オリ主が一人転生しただけの簡単な二次創作です (騎士貴紫綺子規)
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第一箱 「……ワォ」


 なんとなく書いてみました。とりあえず転生までの話。

 一話一話が短いのは仕様です。すみません。





 

 

「ありがとうございましたー!」

 

 

 背中にかけられる御礼の言葉(というより挨拶)を聞きながら店を出る。懐の潤いを思い出しながら帰路についた。

 

 

「……にしても思ったより安かったな……」

 

 

 先程売った『めだかボックス』。単行本(コミック)全二十二巻+めだかブックス+小説全五巻、計二十八冊。全て初版で購入し、帯紙やチラシ、カードなども全て取り出さずに保存していた上に、紙の色も黄ばんでいないという完璧な保存状態。にもかかわらず、買いたたかれた値段は思っていたよりも幾分か低かったのだ。

 予想としては七千円は超えるとみていたが、総額六千八百円。それでも売ったのだが、どこか釈然としなかった。

 

 

 そんな気持ちで歩いていると、前方が何やら騒がしい。

 

 

「おい、銀行強盗だってよ」

「ウソ! マジ!?」

「何か銃持ってるらしいぜ」

 

 

 

「……オイオイ。マジかよ」

 

 

 どうやらすぐそこの銀行が強盗に襲われているようだ。そう言えば明日は給料日だったなと思い出し、昨日の内に下ろしておいて良かったと安堵する。

 

 

 足早に銀行から離れ、家まであと信号一つ、という所で、

 

 

 

  ――ドガン!!

 

 

 

 警察から逃げてきたらしい銀行強盗たちの車が目の前で横転した。

 

 

「……ワォ」

 

 思わず自由人な風紀委員長を模してしまったが、目の前でいきなり横転されてはそんな声も出るというものだ。

 

 

 そんな時、ふと地面に影が落ちた。見上げると、自分に向かって倒れてきている信号機が目に入った。車が衝突したときに折れたのが倒れてきたのだろう――

 

 

 

  ――ズシャッ!!

 

 

 

 そうして彼は絶命した。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

  ――ブチン

 

 

『さて。これで理解できたかい?』

「ええ。即死だったでしょうね」

 

 

 気付いたら何もない真っ白な空間に存在しており、そこに()が現れ、「君は死んだ」と言われた。何も言わないのに痺れを切らしたのか、彼がどこからともなくテレビを出してきたのだ。そして、自分が死んだ映像を見せられた。……無駄に効果音やスローモーション、字幕説明付きという多彩な編集をして。

 

 

『君をここへ呼んだのは、まあ所謂"テンプレ"ってやつだ。単刀直入に言おうか。転生してみないかい?』

「いいですよ」

 

 

 即答すると少し驚かれた。ファンタジー系小説は好きだったので、転生ジャンルもよく読んだ。まさか自分が体験するとは思わなかったが。

 

 

『どこにするかだけど、君が死ぬ直前一番なじみがあった世界にしようと思う。すなわち、「めだかボックス」に』

「…………はあ」

 

 

 超万能巨乳生徒会長が、超厨二病的設定のある学園で仲間や敵とバトり、途中から幼馴染と主人公の恋愛にシフトチェンジ、中盤以降から学園外に舞台が移動し、そして「俺たちの物語はまだまだこれからだ!」という感じで終わった、学園異能インフレ言語バトルという物語のジャンルをありったけ詰め込んだ、週刊少年ジャンプで人気をはくした漫画だ。ドラマCD化された後アニメ化もされ、現在第三期、過負荷(マイナス)編をやっている。アニメ化されている最中だから売ったのに、思ったより安かったから不思議だったのだ。

 

 

『チートはどうする? 異常性(アブノーマル)過負荷(マイナス)言葉(スタイル)。どれでもなんでも好きなだけどうぞ♪』

 

 

 ここまで至れり尽くせりだと逆に考えてしまう。一応尋ねておこうと思い、口を開いた。

 

 

「原作は壊しても構わないのか?」

『それも好きにどうぞ。既にあの世界の役目は終わってる。それに行くのはパラレルワールドだ。まあ壊さなかったら原作と全く同じ道を辿るがね』

 

 

 なるほど。特に何かして来いというわけでもなし、本当に二度目の世界として用意されただけらしい。

 

 

「……ん。じゃあ――――」

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 望みどおりのチートを与えて送り出した後、青年は声を上げて嗤い始めた。

 

 

『あはは。うん、いいね。最高だ。全く、あの世界でコチラに送られてくる者(・・・・・・・・・・・・・・・・)は皆個性的でとてもおもしろい。まあだからこそこの仕事は止められないんだけど……』

 

 

 そこでさっきまでとは一転し、顔に何の表情も浮かべない、まるで能面のように無表情で笑いながら呟いた。

 

 

『僕様も「傍観者」だからね。ちょっとは関わってもらうよ』

 

 

 そしてもう一つ設定を付け足した。

 

 

『さーて、次は誰かな?』

 

 

 

 






 作者は全巻持ってますが、売ってません。値段はザッと計算しただけです。

 また、アニメ第三期もウソ。するかも不明。本を売るならアニメ放送中だよね、ってことでいれてみた。

 この作品は特殊ルビ多めでお送りしております。ご注意ください。


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第二箱 「今日は君の性質を決めようかと思ってね」

 解説過多注意!



 少年が転生して二年。彼は今日、箱庭総合病院に来ていた。

 

 

「兄さん、兄さん」

「何だ、(さき)

 

 

 今の彼の名前は須木奈佐木(すきなさき) (なぎ)。ジャンプNEXT!、H.24年WINTERに掲載されためだかボックス外伝、グッドルーザー球磨川にて初登場。"操作令状(エラーメッセージプレート)"のスキルホルダーであり、めだかボックス本編には第132箱「これぞ青春」にてアイドルとして登場。【キヲテラエ】のバンド勝負で人吉(ひとよし) 善吉(ぜんきち)らと対決、小説版グッドルーザー球磨川では語り部を務め、めだかボックス完結後にジャンプNEXT!、H.25年SUMMERに掲載されたグッドルーザー球磨川完結編にて混沌より這い寄るマイナス、球磨川(くまがわ) (みそぎ)との最終対決が明かされた彼女、須木奈佐木 咲の双子の兄として生をうけた。

 

 

「何で私たち病院に来てるの?」

 

 

 箱庭総合病院。めだかボックスの主人公、黒神(くろかみ) めだかと、彼女に文字通り心身ともに尽くし、捧げ、彼女に生きる道を与えたもう一人の主人公、人吉善吉が出会った場所であり、加えて彼女と球磨川禊が出会った場所でもある。さらに言うならば、"『不知火不知(しらぬいしらず)』編"の最終対決の舞台となった。

 

 

「さあ。なんで箱庭病院(ここ)に来たのか、の方が俺は気になるけど」

 

 

 黒神 めだかを始めとした数多くの異常(アブノーマル)通常(ノーマル)分別(・・)する施設である箱庭病院。(まだないが)スキルがある(恐らく)通常(ノーマル)の咲が、箱庭病院(ココ)に来る理由はない。――とすると。

 

 

 

「(()がいるからか……)」

 

 

 和は望んだ転生特典に"自身を異常(アブノーマル)にする"はないが、それに至る要素が一つあるのを思い出した。自身を異常(アブノーマル)にすることは望んでいないが、異常性(プラススキル)は望んだのだ。

 

 

「須木奈佐木くーん! 七番検査室に入ってくれるー?」

 

 

 

「……呼ばれたな。行ってくるよ」

「うん……大丈夫だよね?」

「ああ」

 

 不安になった先が自分の服の裾を握るのを見て、優しく笑って頭を撫でてやる。すると咲はフニャリと少しはにかみながら笑った。

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

「やあ、和くん。いらっしゃい。久しぶりだね、元気だった?」

 

 

 扉を開けた先にはめだかボックス(この世界)に送り込んだあの青年がいた。普通ここは人吉 (ひとみ)がいるんじゃないかと一瞬考えたが、主人公勢の二つ上、原作時高三生ということは、今は彼女は妊娠期間中、もしくは出産前後なのだと思い至った。

 

 

(……あれ?とすると黒神 (はと)はまだ生きてるのか?)

 

 

 黒神めだかの誕生日も人吉善吉の誕生日も明かされていないため時期は不明だが、何となくそろそろだろうと推測する。

 

 

「うん。二人ともまだ生まれてないぜ」

 

 

 ナチュラルに心を読まれて何事もなかったかのように返される。何故ここにいるのか尋ねると、「おもしろそうだったから」と返ってきて殴りたくなった。

 

 

「まあもちろんそれだけじゃないぜ。君にあげた異常性と過負荷(二つのスキル)言葉(スタイル)はもう使える、ということを知らせに来たんだ。夢に現れるのもおもしろそうかなと思ったんだけど、めだかボックス(ここ)には僕様じゃない人外がいるからね。まだ封印もされてないし」

 

 

 直接会いに来たなら僕様の全力(ちから)を惜しみなく使えるしね、と朗らかに笑った。

 

 

 

 人外。それは間違いなく二人の悪平等(ノットイコール)を指すのだろうが、この場合は主に安心院(あじむ) なじみのことをいっているのだと和は分かっていた。……まあ彼女がいるならば、もれなく彼も付いてくるのだろうが。

 

 

 

 

 

 安心院なじみ。「平等なだけの人外」を自負する人外(ひとでなし)である悪平等(ノットイコール)。球磨川禊に惚れられ、「可愛過ぎた」ことで顔を剥がされた後に彼の過負荷(マイナス)大嘘憑き(オールフィクション)却本作り(ブックメーカー)で封印された。生徒会戦挙編にて顔を曝し、黒神めだかの後継者編にて再登場。7932兆1354億4152万3222個の異常性(アブノーマル)と4925兆9165億2611万0643個の過負荷(マイナス)、合わせて1京2858兆0519億6763万3865個のスキルの持ち主である。後に「シミュレーテッドリアリティ」という精神病を抱えていると判明、作中随一のメタ発言者だ。

 

 

 

