遊戯王GX~Ritual Story (ゼクスユイ)
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第1話 アカデミア入学試験(前編)

 多数の制服姿の受験者がいる教室の中で、一か所を除いてカリカリと書いている音だけが聞こえる。

「鉛筆を置いて、解答用紙を右端の人のところに集めてください」

 銀色の髪を後ろで束ねている男子中学生の広瀬夜光は鉛筆を置き、隣でぐーすか寝ている遊城十代を起こし、解答用紙を十代のところに回していく。

 一般教養の解答用紙を回収し終え、短い休憩時間を過ごした後、別の試験官が中に入っていく。

「それではデュエルについての筆記試験を始めてください」

 皆がテストを開始し始める。

 

問題

 自分の場にポールポジションとデーモンの斧を装備したスチームロイドが存在している。

 このとき相手はメカ・ハンターを召喚することができるか。その理由も答えよ。

夜光の回答

 攻撃力1850のメカ・ハンターを召喚するとポールポジションの効果により、デーモンの斧を無効になっているスチームロイドの攻撃力を上回る。

 このときポールポジションの効果はメカ・ハンターに移るが、今度はデーモンの斧が有効になったスチームロイドの攻撃力がメカ・ハンターを上回る。

 よって無限ループが発生するため、相手は攻撃力1801以上2800以下のモンスターであるメカ・ハンターを召喚することができない。

 

問題

 歯車街の発動にサイクロンをチェーンされた場合、アンティークギアを特殊召喚できるか。

夜光の回答

 不発になり、タイミングを逃すため特殊召喚できない。

 

 受験生たちが頭を抱えながらも問題を解いていき、あっという間に時間が過ぎていく。

 試験官が試験終了と宣言し、解答用紙を右端に集めるように指示する。試験官が解答用紙を確認し、教室から出て行ったあと、夜光は今日初めて知り合った十代に話しかける。

「よくデュエルの試験だけは起きていられたよな」

 無論、テスト中は横を見ることができないが、横から聞こえるいびき声くらいは聞こえるため、隣にいる人間が寝ているかどうかくらいは容易にわかる。夜光は十代が国語、数学、英語といった一般教養のテストを寝ていたにも関わらず、デュエルのテストだけはいびき声が全く聞こえなかったので少し気になっていたからだ。

「デュエルのことなら寝るわけにはいかないからな」

 という十代の返答に凄く納得した。

「それにアカデミアに落ちたら叔母さんから何時間も説教される」

 夜光は十代に叔母がいることをうらやましく思いながらも

「叔母さん、厳しいんだな」

「叔母さん、アカデミアの教員だから仕方ないんだけどな」

 会話を続けていき、駅で十代と別れる。

「俺をこの世界に送り込んだ父さんは俺のことをどう持っているんだろうな」

 夜光の小さな呟きは夕焼けの空に消えていった。

 

-試験会場-

 夜光は実技試験の会場がある海馬ランドにいき、その順番を待っていた。

(俺の受験番号は6番だから、次の人が終わったら俺の番か)

 そして7番のデュエルが終わり、夜光の番が回ってくる。

「基本的なルールは一般的なデュエルと同じ。先攻は受験生になっている。それでは実技試験開始だ」

 黒いサングラスをかけた試験官の宣言と共に、互いにデュエルディスクを展開する。

「「デュエル!」」

 

夜光LP4000

試験官LP4000

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!」

(よし、良い手札だ。これなら1killされることも少ないはず)

 夜光はさっそく1ターン目から、自分のデッキのキーカードをデュエルディスクに差し込む。

「俺は高等儀式術を発動!

デッキからレベル3深淵の冥王とレベル3キラー・ザ・クローを墓地に送り、デビルズ・ミラーを儀式召喚!」

 夜光の場に現れたのは人間くらいの大きさを持つ巨大な悪魔の鏡。

「手札を2枚も消費して効果もないモンスターを出すだけか……」

 試験官はややがっかりした口調でいう。一方で他の受験生たちは

「どうしてあんな雑魚カードを入れているんだ?」

「いくら頭が良くてもデュエルに勝てないなら意味が無いんだよ」

 疑問を持つ者や、野次を飛ばす者が大半を占めていた。

「攻撃力が低くても戦い方は色々とある。案外、このカードがフィニッシャーになるかもよ。カードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札:2枚

場:デビルズミラー(ATK2100)

魔法・罠:伏せ2枚

 

-試験官-

(効果がなく、攻撃力も高くないカードがフィニッシャーに? どういうことだ??)

 試験官が夜光の言葉の真意を考えたたが、単なるハッタリだろうと判断する。

「私のターン。ドロー!

 私は高等儀式術を発動!」

「なっ……!? まさかの儀式対決かよ」

 夜光は自分と同じ儀式を主軸としたデュエリストとの対戦したことが無かったため、試験中にもかかわらず声を出してしまう。

「私はレベル4甲虫装甲騎士とレベル4ネオバグを墓地に送り、終焉の王デミスを儀式召喚する。

デミスの効果発動!ライフを2000払い、デミス以外のカードを全て破壊する。終焉の嘆き!」

 

試験官LP4000→2000

 

「そうはさせるか。俺は永続罠、デモンズチェーンを発動する。デミスの効果を無効にし、さらにデミスの攻撃を封じる」

 カードから鎖が飛び出し、デミスの身体に絡みつき身動きを封じる。

 だが、試験官はそんなことを気にせずにカードを使っていく。

「墓地の甲虫装甲騎士とネオバグを除外して、デビルドーザーを特殊召喚する。

さらに甲虫装甲騎士を召喚する」

 試験官の場には合計3体のモンスターが召喚された。夜光のこの状況をみて

(巨大化のようなカードでモンスターを強化されたら1killされちまう)

 と思い、試験官の手札に強化魔法がないことを祈っていた。その祈りが通じたのか試験官はメインフェイズを終了し、バトルフェイズに移った。

「デビルドーザー(ATK2800)でデビルズミラー(ATK2100)に攻撃!」

デビルドーザーがその巨体でデビルズミラーを押しつぶし、破壊する。

 

夜光LP4000→3300

 

「デビルドーザーの効果でデッキトップを墓地に送らせてもらう……げっ!?」

 夜光はデッキトップにあった聖なるバリア-ミラーフォースが落ち、嫌そうな表情をする。

「甲虫装甲騎士(ATK1900)でダイレクトアタック」

 甲虫装甲騎士が持っていた剣で夜光を切り裂いていく。

 

夜光LP3300→1400

 

 試験官は夜光のライフがあと1回のダイレクトアタックで勝利できることを確認し、余裕の表情を浮かべる。周りにいる受験生たちも試験官の勝利を疑うことが無かった。

「私はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

「エンドフェイズ時にサイクロンを発動して、伏せカードを破壊する」

 試験官は万が一のために伏せていた万能なカウンター罠である神の宣告が破壊され、先まで見せていた余裕はなくなっていく。

 

手札:0枚

場:デミス(ATK2400)

  デビルドーザー(ATK2800)

  甲虫装甲騎士(ATK1900)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!

儀式の準備を発動!破滅の魔王ガーランドルフを手札に加えて、墓地の高等儀式術を手札に加える。

儀式召喚の前に一族の結束を発動しておく。高等儀式術を発動!

デッキのレベル4ウィップテイル・ガーゴイルとレベル3ガーゴイルを墓地に送り、破滅の魔王ガーランドルフを儀式召喚!」

 

破滅の魔王ガーランドルフ

儀式・効果モンスター

星7/闇属性/悪魔族/攻2500/守1400

「破滅の儀式」により降臨。

このカードが儀式召喚に成功した時、

このカードの攻撃力以下の守備力を持つ、

このカード以外のフィールド上のモンスターを全て破壊し、

破壊したモンスター1体につき、このカードの攻撃力は100ポイントアップする。

 

 夜光の場に闇の塊が現れ、そこから青い皮膚を持つ巨大な悪魔が夜光の場に現れる。

「デビルドーザーの守備力は2600。普通であればガーランドルフでは破壊されないが……」

「俺の墓地には悪魔族しかいない。よって悪魔族のガーランドルフは一族の結束の効果で攻撃力は800ポイントアップ(ATK2500→3300)。

その結果、守備力3300以下のモンスターはすべて破壊する」

「まだだ、私は神秘の中華鍋を発動!デビルドーザーを生贄に私のライフを2800ポイント回復する」

 デビルドーザーの姿は消えるが、残された2体のモンスターがガーランドルフが作り出した闇に飲み込まれていく。

 

試験官LP2000→4800

 

試験官はこのターンはガーランドルフのダイレクトアタックを受けてもライフが削りきれないことに一安心する。

「破滅の魔王ガーランドルフの攻撃力はさらに200ポイントアップ。ライフを800払って契約の履行を発動!」

 

契約の履行

装備魔法

800ライフポイントを払う。

自分の墓地から儀式モンスター1体を選択して

自分フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。

このカードが破壊された時、装備モンスターをゲームから除外する。

 

夜光LP1400→600

 

「墓地のデビルズミラーを特殊召喚して、契約の履行を装備させる」

「ま、まさか…………そんな宣言通りにやられるわけが……!?」

 再び夜光の場に現れた悪魔の鏡を見て狼狽する試験官。夜光の逆転劇に他の受験生も

「あの状況から一気に逆転だと……!?」

「ありえん」

驚きを隠せなかった。

「破滅の魔王ガーランドルフ(ATK3300→3500)とデビルズミラー(ATK2100→2900)でダイレクトアタック!」

 ガーランドルフが近くにあったデビルズミラーで試験官の頭を殴りつけた。

 

試験官LP4800→0

 

 試験官はガーランドルフに殴りつけられた頭を押さえながら、夜光の勝利を告げる。

「試験デュエル終了。君の勝利だ」

「ありがとうございました」

 夜光は頭を下げ、その場を立ち去る。

 1番の三沢大地のデュエルが終わっても十代が現れないことから、筆記試験で落ちたと判断した。

「それでは実技……」

「ちょっと待った!」

 クロノスの実技試験終了の宣言を遮るかのように十代の声が聞こえる。

「俺が乗っていた電車が…………事故で遅れて……これ、遅延証明書」

 十代は最寄駅から必死になって走っていたため、息遣いが荒い。クロノスは十代から遅延証明書を受け取り、

「確認しておくノーデ、待っとくのーネ」と言って会場から出ていく。

 それから少し時間が経ち、クロノスは再び会場に戻ってくる。

「受験番号100番、遊城十代の実技試験を認めルーノ」

「よっしゃ-!」

 十代はギリギリで実技試験を受けれることに大はしゃぎしていた。

「ですが、遅刻のペナルティとして実技担当最高責任者クロノス・デ・メディチが相手するノーネ」

「いきなり実技担当の責任者とデュエルか。ワクワクしてきたぜ!」

 互いにデッキシャッフルを終え、デュエルディスクにデッキをセットする。

「「デュエル!」」

 

クロノスLP4000

十代LP4000




ハーメルンでは初投稿のゼクスユイです。

この小説で出てくるカードはGXの時代だけでなく最新のものもあります。
シンクロに関しては少なくとも主人公が使うことはありません。
これからもよろしくお願いします。

追記(12/14)
GXテーマにエクシーズモンスターが出るので、一部のキャラのみ出すかもしれません。


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第2話 アカデミア入学試験(後編)

-クロノスのターン-

「私が先行なノーネ。ドローニョ。

私は歯車街を発動」

 クロノスと十代の場が無数の歯車で出来た街へと変貌するのを見た中等部からの進学組が

「あれは入試用のデッキじゃない!クロノス教諭の暗黒の中世デッキ!?」

「クロノス教諭はあの受験生を徹底的に叩き潰す気か」

 と騒ぎ立てていたが、

「今は試験中、静かにするノーネ」

 とクロノスは騒ぎ立ていた生徒たちに注意する。

「このフィールド魔法がある限りアンティーク・ギアは生贄の数を1つ減らすことができるーノ。

よって私はレベル5の古代の機械獣(アンティーク・ギアビースト)を生贄なしで召喚できるノーネ」

クロノスの場に歯車で身体ができている犬が現れる。

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札:2枚

場:古代の機械獣(ATK2000)

魔法・罠:伏せ2枚

フィールド:歯車街

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はE・HEROエアーマンを召喚。エアーマンの効果で……」

「私は禁じられた聖杯で攻撃力を400ポイント上げる代わりにエアーマンの効果を無効にするーノ。サーチ効果は使わせないノーネ」

 エアーマンのサーチを止められた十代は再度自分の手札を確認する。

(俺の手札にモンスターカードはない。無理やりTheシャイニングを出すことはできるけど、今のエアーマンの攻撃力は400ポイント上がって2200。古代の機械獣よりも攻撃力は上……)

 少し考えた後、十代はメインフェイズを終了しバトルフェイズに移る。

「それなら、俺はエアーマンで古代の機械獣(ATK2000)に攻撃!」

「それくらいの行動を私が呼んでいないと思っていたら間違いなノーネ。

私は収縮を発動。エアーマンの攻撃力は900になるノーネ」

 古代の機械獣は収縮により身体が小さくなったエアーマンによる竜巻をびくともせず、エアーマンをかみ砕いていく。

 

十代LP4000→2900

 

(あぶねぇ。Theシャイニングを出していたら完全にアウトだった)

 十代は自分の直感に任せて正解だったことに胸をなでおろし、クロノスの攻撃に備えようとする。

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド!」

 

手札:3枚

場:なし

魔法:伏せ2枚

 

-クロノスのターン-

「私のターン。ドローニョ」

(引いたのは融合のカード……ドロップアウトボーイに切り札を出す必要はないノーネ)

 クロノスは十代の実力を侮り、ドローで引いた融合を手札に加え、別のカードをつかむ。

「私は古代の機械獣を生贄にし、レベル8の古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)を1体の生贄で召喚!さらに大嵐を発動」

「俺はチェーンして強欲な瓶とクリボーを呼ぶ笛を発動!強欲な瓶の効果で1枚ドロー!

クリボーを呼ぶ笛の効果でデッキから父さんから譲り受けたハネクリボーを守備表示で特殊召喚する」

 

ハネクリボー

効果モンスター

星1/光属性/天使族/攻 300/守 200

フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時に発動する。

発動後、このターンこのカードのコントローラーが

受ける戦闘ダメージは全て0になる。

 

十代の場に白い羽根をもった可愛らしい子悪魔が現れる。何人かの女生徒が十代が召喚したハネクリボーを可愛いと言っている。

「歯車街が破壊されたとき、手札・デッキ・墓地からアンティークギアを特殊召喚できるノーネ。デッキから古代の機械巨竜(アンティーク・ギアガジェルドラゴン)を特殊召喚!

破壊された歯車街の歯車がクロノスの場に集まりだし巨大な龍の姿を形成していく。

「ハネクリボーは戦闘ダメージを0にする効果を持っていますが、貫通効果を防げないノーネ。古代の機械巨人でヘネクリボーに攻撃。アルティメット・パウ~ンド!」

 

十代LP2900→100

 

(ドロップアウトボーイのライフはたったの100。風前の灯なノーネ)

勝利を確信したクロノスは精神的ゆさぶりをかけるために使うつもりが無い融合をブラフとしてセットする。

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:0枚

場:古代の機械巨竜(ATK3000)

  古代の機械巨人(ATK3000)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はE・HEROバブルマンを召喚!」

 

E・HEROバブルマン(アニメ効果)

効果モンスター

星4/水属性/戦士族/攻 800/守1200

手札がこのカード1枚だけの場合、

このカードを手札から特殊召喚する事ができる。

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に

自分のフィールド上に他のカードが無い場合、

デッキからカードを2枚ドローする事ができる。

 

「バブルマンの効果で2枚ドロー!」

 十代はドローしたカードを確認すると、ニヤリとした表情になる。

「俺は融合を発動。手札のE・HEROフェザーマンとE・HEROバーストレディを融合。

行くぜ、俺のフェイバリットカード、E・HEROフレイム・ウィングマン!

さらにマスクチェンジを発動。このカードは俺の場にいるHEROを墓地に送ることで同じ属性のM・HEROに変身させるカードだ。

俺はバブルマンを変身召喚!現れろ、M・HEROアシッド!」

 背中から翼が生え、右手が赤いドラゴンの頭部になっているフレイムウィングマンと某バッタのライダーのような仮面のアシッドが十代の場に現れる。

「M・HEROアシッドは特殊召喚に成功したとき、相手の魔法・罠を全て破壊し、場のモンスターの攻撃力を300ポイントダウンさせる。Acid rain」

 アシッドが手に持っている銃で伏せカードを射抜く。

 十代はクロノスの伏せカードがなくなったことでこれで安心して攻撃に移れると心の中で思う。

「私の場のモンスター攻撃力は2700。ドロップアウトボーイのモンスターの攻撃力よりも高いノーネ」

「慌てるなって。俺はヒーロー・マスクの効果でデッキからE・HEROオーシャンを墓地に送り、アシッドをE・HEROオーシャンとして扱う。

これがHEROにふさわしい舞台、摩天楼-スカイスクレイパー-を発動!」

 十代が元気よく摩天楼のカードをデュエルディスクに入れると高層ビルが立ち並び、摩天楼にはアシッドとフレイム・ウィングマンが腕組みをし、悠然と立っている。

「摩天楼-スカイスクレイパーは場のE・HEROが攻撃力の高いモンスターに攻撃するとき、攻撃力を1000ポイント上昇させるフィールド魔法。今のM・HEROアシッドはE・HEROオーシャンとして扱うから摩天楼の効果は適用される。

M・HEROアシッド(ATK2600→3600)で古代の機械巨竜(ATK2700)に攻撃。Acid bullet!」

 オーシャンの力を借りたアシッドが摩天楼から古代の機械巨竜を狙い撃ちする。

 

クロノスLP4000→3100

 

「フレイム・ウィングマン(ATK2100→3100)で古代の機械巨人に攻撃。スカイスクレイパー・シュート!

そしてフレイムウィングマンは戦闘破壊したとき、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える」

 摩天楼から跳び置いたフレイム・ウィングマンは重力を味方につけ勢いよく古代の機械巨人に突進する。フレイム・ウィングマンの攻撃によって古代の機械巨人は身体が崩れ、各部のパーツによってクロノスが押しつぶされる。

 

クロノスLP3100→0

 

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ、先生!」

 十代が右手人差し指と中指でクロノスを指さすポーズをとる。十代は後ろを振り向くと観客席に夜光がいることに気づき、ガッチャのポーズをとる。

「えっ……こうか。ガッチャ、俺も勝ったぜ」

 夜光は十代に向けて恥ずかしそうに十代に向けてガッチャのポーズをとる。

 それから数日後、夜光や十代のもとに合格通知が届いた。




十代のハネクリボーはアニメ本編とは違い、父親から譲り受けたカードに変更しました。
それに伴い家族設定も漫画やアニメとは異なっています。父親の正体はいずれ……
もっとも勘のいい人はすでに気づいているかもしれませんが


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第3話 船上のデュエル

 入学者たちは通達されたアカデミアへの定期船に乗り、太平洋の孤島にあるデュエルアカデミアへと向かっていた。アカデミアが特殊な環境下にあることから、生徒たちはアカデミアにある寮で3年間過ごすこととなり、また本島-アカデミア間でに荷物を送ってもらうにしても定期便を利用しなければならない。

 そのため、夜光は自分のデッキに必要になりそうなカードをあらかじめ自分の寮へと送っていた。船上では特にすることもなかったので、

(ラーイエローには無事合格できた。あとはアカデミアに潜伏している奴を探すだけか。

それにしてもこの世界の海と空は綺麗だよな……)

と思いながら青い海と青い空を珍しそうに眺めていると、

「夜光。元気にしていたか」

 急に話しかけれられる。振り返ってみると赤い制服を着た十代と眼鏡をかけた水色の髪の小柄な少年がいた。

「元気にしていたぜ。十代も変わっていないな。そこにいる子は?」

「僕は丸藤翔です。よろしく」

「俺は広瀬夜光。よろしくな」

 互いに自己紹介が終わったところで十代が用件を切り出す。

「実技試験を遅刻したから、夜光のデュエル見ていないんだよな。だから俺とデュエルだ!」

 根からのデュエル馬鹿である十代に対し、

「良いぜ、海を見るのも少し飽きていたからな」

 夜光はそのデュエルを受けることにし、持ってきたカバンからデュエルディスクを取り出す。

「「デュエル!」」

 

夜光LP4000

十代LP4000

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!

ゴーゴン・エッグを守備表示で召喚」

 夜光の場に巨大な眼がある不気味な卵型のモンスターが現れる。どう見ても強そうには見えないモンスターを見た翔は

「あんな弱いカードなら簡単に倒せるッス」

 夜光のモンスターを侮っていた。

「通常モンスターほど怖いものはないけどな。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:4枚

場:ゴーゴンエッグ(DEF1300)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!」

 十代は自分の手札と夜光の場を確認し、どのように攻めるか考える。

(夜光の場には翔が言うように攻撃力も守備力が低い通常モンスターが1体だけ。

でも伏せカードが通常モンスター専用のサポートカード、たとえばジャスティブレイクだったらまずい展開になる。

罠を覚悟で攻撃を仕掛けるか、様子を見るか……)

 夜光が打ってくる一手を考えた十代は少し余力を残しつつ一気に攻めようと決断した。

「俺はE-エマージェンシーコールを発動。エアーマンを手札に加える。

エアーマンを召喚し、デッキからバーストレディを手札に加える。

融合を発動。手札のバーストレディとフェザーマンを融合。

E・HEROノヴァマスターを融合召喚!」

 十代の場に赤いマントを身に着けたヒーローが現れる。

「あれ? フレイム・ウィングマンじゃない」

「E・HEROは同じ融合素材でも数多くの融合パーターンがあるのが特徴だ。この場合なら、フレイム・ウィングマン、フェニックスガイ、ノヴァマスター、Great TORNADOが出せる」

 やや長身の男性が翔の後ろから現れ、翔の疑問に答える。

「おっと自己紹介が遅れたね。俺の名は三沢大地。よろしく頼む」

「僕は丸藤翔。こちらこそよろしく頼むっす」

「俺は遊城十代。よろしくな、三沢」

「俺は広瀬夜光。よろしく」

 三沢が自己紹介をしたので十代たちはデュエルを一時中断し、互いに自己紹介を始める。

 互いに自分のことを話した後、十代と夜光はデュエルを再開する。

「ノヴァマスター(ATK2600)でゴーゴンエッグに攻撃」

ノヴァマスターが炎を纏った拳でゴーゴンエッグを殴りつけ、破壊する。

「ノヴァマスターがモンスターを戦闘破壊したことにより、1枚ドロー!

エアーマンでダイレクトアタック」

「エアーマンの攻撃宣言時に強欲な瓶を発動。1枚ドロー」

 

夜光LP4000→2200

 

 夜光はエアーマンが放つ竜巻に耐えながらも、手札のカードをデュエルディスクにセットする。

「フィード上にカードが存在しないときにダメージを受けたことで冥府の使者ゴーズを特殊召喚する」

 

冥府の使者ゴーズ

効果モンスター

星7/闇属性/悪魔族/攻2700/守2500

自分フィールド上にカードが存在しない場合、

相手がコントロールするカードによってダメージを受けた時、

このカードを手札から特殊召喚する事ができる。

この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。

●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」

(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。

このトークンの攻撃力・守備力は、この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。

●カードの効果によるダメージの場合、

受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。

 

 身の丈ほどもある銀色の剣を持ち、バイザーを身に着けた男性が夜光の場に現れる。

「戦闘ダメージによってゴーズが特殊召喚したことで、カイエンを攻撃力1800で特殊召喚する」

「がら空きの状態から一気に2体のモンスターを召喚した!?」

 夜光の場に最上級モンスターが生贄無しで召喚されたことに驚く翔。

「冥府の使者ゴーズ……効果で召喚するためには無情な状態で攻撃を受けなければならないことから、効果が強力とはいえ扱いにくいと一般的には評価されているカードだ」

 三沢の解説を聞いても翔は「罠を入れて守った方が良い」と思っていた。

「ダメージを受けても最上級モンスターをだしてきたか。やっぱ一筋縄でいかないよな。俺はターンを終了するぜ」

 

手札:4枚

場:ノヴァマスター(ATK2600)

  エアーマン(ATK1800)

魔法・罠:なし

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺は闇の誘惑を発動。2枚ドローし、手札のデビルズミラーを除外する」

 手札交換を行い、反撃の準備が整ったことで一気にたたみかけようとする。

「奈落との契約を発動。レベル7カイエントークンを生贄にし、レベル7の闇属性である破滅の魔王ガーランドルフを儀式召喚!」

「そうか。ゴーズの効果で呼び出されたカイエンを儀式召喚の生贄にすれば、場のモンスターを減らさずに儀式召喚できるんだ。

万が一、手札から召喚できるような状況でなくてもレベル7ジャストを要求する儀式召喚には有効」

 翔は夜光がゴーズを採用していた理由をようやく理解した。

「普通はな。ガーランドルフの効果で俺たちの場にいるゴーズ(DEF2500)、ノヴァマスター(DEF2100)、エアーマン(DEF300)は破壊される。

そして3体のモンスターを破壊したことでガーランドルフの攻撃力は2800になる」

「えっ~せっかく攻撃力2700のモンスターを召喚したのに」

 夜光の場にいたゴーズを惜しむような声をする翔であった。

「でもガーランドルフの攻撃力は最上級モンスターの及第点である2800にはなったぜ。ガーランドルフ(ATK2800)でダイレクトアタック!」

 鍛えられた肉体をもつガーランドルフが十代を数メートルほど殴り飛ばす。

 

十代LP4000→1200

 

 十代がゆっくりと立ち上がっているのを見て、夜光は十代のターンに備える。

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札:1枚

場:ガーランドルフ(ATK2500)

魔法・罠:伏せ2枚

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!」

(伏せカードは気になるけど、ここは流れをこっちに持っていかないとな)

 十代は先のターンで温存しておいた魔法カードを発動させる。

「俺は融合回収を発動。墓地の融合とバーストレディを手札に加える。

さらに戦士の生還を発動し、墓地のフェザーマンを手札に加える。

俺は融合を発動。手札のフェザーマンとバーストレディを融合。

マイフェバリットカード、E・HEROフレイム・ウィングマンを融合召喚!

E・HEROプリズマーを召喚する。

プリズマーの効果発動。融合デッキにあるE・HEROシャイニング・フレア・ウィングマンを見せてスパークマンを墓地に送り、プリズマーをスパークマンとして扱う」

 十代の場にいた全身がプリズムで出来ていたヒーローが光を放つ。まばゆい光が収まるとプリズマーは雷を身にまとったヒーローに変身していた。

「さらに融合を発動。場にいるスパークマンとして扱うプリズマーと場のフレイム・ウィングマンを融合。

現れろ、E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン!」

 巨大な翼が生えている鎧を身にまといまばゆいばかりの光を放つヒーローが十代の場に現れる。

「シャイニング・フレア・ウィングマンは墓地のE・HERO1体に付き、攻撃力を300ポイントアップさせる。

俺の墓地にはエアーマン、ノヴァマスター、フェザーマン、バーストレディ、フレイム・ウィングマン、スパークマン、プリズマーの7体。

よって攻撃力は2500+2100=4600。

シャイニング・フレア・ウィングマンでガーランドルフ(ATK2800)に攻撃!シャイニング・シュート!」

 シャイニング・フレア・ウィングマンの身体から放出される光をみたガーランドルフは塵となって消えていく。

「シャイニング・フレア・ウィングマンは戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える」

「ダメージ・ポラリライザーを発動。効果ダメージを与える効果を無効にし、互いに1枚ドロー!」

 

夜光LP2200→400

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンの効果ダメージを防がれるとは思いもしなかった十代は少し悔しがっていた。

「効果ダメージを防がると思わなかった」

「俺のデッキの性質上、バーンには弱いから何かしらの対策は必要だから入れているんだ。本当は地獄の扉越し銃の方が良いんだがな」

 地獄の扉越し銃は持っていないと一言付け加えた後、バトルフェイズを終了した十代は自分の手札を確認する。召喚権も使い果たし、このターンはこれ以上動くこともできないと判断した十代はメインフェイズ2を終了しようとする。

「俺はこのままターンを終了する」

 

手札:2枚

場:シャイニング・フレア・ウィングマン(ATK4600)

魔法・罠:なし

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はリビングデッドの呼び声を発動。ガーランドルフを攻撃表示で召喚。

巨大化をガーランドルフに装備。十代よりもライフが低いため、ガーランドルフの元々の攻撃力を倍にする(ATK2500→5000)。

ガーランドルフでシャイニング・フレア・ウィングマン(ATK4600)に攻撃!」

 背丈が倍の大きさになったガーランドルフが右手に闇の力を纏わせ、シャイニング・フレア・ウィングマンを殴りかかる。攻撃を受けたシャイニング・フレア・ウィングマンも応戦しようとするが、圧倒的な力の前に敗北を喫した。

 

十代LP1200→800

 

(これでガーランドルフの攻撃力を5000のまま十代にターンを回すことができる。

ゴーズを蘇生させた場合だとライフが並ぶ上から、十代が何らかのライフを払う魔法を使われた場合、巨大化のデメリットで攻撃力半減効果により攻撃力が1350になってしまう。

今の十代のライフならライフを半分にする魔法を使われても、攻撃力2500のガーランドルフが場に残る)

 うまく十代のライフを調整した夜光はバトルフェイズを終了する。

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:1枚

場:ガーランドルフ(ATK5000)

魔法・罠:巨大化(ガーランドルフに装備)

     リビデ(ガーランドルフに使用)

     伏せ1枚

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺は貪欲な壺を発動。

墓地のエアーマン、ノヴァマスター、フェザーマン、フレイム・ウィングマン、シャイニング・フレア・ウィングマンをデッキに戻し、2枚ドロー!」

 十代はドローしたカードを見てニヤリとした表情となる。

「俺はハネクリボーを守備表示で召喚し、カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:2枚

場:ハネクリボー(DEF200)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!

ガーランドルフにメテオ・ストライクを装備する。これでガーランドルフは貫通効果を得た。

ガーランドルフでハネクリボーに攻撃!

貫通効果を得たガーランドルフの攻撃を受ければ、十代のライフは0になる」

 実技試験でクロノスが行ったように夜光は魔法カードで貫通効果を持たせたガーランドルフで攻撃を行ったが、十代は慌てた素振りを見せない。翔や三沢も何を考えているんだと疑問に思っていると、十代はデュエルディスクを操作していく。

「まだ俺には伏せカードがあるぜ。リバースカードオープン、進化する翼!

このカードは手札2枚と場のハネクリボーをコストに手札又はデッキからハネクリボーLv10を特殊召喚する」

 十代の場に巨大な天使の翼と金色のドラゴンの頭部を模した装飾品を身に着けたクリボーが現れる。

「ハネクリボーLv10の効果発動!

ハネクリボーLv10を生贄に捧げることで相手のモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分相手にダメージを与える」

 ハネクリボーLv10の効果による形勢逆転を確信した十代だったが……

「俺は負けず嫌いなんでね。

破壊指輪を発動し、ガーランドルフを破壊。互いに1000ポイントのダメージを受ける」

 最後のあがきに対する策がなく、ガーランドルフが爆散し互いにその煽りを受ける。

 

夜光LP400→0

十代LP800→0

 

「あともう少しだったのになぁ~

でも楽しいデュエルだったぜ。ガッチャ」

 引き分けでもいつもの決めポーズをする十代。

 十代にとってデュエルは結果よりも心の底から楽しめたかどうかが重要であり、ガッチャという決めポーズはデュエルしてくれた相手を十代なりの方法でリスペクトしているという現れである。

「俺も楽しかったぜ。ガッチャ」

 そのことを夜光はデュエルを通じてなんとなくだが感じ取ったため、十代と同じくガッチャをする。

 デュエル終了後、4人はお互いに自分のデッキを見せ合ったり、デュエルの話をしていると

「デュエルアカデミアが見えてきたよ」

 翔が目の前に見えてきたアカデミアを指す。翔の言葉を聞いた十代たちは今まで違う環境で暮らすことに対する不安よりも、自分たちの知らないデュエルを知ることができる期待のまなざしでアカデミアを見る。




進化する翼は最初から持っている設定です。
教師であるクロノスが知らない(明日香談)ほどのレアカードのサポートカードが一般向けのパックに同封されているとは思えなかったので、最初から持っている設定に変更しました。
一般人が簡単には手に入らないレアカードのサポートカードって誰得なんだろう?


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第4話 英雄vs地獄

 アカデミアに到着した新入生たちは校長先生からありがたいお言葉を長時間聞かされていた。校長先生の話が終わった後、PDA(アカデミア内で使用できるiP●d)を渡される。

「ラーイエローはこっちで……」

「オシリスレッドは海の傍だから向こうだな」

 夜光と十代はPDAを操作し、自分が最大で3年間住むことになる寮の場所を確認する。十代と翔はオシリスレッド寮、夜光はラーイエロー寮のため一度分かれることになる。

 ペントハウス風の建物であるイエロー寮に着いた夜光は持ってきた荷物を置くため、PDAを配布されたときにもらった鍵に書いている番号と同じ番号の部屋を探す。

同じ番号の部屋を見つけたのでさっそく中に入ってみようとすると、偶々隣の部屋の住人が出かけようとしていたので声をかける。

「初めまして。俺は隣に住む広瀬夜光っていうんだ。よろしくな」

「初めまして。僕は神楽坂と言います。よろしくお願いします」

 互いに挨拶すると神楽坂はどこかへ出かけに行く。夜光は部屋の中に入り荷物を置いた後、あらかじめアカデミアに送っていた段ボールの箱を開け収納スペースに入れていく。

「カードはここに入れておいて……デュエルディスクの予備パーツはこっち……」

 仕分けをすると1枚の紙がひらひらと落ちたので、それを拾って読み始める。

(父さんたちからか……追加の任務が遊城十代の監視? どういうことなんだ??)

 ?が多数浮かぶが、その疑問はPDAの着信音によって消えてしまう。着信したメールを確認すると十代からアカデミアを探索しようというものだった。

「十代からの誘いなら行かないという選択肢はないな」

 荷物の整理を一度やめて、外に出かけることにした。

 

 夜光と合流した十代たちはアカデミアの購買部に行ったり、授業を受けることになる教室に行ったりした後、十代たちはオベリスクの紋章が飾っている最新鋭の設備を持つデュエル場に入る。

「ここでデュエルしようぜ」

「いや、無理だろう。こういうところは予約が必要だと思う」

「落ちこぼれのオシリスレッドがここで何しているんだ」

 夜光は要予約だと考え、十代の提案を断る。すると夜光たちの後ろからオベリスクブルーの生徒が声をかけてくる。

「ここでデュエルしていいのはブルーだけだ」

「それなら仕方が無いな。十代、別のところに行こうぜ。デュエルするだけなら他のところでも良いからな」

厄介ごとに巻き込まれたくなかった夜光は十代たちを別の場所に連れて行こうとする。

「万丈目さん。こいつ、クロノスを倒した例の……」

「そいつが運とまぐれでクロノス教諭を倒した新入生か」

 万丈目と呼ばれたオベリスクブルーの生徒が観客席から飛び降りてくる。

「まぐれって何だよ」

「知らないなら教えてやろう。あのデュエルで始めに大嵐を発動して古代の機械巨竜を召喚した後、融合を発動すれば、クロノス教諭が持つ切り札によってお前は敗北していた」

「そうだったのか。やっぱりアカデミアはスゲー!

えっ~と万丈目だったけ? 俺とデュエルしようぜ」

 万丈目の指摘を受けて十代は落ち込むところか闘志を燃やしていた。

「万丈目さんだ!お前にブルーの実力を見せてやろう」

「何しているの貴方たち!もうすぐ歓迎会が始まるわよ」

 万丈目と十代のデュエルが始まろうとしたときに、オベリスクブルーの制服を着た金髪の女子が制止しようとする。

「天上院くん、これはそこにいるドロップアウトに身分の差を教えるために必要なデュエルなんだ」

「ブルーの洗礼を受けることはないわ。早く何処かに行きなさい」

「歓迎会が始まるなら早くデュエルしようぜ」

 明日香が十代を逃がそうとするが、十代はそれを無視して万丈目とデュエルしようとする。

「「デュエル!」」

 

万丈目LP4000

十代LP4000

 

-万丈目のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺は地獄戦士を攻撃表示で召喚。カードを2枚伏せてターンエンド」

 大剣を持ち鋼鉄の鎧を身にまとった男性が万丈目の場に現れる。

 

手札:3枚

場:地獄戦士(ATK1200)

魔法・罠:伏せ2枚

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!」

(地獄戦士……どういう効果だったけ?)

 十代は地獄戦士の効果を思い出せなかったので、普段通りのデュエルを続けようとする。

「俺はE-エマージェンシーコールを発動し、エアーマンを手札に加える。

エアーマンを攻撃表示で召喚」

「ふん。エアーマンの効果でHEROをサーチしようとしているみたいだが、その手は読めている。

俺はライフを1000払い、スキルドレインを発動。

スキルドレインの効果により、場のモンスターの効果は無効になる」

 

万丈目LP4000→3000

 

 スキルドレインは場のモンスター効果を封じるが、リクルーターやオネストといった墓地や手札から発動するモンスター効果は封じられないのが欠点である。

 一部を除いてE・HEROの多くは場で発動する効果が多いため、十代にとっては分の悪い状況となってしまった。

「効果が使えないなら攻撃あるのみ。

エアーマン(ATK1800)で地獄戦士(ATK1200)に攻撃!」

 だが十代はスキルドレインを気にせず、いや地獄戦士の効果も封じられていると考え、地獄戦士に攻撃を仕掛ける。

「戦闘破壊された地獄戦士の効果で俺が受けるダメージ分、お前にもダメージを与える」

 地獄戦士はなすすべなくやられるが、破壊された地獄戦士が持っていた剣が宙を舞い十代に突き刺さる。

 

万丈目LP3000→2400

十代LP4000→3400

 

 類似効果のアマゾネスの剣士と違って、地獄戦士の効果はリクルーターと同じく墓地で発動する効果のためスキルドレイン下でも発動する。

 万丈目はスキルドレインとの相性を踏まえて一般的には下位互換と言える地獄戦士を入れていた。

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:4枚

場:エアーマン(ATK1800)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-万丈目のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺は手札断札を発動。互いに手札を2枚捨て、2枚ドローする」

「万丈目さんが手札交換をするなんて……」

 万丈目の取り巻きからはその光景を信じられないような目で見ていたが、十代は思いもがけない手札効果の機会にラッキーと言いながら手札交換を行う。

「ラッキーと言えるのも今の内だ。

俺は墓地のヘルウェイ・パトロールを除外し、手札の攻撃力2000以下の悪魔族モンスターである地獄詩人ヘルポエマーを特殊召喚する」

 

地獄詩人ヘルポエマー

効果モンスター

星5/闇属性/悪魔族/攻2000/守1400

このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた場合効果が発動する。

このカードが墓地に存在する限り、相手バトルフェイズ終了時に

相手は手札からカードを1枚ランダムに捨てる。

このカードは墓地からの特殊召喚はできない。

 

 墓を背負った薄気味の悪いモンスターが万丈目の場に現れる。

「さらにリビングデッドの呼び声を発動し、闇より出でし絶望を特殊召喚」

 万丈目は攻勢に出るため、墓地肥やしと手札交換を兼ねる手札断札を使っていた。

「ヘルボエマー(ATK2000)でエアーマン(ATK1800)に攻撃!」

「罠発動、ヒーローバリア。このカードの効果でヘルポエマーの攻撃を無効にする」

 ヘルポエマーの攻撃をエアーマンの前に現れた盾によって防がれる。

「だが、闇より出でし絶望(ATK2800)の攻撃は残っている。エアーマンに攻撃しろ!」

 闇より出でし絶望が爪でエアーマンを引っ掻き、破壊する。

 

十代LP3400→2400

 

 十代と万丈目は同じライフだが、場の状況は誰が見ても十代の方が劣勢である。

「カードを1枚伏せてターンを終了する」

 

手札:0枚

場:闇より出でし絶望(ATK2800)

  地獄詩人ヘルポエマー(ATK2000)

魔法・罠:スキドレ

     リビデ(闇より出でし絶望に使用)

     伏せ1枚

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺は墓地のE・HEROネクロダークマンの効果で手札のE・HEROエッジマンを生贄なしで召喚する」

「手札断札の時にそのカードを捨てていたのね」

「ネクロダークマンは墓地に存在するときE・HEROを生贄なしで召喚できる効果を持つ。

この効果はヘルウェイ・パトロールと同じく墓地で発動する効果、スキルドレインの対象外だ」

 明日香と夜光が劣勢な状況から最上級モンスターであるエッジマンを高速召喚する十代のファインプレーを褒めていた。

「エッジマン(ATK2600)でヘルポエマー(ATK2000)に攻撃!」

 

万丈目LP2400→1800

 

「速攻魔法、マスクチェンジを発動。

エッジマンを変身召喚!来い、M・HEROダイアン!

ダイアン(ATK2800)で闇より出でし絶望(ATK2800)に攻撃!ディスバーション!」

「相打ち狙いか!?」

「いや、相打ち狙いじゃないぜ。俺は速攻魔法、天使のサイコロを発動。

エンドフェイズまでサイコロの目×100ポイントダイアンの攻撃力はアップする」

 天使によってサイコロが振られる。転がっていくサイコロが止まると6の目が出る。

「出た目は6。よってダイアンの攻撃力は3400!闇より出でし絶望の攻撃力を上回った」

青いマントをなびかせながら飛翔した鋼鉄の騎士は槍で闇より出でし絶望を貫く。

 

万丈目LP1800→1200

 

 本来ならばダイアンの効果でデッキからレベル4以下のHEROを呼び出せるが、スキルドレインによって無効になっているため発動しても意味が無い。

「万丈目の場のモンスターは全員倒したぜ。俺はメインフェイズ2に移って……」

「この瞬間、戦闘破壊されたヘルポエマーの効果でお前の手札1枚をランダムに捨てる」

 十代の墓地からヘルポエマーの手が現れ、勝手に十代の手札を墓地に捨てられてしまう。

「くっ……ターンエンド」

 十代は自分の手札にあった罠カードを捨てられたため、これ以上何もできなかった。

「エンドフェイズに速攻魔法、終焉の焔を発動。黒焔トークン2体を特殊召喚する」

 終焉の焔には自分の召喚・反転召喚を封じる効果を持つが、万丈目が行ったように相手のエンドフェイズに発動すればデメリット効果をほぼ無視することができる。

 

手札:1枚

場:ダイアン(ATK2800)

魔法・罠:なし

 

-万丈目のターン-

「俺のターン。ドロー!

見せてやろう、俺のデッキにある最強のカードを……

黒焔トークン2体を生贄にダーク・ホルス・ドラゴンを通常召喚!

ダーク・ホルス・ドラゴン(ATK3000)でダイアン(ATK2800)に攻撃!」

 黒いドラゴンが闇を纏った炎のブレスを放ち、ダイアンを燃やし尽くす。

 

十代LP2400→2200

 

「お前はモンスター効果も封じられ、場はがら空き。そして俺の場には攻撃力3000のダーク・ホルス・ドラゴンがいる!

俺の勝ちが決まったようだな。ターンを終了する」

 万丈目は勝利を確信しエンド宣言を行う。

 

手札:0枚

場:ダーク・ホルス・ドラゴン(ATK3000)

魔法・罠:スキドレ

 

-十代のターン-

「この勝負、万丈目くんの勝ちね」

「アニキ……」

 明日香や翔は万丈目の勝利、十代の敗北だろうと思っていた。

「いや、まだ十代は勝負をあきらめたようじゃないぜ」

 だが、夜光の指摘を受けた明日香や翔は十代を見ると、十代がデュエルをあきらめずに闘志を燃やしていることに気づく。

「俺のターン。ドロー!

俺は貪欲な壺を発動。墓地のエアーマン、フェザーマン、エッジマン、ネクロダークマン、ダイアンをデッキに戻し、2枚ドロー!

俺はスパークマンを守備表示で召喚。カードを1枚伏せてターンエンド」

(あとは万丈目が地割れのようなモンスターを除去するカードを使ってこなければ、俺に勝機はある)

 十代は一発逆転をするため最後の賭けにでる。

 

手札:1枚

場:スパークマン(DEF1400)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-万丈目のターン-

「俺のターン。ドロー!

どうやら万策が尽きたようだな。俺はビッグバン・シュートをダーク・ホルス・ドラゴンに装備させる。

これによりダーク・ホルス・ドラゴンの攻撃力は400ポイントアップし、貫通効果を得る。

ダーク・ホルス・ドラゴン(ATK3400)でスパークマン(DEF1400)に攻撃!」

 

十代LP2200→200

 

 圧倒的な攻撃力を持つダーク・ホルス・ドラゴンによってあっけなくやられるスパークマン。

「罠カード、ヒーロー逆襲を発動。このカードはE・HEROが戦闘破壊されたときに発動できる罠だ。

相手は俺の手札を1枚選び、そのカードがE・HEROだった場合相手モンスター1体を破壊し、選ばれたE・HEROを特殊召喚できる」

 万丈目は十代の手札を再度確認する。そう十代が持つ1枚の手札を……

「お前の手札はたった1枚……まさか!?」

「そう俺のカードはE・HEROバーストレディ!

ダーク・ホルス・ドラゴンを破壊し、E・HEROバーストレディを特殊召喚」

 バーストレディが現れ、これまでやられたヒーローの仇をとるため巨大な炎をダーク・ホルス・ドラゴンに浴びせ燃やし尽くす。

「こ、この俺が……負けるだと……!?」

 万丈目は自身の敗北を知り、ひざを折る。

「エンド宣言しないならターンを進ませてもらうぜ」

 規定時間の3分が過ぎたため、強制的に十代のターンとなり、ドローした後すぐさまバトルフェイズに移る。

「バーストレディ(ATK1200)でダイレクトアタック!」

 バーストレディが万丈目に炎を浴びせるが、自分の敗北に呆然自失となっている万丈目はリアクションをとることはなかった。

 

万丈目LP1200→0

 

「ガッチャ、楽しいデュエ……」

「何が楽しいデュエルだ。デュエルは勝たなければ意味が無い!」

 十代の決め台詞を遮る万丈目。

「デュエルは楽しむものだろう。そりゃあ負けたら悔しいけど、それをばねにして勝とうと努力するのも楽しみの1つだと思うぜ」

「どんなに努力を重ねたとしても負けたら意味がない!帰るぞ、お前ら」

 十代の反論も万丈目の考えを変えることはできず、万丈目はデュエル場を後にする。

 その後、この場にいた全員が新入生歓迎会に遅れたことで先生たちからお叱りを受けたことは言うまでもない。




万丈目のヘルデッキを真面目に考えたらスキドレデッキになりました。
ちなみにスキドレとあまり使用が良くないダークホルスが入っているのは純粋に打点を向上させるためです。
本来ならバルバロスでしょうが、従属神という特殊なカテゴリーに属している以上、一般人が入手するのは困難だと考えました。
また、あの世界で3000打点はおそらく貴重だと思いますが、原作でもホルスの黒炎竜をもっているブルー生徒が居たのであってもおかしくないと思い、採用しました。

さてとオリカが多い明日香のデッキはどうしよう……


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第5話 氷の女王

 夜の講堂の前で夜光は昼間に購買部でコピーしたアカデミアの地図を広げている。地図には何本かの線が引かれいくつかの区に分かれている。夜光はその一区画をマジックで黒く塗りつぶす。

「これまで寮の周辺と火山付近は調べたけど、奴につながる手がかりは何もなしか」

 夜光は何も進展していないことに肩を落とし、懐から1枚の写真を取り出す。その写真にはアカデミアの講堂と白いロープを着た人物の姿が映っている。

(この写真がある以上、奴がアカデミアにいることは確実なんだよな。何処に隠れているんだ?

……でも奴が何もしなかったら、十代と出会うことはなかった。そういう意味では感謝すべきなのか?)

 夜光が物思いにふけていると誰かの足音が聞こえたので、手にしていた写真を懐に隠す。

 足音がする方を見ると十代が走っているのが見える。夜光は十代に声をかけるかどうか迷ったが、何があったのか知りたかったので声をかけることにした。

「おーい、十代。何やっているんだ?」

「夜光、大変なんだ!翔が何者かにさらわれた」

「なに!? それなら俺も行くぜ」

 十代からそのような返答が返ってくると思わなかった夜光は驚きの声をあげる。自分が捜している奴の仕業ではないかと考えた夜光は、十代と一緒に犯人が取引場所として要求したオベリスクブルー女子寮へと走る。

 

 十代たちがブルー女子寮の近くにある湖に着くとオベリスクブルーの制服に身を包んだ女子が7~8人と明日香、縄でグルグル巻きにされた翔がいた。十代が明日香に翔をさらった理由を尋ねる。

「明日香、これは一体どういうことなんだ」

「こいつ、私たちを覗いたのよ」

「ばれたら退学ですわ~」

 答えたのは明日香ではなく茶髪で気が強さそうな枕田ジュンコとお嬢様系の浜口ももえである。夜光は翔の誘拐事件が自分が追いかけている奴とは関係ないことに一安心する。

「翔、それが事実なら残念だけどアウトだ」

「夜光君、違うッス。僕は何も覗いていない!」

 翔は味方であるはずの夜光からも追い打ちをかけられ、必死にそれを否定する。そんな中、明日香が一歩前に出て十代たちに1つの提案をする。

「十代、私とデュエルをして貴方が勝ったらこのことは水に流すわ」

「いいぜ。翔、待ってろよ」

「「デュエル!」」

 こうして翔の名誉と退学を勝手に賭けた十代と明日香のデュエルが始まった。

 

十代LP4000

明日香LP4000

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はライオウを攻撃表示で召喚。カードを1枚伏せてターンエンド」

 雷鳴と共にライオウが十代の場に参上する。ライオウはサーチ効果を封じる効果と生贄に捧げることでチェーンに乗らない特殊召喚を無効にする効果を持っている。そのためガジェットやこの世界にはまだ存在していないコンタクト融合やシンクロモンスターを封じることができる。

 

手札:4枚

場:ライオウ(ATK1900)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-明日香のターン-

「私のターン。ドロー!

永続魔法、ウォーターハザードを発動するわ。このカードの効果で私のフィールドにモンスターがいないとき、手札からレベル4以下の水属性モンスターを特殊召喚することができる。

私は手札の氷結界の軍師を特殊召喚。この特殊召喚はチェーンブロックに乗っているからライオウで無効にすることはできない」

「氷結界? 聞いたことが無いカードだ」

 十代は初めて聞いたカード群に首をかしげる。明日香はそんな十代をしり目にプレイを続行をする

「氷結界の軍師の効果発動。手札にある氷結界の虎将ガンターラを墓地に送って、1枚ドロー!」

「うまくライオウの弱点を突いている。さすがオベリスクブルーだ」

 1ターン目からライオウという強力なモンスターを出され、大きなプレッシャーをかけられているにもかかわらず、それを跳ね除ける明日香の精神的な強さやデュエルタクティクスに感心する夜光。

「氷結界の軍師を生贄に捧げ、氷結界の虎将ライホウを生贄召喚するわ」

 

氷結界の虎将ライホウ

効果モンスター

星6/水属性/戦士族/攻2100/守2300

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

フィールド上で発動した相手モンスターの効果処理時に

相手は手札を1枚捨てる事ができる。

捨てなかった場合、その効果モンスターの効果は無効化される。

 

「ライホウ(ATK2100)でライオウ(ATK1900)に攻撃!」

 ライオウが胸にある赤いクリスタルから電撃を放ちライホウを近づかせないようにする。だが、ライホウはそれを見切り氷の剣でライオウを一刀両断する。ライオウがやられた瞬間、空にHの文字が浮かび上がる。

 

十代LP4000→3800

 

「罠発動、ヒーローシグナル。このカードの効果でデッキからフォレストマンを守備表示で特殊召喚する」

「私はカードを2枚伏せてターンを終了」

 十代が後続のヒーローを召喚するものの効果を封じられ苦しい状況であることには変わりがない。

 

手札:1枚

場:軍師(ATK1600)

  ライホウ(ATK2100)

魔法・罠:ウォーターハザード

     伏せ2枚

 

-十代のターン-

(ライオウはやられたけど、俺の場にはフォレストマンがいる。フォレストマンの効果で融合を加えて融合ヒーローでライホウを倒すぜ)

 十代はデッキに手をかけ、勢いよくカードをドローする。

「俺のターン。ドロー!

俺はフォレストマンの効果で融合を……」

「その前にライホウの効果によって貴方は手札を1枚捨てなければ、モンスター効果を使うことはできない」

「げっ!?」

 ライホウの効果でヒーローの強力な効果を封じられた十代。十代を手札を確認し、手札を捨てるかどうかを考える。

「俺は手札を墓地に送ってフォレストマンの効果を使う。デッキから融合を手札に加える。

融合を発動。手札のバーストレディと場のフォレストマンを融合。現れろ、E・HEROノヴァマスター!」

 赤いマントを纏いし炎のヒーローが十代の場に現れた瞬間、湖が凍りつくほどの吹雪が発生しノヴァマスターが寒さで守備表示になってしまう。それを見た十代は明日香の場で1枚のカードが発動していたことに気づく。

「私は融合を発動したときにアイスバーンを発動させてもらったわ。

私の場に水属性モンスターがいるとき、このカードの効果で貴方が召喚・特殊召喚に成功したモンスターはすべて守備表示になる」

「これじゃあ、アニキが攻撃できないッス」

 翔が十代を心配する。十代が出したノヴァマスターは相手モンスターを戦闘破壊したときに発動できるカード。攻撃させなければ何もできない。

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:1枚

場:ノヴァマスター(DEF2100)

魔法・罠:伏せ2枚

 

-明日香のターン-

「私のターン。ドロー!」

(伏せカードが2枚……モンスター効果が封じられたから魔法・罠でライホウを破壊しようとしているのかしら。それなら……)

 明日香は十代のカードをモンスター破壊効果を持つカードだと判断する。

「リビングデッドの呼び声を発動して氷結界の軍師を特殊召喚。

軍師の効果発動。手札の氷結界の虎将グルナードを捨てて、1枚ドロー!

軍師を生贄に捧げ、氷結界の大僧正を守備表示で召喚。

大僧正がフィールド上に存在する限り、私の氷結界は魔法・罠では破壊されない。これで貴方の魔法・罠を気にせずに攻撃できるわ」

「でもライホウの攻撃力とノヴァマスターの守備力は互角だぜ」

 十代は破壊効果を持つ魔法・罠も封じられる。だが、明日香の場にいる最も高い攻撃力をもつライホウではノヴァマスターを破壊することができない。それを打破するために明日香はデュエルディスクを操作し、フィールド魔法をセットする場所が出てくる。

「そうね。今の状況ではノヴァマスターを倒すことはできない。でもデッキにはこの状況を打ち破るカードがあるわ。

マジックプランターを発動。永続罠であるリビングデッドの呼び声を墓地に送って2枚ドロー!

フィールド魔法、ウォーターワールドを発動。このカードの効果で水属性モンスターは守備力が400ポイント下がる代わりに攻撃力は500ポイントアップ!

ライホウ(ATK2100→2600)でノヴァマスター(DEF2100)に攻撃!」

 水の力を得たライホウがノヴァマスターを一刀両断する。

「カードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

手札:0枚

場:大僧正(DEF2200→1800)

  ライホウ(ATK2600)

魔法・罠:ウォーターハザード

     アイスバーン

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!」

(このカードは……それに明日香のアイスバーン、もしかして……)

 十代は何かを閃いたような表情になり、リバースカードを発動させる。

「俺はリバースカード、融合回収を発動。墓地のバーストレディと融合を手札に加える。

融合発動。手札のオーシャンとバーストレディを融合!現れろ、E・HEROアブソルートZero!

氷のヒーローならアイスバーンは効かないぜ」

 十代の場に現れる絶対零度の名を持つ氷のヒーロー。アイスバーンの寒さも同じ水属性モンスターのモンスターには通用しない。

「そうよ。アイスバーンは水属性モンスターには通用しない弱点がある。しかも永続効果はライホウの効果の対象外……」

「ラッキー。アブソルートZeroは自分以外の水属性モンスター1体に付き攻撃力を500ポイントアップする。アブソルートZero以外に2体の水属性モンスターがいるから、攻撃力は1000ポイント上がる。

さらにフィールド魔法の効果でアブソルートZeroの攻撃力は500ポイントアップするから攻撃力は4000!」

「フィールド魔法……フィールド全体に効果を及ぼす魔法カード。自分も相手もその効果を使うことができるもろ刃の剣」

 十代と明日香のやり取りをみて翔は昼間にあったクロノスの授業を思い出す。頭の中では分かっていたにもかかわらず、あまりにも緊張したため答えることができなかった。

「アブソルートZero(ATK2500→4000)でライホウ(ATK2600)に攻撃!瞬間氷結-Freezing at moment!」

十代のアブソルートZeroの腕が氷の刃に変わり、氷の剣ごとライホウを真っ二つにする。

 

明日香LP4000→2600

 

「よし、ライホウが居なくなった。これでヒーローたちの効果も復活するぜ。

ターンエンドだ」

 

手札:1枚

場:アブソルートZero(ATK4000)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-明日香のターン-

「私のターン。ドロー!

氷結界の決起隊を召喚。

このカードを生贄に捧げることでフィールド上の水属性モンスター1体を破壊し、デッキから氷結界を手札に加えることができるわ。

私はアブソルートZeroを破壊して、デッキから氷結界の伝道師を手札に加える」

「フィールドから離れたアブソルートZeroの効果発動!明日香の場のモンスターを全て破壊する」

「「「禁止カードのサンダーボルトと同じ効果!?」」」

 決死隊がアブソルートZeroに一斉攻撃を行い破壊するが、アブソルートZeroが明日香の場のモンスターを道連れにする。

 アブソルートZeroの効果を知らなかった人はアブソルートZeroの強力な効果を聞いて驚きの声をあげる。だが、アブソルートZeroの効果を知っていた明日香は場のモンスターが全滅することは計算の内だった。

「私はウォーターハザードの効果発動。手札の氷結界の伝道師を特殊召喚。

氷結界の伝道師は生贄に捧げることで墓地の氷結界を蘇生する効果を持っている。私は氷結界の伝道師を生贄に墓地の氷結界の虎将グルナードを特殊召喚」

「アブソルートZeroの効果を受けても攻撃力3000オーバーのモンスターを出してくるか。さすがは氷の女王と言ったところか」

 明日香の場にグルナードが現れる。夜光は明日香のデュエルタクティクスに感心しながら三沢から聞いた明日香の通り名を思い出しそれを呟く。

「さらにリミットリバースを発動。墓地の伝道師を特殊召喚。

私は氷結界の伝道師を生贄に墓地の氷結界の虎将ガンターラを特殊召喚」

 明日香の場にいかにも僧のような人物が現れる。そして明日香の場にあるウォーターワールドの効果で氷結界の武士は水の力を得てパワーアップする。

「ガンターラ(ATK2700→3200)でダイレクトアタック」

「罠発動、ヒーロー逆襲!さあ、手札を1枚選んでもらうぜ」

「手札1枚しかないじゃない!」

「選択されたE・HEROエッジマン(DEF1800)を特殊召喚。そしてヒーロー逆襲の効果でグルナードを破壊」

 明日香は十代の最後の手札を選択するしかなかった。そして十代の場に現れたのは金色のヒーロー。そして召喚されたエッジマンがグルナードを殴り倒す。

「その攻撃は正しいかしら。ガンターラの攻撃は続行させてもらうわ。ガンターラでエッジマンに攻撃」

 モンスターを破壊されたにもかかわらず、なぜか明日香は余裕の笑みを浮かべる。

 そして守備表示のエッジマンではガンターラの念動攻撃に対応できずに破壊されてしまう。

「これで貴方の手札にも場にもカードが無い。これでターンエンドよ。ガンターラの効果で墓地にある氷結界の虎将グルナードを特殊召喚」

「蘇生効果を持っていたのかよ」

 ガンターラの蘇生効果を知らなかった十代は破壊対象を間違えたことにようやく気づく。

 

手札:1枚

場:ガンターラ(ATK3200)

  グルナード(ATK3300)

魔法・罠:ウォーターハザード

     アイスバーン

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はホープオブフィフスを発動」

 翔が不安そうに見つめる中、十代は諦めずにカードをドローする。そして十代が引いたカードは希望の名を持つカードだった。

「墓地のノヴァマスター、アブソルートZero、エッジマン、オーシャン、フォレストマンをデッキに戻し、3枚ドロー!

