなことじゃないわ。」

 

「やれやれ、相変わらず頑固なところはノエルにそっくりだな。」

 

「なっ・・・」

 

イヴは少し動揺した。

誠は黙ってイヴを見ていた。

 

「なんでもないわ。

精鋭部隊と同じなだけだから。」

 

「どういうことだ?」

 

「魔法使いの村のこと、ずっと隠していたでしょう。」

 

「確かに隠していたな。」

 

「今のはただの恨み言だけど、実際に情報規制がかかってる。

あまり詮索はしないで。

必要になったら共有されると思うから。」

 

「わかった。

ところで・・・お前何かあったのか?」

 

「なにも。」

 

イヴは先に歩いて行ってしまった。

誠はイヴの後ろ姿を黙って見ていた。

 

「冬樹先輩、なにかあったんですか?」

 

浅利が誠に話しかけてきた

 

「いや、以前より話すようになったからな。」

 

「前はどのくらい喋らなかったんですか?」

 

「頑固なところはノエルにそっくりだな。

て、言ったら・・・そう、よかったな。

て、感じだったんだ。」

 

「へぇ~。

そんなでしたっけ。

冬樹さんって。」

 

「お前・・・イヴと話したことあるか?」

 

「ありましたっけ?」

 

「おいおい・・・」

 

「誰かととっても似てるなって思ってたら、イエヴレフさんでした。」

 

「それ、始祖十家・・・」

 

誠はため息をついた。



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第99話 火焔の誓約

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


良介と焔は傷の魔物を探して歩いていた。

 

「これまでの傾向からもそうなんだけど・・・スカーフェイスはデバイスで追うことができない。

マーキングできないんだ。

用心深くて、なかなか姿を見せないからな。

1度なにか目印をつけられたら、ロストするまで逃げ回る。

あいつが人を襲うのは、無事に逃げられるって確信できるときだ。

メアリーはそう書いてた。」

 

「つまり探すには、根気よく痕跡を追うか、こっちが無防備に見えるようにしないといけないのか。

クエストが少人数なのも、精鋭部隊とパーティが違うのもそれが理由か。」

 

良介は納得した。

焔は不満そうにしていた。

 

「くそっ。

結局、アイツらがこうなるように仕組んでたんだ。

情けねぇよ。

そこまでお膳立てされてるってのに・・・」

 

すると、突然良介が立ち止まった。

 

「どうしたんだ?

いきなり立ち止まって・・・」

 

「焔!

下がれ!」

 

良介はいきなり焔の腕を掴んで引っ張った。

すると、そこに1体の魔物がいきなり現れた。

その魔物には傷があった。

 

「っ!?

スカーフェイス!」

 

「こいつが傷の魔物・・・スカーフェイスか。」

 

その頃、誠たちは少し離れたところを歩いていた。

突然誠が立ち止まった。

 

「ん?

誠、どうした?」

 

メアリーは誠の方を見た。

 

「・・・魔物だ。」

 

「あ?」

 

「どうした。」

 

エレンも誠の方を見た。

誠は良介たちがいる方を向いた。

そこには、傷の魔物と対峙している良介たちがいた。

 

「どうしたのかしら。」

 

月詠は不思議そうに誠を見ていた。

浅梨は何か感じ取っていた。

 

「魔物が・・・出てる・・・」

 

「えっ?」

 

月詠は浅梨の言葉を聞いて驚いた。

 

「あの傷・・・スカーフェイスだ!」

 

誠は魔物についている傷を見て傷の魔物だと判断した。

 

「なに・・・前触れがなかったぞ!

どういうことだ、メアリー!

見逃したんじゃないだろうな!」

 

「バカにすんな!

んなヘマするかよ!

くそっ!

あの図体でここまで気配が消せるもんなのかよ!」

 

「あの大きさ・・・タイコンデロガだな。

見るのは第7次侵攻の時以来か。

けど、感じる力・・・あれ以上か。」

 

すると、メアリーは良介たちのところに向かおうとしたが、エレンがそれを制止した。

 

「待て!

来栖の動きを待つ!

単独でのクエスト続行が不可能になったらだ!」

 

「はぁ!?

テメー頭がどうかしてんのかよ!

放っといたら死んじまうに決まってんだろうが!」

 

「来栖はお前の書いた戦い方を読んでいる。

そう簡単にやられない!

私たちは奴に自由にしろと言った。

その言葉に責任を持て!」

 

「アイツがスカーを倒せるってのかよ!」

 

「来栖にはここで一歩、進んでもらわねばならん。

私たちが安易に助けに入れば、元の木阿弥だ。

仇討ちがどういうことか、言葉で言っても来栖はわからなかった。

ならば、実戦で理解させるしかない・・・!」

 

「ぐっ・・・テメェ・・・」

 

「自分の部下を信じろ!

1人で勝てないとわかったら・・・必ず、奴は助けを求める。」

 

「くそっ!」

 

メアリーは舌打ちをした。

話を聞いていた誠は月詠たちの方を向いた。

 

「月詠、浅梨、今の話、聞いてたか。」

 

誠が振り向くとそこに月詠たちの姿は無かった。

誠は急いでロープを見ると、ロープは途中で千切れていた。

 

「あいつら・・・!」

 

誠はロープを投げ捨てると傷の魔物の所へ向かった。

 

   ***

 

焔は傷の魔物を睨みつけた。

 

「出たか・・・その傷、よく覚えてるぞ・・・テメェが・・・テメェがアタシの家族を・・・!

灰にしてやる!」

 

焔は火の魔法を撃った。

だが、傷の魔物にはあまり効いていなかった。

 

「っ!

ダメだ、1発程度じゃビクともしてねぇ。」

 

「焔、手貸してやろうか?」

 

良介が焔に話しかけた。

 

「離れてろ!

アンタの手は必要ねぇ!」

 

その頃、傷の魔物の背後の近くにイヴがいた。

 

「スカーフェイス出現。

詳細なデータを取るにはもう少し近づかないと・・・もし人の手が入っているなら、全身をスキャンした際に・・・作られた不自然さが検出されるはず。」

 

イヴは精鋭部隊がいる方を見た。

 

「精鋭部隊は何をしているの。

ただの討伐じゃないのよ。

あんな魔物、2人で勝てるわけないのに。

危なっかしい戦い方するわね。」

 

すると、イヴは傷の魔物に向かって、氷の魔法を撃った。

傷の魔物は少し怯んだ。

 

「っ!?

今だっ!」

 

焔はすかさず傷の魔物に火の魔法を撃った。

良介は氷の魔法がやってきた方を見た。

 

「今のは、誰がやったんだ?

精鋭部隊は氷は使わないな。

まぁ、いいか。」

 

良介は焔に魔力を渡した。

 

「良介・・・余計な・・・!」

 

「余計な・・・なんだ?」

 

「いや・・・なんでもねぇっ!

まだだっ!

まだ動ける!」

 

すると、突然傷の魔物の雰囲気が変わった。

 

「な・・・なんだ・・・」

 

「どうやら、これからが本気みたいだな。

油断でもしてたのかもな。」

 

「話に聞くより弱いと思ってたけど、やっぱそんな理由かよ。」

 

焔はまた傷の魔物に向かおうとすると、月詠と浅梨がやってきた。

 

「焔っ!

待ちなさいよ!

今までも、アンタ、苦戦してたくせに!

まだ1人でやるつもりなの!?」

 

「1人じゃねぇ・・・2人だ・・・良介が魔力を回復した。

やれる!」

 

焔は傷の魔物に攻撃し始めた。

 

「んもう!

意地っ張り!」

 

月詠は文句を言った。

良介は焔の様子を見てため息をついた。

 

「やれやれ、自分のことを過大評価してるな。

魔力枯渇の疲労は消せても、運動の疲労は蓄積されてくってのに。

さて、俺と誠、エレンとメアリーも参加したところで、こいつを倒しきれるのかどうか・・・難しいな。」

 

良介は顎に手をやった。

 

   ***

 

焔は1人で傷の魔物に攻撃し続けていた。

 

「ぐ・・・クッ・・・チクショウッ!

タイコンデロガっつったって、限度があるだろうがよ!」

 

すると、焔の後ろから魔法が飛んできて、傷の魔物に直撃した。

 

「っ!?」

 

焔は後ろを振り向いた。

 

「テメェら・・・っ!」

 

攻撃したのは月詠と浅梨だった。

 

「もう見てらんないわ。

浅梨、行くわよ。」

 

「はい!

来栖先輩、よろしくお願いします!」

 

「な、なにを・・・頼んでねぇだろ!」

 

「そうよ。

本当は、アンタが助けてって言わなきゃ出ちゃいけなかったの!

でもそんなの、クソくらえだわ!

アンタが1人で戦うより・・・4人で戦った方がマシに決まってるでしょ!

そうでしょ、良介!」

 

月詠が良介の方を見ると、良介はすでに第1封印を解放した状態になっていた。

 

「ああ、その通りだ。

にしても月詠、だんだんメアリーに似てきたな。」

 

良介は肩を軽く回しながら前に出てきた。

 

「焔、トドメはお前に刺させてやる。

いい加減、意地張るのはやめろ。」

 

「来栖先輩!

私が盾になりますから!

攻撃に専念してください!」

 

「ばっ!

馬鹿野郎!

アイツの攻撃力、見てただろ!」

 

「大丈夫です!

お姉ちゃんの魔法の方が、何倍も強力でしたよ!

スタミナには自信があるんです。

任せてください!」

 

少し離れたところで見ていたメアリーはため息をついた。

 

「あーあ、出てっちまった・・・」

 

エレンは黙って4人の戦いを見ていた。

 

「意外といい動きじゃないか。」

 

「調子に乗らなきゃいいがな。

釘刺しとくか。

おい、来栖。

助けが入って、楽になっただろ。

だが、それで勝てると思うなよ・・・そいつはタイコンデロガだが・・・強さは最上級だぞ。」

 

焔はいきなりメアリーの声が聞こえてきて驚いていた。

 

「っ!?

な、なんだっ!?」

 

「最後にもう1度聞くぞ。

テメーらで、スカーフェイスを倒せるか?」

 

焔は何も言わずに傷の魔物に攻撃した。

 

「クソッ・・・クソ、クソッ!」

 

「いつ答えてもいい。

必要になったら、呼べ。

いいか、必要になったらだ。

死んだら地獄まで追いかけてぶん殴ってやるからな。」

 

「地獄行きは決定かよ!」

 

メアリーは焔との会話を終えて、1つ疑問を抱いた。

 

「おい、ところで誠のヤツ、どこいった?」

 

「さっき2人を追いかけてからすぐに見なくなったが・・・メアリー、見ていないのか?」

 

「アタイも知らねぇぞ。

アイツ・・・どこ行きやがったんだ?」

 

その頃、傷の魔物の攻撃を受け続けていた浅梨が少しバランスを崩した。

 

「あっ・・・!」

 

「我妻っ!

食らいすぎだ、下がってろ!」

 

「いえ・・・まだ大丈夫です!

私の心配をするくらいなら、どんどん攻撃してください!」

 

「浅梨、お前・・・」

 

良介は時間を確認した。

 

「もう2時間も経ってんのかよ・・・!

しぶといにもほどがあるだろうが!」

 

すると、焔が浅梨の前に出た。

 

「どけっ!」

 

「あっ!」

 

「この・・・大馬鹿野郎!」

 

「ぐぁっ!」

 

焔が傷の魔物の攻撃を受けようとした瞬間、良介が焔を突き飛ばして、代わりに攻撃を受け止めた。

 

「ぐうぅっ・・・!」

 

「焔!

アンタ、なにしてんの!」

 

「ち、チクショウ・・・いてぇ・・・良介のヤツ・・・!」

 

焔は黙って良介の方を見た。

 

「ぐはっ・・・ぐっ!

クソ・・・なんだこの攻撃力・・・ふざけてんのか!」

 

良介は傷の魔物の攻撃を受け続けていた。

 

「メアリー・・・エレン・・・」

 

「テメー、なにバカなことやってんだ。」

 

また、焔にメアリーの声が聞こえてきた。

 

「我妻に・・・守谷に・・・良介に・・・迷惑かけちまった・・・」

 

「テメーみたいなコミュ障に、我妻と守谷が関わる理由はわかったか?」

 

「わかんねぇ・・・」

 

「じゃあ、テメーが我妻を庇おうとした理由はわかるか?」

 

「アタシのために・・・傷つく意味なんかねぇから・・・」

 

「テメーと精鋭部隊の連中はなんだ?」

 

「ただ、同じ部隊な・・・だけだ・・・」

 

「お前の望みはなんだ?」

 

「アイツを、倒してぇ・・・」

 

メアリーは黙っていた。

 

「メアリー?」

 

メアリーから返答はなかった。

 

「助、けて・・・」

 

「顔上げろ。」

 

焔が前を見るとメアリーとエレンが立っていた。

 

「守谷!

コイツに回復魔法かけとけ!」

 

「は、はぁ!

ツク、回復なんてほとんどできないわよ!」

 

「魔力ぶん回せ!

それである程度カバーできる・・・おい、来栖。

同じ部隊で、魔物を倒したいと願ってるヤツがいる。

その魔物は超強ぇ。

1人じゃ無理だ。

だが全員でかかればイケるかもしれねぇ。

それが理由だ。

他に、なにか必要かよ?

トドメ刺すのはテメェだ。

アレやれ。」

 

「アレ?」

 

「武田 虎千代のホワイトプラズマだ。」

 

「な・・・で、できるわけ・・・」

 

「それが無理なら良介のストナー・・・なんだ?

まぁ、それか、ファイヤーブラスターっつったか。

そこらへんでもいいだろ。

それに、できるかじゃねぇだろ。

なーに、心配すんな。

できなかったら、そん時はアタイがヤツを殺す。」

 

エレンは浅梨の方に駆け寄った。

 

「我妻、平気か?」

 

「は、はい・・・!

まだ耐えられます!」

 

「すまないが、もう少し頼む。

私の強化魔法も重ねておく。

良介。

今から守谷と来栖に魔力を分けてくれ。

大量にだ。

それで、決めるぞ。」

 

良介は膝をついたまま傷の魔物の攻撃を受け止めていた。

 

「この状態・・・だっつのに・・・!

けど、了解だ!

ついでで・・・俺の新しい力・・・見せてやる!」

 

「む?」

 

「火属性・・・極限強化!」

 

すると、良介の髪が赤く染まった。

 

「はあぁっ!」

 

良介は傷の魔物を蹴り飛ばした。

傷の魔物は再び良介に攻撃しようと瞬間、空から何かが傷の魔物を攻撃した。

 

「ん?」

 

良介の目の前に、背中から悪魔のような紅い羽を生やした誠が降りてきた。

 

「誠・・・お前、今までどこにいた?

それよりその羽は・・・?」

 

「悪い悪い、魔神化使ったら突然羽生えてきてさ。

うまく扱えるようになるのに時間がかかったんだ。」

 

「なんで羽が・・・」

 

「さぁな。

けど、以前より少しパワーアップしたのは確かだ。

このまま俺も参加するぜ!

で、良介、その髪どうした?」

 

「ああ、火属性極限強化をするとこうなるんだ。

魔力強化と肉体強化を限界までしてる状態だからな。」

 

「へぇ、なるほどな。」

 

「誠先輩・・・!

あ、エ、エレン先輩はどうするんですか?」

 

「これまでの情報から、スカーフェイスは不利になると逃走する。

それを防ぐのは私とメアリーの役目だ。

絶対にここから逃がさん。」

 

良介はすぐに焔のところに向かった。

 

「焔、話は大体聞いた。

やるぞ。」

 

「ホワイトプラズマ・・・大量の魔力を放出して、レーザーをぶち込む・・・あんたが魔力を流し込むことで、射出時間が伸びて更に威力が上がった。

自分を、魔力が通り抜ける筒と考えて・・・」

 

焔は少し黙った。

 

「何のために訓練してきたんだ・・・!

やってやる!

良介!

力を貸してくれ・・・!」

 

良介は笑みを見せながら焔を見た。

 

「覚悟は決まったみたいだな。」

 

皆が焔を見ていた。

いつの間にかイヴまでやってきていた。

 

「イヴ、危険だからここにいる必要はないんだぞ。」

 

誠はイヴに話しかけた。

 

「スカーフェイスを逃がさないためです。

お気づかいなく。」

 

すると、傷の魔物が動き出した。

 

「動き始めた。

人数が増えて逃げ出す気だな!

んなことさせるか!

良介、行くぞっ!」

 

「ああ、やるぞ!」

 

良介は焔に大量の魔力を流し込んだ。

 

「うっ・・・ぐっ・・・!」

 

焔は魔法を撃つのに少し苦戦していた。

すると、良介が後ろから焔の両手に手を添えてきた。

 

「良介、お前何して・・・!」

 

「黙って集中しろ。

手伝ってやるだけだ。」

 

すると、焔の両手から大量の炎が出てきた。

 

「これなら・・・!」

 

「ああ、今だ!」

 

「消し飛べっ!!!」

 

焔は魔法を放った。

 

   ***

 

焔の放った魔法はレーザーのように飛んでいき、傷の魔物を貫いた。

貫かれた傷の魔物はそのまま霧散した。

エレンは傷の魔物が倒されたのを確認した。

 

「スカーフェイスの霧散を確認。」

 

「ちっ・・・もしかしてこれまでに出てきた傷の魔物・・・同一個体だったのか。

そうじゃなきゃこの強さはねーだろ。

ったく・・・来栖1人だったら確実にオダブツだったぞ。」

 

メアリーはため息をついた。

 

「検証は他に任せよう。

しかし・・・タイコンデロガにしてもあの強さは・・・」

 

「ま、ああいうのがもしかしたら、ムサシになるのかもな。

しかしよ、やっちまった後で言うのもなんだが・・・知性が高すぎねぇか。

話には聞いたことあるが、初めて見たぜ。

タイコンデロガを超えたら・・・それが条件みたいなもんなのかね。」

 

その頃、気絶していた焔は目を覚ました。

 

「う・・・」

 

「やっと気がついたか。

まだ動かない方がいいぞ。」

 

焔は良介の体に凭れるように倒れていた。

 

「ど、どうなった!?

アイツはどうなった!?」

 

焔は体を起き上がらせると、必死に良介に問いかけてきた。

 

「安心しろ。

倒したぞ。」

 

「そ・・・そう・・・か・・・倒したのか・・・ほ、本当だろうな・・・」

 

「帰ったら戦闘データ見ればいいさ。

止めを刺したのはお前だ。

まぁ、さっきまで気絶してたから、実感ないかもしれないがな。」

 

「いや、わかる。

ずっと・・・6年、ずっとあったプレッシャーが・・・ない。」

 

少し焔は黙った瞬間、大粒の涙が目から流れた。

 

「う・・・うぅ・・・」

 

「おいおい、どうしたんだよ。」

 

「く、来栖センパイ!?」

 

「ちょ、ちょっと、どこか痛めてるんじゃないでしょうね!」

 

他の面々は心配していたが、良介は笑っていた。

 

「ちげぇよ・・・くそ・・・バカにしやがって・・・」

 

すると、エレンが皆に呼びかけた。

 

「お前たち。

そろそろ帰るぞ。」

 

「やれやれ・・・いつまで泣いてんだよ。」

 

良介は笑いながら焔に話しかけた。

 

「う、うっせぇ・・・」

 

「歩けるか?」

 

焔は目を擦って、良介を睨んだ。

 

「歩けるよ!」

 

メアリーはその様子を見て、笑みを見せた。

 

「Good!

テメーら、撤収だ!」

 

「あー・・・疲れた。

早く帰ろうぜー。」

 

誠は魔神化を解くと、背中の羽が霧散した。

 

「む?」

 

「あ?」

 

メアリーとエレンが誠の方を見た。

 

「どうした?」

 

「いや・・・」

 

「・・・なんでもねーよ。」

 

3人は先に戻っていった。

月詠と浅梨は焔の方を向いた。

 

「先、行ってるわよ。」

 

「何かあったら呼んでくださいね。」

 

2人も戻っていった。

 

「り、良介・・・」

 

「どうした?」

 

「悪かったな・・・」

 

良介は呆れたように頭を掻いた。

 

「さっきの素直さはどこ行ったんだ?

言いたいこと、正直に言えよ。」

 

良介は笑いながら言うと、焔は少し恥ずかしそうにした。

 

「あ・・・あり・・・がと・・・」

 

「ああ・・・どういたしまして。」

 

その頃、結希の研究室。

結希と天が傷の魔物の霧散を確認していた。

 

「スカーフェイスの消滅を確認。

さすがに同一個体だとは思わなかったわ。」

 

「これで、CMLの検体が1つ無くなったのね。」

 

「討伐を依頼してきたのはCMLよ。

それより、傷の魔物・・・噂が最初に出たのは30年ほど前だったかしら。」

 

「さあ。

興味はなかったから調べてないわ。

その頃だと、第4次侵攻の前後?」

 

「ええ・・・それから単独で生きてきた。

魔物にしては行動パターンが賢すぎるわ。」

 

結希は少し黙った。

 

「冬樹さんが最後まで見届けたのは幸運だったかもしれないわね。」

 

「ちょ、ちょっと、それって・・・」

 

「天。

今すぐ風紀委員の所に行って、傷の魔物のデータを・・・あら?」

 

結希は記録を見て何かに気づいた。

 

「どうしたのよ。」

 

「傷の魔物の消滅から少し後にもう1つ別の消滅の記録があるわ。

これは・・・」

 

「どうせ別の場所にいた魔物でしょ。」

 

結希は驚いた顔をしていた。

 

「な、何よ・・・」

 

「場所は・・・誠くんの・・・体内・・・?」

 

「はぁ?

誠の体内?

何かの間違いじゃないの?」

 

「ただの誤作動・・・と思いたいけど・・・」

 

すると、今度は天のデバイスが鳴り始めた。

 

「わ、私に電話?

誰よ、電話番号知ってるの・・・」

 

天は電話に出た。

 

「もしもし・・・なんだ。科研ならそう言ってよ。」

 

少しすると、天の表情が変わった。

 

「はぁっ!?

なに急に!

できるわけないでしょう!?」

 

天は少しの間黙った

 

「事情を考慮して検討を重ねます!

じゃあね!」

 

天は電話を切った。

 

「どうしたの?」

 

「どうもこうもないわよ!

アンタ、なにか知ってたら教えなさいよ!

来栖 焔を速やかに処分せよって、なんのことよ!」

 

「来栖 焔を・・・処分・・・なんですって?」

 

「誠のことといい・・・何が起きてるのよ・・・」

 

天は困惑していた。



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第100話 壊れた銀の輪

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
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ある日の学園。

色々な飾りが取り付けられた廊下を良介と絢香が歩いていた。

 

「いよいよ当日かぁ・・・ギリギリまでステージの設営手伝わせちゃってごめんね。」

 

「別に構わないさ。

おかげで当日には間に合ったんだから。」

 

すると、そこに律がやってきた。

 

「おーい!

絢香!

やっと見つけた・・・はぁ、はぁ。」

 

「律、どうしたんだ?」

 

良介は律に尋ねた。

 

「いや・・・変な噂聞いてさ・・・絢香の事務所に脅迫文が届いたって聞いて・・・」

 

「えっ?

誰から・・・あ、お手伝いの人か。」

 

「ダンスの練習してたら、スタッフが話してるのが聞こえてさ・・・」

 

「絢香、大丈夫なのか?」

 

良介は絢香に聞いた。

 

「そのことなら大丈夫だよ。

本気の可能性は低いしね。

脅迫ってよくあるんだ。

ちゃんと学園に伝えて、注意してもらってるから。

制服のガードマンもたくさんいるし、大丈夫大丈夫。」

 

「まぁ、それなら大丈夫か・・・」

 

「うん!

だから心配しないで。」

 

「一安心だな・・・あ・・・あたし体育館に荷物置いてきちゃった。」

 

「早く取りに行けよ。

開会式始まるぞ。」

 

「そうだな!

サンキュー。

んじゃライブ楽しみにしてるからなー!」

 

「うんっ!

ありがと!

気をつけてねー。」

 

律は走り去っていった。

 

「はぁ・・・やっぱり広まっちゃってるかぁ・・・」

 

「さっきの脅迫文の話か?」

 

「うん・・・ネットでね。

わたしのファンのコミュニティに書かれてたんだ。

事務所の人が見つけて、すぐに対応したんだけど・・・だから大丈夫なんだけど、ほら、みんな心配しちゃうから。

学園生にはあんまり知られたくなかったんだ。

せっかく楽しい学園祭なんだから、雰囲気壊したくないもんね。

いちおう、ガードマンを増やして、風紀委員にも伝えてるよ。

どうしてもこの学園祭のライブは成功させたいから。」

 

「なるほどね・・・まぁ、なにもなければいいが・・・」

 

2人が話していると、今度は千佳がやってきた。

 

「おっはよーー!

絢香!」

 

「あ、おはよう。

千佳ちゃん!」

 

「やっと見つけたわ。

人多くて見つかんないかと思った・・・ねぇねぇ。

開場したら一緒に校舎のほう回らない?」

 

「え、うん!

ライブのリハーサルまでなら、大丈夫かな。」

 

「良かった、みんなバタバタしててさぁ。

1人でってのも微妙だし・・・良介もどーせ暇でしょ?

来なよ。」

 

「ん?

そうだなぁ・・・」

 

「良介君?

ちょっと来て・・・」

 

絢香は良介の袖を引っ張った。

 

「どうした?」

 

「脅迫文の事、千佳ちゃんには言わないでね。」

 

「あぁ、そのことか。

わかってるよ。」

 

「どうしたの?」

 

千佳は不思議そうに見てきた。

 

「ん?

なんでもないよ。

そろそろ開会だよね?」

 

「あと5分。

グラウンドでやるって言ってたし、いこいこ。」

 

絢香と千佳はグラウンドに向かった。

 

「さて、何も起きなきゃいいが・・・念のため誠には話しとくか。」

 

良介は2人の後をついて行った。

 

   ***

 

良介たち3人は廊下を歩いていた。

 

「うお・・・かなり混んでるな。」

 

「毎年スゴいわ、やっぱ。」

 

「本当、すごい盛り上がってるねー。」

 

良介たちは壁に新聞を貼っている鳴子を見つけた。

 

「これでよしっと・・・ん?

やぁ、魔法祭は楽しんでるかい?」

 

「どうも。

それ、魔法祭の壁新聞ですか?」

 

「そうさ。

今年の魔法祭は面白いネタがたくさんあってね・・・」

 

良介は新聞に目を通した。

 

「何々・・・生徒会と風紀委員のコスプレ警備?」

 

「何それ、ウケるんだけど・・・ちょっと見たいわ。」

 

「確かに・・・見てみたいな。

(風子・・・どんな格好してるんだろう・・・)」

 

「不届きものに知らせてるのさ。

皇君の心配がこれで払拭できればいいけどね。」

 

千佳は何のことかわかっていない様だった。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「なんですか。

この新聞は・・・」

 

風子と虎千代がやってきた。

 

「あれ?

まだコスプレしてないのか?」

 

良介は風子に聞いた。

 

「ウチらは好きでコスプレ警備なんてしてるわけじゃねーんですがね・・・」

 

「まぁまぁ、そう言うな水無月。

せっかくの魔法祭だ。

雰囲気を壊さないように警備する為の手段だ。」

 

「わかりましたよ。

んじゃ、ウチは正門の警備があるんでこれで・・・皇 絢香、心配しねーでも警備はしっかりやるんで。

あ、良介さん。」

 

「ん?」

 

風子は良介に少し近づいた。

 

「暇ができたら一緒に回りましょうね。」

 

風子は小声で言うと、良介は無言で小さく頷いた。

 

「では、ウチはこれで。」

 

風子は去って行った。

 

「それじゃ。

新聞も貼ったし、僕もこれで失礼するよ。

気をつけて、楽しむといい。」

 

鳴子も去って行った。

 

「うーん。

いいアイディアと思ったんだがな・・・コスプレ。

おっと、アタシも用事を忘れていた。

それじゃ皆、魔法祭を楽しんでくれ。」

 

虎千代も行ってしまった。

 

「あ、そうだそうだ!

うちも忘れないうちに・・・これ渡しとくね。

うちの作った学園祭ブレスレット。

記念に作った、みんなお揃いのやつなんだけどさー。

良介の分も作ったからあげる。

ほい。」

 

千佳は絢香と良介にブレスレットを手渡した。

 

「うわ・・・絢香の名前が入ってる。

ありがとう!」

 

「これはいいな。

ありがたく貰っとくよ。」

 

「ホントはもっと早く渡そうと思ってたんだけどさー。

全員の名前入れてたら、むっちゃ時間かかった・・・昨日、完成したんだよね、当日になっちゃったけどさ。」

 

「ううん。

ありがとう。

すっごく嬉しいよ!」

 

「そんな喜ばれると、なんかハズい・・・で、どこか行きたい店とかある?」

 

「調べる暇なかったんだよね・・・おすすめとかある?」

 

「それだったら、料理部はどうだ?」

 

良介の発言に2人とも同意し、料理部に行くことになった。

 

   ***

 

3人は調理室の前に来ていた。

 

「さて、料理部の前に来たが・・・」

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」

 

良介が入ろうとした瞬間、中から悲鳴が聞こえた。

 

「な、何だ!?」

 

「とにかく、行ってみよう!」

 

3人は調理室に入った。

中には花梨と小蓮と明鈴がいた。

 

「なんてこと!

絶望的ネ・・・!」

 

「どうするのだ花梨!

これじゃお店できないアル!」

 

「んだなぁ。

どうするべ・・・」

 

「おい、何事だ!」

 

良介は3人に話しかけた。

 

「大変なのだ!

お店が・・・焼きそばがぁ・・・」

 

「買い物さ行ってる間に、皆に仕込み頼んでたんだけんど・・・おらの焼きそばと・・・智花が手伝いで作った焼きそばが混ざっちまって・・・」

 

「どれが、智花の焼きそばか分からなくなってしまったヨ!」

 

「この中のどれかが・・・智花の・・・」

 

良介は3人の前に並んでいる大量の焼きそばを見た。

良介は初めて智花の料理を食べた時の記憶がフラッシュバックし、少し顔色が悪くなった。

 

「そういうことなのだ・・・」

 

「料理部、始まって以来の最大的ピンチだヨ・・・」

 

「今回のはいうほどマズくねぇぞ?

なんとか成長できてるすけな。」

 

「しかし智花にはネームバリューがあるネ!」

 

「これ、出すの?」

 

「うーん・・・しょうがねぇかぁ。」

 

「い、いいのか?」

 

「別のもんから売ってくすけ。

焼きそばは料理部で食うぞ。」

 

「その・・・なんていうか・・・頑張れ。」

 

「ほら。

2人とも遊んでねぇで手伝うべよ。」

 

花梨たちは準備に取り掛かった。

 

「大変だな・・・智花が少しうまくなってるって言ってたが・・・本当か?」

 

「あはは・・・他、行こっか。」

 

絢香がそう言うと3人は調理室から出ていった。

入れ替わる形で、誠が入ってきた。

 

「うーい、調子どうだ?」

 

「あ、誠・・・は!」

 

小蓮が何か思いついた。

 

「誠、焼きそば食べるカ?」

 

明鈴も話を合わせるようにやってきた。

 

「実は作りすぎてこんなにできちゃったアル。

よかったら食べるアルか?」

 

「お前がそんなこと言ってくるなんて珍しいな。

何か変な物でも入れてるのか?」

 

「そ、そんなワケないネ!」

 

「だ、大丈夫アル!」

 

「ふーん・・・ま、いいや。

それじゃ、この焼きそばを・・・」

 

誠は一番手前に置いてあった焼きそばを食べた。

 

「うん、中々うま・・・い・・・」

 

「誠・・・?」

 

誠の動きが止まったので、小蓮が近づこうとした。

 

「ウボァー!」

 

誠が突然、白目を剥いて倒れた。

 

「あー・・・ハズレ引いちまったか・・・」

 

花梨は苦笑していた。

 

   ***

 

良介たち3人は話しながら廊下を歩いていた。

 

「そういえば、千佳ちゃんはどんなお店出してるの?」

 

絢香は千佳に聞いた。

 

「うちらのクラスはメイド喫茶なんだけどさぁ。」

 

「えー可愛いね!

行ってみたーい。」

 

「まだ始まってないの。」

 

「えっ?」

 

「仕込みとかいろいろあるんだけど、人が足りなくて・・・うちはブレスレット作ったから休んでていいって言われてんだけどね。

はじまるのって昼からかなぁ。」

 

「お昼・・・もう打ち合わせ始まってるかぁ・・・残念。」

 

「ま、今の内に他の店も見てみようよ。」

 

「この辺りだと何があるんだろう・・・」

 

「確か、歓談部の噂カフェ、天文部の・・・ん?」

 

良介は何かに気づき、前を見た。

 

「オカ研の占いの館へどうぞ。」

 

目の前にゆえ子が立っていた。

 

「うおっ!

ゆえ子か・・・驚かすなよ・・・」

 

「無料で運勢を占うのです。

どうでしょうか。」

 

「占いかぁ・・・ふーん。

やってみようかな。」

 

「ゆえの占いの館では、占星術やタロットなどを使って・・・運勢、金運、仕事運・・・もちろん恋愛運も占えるのです。」

 

「ゆえっちの占い、うーん・・・あたるけど、たまに残酷・・・」

 

「ふーん・・・お願いしてみようかなぁ?」

 

すると、ゆえ子は絢香を占い始めた。

 

「では・・・むにゃ・・・むにゃ・・・ん・・・見えました。

壊れた銀色の・・・輪っかが見えるのです・・・」

 

「えっ?」

 

「輪っか・・・?」

 

千佳と絢香は首を傾げた。

 

「ブレスレットじゃないよね?」

 

「そこまでは。

ですが、お気を付けてください。

皇さん・・・勇気は時に、危険を招くのです。」

 

「今のって・・・予知の魔法かな?」

 

「おいおい、ゆえ子、あまり脅すなよ?」

 

すると、絢香が何かに反応した。

 

「今の声・・・」

 

「絢香?

どうしたんだ急に・・・」

 

「ううん。

ごめん、なんでもないの!

あたし・・・絢香もうライブの打ち合わせに行かなきゃ。

ごめんね!

また後でね!」

 

絢香は行ってしまった。

 

「どうしたんだ、あいつ・・・」

 

良介は不思議そうに絢香の後ろ姿を見ていた。

 

   ***

 

良介と千佳は2人で歩いていた。

 

「まだ、絢香のライブまで時間あるんだよねー。

どうしよっかなー。

そろそろ教室戻ろうかな。

良介。

アンタ、どうする?」

 

「ん、俺か?

俺は・・・」

 

すると、そこに律が走ってやってきた。

 

「あっ、おーい!

良介!」

 

「律か。

どうした?」

 

「やっと見つけた。

絢香がどこに行ったか知らねーか?」

 

「ライブの打ち合わせに行くって言ってたけど・・・」

 

「えっ?

