宍戸丈の奇天烈遊戯王 (ドナルド)
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第一章 邂逅編
第1話   転生先は遊戯王ナリ


 宍戸丈は有り得ない事を現在進行形で経験していた。

 自分の目の前には見慣れた両親。両親はニコやかに会話しながら自分を抱き上げている。何故か赤ん坊になっている自分を。

 

「大きい男の子ザマス! この子は将来、私ににてウルトラエリートになるザマスよ!」

 

 間違いない。

 この特徴的口調は自分の母親に間違いなかった。というより漫画でもアニメでもなくリアルで語尾にザマスをつける母親など自分の親くらいだ。

 その隣ではチャラチャラしたホスト顔の父が

 

「YOYO! 俺とウっちゃんの息子なんだからYO! ゼッテーBIGになるのは100%確実だZE!」

 

 そして三十路でこんな痛い口調をしているのも紛れもなく自分の父親だ。

 ザマス口調の受験ママとホスト顔のDQN口調の男、明らかに真逆の二人だがこれでも夫婦である。といってもこの二人、自分が三歳の頃には性格の不一致と父の浮気から離婚していた。それ以来、DQNなパパとは一度も会っていない。

 訳の分からない事態だが、十数年ぶりに見た生の父親の顔だった。といっても特に嬉しくもないが。

 

(なんなの……これ?)

 

 夢なのか確認するために頬を抓りたかったが、産まれたばかりの赤ん坊の身ではそれも上手く出来ない。

 これが俗にいう輪廻転生? それとも逆行?

 丈はぼんやりと病院のベッドを見つめながら溜息……の代わりにオギャーと鳴いた。

 

 

 

 それから月日は流れ、大学生から赤ん坊に逆戻りしてしまうという、世にも奇妙な体験をした丈も、今では人生二度目の小学六年生。

 来年は中学受験である。ザマス口調から想像はつくと思うが、丈の母親は所謂お受験ママというやつで、自分の息子を何が何でも一流の学校に行かせようとするタイプだ。小学受験は自宅から通える範囲にお目当ての学校がなかったのでお流れになったが、中学受験はそうもいかない。

 お陰で小学生だというのに遊ぶ暇も余りなかった。といっても例外もある。

 丈は机の引き出しに入っているソレに目を落とす。そこにはモンスター、魔法、罠など多くの種類のカードが束になっていた。

 そう。受験勉強中、TVゲームなどの娯楽の一切が禁止された丈が出来る娯楽、それがこのカードゲーム、デュエルモンスターズだった。遊戯王カード、と言った方が馴染み深いだろう。

 当初、丈は自分は赤ん坊の頃に『逆行』してしまったのだと思っていたがそれは誤りだった。気づいたのは小学低学年の頃、何気なくTVを見ていたときだった。

 

『新たなカードを生み出す為に子供達の常識に囚われない自由な発想によって考えられたカードを募集し、それをカードにして宇宙におくり、宇宙の波動を受けさせる』

 

 などという余りにも突飛な内容の放送が流されたのだ。

 しかも最後には「フーハハハハハハハハハッ!!」というやたらテンションの高い高笑いつきで。明らかに遊戯王に登場するライバルキャラかつ屈指のネタキャラ、海馬社長だった。

 それから親に隠れてインターネットで調べれば出るわ出るわの遊戯王世界だという証拠の数々。武藤遊戯がバトルシティートナーメントで優勝というモノから始まり、決闘王国《デュエリスト・キングダム》、KCカップ、デュエルアカデミアや海馬コーポレーションなどなど。

 アニメオリジナルエピソードであったKCカップのことが情報にあるということは、恐らくここはアニメの世界なのだろう。ドーマ編やバーサーカー・ソウルもあったに違いない。

 

「なんだかなぁ」

 

 元の世界との違いで一番顕著なのは、やはり何と言っても『デュエル』だろう。これに尽きるといってもいい。プロ野球やプロサッカーに並び、プロデュエルの生中継がTV欄に堂々とあったのには心臓が破裂しそうになった。というより、これだけ堂々とデュエルが前面に押し出されている世界で、よくも小学低学年になるまで気付かなかったものだと自分に呆れた。

 ただ、デュエル中心の世界のお蔭で、うちの母もデュエルをすることだけは認めてくれた。なんでもデュエルが強いと就職に役立つらしい。

 正直デュエルが強いことがどういう風に役立つのだか意味不明だが、遊戯王ではよくあることなのだろう。一枚のカードから宇宙が生まれたり、世界が滅んだりしてしまう世界だから深く考えても仕方ない。少なくとも丈は諦めた。

 この世界で大切なのは「ふーん、そんなこともあるのかー」と素直にありのままを受け入れる心だ。一々突っ込んでいては身が持たない。

 

「ていうか、この世界。レアカードが高すぎる。E・HEROプリズマー5000円ってレベルじゃないし」

 

 真紅眼の黒竜《レッドアイズ・ブラックドラゴン》クラスの人気カードになると軽く六桁はいく。キング・オブ・デュエリスト武藤遊戯の愛用していたブラック・マジシャンに至ってはそれ以上だ。レッドアイズを買うのに、凡骨の前の持ち主であるダイナソーなんたらが全財産を費やしたといっていたが、この世界にきて実際の値段を見ると納得だ。あの値段なら全財産を失う覚悟が必要だろう。

 5000円ならまだ安い方で、人気カードになると万単位はザラだ。世界に一枚しかないカードとかなら億単位ついても不思議ではない。

 

「しかし……どういうデッキつくろ」

 

 受験勉強に関しては前に一度経験したことであるしノープロブレムだ。故に丈は、唯一許された娯楽であるデュエルモンスターズへ自然と流れた。

 今までは安く作れる低ステータスモンスター主体のデッキでどうにかやりくりしていたが、やはり丈もデュエリストの端くれ。強力なモンスターをふんだんに使った馬鹿火力とかにも憧れはある。

 問題はどういうデッキにするかだ。

 未来オーバーなどは肝心のサイバー・ドラゴンが手に入らなかったので構築出来ない。E・HEROは肝心のエアーマンがない。ブラック・マジシャンは高すぎる。青眼の白龍はそもそも世界に四枚しかない。

 シンクロ? エクシーズ?

 論外だ。そもそもそんな概念がない。

 

「うーん」

 

 机に散らばる無数のカード。

 一つ一つを慎重に吟味しながら丈は自分のデッキを構築していった。



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第2話   初戦闘は未来のカイザーナリよ

 デッキの構築。

 子供から大人まで。爺さんだろうと婆さんだろうと、デュエリストになるのなら必ず通らなければならない道、それがデッキの構築である。

 幾ら優れた才能をもっていてもデッキがなければデュエルは出来ない。当たり前のことだが真理でもある。キング・オブ・デュエリストもデッキがなければただの人だ。

 

「やっぱりテーマ的に最上級モンスターを入れたいよな」

 

 デッキは個性を映す鏡。ガチガチのガチデッキが当たり前だった前の世界はまだしも、この世界だと真実デッキはその人間の個性というものを現す。吸血鬼なら吸血鬼をイメージするようなデッキに、漁師なら水属性デッキに、といった具合で。

 遊戯王お馴染みの奇抜な髪形とは無縁で普通な現実からの転生者である丈だが、一応デッキを作る上でのコダワリというやつがある。

 それが最上級モンスターを出来る限り多く採用したい、というものだ。

 今に至るまで安く構築できる低ステータスモンスター主体のデッキで戦い続けてきたせいで飽きたからというのもあるが、それ以上に意地のようなものが丈にはある。

 元の世界ではシンクロモンスターの登場によるエクストラデッキ(この世界では融合デッキ)の実質的手札化によって、手札事故原因ともなる上級モンスターや最上級モンスターは帝などの一部を除き採用率が激減してしまった。丈自身、友人との遊びは兎も角として公式大会などに出る時は最上級モンスターなどを抜いて、剣闘獣を始めシンクロ・エクシーズなどが主体のデッキを使っていた。

 それでもシンクロやエクシーズに頼らなくても済む剣闘獣デッキを多用していたのはもはや意地だろう。といっても死者蘇生で相手のチューナーモンスターを奪えたりするので、結局はシンクロモンスターをエクストラデッキには入れていたのだが。

 それはそれとして、デッキ構築だ。

 最上級モンスターを入れようにも、どうしたって二体もの生贄が必要な最上級モンスターは重い。一体の生贄で済む帝やサイコショッカーはまだしも、バルバロスなんて入れれば途端にデッキが鈍重になり上手く回せなくなる。

 三体の生贄が必要な神のカードを三枚入れている上にブラック・マジシャンなどの最上級モンスターを入れて平然と回していた王様は化け物だと最近分かってきた。流石元祖遊戯王。三千年のベテランは格が違う。

 もし自分なら超重量級な闇遊戯デッキを確実に回せたりしないだろう。運よく回せても十回に一度が精々だ。

 

(最上級モンスターは出せば強いけど出すまでが難しいからな。よしんば出せても聖バリとかで破壊されたり、次元幽閉で除外されたら生贄分完全に大損だし。ううむ……)

 

 何か良いカードはないだろうか。

 丈はそうブツブツと呟きながら長年パックをちょくちょく買い続けた事で溜まったカードの束の中を探す。

 十分が経過し諦めかけたその時、丈の視線はあるカードに釘づけとなった。

 

「こ、これだァ!」

 

 そのカードを拾い上げると、つい大声を出してしまう。だが、それほどこのカードとの出会いは運命的だったのだ。

 

(これなら結構面白そうなデッキが作れるかも。だけど……それを作るには今あるカードだけじゃ足りないな)

 

 欲しいカードが現在手元にない。だけどパックを悠長に買って当たるのを待つのは面倒臭い。

 そんな状況でデュエリストが頼る場所は一つ。そうカードショップだ。

 

 

 

 

「ありがとうございましたーっ!」

 

 ほくほく顔で丈はショップから出る。

 お目当てのカードは全部手に入った。幸いばら売りされていたカードが大半だったので出費も少なくて済んだ。

 ちなみにカードショップなのだが、シンクロモンスターやエクシーズは全くなかった。ネットやTVからの情報だと、今の時系列は初代とGXの中間あたりなので当たり前といえば当たり前だが、5D's放送後に出たシンクロやエクシーズと関係ないカードは幾つかあったので、現実とは多少カードプールが異なるらしい。

 新しいカードを手に入れ、新しいデッキが完成したとなると次はデュエルでその力を試したくなる。前の世界だったら寂しく一人でデュエルするか、大会にでも出るか、友人を呼ぶかしかなかったが、この世界ではそうではない。

 道行くデュエルディスクを腕につけてる人に「おい、デュエルしろよ」と声を掛ければ大抵の人は「いいぜ! デュエルだ!」みたいなノリになってくれる。

 この世界では腕にデュエルディスクをつけていることは、いつでも戦うぜみたいな合図らしい。

 

(誰にしようかなぁ)

 

 流石にゴッツイおっさんとか盆栽やってそうな爺さんとかは遠慮したい。

 相手が年上過ぎても遠慮してしまうし、小さすぎても遠慮するので出来る限り同年代がいいだろう。近くの公園のベンチに座りながら適当な対戦相手を探していると、丁度見た目同じ年齢くらいの少年が通りかかった。しかも腕にはデュエルディスク。髪形は……多少純黒髪ではないが、そこまで奇抜でもない。これ以上相手を探すのも面倒なので、彼にデュエルを申し込むとしよう。

 

「ちょっといいですか」

 

「はい?」

 

 少年A(仮)が呼び止められて振り返る。

 適当に選んだつもりだったが、結構な美少年だ。丈も一応父親がホスト顔のイケメン(ただしDQN)なのでそこそこルックスには自信はあるが、この少年Aは将来女泣かせになること間違いなしなジャニーズ系のイケメンだった。正直、TVの向こうでダンスを踊っていてもなんら違和感を感じないだろう。

 それでもルックスとデュエルタクティクスは関係ない。たぶん。

 相手が未来のイケメンだろうと、デュエルを申し込むだけだ。

 

「実は新しいデッキが完成したんで、時間がよければデュエルの相手になってくれませんか」

 

「俺と? ああ構わない。俺も丁度、デュエルをしたいと思っていた所だ。それと見たところ年もそう変わらなそうだし、畏まる必要はない」

 

「それじゃ、宜しく」

 

 こうして簡単に見知らぬ人とデュエル出来るのはこの世界の良い事だ。

 互いにデュエルディスクを構え、一定位置まで下がる。ソリッドビジョンを使う以上、元の世界のようにテーブルに座って向き直って……といった風にはいかない。

 

「……珍しいな。そんな懐かしいデュエルディスクを使ってるなんて」

 

 少年Aが丈の持ってるデュエルディスクを見てそう言う。

 丈の持ってるデュエルディスクは今一般的に使用されているものではなく、バトルシティートーナメントで使われていたデュエルディスクを現代用に調整したものだ。

 最新型のデュエルディスクがKCから発売されて以降、そちらを使うデュエリストが増え始め今では殆どのデュエリストが最新型を使っているが、原作ファンの丈としては遊戯や社長の使っていたこのタイプが一番馴染み深くデザインも好きなのでこちらを使っているのだ。

 

「よく言われるよ。だけどデッキまで古くはないぞ」

 

「フ、お互いに悔いの残らないよう良いデュエルをしよう」

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 同時に二人が叫ぶと、デュエルディスクがガチャッと起動しデュエルモードへなる。

 新デッキの初陣だ。出来るのなら勝利を掴みたい。

 

「先行後攻は?」

 

 少年Aに尋ねる。

 デュエルを申し込んだ手前、もし少年Aが先行を求めたのなら素直にそれを認めようと思っていたのだが、少年Aの返答は意外なものだった。

 

「先行は譲ろう。俺は後攻でいい」

 

「いいんですか?」

 

「ああ」

 

 どうやら少年Aは本当に後攻を求めているようだ。

 基本的にデュエルモンスターズは先行が有利である。

 デュエルというのは互いのデュエリストがモンスター、魔法、罠を駆使して時に頭脳で時に戦略でしのぎを削る戦場だ。最終戦争や混沌帝龍の効果でも発動しない限り、基本的にフィールドにはなにかしらモンスターないしリバースカードがあるものである。

 しかし先行一ターン目はそれがない。フィールドは完全なるがら空きであり、唯一懸念するべきものは相手の手札だけだ。

 後攻ワンキルよりも先行ワンキルの方が凶悪とされる理由もそれで、後攻ワンキルなら伏せカードやモンスター効果で防ぎきることも可能だが、先行ワンキルの場合、防ぐ方法が手札のモンスター効果を使うしかない。だが手札から効果を発動出来るモンスターは絶対数が限られている上、必ずしも初期手札の五枚にあるとは限らないので幾ら対策をしようと先行ワンキルが極悪なことには変わりないだろう。

 そのアドバンテージを自分から捨てる。

 考えられる可能性は三つ。

 一つ、こちらを舐めている。

 しかしこれはどうも違いそうだ。対峙する少年Aはこちらに真摯な目を向けており、いきなりデュエルを申し込んだ丈への態度も礼儀正しかった。とてもじゃないがこちらを馬鹿にしているとは思えない。

 二つ目、遠慮した。

 これは有り得るかもしれない。あの少年Aが新しいデッキを作ったばかりという自分に遠慮して、敢えて先行を譲ろうとしているとすれば辻褄も通る。

 そして三つ目。

 少年Aのデッキが先行よりも後攻の方が有利となる場合。

 

「………………」

 

 もしもそうならば油断は禁物だ。

 相手が自分と同年代で前世も合わせれば年下だからといって舐めてかかってはいけない。この世界の子供は強いのだ。

 

「――――よし」

 

 先行を譲ってくれるというのだ。

 ここは有り難く貰っておくとしよう。少年Aのデッキがどうだか知らないが、自分のデッキはスタンダードに先行の方が有利だ。

 

「お言葉に甘えて俺の先行。カードドロー!」

 

 初期手札の六枚を見る。

 残念ながらこのデッキを回すためのキーカードはない。ここはベターにいくしかないだろう。

 

「俺は神獣王バルバロスを攻撃表示で召喚!」

 

 馬の下半身に人間の上半身、そしてライオンの顔。

 従属神の一体にして恐るべき効果をもつ丈のデッキでもトップクラスに強力な最上級モンスターが呼び出される。

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 

「レベル8のモンスターを生贄なしで通常召喚しただと!」

 

「バルバロスの効果だ。このモンスターは生贄なしで召喚できる。ただしこの効果で召喚した場合、攻撃力が1900になってしまうけどな」

 

 生贄なしで攻撃力3000なんていうモンスターだったら、強力過ぎるので妥当といえば妥当だろう。もし3000のままで通常召喚できてデメリット無しという効果だったら、ジェネティック・ワーウルフどころではない超インフレだ。

 

「他にもそいつには……三体を生贄することで発動できる特殊能力があったな」

 

 脳の奥にある記憶を引っ張り出す様に、少年Aが尋ねてくる。

 

「ああ、三体を生贄にする召喚に成功した時、相手フィールドを全滅させる効果がある。といっても先行ワンターン目でそんな効果を使用しても意味ないし、生贄要因も確保できてないけどな。俺はリバースカードを一枚セットしてターン終了」

 

「お前が妥協召喚とはいえ最上級モンスターを呼び出したのなら、俺もそれに答えるとしよう。相手のフィールドにのみモンスターがいる時、このモンスターは手札から特殊召喚する事が出来る。出でよ、サイバー・ドラゴン! 攻撃表示!」

 

 ブルーアイズやレッドアイズとは異なる、全身を機械によって創られた機械仕掛けのドラゴン。だがその瞳から発せられる威圧は本物のドラゴンに決して劣らない。対戦相手を飲み込むようなオーラをこのモンスターは持っていた。

 

 

【サイバー・ドラゴン】

光属性 ☆5 機械族

攻撃力2100

守備力1600

相手フィールド上にモンスターが存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

(…………あれ? サイバー・ドラゴン?)

 

 相手フィールドにモンスターがいれば、生贄や通常召喚権を行使することなくフィールドに出せるサイバー・ドラゴンは非常に優秀なカードだ。出してアタッカーにするも良し。生贄として上級モンスターへ繋げるのも良し融合するのも良しと三拍子が揃っており、元の世界でも数少ない多くのデッキで採用される上級モンスターだ。もし少年Aがサイバー・ドラゴンを主体としたデッキを使うというのなら、後攻を求めた理由も分かる。効果の性質からいって後攻の方がサイバー・ドラゴンの効果を活かせる可能性が高いからだ。

 しかしこの世界ではかなり希少なカードであるサイバー・ドラゴン。ブルーアイズのように四枚しか世界に存在しないだとか、世界に一枚というほどではないが余り持っている人間は少なかった筈。しかもそれを主体としている人間といえば、

 

(え? まさか、ええっ!?)

 

 そういえば子供同士の野良試合だというのにやたらとギャラリーが集まってきている。そして口ぐちに「あのサイバー流後継者とデュエル」「なんて命知らずな」「りょうさま、かっこいー!」とかいう声があちこちから聞こえてきた。

 恐る恐るといった様子で丈は少年Aに聞く。

 

「あのぉ」

 

「なんだ?」

 

「名前、なんていうの? ちなみに俺は宍戸丈ナリよ」 

 

「ナリ?…………俺は―――――丸藤亮だ」

 

 落ち着きたいのに落ち着けない。

 気軽な初陣の対戦者として選んだ名も知らない少年Aは未来のカイザーだった。これなんて無理ゲー。



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第3話   出た!ジョーさんのマジックコンボナリよ!

(く、クールになれクールになれ! ああ落ち着け。相手がただカイザーだっただけで、そこまで慌てることじゃないじゃないかっ! そうだよな。慌てない慌てない。俺は落ち着いている。冷静に冷静に……)

 

 バクバクと鳴る心臓の鼓動が喧しい。

 丈はどうにか表面上平静そうな表情を取り繕いながらも未来のカイザー、丸藤亮を見る。

 カイザー亮なのだと思って見てみれば、成程何処かで見た事があるがある顔立ちだ。しかし亮の髪形は武藤遊戯ほど独特でないことと、顔が二次元のアニメから三次元の人間になっていたので全く気付かなかった。

 

「どうしたんだ顔色が悪そうだが……」

 

「なんでもない! 無問題だ!」

 

 怪訝そうにこちらの様子を伺うカイザーに慌てて何でもないと取り繕う。

 相手がカイザーだったからといって申し込んだデュエルを途中で止める事は出来ない。余りにも怪しすぎるし相手にも失礼だ。それに幾らカイザーとはいえまだ小学生くらいの筈。ならば実力も原作よりは未熟かもしれない。勝機はそこにある。

 

「それならいいが……。サイバー・ドラゴンの召喚は特殊召喚。よって俺にはまだ通常召喚の権利が残っている。俺はサイバー・フェニックスを攻撃表示で召喚!」

 

 亮の手札から炎を纏った不死鳥が姿を現した。しかし伝承に伝わるただの不死鳥とは違う。力強い四肢は皮膚ではなく鋼鉄の鎧。サイバーという名の通り機械の不死鳥だった。

 

「妥協召喚したバルバロスの攻撃力は1900、俺のサイバー・ドラゴンが上回っている。バトル! サイバー・ドラゴンで神獣王バルバロスを攻撃、エヴォリューション・バースト!」

 

「させない。リバースカードオープン!」

 

「フ……なにかしらの罠を用意していたのは読んでいた。サイバー・フェニックスの効果、このカードがフィールド上で攻撃表示でいる限り、俺の場の機械族モンスターを対象にする魔法・罠カードの効果を無効にする」

 

 

【サイバー・フェニックス】

炎属性 ☆4 機械族

攻撃力1200

守備力1600

このカードが自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する限り、

自分フィールド上に存在する機械族モンスター1体を対象とする

魔法・罠カードの効果を無効にする。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが

戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。

 

 

 サイバー・フェニックスの効果を聞いた丈だが、そこに焦りはなかった。不敵な笑みさえ浮かべていた。

 何故ならば丈がリバースしていたカードは相手モンスターを対象にするカードではないからである。サイバー・フェニックスは相手フィールドの機械族モンスターだけに作用する効果。丈のフィールドのモンスターに使用する魔法・罠カードに対しては無力だ。

 

「俺は速攻魔法、禁じられた聖杯を発動」

 

 

【禁じられた聖杯】

速攻魔法カード

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。

エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は

400ポイントアップし、効果は無効化される。

 

 

「モンスターの効果を無効にし攻撃力を上げる速攻魔法……。これでバルバロスの攻撃力は1900に400が加算され2300ポイント。――――――いや違うッ!」

 

 バルバロスに禁じられた聖杯を使う真の意味を理解した亮が目を見開く。

 フィールドに現れた杯が傾き、バルバロスに透き通った水を浴びせる。聖杯の水を浴びたバルバロスはその効果を失った代わりにその攻撃力を上昇させた。

 だがそれだけでは終わらない。

 丈が口を開く。

 

「バルバロスはモンスター効果によって生贄なしで妥協されたモンスター。その効果によって元々の攻撃力は1900にまでダウンしていた。しかし禁じられた聖杯によりその効果を消し去られた今、バルバロスは本当の力を取り戻す!」

 

 カードテキストに記されたバルバロスの攻撃力は3000。

 そこへ禁じられた聖杯の効果が加わり攻撃値は3400ポイントまで跳ね上がる。

 

「バルバロスの迎撃、トルネード・シェイパー!」

 

 バルバロスが持っていた大槍でサイバー・ドラゴンの胴体を貫く。キシャーという断末魔をあげながらサイバー・ドラゴンは破壊され墓地へと送られていった。

 

 丸藤亮 LP4000→2700

 

 サイバー・ドラゴンとバルバロスの攻撃力の差は1300。

 よって亮のライフから1300ポイントが減らされた。

 

「やるな。まさかそんな手でモンスターのデメリットを打消し、俺にダメージを与えるとは。宍戸丈、久々に俺も熱くなれそうだ。俺はリバースカードを二枚セット。ターンエンドだ」

 

 

宍戸丈 LP4000 手札4枚

場 神獣王バルバロス

伏せカード0枚

 

丸藤亮 LP2700 手札2枚

場 サイバー・フェニックス

伏せカード2枚

 

 

 ターンが亮から丈へと移る。

 丈としてはここで新たなモンスターを召喚して、サイバー・フェニックスを撃破しプレイヤーへの直接攻撃を加えたいが哀しいかな、今手札に召喚できるモンスターはいない。 

 幸いにして禁じられた聖杯で一度効果を無効化されたバルバロスは攻撃力3000のままだ。3000という数値は彼のブルーアイズと互角であり、そうそう破られるものではない。ここは次への布石を整えておくべきだろう。

 

「俺はバルバロスでサイバー・フェニックスを攻撃、トルネード・シェイパー!」

 

「ダメージ計算時、罠カード発動。ガード・ブロック!」

 

 

【ガード・ブロック】

通常罠カード

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。

その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

「このカード効果で俺は戦闘ダメージを0にし、俺はカードを一枚ドローする。更にサイバー・フェニックスの効果、このカードが戦闘で破壊された時一枚ドローする。俺はもう一枚ドロー」

 

 亮の手札が一気に二枚から四枚にまで回復した。

 強欲な壺などのドローソースを一切使わずに二枚のカードを補充するタクティクスは流石未来のカイザーというべきか。

 

「だがこれでそっちの場のモンスターはゼロ。俺は手札より魔法カード、迷える仔羊を発動! 場に仔羊トークンを二体守備表示で出現させる」

 

 

【迷える仔羊】

通常魔法カード

このカードを発動する場合、

このターン内は召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

自分フィールド上に「仔羊トークン」(獣族・地・星1・攻/守0)を

2体守備表示で特殊召喚する。

 

 

「攻撃力と守備力がゼロのトークン。次のターンに上級モンスターを召喚するための布石を整えたようだな」

 

 二体の子羊トークンを見た亮が冷静にそう判断する。

 その読み正解だった。この仔羊トークンは次のターン、手札に眠る最上級モンスターを場に召喚させるための生贄要因だ。

 最上級モンスターを召喚する場合、ちまちま通常召喚を駆使して生贄を用意しようとすれば合計で3ターンかかってしまうが、トークンを使えば一瞬で二体もの生贄を確保することが出来る。モンスターではなくトークンという生贄要因、それが最上級モンスターを多く採用するために丈がとった戦術だった。

 尤も仔羊トークンを場に出現させたターン、自分は召喚・反転召喚・特殊召喚できないのがネックといえばネックだが。

 

「俺はリバースカードを二枚伏せターンエンド」

 

「次はこちらの番だ。俺のターン! 天使の施し。三枚ドローし二枚捨てる。そして相手の場にのみモンスターがいる為、俺は再びサイバー・ドラゴンを場に特殊召喚する。来い、サイバー・ドラゴン!」

 

「二枚目のサイバー・ドラゴンが出て来たか……」

 

 幾ら小学生とはいえ、サイバー・ドラゴンは既にデッキに三枚あると考えてよいだろう。融合デッキには多種多様なサイバー・ドラゴンの融合体もある筈だ。

 中でも攻撃力4000で貫通能力までもつサイバー・エンド・ドラゴンだけは出させてはいけない。あの火力は危険だ。丈のデッキにサイバー・エンドとまともに戦って勝てるモンスターはいない。

 

「手札より魔法カード、エヴォリューション・バーストを発動! このカードは場にサイバー・ドラゴンがいる時、フィールド上のカードを一枚破壊できる」

 

 

【エヴォリューション・バースト】

通常魔法カード

自分フィールド上に「サイバー・ドラゴン」が表側表示で存在する場合のみ

発動する事ができる。相手フィールド上のカード1枚を破壊する。

このカードを発動するターン「サイバー・ドラゴン」は攻撃する事ができない。

 

 

「俺が選択するのは当然バルバロス! やれサイバー・ドラゴン、バルバロスを破壊しろ」

 

 サイバー・ドラゴンから吐き出された光線がバルバロスを消し飛ばす。しかし魔法効果による破壊のため丈のライフは無傷だ。

 

「そして手札よりプロト・サイバー・ドラゴンを召喚。このカードはフィールドに存在する時、カード名をサイバー・ドラゴンとして扱う」

 

 

【プロト・サイバー・ドラゴン】

光属性 ☆3 機械族

攻撃力1100

守備力600

このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、

カード名を「サイバー・ドラゴン」として扱う。

 

 

 攻撃力1100のモンスターを敢えて攻撃表示で出す。

 生贄要因である仔羊トークンを一掃するためとも考えられるが、丈は直感でそれ以上にヤバいことが起きるであろうことを予感していた。

 そして予感は的中する。

 

「手札より融合のカードを使用し場のサイバー・ドラゴンとプロト・サイバー・ドラゴンを融合。融合召喚、起動せよサイバー・ツイン・ドラゴン!」

 

 二体のモンスターが混じり溶け合い、サイバー・ドラゴンが合体した双頭のサイバー・ドラゴンがフィールドに召喚される。

 その攻撃力はサイバー・ドラゴンを超える2800。攻撃力こそバルバロスには及ばないものの、サイバー・ツイン・ドラゴンには強力なモンスター効果がある。

 

 

【サイバー・ツイン・ドラゴン】

光属性 ☆8 機械族・融合

攻撃力2800

守備力2100

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。

このカードは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

「サイバー・ツイン・ドラゴンで二体の仔羊トークンを攻撃、エヴォリューション・ツイン・バースト、第一打ァ!」

 

 守備力0の子羊トークンにサイバー・ツイン・ドラゴンに抵抗する力などない。あっさりとその身を散らせ消滅した。

 

「そして二連目、エヴォリューション・ツイン・バースト、第二打ァ!」

 

「くっ」

 

 丈の場から全てのトークンが消えた。

 しかしまだ丈には手が残っている。

 

「俺はこれでターンエンド」

 

「このエンドフェイズ時、速攻魔法発動! 終焉の焔!」

 

「終焉の焔?」

 

 

【終焉の焔】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」

(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。

 

 

「やるな。仔羊トークンは囮で、まだ本命を隠していたとは」

 

「その通り。俺は新たに場に黒焔トークンを二体出現させる。これで生贄要因は確保だ。俺のターン、ドロー!」

 

(――――――――――きたっ!)

 

 引いたカードは魔法カード。

 自然と丈の口元に笑みが広がった。このカードこそこのデッキをフル回転させるためのエンジン。これがないこのデッキは軽自動車のエンジンを積んだフェラーリに等しい。

 

「俺は手札より永続魔法発動! 冥界の宝札!」

 

 

【冥界の宝札】

永続魔法カード

2体以上の生け贄を必要とする生け贄召喚に成功した時、

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

「俺は二体の黒焔トークンを生贄に、堕天使アスモディウスを召喚!」

 

 黒焔トークンが消え、変わりに烏のように真っ黒な翼と甲冑を纏った堕天使がフィールドに飛び出した。丈は更に冥界の宝札の効果で二枚ドローする。これでアド損分は取り返した。

 

「堕天使アスモディウスの攻撃力は3000! サイバー・ツイン・ドラゴンを上回っている。アスモディウスでサイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃、ヘル・パレード!」

 

 丸藤亮 LP2700→2500

 

 亮の場からサイバー・ツイン・ドラゴンが消える。しかし切り札的モンスターがやられたというのに、まだ亮には不安や恐れのようなものはない。

 丈は原作GXにおける丸藤亮のデュエルを思い出す。サイバー・ドラゴンを主軸とし、多くの融合モンスターを呼び出し敵を圧殺する火力。特にサイバー・エンドやキメラティック・オーバー・ドラゴンは元の世界の初期ライフ8000でもワンターンキルを可能にしてしまうほどのパワーをもつモンスターだ。

 サイバー・ツイン・ドラゴンなど序の口。亮のデッキにはまだまだ強力なモンスターが眠っているのだ。

 

「俺はこれでターンを終了。そっちのターンナリよ」

 



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第4話   サイバー・エンド・ドラゴンは強いナリ

宍戸丈 LP4000 手札4枚

場 堕天使アスモディウス

伏せカード1枚

魔法 冥界の宝札

 

丸藤亮 LP2500 手札2枚

場 無し

伏せカード0枚

 

 

 気を落ち着かせるように亮は一度目を瞬きをし、そしてデッキトップから力強くカードをドローする。残りライフといい、亮は逆行に立たされている筈だがはた目からは全くそんな様子はない。

 

「俺のターン。……冥界の宝札か。それがある限り、お前は最上級モンスターを召喚するたびに手札を補強し有利になっていく。だがそのカードがなければカードはドロー出来ない。俺は大嵐を発動!」

 

 

【大嵐】

通常魔法カード

フィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する。

 

 

「これで冥界の宝札は破壊される」

 

「甘い!」

 

 自分の作ったデッキだ。弱点くらいは自分が良く分かっている。最上級モンスターを多用する以上、アド損を取り返すための冥界の宝札は必須。それを破壊されてしまえば、一気に回転率は落ちてしまう。だからこそ破壊を防ぐためのギミックはかなりの数、仕込んでいる。

 

「俺はカウンター罠、魔宮の賄賂を発動!」

 

 

【魔宮の賄賂】

カウンター罠カード

相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

相手はデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

「この効果で大嵐は無効だ! そして相手プレイヤーは一枚ドローする」

 

「ドロー。…………フ、お前が冥界の宝札を防ぐためにカウンターを伏せているのは読めていた」

 

「えっ?」

 

 たらりと冷や汗が流れる。

 単なるハッタリと信じたいが、後のカイザーがそんなつまらない手段を使うとは考えづらい。

 

「俺はカードを一枚セット、更に魔法カード天よりの宝札を発動!」

 

 

【天よりの宝札】

通常魔法カード

お互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードをドローする。

 

 

「これで俺の手札は合計六枚。強欲な壺を発動し二枚ドロー! 手札より速攻魔法発動、サイバネティック・フュージョン・サポート!」

 

 

【サイバネティック・フュージョン・サポート】

速攻魔法カード

自分のライフポイントを半分払って発動する。

このターンに機械族融合モンスター1体を融合召喚する場合、

手札または自分フィールド上の融合素材モンスターを墓地に送る代わりに、

自分の墓地に存在する融合素材モンスターをゲームから除外する事ができる。

 

 

 丸藤亮LP2500→1250

 

 

「魔法効果で俺は機械族の融合素材をこのカードで代用できる。俺は手札よりパワー・ボンドを発動!」

 

「ッ!」

 

 遂に出た。丸藤亮――――――後のカイザー亮が全幅の信頼を寄せる最強の融合カード。融合モンスターだけでも強力だというのに、パワー・ボンドで融合召喚されたモンスターは攻撃力が二倍となる。エンドフェイズ時、融合召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受けるというデメリットこそあるものの、それすらも亮ならば克服してくる筈だ。

 

「墓地の二体のサイバー・ドラゴンをゲームより除外、俺は再びサイバー・ツイン・ドラゴンを融合召喚する!」

 

 再臨するサイバー・ツイン・ドラゴン。だがパワー・ボンドによって召喚された為、サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力はF・G・Dを超える5600となっている。しかも二連続攻撃ができるのでFGDよりも極悪といえた。

 

「サイバー・ツイン・ドラゴン第一打! 堕天使アスモディウスを攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 

 攻撃力の差は歴然。

 堕天使アスモディウスが粉砕される。

 

 

 宍戸丈 LP4000→1400

 

 

「だが俺は堕天使アスモディウスの効果! フィールドのこのカードが戦闘で破壊された時、トークンを二体出現させる!」

 

 

【堕天使アスモディウス】

闇属性 ☆8 天使族

攻撃力3000

守備力2500

このカードはデッキまたは墓地からの特殊召喚はできない。

1ターンに1度、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分フィールド上に「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、

「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。

「アスモトークン」はカードの効果では破壊されない。

「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。

 

 

「俺はフィールドにアスモトークンとディウストークンを守備表示で召喚」

 

「ならば俺はアスモトークンに第二打を叩き込む。エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 

「くそ! 戦闘耐性の無い方を」

 

 亮が攻撃したのがディウストークンだったのなら、戦闘では破壊されない効果があるためサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃は無意味に終わったのだが、アスモトークンには効果破壊耐性はあっても戦闘耐性はない。

 

「俺はサイバー・ジラフを召喚」

 

 

【サイバー・ジラフ】

光属性 ☆3 機械族

攻撃力300

守備力800

このカードを生け贄に捧げる。

このターンのエンドフェイズまで、

このカードのコントローラーへの効果によるダメージは0になる。

 

 

「俺はサイバー・ジラフを生贄に捧げ、パワー・ボンドのデメリットをゼロにする。リバースカードを三枚セットしターン終了」

 

「俺のターン! ドロー!」

 

 ここで持ち直さなければ勝ち目はない。

 不幸中の幸いにして天よりの宝札と今のドローで手札は七枚。これだけあれば十分にサイバー・ツイン・ドラゴンに対処できる。

 丈のデッキにサイバー・ツイン・ドラゴンを上回る攻撃力をもつモンスターはいないが、モンスターを除去する方法はなにも戦闘だけではないのだ。

 

「いくぞ亮! 俺はこのターンでサイバー・ツイン・ドラゴンを倒す! 手札より魔法カード、クロス・ソウルを発動!」

 

 

【クロス・ソウル】

通常魔法カード

相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動する。

このターン自分のモンスターを生贄にする場合、

自分のモンスター1体の代わりに選択した相手モンスターを生贄にしなければならない。

このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行う事ができない。

 

 

「これで俺はこのターン、サイバー・ツイン・ドラゴンを俺のモンスターのための生贄として使用できる。俺はサイバー・ツイン・ドラゴンとディウストークンを生贄に捧げ、The supremacy SUNを召喚! 冥界の宝札の効果で二枚ドロー!」

 

 

【The supremacy SUN 】

闇属性 ☆10 悪魔族

攻撃力3000

守備力3000

このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できない。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、

次のターンのスタンバイフェイズ時、

手札を1枚捨てる事で、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

「クロス・ソウルを使用したターン、俺はバトルフェイズを行えない。ここでダイレクトアタック出来れば俺の勝利なんだけど、うん。現実は悲しい。俺はカードを三枚セットしてターン終了」

 

 

宍戸丈 LP1400 手札4枚

場 The supremacy SUN

伏せカード三枚

魔法 冥界の宝札

 

丸藤亮 LP1250 手札2枚

場 無し

伏せカード三枚

 

 

「俺のターン、ドロー。貪欲な壺、墓地のモンスター五体をデッキに戻し、デッキからカードを二枚ドロー」

 

 

【貪欲な壺】

通常魔法カード

自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、

デッキに加えてシャッフルする。

その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 亮の墓地にあるのはサイバー・ジラフ、サイバー・フェニックス、二体のサイバー・ツイン・ドラゴン、そしてプロト・サイバー・ドラゴンの五体の筈だ。普通に考えればその五体をデッキと融合デッキに戻したのだと思うところだが、亮が天使の施しを発動していたので断言はできない。

 

「よし。俺は場のリバースカード、王宮のお触れを発動する」

 

 

【王宮のお触れ】

永続罠カード

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。

 

 

(不味い!)

 

 もしもこのカードの発動を許せば、たちまち丈の場のリバースカードはただの邪魔な紙屑となる。これだけは発動を許す訳にはいかない。

 

「カウンター罠、盗賊の七つ道具!」

 

「甘い。こちらもカウンター罠! 魔宮の賄賂!」

 

「まだまだ! 神の宣告! ライフを半分払い、魔宮の賄賂を無効!」

 

 

 宍戸丈 LP1400→400→200

 

 

 チェーン合戦に勝ち、王宮のお触れを無効化することには成功したものの代償は大きい。1400あったライフが一気に200だ。

 

 

「予想外だよ。ここで王宮のお触れを発動し、迎撃用の罠は完全に封殺するつもりだったのだが、お前のリバースカードは俺の予想を上回っていた。しかし俺にはまだ手札が残っている。俺は手札より魔力倹約術発動!」

 

 

【魔力倹約術】

永続魔法カード

魔法カードを発動するために払うライフポイントが必要なくなる。

 

 

「更に魔法カード、次元融合! 2000のライフを支払い、お互いのプレイヤーはゲームから除外されたカードを召喚可能な限りフィールドに特殊召喚する」

 

 

【次元融合】

通常魔法カード

2000ライフポイントを払う。

お互いに除外されたモンスターをそれぞれのフィールド上に可能な限り特殊召喚する。

 

 

「ライフコストの2000は魔力倹約術の効果で無効だ。除外されている俺のモンスターはサイバー・ドラゴンが二体。よってサイバー・ドラゴンを二体、フィールド上に特殊召喚。これで用意は整った。俺は二枚目のパワー・ボンドを発動!」

 

 

【パワー・ボンド】

通常魔法カード

手札またはフィールド上から、

融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地へ送り、

機械族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

このカードによって特殊召喚したモンスターは、

元々の攻撃力分だけ攻撃力がアップする。

発動ターンのエンドフェイズ時、このカードを発動したプレイヤーは

特殊召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける。

(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 

 

「手札のサイバー・ドラゴンと場の二体のサイバー・ドラゴンを融合。召喚せよ、サイバー流継承者たる証! サイバー・エンド・ドラゴンッ!」

 

 三体のサイバー・ドラゴンが融合し、今、サイバー流の極致。究極のサイバー・ドラゴンが召喚される。地獄の閻魔すらも裸足で逃げ出させるような咆哮を上げ、三つ首の機械竜、サイバー・エンド・ドラゴンが亮のフィールドに現れた。

 サイバー・エンドの元々の攻撃力は4000。それがパワー・ボンドで二倍となっているため、その攻撃値は8000。三幻神の一柱オベリスクの丁度二倍。

 

 

 

【サイバー・エンド・ドラゴン】

光属性 ☆12 機械族

攻撃力4000

守備力2800

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 ソリッドビジョンとは言ってしまえばただの立体映像、幻に過ぎない。

 どれだけリアルでも、どれほど恐ろしい異形の怪物でも実際には何の力もない幻影だ。だというのにサイバー・エンド・ドラゴンから発せられる威圧はとてもじゃないが幻とは思えない。

 丈は無意識のうちに足を半歩下げてしまっていた。それでも中身の年齢は亮より遥かに年上だということが、尻尾撒いて逃げ出すことを踏み留まらせていた。

 半ば意地でキッとサイバー・エンドを見返す。それを見て亮は不敵に笑う。

 

「ラストバトルだ。サイバー・エンド・ドラゴンでThe supremacy SUNを攻撃! エターナル・エヴォリューション・バーストッ!」

 

「まだ俺は負けない! 俺にはまだリバースカードが一枚残っている。罠カード発動! 聖なるバリア ーミラーフォースー!」

 

 

 

【聖なるバリア ーミラーフォースー】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。

 

 

「これでサイバー・エンドは破壊だ」

 

「やはり、まだ手を残していたか」

 

「は?」

 

 そして気づく。

 リバースカードが一枚残っているのは自分だけではない。亮のフィールドにもまだリバースカードが残っていることに。

 

「リスペクトデュエルの極意、それは相手の立場となり考えること。俺はお前の立場になり考え、そしてその伏せカードの存在を看破した! だからこそ俺も敬意をもち、最高の力をもってお前を倒そう! これが俺の勝利への布石、リバースカードオープン! トラップ・ジャマー!」

 

 

【トラップ・ジャマー】

カウンター罠カード

バトルフェイズ中のみ発動する事ができる。

相手が発動した罠カードの発動を無効にし破壊する。

 

 

「お前のミラーフォースは無効だ。サイバー・エンドの攻撃を遮るものはない。今度こそ攻撃、エターナル・エヴォリューション・バーストッ!」

 

「ぐぅああああああ!!」

 

 

 宍戸丈 LP200→0

 

 

 5000ポイントのオーバーキルを喰らい丈が吹き飛ばされた。

 負けてしまった。相手が原作の強キャラだったとはいえ、やはり作ったばかりのデッキの初陣で負けてしまうというのは何時もとは違う嫌な敗北感がある。出ばなをくじかれるともいうのだろう。

 ざっざっと土を踏むおとに首を上げる。そこに左手を差し出した亮がいた。

 

「いいデュエルだった。俺もここまで追い込まれたのは久しぶりだよ。久方ぶりに熱くなれた、感謝する」

 

「あ、ああ……」

 

 差し出した手を掴み立ち上がる。

 

「またデュエルしよう。この近くに住んでいるのか?」

 

「ここから歩いて五分くらいだよ」

 

「俺の家もそれくらいだ。――――――そうだ、俺の家に来ないか? 丁度、両親も出ていて暇をしていたんだ。互いのデッキのことも話したいからな」

 

 どうやら未来のカイザー閣下に気に入られてしまったらしい。

 確かにカイザー亮相手にそこそこの善戦を出来たものだと思うが…………なにか琴線に触れることがあっただろうか。

 しかし丈自身、画面の向こうから眺めるだけの原作キャラと話せることが嫌な筈はない。結局、カイザーの誘いに応じてホイホイついて行った。

 



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第5話   トレードはデュエリストの魂の会話ナリ

「お、おジャマトリオー。じゃなくてお邪魔しまーす」

 

 未来でカイザーとか呼ばれる男の家。きっと家も色々カイザーちっくなのだろうと勝手に想像していたが、そんな丈の予想は良い意味で裏切られた。

 一言で言えば普通である。

 広大な庭付きの大豪邸でも河川敷のプレハブ小屋でもなく、普通の一軒家だ。強いて言えば多少他の家よりも立派だがそれだけだ。

 幾らカイザーだ何だと言われようと亮は普通の"丸藤亮"という人間でしかない。そのことをこんなことで思い知った。

 

「どうした、上がらないのか?」

 

「と、悪い悪い」

 

 靴を抜いて上がる。

 両親がいないというのは本当らしく、他に人の気配はなかった。何気なく玄関へ目を落とすと、サイズ的に亮のものとは思えない子供の靴に目が留まる。

 

「亮、これ?」

 

「それは弟の靴だよ。この時間だから……たぶん近所の友達の家にでも行ってるんだろう」

 

 亮の弟といえば一人しかいない。

 GX時代には主人公遊城十代の弟分になる丸藤翔だ。

 

「ここが俺の部屋だ。多少散らかってるが」

 

「いや、これが散らかってるなら俺の部屋なんてゴミ山だって」

 

 亮の部屋は本人がマメな性格なのか綺麗に整理整頓されていた。床にはゴミ屑一つとしてなく、本は乱れなく整然と並んでいる。ただ本人が質素なせいか飾り気のようなものはなく、多少寂しいものだった。 丈は自分の部屋を思い出す。自分の部屋は年がら年中教科書やら漫画本やらが散らばっていて歩く隙間もないほどである。亮の部屋と比べれば月とスッポンだ。

 丈は勉強机にある「算数6」という教科書を見て、亮が自分と同じ学年であることを察した。

 

「ところでカードは何処にあるんだ?」

 

 丈は早速本題を切り出す。

 見た限りこの部屋にカードのようなものはない。亮ほどのデュエリストがまさかデッキの40枚分しかカードを持ってないなんて事はないだろう。どんなデュエリストでもちょくちょくパックを買っていれば軽くカード枚数が1000枚は突破しているものだ。だがこの部屋にカードの影はない。

 

「それならこっちの部屋だ。着いてきてくれ」

 

「?」

 

 亮の先導に従い本棚の横にあるドアを潜る。

 するとそこは別世界だった。

 

「―――――――――っ」

 

 丈は余りの光景に驚き、あんぐりと大きく口が開いて呆然とする。言葉も上手く出ないとはこのことだ。部屋の中にある部屋。そこはデュエルモンスターズのデュエルモンスターズによるデュエルモンスターズのためだけの部屋だった。

 部屋中に所狭しと並んでいるカードの数々。全て亮のカードなのだろう。

 サイバー流後継者の証明のためか、壁の真ん中にはサイバー・エンド・ドラゴンが描かれた掛け軸があった。

 丈は自分の認識が甘かったことを自覚する。やはり原作キャラは部屋も常識外れだ。

 

「す、凄いなコレ」

 

「数は大したものじゃない。俺以上にカードを持ってるデュエリストなんて幾らでもいる」

 

「それはそうだけど……俺のカードなんて輪ゴムで止めて引き出しに放置したままだし。レアカードとかデッキは流石にしっかり閉まってるけど。ってコレかなりのレアカードじゃん!」

 

 丈の目がある一枚のカードに釘づけになる。

 そのカードは混沌の黒魔術師。元の世界ではその強力さから禁止カードにまでなったレアカードであり、この世界では武藤遊戯のデッキに入っているということもあり超高級品だ。

 

「どうしたんだよ、こんなカード?」

 

「偶然当たったんだ。といっても俺のデッキには入れられないから宝の持ち腐れになってしまってるが。そうだ、俺のデッキを見てくれないか?」

 

「えっ、デッキを?」

 

「実はまだサイバー流道場から帰ったばかりでな。まだデッキ構築が十全じゃないんだ。俺なりに考えて作ったデッキだが、他の誰かの意見も聞きたい」

 

「あっ、それじゃあ俺のデッキも」

 

 丈も自分のデッキを取り出す。

 これはついさっきカードショップで補強したカードを投入し、完成したばかりのデッキだ。しかし亮には負けてしまったので、まだまだ改良の余地がある。

 お互いのデッキを交換すると、丈は亮のデッキをじっくりと見る。サイバー流というだけあり、サイバーと名がつく機械族モンスターを多く投入したデッキだ。サイバー・ドラゴンとプロト・サイバー・ドラゴンは当然のように三積み。パワー・ボンドの三積みだ。

 融合デッキには切り札であるサイバー・エンド・ドラゴンを始めサイバー・ツイン・ドラゴン、キメラテック・オーバー・ドラゴン、キメラテック・フォートレス・ドラゴンなどなど。

 

「どうだ俺のデッキは?」

 

「いいと思うよ。だけどパワー・ボンド三積みはまだしも、融合まで三積みしてるのはやり過ぎじゃないか。確かにこのデッキのメインはサイバー・ドラゴンの融合体だけど、オーバー・ロード・フュージョンやサイバネティック・フュージョン・サポートも入ってるし、融合カードは一枚か二枚にしておいたらどうかな」

 

「フム、一理あるな。しかしそれだと火力が下がらないか? 俺のデッキは如何に素早く融合モンスターを召喚するかにある。融合が減る分、融合モンスターを召喚できる機会が落ちるかもしれない」

 

「幸い亮のデッキは機械族ばかりだから、一族の結束を使って攻撃力を上昇させ……あ、でもキメラテック・オーバー・ドラゴンとは相性が悪いな。機械族は優秀なモンスターも多いし、サイバー・ドラゴン系列以外の機械族上級モンスターを入れるとかどうだろ。最上級モンスターは重すぎるけど、上級モンスターくらいなら入れる余地はあるし。逆に火力を捨てて三色ガジェットの投入で安定率を上げるとか」

 

「上級モンスターか。機械族上級モンスターとなるとサイバティック・ワイバーンが通常モンスターでは最高値か」

 

「他にも罠封じのサイコショッカーや魔法封じのマジックキャンセラーもあるぞ。でもマジック・キャンセラーは☆5で攻撃力が1800しかないからな。でもサイコ・ショッカー辺りは結構良いと思うけど」

 

 シンクロ召喚やエクシーズが跋扈した丈の世界はまだしも、この世界のこの時代にはまだシンクロのシの字もない世界だ。攻撃力2400で罠を封じれる効果はかなり強力だ。特にカウンター罠を多用する丈のデッキだとサイコ・ショッカーは天敵といえる。防ぐ方法が神の宣告くらいしかない。

 

「サイコ・ショッカーはいいカードだが……俺はそのカードを持ってない」

 

 

「俺、持ってるから交換しないか? カイザー……じゃなくて亮、バルバロス持ってない? 俺二枚しかないんだよ」

 

「バルバロスか。たしか前に当てた記憶がある」

 

「決まりだな。今デッキしか持ってきてないから、一走り家からカード取って来るよ」

 

「……頼む」

 

 丈はそう言うと、自宅に置いてきたカードを取りに急ぎ足で戻る。

 もし自分の脳味噌が腐ってなければサイコ・ショッカーのカードがある筈だ。前にパックを買って当てた記憶がある。

 十数分後。

 亮の家に戻ってくると、大きなバックの中に入ったカードを床に置いた。

 

「お前もかなりのカードを持ってるじゃないか。……ふむふむ、珍しいカードもあるようだ」

 

 亮が持ってきたカードを見ながら時には頷き、時には真剣な目でカードを眺める。

 デュエルモンスターズの醍醐味はデュエルだが、こうしてデッキを作る為に頭を捻らせたりするのも楽しいものだ。誰かと一緒にああでもないこうでもないと議論するのは更に良い。

 

「ほい、サイコ・ショッカー」

 

「俺も、バルバロスを」

 

 持ってきたカードの中から人造人間サイコ・ショッカーのカードを亮に渡す。すると亮も神獣王バルバロスのカードを渡してきた。

 

「トレード成立っと。そういや、俺のデッキはどうだった?」

 

「冥界の宝札を最大限活かすために最上級モンスターを多用するのは分かるが、流石にデッキに最上級モンスターだけしか入れないのはやり過ぎだ」

 

「やっぱ、そう思う?」

 

 丈は今まで安上がりで仕上がる低級モンスター中心デッキばかり使っていたので、その鬱憤を晴らすため純最上級モンスターデッキというエキスパートルールに喧嘩を売るようなデッキを構築してみたのだが、流石に下級モンスターゼロだとバランスが悪かったようだ。当たり前である。

 

「別に普通のデッキのように十枚以上もの下級モンスターを採用する必要はないが、三枚か四枚ほどは要れた方が良いだろう。トークンだけでは限界がある」

 

「むむむ……下級モンスターか。安かったから使えそうな奴は集めたんだけど……。蘇生能力がある黄泉ガエルなんかは魔法・罠ゾーンにカードがない状態じゃないと蘇生できないから採用できないからな」

 

「そこで、このカードだ」

 

「あぁ、それってレベル・スティーラー?」

 

 

 

【レベル・スティーラー】

闇属性 ☆1 昆虫族

攻撃力600

守備力0

このカードが墓地に存在する場合、自分フィールド上に表側表示で存在する

レベル5以上のモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。

このカードはアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。

 

 

 

「こいつを墓地へ送っておけば、レベル5以上のモンスターがフィールドにいる限り、何体でも蘇生できる。更にはこのカードだ」

 

 

 

【メタル・リフレクト・スライム】

永続罠カード

このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、

自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。

このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)

 

 

 

「レベル10の罠モンスター、メタル・リフレクト・スライムか」

 

 原作ではマリクの使用していたカードだ。

 その時はOCG効果と違っていたのだが、この時代にはもうOCG効果になったらしい。

 亮はメタル・リフレクト・スライムのカードを見せながら言葉を続ける。

 

「レベル10だから単純計算でレベル・スティーラーを六回蘇生させることが可能だ。しかも墓地に三体のレベル・スティーラーがいて場にメタル・リフレクト・スライムが伏せられいた場合、即座に三体の生贄要因を確保しバルバロスの全体破壊能力へ繋げることが出来る」

 

「おおっ! 良し、入れよう!」

 

 レベル・スティーラーなら前にカードショップで売られていたので購入済みだ。あの時は何気なく買っただけだったが、まさかこうして役立つ日がくるとは。 

 丈はカードの束から三枚のレベル・スティーラーを抜きデッキへ入れる。これでデッキ枚数は新しく貰ったバルバロスも合わせて44枚。今度、きっかり40枚になるよう調整しなければいけないだろう。

 

「だけどメタル・リフレクト・スライムは一枚しかないな。亮、何枚持ってる? 交換してくれない」

 

「四枚だ。……特に俺は使う予定はないし、トレードは構わないぞ」

 

「サンキュー。ええとじゃあ」

 

 こちらがデッキに必要なカードを貰うのだ。ならこっちも亮のデッキに必要そうなカードを交換するべきだろう。

 カードの束から亮のデッキに合いそうなカードを探し、交換には超絶好のカードを見つけた。

 

「これなんか、どうだ? サイバー・ドラゴン・ツヴァイ、俺は三枚持ってるけどサイバー・ドラゴンの方は一枚もないし、サイバー・ドラゴンの融合モンスターも一枚もないから意味ないけど、お前のデッキなら必須だろ」

 

「サイバー・ドラゴン・ツヴァイ!? 見せてくれ!」

 

 亮は驚いたようにサイバー・ドラゴン・ツヴァイを凝視する。目はメラメラと燃えていて真剣そのものだ。やはりサイバー・ドラゴン系列のカードには目が無いのだろう。

 

「墓地ではサイバー・ドラゴンとして扱い、相手に手札の魔法カードを見せることでサイバー・ドラゴンとして扱うカードか。これがあればサイバー・エンドへ繋げるのが更に楽になる。是非、交換してくれ!」

 

「交渉成立だな、ほいツヴァイ三体」

 

「ありがとう」

 

 笑いながらお礼を言う亮。

 ここまで喜ばれると丈としても交換した甲斐があったというものだ。サイバー・ドラゴン・ツヴァイも丈の下で他のカードと共に埋もれているよりも、サイバー流の継承者である亮のデッキにいた方が幸せだろう。

 

「それと丈、一つ気になったんだが」

 

「ん?」

 

「どうして強欲な壺が入ってないんだ。お前のデッキには冥界の宝札というドローソースはあるが、それでも強欲な壺の汎用性は捨て難いだろう。強欲な壺が入っていないデッキはデッキではない、という格言もある」

 

「あぁー」

 

 そういえばこの世界ではドローカードの代名詞ともいえる強欲な壺は禁止カードではなく制限カードだった。つい元の世界でのカードプールが抜けきってないのか、ついつい天使の施しや強欲な壺なんていうカードを無意識に抜いていてしまっていたが、この際入れてみるのも良いかもしれない。

 亮の言う通り冥界の宝札というドローソースがあるとはいえ、ほぼ確実に手札に+1できる強欲な壺はかなり魅力的だ。天使の施しは強欲な壺と違って手札が+1される訳ではないが、三枚ドローによるデッキ圧縮と二枚捨てる墓地肥やしを行えるのは強力だ。

 

(うーん、強欲な壺はまだしも苦渋の選択とかはなぁ。かなりの壊れカードだし、入れると色々アレだし。だけど原作キャラのチートドローは凄いわけで……)

 

 壺と天使を入れるくらいは元の世界のOCGファンも許してくれるだろう。そう願いたい。他にも強力なドローソースと鳴りうるメタモルポットでも入れようと密かに決意してから、カードの束から強欲な壺と天使の施しを取り出してデッキに入れる。

 と、その時。唐突にドアが開いた。

 

「お兄さん、帰ってたんスか。……あれ、そっちの人は?」

 

 亮よりも年下の、眼鏡をかけた少年が丈のことを見て首をかしげる。

 お兄さん、という第一声からして間違いなく彼が亮の弟の丸藤翔だろう。

 

「彼は宍戸丈、俺の友人だよ。カードについて話をしていたんだ。丈、紹介しよう。俺の弟の翔だ」

 

「宜しく、あー翔くん」

 

「こ、こっちこそ丸藤翔っス! お兄さんの弟やってるっス!」

 

 知らない人間と会った緊張からか、ややしどろもどろに翔が挨拶をしてきた。 

 うん。口調といい髪形といい確実に自分の知る丸藤翔だ。使用デッキはビークロイドを中心としたものだったはず。

 

「弟さんが帰ってきたみたいだし、俺ももう帰るよ」

 

 良く見ればもう五時だった。

 中高生ならまだしも今の自分は小学六年生。暗くなったら帰らなければならない。

 

「そうか。また今度デュエルをしよう。お互いに調整し直したデッキで」

 

「喜んで。次は勝つからな」

 

「フ、次も勝ってみせるさ」

 

 最初は原作キャラだと思って馬鹿みたいに身構えてしまったが、実際に話してみると自分と何も変わらないただの人間で安心した。

 丈は亮と次のデュエルの約束をしてから自宅へと戻っていった。



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第6話   恋する乙女登場ナリ

 夏休みというのは素晴らしい。

 改めて宍戸丈はそう実感する。

 中高生で野球部などの厳しい部類に属する部活動に所属すれば夏休みなど平常授業よりも地獄の日々になったりするが、小学生ではそんな地獄とも無縁だ。

 明日も明後日も、明々後日もその次の日も来週も再来週もずっと休日。ビバ夏休み、ジーク・夏休み。エンドレス・サマー。

 丈の場合、お受験ママのせいで完全なフリーとはいかないものの、親の目を忍んではつい最近知り合った未来のカイザーこと亮と一緒に遊んだりデュエルをしたりしている。というより会うと直ぐにデュエルを申し込まれる。亮も大概にしてデュエル馬鹿だ。

 だがこの世界でも屈指のデュエリストである亮と何度も戦ってきたお蔭で、自分のデッキやタクティクスも自然と洗練されていったのは良い意味で想定外だ。しかもサイバー流の後継者と互角に戦える唯一の同年代ということで、ここら辺では少しばかり名が知れるようになってしまった。

 太陽がキンキンと光り、気温も30℃の夏真っ盛りの今日も、何時も行くカードショップの前で亮と約束をしたところだ。

 

「ううーん、やっぱりカードショップの中は良いなぁ、涼しくて」

 

 自販機で買ったコーラをごくごくと飲みながら丈が言う。

 カードショップから一歩でも外に出れば皮膚を焼くような暑さに晒されるが、カードショップの中は一転して天国だ。冷房というものを開発した人はノーベル賞を貰ってもいいと思う。誰が作ったのかは知らないが。

 

「相変わらずだな、お前は。……それより、そっちのターンだぞ」

 

「ん、おぉ!」

 

 丈はカードが並べられたテーブルへ向き直る。

 二人がやっているのはデュエルディスクによるソリッド・ビジョンを使ったデュエルではなく、普通に立体映像もなしにテーブルの上でやる昔ながらのデュエルだ。

 カードショップのデュエルディスクを使ったデュエルのための広いデュエル場が埋まっているから、こうしてテーブルに座ってやっているわけだが、これはこれでいいものだ。ソリッドビジョンのデュエルと違いリアリティーはないが、落ち着いてじっくりとデュエルに集中できる。

 

「バトルフェイズ。バルバロスでサイバー・ドラゴンにアタック、これ通るか?」

 

「残念だが次元幽閉だ。バルバロスは除外させて貰うぞ」

 

「うげっ!」

 

 ソリッドビジョンならバルバロスが次元の裂け目に吸い込まれていく映像が出たんだろうな、と想像しながら丈はバルバロスをデッキの直ぐ真横に置く。

 

「あー、もう俺の手札ゼロだしやることないわ。ターン終了」

 

「ドロー。スタンバイ、メインフェイズ。サイバー・ドラゴン・ツヴァイ召喚。手札のパワー・ボンドを見せてカード名をサイバー・ドラゴンに。パワー・ボンドを発動、サイバー・ツイン・ドラゴン召喚。パワー・ボンドで攻撃力が二倍になったサイバー・ツイン・ドラゴンでバルバロスを攻撃」

 

「負けたァー!」

 

 参ったというジェスチャーを全身で表現するためバンザイのポーズをする。流石カイザー、強い。サイバー流積み込み……もといスーパードロー術はテーブルに座っても衰えなかった。

 これで通算六戦二勝四敗、三分の一の勝率である。

 

「さっきもそうだけど……いきなり初期手札にサイバー・ドラゴン二枚とパワー・ボンドってなんだよ。ダメージ回避用のサイバー・ジラフのおまけつきで」

 

「デッキを心から信頼しリスペクトすれば、デッキの方から応えてくれるものだ」

 

「マジで?」

 

 自分もこれを期にカードと一日中睨めっこでもしてみようか。そうすれば多少なりともデッキとの信頼関係というやつが芽生えるかもしれない。

 

「だけどアレだよな。お前にサイコ・ショッカーなんて上げたせいで、カウンター罠が軒並み封じられて、サイクロンで冥界の宝札を破壊されるわで散々だよ。サイバー・ドラゴン・ツヴァイのせいでぽんぽんサイバー・エンドが飛び出すし」

 

「お前のバルバロスによる一掃も負けず劣らず凶悪だと思うがな。サイコ・ショッカーにしても直ぐ最上級モンスターで戦闘破壊してくるじゃないか。虚無の統括者で特殊召喚を封じられたこともあった」

 

「虚無の統括者にバルバロスとアスモディウスがある状態で勝つお前は凄いよホント」

 

 月の書で虚無の統括者を裏側守備にして効果を一時封印してからの、融合、サイバー・エンドの流れを喰らった時は冗談抜きで目が点になった。

 一つ分かった事は相手のライフを100とか200とか中途半端に追い詰めるのは負けフラグということである。後腐れなくしっかりライフをゼロにしないと安心できない。ライフがゼロになっても死なない満足先生もいるがそれは一先ず置いておく。

 ちなみに虚無の統括者とは相手の特殊召喚を封じる効果をもつ最上級モンスターだ。同じ特殊召喚メタで上級モンスターの虚無魔人と違い最上級モンスターなので二体の生贄が必要だが、虚無魔人と違い封じるのは相手の特殊召喚のみなので、自分側は特殊召喚だろうと融合召喚だろうとやり放題である。融合を多用する亮のデッキには相性が悪いカードの一枚だ。

 そんな感じで負ける事が多い丈だったが、勝ち星もそこそこはある。一度、サイバー・エンドとキメラティック・オーバー・ドラゴンが並んでいる相手フィールドをバルバロスで一掃してからの直接攻撃を決めた時は快感だった。

 豪快なカードは中々上手く決まることはないが、それが決まった時は最高に気分が良い。

 そうやって話していると、ショップの奥から男の怒鳴り声が響いてきた。

 

「あ~ん、お子ちゃまが何の用だぁ~。ここは子供が来るところじゃねえんだぜ」

 

「餓鬼はママのおっぱいでもチューチューしてな!」

 

 ※カードショップは子供が来る場所です。

 

「で、でもボクはこのカードが欲しくて……お小遣いを溜めて、やっと……」

 

「小遣いだァ! ははははっ、下らねえんだよ! ふざけんな畜生がよぉおおお! 俺なんか小遣い、全部うちの糞婆に持ってかれたんだぞコラ! 大人になったら返すとか言ってたけどよ、その金でブランド物のバックを買ってたのを俺は見逃さなかったんだよ畜生ォ!」

 

「許せねえな。許せねえだろ? だからテメエの小遣いは俺が没収するぜ! 餓鬼が小遣い貰っちゃいけねえんだよ! 俺達のようにな!」

 

 アフロとリーゼントの不良と、それに絡まれる小学一年生か休学前くらいの子供。ズボンを穿いているので見た目だけでは男の子か女の子か判別することは出来ない。

 

「――――――おい、行くぞ。丈」

 

「おォ! ……ってちょっと待て。え?」

 

 子供に絡んでいる不良は着ている学生服といい体格といい明らかに高校生だ。

 対して自分と亮は小学六年生。未来でヘルデュエルだとかヤンチャしていた亮も今はまだ軟な子供の筈。先ず勝てる相手ではない。ここはクールな対応として警察を呼ぶと言うのがベターだと思うのだが、そう説得する前に亮は不良二人組のところまで丈の手を引いてずんずんと来てしまっていた。

 

「止めろ!」

 

「あぁん?」

 

 力強い亮の言葉が不良たちに突き刺さる。不良は警察かと思ったのか一瞬顔を強張らせたものの、亮が子供だと分かるや爆笑し出した。

 

「ぎゃはははははははっはははははは! なにかと思えば餓鬼を守るために餓鬼登場ってか! 最近の餓鬼は連帯感強いなぁ~、おい!」

 

「カードショップは皆が楽しむべき場所だ。年齢制限などない筈だ」

 

「あるんだよ! 今俺が決めた! いいかよ餓鬼ぃ! 餓鬼は年上に従わなけりゃいけねぇんだよ! 年上が死ねって言や死なないといけないのが人間社会の道理ってやつだろうが!」

 

「そうだそうだ!」

 

「道理に合わない。お前達、デュエルディスクを付けている事はデュエリストなのだろう。暴力で子供にデュエルさせることを妨害するなどデュエリストのすべきことではない」

 

「んだとゴラァ!」

 

 ヒートアップする亮と不良二人組の言い合い。

 その陰で丈は絡まれていた子供を安全な場所へと非難させていた。

 

「あぁー、大丈夫? 怪我とかない?」 

 

「うん。ボクはいいけど……あの人が」

 

 亮は小学生ながら真っ直ぐに高校生の不良と相対していた。

 何故か崖の上にあるサイバー流で修行してきたそうなので、年齢こそ小学生でも肝っ玉は大人顔負けだ。

 

(うーん。俺は社長や牛尾さんみたくリアルファイトが強い訳じゃないから、不良二人相手は無理だな。一人ならまだしも……って俺今小学生の体だから一人でも無理だな。此処は善良な市民として一番適切な方法、警察への通報という手を――――――)

 

 ポケットからケータイを取り出し、110番を掛けようとしたその時だった。

 

「―――――――いいだろう。俺"達"とデュエルだ! 負けたらお前達はその子に謝って、二度とこのようなことをしないと誓え!」

 

「ほえ?」

 

 聞き間違いだろうか。

 さっき俺『たち』という不穏な言葉を聞いたような気がする。

 

「いいぜ。お前とそこの餓鬼ィ!」

 

 不良が亮と……物影に潜んでいた丈を指差す。

 

「年上の強さってもんを良くその身に教え込んでやるよ!」

 

 どうやら自分もあの不良のターゲットとしてロックオンされてしまったらしい。

 

「あのー、亮さん?」

 

「すまないな。お前まで勢いで巻き込んでしまった。勝つぞ、丈。あの二人にデュエリストとして当たり前のものを思い出させてやろう」

 

 聞く耳持たずとはこのことだ。

 この世界では何事においてもデュエル優先というのは知識として知っていたが、こうして実体験するとより深く理解できる。

 暴力的な解決よりはマシ、そう思うしかないだろう。

 やれやれと溜息をつきながらも、丈はデュエルディスクを装着した。久しぶりの亮以外とのデュエル、二重の意味で負ける訳にはいかない。




 この作品の設定あれこれ。

・このssはアニメ基準

・Rや漫画版GXを始めとしたストーリーはアニメ時系列で存在しないので、漫画版のカードは普通に一般で流通している

・三邪神やドラゴエディアなど特殊すぎるカードは非流通

・GX終了後に登場したサイバー・ドラゴン・ツヴァイ、レベル・スティーラーなども普通に流通

・シンクロないしエクシーズ関連のカードは非流通

・BFやシンクロンなどのカテゴリーに入っているカード群も非流通

・当たり前だけど地縛神や機皇帝も非流通

・チューナーモンスターは特殊イベントをこなした後に使用可能となる可能性あり

・GXアニメ本編が終了するとシンクロモンスターが解禁になるかも

・青眼の白龍は世界に四枚

・トゥーンはペガサスしか持ってない

・カード効果は基本OCG遵守で満足

・例外としてバブルマンやスカイスクレイパーなど使用率の高いカードはアニメ効果で満足できる

・神のカードは原作効果、ラーが最高神で満足できる。ヲーなんてなかった

・邪神のカードも漫画効果なので、罠とモンスター効果無効で満足できる

・バトルシティでのルールを基本にファイヤーボールなどといったカードは禁止なので不満足

・フルバーンは出来ないのでロックバーンで満足するしかない

・鬼畜烏と混沌帝龍は禁止カードなので満足できる

・D-HEROはエドしか持ってないのでエドで満足するしかない

・ネオスとかは十代が宇宙にいかないと出てこない

・強欲な壺と天使の施しは制限カードなので満足なドローができる

・未来融合は制限カード扱いなのでFGDも満足できる

・ついでにTFキャラは登場せず(TFを知らない方は満足できないと思うので)

・初代キャラは普通に出るので満足できる

・蟹パパなど5D'sの親世代は登場するかもしれないので満足


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第7話   ルールというものは大切ナリ

「オラオラ! ビビッてんのかゴラァ! 掛かってこい糞餓鬼ィ!」

 

 本人主観で格好よくリーゼントに決めた昭和風味な不良がデュエルディスクを装着しながら、指をクイクイと曲げてこちらを挑発してくる。

 それを丈はため息交じりに眺めていた。

 ハッキリ言って丈は暴力的なことは苦手である。人間平和が一番、話し合いでの解決最高という人種だ。なので殴り合いの喧嘩ではないにしても、このような喧嘩一歩手前のデュエルは御免蒙りたいところなのだが、見た限り相手は見逃してくれそうな雰囲気ではない。

 やるしかないだろう。

 もしも負けたら何をされるか分かったものではない。

 

「どうしてこうなったんだか……デュエルで終わるなら、まだいいけどっと」

 

 少なくとも普通の喧嘩に比べればデュエルの方が百倍マシだ。

 デュエル優先のこの社会に多少の感謝を送りつつ、不良A(仮名)と対峙した。向こう側ではすでに亮と不良Bがデュエルを開始している。

 

 

 

『デュエル!』

 

 

 宍戸丈 LP4000

 不良A  LP4000

 

 

 

 そして丈と不良Aとのデュエルも開始された。

 この世界での先行後攻はジャンケンではなくデュエルディスクがオートで決める。ピカッと先行を伝えるランプが光ったのは丈の方。よって先行は丈からだ。

 

「俺の先行、ドロー」

 

 悪くない手札だ。

 初期手札に冥界の宝札、レベル・スティーラー二体、終焉の焔、闇属性最上級モンスターが一体が揃っている。カウンター罠はなかったが代わりに攻撃反応型トラップの代名詞的カードでもあるミラーフォースもあった。

 

「俺はモンスターをセット、更にリバースカードを二枚セットしターン終了」

 

 次の相手ターンのエンドフェイズ時、終焉の焔を発動させフィールドに二体のトークンを出現させ、続く自分のターンで冥界の宝札を発動してからの最上級モンスターの召喚で二枚のドローが出来る。

 予期せぬほどのダメージもミラーフォースが防いでくれるだろう。まずまずのスタートだ。亮と何度もデュエルしたお陰か、多少は自分にもツキというやつが芽生えてきたらしい。

 

「へへへっ……」

 

 しかし不良Aのニヤニヤ笑いが不気味だった。そこに敗北への恐れは一切ない。年下の餓鬼に負けるなどこれっぽっちも思ってないのか、それとも余程自分のデッキに自信があるのか。

 意気揚々と不良Aがデッキトップに手をかける。

 

「テメエは俺には勝てねえ! 俺様のデッキは無敵なんだよ! ドロー! 見せてやらァ! 俺のデッキの恐さを! 俺は手札より魔法カード発動するぜ、サンダー・ボルト!」

 

「な、なんだってッ!?」

 

 一瞬目を疑う。

 しかし不良Aのフィールドに現れたのは確かにサンダー・ボルトのカードだった。カードテキストにもサンダー・ボルトと記されている。

 

 

【サンダー・ボルト】

通常魔法カード

相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

「そんなアホな! そのカードは禁止カードに指定されてるのに……」

 

 サンダー・ボルトがどうして禁止カードに指定されているか、そんなことはカードの効果を見れば一目瞭然だろう。

 相手フィールド上のモンスターを問答無用に一掃する恐るべき力。裏側守備表示だろうと攻撃力が10000だろうと関係ない。このカードの発動に成功すれば、相手のフィールドは焼野原必至。しかも類似する効果をもつブラック・ホールと違いサンダー・ボルトは相手フィールドにしか効果が及ばない為、デメリットは無いに等しいといえるだろう。

 その危険性からプレイヤーへの直接攻撃魔法、混沌帝龍、八汰烏と同様にこの世界でも禁止カード認定されている。

 

「ひゃははははははははは! 見たかよ禁止カードの威力ってやつをよぉ! テメエのモンスターが何も出来ずに黒焦げだぜ!」

 

「る、ルール違反だぞ! 禁止カードを入れるなんて!」

 

「五月蠅え! 俺がルールだ、続いてハーピィの羽根箒発動!」

 

 

【ハーピィの羽根箒】

通常魔法カード

相手のフィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

 

 

 サンダー・ボルトに続いて再び禁止カードだった。

 禁止デッキの名は嘘ではないのだろう。不良Aのデッキは禁止カードの巣窟となってる筈だ。

 緑色をした羽根が突風を巻き起こし丈の伏せていたカード達を破壊していく。しかし、全てを破壊させる訳にはいかない。

 

「この瞬間、速攻魔法発動。終焉の焔、場に二体の黒焔トークンを出現させる」

 

 

【終焉の焔】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」

(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。

 

 

 ハーピィの羽根箒にチェーンして発動された終焉の焔は、カードテキスト通り丈のフィールドに黒焔トークンを特殊召喚した。ミラーフォースは破壊されてしまったが、止むを得ない。

 

 

「はん、そんな雑魚恐かねえよ! 俺は永続魔法、魔力倹約術発動!」

 

 

【魔力倹約術】

永続魔法カード

魔法カードを発動するために払うライフポイントが必要なくなる。

 

 

「ククククッ、これで俺はコスト踏み倒しができるぜぇ! この意味分かるかよ? 俺はライフコストを要求する禁止カードを無制限に使用できるってこった!」

 

「……くそっ」

 

 流石に丈としてもこんな展開は予想外だった。

 強欲な壺、天使の施しが制限カードのままでGX放送終了後に出たカードも普通に販売されていたことから、カードプールが元の世界と随分と違うというのは理解していたつもりだ。この世界における禁止・制限リストもしっかりと暗記した。

 だが、まさかこれほど大っぴらに禁止・制限を無視してくるような奴がいるとは思わなかった。

 

「喰らいやがれ! 俺はいたずら好きな双子悪魔を使うぜ!」

 

 

【いたずら好きな双子悪魔】

通常魔法カード

1000ライフポイントを払って発動する。

相手は手札をランダムに1枚捨て、さらにもう1枚選択して捨てる。

 

 

「単純な破壊系の禁止カードだけじゃなくて、ハンデス系の禁止カードまで……。インチキも大概にしろ!」

 

「あぁン? 聞こえんなぁ~~」

 

 嘗て猛威を振るったハンデス三種の神器。

 その一つが今不良Aの使用した「いたずら好きな双子悪魔」である。1000ポイントのライフコストを要求するものの、手札一枚の消費で確実に相手の手札を二枚減らせるという効果を供えているカードだ。手札がゼロになることで有利になる一部のデッキを除き、手札の枚数は戦局を左右するほど重要なものである。それが二枚減らされるというのはかなりの痛手だ。

 

「最初はランダムだ。俺は一番右のカードを選択するぜ。さぁ、カードを墓地に捨てな餓鬼ぃ!」

 

「冥界の宝札が……」

 

 貴重なドローエンジンは無残にも墓地へと送られてしまった。しかし次に捨てるのは丈が自分で選択できる。丈は手札にもう一枚あったレベル・スティーラーを墓地へと送る。

 これで墓地にはレベル・スティーラーが二枚。レベル6以上のモンスターがフィールドにいれば即座に二体分の生贄を用意できる環境が整ったが、丈のフィールドはサンダー・ボルトとハーピィの羽根箒のせいで焦土と化していた。

 

「さて……これで攻撃してもいいんだが、まだ俺のハンデス地獄は終わらねえぜ。俺は再び魔法カード、強引な番兵を発動!」

 

 

【強引な番兵】

通常魔法カード

相手の手札を確認し、その中からカードを1枚デッキに戻す。

 

 

「また禁止カード!? ああもう、こんなのデュエルじゃないぞ! ふざけんな!」

 

 禁止カードが何故、禁止とされているか。それはカードゲームのみならずゲームである以上絶対に守らなければいけないもの、ゲームバランスを壊してしまうからだ。そんなバランスを崩壊させる禁止カードをこれでもかと大量投入したデッキ。それはもうデッキであってデッキではない。

 

「はん! 餓鬼が偉そうに説教たれてんじゃねえよ。デュエルなんざ勝ちゃいいんだよ、勝てば! さぁ、テメエの手札を見せな!」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、残り一枚の手札を晒す。

 

「堕天使アスモディウス――――闇属性の最上級モンスターか。危ねえ危ねえ、放置してりゃ厄介なモンスターが呼ばれるところだったぜ。だがそいつはデッキに逆戻りだ、あばよ」

 

 丈は堕天使アスモディウスをデッキに戻すとシャッフルする。どうにか怒りを抑えていたが、本心では今すぐ不良Aの顔面を殴り飛ばしてやりたい気分だった。

 自分は暴力反対の平和主義人間だと思っていたが、ひょんなことで思わぬ凶暴性というものを発見してしまった。

 

「そして俺はここでモンスター召喚。同族感染ウィルス!」

 

 

【同族感染ウィルス】

水属性 ☆4 水族

攻撃力1600

守備力1000

手札を1枚捨てて種族を1つ宣言する。

自分と相手のフィールド上に表側表示で存在する宣言した種族のモンスターを全て破壊する。

 

 

 あのデッキに入っている禁止カードは魔法カードだけではなかったようだ。モンスターにも禁止カードが採用されているらしい。

 かなりレア度が高い混沌帝龍はまだしも、手に入れるのは簡単な八汰烏は入っていると考えておくべきだろう。

 ふわふわとオレンジ色をした球体状のものが浮かんでいる。アレがウィルスなのだろう。しかしその脅威のウィルスも不良Aの手札がゼロ枚なので、なんら効果を発揮しないが。

 

「同族感染ウィルスで黒焔トークンを攻撃するぜ! 死になトークン!」

 

 トークンが一体破壊されてしまう。

 終焉の焔のお蔭でどうにかダメージを受けるのは免れた。相手が最初にサンダー・ボルトではなくハーピィの羽根箒を発動していたのならこうはいかなかった。

 考えるにあの不良は禁止カードの大量投入でデッキの火力は上等になっているが、肝心のタクティクスの方は未熟なのだろう。

 丈の勝機はそこにある。

 

「ターン終了だ。おらよ、テメエのターンだ。精々抵抗しやがれ! 俺には勝てねえだろうがよぉ」

 

 



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第8話   友の壁ナリ

宍戸丈 LP4000 手札0枚

場 黒焔トークン

伏せカード0枚

 

不良A LP4000 手札0枚

場 同族感染ウィルス

伏せカード0枚

 

 

 

「……俺のターン、ドロー。……リバースカードを一枚セット、ターンエンド」

 

「はは、はははははははは! 禁止デッキに為す術もねえかよ! 俺のターン、ドロー! 強欲な壺発動。デッキから二枚ドロー。おまけに天使の施し! 三枚ドローして二枚捨てる」

 

 流れるような強欲な壺と天使の施しの同時使用。

 ここまではこの世界ならなんら違反行為ではない。そう、ここまでは。

 

「ひゃはははは、俺はもう一枚。天使の施しを発動するぜ!」

 

(やはり)

 

 あのデッキ、禁止カードを投入しているだけではない。

 禁止カードや制限カードを二枚ないし三枚は投入しているようだ。

 

「続いて強欲な壺二枚発動! 四枚ドローだ! どうだ餓鬼ぃ! これで俺の手札は一枚から一気に四枚! こっからは俺のコンボで瞬殺だ! 俺は死者蘇生を発動、天使の施しで墓地に送ったネフティスの鳳凰神を蘇生!」

 

 

【ネフティスの鳳凰神】

炎属性 ☆8 鳥獣族

攻撃力2400

守備力1600

このカードがカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、

次の自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。

この効果で特殊召喚に成功した時、フィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する。

 

 

 黄金の体毛の鳳凰がフィールドに召喚される。

 レベル8の最上級モンスターで効果も強力だが、肝心の攻撃力の方は2400。やや頼りないものだった。

 

「いくぜェ! 俺は同族感染ウィルスを生贄にデーモンの召喚を出すぜ!」

 

 

【デーモンの召喚】

闇属性 ☆6 悪魔族

攻撃力2500

守備力1200

 

 

 ふわふわと浮かんでいたウィルスが弾け、雷鳴と共に一体のデーモンが場に出現した。デュエルモンスターズ初期から環境を支え続けた好カードの一つ、デーモンの召喚。

 

「こいつで死ね! ネフティスの鳳凰神で黒焔トークンを攻撃だぜ!」

 

 鳳凰神から吐き出された炎にトークンが吹き飛ぶ。

 これで丈のフィールドからモンスターが消えた。無防備な丈を続くデーモンが襲う。

 

「ははははははっ! デーモンで直接攻撃、魔降雷!」

 

「その攻撃は通させない! リバースカードオープン! トラップモンスター、メタル・リフレクト・スライム!」

 

「と、トラップ・モンスター?」

 

 

【メタル・リフレクト・スライム】

永続罠カード

このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、

自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。

このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)

 

 

 デーモンと丈の間に召喚されたスライムが割って入る。

 守備力3000の壁モンスターを前にしてデーモンは攻撃を停止した。

 

「畜生! デーモンの攻撃力は2500……スライムに届かねえ。へ、はははははは! だけどそれも俺が次のサンダー・ボルトを引くまでのことだ。俺はタイム・カプセル発動!」

 

 

【タイムカプセル】

通常魔法カード

自分のデッキからカードを1枚選択し、裏側表示でゲームから除外する。

発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを破壊し、

そのカードを手札に加える。

 

 

「本来なら教える必要はねえが教えてやるぜ。俺が選択したのはサンダー・ボルト! これで二ターン後にテメエは死ぬ。そして! 俺は光の護封剣を発動!」

 

 

【光の護封剣】

通常魔法カード

相手フィールド上のモンスターを全て表側表示にする。

このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。

このカードがフィールド上に存在する限り、

相手フィールド上のモンスターは攻撃宣言できない。

 

 

 丈のフィールドに三本の光の剣が落ちてくる。

 これで丈のターンで数えて3ターン、攻撃そのものが封じられた。

 

「こいつで万が一お前が逆転のモンスターを召喚したとしても何も出来ねえ。俺はターンエンドだ。オラオラ、俺の場のモンスターを倒せるもんなら倒してみやがれ!」

 

 

 

宍戸丈 LP4000 手札0枚

場 メタル・リフレクト・スライム

伏せカード0枚

罠 メタル・リフレクト・スライム(罠モンスター)

 

不良A LP4000 手札0枚

場 デーモンの召喚、ネフティスの鳳凰神

伏せカード0枚

魔法 タイムカプセル、光の護封剣

 

 

 

「……俺のターン」

 

 悔しいが不良Aの言う通りピンチだ。

 タイムカプセルは封印の黄金櫃と違いフィールドに残り続けるため、サイクロンなどで破壊されればサーチしようとしたカードは除外されたままになるというデメリットがある。しかし丈の手札はゼロ。タイムカプセルを破壊できるカードはない。

 よしんばタイム・カプセルを破壊できたとしても、メタル・リフレクト・スライムが除去されればモンスターの総攻撃で一貫の終わりだ。

 次のドローに全てが懸かっている。亮は言っていた。デッキを心から信頼すれば答えてくれる、と。ならば自分もデッキというやつを信頼してみよう。それでどうなるかは分からないが。

 

「ドロー!」

 

 引いたカードを見て肩を落とす。

 人生は儘ならないもの。そう思っていたが……偶には例外もあるらしい。

 

「――――――きたよホントに」

 

「あぁン、なにが来たって?」

 

「それはこれから分かる。俺は墓地のレベル・スティーラーの効果発動。レベル5以上のモンスターのレベルを一つ下げることで墓地から特殊召喚出来る。俺はレベル10のメタル・リフレクト・スライムのレベルを二つ下げ、二体のレベル・スティーラーを特殊召喚!」

 

 

メタル・リフレクト・スライム レベル10→8

 

 

【レベル・スティーラー】

闇属性 ☆1 昆虫族

攻撃力600

守備力0

このカードが墓地に存在する場合、自分フィールド上に表側表示で存在する

レベル5以上のモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。

このカードは生贄召喚以外のためには生贄にできない。

 

 

「これで俺の場に三体のモンスターが揃った。俺は三体を生贄に、出でよ! 従属神の一体! 神獣王バルバロス!」

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 

 雄叫びを挙げながら半人半獣の獣人が召喚される。

 手には巨大な槍。ライオンの鬣を靡かせながらバルバロスは力強く咆哮した。

 

「バルバロスの効果、三体の生贄でこのカードを召喚した時、相手フィールドを全滅させる!」

 

「は、はぁあああああ!?」

 

「最初のターンのお返しだ。今度はお前が焼野原だ、消えろ!」

 

 バルバロスが槍を地面に突き刺すと、不良Aのフィールドが地面に呑まれていく。ネフティスの鳳凰神やデーモン、そして光の護封剣やタイムカプセルまで丸ごと吹き飛ばした。

 

「お、俺のフィールドがぁ~~!」

 

「再度、レベル・スティーラーの効果を発動。バルバロスのレベルを二つ下げ、フィールドに攻撃表示で特殊召喚する」

 

 

神獣王バルバロス レベル8→6

 

 

「二体のレベル・スティーラーの攻撃力は600。バルバロスは3000。その攻撃数値は」

 

「よ、4200ポイント!?」

 

「フィニッシュだ。二体のレベル・スティーラーとバルバロスの直接攻撃、コンビネーション・シェイパー!」

 

「ぎゃああああああ!」

 

 バルバロスの槍とレベル・スティーラーの突進が不良Aを直撃する。

 断末魔をあげながら不良Aは地面に沈んだ。

 

 

 不良A LP4000→0

 

 

「お、覚えてろよ!」

 

 どうやら亮の方も終わったらしい。

 不良Bが不良Aを助け起こすと、そのまま二人仲良く走り去っていく。

 禁止カードのオンパレードには肝が冷えたが、蓋を開けてみればライフは無傷でワンターンキル達成、上々の結果といえる。 

 

「そっちも大丈夫だったようだな」

 

 ポンと亮が肩に手を置いてくる。

 丈は多少口をとがらせながら言う。

 

「大丈夫だったようだな、じゃないっての。勝手に俺まで巻き込んで……」

 

「お前ならあんな不良には負けない、大丈夫だと信頼していたからな。これもリスペクトデュエルの精神だ」

 

「そうなの!?」

 

 最近何がどうリスペクトなのかよく分からなくなってきた。

 もしかして亮は天然なのだろうか。

 

「あ、あの!」

 

 そうして二人で話していると、不良に絡まれていた子供が緊張気味に口を開いた。

 どうやら健気にも逃げずに丈たちのデュエルを見ていたらしい。

 

「ボク……じゃない私、早乙女レイって言います! 今日は本当にありがとうございましたっ! 宜しかったらお名前を聞かせてください」

 

「…………えっ?」

 

 早乙女レイ、その名前が脳内に伝わると丈はぽかんと間抜けに口を大きく開いた。

 聞き間違いではない。早乙女レイ、下から読んだらイレメトオサ。原作で年齢を偽ってまでアカデミアに乗り込んできた恋する乙女、あの早乙女レイだというのか。

 

「礼などいらない。デュエリストとしての義務を果たしたまでだ。俺は丸藤亮、この近くに住んでいる」

 

 ポカンとなっている丈をスルーして、亮が自分の名をレイに告げた。

 もし丈の推理が正しければ、これが原作のレイが亮に惚れた切欠なのだろう。

 

「亮……さま。覚えました! で、そっちの方は……」

 

 レイが次は自分の方を見ている。亮も急かす様に小突いてきたので流れに押されるように丈も自分の名前を教えた。

 

「亮様に……丈様……覚えました! そ、それじゃあ何時かお礼をしにいきますね!」

 

 そう言ってレイはドタバタと走って行ってしまった。

 亮は「年の割に礼儀正しい子だな」なんてのんびり年寄りみたいな発言をしていたが、丈は去り際のレイの耳がピンク色に染まっていたのを見逃さなかった。

 

「どうしたんだ丈、変な顔をして?」

 

「いや……これが将来、ああなってこうなって……またああなるんだなぁと歴史を感じて」

 

「?」

 

 キョトンとする亮。

 まさかこの時期にレイとエンカウントするとは思わなかったが、まさかこんなことで歴史が変わったりはしないだろう。そう信じたいものだ。 



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第9話   将来の夢はデュエルモンスターズのプロ選手ナリ

 カードショップの一件以来、レイの両親に頼まれて偶にレイの面倒を見るようになった。

 レイの両親によると、レイはいつもこっそり黙ってカードショップに行っては、顔も知らない誰かと頻繁にデュエルをしているらしい。この世界ではデュエル=コミュニケーションというような方程式はあるにはあるが、まだ五歳の女の子が見知らぬ相手とデュエルというのは親からすれば心配なのだろう。

 そこでレイの両親達はレイと面識もあり、信用も出来る丈と亮にカードショップへ連れて行くのと頼んだという訳である。

 今日もレイと一緒にカードショップでデュエルをしたのだが、

 

 

 

丸藤亮 LP4000 手札三枚

場 無し

伏せカード0枚

早乙女レイ LP300 手札0枚

場 サイバー・ツイン・ドラゴン、恋する乙女

伏せカード0枚

魔法 キューピット・キス

 

 

 レイのフィールドには一定条件が揃えば相手モンスターのコントロールを奪う事が出来る恋する乙女。そして恋する乙女の効果によりコントロールを奪ったサイバー・ツイン・ドラゴンがいる。

 対する亮のフィールドはゼロ。

 一見すると亮の不利だが、両者の表情を見比べればどちらが追いつめられているのかなど一目瞭然だった。亮のサイバー流デッキのもつ爆発的火力ならばこの状況を打開するなど一枚のカードがあれば事足りる。 

 

「俺は手札からオーバー・ロード・フュージョン発動!」

 

 

【オーバー・ロード・フュージョン】

通常魔法カード

自分フィールド上・墓地から、

融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを

ゲームから除外し、闇属性・機械族のその融合モンスター1体を

融合召喚扱いとして融合デッキから特殊召喚する。

 

 

「カードテキストに記載された融合素材モンスターをゲームから除外、そのモンスターを素材とする闇属性機械族融合モンスターを特殊召喚する。俺は墓地のサイバー・ドラゴン、プロト・サイバー・ドラゴン、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ、サイバー・フェニックス、サイバー・ヴァリー、サイバー・ラーヴァを除外! キメラテック・オーバー・ドラゴンを召喚っ!」

 

 

【キメラテック・オーバー・ドラゴン】

闇属性 ☆9 機械族

攻撃力?

守備力?

「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが融合召喚に成功した時、

このカード以外の自分フィールド上に存在するカードを全て墓地へ送る。

このカードの元々の攻撃力・守備力は、

このカードの融合素材としたモンスターの数×800ポイントになる。

このカードは融合素材としたモンスターの数だけ

相手モンスターを攻撃する事ができる。

 

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力・守備力は融合素材モンスターの数×800の数値となる。俺が素材としたモンスターは六体! よってキメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は4800ポイントッ!」

 

 六つの首をもつ機械のドラゴンが嘶きながらレイを威嚇する。

 光属性であるサイバー・エンドとは真逆の闇属性の融合モンスター、キメラテック・オーバー・ドラゴン。丸藤亮の奥の手。

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンで恋する乙女を攻撃、エヴォリューション・レザルト・バースト、ルォクレンダァ!」

 

「きゃぁあ!」

 

 

 早乙女レイ LP300→0

 

 

 攻撃力4800の六連続攻撃を受け元々300だったレイのライフが一気にゼロとなる。明らかにオーバーキルだった。恋する乙女は戦闘で破壊されない効果をもつ上に、攻撃表示なのでキメラテック・オーバー・ドラゴンにとっては絶好のカモである。レイのライフが8000でもこの攻撃でワンキルされていただろう。

 

「俺の勝ちだ、レイ」

 

 腕を組みながら亮がそう宣言する。

 一つの役目として丈は思いっきりその頭をひっぱ叩いた。頭をどつかれた亮が驚いたように振り向く。

 

「なにをする?」

 

「アホか! 相手はまだ小学生に入る前の子供だぞ! 本気で叩き潰す馬鹿がいるか!」

 

「し、しかし! リスペクトデュエルの精神とはデュエルの勝ち負けよりも、お互いに全力を出す事を目的とした思想。手加減を是とする思想ではない。俺はその教えの通り全力を出したまでだ」

 

「それでもやり過ぎだろ! キメラテック・オーバー・ドラゴンはないだろう、キメラテックは。アレは未来の闘技場でガチムチのアンチ機械族のスライム野郎にでもやってりゃいいんだよ!」

 

「やけに具体的な例えだな」

 

 その時、街の中のどこかにある地下闘技場で一人のガチムチがクシャミをしたがどうでもいいことである。今後そのガチムチがどうなるかは亮がヘルカイザーになるかならないかで決まるのだろう。

 

「兎も角だよ。全力を出すのも良いけど……なんていうか偶には手加減も必要だと思うんだよ俺は。そりゃ普通のデュエルで全力を出すのは当たり前田の缶コーヒーとしても、入門したての入門生を全力で叩き潰す黒帯の師範とかいないだろ! …………たぶん。道場だとか良く分かんないけど。あぁつまり! 俺が言いたいのは唯一つ! 少しは手加減を覚えろ!」

 

「俺も出来る限りはやろうとしているんだが、デュエルディスクを構えて相手と相対すると気付けば本気を……」

 

「お前、絶対に教師にならない方がいいよ」

 

 こんなのがもし仮にデュエルアカデミアの講師になりでもしたら、生徒の自信というものを根本からポッキリ折る事間違いなしだ。

 鋼のメンタルをもつ生徒でなければ耐えられないだろう。

 

「わ、私なら大丈夫ですよ! 寧ろ亮様に本気で相手してもらえるなんて光栄です!」

 

 レイが慌てて亮を庇う。

 こういう風な気遣いをするレイを見るたび、五歳なのに随分と大人びているなと思う。五歳と言えば……春日部に住む某幼稚園児たちと同い年だ。うん、なんだか大人びていても納得である。あの五歳児を基準に考えると、多少大人びていることなど普通のことだ。

 

「それにボクからしたら、丈様のデュエルも亮様に負けず劣らずのような……」

 

「へ?」

 

「ボクが恋する乙女を召喚しても『禁じられた聖杯』で効果を無効にして戦闘破壊しちゃうし」

 

「うっ!」

 

「もう一体の恋する乙女を召喚しても今度は『スキルドレイン』で永続無効しちゃうし」

 

「ぐぐっ…」

 

「スキルドレインを無効にしようって神の宣告を使ったら魔宮の賄賂で無効化されちゃって、結局ボクのライフが半分になっただけで終わっちゃうし」

 

「ぬぬぅ!」

 

「どうにかモンスターに乙女カウンターを載せて、キューピット・キスを装備した恋する乙女でコントロールを奪おうとしたら、サイクロンでキューピット・キスを破壊しちゃうし」

 

「むむむ!」

 

「……寧ろ亮様よりもえげつないような」

 

「言い返したいけど言い返せない!」

 

 人間、ソレが全く根拠のない出鱈目なら幾らでも自分の潔白を訴えることができる。例え口下手でも自分はそうじゃない、という気持ちさえあれば反論する気力が勝手に湧いてくるものなのだ。

 だが全部が正真正銘の事実だと反論のしようがない。

 レイの言っている事は事実であり、思い返せば自分のデュエルの方が年下相手にやるものではなかったかもしれなかった。

 ガクッと丈は肩を落とす。認めるしかない。自分は大人気なかった。

 

「元気を出せ、こういう事もある」

 

 慰めるように亮が肩に手を置いてくるが、今はその親切が辛かった。

 二人には見られないように丈は一人、心の中で涙を流す。

 

「しかし来年には三人で此処に来ることも難しくなるな」

 

 ふと亮がそう漏らした。

 その意味が分からずキョトンとしたレイに亮が説明する。

 

「小学校を卒業し中学に上がれば俺はデュエルアカデミア中等部へ進学する。高等部と違い孤島に校舎がある訳ではないが、中等部も全寮制。俺は寮に入ることになる」

 

「亮だけに?」

 

「寒いぞ」

 

「うん、自分でもこれはないって思わったわぁ」

 

 あっさりと亮に断言されて、再びガクッと気落ちする。

 流石につまらないダジャレを挟むような空気ではなかった。KYの烙印を押されるのも嫌なので丈は口にチャックをする。

 

「アカデミアの寮はこの街から離れた場所にある。少なくとも電車で何十分、といえる距離ではない」

 

「それじゃあもう丈様や亮様と会えないんですか?」

 

「いや……夏休みのような長期休暇には実家に帰れる。逆を言えば俺が家に帰ってくるのはその時くらいだ。他の日はアカデミアで過ごすことになるだろうな」

 

「…そう、なんですか……。それじゃあ私も一緒にアカデミアを受験します!」

 

「無茶を言うな。アカデミアには形式上、飛び級制もあるにはあるが流石に五歳児は入学させられないだろう」

 

「うぅ……」

 

 レイは瞳に涙を溜めながら俯き、ギュっと服の裾を掴む。涙を溜めこそすれ流すまいと強く思っているのだろう。本当に大人びた少女だ。未来で年齢を偽ってまでアカデミアに単身乗り込んでくるだけある。そのガッツはある意味尊敬にすら値する。

 しかしこのままだと本気でレイが泣き出しそうなのでフォローに入る事にした。カードショップのど真ん中で子供を泣かしたと思われたら白い眼で見られ気まずくなること必至である。それは避けたい。

 

「ほらほら泣くなって。これ上げるからさ」

 

 丈はカードの束から適当なものを選んで取り出す。

 

「これは?」

 

「俺、四枚持ってるからな。これを亮の変わりだと思ってくれ。草葉の陰からあいつも見守ってくれるさ」

 

「俺は死んでないぞ」

 

 亮のツッコミはスルーだ。

 レイに渡したのは堕天使ディザイア。丈のデッキに入っている堕天使アスモディウスと同じ闇属性天使族モンスターである。

 

 

 

【堕天使ディザイア】

闇属性 ☆10 天使族

攻撃力3000

守備力2800

このカードは特殊召喚できない。

このカードは天使族モンスター1体を

リリースしてアドバンス召喚する事ができる。

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に

このカードの攻撃力を1000ポイントダウンし、

相手フィールド上に存在するモンスター1体を墓地へ送る事ができる。

 

「気が向いたら使ってくれ。特殊召喚出来ないのは痛いけど、その代わり生贄にするのが天使族なら一体分の生贄で召喚出来るモンスターだ。効果は破壊じゃなくて墓地へ送るだから、破壊されない耐性を持つモンスターだって恐くないし破壊が起動条件になるモンスター効果だって無意味にできる」

 

「いいの、こんな強いカード?」

 

「いいよいいよ。俺のデッキには入らないし」

 

 冥界の宝札は二体以上の生贄を必要とする生贄召喚に成功した時のみ起動する永続魔法。堕天使ディザイアの生贄を軽減する能力は丈のデッキにとっては相性が悪い。わざわざそんなモンスターを使うなら、生贄二体で召喚できる強力な最上級モンスターは他にもいる。

 

「うん、ありがとう! 大切にするね!」

 

 喜んでくれたようで何よりだ。

 カードを貰った喜びでレイの涙も引っ込んだようなので万々歳である。丈も子供を泣かすのは辛い。

 

 

 

 時間も時間だったので、その日はそれで解散ということになった。

 丈は亮と一緒にレイを家まで送ってから帰り道を二人で歩く。日も沈みかけ空は真っ赤に染まっている。夏はこの時間でもまだまだお日様は元気に営業中だったのだが、冬になればお日様もさぼりがちになり、早く沈んでしまう。

 

「そういえば丈、お前はどうするんだ?」

 

 亮がおもむろにそう切り出してきた。いや、最初からこれが本題だったのだろう。もしもレイがいなければ、もっと早くこの話をしてきた筈だ。亮が何について言っているのか、大体の想像はつくが念のために聞き返す。

 

「どうって?」

 

「アカデミアだ。お前は行かないのか、アカデミアに」

 

「……………」

 

 デュエルアカデミア。

 武藤遊戯に次ぐほど有名な伝説のデュエリスト、海馬瀬人がオーナーを務めるデュエリスト養成校である。今までに多くのプロデュエリストやカードデザイナーなどを排出しており、その知名度は非常に高い。

 その特徴はなんといってもデュエルだろう。これに尽きると言い換えてもいい。他の学校にはないデュエルという科目。国語、数学、英語などの科目も勿論あるが、それ以上に重要視させるのがデュエルモンスターズだ。

 最新鋭の設備、知識、教養。優先して搬入されるパックの数々。春夏秋冬、年がら年中デュエル漬けの日々。……ここに入学した生徒は在学中、デュエルモンスターズについてのあらゆる知識を叩き込まれ、優秀な者はプロリーグへ、そうでないものにしても一流企業や大学へ其々旅立っていく。

 デュエリストを目指す全ての子供が一度は夢見る場所、そこがデュエルアカデミアなのだ。

 そんな学校なので倍率は非常に高い。中等部は高等部に比べればまだマシだが、それでも軽く十倍以上はある。十人に一人しか合格できない狭き門、その門を潜り抜けられた者だけがアカデミアの制服を着ることを許される。

 そんな場所だが既に大人顔負けの実力をもつ亮なら確実に受かるだろう。例え原作知識がなくとも、亮ならば合格すると信じただろう。亮にはそう思わせるだけの力がある。

 

「倍率がどれくれいなのか知ってるのか? 落ちるかもしれないじゃないか」

 

「お前なら受かるさ。断言してもいい」

 

 亮ほどのデュエリストにそう手放しに賞賛されるとこそばゆいものがある。丈は鼻の頭をポリポリと掻いて目線を逸らす。

 

「アカデミアかぁ」

 

 デュエルアカデミアはアニメGXの舞台となる地だ。

 丈は知っている。デュエルアカデミア高等部のある孤島で巻き起こる激戦を。セブン・スターズ、三幻魔、光の結社、異世界、ダークネス。数々の危険なこと。

 それから逃げたいと、拘わりたくないと願うならデュエルアカデミアなんて行かないのが一番だ。しかしデュエルアカデミアに行かなければ、待っているのは延々と続く勉強の日々。

 危険はないが勉強漬けの日々を選ぶか。危険はあるが面白い日々を選ぶか。難しい選択だ。

 

「どうして俺を誘ったんだ、別にお前なら一人でもやってけるだろ」

 

 なので亮に自分なんかを誘ったその理由を聞いてみる事にした。

 亮の実力は良く知っている。アニメだと最終的にヘルカイザーになったりはしたが、それでも順調にプロへの階段を昇って行った筈。亮に限って一人で行く勇気がない、なんてアホらしい理由でもないだろう。なにか特別な事情があるのかもしれない。

 

「そう大した理由はないさ、ただ……」

 

「ただ?」

 

「ライバルは多ければ多い方が良い。丈、俺はお前と一緒にデュエルアカデミアという新天地で実力を高め合っていきたい。どうだ、お前も一緒にアカデミアに来ないか」

 

「…………なぁ、今度アカデミアの過去問、コピーさせてくれよ」

 

「それじゃあ!」

 

「どうせ何があるか分からない人生だ。同じような人生のリプレイより、デュエル漬けの毎日を送った方が百倍くらいマシか!」

 

 そう思う事にした。

 勿論単純にデュエルがしたいから、というのもある。ソリッド・ビジョンを使った超リアルなデュエル。親の目なんて一切気にせず、思う存分それを楽しめるなんて最高の環境だ。しかしそれ以上に、自分もこの世界に住む一人の人間としてもっと強くなりたいと思う。人間としてもデュエリストとしても。そして強くなりたいなら亮の言う通りライバルは多い方が良い。

 未来のカイザー亮、ライバルとしては破格すぎる相手だ。

 丈はニヤリと笑う。亮も笑い返し不穏な言葉を告げた。

 

「そうと決まれば善は急げだ。本格的に試験勉強を始めるぞ。入試は二月だ」

 

「うわっ。それまで地獄かも」

 

 デュエルアカデミア中等部。

 アニメでは殆ど描写されなかった為、中等部がどういうものなのかは全く分からない。だがそれでもいい。何もかもが最初から既知なんていうのはつまらない。分からない事があるからこそ人生なんてものは楽しいものだ。少なくとも丈はそう考えている。

 

「うっし。勉強すっか」

 

 入試まであと約三か月。

 みっちりと必要な知識を叩き込んで、華麗に合格しなければなるまい。ここまで格好つけておいて不合格では格好悪すぎる。

 丈は亮と一緒にアカデミアの過去問を取りに向かった。

 



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第10話  入学試験は最初の壁ナリ

 デュエルアカデミア中等部の実技試験は高等部と同じように海馬ランドのドームで執り行われる。しかし当たり前といえば当たり前だが、高等部とは時期がずれていた。高等部の入試は中等部の入学試験と結果発表が終わってからである。

 なので会場に来るのは中学入学前の小学生だけであり、自然と何処か微笑ましい雰囲気が漂う。もしも受験とは関係のない人がこの光景を見れば「頑張れ」と心の中でエールを送るかもしれない。

 しかし受験する当人たちにとっては周りにいる同い年は、未来のデュエルエリートへのロードを歩む為の切符を求めて競い合うライバルである。学校の運動会と違い、受験という名の戦争に敢闘賞はない。どれだけ長い間、寝る間を惜しんで勉強をしていたとしても不合格の三文字は容易に敗北者の心を砕く。

 勝者は栄光を勝ち取り敗者は絶望の煉獄へと堕落する。やや大げさだが受験とはそういうものだ。ただ合格の頭に一文字付け足されるかされないかで今後の人生が大きく変わる要因を含んでいる。

 そんな中、アカデミア中等部を受験するために海馬ドームまで電車を乗り継いでやってきた丈は、他の受験生に比べ気分は楽だった。その理由は丈の手にある受験票にある。

 受験票に記された数字は2。これは単純な受験番号というだけではなく、実技試験の前に行われる筆記試験で二番目の成績をとったということを示している。

 筆記試験と実技試験の両方の結果で一括に判断されるのではなく、最初に筆記試験の結果が教えられ次に実技試験が行われるというのはアカデミア独特のやり方だった。

 

(まぁ二番だし……たぶん受かるよな)

 

 アカデミアが筆記よりも実技が優先されるとはいえ、まさか筆記で二番の成績の受験者を実技が悪かったということで問答無用で不合格にはしないだろう。たぶん。アカデミアの入学案内によると試験は筆記と実技の平均を見る、ということだったので丈が仮に実技でブービー賞をとっても丁度中間の成績に収まるという訳だ。

 流石に中等部受験者用の試験デッキ相手にブービー賞はとらないだろうし、合格は現時点で固いといえた。

 だが幾ら頭ではそう納得していても、どこかそわそわとしてしまうのを抑え付けることは出来なかった。内臓が噛み付かれるような緊張。人生の岐路に立たされているというプレッシャー。こればかりは何度受験しようと完全に慣れるというものではない。

 

『次、受験番号3番!』

 

 三番が呼ばれる。

 順番からして次が自分の番だろう。家を出る前に確認したが、念のためもう一度デッキを確認する。デッキの枚数は40枚以上だろうか、誤って制限カードを二枚以上入れてないだろうか、同じカードを四枚入れてないだろうか。そういう初歩的なことから戦術の確認までをデッキを一枚一枚めくりながら再認識していく。

 

「緊張しているのか?」

 

 丈の隣の座席に亮が腰を下ろす。亮の受験番号は堂々の1番なので自分の番はまだの筈だが、丈とは違い緊張感やピリピリとした雰囲気はなかった。

 

「そういうお前は平静そうだな」

 

「いや、そうでもない。俺もデュエリスト、もしこの大一番でミスをしたらどうしようか、くらいは考えるさ。だがデュエリストなら、やる事はいつもと同じ。対戦相手に敬意を払い、全力を出して戦うだけだ。そうだろう?」

 

「俺もそうクールな台詞を吐けたらいいんだけどな。ただ……やる事は同じか」

 

 全力を出して戦う。

 簡単なようだがそれが一番の作戦だ。試験に手を抜いて不合格になりましたじゃ洒落にもならない。本気を出して戦って負けるなら諦めもつくというものだ。

 

「それよりも見ろ、あの受験番号3番」

 

 亮が指さしたデュエル場では受験番号3番――――――黒髪のロングヘアの少年とサングラスをかけた試験官がデュエルしていた。試験官はサングラスといいアメリカンマフィアのような怪しさがあるが、黒髪ロングヘアの少年の方は亮に負けず劣らずの美少年である。

 それよりも注目すべきは黒髪ロングヘアの少年のフィールドにいるモンスターである。全身を包む漆黒の肌、血の様に真っ赤な両眼。青眼の白龍、ブラック・マジシャンに並びデュエルモンスターズ初期の三本柱として君臨したモンスター、真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラック・ドラゴン)。初代では武藤遊戯の親友、城之内がダイナソー竜崎とのアンティ勝負で手に入れたカードだ。