 そして彼、不知火(しらぬい) 半纏(はんてん)。「ただそこにいるだけの人外」である悪平等(ノットイコール)。黒神めだかの後継者編にて初登場したが、顔バレは不知火不知編にて行われた。常に安心院なじみのそばに控え、のちにその正体が彼女のバックアップであることが明かされた。「スキルを作るスキル」の持ち主で、ドリンクバーが大好物という意外な事実が判明。デカい図体に似合わず可愛らしくストローで飲む姿がとても印象に残った。

 

 

 悪平等(ノットイコール)自体は七億人、すなわち人類の実に十%が悪平等(ノットイコール)であるのに、総生徒数が千人を超える箱庭学園には彼女たちを除き二人だけ、すなわち二年十一組所属、保健委員長の(あか) 青黄(あおき)と二年十三組担任の啝ノ浦(なぎのうら) さなぎの二人のみだ。人類の十人に一人が悪平等(ノットイコール)というそのありえなさに、厨二病患者の多くが『僕/俺/私 も悪平等(ノットイコール)なんじゃ……』と思ったのではないだろうか。

 

 

 

 

 そんなことを考えていると、目の前の青年が口を開いた。

 

 

「今日は君の性質を決めようかと思ってね」

 

 

 性質、すなわち通常(ノーマル)特別(スペジャル)か、異常(アブノーマル)過負荷(マイナス)か、はたまた悪平等(ノットイコール)か。どれにするか、ということだろう。

 しかし和はすでに誕生してしまっている。異常(アブノーマル)は生まれながらにして異常(アブノーマル)なのではないだろうか、と疑問に思った。

 

 

「いや一概にそうとも言い切れないよ。ほら、古賀 いたみ(改造人間)鶴御崎 山海(サイボーグ)なんかも異常(アブノーマル)だろう? 悪平等(ノットイコール)なら希望が丘 水晶(アンドロイド)がいたじゃないか」

 

 

 ……そう言われてみればそうだった。黒神 真黒も幼少期は善吉と何ら変わりない普通の子供と書かれていたし、後天的な異常(アブノーマル)もいるのだと考え直した。

 

 

 

「――さて、本題だ。どれにする? ……否。何になる(・・・・)?」

 

 

 

 

 ――ふむ。元の世界(前世)では間違いなく通常(ノーマル)だった俺だが、せっかく第二の人生(二次元)を送っているんだ。少し位は楽しみたい。俺は原作時三年生なんだし、クラスメートを考えるとしたら――

 

 

 そこまで考えて、和は顔を上げて口を開いた。

 

 

「――異常(アブノーマル)で」

「……ふむ。構わないんだね?」

「ああ」

「……そうか。では――」

 

 

 そう言って青年が取り出したのは――八つのサイコロ。

 

 

「振ってみてくれ。どうなるかは僕様にも分からないからね」

「分かった」

 

 

 そしてサイコロを手に取り――振った。

 

 

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 須木奈佐木和が退出した後、検査室内では青年、アガミネが優雅に紅茶を飲んでいた。その目線の先は、先ほど和が振ったサイコロに向けられている。

 

 

 「フム。雲仙(うんぜん) 冥利(みょうり)は同じ数が揃い、黒神めだかは積み重なる。そして須木奈佐木和は――並ぶのか(・・・・・)

 

 

 テーブルの上には、一番上に赤い星がそろった、見事な直方体が完成していた。

 

 

 

 

 




 まあようは、

 |・・・・|
 |・・・・|

 って具合に一が揃ったってことです。ちなみに

 |・・・・・・・・|

 でも構いません。


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第三箱 「……まあだからなんだという話だが」

 めでたく異常(アブノーマル)になった和だが、彼は一つ失念していた。

 

 

「……しまったな。確かに書かれていたが」

「兄さん何が?」

「いや、なんでもない」

 

 

 黒神めだかがそうであったように、異常(アブノーマル)を見つけるための箱庭病院である。それゆえ異常(アブノーマル)と診断された場合、通院(・・)の義務が課せられる。

 

 

 

 しかし今日はいつもと何やら様子が違うようだ。和が病院に入ると、医者や看護師たちが慌ただしく院内を走り回っている。大丈夫なのだろうか。

 

 

 

「看護師が倒れたぞ!」

「黒神さんが!」

「院長を呼べ!」

「急いで分娩室に!」

 

 

 

 看護師、黒神、院長、分娩室。この単語から考えるに、恐らく陣痛が始まったのだろう。ということは、今日か明日には黒神めだかが生まれるのだろうか――

 

 

 「……まあだからなんだという話だが」

 

 

 ストレッチャーが目の前を通り過ぎていくのを見て、和は一人ごちた。ちらりと見えたのは恐らく黒神鳩だろう。それを追うようにゆっくり歩く鶴喰(つるばみ) (ふくろう)も見れたし、キャラの遭遇、という目的は達成されたと言ってもいいだろう。

 

 

 

 和には「物語」に関わる気はなかった。須木奈佐木咲に双子の兄がいたなんて描写はなかったが、いないという描写もなかった。すなわち、もともと「めだかボックス」には、須木奈佐木和というキャラクター(・・・・・・・・・・・・・・・)存在していた(・・・・・・)ということも十分に考えられるのだ。この場合は二次創作で言う「オリ主」になるのだろうが、描写がなかった以上、自分がいてもいなくても「物語」は進む。ならば、わざわざ死亡フラグを乱立させている黒神めだかなんかに近づかなくても構わないのではないか。

 

 

 そう考えた和だったが、一応二次元(めだかボックス)に来たのだから、せっかくなので楽しみたい。第二の人生を謳歌したい、そう思い至り、では何をするか。そこまで考えて一つ浮かんだ。

 

 

 

 登場人物(キャラクター)たちを直に見たい。

 

 

 

 作中登場人物が百を超えるめだかボックスだ。流石に月下氷人会、略して月氷会のメンバーや、黒神 舵樹(かじき)などには遭うのは不可能だろうが、序盤から中盤の舞台は箱庭学園だ。ならば、学園に通えばほとんどのキャラに会えるだろう。

 

 

 そう考えた和は、今まで以上に周りに注意を払った。そして、今日ようやく黒神鳩と鶴喰梟の二人に合えたのだ。

 

 

 人吉瞳には学園で会えるだろうし、あとは生徒たちだけだ、と一人頷いた。

 

 

 

  目指せ、キャラ制覇!

 

 

 

 この目標で、和は生きていくことにした。何が悲しくて死亡フラグがそこら中に立っているこの世界で戦いに身を投じなければならないのか。便利なスキルは貰ったが、だからと言ってもわざわざ自分から火の中に飛び込まなくてもいいだろう。そういうのは黒神めだか(主人公)人吉善吉(ヒーロー)だけで十分だ。

 

 

 

 もとより和は「めだかボックス」は好きだったが、「黒神めだか」も「人吉善吉」も嫌いだった。作中で一番好きだったのは、「不知火半纏」だ。他にも「飯塚(いいづか) 食人(くろうど)」や「鶴喰梟」、もちろん「須木奈佐木咲」も好きなキャラだった。自分が関わりたいのは彼らであって、決して「物語」ではないのだ。遠目に見れたらそれでいい。

 

 

 

 所詮自分は異物(イレギュラー)に過ぎないのだから。

 

 

 

 

 

 そして検査を終え帰る和たちと一方で、分娩室では「黒神さん!」と叫ぶような声が聞こえたような気がするが、それは恐らく、多分、気のせいだ。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 黒神鳩が死亡し、黒神めだかが生まれたであろう日から数年後、和はめでたく「異常なし」と判断され、退院した。ちなみにその間、一度も黒神めだかにも人吉善吉にも、人吉瞳にも会っていない。

 

 

 そして現在、あのキャラと知り合い、仲よく(?)遊んでいた。

 

 

「にひひ。実に楽しいものだな」

「だろ?」

 

 

 和は十三組の十三人(サーティン・パーティ)裏の六人(プラスシックス)のリーダー、糸島(いとしま) 軍規(ぐんき)と知り合った。登場したにもかかわらず献体名と容姿しか明かされず、その異常(アブノーマル)も何なのかは謎のまま連載終了したいわゆる「謎キャラ」の一人だ。

 

 

 喜界島れぽーとあぶのーまるこれくしょんでは『とうそつたいぷ』と判断されたり、めだかブックスでも「マイナス寄りのスキルだったんだろうなあとは思う」と敢えて情報開示を防ぐ曖昧な表現がされていた。

 

 

 

 

 黒神めだか然り、箱庭学園然りと、どうやら異常(アブノーマル)同士は引き合う性質らしい。そういえば球磨川禊たち含む過負荷(マイナス)もお互いがお互いを認め合っていたように思う。箱庭学園理事長、不知火 (はかま)異常(アブノーマル)だけを隔離する十三組を併設していたが、その理由が自分が異常(アブノーマル)になって分かった。

 

 

 

   普通(カス)がそばにいるだけで不愉快だ。

 

   普通(ゴミ)は捨てたくなる。

 

 

 

 鶴御崎(つるみさき) 山海(やまみ)上峰(かみみね) 書子(しょこ)が言っていた意味がよく分かる。転生者という異分子も混ざっているだろうが、「自分は通常(ノーマル)とは違う」という感覚がとても強い。そんな異常(アブノーマル)通常(ノーマル)を同じクラスにしていたら一週間ともたずに学級崩壊、否、学校崩壊に陥るだろう。双子の妹の咲もスキルホルダーではあるが所詮通常(ノーマル)の域を出ない。可愛い自分の片割れではあるが、一生相容れることはないだろう。

 

 

 

 そんな気持ちが自分の中を巡って、ふと家を飛び出してきた。がむしゃらに走って着いた先が公園で、そこには一つのサッカーボールが転がっていた。

 

 

「…………」

 

 

 ふとそれを拾って辺りを見回してみたが、誰もおらず。仕方ないのでポーンポーンとリフティングしてみた。前世では十回もいかなかったが、今世ではいとも簡単に操れる。これも異常(アブノーマル)のせいか、それとも転生トリップの影響か。

 

 

 

「お? 誰だ?」

 

 

 声を掛けられたので振り向くと、まだ幼いが面影のある糸島軍規がいた。どうやらこのサッカーボールは彼のらしい。

 

 

 

 

 そうして今では二人でリフティングしている。――当人たちにとっては。

 

 

「いいかげん! あきらめたらっ、どうだ!?」

「はっ! その台詞、そっくりそのままっ、返してやるよ!」

 

 

 傍から見るとボールの軌道がすべて線になるほどのスピードで激しく蹴り合っているように見えるだろう。先天的だろうが後天的だろうが、異常(アブノーマル)異常(アブノーマル)だ。

 

 

「っあ!」

 

 

 そんなことを考えていると蹴り損なってしまった。それを見た彼は口元を歪ませた――が、甘い!