来てないぜ?

もうすぐ本番なのに連絡も取れないって言ってさ。

近くにいたあたしたちが探してんだ。」

 

「どこか寄り道してるって可能性は?」

 

「でも、アイツがブッチとかしそうにないけどなぁ。」

 

良介はさっきの絢香の様子を思い出した。

 

「そういえば、さっき様子が変だったな・・・」

 

「なぁ、良介?

本当に何も聞いてないのかよ?」

 

「脅迫文のやつ・・・関係あるんじゃないのか?」

 

「脅迫文?

あれってただの噂なんじゃねーのか?」

 

2人の話に千佳が混ざってきた。

 

「ちょっと待ってよ・・・脅迫文ってなんの話?」

 

「ああ、実は・・・」

 

良介は脅迫文の話をした。

 

「は?

なんで、そんな大事なこと黙ってたの!」

 

「大丈夫だって言ってたからな。

あいつも魔法使いだ。

攫われるなんてことはないと思うがな。」

 

「んなこと絶対じゃないじゃん!

早く探さないと!」

 

「そうだな・・・それじゃあ・・・」

 

「あ、そうだ!

それでさ、コレ見つけたんだけど。

確かこれ、千佳が作ってたヤツだよな?」

 

律は壊れたブレスレットを渡してきた。

 

「壊れたブレスレット・・・まさか・・・」

 

良介は名前が入っている部分を確認した。

 

「絢香のだ・・・!」

 

そのブレスレットは絢香のものだった。



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第101話 グリモワール魔法祭

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


体育館、良介は赤ずきんのコスプレをした風子に事情を説明していた。

 

「様子がおかしかった、とはどーゆーことです?」

 

「何かに気付いたような感じだったな。」

 

「なにかに気付いた・・・まさか、自分から怪しい連中に近づいてったんじゃ・・・アンタさんたち、脅迫文のことはきーてますよね?

げーのーかいでは日常茶飯事のことみてーですが・・・こーなったら全力で捜索です。

白藤 香ノ葉にも協力をあおいでくだせー。」

 

「香ノ葉か?

あいつ、学外警備のはずだが・・・」

 

すると、虎千代がやってきた。

 

「そろそろ観客がヒートアップしてきてるな。

スタッフも慌てだした。

宍戸たちに連絡を取ったが、学園外には出ていないそうだ。

どこかにいる。」

 

良介は顎に手をやった。

 

「念のため、人気のないところを重点的に探そうか。」

 

風子は良介の発言に無言で頷くと、虎千代に尋ねた。

 

「あ、そーだ。

白藤 香ノ葉はどこの警備でしたっけ?」

 

「白藤?

ちょっと待て・・・」

 

虎千代はデバイスで調べ始めた。

 

「確かバス停じゃなかったか?」

 

良介の言葉に虎千代はデバイスを見ながら頷いた。

 

「ああ、バス停だな。

学園側の。」

 

「よく知ってましたね良介さん。

それじゃ、彼女にもあとで協力よーせーを。

精霊さん達に活躍してもらいましょ。」

 

「後は・・・生徒会、風紀委員を総動員すれば・・・いや、ヤツに頼むか・・・よし、捜索は良介、水無月、お前たちに任せる。

アタシはこちらをどうにかしよう。」

 

「わかりました。

どーにかしてくだせー。

暴れだしたら手が付けられねーんで。」

 

風子は先に捜索に向かった。

 

「もう開演時間を過ぎているからな。

脅迫文のことが噂になり始めてるぞ。」

 

「そんなに広まってるんですか?」

 

そこに自由がやってきた。

 

「い、今のなんすかっ!?

鬼の風紀委員長が、あ、赤ずきん・・・!

やっべ!

すんげー睨まれて怖かったっすけど、激写しなきゃ!

ククク、アレは弱みっすよ!

弱み!

あのエラそーな態度は今日で終わり・・・あれ?

なんか深刻そーですね。

なんでライブ始まってないんです?

あ、もしかして例の脅迫文・・・」

 

「お前、知ってるのか?」

 

「事務所の話では、書きこまれてすぐに消したそうだが。」

 

「1度ネットに上がったものは、ずっと残るっすよ。

スクショとられて、通報されたり肴になったり・・・」

 

「つまり、会場のファンは、みんな知ってるということか・・・」

 

良介はため息をついた。

 

「まぁ・・・絢香ちゃんのファンなら知ってるっしょ。

自分が知ってるんだし。」

 

「それはまいったな・・・生半可なことでは納得しなそうだぞ。」

 

虎千代は頭に手をやった。

 

「なぁ、ところで誠知らねぇか?」

 

良介は自由に尋ねた。

 

「誠先輩っすか?

さっき保健室に担ぎ込まれてましたよ。

白目剥いてましたし。

噂では調理室で智花先輩の作った焼きそば食べたとか・・・」

 

「何やってんだ、あのバカ・・・」

 

良介は大きくため息をつきながら、捜索に向かった。

 

   ***

 

体育館、姫たち3人が虎千代から事情を聞いていた。

 

「なるほど。

皇さんが・・・では、私たちも探しましょうか。」

 

「こっちも手を借りたいんだ。

小鳥遊に聞いたが、脅迫文が出回ってるらしい。

それで観客の熱量が高くてな・・・」

 

「ふむ・・・では、私におまかせください。」

 

「おおっ!

姫殿には何か妙案がおありですか。」

 

「ロクでもなさそー・・・」

 

刀子は期待に満ちた目で姫を見ていたが、自由は嫌な予感がしていた。

 

「明日にやる予定だったお芝居、今からご覧いただきましょう。」

 

「ん?」

 

「ゲッ!」

 

「な、なんとっ!?」

 

自由と刀子は驚いた。

 

「なんだ、お前たちも・・・確かに、プログラムに組まれているな。」

 

虎千代はプログラム表を見て、確認した。

 

「だ、ダメっすよお嬢!

ただでさえアレなのに、タイミングまで悪いと・・・!」

 

「しかり!

そも、姫殿の御芝居を場繋ぎの慰みものにするなど・・・!」

 

自由と刀子は姫を止めようとした。

 

「お黙りなさい。

これも我ら、人を率いる野薔薇の務め。

いらした方々には学園祭を楽しんでもらわねばなりません。

この野薔薇 姫が!

目の前の問題から逃げるわけにはいきません!

完璧に場を繋いで見せましょう!」

 

「いや、それはやはりやめた方が・・・」

 

虎千代も姫を止めようとした。

 

「私を止めるのであれば、一刻も早く皇さんを見つけてくださいまし!」

 

「む・・・しかたない。」

 

「あーっ。

もーちょっと熱心に止めてくださいよぉ~っ!」

 

「ひ、姫殿!

そこまでの覚悟がおありですか!」

 

「やらいでか!

自由、刀子!

すぐにバラを用意しますよ!

会長さん。

1点、魔法の使用許可をくださいまし。」

 

「くれぐれも観客を傷つけるなよ。」

 

「ただバラのつぼみを咲かせるだけですわ。

ご心配無用です。

ただし、それには良介さんの魔力が不可欠・・・少しお借りしたいのですが・・・」

 

「よし、わかった。

今から良介を呼び出す。」

 

「さあ、2人とも!

用意していたバラの鉢植えを持ってきますよ。」

 

「御意に!」

 

「げ、げぇ~っ。」

 

3人が準備を始めると、虎千代はデバイスを取り出し、電話をかけた。

 

   ***

 

姫たち3人は芝居の準備をしていた。

 

「姫殿!

バラの鉢植えの設置が終わりました!」

 

「こっちもいいっすよ・・・本当にやるんです?」

 

「結構!

では2人とも、休んでいてください。

後は私が完璧に仕上げますので!」

 

「いや、そういうわけにもいかんでしょ。」

 

「観客の怒りがいつ爆発するかわかりませぬゆえ・・・拙者がお側に侍り、なにかあれば一刀両断にしてみせましょうぞ!」

 

「お、おいおい。

そういうのは困るぞ。」

 

虎千代は心配そうにしていた。

 

「2人とも・・・気持ちは受け取りました!

では、3人で赴きましょう!」

 

「えっ!?

刀子先輩だけじゃないんすか!?

自分、一言も・・・」

 

そう言っている間に、上演の時間になった。

 

「何も心配いりませんわ。

お任せください!

本来なら咲く季節の異なる数種類のバラ・・・それを魔法で同時に咲かせます。

自然な咲かせ方ではないので、バラには負担をかけますが・・・これで、皆様の心が少しでも落ち着けば、まずはよし!

ただし、薔薇を一気に咲かせる魔力は私にはありません・・・ですから!」

 

姫は、先ほど戻ってきたばかりの良介の方を向いた。

 

「お願いしますよ、良介さん。」

 

「話は聞いたが・・・本気みたいだな。

仕方ない、わかったよ。」

 

良介はため息をついた。

 

「しかたないっすねー。

お嬢だけさらし者になったら本家に殺されそうだし・・・」

 

「曲者が現れた時のために、速やかに退場するルートを調べておかねば・・・」

 

「2人とも!

失敗を前提にしないように!」

 

「ですが、アイドルのファンにウケる内容じゃありませんし・・・」

 

「バラはよいものです!」

 

「は、はぁ・・・」

 

良介は姫に魔力を渡すと、虎千代のところにやってきた。

 

「野薔薇には悪いことをしてしまった。」

 

「けど、なにもせずに時間が過ぎることは避けられたのでよしとしましょう。」

 

「そうだな・・・よし。

アタシも皇捜索に向かう。

良介、お前も行ってくれ。」

 

「わかりました。

けど、すぐに見つかりますかね?」

 

「なに、すぐに見つかるさ。

白藤と・・・あいつにも頼んだからな。」

 

「あいつ・・・?」

 

良介は不思議そうに虎千代を見ていた。

 

   ***

 

少し経って良介は廊下を歩いて絢香を探していた。

 

「さて、絢香はどこに行ったのやら・・・」

 

すると、そこに顔色の悪い誠がやってきた。

 

「よ、よう・・・絢香、探してるんだってな。

俺も探すぜ。」

 

「お前・・・大丈夫なのか?」

 

「へ、へへ・・・大丈夫だ。

少し眩暈と吐き気と腹痛があるだけだ。」

 

「十分ダメじゃねえか。

休んでろよ。」

 

「そうは言われても・・・俺、保健室から抜け出してきたから、戻ったら何言われるか・・・」

 

「ったく、仕方ねえな。

わかったよ。

ただし、俺から離れるなよ。

後、俺がこれ以上無理だと判断したら力づくでも保健室に戻ってもらうからな。」

 

「お、おう・・・安心しろよ。

全て終わったらすぐに戻るからよ・・・」

 

「さて、人気がないところってどこがあったか・・・」

 

良介は考えていると何かに気付いた。

 

「なあ、誠。

屋上って今、立入禁止になってたよな?」

 

「え・・・?

あ、ああ。

魔法祭中は危ねえから立入禁止になってるな。」

 

すると、良介は手を叩いた。

 

「そうか!

俺としたことが盲点だった!

人気がないところばっかり探していたが、立入禁止の場所のこと忘れてた!」

 

そう言うと、良介は屋上に走って向かっていった。

 

「り、良介・・・ちょ、待って・・・ハウッ!

は、腹が・・・」

 

誠は顔を青白くさせ、腹を抑えながら良介の後を追いかけた。

その頃、虎千代は絢香を探して掲示板前に来ていた。

 

「もし動き回ってるなら、すぐに見つかるはずだが・・・ということは、動いていないのか?

やはり捕まってるんだろうか・・・」

 

すると、虎千代のデバイスが鳴った。

 

「ん、アタシだ・・・なに?

わかった。

すまん、遊佐。」

 

虎千代はデバイスを直した。

 

「場所はわかったが踏み込むな、とは・・・どういうことだ?」

 

虎千代は首を捻っていると、またデバイスが鳴った。

 

「もしもし、白藤か・・・ああ。

ふむ。

なるほど。

協力感謝する。」

 

虎千代はデバイスの電話を切った。

 

「なるほど。」

 

すると、虎千代は誰かに電話をかけた。

 

「ああ、ロカ。

実は見つかってな・・・うん。

お前の言ってる場所と同じだ。

問題は踏み込む人員だが・・・アタシや水無月はダメだな。

ん?

もう向かっている生徒がいるのか?

じゃあ、任せてみるか。」

 

虎千代はデバイスを切った。

 

   ***

 

良介は屋上にやってきた。

 

「よし、着いた。

あれ?

誠、まだ来てないのか?

まあ、いいか。

で、絢香はっと・・・」

 

良介は屋上を見渡した。

 

「しーっ!

しーっ!」

 

そこに子供と一緒にいる絢香がいた。

 

「絢香!

ったく、何やってるんだこんなとこで。

みんな探してるんだぞ?

ていうか、その子供どうしたんだ?」

 

「あ、や、やっぱり探してるよね・・・謝んなきゃなぁ。」

 

「その子供、寝てるのか?」

 

子供は絢香の膝の上で寝ていた。

 

「うん。

誰かがこの鍵、閉め忘れたみたいで。

それでドアが開放されてた時に、迷子になったこの子が入り込んじゃったの。

で、ドアが閉まって、ノブに手が届かないから締め出されて・・・泣き声が聞こえたから、あたしがね。」

 

そこに、いつの間にか虎千代が来ていた。

 

「慰めてたら寝てしまって、身動きが取れなくなっていたのか。

誰かに連絡をくれればいいものを。」

 

「すいません。

デバイスの充電が切れて・・・それに・・・えっと、その、母親から離れて凄く寂しがってるんです。

あたしが来て安心しきってた・・・もし起きた時にあたしがいなかったら・・・」

 

今度は風子がやってきた。

 

「母親、特定しました。」

 

「あっ・・・あの、お願いがあって・・・この子、あまり怒らないであげてください。

親に黙っていなくなったこと、とっても後悔してるんです。

悪いことをしたって知られたら、親に怒られるからって。」

 

「そもそも屋上に入れたのがこちらの手落ちです。

その子は悪いことしてやしません。

さ、親が来ます。

子供はウチらに任せて、アンタさんは行ってくだせー。」

 

良介は風子に聞いた。

 

「風子、会場は今どうなってるんだ?」

 

「野薔薇のお嬢さんが、お客さんの怒りを肩代わりしてます。

その子はもう大丈夫。

今度は彼女らを助けてやってくだせー。」

 

「はい!」

 

すると、そこに顔を真っ白にさせた誠がやってきた。

 

「ぶ・・・無事に・・・見つかった・・・みたいだな・・・」

 

「ま、誠・・・大丈夫か?」

 

虎千代が心配そうに駆け寄った。

 

「だ、大丈夫ですよ・・・眩暈と吐き気と腹痛があるだけ・・・ですから・・・」

 

「誠さん、なんか白粉つけたみてーになってますが。

本当に大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫なわけねーだろ。

智花の料理食って、保健室に担ぎ込まれたんだから。

しかも、そこから抜け出してきてるわけだし。」

 

良介の話を聞いて、風子はため息をついた。

 

「もー、仕方ねー人ですね。」

 

「まったくだ。

仕方ない、アタシが保健室に連れて行くとしよう。」

 

虎千代は誠に肩を貸した。

 

「ハウッ!

あ、あの会長・・・あまり・・・急に動かさないで・・・腹が・・・」

 

「本当に大丈夫か?」

 

虎千代は心配そうに誠を見た。

良介は絢香の方を向いた。

 

「さあ、会場に行こうか。」

 

「あはは・・・はい!」

 

絢香は引き気味に笑った。

その頃、体育館では罵声が飛び交っていた。

姫は肩を落としていた。

 

「な、なんという罵言雑言。

ヤツら鬼畜か。」

 

「お嬢、お嬢。

まともに聞かない方がいいっすよ!

そもそもお嬢の舞台と客の好みが違う上に、もともと怒ってる人らですから!」

 

「もちろん、わかっておりますよ。

しかし、Magic☆Starのメンバーの方でも抑えきれないとは・・・」

 

「マジスタはよくも悪くも、絢香ちゃん人気が大きいですからね。

魔法使いって点が1番の注目ポイントなんで、他の子はどうしても・・・」

 

「このまま芝居を続けても得るものはなさそうですが・・・いかがしますか?」

 

「やり遂げねばならないでしょう。

得る得ないの問題ではありません。」

 

すると、そこに良介がやってきた。

 

「悪い、ようやく到着だ!

絢香、客の温度感高いから注意しろよ!」

 

衣装に着替えた絢香が舞台に上がった。

 

「みんな!

遅れてごめんなさい!

でももう大丈夫!

待たせちゃった分、楽しんでいってね!」

 

「皇さん・・・」

 

「あ、あの無礼者!

我らに一言もなく始めるつもりか!」

 

「わーっ!

ダメです刀子先輩!

これで自分ら、許されるんですから!」

 

「そういうことだ。

ほら、退散するぞ。」

 

良介は姫たちを連れて退散した。

 

「Magic☆Starの魔法祭特別ライブ!

1曲目、スタートの合図、行っくよーっ!」

 

こうして絢香のライブが始まった。

 

   ***

 

少し経って、生徒会室。

虎千代と風子と良介がいた。

 

「ふぅ・・・なんとか、無事に終わりそうだな。

一時はヒヤヒヤしたが。」

 

「結局、脅迫文は悪戯だったってことですか。

なんともお騒がせな・・・こんなのがよくあるなんて、げーのーかい怖いですね。」

 

「お騒がせといえば・・・会長、誠はどうなりました?」

 

「ああ、無事保健室に連れていけたが、椎名にかなり怒られていたぞ。

今日一日、絶対安静だそうだ。」

 

「そうですか・・・はぁ、普通のクエストよりも疲れた気がするな。」

 

「そですね。

あ、良介さん、約束覚えてます?」

 

「ああ、覚えてるよ。

まさかと思うが・・・その服のまま行く気か?」

 

良介は風子の赤ずきんの服を見た

 

「見回りがてら、ですからね。

そいじゃ、行きましょうか。」

 

風子は良介と一緒に行こうとしたが、虎千代が呼び止めた。

 

「ああ、そうだ。

実は気になる警備依頼が来てな。」

 

2人は止まると良介が答えた。

 

「その依頼、年末の歌謡フェスのことですか。」

 

すると、風子は嫌そうな顔をした。

 

「まさか、これにも脅迫文が?」

 

「本当怖いな・・・芸能界。」

 

良介は引き気味に笑った。



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第102話 もうひと頑張り

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


11月某日、学園の校門前。

良介と聖奈がいた。

 

「うーむ・・・なぜ私が選出されたのか・・・」

 

「おいおい、せっかくの機会なんだ。

むしろ喜んだらどうだ?

この公演を観たかったって言ってる奴も結構いるんだぞ?」

 

「だからこそだ。

私はあまり芝居には興味がないからな。

できれば、希望をしている者を選出したほうが良かったのではないかと思っているぐらいだ。」

 

「そればかりは執行部のやることだから、俺たちからはとやかく言ったところで仕方ないと思うけどな。

もしかしたらだが、興味のない聖奈だからこそ選ばれたんじゃないのか?

警備をしながら、観劇も許可されてるし。」

 

「あぁ。

教養の一環として観てこいとのことだな。

だが、あくまで我々の仕事は警備だ。

ながら作業では集中できん。」

 

「今回は民間警備会社も入ってるから、そこまで気張る必要は・・・」

 

良介の言葉を聞いて、聖奈は良介を一喝した。

 

「何を言っている!

任された以上はきちんとこなさなければならない。

今回同行するメンバーにもきちんとその旨は伝える。

無論、貴様もだぞ。」

 

「そんなぎちぎちに固めても・・・」

 

「仕事さえきっちりこなしてくれれば私は何も言わん。

よし、行くぞ。」

 

聖奈は先に行ってしまった。

 

「はぁ・・・今回、萌木がいるのに・・・劇団のこと調べたりして一番楽しみにしてたのに・・・大丈夫かなぁ・・・おまけに龍季もいるし。

なんとかなるといいけど。」

 

良介も聖奈の後を追いかけた。

少し歩いたところで、聖奈はあることに気付いた。

 

「良介、誠はどうした?

あいつも選出されていたはずだが・・・」

 

「誠は魔法祭の時の腹痛がまだ治ってないから辞退したぞ。

智花の料理を食ったから当然だな。」

 

「それは・・・仕方ないな。」

 

聖奈は納得した。

 

   ***

 

良介たちは劇場に到着した。

 

「うわぁ~!

大きな劇場ですねぇ。

お席もたっくさんありますぅ~!

シロー、始まったら静かにしていてくださいねぇ。」

 

さらがそう言うと、シロー小さく鳴いて返事した。

龍季は何も言わずにその様子を見ていた。

 

「うぅぅ・・・緊張してきたぁ・・・!

あ、あの人もしかしてヒロイン役の・・・!」

 

萌木は少し興奮していた。

 

「あの様子、相当楽しみにしていたみたいだな・・・」

 

良介は萌木の様子を見て、苦笑した。

 

「さて、全員いるな。

これからクエストの内容を説明するぞ。

我々の任務はこの劇場内の警備だ。

各自、公演を観ることも許可されているが、第一の仕事は警備だ。

入口側の担当は民間警備会社が担っている。

公演中に大きなトラブルは起きないとは思うが、気を抜かないように。」

 

萌木はずっと劇場の舞台の方を見ていた。

そんな萌木にさらが話しかけた。

 

「もえぎさん、嬉しそうですねぇ。」

 

「じ、実はこの公演ずっと観たかったの!

でも倍率もすごいし・・・チケット取れないだろうなって思ってて、だから・・・」

 

すると、聖奈が萌木に話しかけた。

 

「霧塚。

先ほど言ったように今回は・・・」

 

「はい!

警備もちゃんとします!

警備して、観ます!」

 

「あ、あぁ。

よろしく頼むぞ。」

 

聖奈は少し引いていた。

 

「んじゃ、とっとと担当の場所行こうぜ。

さらと俺はあっちだな。」

 

龍季が先に行こうとすると、聖奈が注意した。

 

「サボるなよ。

私が見ているぞ。」

 

「けっ。

こっち見てばっかだとテメーが叱られるぜ。」

 

「たつきさんは大丈夫ですよぅ!

さぼったりしません!」

 

「仲月も劇に見とれるなよ。」

 

「はいぃ!

ちゃんとけいびしますよぉ!」

 

「おい、いつまでもダベってたってしゃーねーだろ。

俺はもう行くぜ。」

 

「では各自担当につけ。

開幕から閉幕まで目を光らせろ。」

 

「ようやくか・・・じゃ、行くかね。」

 

良介たちはそれぞれ担当の場所に向かった。

 

   ***

 

良介は歩きながら警備をしていた。

 

「はぁ・・・何の異常もなし。

これ、警備必要か?」

 

良介は黙って舞台の方を見た。

 

「(・・・オペラ座の怪人。

醜く生まれたせいで誰からも愛されなかった怪人が、惚れたコーラスガールを舞台の主役にしたいが為に悪さをする話・・・か。)」

 

良介は劇のあらすじを頭の中で思い浮かべると思わず鼻で笑った。

 

「(やれやれ、演劇好きだった父さんによく連れ回された影響かな。

こうも鮮明に内容を覚えているとは・・・。)」

 

良介はそのまま歩いていると、聖奈のところにやってきた。

 

「なんだ、良介。

持ち場はどうした。」

 

「ああ、扉のところに3人も必要はないみたいだったんでな。

歩いて見回りをしてるんだよ。

聖奈は?」

 

「私はずっとこうしている。

案内以外何もない。

平和なものだ。」

 

「芝居は観てないのか?」

 

「ああ、私はあまり観てはいない。

観客から目を離すのが心配でな。

ただでさえ暗いだろう。

何かしようと思えば簡単に・・・一般市民を疑うのは良くないが、念には念を入れておきたくてな。

それに、芝居を観てしまうと警備を忘れてしまいそうなんだ。

自制だよ。

自制。

素晴らしい芝居だというのは分かっているさ。

だが、仕事は仕事だ。

そういう良介は観ないのか?」

 

聖奈の質問に良介は遠い目をしながら舞台を見た。

 

「俺は・・・もう見飽きたからな。」

 

「見飽きた?」

 

「ああ、俺の父さんが演劇好きだったんだ。

オペラ座の怪人は序の口。

シカゴ、ライオン・キング、キャッツ、レ・ミゼラブル・・・有名な奴は嫌って言うほど一緒に観に行かされたよ。

少しマニアックなものならブック・オブ・モルモンとか、キンキーブーツとかマチルダかな?」

 

「す、凄いな・・・本当の演劇好きだな。」

 

「ああ、それを観に行くだけならまだしも、DVDまで持ってたからな。

本当、どんだけ好きなんだって話だ。」

 

「確かにそうだな・・・ところで、先ほどから霧塚が持ち場にいないのだが、知っているか?」

 

「萌木が・・・?

あいつ、もしかしてだが・・・」

 

良介は萌木を探しに歩き始めた。

 

   ***

 

良介は舞台のすぐ近くにいる萌木を見つけた。

 

「おい、萌木・・・」

 

「り、良介さん・・・!

あの、その、えっと大変なんです・・・!」

 

「何が大変なのか知らんが、お前持ち場はどうしたんだ?」

 

「ふぇ・・・?

持ち場・・・?」

 

萌木はキョトンとしたが、すぐに気が付いた。

 

「ご、ごめんなさい。

舞台を見ていたらどうしても気になることがあって・・・でも良く見えないから舞台の近くまできちゃって、あの・・・えぇと・・・」

 

「なんだよ、気になることって・・・」

 

「はっ!

違うんです!

良介さん、早く伝えないと!

関係者の方を探しているんですけど、さっきから見つからなくて・・・!」

 

「関係者?

関係者なら・・・」

 

すると、聖奈がやってきた。

 

「どうした霧塚。

持ち場から離れるなど・・・」

 

「結城さん!

あの舞台装置、様子がおかしいんです!

良く見るとぐらついていて・・・このままだと倒れちゃいます!」

 

「なに?

どこがだ?」

 

「あそこです!

あのシャンデリアがあるちょうど下の右壁です!」

 

萌木が指差した所を、聖奈は目を凝らしながら見た。

 

「たしかに。

だが目を凝らさないと見えないが・・・至急、関係者へ伝えてくる。

霧塚と良介は持ち場に戻っていろ。」

 

「で、でも・・・」

 

「公演が一時中断になるかもしれんからな。

案内はきっちり頼むぞ。」

 

そう言うと、聖奈は行ってしまった。

 

「舞台の事故は、装置の些細な緩みとかでも起こるからな。

そういうのが原因の舞台での事故って結構多いらしいからな。」

 

「よ、よく知ってますね。

私はいろんな記事を目にして知ったんですけど・・・」

 

「俺は・・・父さんが演劇好きだったから。

色々聞かしてもらったんだよ。」

 

「そうなんですか・・・」

 

「さて、どうなることやら・・・」

 

良介は心配そうに聖奈の後ろ姿を見ていた。

少しして聖奈が帰ってきた。

 

「お、帰ってきたか。

どうなった?」

 

「あ、あぁ、良介か・・・いや、舞台装置についてスタッフと話したのだが・・・」

 

すると、何故か龍季がやってきた。

 

「なんだよ、急に呼び出して。

さらを1人にしちまってるんだが・・・」

 

「朝比奈、一時、お前に監督の権限を移す。」

 

「はぁ?

どーいうことだよ。」

 

「わ、私はしばらくここを離れなければならん。

会長命令だ。」

 

「会長命令?

なにがあったんだ?

不審な工作の点でもあったか?」

 

「違う。

そこは心配するな。

ただ・・・ただ、私が・・・舞台に上がるだけだ・・・」

 

「はぁ?

聖奈が?

何するんだよ。」

 

良介は驚いていた。

 

「魔法を使えば、公演を止めず、音も立てずに補強ができる。

私がセットに強化魔法をかけなければならん。」

 

「ここからじゃ無理なのか?」

 

「それでは魔法の軌跡が見えるだろう。

近づいて、直接触れねばならん。

霧塚。

お前が舞台に上がってもいいんだぞ。

やるか?」

 

「い、いえっ。

そんな・・・わ、わたし、多分気絶しちゃうから・・・」

 

「そうか・・・できれば任せたかったが・・・し、仕方ない。

衣装を着てくる。

お前たち、任せたぞ。」

 

そう言うと、聖奈は行ってしまった。

良介は聖奈の様子を見て、呟いた。

 

「喜んでるな・・・あれは。」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「あーもーちくしょ、見る範囲が増えるじゃねぇか・・・」

 

龍季は愚痴を言っていた。

 

「あ、で、ではわたしは・・・」

 

持ち場に戻ろうとした萌木を、良介は呼び止めた。

 

「待て、萌木。

お前はここにいろ。

聖奈は素人だ。

何するかわからん。

ここで見張るぞ。」

 

「わ、わかりました。

すぐに対応できるように待機しておきます。」

 

「さあ、どうなるかなぁ・・・」

 

良介は不安そうに舞台を見ていた。

 

   ***

 

少し経って、聖奈が帰ってきた。

 

「霧塚、良くやったぞ。

お前のおかげで、事故を未然に防ぐことが出来た。」

 

「わ、わたしは何も・・・舞台に見惚れてたら装置に違和感をおぼえただけで・・・それに、舞台装置を直したのは結城さんですよ!

中断することもなくさささっと補強しちゃうなんて・・・すごいです!」

 

「いや、あれはスタッフの誘導があったからであって・・・あ、あんな大量のフリルがついたドレスだとは思わなかったが・・・」

 

「確かに・・・中々豪華なドレスを着てたよな。」

 

良介はニヤニヤしていた。

 

「な、何をニヤニヤしてるんだ!」

 

「いやぁ、綺麗だったなと思ってな。

写真でも撮っとくべきだったかな?」

 

「勘弁してくれ・・・」

 

すると、龍季がやってきた。

 

「もう客が帰り始めてるぞ。

いつまでもダベってんじゃねぇよ。」

 

「まさかお前にそんな注意を受ける日が来るとはな。」

 

「浮かれてっからそうなるんだ。」

 

「う、浮かれてる!?

誰がだ!」

 

「誰だと思うよ・・・ちなみに言ってたのは良介だぜ。」

 

「な、何だと!

おい、良介!」

 

「実際、喜んでたじゃないか。」

 

「う・・・」

 

良介の言葉に聖奈は反論できなかった。

 

「さっさと働け。

まだ監督権は俺にあんだぜ。」

 

龍季の言葉を聞いて、聖奈はため息をついた。

 

「せっかくだ。

最後まで監督をまっとうしろ。

残りの仕事の確認をするぞ。

観客が全員帰り次第もう1度劇場内の見回りをして、我々の警備も終了だ。」

 

「はい。

お客様が完全に出るまでもう少し時間がかかりそうですね。

今回のクエストを請けられて良かったです。

またこういう機会があれば・・・」

 

「今回は特別に観劇の許可がされていたからな。

こういったことは、今後ないかもしれん。

だが・・・たまには、こういうクエストも刺激があって良いものだな。

さぁ、もうひと頑張りだ。」

 

聖奈は見回りに向かった。

 

「さて、俺たちも見回りに・・・ん?」

 

良介は見回りに向かおうとしたが、萌木の方を見て止まった。

 

「ふふ。

本当にお姫様みたい・・・」

 

「萌木?

一体何を見て・・・」

 

良介はデバイスを笑みを浮かべている萌木のところに来て、デバイスを覗いた。

そこにはドレスを着た聖奈が写っていた。

 

「おい・・・これ・・・」

 

「ひゃっ・・・!

良介さん・・・見ました・・・?」

 

「それ、聖奈・・・だよな?」

 

「だ、だってあまりにも綺麗だったから・・・」

 

「いつ撮ったんだ?」

 

「楽屋で着替えているときにぱしゃっと・・・」

 

すると、さらがやってきた。

 

「うわぁ~!

もえぎさん、そのお写真・・・さっきのせなさんですねぇ~!」

 

「わ!

さ、さらちゃん・・・!」

 

「やっぱり素敵ですぅ~!

わたしもそのお写真ほしいですぅ!」

 

「あ、じゃあ後でデバイスで送っておくね。」

 

「ありがとうございますぅ。

散歩部のみんなにも見せてあげますぅ♪」

 

龍季はその様子を見ていた。

 

「ま、いいや。」

 

「いいのかよ。

まぁ、本人にバレなきゃOKか。」

 

良介はそう言うと、最後の見回りに向かった。



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第103話 碧万千洞へ

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
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11月、学園の風紀委員室。

風子とイヴがいた。

イヴはクエストの内容が書かれた書類を見ていた。

 

「気のせいでしょうか。

パートナーが設定されているようですが。」

 

「そりゃそーでしょ。

クエストは最低2人からですよ。」

 

「私の役目は、外に漏れてはまずいのでは?」

 

「良介さんならだいじょーぶですよ。

ご存知でしょーけど。」

 

「ご存知ではありませんが・・・これは命令ですか?」

 

「ウチじゃねーですよ。

クエストの指名は執行部命令ですよ。

アンタさんの任務に最適な相手を選んでくれたんじゃねーですか?」

 

「命令なら仕方ありません。」

 

少し経って、学園の校門前。

イヴのところに良介がやってきた。

 

「と、いうわけで、不本意ですがあなたとパーティを組むことになりました。

以前、崩落のあった碧万千洞を調査します。」

 

「ああ、俺が生き埋めになったところか。」

 

「調査は私がやるので、見ているだけで結構ですよ。

表向きは、新たに表れた魔物の討伐です。

他にも学園生がいるので、クエスト中はテロリストのことは喋らないように。

では・・・時間が惜しいので、行きましょうか。」

 

「了解・・・相変わらず硬い奴。

誠の奴、前よりマシになったって言ってたが、本当か?」

 

良介はぼやきながらイヴの後を追いかけた。

 

   ***

 

良介とイヴは碧万千洞にやってきた。

 

「あなたと通常のクエストに出るとは思いもしませんでしたが・・・お節介なあなたのことです。

今日でなくとも、いずれその日は来たでしょうね。

ですから人の心に土足で踏み込んでくるあなたのことは・・・もう気にしないようにしました。

いくらでもどうぞ。

私はそんなことで負けませんから。」

 

「あっそ、別に好きで踏み込んでるわけじゃないんだがな。」

 

良介はわざと嫌味ったらしく言ったが、イヴは無視した。

 

「では行きましょうか。

あなたといっしょだろうが、単位にはなります。

気をつけてくださいね。

私は他の人とは違って・・・あなたを守るような戦い方はしませんから。」

 

「お前に守られる必要なんてねぇよ。

それに、そっちがそう言うなら俺もお前を守ってやんねぇし、魔力もそんなにやらねぇぞ?」

 

「魔力供給は有効打分だけで結構です・・・レギュレーションは以上。

質問が無ければ、行きましょう。」

 

イヴは先に行ってしまった。

良介は後ろ姿を見ながら、小さく舌打ちをした。

 

「チッ、やり辛いったらありゃしねぇ・・・」

 

良介はイヴについて行った。

 

   ***

 

学園の生徒会室、梓が虎千代に報告していた。

 

「ほーこくします。

件のガーディアンについてッスが・・・生徒会長や生天目先輩には絶対に突破できないッス。」

 

「ふむ?