 ただでさえレアだというのに伝説のデュエリストが相棒としたカード、ということで超のつくほどのプレミアものであり、ブラック・マジシャンには及ばないものの、その値段は軽くバルバロスを超える。

 そんなレアカードがあるということで必然、会場の視線は受験番号3番に集まっていた。

 

「僕のターン」

 

 3番がカードをドローする。

 その姿に丈は見覚えがあった。ただしここではない前世で。

 アカデミア中等部をこの時期に受験する生徒でレッドアイズを使うデュエリストといえば思い当たるのは一人だ。

 

「レッドアイズで相手プレイヤーに直接攻撃、黒炎弾!」

 

「ぐっ! 見事ですよ、私の完敗だ」

 

 レッドアイズの直接攻撃で華麗に黒髪の少年が勝利する。彼のライフは一ポイントたりとも削られていなかった。

 

(天上院吹雪、かぁ。そりゃ亮がいるんだからJOINもいるかそりゃ)

 

 一応原作でヒロイン的な位置づけにいた天上院明日香の実兄にして、キングの異名をもつデュエリスト。アニメだとストーリー上負けてはいけない相手との戦いばかりだったからこそ勝ち星はゼロだったが、丈の記憶が正しければ後のカイザー亮と並び称されるほどの実力者だった筈。試験官相手に無傷の勝利も納得である。

 

「応援ありがとう! 僕のマイスイートハニーたち!」

 

 と、その実力からは真逆なほど普段は軽い人間であるわけだが。

 今もまだ試験に合格してすらいないというのに、周りの女生徒や女の受験生に投げキッスを飛ばしている。

 小学生のころからJOINはJOINだったらしい。

 

『次、受験番号2番』

 

「おっ、俺か!」

 

 JOINに気を取られていてすっかり失念していたが、そういえばJOINの次は自分の番だった。慌てて椅子から立ち上がりデュエル場へと向かう。自分が試験を行うであろうデュエル場の隣ではまだ受験番号4番がデュエルをしていた。

 

「頑張れよ」

 

 亮のエールに振り向かず親指をググッと上げて答えると試験管の前に立った。

 

 

「初めまして受験番号2番。今日はお互い良いデュエルをしましょう」

 

 試験官の人がデュエルディスクに装填してあったデッキを別のデッキと取り換える。後からデュエルする受験生が対策をしないようにする処置だろう。

 

「こちらこそ、宜しくお願いします」

 

 礼儀としてぺこりと頭を下げる。

 もしかしたらこういった礼儀作法なども密かに点数に含まれているかもしれないので、そういう所はしっかりしておいた。

 

 

 

「デュエル!」

 

 

 宍戸丈 LP4000

 試験官 LP4000

 

 

 

 他の試験を見る限り、試験管は通常モンスターを主体とするスタンダードなデッキを使ってくる。原作だと十代はクロノス教諭の暗黒の中世デッキなんてものと戦う羽目に陥っていたが、基本試験官が使用するのは試験用のデッキだ。しかも高等部の試験用デッキと比べれは弱めに設定してある。そこまでの強敵ではない。

 

「先行は受験者からです、掛かって来なさい」

 

 試験官がそう言う。

 有り難い。カウンター罠を多用する丈は、亮と違って先行の方が断然有利だ。

 

「それでは遠慮なく、俺のターン。ドロー」

 

 いつも通り全力で戦う。

 その言葉を頭の中で反芻しつつ、丈は手札から一枚のカードを場に出す。

 

「俺は魔法カード、迷える仔羊を発動! 場に二体の仔羊トークンを出現させる!」

 

 

 

【迷える仔羊】

通常魔法カード

このカードを発動する場合、

このターン内は召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

自分フィールド上に「仔羊トークン」(獣族・地・星1・攻/守0)を

2体守備表示で特殊召喚する。

 

 

 場に二体の仔羊がメーメーと鳴きながら特殊召喚された。

 レベル1で攻守共にゼロで効果なしと、モンスターとすれば最弱のステータスしかないトークンだが生贄要因としてならモンスターの強さなど関係ない。

 

「そして俺は永続魔法、冥界の宝札を発動!」

 

「生贄用のトークン二体と二体以上の生贄召喚をした際に二枚ドローする手札補強カードか。だけど迷える仔羊を使用したターン、君は召喚・反転召喚・特殊召喚を行えない。私のターンでそのトークンは破壊させて貰いますよ」

 

「ご心配には及びません。俺はこのターンでトークンを消費する。俺は二体の仔羊トークンを生贄に捧げモンスターを裏側守備表示でセットする」

 

 二体のトークンが消滅すると、フィールドに裏側になったカードが横向きで出された。

 

「迷える仔羊を使用したターン、召喚は出来ないけどモンスターをセットするのは問題なく出来る。そして二体の生贄を必要とするセットに成功したため、冥界の宝札の永続効果でデッキより二枚ドロー。……俺はカードを三枚セットしてターンエンドです」

 

 この方法を使用する上でネックとなるのは裏側守備表示でしか出せない為、直ぐに攻撃することが出来ず即効性に欠けることだが、元々先行1ターン目は攻撃出来ないので大したデメリットはない。

 試験官もそれに気づいているのか満足そうに頷いた。

 

「受験番号2番だけあって中々の腕前ですね。しかし私も負けませんよ。私のターン。私は魔法カード、シールドクラッシュを発動! フィールドの守備表示モンスターを一体破壊する」

 

 

 

【シールドクラッシュ】

通常魔法カード

フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。

 

 

 

 裏側守備表示でセットされていた最上級モンスター、堕天使アスモディウスが破壊され墓地へと送られた。しかし堕天使アスモディウスの効果は破壊をトリガーにして起動する。

 

「この瞬間、堕天使アスモディウスの効果発動。このカードが破壊され墓地へ送られた時、フィールド上にアスモトークンとディウストークンを出現させる。俺は二体のトークンを攻撃表示で召喚!」

 

 

【アスモトークン】

闇属性 ☆5 天使族

攻撃力1800

守備力1300

アスモトークンはカードの効果では破壊されない。

 

 

【ディウストークン】

闇属性 ☆3 天使族

攻撃力1200

守備力1200

ディウストークンは戦闘では破壊されない。

 

 

「其々別々の耐性もちのトークンを呼び出したか。ですが攻撃表示で出したのは失敗でしたね。私はブラッド・ヴォルスを攻撃表示で召喚」

 

 

【ブラッド・ヴォルス】

闇属性 ☆4 獣戦士族

攻撃力1900

守備力1200

 

 

 戦闘では破壊されないディウストークンはまだしも、アスモトークンには戦闘での破壊に対しては無力だ。アスモトークンは攻撃力1800と下級アタッカーだとそこそこの数値だが、ブラッド・ヴォルスには及ばない。

 もしブラッド・ヴォルスが攻撃すればアスモトークンは為す術もなく破壊されるだろう。ただし攻撃できればの話であるが。

 

「ブラッド・ヴォルスの召喚に対してカウンター罠を発動、神の宣告!」

 

 

【神の宣告】

カウンター罠カード

ライフポイントを半分払って発動する。

魔法・罠カードの発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚のどれか1つを無効にし破壊する。

 

 宍戸丈 LP4000→2000

 

 

 ブラッド・ヴォルスの召喚は無効となり墓地へと送られる。

 しかし既に試験官はワンターンに一度の通常召喚権を使ってしまったためフィールドにモンスターを呼び込むことは出来ない。仮になんらかの特殊召喚をしてきたとしても、それはそれで問題はなかった。

 

「ブラッド・ヴォルスが破壊されてしまいましたか。仕方ありません、私はカードを一枚セットしてターンエンド」

 

 

 

宍戸丈 LP2000 手札2枚

場 アスモトークン、ディウストークン

伏せカード二枚

魔法 冥界の宝札

試験官 LP4000 手札3枚

場 無し

伏せカード一枚

 

 

 

「俺のターン」

 

 丈の手札は三枚。強力な全体破壊能力をもつバルバロスも手札にあるが、それを使うには生贄が一体足りない。だが試験官の場にモンスターはいない今、バルバロスを妥協召喚して総攻撃を仕掛ければその攻撃力の合計は1900+1800+1200で4900となり丈の勝利となる。しかし仮にも試験官、無防備な状態を晒しているとは思えない。

 自分の勘が正しければ試験官が伏せているのは確実に罠カード。

 

(亮がよく言ってたな。相手の立場になって考えれば見えないものも見えてくるって)

 

 相手の立場。試験官の立場になって考えれば、モンスターの総攻撃は防ぎたいはずだ。しかしただ防ぐだけでは芸が無い。出来るのなら一枚のトラップで形勢逆転を狙いたいだろう。

 それが出来る罠といえば……。思いつくのは二つ。

 考えは決まった。あとは攻めるのみ。

「俺は生贄なしで神獣王バルバロスを妥協召喚! これで攻撃力の合計は4900、モンスターで総攻撃を仕掛ければ勝利だ。俺はバルバロスでプレイヤーを直接攻撃!」

 

「フッ、掛かりましたね。罠カード、聖なるバリア ーミラーフォースー。モンスターの攻撃を跳ね返し、相手の攻撃表示モンスターを全滅させる!」

 

 

 

【聖なるバリア ーミラーフォースー】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。

 

 

 

「良いタクティクスですが最後の詰めが甘かったですね。私の伏せカードを無視して攻め入るとは」

 

「いえ、無視はしてませんよ。俺はそのトラップにカウンターを発動、魔宮の賄賂!」

 

 

【魔宮の賄賂】

カウンター罠カード

相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

相手はデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 試験官の聖バリが破壊される。

 思い通りだ。トラップでの一発逆転を狙うなら激流葬か聖バリのどちらかを仕掛けていると踏んでいたのだ。

 聖バリが消えた今、本当に試験管は丸裸。ここで終わらせるのは容易いが折角の一生に一度の中学入試だ。少しは大盤振る舞いしよう。

 

「トラップの発動をカウンターにした事で、俺は手札からモンスターを召喚する」

 

「なに!? トラップをカウンターすることで召喚されるモンスターだと!?」

 

「冥府の道標に導かれ、現れろ冥界の王者。冥王竜ヴァンダルギオン!」

 

 

 

【冥王竜ヴァンダルギオン】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力2500

相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、

このカードを手札から特殊召喚する事ができる。

この方法で特殊召喚に成功した時、

無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。

●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。

●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して

自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 試験官の聖なるバリアから抜け出るように、カードを破壊しながら飛び出してきたのはレッドアイズと同じ黒いドラゴン。しかしレッドアイズのソレがシャープで日本刀のような鋭さをもつのに対し、こちらは大地を揺るがすようなパワーがある。バリバリと紫電を全身に奔らせながら冥界の竜は敵対者を威嚇した。

 

「攻撃力2800のモンスターがこうもいきなり……」

 

「いきますよ。俺は神獣王バルバロスの攻撃を続行、トルネード・シェイパー!」

 

 バルバロスの槍が試験官の心臓を貫く。

 ソリッドビジョンだと分かってもその様子はどこか肝を冷やす恐ろしさがあった。

 

 

 試験官 LP4000→2100

 

 

「そして冥王竜ヴァンダルギオンの直接攻撃! 冥王葬送!」

 

「うぅううううおおおおおおお!」

 

 ヴァンダルギオンが吐き出す地獄の業火が試験官のライフを0になるまで焼き尽くす。

 上手くいった。筆記試験で二番目かつJOINと同じく無傷(神宣でライフは半分だけど)での勝利、これなら合格はほぼ確定だろう。

 会場がやや騒がしくなる。会場にいるギャラリーは口ぐちに「あれってワンターンキル?」「まさか」試験官を相手に……」などと囁いていた。

 初期ライフポイントを一気に削るのはワンキルではなくワンショットキルに属すると思うのだが、この世界だとライフを一気に削りきるという事を総称してワンターンキルと呼称するようだ。

 

「まさか中等部の入試でワンターンキルを喰らうことになるとは。素晴らしいデュエルでした、結果は後日自宅に郵送されます」

 

「ありがとうございましたっ!」

 

 

 デュエルが終われば挨拶。

 これで試験官への印象のバッチリだ。丈はふと横に目を向けると、

 

「パワー・ボンドで三体のサイバー・ドラゴンを手札融合、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚。更にリミッター解除、サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力を倍にする! サイバー・エンド・ドラゴンで相手プレイヤーを直接攻撃、エターナル・エヴォリューション・バーストッ!」

 

「ぬわざあああああ!」

 

 うん。亮は安定のスーパー火力で試験官をワンキルに料理したようだ。

 しかも16000のオーバーキルで。攻撃を喰らってデュエル場の外まで吹っ飛んだ試験官が頭からプスプスと煙をあげていたのは錯覚だと信じたい。

 

(ともあれ、これで二人とも合格かな)

 

 これからデュエルアカデミアでの生活が始まる。

 そう思うとらしくもなくドキドキしてきた。元の世界では絶対にありえなかったデュエリスト養成校。そこにどんな事が待っているのか、宍戸丈はまだ知らない。

 



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第11話  流石の社長ナリ

 実技試験から数日後、丈の下に合格通知が届いた。しかも学費免除の特待生として。驚いてすぐさま亮にも報告したのだが、やはりというべきか亮も特待生扱いだった。筆記試験ではトップで実技でも華麗(過激)なワンターンキルをやったのだから当たり前といえば当たり前である。

 一年の日程が欧米のハイスクールと同じ高等部と違い、中等部は他の学校と同じで四月に始まり三月に終わる三学期制だ。

 四月になると丈たちは出来立てピカピカの真っ青な制服を着て、これからの三年間を過ごす学生寮を訪れていた。

 

「こ…ここがアカデミア中等部の学生寮か」

 

 都内にずっしりと聳えるビル。一見すると億ションにも見えるほどのソレだが玄関にデカデカと書いてある『デュエルアカデミア中等部 男子学生寮』という文字がここが間違いなく丈たちがこれから三年間を過ごす学生寮だと教えてくれていた。

 丈からすれば、前世の経験で学生寮なんて狭い部屋に五人くらいが押し込まれているイメージがあったのだが、ここの寮はそれとは対極だった。パンフレットによると個室にトイレ、風呂、TV、冷暖房などは全て完備されているらしい。しかも夕食はバイキングときた。

 寮というよりはホテルみたいである。

 オーナーである海馬社長、ないし海馬コーポレーションの財力というものを思い知らされたような気がする。どこぞの石油王よりも金を持っているのではないだろうかあの御仁は。

 

「俺達の部屋は……413号室だな」

 

 亮が渡されたプリントを見ながらそう言う。

 

「413号室? …………やけに不吉じゃないか。4に13って、普通さ……縁起が悪いからそういう数字の部屋は意図的に抜かされるんじゃなかったっけ?」

 

「噂によると最初は業者もそうしようとしたらしいが、オーナーである海馬瀬人が『ふぅん、下らんな。そのようなオカルト話に付き合ってられるか。仮にもデュエルエリートを目指すアカデミア生徒なら、つまらん戯言など跳ね除けるに決まっておるわっ! フハハハハハハハハ!』……と言ったらしい」

 

「…………ありえる」

 

 如何にも海馬社長が言いそうなことだ。

 しかも高笑いまでパーフェクトである。

 

「……だけど本当に幽霊や怪物が出るなんてことはないだろ。ボロボロの古い寮ならまだしも、ここはまだ出来たばっかりだし。地縛霊が住み着くほど年月たってないからな」

 

「いや…幽霊は出ないが、ワイトの精霊が出ると言う噂が」

 

「…………………それも嫌だな」

 

 ワイトといえばデュエルモンスターズ初期から存在する愛される骸骨モンスターのことである。その余りの弱さと妙な愛着の涌くイラストからモリンフェンやレオ・ウィザードと同じくカルト的人気をもっていたカードだが、ワイトキングを始めとする多くのサポートカードの登場でホログラフィックウルトラ超絶強化されてしまった。

 前世で友人が使っていたのでよく覚えている。

 

(夜中にワイトって、夜毎に廊下を走る人体模型より恐いかも。骸骨だし骨だし。しかもこの世界、普通に幽霊とか出そうで怖いな。死霊やらファラオの魂やらがあるし。くそっ、アカデミアでぬ~べ~でも雇ってくれよ。ジャンプ繋がりで)

 

「何をブツブツと言っている。早く行くぞ、荷物を降ろしたい」

 

「わ、分かってるって。よ、よーし行くぞ」

 

 亮に急かされたので一度深呼吸してから寮のゲートを潜る。

 正面玄関にまで来ると、それ以上進めないようにガラス張りの自動ドアにロックが掛かっていた。亮はドアの隣にある認証装置に学生証を置くと、装置がそれを認識し自動ドアを開いた。

 

「……ホント、学生寮とは思えない」

 

 丈は誰に聞かせるでもなくボソッと呟く。

 島一つ丸々が敷地の高等部もそうだが、中等部もかなり常識外れだ。流石は常識を超越した人がオーナーを務めるだけある。

 亮と二人、エレベーターで四階にまで昇り413号室に行った。

 部屋の中は不吉な部屋番号とは裏腹に綺麗に整っていた。二つ並んだベッドは見ているだけで飛び込みたくなるほどふわふわそうで、高級品なのだろうと分かる。天井では洒落たシャンデリアが明かりを灯しており、窓からは外の景色が一望できた。TVなんて壁にかかっているタイプだ。しかもDVDも問題なく見れるようになっているし、勉強用と思われる大きな机が二つに個人用のノートPCまであった。

 訂正しよう。

 この学生寮、そこらのホテルが霞むほど立派だ。

 

「――――――――――――ッ」

 

「噂には聞いていたがアカデミア学生寮、これほどとはな。いや特待生だから他よりも良い部屋を使わせて貰えるというのは耳にしていたが……それにしても、凄い」

 

 声も出ないほど圧倒される丈と冷静なコメントをした亮。

 しかし驚いているのは二人とも同じだった。

 この部屋は明らかに学生寮の範疇を逸脱した豪華さがある。

 

「ま、いっか」

 

 手をポンと叩き、丈は無理矢理にでも自分を納得させる。

 別に部屋が立派で困るということはない。寧ろこれからの三年間を快適に過ごせるのだ。踊って喜ぶべきだろう。

 丁度自分専用のPCも欲しかったところだ。これで思う存分、ニコ○コ動画が見れる。

 亮も段々と状況を受け入れられてきたのかニヤリと口角をあげた。

 

「そうだな。この部屋の広さなら思う存分、デュエルが出来そうだ」

 

「ほへ?」

 

 何時の間にか亮は自分のバックからデュエルディスクを取り出していた。

 手慣れた手つきでそれを腕に装着すると、ベルト備え付きのケースからデッキを取り出しディスクにセットする。

 

「入学式前の最終調整だ。相手をしてくれ」

 

「マジですか!?」

 

 外面はクールなのに、内面は相変わらずのデュエル馬鹿だった。

 仕方なく丈も自分のデッキを取り出す。どうせこれからは一年デュエル漬けの日々が待っているのだ。入学式前に少しはこのデュエル中心のノリに慣れておいた方が良いだろう。

 

「よし。デュエルだ、亮。俺のニューデッキがお前を倒す!」

 

「来い!」

 

 アカデミア学生寮での夜はこうして更けていく。

 デュエルアカデミアの名のようにデュエルをしながら。

 

 

 

 

「ふわぁ~あ」

 

 そしてやってきた入学式。

 丈は猛烈に眠かった。頭がくらくらする。少しでも気を抜けばその場で倒れてしまいそうだ。時折頬を抓りながら眠気を吹き飛ばす。

 結局、丈はあれから一睡もせずに亮とデュエルをしていた。時にデッキを変えて、時にデッキを調節し、或いは互いのデッキを交換して、何度も何度もデュエルをし続けていた。お陰で記念すべき入学式だというのに気力・体力のライフポイントが1である。フィールドががら空きの状態で邪神アバターの直接攻撃を喰らっても死ぬ状況だ。

 

「で、あるからして。デュエルとは即ちフェルマーの最終定理より難解かつ、宇宙の真理にも通じるものなのです」

 

 檀上では校長らしいオッサンが延々と訳の分からない超理論を熱心に話している。高等部とは校長も違うらしく、丈も知らない人物だ。

 周りの生徒には熱心に耳を傾けているのもいるが、壮絶な疲労感と眠気による攻撃を受け続けている丈には、例えそれがアイドルの歌声だろうと釈迦の説法だろうと左から右だ。全く頭に入ってこない。

 

「なのでデュエルとは摂理にして絶対。方程式とは無縁なる虚空の詩歌。奏でられる宝は愛であり、海はなによりも偉大かつ矮小なる理想なのです。よって――――――えっ、なに話が長すぎるって?」

 

 校長が若い教員からぼそぼそと耳打ちされていた。

 時計を見るとかれこれ一時間もの間、校長の話は続いていたことになる。

 

「もっと話したいことがあったのだが……やむをえませんね。オホンッ! ではこれで私の話は終わります。もう一度、新入生の皆さん。入学おめでとう!」

 

 パチパチという拍手がまばらに鳴り響く。

 どうやら最初は校長の話を熱心に聞いていた生徒も、最後の方には眠気にやられていたらしい。目を擦っている生徒の比率が、目をパッチリと開けていた比率よりも多い。

 丈と同じように昨日は徹夜でデュエル漬けだった亮が目をパッチリ開けていた一人だったのが小さな驚きだった。

 校長の話が終わると、それからは急ぎ足で進んでいく。

 余程校長の長話に時間をとられてしまったらしい。教職員の紹介なども軽い挨拶だけで終わってしまった。

 入学式が終わると次はいよいよ、これからの一年を学ぶ教室への移動だ。丈たちは特待生クラスなので必然的に同じクラスということになる。

 しかしクラス名を見た瞬間、丈は思わずズッコケそうになった。

 

「なぁ亮」

 

「ん?」

 

「学校のクラス名といえばさ。1年1組とか3年B組とか、そういうのだろ」

 

「ああ」

 

「だけどなんだよ。…………この1年青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)組っていうのは! 明らかに変だろ! というか変だ!」

 

「たしかに語呂が悪い」

 

「そうじゃなくて、もっとさぁ!」

 

 良く見れば特待生クラス以外の通常クラスもデュエルモンスターズのカード名がクラスの名前になっていた。

 上から順に青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)組、白竜の聖騎士(ナイト・オブ・ホワイトドラゴン)組、エネミーコントローラー組、ブラック・マジシャン組、エクゾディア組、クリボー組、真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラック・ドラゴン)組といった風になっている。

 見事なまでに上のクラスが社長が使ってきたカード名そのままだ。ブラック・マジシャンやクリボーはいいとしても、最後がレッドアイズになっているのに悪意を感じる。ご丁寧に()書きで凡骨とまである。

 

(フッ。時間が立とうと社長は社長のままか。安心したようなそうじゃないような……)

 

 実技試験会場の海馬ランドを見ても思ったが、社長のブルーアイズへの愛は異常だ。きっと頭の中がブルーアイズ色に染まっているに違いない。

 海馬ランドなんてもはや海馬じゃなくてブルーアイズランドだった。

 

(もしかしたら未来のブルーアイズマウンテンなんて銘柄を作ったのも社長なのかもしれないな)

 

 ぼんやりと有り得るような有り得て欲しいような事を考えながら、窓から空を見上げる。

 今日も良い天気だった。

 

「気を取り直そうっと。……よしよし。それじゃ行くか!」

 

 入学式にブルーアイズの洗礼を受ける羽目になったが、どうにか頭が現状に追いついてきた。それに社長のブルーアイズに対する愛の凄さなんて前から知っていたではないか。今更になって驚くことでもなかった。

 亮と二人で自分のクラスへと行く。

 今日からデュエルアカデミアでの日々が始まるのだと、否応なしに実感できた。

 



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第12話  JOINとの遭遇ナリよ

 数日がたちデュエルアカデミアの日々にも段々と慣れてきた。

 幾らデュエリスト養成校といえど中学校であることには変わりない。ただ数学や英語だとかの間にデュエル関係の授業があるだけだ。

 体育と同じでデュエルの授業は良い息抜きとなっている。特に実技は良い。時にデッキを変えたり、時に学校側の用意したデッキを使ったりしてひたすらデュエルが出来る。

 前世で授業中にデュエルしていたら即没収だったのと比べると凄い違いだ。 

 そして月曜の三限目も待ちに待ったデュエル実技の日だ。

 丈を含めた1年青眼の究極竜組の生徒達は、校舎内にあるデュエル場へと移動する。そこでは既に担当の先生が待っており、クラスメイト達は慌てて先生の前に整列した。この先生は厳しいことで有名である。のろのろと行動していたら説教の一つでも喰らいかねない。

 何時も通りの号令を済ませると、実技担当の田中ハル先生が今日の授業について説明し出す。

 

「まさかとは思うが自分のデッキを忘れたというような愚昧はいないだろうな」

 

 第一声からしてドスが聞いていた。

 丈を含めクラスメイトは一言も話さずしーんとしたままである。学校特有のヒソヒソ話なんてものは一切ない。授業を受けたのは数日だが、この先生は何もしなくても生徒達を静かにさせる魔力をもっていた。

 田中先生は自分の受け持った生徒の中に"愚昧"がいないことを確認すると漸く授業内容を話し出す。

 

「本日の実技は……"デッキ交換デュエル"を行う。よもやこれだけでは授業内容が分からないなどと喚く愚か者はこのクラスにはいないと信じたいが、念のために……いるかもしれない無能者のために一応は説明しよう。諸君等はこれから二人一組となり、互いのデッキを交換しデュエルをするのだ」

 

 それを聞いてから亮が真っ直ぐと手を挙げた。

 こういう所を見ると亮のことを心底尊敬したくなる。丈なら先ずこの先生相手に挙手などしない。下手な質問をすれば夜中に刺されそうだ。いや、流石にそれは言い過ぎか。……言い過ぎだと信じたい。

 

「君は……出席番号1番、丸藤亮だね。我が校の誇りの。何か質問かね?」

 

 誇りと言っている癖に田中先生はニコリともしなかった。

 暖かさというものを南極の海に放り捨ててしまったような冷たい瞳が亮を射抜いている。普通の生徒ならこれだけで「すみません」と言って引き下がりそうなものだが、そこは未来のカイザー。動揺する事なく静かに田中先生の目を見返していた。

 

「宜しければ授業の目的を教えてくれませんか?」

 

「目的を一々教わらなければ君達は何もできないのかね。このクラスで出席番号1番というからには、君は今年度の生徒で最優秀と言う事の筈だが。座りたまえ丸藤亮、一年生である君に授業内容を一々教えていては時間が掛かりすぎてしまう」

 

 一年生如きに自分の考えなど理解できるはずなどない。だから黙っていろ。

 丈には田中先生が暗にそう言っているように思えた。亮は「失礼しました」とクールに言ってから質問を取り下げる。亮もこれ以上突っかかっても何の利益もないと判断したのだろう。

 

「組み合わせはこちらで既に決めてある。諸君等に組み分けを任せたところで、比較的面識の多い者としか組まないだろうことは火を見るより明らかなのでな。ではホワイトボードに張り出されてある組み分けを確認したまえ」

 

 田中先生が指さすと、デュエル場の壁にかかったホワイトボードに紙が張り出されていた。丈たちはまばらにそこへと歩いていく。

 途中、田中先生に聞こえないよう小声で亮に話しかけた。

 

「たっく、あの先生。もうちょっと愛想ってもんがないのかね。年がら年中あんなしかめっ面してたら顔面が固定されるんじゃないか」

 

「そう言うな。アレでも中等部の教員では一二を争う技量という話だ。しかしデッキ交換デュエル……全く知らないデッキを使うというのも面白いかもしれないな。客観的視線からデッキを見極めるため、一度お前とデッキを交換してやったことはあるが、本当に未知のデッキではデュエルなどしたことがない」

 

 亮とは何度もデュエルしているため、丈にしても亮にしても、お互いのデッキがどういうものなのかある程度は知っている。だから互いのデッキを交換しても、相手がどのようにそのデッキを扱ったかについての記憶があるので他人のデッキでも問題なく扱えた。

 しかし本当に知らないデッキはそうでない。

 どのようなカードが入っているのか分からないし、どのようなコンボが仕組まれていて、どのような意図でカードが入っているのか何もかもが不明。

 もしかしたら、そういった困難な状況でも臨機応変に戦えるタクティクスを田中先生は学ばそうとしているのかもしれない。

 適当に田中先生の胸の内を推測してから、丈はホワイトボードに張り出されている紙を見る。組み合わせは名前ではなく出席番号でふりわけされていた。

 亮の対戦相手は出席番号4番。

 そして肝心の丈の相手は、受験番号3番。

 

(3番って、おいおいもしかしなくても……)

 

「君だね、出席番号2番くん。僕の対戦相手は」

 

 後ろから掛かる爽やかな声色。振り向くと丈の予想通りの人物が立っていた。サラサラの黒いロングヘア、ジャニーズ系の顔立ち。

 実技試験で真紅眼の黒竜を使って華麗に勝利していた受験番号3番。

 

「天上院、吹雪」

 

「お手柔らかに頼むよ。実技試験で見せてくれたタクティクス、僕も楽しみだよ」

 

「あー、こっちこそお手柔らかに」

 

 

 

 デュエル場では各々が既にデュエルを始めていた。

 亮も出席番号4番の男子生徒とデッキを交換しデュエルをしている。亮の真向かいのフィールドにサイバー・ドラゴンがあるのは何度見ても違和感のある光景だ。

 

「ふふふ、自分以外のデッキを自分のデュエルディスクに装填するのは新鮮だね。そして君の側には僕のデッキ。いつも信頼して共に戦っているデッキと戦うっていうのは変な気分だけど……嬉しいよ。君や出席番号1番の彼とはデュエルしたいと思っていたところだ」

 

「ご丁寧にどうも」

 

 天上院吹雪、仮にもデュエルアカデミア高等部でカイザー亮と並び称されたほどの男。今は中学一年生だがその実力は実技試験の時、見ている。

 あの時とデッキが変わっていないなら、今丈のデュエルディスクに装填された吹雪のデッキはレッドアイズを中心としたドラゴン族デッキの筈だ。

 

 

 

決闘(デュエル)!』

 

 

宍戸丈   LP4000

 

天上院吹雪 LP4000

 

 

 

 ランプがついたのは吹雪のデュエルディスク。

 残念ながら先行は吹雪からだ。

 

「僕のターン、ドロー。知らないカードばかりが手札にあるのは初めての経験だ。だけど、ふむふむ。僕はモンスターをセット、そして五枚のカードを伏せてターンエンド!」

 

「いきなりがん伏せ、したか」

 

 自分のデッキなので驚きはない。

 カウンターを大量に詰み、永続魔法を中心として回す以上、丈のデッキには魔法・罠ゾーンが埋まり易いのだ。

 一枚のセットモンスターと五枚のリバースカードで吹雪の手札はゼロ。

 

(なにしろ俺のデッキだからな。やりたいことは分かる。そのセットモンスターはたぶんメタモルポット。カードをがん伏せしたのはメタモルポットによる損失をゼロにするため)

 

 メタモルポットは裏側から表側になった時、モンスター効果を発動するリバースモンスター。その効果は互いのプレイヤーは手札を全て捨て、その後で五枚ドローするという強力な物だ。下手に攻撃を加えればメタモルポットの効果で丈は手札を失い、吹雪は五枚ものカードをドローすることになる。

 

(俺の手札には魔法カード、大嵐がある。これを使えば五枚もの魔法ないし罠を全滅することができて、こっちにかなりのアドバンテージが出来るけど……)

 

 それを許すとは到底思えない。

 大嵐などを発動したとしても、カウンターに妨害されるのがオチだ。前世と違いシンクロ召喚が普及していないのでスターライト・ロード発動なんて事態にはならないだろうが。

 

(良し)

 

 カウンター罠への対策その一。

 ひたすら発動させてカウンターを枯渇させる、だ。成功したら儲けもの、失敗して当然。丈は手札の大嵐をデュエルディスクに出す。

 

「俺は魔法カード発動、大嵐! フィールド上の魔法・罠カードを全滅させる!」

 

「させないよ。僕はカウンター罠を発動、魔宮の賄賂!」

 

 

【魔宮の賄賂】

カウンター罠カード

相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

相手はデッキからカードを1枚ドローする。

 

「大嵐は無効だよ」

 

「だが俺はカードを一枚ドロー。……俺は更に未来融合-フューチャーフュージョンを発動!」

 

 

【未来融合-フューチャーフュージョン】

永続魔法カード

自分の融合デッキに存在する融合モンスター1体をお互いに確認し、

決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。

発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、確認した融合モンスター1体を

融合召喚扱いとして融合デッキから特殊召喚する。

このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。

そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 

 

「上手いね。未来融合で強力なモンスターを二ターン後に用意するだけじゃなく、僕のデッキを確認しようというわけかい」

 

「正解。じっくりデッキは観察させてもらうからな。……それとも、これもカウンターするか?」

 

「いいや。ここは通しておこう。お手並み拝見だよ」

 

 融合デッキにあるモンスターは元々の攻撃力では最高のF・G・D。カード名を問わず、五体のドラゴン族を融合素材とする珍しいモンスターだ。ドラゴン族デッキには必須カードに近いと言っても過言ではない。

 このカードが入っているということはやはり吹雪のデッキはドラゴン族で間違いないだろう。

 

「俺はFGDを選択、デッキから五体のドラゴン族モンスターを墓地へ送る!」

 

 デッキを観察しながら、慎重にドラゴン族モンスターを選んでいく。

 墓地が肥えるのは大抵のデッキにとって有利に働くが、中には墓地よりもデッキや手札にあった方が良いモンスターも多くいる。そういったカードまで墓地に送る訳にはいかない。

 墓地に五体のドラゴン族モンスターを送る。これである程度は墓地が肥えた。

 

「俺はリバースカードを四枚セット! そしてスピア・ドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 

 

【スピア・ドラゴン】

風属性 ☆4 ドラゴン族

攻撃力1900

守備力0

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、

その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

このカードは攻撃した場合、ダメージステップ終了時に守備表示になる。

 

 

 長い口の恐竜のようなドラゴンが召喚される。

 スピア・ドラゴンは攻撃力1900で攻撃したら守備表示になってしまう効果をもったデメリットアタッカーだ。これだけならゴブリン突撃部隊の方が強いと思うかもしれないが、このカードにはそれにはないメリットがある。

 それが貫通効果。

 このモンスターはサイバー・エンドと同じく守備表示モンスターが相手でもダメージを与える事が出来るのだ。

 

「スピア・ドラゴンでセットモンスターを攻撃、スピア・クラッシュ!」

 

 裏側守備モンスターが表になる。表になったモンスターはやはりメタモルポット。

 吹雪は笑いながらメタモルポットの効果を宣言する。

 

「メタモルポットのモンスター効果! このカードが表になった時、互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚ドローする」

 

 

【メタモルポット】

地属性 ☆2 岩石族

攻撃力700

守備力600

リバース:お互いの手札を全て捨てる。

その後、お互いはそれぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。

 

 

「それは読んでいた。俺の手札は0枚。よってメタモルポットの効果で五枚ドロー!」

 

「やれやれ、自分の手の内が相手に筒抜けなのは痛いね」

 

「それはお互い様だろ。お前だって俺の使ってるデッキのことなんてお見通しなんだし」

 

「違いないね」

 

「さて。スピア・ドラゴンのモンスター効果、メタモルポットの守備力とスピア・ドラゴンの攻撃力の差だけダメージを受けて貰う」

 

 

 天上院吹雪 LP4000→2700

 

 ライフが4000だと1000ポイント程度のダメージすら初期ライフの四分の一にも達する。丈が確認した吹雪のデッキ、上手く決まれば、一度の戦闘で削りきれるだろう。

 しかしそれは相手にも言えた事だ。

 吹雪の使う丈のデッキに眠るのは殆どが攻撃力3000近くの最上級モンスター。油断は禁物だ。

 

「俺はこれでターンエンド。そっちのターンだ」

 

 デュエルはまだワンターン目

 始まったばかり。丈と吹雪は知り尽くした相手のデッキと未知の自分のデッキを手にデュエルを続行した。



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第13話  飛翔せよ!真紅眼の黒竜ナリよ!

宍戸丈   LP4000 手札五枚

場 スピア・ドラゴン

伏せカード4枚

 

天上院吹雪 LP2700 手札五枚

場 無し

伏せカード4枚

 

 

 

 丈は乱れる呼吸を抑え、どうにか平常心を保つ。

 自分と吹雪のフィールドには其々リバースカードが四枚。この勝負、どのようなタイミングでリバースカードを使うかが重要となってくる。

 

「僕のターン!」

 

 吹雪がドローして手札が六枚となる。ターンエンド時に持ち札としていられる最高枚数だ。吹雪の場の四枚のセットカードと合わせて、未知のカードが十枚。

 なにか仕掛けてくる。

 直感的にそう察した丈は何が来ても慌てないように覚悟を決めた。

 

「僕は天使の施しを発動、デッキから三枚のカードをドローし二枚捨てる。いくよ、リバースカードオープン! メタル・リフレクト・スライム! 発動後このカードはモンスターカードとなりフィールドに特殊召喚する」

 

 

 

【メタル・リフレクト・スライム】

永続罠カード

このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、

自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。

このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)

 

 

 

(読んでいた!)

 

 丈のデッキにはトラップ・モンスター、メタル・リフレクト・スライムが三枚入っている。そして吹雪が天使の施しで二枚のレベル・スティーラーを墓地へ捨てていたのを丈は見逃してはいなかった。

 

「メタル・リフレクト・スライムの発動にチェーンして速攻魔法、サイクロンを発動! フィールド上の魔法・罠カードを一枚破壊する! トラップモンスターであるメタル・リフレクト・スライムは罠カードとしても扱われるため、俺はメタル・リフレクト・スライムを破壊する!」

 

 ソリッドビジョンで巨大化したサイクロンのカードから荒ぶる風が真っ直ぐにスライムへと向かっていった。しかしサイクロンがスライムを貫く直前、吹雪もまたリバースカードを発動していた。

 

「なら僕はサイクロンにチェーン! もう一度、魔宮の賄賂! これでサイクロンは無効化される」

 

「げっ!」

 

「墓地のレベル・スティーラーのモンスター効果、メタル・リフレクト・スライムのレベルを二つ下げて二体のレベル・スティーラーをフィールド上に特殊召喚するよ」

 

 

 メタル・リフレクト・スライム レベル10→8

 

 

【レベル・スティーラー】

闇属性 ☆1 昆虫族

攻撃力600

守備力0

このカードが墓地に存在する場合、自分フィールド上に表側表示で存在する

レベル5以上のモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。

このカードは生贄召喚以外のためには生贄にできない。

 

 これで吹雪のフィールドにモンスターが三体並んだ。もし吹雪の手札にバルバロスがいればその効果により丈のフィールドは焼野原となってしまうだろう。

 

「安心していいよ、僕の手札にバルバロスはない」

 

 丈の心を読んでいたかのように吹雪が言った。

 バルバロスがないというのは嬉しいが、かといって安心したかといえばそうではない。バルバロス以外にも丈のデッキには厄介な最上級モンスターが多くいる。

 

「だけど最上級モンスターはいる。僕は二体のレベル・スティーラーを生贄に虚無の統括者を攻撃表示で召喚!」

 

 

 

【虚無の統括者】

光属性 ☆8 天使族

攻撃力2500

守備力1600

このカードは特殊召喚できない。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

相手はモンスターを特殊召喚する事ができない。

 

 

「げげぇー!」

 

 露骨に丈が顔を歪める。

 未来融合を発動した際に確認した限り、吹雪は重いドラゴン族上級モンスターを特殊召喚で展開していくデッキ。通常召喚ではなく特殊召喚こそが戦術のかなめにある。

 しかし虚無の統括者がいる以上、丈の特殊召喚は封じられた。

 

「やらせて、たまるかっ! 俺は奈落の落とし穴を発動! 攻撃力1500以上のモンスターが召喚、反転召喚、特殊召喚された時! そのモンスターを破壊し除外する!」

 

 

【奈落の落とし穴】

通常罠カード

相手が攻撃力1500以上のモンスターを

召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動する事ができる。

その攻撃力1500以上のモンスターを破壊しゲームから除外する。

 

 

「こればかりは通させないよ。僕はカウンター罠、神の宣告を発動! ライフを半分支払い、魔法・罠・モンスターの召喚を無効にする」

 

 

天上院吹雪 LP1350

 

 

 吹雪のライフが1350にまで下がる。

 下級モンスターの直接攻撃一発で削りきれる数値だ。これでライフポイントの差は大きく開いたが状況的には丈の不利だ。

 

「僕は虚無の統括者で守備表示のスピア・ドラゴンを攻撃、虚無の閃光!」

 

 虚無の統括者が腕を翳すと、眩い光が放たれスピア・ドラゴンを消し飛ばす。

 スピア・ドラゴンがデメリットアタッカーだったのが幸いした。守備表示だったため丈にダメージはない。

 

「僕はリバースカードを一枚セットしターンエンド。君のターンだよ」

 

「俺のターン! ドロー!

 

 何が何でも虚無の統括者を破壊しなくてはならない。

 未来融合は次のターンで最強のFGDを丈のフィールドに呼び出すが、フィールドにくるための扉が虚無の統括者に封じられていては来るものも来れない。

 生贄用のモンスターもおらず特殊召喚が封じられている今、いきなり自分の場に上級モンスターを呼び出す事は出来ないだろう。ならば、

 

「俺は一族の結束を発動!

 

 

【一族の結束】

永続魔法カード

自分の墓地に存在するモンスターの元々の種族が1種類のみの場合、

自分フィールド上に表側表示で存在する

その種族のモンスターの攻撃力は800ポイントアップする。

 

 

「そして死者転生を発動! 手札を一枚捨てて墓地のモンスターを一枚手札に加える。俺はカードを一枚捨て、墓地より真紅眼の飛竜を手札に加える。真紅眼の飛竜を通常召喚!」

 

 

 

【真紅眼の飛竜】

闇属性 ☆4 ドラゴン族

攻撃力1800

守備力1600

通常召喚を行っていないターンのエンドフェイズ時に、

自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、

自分の墓地に存在する「レッドアイズ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「一族の結束の効果で真紅眼の飛竜の攻撃力は2600にまで上昇! これで虚無の統括者と攻撃力が互角になった。真紅眼の飛竜で虚無の統括者に攻撃!」

 

「攻撃を仕掛けるつもりだね。だけど忘れているようだ。それは僕のデッキなんだよ。そう来るであろうことも予測済みさ! ……君のデッキは随分と用意がいい。お蔭でそのカードにも対応できる。ボクはサイクロンを発動! 一族の結束を破壊!」

 

「や、やばい!?」

 

 既に攻撃宣言はしている。

 真紅眼の飛竜は一族の結束が破壊されても攻撃を続行する。特攻ですらない自爆攻撃を。

 

 

宍戸丈 LP4000→3300

 

 

「俺のライフがっ! ああもう、俺はリバースカードを二枚セットしてターンエンド!」

 

 どうにもデッキが回ってくれない。

 まるで自分の手足が他の……ネギや鰌にでもすり替わってしまったかのようだ。

 

「僕のターン。僕はメタル・リフレクト・スライムのレベルを6にして、二体のレベル・スティーラーを再度特殊召喚! そして二体のレベル・スティーラーを生贄にThe supremacy SUNを召喚!」

 

 

 

 

【The supremacy SUN 】

闇属性 ☆10 悪魔族

攻撃力3000

守備力3000

このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できない。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、

次のターンのスタンバイフェイズ時、

手札を1枚捨てる事で、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

「これでチェックだよ。ボクは二体のモンスターでプレイヤーにダイレクトアタック!」

 

「リバース罠発動! ガード・ブロック! 俺はThe SUNの戦闘ダメージをゼロにする」

 

「だけど虚無の統括者の攻撃が残ってるよ。虚無の統括者の直接攻撃、虚無の閃光!」

 

 

宍戸丈 LP3300→800

 

 

「これでライフも逆転。僕はターンエンド」

 

「お前のエンドフェイズ時、速攻魔法を発動。月の書、モンスター一体を裏側守備表示にする」

 

「成程ね。裏側守備のモンスターは永続効果を発動している事が出来ない。虚無の統括者を一時的に封じて、F・G・Dを特殊召喚する気だね」

 

「……ご名答だ。俺のターン、ドロー! このターンのスタンバイフェイズ時、F・G・Dが俺のフィールドに特殊召喚される! 現れろFGD! 相手フィールドを殲滅しろ!」

 

 

【F・G・D】

闇属性 ☆12 ドラゴン族

攻撃力5000

守備力5000

ドラゴン族モンスター×5

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードは闇・地・水・炎・風属性モンスターとの戦闘では破壊されない。

 

 

 

「FGDの攻撃力は5000! 虚無の統括者は勿論、The SUNよりも強い!」

 

「やるねぇ。だけど……僕はそこまで読んでいたよ。リバース罠発動、奈落の落とし穴! 効果は説明するまでもないね。特殊召喚されたFGDを破壊しゲームから除外する」

 

「……」

 

 折角現れたFGDだがフィールドに五秒も留まることもなくゲームから除外されてしまった。

 丈は俯きながらもどうにかターン終了の宣言をする。

 

「俺はこれでターン終了」

 

「壁モンスターを召喚することもなくターンエンド。残念だけど命運も尽きたようだね」

 

「そうでもないさ。とある知人は言った。ライフポイントが0という数字を刻むまで勝敗は分からないと。俺にはまだ可能性は残っている」

 

「可能性?」

 

「俺の手札にもフィールドにも可能性はない。しかし……俺の墓地にはまだ可能性が残っている! そう、レッドアイズという可能性が!」

 

「そうか! 君が通常召喚しなかったのは!」

 

「ターンエンド時、墓地の真紅眼の飛竜のモンスター効果発動! 通常召喚しなかったターン、このカードをゲームから除外することでレッドアイズと名のつくモンスターを特殊召喚する! 俺の墓地に眠るレッドアイズは三体! そして真紅眼の飛竜も三枚!」

 

「未来融合と死者転生でそれだけのドラゴンを墓地へ送っていたのか。この時の為に」

 

「飛翔せよ三体のレッドアイズ!」

 

 

 

【真紅眼の黒竜】

闇属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力2000

 

 

 フィールドに並ぶ三体の伝説。

 あのブルーアイズと並び称されるほどのレアカード。ブルーアイズが勝利を齎すと伝えられるのに対し、レッドアイズは所有者に可能性を齎すという。

 

「……レッドアイズを三体同時に召喚したのは驚きだけど、まだ僕のフィールドのモンスター達の方が攻撃力は上だ。僕はメタル・リフレクト・スライムのレベルを4にまで下げ、二体のレベル・スティーラーを特殊召喚。そしてスライムと二体のレベル・スティーラーを生贄に神獣王バルバロスを召喚!」

 

「甘い! 速攻魔法、禁じられた聖杯! バルバロスの攻撃力を400上げ、このターンの間バルバロスの効果を封じる!」

 

「安々とやらせてはくれないか。だけどこの総攻撃で終わりだ! 三体のモンスターで攻撃!」

 

「言っただろう。ここまでは読んでいたって。俺はリバースカードオープン、スリーカード!」

 

 

 

【スリーカード】

通常罠カード

自分フィールド上にトークン以外の

同名モンスターが3体以上存在する場合に発動できる。

相手フィールド上のカード3枚を選択して破壊する。

 

 

「そのカードは! 驚いたな、昨日パックで当てて、何気なく入れたカード。それがここでくるだなんて。本当はそのコンボ、僕がやる予定だったんだけど先を越されちゃったねぇ」

 

「俺のフィールドにはレッドアイズが三体。よってバルバロス、The SUN、虚無の統括者は破壊だ」

 

 吹雪のフィールドからモンスターが消失していく。

 もしも最初から二人のデュエルを見ていた者がいれば目を疑っただろう。つい少し前までフィールドががら空き状態にまで追い込まれていたのは丈の方だった。しかし形勢は逆転。二人の立場も入れ替わっていた。

 

「これ以上、出来ることはなさそうだ。しかし……。僕はこれでターンエンド」

 

「俺のターン!」

 

「この瞬間、The SUNのモンスター効果発動! 手札を一枚捨てて墓地のThe SUNを特殊召喚する! レッドアイズの攻撃力は2400。The SUNでは突破できないよ」

 

「それを覆すのは俺が最初のターンから伏せていたこのカードだ。俺は魔法カード、融合を発動。手札のメテオ・ドラゴンとレッドアイズを融合! メテオ・ブラック・ドラゴン!」

 

 

 

【メテオ・ブラック・ドラゴン】

炎属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3500

守備力2000

「真紅眼の黒竜」+「メテオ・ドラゴン」

 

 

「メテオ・ブラック・ドラゴンの攻撃力は3500だ。メテオ・ブラック・ドラゴンと二体のレッドアイズによる総攻撃! メテオ・ダイブ! 黒炎弾!」

 

 

 天上院吹雪 LP1350→0 

 

 

「僕の負けだね。でもいいデュエルだったよ」

 

 デュエルが終わると吹雪が歩み寄ってきて手を差し出した。

 何か言うのは野暮というモノだろう。丈は黙ってその手をとり握手した。

 

「未来融合でデッキの確認が出来たのが良かったよ。こっちこそスリルのある戦いだった。……というか、勝ったのに嬉しくない」

 

 吹雪の使っていたのは丈のデッキだ。そして自分が使っていたのは吹雪のもの。勝利したデュエリストは自分でも、勝利したデッキは吹雪。

 まるで自分の顔面を他人の手を操ってぶん殴ったような違和感と微妙な感触。

 勝って微妙な気分になったのは生まれて始めてだった。

 

「たしかに僕は負けたけど、その僕を倒したのは僕のデッキだから……うぅん、これは何とも不思議な感覚だねぇ」

 

 ふと横を見れば亮の方もデュエルが終盤戦に突入していた。

 亮のフィールドには魔道サイエンティストとカタパルト・タートル。相手フィールドにはサイバー・エンド・ドラゴン。

 そしてライフポイントはどちらも4000で亮のターンだ。

 

(あれは勝ったな)

 

 丈は亮の勝利を確信する。

 もし亮が使っているのがあのデッキなら攻撃力4000のサイバー・エンドなど恐れるものではない。

 

「俺は魔道サイエンティストのモンスター効果発動! 3000ライフを払いアクア・ドラゴンを三体召喚、そしてカタパルト・タートルで射出スァンレンダァ!」

 

「ぐぅうわあああああ!」

 

「止めぇ! 俺は御隠居の猛毒薬でライフを回復。そして魔道サイエンティストの効果で紅陽鳥を特殊召喚、カタパルト・タートルで射出ッ!」

 

「ふんばり!?」

 

 亮の圧勝だった。

 フィールドにはサイバー・エンド・ドラゴンが棒立ちのまま。なんというか亮は相変わらず暴走特急だった。 

 何度かのデュエルをこなし、授業終了時間が近くなると再び整列する。

 

「今日のデュエルで違和感を感じた者は挙手をしたまえ」

 

 田中先生が皆の前で何の感情も見せず淡々と言った。

 遠慮がちに何人かの生徒が手を挙げる。丈たちもそれに含まれていた。

 

「中国の兵法書、孫子にこういう一節がある。彼を知り己を知れば百戦危うからずと。諸君等も何度か対戦するデュエリストの戦いの記録等を閲覧し、対策をとったこともあっただろう。しかし相手を知るだけではデュエルには勝てん。ある程度のタクティクスとデッキがあれば、そこいらの雑魚なら倒せるだろう。だが本物には勝てはしない。自分のデッキを知らぬ者に勝利の女神は微笑まん」

 

 生徒全員が黙って先生の言葉に耳を傾けていた。

 校長の演説の際には居眠りをしていた者も、その時が嘘のように表情は真摯だった。

 

「私からは以上だ。質問は受け付けん。言っても理解できぬ無能に聞かせる説法などないのでな。授業を終了する、解散」

 

 号令すらせずに田中先生が颯爽とデュエル場から去っていく。

 その後ろ姿を見送りながら丈は隣にいる亮に囁いた。

 

「なぁ」

 

「ん?」

 

「田中先生って生徒を見下してるし嫌味で陰気かつ性格最悪な上、性根が腐りきってるけど授業は案外まともだよな」

 

「優秀な人間が必ずしも善人とは限らない。そういうことなんだろう」

 

「うぅん、亮は博識だねぇ。たしかにあの先生の実力は高いよ」

 

 亮が言うと、何故か後ろにいたJOIN……もとい吹雪がニヤニヤと丈と亮の頭の間から首を出してきた。

 その事にも丈は一つ物申したかったが、それ以上に気になる事があった。

 

「吹雪って、田中先生のこと知ってんの?」

 

「アレでも元はプロリーグの上位ランカーなんだよ、田中先生。あちこちの大会で優勝しては賞金を稼いだりしていたらしいね。リーグでも連戦連勝。公式記録は百連勝、一時は武藤遊戯以来空席となってる二代目キング・オブ・デュエリストになるんじゃないかって噂されていたほどだよ」

 

「ど、道理で……」

 

 最初の授業で一目見た時から只者ではない雰囲気は感じていたが、元プロというのなら納得できる。世界が世界のせいか、プロデュエリストには個性的な人が多いのだ。良い意味でも悪い意味でも。

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

「性格は物凄く悪かったみたいだね。勝利してもニコリともしないし、喋れば毒舌か相手への悪口や戦略批判が飛び出すから、連勝記録に反してファン自体はかなり少なかったそうだよ。その代わりアンチはプロリーグ一位だったそうだけど」

 

「おいおい……」

 

「だけど……プロリーグのチャンピオン、デスティニー・オブ・デュエリストと謳われるDDと戦うって時になって突如プロを引退したんだ。その後の消息は不明だったけど、まさかこんな所で会うなんてね」

 

「フム。二代目キング・オブ・デュエリストになるのではと噂されるほどの実力者か。いつかデュエルをしたいものだ」

 

 デュエル馬鹿の亮としては、やはり田中先生の実力が気になるのだろう。

 とはいえ丈も田中先生がどのようなデュエルをしていたかには興味がある。

 今度DVDでも借りてきて過去の試合を見る事にしよう。そう決意して、丈たちは次の授業へと向かっていった。

 



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第14話  HEROの鼓動ナリ

 学校にいて一番自由な時間というのは一部の例外を除けば昼休みだ。

 他の休み時間が一休みとするのなら、昼休みというのは昼食という一日を元気に過ごすための活力を得る時間であり、同時に仲の良い学友と気ままなお喋りなどに興じられる時間でもある。

 デュエルアカデミアとてそれは例外ではない。基本十分しかない休み時間とは違い、昼休みは四十分。平均的男子生徒が昼食をとるのに必要とする時間を10分~15分と仮定するのなら、約30分もの自由が生徒には与えられるということだ。

 丈はいつもと同じように昼食を取り終えると、アカデミア校舎内にある売店に来ていた。

 腹が空いているのではない。

 アカデミアの購買が他の学校と最も違うこと。それはデュエルモンスターズのパックが販売されえているということだ。

 デュエリスト養成校だけありパックの種類も豊富である。オーナーである海馬社長の手回しで普通のショップより優先して新パックが入荷されるというのも大きいだろう。

 

「ええと……どれにしようかな」

 

「悩まなくても出るカードは同じだ」

 

「違うだろ?」

 

 丈と一緒に来た亮は迷うことなく二つのパックを手に取るとお勘定を済ませてしまっていた。即断即決、優柔不断とは縁遠い男。それこそが丸藤亮である。その意思決定力は日頃のデュエルにも活かされており、常に最善と思える選択を強い意志で選び取ることができるのだ。

 ここに先々週の"デッキ交換デュエル"で知り合った吹雪の姿はない。丈も誘ったのだが、なんでも女の子に誘われているらしくそっちに行った。野郎と女の誘いならホモでもない限り女を選ぶだろう。自分でもそうする。だからその事に関しては何か言うつもりもなかった。多少羨ましいとは感じたが。

 しかし流石はJOIN。入学一か月もしない間にファンクラブまで誕生しているようだ。

 

「亮、なんか良いカードでも当たった?」

 

 この世界だとパックを買ってレアカードを当てる確率も、常日頃のドローパワーが関係しているのは不明だが、亮は他の人に比べレアカードを当てる確率が高い。お宝級と称されるほどのカードが適当に勝ったパックから出てくるのを、丈は何度か目撃している。

 それ故に今回も当てたかな、と思ってワクワク半分嫉妬半分で覗きこんでみる。

 

 

・コマンダー

・ワイト夫人

・キャノン・ソルジャー

・死者への手向け

・粘着テープの家

 

・レオ・ウィザード

・E・HEROエアーマン

・ジェノサイド・キング・サーモン

・ジェノサイド・キング・デーモン

・レベル制限A地区

 

 

「……俺のデッキに入りそうなものはないな。残念だが……キャノン・ソルジャー辺りは或いはいけるかもしれんが」

 

 亮の言う通り大当たりとはいかない内容だった。

 前世での記憶だとE・HEROエアーマンはそこそこの高額カードだった筈だが、この世界だとそうでもない値段で売買されている。丈自身は持ってないが、他に持っているデュエリストなど幾らでもいるだろう。しかもサイバー・ドラゴン主体の機械族デッキにエアーマンなんて入れたところで大した意味はない。これでエアーマンが無制限カードなら話は変わるのだが、哀しいかな、エアーマンは制限カード。自分で自分をサーチするという三色ガジェットのようなプレイングは出来ないのだ。

 

「それよりお前もいい加減に買ったらどうだ」

 

「分かってるって」

 

 亮に急かされるように購買のおばちゃんに450円+税を渡す。亮が二パック勝って当たらなかったので、自分は三パック。それで当たる確率は格段に上昇……というほどでもないが、こういうものは気分が大事である。

 いつまで経ってもパックからカードを取り出す時の昂揚感はいいものだ。パックの封をビリビリと破きながら丈はそんな風に思う。

 未知のカードと遭遇できるかもしれないという緊張。珍しいカードが当たるかもしれないという期待。そういったものが混じり合い奇妙なセンセーションとなって心中を支配する。

 こればかりはデュエリストではないと分からない感覚だ。

 

「さてと、……おぉ!」

 

 

・モリンフェン

・暗黒界の龍神 グラファ

・魔法除去

・魔力の枷

・落とし穴

 

・戦士ダイ・グレファー

・異次元の女戦士

・荒野の女戦士

・心変わり

・洗脳解除

 

・E・HERO Great TORNADO

・人食い虫

・オシロ・ヒーロー

・火の粉

・DNA改造手術

 

 

「よっしゃ! E・HERO Great TORNADOとグラファでレアカード二枚! 今日はラッキーだな」

 

 今使っている最上級モンスター多用デッキには採用できないカードだが、レアカードはレアカード。やはり出ると嬉しいものだ。

 

「だけど結構E・HEROや暗黒界とかも集まってきたな。これを期に違うデッキも組もうかな?」

 

 一応丈は二つデッキを持っている。言うまでもなく一つは冥界の宝札を主軸とした最上級モンスター多用デッキ。そしてもう一つが財政面から構築し易かった剣闘獣デッキだ。剣闘獣は派手さはないがかなり堅実さのあるテーマで、その力は大会優勝者が使用したデッキだったこともあり折り紙つきである。デッキに必要不可欠となる上級モンスターは融合体である二体だけなので、それほど値も掛からずに済む。安くて強い。そのフレーズは当時小学生で今ほど金なんてなかった丈にとっては大切なものだった。

 ただ幾ら強いといっても同じデッキばかり使っていれば飽きる。特に剣闘獣は基本戦術というのがワンパターンなので面白さやスリルに欠けるのだ。

 だからこそ最近は冥界の宝札を主軸としたリスキーなデッキを使っていたが、カードが溜まってくると他のデッキも作ってみたいという欲に駆られる。

 先々週の授業で別のデッキを使ってデュエルしたことも影響しているのかもしれない。

 

「いいんじゃないか。俺もお前が組む新しいデッキには興味がある。それに他のデッキを使うと、以前のデッキの気付けなかった欠点が見えてくるもの……らしい」

 

「らしい?」

 

「俺の言葉ではなくサイバー流の師範の言葉だ。俺はサイバー・ドラゴン一筋の男だからな。前の授業のようなことでもない限り他のデッキは使わん」

 

「………………」

 

 サイバー・ドラゴンへの愛もここまでくると尊敬の念すら浮かぶ。

 これが未来にはヘルカイザーになるというのだから信じられない。もし友人がダークサイドに堕ちようとしたら、腕を引っ張って止めようと丈は胸の中で決意する。

 

「なら丁度いいや。さっき当てたエアーマン交換してくんない? アレ、俺持ってないんだよ」

 

「いいぞ。ただ俺からも頼みがある。今お前の当てたDNA改造手術、それを交換してくれ。このエアーマンとな」

 

「OK! トレード成立」

 

 DNA改造手術を渡す代わりにエアーマンのカードを亮から受け取る。

 E・HEROといえば十代の使用デッキ。使うのは不味いのでは、とも思うがE・HEROはD―HEROと違い普通に一般で流通しているので十代以外が使っても特に問題はない。

 

(でもフレイム・ウィングマンとかは十代ってイメージがあるし……そうだ。漫画版出身のやつとか、アニメで十代が使ってないカード中心で組むか。それなら被らない! 暗黒界の展開力もいいしワームの火力も捨て難いな。いや~、持ってるカードが増えると夢が広がる広がる)

 

 アカデミア入学祝ということで親から結構な額のお金を貰った際、HEROや暗黒界が多く封入されてるパックを箱買いしたので主要モンスターやサポートカードに至るまで一通り揃っている。

 ワームはまだまだだが、暗黒界とヒーローは十分デッキが構築できるくらいにはカードが集まってる筈だ。

 

「……DNA改造手術……相手のモンスターを全て機械族……キメラテック・フォートレスで吸収……相手フィールドはがら空き………攻撃力6000……これは……いい…な」

 

 隣で物騒な事言っている友人がいたが気にしないことにした。

 自分のフィールドに五体の最上級モンスターがいるのに、たった一体のプロト・サイバー・ドラゴンで全てが引っ繰り返るような光景がフラッシュバックしたが気のせいだ。疲れているのだろう。最近色々あったからこういう事もある。そうやって自分を納得させた。

 亮にDNA改造手術のカードをトレードしたことを微妙に反省しつつ、丈は次の授業を受ける為教室に戻っていった。

 次は音楽の授業である。

 



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第15話  デッキの構築ナリ

 夜中、丈は一人で新しいデッキの構築に勤しんでいた。

 つい少し前までは亮や吹雪もいてアイディアを出しあっていたりしたのだが、時間も遅くなったので吹雪は自分の部屋に、亮も就寝している。それに自分のデッキというのは自分の力で組み立てるべきだろう。他人のアイディアを聞くのもいい。ネット上で晒されているデッキレシピを参考にするのも良いだろう。だが最後の仕上げは自分でする。そうしなければ自分のデッキを完全に把握することはできないし、デッキとの信頼関係のようなものも生まれはしない。

 この世界にきて丈が学んだことだった。

 

(超融合やアナザー・ネオスがないのが痛いよな。アレないとE・HEROデッキの安定感とか除去性能がガクンと落ちるんだよな。でもスカイスクレイパーとかはOCGじゃなくてアニメ効果だったから、キャプテン・ゴールドでアナザー・ネオスが無い分は補うしかないな)

 

 一時間が経過し、どうにかメインデッキ40枚とサイドデッキ15枚が出来上がる。サイドデッキというのはデッキ調整用の予備カードのことだ。マッチ戦などはデュエルの合間にサイドデッキのカードとメインデッキのカードを交換することが出来る。

 この世界だとマッチ戦が主流ではないので、余りサイドデッキの出番はないのだが、それでも何かの役に立つかもしれないので一応は作っておいた。

 

(しししっ、では最後の総仕上げといきましょうか)

 

 E・HEROデッキにとってエースとなるモンスターはメインデッキにはいない。ネオスビートだとそうでもないが、やはりE・HEROの強力な上級モンスターの殆どは融合モンスターだ。

 前世だとシンクロ召喚の登場によるマスタールールの移行により、エキストラデッキ(融合デッキ)の枚数は15枚以下と設定されてしまった為、どのカードを入れてどのカードを入れないか一々決めなくてはならなかったが、この世界ではそうではない。

 シンクロ召喚なんていうものは影も形もなく、ルールも未だにエキスパートルール。融合デッキの枚数に上限はない。よって百枚だろうと一万枚だろうと好き勝手に入れ放題なのだ。といっても融合モンスターの総数を三倍にしても一万枚もないので、融合デッキが一万枚だと別の問題が発生するのだがそれはおいておこう。

 丈は兎に角HEROと名のついた融合モンスターを入れられるだけデッキに投入していく。枚数制限が無いのを良い事にメインデッキを超える勢いで融合デッキの枚数が増えていく。

 持ってる全てのE・HEROを投入し尽くした後はノリでアクア・ドラゴンなど適当な融合モンスターを投入する。

 遂に融合デッキの枚数が40枚を超えた。

 しかしこれでは収まらない。見る見るうちに融合デッキの厚みがサイドデッキ、メインデッキを超えていきやがて巨大な山が出来上がった。

 

「…………ちょっとやり過ぎたかも」

 

 試に文字通りの"山"札をデュエルディスクに装填しようとするが、余りにも数が多すぎて入りきらない。さしもの海馬コーポレーションもこれほど大量の融合モンスターが投入されることは想定外だったようだ。

 仕方ないので余分なカードを抜き、HERO関連の融合モンスターだけをデュエルディスクにセットする。今度はしっかりと装填できた。

 

「これで完成かな」

 

 所要時間三時間。

 合間合間の相談タイムなどを含めれば更に二時間プラス。漸く新デッキの一つが完成した。もう一つのデッキはまだまだ未完成だが、このデッキは亮や吹雪ともそこそこ戦えるだけには仕上がったと思う。

 

「ふぁ~あ。……やべ、ねむい。俺も……眠りの世界へIN THE WORLD!」

 

 デッキを金庫にしまってから、そのまま自分のベッドにルパンダイブする。夜が遅くなった分、ふわふわのベッドは何時もよりふかふかに感じられた。

 そのまま底なし沼におちていくように意識が消えていく。

 五分もすれば、丈は完全に眠りの世界へと落ちていた。

 

 

 

 強く吐きだされる息。地面を駆け抜ける疾走感。バクバクという心臓の鼓動を聞きながら、丈は目の前にいる男をギラリと睨みつける。

 丸藤亮。成績においても実技においてもアカデミア中等部最高の男。それが丈の敵対者だった。二人を分け合う境界線を挟み、二人はひたすら必殺技の応酬を繰り返す。

 

「亮ォォォお! これが俺の全力全開! 喰らえトリプルカウンターの一つ、ツバメ返し!」

 

 亮のコートから飛んできたボールを、丈はテニスラケットで弾き返す。ボールが風の刃となって亮のコートに飛び込む。

 ツバメ返し、地面に落ちれば最後バウンドすることなくフィールドを駆け抜けていく必殺技。しかしそのことを知っていた亮はボールが落ちる前に打ち返した。

 

「甘いぞ丈! その手は読んでいた!」

 

「なんの!」

 

 激しいラリーが続く。

 体育大学などを除けば学校の体育なんてものは遊び的要素が強い。余り細かいルールは気にせず、自由奔放に愉しむためにやるものだ。

 数学や英語など頭を酷使する授業から解放され、青空の下で思う存分に体を動かす。学生にとってはコレが良い気分転換にもなり、体育の日は普段は重い気分が軽くなるものだ。特に運動神経の高い男子にとっては一躍ヒーローとなれる時間でもある。

 デュエルアカデミア――――デュエリスト養成校といえど体育の授業はある。

 そして今日、男子の体育はテニスだった。

 なのでこうして亮と丈はラケット片手に打ち合っているという訳である。ちなみに吹雪はどこかにふらりと行ってしまった。恐らく女子の所に行ったのだろうと丈は推測している。

 

「丈、お前の実力は見せて貰った。今度は俺の必殺技を見せる番だ。はァ!」

 

 ラケットをもつ亮の右腕がムキムキと盛り上がる。繊細そうで細かった亮の腕はどこにもない。今の右手は獲物を抉る肉食獣のソレだ。

 亮は溜まりに溜まったエネルギーを一気に解放する。

 

「エターナル・エヴォリューション・波動玉!!」

 

「にゃに!?」

 

 余りの事に丈は噛んでしまう。

 亮は120%の力を込めた右手で強烈なパワーボレーを撃ちだした。圧倒的重さをもったボールは真っ直ぐに丈へと飛来してくる。

 

(打ち返さないと!)

 

 片手であのボールを打ち返すことは出来ない。直ぐにそう判断した丈はラケットを両手に持ちかえる。時速150kmオーバーで突き進んでくるボールの動きを見極め、ベストなタイミングでラケットを思いっきり振った。

 

「ぐぐっぐぐっ!」

 

 しかし打ち返せない。ラケットの中心をドリルのように抉りながら突き進むボールは、今にも丈の手からラケットを吹き飛ばしてしまいそうだ。それでも丈はラケットを放そうとはしなかった。

 ここでこれを通せばワンゲームを落とすだけじゃない。ゲームの流れというやつを持って行かれてしまう。デュエルでもスポーツでも、流れにのった奴は強い。丈と亮、二人の技量は互角。ならば流れに乗った方がこのゲームの勝者となる。

 それが分かるからこそ丈は必死にボールを打ち返そうとした。

 両手にかかる負担は並みのものではない。まるで100tのトラックを受け止めているようだ。

 ここで亮の必殺技が決まれば流れは亮の方にいくだろう。しかし逆を言えば、これさえ打ち返してしまえば流れを自分に来させる事だってできる筈だ。

 

「うぉおおおおおぉぉおぉおおお!!」

 

 肺活量の限界に挑むような大声を腹の底からあげる。その大声はもはや轟音といっても差支えなかった。その声が他の試合中の生徒や教師の鼓膜に直撃する。

 

(――――――――後少し)

 

 テニスボールを押し返そうと力んでいた丈の体は、手ごたえというやつを明確に感じ取っていた。もう直ぐだ。もう直ぐでこのボールを亮の方へ逆送りにしてやることが出来る。

 そうすれば今日のゲームは頂きだ。

 しかしそれが最後だった。

 他のテニスコートから飛んできたボールが丈の脳天に直撃する。足の指の先から髪の毛一本に至るまで神経を集中させていた丈は、予期せぬ奇襲によって集中力を切らした。

 ドリルのように突き進んできたボールは、ラケットに弾かれそのままの勢いで丈の顔面へと吸い込まれていく。

 

「ぶげぇ!」

 

 醜い叫びを一つあげて、ドサリと丈がテニスコートに倒れた。

 

「わ……悪い……いきなり叫び声したから、驚いて」

 

 ミスショットを丈の脳天に叩き込んだらしい男子生徒が謝罪する。しかし当の丈は聞いていなかった。瞼はピタリと閉じ完全に気絶している。

 亮は嘆息して、先生に保健室へ連れて行く旨を伝えた。



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第16話  危険ナリ

「う゛…」

 

 呻きながらも目を開けてみれば鼻を突く医薬品の臭いが最初にした。時間を早く感じさせる真っ白い壁と天井。

 どうやらここは保健室のようだ。

 

(そうか……俺、テニスの時間中にボールが顔面に当たって)

 

 ボールが直撃してからの記憶が一切ないことを鑑みると、もしかしなくても自分は気絶してしまったのだろう。体育の授業中に気絶なんて初めての経験だ。

 

「あら。目が覚めたようね」

 

「貴女は……」

 

 保険医の小山内子月(おさないこずき)先生が丈の寝かされたベッドに腰掛ける。

 小山内先生は見た目20歳くらいのとても若い先生だ。一見すると先生というよりもキャンパスライフを送る大学生に見える。茶色っぽい髪のセミロングヘアと日本庭園の桜を思わせる瞳がなんとも印象的だった。

 若くて綺麗ということで男子生徒にもかなり人気があるのだが、

 

(な、なんだ?)

 

 冷房も利いてないと言うのにやけに寒い。

 もし丈が人生経験豊富だったのなら、これが悪寒であるということが分かっただろう。しかし悲しいかな。丈は悪寒というものを明確に知るほど人生を生きてはいなかった。

 

「お友達に感謝することね。丸藤亮だったかしら、あの美味し……もとい可愛らしい子は」

 

「へ、美味し?」

 

「あの子が貴方をおぶって来たのよ。腐のつく女子なら狂喜しそうなシチュエーションだったわ。私はそっちに興味がないからどうでも良いのだけど」

 

 ズイと小山内先生が顔を近づけてくる。口元にはニタリと形容するのが適当な笑みが浮かんでいた。

 前世を除けば、丈とてまだ青春真っ盛りの中学生である。二十代の美女に顔を近づけられたりすればドキマギもする筈なのだが……何故か身の危険を覚えた。

 このままではヤバい。なにか大切なものを失う。いや奪われる。そういう予感がビンビンとしていた。

 

「あ、あの……小山内先生?」

 

「ふふふっ、本当は寝てる間に悪戯……じゃなくて性的接触を……そうでもなかったわ。じっくりと触診をしようと思ったのだけど、起きてしまったならそれはそれで良いわ」

 

「え、あの、俺はですね……。あぁ! まだ授業終わってないから、今から授業出てきます! 俺!」

 

「駄目よ! 貴方は頭にテニスボールの直撃を喰らったのよ! 大きくて硬いモノを!」

 

「大きくて硬いとか怪しい発言しないで下さい!」

 

「いい。頭っていうのは本当に重要なところなの。今はなんともないと思っても、次の日……ううん、もしかしたら一年後に大きなダメージがあるのかもしれないのよ。そういう万が一を防ぐ為にも、これから貴方の肉体をじっくりと舐め回さないといけないのよ!」

 

「最初の方はいい話だと思ったのに、最後で本音をぶちまけてるって! ああもう! 俺は授業行きますから! 検査なら病院で受けます!」

 

「そんな! 私はこの学園の保険医として貴方の頭を治療する義務があるのよ!」

 

「アンタの方が治療して貰えぇええ!」

 

 ヤバい、ヤバい、ヤバい。

 これはもうヤバい。ヤバすぎる。一刻も早くここから逃げなければ、丈はこの保健室の塵と消えてしまうだろう。ベッドから跳ね起きると、そのまま全速力で出口のドアまで走る。

 

「あら、反抗期かしらぁ」

 

 しかし性欲により身体のリミッターを解除した変態教師の身体能力は凄まじかった。丈がドアに到達するよりも早く回り込み、逃げ出さないよう両手を大きく広げる。

 丈はどうにか擦り抜けられないかどうか目を凝らすが、保健室という狭い密室では難しい。丈にはアイシールド21みたいなランは出来ないのだ。

 

「ふ、ふふふふふふふふ。検診のお時間よ。注射は太い方と長くて細い方、どっちがイイ?」

 

「い、いやぁだぁあああああああ!」

 

「あら。そんなに激しく暴れて。なら両方に」

 

「ちょ、ちょっと待てぇぇ!」

 

 小山内先生が保健室の棚から、巨大な注射と細くて長い注射の両方を取り出す。そしてその二つに共通しているのは明らかに普通のものではないということだ。

 巨大な方は猛獣用ではないかと思う程にデカいし、細い方は竹刀くらいの長さがある。

 

「それじゃあ、いただきまぁす。んほぉぉおぉおぉおぉぉ!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああ!」

 

 もう駄目だ。

 丈は十字を切り、全てを諦めかけたその時、救世主は現れた。

 

「止めろ!」

 

 丈の悲鳴を聞いて駆けつけた亮が保健室のドアを強く開き、中に飛び込む。そして直ぐに室内における異常がなんなのかを理解すると、小山内先生にタックルを喰らわせ弾き飛ばした。

 

「大丈夫か? 小山内先生……一体なにが?」

 

 しかし流石の亮もやや頭がパニックになっているようだ。

 小山内先生の奇行をその目で目撃した丈は、直ぐに立ち上がると亮に言う。

 

「話はあとだ! 早く逃げないと二人とも犯られるぞ!」

 

「やられる?」

 

「俺達二人の未来が危ないんだ! このままじゃ望まぬ結婚と望まぬ子供を授かる羽目になる!」

 

「まるで意味が分から……待て。まさか、小山内先生は!」

 

「先生は重度のショタコンだ! 俺も今さっき犯られそうになった! 言動からして、お前も危ない!」

 

「ショタコンとは随分な言い様ね、ぼくぅ?」

 

 脳天に糸でもついているかのような、重力に逆らった不自然過ぎる動きで小山内先生がグワンと起き上がる。目は大きく瞳孔が開き血走っていて、もはやマトモな状態とは口が裂けても言えなかった。

 

「私はただアソコに毛の生えてない年頃の男の子をこよなく愛しているだけよ。ショタコンという訳じゃないわ」

 

「そういうのをショタコンというんじゃないのか?」

 

 冷静に亮がツッコミを入れる。ある意味、ショタコンという単語を亮が知っていた事の方が驚きだった。

 

「賢い子ね。ぐっふうぅううう、入学式の頃から貴方達にはギュっと目をつけていたの。そしたら今日、お目当ての子が一人、ここにやって来るんですもの。据え膳喰わねば女の恥。なので、いただきます」

 

「に、逃げるぞ!」

 

「わ、分かっている!」

 

 亮もアレの相手をするのは御免だったらしい。踵を返し保健室から出ようとする。しかし小山内先生、もとい変態の変態っぷりは尋常ではなかった。変態は地面を蹴り跳躍すると、そのままクルクルと体を回転させながら丈たちの頭上を越えてきた。

 着地地点は保健室のドアの真ん前。不味い。あそこを抑えられたら逃げ場がなくなってしまう。

 丈は瞬時に頭を回転させ、ピカッと良い作戦を思いついた。保健室のテーブルに置かれていた布巾をとると、それを着地地点のあたりに放る。すると必然、華麗に着地しようとしていた変態(小山内先生)は布巾をふんずけることになり、そのままコミカルに地面に転ぶ。

 ゴツンと鈍い音が保健室に響いた。

 頭からドクドクと血が流れ倒れる小山内先生。

 

「殺ったか?」

 

「いいや気絶しているだけだろう。直ぐに目を覚ます。その前にここを出るんだ」

 

 短くそうやり取りすると、倒れた小山内先生を飛び越えドアへ向かおうとする。だが変態の生命力はゴキブリ以上に高かった。

 

「お痛は駄目じゃあないの、うふ、うふふっふふふふ」

 

「……んなッ!」

 

「…………人間じゃない」

 

 丈と亮が一様に恐怖を感じる。

 ドクドクと頭から血を垂らしながら、小山内先生はぬわりと起き上がった。瞳に宿る色は狂喜と狂気。喜びと狂い。

 

「いいわ。そこまで私を拒絶するなら、デュエルで決着をつけましょう」

 

 血を流しながら小山内先生がどこからかデュエルディスクを取り出し装着する。

 

「デュエルで私が勝てば私は貴方達を美味しくいただく。私が負ければここから出してあげる。答えは聞いてない。始めるわよ」

 

「待て! 俺達は体育の授業中だったため、デュエルディスクとデッキを持っていない!」

 

 亮が申告するが、それは変態を喜ばせる結果しか生まなかった。

 

「あら、そう。ならデュエルは私の不戦勝ということね。これで合法的に貴方達を捕食できそうだわぁ」

 

 ※デュエルするしないに限らず非合法です。健全な男女交際を心がけましょう。

 

「くっ、ここまでか!」

 

 丈の頭に走馬灯というやつが駆け巡る。

 最初にこの世界に生まれ変わった時。二度目の入園式、卒園式、入学式、卒業式。亮との初デュエルや実技試験のこと。

 それなりに面白い人生だったのだろうか。

 丈はそう自問してから自答する。

 良い人生だった。短いが友人もいてそれなりに楽しく出来た悪くない人生だった。丈は諦めたように目を瞑り、

 

「嫌な予感がしたから駆けつければ案の定だね」

 

 保健室に木霊した声。それは紛れもなく吹雪のものだった。

 

「吹雪!」

 

「受け取るんだ丈! 君のデュエルディスクだよ!」

 

 吹雪が持ってきたものを丈へ放る。

 作ったばかりの新デッキが装填されているデュエルディスク、それを丈はしっかりとキャッチした。

 

「良し! これで戦える! だけどどうしてデュエルディスクを?」

 

「ちょっと花を摘みに行ったら亮と君の只ならぬ声が聞こえたからね。この学園だとデュエルが優先だから、万が一の為に急いでデュエルディスクを取りに行ったんだよ。悪いね亮。本当は亮のデュエルディスクも持ってこうと思ったんだけど、君のロッカーには鍵がかかっていたんだ」

 

 今日ばかりはロッカーに鍵を掛けなかったことが役立ったらしい。といっても今後はしっかり鍵をかけるよう注意しておかなければならない。これでロッカーを開けたのが吹雪でなく他の生徒ならデッキごとデュエルディスクが盗まれたかもしれないのだ。

 

「任せたぞ丈。お前の新デッキの力を見せてくれ」

 

「おうともさ!」

 

 兎も角だ。

 これで貞操の危険は一旦去った。後は目の前の変態をデュエルでぶちのめすだけだ。

 デュエルディスクを装着し改めて変態と向き直った。恐れはもうない。

 



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第17話  捕食デッキの恐怖ナリ

「デュエルを始める前に宣言して貰うわよ。負けたら私に好きなようにされるって」

 

 小山内先生の口元が三日月に歪む。

 どれだけ小山内先生が変態で変態で変態なのかは理解している。もしも断れば実力行使に出るだろう。そうなれば太刀打ちは出来ない。

 

「いいだろう。俺は吹雪の貞操を賭ける!」

 

「待った!」

 

 吹雪が丈のことを制止する。

 

「どうして僕が。そこは自分のものを賭けるべきじゃないかい。胸キュンポイントがガクッと落ちるよ!」

 

「JOIN女好きだからいいじゃないか。年上だろうとノープロブレムだろ」

 

「ううん、アレばかりは僕も無理だよアレは。レディーというよりモンスターじゃないか」

 

「仕方ないか。なら俺は亮の貞操を賭ける!」

 

「おい」

 

 今度は亮が丈の事を止める。

 

「俺はデュエルならどんな相手だろうとリスペクトし戦う用意がある。しかし……俺もアレばかりはリスペクト出来ない」

 

「えぇー」

 

「ぐふふふふふ喧嘩しちゃって可愛い。なら貴方が負けたらここにいる全員の貞操を頂くとするわぁ」

 

『!』

 

 全員がギョッとする。 

 小山内先生の目は本気だ。丈が負ければここにいる全員を性的な意味で捕食するつもりだ。

 

「……丈このデュエル」

 

「……勝ってくれよ丈、僕もコレばっかりは……」

 

「ら、ラジャー」

 

 宍戸丈、13歳。

 天下分け目ならぬ貞操分け目のデュエル。丈はデュエルディスクの電源を起動させると小山内先生の前に立った。

 小山内先生の実力は未知数。一度もデュエルしたところを見た事が無いので、どのようなデッキや戦術でくるかも分からない。

 しかしそれは相手も同じだ

 小山内先生の方も丈の新デッキに関する情報はない。条件は互角だ。

 

 

決闘(デュエル)

 

 

「先行は俺だ。俺のターン、ドロー! 俺はE・HEROエアーマンを攻撃表示で召喚!」

 

 

【E・HEROエアーマン】

風属性 ☆4 戦士族

攻撃力1800

守備力300

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

次の効果から1つを選択して発動する事ができる。

●自分フィールド上に存在するこのカード以外の

「HERO」と名のついたモンスターの数まで、

フィールド上に存在する魔法または罠カードを破壊する事ができる。

●自分のデッキから「HERO」と名のついた

モンスター1体を手札に加える。

 

 

 蒼い素肌とバイザー。そして背中には扇風機のような羽をつけたヒーロー。

 亮とトレードしたカードの一つにしてE・HERO御用達のモンスターだ。

 

「HERO? あらあらチェックしておいたデッキと違うわねぇ。私と遊ぶためにデッキも新調したのかしら。嬉しいわね」

 

「……俺はエアーマンのモンスター効果を発動。デッキからHEROと名のつくモンスターを一枚手札に加える。俺はE・HEROオーシャンをサーチ。これで俺はターン終了」

 

「私のターンね。私はマンジュ・ゴッドを攻撃表示で召喚」

 

「マンジュ・ゴッド。儀式デッキのほぼ必須カードか」

 

 

【マンジュ・ゴッド】

光属性 ☆4 天使族

攻撃力1400

守備力1000

このカードが召喚・反転召喚に成功した時、

自分のデッキから儀式モンスターまたは

儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。

 

 

「マンジュ・ゴッドの効果、デッキから儀式魔法イリュージョンの儀式を手札に加えるわ。……これで準備は完了♡」

 

「そ、その儀式カードは!?」

 

 イリュージョンの儀式は唯一の星1の儀式モンスターを召喚する為に必要となるカードだ。

 ならば出すカードも一つしかない。

 王国編ではあの武藤遊戯を苦しめあわやという所まで追い込んだ怪物。

 

「私はイリュージョンの儀式を発動。手札のセンジュ・ゴッドを生贄に捧げ、手札よりサクリファイスを攻撃表示で召喚するわぁ」

 

 

【イリュージョンの儀式】

儀式魔法カード

「サクリファイス」の降臨に必要。

手札・自分フィールド上から、レベルが1以上に

なるようにモンスターを生贄にしなければならない。

 

 

【サクリファイス】

闇属性 ☆1 魔法使い族

攻撃力0

守備力0

「イリュージョンの儀式」により降臨。

1ターンに1度、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択し、

装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、このカードの効果で装備したモンスターの

それぞれの数値になる。この効果でモンスターを装備している場合、

自分が受けた戦闘ダメージと同じダメージを相手ライフに与える。

また、このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりにこのカードの効果で

装備したモンスターを破壊する。

 

 

 センジュ・ゴッドが贄に捧げられると、小山内先生の背後から闇が溢れだす。闇はやがて巨大な球体となり、小山内先生がニヤリと笑うと同時にバッと闇が消える。

 闇の中から先ず現れたのは千年アイテムにあるものと同じウジャド眼。そして全身を覆う傘のような羽。全体の体は青白く染まっており、そこを網目のように白い血管が通っている。

 デュエルモンスターズ史上最初の効果あり儀式モンスター、サクリファイス。

 その外見の不気味さは随一だ。

 

「サクリファイスの効果は知っているわよねぇ。あなたのエアーマンを吸収するわよ」

 

 サクリファイスのウジャド眼の下にあるホールに、エアーマンが抵抗しながらも吸収されていく。サクリファイスの傘にエアーマンが呑みこまれる。

 そしてエアーマンの力を吸収したサクリファイスがその力を上げた。

 

「ああん。ギラ目ショタのモノ(モンスター)が私の中(サクリファイス)に入って来るわぁ!」

 

「死ね」

 

 教師に言うには不適切な暴言をダイレクトに言い放つ。いやこんなのを教師と呼んだら全国の清く真面目な先生たちは偉く迷惑だろう。こいつはただの変態だ。

 

「酷いわね。これが流行りのツンデレ、ツンデレショタ」

 

 ゴクリと喉を鳴らす変態。

 デュエルしていてこんなに疲れたのは生まれて始めてだった。

 それとツンデレというのは誤りだ。丈にあるのはツンだけだ。ツンオンリーである。

 

「だけどこれで貴方のフィールドはがら空き。愛の鞭を貴方の白いうなじに叩き込んであげる! サクリファイスとマンジュ・ゴッドでダイレクトアタック! ダークアイズ・マジック! アーンド! マンジュキック!」 

 

 宍戸丈 LP4000→800

 

 がら空きのフィールドに二体のモンスターの直接攻撃。丈のライフが一気に1000ポイントを切った。やはり初期ライフが4000しかないと一度の直接攻撃が致命傷となりかねない。

 

「私はターンエンド。さぁ貴方のターンよ」



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第18話  絶対零度の英雄を召喚ナリ

宍戸丈 LP800 手札6枚

場 無し

 

小山内 LP4000 手札3枚

場 サクリファイス、マンジュ・ゴッド

 

 根本から腐っていようと教師は教師ということか。デュエルの腕もそれなりにはあるらしい。しかし変態はミスを犯した。あのターンで勝利を決めておくべきだったのだ。

 自分のターンのドローで丈の手札は合計七枚。逆転のカードは揃っている。

 

 

「俺のターン! 俺は手札の沼地の魔神王を墓地に捨てる。沼地の魔神王のモンスター効果、このカードを手札から墓地に送ることでデッキから融合を手札に加える。俺は手札のE・HEROオーシャンとキャプテン・ゴールドを手札融合、現れろ絶対零度の戦士! 最強のヒーロー、E・HEROアブソルートZero!」

 

 

【E・HEROアブソルートZero】

水属性 ☆8 族

攻撃力2500

守備力2000

「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する

「E・HERO アブソルートZero」以外の

水属性モンスターの数×500ポイントアップする。

このカードがフィールド上から離れた時、

相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

「俺は手札からもう一枚のE・HEROオーシャンを守備表示で召喚。オーシャンの属性は水。そしてアブソルートZeroはこのカード以外の水属性モンスターの数だけ攻撃力を500上昇させる」

 

「攻撃力3000!?」

 

「アブソルートZeroでマンジュ・ゴッドを攻撃、瞬間氷結-Freezing at Moment-!」

 

 アブソルートZeroが発生させた絶対零度の氷結がマンジュ・ゴッドを氷漬けにする。氷のオブジェは暫くするとそのままバリバリとひびが入っていき砕けてしまった。

 

 

 小山内 LP4000→2400

 

 

「やるわね。入学試験をナンバーツーの成績で突破したのは伊達じゃないということかしら」

 

「俺は更にリバースカードを一枚セット、ターンエンド」

 

「私のターン、ドロー。強欲な壺を発動して更に二枚ドロー。ふふふふふ。攻撃力3000……その高い攻撃力が仇となったわね」

 

「え?」

 

「不味いぞ丈! サクリファイスには戦闘ダメージを相手にも与える効果がある!」

 

「つまりサクリファイスがアブソルートZeroに自爆特攻を仕掛ければ……丈のライフは800、丈の負けだ!」

 

 亮と吹雪がそう訴えるが既に遅い。

 丈はエンド宣言をしてしまった。既にターンは変態の方へと移っている。

 

「頭の良い子たちね。私、好きよ。お勉強のできる子は。だから安心していいわ。自爆特攻なんて下品なことはしない」

 

「…………」

 

 お前の存在の方が余程下品だ、とは思っても言わない。

 

「その代わりとっておきで逝かせてアゲル。私は二体目のマンジュ・ゴッドを召喚。高等儀式術を手札に加える。更に装備魔法リチュアル・ウェポンをサクリファイスに装備。これで用意は整ったわ」

 

 

【リチュアル・ウェポン】

装備魔法カード

レベル6以下の儀式モンスターのみ装備可能。

装備モンスターの攻撃力と守備力は1500ポイントアップする。

 

 

「これでサクリファイスの攻撃力は3300ポイント! アブソルートZEROを上回ったわ。だけどまだ終わりじゃないのよ。私はもう一枚のリチュアル・ウェポンをサクリファイスに装備。その攻撃力がまた1500上昇。これでサクリファイスの攻撃力は4800、あの青眼の究極竜すら上回ったわぁ~」

 

「わお」

 

 サクリファイスがみるみる内にそのオーラを増していき、同時に攻撃力と守備力を高めている。エアーマンと同じ1800の下級アタッカーが今では4800の大台。青眼の究極竜を超えたと言うのも誤りではない。

 

「どう? 今サレンダーするなら優しく苛めてあげるわよ」

 

「冗談」

 

 苦境に追い込まれながらも丈はニヤッと笑って見せる。

 

「あら、サクリファイスが恐くないのかしら? それとも強がり?」

 

「おあいにく様ですよ。攻撃力4800? まだまだ温いって。どこぞの火力馬鹿とデュエルしていたら攻撃力4000なんて当たり前。8000だって日常だ。酷い時は30000は超える。今更たかが4800で驚いてたまるかこのところてんの助」

 

「丈、まさかその火力馬鹿とは俺のことじゃないだろうな」

 

「初手にサイバー・ドラゴン三枚とパワーボンドを集めたことを俺は忘れない」

 

 亮の言葉を適当にあしらう。

 前に後攻ワンターン目からサイバー・エンド・ドラゴンの正規融合を見た時は本気で積み込みじゃないかどうか疑った。これで本当にいかさまならまだ救いがあるのだが、ただの偶然というのだから洒落にもならない。

 

「……その反応は可愛くないわね。いいわ身の程を教えてあげる。バトル! サクリファイスでアブソルートZeroを攻撃、これで終わりよ!」

 

「トラップ発動! 亜空間物質転送装置!」

 

 

【亜空間物質転送装置】

通常罠カード

自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、

このターンのエンドフェイズ時までゲームから除外する。

 

 

「これによりアブソルートZeroを亜空間へ転送! サクリファイスの攻撃はアブソルートZeroに届かない!」

 

「あはははははははは。トラップだからどんなカードかと思えば。アブソルートZeroを逃がしたと言ってもまだサクリファイスの攻撃は終わってない。貴方のフィールドには壁モンスターが一体だけ。それを破壊すればモンスターの追撃で貴方のライフはゼロ。私の勝利よ」

 

「そ れ は ど う か な」

 

「は?」

 

「アブソルートZeroがフィールドを離れたことにより、アブソルートZero最後の特殊能力が起動する!」

 

「まだ効果を備えていたというの!?」

 

「アブソルートZeroはフィールドを離れた時、相手フィールド上のモンスターカードを全て破壊する。つまり」

 

 亜空間から絶対零度の冷気が変態のフィールドにいるモンスター達を瞬時に凍らせる。マンジュ・ゴッドの時と同じく氷に段々とひびが入っていき、壊れて消滅してしまった。

 

「私のサクリファイスが……」

 

「サクリファイスの相手にもダメージを与える効果は戦闘時のみ発生する。効果の破壊にはサクリファイスは無力だ。効果破壊耐性もないし」

 

「くっ。可愛くない子! でもまだよ! こんなこともあろうかと私は奥の手を用意していたわ! バトルフェイズを終了させメインフェイズ2に移行! 手札から高等儀式術を発動!」

 

 

【高等儀式術】

儀式魔法カード

手札の儀式モンスター1体を選択し、そのカードとレベルの合計が

同じになるように自分のデッキから通常モンスターを墓地へ送る。

選択した儀式モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「私はデーモン・ソルジャー二体を墓地へ送り、手札から仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーを攻撃表示で召喚!」

 

 

【仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー】

闇属性 ☆8 悪魔族

攻撃力3200

守備力1800

「仮面魔獣の儀式」により降臨。

 

 

 馬のような下半身と人間の形をした上半身。馬のような体には所せましと装着された不気味な仮面。しかし多様な面相の仮面に相反するようにその頭部には顔というものがなかった。

 

「私はこれでターンエンド。さぁ貴方のターンよ、たぶん最後の」

 

「エンドフェイズ時にアブソルートZeroはフィールドに戻ってくる。そして俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズにフィールドのE・HEROオーシャンのモンスター効果を発動。墓地のE・HEROキャプテン・ゴールドを手札に加える」

 

「あはははははははは! アブソルートZeroの攻撃力は3000! 亜空間物質転送装置で戻ってきたアブソルートZeroで私に直接攻撃しようとしてたみたいけどそうはいかないわ」

 

 もしもこの世界に神様というものがいるとして、丈の人生をまるで小説のように眺めているとしたら、面白い運命もあったものだ。

 丈の手札には一枚の魔法カードがある。

 この運命、折角の機会だ。乗ってみようではないか。

 

「なら先生に教えてやるぜ。HEROにはHEROに相応しい戦う舞台ってもんがあるんだ」

 

 それはアニメGX第一話の遊城十代と同じ言葉。

 ならば必然、丈の手札にあるのはあのカード。

 

「フィールド魔法、スカイスクレイパー!」

 

 

【摩天楼-スカイスクレイパー-】

フィールド魔法カード

「E・HERO」と名のつくモンスターが戦闘する時、攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする。

 

 

 主人公が頻繁に使用したカードだからか、このカードはOCGでなくアニメ効果だ。

 地面から次々に高層ビルが生えていき、暗い保健室は一転してアメコミのヒーローが活躍するマンハッタンの街並みのように変わる。

 

「俺はE・HEROキャプテン・ゴールドを召喚、攻撃表示!」

 

 

【E・HEROキャプテン・ゴールド】

光属性 ☆4 戦士族

攻撃力2100

守備力800

このカードを手札から墓地に捨てる。

デッキから「摩天楼 -スカイスクレイパー-」1枚を手札に加える。

フィールド上に「摩天楼 -スカイスクレイパー-」が存在しない場合、

フィールド上のこのカードを破壊する。

 

 

「さあ舞台は整った! アブソルートZeroで仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーに攻撃!」

 

「冗談でしょう? アブソルートZeroの攻撃力はマスクド・ヘルゲイザーの足元にも及ばない」

 

「HEROは必ず勝ァァァァつ! スカイスクレイパーの効果、自分より攻撃力の高いモンスターとHEROが戦う場合、攻撃力を1000ポイントアップさせるフィールド魔法」

 

「んなぁんですって!?」

 

「喰らえ! スカイスクレイパー・フォース・ブリザード!」

 

 

 小山内 LP2400→1600

 

 アブソルートZeroに氷漬けにされて撃破されるマスクド・ヘルレイザー。

 小山内先生のフィールドからモンスターが消える。

 

「いけぇ! キャプテン・ゴールド! スカイスクレイパー・ゴールド・シュート!」

 

「ひぎぃぃいいいいいい!」

 

 

 小山内 LP1600→0

 

 

「な、なんとか勝った」

 

 心臓がバグバグいっている。

 本当に勝てて良かった。負けたら一生忘れないトラウマが出来ていたかもしれない。

 

「流石だな。しかし一瞬冷やりとしたぞ」

 

「悪いって亮。でも勝ったんだしいいじゃないか」

 

「二人ともそんなに悠長にしてないで、小山内先生が……あ、あれ?」

 

 JOINが固まる。

 

「あは……ふっふはははははははははは、逃げさないわよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「デュエルには勝ったのに! このショタコン、まだ」

 

「いいから逃げるぞ! 丈、吹雪! 既に彼女は錯乱している!」

 

「「りょ、了解!」」

 

 亮に従い保健室から飛び出すと、脱兎のごとく逃げる。

 パンドラの箱と同じだ。自分達は決して触れてはならぬものに触れてしまった。あのショタコンにデュエル脳的な理屈を求めてはいけない。早く逃げなければ。

 

「ショタっ子くんかしたいお! スーハ―スーハ―! くんかくんかくんかァ!」

 

 丈達は兎も角学校の校舎を滅茶苦茶に逃げ回る。

 アカデミアの昼は長かった。

 



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第19話  過去の亡霊ナリ

「ふふふふふ飛んで火にいるなんとやら。お前にはレアカードを置いて行って貰うぞ」

 

 丈の目の前では黒いローブを羽織った男がデュエルディスクを構えて立っている。

 日はとっくに沈み、空は雲に覆われていて月明かりすらない。近くにある寂れた街灯だけが丈の視界を照らしてくれる唯一の光だった。

 

「はぁ。まさかこんな奴が相手なんて。どうなってんだよ本当に」

 

 何度目だろうか。この世界に生まれ変わってから溜息をついたのは。

 過ごした期間は前よりも短いが、以前の人生よりも多く溜息をついているのは間違いない。なにせ最初の頃などTVドラマでデュエルをしている度に溜息をついていたのだから。

 

「お前の事はデータで見知っているぞ、宍戸丈。アカデミア中等部では一二を争う技量だそうだな。使用カードは神獣王バルバロス、The SUN、堕天使アスモディウスなどの最上級モンスターを多用するパワーデッキ。優秀なだけあり良いカードをもっている。これを持ちかえれば組織の中での私のランクも上がるというものだ」

 

 頭まですっぽりと黒いローブを羽織った男。それだけでも怪しさ満載な格好なのだが、それ以上に丈の注意をひくものがあった。ローブの丁度頭にかかっている部分、人間でいえば額のあたりにある紋様。

 ウジャド眼。千年アイテムに刻まれた印にして、嘗て暗躍していたレアカード強奪組織グールズのマーク。

 

(おいおいグールズはバトルシティで壊滅したんじゃないのか?)