E・HEROバブルマンを召喚。俺の場にバブルマン以外のカードがないから2枚ドロー!」

「ウソだろ。手札が0枚から4枚になった!?」

「なんなのあのインチキドロー!?」

「あのような引きインチキですわ」

 夜光や女子たちが十代のドローコンボに驚くのも仕方が無い。デュエルモンスターズは手札の数だけ戦略に幅が広がるため、手札はたくさんあった方が有利になる。そのため手札を4枚に増やす十代の手札補充は異常としか言いようがない。

「マスクチェンジを発動。バブルマンを変身召喚!来い、M・HEROアシッド!

アシッドの効果で明日香の魔法・罠を全て破壊し、モンスターの攻撃力を300ポイント下げる。Acid rain」

 アシッドが明日香の場のカードに向けて弾丸を放ち、打ち貫いていく。ウォーターワールドが破壊されたことで水の力を失ったモンスターたちは大幅にパワーダウンする。

 

武士ATK3200→2700→2400

グルナードATK3300→2800→2500

 

「俺は闇の量産工場を発動。墓地から通常モンスターであるフェザーマンとバーストレディを手札に加える。

融合発動。手札のバーストレディとフェザーマンを融合。現れろ、E・HEROフレイムウィングマン!

H-ヒートハートを発動。フレイムウィングマンの攻撃力を500ポイントアップさせる(ATK2100→2600)

アシッド(ATK2600)でガンターラに攻撃!Acid bullet」

 アシッドがガンターラに向かって銃を撃つ。悟りを開いた僧も近代兵器による攻撃には対応できずに破壊される。

 

明日香LP2600→2400

 

「フレイムウィングマン(ATK2600)でグルナード(ATK2500)に攻撃!フレイム・シュート」

 フレイムウィングマンが右手から炎をだし、明日香ごとグルナードを焼いていく。

 

明日香LP2400→2300→0

 

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ」

「そんなこと言っている場合があったら、僕の縄ほどいてよ~」

 十代がいつもの決めポーズをする。だが、翔はいまだにぐるぐる巻きにされていたため早く解いてほしかった。

 そして十代によって翔のロープを解いた後、事のあらましを明日香から聞くことになった。

 

 翔が十代あてのラブレターを自分のものだと勘違いして女子寮に来たら、ほぼ同時刻に誰かが女子寮を覗いていたため近くにいた翔が犯人だと疑われた。

 そして捕えられた翔がこの場所に来るきっかけとなったラブレターを明日香が見ると、ワープロで文字が書かれていたため誰が書いたかはわからなかったが、使われた口紅が安物だったので誰かがイタズラで入れたのだろうと推測した。だが周りの女子が頭に血が上っていたため説得が難しいため、彼女らを納得させれるようにデュエルで翔をどうするかを決めようとしたらしい。その対戦相手が同じ寮にいる十代に白羽の矢が立った。

「私がこの役を引き受けたのは万丈目君に勝った十代とデュエルしたかったからよ。授業だとデュエルする機会が少ないから」

「なるほどな。1個上のイエローならともかくブルーがレッドとデュエルする機会はないか」

 デュエルアカデミアでは同じ寮の人間同士とデュエルする機会は多いが、異なる寮しかもエリートのオベリスクブルーと落ちこぼれのオシリスレッドとデュエルする機会はまずない。

「これでこの子を返しても良いでしょう」

「まだ納得できない」

「たまたま引きが良かっただけじゃない」

「そうよ。運やまぐれで勝っただけよ」

「どうすれば納得するんだ?」

 明日香が後ろでおとなしくデュエルを観ていた女子に声をかけると、まだ納得していないようだった。夜光がどうすれば納得できるかを聞いてみると女子全員がデュエルディスクを装着する。

「「「「「私たちとデュエルだぁ!」」」」」

「いやいや、いくら十代でも5人まとめて相手するのは無理だ。誰か1人にしろよ」

「そうね。代表を決めてもう1回だけデュエルしてこの子をどうするか決めましょう。たとえ負けたとしても文句はなし。いいわね」

 明日香の言葉を聞いて女子たちがジャンケンを始める。そしてジャンケンで勝った茶髪で髪を肩までおろした子が前に出てくる。

「私とデュエルね。でも十代君は一度デュエルして疲れているだろうから、対戦相手はそこの君」

「ん? 俺?? なんで俺なんだ? そこは張本人の翔を選べよ」

「僕、デッキ持ってきてないッス」

「俺、全然疲れていないんだけど」

 なぜかその女子は夜光を指さす。おそらくこの場で一番困惑しているのは指を刺された本人だ。

「だってガーランドルフを使う人初めて見たから、一度デュエルしてみたかったんだよね」

「そういうことなら受けて立つぜ。光の魔女、井口(いぐち)星奈(せいな)!」

「その通り名は恥ずかしいからやめて!」

「ごめん」

 夜光も持ってきたデュエルディスクを展開し、三沢から聞いた彼女の通り名を言う。星奈は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしながらやめるように言う。そのため、夜光は星奈の気分を害したため謝る。

「「デュエル!」」

 

星奈LP4000

夜光LP4000




お久しぶりです。
明日香のデッキは氷結界からシンクロギミックを抜いたデッキになりました。
明日香のデッキはなんでオリカが多いんだ……
まあ、死者蘇生+キャノンソルジャーで1kill可能な儀式モンスターがOCG化されるはずがないか。

そしてヒロインの登場。
使うデッキは台詞から推測できるかもしれませんね。


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第6話 光の魔女

-星奈のターン-

「私のターン。ドロー!

魔導騎士ディフェンダーを守備表示で召喚。

魔導騎士ディフェンダーが召喚に成功したことで魔力カウンターを1つ乗せるよ(0→1)」

 青い甲冑を身に着けた騎士が自分の身長ほどの大きさを持つ巨大な楯を構える。魔力カウンターが増えたことで盾の中央にある赤い宝石が赤く光る。

 夜光は厄介なモンスターだと思いながら、星奈がどのような手を打つかを見る。

「フィールド魔法、魔法族の里を発動」

「げげっ!?」

 夜光が考え得る中で最悪のカードが星奈の手によって発動される。

 

魔法族の里

フィールド魔法

自分フィールド上にのみ魔法使い族モンスターが存在する場合、

相手は魔法カードを発動する事ができない。

自分フィールド上に魔法使い族モンスターが存在しない場合、

自分は魔法カードを発動することができない。

 

 木々が生いしげ、どんぐりのような形の家が立ち並ぶ。

「これで夜光君が魔法使い族を召喚しない限り、魔法は封じられる」

「それじゃあ、夜光君は儀式召喚を封じられたのも同然。卑怯ッス!」

 星奈が発動したフィールド魔法の説明を聞いた翔は星奈を罵ろうとする。それを見た夜光は翔の方を振り向く。

「卑怯じゃねェよ。ロック戦術は昔から考えられているし、禁止カードも使っていない。

卑怯と罵っていいのはルールを破っている奴だけだ。

それに魔法族の里は魔法使い族がいなくなったら、自分の魔法を封じられるデメリット効果がある。それに見合った戦術を使うのは当然だ」

「ごめんなさい」

 翔は夜光の注意を聞いて思わず感情的になってとんでもないことを言ったことに気づく。自分の過ちに気づいた翔は反省した様子で星奈に謝る。

「うん、別に気にしていないから。

デュエルの続きだね。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:3枚

場:ディフェンダー(DEF2000)

魔法・罠:伏せ1枚

フィールド魔法:魔法族の里

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!」

(俺の手札に守備力2000のディフェンダーを倒せるカードは無い。今は耐えるだけか)

「俺はガーゴイルパワードを守備表示で召喚。

カードを2枚伏せてターンエンド」

 破壊耐性を持っているうえに守備力の高いディフェンダーをこのターンで突破する術がなかった夜光は守備を固めることにする。

 だが、守備を固めた夜光に追い打ちをかけるかのように星奈は伏せカードを発動させた。

「エンドフェイズ時に王宮のお触れを発動」

「しまった!? 罠も封じられた」

 魔法・罠を封じられた夜光はモンスター効果のみで星奈のモンスターたちに対抗しなければならない。そのため、夜光は冷や汗をかいている。

 この絶望的な状況を見た翔は心配そうな目で夜光を見るが、先ほどとは違って星奈の戦術を非難するようなことはしない。

 

手札:4枚

場:ガーゴイルパワード(DEF1200)

魔法・罠:伏せ2枚

 

-星奈のターン-

「私のターン。ドロー!

高等儀式術を発動。デッキのレベル4ホーリーエルフとレベル3封印師 メイセイを墓地に送って救世の美神ノースウェムコを儀式召喚するよ」

「遂にお出ましか。ノースウェムコ……ガーランドルフと対になる儀式モンスター」

 

救世の美神ノースウェムコ

儀式・効果モンスター

星7/光属性/魔法使い族/攻2700/守1200

「救世の儀式」により降臨。

このカードが儀式召喚に成功した時、

このカードの儀式召喚に使用したモンスターの数まで、

このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するカードを選択して発動する。

選択したカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

このカードはカードの効果では破壊されない。

 

 太陽を模した彫刻が付いている杖を持ち、黒いロープを着た美女が雷鳴と共に現れる。

 それを見た翔は鼻の下を伸ばして「浮気はダメだ。僕はブラックマジシャンガール一筋だ」と言い聞かせている。

「ノースウェムコが儀式召喚に成功したことで効果が発動。私は王宮のお触れと魔法族の里を選択。

選択したカードが除去されない限り、ノースウェムコはカード効果では破壊されない」

「この勝負、星奈の勝ちね」

「まだ勝負はわかんねぇだろう」

「十代も分かるでしょう。魔法・罠を封じられた上にカード効果では破壊されないアタッカー。この状況を抜け出せる術なんてない」

 明日香は十代に反論する。モンスターを魔法・罠で補助して戦わせるのがデュエルモンスターズの基本である。そのため魔法・罠の補助なしに攻撃力2700のモンスターを除去することは容易ではない。

「いいや、夜光の目はまだあきらめていない!」

 十代は夜光の目に諦めの色が無いことを言う。しかし、明日香は諦めなくともこの状況を打破するすべはないと思っていた。

 

「クルセイダー・オブ・エンディミオンを召喚。

ディフェンダーを攻撃表示に変更。ディフェンダー(ATK1600)でガーゴイルパワード(ATK1200)に攻撃」

 ディフェンダーがその巨大な楯でガーゴイルパワードを叩き潰す。腰につけているナイフは飾りなのだろうか。

「クルセイダー・オブ・エンディミオン(ATK1900)とノースウェムコ(ATK2700)でダイレクトアタック!」

 蒼い甲冑を身に着けた魔導師が無抵抗の夜光を殴り飛ばす。

 夜光にとどめを刺そうとノースウェムコが呪文を唱え、雷撃を放つ。十代を除く誰もが夜光の敗北を確信する中、夜光は手札のカードを発動させる。

「手札からクリボーの効果発動。このカードを捨てることでノースウェムコからのダメージを0にする」

 

夜光LP4000→2100

 

 無数の小さく可愛らしい悪魔が雷撃を受けて爆発する。

「「「クリボー!? 」」」

「デュエルモンスターズ史上最弱のモンスターカードを入れているなんて……」

 弱小モンスターの代表ともいえるクリボーを見て驚きの声をあげるブルー女子たち。ステータスの高いモンスターが強いという固定観念を持つ彼女たちにとってはクリボーは使えないカードだと思っているからだ。

「伝説のデュエリスト武藤遊戯も使っている。ただの弱小カードじゃないぜ。このカードが星奈のコンボを打ち砕く一手だ」

「そんなことできるはずが……

ターンエンド」

 無いと言いたかったが、無いとは言えないのがデュエルモンスターズの醍醐味である。星奈は夜光がなにか仕掛けてくると考え直す。

 

手札:1枚

場:ディフェンダー(ATK1600)

  ノースウェムコ(ATK2700)

  クルセイダー(ATK1900)

魔法・罠:お触れ

フィールド魔法:魔法族の里

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!

トランスデーモンを召喚。

トランスデーモンの効果発動。手札の未熟な悪魔を捨てて、エンドフェイズまでトランスデーモンの攻撃力を500ポイントアップさせる。(ATK1500→2000)」

 チュパカブラのような異形の悪魔が未熟な悪魔をむしゃむしゃと食べる。未熟な悪魔の生命エネルギーを吸収したトランスデーモンはさらなる力を身に着け、星奈を睨み怯えさせる。

「これで準備は整った。行くぜ!俺は墓地の3体の悪魔族、ガーゴイルパワード、クリボー、未熟な悪魔を除外してダーク・ネクロフィアを特殊召喚する」

 頭の割れた子供の人形を抱く女性が夜光の場に現れる。

 その不気味な姿に多数の女子たちから「気持ち悪い」「気味が悪い」と評され、何人かは女子寮に帰ってしまう。

 夜光は「何処が気持ち悪いんだよ……」とぼやきながら、デュエルを続行する。

「トランスデーモン(ATK2000)でクルセイダー・オブ・エンディミオン(ATK1900)に攻撃!」

 トランスデーモンがクルセイダーの背後に回り込み、甲冑ごと肉をむさぼる。その様子を見た女子たちが次々と気分が悪くなり、ギャラリーにいる女子は明日香しか残っていない。

 

星奈LP4000→3900

 

「ダーク・ネクロフィア(ATK2200)でノースウェムコ(ATK2700)に攻撃!念眼殺」

 ネクロフィアが目から赤い光を放ち、詠唱中のノースウェムコに攻撃するが魔力を帯びたロープにはじかれてしまう。ネクロフィアがもう一度光を放とうとしたとき、詠唱が終わったノースウェムコが杖から雷撃を放ちネクロフィアを破壊する。

 

夜光LP2100→1600

 

「思い出したわ。あれは伝説のデュエリスト武藤遊戯と戦った獏良了が使ったエースモンスターよ」

 明日香がようやくダーク・ネクロフィアのことを思い出す。

 ダーク・ネクロフィア専用のフィールド魔法や罠があるとはいえ、召喚する際には墓地に悪魔族を3体も送らなければならないことから手間がかかり一般的なデュエリストからは『使えないカード』と評価されてきた。そのため、効果を思い出すのに時間がかかってもおかしくはない。

「どんな効果を持っているんだ?」

「十代、すぐにわかるぜ。ターンエンド。エンドフェイズ時に破壊されたダーク・ネクロフィアの効果発動。ノースウェムコに怨霊が取りつき、そのコントロールを奪う!スピリット・バーン」

「ウソ!? 私のノースウェムコが…………」

 破壊されたネクロフィアが落とした人形がケタケタ笑いだすと人魂のようなものが飛び出す。人魂がノースウェムコに憑りつくとノースウェムコは苦しみながら夜光の場に移動する。

 このコントロール奪取により、夜光の場にも魔法使い族が存在するため魔法カードが使えるようになった。

 

手札:1枚

場:トランスデーモン(ATK1500)

  ノースウェムコ(ATK2700)

魔法・罠:ネクロフィア(ノースウェムコに装備)

     伏せ2枚

 

-星奈のターン-

「私のターン。ドロー!」

「スタンバイフェイズ時にライフを500払ってツイスターを発動。王宮のお触れを破壊する。これで罠も使えるようになった」

 

夜光LP1600→1100

 

「たった1ターンであのコンボを打ち破った!?」

 明日香が驚きと賞賛が混じったような声をあげる。明日香が知る限り今まで破ったものいないコンボをわずか数ターンで破ったのだから当然ともいえる。一方でエースモンスターを奪われ、コンボを破られた星奈の表情には驚愕と動揺の色が見え隠れする。

「ディフェンダーを守備表示に変更。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:1枚

場:ディフェンダー(DEF2000)

魔法・罠:伏せ1枚

フィールド魔法:魔法族の里

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺は高等儀式術を発動。デッキにあるレベル3ガーゴイルとレベル4ウィップテイルガーゴイルを墓地に送り、破滅の魔王ガーランドルフを儀式召喚!」

 闇の瘴気の中からガーランドルフが現れ、黒い波動を辺りにまき散らす。強力な攻撃から身を守る術を持たないトランスデーモンが破壊される。

「ガーランドルフの効果でディフェンダー、ノースウェムコ、トランスデーモンを破壊する。ノースウェムコは自身の効果で破壊されないけどな」

「ディフェンダーの効果発動。破壊される代わりに魔力カウンターを1つ取り除いて破壊を防ぐ(1→0)」

 ディフェンダーが盾に蓄えられた魔力を使い、バリアを張ってガーランドルフの攻撃を何とか防ぐ。だが、魔力を使い果たしたディフェンダーに次の攻撃を防ぐ手段はない。

「破壊したモンスターは1体、よってガーランドルフの攻撃力は2600に上がる。

さらに破壊されたトランスデーモンの効果で除外されているガーゴイルパワードを手札に加える」

 回収したガーゴイルパワードを召喚しようとカードに手をかけたとき、星奈が「ちょっとタイム」と言ってカメラを持ってガーランドルフ達の写真をとる。

 

「……何しているんだ?」

「いや~、やっぱり対になるモンスターが並んでいると眺めがいいよね」

「プロになったら写真撮っている暇はないと思う」

「私はデュエルできるカメラマン希望だから大丈夫」

 一般的にアカデミアの生徒はプロデュエリストを希望する者が多いが、カードデザイナーや記者といったデュエリスト以外の職業を希望する者も少数派とはいえ存在する。それならアカデミアではなく別の学校に行けば良いのではと思うかもしれないが、デュエルに関係なさそうな職業でもデュエルの腕が重要視されている企業は数多く存在している。

 そのため、デュエルの腕を磨くという目的でアカデミアに来る者がいる。星奈もその中の一人である。

 星奈が満足するまで写真を撮った後、夜光たちはデュエルを再開する。

「ガーゴイルパワードを召喚。

ガーランドルフでディフェンダーに攻撃」

 ガーランドルフがディフェンダーの頭を掴み持ち上げる。力を思いっきり入れられたことでディフェンダーの頭部がトマトのようにつぶされる。それを見た翔は吐き気を催し、口を手で押さえる。

「ガーゴイルパワードとノースウェムコでダイレクトアタック!」

「私の切り札にやられるわけにはいかない!

ノースウェムコの攻撃時にガードブロックを発動。戦闘ダメージを0にして1枚ドロー!」

 

星奈LP3900→2300

 

 夜光の猛攻に紙一重で耐えた星奈。しかし、星奈の場はがら空きとなってしまう。

「星奈の場に魔法使い族が居なくなった。

これで星奈は魔法カードを使うことができない。ターンエンドだ」

 

手札:0枚

場:ガーランドルフ(ATK2700)

  ノースウェムコ(ATK2700)

  ガーゴイルパワード

魔法・罠:伏せ1枚

 

-星奈-

「私のターン。ドロー!

私はフィールド魔法をセットすることで魔法族の里を破壊する。

魔法カード、時の魔術師を発動」

 

時の魔術師(原作カード)

通常魔法

ルーレットを回転する(当たる確率は3分の1)。

当たった場合、フィールドの時を進める。

外れた場合、自分フィールド上に存在するモンスターを全て破壊し、

自分は破壊したモンスターの攻撃力を合計した数値の半分のダメージを受ける。

 

「あれは伝説のデュエリスト、城之内克也が使っていたレアカードの時の魔術師!

ビデオとかDVDとかじゃなくて生で見れて最高だ!」

 星奈の場に身体が時計でできている小さな魔術師が現れる。それを見た十代はうれしそうな声をあげる。

 時の魔術師がタイムマジックと言うと、手に持っている杖のルーレットが回りだす。

「タイムマジックによる一発逆転……それに対抗する手段はすでにある。

時の魔術師にチェーンして闇次元の解放を発動。除外されている未熟な悪魔を特殊召喚!」

「「えっ!?」」

 意外すぎるカードに星奈だけでなく明日香も驚きの声をあげる。星奈たちからすれば、魔法・罠を無効にするカウンター罠だろうと思っていたからだ。

 

 そんな二人を尻目に時の魔術師のルーレットのスピードがゆっくりとなっていく。そしてルーレットの針は『当』を示す。

「タイムルーレット成功!フィールドの時を100年進める。タイム・マジック!

100年の時が進んだことで夜光君の場のモンスターたちは封印される。

夜光君の場ががら空きになったところでブレイカーのダイレクトアタックがきまれば、私の勝ちよ」

「それはどうかな。未熟な悪魔は100年の時が進んだことで上級悪魔に成長する。

出でよ、デーモンの召喚!」

 時の魔術師の効果が成功し、ガーランドルフ達が球体に封印されたことで勝利を確信した星奈。しかし、夜光の場に不意打ちで現れたデーモンに驚きを隠せない。

「あんな誰もが持っているような弱小モンスターが……」

「悪魔族の中でも五指に入るレアカード、デーモンの召喚に……」

「「「「成長した!?」」」」

 時の魔術師の効果は味方を有利にする効果だけではない。使い方を間違えれば相手を有利にすることもある。それを知らなかった星奈たちはただ驚くだけである。

「ブレイカーを守備表示で召喚。ブレイカーは召喚時に魔力カウンターを1つ置く。

ターンエンド」

 しかし、星奈は最後まであきらめない。デュエリストが諦めるのは自分のライフが0になったときだからだ。

 

手札:0枚

場:ブレイカー(DEF1000)

魔法・罠:なし

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!

契約の履行を発動。ライフを800払って墓地のガーランドルフを特殊召喚する。

ガーランドルフ(ATK2500)でブレイカー(DEF1000)に攻撃!」

 ガーランドルフが先のディフェンダーと同様にブレイカーの頭部を握り破壊する。ついに耐えきれなくなった翔は湖に向かって吐いた。

「デーモンの召喚(ATK2500)でダイレクトアタック!魔降雷」

 デーモンが雷を辺り一面に落とし、星奈のライフを奪う。何処からともなくクロノスの叫び声が聞こえるが、気のせいだろう。

 

星奈LP2300→0

 

「私の負けか。でも今度は負けないからね」

「あ……ああ。今度は人質のやり取り無しの真剣勝負だ」

 顔を少し赤くした夜光は星奈と互いに約束を交わし握手をして別れる。翔を無事に助けることができた十代たちは寮の管理者である先生に見つからないことを祈りながら帰路につく。

 翌日、クロノスはガーランドルフの流れ弾に襲われたことで顔が腫れ、明日香が湖を凍らせたことで風邪をひくのであった。




星奈のデッキは光属性中心の【魔法使い族】でした。
時の魔術師でデーモンの召喚を呼び出しているのは昔のゲームで
未熟な悪魔+時の魔術師=デーモンの召喚
という融合パターンがあったためです。
OCGでは融合モンスターになった千年竜と同じ扱いで原作風に召喚させてみました。

ラストターンでブレイカーを召喚してから時の魔術師を使えば勝っていたと思うかもしれませんが、時の魔術師の効果を失敗した場合に壁モンスターが居なくなるのを恐れたからです。


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第7話 月一試験(前編)

 試験。

 学生がその言葉を聞いたとき、ある者は真面目に勉強し、ある者は神に祈るという現実逃避をするだろう。

デュエルを学ぶためのデュエルアカデミアでも一般教養やデュエルに関する知識が問われる筆記試験とデュエルの実技試験をする月一試験がある。月一試験の結果次第では寮の昇格・降格があり、大半の生徒たちは昇格を夢見て必死に勉強する。

 試験の日が刻々と迫る中、夜光は黒く塗りつぶされた地図を見ていた。

「学生の身分で立ち入ることができる施設は見てきたけど、奴につながる手がかりはなしか」

 夜光は何の手がかりもないことに溜息を吐く。アカデミアがある島には学生が立ち入ることができない研究所や今は使われておらず鍵がかかっている廃寮等がある。夜光はそれらにも立ち入ろうと考えたものの十代の監視という別任務があることから、退学のリスクをとることはできなかった。

(奴が表舞台に出てくるとしたら、この島に封印されているカードを狙う時のはず。それまではおとなしく待つしかない)

 夜光が思考を巡らしているとドアからコンコンとノックする音が聞こえたので、地図を机の引き出しの中に入れる。ドアを開けるとそこにはなぜか涙を浮かべている神楽坂の姿があった。

 何事かと思った夜光は神楽坂を部屋の中に招き入れ、事情を聴くことにした。

「神楽坂、一体どうしたんだ?」

「さっき、実習生の龍牙さんにデュエルを挑まれて……

デュエル中に魔法カードが発動できなくなって……

それでデュエルで負けてデッキを無理やり盗られたんだ」

 神楽中は泣きじゃくりながらも要点だけはしっかりと話す。試験間近なこの時期に大事なデッキを奪われたことで泣いていたようだ。

「先生らに相談すれば良いんじゃあ? 樺山先生なら話を聞いてくれるだろう」

「それも考えたけど、龍牙さんはクロノス教諭のお気に入りだから僕が譲ったことになって匿われるだけだと思う」

「さすがにそれはないと思うが……う~ん」

 先生らの協力も無しでデッキを取り返す方法を考えては見たが、良案が思いつかない。とりあえず無駄足になる可能性が高いが龍牙に抗議することにした。

 

 神楽坂と共に龍牙がよく居るデュエル場に着く。そのデュエル場は設備が古いためブルーの生徒は使おうとするものがほとんど居ないため、イエローやレッド寮の生徒も使えるように解放している。しかし、島の裏手側にあるためデュエル場に行くには時間がかかり、利用者が少ない。

 デュエル場には目の前にいる翔が龍牙とデュエルしている姿があった。

 翔の場には攻撃表示のスチームロイド、手札にはリミッター解除が存在しており、それらを使えば龍牙の暗黒恐獣を倒し龍牙のライフを0にすることができる状況である。しかし、翔はなぜかリミッター解除を使わずに、いや使おうとデュエルディスクを操作しているにも関わらず発動できずにターンを終了する。

 そして翔のターンが終わり龍牙の暗黒恐獣の攻撃により、翔のライフは0になった。

「なんで魔法カードが発動できないんだ……?」

「お前のような屑デュエリストに愛想を尽かしたんじゃないか。

お前のような雑魚はとっとカードを私に渡して島から出た方が身のためだ」

「おい、勝手にカードを奪おうとしているんだ!」

 龍牙がデッキを手放さないとしようとする翔を力づくではがそうとしたとき、夜光が龍牙に向かって大きな声で抗議する。第三者が現れたことに気づいた龍牙は体裁を取り繕うとする。

「勘違いしないでくれよ。翔君が珍しいカードを持っていたから譲ってもらうように交渉していただけさ」

「お前の交渉ってのは力づくで奪うことかよ。さっきのやり取り、すべてこの携帯に撮影させてもらったぜ」

「お前ら、下手に出ていたら調子に乗りやがって!その携帯を私によこせ!!」

 本当はシャッター音で自分たちの存在を知られたくなかったので、携帯での撮影はしていない。ハッタリをかけられた龍牙はまんまとはめられ、本性を見せてしまう。

「やだね。渡してほしいなら月一試験で俺とデュエルしろ。クロノス先生のお気に入りならやればできるだろう。

俺に勝ったら、この携帯を渡す。だが、俺が勝ったら神楽坂のデッキ、いやこれまで奪ってきたカードを返して貰うぜ」

「良いだろう。お前のような屑カードばかり使うようなデュエリストに私が負ける要素などない。

フハハハハハハ」

 龍牙は高笑いしながらデュエル場から出ていく。それを見届けた後、3人は集まってひそひそと相談する。

「翔、神楽坂、良かったら2人のデュエルディスクを調べてみたい。2人ともデュエル中に魔法カードが使えなくなるのはどうみてもおかしい。

朝までには調べ終わるから、筆記試験前には返すよ」

「僕のデュエルディスク、まだメンテナンスしていなかったからそれが原因かもしれないけど頼むッス」

「僕は先週メンテナンスしたばかりだったから、急に故障するとは思えなかったんだ」

 神楽坂、翔のデュエルディスクを受けとった夜光は龍牙に勝つことを約束してデュエル場を後にする。

 2人きりになった神楽坂と翔は自分たちができることが無いかと考え、1つのアイデアが思い浮かんだ。

 

 月一試験当日。

 十代と翔は道端であったトメさんを助けたため筆記試験に十数分程度遅れてしまう。もし、20分以上が経過していれば教室に入ることすらできないため、レッド寮である十代たちは退学がほぼ決まることになってしまうところであった。

 そんなことがあったため、翔にデュエルディスクを渡すのは筆記試験後の昼休みとなってしまった。昼休みに校舎付近で食堂で買ってきたパンを食べている十代と翔を見つけた夜光は声をかけ、翔にデュエルディスクを手渡す。

「俺が調べた限りでは翔と神楽坂のデュエルディスクの機能に障るような異常はなかった」

「良かったッス」

「ん? それっておかしくないか?

翔のデュエルディスクの調子が悪くなったから魔法カードが使えなくなったんだろう」

 夜光の言葉を聞いて翔はホッと胸をなでおろす。もし、異常があってデュエルができない状態になれば恐らく退学になっていたからだ。しかし、十代は夜光の言葉と翔から聞いた説明でふと疑問に思ったことを口に出す。

「ああ。デュエルディスクの故障が原因なら必ずその痕跡があるはずだ。

それが無かったということは誰かが人為的にデュエルディスクの機能をマヒさせた可能性が高い」

「その誰かは龍牙だとしてもどうやって引き起こしたんだ?」

「可能性が高いのは妨害電波を出す方法だろうな」

 夜光は十代の問いに丁寧に説明する。

 デュエルディスクがカードに内蔵されたICチップを読み取ることでソリッドヴィジョンを発生させている。しかし、そのデュエルディスクに特殊な電磁波を当てるとICチップの読み取りエラーが起こり、カード認識が作動しなくなる。そして電磁波がなくなれば正常に作動するため証拠が残ることが無い。莫大なお金が動くことがあるデュエル大会では稀とはいえ、使われることもある手段の一つである。

 そういったこともあり、KC社は妨害電波に対抗できる新型デュエルディスクの開発を来年度発売をめどに進めている。

「来年にそのデュエルディスクができても龍牙先生は実習期間を終えているッス」

 翔の言う通り、アカデミアの実習生は生徒とのデュエル50戦といった課題と1年の研修期間を終えれば、教師として正式採用される。そのため、龍牙からすれば1年間不正がばれなければ、そのあとは手にした権力でどうにでもなる。

「だから、龍牙先生の不正を暴くには今しか無いッス!」

「翔、なんか名案があるのか?」

「実はかくかくしかじか……

というわけで夜光君には時間稼ぎしてほしいッス」

 夜光が翔の自信がありそうな発言に少し驚きながらも尋ねてみる。翔は神楽坂と建てた作戦を話し、夜光のデュエルの腕を信じて時間稼ぎをお願いする。それをきいた夜光は「分かった」と答え、その場を去る。

 

 デュエル場では神楽坂や翔のデュエルが終わり、二人とも何処かに行ってしまう。カードコレクターである神楽坂はデッキ1つ奪われてもデッキをもう1つ作るだけのカードはあった。普段とは違うデッキを

いきなり本番で扱うことになるが、様々なデッキを研究してきた神楽坂の腕であれば、どのようなデッキでもある程度は扱うことができる。一方でデッキを寸のところで奪われなかった翔は少し危ない場面もあったが、二人ともデュエルに勝利する。

 その後、次々と生徒が呼ばれて実技試験が終わっていく。そして夜光が呼ばれ、対戦相手は龍牙であった。その対戦カードに周りから驚きの声があがっていく。月一試験は原則として同じ寮の生徒同士でデュエルを行うため、実習生vs生徒というカードは行われることはほとんどないからだ。

「逃げなかったのは褒めましょう。しかし、お前が私に勝てる可能性はない!」

「自分のカードを屑呼ばわりして誰が逃げ出すか!

それにデュエルは最後まで何が起こるかわからないぜ」

 互いにデュエルディスクを展開し構える。

「「デュエル!」」

 

龍牙LP4000

夜光LP4000

 

-龍牙のターン-

「君から挑んできたんだ。先攻は貰う。

私のターン。ドロー!

私は俊足のギラザウルスを特殊召喚扱いで召喚する」

 小型で細みの恐竜が龍牙の場に現れる。

「この際、相手のモンスターを特殊召喚させるデメリット効果があるが、君の墓地にモンスターはいない。よってこのデメリット効果は実質無いに等しい」

大進化薬を発動。私の場にいる恐竜族モンスターを生贄に捧げることで、3ターンの間私は恐竜族モンスターの召喚に必要な生贄はなくなる」

 先攻1ターン目にギラザウルスを特殊召喚することでデメリットを回避したうえで大進化薬の生贄コストを確保する。生徒たちが「さすがは実習生だ」と思えるようなデュエルタクティクスが高いプレイであった。

「超古代恐獣を生贄無しで召喚!」

 白い皮膚を持ち、頭から角が生え背中には翼が生えているドラゴンに近い風貌を持つ恐竜が龍牙の場に現れる。1ターン目からの最上級モンスターの召喚に賞賛の声があっちこっちから聞こえる。

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:2枚

場:超古代恐獣(ATK2700)

魔法・罠:大進化薬

     伏せ1枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はマッド・リローダーを守備表示で召喚」

 頭部には4つの角を持ち、長い赤い舌を出し、小さな黒い翼をもつ悪魔が夜光の場に現れる。女子からは気持ち悪いという声がでてくるのは当然か。

「攻守0の雑魚モンスターなんか入れてる奴を初めてみたぜ」

「そんな屑入れるくらいなら、魔法カード入れた方がマシだ」

「悪夢再び、ダークバーストで回収できるから色んな意味で恵まれているステータスだろうが!」

 マッド・リローダーを馬鹿にするような声もチラホラ聞こえる。必死に反論しても馬鹿にする声は消えなかった。

「カードを1枚伏せてターンエンド」

「この瞬間、王宮のお触れを発動。これでおまえの罠は封じた」

 お触れにより夜光の罠は封じられてしまう。

 

手札:4枚

場:マッドリローダー(DEF0)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-龍牙のターン-

「私のターン。ドロー!

私は暗黒恐獣を生贄無しで召喚。

暗黒恐獣(ATK2600)で雑魚モンスター(DEF0)に攻撃だ!」

「戦闘破壊されたマッドリローダーの効果発動。手札を2枚捨て、2枚ドロー!」

 暗黒恐獣がマッドリローダーをかみ砕き破壊される。マッド・リローダーの効果で手札交換する夜光を見て龍牙はあざ笑う。

「手札交換? 手札事故でも起こしたか!

超古代恐獣(ATK2700)でダイレクトアタックだ!」

「手札からクリボーの効果発動。このカードを捨てて、戦闘ダメージを0にする」

 夜光の場にクリボーが現れ、超古代恐獣の突進を受けて爆発する。爆発に驚いた超古代恐獣は体勢を立て直すため龍牙に場に戻ってしまう。

「ちっ……カードを1枚伏せてターンエンド」

 最上級モンスターで2体で攻撃したにもかかわらず、ダメージを与えられないことにいら立ちを隠せない龍牙は思わず舌打ちし、手札のカードを伏せる。

(この指輪で魔法を封じ、お触れで罠を封じている状態でおまえができることはモンスター効果で私のモンスターを破壊するくらいだ。だが、私が伏せた我が身を盾にで破壊効果は封じた。私の勝利は揺るぎない!)

 

手札:1枚

場:超古代恐獣(ATK2700)

  暗黒恐獣(ATK2600)

魔法・罠:大進化薬

     王宮のお触れ

     伏せ1枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺は闇王プロメティスを召喚」

 黒炎の中からオレンジ色のフードを被り、赤いマントをたなびかせて登場する闇の王。

しかし、元々の攻撃力が1200と低いことから、「名前負けしているじゃん」という声がレッド寮の席から聞こえる。

「召喚に成功した闇王プロメティスの効果発動。墓地のマッドリローダー、キングゴブリン、牛鬼、クリボーを除外する。

闇王プロメティスはエンドフェイズまで自身の効果で除外したモンスターの数×400ポイント攻撃力が上昇する(ATK1200→2800)」

「攻撃力1200の雑魚が私のモンスターの攻撃力を上回っただと!?」

 闇の王の名は伊達ではない。墓地<<やみ>>に住みし住人達の力を吸収し巨大化する。

「闇王プロメティスで超古代恐獣(ATK2700)に攻撃!」

 プロメティスが超古代恐獣に向かって黒い炎を放つ。炎で焼かれている超古代恐獣はのた打ち回るが、炎は消えることなく灰になってしまう。巨大化した意味はあったのだろうか。

 

龍牙LP4000→3900

 

「ターンエンド」

(俺に攻撃を防ぐ手段はない。龍牙が攻撃力2600以上のモンスターをだされたら敗北が決まる。

翔はまだか……)

 自分が敗北する前に翔が来るのを信じてターンを終了する。

 

手札:3枚

場:闇王プロメティス(ATK1200)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-龍牙のターン-

「私のターン。ドロー!

ちっ、私は暗黒ドリケラトプスを召喚。

暗黒恐獣(ATK2600)で闇王プロメティスに攻撃!」

 暗黒恐獣がプロメティスをかみ砕き破壊する。

 

夜光LP4000→2600

 

「暗黒ドリケラトプスでダイレクトアタック!」

 暗黒ドリケラトプスが夜光に

 

夜光LP2600→200

 

「ターンエンドだ」

 

手札:1枚

場:暗黒恐獣(ATK2600)

  暗黒ドリケラトプス(ATK2400)

魔法・罠:王宮のお触れ

     伏せ1枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!」

「そういえば、あいつ魔法カード使っていないよな」

「そういえばそうだな。なんでだ? どんなデッキでも魔法カードは使うだろう」

「龍牙先生のデュエルを観たとき、対戦相手は魔法カードを使ってなかったぜ」

 一人のイエロー男子が疑問を口に出すと周りに次々と疑問の声が上がっていく。徐々に騒ぎが大きくなったため、クロノスが「静かにするノーネ」と注意する。しかし、彼らが一度抱いてしまった疑問は消えることが無い。

「龍牙のヤローとデュエルする奴は全員魔法カードが使えなかったんだ」

「そうだ、俺の時も魔法カードが使えなかった。しかもデッキを奪った最低なやつなんだ」

「龍牙先生はイカサマしているッス」

「マジかよ」

「そんな奴、教師にするんじゃねェ!」

 今まで龍牙にデッキを奪われたレッド・イエロー生が龍牙とのデュエルに起こった魔法カードが使えなくなった異常を次々と言う。翔と神楽坂は今まで龍牙と対戦したことのある生徒たちを探し集めていた!

 デッキがなくなったことで泣き寝入りしたり、不登校になっていた者が数多く居たが二人の説得に応じてこの場に来たのだ。

「龍牙君、これはどういうことですかな?」

「こ……これはですね…………

奴らは自分たちが負けた原因を私のせいだとなすりつけているだけです!」

 鮫島校長先生から理由を尋ねられて狼狽しながらもその場を切り抜けようと言い訳をする。龍牙の精神が不安定な今がチャンスだと考えた夜光は手札のカードを発動させる。

「俺はサイクロンを発動。王宮のお触れを破壊する」

「ぬぁにぃぃぃぃ!? 馬鹿な、妨害電波で魔法カードは使えないはずだ」

「語るに落ちたな。今の言葉をしっかり記憶したか、神楽坂!」

「うん。『妨害電波で魔法カードは使えない』ばっちり」

 神楽坂がボイスレコーダーに録音した龍牙の台詞を再生する。これで倫理委員会に提出できる証拠も手に入り、龍牙の逃げ道を封じることに成功した。

「あとは夜光君がデュエルに勝つだけだよ」

「おう!ライフを半分払って異次元からの帰還を発動!」

 神楽坂の期待に応えるべく、これまで仕込んでおいた仕掛けを発動させる。

 

夜光LP200→100

 

「除外されたマッドリローダー、クリボー、キングゴブリン、牛鬼を特殊召喚する」

「そんな雑魚モンスターを並べたところで何になる」

 4体の悪魔たちが夜光の場に集結する。

 このような状況になっても龍牙はデュエルを切り抜け、クロノスの力を借りてうまく取り繕ってもらおうとしていた。なぜなら、クロノスがデュエル成績がトップの自分をいとも簡単に切り捨てるはずがないと考えているからだ。

「奈落との契約を発動。手札の儀式の供物を生贄にチャクラを儀式召喚!

手札の儀式の供物はレベル1だが、闇属性モンスターの儀式召喚に必要な生贄をこのカードで賄える能力を持つ」

 触手のような手を持ち、下半身が拷問機械でできている一つ目の悪魔が夜光の場に現れる。女子からはやはりというべきか不評の嵐である。

「キングゴブリンの攻撃力は他の悪魔族の数×1000ポイント攻撃力が上昇する。よってキングゴブリンの攻撃力は4000!」

「あんな屑モンスターが攻撃力4000になっただと!?」

 玉座に座っている緑色のゴブリンがマントを広げて他の悪魔族から力を吸収する。元々の攻撃力が0のモンスターがサイバー・エンド・ドラゴンに匹敵する攻撃力になれば、龍牙でなくとも驚くだろう。

「屑なんて存在しない。どんなカードでも存在する意味はある。

チャクラ(ATK2450)で暗黒ドリケラトプス(ATK2400)に攻撃!」

触手のような手を伸ばし、ドリケラトプスを絡め取ると下半身の拷問機械で串刺しにしていく。

 

龍牙LP3900→3850

 

「キングゴブリン(ATK4000)で暗黒恐獣(ATK2600)に攻撃!」

 キングゴブリンが暗黒恐獣に正拳突きをして破壊する。

 

龍牙LP3850→2450

 

「牛鬼(ATK2150)でダイレクトアタック!」

 壺の中から出た牛鬼が龍牙を鋭い爪でひっかく。

 

龍牙LP2450→300

 

「クリボー(ATK300)でダイレクトアタック!ニードルスクリンプラー!!」

「この私が屑の中の屑に負けるなんてぇぇぇぇ!?」

 デュエルモンスターズ最弱のモンスターと評されるクリボーの毛針攻撃によって龍牙のライフは0になる。

 

龍牙LP300→0

 

「私がイエローごときに敗北した……!?

それになんで妨害電波が効かなかったんだ。おかしいじゃないか。

……そうだ、これは夢だ。たちの悪い夢に決まっている」

「夢でも幻でもない。現実だ」

 弱小モンスターの攻撃によって敗北した龍牙は今まで築いていたエリート教師の道を完全に失い、項垂れる。そして敗北のショックから現実逃避を始めた龍牙に夜光は追い打ちをかけるかのように現実を突きつける。

「それなら、なぜ、妨害電波は効かなかった」

「俺のデュエルディスクは特別性だ。ちょっとした電波で誤作動は起きない」

「そんなはずが……対策デュエルディスクはまだ開発段階のはず…………

それこそ未来から……技術を持ってこないとおかしい…………お、かしい……」

「姑息な手を使わなくてもあんたは強いし、今度は正規の手段で他の道を探せばいい。

少なくともアカデミア最後のデュエルは普通のデュエルで、その対戦相手である俺が言うんだ。間違いない」

 全てを失ったことを再認識したことで廃人同前となった龍牙に言葉をかける。ここから龍牙が立ち直るかどうかは本人の気力次第だろう。その後、倫理委員会の手によって龍牙は連行されることになった。倫理委員会の調査で龍牙の部屋から数多くの盗品が発見され、カードを奪われた持ち主のもとへ返されることになった。

 なお、騒ぎの張本人であった龍牙は大学を退学させられた。だが、入院生活の中で初心にかえることができ、今ではカードショップで子供たちにカードのことを楽しく教えている。それが良かったかどうかは本人しかわからない。

 龍牙の騒ぎにより月一試験が中断されたことにより、十数名の生徒が実技試験が行われ無かったため、日を改めて再試験という形で実技試験をすることになる。再試験リストには十代や万丈目の名が書かれていたのであった。




新年明けましておめでとうございます。

夜光のデッキで一番の過労死は手札から捨てられ、闇王のコストになって
キングゴブリンの攻撃力増強兼フィニッシャーのクリボーでないかと思う。
十代vs万丈目は次話になります。

今年もよろしくお願いします。


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第8話 月一試験(後編)

「よし、このカードを入れて完成だ」

「アニキ、もう試験の時間ッス」

 レッド寮にて十代は龍牙の事件で延期になった試験に向けてデッキ調整していた。丁度調整が終わったとき、十代の邪魔にならないように部屋の外に出ていた翔に呼ばれる。デッキをデッキケースの中に入れた十代は試験会場となるデュエル場に走り出す。

 

 デュエル場には観客席に生徒がまばらにおり、静かであった。あくまでも再試験という名目で行われるため、試験が終わっている生徒は無理に出席する必要はないからだ。

 何人かの生徒たちのデュエルが終わり、十代たちの番が回ってくる。十代の相手はオベリスクブルーでも屈指の実力を誇る万丈目である。

「この前の礼は利子つきで返してやる。

俺の新デッキがお前を敗北へと導いてやる」

「どんなカードが入っているのか楽しみだぜ」

 試験までの間、万丈目はクロノスから受け取ったレアカードを研究し、デッキ調整やシミュレーターによるテストプレイを欠かさなかった。そのため、彼は十代に勝てるという自信がある。しかし、十代からすれば、万丈目がどのようなカードを使ってくるのかが楽しみで仕方が無い。

「「デュエル!」」

 

万丈目LP4000

十代LP4000

 

-万丈目のターン-

「先攻は俺だ!ドロー!

俺は次元の裂け目を発動」

 十代と万丈目の間の空間に裂け目ができる。その裂け目の中を見ようと十代が目を凝らすが異次元につながっているのかその先は全く見えない。

「このカードの効果でモンスターカードは墓地に行かず、除外される。

つまり、お前が得意とする墓地回収《サルベージ》による戦術は崩されたわけだ!」

「なに!?」

 十代が万丈目の除外戦術に驚く。十代が使うE・HEROにも除外に関するカードは少なからずあるが、多くのE・HERO関連のカードは墓地を利用する。始めから除外することを前提にした万丈目と除外に少しは対処できる十代、どちらが有利かは明確であろう。

「俺はテラ・フォーミングを発動。混沌空間を手札に加える。

フィールド魔法、混沌空間を発動」

 白い渦が渦巻いている4次元空間へとフィールドが変わっていく。次元の裂け目を

「このカードはモンスターが除外されるたびにカオスカウンターが置かれる。

カードを1枚伏せる。

手札抹殺を発動。互いにカードを全て捨て、捨てた枚数分だけドローする。

俺は2枚のカードを捨てて、2枚ドロー!」

「くっ……俺は5枚のカードを捨てて5枚ドロー!」

(まずい。俺の手札に合ったサイクロンと融合回収、ミラフォが墓地に……

しかもオーシャンとネクロガードナーを除外された)

 十代は自分の手札にあったカードを惜しむかのように墓地へとカードをおくる。するとフィールド上に渦が増えていき、その数を4つまで増やしていく。

「俺は2枚のモンスターカードがあったため、2つのカオスカウンターが置かれる」

「俺の手札には2枚のモンスターカードがあったから……」

「合計4つのカオスカウンターが混沌空間に置かれる。(0→4)

混沌空間のもう一つの効果を発動。1ターンにに1度、カオスカウンターを4つ以上取り除くことで除外ゾーンから取り除いたカウンターと同じレベルのモンスターを特殊召喚できる。

俺はW-ウィング・カタパルトを特殊召喚する。(4→0)」

 4つの渦が1つになっていくとその中から青い戦闘機が現れる。

「V-タイガー・ジェットを守備表示で召喚。

W-ウィング・カタパルトをV-タイガー・ジェットに装備≪ユニオン≫!」

 万丈目が召喚した虎を模した戦闘機と先ほどの青い戦闘機が合体する。合体して出力が向上したせいか先ほどよりもより速く空を飛んでいる。

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札:0枚

場:V-タイガー・ジェット(DEF1800→2200)

魔法・罠:次元の裂け目

     W-ウィング・カタパルト(Vに装備)

     伏せ3枚

フィールド:混沌空間

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!

万丈目が合体するなら俺は融合するぜ」

「万丈目さんだ!」

 十代の呼び捨てに対し、わざわざ訂正する万丈目。そして十代は手札から融合のカードを取り出し、発動させる。

「俺は融合を発動。手札のフォレストマンとバーストレディを融合。来い、E・HEROノヴァマスター!」

「貴様の融合により2体のモンスターが除外される。よってカオスカウンターが2つ置かれる(0→2)」

「ノヴァマスターでV-タイガー・ジェットに攻撃!」

 ノヴァマスターの召喚の際に渦が新たに2つ増えたものの十代は迷わず万丈目のモンスターに攻撃する。

 ノヴァマスターがV-タイガー・ジェットを殴りつけようと跳躍すると、合体が解かれタイガー・ジェットがノヴァマスターの攻撃範囲から逃れる。ノヴァマスターは仕方なくウィング・カタパルトだけを破壊する。

「W-ウィング・カタパルトを代わりに破壊してV-タイガー・ジェットの破壊を防ぐ。

ユニオンモンスターは装備中、モンスターカードではなく魔法カードとして扱うため、除外されることはない」

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 万丈目の攻撃に備えて十代はカードを伏せてターンを終了する。

 

手札:2枚

場:ノヴァマスター(ATK2600)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-万丈目のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺は凡人の施しを発動。2枚ドローし、X-ヘッド・キャノンを除外する。

カオスカウンターが1つ置かれる。(2→3)

ゲットライド!を発動。墓地のW-ウィング・カタパルトをV-タイガー・ジェットに装備させる。

W-ウィング・カタパルトの装備を解除。

V,Wを除外してVW-タイガー・カタパルトを召喚!」

 先ほどのユニオン状態とは姿かたちは変わっていないVWの機体。しかし、融合したことでユニオン状態では使えなかった封印された武器が使用可能になる。

「さらにモンスターが2体除外されたことでカオスカウンターが2つ置かれる(3→5)

Z-メタル・キャタピラーを召喚。

カオスカウンターを4つ取り除き、除外されたX-ヘッド・キャノンを特殊召喚する。(5→1)

Z-メタル・キャタピラーをX-ヘッド・キャノンに装備させる」

 X-ヘッド・キャノンがZ-メタル・キャタピラーの上に乗り合体する。

「強欲な瓶を発動。1枚ドロー!

VW-タイガー・カタパルトの効果発動。手札を1枚捨てて、ノヴァマスターを守備表示に変更する。(ATK2600→DEF2100)

X-ヘッド・キャノンでノヴァマスターに攻撃!」

 Z-メタル・キャタピラーからエネルギー供給を受けたX-ヘッド・キャノンの砲撃の威力を高め、防御姿勢をとるノヴァマスターを粉砕する。

「モンスターを破壊し、除外したことでカオスカウンターが1つ置かれる(1→2)。

VW-タイガー・カタパルトでダイレクトアタック」

 タイガー・カタパルトが勢いよく突進してきたとき、十代は伏せカードを発動させた。

「罠発動、ヒーロー見参。このカードの効果で俺の手札を選んでもらうぜ」

前と違って今度は2枚か……

俺は右のカードを選ぶ」

「万丈目が選んだカードはE・HEROバブルマン!

モンスターカードだから特殊召喚する」

「万丈目さんだぁ!」

「俺のフィールドにカードが無いときにバブルマンが特殊召喚に成功したことで2枚ドロー!」

 十代の場にバブルマンが召喚され、十代の手札を増強させる。しかし、バブルマンの守備力ではタイガー・カタパルトの攻撃を防ぎきることはできない。

「VW-タイガー・カタパルトでバブルマンに攻撃!VW-タイガー・ミサイル」

 バブルマンがミサイルによって吹き飛ばされ、次元の裂け目へと吸い込まれていく。これで十代を守るモンスターは居なくなってしまう。

「カオスカウンターが1つ置かれる(2→3)

カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:0枚

場:VW-タイガー・カタパルト(ATK2000)

X-ヘッド・キャノン(ATK2400)

魔法・罠:次元の裂け目

     Z-メタル・キャタピラー(Xに装備)

伏せ1枚

フィールド:混沌空間(3)

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はエアーマンを召喚。

エアーマンの効果でデッキからE・HEROフラッシュを手札に加える。

融合発動。手札のフラッシュと場のエアーマンを融合。現れろ、E・HERO Theシャイニング!」

 まばゆいばかりの光を放つTheシャイニングが十代の場に現れる。

「また融合か。カオスカウンターはさらに2つ増える(3→5)」

「シャイニングの攻撃力は除外されているE・HEROの数×300ポイント上昇する。

除外されているE・HEROは7体。よってシャイニングの攻撃力は2600+300×7=4700!」

「攻撃力4000越えのモンスターだと!?」

 オベリスクさえも上回るその圧倒的な攻撃力に驚愕したのは万丈目だけではない。このデュエルを見ている生徒たちも同じである。

「シャイニングでVW-タイガー・カタパルト(ATK2000)に攻撃!オプティカル・ストーム」

 光の奔流にタイガー・カタパルトは逃げ出すことができずに飲み込まれ消滅していく。

 

万丈目LP4000→1300

 

「くっ……だが、カオスカウンターは置かせてもらう(5→6)」

 万丈目が先にダメージを受けたことで苦々しい表情をしながらもカオスカウンターは着実に増やしていく。

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札:0枚

場:Theシャイニング(ATK4400)

魔法・罠:伏せ2枚

 

-万丈目のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はY-ドラゴン・ヘッドを召喚。

Z-メタル・キャタピラーの装備を解除。

場のXYZを除外して、XYZ-ドラゴン・キャノンを召喚。

カオスカウンターが3つ置かれる(6→9)

カオスカウンターを6つ取り除き、除外されているVW-タイガー・カタパルトを召喚。

俺の真の力を見せてやる。これがVWXYZの究極形態だ!

場のVW-タイガー・カタパルトとXYZ-ドラゴン・キャノンを除外してVWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノンを召喚!!」

 5体の戦闘機が互いに合体していき、巨大なロボットへと姿を変えていく。その巨大な姿と圧倒的な攻撃力と強力な効果は見るものを恐怖させるはずだが、十代は「カッケー!」とむしろ喜んでいる。

 そんな様子の十代に万丈目は苛立ちVWXYZに命令を与える。

「ドラゴン・カタパルトキャノンの効果で左の伏せカードを除外する。VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

「罠発動、ダメージダイエット!このカードの効果で受けるダメージを半分にする」

 奇しくも万丈目が選択したカードはフリーチェーンの罠であった。万丈目は舌打ちするが、すぐさま伏せていたカードを発動させる。

「ライフを半分払って異次元からの帰還を発動。除外されているXYZ-ドラゴン・キャノン、VW-タイガー・カタパルト、パーフェクト機械王、X-ヘッド・キャノンを召喚」

 

万丈目LP1300→650

 

「VW-タイガー・カタパルトとXYZ-ドラゴン・キャノンを除外して2体目のVWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノンを召喚!」

 2体目のVWXYZが万丈目の場に現れる。先とは違って、十代の表情には緊迫した表情が見られる。

「2体目のドラゴン・カタパルトキャノンの効果でTheシャイニングを除外だ!VWXYZ-アルティメット・デストラクション!!」

 VWXYZの砲撃により、シャイニングが打ち抜かれてしまう。

「これで貴様を守るモンスターはいない!

パーフェクト機械王(ATK2700→4200)でダイレクトアタック!リボルビング・ステーク!!」

「罠発動、ガードブロック!戦闘ダメージを0にして1枚ドロー!」

 パーフェクト機械王が腕から釘打ち機を構え、十代に急速に接近していく。しかし、十代はコンマ数秒の差で罠カードを発動させ、パーフェクト機械王の攻撃を防いだ。

「だが、2体のVWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノンとX-ヘッド・キャノンの攻撃が残っている。全モンスターで一斉掃射!!これが俺の切り札だぁぁ!」

 2体のVWXYZとX-ヘッド・キャノンが十代に砲撃を放つ。3体のモンスターから砲撃を受けた十代はふっとばされてしまう。

 

十代LP4000→100

 

 ふっとばされた十代はゆっくりと起き上がる。その様子を見た万丈目は以前の敗北による屈辱が少しでも晴れたのか高笑いする。

「フハハハ、貴様のライフはわずか100。

X-ヘッド・キャノンとパーフェクト機械王は異次元からの帰還の効果で除外されるが、俺の場には2体のVWXYZが残る。

これで勝敗は決したようだな。ターンエンドだ」

 

手札:0枚

場:VWXYZ(ATK3000)×2

魔法・罠:次元の裂け目

フィールド:混沌空間

 

-十代のターン-

 十代がドローする瞬間、なぜか口元が緩む。

「何がおかしい」

「このドロー次第で万丈目が勝つか俺が勝つかが決まるんだぜ。

そう考えると楽しいじゃん」

「万丈目さんだ!

何を馬鹿なことを言っている。この状況を覆す方法などありはしない!」

 十代が言っていることを万丈目は必死に否定する。万丈目にとってはデュエルは『勝つ』ものであり、『楽しむ』ものではない。それゆえにデュエルを楽しむ十代を否定するのだ。

「行くぜ、俺のラストターン!」

 十代がこのデュエルを決める最後のドローをする。永遠かと思われるくらいの一呼吸を置いて、十代はドローしたカードを発動させる。

「俺は平行世界融合を発動。このターンでの他の特殊召喚を封じて除外されているヒーローを融合させる。俺は除外されたE・HEROオーシャンとE・HEROフォレストマンを融合!