 

 

 

「うぉりゃ!!」

 

 

 異常性(スキル)を使いながら足を伸ばす。ありえない軌道を描いて足に当たったボールは今までより勢いを増して彼に飛んで行った。

 

 

 

「む!?」

 

 

 ゆっかり油断していた軍規はろくな反応もできないままボールに当たる。当たったボールは地面に落ちた。彼の負けである。

 

 

 

「油断大敵ってか?」

 

 

 先ほど彼が浮かべていたように口元を歪ませながら皮肉ってやる。俯いてプルプルと震えていたかと思うとガバッと顔を上げた。その瞳は爛々と輝いている。

 

 

「オマエすごいな! オモシロイな! 私は糸島軍規だ。お前は!?」

 

 

 矢継ぎ早に発せられる言葉に戸惑いつつも名を名乗る。

 

「須木奈佐木和だ。お前はすさまじい奴だな」

「そうか!? ありがとうな!」

 

 

 異常(アブノーマル)の中でも特出していた裏の六人(プラスシックス)。そのリーダーである彼の台詞に合った単語を使うと喜ばれた。意味を分かっているのか、それともただ単に褒められていると思っているだけか。おそらく前者だと思った。

 

 

 

 ――これが後に裏世界を牛耳る王、【死番長】となる糸島軍規と、世界をまたにかける天才犯罪プランナー、【狂(KYO)】となる須木奈佐木和の初遭遇である。

 

 

 

 





 あまり糸島君と知り合いの二次創作ってありませんよね。私は大好きです。

 最後の一文は何となく思いついただけです。糸島君の進路は明かされませんでしたし。くじらちゃんが言っていたようにパーティメンバーは全員フラスコ計画的な進路に進んだそうですけど。

 ほとんど全員スキルを成人前後で失ってますし、スキル使えば世界は牛耳れると思いますけど。一応糸島君も成人あたりでスキルは失います。でもスキルを悪用している人間を粛正する、ということで裏世界のドンにでもなればいいんじゃないかなと。元パーティメンバーですし。

 和君のスキルはもう少しお待ちください。糸島君の【死番長】は献体名から付いていますよ。



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第四箱 「支配者を支配すれば」


 ……難産だった。あまりいいエピソードが思いつかなかったのでゲストを使った。



 

 時は流れて中学生になった和と咲。二人はそれぞれ別の中学校に通っている。和は結界(けっかい)中学、咲は一升(ひとます)女子中学だ。箱舟中学に通おうかとも考えたのだが、小説版のジュブナイルがイマイチだったので却下した。それで、作中出てきた中学校の内から、一番面白そうなところを選んだのだ。全盛期の球磨川禊に会ってみたかったが、()るだけならいつでもできると思い、止めておくことにした。……一番の理由は、安心院なじみに会いたくなかったからなのだが。

 

 

 入学して一か月が過ぎたころ。妹の咲が部屋を訪ねてきた。

 

 

「……兄貴。ちょっといいか?」

 

 

 数年前から一人称が「俺様」になり、口調も乱暴になった咲。ああ、原作に近づいてきたと嬉しく思う反面、同時に兄としては不安になった。初めて呼ばれた「にー」から始まり、「兄さん」を経たのが「兄貴」になったのだ。呼ばれたときは泣いた。号泣した。勢いよくマスクを投げつけてしまったが仕方ないだろう。

 

 

「いいぞ。どうした」

「……ちょっと相談があってな」

 

 

 基本家ではマスクを外している咲だ。後の「ビーストアイドル」らしくいつもギラギラと野性的な雰囲気を醸し出しているが、珍しく今日はしおらしい。

 

 とりあえず部屋に招き入れて座らせる。自身も椅子から立ち上がり床に座った。

 

 

「…………」

 

 

 座っても口を開かない咲。時計の秒針の音がとても大きく感じる。

 

 黙って待つこと数分。ようやく口を開いた。

 

 

「……学校のことなんだけどよ……」

「一升女子中?」

「ああ」

「……楽しくない、とか?」

「いや楽しいぜ。楽しいんだけどよ……」

 

 

 尻すぼみになっていく口調。本当に咲らしくない。何かあったのだろうか。イジメられているわけではなさそうだが。

 

 

「クラスメートが……あ、蛇籠(じゃかご) (あき)っつーんだけどよ」

「……うん」

 

 驚かなかった自分を全力で褒め称えたい。なぜここで出てきた、蛇籠飽。

 

 

 

 

 須木奈佐木咲と同じくめだかボックス外伝、グッドルーザー球磨川にて水槽(すいそう)学園生徒会長として初登場。"遊酸素運動(エアロバイカー)"のスキルホルダーで、球磨川に螺子伏せられ入院。めだかボックス完結後のグッドルーザー球磨川完結編にて、咲に操作令状(エラーメッセージプレート)を体中に刺され再登場したが、またもやで螺子伏せられた残念キャラである。

 見た目や言動がお嬢様っぽかったが、まさか一升女子中に通っているとは思わなかった。黒神めだか含む主要キャラならともかく、外伝のメインキャラの出身中学なんぞ描写されていなかった。しかし数年後には咲に支配され、さらに球磨川に螺子伏せられるのかと思うとかわいそうに思えなくもない。

 

 

「(……まあまだ咲は操作令状(エラーメッセージプレート)を持ってないんだけど)」

 

 

 そう思いながら話を促す。

 

 

「ソイツはさ、クラスの中でも人気があるわけよ。美人だし、頭いいし、性格は……いいのかな。知らねえや。とにかく有名なわけ。んでその人気は学校中に広まってんだけどよ」

 

 そこで咲は一回区切った。深呼吸すると、再び口を開く。

 

「一年でもう学校中で人気だから先生も頼りにしてるらしくてさ。なんか生徒会選挙で会長に立候補するらしいんだ」

「一年で生徒会長に?」

「ああ」

 

 随分だなと和は思った。黒神めだかみたいな生まれながらの異常(アブノーマル)なら分からなくもないだろう。まあそんな彼女でも、支持率百パーセントは不可能だったが。そしてどうして咲はそれで悩んでいるのか、和にはわからなかった。

 

「いや俺様も別に蛇籠が生徒会長になろうがなるまいが知ったこっちゃねーよ?たださ、いくら有名だから、人気があるからって言っても、蛇籠はまだ一年なんだよな」

「それが不満なのか?」

「いや一年がやることに不満はねーんだよ。問題は、一年が生徒会長になることに二・三年が不満を持ってるってことなんだ」

「……なるほどね」

 

 ようやっと和は理解した。そうだ。思い出してみれば、咲の目的は「学園の平和の維持」だ。蛇籠飽が生徒会長になることに不満はないが、それによって先輩たちが荒れることには不満があるのだろう。彼女は支配者が誰であろうと、学園が平和であればそれでいいのだから。

 

「かと言って先輩方に人望があるかって聞かれるとはっきり『ねえ』って答えられるしな」

「だったら咲は、蛇籠って人に生徒会長になって欲しいって思ってはいるわけだ」

「ん? まーな」

 

 ……だとしたら、咲が悩んでいることは一つしかない。先輩たちの不満を抑えることができたらそれでいいのだ。

 

「……だったらさ。咲が学園を支配しちゃえば?」

「――はあ? 兄貴頭大丈夫か?」

 

 思いっきり心配された。近い将来妹が実際にすることなのに、こちらの心配をされては泣けてくる。

 

「俺様は生徒会長なんざしたくねえっつってんだろ?」

「いやそうじゃないよ。生徒会長には蛇籠さんがなればいい。――いや。ならせればいい」

「……どういうことだ?」

 

 訝しげにこちらを見る咲に、原作の咲みたいな顔で笑って言う。

 

「生徒会長っていうのは言うなれば学園の支配者だ。人望があるところを見ると、蛇籠さんは本当に支配者に向いているんだろう。……だが、恐らくそれ止まりだ」

「……つまり?」

「生まれつき誰かを支配するのに向いている人ほど、誰かに支配されるのにはひどく敏感だ。つまり、支配者を支配すれば、学園を思い通りに操れる」

 

 自分でもあくどい顔をしているなと思う顔で言ってやる。咲は目を丸くしていたが、しばらくして歯を見せて嗤った。

 

 

 ああ、『殺気姫』という名に相応しい、『ビーストアイドル』の異名に相応の。

 

 須木奈佐木咲の笑顔が、そこにあった。

 

 

 

 そしてこの出来事が、咲に、支配者を支配するスキル、操作令状(エラーメッセージプレート)を産み出すこととなったのだった。

 

 

 

 

 





 これから先およそ六年間咲ちゃんに支配されるのか、蛇籠飽さん。

 次回からは箱庭学園です!……まあまだ一年生なんだけど。


 クイズ、削除しました。


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第五箱 「……まさか! お前も!?」

 今回から箱庭学園編です。ただし、まだまだ原作とは程遠いです。ご注意を。

 ……いまだかつて、ここまで傍観に徹した「めだかボックス」の二次創作があっただろうか。知ってるか?未だに黒神めだかにも安心院なじみにも会ってないんだぜ?