 

 グールズが最盛期を誇ったのはアカデミアが出来るよりも昔。武藤遊戯、海馬瀬人、城之内克也などが台頭してきたデュエルモンスターズ黎明期。武藤遊戯が神のカードを束ねキング・オブ・デュエリストの称号を得るバトルシティートーナメント前までだ。

 千年アイテムの一つ千年ロッドの所有者にして、ファラオの記憶の守護者たる墓守の一族の末裔であるマリクをボスとして、ナンバーツーの罠使いリシド、奇術師パンドラ、闇の仮面&光の仮面、エクゾディア三積み男などを擁し、世界中のレアカードを奪いコピーし悪行の数々を尽くしていたデュエルギャングの元祖。それこそがグールズなのだ。

 しかし悪は世に栄えぬということなのだろう。そのグールズもバトルシティ決勝戦でボスであるマリクが敗北してことにより没落。元々マリクのもつ千年ロッドによって多少の『無理』が通っていた組織だ。千年アイテムとボスであるマリク、ナンバーツーのリシドを失ったことにより組織は自然消滅。残った団員も散り散りになり、死んだ者もいれば足を洗って真人間になった者もいる。

 だから目の前にいる男は違う。単なるコスプレ野郎だ。

 そう自分に言い聞かせる。だが。

 

「お前にも我等ネオ・グールズの礎となって貰うぞ――――――デュエル!」

 

 男は明確に自らを"グールズ"であると名乗った。

 ただの男の妄想という可能性もあるにはあるが、それは信じるに値しない程低い可能性だ。服装や所業からしてこの男はグールズ。そして自分の敵だ。

 

 どうしてこんなことになったのか。

 全ては今日の夕食の頃にまで遡る。

 

 

 

 

「……は? 毎夜出没する謎のデュエリスト?」

 

 何時ものように寮の食堂で夕食をとっていた丈と亮は、ニコニコ顔でやってきた吹雪に胡散臭い噂話を聞かされていた。

 そういった話は本来女子高生の話の肴だと思うのだが吹雪のことだ。ファンの女生徒辺りにでも聞いたのかもしれない。

 

「そうだよ。あくまで噂なんだけど……夜毎、アカデミアの生徒を黒いローブを羽織ったデュエリストが無差別に襲ってるらしくてね。勿論、襲うといっても直接じゃなくてデュエルでだけど」

 

「えっ? 夜毎って寮に忍び込んでくるのか?」

 

「ノンノン。流石にそこまではしてないよ。ただ夜中にコンビニへ出掛けたり部活動で遅くなった生徒を襲ってるらしいよ」

 

 アカデミア学生寮には門限というものがない。

 これは普通の学生寮なら有り得ないことであるが、オーナーである海馬社長曰く「自らの戦いのロードと門限は自らで決めろ」とのことらしい。相変わらず常識を超越した御仁である。

 

「デュエルか。それなら問題ないだろう。幾らローブを羽織っていようとデュエルするだけなら無害だ」

 

 亮が食堂の人気メニューの一つ、カツカレーを口に運びながらそう言った。

 典型的なデュエル脳である亮のことだ。黒いローブを羽織っていようと、着物を着ていようと、歌舞伎役者だろうと相手がデュエリストなら問題なくデュエルをするのだろう。

 それなりに長く付き合ったせいで、少しは亮のことが分かってきた。

 

「ところがそうもいかないんだよね」

 

 勿体ぶった様に溜息をつく吹雪。

 黒いローブのデュエリストはただデュエルを挑んでくる訳ではない。そのことを吹雪の表情が雄弁に語っていた。

 

「……と、いうと?」

 

 吹雪の顔を伺いながら丈が尋ねる。

 

「アカデミアでは高等部も中等部もアンティルール、お互いのレアカードを賭けて行うデュエルを原則禁止している。だけどそのデュエリスト、無理にアンティ勝負を挑んではレアカードを強奪してるらしいんだよ」

 

「レアカードの強奪だと。本当か、それは」

 

 静かなる怒り。亮の眉間に皴がよる。

 怒鳴ったり叫んだり、表に出す事こそしていないものの亮の中にある激情がぐつぐつと煮えたぎっているのが丈にも分かった。

 丸藤亮という男は誇り高いデュエリストである。

 常に正々堂々全力を尽くし相手と戦うし、対戦者に敬意を払うことも忘れない。そういう男だ。故に無理にアンティ勝負を挑んでレアカードを強奪するような輩など許せるはずがない。

 

「どうやら、ね。テニス部の宇都宮先輩やバレー部のジョンソン先輩……水泳部の東条先輩も被害にあったそうだ」

 

 吹雪は順に被害者の名を並べていくが、その名前の人物は全て女生徒であった。それも可愛い事で有名な。

 この女ったらし野郎、少しはこっちにも紹介しろ。ただしショタコン及びペドフェリアは除外。

 丈は心の中で友人に毒を吐く。一瞬保健室でのトラウマが思い出されたが慌ててそれを振り払った。あんなものは覚えていても仕方ない。忘れた方が良い記憶だ。

 

「……男子生徒には被害はないのか?」

 

 念のために亮が聞く。

 

「いいや。僕は知らないけど、彼女たちの言い分だと男子にも犠牲者はいるようだ」

 

「そうか。なら……吹雪、丈。やるぞ」

 

 亮が立ち上がる。

 決意がその目に現れていた。丈はなんとなく亮の言いたいことを予想しつつも、一つの義務として尋ねておく。

 

「ちなみに何を?」

 

「犯人を俺達の手で捕えるぞ。被害にあった人達のカードを取り返さなければならない」

 

 

 

 

 天を仰ぐ。

 丸藤亮はいい奴だ。犯人を捕まえようと言ったのも決して功名心に奔っただとかチヤホヤされたいとかいう俗な理由ではない。純粋に無理矢理カードを奪うような真似をするような行為が許せなくて、奪われたカードを元の持ち主に返してあげたいという思いで犯人を捕まえようと言ったのだ。

 丈自身、本当に断ろうと思えば断れた。

 亮とて嫌がる者を無理に戦わせようとはしない。だからここでこうなっていることを亮のせいにするのは筋違いだ。あくまで自分の責任。自分の責任で戦わなくてはいけない。

 

(フ、囮作戦は失敗した。やっぱり団体行動って大切だよな)

 

 犯人を捕まえるにあたって囮捜査を選択したのは間違いだった。

 丈、吹雪、亮。三人が一緒にいると犯人も警戒するだろうとのことで、遭遇確率を上げる意味でも三人バラバラになったのが不味かった。

 お陰で丈はこうして一人で戦う羽目になった。しかも何時かのショタコン戦の時と同じく、デュエルディスクに装填されているのは出来上がったばかりの新デッキである。

 それでも、

 

(――――――――――亮じゃないけど、やっぱりカードを無理矢理奪うって言うのは許せないことだよな。常識的に考えて)

 

 こんなんでも宍戸丈はデュエリストだ。前世の記憶を持つとはいえこの世界で生きる一人の人間である。

 ならば人間として持つべき良心とやらに従うとしよう。

 



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第20話  暗黒界デッキの恐怖ナリ

「デュエル!」

 宍戸丈     LP4000

 レアハンターA LP4000

 

 

 今まで不良とのデュエルはやったことがあるものの、本物の犯罪者相手は初めてだ。

 緊張に鉄製の鍋で蓋をすると、丈は呼吸を整えて初期手札である五枚をデッキからドローする。デュエルディスクが点灯したのは自分の方。

 幸いなことに先行はこちらからだ。

 

「俺の先行、ドロー!」

 

 丈の新しいデッキは圧倒的展開力がウリだ。一枚一枚のカードは普通のデッキに入れても対して使い道のないカード達だが、専用デッキに組み込まれた時に大いに化ける。そういうカテゴリーだ。丈の構築した暗黒界デッキは。

 とはいえ今の手札では最初のターンで超速展開を行うことは出来ない。取り敢えず展開のための準備を整えておくとしよう。

 

「俺はモンスターをセット。リバースカードを二枚セット! ターンエンド」

 

「クククククッ、恐れおののき防御を固めたか。私のターン! 私はデーモン・ソルジャーを攻撃表示で召喚! 更にフィールド魔法、万魔殿-悪魔の巣窟-を発動!」

 

 

【デーモン・ソルジャー】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1900

守備力1500

 

 

【万魔殿-悪魔の巣窟-】

フィールド魔法カード

「デーモン」という名のついたモンスターはスタンバイフェイズにライフを払わなくてよい。

戦闘以外で「デーモン」という名のついたモンスターカードが破壊されて墓地へ送られた時、

そのカードのレベル未満の「デーモン」という名のついたモンスターカードを

デッキから1枚選択して手札に加える事ができる。

 

 

 

 暗い夜道が一転して中世ヨーロッパの儀式場のような不気味なモニュメントに早変わりする。今にも悪魔共の呻き声でも聞こえてきそうだ。

 これだけの大規模なものがただのソリッド・ビジョンとはどうしても思えない。こんなアイテムを開発した社長の凄さを改めて思い知った気がする。

 

「フフフフ、これで"デーモン"と名のつくモンスターはライフコストから解放された。といっても今フィールドにいるデーモン・ソルジャーはデメリットもメリット効果もない通常モンスターだが、私は次のターンでより強力なデーモンを呼ぶことができる」

 

 口振りからいってレアハンターの手札には生贄を必要とするデーモンがいるのだろう。それも強力な効果を持った。

 しかしそれは召喚出来ればの話だ。

 

「私はデーモン・ソルジャーでセットモンスターを攻撃!」

 

「この瞬間、セットモンスターが表側表示になりリバース効果が発動する」

 

「ぬぁに!?」

 

「俺がセットしていたモンスターはメタモルポット!」

 

 

【メタモルポット】

地属性 ☆2 岩石族

攻撃力700

守備力600

リバース:お互いの手札を全て捨てる。

その後、お互いはそれぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。

 

「互いのプレイヤーは手札を全て捨て代わりに五枚ドローする」

 

「くぅ、私の上級デーモンが……」

 

 心底無念そうにレアハンターが自分の手札を墓地に置く。その後五枚ドローしたが顔色は優れなかった。どうやらお目当てのカードを引き当てることが出来なかったらしい。

 流れはこちらにある。このまま一気に勝負を決めてやろう。

 

「メタモルポットの効果で手札が墓地に送られた事により、三体のモンスターの効果が発動する」

 

「ぼ、墓地に送られることで発動する効果だと!? そんなカードが存在するのか!」

 

「勿論だ。ないと効果発動なんて出来ないし」

 

 モンスターの効果というのは通常、フィールドで表側表示になっている時に発動するものが殆どだ。最初に使ったメタモルポットもそうだし、サイコショッカーなどの永続効果もこれに含まれる。

 しかし中には特殊な条件下でのみ効果を発動するカードもある。それが暗黒界だ。手札が墓地に送られるというデメリットをメリットに変換してしまうカード群。暗黒界に住まう悪魔達を描いたカード。

 メタモルポットの効果により暗黒界の力が覚醒する。

 

「俺は墓地に捨てられた暗黒界の龍神グラファ、術師スノウ、狩人ブラウのモンスター効果を使う。先ず一番目龍神グラファの効果! このカードが手札から墓地に送られた時、相手フィールドのカードを一枚選択して破壊する! 俺は万魔殿を破壊!」

 

「ちぃ!」

 

 フィールド魔法が消えた事により風景が元に戻る。

 デーモンの呼び声はもう聞こえない。代わりに暗黒界の住人の怒号が聞こえてくるが、それは丈にとっては心強いものだ。

 

「二番目! 術師スノウの効果! このカードがカード効果で墓地に送られた時、デッキから暗黒界と名のつくカードを手札に加える。俺は二枚目の龍神グラファを手札に」

 

「また最上級モンスターを呼び込んだのか、手札に! 一体そのカードをデッキに何枚投入しているんだ!」

 

(三枚だ)

 

 自分の手の内をこちからから晒すこともない。

 丈は自分の心の中だけでポツリと呟いた。

 

「三番目! 狩人ブラウのモンスター効果。このカードがカード効果で墓地に送られた時、カードを一枚ドローする」

 

「これで手札七枚。初期手札を上回った……だと? ええぃ。私はカードを一枚セットしターンエンド!」

 

「俺のターン」

 

 レアハンターのフィールドには通常モンスターが一体にリバースカードが一枚だけ。

 自分の手札と相手フィールドを見比べ口元が緩んだ。これならばいける。このターンで決着をつけることができる。

 

「魔法カード、暗黒界の雷を発動!」

 

 

【暗黒界の雷】

通常魔法カード

フィールド上に裏側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。

その後、自分の手札を1枚選択して捨てる。

 

 

「そのリバースカードは破壊だ」

 

 青い雷が天上から落ちる。落雷はレアハンターのフィールドにあるリバースカードを一瞬で黒焦げにすると破壊してしまった。 

 破壊したカードを確認すると"次元幽閉"。モンスターを破壊をすっ飛ばして除外してしまう強力な罠カードだ。破壊できて本当に良かった。

 

「しかし私のフィールドにはまだデーモン・ソルジャーが。……そ、そうか! 暗黒界の雷でグラファを捨てれば!」

 

「ご名答。俺は龍神グラファを墓地に捨て、そのモンスター効果を発動。デーモン・ソルジャーを破壊する」

 

「わ、私のフィールドがゼロになった……だと?」

 

「一気にいくぞ。フィールド魔法、暗黒界の門を発動」

 

 

【暗黒界の門】

フィールド魔法カード

フィールド上に表側表示で存在する

悪魔族モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。

1ターンに1度、自分の墓地に存在する

悪魔族モンスター1体をゲームから除外する事で、

手札から悪魔族モンスター1体を選択して捨てる。

その後、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 周りの風景が再度変化する。

 暗い夜道の代わりに出現したのは不気味かつ巨大な門が地面から生えてくる。門からは真っ白い霧が溢れてきており、丈やレアハンターの足元を覆い隠してしまった。

 

「暗黒界の門の効果で俺は墓地の狩人ブラウを除外、手札の暗黒界の尖兵ベージを墓地に捨てカードを一枚ドロー。墓地に捨てた尖兵ベージの効果、このカードが手札から捨てられた時、このカードをフィールド上に特殊召喚する」

 

 

【暗黒界の尖兵ベージ】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1600

守備力1300

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

 槍を構えた下っ端のような風貌の悪魔が召喚される。

 攻撃力1600というのは下級アタッカーとしてはやや心伴い数値だが、暗黒界の門のお蔭で悪魔族のベージはその力を300上昇させていた。

 よってその攻撃力は1900。ブラッド・ヴォルスとも相打ちになれる数値だ。

 

「これでダイレクトアタックといきたいところだが……ここで俺は墓地の龍神グラファのモンスター効果を発動!」

 

「まだ効果があるというのか!?」

 

「龍神グラファはフィールドの暗黒界と名のつくモンスターを手札に戻すことにより、墓地から特殊召喚することが出来る。俺は暗黒界の尖兵ベージを手札に戻し、墓地より龍神グラファを蘇生する!」

 

 ベージが光の粒子となり丈の手札に戻る。すると丈の墓地から地響きのようなものが聞こえてきた。空気が割れる。真っ黒な閃光がフィールド上に落下した。閃光はやがて巨大な塊となり、その姿を現した。

 全身は闇よりも暗い漆黒。ギラギラと光る双眼と獰猛な牙が敵であるレアハンター、味方である丈までをも畏怖させた。

 暗黒界の龍神グラファ。暗黒界最強の怪物にして悪魔。

 魔神と軍神を超える者。

 

 

【暗黒界の龍神グラファ】

闇属性 ☆8 悪魔族

攻撃力2700

守備力1800

このカードは「暗黒界の龍神 グラファ」以外の

自分フィールド上に表側表示で存在する

「暗黒界」と名のついたモンスター1体を手札に戻し、

墓地から特殊召喚する事ができる。

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合

相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

相手のカードの効果によって捨てられた場合、

さらに相手の手札をランダムに1枚確認する。

確認したカードがモンスターだった場合、

そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

「そして俺にはまだ通常召喚権が残っている。暗黒界の尖兵ベージを攻撃表示で召喚! これで攻撃力の合計は4000オーバー! 尖兵ベージの攻撃、デス・ランス!」

 

 ベージがレアハンターの腹を突き刺す。

 暗黒界の門で強化された一撃はライフポイントの半分近くを一度に削り取った。しかしまだ追撃がある。尖兵を遥かに超える龍神の一撃が。

 

「龍神グラファで直接攻撃! ダーク・デス・バースト!」

 

 グラファの攻撃力は3000。

 あのブルーアイズとも互角の攻撃力である。フィールドががら空きのレアハンターに防ぐ術はなく、その直撃をもろに喰らうことになった。

 

 

 レアハンター LP4000→0

 

 

 

「良し。俺の勝ちだ!」

 

 開始から僅か三ターン、丈の勝利が確定する。

 暗黒界はいつぞやのショタコンの時と違い、華々しいデビューを飾った。



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第21話  曲がり始めた道筋ナリ

 レアハンターはどうして負けたのか信じられない、とでもいうような表情で目を見開いたまま呆然としていた。

 恐らく余程自分の実力に自信をもっていたのだろう。レアハンターの中でも指折りの実力者だったのかもしれない。しかし実力者だからこそ僅か三ターンで敗北したという事実が受け入れがたいのだ。

 

「丈!」

 

 蹲るレアハンターをどうしたものかと眺めていると、亮と吹雪がこっちに走ってくるのが見えた。

 

「その男は?」

 

 吹雪が第一声で尋ねてくる。

 

「ネオ・グールズのレアハンターとか言ってたよ。今はこうなってるけど……」

 

「……どうやら倒したようだな。しかしネオ・グールズ? レアハンター? あの組織はバトルシティトーナメントで壊滅したんじゃないのか?」

 

 亮がそう訊いてくるが、丈とて同じ問いを他の誰かに投げつけたいところだった。丈はただ襲ってきたレアハンターを撃退しただけで、ネオ・グールズとかいう組織の概要については殆どといっていいほど知らない。

 前世での記憶という情報アドバンテージもこの事に関しては無力だった。

 

「グールズ再びか。ただのガラの悪い不良だろうと思ってたんだけど、悪い意味で当てが外れたね。まさかこんな大物だったなんて」

 

「いや吹雪。ネオ・グールズというのがそもそもこの男の出任せという事も考えられる。決めつけるのは早計だ」

 

 亮の言った事は尤もであった。

 グールズは嘗ては世を震撼させたほどの巨大組織。それが復活したと考えるよりは、この伸びてるレアハンターがただグールズの名前を利用しているだけと考える方が自然だ。

 

「……それより、こいつどうする?」

 

 話を一旦区切り丈がブツブツと何事かを呟いているレアハンターを指差す。このレアハンターを警察に突き出すにせよ、奪ったカードを取り返すにせよ、このまま放置しておくという訳にはいかない。

 

「ただの不良ならカードを返させるだけにしようと思ったが、万が一本物のグールズだったという可能性を考慮すれば警察に突き出すのが適切だろう」

 

 最初に亮が意見を述べる。

 反論する者はいなかった。ネオ・グールズのことが本当のことだとしたら、一刻も早くこの事実を誰かに伝えなくてはならない。そうしなければ被害が増えるだけだ。だが、

 

「おおっと、そいつは連れて行かせないかんな!」

 

「!」

 

 やや幼稚さを含んだ声が響く。

 一斉に三人が声のした方向を振り向くと、そこには真っ白い仮面で顔半分を覆い隠した小柄な男と、真っ黒い仮面で顔半分を覆い隠した大柄な男がいた。

 背丈も仮面の色も対照的な二人だったが唯一の共通点がある。服装だ。二人とも真っ黒なローブをまとっており、そのローブにはウジャド眼のマークがある。先程丈が撃退したレアハンターと同じように。

 

「新手か!」

 

「ご名答。俺は光の仮面」

 

「そして俺は闇の仮面。そこで転がってる男が世話になったようだな。ふふふふっ。しかし同時に感謝もしよう。腹立たしい事にそいつのランクは俺と相棒よりも上」

 

「だが中学生如きに負けるようじゃランク落ちは確定だかんな! ついでにそいつを倒したお前等を潰しゃ俺達のランクも上がるってもんだかんな!」

 

 デュエルディスクを構える光の仮面と闇の仮面。

 そんな中、丈は一人パニックになっていた。

 

(おいおいおいおいおいおいおいおいィ―――――――――ッ! 光の仮面と闇の仮面!? なンだよなんですなんなンですかァ!? えぇ、あれだろおい! 仮面二人組ってバトルシティで王様と社長相手にタッグデュエルした二人だよな! ってことはあれ? ネオ・グールズって本物! モノホン!? リアル、現実、リアリティー、ボディーソープ? うぉおおおおおおおおお! どういうことだこりゃ!? ネオ・グールズなんて原作イベントには存在しな……もしかしなくても原作に存在しないイベント? ま、まぁ~物語たって原作イベントだけじゃないよなぁ……あーははははははははははははっ)

 

「ってなんじゃこりゃぁぁぁあああ!」

 

「どうした丈!?」

 

「いきなり変だよ!?」

 

「気を付けろ! 二人とも。そいつら原作……もといバトルシティで武藤遊戯と海馬瀬人と戦った事もあるデュエリストだ!」

 

「武藤遊戯と海馬瀬人?」

 

「まさかあのビルに爆弾を仕掛けてのデスマッチを仕掛けたグールズ!?」

 

「ふはははははは! 俺達も有名になったようだな。如何にも俺達こそキング・オブ・デュエリストと海馬瀬人を絶体絶命の窮地にまで追い込んだレアハンター! 闇の仮面と」

 

「光の仮面だかんな! お前等はもう負け決定。さぁ、アンティ勝負の始まりだ! 逃げることは許さないかんな!」

 

 光の仮面は闇の仮面は互いに絶妙な距離をとり、三人が逃げられないように囲んでくる。丈に負けたレアハンターはショックがデカかったのか未だに独り言を呟いていた。

 

「やるしか……ないようだな」

 

 最初に亮が覚悟を決める。

 光と闇の仮面。どう考えても見逃してくれるような雰囲気ではない。デュエルをするしかないのだ。戦って勝利するしかない。嘗ての武藤遊戯や海馬瀬人のように二人を倒すしか三人が生き延びる道はないのである。

 吹雪と丈もまた覚悟を決めてデュエルの準備をする。その最中だった。後ろから声を掛けられたのは。

 

「何をしている、こんな夜更けに。天上院、丸藤、宍戸?」

 

 三人は同時に驚いた。

 声をかけていたのは三人も良く知る人物だった。

 

「た、田中先生!? どうしてここに!」

 

 驚いた亮が尋ねるが田中先生の目は冷ややかだ。

 

「見て分からないのか丸藤。そこまで無能なのかね君は」

 

 田中先生の手にはコンビニのレジ袋。 どこからどう見てもコンビニに行ったとしか思えない出で立ちだ。

 

「……それと、そこの頭の悪そうな二人はなんだ?」

 

「ぬぁ!」

 

「頭が、悪っ!?」

 

「明日も定時に授業が始まる。遅れないよう早く帰宅することだ。尤も来たくないと言うのなら来なくても構わん。その場合、単位はやらん」

 

「え、いや出ますよ! 出ますとも!」

 

「ならさっさと帰ることだ。門限は過ぎている――――アカデミアではなく条例の方の、だが」

 

 田中先生が話を進める。しかしそこで納得できないのが光の仮面と闇の仮面だ。彼等からすれば折角掴んだ出世のチャンス。ここで逃す訳にはいかないだろう。

 

「待て貴様! こんな事、納得できるか!」

 

「そうだそうだ!」

 

「お前、口振りから言って教師だな。ならば俺達とデュエルだ。お前が負ければお前の持っているレアカードは全て頂く!」

 

「時間の無駄だ。お前達じゃ私には決して勝てん。絶対に」

 

「な、なんだと!?」

 

「俺達が負けるだって。俺達はあの海馬瀬人や武藤遊戯を追い詰めたデュエリストなんだかんな! お前みたいな一教師に負ける筈が」

 

「海馬、瀬人?」

 

 ピクリと田中先生の眉が動いた。

 海馬瀬人に何か良からぬ思い出でもあるのだろうか。

 

「いいだろう。少し相手をしてやる。時間の無駄に等しいが……その名を出したのなら覚悟はあるんだろう」

 

「へへっ、ならルールは」

 

「要らん。お前達二人同時に掛かってこい。ライフや初期手札も同条件でいい。一人一人相手にするなど時間の無駄だ」

 

「て、テメエ! 良い気になりやがって! いいだろう。貴様のレアカード、俺達が一枚残らず頂いてくれる!」

 

「やってみろ。――――――――丸藤、宍戸、天上院。お前達は帰れ」

 

「しかし先生! 一人では――――」

 

「丸藤。貴様如き一生徒に心配される謂れなどはない。失せろ。従えぬと言うのなら単位は出さん」

 

「ぐっ……」

 

 単位のことを持ちだされれば亮とて何も言えなかった。

 田中先生の実技の授業は必修科目だ。この単位を落としてしまえば、他の科目の成績がトップだったとしても進級することは出来ない。

 留年と退学。この二つは学生にとって最も忌避すべきことの一つ。亮とて例外ではない。

 

「先生、ご無事で。直ぐに応援を連れてきます」

 

 やむを得ず田中先生に後を任してその場を立ち去る。

 兎に角、急いで帰り警察を呼ぼう。そう三人は決めると、田中先生を殿にして寮へと全力疾走した。

 だが三人が寮に到着する前に二人の男の悲鳴が夜の空に轟いた。

 

「――――――」

 

 結果を言えば、助けを呼ぶ必要はなかったといえる。

 奪われたカードは全て次の日に元の所有者のところに戻って来たのだから。



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第二章 I2カップ編
第22話  ストーリーの加速ナリ


「俺もとうとう最終学年か」

 

 理路整然と並ぶ入学ほやほやの一年生たちを感慨深げに見ながら、宍戸丈は虚空へ向けて呟いた。

 デュエルアカデミア中等部に、幼馴染で友人の丸藤亮と共に入学して早二年余り。生徒を迎え入れる立場から、やがて生徒に見送られる立場となっていた。

 時間なんてものは実際に過ごしている間はとても長く感じるが、いざ過ぎ去ってみると短かったように感じる。このことを実感したのは生涯これで何度目だったか。

 

『続きまして三年生代表、丸藤亮くん』

 

 恒例の如く長話をした校長の後に一年生の前に立ったのは亮だった。

 他の学校なら一年生への挨拶やら訓示など生徒会長が行うものであるが、ここはデュエルが何よりも優先されるデュエルアカデミア。一年生に生徒代表で偉そうな事を言うのは学園一の実力者の役目である。

 

『新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます』

 

 半ば定型文と化した文章から、亮が話を始める。

 デュエルアカデミアはどういうことを学ぶ学園なのか。デュエルを行う際に払うべき敬意。生徒としての領分から逸脱しない範囲外で分かり易く丁寧に亮は台の上から一年生に語り聞かせていく。本人の真面目さのせいでユーモアの欠片もないのがマイナスだが、それを補って余りあるほどタメになる話を亮はしていた。

 天は二物を与えず。この諺が誤りであることを亮と一緒に過ごしていると思わずにいられない。

 

「……ん」

 

 亮の話を聞く傍ら、妙な人影を見つける。その影は高速で一年生が整列した周囲を無音で走り回りながら、これまた無音でシャッターを切っている。その影はアカデミア男子を示す青い制服をきているので親御さんではないのは確かだ。

 興味を持ち暫く監視していると、その影の動きには一つの統一性があることが掴めてくる。人影は次々に立ち位置を変えながらもシャッターを向ける先はいつも同じ。照明から降り注ぐ光を吸い込むような茶色いロングヘアと、中学一年生とはとてもではないが思えないスタイルと美貌をもつ少女にシャッターは向いている。

 

(まさか――――ストーカー?)

 

 疑いを強めてよりその人影を注視する丈だったが―――――――直ぐに警戒心を解いた。

 その人影の正体、それは丈も良く知る友人の一人。天上院吹雪だったのである。

 

(そういえば吹雪、妹が入学するって五月蠅く騒いでいたっけな)

 

 思い起こされるのは二月のこと。

 妹がアカデミアの入学試験に合格したと騒ぎながら、嬉しそうに丈達の部屋に押し掛けてきた吹雪のことだった。

 吹雪の妹、天上院明日香。

 アニメGXにおいてヒロインのような立ち位置にあり、遊戯王らしくヒロインの座をとあるモンスターに奪われた少女である。

 

「はぁ。変わらないなぁホント」

 

 亮は生真面目時々天然ボケで吹雪はお気楽能天気時々ボケ。性格面では似たところの少ない二人だが、そんなのだからかもしれない。二人が仲の良い友人となっているのは。似すぎた者達同士だと逆にギクシャクしてしまうのはよくあることだ。

 お気楽な友人と生真面目な友人。二人に目をやった後は適当に新入生の列を観察する。暫くするとその中に真っ黒な髪をしたやや高慢ちきそうな少年を見つけた。

 

(天上院明日香と万丈目準……この辺りの流れは原作通りだな)

 

 レアハンターの一件で、自分という異物が混ざったせいで原作が歪んでしまったのかと一時悩んだが、この分だとまだ致命的には歪んでないらしい。少なくとも原作通り"万丈目準"と"天上院明日香"の二人はデュエルアカデミア中等部に入学した。

 原作を捻じ曲げる訳にはいかない。宍戸丈は知っている。未来において数多の事件が起こることを。そしてその事件のことごとくを解決に導いた一人の少年のことを。

 だが未来は確定したものではない。

 今より遥か未来において、過去を変える事で未来を変えようとした男がいたように。過去において何らかの異常があれば容易く未来というキャンパスはその紋様を千変万化させる。既知の未来は絶対ではない。もしも『原作』という確定未来が消失した時、果たして自分自身に数多の事件を解決するほどの能力があるのか。

 丈はそう自らに自問し、結論した。

 可能性は皆無ではない。されど恐ろしく極小、須臾の可能性であると。

 遊戯王GXという物語における主人公、遊城十代にはデュエルモンスターズの精霊が見えた。しかし宍戸丈にはそれが出来ない。

 神獣王バルバロス、E・HEROアブソルートZero、暗黒界の龍神グラファ。これらは丈が愛用したカード達であるが、どれも精霊となって自分の前に現れることなどはなかった。ただ単に精霊が宿ってないカードだから精霊が現れない、と考える事も出来る。しかしそんな妄執じみた思考に囚われているより、自分には精霊が見ることができないのだと決定した方が合理的だ。

 精霊が見えることが必ずしも強さとイコールではない。現に精霊を見える遊城十代も精霊を見る事が出来ないデュエリスト相手に多くの敗北をしてきた。だが精霊を見れるということが一つの要素なのは事実。精霊が見えない宍戸丈では決して遊城十代の代役など出来よう筈もない。彼に変わって世界を救うなど絵空事だ。

 ならば丈がやるべきことは一つ。

 決定された未来がその方向性を変えようとした時、それを是正することだ。かといって既に既存の未来へ行くための道筋からレールが外れてしまったのもまた事実。

 レアハンターのこともそう。ネオ・グールズという組織が原作世界上に存在しながらも描かれることがなかっただけなら良い。しかしネオ・グールズが最悪宍戸丈という異物の存在が巡り巡って生んでしまったものだとすれば、遊城十代の物語が始まる前にこれを駆逐しなければならない。さもなければ約束された救済への架橋が崩れ落ちてしまう。

 その為にも自分はこのデュエルアカデミアに居た方が良い。軌道修正を行うにしても、それには既存の流れに近い場所にいなければならないのだから。

 だが壊れたものは元通りになるということはない。死んだ人間は還らず、覆水は盆に戻りはせぬ。ならば出来る限りはしよう。

 既に同じ未来に到達することが不可能というのならば、それに近い未来に辿り着くよう限界までのサポートはしよう。同じ未来に到達することが出来ないのなら、それを超える未来を目指すだけだ。

 宍戸丈というイレギュラーを、デメリットにするのではなくこの世界における有益へとする。それが未来の記憶を持ったままにこの世界に生まれ出でた者の責任というものだろう。

 宍戸丈は一つの決意を固め、未来を見定める。

 これより訪れるであろう運命を見、そして慟哭し決意した。この世界に幸あれと。

 

(もっとも――――――)

 

 気負った心を引っ込めて肩から力を抜く。

 そんなこと以上に亮や吹雪、二人の友人と過ごす学園生活は楽しい。しかし、もしもこれからの未来が原作と同じように進めば、二人には多くの絶望が待っている。吹雪は闇に囚われ、亮は地獄へと堕ちる。丈はそうならないで欲しいと強く願いながらも、それが原作を飾り付ける要素の一つだと知るが故に変えてはいけないと思う。

 知るが故の苦悩。未来を知るからこその、それを変える事の恐怖。

 

(こんなことなら原作知識なんて要らなかった。――――――――そう思うのは贅沢かな)

 

 泣いても笑ってもデュエルアカデミア中等部で過ごす最後の一年間だ。

 一生に一度の筈の中学三年生。それを留年もせずに二度も送っているという矛盾。

 やがて壇上の友人の演説が終わる。

 

『――――――では私からの話は以上です。最後にもう一度、ご入学おめでとうございます』

 

 小難しい事などどうでも良い。一仕事を終えた友人に拍手を送る事に理由などいらないはずだ。

 丈は力一杯檀上にいる亮へと拍手をする。願わくば友人としての関係がこれから先も壊れないことを祈りながら。



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第23話  サイバー流の新たなる力ナリよ

「ここに来るのも三年目になると感慨深いな」

 

 購買に着くや否や亮がそんな風に呟く。

 亮のそんな言葉には丈も共感できる。アカデミアの購買部、ここには昼食から新パックなどで毎度毎度世話になった。

 慣れ親しんだこの場所も後一年間しか来ることが無いと思うと寂しくもあった。

 いつものように適当なパックを選ぶと代金を渡す。

 財布に100円硬貨と五十円硬貨が一枚ずつあるとついパックを買ってしまうのはデュエリストの悪癖の一つかもしれない。

 そんな事をぼんやりと思いながら、丈はビリビリとパックを破った。

 

「……良いカード、当たったか?」

 

「ううん、どうだろ」

 

 見た限り大したカードはなさそうだ。

 コケ、メカ・ハンター、自律行動ユニット、レスキューキャット。

 余りこれといったカードはない。レスキューキャットは前世で禁止カードに名を連ねたほどのカードであるが、このカードが禁止になった背景にはシンクロ召喚の存在がある。

 シンクロモンスターとシンクロ召喚の概念が存在しないこの世界では、レスキューキャットはそこまで強力なモンスターではない。

 ましてや丈のデッキには獣族モンスターは殆ど入っていないので入れる価値はないといえるだろう。

 自律行動ユニットは相手モンスターを特殊召喚できるという意味ではそこそこの応用性があるものの、ライフ4000では1500のライフコストはデカすぎる。コケはただのバニラでメカ・ハンターも同じ。メカ・ハンターは攻撃力がそこそこ強いので機械族では採用できる可能性もあるが、生憎と丈のデッキは機械族ではない。機械族モンスターを主力とするのは亮のデッキだ。

 

「おい丈。一枚重なってるようだぞ」

 

「え? 本当だ」

 

 一番後ろにあるカードがレスキューキャットと重なっていた。流石レスキューキャット。カードを呼び出すことに定評がある。

 

「ん?…………って、おぉッ!」

 

 レスキューキャットの裏側に張り付いていたカードに視線が釘付けになる。キラキラと綺麗に光る絵柄。金色に輝くカード名。

 間違いなくウルトラレア。しかもそのカードはサイバー流と深くかかわるモンスターの一枚だった。そう、漫画版において丸藤亮が操ったエースモンスター。

 

「さ、サイバー・エルタニン……おいおいマジかよ」

 

「サイバー・エルタニンだと!?」

 

 

【サイバー・エルタニン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力?

守備力?

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上及び自分の墓地に存在する

機械族・光属性モンスターを全てゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、このカードの特殊召喚時に

ゲームから除外したモンスターの数×500ポイントになる。

このカードが特殊召喚に成功した時、

このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て墓地へ送る。

 

 

 

 反応からすると亮もこのカードは持っていなかったのだろう。丈自身、亮がこのカードを所持しているのを見た試がなかった。

 サイバー・エンド・ドラゴンやサイバー・ツイン・ドラゴンと違い融合体ではないものの、その効果は強力無比にしてハイリスク。"サイバー"と名がついているものの、入れようと思えばサイバー・ドラゴンデッキ以外にも投入できる光属性機械族の最上級モンスター。

 そのレベルはサイバー・エンドと同じ10。そういう意味でもこのカードは漫画版カイザー亮のエースというべきものでもある。

 そんなカードをまさか自分が引き当ててしまうとは。

 

(どうしよう、これ?)

 

 サイバー・エルタニンは強力なカードだ。

 墓地アドの大半を失う羽目になるとはいえ、出ればフィールド上のこのカード以外の表側表示モンスターを全て墓地に送るという強力な効果をもっている。

 例え相手フィールド上に強力なモンスターが並ぼうと、墓地さえ十分に肥えていればたった一枚で形勢を引っ繰り返せるカード。それがこのサイバー・エルタニンなのだ。

 しかしながらサイバー・エルタニンを投入するとなると、必然的に光属性機械族を中心としたデッキを組む必要がある。そうでないデッキに入れた所でサイバー・エルタニンはその力の半分も発揮できない。デュエルモンスターズの強力なカードにも単体で強いものと専用デッキを組んでこそ強くなるものとの二種類があるのだ。

 丈のデッキでサイバー・エルタニンを組み込もうとすれば、アニメオリジナルカードである輪廻独断で無理矢理墓地のモンスターを機械族にでも変えるしかない。

 

(むぅ)

 

 チラリと横にいる亮を見やる。

 亮は食い入るようにサイバー・エルタニンのカードを見つめていて「このカードが欲しい」と顔に書いてあるようだった。

 サイバー流の使い手である亮からしたら、このカードはのどから手が出る程に欲しいカードの一つなのだろう。

 光属性機械族を中心とした亮のサイバー流デッキなら、サイバー・エルタニンのカードも違和感なく組み込める筈だ。

 

(良し!)

 

 自分が持っていても仕方ない。

 このカードも自分を使わないデュエリストの下にいるよりも、自分を思う存分使ってくれるデュエリストの所にいた方が幸せだろう。

 

「亮、このカードいるか?」

 

「いいのかっ!」

 

 物凄い勢いで亮が迫ってきた。

 余程サイバー・エルタニンが欲しかったのだろう。そんな友人の様子を多少可笑しく思いながらも丈は力強く頷いた。

 

「俺には使えないしな。ただし何か良いカードトレードしてくれよ?」

 

 幾ら亮が友人とはいえ、折角手に入ったウルトラレアカードを無料でポイッとあげてしまえるほど丈は太っ腹ではない。

 このカードが亮の所に行くのはノープロブレムだが、その対価としてなにかレアカードの一枚でもゲットしたいと思うのが人情というものだろう。

 

「勿論だ! まさかこんなカードと巡り合えるとは……このカードを得られただけでもデュエルアカデミアに入学した甲斐があった」

 

 それは多少大袈裟すぎないだろうか。丈なんかはそう思うのだが、サイバー・ドラゴンをこのなく愛する亮にとっては重要なことなのだろう。

 

「サイバー・エルタニンか。これを入れれば俺のサイバー流デッキは更なる新境地へ到達することが出来る。除外……そう除外を有効活用すれば……」

 

 なんだか入学してからというものの亮はどんどん力をつけている気がする。

 丈が最初にトレードしたサイコ・ショッカーを皮切りにしてサイバー・エルタニンまで。そのうち平然とサイバー流裏デッキとか使いだすかもしれない。

 

(やれやれ苦労が耐えないな)

 

 苦笑しながらも溜息を吐く。

 そんな時であった。アカデミアの校舎内に放送が鳴り響いたのは。

 

『三年青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)組の丸藤亮さん、宍戸丈さん、天上院吹雪さん。校長先生がお呼びです。至急校長室に来てください。繰り返しお伝えします―――――』

 

「校長先生が? 何の用だろ」

 

「さぁ。覚えがないな」

 

 記憶回路を穿り返しても何か学校の不利益となる事をした覚えはない。最近は。亮や吹雪も一緒となると何か厄介事だろうか。中等部成績優秀者だからという理由で受験者用のパンフレットのために写真でもとられるのかもしれない。

 制服を着てポーズをとる自分を想像しうすら寒くなりながらも、丈と亮は校長室へ行く事にした。

 この頃は丈も亮もまだ知らない。その呼び出しがネオ・グールズとの戦いの火ぶたを切って落とす導火線だったことを。

 闇は静かに、されど大胆に三人を招き入れた。

 



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第24話  大会への招待状ナリ

 丈の中で校長室のイメージなんてものは、立派な本棚に小奇麗な調度品などに囲まれているフワフワの安楽椅子と机というものであるがアカデミアの中等部とはそれとは随分と違っていた。

 部屋の中にある調度品は必要最低限なものばかりでおよそ飾り付けとは無縁で、それはこの部屋の主の気性を示しているようである。

 デュエルアカデミア中等部校長―――――原田校長は齢60近く、質素倹約節約が趣味の御仁であった。高等部校長の鮫島と違いデュエル実技における実績は無いに等しいが、カード開発などには才能のある人物である。校長に就任する前はインダストリアルイリュージョン社でカードデザイナーの仕事をしていたそうだ。

 原田校長な柔和な微笑みを顔に張り付けたまま、入室してきた丈達三人を出迎える。

 

「良く来たね。丸藤君、宍戸君、天上院君。そんなに固くなることはない。楽にしてくれたまえ」

 

 校長先生の促しに従い三人は肩の力を抜く。

 そのまま校長先生に勧められるがままに校長室にあるソファに座らせられた。

 

「どうぞ」

 

 校長の秘書らしき妙齢の美女が淹れたての紅茶を三人の前に置く。

 そう言えば校長先生は独身だときいた。社会的地位のある独身男性の近くにいる美人秘書。もしかしたら公的ではなくプライベートでも『関係』があるかもしれない。

 

(おっと、こんな事は考えるべきことじゃなかったな)

 

 他人の恋路に口を挟んでも碌な事が無い。

 その事を自身の経験から知っていた丈は自制した。校長と秘書の人がそう言った関係であろうと、たかが一生徒でしかない宍戸丈には無関係のことである。

 

「さて。君達もいきなり呼ばれたところでどういう理由で呼ばれたのか分からないだろう。先ずはこれを見てくれたまえ」

 

 校長先生はテーブルの上にチラシのようなものを置く。

 一番上のタイトルには『I2カップ開催迫る』とデカデカと書かれていた。どうやらデュエルモンスターズの生みの親であり現在でもカードの製作を一手に引き受ける大企業、インダストリアル・イリュージョン社主催のデュエル大会のようである。大会には名誉会長であるペガサス・J・クロフォードも観戦しに来るらしい。

 

「これがなにか?」

 

 亮が淹れて貰った紅茶を優雅に口に運びながら校長先生に真意を尋ねる。

 仮にもデュエルアカデミアに在学するデュエリストなら、インダストリアル・イリュージョン社主催のデュエル大会に興味がない訳ではない。しかし、そのことと自分達がどうして呼び出されたかの関係席が分からなかった。なにせ『I2カップ』とやらが開催される時期はアカデミアにおいては普通に平常授業がある日時なのである。

 

「はははははは。そういえば話したことがあったかな。実は私は――――」

 

「聞いています。インダストリアル・イリュージョン社でカードデザイナーの仕事をしていたんですよね校長先生」

 

 校長の話が如何に長いのかをこの学園に来た最初の日―――――入学式の日より知っていた吹雪が長話が始まる前に遠まわしに釘を刺した。

 校長は一瞬残念そうな表情になるが直ぐに気を取り直し話を続ける。

 

「I2カップ、この大会には予選が無い。大会出場を希望するデュエリストの中から、相応しい者をI2カップ運営委員会が選ぶ形式だ。その応募者の過去の対戦記録や経歴などを調べてね。そしてここだけの話、運営委員会の中には私の元後輩もいたのだよ。それでなんだが、デュエルアカデミア中等部を世間に宣伝する良い機会でもある。そこで我が校でも最優秀の君達三人をその大会に推薦しておいた」

 

『……っ!』

 

 校長の言葉に三人の胸中が揺れる。

 無言で三人が三人とも真っ直ぐ校長の視線を追った。今まで校長の話なんて右から左に聞き流していくのが大抵だったが、今度ばかりは話が違う。

 大会への推薦。つまり自分達三人がI2社主催のデュエル大会に出場できるかもしれないのだ。

 

「そしたらだよ。後輩からは……OKサインが出た」

 

「本当ですかっ!」

 

 感慨深まり思わず丈はソファから立ち上がってしまった。立ち上がって直ぐ、自制心を失った自分を恥じ着席したが興奮は覚める事はなかった。

 インダストリアル・イリュージョン社主催のデュエル大会といえば、野球でいえば日本シリーズのようなものである。当然ながら観客も多く来るだろうし、TV画面にもばんばん映ることに成るだろう。高校野球でいえば甲子園に出場するようなものだ。そんな場所に自分が立てる。丈でなくとも興奮の一つや二つするというものだ。

 無論、これは校長による丈達三人へのプレゼントということではなく彼なりの思惑があるのだろう。デュエルアカデミアはまだまだ歴史の浅い新興の学校だ。デュエルモンスターズが爆発的普及したこともあり、その知名度は浅い歴史に比べて遥かにある。

 しかし今でこそデュエルアカデミアが海馬コーポレーションがオーナーを務めるものしかないとはいえ、未来ではそうならないかもしれない。やがては一般の高校にもデュエルの授業が制定されるかもしれないし、第二第三のデュエルアカデミアが出来るかもしれないのだ。その前にデュエルアカデミア校長としては、デュエリスト養成校の総本山というイメージを大衆に刻みつけたいのだろう。

 そしてデュエリスト養成校であることをイメージ付けたいのならデュエル大会が一番手っ取り早い。デュエルアカデミア中等部の学生から名誉あるI2社主催大会での優勝者が出ればアカデミアの知名度は鰻上りだろう。

 そんなような裏事情をなんとなく悟りつつも、三人にとってはどうでも良かった。I2主催の大会に出場できる。そのところが一番重要だ。

 

「大会期間中、君達は公欠扱いとなる。出席率を心配する必要もないし取得単位についても私から担当教員に言い聞かせよう。どうかね? この学園内では君達とまともに戦えるデュエリストは教師含めてもそうはいない。精々田中先生くらいだろう。しかしこのI2カップには世界各国から名だたるデュエリストが終結する。決して損はないと思うのだが」

 

「是非やらせて下さい!」

 

「願ってもない話です」

 

「僕達全員、同じ気持ちですよ」

 

 三人の心は一つだった。

 校長先生の言う通りI2社主催ともなれば、全世界から多くのデュエリストが参加してくるだろう。その中にはプロリーグで活躍するデュエリストもいるだろうし、大会荒しの賞金稼ぎもいるかもしれない。ただ誰もが強敵であることには違いない。

 このデュエルアカデミアで丈達三人と戦えるデュエリストは三人以外には殆どいない。元々デュエリストですらない校長先生は当然として、実技担当教員よりも既に下手なプロデュエリストを超えている三人の実力は上だ。現状、田中先生くらいしか戦えるデュエリストはいないだろう。その田中先生にしても授業では本気を見せる事は皆無に近いので不完全燃焼だ。だがデュエル大会といえば幾ら学生だろうと相手も本気を出してくる筈。

 参加者が操る多種多様なるデッキ。まだ見ぬ強敵。

 それらを前にしては武者震いというやつを抑えることが出来ない。三人は初めて校長先生に感謝の念を抱いた。

 

「決まりのようだね。では運営委員会には私の方から伝えておく。君達は授業に戻ってください」

 

 ソファから立ち上がるとしっかり挨拶をしてから部屋から出る。

 だが部屋から出た後も血肉を湧き立たせる興奮は消えたりはしなかった。しっかりと熱は身体の中にある何かを焼いている。まるで薪に火をくべるかのように。

 

「亮、吹雪……」

 

「ああ。俺達がまさかI2主催の大会に出れるなんてな。しかも中学生で」

 

「もしかしたらペガサス会長の伝手で伝説のデュエリストも参加したりしてね。僕としては同じように真紅眼の黒竜を使う城之内克也とは戦ってみたいけど」

 

 海馬瀬人が武藤遊戯の生涯のライバルならば、城之内克也は生涯の親友とでもいうべき人物だ。使用デッキは時の魔術師を始めとする多種多様なギャンブルカードの入ったデッキで、エースモンスターにはプレミア価格で数十万はする真紅眼の黒竜や人造人間サイコ・ショッカーなどがいる。吹雪のデッキはレッドアイズを中心としたドラゴン族デッキなのでデッキコンセプトは似ていないが唯一点、レッドアイズをエースとするという点では同じだ。

 アニメ内では未熟なところが多かった城之内もこの時代では伝説の一人である。吹雪を始めとして彼を尊敬する者もまた多い。本人の実績もそうだが、武藤遊戯の親友ということも彼の名をあげる一因にもなっているのだろう。

 

「なんにせよ期待は尽きないよな。そういや見ろよこのチラシ、優勝者には賞金500万円に大会オリジナルパック300パック、それに…………なんだ、この???っていうのは」

 

 丈は優勝賞品の一覧にある???に目が留まる。ここには注意書きで「勝ってからのお楽しみデース」とペガサス会長からのメッセージがあった。

 

「ペガサス会長のことだ。案外世界で一枚のレアカードだったりしてな」

 

 亮は笑いながら言った。有り得ないことではない。今までも大会なので世界で数枚だとかいうレアカードが賞金となったことが多々あった。この???もそういったカードのことなのかもしれない。

 

(まいっか)

 

 ???の事はこの際どうでもいい。まだ参加出来ると言うだけで一勝もした訳ではないのだ。でありながら優勝賞金の事を考えるなど取らぬ狸の皮算用もいいところである。今考えるのは来たるべき大会のことだけでいい。大会に出たとしても無様な敗北を演じるのではただの道化だ。そして宍戸丈は道化よりは勝利者の方がお好みである。道化になるくらいなら、まだ舞台にすら上がらない観客の方が良い。

 

「???は分からないけど、賞金500万円もあれば特上寿司だろうと焼肉だろうとアルプス山脈の美味しい水だろうと食べ放題の飲み放題。おまけに大会限定のパックが300だ。これは俄然やる気が出てきたな」

 

「フ、となると俺達はお互いに優勝目指して争うライバル同士ということだな」

 

「だね。僕も勝利は譲る気はないよ」

 

 三人は視線をクロスさせ、同時にどっと笑った。

 夜になれば一人でデッキに微調整を施さなければならない。丈が吹雪や亮のデッキを知り尽くしているように、向こうもこちらのデッキを知り尽くしている。

 三人がこれから出場するのは大会という勝者と敗者を決定的に分ける戦場だ。引き分けはなく、二人のデュエリストを栄光か敗北かに色分けする無情なる地。友人同士とはいえ、蹴り落とし凌ぎを削る敵同士。ならば遠慮は無用。各々が全力をもって友人含めた相手を撃破していくまで。手心は加えないし加えるつもりもない。そんなものは相手にも失礼だ。

 この日、三人の友人同士はただの『敵同士』へと変わった。




 漸くのI2カップ編。
 HA☆GAさんを始めとした無印キャラがわんさかなI2カップ編です。ついでに名前だけ出てくるあの人やあの人の親です。


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第25話  I2カップ開幕ナリ

 I2カップへの出場が決まってからというものの、授業も頭に入らないままに丈は大会への準備を進めていた。授業は後でノートを借りるなりして幾らでも遅れは取り返せる。テストだってまだまだ先だ。しかしI2カップに出場できるのは今だけ。今回限りである。ならばどちらを優先するかなど考えるまでもない。I2カップで優秀な成績を出せば成績にもプラスされるというのだから猶更だ。

 他多くの大会と同じでI2カップもシングル戦である。三回のデュエルを一回ごとにサイドデッキによる調整をしながら戦うマッチ戦とは違う、一度のデュエルが勝敗を決する戦い。ただI2カップが普通の大会と異なるのはデュエル中のデッキ調整が不可能でも、試合ごとにデッキを調整するのは自由ということである。

 つまり丈でいうなら一回戦でHEROデッキ、二回戦は暗黒界、三回戦は剣闘獣、なんていう芸当も出来るのだ。更に付け足せば、相手のデッキを観察しその対策を整えるチャンスがあるということでもある。亮のようにデッキを一つしか持っていないデュエリストなどはアンチデッキを作られる危険性を含んでおり、デュエル以外にもかなり頭を使う必要性のあるルールだ。如何に相手に対策されないようにするか、それが勝敗を分ける分水嶺となるだろう。亮や吹雪もそれは理解しているらしく、対策デッキに対する対策をデッキに施しているようだった。 

 しかしこのルール、やはり丈にとっては相性が良い。試合ごとの調整に使うカードはサイドデッキのように十五枚制限がある訳でもないので、事実上自分が所有する全てのカードを"サイドデッキ"として使用できる。複数のデッキを使う事で相手に対策されることを防ぐことも可能だ。既に自分のデッキをよく知っている亮や吹雪は丈のデッキ全てを知っているだろうが、それはこちらとて同じ。ならば条件はイーブン、互角なので問題はない。

 一つ亮や吹雪も知らないデッキを新たに構築するということも考えたがそれは直ぐに却下した。こんな大事な試合で使い慣れないデッキを使うことほど愚かなことはない。デッキは料理人における包丁、野球選手におけるバットと同じで使えば使うほど自分と馴染むものなのだ。余り慣れ親しんでいないデッキを使えばどうなるか。それは一年生の頃の田中先生の授業で身に染みて理解している。わざわざ自分からその愚行を犯すこともないだろう。

 故に丈は大会までも間、ひたすら既存デッキの強化に努めていた。

 先ずはE・HEROデッキ。

 今まではE・HEROと沼地の魔神王などばかりを入れていたが、ここにそれ以外のカードを投入することにした。HEROをテキストにもつのはE・HEROだけではない。D―HEROに関しては未だ流通していない為に一枚も所持していないがその他、M・HEROやV・HEROに関しては別だ。普通に流通しているし普通に手に入れることが出来た。

 融合デッキに関する枚数制限がないため、M・HEROやV・HEROを新たに投入しても圧迫するということはない。M・HEROに対応しているのは地・水・火属性のみというのがネックだが、HEROのエースであるアブソルートZeroは水属性。M・HEROと併用することでかなりの爆発力を期待できる。

 メインデッキを圧迫したとしてもM・HEROは投入する価値のあるカードだ。V・HEROに至っては融合モンスターのみなので特に問題はない。

 V・HEROの融合素材は「HERO」と名のつくモンスターなのでE・HEROやM・HEROも素材とできるのが強みだ。特に直接攻撃こそ出来ないものの攻撃力5000で三度の攻撃が出来る「V・HEROトリニティー」は強い。ただしV・HERO故にミラクル・フュージョンには対応していないが。

 次に暗黒界。

 これはHEROデッキと違い余り弄るところはない。ただ暗黒界は良くも悪くも墓地への依存が高く、除外には弱いのでその弱点を補うカードは用意しておいた。この時代だと未だに「天使の施し」が現役というのが大きなプラス要素である。天使の施しで墓地を肥やしつつ、時には暗黒界を捨てることにより大量展開の要とすることもできるのだ。

 最後に冥界の宝札軸デッキ。

 基本は変わらずメタル・リフレクト・スライムやトークン、レベル・スティーラーで生贄を確保し、最上級モンスターを高速召喚、冥界の宝札で生贄分のアド損を取り返すデッキ構成である。回ればかなり強力だが回転率を「冥界の宝札」に依存することがあるので「冥界の宝札」を素早く手札に持ってくるためのギミックを仕込んだ。永続魔法である「冥界の宝札」を守るためのカウンター罠は既にこれでもかというくらい大量投入しているので問題はない。

 他にサイバー・エルタニンとのトレードで亮から強力なカードを何枚も貰ったのが良かった。このデッキの魅力はなんといっても最上級モンスターの連続召喚にある。二体以上の生贄を必要とするため本来は召喚が難しい最上級モンスター。仮に通常召喚のみで最上級モンスターを召喚しようとすれば、生贄の確保に二ターン、漸く召喚出来るのは三ターン後だ。シンクロやエクシーズがないので環境はそれほど高速化している訳ではないが、それでも三ターン賭けて最上級モンスター一体と言うのは如何にも効率が悪い。だが生贄の確保にトークンや罠モンスターを採用することにより、丈のデッキは先行ワンターン目から最上級モンスターを生贄召喚することも可能だ。そして最上級モンスターにはその召喚の難しさに比例するように強力な効果をもつカードが多い。三幻神などはその筆頭といえるだろう。

 多種多様な最上級モンスターを投入すれば、戦術の幅も大きく広がるというものだ。

 そして迎えたI2カップ当日。

 大会会場であるドームには大勢の観客が詰め寄せていた。年齢層は様々で子供からお年寄りまでいる。デュエルがどれだけこの世界で普及しているのか、それを見るだけでも分かるというモノだ。

 丈は和気藹藹と友人などとお喋りに興じながら、これから始まるであろうデュエルを楽しみに来ている観客を眺めながら、関係者用の裏口から選手控室に向かう。あの大勢の観客に囲まれてデュエルをするのだと思うと心臓に針が刺さる思いだった。

 プレッシャーをどうにか頭の淵から叩き出しながら、丈は選手控室のドアを開けて中に入る。そこには既に亮や吹雪がいた。

 

「遅かったね丈。どうしたんだい?」

 

 吹雪はデッキの最終確認をしている頭を上げて話しかけてくる。

 

「トイレだよ。縁起が良いからって食堂のおばちゃんにカツ丼特盛頼んだら腹痛くなって」

 

「相変わらずだね。だけど……大丈夫そうだ。良かったよ。ライバルが腹痛で棄権なんてのはやるせないしね」

 

「体調管理はデュエリストの基本だぞ。まったく……そういえばトーナメント表が発表された。流石はインダストリアル・イリュージョン社主催の大会、聞いた事のある名前がチラホラいたぞ。ほら」

 

 亮からトーナメント表を受け取って、じっくりと上から下まで目を通る。

 

 

 

              ┌─  宍戸丈

          ┌─┤

          │  └─  羽蛾

      ┌─┤

      │  │  ┌─  本田

      │  └─┤

      │      └─  マナ

  ┌─┤

  │  │      ┌─  三沢

  │  │  ┌─┤

  │  │  │  └─  御伽

  │  └─┤

  │      │  ┌─  レベッカ

  │      └─┤

  │          └─  トム

─┤

  │          ┌─  牛尾

  │      ┌─┤

  │      │  └─  不動

  │  ┌─┤

  │  │  │  ┌─  天上院

  │  │  └─┤

  │  │      └─  竜崎

  └─┤

      │      ┌─  骨塚

      │  ┌─┤

      │  │  └─  十六夜

      └─┤

          │  ┌─  丸藤亮

          └─┤

              └─  猪爪誠

 

 

 

「……………」

 

 ゴミが入っているのかもしれないと思い目を擦る。それから見間違いなどせぬようジッとトーナメント表を見つめるが……そこに書いている文字列は何一つその内容を変えたりはしなかった。

 宍戸丈。自分の隣にある名前を一文字ずつ観察する。羽蛾、下から読めば蛾羽。こんな特徴的過ぎるネーミングで同姓同名ということは恐らくないだろう。

 ということはこの羽蛾というのはほぼ確実にあのインセクター羽蛾ということになる。

 

「インセクター羽蛾か。たしか元全日本チャンプ、昆虫族の使い手。初戦から随分な強敵と出会ったようだな丈」

 

 亮は羨ましそうに言うがそのことが決定的だった。

 インセクター羽蛾、とある速攻魔法の影響で遊戯王を知らない人間にも知られるようになったある意味伝説の御仁である。他にもエクゾディアに対する最も有効な戦術を生み出したことでも有名だ。

 

(おいおい、それにこのマナって。I2カップ、インダストリアル・イリュージョン社は伊達じゃないのか)

 

 無理矢理だがそう自分を納得させる。

 トーナメント表は既に決定されているのだ。もう覆すことは出来ない。相手がHA☆GAだろうと何だろうと戦うしかないのだ。自分は吹雪や亮とブロックが別。戦って勝ち抜かない限り二人と戦う事は出来ない。

 

「吹雪、亮」

 

「ん?」

 

「なんだい?」

 

「決勝で会おう。ま、どっちかとだけどな」

 

 吹雪と亮は同じブロックだ。

 例外を除いてこの大会で二人ともとは戦うことは出来ない。仮に丈が決勝戦に進んだとしてもそこにいるのは吹雪が亮の二者択一なのだ。

 他の物が決勝の舞台にいるという選択肢はない。二人のうちどちらかは必ず決勝にくる。丈は友人として二人の実力を信じていた。

 

「勿論だ。俺はあらゆる敵を倒し、決勝でお前と戦う」

 

「おやおや亮。それは僕に対する挑戦かい? 亮には悪いけど僕も君に勝つ気でいるからね。決勝で丈と戦うのはこの僕さ」

 

 三人は好敵手の間柄だが、この微妙なスリルは悪いものではない。寧ろ良い。

 やがて会場内に放送が聞こえてきた。

 

『間もなく第一回戦第一試合が始まります。参加選手の方々はデュエル場へご入場下さい。繰り返しお伝えします――――――』

 

 第一試合が始まるらしい。緊張が熱となって血管を沸騰させる。一回戦第一試合は自分とインセクター羽蛾の試合だ。大会の開幕を告げる初戦、そこに自分が出ると言うのは光栄でもあり恐れ多くもある。だが今更どうこうしても仕方がない。自分はやることをやるだけだ。

 

「吹雪、亮。――――――それじゃ、ちょっと行ってくる」

 

 軽く腕をあげるのを挨拶に、対戦相手が待ち構えるであろうデュエル場へと歩を進めていく。最後に亮と吹雪の顔を一瞥する。

 何も疑いのない、丈の勝利を信じた双眸。それを見て丈もまた口元を釣り上げる事で応じる。いいだろう。この勝負、絶対に勝つ。

 自身の心にそう喝を入れてから、今度こそ丈は控室のドアを開いた。



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第26話  出番だ女王様!

 会場に入るや否やどっという大歓声が丈を迎え入れた。

 観客の視線を浴びるほど感じながらも、丈は会場の中心にあるデュエル場へと赴く。自分の立ち位置につくと既に対戦相手である小柄な男がいることに気付いた。

 昆虫を思わせる金縁の眼鏡と昆虫がプリントされた上着、それは丈が雑誌やTVなどで見た事もあるインセクター羽蛾そのものだった。ここに至り漸く自分が大変な場所に立っているということが実感を伴って感じられるようになる。

 観衆は思ったよりも気にならない。

 デュエルアカデミアの入学説明会に模範デュエルのために駆り出された経験が役立っているようだ。世の中なにがどう役立つか分からないものである。

 

「ひょひょひょひょひょ、君みたいな中学生が僕の相手かい? 拍子抜けだな。これはワンターンキルとか出ちゃうかもしれないねぇ。可哀想に、こんな大勢の観客の前で恥をかくことになるなんて。安心して良いよ、僕は(元)日本チャンプ、手加減はしっかりするから」

 

「……………」

 

 明らかに小馬鹿にしたような態度にムッとしそうになるが、どうにか丈は表情に出すのを抑える。こういうのを一々相手していては面倒だ。絡んできた相手はスルーする。絡んでくる相手はこちらがどういうリアクションをとるのかを期待し面白がっているのだ。わざわざ相手の期待にのってやることはない。これは小学校から大学まで有効ないじめ対策の一つだ。

 こちらが何のリアクションも返さないのが癇に障ったのか、羽蛾は面白くなさそうに鼻を鳴らす。

 

「……会話のキャッチボールってやつが出来ないようだね君は。これだから中学生は」

 

「いえ出来ない訳じゃないですよ」

 

「ひょ?」

 

「ただ……挑発には乗らないだけです。HA☆GA……じゃなかった、羽蛾さん。頭に血が上ってデュエルしたら馬鹿みたいなプレイングミスをしてしまいますからね」

 

「減らず口は上々。その様子なら手加減は必要なさそうだね。知らないような教えてあげるけど、僕はあの遊戯や海馬を下して日本チャンプになったこともあるんだ。年季の差ってやつを教えてあげるよ」

 

 もし丈の頭がボケてないなら、日本チャンプになったのは事実だとしても遊戯や海馬を下したことは一度もなかった筈だ。全日本チャンプを決める大会に遊戯や海馬は参加していなかった。

 つまり羽蛾のハッタリ……或いは誇張だろう。

 これから直ぐにデュエル、と丈は思っていたのだが開始の前にまだ何かあるようだ。MCらしきリーゼントの男が意気揚々と会場に特性マイクを通した声を轟かせる。

 

『いよいよ始まったぁぁ! デュエルモンスターズの総本山ッ! インダストリアル・イリュージョン社主催のデュエリストの祭典ッ! I2カップッッ! 第一試合を始まる前にデュエルモンスターズの生みの親! ペガサス・J・クロフォード氏の挨拶だぁぁ!』

 

 MCに変わってマイクをとったのは赤いスーツを洒落に着こなした男性。空調による風に靡くロングの髪色は銀。その長い髪で片方の目をまるで封じるかのように覆い隠した人物。彼こそが全世界において爆発的大流行したデュエルモンスターズを世に生み出したモノ、ペガサス・J・クロフォード名誉会長である。カードデザイナーを志す者にとっては武藤遊戯以上に憧憬の念を抱かずをいれない超VIPだ。

 自然と会場の皆が口を噤む。誰に言われなくてもそうすることが当たり前のように。その静寂の中、ペガサス・J・クロフォードがその良く通る声を会場中に響かせ始める。

 

『本日は我が社主催のデュエル大会、I2カップに御来場頂き感謝デース。今日はエキサイティングなデュエルを思う存分に楽しんで行って下サーイ。私もここで行われるデュエルをとても楽しみにしていマース』

 

 そしてペガサスは天にまで伸ばす様に右手をあげる。

 

『つまらない話はここまでにしまショウ! それでは今日ここに集ったデュエリストたちよ。最高のデュエルを私も期待していマース! I2カップ開幕をここに宣言するのデースッ!』

 

 話が終わった瞬間、おおッ!という歓声が爆発した。まるで雷鳴のようだ。会場の中心にたつ丈は思わず耳をふさぎたくなったが、皆の見ている前でそんな恥ずかしい真似は出来なかった。精一杯の見栄を振り絞りどうにか平常心を保つ。

 

『ペガサス会長からの開会宣言を受けて会場は大盛り上がりだぁぁ! それでは早速いくぞ、I2カップ第一回戦第一試合ッ! 嘗て日本チャンプに君臨した事もある昆虫族のエキスパート、インセクター羽蛾ぁぁぁッ!』

 

 MCに名前を宣言された羽蛾が自慢気に観衆へ手を振った。どうやらこんな羽蛾でもファンはいるのか、HA☆GAと書かれたデカい旗を振っている者がいた。その旗から好意より悪意を感じるのは気のせいだろうか。

 それにしても羽蛾には緊張の"き"の字もない。この図太さは見習うべきところもあるだろう。

 

『そして元日本チャンプ、インセクター羽蛾に挑むはデュエルエリート養成校デュエルアカデミアの中でも更にエリートッ! 若干15歳の天才デュエリストォォッ! 宍戸ォォォォ丈ォォォ!』

 

 再び爆発する観客の黄色い声。こんな大勢の前を自分の名前どドカンと宣言されるのは生まれて始めての経験である。今日は生まれて初めてのことが沢山ある日だ。

 ヤケクソで羽蛾みたく観客に手を振ると歓声がより高まる。少し気分が良いかもしれない。癖になりそうだ。

 

『ではI2カップ第一回戦第一試合、デュエル開始ィGOOOOOOOOOOO!!!!』

 

 

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

 ルールはアカデミアでやっているのと同じ新エキスパートルール。

 融合デッキは無制限でデッキは四十以上、初期手札は五枚。

 ルール通り羽蛾と丈が五枚のカードをドローする。ランプが点灯したのは羽蛾の方。あちらの先行だ。

 

「ひょひょひょ先行は貰うよ、俺のターン。カードドロー! ひょひょひょ、一気に攻めさせてもらうよ。僕は代打バッターを召喚!」

 

 

 

【代打バッター】

地属性 ☆4 昆虫族

攻撃力1000

守備力1200

自分フィールド上に存在するこのカードが墓地に送られた時、

自分の手札から昆虫族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 

 

 

 羽蛾のフィールドに現れるバッターならぬバッタ。

 デュエルモンスターズのカードにはこういったダジャレめいたものも多く楽しい。

 

「そして魔法カード、殺虫剤! フィールドの昆虫族モンスターを破壊する。俺は俺のフィールドの代打バッターを破壊!」

 

『おおっと!? これはどうしたことだぁ! インセクター羽蛾、自分で自分のモンスターを破壊したぞぉぉッ! まさかプレイングミスなのかぁ!?』

 

「ひょひょひょひょひょ、MCはノリが良いねぇ。代打バッターがカード効果で破壊され墓地に送られた事により、代打バッターのモンスター効果が発動。手札から昆虫族モンスターを一体特殊召喚する」

 

 代打バッターを自分から破壊したのはミスではなかった。代打バッターの効果は条件を満たせば問答無用で発動する強制効果ではなく任意効果。よってコストや生贄として墓地に送ったのではタイミングを逃してしまい代打バッターの効果を発動することは出来ない。だが自分のカードで破壊する分にはタイミングを逃すことはなく、代打バッターの効果を使う事が出来る。

 

「さぁ出番だ女王様! 俺はインセクト女王を攻撃表示で召喚だぁ!」

 

 

 

【インセクト女王】

地属性 ☆7 昆虫族

攻撃力2200

守備力2400

このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する

昆虫族モンスターの数×200ポイントアップする。

このカードは、自分フィールド上に存在するモンスター1体を

リリースしなければ攻撃宣言する事ができない。

このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時、

自分フィールド上に「インセクトモンスタートークン」

(昆虫族・地・星1・攻/守100)1体を攻撃表示で特殊召喚する。

 

 

 

 女王、といっても目目麗しい女王ではなく六本の足と鋭い牙を生やした女王蟻のモンスターである。シーシューと底冷えするような鳴き声ともつかないものを口から吐きながら、上半身だけが人間の形をした巨大な蟻がギョロリと無機質な目を向けてきた。

 不気味、そういう言葉が脳裏を過ぎる。

 頭だけが中途半端に人間のような造りをしているせいで、下手なアンデット族モンスターよりも余程ホラーだった。

 

『出た! インセクター羽蛾のマジックコンボだ! 先行ワンターン目からいきなり昆虫族の超レアカード、インセクト女王のお出ましだぁぁ! これは対戦者、宍戸丈も驚きで声もでないかぁ!?』

 

 驚きではなくグロテスクさに声が出ないのだ。

 丈は誰にも聞こえないようボソッと呟く。

 

「残念だけど最初の1ターン目は攻撃できないからねぇ。俺はカードを一枚伏せてターンエンド。ひょひょひょだけど次のターン、女王様の攻撃でお前は粗挽き肉団子だ。ターンエンド!」

 




 実はこのHA☆GAさん。最初はエクシーズ抜きの甲虫装機を使う予定でした。


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第27話  MVE

宍戸丈 LP4000 手札五枚

場  無し

 

羽蛾  LP4000 手札二枚

場 インセクト女王

伏せカード1枚

 

 

 

「俺のターン!」

 

 羽蛾のフィールドにいるインセクト女王をなるべく視界内に捕えないよう留意しながら、デッキトップのカードを引いた。

 インセクト女王は☆7つの最上級モンスターであるが、その攻撃力はゴブリン突撃部隊にも劣る2200。フィールドの昆虫族モンスターの数×200ポイント攻撃力を上昇させる効果があるため、実質的基本攻撃力は2400で今もその数値だが、だとしてもまだ上級モンスターの平均ラインに届いただけ。特に効果耐性などもないのでそれ程破壊し難いモンスターではない。倒す事は十分可能だ。

 

(あの伏せカードが気になるが…………たったの一枚。もし聖なるバリアとか次元幽閉だったとしてもこの手札なら凌ぎきれる!)

 

「俺は手札からE・HEROエアーマンを攻撃表示で召喚! そしてエアーマンの効果でデッキからHEROと名のつくモンスターを手札に加える! 俺はE・HEROキャプテン・ゴールドを手札に!」

 

 

 

【E・HEROエアーマン】

風属性 ☆4 戦士族

攻撃力1800

守備力300

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

次の効果から1つを選択して発動する事ができる。

●自分フィールド上に存在するこのカード以外の

「HERO」と名のついたモンスターの数まで、

フィールド上に存在する魔法または罠カードを破壊する事ができる。

●自分のデッキから「HERO」と名のついた

モンスター1体を手札に加える。

 

【E・HEROキャプテン・ゴールド】

光属性 ☆4 戦士族

攻撃力2100

守備力800

このカードを手札から墓地に捨てる。

デッキから「摩天楼 -スカイスクレイパー-」1枚を手札に加える。

フィールド上に「摩天楼 -スカイスクレイパー-」が存在しない場合、

フィールド上のこのカードを破壊する。

 

「更に手札のキャプテン・ゴールドを捨てることでデッキからスカイスクレイパーを手札に加える事が出来る。俺はキャプテン・ゴールドを捨ててスカイスクレイパーをサーチ!」

 

「ひょ?」

 

「手札からフィールド魔法、スカイスクレイパーを発動!」

 

 

 

【摩天楼-スカイスクレイパー-】

フィールド魔法カード

「E・HERO」と名のつくモンスターが戦闘する時、攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象モンスターの攻撃力よりも低い場合、攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000ポイントアップする。

 

 

 ドームの中心にあるデュエル場に突如として聳えたつ摩天楼。アメリカンコミックのヒーローが多くの心躍る物語を作り出してきた舞台が整った。

 全く場違いの場所に放り出されたインセクト女王はといえば、軽い混乱状態に陥ったのか首をきょろきょろと動かしている。

 

「まだ行くぞ。俺は沼地の魔神王を墓地に捨てて融合をサーチ! そして融合を発動! 手札のオーシャンとザ・ヒートを手札融合。融合召喚E・HEROノヴァマスター!」

 

 

 

【E・HEROノヴァマスター】

炎属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2100

「E・HERO」と名のついたモンスター+炎属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 鎧の上に更に炎の鎧。二乗の鎧が肌を覆った融合HERO。

 心なしか昆虫族であるインセクト女王は熱そうにしていた。森を住み家とする昆虫にとっては火は天敵といえるのかもしれない。

 

「バトル! エアーマンでインセクト女王を攻撃!」

 

「ひょひょひょ! 何を馬鹿な。俺の女王様の攻撃力はお前のエアーマンを上回ってるんだぜ!」

 

「フィールド魔法効果。HEROが自分よりも強い相手と攻撃する時、その攻撃値を1000ポイント上昇させる」

 

『これはぁぁッ! フィールド魔法のサポートを受けたエアーマンの攻撃力が上昇したぞぉ! なんとその攻撃力は2800ッ! インセクト女王の2400を超えたぁぁッ! これでインセクト女王が撃破されてしまえばインセクター羽蛾は続くノヴァマスターの直接攻撃で絶体絶命ぃぃぃ! どうする羽蛾ァ! このまま終わってしまうのか!?』

 

 MCが興奮したように実況しているが、丈は「しまった」と自分のミスに気付いた。ノヴァマスターはモンスターを戦闘破壊した時、カードを一枚ドローできるモンスター効果がある。エアーマンで攻撃した方がスカイスクレイパーの効果もあって総ダメージ量は上がるものの、ここは手札を一枚稼いでおく方が良かった。

 らしくもない。こんな簡単なミスをするだなんて。平静を保っていたが、内心では緊張していたのかもしれない。

 

「させないぜ! 罠カード、攻撃の無力化! これでお前の攻撃は全部無効だ」

 

 

 

【攻撃の無力化】

カウンター罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 

 

 

「くそ。……俺はカードを一枚セット。これでターンエンドだ」

 

 

 

宍戸丈 LP4000 手札二枚

場  E・HEROノヴァマスター、E・HEROエアーマン

伏せ 一枚

魔法 摩天楼―スカイスクレイパー―

羽蛾  LP4000 手札二枚

場 インセクト女王

 

 

 

「俺のターン。中学生の癖にやるじゃないか。だけど僕からしたらまだまだ爪が甘いねぇ。俺はカードを一枚セット、そして永続魔法発動。虫除けバリアー!」

 

 

 

【虫除けバリアー】

通常魔法カード

相手フィールド上に表側表示で存在する昆虫族モンスターは攻撃宣言をする事ができない。

 

 

 

(虫除けバリアー? となるとあの伏せたカード)

 

 虫除けバリアーは昆虫族の攻撃を出来ないようにするメタカードだが、昆虫族の採用率を考えれば単体では先ず役に立たないカードだ。これを使うとなると、種族変更カードが必須となってくる。そして最も汎用性の高い種族変更カードはDNA改造手術。羽蛾の伏せたリバースカードもそれだろう。

 

「そして俺は魔法カード、天よりの宝札を発動だ。互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードを引く!」

 

 

【天よりの宝札】

通常魔法カード

互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードをドローする。

 

 

 

「ヒョヒョヒョ! 俺の切り札を見せてやるぜ。俺はプチモスを召喚。更に手札から進化の繭をプチモスに装備!」

 

 

 

【プチモス】

地属性 ☆1 昆虫族

攻撃力300

守備力200

 

 

【進化の繭】

地属性 ☆3 昆虫族

攻撃力0

守備力2000

このカードは手札から装備カード扱いとして

フィールド上に表側表示で存在する「プチモス」に装備する事ができる。

この効果によってこのカードを装備した「プチモス」の攻撃力・守備力は

「進化の繭」の数値を適用する。

 

 

 プチモスが召喚されたかと思うと直ぐにピンク色の繭に全身が包まれた。繭に包まれたプチモスだったが、その命の鼓動は繭の中からもしっかりと伝わってくる。やがて来るであろう進化の時のためにプチモスは繭となって力を蓄えているのだ。

 

『来た来た来た来た、来たァ――――――ッ! 昆虫族最強モンスター、グレート・モスを召喚する為の布陣が今此処に整ったぁぁッ! しかしプチモスを最終形態まで進化させるには自分のターンで数えて6ターン、合計12ターンもの時間を有する! どうするインセクター羽蛾ぁ!』

 

「ヒョヒョヒョ、こうするのさ! 俺は速攻魔法カード、時の飛躍―ターン・ジャンプ―を二枚同時発動!」

 

 

【時の飛躍―ターン・ジャンプ―】

速攻魔法カード

三ターン、ターンをスキップする。

 

 

「これで合計6ターンの時が流れた事により、進化の繭で眠るプチモスは成長条件を整えた。俺は六ターンの時が経過したプチモスを生贄に! ひゃ~ははははははっ! 見て恐れろ! これが昆虫族最強のモンスター! 究極完全態・グレート・モス」

 

 

 

【究極完全態・グレート・モス】

地属性 ☆8 昆虫族

攻撃力3500

守備力3000

このカードは通常召喚できない。

「進化の繭」が装備され、自分のターンで数えて6ターン以上が経過した

「プチモス」1体をリリースした場合に特殊召喚する事ができる。

 

 

 

 進化の繭の外壁がバリバリと破けていく。裂け目の中から光る二つの双眸。瞬間、繭が弾けそこから巨大な昆虫族モンスターがフィールドに飛び出した。

 巨大な翼を生やし毒粉を撒き散らしながら一体の昆虫がその全貌を見せる。その威容と威厳は正に昆虫族の王者と呼ぶのが相応強い。

 丈自身このモンスターを生で見るのは初めてだった。

 このモンスターの召喚には進化の繭を装備したプチモスを合計にして12ターンも守る必要がある。シンクロ召喚隆盛期ほどでないにしろ、高速化した現環境では一体のモンスターが12ターンもいることなど稀だ。そのこともあり究極完全態・グレート・モスはデュエルモンスターズでも最も召喚の難しいモンスターの一つとされている。

 インセクター羽蛾が対戦相手と知った時からもしかしたら、とは思っていたが本当に召喚してくるとは。

 

『おおおぉおおおおおぉおぉぉぉおおッ! 凄い! 凄いぞぉぉぉッ! 速攻魔法を利用してのグレート・モスの高速召喚! その攻撃値はなんとブルーアイズを超える驚異の3500ッ! このまま決着がついてしまうのかぁぁ!』

 

「ひょ~ひょひょひょひょひょっ! まだいくぜぇ! 俺は墓地のプチモスと進化の繭をゲームから除外。手札からデビル・ドーザーを攻撃表示で召喚だ」

 

 

 

【デビル・ドーザー】

地属性 ☆8 昆虫族

攻撃力2800

守備力2600

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の昆虫族モンスター2体を

ゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。

このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、

相手のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

 

 

 

「見たか! 俺の昆虫軍団を。まだ終わらないぜ。俺は速攻魔法、突進でグレート・モスの攻撃力を上昇! これで総攻撃だ! バトル、グレート・モスでお前のモンスターを総攻撃だ!」

 

「罠発動! 威嚇する咆哮!」

 

 

【威嚇する咆哮】

通常罠カード

このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。

 

 

「これでこのターン、攻撃宣言は出来ない」

 

「ひょ? どうやら命拾いしたようだねぇ。まぁいいや。俺は速攻魔法サイクロン発動! スカイスクレイパーを破壊」

 

「スカイスクレイパーが……」

 

「これでお前のノヴァマスターで俺のグレート・モスは破壊させないぜ。俺はこれでターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー」

 

「この瞬間、罠カード。DNA改造手術!」

 

 

【DNA改造手術】

永続罠カード

種族を1つ宣言して発動する。

このカードがフィールド上に存在する限り、

フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターは宣言した種族になる。

 

 

 

 丈のフィールドにいるHERO達からグロテスクな触手が生えてきた。頭から生えてきたのは触覚だろうか。見るからに気色悪い。DNA改造手術、ソリッドビジョンを作った人は一々種族ごとのビジョンを作っていたのだろうか。だとしたらかなりの面倒臭い作業だっただろう。丈は心の中で製作者である社長に哀悼の意を贈った。いや死んでないが。

 

「お前はもう攻撃も出来ない。俺の昆虫族にやられるだけなのさ!」

 

「……いや、たぶんこのターンで終わりだ」

 

「ひょ?」

 

「E・HEROオーシャンを攻撃表示で召喚!」

 

 

 

【E・HEROオーシャン】

水属性 ☆4 戦士族

攻撃力1500

守備力1200

1ターンに1度、自分のスタンバイフェイズ時に発動する事ができる。

自分フィールド上または自分の墓地に存在する

「HERO」と名のついたモンスター1体を選択し、持ち主の手札に戻す。

 

 

 

「更に速攻魔法マスク・チェンジ!」

 

 

【マスク・チェンジ】

速攻魔法カード

自分フィールド上の「HERO」と名のついた

モンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターを墓地へ送り、

選択したモンスターと同じ属性の「M・HERO」と名のついた

モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

 

 オーシャンの頭にマスクが装着される。マスクを被ったオーシャンはキラリと全身を輝かせたかと思うと、そのまま天高く跳躍した。

 先ず最初に姿を現したのは真っ青なマスク。E・HEROがアメリカンコミックのヒーローを連想させていたのに対して、こちらは特撮ヒーローを思わせる姿をしていた。

 

「変身召喚! M・HEROアシッド」

 

「へ、変身!? 一枚のカードで行う融合召喚だって!?」

 

「融合じゃない変身だ。HEROは変身するものだ。……たぶん。そしてM・HEROアシッドの効果を発動! このカードが召喚された時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し相手モンスターの攻撃力を300ポイント下げる!」

 

 

 

【M・HEROアシッド】

水属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2100

このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し、

相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。

 

 

究極完全態・グレート・モス 3500→3200

インセクト女王 2800→2500

デビル・ドーザー 2800→2500

 

 

「お、俺の昆虫軍団がぁ~!」

 

「更に! 俺は手札から魔法カード、融合を発動」

 

「また融合!?」

 

「俺は場のエアーマンとM・HEROアシッド、手札のフォレストマンを融合!」

 

「しかもM・HEROまで!?」

 

「この融合モンスターの素材は『HERO』と名のつくモンスターだ。よってE・HEROだろうとM・HEROだろうと素材と出来る! 三体のHEROを融合し降臨せよ! V・HEROトリニティー!」

 

 

 

【V・HEROトリニティー】

闇属性 ☆8 戦士族

攻撃力2500

守備力2000

「HERO」と名のついたモンスター×3

このカードが融合召喚に成功したターン、

このカードの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値になる。

融合召喚に成功したこのカードは、

1度のバトルフェイズ中に3回攻撃する事ができる。

このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事はできない。

 

 

 凸凹のある大柄の赤い鎧を着こんだHERO。V・HEROトリニティー。他のHEROにあるシャープさはないが、力強さなら他のHEROを軽く超えている。

 

「トリニティーのモンスター効果、このカードが融合召喚に成功したターン、このカードの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値となる。そして融合召喚に成功したトリニティーは一度のバトルフェイズ中に三回の攻撃が可能だ」

 

「三回の攻撃だって!? インチキ効果も大概にしろ!」

 

「行くぞ。V・HEROトリニティーで攻撃。トリニティー・クラッシュ!」

 

「ぐぁがぁあああああああぁぁぁああああああああああああああっ!」

 

「二回目、攻撃! トリニティー・クラッシュ!」

 

「ぎぃぃぃぃいぃぃいい!」

 

「三回目、モンスターカード!…………じゃなくて追加攻撃!」

 

「ぎゃぁああああああああ!!」

 

 

羽蛾 LP4000→0

 

 

『き、決まったぁぁぁッ! 華麗に決まったぁぁぁッ! グレート・モス! デビル・ドーザー! インセクト女王! 三体の最上級昆虫族モンスターをワンターンで瞬殺しての華麗なる逆転劇だぁぁ! 第一回戦第一試合の勝者はなんと若干15歳の宍戸丈ォォォッ! こんな結果を誰が予想したぁぁぁあああああああああああ!! 元日本チャンプまさかの初戦敗退だぁぁああああああああああ!!』

 

「お、覚えてろよ~!」

 

 ライフが0を刻んだ途端、羽蛾が会場から走り去っていく。瞬間、会場中から丈の名を告げる声が轟いた。プレッシャーや緊張はもう体の中から抜けている。

 少しだけ得意気に観客に向けてニヤリと笑みを浮かべて見せた。自分の名を観衆がこんなにも嬉しそうに連呼するのが不思議だった。

 

(さて……次はそっちの番だ。頑張れよ亮と吹雪)

 



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第28話  サイバー流VSサイコ流

 I2カップの主催者にして、I2社の名誉会長。

 ペガサス・J・クロフォードは10分間の休憩時間に専用のゲストルームで体を休めていた。日頃のデスクワークの疲労と、一つの大きな悩みによるストレスが相乗されペガサスを襲う。

 デスクワークの疲れは特に問題はないのだ。カードデザイナーとしての一面が強いペガサスだが、その実彼はかなりのヤリ手である。デュエルモンスターズを老若男女西洋問わず幅広い層に普及されたその手腕と経営能力。経営者としても商人としても彼は"一流"なのだ。そんなペガサスにしてみれば、デスクワークの疲労なんてものは長年連れ添った友人のようなものである。

 そんなペガサスをもってしても頭を抱えずにはいれない悩みというのが、そもそも今大会を開いた切欠だ。あれらのカードはデュエルモンスターズの創造者をもってしても手に余る。あのカードを扱えるのは、カードに選ばれたデュエリストのみ。

 ペガサスが知る限り、それに該当するデュエリストは武藤遊戯、海馬瀬人、墓守の一族の面々だけ。嘗て千年アイテムという呪われし秘宝の所有者になったこともあるペガサスだが、彼にあのカードを従えることは出来なかった。

 本当なら彼等に協力を仰げれば良かったのだが、運の悪いことに武藤遊戯は行方知らず。海馬はロシアで行われる社運を賭けた取引のために留守。唯一連絡をとれた墓守の一族は別ルートからの捜査をしてくれているものの成果は芳しくない。

 

「ペガサス会長。一回戦は滞りなく消化され、残り一戦を残すのみ。間もなく最後の一戦が始まります」

 

「分かりました。私も直ぐに行きマース」

 

「はっ!」

 

 護衛の黒服を下がらせると、ふわふわのソファに沈めた腰を上げる。

 たったそれだけの動作なのに体がどうも重い。最近運動らしい運動をしていなかったからそのせいかもしれない。もしも悩みが解決したら定期的にランニングでもしようと心に決めた。

 

(この大会であのカードを扱える可能性があるデュエリストが現れてくれるといいのデスが)

 

 ペガサスは八ケタの暗証番号をそっと入力し、自らの指紋を認証させ、厳重にロックされたアタッシュケースを開く。そこにあるのは一枚のカード。されど世界を狂わしかねないほどの力を秘めた最悪のカードでもある。たった一枚でゲームバランスを狂わせ環境を支配するパワー。その威容は"神"と表現するのが相応強い。もしこれが世に出れば―――――どれほどの事態になるか。

 武藤遊戯は三幻神のカードを全て所有していたが、それは武藤遊戯だったからこそ問題なかったのだ。下手なデュエリストの手にアレが渡れば、確実に大惨事となる。

 多くの人が楽しんでほしい。そんな願いも込めて作ったデュエルモンスターズで悲劇が起こるのを許容するほどペガサスは薄情でも諦めが良くもなかった。

 ペガサスはもう一度、アタッシュケースの中のカードを凝視してから蓋を閉じる。

 

――――――――THE DEVILS ERASER

 

 そのカードテキストにはそう記されていた。

 邪神。それはペガサスにより三幻神の暴走を止める抑止力としてデザインされたものの、その途中で創造を躊躇った闇に葬られた筈の凶つ神。これがどのような経緯でどうして創造されてしまったのか。明らかになるのは少しあとのことである。

 

 

 

 

 

 

 

              ┏━  宍戸丈

          ┌━┫

          │  └─  羽蛾

      ┌─┤

      │  │  ┌─  本田

      │  └━┫

      │      ┗━  マナ

  ┌─┤

  │  │      ┌─  三沢

  │  │  ┌━┫

  │  │  │  ┗━  御伽

  │  └─┤

  │      │  ┏━  レベッカ

  │      └━┫

  │          └─  トム

─┤

  │          ┌─  牛尾

  │      ┌━┫

  │      │  ┗━  不動

  │  ┌─┤

  │  │  │  ┏━  天上院

  │  │  └━┫

  │  │      └─  竜崎

  └─┤

      │      ┌─  骨塚

      │  ┌━┫

      │  │  ┗━  十六夜

      └─┤

          │  ┌─  丸藤亮

          └─┤

              └─  猪爪誠

 

 

 

 

 第一回戦もいよいよ最終試合。亮のデュエルを残すだけとなった。

 吹雪の方もレダメを利用した最上級ドラゴン族の大量展開による力押しで華麗に勝利し、二回戦へ駒を進めている。これで亮も勝てばアカデミア参加組全員が一回戦突破を果たすことに成る。

 

『さぁぁッ! I2カップ第一回戦もいよいよ大詰め! 最後の試合はこの二人! 初戦で見事なデュエルを見せてくれた宍戸丈と、レッドアイズを華麗に操る美形デュエリスト天上院吹雪の友! サイバー流後継者ぁぁぁッ! 丸藤ぃぃぃぃぃいぃい亮ぉぉぉぉおぉぉッ!』

 

 スモークの中からアカデミアの制服を着た亮が颯爽と現れる。

 観客の大歓声にも物怖じ一つせずに受け流し、デュエル場へと立った。

 

『そして丸藤亮に対するはぁぁぁッ! サイバー流と対を為すサイコ流免許皆伝! 猪爪誠ぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!』

 

「サイコ流?」

 

 亮はふとサイバー流とほぼ同時期に生まれたデュエル流派があったことを思い出す。

 余り詳しくは知らないが確かサイコ・ショッカーを中心に据えた流派だったはずだ。こんな時、師範がいればサイコ流についての詳しい情報を教えてくれただろうな、と遠い孤島のアカデミア高等部にいる師範を思い起こす。

 対戦者の猪爪誠という男は地味な服装をした男だった。片方の目は髪の毛に隠されて見えないが、もう片方の目からはありありとこちらに対する敵意が透けて見えた。更にその腕には鍛錬の賜物だろう。デュエルするのには最適の筋肉がついている。かなりの強敵だと亮は直感した。

 

「ふふふふふふ。サイバー流後継者、丸藤亮。お前と戦える時を心待ちにしていたぞ。まさかこのような大舞台でお前と戦うことに成るとは、これもデュエルの神の導きというものかな」

 

「大会実行委員の導きじゃないのか」

 

「だが俺からしたら僥倖だ。これほど大勢の観衆がいれば嘘偽りなど出来よう筈もない。俺は今日、サイバー流を超える。丸藤亮、貴様を倒して!」 

 

 猪爪誠が真っ直ぐに亮を指差した。

 中々の気迫。されど亮とて負ける為にこの大会に参加したのではない。必ずや決勝まで進み、そして優勝する。そのために大会に参加したのだ。

 

「サイバー流にどんな恨みがあるかは知らない。だが俺とて負ける訳にはいかない」

 

「無論だ。後から本気ではなかったなどと言われても迷惑。全力のサイバー流を倒してこそ、我がサイコ流の力が証明されるのだから」

 

「フッ。言葉など必要なかったか。ならばデュエルで語るのみ」

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 先行は残念ながら亮のターン。

 後攻を得意とする亮からしたら先行になったところで特に嬉しくもなんともない。しかしなったものは仕方ないだろう。先行なら先行でやりようはある。

 

「俺のターン、サイバー・ヴァリーを攻撃表示で召喚。そしてカードを二枚セット。俺はこれでターンエンドだ」

 

 

 

【サイバー・ヴァリー】

光属性 ☆1 機械族

攻撃力0

守備力0

以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このカードが相手モンスターの攻撃対象に選択された時、

このカードをゲームから除外する事でデッキからカードを1枚ドローし、

バトルフェイズを終了する。

●このカードと自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を

選択してゲームから除外し、その後デッキからカードを2枚ドローする。

●このカードと手札1枚をゲームから除外し、

その後自分の墓地のカード1枚を選択してデッキの一番上に戻す。

 

 

 

 バーンデッキならまだしも、亮のデッキはサイバー・ドラゴン中心のビートダウン。攻撃出来ない先行では攻める事も出来ない。

 故にサイバー・ヴァリーとリバースカードで防御を固める。これで仮に相手がモンスターを超大量展開してきたとしても防ぎきれるだろう。

 

「フン。俺のターン、ドロー! 天使の施しを発動。三枚ドローし二枚捨て……見せてやる。サイバー流にとっての切り込み隊長がサイバー・ドラゴンというのならば、これがサイコ流の切り込み隊長。俺は人造人間―サイコ・リターナーを攻撃表示で召喚」

 

 

 

【人造人間―サイコ・リターナー】

闇属性 ☆3 機械族

攻撃力600

守備力1400

このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

このカードが墓地へ送られた時、自分の墓地の

「人造人間-サイコ・ショッカー」1体を選択して特殊召喚できる。

この効果で特殊召喚した「人造人間-サイコ・ショッカー」は、

自分のエンドフェイズ時に破壊される。

 

 

 

 切り込み隊長――――先鋒ということもあり、上級モンスターのサイコ・ショッカーと比べれば随分と小さく弱そうな人造人間だった。

 

「サイコ・リターナーのモンスター効果、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。そして速攻魔法リミッター解除! 機械族モンスターの攻撃力を倍にする!」

 

 

 

【リミッター解除】

速攻魔法カード

このカード発動時に、自分フィールド上に表側表示で存在する

全ての機械族モンスターの攻撃力を倍にする。

この効果を受けたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 

 

 

「これでサイコ・リターナーの攻撃力は1200に上昇する!」

 

「直接攻撃能力……? サイバー・ヴァリーの効果は相手に攻撃対象となった時に発動するもの。モンスターを無視しての直接攻撃ならば発動できない」

 

「そういうことだ。サイコ・リターナーの直接攻撃、サイバーエナジーショット!」

 

 倍になったとはいえ1200。

 そこまで重大なダメージではない、が、ダメージはダメージ。先手を奪われるというのはモチベーションを左右する意味でも痛手だ。

 

 丸藤亮 LP4000→2800

 

 

「ははははははは! ざまぁないな丸藤亮! サイバー流によって受けた積年の恨みつらみ‼ この大舞台で晴らしてくれようぞ!」

 

「分からない。どうしてサイバー流を目の仇にする? サイバー流がお前になにかしたというのか?」

 

「別にサイバー流に直接どうこうされた訳じゃないさ。ただサイバー流は我がサイコ流にとってみればひどく不愉快な存在なんだよ。お前にも話してやる! サイコ流とサイバー流、その歴史をな!」

 

 そして紡がれるのは知られざるサイコ流の歴史。

 サイバー流とは異なるもう一つの流派。その闇が今、解き放たれる。




 


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第29話  サイコ流の誕生、そしてリスペクトの精神

 人造人間サイコ・ショッカー。

 デュエルモンスターズをある程度知るものなら一度はこのモンスターの名を耳にした覚えがあるだろう。

 このモンスターがフィールドに表側表示でいる限り罠カードは永久封印され、聖なるバリアや次元幽閉などの強力な罠の悉くが無為と化す。効果を抜きにした能力も、星6の上級モンスターで2400という中々の攻撃力を持ち、闇属性機械族ということでサポートカードも豊富だ。

 上級モンスターは2400、という目安もこのカードが作ったといっていいだろう。伝説のデュエリストの一人、城之内克也が使用したということもありサイコ・ショッカーは瞬く間に有名カードとして名を馳せるようになった。

 そんなサイコショッカーを流派の粋にまで昇華したのがサイコ流である。

 人造人間サイコ・ショッカーを切り札としたサイコ流は、多くのプロデュエリストを排出しデュエルモンスターズ界にその名を轟かせるであろうと、そう思われていた。あの流派の存在が世間に知られるまでは。

 サイバー流。それはサイコ流とほぼ同時期に誕生したデュエル流派。サイコ流がサイコショッカーを切り札とするのに対して、サイバー流はサイバー・ドラゴンとその融合体を切り札とした流派だ。

 一般大衆というのは大概にして無知だ。プロリーグの観戦に来る観客だって、その殆どはデュエルのなんたるかを知らないミーハーの素人ばかり。プロリーグで行われるデュエルにどれだけの読み合いや戦術が使われているか理解している客など半分もいれば上々だ。そして素人に限って、単純に攻撃力の高いモンスターを持て囃す傾向がある。

 サイバー・ドラゴンは機械族専用融合カード、パワーボンドと組み合わせることにより簡単に攻撃力8000オーバーのモンスターに化ける可能性をもったカードだ。普通のデュエルでは攻撃力の上限など精々3000か4000だというのに、サイバー・エンドは容易く8000……或いは10000越えすらも達成してしまう。そのパワーとエネルギーに観客は魅せられた。

 大衆がサイバー流を賛美すれば、やがて玄人と呼ばれる者達にも僅かながらの心境の変化も出てくる。社会の波に流されるように、サイコ流の門下生は一人、また一人とサイバー流へと流れていった。

 サイコ流とて努力はした。

 人造人間サイコショッカーというカードが持つ罠封じ効果の強力さにも熱く語って聞かせた。しかし帰ってくるのは大抵が同じようなこと。

 

「あぁ、それってサイコ・ショッカー?」

 

「ショッカーは拾った」

 

「こんなカードオレは36枚持っているよ…」

 

「禿とか要らね」

 

「ダサいんだよ禿」

 

「禿よりサイバー・ドラゴンでしょ。格好よさが段違いだって」

 

「ていうか罠封じとか外道じゃね?」

 

「つぅかサイコ・ショッカーとかどう見ても悪役ですから」

 

「検診のお時間だ!」

 

「おい、デュエルしろよ」

 

「麻婆!」

 

 世間の認識はとてもじゃないが暖かいとは言えないものだった。

 何が外道流派だ。外道というのなら突然攻撃力8000だとか160000だとかを出してくるサイバー流の方が余程外道ではないか。そう猪爪は訴えたが、やはり風向きは何も変わらない。世間の風は禿に冷たいのである。

 それでもサイコ流免許皆伝、猪爪は諦めたりはしなかった。

 サイコ・ショッカーを世間が見捨てるというのなら、改めてサイコ・ショッカーの力を示してやる。どれだけサイコ・ショッカーというモンスターが素晴らしいのか、それを再認識させてやろうじゃないか。

 大衆の賛美するサイバー流を倒して。

 

「それが俺がこの大会に参加した目的だ。あのマスター鮫島からサイバー流デッキを受け継ぎ若干12歳でサイバー流後継者となった男、丸藤亮! 俺はお前を倒す事をもって、サイコ・ショッカーの力の証明とする!」

 

 猪爪は本気だ。固い信念と強い覚悟をもってこの大会に参加してきている。

 ならば、と。亮は猪爪に負けぬ力強い視線で対峙する。

 もし自分がわざと負ければ、サイコ流がサイバー流を上回った事の証明にはなるだろう。これほどの大観衆の前で負ければ必然そうなる。だが、それでは猪爪が納得しない。猪爪もまた一人の誇り高きデュエリスト。だとすれば自身もまた最高のデュエルを持って相手をしなければならないだろう。

 それがリスペクトというものだ。

 

 

 

丸藤亮 LP2800 手札四枚

場  サイバー・ヴァリー

 

猪爪誠 LP4000 手札三枚

場 無し

伏せカード1枚

 

 

 デュエルが再開される。

 幸いにして相手フィールドにモンスターはいない。今ならばがら空きの所を攻撃できる。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 しかし猪爪とて伊達にサイコ流免許皆伝を名乗っているのではない。

 そう安々と直接攻撃を許してはくれなかった。

 

「お前がドローしてスタンバイフェイズになった瞬間、俺はリバースカードを発動。永続罠リビングデッドの呼び声!」

 

 

 

【リビングデッドの呼び声】

永続罠カード

自分の墓地のモンスター1体を選択し、表側攻撃表示で特殊召喚する。

このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。

そのモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。

 

 

 

「俺は天使の施しで墓地に捨てていたサイコ・ショッカーをフィールドに特殊召喚。更に墓地から蘇生したサイコ・ショッカーのモンスター効果、リビングデッドの呼び声の効果を無効とする!」

 

 

 

【人造人間サイコ・ショッカー】

闇属性 ☆6 機械族

攻撃力2400

守備力1400

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

お互いに罠カードを発動する事はできず、

フィールド上の罠カードの効果は無効化される。

 

 

 

 サイコ・ショッカーの効果でリビングデッドの効果が消え、サイコ・ショッカーは完全蘇生を果たした。リビングデッドとサイコ・ショッカーの組み合わせはサイコ・ショッカー使いでなくとも知っているメジャーなコンボの一つである。

 

「人造人間サイコ・ショッカーか」

 

「どうした? 我がサイコ流のエースモンスターに恐れをなしたのか丸藤亮。サイバー流がサイコ流に劣ることを認めサレンダーをするならここで終わらせてやってもいいが」

 

「フッ。悪いが俺の辞書にサレンダーなどという単語は一切記述されてはいない。自分の引導は自分で渡す。それが俺だ! カードを一枚伏せ俺は場のサイバー・ヴァリーを生贄に捧げる!」

 

「生贄召喚をするつもりか! 一体を生贄ということは……クククッ、貴様も自身のエースモンスター、サイバー・ドラゴンを呼び出し雌雄を決しようというのか。面白いぞ、それこそ待ち望んだ展開!」

 

 サイバー・ドラゴンの星は5。

 攻撃力は2100の半上級モンスターだ。サイコ・ショッカーの2400には劣るが、装備魔法などで強化すれば超えられない数値ではない。だが、

 

「違うな」

 

「っ?」

 

「俺が召喚するのはサイバー・ドラゴンじゃあない。ましてやサイバー流のモンスターですらない」

 

「サイバー流のモンスターじゃないだと! だとしたら、何のモンスターを召喚するというんだ!?」

 

「そのカードは俺の友とトレードで譲り受けたカードであり、俺がサイバー・ドラゴンと同じように信頼しリスペクトするカードの一枚だ。お前にも見せてやる。出でよ、人造人間サイコ・ショッカー!」

 

「な、なにぃぃぃぃいいい! さ、サイコ・ショッカーだとぉ!?」

 

『こ、これはどうしたことだぁぁぁぁぁッ! サイバー流後継者、丸藤亮! 自身のエースカードであるサイバー・ドラゴンではなく、召喚されたのはなんとなんと! 対戦者サイコ流継承者猪爪選手のエース、人造人間サイコ・ショッカーだぁぁぁぁあッ!』

 

 猪爪が自分のサイコ・ショッカーの前に立つサイコ・ショッカーを信じられないもののように見る。いや、事実として猪爪には信じられないのだろう。サイバー流正統継承者である丸藤亮が、よもや外道流派と罵られ迫害されてきたサイコ流のカードを使うなどと。

 鏡に映る影のように対面した二体のサイコ・ショッカーはお互いを威圧するかのように、そのオーラを増していく。

 

「そして速攻魔法リミッター解除! 人造人間サイコ・ショッカーの攻撃力を二倍にする!」

 

 人造人間サイコ・ショッカー(丸藤亮) 2400→4800

 

 亮のサイコ・ショッカーが自身に掛けられていたリミッターを外すことで、刹那のオーバーパワーを得る。猪爪のサイコ・ショッカーの攻撃力が超えられた。

 

「人造人間サイコ・ショッカーの攻撃、サイバー・エナジー・ショック!」

 

 猪爪誠 LP4000→1600

 

 見慣れた攻撃。慣れ親しんだ攻撃名。それと共に放たれるサイコ・ショッカーの攻撃を猪爪は初めて自分自身で受けた。

 

「これが俺の返答だ猪爪! サイバー流もサイコ流も関係ない。俺はこの地上に存在するあらゆるカードをリスペクトしている! これが俺のスーパーリスペクトデュエルだッ!」



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第30話  男と男の戦い

丸藤亮 LP2800 手札二枚

場  無し

伏せ 一枚

 

 

猪爪誠 LP1600 手札三枚

場 無し

罠 リビングデッドの呼び声(サイコ・ショッカーの効果で無効化されているため破壊されず)

 

 

 

「くっ。俺のターン、ドロー」

 

 猪爪が苦虫をかみつぶしたような顔をしながらドローをする。

 

「スーパーリスペクトデュエル、あらゆるカードをリスペクトだと? ふん! 口から出任せを! お前は耳障りの良い言葉を語っているが、所詮お前にとっての一番はサイバー・ドラゴンだろうが!」

 

 猪爪は怒りに心を焼いていた。

 サイコ流とサイバー流は相容れぬ存在のはず。だというのにあっさりとサイコ流のエースをサイバー流の丸藤亮が使っているのが許せなかった。

 

「そのサイコ・ショッカーにしたってそうだ。友から貰っただのと綺麗なエピソードでそれらしく塗り固めてはいるが、サイバー・ドラゴンを活用させるための駒使いとして用いているに過ぎない!」

 

「否定はしない。サイコ・ショッカーは俺のデッキのエースではない。俺のデッキのエースはサイバー・ドラゴン。その事は変わりはしないさ。サイコ・ショッカーをサイバー・ドラゴンの力を発揮させるために用いているというのも概ね事実だ」

 

「ふん、それ見た事か!」

 

「だが、それの何が悪い。はっきりと言おう。俺はサイコ・ショッカーよりもサイバー・ドラゴンが好きだ。サイコ・ショッカーよりも遥かにな」

 

「んなっ!」

 

「お前もそうだろう。お前もサイバー・ドラゴンよりもサイコ・ショッカーの方が好きなんだろう? だからデッキに入れている。サイコ・ショッカーデッキでこの俺に挑んできている」

 

「貴様、何を……」

 

「猪爪。一つだけ言おう、エースだけでデュエルは出来ない」

 

「!」

 

「七色の変化球と剛速球をもつ最強右腕だろうと、キャッチャーがいなければ振り逃げの山を築くだけだ。万が一外野に球が飛べば、それだけでランニングホームランになる。デュエルとて同様。エースモンスターだけでは強者との戦いに勝つことなど出来はしない。エースを支える仲間たちがいてこそ、デッキはより高みへと上り詰めることができる。サイコ・ショッカーは俺のデッキのエースではない、が、俺のデッキを支える大切な同胞だッ!」

 

「同胞、サイコ・ショッカーを……」

 

「俺は進化する。丈や吹雪、多くのライバルに囲まれ俺は学んだ。言葉には出来ない多くのものを。サイバー流という既存の枠組みを破壊する事で生まれる可能性を!」

 

「既存の枠組みの破壊だと!?」

 

「お前にも見せてやる! これが俺のデュエルだ。お前のターンのスタンバイフェイズ時、罠カード発動! リビングデッドの呼び声! 墓地の人造人間サイコ・ショッカーを蘇生させる!」

 

「なっ!」

 

 それは数ターン前に猪爪が行った戦術の再現だった。同じように発動された同じリビングデッドの呼び声は、同じようにカード効果を発動させ墓地から人造人間サイコ・ショッカーを復活してみせた。

 

「俺は……」

 

 もう猪爪の頭の中にサイコ流とサイバー流の因縁なんてものは残っていなかった。しかしそうなってもまだ闘志はある。心を突き動かす抑えきれない衝動が疼いていた。

 勝ちたい。丸藤亮、既存の枠組みを破壊するなどといってのけた男に全力で挑んで勝ちたい。自分の信じるデッキで丸藤亮の信頼するデッキと思う存分に勝負したい。

 猪爪の中にあるのはそれだけだ。過去の因習や因縁、そういったものが砂上の楼閣のように崩れ落ちていくのが分かる。楼閣が消え残ったのはデュエリストなら誰しもが持つ原初の欲望、勝ちたいという純粋な気持ちだ。

 

「……丸藤亮、先ずは荒れ狂う俺の感情を真っ向から受け止めてくれたことに感謝する」

 

「……………」

 

「だがッ! だからこそ俺はお前に勝つっ! サイコ流免許皆伝猪爪としてじゃない! 一人のデュエリスト猪爪誠として、同じデュエリスト丸藤亮を倒す!」

 

「―――――――フッ。いいだろう来い、猪爪」

 

『熱い! 熱いぞぉぉぉぉぉッ! 第一回戦最終試合でこんなにも熱い人間ドラマが待っていると、このドームの誰が予想したことかぁぁぁぁッ! 猪爪誠、丸藤亮に堂々の宣言ッ!』

 

『亮! 亮! 亮! 亮! 亮!』

 

『猪爪! 猪爪! 猪爪! 猪爪!』

 

 会場は応援の声に包まれていた。しかし興奮する観客よりも熱く滾っているのはドームの真ん中で対峙する二人の戦士に他ならない。

 二人の男は自らの闘争本能に従い己が剣を振るい合う。

 

「いくぞ。俺は魔法カード、壺の中の魔術書を発動! 互いのプレイヤーはデッキから三枚ドローする!」

 

 

 

【壺の中の魔術書】

通常魔法カード

互いのプレイヤーはカードを3枚ドローする。

 

 

 

「これで俺の手札は六枚! 魔法カード、おろかな埋葬! デッキからモンスターを一体墓地に送る。俺はデッキの中の人造人間サイコ・リターナーを墓地へ埋葬」

 

「自分のモンスターを敢えて墓地へ? 待てよ。確かサイコ・リターナーのモンスター効果は!」

 

「そう。サイコ・リターナーは墓地へ埋葬された時、墓地に眠るサイコ・ショッカーをこのターンのみ蘇生させる効果がある! 甦れ人造人間サイコ・ショッカー!」

 

 

 

【人造人間―サイコ・リターナー】

闇属性 ☆3 機械族

攻撃力600

守備力1400

このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

このカードが墓地へ送られた時、自分の墓地の

「人造人間-サイコ・ショッカー」1体を選択して特殊召喚できる。

この効果で特殊召喚した「人造人間-サイコ・ショッカー」は、

自分のエンドフェイズ時に破壊される。

 

【人造人間サイコ・ショッカー】

闇属性 ☆6 機械族

攻撃力2400

守備力1400

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

お互いに罠カードを発動する事はできず、

フィールド上の罠カードの効果は無効化される。

 

 

【おろかな埋葬】

通常魔法カード

自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

 

 

 再び蘇ったサイコ・ショッカーが亮のサイコ・ショッカーの前に立つ。偶然にも最初とは真逆のシチュエーションとなった。

 とはいえ猪爪が蘇生したサイコ・ショッカーはこのターンのエンドフェイズには消え去る運命にある。一応そういった効果を消し去るカードとして「亜空間物質転送装置」の存在があるが、罠カード封じのサイコ・ショッカーに罠カードの「亜空間物質転送装置」を使うことは出来ない。

 そんなことは猪爪が一番理解している。だからこそ猪爪にはサイコ・ショッカーをそのままで使うという選択肢は最初からなかった。

 丸藤亮は恐らく今まで猪爪が出会ったデュエリストの中でも一番の強敵。ならば自身もまたデッキの中にいる最強のモンスターを出さねば勝つ事などできない。それが猪爪の考えだった。

 

「見せてやろう丸藤亮。サイコ流が誇るサイコ・ショッカーの進化系にして最終形態を。これが俺の本気だ!」

 

「サイコ・ショッカーの最終形態!? ……そうか、そうでなくてはな」

 

「俺はサイコ・ショッカーを墓地に送り、手札の人造人間サイコ・ロードを攻撃表示で特殊召喚ッ! 頼むぞサイコ・ロード! 俺に勝利を見せてくれ!」

 

 

 

【人造人間サイコ・ロード】

闇属性 ☆8 機械族

攻撃力2600

守備力1600

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に表側表示で存在する「人造人間-サイコ・ショッカー」

1体を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

お互いに罠カードの効果は発動できず、

フィールド上の全ての罠カードの効果は無効される。

1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在する罠カードを全て破壊できる。

この効果で破壊したカード1枚につき300ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 

 それは正しくサイコ・ショッカーの進化系というべき魔人だった。背中から無数に生えるコードは神仏の背負う曼荼羅を思わせる。サイコ・ショッカーよりやや肥大化した身体と無機質な眼光。しかし何故だろうか。亮にはサイコ・ロードが誇らしげに見えた。主と戦う事を何にも勝る栄誉とする騎士のように。

 

「サイコ・ロードのモンスター効果。一ターンに一度、フィールドで表側表示になっている罠カードを全て破壊しその数×300のダメージを与える。ハイパー・トラップ・ディストラクション!」

 

 フィールドに出ていた二枚のリビングデッドの呼び声が破壊される。

 それと同時に亮のLPから600が削られた。

 

 丸藤亮 LP2800→2200

 

「そして俺はメカ・ハンターを攻撃表示で召喚」

 

 

【メカ・ハンター】

闇属性 ☆4 機械族

攻撃力1850

守備力800

 

 

「バトル! サイコ・ロードでサイコ・ショッカーを攻撃。電脳魂衝撃(サイバー・エナジー・インパクト)!」

 

 サイコ・ロードの掌から放たれる黒いパワーショット。サイコ・ショッカーも迎撃するが相手は上位種。サイコ・ショッカーの攻撃は押し切られ破壊されてしまう。

 

 丸藤亮 LP2200→2000

 

「そしてメカ・ハンターの直接攻撃! 喰らえメカ・ランス!」

 

「ぐぅぅぅぅッ! やるな猪爪!」

 

 丸藤亮 LP2000→150

 

『丸藤亮ぉぉぉおぉっ! 逆転! ここに来てライフポイントが遂に100ポイント台に突入したァァァッ! 猪爪誠! 遂に丸藤亮相手にチェック!』

 

「ターンエンド! さぁお前に俺の最強モンスターが倒せるか!」

 

「……俺のターン」

 

 人造人間サイコ・ロード。サイコ・ショッカーの進化系という看板に偽りはなく、正しくサイコ・ショッカーをあらゆる面で超えるモンスターだ。猪爪にはそのサイコ・ロードと下級機械族通常モンスターでは最高の攻撃値をもつメカ・ハンターもいる。逆に亮のフィールドにはモンスターが皆無。しかし、

 

「忘れていないか猪爪。俺のサイバー・ドラゴンがどういう効果を持つモンスターなのかを?」

 

「……ッ! しまった、サイバー・ドラゴンは!」

 

「相手のフィールドにモンスターがいて、こちらにモンスターがいない場合、このモンスターは手札から特殊召喚できる。来い我がしもべ、サイバー・ドラゴンッ!」

 

 

【サイバー・ドラゴン】

光属性 ☆5 機械族

攻撃力2100

守備力1600

相手フィールド上にモンスターが存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

 

「遂に出たか、サイバー・ドラゴン。しかし俺のサイコ・ロードの攻撃力はサイバー・ドラゴンを上回っている!」

 

「ああ、だからこうするのさ。俺はフィールドのサイバー・ドラゴンを融合する!」

 

 高らかにそう宣言する亮。だがしかし猪爪には腑に落ちないことがあった。融合するのは良い。サイバー・ドラゴンは強力な融合体モンスターを多数抱えるモンスターだ。それがサイバー流のウリでもある。けれど妙なのは亮の場に融合の魔法カードが存在しないことだ。

 

「なにをしている? 融合のカードがなければ、モンスターを融合させることは出来ないぞ」

 

「普通ならばそうだ。だが俺は言った筈だ、既存の枠組など破壊すると! 俺がこれから召喚する融合モンスターは融合召喚に『融合』カードを必要とせず、フィールドのカードを融合し特殊召喚する!」

 

「何を馬鹿な。フィールドのモンスターといってもお前のフィールドにはサイバー・ドラゴンのみしかいない! マスク・チェンジによる変身召喚でもあるまいし、モンスター一体での融合など……」

 

「いるじゃないか。俺のサイバー・ドラゴン以外にもモンスターは」

 

「なに?」

 

 亮が見ているのは自身のフィールドではなく猪爪の場。

 そして猪爪の場には二体のモンスターが存在している。

 

「ま、まさか! お前は!」

 

「ご名答。俺はお前のモンスターを融合素材として使用する!」

 

 ブラックホールに吸い込まれるように、サイコ・ロードとメカ・ハンターがサイバー・ドラゴンに吸い寄せられていく。三体の機械族モンスターは互いにバラバラのパーツに分解されながら混じり合い、やがて一体のモンスターが誕生する。

 

「サイコ・ロードの力を受けて新生せよ! キメラテック・フォートレス・ドラゴン!」

 

 

 

【キメラテック・フォートレス・ドラゴン】

闇属性 ☆8 機械族

攻撃力0

守備力0

「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上

このカードは融合素材モンスターとして使用する事はできない。

自分・相手フィールド上に存在する上記のカードを墓地へ送った場合のみ、

エクストラデッキから特殊召喚する事ができる(「融合」魔法カードは必要としない)。

このカードの元々の攻撃力は、

このカードの融合素材としたモンスターの数×1000ポイントになる。

 

 

 

「キメラテック・フォートレス・ドラゴンの攻撃力は融合素材としたモンスターの数×1000ポイントの数値となる。俺が融合素材としたモンスターは三体。よってその攻撃力は3000! キメラテック・フォートレス・ドラゴンで相手プレイヤーを直接攻撃、エボリューション・リザルト・アーティレリー」

 

 キメラテック・フォートレス・ドラゴンの胴体にある砲台から、三つの砲撃が猪爪に飛ぶ。猪爪のフィールドにはリバースカードもモンスターもない。攻撃を防ぐ術はなかった。

 猪爪は静かに目を閉じると、キメラテック・フォートレス・ドラゴンの攻撃を静かに受け止める。

 

 猪爪誠 LP1600→0

 

 ライフポイントが0を刻む。

 それと同時に観客席の興奮が臨界を超え爆発した。

 

『決まったぁぁぁぁぁぁッ! 逆転の次の大逆転! 猪爪の強力なモンスター、サイコ・ロードの力をも吸収しての一撃により二回戦進出が決定ぃぃぃいぃい!! その威容威風はもはや帝王! カイザー亮の誕生だぁぁぁぁぁあ! 我々は伝説のデュエリストの誕生を、今ここで目にしているのかもしれないぃぃぃいい!』

 

 MCの熱狂を余所に亮は猪爪に歩み寄り、手を差し伸べていた。

 

「これは?」

 

 差し出した手を疑問に思いながら猪爪が問う。

 

「とても良いデュエルだった。互いの健闘をたたえるのに理由なんていらないだろう。猪爪という強いデュエリストと闘えた記念……そして再戦の証として、だ」

 

 馬鹿正直な解答。思わず猪爪は破顔する。

 丸藤亮はきっとこういうやつなのだろう。馬鹿みたいにデュエルのことばかり考えていて、こうも自然と帝王の様を見せつける。猪爪は苦笑しながら差し出された手を握った。

 

「こっちこそ良いデュエルだった。何時か……また俺と戦ってくれるか?」

 

「何時でも掛かってこい。次も俺が勝ってみせるがな」

 

「いいや負けないな次は。それとこのカードを受け取ってくれないか?」

 

「おい、このカードは!」

 

 亮が驚愕する。猪爪が差し出したカードはサイコ流最強のモンスター、人造人間サイコ・ロードだったのである。

 

「サイコ・ショッカーを仲間として見てくれているお前ならこのカードを使いこなせるだろう。俺なりの再戦の証だ、貰ってくれ」

 

「そう言うことなら、有り難く貰おう。大切に使う」

 

「お前なら、サイバー流やサイコ流なんてつまらない枠組みを超えた新たな道を切り開けるかもな。それじゃあ丸藤亮、俺はこれから自分を鍛え直してくる。また会おう」

 

 拍手喝采の中、猪爪は堂々と会場から去っていく。

 その後ろ姿には惨めさなんてものは欠片もない。次のデュエルに燃えるデュエリストらしい退場だった。亮は猪爪との再戦の機会を楽しみにしながら、自身もまた退場した。

 




 なんだかカイザーが主人公のような気がしてくるお話でした。


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第31話  魔導師の少女

 全ての一回戦が終わった後、そのままの流れで二回戦が始まった。二回戦は一回戦とは逆の順番で始まり、最後にデュエルした亮が最初の試合で、最初にデュエルをした丈が今度はラスト試合である。

 第一試合で亮はサイバー・エンド・ドラゴンの高速召喚によるスリーターンキルを達成。吹雪もFGDを駆使してのワンショットキルと上々の結果だった。

 そして二回戦最終試合。遂に丈の出番がやってきた。

 

『さぁぁぁて! いよいよ第二回戦もラストスパートッ! ラスト試合の選手を紹介するぞぉぉお! 一回戦で華麗なる勝利を飾ったアカデミアからの出場選手の一人! 本大会のダークホース! 宍戸丈ぉぉぉお!』

 

 丈は曖昧に笑いながら観客に手を振る。この会場に立った当初こそは緊張でガチガチになったものだが、慣れてしまえばどうということはない。今ならこの大観衆の前で逆立ちでもバク転でも決められそうだ。

 

『そしてぇぇぇ! それに挑むは一回戦で可憐なるデュエルを見せてくれたこの人! 謎の美少女デュエリスト、マナぁぁぁぁぁッ!』

 

「うぉぉおおおおお!」

 

「マナちゃーん!」

 

「こっち向いてーーーーっ!」

 

「萌えるぜ、バーニング!」

 

「俺の股間がクリアマインド!」

 

 主に野太い男の大歓声にニコッとキュートなスマイルを送って見せたのは金髪の少女。まるで最近の女子学生が好むような流行りの服を教科書通り選んだような服装。それでも少女の可愛らしさと相まって異常なほど似合っていた。若干開いている胸元が可憐さだけではなくうっすらと大人の色気をも漂わせていた。子供の幼さと大人のエロティックが絶妙にブレンドした美少女、それが丈の対戦者ことマナだった。

 

(っていうか……どう見てもこれって)

 

「みんなー! 応援ありがとう! 今日は楽しんでいってね!」

 

 その美少女に見覚えがありありとあった。マナ、それは三千年前のファラオに仕えた魔術師見習いの一人で後にBMGの精霊ともなった少女である。キング・オブ・デュエリスト武藤遊戯にとってはブラック・マジシャンと同じ前世からの繋がりがある大切な仲間といってもいい。

 そんなある意味のVIPがどうしてこんな場所に選手として参加しているのか。もう意味不明だった。案外単に面白そうだからっていう理由で精霊パワーかなにかで紛れ込んだのかもしれないが。

 

(いや、深く考えるのは止めよう)

 

 一つだけ確かなのはブラック・マジシャン・ガール……いいやマナは宍戸丈の対戦者で倒すべき敵ということだ。相手が名も亡きファラオの精霊だろうと関係ない。自分はただ全力で戦うだけだ。

 

『観客の熱狂は最高潮! それもそうだろう。なんとマナ選手! キング・オブ・デュエリスト武藤遊戯のデッキにしか入っていないという超レアカード! ブラック・マジシャン・ガール使いのデュエリストなのだぁぁぁ! しかもマナ選手本人もカードイラストに描かれるブラック・マジシャン・ガールと瓜二つの容姿! こんな可憐な美少女、MCの私も初めて見るぞぉぉぉお!』

 

 MCとて男。ブラック・マジシャン・ガールのカードには特別な感情があるのだろう。実況の節々に熱い感情が篭っていた。

 

「初めまして、マナでーす。今日のデュエル、一杯楽しもうね!」

 

「……はぁ、こちらこそ」

 

 こちらに悪意のない感情を向けてくるマナ。

 今までは戦意がギラギラしている猛者が相手だったり、欲望が滲み出ている変態相手ばかりだったので、こういう手合いにはどうも調子が狂う。

 

(しかし、やっぱり使用デッキはブラック・マジシャン・ガールか)

 

 マナが出場した第一回戦第二試合は丈も観戦していた。

 その時使用していたデッキはBMGを主体とした魔法使い族デッキ。一回戦と二回戦ではデッキを変えている可能性もあるが、大抵の場合デュエルモンスターズの精霊は自分自身のカードが入ったデッキを使うと記憶している。何を軸とするかの違いはあれど魔法使い族デッキというのは変わらない筈だ。その対策という訳でもないが丈のデュエルディスクにあるのは最初に使ったHEROデッキではない。暗黒界デッキである。

 暗黒界と魔法使い、強いのはどちらか。

 

「それじゃあ行くよ」

 

 マナがその腕に装着されたデュエルディスクを起動する。

 精霊がどういうルートでデュエルディスクを手に入れたのかは不明だが、今更そんな細かい事を突っ込んでも仕方ない。突っ込むのはダイレクトアタックだけで十分だ。

 

「ええ、やりますか」

 

 そしてダイレクトアタックするにはデュエルをしないことには始まらない。

 どんなタイプのデッキかは不明だが、暗黒界デッキなら除外以外ならば対抗できるはず。

 

 

 

『デュエル!』

 

 

「私の先行だね。私のターン、ドロー」

 

 初手を制する事は叶わなかったが、後攻なら後攻でやり様はある。ただし一つの不安が丈の中でむくむくとその頭を上げようとしている。考え過ぎと笑い飛ばしたくはあったが、そうも出来ない恐ろしさがアレにはあった。

 

「そうだな。良し、私はこのカード。熟練の黒魔術師を攻撃表示で召喚です!」

 

 

 

【熟練の黒魔術師】

闇属性 ☆4 魔法使い族

攻撃力1900

守備力1700

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

自分または相手が魔法カードを発動する度に、

このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大3つまで)。

魔力カウンターが3つ乗っているこのカードをリリースする事で、

自分の手札・デッキ・墓地から「ブラック・マジシャン」1体を特殊召喚する。

 

 

 

 ソリッドビジョンが形となり召喚されたのは黒いローブと杖を構えた魔術師。攻撃力は下級アタッカーの一つの目安ともいえる1900で有数な効果もあるという中々のモンスターだ。

 

「そして私はこのフィールド魔法を―――――」

 

「ッ!」

 

 フィールド魔法、その言葉に丈は身構える。

 最悪の予想が形を成しつつあった。違ってほしい。フィールド魔法といってもアレばかりではない。もっと別の魔法使い族に相性の良いフィールドもある。

 しかしそんな丈の淡い願いはあっさりと打ち砕かれた。

 

「フィールド魔法、魔法族の里を発動しまーす!」

 

 ドームの試合会場がその光景をみるみると変えていく。

 無機質な試合会場が消えた後に地面からニョキニョキと生えてきたのは不可思議な木々の数々。そして辺りには他に丸っこいお伽噺の魔法使いが住んでいそうな家が立ち並ぶ。

 

 

 

【魔法族の里】

フィールド魔法カード

自分フィールド上にのみ魔法使い族モンスターが存在する場合、

相手は魔法カードを発動する事ができない。

自分フィールド上に魔法使い族モンスターが存在しない場合、

自分は魔法カードを発動する事ができない。

 

 

 

 最悪な事態だ、そう思いつつも同時に丈はほっとしていた。

 魔法族の里は相手に魔法使い族がいなければ魔法を封殺することが出来る強力なフィールド魔法である。一応自分のフィールドに魔法使いがいなければ魔法が発動できなくなるというデメリットがあるものの、デッキの殆どが魔法使い族で構成されるデッキならばリスクは最小限で済む。

 さて、魔法カードというのはあらゆるデッキにおいて戦略の要となるカードである。その魔法が封じられるというのはデッキの種類によっては戦術の根幹を封じられるに等しい。

 丈の使用するデッキのうちHEROと冥界の宝札軸は魔法カードがかなり大きな意味をもつデッキである。融合魔法が根幹をなすHEROは当たり前として、後者にしても永続魔法「冥界の宝札」がなければデッキの回転率がポルシェから自転車クラスにまで落ち込む。

 だからこそ丈は使用デッキとして暗黒界を選んだ。暗黒界も魔法カードはかなり重要な要であるが、必要不可欠という訳ではない。融合が必須のHEROと違いやり様はあるのだ。

 本当は同じように魔法使い族デッキを使えれば良かったのだが、生憎と丈は「魔法使い族」でデッキを組めるほど魔法使い族モンスターを持ってはいない。

 

「これで魔法使い族を出さない限りあなたは魔法カードを使用できなくなりました。そして魔法カード使用によって熟練の黒魔術師にカウンターが一つ乗ります。続いていきますよ。私は魔力掌握を発動!」

 

 

 

【魔力掌握】

通常魔法カード

フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを

置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。

その後、自分のデッキから「魔力掌握」1枚を手札に加える事ができる。

「魔力掌握」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

 

「これで私は熟練の黒魔術師に魔力カウンターを一つ乗せて、デッキから新しい魔力掌握を手札に加えます。そして魔法カード使用により熟練の黒魔術師にカウンターが乗り、三つのカウンターが乗った熟練の黒魔術師を生贄にデッキから特殊召喚!」

 

「来るか!」

 

 熟練の黒魔術師が召喚された時からこういうことも予想はしていた。

 デュエルモンスターズにおける魔法使い族の代名詞。名も亡きファラオに前世から仕えし最上級マジシャン。

 

「来てお師匠サマ! ブラック・マジシャンを攻撃表示で召喚です!」

 

 

 

【ブラック・マジシャン】

闇属性 ☆7 魔法使い族

攻撃力2500

守備力2100

 

 

 熟練の黒魔術師が消え召喚されたのは何違わぬ最上級魔術師。嘗て古代エジプトにおいて六神官の一人に数えられ、千年リングを担った者。

 ブラック・マジシャン、そのカードがマナ(愛弟子)のフィールドに降り立った。

 

『来た来た来た来た来た、来たぁぁぁぁあぁ! 前回の試合でブラック・マジシャン・ガールが召喚された時、もしもとは予想していたが本当に出たっぁぁぁ! デュエルモンスターズ界における伝説の魔法使いレアカード! ブラマジの降☆臨! この大会のMCを引き受けて良かった! 本当に良かったぁぁぁあああ!』

 

「先行は攻撃できないので、私はカードを二枚セットしてターンエンドでーす。さぁ、あなたのターンですよ」

 

 最上級魔術師と魔法カードのロック。

 上等だ。そのロックを打ち破り、その魔術師を倒して見せる。そう意気込み丈はデッキトップのカードを高らかにドローした。



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第32話  意外に腹黒なBMG

宍戸 LP4000 手札五枚

場  無し

 

マナ LP4000 手札二枚

場 ブラック・マジシャン

伏せカード2枚

フィールド 魔法族の里

 

 

 

 初っ端からフィールド魔法、魔法族の里で魔法カードがロックされるとは随分と厳しい立ち上がりになってしまった。嘆息しながらも丈は自分の手札と相手フィールドと手札の数を見比べる。

 

(先ずは魔法族の里だ。これをどうにかしないと俺は魔法カードが使用出来ない。…………暗黒界専用のフィールド魔法、暗黒界の門も魔法が発動できない以上、ただの宝の持ち腐れだ)

 

 とはいえ暗黒界の門は手札にないので取らぬ狸の皮算用というやつだろう。それは兎も角として、やはり魔法族の里だ。

 

(こんなこともあろうかと暗黒界モンスター以外に、単体で魔法・罠カードを除去できるモンスターを数枚入れておいて幸いだった)

 

 そしてそのモンスターは丈の手札にある。

 リバースモンスターのため即効性はないが、墓地肥やしとフィールドのカードをモンスター、魔法、罠問わずに破壊できる優秀なモンスター。

 

「俺はモンスターをセット。そしてカードを二枚セットしターンエンド」

 

『宍戸丈っ! 最上級魔術師の前に防戦一方、これはどうしたことかぁ!?』

 

 正確に言えばブラック・マジシャンではなく魔法族の里のせいで防戦一方なのだが、それは一々口に出しても仕方ない。しかし上手く決まれば次のターンで魔法族の里は破壊できる。そうすれば魔法カードを使ってモンスターの大量展開を行えるようにもなるだろう。それまでの辛抱だ。幸い罠カードもいいのがきてくれた。

 

「いきますよ。私のターン、ドロー。……よーし、バトル! ブラック・マジシャンでセットモンスターに攻撃、そしてブラック・マジシャンの攻撃宣言時に罠発動!」

 

「魔法使い族の攻撃宣言と同時ってことは」

 

「たぶん予想の通りだよ。私はマジシャンズ・サークルを発動します!」

 

 

 

【マジシャンズ・サークル】

通常罠カード

魔法使い族モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

お互いのプレイヤーは、それぞれ自分のデッキから

攻撃力2000以下の魔法使い族モンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚する。

 

 

 

「マジシャンズ・サークルの効果でお互いのプレイヤーは自分のデッキから魔法使い族モンスターを一体特殊召喚します」

 

「くそっ。俺のデッキに魔法使い族はいない……」

 

 こんなことならライトロード・マジシャン・ライラでも入れておけば良かった、と丈は後悔から歯軋りする。とはいえ丈はそのカードを持っていない。故に入れる入れない以前の問題なのだが、それはどうでもよいことだ。

 マジシャンズ・サークル。相手のデッキに魔法使い族がいなければ自分だけコスト無しで魔法使い族を召喚できる強力なカード。2000以下という制約がついているため呼び出すカードは主に「魔法の操り人形」だが相手がマナとあらば思い当たるカードは一つしかない。

 

「それでは私は私……じゃなかった。ブラック・マジシャン・ガールを攻撃表示で召喚します!」

 

 

 

【ブラック・マジシャン・ガール】

闇属性 ☆6 魔法使い族

攻撃力2000

守備力1700

お互いの墓地に存在する「ブラック・マジシャン」

「マジシャン・オブ・ブラックカオス」1体につき、

このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

 

 

 コミカルなポンっという小さな爆発音と共に、マナの持つカードからマナとうり二つ(というより同一人物)の魔術師がフィールドに降り立つ。纏うのはブラック・マジシャンと衣装を同じくするものの、女らしさと可愛さを強調したような魔道服。金色の髪を風になびかせながら、ブラック・マジシャン・ガールは空中で一回転してみせると観客にウィンクをしてみせた。

 瞬間、大爆発する歓声。まるで成田空港に1000万トンのダイナマイトでも落下してきたようだ。その余りの轟音に思わず丈は耳を塞いだ。それでも手越しから巨大な歓声が伝わってくる。

 

『ブラマジガールきたぁーーーーーっ! 全国のブラマジガールファンの皆様! 遂に! 遂に我々は我々のアイドルを生で目撃するッ! 思う存分見ろ! これがブラック・マジシャン・ガールだ! デュエルモンスターズ界最高のアイドルカード! ブラマジガール堂々の降☆臨!』

 

 興奮しているのはMCも同じのようだ。というよりブラック・マジシャンが召喚された時よりも実況に力が篭っている。男としては分からなくもないが、それでいいのかMC。

 

(と、いうより完全にアウェーな空気だな)

 

 観客の声はブラック・マジシャン・ガールへの声援ばかり。丈に対する応援は一つもない。この状況でブラック・マジシャン・ガールとマナを倒しでもしたら、観客全員を敵に回しそうだ。

 と、その時。丈は自分を応援する声に気付いた。驚き耳を凝らすと殆どが女性の声色。もしや自分にも吹雪のように女性ファンが? 期待に胸を躍らして更に耳を傾けてみると。

 

「その小娘に彼氏とられたのよぉーーーーっ!」

 

「殺して! そんなカードがいなければぁ夫はッ!」

 

「私よりカード選ぶってどういうことよ!」

 

「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」

 

「…………………………………なぁにこれぇ」

 

 自分を応援する声には違いない。違いないのだが、これは丈が求めていたものではない。デュエルモンスターズが社会の深くにまで浸透しているこの世界では、丈の前世では考えられないような社会問題もあるのだろう。しかしこれは。何故だか女性は恐いという言葉の意味を思い知った気がする。もしも自分に彼女が出来るような事があれば、カードにばっか目が行かないよう注意しよう。丈はその場でそう肝に銘じておいた。

 

「どうしたの、大丈夫? 気分が悪そうだけど」

 

 対戦者のマナが心配そうにこちらを伺ってくる。

 いけない。気を取り直してマナを真っ直ぐに見る。まだデュエル中、ストレスによる胃痛に苦しむのはデュエルが終わった後だ。

 

「えーと、それじゃあ気を取り直して。お師匠様で攻撃! ブラック・マジック!」

 

 ブラック・マジシャンの掌から真っ黒い球体がバチバチと雷のようなものを奔らせながらセットモンスターを粉砕する。

 

「掛かったな! 俺がセットしていたのはライトロード・ハンター・ライコウ! ライコウのリバース効果、このカードが表側表示になった時、フィールド上のカードを一枚破壊しデッキの上から三枚を墓地へ送る!」

 

 

 

【ライトロード・ハンター・ライコウ】

光属性 ☆2 獣族

攻撃力200

守備力100

リバース:フィールド上のカード1枚を選択して破壊できる。

自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。

 

 

 

「この効果で魔法族の里を破壊だ!」

 

「むぅ。お師匠様……じゃなくてブラック・マジシャンを破壊しなかったのはどうしても魔法カードが使いたかったからかな?」

 

「さぁ、どうでしょう」

 

 しらばっくれてみせるが、このマナ、意外に鋭い。ブラック・マジシャン・ガールの精霊かつ三千年前は六神官の一人に数えられたのは伊達ではないということか。

 

「だけどこれでフィールドはがら空き。続く私……だから違う! ブラック・マジシャン・ガールで直接攻撃!」

 

「これを待っていた。俺はその攻撃に対して罠カード、聖なるバリア ーミラーフォースーを発動!」

 

 

 

【聖なるバリア ーミラーフォースー】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。

 

 

 現在マナのフィールドのモンスターは全て攻撃表示。

 聖バリの効果によりこれでフィールドを一掃することが出来る。そして次のターンでモンスターを大量展開できれば一気に勝負をつけることも可能だ。

 しかし丈の期待とは裏腹にマナのタクティクスはその上をいく。

 

「そうは、させませんよぉ。私はその効果に対してチェーン! 永続罠、王宮のお触れ!」

 

「!!!!?????」

 

「このカードの永続効果によりこのカード以外の罠カードの効果を無効にします」  

 

 

 

【王宮のお触れ】

永続罠カード

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。

 

 

「そしてブラック・マジシャン・ガールの攻撃を続行、ブラック・バーニング!」

 

 呆然としたままブラック・マジシャン・ガールの攻撃を喰らった。

 直接攻撃を受けた事により丈のライフがガリっと半分まで削られる。

 

 宍戸丈 LP4000→2000

 

 

(王宮のお触れ……で、えとと、トラップの無効化だとぉー!)