最強のヒーローとして平行世界からこのフィールドに舞い戻れ、E・HEROジ・アース!!」

 空中に亀裂が走り、その中から胸に赤いコアをもつ白い巨体のヒーローが十代の場に現れる。

「プラネットシリーズだと!?」

「三沢君、いたんだ」

「翔、何を言っているんだ? 始めから居ただろう」

 三沢が十代が召喚したジ・アースに驚きの声をあげる。一方、翔はこの時になってようやく三沢の存在に気づき、夜光はやれやれといったような表情になる。

「プラネットシリーズ、数十年前からの世界大会の優勝賞品のカード群だ。

ジ・アースのときは響紅葉が優勝して手に入れたはず」

「父さんのことを知っているのか?」

 ジ・アースについて三沢が解説していると十代が声をかける。距離は十分に離れているのによく三沢の声が聞こえたとすこし現実逃避を始める三沢たち。

「「「「…………え? ええええっ!?」」」」

「アニキはそんな有名人の子供だったの!?」

「通りで強いわけね」

「なるほどな。父親譲りのドロー力というわけか」

 そして一拍置いて驚愕の声が次々と上がる。翔はその事実に驚き、明日香や夜光らは十代のデュエルの腕を見れば納得できる話であった。その一方で対戦相手の万丈目は目を見開き、事実を受け居られない様子であった。

「お前がプロの息子だと!?

俺は認めん。お前のようなオシリス・レッドごときが世界大会優勝者の親族など認めん!」

「それならどうすればいいんだよ」

 事実を否定する万丈目に対し、さすがの十代も困惑の表情を見せる。プロの子供とはお前ないような態度に万丈目はさらに苛立つ。

 アカデミアがプロリーグで活躍できる人材を育成している以上、アカデミアの生徒の中にプロの親族が居てもおかしくはない。万丈目が知る限りでも両手・両足を使っても数えきれないほどの親族の生徒はいるため、十代がプロの子供であってもおかしくはない。

 それに親族がプロではないと言え、財界・政界では知らぬ者はいない万丈目グループの御曹司である万丈目は兄の期待に応えるべく彼らに劣らずのプレッシャーの中でデュエルをしてきた。無論、十代も入学当初はわずかながらプレッシャーは感じていたかもしれない。しかし、十代はこのアカデミアで何人かのデュエルを経て自分が勝手に感じていたプレッシャーも押しのけていた。

 それゆえにプレッシャーを感じずにデュエルする十代が羨ましいどころか憎たらしいのだろうか。

「それに親が何をしていようとも俺たちには関係ないだろう。

俺は俺、万丈目は万丈目なんだからな」

「くっ……」

 万丈目はなぜか言い返すことができなかった。

「スパークマン召喚。

ジ・アースの効果発動。スパークマンを生贄にしてその攻撃力・守備力を吸収する。(ATK2500→4100)

ジ・アースでVWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン(ATK3000)に攻撃!アース・マグナ・スラッシュ!!」

 スパークマンを吸収したことで灼熱色に染まったジ・アースが高エネルギーを放出する光の剣でVWXYZを一刀両断する。

 

万丈目LP950→0

 

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ」

「この俺が負けた……?

俺のデュエルにミスはなかったはずだ……」

 万丈目は敗北のショックに膝をつく。そして万丈目はオベリスクブルーに向かってフラフラと歩いていく。帰る途中に十代が声をかけようと手を伸ばすが、その手を払い去っていった。

 

-オベリスクブルー寮-

 万丈目は本を散らかし、そこらに置いてあった物に八つ当たりしていた。そのため、普段は整然としている部屋も万丈目の心情を表すかのように荒れ果てている。

「くそ。なぜ俺はオシリスレッドの……落ちこぼれなんかに2度も負けるんだ!」

 壁に向かってドンと叩く。万丈目が敗北をしてはいけないと考えているのは彼の性格ゆえだろう。

「それに親の立場は関係ないだと!?

俺は俺の、兄さんたちの、万丈目グループの野望のために勝たなければならないんだ!!」

 万丈目にとってデュエルは『勝つ』ものであり『娯楽』ではない。彼はこれまでそう教えられてきたし、そのように生きてきた。これからも『勝つ』デュエルをし続けるだろう。

 しかし、彼は負けた。しかも相手は自分とは正反対の考えをもつ落ちこぼれだ。彼がどれだけ否定してもその事実は変わらない。

「なら、俺はもっと強くなってやる。

確かノース校への留学の件を保留していたはず。まだ留学の席が空いているのであれば、俺を推薦してもらって……」

 万丈目は早速クロノスに連絡を入れる。事実を受け止めた万丈目はその悔しさをばねにさらなる高みへと目指すのであった。




序盤で妙に頭を使っているのをようやく説明できた。
本編中では言えませんでしたが、十代の受験番号が原作と違うのは叔母のみどりさんの教えによるものです。
十代の家庭の様子はどこかで入れたいなぁ……

万丈目の留学話は廃寮前か後かで悩み中。
それが決まり次第、執筆を開始します。


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第9話 一、十、百、千!万丈目サンダー!!

「これでレポート関係は片付いたな」

 イエロー寮の自室で授業で出されたレポート類を終わらせた夜行はイスの背もたれに寄り掛かり、これまでの状況を整理していた。

(まさか監視役が入試に落ちるとは想定外だったな。

これで任務は3つになって、少なくとも3年間はこの世界にいないといけないのか)

 監視役として選ばれた受験者が入試でマークを1つずらして書くというミスを犯し、受験に失敗した。そのため、別件とはいえアカデミアに入学し、組織の人間である夜行に監視もするように命じられてしまったのだ。

(奴の逮捕、十代の監視、可能であれば2体の龍のカードの奪取……やることは山積みだな)

 夜行は目の前にある問題の多さに大きく溜息を吐く。そんなとき、コンコンとドアをノックする音が聞こえたので、「誰が来たんだろう?」と思いながら部屋のドアを開ける。

「夜行君、この前の月一試験の写真持ってきたよ」

 星奈が写真を入れた封筒を持って部屋の前にいたため、中に入れよといって部屋の中に招き入れる。そして星奈が写真を広げて、夜行が1枚1枚その写真を見ていく。切り札を召喚したとき、モンスターが破壊された瞬間やライフが尽きた瞬間などが映し出されている。

「どの写真もよく撮れているな」

「そりゃあ、ジャーナリスト志望だからね」

 えっへんと胸を張って答える星奈。そんな彼女を微笑ましく思いながら、写真を見ていくと1枚の写真を見て手が止まる。それは十代がジ・アースを召喚したときの写真であった。ジ・アースは世界に1枚しか存在しない文字通りのレアカードのため、星奈が持ってきた写真の多くはジ・アースを撮影したものである。

「ジ・アースなんて今を逃したら生で見れないかも知れないからね。

一生分のフィルムを使うくらいバンバン撮ったよ!」

「どれだけ撮るつもりだったんだ。

ジ・アースの写真だけで軽く100枚は超えているだろう。

そもそも十代に頼めば、いつでもジ・アースは見れるだろうに……」

 夜行は十代に頼めば、いつでもどこでもジ・アースを見せてくれるだろうと思っていた。しかし、星奈はチッチッチッと舌打ちして、夜行の考えを否定する。

「分かってないな、夜行君も。

こういうのはデュエルの中で出てくるから、モンスターたちも気合が入って輝くの。

ただ投影しているだけでじゃあ、躍動感とか感動は伝わらないんだよね」

「そういうものかねぇ」

 星奈の考えを聞いて、夜行は少なくとも自分は美術方面には向いていないと思った。そんあ夜行を気遣ったのか星奈は別の話題を持ち出す。

「そういえば、万丈目君、ノース校に留学するんだって」

「三沢からそのことを聞いたときは驚いたな」

「うん、私も。急に決まったから、万丈目君と話す暇もなかったよ」

 万丈目は誰にも見送られることなく島を出ており、ノース校へと向かった。。

 遠くに行った万丈目の身を案じながらも、夜行らは「万丈目は何しているんだろうな」と思うのであった。

 

 

 数日前、万丈目はノース校に向かう途中、船が難破したため泳いでノース校へと向かうことになってしまう。ヘトヘトになりながらも万丈目は目の前にあるノース校へと向かおうと、門の前で初老の男性がたき火をしていた。

「おい、そこで何をしている」

「見ての通り……ノース校に入ることができなかった者じゃ」

「入れなかった? どういうことだ!詳しく教えろ」

 万丈目は男性が持っている情報を洗いざらい話すように言う。そんな万丈目に気圧されたのか男性はうつむきながら小さな声で話し始める。

 男性が言っていることをまとめると、ノース校に入るには40枚のカードが必要であり、予想外の事故などでカードが不足している場合はクレパスなどに隠されているカードを集める必要があるそうだ。男性は39枚のカードを集めたが、気力・体力はもう残っていない。

 万丈目も他人ごとではない。万丈目は泳いでノース校に来たせいでデッキが濡れてしまい、濡れないように配慮していた必須カード群を除くほとんどのカードが使用不可の状況になっている。連絡を取ることができれば、I2社に連絡してカードを取り換える手段もあるが、今の万丈目には外部と連絡を取る手段はない。

 40枚にはほど遠い万丈目にはクレパスのカードを集めるしか方法はなかった。そのため、万丈目は男性のもとから去り、カード探しをし始める。

 

 それから数日後、万丈目は再びノース校の門の前に来る。この数日間でシロクマと死闘を繰り広げ、断崖絶壁を上り、シャチに襲われたりしながらもカードを集めてきた万丈目の体には無数の切り傷が見受けられる。

 しかし、数日前とは違って初老の男性の姿はなかった。もう諦めたのだろうと思った万丈目は41枚のデッキから適当なカードを1枚抜き、ポケットの中に入れた。そして40枚のデッキをデュエルディスクを起動すると門が開かれていく。

 中へと入っていた万丈目はノース校が西部劇に出てくるような街並みになっていることに少し戸惑いながらも歩いていく。すると笑い声が聞こえてきたので、声がするほうへと向かうと自分と同じくらいの男性たちがジュースを片手に何かを祝っているようだ。そこで万丈目は身を隠し、こっそり話を聞いてみた。

「ヨハン、アークティック校に行っても元気に居ろよ」

(ヨハン……?

まさか、ヨハン・アンデルセンのことか?

兄さんたちから、宝玉獣に選ばれたデュエリストがアカデミアにいると聞いたことはあるが、ノース校にいたとはな)

 かつてユリウス・カエサルがその覇権を知らしめるため7つの宝玉を集め石版を作ろうとしたが、輸送中のトラブルによりそれが叶うことはなかった。しかし、時を経てペガサス会長がそれらの宝玉を集め、宝玉獣を作製した経緯がある。そのため、プラネットシリーズと同じく世界に1枚しか存在しない宝玉獣の使い手に興味をもった万丈目はノース校の生徒の前に出る。

「誰だ!」

「俺の名は……

一、十、百、千!万丈目さんだぁぁぁ!!」

「千丈目か万丈目か知らねぇが、余所者は引っ込んでいな」

 巨体の男が腕をぽきぽきと鳴らしながら万丈目に近寄っていく。しかし、万丈目の目にはそんな男は移っていない。万丈目の目に映っているのはたった1人だけだ。

「ふん。お前など興味はないわ。

俺が興味あるのはそこのヨハン・アンデルセンだけだ!」

「だれくぁおれほひょんひゃ?(誰か俺を読んだ?)」

 口に物を入れていたので自分の方に振り返ったヨハンが何を言っているかは万丈目は分からなかった。そのため、万丈目はひとまずヨハンが食べ物を飲み込むまで待つことにした。

「宝玉獣使いヨハン・アンデルセン!この場で精霊に選ばれたデュエリストである俺とデュエルしろ」

「精霊?」

 万丈目が放った言葉の中にある単語にピクリと反応するヨハンは眼の色を変える。さっきまでのおどけたような顔からデュエリストとしての顔へと変わっていく。

「そのデュエル買ったぜ」

「待てよ、ヨハン。船の時間がもうすぐ……」

「大丈夫だって。まだ時間はあるんだし。

それにデュエリストなら売られたデュエルは買うのが基本だぜ。

ましてや精霊を持つデュエリストならなおさらな」

 制止しようとしたノース校の生徒の反対を押し切り、デュエルディスクを構えるヨハン。そんな彼をみたノース校の生徒はやれやれといった様子である。

「「デュエル!」」

 

万丈目LP4000

ヨハンLP4000

 

-万丈目のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺は大熱波を発動。次の俺のドローフェイズまで互いに効果モンスターを召喚・特殊召喚することはできない」

 フィールド上に効果モンスターのみを狙う熱風が吹き荒れ、効果モンスターにとっては過酷な状況になる。

「これで貴様の宝玉獣の展開は完全に封じた。

おジャマ・イエローを守備表示で召喚」

『暑いのは嫌いなのよ~ん』

「うるさい、黙れ!」

「何しているんだ、あいつ?」

 傍から見れば、万丈目が何もない空間に話している。しかし、精霊をみることができるヨハンから見れば、万丈目が半透明のおジャマ・イエローに向かって口論していることが分かる。

「精霊っておジャマイエロー?」

「ああ!ここに入るために止む無くデッキに入れているカードだ」

 万丈目が手始めに取りやすい場所のカードが集めたときに手に入れたカードである。撮りやすい場所にあったカードはおジャマといった単体では弱いカードが多く、戦力が乏しいことが分かった万丈目は次の日からは大物狙いで断崖絶壁を登るようになったのだ。

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:3枚

場:イエロー

魔法・罠:伏せ1枚

 

-ヨハンのターン-

「俺のターン。ドロー!

召喚を封じられてもセットはできるぜ。俺はモンスターをセットする」

 モンスターのセットは『通常召喚』ではあるが、『召喚』ではない。そのため、『召喚』を封じる大熱波が発動していてもモンスターをセットすることは可能である。大熱波の弱点を見事についたヨハンのプレイに万丈目は少なくともオシリスレッドクラスのデュエリストでないことを悟る。

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:4枚

場:裏守備モンスター

魔法・罠:伏せ1枚

 

-万丈目のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はおジャマイエローを生贄に紅蓮魔闘士を召喚」

(今の俺のデッキで最も攻撃力が高いモンスターがゴブリン突撃部隊にも劣る攻撃力2100のモンスターとは……

とにかくコイツを使いこなさなければ、俺に勝機はない)

 灼熱の髪に漆黒の鎧を着た魔剣士が万丈目の場に見参する。

 一部の下級モンスターや並みの上級モンスターよりも劣るステータスを持つ紅蓮魔闘士では心細いところもあると言えよう。しかし、オベリスクブルーの中でも有数の腕を持つ万丈目はモンスターの質は魔法・罠でカバーすればいいと考えていた。デュエルはモンスターだけで決まるわけではない。モンスターをサポートする魔法・罠の使い方にも左右されるのだ。

「紅蓮魔闘士の効果発動。1ターンに1度、墓地のレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚することができる。俺はおジャマ・イエローを特殊召喚」

『アニキ、生贄にするなんてひどいわ~』

「黙れ!俺は馬の骨の対価を発動。おジャマ・イエローを墓地に送り、2枚ドロー!」

 再び万丈目の場におジャマ・イエローが現れたが、あまりにもうるさいので万丈目はさっさと墓地に送るのであった。

「俺は紅蓮魔闘士(ATK2100)で貴様のセットモンスターに攻撃!紅蓮魔闘剣」

「俺は攻撃宣言時にラストリゾートを発動。デッキから虹の古代都市-レインボー・ルインを発動させる」

 紅蓮魔闘士が剣を振りかざし、裏守備モンスターに攻撃する。その瞬間にヨハンが伏せカードを発動させ、フィールドが古代ヨーロッパのコロセウムを思い出す建物へと変わっていく。

「破壊された宝玉獣エメラルド・タートルの効果発動。エメラルド・タートルを宝玉として残す」

「ターンエンドだ」

 

手札:4枚

場:紅蓮魔闘士

魔法・罠:伏せ1枚

 

-ヨハンのターン-

「俺のターン。ドロー!

俺は宝玉獣サファイア・ペガサスを召喚。

サファイア・ペガサスが召喚に成功したとき、デッキから宝玉獣を魔法・罠ゾーンに置くことができる。

俺は宝玉獣ルビー・カーバンクルを宝玉として置く。サファイア・コーリング」

 一角の角を持つ白い翼を広げたペガサスがヨハンの場に現れると同時にヨハンの場にルビーが置かれる。そしてヨハンが手札のカードをデュエルディスクに差し込むと2つの宝玉が輝きはじめる。

「宝玉の導きを発動。デッキから宝玉獣トパーズ・タイガーを特殊召喚する。

俺はトパーズ・タイガーで紅蓮魔闘士に攻撃!トパーズ・バイト」

 白い虎が灼熱の髪の剣士に襲い掛かる。

「なに!? 攻撃力が低いモンスターで攻撃だと!?」

 リクルーターの自爆特攻ならわかるが、サファイア・ペガサスはリクルーターではない。わざわざ自爆特攻する理由が分からなかった万丈目はヨハンの狙いを見極めるため、ヨハンの挙動をじっくりと見る。

「トパーズ・タイガーは相手モンスターに攻撃するとき、攻撃力を400ポイントアップする。

さらに手札から速攻魔法、百獣大行進を発動。

このターンの終わりまで獣族モンスターはフィールド上に存在する獣族モンスターの数×200ポイント攻撃力が上昇する。

俺のフィールド上には2体の獣族モンスターがいる。よって攻撃力は400ポイントアップだ(ATK1600→2000→2400」

 トパーズ・タイガーが紅蓮魔闘士の斬撃を紙一重でかわし、喉笛に噛みつき破壊する。

 

万丈目LP4000→3600

 

「宝玉獣サファイア・ペガサス(ATK1800→2200)でダイレクトアタック!サファイア・トルネード」

 サファイア・ペガサスが羽ばたき、発生した竜巻が万丈目を襲う。

 

万丈目LP3600→1400

 

 サファイア・ペガサスの攻撃をもともに受けた万丈目は数メートルほど吹き飛んでしまう。ヨハンも心配したのか「大丈夫か」と声をかける。

(やはり、宝玉獣に選ばれたデュエリストというだけあって強い。

だが、こいつを倒さないと十代にはどっちみっち勝てん!)

 万丈目は遠くにいるライバルを見据え、闘志を震わし起き上がる。

「そうこなくっちゃな。ターンエンド」

 

手札:2枚

場:サファイア・ペガサス(ATK1800)

  トパーズ・タイガー(ATK1600)

魔法・罠:ルビー

     エメラルド

フィールド:レインボールイン

 

-万丈目のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はリビングデッドの呼び声を発動。紅蓮魔闘士を復活させる。

紅蓮魔闘士の効果で墓地のおジャマイエローを守備表示で特殊召喚する」

『あんな強そうなやつに勝てるわけないわ~ん』

「貴様はただの壁だ!そこで引っ込んでいろ」

 万丈目は初めから戦力としてほとんどカウントしていないおジャマ・イエローを無視し、手札にあるモンスターカードに手を伸ばす。

「冥界の使者を召喚」

 身の丈ほどある鎌を持ち、黒いロープを身にまとった死神が万丈目の場に現れる。

「冥界の使者(ATK1600)でトパーズ・タイガー(ATK1600)に攻撃!ソウル・ハント」

 トパーズタイガーに鎌を振りかざし、鎌を突き刺すことに成功するが、トパーズタイガーが最期のあがきで冥界の使者の頸動脈に牙を突き刺し互いに破壊される。

「トパーズ・タイガーを宝玉として残す」

「冥界の使者が墓地に送られたとき、デッキからレベル3以下の通常モンスターを手札に加えることができる。

俺はおジャマブラックを手札に加える」

 冥界の使者は制限カードであるクリッターと同じ条件でデッキからモンスターをリクルートすることができる。ただし、クリッターとは違って冥界の使者は通常モンスターに限定されているためサーチ対象が狭いのが難点である。

「俺のデッキに通常モンスターはいない」

「念のために貴様のデッキをチェックさせてもらうぞ」

(なんだ、この紙束は!?

宝玉獣以外のモンスターが1枚も入っていないじゃないか!)

 万丈目はヨハンの極端に偏ったデッキ構成を見て頭が痛くなる。その後、ヨハンにデッキを返しバトルを続行する。

「俺は紅蓮魔闘士(ATK2100)でサファイア・ペガサス(ATK1800)に攻撃!」

「レインボールイン2つめの効果でダメージを半分にする」

 

ヨハンLP4000→3750

 

 ようやくヨハンにダメージを与えることができた万丈目。しかし、ライフポイントは大きく離されているせいか一呼吸を置くこともできない。

「おろかな埋葬でデッキのおジャマ・グリーンを墓地に送る。

カードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札:2枚(1枚はブラック)

場:紅蓮魔闘士

  イエロー

魔法・罠:伏せ2枚

 

-ヨハンのターン-

「俺のターン。ドロー!

レインボールイン4つ目の効果でカードを1枚ドローする。

宝玉の契約を発動。魔法・罠ゾーンの宝玉獣サファイア・ペガサスを特殊召喚する」

「俺は増殖するGを墓地に送り、その効果を発動させてもらうぞ。

このターン、貴様が特殊召喚するたびに俺は1枚ドローする」

 ここが勝負の賭けどころと思った万丈目は手札のカードを発動させる。増殖するGは相手の手札を増やすため、展開の抑止力になることが多い。しかし、ヨハンはそんなことを気にしていない。

「サファイア・ペガサスの効果でデッキから宝玉獣コバルト・イーグルを宝玉として置く。

宝玉獣アンバーマンモスを召喚。

宝玉の導きを発動。デッキから宝玉獣アメジストキャットを特殊召喚する」

「貴様がモンスターを特殊召喚したことで1枚ドロー!」

(これで奴の場には7つの宝玉がすべてそろったことになる。まさか……)

 手札は増えたが、ヨハンの場には7種類すべての宝玉が出そろってしまう。万丈目は背筋が寒くなる中、ヨハンのデュエルディスクが7色に輝きはじめる。

「見せてやるぜ、万丈目」

「万丈目さんだぁ!」

「7体の宝玉獣が揃った時、世界を繋ぐ光がこの地に甦る。見ろ!『宝玉獣』の奇跡!!

甦れ!究極宝玉神『レインボー・ドラゴン』」

 デュエルディスクからレインボードラゴンと思わしきシルエットが投影されるが、すぐさま消えてしまう。

「レインボードラゴンは……どうしたんだ? どこにいる!?」

「まだレインボードラゴンの石版は見つかっていないんだ」

「……要はただのハッタリか」

 万丈目は切り札不在の未完成な【宝玉獣】に少しがっかりし、肩を落とす。

「そのハッタリもいつかは本当のものにするさ。

2枚目の宝玉の契約を発動し、宝玉獣トパーズタイガーを特殊召喚する」

 増殖するGの効果で1枚ドローする万丈目。そして場を整えたヨハンはバトルフェイズに移る。

「俺は宝玉獣トパーズ・タイガー(ATK1600→2000)で紅蓮魔闘士に攻撃!」

「さっきと同じコンバットトリック狙いか。だが、同じ手は2度も通用せん!

聖なるバリア-ミラーフォース-を発動!これで貴様のモンスターは全滅だ」

「レインボールインの3つ目の効果発動。宝玉獣を生贄にささげることで魔法・罠の効果を無効にする。

俺はアンバーマンモスを生贄にささげてミラーフォースを無効にする」

「なにぃ!?」

 起死回生の手段として温存していたミラフォを防がれたことに驚く万丈目。レインボールインの詳細な効果を知っていれば、別の手段も考えれたかもしれないがそれをとるにはすでに遅かった。

「そしてダメージステップ時に禁じられた聖槍を発動。紅蓮魔闘士の攻撃力を800ポイントダウンさせる(ATK2100→1300)」

 聖なる槍によって弱体化した紅蓮魔導士がトパーズタイガーに噛み砕かれ破壊される。

 

万丈目LP1400→700

 

「宝玉獣サファイア・ペガサス(ATK1800)でおジャマイエローに攻撃!サファイア・トルネード」

「ダメージステップ時に手札から牙城のガーディアンの効果発動。

おジャマイエローの守備力を1500ポイントアップする(ATK1000→2500)」

「くっ……? レインボールイン2つ目の効果でダメージを半分にする」

 万丈目の予想外の反撃に驚くもレインボールインの効果で被害を最小限にする。

 

ヨハンLP3750→3400

 

「俺はアメジストキャットの効果発動。戦闘ダメージを半分にする代わりにダイレクトアタックが可能になる。

アメジストキャットでダイレクトアタック!アメジスト・ネイル」

 アメジストキャットが万丈目の顔面をひっかく。あまりにも痛かったのか万丈目は顔を抑えのたうち回る。

 

万丈目LP700→100

 

「俺はカードを1枚伏せてターンを終了するぜ」

 

手札:0枚

場:サファイア・ペガサス

  アメジストキャット

  トパーズタイガー

魔法・罠:伏せ1枚

     ルビー

     エメラルド

     コバルト

フィールド:レインボールイン

 

-万丈目のターン-

「俺のターン……」

(俺の手札には奴を倒すためのキーカードが揃っていない。

そしてレインボールインの魔法・罠を無効にする効果はあと3回も使える。

しかも俺の残りのライフはわずか100。

ヨハンにターンが回ればアメジストキャットのダイレクトアタックにより俺のライフは0になる。

また俺は負けるのか……)

 万丈目は自分のターンが回ってきたにもその表情は暗い。自身の敗北を悟り、サレンダーしようとデッキに手を伸ばしたとき、ヨハンから怒りを含んだ声が発せられる。

「おい、逃げるのかよ!

デュエルは最後の最後まで何が起こるか分からないから楽しいんだろうが!

お前のデュエルはそんなものかよ」

(デュエルが楽しい……?

そういえば、十代も似たようなことを言っていたな……

俺のデュエル……俺が目指すべきデュエルは――)

 万丈目はこれまで考えてこなかった自分のデュエルのルーツ・目的をこの時になって初めて考える。そして、万丈目は1つの解を出す。

「貴様が……貴様たちがデュエルを楽しむのはわかった。それが正しいのは認めよう。

だが、今まで俺が正しいと思ってきた『勝つ』デュエルが正しいのもまた真理!

ならば、俺は『楽しく勝つ』デュエルをしてやる!!」

 それが合っているのかどうかさえ万丈目自身もわからない。しかし、それを伝えなければならないと思った。このことを考えるきっかけになった十代、そしてヨハンに対するせめてもの礼儀だからだ。

「じゃあ、見せてくれよ。万丈目、いや万丈目サンダーの楽しく勝つデュエルを」

「俺はポルターガイストを発動。この効果で貴様のレインボー・ルインを手札に戻す!」

「それならレインボー・ルインの効果で……」

「甘いぞ、ヨハン!ポルターガイストには無効されない効果を持っている。よって貴様のレインボールインは無力だ」

 ドローしたばかりの魔法カードにより、レインボールインはヨハンの手札に戻り、フィールドも元に戻る。これで万丈目の行動を阻む可能性があるのは伏せカードのみとなった。

「トルネード発動。相手の魔法・罠ゾーンにカードが3枚以上あるときのみ発動でき、魔法・罠ゾーンのカードを1枚破壊する。

お前の魔法・罠は4枚のカードがある。よって発動条件は満たしている。

俺はお前の伏せカードを破壊する」

「伏せていた神の宣告が……」

 強力な除去魔法・罠用に伏せていた最強のカウンター罠が破壊される。これで万丈目の行動を阻むカードはない。あとは賭けに出るのみとなった。

「リバースカード、無謀な欲張りを発動。2ターンのドローフェイズをスキップする代わりに2枚ドロー!

おジャマ・ブラックを召喚。

そして死者蘇生を発動。紅蓮魔闘士を復活させる。

紅蓮魔闘士の効果で墓地のおジャマ・グリーンを特殊召喚する。

これで準備は整った。

おジャマ・デルタハリケーン!!を発動!俺の場におジャマ・イエロー、おジャマ・グリーン、おジャマ・ブラックがいるときのみ発動できる。貴様の場のカードをすべて破壊する」

『これがおいらたち』

『兄弟の』

『絆パワーよ~ん』

 おジャマたちがヨハンに向かって尻を向け、3体のおジャマが円状に回転!結構な呑気にしていたヨハンもおジャマの姿が目視できなくなるほどの回転の速さには少しビビった。その尻の間に生じる圧倒的な破壊エネルギーがヨハンのモンスターに襲い掛かり、破壊される。

「だが、紅蓮魔導士の攻撃を受けても俺のライフはまだ残るぜ」

「いや、このターンで終わりだ。

右手に盾を左手に剣を発動!フィールド上のモンスターの攻守を入れ替える」

 

紅蓮魔闘士ATK2100→1800

おジャマATK0→1000

 

「紅蓮魔闘士とおジャマたちでダイレクトアタック!」

 紅蓮魔闘士とおジャマたちの攻撃を受けたヨハンのライフは0を示す。

 

ヨハンLP3400→0

 

 ヨハンはデュエルに負けたにもかかわらず、悔しそうな顔をせず、むしろ気持ちのいい笑顔であった。

「万丈目、楽しいデュエルだったぜ。

でも次やるとは負けないからな」

「そのときも俺が勝つ。なぜなら、俺は――」

『一!』

『十!』

『百!』

「千!」

「「「「万丈目さんだぁぁぁぁ!!」」」」

 万丈目はおジャマたちと万丈目サンダーの掛け声をする。その息がぴったしの様子にヨハンは仲が良いのだろうと思う。

 その後、ヨハンは船に乗りアークティック校へと向かい万丈目はノース校の生徒たちとデュエルするのであった。




リアルの都合と万丈目の寄せ集めデッキをどうするかで悩んだため、投稿が遅れました。
結局はおジャマ軸通常モンスターデッキになりました。

多分、だれもが予想できなかったヨハン戦。
久しぶりのヨハンのデュエルだったので、再び勉強しなおすことに。
それにしてもアニメの初期設定ではヨハンはノース校出身だったのに、いつの間にかアークティック校出身になっていたんですよね。
なぜ、変えたんだ。答えろ、ルドガーもといアニメスタッフ!

次回は廃寮の話の予定です。
次はどんなサプライズをするか考えなければ……
それでは約1カ月後にお会いしましょう。


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第10話 廃寮での戦い

 窓が割れ、コンクリート造りの床も何かの衝撃で破壊されたのか穴が開いていている建物内で9歳くらいの小さな子供たちがデュエルモンスターズで遊んでいる。そんな中、女の子が魔法カードを床に置いて宣言する。

「この子をリリースしてガーランドルフ召喚」

「あ~、俺のガーゴイルパワードが!」

「へへ、お兄ちゃんもこのカードの前に苦戦するよね。

ガーランドルフでダイレクトアタック」

「なーに、ここから逆転すればいいんだろう。

クリボーでダメージ無効な」

 子供たちがワイワイと遊んでいると鬼のような形相した大人の男性たちがドタバタと走ってくる。息も絶え絶えになりながらも大声で子供たちに話す。

「あいつらが来たぞ!みんな逃げ――」

 その瞬間、閃光が走り、ドォーンという爆発音が鳴り響きその場にいた人間を建物ごと吹き飛ばす。何が起こっているのかは理解する暇もなく、少年は意識を手放すのであった。

 女の子と遊んでいた少年が気が付いたときには、そこには炎が燃え黒煙が立ち上っている。少年が生きている人がいないかを探すためにふらつきながらも歩くと、先ほどまで一緒に遊んでいた女の子を見つける。女の子は足をガレキに挟まれ身動きをとることができない。

「おい、大丈夫か。待ってろ、すぐに助けて……」

「お兄ちゃん、これ…………」

 女の子が握りしめていたカードを夜行の前に差し出す。そのカードを受け取った少年が確認すると、女の子が大切にしていたガーランドルフだった。

「これ、お前のカードだろう!生きるんだ!!

絶対に助けてやるから……だがら…………」

 泣きじゃくりながら、必死でガレキをどかそうとする。しかし、少年の思いとは裏腹にガレキはびくともしない。あっちこっちで爆音が聞こえる中、少女は自分の死を悟ったのか自分を助けようとする少年の身体を細い手で自分の体に残っているエネルギーを振り絞り思いっきり押す。予想外の出来事に少年はバランスを崩し後ろに倒れこんでしまう。

「わ、たしの…………」

 頭上から落ちてきた大きなガレキによって少女の上半身は押しつぶされ、真っ赤な血が流れていく。少年の絶叫が真黒な空へと響き渡る。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 夜光は飛び起き、深呼吸をして呼吸を整える。慌てて時計を見るとまだ夜中であり、目の前には書きかけの報告書と冷めているコーヒーがあった。

「うっかり寝ちまったか。それにしても嫌なことを思い出させる夢だったな」

 先まで見ていた悪夢を振り払い、夜光は報告書を書こうとするが悪夢を見た影響か気分が乗らない。気分を変えるため、外を少し散歩しようとする。そんなとき、ケースからデッキを取り出し、デッキトップのガーランドルフを見る。

「…………お前たちの運命は変えてみせる」

 決意を込めてデッキを握りしめ、ケース内に入れた。

 

 夜の島内を歩き、そろそろイエロー寮に帰ろうかと思ったとき、森の中から誰かの話し声が聞こえる。不審に思った夜行は森の中へと静かに入っていくと、そこには十代とその後ろで何かにおびえている翔・隼人の三人が居た。

「お前ら、何しているんだ?」

「出たッス!」

「お化けなんだな!」

 お化けだと思った翔と隼人は俊敏な動きで十代の後ろに隠れる。懐中電灯を持っていた十代が光を向けて声をかけた主が夜光であることが分かると、二人は安心したのかヘナヘナと座り込む。

「夜行君、驚かさないでよ」

「わりぃ。ところでお前らは何をやっているんだ?」

「これから、廃寮で肝試しに行くんだ。夜行も来るか」

 夜光は校則違反である廃寮の探索に行くかどうか迷ったかが、「面白そうだ」と言って十代と一緒に肝試しすることになった。

 

 十代たちが草木が生い茂っている中、ポツリと佇んでいる廃寮に着くと門の前で明日香と星奈が立っていた。

「明日香たちも肝試しか」

「違うわよ。私は廃寮で行方不明になった兄さんの手がかりを探しているの。

もっとも廃寮には鍵がかかっているから、その近辺しか調べられないけどね」

 明日香の話によると数年前に数名の生徒が廃寮(当時は通常の寮として機能)で行方不明になる事件が起こったそうだ。それ以来、同じ事件が起こらぬように廃寮を関係者以外の立ち入りを禁止している。なお、行方不明の生徒は今でも捜索が続けられているが、廃寮にいたこと以外の手がかりが残されておらず、捜査は暗礁に乗り上げた形となっている。その行方不明者の名前は明日香の兄である天上院吹雪、その親友である藤原優介だ。

「私は怪しいところを撮影しているんだ」

 一方星奈はビデオカメラを片手に付近を撮影していた。「後で見返せば不審なモノや人が映る可能性がある」と明日香を説得して一緒に捜索しているらしい。

「とにかく中に入ってみようぜ」

「明日香も言っていただろう。廃寮は警備員がカギをかけて……」

「ラッキー。みろよ、鍵かかっていないぜ」

 十代が廃寮のドアを押すと何の抵抗もなくドアが開いていく。夜光は不審に思ったものの、廃寮の中に入るチャンスはこの機会を逃すと二度とないと思い、十代たちとともに真っ暗な廃寮の中へと入っていく。

 

 十代・明日香の懐中電灯を頼りに廃寮の中を探索していく。壊れたソファやぼろぼろに朽ち果てた置物やガラクタ、ウジャトの眼が書かれている壁画などがあった。十代がふと近くの壁に向かって光を当てると『FUBUKI 10JOIN』とサインが描かれている男子学生の写真が額縁に入れられていた。

「これ、兄さんの写真よ。

昔から天上院を10JOINと書く癖があったから」

「どんな癖だ。この写真だけ埃かぶってなくね」

「そういえばそうだな。案外、押したら秘密扉のスイッチになっているとか」

「そんなわかりやすい仕掛け……」

 ないだろうと夜行が言う前に、十代が写真を軽く推すと壁がくるっと回転し、地下へとつながる隠し階段が現れる。

「……あったな」

 夜行はあまりにも単純な仕掛けに軽い頭痛を感じた。

 

 「兄さんがいるかもしれない」その可能性を信じ、明日香たちは階段を下っていく。そんなとき、最後尾にいた翔は急に後ろから冷たい手で肩をつかまれる。最後尾なのだから、後ろには誰もいないにも拘わらずだ。あまりの恐怖に足が震え、声が出せなくなる。

「なーに、しているんだにゃー」

「出たッス!!!」

 謎の声に反応して翔は腹の中から大声で叫ぶ。翔の叫び声を聞いた十代・明日香が懐中電灯を向けるとそこにはオシリスレッド寮長であり錬金術を担当している大徳寺先生がいた。

「先生、なんでここに?」

「十代君、この先は廃寮を改造した私のラボだにゃ。

時々、危険な実験もするから生徒は立ち入り禁止になっているんだにゃ」

「行方不明事件の影響じゃないのかよ」

「最初は事件のほとぼりが冷めたら、再びこの寮に生徒を入れようとしたこともあったけど、あの事件が起こった寮で引き続き生徒を入れるのに反対したPTAがいたから、ここを廃寮にしたんだにゃ。

でも、寮を壊すにもお金がかかるから私のラボに改造できるようにこの学園の理事長に頼んだにゃ」

 夜光はそんなむちゃくちゃな案を理事長が承認したことに驚いたが、少し常識外れが多いこの学園では普通のことだろうと無理やり納得させる。

「こうしてここで会ったのも何かの縁。せっかくだから、ラボの一部を見せるにゃ」

「せっかくだから見ていこうぜ」

 十代の言葉に全員が賛成の声を上げる。

「あと撮影は禁止だにゃ」

「ちぇ、つまんないの」

 星奈はしぶしぶ撮影器具をバッグの中へとしまうのであった。

 

 大徳寺先生のラボに着くと、デュエルできる程度に広く赤・青・紫等さまざまな色の液体が入っているフラスコがガスバーナーで加熱されていたり、『小学生でもわかる錬金術』『錬金創造』『漫画で学ぶ錬金術』といった錬金術に関する本が置かれている本棚があった。しかし、何より目を引いたのは1枚の肖像画だ。その肖像画には白いロープを着た海馬瀬人にそっくりな人物が描かれていたからだ。

「大徳寺先生、この人は?」

「この人物はクリスチャン・セト・ローゼンクロイツ。薔薇戦争のときに活躍した錬金術師にゃ」

 大徳寺先生はまるで見てきたかのように肖像画の人物のことを語りだし、十代はうつらうつら眠たそうにする。そんなとき、つまらない話を適当に聞き流し、辺りをキョロキョロ見ていた翔が実験台の上に置かれているデッキケースを見つける。

「あっ、こんなところにデッキケースが」

「それは私のデッキにゃ!?」

 大徳寺先生が慌ててデッキケースを取りに行こうとするが、年の差か翔の方が早くデッキケースをとり、十代にパスする。

「ん? 先生、確かデュエルが苦手だからデュエルしないって言っていたよな」

(まずい。あのデッキは半年後に使う予定のデッキ。しかも、隠し部屋のメモも入っているんだにゃ!?

今ここで中身を全部見られたら、戦術・戦略がもろバレなうえ計画が台無し。

しかも、デッキを力づくで取り返しても十代君のことだから生徒の前で「先生もデュエルできるんだぜ」「みんな、先生とデュエルしてみようぜ」と言うのは目に見えて分かる。

こうなったら……)

 内心慌てまくりの大徳寺先生が出した結論は十代とのデュエルは避けられないので、ある程度の戦術がばれるのを覚悟して短期決戦を挑むことであった。

「デュエルするから、そのデッキケースを返してほしいにゃ。

私が勝ったら、この部屋であったことは誰にも言わないでほしいにゃ」

「良いぜ。さっそくデュエルだ」

 デッキケースを大徳寺先生に渡した十代はデュエルディスクを展開する。 

 

大徳寺LP4000

十代LP4000

 

-大徳寺のターン-

「私のターンだにゃ。ドロー」

「大徳寺先生のデュエルは私も初めて見るわ」

「どんなデッキを使うか見ものだね。カメラ使えたら撮影するのに」

 中等部から上がってきた明日香たちも大徳寺の未知の戦術にわくわくしながら、一手挙動を見逃さないとする。

「私は異次元の生還者を召喚」

 ぼろぼろの布きれをまとった金髪の男性が大徳寺の場に現れる。攻撃力1800と下級モンスターにしては高めの攻撃力を持つモンスターを相手にした十代はうれしそうな表情をする。

「異次元の裂け目を発動して、カードを1枚伏せる。

ターンエンドにゃ」

 

手札:3枚

場:異次元の生還者(ATK1800)

魔法・罠:異次元の裂け目

     伏せ1枚

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺は融合を発動。手札のエッジマンとザ・ヒートを融合!

来い、E・HEROノヴァマスター!」

 切り込み隊長のノヴァマスターが十代の場に現れる。

「ノヴァマスター(ATK2600)で異次元の生還者(ATK1800)に攻撃!ノヴァ・ストライク」

 下級アタッカー程度の攻撃力しかない生還者ではノヴァマスターに対抗できるわけでもなく破壊され、裂け目の中に吸い込まれていく。

 

大徳寺LP4000→3200

 

「ノヴァマスターがモンスターを破壊したことで1枚ドロー!

カードを1枚伏せてターンエンド」

「除外された異次元の生還者の効果により、エンドフェイズに帰還だにゃ」

 次元の裂け目から無事に生還する異次元の生還者。裂け目がある限り何度でも甦るモンスターとなってしまう。

 

手札:3枚

場:ノヴァマスター

魔法・罠:伏せ1枚

 

-大徳寺のターン-

「私のターン。ドローにゃ。

私は異次元の生還者を生贄に風帝ライザーを召喚!」

「何すか、あのモンスター!?」

「見たことがないんだなぁ」

 翔や隼人たちは見たことがないモンスターに驚く。その一方で星奈はカメラで撮影したくてうずうずしているが、先生のいいつけを守ろうと理性で無理やり抑えている。

「あれは帝モンスターと言って一部例外はあるが、生贄召喚時に様々な効果を発揮するカード群だ」

「ライザー以外にもいるの?」

「ああ。光と闇に2体、炎・水・地・風に1体だ」

 夜光は星奈らに帝モンスターの説明をする。三沢とデュエル対談することもあり、知識量はそれなりにある。

「夜行君は詳しいんだにゃ。

ライザーの生贄召喚時に発動する効果は自分・相手問わずフィールド上のカードをデッキトップに戻す効果。

私は十代君のノヴァマスターをデッキトップに……

と言っても融合モンスターは融合デッキに戻るにゃ」

「なっ!? ノヴァマスター!」

 ライザーが召喚されると風が吹き荒れ、ノヴァマスターが吹き飛ばされる。十代も吹き飛ばされないように必死に堪える。

 そして風がやみ、十代が目を開けるとそこには2体のライザーがいた。

「どうしてライザーが2体いるんだ!」

「生贄召喚に成功したことで手札のイリュージョン・スナッチを特殊召喚したんだにゃ。

この方法で召喚したスナッチは生贄召喚したモンスターの能力をコピーする」

 イリュージョン・スナッチはカード名こそ変わらないが、同種族・同属性・同レベルになる。しかも攻撃力は帝モンスターと同じ2400であるため、ほぼ同じカードと言えよう。

「イリュージョン・スナッチとライザーで十代君にダイレクトアタック!」

「リバースカード、クリボーを呼ぶ笛。

このカードの効果でデッキからハネクリボーを守備表示で召喚するぜ」

「イリュージョン・スナッチでハネクリボーに攻撃!」

 ライザーが周りの空気を圧縮して空気の球を生み出し、ハネクリボーに投げつけ破壊する。破壊されたハネクリボーのカードは裂け目に吸い込まれていく。

「ハネクリボーは破壊されて墓地に送られないと効果は発動しない。つまり、異次元の裂け目の効果でハネクリボーが除外された場合、戦闘ダメージを0にすることはできない。

ライザーでダイレクトアタック!」

 イリュージョン・スナッチと同様に空気を圧縮した球を十代に投げつける。コピーに過ぎなかったイリュージョン・スナッチとは違い、より巨大で圧倒的な力を誇る。

 

十代LP4000→1600

 

 十代は後方に吹き飛ぶが、すぐさま起き上がる。先のターンとは一転して圧倒的に不利な状況になっているが、十代の目からは闘志が消えていない。

「カードを1枚伏せてターンエンド。

そしてエンドフェイズに異次元の生還者はフィールドに戻ってくるんだにゃ」

 

手札:1枚

場:ライザー(ATK2400)

  スナッチ(ATK2400)

  生還者(ATK1800)

魔法・罠:伏せ2枚

     異次元の裂け目

 

-十代のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はバブルマンを召喚。

フィールド上にカードが存在しないときにバブルマンが召喚されたことにより、2枚ドロー!」

 十代はドローしたバブルマンをすぐさま使い、反撃の狼煙を上げる。そしてキーカードを引いたのか、十代は不敵な笑みを浮かべる。

「融合を発動。手札のボルテックと場のバブルマンを融合!

現れろ、E・HERO Theシャイニング!!

除外されているE・HEROは4体。よって、シャイニングの攻撃力は3800」

 シャイニングの攻撃力が大徳寺のどのモンスターよりも圧倒的に上回る。しかし、シャイニングがどのモンスターを攻撃しても大徳寺の場にはモンスターが残る結果となる。

「シャイニング(ATK3800)で異次元の生還者(ATK1800)に攻撃!」

 

大徳寺LP3200→1200

 

「大ダメージだけど、次のターンで……」

「おっと、俺のバトルフェイズはまだ終了していないぜ。

速攻魔法、次元誘爆を発動。

シャイニングを融合デッキに戻し、互いに除外されているモンスターを2体まで召喚する。

俺はE・HEROエッジマンとE・HEROボルテックを特殊召喚する」

「エッジマンは貫通効果を持っているから、守備力の低い異次元の生還者では攻撃表示で召喚するしかないにゃ」

 もし生還者を守備表示で出せば、エッジマンの攻撃で2400ポイントのダメージを受けることになり敗北が決まる。そのため、異次元の生還者を攻撃表示で出さざるを得ない。そして、この状況こそが十代の狙いでもあった。

「さらに相手がモンスターを特殊召喚したことで速攻魔法、終焉の地を発動。

このカードの効果でデッキからフィールド魔法を発動させる。

俺が発動させるのはヒーローたちにふさわしい舞台、摩天楼-スカイスクレイパー!」

 フィールドが高層ビルが並び立つ摩天楼へと変貌する。スカイスクレイパー下では攻撃力が低いE・HEROが攻撃するとき、攻撃力を1000ポイントも上昇させる。その破格の上昇値は下級のE・HEROで並みの上級モンスターを戦闘破壊できる数値だ。

「ボルテック(ATK1000→2000)で異次元の生還者(ATK1800→)に攻撃!ボルテック・サンダー」

 ボルテックが異次元の生還者に向かって電撃を放ち破壊する。

 

大徳寺LP1200→1000

 

「ボルテックが戦闘ダメージを与えたことで除外されているE・HEROを特殊召喚することができる。

俺はE・HEROザ・ヒートを特殊召喚する。

ザ・ヒートはフィールド上に存在するE・HERO×200ポイント攻撃力が上昇する。

俺のフィールドには3体のE・HEROがいるから、攻撃力は2200!」

 仲間の力を集めさらに燃えるザ・ヒート。その攻撃力は素のフレイムウィングマンを超える。

「ザ・ヒート(ATK2200→3200)でイリュージョンスナッチ(ATK2400)に攻撃!」

 ザ・ヒートがライザーの幻影たるイリュージョン・スナッチを燃やし、裂け目へと送る。

 

大徳寺LP1000→200

 

「エッジマン(ATK2600)でライザー(ATK2400)に攻撃!」

「この攻撃が通れば十代の勝ちよ」

 明日香たちが十代の勝利を言う。そしてエッジマンがライザーを切り裂き、爆炎によって大徳寺の姿が見えなくなる。

 

大徳寺LP200→100

 

 煙が晴れると致命的なダメージを受けたと思われていた大徳寺が今なお立っていた。しかも、0ではなくわずか100ポイントではあるが、いまだにライフポイントが残っている。

「なんで先生のライフが残っているんだ?」

「私は受けるダメージを半分にするダメージダイエットを発動した。

伏せカードを忘れて負けるところだったにゃ」

(直前のターンに伏せていた罠カードを忘れるはずがない。ということは十代の本気を見るためにわざと使わなかったのか?)

 大徳寺の嘘くさい演技に夜光はこの時初めて大徳寺が一体何を考えているのかを気にした。そんな夜行を気にせずに十代たちはデュエルを続行していく。

「あともう少しだったんだけどなぁ。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

「エンドフェイズに異次元の生還者は戻ってくるにゃ」

 

手札:0枚

場:エッジマン(AT2600)

  ザ・ヒート(ATK2200)

  ボルテック(ATK1000)

魔法・罠:伏せ1枚

フィールド:摩天楼

 

-大徳寺のターン-

「私のターン。ドロー!」

 大徳寺は生徒たちの眼をごまかすため、ドローしたカードを手札シャッフルした後、1枚のカードを手札から取り出す。

「異次元の生還者を生贄に2体目の風帝ライザーを召喚。

生贄召喚に成功したライザーの効果でエッジマンをデッキトップに戻す」

 エッジマンが吹き飛ばされ十代のデッキトップに戻される。

「ライザー(ATK2400)でボルテック(ATK1000)に攻撃!」

「罠発動、聖なるバリア-ミラーフォース-!

これでライザーを破壊するぜ」

「そうはさせないんだにゃ。トラップ・スタンを発動して、ミラフォを無効だにゃ」

 ミラーフォースのカードに電撃が走り、使用不能の状態に陥る。その隙にライザーが空気の球をボルテックに向けて放ち、破壊する。

 

十代LP1600→200

 

(次の俺のターン、ザ・ヒートでライザーに攻撃すれば、ザ・ヒートの攻撃力はスカイスクレイパーの効果で2800になってライザーの攻撃力を上回る。そうすれば、残り100ポイントしかない先生のライフは0になる)

 十代はこのターンをしのぎ切ることができ、大徳寺に攻撃を防ぐ手段がなければ、次に引くカードがエッジマンであろうと勝利が確定する。そんな十代の心の内を読んだのか大徳寺は頭を横に振る。

「十代君、君のターンはもう回ってこない。

私は速攻魔法、スワローズ・ネストを発動!鳥獣族モンスターを生贄にささげることでデッキから同レベルの鳥獣族モンスターを特殊召喚できる。

風帝ライザーを生贄にささげ、デッキから3体目の風帝ライザーを特殊召喚」

 バトルフェイズ中に新たなモンスターを呼び出したことにより、3体目のライザーには攻撃の権利が残っている。そして伏せカードも手札・墓地誘発のカードもない十代には大徳寺の攻撃を防ぐ手段はない。

「ライザー(ATK2400)でザ・ヒート(ATK1800)に攻撃!」

 ライザーの無情な攻撃により、十代のライフは尽きるのであった。

 

十代LP200→0

 

「負けたけど、楽しいデュエルだったぜ。ガッチャ」

 ライザーの攻撃を受けて仰向けになった十代がむくっと起き上がり、いつもの決めポーズをする。十代からすれば、勝ち負けよりも楽しいデュエルができたかどうかが重要なのだろう。

「いや~もう少しで負けるところだったにゃ」

(デュエルが苦手という名目上、下手に圧倒せずに十代にデュエルするのは難しいものだ。

デッキの戦略はばれたが、口封じもでき、もう1体の帝モンスターを温存できたのは大きい)

 本心とは違い、大徳寺はあと一歩のところで負けた演技をしていた。

 最後の決め手となったスワローズ・ネストは先行2ターン目の時点で持っていた。つまり、1killが可能であったということだ。しかし、オベリスク・ブルーの生徒すらも倒す十代を1killしたという事実がばれたら、デュエルが苦手という設定がガラガラと崩れてしまう。

 そのため、十代に1ターンの猶予を与えそのターンで負けるのであれば、それでよし。決着がつかないのであれば、自分の手で引導を渡そうと決めていた。ギリギリの逆転劇ならば、運の要素が大きいと錯覚するからだ。

 そんなことは露ほど知らない十代は「先生は強かった」と周りにいる翔たちに話していた。そして大徳寺派咳払いし、十代に話しかける。

「1限目は私の授業にゃ。早く寮に帰って遅刻しないように。

立ち入り禁止に入ったことは私の授業の補習にしておくから、罰則は心配することないにゃ」

「ラッキー。肝試しに、デュエルもできて、そのうえ罰則なしだ」

「十代君の場合、次の試験で良い点を取らないと本当の補習が待っているんだにゃ」

「そりゃあないぜ」

 十代らしいオチで、周りがどっと笑い出す。そして、十代たちはそれぞれの寮へと帰っていくのであった。

 

 数日後、クロノスのもとに1通の手紙が届いていた。その手紙にはこう書かれていた。

『依頼の件ですが、ターゲットが単独行動する機会がなく、デュエルするタイミングを逃しました。

いただいたお金は指定の口座に全額返金させていただきます。

タイタン』

「どういうことなノーネ!?」

 クロノスは自称:闇のデュエリストに頼んで自分を1killした十代とデュエルさせ、廃寮の立ち入り+危険人物との取引で退学させようとした。しかし、十代も明日香たちも単独行動しなかったため、失敗するリスクを踏まえた結果、タイタンはデュエルしなかったようだ。

 これ以上の失敗を重ねていくと校長にばれる可能性があるクロノスは『十代退学作戦』を断念するのであった。




GX時代に最強のデッキとうたわれた【次元帝】降臨。
さすがの十代もこの時点ではアム……大徳寺には勝てません。

次の更新ですが、4月から社会人になるため、2カ月以上かかる可能性があります。
ゆっくりとお待ちください。


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第11話 皇帝

 とある日の昼下がり、夜光が三沢の部屋のインターホーンを鳴らす。

「おーい、三沢。まだ支度していないのか」

「すまない、あともう少しで片付けが終わる。

外で待たせるのは悪いから、中で待って居てくれ」

 部屋から出てきた三沢に案内された夜光は三沢の部屋へと入っていく。

 三沢の部屋は壁一面に見たこともないような複雑な数式が所狭しと書かれており、部屋の中央部にはシステムダウンやクリスティアといったメタカードが散乱している。三沢がそれらのカードを1枚1枚確認しながらカードアルバムの中に入れていく。

 夜光は近くに落ちていたカードアルバムを拾い、パラパラとめくると発売されたパックの日付とカードに小さく書かれているカードナンバーごとに分類されていた。その几帳面すぎる性格に呆れるのであった。

「なあ、三沢。こういう分類分けだと爬虫類族のレベル4モンスター探したいと思ったときはどうやって調べているんだ? まさか、このカードアルバムを1冊1冊調べるのか?」

「そうならないように俺が持っているカードはパソコンにデータベースとして保存している。

俺が構築したデータベースはカード名やレベル、種族・属性だけでなく効果や最新のI2社の裁定を載せている。いずれは世界中の人がいつでも見れるようなデータベースにするつもりだ」

 三沢がパソコンをカチカチと操作し、自身満々にパソコンを夜光に見せる。ブルーアイズとブラック・マジシャンがトップページに書かれている『デュエルモンスターズ データベース』で適当なカードを検索すると、細かい文字で効果の説明や代表的なコンボの一例、三沢のコメントが書かれていた。

「……もう少し文字大きくしたほうが見やすくね?」

「そうか? それなら少し文字サイズいじってみるよ。

……よし、これで片付けも終わりだ」

「それじゃあ行くか、明日香から聞いた抽選会に」

 カードを片付けた三沢と一緒に夜光はサイバー流後継者であるカイザーとデュエルできる数少ない機会である抽選会場へと向かうのであった。

 

 サイバー流はデュエルモンスターズ黎明期の頃に作られた流派であり、心・技・体を日ごろから鍛え、対戦相手を敬うリスペクトデュエルを尊重している。そしてアカデミアにはサイバー流の使い手でもトップクラスのデュエリストであり、アカデミアの成績も1、2位を争う丸藤亮、通称カイザーがいる。彼の優れた容姿から男子だけでなく女子たちからの人気も高い。そのため、彼とデュエルしたいと思う生徒たちは数多くいる。

 しかし、挑まれたデュエルはすべて受けようとするカイザーもアカデミアにいるほぼすべての生徒とデュエルする時間はないので、友人と相談したところ週末に抽選会を開き、運がいい生徒だけがカイザーとデュエルできるようにしたのだ。なお、発案者は明日香の兄、吹雪である。

 会場となる運動場にはレッドやブルーに関係なく数多くの生徒たちが詰め寄り、何かの学園行事かと思うくらい賑わっている。何人かの生徒は校舎や木の上からも観戦しているほどだ。そして運動場に設置された壇上に2年の男子生徒が登り、マイクをとる。

「それでは第54回カイザーと戦うのはだ~れだ抽選会を開きます」

 盛大な拍手が鳴り響き、いたるところからカメラのフラッシュがたかれる。そしてスモークの中からカイザーが悠然と歩き壇上近くに設置されたステージ台へと登り、机の上に置かれた透明な箱の前に立つ。その箱の中には数えきれないほどの応募用紙が入っている。中には用紙のふちにラインマーカーなどで色を付けた者も見受けられる。

 そしてカイザーが箱の中に腕を突っ込み、用紙を取り出す。そして用紙に書かれた生徒の名前を呼び、その生徒とデュエルするのであった。

 

「ダメージステップ時にリミッター解除を発動(ATK5600→11200)!

エヴォリューション・ツイン・バースト!!」

「うわぁぁぁぁ!!」

 

男子生徒LP1900→0

 

 カイザーのサイバー・ツイン・ドラゴンの二回攻撃により、パワーが自慢だった男子生徒のガーゼット(ATK10000)が破壊され、ライフが0となった。

「あれだけやって負けなしかよ。

1回くらい手札事故が起こって負けてもよさそうなのに……」

「今回の抽選会だけじゃない。

カイザーは1年のある時から負けなしだ」

「ある時?」

「天上院吹雪、通称フブキングの失踪事件だ。

それまではフブキングに負けることもあったらしい。

しかし、失踪してからはカイザーの実力に拮抗する者もおらず、公式・非公式問わず全てのデュエルにおいて無敗だそうだ」

「フブキングか。失踪事件が解決したらお手合わせしたいね。

ところでもう一人の失踪者、藤原優介はどういうやつなんだ?」

「ん? 失踪者は一人のはずだ」

「えっ? 俺が知っている話だと二人だっ……」

 三沢に詳しいことを聞こうとしたとき、本日最後の対戦者として夜光の名前が呼ばれる。こんなときに呼ばれることになり、夜光は少し不満そうな表情になる。

「良かったな、夜光。お前の番が来たようだ。

俺の分まで頑張ってくれ」

「……ああ。それじゃあ、行ってくる」

 夜光は気を取り直し、カイザーが待つステージへと向かうのであった。

 

 ステージに上がるとカイザーが仁王立ちをし、挑戦者を待ち構えている。カイザーが放たれる強いプレッシャーを感じた夜光はデータ上の数値よりも巨大に見えた。

「明日香から月一試験のことは聞かせてもらった。

実習生を倒したその実力……見せてもらおうか」

「おう!今の俺が出せる力を見せてやるぜ」

 二人は距離をとり、互いにデュエルディスクを展開する。そして審判のコイントスの結果、先行はカイザーになる。

「「デュエル!」」

 

カイザーLP4000

夜光LP4000

 

-カイザーのターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はカードガンナーを守備表示で召喚」

 カイザーの場にキャタピラ走行するおもちゃのロボットが現れる。

「カードガンナーの効果でデッキからカードを3枚墓地に送る」

 

落ちたカード

サイバー・ドラゴン・ツヴァイ

アーマード・サイバーン

ミラフォ

 

 カイザーは最初から墓地肥しを行い、次のターンに備えていく。

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札:3枚

場:カードガンナー(DEF400)

魔法・罠:伏せ2枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はガーゴイル・パワードを召喚」

 夜光は自分のデッキの切り込み隊長であるガーゴイル・パワードを召喚したが、攻撃を少しためらった。伏せカードが2枚もある状況下で攻撃するのはリスクが高いのではないかと思ったからだ。しかし、弱気になればカイザーはそこをついて圧倒的な力で攻撃するだろう。夜光はよぎった迷いを振り切り、攻撃命令を与える。

「ガーゴイル・パワードでカード・ガンナーに攻撃!パワード・ビーム」

 ガーゴイル・パワードが口からビームを放ち、カードガンナーを粉砕☆玉砕☆大喝采!