アタシたちにはか・・・じゃあ、最適なのは誰だ?」

 

「えーとですね。

生徒会長、生天目先輩、朱鷺坂先輩、東雲先輩、良介先輩、誠先輩・・・以外。

よーするに強い人じゃなけりゃ大丈夫なんですよ。

きっといいんちょなんかもムリなんじゃないッスかね。」

 

「どうやって調べたんだ?」

 

「いや簡単でして、生天目先輩がいるとガーディアンが無限に湧いたんですが・・・自分1人で行ったら静かなもんでして。

で、生天目先輩1人で行ってもらったらまた出たんですよ。

前の時も、会長たちの方には出て精鋭部隊の方には出なかった・・・まりかっちが先行したときは出なかった。」

 

「しかし、基準がわからんぞ。

お前だって学園有数の実力者だろ?」

 

虎千代は手を顎にやった。

 

「そーいってくれて嬉しいッスけど、基準は魔法の力でしょーね。

強力な魔法使いを通さないようになってるんですわ。

生天目先輩も、強化魔法にかけては抜群ですからね。」

 

虎千代は少し考えた。

 

「なんでだ?」

 

「えっ?」

 

「ゲネシスタワーは人類最後の砦だ。

もちろん魔法使いも人類に含まれる・・・なのに、なんで強力な魔法使いが入れないようになってるんだ?

アタシたちで反応するんなら、始祖十家の面々にも反応するじゃないか。

始祖十家を締め出して、なんの目的が・・・」

 

梓は黙って話を聞いていた。

 

「さぁ、自分はその辺のこと、よくわかんねッスけど・・・入れたくないんなら・・・敵なんじゃないッスかね?」

 

「始祖十家が・・・裏世界では、敵・・・?」

 

「もしくはゲネシスタワーが、自分らが思ってるのと違う可能性もあるッスよ。

ガーディアンって霧の魔物、あの人に似てますし・・・気のせいかな・・・」

 

梓はガーディアンについて何か気にしているようだった。

 

   ***

 

その頃、学園の廊下。

誠が歩いていた。

 

「あぁ~、ようやく腹痛が治ったか。

智花の料理、段々ダメな方に進化してねぇか?」

 

誠は腹を撫でていた。

すると、誠は壁に貼ってある新聞に気付いた。

 

「お、報道部の新聞か。

北海道を取り返す・・・あれ、これいいのか?

周辺諸国との問題って・・・おいおい、これダメなんじゃ・・・ん?

これ・・・野薔薇の・・・」

 

すると、姫が走ってやってきた。

 

「通して、通してください!」

 

「あ、野薔薇。

これ、お前の親父じゃねえの?

このいかつい顔の人。」

 

誠は新聞に掲載されている写真を指差した。

 

「ひ、ひぃっ!

お父さまの写真まで・・・っ!

報道部ですねっ!

こんなことをすっぱ抜くなんて・・・!

北海道奪還作戦が確定しているかのように書いているではありませんか!」

 

「なんだ、まだ決まってないのか?」

 

「北海道には10年かけて霧が集まり、その濃度は大変なものです!

下手に取り返そうとすると、周辺諸国にその霧が流れ・・・魔物が大発生してしまう可能性があるのです!」

 

「なるほどねぇ。

そうなったら、一生取り返すことができないな。」

 

「そのため、今お父さまと冷泉さんのお父さまが交渉にいっているのです!

早ければ来年の初め!

そのあたりには作戦が開始されるはずです!」

 

「ほうほう、なるほどねぇ・・・」

 

誠は納得したように頷いていた。

 

「あ・・・そ、それを言っては・・・」

 

少し離れたところにいた葵が姫の発言に固まった。

姫も自信の発言に固まった。

 

「わ、私、なにも言いませんでした!」

 

「遅いっつの。

もう大声で言ったじゃねぇか。」

 

誠は呆れていた。

 

   ***

 

碧万千洞、良介とイヴが魔物を探していた。

 

「それにしても、イヴは裏世界のことを知っても変わらないな。」

 

「ええ、私は平静ですよ。

異世界の存在が明らかになったとして・・・そこに魔物がいるとして、戦うなら力は必要ですから。

なにも変わりません。

魔物がいるなら、倒す。

私にはその異世界がなにかなど関係ないことです。

そういうのはやりたい人に任せておけばいい。

気にならないと言えば嘘になりますが。」

 

「気にはなるのか?」

 

「気になると言っても、参考書の片隅にあるなぞなぞの答えが気になるという程度。

大したことではありません。」

 

「大したことない・・・ね。

果たして、本当にそうか?」

 

すると、イヴはため息をついた。

 

「あなたもよくよく、他人のプライバシーを踏みにじる人ですね。

そんなことより、目の前のクエストをこなすことに力を割いたらどうです?

異世界の魔物は、後に災いとなるでしょうが・・・私たちの討伐対象は、すでに人的被害を出しているんですよ。」

 

「そうだな・・・今は先に目の前にいる魔物を倒すか。」

 

2人の目の前に魔物が現れた。

 

「あなたは下がって・・・」

 

イヴの言葉を無視して良介は前に出た。

良介は第1封印を解放すると、髪が水色に変わり始めた。

 

「水、極限強化。」

 

髪が水色に染まると同時に魔物が攻撃してきた。

だが、良介は攻撃を片手で簡単に受け流した。

そのまま、良介は横から魔物に水の魔法を撃つと、魔物は霧散した。

 

「おし、このまま・・・」

 

良介はイヴに話しかけようとしたが、イヴは何も言わずにそのまま先に行ってしまった。

 

「はぁ、少しぐらい何か言えよなぁ・・・」

 

良介は愚痴を言うと、イヴの後を追いかけた。

 

   ***

 

学園の研究室。

結希は盛山研究所について調べていた。

 

「盛山研究所・・・確かにあった。

でもなぜ、秘匿されているのかしら。」

 

そこに天がやってきた。

 

「まだ調べてるの?

どうすんのよ。

この前の。」

 

「来栖 焔が科研にいた記録はないわ。

指図してくる権利もない。

それに、学園生には手は出させない。

これが私たちの総意。」

 

「そりゃ、理由も言わないんだから私だって嫌だわ。

でも処分って、他の生徒と明らかに扱いが違うじゃない。」

 

「彼女にどんな事情があるのかはわからない。

きっと本人も知らない。

調べる必要はあるわ。

でも、だからといって私たちの姿勢は変わらない。

いいわね?」

 

「フン・・・わかってるわよ、そのくらい。

でも私たちが何もアクションしないと・・・むこうから送り込んでくるわよ。

それにクエスト指名の件。

執行部もグルじゃないの。

めんどくさい。」

 

天は嫌そうな顔をした。

 

「科研の要請に従ってるだけで、事情は知らないでしょう。

知ってたらもっと露骨だったはず。」

 

天は少し黙った。

 

「疑問なんだけど、執行部は誰の味方なのよ。

政府?

科研?

それとも・・・学園?

アイツらがなにやりたいのか、よくわかんないわ。」

 

「魔導兵器開発局は科研寄りよ。

精鋭部隊は・・・前は政府寄りだったわ。

今は見ての通りだけど。」

 

「で、執行部本体は?」

 

結希は少し黙ってから、答えた。

 

「よくわからない。

最近はどこにも協力しているし・・・どこにも肩入れしていないように見えるわ。

なにをしたいのかといえば・・・学園を独立勢力として存続させること。

だから八方美人なのよ。」

 

「フン。

それで生徒を差し出してりゃ世話ないわ。

とにかく、私は執行部も科研もムカツクからアンタに歩調を合わせるわよ。

来栖 焔は他の生徒と同じで、アンタの元で面倒を見る。」

 

「学園生である間は、手出しさせない。

それで十分でしょう。

とりあえず。

後は、このことを誰かに共有すべきか・・・よくあなたに連絡がきたわね。」

 

「アイツら、まだ私のこと仲間だと思ってるのよ。」

 

すると、結希は少し考えた。

 

「なら、ケンカしてみましょうか?」

 

そのタイミングで誰かがドアをノックした。

 

「おーい、誠だ。

入っていいか?」

 

「誠?

なんでこのタイミングで・・・」

 

「私が呼んだの。

さっきの話は後にしましょう。

入っていいわよ。」

 

研究室に誠が入ってきた。

 

「それで、話があるって言ってたが・・・一体何だ?」

 

「私は居てもいいのかしら?」

 

天は結希に尋ねた。

 

「ええ、いいわよ。

いや、居た方がいいわね。

あの時、あなたも見たのだから。」

 

「見たって・・・」

 

結希は天に構わず、誠と話をし始めた。

 

「誠くん、いきなり呼んで悪かったわね。」

 

「別に構わねぇよ。

それで、話ってなんだ?」

 

「あなたの・・・魔神化。

それについてよ。」

 

すると、誠は顔が少し険しくなった。

 

「なんで魔神化を知ってるんだ?」

 

「色々と調べたのよ。

だからあなたの能力も全て把握しているわ。」

 

「そうか・・・つまり、魔神化がどういった能力かもわかったってことだよな?」

 

「ええ、そうよ。

あなたも魔神化がどういう能力か知りたいんでしょう?」

 

「結希、アンタ、前に起きたアレの理由、わかったの?」

 

天が尋ねると、結希は頷いた。

 

「あれは誤作動ではなかった。

ちゃんとしていたわ。

あの反応は正しかったのよ。」

 

「なんの話だ?」

 

誠は結希に聞いた。

 

「傷の魔物を倒した後、別のところに霧散した反応があったのよ。

その場所は・・・」

 

「俺・・・か?」

 

結希は頷いた。

 

「なぜなのか・・・私なりに調べてみたわ。

あなたが訓練所で魔神化を使ってる時にね。」

 

「そうか・・・で、どうだったんだ?」

 

「その前に聞きたいんだけど・・・魔神化に何か変化はあったかしら?」

 

「変化・・・ね。

あれから魔神化するたびに羽が出てくるようになったな。

オーラの色も紫だったのに、赤紫のままだし。」

 

「そう・・・それじゃ、今から教えてあげるわ。

あなたの魔神化について。」

 

誠は黙って結希を見ていた。

 

「あなたの魔神化は・・・ただの強化魔法ではないわ。

あれは、霧を使ってあなたの能力をあげているのよ。」

 

「どういうことだ?」

 

「わかりやすく言えば、魔神化を使うと、周りにある霧を吸収して、それを体の中で魔力に変えて、あなたの能力の強化に使っているのよ。」

 

「霧を・・・吸収?」

 

「ええ、そうよ。

あなたは自ら霧を吸っているの。

それも、常に魔物に変わってもおかしくない位の霧をね。

もちろん、そんな量の霧を全て魔力に変えられるわけがない。

あなたの体には確実に霧が溜まっていってるわ。」

 

それを聞いて天は絶句した。

 

「ちょっと待ちなさいよ!

それじゃ・・・こいつの体から羽が生えるようになった理由って・・・」

 

「ええ・・・誠くん、あなたに羽が生えた理由は・・・あなたの体が魔物化している証拠よ。」

 

誠は驚いていた。

 

「俺が・・・魔物に?」

 

「ええ、なぜ魔神化を解けば元に戻るのか・・・それは不明だけど、あまり使わない方がいいと思うわ。

今はまだ戻れるからいいけど、これ以上魔物化が進行すると・・・」

 

「人間に戻れなくなるかもしれない・・・か。」

 

「ええ、そうなってしまったら例え自我を保っていたとしても、魔物として区別されてしまうわ。」

 

「そう・・・か。」

 

誠はそのまま何も言わずに研究室を後にした。

 

「ねぇ、誠のヤツ、魔神化使わないようにするかしら。」

 

「いや、使うでしょうね。

彼が今、学園の実力者に数えられる理由はあの能力のおかげなのだから。

恐らく使い続けるでしょうね。

例え、自分の体にどんな変化が起きようとね。」

 

結希はため息をついた。



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第104話 AR

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


アイラの部屋、鳴子がアイラのところに来て、話をしていた。

 

「お主がお主から証言を得ていたとして、それが信用できるかっつの。

お主は信用がなさすぎるわ・・・ま、それで話を進めてみい。」

 

「僕はこう考えている。

そしておそらく朱鷺坂 チトセも考えている。

表世界と裏世界は繋がっていると。

表世界を変えれば、裏世界は変わると。」

 

「変わっておらんではないか!」

 

アイラは怒鳴った。

 

「それは今の表世界が、時間停止の枠にとらわれているからだ。

1年を繰り返すこの状態は隔離されているのと同じだ。

この1年だけが、本来の歴史から切り離されている。

時間停止の魔法が解ければ、裏世界は劇的に変わる。

だから朱鷺坂 チトセは、がむしゃらに働き始めている。

諸問題を解決するためにね。」

 

「諸問題?

第8次侵攻のことか。」

 

「そう。

本来、9月に第8次侵攻が始まるはずだった。

だけど、時間停止のおかげでその年じゃなかったから発生しなかった。

だけど、良介君が聞いた情報によると・・・」

 

「汐浜ファンタジーランドは裏表、両方で襲われている。

同じ年を繰り返している表世界では、ファンタジーランド侵攻は起きないはず。」

 

「そもそも時間停止の魔法の本質は、君が説明してたはずだよ。

霧の侵食を食い止めるために、結果的に同じ時間を繰り返すようになった。」

 

「まぁな。

それが1番、わかりやすかったからというのもあるが。」

 

「同様に、この魔法も時間を止める魔法ってわけじゃない。

いくつかの希望を達成するために、結果として繰り返しているだけだ。

例えば・・・第8次侵攻に来てほしくない。

あるいは先輩たちに卒業してほしくない。

他には学園生活をずっと続けたい。

付け加えるならば・・・でも、魔物は倒さないといけない。」

 

アイラは黙って聞いていた。

 

「最初の3つを叶えるために、時間が停滞した。

でも魔物との戦いまでリセットされてしまったら困る。

そういう彼女の希望が反映されたのが今の表世界だ。」

 

「憶測が多すぎてわけわからんことになっておるぞ。

しかし、その術者はかなり限定されるじゃろ。

裏世界が判明したばかりの時点で、第8次侵攻が来ると・・・知っとったわけじゃ。

ならば、裏世界と連絡を取っていたお主か・・・裏世界から来た朱鷺坂、という二択になるぞ。」

 

「そう。

だけどどちらも違う。

実は第8次侵攻を知っている生徒は他にいた。」

 

「誰じゃ?」

 

鳴子は少しの間黙った。

 

「南 智花だ。」

 

鳴子は智花の名前を出した。

 

   ***

 

良介たちは次の魔物を見つけたが、止めを刺し損ねてしまい逃がしてしまった。

 

「逃がしましたね。」

 

「悪い、止めを刺し損ねた。」

 

「お気になさらず。

気負っても滑稽なだけですよ。」

 

「手厳しいね。

そんなにはっきり言うのは少し酷くないか?」

 

「私を酷いと思うのは筋違いです。

もともとあなたを必要としていないのです。

いらないと言っているのにズカズカと土足で入り込んでくる・・・あなたこそ、酷い人でしょう?

私とあの子の関係などどうでもいいでしょう?

あの子の口車にどう乗せられたのかはわかりませんが・・・いい人ぶりたいなら、よそでやってください。

これは私たちの問題です。

もっといえば、私だけの問題です。

他の誰にも、関係ないんですから。」

 

「はぁ・・・馬鹿馬鹿しい。

何意地張ってるのやら。」

 

すると、逃がした魔物が2人の前に現れた。

 

「さあ、来ますよ。

今度は私がやります。

私は1人で強くなります。

他の誰にも、関係ありません。」

 

イヴは魔物に氷の魔法を撃った。

だが、魔物は一撃では倒せなかった。

 

「ぐっ・・・!」

 

イヴは魔物の攻撃を避けながら、魔法をもう1発撃った。

2発目でようやく魔物を倒すことができた。

 

「やれやれ、この魔物を倒すのに手こずるようじゃ、1人で強くなるのは無理なんじゃないか?」

 

「いいえ、なります。

ならないといけないのですから。

次も私がやります。

あなたは見てるだけで結構です。」

 

イヴは先に行ってしまった。

 

「はぁ・・・初めて会った時から何も変わってないな。

いい加減分かれよ。

1人でやっても、限界があるってことを。」

 

良介はイヴの後ろ姿を見ながら、呟いた。

 

   ***

 

学園のグラウンド。

誠が1人で歩いていた。

 

「はぁ・・・」

 

誠はずっとため息ばかりついていた。

 

「(魔神化を使い続ければ魔物になる・・・か。

俺自身どうなってもいいって思ってたけど、どうすっかなぁ・・・)」

 

誠が歩いていると、1人の少女がやってきた。

 

「あのぉー・・・」

 

「ん?

あれ、お前確か・・・」

 

「今度転校してきた七喜 ちひろ(ななよし ちひろ)ですぅ。」

 

誠はちひろが私服で来ていることに気付いた。

 

「制服はまだなのか?」

 

「はい、今日、寮の方に届いてるって。

学園の見学が終わって、明日からですぅ。

でも、今日お会いできてとっても嬉しいですぅ!

えっとぉ・・・ぜったい、最初にお礼を言おうって思いましてですね!」

 

「お礼?

何かしたっけか?」

 

「汐ファンの時に、助けてくれた魔法使いさんのことを探してたんですよぉ!

そしたらシスターさんに、ここにいるよって教えてもらって・・・」

 

誠は頭を掻いた。

 

「俺は別にそこまで大層なことはしてねぇよ。」

 

「ふぇ?」

 

ちひろは首を傾げた。

 

「どういうことですか?」

 

「俺はただ庇って魔物の攻撃を防いだだけだ。

魔物を倒したのは朝比奈 龍季って奴だ。」

 

「朝比奈・・・龍季・・・?」

 

「ああ、そうだ。

その魔法使いが魔物を倒して助けたんだ。

俺はただ魔物の攻撃からお前を庇っただけだ。

お礼ならその魔法使いに言ってくれ。」

 

「ふぇぇ、そうなんですかぁ?

ありがとうございますぅ!」

 

「え・・・いや、俺は別に・・・」

 

「あなたも、汐ファンを守るために戦ってくれたんですよねぇ!

わたし、汐ファンがとってもとっても大好きなんですよぅ!

だから、魔物さんと戦ってくれて・・・ありがとうございました!」

 

誠は呆然としていた。

 

「お、おう・・・うーん、やりにくいな・・・」

 

すると、そこに葵がやってきた。

 

「えっと・・・後は購買で飲み物を追加で・・・おや・・・?

あ、七喜さん!?」

 

葵がちひろに気付いた。

 

「はい、ちひろですぅ。」

 

「それに、誠さん!

まぁ!

ちょうどよかった!」

 

「何がちょうどいいんだよ・・・」

 

誠はため息をついた。

 

「改めてお願いします!

歓迎会にいらしていただけませんか?」

 

「すまないが、そんな気分じゃない。

俺抜きやってくれ。」

 

「歓迎会、ですかぁ?」

 

「ええ、七喜さんの歓迎会を、汐ファンの時のメンバーでやろうという話で・・・」

 

「え?

ホントですかぁ!?

ありがとうございますぅ!」

 

「朝比奈さんと野薔薇さん達が参加できないとのことだったので・・・図書委員の霧塚さん達もお誘いしたんですよ。」

 

「お忙しいんですかぁ?」

 

「ただそういう気分じゃないだけ・・・」

 

すると、葵が誠に寄ってきた。

 

「きっと楽しいですよ!」

 

ちひろは背中から誠に抱きついた。

 

「わたしも、ご一緒したいですぅ!

ぜひぜひ!」

 

2人はそのまま誠を連れて行こうとした。

 

「いや、だから俺は・・・離してくれ!

頼むから、離して!」

 

誠はそのまま連れて行かれてしまった。

 

   ***

 

良介たちは魔物を発見し、攻撃したが逃げられてしまった。

 

「手ごたえはありました。

あれほどしぶといとは思いませんでしたが・・・まだ私は、満足いくほど強くない。

いえ、満足など望めないでしょうね。

生徒会長にも生天目 つかさにも、風紀委員長にもあなたや新海 誠にも及ばないのですから。

どれだけ努力しても、追いつけないものが・・・ある・・・いえ、私の努力が足りないだけでしょう。

それに私はそこまで望みません。」

 

「なんだ、望まないのか?」

 

「2人分の働きができるだけでいいのですから。」

 

すると、イヴは良介の方を向いた。

 

「風紀委員長とあなたが変な勘繰りをしているのは知っています。」

 

「へえ、てっきりわかってないと思ってたんだけどな。」

 

「そこまで鈍感ではありません。

せっかくお節介を焼いてもらってすみませんが、見当違いですよ。」

 

「ん?」

 

「私はあの子のことなど気にしていませんし、強さを求めるのは違う理由です。

これ以上の詮索は気分を害します。

そろそろ無視してもらえませんか。

そう、これが最後、でどうでしょう?」

 

2人の前に魔物が現れた。

イヴが1人で魔物を攻撃したが、魔物は攻撃を避けると、イヴに接近した。

 

「っ!」

 

イヴが防御の体勢に入ったが、魔物の攻撃は来なかった。

イヴは体勢を解くと、魔物は目の前で光の拘束魔法で縛られていた。

イヴは不服そうな顔をしながら魔物に氷の魔法を撃つと、魔物に直撃し、魔物は霧散した。

 

   ***

 

イヴは周りに魔物がいないのを確認すると、一息ついた。

 

「ふぅ・・・あなたがどうして私たちの問題に立ち入るのかわかりませんが・・・これだけはねのけても挫けない姿勢には敬意すら覚えます。」

 

「ふーん、そうか。」

 

良介はどうでも良さそうに適当に返事した。

 

「皮肉なんですよ?」

 

「わかってるよ。」

 

「生徒のなかにはそれをありたがっている人もいますが・・・迷惑に感じている生徒がいるのをお忘れなく。

確かに、あなたに助けられたことは何度かあったでしょうが。

普段の迷惑で相殺ということでいいでしょう。

私に関わらなければ、あの子に関してはどうぞご自由に。

私と違って、助けがなければダメな子ですから。

あなたのお節介があってちょうどいいでしょう。」

 

「(イヴ・・・そんなんじゃ、いつまで経ってもノエルと仲直りは出来ねえぞ。)」

 

「では、帰りましょう。」

 

良介たちは出入り口へと向かった。

 

   ***

 

良介とイヴは少し休憩していた。

 

「イヴ、情報はどうしたんだ?」

 

「集めて送りました。

ヤヨイ・ロカが知識がないため見逃したものを中心に。」

 

「なるほど、役割分担か。」

 

「ええ、彼女があらゆるものを発掘し・・・選別するのは私たちの仕事。

今のところ、直近で活発に活動しているのは、ここを爆破した団体です。

ロカさんの調べた通り、この碧万千洞には多数の爆薬が設置されていた。」

 

「散らばっている爆薬のかけらを調べれば、材質がわかるってことか。

過去に起こされた事件に使われたものを調べて、どこがやったのか、推測するんだな。

それで、それがわかれば、そいつらの傾向から、次にどこが狙われるかを推測するんだな。

ありえるなら、霧の護り手かノーマルマンズか。

もしくは規模の小さいところか。」

 

「どこの団体にせよ、今後の学園の方針はテロリストの壊滅です。

裏世界が滅びた理由のひとつに、テロリストの暗躍があると聞いています。

第8次侵攻を乗り切るためには、これらの壊滅が重要になってくる・・・重要な仕事なのです。

あなたと同じパーティになるのが避けられないのならば・・・これに取り組んでいるときは、あの子には触れないでください。」

 

イヴは良介を見つめた。

 

「お願いします。

今は余計なことに時間を使っているヒマはないので。

例え裏世界の私たちがどうなったとしても。

うまくやってみせます。

ご心配はいりませんから。」

 

「(そう言われても・・・心配しかないんだよなぁ・・・)」

 

良介は不安そうにイヴを見ていると、イヴのデバイスが鳴った。

イヴはデバイスを取り出した。

 

「分析結果が判明しました。

霧の護り手ですね。」

 

「警察や政府は認識しているんだろうな。」

 

「しかし学園にとってどちらも、味方ではないですから。」

 

「独自で調査する必要があるか。

それに、単独で戦える組織にもならないとダメってことか。」

 

良介はため息をつくと、イヴと共に出口へと向かった。




人物紹介

七喜 ちひろ(ななよし ちひろ)16歳
浜ファンタジーランドが大好きな女の子。
ほぼ毎週遊びに行っていたところ、魔物に襲われて重傷を負い、そのショックで魔法使いに覚醒。
ふわふわほわ~っとしており、きらきらのくるるん。
兎がぴょんぴょんするととってもかわゆいんです。
図書委員。


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第105話 仮想の国の戦士たち

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


ある日の学園の男子寮。

良介は部屋のベッドで寝転びながら推理小説を読んでいた。

 

「ふむ・・・なるほど、こんな展開になるとは・・・」

 

独り言を言っていると、突然デバイスが鳴った。

 

「ん?

なんだ?」

 

良介は小説にしおりを挟んで閉じると、デバイスを取り出した。

 

「クエストか。

場所は・・・バーチャルパーク?」

 

その頃、誠は部屋で漫画を読んでいた。

 

「いや~、思ったより面白いなこの漫画。

続きが出たら買うか。」

 

すると、誠のデバイスが鳴った。

誠は漫画を本棚に直すと、デバイスを取り出した。

 

「なんだ・・・?

クエストか・・・ん?

バーチャルパーク?」

 

誠は首を傾げた。

少し経って、バーチャルパーク受付センター。

良介と誠が行くと、茉理と樹がいた。

 

「どうも、来ましたよ。」

 

良介が2人に話しかけた。

 

「ああ、来てくれたか。

しかし、まさかJGJの施設でこんなことが起きるとは・・・」

 

「何が起きたんですか?」

 

誠が尋ねた。

 

「ややこしいことになっちゃってねぇ。

体験型ゲームアトラクションが魔物に乗っ取られちゃったのよ。」

 

「魔物に乗っ取られたって・・・」

 

「ゲームプログラムが霧の魔物に侵食されたってことか。

それで、どうやって解決するんですか?」

 

良介は茉理に聞くと、茉理は悩み始めた。

 

「う~ん、そうねえ。

ありきたりだけど、やっぱり・・・ゲームの中に魔法使いが入ってクリアする・・・とか?」

 

「へ?

ゲームの中に・・・入る?」

 

良介と誠は啞然とした。

 

   ***

 

JGJバーチャルパーク。

良介、誠、純、自由の4人がいた。

良介はバーチャルパークのパンフレットを見ていた。

 

「バーチャルパークは体験型のゲームアトラクション。

元はJGJの拡張現実の研究所として建設されましたが、その技術を応用。

誰でも疑似体験のできる最先端の安全な娯楽として、皆さまへ提供を・・・」

 

「御託はどーでもいいっす!

早く早く!」

 

自由は3人を急かした。

 

「誠、パンフレットいるか?」

 

良介は誠にパンフレットを渡そうとした。

 

「良介先輩!

それどころじゃないでしょ!?

こんな光景を目の前にして、よくそんなに冷静でいられるっすねぇ!」

 

「わかってるよ・・・魔物に乗っ取られたんだ。

さっさと解決するぞ。」

 

「違う!

魔物に乗っ取られたから!

むしろ!

建物の中がまるっとゲームフィールドになってるんすよ!

こんなん、アレじゃないですか!

拡張現実というより・・・仮想現実!

すごくないっすか!?

ゲームの中に自分が入っちゃってるんすよ!?」

 

「う、うん。」

 

純は少し引きながら頷いた。

 

「ああ・・・ついにモニターの向こうへ行ける時が来たんすねぇ・・・」

 

「どっちかつーと、ごっこ遊びの方が近いんじゃないか?」

 

「気分の問題っす気分の!」

 

「お、おう・・・」

 

誠も少し引いていた。

すると、良介はため息をつきながら先に歩き始めた。

そこに望が追いかけてきた。

 

「良介、なんで先行くんだよ!

ボクが疲れやすいって知ってるだろ!」

 

「ああ、そういやそうだったな。

忘れてた。」

 

良介の返答に望はため息をついた。

自由は望の方を見た。

 

「およ?

ええと・・・確か登校拒否の。」

 

「誰が登校拒否児だって!

引きこもりだ、引きこもり!」

 

「似たようなもんじゃねえか・・・」

 

誠は呆れた。

 

「引きこもりの・・・ああ!

授業を免除されて、毎日部屋でゲーム三昧という噂の、楯野・・・望、氏!

 

「ふん。

体が弱いんだもん、仕方ないだろ」

 

「うらやましい・・・じゃなくて。

なんだってそんな身体の人がクエストに?」

 

「だって・・・宍戸が・・・あ、あなたにしか出来ないとか言ってきて・・・断ったらまた健診の時怒られ・・・おい、良介!」

 

望は先に行こうとしていた良介を呼び止めた。

 

「お前も無関係じゃないぞ!

宍戸からボクを頼まれてるんだからな。」

 

「ああ、そうだったな。」

 

自由は不思議そうに良介を見た。

 

「え?

え?

頼まれてるってなんすか先輩?」

 

「ああ、それは・・・」

 

良介が自由に言おうとすると、望は思い出した。

 

「そうだ。

宍戸から頼まれたこと、一応伝えとく。

霧と人工物の例として、今回は特殊なんだってさ。

で、人間の技術に霧が寄ってきた。

これがいったいどういうことなのか。

調査しろ、だってさ。」

 

「やれやれ、面倒な・・・」

 

「ちなみに取り残された一般人の救助が最優先だからな。」

 

「それは、アレっすか。

誤爆で得点が減る・・・」

 

「ゲームじゃないんだから。」

 

「そう、これはゲームだけどゲームじゃないんだ。

細心の注意を払って・・・」

 

すると、自由が先に行ってしまった。

 

「あ、おい・・・!」

 

良介が呼び止めようとしたが、そのまま行ってしまった。

出入り口だと思われる場所に自由は入っていった。

すると、自由の服が変化した。

 

「うっひょおおおぉぉ!

やば、服変わったああああ」」

 

「おい!

勝手に先行くなって・・・」

 

望もすぐに追いかけた。

 

「あ、待ってよ!

あたしも・・・」

 

純も追いかけた。

 

「あああっ!

な、なんだこれーっ!?

 

望たちの服装も変わっていた。

 

「制服が変わってる・・・」

 

「マジでゲームじゃないすか!

リアルからの解放じゃないすかっ!

よっしゃあ、行きましょ先輩!

暴れますよーっ!」

 

「やれやれ、元気だな。」

 

良介が出入り口を通ると格好が変わった。

 

「お、勇者みたいな格好になったな。」

 

続いて、誠が通った。

 

「な、なんじゃこりゃー!?」

 

「ま、誠・・・なんだ・・・その、ト〇ネコみたいな格好は・・・」

 

誠は商人のような見た目になった。

良介はその姿を見て笑いをこらえていた。

 

   ***

 

望は突然変わった服装に困惑していた。

 

「こ、これ、大丈夫だよな?

制服がおかしくなったわけじゃないよな?」

 

「さぁ・・・今のところ、見た目以外に変わったようなことはないけど。」

 

自由はデバイスを触っていた。

 

「ふむふむ・・・なるほど、さっぱりわからんっす!

茉理ちゃんに聞いてみたっすが、えっと、ミストファイバーの性質がどうの。

ゲームの中に入るっていう自分らのイメージが強烈に影響を与えたこうの。

ここまで急激に変化するのは初めて見たけど大丈夫だとかなんとか。」

 

「本当に大丈夫なのか?」

 

良介はため息をついた。

 

「しかしその鎧、ダサいっすね。

騎士様っすか?」

 

「な、な、なんだよ!

そっちこそ防御の薄そうな服じゃないか!」

 

「いやぁ、意外と固いっすよ?

動きが鈍くなるほうが微妙じゃないすか?

あ、でも売ったら高そう・・・鎧売りさばいて回避型に転向するとか、どうです?」

 

「やだよ!

前衛がワンパン即死とかカッコ悪いだろ!」

 

「あたしは結構気に入ってるなぁ。

元の戦闘服と似てるもん。

てか、制服が変わってこうなったんだから、そんなに違わなくない?

戦闘服って要するに、本人がモチベあがる格好だって聞いたことあるよ。」

 

「ふーん。

ボクは危険がないなら、なんでもいいや。

それよりお前達って、ゲームが好きって話だけど。

このクエスト、どう攻略するか考えてんの?」

 

「うーん・・・あたしは格ゲーは好きなんだけど、今回は勝手が違うからなあ。

とりあえず情報を集めないとなんとも言えないや。」

 

「はいはーい、このゲームレベルの概念があるっすよ。

どこまで影響するかわかりませんが、元のゲームを再現しようとしてるなら・・・セオリー通り魔物をバンバン倒してレベル上げとけばいいんじゃないすか?」

 

「むやみに戦闘したって、討伐数が魔物のレベルに比例したらどうすんだよ。」

 

「ああ、ありますねえ、そういうゲームも。

攻略本あればなぁ。」

 

「ここは最短ルートで行くべきだ。

ムダな体力は使いたくないし。」

 

「えー?

せっかく仮想世界に来て、大暴れしなくてどーすんですか?

仕様の許す限りは、暴虐の限りを尽くすべきっすよ!」

 

「お前、絶対ゲームで迷惑行為とかするタイプだろ・・・」

 

「楽しまなければリアルから脱した意味がないっす。

で、良介先輩はどうします?

PKとかしてみます?

や、仕様上できるか試すだけですから。」

 

「え?

いや、それは・・・」

 

いきなり話を振られた良介は、返答に困った。

 

「絶対やめろよ!

試すのもダメ!

絶対、戦闘回避しつつ早解きが正解!

なあ、良介はボクと同意見だよな?

ゲーム仲間だもんな?」

 

「あー、まあ・・・」

 

「あれあれ?

先輩、チキンプレイっすか?

宝箱回収しないタイプっすか?」

 

すると、誠が話しかけた。

 

「おーい、一応クエストだから、揉めるのは・・・」

 

「そもそもタイムアタック嫌うのはプレイヤースキルのないヤツだろ!」

 

すると、純が望の方を見た。

 

「ちょっと待った。

今の言葉、聞き捨てならないんだけど。」

 

「え?」

 

「ハ、ハハ・・・鳴海先輩どしたんすか・・・顔がマジっすよ・・・?」

 

誠はその状況を見て固まった。

 

「俺・・・どうしたらいいの?」

 

良介は頭を掻いていた。

 

「とりあえず、放っておいて先に行くと面倒なことになりそうだから、収まるまで待つか。」

 

良介と誠は少し待つことにした。

 

   ***

 

良介たちはバーチャルパークに取り残された人を救助していた。

 

「おし、救助完了ー。

あとは先輩に魔力わけてもらってください。」

 

「たく・・・魔物に襲われてる奴がいると思ったら・・・」

 

良介はため息をついた。

救助されたのは盗賊の格好をした初音だった。

 

「あははー。

いやあ、ちょうどいいとこに来てくれて助かったぜ。」

 

「神宮寺のお嬢さん放置したらうちの主人がうるせーっすからね・・・」

 

「ん?