 

 まさかここまでやるとは。魔法族の里による魔法カードロックと王宮のお触れによる罠カードのロック。はっきり言おう。ガチガチのロックデッキだ。戦略の要となる魔法カードと防御や展開の要にもなる罠カード。これが使えなくなると言うのは多くのデッキにとってかなりのデメリットだ。こと魔法使い族が一枚も入っていないデッキにとっては非常に厄介かつ悪辣で性質の悪い性格の捻くれたデッキといえるだろう。

 

(お、落ち着け。魔法族の里は破壊したんだ。少なくとも魔法カードさえ使えれば王宮のお触れの一枚や二枚どうということは……)

 

「そしてバトルフェイズを終了させメインフェイズ! 私は二枚目の魔法族の里を発動します」

 

「ッ!?」

 

 決まりだ。これで丈は魔法カード、罠カードを使う事が出来ずモンスターにのみ頼らなくてはならなくなった。

 宍戸丈。嘗てないピンチである。



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第33話  魔王誕生

宍戸 LP2000 手札五枚

場  無し

伏せ 1枚

 

マナ LP4000 手札二枚

場 ブラック・マジシャン、ブラック・マジシャン・ガール

罠 王宮のお触れ

フィールド 魔法族の里

 

 

 状況はほぼ最悪といってもいい。

 フィールド魔法「魔法族の里」により魔法カードの発動が封じられ、王宮のお触れにより罠カードまで封じられた。これで丈が前のターンに伏せたリバースカードもただフィールドを圧迫する邪魔者となってしまっている。

 

(落ち着け、慌てるな俺。Bloo-D、ホルスの黒炎竜、王宮のお触れの完全ロックよりはマシと考えるんだ。いやこの世界でそんな状況になることは先ずないけど。カード環境的に)

 

 それに不幸中の幸いだったのが丈の使用しているのが暗黒界デッキということだ。暗黒界モンスターをどうにかして墓地に送り、自分のターンにもう一度「魔法族の里」を破壊できればどうにかはなる。融合カードに依存する傾向が強い「HERO」デッキでも使っていたら今頃デッキトップに手を置くかどうかを悩んでいたところだ。それに比べればマシである。

 

「俺のターン」

 

 丈の手札には「魔法族の里」や「王宮のお触れ」を破壊して、ロックを粉砕できるカードはない。ここは悔しいが防戦に徹するしか選択肢がなさそうだ。

 

(防御は攻撃のための布石だ!)

 

 なにも馬鹿みたいにひたすら攻撃するだけがデュエルではない。形勢が不利ならば防御して、気を見て一気に攻撃へ転じる。それもまたデュエルの極意。

 

「モンスターをセット、これで俺はターンエンド」

 

 ターンがマナへと移る。王宮のお触れと魔法族の里、二つのカードによるロックを完成させたマナとしては、この隙に一気に勝負を決めたい。マナのロックは強力だがモンスター効果に対する防御はない。もしも時間をかければ丈がモンスター効果でロックカードを除去してくるかもしれないのだ。

 

「私のターン、闇の誘惑を発動します」

 

 

 

【闇の誘惑】

通常魔法カード

自分のデッキからカードを2枚ドローし、

その後手札の闇属性モンスター1体を選択してゲームから除外する。

手札に闇属性モンスターがない場合、手札を全て墓地へ送る。

 

 

 

 マナが闇属性専用の手札交換カードを使用する。二枚ドローした後で闇属性モンスターを墓地ではなく除外する必要があるのはネックだが、それを差し引いても手札を一枚も減らさずに手札交換ができるのは強力だ。

 マナは二枚のカードをドローすると、コロリと嬉しげに笑う。

 

「よーし、いいカードきたっ! 私は永続魔法、一族の結束を発動! 私の墓地の種族が一種類だけの時、私の場の同種族モンスターの攻撃力を800上げます!」

 

 

 

【一族の結束】

永続魔法カード

自分の墓地に存在するモンスターの元々の種族が1種類のみの場合、

自分フィールド上に表側表示で存在する

その種族のモンスターの攻撃力は800ポイントアップする。

 

 

ブラック・マジシャン 2500→3300

ブラック・マジシャン・ガール 2000→2800

 

 永続魔法効果により二体の師弟魔術師の攻撃力が一気に最上級モンスタークラスにまでなる。ブラック・マジシャンに至ってはブルーアイズを超える3300だ。800の攻撃力のアップというのは決して少ない数値ではない。このカードを投入できるというのが種族統一デッキにおけるメリットとして扱われるというのがこのカードの強さを表しているといっていい。丈としては吹雪とのデュエルで何度かこのカードを見ているので慣れ親しんだものだ。

 

「そして私は三体目の魔法使い族、魔道戦士ブレイカーを召喚します!」

 

「ブレイカー!?」

 

 一族の結束の効果でブレイカーの攻撃力も1900から2700に上昇する。下級モンスターでありながら上級モンスターを超えた。

 

「念のためブレイカーのモンスター効果発動です。そのリバースカードを破壊」

 

「ぐぐぐっ、暗黒よりの軍勢が」

 

「更に魔力掌握で再び魔道戦士ブレイカーに魔力カウンターを乗せます。効果でデッキから新たな魔力掌握を手札に。……バトル! 魔道戦士ブレイカーでセットモンスターを攻撃!」

 

「残念。俺のセットしていたカードはアルカナフォース0-THE FOOL。こいつは戦闘では破壊されない。魔道戦士ブレイカーの攻撃は無意味に終わる」

 

 ブレイカーの剣による一閃をアルカナフォース0-THE FOOLがさらりと受け流す。

 マナは悔しそうに顔を歪めた。やはりこのターンで決着をつけたかったのだろう。

 

「むぅ~。これじゃ何も出来ない……ターンエンドです」

 

「俺のターン、ドロー。右に同じ、やることがない。ターンエンド」

 

「今度こそ私のターン、ドロー。……ッ!」

 

 マナの表情が強張る。なにか現状を打開しうるカードを引いたのかもしれない。丈がドローカードを警戒し身構える。

 

「ちょっと賭けになっちゃうけど……ええぃ、ままよ! 壺の中の魔術書を発動。互いのプレイヤーはデッキからカードを三枚ドローです」

 

 マナの手札が一気に補充される。だがそれは丈も同じだ。マナと同じように丈もデッキから三枚のカードをドローする。しかしそれだけ引いて尚、ロックを潜り抜けるキーカードはこなかった。今日は如何もツキがない。

 対するマナはといえば、こちらは何か良いカードを引き当てた様子だった。口元に広がる笑みからもそれが伺える。

 

「これでどうにか……、そのアルカナフォース0-THE FOOLは破壊できますよ。魔法カード、死のマジック・ボックス!」

 

 

 

【死のマジック・ボックス】

通常魔法カード

自分と相手フィールド上に存在するモンスターを1体ずつ選択して発動する。

選択した相手モンスター1体を破壊し、

選択した自分のモンスター1体のコントロールを相手に移す。

 

 

 

「私が選択するのはアルカナフォース0-THE FOOL、そして魔道戦士ブレイカー」

 

「!」

 

 フィールドのブレイカーとアルカナフォース0-THE FOOLを手品などでマジシャンが使うボックスが閉じ込める。片方のボックス、魔道戦士ブレイカーのいたところには無数の剣が突き刺さった。マジック・ボックスの中から聞こえてくるのは身の毛もよだつ断末魔。そのマジック・ボックスがぎぎぎっと開いていくと最初にブレイカーの入っていたマジック・ボックスには「アルカナフォース0-THE FOOL」が串刺しになっていた。対する丈の場のマジック・ボックスには無傷のブレイカー。

 

「これでアルカナフォース0-THE FOOLは消えました。ブラック・マジシャンで魔道戦士ブレイカーを攻撃! ブラック・マジック!」

 

 マナのフィールドを離れたことにより魔道戦士ブレイカーの攻撃力は1900まで落ち込んでいる。ブラック・マジシャンとブレイカーの差の分だけ戦闘ダメージを受けた。

 

 宍戸丈 LP2000→600

 

「そしてこれが止め! ブラック・マジシャン・ガールで直接攻撃!」

 

「!」

 

 この攻撃が通れば丈のライフは0。敗北が決定する。何が何でも通す訳にはいかない。幸いライトロード・ハンター・ライコウのお蔭であのカードが墓地に落ちてる。

 

「墓地のネクロ・ガードナーのモンスター効果、このカードを墓地から除外することにより戦闘を無効にする!」

 

「むむぅ。また失敗かぁ。私はこれでターンエンドです」

 

「俺の、ターン」

 

 完全に追い込まれている。

 将棋でいうなら王手というところまで追い込まれてしまった。魔法カードと罠カードを封じられ、手札だけ多いものの逆転のカードは皆無。

 頼もしい壁モンスターのアルカナフォース0-THE FOOLも既に墓地。ネクロ・ガードナーの攻撃無効能力も二度目はない。次のドローで逆転のカードを引けなければその瞬間、丈の二回戦敗退が決定する。

 

『おおっと! 宍戸丈、ここにきて長考かぁぁぁ!? デッキからドローする手が止まってしまったぞぉ!?』

 

 何ともないと思っていたMCの実況が、心臓にズトンと圧し掛かってくる。

 これがプレッシャーというものだと、丈は初めて強く感じた。

 

「丈!」

 

 その時、観客席の中から聞きなれた声が耳に届く。驚いてその方向を見ると、そこにはサムズアップした吹雪が親指を立ててグッドサインをしていた。その隣には亮がどこか試すような視線を送っている。言葉はないものの長い付き合いの丈には亮が何を言おうとしているのかが直ぐに分かった。

 

『お前はここで終わるのか?』

 

 目がそう語っている。

 それが無性に腹が立って、心の中に再び闘争心が滾ってきた。友人に試されて、ただ泣き寝入りする何て男のやることじゃない。前時代的なつまらないプライドと思うかもしれない。だが、ちっぽけなプライドまで捨てたら人間は終わりだ。

 風のない草原のように丈の焦りが静まっていく。あれほど重かったプレッシャーもどこかにいってしまっていた。

 大丈夫だ。もう良い。これで戦える。

 全ての鍵は次のドロー。しかしどうしてだろうか。このドローに何もかもが賭かっているのに、不思議と恐れなんてものはない。逆に感じるのは興奮、どういうカードを引き当てるのだろうかという期待。まるで初めてカードと触れ合った時のような、そんな楽しさがある。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを見る。ドローしたのはモンスターカード。暗黒界をその名に冠さない闇属性悪魔族モンスター。

 そして丈は自分が幸運を手繰り寄せた事を確信する。デッキはしっかりと自分の願いに応えてくれた。

 

「俺はトランス・デーモンを攻撃表示で召喚!」

 

 

 

【トランス・デーモン】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1500

守備力500

1ターンに1度、手札から悪魔族モンスター1体を捨て、

このカードの攻撃力をエンドフェイズ時まで500ポイントアップする事ができる。

自分フィールド上のこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

ゲームから除外されている自分の闇属性モンスター1体を選択して手札に加える事ができる。

 

 

 

「えっ? 攻撃表示? ブラック・マジシャン・ガールよりも攻撃力が劣ってるのに……」

 

「確かに攻撃力は劣ってる。けどこいつには手札の悪魔族を捨てることで攻撃力を500ポイント上げる特殊能力がある。俺が棄てるカードは……暗黒界の龍神グラファ!」

 

「グラ、ファ?」

 

「不死身の龍神を墓地へ送ることの痛さと恐怖を思う存分に教えてやる」

 

 散々ロックされたことへの苛立ちのせいで、丈はやや過激な発言をする。

 墓地に龍神グラファが置かれると、ついに暗黒界の住人達がその力を解き放つ。

 

 

 

【暗黒界の龍神グラファ】

闇属性 ☆8 悪魔族

攻撃力2700

守備力1800

このカードは「暗黒界の龍神 グラファ」以外の

自分フィールド上に表側表示で存在する

「暗黒界」と名のついたモンスター1体を手札に戻し、

墓地から特殊召喚する事ができる。

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合

相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

相手のカードの効果によって捨てられた場合、

さらに相手の手札をランダムに1枚確認する。

確認したカードがモンスターだった場合、

そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

「龍神グラファのモンスター効果、このカードが手札から墓地に送られた時。相手フィールドのカードを一枚破壊する。俺が選択するのは魔法族の里!」

 

「きゃっ!」

 

 フィールドが元のデュエル場へと戻る。

 これで魔法カードの使用が解禁となった。思う存分、魔法を使える。

 

「ここからはずっと俺のターンだ。魔法カード、手札抹殺! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、その枚数分のカードをドローする!」

 

 

 

【手札抹殺】

通常魔法カード

お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから

捨てた枚数分のカードをドローする。

 

 

 

「俺が新たに捨てたのは二枚の暗黒界の術師スノウ、狩人ブラウが一枚、尖兵ベージが二枚! よって其々のモンスター効果を発動する!」

 

 

 

【暗黒界の術師スノウ】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1700

守備力0

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

自分のデッキから「暗黒界」と名のついたカード1枚を手札に加える。

相手のカードの効果によって捨てられた場合、

さらに相手の墓地に存在するモンスター1体を選択し、

自分フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する事ができる。

 

 

【暗黒界の狩人ブラウ】

闇属性 ☆3 悪魔族

攻撃力1400

守備力800

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

相手のカードの効果によって捨てられた場合、

さらにもう1枚ドローする。

 

 

【暗黒界の尖兵ベージ】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1600

守備力1300

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

「術師スノウの効果によりデッキから龍神グラファ二枚をサーチ! 更に一枚ドロー! フィールドにベージ二体を特殊召喚!」

 

「えっ? ええぇ!?」

 

「まだまだぁ! フィールド魔法、暗黒界の門発動。ついでに暗黒界の取引も発動!」

 

 

【暗黒界の門】

フィールド魔法カード

フィールド上に表側表示で存在する

悪魔族モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。

1ターンに1度、自分の墓地に存在する

悪魔族モンスター1体をゲームから除外する事で、

手札から悪魔族モンスター1体を選択して捨てる。

その後、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

【暗黒界の取引】

通常魔法カード

お互いのプレイヤーはデッキからカードを1枚ドローし、

その後手札を1枚選んで捨てる。

 

 

「暗黒界の取引の効果で一枚ドローして龍神グラファを捨てる。更に暗黒界の門の効果で墓地の術師スノウを除外、龍神グラファを捨てて一枚ドロー!」

 

「え? ちょっとタンマ――――――」

 

「二枚の龍神グラファのモンスター効果、ブラック・マジシャン及び一族の結束を破壊! そして再び暗黒界の門を発動しフィールドを上書き。今度は狩人ブラウを除外して尖兵ベージを捨てる! そしてベージの効果でフィールドにベージ復活!」

 

「そ、そんなまさか……」

 

「準備は整ったぁ! 墓地の龍神グラファのモンスター効果、フィールドの暗黒界と名のつくモンスターを手札に戻すことによって、このカードをフィールドに特殊召喚する! 俺は三体のベージを手札に戻し龍神グラファ三体を墓地より蘇生!」

 

 地響きと共に三体の龍神がその巨大な口を開けて姿を現す。その攻撃力は「暗黒界の門」の効果で上昇しており3000。最上級モンスター三体が並ぶ光景は壮観そのものである。尤も丈だからこそそう思えるのであり、対戦相手のマナからしたら最悪な気分だろう。

 

「ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力は2000。墓地に師匠がいることで攻撃力は300上昇しているけど、それでも2300。これでジ・エンド」

 

「そ、そんなぁ~。ワンターンでいきなり最上級モンスターが三体なんて」

 

「龍神グラファ三体の同時攻撃! アルティメット・ダークネス・ストリームッ!」

 

「きゃぁあああ!」

 

 マナ LP4000→0

 

 マナのライフが一気に0を刻んだ。一瞬、会場にいる観客たちは何が起きたのか分からずに混乱していたが、それもマナのライフが0になるまで。敗北したのが誰で、勝利者が誰かが分かった途端に観客席が騒がしさを取り戻す。

 男性陣からは嘆きの声、一部の女性陣からは品のない野次、そして一部の心温まる賛辞の声。

 

『き、決まったぁぁぁぁぁ! ま、まさかの超大逆転! 魔法カードと罠カードの双方を封じられ絶体絶命かに思われた宍戸丈! まさかの逆転。僅か1ターンで三体の最上級モンスターを特殊召喚、そこからの流れるようなダイレクトアタック! 凄い! 圧倒的なる強さ! 未だ嘗て見たこともないパワー! 強い! これが究極のダークホース、あのカイザー亮に並ぶデュエリストの実力なのかぁ!? 宍戸丈、いいや「魔王ジョー」! これはこの大会、当初の予想を大きく外れた展開となりそうだぞぉ』

 

「…………は?」

 

(おいおい魔王はないだろうが魔王は。それじゃあ俺が悪役みたいじゃないか!)

 

 龍神グラファという最大級の鬼畜モンスターを使用していながら、丈はそうMCに文句の念を送る。しかしMCは根性はあろうと単なる人間。テレパシーも読心術を嗜んでもおらず、丈の心が届くことはなかった。

 

「うぅ~、負けちゃった。今度は負けないからね、魔王さん」

 

「魔王はやめぃ」

 

 マナがウィンクをしながらそう言う。

 しかし疲れた。ロックデッキを相手すると心なしか普通のデュエルの十倍は疲れる気がする。別にロックを批判する気はないが、このズッシリとくる疲労感ばかりはなんともしがたい。

 嘆息しつつ少しだけ頭を下げた、その時だった。不意に首を上げると既にそこにマナの姿はない。

 

(そっか、元の場所に還ったのか)

 

 誰もいない虚空を何気なしに見つめる。

 普段はなんとも思わない何もない場所、しかしもしかしたら自分が知らないだけで精霊たちは自分達のことを見守っていてくれているのかもしれない。デッキに感謝の念を送るようにデッキを撫でると、丈はデュエル場を後にした。

 




グラファってば最強ね!


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第34話  地雷踏んだ

 I2カップ初日は二回戦までで一旦中断となり、準決勝の日程は翌日だ。よって参加選手である丈達はアカデミアの寮――――ではなく、会場近くのホテルまで戻ってきていた。アカデミアには戻らない。会場とアカデミアとでは距離が離れすぎているというのがその理由だ。もしも一回戦や二回戦で敗退していればホテルとも今日限りでお別れとなっていたが、運良く二回戦を突破できたのでもう一日ここには世話になる。

 

「持ってきたよ、これがレベッカ・ホプキンス――――――君が次に対戦する相手のデュエル映像だよ」

 

 吹雪は丈の頼んでいたもの、I2カップでのレベッカのデュエルを録り焼き直したDVDを持ってくると、そのまま丈に手渡す。部屋には他に亮が腕を組んで壁に寄り掛かっていた。

 

「……サンキュー。だけど、どうしたんだよコレ。何時の間にこんなの録っておいたんだ?」

 

「ふふふっ。僕は女性のデュエルは見逃さない性質なんだよ」

 

 気障ったらしく語る吹雪に曖昧に笑って返す。丈としては何とも言えない気分だが、今日ばかりは友人のモテモテっぷりと豆な性格に感謝しよう。

 ケースを開き受け取ったDVDを入れる。中々の高級ホテルのため部屋のTVには当然の如くDVDプレイヤーがあったのが幸いだった。

 画面に映し出されるのは紛れもない今日のI2カップの試合。

 

『エメラルド・ドラゴンとサファイアドラゴンで直接攻撃ッ!』

 

『ぬぉぉおぉおおおおお!』

 

 一回戦のデュエル、レベッカの使用したのは吹雪と同じドラゴン族デッキ。強力なドラゴン族モンスターを展開しつつ、墓地が肥えたのならば「竜の鏡」でFGDを呼び出すという非情に爆発力のあるデッキだ。

 

『竜魔人キングドラグーンとダイヤモンドドラゴンで直接攻撃ッ!』

 

『ぎょぇえええええええええ!』

 

 二回戦の内容もほぼ同様だった。ただし違うのは竜魔人キングドラグーンが縦横無尽に活躍したところだ。竜魔人キングドラグーンはワンターンに一度ノーコストで手札のドラゴン族を特殊召喚できる効果をもつモンスターである。それだけなら墓地からも特殊召喚できるレダメに劣るが、キングドラグーンには他にも自分のドラゴン族をモンスター効果、魔法、罠の対象にさせなくする能力があるのだ。

 

「見たところ彼女のデッキは僕のデッキと非常にコンセプトが似通っている」

 

 吹雪はレベッカのデッキをそう評した。それは同意できる。吹雪はレッドアイズ系列のドラゴンを多用するためか闇属性ドラゴンに比率が傾いているが、それでも基本はレベッカのデッキと同様。強力なパワーをもつ上級・最上級ドラゴン族を召喚してのビートダウン。ひたすらの力押し。丈としても慣れ親しんだデッキである。マナの使用してきたガチガチのロック、里ロックと比べれば遥かに組みやすい。

 

「しかし、油断は禁物だ」

 

 沈黙を貫いていた亮が口をはさむ。

 

「レベッカ・ホプキンス。俺自身彼女のデュエルを生で見たのは今日が初めてだ。だがその話は以前から聞いている。最年少の全米チャンピオンに座に輝いた天才少女、いや今は少女と呼べる年齢でもないが。かなりの強敵だ。油断すれば……」

 

「ああ、そうだな。しないよ油断なんて」

 

 丈自身、レベッカ・ホプキンスは前世のアニメにも登場していたので良く知っている。流石にアニメオリジナルな事もあり詳しくは覚えていないが、全米チャンピオンの座に輝いたのは紛れもない事実だ。

 武藤遊戯や海馬瀬人などというデュエリストの影響力が強いせいで偶に忘れがちになるが、デュエルモンスターズが最初に流行したのは日本ではなくアメリカである。今も尚インダストリアル・イリュージョン社の本社はアメリカにあり、DM創始者のペガサスもアメリカ人だ。アメリカ自体人口では軽く日本を上回っているので競技人口も非常に多い。そんなアメリカで最年少でチャンピオンに輝くというのは並みの人間には不可能である。キース・ハワードやペガサスなどというアメリカ屈指のデュエリストがその大会に不参加だったということを考慮しても、これは驚くべきことだ。

 だが倒さなければならない。決勝に進めるのは泣いても笑っても一人だけ。負けても次なんてものはない。負ければ即失格、終了なのだ。

 勝って決勝戦への片道切符を手に入れるか、負けて観客に堕ちるか。それはデュエルの勝敗が決めること。

 

(俺がアカデミアから持ってきたデッキは全部で三つ。HEROと暗黒界、そして……)

 

 対戦相手であるレベッカの側も今の自分と同じように、宍戸丈のデュエルを研究してきているだろう。既に晒してしまった暗黒界やHEROに関しては対策されていると考えた方が良い。

 となると必然、丈が使うのは残り一つのデッキが最良ということになる。

 

「それでは丈、俺も明日のためにデッキの調整をするから自分の部屋に戻る。必ず勝てよ」

 

 最後にエールを付け加えると亮が踵を返す。その声には普段とはやや異なる緊張の色が濃かった。

 語らずとも丈には分かる。明日の試合、準決勝戦第二試合の組み合わせは丸藤亮VS天上院吹雪。どちらも友人同士であり見知った間柄であるが、決勝に勝ち進めるのは二人のうち一人。必ず一人が敗北し脱落することになるのだ。

 

「やれやれ亮は固いねぇ。でも……僕も帰るよ。相手が亮となると、僕もデッキ調整に細心の注意を払う必要がある」

 

 お調子者らしからぬ眉間にしわを寄せた表情で吹雪が言う。

 明日の試合、なにがどう転ぼうと必ず一人はリーグから去る。友人としてやれることは余りにも少ないが、せめて二人が良いデュエルをしてくれることを願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

              ┏━  宍戸丈

          ┏━┫

          ┃  └─  羽蛾

      ┌━┫

      │  │  ┌─  本田

      │  └━┫

      │      ┗━  マナ

  ┌─┤

  │  │      ┌─  三沢

  │  │  ┌━┫

  │  │  │  ┗━  御伽

  │  └━┫

  │      ┃  ┏━  レベッカ

  │      ┗━┫

  │          └─  トム

─┤

  │          ┌─  牛尾

  │      ┌━┫

  │      │  ┗━  不動

  │  ┌━┫

  │  │  ┃  ┏━  天上院

  │  │  ┗━┫

  │  │      └─  竜崎

  └─┤

      │      ┌─  骨塚

      │  ┌━┫

      │  │  ┗━  十六夜

      └━┫

          ┃  ┏━  丸藤亮

          ┗━┫

              └─  猪爪誠

 

 

 

 

 

 大会当日。

 来たるべき決戦の日だというのに、丈の心は青い空と燦々と降り注ぐ日光に煽られる大海原のように静かだった。

 間もなく準決勝戦が始まる。そう改めて思うと今更になって心臓がギャーギャーと騒ぎ出した。仕方のない心臓だ。とはいえここまで駄々を捏ねられても鬱陶しい。落ち着かせてやるため自販機で飲み物でも買おう。

 思い至ったが吉日とばかり自販機のある場所まで行けば、そこには先客がいた。

 

「やぁ」

 

「吹雪……お前も自販機に?」

 

「ちょっと飲み物をね。昨日は随分と遅くまでデッキ構築に費やしたから眠気覚ましの珈琲が欲しかったんだ」

 

「珈琲ならホテルのルームサービスなりで摂れると思うけど?」

 

「僕はBOSSの缶コーヒーじゃないと胃袋が受け付けないんだよ」

 

「さいですか」

 

 自分には分からない拘りがあるのだろう。人の好みに口出すのがどれだけ野暮なことか分かっていた丈は、それ以上何も言わず自販機に150円を入れてコーラを買う。

 

「元全米チャンピオン、レベッカ・ホプキンスか。一回戦の元日本チャンプといい、君は元チャンピオンだとかと戦う運命でもあるのかい?」

 

「そんな面倒臭い運命なんてあってたまるか」

 

「だけどレベッカ・ホプキンス、彼女が考古学の研究のためにデュエル界の第一線から身を引いて久しい筈なんだけど……一体どうして突然この大会に参加したんだろうねぇ」

 

「女性限定の情報でお前が知らないのに俺が知ってる訳ないだろうに。あ、でももしかしたら……」

 

「ん、あれって―――――」

 

「武藤遊戯に告ったらフラれて、その傷ついた心をデュエルで晴らすために参加した、とかだったりして」

 

 場を和ませるよう馬鹿話をしたつもりだったのだが、吹雪はニコリともしなかった。それどころか若干顔が青ざめている。まるでお化けにでも会ったように。

 

「どうしたんだ、吹雪?」

 

「後ろ」

 

「あ? 後ろ?」

 

 後ろに実体化したBMGでもいるのか、そうアホらしいことを考えながら背後を見ると、そこに悪鬼羅刹が君臨していた。

 怒りの余り逆立つ髪は黄金色。全体的にスラリとしていながらも、出ているところは出ている理想的な体型。全米チャンプになったばかりと比べると、身長は格段に伸びており年月の経過を思わせる。ピンク色の眼鏡が知性と愛らしさの両方を醸し出していた。

 丈はこの顔を昨日吹雪のDVDで見た。

 

「れ、レベッカ・ホプキンス?」

 

「Yes。初めましてねミスタ・宍戸」

 

「ど、どうも……」

 

 口調こそ慇懃であるが、その端々から漂うのは怒気。恐らく吹雪との会話を聞いていたのだろう。主には武藤遊戯にフラれた、というところを。

 

「随分と愉快なお話をしていたようだけど……」

 

 笑顔でこちらに近付いてくる。本音を言えば今すぐにでも逃げ出したいところだが、逃げれば余計酷いことになりそうだったので逃げれなかった。

 

「――――――――舐めてると、爆破させるわよ」

 

  擦れ違いざま、丈の耳元でレベッカが言う。

 ドスの聞いた低い声にあわやそのまま膝が地面に付きそうになってしまう。それでもなけなしのプライドで持ち堪える。女を怒らせると恐い。ここに来て再確認することになったようだ。

 

「やれやれ、どうも君には女難の相が出ているようだ」

 

「気づくの遅いって」

 

 もっと早く教えてくれたならば対策もとれたものを。

 相手のデッキへの対策は十分でも、自分の運勢に対する対策は不十分であった。つまりはそういうことか。天を仰ぎながら、丈は何度目になるか分からない溜息をついた。



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第35話  激動の準決勝

『遂にI2カップの大詰め! 準決勝の開幕だぁ! さてそれでは準決勝一回戦の出場選手を紹介しよう! 嘗て最年少で全米チャンピオンの座にまで上り詰めた天才デュエリストッ! 現在は大学院で若き教授として研究に励む才女! レベッカァァァァァァ・ホプキンスゥゥゥゥウウゥウゥウウ!』

 

 余裕をもって歓声に答えるように手を挙げたのはレベッカ・ホプキンス。全米チャンピオンになっっというだけあり大勢の観客の前にデュエルをするなんていうのは慣れたものなのだろう。彼女は歓声など二酸化炭素くらいにしか感じていないのかもしれない。

 

『そしてぇぇ元全米チャンプに挑むのは今大会屈指のダークホース、その一角! HERO、暗黒界! あらゆるデッキを変幻自在に使いこなすデュエルアカデミアの生み出した魔王! 宍戸ぉぉぉおぉ丈ぉぉぉおおぉお!』

 

 二回戦までの戦いが印象的だったためか、最初より遥かに巨大な声援が轟いた。

 というより自分の「魔王」という二つ名は固定なのだろうか。プロデュエリストになった後は宣伝やらなにやらもあるからまだしも、今の丈はそこいらの野良デュエリストと同じアマチュア。二つ名なんて恥ずかしいだけなのだが、どうせ異名がつくにしても選択肢は他にはなかったのかと思わずにいられない。

 丈的には「魔王」なんて悪役っぽいものより、もっと格好良いやつの方が良かった。エースのジョーとか。

 

「シシドジョウ、さっきは良くも好き勝手に言いたい放題してくれたわね」

 

 レベッカはまだ怒りが引いていない様子だ。少し経てば忘れてくれるかと淡い期待を抱いていたのだが、そんな楽観的思考は木端微塵に打ち砕かれた。

 

「あー、えーとなんといいますか。アレは単なる言葉のあや……ジョークのつもりだったんで……その侮辱するつもりはなかったんです」

 

 自分が悪いのは明白なので先ずは謝罪しておく。

 

「――――――そう、反省してるならもう良いわ。私もいつまでも過去に拘ってはいられないし。デュエルは手加減なしだけど」

 

「えっ? まさかマジでフラれてたんですか? 俺は適当に言っただけなんですけど」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………ふ」

 

 ブチっと血管が切れたような音がした。見ればレベッカは額に青筋をたて、まるで般若羅刹が如き怒貌をしていた。

 恐い。丈の心の奥で封印された恐怖が蘇ってくる。丈には一年生の頃、とある変態のせいでバーサーくモードに入った女性にトラウマがあるのだ。レベッカは一年生の頃のアレとはベクトルの違う恐怖だが、女を「本気(マジ)」にさせたという意味では同じだ。

 

「いいわ、そんなに私を怒らせて。挑発してるつもりなら乗るわよ。その上で倒してあげるわ。魔王だなんて呼ばれて調子にのっているハリキリボーイに大海を教えてあげる」

 

「あっ、いや挑発してるんじゃなくて…………ええぃ、もう面倒臭い! デュエルだ! 取り敢えずデュエルしとけば全部解決だ。亮曰く、デュエルは魂と魂の交流、言葉はなくとも分かり合える云々らしいからな。というわけで」

 

 

 

決闘(デュエル)!』

 

 

 

 序盤で怒らせてしまったのは予想外に過ぎるが、だとしても丈のやるべき事は勝つ事のみ。相手が誰であろうと、だ。

 

「俺の先行、ドローカード!」

 

 前回のデュエルの手が悪かったからなのか、今回の手札はかなり良かった。一気に冥界の宝札を軸としたデッキを高速回転させることが出来る。

 

「俺はおろかな埋葬を発動、デッキからモンスターを一体墓地へ送る。俺はデッキのレベル・スティーラーを墓地へ!」

 

 

 

【おろかな埋葬】

通常魔法カード

自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

 

 

「レベル・スティーラー。……モンスターの☆を一つ下げることで墓地から特殊召喚できるモンスター」

 

 どうやらレベッカはこのカードの効果を知っているようだ。全米チャンピオンというだけあり、多くのカードの効果や名前をその頭脳の図書館に収めているのだろう。しかしデュエルは知識だけではない。知識だけで勝つことは出来ない。勝利するにはタクティクスとカードを引きよせる天運が必要だ。

 

「更に迷える仔羊。二体の仔羊トークンを場に特殊召喚!」

 

 

 

【迷える仔羊】

通常魔法カード

このカードを発動する場合、

このターン内は召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

自分フィールド上に「仔羊トークン」(獣族・地・星1・攻/守0)を

2体守備表示で特殊召喚する。

 

 

「これで二体の生贄要因を確保した。永続魔法、冥界の宝札を二枚発動。準備は整った」

 

「迷える仔羊は使用したターン、召喚や特殊召喚ができるデメリットがある。けどそのデメリットはモンスターをセットすることには対応していない。どうやら単なる世間知らずのお坊ちゃんじゃあないようね」

 

「言っとけ。二体の仔羊を生贄にモンスターをセット! そして冥界の宝札、二体のモンスターを生贄にした召喚に成功した時、デッキから二枚ドローする。そして場に出ている冥界の宝札は二枚。よって俺は四枚ドロー!」

 

 

 

【冥界の宝札】

永続魔法カード

2体以上の生け贄を必要とする生け贄召喚に成功した時、

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 これで丈の手札は初期手札の五枚に戻った。

 最上級モンスターを召喚し場には二枚の永続魔法カード、そして手札はまだ五枚と余裕がある。序盤にしては最良に近いプレイングだ。

 

「俺はカードを一枚セット、ターンエンド」

 

「ふーん、やるわね」

 

 二体の生贄を必要とする最上級モンスターを、先行1ターン目で通常召喚したことにレベッカは感心したように頷く。

 前回の試合やDVDを見る限り彼女も上級・最上級モンスターを多用するデッキを使う。デッキのモンスターの大半が最上級モンスターの丈のデッキに考えることがあるのかもしれない。

 

「そういえば……また違うデッキね。最初の試合はHERO、次は暗黒界。複数のデッキを使うデュエリストは珍しいわ」

 

「ど、どうも」

 

 褒められているのだろうか。

 取り敢えずこれ以上機嫌を損ねないように曖昧に礼を言っておく。

 

「だけどまだまだよ。私のターン、ドロー。良いカードを引いたわ。私は手札よりアレキサンドライドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 

 

 

【アレキサンドライドラゴン】

光属性 ☆4 ドラゴン族

攻撃力2000

守備力100

 

 

 

「こ、攻撃力2000で効果無しの通常モンスターだって!?」

 

 キラキラと幻想的な光を全身から放つドラゴンを見て、丈が驚嘆の叫びをあげる。

 デュエルモンスターズにおいて大半の下級アタッカーの最低ラインは1900だ。2000を超える☆4モンスターもいるが、その大半は何らかのデメリットを持つモンスターであり、使い難いカードが多い。そんな中で効果なしの攻撃力2000のモンスターというのは存在そのものがレアだ。

 

(攻撃力2000の星4通常モンスターはジェネティック・ワーウルフだけだと思ってたけど……そうだよな。時代は進んでるんだから俺の知らないカードがあっても不思議じゃないのか)

 

 ちなみに言えばアレキサンドライドラゴンは光属性でドラゴン族。地属性獣戦士族のジェネティック・ワーウルフと比べても、サポートカードの豊富さという意味では勝っている。ヘルドラゴンやカース・オブ・ドラゴンの恨み節でも聞こえてきそうなモンスターだ。

 

「驚いているようね。それはそうでしょう。なんといったってこのカードは日本ではまだ販売すらされていないという超レアカード! 世界にも数十枚くらいしか出回ってないはずよ!」

 

「マジで!?」

 

「そのモンスターの攻撃を受けられることに感謝しなさい! アレキサンドライドラゴンでセットモンスターを攻撃、アレキサンドライト・ストリームッ!」

 

「……俺がセットしていたのは守備力3000のThe SUN! 2000じゃ届かない」

 

 

 

【The supremacy SUN 】

闇属性 ☆10 悪魔族

攻撃力3000

守備力3000

このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できない。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、

次のターンのスタンバイフェイズ時、

手札を1枚捨てる事で、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

「不用意ですね。セットしているのは最上級モンスターだって言うのは分かっていたのに攻撃するなんて」

 

 凡骨ならまだしも彼女に限ってど忘れしたということもあるまい。守備力2000以下の最上級モンスターである確率に賭けてみたのか。

 

「ふふふふ、いいのよこれで。今のはただの……そう相手の戦略や出方を見たかっただけ。お蔭で大体は分かったわ。この情報を得る為だったなら、たかが1000ポイントのライフは大した消費じゃないもの」

 

 レベッカ LP4000→3000

 

 守備表示モンスターを攻撃した場合でもダメージは負う。

 レベッカのライフから1000ポイントが削れた。

 

「さて、ここからが本番。私はカードを三枚伏せてターンエンド」

 

「エンドフェイズ時、速攻魔法発動。終焉の焔。俺の場に二体の黒焔トークンを特殊召喚する」

 

 

 

【終焉の焔】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」

(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。

 

 

 

「生贄要因確保再び、ね。私の言った事は変わらないわ。ターンエンド」

 

 レベッカの余裕が不気味だった。

 先程伏せた二枚のカード。一体どんなたちの悪いカードなのか検討もつかない。しかし形勢は有利な筈だ。そう信じ丈はデッキからカードをドローした。



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第36話  アンビリーバボー

宍戸丈 LP4000 手札四枚

場 The SUN、黒焔トークン×2

魔法 冥界の宝札×2

 

レベッカ LP3000 手札二枚

場 アレキサンドライドラゴン

伏せカード3枚

 

 

 

「俺のターン」

 

 三枚の伏せカードは気になるが、レベッカの場には攻撃力でThe SUNに劣るアレキサンドライドラゴンが一体だけだ。対する自分の場には最上級モンスターであるThe SUNばかりではなく、二体の生贄要因であるトークンもいる。

 

(最上級モンスターの連続攻撃で一気に決着をつける!)

 

 万が一にも場のモンスター達が破壊されたとしても、The SUNには自己再生能力がある。最悪の事態にはならない筈だ。

 

「俺は二体の黒焔トークンを生贄に捧げる。そして――――――――」

 

 生贄に捧げられた二体の黒焔トークンが消えて……いくことはなかった。

 

「?」

 

 黒焔トークンは何でもないようにフィールドに留まりつづけている。まさかデュエルディスクの故障かと思いコンコンとディスクを小突いて調子を確認するが、どうにも問題はなさそうだ。

 

「一体なにがどうなって…………って、そのトラップカードは!?」

 

 丈の目線がレベッカの場で何時の間にかオープンされていたカードに釘づけになる。

 

「ふふふ気付いたようね。貴方のターンのスタンバイフェイズ時、私はこの永続罠カードを発動させていたのよ。生贄封じの仮面をね」

 

 

 

【生贄封じの仮面】

永続罠カード

いかなる場合による生贄もできなくなる。

 

 

 

 紫色の額縁の仮面カードは不気味なオーラを漂わせながら、その存在を誇示していた。生贄封じ、その名に偽りはなく生贄召喚、儀式召喚、特殊召喚、効果の発動、あらゆる場合における"生贄"を問答無用で封じるメタカードである。

 こと生贄召喚を主軸とする丈のデッキにとっては最悪のアンチカードともいえた。

 

「ってアレキサンドライドラゴンも何時の間にやら消えている!?」

 

 レベッカのフィールドでキラキラと光り輝く四肢を見せつけていたドラゴンの姿は何処にも見当たらない。如何したものかと思っていると、レベッカがその答えを教えてくれた。

 

「生贄封じの仮面に更にチェーンして神秘の中華なべを発動したのよ。アレキサンドライドラゴンを生贄に私はライフを2000回復したってわけ」

 

 

 

【神秘の中華なべ】

速攻魔法カード

自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。

生け贄に捧げたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、

その数値だけ自分のライフポイントを回復する。

 

レベッカ LP3000→5000

 

 

「くそっ。なら俺は神獣王バルバロスを妥協召喚!」

 

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 

「大層なモンスターね。でもバルバロスは生贄なしで召喚した場合、その攻撃力は1900になる」

 

「だが火力は十分だ。俺はThe SUNで攻撃ッ!」

 

「させないわっ! 永続罠、グラヴィティ・バインド-超重力網-!」

 

 

 

【グラヴィティ・バインド-超重力網-】

永続罠カード

フィールド上のレベル4以上のモンスターは攻撃できない。

 

 

 

「げげっ!」

 

「これでお互いに☆4以上のモンスターは攻撃出来ないわ。バルバロスは☆8、The SUNは☆10。言うまでもなくこのカードの効果対象内」

 

「……そんな、ここまで」

 

 最初の生贄封じにしてもグラビティバインドにしても、丈のデッキとは相性が悪いカードばかりよくもまぁ出るものだ。漸くツキが巡ってきたと思ったのは単なる勘違いだったらしい。つくづく自分の不運を呪いたくなる。

 

(……いや、不運? それにしては―――――――ちょっと)

 

 幾ら何でもピンポイント過ぎやしないだろうか。生贄封じの仮面だけならまだ良い。DVDの映像を見た限りだとレベッカは最上級モンスターを揃えるのに特殊召喚を多用していた。生贄召喚を必要とせずに回るデッキならば、相手への対策としてこのカードを入れる価値はある。

 だがグラビティバインドはどうだ。

 レベッカのデッキは竜魔人キングドラグーンなどを使って強力なドラゴン族モンスターを召喚していくデッキ。☆4以上のモンスターの攻撃を封じるグラビティバインドとはシナジーしていないどころか、互いが互いの足を引っ張り合っている。入れる意味は皆無だ。

 なによりも――――――宍戸丈のデッキの対策として"生贄封じの仮面"を使った事から妙ではないか。今回の大会で丈は一度も今使っているデッキを披露したことはない。一回戦は融合召喚中心のHEROデッキ、二回戦は墓地からの蘇生効果をもつ龍神グラファを中心とした暗黒界。この二つに共通するのは"特殊召喚"を一番よく使うということだ。生贄召喚よりも遥かに特殊召喚によってモンスターを場に出す。

 ならばこそ丈の対策としてレベッカが用意すべきは"特殊召喚メタ"であり"生贄メタ"ではないのだ。しかし何故かレベッカは敢えて生贄召喚をメタしてきた。このことが意味することはつまり。

 

「レベッカ、まさか――――――!」

 

「戦いっていうのは何時の世も情報を制した者が勝利する。デュエルもそう。中には相手の情報を収集せず持ち前のプレイングセンスだけで勝つような天才もいるけど、私はそういう"天才"とはタイプが違う……頭脳派なのよ」

 

「やっぱり」

 

 レベッカが対策してきたのは暗黒界でもHEROでもなかった。

 丈が現在使っている「大会で一度も見せなかった」デッキなのだ。

 

「貴方のデュエルは見せて貰ったわ。I2カップでの試合は勿論、デュエルアカデミアの入試説明会での模範デュエル、文化祭でのデュエル、その他諸々を全部ね。集めた情報によれば貴方の使うデッキは全部で三つ。HEROと暗黒界……そして最後が貴方が今使ってるデッキ。大方対策されないように複数のデッキを使いまわしていく算段だったんでしょうけど、それが裏目に出たわね」

 

 全てはレベッカの掌の上のことだった。その頭脳を使いレベッカは自分との対戦で丈が使うであろうデッキを予測し、そのデッキへの対策を用意してきたのである。

 だからこその生贄封じの仮面。だからこそのグラビティバインド。

 全米チャンプ、その名の意味を真に思い知った。

 

「くそ。……俺はターンエンドだ」

 

 どうにかしてグラビティバインドを破壊したかったが、破壊できるカードがなかった。相手フィールドを焼野原にする事が出来るバルバロスにしても生贄召喚が出来なければ何の意味もない。

 

「私のターンよ。強欲な壺、デッキからカードを二枚ドロー。一気に行くわよ、私はビッグバンガールを攻撃表示で召喚!」

 

 

 

【ビッグバンガール】

炎属性 ☆4 炎族

攻撃力1300

守備力1500

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

自分のライフポイントが回復する度に、

相手ライフに500ポイントダメージを与える。

 

 

 

 ビッグバンガール、そのカードとロックカードの組み合わせから導き出されるデッキタイプはバーンデッキ一択。しかもライフの回復を主体としたキュアバーンと呼ばれるものだ。

 

(里ロックの次はロックバーン……いやキュアバーン。どうして俺の対戦相手はドイツもコイツもロックだとかバーンだとかばっかなんだ。…………偶には普通のビートダウン同士でデュエルしたい)

 

 ロックバーンや里ロックなどの戦術を否定しているのではない。ただ丈にとって図書館エクゾだとかのソリティア並みに相手をしたくないデッキタイプであることは事実だった。

 泣き言を言いたい丈だったが、対戦者は待ってくれない。

 どんどんとデュエルを進行していってしまう。

 

「続けていくわよ、魔法カード、二重召喚! このカードの効果で私は通常召喚を二回まで行う事ができる!」

 

 

 

【二重召喚】

通常魔法カード

このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

 

 

 

「この効果により私は手札の白魔導士ピケルを守備表示で召喚!」

 

 

 

【白魔導士ピケル】

光属性 ☆2 魔法使い族

攻撃力1200

守備力0

 

 

 

 レベッカのフィールドにターンごとにライフを回復させるギミックが完成してしまった。このまま手を拱いていれば丈はターンごとにレベッカとのライフが放されてしまう。

 

「ふふふ私はこれでターン終了よ。さぁどうぞシシドジョウ。あなたのターンよ!」



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第37話  従属神

宍戸丈 LP4000 手札3枚

場 The SUN、バルバロス、黒焔トークン×2

魔法 冥界の宝札×2

 

 

レベッカ LP5000 手札二枚

場 白魔導士ピケル、ビッグバンガール

伏せカード1枚

罠 生贄封じの仮面、グラヴィティ・バインド-超重力網-

 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 運が良い。丈がドローしたのは速攻魔法サイクロン。これでレベッカのフィールドにある罠カードを一枚破壊できる。

 

(問題はどっちを破壊するかだな)

 

 生贄封じの仮面かグラヴィティ・バインド。攻撃ロックか生贄メタか。生贄封じの仮面を破壊すれば生贄召喚が出来るようになる。バルバロスを召喚すれば相手フィールドを焼き払うことも出来るだろう。しかし丈の手札にはバルバロスがない。

 グラヴィティ・バインドを破壊すれば攻撃が解禁となる。キュアバーンということはレベッカのデッキに攻撃力の高いモンスターはそういないだろう。The SUNとバルバロスで十分押し切れるはず。

 

(生贄封じの仮面を破壊できても攻撃は出来ない。相手フィールド上にはピケルとビッグバンガール。手を拱いていれば俺はどんどん追い込まれていく。ならば)

 

 攻撃だ。攻撃は最大の防御。ロック相手の時は恐れず相手のライフを1ポイントでも多く削りに行く。それが勝利に繋がると信じている。

 

「速攻魔法サイクロン、このカード効果でグラヴィティ・バインドを破壊する」

 

「グラヴィティバインドが……」

 

 レベッカを守っていた重力の網が消える。これで☆4以上のモンスターも攻撃が可能となった。

 

「バルバロスでビッグバンガールを攻撃、更に速攻魔法! 禁じられた聖杯! これでバルバロスの効果を打消し攻撃力を400上げる!」

 

 

 

【禁じられた聖杯】

速攻魔法カード

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。

エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は

400ポイントアップし、効果は無効化される。

 

 

 

「バルバロスの攻撃、トルネード・シェイパー!」

 

 バルバロスの持つランスがビッグバンガールの腹を突き刺した。槍がビッグバンガールの腹を貫通し、バルバロスは狂喜しながらビッグバンガールの刺さったランスを天高く掲げる。

 

 レベッカ LP5000→2900

 

「そしてThe SUNでピケルを攻撃! ソーラーフレア!」

 

 守備表示のピケルがあっさりと爆砕される。これでレベッカの効果ダメージとライフ回復を両方行うキュアバーンのギミックは崩れた。

 

「私のフィールドががら空きに。……でも、甘いわよ! ピケルが破壊された瞬間、罠カード発動! 時の機械-タイム・マシーン - !」

 

 

 

【時の機械-タイム・マシーン -】

通常罠カード

モンスター1体が戦闘によって破壊され

墓地へ送られた時に発動する事ができる。

そのモンスターを、破壊された時のコントローラーの

フィールド上に同じ表示形式で特殊召喚する。

 

 

 

 巨大な黒い機械の扉から、白い魔道服を着た小柄な少女が飛び出してくる。白魔導士ピケルはレベッカのフィールドに同じ表示形式のまま再び召喚された。

 

「なんて懐かしいカードを使うんだが……。俺はターンエンド」

 

「私のターン、ピケルのモンスター効果でライフを回復するわ」

 

 レベッカ LP2900→3300

 

「そして魔法カード、運命の宝札! サイコロを振りその出た目の数だけカードをドローして、その数だけデッキの上からカードを除外する」

 

 

 

【運命の宝札】

通常魔法カード

サイコロを1回振る。出た目の数だけデッキからカードをドローする。

その後、同じ数だけデッキの1番上からカードをゲームから除外する。

 

 

 

 ソリッドビジョンのサイコロが転がる。コロコロと廻っていたサイコロはやがてピタリとその動きを停止した。サイコロの一番上、今後の運命を決める数字は5。

 

「ラッキー。私はデッキから五枚ドロー、そしてデッキトップから五枚除外。カードを二枚セットして、死者蘇生を発動。ビッグバンガールを攻撃表示で蘇生! ターンエンド!」

 

「また宝札カード。バンバンドローカードばっか使って……。ええぃ俺のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、新たなグラヴィティバインドを発動するわ」

 

「ぐぐっ…………出来ることがない。ターンエンド」

 

「どうやら運命の女神は貴方に微笑んではくれなかったようね」

 

「ほっとけ!」

 

「ピケルの効果でライフを回復、そしてビッグバンガールの効果で貴方にはダメージ!」

 

 レベッカ LP3300→4100

 宍戸丈  LP4000→3500

 

「私のターン、先ずは二枚目のグラヴィティ・バインドを発動!」

 

「ぎぎっ!?」

 

 レベッカの場を再び重力の網が守る。

 これで☆4以上のモンスターの攻撃は再度封じられてしまった。The SUNやバルバロスは悔しげにレベッカを睨む。

 

「一気に攻めてくわ。リバース罠、シモッチによる副作用。

 

 

 

【シモッチによる副作用】

永続罠カード

このカードがフィールド上に存在する限り、

相手ライフを回復する効果は、

相手ライフにダメージを与える効果になる。

 

 

(シモッチだって……。そういうことか!)

 

 レベッカのデッキは単なるキュアバーンではない。ライフ回復を逆転する永続罠、シモッチによる副作用を中心としたシモッチバーンにキュアバーンのギミックを付け加えたデッキだったのだ。

 

「これでライフ回復効果はダメージに変わる。相手限定でね。更に私は恵みの雨と成金ゴブリンを発動!」

 

 

 

【成金ゴブリン】

通常魔法カード

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

その後、相手は1000ライフポイント回復する。

 

 

【恵みの雨】

通常魔法カード

お互いのプレイヤーは1000ライフポイント回復する。

 

 

 

「私はライフポイントを1000回復、そして貴方の回復文はシモッチの効果でダメージへ変わる。二枚の魔法効果により2000のダメージ!」

 

 宍戸丈 LP3500→1500

 

「ぐぅぅう!」

 

 最悪だ。このターンだけでライフが4000から一気に1500まで減ってしまった。

 相手がシモッチバーンでシモッチによる副作用が発動済みということを鑑みると、カード一枚で0を刻む可能性が高いといえる。

 

「追い打ちをかけるようで悪いけれど、ビッグバンガールのモンスター効果。私がライフを回復したことにより、500のダメージを与えるわ」

 

 宍戸丈 LP1500→1000

 

 ライフが遂に1000まで達する。もうファイヤーボール二発で負ける状況だ。

 

「命拾いしたわね。もう私にバーン系カードはないわ。でも、次のターン、ピケルのモンスター効果で私はライフ回復の機会を得る。そしてビッグバンガールのモンスター効果で500ダメージが与えられて……お分かり? THE END間近よ。カードを三枚セットしターンエンド」

 

「………………………」

 

「そう。その目、まだ諦めていないのね。ならまだ勝負は分からないかな」

 

 絶対的優位。その立場になりながらもレベッカはまだ勝利を確信するに至らなかった。彼女は知っているのだ。武藤遊戯や海馬瀬人、敗北という未来しか有り得ないと確信できるような絶望的な状況を、たった一枚のドローカードで逆転してきたという事実を。武藤遊戯と共に旅をした経験があるからこその信頼。

 

「―――――――――――」

 

 レベッカのその考えは過っていない。今の丈の手札ではこの状況を打開するのは逆立ちしたって不可能だ。しかし後一枚、デッキに眠るあるカードを引きさえすれば。一気に逆転するのも出来るだろう。

 

「シシドジョウ。見せて見なさい、貴方が本当のデュエリストだっていうなら、このままでは終わらないはずでしょう?」

 

 丈は知り得ぬことだが、レベッカのセットしたカードは光の護封壁と聖なるバリア。仮に強力なモンスターを召喚できたとしても、グラヴィティ・バインドのロックを掻い潜れるカードを引いたとしても防ぎ得る布陣である。

 それでも、その壁を越えずして決勝の大舞台になど立つことが叶おうはずもなし。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 運命の女神に見放された。そう、最初は丈も余りのツキの悪さにそう思い女神を呪おうとした。だがそれはやや違ったらしい。運命の女神は丈のことを見放したのではない。ただ照れ屋だったのだ。照れて幸運の出し惜しみをしていたのだ。

 だからこそ土壇場でこういうカードを引かせてくれる。

 

「――――――――ここからが逆転で勝つ。行くぞ、天使の施し。三枚ドローし二枚捨てる。そして死者蘇生。墓地からモンスターを一体特殊召喚。俺は神禽王アレクトールを攻撃表示で特殊召喚」

 

 

 

【神禽王アレクトール】

風属性 ☆6 鳥獣族

攻撃力2400

守備力2000

相手フィールド上に同じ属性のモンスターが表側表示で2体以上存在する場合、

このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択する。

選択されたカードの効果はそのターン中無効になる。

「神禽王アレクトール」はフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

 

 

 丈のデッキのエースモンスターが一体。神獣王バルバロスと同じ従属神の一体。バルバロスが獣人であるのに対してこれは鳥。

 古来より鳥は神聖なる神に仕えし生き物として多くの遺跡に描かれてきた。このアレクトールもその一つ。神に仕えし神、それがアレクトール。

 

「アレクトールのモンスター効果、このターンの間中。生贄封じの仮面の効果を無効とする。これで生贄召喚ができるぞ。俺は二体の黒焔トークンを生贄に現れよ破壊神! 破壊竜ガンドラ召喚ッ!」

 

「ッ! そのカードはダーリンの使ってた!?」

 

 

 

【破壊竜ガンドラ】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力0

守備力0

このカードは特殊召喚できない。

自分のメインフェイズ時にライフポイントを半分払う事で、

このカード以外のフィールド上に存在するカードを全て破壊しゲームから除外する。

さらに、この効果で破壊したカード1枚につき、

このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

このカードが召喚・反転召喚したターンのエンドフェイズ時、このカードを墓地へ送る。

 

「ガンドラは1ターンしかフィールドで生きられないけど、そのモンスター効果は極悪だ。冥界の宝札の効果で四枚ドロー。バルバロスの星を1つ減らしてレベル・スティーラーを特殊召喚。三枚のカードを伏せて用意完了。破壊竜ガンドラのモンスター効果! 俺のライフを半分払いデストロイ・ギガ・レイズッ! このカード以外のフィールドのカードを全て破壊し除外する! ここから全部消えろぉー!」

 

 ガンドラの全身から放たれる極太のビームの嵐が、フィールドに点在する有象無象のなにもかもを等しく平等に破壊して粉砕する。

 

「そしてガンドラはこの効果で破壊した分×300攻撃力を上げるッ! 俺が破壊したカードは17枚。よってガンドラの攻撃力は――――――」

 

「攻撃力5100のモンスター!?」

 

「ガンドラの攻撃、えーと。ケーニッヒ・モンスター・デストロイ!!」

 

 破壊竜ガンドラの口から放たれる黒い炎がレベッカの残りライフの全てを焼き払う。

 この瞬間、丈の決勝戦進出が決定した。

 

 レベッカ LP5100→0

 

「……負けたわね。まさかそのカードで止めを刺されるなんて。………運命の女神にも勝利の女神にも、そして恋の女神にも見放されたようね……」

 

 ズーンとレベッカは落ち込んでいた。ただ負ける悔しさにはある程度の耐性があったとしても、嘗ての思い人のエースモンスターにやられるというのは慣れてないのだろう。まるでもう一度、辛い現実というものを突き付けられたようで。

 

(むぅ……なんだこの罪悪感は……)

 

 別に丈はそんな心理効果を狙ってガンドラを召喚したのではない。あの時はガンドラしか状況を打開できるカードがなかったからこそ召喚したのだ。

 とはいえこの胸を渦巻く罪悪感は如何ともし難い。

 

(仕方ない、か)

 

「あの、レベッカさん。これ」

 

 丈は破壊竜ガンドラのカードをレベッカに渡す。

 

「…………これは?」

 

「その……さっきのお詫びです。受け取ってください」

 

 レベッカは一瞬キョトンとした表情になるが、直ぐに顔をほころばせ笑い出した。

 

「ふふふふふふっ、あなた面白いわね」

 

「そ、そうですか?」

 

「また機会があればデュエルしましょう。このカードは再戦の証として受け取っておくわ。See you again」

 

 レベッカがくすりと笑うと、浅く丈の頬にキスをした。短い、ほんと数秒のキス。レベッカは唇を離すと可憐にウィンクした。

 

「じゃね」

 

 呆然としながらニコニコと笑いながら会場を出るレベッカを見送る。

 頬にはまだあの感触が残っていた。MCが何か言っているが丈の耳には一切届いてこない。

 

そして――――――次の準決勝第二回戦、友人同士の戦いが始まる。

 



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第38話  友VS友

『待ちに待った時が――――――遂に訪れた』

 

 MCの言葉にがやがやと騒がしかった観客席がしんと静まる。

 会場の中心のデュエル場には二人の全く同じ制服を着た二人の少年。それは二人が同じ所から来たデュエリストであることを如実に示していた。

 

『このような事態になると大会が始まった当初、どこの誰が予想したことか。準決勝まで進んだ四分の三は全くの無名のデュエリスト。それもそうだろう。彼等はプロでもなく賞金稼ぎでもない――――学生! 海馬瀬人がオーナーを務めるデュエルアカデミアに所属する現役中学生なのだ! 先の準決勝第一試合、強敵レベッカ・ホプキンスを打倒したのは魔王宍戸丈! そして準決勝第二試合に出場するのもまた、宍戸丈と同じアカデミアの生徒! しかもI2カップ実行委員会が掴んだ情報によると、彼等は全員が友人同士とのことだぁぁぁぁぁ!』

 

 友人VS友人。この構図に観客の興奮が否応なく高まる。会場の視線を一身に集めるは一人のデュエリスト。

 

『紹介しよう。エースカードはサイバー・ドラゴンッ! 多種多様な機械族と変幻自在なる戦術、アカデミアが誇る帝王、カイザー亮ぉぉぉぉおぉぉおお!』

 

 ライトアップされたのは腕を組んで堂々と立つ一人の少年、丸藤亮。中学生でありながら既にして帝王たるオーラを纏っている。

 

『対するは華麗なるドラゴン使い! その甘いマスクは女性を虜にする魔性の美しさ! ブリザードプリンス、天上院吹雪ぃぃぃぃぃいぃぃい!』

 

「きゃぁぁぁあぁぁぁ!」

 

「JOINNNNNNN!!!」

 

「プリンスぅぅぅうぅぅうう!」

 

 女性陣からの爆発的な歓声。カイザーには男性ファンの方が比率が多かったが、吹雪は女性ファンの比率が圧倒的に多かった。亮がどこかとっつきにくそうなしかめっ面を四十五日しているのに対し、吹雪は一目で人懐っこそうだと分かる雰囲気があるのがその理由の一つだろう。

 

『デュエルに勝利し魔王ジョーの待つ決勝戦に進むのは一体全体どちらなのか!? それではI2カップ準決勝第二試合、デュエル開始、GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』

 

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 吹雪と亮が同時にデュエルディスクを構える。お互いにアカデミアで何度もデュエルした間柄。勝利したこともあれば敗北したこともあるし、共に笑いあった事もある。修学旅行では共に馬鹿騒ぎして怒られた事もある。そういう仲だった。だがデュエリストとして対決する以上、二人はもはや相容れぬ場所にたつ敵対者だ。倒すべき怨敵だ。

 天上院吹雪も丸藤亮も、断じて負けたくはないと思っている。目の前に立つ朋友を打ち倒したいと強く欲している。友人を蹴り落としてでも決勝の大舞台に立ちたいと願っている。なればこそ死戦となるは必定。

 先行は吹雪から。元よりこの二人にとって先行後攻をわざわざ決める意味などは皆無である。亮はサイバー流の使い手でありサイバー流は後攻を有利とするデュエル流派。故に亮は先行ではなく後攻を選ぶし、吹雪はセオリー通り先行を選ばんと欲する。だからこその無意味。

 

「亮、手加減はしないよ。勝ち負けはデュエルが終わるまで分からないけど敢えて言おう。勝つのは僕だ」

 

「いいや負けるのはお前だ吹雪」

 

 軽口を叩くようなノリで挑発し会うが、二人にとってはこれは単なる挨拶に過ぎない。吹雪は亮のその挑戦的な反応を面白そうに眺めながらもデッキからカードをドローした。

 

「いきなりだが攻めさせて貰おうか。僕は未来融合-フューチャーフュージョンを発動、FGDを選択し僕は真紅眼の飛竜、ミンゲイドラゴン、真紅眼の黒竜、ダーク・ホルス・ドラゴン、マテリアルドラゴンを墓地へ送る」

 

 

 

【未来融合-フューチャーフュージョン】

永続魔法カード

自分の融合デッキに存在する融合モンスター1体をお互いに確認し、

決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。

発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、確認した融合モンスター1体を

融合召喚扱いとして融合デッキから特殊召喚する。

このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。

そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 

 

 

 未来融合でFGDを選択、デッキのドラゴン族モンスターを墓地に送ることにより墓地肥やしと大量のデッキ圧縮を同時に行う。ドラゴン族デッキにおける単純にして最高の戦術の一つだった。

 

「更に強欲な壺を発動しデッキから二枚ドロー!」

 

 吹雪はドローした二枚のカードを見てニヤリと不敵な笑みを浮かべた。亮はその吹雪を見てどんなカードをドローしたのかと身構える。亮は経験から、吹雪がハッタリなどというつまらない手段を使うような男でないことを熟知していた。吹雪が"不敵に笑う"ということは本当に不敵にするだけのカードがきたということなのである。

 

「僕は黒龍の雛を攻撃表示で召喚!」

 

 

 

【黒龍の雛】

闇属性 ☆1 ドラゴン族

攻撃力800

守備力500

自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送って発動できる。

手札から「真紅眼の黒竜」1体を特殊召喚する。

 

 

 

 もしかしなくても真紅眼の黒竜の雛なのだろう。赤い卵から首だけを出した可愛らしい小黒竜。攻撃力や守備力は脆弱だが代わりに成熟体である真紅眼の黒竜に化ける可能性をもったモンスターだ。

 そして吹雪がこの脆弱なカードをわざわざ攻撃表示で召喚したということは手札にそのカードがあるのは確実である。

 

「黒竜の雛のモンスター効果。このカードを墓地へと送り手札から真紅眼の黒竜を攻撃表示で召喚するよ!」

 

 

 

【真紅眼の黒竜】

闇属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力2000

 

 

 

 デュエルモンスターズ史上に燦爛と名を残す伝説のレアカードの登場に会場の興奮が更に高まった。レッドアイズ、黒い肢体をもつドラゴンは会場のど真ん中でその巨大なる翼を開くと、対戦相手である亮を威嚇するように嘶いた。

 

『来たぁぁあぁ! 一ターン目から来たぁぁっぁぁあぁぁ! 天上院吹雪のエースモンスター、レッドアイズ! 伝説のデュエリスト海馬瀬人の使う青眼の白龍と双璧をなす伝説の竜がここに降臨! このタクティクス、ブリザードプリンスの名は伊達じゃないのか!?』

 

「チッチッチッ、ノンだよMCくん。亮が帝王(カイザー)で丈が魔王(サタン)ならば、僕としても王子(プリンス)のままではいられないよ。二人が魔王と帝王ならば、僕はブリザードキング、キング吹雪、フブキングだ!」

 

 吹雪はそう高らかに宣言するとデュエルディスクに一枚の魔法カードを叩きつけた。

 

「幾らレッドアイズを召喚しようと先行一ターン目は攻撃できない。原則としてはね。だけど例外はあるものだよ。僕は魔法カード、黒炎弾を発動!」

 

「レッドアイズの必殺技と同じ名前のカード!?」

 

 

【黒炎弾】

通常魔法カード

自分フィールド上の「真紅眼の黒竜」1体を選択して発動する。

選択した「真紅眼の黒竜」の元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

このカードを発動するターン「真紅眼の黒竜」は攻撃できない。

 

 

「このカードは自分のフィールド上にいるレッドアイズを選択して発動、相手プレイヤーにレッドアイズの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。このカードを発動するターン、レッドアイズは攻撃することが出来なくなるけど……元々攻撃できない先行一ターン目だから関係はない」

 

「レッドアイズの攻撃力は2400、ということは」

 

「そう。亮、君に2400のダメージだ! やれレッドアイズ、黒炎弾!」

 

 レッドアイズの口から放たれた黒炎が亮のライフポイントを焼く。

 初期ライフが4000のため、バトルシティトーナメントを倣い多くのバーン効果をもつ通常魔法カードは禁止カードに指定されているものの、黒炎弾のように特定の条件下でないと使用不可能なカードはこの限りではない。

 

 丸藤亮 LP4000→1600

 

「やるな吹雪!」

 

「そうでもないよ。君なら次のターンで一気に逆転の手をうってくる。僕としては眠れる君が一番怖い。僕はこれでターンエンド」



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第39話  戦う決勝者と見守る少女

 デュエル場で二人のデュエリストが手に汗握るデュエルをする中、彼等の共通の友人である丈の姿は観客席にあった。この会場でちょっとした有名人になってしまったこともあり、変装用のサングラスをかけ服装も学生服から上にコートを羽織っている。一見したら誰も彼が「宍戸丈」であると分からないだろう。

 丈は観客席に予想通りの人物がいることを確認すると、その人物に後ろから声をかけた。

 

「お兄さんの応援に学校をサボりか?」

 

「きゃっ!」

 

 驚いたように振り返ったのは茶色がかったロングヘアの少女。中学一年生のため背丈は低くまだ幼さが色濃く残っているが、胸元は将来が十二分に期待できるほどに膨らんでいた。高校にもなれば恐らく男子生徒から告白のハリケーンでも喰らうことになるだろう。

 彼女の名は天上院明日香。丈の友人の一人である天上院吹雪が溺愛するたった一人の妹である。

 

「だ、誰かと思えば宍戸先輩。こんなところでなにを……」

 

「しー。俺だってばれたら騒がしくなる」

 

 人差し指を唇に当てて注意を促す。

 MCの宣伝もあり丈としては非常に遺憾なことであるが、自身の名は「魔王ジョー」として会場中の知るところとなっている。今でこそ変装で隠し通しているものの、もしも「宍戸丈」が直ぐ近くにいると周りにばれればいらぬ騒ぎを作る事となるであろうことは想像に難しくない。自分自身の精神衛生上及びデュエルをする友人たちのためにも下手なハプニングは起こしたくなかった。

 明日香も聡明な少女。その辺りの事情は説明せずとも理解したのだろう。コクリと小さく頷いてくれた。

 

「でも、どうしてここに?」

 

「一つ目の目的は……観戦だよ。控室のモニターで見るよりも、やっぱりデュエルは生で見る方が良いしね。特にこの戦いは見逃せない」

 

 戦略的には二人のデュエルを見て、次の試合に向けての対策を練るという意味がある。コレは決勝前に吹雪と亮の生デュエルを見ることが出来る最後のチャンス。逃す手はない。

 個人的にも友人同士の戦い、果たしてどちらが自分と決勝戦で戦うことになるのか見届けておきたかったというのもある。

 

「宍戸さんはどっちが勝つと思いますか? 兄さんと亮と」

 

「さぁね」

 

 明日香の問いを曖昧にはぐらかす。

 もしかしたら「吹雪が勝つ」と言ってやれば明日香は安心するのかもしれないが、丈としてはそんな本当でもないことは言えなかった。無責任に過ぎる。

 丈が見る限り吹雪と亮、二人のタクティクスはほぼ互角。後はどちらが運命の女神を魅了して自分の女に出来るかどうかで勝敗が分かれるだろう。要するに丈にはなにも分からないということだ。

 

「強いて言うなら爆発力ならパワー・ボンドっていう専用融合カードをもつ亮が、安定性ならドラゴン族の展開に優れる吹雪が勝っているかな。単純なパワーということなら亮が上だろうけど、吹雪のデッキにも火力はある」

 

 ドラゴン族はブルーアイズやレッドアイズに始まり非常に多くの最上級モンスターを有する種族だ。そして吹雪のエースモンスター、レッドアイズの最強体であるレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンは1ターンに一度、ドラゴン族をノーコストで特殊召喚する事が出来るモンスター。ほぼ火力をサイバー・ドラゴンに依存する亮と違い、柔軟性のある戦術を駆使できるはずだ。

 といっても亮の方もサイバー・ドラゴンを最高のコンディションで最大級のパワーを引き出せるようにするギミックが大量に仕込んである筈。

 故に二人の力量は正真正銘の互角。

 勝利の行方は神のみぞ知るということか。

 

「まぁ……兎も角、観客の俺達に出来るのは応援するか見守るかするだけだ。デュエルをするのはあそこにいる二人だけなんだしね。折角学校をサボってまで来たんだ。愛しのお兄さんの応援をしなきゃ来ただけ損だよ」

 

「い、愛しって!?」

 

「ははははははは。兄がシスコンなら妹はブラコン。いい兄妹じゃないか。兄妹円満でなにより」

 

「……なんだか兄さんと宍戸先輩が友人な理由が分かったような気がします」

 

「え? なにが?」

 

「先輩はどっちの応援をしてるんですか、亮と兄さんと」

 

「そんなの決まってるじゃないか」

 

 丈は目を細め、互いのカードとカードをぶつけ合う友人たちを見る。次は自分があの二人のうち一人と決戦することになるのだ。

 そして丈は笑って言う。

 

「どっちもだよ」

 

 

 

 

 

天上院 LP4000 手札3枚

場  真紅眼の黒竜

魔法 未来融合

 

丸藤亮 LP1600 手札5枚

場 無し

魔法 

 

 

 

 先行1ターン目にして半分以上のライフを削られながらも、亮には焦燥の色はなかった。寧ろ亮の中にあるのは喜び。最高の舞台で最高の友人の一人と戦っているという喜びだけだ。闘争心という三文字を亮は改めて思い知っていた。

 この戦いをもっとしていたい。

 次もこの戦いをしたい。

 グツグツと地球の中心、マントルのように滾った激情が亮のクールな心を熱くさせている。このような気分になるのは亮としても本当に久々のことだった。

 

「いきなり黒炎弾とは驚いたが……この程度のバーン効果では俺は倒せん! 俺のターン、ドロー! 強欲な壺を発動し更に二枚追加ドロー」

 

 吹雪のフィールドにいるのは真紅眼の黒竜。そして亮のフィールドにはモンスターがゼロ。先行1ターン目なので当然といえば当然である状況。これこそが亮にとって最上の後攻であった。

 

「相手フィールドにモンスターがいて自分の場にモンスターがいない時、このカードは手札より特殊召喚できる」

 

 観客もこのパターンは見慣れたものだったのだろう。

 エースモンスターの予感に熱が高まる。

 

「サイバー・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚!」

 

 

 

【サイバー・ドラゴン】

光属性 ☆5 機械族

攻撃力2100

守備力1600

相手フィールド上にモンスターが存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

 

『カイザー亮! キング吹雪の真紅眼の黒竜に対抗し、自身のエースモンスターであるサイバー・ドラゴンを召喚したぁぁぁぁッ!』

 

「来たね亮、サイバー・ドラゴンが」

 

「あぁ、このカードがお前の真紅眼の黒竜を倒す。魔法カード、エヴォリューション・バーストを発動。フィールドにサイバー・ドラゴンがいる時、相手フィールドのカードを一枚破壊する」

 

 

 

【エヴォリューション・バースト】

通常魔法カード

自分フィールド上に「サイバー・ドラゴン」が表側表示で存在する場合のみ

発動する事ができる。相手フィールド上のカード1枚を破壊する。

このカードを発動するターン「サイバー・ドラゴン」は攻撃する事ができない。

 

 

 

 サイバー・ドラゴンが口からブレスを吐きだし真紅眼の黒竜を破壊した。

 今度は吹雪のフィールドがゼロになる。そして後攻側は先行側と違い1ターン目でも攻撃することが出来る。

 

「このまま攻撃してもお前のライフを削る事は出来る。だがそれでも与えられるダメージは2100止まり。俺のライフとお前のライフは覆らない。……いやエヴォリューション・バーストの効果でこのターン、サイバー・ドラゴンは攻撃できなかったな。しかし俺にはまだ通常召喚の権利が残っている。俺はサイバー・ドラゴンを生贄に人造人間サイコ・ショッカーを召喚、そしてサイコ・ショッカーを墓地へ送り手札よりサイコ流最高のしもべ、人造人間サイコ・ロードを攻撃表示で召喚!」

 

 

 

【人造人間サイコ・ロード】

闇属性 ☆8 機械族

攻撃力2600

守備力1600

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に表側表示で存在する「人造人間-サイコ・ショッカー」

1体を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

お互いに罠カードの効果は発動できず、

フィールド上の全ての罠カードの効果は無効される。

1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在する罠カードを全て破壊できる。

この効果で破壊したカード1枚につき300ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 

 人造人間サイコ・ショッカーの進化系。この大会で丸藤亮が猪爪誠により受け継いだモンスター。亮に牙をむいたサイコ流最強モンスターは今度は丸藤亮の味方として天上院吹雪の前に立ち塞がった。

 

「サイコ・ロードで吹雪へ直接攻撃、電脳魂衝撃(サイバー・エナジー・インパクト)!」

 

「うわぁぁぁあ!」

 

 

 吹雪 LP4000→1400

 

 亮と吹雪のライフポイントが逆転する。

 

「ターンエンド前に俺は魔法カード、悪夢の蜃気楼を発動」

 

 

 

【悪夢の蜃気楼】

永続魔法カード

相手のスタンバイフェイズ時に1度、

自分の手札が4枚になるまでデッキからカードをドローする。

この効果でドローした場合、次の自分のスタンバイフェイズ時に1度、

ドローした枚数分だけ自分の手札をランダムに捨てる。

 

 

「カードを2枚セットしターンエンドだ」

 



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第40話  真紅眼暗黒金属竜

天上院 LP1400 手札3枚

場  無し

魔法 未来融合

 

丸藤亮 LP1600 手札4枚

場 人造人間サイコ・ロード

伏せ 2枚

 

 

 

「やるね亮。まさかたったの1ターンでこうも形勢を逆転されるとは思わなかったよ。この大会でまた腕を上げたようだ」

 

 吹雪は目を吊り上げながら友人のことをそう評する。

 丸藤亮は一年生の頃から既にアカデミア最強を名乗るに相応強いデュエリストだった。三年生や二年生などの上級生とのデュエルも負けなしだったし、教員の中でもまともな勝負が出来るのは本当に一握りという有様だった。 

 天上院吹雪の知る限り丸藤亮に黒星をつけたデュエリストはアカデミア内に四人。一人は吹雪自身、もう一人は共通の友人である宍戸丈、最後の一人は田中先生。それにしたって丈と吹雪は負けた回数の方が多い。

 そんな既最強の男が此処に来て更にその技量を増している。

 第一回戦でのサイコ流継承者、猪爪誠とのデュエルに何か得るものがあったのかもしれない。或いは大会の他の試合を見て自分を磨き直したのかもしれない。

 本当のところは吹雪にも分からないが、唯一つだけ言えるのは今の丸藤亮は今まで自分が戦ったどの丸藤亮よりも強いということだ。

 

(それでいい、それでいいよ亮)

 

 嘗てない強敵の出現に吹雪は破顔する。

 吹雪とて並大抵の覚悟で観客のど真ん中で「キング吹雪」と大見得を切ったのではない。大見得を切れば確かに観客は盛り上がるだろう。歓声も大きくなる。しかし惨めな敗北を晒せば次に待つのは冷ややかなブーイングの嵐だ。

 見栄を切るというのは自身を追いこむ事。

 吹雪はそういう風に思う。一度切った見栄は張り通す。見栄をそのまま現実へとする。吹雪はそうやって今まで生きてきたし、そうやって成長を重ねてきた。

 此度も同様。

 丸藤亮という怨敵を倒し、見栄をリアルにする。

 本物のキングとなってみせる。

 

(なにより……大切な妹、あすりんの前で無様は晒せないからね)

 

 観客席にいる最愛の妹に顔を向けると、ニコリと笑いウィンクした。偶然その辺りにいた女性客が黄色い声をあげるが、今回ばかりは吹雪もそちらは耳に届いていなかった。ただ最愛の妹が赤面したのを確認するとデュエルに戻る。

 これでいい。

 もし亮に勝てばこのまま観客席に突進して妹を抱き上げ、一緒にカメラに映る。負けた時は知らない。そんなものは考える必要もない。必要があるようになんてさせてやらない。

 

「行くよ亮、僕のターンだ。ドロー!」

 

「この瞬間、俺は速攻魔法発動。非常食、俺の場の永続魔法、悪夢の蜃気楼を破壊することによりライフを1000回復する」

 

 

 

【非常食】

通常魔法カード

このカード以外の自分フィールド上に存在する

魔法・罠カードを任意の枚数墓地へ送って発動する。

墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

 

 

 丸藤亮 LP1600→2600

 

 亮の使った魔法カード、悪夢の蜃気楼は自分のターン終了時に手札が四枚になるようカードをドローできる強力なドローソースだが、強いカードの性としてデメリット効果がある。それは次の自分のターンに引いた枚数分だけカードを墓地に送らなければならないということだ。

 丈の使う暗黒界デッキなら捨てることをメリットに転換もできるのだが、亮のデッキは暗黒界ではないので当然ながら手札を捨てるのはデメリットとなる。

 それを回避するための「非常食」。非常食で悪夢の蜃気楼を吹雪のターンで墓地へと送ってしまえば、永続魔法の悪夢の蜃気楼は亮のターンになっても効果を発動しない。つまり四枚のハンドアドバンテージを稼ぐ上にライフを1000も回復できるのだ。

 

「しかし読んでたよ。君ならそれくらいはやると! だけどね僕も事前にこういう場合になった時の準備は済ませていた!」

 

「なんだと?」

 

「僕のフィールドをがら空きにしたことで有利になったと思っているのなら、残念だけどご愁傷様と言わせて貰うよ。僕の場にモンスターがいない為、墓地のミンゲイドラゴンのモンスター効果を発動。このカードを墓地より復活させる!」

 

 

 

【ミンゲイドラゴン】

地属性 ☆2 ドラゴン族

攻撃力400

守備力200

ドラゴン族モンスターをアドバンス召喚する場合、

このモンスター1体で2体分のリリースとする事ができる。

自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

このカードを自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

この効果は自分の墓地にドラゴン族以外のモンスターが存在する場合には発動できない。

この効果で特殊召喚されたこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

 

 

 

「ミンゲイドラゴン、ドラゴン族の生贄にする場合、二体分の生贄となるダブルコストモンスター。ドラゴン族の最上級モンスターを呼び寄せる気か吹雪」

 

「ちょっと違うかな。確かにミンゲイドラゴンを使えば手札の最上級ドラゴンを場に出すことは出来る」

 

 サイコ流最強のモンスターといってもサイコ・ロードの攻撃力は2600。倒せない数値ではない。

 

「だけどね僕の狙いはそんなことじゃない。僕のデッキに眠る最凶モンスターはね、ドラゴン族をフィールドから除外することによって特殊召喚されるんだよ」

 

「まさか……ッ!」

 

Exactly(その通りだよ)! ミンゲイドラゴンをフィールドから除外、そして手札より特殊召喚! 暗黒に住まいし黒竜よ! 鋼の力を受け、今こそ可能性の竜たる真価を知らしめろ! 来い! フィールドを圧巻せよ! レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンッ!」

 

 

 

【レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン】

闇属性 ☆10 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力2400

このカードは自分フィールド上に表側表示で存在するドラゴン族モンスター1体を

ゲームから除外し、手札から特殊召喚できる。

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に手札または自分の墓地から

「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外の

ドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる。

 

 

 

 先程現れた真紅眼の黒竜比べても勝る威容と威風。二つを吹雪かせながら鋼鉄の黒竜―――――レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンが遂にこの会場に出現した。暗黒(ダークネス)鋼鉄(メタル)の力を得た真紅眼は正に多くの派生形をもつレッドアイズの最終形態。

 ブルーアイズが単騎で戦局を覆すドラゴンならば、レッドアイズは他のモンスターとの結束により真価を発揮するドラゴン。単独の力でこそブルーアイズに及ばないものの、レッドアイズには他のモンスターの力を合わせることにより多くの可能性を生み出すことが可能なのだ。

 

『す、すごいぃっぃ! これがぁぁ~、こぉぉれぇがぁ! 天上院吹雪の隠し玉! キング吹雪の真エース! レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンだぁぁぁぁッ!』

 

 レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンは会場高く飛翔し主以外全てを威圧するよう咆哮をすると、主の下へと戻ってくる。吹雪は赤子をあやす様にレッドアイズの頭を撫でてやると、真っ直ぐに亮を指差した。

 

「悪いね亮。君よりも早く僕が最強モンスターを呼んでしまった。君にはサイバー・エンドを呼ぶ間は与えられない。レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンのモンスター効果、1ターンに一度墓地または手札のドラゴンを特殊召喚できる。僕は墓地にいるマテリアルドラゴンを召喚!」

 

 

 

【マテリアルドラゴン】

光属性 ☆6 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力2000

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

ライフポイントにダメージを与える効果は、ライフポイントを回復する効果になる。

また、「フィールド上のモンスターを破壊する効果」を持つ

魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、

手札を1枚墓地へ送る事でその発動を無効にし破壊する。

 

 

 

「君のライフは残り2600。このモンスター達の一斉攻撃でジ・エンドだ。レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンの攻撃、暗黒鋼炎弾(ダークネスメタルフレア)!」

 

 サイコ・ロードといえど真紅眼の最終形態の前には為す術もなく破壊されてしまう。サイコ・ロードとレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンとの攻撃力の差は200。よって戦闘ダメージ200を受け亮のライフは残り2400。絶体絶命だ。

 

「喰らえマテリアル・ドラゴンの攻撃、マテリアル・フレイム!」

 

「罠発動。ガード・ブロック。モンスター一体の攻撃を無効にしカードをドローする!」

 

「防いだか。仕方ないね、僕はカードを一枚セットしターンエンドだ」

 

 絶体絶命。誰もがそう確信する中で亮は笑う。

 既に彼の手札にはサイバー・ドラゴンをより強力にするための最強の融合カードが存在していた。




 このssではレダメはアニメ効果ではなくOCG効果となっております。


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第41話  壮絶パワーの激突

天上院 LP1400 手札3枚

場  レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン、マテリアル・ドラゴン

魔法 未来融合

 

丸藤亮 LP2400 手札5枚

場 無し

 

 

 

「俺のターン」

 

 ここからが丸藤亮による逆転劇だ。

 そう意気込みカードをドローする。手札の枚数は合計6枚。これだけあれば吹雪の場を崩してやることは不可能なことではなかった。

 

「ゆくぞ。魔法カード発動、パワー・ボンド! 手札のサイバー・ドラゴン二体を融合させる! 融合召喚、降臨せよサイバー・ツイン・ドラゴンッ!」

 

 

 

【パワー・ボンド】

通常魔法カード

手札またはフィールド上から、

融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地へ送り、

機械族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

このカードによって特殊召喚したモンスターは、

元々の攻撃力分だけ攻撃力がアップする。

発動ターンのエンドフェイズ時、このカードを発動したプレイヤーは

特殊召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける。

(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 

 

 

【サイバー・ツイン・ドラゴン】

光属性 ☆8 機械族・融合

攻撃力2800

守備力2100

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。

このカードは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

 

 双頭のサイバー・ドラゴン。攻撃力ではサイバー・ドラゴンの最終進化形であるサイバー・エンドに及ばないが、こちらには二回の攻撃を可能とする能力がある。直接攻撃が成功した場合の総ダメージはサイバー・エンドすら上回る11200。そのため亮は相手の場にモンスターがいない時などはサイバー・エンドよりもこちらを優先して召喚することもよくあった。そういう意味でも亮の切り札といえるカードである。そしてパワー・ボンドの効果で融合召喚されたサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力は脅威の5600。吹雪のフィールドのどのモンスターよりも高い数値だ。

 

「機械族専用融合魔法カード、パワー・ボンド。その効果は強力だがデメリットも高い。しかしマテリアルドラゴンのモンスター効果は効果ダメージを回復へとする。これでパワー・ボンドのデメリットはメリットへ変わるぞ。サイバー・ツイン・ドラゴンでレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを攻撃、エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 

『サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃が、今、放たれたッ! キング吹雪のライフは残りわずか! これを喰らえば一巻の終わりだぁぁぁぁ!』

 

 差し迫った破壊の極光を前にした吹雪は、しかし不敵に笑ってみせる。亮とて分かっていた。吹雪が無防備に自らの体をやってくれと言わんばかりに晒したりはしないことを。

 

「カウンター罠、攻撃の無力化! モンスターの戦闘を無効にしバトルフェイズを強制終了させる」

 

「安々と獲らせてはくれないか。カードを一枚セットしターンエンド。そしてターン終了時、パワー・ボンドのデメリット効果によりサイバー・ツイン・ドラゴンの元々の攻撃力分のダメージを受ける。……だがマテリアルドラゴンのモンスター効果でそれはライフ回復に変化する」

 

 マテリアルドラゴンの恩恵をあずかることが出来るのは吹雪だけではない。亮もまたライフダメージ効果を回復にすることができるのだ。マテリアルドラゴンに感謝である。マテリアルドラゴンは2800というライフを亮に与えてくれた。

 

 丸藤亮 LP2400→5200

 

「僕のターン。このターンのスタンバイフェイズ時、過去にて融合された五体のドラゴン族モンスターによりて、FGDが僕の場に召喚される」

 

 

 

【F・G・D】

闇属性 ☆12 ドラゴン族

攻撃力5000

守備力5000

ドラゴン族モンスター×5

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードは闇・地・水・炎・風属性モンスターとの戦闘では破壊されない。

 

 

『究極竜騎士に並んでデュエルモンスターズ最高攻撃力の持ち主、FGDが召喚されたぞぉぉお! だがしかしカイザー亮のフィールドにはFGDの5000すら上回るサイバー・ツイン・ドラゴンがいるぞ。どうする吹雪!』

 

「こうするのさ。僕は先ずレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンのモンスター効果で墓地のダーク・ホルス・ドラゴンを蘇生!」

 

 

 

【ダーク・ホルス・ドラゴン】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力1800

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

相手のメインフェイズ時に魔法カードを発動した場合、

自分の墓地のレベル4の闇属性モンスター1体を選択して特殊召喚できる。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

「そして装備魔法、巨大化をFGDに装備。これでFGDの攻撃力は倍の数値、10000となる!」

 

「工芸力……じゃない攻撃力10000のモンスターだと!?」

 

 

 

【巨大化】

通常魔法カード

自分のライフポイントが相手より下の場合、

装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値になる。

自分のライフポイントが相手より上の場合、

装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を半分にした数値になる。

 

 

 

「FGDでサイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃、ゴッド・ファイブ・キャノン!」

 

 攻撃力10000ものダメージを受ければ如何に5600の攻撃力であるサイバー・ツイン・ドラゴンといえど一溜まりもない。亮のライフは5200なのでサイバー・ツイン・ドラゴンがやられても即死はしないが、続くモンスターの一斉攻撃を喰らえばジ・エンドである。

 

(まさか……ここで使うことになるとはな)

 

 亮は悔しさから歯噛みする。本来なら伏せておいたカードは迎撃ではなく攻撃に使うもの。ここぞと言う時に使って勝利を一気に捥ぎ取るためのカードであった。しかしここで使うのを躊躇えば待つのは敗北のみ。

 

(止むを得ないな)

 

「速攻魔法発動、リミッター解除! 俺の場の機械族モンスターの攻撃力をこのターンのエンドフェイズまで二倍にする!」

 

 

 

【リミッター解除】

速攻魔法カード

このカード発動時に、自分フィールド上に表側表示で存在する

全ての機械族モンスターの攻撃力を倍にする。

この効果を受けたモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 

 

「なんだって!?」

 

「俺の場にいる機械族はサイバー・ツイン・ドラゴン一体。その攻撃力は5600だ。よってサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力は11200ポイントッ! 迎撃だ、玉砕せよサイバー・ツイン・ドラゴン。エヴォリューション・ツイン・バーストッ!」

 

 攻撃力10000以上の超大型モンスター同士の激突。ソリッドビジョンといえど、その衝撃は会場中に伝わった。ぶつかり合うエネルギーとエネルギー、パワーとパワー。勝負を制したのは……ギリギリでサイバー・ツイン・ドラゴン。FGDは戦闘に敗北し撃破された。

 

 天上院吹雪 LP1400→200

 

 

「本当に君は中々決めさせてくれない。それでこそ……そうであってこそのカイザー。そうでなくては僕も全力のだし甲斐がない。楽しいねぇ。本当……こんなにも心躍るデュエルは久方ぶりだ」

 

「…………」

 

「さて。僕にはもう攻撃力11200のサイバー・ツイン・ドラゴンを倒せるカードはないだけどリミッター解除の効果はその効果が適用されたモンスターをエンドフェイズ時に破壊してしまう。限界を超えた代償は高いよ」

 

 吹雪がターンを終了すると同時、サイバー・ツイン・ドラゴンが限界以上に酷使した体を崩壊させていった。

 これで再びの再びの形勢逆転。

 吹雪の場には三体の上級・最上級モンスター。対する亮のフィールドはゼロ。

 

「やはり……勝たせて貰うのは僕だ」



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第42話  裏・切り札

天上院 LP200 手札3枚

場  レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン、マテリアル・ドラゴン、ダーク・ホルス・ドラゴン

丸藤亮 LP5200 手札2枚

場 無し

 

 

 

 

 最上級と上級モンスターが三体も並ぶというのは壮観な光景だった。もしも丸藤亮がただの観客ならば素直にこのフィールドを作り上げた吹雪の技量に舌を巻き拍手の一つでもしただろう。

 だが亮は観客ではなく対戦者。

 吹雪のフィールドを突破し、そのそっ首を切り落とさねばならない。

 

(……幸か不幸か吹雪のライフは残り200だ)

 

 後一体。一体だけでもモンスターを戦闘破壊できれば、そのダメージで吹雪のライフに止めを刺す事が出来る。その為には亮もまた吹雪のドラゴン達に対抗できるような最上級モンスターを呼ばなければならない。

 

(俺の手札に今直ぐに吹雪のモンスターを倒せるようなカードはない。となれば)

 

 手札がなければ補充するしかない。

 亮は魔法カードをデュエルディスクの上に置いた。

 

「魔法カード発動、壺の中の魔術書。互いのプレイヤーはデッキから三枚ドローする」

 

 

 

【壺の中の魔術書】

通常魔法カード

互いのプレイヤーはカードを3枚ドローする。

 

 

 吹雪にも手札を補充させてしまう事になるが止むを得ない。なんにしても今は逆転のカードを引く事だ。

 

(……クッ、直ぐに一発逆転とはいかないか。ここは時間を稼ぐしか)

 

「魔法カード発動、光の護封剣」

 

 

 

【光の護封剣】

通常魔法カード

相手フィールド上のモンスターを全て表側表示にする。

このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。

このカードがフィールド上に存在する限り、

相手フィールド上のモンスターは攻撃宣言できない。

 

 

 

 亮と吹雪との間に三つの光剣が突き刺さる。この剣が存在する限りは吹雪がどれほど攻撃力の高いモンスターを召喚しようと、その攻撃が亮に通る事はない。

 

「モンスターをセット、ターンエンドだ」

 

「光の護封剣か。また厄介なカードを出してきたものだよ君は。僕のターン、レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンの効果により墓地から真紅眼の黒竜を蘇生、カードを一枚セット。ターンエンド」

 

 取り敢えずは安心だ。

 吹雪が魔法除去カードを引き当てていたら絶体絶命であった。亮の命運は首の皮一枚で繋がった。この一枚を無駄にはしない。

 

「俺のターン、セットしてあったプロト・サイバー・ドラゴンを反転召喚」

 

 

 

【プロト・サイバー・ドラゴン】

光属性 ☆3 機械族

攻撃力1100

守備力600

このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、

カード名を「サイバー・ドラゴン」として扱う。

 

 

 

「このカードはフィールドにいる時、カード名をサイバー・ドラゴンとして扱う。更におれはもう一体のプロト・サイバー・ドラゴンを攻撃表示で召喚。――――――そして魔法カード、融合。手札のサイバー・ドラゴンとフィールドの二体のプロト・サイバー・ドラゴン」

 

 

 

【融合】

通常魔法カード

手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた

融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を

融合デッキから特殊召喚する。

 

 

「フィールドの二体のプロト・サイバー・ドラゴンと手札のサイバー・ドラゴンを融合。吹雪、お前のレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンがお前の切り札だというのなら、俺が信頼する最高のモンスターを見せよう。三体のサイバー・ドラゴンを融合させ、融合デッキよりサイバー流最強モンスター。サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚ッッ!」

 

 

 

【サイバー・エンド・ドラゴン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力4000

守備力2800

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 伝説のモンスター、青眼の究極竜にも似た三つ首のドラゴン。しかし胴体を覆うのは鱗ではなく鋼鉄。光り輝く黄色い計三つの双眸。

 サイバー・エンド・ドラゴン。

 丸藤亮が誇る最強最高のモンスターにして亮の魂ともいうべきもの。

 

『ここで丸藤亮! 自身の切り札であるサイバー・エンド・ドラゴンを召喚したぁぁぁぁぁぁぁああぁぁああッッ!! その攻撃力は4000ッ! キング吹雪のフィールドにいるありとあらゆるモンスターを上回ったぞぉぉぉぉぉッッ!!』

 

「サイバー・エンド・ドラゴンでレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを攻撃、エターナル・エヴォリューション・バーストッ!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンの三つの首から巨大なるエネルギーが吐き出された。その威力は数値にして4000。三幻神の一角足るオベリスクの巨神兵と同等の数値である。

 

「この瞬間、リバース罠発動。万能地雷グレイモア!」

 

 

 

【万能地雷グレイモア】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

相手フィールド上に表側攻撃表示で存在する

攻撃力が一番高いモンスター1体を破壊する。

 

 

 

「サイバー・エンド・ドラゴンは強力なモンスターだ。4000という高い攻撃力に加え貫通能力まである。一撃でも喰らえばそれだけでジ・エンドになりかねない。しかし弱点もある。その一つが魔法・罠に対する耐性が皆無ということだ」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンの下にある大地が突如として大爆発する。爆発は攻撃をしている途中のサイバー・エンド・ドラゴンを容易く巻き込み、その体を木端微塵に吹き飛ばした。

 

「俺のサイバー・エンドが、こうもあっさりと」

 

 面倒な手順を踏んで漸くフィールドに解き放ったサイバー・エンド・ドラゴン。それがたった一枚の罠カードによってあっさりと破壊されてしまったという事実が、亮の心にずっしりと重いものを落とした。

 亮にとってサイバー・エンド・ドラゴンはただのモンスターではない。長きにわたるサイバー流道場での過酷な修練。それを乗り越え、免許皆伝の称号を得た時に尊敬する師父より託された正真正銘、丸藤亮の魂というべきカードなのだ。

 

(くっ……分かってはいた! これは俺のミスだ。サイバー・エンド・ドラゴンを無防備にただ出してしまった俺の!)