「臆せずに攻めたか。

カードガンナーが破壊されたことにより、1枚ドローさせてもらう」

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:4枚

場:ガーゴイル・パワード(ATK1600)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-カイザーのターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はリビングデッドの呼び声を発動。墓地のサイバー・ドラゴン・ツヴァイを特殊召喚」

そして地獄の暴走召喚発動。デッキから2体のサイバー・ドラゴン・ツヴァイを特殊召喚する」

 カイザーの場にサイバー・ドラゴンの小型化に成功したサイバー・ドラゴン・ツヴァイ3体が出そろう。地獄の暴走召喚のデメリット効果により、夜行はデッキから場にいるモンスターをデッキから可能な限り召喚できるが、首を横に振る。

「俺のデッキにはガーゴイルパワードは1体しかいない。

デッキ確認するか?」

「いや、構わん。お前の目を見れば、嘘をついていないことはわかる。

俺は3体のサイバー・ドラゴン・ツヴァイの効果発動。手札の融合を見せてサイバー・ドラゴンとして扱う。

融合発動。3体のサイバー・ドラゴンを融合!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 カイザーの切り札である3つ首の機械龍、サイバー・エンド・ドラゴンが咆哮を放つ。

「融合回収を発動。墓地から融合とサイバー・ドラゴン・ツヴァイを手札に加える。

サイバー・ドラゴン・ツヴァイを召喚。

再び、融合を見せてサイバー・ドラゴン・ツヴァイをサイバー・ドラゴンとして扱う。

ゲットライド!を発動。アーマード・サイバーンをサイバー・ドラゴン・ツヴァイに装備する。

アーマード・サイバーンの効果発動。装備しているサイバーモンスターの攻撃力を1000ポイント下げ、フィールド上のカードを1枚破壊する」

 

アーマード・サイバーン(アニメ効果)

ユニオンモンスター

星4/風属性/機械族/攻 0/守2000

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとして

自分の「サイバー」と名のついた機械族モンスターに装備、

または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、

装備モンスターの攻撃力を1000ポイントダウンし、

フィールド上に存在するカード1枚を破壊できる。

(1体のモンスターが装備できるユニオンは1枚まで。

装備モンスターが戦闘で破壊される場合は、代わりにこのカードを破壊する。)

 

 サイバー・ドラゴン・ツヴァイに青と黄色に塗られた戦闘機が合体する。そしてアーマード・サイバーンはツヴァイからエネルギー供給を受けて、1枚のカードをロックオンする。

「サイバー・ドラゴン・ツヴァイの攻撃力を1000ポイント下げ、伏せカードを破壊する」

「リバースカード、ダメージ・ダイエット!

このターン、受けるダメージを半分にする」

「魔法の筒のような攻撃反応型罠だと思っていたが、フリーチェーンの防御カードだったか」

 カイザー、いやパワーデッキを扱うデュエリストにとって厄介なカードの一つが魔法の筒やディメンション・ウォールといったダメージを跳ね返すカードや次元幽閉などのモンスターを除去する罠である。どれだけ攻撃力を高いモンスターを従えていても、攻撃が通らなければ意味がないのだ。

「機械複製術を発動。

対象は俺の場にいる攻撃力が500となったサイバー・ドラゴンとして扱うサイバー・ドラゴン・ツヴァイ!

デッキから同名モンスター、すなわちサイバー・ドラゴン3体を特殊召喚する。

融合発動。3体のサイバー・ドラゴンを融合!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!!」

 2体目のサイバーエンドが

「2体目のサイバー・エンド・ドラゴンだと!?

アーマード・サイバーンの対象がダメージ・ダイエットでなく、ガーゴイル・パワードだったらやられているじゃねぇか!」

「何を勘違いしている」

「へっ?」

「俺のメインフェイズはまだ終了していない。

俺はマジック・プランターを発動。リビングデッドの呼び声を墓地に送り、2枚ドロー!

2枚目の融合回収を発動。墓地のサイバー・ドラゴンと融合を手札に加える。

継承の印を発動。墓地に同名モンスターが3体以上いるとき、そのうち1体を特殊召喚できる。

俺の墓地には墓地でサイバー・ドラゴンとして扱うサイバードラゴンツヴァイ2体とサイバードラゴンが2体、合計4体のサイバードラゴンが存在しているため、その発動条件は満たされる。

墓地からサイバー・ドラゴンを特殊召喚する。

融合発動。回収したサイバー・ドラゴンと場のサイバー・ドラゴン、サイバー・ドラゴン扱いのサイバー・ドラゴン・ツヴァイを融合!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!!!」

「嘘だろ、サイバーエンドを3体同時召喚!?」

「互いに全力を出し切り、相手をリスペクトする……

それが俺のリスペクトデュエルだ!」

「誰だ、カイザーほど紳士的なデュエリストはいないぜとか言った奴は!

明らかに力で押しつぶそうとしているじゃねぇか!

アカデミアの皇帝・カイザーというよりも地獄の皇帝・ヘルカイザーとかの方が似合っているだろうが!!」

 夜光は生徒から事前に聞いていたカイザーの情報と大きく異なり、軽いパニックに陥っていた。珍しい夜光の狼狽っぷりに三沢は驚く。

「1体目のサイバー・エンド・ドラゴン(ATK4000)でガーゴイルパワード(ATK1600)に攻撃!エターナル・エヴォリューション・バースト、ダイイチダァ!」

「ええい、手札からクリボーの効果発動。戦闘ダメージを0にする」

 無数のクリボーが夜光の前に現れ、夜光をサイバーエンドの光線から防ぐ。

「2体目のサイバー・エンド・ドラゴンでダイレクトアタック!エターナル・エヴォリューション・バースト、ダイニダァ!」

 

夜光LP4000→2000

 

「フィールド上にカードが存在しないときにダメージを受けたことで冥府の使者ゴーズとカイエンを守備表示で特殊召喚する」

 夜光の前に現れる2人の冥界の使者。しかし、彼らでもサイバー・エンド・ドラゴンの圧倒的な攻撃力の前では霞んでしまう。

「冥府の使者ゴーズ……珍しいカードを使うな。

だが、サイバー・エンド・ドラゴンの方が攻撃力が上。さらに貫通効果が備わっている。

サイバー・エンド・ドラゴン(ATK4000)でカイエン(DEF2000)に攻撃!エターナル・エヴォリューション・バースト、ダイサンダァ!」

 

夜光LP2000→1000

 

 サイバーエンドの攻撃を受けたカイエンは跡形もなく消滅し、夜行は大きく吹き飛ばされてしまう。

「ターンエンドだ」

 

手札:0枚

場:サイバーエンド×3(ATK4000)

魔法・罠:なし

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺は一族の結束を発動。

そして奈落との契約を発動。レベル7冥府の使者ゴーズを生贄にガーランドルフを儀式召喚!

ガーランドルフの効果発動!ガーランドルフの攻撃力は一族の結束の効果により3300。よって守備力2800のサイバーエンドはすべて破壊だ!!」

 ガーランドルフがサイバー・エンド・ドラゴンの懐に飛び込み、爪先に闇の力を凝集させ、サイバーエンドの首を切断させる。サイバーエンドも反撃を試みようとするが、巨体ゆえに懐にいるガーランドルフに攻撃することができない様子だ。そうこうしている間にガーランドルフはサイバーエンドの首を次々と切り落とし、破壊していく。

「サイバー・エンド・ドラゴンをこうも簡単に破壊するとは……」

「圧倒的な攻撃力を誇るサイバー・エンド・ドラゴンもカード効果には耐性がないという弱点があるからな。

ガーランドルフの攻撃力は自身の効果により300ポイントアップする。(ATK3300→3600)

ガーランドルフでカイザーにダイレクトアタック!」

 ガーランドルフがカイザーの腹に殴りつける。あまりの衝撃にカイザーは膝をついてしまう。

 

カイザーLP4000→400

 

「これ以上することはないから、ターンエンドだ」

 

手札:0枚

場:ガーランドルフ(ATK3600)

魔法・罠:一族の結束

 

-カイザーのターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はアームズ・ホールを発動。このターンの通常召喚を封じる代わりに、デッキトップを墓地に送り、デッキ・墓地から装備魔法を手札に加える。

俺はデッキから継承の印を手札に加える。

継承の印の効果発動。墓地からサイバー・エンド・ドラゴンを復活させる!」

 再びカイザーの場に現れるサイバー・エンド・ドラゴン。先のターンでガーランドルフにやられたせいかサイバーエンドは怒りに燃え、睨めつけているようにも見える。

「サイバー・エンド・ドラゴンでガーランドルフに攻撃!エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 サイバーエンドの圧倒的な極太のビームがガーランドルフに向けられ、ガーランドルフは跡形もなく消滅する。

 

夜光LP1000→600

 

「くっ、ガーランドルフが……」

 夜光は自身の切り札がすぐさま破壊されたことに歯噛みする。

「俺はこれでターンを終了する」

 

手札:0枚

場:サイバーエンド(ATK4000)

魔法・罠:継承の印

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺は一時休戦を発動。互いにカードを1枚ドローし、カイザーのエンドフェイズまで互いに受けるダメージは0になる」

(このカードは……!?

どうする? この状況ならデメリットはほとんどないが……)

 夜行は引いたカードを見て、使う・使わないの帰路に立たされる。

「……ターンエンド」

 夜光は逡巡した後、次のターンにすべてを託しターンを終える。

 

手札:1枚

場:なし

魔法・罠:一族の結束

 

-カイザーのターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はカードを1枚伏せてターンを終了する」

 カイザーもこのターンは大きく動くことはなかった。しかし、夜光の場にはモンスターがなくカイザーの場には攻撃力4000のサイバーエンドがいるため、劣勢には変わりはない。

 

手札:1枚

場:サイバーエンド(ATK4000)

魔法・罠:継承の印

     伏せ1枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン。ドロー!

俺はアームズ・ホールを発動」

「俺と同じカードを使うか」

「あんたも使うとは思わなかったけどな。

このターンの通常召喚を封じる代わりにデッキトップを墓地に送り、デッキから装備魔法、リチュアル・ウェポンを手札に加える。

そして儀式の準備を発動。デッキからデビルズ・ミラーを手札に加え、墓地の高等儀式術を手札に加える」

「アームズ・ホールで墓地に落としたか」

「その通りだ」

 高等儀式術はこのデュエル中に一度も使われておらず、手札断札のような手札交換カードも使用していない。そのため、高等儀式術を墓地に送ることができるタイミングはアームズ・ホールの時しかなかった。

 運が良いと言えばそこまでだが、カイザーは単に運だけではないと考えていた。なぜなら、先のターンで一時休戦を使った後、ターンを終了するまで時間がかかっていたからだ。そのことから、カイザーはおそらく一時休戦で引いたのはアームズ・ホールだと推測していた。もし通常召喚を封じられるのを嫌い、先のターンにアームズ・ホールを使っていれば、儀式の準備は墓地に送られ、逆転劇はなかっただろう。まさにデッキを信じる心がなければ、起こりえなかった一撃と言えるだろう。

「高等儀式術を発動。デッキのレベル3深淵の冥王とレベル3ゴーゴンエッグを墓地に送り、レベル6デビルズミラーを儀式召喚!

デビルズ・ミラーにリチュアル・ウェポンを装備する。

こいつはレベル6以下の儀式モンスターのみ装備でき、攻撃力・守備力を1500ポイントアップさせるカードだ」

「あの雑魚モンスターの元々の攻撃力は2100だから……」

「よし、デビルズ・ミラーの攻撃力は一族の結束とリチュアル・ウェポンの効果で2300ポイント上昇し、攻撃力4400だ」

 デビルズ・ミラーに怪しげなオーラが纏われる。この場だけとはいえサイバーエンドを上回り、古代の機械究極巨人に匹敵する攻撃力を持つようになったデビルズ・ミラーを見て、唖然としている生徒が多数を占めている中、数名の生徒が今起こっていることを冷静に見ようとしている。

「デビルズ・ミラーでサイバー・エンド・ドラゴンに攻撃!魔鏡滅殺光」

「この攻撃が通れば、夜光の勝ちだ!」

 三沢の勝利宣言とともにデビルズ・ミラーにサイバーエンドの姿が映し出される。そして鏡の中のサイバーエンドがパリンと割れると現実のサイバーエンドが破壊され、サイバーエンドの部品がカイザーに襲い掛かる。

「リバースカード、ダメージ・ダイエット。戦闘ダメージを半分にする」

 

カイザーLP400→200

 

「惜しい、削り切れなかったか。ターンエンドだ」

 

手札:0枚

場:デビルズ・ミラー(ATK4400)

魔法・罠:一族の結束

     リチュアル・ウェポン

 

-カイザーのターン-

 カイザーは自分の手札とフィールドを再度確認する。

(俺の手札は伏せカードを破壊するナイトショットのみ。そして夜行の場にはサイバーエンドよりも攻撃力が高いデビルズ・ミラー。

……このターンのドローですべてが決まるか)

「俺のターン!」

 カイザーが勢いよくカードを引き、そのカードを見ると口元が緩む。

「どうやら俺のデッキもお前を認めたようだ。

見せてやろう、サイバー流のもう一つの切り札を……

俺は墓地のサイバー・ドラゴン3体、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ3体、サイバー・エンド・ドラゴン3体を除外し、サイバー・エルタニンを特殊召喚!!」

「サイバー・エルタニンだと!?」

 巨大な龍の頭部を模した胴体から9体のサイバー・ドラゴンの頭部が生えた兵器がカイザーの場に現れる。吹雪の失踪事件以来、召喚されることがなかったカイザーの切り札が夜光を睨み付ける。

「サイバー・エルタニンの攻撃力は除外した光属性・機械族モンスターの数×500ポイントとなる。よってサイバー・エルタニンの攻撃力は4500!

サイバー・エルタニンの更なる効果発動。このカードが特殊召喚に成功したときこのカード以外の表側表示のモンスターをすべて墓地に送る。コンステレイション・シージュ!」

 エルタニンの攻撃を受けたデビルズ・ミラーは抵抗もむなしく消滅する。夜行の場にはモンスターも伏せカードもない。エルタニンの攻撃を防ぐ手段がない夜光の敗北が決まった瞬間であった。

「あの状況をたった1枚のドローで覆した……!?」

「これが俺の全力だ!サイバーエルタニンでダイレクトアタック!ドラコニス・アセンション!!」

 

夜光LP600→0

 

 エルタニンの攻撃を受けた夜光はステージ端まで吹き飛ばされる。カイザーは夜光のそばに近づき、手を差し伸べる。

「久しぶりに俺の全てを出し切ったデュエルをすることができた。礼を言う」

「久しぶりにって……

今まで全力じゃなかったのかよ」

 夜光はカイザーの手を取り、立ち上がる。そしてカイザーは先の言葉を否定するかのように首を横に振る。

「そういう意味ではない。俺はどんなときで全力をだしている。

ただ限界まで追い詰められ、心の底から楽しむことができるデュエルができたのは吹雪や藤原が居たとき以来だ」

「アカデミアの三天才と並べられるなんて照れるな。

今度、機会があればデュエルをしようぜ」

「ああ。その時を楽しみにしている」

 互いに握手した後、ステージから降りていく二人。互いの友人に囲まれ話をしているとき、二人はほぼ同時に一つのことに気づく。

((なぜ、あいつは藤原のことを知っている……!?))

 二人は後ろを振り返り、相手の顔を見る。今にもそのことを話したいと思う。だが、関係がない人間が数多くいるこの状況下では聞くことができない。そう遠くはない未来に彼らは藤原のことを聞こうと心の中で決めるのであった。




久しぶりに小説を投稿しました。
いや~、GWに間に合ってよかった。仕事は忙しい。

アーマード・サイバーンは自分の【表サイバー】に3積みしているモンスターです。
複製術で3体召喚してルーラー出したり、デブリで釣って千鳥にしたりと意外と万能な奴です。
アニメ効果でOCG化していたら、ゲットライド!を投入していたかも。
今の環境ならアニメ効果でもいいのではないかと思う。
環境の変化って怖いね。

それでは数か月後にお会いしましょう。


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第12話 飛翔する不死鳥

 冬休みがもうすぐ始まろうとしている。選択した前期分の授業を既にやり終えている何人かの生徒たちは実家に戻ろうと続々と帰ろうとしている。そんな日の昼、夜光はアカデミアの屋上で3年生からの聞き込みの結果を書いた手帳を眺めていた。

「3年生が嘘やごまかしをついているような感じでもないし……

やはりカイザーだけが藤原優介のことを知っているのか」

 最初は藤原が失踪したことに対し何らかの理由で箝口令が敷かれていたのではないかと考えた夜光は当時のことを知っているはずの3年生に聞き込みをした。その結果、カイザーを除く3年生の誰もが藤原優介のことを知らないのだ。いや、知らないというよりかは記憶から抹消されているのように。

「俺が藤原優介のことを知っていることがカイザーにばれた。

これはミスったなぁ……」

 夜光は頭をかきながら、困ったような表情を浮かべる。困惑を振り払うかのように首を振り、デッキケースから1枚のカードを取り出す。そのカードは鏡に映し出されたかのように左右反転した『サイバー・エンド・ドラゴン』だった。

「デビルズ・ミラーの隠された能力……ゲットアビリティがうまく働いたな」

 ゲットアビリティ能力自体は古代エジプトの盗賊王バクラの精霊ディアバウンドを起源とし、最近では海馬の青眼の白龍の力を奪うために獏良了が使用したディアバウンド・カーネル等、少数ながらも存在している。夜光が持つデビルズ・ミラーは相手のエースモンスターを戦闘破壊した場合、破壊したモンスターの情報を記憶することができる。そいて特殊な装置にデビルズ・ミラーが得た情報を取り出すことによりカードを複製することができるのだ。元々のステータスが低いデビルズ・ミラーではせいぜい上級モンスターを破壊するのが関の山だが、カイザー戦では運よくサイバー・エンド・ドラゴンを戦闘破壊することができ、カードを複製できた。

「夜行君、やっぱりここにいたんだ」

 後ろから神楽坂

「一緒にご飯食べない?

今日、購買部でドローパンのセールしているんだ」

「ドローパンねぇ……

俺、焼きそばパンしか当たったことないんだけどな」

「えっ~と、確か29回連続だったけ?

でも今日は違う食材かもしれないよ」

「まあ、特にすることもないし。

記念すべき30回目の焼きそばパンを買いに行くとしますか」

 盗聴器で響先生による十代の補習が長引きそうだと思った夜光は立ち上がり、神楽坂と一緒に購買部に行くことにするのであった。

 

 購買部のワゴンにぎゅうぎゅうに詰められたドローパンの中からドローした夜光と神楽坂はお金を払った後、早速開封する。まずは神楽坂から味を確認する。

「……め、めざしパン」

「めざしって……

どうみてもパンに合わないだろう。じゃあ、俺も……」

「ウッキィィィィィ!」

 微妙なパンを引いて落ち込んでいる神楽坂を見た後、夜光がドローパンを口に入れようとした瞬間、急にサルの鳴き声が聞こえ、食べようとしたドローパンが何者かに奪われてしまう。一体何事が起ったのかと足元を見ると、仰々しい機械を身に着け、片手にスーパーの袋を持ったサルが夜光のドローパンをもう片方の手に持っているのであった。

「なんだこのサル?

つーか、焼きそばパン返しやがれ!」

「ウッキキキー」

 サルはドローパンを袋の中に入れ、挑発するかのようにおしりをペンペンとたたいた後、外に出ていくのであった。そして入れ違いに網を持った三沢が慌てた様子でやってくる。

「こっちにサルが逃げなかったか?」

「さっき来たけど……

三沢、何があったんだ?」

「研究所から『実験用のサルが脱走したから捕えてくれ』って樺山先生に要請があったみたいで、今アカデミアにいるイエロー生徒総出でサルの捜索しているんだ」

 ちなみに研究所はブルー寮にも要請を出したがクロノスに『誇りあるオベリスクブルーの生徒に猿探しなんて許可できないノーネ』と断られた経緯がある。なお、レッド寮については『猿探しする暇があれば勉強しろ』ということから伝達すらされていない。伝えたら面白半分で捜索する馬鹿がいるからだ。特に十代。

「それなら俺たちも探すぜ」

「ああ、助かる。俺は寮付近を探すから、夜光たちは向こうの方を探してくれ」

 三沢たちは手分けしてサルを捜索するのであった。

 

 夜行と神楽坂が森の中を捜索していると何人かのブルー女子が三沢と同じく網を持って血眼になって何かを探しているそぶりを見せていた。

「向こうには居ませんでしたわ」

「分かった。とにかく私たちの手で捕まえるのよ」

「「「「エイ!エイ!オー!」」」」

 付近の探索を終えた女子たちはぞろぞろと別の捜索ポイントに移動しようとする。その中に星奈がいたので、夜光は彼女から事情を聞こうと話しかけるとそこには目をギラギラと輝かせた星奈がいた。夜光たちは普段とあまりにも違うギャップに恐怖を感じ、一歩後ずさってしまう。

「さっきあのエロ猿が女子更衣室に入ってきて私のカメラを盗まれたのよ!」

「私の財布も」

「アタシのカードも」

「ウチの融合デッキもや」

「ああ、あの袋の中には盗品が入っているわけか」

 次々と盗品被害の報告をあげていく女子生徒たち。裸を見られただけでなく、物も盗まれたとなれば怒りが頂点にたつだろう。それが大切なものであればなおさらである。そのため、彼女たちは先生たちには内緒でサルを探索しているのだ。

「何かあったら連絡するぜ」

「うん。こっちもエロ猿を懲らしめたら連――」

「キャアァァァァ!!」

「この声は明日香!?」

 女子と別れて捜索しようとした瞬間、突如明日香の悲鳴が森中に響き渡る。ただ事ではないと思った女子生徒たちは何人かを引き連れて先生のもとに急行し、残る生徒たちは明日香の声がしたほうへと駈け出す。

 森を抜けると、海を背に向け明日香を人質にしている猿と麻酔銃を手に持ち、白衣を着た研究員が退治している。そんなとき、麻酔銃を構えている若い研究員がやや老齢な研究員にしびれを切らしたような態度で話しかける。

「博士、いつ撃つんですか!? 今でしょ!

このまま長引かせれば、女子生徒に何をするかわかりません」

「だが、女子生徒にSAL用の麻酔銃が当たってしまうかもしれん」

 今まで逃げ回っていたサルは研究所がデュエルが動物とりわけ人間に与える影響を調べるため、さまざまな装置によりデュエルができるように鍛えられたSuper Animal Learning(通称SAL)である。人間ではなくサルを使ってデータ収集をしているのは、研究所が学び舎近くに建てられているため、人体実験を一切認められていないからだ。

 デュエルするために鍛えられたSALは通常の猿よりも多くの量の麻酔が必要になる。万が一、人間に麻酔銃の針が当たれば、取り返しがつかない事態につながるかもしれない。そのため、研究員たちは引き金を引くことができなかったのだ。

「このままでは北欧から取り寄せたカードが奪われたままになる。

何かで気をそらせばいいのだが……」

「それならデュエルすればいいじゃん」

 後ろから声をかけられた研究員たちが振り返ると、そこには何人もの生徒がいた。

「君たちはここの生徒かね?」

「そうに決まっているだろう。

とにかく俺たちがデュエルしている隙に明日香を開放して、麻酔銃で眠らせれば解決だな」

「その通りだ。やってくれるか」

「そのつもりだ。よーし、俺と――」

「夜光君、ちょっと待った!」

 夜光がデュエルディスクを展開しようとしたとき、急に星奈から制止の声が上がる。

「ここは女子代表で私に任せて。

着替えを覗かれた分と大事なものを奪われた分の恨み、きっちり返すんだから!」

「お、おう。がんばれよ」

 怒りの炎に燃えている星奈に夜光はたじたじな様子であった。

『デュエルモードに移行します』

「ウッキー、こうなったらお前をボロボロのギッタンギッタンにしてやる」

 デュエルの空気を感じたのかSALの機械から機械的な音声がアナウンスされると、SALが言葉をしゃべり始める。人間の言葉に翻訳する装置もつけられていることに生徒たちは素直に驚いた。

「「デュエル!」」

 

星奈LP4000

SAL LP4000

 

-星奈のターン-

「私のターン、ドロー!

私はガガガマジシャンを守備表示で召喚」

 背中に我と書かれている制服を着た不良のマジシャンが星奈の場に現れる。

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:4枚

場:ガガガマジシャン(DEF1000)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-SALのターン-

「私のターン、ドロー!

私は炎王の急襲を発動。

相手フィールド上にのみモンスターがいるとき、デッキから炎属性の獣戦士・鳥獣族・獣族のモンスターを特殊召喚する。

彼方から急襲する天空の覇者、炎王神獣ガルドニクス!!」

 青い尾・紅い羽根を広げ、燃え盛る炎のトサカを持つガルドニクスがSALの場に現れる。他者を圧倒するような威圧感に生徒たちは思わず息のむ。

「ノーコストでデッキからレベル8のモンスターを召喚!?

インチキ効果じゃないか!」

「この効果で特殊召喚したモンスターは効果は無効になり、エンドフェイズに自壊するデメリットを持つ。

デメリットもそうあるのでインチキではない」

 神楽坂のいちゃもんにこたえるSAL。サルといえどもインチキ呼ばわりされていい気分にはならないだろう。

「激昂のミノタウルスを召喚。ミノタウルスの効果で場の獣戦士族・鳥獣族・獣族は貫通効果が与えられる。

ミノタウルスでガガガマジシャンに攻撃!アックス・クラッシャー」

「罠発動、ガガガシールド。

このカードの効果でガガガマジシャンは2度まで破壊されない」

「だが、ダメージは受けてもらう」

 ガガガマジシャンが身の丈ほどある盾でミノタウロスの斧攻撃を防ぐが、生じた衝撃波が星奈を襲う。

 

星奈LP4000→3300

 

「ガルドニクス(ATK2700)でガガガマジシャン(DEF1000)に攻撃」

 ガルドニクスがガガガマジシャンに向かって炎の渦を発生させるが盾で防ぐ。しかし、プレイヤーである星奈までは守りきることはできなかった。

 

星奈L3300→1600

 

「ターンエンド。ガルドニクスは破壊される。

そして炎王が破壊されたことにより、手札から炎王獣ヤクシャを特殊召喚する」

 

手札:3枚

場:ミノタウルス

  ヤクシャ

魔法・罠:なし

 

-星奈のターン-

「私のターン、ドロー!」

「おっと、スタンバイフェイズにカード効果で破壊されたガルドニクスの効果が発動する。

不死鳥は灰より現れる!甦れ、ガルドニクス!!

ガルドニクスがこの効果で特殊召喚した場合、フィールド上のモンスターをすべて破壊する」

「ノーコストの蘇生効果にブラックホールと同じ全体破壊効果!?」

「「「「インチキ効果もいい加減にしなさい!」」」」

 ガルドニクスが辺り一面に炎をまき散らすが、ガガガマジシャンは縦で何とか耐える。その強力すぎる能力に女子生徒たちがツッコミを入れる。もう言い訳するつもりはないのかSALは何も聞こえないふりをしてデュエルを続ける。

「そして破壊されたヤクシャの効果により、自分の手札または自分フィールド上のカードを破壊できる。私は手札のネフティスの鳳凰神を破壊する」

「うっ……これで私が罠を伏せてもネフティスの効果で破壊される」

 普通はデメリットしかない効果だが、破壊をトリガーするカードを用いればメリットになるのだ。要はどんな弱小カードも使い方次第である。

「どうだ参ったか」

「まだだよ。王立魔法図書館を守備表示で召喚。

テラフォーミングを発動。デッキから魔法都市エンディミオンを手札に加える。

さらに図書館に1つ目の魔力カウンターが置かれる。エンディミオンを発動」

 フィールドが中央に高い塔がそびえ立つ円形状の都市に変わっていく。

「図書館に2つ目の魔力カウンターが置かれる。

ガガガマジシャンのレベルを7に変更するよ。

救世の儀式を発動。レベル7のガガガマジシャンを生贄に救世の美神ノースウェムコを儀式召喚!」

 星奈のエース、ノースウェムコがフィールドに降臨する。しかし、ガルドニクスと攻撃力は互角。そのため、SALは大きくおびえている様子は見えない。

「そしてノースウェムコの効果でエンディミオンを選択。

さらに儀式魔法を用いたことでエンディミオン(0→1)と図書館(2→3)に魔力カウンターが置かれる」

「よし。これで破壊耐性を持つエンディミオンをどうにかしない限り、ノースウェムコはカード効果では破壊されない。戦闘でも最悪相打ちに持ち込める」

 夜光は星奈の戦術をほめたたえる。しかも、図書館には魔力カウンターがフルに溜まっている状態だ。

「王立魔法図書館の効果で自身の魔力カウンターを3つ取り除き、1枚ドロー!

ワンショット・ワンドをノースウェムコに装備。

ワンショット・ワンドの効果でノースウェムコの攻撃力は800ポイントアップ。

そしてエンディミオン(1→2)と王立魔法図書館(0→1)に魔力カウンターが置かれる。

ワンダー・ワンドを王立魔法図書館に装備。

さらにエンディミオン(2→3)と王立魔法図書館(1→2)に魔力カウンターが置かれる。

ノースウェムコでガルドニクスに攻撃!」

 ノースウェムコが三日月の杖を振りかざし、頭上から雷を落としガルドニクスを破壊する。

 

SAL LP4000→3200

 

「戦闘破壊されたガルドニクスの効果で炎王獣バロンをデッキから特殊召喚する」

「効果破壊の蘇生効果だけじゃなくリクルート効果まで……」

 ガルドニクスの焼け跡から赤い皮膚のサルが現れる。戦闘破壊・効果破壊されても後続が出てくるのが【炎王】の恐ろしいところである。

「ワンショット・ワンドを破壊し、1枚ドロー!

一時休戦を発動。互いに1枚ドローし、次のターンまでダメージを0にする。

王立魔法図書館の効果発動。自身の魔力カウンターを3つ取り除き、1枚ドロー!

ワンダーワンドの効果発動。王立魔法図書館を生贄にささげて、2枚ドロー!

カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:4枚

モンスター:ノースウェムコ(ATK2700)

魔法・罠:伏せ1枚

フィールド:エンディミオン(4)

 

-SALのターン-

「私のターン、ドロー!

スタンバイフェイズにネフティスの鳳凰神の効果発動。

フィールドへ降臨させる。その後、フィールド上の魔法・罠をすべて破壊する」

「エンディミオンの効果により、魔力カウンターを1つ取り除いて(4→3)破壊を無効にするよ」

 SALの場に現れたネフティスが魔法・罠を破壊しようと辺り一面が炎に包まれる。

「罠発動、奈落の落とし穴!

ネフティスを破壊して除外するよ」

「チェーンして速攻魔法、炎王炎環を発動!

ネフティスを破壊し、ガルドニクスを復活させる」

「せっかく倒したのにまた復活!?」

 SALの場に再び現れるガルドニクス。ネフティスを除外することにより、蘇生を困難にしようとした星奈の一手は回避され、しかも次ターンでネフティスの効果が発動することが決まった。

「ガルドニクス(ATK2700)でノースウェムコ(ATK2700)に攻撃!

そして速攻魔法、突進を発動。攻撃力を700ポイントアップさせる」

 勢いよく突進してきたガルドニクスに詠唱が間に合わず、ノースウェムコが破壊されてしまう。

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札:0枚

場:バロン(ATK1800)

  ガルドニクス(ATK2700)

魔法・罠:伏せ2枚

 

-星奈のターン-

「私のターン、ドロー!

私は光属性・王立魔法図書館と闇属性・ガガガマジシャンを除外し、カオス・ソーサラーを特殊召喚する」

「モンスターを除外するつもりか、そうはさせん。罠発動、激流葬!

フィールド上のモンスターをすべて破壊する。

これで次の私のスタンバイフェイズにガルドニクスとネフティスが舞う。

さらに破壊されたバロンの効果で次のスタンバイフェイズに炎王と名の付いたカードを手札に加えることができる」

 逆転への一手をかわされたところか相手のターンにもかかわらず、SALは星奈の行動の妨害・次ターンでの蘇生・モンスターのサーチをこなす。これらのSALの行動に対する星奈への精神的なダメージは大きいだろう。星奈は自分の手札を確認するが、この状況を打破するカードはない状況だ。

「っ……

カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:3枚

モンスター:なし

魔法・罠:伏せ1枚

フィールド:エンディミオン(5)

 

-SALのターン-

「私のターン、ドロー!

ガルドニクスとネフティスを特殊召喚する。2体の不死鳥よ、舞え!そして焼き尽くせ!

ガルドニクスの効果とネフティスの効果でフィールド上のカードをすべて破壊する」

「罠発動、ホーリーライフバリア!

手札を1枚捨てて、このターンのダメージを0にする。

さらにエンディミオンの効果発動。魔力カウンターを1つ取り除いて(5→4)破壊を無効にする」

 フリーチェーンの罠により、このターンの攻撃をしのいだ星奈。しかし、フィールドは圧倒的に不利なままだ。

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:0枚

場:ガルドニクス(ATK2700)

  ネフティス(ATK2400)

魔法・罠:伏せ2枚

 

-星奈のターン-

「私のターン、ドロー!

闇の誘惑を発動。2枚ドローし、見習い魔術師を除外する。

死者蘇生を発動。カオス・ソーサラーを特殊召喚する。

これで魔力カウンターが6つ揃った。墓地の神聖魔導王エンディミオンの効果発動。エンディミオンの魔力カウンターを6つ取り除き、墓地から特殊召喚する」

 黒いロープに身を包み黒い仮面をかぶった魔導王が星奈の場に降臨する。

「この方法で特殊召喚に成功したとき、墓地の魔法カードを手札に加えることができる。私は墓地の死者蘇生を手札に加える。

死者蘇生を発動。墓地のノースウェムコを復活させる。

魔法使い族の里を発動。これで私が魔法使い族をコントロールしている限り、エロ猿は魔法カードを発動できない!」

「なにぃ!? これではカオス・ソーサラーの効果にチェーンして炎王円環を発動できないではないか!インチキフィールドめ!この負ける。ウッキー!!」

 SALは自分の戦術が崩壊していく様子を認めないのか罵倒を続ける。だが、今の星奈には慈悲がなかった。

「カオス・ソーサラーの効果発動。攻撃を放棄する代わりにフィールド上のモンスターを除外できる。

私はガルドニクスを除外。

場のエンディミオンとカオス・ソーサラーを生贄に黒の魔法神官を特殊召喚!

黒の魔法神官でネフティスに攻撃!セレスティアル・ブラック・バーニング」

「なーんてな。私の演技に引っかかりおった。罠発動、聖なるバリア-ミラーフォース-!

これでお前のモンスターは全滅だ」

「黒の魔法神官の効果発動!罠カードの発動を無効にする」

「なんだと!? ウッキャー!」

 黒の魔法神官と魔法使い族の里によるコンボにより、SALは魔法・罠を一切使えない状況になっていたのだ。そして黒の魔法神官の魔導弾によりネフティスが破壊される。

 

SAL LP3200→2400

 

「ノースウェムコでダイレクトアタック!」

「ウキウキウッキィィィィィー!?」

 ノースウェムコの雷撃によりSALのライフが0になるのであった。

 

SAL LP2400→0

 

 SALがデュエルで敗北した隙に人質になっていた明日香は逃げ出すことに成功する。そしてスーパーの袋から盗品を取り返した女子生徒たちは続々と自分の部屋と帰り始める。なお、夜光のドローパンの結果は当然!焼きそばパン!だった。

「ウッキ? ウキウッキキキー」

 デュエルで敗北したショックか機械が故障したのかSALは言葉をしゃべることができなくなっていた。そんなとき、森の中からサルの群れが現れSALを誘っている。研究員がSALに向かって麻酔銃を向け、撃とうとしたとき博士が制止させる。そしてSALは仲間のサルの元へと戻るのであった。

「博士、SALを逃がしても構わないのですか?

どれだけのお金がかかったか博士もご存じのはずです」

「構わん。いまさら捕まえてもあの様子では再度教育が必要となり、さらに金がかかるだけだ。

ならば、別テーマの研究に力を入れたほうが良い」

 博士は研究員を追い払った後、迷惑を掛けた生徒たちに頭を下げる。といっても、明日香、星奈、夜光、神楽坂の4人にしかいないが。

「このたびは我が研究所がご迷惑をおかけして申し訳ない。

そこで北欧で開発中の新モンスターをお見せよう」

 SALから取り返した袋の中にあった箱を開けるとそこには白いふちのカードがあった。

「見たことがないカードね」

「うん。こんな枠を持つカードなんて初めて知ったよ」

「なんか強そうなカードだね。夜光君もそう思うでしょう」

「あ、ああ。そうだな」

 4人とも様々な反応をするが、夜光だけがなぜか嫌そうな表情をしていた。

「これはシンクロモンスターと言って、北欧ではローカルに存在しているカードなんだ。

と言っても世界戦のような公式の場では使えないんだけどね。

数年後にはこのシンクロモンスターを公の場にも出せるようにI2社とKC社でルール変更も含めて調整しているそうだ。

噂ではあの伝説のデュエリスト、海馬瀬人も自分専用のシンクロモンスターを作ったとか作っていないとか」

 夜光を除く3人が目を輝かせながら、博士の話を聞く。

 博士の話を聞き終えた3人はいまだに興奮が冷めず、自分たちの寮へと帰らずデュエル上でデュエルしてから帰ろうとしたため、夜光は3人と途中で分かれる。

「……シンクロは嫌いだな」

 夜光がポツリと漏らした言葉は誰にも聞こえることはなかった。




約1カ月ぶりの投稿です。いや、長かった。
今回はSALの話+伏線回。
本当は【ビースト】にしようとしたんだけど、いつのまにやら【炎王】に。
……ごめんよ、三沢。お前の炎デッキの候補をつぶしちゃって。

シンクロが北欧生まれになった理由はオーディン(シンクロモンスター)が代々伝わっているという設定から、きっと北欧ではシンクロは古くからあったのだろうと推測したためです。
まあ、矛盾があっても遊戯王ではよくあることで片付けられるますが。

冬休みの話を書くかどうか悩んでいるところ。
もしかすると冬休みはカットするかもしれません。
次は2カ月後くらいに投稿する予定です。早くできれば早く投稿しますが。


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第13話 部長、襲来

 冬休みが終わり、実家に戻って年越しを過ごした者がアカデミアに戻り、新学期が始まった。冬晴れの青空のもと、ラーイエローとオベリスクブルー男子は授業の一環としてテニスをしていた。

「甘いぞ、夜光! そのコースを狙ってくることはすでに計算済みだ」

 三沢はこれまで打ってきたサーブやリターン、癖から夜光が狙いやすいコースや決め球を把握し、次に何を打つかを予測しボールをライン際に勢いよく返す。夜光はボールに追いつこうと懸命に走るが、届かず三沢の勝利が決まった。

「三沢、強いよなぁ」

「プロリーグでは産休があるくらいデュエルには体力が必要。だからこそ俺は日々のトレーニングは欠かさずにやっている」

「そういや誰かの本で『デュエルの強さは肉体で決まる』って書いていたなぁ。デッキ構築の方が重要じゃねと思ったから、途中で読むのやめたけど」

「いや、その本が書かれていることは正しいかもしれない。最近、筋力の口上がドロー力の強化につながるという論文が発表されたからな」

「…………まじで?」

 夜光は三沢の思わぬ反論に唖然としていた。いくらデッキ構築が良くてもドロー力が無ければ、ここぞというときに欲しいカードもひけないし、逆転のカードもひけない。そのため、デュエルにおいてドロー力は重要な要素の一つといえる。

 もし、筋力の強化がドロー力をあげるというのであれば、プロリーグは忽ちガチムキ系の男で埋め尽くされるだろう。それは本当にカードゲームの光景なのだろうか? プロレスやレスリングと言われたほうが違和感がないのではないか。そのような想像をしてしまった夜光はその光景を振り払うかのように頭を振り、話を変えようとする。

「三沢は冬休みの間、何をしていたんだ? 俺はアカデミアに残って十代たちと年越しデュエルしていたけど」

「俺は地元の近くで開催されたデュエルの研究会に参加していた。テーマは『デュエリストの心理状態がデュエルに与える影響』だ。このテーマの意義は……」

「ああ、わかった。あとで聞いてやるから、今は話さなくても良い。それにしても神楽坂は変わったよな。前は少しオドオドしていたのに」

 三沢が研究会のことについて語り始めようとしたので、夜光は必死でやめさせようと話題を再度変えようとする。三沢の話は下手すれば数時間にも及ぶことがあるからだ。

 今、夜光たちの前でテニスをしている神楽坂は冬休み前と違って強気に前に出たり、ライン際ギリギリを狙うようになっていた。今までであれば、極端にリスクを背負うことを嫌い、その結果じり貧になることが多かった。

「神楽坂から聞いた話によれば、地元で開かれた小さな大会に優勝したらしい」

「それが自信となって神楽坂自身を変えたわけか」

 自信と自身。三沢は夜光がギャグを言っているのか少し考えた。だが、夜光の性格上ギャグを言うとは思えないし、顔を見てもボケたからツッコめよという感じではない。いたって真顔だ。そのため、三沢は夜光のギャグ(?)を無視するのであった。

「君が夜光君だね」

 そんなとき誰かが後ろから夜光の名を呼んでいたため、振り返ると2年のテニス部部長の綾小路ミツルが居た。2年生にしてカイザーと同等の実力を持つと言われる学園屈指のデュエリストでもある。

「亮を追い詰めたという君の実力を知りたくってね。無理してクロノス教諭に1年生の授業のコーチ役として参加させてもらったんだよ」

「良いぜ、先輩。さっそくデュエルだ」

 互いにカバンの中からデュエルディスクを取り出し、腕に装着する。

「「デュエル!」」

 

綾小路LP4000

夜光LP4000

 

-綾小路のターン-

「先行は僕からだよ。僕のターン、ドロー!

僕はモンスターをセット。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 綾小路はセットモンスターと伏せカードを出しただけで自分のターンを終える。良く言えば慎重、悪く言えば消極的とも言える一手に面喰らう。

「亮みたいにいきなり手札を湯水のように使うわけじゃないさ。仮に今展開しても意味はほとんどないだろう?」

「それもそうか。先行でいくら展開しても攻撃できないもんな」

 綾小路の意見に夜光は納得し、自分のターンへと進ませる。

 

手札:4枚

場:裏守備モンスター

魔法・罠:伏せ1枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はガーゴイル・パワードを召喚」

 夜光の序盤の主力モンスター、ガーゴイル・パワードがフィールドに降り立つ。未知の裏守備モンスターに攻撃するかどうか迷ったが、攻撃力1600あれば大抵のモンスターは破壊でき、仮に戦闘破壊できなくても綾小路のモンスター次第ではデッキ内容が推測できると判断し攻撃を仕掛ける。

「先輩がどういうデッキか見させてもらうぜ。ガーゴイル・パワードで裏守備モンスターに攻撃!パワード・ビーム!」

「僕の裏守備モンスターはラヴァルの炎車回し。ラヴァルの炎車回しは戦闘破壊されたとき、デッキからラヴァルモンスターを2体墓地に送ることができる。僕はラヴァルのマグマ砲兵とラヴァル・ランスロッドを墓地に送るよ」

「【ラヴァル】か!」

 ラヴァルは守備力が低い代わりに攻撃力が高く、墓地が肥えれば肥えるほどその攻撃力は爆発的に増えるモンスター群だ。その低守備力もとある魔法カードを使えるというメリットでしかない。

 夜光は初動の墓地肥しさえ成功すれば、カイザーに匹敵する爆発力を得ることは可能だろうと分かると同時に悪手を打ってしまったことも分かった。なぜなら夜光のデッキにはDDクロウのような相手の墓地を除外するカードは入っておらず、綾小路の墓地肥しを止める手段がないからだ。

「カードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:4枚

場:ガーゴイルパワード(ATK1600)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-綾小路のターン-

「僕のターン、ドロー!

僕はフレムベル・ヘルドックを召喚」

 体が溶岩できている猟犬が綾小路の場に現れる。厄介なモンスターの召喚に夜光は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「フレムベル・ヘルドッグ(ATK1900)でガーゴイル・パワード(ATK1600)に攻撃!熱血ファング!」

 ガーゴイル・パワードがフレムベル・ヘルドッグの炎の牙に噛みつかれ破壊される。

 

夜光LP4000→3700

 

「さらにフレムベル・ヘルドッグが戦闘破壊に成功したとき、デッキから守備力200以下の炎属性モンスターを特殊召喚できる。僕はラヴァル・ランスロッドを特殊召喚するよ。そしてバトル中に特殊召喚したため、ラヴァル・ランスロッドは攻撃することができる」

 フレムベル・ヘルドッグが遠吠えをあげると、岩のようにガチガチとした筋肉をもつ大男が綾小路の場に現れる。

 フレムベル・ヘルドッグは攻撃力1900と下級アタッカーとして優秀な攻撃力と戦闘破壊する必要性はあるもののカード消費なしで上級モンスターを召喚することが可能であり、しかも特殊召喚したモンスターは追撃が可能という優秀を通り越して常識外れななモンスターだ。

「ラヴァル・ランスロッドでダイレクトアタック!」

「速攻魔法、スケープゴート!このカードの効果で羊トークンを4体特殊召喚するぜ」

 ラヴァル・ランスロッドの槍は羊トークン1体を貫くが、夜光に大ダメージを与えることはできなかった。カイザーに渡り合えた相手に単純な手は通用しないことが分かり、綾小路は気を取り直し次の一手を打つことにした。

「攻撃を防がれたか、やるね。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:3枚

場:ヘルドッグ(ATK1900)

  ランスロッド(ATK2100)

魔法・罠:伏せ2枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン、ドロー!

奈落との契約を発動。手札のレベル7デビルゾアを生贄にガーランドルフを儀式召喚!

守備力200以下を採用することが多い【ラヴァル】なら効果てき面だ!」

「それは御免蒙るよ。速攻魔法、月の書を発動。ガーランドルフを裏側守備表示に変更する。これで君のガーランドルフの効果は不発に終わる」

 ガーランドルフがその力を生かす前に裏守備状態となってしまう。ガーランドルフの効果は儀式召喚に成功したタイミングのみであり、次のターンに反転召喚しても効果を使うことができない。

「俺の手はまだ尽きていない。思い出のブランコを発動。墓地のデビルゾアを復活させる」

(もし僕が最初のターンに月の書を伏せていなかったら負けていた……!?)

 夜光のとった行動に綾小路は冷や汗を流す。油断して月の書を伏せていなければ、ガーランドルフの効果で綾小路の場は一掃され、2体のモンスターのダイレクトアタックにより敗北していた。だが、現実は夜光の計算を狂わせ、デュエルの流れは綾小路が持っている。

「デビルゾア(ATK2600)でフレムベル・ヘルドッグ(ATK1900)に攻撃!デビル・エックス・シザース」

「僕は永続罠、バックファイアを発動。炎属性モンスターが破壊され墓地に送られたとき、相手に500ポイントのダメージを与える」

 デビルゾアの額からX字の光線がはなたれ、フレムベル・ヘルドッグを粉砕する。だが、フレムベル・ヘルドッグの残骸から炎が湧きでて夜光を襲う。

 

綾小路LP4000→3300

夜光LP3700→3200

 

 夜光は互いのライフを横並びに成功するもその表情はかたい。夜光の場には5体のモンスターがいるとはいえ、壁モンスターに過ぎない。しかもエースモンスターであるガーランドルフは守備表示となっている。次の綾小路のターンで戦闘破壊をされるのは目に見えている。

「デビルゾアを生贄にタン・ツイスターを守備表示で召喚する。ターンエンド」

 

手札:0枚

場:タン・ツイスター

  ガーランドルフ(裏守備)

  羊トークン3体

魔法・罠:なし

 

-綾小路のターン-

「僕のターン、ドロー!

君がいくら守備を固めようと意味がないことを教えてあげるよ。僕は超熱血球児を守備表示で召喚。

超熱血球児の効果発動。このカード以外の炎属性モンスターを墓地に送ることで相手に500ポイントのダメージを与える。ラヴァル・ランスロッドを墓地に送って500ポイントのダメージだ」

 ラヴァル・ランスロッドが炎の球になり、超熱血球児がバットでその球を打ち夜光に向けて放つ。

 

夜光LP3200→2700

 

「真炎の爆発を発動。墓地の守備力200以下の炎属性モンスターを可能な限り特殊召喚する。僕はラヴァルのマグマ砲兵、2体のラヴァル・ランスロッド、フレムベル・ヘルドッグを特殊召喚する。ラヴァルモンスターとフレムベル・ヘルドッグでタン・ツイスター以外に攻撃だ!」

 【ラヴァル】のキーカード、真炎の爆発が発動されてしまう。1枚のカードからコストなしに最大5体のモンスターを召喚することができ、しかも攻撃が可能という恐ろしい性能を持つ。そしてランスロッドが守備表示のガーランドルフを破壊し、ヘルドッグらが羊トークンを一掃する。

「タン・ツイスター以外だと……まさか、タン・ツイスターの効果を知っていたのか!?」

「まさか、座学の成績があまりよくない僕がそんなマイナーカード知っているわけないだろう。僕の勘がなんとなくそのモンスターに攻撃するのをやめろと言っているんだ」

 ドロー効果を持っているタン・ツイスターの効果をなんとなくという根拠もない理由で回避していたことに驚く。もし、何も知らずに攻撃すれば、夜光はドローカードを含んで手札3枚まで増やすことができた。3枚もあれば、現状を打破する手段はとれていたかもしれない。しかし、綾小路はテニスで鍛えられた自分の直感を信じ、これ以上の攻撃をするつもりは全くない。

「メインフェイズ2に超熱血球児の効果発動。4体の炎属性モンスターを墓地に送って、2000ポイントのダメージだ」

 

夜光LP2700→700

 

 4発の炎の球が放たれ、この攻撃を受けた夜光は吹き飛んでしまう。

「簡易融合を発動。ライフを1000払い、融合デッキから炎の剣士を特殊召喚する。そして超熱血球児の効果により、炎の剣士を墓地に送って、500ポイントのダメージを与える」

 

綾小路LP3300→2300

夜光LP700→200

 

「これで君はセーフティラインを超えた!」

 ライフを1000失ってまで夜光にダメージを与えたかったのは、夜光のライフをバックファイア1発で仕留めることができる範囲に持っていくためだ。これにより、夜光は綾小路のモンスターを攻撃することができない。仮に超熱血球児を残してターンを終了すれば、綾小路が召喚できる炎属性モンスターをドローした瞬間敗北が決まる。まさに絶体絶命の状況だ。

「僕はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:0枚

場:超熱血球児

魔法・罠:バックファイア

     伏せ1枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はタン・ツイスターを生贄にE-HEROマリシャス・エッジを召喚!マリシャスエッジは相手フィールド上にモンスターがいるとき、1体の生贄で召喚できるぜ」

 夜光の場に全身にニードルが生えている長身の男性が現れる。もし、十代がこの場に居れば『スゲーカッコイイ、ヒーロー」と目をキラキラ輝かせてみていただろう。

「E-HERO? 聞いたことがないな。E・HEROの間違いじゃないか?」

「E-HEROはHEROが闇の誘惑に負けて闇に堕ちた姿さ。

そして生贄召喚によって召喚されたタン・ツイスターがフィールドから墓地に送られたとき、カードを2枚ドローする効果を持っている。2枚ドロー!」

 タン・ツイスターのドロー効果に賭けた夜光はデッキからカードを2枚ドローする。そしてドローしたカードを見て口元が緩む。

「サイクロンを発動。俺は先輩の伏せカードを破壊するぜ」

「僕の魔法の筒が……!?」

 万が一のために伏せていた魔法の筒が破壊され、綾小路は急にデュエルの流れが変わったことを肌で感じる。

「マリシャスエッジで超熱血球児(DEF1000)に攻撃!そしてダメージステップ時に突進を発動。マリシャスエッジの攻撃力を700ポイント上昇させる(ATK2600→3300)」

「だが、いくらモンスターの攻撃力を上げてもバックファイアの効果で君のライフは0になる。この勝負、僕の勝ちだ!」

「そいつはどうかな。マリシャス・エッジは貫通効果を持っている。ニードル・バースト!」

「なんだって!? それじゃあバックファイアの効果が発動する前に僕のライフが0になるじゃないかぁぁぁぁ!!」

 マリシャスエッジがニードルを飛ばし、熱血球児を貫き綾小路をも貫く。

 

綾小路LP2300→0

 

「参った。僕の完敗だよ」

「そんなことはないぜ。俺も最後のドロー次第じゃあ負けていたからな」

「今度と言っても、僕も大会やら就活やらで忙しいからいつになるか分からないけど、その時は僕とデュエルしてくれないかな」

「ああ、そのときを楽しみしているぜ」

 綾小路はデュエルディスクをカバンの中に入れ、テニスラケットを取り出しテニスコートへと向かっていくのであった。どうやらブルーとイエローが言い争っているのを仲裁するためのようだ。

「俺の記憶が正しければ、冬休み前はE-HEROなんて使っていなかったはずだが……」

「冬休み中にデッキ構築を少し変えたんだよ。ずっと同じデッキで勝てるほどアカデミアは甘くないからな」

「なるほどな。それなら俺が持っているデータも更新しないといけないな」

 疑問点を解消した三沢と夜光はそれぞれ別のテニスコートに入り、自分の対戦相手とテニスを始めるのであった。




久しぶりの投稿になりました。
1カ月も放置していると何を書けばいいのやら…
サイコショッカーの回は飛ばすことにしました。ごめんね、サイコ流の人たち。
爽やか部長のデッキはチューナーとシンクロがない【ラヴァル】です。
シンクロが無ければ、良いバランスと思ったけど、ヘルドッグと爆発のポテンシャルがやばかった。
……どっちも本当は【フレムベル】のカードなんだけどなぁ。

次はようやくデッキを決めることができた神楽坂回の予定です。


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第14話 vs遊戯デッキ

「寝過ごした~!」

 十代は目覚まし時計を2つセットしたにもかかわらず寝坊してしまった。慌てて身支度をすました十代は武藤遊戯のデッキが展示される会場へと走り向かう。今日は武藤遊戯が使用している本物のデッキをデュエルアカデミアにて特別に展示される日だ。遊戯が所有している神のカードである『オシリスの天空竜』、『ラーの翼神竜』、『オベリスクの巨神兵』を見たがっていた生徒もいたが、残念ながら展示されていない。一部の関係者しか知らないが、神のカードがアテムとの闘いの儀で既に存在していないのだから仕方がないだろう。

「会場の中は写真撮影禁止だよ。今日の出来事は自分の目に焼き付けようね」

 十代が展示会場に入ると既に大勢の学生が遊戯デッキを見ようとずらりと並んでおり、行列の整備をしているとめさんが持っているプラカードには『最後尾4時間待ち』と書かれている。

「よ、4時間~!? 勘弁してくれよ。そんなに待っていたら日が暮れるぜ」

「最後尾にいるってことは寝坊でもしたか」

 ちょうど展示を見終わった夜光が十代に話しかける。

「ぎくっ、なんで分かったんだ?」

「そりゃあ翔から『昨日は遠足を待ちきれない小学生みたい』だっって聞いたからな。そんな様子だった十代がわざわざ遅れてくるはずがないだろう」

「当たり前だろ。伝説のデュエリスト武藤遊戯のデッキを見ることができるんだ。デュエリストなら絶対見逃すことはできないぜ!きっとスゲーデッキだと思うんだ」

(さすがに奪われた研究用のデッキが展示されることがなかったとはいえ、好きなカードでも引かない限りあのデッキで勝てる気がしないな)

 十代が遊戯デッキをみることにわくわくしている一方で夜光が心の中で遊戯デッキを批評する。すると展示を見終え、十代を見つけた翔がやってくる。

「アニキ居たんだ」

「翔!! なんで起こしてくれなかったんだぁ!」

「だって、ブラック・マジシャン・ガールをこの目で見れるのは今日だけなんだよ。織姫と彦星みたいにたった1日限りの恋なんだ!アニキを起こすよりもブラック・マジシャン・ガールを見る。誰だってそうする。僕もそうする」

 翔が十代を切り捨てる珍しい場面が見れるのであった。涙目になっている十代を励まそうと夜光は一つの提案をする。

「じゃあ、遊戯デッキの体験会でも見に行くか」

「体験会……? ってことは遊戯さんのデッキでデュエルできるのか!?」

「アニキ、違うッス。成績優秀者のみが決めれた時間に遊戯さんのデッキとデュエルできる体験会のことッス」

「十代のことだから、展示会の説明の時寝ていたんだろ」

「うっ……そういや大徳寺先生がそんなことを言っていたような言ってなかったような……」

「「言ってた。言ってた」」

 説明を聞いていなかった十代のために翔たちが再度説明する。これまでの成績でオベリスクブルーの上位30%、ラーイエローの上位10%内に入っていた者だけが遊戯デッキのレプリカを装備したデュエルマシーンとデュエルできるというものだ。かつて海馬瀬人がオベリスクの巨神兵の力を試すため使用されたデュエルマシーンもコストダウンやAIの強化、強度の向上が図られ、今やゲームセンター内でも見かけることがあるくらいだ。だがデュエルマシーンのAIが発達しすぎたせいか、あまりの鬼畜さにネットでは『デュエルマシーンが倒せない』という曲が流行るほどだ。しかも、この展示会にむけてKC社は次世代AIを装着し、遊戯のデュエルを完璧に再現したデュエルマシーンを送り込むほどの気合の入れようだ。

 なお、海馬瀬人が言うには『偽物を打ち破れぬ者にデュエルする資格なし』だそうだ。そのため、オーナーの考えに共感した鮫島校長らは『デュエルマシーンとのデュエルに負けたらレポート課題』というペナルティを与えることにした。それを聞いた十代は遊戯さんのデッキとデュエルしたいけど、レポート課題は勘弁と思うのであった。

 十代たちが体験会の会場となっているデュエル場につくと、オベリスクブルーの男子生徒が暗黒騎士ガイアの攻撃によって敗北し、レポート課題の提出が確定する光景が見られた。そして、次の対戦相手はやや緊張した顔つきの神楽坂であった。冬休み前ではデュエルの腕は高いが、ややメンタルに難ありの評価だった神楽坂が冬休みを終え、どう変わったか見ものの一戦といえよう。

「デュエル!」

 

神楽坂LP4000

デュエルマシーン LP4000

 

-神楽坂のターン-

「俺はモンスターを裏守備で召喚。

カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 神楽坂はこれといった特徴がない一手を打ち、自分のターンを終える。マシーン相手に

 

手札:3枚

場:裏守備モンスター

魔法・罠:伏せ2枚

 

-デュエルマシーンのターン-

「私のターン、ドロー!