 一つの学園都市ともいえるほど巨大な学園――箱庭学園。桜が舞い校門に立てかけられている「入学式」の文字。その前に立ち、校舎を見上げる一人の少年。

 

「……やっと来たんだ……」

 

 少年の名前は須木奈佐木和。この物語の主人公である。

 

「さ、行くか」

 

 

 

 

 高校選びの時に即決で箱庭学園を選んだ和。一方パンフレットを見てすぐに除外した咲。両者のベクトルは正反対に向いているようで実は同じ場所を指している。咲は「学園の平和の維持」、すなわち「平和な学園生活を送るため」。一方の和は「波乱に満ちた学園生活を送るため」、すなわち、持っている原作知識を優に活用して、「平和な学園生活の維持」に。それぞれ、水槽学園と箱庭学園に入学した。

 

「あ、あった」

 

 異常(アブノーマル)と診断されている和は、当然十三組に所属している。登校義務さえ免除された特別待遇にも程がある究極の特待生クラス――などと言えばまあ聞こえはいいが、実際は化け物中の化け物の隔離クラスである。

 

 そして、あくまで免除されているのは「登校」の義務だけ。「授業」は「登校」の一部に入るが、「生徒総会」は全校生徒が集まらなければいけない。そしてこの場合の「全員」とは通常登校義務のない十三組生も含まれる――と、生徒会則で言っていたように。

 

「『う』『わぁおっ』『猛烈ゥ――』」

 

 敢えて球磨川の真似をしてみた。が、それも仕方ないだろう。なんせ、箱庭学園新一年生、十三組生も含む全員が会堂に集められているのだから。

 

 そう、「生徒総会」の一つに数えられる「入学式」。この行事には十三組生も参加の義務が課せられる。通常(ノーマル)特別(スペシャル)異常(アブノーマル)が一堂に会するこの場のほとんど全員が、今すぐこの場から立ち去りたい、と考えている。特に十三組生は、登校義務が免除されていなくても学校という場所に進んできたがるような奴らではない。今この場に勢ぞろいしているのは奇跡だろう。

 

 

 しかし和の内心は。

 

「(うお、ヤベェ。屋久島先輩に鍋島先輩じゃん! あ、今は同級生か。あ、向こうにも!)」

 

 ……ミーハー丸出しだった。やはり二次元(マンガ)の世界に来た、という感動は、読者目線では味わえない高揚感がある。

 

 

 

 

 

 生徒会長や理事長のあいさつを終え、一年十三組の教室前にいた和。他の十三組生は、ほとんど全員帰ってしまった。

 

 

 しかし、十三組生の中にも比較的マトモな奴はいる。マトモ、すなわち「登校義務が免除されているにもかかわらず毎日登校する物好きな生徒」のことである。

 

 原作では黒神めだかや雲仙冥利があげられる。まあ彼らはそれぞれ生徒会長、及び風紀委員会委員長という箱庭学園内でも有数の重要職に就いていたのだから、学園に来去るを得なかったというのが正しいかもしれない。

 

 そしてもう一人。誰よりも派手で、誰よりも存在感があったがゆえに、誰もがその存在から目を逸らさずにはいられないほど、巨大で、強大で、大々的な――彼。

 

 

「――おっ?」

 

 教室の扉を開けると、そこには誰もいないはずの教室のど真ん中に位置する男。黒神くじら曰く、「センチじゃなくメートルで表現すべき生き物」。知られざる英雄(ミスターアンノウン)異常性持ち(スキルホルダー)である、日之影(ひのかげ) 空洞(くうどう)がそこにいた。

 

「――初めましてだな。俺は須木奈佐木和。よろしく」

「あ、ああ。日之影空洞だ。よろしくな」

 

 声を掛けて自己紹介すると驚いたような表情をした日之影。それは無理もないだろう。

 

 たとえ向こうが和を見つけた時に発した小さな声を和が拾ったとしても、それでもなお彼を目視することができず、彼を記憶することができない異常性(アブノーマル)、それが知られざる英雄(ミスターアンノウン)だ。気付かれるだなんて彼は考えたことがなかった。

 

「いやー誰かがいてくれて安心したよ。十三組生って、なんか気難しそうな人多いじゃん」

「そうだな。俺も誰かが来るなんて思わなかった」

 

 笑顔を浮かべて話し掛けると、向こうも笑って話に乗ってくれる。うん。これは確かにシャイじゃない。

 

 

 

「……にしても和。お前よく俺のこと見つけられたな」

 

 しばらく話してお互いに名前呼びする程度の中になると、空洞は自身の異常性(アブノーマル)の話題を持ち出してきた。

 

「え?……あ、もしかして空洞って幽霊だったとか? それとも見てはいけないモノだったりしたとか? だったらゴメン、前言撤回。俺は君のことを見てないことにしてねさよなら!」

「ちげーよ!」

 

 オーバーリアクションで一息で言い切った和を思いっきり心外そうに見る空洞。しかしそこに嫌悪はなく、むしろ仲のいい友達に向ける暖かな笑みを浮かべていた。

 

「……俺の異常性(アブノーマル)知られざる英雄(ミスターアンノウン)。誰も俺を目視することはできず、誰も俺を記憶することはできないはずだ」

「……え、ごめん。俺ちょっとよくわからないんだけど。もしかして空洞くん、自分の超空気体質に名前でも付けてるわけ? それなんて中二?」

「だからちげーよ!? お前も十三組生なら知ってんだろ!?」

「いやまあ知ってるけども」

 

 焦ったように反論してくる空洞にさも当たり前の返答をする和。もっとも、和の「知っている」は「(十三組生だから)知っている」もあるが、「(原作知識で)知っている」部分が多い。ほとんど全てのサブキャラが大好きだったマンガだ。転生して十余年、未だに知識は残っている。

 

「だったら空洞もわかるんじゃないか? 何で俺が空洞を見つけられたか」

「……まさか! お前も!?」

「そう! 君と同じく俺の異常性(アブノーマル)で見つけたんだ」

 

 和が転生トリップ特典としてもらった異常性と過負荷(スキル)言葉(スタイル)。もうすでに和は、自分のものとして使いこなせるようになっていた。

 

「俺の異常性(アブノーマル)――異常識的に考える人(コモンディヴィエイター)!」

 

 

 

 

 




 ついに明かされましたね、和君の異常性(プラススキル)。詳しい解説は後日。



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第六箱 「――いいよ」


 今回の話は原作アンチではなく二次創作アンチです。
 ご注意ください。

 前話の後書きに「後日」とは書いたが「次話」と書いてないところが作者のいやらしさを感じさせますね。

 ここらへんから独自解釈が酷いです。




 

異常識的に考える人(コモンディヴィエイター)……? どういう異常性(アブノーマル)なんだ?」

「それはだな……」

 

  ――ガラッ

 

 格好よく説明しようとしたら誰か入ってきた。誰だよ、物好きな十三組生(アブノーマル)は。

 

 扉の方を見ると、腰まである長髪に二本のアホ毛、痩せ形長身のどこかで見たような男子生徒がいた。

 

「おや? これはこれは。律儀にも教室に来る十三組生(ジュウサン)が僕以外にもいたとはね」

「……黒神、真黒(まぐろ)

「おや。僕のことを知っているのかい?」

 

 

 

 めだかボックスの主人公、黒神めだかの実兄にして、魔法使いとまで言われたマネージメントの天才。少年漫画やライトノベルに必要不可欠な要素の一つ、「シスターコンプレックス」を患っており、病的に、いや盲目的に妹二人のことを愛している、黒神真黒がそこにいた。マンガで登場した時はほとんどラフな私服姿ばかりだったので、箱庭学園の白い制服を着ているというのは何となく違和感がある。

 

「……ああ。いろんな意味で『知っている』よ。黒神グループの参謀サン?」

「はは、恥ずかしいね。まあでも一応自己紹介はしておこうか。黒神真黒だ。以後よろしくね」

「須木奈佐木和だ。よろしく」

 

 和は自己紹介をする――が、自分のすぐそばにいる空洞には目もくれず、声を掛けようとする素振りすら見せない。空洞も同じような態度をとっている。

 

「……おい、お前はしないのか?」

 

 自分のすぐ隣に座っているというのに先程から傍観を決め込んでいた空洞に向かって話しかける。しかし黒神も空洞も、二人とも何を言っているんだという目で和を見る。

 

「おいおい須木奈佐木くん。誰に向かって話しかけているんだい? この教室には僕と君以外誰もいないじゃないか」

「和、お前、覚えてるのか?」

「……ああ、知られざる英雄(ミスターアンノウン)か」

 

 空洞が和に話し掛けたことにより黒神も彼を認識できるようになったようで、目を見開いている。ほとんどのスキルを自身のスキルで打ち消すことができる和にとって、知られざる英雄(ミスターアンノウン)程度何の影響もない。しかし黒神や空洞にとっては驚きなのだろう。知られざる英雄(ミスターアンノウン)常時発動している(パッシブな)のだから。

 

「……これは驚いたね。君みたいな一目でわかる人物を見逃していたなんて……。失礼。黒神真黒だ」

「あ、ああ。日之影空洞だ。よろしく」

 

 驚きの顔であいさつし握手を求める黒神に対し、戸惑った表情でそれでもなお手を握る空洞。しかし知られざる英雄(ミスターアンノウン)は先述の通りパッシブであるため、少しでも意識を他にずらすと、すぐに彼の存在を記憶できなくなってしまう。だから――。

 

「……なあ。放課後さ、友情を深めあうためにカラオケでも行かねえ?」

「おや、いいね。おもしろそうだ」

「そうだな。物好き三人が集まったんだ。挨拶と自己紹介だけっていうのもアレだしな」

 

 

 そんなこんなで急遽決まったカラオケ。敢えてその描写は省くが、これだけは言っておこう。

 

 

 やはり和は、咲の双子なだけはある、と。

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 それから一週間。一年十三組の教室には、八時前には和が入り、十分後に空洞が、そしてその五分後に真黒が入る、という光景が見られていた。と言ってもそれぞれしていることは異なっている。

 

 和は廊下側から二番目一番後ろの席で常にパソコンをいじっているし、空洞は教室のど真ん中の席で黙々と授業を受けている。真黒はいる時といない時があり、学校に来ない時もあるくらいだ。

 

 時たま三人で一緒に帰るときもあるという、十三組生(ジュウサン)にも関わらず、ほとんど通常(ノーマル)と変わらない毎日を送っていた。

 

 

 

 しかしそんなある日、空洞が呼び出されたかと思うと、教室に帰ってくるなり和に言った。

 

「和。お前、生徒会に入らないか?」

 

 ……え、マジっすか?