 

 自分で自分を叱咤する。

 されど既に起きてしまった出来事を改変することは出来ない。人間に過去は変えられない。変えることはできないのだ。

 

「……俺は」

 

 このまま終わってやることは出来ない。無残に散ったサイバー・エンド・ドラゴンの為にも一枚は殺ってみせる。

 

「魔法カード発動、ブラック・コア! 手札を一枚捨てモンスターを一体除外する」

 

 

 

【ブラック・コア】

通常魔法カード

自分の手札を1枚捨てる。

フィールド上の表側表示のモンスター1体をゲームから除外する。

 

 

「ブラック・コア。しかし僕のマテリアルドラゴンは手札を一枚捨てることで破壊効果を無効にできる」

 

「破壊ではない……除外してもらう」

 

「えっ?」

 

 問題はどのカードを除外するかだ。

 レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを除外すれば取り敢えずドラゴン族がノーリスクに展開されるのは防げる。しかし吹雪のフィールドには既に他三体のドラゴン族がいる。今更除外したところで手遅れだろう。となれば。

 

「俺はマテリアルドラゴンを選択し、そのカードをゲームから除外する!」

 

 黒い球体がマテリアルドラゴンを包んでいき、そのまま何処とも知れぬ場所へと消え去った。ブラック・コアに呑み込まれたモンスターは墓地という名の休憩所ではなく、除外という真の墓場へと送られる。レダメの効果も除外されたモンスターは対象外だ。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

「僕のターン、レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンのモンスター効果。手札からもう一体の真紅眼の黒竜を召喚、そして天使の施しを発動。デッキより三枚ドローし二枚捨てる。…………亮、多少残酷だと思いはするけどライフを一気に減らさせて貰うよ。僕は二枚の黒炎弾を発動! 真紅眼の黒竜の元々の攻撃力分のダメージ×2を君に与える」

 

「レッドアイズの攻撃力の二倍は4800……まさか!」

 

「君に4800ダメージだ!」

 

 丸藤亮 LP5200→400

 

 4800ものダメージを一気に受け亮のライフがごっそりと減らされた。

 危ない。もしもパワー・ボンドとマテリアルドラゴンのコンボが成立していなければ今頃ライフが0となり敗北していたところだった。

 

(しかし……なんて危険なカードを。あのカード二枚で先行ワンターンキルも出来るじゃないか)

 

 らしくもなく亮は吹雪の使用したカードを毒づく。しかしライフがいきなり4800も減らされたのだ。文句が言いたくなるのも無理はない。

 

「カードを2枚セット、ターンエンドだ」

 

「……俺のターン」

 

「この瞬間、罠カード発動。砂塵の大竜巻! 光の護封剣は破壊だ」

 

「……………」

 

 亮を守っていた護封剣が消失する。

 これでもはや丸藤亮を守護する壁は消え去ってしまった。

 

「どうするんだい? 自身を守る壁モンスターは皆無、光の護封剣も消失」

 

「それはどうかな」

 

「ほう」

 

「実を言うと…………俺も驚いている。まさかこのカードがくるとは。このタイミングで、この状況で! まさかこのカードが来るなどとは予想すらしていなかった。吹雪、サイバー・エンド・ドラゴンが俺の切り札ならばこのカードは俺の裏・切り札!」

 

「裏切り札?」

 

「違う、裏・切り札だ! 区切るのを忘れるなよ」

 

「忠告するけど僕のフィールドに伏せているカードは魔宮の賄賂。オーバー・ロード・フュージョンによるキメラテック・オーバー・ドラゴンの召喚は無意味だよ」

 

「安心しろ。そのカードではない。俺は墓地に眠る全ての光属性モンスターを除外することで手札より特殊召喚! 今こそ降臨せよ、我が朋友より授けられし新たなる力よ!」

 

 

【サイバー・エルタニン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力?

守備力?

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上及び自分の墓地に存在する

機械族・光属性モンスターを全てゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、このカードの特殊召喚時に

ゲームから除外したモンスターの数×500ポイントになる。

このカードが特殊召喚に成功した時、

このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て墓地へ送る。

 

 

 

「俺の除外した光属性モンスターは八体。よってその攻撃力と守備力は4000ポイントッ! そしてこのカードが特殊召喚された時、このカード以外のモンスター全てを墓地送りにする! 消えされぇ、吹雪のモンスター!」

 

「全部墓地!?」

 

「これで邪魔者は消えた! サイバー・エルタニンの直接攻撃、ドラコニス・アセンション!」

 

 天上院吹雪 LP200→0

 

「俺の勝ちだな……吹雪」

 

「…………悔しいけど、僕の…負け、みたいだな」

 

 苦笑しながら吹雪は膝をつく。

 同時、観客席から勝者を称える声援と敗者の健闘をたたえる声援が降り注いだ。



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第43話  I2カップ決勝戦開始

              ┏━  宍戸丈

          ┏━┫

          ┃  └─  羽蛾

      ┏━┫

      ┃  │  ┌─  本田

      ┃  └━┫

      ┃      ┗━  マナ

  ┌━┫

  │  │      ┌─  三沢

  │  │  ┌━┫

  │  │  │  ┗━  御伽

  │  └━┫

  │      ┃  ┏━  レベッカ

  │      ┗━┫

  │          └─  トム

─┤

  │          ┌─  牛尾

  │      ┌━┫

  │      │  ┗━  不動

  │  ┌━┫

  │  │  ┃  ┏━  天上院

  │  │  ┗━┫

  │  │      └─  竜崎

  └━┫

      ┃      ┌─  骨塚

      ┃  ┌━┫

      ┃  │  ┗━  十六夜

      ┗━┫

          ┃  ┏━  丸藤亮

          ┗━┫

              └─  猪爪誠

 

 

 

 

 

 

 準決勝第二試合。

 決死の攻防。熾烈な戦い。互角の真剣勝負。天上院吹雪と丸藤亮。一流のデュエリスト養成するためのエリート校たるデュエルアカデミアの中でも更に尖った二人の天才たち。その戦いは丸藤亮の勝利に終わった。

 とはいえ亮の方も無傷ではない。自分の出し切れる力を全て出し切った上での辛勝であった。

 紙一重の差。

 もしもその一重がなければ、敗者となっていたのは丸藤亮だっただろう。

 

(サンキュー吹雪)

 

 敗者となってしまった友人に、宍戸丈は静かにお礼を述べる。

 たしかに吹雪は負けた。しかし亮の手札を存分に曝け出してくれたのだ。

 このI2カップで亮は殆ど自身の手の内を晒してはいない。第一回戦でこそサイコ・ショッカーやキメラテック・フォートレス・ドラゴンを出したが、以後の試合では全て融合やパワー・ボンドを使わず融合サイバー無しで勝利を収めている。

 しかし準決勝だけはそうはいかなかった。

 天上院吹雪はアカデミア最強と名高い丸藤亮をもってしても全てを尽して挑まなければ負け得る強敵だったのである。結果、次の対戦相手である宍戸丈が見ている会場でその全ての力を見せつけてしまった。

 

(今回の大会、俺は持ってる全部を晒して勝利してきた)

 

 第一回戦ではHERO。

 第二回戦では暗黒界。

 第三回戦では超重量級デッキ。

 吹雪や亮と違い、丈はそれなりの数のデッキを使い分けるタイプであるが、実戦レベルで使える三つのデッキの全てはこのI2大会で見せてしまった。三つ使わねば勝てない対戦者ばかりだった。

 実は丈には亮に見せていない四番目のデッキ――――――剣闘獣デッキもあるのだが、最近剣闘獣デッキの根幹を為していたモンスター。剣闘獣ベストロウリィが制限カード指定されてからデッキを調整していなかったので、今回の大会では使用できない。

 

(しかしこれで条件は互角だ。俺はお前のデッキを知り尽くしたし、お前も俺のデッキを知り尽くした)

 

 世の中には知識は疎かであっても、天性の感覚やプレイングセンスを武器にし勝利を収めるデュエリストが多くいる。後に勇名を馳せる事と鳴る遊城十代などはその最たるものだろう。

 しかし丈も吹雪もそういったタイプのデュエリストではなかった。

 天性の引きの強さやプレイングセンスが皆無なのではない。寧ろそこいらの一般人と比べれば遥かに上だろう。しかし二人は天性のものと知識、二つを両立するタイプのデュエリストだ。

 知識をもって相手のデッキを研究し、実戦がどうなるかを頭の中でシミュレートする。そして実戦であるデュエルをシミュレートでの戦いと研究結果を組み合わせ、展開によって手をかえ戦術を変え、臨機応変に対応していく。

 相手の情報を知っているというのは二人にとって間違いなく大きな武器となるっことなのである。

 

(条件は互角だ亮。……これまでの総合戦績は64勝81敗。俺の負け越しだが…………今度は勝つ)

 

 ふとデュエル場から退場する亮と目が合った。

 数瞬にも満たぬ那由多の交差。

 

――――――今度も勝つ。

 

 亮がそう言っている気がしたので、丈もまた挑発気に腕を組んだ。

 こちらこそ負けない。負けてたまらない。負けてやらない。そう伝わるように。

 亮は苦笑したように一瞥すると、そのまま退場していった。

 

(さてと)

 

 丈もまた席を立ちあがる。

 決勝戦は一度30分ほどの休憩を挟んでから始まる。この三十分がただ観客の興奮を一時クールダウンさせるためだけのものではないと丈は理解していた。この時間は最後の調整タイム。今まで見た相手の情報を鑑み、どのようなデッキを使うか。どういう戦術でいくのかを決定するための時間。

 戦いは既に始まっているのだ。

 観客のいない無言で無音で胸の熱くなるようなぶつかり合いもない、ただ相手の思考を読み合う静かなる戦い。

 

(…………俺も、流石にあれを解禁しないと不味いだろうな)

 

 今まで丈は元の世界で禁止カード指定された天使の施しや強欲な壺などのカードを努めて使わないようにしてきた。入試の時は万が一にも不合格になる訳にいかないので投入していたが、アカデミアの実技などでも使った事は一度もない。

 それは丈なりのスポーツマンシップ、亮の言葉に肖ればリスペクトデュエルのような考え方からくるものであったが今回ばかりはそうもいかないだろう。

 相手は使う。途轍もない性能の宝札系カードや強欲な壺などを平然と使う。この世界では禁止カードではないから躊躇わずに使ってくる。

 それに対抗するには自分も本当の意味で全力を尽くすしかない。形振りなど構わずに、己が全てをもって戦うしかないのだ。

 

(俺は今まで躊躇していた)

 

 元の世界、嘗ての自分。この世界に来る前の平穏なる人生。

 この世界でのデュエルは楽しい。デュエルディスクという装置を使ったリアリティーなデュエル。通常授業に組み込まれたデュエルの授業。なにもかもが新鮮で楽しかった。

 だが同時に未練もあった。元の世界の普通の生活、デュエルが日常ではなくただの遊びの範疇であって世界に郷愁にも似た感情を覚えていた。元の世界のルールを律儀にも気にしていたのは、元の世界との繋がりを失いたくないがためだったのだろう。しかしもう迷わない。普通の世界がなんだというのだ。もはやこの世界での常識こそが自分の中の普通だ。

 

「最後は最初と同じように、でいこうか亮」

 

 

 

 

 

『皆さんお任せしまシタ』

 

 準決勝第二試合から三十分が経過した会場に、I2カップの主催者であるI2社名誉会長ペガサス・J・クロフォードの声が響いた。

 いつものMCではなく主催者自らがこうしてマイクで話すのはこれがラストだからだろう。

 

『長かったI2カップもこれでフィニッシュ。エキサイトな時間も遂にエンディングを迎える事となりました。これまでの各試合。本心を暴露してしまえば――――――ワンダフル! 私もこれほど高レベルのデュエルが見えるとは思ってはいませんでした。特にデュエルアカデミアからの参加者である三人のデュエルには思わずデュエリストキングダムにおける遊戯ボーイや城之内ボーイの姿を思い起こしました』

 

 ペガサスの言葉に会場がざわつく。

 デュエルモンスターズの生みの親であり自身も卓越したデュエリストであるペガサスが、アカデミア参加者の三人のことを伝説のデュエリストに例える。これはもう三人のことを認めたといったこととほぼ同義であった。それを知るだけに観客たちの驚きは当然である。

 

『私はこれまで――――――いえ、よしまショウ。この会場に集った全員が望んでいるのは、この私のつまらない長話ではありまセーンッ! 若き新鋭デュエリスト二人における死闘ッ! このI2カップのフィナーレを飾るベリーエキサイトなデュエルなのデース!!』 

 

 ペガサスが語彙を強めると会場もそれに倣う様に盛り上がりを増した。

 選手入場に際して会場内の照明が消える。そして、

 

『紹介しましょう! 無敗の帝王ッ! サイバー流の後継者! 二回戦までのデュエルを危なげなく勝ち進み、準決勝では友であり好敵手でもあった天上院吹雪ボーイを打ち倒してでの決勝戦進出! カイザー、丸藤亮ッ!』

 

 ライトが会場の天井に集まる。観客の視線が一斉にそこへ向くと、そこから一つの影が飛び降りた。影は真っ直ぐに地面へと落下しながらも、衝突の寸前に何らかの装置を使ったのかふわりと体を浮かし、ひたりと華麗に着地してみせた。

 

帝王伝説(レジェント・オブ・カイザー)を打ち立てるべくカイザー亮、天空より降臨デース!!』 

 亮の服装は準決勝までの学校の制服ではなかった。

 上下を黒に統一して、更にそこから真っ黒なコートを羽織っている。コートには節々に赤いラインが入っており、それが黒という地味にも見える色を帝王たるオーラへと変えていた。正史においてプライドを捨てヘルカイザーと堕ちた丸藤亮が纏ったものとほぼ同一のデザインである。

 そして、

 

『天空より帝王が来たらば、地下よりは古の魔王が蘇る。第一回戦から準決勝までを全て異なるデッキで勝利を収めてきた無限のデッキ使い。恐怖神話の体現者、魔王! 宍戸丈ッ!』

 

 会場の床の一部が開くと、そこから一人の人間が現れた。身を包むのは亮と同じ黒を基調した服。されど亮のそれが高貴さと力強さを絶妙に演出したものなのに対し、こちらは殺戮と暴虐を演出したようなものだった。コートに入るラインは赤ではなく対怪物に効果があるとされるシルバー。更にはジャラジャラと銀色の鎖が装飾として上着にはあった。

 魔王と、正にそう称するが相応強い恐怖の戦化粧。

 

「……どうしたんだ、その服装は?」

 

 やや目を白黒させながら亮が尋ねる。

 

「なんだかI2カップ実行委員の人が今の服装じゃ盛り上がりにかけるから着替えろって。抵抗したんだが……相手が黒服黒眼鏡の男十四人だったから、断るに断れなくて」

 

 服装に似合わぬションボリした表情でガクリと丈は肩を落とした。

 亮は同情するように愛想笑いをする。

 

「俺も似たようなものだ。気づけばこの服を押し付けられていた。なんでもペガサス会長の指示らしい。変わった人とは聞いていたが……成程、実感したよ。将来I2社に就職すれば苦労するだろうな」

 

「ま、服装なんて今は気にしても仕方ないか。やることは変わらないんだから」

 

 二人はほぼ同時にデュエルディスクを起動させた。

 そう。服装が普段と違うからといってやることは何一つ変更されていない。目の前の相手に打ち勝つ。打倒する。やるべきことはそれだけだ。

 

『帝王VS魔王! 勝つのは機械の龍と電脳の魔人を従えし無敵の帝王(カイザー)か、暗黒界の住人を従え英雄(HERO)と従属神をも屈服させ配下とした最凶の魔王(サタン)か! I2カップファイナル! 開始デースッ!!』

 

 

 

「「デュエル!」」 



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第44話  魔王VS帝王

 宍戸丈と丸藤亮、この二人のデュエリストにとって先行後攻を決めることほど無意味なことはないだろう。はっきり言って時間の無駄だ。何故ならば宍戸丈が得意とするのが先行であり、丸藤亮の得意とするのが後攻からなのだから。

 故に丈が先行となり亮が後攻となるのは必然であった。

 

「俺の先行、ドロー!」

 

 丈のデッキは前までのデッキではない。コンセプトこそ変わっていないものの、前の世界では禁止カード指定されていたカードが入った事により全体的爆発力が軒並み上昇している。

 これで条件は互角だ。

 

「魔法カード、苦渋の選択を発動!」

 

 

 

【苦渋の選択】

通常魔法カード

自分のデッキからカードを5枚選択して相手に見せる。

相手はその中から1枚を選択する。

相手が選択したカード1枚を自分の手札に加え、

残りのカードを墓地へ捨てる。

 

 

 苦渋の選択。デッキから五枚選び、そのうち一枚を手札に加え残りを墓地に捨てるカード。捨てる、というのはデメリット効果に見えるが実のところ捨てるというのがミソで、愚かな埋葬が可愛く見えるほど簡単かつ効率よく墓地肥やしを行うことが出来るのだ。その極悪な性能から丈の前世では禁止カード指定されており、サンダー・ボルトなどと同じく二度と制限復帰する事はないだろうと思われるカードの一つである。

 しかしこの世界においてはまだ制限カード。

 デッキに入れた所で反則になる事も敗北する事もない。

 

「俺がデッキより選ぶのは三枚のレベル・スティーラー及びネクロ・ガードナー!」

 

「……やれやれ、最初から飛ばすな」

 

 亮が呆れたように嘆息する。丈の選んだ五枚は全て墓地でこそ効果を発揮するモンスターカード。亮からしたらどれを選ぼうと必ず四枚は墓地に落ちてしまう訳で非常に苦しい選択肢をつきつけられたと言わざるを得ないだろう。正に苦渋の選択である。

 

「俺は……ネクロ・ガードナーを選ぶ」

 

 仕方なさげにネクロ・ガードナーを選択すると、そのカードが丈の手札に加わり他四枚が墓地におちた。

 

「亮、これで墓地肥やしが終わったと思ったなら甘いぞ。俺は天使の施しを発動! カードを三枚ドローし二枚捨てる! 俺が墓地に捨てるのは神獣王バルバロス及びネクロ・ガードナー! 続いて強欲な壺、デッキからカードを二枚ドロー! 更に魔法カード、死者蘇生! 墓地のバルバロスを蘇生する!」

 

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 

 

 このデッキの中でも丈が最も信頼を置くカードの一枚、従属神でも最強クラスのモンスターが真っ直ぐに亮へと巨大なランスを向けた。

 普通のデュエリストならいきなり攻撃力3000のモンスターが出てくれば恐れおののくところだろうが、初手からいきなりサイバー・エンド・ドラゴンを正規融合してくるような丸藤亮である。たかだか攻撃力3000程度で驚くことはなかった。

 

「☆8のモンスターが召喚されたことでレベル・スティーラーの餌が出来た。バルバロスの星を三つ下げ三体のレベル・スティーラーを墓地から召喚。そして永続魔法、冥界の宝札を発動。そして二重召喚! このターン、俺は二度の通常召喚権を得る!」

 

 

 

【冥界の宝札】

永続魔法カード

2体以上の生け贄を必要とする生け贄召喚に成功した時、

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

【二重召喚】

通常魔法カード

このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

 

 

神獣王バルバロス ☆8→5

 

 

「二体のレベル・スティーラーを生贄に堕天使アスモディウス召喚! 更にバルバロスの星を一つ下げレベル・スティーラーを蘇生。再び二体を生贄にThe supremacy SUNを攻撃表示で召喚!」

 

 

【The supremacy SUN】

闇属性 ☆10 悪魔族

攻撃力3000

守備力3000

このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できない。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、

次のターンのスタンバイフェイズ時、

手札を1枚捨てる事で、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

【堕天使アスモディウス】

闇属性 ☆8 天使族

攻撃力3000

守備力2500

このカードはデッキまたは墓地からの特殊召喚はできない。

1ターンに1度、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分フィールド上に「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、

「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。

「アスモトークン」はカードの効果では破壊されない。

「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。

 

 

神獣王バルバロス ☆5→4

 

 

 召喚制限があるカードを除けば数あるモンスターの中でも最も召喚の難しい最上級モンスター。それをいきなり三体も召喚してきた事に流石の亮も舌を巻いた。だが過剰なる驚きはない。丈ならばこれくらいはやってのけるという奇妙な信頼が亮にはあったのだ。しかし観衆はそうではなかった。開始早々から超重量モンスターが三体も並ぶという光景にこのデュエルを見守る殆ど全員が息をのむ。

 

『こ、これはぁぁぁぁぁッ! な、なんということだぁ!? いきなり魔王ジョーのフィールドに三体のモンスターが並んでしまったぁぁ!!』

 

 MCの興奮を余所にあくまで丈は冷静なままに告げる。

 

「永続魔法、冥界の宝札の効果だ。デッキから四枚ドローさせて貰う」

 

 これで丈の手札は六枚。ある意味こちらの方が最上級モンスターを三体召喚したこと以上に驚天動地の事実だろう。あろうことか丈は手札を一枚も消費せずにモンスターを並べてしまったのだ。

 

「カードを二枚セット、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

 最上級モンスターを前にした亮はニヤリと不敵に笑う。丈のことを舐めているのでも現実を理解していないのでもない。亮は自分が初手にして追いつめられていることを理解しているし、深く認識している。だからこそ楽しいのだ。デュエルにおいて絶望を乗り越えることに勝る興奮はない。追い詰められたのなら、乗り越えればよい。乗り越えて見せる。絶対に。

 

「魔法カード、融合を発動」

 

「させない。カウンター罠! 魔宮の賄賂!」

 

 

 

【魔宮の賄賂】

カウンター罠カード

相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

相手はデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

「カウンター罠か。だが読んでいたぞ」

 

「なに?」

 

「俺の本当の狙いはこちらだ。魔法カード、パワー・ボンド! 手札のサイバー・ドラゴン二体を融合。融合召喚、サイバー・ツイン・ドラゴンッ!」

 

 

 

【サイバー・ツイン・ドラゴン】

光属性 ☆8 機械族・融合

攻撃力2800

守備力2100

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。

このカードは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

 

 

 パワー・ボンドの効果により融合召喚された為、サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力が5600まで上昇した。これで一度のバトルフェイズで二回攻撃出来るというのだから笑えない。

 

「サイバー・ツイン・ドラゴンでバルバロスと堕天使アスモディウスに二連攻撃、エヴォリューション・ツイン・バーストッ!」

 

 攻撃宣言をする亮。だが亮も分かっているだろう。この攻撃が丈に通る筈がないと言う事を。丈は一度自分の墓地に目をおとしてから宣言した。

 

「墓地のネクロ・ガードナーのモンスター効果、墓地から除外することにより攻撃を一度無効にする! 俺は二体のネクロ・ガードナーを除外しサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃を無効!」

 

「……バトルフェイズを終了する。手札よりサイバー・ジラフを召喚。そしてサイバー・ジラフを生贄にパワー・ボンドのデメリットを消す」

 

 

 

【サイバー・ジラフ】

光属性 ☆3 機械族

攻撃力300

守備力800

このカードを生け贄に捧げる。

このターンのエンドフェイズまで、

このカードのコントローラーへの効果によるダメージは0になる。

 

 

「俺は一枚セットしターンエンドだ」

 

 宿命の対決といえる丈と亮の戦いは最初のターンから超重量級モンスターが激突するという派手な開幕となった。

 だがこんなものは序の口だ。

 戦いはこれからどんどんと激しさを増していく。際限などなく。それは恐らくこの会場にいる誰もが感じたことだっただろう。



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第45話  今はまだ眠らずにいる禁断

宍戸丈 LP4000 手札6枚

場  神獣王バルバロス、堕天使アスモディウス、The SUN

魔法 冥界の宝札

セット 一枚

 

丸藤亮 LP4000 手札2枚

場 サイバー・ツイン・ドラゴン(攻撃力5600)

伏せ 一枚

 

 

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

 やや苦虫をかみつぶした表情で丈はカードをドローする。フィールドに最上級モンスターを並べ、ドローエンジンである冥界の宝札、それを守るカウンター罠である魔宮の賄賂、永久生贄要因のレベル・スティーラー三枚と防御要因のネクロ・ガードナーを並べ鉄壁ともいえる布陣をひいたものの、よもやいきなりカウンターが事実上無意味と化しネクロ・ガードナーの防御を失うことになるとは思わなかった。

 流石はサイバー流歴代最強の男、丸藤亮。

 

(いや違うな)

 

 これは今までの丸藤亮の実力ではない。この大会以前の亮ならば僅か1ターンでここまで持ち直しはしなかっただろう。亮もこの大会で腕を上げているのだ。

 丈もこの大会を通じて確かに成長はした。だがそれは亮だって同じ。自分が一歩踏み出せば、ライバルも同じように一歩、或いは二歩三歩先を進んでいるのだ。もしも今いる場所で満足しているようなら、丸藤亮はライバルになりえなかっただろう。

 

(やや賭けになるが……もし次のターン、何もせずにいたら、サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃で俺は終わりだ)

 

 二回攻撃を可能とするサイバー・ツイン・ドラゴンが現在攻撃表示となっているモンスター達に攻撃を仕掛ければ、その合計ダメージは5200。丈の負けが確定する。それを防ぐには守備表示にするのが最善手なのだろうが、最善程度で亮の猛攻は防げないだろう。

 防御が駄目ならば攻撃あるのみ。

 

「俺はThe SUNのレベルを10から8に下げ、墓地より二体のレベル・スティーラーを特殊召喚! そして神獣王バルバロスと二体のレベル・スティーラーを生贄に捧げ……」

 

「バルバロス含む三体の生贄だと!? まさか……」

 

「その、まさかだ! 俺は二体目の神獣王バルバロスを攻撃表示で召喚ッ! 冥界の宝札の効果で二枚ドロー!」

 

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 

 

 バルバロスとレベル・スティーラーが消失に新たに召喚される二体目のバルバロス。当然ながら攻撃力は元のバルバロスと同じ3000。だがこの方法で召喚されたバルバロスにはある効果が発動する。

 

「三体を生贄に召喚したバルバロスのモンスター効果。相手フィールド上のカードを全て破壊するッ! ゴッド・スパイラル・シェイパーッ!」

 

 バルバロスの槍が竜巻でも宿ったのかのように高速回転を始める。そう、その力は相手モンスターを破壊しつくして尚も有り余るエネルギー。

 バルバロスが槍に宿りし力を開放する。突風が吹きあられ亮のフィールドにある全てのカードを破壊せんがために暴れまわった。

 

「これでフィールドが全滅、三体のモンスターの総攻撃で俺の勝ちだッ!」

 

「やるな。だが甘いぞ丈。この瞬間、和睦の使者を発動。このターン、相手モンスターから受ける全ての戦闘ダメージを0にする!」

 

 

 

【和睦の使者】

通常罠カード

このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける

全ての戦闘ダメージは0になる。

このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

 

 

 

「チッ、凌がれたか。だがこれでサイバー・ツイン・ドラゴンは破壊だ」

 

 バルバロスの放った風がサイバー・ツイン・ドラゴンの胴体をバラバラに分解し破壊した。これで少なくとも次のターン、サイバー・ツイン・ドラゴン(パワー・ボンドで攻撃力5600)の二連続攻撃を喰らうということはなくなった。

 

「俺はカードを二枚セット、ターンエンドだ」

 

「……俺のターン、ドロー。魔法カード、強欲な壺。デッキからカードを二枚ドローする。更に魔法カード、おろかな埋葬!」

 

 

 

【おろかな埋葬】

通常魔法カード

自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

 

 

 

「おろかな埋葬……珍しいカードを使うな」

 

 そのカードが珍しいのではない。亮がこのカードを使うことが珍しかった。アンデッド族など墓地にモンスターが送られるほど有利になるデッキは数多いが、亮のデッキはそういったデッキとはやや違う。オーバー・ロード・フュージョンのためとも考えられるが、おろかな埋葬で遅れるカードはたかだか一枚。未来融合を使った方が遥かに効果的だ。

 

「俺が墓地に送るのはこのカード……処刑人マキュラ!」

 

「!!??」

 

 

【処刑人―マキュラ】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1600

守備力1200

このカードが墓地へ送られたターン、

このカードの持ち主は手札から罠カードを発動する事ができる。

 

 

 処刑人マキュラ。手札から罠カードを発動できるようになるという効果の凶悪性から、禁止カード指定された極悪カードだ。罠カードは発動するまで1ターンのタイムラグがある分、強力な効果をもつカードが多くマキュラはそのタイムラグをゼロにする事が出来る効果がある。その恐ろしさ、一度でもマキュラの処刑を受けた者なら身に染みて分かるだろう。

 とはいえこの世界では恐ろしいことに『準制限カード』。デッキに二枚もいれられるときている。

 

「マキュラのモンスター効果で俺はこのターン、手札から罠を発動できるようになった。罠カード、第六感!」

 

 

【第六感】

通常罠カード

自分は1から6までの数字の内2つを宣言する。

相手がサイコロを1回振り、宣言した数字の内どちらか1つが出た場合、

その枚数自分はカードをドローする。

ハズレの場合、出た目の枚数デッキの上からカードを墓地へ送る。

 

 

 

「このカードの効果、サイコロの出た目を当てればその数だけカードをドロー。外せばサイコロの出た目の数だけデッキの上からカードを墓地に送る! 俺は6と5を選択!」

 

「え?」

 

「サイコロを振れ、丈!」

 

「お、おぉ……それ」

 

 コロコロと転がったサイコロの出た目は亮の宣言通り5であった。正解したので亮はデッキから5枚のカードをドローした。

 

「これでキーカードは揃ったぞ。俺は手札より永続罠、DNA改造手術を発動!」

 

 

 

【DNA改造手術】

永続罠カード

種族を1つ宣言して発動する。

このカードがフィールド上に存在する限り、

フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターは宣言した種族になる。

 

 

 

「そ、そのカードは!?」

 

「そうだ。お前から譲り受けたカードだ。あの時、考え出したコンボ! 今日ここでお前に見せてやろう! DNA改造手術によりフィールド上のモンスターは俺の宣言した種族になる。俺は機械族を選択。そして俺はプロト・サイバー・ドラゴンを通常召喚! 準備は整った。フィールド上に存在する全てのモンスターよ、フォートレスの餌となれ!」

 

 最強の従属神が、聖書に記されし堕天使が、黒き太陽が、名だたる最強モンスターがプロト・サイバーに吸収されていく。

 

「融合召喚、キメラテック・フォートレス・ドラゴンッ!」

 

 

 

【キメラテック・フォートレス・ドラゴン】

闇属性 ☆8 機械族

攻撃力0

守備力0

「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上

このカードは融合素材モンスターとして使用する事はできない。

自分・相手フィールド上に存在する上記のカードを墓地へ送った場合のみ、

エクストラデッキから特殊召喚する事ができる(「融合」魔法カードは必要としない)。

このカードの元々の攻撃力は、

このカードの融合素材としたモンスターの数×1000ポイントになる。

 

 

 融合素材となったのはプロト・サイバーを含め合計4体。よってキメラテック・フォートレス・ドラゴンの攻撃力は4000となった。しかも全てのモンスターが吸収されたため丈のフィールドはがら空き。これを通せば……負ける。

 

「この瞬間、罠発動。奈落の落とし穴! キメラテック・フォートレス・ドラゴンを破壊し除外するッ!」

 

 召喚されたばかりのキメラテック・フォートレス・ドラゴンがそのまま除外される。激闘から一転して静寂。互いの場に溢れていた最上級モンスターは今や皆無。

 あれだけの強力モンスターが一瞬にして無に帰す。

 その光景に会場は、MCすらも唖然としてしまっていた。

 

「フ……やるな。俺は二枚のカードをセット。そして魔法カード、嵐を発動」

 

 

 

【嵐】

通常魔法カード

自分フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

その後、破壊したカードの数だけ相手フィールド上の魔法・罠カードを破壊する。

 

 

「俺のフィールドの魔法・罠カードは三枚。よって丈、お前のフィールドにある全てのカードは破壊だ」

 

「くそっ」

 

「カードを一枚セット、ターンエンド」



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第46話  闇の侯爵と闇のサイバー

宍戸丈 LP4000 手札6枚

場  

丸藤亮 LP4000 手札0枚

伏せ 一枚

 

 

 

 

 つい前のターンまでフィールドに並んでいた最上級モンスターの連合はもはや見る影もない。丈のフィールドは焼野原と化してしまった。いや、こうなるまでの経緯からすれば嵐によって更地になったとでもいうべきか。

 

「俺のターン、運命の宝札を発動! サイコロを振り、出た目の数だけカードをドローする。……俺が出した目は……くっ、2だ。デッキから二枚ドロー。……そして二枚のデビルズ・サンクチュアリを発動。フィールドにメタル・デビル・トークン二体を特殊召喚する」

 

 

 

【デビルズ・サンクチュアリ】

通常魔法カード

「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を

自分のフィールド上に1体特殊召喚する。

このトークンは攻撃をする事ができない。

「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、

かわりに相手プレイヤーが受ける。

自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。

払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。

 

 

 

 相手プレイヤー、亮の顔をそのまま映し出した全身が鉄で出来たトークンが二体フィールドに召喚された。他多くのトークンと違い1000ポイントの維持コストを要求するデメリット効果はあるが、このターンでトークンを使い切ってしまえばそんな心配はなくなる。

 

「二体のトークンを生贄に、闇の侯爵べリアルを召喚!」

 

 

【闇の侯爵べリアル】

闇属性 ☆8 悪魔族

攻撃力2800

守備力2400

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

相手は「闇の侯爵ベリアル」以外の自分フィールド上に表側表示で存在する

モンスターを攻撃対象に選択できず、魔法・罠カードの効果の対象にする事もできない。

 

 

 

 巨大な大剣をもった最上級悪魔ベリアル。こんなモンスターを使っていると魔王という恥ずかしい仇名が定着してしまいそうで嫌なのだが、効果が強力なのは事実であるし真剣勝負で異名がなんだなんだとは言ってもいられない。

 

『魔王ジョー! フィールドが一掃されて直ぐに異名に相応強い最上級モンスターを召喚したぞぉぉぉおぉ! さすが魔王! 俺達には出来ない事を平然とやってのける! そこに痺れる!憧れるぅ!』

 

 予想通り、会場中には魔王コールが響き渡る。この分だと大会が終わってアカデミアに帰る頃には完全に魔王が定着してしまうだろう。

 

(ええぃ! 考えるのは後だ! 亮のフィールドはモンスターがゼロ、今がチャンスなんだ!)

 

「闇の侯爵ベリアルで相手プレイヤーに直接攻撃、無価値なる断罪ッ!」

 

「速攻魔法、収縮! ベリアルの攻撃力を半分にする!」

 

 亮が発動した速攻魔法によりベリアルの攻撃力が下がる。しかし収縮は攻撃力を下げるだけであり攻撃を防ぐことは出来ない。攻撃は続行されベリアルの振り下ろした大剣が亮の体を切り裂いた。

 

 丸藤亮 LP4000→2600

 

「グッ……! だが、まだ俺のライフは半分以上残っている!」

 

 痛い所を指摘された。本当なら丈は亮のフィールドが皆無なこのタイミングで戦いの趨勢をもっていたかった。亮が無防備な場を晒すなど、そう滅多にあることではない。その滅多な機会に丈はライフの半分も奪うことができなかったのだ。

 この一撃で摂り合えるライフは自分が上回った。だが言い変えれば最初に自分の方が一撃を加えたというだけであり、まだまだ亮には余力が残されている。

 

(……待て、そうネガティブに考えるな)

 

 自分に自分で活を入れる。不幸なことばかり考えると、現実に不幸になってしまうものだ。

 半分のライフは奪えなかったものの亮のライフを2800未満まで削ることはできた。これでもうサイバー・ジラフなどがない状態でパワー・ボンドを使う事が難しくなるだろう。

 

「俺は一枚カードを伏せターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。運命の宝札!」

 

 

 

【運命の宝札】

通常魔法カード

サイコロを1回振る。出た目の数だけデッキからカードをドローする。

その後、同じ数だけデッキの1番上からカードをゲームから除外する。

 

 

「また宝札カードだって……このタイミングで」

 

 手札0枚の状態から引いたのが強力なドローソースである運命の宝札。この引きの強さばかりは、出会って以来追い抜けた気がしない。この世界でデュエリストとしての腕を磨く最中、丈の引きも強くなってはきたがまだ亮のクラスには及んではいないだろう。

 亮がサイコロを振ると出た数は最大である6。もはや呆れを通り越して笑いすら出てくる。

 

「運命の宝札の効果で六枚ドロー!」

 

「俺は二枚だったのに……運の良い奴」 

 

「フッ。恨んでくれるなよ。運も実力のうちだ。魔法カード、オーバー・ロード・フュージョン発動!」

 

 

 

【オーバー・ロード・フュージョン】

通常魔法カード

自分フィールド上・墓地から、

融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを

ゲームから除外し、機械族・闇属性のその融合モンスター1体を

融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

 

「闇属性機械族融合モンスターの融合素材をゲームから除外、機械族融合モンスターを融合デッキから特殊召喚する! 俺はサイバー・ドラゴン二体、サイバー・ツイン・ドラゴン、プロト・サイバーを除外ッ! 融合召喚、キメラテック・オーバー・ドラゴンッ!」

 

 

 

【キメラテック・オーバー・ドラゴン】

闇属性 ☆9 機械族

攻撃力?

守備力?

「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが融合召喚に成功した時、

このカード以外の自分フィールド上のカードを全て墓地へ送る。

このカードの元々の攻撃力・守備力は、

このカードの融合素材としたモンスターの数×800ポイントになる。

このカードは融合素材としたモンスターの数だけ

相手モンスターを攻撃できる。

 

 

 

「出て来たか。サイバー・エンド・ドラゴンとは違う、亮のデッキのエース」

 

 キメラテックと名のついたサイバー・ドラゴン融合体は亮のデッキにおいて奥の手ともいうべきモンスターである。パワー・ボンドや融合の連発でサイバー・ドラゴンなどが軒並み墓地に送られていて、手札の枚数が少ない時。そういったピンチでこそキメラテックはその真価を示す。

 特にこのキメラテック・オーバー・ドラゴンが墓地さえ十分に肥えていれば、サイバー・エンドすら超える攻撃値を叩きだすことが出来る。

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンは融合素材としたモンスター×800ポイントが攻撃力守備力となる。俺が融合素材とした機械族は四体。よって攻撃力は3200ポイントッ! ベリアルの数値を超えたぞ、キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃、エヴォリューション・レザルト・バーストッ!」

 

「くそっ!」

 

 ベリアルは自軍モンスターに耐性を付与することが出来るモンスターだが、自分自身には耐性がない。キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃を防ぐことは出来なかった。

 

 宍戸丈 LP4000→3600

 

「追いつくには至らなかったか。だが流れは取り戻したぞ」

 

 丈のデッキに眠る最上級モンスターの多くは攻撃力が3000止まりだ。そして亮のフィールドには攻撃力が3200のキメラテック・オーバー・ドラゴン。

 たかが200と思うかもしれない。しかし、されど200だ。攻撃力の差が1だろうと100だろうと、数値が劣っていれば攻撃耐性でもない限り神のカードだろうと負けるのだ。

 3000の壁、これをどうにかしなければ丈に勝ちはない。

 

「俺はカードを二枚セットしターン終了だ」

 



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第47話  鉄壁

宍戸丈 LP3600 手札5枚

場  

伏せ 1枚

 

丸藤亮 LP2600 手札3枚

場 キメラテック・オーバー・ドラゴン(攻撃力3200)

伏せ 2枚

 

 

 

 

「亮お前のターン終了宣言の前に俺はこの速攻魔法、終焉の焔を発動する。二体の黒焔トークンを場に特殊召喚」

 

 

 

【終焉の焔】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」

(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。

 

 

 

 これで再び二体の生贄要因が確保された。

 

「そして俺のターン!」

 

 ライフは丈が勝っているが、形勢は亮に有利だ。キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は3200であり、丈のデッキに入っている最上級モンスターの殆どは3000が精々。まともな相手とのデュエルでは攻撃力3000越えのモンスターなど早々には出ないため、大抵は最上級モンスターを展開すれば押し切れたのだが、馬鹿火力にかけては天下一品の亮を相手するとなると攻撃力3000など気休めにもならない。パワー・ボンドやリミッター解除を駆使して、攻撃力10000オーバーくらいなら軽くやる男なのだ。丸藤亮というデュエリストは。

 

(だが……戦闘破壊が出来ないなら別の方法でフィールドから退場させるだけだ)

 

 デュエル前にデッキを調整しておいて良かった。お蔭でこういう絶体絶命の危機にも対応できる。

 

「二体の黒焔トークンを生贄に捧げ、ヘル・エンプレス・デーモンを攻撃表示で召喚!」

 

 

 

【ヘル・エンプレス・デーモン】

闇属性 ☆8 悪魔族

攻撃力2900

守備力2100

このカード以外のフィールド上で表側表示で存在する

悪魔族・闇属性モンスター1体が破壊される場合、

代わりに自分の墓地に存在する悪魔族・闇属性モンスター1体を

ゲームから除外する事ができる。

また、フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

「ヘル・エンプレス・デーモン」以外の

自分の墓地に存在する悪魔族・闇属性・レベル6以上のモンスター1体を

選択して特殊召喚する事ができる。

 

 

 

 エロティックな雰囲気を漂わせた女性悪魔が、髑髏の装飾をした槍を真っ直ぐに亮へと向けた。攻撃力はキメラテック・オーバー・ドラゴンの3200には惜しくも及ばない2900。

 

「そして魔法カード、融合解除!」

 

 

 

【融合解除】

速攻魔法カード

フィールド上に表側表示で存在する

融合モンスター1体を選択してエクストラデッキに戻す。

さらに、融合デッキに戻したそのモンスターの融合召喚に使用した

融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、

その一組を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 

「融合解除……そうか、考えたな」

 

 納得がいったというように、亮が口の端を釣り上げる。

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンはオーバー・ロード・フュージョンの効果で墓地融合したモンスター。そして融合解除は融合モンスターを融合デッキに戻し『墓地にある融合素材一組』を場に特殊召喚するカード。だがキメラテック・オーバー・ドラゴンの素材は除外されていて墓地にはない。ジ・エンドだ」

 

 キメラテック・オーバー・ドラゴンがフィールドから消失する。その後には何も起こらない。がら空きのフィールドだけが残った。

 亮の残りライフは2600。ヘル・エンプレス・デーモンの攻撃が通れば、丈の勝利だ。

 

「見事だ。そう言う他ない。ここまで心躍るデュエルも、これほどスリルのあるデュエルも生まれ初めてだ。だが忘れていないか? 俺はまだ俺が信じる最高のモンスターを召喚してはいないッ! リバースカード、オープン! 異次元からの帰還!」

 

 

 

【異次元からの帰還】

通常罠カード

ライフポイントを半分払って発動する。

ゲームから除外されている自分のモンスターを

可能な限り自分フィールド上に特殊召喚する。

エンドフェイズ時、この効果で特殊召喚した全てのモンスターは

ゲームから除外される。

 

 

 

「フィールドに三体のサイバー・ドラゴンを特殊召喚、そして速攻魔法発動。瞬間融合!」

 

 

 

【瞬間融合】

速攻魔法カード

このカードはバトルフェイズ中のみ発動する事ができる。

自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地へ送り、

その融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 

 

 

「三体のサイバー・ドラゴンを瞬間融合。降臨せよサイバー・エンド・ドラゴンッ!」

 

 

 

【サイバー・エンド・ドラゴン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力4000

守備力2800

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 

 遂に。遂にサイバー流正統後継者の証にして、サイバー流が誇る最強のモンスターであるサイバー・エンド・ドラゴンが召喚された。

 亮の友人としてサイバー・エンドの雄姿は何度も見てきているが、こうして一世一代の晴れ舞台で敵として相対すると威圧感も三倍はした。

 

 

(駄目だ。俺の手札にサイバー・エンドを倒すカードはない)

 

「……ターン終了だ」

 

「俺のターン、天使の施し発動。三枚ドローし二枚捨てる。魔法カード発動、魂の解放!」

 

 

 

【魂の解放】

通常魔法カード

お互いの墓地のカードを合計5枚まで選択し、

そのカードをゲームから除外する。

 

 

 

「俺は丈の墓地から三体のレベル・スティーラーと闇の侯爵べリアル、神獣王バルバロスを除外!」

 

「くそっ!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンが召喚されたのみならず、レベル・スティーラー三体の墓地アドバンテージまで失ってしまった。しかも特殊召喚可能な悪魔族モンスターであるベリアルが失われたことにより、ヘル・エンプレス・デーモンの効果を使う事も出来なくなってしまった。

 

「魔法カード、デビルズ・サンチュクアリ発動。メタル・デビル・トークンを召喚。それを生贄に人造人間サイコ・ショッカーを召喚! バトルだ。サイバー・エンド・ドラゴンでヘル・エンプレス・デーモンを攻撃、エターナル・エヴォリューション・バーストッ!」

 

「うわぁぁぁ!」

 

 宍戸丈 LP3600→2500

 

「更にサイコ・ショッカーで直接攻撃、サイバー・エナジー・ショック!」

 

 宍戸丈 LP2500→100

 

「ぅぅぅぅぐぅぅぅあぁぁぁぁぁぁあああッ!」

 

 二体のモンスターの総攻撃で丈のライフは限界にまで追い詰められた。

 残りの数値は僅か100。後一回でも戦闘ダメージを受ければそのままゲームエンドになってしまうだろう。

 

『ここでぇぇ! ここでなんと!! カイザー亮!! 宍戸丈のライフを残り100にまで追い詰めたぁぁぁぁああッ! そしてカイザー亮のフィールドにはサイバー流最強モンスターであるサイバー・エンド・ドラゴンと罠封じのサイコ・ショッカー! 魔王、遂に討たれる時がきたのかッ!?』

 



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第48話  邪神の選定

 I2カップ決勝戦も大詰めだ。常勝の帝王のフィールドには罠封じのサイコ・ショッカーと強力無比なサイバー・エンド・ドラゴンが並んでいるのに対し、無敵の魔王のフィールドにはモンスターがおらず伏せカードもない。

 殆どの観客はカイザー亮の勝利を信じて疑っていないだろう。ライフも100でフィールドはがら空き、この状態から逆転するなど出来る筈もないと確信している。だが本物のデュエルを知る一部の人間は違っていた。

 確かにフィールドだけに目を向ければ宍戸丈の命は風前の灯に見えるだろう。次に丈がターンエンドを告げるその瞬間に勝敗が決定的になると思うだろう。

 しかし聡い目をもつ者は互いのプレイヤーのもつ手札枚数にも目を光らせていた。

 融合を主体とするデッキにとって避けられない壁の一つとして手札の消耗率の高さがあげられる。通常の融合召喚を行おうとすれば融合素材モンスター二体と融合カード一枚、合計三枚ものカードを消費することになるのだ。

 4000の攻撃力と貫通効果をもつサイバー・エンド・ドラゴンを始め、融合モンスターには強力なカードも多いが、それでも相手の出方によっては召喚して早々に退場という事態にもなりかねない。そうなれば残るのは三枚を失った手札だけ。

 手札がどれだけ大切なのかはデュエルモンスターズというカードを少し齧った者ならば誰でも分かるだろう。手札一枚はライフ1000……否、場合によっては2000以上の価値を秘めているのだ。

 大量消費によって亮の手札が既に一枚なのに対し、丈の手札は五枚。これは初期手札枚数と同等の数値だ。これだけあれば状況を引っ繰り返す事も十二分に可能である。しかも幾らライフ100といえど、二人の差は僅か1200。亮とて下級モンスターの一度の直接攻撃で敗北する数値なのだ。

 後は駆け引き。

 どのようにしてサイバー・エンド・ドラゴンを倒し、その奥に佇むプレイヤーに攻撃を加えるか。

 大半の観衆が丸藤亮の勝利を確信しているのに対して、デュエルの真髄を知る者達はどのようにして宍戸丈が抗うのかを見ていた。

 I2カップ主催者でありI2社の名誉会長であるペガサス・J・クロフォードもその一人。

 

(excellent! 危険なギャンブルでしたが、この大会を開催した甲斐がありました。丸藤亮、宍戸丈、そして彼等共通のベスト・フレンドである天上院吹雪。本当に……懐かしい。彼等を見ているとあの三人を思い出しマース)

 

 ペガサスは過去に思いを馳せる。

 まだプロリーグなんてものが存在せず、デュエルアカデミアもなく、デュエルディスクも一部の選ばれたデュエリストのみが持つものだった時代。今も尚、世界中のデュエリストから畏敬の念を禁じえぬ存在たる三人の決闘者がいた。

 歴代最強にして最高のデュエリスト、武藤遊戯。

 三体の青眼の白龍を従えし孤高なる絶対者、海馬瀬人。

 上の二人のような才能はなくとも天性の幸運と根性により至高の舞台に上がった凡骨、城之内克也。

 三人が三人とも最初はデュエルモンスターズの生みの親たるペガサス・J・クロフォードにとってはとるにたらない存在であった。しかし彼等は自らの信念や仲間との結束を武器に何時かは創造者たるペガサスをも超える実力者となったのである。

 

(用いるカードからして、吹雪ボーイは城之内ボーイに近いでショウ。ルックスや華などでは対極といえますが芯にある熱いソウルは非常に似通ってマース。そしてカイザーボーイは海馬ボーイ。単純なパワーを武器にしながらも、それを魔法や罠で巧みにサポートするところなど非常に似通ったプレイングをします。そして宍戸丈……彼は)

 

 順当にいけば宍戸丈が対応するのは"武藤遊戯"ということになるのだろう。しかしペガサスはより深くを片方しかない瞳で見通していた。

 

(宍戸ボーイはあの三人の中では遊戯ボーイに一番似ていマース。しかしそれは名も亡きファラオ……アテムと呼ばれし武藤遊戯ではなく、ファラオを打ち倒した本当の強さをもった少年、武藤遊戯デース)

 

 ペガサスの隣に置かれたスーツケースからは見える者にしか感じられない黒い波動が湧きたっていた。そこに眠る邪神も疼いているのだろう。

 精霊の宿るカードは所有者を選ぶ。

 ある事情によりこの地上に産み落とされた邪神もまた、三幻神がそうだったように所有者を選定しようとしているのだ。この大会によって。

 

(神を従えることが出来るのは選ばれしデュエリストだけ。ゲームの創造者であり千年アイテムの一つを保有していた私にすら……神のカードは扱いきれない。いえ扱うことは出来るでしょう。邪神のカードは三幻神のカードと違い、選ばれなかったデュエリストに裁きの鉄槌を下すようなことはしないのですから)

 

 邪神は不相応な使い手を裁きはしない。ただ奪うだけだ。心を侵食し心を塗りつぶし心を我が物とする。カードを支配するはずのデュエリストが逆にカードによって支配されてしまう。それが邪神に魅入られたものの末路だ。

 故に真の邪神の担い手になるには、邪神の闇をも屈服させる(バー)の力が必要となる。

 

(既に二枚の邪神は亡霊たちの手に渡ってしまっている。私の手元に残ったのは最後の一枚、イレイザーのカードだけ)

 

 最悪の未来。もしも三枚の邪神全てが亡霊たちの手に渡り、そして三邪神全てがその所有者の心を支配してしまった時。

 

(世界は――――――未曾有の危機に陥る…かもしれない)

 

 失われた片目が疼く。

 嘗てそこにあった黄金の義眼が大邪神の復活を望み荒れ狂っているような錯覚を覚えた。

 

 

 

 ペガサスが邪神のことに思考を巡らせている頃、亮と丈の共通の友人である吹雪は観客席の最前列に座り二人の戦いを食い入るように見つめていた。

 一分一秒たりともこの戦いを見逃すまいと目は限界まで見開かれている。

 隣に座る妹が話しかけても曖昧に返事するだけだ。過保護であり妹を溺愛している吹雪にしては信じられないようなことだが、それほどまでにこの戦いが大切なのだろう。

 

(楽しそうだな二人とも)

 

 吹雪の目から見て亮と丈の表情は未だかつて見た事がないほどに晴れ晴れとしていた。きっと全身でデュエルを楽しんでいるのだろう。

 もはや二人には観客の歓声も視線も路傍の石ころ以下のものに違いない。彼等の頭と目には互いしか映ってないのだ。

 

「悔しいなぁ」

 

 気が付けば吹雪の口からそんな言葉が漏れ出していた。

 もしも準決勝第二試合で丸藤亮を倒していれば、あそこに立っていたのは自分だったのだ。あそこで生涯でも一二を争う最高のデュエルをしていたのは自分だったのである。

 それが何とも妬ましく悔しく……羨ましい。

 

「珍しいじゃない、兄さんがそんなこと言うの」

 

 妹の明日香が目をまんまるにしながら声をかけてきた。明日香は兄が露骨に悔しさを露わにするところを見た事がなかったのだ。常に余裕気であり飄々と、時にコミカルに困難を鼻で笑いながら乗り越える。それが普通の天上院吹雪なのだから。

 

「あすりんの前で言うのは格好悪いけど……やっぱり僕はあそこに立ちたかったんだよ。とってもね」

 

「亮が妬ましい?」

 

「否定すれば嘘になるね。ああ妬ましい……嫉妬という感情は余り抱かないタイプなんだけど、僕の胸の中で渦を巻くコレが嫉妬だと自信を持って断言できる。だけど恨んではいない。僕と亮はお互いに全力をだして戦い、そして結果的に僕が負けた。亮が勝って決勝戦に進んだ。あの戦いには満足しているし異を唱えるつもりもないんだ。だけど、デュエリストの魂っていうのが叫んでいるのさ。自分もあそこに行きたい、行って戦いたいってね」

 

「行けばいいじゃない?」

 

「えっ」

 

「I2カップは次もあるか分からないけど、最高の舞台がここだけとは決まってないでしょ。これから先には今日以上に最高の舞台があるかもしれないじゃない。そこで今度こそ亮や宍戸先輩……いえ、丈さんを倒して兄さんが勝てばいいわ。私は兄さんの強さを知ってる」

 

「ふふふふ、妹に励まされるなんて兄失格かな。でも有難う。お蔭でやる気が出た。――――――――頑張れ二人とも、どっちも頑張れ。そして次は僕が勝つ」

 

 晴れ晴れとした顔で吹雪は二人の親友に激励をした。

 この大歓声に比べれば吹雪の声は小さいものだったろう。それでも二人の決闘者は同時に吹雪の方を見ると、二人してニヤリと笑ってみせた。

 

 

――――――――――数多の思惑と願いをのせ、I2カップ最終戦は終盤戦に向かおうとしている。

 



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第49話  牙剥く友情

宍戸丈 LP100 手札5枚

場  

 

丸藤亮 LP1300 手札1枚

場 サイバー・エンド・ドラゴン、人造人間サイコ・ショッカー

 

 

 

 

「俺のターン!」

 

 亮のフィールドにはサイコ・ショッカーとサイバー・エンド。もしもこのターンで何か出来なければ、次のターンで総攻撃を受け丈の敗北が決定するだろう。

 しかし、そうはさせない。

 こんな楽しいデュエルをこんな中途半端で終わらせてやるものか。

 丈は爛々と闘志で瞳を輝かせながら手札のカードを吟味する。

 

「魔法カード、トレード・イン。手札の星8モンスターを墓地に捨てデッキから二枚ドローする」

 

 

 

【トレード・イン】

通常魔法カード

手札からレベル8のモンスターカードを1枚捨てる。

自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 

 一枚捨て二枚ドローするという中々に優秀な効果をもつ手札交換カードであるが、事故要因で余りデッキに大した数が入らない☆8モンスターをコストとされるため採用率の低いカードである。しかし最上級モンスターが山の様に入った丈のデッキは数少ない例外といえた。

 

「俺は堕天使アスモディウスを捨てて二枚ドロー。そして更に貪欲な壺、墓地のモンスター五体をデッキに戻しシャッフル。その後、二枚のカードをドローする」

 

 

 

【貪欲な壺】

通常魔法カード

自分の墓地に存在するモンスター5体を選択し、

デッキに加えてシャッフルする。

その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

「……亮、このデュエルは―――――――貰った」

 

「なに!?」

 

『おぉぉぉッと! なんとぉなんとぉなんとぉぉぉぉ! 意外ッ! それは勝利宣言ッ! ここで超劣勢のはずの魔王からまさかの勝利宣言だぁぁぁあ!!』

 

「このカードは通常のドロー以外の方法で手札に加わった時、手札から特殊召喚できる。俺はワタポンを守備表示で召喚」

 

 

【ワタポン】

光属性 ☆1 天使族

攻撃力200

守備力300

このカードが魔法・罠・効果モンスターの効果によって

自分のデッキから手札に加わった場合、

このカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 

「ワタポン――――――見ないモンスターだな。いや、そういえばキング・オブ・デュエリストの武藤遊戯がデッキに入れてあった事もあったか」

 

 嘗ての大会や試合での記録を欠かさずチェックしている亮はワタポンに見覚えがあったようだ。亮の言う通りワタポンは武藤遊戯のデッキに何度か入り、大活躍とは言わないまでもかなりの数、彼を助けたモンスターである。とはいえクリボーやブラック・マジシャンのようにメインで入っているカードではないのでステータスの低さも相まって値段は抑え目だ。

 丈のデッキも普段ならこのカードを採用する余地はそれほどでもないのだが、自身に課していた制限を解き放ち宝札系カードや強欲な壺などを投入し通常ドロー以外でドローする機会が格段に増えるだろうと予測したからこそ投入をしてみたのだが、上手くかみ合ったようだ。

 

「その通りだ亮。そしてワタポンは俺に勝利の栄光をくれるために召喚されたんだよ。魔法カード、デビルズ・サンチュクアリ、そして冥界の宝札を発動! 更に手札の最上級モンスターを一枚捨てハードアームドラゴンを召喚!」

 

 

 

【ハードアームドラゴン】

地属性 ☆4 ドラゴン族

攻撃力1500

守備力800

このカードは手札のレベル8以上のモンスター1体を墓地へ送り、

手札から特殊召喚する事ができる。

このカードを生贄にして召喚に成功したレベル7以上のモンスターは、

カードの効果では破壊されない。

 

 

 

「召喚しやすい弱小モンスターを使って一度に三体の生贄要因を揃えてきたか!?」

 

「分かるか亮。……だがそれだけじゃない。ハードアームドラゴン、こいつの攻撃力は1500。ギリギリでガジェットを殴り殺せる程度の弱小攻撃力だ。しかし……こいつの真骨頂は生贄にある! こいつは生贄になって初めて真価を発揮する最高の自己犠牲精神に溢れたモンスターだッ!」

 

「生贄になることが真骨頂?」

 

「ハードアームドラゴンを生贄にして召喚された最上級モンスターはカード効果では破壊されなくなる。つまり聖なるバリアも落とし穴も無意味に落ちる訳だ! そして亮なら知ってるだろう。俺のデッキに三体眠る三体を生贄にしてこそ最強効果を発揮するモンスターを! 補足すると俺はまだ通常召喚をしていないッ!」

 

「来るか!」

 

「ああ来る。俺は三体のモンスターを生贄に神獣王バルバロスを召喚ッ!」

 

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 

 

 今日何度目かになるか分からないバルバロスの召喚。しかし今回のバルバロスは三体を生贄として召喚されたバルバロス。よってその究極能力が発動する。

 

「冥界の宝札の効果で二枚ドローしバルバロスのモンスター効果、三体を生贄にしてこのモンスターが召喚された時、相手フィールド上のモンスターを全滅させるッ!」

 

 バルバロスの槍が高速回転を始めると、そこに大気中の風が集まりだした。ポォと槍が段々と赤く発光していく。丈はそれを見てゆっくりと手を振り落とし宣言した。

 

「やれ!」

 

 主の命令を受けるとバルバロスが槍に溜めた力を開放し、亮のフィールドに存在する何もかもを問答無用に殲滅した。

 サイバー・エンド・ドラゴンもサイコ・ショッカーも人知を超えた嵐の前には為す術もなく撃破される運命にあった。

 

「これでフィールドはがら空き。バルバロスで相手プレイヤーへ直接攻撃、トルネード・シェイパー!」

 

『丸藤亮、絶体絶命!? モンスターもリバースカードも破壊され彼には為す術がないッ! 長かったI2カップも遂に幕を閉じる! 決勝を制したのは常勝のカイザーではなく無敵の魔王だぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッ!』

 

 亮はどこか達観したように小さく笑う。そしてバルバロスの槍が亮の胸を穿つ――――――――その時であった。亮の手がデュエルディスクのスイッチを押す。

 

「この瞬間、俺は墓地のネクロ・ガードナーのモンスター効果を発動。このカードを除外する事でモンスター一体の攻撃を無効化する」

 

「な、なに!?」

 

「残念だったな。こんなこともあろうかと天使の施しで墓地に送っていたのさ」

 

 そう言い亮は墓地に置いてあったネクロ・ガードナーを確認のため見せてから除外ゾーンに置いた。

 

『こ、これは! な、なんという……なんという高次元な戦い! 不詳このMC、丸藤亮が敗北したと早合点しまったようだ。まだ終わらないぞ。まだ熱いデュエルは終わらないぞぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおぉ! ヒャッハー!!』

 

「本当に一筋縄ではいかない奴だな。俺はカードを二枚セットしターンエンド」

 

 だが、このターンで決着をつける事こそ出来なかったが遂に追い風というものをこちらに持ってくる事の成功した。

 ライフはそのままだが、それ以外はまるっきり最初と逆。追い詰めているのは丈で追い詰められているのが亮だ。

 

「…………俺のターン」

 

 そのことは亮も分かっているので、どこか緊張した面持ちでカードをドローする。そして、

 

「魔法カード発動、二重魔法!」

 

 

 

【二重魔法】

通常魔法カード

手札の魔法カードを1枚捨てる。

相手の墓地から魔法カードを1枚選択し、

自分のカードとして使用する。

 

 

 

「これは賭けだな。俺は融合を墓地に捨て丈の墓地より運命の宝札を自分のカードとして使用する。さて、サイコロの時間だ」

 

 亮がパチンと指を鳴らすとソリッドビジョンのサイコロがクルクルと廻り始める。"運命"の宝札という名が示す通り、このサイコロの出た目が今後の運命をも作用することになるだろう。

 果たして出た目は――――――4。

 

「カードを四枚ドローする」

 

 一枚目、亮の顔は何の反応もない。

 二枚目、亮の顔は鉄仮面のままだ。

 三枚目、亮の顔には無表情があった。

 そして四枚目――――――――丸藤亮は口角を釣り上げて笑った。

 

「やはり運命は俺に微笑をくれているようだ。俺は未来融合-フューチャーフュージョンを発動ッ!」

 

 

 

【未来融合-フューチャーフュージョン】

永続魔法カード

自分の融合デッキに存在する融合モンスター1体をお互いに確認し、

決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。

発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、確認した融合モンスター1体を

融合召喚扱いとして融合デッキから特殊召喚する。

このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。

そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 

 

 

「俺は融合デッキに眠るキメラテック・オーバー・ドラゴンを選択ッ! デッキよりサイバー・ドラゴン・ツヴァイ三体、プロト・サイバー・ドラゴン二体、サイバー・ドラゴン一体を墓地へ送る!」

 

「そうきたかッ!」

 

 キメラテック・オーバー・ドラゴンは融合素材としたモンスターの数×800の攻撃力となる上に、融合素材の枚数文だけフィールドのモンスターに攻撃できるという極悪効果をもつモンスターだが、同時に召喚された際に自分フィールドのキメラテック・オーバー・ドラゴンを除く全てのカードを墓地送りにするというデメリットがある。そして未来融合の効果の一節にこのカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する……というものがある。つまり幾ら未来融合でキメラテック・オーバー・ドラゴンを召喚できたとしても、キメラテック・オーバー・ドラゴン自身の効果で自滅してしまうのだ。だがしかしキメラテック・オーバー・ドラゴンはサイバー・ドラゴン+機械族何枚でも、という緩い召喚条件をもつモンスター。未来融合と組み合わせれば墓地に一気に送ることができるのだ。

 

「このカードで雌雄を決することになるのも運命か。俺は墓地の光属性機械族モンスターを全て除外するッ!」

 

「ま、まさかその召喚方法は!?」

 

「俺が除外したのはサイバー・エンド・ドラゴンとサイバー・ドラゴン三体、プロト・サイバー・ドラゴン三体とサイバー・ドラゴン・ツヴァイ三体。そしてサイバー・ジラフだ! その合計は十一! よってその攻撃力は5500ポイントッ! 出でよ、サイバー・エルタニンッ!」

 

 

 

【サイバー・エルタニン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力?

守備力?

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上及び自分の墓地に存在する

機械族・光属性モンスターを全てゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、このカードの特殊召喚時に

ゲームから除外したモンスターの数×500ポイントになる。

このカードが特殊召喚に成功した時、

このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て墓地へ送る。

 

 

 

 これが運命だとすれば出来過ぎた運命もあったものだ。 

 よもや宍戸丈が渡したカードが宍戸丈本人を倒すためのカードになるとは。なんとも世界は皮肉に満ち溢れている。

 しかも最悪な事にサイバー・エルタニンは召喚された時、フィールドで表側表示で存在するモンスターを全て墓地に送る効果をもっている。墓地に送る、だ。破壊するではない。ハードアームドラゴンの効果は意味をなさない。バルバロスは墓地に送られた。

 

「サイバー・エルタニンの攻撃、ドラコニス・アセンション!」

 

「トラップ発動、ガード・ブロック! 戦闘ダメージを無効にしカードをドローする」

 

 

 

【ガード・ブロック】

通常罠カード

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。

その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 

「お互い往生際が悪いな。俺はカードを二枚セット、ターンエンドだ」

 

 その時、全ての者が感じた。

 次のターン、次のターンこそが恐らくこの大会で最後のターンであろうことを。

 決着の時は近い。



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第50話  I2カップ終結

第50話  I2カップ終結

 

 

 

 

宍戸丈 LP100 手札1枚

場  

伏せ 一枚

魔法 冥界の宝札

丸藤亮 LP1300 手札0枚

場 サイバー・エルタニン(攻撃力5500)

伏せ 二枚

魔法 未来融合

 

 

 

 亮がターンエンドを告げると同時、丈は速攻魔法を発動させた。

 このままがら空きのままに自分のターンへ移行してしまえば完全に詰みに陥ってしまう。

 

「エンドフェイズ時、速攻魔法発動。終焉の焔! このカードの効果で俺は二体の黒焔トークンを場に出現させる」

 

 

 

【終焉の焔】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」

(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。

 

 

 

 今までと同じように丈のフィールドに出現する二体のトークン。ふと丈はこのカードにもなんだかんだでいつも助けられたことを思い出す。

 バルバロスや堕天使アスモディウス、The SUNは強力無比なモンスターだが、彼等を正規召喚しようとすれば終焉の焔のようなカードは必要不可欠となる。確かにこのカード単体が勝利に貢献したことはないし、華麗に相手プレイヤーに止めを刺した、なんてこともない。しかし丈を影から支え続けてくれたのは間違いなく終焉の焔などのトークン達であった。

 

(今回も……頼んだぞ)

 

 心の中でトークンに語りかけると、二体の黒焔トークンが頷くように炎を光を点滅させた。了解という意思表示だろう。何となく丈にはトークンの言葉が理解できた。

 

『四面楚歌、絶体絶命、窮地にまで追い詰められた無敵の魔王! だがしかし、まだ彼の瞳には煌々と熱いソウルが滾っているッ! 彼は、まだ勝負を捨てていないぃぃぃぃぃぃッッ!! フィールドには二体のトークン!! そう、つまり観客の皆さまもお分かりであろうッ! 魔王は勝利への布石を打ったのだ! 次なるモンスターの布石を打ったのだ!! 窮鼠猫を噛む……魔王は帝王の喉元にその牙を突き立てる事が出来るのかッッ!! 頑張れ宍戸丈!! 負けるな丸藤亮ッ!!』

 

 大歓声もMCの熱狂も、どこか遠い世界の出来事のように感じた。視界の端で吹雪がはちきれんばかりの声で応援してくれているのは分かるのだが、不思議とそれが届かない。

 まるでこの世界が円形のデュエル場だけで完結してしまったかのようだ。無色透明な世界の中、色をもっているのは自分とカードと……対戦相手である丸藤亮だけ。世界にはもう二人の人間しかいなかった。

 

「亮」

 

 おもむろに丈は亮に話しかけた。

 

「どうした、いきなり勿体ぶって」

 

「正直に話すと俺の手札にこの状況を逆転できるカードはない。もし次のドローでなにも良いカードが引けなければ、トークンを壁にして突破されないことを祈るしかないだろうな」

 

「そうか。それで? お前は諦めたのか? デュエルを放棄するのか? 決着をつけないまま」

 

「まさか」

 

 苦笑してしまう。

 亮に、ではない。こんな絶望的な状況を心の奥底から楽しんでしまっている馬鹿さ加減にだ。よく亮のことをデュエル馬鹿と言ったものだが、これではもう人のことを言えない。

 デッキの上を撫でる。

 思えばこのデッキで最初に戦ったデュエリストは目の前に立つ男だった。懐かしい小学生の頃の出会い。そう、あれは小学生の頃、サイバー流道場から帰ったばかりの丸藤亮と、デッキを構築したばかりの宍戸丈は出会い、戦い、そして腐れ縁の友人になったのだ。

 あの時、負けたのは丈の方だった。忘れる筈もないあの刹那。自分を負かした丸藤亮の心からデュエルを楽しむ顔がつい昨日のことのように思い出せる。あんなにも清々しい気分で負けたのは初めてだったかもしれない。

 だが、しかし。此度は勝つ。丸藤亮ではなく自分が勝つ。勝ってあの心の底からデュエルを楽しむ顔をしてみせる。その為には、

 

「次のドローだ。次のドローでなにもかもが決まる。お前相手に二体のトークンだけで持ち堪えられるとはつゆほど思っちゃいない。そう、だから」

 

 丈はデッキトップに手をかけた。そして、

 

「俺はこのカードに全てを賭けるッ!」

 

 一番上のカードを引いた。

 

「――――――――――――ドローッ!」

 

 運命は…………微笑む。女神は帝王ではなく魔王に味方した。丈は壮絶に笑う。どうやら気紛れなる極上の美女を口説き落とすことが出来たらしい。

 

「懐かしいな本当に。覚えているか? 俺が初めてお前の家に行った時の事」

 

「ああ。覚えているとも」

 

「じゃあサイバー・エルタニンをトレードしたことも覚えているよな?」

 

「…………。――――――――、まさか?」

 

「その、まさかだよ」

 

 幼き頃、丈は亮の家にあった、そのカードに視線が釘付けになった。

 それは元の世界では禁止カードにもなった超強力カードであり、この世界でも百万を軽く超えるほどの世界に十枚とないレアカード中のレアカード。

 

――――どうしたんだよ、こんなカード?

 

――――偶然当たったんだ。といっても俺のデッキには入れられないから宝の持ち腐れになってしまってるが。

 

 長き時を経て、彼のモンスターが遂に表舞台へと立つ。

 カっと目を見開き、丈は高らかに宣言する。

 

「俺は二体の黒焔トークンを生贄に捧げる! 光と闇の洗礼を浴びし時、封じられし闇の中より彼の魔導師が復活するッ! 俺に勝利を! 召喚ッ! 混沌の黒魔術師ッ!」

 

 

 

【混沌の黒魔術師】

闇属性 ☆8 魔法使い族

攻撃力2800

守備力2600

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

自分の墓地から魔法カード1枚を選択して手札に加える事ができる。

このカードが戦闘によって破壊したモンスターは墓地へは行かず

ゲームから除外される。

このカードがフィールド上から離れた場合、ゲームから除外される。

 

 

 

 三千年前のエジプトに君臨せしファラオに仕えた神官マハード、その魂が宿りしデュエルモンスターズ界最上級魔術師ブラック・マジシャン。だがそのブラック・マジシャンをも超える最強の黒魔術師、それこそが混沌の黒魔術師だった。

 

「ははははっ。本当に冗談ではなく誰かが俺達の運命を操作しているのかもしれないな。俺がサイバー・エルタニンを出せば、お前は混沌の黒魔術師……で、くるとはな。だがいい、それでこそだ。そうでなければ倒し甲斐がないッ! 来い! お前の全力で、この俺の心臓を穿ってみせろッ!」

 

「上等だッ! 先ずは冥界の宝札の効果で二枚ドロー! そして混沌の黒魔術師のモンスター効果、このカードが召喚・特殊召喚された時! 墓地から魔法カードを一枚手札に加えることが出来るッ! 俺は強欲な壺を手札に加え、強欲な壺を発動! カードを二枚ドローするぞ」

 

 強欲な壺で二枚ドローすると、遂に待ち望んだカードがきた。

 禁じられた聖杯。

 モンスター一体の効果を1ターンだけ無効にする速攻魔法。サイバー・エルタニンは攻撃力と守備力がともに?の効果にステータスを依存するモンスターだ。その効果を禁じられた聖杯で打ち消してしまえば、その攻撃力は一気に400まで下がる。そこへ攻撃力2800の混沌の黒魔術師で攻撃すれば勝利だ。

 

「バトル! 混沌の黒魔術師でサイバー・エルタニンを攻―――――――」

 

 攻撃、と言おうとした瞬間。ぞわりと、背中に悪寒が奔った。理屈などなく魂が告げている。ここで攻撃しては駄目だ。攻撃すれば負ける。負けて敗北すると。

 亮には伏せカードが二枚ある。もしもここで攻撃すれば、あの伏せカードによって宍戸丈は完膚無きにまでやられるだろう。

 普段の丈なら伏せカードに一々怯えていられるかと攻撃を強行したかもしれない。しかし今回はデュエリストとしての本能が、攻撃するなと叫んでいた。

 

「俺は……バトルフェイズを終了」

 

「!」

 

「カードを三枚伏せてターンエンドだ」

 

 千載一遇の好機に攻撃せずにターンを終了させた丈に対し、会場中の観客が怪訝な顔をする。MCでさえ呆然としてコメントが出ない様子だった。

 そんな中、亮だけは笑っている。

 

「攻撃を避けて来たか。いや……違うな。万全の状態で対決するために、敢えて1ターン先延ばしにしたのか」

 

 魔法カードと違い罠カードは伏せたターンに使用できない。丈の手札には罠カードが何枚かあったが、それらは前のターンでは使用不可能であった。だがもう違う。ターンが亮に移行した瞬間、既に罠は罠として作動する。宍戸丈の準備は整ったのだ。

 長い付き合いの亮はそのことを理解したからこそ戦意を全身から漂わせながら告げた。

 

「俺達のライフは残りわずか。これが最後のバトルだ。もう俺にターンが回ってくることはないだろうな。そして……これ以上、やることもない。バトルフェイズッ!」

 

 亮が動き、自らの従えるモンスターに指令を出す。

 

「サイバー・エルタニンで混沌の黒魔術師を攻撃、ドラコニス・アセンションッ!」

 

 サイバー・エルタニンの口が開かれ、そこから強力なエネルギー砲が放たれる。その直前、丈はリバースカードを発動させる。

 

「攻撃宣言の瞬間、速攻魔法発動! 禁じられた聖杯! モンスターの攻撃力を400上げ、モンスター効果をこのターンまで無効化する!」

 

 

 

【禁じられた聖杯】

速攻魔法カード

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。

エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は

400ポイントアップし、効果は無効化される。

 

 

 

 これでサイバー・エルタニンの攻撃力が一気に400まで下落した。

 しかしカイザーと謳われた男はこの程度のことは予測済みであった。

 

「読んでいた。カウンター罠、マジック・ドレイン! 魔法カードの発動及び効果を無効にする! お前は手札から魔法カードを捨てることで、これの効果を無効にできるがな」

 

 

【マジック・ドレイン】

カウンター罠カード

相手が魔法カードを発動した時に発動する事ができる。

相手は手札から魔法カード1枚を捨ててこのカードの効果を無効にする事ができる。

捨てなかった場合、相手の魔法カードの発動を無効にし破壊する。

 

 

 

「……俺の手札に魔法カードはない」

 

「ならば」

 

「だが! 俺の伏せカードにはこいつがある。カウンター罠の発動に対しカウンター罠を発動。魔宮の賄賂! 魔法・罠の発動を無効にし破壊! 相手は一枚のカードをドローする」

 

 

 

【魔宮の賄賂】

カウンター罠カード

相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

相手はデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 

「これで禁じられた聖杯の効果が通り、サイバー・エルタニンの攻撃力が下がる。更にカウンター罠を発動したことにより冥王竜ヴァンダルギオンを召喚ッ!」

 

 

 

【冥王竜ヴァンダルギオン】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力2500

相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、

このカードを手札から特殊召喚する事ができる。

この方法で特殊召喚に成功した時、

無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。

●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。

●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して

自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 手札から漆黒の影が飛び出し、やがてそれが巨大な黒竜の姿となる。

 冥王竜ヴァンダルギオン。丈のデッキに隠された陰のエースモンスターというべきカードだ。

 

「俺が無効にしたのは罠カード。よって俺は相手フィールドのカードを一枚選択し破壊することが出来る!」

 

 サイバー・エルタニンを破壊するのもいいが、今やサイバー・エルタニンは攻撃力400のモンスター。しかも攻撃宣言を済ましている。ここでこれを破壊してしまえば、亮に1ターンの隙を与えてしまう。ならば破壊すべきはエルタニンではなく残ったもう一枚の伏せカード。

 

「ヴァンダルギオンでその伏せカードを破壊、そして混沌の黒魔術師の迎撃。滅びの呪文―デス・アルテマ―!」

 

 混沌の黒魔術師が杖をエルタニンに向けると、強力な呪いの込められた衝撃波を放った。まともに受ければ最後、この世から跡形もなく消滅させてしまう力の宿りし消滅の力。だが丸藤亮はまだ隠していたカードがあった。

 

「丈、お前は強い……たぶん俺が今まで戦ってきた誰よりも……強かった。だが勝つのは俺だ。冥王竜ヴァンダルギオンで破壊される前に、俺はその速攻魔法を発動する! これが俺の可能性だ。魔法の教科書!」

 

 

 

【魔法の教科書】

速攻魔法カード

自分の手札を全て捨てて発動する。

自分のデッキの上からカードを1枚めくり、それが魔法カードだった場合はそのカードの効果を発動する。

魔法カード以外のカードだった場合は墓地へ送る。

 

 

 

「手札を全て捨て効果発動、このカードは俺の引いたカードが魔法カードだった場合、その場で発動することが出来る」

 

 亮がカードをドローすると、そのカードを見せてきた。

 

「……俺の引いたのは……魔法カード、突然変異(メタモルフォーゼ)ッ!」

 

 

 

【突然変異】

通常魔法カード

自分フィールド上モンスター1体を生け贄に捧げる。

生け贄に捧げたモンスターのレベルと同じレベルの

融合モンスターを融合デッキから特殊召喚する。

 

 

 

「突然変異だって!?」

 

 亮のフィールドにいるモンスターは☆10のサイバー・エルタニンのみ。よって亮が生贄とするモンスターはサイバー・エルタニンということになる。そして亮のデッキに眠る☆10の融合モンスターといえば、考えられる選択肢は一つ。

 

「朋友の化身たるしもべよ! 今こそその魂を継ぎメタモルフォーゼしろッ! 降臨せよ我が魂! 我が誇り! フィールドを圧巻し、この俺に勝利の美酒を授けろ! サイバー・エンド・ドラゴンッッ!」

 

 

 

【サイバー・エンド・ドラゴン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力4000

守備力2800

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 

 サイバー・エルタニンがその姿を変異させ、瞬く間に姿をサイバー・エンド・ドラゴンへと変える。丸藤亮の切り札にして最強のモンスター、サイバー・エンド・ドラゴンへと。

 

「これが俺の勝利への道しるべだァ! サイバー・エンド・ドラゴンで混沌の黒魔術師に攻撃、エターナル・エヴォリューション・バーストッ!」

 

 丈の視界一杯に広がる破壊の極光。サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は三幻神の一角、オベリスクの巨神神と同等の4000だ。混沌の黒魔術師では太刀打ちできない。

 だが……

 

「一体で勝てないなら、二体の力を結束する」

 

「――――――――――なに?」

 

 初めて、このデュエルで初めて亮が心の底からの驚愕の表情を浮かべる。

 丈は腐れ縁の友人を信じていた。丸藤亮というデュエリストならば、自分のあらゆる戦術を上回ってくるだろうと信じ切っていた。だからこそ丈は自分のあらゆる戦術を上回ってくる丸藤亮を更に上回るため、ある一枚のカードを伏せていたのだ。

 

「これが俺の最後の切り札だ。罠カード発動、迎撃の盾!」

 

 

 

【迎撃の盾】

通常罠カード

自分フィールド上のモンスター1体を生贄にして発動する。フィールド上に存在するモンスター1体の攻撃力はエンドフェイズ時まで生贄にしたモンスターの守備力の数値分アップする。

 

 

 

「俺は冥王竜ヴァンダルギオンを生贄に、混沌の黒魔術師の攻撃力をアップさせる!」

 

 混沌の黒魔術師の攻撃力は2800。冥王竜ヴァンダルギオンの守備力は2500。その合計した数値は5300。

 そして丸藤亮のライフポイントは――――――1300だった。

 攻撃宣言は既にされている。取り消しはもう出来ない。亮のフィールドにサイバー・エンド・ドラゴン以外のカードはなく、手札も墓地もなにもかもが空っぽだった。

 悔しいような清々しいような、なんともいえない表情をすると、亮はフッと微笑み言う。

 

「丈。俺はデュエリストだ、サレンダーはしない。お前に送る言葉は一つだけだ。――――――――来い」

 

「ああ。亮、有難う。本当に楽しかった。最高のデュエルだった。混沌の黒魔術師でサイバー・エンド・ドラゴンを攻撃。冥王の呪文―ヘル・アルテマ―!」

 

 滅びの魔術がサイバー・エンド・ドラゴンを、丸藤亮の魂を包み込む。一度だけサイバー・エンド・ドラゴンは苦しそうに嘶くと、次にはどこか満足そうに薄らと消えていった。

 そしてサイバー・エンド・ドラゴンと混沌の黒魔術師の攻撃力の差分のダメージ、1300が丸藤亮のライフから削られる。

 

 

 丸藤亮 LP1300→0

 

 

「…………………………………え?」

 

 会場の誰かがうつろに漏らす。

 やがて一人また一人と、現状を飲み込み始めた。ライフポイントが0の無敗の帝王と、ライフポイントがたった100のみ残った無敵の魔王。

 勝者が誰なのかを、誰もが悟った時――――――I2カップの舞台であるドームが爆発した。

 

『うぉぉおぉォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!! ヴィクトリー!! ヴィクトリぃぃぃぃぃぃぃいぃぃいぃイイイいいいいいいいいいい!!!!』

 

 MCの絶叫とともに、観客の興奮の歓声がドームに轟く。

 

『長きにわたる死闘! 繰り広げられた激闘! 壮絶なる闘争! 第一回I2カップ!! 数多の強敵たちを打ち倒し見事初代チャンピオンに君臨したのは魔王ッ! 宍戸丈ぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおおおおおおおッッッ!!! なんというデュエルか! 凄い! 素晴らしい!! エクセレント・ダイナマイト・エヴォリューション!! 私は未だかつてこれほどまでに! これほどまでに魂が震えるデュエルを見た事がなかったぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!! うぉぉぉおぉぉぉおぉお!! 生きてて良かったぁあああああああああああああああああああ!!!』

 

 熱狂は終わる兆しが見えなかった。

 そして恐らくは今、世界で最も興奮という二文字が終結した場所の中心に立つ二人は、お互いに近付いて行き固く握手をした。

 見れば柵を乗り越え吹雪が駆け寄ってくるのが見える。

 やがて丈は――――観客より遅れて、自分が丸藤亮に勝ったのだと実感した。

 

 

 

              ┏━  宍戸丈

          ┏━┫

          ┃  └─  羽蛾

      ┏━┫

      ┃  │  ┌─  本田

      ┃  └━┫

      ┃      ┗━  マナ

  ┏━┫

  ┃  │      ┌─  三沢

  ┃  │  ┌━┫

  ┃  │  │  ┗━  御伽

  ┃  └━┫

  ┃      ┃  ┏━  レベッカ

  ┃      ┗━┫

  ┃          └─  トム

━┫

  │          ┌─  牛尾

  │      ┌━┫

  │      │  ┗━  不動

  │  ┌━┫

  │  │  ┃  ┏━  天上院

  │  │  ┗━┫

  │  │      └─  竜崎

  └━┫

      ┃      ┌─  骨塚

      ┃  ┌━┫

      ┃  │  ┗━  十六夜

      ┗━┫

          ┃  ┏━  丸藤亮

          ┗━┫

              └─  猪爪誠



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第51話  サティスファクション

第51話  サティスファクション

 

 

 

 

「ふぅん、宍戸丈か」

 

 デュエルモンスターズ界においてはI2社に次ぐほどの権威をもつ企業、海馬コーポレーションの社長である青年。海馬瀬人はロシアでの会議の合間に、日本で開催されたデュエル大会の実況中継を見ていた。

 デュエルモンスターズを生み出した大本であるインダストリアル・イリュージョン社とデュエルディスクを開発した海馬コーポレーションの縁は深い。実は嘗てペガサスが開催したデュエリスト王国では海馬の弟である木馬を巡って、簡単には言いつくせないほどの事があったのだが、今は海馬も過去のことと水に流している。

 憎しみだけでは、憎悪だけでは勝てない。

 彼はそのことを永劫忘れ得ることのできぬ好敵手とのデュエルを通じて学んでいた。ペガサスを憎むのは容易い。しかしペガサスを憎んでI2社と敵対して、一体どんなメリットがあるというのか。個人的感情を抜きにして考えれば、海馬コーポレーションにとってI2社というのは倒すべき敵ではなく、寧ろ肩を並べるべき相手だ。ならば海馬コーポレーション総帥である海馬がすべきことは、ペガサスへの個人的恨みを叩きつけるのではなく、ペガサスの自分に対する負い目を最大限利用して自社の利益にすることである。

 そんなペガサスが今度は日本で中々に規模のデカいデュエル大会を開催するというのが耳に入ったのはつい数か月前のことだ。I2社の本社があるアメリカは兎も角、日本においてはI2社よりも海馬コーポレーションの方が力が強い。そのため幾らデュエルモンスターズの生みの親であったとしても、日本で大会を開く以上、海馬コーポレーションに一度話を通さなければいけないのだ。ペガサスの方はどうやら社長である海馬にも大会に出場して欲しかったようだが、海馬には絶対に外せない会議があったので出資者として名を連ねることを確約してから『丁重』に断った。

 インダストリアル・イリュージョン・カップ。略してI2カップ。

 世界各地の名だたるデュエリストを招いての一大デュエル大会。そこに自分がオーナーを務めるデュエルアカデミア、しかも中等部から三人もの生徒が参加すると聞いた時は流石に海馬瀬人をもってしても流石に驚いた。

 情報によるとその三人は中等部の中でも最優秀、特待生に類する生徒であり成績も非常に優秀ということらしい。しかしそれは中学生レベルでの話である。確かにデュエリスト養成名門校であるデュエルアカデミア中等部で特待生とくれば同年代相手なら負けなしだろう。だが中学生レベルで世界レベルに勝てる筈もない。

 I2カップに参加するのは元日本チャンプ、元全米チャンプなど。名だたる物が勢ぞろいしている。ランキングトップ3に入るプロでも一勝あげるのが難しいような大会、それを中学生が勝ちぬけるものかと思っていた。

 その予想は良い意味で覆せる。

 I2カップに参加した三人は次々に対戦者を撃破。仕舞いにはベスト4のうち三人が中学生という前代未聞の事態まで引き起こしてしまった。

 最終的に優勝したのは宍戸丈という少年。こんな結果は誰も予想しなかったであろう。いや或いはこの大会を開催した張本人であるペガサスはもしかしたら。

 海馬はTV画面で勝利の余韻に震える少年をニヤリと見ながらフッと笑った。

 

「先ずは褒めてやろう。だが貴様のデュエル道は未だ始まったばかり。一度大会で優勝するくらいなら、どこぞの凡骨デュエリストにでも出来る。もしも貴様が違うというのなら上がってくる事だ」

 

 やや棘があるものの、それは紛れもない賞賛の言葉だった。

 プライドが高い孤高の男、海馬瀬人が他者を褒めるというのは滅多にない。その滅多にない賞賛を引き出したことは、TVの向こうで無邪気に笑う宍戸丈にとって幸運なのか不幸なのか。

 それを知る者は誰もいなかった。

 

 

 

 

「凄ぇ」

 

 自宅のTVの前で、少年は呆然と呟いた。ただ凄い。それ以外に上手い言葉が見つからない。生粋のデュエル馬鹿である彼は今までプロのデュエルは山ほど見てきたが、このI2カップはなにもかもが別格だった。

 次々に召喚される最上級モンスター。それを次々と最上級モンスターを召喚して撃破していく対戦者。そしてなによりぶつかり合う魂。

 見ているだけで胸が熱くなり、自宅観戦だというのに声をあげて応援してしまった。

 

(ホントに凄ぇ! 俺もああやってあんな場所でデュエルしてみてぇ!)

 

 想像してみる。I2カップのような規模の大きいデュエル大会に出場する自分。立ち塞がる強敵。繰り広げられる熱いデュエル。

 そして決勝戦。顔のない好敵手が少年の中にイメージされる。

 

『ここまで勝ち上がって来た事は褒めてやろう。だが優勝するのはこの俺だ! お前では俺に勝てない』

 

『へへへへっ。それはどうかな。デュエルっていうのは最後の最後、敗北が決まるまで勝負は分からないものだろ。俺の仲間たちの力、お前にも見せてやるぜ!』

 

 会場中から降り注ぐ歓声と熱狂。世界の中心のようなその場所で強敵とデュエルする自分。

 

「くぅー! 滅茶苦茶楽しそうじゃんか! やりてぇー! デュエルしてぇー! ああもうこうしちゃいられねえ!」

 

 思い立ったが吉日。少年は自分のデッキをデュエルディスクに装着する。この時間ならまだ公園には人がいるだろう。そこでデュエルディスクをつけている人に声を掛ければデュエルできるはずだ。

 

(そういや、デュエルアカデミアの生徒とかいったよな……決勝で戦ってた二人)

 

 記憶が正しければデュエルアカデミアというのは海馬コーポレーションがオーナーを務めるデュエリスト養成の名門校であったはずだ。

 もしもあそこに入れば、今まで戦った事のないような強いデュエリストと戦うことが出来るのだろうか。

 少年は最後にTVの向こうにいる優勝者に、右手の指を二本だけ立ててバシッと指さす。

 

「ガッチャ! 俺は見てただけだけど楽しいデュエルだったぜ!」

 

 少年――――遊城十代は使い古されたデュエルディスクを装着して公園に行く。

 彼はまだ知らない。自分がこれから様々な強敵と命懸けのデュエルを繰り広げることになることを。未来において伝説のHERO使いとまで称された遊城十代はこの時まだ中学一年生であった。

 

 

 

 

 つい先ほどまでデュエルが繰り広げられた会場は、一転して表彰式の場となっていた。その真ん中にある表彰台の上で優勝者である丈は、気恥ずかしさでほんのり赤面しながら、こちらに向いているカメラにむけて精一杯の笑顔を浮かべてみせた。

 

(俺……勝ったんだよな)

 

 丈は心の中で自問する。

 こうして表彰台の上にたっていながら、未だに自分がここでこうしていることが信じられない。出来の良い夢なのではないかと、一瞬そう思うことすらある。しかし抓った頬の痛みがこれが紛れもないリアルであることを教えてくれていた。

 

『熱いデュエルを、そして感動をありがとうッッ! 参加したデュエリストの諸君ッ! 私は今、猛烈に感動しているーッ! 三位、天上院吹雪! 二位、丸藤亮。そして栄えある第一回I2カップの優勝者は魔王宍戸丈ォ!!』

 

 吹雪と同じでベスト4になったレベッカの姿はここにはない。なんでも優勝カップ以外に興味はないと言って、丈に負けるや否やアメリカに帰国してしまったらしい。そのため決勝戦の前に予定されていた三位決定戦は中止。吹雪が三位になることとなった。これには本人も少しばかり不満そうで「出来ればあの子とデュエルしてみたかった」と漏らしていた。

 一応丈から紆余曲折あってメルアドを交換していたレベッカにその旨を伝えておいたのだが、大学の研究を無理いって休んでの来日だったため、冗談抜きで時間がないようだった。天才も天才で色々と大変なのだろう。

 

『それではインダストリアル・イリュージョン社名誉会長! ペガサス・J・クロフォードから優勝者に優勝カップが手渡されます!』

 

 長い銀髪の青年、ペガサスが柔和な笑みを浮かべながら黄金色に輝く優勝カップを丈に差し出してくる。丈はしっかりとそのカップを受け取った。ずっしりとくる重さが腕と心に響く。これが優勝の重みなのかと実感した。

 

「素晴らしいデュエルでした。ベリーベリーマッチ。私もまるで童心に帰った様にハラハラと観戦していましたよ。宍戸ボーイ、そして丸藤ボーイや吹雪ボーイも。君達三人のこれからに期待しマース」

 

 ペガサスが左手をすっと差し出してくる

 

「有難うございます、ペガサス会長」

 

 丈はがっしりとその手を握り返す。

 強くは握られなかったが、力強い手だ。この手で一体どれほどのデュエルモンスターズのカードを生み出してきたのだろうか、この人は。そして、どれだけの夢を人々の与えてきたのだろうか。デュエリストとしてではなく人間として、ペガサス・J・クロフォードという人間を凄いと思った。

 

「大会規定通りI2カップ優勝者には賞金500万円と大会オリジナルパック300パックを贈呈しマース。二位の丸藤ボーイには賞金100万円と100パック。吹雪ボーイには賞金30万円と50パック。残念ながらここにはいませんが、四位のレベッカガールには賞金1万円と9パックをプレゼントデース! 大会オリジナルパックの中にはまだ一般には出回っていないカードが一足……いえ三足くらい早く入ってマース! それらのカードを使ってよりエキサイティングなデュエルをレッツプレイデース!」

 

 そういえば丈はすっかり賞金の事を忘れていた。

 500万円と大会オリジナルパック300パック。余り裕福とはいえない学生の身からしたら有り難すぎる賞品だ。I2カップに参加して本当に良かった。

 そんな丈を見て亮が苦笑する。

 

「なんだよ?」

 

「いや。お前らしいと思ってな。それよりまだ出回っていないカードか。パックの封を切るのが楽しみだ」

 

 出回っていない=強力なカードということはないだろうが、それでも珍しいカードというのは間違いないだろう。丈も亮と同じで一体どんなカードが入っているのか楽しみでならなかった。

 

「それと最後に私から優勝者である宍戸ボーイにサプライズプレゼントデース。チラシの優勝賞金の欄に一つだけ???とあったのを覚えているでしょうか。そのシークレットを今こそ明かします。私から宍戸ボーイにプレゼントするカードはこれデース!」

 

 会場中の観客やカメラにも見えるようペガサスがそのカードを頭上に翳す。ライトに照らされてそのカードの絵柄が丈の視界に飛び込んでくる。

 全体的に青を基調とした甲冑。やや歪に曲がった剣。 

 そのカードの名を丈は知っていた。この世界において、そして前の世界においても超が三つはつくレアカードであったそれ。

 

「か、カオス・ソルジャー -開闢の使者-」

 

 恐る恐る呟く。

 テキストは英語で記されているが間違いない。それはデュエルモンスターズ界でも最強と名高き剣士。カオス・ソルジャーであった。

 

「Yes! 余りにも強すぎる性能だったためブルーアイズと同じく4枚しか生産されなかったベリー・ウルトラ・レアカードです。いえ正確なレアリティはアルティメットレアですが。私も持っている事を実際に確認できたのは遊戯ボーイともう一人だけデース。そして準優勝者の丸藤ボーイにはカオス・ソルジャーと対を為す混沌帝龍 -終焉の使者-をプレゼントでーす。こちらは既に禁止カード指定されているので友人との私的なデュエル以外では使わないで下さい。そして吹雪ボーイにはカオス・ソーサラーです」

 

 丈達にペガサスが一枚づつカオスモンスターを手渡してくる。しかし最高の喜びと共にカードを受け取った丈と違い、禁止カードやそれほど高価でもないカードを受け取った亮と吹雪は難しい顔をしていた。

 

「…………ん?」

 

 ふと受け取った開闢の使者の裏にメモのようなものが張り付けられているのを見つける。どうやらそれは吹雪や亮も同じようで、驚きから目をぱちくりしていた。

 確認をとるためにペガサスの顔を見ると、彼は片方の目をぱちっとウィンクしただけだった。ここでは答える気はないと言う意思表示だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――大祭が終わり、大災が開闢する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、俺達の満足はこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continued……



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第三章 ネオ・グールズ編
第52話  邪神イレイザー


 渡されたペガサスのメモには大会終了後、大会実行委員特別VIPルームに来て欲しいという旨が記されていた。

 特徴的な口調で書かれたそのメモは恐らくペガサス会長直筆のものだろう。

 丈も亮達もどうしてペガサス会長が自分達を呼んでいるかは検討はつかなかったが相手はデュエルモンスターズ界のドンだ。ペガサス会長と実際に話す機会だって今後もあるかどうか分からないのだ。

 半信半疑ながらメモに従うことにした。

 

「失礼します。宍戸丈とその他二人入ります」

 

「誰がその他だ」

 

「僕をその他扱いなんて酷いねぇ」

 

 二人の文句をさらりと受け流しつつVIPルームに入室した。

 VIPルームというのは伊達ではなく部屋の内装は非常に良いものだった。特に豪華というわけではないが、ひっそり飾られた花の一つをとってもどことなく気品のようなものが漂っている。

 窓際には本人の趣味を現しているかのようにアメコミヒーローのフィギアが飾られていた。もしこれが海馬社長の部屋だったならばブルーアイズの石造でも飾られていただろう。

 

「ようこそ宍戸ボーイ、丸藤ボーイ、吹雪ボーイ。わざわざ来て貰ってベリーソーリー。表彰式でも言いましたがエキサイティングなデュエルをどーもデース」

 

「いえいえ。こちらこそ、こうしてペガサス会長に呼ばれるなんて光栄です」

 

 一番他人とのコミニュケーションの匠な吹雪がにこやかにそう返しつつペガサス会長と握手をする。丈たちも慌ててそれに倣った。

 丈にしろ亮にしろデュエルばっかでこういった方面では吹雪には及ばないことを痛感する。流石はデュエルアカデミア中等部が誇る合コンのエースだ。

 

「ペガサス会長。どうして俺達をここに呼んだのか教えてくれませんか。閉会式の最中には出来ない様な話のようですし」

 

 丁寧に亮が質問した。

 ペガサスの顔が強張る。先程まであった陽気なキャラは消え失せ、嘗て千年アイテムを担いデュエルモンスターズを生み出したデュエリストの表情を覗かせた。

 三人は息をのむ。どれだけ普段は陽気でコミカルな人間でいようとペガサス・J・クロフォードは間違いなく伝説のデュエリストの一人なのだ。

 カードそのものを創造した彼のデュエリストとしての器は確実に三人より高みにあるだろう。

 

「三人とも。……私がこれからするのは今後の世界を左右しかねない話デース。なのでユー達には『聞かない』という選択肢を選ぶ権利があります。無論、話を聞いたからといって選択を強制はしません。が、話を聞いたその時から『運命』というブラックホールは貴方達の運命をも飲みこむ……そういう覚悟をもって下さい」

 

 つばを飲み込む。片方だけのペガサスの瞳は至って真剣そのものだ。世界を左右する。彼がこう言うのだ。決して嘘でもジョークでもないだろう。

 唾を飲み込む。恐れがないといえば嘘になるだろう。だが、

 

「聞かせて下さい」

 

 三人を代表して亮が真っ直ぐに目を見返していった。ペガサスはふっと微笑むとソファに座るよう三人を促す。

 

「念のための確認デース。ユー達は神のカードというのはご存知ですね?」

 

「はい。当然です」

 

「デュエリストとしての常識ですよ」

 

「テストにも出ました」

 

 古代エジプトで選ばれたファラオのみが操るとされる三体の神。デュエルモンスターズの神そのものというべきモンスター、それが三幻神だ。

 神のカードはラーの翼神竜を最高神にその後にオシリスの天空竜とオベリスクの巨神兵が続く形だ。デュエルアカデミア高等部の寮にも三幻神の名が充てられており、トップ寮から順にオベリスク・ブルー、ラー・イエロー、オシリス・レッドとなっている。

 最高神のラーよりオベリスクの方が上の寮に設定されているのは、デュエルアカデミアオーナーの海馬社長が使役した神のカードがオベリスクだからだろう。相変わらず自分のカードを依怙贔屓する人だ。

 その力は正に神そのもの。通常のモンスターとは一線を画す最強のカードだ。

 現在の所有者はデュエルキングである武藤遊戯。現在武藤遊戯は旅に出ているそうなのでここ数年で神のカードの実物を見た人はいないという話だ。ただ丈は前世での記憶と亮から貸して貰ったDVDで神のカードがデュエルで使われる光景を見た事がある。

 ちなみに余談だが現実世界では何故かラーのみOCG化されていない。え? とっくにされてる? いやあれはラーじゃなくてオーですから。ライフちゅうちゅうギガントですから。

 

「OK。ユーたちも知っての通り三幻神はゲームバランスを崩壊させかねないほどの強力なカード。また所有者を選び、相応しくない者が使役しようとすれば天罰を下すと言われていマース」

 

「カードが天罰を?」

 

 やや信じ難そうに吹雪が眉をひそめる。

 大切にしているカードに精霊が宿る、というのはデュエリストなら誰もが知るお伽噺だ。だからというわけではないが吹雪も亮もカードのことはなによりも大切にしている。もしかしたら自分以上に。

 そんな二人でもカードが天罰を下すなどというのは信じ難いのだろう。

 だが亮はふっとなにかを思い出したかのように目を見開くと。

 

「……そういえば、鮫島師範から聞いた事があります。デュエルモンスターズ界には強力な魔力を秘めたカードが存在すると」

 

「Yes。インダストリアル・イリュージョン社会長として、デュエルモンスターズを生み出した者として断言しましょう。そういうカードは実在しマース。そして神のカードはそういったカードの中でも頂点に位置するカードです。

 私が今日皆さんをここへ呼んだのは神のカードにまつわることで、重大なアクシデントが発生したからなのデース」

 

「アクシデント?」

 

 神のカードを管理しているのは他ならぬ武藤遊戯だ。この世界でも史上最強とすらいっていいデュエリストである。

 そんなデュエリストが管理している神のカードに問題など発生するのだろうか。

 

「三枚の神のカードは謂わば光の存在。しかし光があれば影が出来るもの。嘗て私はこの世に神のカードを生み出しましたが、その余りの強力さに恐怖し、神のカードに対抗するため神に対応した闇の神を新たに創造したのデース。

 我ながら愚かなものデース。力に対して力で抑えようとしても意味のないことだというのに。私はなにかに憑りつかれたかのように三幻神に対する闇の神、三邪神を創ろうとした」

 

「創ろうとした? というと実際には創らなかったと」

 

 静かに尋ねる亮だが三幻神に匹敵する『三邪神』の存在などを聞かされ汗が滲んでいた。

 

「はい。創る途中で三幻神をも超える禍々しさをもった神の誕生に恐怖し、私は三邪神の創造を取りやめ。邪神のイメージは私の邸宅にある金庫に封印したのデース。もはや二度と日の下に出ることがないよう。

 しかしその封印が破られてしまったのデース。新しいリーダーのもと新たに再結集し復活したネオ・グールズによって」

 

「っ!?」

 

 今度こそ驚愕する。ネオ・グールズ、それは丈たちが大会参加前に戦った事もある組織だ。そして武藤遊戯などの活躍により滅んだはずのデュエルマフィア。

 レアカードの強奪、偽装、コピー、賞金稼ぎ、闇デュエルの主催。全盛期はそれらデュエルモンスターズ界のあらゆる悪行に影で関わっていたという。

 

「ネオ・グールズは私の邸宅から強奪した邪神のデータを使い、インダストリアル・イリュージョン社の社員を脅して三邪神を創造させてしまったのデース。

 幸い追跡の最中一枚だけ……邪神イレイザーのカードだけは奪還することができましたが、残り二枚はネオ・グールズの手に」

 

「三枚中二枚がグールズって」

 

 奇しくもその構図はバトルシティトーナメントと同じだ。あの時も最初にグールズは二枚のカードをもっていて、残る一枚のオベリスクが海馬瀬人の手にあった。

 そうして戦いの中、神のカードは持ち主をかえながら武藤遊戯――――名もなきファラオのもとに集まったのである。

 

「お見せしましょう、これが邪神イレイザーのカードデース」

 

 ペガサスが銀色のスーツケースをもってくる。厳重そうなロックとなにか良からぬ力を感じる鎖で封印が施されていた。

 鍵を回しスーツケースを開くと納められていたのは英語でかかれた邪神のカード。

 

「私がこうしてI2カップを開催した真の目的をお話ししましょう。邪神は生み出すべきではなかったカード。しかし生まれてしまったのならば相応しいデュエリストが担わなければなりません。

 最初、私は残った一枚の邪神を遊戯ボーイに渡そうとしました。しかし遊戯ボーイは連絡がつかず、海馬ボーイは取り合って貰えませんでした。

 しかしある意味でそれは必然だったのデース。カードとデュエリストは互いに惹かれあうもの。邪神を担うべきは嘗ての伝説ではなく、今羽ばたこうとするデュエリストではないか。邪神を見た私はそう思ったのデース。

 ユーたちもお気づきでしょう。あの大会にはレベッカガールや羽蛾ボーイなど以前にチャンピオンにまでなったデュエリストと、デュエリストとしてそれほど有名ではないながら実力があるルーキーの二パターンが参加していたことを。それは未来に躍進しようとする次世代を担うデュエリストを探すためだったのデース」

 

「俺達が次世代を担うデュエリスト……?」

 

 三人して顔を見合わせる。確かに丈たち三人はデュエルアカデミアにおいて頂点に君臨している。

 成績だって常に上位三人は動かずこの三人だ。しかしそれはあくまでデュエルアカデミアの中での話。

 デュエルアカデミアでの頂点を世界の頂点と混同するほど馬鹿ではない。

 

「その決断はベリーグッド。大正解でした。私は感じました。封印されている邪神イレイザーが大会でのデュエル中に脈動していた鼓動を。邪神は自分を担うべきデュエリストの存在を感じ喜びを抱いていたのデース。

 分かりますか? ユーのことですよ、宍戸ボーイ」

 

「お、俺ですか!? け、けどペガサス会長。俺は今回の大会では優勝しました。そのことは事実ですしその通りです。ですがこれまでの勝率なら亮の方が俺よりも……」

 

「単純な勝ち負けだけではないのデース。では丸藤ボーイ、吹雪ボーイ。仮に貴方達二人が邪神イレイザーを手にしたとして、それを十全に扱えると断言できますか?」

 

「難しいでしょう。俺のデッキはサイバードラゴンを軸とした融合召喚をメインとしたデッキ。三体の生贄を必要とする神のカードを入れるとなればデッキの再構築が必要となる」

 

「僕も亮と似たようなものですね。僕も丈と同じで最上級モンスターはかなり召喚するデッキですけど、それはレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを中心とした特殊召喚を多用するデッキ。三体の生贄を用意するのは中々難しいですね」

 

 亮と吹雪が測ったように邪神を満足に扱えないと理由つきで説明した。

 これが単なる否定であれば丈もその穴をつけたのだが、なまじ合理的な理由故に否定ができない。

 

「アンダースタンド? 宍戸ボーイ。二人のデッキとユーのデッキは違いマース。ユーのデッキは素早く生贄を確保し最上級モンスターを次々と召喚することに特化したデッキデース。

 邪神の力を最大限発揮するとしたら丸藤ボーイでも吹雪ボーイでもなく、貴方のデッキがイッツァナンバーワンなのデース」

 

「し、しかし」

 

「根拠はそれだけではありまセーン。ユーの使う神獣王バルバロス、神禽王アレクトール、この二枚の従属神カードは邪神とセットで活用する事を念頭に私が同時期に開発したカードたちなのデース。実際ユーは三体の生贄で初めてその真価を発揮するバルバロスを難なく使いこなしていました。

 デュエリストとカードは惹かれあう。それは先程言った通り。邪神は宍戸丈、貴方を担い手に選んだ。貴方は知らず知らずのうちに、運命に導かれるように邪神を運用するに最も適したデッキを作っていたのデース」

 

 思わず丈はケースに収められた自分のデッキを凝視してしまう。自分が邪神の担い手であるなど信じられたことではないが……自分のデッキなら三体の生贄を必要とする邪神を問題なく扱うことができるだろう。

 なにせ丈のデッキは元々最上級モンスターを通常召喚することに特化されているのだから。それこそ運が良ければ一ターンで生贄を確保して邪神を召喚することだって出来る。

 

「百聞は一見にしかずという諺がこのジャパンにはあるそうですね。それに倣いましょう。宍戸ボーイ、この邪神イレイザーのカードに触れるのデース。そうすればおのずと答えは出るでしょう」

 

 差し出される邪神イレイザー。

 自分が邪神を使えるなどは疑問しかない。だがこれ以上の問答よりも触れてみる方が確実だ。覚悟を決めて丈は邪神に触れようとする。

 だがそれを邪魔するように突如として部屋の壁が爆破した。

 

「ホワッツ!? これはなんなのですか!」

 

 ペガサスの声に答えるかのように巨大なバイクが部屋に突入してきた。バイクに乗っているのは大柄な黒いフードを被った男。

 フードには千年アイテムと同じ目のマークが描かれている。ネオ・グールズだ。

 

「ふんっ! ヒャッハー! 邪神は頂いていくぜーッ!」

 

 男は邪神イレイザーのカードを引っ手繰ると、そのままバイクで逃走してしまった。

 後には突然のことに反応できない四人が残された。

 




 ある意味、一年ぶりくらいの最新話です。


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第53話  加速する決闘

 いきなりの襲撃に全員が硬直する。壁が爆破され、そこに空いた穴からバイクで乗り込んできたグールズと思わしき男が『邪神イレイザー』を奪っていった。

 その事実を認識するのに一拍遅れる。

 

「ペガサス会長!」

 

 一番早く立ち直ったのは意外にも吹雪だった。爆発の余波を受けたのだろう。頭から血を流し倒れているペガサス会長に駆け寄った。

 丈たちも駆け寄ろうとするが、

 

「……私は……大丈夫デス。それよりも……早く邪神を……。あのカードまでグールズの手に渡れば、この世界は暗黒に包まれてしまいます」

 

「しかし!」

 

「行くのデース! 三人とも!」

 

 強い口調で一括され丈たちの心は決まった。これだけの大騒ぎだ。直ぐに誰かが駆けつけてくるだろう。ペガサス会長は心配だが任せるしかない。

 

「追うぞ!」

 

 一番足の速い亮が先導きって走り出す。丈もそれに続いた。

 相手はバイクである。走ったところで追いつけるとは思えないが、ただじっと待つよりこうして追い掛けたら万が一にも追い付ける可能性はある。じっとしていればその万が一すらないのだ。

 

「吹雪ボーイ、これを」

 

「会長?」

 

 吹雪も二人を追おうとしたところでペガサスから一枚のカードを渡された。

 ペガサスは口元を微かに綻ばせると静かに目を閉じる。命に別状はない。気を失っただけだ。苦しそうに吹雪は努めてペガサスから目を背けると二人に続いた。

 邪神イレイザーを奪ったグールズはバイクを巧みに操り廊下を滑るように疾走している。

 学年主席だからというわけではないが丈たち三人の運動神経は高い。50m速をすれば陸上部から誘いがくるような成績を叩きだす事もできる。しかしそれはあくまで人間レベルでの速さだ。相手がバイクでは追い付けはしない。

 三人の視界からバイクが消えるのにはそう時間はかからなかった。

 

「くそっ! やっぱり駄目か……。もう警察に連絡するしか」

 

 ケータイを取り出そうとする丈だがそこで思い出す。ケータイ電話をロッカールームに置いてきたままだった。

 デュエル中に携帯電話を使用するのはマナー違反だとアカデミアで習っていたのが仇になったらしい。

 

「諦めるのは早いぞ。窓から飛び降りて先回りだ!」

 

「え?」

 

「行くぞ」

 

 きょとんとする丈をおいて亮はさっさと窓のロックを外す。

 

「ま、待て! ここは四階なんだぞ!」

 

「関係ない」

 

 そう言うと亮はまるで恐れる様子もなく窓に足をかけて飛び降りてしまった。

 傍から見れば投身自殺にも受け取られかねない光景に唖然としてしまう。

 

「丈、僕達も急ごう」

 

「え、ちょっと吹雪?」

 

 亮だけではなかった。吹雪も平然とこの事態を受け流すと亮と同じように足を掛けると窓から飛び降りた。

 こうなるともう丈としても自棄である。

 

「ああもうっ! 飛び降りればいいんだろう飛び降りれば! こんなことならレッドブル飲んどけば良かったよ!」

 

 気合に身を任せて窓から飛び降りた。

 室内から一転、体が赤く染まった空と夕焼けに晒される。夕日の出た空は赤い海のように美しかった。世界がこんなにも素敵なものだったのだと丈はこの年になって漸く知る。

 これまでの人生が走馬灯のように脳裏を過ぎった。

 

「あぐっ!」

 

 そして足に響く衝撃。気付けば丈は今いた建物から地面にしっかりと着地していた。

 

「……意外になんとかなるもんなんだな」

 

 走馬灯をみて損した。人間(デュエリスト)というのは自分の思ってた以上に頑丈だったらしい。

 四階から飛び降りたというのに足がしびれるだけで怪我一つしていなかった。

 

「遅いぞ丈! 早くするんだ!」

 

「え、ああ悪い」

 

 そう言っている間に建物から飛び出したグールズのバイクが走り去っていった。先回りして追い詰める作戦は失敗してしまったらしい。

 悔しそうに歯噛みした亮の視線が今度は駐車場に停められている『ある物』に釘づけとなった。

 

「サイドカー付きのバイク、あれならば。吹雪、丈! あれに乗ろう!」

 

「名案だね。……あっ。だけど鍵はどうするんだい? 鍵がなければエンジンをかけれないよ」

 

 至極真っ当な疑問をぶつける吹雪。だが丈には『鍵』という単語に対して天啓のように閃くことがあった。

 

「キーの差し込み口のところを壊して、そこに指つっこんで捻じればエンジンがつくなんてことをGTOの漫画で見た事があるぜ!」

 

「それだ!」

 

 亮に迷いはなかった。キーの差し込み口に手刀を叩き込むと一撃で粉砕し、壊れた鍵穴に指を捻じ込むとバイクがぶるぶるとエンジン音を鳴らし始めた。

 漫画の知識が思わぬところで役に立った瞬間だった。 

 

「良し。エンジンがかかった。二人とも乗るんだ」

 

 亮がバイクに乗るとハンドルを握る。

 ここまできたら止めるわけにはいかない。勢いに任せて丈はサイドカーに吹雪は亮の後ろに乗った。

 二人がのったことを確認すると、亮はバイクを走らせた。車とは違う独特の疾走感とスピードと共にバイクが地面を滑っていく。

 

「お、俺のバイクが~!」

 

 背後で牛尾さんが悲痛な叫びをあげていたが幸いにも丈たちはそれに気づくことはなかった。

 

「いいのかな……こんなことして……」

 

 今更になって丈はやってることのハチャメチャさに身震いする。四階から飛び降りて奪ったバイクで走りだすなど最近の不良だってやらないだろう。

 

「緊急事態だ。他人のカードを奪うような男を一人のデュエリストとして見過ごすことはできん」

 

「僕達はバイク泥棒なんだけどね」

 

 吹雪の冷静なツッコミが入る。

 

「緊急事態だと言っただろう。当然、事が済めば後で帰す。謝罪だってしよう」

 

 表情一つ変えずにクールに言い放った。……正直、丈が女ならこのセリフにときめいたかもしれない。

 しかし言動はクールだが実際にやっている行動を鑑みれば亮の中には熱い心がくすぶっているのだろう。長い付き合いだ。それくらいは分かる。

 

「にしても助かったよ。亮がバイクの運転免許もっててくれて。俺はバイクの運転なんてしたことないから」

 

「丈。何言ってるんだ? バイクの免許がとれるのは十六歳からだぞ。まだ十五歳の俺が免許なんて持ってる訳ないだろう」

 

 さも常識を語るように亮は堂々と言い放った。亮は平然としているが丈たち二人の額からは冷や汗が滲んだ。

 

「え、えーと。じゃあ亮って素人?」

 

「心配するな。俺はサイバー流に入門する前にスカルライダーを使った事がある」

 

「おいこら! 現実とカードをごっちゃんにするな! 止まれ! 早く止まれ!」

 

「すまん。どうやってブレーキをかけるんだ?」

 

「おいぃぃぃいいい!!」

 

 ちなみにスカルライダーというのは星6効果なしの儀式モンスターだ。

 ライダーというネーミングの通りバイクにのった骸骨のモンスターでアメコミのゴーストライダーがモチーフになっていると言われている。

 言うまでもないがスカルライダーをデュエルで使用しても実際にバイクの運転ができるようになるわけではない。

 

「落ち着くんだ丈。それにもう追い付いたぞ」

 

「へ?」

 

 そう言われて気付く。丈たちの乗り込んだバイクは並列するようにグールズのバイクと並んでいた。

 グールズの顔はローブのせいで上手く見ることはできないが、やはり体型などから察するに男性なのは間違いないようだ。

 

「ちっ! 追ってきやがったのか餓鬼どもッ!」

 

「もう逃げられないぞ。大人しく邪神のカードを返すんだ!」

 

 亮が説得を試みるがグールズの男は応じる様子はない。逆に挑発するような笑みを浮かべて見せた。

 

「ハッ! ちっとばっかし大会で活躍して、ちょっとばっかし顔が良くて、ちょっとばかし女にモテて、ちょっとばかし学校の成績が良いからって調子にのってんじゃねえ! こっちはなぁ! 彼女なんて出来たことねえし大会じゃ四位どまりだし成績だってドべだったんだよぉぉ!」

 

「何の話だ!」

 

「だからデュエルだぁ! ヒャッハー!」

 

「……デュエルを挑まれたのなら、応じないわけにいかないな」

 

「応じなくていいからハンドルから手を離さないでくれぇ!」

 

 お互いにバイクが走行中だというのにデュエルディスクをセットするグールズと亮。走行中の一般自動車の隙間を縫いながら走るバイク。

 絶叫マシーンの百倍の絶叫の中に丈はいた。いつもはお気楽キャラの吹雪も今日ばかりは少し震えている。

 

「バイクで走りながらのデュエルだから……さながらライディングデュエルか。いくぞグールズ! ライディングデュエル! アクセラレーション!」

 

「本当に止まってくれぇぇええ! あとそれ時代が違う!」

 

 もはや叫びを通り越して怒鳴り声をあげるがデュエルモードに入った亮に説得は無意味だった。

 時代を先取りしまくってバイクにのってデュエルするという無茶苦茶を亮は実行する。

 

「安心しろ。1ターンもあれば十分だ」

 

「ヒャッハー! テメエはアホかぁ! 先行1ターン目ってのはな。攻撃できねぇんだよぉ! ンなことも知らねえのかインテリ様よぉ!」

 

「ふっ。ならお前に教えてやろう。敵を倒すのは攻撃だけじゃないということを。俺の先行! ドロー!」

 

 デッキからカードをドローする為、完全に両腕をハンドルから離す亮。運転手が運転を放棄したことでバイクがよろめく。

 

「危ないっ!」

 

 咄嗟に後ろに座る吹雪が両腕を伸ばしてハンドルを握る。

 吹雪のことをこれほどまでに心強いと思ったのは初めてだった。吹雪のファインプレーで持ち直したバイクはそのまま併走を続ける。

 

「行くぞ。俺は魔法カード、天使の施しを発動。デッキからカードを三枚ドローし二枚捨てる。俺は手札よりカードカー・Dと処刑人マキュラを捨てる。

 処刑人マキュラのモンスター効果発動。このカードが墓地に送られた時、俺はこのターン。手札から罠カードを発動することができる」

 

「手札から罠カードだと? インチキ効果もいい加減にしろ!」

 

「俺は手札より未来融合-フューチャー・フュージョンを発動! 自分の融合デッキの融合モンスター1体をお互いに確認し、決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、確認した融合モンスター1体を融合召喚扱いとして融合デッキから特殊召喚する!