なんか言った?」

 

「なーんにも。

初音氏、盗賊のカッコ似合ってますよ。

てか、いつ忍び込んだんです。

クエストの許可取ったんですか?」

 

「いいのいいの。

アタシは偶然施設で遊んでたお客さんだから。」

 

「どうせ面白がって来たんだろ。」

 

良介は呆れていた。

 

「せっかくだし、いつもできないことしたいじゃん。

人んち勝手に入ったり、タンスの中漁ったりさ!」

 

「それで隙間に足取られて、じたばたしてたら世話ねえな。」

 

すると、向こうから望の声が聞こえてきた。

 

「ああもう、許せない!

テクスチャ抜けとか許せない~っ!」

 

望が戻ってきた。

 

「あの岩も!

あそこの崖も欠けてる!

デバッグしてないのか!」

 

「様子はどうだ?」

 

「城とか武器屋みたいなのが見えた・・・けど、全部ハリボテみたいだった。

これが製品版だったら大炎上だぞ!

今年のクソゲー大賞間違いなしだ!」

 

「まぁ、敵もなんか雑だったしな。」

 

良介も頷いた。

 

「い、一応JGJの名誉のために言っとくけどさ。

元のゲームはこんなにひどくはないからな。

魔物に侵食されたからだぞ。」

 

「知ってる。

宍戸が言ってた。

霧の魔物の外見は、全て出来損ないなんだって。

だから魔物に侵食されたここもゲームの出来損ないに変容してるんだ。

さっきの話の霧と人工物にも、前例がないわけじゃなくて・・・」

 

「あ、あれじゃねえか?

汐浜の人形館。」

 

誠が先に言った。

 

「なんだ、知ってんの?」

 

「ああ、俺もその場にいたからな。

建物自体に霧の魔物が憑りついて、それを律の歌で吹き飛ばしたんだ。」

 

「歌ぁ?

ふーん・・・うるさかったのかな。」

 

「あー・・・うるさかったな。」

 

「アンタ達・・・ひどい言いようね・・・」

 

純は誠と初音の言葉を聞いて呆れていた。

 

「歌で霧を払う・・・?

宍戸め・・・ボクしかできないって、どういうことだよ。

ボクは歌なんか歌えないぞ・・・しかも人前だと?

そ、そんな恥ずかしいこと、できるわけないだろ!」

 

「(バーチャルパークの霧を払うには望の力が必須なのか?)」

 

良介は独り言を言っている望を見ていた。



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第106話 クラッシュ

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


良介たちは他の一般人を救出しに向かっていた。

すると、望が良介に話しかけてきた。

 

「お、おい。

良介・・・お前ってさ、人形館のクエストの時、その場にいたんだよな?」

 

「ああ、いたけど。」

 

「あのさ・・・やっぱ、歌、上手かった・・・?」

 

「は?

何言ってんだ?」

 

「な、なにって・・・歌で追い払ったんだろ?

魔物。

それを今回、ボクがやらなきゃいけないってことはさ・・・ボクががんばって、歌、う・・・」

 

「それは違うぞ。」

 

「え?

違うってなにが。」

 

「大規模な範囲魔法で追い払ったんだよ。」

 

望は安心した表情になった。

 

「あ、ああぁ!

そっか、そういうことか!

その時使える大規模魔法が、音無 律の歌しかなかった、ってワケ・・・もおぉ、なんで早く言わないんだよ、勘違いしただろっ!

やっと理解したぞ、宍戸のあなたしかできないって言ったの!」

 

望は急に冷静になった。

 

「待てよ、てことは。

攻略もクソもなく、ただ大規模魔法で吹き飛ばせってこと?」

 

「まぁ、そういうことだな。」

 

「この建物を、霧の魔物ごと・・・?」

 

「ああ。」

 

「や・・・やだやだやだ!

絶対やだぁ!

そんなの完全にチートじゃないか!

ズルだ!

インチキだ!

ボクはこのクエストをまともに攻略しようと思ってたのに!」

 

望が怒っていると、純が2人を呼んできた。

 

「おーい、あっちに人いるっぽいから救出に行くってー。

どしたの?」

 

純は2人の様子を見て理由を聞こうとした。

 

「ひゃっは~っ!

爽快すぎるぅ~!

鳴海先輩!

コンボ途切れちゃったっす!

もっかい、もっかい!」

 

「あ!

1発目から大振りな攻撃はダメだかんね~!」

 

魔物と戦っている自由に呼ばれて、純は魔物の方へと向かっていった。

 

「どいてどいて~っ!

いっくよ~!」

 

純は魔物に攻撃した。

 

「うわぁスッゲー!

なんすかいまの!」

 

「あははは!

爆発しちゃった~!」

 

「よし!

俺も続くぜ!」

 

誠も続いて攻撃しようとした。

 

「あっ!?」

 

しかし、攻撃する直前で躓き、盛大に転倒した。

すると、武器が偶然か魔物に直撃し、魔物は霧散した。

 

「ぶっ!

誠先輩、それはダサいっすよ!」

 

「あはは!

何よ、それ!」

 

望は3人の様子を黙って見ていた。

 

「うぐぐ・・・お前らだけで楽しそうにして・・・ずるいぞ、ボクもやる!

ボクもやるから、そこをどけえっ!」

 

望は魔物に向かっていった。

良介はその様子を見て呆れていた。

 

「やれやれ、こんな調子で霧を払うことができるのかねぇ。」

 

良介はため息をつきながら、4人のところに歩いて向かった。

 

   ***

 

良介たちは城の近くに来ていた。

 

「で、救助しないとならないのって、あと何人だっけ?」

 

純が良介に尋ねると、良介は懐から救助者のリストを取り出した。

 

「えー、あと・・・うん、これだけだな。」

 

良介は残り僅かであることを確認した。

すると、偵察に出ていた初音が帰ってきた。

 

「はぁ、はぁ・・・死ぬかと思った・・・なんでアタシが・・・」

 

「そりゃ、シーフみたいな避けキャラは偵察要員ですからね。」

 

「それで、城の中はどうだったんだ?」

 

誠が尋ねた。

 

「もう敵がウジャウジャ!

イモ洗いみたいに!」

 

「どういう状態だそれは・・・」

 

良介はため息をついた。

 

「城の中になんかありますって。

みんなで突撃しましょうよ。」

 

「あんなに敵がいて、勝てるわけねーだろ!」

 

「いやいや、やってみないとわかんないじゃないっすか。

100体倒したら宝箱が出るゲームありましたもん。

リアルはともかく、ゲームならリスクに見合う収穫があるのが当たり前です。

なんか守ってるんですよ、きっと。

ラスボスとか。」

 

「ゲームなら、ね・・・魔物が作ってて、クソゲー呼ばわりされてるがな。」

 

良介は頭を掻いた。

 

「でも、なんだっけ、サイゼンセンの城?

このゲーム内だと一番大きい建物だよな。

宝物庫も牢屋もあるだろうし、見てみないって手はないだろ。」

 

「確かに。

もしかしたら、牢屋にぶち込まれてる人がいるかもしれないな。」

 

望の言葉に誠も納得した。

 

「問題は大量の敵をどうするかなんだが・・・ちゃんとした方法あるのか?」

 

「デバッグ済みのちゃんとしたゲームなら、な。」

 

良介は顎に手をやって考え始めた。

すると、望は黙っている自由に話しかけた。

 

「無理ゲーの場合は?」

 

「ひっじょおぉぉに、不本意ですが。

その場合は、相応の手段でいかせてもらうしかないっすねぇ。」

 

「ん?

何か方法でもあるのか?」

 

良介は自由の方を見た。

 

   ***

 

良介、望、純の3人は魔物の群れと戦っていた。

 

「良介!

魔力!」

 

「ほらよ!」

 

良介は2人に魔力を渡した。

 

「せーの・・・でぇいっ!」

 

3人は同時に魔法を撃った。

 

「へーき?

バフ切れてない?

ヒーラーはいないからね!」

 

「わかってるよ!

そっちこそ囲まれないように・・・わっぷ・・・!

クソッ、あっちいけーっ!」

 

望は近寄ってきた魔物を吹き飛ばした。

 

「あぁ!

もう、飛ばす方向間違えたらハメられないじゃない!」

 

「さっき、あんなにハメ技嫌がってたじゃないか・・・」

 

「う、うるさいなぁ!

人の命がかかってるんだから」

 

「おいおい、まったく・・・ん?」

 

すると、良介のデバイスが鳴った。

相手は自由だった。

 

「うーす、そっちどうです?

そろそろいきますよー。」

 

「ああ、行ってこい。」

 

その頃、誠、初音、自由の3人は城の城壁の前にいた。

 

「うい。

ケーいただきましたー。

城壁爆破、侵入しまーす。」

 

「で、道順を無視して一直線に進めばいいんだな。

大丈夫か、この作戦?」

 

「いや、どう考えても大丈夫じゃないだろ。

攻略法もなにもねえし。」

 

「仕様が許すならなんでもやれがこんな形で自分に返ってくるとは・・・」

 

「ゲーマーって、こだわりがあって大変だな。

んじゃま、誠、頼むぞ。」

 

「おうよ、2人とも、離れてろよ。

おらっ!」

 

誠は城壁に向かって魔法を撃った。

城壁が崩れると、中から大量の魔物が出てきた。

 

「うおっ!?

なんだこの数!?」

 

「どこに隠れてたんだよこんなに!!」

 

「そっちちゃんと敵引きつけてるんすか!?」

 

自由はデバイスで聞いてきた。

 

「引きつけてるよ!

これでもかってぐらいにな!」

 

良介はすぐに返答した。

 

「やばいっすね・・・良介先輩、聞こえます?

自分、お伝えしたいことが・・・」

 

「あ?

なんだ?」

 

「この戦いが終わったら・・・結婚、しましょう。」

 

自由の言葉を聞いて、その場にいた全員が固まった。

 

「へ・・・は・・・えぇっ!?」

 

良介は声が裏返ってしまった。

 

「アレ?

全然ウケない。」

 

「お前、なに言ってんだ・・・」

 

誠は魔物と戦いながら呆れていた。

 

「いやあの、死亡フラグ回避しようと思って。」

 

「どう見ても今のは死亡フラグだろ。」

 

「あ、最近は死亡フラグ立てて死なないのがセオリーになりつつあるんすよ。」

 

「んなことどうでもいいから真面目にやれ。」

 

さらに大量の魔物が押し寄せてきた。

 

「チッ、キリがねえな・・・!」

 

誠は舌打ちしながら、魔物に斬りかかった。

その頃、良介たちも魔物の群れと戦い続けていた。

と、望の顔色が悪くなり始めた。

 

「っと・・・望、大丈夫か?」

 

「う・・・わ、悪い・・・」

 

「とりあえず、休んでろよ。

この程度なら、俺たちだけでも大丈夫だ。」

 

良介はそう言うと、デバイスを取り出した。

 

「おい、まだか!?」

 

「まだっす!」

 

すぐに自由の返答が返ってきた。

 

「早くしてくれ!

こっちもいつまで持つかわからねえぞ!」

 

「わかってるすよ!

もうあらかた破壊したんで、後は地下牢くらい・・・」

 

「うおっ!?

まだこんなにいるのかよ!?」

 

誠は階段にいる尋常じゃない数の魔物に驚いた。

 

「も、もーちょっとお待ちを・・・」

 

「ったく、仕方ねえな。

こうなったらやれるところまでやってやる!」

 

良介は目の前の魔物に攻撃しようとした。

すると、後方から何かが魔物を攻撃した。

 

「なんだ!?」

 

良介たちは後ろを振り向いた。

その頃、誠たちのところの魔物も攻撃を受けていた。

 

「なんだ、新手か?」

 

誠たちは攻撃が飛んできた方を向いた。

 

「いや、ありゃ・・・デクだ・・・JGJの私兵部隊だな。

援軍だぞ、援軍!」

 

「え、ええ・・・ファンタジーが急にSFに・・・」

 

すると、誠のデバイスが鳴った。

相手は茉理だった。

 

「もしもし?

デク、そっちついたー?

あなたたちが攻略してくれたおかげで、道がわかったから・・・後は任せて。

魔物はこっちがやるから、救出お願いね!」

 

「ちぇーっ。

アツいっすけど、こーゆーのは伏線が大事なんすからね。」

 

「伏線ってゆーかウチの施設だからな、ここ。」

 

「そんなことはどうでもいいだろ。

さっさと助けに行くぞ。」

 

誠たちは救出に向かった。

 

   ***

 

誠たちは救出した一般人たちを避難誘導していた。

 

「はいはい皆さん、出口はこちらっすよ。

足元にお気をつけて~。」

 

誠は自由が誘導しているのを見ていると、救出者のリストを取り出した。

 

「よし、今のが最後だな。」

 

すると、初音はデバイスを取り出すと、樹に報告した。

 

「兄さまー!

行方不明者、救助完了したぜ。」

 

「脱出を確認。

これより城内にデク部隊が突入する。」

 

その頃、良介たちはデクが魔物を倒す様子を眺めていた。

 

「魔物が次々にやられていくな・・・」

 

「あんなにデク投入して、予算大丈夫なのかな。」

 

「自分ちの施設のことだからな・・・金は惜しまないだろ。

ボク、もう疲れた・・・楽できるならそれでいい・・・」

 

良介はため息をついた。

 

「望、お前はもうひと踏ん張りだろ。」

 

「うー、軽く言うけど、天気をどうにかするのって、大変なんだぞ・・・」

 

すると、良介のデバイスから茉理の声が聞こえてきた。

 

「そろそろ魔物があらかた霧になるよー。

準備お願いね。」

 

望は良介の方を向いた。

 

「良介。

魔力くれ、いっぱい。」

 

「わかった。

ほら。」

 

良介はありったけの魔力を望に渡した。

 

「はは。

やっぱ、クソゲーだったなぁ・・・」

 

望はため息をついた。

少し経って、学園の廊下。

クエストを終えた良介と誠が歩いていた。

 

「ふぅ、クエスト終わりっと。

さて、腹も減ったし、食堂に行くか。」

 

「今日は確かコロッケだったな。」

 

「そうか、コロッケか。」

 

すると、良介は誠の方を向いた。

 

「誠、この後予定あるか?」

 

「ないけど。

どうした?」

 

「あのクエストやった後のせいか、ゲームやりたくてな。」

 

「ああ、お前もか。

この後、ゲーセンにでも行くか?」

 

「いや、一狩り行きたくてな。」

 

すると、誠は笑みを浮かべた。

 

「お、マジで?

じゃあ、飯食い終わったらお前の部屋でやるか。」

 

「ああ、どうしてもクリアしたいクエストがあるから、とことん付き合ってもらうぞ。」

 

2人は食堂に向かって歩いて行った。



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第107話 安全でない街

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


魔法使いの村。

良介と誠、紗妃と葵がいた。

 

「良介さん、誠さん、お疲れ様でした!

わたくしたちの戦闘訓練につきあっていただいて、ありがとうございます!

つきましては香ノ葉さんのご希望で、お疲れ様会を予定しているのですが・・・」

 

「お疲れ様会?

ただの戦闘訓練なのにか?」

 

良介は首を傾げた。

すると、紗妃が葵を止めに入った。

 

「い、いけません!

片付けが済んだら、もう放課後です!

特に白藤さんの発案で良介さんを誘うなど・・・!」

 

紗妃の言葉に葵は首を傾げていた。

 

「あー・・・まぁ、香ノ葉はな。」

 

誠は何かを察したようで、苦笑していた。

 

「あ、いえ・・・彼女はその、時折、行きすぎるというか・・・とにかくお疲れ様会なら他の人がいるところでするようにと!」

 

「はぁ・・・では、ご一緒するのはどうでしょうか?」

 

「えっ!?」

 

紗妃は葵の発言に動揺していた。

 

「風紀委員の方がいるのであれば、何も問題はありませんから!

普段、あまりお話しもしませんし・・・これを機に、どうぞ!」

 

「まさか、そう来るとはな・・・」

 

誠は葵に呆れていた。

 

「あ・・・あ、ええと・・・」

 

紗妃が迷っていると、突然地響きがした。

 

「ん?」

 

「何だ?」

 

「い、今?」

 

「え?」

 

すると、地面が揺れ始めた。

 

「じ、地震っ!?」

 

紗妃は動揺していた。

 

「これは・・・!」

 

「おいおい、マジかよ・・・!」

 

良介と誠は何が起きようとしているのか、すぐに感づいた。

少し離れたところに心と結希がいた。

 

「霧の濃度が急激に増加・・・」

 

「これは・・・魔物じゃないわね。」

 

「はい、前回の計測パターンと同じ・・・霧の嵐です。」

 

「避けられない・・・!

卯衣に連絡を・・・!」

 

良介たちは光に包まれた。

少しして、良介は目を覚ました。

 

「痛ってー・・・どうなったんだ俺は・・・」

 

「さん・・・」

 

「ん?」

 

良介は誰かに呼ばれていることに気付いた。

 

「すけさん・・・り、良介さんっ!」

 

良介が起き上がると、心が立っていた。

 

「ああ、心か。」

 

「あ、あの・・・ここはいったい・・・」

 

「ここは・・・」

 

良介は周りを見渡した。

そこはどう見ても風飛市だった。

 

「きゃあっ!」

 

「ひぃっ!?」

 

心はすぐ近くにいた女性の悲鳴に驚いた。

 

「まずい、逃げろ・・・」

 

「なんで急に人が・・・」

 

その場から複数人の人が走り去っていった。

 

「なんだ、一体・・・」

 

「い、今の人たち・・・あれ・・・?」

 

「どうした?」

 

良介は心の視線の先を見ると、子供の心が立っていた。

 

「うわぁ・・・わたしによく似てる子ですね・・・」

 

「いや、どう見てもお前だと思うんだけど・・・」

 

良介は呆れていた。

 

   ***

 

過去の風飛市。

良介は心に現状を説明していた。

 

「え、ええっ!?

ここは過去の裏世界なんですかっ!?」

 

「馬鹿、大声出すな!」

 

「あ、はは、はいぃっ!

すみませんっ!

わ、わた、わたし、理解するのが遅くて・・・本当に申し訳ありません・・・」

 

「そういうのはいいから。

で、この子供だけど・・・」

 

良介と心は子供の心の方を見た。

 

「もしかしてこの子供は・・・わ、わた、わたし・・・!?」

 

「ま、そういうことだな。」

 

2人が話していると、子供の心が話しかけてきた。

 

「お姉ちゃんたち、さっきの人たちの知り合い?」

 

「さっきの人たち?」

 

「あのね、心に声をかけてきたお兄ちゃんたち。

パパたちはどこ、って聞かれて、連れて行ってくれるって言ってたの。」

 

良介と心は何も言わずにお互いを見た後、再び子供の心の方を向いた。

 

「いや、知らない人たちだよ。」

 

良介が話していると、紗妃がやってきた。

 

「あっ!

こ、こんな所に!

何をしてるんですか!」

 

「お、紗妃か。」

 

良介は紗妃の方を向いた。

 

「先ほどのは霧の嵐ですよ!

飲み込まれたということは、私たちは・・・うら・・・せかい・・・に・・・」

 

紗妃は子供の心を見て言葉を詰まらせた。

 

「あ・・・あの・・・」

 

「そ、そうですよね!

霧の嵐に飲み込まれたら帰れる保証はないって・・・聞いてたのに、すっかり忘れて子供時代の自分を見て・・・は、話しかけてしまうなんて・・・わたし、わたし、危機感がまるで足りなくて・・・」

 

「いじめちゃダメっ!」

 

「へっ?」

 

子供の心は紗妃に注意してきた。

 

「お姉ちゃんのこと、いじめないで!

泣かせる人、悪い人だよっ!」

 

「あ、い、いえ・・・私は、泣かせるつもりでは・・・ほ、ほら双美さん、泣かないでください。

誤解されてしまいます!」

 

「わた、わたしのせいで氷川さんがあらぬ誤解を・・・っ!?

あ、ああ・・・!

やっぱりわたしはダメなクズ女なんです・・・死んでお詫びを・・・」

 

「いじめちゃダメーっ!

謝って!」

 

「り、良介さんっ!

どうにかしてくださいっ!」

 

「まったく、ふうびキッズの時といい、どんだけ子供の扱いが苦手なんだよ・・・」

 

紗妃に助けを求められた良介は子供の心に誤解を解こうとした。

 

「はっけん!

はっけん!」

 

「何だ、今度は・・・」

 

良介と紗妃が振り向くと、子供の紗妃が立っていた。

 

「怪しい人たち!

ゆうかいはんねっ!

悪いことしちゃだめっ!

しんみょうにおなわにつきなしゃいっ!」

 

「はぁー、もー・・・次から次へと・・・」

 

良介は頭を抱えた。

 

   ***

 

子供の紗妃と子供の心が良介たちを見つめていた。

 

「2人とも疑惑の目でこちらを・・・」

 

「仕方ないだろ。

子供に声をかけるのは明らかに事案だからな。

それで、ここが前と同じ10年前だったら・・・」

 

「クリスマスの時期は、ちょうど例の事件が起きていますから。」

 

「れ、例の事件?」

 

良介は顎に手をやった。

 

「風飛市連続児童誘拐事件、か。」

 

「れんぞくじどうゆうかいじけん!?」

 

良介の言葉に心は驚いた。

 

「り、良介さん!

子供の私のことはなにも言わないでください!

あと、委員長にも言わないでくださいっ・・・自警団まがいのことをしていたと知られたら・・・」

 

「わかった、風子には言わないでおくから。」

 

「え、えっと・・・それで、良介さん・・・わた、わたしたち、どうすれば・・・」

 

「過去の学園生が何らかの事件に巻き込まれた・・・それが今回も、てことは・・・誘拐事件に?」

 

「え?

わ、わたしたちが誘拐事件に巻き込まれるんですか・・・?」

 

心は良介に聞いた。

 

「そうと決まったわけじゃないが・・・念のため、親の所に帰した方がいいだろう。」

 

「幸い、私の家は風飛市内です。

双美さんはどうですか?」

 

「え、ええとですね・・・あの・・・わ、わたしは隣県の祖母の家に・・・りょ、両親は亡くなっていますから・・・」

 

紗妃は暗い表情になった。

 

「すみません・・・事情を知らず・・・」

 

「い、いえ、大丈夫です。

それに・・・た、確かに危ないですから・・・あ、あの・・・」

 

心は子供の紗妃と子供の心に話しかけた。

 

「こ、ここは危ないから、お姉ちゃんたちと一緒に帰らない?」

 

「馬鹿野郎!

その言い方は・・・!」

 

「ふぇ?」

 

良介は心を注意しようとしたが遅かった。

 

「や、やっぱり・・・」

 

「ゆうかいはん・・・?」

 

「え?

え?

えええ?」

 

心は困惑していた。

 

   ***

 

子供の紗妃が良介たちを指差した。

 

「やっぱり!

この人たちがゆうかいはん!

子供をゆうかいするなんて、わたしが許しゃないっ!」

 

「あ、あ・・・あうぅ・・・」

 

心は酷く落ち込んでいた。

すると、子供の心が子供の紗妃を止めた。

 

「まって、紗妃ちゃん。」

 

「どうしたの?」

 

「お姉ちゃん・・・なんだか、えっと・・・心に似てるから・・・それだけじゃなくて、ちょっとお話、聞いたほうがいいかなって・・・」

 

紗妃は少し引いた。

 

「そういえば・・・そっちのゆうかいはんも、わたしに・・・」

 

「に、似てるわけありません!

私とあなたは別人です!

別人!」

 

「そんなにあわてて・・・やっぱり怪しい・・・」

 

「頭の固さと疑り深さ、紗妃はこんな子供だったんだな。」

 

良介は引き笑いをしていた。

 

「双美さん、あなたの方が話しやすそうです。

お願いします。」

 

「あ、苗字言ったら・・・」

 

良介は紗妃を止めようとしたが遅かった。

 

「双美・・・同じ苗字・・・?」

 

子供の心が反応した。

 

「あ、ち、違うんです!

私は確かにフタミですが、双美ではなくてですね!

え、ええと・・・二つの海と書いて・・・す、すみません・・・土下座しますぅ・・・!」

 

「はぁ・・・またややこしくなりそうな・・・」

 

良介はため息をついた。

 

「はなしがすすまないから、つうほうする。」

 

「と、それは非常に困るな・・・身分が証明できないのに、通報されたら・・・仕方ないか。」

 

良介は子供の2人に話しかけた。

 

「心ちゃんに紗妃ちゃんだったな。

俺たちは魔法使いなんだ。」

 

「ま、魔法使い、ですか?」

 

「ああ、グリモアに通っている学園生だ。

今日はクエストを請けて・・・連続児童誘拐事件のさらなる犯行を防ぐために、パトロールをしているんだ。」

 

「せ、せーふくちがうよっ!」

 

子供の紗妃に指摘されたが、良介にはわかっていたことだった。

 

「もちろん、魔法使いだと知られたらダメだからな。

それらしい格好していると、逆に騙しやすくなるんだ。」

 

子供の紗妃は良介をじっと見た。

 

「ほ、ほんと?」

 

「ああ。

証拠に・・・ほら、魔法だ。」

 

良介は右手から小さく電撃を出した。

 

「うわっ!

す、すごい・・・まほうつかい!」

 

「我ながら、よく攫われなかったものですね・・・」

 

紗妃は後ろで呆れていた。

 

   ***

 

良介は子供の心に質問した。

 

「そういえば、さっき若い男に声をかけられてなかったか?」

 

「うん、えっと・・・心を送ってくれるって。」

 

良介は顎に手をやった。

 

「服は俺たちのようなやつか?」

 

「ううん。

全然違うよ。

もっと、えっと・・・ふつうの。」

 

「わ、わたしも見た!

きっとあの人たちが・・・!」

 

良介は子供の紗妃の話を聞いて少し唸った。

 

「ううん・・・俺たちが霧の嵐で移動したのは、この事件を止めるためか?」

 

良介が考え込んでいると、突然デバイスが鳴った。

 

「ん?」

 

「で、デバイス・・・裏世界でも通じるんですか・・・?」

 

紗妃が驚いているのを余所に、良介はデバイスを取り出した。

 

「もしもし・・・卯衣か?

あぁ、あぁ・・・何?

わかった、すぐに探す。」

 

良介はデバイスを直すと、心と紗妃の方を向いた。

 

「心、紗妃。

結希と葵と誠も来ているらしい。」

 

「ええっ!?

そ、そうなんですか?

わたしが・・・巻き込んで・・・?」

 

「関係ねぇよ。

それより、早く見つけるぞ。」

 

良介は過去の心と紗妃に話しかけた。

 

「なぁ、俺やこの2人と同じ服装をした奴ら見なかったか?」

 

2人は良介たちを少し見ると、良介に話しかけた。

 

「あっ!

わたし見た!

見たよ!」

 

「心も見たよ。

えっと、通りの向こうの・・・」

 

「きょろきょろしながらあるいてた!」

 

良介たちは顔を見合わせた。

 

「そ、それは・・・」

 

「ええ、冷泉さんですね。

確か裏世界も初めてだったはず・・・?」

 

「なにも知らないのは、子供以上に危険だな。

その場所に案内してくれないか?

友達なんだ。」

 

「いいよ!

お兄ちゃんたち魔法使いだから、いいよ!」

 

子供の紗妃は笑顔で答えてくれた。

 

「私は、魔法使いに憧れていましたから・・・」

 

「なるほど、だからこんなに協力してくれるんだな。」

 

良介たちは子供の紗妃に案内してもらうことにした。



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第108話 無事を願って

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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過去の風飛市。

結希は子供の結希と会っていた。

2人は何も話さずにお互いを見ていた。

すると、結希が口を開いた。

 

「あなた。」

 

子供の結希は何も言わずに結希を見続けた。

 

「お子様が1人でいると危ないわよ。」

 

「お子様と呼べるほど、わたしのことを知っているの?」

 

「ええ、知っているわ。

裏世界のフィールドワークは他の人に任せようと思ったけれど・・・当事者になってしまうなら、仕方ないわね。」

 

「わたしに、よう?」

 

「ええ。

あなたはアメリカに行くのでしょう?

あなたは自分が思っているよりは、世界に貢献できる。

私も、あなたが誘拐されるのは嫌だから。」

 

「なんのはなし?」

 

同じ頃、誠と葵の2人がいた。

 

「ど、どうして・・・」

 

「どうした、葵。」

 

誠は葵の視線の先を見ると、子供の葵がいた。

 

「お父さま・・・お父さま・・・」

 

「あれは・・・」

 

「むむむ!

もしやここは・・・」

 

すると、2人のところに子供の葵がやってきた。

 

「あ、あの・・・こんにちは・・・」

 

「ん?

ああ、こんにちは。」

 

「あ、はい!

こんにちは!」

 

挨拶してきたので、2人も挨拶した。

 

「じじょうがありまして、父とはぐれてしまいました。

冷泉家の葵ともうします。

ご協力いただけませんか。」

 

「や、やはり!

もちろんです!」

 

「本当ですか?

よかった・・・」

 

「誠さん!

ここはもしや過去なのでは!

わたくし、ちらりと聞きました!

過去の風飛で過去の自分と会った、と!

ですから、ここは裏世界なのでしょうか?」

 

「そうだけど・・・そんなでかい声で言ったら・・・」

 

「ええと、やっぱり結構です。

失礼します。」

 

「あ、ちょっと待ってくれ。」

 

子供の葵が去ろうとしたが、誠が呼び止めた。

 

「今のは・・・」

 

「変だと思ってはいけません。

今のはお芝居のお稽古なのです。」

 

「お芝居のお稽古?

役者の方なのですか?」

 

「えっと・・・そ、そのようなものですね!」

 

「なんて無茶苦茶な・・・良介~、早く来てくれ~・・・」

 

誠は頭を抱えた。

 

   ***

 

誠たちと合流した良介たちは子供の紗妃と心にに事情を説明してもらった。

 

「とゆーわけで、うんちゃらかんちゃら・・・」

 

「あの、悪い人たちじゃない・・・かも・・・」

 

子供の結希は良介たちの方を見た。

 

「あまり子供を騙さないでもらえる?」

 

「騙してねぇよ。」

 

「良介くん、ここは私が。

あなたは誠くんと一緒に冷泉さんの保護をお願い。

5月のことと、子供たちの話から考えると、確実にいるから。」

 

「わかった。

それと、俺たちは誘拐する気はないからな。」

 

良介は子供の結希にそう言うと、誠と合流して葵のところに向かった。

 

「いや~、お前が来てくれて助かったぜ、良介。

俺1人じゃあの状況はどうすることもできねぇからな。」

 

「俺がいない間、結構苦労したみたいだな。

それで、葵だが・・・確か外に出たことはないんじゃ・・・」

 

「ああ、俺もそれで、なんで1人で迷ってるんだろうと思ってな・・・」

 

2人が話していると、葵と子供の葵のところ到着した。

 

「わぁ・・・わぁ・・・とてもうつくしいです・・・」

 

「こら、あまりきょろきょろしてはいけませんよ。

危ないですから。」

 

子供の葵はイルミネーションを珍しそうに見ていた。

良介は葵に質問した。

 

「なぁ、葵。

なんでこの時、1人だったんだ。」

 

「ええと・・・大変お恥ずかしいのですが・・・実はわたくし、1度だけ、この時、外に出されたのです。

ですがわたくしがこのように、1人でいなくなってしまったものですから・・・」

 

「外出はこの1度きりか・・・極端だな。」

 

誠は呆れた。

 

「それだけ大切にしてくれたということなのでしょう。」

 

「わたくしのお話でしょうか?」

 

「いいえ、わたくしのお話ですよ。」

 

「ややこしいな・・・ところでお嬢ちゃん。

今、このクリスマス時期に、浮かれている子供たちを狙って・・・悪い人たちが誘拐しようとしてるんだ。

とても危ないんだ。」

 

「ええっ!?」

 

「ええっ!?」

 

両方の葵が驚いた。

 

「お前も知らなかったのかよ・・・」

 

誠は苦笑した。

良介は軽く咳払いして続けた。

 

「そういうわけで、すぐに両親のところに帰ってもらった方がいいんだ。」

 

「なるほど・・・ですが、難しいかも・・・」

 

「え?

なんで・・・」

 

良介は質問しようとしたが、子供の葵が怯えていることに気付いた。

 

「じ、じいやにおこられる・・・」

 

「じいや?」

 

「世話係です・・・とても厳しくて・・・」

 

良介はため息をついた。

 

「そういうことを言っている場合じゃないだろ。」

 

「ほ、本当に怖いんですよ?」

 

「どれだけ怖いんだよ、その世話係・・・」

 

誠は呆れていた。

 

   ***

 

少し経って、結希は良介と連絡していた。

 

 

「わかった。

一通り回ったら合流しましょう。

こっちは双美さんがうまくやってくれてるわ。

ええ、子供たちの証言から、何者かが街をうろついているのは間違いない。

ただの勘違いであればそれでいい。

けれど誘拐事件の犯人なら・・・私たちが止める。」

 

「わかった。」

 

良介はデバイスを切った。

 

「誠、紗妃、葵。

犯人を捜すぞ。」

 

「犯人・・・というと、誘拐事件の犯人ですか?」

 

「そうだ。

詳しくは省くが、以前にも過去の風飛を訪れたことがある。

その時は鳴子さんたちと一緒だった。

その時に巻き込まれたのが魔物の出現。

この状況はその時と酷似している。

幼いころの自分と出会い・・・今、この瞬間、事件が発生している。

なら、止めないとな。」

 

葵は黙って話を聞いていた。

 

「なるほど。

悪いことは止めなければなりませんね!」

 

良介たちは誘拐犯を捜しに向かった。

 

   ***

 

少し時間が経ち、結希たちは誘拐犯を見つけた。

 

「あの人・・・ね?

2人連れの男。」

 

「うん。

心に声をかけてきた人。

あの人。」

 

結希は子供の心に確認をとった。

 

「あれは・・・まさか・・・」

 

「ど、どうしましたか?」

 

「双美さん。

子供たちを警察に届けましょう。」

 

「え?

ええ?」

 

「はなしがちがう。

わたしたちも、協力するはずだった。」

 

子供の結希が結希に話しかけてきた。

 

「今、彼らは罪を犯していない。

たぶん、時間を置くつもりのはず。

それを待っていたら、あなたたちが凍えてしまうわ。」

 

「しんぱいしなくていいわ。

自分の体のことはよくわかってるから。」

 

「こ、心もいいことしたいっ!」

 

「今罪をおかしていないのなら、ゆうはつする。

わたしが近づく。」

 

「ええっ!?」

 

「なんですって?」

 

子供の結希の発言に結希と心は驚いた。

 

「そっちの子は話しかけられてるからダメかもしれない。

でもわたしが1人で行ったら、声をかけてくるかもしれない。」

 

「だめよ。

魔法も使えない子供に、おとり捜査なんてさせられない。」

 

「わたしは、あなたなんでしょう?