私は手札断札を発動。互いに手札を2枚捨て、2枚ドロー!レスキューラビットを召喚」

 ヘルメットとゴーグルをかぶった兎がデュエルマシーンの場に現れる。遊戯デッキには絶版や入手困難となっている何枚かのカードが存在していたため、その代わりとして最新のカードが何枚か投入されている。そのため、遊戯が使用していないカードもデュエルマシーンは使用してくるのだ。

「レスキューラビットを除外し、2体のクィーンズ・ナイトを召喚。馬の骨の対価を発動。クィーンズナイト1体を墓地に送り、2枚ドロー!

クィーンズナイト(ATK1500)で攻撃。クィーンズ・セイバー・クラッシュ!」

「俺のモンスターは剣闘獣ホプロムス(DEF2100)。反射ダメージを受けてもらう」

 クィーンズ・ナイトが剣を振りかざすが、ホプロムスの鋼鉄の身体によって剣が折れてしまう。そして折れた剣先がデュエルマシーンの方に飛び、突き刺さる。

 

デュエルマシーン LP4000→3400

 

「ホプロムスの更なる効果が発動。戦闘を行ったバトルフェイズ終了時にこのカードをデッキに戻すことで他の剣闘獣を召喚することができる。俺は剣闘獣ラクエルを特殊召喚する。

さらにさらにぃ、ラクエルが剣闘獣の効果で特殊召喚したとき、攻撃力は2100になる」

 虎とイノシシを足して2で割ったような人型の獣が神楽坂の場に現れ、フラフープ上の武装に轟々と炎が燃え盛る。

「相手のデッキ【剣闘獣】と判断。被害微小。処理可能レベル……OK。誤差修正完了。

私はカードを2枚伏せてターンエンド。この瞬間、クィーンズナイトは破壊される」

 

手札:3枚

場:なし

魔法・罠:2枚

 

-神楽坂のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺は剣闘獣ラニスタを召喚」

 赤茶色の槍を持ち、緑色の鎧を身に着けた人型の鳥が神楽坂の場に現れる。ラニスタとラクエルの攻撃力の合計は3900。デュエルマシーンの残りライフ3400を削り切れる値だ。

「ラニスタ(ATK1800)でダイレクトアタック!」

「罠発動、攻撃の無力化」

「この勝機を逃すわけにはいかない。リバースカード、盗賊の七つ道具。ライフを1000払い、攻撃の無力化を無効にする」

 

神楽坂LP4000→3000

 

「罠発動、カウンターカウンター。相手のカウンター罠を無効。そしてカウンター罠によってカード効果を無効にしたことで冥王竜ヴァンダルギオンを特殊召喚。さらに罠カードを無効にしたことでヴァンダルギオンのさらなる効果が発動。罠を無効にしたとき、相手フィールド上のカードを破壊する。私は伏せカードを破壊」

「くっ……ミラーフォースが!」

 神楽坂の伏せカードから黒い炎が吹き出て、その中からヴァンダルギオンが現れ、デュエルマシーンの場に移動する。神楽坂は攻撃を防がれたばかりか、ライフを減らしてしまった上に最強の攻撃反応型罠であるミラフォまでも失ってしまう。そのため、心なしか神楽坂は動揺しているようにも見える。

「…………カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:2枚

場:ラニスタ

  ラクエル

魔法・罠:伏せ1枚

 

-CPUのターン-

「私のターン。ドロー!

ヴァンダルギオン(ATK2800)でラニスタ(ATK1800)に攻撃。冥王葬送!」

 ヴァンダルギオンによってラニスタが黒い炎によって燃やし尽くされる。

 

神楽坂LP3000→2000

 

「凡骨の意地を発動。カードを1枚ターンエンド」

 

手札:1枚

場:ヴァンダルギオン

魔法・罠:伏せ1枚

     凡骨の意地

 

-神楽坂のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はE・HEROプリズマーを召喚。プリズマーの効果発動。融合デッキにある剣闘獣ガイザレスを見せ、デッキから剣闘獣ベストロウリィを墓地に送ることで、プリズマーをベストロウリィとして扱う」

 効果を発動したプリズマーが光り輝き、ベストロウリィの姿へと形を変えていく。

「剣闘獣が自分の場にいるとき、スレイブタイガーは特殊召喚できる。スレイブタイガーの効果発動。このカードを生贄にささげ、場のラクエルをデッキに戻し、デッキから剣闘獣ダリウスを剣闘獣の効果扱いで特殊召喚する。そして剣闘獣の効果で特殊召喚された剣闘獣ダリウスの効果発動。墓地の剣闘獣ベストロウリィを効果を無効にして特殊召喚する」

 2足歩行する馬面の獣が神楽坂の場に現れる。ダリウスが鞭をふるうと、墓地からベストロウリィが現れる。

「剣闘獣ダリウスと剣闘獣ベストロウリィをデッキに戻し、剣闘獣ガイザレスを特殊召喚する。剣闘獣ガイザレスの効果発動。このカードが特殊召喚に成功したとき、フィールドのカードを2枚まで破壊することができる」

 緑色の巨大な鎧を身に着けたベストロウリィ似た怪鳥が神楽坂の場に現れる。

(次の反撃の芽をつぶすために凡骨の意地を破壊するかそれとも攻撃を確実に通すために伏せカードを破壊するか……)

「このターンで決着をつける。俺はヴァンダルギオンと伏せカードを破壊する」

 神楽坂は勝機を逃さんと決意する。ガイザレスが放った竜巻がヴァンダルギオンと伏せカードに向かっていく。

「チェーンして罠発動、威嚇する咆哮。このターン、相手は攻撃宣言できない」

「フリーチェーンの防御罠……ターンエンドだ」

 またもや勝機を逃した神楽坂はうつむきながら、エンド宣言する。

 

手札:1枚

場:ガイザレス

  プリズマー

魔法・罠:伏せ1枚

 

-デュエルマシーンのターン-

「私のターン、ドロー!

凡骨の意地の効果発動。手札の磁石の戦士αを見せて1枚ドロー!磁石の戦士βを見せて1枚ドロー!磁石の戦士γを見せて1枚ドロー!カース・オブ・ドラゴンを見せて1枚ドロー!ブラック・マジシャンを見せて1枚ドロー!」

「たった1ターンで3体の磁石の戦士が揃った……!? まさか……」

 神楽坂はありえないと思った。だが、もし対戦相手が武藤遊戯ならばあのカードを既に手札に持っているはず。遊戯デッキの中では3番目の攻撃力を誇るモンスターを……

「α、β、γを墓地に送り、手札から磁石の戦士マグネット・バルキリオンを特殊召喚。さらに古のルールを発動。手札からブラック・マジシャンを特殊召喚」

「切り札級のカードがいとも簡単に……!?」

 神楽坂、いやこの場にいる全員が目の前に広がる光景が信じられなかった。凡骨の意地が発動していたとはいえ、効果モンスターも多い遊戯デッキでは追加ドローはせいぜい1~2枚程度が関の山だと思っていたからだ。何人かは中に本人が入っているのではないかと思うほどの驚異的なドロー力……さすがはKC社が総力を挙げて作り上げた最新のAIといったところか。

「ブラック・マジシャン(ATK2500)でプリズマー(ATK1700)に攻撃!黒・魔・導」

 ブラック・マジシャンがプリズマーに向かって無数の紫色の魔力弾を放ち、破壊する。

 

神楽坂LP2000→1200

 

「マグネット・バルキリオン(ATK3500)でガイザレス(ATK2400)に攻撃!電磁剣」

バルキリオンが巨大なマグネット・ソードでガイザレスを一刀両断する。

 

神楽坂LP1200→100

 

「これ以上の行動不可。ターンエンド」

 

手札:1枚

場:バルキリオン(ATK3500)

  ブラマジ(ATK2500)

魔法・罠:凡骨の意地

 

-神楽坂のターン-

「俺のターン、ドロー!」

(よし!もうデュエルマシーンには伏せカードがない。3度目の正直……このターンで勝てる!!)

 神楽坂はドローしたカードを見て、心の中でガッツポーズをする。

「俺は死者蘇生を発動。ガイザレスを復活させる。そしてガイザレスの効果により、ブラック・マジシャンとバルキリオンを破壊」

 ガイザレスの効果はこの手の効果にありがちな融合召喚時のみに発動する効果ではなく特殊召喚時に発動する効果だ。そのため、蘇生カードを使えば2枚のカードを破壊することが可能になる。

「そして剣闘獣サムニテを召喚。

ガイザレスでダイレクトアタック!」

「墓地のネクロ・ガードナーを除外して攻撃を無効」

 2度あることは3度ある。半透明のネクロ・ガードナーがガイザレスの攻撃を防ぐ。またまた勝機を逃した神楽坂は気を取り直して攻撃を続ける。

「それならサムニテ(ATK1600)でダイレクトアタックだ!」

 

デュエルマシーン LP3400→1800

 

「さらにサムニテをデッキに戻して、剣闘獣ベストロウリィを特殊召喚する。そしてベストロウリィの効果で凡骨の意地を破壊。ターンエンド」

 

手札:0枚

場:ガイザレス

  ベストロウリィ

魔法・罠:伏せ1枚

 

-デュエルマシーンのターン-

「私のターン、ドロー!

私は光の護封剣を発動。相手の攻撃を3ターン封じます」

「このタイミングで護封剣だと!?」

(まずい……本当なら2体目のガイザレスを召喚したいところだけど、俺のデッキにはガイザレスが1枚しかない)

 神楽坂は心の中で少し焦る。サイクロンなどの除去カードを引かない限り、攻撃できないうえにモンスター効果も使うことができない。

「ターンエンド」

 デュエルマシーンがエンド宣言する。ターンが回ってきた神楽坂は除去カードを引くことを祈りながら、デッキの上に手を載せる。

「俺のターン、ドロー!カードを1枚伏せてターンエンド」

「私のターン、ドロー!ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!カードを1枚伏せてターンエンド」

「私のターン、ドロー!ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!サイクロンは来なかったけど、このターンで光の護封剣の効果は消える」

 結局、神楽坂は光の護封剣を破壊することができなかった。だが、伏せカードを合計3枚伏せることができ、どのような状況にも対応できると思っていた。

 

-デュエルマシーンのターン-

「私のターン、ドロー!

私は闇の誘惑を発動。2枚ドローし、カース・オブ・ドラゴンを除外。黙する死者を発動。墓地のクィーンズナイトを特殊召喚。キングスナイトを召喚。キングスナイトの効果により、デッキからジャックス・ナイトを特殊召喚。

そして手札から沼地の魔人王の効果により、デッキから融合を手札に加える。融合を発動。3体の絵札の三銃士を融合。アルカナ ナイトジョーカーを特殊召喚」

「しまった!? アルカナナイトジョーカーなら手札次第で罠やガイザレスの効果を防ぐことができる」

 アルカナ ナイトジョーカーは対応する手札1枚を捨てることで対象となった魔法・罠・モンスター効果を無効にすることができる。しかも攻撃力は3800と高く、元々の攻撃力で上回るモンスターはほとんどいない。

「さらに貪欲な壺を発動。墓地の三銃士とヴァンダルギオン、クィーンズナイトをデッキに戻し、2枚ドロー!竜の鏡を発動。墓地のカオス・ソルジャーと沼地の魔人王を除外し、究極竜騎士を融合召喚」

「ま、究極竜騎士だって!?」

 海馬瀬人と武藤遊戯の友情の証(瀬人本人は認めていない)として知られている究極竜騎士が神楽坂の前に立ち塞がる。その攻撃力はデュエルモンスターズ最大攻撃力である5000。あのオベリスクの巨神兵の攻撃力4000をはるかに上回る値である。

「アルカナナイトジョーカー(ATK3800)でベストロウリィ(ATK1500)に攻撃!ジョーカー・ブレード」

「チェーンしてリバースカード、神秘の中華鍋。ガイザレスをリリースし、ライフを2400ポイント回復する」

 

神楽坂LP100→2500→200

 

「究極竜騎士(ATK5000)でダイレクトアタック!ギャラクシー・クラッシャー」

「ガードブロックを発動。戦闘ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 

手札:1枚

場:究極竜騎士

  アルカナナイトジョーカー

魔法・罠:なし

 

-神楽坂のターン-

「こんなの勝てるはずがない……」

 神楽坂は自分の手札をみるが、そこにあるのは二重召喚とラクエルだけだった。この圧倒的な光景を覆すような逆転の手はなかった。もう諦めてサレンダーしようとデッキに手を伸ばしたとき、神楽坂を応援する言葉が聞こえる。

「神楽坂、気合入れろー!」

「そうだ、俺だって遊戯さんのデッキとデュエルしたかったんだ。こんな良いデュエルで諦めるなんてもったいないぜ」

「そうっす。諦めるなぁ!」

「みんな……」

 みんなの声援を受け、神楽坂の消えかけていた闘志に再び火がつく。

「俺は……俺は……もう諦めない。俺のデッキよ、答えてくれ!俺のターン、ドロー!」

 神楽坂は恐る恐るドローしたカードを見る。そこにあったのは希望へとつながるカードだった。

「リバースカード、突進を発動。究極竜騎士の攻撃力を700ポイントアップさせる」

「相手に攻撃力上昇効果? 意味不明。理解不能」

「このカードにすべてを賭けるためさ。ヒーローアライブを発動。ライフを半分支払い、デッキからE・HEROバブルマン(アニメ効果)を特殊召喚。バブルマンの効果により、2枚ドロー!」

 

神楽坂LP200→100

 

「貪欲な壺を発動。墓地の剣闘獣ベストロウリィ、剣闘獣アンダル、剣闘獣レティアリィ、E・HEROプリズマー、スレイブタイガーをデッキに戻し、2枚ドロー!

手札からE-エマージェンシーコールを発動。デッキからE・HEROプリズマーを手札に加える。プリズマーを召喚。プリズマーの効果発動。融合デッキにある剣闘獣ガイザレスを見せ、デッキから剣闘獣ベストロウリィを墓地に送る」

 再びプリズマーはベストロウリィの姿へと変わる。そしてドロー前に手札にあったカードがようやく活きる。

「二重召喚を発動。このターン、もう一度通常召喚を行うことができる。剣闘獣ラクエルを召喚。

プリズマーとラクエルをデッキに戻し、剣闘獣ガイザレスを特殊召喚!ガイザレスの効果でアルカナナイトジョーカーと究極竜騎士を破壊」

「アルカナナイトジョーカーの効果発動。手札からブラック・マジシャン・ガールを捨てて、ガイザレスの効果を無効」

「手札から速攻魔法、禁じられた聖杯を発動。アルカナナイトジョーカーの効果を無効にする」

 デュエルマシーンの最後のあがきも神楽坂の聖杯によって無効となった。神楽坂の攻撃を阻むものはもう何もない。

「これで終わりだ!ガイザレスでダイレクトアタック!」

「ぴがぁぁあああ!?」

 

デュエルマシーン LP1800→0

 

「神楽坂が勝ったぞー!!」

「あの伝説のデッキに……勝った……?」

 何人者の生徒を打ち破ったデュエルマシーンが初敗北を喫したことに会場が大いに盛り上がる。当の本人も信じられない様子で呆然と立っていた。しかし、勝利したのは事実だ。そしてそのことをようやく理解することができた神楽坂は勝利の雄叫びをあげた。神楽坂にとってこの勝利こそが真のデュエリストとして成長する大きな一歩となるのであった。

 

-?????-

 展示会が終わった深夜、明日本土へと返す物品を射れた倉庫の中で一人の男性がPCをカタカタと操作していた。

「ふん。この時代《せかい》にしては上出来なAIだ。ありがたく使わせてもらおう」

 男はPCに100%の文字が映し出された後、自分が何らかの痕跡を残していないか確認してから倉庫の中から出る。

「これで必要な物は揃った。あとは三幻魔のカードを手に入れ、追手と創造主を倒すだけだ。それが達成したとき……俺は永遠に君臨する神となるのだ。フハハハハハ」

 男は高笑いした後、持っていた剣をふるうとワームホールが生成され別の場所へと移動するのであった。

 




神楽坂のデッキはアラ剣でした。
ガイザレスがないころの剣闘獣しか使ったことがなかったので、ガイザレスの強さに驚きました。
なんで蘇生しただけで2枚破壊できるんだ…
アブZeroやダンセルホーネットといった環境のインフレには追い付いていないようですが。
あとこの回での反省点はBMGがでなかったことくらい。手札が足りなかったので仕方がない。

さてと恋する乙女を飛ばして空気回に移るかどうか考えなければ…
それでは1~2カ月後にお会いしましょう。


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第15話 融合封じ!学園代表決定デュエル

 早乙女レイという男装の美少女が引き起こしたドタバタ騒動から数日が立ったある日の昼休み、三沢と十代はクロノス教諭に呼ばれ校長室へと向かった。

「単刀直入に言います。ノース校との友好デュエルの代表を決めるため、明日代表を決めるためのデュエルをしてもらいます」

「俺たちが」「友好デュエルの代表?」

 二人とも急なことに事態が飲み込めないので、鮫島校長は事の流れをを説明する。そもそもの発端はノース校の代表が1年であるという情報を得たことに始まる。そのため、こちらも1年生を代表にすべきだという意見が多く出たため、誰を代表にするかという議論が数時間にも渡った。その結果、クロノス教諭が推すラーイエロー主席の三沢大地と大徳寺先生が推す遊城十代が最終候補まで残った。そこで、鮫島校長の提案により学園代表決定デュエルを行うことになったのだ。

 そして十代と一緒に学園代表決定デュエルを引き受けた三沢は寮に戻るや否や自室でPCをカタカタと打ち、十代とのデュエルをシミュレーションしていた。自分が持っている6属性デッキで十代とデュエルしたり、考えられる十代メタを投入した専用メタデッキ等様々なデッキを試しても、望ましい結果を得ることができなかった。

(メタを投入しすぎればパワー不足が目立ち、普段のデッキでは驚異的なドロー力に敗北する。つまり、メタカードを投入してもパワーが落ちず展開力もあるデッキが必要不可欠か)

「デュエルまで残された時間はわずか。だがやるしかない」

 三沢は立ち上がると近くにあったペンをつかみとり、壁に複雑な数式を書いていく。一見、デュエルに関係なさそうに見える行為だが、これは今まで得た情報を整理し、頭をフル回転させるための儀式でもあるのだ。そして三沢はこれらの数式の先にある勝利の方程式の解を得るのであった。

 

 翌日、三沢は十代用に調整したデッキを握りしめてデュエル場へと向かった。緊張しているのか手が汗によりじめっと湿っている。緊張しないほうが良いのだろうが、相手は常に奇跡を呼び起こすドローを持つ十代だ。緊張するなと言う方が無理だろう。そのため、三沢は下手に否定してミスを誘発するよりかは緊張しているという事実を受け入れ心理的な要因によるミスを減らすことにした。

 デュエル上に着いた頃には、デュエル開始時間よりも少し早く来たにもかかわらず観客席は満員であった。それだけこのデュエルは注目度が高いと言えよう。そして、十代が開始時間ぎりぎりで来る。三沢はきっと十代がベストを尽くすため時間ギリギリまでデッキを調整していたのだろうと推測する。十代が所定の位置にたった瞬間、三沢は上着の裏側にある6つの属性デッキから1つ取り出す。

「十代、君を倒すのはこの『地』のデッキ・改だ!」

「地か……どんなデッキか楽しみだぜ」

「「デュエル!」」

 

三沢LP4000

十代LP4000

 

-三沢のターン-

「先行はもらう。ドロー!

俺はモンスターを裏守備で召喚。カードを1伏せてターンエンド」

 三沢は無難な出だしでターンを終える。

 

手札:4枚

場:裏守備

魔法・罠:伏せ1枚

 

-十代のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はエアーマンを召喚。エアーマンの効果でデッキからバーストレディを手札に加える。

融合を発動!」

「この瞬間を待っていた!カウンター罠、封魔の呪印。このカードは手札の魔法を1枚捨てることで、発動した魔法をこのデュエルの間永久に封じる。俺は手札のDDRを捨てて、十代の融合を封じる」

「それじゃあ、俺はずっと融合が使えなくなるってことか!」

「その通りだ。十代、君の戦術の多くは融合モンスターに依存している。融合さえ封じれれば、強力なモンスターは数える程度しかいない。これが俺が導き出した勝利の方程式の解だ」

 たとえば十代の融合HEROで最も攻撃力が高いのはエリクシーラーの2900だが、メインデッキにある最も攻撃力が高いモンスターはエッジマンの2600。現在、最上級モンスターの攻撃力の次第点である2800を下回ってしまう。そうなればサポートカードを駆使するしかないが、余分なカードを使う以上手札消費が増え、1ターンに取れる戦術の幅が狭まってしまい、その結果敗北に近づいてしまう。

 無論、召喚のしやすさやモンスター効果の強さなど攻撃力がすべてではないが、ビートダウンを推奨するデュエルモンスターズにおいて無視することができない要素であるのは誰の目にも明確だ。

「くっ……なら、エアーマン(ATK1800)裏守備モンスターに攻撃!」

「融合を封じられた君が焦りから下級HEROで無謀な攻撃を仕掛けるのも読んでいた。俺のリバースモンスターはジェムタートル(DEF2000)。反射ダメージを受けてもらう」

 エアーマンが放った竜巻がジェムタートルの宝石でできた甲羅にはじき返され、十代を襲う。

 

十代LP4000→3800

 

「さらにジェムタートルのリバース効果が発動する。デッキからジェムナイト・フュージョンを手札に加える」

 三沢は十代のキーカードと主力モンスターを封じつつ、自身のキーカードを忘れずにサーチするとい高等なプレイングを見せる。一般のデュエリストなら心が折れているかもしれないが、十代の表情にはそのような気は全くなかった。むしろ、全力でデュエルする三沢を快く思っているのかもしないくらいだ。

「カードを4枚伏せてターンエンドだ」

「おいおい、いきなり4枚の伏せカードか。すべて罠というのは勘弁してくれよ」

「これが俺が打てる最善の手だぜ」

 

手札:1枚(バーストレディ)

場:エアーマン

魔法・罠:4枚

 

-三沢のターン-

「俺のターン、ドロー!」

(4枚の伏せカード、エアーマンのサーチ、十代の理想的なドロー……これまでの十代のデータから伏せカードの一枚はヒーロー逆襲であり、成功率を高めるため魔法を伏せていると見たほうが賢明だ)

「俺は手札からジェムナイト・フュージョンを発動。手札のジェムナイト・オブシディアとジェムナイト・ガネットを融合!現れろ、ジェムナイト・マディラ!」

 青いマントをたなびかせ、灼熱の剣と腕を持つ巨人の騎士が三沢の場に現れる。攻撃力がやや低いが、融合を封じられた今の十代にとっては強敵と言えるモンスターに変貌している。だが、三沢はマディラだけでは力不足と考え、更なる手を打とうとする。

「さらにジェムナイト・オブシディアが手札から墓地に送られたことで、墓地にあるレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚できる。俺はジェムナイト・ガネットを特殊召喚する。さらに墓地のジェムナイト・フュージョンの効果発動!」

「墓地から魔法!? そんなのアリかよ」

「これが俺の地のデッキ【ジェムナイト】の真骨頂だからな。墓地のジェムナイト・オブシディアを除外して、ジェムナイト・フュージョンを手札に加える」

 墓地にジェムナイトがある限り、何度でもサルベージが可能となる。しかも、DDRや化石岩の解放という除外した岩石族を特殊召喚できるカードもあるので、除外コストもそこまで大きな問題ではない。実際に三沢は除外コストを利用するため、ジェムナイト・フュージョンで手札コストを補えるDDRを投入している。

「ジェムナイト・フュージョンを発動。場のジェムタートルとジェムナイト・ガネットを融合!来い、ジェムナイト・ジルコニア!」

 巨大な両腕を持つ巨人の騎士が三沢の場に現れる。注目すべきは最上級モンスターの基準値を超える2900の攻撃力だろう。効果こそないもののほとんどの大型モンスターを殴り倒せる攻撃力は非常に魅力的である。

「ジェムナイト・マディラ(ATK2200)でエアーマン(ATK1800)に攻撃!そしてマディラの効果発動。このカードが戦闘するとき、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠・モンスター効果を使うことができない」

 

十代LP3800→3400

 

「ジェムナイト・ジルコニアでダイレクトアタック!」

「罠発動、ヒーロー見参!相手は俺の手札のカードを選択して、それがモンスターなら特殊召喚できる」

「そっちのカードか……俺は右のカードを選ぶ」

「三沢が選んだのはE・HEROバーストレディ。モンスターカードだから守備表示で特殊召喚するぜ」

 三沢は読みが外れたことに対し歯噛みするが、すぐさま気を取り直し手札を選択する。その結果、十代が望む最高の展開になってしまった。

「ならば、ジルコニアでバーストレディに攻撃!」

「罠発動、ヒーローシグナル!このカードの効果でデッキからE・HEROフォレストマンを守備表示で特殊召喚する」

 三沢がデュエルの流れが十代へと傾きかけていると感じ、力で押し戻そうとジルコニアで攻撃を仕掛ける。ジルコニアの巨大な両腕から放たれた拳にバーストレディは抗うすべもなく粉砕される。だが、上空にHの文字が描かれ、それを見て駆けつけたフォレストマンが十代の場に現れる。

 ヒーローシグナルでE・HEROを呼ぶ可能性があることは三沢も承知の上だ。だが、問題は十代がスタンバイフェイズ時に融合をサーチするフォレストマンを呼び出したことになる。

(融合を加えようとするだと!? 残る伏せカードの内1枚が手札コストとして融合が必要な融合破棄だとしても手札が足りない。ということはもう一枚の伏せカードは強欲な瓶のようなドローソース!

だが、攻撃力が最も高いエッジマンをだされたところでマディラを破壊できる程度……いや、違う!十代なら……)

 三沢は十代が理想的なカードを引くと仮定して脳内シミュレーションをする。

 十代が次のターンで伏せカードの強欲な瓶と融合破棄を使ってセイラーマンを墓地に送り、バブルマンを特殊召喚する。その後、ドローしたミラクル・フュージョンを使いアブソルートZeroを融合召喚し、アブソルートZeroでジルコニアかマディラを戦闘破壊する。こうなれば、三沢は下手にアブソルートZeroを破壊することができないばかりか全体破壊の危険に晒されてしまう。そのため今の三沢にとって、ミラクル・フュージョンを封じることが最優先課題となる。

「……カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:1枚

場:ジルコニア

  マディラ

魔法・罠:伏せ1枚

 

-十代のターン-

「俺のターン、ドロー!」

「強烈なはたき落としを発動。ドローカードを捨てさせてもらうぞ」

「げっ……!? せっかくミラクル・フュージョンを引けたのに……」

「本当に引いたのか!」

 三沢は半信半疑とはいえ、十代が本当にミラクル・フュージョンを引いた事実に驚愕する。文字通り奇跡を呼ぶドローだ。だからこそ、このドローを潰せたことは非常に大きな意味を持つ。

「スタンバイフェイズ時にフォレストマンの効果でデッキから融合を手札に加える。罠発動、無謀な欲張りを発動。これから2回ドローフェイズをスキップする代わりにカードを2枚ドローする。

よし!罠発動、融合破棄。手札の融合を捨てて、融合デッキからE・HEROワイルドジャギーマンを墓地に送り、融合素材であるE・HEROエッジマンを手札から特殊召喚する。カードガンナーを守備表示で召喚。デッキからカードを3枚墓地に送る」

 

送られたカード

フェザーマン

ネクロガードナー

スキルサクセサー

 

「エッジマン(ATK2600)でジェムナイト・マディラ(ATK2300)に攻撃!パワー・エッジ・アタック」

「これくらいは必要経費だ」

 エッジマンが両腕のエッジでマディラをすれ違いざまに切り付け、破壊する。

 

三沢LP4000→3600

 

「ターンエンドだ。この瞬間、エッジマンは墓地に送られる」

 

手札:0枚

場:フォレストマン

  カードガンナー

魔法・罠:なし

 

-三沢のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺は墓地のジェムナイト・マディラを除外し、墓地のジェムナイト・フュージョンを手札に加える。レスキューラビットを召喚。レスキューラビットを除外し、デッキから2体のジェムナイト・ルマリンを特殊召喚する。ジェムナイト・フュージョンを発動。2体のジェムナイト・ルマリンを融合し、ジェムナイト・プリズムオーラを融合召喚する」

 両肩からクリスタルが生え、西洋風の白銀の鎧を身に着けた騎士が三沢の場に現れる。

「闇の量産工場を発動。墓地のジェムナイト・ルマリン2体を手札に加える。ジェムナイト・プリズムオーラの効果発動。手札のジェムナイトと名の付くカードを捨てて、表側表示のカードを破壊する。俺はジェムナイト・ルマリンを捨て、フォレストマンを破壊する」

 プリズムオーラの盾にあるヴァイロン・プリズムから光が放たれ、フォレストマンを燃やし尽くす。1ターンに1度だけとはいえ、実質墓地のジェムナイトを除外するだけで表側表示のカードができる強力なモンスターだ。

「さらに墓地のジェムナイト・ガネットを除外し、ジェムナイト・フュージョンを手札に加える。ジェムナイト・プリズムオーラと手札のジェムナイト・ルマリンを融合し、2体目のジェムナイト・プリズムオーラを融合召喚。墓地のジェムナイト・ルマリンを除外し、墓地のジェムナイト・フュージョンを手札に加える。ジェムナイト・プリズムオーラの効果発動。手札のジェムナイト・フュージョンを捨てて、カードガンナーを破壊する」

「カードガンナーが破壊されたことで1枚ドロー!」

「ドローしても構わないさ。もう十代の場にモンスターはいない。この攻撃が通れば、俺の勝ちだ!」

 三沢は少々手札消費が荒くなっても、十代に伏せカードがないこの好機を逃すわけにはいかないと考え、2体のジェムナイトに攻撃命令を与える。

「2体のジェムナイトでダイレクトアタック!」

「ジェムナイト・ジルコニアの攻撃時に墓地のネクロガードナーの効果発動。このカードを除外することで攻撃を無効にする」

「だが、プリズムオーラの攻撃は通る」

 半透明のネクロガードナーがジルコニアの攻撃を防ぐもののプリズムオーラの斬撃を防ぐことができず、十代が切り付けられてしまう。

 

十代LP3400→950

 

「ターンエンドだ」

 

手札;0枚

場:ジルコニア

  プリズムオーラ

魔法・罠:なし

 

-十代のターン-

「いくぜ、俺のターン!」

「だが、無謀な欲張りの効果でドローはできない。たった1枚のカードで何ができる!」

「手札には必ず希望が残っているんだぜ。俺はホープ・オブ・フィフスを発動。墓地のワイルドジャギーマン、エアーマン、エッジマン、フォレストマン、バーストレディをデッキに戻し3枚ドロー!

ヒーローアライブを発動。ライフを半分支払い、デッキからE・HEROバブルマン(アニメ効果)を特殊召喚する」

 

十代LP950→475

 

「バブルマン以外のカードがないときに特殊召喚に成功したことで2枚ドロー!」

「たった1枚のカードで手札を4枚まで増やしただと!? これは……まずい」

 三沢は十代に1枚でもドローを許せば、奇跡が起こるということを改めて実感した。だが、時すでに遅し。三沢には十代の行動を封じるカードがない。

「エアーマンを召喚。エアーマンの効果でバーストレディを手札に加える。そしてフュージョン・ゲートを発動!」

「そのカードがあったか!」

 三沢は十代が土壇場で引いたフュージョン・ゲートに驚く。フュージョン・ゲートは除外する必要はあるものの手札・場のモンスターを融合できるフィールド魔法だ。そして封魔の呪印の効果はあくまでも『融合』のカードを封じるだけで融合召喚自体を封じるわけではない。つまり、今の十代は融合召喚を使い放題ということだ。

「戦士の生還を発動。墓地のフェザーマンを手札に加える。フュージョン・ゲートの効果で手札のフェザーマンとバーストレディを融合!これが俺のMy Favorite HERO、フレイム・ウィングマン!」

「だが、フレイム・ウィングマンの攻撃力では俺のモンスターに太刀打ちできない」

「そう慌てるなって。ヒーローにはヒーローにふさわしい舞台があるんだぜ。俺は摩天楼-スカイスクレイパー-を発動」

 十代がフィールド魔法を発動させると、高層ビルがそびえたつマンハッタンを思い出されるような光景へと変貌する。

「エアーマンでジェムナイト・ジルコニアに攻撃!」

「だが、摩天楼の効果を入れても攻撃力は届かない!」

「確か三沢は墓地から魔法を発動させていたよな。なら、俺は墓地から罠だ!」

「墓地から罠だと!?」

「墓地のスキル・サクセサーを除外し、エアーマンの攻撃力を800ポイント上昇させる(ATK1800→2600→3600)」

 エアーマンが起こした竜巻によってジルコニアが風化し、砂と化してしまう。

 

三沢LP3600→2900

 

「フレイム・ウィングマンでプリズムオーラに攻撃!スカイスクレイパー・シュート!」

 摩天楼から飛び降りたフレイム・ウィングマンが重力を味方につけ、プリズムオーラを殴りつけ破壊する。そして右腕の竜の頭から炎が吐かれ、三沢を焼き尽くしライフを0にする。

 

三沢LP2900→0

 

 ライフが0になったことでデュエルが終了し、三沢は自分のデッキトップを確認する。そのカードはサイクロンだった。もしあの時カードガンナーの効果を許すことにはなるが、1ターンだけ待ってサイクロンを引くことができれば、逆転の引き金となったフュージョン・ゲートを破壊でき、勝利していたことになる。

(もし自分に十代のようなドロー力があれば、このデュエルに勝てていたのだろうか? いや、十代の戦術が俺の知略を上回っていたんだ)

「ガッチャ!良いデュエルだったぜ」

「俺の完敗だ、十代。俺が考えうる様々なメタを掻い潜ったんだ。学園の代表は十代にこそふさわしい」

 そんな三沢の心情を気にせずにいつもの決めポーズをする十代に対し、自ら完敗したことを告げ、賞賛する。三沢から賞賛の言葉を聞いた十代は照れくさそうな表情をする。こうして、アカデミアの代表は異例のオシリスレッドの生徒・遊城十代が選出されるのであった。




レイちゃんの話を飛ばしました。
レイファンの人はごめんね。

三沢の地のデッキはジェムナイトでした。エクシーズなくても融合で十分戦えますからね。
現在、三沢の水と光は決まっています。
残る風、闇、炎はどうしようか…悩みの種は尽きません。
そもそもあと5回、三沢のデュエルが残っているのかは不明ですが。

それでは次回のサンダー戦をお楽しみに。


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第16話 サンダーvs十代

 ノース校との友好デュエル当日、十代らはノース校の生徒たちを迎えるため港へと向かう。だが、到着になってもノース校の生徒らを乗せている船は一向に姿かたちを見せない。何かトラブルでもあったと考えたクロノスは携帯電話でノース校の先生方に電話をかけようとするが、相手が電波の届かない海上にいるせいか繋がることはなかった。

 どうしようかと考えていると、港から大きな潜水艦が浮上してきた。潜水艦を間近で見る機会がそうそうないせいか男子生徒らは目をキラキラと輝かせている。そして、潜水艦のハッチが開かれると市ノ瀬が現れ、鮫島校長とバチバチと火花を散らかせながら握手する。友好と言っている割には二人の周りには険悪なムードが漂っているが、この友好デュエルはただのデュエルではないのだから仕方ないだろう。彼らは若いころからトメさんのキスを賭けて早食い・大食い対決、ロッククライミング対決やデュエルしており、今は友好デュエルの勝者を輩出した方がトメさんのキスをもらうという条件で賭けをしているのだ。ここ数年ではカイザーらに敗北し続け、鮫島校長が3年連続でキスをもらっている。そのため、市ノ瀬は男にプライドにかけてもこれ以上敗北するわけにはいかなかった。そのため、他校からの留学やデュエルのカリキュラムの見直しなどを積極的に行い、優秀な人材の育成に力を入れ続けてきた。

「俺の対戦相手って誰なんだ?」

「教えてやろう……それはこの俺だ!!」

 十代が誰とデュエルするのかあたりをきょろきょろと見ていると、聞いた覚えがある声が聞こえる。その声の主の方を見ると、そこには黒いマントをはためかせたキング・万丈目サンダーの姿があった。十代と最後にデュエルした時とは違い人を見下したような態度が和らぎ、確固たる自信と熱き闘志がその目に宿っている。ノース校というデュエルがすべてを支配する極寒の環境に揉まれた万丈目は人としてもデュエリストとしても大きく成長していることが分かる。そんな万丈目を見たのか十代も万丈目とデュエルするのにより一層ワクワクしているのであった。

 そんなとき、急に上空からヘリが降下してくる。そのヘリには大きく万と書かれており、万丈目グループ所有のものであることが分かる。そしてヘリから降りてきたのは万丈目の兄である長作と正司であった。

 

 選手控室で万丈目は兄たちに何をしてきたのか尋ねる。すると、長作は手に持っていた大きなトランクを開ける。すると、トランクの中には多数のレアカードが所狭しと並んでいた。

「これは俺たちが金に物を言わせ買ってきたレアカードだ!」

「これらのカードを使えば、準のデッキはさらに強くなる!」

 兄たちが言っていることは間違っていない。強いカードほど入手困難なレアカードとなっているのはデュエルモンスターズをやっていなくてもわかることだ。もし、強いカードがただのノーマルカードで手に入るような環境になるのであれば、デュエルモンスターズが終焉に向かっているに違いない。

 そして、兄たちがここまで万丈目に力を入れるには理由がある。それは万丈目グループが政界・財界・カードゲーム界の覇者になるという大きな目的があるからだ。すでに正司は新進の経営者として有名であり、長作もこの前の総選挙で国会議員として名を連ねている。そして、万丈目もその期待を裏切ることなくジュニアの世界選手権で優勝を果たしており、同年代であれば知らないものはいないと言って過言ではないだろう。

 兄たちからすれば万丈目がプロリーグに入り、DDのような無敗記録の一つでも作れば目的はほぼ達成したことになる。そのためにはデュエルアカデミアでトップの成績をとってもらわなければならない。だからこそ、兄たちはレアカードを集め万丈目に渡したのだ。十代らと会う前のかつての万丈目なら躊躇なくレアカードを手にしていただろう。

「だが断る」

「なぜだ!? レアカードを使えば、準!お前は最強!常勝!になれるんだぞ!」

「俺はアカデミアやノース校で色々なことを学んだ。どうすればデュエルで強くなれるのかを……

そして、俺は一つの答えを見つけたのかもしれない」

「答え? それは何だ?」

「それは……」

『おいらたちとの絆!』

「雑魚にも雑魚なりの使い道があるということだ!」

 おジャマたちを無視し、万丈目は兄たちに答えの1つを告げる。昔では雑魚と呼ばれたカードもカードプールの増大とともに使い道が発見され、制限・禁止カードの仲間入りすることは多々ある。要は雑魚カードもレアカードも使い方次第なのだ。そのことを万丈目は兄たちに伝える。

(俺も一人で経営しているわけではない。役員や多数の従業員に支えられ、ここまでの地位にのし上がってきた)

(所属していた党に追い風が吹いたのも事実だが、後援者の力添えもあったのも事実か)

 万丈目の言い分を聞くうちに、兄たちはこれまでの自分の行動を振り返る。そこには一人の力ではなしえなかった物語がある。彼らもまた|レアカード<<権力者>>だけでなく数多くの|雑魚カード<<ぶか>>を利用していたのだ。まさか万丈目にそのことを諭されるとは思いもしなかった兄たちはゆっくりと立ち去ろうとする。

「そのカードは準の好きなようにしろ。だが勝て」

「人の思いにこたえるには結果を出す……すなわち勝利するしかない!」

 兄たちはそう言い残し、控え室から去って行った。一人残された万丈目はノース校の生徒、市ノ瀬校長、そして兄たちの思いを胸に秘め、最後のデッキ調整を行うのであった。

 

 万丈目がデッキ調整を終え、デュエル場へと向かうと多数の生徒・教師が観客席を埋めている。そして目の前には観客席にいる友達に手を振っている十代の姿があった。万丈目に気づいたのか十代は振り向く。

「万丈目、楽しいデュエルしようぜ」

「さんだ!ノース校で鍛えられた俺とノース校全員の希望をのせたこのデッキで十代、お前に勝つ!」

「望むところだぜ、万丈目。俺も三沢たちの思いを無駄にするわけにはいかないからな」

 互いに負けられない意地とプライドがある両者。デュエルの女神がほほ笑むのは万丈目か十代なのか……それは誰にもわからない。

「「デュエル!」」

 

万丈目LP4000

十代LP4000

 

-万丈目のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はモンスターを裏守備で召喚。カードを1枚伏せてターンエンド」

 大きなプレッシャーがかかる最初のターンで順調な滑り出しを見せる万丈目。少なくともプレッシャーのせいで負けるということはなさそうだ。

 

手札:4枚

場:裏守備モンスター

魔法・罠:伏せ1枚

 

-十代のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺は融合を発動。手札のフォレストマンとバーストレディを融合。来い、E・HEROノヴァマスター!

ノヴァマスターで裏守備モンスターに攻撃!」

「ノヴァマスターが戦闘破壊に成功したことで1枚ドロー!」

「甘いな、十代!破壊されたおもちゃ箱の効果発動。デッキから攻撃力または守備力が0の異なる通常モンスターを2体特殊召喚する。俺はおジャマ・イエロー、おジャマ・グリーンを特殊召喚する」「一気に2体のモンスターを!?」

 ノヴァマスターが炎を纏った拳で裏守備モンスターを殴ると、箱から2体のおジャマたちが飛び出してくる。厳しい縛りがあるとはいえ、レスキューキャットに匹敵するリクルート能力は脅威と言えよう。

「やるな万丈目。俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:2枚

場:ノヴァマスター

魔法・罠:伏せ2枚

 

-万丈目のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺は馬の骨の対価を発動。おジャマ・グリーンを墓地に送り、2枚ドロー!

おジャマ・イエローを生贄にアームド・ドラゴンLv5を召喚!」

 手札を増強させ、キーカードを呼び込ませた万丈目はノース校に伝わるアームド・ドラゴンを召喚する。その名の通り全身にカッターやドリルなどの武装を施したドラゴンが敵である十代を睨めつける。

「強者の苦痛を発動。このカードの効果でお前のモンスターの攻撃力はレベル×100ポイント下降する。

アームド・ドラゴンLv5(ATK2400)でノヴァマスター(ATK2600→1800)に攻撃!アームド・バスター」

 アームド・ドラゴンが巨大な爪でノヴァマスターを八つ裂きにする。

 

十代LP4000→3400

 

「罠発動、ヒーローシグナル!俺はデッキからエアーマンを守備表示で特殊召喚する。そしてエアーマンの効果でデッキからオーシャンを手札に加えるぜ」

 十代もただおとなしくやられているわけではない。上空にHの文字が浮かび上がるとエアーマンが十代の場に駆けつけ、十代の手札を潤わせる。

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド。そして戦闘破壊に成功したアームドドラゴンLv5はレベル7へと進化する」

 

手札:3枚

場:アームドLv7(ATK2800)

魔法・罠:苦痛

     伏せ2枚

 

-十代のターン-

「俺のターン、ドロー!

融合回収を発動。墓地のフォレストマンと融合を手札に加える。

融合を発動。手札のフォレストマンとオーシャンを融合。行くぜ、万丈目。これが俺の切り札だ、E・HEROジ・アース!」

「来たか、ジ・アース!そのカードの召喚を許すわけにはいかない。罠発動、奈落の落とし穴!」

 自分を敗北へと導いたジ・アースを苦々しく睨みつけ、強力な罠で除去しようとする。だが、落とし穴に落ちる前にジ・アースの姿が突如として消える。万丈目は何が起こったのかと十代の場を見ると1枚の罠カードが発動されていた。

「罠発動、パラドックス・フュージョン!このカードの効果でジ・アースを除外し、奈落の落とし穴を回避するぜ。そして2ターン後のエンドフェイズに、ジ・アースは戻る」

「ふん。それなら2ターン以内に決着をつければいいことだ」

「それは困るぜ。デュエルはこれからだろう。カードガンナーを守備表示で召喚。デッキからカードを3枚墓地に送る」

 

落ちたカード

ミラフォ

ネクロガードナー

フェザーマン

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

「ならばエンドフェイズにリミット・リバースを発動。俺が蘇生するのはおもちゃ箱だ」

 十代がエンド宣言すると同時に万丈目はおもちゃ箱を再度召喚する。次のターンでリミット・リバースの自壊効果を使い、おもちゃ箱の効果を狙うつもりなのは自明であった。

 

手札:0枚

場:エアーマン

  カードガンナー

魔法・罠:伏せ1枚

 

-万丈目のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はおもちゃ箱を守備表示に変更。この瞬間、リミットリバースの効果でおもちゃ箱が破壊される。おもちゃ箱の効果発動。デッキからおジャマ・ブラック、火炎木人18を特殊召喚する。

2体のモンスターを生贄にダーク・ホルス・ドラゴンを召喚!

アームド・ドラゴンLv7の効果発動。手札のアームドドラゴンLv10を捨て、攻撃力3000以下の相手のモンスターをすべて破壊する。ジェノサイド・カッター!」

 アームド・ドラゴンの背中にあるカッターが青白く光りながらエアーマンたちを両断する。

「カードガンナーの効果で1枚ドロー!」

「ドローしたければいくらでもしろ。これで貴様の場にモンスターはいなくなった。俺はアームドドラゴンLv7、ダーク・ホルス・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「速攻魔法、クリボーを呼ぶ笛。このカードの効果でデッキからハネクリボーを特殊召喚するぜ」

「ならば、ハネクリボーを粉砕してくれるわ!」

 アームド・ドラゴンがハネクリボーを粉砕するが、ハネクリボーの効果で十代にダメージを与えることができなくなった。これ以上することがない万丈目はターンを終える。

 

手札:2枚

場:アームドLv7

  ダークホルス

魔法・罠:苦痛

 

-十代のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はバブルマン(アニメ効果)を召喚。バブルマンの効果で2枚ドロー!

マスクチェンジを発動。バブルマンを変身召喚!現れろ、M・HEROアシッド!

アシッドの効果発動。相手の魔法・罠をすべて破壊し、相手モンスターの攻撃力を300ポイント下げる。Acid rain」

 アシッドの効果で強者の苦痛を破壊することで、ヒーロー本来の力を取り戻すことに成功するだけでなく、厄介な除去効果を持つアームド・ドラゴンが戦闘破壊可能になる。ダーク・ホルス・ドラゴンにはわずかに及ばないが、反撃の狼煙をあげたと言ってもよいだろう。

「アシッドでアームド・ドラゴンLv7に攻撃!Acid burret」

 

万丈目LP4000→3900

 

 アシッドが放った弾丸がアームドドラゴンを貫き破壊する。そして十代はターンを終える。

 

手札:2枚

場:アシッド

魔法・罠:なし

 

-万丈目のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はダーク・ホルス・ドラゴン(ATK2700)でアシッドに攻撃!」

「俺は墓地のネクロ・ガードナーの効果発動。攻撃を無効にする」

 ダーク・ホルス・ドラゴンが放った黒い火炎が半透明のネクロ・ガードナーによって防がれる。

「くっ……カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:2枚

場:ダークホルス

魔法・罠:伏せ1枚

 

-十代のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺は闇の誘惑を発動。2枚ドローし、ネクロダークマンを除外。闇の量産工場を発動。墓地のフェザーマンとバーストレディを手札に加える。融合を発動。現れろ、E・HEROフレイム・ウィングマン!

摩天楼-スカイスクレイパー-を発動。フレイム・ウィングマンでダーク・ホルス・ドラゴンに攻撃!スカイスクレイパー・シュート!」

 摩天楼から飛び降りたフレイム・ウィングマンがダーク・ホルス・ドラゴンを殴りつけ破壊する。そして万丈目に向けて右手から火炎放射を放つ。

 

万丈目LP3900→3500→500

 

「アシッドでダイレクトアタック」

「罠発動、ガードブロック!戦闘ダメージを0にして1枚ドロー!」

「ターンエンドだ。そして、この瞬間ジ・アースが戻ってくるぜ」

 万丈目はギリギリのところで耐えることに成功するが、十代の場には攻撃力2000越えのHEROが3体もいる。圧倒的に不利な状況に誰しもが万丈目の敗北を予感していた。万丈目がこのまま終わるようなデュエリストでないと思っている対戦相手の十代と逆転の手段があることを知っている万丈目自身を除いては……

 

手札:0枚

場:ジ・アース

  フレイムウィングマン

  アシッド

伏せ:なし

 

-万丈目のターン-

「俺のターン、ドロー!

ようやく来たか。俺はトライワイトゾーンを発動。墓地のおジャマ共を3体特殊召喚する。

おジャマ・デルタハリケーンを発動!お前のフィールドのカードをすべて破壊する」

「ええ、そんなのありかよ!?」

 そのあまりにも強力な効果に十代は驚愕する。昔は発動条件があまりにも厳しいカードだったが、通常モンスターやローレベルのサポートカードが充実してきた今の環境においては比較的緩い条件ともいえる。フィールドを一掃された十代に自分を守る手段はない。だが、フィールドに攻撃力0のおジャマしかいない万丈目も攻撃することはできない。そんなことは万丈目も十分に承知だろう。十代はこの後、万丈目がどのような手段をとるのか楽しみでしょうがなかった。

「見せてやろう、こいつらにふさわしい舞台を!おジャマ・カントリーを発動」

 おジャマたちが住む小さな家と風車が立ち並ぶのどかな田舎の風景へと変わる。

「おジャマ・カントリーの効果発動。俺のフィールドにおジャマがいるとき、モンスターの攻守は入れ替わる。おジャマどもでダイレクトアタックだ」

 

十代LP3400→400

 

 一気に3000のライフを削られてしまう十代。もし、万丈目の手札に守備力400以上のモンスターが居ればこのターンで決着がついていただろう。間一髪で命拾いした十代を見ながら万丈目はターンを終えようとする。

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:0枚

場:おジャマ

魔法・罠:伏せ1枚

 

-十代のターン-

「俺のターン、ドロー!

ホープ・オブ・フィフスを発動。墓地のジ・アース、フレイムウィングマン、ノヴァマスター、バブルマン、エアーマンをデッキに戻し、3枚ドロー!

ミラクル・フュージョンを発動!墓地のオーシャンとフォレストマンを除外し、ジ・アース再臨!

ジ・アース(ATK2000)でおジャマ(ATK1000)に攻撃!」

「お前が融合HEROで攻撃するのはわかっていた。罠発動、ジャスティブレイク!攻撃表示で存在する相手の通常モンスター以外のモンスターをすべて破壊する」

 ジ・アースがおジャマたちが放った電撃によって破壊される。だが、これほど劣勢な状況においても十代にはあきらめた様子がない。

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札:0枚

場:なし

魔法・罠:伏せ2枚

 

-万丈目のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はおジャマ・イエローでダイレクトアタック」

「罠発動、攻撃の無力化!」

 あと一歩が届かない万丈目と攻撃を防ぎながら逆転の機会を伺う十代。両者ともあと1撃を与えば勝利が確定する状況で膠着状態に陥ってしまう。はたしてどちらがこの膠着を抜け出し、決着をつけるのかハラハラする状況が続く。

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

-十代のターン-

「俺のターン、ドロー!

平行世界融合を発動!除外されているフォレストマンとオーシャンをデッキに戻し、E・HEROガイアを融合召喚!そしてガイアの効果発動。おジャマ・イエローの攻撃力を半分にし、その数値分ガイアの攻撃力を上昇させる。

ガイア(ATK2600→3100)でおジャマ・イエロー(ATK1000→500)に攻撃!コンチネンタル・ハンマー!」

「隷属の鱗粉を発動。攻撃してきたモンスターを守備表示にし、このカードを装備させる」

 鱗粉によって惑わされたガイアは守備表示へと変わっていく。

「そう一筋縄ではいかないか。ターンエンドだ」

 

 万丈目のターンへと移り、カードをドローしようとデッキに手を伸ばそうとする。だが、なぜか手を伸ばそうとしてもデッキに手が届かない。それどころかデッキからどんどん離れていくように感じる。万丈目は目をこすり、改めてデュエルディスクにセットされているデッキを見るが、デッキは間違いなくそこにある。

(俺が……カードをドローすることに臆しているとでも言うのか!?

あと1枚。あと1枚のカードを引けば逆転できるんだぞ!)

 このターンであのカードを引くことができなければ、十代の攻撃を防ぐ手段はない。仮におジャマを守備表示にしてもメテオ・ストライクなどで貫通効果を持たされたら意味がない。そのため、万丈目はこのターンで決着をつけるしかなかった。そのプレッシャーが万丈目をおびえさせているのだろう。

 そんあとき、万丈目のもとに多数の声援が聞こえてくる。万丈目の後ろにはノース校の生徒や

「これがラストターンだ!ドロォォォォォ!!

融合を発動。3体のおジャマを融合!おジャマキングを融合召喚!!」

 銀色のムキムキ筋肉ボディのおジャマの王様が万丈目の場に現れる。このモンスターこそが万丈目のアームドドラゴンに続く第2のエースだ。

「隷属の鱗粉の効果で装備モンスターの攻守を変更する。

おジャマキング(ATK3000)でガイア(ATK2600)に攻撃!」

「罠発動、ヒーローバリア!」

(まだだ。俺の場には攻撃力3000のおジャマ・キングがいる。しかも隷属の鱗粉の効果でガイアは攻撃できない)

 万丈目は惜しくも攻撃を防がれてしまう。だが、十代のデッキに守備力3000以上のモンスターがやすやすと入っているとは思えず、万丈目は少し余裕の表情を待たせながらターンを終える。

 

「俺のターン、ドロー!

俺は貪欲な壺を発動。墓地のカードガンナー、アシッド、ハネクリボー、ジ・アース、フェザーマンをデッキに戻し、2枚ドロー!

俺はガイアでおジャマ・キングに攻撃!」

「コンバットトリック狙いか。だが、隷属の鱗粉の効果発動。ガイアを守備表示に変更する」

「それにチェーンしてマスクチェンジを発動。ガイアを変身召喚!M・HEROダイアン」

「ちっ、相打ち狙いか」

 守備力3000のダイアンが召喚されたことでおジャマキングが戦闘破壊されてしまう。だが、バトルフェイズ中なのでモンスターを召喚することはできない。つまり、1ターンの猶予が生まれるはずだと万丈目は考えていた。

「そいつはどうかな」

「なにぃ!?」

「万丈目がレベルアップモンスターを使うなら俺もレベルアップモンスターだ!チェーンが発生したことで俺は手札のハネクリボーLv9を特殊召喚する」

 十代は賭けに、いや万丈目を信じていた。デュエルタクティクスが高い万丈目なら自爆ではなく突進のようなカードによるコンバットトリック狙いだと推測し、隷属の鱗粉の効果を使うと。

「ハネクリボーLv9の攻撃力・守備力は万丈目が使った魔法カードの数×500ポイントアップするぜ」

「俺が使ったのは馬の骨の対価、強者の苦痛、トライワイトゾーン、おジャマ・デルタハリケーン、融合の5枚……」

「よってハネクリボーの攻撃力は2500だ!ダイアンとハネクリボーLv9で攻撃!」

 ダイアンと相打ちし倒れるおジャマキング。もう防御用のカードがない万丈目はハネクリボーの攻撃によって敗北するのであった。

 

万丈目LP500→0

 

 十代は敗北して膝をついている万丈目に駆け寄る。

「楽しいデュエルだったぜ、万丈目」

「さんだ。今回のお前の勝利はたまたま運が良かっただけだ!」

 普段ならともかく今回のデュエルはそう言われても仕方がない内容であるため、否定することができない十代。アカデミア側も同感なのかうんうんと頷くばかりである。そんなとき、万丈目は無言で去っていく兄たちを見かけ、後を追いかける。

「兄さん!」

「お前のデュエル見させてもらった。素人の俺たちからも素晴らしい内容だ。これからも精進しろよ、準」

「俺たちが世界一になるころにお前が落ちこぼれなんてことにならないようにな」

 そういって兄たちはヘリに乗り込み、アカデミアを去って行った。万丈目は負けたにもかかわらず、兄たちに生まれて初めて励ましの言葉を掛けられたのだ。そして、次会うときとはより成長した姿をみせようと固く決心するのであった。




どっちに勝たせるか非常に迷いました。
色々と悩んだ結果、万丈目を成長させようとすることにしましたが、これでよかったのかは未だにわかりません。

次回からはセブンスターズ編に入りますが、すぴばるでコラボ話を作製するためこちらの投稿がかなり遅れます。
ご理解お願いします。


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第17話 友情の一撃!吠えろ、サイバー・エンド・ドラゴン!