 

 

 

 

椋枝(むくえだ)先生に頼まれたんだ。『生徒会長に立候補してみないか』って」

 

 ……まああの先生はそういうこと頼みそうだよね。二人とも相性は合いそうだし。

 

 

 

 椋枝 (しきい)。めだかボックス小説版上巻で名前と台詞のみで登場。下巻にてその容貌を曝し、物事を引っ掻き回す不知火半袖と、選挙管理委員委員長大刀洗(たちあらい) 斬子(きるこ)にさとされて黒神めだかを応援。「未来へのブーケトス」編にて再登場した、日之影空洞が生徒会長を務めた際の生徒会顧問であり十三組担任教諭である。

 

 実は現在の一年十三組の担任が椋枝閾であり、それゆえ和と空洞の二人は毎日顔を合わせている。だからこそ、椋枝は生徒会長に空洞を推しているのだろう。物語の上では、たった二人で生徒会を動かしていたのだから。

 

 

 そう、物語では。

 

 

 この世界には和ガイル。高確率で原作には登場しなかっただろうが、いなかったとも言い切れないオリ主。それが須木奈佐木和である。「自分がいる時点ですでに『物語』は外れているのだから好き勝手していいよね」とよく言うが、和は登場しなかったからこそ恐れている。自分の記憶が当てにならなくなった時点で、この世界における死亡フラグとは、常に隣りあわせなのだから。神ことアガミネは言っていた。「あの世界の役割はすでに終わっている」と。つまり、これはある種の演劇なのだ。

 

 

 「めだかボックス」という一つの演劇(原作)に、自分という転生者(イレギュラー)を混ぜたにすぎない、簡単な物語(二次創作)

 

 

 別にここがマンガの世界だとは、和は露ほども思ってはいない。しかしそれでも、和は時々考えてしまう。

 

 

 別に俺がいなくても世界は周るんじゃね?

 

 

 

 安心院なじみのシミュレーテッドリアリティと似ているだろう。しかし和の場合は少し違う。

 

 

 安心院なじみは自身がいるこの世界がマンガの世界だと信じていた。

 

 須木奈佐木和は自身がいるこの世界がマンガだった世界だと知っている。

 

 

 両者の違いは小さいように見えて実はとても大きい。安心院なじみは、自分の感性を黒神めだかに「シミュレーテッドリアリティ」だと断定された。つまり、自信の持てなかった突拍子もない想像に、他者から強制的にそう思わされることで救われることができたのだ。

 

 しかし和はどうだろうか。

 

 彼はもうすでにこの世界が漫画の世界だと知ってしまっている。西尾維新原作、暁月あきら漫画、週刊少年ジャンプに連載されていた「めだかボックス」の世界だと知ってしまっているのだ。

 

 つまり、いくら神からこの世界の役目は終わっていると言われても。黒神めだかに「シミュレーテッドリアリティ」と診断されても。

 

 和は永遠の傍観者を貫くことしかできない。

 

 自分がいてもいなくても、、黒神めだかは雲仙冥利にも都城(みやこのじょう) 王土(おうど)にも球磨川禊にも安心院なじみにも。所謂「ラスボスキャラ」には勝つだろう。なぜなら彼女は主人公なのだから。

 

 たとえ自分が原作に関わっても関わらなくても物語は進むし世界は周る。雲仙冥利は自分の正義を貫き、都城王土は理不尽を強い、球磨川禊は誰の思い通りにもならず、安心院なじみは物語を引っ掻き回すだろう。

 

 

 では、自分は何をすべきか?

 

 

 演劇(物語)に必要なのは舞台と役者だ。そうして和が出した結論が。

 

 

  『物語の中に登場する永遠の傍観者』

 

 

 いてもいなくても同じ役どころである。物語にほとんど関わらず、それでいて物語を傍から眺めるのに必要不可欠な傍観者(ナレーター)。和は自分をそう役づけた。

 

 

 

 だからこそこの申し出には戸惑った。和としては、役員を引き受けてそれでいて仕事放棄だなんてしたくはない。しかし引き受けたら確実に原作が変わる。「原作知識」というのは一種の未来予知にもなるものだし、和としては自分が入ることで黒神めだかや安心院なじみに余計な詮索をされたくなかった――が。

 

 

  『どうせ自分がいるだけで原作とは異なる世界だ。だから好き勝手に生きよう。』

 

 

 

 

「――いいよ」

「いいのか?」

「空洞から聞いてきたんじゃん。あ、でもあまり面倒くさくない役どころにしてね」

「おいおい……」

 

 

 ――そうして、第九十六代生徒会が発足した。

 

 

 





 九十五→九十六 に直しました。原作読んでたら勘違いに気付きました。

 第九十八代が黒神めだかでそのまえが日之影空洞ですね。でも三年生は立候補できないらしいから空洞が三年生になった直後はまだ九十七代目。それは二年生から続いているから一年時には九十六代目。申し訳ありませんでした。


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第七箱 「副会長……」

 今回はいつも以上に短いです、すみません。

 とりあえず第一箱から見直してミスを直しました。


 

 目安箱(めだかボックス)。原作のタイトルにもなり、かつ主人公の黒神めだかも設置した有名な箱のことである。

 

 黒神めだかは椋枝教諭に言われて目安箱を設置した。彼は不知火半袖に諭されたことで、黒神めだかが、後出ししかできない女だと知ったから。

 

 しかし、それまでは日之影空洞を推していた。彼が空洞を推す理由はただ一つ。

 

 

 変化を嫌っているから。

 

 

 未来より現在、次代より現代。保守的な考え方をする椋枝教諭にとって、日之影空洞はうってつけの生徒だったのだろう。学園を変えずに、それでいて平和にする、というのは、空洞にとっても自分に合った話だと思ったようだ。

 

 

 和は知らなかったが、空洞は中学時代から「正義」を重んじていた。それこそ、週刊少年ジャンプに連載されている人気漫画「ONE PIECE」の登場人物である赤犬のように。もっともこの場合は比喩であり、赤犬ほど徹底的な、淘汰的な、排他的な人物だったかと聞かれたら、当然答えは「否」である。しかし遠からずとも、空洞も力で異分子を排除してきた節はあった。

 

 

 そんな二人が生徒会にいるのだ。日之影空洞の掲げるマニフェストは「学園の平和の維持」。この場合の「維持」とは「悪をできる限り排除する」ことである。

 しかしここで重要なのは、「悪の性悪性を変えてはいけない」ということだ。

 

 椋枝にとって「悪」とは、須らく悪なのである。それが「善」に変わるなどとは思っていない、否、変わってはいけないと考えている。同様に、空洞は変わるわけがないと考えている。前者は人間性の変換の否定から、後者は差別と偏見から。

 

 

 

 そんな二人の演壇に、和が土足で立ち入ってどうなるかというと――。

 

「空洞。これ、今年度の部活動新入部員名簿」

「もう出来たのか」

「これくらいならね。一応俺は副会長(・・・)だし」

 

 特に何かが起こるわけもない。前世の性格はともかく、今世の和にとって椋枝の考え方は性に合っているのだ。椋枝は学園、及び人間性の変化を、和は原作の変化を。それぞれがそれぞれを変えたくないと思っている。意味は違えど二人とも変化を嫌う所が合ったのだろう。比較的好印象で見られていた。

 

 

 見事生徒会長に就任した空洞だが、和としては「よく過半数超えたな」という心情である。

 

 原作でも生徒会長職に就いていた空洞だが、考えてもみてほしい。知られざる英雄(ミスターアンノウン)異常性(スキル)があるのに生徒会演説や選挙運動に出たとして、学園の生徒たちに記憶されるのかどうか。

 

 答えは否。

 

 自分でコントロールできるのは強弱のみで、オンオフはできない体質(アブノーマル)、それが知られざる英雄(ミスターアンノウン)である。つまりどう考えても、日之影空洞に票が集まるのはおかしいのだ。それこそ、立候補者が空洞一人などではない限り。

 

 そこで選挙運動を手伝う和の出番である。和の異常性(スキル)異常識的に考える人(コモンディヴィエイター)

 

 

 異常識的に考える人(コモンディヴィエイター)。その全容は、「常識を覆すスキル」である。人体の常識や物理的な常識はもとより、筋肉量や脳構造や解剖学的に不可能な行動。偉業ではなく異常を成し遂げることができる異常性(スキル)、それが異常識的に考える人(コモンディヴィエイター)だ。

 

 今までで例を挙げるとすると、「ボールの軌道」や「知られざる英雄(ミスターアンノウン)の特性」という常識(・・)を覆してきたのだ。もっとも和は初めから、自身に罹りうるあらゆるスキルを異常識的に考える人(コモンディヴィエイター)で打ち消しているため、日之影にスキルの影響が受けにくかったのもある。

 

 このスキルを応用し、知られざる英雄(ミスターアンノウン)があるにもかかわらず、その圧倒的な存在を、一般生徒に植え付けたのだ。

 もちろん選挙終了、生徒会長就任後に記憶が薄れやすくなっているため、またすぐ忘れてしまう。自分たちが投票し選ばれた生徒会長が誰だったかということすら忘れてしまうのはどうかとも思ったが。

 

 

 現在生徒会役員は、空洞と和の二人だけである。役員演説により増加を呼び掛けたのだが、当然ながらにして知られざる英雄(ミスターアンノウン)で記憶はオールカット。今の生徒会長の顔も名前も記憶していない生徒では、生徒会の仕事もままならないだろうということでたった二人で回している。基本的に肉体労働は空洞が、頭脳労働は和が担当しており、今のところ不備や遅れはゼロなので、一応は教職員方も納得してくださっているようだ。

 

 

 ちなみに和が副会長職を担っているのには理由があり。

 

『和、役職何がいい?』

『会長の手伝い』

『役職名で言え』

『えー、……んじゃちょっと腕章貸して。全部』

 

 そう言って手を差し出すと、空洞は眉をひそめた。訝しげな表情をしながらも、置いてある残りの腕章五つすべてを渡してくれた。

 

 目を瞑りながら後ろ手にシャッフルして、コレ! と思うやつを上に掲げる、と。

 

『副会長……』

『……いいのか、それで』

『……まあ、運を天に任せた結果だし』

『……そうか』

 

 そうやって副会長になったのだ。他に役員がいないからこそできる手であり、歴代見ても運で決められた副会長など和くらいだろう。

 