 選択する融合モンスターはキメラテック・オーバー・ドラゴン! 俺はサイバー・ドラゴンと二十体の機械族モンスターを墓地へ送る!」

 

「はははははははっ! 口ほどにもねぇなぁ! なにがワンターンだ、ほざきやがって! 未来融合で融合モンスターが召喚されんのは2ターン後。今はお預けだぜぇ」

 

「ふっ。だからこうするのさ。俺は手札よりオーバー・ロード・フュージョンを発動! 墓地のサイバー・ドラゴンと二十体の機械族モンスターをゲームより除外! キメラテック・オーバー・ドラゴンを融合召喚するッ! 現れろキメラテック・オーバー・ドラゴンッ!」

 

 

【キメラテック・オーバー・ドラゴン】

闇属性 ☆9 機械族

攻撃力?

守備力?

「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが融合召喚に成功した時、

このカード以外の自分フィールド上のカードを全て墓地へ送る。

このカードの元々の攻撃力・守備力は、

このカードの融合素材としたモンスターの数×800ポイントになる。

このカードは融合素材としたモンスターの数だけ

相手モンスターを攻撃できる。

 

 

 大凡二十一もの首を生やした何処となく破壊的なオーラをもった機械龍がフィールドに現れた。

 キメラテック・オーバー・ドラゴン。I2カップでも亮が幾度となく召喚したモンスターである。

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は融合素材としたモンスターの数×800ポイントの数値となる。俺の融合素材としたモンスターは21体! よってその攻撃力は16800ポイントッ!」

 

「へんっ! 1ターンで攻撃力16800のモンスターを召喚したのは褒めてやる。だがな俺の手札には魔法カード『死者への手向け』がある。そいつは攻撃力ばっか高くて耐性がまるでねえ。俺の次のターンでテメエのご自慢のモンスターはおさらばだぜぇ!」

 

 意気揚々と宣言するグールズだが、丈の方はグールズほど楽観などはできない。

 1ターンで終わらせるという亮の宣言。そして最初に天使の施しによって墓地へと送られた処刑人マキュラ。亮はやる気だろう。

 

「言っただろう? このターンで決着をつけると! 俺は手札よりリミッター解除を発動! キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力を倍にする!」

 

「こ、攻撃力33600だとぉ!?」

 

「更に俺は手札より罠カード、破壊輪を発動! フィールド上のモンスター1体を破壊しお互いにその攻撃力分のダメージを受ける!」

 

「なっ! それじゃあテメエのライフまでゼロになるじゃねえか!?」

 

「それはどうかな。俺は破壊輪にチェーンしてカウンター罠、地獄の扉越し銃を発動! このカードはダメージを与える効果が発動した時に発動する事ができる。自分が受けるその効果ダメージを相手に与える!」

 

「ってことはテメエの受ける33600のダメージまで俺が受けることになるから…………67200だとぉぉぉぉぉおぉぉぉおぉぉおおお!?」

 

「さらばだ。人のカードを盗む罪の重さを全身全霊で贖え」

 

「ぎゃぁぁああああああああああああああああ!!」

 

 破壊輪に包まれたキメラテック・オーバー・ドラゴンがその身を一つの火薬へとかえて起爆する。

 ソリッドビジョンとは思えぬ轟音が響き渡った。空気が震える。衝撃の余波が風となって巻き起こった。だがグールズへの攻撃はそれだけに留まらない。亮をも破滅させるはずだった爆発のエネルギーは一つの拳銃へと装填される。

 33600ものエネルギーを装填した銃はグールズ目掛けてレーザーを放った。

 

「あべし!」

 

 心臓をレーザーで貫かれたグールズがバイクから転げ落ち転倒する。

 咄嗟に吹雪がブレーキを入れると、亮が暴走運転したバイクも急停止した。 



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第54話  ネオ・グールズの牙城

 交通事故の現場を目の当たりにするのは初めての事ではない。これまでの人生でも何度か丈は交通事故を目にすることがあった。ただ自分の乗っていたバイクが事故の原因になるのは初めての経験である。

 道路では67200、実に16度は死ねるオーバーキルを喰らったネオ・グールズのメンバーのバイクが転倒して転がっていた。

 転倒の原因は確実に亮のやらかしたオーバーキルだろう。ソリッドビジョンはどれだけリアリティがあっても所詮はただの立体映像。海馬コーポレーションの技術力で多少の痛みを感じるようにはなっているが、ソリッドビジョンが爆発を起こそうと実際に爆発するわけではない。それこそ闇のゲームでもなければ。

 ただソリッドビジョンの痛みというのはダメージに比例する。67200ものダメージだ。闇のゲームではないとはいえ衝撃は大きいだろう。バイクから転倒するには十分なほどに。

 

「……グールズの人、生きてるかな」

 

 グールズが逃走用に使ったバイクは完全にスクラップとなっていて、事故の規模の派手さを思わせる。

 

「亮。もしもの時は面会には行くから、安心してね。例え君が犯罪者になろうと僕達は友達さ」

 

 ポンと吹雪が亮の肩に手を置く。

 亮はパチパチと煙をあげるバイクを見ながら腕を組み口を開く。

 

「少しやり過ぎただろうか」

 

「大いにやり過ぎだよ!」

 

 義務として丈はツッコミを入れた。最近、丸藤亮という人間がクールなのか天然なのかデュエル脳なのか分からなくなってきた。或いはその全部を内包しているのかもしれない。

 しかしもしグールズが本当に死んでいたらどうすればいいのだろうか。

 無免許運転、暴走運転、ライディングデュエル。実刑になるのはほぼ確実だろう。運転したのもデュエルしたのも亮だが、こういう場合は自分も共犯者ということになるのだろうか。

 もしもの時はペガサス会長に泣きつくしかないかもしれない。

 しかし丈の心配とは裏腹にグールズの男は無事だった。 

 

「やって、くれやがったなテメエ……」

 

 盛大にバイクから転倒しながらもグールズはよろよろと立ちあがった。しかし流石に無傷では済まなかったようでローブのあちこちが破けている。

 そして剥がれたローブの奥にあった素顔はモヒカンという如何にもな世紀末スタイルだった。

 

「お前のバイクはあの様子だ。もう逃げられないぞ。大人しく邪神のカードを返すんだ」

 

 モヒカンには何もツッコまず亮がグールズを説得する。グールズの男は六万オーバーのダメージが効いているのか、多少の脅えをみせたものの、それでも意地なのかニヤリと笑ってみせた。

 

「クックククククッ。邪神を返す、だぁ? 笑わせんじゃねえ! たかがデュエルに勝ったくらいでいい気になってんじゃねえよ!」

 

 そういってモヒカンは懐からあるものを取り出した。

 思わず言葉を失う。グールズの男が取り出した黒いパイナップルのような形状のソレを、丈は何度か映画などで目にしたことがある。

 

「に、逃げるんだ亮! 手榴弾だ!」

 

「へんっ! 遅ぇんだよ!」

 

 モヒカンは信管を抜くと、三人目掛けて手榴弾を放り投げる。四階から着地できるだけの身体能力のある三人だが人間であることには変わりない。

 手榴弾の爆発なんてものを喰らえば体は木端微塵となり死ぬ。

 慌てて逃げようとするが、人間の足と物体を投げる速度では後者の方が上。間に合わない。

 自分は死ぬのだろうか。そんなイメージが過ぎった。

 

「二人はやらせないよ!」

 

「吹雪!?」

 

 しかし手榴弾が爆発する前に吹雪が手榴弾に覆いかぶさった。

 訊いた事がある。手榴弾が爆発する直前、人間が覆いかぶされば爆発の威力を減衰させることができると。だがそれは覆いかぶさった人間に絶対の『死』を約束する悪魔の数学に他ならない。

 

「や、やめろぉぉぉぉぉおぉぉおお!」

 

 こちらを振り返った吹雪が悲しそうに笑う。その笑顔には自分を犠牲にして二人を助けた事の嬉しさが、そして自分一人妹や友人を残して逝ってしまう寂しさがあった。

 手榴弾から離れようとしていた二人は一転して吹雪を連れ戻すために手榴弾に向かっていく。

 けれど無情にも手榴弾は破裂して。

 

「吹雪ぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 天まで震わす轟音と白い爆風が拡散した。

 衝撃は殆ど感じなかった。吹雪が自分達の盾となってくれたのだろう。しかし丈には吹雪に対する感謝など欠片もなかった。どうして一人で勝手に死んでしまったんだという怒りがある。

 こんなことなら三人一緒に手榴弾に吹き飛ばされた方がマシだった。

 

「……馬鹿、野郎。お前には妹がいるだろう。なんで逝ってしまったんだ」

 

 血が滲むほど拳を握りしめながら亮は震える唇で呟く。帝王(カイザー)とまで呼ばれたデュエリストの背中はいつになく小さく頼りないものに見えた。

 だがどれだけ吹雪に語りかけようと、もう彼から言葉が返ってくることはない。彼は死んだのだ。二人を守って。

 宍戸丈の心臓が脈打つ。そう自分も亮もまだ生きていた。この命は吹雪が与えてくれた命も同然である。ならばせめて、

 

「あいつは絶対に捕まえる。お前の為にも。行くぞ亮!」

 

「ああっ!」

 

 吹雪の犠牲を無駄にはしない。意を決して逃げたモヒカンを追おうと足を踏み出す。

 

「ごめんごめん。僕、生きてるよ」

 

「って、吹雪ぃぃぃいいいい!!」

 

 白い煙からむっと姿を現したのは手榴弾に覆いかぶさって二階級特進コースになったはずの吹雪だった。

 爆発で木端微塵どころか服が多少汚れているだけで傷一つなくピンピンしている。

 

「まさか幽霊なのか?」

 

「亮がそんな非科学的なことを言うのは意外だけど、僕はしっかり生きてるよ。ほら、足だってある。あははははははっ。悲劇のプリンスに成り損ねちゃったようだね」

 

「……悲劇のプリンスなんて、吹雪には似合わないよ」

 

 吹雪はお調子者でお気楽で、そして友人思いのデュエリスト。友達を守るために自分は死んでしまうヒーローなどではない。なって欲しくもない。

 

「丈の言う通りだ。お前には悲劇より喜劇の方がお似合いだ。勝手に死のうとなんてするんじゃない。肝が冷える」

 

「ごめん。でも、身体が勝手に動いちゃってね。亮へのリベンジマッチだってしてないし、あすりんを残すわけにもいかないから自分のことだけど本当に生きてて良かったよ。ところで、なんで僕生きてるんだろう?」

 

 そういえばそうだ。吹雪が生きていたというインパクトで忘れていたが、吹雪は手榴弾に覆いかぶさったのだ。

 鋼の肉体をもったサイボーグならまだしも、手榴弾を間近から受けては生きているはずがない。それに幾ら吹雪が覆いかぶさったにしても爆風がまるでなかったのは不自然だ。

 答えは直ぐに出た。

 

「ヒャッハー! まんまと引っ掛かりやがったな! 本物の手榴弾なわけねえだろうが! ありゃ単なる煙幕だよ! バーカバーカ!」

 

 あたふたする三人を馬鹿にしながらモヒカンは逃げていった。

 

「……………」

 

 三人は顔を見合わせ一瞬でアイコンタクトを済ます。

 

「逃がさない!!」

 

 ここまでコケにされて泣き寝入りはできない。全力でモヒカンを追った。

 モヒカンは三人が追ってくるのを確認すると、街角にある高層ビルに逃げ込んだ。

 

「あそこのビルに入ったぞ……!」

 

 丈はここぞとばかりに体力を振り絞って走る。モヒカンが逃げたビルは看板を見る限り警備会社のようだ。

 どういう意図でこのビルに逃げ込んだかは知らないが虎穴に入らずんば虎子を得ずともいう。

 三人は迷わずにビルの中に入った。それに反応してか入口のシャッターが下りた。

 

「閉じ込められた!?」

 

 亮がどんどんとシャッターを殴りつけるが、警備会社のシャッターだけあってびくともしない。かなり頑丈な造りになっているようだ。

 今は平日でまだ夕方だというのにビルの中には人気がまるでない。無言が延々と続く雰囲気は廃墟のそれだ。

 

「見失ったな。モヒカンはどこだ?」

 

 キョロキョロと辺りを見渡すがやはりモヒカンの姿はない。

 このままでは埒が明かないので、これからどうしようか、丈が提案しようとしたその時だった。軽快な音と共にエレベーターが自動で降りてきて開く。

 

「……シャッターが閉まったことといい、このエレベーターといい誘ってるみたいだね」

 

 これまで得た情報から吹雪がそう推理する。

 確かにただ適当なビルに逃げ込んだだけというのなら、ビルの中に誰もいないのは奇妙だし三人が中に侵入した途端、シャッターが下りたことに説明がつかない。

 予めモヒカンはここに逃げ込むつもりだった、と考えるのが妥当だろう。

 

「行こう」

 

 このままここでじっとしている訳にも行かない。最初に亮がエレベーターに足を踏み出す。

 三人がエレベーターに乗り込むと、やはり自動でエレベーターが閉まっていく。そして13階で止まった。このビルは十三階建てなので屋上を抜かせば最上階ということになる。

 エレベーターから降りるとそこにも無言の空間が広がっていた。ここまで静かだと逆に不気味である。

 

「ん? 二人とも、あれ」

 

 ある物を見つけた丈は屋上へ続く階段に走っていった。階段の床に付着しているのは真っ赤な血だった。しかも固まっておらず新しい。

 ビルに逃げ込んだグールズはバイクの転倒のせいで怪我をしていた。とすればあのモヒカンがいるのは、

 

「屋上か。だがロックされているぞ」

 

 亮が屋上に続くドアを引っ張るがシャッターと同じように頑丈な造りになっていてビクともしない。

 思いっきり蹴り破ろうとしても同じだった。丈も試に近くにあった机をぶつけてみたのだが傷一つつかない。

 

「このドアを開けるにはカードキーが必要みたいだね」

 

 ドアの構造を観察していた吹雪がそう断じる。ドアの隣にはカードキーを読み取るための機械があった。

 

「カードキーか? 何処にあるんだそれは」

 

「そこまでは知らないけど、どこかにあるかもしれない。手分けして探そう」

 

 思い立ったが吉日。何も見つからなくても五分後にはここに戻ってきて落ち合おうという約束をしてから、三人は手分けしてカードキーを探して走った。

 このビルは見た目以上に広い。それに内部も複雑な構造をしていて廊下が多くまるでちょっとしたラビリンスだった。

 北の方向に走っていた丈は少しすると開けた場所に到着する。ここが管理人室とかであればカードキーの一つでもあるかもしれない。そういう淡い期待を抱いていたのだが違った。

 

「ここって……」

 

 開けた場所にあった嫌に慣れ親しんだ空間。それもそのはず。ここはデュエルスペースだ。恐らくここは警備員がデュエルの腕を磨くための訓練スペースなのだろう。

 デュエルアカデミアと比べても見劣りしないだけのスペースと設備があった。

 

「待ってましたよ」

 

 そこで一人の男が待っていた。

 赤いシルクハットと緑と薄緑の縞々模様をした仮面。全体的に奇術師を思わせる要望。

 

「宍戸丈ですね。私はパンドラ、ブラック・マジシャン使いのパンドラ。暫しお相手させて頂きますよ」

 

 同時刻。亮と吹雪の二人も其々の敵と相対していた。

 

「フフフ、天上院吹雪だな。お前の相手は私だ――――お前に伝説を倒した男の力というものを披露してやろう」

 

 伝説を打ち破ったと自称するレアハンターは吹雪の前に立ち塞がり、

 

「……デュエル」

 

 意志なき人形として使役された少年は亮の前に立ち塞がった。

 三者三様のデュエルが始まる。




Q,どうして警備会社にデュエルスペースがあるの?
A,デュエルで護衛対象を守るためです。

Q,なんで護衛対象を守るのにデュエルなの?
A,知らん、そんな事は俺の管轄外だ




……というわけで、対戦表としては。

カイザーVS人形
フブキングVSエクゾディア使いのレアハンター
魔王になった主人公VSパンドラ


 この作品、主要キャラはGXですが正直、初代キャラの方が多く出演しているような気がします。
 ああ、原作が遠い……。まだ中学すら卒業していない上に高等部にあがれば我等の藤原のイベントが……。

 ところで藤原といえばTFに藤原雪乃というキャラがいますが、まさか二人は兄妹だったりするのだろうか。もしくは親戚? 生き別れの双子? 謎が尽きませんね。
 


――――たぶんただ苗字が同じなだけでしょうけど。


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第55話  VS レアハンター 前編

 吹雪の前に立っているのはモヒカンと同じようにウジャド眼が描かれたグールズの紫色のローブを着た男だ。

 しかしモヒカンと明らかに異なるのは目の前にいるグールズにはどことなく他者を圧倒するオーラがあることだろう。

 

(いや)

 

 吹雪の視線はレアハンターではなく、レアハンターがデュエルディスクにセットしているデッキに注がれた。

 プレッシャーの出所はレアハンターではない。あのデッキだ。レアハンターのデッキからは途方もないエネルギーを感じる。攻撃力60000オーバーしたキメラテック・オーバー・ドラゴンをも超える無限のエネルギーがあのデッキには存在するのだ。

 

「フフフ、天上院吹雪だな。お前の相手は私だ――――お前に伝説を倒した男の力というものを披露してやろう」

 

 尋常ならざるオーラをもったレアハンターが自尊心に満ちた声で言う。

 レアハンターは吹雪以外の二人にも刺客が差し向けられているような物言いだった。もしかしたら今頃、亮や丈も自分と同じようにグールズのデュエリストと相対しているのかもしれない。

 

「デュエリストの間じゃ悪い意味で伝説のグールズに名前を知られているなんて――――光栄と、言っていいのかな? だけど僕はここで時間をつぶしている余裕はない。単刀直入に聞こう。君は屋上のドアを開くカードキーは持っているのかい?」

 

「カードキー? フフフフフフ。我等がボスがおられるのが屋上であると察したことは誉めてやろう。だが意味のないことだ。お前はここで私に倒されるのだから」

 

「君と僕がデュエルをしなきゃいけない理由はないはずだ」

 

「フフフフフ。私のデュエルディスクが屋上へのドアをロックするキーになっていると聞いても同じ台詞を言えるかな」

 

「なんだって?」

 

「屋上のドアのロックは私達のライフポイントと連動している。お前のお友達のところにも私の仲間が向かっている筈。つまりお前達は私達全員を倒さない限りボスのところへは行けないということだ」

 

 レアハンターのデュエルディスクに4000の数字が浮かび上がる。電源がONになったのだ。

 やはりグールズは亮と丈の二人にも襲撃をかけていたらしい。レアハンターはなにやら自分の仲間が二人を倒すことに疑いなど持っていないようだが、それは吹雪も同じだった。

 相手が嘗て世界を震撼させた秘密結社の構成員だろうとあの二人なら絶対に勝てるだろう。ならば今自分がすべきことは、レアハンターを倒しロックの一つを解除することだ。

 

「分かった。デュエルをしようじゃないか。そして三邪神のカードは返して貰うよ!」

 

 三幻神と対を為す三邪神。そんなものがグールズの手に渡れば、デュエルモンスターズ界は再び暗黒の時代になるだろう。

 一人のデュエリストとして、それはなんとしても阻止しなければならない。

 

「威勢のいいことだ。フフフフフフ、んんっ~ん。確かお前のエースモンスターは真紅眼の黒竜(レッドアイズ)だったか? 懐かしい。実に懐かしい。あれは我等グールズが終焉を迎えたバトルシティトーナメントのことだ。私はお前と同じ真紅眼の黒竜を使うデュエリストと戦ったことがあるぞ」

 

「!」

 

 真紅眼の黒竜は世界に四枚しかないブルーアイズや、世界に三枚しかない開闢の使者とは異なり、数十万の価値はするものの世界に一定の数があるカードだ。 

 故に別に吹雪だけがレッドアイズの使い手というわけでもなく、世界中やプロリーグを見渡してもレッドアイズを愛用するデュエリストというのは何人か存在している。

 しかしバトルシティトーナメントに参加したレッドアイズ使いともなれば思い当たる人間は唯一人。

 

「城之内、克也」

 

 武藤遊戯、海馬瀬人に並び称される伝説のデュエリストにしてキング・オブ・デュエリスト武藤遊戯の最も信頼したという親友(トモ)

 そんな伝説とこのレアハンターは戦ったというのだ。純粋な驚きが吹雪にはある。

 

「だが戦うだけなら、運さえ巡れば誰だって出来る」

 

 最強のデュエリストと戦ったからといって、そのデュエリストまで最強になるわけではない。

 伝説と言われる三人とはいえ同じデュエリストであることに違いはない。戦った経験がある人間というのならそれこそ幾らでもいるだろう。

 だが吹雪の考えをレアハンターは一刀のもとに切り捨てる。

 

「戦っただけ? なにを勘違いしている。この私は城之内克也と戦い勝利した男なのだよ」

 

「そんな、馬鹿な……?」

 

「嘘ではないぞ本当だ。城之内はこの私の前に大したこともできずに叩きのめされた。私の完膚なきまでの圧勝だった。奴のエースであるレッドアイズもアンティルールによって私のものとなった。尤もその後で憎っき武藤遊戯によって奪い返されてしまったがな」

 

 レアハンターの話を嘘ではないとするのならば、この男は明らかな下っ端面に見えて武藤遊戯未満、城之内勝也以上の実力をもつということだ。

 伝説の一角を倒し、伝説の頂点と戦った事のあるデュエリスト。これはかなりの大物だ。

 

「もう一つ冥土の土産に教えよう。当時我が組織のナンバーツーと目されていたリシドという男は城之内に敗北して決勝トーナメントで敗北した。そして嘗てのボス、マリク様は第二位。理解したかな? 城之内に勝った私はリシドよりも格上! 予選敗退した他のグールズなど雑魚! インセクター羽蛾やダイナソー竜崎、エスパーなんとか、カジキマグロも全員私より格下なのだッ!」

 

 両手を広げて堂々と宣言するレアハンター。その声量の大きさに思わず耳を塞ぎたくなった。

 それに後半にいくごとに名前が適当になっている。最後のなんてもはやデュエリストではなく魚の名前になっていた。きっとレアハンターが名前を忘れたのだろう。

 

「どうだ恐れ入ったか? 今なら降伏を許してやろう。大人しくレアハンターを置いて立ち去るというのであれば、懐の広い私はお前を見逃してやろうじゃないか」

 

「冗談言わないでくれ。僕はね、あんな決勝戦を目の前で見せつけられて気持ちが高ぶっていたんだ……」

 

 逆転に次ぐ逆転。壮絶としか言いようがない亮と丈が繰り広げたI2カップ決勝戦。自分がもはや観客席にいるしかない観客であることをあれほど呪った事は事はない。

 自分はベストを尽くしたし、やれるだけをやった。ベストを尽くした果ての勝利と敗北であるのならば後悔などあるはずがない。だが後悔はなくても決勝戦に出れなかった事に対する未練は吹雪の中に残っている。

 

「相手が伝説に打ち勝ったことのあるデュエリストなら望む所だよ。相手にとって不足はない。このまま熱く滾ったマグマのような感情を残しておくと、僕の吹雪って名前が溶けちゃうからね。溶ける前に溶かしてあげるよ! 僕と僕のレッドアイズが!」

 

「フフフフフフ、井の中の蛙大海を知らずだな。いいだろう、お前を倒しお前のレアカードは全て私が頂いていく」

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 

 

吹雪 LP4000 手札5枚

場 無し

 

レアハンター LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

 真っ直ぐにレアハンターを睨み返すとデッキから初期手札の五枚を引く。

 レアハンターのデッキから漂う異様なオーラは依然として健在だ。勝負を急ぎ過ぎてミスをするのは愚の骨頂だが、短期決戦を挑むのが妥当だろう。

 あのデッキを長く回転させてはいけないと直感が警鐘を鳴らしていた。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 とはいえ短期決戦とはいっても、この初期手札では先行ワンターンキルは不可能だ。

 このターンでワンターンキルが出来ないのならば、次か次のターンでワンショットキルをするための土台を作る。

 

「モンスターとカードを一枚セット、ターンエンドだ」

 

 最初はこれでいい。リバースしたカードは発動条件はあるものの強力な罠カードだ。

 相手ターンで直ぐに発動しようかとも考えたが今は様子をみるべきだろう。

 

「消極的なターンだな。フフフフフ、私に恐れをなしてモンスターを攻撃表示で召喚することも出来ないのかな。まぁいい。私のターン、ドロー」

 

 不気味に笑いながらレアハンターがカードを引くと、良いカードをドローしたのだろう。口元が釣りあがった。

 

「私は天使の施しを発動、三枚ドローして二枚捨てる。私は千年の盾と千年原人を墓地へ捨てる」

 

 

 

【千年の盾】

地属性 ☆5 戦士族

攻撃力0

守備力3000

古代エジプト王家より伝わるといわれている伝説の盾。

どんなに強い攻撃でも防げるという。

 

 

【千年原人】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力2750

守備力2500

どんな時でも力で押し通す、千年アイテムを持つ原始人。

 

 

 

 天使の施しでレアハンターが墓地に捨てたのは共に『千年』という名前をもった通常モンスターだ。

 ただ『千年』というカテゴリーがあるわけではないので、これだけではレアハンターがどういうデッキの使い手なのかを推測することはできない。

 

「更に私は魔法カード、苦渋の選択を発動する」

 

 決勝戦で丈が使用した魔法カードが発動した。

 

 

【苦渋の選択】

通常魔法カード

自分のデッキからカードを5枚選択して相手に見せる。

相手はその中から1枚を選択する。

相手が選択したカード1枚を自分の手札に加え、

残りのカードを墓地へ捨てる。

 

 

「フフフフフ、このカードはデッキより五枚のカードを選択し相手に見せ。相手はその中から一枚選び、残りは墓地に捨てるカード。だが本当に苦渋なのはどちらかな」

 

「くっ……」

 

 このカード、一見すると五枚の中から一枚を選択するのは相手で残りのカードは墓地送りにしなければならない為、大した強さではないカードに見える。

 だがこのカードの真骨頂は『手札に加える』ことよりも『墓地へ送る』というところにあるのだ。

 デュエルモンスターズのカードには一度だけ相手の攻撃を防ぐネクロ・ガードナーを始めとして墓地にあってこそ効果を発揮するカードも多い。

 また墓地からカードを再利用するカードも相当の数がある。墓地に五枚中四枚もの好きなカードを墓地に送るというのは非常に強力なのだ。

 吹雪が『未来融合』のカードを愛用しているのもF・G・Dを召喚する為という以上に墓地にドラゴン族を効率よく送ることが出来るからである。

 しかしこれは好機でもある。

 多少の差はあれ殆どのデュエリストのデッキは40枚だ。40枚中五枚が見る事が出来ればデッキの傾向も大まかに把握することができるだろう。

 

「私が選ぶのはこの五枚だ。さぁ、選べ」

 

「そ、そのカードはっ!」

 

 苦渋の選択に提示された五枚のカードを確認した途端、吹雪はレアハンターのデッキがなんなのかを悟った。

 レアハンターが選んだ五枚、それは幻の召喚神『エクゾディア』の全パーツだったのだ。

 

「成程ね。道理で君のデッキから只ならぬプレッシャーを感じるわけだよ。まさかエクゾディアとはね」

 

 武藤遊戯が召喚するまで誰一人として召喚することが出来なかったという幻のモンスター。

 デュエルモンスターズを知っている人間なら誰でも知っている有名なカードだ。

 

(しかもエクゾディアを敢えて墓地へ送ってきたということは……)

 

 墓地からの回収手段も豊富なのだろう。セットカードを温存していて助かった。

 

「僕は……左腕を選択する」

 

 エクゾディアの両手両足は通常モンスターだ。効果モンスターよりも回収手段は豊富にある。

 故に効果モンスターである封印されしエクゾディアを選ぶのだけは論外だった。左腕を選んだのはなんとなくである。

 

「フフフフフ、困った困った。左腕を手中にしたのはいいが残りの全パーツが墓地へいってしまった。これではエクゾディアを揃えることが出来ない。――――――などとは言わないぞ。

 私は嘗て武藤遊戯に全てのエクゾディアを墓地へ送られて敗北した。その轍は踏まないよう、墓地や除外ゾーンからの回収手段をこのデッキは備えている。そのうちの一枚を見せてやろう」

 

 レアハンターが一枚の魔法カードをデュエルディスクに叩きつけた。

 

「私が発動するのは死者転生! 手札を一枚捨て墓地のモンスターを手札に戻す。私が選択するのは当然エクゾディアだ!」

 

 

 

 

【死者転生】

通常魔法カード

手札を1枚捨て、自分の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを手札に加える。

 

 

【封印されしエクゾディア】

闇属性 ☆3 魔法使い族

攻撃力1000

守備力1000

このカードと「封印されし者の右足」「封印されし者の左足」

「封印されし者の右腕」「封印されし者の左腕」

が手札に全て揃った時、自分はデュエルに勝利する。

 

 

 

 封印されしエクゾディアのカードがレアハンターの手札に加わる。これで残るは三枚のパーツだけだ。

 しかしレアハンターが死者転生を使うことは読んでいた。

 

「今だ。僕はこの瞬間セットしていたリバースカードをオープン! ダスト・シュート!」

 

「な、なにぃ!?」

 

 

 

【ダスト・シュート】

通常罠カード

相手の手札が4枚以上の場合に発動する事ができる。

相手の手札を確認してモンスターカード1枚を選択し、

そのカードを持ち主のデッキに戻す。

 

 

 このカードをターンの始めで使わなくて正解だった。このカードがなければ自分話す術もなく負けていたかもしれない。

 

「ダスト・シュートは相手の手札が四枚以上の時のみ発動できる罠カード。相手の手札を確認してモンスターカードを一枚デッキに戻す。さぁ。手札を見せてもらうよ」

 

「お、おのれ……小癪な真似を」

 

 レアハンターの手札にあるのは左腕と封印されしエクゾディア。残りの二枚はクリッターと補充要因だった。

 

「僕は封印されしエクゾディアを選択、そのカードをデッキに戻す」

 

「おのれ。あと一歩のところで。だがこのままでは済まさない。直ぐにエクゾディアを揃えてみせる」

 

「なら僕は君がエクゾディアを揃える前に倒すよ」

 

 憎々しげに吹雪を一瞥すると『封印されしエクゾディア』をデッキに戻した。

 残る手札は三枚。これからレアハンターのとる行動もなんとなく分かっていた。

 

「私はモンスターをセット、カードをセット。ターン終了だ」




レアハンター「フフフフ、今日の最強カードは封印されしエクゾディア。このカードと左腕、左足、右腕、右足を揃えばその時点で勝利が確定するするぞ」

吹雪「原作遊戯王では遊戯さんが未だ嘗て誰一人として揃えた事のなかったって伝えられるこのカードを始めて召喚して、海馬社長を倒したことで有名だね。あとHA☆GAさんのエクゾディア攻略法=海に捨てるもそこそこ有名だよ」

カイザー「遊戯王最初期からある最も古くから存在する特殊勝利カードだ。現実でもこのカードを使用した図書館エクゾなどのワンキルコンボが生み出されている。もし必須カードを持っているなら一度組んでみるのも面白いぞ。成功率は低いがな」

レアハンター「まてよ。エクゾディアは三千年前にファラオに仕えたという側近中の側近シモン・ムーランが使役したという守護神。ということは現代におけるエクゾディア使いのデュエリストたる私はシモン・ムーランの生まれ変わりだというのかっ!」

丈「なん……だと……?」

レアハンター「なんということだ。まさかこんな衝撃の真実が隠されていてなんて。つまり私を倒した武藤遊戯は三千年前の主っ! なんという悲劇だ!」

吹雪「いや違うからね」




 一度やりたかったネタをやりました。原作が遠いのでせめて今日の最強カードくらいやりました。
 その記念すべき第一回はレアハンターでした。……うーん、配役が微妙です。


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第56話  VS レアハンター 後編

吹雪 LP4000 手札4枚

場 セットモンスター

 

レアハンター LP4000 手札1枚(封印されし者の左腕)

場 セットモンスター

伏せ 一枚(補充要因)

 

 

 

 伏せたのはクリッターと補充要因だろう。

 補充要因は墓地の通常モンスターを三枚手札に加えることができるカード。レアハンターの手札にエクゾディアが残っていれば、そのままレアハンターの勝利となったかもしれないが、その目論見は吹雪のダスト・シュートによって打ち砕かれた。

 

「僕のターン、ドロー。僕は黒竜の雛を攻撃表示で召喚する」

 

 

【黒竜の雛】

闇属性 ☆1 ドラゴン族

攻撃力800

守備力500

自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送って発動できる。

手札から「真紅眼の黒竜」1体を特殊召喚する。

 

 

 召喚されたのは卵から頭だけを出した小さなドラゴンだ。つぶらな赤い瞳と黒い肢体はそのモンスターがレッドアイズの雛であることを現していた。

 

「そして僕は黒竜の雛を墓地へ送り、手札のレッドアイズを守備表示で特殊召喚する」

 

 

 

【真紅眼の黒竜】

闇属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力2000

真紅の眼を持つ黒竜。怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす。

 

 

 

 吹雪のエースモンスターである黒き竜が翼を羽ばたかせながらフィールドに降り立つ。血のように真っ赤の双眸は目の前にいるエクゾディア使いを静かに見据えた。

 レアハンターはレッドアイズが召喚されると目を細める。

 

「守備表示か。どうした折角のレッドアイズだというのに攻撃しなくていいのか?」

 

「ふふふっ。必死のようなところ悪いけど、挑発にのってクリッターを攻撃するほど僕は抜けていないよ」

 

「ちっ」

 

 レアハンターが舌打ちする。フィールドから墓地に送られた時、攻撃力1500以下のモンスターを手札に加えるクリッターなど攻撃すればエクゾディアが手札に加わって吹雪の負けが確定する。

 

「更に魔法カード、黒炎弾を発動! このカードはレッドアイズの元々の攻撃力分のダメージを相手に与えるカードだ」

 

 

【黒炎弾】

通常魔法カード

自分フィールド上の「真紅眼の黒竜」1体を選択して発動する。

選択した「真紅眼の黒竜」の元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

このカードを発動するターン「真紅眼の黒竜」は攻撃できない。

 

 

 レッドアイズから黒い炎の弾丸が吐き出される。黒炎がレアハンターに直撃するとライフの半分以上を奪い取った。

 

 

レアハンター LP4000→1600

 

 

 2400ダメージを受けたレアハンターは苦痛に悶えながらも余裕を崩そうとはしなかった。

 

「まだまだ。この程度のダメージでは私は倒せない。フフフフフフ、次の私のターンでクリッターを墓地に送るカードがくれば私の勝利だ」

 

「それはどうかな」

 

「なに?」

 

「確かに君のセットしているカードは補充要因。君は封印されしエクゾディアを除いた四枚のパーツを手中に収めているも同然といえる。勝利まで後一歩といっても過言じゃないだろう。

 だけどそれは僕だって同じだよ。僕のデッキには『黒炎弾』があと二枚ある。僕の今のデッキ枚数は33枚。つまり次のターン、33分の2の確率で僕の勝利が確定するわけだ。いや、天使の施しや強欲な壺みたいなドローソースを引く可能性もあるから、実際の確率はもっと高いかな」

 

「何が言いたい?」

 

「僕のフィールドにレッドアイズを残しておく限り、君は常にそういう今にも負けるかもしれない危険性に晒されているということだよ」

 

「その手は食わない」

 

 レアハンターがかぶりを振り一蹴した。

 

「武藤遊戯もそうだ。私をそうやって誘い罠に駆けた。二度も同じ手を食うと思うなよ。私は私のペースで私だけのデュエルをする。そうすれば私は……無敵だ。

 エンドフェイズ時、罠カード『補充要因』を発動! エクゾディアの三パーツを手札に加える!」

 

 

 

【補充要員】

通常罠カード

自分の墓地にモンスターが5体以上存在する場合に発動する事ができる。

自分の墓地に存在する効果モンスター以外の攻撃力1500以下の

モンスターを3体まで選択して手札に加える。

 

 

 

 レアハンターの手札に三枚のパーツが加わる。これで本当に後一歩だ。

 しかしなんとしても全パーツ完成させるわけにはいかない。

 

「私のターン、ドロー。強欲な壺を発動し二枚ドロー! いいカードを引いたぞ。私は封印の黄金櫃を発動する」

 

 

 

【封印の黄金櫃】

通常魔法カード

自分のデッキからカードを1枚選択し、ゲームから除外する。

発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にそのカードを手札に加える。

 

 

「私が除外するのは当然、封印されしエクゾディア。フフフフ、これで2ターン後に私の勝利だ」

 

「………」

 

「更にカードを一枚セットしてターンエンド」

 

「迂闊だね」

 

「なに?」

 

「封印の黄金櫃は優秀なカードだ。どんなカードでも2ターンあれば確実に手札にもってくることができる。一枚しか入れられない制限カードを中心とするデッキにとっては必須ともいえるカードだ。

 けどね。逆に言えば手札に加わるのに2ターンを擁する。つまり……君のフィールドにいるクリッターはもはや鉄壁の壁ではなくなった」

 

 クリッターを墓地に送れば敗北が決定する。そういう前提条件があったからこそ吹雪はクリッターを攻撃できなかった。

 だがもはやそんな枷はない。クリッターは鉄壁ではなくなった。

 

「僕のターンだ、ドロー。僕はセットしてあったミンゲイドラゴンを除外してレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを特殊召喚する!」

 

 

【レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン】

闇属性 ☆10 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力2400

このカードは自分フィールド上に表側表示で存在するドラゴン族モンスター1体を

ゲームから除外し、手札から特殊召喚できる。

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に手札または自分の墓地から

「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外の

ドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる。

 

 

 

 多くの派生モンスターをもったレッドアイズの最終形態。あらゆるドラゴン族デッキにおいて主軸ともいえる働きが出来るレッドアイズがフィールドに降臨した。

 鋼鉄の黒竜は機械的殺意を撒き散らしながらレアハンターを見下ろした。

 

「真紅眼の黒竜を攻撃表示に変更。バトルフェイズ! レッドアイズの攻撃、黒炎弾!」

 

 セットしてあったクリッターが吹き飛ばされる。守備表示だったのでレアハンターにはダメージがない。

 ただレアハンターのライフは1600しかない。次の攻撃で終わりだ。

 

「フフフフフ、レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンとは中々のモンスターを召喚するものじゃないか。だが甘い。クリッターのモンスター効果、デッキより『魂を狩る死霊』を手札に加える。更に永続罠カード、グラヴィティ・バインド-超重力網-を発動する!

 これでもうレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンは攻撃できない。更に魂を狩る死霊は戦闘では破壊されないモンスター。これで私の勝利は確定的だ」

 

 

 

【グラヴィティ・バインド-超重力網-】

永続罠カード

フィールド上のレベル4以上のモンスターは攻撃できない。

 

 

【魂を狩る死霊】

闇属性 ☆3 アンデット族

攻撃力300

守備力200

このカードは戦闘では破壊されない。

このカードがカードの効果の対象になった時、このカードを破壊する。

このカードが直接攻撃によって相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、

相手の手札をランダムに1枚捨てる。

 

 

 

 レベル4以上のモンスターが攻撃できなくなるグラヴィティ・バインドに戦闘耐性をもつ壁モンスター。

 この布陣を突破するのは並大抵のことではないだろう。それこそ究極のリセットカードである最終戦争でも使わない限りは。

 

「……僕はカードを一枚セット、ターンエンド」

 

「私のターンだ。フフフフ、モンスターとカードをセットする。どうだ天上院吹雪、自分の喉元にナイフを突きつけられた感想は? なに心配するな。もう少しでお前は敗北し楽になれる。私の勝ちだ」

 

「それはどうかな」

 

 絶体絶命のピンチでありながら吹雪には敗北の恐怖などは微塵もなかった。

 あるのは自分のデッキに対する絶対的信頼だけ。

 

「まだデュエルは終わっていない。勝利宣言をするにはまだまだ全然早いよ」

 

「フフフフフ、若いルーキーだけあって威勢だけは良いな。この状況でお前になにができる?」

 

「これができるのさ! 僕はエンドフェイズ時、リバースカードオープン! レッドアイズを生贄に捧げ、魔のデッキ破壊ウィルスを発動する!」

 

 

 

【魔のデッキ破壊ウイルス】

通常罠カード

自分フィールド上に存在する攻撃力2000以上の

闇属性モンスター1体を生贄にして発動する。

相手フィールド上に存在するモンスター、相手の手札、

相手のターンで数えて3ターンの間に相手がドローしたカードを全て確認し、

攻撃力1500以下のモンスターを破壊する。

 

 

 

 レッドアイズが生贄となり、魔のウイルスがレアハンターの手札とフィールドに感染した。

 

「魔のデッキ破壊ウイルスだとぉ!?」

 

「そう。君がセットしている魂を狩る死霊もエクゾディアパーツも全て攻撃力1500以下のモンスターカード! ウイルスは君のフィールドと手札を完全破壊するよ」

 

「なぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃいいいい!!」

 

 完成間近だったエクゾディアの両腕と両足が再び墓地へ送られる。

 しかしレアハンターの手札は0枚。最初のようにエクゾディアパーツを回収するようなカードはない。

 

「デュエルを進めよう、僕のターン。ドロー。ベストなカードをドローしたよ。魔法カード、大嵐! フィールドの魔法・罠カードを全て破壊するよ」

 

 フィールドに吹き荒れた嵐がレアハンターの頼りとする最後の壁、グラヴィティバインドを破壊する。セットしておいたもう一枚はどうやらミラフォだったらしい。

 これで完全にレアハンターのフィールドはがら空き。

 

「僕はレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンのモンスター効果、墓地よりレッドアイズを蘇生して……バトルフェイズに以降する。

 レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンと真紅眼の黒竜の攻撃! ダークネス・ツイン・フレアッ!」

 

 二体のレッドアイズの黒炎がレアハンターを包み込む。

 合計攻撃力は5200。レアハンターのライフは一瞬にして消し飛んだ。

 

 レアハンター LP1600→0

 

 

 敗北者となったレアハンターが崩れ落ちる。

 

「負けた…私の最強デッキが……。ヒィィィィィィィィ! ヒ……助けて……来る来る来る助けて……来るぁああああああ! 来る…来る……来る…来る…マリク様が……ヒィィィィィィィィ!」

 

「マリクはもうボスじゃないんじゃなかったのかい?」

 

 多少呆れつつも吹雪は笑う。エクゾディアデッキには驚いたが終わってみればライフがまるで削られないでの快勝であった。

 

「爽快カーンだね。さっ、二人は大丈夫かな」

 

 吹雪は一度だけ崩れ落ちて悶えるレアハンターを振り返ると、元来た道を戻っていく。

 デッキの中にいるレッドアイズが嬉しそうに嘶いたような気がした。

 




吹雪「今日の最強カードは『魔のデッキ破壊ウイルス』だよ。自分フィールドの攻撃力2000以上の闇属性モンスターを一体生贄にすることで3ターン相手の攻撃力1500以下のモンスターを死滅させることができるよ」

レアハンター「フフフフ、私の次くらいに強い海馬瀬人が使用した『死のデッキ破壊ウイルス』の相互互換といえるな」

カイザー「普通のビートダウン相手には効果が薄いが低コストモンスターを軸にしている5D's主人公の不動遊星のようなデュエリストには天敵といってもいいカードだ。ただ攻撃力2000以上のモンスターを生贄にするのはコストとしてやや重い。簡単にモンスターを墓地や手札から特殊召喚できるレダメや、墓地からの蘇生が容易の暗黒界の龍神グラファと合わせて運用するといいだろう」

宍戸丈「主人公なのに台詞が……ないナリよ」

吹雪「久しぶりだねそれ」

カイザー「口癖とはなんだったのか」


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第57話  VS 人形

 吹雪がそうであったように亮の前にも一人のデュエリストが立ち塞がっていた。しかし果たして目の前にいる人間をデュエリストと呼称していいものか一瞬迷う。

 デュエリストは決闘者と読むだけあってどれだけ表面上はクールを装っていようと心の奥底には闘争本能が眠っているものだ。亮ほどのデュエリストならばその闘争本能を読んで一般人なのかデュエリストかを判別することも出来る。

 これまで亮は多くの相手と戦ってきた。

 友人である丈や吹雪。恩師でありサイバー流の師範でもあったマスター鮫島。I2カップで戦った数多のライバルたち。それに余り正統なデュエリストとはいえない食みだし者ともデュエルをした。

 だが彼等はその強さやモラル、精神性などはおいておくにして奥底には『闘争心』というものをもっていた。

 けれど目の前の相手にはそれが欠片も感じられない。

 自分への罰とでもいうかのように顔中を傷つけるように嵌められた無数のピアス。肌色だけが色づく頭部はまるで不気味なマリオネットそのものだった。

 肌色の中で白く濁った瞳がやけに目につく。その目も敵である亮を見ているようであって何も見ていないようにも見える。

 不気味という他ない。

 亮が戦ったデュエリストにこんな人間は未だ嘗ていなかった。

 

「……サイバー流後継者のカイザー亮。デュエルだ」

 

 人形染みた男がデュエルディスクを構える。

 丈などが使用しているのと同じ最初期型のデュエルディスクだった。それを使用しているということは丈のようなマニアか、デュエルモンスターズ黎明期から活躍しているデュエリストかだろう。

 そして彼がグールズであることを鑑みれば恐らくは後者。

 

「デュエルだと? 生憎だが俺にはお前に関わっている暇はない。お前達が奪った邪神のカードを取り戻さなくてはならないからな」

 

「……屋上へ続くドアのロックは僕達三人のLPと連動している。デュエルで僕達を倒さない限り屋上のロックが開くことはない。今頃、天上院吹雪や宍戸丈もグールズのレアハンターとデュエルをしているはずだ。

 僕はカイザー亮、君を倒す事を命じられた。だから僕とデュエルをしろ。さもないと僕は君を殺さなければならない。そういう風に命令された」

 

 明確な意思をもって殺す、と言ったのに人形染みた男からは殺意のようなものがなかった。

 というより感情そのものが欠落しているのではないかとすら思ってしまう。それほどこの男には確固たる『個』というものが見えない。

 

「いいだろう。俺もデュエリストだ、挑まれた挑戦は受けよう。その前に一つ聞いておこう。お前の名前はなんと言う? そちらだけ一方的に名前を知っているというのは不公平だろう」

 

「僕には名前なんて必要ない。僕はただグールズの『人形』だよ。人形には意志なんてないし心もない。どうしても僕のことを名前つきで呼びたいなら『人形』と呼べばいい。それが僕なんだから」

 

 人形染みた男は自分自身が人形であることを肯定する。

 そこに迷いはなかった。人形に心などないのだから。

 そこに矛盾などなかった。人形に意志などないのだから。

 人形は自分の持ち主が望むままに壊れて捨てられるまで踊り続けるだけだ。

 

(人形、か)

 

 自分のことを人形と言い切るその境遇に憤慨しないこともない。ただそれ以上の納得が亮にはあった。 

 この男と相対した際に抱いた感覚はデュエルマシーンを相手にしている時のそれだ。血がまるで通っていない。これならカードの方が遥かに人間らしいだろう。

 

「俺はデュエリストだ。故にお前が自分のことを人形と名乗ろうとそれを言葉でどうこうは言うまい。疑問はデュエルで晴らす。そしてお前を倒し、俺は邪神を取り戻す!」

 

「…………」

 

 カイザーと怖れられた男の闘気を前にしても人形は動じない。感情がないというのならば恐怖もあるはずがないのだから当然だろう。

 

 

「「デュエル」」

 

 

 

カイザー亮 LP4000 手札5枚

場  

 

人形 LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

「……先行はそっちに譲るよカイザー」

 

 先にプレイするよう促す人形。それは果たしてただの余裕によるものか、それともサイバー流が後攻有利だと知って先行を進めているのか。

 無表情な人形からはそれを読み取ることは出来ない。

 

「いいだろう」

 

 それでも敢えて亮は自分が先行であることを承諾した。

 どこまでいこうと丸藤亮という男はデュエリストでしかない。デュエリストとして出来る事は唯一つ。ベストを尽くしてデュエルをするだけだ。

 

「俺のターン。カードをドロー」

 

 六枚の手札を一枚一枚見比べる。悪くはないがそこまで特別良いわけではない。ベターな手札。

 この初期手札では先行ワンターンキルも不可能だろう。

 

「サイバー・ラーヴァを守備表示で召喚。それとカードを一枚セットしてターンを終了する」

 

 まずまずの出だしだ。

 しかし先行1ターン目は攻撃ができない。それが僅かに煩わしい。

 別に亮は先行からプレイすることが苦手というわけではないが、やはり性には合わなかった。これはプレイスタイル云々というよりも性格的な問題だろう。

 自分が防御より攻撃の方が好きな事は亮も理解していた。

 

「……僕のターン、ドロー」

 

 後攻でなかったことで、ほんの些細だが亮のプレイングにずれが生じた。果たして『人形』はそこからどういうプレイをしてくるのか。

 こんな時に不謹慎なものだが亮はこのデュエルを楽しみ始めていた。

 

「僕は魔法カード、強欲で謙虚な壺を発動」

 

 

【強欲で謙虚な壺】

通常魔法カード

自分のデッキの上からカードを3枚めくり、

その中から1枚を選んで手札に加え、

その後残りのカードをデッキに戻す。

「強欲で謙虚な壺」は1ターンに1枚しか発動できず、

このカードを発動するターン自分はモンスターを特殊召喚できない。

 

 

 お馴染みの強欲な壺と謙虚の壺を合体させた壺が人形のフィールドに現れた。

 強欲の壺の名がカードテキストに含まれるだけあって優秀なカードである。

 

「僕はデッキトップから三枚めくりその中から一枚選んでデッキに戻す。僕は三枚の中から『インヴェルズを呼ぶ者』を手札に加えて残りのカードをデッキに加えてシャッフルする」

 

「インヴェルズか」

 

 ペガサス・J・クロフォードが世に生み出したデュエルモンスターズは日々進化を遂げている。

 どれだけ高レベルのモンスターであろうと生贄なしで通常召喚出来た時代もあれば、ルールそのものがあやふやだった時代もあった。

 新しい概念、新しいルール、そして新しいカード。それらをI2社は生み出してきた。

 インヴェルズはそんな新しいカテゴリーの一つである。亮は一枚も持っていないカテゴリーだが生贄召喚をメインに据えたカテゴリーだったはずだ。

 同じように生贄召喚を多用する丈が興味深そうにデュエル情報誌を見ていたので記憶に残っている。

 流石はグールズ。こんな最新カードをもう入手しているとは。

 

「そして僕はインヴェルズを呼ぶ者を攻撃表示で召喚する……」

 

 

【インヴェルズを呼ぶ者】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1700

守備力0

このカードをリリースして「インヴェルズ」と名のついたモンスターの

アドバンス召喚に成功した時、デッキからレベル4以下の

「インヴェルズ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。

 

 

 蛾のような羽を生やした黒い人型のエイリアンの如き生命体が召喚された。侵略者だけあって猛禽類のような独特のオーラをもっている。

 初見のカードだ。亮は警戒を強める。

 

「僕はインヴェルズを呼ぶ者で守備モンスターを攻撃、魔の毒粉」

 

 インヴェルズを呼ぶ者の吐いた毒粉がセットモンスターを消し飛ばす。

 表側表示になったモンスターはサイバー・ドラゴンの蛹のような姿をした小さな機械龍。

 

「俺が守備表示にしていたサイバー・ラーヴァは戦闘によって破壊された時、デッキから同名カードを特殊召喚できる。俺はデッキよりサイバー・ラーヴァを守備表示で特殊召喚」

 

 

【サイバー・ラーバァ】

光属性 ☆1 機械族

攻撃力400

守備力600

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが攻撃対象に選択された時、

このターン戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

自分のデッキから「サイバー・ラーバァ」1体を

自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 二体目のサイバー・ラーヴァが召喚された。壁モンスターを維持するだけではなく、墓地を肥やすことでキメラテック・オーバー・ドラゴンやサイバー・エルタニンを召喚する際に攻撃力を上昇させることができる優秀な下級モンスターだ。

 このカードには戦闘ダメージを0にする効果があるので攻撃表示にしても良かったのだが『禁じられた聖杯』で効果を無効化されたりなどの可能性を考慮し守備表示にしておく。

 それにこのモンスターは攻撃力よりも守備力の方が高い。たかが200の差だが時にその200の差が勝敗を分けることもある。

 

「……僕はカードを一枚セットしてターンエンド」

 

「俺のターン! ドロー」

 

 漸く二ターン目が回ってきた。インヴェルズを呼ぶ者を召喚したことからほぼ確実に人形のデッキはインヴェルズ。

 幸いにして保険のカードもある。ここは相手の出方を伺う意味でも攻めるべきだろう。

 

「手札よりサイバー・ドラゴン・ツヴァイを攻撃表示で召喚する」

 

 

【サイバー・ドラゴン・ツヴァイ】

光属性 ☆4 機械族

攻撃力1500

守備力1000

このカードが相手モンスターに攻撃するダメージステップの間、

このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

1ターンに1度、手札の魔法カード1枚を相手に見せる事で、

このカードのカード名はエンドフェイズ時まで「サイバー・ドラゴン」として扱う。

また、このカードが墓地に存在する場合、

このカードのカード名は「サイバー・ドラゴン」として扱う。

 

 

 デュエルアカデミアに入る前、まだ亮が小学生だった頃に丈とトレードしたツヴァイが威嚇するように咆哮する。

 ステータスは1500。丁度サイバー・ドラゴンとプロト・サイバー・ドラゴンの中間あたりに位置するモンスターだ。

 このカードを手に入れた事により亮はサイバー・ドラゴンを九枚デッキに投入できるも同然となりサイバー・エンド・ドラゴンの召喚率を格段に上げていた。

 

「……サイバー・ドラゴンの派生モンスターか。だけど攻撃力はインヴェルズを呼ぶ者の方が上だ」

 

「しかしツヴァイにはダメージステップの間、攻撃力を300ポイント上げる効果がある。バトルフェイズ! ツヴァイでインヴェルズを呼ぶ者に攻撃! エヴォリューション・ツヴァイ・バースト!」

 

 吐き出された衝撃波がインヴェルズを呼ぶ者を破壊する寸前、人形がリバースカードをオープンした。

 

「罠発動、次元幽閉。攻撃してきたモンスターを除外する……」

 

 

【次元幽閉】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

その攻撃モンスター1体をゲームから除外する。

 

 

 サイバー・ドラゴン・ツヴァイが空間に空いた次元の隙間に吸い込まれていく。

 次元幽閉。亮もデッキに入れている優秀な罠カードだ。このカードの強みはなんといってもモンスターを破壊することではなく除外することにあるだろう。

 除外効果のため破壊耐性のあるモンスターにも通用し、墓地ではなう除外ゾーン送りにすることでモンスターの再利用を強く禁じる。

 デッキによってはミラーフォースよりも優先的に採用されることもあるほどだ。

 

「こうもツヴァイが消えるとはな。俺はこれでターンを終了する」

 

「……僕のターン」

 

 カイザーの誇るサイバー・ドラゴンの一角を早々に消し去った人形は淡々としたものだった。

 機械のように黙々とインプットされた作業を続行する。

 

「僕は天使の施しを発動して三枚ドローして二枚捨てる。そしてインヴェルズを呼ぶ者を生贄にインヴェルズ・ギラファを攻撃表示で召喚する」

 

 

【インヴェルズ・ギラファ】

闇属性 ☆7 悪魔族

攻撃力2600

守備力0

このカードは「インヴェルズ」と名のついたモンスター1体をリリースして

表側攻撃表示でアドバンス召喚できる。

「インヴェルズ」と名のついたモンスターをリリースして

このカードのアドバンス召喚に成功した時、

相手フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。

選択した相手のカードを墓地へ送り、

自分は1000ライフポイント回復する。

 

 インヴェルズを呼ぶ者のような役職名で呼ばれる下級モンスターとは異なる正真正銘の『侵略者』がフィールドに悠然と降り立った。

 ギラファという名前から察するに世界最大の体長を持つクワガタムシ「ギラファノコギリクワガタ」をモデルとしているのだろう。

 世界最大の名をモチーフにしているのは伊達ではなく『インヴェルズを呼ぶ者』とは比べ物にならないほどの殺人的気配を自然体でものとしていた。

 

「インヴェルズ・ギラファは星7の最上級モンスターだけどモンスター効果によって『インヴェルズ』と名のつくモンスターを一体の生贄で召喚することができる。

 更にインヴェルズ・ギラファが召喚に成功した時、ギラファのモンスター効果が発動。相手フィールドのカードを選択し墓地へ送り、僕は1000ポイントのライフを回復する。僕はサイバー・ラーヴァを墓地へ送る」

 

 ギラファが手を突きだすと不可視の波動に呑まれサイバー・ラーヴァが音もなく消え去った。

 

 人形LP4000→5000

 

「サイバー・ラーヴァの効果は戦闘破壊のみに対応している。効果破壊にも有効だったとしても墓地に送るだから無意味だけど。

 だけどこれだけじゃない。僕は生贄にしたインヴェルズを呼ぶ者のモンスター効果を使う。このカードが生贄召喚の生贄になった時、デッキから下級インヴェルズを特殊召喚できる。僕は二体目のインヴェルズを呼ぶ者を攻撃表示で召喚」

 

 二体のインヴェルズの合計攻撃力は4300だ。

 

「バトル。僕はインヴェルズ・ギラファでダイレクトアタック」

 

「させない。リバース発動、和睦の使者! このターンの戦闘ダメージを0にする」

 

 

【和睦の使者】

通常罠カード

このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける

全ての戦闘ダメージは0になる。

このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

 

「……バトルを終了する。僕はこれでターンをエンド」

 

 和睦の使者がなければ今のダイレクトアタックで決着がついていただろう。

 亮は彼にしては珍しく冷や汗をかいた。

 

 

 

カイザー亮 LP4000 手札4枚

場 なし 

 

人形 LP4000 手札4枚

場 インヴェルズ・ギラファ、インヴェルズを呼ぶ者

 

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

 オープニングは終了だ。そろそろ巻き返しをしなければ、このまま押し切られる。インヴェルズのパワー相手にずっと防戦一方なのは百害あって一利なしだ。

 ならば攻めて攻めて攻めるのみ。

 

「魔法カード、精神操作! 相手モンスター1体のコントロールをこのターンの間だけ奪取する。俺はインヴェルズ・ギラファを選択」

 

 

【精神操作】

通常魔法カード

相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

このターンのエンドフェイズ時まで、選択したモンスターのコントロールを得る。

この効果でコントロールを得たモンスターは攻撃宣言できず、リリースする事もできない。

 

 

 インヴェルズ・ギラファが透明な糸に操られ、人形から亮のフィールドに移る。

 精神操作はブレインコントロールなどと異なり裏側守備表示モンスターも奪い取ることが可能だが、攻撃することも生贄素材にも出来ないのがネックだった。

 しかしそんなことは亮も承知済み。

 

「俺は手札よりサイバー・ヴァリーを攻撃表示で召喚。更に魔法カード、機械複製術を発動! このカードは自分の場の攻撃力500以下の機械族モンスターを選択し、同名カードを二枚までデッキより特殊召喚することができる。

 現れろ。二体のサイバー・ヴァリー!」

 

 

【サイバー・ヴァリー】

光属性 ☆1 機械族

攻撃力0

守備力0

以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このカードが相手モンスターの攻撃対象に選択された時、

このカードをゲームから除外する事でデッキからカードを1枚ドローし、

バトルフェイズを終了する。

●このカードと自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を

選択してゲームから除外し、その後デッキからカードを2枚ドローする。

●このカードと手札1枚をゲームから除外し、

その後自分の墓地のカード1枚を選択してデッキの一番上に戻す。

 

 

【機械複製術】

通常魔法カード

自分フィールド上に表側表示で存在する

攻撃力500以下の機械族モンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターと同名モンスターを2体まで自分のデッキから特殊召喚する。

 

 

 三体のサイバー・ヴァリーが並んだ。

 普段は壁モンスターとして使用していたサイバー・ヴァリーだったがこのモンスターにはもう一つの特殊能力がある。

 

「そしてサイバー・ヴァリーのモンスター効果発動。このカードと自分フィールドの表側表示モンスターを一体選択しゲームより除外。デッキからカードを二枚ドローする。

 俺はサイバー・ヴァリーとインヴェルズ・ギラファを除外し二枚ドロー! 更に二体のサイバー・ヴァリーを除外して二枚ドロー!」

 

「……そうか。精神操作が禁じているのは生贄と攻撃だけ。除外ならば問題なく出来る。僕の場の最上級モンスターを除外しつつカードを四枚もドローしデッキ圧縮まで行う。これがカイザー亮」

 

 四枚もドローした甲斐もあり亮の手札にはキーカードが揃った。

 

「いくぞ。俺は魔法カード、融合を発動。手札の二体のサイバー・ドラゴンを融合する。現れろサイバー・ツイン・ドラゴン!」

 

 

【サイバー・ツイン・ドラゴン】

光属性 ☆8 機械族・融合

攻撃力2800

守備力2100

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。

このカードは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

 

 サイバー・エンド・ドラゴンには劣るものの、かなりの巨体をもつ機械竜が粒子と共に現れる。

 攻撃力もサイバー・エンドより劣るが二回攻撃できるモンスター効果により場合によってはサイバー・エンドよりも活躍できる可能性をもったモンスターだ。

 

「バトル! サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃、エヴォリューション・ツイン・バースト! 第一打ァ!」

 

 光の奔流を前にしてインヴェルズを呼ぶ者は抵抗すらできずに粉砕された。

 攻撃表示だったためその差分のダメージが人形を襲う。

 

「サイバー・ツイン・ドラゴンの二回目の攻撃、第二打ァ!」

 

 インヴェルズを呼ぶ者を粉砕した光が今度は人形を襲うが、まるで動じずに棒立ちしたまま光を受ける。

 

 人形LP5000→1100

 

「……これでターンは終了ですか?」

 

 淡々と事務的に人形が確認してくる。

 

「ああ。俺はこれでターンエンドだ」

 

「では僕のターン、僕は手札よりインヴェルズの魔細胞を特殊召喚」

 

 

【インヴェルズの魔細胞】

闇属性 ☆1 悪魔族

攻撃力0

守備力0

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

このカードは「インヴェルズ」と名のついたモンスターの

アドバンス召喚以外のためにはリリースできず、

シンクロ素材にもできない。

 

 

 小さな黒い塊のモンスターが人形の足元に出現する。攻守ともに0のモンスターらしく、亮が踏みつければそのまま死んでしまいそうな脆さがあった。

 

「インヴェルズの魔細胞は自分の場にモンスターがいない時、手札から特殊召喚できる。そして僕は死者蘇生を使い、墓地に捨てたインヴェルズ万能態を蘇生」

 

 

【インヴェルズ万能態】

闇属性 ☆2 悪魔族

攻撃力1000

守備力0

「インヴェルズ」と名のついたモンスターをアドバンス召喚する場合、

このカードは2体分のリリースとする事ができる。

 

 

 インヴェルズ万能態は攻撃力1000の弱小モンスターだ。だがこのモンスターの強みはインヴェルズモンスターの生贄に使用する際、二体分の生贄として使用できることにあるだろう。

 万能態はカイザー・シーホースなどと並ぶインヴェルズ限定のダブルコストモンスターなのだ。

 

「僕はインヴェルズ万能態とインヴェルズの魔細胞を生贄にする。三体のインヴェルズを贄とし降臨せよ。最強の侵略者。インヴェルズ・グレズ! 攻撃表示で召喚する」

 

 

【インヴェルズ・グレズ】

闇属性 ☆10 悪魔族

攻撃力3200

守備力0

このカードは特殊召喚できない。

このカードを通常召喚する場合、

自分フィールド上の「インヴェルズ」と名のついた

モンスター3体をリリースして召喚しなければならない。

1ターンに1度、ライフポイントを半分払う事で、

このカード以外のフィールド上のカードを全て破壊する。

 

 

 最強の侵略者。インヴェルズ・グレズ。生贄に三体のインヴェルズを要することから、その召喚難易度は三幻神のそれよりも重い。

 正にインヴェルズにとっての究極の切り札。

 殺戮的な鎧染みた外装。黄金に光り輝く棘は鎧武者の兜を思わせる。サイバー・エンド・ドラゴンにも微塵も見劣りしない力の奔流を亮は感じた。

 

「ふ、ふふふ」

 

 そんな絶対的侵略者を前にして亮は笑う。

 

「……なにがおかしい?」

 

「可笑しいんじゃない。嬉しいんだ。インヴェルズ・グレズを召喚した時、まるで見えなかったお前の熱い心が漸く垣間見えた。こうやって大型モンスターを召喚したり切り札を呼び出すのはデュエルモンスターの醍醐味だからな。俺も大好きだよ。自分のエースをフィールドに出すのは。……自分でも子供じみているとは理解しているが、どうしてもワクワクしてしまう。

 一人のデュエリストとして断言しよう。お前は『決闘人形(デュエル・ドール)』なんかじゃない。しっかりと一人の『決闘者(デュエリスト)』だよ」

 

「……戯言だ。僕はただの人形、それ以下でも以上でもない。僕はインヴェルズ・グレズのモンスター効果を発動、一ターンに一度、ライフを半分支払うことでこのカード以外のフィールぞ上に存在するカードを全て破壊する。侵略の極炎ッ!」

 

 人形LP1100→550

 

 インヴェルズ・グレズの闇の波動が波のように広がりサイバー・ツイン・ドラゴンを呑み込んでいく。

 サイバー・ツイン・ドラゴンは苦しそうに抵抗していたが、やがて黒い奔流に呑まれて破壊された。

 

「これでフィールドはがら空き。インヴェルズ・グレズでダイレクトアタック、インヴェルズ・カーネル・インフェルノ!」

 

「ぐっ、ぅう!」

 

 黒い炎が亮のライフを焼き払う。防御用カードはなかったのでそのエネルギーを遮るものはなにもない。

 完全なる直撃であった。

 

 カイザー亮 LP4000→800

 

「……僕はターン、エンドだ」

 

「俺のターン。フ、必死に自分を抑えようとしているがデュエリストとしての魂をそう隠し通せるとは思わない事だ。

 何度でも言おう。お前は人形ではなくデュエリストだとな! 俺はモンスターをセットしてターンエンド」

 

「僕のターン、僕はもう一度グレズのモンスター効果を使う。ライフを半分払いフィールドのカードを全て破壊!」

 

 人形 LP550→275

 

 亮がセットしていたモンスターが破壊され墓地へ送られる。

 

「残念だな。俺のセットしたモンスターはカードガンナー。このカードが破壊された時、俺はデッキからカードをドローできる」

 

「くっ……! だけどフィールドはがら空きになった。これで決める。インヴェルズ・カーネル・インフェルノ!」

 

「相手の直接攻撃宣言時、バトルフェーダーを特殊召喚しバトルフェイズを終了する!」

 

 

【バトルフェーダー】

闇属性 ☆1 悪魔族

攻撃力0

守備力0

相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。

このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する。

この効果で特殊召喚したこのカードは、

フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

 

 

 十字架の形をした一つ目のモンスターが手札から飛び出すと、インヴェルズ・グレズが攻撃を止める。

 バトルフェーダー、手札誘発の防御カードだ。手札からの発動の為、罠カードよりも安全性に優れている。ワンターンキル防止のために投入しておいた正解だった。

 

「……っ! 僕はターンエンド……」

 

「俺のターン、カードを一枚セットしてターンエンドだ」

 

「今度こそ……! 僕のターン、モンスター効果発動! 侵略の極炎!」

 

「その効果にチェーンして罠カード発動。威嚇する咆哮、このターンお前は攻撃宣言を行うことができない」

 

 

【威嚇する咆哮】

通常罠カード

このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。

 

 

 破壊されたバトルフェーダーは自身の効果により墓地にはいかず除外される。 

 しかし威嚇する咆哮の効果によって、このターン、どれだけ亮のフィールドが無防備だろうと人形は攻撃することができない。

 

「どうした? 熱くなるのはいいが、あんまり熱くなり過ぎると状況を見誤るぞ。熱さをもちながらも冷静さを失わないのが肝要だ」

 

「……何度も言わせないでくれ。僕は人形、ただの人形。熱さなんて、あるはずがないんだよ」

 

「どうしてお前はそこまで『人形』であることに固執する? よりにもよってグールズなどの」

 

 これだけのプレイイングができるほどのデュエリストがグールズの使い走りの人形に甘んじているのが気になって、亮は気付けば言葉に出して尋ねていた。

 人形はやや顔を強張らせると、一瞬躊躇するように目を伏せてから話し始めた。

 

「……グールズを、選んだのに特に大きな理由はないよ。ただ僕は……あんまり覚えていないんだけど、嘗てグールズの前ボスの『千年アイテム』に操られていたらしいんだよ」

 

「千年アイテム!?」

 

 デュエリストの間に実しやかに囁かれる千年アイテムの伝説。古代エジプトにおいて禁断の錬金術によって生み出されたそれらは担い手に『闇のゲーム』を行う力を与えるという。

 千年アイテムの伝説の一つに嘗てのグールズのボスが千年アイテムを所有していたというのがある。人形を信じるならその噂は正しかったのだろう。

 

「……そのことを恨んでるわけじゃない。僕は操られる前から自分なんてものはずっと自分の中に閉じ込めていたんだから。僕は人形だからグールズが再結成する際に、その求めに応じたんだ。人形は持ち主の思うままに踊るだけが仕事だからね」

 

「自分を、閉じ込めた?」

 

「僕はね、親を殺したんだよ」

 

「―――――――っ!」

 

 親殺し。人間が行う罪の中でも最も罪深いものとされる一つ。

 明らかな事実として吐き出されたそれに亮は言葉を失う。親を殺すことがどういうことなのか想像もつかない。亮にも人並みに両親はいるし、師父と慕う人物もいる。そんな人間を手にかけるなど考えるだけでも嫌悪感があった。

 

「親を殺した僕は自責の念で自分の殻に閉じこもった。僕が人形になったのもだからさ。自分で自分を閉じ込めた僕はさぞや操り易かっただろうしね。

 当然、僕だってただ殺しただけで自分の殻に閉じこもったんじゃない。僕だって真っ当に罪を償いたかったさ! だけどね……法廷っていう正義の番人は『情状酌量の余地あり』なんていう言葉で僕から贖罪すら奪い取ったんだ!」

 

「……情状酌量」

 

「ほら見えるだろ。僕の顔に埋め込まれたピアス。僕の親はね、そこそこの知名度をもつパントマイマーでさ。子供である僕に後を継いでほしかったんだろうね。自分の出来なかった夢を子供でもう一度ってやつだよ。僕がなにかミスをする度に罰だって顔にピアスを埋め込んだり、髪を削ぎ落としたりした。お陰で学校でも友人が出来なかった。

 だけど殺して良い人間でもなかった。僕は親が憎くて殺したんじゃない。ただある日、プツッって糸が切れて……気付けば血塗れの親が倒れていたよ。でも僕には殺しの罪を償うことすらできない。だってほら、僕は僕を実刑判決から免れさせてくれた弁護士様によれば虐待を受けてきた可哀想な子供なんだからね! 虐待を受けたから罪を償う事も出来ないんだってさ。

 自殺も考えたんだけどね。情けない事に、僕には自分で自分を殺す勇気すらなかったんだよ。親は殺せるのに自分は殺せなかったんだ。本当に、情けない」

 

「――――俺は誰かをこの手に殺めたことがあるわけじゃない。故に贖罪を求めるお前にどういう風に声を掛ければいいのかも、情けない話だが分からない。

 だから俺はデュエリストとしてこれだけは言おう! お前は自らの殻に閉じこもってなどいない! 殻に閉じこもりながらも闘志を滲みだしているお前は自分で自分の殻を破ろうとしている! 後は踏みだすだけで、その殻を破ることができるのだと……教えてやる。

 前に進もうとするデュエリストの可能性を。俺のターン! ドロー!」

 

 ドローした瞬間、確信する。カードテキストを読まなくても鼓動で感じる事が出来た。 

 やはり友達というのは頼りになる。こんな戦いでも自分を助けてくれる。

 

「俺が引いたカードはサイバー・エルタニン! 墓地の光属性機械族モンスターを全て除外しこのカードを特殊召喚するッ! 降臨せよ、サイバー・エルタニンッ!」

 

 

【サイバー・エルタニン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力?

守備力?

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上及び自分の墓地に存在する

機械族・光属性モンスターを全てゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、このカードの特殊召喚時に

ゲームから除外したモンスターの数×500ポイントになる。

このカードが特殊召喚に成功した時、

このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て墓地へ送る。

 

 

 丈とトレードしたサイバー流の新たなる力。カイザー亮が誇る裏・切り札。

 サイバー・エルタニンが召喚されると同時にこのカードを除いたフィールドのモンスター全てが消滅する。インヴェルズ・グレズも例外ではない。

 

「サイバー・エルタニンの攻撃力は除外したモンスターの数×500ポイントとなる。俺の除外したカードは五体。よって攻撃力は2500ポイントッ!

 バトルフェイズ! サイバー・エルタニンでダイレクトアタック、ドラコニス・アセンション!」

 

「僕は……」

 

 人形 LP275→0

 

 サイバー・エルタニンの攻撃でライフが0を刻む。遠くの方でロックの一つが解除された音がした。

 人形だった男はただ蹲って自分が敗北したという事実を噛みしめている。亮は振り返らずに声を掛ける。

 

「良いデュエルだった。今度はグールズでも人形でもないお前とデュエルをしよう」

 

 もう言葉は要らなかった。自分の思いは全てデュエルという形でぶつけたのだから。

 亮は静かにその場を立ち去った。




カイザー「今日の最強カードはサイバー・エルタニン」

人形「ではなくインヴェルズ・グレズ。インヴェルズ三体を生贄にすることで通常召喚できる大型モンスターだよ」

カイザー「なっ!? 俺のエルタニンが!?」

人形「ライフを半分払う事でこのカード以外のフィールドのカードを全て破壊するっていう『裁きの龍』や『デミス』に似た強力な効果をもっているけど、重い召喚条件をもっているから、このカードを採用する場合はインヴェルズ万能態はほぼ必須カードになるよ」

吹雪「ライフ半分っていうのは重いライフコストに見えがちだけど、ライフ4000のデュエルだとなまじ1000や2000って指定されているよりも場合によっては軽いね。残りライフが1000未満でも効果を発動できるっていうのは『裁きの龍』にはない強みだ」

カイザー「俺のエルタニンーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

宍戸丈「れ、れ、れ、冷静になれ」





 原作での人形のデュエルはマリクが中に入って操っていてのものなので、人形のデッキはわりと適当に決めました。具体的に言うとくじ引きで。
 ちなみに人形が親を殺したのは原作設定ですが、経緯や親については捏造設定です。


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第58話  VS パンドラ 前編

「宍戸丈ですね。私はパンドラ、ブラック・マジシャン使いのパンドラ。暫しお相手させて頂きますよ」

 

 血のように赤いシルクハットを被った血のように紅いタキシードを着こんだ男。その姿は一目で゛奇術師゛を連想させる。男の面貌を覆い隠すのは緑と薄緑色が縦並びに縞模様を描いている仮面(ペルソナ)だ。

 仮面は男の素顔のみならず男の内面まで深く隠しているようでいて、全体的に掴みどころのない雰囲気を纏っている。

 しかし奇術師から絶対的に隠しようもないほど溢れ出ているこれは゛絶望゛だろうか。抗えず抜け出せぬ絶望を滲ませ、真紅にその四肢を包んだ姿は死の奇術師(デス・マジシャン)と称するが相応しい。

 奇術師パンドラが剣とするのは丈と同じタイプの最初期型のデュエルディスクだった。

 仮面の奥から垣間見える眼光は観察するように丈を伺っている。

 

「……パンドラ」

 

 知らぬ筈がない。奇術師パンドラ。キング・オブ・デュエリスト武藤遊戯と同じブラック・マジシャン使いのデュエリストにして、嘗てのグールズでのナンバーツーレアハンターの地位にいた人物。

 その実力は確かなもので奇術師らしい悪辣な手品(イカサマ)などの行為に及びながらも、武藤遊戯を後一歩のところまで追い詰めたという実績がある。

 だが強いだけではない。敗者には電動ノコギリに足を切断され死ぬペナルティが与えられるデスマッチを挑んでいたことからも相当の危険人物だ。

 丈は気付かれないように足元を確認する。武藤遊戯がやられたように足が拘束されてのデスマッチなどは丈としても御免蒙りたい所だ。

 

(爆弾とかの仕掛けは、ないか。だけど油断できない。パンドラは奇術師の格好をしているだけの似非じゃない。デュエリストじゃなくて奇術師としても一級の実力者だったはず)

 

 拙い知識を掘り起こしつつ警戒を強めた。

 相手はあのリシドに次いでレアハンターナンバーツーとまで呼ばれたデュエリスト。警戒し過ぎるということはない。

 

「ふふふふふ。おやおや怯えているのですか? どうぞご安心を。奇術師としては失格でしょうが、今回は私もなんら特別な仕掛けは施してはいないですとも。私はただ貴方と正々堂々デュエルをするためにここに立っているのです」

 

「……デュエルを」

 

「Yes。ではご確認を。私のデュエルディスクが見えますか? 私のライフは初期値である4000。このデュエルディスクは屋上の電子ロックと同調していて、ライフが0になった時、ロックの一つは解除される」

 

「ロックの、一つ?」

 

 まるでロックが一つだけではないと言うような口ぶりだ。

 

「左様です。今頃あなたの御友人のところにも私の同業者が向かっているでしょう。そして私のデュエルディスクに仕掛けられているのと同様のトリックが仕込まれている。

 理解できましたか? 私は奇術師にして、司会進行役にして扉の番人その一人。このビルという監獄、外へ出すことを許さぬ檻の中からの脱出ショー。それを行うのは私ではなく貴方なのです。貴方と貴方達二人なのです。

 しかしご注意を。仮に貴方が私を倒したとしても、ロックは開かない。貴方と御友人たちの全員が私達を倒さない限り貴方達は勝利とはならないのです」

 

「そうか」

 

 色々言いたいことはあるが、ここは呑み込む。

 事情は大まかに理解した。要するに屋上へ出て邪神のカードを取り返すにはパンドラ含めた三人のデュエリストを倒さなければならない。そしてパンドラ以外の二人は亮と吹雪のところへ其々向かっている。

 ならば丈のやることはシンプルである。

 ただ目の前にいるパンドラを倒すだけでいい。それだけでロックは解除されるだろう。他のロックはあの二人がなんとかしてくれるだろう。

 自分は自分のデュエルをやればいいだけだ。

 

「――迷いがない顔だ。実に懐かしい。友人達の勝利を欠片も疑っていなければそんな顔を浮かべることはできない。嗚呼、貴方は素晴らしいデュエリストで良識的かつ優しい人格者なのでしょう。

 だからこそ私はたまらなく貴方を負かしたい。この私のデュエルでその気高い心を踏み躙りたくて仕方がない」

 

 行き場のない憎悪がパンドラの中で荒れ狂う。その狂おしいまでの憎悪はパンドラの正面にいる丈に降り注いだ。

 

「くっ……!」

 

 遣る瀬無い怒りの嵐に鳥肌がたった。

 丈にはパンドラのその狂いの源泉など分かる筈もない。どれだけ知識として知っていようと、それは所詮ただの知識だ。本当にその人間を知っているわけではない。

 故にパンドラが何故それほどの憎悪を自分に向けてくるのかもまるで分からなかった。

 丈は言葉をかけようとはしなかった。パンドラはデュエルディスクを構えている。ならば丈が語るべきは口ではなくカードをもってだ。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 

宍戸丈 LP4000 手札5枚

場  

 

パンドラ LP4000 手札5枚

場 無し 

 

 

 

 パンドラがデッキをシャッフルしてデュエルディスクにセットする。原作でそうだったようにショットガンシャッフルをするのではなく、普通のシャッフルだった。

 彼が普通にシャッフルしたのはカードを傷めないためか、ただ単に机の上でするのが面倒だったか、それとも特に理由はないのか。丈としては一番最初のものであって欲しいところだ。

 

「ふふふ。先行は観客(ゲスト)に譲りますよ。どうぞご自身の望むままのプレイイングを」

 

 パンドラが表面上だけにこやかに笑いながら先を促した。

 その誘いにのる。パンドラの態度は不気味であるが丈のデッキは先行の方が有利に動くことができる。相手が不気味だからといって億することはできなかった。

 

「それじゃ遠慮なく。俺のターン、ドロー」

 

 初期手札はそれなりだ。

 敵であるパンドラはブラック・マジシャン使いのデュエリスト。もし彼が自らのエースを変更していないのであれば、やはり今回もブラック・マジシャンを中心としたデッキを構築しているだろう。

 デッキもブラック・マジシャンを召喚することに尖らせているはずだ。

 

(ブラック・マジシャンの攻撃力は2500。……デュエルだとここが一定のラインになるな)

 

 先行というのは相手の場と墓地にカードが一枚もないので最も安心して展開することが出来る貴重なターンだ。警戒するのは手札誘発のカードだけでいい。

 流石に先行ワンターンキルを狙うことは出来ない初手だが、これならそこそこ良い展開ができるだろう。

 

「俺はE-エマージェンシーコール -を発動。デッキよりエアーマンを手札に加える。そしてエアーマンを攻撃表示で召喚。エアーマンのモンスター効果、デッキよりE・HEROオーシャンを手札に加える」

 

 

【E・HEROエアーマン】

風属性 ☆4 戦士族

攻撃力1800

守備力300

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

次の効果から1つを選択して発動する事ができる。

●自分フィールド上に存在するこのカード以外の

「HERO」と名のついたモンスターの数まで、

フィールド上に存在する魔法または罠カードを破壊する事ができる。

●自分のデッキから「HERO」と名のついた

モンスター1体を手札に加える。

 

 

【E-エマージェンシーコール -】

通常魔法カード

自分のデッキから「E・HERO」と名のついたモンスター1体を手札に加える。

 

 

 デッキ圧縮とモンスターの召喚。その両方をこなすことができた。そしてオーシャンが手札にいることにより、エアーマンを再利用する手だてもある。

 後続用のモンスターまで手札に加えつつ、時に魔法・罠カードを破壊することもできる。この利便性がエアーマンの強みだった。

 特にモンスターを手札に加えることが出来る効果は大きい。なにせこのカードと融合の魔法カードさえあれば、属性融合ならばどのモンスターになるも自由自在となるのだから。

 ただ今は融合をする時ではない。攻撃できない先行で大量展開して次のターンでブラックホールでもやられたら目も当てられない。

 相手が相手というのもある。ここは抑え目でいくべきだろう。

 

「俺はカードを一枚セットしてターンエンド」

 

「HEROですか。……英雄(ヒーロー)、ふふふ光り輝く大舞台で脚光を浴びるデュエリストに相応しいカテゴリーです。ですが教えてあげましょう。光指すところには必ずより深い闇が出来るということを。

 私のターン。ドローカード! モンスターをセット、リバースカードを二枚セット。ターンエンド。どうです? これだけの見えないリバースカード。貴方には攻撃する勇気がありますか?」

 

 こちらの攻撃を誘うようにパンドラが挑発してくる。

 本当に罠が仕掛けられているのか、ただのブラフなのか態度から察することはできない。表情を伺うことも仮面のせいで不可能だ。

 なるほど。カードゲームの場合だと仮面をつけるというのは戦術的にもそれなりの効果があるらしい。

 

「攻撃するか、か。確かにリバースカードはちょっと怖い」

 

 丈だって今までリバースカードに痛い目に合わされた事はある。確実に勝ったと思ったらリバースカードが『魔法の筒』で盤上では圧倒していたのに負けた、なんてことは数えきれないほどある。

 

「けど」

 

 だがリバースカードが恐いなら取り除けばいいだけだ。

 

「そっちのターンのエンドフェイズ時、リバースカードオープン。サイクロン! 左のリバースカードを破壊する!」

 

 セットした速攻魔法と罠カードはセットしたターンに発動することができない。よってサイクロンにチェーンすることもできずにリバースカードは破壊された。

 

「破壊したのはミラーフォースか。危ない危ない。迂闊に攻撃したら全滅していたよ」

 

 最初期からある伝統的罠カードにしてトラップの代名詞ミラーフォース。このカードに何度、煮え湯を飲まされたか。

 モンスターを大量展開する場合、警戒しなくてはならないトラップの一つだ。ここで破壊できたのは僥倖である。

 ただ不気味なのはミラーフォースを破壊されたパンドラになんら焦りの色が見当たらない事だろうか。もしかしたら残ったもう一枚も厄介な罠なのかもしれない。

 

「俺のターン……ドロー」

 

 とはいえこのまま何もせずではブラック・マジシャンを召喚され押し切られてしまう可能性もある。

 完全に大攻勢をかけるのはリスクが高い。デュエリストならリスクを承知で踏み込まねばならない場面もあるが、それは常ではない。時にリスクを回避する慎重さも必要だ。

 ここは少しだけ臆して攻める。

 

「魔法カード発動、融合! 手札のE・HEROザ・ヒートとフィールドのエアーマンを融合。現れろ炎のHERO。E・HEROノヴァマスター!」

 

 

【E・HEROノヴァマスター】

炎属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2100

「E・HERO」と名のついたモンスター+炎属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 全身から紅蓮の炎を発生させた戦士がフィールドに降り立った。ノヴァマスターの攻撃力は2600。ブラック・マジシャンの2500よりも上だ。

 勿論攻撃力が100上なだけで安心することはできない。パンドラとてブラック・マジシャンの攻撃力を上げるカードや除去カードを投入しているだろう。

 それでもブラック・マジシャンを召喚しても、それだけでは戦闘破壊できないというのは価値がある。

 

「ノヴァマスターでセットモンスターを攻撃、バーニング・ダスト!」

 

 ノヴァマスターが炎を纏った腕でセットモンスターを殴りつけて破壊した。罠カードは攻撃誘発の物ではなかったようで発動していなかった。

 しかしセットされていたのは墓守の偵察者。

 

 

【墓守の偵察者】

闇属性 ☆4 魔法使い族

攻撃力1200

守備力2000

リバース:自分のデッキから攻撃力1500以下の「墓守の」と名のついた

モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「墓守の偵察者のリバース効果。デッキより墓守の偵察者を守備表示で特殊召喚」

 

「だがノヴァマスターのモンスター効果も発動する。相手モンスターを戦闘破壊したことでカードを一枚ドローする。モンスターとカードをセットしてターンエンド」

 

「私のターン、ドロー。……いいカードを引きました。強欲な壺で二枚ドロー。そして墓守の偵察者を生贄に捧げ、邪帝ガイウスを攻撃表示で召喚」

 

 

【邪帝ガイウス】

闇属性 ☆6 悪魔族

攻撃力2400

守備力1000

このカードの生け贄召喚に成功した時、フィールド上に存在するカード1枚を除外する。

除外したカードが闇属性モンスターカードだった場合、

相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

 

 

 全身を闇のような黒で染め上げた帝王がフィールドに出現する。

 ブラック・マジシャンデッキだと思っていたが、まさか邪帝なんてものを投入しているとは。邪帝ガイウス、フィールドに存在するカードを破壊ではなく除外できる効果をもった強力なカードだ。

 帝は等しく生贄召喚に成功した時に効果を発揮するモンスター群であるが、特に風帝ライザーと並び最強の帝とされるのが邪帝ガイウスだ。

 除外効果は強制のため、フィールドのカードがガイウスだけの場合はガイウスを除外しなくてはならないのだが、それにしたって相手ライフに1000ダメージを与えることはできる。除外効果とバーン。ライフが4000であるとこれほど恐ろしいモンスターもそうはないだろう。

 

「ガイウスのモンスター効果、君の場にいるノヴァマスターを除外して貰いますよ……」

 

「させない。カウンター罠、天罰! 手札を一枚捨ててモンスター効果を無効にして破壊する」

 

 

【天罰】

カウンター罠カード

手札を1枚捨てて発動する。

効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する。

 

 

 効果を発動するガイウスに落雷がおちてきて破壊した。

 闇の飲まれそうになっていたノヴァマスターも解放される。

 

「ガイウスが破壊されてしまいましたか。仕方ありません。では目障りなHEROには強引な手法で退場して頂きましょう。魔法カード、地砕き」

 

 

【地砕き】

通常魔法カード

相手フィールド上に表側表示で存在する守備力が一番高いモンスター1体を破壊する。

 

 

 闇の飲まれるのから免れたのも束の間。不可視の圧力がノヴァマスターの体を粉々に砕いて破壊してしまう。

 

「ターンエンドです」

 

 とはいえこれで仕切り直し。デュエルはまだ始まったばかりだ。




宍戸丈「今日の最強カードはE・HEROノヴァマスター!」

パンドラ「ではなく邪帝ガイウスです」

宍戸丈「んなっ!」

パンドラ「生贄召喚に成功した時、フィールド上にあるカードを一枚除外する効果をもっています。そして除外したのが闇属性モンスターだった場合、更に相手ライフに1000ポイントのダメージを与えることも出来る。このカード自身も闇属性モンスターなので相手ライフが1000以下であれば、このカードの召喚に成功するだけで自分の勝利を決定的にできるでしょう」

カイザー「帝をメインに据えたデッキには黄泉帝や次元帝などがある。特に次元帝は事故率は高いが上手く嵌まれば現環境でも互角以上に戦うことができるだろう」

吹雪「帝をメインにしないデッキでも邪帝ガイウスは汎用性の高いカードだから隠し味に一枚混ぜるのもいいね」

宍戸丈「……主人公なのに、この扱いはなんなんだろう…………」




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第59話  VS パンドラ 中編

宍戸丈 LP4000 手札2枚

場 セットモンスター

 

パンドラ LP4000 手札3枚

場 無し

伏せ 一枚

 

 

 ガイウスの除外効果はどうにか逃れる事が出来たがノヴァマスターを破壊されたのは痛い。それに未だに使用されていないリバースカードの存在もある。

 E・HEROデッキの主軸は融合。丈のHEROデッキは通常の『融合』以外にも墓地融合を可能にするカードを投入することで事故率を下げているが、戦いが長引けば徐々にデッキからモンスターを融合させるためのカードがなくなっていき不利となる。

 その前に勝負を速攻で決めにいくべきだろう。無論、防御は捨てない。ただ攻撃に重きをおいて進めるべきだ。

 

「俺のターン、ドロー。俺はリバースカードを二枚セット。そしてE・HEROオーシャンを攻撃表示で召喚する!」

 

 

【E・HEROオーシャン】

水属性 ☆4 戦士族

攻撃力1500

守備力1200

1ターンに1度、自分のスタンバイフェイズ時に発動する事ができる。

自分フィールド上または自分の墓地に存在する

「HERO」と名のついたモンスター1体を選択し、持ち主の手札に戻す。

 

 マスクチェンジのカードがあればこのまま変身召喚でM・HEROに繋げることも出来たのだが、丈の手元にそのカードはない。

 手元にないカード、ならば手元に呼び込むまで。

 

「更にセットしていたモンスターを反転召喚。俺のセットしていたのはメタモルポット。このカードがリバースした時、互いのプレイヤーは手札を全て捨てカードを五枚ドローする」

 

「成程。二枚カードを伏せたのはメタモルポットの効果で墓地へ送ることを防ぐため。となると……そのカードは案外、速攻魔法や罠ではなく通常魔法という可能性もありますねぇ」

 

 見透かしたようにパンドラが言う。

 鋭いものだ。実際パンドラの指摘は正しい。丈の伏せたカードは罠ではなく通常魔法。速攻魔法と違い通常魔法はセットしたターンに使用できるため、こうしてメタモルポットの効果を発動前にカードを伏せることで実質手札を七枚とすることができるのだ。

 丈は努めて無表情を装うが相手は人の表情を伺うことに長けた奇術師。こちらの手の内は読まれてしまっただろう。

 

(だけど)

 

 読まれたとしても、抗えない攻撃はある。未来を読める人間だろうと頭上から巨大隕石が落ちて来れば死は免れない。

 キーカードがくることを願い丈はカードをドローする。

 

(………………駄目か)

 

 残念ながらドローした五枚のカードではこのターンで絶対に勝つ、と断言することは出来そうになかった。

 デュエルというのはそう都合よくいってくれないものだ。それが面白いところであるのだが、こういう遊びではないデュエルではそういった時の運が恨めしい。

 

「手札より魔法カード、ミラクル・フュージョンを発動。自分のフィールドか墓地から融合素材モンスターを除外してE・HERO融合モンスターを融合召喚できる」

 

「墓地融合、ですか」

 

 

【ミラクル・フュージョン】

通常魔法カード

自分のフィールド上または墓地から、融合モンスターカードによって

決められたモンスターをゲームから除外し、「E・HERO」という

名のついた融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 

 

 手札とフィールドではなくフィールドと墓地。この融合範囲の広さと融合先の多さがE・HEROデッキ最大の強みだった。

 相手の場にはモンスターがゼロ。そしてこちらには攻撃力1500のオーシャンがいる。攻撃力2500以上のモンスターを召喚すれば勝てる。

 しかし相手に伏せカードがある以上、攻撃が通らない場合のことも考えなければならないだろう。そこまで思考した丈は、

 

「墓地のノヴァマスターとザ・ヒートを墓地融合、現れろ! 炎のHERO! E・HEROノヴァマスター!」

 

 融合素材となったモンスターと自分自身を融合素材として第二のノヴァマスターが融合召喚された。

 これでメタモルポットを含めずとも攻撃力の合計は4000をオーバーした。

 

「メタモルポットとオーシャンで相手プレイヤーにダイレクトアタック!」

 

「…………」

 

 パンドラLP4000→1800

 

 二体のモンスターの攻撃を甘んじて受けるパンドラ。初期ライフの半分以上が削り取られたというのにパンドラはそよ風にあてられただけだ、とでも言わんばかりに余裕な表情を崩さない。

 しかしバトルフェイズは終わりではない。最後のモンスター、ノヴァマスターが残っている。

 

「止めだ。ノヴァマスターでダイレクトアタック、バーニング・ダスト!」

 

「この瞬間、リバース発動。ガード・ブロック、ノヴァマスターよりの戦闘ダメージを0にし私はカードを一枚ドローします」

 

 

【ガード・ブロック】

通常罠カード

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。

その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 ノヴァマスターの攻撃が掻き消えてパンドラはニヤリと挑発しながらカードを引いた。

 パンドラの手札が合計六枚となる。次のターンでドローすれば手札は七枚。初期手札を二つ上回る数だ。手札のアドバンテージが重要な意味をもつデュエルモンスターズで手札七枚というのは大きい。

 

「……俺はカードを二枚セットしてターンエンド」

 

 ここは持たすしかない。幸い五枚のドローは大量融合召喚を可能にしてくれるような手札ではなかったが、かわりにミラーフォースなどの強い罠カードをもってきてくれた。

 攻撃重視でいこうとして防御カードが多く手札にくるのは皮肉に満ちているがそこは今は言うまい。

 

「私のターンです。カードドロー。ふふふっ。ミスター・宍戸。先程のターン、メタモルポットの効果を使用したのは不正解でしたねぇ。お陰で私も私のエースモンスターを呼ぶ準備が整いましたよ」

 

「エース!?」

 

「その通り! 改めて名乗りましょう。私はグールズナンバーツーレアハンター奇術師パンドラ。またの名をブラック・マジシャン使いのパンドラ……。その名が偽りでないことを証明しましょう。

 では本日の主演を招きましょうか。手札より魔法カード、黒魔術のカーテンを発動! 私のライフを半分払いデッキよりブラック・マジシャンを特殊召喚します!」

 

 

 パンドラLP1800→900

 

 

【黒魔術のカーテン】

通常魔法カード

ライフポイントを半分払って発動する。

自分のデッキから「ブラック・マジシャン」1体を特殊召喚する。

このカードを発動するターン、自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

 

 

 白い髑髏がその肉のない手で持ち上げた漆黒のカーテン。それが開くと中から飛び出してきたのは魔術師の杖をもった正真正銘のマジシャン。

 やや赤みがかった魔導師服に身を包み、肌は浅黒いソレはキング・オブ・デュエリストが操った同名カードよりも邪悪な色をもっている。

 ブラック・マジシャン。ブルーアイズと共にデュエルモンスターズ最初期から勇名を馳せたカードがパンドラの前に降り立った。

 

 

【ブラック・マジシャン】

闇属性 ☆7 魔法使い族

攻撃力2500

守備力2100

 

 

 雰囲気は異なっていても能力値は完全に同一。デュエルモンスターズ最大の知名度をもつ魔術師は鋭い視線を敵である丈に向けてきた。

 I2カップでマナの操るブラック・マジシャンとも戦ったことがあるので、これで人生二度目のブラック・マジシャンである。

 

「黒魔術のカーテンを発動したターン、私は召喚・反転召喚・特殊召喚はできません。しかしやりようは幾らでもあるのですよ。私は手札より黒魔導を発動! 私の場にブラック・マジシャンがいる時、相手の場の魔法・罠カードを全て破壊する!」

 

 

【黒・魔・導】

通常魔法カード

自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」が

表側表示で存在する時のみ発動する事ができる。

相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

 

 

 ブラック・マジシャンの攻撃名と同じ名前のカード。魔法・罠を完全除去するそのカードは禁止カードであるハーピィの羽根箒を彷彿とさせる。

 このままではミラーフォースは元より丈のリバースカードは全滅。通常魔法などについてはもはやどうしようもないが、せめてフリーチェーンは発動させておく。

 

「なら俺はそれにチェーンして威嚇する咆哮を発動、このターン。相手は攻撃宣言ができない」

 

「用意がいいですね。だが攻撃が封じられただけでブラック・マジシャンを止められるとは思わないことですよ。更に私は千本ナイフを発動! 場にブラック・マジシャンがいる時、相手の場のモンスターを1体破壊する! 私が選択するのは当然ノヴァマスター!」

 

【千本ナイフ】

通常魔法カード

自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」が

表側表示で存在する場合のみ発動する事ができる。

相手フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。

 

 

 ノヴァマスターに千本のナイフが突き刺さった。ノヴァマスターは苦痛で呻き声をあげると粒子となって破壊される。

 攻撃力2600のノヴァマスターが消えた為、必然場で最大の攻撃力をもつのは2500のブラック・マジシャンとなった。

 

「流石にもうすることがありませんね。私はカードを一枚セット、ターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 このままでは不味い。どうにも相手のペースにのせられっぱなしだ。この辺りで流れを変えなければずるずると敗北まで一直線となる。

 丈はドローしたカードを見て安心した。これならばいける。

 

「オーシャンのモンスター効果、墓地のエアーマンを手札に戻し、エアーマンを召喚! エアーマンの効果でデッキよりE・HEROスパークマンを手札に加える」

 

 手札にカードが揃った。

 

「沼地の魔神王は手札から墓地へ捨てることで、デッキより融合を手札にもってくることができる。俺は沼地の魔神王を墓地に捨て、デッキより融合をサーチする。

 そして手札から魔法カード、融合を発動! E・HEROスパークマンとE・HEROフォレストマンを手札融合。現れろ! 幻影の崇拝者。V・HEROアドレイション!」

 

 

【V・HEROアドレイション】

闇属性 ☆8 戦士族

攻撃力2800

守備力2100

「HERO」と名のついたモンスター×2

1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体と、

このカード以外の自分フィールド上に表側表示で存在する

「HERO」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。

選択した相手モンスターの攻撃力・守備力は

エンドフェイズ時まで、選択した自分のモンスターの攻撃力分ダウンする。

 

 

 EでもMでもないVの名をもつHERO。V・HEROアドレイション。

 八岐大蛇のような漆黒のスカーフを無数に靡かせ腕を組みながらアドレイションはブラック・マジシャンの前に降り立つ。

 

「ここにきて新たなHERO……」

 

 V・HEROの登場に流石のパンドラも目を見開いた。

 アドレイションの攻撃力は2800。効果も戦闘では強力なものだ。しかし効果・魔法・罠への耐性は一切ない。これはギャンブルだ。

 

「V・HEROアドレイションのモンスター効果。このカード以外のHEROの攻撃力分だけ相手の場のモンスター1体の攻撃力と守備力をダウンさせる。アンビション・ブレイク・ダウン!」

 

 丈が選択したモンスターは攻撃力1800のエアーマン。そして相手の場にいるのはブラック・マジシャンのみ。よってブラック・マジシャンの攻撃力は1800ポイントダウンして700となる。

 もはやメタモルポットでも撃破できる数値だ。

 

「良し。V・HEROアドレイションで攻撃、アンビション・サンクションズ!」

 

「ふ、ふふふふ。ナイスなプレイイングです。だが奇術師を相手するにはまだまだ爪が甘い」

 

「な、に……?」

 

「世紀の大脱出ショーをご覧に入れましょう。リバースカードオープン、ディメンション・マジック!」

 

「……っ!?」

 

「場のモンスターを生贄に捧げ、手札より魔法使い族モンスターを特殊召喚します。私はブラック・マジシャンを生贄にブラック・マジシャンを召喚!」

 

 

【ディメンション・マジック】

速攻魔法カード

自分フィールド上に魔法使い族モンスターが存在する場合、

自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

選択した自分のモンスターを生贄にし、

手札から魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する。

その後、フィールド上のモンスター1体を選んで破壊できる。

 

 

 攻撃力700となったブラック・マジシャンが消滅し、魔術師をもした棺が出現する。

 棺が開くとそこから飛び出してきたのはブラック・マジシャン。だが違う。これは最初のブラック・マジシャンではない。既に手札にもブラック・マジシャンをもっていたのだろう。

 リリース&エスケープ。対象を失いアドレイションの攻撃は空振りする。そして場のモンスターがかわったことによる戦闘の巻き戻しが発生した。しかし、

 

「ディメンション・マジックの効果。フィールドのモンスター1体を破壊する!」

 

 鎖がアドレイションを縛り上げ、そのまま絞殺した。

 窓ガラスが弾けた様な音とともに幻影のHEROは文字通り幻だったが如く1ターンも長らえることなく墓地へといった。

 

「くっ。俺はオーシャンとメタモルポットを守備表示に変更。ターンエンドだ」

 

 またしても流れを変えることはできなかった。

 圧倒的なカードプレイングセンスをもつデュエリスト、パンドラはあらゆるものを見通すような憎しみを秘めた目で丈のことを見ていた。

 

 




宍戸丈「今日の最強カードはV・HEROアドレイシ――――」

パンドラ「ではなくブラック・マジシャンです」

宍戸丈「……………………」

カイザー「原作遊戯王、アニメ遊戯王と共にキング・オブ・デュエリスト武藤遊戯のエースモンスターとして有名だ」

吹雪「攻撃力じゃブルーアイズに劣るブラック・マジシャンだけど、魔法使い族であることや専用のサポートカードを駆使してブルーアイズには出来ないトリッキーな動きをすることができるよ」

カイザー「光と闇の洗礼を受ければ混沌の黒魔術師になることもできる。ただこの作品は兎も角、現実では混沌の黒魔術師は禁止カード故、それも出来ないが……」

パンドラ「私の使用しているブラック・マジシャンは武藤遊戯のソレとデザインが異なりますが、能力は完全に同一。是非私のブラック・マジシャンでデッキを組んでみて下さい。ショットガンシャッフルまですれば貴方も今日からパンドラ!」

宍戸丈「……世界の悪意が見えるようだよ。綺麗なジョーからヘルジョーになりそうだ」


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第60話  VS パンドラ 後編

宍戸丈 LP4000 手札2枚

場 エアーマン、オーシャン、メタモルポット

 

パンドラ LP900 手札5枚

場 ブラック・マジシャン

 

 

「私のターン、ドロー」

 

 パンドラの手札が六枚になる。

 丈のフィールドには三体のHEROがいるものの、攻撃力においてパンドラの場にいるブラック・マジシャンに及ばない。更に手札が六枚ともなれば、このターンで仕掛けてくるだろう。

 ある種の覚悟を決めて丈は自分の手札を見た。……この局面を乗り越えることが出来るか否か、それが一つの峠となりそうだ。

 

「私は魔法カード、カップ・オブ・エースを発動します。コイントスを行い表になれば私は二枚ドローし、裏になれば貴方が二枚ドローする……」

 

「!」

 

 ここにきての手札補強の可能性に丈の目に希望の光が灯る。

 確率二分の一での手札消費なしの二枚ドロー。これを獲得できればデュエルを巻き返すことも出来る筈だ。

 降ってわいたラッキーチャンス。しかしチャンスはあくまでもチャンス。失敗すれば唯でさえ手札の多く優位な位置にいるパンドラを更に優位にすることとなる。

 

(待てよ)

 

 そういえばパンドラの中の人は、確か……。そしてカップ・オブ・エースを使った人物というのは、

 

「普通ならここでコイントスをするところですが、ちょっと変わった趣向を致しましょう。廻れ! 運命!」

 

 パンドラが合図をするとカップ・オブ・エースが鉄の音を奏でて回り始める。もしかしなくてもこれは、正位置か逆位置かを決める運命の回転。

 

「さぁ。ストップを宣言しなさい。宍戸丈、運命は貴方の決断に委ねられる」

 

「くっ……。止まれ!」

 

 カップ・オブ・エースの回転が止まる。緑色のカードは逆さま――――ではなく正しく起立している。

 丈の中の希望が泡となり消えた。

 

「出たのは当然! 正位置ィ! 私はデッキから二枚ドロー。更に魔法カード、古のルール! 手札のレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚する!」

 

 

【古のルール】

通常魔法カード

手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 年季の入った古文書のようなものが描かれたカードがパンドラの場に現れると、古い風がフィールドに吹きすさぶ。

 レベル5以上の通常モンスターで最も攻撃力が高いのはブルーアイズだが世界に四枚しかないカードをパンドラがもっているわけがない。

 ブラック・マジシャン使いであるパンドラが呼び出す上級以上の通常モンスターだ。恐らくは考えるまでもないことだが、

 

「レベル5以上……。まさか三枚目のブラック・マジシャンが」

 

「ふっ。魔法カード、古のルールによりフィールドは嘗ての掟に支配されている。ここにあるのは現在ではなく過去のルール。手札よりブラック・マジシャンを特殊召喚する!」

 

 デュエルモンスターズでも最上級であり最高峰のレアカードが二枚も並ぶと壮観な光景だった。

 二体のブラック・マジシャンは腕を組み悠然と構えている。

 

「絶望はまだ早い。私のブラック・マジシャンデッキはまだこれからなんですよ。私は二体の最上級魔術師ブラック・マジシャンを生贄に捧げる!」

 

「上級魔術師二体の生贄だって!?」

 

 最上級魔術師を二体コストにすることで召喚される最上位魔術師。そのカードに丈は心当たりがあった。

 パンドラは手札から力強く一枚のカードを抜くとデュエルディスクに叩きつける。

 黒い旋風がフィールドに舞い狂った。

 

「降臨せよ! ブラック・マジシャンがその奥義を極めし到達点! 黒の魔法神官!」 

 

 

【黒の魔法神官】

闇属性 ☆9 魔法使い族

攻撃力3200

守備力2800

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上のレベル6以上の魔法使い族モンスター2体を

リリースした場合のみ特殊召喚できる。

また、このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

罠カードが発動した時、その罠カードの発動を無効にし破壊できる。

 

 

 姿恰好はブラック・マジシャンと変わりない。だが違う。外装は同じでも中の総量が桁違いなまでに跳ね上がっている。

 これが黒き魔術師が魔道を完全に極めた究極の姿。あらゆる罠を無効にする黒の魔法神官なのだろう。

 

「私にはまだ通常召喚が残っている。魔道戦士ブレイカーを攻撃表示で召喚! 召喚した際ブレイカーに魔力カウンターが一つのり攻撃力は1900ポイントにアップ。

 バトルフェイズ! 魔道戦士ブレイカーでE・HEROオーシャンを攻撃!」

 

 魔道戦士ブレイカーの剣がオーシャンを両断した。残るはE・HEROエアーマンかメタモルポット。

 メタモルポットが守備表示でエアーマンが攻撃表示とくらべ狙ってくるのは間違いなくエアーマン。

 

「そして黒の魔法神官でエアーマンに攻撃! セレスティアル・ブラック・バーニング!」

 

 最上位魔術師による砲撃だ。エアーマンも風を操り申し訳程度の抵抗を試みるものの勝てる道理はなく。

 エアーマンは戦闘破壊され、その攻撃力の差分のダメージが丈に降りかかった。

 

 宍戸丈LP4000→2600

 

「バトルフェイズを終了してのメインフェイズ。シールドクラッシュでメタモルポットを破壊! これで貴方の場はがら空きとなります。カードを一枚伏せターンエンド」

 

「……っ! 俺のターン。ドロー」

 

 カウンター罠以外のあらゆる罠を完全無効する力をもった黒の魔法神官。しかもその効果はサイコ・ショッカーのようなお互いのプレイヤーが、ではなく相手だけの一方的ときた。

 召喚難易度の高さに見合う強力なモンスターだ。だが罠が通用せずとも、攻撃力が3000をオーバーしてようとやりようはある。

 亮と戦った時の事を思い出せばいい。亮とのデュエルは攻撃力8000のサイバー・エンド・ドラゴンと5600のサイバー・ツイン・ドラゴンにマジック・キャンセラーが並び、おまけに王宮のお触れが発動中なんていう絶望のどん底のような状況もあったのだ。

 それに比べれば全然マシだ。

 

(墓地にいるカードは十分。これで)

 

 ドローしたミラクル・フュージョン。これさえあればなんとでもなる。

 今、丈が使っているこのHEROデッキは大会用に融合デッキの枚数を15枚に抑えていたのでフリーデュエルほどの変幻自在な融合は出来ない。

 しかし御守りと隠し味の要素として一枚だけ投入しておいたHEROが役立つ時がきたようだ。

 

「魔法カード発動、ミラクル・フュージョン! 墓地のモンスターを融合素材として除外し、融合デッキよりE・HEROを融合召喚することができる! 俺は墓地のE・HEROスパークマンと融合素材代用モンスター沼地の魔神王を融合! 