「賢者の石とは非金属を貴金属に、無機物を有機物に、非生物を生物に、無から有を創ることができる万能の石のことにゃ。この賢者の石を創ろうと数々の錬金術師が挑んでは失敗したんだにゃ。かの有名な錬金術師であるクリスチャン・ローゼンクロイツらもその例外ではないと言われ……」

 5限目の錬金術の講義をしていた大徳寺先生はふと生徒らの方を見ると、十代が机に涎を垂らしながら寝ていた。やれやれといった表情をしたあと、十代にこっそり近づき手にしている本で頭をこんこんと叩く。

「十代君、私の授業どこまで聞いていたのかにゃあ?」

「へ、へへへ……」

「そんな悪い子は校長室行きだにゃぁぁぁ!!」

「えええええっっっーー!!」

 十代の絶叫が教室に鳴り響き、その声にほかの生徒らはどっと笑いだす。そして、授業が終わるとなぜか万丈目、明日香、三沢、夜光もなぜか校長室に呼び出されるのであった。

 

「な~んだ、万丈目たちも寝ていたのか」

「そんなわけあるか! 俺は貴様と違ってちゃんと授業は受けている!!」

 校長室につづく廊下で万丈目の怒声がなる。オベリスクブルーはデュエルの腕だけでなく授業の成績でも上位に入りつづけなければならないほどシビアな世界だ。ブルーに所属している万丈目が退屈だと感じているとはいえ錬金術の授業で寝たり、サボったりするわけがないのだ。

「とにかく校長室に行けば理由がわかるはずだ」

「それもそうだ。さっさと行くぞ」

 三沢の言葉を聞いて万丈目が早足で校長室に向かい、それを追うように十代たちは校長室に向かって歩いていく。そして、校長室のドアをガチャリと開けると、そこには鮫島校長だけでなくクロノス先生、カイザーがおり、アカデミア有数の腕をもつデュエリストが校長室に集合していることになる。どうやら、居眠りの件で怒られるような様子でないことに十代はホッと胸をなでおろそうしたが、響先生に睨まれ、委縮してしまう。

「貴方たちに集まってもらったのはほかでもありません。この島に古から封印されている三幻魔のカードを護ってほしいのです」

「三幻魔のカードってなんだ?」

 十代の当然の疑問に答える鮫島校長。三幻魔のカードとはこの世の災いを封じ込めた3枚のカードであり、学園の地下深くに封印されている。そして、その封印を解くと世の中に災いが訪れ、世界が破滅すると語り継がれているそうだ。一見、眉唾ものに見える伝説だが、世の中には特別な力を持つカードが数は少ないとはいえ存在している。そのため、三幻魔が世界を滅ぼすと言われていても不思議ではない。

 そして、その封印を解こうとデュエルアカデミアに挑戦状がたたきつけられた。その者たちはセブンスターズ、7人の闇のデュエリストだ。彼らは三幻魔の封印を解くのに必要な七星門の鍵を奪うため、デュエルを仕掛けるそうだ。

「この七星門の鍵を貴方がた7人のデュエリストに護って頂きたい」

「要するにアカデミアの看板を賭けた道場破りが来ると思えばいいノーネ」

「まあ、今はそう思っていただいても結構ですが……」

 クロノス先生が鍵を受け取り、それに続いてカイザーたちが鍵を受けとっていく。その後、セブンスターズの襲来に備えるため、各々自分の部屋でデッキ調整をしようとしたとき、カイザーが夜光を呼び止める。

「お前にはいろいろと聞きたいことがある」

「良いぜ。こっちも聞きたいことがあるからな」

 それなら話は早いとカイザーと夜光は今晩灯台の下で待ち合わせすることにする。

 

 星が煌めき、三日月が出ている夜空の下で、カイザーと夜光は真剣なまなざしで相手の顔を見ている。

「お前はなぜ藤原のことを知っている」

「俺の知り合い、いやデュエルを教えてくれた師匠と呼ぶべき人がカードのことを研究している人なんだ。その人が開発したカードの影響を受けなくする特殊なコーティングを俺のカードに施してくれたんだ。多分、その影響で藤原優介のことを覚えていたんだろうな」

「待て。藤原に関する記憶が消えていったのはカードの影響とでも言うのか!」

「さっき聞いていただろう、三幻魔のこと。世の中には不思議な力を持つカードはたくさんあるんだ。記憶を消すようなカードがあってもおかしくはない」

「にわかには信じがたい話だ」

 カイザーは考えもしなかった夜光の言い分に衝撃を受ける。三幻魔の話を聞いていなければ、嘘だとはっきり言い切ることができただろうが、三幻魔のことを話す鮫島師範代の真剣な表情がそれを許さない。今、この場で真偽を下すことができないカイザーは夜光の疑問に応えることにした。

「俺の質問もカイザーと同じさ。なんでカイザーは藤原優介のことを覚えているんだ」

「わからない」

「へっ?」

「わからないんだ、俺も」

 先までの堂々とした態度から一転、カイザーは声を震わせながら語っていく。藤原が居なくなってから、友人だけでなく教師までもが藤原のことを最初からいなかったように振る舞う中、いつ自分が藤原のことを忘れてしまうのかと心の奥底で恐怖を感じていたのだ。だが、その恐怖を誰かに打ち明けようとしても、彼の言うことを理解できる人間は誰もいない。そんな孤独の中で、恐怖を打ち消すかのように戦っていくうちに彼はいつしか『孤高の帝王』と呼ばれるようになった。

「怪しいと思うよりも同じ状況にいる仲間が居てくれたことに喜びを感じていたかもしれないな。もし、藤原のことで何か気づいたら、教えてくれ」

「ああ。わかった」

「話が長くなったな、寮に帰るとしよう」

「素晴らしい話を聞かせてもらったよ」

 カイザーと夜光が自分の寮に帰ろうとしたとき、何者かが二人に話しかける。誰だとと言って、声がしたほうを振り向くと、レッドアイズを模したような仮面を身に着けた黒コートの長身の男性が立っていた。

「私の名はダークネス。セブンスターズの一人だ」

「その声……まさか!」

「今日の私は運が良い。七星門の鍵を持つものが2人もいるのだからな。さあ、どちらが先に私にやられるか選ぶがいい」

「ここは俺がやる。文句はないな」

「ないね。やるからには必ず勝てよ、カイザー」

「「デュエル!」」

 コイントスの結果、カイザーが先行を取りデュエルが開始される。

 

カイザーLP4000

ダークネスLP4000

 

-カイザーのターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はカードガンナーを守備表示で召喚する」

 カイザーの場に現れたのはおもちゃみたいな小型のロボット。先行では彼のエースモンスター、サイバー・ドラゴンを召喚することはできないため、まずは墓地肥しをしてフィールドを整えるようだ。

「そして機械複製術を発動。このカードの効果により、デッキからもう一体のカードガンナーを特殊召喚する。2体のカードガンナーの効果でデッキからカードを6枚墓地に送る」

 

落ちたカード

大嵐

トラップ・スタン

サイバー・ドラゴン

神の宣告

サイバー・ドラゴン・ツヴァイ

死者蘇生

 

 墓地に落ちたカードを見て、カイザーは苦虫を噛み潰したような表情をする。強力な制限カードが2枚も墓地に落ちてしまったのだから仕方がない。だが、彼にとってこの一戦はこれまでの人生の中で最も重要なデュエルなのだ。運が悪かったので負けましたでは話にならない。

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:3枚

場:カードガンナー×2

魔法・罠:伏せ1枚

 

-ダークネス-

「私のターン、ドロー!

私は竜の霊廟を発動。デッキから真紅眼の黒竜を墓地に送る。この瞬間、竜の霊廟の更なる効果が発動する。このカードの効果で墓地に送ったカードが通常モンスターだった場合、デッキからもう一体ドラゴン族モンスターを墓地に送ることができる。

七星の宝刀を発動。手札の嵐征竜-テンペストを除外し、2枚ドロー!さらに除外されたテンペストの効果によりデッキから風属性・ドラゴン族モンスターを手札に加える。

思い出のブランコを発動。墓地の真紅眼の黒竜を復活させる」

 海より浮上したレッドアイズが真紅の眼でカイザーを睨めつけながら、ダークネスの場に現れる。城之内克也をはじめとする著名な決闘者に使われている有名なカードだが、カイザーにとってレッドアイズなどは眼中になかった。

「その声、そして思い出のブランコ……間違いない。お前は吹雪だ!」

「吹雪ではない。ダークネスだ!」

「吹雪、お前は誰かに操られているのか!」

「操られてなどいない。その証拠に見せてやろう。ダークネスの真の恐ろしさを!

私はチューナーモンスター、ドラグニティ-コルセスカを召喚」

「チューナー? なんだそれは?」

「私はレベル7真紅眼の黒竜にレベル1ドラグニティ-コルセスカをチューニング!」

 コルセスカが1つの輪となり、レッドアイズが7つの星となって輪の中へと潜っていく。その召喚方法に二人は目を見開き、驚愕する。

「う、嘘だろ。この世界に……この時代にはまだ実験段階のはず……」

「シンクロ召喚!出でよ、クリムゾン・ブレーダー!」

 血のように紅い鎧を身に着けた二刀流の剣士がダークネスの場に現れる。それを見たカイザーはシンクロ召喚とは普通の融合や儀式よりも剣闘獣のような融合だと考える。剣闘獣の融合との違いは融合素材、この場合はシンクロ素材と呼ぶべきものはデッキに戻らず、墓地に送られるようだ。昔とは違い、今の環境は墓地からの蘇生手段が多く、『墓地は第2の手札』とまで呼ばれる。つまり、シンクロ召喚は墓地を再利用し続けることが可能であり、第2、第3のシンクロ召喚が行われる可能性が非常に高い。驚異の召喚方法にカイザーは冷や汗を流す。

「ふははははは!これが過去・現在・未来を操り、12次元世界を統べるダークネスの力だ!貴様ごときに勝ち目などない!!

クリムゾン・ブレーダーでカードガンナーに攻撃!レッド・マーダー!」

「たとえ未知の力であろうと俺は俺のデュエルを貫く!カードガンナーの効果で1枚ドロー!」

 だが、相手が詳細が不明な召喚方法を使おうとカイザーはこのデュエルをサレンダーすることはない。たとえ、相手が強力なカードを出したとしても必ず弱点はあるのだ。今はその一瞬を信じて、カードをドローする。

(サイバー・ドラゴンを引いた!これで俺の手札にあるサイバー・ドラゴンとパワーボンドを使えば……)

「どうやらお目当てのカードを引いたようだな。だが、クリムゾン・ブレーダーが戦闘破壊したとき、相手は次のターンレベル5以上のモンスターを召喚・特殊召喚することができない」

「俺のサイバー・ドラゴンが封じられた……!?」

 カイザーは自分のすべての戦術を封じられたことを知る。クリムゾン・ブレーダーを倒さない限り、カイザーに勝機はない。だが、攻撃力2800のモンスターをレベル4以下のモンスターだけで倒すのは至難の業だ。

「貴様の戦略は融合などの魔法カードでレベルの高いモンスターを呼び出し、圧倒的なパワーでねじ伏せるもの。だが、高レベルモンスターを封じた今、貴様は翼を失った鳥に同じ!」

「くっ……」

「カードを2枚伏せる。ターンエンド」

 

手札:2枚

場:クリムゾン・ブレーダー

魔法・罠:伏せ2枚

 

-カイザーのターン-

「俺のターン、ドロー!

サイバー・ドラゴン・コアを守備表示で召喚。サイバー・ドラゴン・コアが召喚に成功したことで、デッキからサイバネティック・ヒドゥン・テクノロジーを手札に加える」

「なるほど。そのカードでクリムゾン・ブレーダーを牽制し、次のターンでサイバー・エンド・ドラゴンかサイバー・ツイン・ドラゴンを召喚しようという魂胆か。だが、そううまくいくかな」

 カイザーにしては非常に消極的な一手。だが、サイバー・ドラゴンを召喚できないこの状況でクリムゾン・ブレーダーの攻撃を抑制するにはこれしかないのだ。

「……カードガンナーの効果でデッキのカードを3枚墓地に送り、カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:3枚

場:コア

  カードガンナー

魔法・罠:伏せ3枚

 

-ダークネスのターン-

「私のターン、ドロー!

リビングデッドの呼び声を発動。墓地のレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを特殊召喚する。レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの効果で墓地の真紅眼の黒竜を特殊召喚する。

竜魂の力をクリムゾン・ブレーダーに装備する。このカードの効果でクリムゾン・ブレーダーはドラゴン族となり、攻撃力が500ポイントアップする(ATK2800→3300)

チューナーモンスター、ドラグニティ-ファランクスを召喚。

レベル7真紅眼の黒竜にレベル2ドラグニティ-ファランクスをチューニング!

シンクロ召喚!出でよ、蒼眼の銀竜!」

 青眼の白龍によく似たドラゴンが天空より降臨し、他を圧倒するオーラを放つ。カイザーは知る由もないが、銀竜は海馬瀬人がブルーアイズの進化形態として作り出した専用のシンクロモンスターであり、ダークネスの場に伝説のドラゴンの進化形態が並ぶのは異常ともいえる光景だ。

「蒼眼の銀竜が特殊召喚に成功したとき、場のドラゴン族は効果の対象にならず、効果では破壊されない!」

「なに!」

 カイザーはその強力な耐性に驚く。ミラフォや炸裂装甲のような破壊効果を持つカードだけでなく、次元幽閉のような対象をとる効果までもがこのカードの前では無力と化すのだ。

「クリムゾン・ブレーダーでサイバー・ドラゴン・コアに攻撃!」

「リバースカード、アタック・リフレクター・ユニット。サイバードラゴン扱いのサイバー・ドラゴン・コアをリリースして、デッキからサイバー・バリア・ドラゴンを守備表示で特殊召喚する」

「サイバー・バリア・ドラゴンの守備力は2800。だが、クリムゾン・ブレーダーの攻撃力はそれを上回っている。そして貴様に逃げ道などないことを教えてやろう。リバースカードオープン、竜の逆鱗!このカードの効果でドラゴン族は貫通効果を得る」

 クリムゾン・ブレーダーはサイバー・バリア・ドラゴンを切り裂き、破壊する。そして、破壊されたサイバー・バリア・ドラゴンの破片がカイザーの頬をかすめ、血を流させる。

 

カイザーLP4000→3500

 

「受けたダメージが現実になっている……?」

「そう。これが闇のデュエルだ。そして貴様のライフポイントが0になったとき、貴様の命も0となるのだ!

蒼眼の銀竜でカードガンナーに攻撃!」

 青白く輝るブレスがカードガンナーを貫き、その勢いを落とすことなくカイザーを吹き飛ばす。

 

カイザーLP3500→1400

 

「カードガンナーの効果で1枚ドロー!」

「だが、これで終わりだ!レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンでダイレクトアタック!!ダークネスメタルフレア!!」

「この攻撃が通れば、カイザーのライフは……」

「罠発動、ガードブロック!戦闘ダメージを0にし、1枚ドローする」

 ガードブロックは数少ない対象を取らない効果。よって、蒼眼の銀竜の効果範囲外であり、攻撃を防ぐことができた。首の皮一枚でつながったカイザーに対し、ダークネスは苦々しい表情をする。

「ちっ、耐えたか。カードを1枚伏せてターンエンド」

(私の伏せたカードはトラップ・スタン。これで次のターン、奴の息の根を確実に仕留めてやる)

 

手札:0枚

場:レダメ

  蒼眼

  クリブレ

魔法・罠:伏せ1枚

     リビデ(レダメに使用)

     竜魂(クリブレに使用)

     逆鱗

 

-カイザーのターン-

(俺の手札にあるモンスターカードはサイバー・ドラゴンのみ。だが、クリムゾン・ブレーダーの効果で召喚を封じられている)

「どうした。早くカードを引き給え。それとも怖じ気ついたか」

「くっ……俺のターン、ドロー。このカードは……!?」

(奴の表情が変わった? 一体何を引いたというのだ)

 カイザーはドローしたカードを見て、窮地に追い込まれ絶望した表情から一転、希望を手に入れたような表情をする。

「そうだな。俺は一人だけで戦っているわけじゃない」

「一体、何を言っている!」

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

-ダークネス-

「私のターン、ドロー!

私は銀竜の効果で墓地の真紅眼の黒竜を特殊召喚する。アドバンスドローを発動。蒼眼の銀竜を生贄にささげ、2枚ドロー!

真紅眼の黒竜を生贄に真紅眼の闇竜を特殊召喚!真紅眼の闇竜の攻撃力は墓地のドラゴン族一体に付き300ポイントアップする。私の墓地には2体のドラゴン族チューナーと真紅眼の黒竜、蒼眼の銀竜の4体。よって攻撃力は3600。さらに装備魔法、団結の力を装備する。

そしてレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの効果で、蒼眼の銀竜を特殊召喚!」

 銀竜の効果により、再びダークネスの場のドラゴンが最強の耐性を手に入れる。これで伏せていたトラップスタンと合わせてダークネスは安心して攻撃をすることができる。

「真紅眼の闇竜でダイレクトアタック!」

「速攻魔法、瞬間融合!」

 

瞬間融合(アニメオリカ)

速攻魔法

このカードはバトルフェイズ中のみ発動する事ができる。

自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地へ送り、

その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚扱いとして特殊召喚する。

この効果で特殊召喚した融合モンスターは、エンドフェイズ時にエクストラデッキに戻る。

 

「このカードの効果で俺の場のモンスターを融合させる」

「だが、貴様の場にモンスターはいない」

「それはどうかな」

「なに!」

「俺はもう一枚のリバースカード、サイバネティック・フュージョン・サポートを発動していた。このカードの効果で俺は場だけでなく手札・墓地のカードも融合素材とすることができる。その代償として融合素材は除外され、俺は半分のライフを失う」

 

カイザーLP1400→700

 

「俺は墓地のサイバー・ドラゴン、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ、サイバー・ドラゴン・ドライを融合!出でよ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 カイザーの場に自身の代名詞ともいえるサイバー・エンド・ドラゴンが現れる。サイバー・ドラゴン封じはあくまでもカイザーのターンのみ。ダークネスのターンに融合召喚すれば封じられることはないのだ。だが、カイザーが必死の思いで召喚したサイバー・エンド・ドラゴンをダークネスは嘲笑う。

「なるほど。サイバー・エンド・ドラゴンを盾にして、次のターンパワーボンドやリミッター解除などを使用し、ワンショットするつもりか。だが、真紅眼の闇竜の攻撃力は団結の力により6500となっている。1ターン、遅かったな。

行け、真紅眼の闇竜!サイバー・エンド・ドラゴンを粉砕しろ!ダークネス・ギガ・フレイム!!」

「藤原、力を貸してくれ!俺はオネストを発動!!」

 カイザーはオネストを発動させると、サイバー・エンド・ドラゴンの機械の羽がパージされ、その中から天使の羽をのぞかせる。カイザーは藤原の行方を示す手がかりを求め、彼の部屋だった空き部屋をくまなく調べ、彼が大切にしていたオネストのカードを見つけたのだ。そして、友情の証としてデッキに入れていた彼のカードがカイザーの窮地を救ったのだ。

「オ、オネストだと……!? うっ、頭が……」

「オネストの効果により、俺のサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は10500! 吹雪、俺たちの友情の一撃で目を覚まさせてやる!! 友情の一撃、エターナル・エヴォリューション・バースト!!!」

「オネスト、そんな目で俺を見るなぁぁぁぁぁ!!」

 カイザーたちには見えないが、ダークネスにはオネストの精霊の姿がはっきりと見えていた。そのため、本体が捨てたはずの過去を思い出しそれが苦痛となっているのだ。そんなことは知らないカイザーだが、さっきまでとは明らかに違う態度に驚くカイザー。一体何が起こったのかその原因を考えていくうちにカイザーは拒否したいが、真実かもしれない可能性に気付く。

「オネストに反応している? まさか、吹雪をダークネスを操っているのは……!?」

 そう、藤原のオネストに反応する人物となれば藤原本人しかいない。つまり、藤原と吹雪は何かの事件に巻き込まれたのではなく、吹雪が藤原の手によって拉致された事件だったのだ。自分らの友情は偽りだったのかという考えをカイザーは心の中で必死に消す。

 そして、サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃がダークネスを襲い、その仮面を破壊する。

 

ダークネスLP4000→0

 

 破壊された仮面の下から現れた素顔は行方不明になっていた明日香の兄、吹雪だった。闇のデュエルの影響か気を失っているようだが、命に別状はなさそうだ。そして、カイザーは医務室に運ぶため、吹雪を肩に担ごうとするが、闇のデュエルでのダメージが大きいせいか身体がうまく動かない。

「無理するな、カイザー。今、だれか呼んでくるから」

「……親友が敵に回ったとき、お前はどうする?」

「せめての情けで自分の手でそいつを倒すさ」

 カイザーはそうかと無理やり納得させようとする。友情を踏みにじり、吹雪を操り、明日香を悲しませ藤原はせめて自分の手で決着をつけようと決めようとしたとき、夜光の口が開く。

「……だが、そいつが本心から敵に回ったわけじゃないなら、何が何でも助け出す。大切な奴ならなおさらな。たとえ、命を投げうってでも」

 夜光が救助を呼びに闇夜の中へと消えていく。一人残されたカイザーは藤原の真意はどこにあるのか自問自答するが、答えは出ない。だが、これから先セブンスターズと戦っていけば、ダークネスのことが分かるかもしれない。カイザーは結論付けるにはまだ早いと考えるのであった。




3か月ぶりの投稿です。
カイザーストラクで良い感じに強化されました。
できればもう少し強いカードがほしかったけど、強すぎるカードがあるとそれはそれでデッキの多様性が失われてしまいますからね。

そして、この小説での初シンクロ。
ダークネスの設定はとても便利で素敵。アニメの活躍は知らん。
ゼアルもあとわずかですが、ダークネスと関わりのあるヌメロンコードのことは早く明らかになってほしいですね。

それでは来年もよろしくお願いします。
(と言いつつ年末に投稿しているかも)


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第18話 闇からの使者!吸血姫 カミューラ

「ねぇ、聞いている?」

「わりぃ、考え事してた。何の話だったけ」

 物思いにふけていた夜光に対し、星奈が不機嫌そうに頬を膨らます。夜光は星奈からアカデミアで起こった不思議話や事件をよく聞く。そのほとんどが根も葉もない噂話や購買部が5%割引するなど些細なことではあるが。

「最近、カイザーが実は貧血だったとか、吸血姫が出てデュエルで魂を抜き取るとか、地獄から甦った王が無念を晴らすためデュエルするとか、色んな噂で持ちきりって話」

「さすがにそれは嘘だろ」

「う~ん、私もそう思うんだけど、目撃者が多いんだよね。吸血姫」

「吸血姫ね~そんな奴が居たらサイン貰って、記念写真でも撮るかな」

「もう。全く信じていないでしょう」

「仕方がないだろ。そんな空想上の生き物が居るなんて思わないし。精々、うす暗いところで女性とあったから、吸血姫だと勘違いしたってのが関の山だろ」

「つまり、幽霊の正体見たり枯れ尾花ってこと?」

「そうそう。噂が噂を呼んで、尾ひれがどんどん付いていっただけさ。案外、正体はコスプレしたトメさんかもな」

「……嫌だなぁ、それ」

 吸血姫のコスプレをしたトメさんを想像したのかげんなりした様子の星奈。吸血鬼ではなく吸血姫と呼ばれていることから、美しい女性を描いていた星奈にとって正体がトメさんは幻滅ものであろう。このまま女子寮に帰らせるのは悪いと思い、夜光は1枚のカードを星奈に渡す。

「何、このカード?」

「このカードには隠された能力あるのさ。俺が持っていてもその真価を発揮させることはできないから、星奈にやるよ」

「う~ん、どうみてもただのノーマルカードなんだけどなぁ……

でも、貰える分には貰っておくね」

 カードを受け取った星奈はさっそくデッキにそのカードを入れておいた。そして、時計を見ると夜遅い時間になっていたので、女子寮に戻ろうとする。七星門の鍵とは何の関係もない彼女だが、セブンスターズが無関係の生徒を人質にとる可能性もあるので、夜光は女子寮まで送ろうかと提案する。

「大丈夫。近くで待ち合わせしている明日香と一緒に帰るから」

「それなら安心だな。まっすぐ帰れよ」

 うんと頷いた星奈は一人でイエロー寮を去っていく。そして、自分の部屋で一人になった夜光は報告書を作成する。

 

題名:シンクロモンスターの出現と対応

要約:ダークネスにより、実験段階であるシンクロモンスターが召喚される事案が発生。自然災害に等しいダークネスの行動を事前に防ぐことは困難。そのため、歴史への影響を最小限にするよう努力する。

目撃していた生徒の記憶改竄及び記録媒体の処理はほぼ完了。なお、精霊の力を借りている生徒については記憶改竄は不可能。

 

 長々しい本文を書き終えた夜光は所属している組織へ報告書を出す。そして、これからどうするかと考え、ふと窓を見ると森から鳥が何かから逃げるようにバサバサと飛んでいく。

(あの方角は女子寮の方……星奈と明日香が危ない!)

 二人の危険を察知した夜光はたまたま近くで見回りをしていたクロノス先生と共に、女子寮へと向かった。

 

「吸血姫のトメさんって……面白いわね」

 星奈は明日香に夜光と話していた吸血姫のことを話すと明日香はくすくすと笑う。吸血姫の話を聞いていた明日香もトメ吸血姫説という発想はなかった。また、その他にも話した色んなことをペラペラと喋る彼女を見て、心の中で『歩くスピーカー』と思ってしまう。

 そんなとき、後ろから見知らぬ女性に声をかけられる。血のように真っ赤なドレスに緑色のロングの髪を持つ美しい女性なんて見たら、忘れるはずなどなかった。

「あなた、誰?」

「私はヴァンパイア、カミューラ。セブンスターズの一人よ」

「き、吸血姫!?」

「そこの娘に興味はないわ。貴女の首からかけている七星門の鍵を頂きに参りましたの」

「そうはさせないわ!相手がヴァンパイアであろうと私は負けるわけにはいかない!」

(亮が言っていた。セブンスターズの裏側には兄さんを操っていた人物がいるって。それが誰なのか、どうして兄さんが狙われたのか明らかにするにはセブンスターズと戦うしかない!)

 明日香はカイザーから教えてもらった情報を思い出し、覚悟を決める。真実と言う名の虎児を得るには危険を顧みず、闇のデュエルと言う虎穴に入らなければならないのだ。

「いいわね、その怒りに満ち溢れた表情」

「私が勝ったら、あなたが知っているダークネスの情報すべて教えなさい」

「私に勝つ? そんなふざけた幻想をぶち壊してあげるわ。狩らせてもらおうかしら、貴女の七星門の鍵を!魂ごと!!」

「「デュエル!」」

 

明日香LP4000

カミューラLP4000

 

-明日香のターン-

「先行はもらうわ、ドロー!

私は氷結界の紋章を発動。氷結界の軍師を手札に加えるわ。氷結界の軍師を召喚」

 笠をかぶった老人が明日香の場に現れる。手札交換と墓地肥しを一度にこなしてくれるこのカードは明日香にとって生命線と言えよう。

「氷結界の軍師の効果発動。手札の氷結界の伝道師を墓地に送り、1枚ドロー!

カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:4枚

場:軍師

魔法・罠:伏せ1枚

 

-カミューラのターン-

「私のターン、ドロー!

手札からスカル・コンダクターの効果を発動するわ。手札から攻撃力2000になるようアンデット族モンスターを2体まで特殊召喚できる。私は攻撃力2000のヴァンパイア・ロードを特殊召喚」

 骸骨の指揮者に導かれ、吸血鬼の主がカミューラの場に現れる。攻撃力2000と上級モンスターにしては低いが、恵まれた属性と種族により序盤から召喚することは容易い。そのうえ、下級モンスターでは太刀打ちできないにも関わらず、効果破壊されると自己再生することからサポートすれば中々厄介なモンスターである。

「さらにゴブリンゾンビを召喚。

ヴァンパイア・ロードで氷結界の軍師に攻撃!」

「罠発動、デモンズ・チェーン!ヴァンパイア・ロードの効果と攻撃を封じる」

 ヴァンパイア・ロードが黒い鎖によって束縛され、身動きを封じられてしまう。自己再生までは防げないものの、戦闘さえさせなければどうと言うことはないカードだ。

「やるわね。カードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

手札:2枚

場:ロード

  ゴブゾン

魔法・罠:伏せ1枚

 

-明日香のターン-

「私のターン、ドロー!

私は氷結界の軍師の効果発動。手札の氷結界の虎将ライホウを捨てて、1枚ドロー!

浮上を発動。墓地の氷結界の伝道師を特殊召喚。そして氷結界の伝道師を生贄にささげて、ライホウを特殊召喚するわ。そして、氷結界の武士を召喚」

 あっという間に3体の氷結界を並べる明日香。もし、この攻撃が通ればカミューラのライフを半分以下にすることができ、デュエルの流れは一気に明日香の方に傾く!

「氷結界の武士(ATK1800)でゴブリンゾンビ(ATK1100)に攻撃!」

 鎧武者が気持ち悪いゾンビの首を斬り落とすと、うめき声をあげながら倒れる。

 

カミューラLP4000→3300

 

「ゴブリンゾンビが墓地に送られたことで私はデッキからゾンビ・マスターを手札に加える」

「それくらいは覚悟の上よ。ライホウでヴァンパイア・ロードに攻撃!」

「私は罠カード、ヴァンパイア・シフトを発動!

私のフィールドゾーンにカードが無く、場にアンデット族のみがいるとき、デッキからヴァンパイア帝国を発動する」

 小高い丘に白い城がみえる薄気味悪い城下町へとフィールドが変わっていく。一見、ありふれた西洋の町並みだが、カード名からしてヴァンパイアが支配したかつての帝国なのだろうか。

「そしてヴァンパイア帝国はアンデット族の攻撃力をダメージ計算時のみ500ポイントアップする」

「なんですって!?」

 束縛されているヴァンパイア・ロードを見てライホウは油断していたのか、ロードに隙を見せてしまい、噛みつかれ破壊される。

 

明日香LP4000→3600

 

 まさかコンバットトリックされるとは思わなかった明日香は動揺する。だが、デモンズ・チェーンの効果はまだ有効であり、攻撃を封じているには変わりはない。その事実になんとか冷静さを取り戻した明日香は来るであろうカミューラの猛攻に対して伏せカードを用意する。

「カードを2枚セットしてターンエンド」

 

手札:1枚

場:軍師

  武士

魔法・罠:伏せ2枚

     デモチェ

 

-カミューラのターン-

「私のターン、ドロー!

私はゾンビマスターを召喚。手札を1枚捨てて、墓地のヴァンパイア・デュークを特殊召喚するわ」

 

Vampire Duke(海外先行カード)

効果モンスター

星5/闇属性/アンデット族/攻2000/守 0

このカードが召喚に成功した時、

自分の墓地の「ヴァンパイア」と名のついた闇属性モンスター1体を選択し、

表側守備表示で特殊召喚できる。

このカードが特殊召喚に成功した時、

カードの種類(モンスター・魔法・罠)を宣言して発動できる。

相手は宣言された種類のカード1枚をデッキから墓地へ送る。

「Vampire Duke」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

また、このカードをエクシーズ召喚の素材とする場合、

闇属性モンスターのエクシーズ召喚にしか使用できない。

 

「ヴァンパイア・デュークが特殊召喚に成功したことで、私はカードの種類を宣言し、貴女はその種類のカードを墓地に送らなければならない。私が宣言するのは罠カード」

「私はアイスバーンを墓地に送るわ」

 わざわざミラーフォースのような強力な罠カードを墓地に送る必要はないと考えた明日香は比較的弱いカードから墓地に送ろうとする。そして、明日香が墓地にカードを送った瞬間、カミューラはケタケタと笑う。

「この瞬間、ヴァンパイア帝国のもう一つの効果発動!相手がデッキから墓地にカードを送ったとき、私は手札・デッキからヴァンパイアを墓地に送り、フィールドのカードを1枚破壊する!私はデッキからヴァンパイア・ソーサラーを墓地に送り、伏せカードを破壊する」

「私の次元幽閉が……」

 攻撃反応型罠でも再利用が難しい除外でモンスターを除去できる強力な罠である次元幽閉が破壊される。上級モンスターを使われても、このカードがあれば大丈夫だと思っていた明日香は精神的にも追い詰められていく。

「ゾンビマスター(ATK1800→2300)で氷結界の武士(ATK1800)に攻撃!」

 ゾンビマスターが先ほど墓地に送られた首なしのゴブリンゾンビを操り、その恨みを晴らすかのように武士の頭を握りつぶす。

 

明日香LP3600→3100

 

「ヴァンパイア・デューク(ATK2000→2500)で氷結界の軍師(ATK1600)に攻撃!」

「罠発動、激流蘇生!このカードの効果で破壊された氷結界の軍師を特殊召喚して、500ポイントのダメージを与えるわ」

 

明日香LP3100→2200

カミューラLP3300→2800

 

 必死に後れを取り戻そうとわずかばかりの反撃を見せる明日香。だが、カミューラはそんな明日香に対し、薄笑いを浮かべながらカードをセットする。

「カードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

手札:1枚

場:デューク

  ロード

  ゾンマス

魔法・罠:伏せ1枚

フィールド:帝国

 

-明日香のターン-

「私のターン、ドロー!

軍師の効果発動。手札の氷結界の虎将ガンターラを墓地に送り、1枚ドロー!

そして軍師を生贄にささげて、ブリザード・プリンセスを召喚する。ブリザード・プリンセスが召喚に成功したとき、相手は魔法・罠を発動できない」

「なんですって!」

 カミューラの伏せカードが凍り付き、発動が不可能な状態になる。仮にカミューラの伏せカードがミラフォのような逆転の罠であったとしても発動しなければ意味がない。

「マジック・プランターを発動。デモンズ・チェーンを墓地に送って、2枚ドロー!ウォーターワールドを発動」

 フィールドが西洋の街並みから、イルカが飛び跳ねる海へと変わっていく。流水が苦手なヴァンパイアにとって苦手なフィールドと言えよう。その一方で、明日香の水属性モンスターは水の力を得て、生き生きとし攻撃力が500ポイントアップする。

「死者蘇生を発動。氷結界の虎将ガンターラを特殊召喚する。氷結界のガンターラ(ATK2700→3200)でゾンビマスター(ATK1800)に攻撃!」

 ガンターラが冷気を纏った手刀でゾンマスを破壊する。

 

カミューラLP2800→1400

 

「ブリザード・プリンセス(ATK3300)でヴァンパイア・ロード(ATK2000)に攻撃!」

 ブリザード・プリンセスが氷の鉄球を振り回し、身動きができないヴァンパイア・ロードを押しつぶす。

 

カミューラLP1400→100

 

 明日香の猛攻によりカミューラのモンスターを削り、一気にライフをわずか100まで削りきる。カミューラの場に残ったのは、召喚・特殊召喚時以外には効果を持たないヴァンパイア・デュークのみである。

「ターンエンドよ。そしてガンターラの効果で墓地のライホウを攻撃表示で特殊召喚する」

 そして、明日香は攻撃力3000オーバーのモンスターにモンスター効果を封じるライホウという鉄壁の布陣を敷いている。しかも、ライフは半分以上残っており1ターンで削りきるのは至難の技だろう。そういうこともあり、明日香はもちろん応援していた星奈も勝利を疑わなかった。

「私の勝ちは決まったも同然ね」

「くっ……小娘ごときにこの私がここまで追い詰められるなんて」

「大人しく負けを認めたらどう?」

「誇り高きヴァンパイアである私が人間にひれ伏せですって!そんなの死んでもお断りよ!」

 明日香はカミューラにサレンダーを促すが、物凄い剣幕でそれを拒否する。そしてカミューラのラストターン、ドローしたカードをを見て高笑いする。

「残念ね。このデュエル、私の価値よ。リビングデッドの呼び声を発動。ヴァンパイア・ロードを特殊召喚する。そして、ヴァンパイア・ロードを除外して、ヴァンパイアジェネシスを特殊召喚!

威圧する魔眼を発動。ヴァンパイア・デュークに対して発動するわ。

そして、ヴァンパイアジェネシスでライホウに攻撃!ヘルビシャス・ブラッド!」

 始祖の名を持つ巨大なヴァンパイアがライホウを粉砕する。

 

明日香LP2200→1800

 

「そして威圧する魔眼の効果でヴァンパイア・デュークはダイレクトアタックできる」

「えっ……?」

 明日香は何が起こっているのか理解できなかった。先ほどまで勝利を確信するほどの布陣が1ターン、いや、1枚のドローカードで逆転され、明日香のモンスターが地にひれ伏し、デュークに道を譲ったのだ。

「冥土の土産に1つ教えてあげるわ。私、ダークネスのこと全く知らないの」

「そ、そんな……」

「良かったわね、ダークネスの情報得られて。私のファンサービスしっかり受け取りなさい。デュークでダイレクトアタック!」

 眼前に迫ったデュークが明日香の首元を噛み付き、ライフを0にする。

 

明日香LP1800→0

 

 デュエルが終わると明日香の身体が光り輝き、人形になっていく。

「あ、明日香が……人形になっちゃった。どうして…………」

 非日常な光景を受け入れることができない星奈はガタガタと震えだし、逃げ出すどころか立ち上がることさえできない。そんな星奈に一瞥したカミューラは人形になった明日香を握りしめ、踵を返そうとすると何者かが放ったカード手裏剣(ガーゴイル・パワード)が彼女を止める。

「大丈夫か、星奈」

「う、うん。私は大丈夫だけど、明日香が……」

 今にも泣きだしそうな表情で、夜光とクロノス先生に今まであったことを途切れ途切れになりながらも要点だけ話す。

「カミューラ、女の子を泣かすようなやつは許さないぜ。俺とデュエルしろ!」

「待つノーネ」

「クロノス先生、止めても無駄だぜ」

「今のシニョール夜光は冷静さを欠いているノーネ。今、デュエルしたらシニョーラ天上院の二の舞なノーネ」

 図星であるために夜光は黙らざるを得なかった。そして、クロノス先生が生徒たちの前に立つ。

「腸が煮え返っているのは私も同じなノーネ。だけーど、怒りや憎しみを抱いたままのデュエルを認めるわけにはいかないノーネ。本来、デュエルとは楽しんでするものなノーネ。それゆえに、それを否定し、ましてや人を傷つけるような闇のデュエルはデュエルと認めるわけにはいかないノーネ!」

「最期の講義はいいかしら?」

「最期じゃないノーネ。ヴァンパイア、カミューラ。生徒を泣かせた罪、どれほど重いか教えてあげるノーネ」

「人間風情が良い気に乗るんじゃないわよ!」

 互いにデュエルディスクにデッキをセットし、デュエルが開始される。

「「デュエル!」」

 

クロノスLP4000

カミューラLP4000




明けましておめでとうございます。
今年初の小説を投稿します。
今年もよろしくお願いいたします。


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第19話 古代の機械兵隊、出陣!

-クロノスのターン-

「私のターン、ドロー!

ギアギアングラーを召喚するーノ」

 ロイドのように表情のあるキャタピラが付いた掘削機がクロノスの場に現れる。すると、ギアギアングラーが地面から古びた箱を掘り起し、クロノスに渡す。

「このカードが召喚に成功したとき、デッキから地属性・機械族を手札に加えることができるノーネ。私は古代の機械箱を手札に加えるノーネ。この瞬間、古代の機械箱の効果が発動するノーネ。古代の機械箱がドロー以外の方法で手札に加わったとき、デッキから攻撃力または守備力が500の地属性・機械族モンスターを手札に加えることができるーノ。私はデッキから古代の機械石像を手札に加えるノーネ」

 たった1枚のカードで2枚のカードをサーチするクロノス。無論、これほど強力なサーチがノーリスクで行う事はできない。ギアギアングラーの効果を使うと、機械族以外特殊召喚できないうえにバトルフェイズを行う事ができない。しかし、クロノスのデッキは機械族主体のデッキあり、バトルフェイズスキップも先行1ターン目であれば、意味をなさない。

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:6枚(機械箱、石像)

場:アングラー(ATK500)

魔法・罠:伏せ1枚

 

-カミューラのターン-

「私のターン、ドロー!

ゴブリンゾンビを召喚。

ゴブリンゾンビ(ATK1100)でギアギアングラーに攻撃!」

「罠発動、マジカルシルクハット!私のデッキから2枚の魔法・罠と場のモンスターをシルクハットの中に隠すノーネ」

「小賢しい真似を……真ん中のシルクハットに攻撃!」

 ゴブリンゾンビがギアギアングラーに切りかかろうとしたとき、突如3つのシルクハットが現れギアギアングラーの姿を隠す。だが、カミューラの直感で選んだシルクハットに攻撃すると中からギアギアングラーの姿が現れ、切り裂かれる。

「ギアギアングラーはシルクハットの効果で守備表示なっているノーデ、ダメージは受けないノーネ。バトル終了時にシルクハットに入れたカードは破壊されるノーネ。この瞬間、歯車街の効果が発動する―ノ。デッキから2体の古代の機械巨竜を攻撃表示で召喚するノーネ」

「攻撃を誘うためにわざと低ステータスモンスターを攻撃表示で出していたのか」

「なんですって!」

 クロノスの場に現れた2体の機械巨竜にカミューラだけでなく星奈らも驚きの声を上げる。マジカルシルクハットはギアギアングラーを守るためだけではない。次のターンに、一気に勝負を決めるために使ったのだ。

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札:3枚

場:ゴブリンゾンビ

魔法・罠:伏せ2枚

 

-クロノスのターン-

「私のターン、ドロー!

バトル!古代の機械巨竜で……」

 2体の機械巨竜の攻撃でカミューラを倒せると踏んだのか、クロノスはモンスターを召喚せず攻撃しようとしたとき、カミューラは一枚のカードを発動させる。

「その前にメインフェイズ終了時にダメージダイエットを発動するわ」

「ぐぬぬ。古代の機械巨竜でゴブリンゾンビに攻撃するノーネ」

 古代の機械巨竜が猛烈な勢いで突進し、ゴブリンゾンビを轢き殺す。

 

カミューラLP4000→3050

 

「そしてゴブリンゾンビが墓地に送られたことで、デッキからゾンビマスターを手札に加える」

「もう一体の古代の機械巨竜でダイレクトアタックなノーネ」

 

カミューラLP3050→1550

 

 突進攻撃を受けたカミューラは吹き飛ばされる。立ち上がったカミューラは口元を拭い、クロノスを憎々しく睨めつける。そして、クロノスはカミューラを追い詰めるため、手札のモンスターカードを手に取る。

「私は古代の機械石像を召喚するノーネ」

 

古代の機械石像(アニメオリカ)

効果モンスター

星2/地属性/機械族/攻 500/守 500

このカードをリリースする事で、

自分の手札の「古代の機械巨人」1体を召喚条件を無視して

自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 古代の機械巨人の上半身をモチーフにした石像がクロノスの場に現れる。

「古代の機械石像の効果発動なノーネ。このカードを生贄にささげることで、手札の古代の機械巨人を召喚条件を無視して、特殊召喚できる―ノ」

「かかったわね、罠発動、激流葬!」

「マンマミーヤ!」

 古代の機械巨人が召喚されるや否や激流葬によって、機械巨竜ごと破壊されてしまう。これで戦況は分からなく、いや、アンデット族の展開力を考慮すれば次のターンで勝利することも可能なカミューラが圧倒的に有利になったと言えるだろう。たった1枚のカードで戦況ががらりと変わるのがデュエルモンスターズだ。

「がら空きでターンを終わるにはいかないノーネ。私は手札の古代の機械箱とマシンナーズ・フォートレスと墓地に送り、墓地に送ったマシンナーズ・フォートレスを特殊召喚する―ノ」

 だが、そこはオベリスクブルー実技担当最高責任者であるクロノス。すぐさま、カミューラの罠に対処し、がら空きでターンを渡すという最悪の事態は免れた。しかも、マシンナーズ・フォートレスは戦闘破壊されればカード破壊効果が発動し、モンスター効果で対処しようにもハンデス効果が発生する中々厄介なモンスターだ。そのため、星奈らは少し安堵した様子である。

「カードを1枚伏せてターンエンドナノーネ」

 

手札:2枚

場:フォートレス

魔法・罠:伏せ1枚

 

-カミューラのターン-

「私のターン、ドロー!

ヴァンパイア帝国を発動するわ」

 ヴァンパイアに支配されたヨーロッパ風の街並みへとフィールドが変わっていく。

「ゾンビマスターを召喚。ゾンビマスターの効果発動。手札のモンスターを1枚捨てて、墓地のヴァンパイア・デュークを特殊召喚!

そして、ヴァンパイア・デュークが特殊召喚されたことで、貴方はデッキから罠カードを捨ててもらうわ」

「まずい、あのコンボは!?」

 クロノスは言われるままに罠カード、黄金の邪神像を捨てる。そして、明日香を苦しめたコンボが発動する!

「そして、ヴァンパイア帝国の効果発動。相手がデッキからカードを送ったとき、場のカードを破壊する。消えなさい、マシンナーズ・フォートレス!」

「ぐぬぬ。マシンナーズ・フォートレスのハンデス効果はモンスター効果のみナノーネ」

 マシンナーズ・フォートレスの影からヴァンパイア・デュークが現れ、動力部のパイプを噛み付かれ破壊される。これでクロノスの場にはモンスターが居ない。2体のモンスターのダイレクトアタックが決まれば、クロノスの敗北が決まる。

「あっけないものね。あの世で教え子にデュエルを教えてもらえば?

ゾンビマスター(ATK1800→2300)ヴァンパイア・デューク(ATK2000→2500)でダイレクトアタック!」

「舐められては困るノーネ。罠発動、血の代償!ライフを500払って、グリーン・ガジェットを召喚するノーネ。そしてグリーン・ガジェットのレッド・ガジェットを手札に加えるノーネ」

「ええい、小賢しい雑魚をやっておしまい!ゾンビマスターで攻撃よ」

「血の代償でレッド・ガジェットを召喚。イエロー・ガジェットを手札に加えるノーネ」

 2体のガジェットがクロノスの場に現れ、その身でクロノスを守る。

 

クロノスLP4000→3000

 

「カードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

手札:1枚

場:デューク

  ゾンマス

魔法・罠:伏せ1枚

 

-クロノスのターン-

「私のターン、ドロー!

イエロー・ガジェットを召喚。イエロー・ガジェットの効果でグリーン・ガジェットを手札に加えるノーネ。ライフを500払い、血の代償の効果でグリーン・ガジェットを召喚し、レッド・ガジェットを手札に加えるノーネ。もう一度、ライフを500払い、イエロー・ガジェットとグリーン・ガジェットを生贄にささげて、古代の機械巨人を召喚するノーネ!」

 

クロノスLP3000→2000

 

 1000ポイントのライフを失ったが、エースモンスターである古代の機械巨人を召喚することに成功するクロノス。アンデット族は基本的に打点が低いため、機械巨人を戦闘で倒すのは困難と言えよう。

「さらに手札の古代の機械巨竜を墓地に送り、マシンナーズ・フォートレスを特殊召喚する―ノ。

古代の機械巨人(ATK3000)でヴァンパイア・デューク(ATK2500)に攻撃!アルティメット・パウンド!!」

 古代の機械巨人がヴァンパイア・デュークを巨大なこぶしで押しつぶし破壊する。

 

カミューラLP1550→1050

 

「マシンナーズ・フォートレス(ATK2500)でゾンビマスター(ATK2300)に攻撃なノーネ」

 マシンナーズ・フォートレスの砲撃でゾンビマスターが爆散する。

 

カミューラLP1050→850

 

 一進一退の攻防。今はクロノスが優勢にデュエルが進んでいるが、カミューラがこのまま終わらすはずがない。だが、クロノスの手札はガジェットのみ。もし、カミューラの手札に必勝の策があれば防ぐことができずにやられてしまうだろう。それほどの相手なのだ。このデュエルが闇のデュエルではなく普通のデュエルであればと思わずにはいられないほど、クロノスはカミューラの腕を高く評価していた。

「ターンエンドなノーネ」

 

-カミューラのターン-

「私のターン、ドロー!

リビングデッドの呼び声を発動。再度甦りなさい、ヴァンパイア・デューク!ヴァンパイア・デュークの効果で罠カードを捨ててもらうわ」

 先ほどと同じくクロノスは黄金の邪神像を墓地に送る。

「そして、ヴァンパイア帝国の効果でマシンナーズ・フォートレスを破壊!

ヴァンパイア・デュークを生贄にヴァンパイア・ロードを召喚。さらにヴァンパイア・ロードを除外し、ヴァンパイアジェネシスを特殊召喚!」

 帝国を統べる巨大な吸血鬼の始祖がカミューラの場に現れる。これまでモンスターが流した血により、ヴァンパイアジェネシスの攻撃力が上昇する。

「ヴァンパイアジェネシス(ATK3000→3500)で古代の機械巨人(ATK3000)に攻撃!」

 

クロノスLP2000→1500

 

「貴方のデッキに攻撃力3500のモンスターを倒せるカードはいない。ターンエンドよ」

 カミューラの言う通り、クロノスのメインデッキに入っている最高打点は古代の機械巨人等の3000。そのため、魔法・罠を駆使してヴァンパイアジェネシスを倒さなければならないが、そのカードを引き当てる確率は低い。

 

-クロノス-

「私のターン、ドロー!

レッド・ガジェットを守備表示で召喚。レッド・ガジェットの効果でイエロー・ガジェットを手札に加えるノーネ。ライフを500払い、イエロー・ガジェットを召喚し、グリーン・ガジェットを手札に加えるノーネ。さらにライフを500払い、グリーン・ガジェットを召喚し、レッド・ガジェットを手札に加えるノーネ」

 

クロノスLP1500→500

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 クロノスは次々とガジェットを守備表示で召喚し、鉄壁の布陣を作る。だが、残りライフは500。一撃でも喰らえば、敗北は免れない。

 

-カミューラのターン-

「私のターン、ドロー!

ヴァンパイアジェネシスの効果発動。手札のカース・オブ・ヴァンパイアを墓地に送り、ヴァンパイア・デュークを特殊召喚。ヴァンパイア・デュークの効果発動。罠カードを捨ててもらうわ」

 クロノスはミラフォを墓地に送られ、クロノスの貴重な壁モンスターの破壊が確定する。

「ヴァンパイア帝国の効果でグリーン・ガジェットを破壊する。そして、生者の書-禁断の呪術-でカース・オブ・ヴァンパイアを特殊召喚し、マシンナーズ・フォートレスを除外する。

ヴァンパイア・デューク、カース・オブ・ヴァンパイアで壁モンスターを破壊する。そして、ヴァンパイアジェネシスでダイレクトアタック!ヘルビシャス・ブラッド!!」

 2体のヴァンパイアによりガジェットが破壊され、ヴァンパイア・ジェネシスが放った蝙蝠がクロノスに襲い掛かる。

「罠発動、ガードブロック!戦闘ダメージを0にして、1枚ドローなノーネ!」

 このターンを凌いだクロノスにこの騒ぎをかぎつけた十代らが現れる。

「クロノス先生の場はがら空きでライフも残されていない……」

「ターンエンドよ。さあ、先生の最期でも看取りなさい」

「そんなことねぇ!見せてくれよ、先生。先生の切り札ってやつをよ!」

 生徒らの応援を受けたクロノスは闘志を奮い立たせ、運命のカードをドローする。ライフがある限り、デュエリストは諦めるわけにはいかないのだ。

「貪欲な壺を発動。墓地のレッド・ガジェット2体、イエロー・ガジェット2体、グリーン・ガジェットをデッキに戻して、2枚ドローナノーネ!

古代の整備場を発動。墓地の古代の機械箱を手札に加えるノーネ。そして、古代の機械箱の効果でデッキから古代の機械騎士を手札に加えるノーネ」

「雑魚モンスターを手札に加えたところでどうするつもり?」

「たとえ1枚1枚のカードが弱くても束ねれば強くなるノーネ。融合を発動。手札の古代の機械巨人と古代の機械箱と古代の機械騎士を融合!ドロップアウトボーイ、見ておくノーネ。これが私の切り札、古代の機械究極巨人ナノーネ!!」

「攻撃力4400のモンスターですって!」

 ケンタウロスを彷彿させるような馬の下半身を持つ古代の機械巨人がクロノスの場に現れる。その攻撃力は究極竜とわずか100しか変わらない。そして、究極巨人がどのモンスターに攻撃してもカミューラのライフは0になる。

「古代の機械究極巨人でヴァンパイアジェネシスに攻撃ナノーネ!!」

 究極巨人がヴァンパイアジェネシスを巨大なこぶしで殴り倒す。

 

カミューラLP850→0

 

 カミューラのライフが0になったことで人形になっていた明日香が人間へと戻る。人形になっていたせいか意識はないようだが、脈拍等は正常であり命に別状はないようだ。仲間を取り戻し、七星門の鍵も守れて一件落着かと思われたとき、カミューラの背後に幻魔の扉が現れ、闇のデュエルの敗者であるカミューラを吸い込もうとしている。

「う、うそ……あのカードは使っていないのに!」

 カミューラの脳裏に1枚の闇のカードを手渡す人物が浮かぶ。その者は「このカードは強大な力を持つが、大いなる代償を払う。いわば等価交換だ」と言っていた。あまりにも胡散臭い話とはいえ、カードに書かれている効果は強力だったのでデッキに入れていたのだ。そして、その者は吸血鬼一族が人間に襲われ、命からがら逃げ延びたものの幼かった自分を助けてくれた放浪の錬金術師--

「アムナエル!よくも私を--!!」

 カミューラの脚部はすでに門の中に入っており、近くの木にしがみついている状態だ。だが、カミューラを助けようとする馬鹿はいない。なぜなら、彼らにとっては敵でありましてや人間ですらない彼女を助ける理由などない。そして、カミューラは一層吸引力が増す幻魔の扉に屈し、手を離してしまう。

 

 だが、馬鹿はいた!

 

「何しているんだ、十代!」

 そこには吸い込まれそうになったカミューラに駆け寄り、右手で木をつかみ左手でカミューラの腕をつかみ取る上代の姿があった。

「何って、決まっているだろう。こいつを助けているんだよ」

「そいつは敵だ。十代が助ける義理はない」

「もう闇のデュエルは終わったんだろ。なら、こいつは敵じゃない。一人のデュエリストだ!」

「負けていたら魂を奪われていたんだ。手を放せ、十代」

「やだね。ここで見捨てたら、きっと後悔する。なら、俺は後悔しないよう今を、全力で戦うだけだ」

「貴方の気持ちはわかったわ。でも、それを受け取るわけにはいかないのよ」

 敵であろうと助けようとする底抜けの馬鹿、究極のお人よしの十代のやさしさに触れるカミューラ。だが、そんな十代を死なせないためにも十代の腕を噛み付き手を放させようとする。それでも十代は手を離さない。そんな十代に感化されたのか意識のない明日香と夜光だけを残し、三沢やクロノスたちが十代の元へ駆け寄り十代ごと引っ張り出そうとする。

「私の目の前で生徒を死なせるわけにはいかないノーネ」

「それに十代のことだ。きっと最後まで手を放すことはない。それなら、俺たちも手伝ってやらないとな」

「お前らまで……」

 懸命に十代とカミューラを助けようとするみんなの姿を見て、夜光の脳裏にあの時の光景がフラッシュバックする。あの時、自分に力がないと分かっていても少女を助けようとした自分と彼らとで何が違うのだろうか。

 そして、あの時とは違い今の自分には『力』がある! 今にも吸い込まれてしまいそうな十代らを助けることができる力を!!

「くっ……こいつは貸しだぜ、十代。モーメント……起動」

 夜光は小さくつぶやき、彼のデュエルディスクの封印を解く。このとき、カミューラだけが夜光のデュエルディスクから虹色の光が漏れ出しているのを見た。そして、遊星粒子が十代たちの思いを受け取り、モーメントを加速させていく。

「こいつが俺のジョーカーだ。Z-ONE発動!」

 モーメントが十分に加速したことで、一枚の魔法カードを差し込み空間転移を行う。このカードは自分が所属している組織にかかわる重要なカードだ。だが、十代らを助けるためにはこのカードの力を使うしかない。後で組織から何か言われるが、後の歴史を踏まえれば十代たちを失うよりかははるかにマシだし、カミューラ一人生存させたところで歴史が大きく変わることもないという打算はあっただろう。だが、このときの夜光は組織の人間ではなく十代の親友として動いていた。

 夜光を中心に白い光に包まれ、光が収まるとアカデミアの校舎前に着く。ここまで離れたせいか幻魔の扉は吸い込む対象を失い、閉じていくのであった。

「一体、何が起こったんだ?」

「分からない。奇跡としか言いようがないな」

 十代の問いに答えたのは全てを知っている夜光ではなく何も知らない三沢だ。また、クロノスがそれなりの年にもかかわらず張りきったせいか腰を痛めたようだ。あの絶望的な状況から何はともあれ互いの無事を喜ぶ十代たち。そんなとき、カミューラが立ち上がり、十代たちの方を見る。

「……この借りはいずれ返すわ」

 そして、自身を蝙蝠の姿に変えどこかに飛び去るのであった。




PRIOで【古代の機械】強化、おめでとう(棒読み)
古代の機械石像がOCG化されていれば、良い強化なんだけどなぁ。一部のサイトではチューナーらしいし、シンクロギミックも組み込むことができそう。
そして、カミューラ生存ルートへ。
原作では死んだ彼女がどのような活躍をするのか楽しみにしてください。

それでは1カ月後くらいに会いましょう。


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第20話 アマゾネスの婿探し

 翌朝、夜光は自室でパソコンの画面に映っている白と黒の仮面を被った男性に昨晩の行動について報告していた。

「大体の事情は分かった。だが、Z-ONEを使うのは少々迂闊だったのではないか」

「誰が十代たちがカミューラを助けようなんて予想できるんだ? それともなにか、十代たちを見捨てろとでも言うのか?」

「いや、いずれ敵対するとは言え現時点で遊城十代を助けたのは間違いではない。私の実験も完成していないからな。これまで得たデータをフィードバックすれば、より正確な時間軸を……」

(やれやれ、師匠の実験馬鹿には付き合えないな。それにいくら父さんと師匠からの任務と言っても人体への影響が分からない装置で過去、いや相違点の多さから平行世界の方が近いか――そこに行かされる身にもなってほしいぜ)

 心の中でぶつくさ言ってもそれを悟られないように淡々とした様子で報告する夜光。そして、報告終わりに1つ確認したいことがあった。

「最後に父さ……いや、遊星の身体の調子は?」

「……あまり芳しくないな。もう時間は残されていない」

 ぶつっと画面が真っ暗になり、通信が終わる。窓を眺めると通信前は薄暗かった景色も今では日が登りきり、雲が一つもない青空が広がっている。そして、夜光は服を着替え十代のところへと向かう。今の自分は十代の友達なのだから。それが偽りであろうと本当であろうと。

 

 レッド寮の十代の部屋に入ると、十代や翔、隼人が和気藹々とカードを見せながら話している。最初はデッキ調整しているのかと思っていたが、なぜか見せているカードがディアンケトや雷電娘々といった女性カードだけである。

「何しているんだ?」

「アイドルカードについて話しているッス。夜光君もあるでしょう?」

「俺のアイドルカードねぇ……

強いて言うならクリボーだな。どっちかというとマスコットかもしれないけど。ところで十代は?」

「やっぱりバーストレディッスか?」

「それともハネクリボーなのか気になるんだなぁ」

「う~ん、俺のアイドルカードってなると……アイツだよな」

「ん? 十代のデッキにコイツとか入れていたか?」

「ソイツじゃなくて俺が小さいときに入れていたカードのことだって。今は宇宙にいるけどな」

「「宇宙?」」

 十代の言葉に翔たちが首をかしげる。すると十代は一から順を追って説明する。

 十代が幼少のころ、KCコーポレーションが「子供が発案したカードを宇宙に打ち上げ、宇宙の意思の波動を受け、新たなるカードを作る」という話を全国に一斉に報道した。それを見た十代はカッコイイヒーローとその仲間たちを描き、彼らが成長するまで守ってほしいという願いを込めて当時大切にしていたカードを一緒に宇宙へと打ち上げた。

「きっとこの広い宇宙のどこかで新たなヒーローたちと一緒に誰かを守っているに違いないぜ」

「へ~、そんなことがあったんだな」

「そういえばそんなこともあったッス。僕も応募したけど、はずれちゃって……」

「あれの倍率は凄まじかったからな。それに当選するとはな」

「三沢君、居たんだ」

「さっきから居たぞ!」

 十代たちにドロー練習の誘いをしようとした三沢がツッコミを入れる。それを聞いた十代たちはやや面倒くさそうな顔をするも、特にすることもなかったので三沢に付き合い海岸へと向かう。その途中で翔が三沢のアイドルカードについて問い尋ねた。

「さすがにシナジーのない女の子のカードは入れないが、この水のデッキなら女の子のカードを何枚かいれているな」

「どんな娘か見てみたいっす」

「ああ。構わないよ」

 ジャケットから取り出した水のデッキを翔に渡し、女の子のカードをじっくりと観察する。その結果、そのカードがズキューンと翔の恋心に突き刺さった。

「僕にはブラック・マジシャン・ガールがいるんだ。でもあのカードも可愛い。駄目だ。ダメだ。僕にはブラック・マジシャン・ガールがいるんだ。でも……」

 どうやら、翔の中でBMGとそのカードでどちらをとるべきか葛藤が起こっているようだ。そんなとき、夜光の携帯に一通のメールが届いた。差出人は星奈のようだ。

「なになに。『森の中に新しいデュエル場ができたみたいだから、一緒に見に行かない?』か」

「新しいデュエル場か。気にはなるが……」

「ドローの練習よりもデュエル場見たほうが面白そうだ。早くいこうぜ」

「待て、十代。そのメールはきっと……」

 三沢の制止もむなしく十代が先走って、デュエル場の建設地へと向かう。それを食い止めようとする三沢と誘いを受けた夜光が走っていく。その場に残された翔と隼人はぽつりとつぶやく。

「どこからどう見てもデートの誘いなんだなぁ」

「アニキ、ジャマしたら駄目っす。馬に蹴られて地獄に落ちるっす……」

 

 結局、星奈は十代たちと一緒に新しいデュエル場へと向かうことなった。そのデュエル場は古代コロシアム風の建物で何人かの生徒が小遣い稼ぎでアルバイトしている姿がちらほら見える。怠けている人にはなぜかコロシアムにいる虎が襲い掛かり、強制的に労働させられていた。

「うんうん。これで記事が書けるよ」

「ここは撮影禁止だよ」

 南米風の顔立ちをした女性が星奈に注意をし、バツが悪そうに持っていたカメラをバッグの中へとしまう。女性が現場へと戻ろうと踵を返そうとしたとき、十代が首からかけている七星門の鍵を見て目つきが変わる。そして、女性が作業員とアルバイトに給料袋を手渡した後、自分の寮に帰ろうとした十代たちを呼び止める。

「私の名前はタニヤ。偉大なるアマゾネス一族の末裔にして長。そしてセブンスターズの一人」

「アマゾネス!?」

「まさか実在していたとはな」

「いや、吸血姫が居た時点で推して知るべしだったか」

「記事にすることが多すぎるよ!写真撮影できたらよかったのに」

 4者4様の反応を見せる十代たち。そして、「男の中の男と言う者は出て来い!」というタニヤの挑発に三沢、十代、夜行の三人が前へと出る。そもそも星奈はセブンスターズや七星門の鍵とはほぼ無関係なのだから、選ばれるはずがない。タニヤは少し迷いながらも三人の内の1人、三沢大地を指名する。

「ここに、お前の明暗をわける二つのデッキがある。一つは知恵のデッキ、一つは勇気のデッキ。お前に自分の運命を選択させてやろう」

「もちろん。知恵のデッキと勝負だ。俺は静かなること水のごとく、水のデッキで相手をしよう」

「いいだろう。言い忘れていたが、このデュエルは闇のゲームではない」

「なに!」

「魂なんていらな~い、私はお前自身が欲しいの! つまり、私が勝ったらお前自身を婿として連れて帰る!」

「婿!? 訳の分からんことを、それなら俺が勝ったらどうする!」

「そしたら私、三沢っちのお嫁さんになってあげる!」

「勝っても負けても結果は同じじゃないか!!」

 夜光は思わず大声でツッコミを入れ、それを聞いた三沢も大きく首を縦に振る。どうやら、タニヤは三沢に一目惚れしたようだ。このデュエルは魂を抜かれ墓地に行くわけではなく『結婚で人生の墓地送り』にされるようだ。

「「デュエル!」」

 

三沢:LP4000

タニヤ:LP4000

 

-三沢のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はモンスターを裏守備で召喚し、カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:4枚

場:裏守備

魔法・罠:1枚

 

-タニヤのターン-

「私のターン、ドロー!