 実際やっていることは会計や書記の内容も含まれているので、副会長という職は意外と和に会っているのかもしれない。

 

 

 




 次回からオリジナルエピソードマジ2000%でいきたいと思います。


 ここでちょっとした設定裏話をば。
 めだかボックス外伝、グッドルーザー球磨川の登場人物には名前が漢字一文字、という縛りが原作者によってかけられているんですが。
 二次創作でもそれは守らなきゃねということで、何かいい漢字がないか探していたんですが。

「主人公が《咲》だしなあ……音が『ai』は捨てがたいんだよね」

 ってことで《なぎ》になりました。現実的にもありそうだし。

 さて、ここでまた別の問題が発生。漢字を何に充てるか。
 初めに思い付いたのは《凪》なんです。が。

「これだと某復活! の髑髏ちゃんとかぶる!」

 ってことで《和》になりました。

 後から考えると和と咲で何か繋がってるしGJ俺! とかって思いました。

 ……よくよく考えると、作中に一人『なぎ』が入る人、いるんですけどね。漢字もほとんど似ているあの人(・・・)が。


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第八箱 「……ゴメン。SMプレイは趣味じゃないんだ」

 だいぶ短編形式になってきた。更新はそろそろ止まりそう。

 創作モノってことでいろいろ捏造してます。主に会則とか。


 五月。新入生歓迎会や部活動紹介などの行事も一段落し、世間一般で言う「五月病」が蔓延る中でも、生徒会業務は行われる。

 

「あ、これも新部活動申請書だ」

「おい、これで十二枚目だぞ」

 

 原作で人吉と阿久根の二人が倒れていたように実に様々な業務があるが、一番大切で一番面倒くさくて一番大変なのは事務処理である。毎日のように学園内のあちこちで何かしら事件が起こる箱庭学園なので、修理要求や不備申請などがあふれている。しかしこの時期に多いのが「新しい部活動を造りたい」という要求である。

 

「今度は何部だ?」

「リー部21」

「は?……殴るぞ」

「やだなあ、ちょっとしたジョークじゃん。『骨法部』だってさ」

「……それもジョークか?」

「いや、マジ」

 

 骨法。当身技を主体とする徒手武術のこととされる。ただし、隠し武器術である「骨法」(「強法」とも呼ばれる)や柔術の一部ではない、「骨法」という名称の独立した徒手格闘術が、日本武術の中に存在していたと主張するのは堀辺正史の系統のみである。ばいうぃき!

 

 ちなみに原作で人吉善吉が部活動荒らしのときに存在した部活の一つである。和はこれを見たときに検索していたりもする。

 

「また誰も知らねえような部活作らせる気か? 今いくつあんだよ」

「運動部が百八十二種、文化部が六十九種あったり。あ、ちなみにこの数値は今年新設されたのは抜きで」

「和……お前、よく知ってんな」

「いや。検索(・・)かけただけ」

「は?」

 

 単純なスキルの応用であり、「部活動の種類が多すぎて総数を知らない」という常識を破っただけに過ぎない。自分が神に頼んだスキルながら、その応用は計り知れないと和は若干驚いていた。

 

「……まあ申請してるんだから生徒会(コッチ)としては対応するが……。和、人数は大丈夫か?」

「うん。ちゃんと二人いるから」

「よし。んじゃまあとりあえず……」

 

 そう言って空洞は認証印を押した――骨法同好会(・・・)の書類に。

 

 

 箱庭学園学校則 第92条に「部活動を結成する場合には、同好会として、二名以上の会員で三ヶ月以上活動したのち各役員名、顧問教員名および部活動内規を、あらかじめ書類でもって議会に提出し議会の二分の一の同意を得なければならない。廃止の場合は内規をもってこれに準ずる。」というものがある。つまり最低二人と顧問教員がいれば、新部活動申請として同好会を立ち上げることができるのだ。そして立ち上げられた三か月間で相応の活動が挙げられれば部に昇格でき、晴れて部活動として名を連ねることができる。

 

「よし。んじゃ次は――」

「あ、また申請だ」

「……」

 

 

 そうこう繰り返し、結局今年度だけで運動部十六種、文化部七種が増えたことにより、箱庭学園部活動の総数が二百八十種を超えた。この分だと来年には三百種超えるだろうなと和は少しばかり気分が高揚していた。

 

「次は――」

「備品の不備だな」

「……」

 

 その高揚感も一瞬にして霧散した。十三組生ならず生徒会役員も授業は免除されるため、一日のほとんどを生徒会室で過ごすと言っても過言ではない。主に書類の整理が九割を占めているが。

 

「松島や ああ松島や 松島や」

「いきなりなんだ?」

「いや、ふと浮かんだだけ。意味はない」

 

 意味をつけるならこの場合は「あゝ、無情」の方がいいかと思った和だったが、そんなことをしている時間はないと目線を書類に戻す。ああ、生徒会って大変なんだな……と今更ながらに思う和だった。

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 一区切りまで仕事を終えると和は先に生徒会室を出る。書類のほとんどに空洞の会長印が必要になるため、和は空洞よりも仕事のペースを上げる必要があるのだ。

 

 ほとんど生徒会室にこもりっきりの二人だが、朝・夕のHRには必ず顔を出している。……もっとも今までに顔を出しているのは言わずもがな和と空洞、そして大体毎日どこかに消えている真黒の三人のみ。

 

 だったのだが。

 

「む。お前、十三組生(アブノーマル)か?」

 

 うーわー。何でこの人が来てんのさ。

 

 和は目の前の男を口を開けてみることしかできなかった。

 

 

 

「……ふむ? お前、偉大なる俺を前にいつまで立っているつもりだ?」

 

【跪け。】

 

 

 ・ ・ ・ 。

 

 

「……ゴメン。SMプレイは趣味じゃないんだ」

 

 かけられた命令にそう返すと、彼は驚いた表情の後に口の端を上げた。

 

 そう、なぜか今日教室にいたのはめだかボックス中二人目のラスボス、都城王土である。

 

 

 

 都城王土。「十三組の十三人(サーティーン・パーティー)」の一人、《創帝(クリエイト)》にしてフラスコ計画編の大ボス。異常(アブノーマル)な黒神めだかよりも異常(アブノーマル)十三組生(アブノーマル)として君臨し、最終的に土下座をして役目終了、その後も生徒会戦挙編にて音頭をとったり体育祭にゲストとして帰国したり、結果的にはグッドルーザー球磨川完結篇にまで登場した俺様何様王様キャラである。

 

 

 ほとんどすべての創作モノに出てくる俺様傍若無人キャラだが、自分のことを『俺。』としてしか考えていないキャラは珍しい。彼こそが本当の自己中心的な人物だと和は思っていた。

 

 むろん作中キャラでは好きな方だったし、同じクラスだったからまあ何時かは遭うだろうなとは思っていたが。

 

「(もう遭っちゃったよ、オイ)」

 

 まだ入学して一か月しか経っていない。いくらフラスコ計画に参加しているからって、わざわざ教室にまで来ることはないだろうに。

 

 しかも初対面にして「跪け。」とはこれまた原作らしい。彼の真骨頂その一、「言葉の重み」をいきなり仕掛けられた。

 

 他人の心を操る――正確には他者の電磁波に干渉・操作する都城王土は、初対面にして人吉善吉や黒神めだかにも言葉の重みを使用していた。まるで他人が自分の思い通りになるのが楽しいように。

 

 

「……お前」

 

 何やら呆然としている都城。なにかおかしかったのだろうか。

 

 和が疑問に思っていると何やら面白そうな目で見てきた都城は、再び口を開けた。

 

「……ふむ。おもしろいが……まあいいか。今度は本気で言くぞ」

 

【平伏せ。】

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。

 

 

「……嫌だ?」

 

 疑問形だがこう返してしまっても仕方がないだろう。和には今何が起きているのか、何かされているのかさっぱり分からないのだから。

 

「これは……」

 

 目の前の和に対して言葉を失っている都城。一方の和は先程から首をひねってばかりであったが、ふと思い出して口を開いた。

 

 

「初めましてだよね? 俺は須木奈佐木和。和って気軽に呼んで」

「……ふむ、面白いな。偉大なる俺を目の前にしてだがまあいいだろう」

 

 

 またしても知り合った和は、都城王土と名前で呼び合うくらいに親しくなっていた。

 

 そしてふと気になった疑問をぶつけてみたのだが。

 

「王土。何で俺を呆然と見てたの?」

「……(おれ)圧政(ことば)に表立って逆らったのは(お前)が初めてだ」

 

 

 ……え゛。マジで?

 

 

 

 




 二次創作だし都城君のハジメテを貰ったっていいよね!……あれ。何か卑猥。

 リー部21の件、知ってる人いますかね。アニメ化された授業さぼり漫画のおまけページです。


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第九箱 「……やっぱ邪魔だなァ、黒神めだか」

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 驚きの新事実を目の当たりにしたとき、人間というのは一時的に思考が中断してしまう。そしてそれは、和も例外ではなかった。

 

「……へえ、それはそれは。んじゃあ君のハジメテを貰ったってことでいいのかな?」

「いいわけなかろう」

「痛い痛い、冗談だからね、冗談だから。その俺の頭を握りつぶさんとばかりに力の込められている右手をどうにかしましょうかというか放して下さいごめんなさい」

 

 大嘘憑き(オールフィクション)じゃないんだから俺のスキルじゃ生き返らないんだよ多分、と思いながら右手を開放するように頼む。常識を逸脱するのだから不死か不老かはたまた死者蘇生か。どれか、もしくは全て出来るのかもしれないが、実験してみたことはないししてみたくもない。京が一にも死んで終わりだったら転生前より生きた時間短いじゃないか。自分のスキルの効力がどれくらいなのかわからない和にとって、大嘘憑き(オールフィクション)を持っている球磨川が来るまで早々死ぬつもりはない。いや来ても死にたくはないが。むしろ殺されそうだが。

 

「……にしてもハジメテ、か……」

「ああ。それがどうした?」

 

 そう言われていや、と返しながらも原作を思い返す。都城王土が行橋(ゆくはし) 未造(みぞう)と出会ったのは何時だったのだろうか。

 

 出会いのエピソードはもちろん回想シーンでしかない。喜界島(きかいじま) もがなとの勝負でのあのシーン、行橋と王土との初めての出会いはゲームセンターだった。

 