 融合召喚! 現れろ! E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン!」

 

 融合デッキより白亜のHEROが颯爽と登場し――――

 

「あっ。奈落の落とし穴発動します」

 

「……………………………………………」

 

 あっさりとフィールドにぽっかり空いた落とし穴に落ちて行った。

 断末魔の叫び声すらなく格好よく登場したはずのHEROが落とし穴に吸い込まれて消えていく。

 

「……ターンエンド」

 

「私のターン、魔導戦士ブレイカーで相手プレイヤーを直接攻撃!」

 

「うぐっ!」

 

 宍戸丈LP2600→700

 

 ここにきて1900ものダメージは痛い。しかしパンドラがモンスターを召喚しなかったこと、それがどうにか薄皮一枚で丈の命運を繋いでくれた。

 魔道戦士ブレイカーの次に黒の魔法神官が飛び上がる。止めを刺す気なのだろう。その一挙一足を見咎めながら丈は一枚のカードを抜く。

 

「ファイナルアタックです。黒の魔法神官の攻撃、セレスティアル・ブラック・バーニング!」

 

「この瞬間、手札からクリボーのカードを捨てることで戦闘ダメージを0にする!」

 

 

【クリボー】

闇属性 ☆1 悪魔族

攻撃力300

守備力200

相手ターンの戦闘ダメージ計算時、このカードを手札から捨てて発動する。

その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

 

 

 手札から飛び出してきたクリボーが魔法神官の攻撃を丈のかわりに受けてくれる。

 ワンキル対策として前世の昔から愛用してきたクリボーが今度も助けてくれた。やはりクリボーは頼りになる。

 

「クリボー? そんな雑魚モンスターで魔法神官の攻撃を防ぐなどと……。どこまで。ターンエンドです……」

 

「クリボーは雑魚じゃない。俺のターン、ドロー!」

 

 クリボーのお蔭で繋いだライフ。無駄にはしない。

 パンドラの場には強力なモンスターがいるがリバースカードはゼロ枚。ここで勝負をかけるしかない。

 

「魔法カード、平行世界融合!」

 

 

【平行世界融合】

通常魔法カード

ゲームから除外されている、融合モンスターカードによって決められた

自分の融合素材モンスターをデッキに戻し、「E・HERO」と名のついた

融合モンスター1体を融合召喚扱いとして融合デッキから特殊召喚する。

このカードを発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚する事はできない。

 

 

「また新たな融合カード!?」

 

「HEROを舐めちゃいけない。HEROはピンチになればどこからだって駆けつける。手札だろうと墓地だろうと除外ゾーンだろうと。平行世界融合、このカードは除外ゾーンにおかれた融合素材モンスターをデッキに戻すことで融合召喚ができる。

 除外されたE・HEROノヴァマスターと沼地の魔神王をデッキに戻し、召喚しろ! 水のHERO! E・HEROアブソルートZero!」

 

 

【E・HEROアブソルートZero】

水属性 ☆8 戦士族

攻撃力2500

守備力2000

「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する

「E・HERO アブソルートZero」以外の

水属性モンスターの数×500ポイントアップする。

このカードがフィールド上から離れた時、

相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 融合HEROでも最強とまで謳われる水のなをもちしHERO。最強のHEROは伊達ではなく丈のデッキの切り札の一つといっていい。

 

「そうポンポンと融合召喚を使いこなす手前には感嘆の一つもしましょう。けれどアブソルートZeroの攻撃力では黒の魔法神官には届かない。仮にブレイカーを攻撃したとしても私のライフをゼロにすることはできませんよ」

 

「それはどうかな。平行世界融合を使ったターン、俺は特殊召喚ができなくなるけれど。通常召喚なら出来る。俺はアブソルートZeroを生贄に偉大魔獣ガーゼットを召喚!」

 

 

【偉大魔獣ガーゼット】

闇属性 ☆6 悪魔族

攻撃力0

守備力0

このカードの攻撃力は、生け贄召喚時に生け贄に捧げた

モンスター1体の元々の攻撃力を倍にした数値になる。

 

 

 腕を組んだ魔獣が丈の前に召喚される。アブソルートZeroほどのHEROを供物として現れただけあり、その威容は上級モンスターでありながら最上位魔術師である黒の魔法神官に劣らないものがあった。

 

「ガーゼットの攻撃力は生贄に捧げたモンスターの倍となる……。いや、それよりもアブソルートZeroの効果は!」

 

 Zeroの効果に気付いたパンドラの目が見開かれるがもう遅い。

 アブソルートZeroが最強と呼ばれる所以となったモンスター効果はZeroがフィールドから離れることをトリガーにして発動する。

 

「アブソルートZeroのモンスター効果。このカードがフィールドを離れた時、相手のモンスターを全滅させる!」

 

 冷たい吹雪がパンドラの場を吹き荒れ、黒の魔法神官と魔道戦士ブレイカーを氷像に変えた。

 氷像は風が少し吹いたかと思うと粉々に砕け散ってしまう。

 

「バトル! 攻撃力5000のガーゼットでダイレクトアタック!」

 

「ええぃ。まだですよ! ダイレクトアタックの瞬間、手札よりバトルフェーダーを召喚! バトルフェイズを強制終了させます!」

 

 

【バトルフェーダー】

闇属性 ☆1 悪魔族

攻撃力0

守備力0

相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。

このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する。

この効果で特殊召喚したこのカードは、

フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

 

 

 パンドラの手札から飛び出してきた十字架がバトルを停止させた。

 ここにきてのバトルフェーダー。思わず舌打ちしたくなるのを堪える。千載一遇の好機を逃してしまった。

 

「ターンエンドだ……」

 

 戦闘はまだ終わりはしない。ブラック・マジシャンが三枚墓地におかれて尚も、否、置かれたからこそパンドラには余力が遺されていた。




パンドラ「今日の最強カードは黒の魔法神官! レベル6以上の魔法使い族を二体生贄にすることで特殊召喚できます」

カイザー「召喚条件はやや難しいがそのモンスター効果はサイコ・ショッカーの上位互換ともいえる罠を無効化する効果だ。罠を無効する効果は任意効果のため相手の罠だけを一方的に封じることができるぞ」

パンドラ「魔法族の里と同時に運用すれば相手の罠・魔法の両方を封じることも可能です」

吹雪「ただ誘発即自効果だからカウンター罠には対応してないのがサイコ・ショッカーより劣っているね。カウンター罠には要注意だ」

宍戸丈「…………………俺のクリボーについても紹介を……」

カイザー「なにか言ったか?」

宍戸丈「いや、なんでも」






 最近、メッセージや感想などで『丈のデッキレシピを教えて欲しい』『似たようなデッキをssで使いたい』『丈の容姿について知りたい』などというコメントが寄せられています。
 なので今後の展開……目安としてはネオ・グールズが終わるかアカデミア中等部を卒業するか原作に突入するかの前で設定集的なものをやるかもしれません。
 それと別に丈の使っているのと同じデッキをssで採用するのも、I2カップ的な大会をやるのも、いつかのショタコン出すのも基本的に何でも自由です。そもそもこの作品も二次創作ssですしね。
 流石にssの内容を丸写しにして別の場所で無断で掲載する、なんてことは止めて貰いたいですが、それ以外は何をどうしようと構いません。


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第61話  VS パンドラ 決着編

宍戸丈 LP700 手札0枚

場 偉大魔獣ガーゼット(攻撃力5000)

 

パンドラ LP900 手札3枚

場 バトルフェーダー

 

 

 アブソルートZeroでフィールドを一掃してからのガーゼットの直接攻撃。

 確実に勝ったと思った。勝ちを確信したといっていい。

 だというのにパンドラの手札にいたバトルフェーダーにより手中にあった勝利は目の前まで遠ざかってしまった。

 これだからデュエルモンスターズというのは面白い。どれだけ圧倒的で、どれだけ追い風の中にあろうとほんの些細なことで逆転されてしまう。

 勝利を手中に収めることと勝利を目前とすること。この二つには果てしない差がある。

 

「私のターン」

 

 それでも丈が気にかかることは一点。これほどのタクティクスを振るうデュエリスト、パンドラに楽しさがまるでないことだ。

 グールズのメンバーだからというのもあるだろう。しかしグールズのレアハンターといえど一皮むけばデュエリストだ。自分が勝利ムードにいれば喜びを感じるだろうし、負けムードであれば苦渋の一つはするだろう。

 けれどパンドラにはそれがない。表面上はニヤニヤと奇術師の如く振る舞ってみせるが、その内面にあるのは淡々と事務的に作業をするロボットのように冷え切った情熱だ。

 

「……ドロー」

 

 パンドラの手札は四枚。ガーゼットは確かに高い攻撃力を誇るモンスターだが耐性はなにもない。

 手札が四枚もあれば十分に撃破可能なモンスターである。

 動くか、と丈は身構えるが予想に反してパンドラは大したアクションをとることはなかった。

 

「私はモンスターをセット、ターンエンド」

 

 ブラック・マジシャン召喚からの黒の魔法神官までの流れが嘘のような消極的なターン。守りを固めたのか。

 訝しみながらも自分のターンとなった為、丈も動く。

 

「俺のターン、ドロー。バトル! ガーゼットでバトルフェーダーを攻撃、ブレストファイヤー!」

 

 ガーゼットの胸部から約3万度もの数値を叩きだす超高熱エネルギーが照射され、バトルフェーダーを溶解させる。

 自身の効果により破壊されたバトルフェーダーはゲームより除外された。

 

「バトルフェイズを終了。カードを一枚セットしてターンエンドだ」

 

「私のターン。……さて、1ターン凌ぎましたか。天の運に流れを任せたのですが……どうにも上手くいくものですね。こういうカードゲームは

 運任せなど奇術師失格といえるでしょうが、まあいいでしょう。運任せも。私のような半端者には運任せがお似合いだ」

 

 パンドラは吐き捨てるように言った。

 

「では此度のデュエル、最大のゲストを紹介しましょう。私はセットしてあった王立魔法図書館を生贄に捧げ、ブラック・マジシャン・ガールを召喚!」

 

「なっ!」

 

 パンドラの場にコミカルな音をたてながら飛び出してきたのは見間違えるはずもない。デュエルモンスターズでも最大の人気を誇るアイドルカード。

 最上級魔術師ブラック・マジシャン唯一の愛弟子であるブラック・マジシャン・ガールであった。

 

 

【ブラック・マジシャン・ガール】

闇属性 ☆6 魔法使い族

攻撃力2000

守備力1700

お互いの墓地に存在する「ブラック・マジシャン」

「マジシャン・オブ・ブラックカオス」1体につき、

このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

 

 

 ブラック・マジシャンとは異なり、ブラック・マジシャン・ガールの方はデザインも普通のものだ。

 ただ目が以前見た事のあるブラック・マジシャン・ガールよりも鋭いような気がするが、それだけだ。

 

「ぶ、ブラック・マジシャン・ガールだなんて! どこでそんなカードを」

 

「……私がこのカードをもっていることは驚きですか。そうでしょうそうでしょう。このカードは当時グールズのレアハンターでナンバーツーの地位にいて、ブラック・マジシャン使いと呼ばれた私ですら知り得なかった超レアカード。

 もしも武藤遊戯がブラック・マジシャンと共にエースモンスターとして使用していなかったら永久に歴史の表舞台に登場することもなかったかもしれません。

 おっと。あんまり長話もなんです。そろそろ終わらせましょう。ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力はご存知ですね? 墓地に三体のブラック・マジシャンがいるため攻撃力が900ポイントアップ!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力が一気に2900まで上昇した。

 パンドラのデッキには三枚のブラック・マジシャンが投入されるため、一枚しか投入されていない武藤遊戯のデッキよりもブラック・マジシャン・ガールの効果を有効活用できる。

 

「だけど2900じゃガーゼットには届かない」

 

「理解してますよそのくらいは。だからこうします。速攻魔法、禁じられた聖杯を発動! 攻撃力を400ポイント上昇させ、モンスター効果をこのターンの間だけ無効にする!」

 

「禁じられた聖杯だって!?」

 

 ガーゼットの攻撃力は5000だ。しかしそれはガーゼットのモンスター効果によるもの。効果を適用しない場合のガーゼットの元々の攻撃力は0。

 禁じられた聖杯を適用された場合、その攻撃力は一気に400にまで落ち込む。

 

「これでガーゼットはただの攻撃力400の弱小モンスター。チェックメイト! ブラック・マジシャン・ガールでガーゼットを攻撃! ブラック・バーニング!」

 

 ピンク色の魔道弾がガーゼットに迫ってくる。この攻撃が通れば丈は2500ものダメージを受けて負けだ。

 それだけはなんとしても避ける。

 

「リバースカードオープン! スピリットバリア!」

 

 

【スピリットバリア】

永続罠カード

自分フィールド上にモンスターが存在する限り、

このカードのコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

 

 

「自分フィールドにモンスターがいる限り、戦闘ダメージをゼロにできる」

 

 ガーゼットが破壊されるがスピリットバリアにより攻撃力の差分のダメージを受けずに済んだ。

 4000しかないライフを守るため、試にアストラルバリアと一緒に投入しておいたカードが役立ったようだ。

 

「しぶといですね。……私はカードを一枚伏せてターンエンド。しかしもう私の勝利は確定したも同然。私の場には攻撃力2900のブラック・マジシャン・ガール。対する貴方の手札は0。これで何が出来るんですか?」

 

「デュエルは最後まで――――」

 

「結果は分からないですか? 実に耳触りの良い聞き飽きた台詞です。最後まで諦めなければなんとかなるかもしれない。……なんて素晴らしい! 

 ですがねぇ。まだお子様の貴方は知らないでしょうが、世の中には諦めなくてもどうしようもない事例というのも確かに存在するのですよ」

 

「どうしようもない、事例?」

 

「あの日もそうでした。……私は嘗ての恋人カトリーヌの愛を取り戻す為、当時のグールズのボス・マリク様にこのデュエルディスクを捧げ、武藤遊戯に敗北者が死ぬデスマッチを挑んだ。

 しかし結果は惨敗。応援にきていたカトリーヌはマリク様に洗脳された私が見ていた幻であり本当はただの人形。私自身は敵であった武藤遊戯に命を救われる体たらく。……その後、マリク様の敗北と共にグールズは解散となり私にかかっていた洗脳も解けた。

 とはいえ私はマリク様に騙されていた身。グールズに対して特に忠誠心などはなかった。寧ろこれを切欠に心を入れ替え、新たに人生をやり直そうとすら思った。けれど」

 

「…………!」

 

 パンドラが顔を覆っていた仮面に手を掛けると、力強く剥ぎ取った。

 露わになる素顔は火傷によるものだろう。酷く焼けただれていた。爛れた顔の奥底で行き所のない憎しみで爛々と輝いた黒い瞳が真っ直ぐに丈を睨んでいた。

 

「嘗ての最愛の女性カトリーヌを探す旅の果てに私が見たもの、それは私の知らない男と小さな子供と共に微笑むカトリーヌだった!」

 

 やり直そうと思って探した女性は、既に自分を過去の物として切り捨て暖かな世界を築き上げていた。

 その時の悔しさは想像して余りあるものだろう。

 

「け、けど別にそのカトリーヌって人が悪いんじゃない。それだけで怒るなんて」

 

「それだけ? ふふふふふっ。それだけじゃないのですよ。カトリーヌが私の下から去ったのも元を辿れば私の責任。私もカトリーヌが幸せならばと身を引こうとしましたよ。

 ただせめて一言だけ……カトリーヌに別れの言葉と祝福の言葉をかけようとした私に彼女はなんと言ったと思います?」

 

「………」

 

「『貴方なんて知らない。金輪際近付かないで欲しい』……ふふふふっ、あははははははははははははははははははっ! 傑作でしょう? 笑えるでしょう? カトリーヌにとって私は過去の人間ですらなく、忘却の彼方に放逐したい存在に成り果てていたのですから!

 人生はやり直すことなんて出来ない。ゼロからの再スタートなんて所詮はマヤカシ。私が偶然ブラック・マジシャン・ガールのカードを引き当てたのもその時でしたよ。

 思えば皮肉ですね。世界中のデュエリストが求めてやまないたかがレアカードは手に入ると言うのに、私が唯一つ欲しかったカトリーヌの愛は永遠に手に入らなくなったのですから!

 後は済し崩し的にまたこうして再結成したグールズに呼ばれ、レアハンターの真似事などをやっていますよ。

 宍戸丈。貴方はどことなく私を救ってしまった武藤遊戯に似た雰囲気がある。……もしあの時、武藤遊戯が私を救っていなかったのならば、こんな思いをせずとも済んだかもしれない。我ながら理不尽極まる八つ当たりとは自覚していますが、それでもこう思わずにはいられないのですよ

 しかし肝心要の武藤遊戯は所在知れず。ならばせめて貴方をデュエルで屈服させ少しでも溜飲を下げさせて貰いますよ」

 

 宍戸丈は15歳だ。普通の人と異なり前世の記憶なんて珍妙奇天烈なものを持っているが、それでも人生を投げ打つほどの恋愛感情をもったことなどない。

 だからパンドラの言葉にどれだけの苦悩と無念が込められているのかを推し量ることは出来なかった。それでも、

 

「『ゼロ』からでも人生はやり直せる……」

 

「なに?」

 

 これだけは言える。

 自分は一度なにもかもがリセットされた。友人も積み重ねた時間も思い出も、なにもかもが無くなり新しい人生を始めざるを得なくなった。

 どうしてそんな現象が起きてしまったのかは自分でも分からない。

 だがゼロからの再スタートだったが、それでも自分は手に入れる事が出来たのだ。掛け替えのない友人を。掛け替えのない時間を。

 故に、ゼロからの再スタートは出来る。このことだけは自信を持って断言できる。自分がそうやって再スタートしたのだから。

 けれどこれはデュエル。デュエルであれば語るべきは言葉ではなくカード。

 

「俺は実際に一度なにもかもがゼロになったけど、こうして今はそれなりに幸せになることができてる」

 

「戯言を、そんなことが出来る筈がない。一度転落した人間はもう転落し続けるしかないのですよ! 全てを失って!」

 

 そうだろうか。丈は知っている。パンドラが以前、武藤遊戯と戦った時はカードを痛めるショットガンシャッフルを行い、初期手札にブラック・マジシャンをもってくるようにするなどのイカサマ行為を働いた。

 けれど今のパンドラは違う。カードを痛めるショットガンシャッフルはせず、イカサマの類もせず、グールズのレアハンターに身をやつしていようと正々堂々とデュエリストとして戦ってる。

 ならばこれはパンドラが゛変わった゛というなによりもの証左ではないのか。

 

「…………俺の手札は0枚、ゼロだ。ゼロからでも再スタート出来る、それをここで証明する」

 

「馬鹿な事を。そんな都合の良いことができるわけがない」

 

「それは、やってみないと分からない。俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを見ると、そのカードをそのまま発動する。

 

「魔法カード、貪欲な壺! 墓地のモンスターを五枚デッキに戻しシャッフル! その後、二枚ドローする!」

 

「ここにきてドローソースを引いた!? し、しかしまだ二枚だけ……。この布陣を突破することなど」

 

「貪欲な壺の効果で二枚ドロー!」

 

 丈の手札となった二枚の手札は、果たして希望そのものだった。

 これならばこの布陣、突破することが出来る。

 

「俺は手札からE・HEROキャプテンゴールドを捨てることで、デッキよりフィールド魔法スカイスクレイパーを手札に加える」

 

「スカイスクレイパー。E・HEROが戦闘をする時、攻撃力が相手モンスターより劣っていればHEROの攻撃力を1000ポイント上昇させるカード。ふ、あははははははははははは! そのカードなら成程。攻撃力2900のブラック・マジシャン・ガールでも攻撃力が1900もあれば倒せるようになるでしょう。

 ですがそんな貴方に教えてあげましょう。私がセットしたカードは速攻魔法サイクロン。スカイスクレイパーを発動したところで、その力が効果を発揮することはない。残念でしたね。これでジ・エンドです」

 

「それはどうかな。俺はスカイスクレイパーを手札に加える為にキャプテンゴールドを墓地へ捨てたんじゃない。キャプテンゴールドを墓地へ送るために捨てたのさ」

 

「なんですって?」

 

「これで俺の墓地には光属性モンスターのキャプテンゴールドと偉大魔獣ガーゼットが揃った。そして俺の手札に眠るこのカードは墓地の光属性モンスターと闇属性モンスターを除外することによって特殊召喚できるモンスター」

 

「そんな召喚方法をするモンスターなど……い、いや! でも馬鹿な。まさか、そんな……」

 

 フィールドの中心に黒い竜巻が巻き起こる。デュエルモンスターズ界最強剣士の到来を予感し空気が微かに振動していた。

 

「光と闇を供物とし、世界に天地開闢の時を告げる。降臨せよ、我が魂! カオス・ソルジャー -開闢の使者-!」

 

 光が炸裂し闇を消し去っていく。それは正に地獄の闇に覆われていた世界を開闢させた創世の光。

 現れるは開闢を告げるデュエルモンスターズ最強の使者。混沌と名をもちし剣士カオス・ソルジャー。

 

 

【カオス・ソルジャー -開闢の使者-】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ

ゲームから除外した場合に特殊召喚できる。

1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●フィールド上のモンスター1体を選択してゲームから除外する。

この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

●このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した場合、

もう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 

「ば、馬鹿な……。余りにも強力無比な力をもっていたため、ブルーアイズと同じく四枚で製造中止になり……制限カードにも指定されている最強剣士カオス・ソルジャーを、どうして……」

 

「ちょっとある大会で優勝賞品として貰ってね。俺が数々のライバルと戦って、その勝利を背負ってきた証の――――魂のカードだ。

 行くぞ! バトル! カオス・ソルジャーでブラック・マジシャン・ガールを攻撃! 開闢双破斬ッ!」

 

 最強の名をもちし混沌の騎士がブラック・マジシャン・ガールを一刀のもとに切り捨てる。

 けれどカオス・ソルジャーが真の力を発揮するのはこれからだ。

 

「カオス・ソルジャーのモンスター効果。このカードが戦闘により相手モンスターを破壊した場合、もう一回だけ追加攻撃をすることができる!

 これがゼロから手に入れた力だ! 時空突刃・開闢双破斬ッ!」

 

「――――――!」

 

 二回目の攻撃がパンドラの体を直接切りつけた。開闢の使者の攻撃力は3000。

 残っていたパンドラのライフを一気に削り取った。

 

「は、ははは……。結局、八つ当たりもすることはできずデュエルにも負けるのですね。私は」

 

 ライフを全て失ったパンドラはそのまま糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 人生に絶望したパンドラを支えていた者。それはもしかしたら自分は転落した先にあるグールズでもナンバーツーの地位にいたという自負だったのかもしれない。それが喪われてしまえば、もうパンドラを動かす力はもうなにもない。

 

「……もう、こんな私など生きていても仕方が、ない」

 

 パンドラが懐から毒の入った小瓶を取り出す。

 それを見た瞬間、考えるよりも先に丈の体は動いていた。小瓶を煽ろうとするパンドラにタックルして小瓶を弾き飛ばす。

 

「なにをするのです? 私は貴方の敵、そんな私が死のうと生きようと貴方には関係ないでしょう。止めないで下さい」

 

「目の前で人一人死のうとしてたら、誰だって止めるって……。俺は亮と違ってそこまでメンタル強くないし、自分のデュエルのせいで人が死ぬなんて御免だ。それに」

 

「それに?」

 

「あなたとのデュエルは楽しかったし、そんなに凄い腕をもってるのに死ぬのなんて勿体ない。カードだってあなたが死ぬのを望んでないはずだ。だからその、またデュエルしましょう」

 

「……やはり、思った通り。彼も、自分を殺そうとした私などを助けて…………」

 

「え?」

 

「そら。なにをしているのです? 私のライフはゼロになった。今頃貴方のお友達が私の同業者を倒している頃でしょう。やるべきことが、残っているはずだ」

 

 言われて思い出す。そうだ、丈はここに奪われた邪神のカードを取り戻すためにきたのだ。

 三幻神と対を為す三邪神。それがグールズの手に渡れば世界は大変なことになる。それはなんとしても防がなければならない。

 一刻も早く向かいたいが、ちらりとパンドラを伺う。

 

「安心して下さい。もう死のうとは思いませんよ。私は惨めな敗北者ですから、勝利者の言葉には従うとします」

 

「……分かった」

 

 少しだけ不安だったが後はパンドラを信じるしかない。願わくばいつかグールズなどではなくただのデュエリストとなったパンドラともう一度デュエルをしたいと、細やかに願いながら。

 丈はその場を後にした。

 




宍戸丈「今日の最強カードはカオス――――」

パンドラ「ではなくブラック・マジシャン・ガールで」

宍戸丈「魔法カード発動! ファイヤーボールッ!」

パンドラ「なんですと!?」

宍戸丈「今日こそは誰にも譲らない。というわけで今日の最強カードはカオス・ソルジャー -開闢の使者-だ!」

カイザー「51話で丈がI2カップを制した証としてペガサス会長より譲り受けたカードだな。……俺が貰ったのは混沌帝龍だから使えん。これが一位と二位の差というのか」

吹雪「僕に至ってはノーマルカードのカオス・ソーサラーだったけどね。せめてウルトラレアで欲しかったよ」

宍戸丈「2011年の9月に禁止解除されるまでおよそ六年間禁止カードにあった強力カードだ。今でこそ環境の高速化が進んで召喚しやすい強力な効果モンスターが多くいるけど、このカードが出た当時は光属性と闇属性を除外するだけで簡単に特殊召喚できる超強力モンスター、ということで大会はカオス一色になったほどのパワーカードだよ」

カイザー「……当時は禁止カードという概念すらなかったからな。烏や混沌帝龍と共に大会で暴れまわりデュエルモンスターズの暗黒時代を築き上げた」

宍戸丈「51話が旧にじファンにうpされたのが一年前だから、一年前の伏線を漸く回収できて良かった良かった」






……ちなみに余談ですが、12話のデッキ交換デュエルなどの例外を除き、丈のデッキには暗黒界だろうとHEROだろうと確実に開闢が入ってます。



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第62話  復讐者

 丈が屋上への扉に戻った時、そこには既に亮と吹雪が待っていた。

 二人から漂うのは戦いを終えた戦士の臭い。どうやら二人もデュエルでグールズの刺客を倒したようだ。

 

「遅かったね丈。やっぱり君の方もレアハンターに?」

 

 吹雪は特に消耗した様子もなく柔和に笑い掛けてくる。

 やっぱり、と切り出したところを見るにパンドラの言っていた事は本当だったのだろう。

 

「ああ。吹雪たちもか?」

 

「うん。驚き桃の木、伝説のカード。エクゾディアを使うデュエリストで手古摺ったよ。なにせエクゾディアデッキは他のデッキとは気色が違うからね」

 

 五枚揃えば勝利となる最も古くからあるレアカードの一組。

 デッキには攻撃力を駆使して敵のライフを0にするビートダウン、効果ダメージを駆使するバーン、デッキを0枚にするデッキ破壊などのタイプがあるが、エクゾディアはそのどれにも該当しない特殊勝利タイプのカードだ。

 しかし伝説のレアカードに名を連ねるだけありエクゾディアのパーツ一枚一枚が非常に希少かつ高価で、実際に揃えるのはカードマニアの富豪といえど難しい。

 特殊勝利カードは他に幾つか種類があるのだが、希少性と知名度ならエクゾディアが断トツだろう。だがその特殊性故にエクゾディアデッキと戦った経験があるデュエリストは少ない。

 吹雪からしたら慣れないデッキの回し方をする相手だ。苦労したことだろう。

 

「そういうお前はどういう相手と戦ったんだ?」

 

 亮が聞いてくる。相変わらずデュエルが関わると食いつきが違う。

 

「ブラック・マジシャン使いだよ。……かなり、強かった」

 

 今回は丈が勝ったがそれだって運が良かっただけだ。あそこで手札にカオス・ソルジャーがなければ負けていたのは丈だっただろう。

 

「ブラック・マジシャン使い。お前はI2カップでもブラック・マジシャン・ガールを使う相手と戦っていたし、なにか縁でもあるのかもな」

 

「……そうか? ちなみに亮の相手は?」

 

「インヴェルズという最新のカードを駆使する相手だったよ。中々のタクティクスを持つ相手でつい俺も熱くなってしまってな。楽しませて貰ったよ」

 

 嘗てデュエルモンスターズ界の裏側に君臨した組織というのは伊達ではないということか。インヴェルズ、そんな最新カテゴリーのカードをデッキが組めるまで収集しているとは。

 だからこそ危険である。

 グールズに奪われた邪神イレイザーのカード。だがグールズは既にもう二枚の邪神を手中に収めているという。

 三幻神と対を為す三邪神を全てグールズが手中に収める。そんなことになればデュエルモンスターズ界全体が……否、世界中に多大なる影響を与えることになるだろう。

 それだけは阻止しなくてはならない。

 

「いくぞ」

 

 亮が屋上へ続くドアへ手をかける。

 刺客だった三人のライフを0にしてロックが解除されたのだろう。扉はなんの抵抗もなく開いた。屋上への階段を一気に駆け上がると、この建物に入ってそう時間は経過していないはずだというのに随分と懐かしい外の空気が肌を撫でる。

 

「――――――なんだ? あの三人、やられっちまったのか」

 

 屋上には沈みゆく太陽を眺めながら、黒いローブですっぽりと体を包んだ男が佇んでいた。

 息をのむ。男の背中からは歴戦のデュエリストだけが纏うことを許される威厳のようなものが醸し出されていた。グールズでもかなりの実力者であろう三人に対して、そんな風な口を聞ける人物。恐らく彼こそネオ・グールズのボス。

 男の腕に装着されているのは通常のそれとは異なる真っ黒のデュエルディスク。 

 聞いた事がある。あれはブラック・デュエルディスク。カード・プロフェッサーの頂点たる証だ。

 

「念のため確認しよう。邪神のカードを奪ったのはお前か?」

 

 亮が一歩前に出て男に言った。男はくつくつと笑いながら、ゆっくりと勿体ぶった動作で振り返る。

 男の表情はローブのせいで見えない。だが口元が三日月に歪んでいたのだけは見てとることができた。

 

「ククククッ。I2カップのダークホース三人組は随分と威勢が良いじゃねえか。テメエの質問に対する答えは……こいつだっ!」

 

「!」

 

 男が懐から取り出したのは見間違うはずもない。今日ペガサス会長に見せられ、奪われてしまった邪神イレイザーのカードだ。

 コピーではないだろう。邪神イレイザーのカードから感じられる途方もないエネルギー。あれはコピーに出せるものではない。正真正銘本物の邪神、神のカードだ。

 

「改めて言う。そのカードを返すんだ。そのカードはお前のものじゃない」

 

帝王(カイザー)なんて呼ばれて調子乗ってんじゃねえか餓鬼。なんで俺様がテメエなんぞの指図にへーこらするんだ」

 

 ある意味、予想通りの返答だ。返せと言われて素直に返すほど殊勝な人間なら、そもそもグールズなんて組織のボスなどやりはしないだろう。

 丈はデュエルディスクに目を落とす。やはり最後はこれに頼るしかないのだろうか。

 

「……ん」

 

 丈がデュエルディスクを構えたのを見咎めた男がその笑みを深くする。

 

「なんだテメエ等。まさか俺にデュエルを挑むつもりか?」

 

「君がカードを返さないなら、そうするしかないね」

 

 吹雪はいつもの陽気さを捨て、吹雪という名に違わぬ冷たい視線を向ける。

 その立ち振る舞いはまるで油断なく、いつでもデュエルをすることができる体勢をとっていた。

 

「無知ってやつは悲しいなぁ。これから自分達が進む道が断崖絶壁とも知らずに進んじまうんだからな。ここに来ってことは口だけのエクゾディア野郎や人形、あとあの奇術師気取りを潰してきたんだろうが……あんな裏でコソコソ生きるしか能のねえ奴等と俺を一緒にするんじゃねえぞ」

 

 その時、風が吹きすさび男の被っていたフードが剥がれる。

 露わになるのは伸ばしたままにされたブロンドの髪と猛禽類の如くギラついた目。伸ばしたままの髪や獣染みた眼光と合わさり獅子のような雰囲気をもつ男だった。

 

「そ、そんな……まさかっ!」

 

 男の顔を見て一番早く反応したのは吹雪だった。

 

「昔の映像で……何度も見た事がある。君は……いや貴方はバンデット・キース!」

 

「バンデット・キースだって!?」

 

 あの亮ですら驚きから声をあげる。かくいう丈も目が見開いて戻らなかった。バンデット・キースなんて大物が出てくるなんて完全に埒外の極みだった。

 バンデット・キースは嘗てデュエルモンスターズ最初期に全米チャンピオンとしてその名を轟かせたカリスマ・デュエリストだ。

 単純な年季ということならば伝説のデュエリストたる武藤遊戯や海馬瀬人の上をいく。いやその偉業というところに目を向けてもそう劣るものではないだろう。

 元全米チャンピオンという略歴は丈がI2カップで戦ったレベッカとも共通するが、そのネーミングと偉業の数々は比べものにならない。

 大会での不敗伝説、決勝戦でのワンターンキルなどその戦績は今をもって尚、多くのデュエルファンの脳裏に焼き付いている。

 バンデット(盗賊)という異名は彼が多くの大会に出場しては賞金を荒稼ぎしてきたことからつけられたもので、彼が稼いだ賞金総額は一億とも十億とも言われている。

 デュエルモンスターズの創造主ペガサスと共に当時のアメリカのデュエリストレベルにまで影響を与えていたカリスマ、それがバンデット・キースなのだ。

 彼とペガサスが表舞台から姿を消した後、アメリカのデュエルレベルは一気に落ち込んだという。

 現代ではデュエルモンスターズも世代交代が進んでいき、若いデュエリストには彼について知らない人間も増えているが、デュエルアカデミアに通うくらいのデュエリストなら誰でも知っているような大物だ。

 

「貴方の話は俺の師……鮫島師範からも聞いていた。しかし、まさか」

 

「鮫島? あぁ。サイバー・ドラゴン使うあのハゲ野郎か。一度ニューヨークリーグで戦ったんだがな、2ターンで完封してやったよ。師匠の仇でもとるつもりか? カイザーさんよ」

 

「……仇、というわけではないが聞かせて欲しい。どうして貴方ほどのデュエリストがグールズになど」

 

「はっ! どうしてか、だって! 決まってるだろうが。あの野郎、ペガサスに復讐する為だよ!」

 

 復讐と言われ丈の脳裏にはある事件が思い浮かんだ。

 カリスマデュエリストとして頂点を極めたキースだが、そんな彼を転落させた契機となったデュエル。

 デュエルモンスターズの本場、ニューヨークのデュエルスタジアムで行われたペガサス・J・クロフォードとキース・ハワードの宿命の対決。

 全米チャンピオンVSデュエルモンスターズ創造主の対戦カードは正に世界中の人々が一度は思い浮かべた最高の組み合わせであり、全米……否、全世界が注目した一騎打ちだった。キースからしたら自分のデュエリストとしてのロードの集大成とすらいえた戦いであり、人生を懸けた一戦だった。

 しかし対戦相手であるペガサスは、自らは戦わず観戦にきていた初心者の少年トムにデュエルを行わせるという異例の行動に出る。

 無論キースはそのことに怒りを露わにしたが、ペガサスが頑として態度をかえないことから、ペガサスを引きずり出す前哨戦のつもりでデュエルを行い――――――そのデュエルにて敗北してしまった。

 キースに残ったのは初心者に負けた全米チャンピオンという不名誉な称号だけ。世間はペガサスが千年アイテムの一つ、千年眼の所有者でその力を使いあのデュエルを演出したことなど知る由もない。

 この敗北シーンをペガサス会長はデュエルモンスターズのコマーシャルとして放映し、キースが築き上げていた名声や地位を一気に崩壊した。

 勝利者であるペガサスにとってはただの栄光のメダルの一つでしかないデュエルは、キースにとっては自らの人生を滅茶苦茶にされた一戦だったといってもいいだろう。

 

「苦労したぜ。ペガサスの野郎が隠してやがった秘蔵の邪神のデザインを盗んで、それを買収したI2社の社員に製造させんのはよ。途中で気づかれてイレイザーは奪われっちまったが、これでもう三枚の邪神が手元に揃った。

 後は直接I2社に乗り込むだけだ。ペガサスの野郎が築き上げた地位・名声・権力! その全てをこの俺様のものにする。そしてあいつを俺の味わった地獄に叩き落とす。テメエ等なんざ眼中にねえんだよ」

 

「止めるんだ! 確かにペガサス会長がお前とのデュエルでリスペクトの精神にかける行いをしたのは事実だ。だがこんなことをしたところでどうにもならない! どれだけ屈辱的な敗北だろうと、敗北したのならそれを受け入れて――――」

 

「御高説たれてんじゃねえよサイバー流の餓鬼ィ! なにが敗北の事実を受け入れろ、だ。テメエ等はあの野郎のことを随分とお高いものと見てるようだからな。真実を教えてやる。

 俺があいつに負けた屈辱のデュエル! あいつはなぁ、イカサマをしてたんだよ!」

 

「い、イカサマ!?」

 

 亮があまりにも信じられないことを言われ狼狽する。

 イカサマとはカードゲームでも恥ずべきことの一つだ。サイバー流の教えるリスペクトデュエルの精神においてもイカサマは絶対的に禁止とされている。

 常に正々堂々。ルールを守ってデュエルをする。サイバー流でなくともデュエリストなら守るべきことの一つだ。

 そんなルールを創造主であるペガサス自らが破っていたことが、一人のデュエリストとして信じられなかったのだ。

 

「ペガサス会長がそんなことをするはずが、ない」

 

 どうにか吹雪が反論するが、

 

「そりゃそうだ。世間様は俺がどれだけそう言おうとペガサスを庇うような言葉しか出ねえだろうよ! だがなあいつはイカサマをした。テメエ等もアカデミア生なら千年アイテムの噂くれえ聞いた事あるだろ?

 デュエルモンスターズの起源古代エジプトから伝わるオカルトグッズ。昔ペガサスはそのうちの一つの所有者だった。その力を使って奴はあの屈辱のデュエルで俺を負かしたってわけだ。

 ククククッ。便利だよな。ただのイカサマならばれるかもしれねえが、オカルトアイテムの力を使ったイカサマならばれる心配なんざねえからな」

 

 キースのブラック・デュエルディスクが起動する。黒い鬼気が丈たち三人を貫く。

 

「奴は千年アイテムで俺の人生を踏み躙った。だから俺は三邪神であいつの人生を踏み躙る。因果応報ってやつだ。ミサイルうたれたんなら、こっちは核ミサイルでも打ち込まねえと割に合わねえ。

 それに邪神のカードは凄ぇぜ。こうして触れてるだけでも力が湧き上がるようだ。……丁度良い。テメエ等で三邪神の実験台にしてやる」

 

「分かった」

 

 今まで黙っていた丈は静かに口を開く。

 この中で唯一前世の記憶をもつ丈は、キースの言う事が全て嘘偽りのない事実であるということが分かっていた。だからこそその上で、

 

「デュエルだ! 俺達が勝ったら三邪神を返して貰う。そして一緒にペガサス会長のところにくるんだ」

 

 キースの恨みは正当なものだ。彼が暗黒時代に転落した切欠となった一戦においてペガサス会長は反則的な行為を行い彼のデュエリストとしてのプライドを傷つけた。彼にはペガサスを恨むだけの理由と権利がある。

 だからこそ二人を会わせて話をさせなくてはならない。ただ恨むことを否定することはできないが、キースをこのまま放置しておくこともできない。

 このことはペガサス会長とキースの二人が解決するべき問題だ。

 昔とは違う今のペガサス会長ならば真摯にキースとも向かい合ってくれるだろう。それをキースが許すか許さないかはキース次第だ。

 丈が出来る事は切欠をつくるだけ。

 

「ハッ。何を言い出すかと思えば。いいぜその条件を受けてやる。俺が負けるはずがねえからな。デュエルは三対一の変則マッチ。お前等はライフを4000づつでいい。ただそれだとフェアじゃねえからな。俺はライフを三倍の12000と先行を貰うぜ」

 

「決着をつけよう!」

 

「自称伝説を倒した男の次は伝説そのものか。順調にランクアップしていくね」

 

「……師範が勝てなかった相手、こんな時だというのに未知なる強敵に俺の心臓が疼いて仕方ない」

 

――――そして、最後のデュエルが始まった。



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第63話  降臨する邪神

「「「「デュエル!」」」」

 

 

キース LP12000 手札5枚

場 無し

 

吹雪  LP4000 手札5枚

場 無し

 

丸藤亮 LP4000 手札5枚

場 無し

 

宍戸丈 LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

「んじゃ。最初の取り決め通り……俺の先行だ。ドロー」

 

 一人で三人を相手にしているキースは余裕の表情だ。それは全米でナンバーワンの地位についたという実績に依る自信か、それともネオ・グールズという組織を率いているという自負か。

 デュエルモンスターズというカードゲームにおいて優先されるべきはライフポイントよりも手札。三対一である以上、変則デュエルであるが故の制限があるとはいえ丈たちは初期手札十五枚でデュエルを行うことができるようなもの。

 対して手札五枚からのスタートであるキースは圧倒的に不利だ。そんなことをキースほどのデュエリストが知らない筈がないだろう。

 だがそれを承知で敢えてハンデとして三倍の手札ではなく三倍のライフを要求してきた。

 

(もしかしたらライフ消費が激しいデッキなのか……?)

 

 心の中で丈はそう予測をたてる。

 ライフコストを多用するデッキだと当然ライフは多ければ多い程いい。デッキによってはライフが4000だと心許なくなることもある。

 だとすれば三倍のライフを要求したことにも説明がつく。

 

「俺は魔法カード、封印の黄金櫃を発動するぜ」

 

 

【封印の黄金櫃】

通常魔法カード

自分のデッキからカードを1枚選択し、ゲームから除外する。

発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にそのカードを手札に加える。

 

 千年アイテムの一つ、千年パズルが納められていた箱に酷似した黄金櫃が現れる。

 以前はこの中に入れたカードは互いのプレイヤーが使用できなくなるという『禁止令』に似た効果のカードで、三千年前のファラオの魂を冥界へ帰すキーカードにもなった魔法カードであるが、最近効果がエラッタされた。

 2ターンのタイムラグがあるものの、デッキの中にあるカードならどんなものでも手札に加えられる為、制限カードを用いるコンボデッキでは必須カードになることも多い。

 丈のデッキにも二枚ほど投入されている。

 

「このカードの効果で俺はデッキより一枚カードを黄金櫃に収める。そして黄金櫃に収めたカードは2ターン後、手札に加えられる。俺が黄金櫃に封印するカードは……これだ! 邪神イレイザーッ!」

 

「いきなり邪神を!?」

 

 キースがデッキより取り出した邪神を見て亮が叫ぶ。

 丈がペガサス会長より渡されるはずだった邪神イレイザーのカードは、丈の手から離れるように黄金櫃の中に封じられた。邪神イレイザーが再び現世に戻るのは2ターン後である。

 

「ククククッ。これで次の次のスタンバイフェイズ、俺の手札に邪神が加わるわけだ。そして邪神のカードは一枚でゲームを決定させるほどのポテンシャルをもったパワーカード! 出せば最後、テメエ等に抗う術はねえ!

 俺は更にグリーン・ガジェットを召喚するぜ! 攻撃表示だ! 更にグリーン・ガジェットのモンスター効果により、俺はデッキからレッド・ガジェットを手札に加えるぜ」

 

 

【グリーン・ガジェット】

地属性 ☆4 機械族

攻撃力1400

守備力600

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

デッキから「レッド・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。

 

 

 緑色の歯車型モンスター、グリーン・ガジェット。その効果から手札消費ゼロでモンスターを召喚できるという強みをもったジャンル。

 どれだけ時代が移り変わろうと必ず環境の中堅以上に食い込んでくることからも、手札からモンスターが途切れることがないというのが優秀な要素であることが窺い知れるというものだ。

 

「ガジェットか。珍しくはないカードだけど、そんなカードを使ってくるなんて」

 

 過去現在に至るまで多くのプロデュエリストのデュエル映像を見てきている吹雪はポツリと呟く。

 キースは海馬瀬人や武藤遊戯とは異なり、数多くのデッキを使いこなし場合に応じてデッキを変えるタイプのデュエリストだ。

 中でも機械族デッキを多用する傾向があったが、ガジェットシリーズを使う所は一度も見たことがなかった。

 けれど吹雪が知るのはバンデット・キースのデッキ。ネオ・グールズ総帥キースのデッキは吹雪はおろか、丈や亮すらも知りえないことだ。

 

「これは変則マッチ。全員にターンが行渡るまで攻撃はできねえ。……まぁ変則マッチじゃなくても先行1ターン目は攻撃できねえんだがな。俺はカードを一枚セットしてターン終了だ」

 

 キースがエンド宣言すると次にターンが回ってくるのは吹雪。

 

「いくよ。僕のターンだ! ドロー!」

 

 キースの場にはグリーン・ガジェットが一体だけ。セットカードは一枚。

 三邪神がデッキに投入されていることは分かっているが、今の段階ではキースのデッキタイプを読み切るのは不可能だ。

 万全を期すならここでセットカードを破壊しておきたい吹雪だが、生憎と吹雪の手札にサイクロンなどの除去カードはない。

 

「僕は黒竜の雛を攻撃表示で召喚、更に黒竜の雛を墓地へ送って真紅眼の黒竜を攻撃表示で召喚するよ!」

 

 

【黒竜の雛】

闇属性 ☆1 ドラゴン族

攻撃力800

守備力500

自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送って発動できる。

手札から「真紅眼の黒竜」1体を特殊召喚する。

 

【真紅眼の黒竜】

闇属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力2000

真紅の眼を持つ黒竜。怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす。

 

 

 1ターン目から現れる吹雪のエースモンスター。レッドアイズ。

 その姿を視界に収めたキースは苦々しく舌打ちした。

 

「チッ。レッドアイズか。忌々しいモンスターを出しやがる。天上院吹雪だったか……ムカつく野郎だ」

 

「……ああ、そうか成程ね」

 

 吹雪は合点がいったように頷く。

 ペガサスに負けたキースが参加したデュエリストキングダム。そこでキースを負かしたのが吹雪と同じくレッドアイズをエースモンスターとする城之内克也だ。

 キースからしたらペガサスほどではないが因縁のあるカードといえる。

 だが理由が分かったからといって容赦する理由はない。否、相手は容赦して勝てるほど甘い敵ではない。少しの油断が敗北に直結する。

 

「ここは憶さず攻める! 僕は魔法カード、黒炎弾を発動! このターン、レッドアイズの攻撃を封じるかわりにレッドアイズの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

「くそっ。バーンカードかよ……」

 

「やれ! 黒炎弾!」

 

 レッドアイズが吐き出した黒い炎がキースのライフを焼いた。

 だが吹雪の攻撃はこれだけに留まらない。

 

「まだまだ! 僕はもう一枚の黒炎弾を発動、レッドアイズの元々の攻撃力2400のダメージを相手に与える!」

 

「二連続だと!?」

 

 黒炎弾はフィールドにレッドアイズがいることを条件とするバーンカードであるため、バーンカードが軒並み禁止カード指定される環境にあっても無制限。

 そして1ターンでの使用制限もない。二発目の黒炎弾はテキスト通りキースのライフを削った。

 

 キースLP12000→7200

 

「え、えげつない事するなぁ。吹雪」

 

 これには味方である丈も苦笑いを浮かべるしかない。二枚の黒炎弾での合計4800ダメージ。

 もしもキースがハンデにライフではなく手札を選択していれば、この時点で敗北が決定していただろう。やはり元全米チャンピオンだけあって先見の明はあるということか。

 

「……今度お前とデュエルする時はハネワタを入れておかなければな」

 

 亮も腕を組みながら頷く。心なしか眉間に皴がよっていた。

 

「ハッ。いきなり4800もダメージを与えるたぁな。だがこの程度、屁でもねぇよ。それと天上院吹雪だったな。俺は借りは返すことが信条だ。

 よく覚えておくんだな。テメエが刃向ってる相手が誰なのかってことを。さっさとデュエルを進めな」

 

 4800ダメージを受けたキースは僅かながら怒気を込めた目を吹雪へ向ける。それでも野獣の如き闘争心はまるで衰える様子がないのは流石という他ない。

 並みのデュエリストならライフが半分以上残っていようと、いきなり4800ものダメージを受ければ心が打ちひしがれるというのに。

 

「僕は魔法カード、天よりの宝札を発動! 互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードをドローする。これは三対一の変則マッチ。ドローするのは四人全員だ」

 

「……………」

 

 吹雪は四枚、キースは二枚、そして亮と丈は一枚ドローする。相手にもドローを許してしまったがこちら側は合計六枚のドロー。

 手札の上ではやはり圧倒的に吹雪たちが有利だ。

 

「僕はカードを二枚伏せてターンエンド」

 

 吹雪がターンを終了させると再びのキースのターンとなる。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は打ち出の小槌を発動。任意の枚数手札からデッキに戻しシャッフル。その後、戻した手札と同じ枚数分ドローする。

 クククッ。俺が手札に戻すのは四枚。デッキをシャッフルし四枚ドローするぜ。……俺は手札断殺を発動。互いのプレイヤーは手札を二枚墓地へ捨て、二枚ドローする」

 

 キースと同じように三人とも手札のカードを二枚捨てて二枚ドローする。

 度重なる手札交換。これだけの手札交換をしたのだ。もしかしなくてもキースの手札には既に、

 

「ふんっ。いい手札だ……。俺はセットしておいた永続罠、血の代償を発動!」

 

「血の代償だって!?」

 

 

【血の代償】

永続罠カード

500ライフポイントを払う事で、モンスター1体を通常召喚する。

この効果は自分のメインフェイズ時及び

相手のバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。

 

 

 血の代償とガジェット。この二つが投入されたデッキ。丈には嫌な予感しかしなかった。

 そしてもしキースの手札に邪神があるとすれば、恐らくこのターンで。

 

「血の代償は500ライフを支払うことでモンスターを通常召喚できるカードだ。そして俺のガジェットは召喚すれば新しいガジェットを手札に加えることができる」

 

 そう。ガジェットと血の代償の組み合わせが恐ろしいのは正にこれだ。

 血の代償はライフを支払うことにより1ターンで何度でも通常召喚を可能にするカード。しかし普通のデッキだと手札にあるモンスターカードは手札が六枚だったとしても平均三枚。使用する機会は限られたカードだ。

 だがガジェットのギミックがあるのならばその限りではない。ガジェットは召喚する度に後続のモンスターをサーチする効果をもっている。血の代償と組み合わせて使用することにより最大でガジェットのみで九連続の通常召喚が可能となるのだ。

 

「俺はレッド・ガジェットを召喚。そしてレッド・ガジェットの効果でイエロー・ガジェットをサーチ。仕舞いだ。ライフを500支払いイエロー・ガジェットを通常召喚! イエローの効果でグリーンを手札に加えるぜ」

 

 

【レッド・ガジェット】

地属性 ☆4 機械族

攻撃力1300

守備力1500

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

デッキから「イエロー・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。

 

 

【イエロー・ガジェット】

地属性 ☆4 機械族

攻撃力1200

守備力1200

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

デッキから「グリーン・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。

 

 

 キースLP7200→6700

 

 

 場に並ぶ三体のガジェット。これで三体のモンスターがキースのフィールドに揃った。

 三幻神と三邪神はその類まれなる強力さから三体の生贄を必要とする超大型モンスター。そして血の代償がある限りキースは何度でも通常召喚を行える。

 このことが導き出す答えは一つだ。

 

「お前達に神を見せてやる。血の代償のコスト500を支払い――――俺はグリーン・ガジェット、レッド・ガジェット、イエロー・ガジェットを生贄に捧げ。降臨しろ破壊の神! 恐怖を奴等に拝ませてやれ! 邪神ドレッド・ルートッ!」

 

 カードが叩きつけられたデュエルディスクがスパークする。魂を凍てつかせる凶つ風が吹き荒れ、天空が割れた。

 空に黒い雲がたちこめてゆく。空間が有り余るエネルギーにより歪んでいく。

 雷と共に大地に降臨するのは天を突かんばかりの巨体をもった神。力強く筋肉隆々とした緑色の四肢。悪魔すら霞む凶悪性をもった面貌。

 それは正に邪神と称するに相応強い神の姿であった。

 

「クククッ。フハハハハハハハハハハハハハハハハッ! これが邪神だ、これがドレッド・ルートだ! さぁて。テメエ等がどれだけこっから足掻いてくれるか見せてもらおうじゃねえか。俺はターンエンドだぜ」

 

 

【THE DEVILS DREAD-ROOT】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/4000

DEF/4000

Fear dominates the whole field.

Both attack and defense points of all the monsters will halve.



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第64話  理を超えるカード

キース LP6200 手札4枚

場 THE DEVILS DREAD-ROOT

罠 血の代償

 

吹雪  LP4000 手札4枚

場 真紅眼の黒竜

伏せ 二枚

 

丸藤亮 LP4000 手札6枚

場 無し

 

宍戸丈 LP4000 手札6枚

場 無し

 

 

 

 丈には……いや、丈だけではない。亮にも吹雪にも、心の中でどこか隙があったのだろう。

 幾ら三幻神に対を為す三邪神といえど所詮はモンスターに過ぎない。神の名がつくモンスターなど探せば幾らでもいる。効果が強力なのは間違いないだろうが、効果や耐性の裏をかけば幾らでも対処はできるなどと。

 だがそれは完全なる思いあがりだった。

 目の前にした邪神ドレッド・ルートの異様は普段目にするモンスターカードなどと比べものにならないものであった。

 こうして前に立っているだけで膝が震えそうになる。どうしようもない無力感は自然災害を前にした人間が抱くそれに近い。

 太古において神とは自然現象の別名であった。まだ文明が未発達だったころ、人間は太陽や大地、雷などを神として畏れ崇めた。ならば邪神とはデュエルモンスターズというゲームにおける自然災害そのものが具現化したカードとすらいえるだろう。

 どれだけ科学力を発展させ進歩した人間であっても自然の猛威の前には非常にか弱い存在だ。そのことを『邪神』を前にして思い知らされた。

 

「邪神ドレッド・ルートのモンスター効果だ。このカード以外のモンスターの攻撃力と守備力は半分になる……」

 

「レッドアイズが!」

 

 ドレッド・ルートの威圧を受け、苦しそうに呻くレッドアイズに吹雪はたまらず叫ぶ。

 ブルーアイズに並び称されることのあるドラゴンといえど邪神の前には無力。神の力を受けたレッドアイズはその能力を半減させた。

 

「攻撃力1200になっちゃレッドアイズも形無しだな。そらさっさとしな! テメエ等のターンだぜ」

 

「…………亮」

 

 丈は隣にいる亮を見つめる。普段いついかなる時もクールな態度を崩さない亮が焦りを露わにしていた。

 サイバー流後継者たる丸藤亮をもってしても邪神の存在は圧倒的なのだろう。

 

「心配するな。そう、恐怖など感じる必要はない。相手は邪神……神のカードだ。だが武藤遊戯とて最初は神のカードなどもっていなかった。神のカードがないまま神のカードに挑み打ち勝った。神に勝つのは不可能なことじゃない

 

 それは丈たちに、というより自分に言い聞かせるような口調だった。

 亮は決意を込めて邪神ドレッド・ルートを睨むとデッキに手を掛ける。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 吹雪の天よりの宝札の恩恵を得ている為、亮の手札は合計七枚。常日頃なら如何に素早くサイバー・エンド・ドラゴンやサイバー・ツイン・ドラゴンを召喚するかに頭を悩ませるところだが、今度ばかりはそうもいかない。

 邪神ドレッド・ルートはそのモンスター効果によって攻撃力守備力を半分にしてしまう。つまり攻撃力4000の邪神ドレッド・ルートを倒すためには、攻撃力8000のモンスターを召喚するしかないのだ。

 

(俺のデッキなら出来ないことはない……)

 

 パワー・ボンドを用いた融合召喚でサイバー・エンドを召喚すれば攻撃力は8000ポイント。邪神ドレッド・ルートの効果で半減されようと、相打ちに持ち込むことは出来る。

 邪神はルールを超越した力をもつモンスターであるが、フィールドに存在している以上は『モンスターカード』というカテゴリーだ。攻撃力が互角ないし上回れば戦闘破壊は可能だ。

 亮は運が良い。

 攻撃力8000など普通のデッキなら先ず叩き出すことなど不可能な数値だ。火力なら随一であるサイバー流だからこその芸当である。

 

(考えれば考える程に恐ろしいカードだな邪神)

 

 肌で感じる威圧感だけではない。カタログスペックのみにおいても邪神ドレッド・ルートは規格外のモンスターだ。

 自分以外のモンスターの攻守を半減するため戦闘ではほぼ無敵。でありながら邪神故にモンスター効果と罠が通じず、魔法効果は1ターンのみしか受け付けない。

 それでも倒すしかないのだ。勝たねば未来はない。

 

「俺はサイバー・ヴァリーを攻撃表示で召喚! サイバー・ヴァリーの攻撃力守備力は0。よってドレッド・ルートの半減効果を受けることはない!」

 

「ハッ! それがどうしたってんだよ!」

 

 ターンが丈にまで回りきるまで攻撃は出来ない。攻撃が出来ないならまだサイバー・エンド・ドラゴンを召喚するべきタイミングではないだろう。

 ならばここはやれることには挑戦してみるべきだ。

 

「俺は機械複製術を発動。攻撃力500以下の機械族モンスターを選択。同名モンスターを二体まで場に特殊召喚する! 現れろ二体のサイバー・ヴァリー!」

 

 

【サイバー・ヴァリー】

光属性 ☆1 機械族

攻撃力0

守備力0

以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このカードが相手モンスターの攻撃対象に選択された時、

このカードをゲームから除外する事でデッキからカードを1枚ドローし、

バトルフェイズを終了する。

●このカードと自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を

選択してゲームから除外し、その後デッキからカードを2枚ドローする。

●このカードと手札1枚をゲームから除外し、

その後自分の墓地のカード1枚を選択してデッキの一番上に戻す。

 

 

【機械複製術】

通常魔法カード

自分フィールド上に表側表示で存在する

攻撃力500以下の機械族モンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターと同名モンスターを2体まで自分のデッキから特殊召喚する。

 

 

 サイバー・ヴァリーが三体並ぶ。サイバー・ヴァリーは攻撃対象となった時、このカードを除外することでバトルフェイズを終了させ一枚カードをドロー出来る効果がある。

 これが三体並ぶということは防御はかなり厚くなったということだが、防るばかりではデュエルには勝てない。

 

「更に! 俺は魔法カード、精神操作を発動! 相手モンスターのコントロールをこのターンの間だけ得る!」

 

「………あ?」

 

「神への魔法効果が1ターンのみ受け付けるというのならば……邪神ドレッド・ルートを俺のフィールドへ!」

 

 透明な糸が邪神ドレッド・ルートに絡みついていく。

 精神操作の効力が正しくルール通りに進めば、邪神ドレッド・ルートはキースの手を離れ亮のフィールドにきただろう。だがそうはならなかった。

 ドレッド・ルートが雄叫びをあげたかと思うと、透明な糸を引きちぎった。

 

「クククッハハハハハハハハハハハハハーーッ! 神に精神操作なんてものが効くと思ってんのかァ!? 理屈でしか物を考えられねえならさっさとサレンダーしな。テメエ等が相手してきた生半可なモンスターと神は一味違うぜ。こいつは神! 真っ当な常識は通用しねえんだよ!」

 

「くっ。やはり駄目か!」

 

 亮は歯噛みするが、どこか予想のついたことではあった。精神操作なんてチープな手で簡単に神を乗っ取ることができるのならば、武藤遊戯は神のカードに苦戦などしていなかっただろう。

 神以外にも禁止カード指定された混沌帝龍など強いモンスターはいるが、それらのモンスターはただ単純に強いだけだった。しかし神の強さは別格だ。

 

「俺はサイバー・ヴァリーのモンスター効果。サイバー・ヴァリーともう一体のサイバー・ヴァリーを除外し二枚ドローする。俺はカードを一枚伏せてターンエンド」

 

「結局、防御しか出来ねえってか。俺のターン、ドロー。さて、忘れてねえだろうな。このターンのスタンバイフェイズ、俺の手札に邪神イレイザーが加わるぜ」

 

 ニヤリと笑いながらキースが邪神イレイザーを手札に加える。キースの手札にはイエロー・ガジェットの効果でサーチしたグリーン・ガジェットがあり、場には血の代償が発動中。

 もはや止める術などはない。既にキースには二体目の邪神を召喚する用意が整っていた。

 

「いくぜ! 俺はグリーン・ガジェットを攻撃表示で召喚し効果でレッド・ガジェットをサーチ! 更に500のライフを支払いレッド・ガジェットを召喚。そしてレッドの効果でサーチしたイエローを血の代償の効果で召喚だ」

 

 キースLP6200→5200

 

 邪神ドレッド・ルートの横に並ぶ三色のガジェット達。ドレッド・ルートの効果は全フィールドに適用されるため、レッドアイズと同じように攻守が半減しているがそんなものは関係ないだろう。

 キースはガジェットを攻撃のために召喚したのではないのだから。

 

「情けだ。祈る時間はくれてやる。血の代償のコスト500を支払いう。俺は三体のガジェットを生贄にして……出やがれ! 二体目の神! 邪神イレイザーッ!」

 

 三人は二体目の邪神の降臨を見ていることしか出来なかった。

 I2カップの後、丈がペガサスより受け取るはずだったネオ・グールズに奪われることを免れた唯一の邪神。それが召喚される。

 ドレッド・ルートに対応する神がオベリスクならば、イレイザーに対応するのはオシリスの天空竜なのだろう。黒い暗雲の中から雷鳴と共に出現したイレイザーは聖書に記されたウロボロスのように長い胴体をもった竜だった。

 

 

【THE DEVILS ERASER】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/?

DEF/?

A god who erases another god.

When Eraser is sent to the graveyard,

all cards on the field go with it.

Attack and defense points are 1000 times

the cards on the opponent's field.

 

 

「邪神イレイザーの攻撃力守備力は相手の場に存在するカードの数で決定する。テメエ等の場にあるカードは合計五枚。攻撃力は5000だ。だがドレッド・ルートの半減効果の影響はイレイザーも受ける。それでも攻撃力は2500だがな」

 

 それだけではない。邪神イレイザーには墓地へ送られた時、フィールドの全てのカードを道連れにする効果もある。

 丈たち三人はその効果をペガサスにカードを見せられたことで知っていた。やっとの思いで邪神イレイザーを倒しても、イレイザーは置き土産にフィールドを焼野原にしていく。

 守りを固めようとカードを並べればその分だけイレイザーのパワーは跳ね上がっている。カードが並びやすい三対一のデュエルにおいては強力無比なカードだ。

 

「俺はカードを一枚セット、ターンエンドだ。ククッ。次の俺のターンから攻撃が解禁になる。もしかしたらテメエ等にとっての人生のラストターンになるかもしれねえターンだ。よーく時間かけてやるんだな」

 

 そして遂にターンが丈にまで回ってきた。




キース「今日の最強カードは血の代償! 500ライフを支払うことで何度でも通常召喚を行う事が出来る。まぁ手札にモンスターがいたらの話だがな」

カイザー「キースが本編でやったようにガジェットと組み合わせることにより、最大で九連続の通常召喚を行うことができる」

吹雪「面白いくらい簡単にモンスターが並ぶからランク4のエクシーズ召喚も簡単だよ。そんなこともあって現在は制限カードだ」

宍戸丈「エクシーズに比べたらマイナーだけど、キースがやったように生贄要因を揃うにも一役買う。ただこっちは事故率が限りなく低いことが売りのガジェットの事故率を上げる要因にもなるから注意が必要だ。……いや、俺のデッキよりは低いけどね。事故率」

カイザー「事故率? なんだそのカードは。どういう状況で発動する」


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第65話  最高邪神

キース LP4700 手札3枚

場 THE DEVILS DREAD-ROOT、THE DEVILS ERASER

伏せ 一枚

罠 血の代償

 

吹雪  LP4000 手札4枚

場 真紅眼の黒竜

伏せ 二枚

 

丸藤亮 LP4000 手札5枚

場 サイバー・ヴァリー

伏せ 一枚

 

宍戸丈 LP4000 手札6枚

場 無し

 

 

 

 12000ポイントからスタートしたキースのライフはもう4700。あと700ポイント削りきれば通常の初期ライフ4000となる。

 本来なら喜ぶべきことだ。だというのにキースの場にいる二体の邪神がぬか喜びを許してくれない。二体の邪神はたかが8000余りのライフなどよりもよほど凄まじいパワーを秘めているのだから。

 

「どうした……え? I2カップ優勝者さんよ。テメエのターンだ、さっさとドローしな」

 

 ニヤリとキースが挑発してくる。

 丈の手札は六枚。常日頃なら六枚もあれば強気に攻めるものなのだが、相手の場にいる二体の邪神がそれを許してくれない。強気に攻めることはできるだろう。だが並大抵の攻めで邪神を倒すことはできない。

 猛攻をかけた挙句に邪神を倒せなければ一転して圧倒的不利となる。それだけは避けなければならない。

 蛮勇と勇気は違う。

 相手のリバースカードや戦力に構わず我武者羅に攻撃するのはただの蛮勇だ。攻める時を見計らい、それを誤らずに賭けに出る。それが勇気というもの。

 

「俺の……ターン。ドロー」

 

 邪神の威容に押されたのか手札の内容も良いものではなかった。

 

(俺の手札に邪神を倒せるカードはない)

 

 攻撃が出来ないのならば防御を固めるしかない。幸い防御に適したカードもある。

 邪神ドレッド・ルートと邪神イレイザー。どちらも強力無比なモンスターだが完全無敵の万能のカードではない。そも強力なカードは数あれど万能なカードなど一枚もない。

 その力にも抜け道はある。

 

「俺は迷える仔羊を発動! 場に二体の仔羊トークンを召喚し……二体を生贄に捧げる。俺はモンスターをセット! リバースカードを一枚セットしてターンエンドだ」

 

 不用意に場にカードを並べればイレイザーの攻撃力を際限なく上昇させることになりかねない。

 ドレッド・ルートだけでも厄介極まるというのにイレイザーの力まで上昇させるわけにはいかなかった。

 

「最上級モンスターとリバースをセットして終わりか。随分と消極的なターンじゃねえか。俺のターン、ドロー! クククククッ。理解してるか? このターンから攻撃が許されるようになる。

 バトルフェイズだ。邪神イレイザーで吹雪ィ! テメエの場のレッドアイズを攻撃するぜ。そのカードは一分一秒たりとも見ていたくねえんでな。死にやがれ! ダイジェスティブ・ブレスッ!」

 

 イレイザーの口から黒い炎が吐き出された。マグマより熱く雷光よりも鋭い黒い稲妻。

 幾ら最上級ドラゴンたるレッドアイズといえどこの攻撃を受ければ一瞬にして粉砕されるだろう。だがそれを許す丈ではない。

 

「ストップだ! そちらがバトルフェイズになった時、俺は既にリバースカードをオープンしていた!」

 

「神に罠が効かねえってのが分からねえのか!」

 

「それはどうかな。確かに神に罠は通用しない。けれど……それはあくまで神にだけだ! 俺が発動するのは威嚇する咆哮!」

 

 

【威嚇する咆哮】

通常罠カード

このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。

 

 

「威嚇する咆哮、このカードは相手の攻撃宣言を封じる罠カード。このカードが対象とするのはプレイヤー自身。よって神に罠への耐性があったとしても攻撃は封じられる」

 

「助かったよ丈。神の攻撃に晒されるなんて初めてだからね。ちょっとだけ肝を冷やした」

 

「……その顔、俺が助けないでもなんとかすること出来ただろ」

 

「どうだろ?」

 

「更に! 俺の場からカードが一枚減った事により、邪神イレイザーの攻撃力が下がる」

 

 邪神イレイザーの攻守は場のカード一枚につき1000ポイント上昇させる。ドレッド・ルートによりあらゆるポテンシャルが半減されているため500の攻撃力が下がる。

 キースが忌々しげに舌打ちした。

 

「チッ。仲良子よしがァ。だが忘れてねえか。俺には通常召喚が残ってる。まだ最後の邪神は手札にねえが……やりようはある。俺はバトルフェイズを終了させるぜ。更にメカ・ハンターを召喚する」

 

 

【メカ・ハンター】

闇属性 ☆4 機械族

攻撃力1850

守備力800

 

 

 メカ・ハンター、レベル4の機械族通常モンスターとしては最大級の攻撃力を持つカードだ。

 緑色の胴体と蜘蛛のような数多の手。中々のカードだが隣に邪神がいると見劣りする。邪神の一体であるイレイザーをも半減させたドレッド・ルートにメカ・ハンターが抗えるはずもなく攻守が半減する。

 キースの不可解な行動に訝しむ。バトルフェイズ前ならダメージをアップさせるためにモンスターを召喚するのは分かる。だが今更通常モンスターを召喚してなにになるというのだ。

 生贄要因を確保するためなら守備表示で出せばいい。だというのに敢えて攻撃表示で出した理由は、

 その答えは直ぐに出た。

 

「俺がモンスターを召喚したこの瞬間、伏せていたリバースカードをオープン。激流葬!」

 

 

【激流葬】

通常罠カード

モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時に発動できる。

フィールド上のモンスターを全て破壊する。

 

 

「激流葬だって!?」

 

「激流葬はモンスターが召喚・反転・特殊召喚された時、フィールドの全モンスターを破壊する罠カードだ。だが俺の邪神は罠が通用しねえ。つまり……」

 

 濁流がフィールドを洗い流す。その力にレッドアイズやサイバー・ヴァリー、セットしてあった丈の堕天使アスモディウスも呑まれてしまう。

 しかし濁流が洗い流すのはそれだけに留まらない。キースが召喚したばかりのメカ・ハンターをも巻き込んで破壊してしまう。だが邪神は依然として無傷。

 

「なんて男だ。自分のモンスターを餌にフィールドのモンスターを破壊するとは。しかも邪神を残したまま」

 

 これが全米チャンピオンに君臨した男のプレイング。亮はその強さに武者震いをする。

 

「まだだ! 堕天使アスモディウスが破壊されたことにより効果発動! 場にアスモトークンとディウストークンを守備表示で召喚する!」

 

 

【堕天使アスモディウス】

闇属性 ☆8 天使族

攻撃力3000

守備力2500

このカードはデッキまたは墓地からの特殊召喚はできない。

1ターンに1度、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分フィールド上に「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、

「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。

「アスモトークン」はカードの効果では破壊されない。

「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。

 

 

 壁モンスターにアスモディウスを選んで正解だった。破壊されたとしてもトークンを呼び出す事が出来る。

 もっといえば邪神のカードは戦闘には滅法強いが逆に言えばそれだけだ。墓地に送られることでフィールドのモンスター全てを破壊するイレイザーを除外すれば、除去効果をもつカードは一枚もない。

 故に戦闘で破壊されない効果をもって誕生するディウストークンは中々の壁モンスターとして機能する。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

「僕のターン!」

 

 丈の場にアスモトークンとディウストークンが残ったが、吹雪と亮のフィールドからモンスターが喪われた事に変わりはない。

 今の攻撃はどうにか耐え凌いだが、次はどうなるか分からない。

 

「僕はモンスターをセット、ターンエンドだ」

 

 そして再びのキースのターン。邪神の再攻撃が始まる。

 

 

キース LP4700 手札3枚

場 THE DEVILS DREAD-ROOT、THE DEVILS ERASER

罠 血の代償

 

吹雪  LP4000 手札4枚

場 セットモンスター

伏せ 二枚

 

丸藤亮 LP4000 手札5枚

場 なし

伏せ 一枚

 

宍戸丈 LP4000 手札4枚

場 アスモトークン、ディウストークン

 

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

 丈たちのフィールドにあるカードは合計6枚。よって邪神イレイザーの攻撃力は3000だ。もしもドレッド・ルートがいなければ攻撃力は倍の6000にまでなるのだから恐ろしい。

 三人はサイバー流デッキを使う亮のせいで攻撃力8000オーバーは日常的に見慣れているのだが、それが『神』となると格の違うプレッシャーを受ける。しかも邪神が二体だ。

 

「ククッ」

 

 ドローカードを確認したキースが不気味に笑う。まるで神に抗おうとする三人を嘲笑うかのように。

 邪神を使役しているからだろうか。黒い影のようなものがキースの背後から沸き立っているのを丈たちは見た。

 

「……イイねェ。良いカードを引いたぜぇ」

 

「まさか、引き当てたのか! 最後の邪神をっ!」

 

 亮の張り上げた声にキースは口元を三日月に歪めることで答える。それが亮の懸念が正解であることを暗に示していた。

 場に出ている二体の邪神。ドレッド・ルートはオベリスクに、イレイザーはオシリスに対応するという。ならば最後の邪神に対応する神は三幻神の中でも最高神とランク付けされるラーの翼神竜に他ならない。

 

「ホワッツ!? ユーはバンデット・キースッ!」

 

 屋上に張りの良い声が響き渡る。声のした方向に目を向ければ、ここまで走ってきたのかやや息の切れたペガサス会長がデュエルをする四人を見比べていた。

 そして片方しかない瞳はグールズのローブに身を包んだキースに釘づけとなっている。

 

「ククククッ。ようペガサス、会えて胸糞悪いぜ。こうしてテメエのいけ好かねえ面ァ拝むのはデュエリスト・キングダム以来だな。地獄の底からテメエへの恨みを晴らすため蘇ってやったぜ。俺と同じように死んでた組織を叩き起こしてな」

 

「アイ・シー。ユーがネオ・グールズのボスというのならば、邪神を製造し盗み出したのは……この私への復讐、なのですか?」

 

「恨まれてる自覚はあるみてえだな。え? テメエの方からここに来たのは好都合だ。そこの若造三人を血祭りにあげたら次はテメエだ。テメエが掘った邪神アバターであの世に送ってやるよ。……いいや、ただ潰すのが面白くねえな。裸一貫で裏賭博にでも放り出してやろうか。負ければ死ぬデスゲームによぉ……」

 

「………そうですか。私の過去は、まだ」

 

 ペガサスが失われた目を抑える。ペガサス・J・クロフォードが己の目を犠牲にしてまで手に入れた呪われた力。そこにはもうその力はない。

 しかしその力が齎した過去は時代が流れようと失われはしないのだ。

 

「おい、ペガサス島でテメエは俺に言ったな。゛俺はデュエリストとしての魂を失った。だから素人(城之内)に負けた゛ってなぁ。

 笑わんなよペテン師がっ! なにがデュエリストの魂だ。テメエがその片目でやってたイカサマに比べりゃ俺のしたことなんざチープなもんだ! テメエの築き上げた地位も名声も全部そのオカルトアイテムで手に入れたものじゃねえか!

 長年の疑問が解けたぜぇ。ニューヨークでの俺とのデュエルでも、その力を使ってアレを演出したんだろう?」

 

「……全て、ユーの言う通りです。嘗て私は千年眼(ミレニアム・アイ)の力を使い多くのデュエルで戦い勝利してきた。遊戯ボーイや海馬ボーイとのデュエルでも私はこの力を使った。遊戯ボーイにはこの力を使いながらも、二人の魂の結束に敗れ去りましたが。バンデット・キース、ユーとのデュエルもその一つデース」

 

 キースがそれみろ、というような表情を浮かべる。

 

「キース、貴方には私を恨む権利がある。私は嘗て貴方のデュエリストの魂を侮辱する行いをし、貴方を地獄へ落とす切欠を作り上げてしまった。もし私があんなことをしなければ、貴方がネオ・グールズなどに身をやつすこともなかったでしょう」

 

 全米チャンピオンだった頃のキースは横柄で傲慢なところはあったものの、情熱と向上心に溢れたデュエリストだった。当時から狡猾的な戦術をとることはあってもイカサマなどは行わないプライドも持っていた。

 だがペガサスとの敗北をきっかけに闇賭博へ堕ち、やがて勝たなければ死ぬという極限状態がキースの魂をすり減らし、イカサマや非道な所業を平然と行う悪人へと変貌させてしまったのだ。

 その原因はペガサスにあり、ペガサスは自らの罪を何の偽りもない事実だと受け入れる。

 

「キース! 貴方が私に謝罪を求めるのであれば幾らでも頭を下げましょう。名誉を返せというのならば幾らでも弁解をしましょう。こんなことで貴方の怒りが収まるとは思いませんが、私にできる事ならなんでもやりましょう。

 ですが邪神のカードを使ってデュエルするのは止めるのデース! 神は使い手を選ぶカード。三幻神と違い三邪神は使い手に裁きを下すことはしないので直ぐには気付きませんが、邪神の邪念は使い手の魂を貪り……やがて魂を闇に染め上げる! そうなっては遅いのデース! 貴方の命に関わりマース!」

 

「しゃらくせぇんだよ! 命に関わる? 上等じゃねえか。こっちはなぁ。六分の一の確率で死ぬ地獄(ロシアンルーレット)ってやつを何度も経験してんだよッ! そんくれえ可愛いもんだぜぇ。

 俺はグリーン・ガジェットを召喚ッ! 更に血の代償のコスト1000を払いレッドとイエローを連続召喚だっ!」

 

 ペガサスの謝意も届かずキースの場に邪神の供物となる三色のガジェットが召喚された。

 

「くっ……! 三人とも聞いて下サーイ! 三邪神は一見すると攻略不可能なカード。しかし弱点はありマース! 邪神の弱点、それは――――」

 

「おっと! 外野がアドバイスするんじゃねえぜ!」

 

 キースが手を掲げると、黒い波動がペガサスの体を弾き飛ばした。

 ペガサスの体はそのまま屋上の壁に叩きつけられる。

 

「ペガサス会長っ!」

 

 丈は慌てて駆け寄ろうとするが、その前に不可視の壁のようなものに阻まれた。

 

「逃がさねえよ。邪神を召喚した時から、このデュエルから降りることなんざ出来なくなってんのさ。テメエ等全員のライフ()がゼロになるか、俺のライフ()がゼロになるかするまで殺し合い(デュエル)は終わらねえ。

 覚悟は、出来たかぁ? 俺は三体のガジェットを生贄に捧げる! 最高邪神よ! 太陽を闇に染め上げ降臨せよ! 生きとし生ける者全てを凌駕する現身となりて!」

 

 三体のガジェットが三つの魂となって天上へと吸い込まれる。光り輝く太陽を覆い隠しながら、空から黒い太陽(ラー)が降りてくる。

 遂にキースのフィールドに三邪神全てが揃った。

 

 

【THE DEVILS AVATAR】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/?

DEF/?

God over god.

Attack and defense point of Avatar equals to the point plus 1 of that of

the monster's attack point which has the highest attack point among

monsters exist on the field.




キース「今日の最強カードは激流葬だ! こいつを使えば相手がどんだけ場にモンスターを並べようが一掃できるぜ」

カイザー「現在では古き良き攻撃誘発、ミラフォよりも採用されている罠カードだ。本編でキースがやったように自分でモンスターを召喚した時に発動することもできる」

吹雪「ただ最近な破壊耐性をもったカードも多いし、展開力があるデッキも多いから、下手すれば発動した後にモンスターを大量展開されることも多いから注意が必要だ。発動するタイミングを見誤るとがら空きのフィールドを敵に晒す事になるからね」

宍戸丈「俺の…タァ↑ーン! 激↑流→葬↓ キヒャッヒャッヒャ!」

カイザー「このカードでデュエルをカオスに陥れてやれ!」


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第66話  無敵の神

キース LP3200 手札2枚

場 THE DEVILS DREAD-ROOT、THE DEVILS ERASER、THE DEVILS AVATAR

罠 血の代償

 

吹雪  LP4000 手札4枚

場 セットモンスター

伏せ 二枚

 

丸藤亮 LP4000 手札5枚

場 なし

伏せ 一枚

 

宍戸丈 LP4000 手札4枚

場 アスモトークン、ディウストークン

 

 

 

 

 キースのライフが遂に4000を切った。だがそんなものは何の気休めにもならない。

 邪神アバターは召喚された。召喚されてしまった。絶対に召喚されてはいけなかった最後の邪神。最高神ラーに対応する最強最悪の邪神がフィールドに降臨してしまったのだ。

 ペガサスはなにかを訴えかけようとしていたが、キースの操る黒い波動に言葉を殺されているらしく声は届かない。

 創造者の声も届かず、フィールドには四人のデュエリストと三体の邪神のみがある。

 

「邪神アバターはあらゆるモンスターを超越する最高邪神。その攻撃力守備力はフィールドで最高の攻撃力をもつモンスターの攻撃値に+1した数値となる。

 現在フィールドで最大の攻撃力をもつモンスターは攻撃力4000の邪神ドレッド・ルート。よってその攻撃力は4001だっ!」

 

「常に攻撃力を1だけ上回るモンスターだと!? なんだ、それでは無敵じゃないか……!」

 

 亮の唖然とした呟きも無理もないことだ。戦闘において攻撃力とは絶対的なものだ。どれだけ攻撃力を高めようと相手モンスターより攻撃力がほんの少しでも下回っていれば負ける。

 攻撃力の数値差1。如何なる場合でも攻撃力を1だけ上回る邪神アバターは戦闘において無敵のモンスターという他ない。

 例え亮が攻撃力100000のキメラテック・オーバー・ドラゴンを出そうと無意味だ。なにせ邪神アバターは場に攻撃力100000のモンスターがいれば攻撃力は100001になるのだから。

 邪神アバターがその姿を邪神ドレッド・ルートのものと同じくしていく。全身が黒一色で統一されたアバターの姿は影絵を思わせる。しかしただの影ではない。オリジナルを100%上回る現身だ。あれは。

 

「ククククッ。フィールドにはドレッド・ルートの効果の影響下にあるが邪神アバターはランクにおいて最高に位置する神。下位である邪神ドレッド・ルート、邪神イレイザーの効果は受けねえ。まぁこれにはオシリスとオベリスクについても言えんだがな。よって攻撃力は変動せず4001のままだ。

 バトルフェイズ。誰に攻撃しようと死ぬ順番が少しかわるだけだろうが……宍戸、テメエの場には戦闘破壊耐性のあるトークンがいる。レッドアイズを使う野郎にはセットモンスターが一体か。となると……」

 

「くるかっ!」

 

 キースが睨んだのは亮だ。モンスター効果によってトークンを召喚した丈、自分のターンでモンスターをセット出来た吹雪と異なり、亮のフィールドは激流葬のせいでがら空き。

 フィールドにいる限りにおいて罠の効果を受けない邪神三体の前にはか弱い存在だ。

 

「決まりだぜ。邪神ドレッド・ルートでサイバー流の小僧を攻撃! フィアーズノックダウンッ!」

 

 ドレッド・ルートの山のように巨大な拳が振り落される。ドレッド・ルートの攻撃が通れば亮のライフは一気にゼロとなってしまう。

 それだけは避けなければならない。動いたのは吹雪だった。

 

「この瞬間、リバースカードオープン! 体力増強剤スーパーZ!」

 

 

【体力増強剤スーパーZ】

通常罠カード

このターンのダメージステップ時に相手から

2000ポイント以上の戦闘ダメージを受ける場合、

その戦闘ダメージがライフポイントから引かれる前に、

一度だけ4000ライフポイント回復する。

 

 

「このターン、相手より2000ポイント以上の戦闘ダメージを受ける際、ダメージを受ける前に一度だけライフを4000回復できる!」

 

 罠耐性をもつ神でもこのカードは亮のライフを回復させるための罠カードだ。よって神相手でも通じる。

 亮のライフが一時的に4000ポイントになった。これで邪神ドレッド・ルートとの攻撃力の差はプラスマイナスゼロ。よってダメージは受けない。

 だが――――

 

「そんなんで神の攻撃を防いだつもりか? だとしたら大甘だぜ。受けてみな! 神の攻撃をよぉ!」

 

「が、ぁがぁッ!」

 

 邪神ドレッド・ルートの攻撃が亮の体を貫いた。ソリッドビジョンによる幻、それすらがマヤカシなのではないか。そう思わせるリアリティーをもった苦痛が亮の全身を駆け巡った。

 巌のような巨大な腕によって薙ぎ払われた亮は吹き飛ばされフェンスに叩きつけられる。

 

「りょ、亮!?」

 

 丈は駆け寄ろうとするが、

 

「いや、大丈夫だ……」

 

 肩で息を息をしながら、フェンスを掴み立ち上がると亮は自分の額を自分で殴りつけた。

 真っ赤な鮮血が流れ黒いデュエルスーツに染みを作る。

 

「この程度でへこたれる程……軟な人生は、送ってない」

 

 ソリッドビジョンで実体化した神の攻撃は闇のゲームでなくともプレイヤーへ一定のダメージを与えることがある。嘗てのバトルシティトーナメントの準決勝戦においての武藤遊戯と海馬瀬人の宿命の戦い。

 その時も激突した二体の神はソリッドビジョンでは有り得ないような超常現象を引き起こした。だがそれも闇のゲームがフィールドを圧巻した時のそれと比べればまだ優しいほうだ。

 闇のゲームにおいて神の一撃は文字通り天の裁きに等しい。心弱きデュエリストが受けたのならば、それだけで精神を砕かれる。

 それだけの苦痛に亮は耐えて見せた。その精神力に驚嘆せざるをえない。

 

「邪神の攻撃に耐えたのは褒めてやるよ。だが忘れてねえか。邪神はまだ二体残ってるんだぜ。邪神アバターの攻撃、フィアーズノックダウンッ!」

 

 今度はドレッド・ルートの姿となったアバターが断罪の鉄槌を振り下ろしてくる。

 体力増強剤スーパーZで回復してもあのダメージだったのだ。今度は絶対にダメージを受けさせてはならない。

 丈は手札から一枚のカードを選び取った。

 

「そうはさせない! 俺はクリボーのカードを墓地に送ることで戦闘ダメージを一度だけゼロにする!」

 

 亮の前に増殖したクリボーがアバターの攻撃を受け止めた。

 一度ならず二度までも神の攻撃を阻止されたキースは苦々しげに顔を歪める。

 

「雑魚モンスターが邪魔をしやがって。止めを刺すことはできねえが邪神イレイザーで直接攻撃! ダイジェスティブ・ブレス!」

 

 イレイザーの口から吐き出される黒い波動。現在は攻撃力において邪神ドレッド・ルートを下回るためドレッド・ルートほどの威圧はない。

 だが神の一撃は神の一撃。ダメージが通ってもライフが0になりはしないだろうが想像を絶する苦痛があるのは間違いない。

 

「吹雪、丈。お前達にここまで助けられたなら、ここでダメージを受けたらお前達の助けを無駄にすることになるな。リバースカード、オープン! 攻撃誘導アーマー!」

 

 

【攻撃誘導アーマー】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動可能。

攻撃モンスターの攻撃対象を攻撃モンスター以外のモンスターに移し変える。

 

 

「このカードは相手モンスターの攻撃を攻撃モンスター以外の別のモンスターに移し替えることができる」

 

「亮、俺のモンスターを使え」

 

 つかさず丈が進言する。邪神には罠は通じない。よって攻撃誘導アーマーを邪神に装着して邪神の同士討ちを狙うことは不可能だ。

 けれど丈のモンスターならばそれが出来る。

 

「すまないな。俺は攻撃誘導アーマーを丈の場のディウストークンに装着する!」

 

「けれどディウストークンは戦闘では破壊されない。よって……」

 

 邪神イレイザーの攻撃がディウストークンに直撃する。けれど戦闘耐性のあるディウストークンは無傷だ。

 丈のライフにも一ポイントのダメージもない。

 

「三度も邪神の攻撃を防ぎやがったか。どうやらI2カップでトップ3ってのは伊達じゃねえようだな。無駄な足掻きをしやがる。バトルフェイズを終了。カードを一枚セットしてターンエンド」

 

 

キース LP3200 手札1枚

場 THE DEVILS DREAD-ROOT、THE DEVILS ERASER、THE DEVILS AVATAR

伏せ 一枚

罠 血の代償

 

吹雪  LP4000 手札4枚

場 セットモンスター

伏せ 一枚

 

丸藤亮 LP4000 手札5枚

場 なし

伏せ なし

 

宍戸丈 LP4000 手札3枚

場 アスモトークン、ディウストークン

 

 

 

「俺のターン。ドロー……強欲な壺で二枚ドロー!」

 

 ターンが亮にまで回ってきた。二枚のリバースカードが発動しフィールドから消えたことでイレイザーの攻撃力は2000ポイントまでダウンしている。

 ここで亮がモンスターを召喚すれば一時的に攻撃力が2500になりはするが……サイバー流の力を駆使すれば十分倒せる数値だ。

 仕掛けるならば今しかない。

 

「サイバー・ジラフを召喚、更にサイバー・ジラフのモンスター効果。サイバー・ジラフを生贄に捧げ、このターンの間。このカードのプレイヤーへの効果によるダメージは0になる。

 そして俺はパワーボンドを発動! 三体のサイバー・ドラゴンを手札融合! 現れろサイバー・エンド・ドラゴンッ!」

 

 亮の十八番とも相棒ともいうべきサイバー・エンドが降りたつ。パワー・ボンドの効果によってその攻撃力は8000だ。

 

「ククッ。ドレッド・ルートの効果を忘れるなよ。どれだけ攻撃力の高いモンスターを出そうが……その力は半減する」

 

「そのくらいは分かっている。半減したとしてもパワーボンドにより融合召喚されたサイバー・エンドの攻撃力は4000。攻撃力2500の邪神イレイザーなら容易に倒し切れる数値だ。

 邪神イレイザーを倒せばそのモンスター効果によりドレッド・ルートは道連れになる。最高神たる邪神アバターは倒せないが……イレイザーならどうにかなる」

 

 アバターは攻撃に置いて確かに無敵のモンスターだ。だがその能力には穴がある。

 邪神アバターの効果は攻撃力を参照するため攻撃力より守備力が高いモンスターが守備表示にされていれば、絶対戦闘で突破することができなくなるということだ。邪神アバターは無敵の神だが最強の神ではないのだ。

 そして邪神アバターがいようとキースのライフさえどうにかゼロに出来てしまえば勝つことはできる。ダメージを与えるのは戦闘だけではないのだから。

 

「サイバー・エンド・ドラゴンで邪神イレイザーに攻撃、エターナル・エヴォリューション・バーストッ!」

 

「甘いぜ。罠カード、オープン。万能地雷グレイモヤ!」

 

 

【万能地雷グレイモヤ】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

相手フィールド上に表側攻撃表示で存在する

攻撃力が一番高いモンスター1体を破壊する。

 

 

「相手フィールドで最も攻撃力の高いモンスター、つまりサイバー・エンド・ドラゴンを破壊する」

 

 攻撃しようとしたサイバー・エンドが爆発する。万能地雷グレイモヤ。初期から存在する優秀な罠カードだ。

 攻撃宣言してきたモンスターを破壊する炸裂装甲の相互互換であり、対象を選ばないという一点において炸裂装甲のほぼ相互互換である次元幽閉よりも優れているカードでもある。

 

「そう簡単に破壊させてはくれないか……」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃は届かなかった。邪神の力に頼り過ぎず、万が一の邪神の破壊を防ぐカードを忍ばせておく。

 この強かさは全米チャンピオンの名に偽りなしといったところだろうか。

 

「魔法カード発動、死者蘇生。墓地よりサイバー・ヴァリーを特殊召喚。ターンエンドだ」




カイザー「今日の最強カードはパワー・ボン――――」

吹雪「じゃなくて体力増――――」

宍戸丈「じゃなくてクリ――」

キース「どれでもねえ! 最強カードは万能地雷グレイモヤだ!」

カイザー「なっ!」

キース「対象をとらねえ効果だから『このカードを対象にする罠を無効にする』って効果があろうと問答無用に破壊するぜ。同じことは地割れや地砕きにもいえるがな」

吹雪「といっても自分で破壊する対象を選べないと言うのはデメリットでもあるから、普通のデッキなら次元幽閉が優先されるだろうね」


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第67話  一つの決断

キース LP3200 手札2枚

場 THE DEVILS DREAD-ROOT、THE DEVILS ERASER、THE DEVILS AVATAR

罠 血の代償

 

吹雪  LP4000 手札4枚

場 セットモンスター

伏せ 一枚

 

丸藤亮 LP4000 手札1枚

場 サイバー・ヴァリー

伏せ なし

 

宍戸丈 LP4000 手札3枚

場 アスモトークン、ディウストークン

 

 

 

「俺のターンだ……」

 

 ドローしたカードがこの状況では使えないものだったのだろう。キースはドローカードから直ぐに視線を外すとフィールドを見比べる。

 誰を攻撃するかを吟味しているのだろう。三体の邪神を支配するキースはこのデュエルの流れをも支配している。ゲームをどう進行するかの決定権もキースにあるといって良かった。

 暫く考えていた様子のキースだったが、心を決めたのか口元から歯を覗かせた。

 

「ククククッ。そうビビるなよ……別にこのターンでテメエ等全員をやろうってんじゃねえんだ」

 

 こちらの警戒など見越していると言わんばかりにキースが言った。

 

「心配するなよ。『今』は誰も死なねえよ、俺の思いもよらねえ馬鹿をテメエ等の誰かがしねえ限りはな。俺はメインフェイズからバトルフェイズへ移行。

 最初に邪神イレイザーで宍戸丈、お前の場のアスモトークンを攻撃するぜ」

 

 アスモトークンはディウストークンとは違い戦闘耐性はない。カード効果による耐性はあっても邪神の攻撃を防ぐ力は何一つ持っていないのだ。

 邪神の標的にされたアスモトークンはいつもよりも小さく見えた。それは決してただの錯覚ではないだろう。

 

「イレイザーの攻撃、ダイジェスティブ・ブレス!」

 

 丈たち三人のフィールドにカードは五枚。よって5×1000÷2=2500。その力はアスモトークンをあっさりと消し飛ばした。

 

「このまま連撃といきてえが残る一体ディウストークンは戦闘では破壊されねえ効果をもっている。……たっく面倒臭ぇ。だからよ、今度はテメエだ! レッドアイズ使う小僧!」

 

「……っ! くっ……」

 

「ドレッド・ルートでセットモンスターを攻撃、フィアーズノックダウン!」

 

 キースの狙いが吹雪へ移行する。吹雪の場にはセットモンスターが一体だけ。けれどリバースカードが一枚ある。

 吹雪ほどのデュエリストが邪神の攻撃に対してなんの準備もしていないとは考えづらい。恐らくはあのセットモンスターかリバースカードはなにか邪神の攻撃を回避しうるカードのはずだ。

 果たしてその予測は正しかった。

 

「僕がセットしていたカードは仮面竜だ。仮面竜が戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、モンスター効果が発動。デッキより攻撃力1500以下のドラゴン族モンスターを特殊召喚することが出来る」

 

 

【仮面竜】

炎属性 ☆3 ドラゴン族

攻撃力1400

守備力1100

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

自分のデッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を

自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 吹雪はチラリと隣のフィールドを流し見する。

 

「……僕はデッキよりミンゲイドラゴンを守備表示で召喚する」

 

 

【ミンゲイドラゴン】

地属性 ☆2 ドラゴン族

攻撃力400

守備力200

ドラゴン族モンスターをアドバンス召喚する場合、

このモンスター1体で2体分のリリースとする事ができる。

自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

このカードを自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

この効果は自分の墓地にドラゴン族以外のモンスターが存在する場合には発動できない。

この効果で特殊召喚されたこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

 

 

 仮面竜がリクルート出来るモンスターには仮面竜自身も含まれる。仮面竜で仮面竜をリクルートすることで壁モンスターを維持することができるのだ。

 それを捨て敢えてミンゲイドラゴンを召喚したということは、キースの次の行動を見越しての戦術と次への布石。

 

「更に! 僕の場のドラゴン族モンスターが破壊された時、僕はこのカードを発動していた。速攻魔法、奇跡の逆鱗! 自分の場のドラゴンが破壊された時、デッキより魔法・罠カードを二枚選択し場にセットするよ」

 

 

【奇跡の逆鱗】

速攻魔法カード

自分フィールド上に存在するドラゴン族モンスターが破壊された時に発動する事ができる。

自分のデッキから魔法・罠カード2枚を選択して、自分の魔法&罠カードゾーンにセットする。

 

 

 同時に防御も新たに固めてきた。あれが速攻魔法や罠カードだとしてもセットされたターンに発動できない制約故、直ぐに使うことは出来ないが、このキースのターンが終わればセットカードを使用することができる。

 

「ミンゲイドラゴン。ステータスは弱小だがドラゴン族モンスター召喚の場合、二体分の生贄になるダブルコストモンスター。本来なら反撃の芽を紡ぐためにも破壊しておきてえがミンゲイドラゴンには蘇生効果がある。

 仮に俺が残るアバターで破壊したとしても直ぐに復活しちまうわけだ。だから……」

 

 次にキースが狙いを定めたのは亮だった。

 

「その前に鬱陶しい壁モンスターを掃討しておくことにするぜ。邪神アバターでサイバー・ヴァリーを攻撃!」

 

「……サイバー・ヴァリーのモンスター効果。このカードが攻撃対象に選択された時、このカードを除外することでカードを一枚ドローしバトルフェイズを終了させる」

 

「それでいい。テメエにはそうするしか出来ねえんだからな。俺はこのままターンエンドだ」

 

「俺のターン」

 

 二度目の丈のターンがやってくる。三対一の変則マッチなので自分のターンが回ってくるのは随分と遅いはずなのだが……なぜだろうか。ターンが回ってくるのがいつもよりも早い気がしてならない。

 もしかしたら丈の心は隠していても三体の邪神に対してどこか恐怖心を抱いているのかもしれない。

 

「くそっ」

 

 勝てない、と思っては駄目だ。心の中でそう考えれば現実のデュエルの流れで呑まれてしまう。

 気を強くもたなければ邪神相手に勝つことは出来ない。

 

「俺は天使の施しを発動……三枚ドローして二枚捨てる」

 

 普段は投入していない手札交換カード。それを使っても手札の内容はパッとしなかった。

 それも当然といえる。丈のデッキは最上級モンスターを次々に出していくという点において亮や吹雪と同じだがその実態は大きく異なる。

 丈が主力とする最上級モンスターの殆ど全てが3000のラインかそれより少し下のモンスターで、攻撃力4000クラスのモンスターは皆無といっていい。

 別にデュエルは攻撃力が全てではない。亮を相手にする時はどれだけ攻撃力10000クラスのモンスターが出されようと、最上級モンスターの強力な効果を活かして何度かの勝利を掴んできた。

 けれど相手はモンスター効果と罠を完全に無効にし、魔法カードすら上級スペル以外は通用しないという邪神。デッキタイプの相性が余りにも悪すぎるのだ。

 

(手札には最上級モンスターもいるが……今は動けない)

 

 恐怖に萎縮したのでもない。ただ一つの導き出した結果として、この場で動くことは出来そうになかった。

 下手にモンスターを出せば逆に不利となりかねない。

 

「俺はこのままでターンエンド」

 

「何もせず終わりか? ククククッ。消極的じゃねえか、少しはサイバー流の小僧を見習ったらどうだ。まぁ積極的になったところで意味なんてねえがな。

 俺のターン、ドロー! 魔法カード発動、サイクロン! レッドアイズ使いの餓鬼、テメエの右のセットカードを破壊するぜ」

 

「サイクロン!?」

 

 破壊されたカードは強制終了。強制終了以外の場のカードを墓地へ送ることでバトルフェイズを終了させる永続罠カードだ。

 攻撃の無力化と異なりコストはあるが、永続罠故に破壊されない限りフィールドに留まり続けることができる。しかもバトルフェイズを終了させる効果のため邪神にも有効だ。

 吹雪は恐らくこのカードを駆使することでターンを保たせるつもりだったのだろう。だがその吹雪の目論見は崩れ去った。たった一枚のサイクロンによって。

 

「強制終了か。一番ちゃらけているようで強かなこと考えるじゃねえか。このターン、がら空きのサイバー流の餓鬼に総攻撃をかけるって選択肢が俺にはある。

 しかしだ。デュエルモンスターズで最重要なのは手札だ。サイバー流の餓鬼の持ち札が二枚なのに対してテメエの手札は四枚。次のターンが回ってくりゃ五枚になる。おまけに場にはミンゲイドラゴン……」

 

「吹雪!」

 

 呼びかけるが吹雪は黙したまま何も答えない。いつものようにふざけた態度で笑ってはくれなかった。

 ただじっと自分のフィールドを見つめ……やがて溜息をついた。

 

「はぁ。……ホントに……仕方ないなぁ」

 

 遠くを見つめながら、どこか諦めるような声色で呟く。

 

「仕方ない? 覚悟を決めたってわけか。それなら遠慮はいらねえな。バトルフェイズへ移行! 邪神イレイザーでミンゲイドラゴンを破壊する!」

 

 吹雪はリバースカードを発動しなかった。邪神の攻撃はミンゲイドラゴンを容赦なく爆殺する。

 

「この瞬間、僕はセットしていたリバースカードを発動。奇跡の逆鱗! デッキより魔法・罠カードを選択して場にセットする」

 

「二枚目の奇跡の逆鱗だと? だが無駄だぜ。セットしたターン、速攻魔法と罠カードは発動できねえんだからな! これで止めだ。喰らいやがれ、邪神ドレッド・ルートの攻撃、フィアーズノックダウン!」

 

 邪神ドレッド・ルートがその巨大な体躯を動かす。攻撃が通れば吹雪の負けだ。

 それを阻止するため亮が動く。

 

「吹雪、今……!」

 

「待って!」

 

 けれど亮の助けを吹雪は拒んだ。

 

「攻撃誘発なら僕もある。助けは不要だよ」

 

 自信満々に言ってみせた。亮もその言葉を聞き手札から発動しようとしていたカードを引っ込める。

 直接攻撃宣言時に発動する手札誘発といえば速攻のかかしかバトルフェーダーだろう。吹雪が自分で防げるというのならばわざわざ助けを差し伸べる必要もない。

 だというのに――――

 最初に気付いたのは丈だった。亮の助けを断っておきながら、吹雪にはまるで手札誘発を発動させる気配がない。邪神ドレッド・ルートの鉄槌は刻一刻と迫っているのに吹雪は微動だにしないのだ。

 

「吹雪!?」

 

 叫んだが遅い。吹雪は何の抵抗もしないまま邪神ドレッド・ルートの攻撃を受けると、そのまま衝撃で殻を浮かび上がらせた。

 

 天上院吹雪LP4000→0

 

 吹雪のライフが無慈悲にゼロを刻む。4000のダメージを受けたのだから自然なことだというのに、動揺を隠す事が出来ない。これほどまでに自然を受け入れたくないと思ったのは初めてだった。

 もはや反射的だった。吹雪が吹き飛ばされた時にはもう二人の体は動いていた。デュエル中だということすら忘れて吹雪に駆け寄る。

 

「どういうことだ吹雪、どうして……。手札誘発があるんじゃなかったのか!?」

 

「…………。僕には、邪神を倒すことは、出来ない。………邪神を倒せないデュエリストに一々ターンを回してもデメリットだろう。だから――――」

 

 それ以上、言い切ることはなかった。吹雪の体が闇に取り込まれたかと思うと、まるで蜃気楼だったかのように空気に溶けて雲散する。

 何も出来なかった。何もすることが出来なかった。

 自分たちの目の前で掛け替えのない友人だった天上院吹雪はこの世界から消滅した。



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第68話  カイザー死す

やめて! 邪神アバターの攻撃力で直接攻撃を受けたら、闇のゲームで命とライフが繋がってるカイザーの精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでカイザー! あんたが今ここで倒れたら、吹雪さんや丈との約束はどうなっちゃうの?
ライフはまだ残ってる。これを耐えれば、キースに勝てるんだから!


今回、「カイザー死す」。デュエルスタンバイ!