ここで酷い目に合わないから、あなたがいる。

だから、大丈夫。」

 

そう言うと、子供の結希は行ってしまった。

 

「っ!

ま、待ちなさい!

あの男は危険・・・!」

 

「あっ・・・ど、どうしましょう!」

 

「心・・・なにかあったら、すぐにたすけに行く!」

 

その頃、良介たちはまだ犯人を捜していた。

 

「ん?

あれは、子供の結希?」

 

「あーっ!

あれ、あやしい人!」

 

「怪しいお方ですかっ!?」

 

子供の紗妃が犯人を指差した。

 

「なんで結希が・・・あ、まずい・・・手を引っ張ってやがる!」

 

良介は急いでデバイスを取り出した。

 

「結希、なにしてんだ!

お前が攫われるぞ!」

 

「わかってる!

通報したから監視を続けて!」

 

「なにを悠長な・・・!」

 

「魔法を使ってはだめ!

私たちはグリモアの生徒を自称している!

けれど戸籍はないし、警察に見つかったら言い訳できない!」

 

「クソッ・・・わかったよ。」

 

良介はデバイスを切った。

 

「見てることしかできないのかよ・・・!」

 

「わたくし、お役に立てないでしょうか?」

 

「いってくる!」

 

「は?」

 

子供の紗妃の発言に良介は驚いた。

 

「いって、あやしいひとにつれて行かれないようにしてくる!」

 

「わたくしも行きます!

じいやたちがきっと探してくれています!

じいやたちがいれば、なにも怖くありません!」

 

「では、わたくしはじいやを探しましょう。

一刻も早く場所がわかるように。」

 

「おい、葵!」

 

「良介さん。

他の人と、あの誘拐犯が逃げないように監視しておいてください。

探してきます!」

 

そう言うと、葵と子供の葵と紗妃は行ってしまった。

 

「葵は心配だな・・・俺も行ってくる!」

 

誠は葵を追いかけていった。

 

「良介さん・・・!」

 

紗妃は良介に声をかけた。

 

「ああクソッ!

いいだろう、どこまで行こうが絶対に目を離すかよ!」

 

「なぜ自分から危険な目に・・・!」

 

良介と紗妃は監視を続けた。

 

「あの2人・・・確かに子供に興味があるみたいだな。

警察が来たな・・・やれやれ、心臓に悪いな。」

 

良介がため息をついていると、紗妃が焦ったように良介の服を引っ張り始めた。

 

「ん?

どうした?」

 

「こ・・・子供たちがこっちに走ってくる・・・!」

 

「えっ!?

警察に見つかったら・・・隠れるぞ!」

 

「えっ・・・きゃっ!?」

 

良介は紗妃を自分の方に抱き寄せて、すぐ近くの塀に隠れた。

子供たちは走って良介たちのいたところにやってきた。

 

「けんきょです!

けんきょ!」

 

「ドキドキしました!」

 

「あれ?

お兄ちゃんたちは?」

 

すると、良介と顔を赤くした紗妃が近くの塀から出てきた。

 

「まったく・・・お前らは・・・!」

 

良介は呆れていた。

 

   ***

 

犯人が捕まってから良介たちは一息ついていた。

 

「犯人も捕まったし一件落着だな。」

 

「そういや良介、紗妃となにやってたんだ?」

 

「どういうことだ?」

 

「あいつ、さっきまで顔が真っ赤になってたじゃねえか。

お前、何したんだ?」

 

「いや、別に何もしてねえけど。」

 

誠はため息をついた。

 

「お前はまたそうやって・・・いつか刺されるぞ。」

 

「誰が刺されるかよ・・・まったく・・・ん?」

 

すると、良介の耳に心と子供の心の会話が聞こえてきた。

 

「あ、そうだ・・・心に話しかけてきたおじちゃん、名前言ってたよ。」

 

「名前?」

 

「うん。

まがやまって言ってた、変な名前でしょう?

 

「間ヶ岾・・・だと!?」

 

良介はその名前を聞いて驚いた。

誠にも聞こえていたようで、誠も少し呆れていた。

 

「一体、どれだけ昔から活動してたんだ。」

 

「さぁな・・・」

 

2人が話していると霧の嵐が起きた。

気が付くと、魔法使いの村にいた。

 

「戻ってきた、わね。

全員いる?」

 

結希が確認した。

 

「はい、無事です・・・大丈夫ですよね。」

 

「良介さんも誠さんもいます・・・しっかり、言い聞かせておきましたから。

大丈夫だと信じましょう。

私たちですから。」

 

「すぐにまとめるわ。

裏世界の状況、それに・・・次の探索で、ひとつ謎が解けるはず・・・」

 

良介たちはすぐにその場を後にした。



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第109話 逃避行

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


ある日の、学園の校門前。

良介が1人で歩いていると、後ろから誰か呼んできた。

 

「ダーリーン!」

 

「ん?」

 

振り向くと、香ノ葉が駆け寄ってきた。

 

「ついに!

やっと!

ようやくやよ!

艱難辛苦を乗り越え、耐えがたきを耐え、やっと・・・」

 

「やっと?」

 

「やっとウチに順番がまわってきたんよ!

最近な、ほら、ダーリンにアプローチする子が増えてきてるやん?」

 

その言葉を聞いて良介は頭を掻きながらため息をついた。

実際、告白されたわけではないが妙に距離が近い女子が増えたのは事実だった。

そのせいか、ここ最近誠の視線が冷たくなっている。

 

「ウチかてダーリンへの想いは負けてないんよ?

でもな・・・ホラ、ダーリン、優しいから。

フラフラ~って、女の子を寄せ付けてしまうんよ!

誰とは言わんけどな。

もうべった惚れなんよ、もう。」

 

「(どうせ、お前だろ?)」

 

良介はため息をついた。

 

「それで、順番ってなんの順番なんだ?」

 

「あっ・・・なんの話やったっけ?」

 

「おい・・・」

 

「あ、ああ!

そうそう!

クエスト!

ダーリンとウチの共同作業なんよ♪

2人の!!

共同作業なんよ!!!!」」

 

「(なんでその部分を強調するんだ・・・)」

 

「やから邪魔が入らんうちに出発やよ!」

 

香ノ葉そのままクエスト場所に向かおうとしたがいきなり立ち止まった。

 

「どうした?」

 

「手、繋がへん?」

 

良介は呆れた顔をしていた。

その頃、誠は図書館で図書委員の手伝いをしていた。

 

「この本、ここでいいか?」

 

「あ、はい。

そこでお願いします。」

 

2人は本の整理をしていた。

 

「せんぱーい!」

 

すると、向こうからちひろがやってきた。

 

「誠先輩!

この本なんですけどぉ、背表紙が汚れちゃってて・・・」

 

「んー?

ああ、これか。

それは消しゴム使えばいいんだよ。

ちょっと貸してくれ。」

 

誠はちひろから本を受け取った。

 

「こうすれば・・・ほら。」

 

誠は背表紙の汚れを消しゴムで消した。

 

「うわぁ~。

ホントに綺麗になりました。

すごいですぅ!」

 

「どういたしまして。

そういえば、聞こうと思ってたんだが、なんで図書委員になったんだ?

茶道部に誘われてたんじゃなかったのか?」

 

誠は本を渡しながら聞いた。

 

「とっても迷ったんですよぉ!

お茶もとってもおいしかったし・・・でも、大変な問題があって・・・」

 

「大変な問題?」

 

萌木は首を傾げた。

 

「わたし・・・正座が耐えられなくて・・・」

 

誠は呆れた顔をしていた。

 

「正座ぐらい、許してくれると思うけどな。

たしかソフィアも苦手だったはずだが・・・」

 

「そんなぁ・・・茶道って、とっても厳しいじゃないですかぁ。」

 

「うーん・・・白藤さんに伝えた方がいいかな・・・攻めすぎたのかもって心配してたもんなぁ・・・」

 

「まぁ、俺も正座は苦手だけどな。」

 

「ですよねぇ。

わたし、気絶しちゃうんですよぉ。」

 

「き、気絶!?」

 

「どういう足してんだお前・・・」

 

誠と萌木は驚いていた。

 

   ***

 

良介と香ノ葉はクエスト場所である地下鉄工事現場に来ていた。

良介は1人でさっさと先に進むと、香ノ葉が名前を呼びながら追いかけてきた。

 

「ダーリンダーリンダーリ~ン!

置いてったらいややわぁ!

せっかくな、せっかくダーリンとのクエストが設けられたんよ。

そんなに急がんでも、ゆっくり時間かけて愛を深めるんよ。」

 

「え?」

 

良介は嫌そうな顔で香ノ葉を見た。

 

「あ、違った。

ゆっくり確実に魔物を倒すんよ。

ほら、ウチが守ってあげるからもっと近づいてえな。

こうやって・・・」

 

香ノ葉は良介の腕に抱きつこうとしたが、良介は腕を引っ込めて避けた。

 

「あぁん、腕くらい組んだってバチあたらんのに・・・」

 

「なんでそんなことしなきゃならねぇんだよ。」

 

「ええやんええやん、一緒にお泊りで温泉に行った仲やんか~。」

 

「みんなで、な。」

 

良介はため息をついた。

 

「みんなで行ったのは確かにそうなんやけどね、大事なのはそこやないんよ。

ウチと、ダーリンが、お泊りで、温泉!

もう既成事実ができてるんよ!

やからなぁ・・・ええんよ?」

 

香ノ葉は目を瞑った。

良介は目を瞑っている香ノ葉を見て、ため息を一つつくと、黙って先に歩き始めた。

 

「ダーリン?」

 

香ノ葉が目を開けると、良介の背中は遠くなっていた。

 

「あ~ん、冗談やって!

待ってぇな~!」

 

香ノ葉は良介の後を追いかけた。

 

   ***

 

学園の廊下。

智花が歩いているとそこにアイラがやってきた。

 

「おい、南。」

 

「アイラちゃん?」

 

アイラは智花に話しかけた。

 

「お主、ここ1年の不可思議な現象には気づいておるか?」

 

「え?

え?

なんのこと?」

 

「去年の記憶が曖昧だとか、自分、成長してないなって思ったりしないか?」

 

「せ、成長はしてるよ!

お料理、作ってあげます!」

 

「え?

あ、いや、それはさすがの妾も死ぬ・・・」

 

「去年、成長、あれのことか。」

 

アイラが振り向くと、いつの間にか誠が立っていた。

 

「なんじゃ、誠。

お主は知っとるのか?」

 

「ああ、知ってる。

1年を繰り返していることだろ?」

 

「え?

う、裏世界のことじゃなくて?」

 

「ああ、知らないのか?」

 

「し、知らない。

聞いてないよ?」

 

「ふーむ。

まぁ、それはよい。

それでな、我らが調べたところ・・・時間停止の魔法に近いものがかけられておる、とわかった。

これについては、お主にも話したことがあろう?」

 

「ええっと・・・うん、確か、斬られても元通りになるって。」

 

「それがこの世界にかかっておる。」

 

「斬られても、元通りに?」

 

「時間が過ぎても、元に戻る・・・つまり、1年を繰り返す。

去年、良介が来た時、お主は何年目じゃった?」

 

「えっと・・・5年目、かな。」

 

「では、今年は?」

 

「えっと・・・あれ?

ご、5年目・・・?」

 

「な?」

 

「え?

え?

ど、どういうこと?」

 

智花は困惑していた。

 

「お主が気づいておるか、そうでないか、は別問題じゃ。

じゃが、この閉じた時間の輪を作り出したのはお主じゃろ。」

 

「智花が?」

 

誠は智花の方を見た。

 

「なにも糾弾しようというわけではなくての。

ククク・・・今のままでいいんじゃ。

絶対に解除するなよ。

おそらく時間停止を解除したら、第8次侵攻が来る。

今の戦力では、それを乗り切れんからのう・・・」

 

アイラはそう言うと、立ち去った。

 

   ***

 

地下鉄工事現場。

良介と香ノ葉は歩いて魔物のところに向かっていた。

 

「転校してきてからずっと忙しいってすごいことなんよ?

まぁ、ウチかてみんなの気持ち、わからんでもないけどなぁ。

恥ずかしがって体質が体質がーて言ってるけどな、ホントは違うんよ。

ダーリンが魅力的すぎるから頼りたくなってしまうんやえ。」

 

良介は疑惑の目で香ノ葉を見た。

 

「あー、なにその顔。

ホントやよ!

ウソなんかつかんの!

でも謙遜するダーリンもおくゆかしいんよ。」

 

「おい、出たぞ。」

 

良介は親指で指差した先に、魔物がいた。

 

「え?

ああ、魔物な。

任せといて!

フフフ・・・ダーリンとウチがコンビを組んだら無敵なんよ!

愛の力に勝てる相手なんていないんやえ!

覚悟ー!」

 

香ノ葉が魔物に向かって行く前に、即に良介が攻撃していた。

 

「あ、ちょっとー!」

 

「はぁっ!」

 

良介の剣で魔物は一刀両断にされた。

 

「なんで先に攻撃するんよ!」

 

「さっさと攻撃しないからだ。

ほら、次行くぞ。」

 

良介は次の魔物の方へと歩いていった。

 

「ダーリン、待ってぇな!」

 

香ノ葉は良介の背中を再び追いかけた。

 

   ***

 

少し遡って数日前、茶道部部室。

ソフィアと香ノ葉と葵がいた。

 

「元気出してください、香ノ葉さん!」

 

「だってだって、ウチの紹介の仕方がダメなんやなかったかって・・・」

 

「そんなことありませんよ。

茶道に興味が無い方だっていますし・・・茶道部じゃなければお話できない、というわけでもありませんし。」

 

「まぁなぁ・・・でも、汐浜の時に出会ってるからなぁ。

ちょっと思い入れが違うやん?

はぁ・・・ぐちぐち言うても仕方ないか。」

 

すると、部室のドアを誰かがノックしてきた。

 

「おや?」

 

「ちひろちゃん!?」

 

「入ってきませんね?」

 

すると、再びノックしてきた。

 

「はーい!

どうぞー!」

 

「失礼するよ。」

 

ドアが開くと、樹と誠が入ってきた。

3人は無言で樹の方を見た。

 

「お、男の人やーっ!

しかもイケメンのーっ!」

 

「俺には無反応かよ・・・」

 

「あ、誠はんもおったんや。」

 

「俺に対しての反応薄っ・・・」

 

「あっ!

神宮寺の・・・」

 

「おーっ!

樹サン!

お久しぶりです!

はうあーゆー!」

 

「2人とも知り合いなのか。」

 

「おっと、ソフィアちゃんに・・・あなたは冷泉のお嬢さん。

グリモアにいるとは聞いていたが、まさかこんなところで会うとは。」

 

「おいおい、樹さんよ。

まさか女子高生に手を出してたとは・・・」

 

誠は少し引いていた。

 

「誠くん、変な勘違いしないでくれるかな?」

 

樹は苦笑していた。

 

「以前、父が失礼を。」

 

「なぁに、こちらもみんなに秘密にしていたからね。

すれ違いとはいえ、悪いことをしてしまった。」

 

「どういうことだ?」

 

葵と樹以外の3人は何のことかわかっていなかった。

 

「あ、申し訳ありません。

説明した方がいいですね。

以前、樹様とお見合いになりかけたことがありまして。」

 

「え・・・ええええっ!?」

 

「樹さん、あんた二股してたのかよ。

しかも、お見合いってことは・・・重婚・・・」

 

「誠くん、違うから!

変な勘違いしないでくれ!」

 

「そそそ、そんな・・・さすが社交界・・・」

 

「でも結局、お会いはしてないんですよ?」

 

「なんだ、つまんね。」

 

「誠くん、君というやつは・・・話を戻そう。

そのときはもう、俺が入籍していたんだ。

今の妻と。

ただ結構反対されていたからね。

秘密裏に進めた結果・・・入籍を知らなかった親父が、お嬢さんと見合いを組んでしまったってわけだ。」

 

「ほぁー・・・大人のわーるどですねぇ・・・」

 

「父が激怒してしまって、危うく大問題になるところでした・・・」

 

「まぁ、結果的に丸く収まったことだし、笑い話だな。」

 

「部外者としては大問題になってくれてた方が笑えるんだけどなぁ。」

 

「誠くん・・・」

 

樹はため息をついた。

 

「父も今は冗談を言ってますよ。

いつか腹を切らせてやると。」

 

樹は顔が青ざめていた。

誠は苦笑していた。

 

「じょ、冗談、でいいのかな、それは。」

 

「それ冗談じゃなくて根に持ってるんじゃ・・・」

 

今度はソフィアが樹に話しかけた。

 

「樹サン、お風呂はどーですか?」

 

「え?」

 

ソフィアの発言に誠と香ノ葉が反応した。

 

「ああ、いいね。」

 

「お、おいおい。

まさか・・・」

 

「とりあえずテストを作って前線に送ってみてる。

兵士たちに使ってもらって、フィールドバックをもらってる段階だ。」

 

「おー、もうそこまで進んでるんですね!

ぐっどです!」

 

「グッドだな。

ま、量産にかかるのはまだまだだな。」

 

「なんだビジネスの話か。

本格的に手出すのかと思ったんだがなぁ。」

 

「誠くん、何回も言うけど俺は既婚者だからな。」

 

「樹さんの性格なら2人か3人くらいは浮気しててもおかしくない気がするんだけどなぁ。」

 

「もしそんなことしたら、俺は今ごろ離婚どころか、神宮寺家から追い出されてるよ。」

 

誠と樹の会話を聞いていた3人は向かい合って話をしていた。

 

「なぁ、あの2人を見て思ったんやけど・・・」

 

「ワタシも思いました。」

 

「わたくしもです。」

 

「あ、やっぱり?

あの2人・・・」

 

「べりー似てますね。」

 

「はい、そっくりです。」

 

「そっくりやんなぁ・・・」

 

樹はソフィアの方を向いた。

 

「と、また話がそれてしまったな。

ソフィアちゃん、今日は直接言いたいことがあって、来た。」

 

「お、告白か?」

 

「誠くん、これは真剣な話だ。

黙っててくれないか?」

 

「へいへい、わかりました。」

 

「近いうち、俺はちょっと遠くに行くかもしれないんだ。」

 

「はぁ、お仕事ですか?」

 

「いや、わからないが・・・いろいろキナくさくてね。

今のように、フューチャーの社長を務められるか怪しくなってきた。」

 

「え?

やめちゃうんですか?

ど、どうしてですか?」

 

「俺も具体的には・・・だから、一応伝えておこうと思って。

俺が続けられなくなったら、弟の光男が引き継ぐはずだ。」

 

残りの3人はなんの話かよくわかっていなかった。

 

「なんの話、しとるん?」

 

「さぁ・・・光男様のお名前は聞いたことありますが・・・」

 

「光男って・・・確か・・・」

 

「光男サン・・・確か、お母様似の?」

 

「ああ。

軍事産業が嫌いな、光男だ。

だからフューチャーにいる。

アイツはまだ若いし、経験も少ない。

だから最初はいろいろあるはず。

風呂事業に関しては、君のアドバイスに従うように言っている。

助けてやってくれ。」

 

「あ・・・あの・・・先ほどからお話がちょっと・・・やめてしまうのは決まっちゃってるんでしょうか?」

 

「決まってないが・・・決まったときには、もう遅い。

そのとき、俺は死んでいる可能性があるからな。」

 

その時の樹は、かなり真剣な顔をしていた。



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第110話 出発準備

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
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地下鉄工事現場。

良介と香ノ葉は雑魚の魔物を倒したところだった。

 

「ほらみて~、褒めて褒めて~!」

 

香ノ葉は雑魚の魔物を2体倒して良介に褒めてもらおうとしていた。

 

「褒めてもらいたいようだが、雑魚に少し手間取りすぎじゃないか?」

 

良介はため息をついた。

 

「あ~・・・いや、まぁなぁ。

ウチ、自然魔法は苦手やから・・・

それなりに時間はかかるんよ。

ヒットアンドアウェイやったっけ?

ウチは正宗や家康での偵察が得意分野やからね。

でもこのくらいの敵ならなんとかなるから、心配せんといてね。」

 

「本当に大丈夫かよ・・・」

 

良介は不安そうな顔をしながら歩き始めた。

 

「ダーリンな、今日はウチに任せといて。

さっきも言ったけど、ダーリン、転校して来てからずっと忙しそうなんよ。

それに裏世界やら科研やら、いろんな問題に関係してるやろ?

魔力がいっぱいあっても、疲れちゃうやえ。

心配してるんやよ。

やから今日は、ぜえんぶウチがやったるからね!」

 

「さっきの魔物倒したの俺だけど?」

 

「残りの魔物はってこと!

ダーリンはちょこっとだけ魔力くれれば、後はなにもしなくてええんやえ。」

 

2人が話していると、魔物が現れた。

 

「ダーリン、さっき言った通りウチに任せといて!」

 

「わかった。

ほら。」

 

良介は香ノ葉に魔力を渡した。

すると、香ノ葉はすぐに魔法が撃てる状態になった。

 

「それーっ!」

 

魔物に向かって魔法を撃った。

魔物は一撃で霧散した。

 

「ほー、やるな。」

 

「ダーリン、見てた。

ウチもやるときはやるんやで。」

 

「できれば普段からそうしてほしいんだがなぁ。」

 

「あー、今回できたのはダーリンの魔力譲渡があったおかげであって、普段はちょっと・・・」

 

「無理なのか・・・」

 

良介はため息をついた。

 

   ***

 

歓談部部室。

あやせが1人でくつろいでいた。

 

「ふぅ・・・アイラちゃん、だんだんと歩き回るようになってきたわねぇ~。

立ち直ってくれるといいんだけど・・・エミリアちゃん、うまくやってくれるかしら・・・?」

 

あやせが窓の外を見ながら独り言を言っていると、誰かがドアをノックした。

 

「あら・・・どうぞ~。」

 

すると焔が入ってきた。

 

「まぁまぁ、珍しいお客さんねぇ~。」

 

「やっぱ・・・なんでもない。」

 

焔はすぐに立ち去ろうとした。

 

「まぁまぁ、別に用がなければいけないってわけじゃないし・・・お茶をごちそうするわよ~?」

 

焔は何も言わずにあやせを見た。

 

「1杯だけでも、どう?

飲んだら、無理に引き留めないから。」

 

その後、焔はあやせの入れたお茶を飲むことにした。

焔はお茶を飲み終えると湯呑をゆっくりテーブルに置いた。

 

「ごちそうさま。」

 

「ええ。

おいしかったなら嬉しいけど。」

 

「まずくはなかった。

おいしいかどうかは、わからないけど。」

 

「よかったらおかわりもあるわよ?」

 

焔はまた何も言わずにあやせを見た。

 

「なあ・・・あんた、話を聞くのが趣味って聞いたけど。」

 

「おしゃべりが好きなのは本当よ~?

盗み聞きとかじゃないからね。」

 

「うん・・・・・」

 

「いいお天気でしょ?」

 

あやせは外の方を見た。

 

「え?

ああ・・・うん。」

 

「そろそろ冬ね。

みて、ちょっと風が寒そうでしょう?」

 

「ああ・・・そうだな。」

 

「なんで部屋の中にいても、風が寒そうって思うのかしら~・・・っていうようなことを、話してるの。

いつもはね。」

 

「さあな。

12月だからじゃないか?

今が8月なら、暑そうに見えると思うぞ。」

 

「そうかもしれないわねぇ~。

わたしもよくわからないんだけどね。」

 

「ごちそうさま。

邪魔したな。」

 

焔は部屋から出ようとした。

 

「来栖さん。」

 

「?」

 

あやせは焔を呼び止めた。

焔は不思議そうにあやせの方を見た。

 

「無理する必要はないけれど、応援してるわよ。

でも・・・良介さんと、1度、ちゃんと話してみると・・・いいことがあると、わたしは思うわ~。」

 

「良介と?

あんた、なんでそんなこと・・・」

 

「ふふふ。」

 

「いや・・・とりあえず聞いとくよ。」

 

焔は部屋から去っていった。

 

   ***

 

生徒会室。

薫子と聖奈が話をしていた。

 

「宍戸さんが?

彼女は今月、すでに裏世界に行ったでしょう?」

 

「その裏世界で、自身に会っています。

次の調査で成長した自分に会い・・・確認したいことがあると。」

 

「ふむ・・・しばらく、彼女は戦いに出ていませんが・・・立華さんが同行するということであれば、問題ないでしょう。

ただし、宍戸さんに万が一があってはいけません。

保健委員を。

特に椎名さんに参加を要請してください。」

 

「わかりました・・・あの、副会長。」

 

「なんでしょう?」

 

「良介に関して・・・魔力が充実しているとはいえ、規定値を大幅に超えています。

確かにヤツの力は欠かせないものですが・・・来年もこれでは・・・」

 

聖奈の言葉に薫子は顎に手をやった。

 

「今回、彼を外すことはできないしょう。

ですが、考えておきます。

いつの間にか、重要な場面では良介さん頼みになっていますね。

私たちにとって、あまり良くありません。

改善を考えねば。」

 

「はい。」

 

聖奈は頷いた。

 

「ですが、会計が良介さんの体を気に掛けるとは・・・」

 

「労働には対価を・・・とはいえ金を払えば無限に労働をさせていい訳ではありません。」

 

「おや・・・真面目なんだから。」

 

「は?」

 

「いえ、なんでも。

そうですね・・・では、このクエストが終われば・・・ゆっくりしてもらいましょうか。」

 

薫子は優しく微笑んだ。

 

   ***

 

再び地下鉄工事現場。

良介と香ノ葉は雑魚の魔物を倒しながら進んでいた。

香ノ葉は肩で息をしながら歩いていた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「ぜぇ、ぜぇ・・・だ、大丈夫やよ。

ちょっと魔力使いすぎちゃっただけやから。

さっきダーリンに言ったばかりなのに、すぐ魔力もらってちゃダメなんよ!

ウチもダーリンの先輩魔法使いなんやから、がんばるえ!

頼りにしてぇな!

気合入れ直すえ、ふん!」

 

香ノ葉は両拳に力を入れた。

 

「ほら、もう大丈夫やよ!

どんと大船に乗った気持ちでいてな!」

 

「(本当に大丈夫か?)」

 

良介は少し心配しながら進んだ。

少し時間が経ち、かなりの雑魚の魔物を倒していた。

 

「さて、香ノ葉は・・・」

 

良介はため息をつきながら後ろを向いた。

香ノ葉はフラフラと今にも倒れそうになりながら歩いていた。

 

「本当に大丈夫か?」

 

「ぜーっ・・・ぜーっ・・・あ、ら、らいじょぶ・・・らいじょぶやから・・・」

 

「はぁ・・・魔力渡すぞ。」

 

「うん、ごめんな・・・分けてくれたら助かるわぁ・・・」

 

良介は香ノ葉に魔力を渡した。

 

「ふぅ・・・あんな、ウチのこと嫌わんといてな。

ダーリンのためって張り切りすぎちゃったんよ。

自分の力、ちゃんと考えといけんね・・・もっと頑張るんよ。

今度こそ、ちゃんとせなね!

見といて!

ウチ、やったるんよ!」

 

「そう言うなら、もう少し俺を頼ってほしいがな。」

 

良介は前を向きながら剣を抜いた。

2人の前に魔物が現れていた。

 

「ダーリン、ウチがやるから、お願いな?」

 

「はいはい、サポートね。」

 

香ノ葉が魔法を撃つ準備をし始めると、魔物は香ノ葉に向かって突撃した。

だが、魔物の体は途中で止まった。

良介の拘束魔法で拘束されたからだった。

魔物が拘束を振り払おうとしている間に香ノ葉は魔法が撃つ準備が完了した。

 

「これでも、食らえー!」

 

香ノ葉が放った魔法を食らい、魔物は霧散した。

 

   ***

 

2人は最後の魔物を倒した後、周りに魔物がいないか確認した。

 

「よっしゃ!

討伐対象やえ、これ!

ふんふん♪

これでクエスト終わり・・・終わり・・・」

 

突然香ノ葉が止まった。

 

「ん?

どうした?」

 

「あああ~っ!

倒してしもうたやんかぁ!」

 

「何かダメなことでもあったのか?」

 

「まだ時間があるやんか・・・もっとダーリンと2人がいい~っ!」

 

「そんなこと言われても、クエストの報告しないといけないだろ。」

 

「うん。

帰らんといかんね。

そやかてダーリン、ウチの気持ちもわかってな。」

 

「だけどなぁ・・・」

 

「そーや!

後でお疲れ会やるえ!

2人でな、茶道部の部室でな!」

 

「え・・・」

 

「みんな授業中やからうるさくできひんけどな、きっと楽しいえ!」

 

「いや、けど・・・」

 

良介は早く自分の部屋に戻りたかったが、香ノ葉は話を聞いてくれそうになかった。

 

「そうと決まったら、ほら、帰るえ!

急いで準備せんと・・・」

 

「あの・・・」

 

「あ、ダーリン、もしかして予定とかある?」

 

「いや、別にないけど・・・」

 

「そうやね、今日はウチと討伐で一日潰れるかもしれんかったやよね。

やったら、今日の残り、ウチとおってもええと思わん?」

 

「う・・・」

 

「な?

な?

ええやろ、ええやろ?」

 

良介は頭を掻いた。

 

「まぁ・・・少しなら・・・」

 

「ふふふ~、今から楽しみやわ~。」

 

「(何もありませんように・・・)」

 

2人は出口へと向かって歩き始めた。

 

   ***

 

茶道部部室。

良介と上機嫌な香ノ葉が2人で座っていた。

 

「お疲れ様ー!

ダーリン、茶道部のみんなが来るまでは2人きりなんよ!

やからな、ウチな、あのな、ふふふ~っ!」

 

「お、おう・・・」

 

香ノ葉のテンションに良介は少し引いていた。

 

「ダーリンの好きなこと、しよ?

ええんよ?」

 

「えっと・・・じゃあ・・・」

 

少し経って、2人はあやとりをしていた。

 

「で、あやとりって・・・ダーリン、思いつきやろ。」

 

「うっ・・・」

 

適当に言ったため、良介は何も言えなかった。

 

「でも、指先がちょこちょこ触れるのはそれはそれで・・・というか、ダーリンと遊んでるだけで幸せなんよ。

あやとりするダーリン、可愛いんよ。

ふふふ。」

 

「そ、そっか・・・」

 

良介は引きながら笑った。

 

「なぁ・・・」

 

「な、なんだ?」

 

「ダーリンの競争率が高いのもダーリンが優しいのも知っとるんよ。

誰が好いてるとか、そーゆーのは卑怯やから言えへんけどね。

ダーリンも忙しいし、ウチばっか相手にしてるわけにはいかんと思う。

せやけど、ウチな、それでもダーリンに伝えておかんといけんのよ。

一番乗りしとかんと、いけんのよ。」

 

良介は香ノ葉の話を無言で聞いていた。

 

「あのな、ダーリン・・・」

 

香ノ葉が何か言いかけたところで誰かがノックしてきた。

 

「ひぃっ!?」

 

「誰か来たみたいだな。」

 

「へ・・・?

もう授業終わったん・・・?」

 

「にしては早くないか?」

 

良介は時計を見た。

普通ならまだ授業をやっている時間帯だった。

 

「でも、葵ちゃんやソフィアちゃんならノックなんかせぇへんのに・・・」

 

再び誰かがノックしてきた。

 

「はいはい、どなた~?」

 

香ノ葉がドアを開けると焔が入ってきた。

 

「焔?」

 

「いた。」

 

「ほ、焔ちゃん・・・?」

 

「悪い、ちょっと良介に用があるんだ。

ここにいるって聞いて。」

 

「ダ、ダーリンに?」

 

「傷の魔物の時の、まだ礼言ってなかったから。

それに、ずっと邪険にしてたこと、謝ってなかった。

良介。

悪かった。

そんで・・・ありがと。」

 

「そんなことか。

別に気にしなくていいのによ。」

 

良介は笑いながら、手で畳を軽く叩いた。

焔は良介が叩いたところに座った。

香ノ葉は黙って2人を見ていた。

 

「それで・・・その・・・言いにくいことなんだけどさ。」

 

「ああ、なんだ?」

 

「アタシ、なんか訓練やらなんやら、うまくいってなくてさ。」

 

「ああ。」

 

そこで焔は口をつぐんだ。

 

「焔ちゃん・・・ウチ、外に出てるえ?」

 

「あ、いや、すぐ終わる。」

 

焔は1度深呼吸した。

 

「あのさ・・・アタシを、街とか連れてってほしいんだ。

変なこと言ってると思うけど・・・あんたに頼みたくて。」

 

「なるほど、そういうことか。」

 

「良介、あんたなら、いろんなこと知ってるだろ?

普通の暮らしっての、教えてくれないか。

訓練がうまく行くようになるには、そうした方がいいってエレンが・・・それと海老名が・・・あんたにって・・・今は、誰の言うことでも聞く。

訓練しかしてなかったからな。

だから・・・あんたのアドバイスがほしい。

それだけ。

別に引き受けなくてもいいよ。」

 

「いや、俺でよければいくらでも教えてやるよ。

教えてほしい時にいつでも来てくれ。」

 

「そっか、ありがと。

じゃな。

邪魔した。」

 

焔は少し嬉しそうに出て行った。

香ノ葉は黙って良介の方を見ていた。

 

「どうした?」

 

「あの子・・・この前から変やと思ってたけど・・・」

 

「ん?」

 

「ダーリン・・・やっぱダーリン、凄いなぁ・・・」

 

「そうか?」

 

「ライバル・・・増えてくなぁ・・・」

 

「ライバル?」

 

「え?

ううん、なんでもないんよ!

あのな、ウチの強みはな、ダーリンがどんな時も味方ってことなんよ。

今はわからんでもええんよ。

やけどもし・・・なんかあったらな・・・ウチの言ったこと、思い出してな。」

 

「ああ、わかった。」

 

すると、香ノ葉は突然手を叩いた。

 

「ほなら・・・ウチも協力するえ!」

 

「へ?

何を?」

 

「え?