 人生に絶望しかけている――正確にはしていたのだろうが――行橋は王土と出会うことで救われた。それは間違いないだろう。

 

 ではいったい何時出会ったのか。

 

 思い返してみると描写はなかった。「ある日」とか昔話的な描写しかなされていなかったように思う。……とすると。

 

「なあ王土。お前、心を読む人間に会ったことあるか?」

「? いや、ないが。王である俺以外に心を操る人間がいるのか?」

「いや、この場合は操るんじゃないんだけど」

 

 そう言いながらも思いつく限りの簡単な情報を提示していくと、案の定彼は面白そうに口を歪ませた。

 

「ほう。そんな奴がいるのか」

「うん。多分ゲーセンにでもいるだろうから探してみれば? ある種の有名人らしいし」

「そうだな。では行ってくるとしよう。和、褒めて遣わす」

 

 顔に手を当てて自分を指差してくる王土に、少なからず歓喜をおぼえた。いやMじゃないけど。

 

「行ってらっしゃーい……」

 

 オイ、HRに顔出しに来たんじゃないのかと思いつつも後姿を見送る。あれ、これ俺教えてよかったのかなと後から考えてその思考を放棄した。どうにでもなれ。

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 膨大な敷地面積を誇る箱庭学園。フラスコ計画なんてトンデモ実験を行っている非人道的な学園ではあるが、それを知らない通常(ノーマル)特別(スペジャル)には全く関係ない、それどころか自分の望みや夢をかなえるのに最適な学園だと考えるだろう。

 

 そして学園である以上、学校行事は多数存在する。原作で言うと、体育祭や文化祭などがそうだ。

 

 また描写はなされていないが、遠足や修学旅行といったイベントも存在する。

 

 存在は、する。

 

「……和、お前良かったのか?」

「何が?」

「いや……、遠足」

 

 五月某日、この日箱庭学園の全一年生は古都に遠足に行くことになっていた。全員、すなわち通常(ノーマル)特別(スペジャル)はもちろんのこと、十三組生(アブノーマル)も含まれる。しかし空洞と和は生徒会の仕事上、また十三組生(チームトクタイ)としてからも同行していなかった。

 

 もともと十三組生が学校行事に積極的かと聞かれたら、答えは当然否である。大刀洗斬子の立ち上がりを見たいなどという特別なことでもない限り、自分の利潤や興味を引かない事項に十三組生は動かない。

 

 空洞が仕事を一人で引き受けるから行ってきてはどうかと言われた和だが、当然彼一人に任せるわけにはいかないと考えた。運で適当に決まったとはいえ、曲がりなりにも和は副会長なのだ。

 

「行きたかったら一人でも行くし、空洞一人には任せられないよ」

「……サンキュ」

「いいえ」

 

 顔を綻ばせながら笑った空洞に、不覚にも和はキュンときた。ヤバイ、どうしよう。自分よりも図体の大きい、しかも男を可愛いと思う日が来るとは思わなかった。

 

 あれ、これBL? ボーイズでラブってる? とも思ったが、あくまでこれは友情だろうと思い直した。これはいわゆるあれだ。大型犬を可愛がるのと同じことだ。

 

 そう思いながら手元の書類に目を落とす。黒神めだかは本編でたくさん事件を解決していたが、実はあんなに頻繁に事件は起こらない。苦情や修理はまああるが、生徒会にそこまで仕事を回さない、というのが一つの考えでもある。

 

 主人公補正ではないが、やはり黒神めだかは主人公なのだろう。彼女が立ち回らなければ、箱庭学園は平和そのものなのだ。

 

 

 そう考えると、やはり和も椋枝教諭と同じ考えの持ち主だということが分かる。彼女は人間の「個性」を変える。その人間の「本質」を変える。そして二人とも、その変化に嫌悪を抱いている。

 

「……やっぱ邪魔だなァ、黒神めだか」

「? 何か言ったか?」

「いや、何も」

 

 人当たりのいい笑顔でそう返すとそうか、と言って目線を下に戻した。

 

 ああ、いっそのこと全てを滅茶苦茶にぶち壊したくなる。

 

 中学時代の破壊臣を考えて、和は自分を嘲笑した。

 

 いつか自分も、黒神めだかに改心されられるのだろうか。

 

「……それは嫌だなァ」

 

 たとえこの世界が彼女を中心に回っていたとしても。いくら彼女が正しいとしても。

 

 須木奈佐木和は一生彼女を好きになれないだろうと思っていた。それは彼女が「黒神めだか」であり「『めだかボックス』の主人公」であり。

 

 他人を改心させる存在である限り。

 

 和と一生相容れることはないのだろう。

 

 

 




 BLタグは念のためです。別に男性キャラと恋愛するわけないです。あくまで友情です。
 「めだかボックス」で主人公が苦手でサブキャラが大好きな私。これからもそういう路線で進めます。

 若干だれてきましたね。次書く内容は決まってますがしばらく潜って質あげるので、次はちょっとあきます。ご了承ください


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第十箱 「日之影空洞――生徒会長だ」

 一か月あいてしまった……orz、すみません。最近「黒バス」熱がちょっと……。

 始めてみました、競泳部編。完璧捏造+解釈の螺子曲げ。下手な文章なので分かりづらいと思いますが、ご了承ください。


 競泳部。

 

 特別体育科の三人、喜界島もがなと種子島(たねがしま) (そつ)、そして屋久島(やくしま) 有無路(うむみち)の三人が所属する部活である。中でも彼ら三人は「三匹のトビウオ」とも呼ばれており、箱庭学園史上最も金に執着していた――

 

 

 ――と言ってもそれはあくまで彼らだけ(・・)であり。

 

 勘違いして欲しくないのは、彼ら以外にも競泳部員はおりしかもちゃんと部として活動している、ということである。

 

 

 

 

 

「競泳部から相談?」

「ああ。入部した一年が好き勝手やって困っているらしいな」

 

 そこまで聞いて和には、一人の生徒(キャラ)が浮かんだ。

 

 話を聞くと、今年新しく入部した一年生――屋久島有無路が、実力を持っているにもかかわらず「賞金が出ないから」という理由で大会に出場しないと言っているらしい。それだけならまだしも、他校から金を貰って他校の選手として出場したり、あろうことか独自に賭けレースまでしているとのことだ。それを聞いた和は「ああ、やっぱり」と思った。予想通り過ぎて笑えてくる。

 

「……っていうか部活動の面倒事まで生徒会って引き受けてんの?」

「あまりにひどい時はな。イジメとか」

「いやそれはイジメじゃなさそうだけど」

「まあいいじゃないか。少しでも学園生活をよくするのが俺たち生徒会だ。たまには生徒の不満も請け負わなくちゃな」

 

 ああ、その笑顔が眩しいです。別に目安箱は設置してないのにと思いつつも他の書類を整理し終えているので腰を上げる。ああそういえばプールでの苦情はもう一件あったっけ……と考えながら向かう足取りは重い。

 

 

 向かいながら和はふと屋久島の処遇を考えてみた。黒神めだかが入学し、さらに生徒会を執行するまでにはまだ時間がある。逆に考えると、それまでは「屋久島たちは救われるべきではない」のではないだろうか。

 

 原作で黒神めだかに掬われた――救われた喜界島もがなであるが、彼らの先輩である種子島率と屋久島有無路まで救ったかと聞かれると、和としては「救ってないんじゃね?」という感想が出てくる。

 

 黒神めだかに心動かされたのは事実と言えども、彼らの根本的な感情である「金が一番大事」というものは変わっていない。黒神めだかが変えたのは「命よりも金が大事」という思想である。

 

 喜界島もがなは肉体的な意味でも精神的な意味でも黒神めだかと人吉善吉に助けられた。しかし、屋久島たちはどうだろうか。

 

 彼らの金への執着心は並大抵ではない。それがたった一人の人物による叱咤だけで簡単に消えるはずがない――

 

 

「お、ここだな」

「まだ部活中だよね?」

「ああ、そのはずだが」

 

 鍵は開いているので中には人はいるだろう、そう思った二人は足を進めた。

 

 

 案の定そこには大勢の水着姿の少年少女がいた。しかしなぜか全員が全員プールに入っておらず、しかもどうやら怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「何だと!?」

「だから言ってるじゃないですか。俺は泳ぎませんって。俺を泳がせたきゃ札束持ってきてくださいよ、一応同じ学校に通う先輩として、安くしてあげてるんですよ?」

「ふざけるな! 25メートル当たり1250円って何だ! お前はこの部に入ったんだろうが!」

「ええ、入りましたが。それが?」

 

 ……どうやらまさに現場に来てしまったようだ。構図的には、一人の少年を怒っている部員に他の部員が加勢している、というところだろうか。まあ屋久島先輩――今は同級生か。でもやっぱり先輩付けのほうがしっくりくる――は原作ではサラッと書かれていただけだがそれなりにすごい選手だったらしいし。そんな彼を手に入れた競泳部としては手放したくない、でもお金は払いたくない――というか払う理由がわからないのだろう――といったところだろう。……というか一メートル当たり50円って法外だな、怒る理由はわからんでもない。

 

「箱庭学園は部活動が盛んだと聞いていましたしそれでここに来たのも事実ですね。そして特待生枠で入ったのも事実ですし、特別体育科に所属しているのも事実です」

 

 仰々しく体を動かしながら理由を羅列していく屋久島に、部長と思しき青年は若干怯んでしまう。

 

「そして箱庭学園の特待生は特待を取った部活に所属しなければいけない、だから俺は競泳部に入りました。――しかし」

 

 ゆるりと笑って部長のほうを見やった屋久島は続けていった。

 

「活動の義務は――ありません」

 

 

「~~~~んだと!?」

「――そこまでだ」

 

 続けられた言葉に激昂した部長が殴りかかろうとした時、隣に立っていた空洞が速やかに移動し部長の拳を自身の手で受け止めた。殴りかかった部長も屋久島も、その他大勢の部員も。皆突然現れた巨漢の男に驚きを隠せないでいる。なぜ自分はこれほど存在感のある男の接近に気が付かなかったのか。バトル漫画ではないが、そんなセリフが頭を過った。