アマゾネスの里を発動。アマゾネスの剣士(ATK1500→1700)を召喚」

 熱帯雨林に囲まれた小さな村へとフィールドが変わり、筋肉質の女戦士が村を守るため出陣する。

「アマゾネスの剣士で裏守備モンスターに攻撃!」

「俺の裏守備モンスターはリチュア・エリアル(DEF1800)。守備力は上回っているが……」

「アマゾネスの剣士によって受けるダメージは三沢っちが受ける」

 翔に可愛いと評されたエリアルが水の障壁を張り、アマゾネスの剣士の剣を食い止めるが、折れた剣先が三沢の胸元に突き刺さりよろめく。

 

三沢LP4000→3900

 

「だが、エリアルがリバースしたことで、デッキからリチュアモンスターを手札に加えることができる。俺はリチュア・アビスを手札に加える」

 だが、三沢も甘んじてダメージを受けたわけではない。次のターンに備えてカードをサーチする。十代と比べてドロー力が劣ると自覚している三沢にとってサーチ・サルベージ手段が多いリチュアは扱いやすいデッキと言えるだろう。

「カードを1枚伏せてターンを終了する」

 

手札:3枚

場:剣士

魔法・罠:1枚

フィールド:里

 

-三沢のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はリチュア・アビスを召喚。アビスが召喚に成功したことで、デッキからシャドウ・リチュアを手札に加える。手札からシャドウ・リチュアの効果発動。このカードを捨てることで、デッキからリチュアと名の付いた儀式魔法を手札に加えるができる。俺はリチュアの儀水鏡を手札に加える。

リチュアの儀水鏡を発動。場のアビスとエリアルを生贄にイビリチュア・テトラオーグルを儀式召喚!」

 燃えるような赤い髪の半魚人が三沢の場に現れる。

「テトラオーグルの効果発動。互いのデッキから俺が宣言する種類のカード1枚を墓地に送る。ただし、手札を1枚捨てることでこの効果を無効にすることができる。どうだ、手札を捨てるか」

「たかだかカード1枚のために手札を捨てるような真似はしない」

「ふっ、俺が宣言するのは罠カードだ」

 互いに罠カードを1枚墓地に送る。それぞれの思惑が交差する中、三沢は攻撃するかどうか考えたが、アマゾネスの里がある以上、むやみに攻撃してもライフを減らすだけである。どうにかしてアマゾネスの里とアマゾネスの剣士とのコンボを打ち砕かない限り、三沢に勝機は訪れない。

「そして、俺は強欲なかけらを発動。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:2枚

場:テトラオーグル

魔法・罠:かけら

     伏せ2枚

 

-タニヤのターン-

「私のターン、ドロー!

私はゴブリンドバーグを召喚。ゴブリンドバーグの効果でチューナーモンスター、ジュッテナイトを特殊召喚。そして、ゴブリンドバーグは守備表示になる」

「チューナーモンスター……来るか!」

「レベル4ゴブリンドバーグにレベル2ジュッテナイトをチューニング!」

 

☆4+☆2=☆6

 

「シンクロ召喚!ナチュル・パルキオン!」

「あれがカイザーが言っていたシンクロ召喚か……

だが、いかに強力なモンスターと言えども事を起こす前に破壊すればいい!罠発動、奈落の落とし穴!」

「私がそんなことも読めないと思ったか。パルキオンの効果発動!墓地のカードを2枚除外することで、罠カードの発動を無効にする」

「なんだと!?」

 森の中から現れた守護龍の足元に落とし穴が開かれるが、それを察知したパルキオンは上空へと退避する。

「攻撃する前に針虫の巣窟を発動。デッキからカードを5枚墓地に送る」

(タニヤの墓地のカードは一気に6枚増えた。これでは伏せていたミラーフォースが使えない……)

「アマゾネスの剣士(ATK1700)でテトラオーグル(ATK2600)に攻撃」

 アマゾネスの剣士がテトラオーグルに向かって剣を投げつけるも、固いうろこにはじかれダメージを与えることができない。そして、攻撃を受けたテトラオーグルは剣士を握りしめ破壊する。だが、はじかれた剣が三沢に当たり、ライフが減る。

 

三沢LP3900→3000

 

「アマゾネスの里の効果でデッキからアマゾネスの剣士を特殊召喚する。パルキオンでテトラオーグルに攻撃!」

「攻撃力が低いモンスターで攻撃だと!?」

「墓地から罠発動!スキル・サクセサー!パルキオンの攻撃力を800ポイントアップする」

「くっ……テトラオーグルの効果があだになったか!」

 攻撃力が高い上級モンスターがいる以上、それを突破しない限りタニヤは三沢に大ダメージを与えることができない。そのため、攻撃力上昇効果を持つスキル・サクセサーを墓地に送って、この状況を打破しようとしたのだ。

 

三沢LP3000→2300

 

「まだ私の攻撃は残っている。アマゾネスの剣士でダイレクトアタック!」

 アマゾネスの剣士が三沢に襲い掛かり、切り付ける。

 

三沢LP2300→600

 

「カードを1枚伏せてターンを終了するよ」

 

手札:2枚

場:剣士

  パルキ

魔法・罠:1枚

フィールド:里

 

-三沢のターン-

「俺のターン、ドロー!

スタンバイフェイズに強欲なかけらに強欲カウンターを置く。

浮上を発動。墓地のリチュア・アビスを守備表示で特殊召喚する。

リチュア・アビスが特殊召喚に成功したことでデッキからシャドウ・リチュアを手札に加える。墓地のリチュアの儀水鏡の効果を発動する。このカードをデッキに戻すことで墓地のイビリチュア・テトラオーグルを手札に加える。そして、シャドウ・リチュアの効果発動。このカードを捨てて、デッキからリチュアの儀水鏡を手札に加える。

リチュアの儀水鏡を発動!場のリチュア・アビスと手札のテトラオーグルを生贄にイビリチュア・ソウルオーガを儀式召喚!

墓地のリチュアの儀水鏡の効果発動。このカードをデッキに戻し、イビリチュア・テトラオーグルを手札に戻す。イビリチュア・ソウルオーガの効果発動。手札のリチュアモンスターをコストに相手の表側表示のカードをデッキに戻すことができる。手札のイビリチュア・テトラオーグルを捨てて、アマゾネスの剣士をデッキに戻す!」

 破壊ではない除去であれば、アマゾネスの里の効果は発動することはない。だが、タニヤがそんなことを簡単に許すはずがなかった。

「さうはさせない。罠発動、救出劇!アマゾネスの剣士を手札に戻し、手札からアマゾネスペット虎を特殊召喚する」

「今はペット虎は無視だ。リビリチュア・ソウルオーガ(ATK2800)でナチュル・パルキオン(ATK2500)に攻撃!」

 ソウルオーガが口から水のプレスを掃き出し、パルキオンを水圧で押しつぶす。

 

タニヤLP4000→3700

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:0枚

場:ソウルオーガ

魔法・罠:かけら(1)

     伏せ2枚

 

-タニヤのターン-

「私のターン、ドロー!

ミラクルシンクロフュージョンを発動。墓地のナチュル・パルキオンと沼地の魔神王を融合!ナチュル・エクストリオを融合召喚するよ。

アマゾネスの剣士を召喚。アマゾネスの剣士でソウルオーガに攻撃!受け取って、私の思い」

(パルキオンを融合素材にしているということは、おそらく罠無効効果を引き継いでいるはず。なら、ここで選ぶべき伏せカードは……)

「罠発動、攻撃の無力化!」

「カウンター罠とは運が良いね。エクストリオは墓地のカード1枚を除外し、デッキからカードを1枚墓地に送ることで魔法・罠の発動を無効にする効果を持っていたのさ」

「なに!ほぼノーコストでお触れホルスに匹敵する状況を作り出すモンスターだと!?」

 三沢がエクストリオを破壊できるミラーフォースではなく攻撃の無力化を発動させたの正解だった。だが、状況が悪いことには変わりがない。なぜなら、三沢が使っているリチュアは儀式召喚することが前提のデッキ。魔法カードを封じられている状態では真価を発揮することができないからだ。

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:0枚

場:剣士

  虎

  エクストリオ

魔法・罠:1枚

フィールド:里

 

-三沢のターン-

「俺のターン、ドロー!

スタンバイフェイズに強欲カウンターを乗せる」

「この状況で何を引いても無駄さ。大人しく私の婿に……」

「それはどうかな」

「なに!」

「墓地誘発のカードやシンクロモンスターにより相手の戦術を封じ込める知恵のデッキは見事だった。俺に2度も同じような手は通用しない。墓地からブレイクスルースキルを発動。ナチュル・エクストリオの効果を無効にする」

「言ったはずだよ。エクストリオは魔法・罠を……しまった!?」

「そう。エクストリオの効果は一見無敵に見える。だが、罠の効果を無効にするわけではない!あくまでも無効にするのは発動だけだ!」

「これで魔法・罠封じは破った。強欲なかけらを墓地に送り、2枚ドロー!

サルベージを発動。墓地のエリアルとシャドウ・リチュアを手札に加える。強欲なウツボを発動。エリアルとシャドウ・リチュアをデッキに戻し、3枚ドロー!

ドロー練習の成果が出たようだな。大嵐を発動。フィールドの魔法・罠を全て破壊する」

(私が伏せていたのは対象をとるカードを無効にするスキル・プリズナー。大嵐を防ぐことはできない)

 大嵐によりアマゾネスの里が破壊され、元のコロシアムへと戻る。これでアマゾネスの剣士がリクルートされる心配がなくなった。

「リチュア・ビーストを召喚。リチュア・ビーストが召喚に成功したことで墓地のリチュア・アビスを特殊召喚する。アビスの効果でデッキからヴィジョン・リチュアを手札に加える。リチュア・アビスを生贄にささげ、シャークラーケンを特殊召喚!

手札のヴィジョン・リチュアを捨てて、リヴァイアニマを手札に加える。リヴァイアニマを捨てて、ソウルオーガの効果発動!アマゾネスの剣士をデッキに戻す。

これが最後の一手、ウォーターワールドを発動!」

 フィールドが海の世界へと変わっていく。水の力を得た三沢のモンスターは文字通り水を得た魚である。

「リチュア・ビースト(ATK1500→2000)でアマゾネスペット虎(ATK1500)に攻撃!」

 リチュア・ビーストがアマゾネスペット虎に噛み付き、破壊する。

 

タニヤLP3700→3200

 

「シャークラーケン(ATK2400→2900)でエクストリオ(ATK2800)に攻撃!」

 シャークラーケンが触手でエクストリオを絡み取り、もぐもぐと食べ始める。

 

タニヤLP3200→3100

 

「ソウルオーガ(ATK2800→3300)でダイレクトアタック!」

 無防備のタニヤに向けてソウルオーガに水のプレスを放ち、タニヤのライフを0にした。

 

タニヤLP3100→0

 

「ふっ……負けたか」

「タニヤ、良いデュエルだった」

「ああ。三沢っちとの私の生涯の中でも最高のデュエルだった。ありがとう」

 そう言い残すとタニヤは虎の姿となり、森の中へと帰っていく。そう、タニヤの本当の姿はアマゾネスを守る虎だったのだ。

「婿探しにアマゾネス自身が出てこないということはおそらく……いや、よしておこう」

 三沢はそれ以上の推測をするのやめた。三沢にとってタニヤは尊敬すべきデュエリストであり、勇敢なアマゾネスなのだ。もし、再会するときがあれば、そのときは再び手合せしたいと思いながらも三沢はコロシアムを後にする。




約2か月ぶりの投稿です。
ニコ動のMAD動画作成にはまったり、仕事で忙しかったりしたので執筆が進みませんでした。
しかも途中で妖怪テフダイチタリナイにもあってしまったり……

マスタールール3ですが、この小説では1期が終わるまではマスタールール2準拠(一部の用語はエキスパートだけど)でいきます。


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第21話 それが黒蠍盗掘団!

「どうなんだ、明日香の兄さんの容態は?」

 校長室へと向かう途中、夜光たちは明日香から吹雪のことを尋ねていた。セブンスターズの内情を知る貴重な情報源である彼だが、明日香は首を振り、ダークネス時の記憶がないことを告げる。闇のデュエルで一気にライフを4000削られたせいなのかデュエルで負けると記憶が消えるようになっていたのかは誰にもわからない。

「このまま記憶が戻らないんじゃないかって不安で……」

(無理もないな。行方不明の兄さんが帰ってきたと思ったら数年分の記憶喪失。不安になって当たり前だ)

「心配なのはわかるけど、そのうち思い出してくれるって」

「……それもそうね」

 明日香は短く答えると、呼び出された校長室へと入っていく。それに続き、夜光らも入っていくと黄金の眼を模した眼帯をしている探偵風の男が鮫島の隣に立っていた。そして、七星門の鍵を持つ人全員が集まったことを確認すると、鮫島はさっそく本題に移る。

「鍵を奪われることなく、残るセブンスターズも約半数の4人となりました。しかし、このまま彼らが何の手も打つことなくやられるとは思いません」

「下手をすれば無関係の人間を人質をとったり、力づくで鍵を奪ったりすることも考えられるというわけか」

「ええ。そこで本島から警察の応援を呼び、警備の強化をさせていただくことにしました」

「警部のマグレです」

「って、一人だけかよ」

「複数人を呼ぶとそこにセブンスターズの息がかかった者が紛れ込む可能性が高くなりますからな。私一人だけできました。お分かりかな」

 マグレの言葉に大きな矛盾はなかったため、全員が頷く。そして、マグレの提案により鍵の保管場所が適切かどうか確認していく。十代・夜光は机の引き出しの中、万丈目は流しの下、三沢・クロノスは部屋の中にある金庫の中、明日香はアクセサリー入れの中にそれぞれ保管していた。それぞれの保管場所を確認しているとき、警備員やオシリスレッドの生徒らが近くを通りすぎていたが、身分がはっきりしているためさしたる問題はなかった。

 

 その夜、万丈目が何やら騒々しい物音がしたため、目を覚ますと鍵をかけたはずのドアが木端微塵に破壊されていた。それをみた万丈目は真っ先に流しの下を見るが、そこに鍵はなかった。もしかするとと思い、万丈目は容疑者全員に自分の部屋に来るようメールを送った。

「じっちゃんの名にかけて、この事件万丈目サンダーが解いてやる。真実はいつも一つだ」

名探偵万丈目サンダー誕生の瞬間である。

 万丈目が七星門の鍵の所有者の話を聞いたところ、7人中5人の鍵が奪われたことが判明した。また、物音がしてすぐ目を覚ましたことから、犯人はアカデミアから逃亡する余裕はない。

「つまり、犯人とその共犯者はこの中にいる!」

「犯人は誰なんだ? 万丈目」

「サンダー。それはお前とお前とお前とお前とお前だ!」

 万丈目が指をさしたのはマグレ警部、女医のミーネ、管理人のゴーグ、レッド生徒のチック、警備員のクリフの5人だ。

「なぜ、私たちなんだ」

「盗まれた鍵の個数から5人組と推測される。そして、鍵を託された俺たちは犯人じゃない。となれば、犯人はお前ら5人しかいない!」

「消去法かよ!」

「ふふ……さすがは名探偵万丈目サンダーだ。そう、俺たちが黒蠍盗掘団だ!」

「……駄目だ、こいつら」

「それが黒蠍盗掘団!」

 夜光はあきれてものも言えない。正体がばれた黒蠍盗掘団は表に出て、万丈目とデュエルを行い鍵を奪うことにした。無論、万丈目はそれから逃げるような真似はしない。

「「デュエル!」」

 

ザルーグLP4000

万丈目LP4000

 

-ザルーグのターン-

「私のターン、ドロー!

私は補給部隊を発動し、モンスターを裏守備で召喚。カードを1枚伏せてターンエンド」

 特にこれと言った動きもなく、ザルーグはターンを終える。

 

手札:3枚

場:裏守備

魔法・罠:補給部隊

     1枚

 

-万丈目のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺は手札断札を発動。互いに手札2枚を捨てて、デッキからカードを2枚ドローする。さらに手札から捨てられたおジャマジックの効果により、デッキからおジャマ・イエロー、おジャマ・グリーン、おジャマ・ブラックを手札に加える。おジャマ・イエローを召喚」

『おいらたちの力を見せるわよ~ん』

「雑魚は引っ込んでいろ!おジャマ・イエローを墓地に送り、手札の魔聖騎士ランスロットを特殊召喚する」

 黒い鎧を着た騎士が万丈目の場に降り立つ。攻撃力2000と上級モンスターにしては心もとない数値だが、序盤戦を任せる程度は可能だろう。

「ランスロットで裏守備モンスターに攻撃!」

「キラートマトの効果により、デッキから首領・ザルーグを特殊召喚する。さらに補給部隊の効果で1枚ドロー!」

 ザルーグのデッキはやはりと言うべきか【黒蠍】である。ミーネでサーチできないザルーグをリクルートし、補給部隊でドローブーストと隙を作らない。

「カードを1枚伏せてターンを終了する」

 

手札:5枚(グリーン、ブラック)

場:ランスロット

魔法・罠:伏せ1枚

 

-ザルーグのターン-

「私のターン、ドロー!

私は黒蠍-棘のミーネを召喚する。そして、最強の盾をミーネに装備する。これにより、ミーネの攻撃力は守備力分アップする(ATK1000→2800)」

「攻撃力2800だと!?」

「ミーネでランスロットに攻撃!棘の鞭」

 棘の鞭で打たれたランスロットが破壊される。

 

万丈目LP4000→3200

 

「ミーネの効果により、デッキから黒蠍盗掘団を手札に加える。私自身(ATK1400)でダイレクトアタック!ダブルリボルバー」

 ザルーグが2丁拳銃で万丈目を乱れ打ちする。

 

万丈目LP3200→1800

 

「私自身の効果により、貴様の手札をランダムに1枚捨てさせる」

『おいらを墓地に送るなんてひどいよ』

「さっさと墓地へ行け!お前のおかげで他のカードが守れたわ」

『ひどいよ、万丈目のアニキ~』

 万丈目はデュエルディスクによって選ばれたおジャマ・ブラックを捨てる。蘇生手段が多いおジャマは墓地にあったほうが何かと融通が利くため、ザルーグの効果が裏目に出たと言えよう。

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

「エンドフェイズにリビングデッドの呼び声を発動!アームド・ドラゴンLv3を復活させる」

 

手札:2枚(盗掘団)

場:ザルーグ

  ミーネ

魔法・罠:最強の盾

     補給部隊

     伏せ3枚

 

-万丈目のターン-

「俺のターン、ドロー!

この瞬間、アームド・ドラゴンLv3はLv5へと進化する。

レベルアップを発動。アームド・ドラゴンLv5をLv7へと進化させる。さらにLv7を生贄にアームド・ドラゴンLv10を特殊召喚!

おジャマ・グリーンを召喚。おジャマ・グリーンを墓地に送り、ランスロットを復活させる」

 おジャマ・グリーンをコストにアームド・ドラゴンLv10の効果を使えば、ザルーグの場をがら空きにすることもできたが、モンスターを1体でも多く出したほうがよいと判断したのか万丈目はランスロットを召喚する。

「行け、アームド・ドラゴンLv10!ミーネに攻撃!!」

「そうはさせん。シフトチェンジ!ぐぬおぉぉぉぉ」

 

ザルーグLP4000→2400

 

「私が破壊されたことで1枚ドロー!」

「ちっ、ミーネを破壊できなかったか。カードを2枚伏せてターンエンド」

 万丈目はミーネをアームド・ドラゴンの効果で破壊するかどうか迷ったが、手札もそこまで悪くなく、アームド・ドラゴンの攻撃力はミーネの攻撃力よりも高い。カードをバウンスできるゴーグやチックを出したとしてもランスロットの攻撃力には及ばない。仮にザルーグの手札に2枚目の最強の盾等があれば、先のターンで使用しているはず。つまり、強化魔法を手札に持っている可能性は低いと言える。それならば1ターンくらいならば耐えきれると判断でき、カードを伏せるだけにした。

「奇跡の残照を発動。私自身を復活させる」

 

手札:0枚

場:アームドLv10

  ランスロット

魔法・罠:リビデ

     伏せ2枚

 

-ザルーグのターン-

「私のターン、ドロー!

私は黒蠍盗掘団を召喚。トランスターンを発動。黒蠍盗掘団を生贄にデッキから黒蠍-強力のゴーグを特殊召喚する。

死者蘇生を発動。黒蠍-逃げ足のチックを特殊召喚する。さらにリビングデッドの呼び声を発動。黒蠍-罠はずしのクリフを特殊召喚する」

「手札断札のときに黒蠍を墓地に送っていたか。だが、攻撃力はアームド・ドラゴンの方が上だ!」

「そいつはどうかな。連合軍を発動!俺たちの攻撃力を1000ポイントアップする」

 

ミーネATK2800→3800

ザルーグATK1400→2400

ゴーグATK1800→2800

クリフATK1200→2200

チックATK1000→2000

 

 黒蠍が手を取り合い、攻撃力を上昇させる。これでミーネの攻撃力はアームド・ドラゴンを上回った。

「行くぞ、野郎ども!まずはクリフでランスロットに攻撃だ!トラップナイフ」

「罠発動、ドレインシールド!攻撃を無効にし、ライフを回復する」

 伏せカードを破壊されるのはまずいと考えた万丈目はクリフの攻撃を防ぐ。

 

万丈目LP1800→4000

 

「ゴーグでランスロットに攻撃!ごうりきハンマー」

「罠発動、ガードブロック!戦闘ダメージを0にし、1枚ドロー!」

 ゴーグでアームド・ドラゴンをバウンスされたら、丸裸になってしまう。そのため、万丈目はこのタイミングでガードブロックを発動させるしかなかった。

「ミーネでアームド・ドラゴンLv10に攻撃!棘の鞭」

 

万丈目LP4000→3200

 

「ミーネの効果でデッキから必殺!黒蠍コンビネーションを手札に加える。私自身でダイレクトアタック!ダブルリボルバー」

 

万丈目LP3200→800

 

「私自身の効果でその手札を墓地に送る。チックでダイレクトアタック!元気槌」

「俺は墓地のタスケルトンを除外することで、このバトルを無効にする」

 ギリギリのところで黒蠍の攻撃を耐えた万丈目。だが、どの黒蠍も攻撃力は2000を超えており、やすやすと破壊することはできない。

「ぐぬぬ。私の効果があだになってしまうとは……

しかし、次のターンで黒蠍コンビネーションを発動させれば、私たちの勝ちだ。カードを1枚伏せてターンエンド」

 黒蠍コンビネーションは黒蠍全員が揃わなければ発動できないカード。だが、戦士の生還などのサルベージ手段に優れた黒蠍であれば、1体程度やられたところで挽回することは可能だろう。つまり、万丈目に残された道はこのターンで黒蠍を複数破壊するか決着をつけるしかない。しかし、万丈目の手札は0。フィールドに伏せカードもモンスターもいない。このドローにすべてがかかっている。

「俺のターン、ドロー!

マジックプランターを発動。デッキからカードを2枚ドローする。

貪欲な壺を発動。墓地のアームド・ドラゴンLv3、Lv5、Lv7、Lv10、ランスロットをデッキに戻し、2枚ドロー!

トライワイトゾーンを発動。墓地のおジャマ・イエロー、おジャマ・グリーン、おジャマ・ブラックを特殊召喚する。そして、おジャマ・デルタハリケーン!!を発動!貴様のフィールドのカードをすべて破壊する」

「なに!?」

 おジャマが宙に舞い、おしりから謎の光線が出てザルーグの場を吹き飛ばす。 

「だが、おジャマの攻撃力は0。私にダメージを与えることはできん!次のターン、私が攻撃力800以上のカードを引けば、私の勝ちだ」

「それはどうかな」

「なに!」

「俺は右手に盾を左手に剣をを発動。おジャマたちの攻守を入れ替える。行け、お前たち!」

 おジャマたちがパンツを脱ぎ捨て、ペチペチを殴りつけてザルーグのライフを0にする。

 

ザルーグLP2400→0

 

「む、無念……」

「お頭~」

 ザルーグたちが光り輝き、元の姿である黒蠍のカードになる。単なるコスプレ集団ではなく、どうやら闇の力で実体化し、人間として生活していたようだ。

「万丈目、そいつらどうするつもりだ?」

「ふん。このまま海にでも放り投げても構わんが、せっかくだから拾ってやろう。使う使わないは別だがな」

 万丈目は落ちていた黒蠍を拾い、ポケットの中に入れて寮へと帰る。その晩、もう一度寝ようとした万丈目だったが、黒蠍とおジャマがどんちゃん騒ぎしたせいで寝ることができず、拾ったことを後悔するのであった。




久しぶりに執筆したので、うまく書けない。
マスタールール3対応は2期以降になると思います。このタイミングでマスタールール3になるのは不自然だし。


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第22話 勝負はガチガチ? アンデットの猛攻

「ねぇ、生涯無敗のデュエリストが居たら夜行君ならどうする?」

 ある日の昼下がりに食堂でドローパン(と言う名の焼きそばパン)を食べていた夜光に星奈が話しかける。

「なんだ藪から棒に」

「ほら、今日の錬金術の講義で話があったでしょう。生涯無敗の王、アビドス3世のこと」

「あれね。どうせ相手が王だから、手抜き・八百長の試合ばかりで無敗ってのが真実なんだろうけどな」

「なんでそういう夢のないことを言うのかな」

「わりぃ、わりぃ。だけど、そいつが本当に無敗かどうかはともかく、その名に相応しいくらいの実力を持っているなら、是非ともお手合わせしてほしいね」

「ちなみに勝算は?」

「こればかりはやってみないとわからない。たとえ弱いカードであろうと使い方次第で神のカードも倒せる。それがデュエルモンスターズだからな」

「なるほどね。私はデュエルの強さの秘密とか今まで一番手ごわかった相手はとか色んなことをインタビューしたいな」

 夜光はジャーナリスト志望の彼女らしい答えだと思いながら、焼きそばパンをかじる。からしマヨネーズがピリッと利いて中々美味しいのだが、さすがに何回も食べると飽きる。次こそはと思ってもどうせ焼きそばパンしか当たらないのだから、ドローパンを買わないのも賢い選択なのかもしれないと思い始める。そんなとき、翔が慌てて食堂に入ってくる。

「大変っす!ゾンビが現れてリアルバイオハザードッス!」

「落ち着け、翔。とりあえず購買部に行ってハーブを買ってから、エイダにロケットランチャーでも貰いに行け」

「分かったっス。って、そういうボケはいらないッてば!外を見て!」

 夜光が食堂の窓から外を見ると、ゾンビというよりかはミイラが生徒や教師たちをデュエルで襲っていた。その奥の方には元凶と思わしきツタンカーメンマスクをかぶった人物が立っている。間もなくして異変に気付いた十代たちが到着すると、ミイラは十代たちを目標に変える。どうやら、生徒たちを襲ったのは七星門の鍵を持つ十代たちをあぶりだすためのようだ。

「きっとセブンスターズの仕業だろうな。星奈、おとなしくここで……」

「もういっちゃったッスよ。夜行君がぼけている間に」

「あの馬鹿!七星門の鍵とは関係ないんだから大人しくしろよ!翔、絶対についてくるなよ。絶対にだ」

「それ、付いてこいって言ってるっスよね」

 翔の返答を聞かず、夜行は急いでセブンスターズがいる校舎の外へと向かう。

 

「セブンスターズに突撃インタビュー!ずばり、貴方のお名前は?」

「うわ!そなた、どうやってここまでたどり着いた?」

 ひょっこり現れた星奈に驚くファラオ。先ほどまでの威厳が台無しである。

「そこまで驚くことないのに。ゾンビ(?)が急に七星門の鍵を持っている人しか狙わなくなったから、持っていない私は素通り出来たんだよね」

「むぅ。余のしもべは簡単な命しか聞けん。精進しよう。余の質問に答えた礼だ。余の名はアビドス三世。セブンスターズの1人だ」

「アビドス三世? デュエルモンスターズ生涯無敗の!? それでは生涯、冥界があるなら冥界も含んで一番手ごわかった相手は?」

「それは……待て。なぜ、余がただの一般人のそなたの質問に答えなければならないのだ」

「ジャーナリストだから。よし、私がデュエルで勝ったら、質問に答えてね」

「まるで意味が分からんが、挑まれた勝負は受けてやろう」

 アビドスが慣れない手つきでデュエルディスクを起動させる。やはり、大昔の人から見れば、子供でも簡単に扱えるデュエルディスクも複雑怪奇な機械ということだろうか。王がデュエルするせいか家来のミイラも十代たちとのデュエルを中断し、王を静かに見守る。そんなとき、夜光が遅れてやってくるが時すでに遅しであった。

「「デュエル!」」

 

アビドスLP4000

星奈LP4000

 

-アビドスのターン-

「余のターン、ドロー!

余はクリバンテッドを召喚。ターンエンド」

「モンスターを召喚しただけ?」

「甘いな。この瞬間、クリバンテッドをリリースすることで、デッキからカードを5枚墓地に送ることができる。そして、その中に魔法・罠があった場合、そのうち1枚を手札に加えることができる」

 

落ちたカード

馬頭鬼

ブレイクスルー・スキル

ゾンビキャリア

生者の書-禁断の呪術-

エフェクト・ヴェーラー

 

「私は生者の書-禁断の呪術-を手札に加える」

 神と呼ばれたアビドス三世のデッキはアンデット族の使い手のようだ。現代の研究では不明だった彼のデッキが最初のターンで分かったのは星奈にとって大きい情報アドバンテージだ。

 

手札:6枚

場:なし

魔法・罠:なし

 

-星奈のターン-

「私のターン、ドロー!

魔法族の里を発動。そして、クルセイダー・オブ・エンディミオンを召喚。

伏せカードもモンスターも居ないし、一気に畳みかけるよ!クルセイダー・オブ・エンディミオンで王様に攻撃!マジック・ブレード!」

 

アビドスLP4000→2100

 

「そして、手札から速……」

「待て。余がダメージを受けたことにより、手札から冥府の使者ゴーズを守備表示で特殊召喚する。さらにカイエントークンも守備表示で特殊召喚だ」

(このカード使えば、ゴーズを倒せるけど……

相手ターンで干渉できる罠が1枚もない)

 お触れを投入している彼女にとって罠の枚数は少ない。だが、アンデット族の肝といえる馬頭鬼が墓地に落ちている可能性を考えれば、ノーガードでターンを明け渡すのも嫌なところ。ましてや相手は生涯無敗だ。ここは慎重にデュエルを進めるべきだと考えた星奈はバトルフェイズを終了させる。

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:3枚

場:クルセイダー

魔法・罠:伏せ1枚

フィールド:里

 

-アビドス-

「余のターン、ドロー!

余はゾンビマスターを召喚。ゾンビマスターの効果発動。手札のゴブリンゾンビを捨て、墓地のチューナーモンスター、ゾンビキャリアを特殊召喚する。

レベル4ゾンビマスターにレベル2ゾンビキャリアをチューニング!

シンクロ召喚!甦りし魔王ハ・デス!」

 悪魔族の中でも高い知名度を誇るハ・デスがアンデット化した姿が現れる。だが、攻撃力はアンデットになっても2450のままだ。ここでバトルフェイズに入るのであれば、対処は可能だと心の中で思う星奈。

「さらに墓地の馬頭鬼を除外し、ゾンビマスターを特殊召喚する。ゾンビマスターの効果により、手札のゾンビキャリアを捨て、ゾンビキャリアを特殊召喚する。レベル7カイエントークンにレベル2ゾンビキャリアをチューニング!

シンクロ召喚!鬼岩城!

鬼岩城の攻撃力は非チューナーの数×200ポイント上昇する(ATK2900→3100)」

「攻撃力3100!?」

 あの青眼の攻撃力を超える巨大な城、いや巨人が現れたことに度肝を抜かされる星奈。魔法カードを一切使わずに上級モンスターを大量に展開するアビドスはまさに神と言っても差支えない実力の持ち主だ。

「行け、ハ・デスでクルセイダー・オブ・エンディミオンに攻撃!」

「速攻魔法、ディメンション・マジックを発動するよ。クルセイダー・オブ・エンディミオンを生贄にささげて、鬼岩城を破壊。そして、手札から魔導法士ジュノンを特殊召喚!」

「攻撃力2500……ならば、ハ・デスの攻撃を中断する。ゴーズでジュノンに攻撃だ」

 ゴーズは身の丈はありそうな大剣でジュノンを一刀両断にする。

 

星奈LP4000→3800

 

「ゾンビマスターでダイレクトアタック!」

 ゾンビマスターが近くに落ちていた屍の骨を投げつけ、星奈にダメージを与える。

 

星奈LP3800→2000

 

「余はカードを1枚伏せてターンを終了する」

 

手札:2枚

場:ゴーズ

  ハデス

  ゾンマス

魔法・罠:伏せ1枚

 

-星奈のターン-

「私のターン、ドロー!

私はマジカル・コンダクターを召喚。

ヒュグロの魔導書を発動。マジカル・コンダクターの攻撃力を1000ポイントアップする。そして、マジカル・コンダクターに魔力カウンターが2つ乗る。マジカル・コンダクターでゾンビマスターに攻撃!」

 マジカル・コンダクターが魔力弾を放ち、ゾンビマスターを跡形もなく消滅させる。

 

アビドスLP2100→1200

 

「戦闘破壊に成功したことでヒュグロの魔導書のさらなる効果が発動。デッキから別の魔導書を手札に加えることができる。私はグリモの魔導書を手札に加える。

グリモの魔導書を発動。デッキからトーラの魔導書を手札に加える。この瞬間、マジカル・コンダクターに魔力カウンターが2つ乗る。トーラの魔導書を発動。マジカル・コンダクターは罠の効果を受けない」

「意味のないことをして何になる?」

「もちろん。逆転への布石だよ。ワンダー・ワンドをマジカル・コンダクターに装備。

マジカル・コンダクターの効果で魔力カウンターを7つ取り除いて、ジュノンを復活させる。ジュノンの効果発動!墓地のヒュグロの魔導書を除外して、ゴーズを破壊する」

 ジュノンが魔法剣を振りかざし、放たれた衝撃波でゴーズを破壊する。

「よし、これでアビドスの場にはジュノンよりも攻撃力が低いハ・デスだけだ」

「モンスターだけの壁で攻撃を防ぎきれるとは思えない。なら、マジカル・コンダクターを生贄にささげて、2枚ドロー!

カードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札:0枚

場:ジュノン

魔法・罠:伏せ2枚

フィールド:里

 

-アビドスのターン-

「余のターン、ドロー!

余は手札1枚をデッキトップに戻し、ゾンビキャリアを特殊召喚する。レベル6甦りし魔王ハ・デスにレベル2ゾンビキャリアをチューニング!

シンクロ召喚!スクラップ・ドラゴン!」

 スクラップで身体が構成されているドラゴンがアビドスの場に現れる。一見、機械族に見えるがこれでもドラゴン族である。

「ゴブリンゾンビを召喚。そして、スクラップ・ドラゴンの効果発動。ゴブリンゾンビを破壊し、ジュノンを破壊する。さらにゴブリンゾンビの効果で馬頭鬼を手札に加える」

 スクラップ・ドラゴンが口からバーナーを吐きだし、2体のモンスターを焼き尽くす。これで星奈の場に魔法使い族が居なくなり、アビドスは魔法カードを使えるようになる。

「これで邪魔者はなくなった。異次元からの埋葬を発動。除外されているゾンビキャリア、馬頭鬼を墓地に戻す。馬頭鬼を除外し、ゾンビマスターを特殊召喚する。

ゾンビマスターの効果で馬頭鬼を捨て、ゾンビキャリアを特殊召喚する。そして、アンデットワールドを発動。

レベル4ゾンビマスターにレベル2ゾンビキャリアをチューニング!

シンクロ召喚!デスカイザー・ドラゴン!

デスカイザー・ドラゴンが特殊召喚に成功したとき、相手の墓地のアンデット族を特殊召喚することができる」

「墓地どころか私のデッキにアンデなんていない」

「愚かな。アンデットワールドの効果でフィールド・墓地のカードはアンデット族になっている。さらにアンデット族以外の生贄召喚を封じる。余はジュノンを特殊召喚する」

「そんな!」

 星奈のデッキには魔法使い族サポートが多く、種族変更を最も苦手とする。しかも星奈の新しい切り札であるジュノンを奪われてしまう。アビドスのデッキではジュノンの効果が使えないのが幸いか。

「さらに墓地の馬頭鬼を除外し、ゾンビキャリアを特殊召喚。レベル8スクラップ・ドラゴンにレベル2ゾンビキャリアをチューニング!

シンクロ召喚!神樹の守護獣-牙王!対象をとるカードが効かない牙王でダイレクトアタックだ」

 牙王が勢いよく突進し、星奈に体当たりをしようとする。だが、星奈の前に現れた薄ピンク色のバリアにはじかれてしまう。

「罠発動、攻撃の無敵化!このターン、受けるダメージは0になる」

「凌いだか。だが、手札もモンスターもないそなたに勝ち目はない。ターンを終了する」

 

手札:0枚

場:デスカイザー

  ジュノン

  牙王

魔法・罠:なし

 

-星奈のターン-

「私のターン、ドロー!

私は強欲な壺を発動。2枚ドロー!ポップルアップを発動。相手がフィールド魔法を発動しているとき、デッキからフィールド魔法を発動することができる。私はエンディミオンを発動する。グリモの魔導書を発動。ゲーテの魔導書を手札に加える。無謀な欲張りを発動。デッキからカードを2枚ドローする。

このカードは夜光君からもらった……黒魔族のカーテンを召喚」

「勝負はついたな」

「ああ。弱小カードしか出せなかった彼女の負けだ。彼女の様子から闇のデュエルでないのが不幸中の幸いか」

「それは違うぜ、三沢。あいつがあのカードを引いていれば勝ちだ」

 この状況下で逆転する方法など三沢には思いつかない。だが、夜光の表情を見る限り、星奈の勝利を確信しているようだ。

「私はこのカードにすべてを賭ける。魔法カード、時の魔術師!タイム・ルーレット!!」

 時の魔術師の杖にあるルーレットの針が回転する。そして、しばらくすると針の動きがゆっくりと止まり、当たりを示す。

「よし、千年の時を超えて、アンデットの肉体を風化させる。タイム・マジック!」

 タイム・マジックの影響でジュノンたちの肉体が朽ち果て、砂となって消える。一気に逆転だと思われたとき、魂だけの存在になったデスカイザー・ドラゴンがアビドスの場に現れる。

「ふははははは。どうやら、元々の種族がアンデット族のモンスターは千年の時を経ち、身体が朽ち果てようとも恨みが消えることなく、怨念として現世に漂い続けるようだな」

「そ、そんな……」

「それはどうかな?」

「「えっ?」」

 夜光の言葉に星奈とアビドスは素っ頓狂な声を出す。星奈からすれば、時の魔術師を使うために黒魔族のカーテンを召喚しただけである。それを防がれた今、星奈に残された策はなかった。だが、夜光はこの状況においてまだ何らかの策があると言うのだ。

「黒魔族のカーテン……悪魔によって呪われたカーテンは持ち主を転々と変え、数多くの命を吸い取っていった」

 星奈の場に髑髏の装飾が付いたカーテンが現れる。

「ただの布きれであったカーテンが姿を変えた?」

「長き年月を経て、一人の高名な魔術師が解呪を行い、自らの奇術道具として扱うようになった。その際、黒魔族のカーテンは黒魔術のカーテンへと姿と名を変えるようになった。その高名な魔術師の名は……ブラック・マジシャン!」

「ブラマジキター!」

 カーテンの中からデュエルモンスターズで最も有名な魔法使いであるブラック・マジシャンが星奈の場に現れる。伝説のモンスターを見た十代たちは興奮を隠しきれない様子だ。それは星奈も同じく、持っていたカメラでパシャパシャとフィルムが無くなるまで写真を撮りまくる。

「ブラック・マジシャンでデスカイザー・ドラゴンに攻撃!黒・魔・導!!」

 ブラック・マジシャンが杖から、紫色の無数の魔力弾を放ちデスカイザー・ドラゴンを粉砕する。

 

アビドスLP1200→1100

 

「ブラック・マジシャン……だが、まだライフは残っている」

「でも、デッキトップは生者の書だってことはわかっているよ。カードを1枚伏せてターンエンド」

「私のターン、ドロー!生者の書を発動。そなたのジュノンを除外し、牙王を特殊召喚する」

 再び現れる牙王。攻撃力も高く、メインフェイズ2以外では対象をとる効果を受けない厄介なモンスターだが、星奈にはそれに対処する方法がある。

「私はゲーテの魔導書を発動。墓地のヒュグロ、グリモ、トーラの魔導書を除外して、牙王を除外する」

「だが、牙王に対象をとる効果は通用しない!」

「残念。ゲーテの除外効果は対象をとらないんだよ」

「なん……だと……」

 アビドスの墓地・手札・フィールドにブラック・マジシャンの攻撃を防ぐカードはない。つまり、アビドスの敗北が決まった瞬間だ。

「行け、ブラック・マジシャン!黒・魔・導!!」

 ブラック・マジシャンが魔導波を放ち、アビドスのツタンカーメンマスクを破壊し、ライフを0にした。

 

アビドスLP1100→0

 

「ま、負けた……」

 負けてショックを受けるアビドス。勝利まであと一歩のところでひっくり返されたのだから、仕方がないと言えよう。

「そんなに落ち込まなくても良いじゃない。ギリギリの勝負だったんだし。もう一度、デュエルしたらもう一度勝てるとは思えないもの」

「そ、そうか……

確か質問に答える約束だったな。余が一番苦戦したというより敗北した相手はそなたと冥界であったヒトデ頭の見知らぬ男性だ」

「ヒトデ頭? よく分かんないけど、生涯無敗のアビドス三世に初めて泥をつけるなんて凄腕のデュエリストなんだね」

「うっ、そ、その。言いにくいのだが、その伝説は家来が……」

「はいはい。王様。次は俺とデュエルしねぇ。伝説の話を聞いた時から、王様とデュエルしてみたかったんだ」

「別に構わないが。その伝説は……」

「大昔の伝説が正しいかどうかなんて関係ないさ。大切なのは『今』だろ。それに先のデュエルをみたけど、スゲー強かったじゃん。俺は今のお前とデュエルしたいんだ」

「今の自分か……偽りの伝説を持った余でも構わないのであれば、デュエルをしよう。闇のデュエルではない。普通のデュエルでだ」

「おう。楽しいデュエルをしようぜ」

 二人が互いにデュエルディスクを構え、デュエルを始める。そして、一進一退の攻防を繰り返した後、勝ったのは十代だった。そして、互いに健闘を称え、アビドスが乗ってきた黄金の船に帰ろうと踵を返した時、星奈が呼び止める。

「最後にシンクロモンスターはどうやって手に入れたの? まだ研究段階って聞いたけど」

「余を長年の眠りから目覚めさせた男性から、デュエルディスクとやらと一緒に貰った。恐らく他の者たちも同じだろう。なぜそのものがシンクロモンスターを持っているかまでは知らん」

「どうやらセブンスターズの他に親玉がいるってわけだな」

「そいつがこの戦いを引き起こした元凶というわけか」

(吹雪を失踪させて明日香を悲しませただけでなく、操り、俺と戦わせた元凶。もし、そいつが俺の前に現れたら……)

 カイザーの心の中に小さな黒いシミができていく。だが、アビドス三世を見送る十代たちがそれに気づくことはなかった。そして、アビドスが乗った黄金の船が上空へと舞い上がり、その姿を消すのであった。

 




闇遊戯「良かれと思って」

色々と伏線を張らせてもらいました。
今回の時の魔術師もゲーム内にあった「時の魔術師+魔法使い族=ブラマジ」を一部変更したものです。(ゲーム内だと攻撃力が低すぎるとホーリー・ドールになる)
アンデットの方は骨塚戦と矛盾しないようにしています。

感想お待ちしております

追記:ゲーテの発動条件を見落としていたので修正。
禁止カードを使ってしまいました。すみません。


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第23話 神vs邪神

 朝方、夜光がカギをかけて外出しようとしたとき、十代が息を切らしながら階段を上ってくる。

「ぜーはー。夜行、大徳寺先生を見なかったか?」

「見てないけど。どうしたんだよ、急に?」

「大徳寺先生が……消えたんだ!」

「消えた?」

「ああ。叔母さんが言うには朝の職員会議に大徳寺先生が来なかったから、部屋まで呼びに行ったけど、誰もいなかったみたいなんだ」

 無論、携帯やPDAで連絡しても繋がらず、大徳寺先生が何らかの事件に巻き込まれたのではないかと考えた教師陣は生徒たちに動揺を与えないように1限目の錬金術の講義を自習にし、大徳寺先生の捜索に乗り出した。そして、そのことをどこから手に入れたのか星奈が言いふらし、現在、生徒・教師総出で大徳寺先生を探している。

「大徳寺先生が居そうな場所で心当たりないか?」

「う~ん、心当たりね……廃寮にあった秘密ラボはどうだ? 案外、時間を忘れて研究しているだけかもしれないぜ」

「おお。そういや、そこはまだ探していなかった。サンキュー、夜光」

「俺も探しに行きたいが、少し用事があるんでね。先に廃寮に行ってくれよ。後で行くから」

「分かったぜ。でも、大徳寺先生が心配だから、みんな呼んで廃寮の探索を先にやっているからな」

 十代が廃寮に向かって走り去るのを見た後、夜行は十代とは逆の方向に歩き、薄暗い森の中へと入っていく。

 

 しばらく歩き、森を抜けると三沢とタニヤが戦ったコロッセオに着く。そして、コロッセオの中心部に一人の青年が佇んでいた。

「まさかお前の方から果たし状を出すなんて思わなかったぜ……プラシド、いやディアブロ」

「ふん。その名は気に入らんな」

「記憶投影型ライディングロイド試作機の方がよかったか?」

「俺は神に選ばれた者、救世主だ」

「なにがメシアだ。お前はAI熟成中の事故で暴走した欠陥品だ。さあ、お前が奪った神のコピーカードを返してもらおうか。大人しく渡せば、お前のことは目をつぶっても良いぜ」

「すると思うか?」

 偽プラシドがデュエルディスクを取り出し、交渉は決裂する。元から、上手くいくはずがないとおもっていたのか夜光もデュエルディスクを取り出そうとしたとき、観客席から物音がする。その原因を見るため、後ろを振り向くとそこには武藤遊戯が静かに立っていた。

「本物? ……いや、なにかが違う」

「そいつは俺が苦労して作り上げたデュエルロイドだ。完成度は83%といったところだが、お前を倒すには十分だ」

1vs2。かなり分の悪い勝負だが、ここで退くわけにはいかない。時間が経てば経つほど完成度は100%に近づき、下手すれば量産される恐れがある。そうなれば、容易に偽プラシドに近づくチャンスは訪れないだろう。つまり、このデュエルが偽プラシドを倒す最大のチャンスなのだ。夜光は覚悟を決めるしかないと思ったとき、「待ちなさい」と聞き覚えのある女性の声がかけられる。

「おいおい、カミューラまで来るのかよ」

「ふん。これで1vs3。勝負はすでについたようだな」

「あら、勘違いしないでくれる」

 どういうことかカミューラが夜光の隣に立つ。まさかの裏切りに夜光は目を大きく見開く。

「この前の借りを返しに来ただけよ」

「へへ。そういう事なら大歓迎だ、カミューラ。これで2vs2。条件はイーブンだ」

「ちっ。こうなれば裏切り者共々、消し去ってくれるわ!」

「「「「デュエル!」」」」

 

偽プラシド&偽遊戯LP8000

夜光&カミューラLP8000

 

-偽プラシド-

「先行はもらう。ドロー!

俺はワン・フォー・ワンを発動。手札のモンスターをコストにデッキからレベル1のワイズ・コアを守備表示で特殊召喚する。そして、シールド・クラッシュを発動。ワイズ・コアを破壊する」

「自分のモンスターを破壊ですって!?」

 カミューラはせっかく特殊召喚した自分のモンスターを破壊すると言う意味不明な行動に驚く。だが、この戦法こそが偽プラシドの基本戦術なのだ。

「ワイズコアは破壊されることで真価が発揮する。ワイズ・コアが破壊された時、デッキ・手札・墓地から機皇帝を呼び出すことができる。ワイゼルT!ワイゼルA!ワイゼルG!ワイゼルC!合体せよ、機皇帝ワイゼル∞!」

 

機皇帝ワイゼル∞(TF効果)

効果モンスター

星1/闇属性/機械族/攻 0/守 0

このカードの攻撃力・守備力は、

このカード以外の自分フィールド上に表側表示で存在する

「ワイゼル」・「グランエル」・「スキエル」

と名のついたモンスターの攻撃力分アップする。

このカードは相手のカードの効果の対象にならない。

1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在する

シンクロモンスターを装備カード扱いとして

このカードに1体のみ装備することができる。

このカードの攻撃力は、この効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。

「∞」と名のついたモンスターは自分フィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

 

 5体のモンスターが一斉に特殊召喚され、1体の白いロボットに変形・合体する。

(データ通りの【機皇帝】デッキ。シンクロキラーたる機皇帝が最大限に活躍するのは相手がシンクロ使いのときだけ。俺のデッキにシンクロモンスターは入っていないし、カミューラも以前と同じデッキならシンクロモンスターは入っていないはず)

 だが、非シンクロデッキを使っていても、機皇帝にはカード効果を無効にできるゴースト・コンバートや攻撃力を実質4000ポイント上昇させる一族の結束等相性のいいカードは多々ある。それらのサポートカードを駆使されれば、苦戦を強いられるだろう。いくら機皇帝と相性が良くても油断はできない相手である。

「俺は通常召喚を行っていない。俺はワイゼルの両足と右腕を生贄に――」

「機皇帝を生贄にするだと!?」

 機皇帝はあくまでも5体のモンスター。生贄要因にするのであれば、これ以上の打って付けのカードはない。だが、デッキの中軸たる機皇帝を生贄を捧げるほど価値のあるモンスターはそうそうない。

「出でよ、オベリスクの巨神兵!」

 

オベリスクの巨神兵(アニメ効果)

効果モンスター

星10/神属性/幻神獣族/攻4000/守4000

このカードを生贄召喚する場合、自分フィールド上の

モンスター3体を生贄にして召喚しなければならない。

このカードは特殊召喚したターンに攻撃する事ができない。

魔法カードの効果で特殊召喚されたこのカードはエンドフェイズ時に墓地へ送られる。

このカードはフィールド上に存在する限り、コントロールを変更する事はできない。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、罠・効果モンスターの効果

(神のカード・フィールド全域に及ぶ効果・攻撃力をダウンする効果を除く)を受けず、

魔法・攻撃力をダウンする効果は発動ターンのみ有効となる。

(フィールド全域に及ぶ魔法の効果は通常通り受ける)

自分フィールド上のモンスター2体を生贄にする事で、このカードの攻撃力は無限大となり、

相手モンスターを全て破壊し、相手プレイヤーに4000ポイントの戦闘ダメージを与える。

この効果で神のカード2体を生贄にした場合、相手に与えるダメージは∞となる。

 

 そして、現れる三幻神の1柱――青き巨神、オベリスクの巨神兵。コピーとはいえ、見るものを畏怖させるその神々しい姿は敵対する夜光らを圧倒させる。

「ぐっ……奪った神のカードをデッキに入れていたか!」

「俺は機皇帝ワイゼル∞を生贄にささげ、オベリスクの最上級能力を発動する。ゴッド・ハンド・インパクト!」

 オベリスクが青白き閃光を夜光に向けて放ち、後ろにあった森共々吹き飛ばす。

 

夜光&カミューラLP8000→4000

 

「これが神の裁きだ!」

「たった1撃で地形が変わるなんてな。こいつはデュエル後の歴史改変が大変そうだ……」

 ゆっくりと立ち上がった夜光は左腕からの出血を手で押さえながら、息を整えようとする。

「そのような心配する必要はない。俺がデュエルモンスターズを支配し、古き秩序を破壊し、新世界を創造する。おろかな人類は俺によって決められた運命によって踊りつづければいい。俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:0枚

場:オベリスク

魔法・罠:伏せ2枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン、ドロー!」

 ドローしたカードを見るが、この手札で神を突破する手段が全くない。このターンは動けない夜光はチャンスが来るまで粘ることを選ぶ。

「俺はモンスターをセットし、カードを2枚伏せてターンエンド」

「ならば、エンドフェイズにリミット・リバースを発動。ワイズ・コアを特殊召喚する」

 

手札:3枚

場:伏せ守備

魔法・罠:伏せ2枚

 

-偽遊戯のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はワイズ・コアを守備表示に変更し、リミット・リバースの効果でワイズ・コアを破壊するぜ。そして、ワイズ・コアの特殊効果により、墓地から足を除く機皇帝ワイゼルを復活させる。俺は機皇帝に生贄に――オシリスの天空竜!」

 

オシリスの天空竜(原作効果)

効果モンスター

星10/神属性/幻神獣族/攻X000/守X000

このカードは特殊召喚したターンに攻撃する事ができない。

魔法カードの効果で特殊召喚したこのカードはエンドフェイズ時に墓地へ送られる。

このカードはフィールド上に存在する限り、コントロールを変更する事はできない。

このカードはフィールド上に存在する限り、

上級呪文・神のカードを除く罠・効果モンスターの効果を受けず、

それ以外の罠・効果モンスターの効果及び魔法の効果は発動ターンのみ有効となる。

(フィールド全域に及ぶ魔法の効果は通常通り受ける)

このカードはドラゴン族としても扱う。

このカードの攻撃力と守備力はコントローラーの手札×1000ポイントアップする。

相手モンスターが召喚・特殊召喚された時、

そのモンスターの表示形式数値を2000ポイントダウンさせ、

表示形式数値が0になった場合そのモンスターを破壊する。

 

 雷鳴轟く天空より紅き竜がその姿を現す。オシリスの攻撃力は手札の枚数分上昇し、偽遊戯の手札は5枚。よって、今のオシリスの攻撃力は5000だ。

「行くぜ!俺はオベリスクの巨神兵で裏守備モンスターに攻撃!ゴッド・ハンド・クラッシャー!!」

「暗黒のミミックLv1のリバース効果より、デッキからカードを1枚ドローする」

 押しつぶされたミミックから1枚のカードが出て夜光の手札に加わる。

「オシリスの天空竜で直接攻撃!超電導波サンダー・フォース!!」

「ガードブロックを発動。この戦闘によるダメージを0にし、1枚ドローする」

 このターンの神の攻撃を耐え、手札を5枚にまで増やす。しかし、ライフは残り4000。次のターンにモンスターが召喚され、オベリスクの効果が発動したら、一瞬で0となるデッドラインに立たされているともいえる。ギリギリの瀬戸際に立たされている夜光にこのターンを耐えきったことを喜ぶ暇はない。

「ふっ、やるな。俺はカードを3枚伏せてターン終了だ」

 

手札:2枚

場:オベリスク

  オシリス

魔法・罠:伏せ4枚

 

-カミューラのターン-

「私のターン、ドロー!