なにって、焔ちゃんの平和な生活指南やよ。

聞いてしもたからには、やってあげんとなぁ。

前から素材はバツグンやと思っとったんよ・・・グフフ・・・」

 

「変なこと教えないだろな・・・」

 

良介は怪しく笑う香ノ葉を見て心配になった。



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第111話 第4次裏世界探索

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



裏世界、ゲネシスタワーへと続く道。

薫子と結希がいた。

 

「このあたりのはずですが。」

 

「私たちの戦力は精鋭部隊より低いから、心配ないと思うわ。」

 

「我々はともかく、立華さん、良介さん、誠さんの実力はとても高い。

本当に大丈夫でしょうか。」

 

そこに子供の姿になった卯衣がやってきた。

 

「念のため魔力を半分ほど消費した状態にしている。」

 

「表では魔法の実力は、魔力量に放出可能量、精度を掛け合わせた指標による。

こちらが同じ物差しで測っているなら、魔力が膨大でも・・・放出可能量を調節することができる良介くんと誠くんは問題なし。

卯衣は一時的に魔力を放出できない状態・・・魔力腺にあたる機能を無効にすることで脅威度を減らせる。」

 

「魔力腺を閉じることができるなんて、便利ですね。」

 

薫子は良介たち3人を羨ましそうに見た。

 

「こういう時にしか使わない機能だけどね。

念のために魔力も減らしたわ。」

 

「元々、手加減ができるようにするために覚えたやり方だったんだが、こんなところでこんな使い方するとは思わなかったな。」

 

「俺なんて短時間で良介に教えてもらっただけだから、本当にできるかわからねえぞ。」

 

誠は少し不安そうにしていた。

 

「教えて1時間そこらでできるようになったんだ。

問題なくできるはずだ。

それで、タワーの中に入ったら、卯衣の魔力を補充すればいいんだな?」

 

「ええ、そうよ。」

 

卯衣は頷いた。

薫子は話を聞いて納得した。

 

「なるほど。

だからその姿なのですね。

結構です。

では、ゲネシスタワーの内部に向かいます。」

 

少し離れたところでゆかりとヤヨイが話をしていた。

 

「寂しい所。

本当に人なんているのかしら。」

 

「んー・・・そうなんだよね。

人の気配が全然しないっていうか・・・なんか、かなりの間放置されてるような劣化具合なんだよね。

人が住んでるのとそうじゃないのとで、建物の劣化って全然違うから。」

 

2人のところに良介がやってきた。

 

「梓が見た時は、誰もいなかったらしいがな。」

 

「あ、お兄さん。

いるなら地下、かぁ・・・地下って居住に適しているのかなぁ?」

 

「さぁな。

天然の洞窟と冷暖房完備じゃ全然違うと思うがな。」

 

「ま、地下で人がいるなら、アタシがなにか気づけると思うから。

そこは任しといて!」

 

「あんまり危険なことはしないでね?

良介君がいるからといって・・・魔法でも治せない大けがだと、この世界じゃ致命的だから。」

 

「お気づかいありがと。

いうなればそのためのアタシだし。

危険なサインは可能な限り、早く気づけるように注意するよ。」

 

良介たちはタワーに向かって歩き始めた。

少しして、タワーの前までやってきた。

 

「ガーディアンの地帯は・・・突破できましたね。」

 

「俺たちの考えは正しかったみたいだな。

後は、地下への扉か。」

 

「電子ロックらしいが、電気生きてんのか?」

 

良介と誠は扉の周りを見渡した。

 

「そうみたいね。

ちょっと待ってて・・・」

 

結希はデバイスを取り出した。

 

「今から繋ぐわ。

お願い。」

 

相手はどうやら心のようだ。

 

「わ、わかりましたぁ・・・うぅ、わ、わたしのせいで失敗したらすみません・・・」

 

「成功してくれれば問題ない。

さ、繋いだわよ。」

 

結希は色々なコードを扉に繋げた。

 

「はいぃ・・・OS・・・がほとんど進化していませんね・・・や、やっぱり第8次侵攻から、ITの進化は停滞・・・」

 

「心、進んでるのか?」

 

良介は心に質問した。

 

「は、はい!

すみませんすみません!

今開きます!」

 

扉から鍵が外れる音がした。

 

「どど、どうでしょうか?」

 

「開いたぞ。」

 

「では、待機しますから・・・!」

 

「ええ。

また連絡するわ・・・」

 

結希はデバイスを直した。

 

「行きましょう。」

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか。」

 

良介たちは扉を開け、タワーの内部に入った。

 

   ***

 

良介たちはゲネシスタワーの地下へと入った。

 

「ここがゲネシスタワーの地下か。」

 

良介は通路を見渡した。

ヤヨイは何かの気配を感じ取った。

 

「いる、ね。

魔物。

大きいドアでも霧の侵入は防げない・・・もしくはどこかに出入り口があるか。」

 

「人はいそうか?」

 

良介はヤヨイに尋ねた。

 

「いるよ。

つい最近の足跡がある。」

 

「足跡?

どこにあるんだ?」

 

誠は目を凝らしながら地面を見た。

だが、誠にはそれらしきものは見つけられなかった。

 

「右手の方に進んでる・・・でもこの地下、おかしくない?」

 

「ああ、鳴子さんがくれた地図と、構造がまったく違うな。」

 

良介は地図を開き、構造を確かめた。

 

「詳細に描かれていた地図・・・間違いとは考えにくい。

偽装ですか?」

 

薫子は良介と結希に尋ねた。

 

「そうみたい。

遊佐さんが改変したのか、元からなのかはわからないけど。」

 

「どうする、右に進む?」

 

ヤヨイは良介に聞いた。

 

「うーん、それじゃ・・・」

 

「待って。

ハルとキューブを先に行かせるわ。」

 

「ハルとキューブ?」

 

結希以外の全員が首を傾げた。

 

「行って、マッピングをお願い。」

 

結希の手元に浮かんでいた物体が先に進んでいった。

数分後、ハルとキューブと呼ばれた物体が戻ってきた。

 

「ある程度の地図ができたわ。」

 

「へぇ~、その浮かんでるの、そう使うんだ。」

 

ゆかりは浮かんでいる物体を不思議そうに見た。

 

「魔導科学がなければ、私は役に立たないからね。」

 

結希は良介に新しい地図を手渡すと、良介は新しい地図を見た。

 

「予想以上に広いな。

魔物の姿もある。」

 

横から見ていた結希は地図に写っている魔物を見て驚いた。

 

「この魔物は・・・」

 

「どうした?

犬の形をした魔物みたいだが・・・」

 

すると、結希は卯衣に話しかけた。

 

「卯衣。

あなたのデータベースに残ってるわね?」

 

「はい。

同系の魔物のようです。」

 

「同系って・・・まさか科研の・・・」

 

誠の言葉に結希は黙って頷いた。

 

「POTIだわ・・・どういうこと?」

 

結希は顎に手をやった。

 

   ***

 

良介たちはゲネシスタワーの地下を進んでいた。

 

「やー、文明の利器って便利だねぇ。

答え合わせしながら進んでるようなもんだよ。」

 

ヤヨイは新しく作られた地図を見て関心していた。

 

「だが、デバイスの電波はここまで届かない。

遮断されてるみたいだな。」

 

誠はデバイスを見てため息をついた。

 

「連絡が取れないなら、いよいよケガには気をつけなきゃ。

それにしても、空調・・・効いてないのかしら?」

 

「魔物がうろついているのなら、頻繁にこんなところまでこれないだろ。

必要最低限のところしか動かしてないはずだ。」

 

「それで空気がよくないのね・・・戦闘服だから大丈夫だと思うけど・・・」

 

誠の言葉を聞いてゆかりは納得した。

ヤヨイは地面を見ていた。

おそらく足跡を見ているのだろう。

 

「人がいったのは向こう。

だけど・・・」

 

その頃、卯衣は黙って歩いていた。

 

「卯衣。

あなたのスキャンで、念のため痕跡を・・・」

 

結希が卯衣に話しかけたが、卯衣はまったく反応しなかった。

 

「卯衣?」

 

結希がもう一度呼びかけると、ようやく反応した。

 

「はい、ドクター。

なんでしょう。」

 

「あなた・・・考え事、してたの?」

 

「いえ。

情報収集です。」

 

「呼びかけに応えないほど集中するなんて、珍しいわね。

なにかわかったの?」

 

卯衣は少しの間黙った。

 

「今は、まだ。」

 

「そう。

わかったら、教えてね。」

 

「どんなことでもでしょうか?」

 

「このクエストに必要な情報は、どんなことでも。」

 

「わかりました。」

 

卯衣は再び情報収集に入った。

良介は薫子と行動していた。

 

「これは広いなんてもんじゃないな。」

 

良介は地図を見て呆れていた。

 

「良介さん。

お気をつけください。

私たち最大の戦力は良介さんと誠さんと立華さんですが、彼女の力はあなた頼みです。」

 

「万が一のことが起きたら、全てが無に帰す、って言いたいんだな。」

 

「はい。

ご自分の命を一番にお考えください。

私たちを、盾にすることを躊躇わないように。

と、言ってもあなたのことですから聞かないんでしょうね。」

 

薫子はため息をついた。

 

「よくわかってるじゃないか、薫子さん。

ま、死にに行くような真似はしないように努力するよ。」

 

良介は薄ら笑いを浮かべながら先に進んだ。

 

   ***

 

良介たちはゲネシスタワーの地下を進んでいた。

 

「POTIがいるということは、ここは科研の技術が・・・?」

 

結希は考え込んでいた。

 

「当然だろ。

人類最後の砦なら、使わないわけがない。」

 

結希の言葉を聞いていた良介が前を向いたまま答えた。

 

「でも、ガーディアンといい・・・もしかしてこのPOTIも・・・」

 

結希は地図に写っている魔物を見た。

 

「裏世界の人類は、魔物をある程度コントロールできてるってことか?」

 

良介が結希に聞いた。

 

「ええ・・・表世界とどこまで同じ道をたどってるかわからないけど・・・このゲネシスタワーの持ち主が、科研の技術を持っている事は確か。

霧の護り手だったら、こちらの私はもう生きていないでしょうね。」

 

「ドクターの・・・・・」

 

卯衣が突然黙ってしまった。

 

「卯衣?

どうしたの?」

 

結希が心配そうに近づいた。

すると、卯衣は元に戻った。

 

「いえ・・・なにか、違和感が・・・なんでもありません。」

 

「タワーに来てから様子がおかしいな。

どうしたんだ、卯衣。」

 

良介は心配そうに卯衣を見た。

 

「話しておいた方がいいかもね。」

 

「何をだ?」

 

結希の言葉に良介は首を傾げた。

卯衣は黙って結希の方を見ていた。

 

「ガーディアンのデータ、あなたには伝わってると思うけど・・・破棄されてもすぐに修復する・・・霧の魔物と言うより、あなたに似ている。」

 

「はい。

私もこのクエストが終わったら確認しようと考えていました。

通常の霧の魔物は、霧散したら再構築まで時間を必要とする。

そのインターバルがなく、すぐに再生するのは、私と同じ動作です。」

 

卯衣は少し黙った。

 

「確証が必要です。

決定的な、確証が。

証拠が得られれば、私がいつどこで作られたのかがわかる。」

 

「ええ・・・遊佐さんの情報ではあなたは裏世界に存在しない。

あなたは、現在・・・ここよりも未来に生まれた可能性があるわ。」

 

その頃、ヤヨイは少し意識を集中させた後、誠たちの方を向いた。

 

「魔物が、一方向からしか現れないのには気づいてる?」

 

「ああ、俺たちの進路を遮るように襲ってくるな。」

 

「それを踏まえたうえで、この先の分かれ道・・・魔物が来るのと別の方向に足跡が続いているんだけど。

二手にわかれる?」

 

「いえ、それは絶対にしません。

少人数を更に分けるのは愚策です。」

 

薫子は否定した。

 

「俺か良介なら、なんとかできると思うけど。」

 

誠が薫子に勧めてみた。

 

「ダメです。

今の私たちが考えなければならないのは最悪の事態。

生き抜くだけでなく、別の目的があるということをお忘れなく。」

 

「はいはい、わかりました。」

 

誠は頭を掻いた。

 

「で、どっちに行く?

足跡の方に生存者がいるのは間違いない。

でも・・・気になることがあって。」

 

「なんだよ、気になることって。」

 

誠はヤヨイに尋ねた。

 

「魔物が来るのって、学園の方向なんだよね。」

 

「それは確かですか?」

 

薫子はヤヨイに聞いた。

 

「間違いないよ。

それに宍戸さんのハルにエコーしてもらったんだけど・・・この通路、ものすごい遠くまで続いてる。

それこそ、学園まで。」

 

誠と薫子はヤヨイの話を黙って聞いていた。

 

「魔法使いの村に通じてるってわけじゃないのか?」

 

誠はヤヨイに聞いた。

 

「うん。

ここはもっと深いから。

だから、魔法使いの村より下になるね。」

 

誠と薫子は黙って目を合わせると、頷いた。

 

「足跡は気になりますが、今回はそちらに行きましょう。」

 

「結希は学園の関係者だからな。

そっちの方が可能性が高いだろ。」

 

「それに前回のガーディアン騒動・・・博士である彼女が見に来たとは思えません。」

 

「足跡は結希じゃない。

たぶんそうじゃないかな。」

 

ヤヨイは2人の話を聞いて頷いた。

 

「筋は通ってる・・・でも予測は予測だよ。

無駄足になるかも。」

 

「結構です。

責任をとるための私ですから。」

 

薫子はそう言うと、魔物が来る方向へと進み始めた。



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第112話 未来遺志

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


ゲネシスタワーの地下。

良介たちはひたすら歩き続けていた。

結希の顔には明らかに疲れが出ていた。

 

「もうかなり歩き続けてるから、そろそろ疲れてると思うんだけど・・・」

 

ゆかりが心配そうに結希に聞いた。

 

「戦闘は良介くんや誠くん、副会長や卯衣に任せている。

楽をしている私が止まるわけには・・・」

 

「だめよ!

保健委員として、許しません。

どこまで続くかわからないんだから、余力があるうちに休んでおかないと!」

 

「どうしたんだ。

大声なんか出して。」

 

良介が2人のところにやってきた。

 

「なんでもないわ。

行きましょう。」

 

良介は結希の顔に疲れが出ているのに気づくと、他のメンバーに呼びかけた。

 

「よし、ここで休憩にしよう。」

 

「みんな疲労しているようには見えないけど。」

 

「俺が疲れたんだよ。」

 

話を聞いていた薫子は笑みを浮かべた。

 

「では、小休止です。」

 

「障壁は俺と誠で張ろう。」

 

「わかった。

魔力頼むぞ良介。」

 

良介と誠が障壁を張り、その中で良介たちは小休止をとることにした。

誠はヤヨイに質問していた。

 

「なあ、足跡から、何歳くらいかってわかるか?」

 

「大人だよ。

ちょっと足は小さ目だったし、女性かもね。

それ以上はわからないかな。

でもこの魔物がいる中、あそこまで来てる・・・」

 

「それにしては、戦った跡がないな。」

 

誠は周辺を見渡した。

すると、薫子も話に混ざってきた。

 

「これで、生存者だとわかるのはJGJの社員と、少なくとも1人の魔法使い。

JGJは霧の護り手の支配下にありますから・・・魔法使いは、敵対しているはず。」

 

「そうとも言えないんじゃないか?」

 

良介も話に混ざってきた。

 

「霧の護り手は、思想の違いで魔法使いと敵対しているんだろ?

魔法使いは魔物と共生するための進化した姿という考え方だったはずだ。

共生派思想の魔法使いもいたはずだ。

そこがノーマルマンズとの違いだな。」

 

「ええ、ですがそれなら、1人で様子を見に来るはずがありません。

報告の義務があるのであれば、必ず複数人で来るはず。

私たちのように。

そうでしょう?」

 

薫子の話を聞いて良介は頷いた。

 

「そうかもな。」

 

「待て、さっきも言ったが魔物と戦った跡がない。

JGJと霧の護り手が魔物をコントロールできるなら・・・1人でも問題ないってことにならないか?」

 

誠の話を聞いて薫子は顎に手をやった。

 

「それでも複数で来ない理由にはなりませんが・・・可能性はありますね。

なんにせよ、こちらを調べて余力があれば・・・もしくは次回以降です。

この地下は、私たちが思っていたよりずっと広い。

正直、どこまで広がっているか・・・まったく想像できません。

次回以降、何度も探索に訪れるでしょう。

焦らないよう。

生存者には必ず会えます。」

 

誠はどこか不服そうにしていた。

 

「ま、大丈夫大丈夫。

人間って意外としぶといからね。

南だって、逃げ遅れた人たちの子孫が細々と生きてる集落があるし。

こっちは霧が世界中に分散してると考えられるから、一か所の濃度は低い。

それで充分充分。」

 

「まぁ、そう言うなら・・・」

 

誠は少し納得したようだ。

すると、結希が立ち上がった。

 

「私の体力は回復したわ。」

 

「ん?」

 

「もし私が歩けなくなったら、方法を考える。

あなたたちには迷惑をかけないわ。

これ以上の休憩は無用よ。」

 

「て、言ってるけど?」

 

良介は薫子に聞くと、薫子は微笑んだ。

 

「結構です。

では、行きましょうか。」

 

良介たちは小休止を終わらせ、再び進み始めた。

 

   ***

 

良介たちは歩き続けていると、目の前に分かれ道があった。

 

「また分かれ道・・・もしかして、風飛一帯に広がっているの?」

 

結希は顎に手をやった。

 

「そんな馬鹿な。

歴史の異なる表と裏なので正確にはわかりませんが・・・朱鷺坂さんの言葉によれば、表の方が技術は発達しているはず。

そうなると、表の地下にもこういった施設が広がっていなければいけな・・・地下?」

 

すると、良介は何かを思い出したかのように卯衣に聞いた。

 

「卯衣、この前俺と香ノ葉がクエストに行った、地下鉄の延長工事。

あれの深さはわかるか?」

 

「多少誤差はありますが、現在の深度とほぼ一致しています。」

 

「まさか、だって本当なら、もう第8次侵攻が起きているんですよ?」

 

「地下鉄の全部が全部、そうだというわけじゃない。

あの工事も、こちらでは行われていないだろう。

だが・・・風飛には、たしかもともと軍事施設を運ぶための大深度地下ステーションがあったはずだ。

あそこにはその連絡通路として、一般利用不可の地下鉄も張り巡らされてる。

それを再利用したのなら、この広大な地下通路は実現不可能じゃないはずだ。」

 

「どこで知ったんだよ、そんなこと・・・」

 

良介の話を聞いて、誠はため息をついた。

 

「すると・・・・・」

 

「表の風飛の地下通路の地図を手に入れれば、この迷宮の全貌が、ある程度、判明するはずだ。」

 

「その程度、生徒会から国軍に働きかければ手に入ります。

もっと早く気づいていれば・・・今回の探索に利用できたというのに・・・!」

 

「落ち着いてくれ、薫子さん。

そもそも地下がここまで広大だったという情報がなかった。

それで準備できていたら、逆に怪しい。」

 

すると、結希は卯衣に聞いた。

 

「卯衣。

念のため確認するけど、あなたにはそのデータは無いわね?」

 

「はい。

地下では通信も行えないので、現在、入手方法はありません。」

 

「戻っている暇はないな。

進もう。

ここまで来たら、この先を確認しないとな。」

 

その頃、ヤヨイは誠とゆかりにペンダントを見せていた。

 

「ほら、これ。」

 

「ん?

これ、MAGIC☆STARじゃないのか?

絢香のグループのペンダントだな。」

 

「そうそう。

この前、歌祭りの時に、アタシと交換したんだ。

魔法の星って響きが気に入ってね。

こっちのは牛かなんかの骨を削ったヤツ。

ちょっとあげるの間違えたかな、はは・・・」

 

「もはや骨董品じゃねえか。」

 

「へぇ・・・私も見てみたいな、その骨を削ったもの。

あ、そうだ!

アスクレピオスの鉛筆削りと交換しない?」

 

「あすくれ・・・?

なんか変な形してそうだね。

一度見せて・・・」

 

「ん?」

 

突然、誠が何かに反応した。

 

「しっ。」

 

ヤヨイが指で静かにするように指示を出した。

 

「え?」

 

ゆかりはいきなりのことに困惑していた。

誠は少し目を瞑った後、雰囲気が変わった。

 

「チッ、面倒なことになりそうだ。」

 

3人は良介たちのほうに行った。

 

「ペースを上げた方がいいかも。」

 

ヤヨイの言葉を聞く前に、良介も状況を察知したのか、表情が険しくなっていた。

 

「後ろから魔物が来てるな。

しかもこの感じ、POTIじゃないな。」

 

「はい。

未確認です。」

 

卯衣も気配を察知した。

 

「凄い不気味な気配だ。

相手しない方がいいよ、絶対。」

 

「賛成します。

推定全長、およそ250メートル。」

 

ゆかりと薫子は激しく動揺していた。

 

「250メートル?

そんな魔物・・・ムサシ級ではないですか」

 

「待て、距離はまだあるのか?」

 

良介は卯衣に尋ねた。

 

「はい。

足跡の続いていた分かれ道・・・そちらからきたようです。」

 

「狭い通路で250メートルか。

まるでムカデだな。」

 

良介は軽く息を吐いた。

 

「進もう。

もう戻ることはできない。」

 

良介たちは先へと進み始めた。

 

   ***

 

良介たちは小走りしながら進んでいた。

 

「はっ、はっ・・・どうですか、まだついてきていますか?」

 

薫子は良介に聞いた。

 

「気配は消えてないな。

代わりにPOTIの気配が少なくなった。

ヤツが怖いのか、戻るよう命令されたか・・・とにかく、分かれ道には気を付けよう。」

 

「陰から飛びかかられたら、危険だからね。」

 

ヤヨイの言葉に良介は頷いた。

すると、突然卯衣が立ち止まった。

 

「卯衣、なにを立ち止まっているの!」

 

結希の呼びかけを無視すると、卯衣は上を向いた。

 

「ここは・・・」

 

「卯衣!」

 

「申し訳ありません、マ・・・!?」

 

結希は卯衣のところに駆け寄った。

 

「来なさい!

あなたの疑問は、この先で晴れるから!

迷路の先に答えがあるわ!」

 

「はい・・・」

 

卯衣は再び走り始めた。

ゆかりは身震いしながら走っていた。

 

「おっきいムカデなんて、やめて、ホントに・・・寒気がするわ・・・誠君、平気?

暗所恐怖症や閉所恐怖症は・・・無いわよね。

虫も平気?

苦手なものってある?」

 

ゆかりは誠に質問攻めしていた。

 

「ゆかりさん、今の状況を考えてくれ。

そんなこと聞いてる場合じゃないだろ。」

 

「ごめんね・・・話してないと、ちょっと怖くて。」

 

走っていると、突然ヤヨイが立ち止まった。

 

「待った!

ストップストップ!」

 

「大声出すな!

なんだ?」

 

「ここだ!

この近くに、誰か人がいる!」

 

ヤヨイの言葉に良介たちは困惑した。

 

「なにを根拠にそんなこと・・・」

 

すると、地面が大きく揺れた。

 

「うおっ!?

なにがあるんだ!?」

 

誠が尋ねた。

ヤヨイは少し屈んだ。

 

「ある、ものすごく薄く積もった塵の上に・・・通路を車輪が横切ってる?

なんで・・・?」

 

結希は卯衣の方を向いた。

 

「卯衣、スキャンして。」

 

「はい。」

 

卯衣は少し目を瞑ると、ゆっくり目を開けた。

 

「隠し扉です。」

 

「隠し扉だと?

開けられるのか?」

 

良介の問いに卯衣は頷いた。

 

「はい。

指紋認証センサーが隠されています。」

 

「指紋認証センサーだと?

ということは、ここが?」

 

良介は壁を見上げた。

すると、結希は壁に近づき、手を壁にやった。

すると、壁から音が鳴り、扉が開いた。

 

「開いた・・・ということは、こっちは?」

 

誠の言葉にヤヨイは反対側の壁に手をやると、反対の扉も開いた。

すると、良介たちがやってきた方向から咆哮が聞こえてきた。

 

「まずいな・・・近い方の部屋に入れ!」

 

良介たちは隠し扉の中の部屋に入り込んだ。

良介たちが入り込んだ部屋は研究室になっていた。

 

「よし、過ぎたみたいだな。」

 

良介は大きく息を吐いた。

良介たちは周りを見渡した。

 

「ここは・・・研究室?」

 

薫子はゆっくり歩き始めた。

 

「それにしては乱雑だな。

住んでたのは科学者じゃなさそうだ。

見てくれ。

これ、ゲーム機だな。」

 

良介は落ちていたゲーム機を拾った。

 

「ゲーム機?

なんで崩壊後の施設に、そんなものを・・・」

 

ゆかりは首を傾げた。

 

   ***

 

結希はかなり息が上がっていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・しばらく・・・休ませて・・・」

 

「ふぃー、危機一髪だったな。

ん?

卯衣、どうした?」

 

誠は部屋を見ていた卯衣の方を見た。

 

「マスター・・・」

 

「あなたたちは、誰?

どうやってここを開いたの?」

 

部屋の奥から声が聞こえてきた。

 

「私よ。」

 

「マスター・・・」

 

卯衣はゆっくりと部屋の奥の方へと進み始めた。

 

「情報が修復されていく・・・欠けていたものが・・・マスター・・・マスター・・・私です・・・あなたに生み出された・・・卯衣です・・・」

 

部屋の奥のベッドに結希にそっくりな女性が寝ていた。

 

「あなたは・・・私に作られたというのは、どういう意味?」

 

卯衣は不思議そうな顔で女性を見た。

 

「あなたの姿は初めて見るわ。

独身で子供もいないし・・・こんな体だから。」

 

「なにを・・・?」

 

結希は卯衣のところに駆け寄った。

 

「卯衣。

言ったでしょう。

あなたが生まれたのは、今よりも未来。

それは、この部屋を見ればわかる。

あなたが確かに生まれたことも。

約束通り、来たわ。

覚えているでしょう?

宍戸 結希博士。

あなたが5歳の時に会った、そのままの姿で来たわ。」

 

「ということは、この人が未来の結希なのか。」

 

誠は驚いていた。

 

「ええ、覚えているわ。

結希ちゃん。」

 

「ところで、いきなりだが一つ聞きたい。

その体、どうしたんだ?」

 

誠はベッドから体を起こさない宍戸博士に質問した。

 

「ごめんね。

今はもう、四肢が自由に動かせない。」

 

「まさか・・・ALSか。」

 

誠の言葉に宍戸博士は頷いた。

 

「数年前に発病した。」

 

ヤヨイは一つのカプセルに近づいた。

 

「この壁にある・・・カプセル?

まさか、これ、立華さん?」

 

すると、そこに良介たちがやってきた。

 

「いないな・・・」

 

「わっ!

あ、あれって大人の宍戸さん?」

 

ゆかりは宍戸博士を見て驚いた。

 

「なら、いるはずだ。

探すぞ、薫子さん、ゆかりさん。」

 

「どしたの?

誰のこと?」

 

ヤヨイは良介に聞いた。

 

「望だ。

ここにゲームを持ちこむのは望しかいない。

隣の部屋には大量のゲームがあった。

だが、望はいなかった。

だから、こっちにいると思うんだが・・・」

 

「いないわ。」

 

宍戸博士は良介たちに答えた。

 

「何?」

 

良介は宍戸博士の方を見た。

宍戸博士はベッドから起き上がり、良介たちの方を見た。

 

「楯野さんは随分前に死んだ・・・もともと、長く生きられない体だった。」

 

「霧過敏症のことか。」

 

良介の言葉に宍戸博士は頷いた。

 

「科研は彼女を実験体に霧を感知する人間を作ろうとした。

けれど、楯野 望はもともと体が強い方ではない。

実験に耐えられなかった。

科研の崩壊の時、水島博士に協力してもらって、ここまで連れてきたの。

それからは私の世話をしてもらっていたのだけど・・・半年、だったかしら。

この施設内の霧が濃くなってゆくにしたがって、私よりも酷くなった。

すでに霧を排除する方法はない・・・彼女の望みは、苦しみを取り去ること。」

 

「安楽死・・・か。」

 

良介は辛そうな顔をしていた。

誠は目を背けた。

宍戸博士は頷くと、続けた。

 

「右腕はまだある程度動く。」

 

「そんな・・・」

 

良介たちは全員ショックを受けていた。

 

「あなたたちが知っているということは、そちらでは学園に入学しているのね。」

 

「ああ、クエストに出ることで体力がついてきてる。

以前よりも、改善してる。」

 

良介が答えた。

 

「不治の病とはいえ、改善するのだから・・・そうしたほうがよかった・・・でも・・・あなたたちがここに来たのは、それを聞くためではないでしょう?

結希ちゃん。

これを。」

 

宍戸博士は結希に何かを手渡した。

 

「ボイス・・・レコーダー・・・まだ壊れてなかったのね。」

 

「大それた野望は人に言わず・・・自分に言う。

考えることは同じね。

あなたのくれたデータのおかげで、私はある程度事態を把握できた。

遊佐 鳴子の収集したデータ、興味深かったわ・・・それで、なにか変わった?

子供の私にデータを預けることで、こちらわマシになっていた?」

 

「いえ・・・残念だけど、なにも変わっていないわ。」

 

「そう・・・では、あれは歴史を変えることではなかったということね。」

 

結希は少し目を瞑った後、話題を変えた。

 

「話題を移したい。

この子のことを。」

 

「ドクター・・・」

 

「この子は立華 卯衣・・・あなたが今、作っている人造生命体。」

 

「ベッドに戻っていいかしら。」

 

宍戸博士はベッドに戻った。

 

「ええ。

なんとなくわかったわ。

あなたがそうだとは。

でも、カプセルを見ればわかるでしょう。

まだ完成には程遠い。

あなたに会うのは、まだ先ね。」

 

「マスター・・・あなたは、私が生まれてすぐに死んでしまう。

いくつかの事柄と、命令を下しただけで、いなくなってしまう。

私は、その命令を忘れてしまったのです。

生きろと言う命令以外を、記録を、失ってしまいました。」

 

宍戸博士は卯衣の話を黙って聞いていた。

 

「うっかりさんね。

じゃあ・・・まだあなたの生みの親ではないけど、答えるわ。

あなたを作ったのは、一つは政府の要請。

魔物に対抗する生物兵器として。」

 

卯衣は黙って聞いていた。

 

「そしてもう一つは、私の長年の目標・・・魔物の脅威にさらされない、人間。

見たところ、いくつか人間として不自然な点がある・・・詰めが甘かったわね。

でも、考えていたことはただ一つよ。

あなたは人造生命体。

だけど、人間として誕生したの。

だから・・・あなたは、人間として生きるのよ。」

 

「マスター!!」

 

卯衣は大声を上げた。

 

「卯衣があんな大声を出すとはな・・・」

 

良介は卯衣の方を見ていた。

結希は何か考えていた。

 

「宇宙の写真・・・そうか・・・卯衣のマスターが星を好きだったのは・・・惑星間移住・・・その可能性を探っていたから・・・メロンパン・・・どこかで好きになる・・・?

私が?」

 

すると、結希は宍戸博士の方を見た。

 

「宍戸博士!

あなたに要請します!」

 

「いえ、断るわ。」

 

「おいおい、まだ内容も言ってないのに・・・」

 

誠は呆れていた。

結希は黙って宍戸博士を見ていた。

 

「ごめんなさい・・・けれど、このゲネシスタワーには、私が必要。

JGJが共生派に乗っ取られ、科研が壊滅した今・・・ここにはその残党がいる。

彼らのために、私は兵器を開発しなければならない。

それに、私は卯衣を作らなければならないでしょう?

もし私がそちら側に行った瞬間に卯衣が消えてしまったら・・・取り返しがつかないわ。」

 

「確かに・・・そうだな。」

 

良介は納得していた。

結希は黙っていた。

 

「そして、裏切り者に・・・必ず、報復しなければならないから。」

 

「裏切り者?

誰のことだ?」

 

良介は質問した。

宍戸博士は結希の方を見た。

 

「あなたも覚えているでしょう?

あのとき、私と一緒にいたじゃない。

双美 心。

彼女は、霧の護り手に送り込まれた、スパイ。」

 

その場にいた全員が驚愕していたが、良介は冷静だった。

 

「詳細を教えてくれ。

心はこっちでは学園に入学している。」

 

「双美 心は、第8次侵攻の直後に科研に来たわ・・・私も学園から移送されていた。

イギリスの研究施設にいて、そこが破壊されて科研へと転属したみたい。

ちゃんと名簿もあった。

けれど・・・彼女は共生派だった。

どうやったかは知らないけれど・・・科研のセキュリティを全て突破して・・・情報を全て、外部に流出させた・・・!」

 

「心の得意魔法で、全ての情報をセキュリティを痕跡なくスルーすることは可能だ。」

 

「どうやら・・・あのときの努力は、無駄だったみたいね。」

 

「あの後、心は霧の護り手に・・・なぜだ?

あの時の心には、なにも特殊性はなかった。

もう1つの人格も・・・」

 

「魔法使いでもなかった・・・もしかしたら、ただ覚醒しやすかったというだけで・・・女児を集めていただけかも。」

 

「心が敵に回ったことで、人類敗北の一端を担ったわけか。」

 

「双美 心はまだ生きているはず。

私は彼女を許さない。

絶対に・・・私にはやることが多いわ。

だから、ごめんなさい。

そちらの世界に行くことはできない。」

 

すると、結希が口を開いた。

 

「それなら、私はゲートを見つける。

今より未来につながるゲートから、全て終えたあなたのところを訪れる。

そしてその時こそ、連れて行くわ。」

 

宍戸博士は微笑んだ。

 

「指しか動かせないかもよ?」

 

「私たちは数字を見るだけの体力さえあればいい・・・でしょう?」

 

「ああ、懐かしいわね。

天がよく言ってたわ。

あの子も・・・そうだ・・・その引き出し。

あなたに託す。

渡してもらっていいかしら。」

 

結希は宍戸博士が指差した引き出しを開けた。

 

「天の・・・エナジーシェル・・・」

 

「彼女もずっと前に死んでしまった・・・だけど、ゲーム機と同じように・・・体が動く限りはメンテナンスしてる。

確か一個しかないのでしょう?

万が一のために、スペアとして使って。」

 

「わかった。」

 

結希はエナジーシェルを受け取った。

宍戸博士は卯衣の方を見た。

 

「卯衣。」

 

「はい。」

 

「命令はわかったわね?」

 

「はい。

魔物の殲滅。

これは生物兵器としての命令。

そして・・・人間として生きる・・・了解しました。」

 

「あなたの組成データを渡しておくわ。

これで、メンテナンスも楽になる。」

 

宍戸博士は結希の方を向いた。

 

「結希ちゃん。

ALSは私を車いすに縛り付けたけれど・・・言葉と、右腕はまだ自由。

これだけあれば、私は平気。

コミューンから、たまに世話してくれる人が来るしね。

あなたもALSに罹患するかもしれない・・・でも、私たちは平気、でしょ?