 

「な、誰だ!」

「日之影空洞――生徒会長だ」

 

 誰よりも圧倒的な手腕を誇る箱庭学園が誇る生徒会長、日之影空洞が君臨した。

 

 

 

 

「……生徒会長? なぜここにいるんだ?」

 

 固まってしまった部員と部長を他所に、一番回復の早かった屋久島有無路が尤もらしい疑問を口にする。その声に意識を取り戻した部長は握られている拳を戻そうとするが、強く握られてしまい離れなかった。

 

「な、何のつもりだ! 生徒会長は関係ないだろう!」

「俺としても部活の事情に口は突っ込みたくないんだが……悩みある生徒を助けるのも生徒会の仕事ではあるんだな、こりゃ」

 

 ――さすが「英雄」。言っていることがそのまま「主人公」である。この勇敢さを黒神めだかは引き継いでいくのだろうかと考えた和は口元を緩ませた。おもしろくなりそうじゃないか。

 

 ――巻き込まれてみるのも、案外悪くないかもしれない。和はゆっくりと、部員たちのほうに足を進めた。

 

 

 

 




 ――というわけで続きます、ハイ。まあでもなんだかんだ言っても黒神めだか(主人公)が嫌いな和くんですから黒神めだかには巻き込まれたくないでしょうね。「日之影空洞だからいい」みたいな考えがあると思います。



 この話を思いついたのは原作を読み返していて気づいたことがあったからです。

 二巻の不知火ちゃんのセリフは「何せ箱庭学園の競泳部には金にうるさい三匹のトビウオがいるからさ!」でした。そして思いついたこと。

「アレ? じゃあ三人以外にも部員がいるかもしれないよね?」



 ……と、思ったのですが。

 さらに読み返すと十二巻のおまけボックス、「競泳部出向」で大勢の競泳部モブキャラがいました! ……orz。ま、だったら問題ないよね!

 次はまたちょっとあきますかね。すみません。この作品は忘れたころに次話が更新されるんだぜ!


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第十一箱 「ちょっといいか?」

 出したくなかったけどオリキャラ名を出さざるを得なくなってしまった。文才がない自分が憎らしい。


「……で、相談をしたのは誰だ?」

「あ! わ、私です」

 

 空洞が口を開くと固まっていた女生徒の一人――副部長である甑島(こしきじま) 神輿(みこし)がおずおずと控えめに手を上げる。周りの全員の目が彼女に向いたことで体を小さくしてしまい、部長である男は眉を吊り上げて怒鳴った。

 

「おい、神輿! なんでお前っ」

「だ、だって……入部してくれた以上は同じ部の仲間だし……いつまでも、その……部の空気が悪いのは……ちょっと……」

「だからってお前な!」

「はいはーい。ちょおぉっと落ち着きましょうね~」

 

 部長が殴りかかろうとしたので止めに入る。態と明るい声で振る舞った和を、周りのほとんどの者は困惑の表情で見ていた。

 

「誰だよお前!」

「箱庭学園第九十六代生徒会副会長職を担っている須木奈佐木和です。以後、お見知りおきを」

 

 お前も生徒会!? と驚愕の表情をしている男と周りに、和は笑顔で肯定した。

 

 と同時に複雑な気持ちでもあった。

 

(え、何? 空洞が生徒会なのは認められても俺が生徒会役員なのには驚くの? どこに驚く要素があるのさ)

 

 空洞の選挙活動を手伝ったり役員演説を代わりに務めたりと空洞よりは社交的なはずの和が、自分の顔と役職を覚えられていないことに地味にショックを受けていた。

 

「……で? 生徒会とやらのアンタ等は副部長の依頼を受けてきたってことか」

「はい。本来なら生徒間の揉め事は生徒間で穏便に解決してもらうのですが……どうやら解決できない、と判断されたようなのでこちらに依頼が来ました」

 

 その発言を聞いて部長である徳之島(とくのしま) 有利(ゆうり)は再び甑島を強く睨み、彼女はまた俯いてしまう。それを見た周りの女競泳部員たちは神輿を囲むようにして有利と向かい合う。

 

「ちょっと! 神輿にあたるの止めなさいよ!」

「そうよ! 大体、問題があるのは部長(アンタ)と屋久島でしょ!?」

「神輿は副部長なんだから、部の責任があるってこと位気づきなさいよ! 男でしょ!?」

 

 ほとんどの女競泳部員たちに捲し立てられ怯む徳之島。一方の男性陣達は。

 

「(どうする? 俺たちも部長に加勢する?)」

「(……止めとこうぜ。こっちにまでとばっちりが来たら敵わねえし)」

「(そうそう。知らんふりしてるのが一番だ)」

 

 いつの時代も女は怖いというのを体現している目の前の現状に傍観を決め込むことを決意した。そして言い合っている彼らに向かって空洞が近づいていく。

 

「そこまでだ。言い分はもっともだが、今回の依頼は彼女に対するものじゃない――お前にだ、屋久島」

 

 そこで場を収めた空洞は垂れる水滴をタオルで拭いていた屋久島を強く睨んだ。

 

「……あれ? 空洞、知り合い?」

「まあな。中学が同じだったんだ」

「……ああ、思い出した。優等生の日之影クンだろ?」

 

 何かを探すように空中に向けられていた視線が止まったかと思うと空洞を見てにやりと口元を歪ませた屋久島に、空洞は眉をあげた。それを聞いて、和は「原作知識にない」ことから彼らの裏事情というものを知れて若干興奮していた。

 

 いくら元の世界が二次元(マンガ)だったとしても、今現在和がいるこの世界においては彼らは「登場人物(キャラクター)」ではないのだ。演劇の舞台裏などのように、「本編」に登場はしていなくとも彼らには「過去」も「経歴」も存在する。「作者」が描いていない間も作中舞台の時間は進んでいるのだ。

 

「思い出してくれたようで嬉しいな」

「ああ、なんでお前みたいな強烈な存在を忘れてたんだろうな。記憶力には自信があったんだが」

 

 おっかしいなー、と呟いている屋久島を見る空洞の目は昔馴染みの者に向けるとは思えないほど冷たく、強く見据えていた。

 

「……まあ仕方ないだろうよ、それが()だからな。……それより、今回はお前のせいでこう(・・)なったってこと、分かってるんだろうな?」

「ん? ……ああ、一応理解はしてるつもりだよ。納得はしてないけどな」

 

 そもそも事の発端は屋久島有無路の言動が目に余ることにある。「賞金つきレースへのみ出場」に始まり、「金で雇われて他校の選手として出場」、「八百長」に「賭けレース」など。原作前の一人でこれなのだから、原作時の三人だったらさらに経歴は増えるだろうと思う。

 

「入部の義務は守ってるし大会にも出場している。何に問題があるっていうんだ?」

 

 その言葉に日之影が眉を上げると同時に和は納得した。

 

 箱庭学園生徒中、およそ三分の一の人数が特待生である。和たち十三組生はもちろんのこと、特別体育科である十一組所属の屋久島然りである。しかし特待生には特待生特有の校則が適用される。

 

 具体的には箱庭学園学校則第141条、特待生制度に関する項目である。その内の第十二項にはこのように書かれているのだ。

 

  『特待生に選ばれたものには学費免除をはじめとした各種便宜を与えるものとする。ただし、十一組および十二組、すなわち特別体育科と特別芸術家は例外として部の所属を原則とし、入学から一年以内に各種大会において、制度を受けている本人が業績を残さなければ、制度の撤回も視野に入れることとする。』

 

 

 意外と知られていない校則の一つだが、十一・二組生は入学時に説明を受けるので一度は聞いたことがあるだろう。そしてもちろんのこと屋久島も聞いたことがあるはずだ。だからこそ(・・・・・)彼は余裕でいられるのだ。

 

 生徒の自主性を何より重んじる箱庭学園は教育熱が強い。しかし自由度が高いとは同時に生徒の危険性が増してしまう。それゆえ箱庭学園では「校則違反者は厳重に罰せられる」。自由度が高いと同時に校則の重要度も上がるのだ。部活を作るにも特待生になるにも校則が重要視される、そのため学園で校則による拘束度合いは半端なく高い。

 

 屋久島はそれは理解している、そしてそのうえで校則の裏をかいているのだ。

 

 「部の所属を原則とする」、彼は競泳部に属することでこれを満たしており、「制度を受けている本人が大会において業績を残す」、これはどうかというと。

 

「俺はちゃんと大会新記録を出したぞ?」

 

 別の学校名で登録したがな。そう続けた屋久島に空洞は右手を強く握りしめた。「屋久島本人が大会で業績を残せ」ばいいのであり、何も「箱庭学園競泳部」として業績を残す必要はない、彼はそう捉えたのだ。解釈の捻じ曲げによる屁理屈に過ぎないが、校則自体は破っていないので反論はできない。ある意味正論であるのだから。

 

「どうだ、会長? 俺は何か間違ってるか?」

 

 空洞は正義を重んじる、ゆえに彼は「正しいこと」は歪めない。下唇を噛みながら空洞は握る手を強めた。

 

 それを傍から見ている競泳部員たちと和、部員たちは忌々しげに屋久島を睨んでいるが和は思考を働かせていた。

 

 和としては別に改心させようとは微塵も思っていない。黒神めだか(主人公)でも日之影空洞(英雄)でもないのだから別に敵キャラを倒す必要などない、むしろ今改心させたら原作変わって困る、と考えてもいる。

 

(……でもこの結末はどうかと思うなァ……)

 

 空洞が言い負かされることに何ら感情は抱かないがそれでも屋久島の物言いには頭にきたものがある。例え自分を対象に言われていないとしても、だ。

 

(……ま、これも一つの方法かな)

 

 表舞台に立つつもりはないが、原作を守るためだ。そう自分に言い聞かせて和は口を開いた。

 

「ちょっといいか?」

 

 

 

 




 再び出てきた捏造学校則。一体いくつあるんだろう。校則自体は生徒が知らないものの方が多いと思うけど。特に箱庭学園だし。

 とりあえず次回で解決する、かな。本当なら今回で解決したかったけど。


 共通性を持たせるために競泳部員たちは「~~島」にしてあります。奄美大島? いませんよ、そんな人。


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