私はミイラの呼び声を発動」

「この瞬間、召喚時計を発動する」

「何も起こらない……?」

「そう慌てるな。お楽しみはこれからだ」

「ミイラの呼び声の効果で手札からヴァンパイア・ロードを守備表示で特殊召喚するわ」

 何も起こらないカードの発動に怪しみながらもヴァンパイア・ロードを召喚するカミューラ。だが、ヴァンパイア・ロードが現れるや否やオシリスの2つ目の口が開かれる。

「この瞬間、オシリスの効果が発動するぜ。召雷弾!」

 オシリスの雷撃によって、ヴァンパイア・ロードが破壊される。次のスタンバイフェイズに復活するとは言え、対抗策が無ければ永遠に破壊され続けることになる。一見すると意味不明な行動だが、夜光はカミューラにも何らかの策があるのだろうと考えた。

「オシリスの効果はモンスターの召喚・特殊召喚時のみ。それならこうすれば問題ないでしょ。モンスターをセット!」

 当然だが、オシリスの効果は発動しない。神と言えどもデュエルモンスターズのルールには従わないといけないのだ。最大のチャンスが訪れるまで神の攻撃を掻い潜るにはこうした小さな穴をついていくしかない。

「カードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

手札:1枚

場:裏守備

魔法・罠:伏せ3枚

 

-プラシドのターン-

「俺のターン、ドロー!

俺はカードを1枚伏せる。リバースカード、天よりの宝札を発動。互いに手札が6枚になるようにドローする。先ほど伏せた臨時ダイヤを発動。いでよ、機皇神マシニクル∞³!」

 

機皇神マシニクル∞³(アニメ効果)

効果モンスター

星12/光属性/機械族/攻4000/守4000

1ターンに1度、相手フィールド上に存在するシンクロモンスター1体を選択し、

装備カード扱いとしてこのカードに装備する事ができる。

この時、このカードの攻撃力は装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。

手札の「T(トップ)」「A(アタック)」「G(ガード)」「C(キャリアー)」

と名のついたモンスター1体を墓地へ送る事で、そのモンスター効果を得る。

自分の墓地に存在する「T(トップ)」「A(アタック)」「G(ガード)」

「C(キャリアー)」と名のついたモンスター1体をゲームから除外する事で、

このカードの破壊を無効にする事ができる。

エンドフェイズ時に、このカードに装備されたシンクロモンスター1体を墓地へ送る事で、

そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 高層ビルほどの大きさはありそうな巨大なロボットが偽プラシドの場に現れる。特殊召喚に制限が無く、様々なサポートカードを受けることができるこのカードは【機皇帝】の切り札といっても差支えがない性能だ。だが、偽プラシドにとってこのカードですら神を呼ぶための供物でしかない。

「さらにカオス・インフィニティ(アニメ効果)を発動!フィールドの守備表示モンスターを攻撃表示に変更し、デッキ・墓地から機皇モンスターを1体ずつ特殊召喚する。俺は墓地の機皇帝ワイゼル∞とデッキの機皇神マシニクル∞³を特殊召喚する。

俺は3体のモンスターを生贄に――ラーの翼神竜!」

 

ラーの翼神竜(原作効果)

効果モンスター

星10/神属性/幻神獣族/攻 ?/守 ?

魔法カードの効果で特殊召喚したこのカードはエンドフェイズ時に墓地へ送られる。

このカードはフィールド上に存在する限り、コントロールを変更する事はできない。

このカードはフィールド上に存在する限り、

上級呪文・最上位の神のカードを除く罠・効果モンスターの効果を受けず、

それ以外の罠・効果モンスターの効果及び魔法の効果は発動ターンのみ有効となる。

(フィールド全域に及ぶ魔法の効果は通常通り受ける)

相手はこのカードを生贄にすることはできない。

このカードの攻撃力と守備力は、このカードの生け贄召喚のために

生け贄にしたモンスター3体の元々の攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値になる。

自分フィールド上に存在するモンスターを生け贄にする事で、

このカードの攻撃力・守備力は生け贄にしたモンスターのそれぞれの数値分アップする。

このカードが墓地から特殊召喚に成功した時、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。

●ライフポイントが1ポイントになるようにライフポイントを払って発動する。

このカードの攻撃力・守備力は払った数値分アップする。

このターンこのカードは相手フィールド上に存在する

全てのモンスターに1回ずつ攻撃する事ができる。

この効果が適用されたこのカードが「融合解除」の対象になった時、

この効果によってアップした攻撃力と払ったライフポイントは元に戻る。

●1000ライフポイントを払って発動する。

フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。

 

 太陽から最後の神が偽プラシドの場に降臨する。他の神と比べて強力な耐性と圧倒的な破壊力は最上位の神に相応しい。

「ラーの翼神竜の攻撃力は生贄にささげたモンスターの攻撃力分の合計、つまり8000ポイントだ!

オベリスクの巨神兵で魂を削る死霊に攻撃!ゴッド・ハンド・クラッシャー!」

「私はリバースカード、神秘の中華鍋を発動。魂を削る死霊を生贄にささげて、ライフを300ポイント回復するわ」

 

カミューラLP4000→4300

 

「それがどうした!攻撃を続行する」

「バースト・リバースを発動。ライフを2000払い、魂を削る死霊を裏守備で特殊召喚する」

 

カミューラLP4300→2300

 

 神と言えども戦闘破壊耐性をもつモンスターを戦闘破壊することはできない。そして、一度召喚に成功した死霊を破壊できる神は蘇生時のラーの効果しかない。だが、ラーはすでに場に召喚されている。そのため、対象をとるカードが来るまでは時間を稼ぐことはできる。そういうことも考えたうえでカミューラはバースト・リバースを使ったのだ。

「ちっ、攻撃を耐えたか。悪夢の蜃気楼を発動し、カードを3枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:1枚

場:オシリス

  オベリスク

  ラー

魔法・罠:召喚時計

     蜃気楼

     伏せ3枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン、ドロー!

スタンバイフェイズにヴァンパイア・ロードは特殊召喚される」

「ふん。神のカードの前ではそんな雑魚モンスターなど無意味だ。蜃気楼の効果で4枚になるようにドローし、オシリスの効果発動。ヴァンパイア・ロードを粉砕しろ!」

「手札を1枚捨てて、トラップ・ブースターを発動!このカードの効果により、手札から罠を発動することができる」

「いかなる罠を用いようと神には通用しない」

「それはどうかな」

 

ヴァンパイア・ロードATK2000→4000

 

 雷を帯びたヴァンパイア・ロードが破壊されることなく、むしろパワーアップしてフィールドに残っている。

「こ、攻撃力4000だと!? 一体、何が起こった!」

「俺はあまのじゃくの呪いを発動したのさ。このカードの効果で攻撃力をアップ・ダウンを入れ替える。これにより、オシリスの攻撃力は0となり、ヴァンパイア・ロードの攻撃力は2000ポイントアップする」

「オシリスの効果を逆手にとったか!」

「いくら神と言えどもルールに対する罠は通用するぜ」

 神のカードと言えどもフィールド全体に及ぼす罠には耐性が無い。黎明期に出たただのノーマルカードが最強のカードであり、最高レアリティでもある神のメタカードになるとは皮肉としか言いようがない。

「リビングデッドの呼び声を発動!絶対服従魔人を特殊召喚する。そして、絶対服従魔人を生贄に偉大魔獣ガーゼットを召喚!ガーゼットの攻撃力は絶対服従魔人の倍になる。この効果はラーと同じくあまのじゃくの呪いの対象外。さらに、オシリスの効果も合わせて攻撃力は9000だ!!

駄目押しで名推理を発動。好きなレベルを宣言してもらうぜ」

「俺が宣言するのはレベル8だ!」

「1枚目、高等儀式術。2枚目、サイクロン。3枚目、スキルサクセサー。4枚目、E-HEROマリシャス・エッジ!コイツのレベルは7。よって特殊召喚される。オシリスの効果で攻撃力は4600だ」

 雷撃を爪に貯め、今か今かと攻撃する気満々なマリシャス・エッジ。だが、そんな様子のマリシャス・エッジに対し、夜光は心の中で謝った後、別のモンスターに攻撃命令を出す。

「ガーゼットでオシリスに攻撃!」

「シフトチェンジを発動。攻撃対象をラーに移す!」

 

プラシドLP8000→7000

 

「だが、ヴァンパイア・ロードとマリシャス・エッジの攻撃が残っているぜ。オシリス・オベリスクに攻撃だ!」

 マリシャス・エッジが雷を帯びた爪を飛ばしオベリスクを破壊し、ロードが鋭い爪でオシリスを切り裂く。

 

プラシドLP7000→3000→2400

 

「カードを1枚伏せてターンエンド。この瞬間、俺たちのモンスターの攻撃力は元に戻る。このとき、攻撃力が0になっても召雷弾の効果で攻撃力が0になったわけじゃないから破壊されない」

「エンドフェイズに非常食を発動。蜃気楼を墓地に送り、ライフを1000回復する」

 

プラシドLP2400→3400

 

ロードATK4000→0

ガーゼットATK9000→5000

エッジATK4600→600

 

 1ターン限りのドーピングが終わるが、プラシドたちの場から神の姿が消える。ピンチを耐えつづけた夜光たちの粘り勝ちだろう。これなら勝てると2人は思っていた。だが、このとき2人は1つ失念していたのだ。次のターンは伝説のデュエリスト武藤遊戯をコピーした偽遊戯のターンであることを。

 

手札:1枚

場:ロード

  ガーゼット

  エッジ

  死霊

魔法・罠:ミイラ

     リビデ

     伏せ1枚

 

-偽遊戯のターン-

「俺のターン、ドロー!

俺は強欲な壺を発動。デッキからカードを2枚ドローする。貪欲な壺を発動。墓地のオシリス、オベリスク、マシニクル、ワイゼルの両腕をデッキに戻し、2枚ドローする。

召喚時計の効果発動。このカードを墓地に送ることで発動してから経過したスタンバイフェイズの数だけ手札からモンスターを特殊召喚できる。俺はオシリスの天空竜、オベリスクの巨神兵を特殊召喚する」

「なに、貪欲で戻したカードを2枚引いただと!?」

「さらにリバースカード、死者蘇生を発動。甦れ、ラーの翼神竜!」

「1ターンで神が3体……本当にあれは偽物なの!?」

 本物としか思えない曲芸に2人は驚愕する。あれだけ苦労して倒した神3体を再度召喚したのだ。無理もない話である。

「先の借りは倍にして返すぜ。オベリスクの最上級能力発動!ラーとオシリスを生贄に捧げることで、相手モンスターをすべて破壊し、∞のダメージを与える。インフィニティ・ゴッド・インパクト!!」

「手札からクリフォトンの効果発動。ライフを2000払い、このターン、受けるダメージを0にする」

 クリフォトンが身を挺して、オベリスクの攻撃から夜光たちを守る。

 

夜光LP2300→300

 

「神の一撃を躱したか……やるな。カードを2枚伏せてターンエンドだ。そして、ラーは再び墓地に戻る」

 

手札:1枚

場:オベリスク

魔法・罠:伏せ3枚

 

-カミューラのターン-

「私のターン、ドロー!私はミイラの呼び声の効果でヴァンパイア・ソーサラーを特殊召喚する」

 ソーサラーが現れた瞬間、天空より雷が堕ち、ソーサラーが破壊される。

「一体何が!?」

「リビングデッドの呼び声を発動していたのさ。俺が甦らしたのはオシリスの天空竜!」

 神の効果で1ターンで効力が消えてしまう死者蘇生と違って、神は罠の効果を受けないため、罠で蘇生した場合は完全蘇生となる。これにより、カミューラはまたしても攻撃力2000以下のモンスターの召喚・特殊召喚を封じられてしまう。だが、先ほどと違ってカミューラには余裕があるような表情を受かべる。

「だけど、ソーサラーの効果発動。このカードが墓地に送られたとき、デッキからヴァンパイアを手札に加えることができる。私が加えるのはヴァンプ・オブ・ヴァンパイア。俊足のギラザウルスを特殊召喚。貴方は墓地からモンスターを特殊召喚できるわ」

「何を考えている……俺は機皇神マシニクル∞³を特殊召喚する。そして、オシリスの効果が発動!」

「私は墓地のヴァンパイア・ソーサラーを除外し、このターン、ヴァンパイアを召喚するのに必要な生贄をなくす。現れなさい、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア」

 カミューラの場に可愛らしい吸血姫が現れる。ヴァンプがマシニクルに向けて誘うようにウィンクする。

「だが、オシリスの効果が発動するぜ。召雷弾!」

「速攻魔法、突進を発動。ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアの攻撃力を700ポイントだけアップさせる。これで召雷弾を受けても攻撃力は700ポイント残るわ。そして、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアの効果により、機皇神マシニクル∞³をこのカードに装備させる。これにより、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアの攻撃力は4000ポイント上昇し、4700!ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア、オシリスに攻撃よ!」

 オシリスの攻撃力はたったの1000。この攻撃が通れば、偽プラシドたちのライフは0になる。だが、偽遊戯は手札から1枚のカードを発動させる。

「クリボーの効果発動。ダメージを0にする」

 無数に分裂したクリボーがオシリスが破壊されたときの爆風から偽遊戯を守る。残念ながら、1

「おろかな埋葬で馬頭鬼を墓地に送り、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札:1枚

場:ヴァンプ(ATK4700→4000)

魔法・罠:マシニクル

     ミイラ

     リビデ

     伏せ2枚

 

-偽プラシドのターン-

「俺のターン、ドロー!

死者転生を発動。手札を1枚捨て、オシリスを手札に加える。ジャンク・ディーラーを発動。墓地の機械族・戦士族モンスターを2体まで特殊召喚する。俺は墓地のジャンク・コレクターを特殊召喚する。ただし、この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃力が半分になり、生贄にできず、攻撃することもできない。オベリスクを守備表示に変更し、ジャンク・コレクターの効果発動。このカードとカオス・インフィニティを除外し、その効果を得る。オベリスクを攻撃表示に変更し、墓地の機皇帝ワイゼルとデッキの機皇神マシニクル∞³を特殊召喚する。アイアンコールを発動。墓地のワイゼルTを特殊召喚する。3体のモンスターを生贄に――出でよ、オシリスの天空竜!」

 何度目の登場になるか分からないオシリスの召喚。だが、攻撃力はたったの1000。これなら、オベリスクの最上級効果を使ったほうがはるかにマシだったのではないかと思えるほどだ。

「命削りの宝札を発動。手札が5枚になるようにデッキからドローする。オシリスの天空竜でヴァンプ・オブ・ヴァンパイアを粉砕!」

「罠発動、重力解除!」

「神に罠は通用しない」

「ええ。でも、私のモンスターには通用するわ」

 初めから神を狙わず、自身のモンスターを守備表示に変える。やむを得ず、偽プラシドは守備表示のヴァンプに攻撃するが、カミューラに与えるダメージはこれで0。だが、オシリスの攻撃が残っているため、偽プラシドは虫けらの悪あがきに過ぎないと考える。

「モンスターを装備したヴァンプ・オブ・ヴァンパイアが墓地に送られたとき、自己再生する」

「だが、オシリスの効果で破壊される。いい加減に落ちろ!」

「罠発動、幻影騎士団シャドーベイルを発動。守備力を300ポイント上昇させる。これでオシリスの効果を受けても300ポイント残るわ」

「小賢しい真似を……オベリスクでヴァンプ・オブ・ヴァンパイアに攻撃!カードを1枚伏せてターンエンドだ」

(俺の伏せカードはミラーフォース。あいつが攻撃してきてもこのカードで返り討ちにしてくれる)

 決定的なチャンスを何度も作りながらも、攻撃を躱し続けられイラつく偽プラシド。オシリスの効果を逆手にとろうとも、伏せカードで場のモンスターを破壊し、次のターンで息の根を止めようと画策する。

 

手札:4枚

場:オベリスク

  オシリス

魔法・罠:伏せ1枚

 

-夜光のターン-

「俺のターン、ドロー!」

「貴様の場にはモンスターが居ないうえに手札はたったの1枚。そして、俺の場には神が2体。勝負はついたようだな」

「まだ分からないぜ。ライフがある限り、俺は、俺たちのカードを信じて戦うまでだ!マジック・プランターを発動。リビングデッドの呼び声を墓地に送り、2枚ドロー!儀式の準備を発動。デッキからチャクラを手札に加え、墓地の高等儀式術を手札に加える。闇の誘惑を発動。2枚ドローし、チャクラを除外する」

「ふん。貴様がいくら頑張ろうと敗北と言う運命からは逃げられん」

「運命ってものは己の手で変えるものだ。俺はもうあの時の無力な俺じゃない。見せてやるぜ、運命を変える圧倒的な力の象徴を!」

 夜光は1枚のカード――最後のジョーカーを切る!

「俺は高等儀式術を発動。デッキからレベル4ガーゴイル・パワードとレベル4三つ首のギドーを墓地に送り――大邪神レシェフを儀式召喚!」

「大邪神だと!? だが、オシリスの効果が発動する。召雷弾!」

「大邪神は神を統べし存在。神のあらゆる効果は通用しない!」

「なん…だと……?」

 大邪神レシェフの隠された効果により、召雷弾がはじき返される。プラシドの伏せカードがミラフォである以上、夜光を阻むカードはない。完成した勝利の方程式を組んでいくまでだ。

「レシェフの効果発動。手札のZ-ONEを捨て、オベリスクのコントロールを得る」

「耐性までもが無視されるとでも言うのか!」

「墓地の馬頭鬼の効果により、墓地のヴァンパイア・ロードを特殊召喚する」

「お、オシリスの効果で粉砕してくれるぅぅぅ!」

「無駄だ。墓地から罠発動!」

「ぼぼぼぼぼぼぼぼ墓地から罠だと!?」

「墓地のスキルサクセサーを除外し、ロードの攻撃力を800ポイントアップする。これでオベリスクと2体のモンスターが揃った」

「き、きぃい貴様ぁああああ!」

「オベリスクの最上級効果発動!レシェフとロードを生贄に捧げ、このカードの攻撃力を無限大にし、相手に4000ポイントのダメージを与える。ゴッド・ハンド・インパクト!」

「ぎ、ぎゃ、ぎゃああああああ!!!」

 青白い閃光が偽プラシドと偽遊戯をその原型を留めないくらいに木端微塵にする。

 

プラシドLP3400→0

 

「はぁ、はぁ。やったか」

「ええ。私たちの勝ちよ」

 デュエルが終わり、二人は安堵の息をつく。そして、カミューラはなぜ神のカードが奪われたのかを問う。夜光はどうこたえるべきか考え、真偽を織り交ぜて話すことにした。

「あれは近々出す予定のデュエル用のロボットだ。簡単な自立行動できるようにAIを積んでいたんだが、どういうわけか暴走を起こし、研究用の神のカードを奪って逃走。神のカードが奪われたことを知られたら不味いから、密かに回収を命じられたわけだ」

「神のカードを研究……ということは貴方はI2社かKC社の回し者ってわけね」

 神のコピーカードを所持している可能性があるのはその2社しかない。そのため、カミューラはその2社の社員かその身内の者だと推測した。それが当たっているのか夜光は頷き、肯定する。辻褄はあっているのでカミューラは納得し、踵を返そうとする。

「カミューラ、ありがとうな。借りは消してもらったぜ」

「どこが!私も何度か貴方に助けられたからおあいこよ。借りを返すまで死ぬんじゃないわよ」

「ああ。まだ死ねないからな。借りを返すまで死ぬなよ」

 カミューラは蝙蝠に分裂しどこかへと旅立ち、それを見送った夜光は緊張の糸とアドレナリンが切れたのか極度の疲労と痛みに襲われ、近くの木にもたれかかる。

「運が良いのかどうかは知らねぇが、歴史改竄の効かない十代が廃寮に行ったのは助かった。だけど、レシェフを出したせいでしばらく動けそうにもない」

 強力な力には必ず代価が必要だ。レシェフとの契約でただの少年だった彼が出したのは――

「はぁ…はぁ……この疲労感…………あと使えて2、3回ってところか。それ以上使うと死ぬな、これは」

 自分の命だった。




いつの間にかカミューラがツンデレになっていた。
超展開とか恋愛フラグとかそういうチャチな物じゃねぇ…
もっと恐ろしいヒロイン降格の片りんを味わったぜ…

マシニクルの説明時、OCGと比べて悲しくなったのは自分だけじゃないはず。
せめて墓地の機皇帝除外して破壊無効があれば、まだマシだったのに…


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第24話 その名はカオス!

「こんなところに秘密ラボがあるのか、十代」

「にわかには信じがたいノーネ」

「でも、探していないところってなると廃寮くらいだろ?」

 十代の言うことが信じられない万丈目とクロノスが疑問を持ちながらも、錆びついている廃寮の扉を開ける。朝方と言うのに薄暗い廃寮の中を歩いていき、十代が吹雪の絵を軽く推すと壁がくるっと回転し、隠し通路が開かれる。

「こんな仕掛けがあったとは……!?」

 この大がかりな仕掛けにはカイザーをはじめ、教師であるクロノスですら目を見開く。これほどの大仕掛けを誰も知らさずに作る大徳寺先生はいったい何者なんだと思うほどだ。そして、コツーンコツーンと足音を響かせながら階段を下りていき、隠しラボの部屋と入っていく。

 誰もいないせいか電気が付いておらず、近くに電灯のスイッチ見当たらないため、持ってきた懐中電灯であたりを照らす。懐中電灯の明かり頼りになっているせいか、不気味な雰囲気を醸し出し、作業台の上はビーカーや薬品が散乱し、棚にはさまざまな錬金術に関する本が所狭しと並べられている。しかし、前来た時には無かった人ひとりは入れるくらいの大きな棺が異様な光景を際立たせている。

「な、なんだろう……このドラキュラ城にでも出てきそうな棺桶は?」

「まさかカミューラが中に入っているなんていうことはないでしょうね」

「とにかく開けてみようぜ。もしかしたら大徳寺先生が中に入っているかもしれない」

 十代たちがゴゴゴと地響きを立てながら棺を開けると、そこには干からびたミイラが入っていた。それをみた翔や明日香は悲鳴を上げる。

「なんでこんなところにミイラが?」

「……!? これを見ろ!」

 カイザーが何かに気付いたのか左胸のポケットにライトを当てる。光が当てられた先にはネームプレートがあり、そこに書かれていたのは大徳寺先生の名前だった。

「まさか……そんな!」

「このミイラが大徳寺先生だというのか!」

「信じられない。このミイラの保存状況からして、死後数百年は経過しているはず。だが、大徳寺先生が消えたのはついさっきのことだ。きっとこれはセブンスターズが俺たちに動揺を誘うための罠だ」

 三沢が手に持っていた手帳に無数の数列を書き、導き出された答えを皆に言う。だが、ミイラの容姿に大徳寺先生の面影が残っていることから、三沢の言うことをすんなりと受け止めることができない。そんなとき、部屋の電灯が付き、覆面の男が十代の前に立ちふさがる。

「ようこそ、七星門の鍵を持つ者たちよ。私が最後のセブンスターズ、アムナエルだ」

「最後?」

 十代がアムナエルに聞き返す。これまで戦ってきたセブンスターズはダークネス、カミューラ、タニヤ、黒蠍盗掘団、アビドス三世の5人。よって、アムナエルは十代たちから見て6人目のセブンスターズだ。なぜ、アムナエルが7人目を名乗っているのかの答えは突如起こった大きな地震によってもたらされた。

「すでに6人目は君たちの仲間と戦っているようだな」

「ここにいない七星門の鍵の所有者って……」

「夜光の用事って……セブンスターズと戦うことだったのか!」

 十代がつい先ほどの夜光のやり取りを思い出す。友達と思っていた彼が自分に本当のことを言わなかった悔しさよりも、あのとき大徳寺先生の行方よりも重要な夜光の用事に疑問を持って、呼び止めていれば夜光を一人で戦わせるような真似はなかったという後悔の方が強かった。だが、今の十代にすべきことは過去を悔やんで立ち留まることではない。

「俺とデュエルしろ!アムナエル!!」

「良いだろう、十代。最高の錬金術師が持つ究極のアイテム、エメラルド・タブレッドの前で闇のデュエルを受けるがいい!!」

「「デュエル!」」

 

十代LP4000

アムナエルLP4000

 

-十代のターン-

「先行はもらうぜ。俺のターン、ドロー!闇の誘惑を発動。2枚ドローし、手札のネクロダークマンを除外する。E・HEROブレイズマンを召喚」

 背中に小型のブースターをつけた炎の拳闘士が十代の場に現れる。

「このカードが召喚に成功したとき、デッキから融合を手札に加えることができる。HERO'sボンドを発動。場にHEROがいるとき、手札のレベル4以下のE・HERO2体を特殊召喚できる。来い、E・HEROエアーマン、E・HEROシャドー・ミスト!」

 孤立無援のブレイズマンに駆けつけるかのようにエアーマンらが十代の場に現れる。エアーマンがいつものように十代の手札を増やすと、それに負けじとシャドーミストが十代の影からカードを作り出し、手札に加えさせる。

「エアーマンが特殊召喚に成功したことで、デッキからE・HEROオーシャンを手札に加える。さらに、特殊召喚したシャドー・ミストの効果でマスク・チェンジを手札に加えるぜ。融合を発動。場のエアーマンとブレイズマンを融合!現れろ、E・HEROノヴァマスター!カードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札:2枚(オーシャン)

場:ノヴァマスター

  シャドー・ミスト

魔法・罠:伏せ2枚

 

-アムナエルのターン-

「私のターン、ドロー!

異次元の生還者を守備表示で召喚。カードを2枚伏せてターンエンド」

「エンドフェイズにマスク・チェンジを発動。シャドー・ミストを変身召喚!M・HEROダークロウ!!シャドー・ミストが墓地に送られたことで、デッキからE・HEROフォレストマンを手札に加える」

「えっ、なんでエンドフェイズにマスク・チェンジ使ったの? 次のターンで連撃した方がイイじゃないスか」

「恐らく十代は相手が異次元の生還者を召喚したことから、あの伏せカードが異次元グランドのようなカードを除外する罠と読み、シャドー・ミストの効果を阻害されない内にマスク・チェンジを使ったのだろう。無論、それ以外のカードの可能性もあるが、セブンスターズほどの相手が除外効果を持つカードを使うこと前提でデッキを組んでいるのも考えにくい」

 翔の疑問に応える三沢。傍から見ても焦りの色が見える十代だが、それによるプレイングミスはしていないようだ。

 

手札:3枚

場:生還者

魔法・罠:伏せ2枚

 

-十代-

「俺のターン、ドロー!

融合回収を発動。墓地のエアーマンと融合を手札に加える。エアーマンを召喚。エアーマンの効果で2枚の伏せカードを破壊する」

「私は罠カード、ブレイクスルー・スキルを発動。エアーマンの効果を無効にする」

「もう一枚の伏せカードはできなかったけど、相手のモンスターは一体だけ」

「三沢がいうことが正しいなら、ミラフォのように攻撃を止めるカードじゃないんだなぁ」

「最後のセブンスターズが聞いてあきれるな。これなら、俺が戦った黒蠍の連中の方がよほどマシだ。ジ・アースを出すまでもないだろ、十代」

「ああ。それに早く助けに行かないと……バトルだ!ノヴァマスターで異次元の生還者に攻撃!」

 勝負を急いた十代はジ・アースを召喚せずに、バトルフェイズに入る。そして、ノヴァマスターが異次元の生還者に炎の手刀を繰り出した時、アムナエルのリバースカードが発動する。

「罠発動。マクロコスモス。私はデッキから原始太陽ヘリオスを特殊召喚する。そして、このカードが存在する限りカードは墓地に行かず、除外される」

「ノヴァマスターの効果で1枚ドロー!エアーマンでヘリオスに攻撃!ダークロウでダイレクトアタックだ!」

 アムナエルがヘリオスを召喚するも、今の十代の猛攻を防ぐには力不足だ。

 

アムナエルLP4000→1600

 

 ダークロウの攻撃の余波で覆面にひびが入る。そして、欠けた覆面から覗かれる素顔は皺くちゃになっているもの大徳寺先生本人だった。最後のセブンスターズが恩師であることに困惑する十代たち。

「なんで大徳寺先生が……セブンスターズに…………」

 動揺しているせいか十代はカードを伏せることもなく静かにターンを終える。

 

手札:5枚(融合、オーシャン、フォレストマン)

場:ダークロウ

  ノヴァマスター

  エアーマン

魔法・罠:伏せ1枚

 

-アムナエルのターン-

「私のターン、ドロー!生還者を生贄に……風帝ライザー!」

「あれはアニキを倒したモンスター!」

「ライザーの効果は身に染みているはずだ。もう一度、その効果を受けるがいい!」

 ライザーが竜巻を引き起こし、ノヴァマスターをバウンスさせようとする。だが、意気消沈していたはずの十代がリバースカードを発動させる。

「……速攻魔法、禁じられた聖杯を発動。ライザーの効果を無効にする代わりに攻撃力を400ポイントアップさせる」

「このターンで場のモンスターが全滅を避けたか」

「へへ。流石に何度も効果を受けるわけにいかないからな。先生、このデュエルで俺があのときよりもどれだけ成長したか見せてやるぜ」

「ふふ、面白い。それでこそ十代君だにゃ。ライザーでダークロウに攻撃!」

 ライザーが小型の竜巻を発生させ、ダークロウを粉砕する。

 

十代LP4000→3600

 

「闇の誘惑を発動。2枚ドローし、バトル・フェーダーを除外する。カードを1枚伏せてターンエンド。そして生還者はフィールドに戻る」

 

手札:2枚

場:ライザー

  生還者

魔法・罠:伏せ1枚

     マクロ

 

-十代のターン-

「俺のターン、ドロー!

死者蘇生を発動。シャドー・ミストを特殊召喚するぜ。そして、シャドー・ミストの効果でデッキからマスク・チェンジを手札に加える。融合を発動。手札のE・HEROオーシャンとフォレストマンを融合!E・HEROジ・アース!!

出し惜しみはなしだ!ジ・アースの効果発動。シャドー・ミストを生贄にささげる。地球灼熱!」

 ジ・アースの攻撃力が3500まで跳ね上がる。仮にアムナエルが帝の生贄要因兼壁として優秀なメタル・リフレクト・スライムを伏せていたとしても、戦闘破壊できる数値だ。

「エアーマンで生還者に、ノヴァマスターでライザーに攻撃!」

 

アムナエルLP1600→1400

 

 2体のHEROの攻撃でアムナエルの場はがら空きとなる。ジ・アースの攻撃が通れば十代の勝ちだ。

「ノヴァマスターの効果で1枚ドロー!ジ・アースでダイレクトアタック!」

「罠カード、ドレインシールド!」

 

アムナエルLP1400→4900

 

「まだ、俺のバトルフェイズは終わってないぜ。マスク・チェンジを発動。エアーマンを変身召喚!M・HEROカミカゼ!カミカゼでダイレクトアタックだ」

 右手からエネルギー波を放ち、アムナエルに直接攻撃する。

 

アムナエルLP4900→2200

 

 ジ・アースの攻撃を逆利用されてしまったもののライフを微増させたに過ぎない。しかも、十代の場には強力なHEROが3体もいる。ライザー1体だけではこの状況を覆すことは不可能と言えよう。 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

「エンドフェイズに生還者は戻ってくる」

 

手札:2枚

場:ジ・アース

  ノヴァマスター

  カミカゼ

魔法・罠:伏せ1枚

 

-アムナエルのターン-

「十代君。君に我が錬金術の最大の成果を見せてあげよう」

「錬金術の成果? 何言っているんだ」

「賢者の石とは卑金属を貴金属に変える物質。我が肉体にはその賢者の石が埋め込まれている」

「なるほど。その賢者の石を使って数百年の間生き続けてきたというわけか」

「賢者の石……まさか実在していたなんて」

「デュエルモンスターズの歴史には最強のデュエリストのみが行えるドローがあると言う。存在しないカードをその場で創造する……まさにそれは錬金術に等しい。そして、私は各時代の最強デュエリストを研究し、ついに賢者の石の完成間近まで出来つつある」

「ん? 完成したんじゃないのか」

「残念ながら、今の賢者の石は使用すれば劣化していく未完成品だ。だが、その力の一端は使用できる。いくぞ、最強デュエリストのドローはすべてが必然!ドローカードさえもデュエリストが想像する!シャイニングドロー!!」

「シャイニング……ドロー……」

 アムナエルの右手が黄金色に光り輝き、デッキからドローする。そして、アムナエルはドローしたカードを見て、不敵な笑みを漏らす。

「私は帝王の開岩と帝王の烈旋を発動。カミカゼと生還者を生贄に……烈風帝ライザー!」

「最上級の帝だと!?」

「帝モンスターはすべて上級モンスター。最上級モンスターは存在しない!」

「万丈目君、三沢君、私は言ったはずだ。存在しないカードを創造したと」

 ライザー単体ではこの状況を覆すことはできない。ならば、この状況を覆すようなカードを創造すればいい。どんなに追い詰めてもその場に合ったカードを創造すれば、必ず勝てる。それは当たり前の真理だ。

「烈風帝ライザーの効果発動。場と墓地のカードをデッキトップに戻し、さらに風属性モンスターを生贄にした場合、モンスター1体を手札に戻す。私はジ・アースと融合回収をデッキトップに戻し、ノヴァマスターを手札に戻す」

 旋風が巻き起こり、ジ・アースとノヴァマスターが融合デッキに戻される。

「さらに帝王の開岩の効果で邪帝ガイウスを手札に加える。烈風帝ライザーでダイレクトアタック!」

 

十代LP3600→800

 

 創造したカードのせいで、デッキトップを今の状況では全く使えない融合回収にされた上にモンスターも0。先ほどの攻勢から一転、十代は窮地に追い込まれる。そして、アムナエルはメインフェイズ2にすることもないので、ターンを終える。

 

手札:1枚(ガイウス)

場:烈風帝ライザー

  生還者

魔法・罠:マクロ

     開岩

 

-十代のターン-

「俺のターン、ドロー」

 十代はライザーの効果によってデッキトップに戻された融合回収をドローする。だが、この危機的状況で役に立たないカードを引いているにもかかわらず、十代の目から闘志の炎は消えていない。

「俺はライフを半分払ってヒーロー・アライブを発動。デッキからE・HEROシャドー・ミストを特殊召喚する」

 

十代LP800→400

 

 十代の影からシャドー・ミストが現れ、十代に1枚のカードを渡す。 

「シャドー・ミストの効果でマスク・チェンジ・セカンドを手札に加える。カードを2枚伏せてターンエンド」

 

手札:1枚

場:シャドー・ミスト

魔法・罠:伏せ3枚

 

-アムナエルのターン-

「私のターン、ドロー!

カオス・グリードを発動。私の墓地にカードが無く、4枚以上除外されているとき、2枚ドローする。2枚目と3枚目のカオス・グリードを発動。4枚ドロー。進撃の帝王を発動。このカードの効果により、生贄召喚に成功したモンスターは効果の対象にならず、破壊されない。生還者を生贄に邪帝ガイウスを召喚。ガイウスの効果発動。シャドー・ミストを除外し、除外したモンスターが闇属性ならば1000ポイントのダメージを与える」

 シャドー・ミストは名前からもわかるように闇属性のため、ガイウスの追加バーンの対象になる。この効果で除外されてしまえば、残りライフが400しかない十代のライフは0となってしまう。そのため、十代は伏せカードを発動せざるを得なかった。

「速攻魔法、マスク・チェンジ・セカンドを発動。手札の融合回収を捨てて、シャドー・ミストを変身召喚!M・HEROダークロウ!」

「ガイウスの効果を躱したか。だが、生贄召喚に成功したことでイリュージョン・スナッチを特殊召喚する。ライザーでダークロウに攻撃!」

 ライザーが真空波を放ち、ダークロウを八つ裂きにする。これで十代を守るモンスターはいなくなった。

「ガイウスでダイレクトアタック!」

「速攻魔法、クリボーを呼ぶ笛を発動。デッキからハネクリボーを特殊召喚する」

「ハネクリボーは破壊されたとき、このターン受けるダメージを0にする効果を持つ。だが、それは墓地に送られたときの話だ。つまり、このマクロコスモス下においてハネクリボーの効果は発動しない。ガイウスでハネクリボーに攻撃!」

「俺の相棒を甘く見るなよ、先生。ドロー・マッスルを発動!1枚ドローし、ハネクリボーはこのターン、戦闘破壊されない」

「今の私にハネクリボーを除去するカードはない。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

手札:1枚

場:烈風帝ライザー

  ガイウス

  スナッチ

  生還者

魔法・罠:マクロ

     開岩

     進撃

     伏せ1枚

 

-十代のターン-

「俺のターン、ドロー!」

(平行世界融合、これでガイアを出して進撃の帝王の対象外になっているスナッチの攻撃力吸収すれば、先生のライフを丁度0にすることができる)

 十代が何の考えもなしに平行世界融合を発動しようとしたとき、アムナエルの鋭い眼光が十代に突き刺さる。期待を裏切るような真似をすれば、躊躇なく潰すと言った視線だ。十代は知る由もないが、アムナエルが伏せたカードは自分のモンスターの攻撃力を元に戻す聖水の弊害。そのため、十代がガイアを召喚しようとしても、1000ポイントのダメージしか与えることができない。

(駄目だ。ガイアは出せない。どうする。どうればいい?)

「何、ウジウジ悩んでいるんっすか!そんなのアニキらしく無いっす」

「翔……」

「そうね。十代はどっちかと言うと悩むくらいなら当たって砕けるタイプだもの」

「明日香、俺だって悩むくらいのことはあるんだぜ」

「ふん。とにかくお前は何も考えずに突っ走ればいい」

「万丈目、それで負けたらどうするんだよ」

「そのときはこの万丈目サンダーがアムナエルを倒してやる」

「つよいぞー」「かっこいいぞー」「万丈目のアニキー」

 後ろに居た仲間たち(おジャマを除く)が声をからしながら、十代を応援する。十代の後ろには心強い仲間がいる。なにも十代一人で世界を救う責任を負う必要はない。仮に十代が負けても万丈目や明日香、カイザーやクロノス先生たちもいる。なにを恐れる必要があるのか。十代は覚悟を決め、カードを発動させる。

「分かったぜ、みんな。俺はこのカードにすべての可能性を賭ける!平行世界融合を発動!」

 十代の融合デッキが光り輝く。十代が融合デッキを確認すると見知らぬカードが入っていた。なぜ、そのカードが入っていたのか分からないが、今はそれに賭けるしかない。

「除外されているM・HEROカミカゼとM・HEROダークロウを融合!」

「M・HERO同士の融合!?」

「十代君、君はやはり……」

「平行世界より姿を現せ、俺のNEW HERO!C・HEROカオス!!」

 左右が白と黒に分かれているHEROが十代の場に現れる。EでもMでもない、別の可能性を持つ新しいHERO、それがC・HERO!聞いたことも見たこともないC・HEROに驚愕の色を隠せない万丈目、そして自分の目は狂っていなかったと思うアムナエル。そう、アムナエルの目的は十代を自身の後継者にすることだ。そのため、アムナエルは十代の前に立ちふさがったのだ。そして、アムナエルという巨大な壁を越えようとする十代はカオスに攻撃命令を当てる。

「行け、カオス!烈風帝ライザーに攻撃!」

 カオスがガッチャのようなポーズをとると、指からビームがライザーの胸部を貫く。

 

アムナエルLP2200→2000

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

-アムナエルのターン-

「私のターン、シャイニングドロー!」

 シャイニングドローの余波か賢者の石の摩耗のせいかアムナエルは片膝をつく。しかし、ここで倒れてしまうわけにはいかないと自身を奮い立たせ、立ち上がる。

「存在しないカードの創造……十代君、君はこの瞬間、錬金術師としての境地に踏み入れた。だが、たかが攻撃力3000のモンスターではこの状況を覆すことなど不可能。私はガイウスを生贄に怨邪帝ガイウスを召喚!」

 怨念の力によって更なる力を身に着けたガイウスが十代の前に立ちふさがる。アムナエルが持つ究極にして最強の帝こそ怨邪帝ガイウスだ。その恐るべき力を今発動する。

「怨邪帝ガイウスはアドバンス召喚したモンスターならば一体のリリースで済み、さらに闇属性をリリースして生贄召喚に成功したとき、2枚のカードを除外し、1枚でも除外すれば1000ポイントのダメージを与える。これで終わりだ」

「そうはさせない。俺はブレイクスルー・スキルを発動。怨邪帝ガイウスの効果を無効にする」

「忘れたか。進撃の帝王の効果で私のモンスターは効果の対象にならない!」

「俺はカオスの効果を発動していたぜ。カオスは1ターンに1度、表側表示のカードを無効にできる。俺は進撃の帝王の効果を無効にした!」

「なに!」

「これでブレイクスルー・スキルの効果は有効!」

 ガイウスの放った黒い球体道半ばで消滅する。光と闇を制するカオスはカードの力をも制御するのだ。そして、アムナエルは効果を止められてしまった以上、このターンでケリをつけることはできない。だが、アムナエルの手札にはバトル・フェーダーがある。ほぼ確実に1ターンは持つだろうと考え、次のターンで決着をつけることにした。

「開岩の効果でガイウスを手札に加える。怨邪帝ガイウスでハネクリボーに攻撃。他のモンスターを守備表示に変更してターンエンド」

 そして、回ってくる十代のターン。ガイウスをサーチされた以上、このターンで決着をつけなければ、十代の敗北が決まる。しかし、今の十代に敗北を恐れる気持ちは一切ない。

「皆の思いが詰まったこのドロー……俺のラストタァァァァン!」

「ミラクル・フュージョン!場のカオスと墓地のブレイズマンを融合!現れろ、E・HERO The シャイニング!」

 文字通り奇跡を呼び起こす融合。混沌によって導きだされた光がこのデュエルに終止符を打つため、十代の場に現れる。

「Theシャイニングの攻撃力は除外されているE・HEROの数×300ポイントアップする。除外されているE・HEROは、ネクロ・ダークマン、ブレイズマン、シャドー・ミスト2体、エアーマン、オーシャン、フォレストマン、カオスの8体。よって、Theシャイニングの攻撃力は2400ポイントアップ!(ATK2600→5000)」

「Theシャイニングでガイウスに攻撃!オプティカル・ストーム!!」

 Theシャイニングガイウスの身に宿った怨念を成仏させ、その姿を昇天させる。

 

アムナエルLP2000→0

 

 十代はアムナエル、いや大徳寺先生を心配したのかゆっくりと歩み寄る。そして、模造品の賢者の石の限界がきたのかアムナエルの身体がぼろぼろと剥がれ落ち、ゆっくりと砂になっていく。そして、アムナエルは自分が消える前に友人が三幻魔の力を手にしようとしていることを伝える。

「十代、いずれこの島には今以上の災いが起きる。私にはその災いに対抗できる力を育てる必要があった……これを受け取れ……」

 大徳寺先生はそう言うと、自身が持っていたエメラルド・タブレットを十代に手渡す。ずっしりと重たいのはただ本が分厚いだけではないのだろう。このエメラルド・タブレットは大徳寺先生の人生そのものだと言っても差し支えはない。

「大徳寺先生……」

「十代、災いを防げるのは『今』を生きる君たちだけだ……」

 そう言い残し、大徳寺先生は砂となって消える。死んだ大徳寺先生に敬礼するかのように空に向けってガッチャのポーズを決めた。そして、十代たちはアムナエルとのデュエル中に何度もあった地震がおさまったことから、地上のデュエルも終わっているのだろうと思い、夜光の安否を案じながら外に向かっていくのであった。




投稿遅れました。すみません。

メダロッターになっていて執筆が進まなかった。
面白かったんだものメダロット8。
戦闘面が面白いのは良いよね。なお、ストーリーは……

年内にもう1話投稿出来たら良いな。
その話を吹雪さんのギャグコメにするか三幻魔戦にするかを考えないといけないけど。


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第25話 大気を操りし王

新年、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


「よ、良かったな、明日香。兄さんの記憶が戻って……」

「……それは良いけど」

 保健室で明日香と夜光が吹雪のことで話しているが、何故か歯切れが悪い。その原因を作ったカイザーは誰も見たこともないくらい汗をかいている。この場に普段の彼を知っている人が居れば、ありえない光景と言える。そして、ベッドの上で横たわっている吹雪をちらっと見た明日香は一息入れた後、怒鳴り散らす。

「なんでまっ黒焦げになっているのよ!」

「それはだな……」

 カイザーが明日香に順をおって説明する。

 

 アムナエルとの戦いが終わり、ボロボロになっていた夜光を十代たちが保健室に運んでから数日がたった。セブンスターズ全員を倒し、吹雪の記憶が戻ればめでたしめでたしとなるのだが、その記憶が一向に戻る気配が無い。そんな吹雪に対し何もできないカイザーはいらつきを隠せないでいた。そして、カイザーは吹雪の横のベッドにいる夜光に話しかける。

「何か記憶を取り戻す方法はないのか」

「よく聞くのは記憶を失ったときと同じショックを与えたら治るってやつだな」

「記憶を失った理由か……やはり闇のデュエルか」

「だろうな。誰かとデュエルして記憶を失ってダークネスになったと考えるのが筋だ。闇のデュエルはできないけど、ソリッドヴィジョンのレベルを上げてそれに近い状況を作り上げれば、あるいは……」

「そんなことしたら一発退学ものだな」

「だけど否定しないだろ。知っているぜ、誰も使わないデュエルリングがあるのは。今晩、たまたま監視システムがバグって、たまたまそこの管理システムの調子が悪くなったら事故だよな」

「ああ事故だ。感謝する」

「ん? 感謝されるようなこと言ったかな??」

 すっとぼける夜光にカイザーはフッと笑みを浮かべる。可愛い後輩が退学をかけてまで、自分のために尽くしてくれるのだ。ならば、このたった1度のチャンスで吹雪のそこに眠る記憶を呼び起こそうとカイザーは固く決心する。

 

 そして、皆が眠りについた頃、夜光とカイザーは吹雪を連れてデュエルリングに行く。そして、夜光がパソコンを操作した後、デュエルリングの電源を入れる。

「人件費削減でガードマンを減らして、監視システムで見張るようになったのが幸いしたな。ダミー映像を流したから、1時間くらいはここで何が起きても管理室にいるガードマンが気づくことはない。そして、ソリッドヴィジョンのレベルを解除して、人体に影響を及ぼすレベルまで上げた。これで疑似闇のデュエルの完成だ」

 色々と物騒な単語が出ているが、カイザーは気にも留めず、吹雪にデュエルディスクと大切に保管してあった吹雪のデッキを渡す。記憶を取り戻してなくても吹雪のデュエリストの本能がデュエルを覚えている。デュエルディスクをつけた吹雪は先までの自信なさげな表情から変わり、デュエリストの表情に変わる。

 

カイザーLP4000

吹雪LP4000

 

-カイザーのターン-

「俺のターン、ドロー!俺はサイバー・ドラゴン・コアを召喚。サイバー・ドラゴン・コアの効果により、デッキからサイバー・リペア・プラントを手札に加える。カードを1枚伏せてターンエンド」

 先行1ターン目と言うこともあり、大きく動くことはしないカイザー。もしくはつかみどこがありそうでない吹雪を警戒しているのかもしれない。

 

手札:5枚

場:コア

魔法・罠:伏せ1枚

 

-吹雪のターン-

「僕のターン、ドロー!僕は霞の谷の祭壇を発動。レスキュー・ラビットを召喚。レスキュー・ラビットを除外して、バードマン2体を特殊召喚する」

 吹雪の場に2体の人型の鳥が現れる。攻撃力も1800と下級モンスターにしては高い数値を持つ。2体のバードマンの攻撃を受ければ、カイザーは一気にライフを半分近くまで持っていかれる。

「バードマンでサイバー・ドラゴン・コアに攻撃」

「罠発動、サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー(アニメ効果)を発動。サイバー・ドラゴン・コアを墓地に送ることで、バードマンを破壊し、バトルフェイズを終了させる」

 

サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー(アニメ効果)

自分フィールド上の「サイバー」と名のついた機械族モンスター1体を墓地へ送り、相手の攻撃モンスター1体を破壊する。この効果を使用したターンのバトルフェイズを終了する。このカードと「サイバー」と名のついた機械族モンスター1体を墓地へ送る。相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。

 

 だが、カイザーはそんな単調な攻撃を受けるはずがなかった。バードマンを破壊しつつ攻撃を止める。

「仕方がない。霞の谷の祭壇の効果でデッキからトランスフォーム・スフィアを守備表示で特殊召喚する。凡骨の骨の対価を発動。バードマンを墓地に送って2枚ドロー」

 一方、吹雪も負けていない。壁モンスターを残しつつも、次ターン出の反撃のために手札増強する。記憶を失ってもフブキングの異名は健在といったところか。

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:4枚

場:トランスフォーム・スフィア

伏せ:祭壇

   1枚

 

-カイザーのターン-

「俺のターン、ドロー!サイバー・リペア・プラントを発動。デッキからサイバー・ドラゴン・コアを手札に加える。墓地のサイバー・ドラゴン・コアを除外し、デッキからサイバー・ドラゴン・ツヴァイを特殊召喚する。手札の融合を見せて、ツヴァイをサイバー・ドラゴン扱いにする。サイバー・ドラゴン・コアを召喚。サイバー・ドラゴン・コアとサイバー・ドラゴン・ツヴァイを融合!出でよ、サイバー・ツイン・ドラゴン!サイバー・ツイン・ドラゴンでトランスフォーム・スフィアに攻撃!」

 2つ首の機械竜がトランスフォーム・スフィアにビームを放ち、粉砕する。

「サイバー・ツイン・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「ピンポイントガードを発動。墓地のトランスフォーム・スフィアを守備表示で特殊召喚する。このターン、トランスフォーム・スフィアは破壊されない」

 墓地から復活したトランスフォーム・スフィアが主人である吹雪の身を守る。カイザーの激しい攻撃をいとも簡単にかわすあたり、吹雪の腕の高さを表している。

「強欲なカケラを発動し、カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:3枚

場:ツイン

魔法・罠:ヒドゥン・テクノロジー

     カケラ

     伏せ1枚

 

-吹雪のターン-

「僕のターン、ドロー!トランスフォーム・スフィアの効果発動」

「チェーンしてサイバネティック・ヒドゥン・テクノロジーとサイバー・ツイン・ドラゴンを墓地に送り、トランスフォーム・スフィアを破壊する」

「祭壇の効果でデッキから効果を無効にしてEMスパイク・イーグルを特殊召喚。シンセサイズ・スフィアを召喚」

 

シンセサイズ・スフィア(漫画オリカ)

効果モンスター

星4/風属性/鳥獣族/攻1000/守1000

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

自分の墓地に存在するレベル4以下の「スフィア」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

 

「シンセサイズ・スフィアが召喚に成功したとき、墓地のレベル4以下のスフィアを特殊召喚する。トランスフォーム・スフィアを特殊召喚する」

 シンセサイズ・スフィアが足で墓地からトランスフォーム・スフィアを引っ張り出し、吹雪の場に召喚させる。たとえ一体一体の攻撃力が低くとも数がそろえば、大ダメージを与えることができるのがデュエルモンスターズだ。

「全モンスターでダイレクトアタック!」

 

カイザーLP4000→3000→2900→2000

 

「闇のデュエルほどの痛みはないが、これは中々のダメージだ」

 ソリッドヴィジョンはリアル感を与えるために軽い衝撃を与えるようになっている。そのため、普通のデュエルでも人は吹っ飛び、けがもする。そのために体育の時間は欠かせないのだ。その衝撃が最大となれば、体へのダメージは計り知れない。

「トランスフォーム・スフィアは攻撃した後、守備表示になる。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:3枚

場:トランスフォーム・スフィア

  シンセサイズ・スフィア

  EMスパイク・イーグル

伏せ:祭壇

   1枚

 

-カイザーのターン-

「俺のターン、ドロー!

俺は融合回収を発動。墓地の融合とサイバー・ドラゴン・コアを手札に加える。手札断札を発動。互いに手札を2枚捨て、2枚ドローする」

 ドローしたカードを見て、笑みをこぼす。吹雪の記憶を取り戻すには自身のエースモンスターの攻撃こそがふさわしい。

「墓地のサイバー・ドラゴン・コアを除外し、デッキからサイバー・ドラゴンを特殊召喚する。パワー・ボンドを発動。手札のサイバー・ドラゴン2体と場のサイバー・ドラゴンを融合!サイバー・エンド・ドラゴン」

「サイバー・エンド・ドラゴン……うっ、なんだろう。この懐かしい感じは……」

「パワー・ボンドの効果により、サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は倍となる!(ATK4000→8000)」

「攻撃力8000のサイバー・エンド・ドラゴン……何回もこの光景を見た気がする……」

 記憶を取り戻しつつある吹雪にカイザーは期待を込めて攻撃宣言を行う。手加減なしの一撃をくらえば、記憶を取り戻せるはずだと!決して先の攻撃の仕返しは考えていない。たぶん。

「サイバー・エンド・ドラゴンでトランスフォーム・スフィアに攻撃!」

「罠発動、ダメージ・ダイエット。受けるダメージを半分にする」

 

吹雪LP4000→50

 

「亮、ひどいじゃないか~。記憶失っているときにパワー・ボンドを使ったサイバー・エンド・ドラゴンで攻撃するなんて。おかげで服もボロボロだし」

「思い出したか、吹雪!」

 カイザーが嬉しそうに頭を押さえながら文句を言っている吹雪の元に駆け寄る。吹雪が記憶の糸をたどり、自分が何をしていたのか思い出そうとするが、そこの部分だけ霧がかかっているかのようにぼんやりとしている。

「う~ん。まだどうしてダークネスになっていたのか肝心のところが思い出せないんだ。悪いけど、もう少し付き合ってくれるかな? 尤もパワー・ボンドで自滅するつもりなら仕方がないけどね」

「俺がそんなヘマをすると思うか。俺はサイバー・ジラフを召喚。このカードを生贄にささげることでこのターン、受ける効果ダメージを0にする。ターンエンドだ」

 

手札:0枚

場:サイエン

魔法・罠:カケラ(1)

     伏せ1枚

 

-吹雪のターン-

「僕のターン、ドロー!僕はシンセサイズ・スフィアとEMスパイク・イーグル、墓地のバードマンを除外しTheアトモスフィア爆☆誕!!」

 先と違って飄々とした様子で切り札であるTheアトモスフィアを召喚する。これからがフブキングの本領発揮だ。

「アトモスフィアの効果でサイバー・エンド・ドラゴンを吸収。そして、アトモスフィアの攻撃力は吸収したモンスターの攻撃力分アップする」

 アトモスフィアが握っていた大気の球体にサイバー・エンド・ドラゴンが吸い込まれ、その攻撃力を大幅にアップさせる。

「そして、思い出のブランコを発動。墓地のバードマンを特殊召喚する。行くよ、アトモスフィアでダイレクトアタック!テンペスト・サンクションズ!」

「ガードブロックを発動。戦闘ダメージを0にし、1枚ドローする」

「それなら、バードマンでダイレクトアタック!」

 

カイザーLP2000→200

 

 カイザーがギリギリのところで踏みとどまる。ここまでライフが減れば、200も50も大差はない。次のカイザーのターンがこのデュエルの勝敗を決めることになる。それは吹雪も承知である。

「エアー・スフィアを守備表示で召喚」

 

エアー・スフィア(漫画オリカ)

効果モンスター

星2/風属性/鳥獣族/攻400/守300

このカード以外のスフィアモンスターが存在する場合、相手は攻撃宣言できない

 

「エアー・スフィアと他のスフィアが居る限り、相手は攻撃できない。さらにエンドフェイズにバードマンが破壊され、祭壇の効果が発動。デッキからトランスフォーム・スフィアを特殊召喚する。カードを1枚伏せてターンエンド」

 カイザーの攻撃をシャットアウトした上で壁モンスターを召喚し、鉄壁の布陣を敷く。この布陣を突破するのはカイザーでも容易に破れるものではない。

 

手札:0枚

場:エアー・スフィア

  トランスフォーム・スフィア

  Theアトモスフィア

魔法・罠:祭壇

     伏せ1枚

 

-カイザーのターン-

「俺のターン、ドロー!強欲なカケラを墓地に送り、2枚ドロー!サイバネティック・フュージョン・サポートを発動。ライフを半分払うことで、墓地のカードを融合素材にすることができる」

 

カイザーLP200→100

 

「融合を発動。墓地のサイバー・ドラゴン3体を融合!サイバー・エンド・ドラゴン!」

「2体目は出すとは、さすがだね。でもエアー・スフィアの効果で……」

「甘いな。俺にそんな小細工は通用しない。禁じられた聖杯を発動。エアー・スフィアの効果を無効にする。これで攻撃が可能となった。俺はサイバー・エンド・ドラゴンで……」

(サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は4000。そして、僕の伏せカード、シフトチェンジを発動させて攻撃力5000のTheアトモスフィアに攻撃を移せば、亮のライフは0となる)

 吹雪の信条は自分のエースで相手のエースを倒すことだ。アトモスフィアで除去してから勝負を決めるのは面白くない。そこでシフトチェンジを使って迎え撃つ罠を仕掛けることにした。吹雪が勝利を確信しているときカイザーが衝撃の言葉を放つ。

「Theアトモスフィアに攻撃!」

「なんだって!?」

「ダメージステップ時にオネストの効果発動。Theアトモスフィアの攻撃力分サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力をアップさせる(ATK4000→9000)」

「オネスト……藤原、ダークネス……そうだ、あの時、僕は彼が……って、うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 サイバー・エンド・ドラゴンが天使の羽を広げ、極太のビームを放ち、アトモスフィアごと吹雪を焼き尽くす。

 

吹雪LP50→0

 

「やべ。ソリッドヴィジョンの衝撃でガードマンがこの騒ぎに気付いた。そのコゲキングを保健室に運ぶんだ」

 真っ黒焦げになった吹雪を背負ったカイザーと夜光が監視システムが完全に落ちた学園内を走り、保健室へと逃げ込むのであった。その後、めちゃくちゃになっていたデュエルリングを見たガードマンによって大事になったのは言うまでもない。なお、犯人は目撃者がいないことから、いまだに不明だ。

 

 一部始終を聞いた明日香が溜息を吐き、カイザーに一言を放つ。

「つまり、亮の一撃が強烈すぎてこうなったってわけね」

「すまない。こうなるとは思わなかったんだ」

「それでどうして兄さんが失踪したのかわかったんでしょうね」

「それがだな……」

 目を覚ました吹雪がカイザーを見るや否や顔が青ざめ、すぐさま気を失う。なにが起こったのかわからない明日香はカイザーに問い質す。

「どうやら俺たち2人がトラウマになったみたいで中々聞き出せないんだ」

「はあ、あきれた。まあ、兄さんのことだから2、3日したら立ち直っていると思うけど」

 そう言い残すと明日香は保健室から出ていく。しかし、あの場にいた二人は吹雪の最後の言葉を聞き、確信していた。ダークネスの正体が藤原であると。そして、カイザーは闇に堕ちてしまった友人の身を案じながらも、彼を必ず救うと決意するのであった。




吹雪のメインデッキは漫画版吹雪デッキです。
いやあ、アニメであった「思い出のブランコを使用していた」という設定を【スフィア】に組み込むのに苦労しました。
おかげで1時間遅れてしまった…

今年1年、のんびりと更新します。


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