世界を、救ってね。

それが私が、あなたたちに遺す、意志。」

 

良介たちは宍戸博士からの願いを聞いた後、その場を後にした。



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第113話 JGJの新年会

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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JGJホテル。

ここではJGJ主催の新年会が行われていた。

そこに着物を着た1人の女子がいた。

すると、ちょうどそこを通りかかった樹と軽く当たってしまった。

 

「おっと、失礼。」

 

「あ、すいません。」

 

「おや・・・君はグリモアの生徒かい?」

 

「え・・・あ、そうです・・・」

 

「いや失礼。

何度かグリモアには行ったんだが、どうやら運が悪かったみたいだ。

早く君に会えなかったのが残念だよ。

だけどここで出会ったのは幸運でもある。

僕のパーティで君をエスコートすることができるんだからね。

さ、警備に取り掛かる前に、僕が会場を案内しよう。

こちらへどうぞ。」

 

「あ、はぁ・・・」

 

その女子は少し困っているようだった。

すると、その状況を見て笑っている誠がいた。

 

「ぷっ、くくっ・・・!

誰に言い寄ってんだよ、樹さんよ・・・!

なーにが運が悪かっただ!」

 

「なんだ、どういうことだ?」

 

樹は何故誠が笑っているのかわかっていなかった。

 

「まだ気づかないのかよ!

笑えるなぁ・・・」

 

誠は腹をかかえていた。

 

「なにを言ってるんだ?

誠くん。」

 

「こいつ、良介だぜ。

魔法使って女装して声色を変えた良介だよ!」

 

樹は少し固まった。

 

「良介君?」

 

樹はその女子の方を向いた。

 

「ええええっ!?」

 

樹は驚愕した。

女子の正体は良介だった。

その後、良介は風子と合流した。

 

「いやあ、まさか魔法を使っているとはいえ、樹さんを騙せるとは思わなかったな。」

 

「騙されなかったら失敗なんで、喜ぶとこじゃねーですか?」

 

「そうかもしれんが・・・ところで俺の本名呼んだらダメだろ。

違う呼び名ないのか?」

 

「今から考えます。」

 

風子は顎に手をやり、唸り始めた。

 

「花子はどうだ。」

 

良介は適当に言った。

 

「学園のウサギじゃねーですか。

却下です。」

 

再び風子は考え始めた。

が、少しして良介の方を見た。

 

「良介さん、考えてください。」

 

「お前なあ・・・」

 

良介は呆れた。

 

「可愛い名前でおねげーします。」

 

「はぁ・・・まったく・・・」

 

良介は考えようとすると、視線の先に偶然伊達巻があった。

良介は伊達巻を少し見た後、思いついた。

 

「マキでどうだ。」

 

「伊達巻の方を見て思いつきましたね。」

 

風子は呆れていた。

 

「仕方ねーだろ。

全然思いつかなかったんだから。」

 

「まぁ、悪くないですね。

では、それでおねげーします。」

 

良介と風子は警備に取り掛かった。

 

   ***

 

女装した良介と風子は周りを見渡していた。

 

「それにしても、見れば見るほど豪勢なパーティだな。

企業の社長に政治家も来てるな。

ここは大人しくしとくか。」

 

「なに言ってやがんですか。

玉の輿を探しに挨拶でも行きませんか?」

 

良介はため息をついた。

 

「なに言ってんだ。

風子らしくねえな。

どうせ俺と話させて楽しむつもりだろ?」

 

「ふふふ、ばれちゃーしかたありませんね。

では無理やりにでも連れていきましょーか。」

 

「俺で遊ぶなよ。

風紀委員長。」

 

「今日はJGJの警備体勢が、これでもかって敷かれてますから。

警備って名目とはいえ、やることはそうありませんよ。

することがないんですから、良介さんで遊ぶくらいしかないじゃないです?」

 

「お前頭いいんだから、偉いさんと話せるだろ?

話してこいよ。

まぁ、楽しみ方は人それぞれだけどな。」

 

「良介さん、ウチがアンタさんにちょっかい出すのは嫌ですか?」

 

「別の場所なら構わないけど、ここだと不純異性交遊として扱われるぞ。」

 

「いまアンタさんは女の子なんですが。」

 

「不純同性交遊もダメだって言ってたろ。」

 

「おっと、そうでしたね。」

 

良介はため息をつきながら風子の方を見た。

 

「風子、ストレス溜まってるな。」

 

「やっぱストレスなんですかね、これ。」

 

風子は良介の体をまじまじと見た。

 

「それにしても、良介さんすごいですね。

身長まで低く見せてしまうとは・・・美少女にしか見えませんわ。

ここまで幻惑の魔法を使いこなすなんて、お見事としか言えませんね。」

 

「そいつはどうも。

ところで、さすがにここでいつまでも立ち話するのもどうかと思うんだが。」

 

「確かにそーですね。

警備のクエストなのは間違いねーですから。

ちょっと適当に歩きましょーか。」

 

良介と風子は寄り添うように歩き始めた。

 

   ***

 

良介と風子は2人で歩いていた。

風子は周りを見渡した

 

 

「新年会・・・にしちゃーものものしいったらねーですね。

流石は、JGJ主催といったとこでしょーか。

あのお嬢さんからはそーぞーもできませんが、これでも日本一ですからね。

当然と言えば当然なんでしょーが、これだけの人間が来てるわけですし。

バーチャルパークでの一件もありましたしねー。」

 

「ま、お蔭でお・・・私たちが、外部を警戒する必要はなさそうね。

今日はゆっくり、新年会を楽しみましょうか。」

 

良介は女性口調で喋った。

 

「そういえば、あっちのテーブルにアップルバターケーキがありましたね。」

 

「食べたいの?」

 

「良介さんもどーです?

一緒に行きましょー、せっかくのご馳走ですし。」

 

「いいの?

私たちがうろちょろしてて。」

 

「うろちょろしてた方が目立たないんです。

こーゆーとこはね。」

 

「そう・・・ところで、名前。」

 

「あ、すみませんでした。

マキさん。」

 

2人は料理のあるテーブルに向かった。

風子は早速ケーキを食べていた。

 

「はむっ・・・あ、おいし。

このケーキ結構いけますよー。

良介さんも1口どーです?

はい、あーん。」

 

風子は自分のフォークに刺したケーキを良介に近づけた。

 

「いやいや、さすがにそれはちょっと・・・」

 

「はしゃいでる女の子達、くらいにしか見えませんって。

それにウチらなんか、あの人らに比べたら雑魚ですよ、雑魚。」

 

「どこの人たちのことを言ってるの?」

 

「ほら、あそこのテーブル付近。」

 

風子は向こうのテーブルを指差した。

 

「あそこの人達、ニュースで見たことあるな。

財界実力者に政治家・・・軍の幹部、大手銀行の頭取ね。」

 

「いやー、この国を背負って立つ大物が頭を揃えてるよーですね。」

 

「まぁ、驚くことじゃないわね。

JGJインダストリー主催の新年会・・・いるのが当たり前ね。

それより、その人たちが挨拶している人。」

 

良介はため息をついた。

 

「神宮寺 初音。

神宮寺家のご令嬢だから、当然なんでしょーが・・・」

 

「ええ、こうやって見ると、本当にお嬢様ね。

態度は相変わらずだけど。」

 

風子はフォークに刺したケーキを良介の顔に差し出して来たので、良介はそのケーキを一口で食べた。

 

「さて、良介さん?

今度はあっちのテーブルに行ってみましょ。」

 

「そんなにうろついて大丈夫なの?」

 

「だいじょーぶですって。

別に悪い事するわけじゃないんですから。

パーティーではしゃいでる女子2人にしか見えませんって。」

 

「それならいいけど・・・」

 

良介と風子は次のテーブルに向かおうとしたが、風子は急に立ち止まった。

 

「どうしたの?」

 

「そう言えば・・・アンタさん、事前に練習とかしました?」

 

「なんの?」

 

「いえ、なんだかみょーにらしい言葉遣いや仕草だなと思いまして。」

 

風子は良介をまじまじと見つめた。

 

   ***

 

2人は次のテーブルへと向かっていた。

 

「せっかくだから、もーちょっと訓練しましょーか。

女の子らしい食べ方や、歩き方をきちんと覚えておきましょ。

あとでなんの役に立つかわかりませんしね。

ウチが手取り足取り、教えて差し上げます。」

 

「マジかー・・・」

 

良介は嫌そうな顔をした。

少しして、良介は風子から指導されていた。

 

「そうそう、パフェの食べかたも自然でいいですよ。

うまいですねー。

もういっそ、アンタさんそのままでいた方がいいんじゃねーです?」

 

「何ぃ?」

 

良介は風子を軽く睨んだ。

 

「ふふふ、冗談ですって、あんまり怒らねーでください。」

 

風子は自分の料理を食べると良介の方を向いた。

 

「ところで、ここに来て思いついたんですが、JGJに武器の生産を依頼してみる気、ありません?」

 

「ん、なんでまた?」

 

「いや、少し前に良介さんの武器、剣を見た時、大分傷んで見えたんで。

そろそろ、新しいやつに変えた方がいいんじゃねーかと思いまして。」

 

「そんなに傷んでた?」

 

「ええ、特に刀身部分。

結構刃こぼれやヒビらしき部分が見えたんで。」

 

「一応、毎回クエストの度に手入れしてるけどな。」

 

「素人が手入れするより、プロの人に頼んだ方がよくねーですか?」

 

「金掛かるのよねー。」

 

「もしかしたら学園一の金持ちかもしれねー人がそんなこといいますか・・・」

 

風子は呆れた顔をしていた。

 

「とりあえず、もしものことがあったらと思うと不安がありますからねー。

途中でへし折れでもしたら、危なっかしいでしょ。」

 

「その時は素手で戦うつもりだけど・・・」

 

「それよりも、剣使ってる時の方が強いじゃねーですか。

だから、依頼したらどーですって話です。

けっこー質のいい武器、作ってくれるはずですよ?

そうすれば、少なくとも、アンタさんが死んでしまう可能性がけっこー下がります。」

 

「学園は文句言わないかな?」

 

「アンタさんが欲しいって言えば、文句は言わねーでしょ。」

 

「けど、何か落とし穴がないか確認しないとな・・・ところでやけに風子乗り気ね。」

 

「そりゃ乗り気にもなります。

前線でのアンタさんの力は、そりゃとてつもなく重要な案件ですから。

その柔肌に傷がつかないようにしたいでしょ?」

 

「柔肌って・・・」

 

良介はため息をついた。

 

   ***

 

良介は1人で歩いていると、風子が駆け寄ってきた。

 

「あ、良介さん。

どこに行ってたんです?」

 

「ナンパされてた。」

 

良介はの話を聞いて風子はため息をついた。

 

「挨拶するくらいならいーんですが、あまり話し込むとバレますから・・・知らねー人と話したりは、控えてくだせー。

地味ーに、地味ーに。

何度も言いますが、ここはJGJ、つまり神宮寺家です。

テロリストに狙われている神宮寺家です。

それこそ、誰がどこから見ているのやら・・・もしも、こんな場所で・・・目立ってアンタさんだとバレたりしたら、大変なことになります。

言ってる意味は、わかりますよね?」

 

「わかってるって。

大丈夫だから。」

 

風子は良介を不安そうに見ていた。

 

「ちょっと心配ですね。

良介さん、あんまりウチから離れないよーに。」

 

「そう言われてもなぁ・・・大丈夫だろ。」

 

良介は周りを見渡した。

 

「キョロキョロしない。

ウチと一緒に小さくまとまってましょ。

こうやって、学生として自然に人に紛れて歩きまわっていれば。

声をかけられたりすることもねーでしょう。

はい、演出演出。」

 

風子は良介と手を繋いだ。

 

「いや、これはまずくないか?」

 

「女同士でしょ。

手を繋ごうが腕を組もうがおかしくねーですよ?」

 

「それならいいけど・・・」

 

2人は歩き始めた。

 

「おぉ・・・アンタさん、さっきから言ってますがホントーにうまいですね。

今の歩き方、完璧ですよ。

驚きです。

一部の生徒よりずっと女らしーとゆーか・・・一部が誰かはお察しですが・・・とはいえ、気を抜いたらだめです。

このまま続けましょ。

なにがあるかわかりません。

勿論、テロリストも心配ですが・・・ナンパにも、注意しないとですね。」

 

「きついなぁ・・・ていうか、大丈夫かな?」

 

良介は不安そうにしていた。

 

「だいじょーぶです。

ウチがずっと一緒にいますから。」

 

「うーん・・・なら、いいか。」

 

2人は寄り添うように歩き始めた。

 

   ***

 

女装した良介は一人で歩いていると着物を着た春乃に遭遇した。

春乃は着物を着た秋穂の方を見ていた。

 

「あぁ・・・秋穂・・・秋穂可愛いよ・・・お人形さんみたい・・・部屋に飾っておきたいわ・・・」

 

「(相変わらずだなぁ・・・)」

 

良介は呆れていた。

すると、春乃は良介のいる方向を向いた。

 

「良介の気配がしたけど・・・いないな。

もしかして隠れて秋穂に・・・?

あたしから隠れる理由なんて・・・やっぱり秋穂に近づくつもりか・・・」

 

「(あいつの中の俺のイメージはどうなってるんだ・・・)」

 

春乃は女装した良介に気付いた。

 

「ん?

アンタ・・・さっきもいたわね。

ちょうどいい。

良介を見つけたらすぐ連絡して。

どうして姿を隠すのか、真意をはっきりさせてやるわ。」

 

「え、ええ、わかったわ・・・

(どうやら俺が女装していることには気づいてないみたいだな。)」

 

そこに料理を持った花梨がやってきた。

 

「りょ・・・マキ!

料理持ってきたすけ。」

 

「里中・・・あんた、良介の居場所、知らない?」

 

「え?

いんや、知らねぇな。」

 

「何度も聞いても仕方ないわね。

これだけ探してもいないなら、本当にいないのかも・・・意識しすぎたかもしれない。

少し頭を冷やしてくるわ。」

 

春乃はその場を離れた。

 

「後のこと考えたら、春乃には言っといた方がいいんじゃないの?

嘘ついてるって知ったら・・・」

 

良介は花梨が持ってきた料理を食べながら言った。

 

「もう遅いと思うべ。

ここまで来たんだば、最後までごまかさねぇとなぁ。」

 

「しかし・・・変わりましたねぇ。

前だったらもっとしつこく確認してきたものですが。」

 

風子は良介の持っている小皿の料理を横から取って食べながら言った。

 

「風子、それこっちの・・・」

 

「知ってます。」

 

良介は呆れて何も言えなかった。

 

   ***

 

良介と風子は2人で料理を食べながらパーティーに参加している人たちを見ていた。

 

「ほーっ。

そうそうたる面々ですねー。

JGJは軍産複合体ですから、政府や軍部のお偉いさんも来てますよ。」

 

「確かにな。

あれが野薔薇 源一郎。

姫の父親か。

あっちは冷泉か。

風評を気にしてるって話だったが、今はそうじゃないみたいだな。」

 

2人が話していると着物を着た真理佳がやってきた。

 

「おや、円野じゃねーですか。

アンタさんも警備ですか。」

 

「ハイ!

神宮寺さんに誘われた越水センパイに誘われた霧塚センパイに誘われた与那嶺センパイに誘われてきました。」

 

「ずいぶん回りくどいリレーね。」

 

良介は呆れていた。

真理佳は女装している良介の方を向いた。

 

「あ、そっちの人はどなたですか?

初めまして、かな?

もしかして最近転校してきた子?

ボク、円野 真理佳っていいます!

よろしくお願いします!」

 

「う、うん・・・」

 

良介はやり辛そうにしていた。

 

「やっぱり気づきませんねー。」

 

「え?」

 

真理佳は風子の方を向いた。

 

「こちら、良介さんですよ。」

 

「え?」

 

真理佳はキョトンとした顔で良介の方を向いた。

 

「ほら、良介さん。

アンタさんだとわかるようにしてください。」

 

「わかったよ・・・」

 

良介は声色を変える魔法を一時的に解いた。

 

「ほら、これでわかるか。」

 

良介はいつも通りの声、いつも通りの口調で喋った。

 

「ええっ!?

せ、センパイですか!?」

 

「そうだ。

あと、あまり大声で叫ぶな。」

 

「このまま黙って、アンタさんの良介さんの評価を聞いてもよかったんですが・・・さすがにそれは可哀想かと思いまして。」

 

「そ、そそそんなこと考えてたんですか!

風紀委員長なのに!」

 

「本音の付き合いって素晴らしいものだと思いませんか?」

 

「あのー。

ちょっとセンパイ、触ってみて良いですか?」

 

「ええ、良いわよ。」

 

良介は再び声色を変える魔法をかけると答えた。

 

「セ、センパイ・・・僕と同じくらいになっちゃいましたね・・・うわぁ、なんかふにふにしてる。」

 

真理佳は良介の腕や手を触った。

 

「優しく扱ってあげてくださいよ。

女の子なんですから。」

 

風子は楽しそうに笑っていた。

 

   ***

 

良介と風子は樹のところにやってきた。

 

「どうも、樹さん。」

 

良介はわざと可愛らしく喋った。

 

「い、いやーハハハ、楽しんでるかい。」

 

樹はぎこちなく返事した。

 

「別に口説いたっていーんですよ。

ホラ、とってもかわいーでしょ。

むしろアンタさんがお墨付きを与えてくれると楽なんですよ。」

 

「い、いじめないでくれよ。

勘弁してくれ。」

 

すると、風子は向こうに行ってしまった。

樹は良介の方を向いた。

 

「ふぅ・・・そ、そう言えば君の話はよく聞いているが・・・初音と沙那ちゃんがいろいろと世話になっているようだな。

礼を言うよ。

初音は見ての通りのやんちゃだし、兄妹の中じゃ一番悪ガキだ。

しかし魔法使いになってからは、一気に人生を諦めちまった。

沙那ちゃんは沙那ちゃんで、初音の世話するほかに何も俺達に望まない。

神宮寺で魔法使いになるってのがそこまでだとは思わなかったよ。

ま、アイツら本来の性格もあるかもしれないけどな。」

 

「別に礼を言われる必要はないと思いますがね・・・」

 

「フム。

どうだ、りょ・・・マキちゃ・・・マキちゃん。

ちょっとそっちで話さないか。

初音がよく君の話をする。

兄として、知っておかないとな。」

 

「無理して偽名で呼ばなくていいと思うんですが・・・」

 

2人が話をしようとすると、智花がやってきた。

 

「あっ!

いけませんよ、神宮寺さん!」

 

「ん?

ああ、智花ちゃんか。」

 

「学園生をナンパしないように注意してって言われてるんですから!」

 

「え・・・?

だ、誰に?」

 

「どうせ沙那でしょ。」

 

良介が呆れ気味に言った。

 

「え、ええ、そうです。

月宮さん、初音ちゃんの側にいなきゃいけないからって。」

 

「沙那ちゃんも心配性だなぁ。

もしかして俺が女の子と仲良くしてるのに嫉妬?」

 

良介と智花は黙って樹を見た。

 

「悪い冗談だった。

許してくれ。」

 

「あ、いえ、もし月宮さんがそうだったらどんな感じかなって思って・・・あっ。

だ、だから女の子を誘っちゃだめなんですよ?」

 

「うーむ。

じゃあ俺の誤解を解くために、ひとつ教えてあげよう。

誰にも喋っちゃいけないぞ。

実は彼女・・・」

 

樹は良介の肩に手を置いた。

 

「あ、今度は肩に手を回して・・・!」

 

「いや、彼は良介君なんだ。」

 

「もー!

冗談ではぐらかすって聞いてましたけど・・・そんなことあるわけじゃないですか。

ねぇ?」

 

すると、良介は声色を変える魔法を解いた。

 

「実は事実なんだよ、これが。」

 

良介がいつもの声で喋ると智花は固まった。

 

「ひょえええっ!?」

 

正体が良介だと知った智花は驚愕した。



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第114話 宴もたけなわ

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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智花はジュースを持って、女装した良介のところにやってきた。

 

「お疲れ様!

ジュース持ってきたよ!

はい。

疲れてるでしょ?

遠慮しないで飲んでね。」

 

良介は智花からジュースを受け取った。

 

「ああ、ありがとう智花。」

 

智花は不安そうな顔で良介を見た。

 

「ちゃ、ちゃんとできてますか?」

 

「ん?

できてるけど、なんでタメ口なの?」

 

「え?

あ、そのですね。

せっかくカムフラージュしてるからってことで・・・そ、その、敬語使うと目立っちゃうじゃないですか。」

 

「でも、他の人には使ってるよね?」

 

「あ、た、確かに・・・他の人にも敬語は使いますけど・・・いいんです!

頑張ってみせます!

あ、頑張る!」

 

「そ、そう、あまり無理しないでね・・・」

 

すると、そこに春乃がやってきた。

 

「る、瑠璃川さん!

よ、よろしくお願いします!」

 

「ああ・・・」

 

すると、春乃は女装した良介の方を向いた。

 

「良介。

秋穂がお節をご馳走したいって言ってた。

アタシは誘わない。

伝えるだけだ。

いいな。」

 

「あ、ああ、わかった・・・

(誰かから俺のこと教えてもらったのか。)」

 

春乃が立ち去ると入れ替わりで風子がやってきた。

 

「あの瑠璃川が、ずいぶんと変わったもんです。」

 

「あ、妹さんの時の・・・り、良介さん、瑠璃川さんと仲がいいんですか!?」

 

「あの態度見ればわかるでしょ。

なかなか気を許さない女なんですよ。

特に妹が絡んだ時はね。

その瑠璃川が・・・まさかお節に呼ぶなんて・・・」

 

「あ、あわわ・・・」

 

「どうした、そんなに慌てて。」

 

良介は智花の様子を見て尋ねた。

 

「え?

あ・・・なんで、こんなに慌ててるんでしょう・・・?」

 

「しっかりしてくだせー。

良介さんの人脈は知ってますでしょ。

誰と仲がよくてもおかしくないんですから。」

 

「そ、そうです!

わたしも人脈っていうか、みんなとお友達になりたくて・・・負けてられません!」

 

「はぁ・・・ま、やる気が出るならいーことですが。

里中もそろそろ目立ってくるでしょーし、よろしくおねげーしますね。」

 

そういうと風子は、去っていった。

 

「なんで、慌てたんだろ・・・?」

 

智花は何故自分が慌てたのかわからず、首を傾げた。

 

   ***

 

良介は智花に碧万千洞であったことを話した。

 

「とまあ、こういうことがあったんだ。」

 

「へぇ・・・そんなことがあったんだ。

秋穂ちゃんが危なかったのは聞いたけど・・・他にも来栖さんも変わったって月詠ちゃんが驚いてたし・・・なんだか、すごいね。」

 

「何が?」

 

良介は首を傾げた。

 

「だってだって、転校してきた時に案内したの、わたしなんだよ?

その時からたった1年で、いろんな人を助けてるって・・・すごいに決まってるよ!」

 

すると、そこに夏海がやってきた。

 

「ハロー。

智花、良介見なかった?」

 

「え?

えっと・・・見てないよ!」

 

智花は女装した良介の方を一瞬見て、嘘をついた。

良介は真顔で夏海の方を見ていた。

夏海は智花を黙って見た。

 

「そう?

じゃどっかでサボってんのかしら。

探してみよっと。

また後でねー。」

 

夏海は去っていった。

 

「ふぅ・・・よかったぁ。

瑠璃川さんが気づかなかったから安心してたけど・・・夏海ちゃんに気づかれたら、一気に広まっちゃうからね。」

 

「確かに、夏海にだけは・・・」

 

「あ、そうそう。」

 

いつの間にか夏海が戻ってきていた。

 

「ひゃぁっ!」

 

「ほぁっ!?」

 

2人は変な声が出てしまった。

 

「なによ、変な声出して。」

 

「いや、その、あの、なななんでもないよ!」

 

「なんか隠し事してる?」

 

「まさか!

ねぇ、何も隠してなんかないよね!」

 

「え、ええ、そうね!

(そこで俺に振るなっつーの!)」

 

「ん・・・そういえば、誰?

見ない顔だけど。

新しい転校生?」

 

「う、うん、そんな感じ。」

 

「へぇー、後で取材させてもらうわね。

あ、そうじゃなくて・・・部長になんとしても良介を見つけろって言われてるの。

もし見かけたら、教えてね。」

 

夏海は再び去っていった。

 

「ゆ、遊佐さんが・・・?

隠し通せるかなぁ・・・」

 

「(鳴子さん・・・絶対俺が女装してること知ってるな・・・)」

 

2人は不安そうな顔をした。

 

   ***

 

良介と智花が2人で歩いていると周りの人が多くなってきた。

 

「な、なんか人が多くなってきたかも・・・?

大丈夫かな。」

 

「あんまりごちゃごちゃすると、警備に支障が出るな・・・智花は大丈夫?」

 

「あ、わたしは大丈夫だよ。

でもほら、あんまり触られるとバレるかも・・・」

 

すると、2人の距離が自然と近くなった。

そこに風子と真理佳がやってきた。

 

「おーっと、おふたりさん。

そこまでです。」

 

「え?」

 

智花は啞然とした顔で風子たちの方を向いた。

 

「わっ!

セ、センパイたち・・・まさか・・・」

 

「えっと・・・あ、ひゃあっ!」

 

智花はようやく良介との距離が近くなっているのに気づいた。

 

「いくら女子同士とはいえ、近づきすぎはいけませんねー。

クエスト中に何をやってるのかと、くじょーが入りますよ。」

 

「あ、あの、そうじゃなくて、人が多くてですね・・・!」

 

「空いてる所に移動すればいーじゃありませんか。」

 

「えっと・・・だ、大丈夫です!」

 

「何が大丈夫なんですかね。

ま、ここぞという気持ちはわかりますが・・・風紀を乱すようなことはお控えくださいねー。

懲罰房ですから。」

 

風子は良介の方を向くと、ニコッと笑みを見せると去っていった。

 

「こ、ここぞなんて思ってないです!

他の人に触られないようにって、わたしがガードしてたんです!」

 

智花は風子の後ろ姿を見ながら言った。

 

「触られても平気ですよ?」

 

「え?」

 

真理佳の言葉に智花は首を傾げた。

 

「ボクも触らせてもらいましたけど、センパイ、ちゃんと女の子です!」

 

「智花、知らなかったの?

ほら。」

 

良介は腕を出すと、真理佳はその腕を触った。

 

「ほら、見てください。」

 

「こ、これって見た目だけじゃなかったんだ・・・」

 

智花も良介の腕を触った。

 

「ホントだ!

柔らかい!

しかもお肌に張りが・・・」

 

智花は良介の胸を凝視した。

 

「どうした?」

 

良介は智花に尋ねた。

 

「ゎ、わたしより大き・・・なんでもないです!

もう!」

 

智花は去っていった。

 

「どうしたんでしょう?」

 

「さぁ・・・?」

 

良介と真理佳は首を傾げた。

 

   ***

 

少し時間が経って、良介は風子にいじられていた。

花梨が少し離れたところから見ていた。

 

「水無月ったら、ここぞとばかりにいじってるべ。

おーい、あんまり遊んではなんねぇよ、水無月!」

 

すると、夏海がやってきた。

 

「やほー。」

 

「あらら、あんたまで来ちゃったんだべか。」

 

「な、なによー。

まだ何もしてないじゃない。

入り口でもの凄い勢いで注意くらって凹んでんだからさ。」

 

「注意?」

 

「絶対写真撮るなって。」

 

「んだんだ。

あれんどは、みんな知ってる人ばっかりだすけ。」

 

「取材じゃなくて記念撮影ならいいわよね?」

 

「勝手に判断しねぇで、いいかどうかちゃんと聞いとけよ。」

 

花梨はため息をついた。

 

「おっけおっけ。

ところで智花と良介知らない?」

 

「ん・・・知らねぇなぁ。

どこかにいるんじゃねぇか?」

 

「さっきから全然探してるのに見ないのよー。

見たら教えてね。」

 

夏海は去っていった。

入れ替わる形で、風子が頭をさすりながらやってきた。

 

「いやー、良介さんのあの顔、面白かったですよ。」

 

いじりすぎて頭を叩かれたらしい。

 

「水無月。

あんた良介のこと知られねぇように女にしたんだっきゃ?

学園生だからってどんどんバラしてっと、漏れちまうじゃねぇか?」

 

「とは言っても、今ここはテロリスト垂涎の会場ですからね。

なにかあったときのため、良介さんを知っている人は確保しませんと。」

 

「まぁ・・・ただの女子だすけなぁ、アレだと。

魔法使いだっつって狙われたらひとたまりもねぇか。

けんど、それだばなんで連れてきたんだ?

わざわざ女子に見せかけて。」

 

「同じ理屈ですよ。

テロが起きたら、良介さんの力が必要になるからです。

円野なら真っ先に駆けつけるでしょうし、バラしておいた方がと思いまして。」

 

「女子じゃなくて、違う男子に変化させればよかったんじゃねえか?」

 

「男子はどちらにしろ目立ちますから。

同じ水準の顔なら、魔法使いは女子の方が目立たねーでしょ。」

 

「そこまでするんだば、男子の参加者増やした方がよかったんじゃねぇか・・・」

 

「ま、男子だと知らない生徒は女子同士の感覚で絡んでいってますし。

円野みたいに、むしろ教えた方が距離が近くなるのもいるんで・・・良介さんにしてみればそれなりに役得なんじゃねーです?

女子同士ですから、校則違反でもありませんし。」

 

「なんか、わけわかんなくなってきたべ。

もしかして水無月、あんたが良介いじってたのは・・・」

 

「やですね、別にいじってなんかいやしませんよ。

やるべきことをやってるだけです。

女の子だと、周りに信じてもらうために。」

 

風子は再び良介のところに向かった。

 

   ***

 

良介と智花は樹のところにやってきた。

 

「おっと、智花ちゃんにマキ・・・ちゃんでよかったかな。」

 

「どうも、樹さん。

もう少しで終わりですか?」

 

「ああ。

みんな忙しいからね。

夜まで、というわけにはいかない。」

 

すると、樹の後ろにいつの間にか春乃が立っていた。

 

「神宮寺 樹。」

 

「おや、君は春乃ちゃん・・・」

 

「妹に近づいたな?」

 

「え?

おおおおっ!?」

 

樹は春乃に胸倉を掴まれるとそのまま連れ去られてしまった。

 

「樹さん、何やらかしたんだ?」

 

「あらら、間に合わなかったか。」

 

誠がケーキを食べながらやってきた。

 

「なぁ、樹さん何やったんだ。」

 

「瑠璃川の妹をナンパしたんだよ。

本人はただの挨拶のつもりだったのかもしれないけど。」

 

「ああ、それは仕方ないか。

とりあえず、血の雨が降る前に春乃を止めるか。」

 

良介と誠は樹と春乃の所に向かった。

 

「ご、誤解だ!

僕には妻がいる!」

 

「ほう?」

 

「たとえ子供とはいえ、手を出したら社会的にも物理的にも死んでしまう・・・君の妹へは挨拶しただけだ!」

 

「ただの挨拶で肩に手を回す必要があるのか?」

 

「あ、あれは昔のクセがちょっと・・・二度としない!

だから命ばかりは!」

 

「警告は一度だけだ。

いいな。」

 

「あ、ああ・・・わかった。」

 

良介たちが来る前に話が終わってしまっていた。

 

「ありゃ?

てっきり血祭りにあってると思ったんだがな。」

 

「さすがに春乃もそこまで考えなしじゃないだろ。」

 

誠は状況を見て、つまらなさそうにしていた。

 

   ***

 

JGJの新年会も終わろうとしていた。

良介と誠と樹は3人で話をしていた。

 

「さて・・・宴もたけなわだが、そろそろ終了だ。

命の危険もあるからね・・・フフ、あそこまで情熱的に迫られたのは初めてだよ。

今日はありがとう。

君たちのおかげでいろいろと助かった。

お客さん方も安心して宴会が楽しめたと思うよ。」

 

「なぁ、誠。

樹さん、反省してなくないか?」

 

「そうだな、こうなったらさっき盗撮した瑠璃川の妹にナンパしてる写真を鳴子さんに手渡して、わざとインターネットに流してもらうか。

題名は『神宮寺 樹、女子中学生に手を出していた!』で。」

 

誠は懐からカメラを取り出した。

 

「冗談でもやめてくれ!

本当に俺の人生が終わる!

いつ撮ったんだその写真は!

没収だ!」

 

樹は誠からカメラを取り上げた。

 

「あぁ、せっかくネタにできそうだったのに・・・」

 

「ネタってどうするつもりだったんだ?」

 

「初音あたりに渡そうかと・・・」

 

「初音に渡したら・・・碌なことにならなさそうだな。」

 

それを聞いて良介は苦笑した。

樹は軽く咳払いした。

 

「とりあえず、警備に当たってくれた魔法使い諸君に、神宮寺からお礼を言わせてもらう。

普段、初音が迷惑をかけている分もね。」

 

「別に、そんなことありませんよ。」

 

「ならいいがね・・・マキちゃん。

君に伝えたいことがある。」

 

「へ?」

 

「む、告白か?」

 

「誠くん、少し黙っててくれ。」

 

樹は誠を軽く睨んだ。

 

「へいへい。」

 

「初音を、よろしく頼む。

アイツが沙那ちゃん以外の話をするのってな・・・本当に珍しいことなんだ。

だから、気に入ってると思うんだ。

俺はあまり構ってやれない。

もちろん、誰でもいいってわけじゃないぞ。

沙那ちゃんも太鼓判を押す君だから言うんだ。

将来のことはまだわからないが、初音が相手として君を連れてきても・・・俺は反対しない。

初対面でこんなことを言うのは変かな?」

 

「ええ、かなり変だと思います。」

 

「ま、これが神宮寺だと思ってくれ。

ああ、それと・・・さっき話した武器の件、よければ進めておこう。」

 

「え・・・本当ですか?」

 

「もちろん、使うかどうかは君次第だ。

考えておいてくれ。

じゃあな。

今度会えたら、1杯おごろう。」

 

樹は去っていった。

 

「樹さん、やけに良介のこと気にかけてるな。

やっぱ、外見が女だから・・・」

 

誠が独り言をしていると、いつの間にか春乃が目の前に立っていた。

 

「あ、春乃。

秋穂は?」

 

「避難させたわ・・・なんで女子にしたの?」

 

「男子だと目立つからだと。

みんな訊いてくるな。

つーか、誠含めて数人男子いるんだから別にいいと思うんだがな。」

 

「ふうん。

まぁ、どっちでもいいけど・・・じゃあ、あたしはもう行くから。

アンタが本当に女だったら、いろいろ違ったかもね。」

 

春乃は去っていった。

 

「それじゃ、俺・・・私たちも帰るか。」

 

「思ったんだけど、いつまで女の格好でいるつもりだ?」

 

「たぶん・・・学園まで?」

 

「大変だなぁ・・・あ、良・・・マキ、お前は先に行っててくれ。

トイレ行ってくるから。」

 

「ええ、わかったわ。」

 

良介が部屋から出ていくと、樹がやってきた。

 

「誠くん、このカメラに写ってるんだな?」

 

樹はさっき誠から取り上げたカメラを取り出した。

 

「ああ、学園生を妙に避けていたやつ。

ちゃんと撮影しといたぜ。」

 

樹は真剣な顔でカメラを確認し始めた。

 

「俺はこれで。

樹さん、後は任せたぜ。」

 

誠は部屋から出ていった。

 

「ああ、感謝するよ・・・なるほど。

社内の裏切り者は・・・こいつか。」

 

樹はカメラに写っていた人物を睨みつけた。



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第115話 とうふラーメン

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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朝、学園の校門前。

兎ノ助が説明していた。

 

「えー・・・というわけで、毎年恒例の商店街初売りがある。」

 

「商店街・・・ですか?」

 

エミリアは首を傾げた。

 

「そうだ。

単独クエスト許可が出て以来、さらが根城にしている商店街だ。」

 

「ネジロ・・・!

ネジロとは・・・!」

 

「リナ知ってるぞ。

悪いヤツらの基地のことさぁ。」

 

エミリアの問いに里奈が答えた。

 

「悪の組織ですか!」

 

「こら、誤解するだろう。」

 

怜は里奈に注意した。

 

「さらの初めての単独クエストがあの商店街だったからな。

あれから、よく遊びに行ってるみたいでさ。

今は、龍季が付き添う条件でシローも同行しているらしい。」

 

良介が説明した。

兎ノ助が再び説明し始めた。

 

「その商店街だ。

ちなみにあそこは毎年、この時期に初売りをやる。」

 

「初売りって、もうどこも終わってませんか?」

 

エミリアは兎ノ助に尋ねた。

 

「たいていはな。

だが駅前と同時期にやっても採算が取れないってことで・・・」

 

「初売りはその年初めての開店日のことだと聞いてますが。」

 

エミリアは再び兎ノ助に質問した。

 

「あー・・・だから名前だけだ。

ようするに安売りやるんだよ。

ところで今回は、もう行ったさら、龍季とは別に5人だって話だが・・・あと、誰だ?」

 

「私は特に聞いてませんね。」

 

「リナも聞いてないぞ。

誰か来るのか?」

 

「俺も知らん。

怜、知ってるか?」

 

「ああ・・・今し方、来たところだ。」

 

4人が振り返るとつかさがやってきた。

兎ノ助とエミリアと良介は固まった。

 

「おおー、生天目。

珍しいなー、お前。」

 

「おおおおおいおいおい!

魔物討伐じゃないんだぞ!」

 

「あ、あの、なにかの間違いでは・・・」

 

兎ノ助とエミリアは困惑していた。

 

「間違いではない。

商店街での奉仕活動とやらだろう。

私も行くぞ。

ああ、つまらん・・・」

 

つかさはため息をつきながら先に行ってしまった。

 

「な、なにがどうなってるんだ?」

 

兎ノ助はつかさの後ろ姿を呆然と見つめていた。

 

「もう嫌な予感しかしないんだが・・・」

 

良介は苦笑していた。

 

   ***

 

良介たちは風飛商店街にやってきた。

つかさはつまらなさそうにしていた。

 

「で、どこに魔物が出るんだ?」

 

「つかさ、ここに魔物は出ないぞ。」

 

良介の発言を聞いてつかさはため息をついた。

 

「フン、冗談だ。

わかっている。

力が必要なら呼べ。

細々しいことは性に合わん。」

 

「ああ、ならばあそこの荷物を運び込んでくれ。

これから2月の節分に向けて、大豆を大量に仕入れたそうなんだが・・・主人がぎっくり腰なってしまってな。」

 

怜が荷物を指差して指示を出した。

 

「あれしきの荷物で腰をやるとは、虚弱だな。」

 

「魔法使いと一般人を一緒にするなよ。」

 

良介は呆れていた。

 

「話は聞いている。

真面目にやったなら、そう報告する。」

 

怜は言葉を聞いてつかさは動き出した。

 

「自力地力でゲートが開けられんのならば、どうしても許可がいる。

やればいいんだろう。」

 

つかさの姿を見ていた良介は怜に話しかけた。

 

「なあ、怜。」

 

「なんだ、良介。」

 

「お前、怖くないのか。」

 

「怖くはないさ。

奴がいきなり殴りかかるのは魔物に対してだけだ。」

 

「いや、別にそうでもないぞ。」

 

良介の言葉を聞いて怜の顔色が変わった。

 

「ち、違うのか?

あ、後でしっかり話を聞いておかなければ・・・ちょうどいい、エミリアと与那嶺を呼んでくれ。」

 

「ん?

わかったけど、なんでだ?」

 

「今日に限り、適度に生天目に仕事を依頼できるからな。」

 

数分後、エミリアと里奈に怜は説明していた。

 

「はぁ・・・なるほど。

裏世界に行くために、奉仕活動のノルマ。」

 

「アイツが言うこと聞くなんて、雪でも降るんじゃないか。」

 

「生天目の戦力は是が非でも必要だ。

本来なら請い願う所だが・・・ゲートを餌に、品行方正になってもらおうというのが委員長の考えだ。」

 

「ああ、そういや風子の奴、前にそんなこと話してたな。

まぁ、つかさも本当に嫌なら参加しないか。」

 

良介は納得した。

 

「なるほど。

では・・・私も生天目さんに協力しますね!」

 

「ん?」

 

怜はエミリアの方を見た。

 

「今日のクエストで、みなさんに満足していただけるのが条件なのでしょう?

生天目さんが頑張っても、私たちが怠けたせいで、評判が悪いとしたら・・・申し訳が立ちませんから!」

 

「まぁ、そういうことに・・・なるのか?」

 

「与那嶺さん!

生天目さんに負けてられませんよ!」

 

里奈は嫌そうにしていた。

 

「えぇー。

アイツに張り合ってたらすぐにバテちゃうぞ。」

 

「もちろん、力仕事をしても仕方がありません。

私たちは、私たちにできることをしましょう!」

 

エミリアは元気よく歩き始めた。

 

   ***

 

里奈とエミリアは八百屋に来ていた。

 

「おや。

これは・・・お野菜ですね。

なぜはっぴゃくやというのでしょう。」

 

エミリアは首を傾げた。

 

「それはやおやって読むんだぞ。」

 

里奈はエミリアに正しい読み方を教えた。

 

「あぁ!

確かに!

八百万の神と同じですね!」

 

「やおよろずってなんだ?」

 

里奈はエミリアに尋ねた。

 

「日本には800万の神様がいると聞いています。

多神教ですね!」

 

里奈は首を傾げていた。

そこに良介がやってきた。

 

「どうした2人とも。

つかさと張り合うんじゃなかったのか?」

 

「あっ。

いい所に!

良介さんに訊いてみましょう!」

 

「ん?

一体何だ?」

 

エミリアは良介に八百万の神について尋ねた。

 

「あぁ、そのことか。

別に800万いるわけじゃないぞ。

八百万ってのはものすごくたくさんって意味だ。

で、八百屋もたくさんの物を売っているから、八百屋っていうんだ。」

 

「なるほど!」

 

「知らなかったさぁ!」

 

2人は納得したように頷いていた。

 

「ほら、みんなが待ってるぞ。

話はそれくらいにしとけ。」

 

「はい。

ですが・・・さらちゃんたちと生天目さんが、次々と解決していって・・・」

 

「リナたちの出る幕がないさぁ。」

 

「実は、俺と怜も同じ状況でな。

商店街の人達に何もないのはいいことなんだが・・・」

 

「親切の押し売りをするわけにもいきませんし。」

 

「まぁ、警備するだけでもみんな安心するんじゃないか?

ひったくりが多いらしいからな。

目を光らせておいてくれ。」

 

「はい!

日本とイギリスを繋ぐ、ブルームフィールドの誇りにかけて!

頑張りましょう、与那嶺さん!」

 

「名前でいいぞぉ~。

名字で呼ばれるとムズムズするのだ。」

 

2人は再び商店街を歩き始めた。

 

   ***

 

良介たちは話をしながら歩いていた。

 

「ひったくりとぼったくりって・・・似てませんか!?」

 

エミリアは良介に尋ねた。

 

「似ているも何も、たくりは同じ言葉だぞ。

さてと、何時間もうろつけば、それなりに奉仕活動はできるもんだな。」

 

「お祭りみたいだから、子供や家族連れが多いのだ。

お菓子を落とした子供をあやすのが大変だったぞ。」

 

「リナちゃん、根気よくあやしてましたもんね。」

 

「一緒に困ってただけだぞ。

新しいの買うわけにもいかないし。」

 

「私も、英語圏の観光客がいて通訳のお役に立てました。

ほかにも・・・それなりに、ご満足いただけたでしょうか。」

 

すると女性の悲鳴が聞こえてきた。

 

「ひ、ひったくりだぁっ!」

 

「何?」

 

「ひ、ひったくりです!

現れました!」

 

「よーし、リナが捕まえてやるのだ!」

 

「負けませんよ!

私が捕まえます!」

 

「あっちに逃げたな。」

 

「待ちなさーい!」

 

エミリアと里奈はひったくり犯を追いかけていった。

そこに怜がやってきた。

 

「良介は行かないのか?」

 

「行くさ。

近道を使ってな。」

 

良介は2人とは違う道を走っていった。

ひったくりはひたすら走って逃げていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・魔法使いがなんぼのもんだよ!

俺は高校陸上の全国大会優勝なんだ!

逃げ切ってやる!」

 

「その割には遅いな。」

 

「うおっ!?」

 

ひったくりの目の前に良介が立っていた。

 

「魔法使いも舐められたもんだ。」

 

「ど、どけっ!

魔法なんか使ったら、マスコミに訴えてやるからな。」

 

「馬鹿が。

お前程度に魔法なんか使うわけねえだろ?

逃げ切れるもんなら逃げ切ってみろよ。

逃げ切れるならな。」

 

「野郎・・・!」

 

ひったくりは走って逃げようとしたが、良介が胸倉を掴んだ。

 

「え、ええっ?

お、お前、手を離せ!」

 

ひったくりは必死に手を振りほどこうとしたがまったく離れなかった。

 

「なんでだ?

まったく離れねぇ・・・!」

 

「安心しろ。

殴ったりはしねえ。

ただ掴むだけだ。」

 

そこにエミリアと里奈がやってきた。

 

「も、もう捕まってます、ね・・・」

 

2人は呆然とその様子を見ていた。

 

   ***

 

ひったくりが捕まった後、良介たちは話をしていた。

 

「ゆ、愉快犯、ですか?」

 

「面白い犯人だな。」

 

エミリアとリナの発言に良介はため息をついた。

 

「愉快な犯人って意味じゃないぞ。

魔法使いを警備に呼んだことを知って、あえて犯行に踏み切ったらしい。」

 

「ああ・・・たまにある問題ですね。

魔法使いがいるからやった・・・犯行を決意させた魔法使いが悪いという。」

 

「仕方ないこと・・・なんて言いたくはないけどな。

とにかく、大事になる前に捕まえることができてよかった。」

 

「結局、良介さん一人で解決してしまいましたね。」

 

「なんか申し訳ないぞ。」

 

「まぁ、気にするなよ。」

 

エミリアはデバイスで時間を確認した。

 

「あ、もうクエスト終了の時間ですね。

さらちゃんたち、警備が終わってからおよばれしてるらしいですよ。」

 

「ああ、そうか。

クエスト後は授業免除だからな。」

 

「で、では私もこの・・・おとうふのラーメンを食べてもいい!?」

 

「ああ、好きにしたらいいさ。」

 

「良介さんも行こう?

里奈ちゃんも、怜ちゃんも!」

 

「リナ、もっと腹に溜まりそうな物がいいのだ・・・」

 

「生天目さんも・・・誘える、かな・・・」

 

「私はいらん。

やることがあるからな。」

 

つかさはいつの間にか良介たちの後ろに立っていた。

 

「ひゃっ!

やること?」

 

「生天目・・・今日のこと、しっかり報告しておくからな。」

 

怜の言葉を聞いたつかさはため息をついた。

 

「好きにしろ。

しかし・・・魔物の1匹も出んとはさすがに退屈した。」

 

「お前、これから戦いに行くつもりか?

校則違反になるぞ。」

 

「フン。

気にいらんならそう報告すればいい。

私は我慢できんだけだ。」

 

「お前、やりたいことがあるんだろ?

戦いが我慢できないなら、俺が相手をしてやる。

いつでも声をかけるといい。」

 

良介は笑みを浮かべながら歩いていった。

 

「も、もしお腹が空いたら、ぜひ来てくださいね!」

 

「そうだ!

真理佳が戦いたがってたぞ。

今度受けてやれよー。」

 

エミリアと里奈も良介について行った。

少し時間が経ち、つかさは一人で商店街を歩いていた。

 

「つかさ、まだこんなところにいたのか。」

 

そこに良介がやってきた。

 

「良介・・・」

 

「魔物を探しに行くつもりか?」

 

「ああ、そうだ。」

 

「少しぐらい、お茶でも飲んだらどうだ?

奢るぞ。」

 

良介は喫茶店を指差した。

 

「ククク、貴様もヤキがまわったか。

私を誘うとはな。

いいだろう。

私を満足させることができれば、おとなしくしてやろう。

だが、満足できなければ・・・その後はわかっているな?」

 

「さっき言った通り、相手をしてやるよ。」

 

「ああ、私の気が済むまでだ。

貴様が力尽きるのが先か、私が満足するのが先か・・・楽しい勝負になりそうだ。」

 

つかさは嬉しそうに笑みを浮かべた。



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第116話 忍者の里へ

※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
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学園の校門前。

良介がいつも通りに登校すると、梓がいた。

 

「おっと、おやおや!

良介先輩じゃありませんか!

ちょーどいいとこでお会いしたッスね!」

 

「何がちょうどいいとこでっだ。

どうみても待ち伏せしてただろ?」

 

「やだなぁ。

そんな待ち伏せなんてしてもしょうがないッスよ。

狭い学園内ですし、登校時間ですし、自然に校門前で会うこともあります。

そして偶然にもですね・・・自分の故郷からクエストの依頼が来てまして!」

 

「故郷って・・・確か伊賀だったよな?」

 

「そッスよ、伊賀です伊賀!」

 

良介は呆れたように頭を掻いた。

 

「忍者なら大抵の魔物は自分たちで倒せるんじゃないのか?」

 

「いやぁ、確かに今回の魔物くらいラクショーなんですが・・・いろいろ重なって、里に戦えるのがほとんどいないんですよ。

それで自分に白羽の矢が立ったというアレでして。

せっかくですから、伊賀の里に興味ないかなーって思ったんですが・・・自分、案内するんで、良介先輩も観光がてらクエストに行きませんか?

よければ、待ってるんで支度してきていただけると助かるッス。」

 

「はぁ・・・わかった、少し待っててくれるか?」

 

「はい、よろしくお願いするッスよ!」

 

良介はクエストを受けるための準備をしに向かった。

 

   ***

 

伊賀の里の近くの山奥。

良介と梓は2人で歩いていた。

 

「いやぁ~、すいませんねぇ。

遠出になっちゃって。

でもま、デートってことで!

なかなか地方のクエストは無いッスからね。

それにこっちの方は地元なんで、帰りに案内してあげるッスよ。」

 

「それはありがたいな。

俺は来るのは初めてだからな。」

 

「御斎峠一帯は伊賀忍者の隠れ里があるんです。」

 

「で、梓は元々ここの担当だから指名がかかったってことか。」

 

「そッスね。

そういう感じッス。」

 

「で、ここ山道なんだけど・・・大丈夫なのか?」

 

良介は心配そうに周りを見渡した。

 

「いやね、道は大丈夫なんですけど、山の中になると罠とかいっぱいあって。」

 

「なるほどね。

他の奴なら苦労するだろうな、それは。

まぁ、俺も気をつけるけどさ。」

 

「気をつけてください。

いちお自分が確認しつつですけど・・・忍者のトラップは容赦ないッスからねぇ。」

 

「了解。

さっさと終わらせるぞ。」

 

「うぃッス。

ではちゃちゃーっと切り上げて遊びに行きましょ?」

 

「お前・・・それが本当の目的だったりしないよな?」

 

2人は魔物を探しに歩き始めた。

 

   ***

 

学園の屋上。

智花、アイラ、誠の3人がいた。

 

「で、智花がこの1年を繰り返す原因ってわけか。」

 

「一応、じゃがな。」

 

アイラは誠に一年が繰り返している理由を話していた。

アイラは次に、不安そうな顔をしている智花の方を向いた。

 

「ちょっと難しい話になるがのう。

お主の不安はとりあえず解消させちゃる。」

 

「ふ、不安って?」

 

「神凪やらなんやら、裏世界の記憶がごっちゃになっとる者が出たじゃろ。」

 

「確かに、何人かいたな。」

 

「お主の夢の詳細を聞いたが・・・あ、経路は秘密じゃぞ。」

 

「わかってます。

夏海ちゃんですよね。」

 

「おっと。」

 

「へぇ、夏海だったのか。」

 

誠とアイラは驚いていた。

 

「いいんです。

わたしのためにしてくれてるってわかってるし・・・いつまで経っても、こんな重要なことを知らないままだったかも。」

 

「ふむ。

まぁ、な。

妾は遊佐から聞いたんじゃが。」

 

「そっちは鳴子さんだったのか。」

 

誠は納得していた。

 

「良介とそこにいる誠の2人が夏頃、裏世界に行ったのは知っておるか?

ほれ、第8次直前の。」

 

「はい、それも怜ちゃんから聞きました。

わたしの夢と同じで、怜ちゃん、右目に眼帯をしてるって。

限られた人しか知らないって言ってましたけど・・・」

 

「お主に伝えるよう働きかけたのは妾じゃ。

嫌がらせではないぞ。

これから話すことを理解してもらわねばならんからな。」

 

アイラの言葉を聞いた後、智花はまた不安そうな顔になった。

 

「もしわたしが、時間を止めてしまってるなら・・・裏世界の記憶が流れ込んでくるのは、わたしのせいじゃないんですか?」

 

「いやな、妾も最初はそう思ったんじゃ。

時間停止の魔法は、1年のある時期に効力が弱まる。

妾は夏。

朱鷺坂も妾と同じじゃから、夏に効力が薄れる。

妾の場合は霧の侵食で魔物になるのを止めておるから・・・効力が薄れている間は、体が魔物に変化しようとするんじゃ。

痛いし辛いしたまらんわ・・・あ、いや、妾のことはいい。」

 

「体に痛み・・・?」

 

誠は首を捻った。

 

「ほいでな、お主のもそうかと思ったんじゃが、理屈に合わんのよ。」

 

智花は不思議そうな顔をした。

 

「まず期間。

お主の魔法が時間停止とは微妙に違うのを考慮しても・・・もし魔法が弱まっておるなら、時間が長すぎじゃわ。」

 

智花は黙って聞いていた。

 

「長くとも1週間で効力を取り戻すはずじゃし。

そんでもう1点。

お主の魔法の効果は1年を繰り返すじゃ。

これも詳細は不明じゃが。

お主の魔法、そもそも裏世界と関係がないのよ。

じゃからお主の魔法が弱まったとて、裏世界の記憶なんか出てこんのじゃ。」

 

「ちょっと待ってくれ。

どういうことだ?」

 

誠がアイラに質問した。

 

「いいか、ここははっきりしておくぞ。

表と裏と1年を繰り返すのは別の事象じゃ。

そもそも世界が分かれたのはお主らが生まれる前じゃからの。

観測しとるだけでも、朱鷺坂がこちらにきた50年前・・・少なくともそこから、裏と表は分岐しておる。」

 

「例えばなんだが、智花が願ったから1年を繰り返すようになった。

なら、裏の智花が願ったから、この世界ができたっていうのは?」

 

「なんじゃお主、意外と想像力が豊かじゃないか。」

 

アイラは誠に関心していた。

 

「そいつはどうも。

で、どうなんだ?」

 

「ないわ、それ。

いいか?

お主がこの1年を繰り返すほどのポテンシャルがあるとする。

じゃが、宇宙を丸ごと巻き込むほどの魔力はどう用意する?」

 

「えっと・・・」

 

「良介だな。」

 

「えっ?」

 

智花が返答に迷っていると、誠は代わりに答えた。

 

「そうじゃ。

我らの見解も良介じゃ。

お主らが意識的にか、無意識でかはどうでもいい。

じゃが誰がやるにしろ、良介の魔力を使わねば実現できんわけじゃ。」

 

「で、でもそれとこれとどういう関係が・・・」

 

「忘れてた。

裏には良介がいないんだったな。」

 

「えっ?」

 

誠の言葉に智花は驚いた。

 

「そうじゃ。

裏世界には、早田 良介という強大な魔力の持ち主がおらんのじゃ。

もう1つ宇宙を創造するような魔法、誰にも使えんのじゃよ。」

 

智花は黙って話を聞いていた。

 

「じゃから、世界が2つできたのは・・・少なくともお主のせいではない。

原因は今もってわからんが、とにかくお主のせいではない。

裏世界の記憶がこちらに影響しておるのも・・・お主のせいではない。

じゃから、魔法を解くなよ。

我らは来年度を迎えてはいかん。

全滅するでな。」

 

アイラは真剣な顔で智花に言葉を伝えた。

 

「どうして・・・こんなことになっちゃったんだろう。」

 

「今まで、普通に魔法使いしとったらこれじゃもんな。

気持ちはわからんでもない。

じゃがいずれ、誇れるようになる。

お主が時間停止を使ったから・・・良介がその魔力を持っていたから・・・我らの世界は救われるかもしれん。」

 

アイラは真剣な目で智花を見つめた。

 

   ***

 

山奥。

良介と梓は魔物を探していた。

 

「ほいっと。

こっち大丈夫ッスよー。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

梓は手早く罠を解除した。

 

「にしても、前に比べて随分罠の数が多くなったッスねぇ・・・」

 

「そんなに増えたのか?」

 

「ここの罠って魔物もそうなんですけど、甲賀忍者のイタズラ対策なんですよ。

昔っから仲が悪くてですねぇ。

ちょっかいかけてくるんです。」

 

「今もそんなこと続いているのかよ・・・」

 

良介は呆れていた。

 

「大抵誰か引っかかってるもんなんですが・・・今日はいないッスねぇ。」

 

「それより・・・」

 

「え?

ああ、魔物ッスね。

すぐに探します探します・・・」

 

「いや、そうじゃなくてな・・・忍者たちだけでどうにかできないのかって話だよ。」

 

「あぁ~。

確かにクエスト対象の魔物くらいなら余裕でどうにかできるッスけど・・・海外に派遣されるのとか多くなったんで、戦力が少ないんですよね。

忍者志望も少なくなったし、いろいろやりくりしてるんですけどねぇ。」

 

「なるほど、そういう感じで手が足りなくなったら、梓に依頼が来るってわけか。」

 

「外部の力は頼らないんですけど、自分ならまあ伊賀忍者なんで。

今回もそれッスね。

まぁ、自分も今回はちょっと特別でして。

念には念を入れて、良介先輩をお連れしたワケです。

もし里の秘密を知ってもナイショにしといてくださいよ?

秘密が漏れたら自分、お尻ぺんぺんされちゃうんで・・・」

 

「結構処罰がしょぼいんだな・・・と、魔物が出たな。」

 

2人の前に魔物が現れた。

 

「よし、ここは自分が・・・」

 

「いや、俺がやる。

試したいことがあるんでな。」

 

「試したいこと?」

 

梓は首を傾げた。

良介は1歩前に出た。

 

「風、極限強化。」

 

良介はそう言って魔法を発動させると、良介の髪が緑に変色した。

 

「それは・・・?」

 

「風の肉体強化を極限まで行ったんだ。」

 

魔物が向かってきたが、良介はいつの間にか魔物の懐に入っていた。

 

「ふんっ!」

 

魔物にアッパーを食らわすと魔物は空中で霧散した。

気がつくといつの間にか良介は梓と隣に戻ってきていた。

 

「うひょー、速すぎて全然見えないッス!」

 

「けどダメだな。

まだ力に振り回されてる感じだ。」

 

「え、あれで?」

 

「ああ、危うく魔物に正面からぶつかるところだったしな。

一端止まって、そこから攻撃しないとダメなんだ。

本当なら飛び込むと同時に攻撃したいんだけど・・・」

 

「あんな速度で殴ってくると思ったら・・・怖いッスね・・・」

 

「けど、今回の実戦である程度ものにしたいな。

というわけで、次の魔物を探すぞ。」

 

「了解ッス。」

 

2人は次の魔物のところへと向かった。

 

   ***

 

学園、噴水前。

つかさと浅梨が話をしていた。

 

「私はまだ、上を目指さなければならない。」

 

「はい。」

 

「貴様も裏世界にいたな。

あのガーディアンについて聞きたい。」

 

「ええと、いいですよ・・・それより、どうして生天目さん、急に・・・」

 

浅梨は動揺していた。

 

「あの連中、我妻 梅なら一掃できていたか?」

 

「え?

お姉ちゃんですか?

うーん。

難しいと思いますよ。

私も少しだけ戦いましたけど・・・ガーディアンって個体の強さはともかく、再生するじゃないですか。

生徒会長さんのあの魔法でもすぐに復活されましたし・・・いくらお姉ちゃんでも、全滅させるのは骨が折れるかと・・・」

 

「ではコズミックシューターならどうだ?」

 

「ジェイソンさんなら、倒せると思います。

秘密って言われてるんですけど、ジェイソンさん、一度南半球で・・・魔法で火山を噴火させて、一帯の魔物を退治したことがありますから。」

 

つかさは話を聞いて、何か決意した表情になった。

 

「よし。

コズミックシューターと戦いたい。」

 

「えっ?」

 

「そのうち訪ねる。

いつでも戦えるようにしておけと言っておけ。」

 

「え、あ、その、そんな急に・・・」

 

「確かに伝えた。

私がガーディアンを一掃できる力・・・それを得るには、ヤツと戦うしかない。」

 

「そ、そうでしょうか・・・でもジェイソンさん、今はエジプトにいますよ?」

 

「構わん。

行く。

貴様が心配するようなことではない。」

 

つかさは立ち去ろうとした。

 

「そ、そうだ!

先にお姉ちゃんとはどうでしょうか?」

 

「なに?」

 

つかさは足を止めた。

 

「一掃はできなくても、お姉ちゃんならガーディアンを倒しながら・・・ゲネシスタワーまでたどり着くことはできると思いますよ。」

 

つかさは話を聞いて、納得した。

 

「お姉ちゃん、たまに強い人と戦いたがりますし。

ちょっと時間がかかるかもしれませんが、来てくれると思います。」

 

数十分後、学園の訓練所。

浅梨はエレンに相談していた。

 

「って言っちゃったんですけど・・・どうしましょう。」

 

「生天目も突飛なことを考えたな。

とはいえ、ヤツは強さだけが自分の存在価値だと認識している。

強くなければ、生天目は生きている意味が無いのだ。

遅かれ早かれ、その発想にはたどり着いただろうな。」

 

「でも確か、今でもとっても強いはずです!」

 

「それはそうだろう。

グリモアがエリートといわれている理由の一端だ。

我妻 梅を排出していることもあるが、我妻は始祖十家だからな。

強くて当然という風潮はある。

しかし武田と生天目、良介と誠は違う。

連中の実力は血ではない。

しかもタイコンデロガを単独で倒せるほどだ。」

 

「そんなに強いのに、生きる価値がないだなんておかしいですよ!」

 

エレンはため息をついた。

 

「今更なにを言う。

生天目が異常なのは前からわかっているだろう。」

 

「い、異常だなんて・・・」

 

「本人も自覚しているんだ。

それに異常はネガティブな意味じゃない。

通常とは違うだけだ。

そういう人間もいるし、私は尊重するぞ。

少なくともヤツは、強さを欲し、手に入れた。

文字通り血を吐いてだ。

生天目の記録を1度、見てみるといい。

私などまだまだだな。」

 

「でも、1人で戦うなんて無謀なんですよね?

1人の力って、集団の連携にはとても叶わないんですよね。

それなら、生天目さんの目的のためには精鋭部隊に入ってもらった方が・・・」

 

「恥ずかしい話だが、私たち精鋭部隊が束でかかっても、勝てんぞ。」

 

「え?」

 

浅梨は呆然とした。

 

「生天目の強さはそれほどだ。

まぁ、ヤツが奥の手を使えば、だがな。

戦い方は無限にあるが、生天目が鯨沈を使ったらまず無理だ。」

 

「そ、そんなに強いんですか?」

 

「小細工の通用しない強さというものがある。

生天目は鯨沈が切れて倒れるまでに、私たちを全滅させられる。

ヤツより弱い私たちが、ヤツに連携を説いたところで空しいだけだ。」

 

浅梨は沈黙していた。

 

「そもそも言葉で動くような女ではない。

我妻 梅との戦いを止めるには・・・お前がヤツに勝つしかないな。

お前に勝つまでは、姉への挑戦はしないだろう。」

 

「ええっ!?

そ、そんなこと・・・無理です!」

 

「そういうわけだ。

諦めて、姉に頼んだらいい。

私も噂は聞いている。

喜んで飛んで来るだろう。」

 

浅梨は肩を落とした。

 

「考えてみます・・・」

 

浅梨は訓練所を後にしようとした。

 

「生天目を止める、か。」

 

エレンはまたため息をついた。

 

「部下を守るのが上官の役目とはいえ・・・気が重いな。

む、そういえば・・・我妻。」

 

「はい?

なんですか?」

 

浅梨は足を止めた。

 

「お前・・・早田という名字、どこかで聞き覚えがないか?」

 

「早田?

良介先輩の名字ですよね?

どうかしたんですか?」

 

「昔、幼い頃に父から何度か聞いた覚えがあってな。

父に聞いてみたが、忘れたと言ってはぐらかされてな。

そこで始祖十家であるお前なら何か知っているのではないか、と思ってな。

それで、どうだ?

何か知っていることはあるか?」

 

「いや、何も知りません。

早田という名字自体、良介先輩の名前で初めて知りましたし・・・」

 

「ふむ、そうか・・・呼び止めて悪かったな。」

 

「はい、それでは・・・」

 

浅梨は重い表情のまま訓練所を後にした。

 

「ただの聞き間違いか思い違いなのだろうか・・・」

 

エレンは顎に手をやり、考え始めた。

 

   ***

 

学園のとある教室。

 

「あーっ!

うそっ!

やばっ!」

 

突然千佳が大声を出した。

ゆえ子と律は驚いた。

 

「な、なんだよ急に、びっくりさせんなよ。

今度は誰にフラれたんだ?」

 

「ばっ!

バカ言わないでよ!

そんなに年中フラれてないし!」

 

「おそらく、忘れていたんでしょう。」

 

ゆえ子は何かを察した。

 

「忘れてたって、何を?」

 

「さすがゆえっち!

今思い出したんだけどさ・・・来月、バレンタインじゃん!」

 

律は呆れていた。

 

「そんなにビックリすることじゃねーじゃん。」

 

「だって!

バレンタインっていったら女の子の一大イベントっしょ!?

そんなの今の今まで忘れてたなんて・・・もー、死にたい・・・うち、もう女子高生じゃないかも・・・」

 

「なに言ってんのか全然わかんねぇ。」

 

「間宮さんは、どなたにお渡しするんですか?」

 

「うーん・・・そうだなー、とりあえず・・・」

 

「とりあえずっていうか。良介だろ。」

 

千佳は驚いた。

 

「えっ?

な、なによ急に。」

 

「だって千佳と一番仲いい男子ってアイツじゃん。」

 

「はぁ?

どこをどう見たらそうなんのよ。」

 

「え・・・・・違うの?」

 

「前から言ってんじゃん。

うちの好みじゃないって。

はー、早く渡すリスト作らなきゃ・・・あ、いちおう渡すけどね、義理。」

 

律はゆえ子の方を向いた。

 

「なぁ、アイツってホントに良介のこと興味ないの?」

 

「ゆえにはなんとも・・・間宮さんのことは、音無さんの方が詳しいですから。」

 

「アイツがそーゆーの否定するのって珍しいんだよなぁ。

ま、良介も特定の誰かってワケじゃないみたいだし、お互い様だけどさ。」

 

「そうなのですか。

ですが良介さんは人気がありますから。」

 

「うーん、たくさんの女子を手玉にとってるなんて、やっぱロックだなー。」

 

ゆえ子は律の方を見た。

 

「音無さんはどうなんでしょう?」

 

「なにが?」

 

「えっと、良介さんのことです。」

 

「いやー、いい男だと思うぜ?

あたしが男だったら惚れてるね、絶対バンド組んでデビューしてる。」

 

「それは、どう受け取ったらいいものしょうか・・・」

 

同じ頃、報道部部室。

鳴子と春乃が話をしていた。

 

「秋穂君はどうだい?

夢は見なくなった?」

 

「もう、忘れてる。

一度、見ただけだったから。」

 

「そうか。

大事無ければよかった。

だけど・・・おかしいな。

なぜ彼女だけが・・・いや、他にもいるみたいだけど・・・なぜ、裏の記憶が影響する生徒とそうでない生徒がいるんだ?」

 

春乃は軽く息を吐いた。

 

「あたしは興味ない。

秋穂がこれ以上夢を見ないように手を打ちたいの。

原因がわからないのは知ってるわ。

自分で調べるから・・・なにか情報が入ったら、教えて。」

 

「お安いご用さ。

僕もツテをたどってみよう。」

 

春乃は少し沈黙した。

 

「お願い。」

 

そう言うと春乃は部室から出て行った。

 

「妹君への愛情を考えると、無理矢理にでも調べさせたいはずなのに・・・なかなか良介君の影響、強くなってきたなぁ・・・」

 

鳴子はそう言うと、パソコンに向かった。

 

「さぁ、僕は僕の仕事をしないとな。

未来の僕が残した謎・・・まだ時間は十分にある。」

 

その頃、生徒会室。

聖奈とチトセが仕事をしていた。

 

「クソッ!

手が・・・手が足りん!」

 

「ふぅ・・・年が明けてから大変ねぇ。

良介君、呼ぶ?」

 

「バカを言うな!

ヤツは年が明けてからもクエストに出ずっぱりだ!

休ませるのではなかったのか・・・!

副会長はなにを考えているんだ!」

 

チトセは少し考えた後、聖奈に質問した。

 

「ねぇ、本当に良介君の体を心配しているだけなの?」

 

「体だけではない!

ヤツへの依存もなんとかせねばならん!」

 

「とはいうけど、あなた、もう3日も寝てないでしょう?

少しお休みなさい。

倒れたら仕事が滞るわよ?

予算の決定はともかく、雑事なら私ができるから。」

 

「貴様には割り当てられた仕事がある。

予算の策定は私の仕事だ。」

 

「とはいっても、本来年末に副会長がやる仕事を肩代わりして遅れたのよ?」

 

「副会長は裏世界の探索に行っていた。

会長は北海道の事案の合間を縫って手を貸してくれたのだ。

クエストに出る頻度が少ない私が事務を引き受けるのは当然だ。」

 

「危なそうならちゃんと言ってね?」

 

「絶対に期日には遅らせない。

心配するな。」

 

「そうじゃなくて、体のこと・・・お肌が荒れないように。」

 

チトセは呆れたように笑った。



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