キース LP3200 手札2枚

場 THE DEVILS DREAD-ROOT、THE DEVILS ERASER、THE DEVILS AVATAR

罠 血の代償

 

吹雪  LP0 脱落

伏せ 二枚

 

丸藤亮 LP4000 手札2枚

場 なし

伏せ なし

 

宍戸丈 LP4000 手札3枚

場 ディウストークン

 

 

 

 目の前で起きてしまった現実が信じられなかった。

 デュエルアカデミア中等部に入ってからずっと一緒に日々を過ごしてきた友人。テスト勉強を一緒にしたことがあった。カードをトレードしたこともあった。毎日のようにデュエルをして互いの腕を高めあった。

 そんな掛け替えのない友人だった吹雪が……まるでそこにいたことが幻想だったかのように忽然と消えてしまったのだ。

 亮は自分の手が震えていることにも気づかないまま、恐る恐るキースを見る。

 

「クククククッ……」

 

 キースは両手を広げて嗤っていた。三体の邪神を従えたキースはまるで古の暴君のように悠然と残された二人を見下ろしながら、紛れもない勝利者の笑みを浮かべてみせた。

 その笑みに隠れているのは嘲笑か呆れか。

 

「なにを、した」

 

 邪悪なオーラを纏ったキースに白いエネルギーのようなものが取り込まれていく。雪解けの水を思わせる白い魔力(カー)はどす黒い黒い魔力に取り込まれると完全に黒と同一のものとなった。

 白い魔力が一体誰のものなのか、直感的に亮は理解した。

 

「吹雪に、なにをしたぁぁぁぁぁぁッ!」

 

「ククッハーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 狂ったように天に向かって笑うだけでキースは答えようとはしない。ただ最高の娯楽を見つけた死神のように天上院吹雪という男の消滅を喜んでいた。

 

「……闇の、ゲーム」

 

 唇を震わせながら丈は呟いた。現実を受け入れつつも、本心では受け入れたくない。丈の表情がそう言っていた。

 それでもこれが紛れもない現実だと認識することができたのは闇のゲームがどういうものかを知っていたからだろう。

 ピタリとキースが動きを止める。ぎぎっと首を人形のように丈たちの方へ向けた。

 

「そうさ」

 

 漸く笑うことを止めたキースがポツリと言う。

 

「……三千年前、古代エジプトにおいて名も無きファラオと神官共の間で執り行われていた闇のゲーム。そン時はこんなカードじゃなく石版に封じられた魔物や自分の精霊を召喚して戦りあってたんだけどな。

 闇のゲームはテメエ等が遊びでやってるようなデュエルとは一味違うぜぇ。なんてったって死ねば即DEAD ENDなんだからなァ。お友達が逝っちまった感想はどうだい? 自分じゃなくて良かったか、それとも自分も死ぬことになるのが恐いか? クククッ」

 

「ふざけるな! 吹雪を……吹雪を返せ!」

 

「友達を返して欲しけりゃオレ様に勝つんだな。天上院吹雪の(バー)はオレ様の魔力(カー)を稼働させる燃料にするため取り込んでいる。だが闇のゲームが完全に決着するまで完全に分解されはしない。

 つまりこのデュエルでオレ様を殺せば、オレ様は死に取り込まれていたお友達は助かるってわけだ。まぁそれはオレ様の場にいる三体の邪神を倒せればの話だがねぇ」

 

「三体の、邪神……!」

 

 吹雪を取り戻さなければならない。そう分かっているのに改めて三体の邪神を前にすると膝を降りそうになる。

 消滅する直前、吹雪は自分には邪神を倒す術がないから後を託すと言った。吹雪は強かな男だ。ふざけているように見えて決して無駄なことはしない。その吹雪が後を託すといった以上、亮……もしくは丈には邪神を倒す術があるということなのだ。

 けれど亮には三体並んだ邪神を倒す方法など皆目検討もつかない。

 

「さて。オレ様にはまだ邪神アバターの攻撃が残っている。丸藤亮だったか。確かお前には手札誘発があるんだったっけな」

 

「……俺は速攻のかかしを墓地へ送る事でバトルフェイズを終了させる」

 

 

【速攻のかかし】

地属性 ☆1 機械族

攻撃力0

守備力0

相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から捨てて発動する。

その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 

 

 バトルフェイズを終了させる効果は邪神でも無力化はできない。

 この効果を吹雪への直接攻撃の段階で発動できていれば、吹雪は負けることはなかっただろうに。どうして勝負を放棄するようなことをしたのか。

 

「これでまたこのターンは生き長らえたってわけか。オレ様はこれでターンエンド」

 

 吹雪が脱落した為、次にターンが回ってくるのは亮だ。

 だが自分のターンになったというのに亮はカードをドローすることが出来ないでいた。

 

「おい、オレ様はエンド宣言をしたぜ。それともあれか? オレ様お仲間の死にビビっちまったかな……だったらデッキの上に手を置いてサレンダーしな。そうすれば苦しみもなにもない闇の世界へ旅立てるぜぇ~。苦しみもなくな」

 

 いつもならそんな挑発に狼狽えることなどなかった。ただ今回ばかりはそうもいかない。

 

(どんなに無敵にみえるコンボや、どれほどの厚いロックでも必ず弱点はある。カードを信じ、相手をリスペクトし、勝負を諦めなければ突破口は見つかる。俺は今までそう思ってきた。だが)

 

 果たして邪神を倒す方法などあるのか。あれは完全に無敵そのものではないか。

 その時、亮の肩に手が置かれる。丈は邪神のプレッシャーで肩で息をしながらも、寸でのところで闘志を失わないでいた。

 

「デュエルは、まだ終わってない。……兎に角、戦うしかないんだ。……そうしないと吹雪を取り返す事も出来ない。俺達も……死ぬ事になる」

 

「そうだな」

 

 丈の言う通りだ。迷うことすら亮には許されない。

 闇のゲームに負ければ死ぬ。それは吹雪だけではない。このデュエルに参加している自分達もまた吹雪と同じ条件に身を置いているのだ。

 ならば戦うしかない。全てを取戻し、全てを守るためにも。

 

(吹雪……お前は直ぐにでも俺へターンへ回す為に敢えて邪神の攻撃を受けた。俺が知らないだけで俺のデッキには邪神を倒す為のカードがあるのか。それに吹雪が遺した二枚のリバースカード。

 お前の意志は無駄にはしない。俺のデッキよ……もしもお前達もまた俺を仲間と思い、吹雪を友と思ってくれるのなら……頼む、応えてくれ!)

 

 デッキトップに手を掛ける。

 

「っ! 俺のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードは……駄目だ。キーカードの一つには違いないかもしれないが、これだけで邪神を倒すことはできない。

 引いたカードが駄目ならば、残る頼みの綱は最初からあったもう一枚だけだ。

 

「魔法カード、強欲で謙虚な壺を発動。デッキからカードを三枚めくり、その中から一枚を選び手札に加える。その後、残りのカードをデッキに戻す。もっともこのカードを使用したターン、俺は特殊召喚は出来ないがな」

 

 

【強欲で謙虚な壺】

通常魔法カード

自分のデッキの上からカードを3枚めくり、

その中から1枚を選んで手札に加え、

その後残りのカードをデッキに戻す。

「強欲で謙虚な壺」は1ターンに1枚しか発動できず、

このカードを発動するターン自分はモンスターを特殊召喚できない。

 

 

 めくった一枚目のカードはサイバー・ドラゴン・ツヴァイ。このカードでは駄目だ。手札に加えたとしても壁モンスターにしかならない。

 二枚目のカードは次元幽閉。炸裂装甲の上位互換ともいうべきカードであるが邪神の前には無力だ。

 三枚目のカードは流転の宝札。強欲な壺の下位互換たるドローソースだ。

 

「俺は流転の宝札をサーチする。二枚のカードをデッキに加えシャッフルし、流転の宝札を発動! デッキよりカードを二枚ドローする!」

 

 

【流転の宝札】

通常魔法カード

デッキからカードを2枚ドローする。

ターン終了時にカードを1枚墓地へ送る。

送らない場合3000ポイントのダメージを受ける。 

 

 

(そうか……。だから吹雪、お前は)

 

 カードを二枚ドローした瞬間、亮には分かってしまった。三体の邪神を倒す唯一の方法が。どうして吹雪が一刻も早く自分にターンを回そうとしたのかを。

 この方法なら確かに邪神を倒せるだろう。これは推測だが吹雪の手札にはあの時点であのモンスターを召喚する術がなかった。速攻のかかしをあの時点で使っていれば吹雪は助かるが、それは結果的に亮の命数を縮めることになる。

 だからこそ――――いや、それすら虚飾。吹雪という男のことを、亮は良く知っているつもりだ。吹雪は優しい男だ。きっとただ亮と丈を守るために自分を犠牲にする選択をとったのだろう。

 吹雪ならキーカードがなくとも例のモンスターを次の1ターンで召喚できたかもしれないというのに。

 

(俺はお前の意志を継ぐと『覚悟』した。ならば吹雪よ、俺もまたその『覚悟』に殉じよう。俺は罰当たりな男だ。お前の意志に直ぐに答えてやることはできない。それでもお前から託されたバトンは繋ぐぞ)

 

 恐怖はなかった。例えこれから自分が光りの入らぬ闇の世界にいくのだとしても、必ず傍らにたつ友が自分を救い出してくれる。

 だから怖れる必要など、どこにもないのだ。安心して後を任せればいい。

 

「俺はカードを三枚セットする、ターンエンドだ!」

 

「三枚だって……!?」

 

 丈が驚きの声をあげる。流転の宝札のデメリットはターン終了時にカードを捨てなければ3000のダメージを受けること。

 亮が伏せた三枚のカードは亮の全手札。よってデメリットを受けることは確定的となった。

 

「強いカードには代償がつきものだ。俺は3000ポイントのダメージを受ける。――――ぐっ!」

 

 丸藤亮LP4000→1000

 

 全身から力を抜ける。これで残りライフは1000。闇のゲーム故、全身をむしばむ苦痛があったがドレッド・ルートの一撃に比べればどうということはない。

 吹けば飛ぶライフとなったが、どうでもいいことだ。三邪神の前では4000だろうと1000だろうと同じことである。

 それに亮はもう直ぐ一度死を迎えることになるだろう。

 

「壁モンスターを召喚しねえ……か。なんだ、もう覚悟を決めたってことか?」

 

「好きに解釈すればいい。お前のターンだ、早くしろ」

 

「いい覚悟だ。それに免じて、お仲間と同じ方法であの世へ送ってやるよ。オレ様のターン! バトルだ。邪神ドレッド・ルートの攻撃!」

 

「亮!」

 

 丈が叫ぶが、亮はなにもしない。攻撃を防ぐ術がないわけではないが、このカードはここで使うべきものではないだろう。

 

「……任せたぞ」

 

 最後にそう言い残し亮は甘んじてドレッド・ルートの攻撃を受けた。

 4000ポイントのダメージが亮の命を消し飛ばす。痛みはあったが、亮は意地で笑いすら浮かべて見せた。

 丈が駆け寄り、倒れる亮の体を受け止めるのと体が消滅するのは同時だった。

 

「……そんな、亮まで」

 

 丈の腕に残ったのは、ほんの僅かな感触だけ。吹雪に続いて丸藤亮という掛け替えのない友人がこの世から消え去ってしまった。

 サイバー・ドラゴンと同じ白銀の魔力がキースの下へ流れていく。

 

「―――――クッ」

 

 ドクンッと心臓の鼓動が鳴り響く。まるでドラゴンの臓腑が震えた様な巨音だった。

 キースが全身に纏っていた黒いオーラが白銀の魔力を取り込んだことで一層強さを増していく。命を容易く消し飛ばす悪しき魂の脈動が地面を震わせた。

 

「ヒャーハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 堰を切ったような狂笑。黒いオーラが霧のように周囲に充満する。黒い霧に触れると想像を絶するほどの悪意と殺意とが丈の体に流れ込んできた。

 やがて黒い霧がキースの前に集まりだし、一つの人型を作り上げだした。

 

「クッハハハハハハ」

 

 体が出来上がるにつれて、その笑い声も小さくなっていく。

 先ず最初に見えたのは色素というものを全て排除してしまったかのような病的なまでの白。触れればそれだけで汚れて壊れてしまいそうなほど脆いのに、どれだけ傷つけても壊れない強靭さを持ち合わせているようにも見える――――二つの矛盾した印象を抱かせる肌。

 次にこの世全てへの憎悪に染まった悪魔の如き眼光。そして鋭利な刃物を思わせる白髪。

 その男は悪の権化だった。纏う服装はラフなシャツに水色の上着を羽織っただけという簡単なものなのに、それに身を包む男が凡百の衣装を悪漢の着る仕事着にかえてしまっている。

 男は悪そのものだった。恐らく彼はこの世を呪う為だけに今という時間を生きているのだろう。場に並ぶ三体の邪神よりも黒い悪。彼は悪というものを担う邪神そのものだった。

 そして彼は――――蘇った。蘇ってしまった。死んだはずだったのに、この世にいていいはずがないのに。

 

「いつだったかな、オレ様がある男に言った事がある。『オレは必ず蘇り……貴様を殺す。オレは元々闇そのものなんだからよ』って」

 

 男が地面に足をつけると、足音が鳴る。

 それが絶望だった。足音が鳴るということは、その男には肉体が出来上がりつつあるという証左だからだ。

 

「王様よぉ。テメエはオレ様と闇の大神官を消滅させてミレニアム・バトルに決着をつけたつもりだったろうが……少しツメが甘かったな。お高く留まってたテメエと違ってオレ様は泥を舐めることには慣れてんだよ」

 

 もっと早くに疑問にもつべきだったのだ。

 キースはそもそもどうやってペガサスが千年眼の所有者であることを知ったというのか。ペガサスが千年アイテムの担い手だったことは本当に一部の者しか知らぬことだというのに。

 丈にはそこに至るまでの道程を想像することしか出来ない。ただ恐らくキースは『彼』と出会い、彼より聞いたのだ。

 名も無きファラオと千年アイテムのことを。

 

「地獄から蘇ったぜ、王様」

 

 三千年前ファラオと戦いを繰り広げた大邪神(ゾーク・ネクロファデス)の欠片。盗賊王バクラが復活した。




カイザー「今日の最強カードは速攻のかかし。このカードを手札から捨てることにより直接攻撃を防ぎ、バトルフェイズを終了させることができるぞ」

吹雪「ところで僕は前回死にました」

カイザー「俺は今回死にました」

キース「なんか精神乗っ取られました」

バクラ「まさにDEATH☆GAME!」

宍戸丈「大丈夫。ドラゴンボールで生き返らせればいい」

バクラ「ンなもんねぇよ!」


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第69話  受け継がれる可能性

キース(バクラ) LP3200 手札3枚

場 THE DEVILS DREAD-ROOT、THE DEVILS ERASER、THE DEVILS AVATAR

罠 血の代償

 

吹雪  LP0 脱落

伏せ 二枚

 

丸藤亮 LP0   脱落

伏せ 三枚

 

宍戸丈 LP4000 手札3枚

場 ディウストークン

 

 

 

 

 バクラの復活。あまりにも埒外の出来事に丈は指先一つ動かせずにいた。

 視線は白い髪の男に釘づけとなって離れない。生きていてはいけない男だった。生きている筈のない男だった。

 デュエルモンスターズの創造主であるペガサス・J・クロフォードは海馬瀬人を指してキング・オブ・デュエリスト武藤遊戯の永遠の好敵手と言った。そして城之内克也を指して永遠の友と言った。

 彼等二人が親友と好敵手ならバクラは倒すべき因縁の宿敵というべきだろう。三千年前からの因縁で結ばれた二人は決して相容れることはなく、どちらかを駆逐するまで永久に殺しあい続ける。それがバクラという悪の魂だ。

 当然デュエリストとしての技量も超一流で、ペガサスを相手に優に勝利し、名も無きファラオを後一歩のところまで追い詰めるほどのタクティクスをもつ。

 

「あな……たは……………まさか、バクラ!? どうしてユーがここに! 貴方は最後の戦いで名も無きファラオの魂により滅ぼされたはず……!」 

 

「ほぉ。起きたのかいペガサス」

 

 よろよろと起き上がって来たペガサスに視線を映したバクラが鼻を鳴らす。

 三千年前ファラオを前にしても不遜な態度を崩さなかった盗賊王は、たかだかデュエルモンスターズの創造主を前にした程度で萎縮するはずがない。

 

「クククッ。王様達に聞きでもしたのかい? 中々情報通じゃねえか。あんまりデカい顔で言えることじゃねえんだがな。確かにオレ様の本体……宿主様、獏良了を器に千年リングに宿っていたバクラは消滅した。

 いいや俺様だけじゃねえ。三千年前ファラオと神官団に戦争を仕掛けた闇の大神官、そして冥界の扉の奥に君臨するゾーク・ネクロファデス。全部があのミレニアムバトルに負けて闇に還った。だがな俺様だけは完全に死んではいなかった。

 千年リングには面白い力がある。俺様はパラサイトマインドって呼んでるが、物質に魂の一部を封印できる能力。ただの保険として用意してあったこの俺様は大本とは分離していたお陰でミレニアムバトルでの消滅から逃れることができたってわけだ」

 

「パラサイトマインド……!」

 

 千年リングに宿っていた魂をAとしよう。そしてパラサイトマインドで分割された魂をBとする。

 闇のゲームに負けて、魂Aが消滅したとしても魂Aとは完全に独立した魂BはAではない為、Aがこの世から消滅したとしても残り続ける。

 実際バクラは同様の方法でマリクに敗北した際の消滅からも難を逃れたのだ。

 

「千年リングに宿っていた俺様は元々三千年前の盗賊王バクラの魂に『闇の大神官』の邪念を埋め込まれた……闇の大神官の欠片。謂わばしつこく現世にしがみついているこの俺は闇の大神官の欠片の欠片ってわけだ。

 だが苦労したぜ。俺様も昔は侮っていたが、器の遊戯……奴はファラオよりも面倒な野郎だ。それも当然かもしれねえな。そもそも良く考えりゃ分かることだったよ」

 

 そこでバクラは一旦言葉を切って、

 

器が中身より小さいはずがねえ(・・・・・・・)んだ」

 

 身近な例をあげよう。ペットボトルに入る水の量はペットボトルの体積を上回ることはない。もしも上回ってしまったとしたら、水を入れる器は粉々に割れてしまう。

 武藤遊戯は三千年前の王の魂を収めた器だった。ならばその器は確実に中身よりも大きい。

 

「遊戯には三幻神と魔術師野郎の精霊がついている。闇の大神官の残りカスみてえなオレ様なんざ、見つかった瞬間に俺様は現世から強制退場。事は慎重に進める必要があった。オレ様が生きてるってことが復活するまでに万が一にも知られればその時点でアウト。王墓の盗掘も面白かったが中々にスリリングだったぜ。

 オレ様には奴等に気付かれない仮の住まいとする器が必要だった。元々の宿主は使えねえ。あいつは遊戯達とは近い位置にいるからな。キースを見つけたのはそんな時だ。地下デュエル、天国へいける薬にロシアンルーレット……闇のゲームもどきにどっぷり浸かってペガサス、テメエに恨みをもち続けてきたキースはオレ様の住家にするのには打ってつけだったぜ。

 前とは違ってオレ様はあまり表に出ることはできねえ。つまり宿主には最低でも遊戯や海馬と勝負できるだけの技量をもつデュエリストを選ぶ必要はあったが、キースの技量は地下デュエルで燻ってはいたが鈍ってはいなかった。キースもペガサスが千年眼を使ってあのデュエルを演出したって教えたらすぐにオレ様を受け入れたぜ。ペガサス会長、アンタ。よっぽど恨まれてたみたいだな」

 

 バクラの器に選ばれてしまったキースは力を失った人形のようにぐったりと棒立ちしている。その瞳は生気を失ったようにはっきりせず、死んでいるようにも見えた。

 コインに裏表があるようにデュエルにも裏がある。丈は当然参加したことはないが、衝撃増幅装置を装着して行われるそのデュエルは疑似的な闇のデュエルそのものとすらいえるだろう。以前、地下デュエルに負けた男が死亡したというニュースを見た事がある。

 全米ナンバーワンデュエリストという栄光から、地下デュエルに押し込まれたデュエリストというところまで転落したキースの無念はどれほどのものか。想像することもできない。そんなキースがあのデュエルが千年アイテムの力を使ったものだと聞けば、悪魔と契約を結ぼうとしてしまうのも無理からぬことだ。

 

「キースという器を手に入れた俺様は漸く復活のために動き出す準備を整えた。次に目をつけたのは……ペガサスが三幻神への抑止力として生み出しながら、世に生み出す前に開発を断念したという三邪神。

 おかしいとは思わねえか? 確かに三邪神は三幻神をモデルにデザインされている。だが三幻神をモチーフにしたモンスターなんざ他に幾つかある。だっていうのに三邪神は三幻神に匹敵、同等とすらいっていいだけの魔力をもって誕生した。まるで本物の神のように。

 カードに精霊が宿るってのは事実だ。だがな、神をモチーフにモンスターを創造したところで簡単に神の力を得れるほど神ってのは安い存在じゃねえ。三幻神が名も無きファラオの操る三体の神をモチーフにしたように、三邪神にも創造の基盤となったアバター(原型)が存在する」

 

「そんなはずがありまセーン!」

 

 ペガサスが声を張り上げる。だがその挙動はバクラの話を真っ向から全否定しているのではなく、自分の中にある心当たりを必死に違うと自分に言い聞かせているように見えた。

 

「会長、テメエにも心当たりがあるんだろう。隠すのはやめろよ。テメエが嘗て左目に埋め込んでいた千年眼(ミレニアム・アイ)。あれは曰くつきでな。俺様の故郷、クル・エルナの盗賊村で村人を皆殺しにし、その命をもって千年アイテムを生み出した神官アクナディンが担ったもの」

 

「アクナディン……?」

 

 呆然とペガサスは左目のある場所に触れながら、アクナディンという名を反芻する。まるでそこにあった千年眼の名残に問いかけるように。

 

「クククッ。そう、俺様の故郷を滅ぼした張本人にしてオレ様に魂の一部を植え付けた後の闇の大神官さ。一度バラバラになっちまったパズルが遊戯の手で一つにされたように、三千年前の戦いもまた決着がつくまで終わりはしない。

 ペガサス。お前は三千年前の運命に導かれるままデュエルモンスターズを世に生み出し、名も無きファラオの記憶の手がかりとなる三幻神を創造した。だがそれだけじゃなかったってことさ。

 光と闇は表裏一体。お前は三幻神を創造した後、まるで強迫観念にとらわれたかのように三幻神を倒す為の神として三邪神をデザインした。テメエは知ってるか? 三幻神は王の名の下に一つとなり、光の創造神ホルアクティとなる」

 

「ま、まさか……?」

 

「もう言うまでもねえよな。光が三幻神――――名も無きファラオの魂と光の創造神ホルアクティならば、闇は闇の大神官とゾーク・ネクロファデス以外になにがいる。

 三邪神は千年眼に残っていた闇の大神官(アクナディン)の邪念がテメエに作り出させた三つに分かれたゾーク・ネクロファデスそのもの。三邪神が神の力をもって誕生したのは当たり前だ。なんたって神のモチーフとなったのは冥界の支配者たるゾークそのものなんだからな。

 大邪神の欠片の欠片である俺様の核とするにはもってこいだったってわけよ。ゾーク・ネクロファデスの現身たる三邪神を核にしたことでオレ様にも闇のゲームを仕掛けるだけの魔力が戻った。丸藤亮と天上院吹雪、上質な(バー)を二つ吸収して肉体も戻りつつある。後一体の魂を喰えば、俺様は完全に復活する。もうキースを器にする必要も、三邪神を核にする必要もなくなる」

 

 今まで動かずにいたキースがビクッと動いた。糸に操られているように機械的にデュエルディスクを装備した腕をあげると、残った最後のデュエリストたる丈に向き直る。

 そこにキースの意志は介在しない。もはや完全にバクラの支配下に置かれてしまったのだろう。

 

「盗賊らしく、最後にテメエの(バー)を盗ませて貰うぜ」

 

「っ!」

 

 三千年もの間、熟成され練磨され続けてきた殺意が丈の身に降りかかる。その濃密過ぎて心臓の鼓動を止めてしまいそうな殺意のハリケーンに丈は目を瞑ってしまう。

 どうにか立っていられたのは吹雪と亮の最期が脳裏に焼き付いていたからだ。

 

「宍戸ボーイ! お願いデース……どうか、あのバクラを倒して下さい! 彼が復活してしまったら……世界は!」

 

 負ければ世界が破滅する。そんな絵空事のような未来を笑い飛ばすことは丈には出来ない。

 だって空を見上げれば、世界が夜よりも暗い雲にすっぽりと覆われてしまっているのだ。あれが地球全土を覆い隠してしまえば、本当に世界は終末を迎えてしまうのかもしれない。

 

「おっと! 外野は黙っててもらうぜ、そいつがデュエルのマナーだろう?」

 

 バクラが指を鳴らすと、ペガサスは見えない腕に薙ぎ払われたように後ろへ飛ばされた。そしてフェンスに押し付けられる。ペガサスはもがき脱出しようとするが、余程強い力で抑えらているのか何の意味もなかった。

 

「これで邪魔は入らねえ。俺様はこれでターンエンド。さっさとターンを進めな。それともサレンダーでもするかい?」

 

「…………俺の、ターン」

 

 震える手でカードをドローした。

 いつもなら丈はこの手札に対して悪くないという評価を下すだろう。デッキの要ともいえるドローソース、永続魔法『冥界の宝札』が手札にあり最上級モンスターもある。

 普段なら最上級モンスターを召喚して様子を見るところだが、邪神イレイザーが相手フィールドにいる時に下手にカードを並べれば逆効果にしかならない。

 

「ターン、エンドだ」

 

 故に何も出来ない。吹雪と亮の二人が自分の為にカードを残してくれたのに何も出来ないのだ。

 丈には邪神を倒すことは、できない。

 

「遂に勝負を投げたか。俺様はそっちの方が楽でいいんだが拍子抜けだな。オレ様のターン、ドローカード。強欲な壺で二枚追加ドロー。

 俺様は至高の木の実を発動。自分のライフが相手より少ない場合、俺様は2000のライフを回復するぜ」

 

 

【至高の木の実】

通常魔法カード

このカードの発動時に、自分のライフポイントが

相手より下の場合、自分は2000ライフポイント回復する。

自分のライフポイントが相手より上の場合、

自分は1000ポイントダメージを受ける。

 

 

 バクラLP3200→5200

 

 

 至高の木の実はライフが相手より上の場合に使うと1000ポイントのダメージを受けるデメリットがあるのだが、丈のライフは4000でバクラのライフは3200なのでライフは問題なく回復される。

 血の代償でライフを消耗することが多いデッキのため、キースはこのカードをもしもの時の為に投入していたのだろう。

 

「……………」

 

「゛自分には戦闘耐性のあるディウストークンがいるからまだ大丈夫だ゛そう生易しい考えでいるなら甘ぇぜ。魔法カード、シールドクラッシュ! 守備表示モンスターをあの世逝きだ」

 

 

【シールドクラッシュ】

通常魔法カード

フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。

 

 

 ディウストークンは戦闘では破壊されない耐性をもっているが魔法効果には無力だ。ディウストークンは不可視の重力波に心臓を貫かれて破壊される。

 

「――――あ」

 

 絶望が丈の全身を包み込む。これまで丈の命運を繋いでくれたディウストークンを失いフィールドはがら空き。

 丈は生身の体を三体の邪神に晒している。

 

「終わりは、呆気ねえものだったな。バトルフェイズ」

 

 丈の手札には手札誘発のカードはない。邪神の攻撃を防ぐ術はないのだ。

 ここで終わってしまうのか。吹雪や亮を取り返す事も、自分の命を守ることもできず。

 

『――――丈』

 

 ふと気づくと音のない世界にいた。隣ではカイザーという渾名をもつ丈の知る中でも最高のデュエリストの一人、亮が腕を組んで立っていた。

 口元は薄く微笑んでおり、丈のことを信頼しきった顔だった。

 

『邪神を相手に怯えるな、とは言わない。俺だって三邪神を前にして恐怖に震えていた。恐怖をもたない人間なんていない。例えキング・オブ・デュエリストと謳われた男だろうと……恐怖はあったはずだ。大切なのは、恐怖に恐怖するのではなく恐怖に立ち向かうことだ』

 

 自分は夢を見ているのだろうか。亮は確かにデュエルで敗北したことで魂をバクラに奪われたはず。だから亮が自分の隣にいるはずなどないのだ。

 だがデュエルモンスターズ一つをとっても未知のことが溢れている。理屈に合わないことなど、世の中には幾らでもあるだろう。

 少なくとも丈には自分の隣にいる亮は本物の丸藤亮に見えた。

 

『亮らしい青臭い精神論だけど、僕も同感だね』

 

「吹雪……」

 

『こんな時だから薄情するけど、僕だって邪神の攻撃を受けるのも負けるのもかなり嫌だったよ。僕だって死にたくなんてないしね。だけど人間、命を賭けても退けないものが一つや二つくらいあって、あれがその時だった。

 頼んだよ。僕はあすりんの娘を抱っこしてあすりんの孫をだっこするまで死なないって誓ってるんだ。早く助けてね』

 

 冗談交じりに吹雪らしいエールを送ってくる。

 死んだ人間は気楽なものだ。どれだけ応援を受けようとエールを送られようと恐いものは恐い。正直、三邪神のプレッシャーを前にしていて今にも逃げ出したい気持ちが渦巻いている。

 だが恐怖に脅えるのではなく、恐怖に立ち向かうことこそがデュエルに一筋の光を灯す勇気というものなのだろう。

 

『それに丈。俺達だって完全に消えたわけじゃない。俺達は負けて肉体は滅んだが、まだフィールドには俺達の残したカードたちがある』

 

「残した、カード達……?」

 

 亮は敢えて残したリバースカードではなく、カード達という言い方をした。

 

(――――そうか!)

 

 その時だった。天啓のように丈の脳裏に邪神を倒す為の道筋が閃く。

 デュエルディスクとフィールドに目を落とす。そこには亮と吹雪の二人が命を投げ打ってまで残してくれた三邪神を倒す為の鍵が揃っていた。

 鍵は用意されている。けれどまだ鍵は開いていない。鍵を開けるには鍵を差し込み捻る最後の作業が必要だ。その作業を為すためのカードは丈のデッキに一枚だけ眠っている。

 

『後は任せたぞ』

 

『丈なら大丈夫だよ。だって僕が余裕をもって戦えない数少ない一人なんだから』

 

 亮と吹雪はそう言い残して消える。

 無音の世界はなくなり、現実世界へと引き戻される。目の前では丁度邪神が総攻撃を仕掛けようとしているところだった。

 この攻撃が通れば死ぬ。その土壇場で丈は冷静だった。何の迷いもなく亮の残したリバースカードの一枚を使う。

 

「バクラ、お前がバトルフェイズになった瞬間! 亮の残してくれたリバースカードを発動! 威嚇する咆哮! このターンの攻撃宣言を封じる!」

 

「――――っ! テメエ」

 

 バクラの命を受け攻撃を仕掛けようとしていた邪神の動きが止まる。威嚇する咆哮でバクラが攻撃命令をすることが出来なくなったからだろう。

 

「チッ。嫌な顔しやがる……。ターンエンドだ」

 

 憎々しげにバクラは丈を一瞥する。

 バクラからすれば勝利を確信した一撃に待ったをかけられた形だ。腹立たしい事この上ないだろう。だが丈は気付かなかったが、それだけではないのだ。

 盗賊王バクラであり闇の大神官でありゾーク・ネクロファデスでもある『バクラ』はこれまで幾度も『武藤遊戯(二人の遊戯)』に敗北してきている。いつも後一歩のところまで追い詰めるところまではいくのに、最後の一手で負けてきた。そしてバクラを倒してきた者達もまた、どれだけの劣勢でも決して勝負を諦めようとはしなかった。

 丈はデッキトップに手をかける。二人が遺してくれた防御カードは打ち止めだ。このターン、デッキに眠るあのカードを引くことが出来なければ負けが確定する。

 

「俺はこのドローに吹雪の魂、亮の魂……そして俺の魂を賭ける! ドロー!」

 

 ドローカードを確認せずとも分かった。カードから脈動を感じる。これまで共に戦ってきたデッキ、どれだけデュエルモンスターズの環境が変わろうと共に戦うと誓ったデッキは丈の頼みに応えてくれた。

 

「希望は、繋がった。俺はこのターンで三邪神を倒す!」

 

「なんだと!?」

 

「俺はドローしたカード(可能性)、死者転生を発動!」

 

 

【死者転生】

通常魔法カード

手札を1枚捨て、自分の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを手札に加える。

 

 

「手札を一枚捨て、俺は自分の墓地のモンスターを手札に加えることができる。この三対一の変則マッチでは墓地は仲間のものも参照する。よって俺は亮の墓地よりサイバー・エンド・ドラゴンを選択ッ!」

 

「サイバー・エンド……テメエがそのモンスターを戻して、なにを」

 

 バクラの驚きは至極当然のものだ。効果モンスターならまだしも、融合モンスターを戻したところで融合もパワーボンドも素材モンスターもない丈のデッキには無用の長物にしかならない。

 けれどその答えはフィールドに用意されている。

 亮が敢えてリバースカードという言い方をしなかったのは、墓地のカードを使えという意味だったのだ。

 

「モンスターを手札やデッキに戻す効果が発動した場合、融合モンスターは融合デッキへと戻る。サイバー・エンド・ドラゴンは亮の融合モンスター。本来ならば戻る場所は亮の融合デッキ。

 だが亮はライフポイントゼロとなり脱落している為、サイバー・エンド・ドラゴンは俺の融合デッキへ戻る」

 

 亮の墓地から飛び出してきたサイバー・エンド・ドラゴンをキャッチすると、そのカードを融合デッキへ納める。

 バクラには見えないだろうし、他の第三者にも見えはしないだろう。だが丈の両隣では亮と吹雪が不敵に笑いながら応援してくれていた。

 

「「更に!」」

 

 丈と吹雪の声が被る。

 

「「()吹雪()の伏せたリバースカード、ピケルの魔法陣を発動! このターン受けるカード効果によるダメージを0にする!」」

 

 

【ピケルの魔法陣】

通常罠カード

このターンのエンドフェイズまで、

このカードのコントローラーへのカードの効果によるダメージは0になる。

 

 

「「そして!!」」

 

 今度は亮が言葉を被してくる。

 

「「ライフを半分払い速攻魔法発動、サイバネティック・フュージョン・サポート!! このターン、機械族融合モンスターを融合する場合、自分の墓地のモンスターを除外することで融合素材とすることが出来る!!」

 

 

【サイバネティック・フュージョン・サポート】

速攻魔法カード

自分のライフポイントを半分払って発動する。

このターンに機械族融合モンスター1体を融合召喚する場合、

手札または自分フィールド上の融合素材モンスターを墓地に送る代わりに、

自分の墓地に存在する融合素材モンスターをゲームから除外する事ができる。

 

 

 丈のデッキにも手札にも融合素材となるモンスターはいない。だが亮の墓地にはサイバー・ドラゴンが三枚いる。

 亮の魂のカードであるサイバー・エンド・ドラゴン。その力、この瞬間のみ借り受ける。

 

「「もう一枚のリバースカード、パワーボンドを発動! このカードは機械族専用の融合カード。このカードにより融合召喚したモンスターは攻撃力が倍となる!!

 俺は三体のサイバー・ドラゴンをゲームより除外! フィールドへ降臨し神を凌駕せよ! 融合召喚、サイバー・エンド・ドラゴンッ!!」」

 

 

【サイバー・エンド・ドラゴン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力4000

守備力2800

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 サイバー・エンド・ドラゴンを丈を守るように邪神の前に立ち塞がる。

 これまで超えるべき壁として、最強の敵として丈の前に現れてきたサイバー・エンド・ドラゴン。敵に回せば恐ろしいが味方であればこれほど頼もしいモンスターはいない。

、邪神への恐怖までどこかへ消えてしまったようだ。

 

「ここにきてサイバー・エンド・ドラゴンだと? だがドレッド・ルートの効果によりその攻撃力は半減。パワーボンドの効果があっても攻撃値は4000だ。それに俺様の場のアバターは常にフィールドで無敵であり続ける神。

 テメエが攻撃力4000のモンスターを召喚しようが意味なんざねえ」

 

「確かにサイバー・エンド・ドラゴンだけじゃドレッド・ルートとイレイザーを倒すことは出来てもアバターを倒す事は出来ない。けれど俺が受け継いだ力はサイバー・エンドだけじゃない」

 

 丈たちのフィールドにはサイバー・エンド・ドラゴンと吹雪が遺した最後のリバースが残る。これは邪神攻略のためにペガサスが吹雪に託したキーカードだ。

 

「「「いくぞ!」」」

 

 三人が同時に口を開く。

 

「「「()は最後のリバースカードオープン! 神の進化! フィールドに存在する神属性モンスターの攻撃力守備力を1000ポイントアップさせる!

 ()が選択するモンスターは邪神イレイザー! 邪神イレイザーの攻撃力は1000ポイント上昇する! だがフィールドからカードが一枚減った事によりイレイザーの攻撃力は1000ポイントダウンする! よって邪神イレイザーの攻撃力は2000ポイントとなるッ!」 

 

 

【神の進化】

通常魔法カード

フィールド上に存在する神属性モンスター1体の攻撃力・守備力は1000ポイントアップする。

この効果を受けたモンスターは最上位の神のカードとして扱う。

このカードの発動と効果は無効化されない。

 

 

「わざわざオレ様の邪神を強化しただと!? 何を考えてやがる!」

 

「「「バトル!! サイバー・エンド・ドラゴンで邪神イレイザーを攻撃、エターナル・エヴォリューション・バーストッ!!」

 

「迎撃しろ、イレイザー!」

 

 神の進化の効果により姿形をより強大なものとしたイレイザーだったが、攻撃力はサイバー・エンドの方が上回っている。

 サイバー・エンド・ドラゴンのエターナル・エヴォリューション・バーストは邪神の体すら貫いた。邪神イレイザーの胴体が消し飛ばされ、その遺骸が地面に落ちる。

 

「「「邪神イレイザーが破壊され墓地へ送られた瞬間、イレイザーの特殊能力が発動!! フィールド上のカードは全てイレイザーと共に墓地へ送られる!!」」」

 

 破壊されてその胴体を引き裂かれたイレイザーの遺骸から黒い血のようなものが滝のように流れ広がっていく。

 黒い血はたちまち地面を覆い尽すと、フィールドにいるモンスターたちを呑み込み始めた。サイバー・エンドもまたその黒い血に逆らえず沈んでいく。

 丈は心の中で「ありがとう」と呟いた。

 

「やるじゃねえか。だがこの効果で破壊される俺様のモンスターはドレッド・ルートだけだ。邪神アバターは最高位の神。イレイザーの特殊能力は通用しねえ」

 

「「「それはどうかな」」」

 

「なに?――――そうか! 神の進化でイレイザーには最高位のランクが与えられている……!」

 

「「「そう。邪神イレイザーはラーの翼神竜と邪神アバターと同様、最上のランクをもつ神へ進化を果たしていた。確かにラーとアバターは下位の神のモンスターの影響を受けない。だが同格の神の力ならその限りじゃない。自らの邪神によって滅びろ!!」」」

 

 イレイザーの黒い血は沼となりアバターすらも呑み込んでいく。

 やがて黒い沼が消えた時、そこに残っているカードはなかった。邪神イレイザーは神を抹殺する神の名を体現するが如く自らの同胞である二体の邪神を殺し尽くしたのだ。

 

「俺はバトルフェイズを終了。そして光属性モンスター、サイバー・エンドドラゴンと闇属性モンスター、真紅眼の黒竜をゲームより除外! 光と闇を供物とし、世界に天地開闢の時を告げる。降臨せよ、我が魂! カオス・ソルジャー -開闢の使者-!」

 

 丈の魂のカードともいえるカオス・ソルジャーが、あらゆるものが終焉を迎えた大地に新たなる開闢を告げるべく降り立つ。

 

「カードを一枚伏せてターンエンド。バクラ、これが俺達の結束の力だ」

 

 最初はバクラが出てきたところで不甲斐なくも膝をおりかけた。けれどもうそんなことはない。

 相手が大邪神の欠片であろうと、自分のデッキと友情を信じて戦う事が出来る。

 カオス・ソルジャーはその刃を盗賊王に向けた。



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第70話  強奪

バクラ LP3200 手札4枚

場 なし

 

宍戸丈 LP2000 手札1枚

場 カオス・ソルジャー -開闢の使者-

伏せ 一枚

 

 

 

 

 

 

 フィールドを圧巻しゲームの流れを完全に支配していた三邪神。

 だが永劫不滅の存在などこの世界には存在しない。地球だろうと宇宙だろうと最終的には死を迎える。邪神もまたその摂理から逃れることはできなかった。

 暴君がやがて立ち上がった民衆によって滅ぼされるように。邪神は自らの業の深さ(イレイザー)により滅ぼされた。

 

「まさか三邪神がやられっちまうとはな。宍戸丈っていったか? 少しばかり腕が良いから粋がってるだけの餓鬼だと思っていたが……中々どうしてやるじゃねえか」

 

 バクラ――正確にはバクラの乗っ取ったキースのデッキは邪神を運用することに特化したデッキだった。

 しかしこれは三幻神にもいえることだが神のカードは墓地から蘇生した場合、1ターンで墓地へ送られてしまう弱点がある。三幻神の一体であるラーは敢えて墓地へ送ることにより真価を発揮するモンスターだったが三邪神はそうではない。

 例え攻撃力において無敵だろうと、フィールドの全モンスターを半減させる力があろうと1ターンという制約がある以上そこまで強力ではない。

 しかも場合によっては丈が死者蘇生などのカードで邪神を利用することさえ出来るのだ。バクラは一転して不利になったといえる。

 けれどバクラは特に焦る様子も追い詰められたところもないというのは、恐らく手札に挽回のカードがあるのだろう。

 

(もしくは――――)

 

 可能性は多くある。なにせ相手は名も無きファラオと互角に戦えるほどのデュエリストだ。警戒し過ぎるということはない。

 細心の注意を払って挑まねば。

 

「オレ様のターン、ドロー。クククククククククッ。三邪神を破壊してテメエは嬉しさ絶頂っていったところかもしれねえが、まだまだ安心するのは早いぜ。デュエルはまだ終わってねえんだからな」

 

「だが邪神は墓地から蘇生しても1ターンしかフィールドに留まることはできない。それともイレイザーを使う気か?」

 

「成程ね。イレイザーの特殊能力は墓地に送られた時にフィールドを全滅させる。死者蘇生と組み合わせりゃ擬似的なブラックホール&大嵐になるな。

 イレイザーの能力を見てここまで早くその運用法を思いついたのには褒めてやる。だがな、邪神を完全な状態でフィールドに呼び戻す方法は他にもあんだよ。俺様は魔法カード、死者転生を発動するぜ」

 

 懸念していたことの一つが起きてしまった。

 神のカードは墓地から蘇生しても1ターンしか留まれないが、墓地から手札に戻して再召喚すればその限りではない。

 再び三体の生贄を確保する必要はあるが効果的な手だった。

 

「テメエがさっき使ったカードだ。効果は説明するまでもねぇな。手札を一枚捨て、俺は邪神アバターを手札に加える。

 これでオレ様の手札に邪神が戻った。後は三体の生贄さえ揃えば良いってことだ」

 

「それを俺が許すとでも?」

 

「盗賊は許しを請わねえ。神にも悪魔にも……(ファラオ)にもな。俺様はただ奪うだけだ。更にオレ様は貪欲な壺を発動。墓地の邪神イレイザー、邪神ドレッド・ルート。三色のガジェット一組をデッキに戻しシャッフル。二枚ドローするぜ」

 

 上手い。デッキに眠ってこそ価値のあるガジェットを戻すのと、丈に邪神を利用する可能性を潰すのを同時に行ってきた。

 これで墓地に眠るイレイザーを死者蘇生で蘇生し、回収した神の進化でアバターを倒すなどという戦術もとれなくなってしまった。手札ならまだしも、丈のデッキには相手のデッキのモンスターをどうこうするカードは存在しない。

 

「オレ様はモンスターをセットし、光の護封剣を発動。3ターンの間、相手の攻撃を封じる。ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

 どうやら邪神召喚のため守りを固めてきたようだ。

 通常召喚のみで地道に生贄を用意していけば、三体の生贄を確保して邪神を降臨するのには4ターンかかる。バクラほどのデュエリストがよもやそんなスローなタクティクスをしてはこないだろう。

 何処かで必ずモンスターを大量展開してくるはずだ。その前に押し切る。

 

「手札より魔法カード、命削りの宝札を発動! 自分の手札が五枚になるようカードをドローする。ただしこのカードが発動してから5ターン目のスタンバイフェイズ時、手札を全て捨てる」

 

 

【命削りの宝札】

通常魔法カード

自分の手札が5枚になるよう、自分のデッキからカードをドローする。

このカードが発動してから5ターン目のスタンバイフェイズ時、自分の手札を全て捨てる。

 

 

 やはりこのデッキは頼りになる。

 強力無比な三邪神に対して予めキーカードを用意していたのは吹雪だけではない。ペガサスから直接キーカードを手渡された吹雪のように決定的な逆転のカードはなかったが、丈は手持ちのカードや大会限定パックから邪神に相性の良さそうなカードを数枚投入していた。

 そのカードが漸くきてくれたのだ。正にナイスタイミングというやつだ。

 だがこのカードを発動するにはしっかりと準備を整えなければならない。

 

「俺は強欲な壺を使い二枚ドローして永続魔法、冥界の宝札を発動。このカードは二体以上の生贄を必要とする生贄召喚に成功した時、二枚ドローする。だが今はこのカードを使いはしない。続いて速攻魔法、サイクロン! 光の護封剣を破壊する!」

 

「……………ちっ。他愛ねえな護封剣も」

 

 サイクロンがバクラを守護していた三つの光剣を破壊した。これで丈の攻撃はバクラに届くようになった。

 だが丈の目的は光の護封剣を破壊することだけではない。

 手札から奪われては不味いカードや汎用性のあるカードをなくすことにあったのだ。そうでなければこのカードは発動できない。

 

「いくぞ。俺はこの魔法カード、エクスチェンジを発動!」

 

「エクスチェンジだと!?」

 

 

【エクスチェンジ】

通常魔法カード

お互いのプレイヤーは手札を公開し、それぞれ相手のカード1枚を選択して自分の手札に加える。

 

 

 相手の手札を墓地へ送るハンデスカードは珍しくない。だがエクスチェンジは相手の手札を自分の手札に出来る数少ないカードだ。

 丈がこのデュエルのためにデッキに投入した一枚である。

 

「エクスチェンジの効果により互いのプレイヤーは手札を公開し、それぞれ相手の手札を一枚選び手札に加える。

 邪神は恐ろしいモンスターだ。それにデュエルモンスターズには墓地やデッキからモンスターを手札に加えるカードは多い。例え邪神を倒したとしても安心することはできない。

 だが邪神がこちらの手札にあれば、邪神を封じることができる。手札交換マジック、エクスチェンジはその為に入れたカードだ」

 

「小賢しい真似するじゃねえか。盗賊王の手札から(邪神)を奪おうってわけかい。その傲岸さは嫌いじゃねえぜ。そらオレ様の手札だ、テメエの手札も見せな。つってもテメエが選ぶカードは決まっているだろうがな」

 

 バクラの手札にはアバターの他に手札断殺などの速攻魔法やトークンを生み出すデビルズ・サンチュクアリなどのカードがあった。

 中々汎用性も高いカードもあるが、バクラの言う通り丈の選ぶカードは決まっている。

 

「俺が選択するのは邪神アバターだ」

 

「なら俺様は……って最上級モンスターしかいねえじゃねえか。堕天使アスモディウスを選択する、寄越しな」

 

 手札から堕天使アスモディウスをひったくるバクラ。あの分だと即座に手札断殺のコストにするだろう。

 それはそれで有り難い。自分のモンスターが自分に牙をむくのは余り気分の良いことではない。

 

「バトル! カオス・ソルジャーで守備モンスターを攻撃する!」

 

 カオス・ソルジャーがセットしていたモンスターを両断する。だがセットしてあったモンスターは、

 

「伏せていたカードはクリッター。こいつはフィールドから墓地へ送られた時、攻撃力1500以下のしもべを手札に呼び込むことができる。俺様はバトル・フェーダーを手札に加えるぜ」

 

「ならばカオス・ソルジャーのモンスター効果! 二回目の攻撃を行う!」

 

「おっと。その直接攻撃はバトルフェーダーで無効だ。バトルフェーダーは相手の直接攻撃時、手札から特殊召喚できる。そしてバトルフェイズを終了させる。俺様はバトルフェーダーを守備表示で特殊召喚」

 

 攻撃を通すことができなかったのは残念だがバトルフェーダーは優秀な防御モンスター。

 ここで消費させることができて良かったということにしておこう。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 丈がターンを終了させる。

 瞬間であった。バクラが邪悪な笑みを見せた。

 

(宍戸丈、テメエは邪神アバターを奪う事でオレ様の邪神を封じたつもりかもしれねえが宛が外れたな。エクスチェンジくれえファラオと戦ってきたオレ様が読んでねえとでも思ったか。

 クククククククッ。テメエはどうせアバターは手札でそのまま温存して使わないつもりだろうが、そう上手くいくかな。俺様のデッキにはまだ二枚の邪神があるんだぜ)

 

 再び邪神が召喚されれば形勢は覆るだろう。邪神はそれだけのカードだ。

 そして幾ら丈でもそう何度も簡単に邪神を倒すことなどできない。もう友人たちの残してくれたカードもないのだから。

 

(追い詰められたテメエはいずれアバターに頼らざるをえなくなる。その時が――――)

 

 三邪神、特に主神たるアバターはバクラが魂の核としているカードだ。もしも丈がアバターを召喚すればその肉体はバクラのものとなるだろう。

 

(テメエの終わりだ)

 

 バクラの独白は丈に届くことはなかった。

 



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第71話  本当の強さ

バクラ LP3200 手札3枚

場 バトルフェーダー

 

宍戸丈 LP2000 手札3枚

場 カオス・ソルジャー -開闢の使者-

伏せ 一枚

魔法 冥界の宝札

 

 

 

 邪神アバターをエクスチェンジで奪取したことにより、アバターの再臨という最悪の事態だけはどうにか避けられた。

 他の二体の邪神も強力ではあるがアバターほどの無敵性はない。最上位の邪神をバクラの戦術から排除できた意義は大きいといえるだろう。

 だがアバターに劣るといっても残る二体が強力無比なポテンシャルを秘めているのは動かしようのない事実。決して油断は出来ない。

 

「俺様のターン。カードドロー。俺様は運命の宝札を発動、サイコロをふり出た目の数だけカードをドローし、その後同じ枚数だけカードを除外するぜ。運命のダイスロール!」

 

 

【運命の宝札】

通常魔法カード

サイコロを1回振る。出た目の数だけデッキからカードをドローする。

その後、同じ数だけデッキの1番上からカードをゲームから除外する。

 

 

 バクラはサイコロに自分の魂を宿して、好きな目を意図的に出させるというイカサマを仕組んだことがある。けれど魂を物質に埋め込むパラサイトマインドを可能にする千年リングが既になく、サイコロもソリッドビジョンによるものである以上、なにかイカサマめいた事をする事は出来ないだろう。

 それにバクラ――――正しくは操られているキースの腕に装着されたブラックデュエルディスクにはイカサマ防止機能がある。

 

「出た目の数は3。よって俺様は三枚ドローし、デッキの上から三枚ゲームより除外する。更に手札断殺を発動! 互いのプレイヤーは手札を二枚墓地へ送り、二枚ドローする。

 俺様が墓地送りにするのはパーフェクト機械王とテメエの堕天使アスモディウスだ」

 

「……………」

 

 予想通り、堕天使アスモディウスを捨ててきた。唯でさえ邪神を筆頭に最上級モンスターの多いデッキだ。特にシナジーもないアスモディウスを手札に留めておくメリットはバクラにはない。

 トークン精製能力を鑑みれば完全に役立たずという訳でもないだろうが、やはり重いデッキをこれ以上、重くするほどの価値はないといえる。

 丈も手札にあるレベル・スティーラーともう一枚を墓地へ送った。

 

「オレ様はイエロー・ガジェットを召喚。こいつの効果で手札にグリーンをサーチし、魔法カード。デビルズ・サンチュクアリを発動。フィールドにメタルデビルトークンを呼び出す」

 

 

【デビルズ・サンクチュアリ】

通常魔法カード

「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を

自分のフィールド上に1体特殊召喚する。

このトークンは攻撃をする事ができない。

「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、

かわりに相手プレイヤーが受ける。

自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。

払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。

 

 

 メタルデビル・トークンとイエロー・ガジェットが召喚される。が、問題はそこではない。

 

「三体のモンスターが並んだ!?」

 

 バクラの場には三体のモンスター。通常召喚権は行使してしまっているものの邪神降臨のための生贄が揃ってしまった。

 仮にバクラの手札に邪神が既に眠っているとすれば、次のターン、生贄要因を減らせなければ邪神が降臨してしまう。いや、そうでなくともあのカードさえあれば次のターンを待たずとも邪神を召喚することは出来る。

 丈の抱く最悪の想像は的中してしまう。

 

「クククッ。ヒャハハハハハハハハハハハハハ! オレ様の場には生贄が揃った。これからテメエの努力を台無しにしてやるぜ。魔法カード、二重召喚! このターン、俺様はもう一度通常召喚を行うことが出来る!」

 

「ッ!」

 

 血の代償のように永続効果ではないが、通常召喚権を得る魔法カード。このカードをこのタイミングで発動したということは十中八九バクラの手札には神がある。

 

「そして……俺様は三体のモンスターを生贄に捧げ、フィールドに再臨せよ。恐怖の根源! 邪神ドレッド・ルートッ!」

 

 

【THE DEVILS DREAD-ROOT】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/4000

DEF/4000

Fear dominates the whole field.

Both attack and defense points of all the monsters will halve. 

 

 

 再臨する邪神ドレッド・ルート。一回イレイザーにより滅ぼされても、底が深すぎて覗き見ることすら出来ない力は健在だった。

 恐怖の根源という名を与えられし破壊神に対応する邪神。その重圧によりカオス・ソルジャーの攻撃力は半減する。

 想定しうる限り最悪の邪神の登場だ。

 邪神イレイザーならまだ攻略法は残されていた。自分の場に最低限のカードしか並べなければ、邪神イレイザーの攻撃力は0。戦闘破壊する場合でも最低で1000ポイントまで落とすことができる。その後、全体破壊がまっているが、強力な最上級モンスターを主軸としたビートダウンが持ち味の丈のデッキなら攻略は比較的容易な部類だ。

 けれどドレッド・ルートはそうではない。邪神ドレッド・ルートを戦闘破壊しようと思えば攻撃力8000という数値を叩きださなくてはならない。こんな数値、亮のサイバー・エンド・ドラゴンでもなければ易々と出せる数ではないのだ。

 

「くっ……! この瞬間、罠カード! 和睦の使者を発動! このターン、俺のモンスターは戦闘では破壊されずダメージも0となる!」

 

 

【和睦の使者】

通常罠カード

このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける

全ての戦闘ダメージは0になる。

このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

 

 

 故にここは防御カードで防ぐしかない。丈の場にいるカオス・ソルジャーはデュエルモンスターズ界最強剣士と謳われたカードだが、邪神を前にすれば悲しいまでに無力だ。

 強力な除外効果も邪神相手にはまるで効果がない。

 

「このターンは凌いだか。だがそう何度も都合の良い防御カードを引き当てられるかな。俺様はカードを一枚セットしてターンエンド」

 

 再臨したドレッド・ルートは恐ろしいが、一度は倒したのだ。どうにか良いカードを引き当てることができれば突破できる可能性はある。

 

「……俺のターン、ドロー」

 

 手札は可能性というのならドローカードは未来だ。けれど未来がキーカードでないのだとすれば可能性もまた泡と消える。

 丈のドローしたカードでは邪神ドレッド・ルートを倒すことは出来ない。

 

(……ここはカオス・ソルジャーを守備表示にしてターンを凌ぐしか)

 

 幸いドレッド・ルートは一体だけだ。ここに更にモンスターを守備表示で召喚すれば上手くいけば数ターン持ち堪えることもできる。

 攻撃力4000という元々の攻撃力としては最高クラスのステータスをもち、モンスター効果と罠を受け付けず魔法も1ターンしか影響のない邪神。しかも自身を除いたモンスターのステータスの悉くを半減させてしまうため戦闘破壊はほぼ不可能。

 こんなモンスターを倒せるカードなどそうそうありはしない。

 

「本当に、そうか?」

 

 バクラが丈の心中を読んでいるかのように声をかけてきた。

 

「テメエの手札の中には、ドレッド・ルートを倒せるカードがあるんじゃねえのか?」

 

 言葉に誘われるがまま、丈の視線は手札にある一枚のカードに釘づけとなった。

 邪神アバター。

 エクスチェンジで丈がバクラの手より奪取した最上位の邪神。

 このカードを使えば邪神ドレッド・ルートを倒すことなど簡単だ。アバターのステータスはフィールドの最も攻撃力の高いモンスターの攻撃力に+1した数値となる。

 最上位の神故にドレッド・ルートの効果もまるで意に介さず、邪神アバターはドレッド・ルートを倒すだろう。

 そして丈の手札にはアバターを召喚するためのカードも用意されていた。

 

(……駄目だ、こんなカードを使うのは!)

 

 邪神アバターは大邪神ゾーク・ネクロファデスを三つに分けて創造されたカード。使用者の魂を食い潰し、邪念で埋め尽くす悪魔の具現である。

 幾ら勝つ為とはいえ大邪神の力を使うなど間違っている。

 このカードは本来なら永久に封じるべきもので、あってはならないものなのだ。

 

――――本当にそうなのだろうか?

 

 嘗て亮はI2カップで言った。俺はこの地上に存在するあらゆるカードをリスペクトしている、と。

 そしてここより遥か先の未来において一人のデュエリストは、どんなカードでも存在する以上、必要とされる力があると言った。

 三邪神は闇の力を秘めたカードである。そこは疑いようもない。

 だが、だからといってただ単に悪と決めつけ拒絶し存在を否定するのが正しいのか。

 邪神を悪というのなら、邪神に敵対する人間は『正しい』のか。

 丈は自分のことを悪人であるとなど思ってはいない。これでも人間として正しくあろうと生きてきたつもりだ。けれど自分のことを完全なる聖人君子であり絶対的善人であるとなど考えてはいない。

 人間ならば誰だって善性と悪性をもっている。もしも悪性の一切を排除して、善性しかもたない人間がいたとすれば、それは人間ではなく、もっと悍ましい゛なにか゛だ。

 三幻神に対する抑止力としてデザインされ、創造主に誕生を拒絶された三邪神。

 

「――――――…………………」

 

 気分は不思議と晴れやかだった。雲一つない晴天が胸に広がっている。

 

「俺は手札より魔法カード、未来への想いを発動。墓地のレベルが異なる三体のモンスター、仮面竜、黒竜の雛、ミンゲイドラゴンを特殊召喚する」

 

 

【未来への思い】

通常魔法カード

自分の墓地のレベルが異なるモンスター3体を選択して発動できる。

選択したモンスター3体を特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は0になり、効果は無効化される。

その後、自分がエクシーズ召喚を行っていない場合、

このターンのエンドフェイズ時に自分は4000ライフポイントを失う。

また、このカードを発動するターン、

自分はエクシーズ召喚以外の特殊召喚ができない。

 

 

 一気にモンスターが丈の場に三体並んだ。丈の墓地では効果を発動するためのモンスターが揃っていなかったが、吹雪の墓地にはモンスターが眠っている。

 バクラは発動した魔法カードに目を見開いた。

 

「未来への思いだと!? なんだそのカードは……!」

 

「知らないのも無理はない。これはI2カップの賞品として大会入賞者に贈られるオリジナルパックに封入されていたカード。ペガサス会長曰く一般には出回っていないカードが三足早く入っているそうだからな。

 未来への思いは墓地のモンスターを三体場に特殊召喚するカードだ。ただそのデメリットは大きい。このカードを発動すれば最後、俺は確実に4000のライフを失い特殊召喚も封じられる。そしてこのカードで特殊召喚したモンスターの攻撃力は0となり効果も無効化される。中々リスキーなカードだ」

 

「……オリジナルパックか。粋な真似してくれるじゃねえか。だが三体の生贄を確保したってことは」

 

「ああ、俺はこのターン。神を召喚する!」

 

「なるほどね。最後は神頼みってことかい」

 

 邪神召喚を宣言した丈を見て、バクラは口元を釣り上げた。アバターを召喚するとは即ち丈の精神がバクラに乗っ取られることを意味する。そうすればデュエルの勝敗など関係なくバクラの勝利が確定するだろう。

 

「違う。……俺は神に頼るわけじゃない。神と共に戦うだけだ!」

 

 本当に強さとは『悪』を倒そうとする心ではない。悪を倒したところで悪は消え去りはしないのだ。

 悪を本当に消し去る唯一の道、そして本当の強さとは――――――悪を許す心だ。

 

「俺は三体のモンスターを生贄に捧げる! 創造主に誕生を拒絶された邪神、お前達がこの世の誰からも疎まれるなら、俺がお前達の居場所になる! 誰もお前達がこの世に存在することを否定するのなら、俺がお前達を肯定する。

 未来永劫、どれだけの時間が流れようとお前達を担ってやる。だから力を貸せ! 降臨せよ、邪神アバター!」

 

 誰からも拒絶され憎まれ、創造主にすら否定された黒い太陽が、暖かな光を纏いフィールドに顕現した。

 

 

 

 

 空は夜よりも黒い雲で覆われている。もしかしたらこのまま永久に晴れないのではないか、という懸念すら抱かせるほどの深い闇。

 それを荒野にたつ一人の人物は見上げていた。

 数年前は少年と呼ばれる年齢で、あどけなさを残していた顔も今では多くの苦難を乗り越えた精悍さが色濃く表れている。もう彼は少年ではなく青年と呼ぶのが正しいだろう。

 

「そうか……少し焦ったけど、大丈夫そうだな。誰か勇気あるデュエリストが、なんとかしてくれたみたいだ」

 

 青年は何もいない虚空に向かって呟く。だが他人にはその姿を視認できないだけで彼の隣には彼以外のものが存在していた。

 魔力(ヘカ)を用いてその隣に立っていた存在が実体化する。

 

『はい。一時は肝を冷やしました。しかしこの気配は嘗て我等が相対したゾークそのもの。それに……何故でしょう。アクナディン様……いえ闇の大神官の気配も感じた』

 

『そうなんですかお師匠様? 私にはゾークの気配しか感じられませんけど……』

 

『お前は修行が足らんのだ。そんなことでマスターをお守りできると思っているのか』

 

『ごめんなさーい!』

 

 青年の左右に出現したのはブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールの精霊そのものだ。

 二人は三千年前ファラオを守護した神官の魂を宿した精霊で、現代ではファラオの魂を宿したデュエリストを守護する役目を帯びている。

 

「二人とも。ブラック・マジシャン・ガールの修行不足よりも、今はこの黒い雲をどうにかする方が先決だよ。問題の大本は僕達が行かなくても大丈夫そうだけど、この雲を放置していたら被害が出るかもしれない」

 

『分かりました。マスター、それでは我々が』

 

「頼むよ」

 

『了解でーす。それじゃぱぱっとやっちゃいますね!』

 

 マジシャンの師弟が実体化したまま黒い雲に突入していく。精霊となっても二人は地上で最上位の魔術師達だ。こういう時は本当に頼りになる。

 そして青年――――史上最強のデュエリスト武藤遊戯は三枚のカードを天に掲げる。

 

「二人に力を貸してあげて。オシリスの天空竜、オベリスクの巨神兵、ラーの翼神竜!」

 

 三枚のカードから赤、青、黄の三つの魂が飛び出していく。三千年前ファラオに力を貸した三体の神。

 三幻神と二人の魔術師たちが協力すれば、この暗雲など物の数ではないだろう。

 

「後は任せたよ」

 

 遊戯は顔も見た事のない、だが確実に今を戦っているデュエリストにエールを送った。

 

 

 

 

「くそっ! なにがどうなってやがる……! 邪神アバターが俺様の制御を離れやがった、だと……」

 

 バクラの体は崩壊しつつあった。本体を失い弱り果てたバクラは三邪神を核にしてこの世に現出していた。

 その大本の力である邪神アバターが宍戸丈の制御下に入り、デッキで眠るイレイザーまでもがそれに呼応したことでバクラの力が急激に衰えて行っているのである。

 もはやバクラの体を保っているのは場にいるドレッド・ルートのみだ。

 

「冥界の宝札の効果。デッキから二枚ドローする。そして邪神アバターの攻撃力はフィールドで最も攻撃力の高いモンスターの攻撃力に+1した数値となる。よって邪神アバターの攻撃力は4001だ」

 

 アバターがドレッド・ルートの現身へと姿を変化させる。

 ドレッド・ルートのあらゆる生命の力を半減させる力もアバター相手には無力だった。

 

「まさか……こんな結末とはな。始めっから宍戸丈に靡いていたイレイザーは宍戸丈を殺すまでデッキに投入するべきじゃなかったってことか」

 

 憎々しげに自分と同じ大邪神の欠片でありながら、自分の手から離れた邪神アバターを睨む。

 しかしこれまで悪を否定し、悪を断罪しようとする人間とは何度も戦ってきたが、よもや大邪神なんて世界を呪うしか能のないものを許そうとする人間と戦うのは初めての経験だった。

 これが邪神イレイザーが宍戸丈を担い手として選んだ理由なのだろう。

 

「バトルフェイズ。邪神アバターでドレッド・ルートを攻撃、フィアーズノックダウンッ!」

 

「だがな。俺様は許しなんざ求めてねえんだよ! 迎撃しろ、邪神ドレッド・ルートッ!」

 

 同じ姿をした邪神同士が激突する。ドレッド・ルートは格上の神を相手に執拗に噛みついたが、攻撃力1の壁は途方もなく厚い。

 邪神アバターの拳がドレッド・ルートの心臓を撃ち抜いた。

 

「ごふっ!」

 

 ダメージが伝わり、バクラは血を吐きだす。アバターとイレイザーの二体の制御が丈に移った今、ドレッド・ルートはバクラの魂そのものだった。

 それが壊されたということは、バクラが肉体を維持できなくなるという事でもある。

 

「…………ああ、くそ」

 

 この世に悪性しかもたない人間も善性しかもたない人間もいない。

 盗賊王バクラの魂は間違いなく悪だ。これは動かしようもない一つの明確なる答えである。

 けれどもし彼の村が千年アイテムのための生贄になどされることがなく、もしも彼が温かい家族に囲まれて育ったのならば――――彼は果たして悪となったのだろうか。

 

「まだだ!」

 

 くわっとバクラの閉じかけた両眼が開かれた。バクラはキースとの繋がりを完全に切断すると、そのまま丈の体を右手で貫いた。

 

「な……にを……」

 

「クククククッ。育ちの良い王様と違って、俺様は泥啜るのは慣れてんだよ。往生際が悪いことは理解してるが、生きてる限り足掻かせて貰うぜ」

 

 バクラは丈の体から魂の一部を抜き取ると、それを喰らい新たなる核とすると何処かへと消え去る。

 闇のゲームの根源たるバクラの消失により、闇に囚われていた亮と吹雪が解放されて元に戻ってきた。



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第72話  OVERLAP

 諸悪の根源が消えたフィールドで丈は胸を抑えて蹲る。体を貫かれはしたが、霊的な干渉だったので肉体的外傷は一切ない。

 体も問題なく動かせるし多少痛みが残るだけで頭もはっきりしている。

 そう――――生まれる前の自分が抜け落ちたような虚無感がある以外は至って平常だった。

 

「丈!」

 

 解放された吹雪と亮が起き上り駆け寄ってくる。どうやら二人も大丈夫そうだ。

 一度闇のゲームで魂を吸収されながら直ぐに立ち上がる辺りは流石というべきだろう。

 

「見事なデュエルだった。邪神アバターを召喚した時は肝が冷えたが終わってみれば万事オーケーだったな」

 

「僕もカードを残して置いた甲斐があったよ」

 

 二人から賞賛の声が送られるが、正直むずがゆい。

 自分が邪神を打ち倒せたのは二人が遺してくれたリバースカードがあるからだ。二人がカードを残していなければ、今頃自分はキース……いやバクラに敗れて魂を取り込まれていただろう。

 丈がそのように言うと吹雪が苦笑する。

 

「じゃあ僕等のファインプレーということにしておこうか」

 

「それがいいな。……ペガサス会長?」

 

 亮が視線を向けたところにはバクラによる攻撃を受けたからだろう。所々が擦り切れたスーツをきたペガサス会長が真剣な顔つきで立っていた。

 しかしスーツがボロボロになった程度で纏う気品が喪われないのはペガサス・J・クロフォードという人間のなせる業だろう。

 

「怪我は大丈夫なんですか、まだ動かない方が」

 

 丈がそう気遣うがペガサスは無用だ、と手で制した。

 

「この程度の痛み、左目を刳り貫く激痛と比べれば大したことはありません。宍戸ボーイ……いえ宍戸丈、私からはもう感謝の言葉もありません。私がデザインし世に生み出されてしまった三邪神を受け入れてくれてありがとう。

 I2カップを開催したのは正解でした。世界には私が知らないだけで、こんなにも素晴らしいデュエリストたちが育っていたのですから。遊戯ボーイたちが敢えて一時、デュエルの第一線を退いた理由が分かったような気がします」

 

「ペガサス会長、光栄です。けど……」

 

 ペガサスから視線を外すと、丈は再びデュエルディスクを構えて眼前にいる男を見据える。

 バンデット・キースのデュエルディスクは未だ0を刻んでいない。ライフは3000以上残っているのだ。

 

「デュエルはまだ終わってません」

 

 闇のゲームであろうとなかろうとデュエルとはデュエリストを勝者か敗者かに分かつまで終わりはしない。

 三邪神を取り戻すという大本の目的は九割以上果たしたので丈にはデュエルを放棄するという選択肢もあるにはある。だがそれはしてはいけないことだ。

 

「クッ、ははははははははははははははははははははは……」

 

 バクラから解放されたキースは乾いた笑い声をもらす。それは地獄の灼熱で涙すら枯れ果ててしまった男の精一杯の悲しみの表現だったのかもしれない。

 地下デュエル、闇のゲーム、ドラッグ、ギャンブル……。デュエルのあらゆる負の側面を味わった男、キース・ハワード。彼がみてきた地獄はまだ十五歳の丈には想像もつかない。

 ただその地獄はキースというデュエリストを薄汚い卑怯者にしてしまうのには十分すぎるものだったということくらいは分かる。

 

「畜生が……。ネオ・グールズを再結成して三邪神を手に入れたと思ったら…………この様とはな。クククククククッヒャハハハハハハハハハハハハハ。全米チャンピオンも落ちぶれたもんだぜ。ヒヒヒヒヒ」

 

 精神がバクラの支配下にあっても意識は残っていたのだろう。キースは自分で自分の道化を嘲笑った。

 誰もが黙ってキースを見ている。誰にもキースを笑うことは出来ない。キースの姿はデュエリストならば等しくなるかもしれない成れの果てだからだ。

 それでも――――

 

「キース、デュエルはまだ続行中だ」

 

「……………」

 

 丈はキースのことを何も知らない。偉そうに上から説教なんて出来るはずもなければ、キースの苦悩を理解することもできない。

 だが丈はキースの対戦相手だ。だからこそ一つだけ言えることがある。

 

「――――楽しいデュエルをしよう」

 

 

 

 

 キース・ハワードという男がデュエルモンスターズというゲームと出会ったのはまだ彼が少年と呼べる年齢だった頃だ。

 優れたゲーム性、カードから飛び出してきそうなデザイン。満を持して登場したデュエルモンスターズは世に出るや否や世界中で大流行。

 特にI2社のあるアメリカでのブームは凄まじいもので、デュエルモンスターズはたちまちアメリカンフットボール・野球・バスケットボール・アイスホッケーと並ぶエンターテイメントとなった。

 キースはそんなデュエルモンスターズに魅せられた最初期のデュエリストの一人だ。

 少年だったキースは多くのデュエル大会に大人たちに混ざって参加し、その全てにおいて優秀な成績を収めていった。彼が成長し大人になっても彼の強さはかわることなく、キースの名が全米最強デュエリストとして知れ渡るのにそう時間が掛かることはなかった。

 数多くの大会に出場しては当然の如くナンバーワンとなり賞金をかっさらっていく盗賊、バンデット・キースという異名が彼につけられたのもその頃である。

 どれだけ一大ブームになろうと当時デュエルモンスターズは誕生したばかりのゲームである。まだプロリーグなども出来ておらず、デュエルで生活の糧を得るにはI2社に所属するかデュエリスト・ギルドに参加するかの二者択一しかなかった。

 そんな中、キースはI2社の社員でもギルドのカード・プロフェッサーでないにも拘らずデュエルで生活をすることが出来た数少ない男だった。

 彼の強さと獲得した膨大な賞金額が彼に一匹狼でいることを許していたのだ。

 その時のキースは正に絶頂期といえる。黙っていても美女が向こうからやってくるし、政治家すら頭を下げてきた。

 だがそんな絶頂期は唐突に終わりを告げたのだ。

 少年時代のキースが心奪われたデュエルモンスターズ、その創始者によって。

 

「トムの勝ちデース」

 

 ニューヨークで開かれたキースVSペガサスの対決で、キースはあろうことか初心者の少年に敗北してしまう。

 これが切欠となり彼の人生は破滅した。

 キースの周りにいた人間など所詮はキースの築き上げた地位と名声に集まって来ただけの人間達だ。それを失ったキースから、まるで餌を回収し終えた蟻のように離れていった。

 デュエリストとして頂点を極めたキースに残ったのは初心者に敗北した全米チャンプという汚名だけ。そして唯一の財産であるカードだけだ。

 それからは地獄の日々が待っていた。

 稼いだ賞金はドラッグや酒の代金に消えていき、なくなった金を稼ぐためにロシアンルーレットまで身をやつしていった。

 負ければ文字通り死が待っているデスゲーム。

 勝たなければ死ぬ、絶対的に勝たなければならない戦いに確実に勝つ為に――――全米チャンピオン時代はしなかったイカサマ行為を覚えた。

 彼がそこまで身をやつしながらカードだけは捨てずにいたのは、いつの日かペガサスに再挑戦し、過去の汚名を雪ぐ日がくることを待ち望んでいたからだろう。

 しかし結局、彼がペガサスに挑戦することはできず、イカサマを用いてデュエリスト・キングダム決勝戦に臨んだキースは後の伝説により敗れ去る。その後はグールズに拾われ洗脳され、その次はもう知っての通りだ。

 

「……………………」

 

 キースの目の前には一人のデュエリストが立っている。そのデュエリストはあろうことか「楽しいデュエルをしよう」などとほざいた。

 

「――――――――」

 

 過去の憧憬。そういえばキース・ハワードというデュエリストがデュエルモンスターズと出会ったのは彼と同じくらいの年齢だっただろうか。

 あの頃はなにも考えず、ただデュエルモンスターズというゲームを目一杯に楽しんでいただけだった。

 

「粋がってるんじゃねえぞ……小僧」

 

 力を失っていた両膝に力が戻ってくる。キースはしっかりとした動作で立ち上がると宍戸丈の顔を真っ直ぐに見た。

 近くに片時も忘れた事のない怨敵がいたが、敢えて無視する。

 

「テメエみてえな餓鬼がこの俺様に勝てると思ってんのか? 調子にのるんじゃねえ。いいか俺様は――――」

 

 ネオ・グールズのローブを投げ捨てる。もはやこんなローブも組織もいらなかった。

 下に羽織っていた黒ジャケットからアメリカ国旗を模したバンダナを取り出して頭に巻くと、黒いサングラスをかけた。

 

「バンデット・キースだ。テメエみてえな餓鬼なんざ、相手になんねぇんだよ!」

 

 この日、全米において最強を誇った一人のデュエリストが復活を遂げた。

 

 

 

 

キース LP3199 手札1枚

場 なし

伏せ 一枚

 

宍戸丈 LP2000 手札3枚

場 カオス・ソルジャー -開闢の使者-、THE DEVILS AVATAR

伏せ 一枚

魔法 冥界の宝札

 

 

 

 丈の前にはバンダナをまきサングラスをかけた、往年のバンデット・キースその人が立っている。

 バクラとの繋がりも切断された今、彼は三邪神を操ることは出来ない。なのに今の彼が最初に戦ったキースより強く見えるのは決してマヤカシではないだろう。

 もはや遠慮は不要だ。ただひたすら全力で戦うのみ。

 

「俺のバトルフェイズはまだ終了していない。カオス・ソルジャーで相手プレイヤーにダイレクトアタック! 開闢双破斬!」

 

「その攻撃は通さねぇよ! リバースカードオープン、ガード・ブロック! 戦闘によって発生するダメージを0にして、俺はカードを一枚ドロー!」

 

 

【ガード・ブロック】

通常罠カード

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。

その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 カオス・ソルジャーの攻撃は防がれてしまった。

 このターンの最後、丈は未来への思いのデメリットである4000のライフを失う。そうなれば丈の負けだ。そうさせないためには、

 

「バトルフェイズを終了し速攻魔法、神秘の中華なべを発動。自分の場のモンスターを生贄に捧げ、そのモンスターの攻撃力か守備力か、どちらかの数値分ライフを回復できる。俺が生贄にするモンスターはカオス・ソルジャーだ」

 

 

【神秘の中華なべ】

速攻魔法カード

自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。

生け贄に捧げたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、

その数値だけ自分のライフポイントを回復する。

 

 

 カオス・ソルジャーの魂がデュエルディスクに飛び込み命を回復させた。

 攻撃力3000のカオス・ソルジャーを生贄にしたため、丈のライフは5000だ。

 

「ターンエンド。そしてこの瞬間、俺は4000のライフを失う」

 

 丈のライフが1000にまでダウンするが、元々は2000だと思えば半分になっただけだ。

 デュエルを続行する代価と思えば大したことではない。

 

「俺のターン、ドロー。モンスターとリバースカードを一枚づつセット。ターンエンドだ」

 

 これまで圧倒的パワーでフィールドを圧巻していたキースからしたら消極的なターン。

 けれどキースほどの男が無駄にターンを消耗するはずがない。となればこれは次への布石。

 

(なにを仕掛けているのか分からないし、俺には様子を見るという選択肢もある。ただここは憶さず攻める!)

 

 こんな最高のデュエルで臆病風に吹かれるのは誰よりも丈自身が許さない。

 

「俺のターン!」

 

 二枚目のレベル・スティーラーがきた。ただこのモンスターは手札にあっても大して意味のないモンスター。

 かといって召喚しようと攻撃力はたったの800。攻撃表示で出せばキースにダメージを与えるチャンスはあるかもしれないが、残りライフ1000で攻撃力800を攻撃表示で出すのは自殺行為だ。

 

「バトル! 邪神アバターでセットモンスターを攻撃だ!」

 

 黒い太陽から光が注がれる。今はアバターの攻撃力は場にいるモンスターの最高攻撃力がなし、つまり0のため攻撃力はたったの1だ。

 だがそれもセットモンスターを攻撃するまでのこと。キースがセットしていたのが機動砦ギア・ゴーレムなどだった場合、丈の敗北が確定することになるがその時はその時だ。

 全力で戦って負けるなら後悔はない。

 

「アバターが攻撃した瞬間、セットしていたモンスターがリバースする。伏せていたカードはメタモルポットだ。互いのプレイヤーは手札を全て捨て、五枚ドローする」

 

 

【メタモルポット】

地属性 ☆2 岩石族

攻撃力700

守備力600

リバース:お互いの手札を全て捨てる。

その後、お互いはそれぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。

 

 更に言えばメタモルポットは攻撃力が守備力より高いモンスターだったので、アバターの攻撃でそのまま破壊される。

 戦闘では無敵のアバターだがその特性から反射ダメージには弱い。完全無欠にみえる邪神の弱点の一つだった。

 キースに五枚のドローを許してしまったが、丈もレベル・スティーラーを墓地へ送ることができた。メタモルポットで有利になったのは相手だけではない。

 

「俺はリバースカードを二枚場に出してターンエンドだ!」

 

「いくぜ俺のターン、ドローだ。……クッ、ハハハハハハハハハハハハハ! 見ていやがれ、俺はこのターンで邪神アバターをぶっ潰す!」

 

「……っ!」

 

 キースが、そしてバクラが自らの最強のしもべとして操った邪神アバター。最強無敵の最上位の神。

 それを倒すとキースは堂々と宣言した。

 

「俺はレッド・ガジェットを攻撃表示で召喚。ただしデッキに対象となるカードがいない為、サーチ効果は発動しねえ。そして魔法カード、痛み分けを発動ッ!」

 

 

【痛み分け】

通常魔法カード

自分フィールド上に存在するモンスター1体を生け贄にして発動する。

相手はモンスター1体を生け贄にしなければならない。

 

 

「自分フィールドのモンスターを一体生け贄に捧げ、相手もまたモンスターを一体生け贄に捧げる。俺が生け贄に選ぶのはレッド・ガジェットだ」

 

「生け贄……? だが神にそんな魔法カードが通じるはずがない」

 

 こんなことは他ならぬキース自身が誰よりも知っているはずだ。だというのにキースの不敵な笑みは崩れない。

 

「そいつはどうかな。確かに痛み分けなんざ大したことねえ三流カードだ。普通ならこんな低級スペルじゃ邪神アバターを倒すことなんて出来ねえ。だがな、このカードだけは例外が適用されるのさ」

 

「そうか! 痛み分けは邪神を対象にする魔法カードじゃない。いや邪神に作用するカードじゃない。相手プレイヤーに生け贄を強要するカード」

 

「大正解だ。そして邪神を操るプレイヤー自身なら邪神を生け贄にすることが出来る。消え失せな! 邪神アバター!」

 

 丈のフィールドにはモンスターは邪神アバターしかいない。よって丈は邪神アバターを生け贄にするしかないのだ。

 この生け贄は魔法効果ではなく丈の選択によって行われるので邪神アバターの無敵ともいえる耐性をもってしても防ぎきることはできない。

 一瞬だけ丈はデュエルディスクに手を置いて、

 

「俺は邪神アバターを生け贄にする」

 

 最終的に邪神を生け贄にする選択を強要された。

 

「……凄い」

 

 二人のデュエルを観戦していた亮は思わず感嘆の声をもらしてしまう。

 痛み分けは自分のモンスターを生け贄にする必要があり、相手の生け贄にするモンスターを選べないということから『死者への手向け』や『地割れ』などに立場を奪われてきたカードだ。

 カードショップにいけば100円未満でばら売りされているような、誰もが持っているようなノーマルカード。

 そんなノーマルカードがデュエルモンスターズ界で最高のレアリティをもつ邪神アバターを倒してみせたのだ。

 

「それだけじゃない。これで丈のフィールドはがら空きだ」

 

 吹雪の指摘通り、邪神アバターがなくなった丈の場にモンスターはいない。

 キースも通常召喚権は使っているが、だからこのままターンを譲るほど温いプレイイングをしたりはしないだろう。

 

「これで鬱陶しい神のカードは消えた。こいつで止めを刺してやるぜ。俺はセットしていた魔法カード、融合を発動! 手札のリボルバー・ドラゴンとブローバック・ドラゴンを融合」

 

 リボルバー・ドラゴンとブローバック・ドラゴン。リボルバー拳銃を模した機械龍とオートマチックを模した機械龍の融合とくれば思い当たるカードは一枚しかない。

 

「出やがれ! 敵を蜂の巣にしちまいな、ガトリング・ドラゴン!」

 

 

【ガトリング・ドラゴン】

闇属性 ☆8 機械族

攻撃力2600

守備力1200

「リボルバー・ドラゴン」+「ブローバック・ドラゴン」

コイントスを3回行う。表が出た数だけ、フィールド上のモンスターを破壊する。

この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

 

 

 胴体に多数のガトリング砲を装備した機械龍。リボルバー・ドラゴンの最終進化形態だ。

 攻撃力はリボルバー・ドラゴンとかわらぬ2600だが、最大で三体のモンスターを破壊する効果をもっている。

 

「ガトリング・ドラゴンで相手プレイヤーを直接攻撃、ガトリング・キャノン・ファイヤッ!」

 

 ガトリング・ドラゴンの砲口が一斉に火を噴いた。もはや雨と形容するのが正しい大砲の嵐が丈に向かってくる。

 この攻撃を通すわけにはいかない。

 

「リバース発動、ガード・ブロック! 戦闘で受けるダメージを一度だけ0にしてカードを一枚ドローする」

 

「ははぁッ! そんなことで攻撃を回避したつもりか。速攻魔法発動、融合解除! 分離しろブローバック・ドラゴン、そしてリボルバー・ドラゴンッ!」

 

「……!」

 

 

【リボルバー・ドラゴン】

闇属性 ☆7 機械族

攻撃力2600

守備力2200

相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。

コイントスを3回行い、その内2回以上が表だった場合、そのモンスターを破壊する。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

【ブローバック・ドラゴン】

闇属性 ☆6 機械族

攻撃力2300

守備力1200

コイントスを3回行う。その内2回以上が表だった場合、

相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

 

 

 ガトリング・ドラゴンの攻撃後、モンスターが分離する。ブローバック・ドラゴンと、キースが全米チャンピオン時代から愛用していたリボルバー・ドラゴンが降り立った。

 砲口の数は合計4。それら全ての照準が向けられると中々に壮観なものだった。

 キースがリボルバー・ドラゴンの姿を見て目を細める。

 全米チャンピオン時代のエースの一体でありながら、その姿はロシアンルーレットで金を稼いできたキースの暗黒時代を象徴するカードでもあった。

 だがこの瞬間、リボルバー・ドラゴンはキースにとって復活の象徴となったのだろうか。

 

「ブローバック・ドラゴンで追撃! オートマチック・キャノン・ファイヤ!」

 

「ならこちらも速攻魔法、終焉の焔を発動。場に二体の黒焔トークンを守備表示で召喚する」

 

 ブローバック・ドラゴンの放った弾丸が黒焔トークンの一体を消し飛ばす。しかし黒焔トークンはまだ後一体残っている。

 

「まだまだ! リボルバー・ドラゴンで黒焔トークンを攻撃、ガン・キャノン・ファイヤッ!」

 

 リボルバー・ドラゴンの銃口から飛び出した弾丸が黒焔トークンを撃ち抜いた。

 これで丈のフィールドは再びがら空きとなる。けれどこのターン、持ち堪えた。

 

「あの攻撃を凌ぎやがった、だと? くそっ。俺はターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

 引いたカードを確認して、微笑んだ。このタイミングでこのカードを手札にもってくるとは勝利の女神は中々に粋なことをする。

 迎えに来てくれた勝利の女神に応えよう。どんな敵にも怯まずに、その闇を撃ち抜く。

 一人のデュエリストの止まってしまった時間を動かす為にも。

 

「キース……このデュエル、俺の勝ちだ!」

 

「なに!?」

 

「俺はセットしていたリバースカード、メタル・リフレクト・スライムを発動する。このカードは発動後モンスターカードとなりフィールドに特殊召喚する。

 そして俺はメタル・リフレクト・スライムのレベルを二つ下げ、墓地より二体のレベル・スティーラーを特殊召喚する!」

 

 

【メタル・リフレクト・スライム】

永続罠カード

このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、

自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。

このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)

 

 

 メタル・リフレクト・スライムと二体のレベル・スティーラー。丈の場にはモンスターが三体並んだ。

 

「メタル・リフレクト・スライムだと!? 馬鹿な、何でこのタイミングで。そのカードをさっきの俺のターンで痛み分けにチェーンして発動していりゃ邪神アバターを生け贄にせず済んだじゃねえか!」

 

「答えは簡単さ。邪神アバターにはモンスターの効果がまるで通じない。よってレベル・スティーラーを特殊召喚するためにレベルをダウンさせることが出来ない。あの瞬間、俺にとっては邪神アバターよりメタル・リフレクト・スライムを残す方が大切だったのさ」

 

「神を囮にしたっていうのか!?」

 

「いくぞ。俺は三体のモンスターを生け贄に捧げ、現れろ神獣王バルバロスッ!」

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 

 邪神デッキと合わせて運用することを想定されて創造された神に従う従属神、神獣王バルバロス。いつも丈を助けてくれた最高に信頼するカードだ。

 フィールドに降り立ったバルバロスは四つの足で地面を蹴り、鋭い神槍をキースへ向ける。

 

「あれは丈がずっと昔から使い続けてきた戦術だ……!」

 

「そしてバルバロスのモンスター効果は!」

 

 亮と吹雪が歓声をあげる。二人の言う通り、メタル・リフレクト・スライムのレベルを下げてレベル・スティーラーを蘇生させ、そこからバルバロス召喚に繋げる戦術は丈がこのデッキを構築して以来、ずっと使い続けてきた戦術だ。

 

「カオス・ソルジャーが俺の魂なら、バルバロスはこの三年間ずっと俺と共に歩み続けてくれた相棒だ。相棒の力でこのデュエルに決着をつける!

 三体を生け贄にして召喚された時、神獣王バルバロスは相手フィールド上に存在する全てのカードを破壊する!」

 

 バルバロスの槍が高速回転し、そこから放たれた雷がキースの場を一掃した。

 リボルバー・ドラゴンは最後まで抵抗していたが、やがて砕けて消える。

 

「…………チッ」

 

 焼野原になったフィールドを見たキースは悔しそうに舌打ちしてから、どこか晴れ晴れとした表情で目を瞑る。

 

「バルバロスのレベルを下げ、レベル・スティーラーを攻撃表示で蘇生。バトルフェイズ、レベル・スティーラーでプレイヤーへダイレクトアタック」

 

 レベル・スティーラーがキースのライフを減らす。

 最後に丈は神獣王バルバロスに命令を下す。決着をつけるために。

 

「神獣王バルバロスでダイレクトアタック、トルネード・シェイパー!」

 

 神槍がキースの心臓を貫いた。……その槍がキースの中にある闇を消し去っていればいいと願いながら。

 キースのライフポイントが0を刻む。

 丈は黙って歩み寄ると、手を伸ばす。最高のデュエルをした相手と握手をするために。キースは差しのべられた手に目を落とすと、力を込めて握った。

 

「いつっ!」

 

「この借りはいつか必ず返す。それまで覚えておきやがれ」

 

 短い握手を終えると、キースは今度はペガサスへ歩み寄っていく。

 そして拳を握りしめるとペガサスを思いっきり殴り飛ばした。ペガサスはそのまま地面に叩きつけられる。

 

「ペガサス会長!」

 

 慌てて駆け寄ろうとするが「いいのです」とペガサスが止めた。

 地面に倒れたペガサスを見下ろしたキースは、

 

「俺はテメエの手なんざ借りねえよ。俺の力で伸し上がってやる。そして必ずテメエをぶっ潰す。首を洗って待ってな」

 

 そう言い残してキースは立ち去っていく。

 だが屋上のドアに手をかけると、くるりとキースは振り返った。

 

「宍戸丈、受け取りな!」

 

「っ!」

 

 キースが装着した黒いデュエルディスクを外すと丈に投げ渡してくる。

 受け止めるとずっしりとした重みが両手に広がった。黒いデュエルディスクは見た目こそ丈のものと変わったところはないが、よく観察してみると使われているパーツ一つ一つが破格のものであるということが分かる。肌触り一つとっても滑らかで高級感があった。恐らく中身も最新式だろう。

 

「これは……?」

 

「ブラックデュエルディスク。プロリーグの前身、カード・プロフェッサーの頂点の証だ。この俺に勝った褒美にこいつはテメエにくれてやる。ついでに残ったネオ・グールズの奴等も解散させておいてやるよ」

 

 今度こそキースは去っていく。彼がどこへ向かうのか丈は分からない。ただ今のキースなら大丈夫だろうという確信はあった。

 たちこめていた黒い暗雲が消え、太陽が沈んでいく。宍戸丈の長い長い一日は漸く終えようとしていた。




※バクラに魂の一部を食われたため、主人公は原作知識及び前世の記憶を失いました。


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第73話  新たなる未来へ

 宍戸丈という人間が生きた人生で昨日ほど密度の濃い一日はないだろう。

 I2カップでの親友・丸藤亮との決勝戦。ネオ・グールズの刺客による邪神イレイザーの強奪。警備会社ビルにおける奇術師パンドラとの戦い。そして三邪神を支配するバクラとキースとのデュエル。

 これらのことが全てあの一日で起きた。振り返ってみても良く体が保ったものだと自分で自分に感心してしまう。

 ただそのせいで宿泊にしているホテルに戻った途端に疲労が押し寄せてきて、ベッドに倒れ込んでしまったが。あれほど深く熟睡したのも初めての経験だった。

 しかし終わりよければ全て良しということにはならない。

 翌日。丈たちはペガサスに呼び出されていた。

 

「まずは……ネオ・グールズへの対処、そして三邪神の奪還。本当に感謝しマース。ユーたちがいなければ、今頃世界は復活したバクラと三邪神により未曽有の危機にさらされていたかもしれません」

 

 たかがカードと蘇った魂一つで世界が危機を迎えるなど馬鹿馬鹿しい。例え精霊を見ることが出来るデュエリストでも殆どのものはそう考えるだろう。

 けれど実際に三邪神の力とバクラを見た丈たちからすれば、ペガサスの言葉は笑い話ですむものではない。一歩間違えれば本当に世界が崩壊するようなことになっていたかもしれないのだ。

 

「俺達は自分に出来ることをやっただけです」

 

「宍戸ボーイ、この国では謙遜は美徳という格言があるそうですが、この場では無用デース。

 三邪神のことだけではありません。貴方達には私が嘗て犯した過ちにも巻き込んでしまった。……私が彼にあのような事をしていなければ、恐らく彼がバクラを受け入れてしまうほど追いつめられることはなかったのですから」

 

 過ぎたる力は人の心を惑わす。こうして話しているからこそペガサス・J・クロフォードという人間が多少コミカルなことはあれど善良な人間だと分かる。

 きっと千年アイテムという超常の力がペガサスの精神を歪ませてしまったのだろう。だが精神が歪むというのは当人のみで完結することではない。ペガサスのように社会的な地位があればあるほど、僅かな歪みからくる影響は強いものとなる。そして起きてしまった悲劇の一つがキースなのだろう。

 

「バンデッド・キースは……彼は、どうしたんですか?」

 

 キースと亮の師父たるマスター鮫島は過去に戦った事があると言っていた。それに機械族デッキ使いという意味でキースは亮にとって先輩でもある。

 そんな彼のその後が気になるのか亮が尋ねた。

 

「分かりません。けれど、彼ならば大丈夫だと私は信じたい。本当なら私が彼に賠償金や援助をするべきなのでしょうが、彼に断られてしまいましたしね」

 

 そう言ってペガサスは痣になっている左頬を抑えて苦笑する。あれから一日経っているのに治療した痕跡がない。ペガサスほどの人間がまさか医者にかかれなかったなどということはないだろう。

 不器用であるがペガサスなりの意思表示なのかもしれない。

 

「それとペガサス会長、このカードは」

 

 丈がデッキケースから取り出したのは特別な装飾の施された三枚のカード。一度は奪われたものの紆余曲折あり丈の手元にきた三邪神のカードだ。

 

「三邪神は貴方が持っていて下さい。以前にも言った通りI2カップは三邪神を担うにたるデュエリストを見出すための大会でした。その大会で貴方は見事に優勝を果たし、バクラとの戦いでは邪神アバターを担ってみせた。

 デュエルモンスターズ創始者として、かつての千年眼の担い手として断言しましょう。三邪神は貴方を主として認めている。そのカードは貴方がもっているべきです」

 

「丈、ペガサス会長もそう言っているんだからさ。大人しく任されておきなよ」

 

「……吹雪?」

 

「だってほら。三邪神なんてまんま魔王っぽいじゃないか」

 

「吹雪ぃぃぃぃぃぃいいい!!」

 

 人が気にしていることを、随分と軽い口調で言ってくれる。

 誰が好き好んで世界征服目指していそうなラスボスな異名をつけられなければならないのだ。せめて他にいいものがあるだろうに。

 

「OH! 私は宍戸ボーイにピッタリとマッチしていると思いますよ。魔王(まおう)、Goodなネーミングです」

 

 ペガサス会長は魔王賛成派に回り亮までもっともらしく頷いている。

 不本意の極みだが、自分には魔王以外の異名を認めてはくれないらしい。一体どうしてこんなネーミングをつけられてしまったのだろうか。

 魔王というイメージを粉砕するために、正反対のイメージのカードでも主力にしようかと真剣に悩む。

 

「いじけるな丈。俺もカイザーだなんて大層な異名をつけられてしまい参っているが…………なに、いつかは慣れるさ。プロになればいつかは通る道だ」

 

「あんまり慣れたくないんだけど……俺は」

 

 だが亮の言う通り、プロデュエリストになれば異名の一つや二つは自然とついてくるものだ。それはプロデュエリストがデュエルモンスターズのプロフェッショナルである以上に、観客を楽しませるエンターテイナーでもあるからだろう。

 丈も自分も将来はプロデュエリストになろうと真剣に考えている。確実にプロになれると思うほど自惚れてはいないが、プロになったらどうせいつかは異名をつけられる日がくるのは間違いない。なら今の内に慣れておくのも悪くないことではある。魔王というラスボス染みたネーミングは勘弁してほしいものだが。

 

「プロですか。ユーたち三人がプロになれば、どこのリーグに入ろうと大活躍間違いなしなのは保障しマース」

 

「いえいえ。俺も、亮や吹雪も若輩者ですよ」

 

「NO! デュエリストの強さに年齢など子細な問題デース。ユーが勝利したレベッカガールも若干12歳で全米オープンを制したミラクルガールなのですから。ユーたちミラクルボーイなら同じことが出来ると私は信じマース」

 

 丈たちは謙遜して、いや実際に自分で自分たちはまだ未熟だと考えているが、実のところペガサスの言う通り三人の実力はプロリーグ上位クラスとも渡り合えるレベルに達している。

 経験はベテランに比べれば浅いが、逆に言えば経験さえ積めばこのままプロ入りしても活躍できるだろう。

 勿論三人はデュエル・アカデミアの学生であり、今のところ高等部への進学をふいにしてまでプロの門を叩く気はない。しかし何事かが起きない限り、高等部を卒業する三人がプロリーグから熱烈なオファーを受けるのはほぼ確定事項といえた。

 なにせネオ・グールズを倒した若きデュエリストだ。スポンサーになってしまえば、デュエルだけでなく宣伝などで使い道は多くある。

 

日本(ジャパン)、この国なら……Sリーグですね。デステニー・オブ・デュエリスト、DDが絶対王者として君臨するリーグに一波乱起こせてしまいそうデース」

 

 Sリーグとは日本にあるプロリーグの略称だ。正式にはシャイニング・リーグという。デュエルアカデミアほど露骨ではないがネーミングからして一体全体どこの誰が主導になって誕生したリーグなのか分かるというものだった。

 ブルーアイズリーグにならないだけ良心を感じるのは何故だろうか。しかしあの破天荒な海馬社長がネーミングにそう安々と妥協するとも思えない。

 

(案外ブルーアイズリーグは駄目だって当時の社員たちが必死に止めた結果だったりして)

 

 それでもシャイニングにするあたり海馬社長のブルーアイズに対する並々ならぬ拘りを感じる。

 

「私個人としてはアメリカのNDL(ナショナル・デュエル・リーグ)もお勧めですよ」

 

「ははははは。考えておきます」

 

 NDLにSリーグ、どちらも丈たちには遠い未来の話だ。いやそれほど遠くはないか。

 今がアカデミアの三年生で卒業までもう直ぐ。卒業すればエレベーター式に高等部に進級することになるだろう。そして三年間の高等部での学生生活を終えれば、次にはプロリーグが待っているかもしれない。

 大学にいくという選択肢もあるにはあるが、恐らく丈は大学かプロリーグかの二択を提示させられたらプロの方を選ぶだろう。それは他の二人も同様だ。

 

「ところでペガサス会長、昨日大会の賞品で貰って開封したオリジナルパックなんですけど」

 

 吹雪が一枚のカードをペガサスに見せる。

 三足早く最新カードが封入されたオリジナルパックのカードだけあって丈も見た事のないカードだった。

 名前覧には『BF-疾風のゲイル』とある。名前から察するになんらかのカテゴリーに属する一枚だろう。

 

 

【BF-疾風のゲイル】

闇属性 ☆3 鳥獣族 チューナー

攻撃力1300

守備力400

自分フィールド上に「BF-疾風のゲイル」以外の

「BF」と名のついたモンスターが存在する場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

1ターンに1度、相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

選択した相手モンスターの攻撃力・守備力を半分にする。

 

 

 低級モンスターでありながら問答無用に相手モンスターの攻撃力を半分にするという凶悪な効果もそうだが、目につくのはチューナーという文字。

 これまでデュアルやトゥーン、それにスピリットなどという種族のあとにカテゴリーを示すカードはいたが、チューナーというカテゴリーは初めて聞く。

 

「このチューナーっていうのはなんなんですか。それに僕の引き当てたカードには他に『シンクロ召喚』なんていう聞きなれない単語も混ざっていましたし……」

 

「それなら俺がキースとのデュエルで使った未来への思いにも『エクシーズ召喚』なんて書いてあったな」

 

「チューナーといえば、パックに入っていたチューナーモンスターの何枚かをI2カップ参加者の一人が使っていたな」

 

 亮の言葉で思い出す。そういえば直接戦うことこそなかったが、なにやら蟹のような髪形の男性がジャンク・シンクロンなどというカードを使っていた。

 低レベルモンスターで対戦相手に喰らいついていった巧みなデュエルが印象に残っている。

 

「…………これはI2社でも私や極一部の人間、それと海馬ボーイくらいしか知らないことなのですが、三邪神を取り戻してくれたお礼をかねてユーたちにはこっそりと教えましょう。けれどこの場で約束して下さい。これから話すことは他言無用。親兄弟や学校のティーチャーにも話してはいけませんよ」

 

 強く念押しされ、緊張から息をのんだ。だがこの時点で聞かないという選択肢は丈たちから失われていた。

 なんのことはない。デュエリストとしてデュエルに関わる秘密を知りたくないはずがないのだ。

 三人の意志を察してペガサスが語り始める。

 

「OK。では説明しましょう。シンクロ召喚とエクシーズ召喚とは現在我が社が開発中の次世代の召喚システムなのデース」

 

「新しい召喚システム!?」

 

 これは純粋に驚きだ。デュエルモンスターズが世に出て何年も経つが、これまで基本的なルールは変わらなかった。

 そこに新たなる一石を投じる。確実にデュエルモンスターズ界では波紋があるだろう。

 

「シンクロ召喚はチューナーとそれ以外のモンスターのレベルを足して、融合デッキよりモンスターを特殊召喚するシステム。そしてエクシーズ召喚は同レベルのモンスター同士を重ね合わせることで融合デッキより場に召喚するシステムです。

 似ているようで異なるシステムであるシンクロとエクシーズですが、共通点としては『融合モンスターでないにも拘らず融合デッキ』から特殊召喚されるというところデース。それに合わせて融合デッキにも新たな名前に変更するよう検討中ですが」

 

「シンクロと……エクシーズ……」

 

「しかし異なる二つの召喚システムを同時に世に送り出せば、かなりの混乱状態になるでしょう。現在I2社ではシンクロ召喚とエクシーズ召喚が次世代システムの座をかけて競合中です。

 I2カップにも参加していたドクター不動はKC社の社員でシンクロ召喚の第一人者でもあるのデース。彼にはシンクロ召喚の実地調査もかねて、チューナーを始めとした次世代カードのみのデッキでデュエルをしてもらいました。勿論シンクロモンスターは入れていませんが。

 ユーたちにプレゼントされたオリジナルパックにチューナーモンスターやそれの関連カードが封入されていたのは実地調査の一貫の一つデース」

 

「シンクロとエクシーズについては分かりました。では競合に敗れたシステムはどうなるんですか?」

 

「……先程言った通り二つの異なる召喚システムを同時に送り出すことは難しい。競合に敗れた方のシステムは導入されえたシステムが浸透しきるまで凍結されることになるでしょう。

 最悪の場合は日の目を見ないことになるかもしれません。そうなった時はユーたちのもつ関連カードは再販されませんので大事に使って下サーイ」

 

 急にオリジナルパックが本当に凄いものなのだと思えてきた。再販されないということは数が限りなく少ないと言う事だ。

 シンクロかエクシーズか。競合に敗れた方の関連カードはそれこそ世界に数枚しかない超レアカードになるのだろう。

 競合に敗れたカードの方が単体としては価値が跳ね上がると言うのは皮肉と言えば皮肉だった。

 

「とはいえ新しいシステムが導入されるのは遅ければ十年後、早くとも4、5年は先の話デース。ユーたちがプロデュエリストになって活躍している頃には実装されていると思いますので、そしたらバンバンと新システムを使いこなして下サーイ!」

 

 話はこれで終わった。三人はペガサスに別れの挨拶をすると、I2社の日本支社から出る。

 外は昨日の激戦が嘘のような快晴だった。この分だと明日も晴れそうだ。

 

「なぁ……どう思う?」

 

 気付けばポツリと丈は呟いていた。

 

「どうって、なにがだ」

 

「新システムだよ」

 

「僕はいいんじゃないかと思うけどね。今のデュエルモンスターズが悪いって言ってるんじゃないけど、新しいシステムがあればそれだけデュエルも拡大するしね」

 

「…………そうか」

 

「丈は嫌なのかい?」

 

「嫌ってほどじゃないけど、ううん複雑だな。携帯とかでもさ。新しい携帯を買うと古い携帯はいらなくなるだろ。それと同じで古いシステムの立場がなくなったらどうしようって思うと不安もある」

 

「そういう懸念もあるね」

 

 デュエリストとして新しいシステムに興奮する心がないわけではないのだ。しかしこれまでのシステムに慣れ親しみ、そんなシステムの中で構築したデッキを使っている身としては複雑な感情もある。

 

「亮は?」

 

「俺はサイバー流一筋のサイバー・ドラゴン馬鹿だ。他のデッキは使わん」

 

 シンクロやエクシーズ、新しいシステムなどまるで動じずに亮は言ってのけた。

 その余りにも一直線な台詞に亮以外の二人は苦笑してしまう。

 

「……………ははは、亮らしいな。だがそれもそうか。どれだけ新しいシステムがあろうと大切なのはどんなカードが好きかだな」

 

「人を時代についていけない男みたいに見るのは止めろ。俺は別にシンクロやエクシーズをデッキに加えないと言ったわけじゃない。ただ俺はサイバー・ドラゴンを主力にすることを止めるつもりはないだけだ」

 

 どれだけ新しいシステムや概念が登場し、時代が移り変わろうと自分の信頼できるデッキを信じていればいい。

 重要なのは世界のシステムではなく、自分が自分のデッキをどう思うかなのだから。

 

「さあ、それじゃ帰ってデュエルでもするか」

 

 

 

 

 

 

――――ネオ・グールズ編 完―――――― 



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第四章 中等部卒業
第74話  模範デュエルの相手


 デュエル・アカデミア中等部の電光掲示板の前は嘗てない喧騒だった。学年も性別も問わず多くの生徒が掲示板が見える場所に集まっている。

 これほどの喧騒は受験の合格者発表の時と今日くらいだろう。しかしこれは三年生のイベントだというのに一年生や二年生も集まっているとは先輩思いの後輩たちである。

 大ホールにある電光掲示板は合否発表以外にも定期試験の結果発表などに使われることもあるが、今回はそれらではなく『とあること』の発表のため使われていた。

 

「……うーん。三年間の集大成、どうなるかな。有終の美を飾る意味でも僕はトップがいいんだけど」

 

「去年の首席は吹雪だったからな。順番でいうなら今度は丈が主席じゃないか? 一昨年は俺が首席だったからな」

 

「だといいけど。うーん、二年連続次席の俺としては今度こそナンバーワンになりたいところだよ」

 

 丈たち三人は電光掲示板が良く見える二階の踊り場の手すりに陣取っていた。

 三人がアカデミアに入学して三年。思い返せば様々なことがあった。入学試験から始まり賞を総なめにしたジュニア大会、黒歴史であるショタコンの急襲、I2カップやネオ・グールズとの戦いは記憶に新しい。

 しかし始まりがあれば終わりがあるもの。そんな三人にも遂に中等部を卒業する時期がやってきた。電光掲示板に表示されるのは先に丈が言った通り三年間の集大成。最終学年ランキング発表のためだ。

 高等部では成績によって寮がオシリス・レッド、ラー・イエロー、オベリスク・ブルーの三つに分けられ、寮ごとの待遇がまるで違うことからも分かるようにアカデミアというのは成績重視、もっといえば実力重視の社会だ。これは孤児院出身で、血統ではなく自らの才能で世界有数の大企業である海馬コーポレーションの社長にまで上り詰めた海馬社長の影響を多く受けたものである。

 この生徒ごとの順列を明確な数字に表すシステムも海馬社長の意図があってのものだろう。

 アカデミア生からすればこのランキングが高校進級後オベリスク・ブルーかラー・イエローになるかの分水嶺なので気が気ではない。

 中等部からの進級組は最下層であるオシリス・レッドになることはないにしても、やはりエリートであるブルーになりたいというのは全学生が共通に抱く思いでもある。

 丈たち三人が生徒たちがはらはらして見守る電光掲示板をある程度余裕をもって見ていられるのは――――――三人がオベリスク・ブルーがほぼ確定している成績優秀者だからだろう。

 特待生であり実技・筆記ともにトップ3から動いたこともない三人からすれば『今度は誰が一位になるのか?』にしか関心がない。

 

「けど首席って卒業模範デュエルしなくちゃいけないからな。次席は次席でありか」

 

 毎年アカデミアでは卒業生で成績トップの生徒と、その生徒が教員または在校生から選んだ一人とデュエルをする習わしとなっている。

 模範デュエルは毎年全校生徒及び全教員が注目するデュエルなのでやるとなると責任重大だ。ナンバーワンになることに興味はあるが、最後に面倒な大仕事をするくらいなら次席でもいいかな、という思いが丈にはあった。

 

「おっ! 発表されるみたいだよ」

 

 吹雪が少しだけ身を乗り出す。丈も意識を電光掲示板に向けた。

 このランキングで自分達の強さが変動する訳でないことくらいは承知しているが、学生としてこういう順番付けはどうしても気になってしまうものだ。

 ランキングは下位から順々に表示されていきTOP10のところになると一旦止まる。

 注目のランキングは勿体ぶる。我が母校ながら芸の細かい。実にバラエティ精神溢れた電光掲示板だ。

 丈たちの眼下ではランキングで自分の名前を見つけた生徒たちの喜怒哀楽入り混じった声が響いている。悲しんでいるのは成績下位者でラー・イエローになる者で、喜んでいるのは成績上位者のブルーになる者だろう。

 一通り掲示板を確認したが宍戸丈、天上院吹雪、丸藤亮の名前はどこにもない。

 これでTOP10入り&オベリスク・ブルー入りは100%確実となった。

 一層喧騒の色が濃くなる中、十位から四位までのランキングが発表される。

 

10位:吉光誠一郎

9位:高橋秀行

8位:海野幸子

7位:マー・ン・ゾーク

6位:風見風子

5位:西野浩三

4位:十和野鞭地

 

 そして四位までにも三人の名前はなかった。この瞬間、これまでの二年間と同じように丈たち三人のTOP3入りが確定する。

 自然と三人の視線も電光掲示板に向く。

 最後のランキングが表示された。

 

1位:宍戸丈

1位:天上院吹雪

1位:丸藤亮

 

 同時に表示された三人の名前。名前の横には同じように『1位』の二文字が輝いている。

 このことが示すことは唯一つ、同着一位。

 

「今年はドローか」

 

「みたいだね」

 

 名前の右に記されている成績は三人とも満点。なるほど、満点を超える点数はない。三人が満点である以上、三人がトップになるのは至極当然といえる。

 

「というと……卒業模範デュエル、どうなるの?」

 

 丈の問いかけに吹雪と亮は困った顔をするだけだった。

 

 

 

 

 結論を言えば、卒業模範デュエルは首席である三人全員がすることとなった。これまで首席が二人以上になることはなかったので異例の処置である。

 最終ランキングだけでなくこれまでの成績も加味するという意見も教職員の中ではあったのだが、三年間の成績は亮が一位、三位、一位。吹雪が三位、一位、一位。丈が二位、二位、一位。つまり平均が同じである。そのため最終ランキング外を加味しても順列をつけることができなかったのだ。

 I2カップでのランキングを適用すればどうか、という意見はどれだけ有名な公式戦でも学外大会での成績を学校の成績に加えることは出来ないという正論の前に敗れ去った。

 しかし問題となるのは模範デュエルの相手である。

 

「吹雪は明日香とデュエルすると言っていたな」

 

 I2カップでのことでもあり、今では本名よりもカイザーという異名で呼ばれることの多い亮は廊下を歩きながら友人の顔を思い浮かべた。

 吹雪繋がりで吹雪の妹の明日香とも亮は交友がある。女性であるが吹雪の妹に恥じぬ実力をもつデュエリストで在校生ではトップクラスの実力をもつ。

 二年生の首席を模範デュエルの相手とするのがセオリーではあるが、明日香ならば実力も申し分ないだろう。生徒も職員も納得するはずだ。

 

(まぁ、あいつの場合。少しばかりシスコン気味のような気もするが……)

 

 妹について話しだしたら吹雪の弁舌は川を流れる水のように留まることがない。兄妹の仲が良好なのはいいことなのだが、妹談義に付き合わされる亮としては少しうんざりしているものだ。

 天上院兄妹について考えているとつい実家に残していた弟のことを思いだす。

 幼少期の頃はサイバー流道場で生活し、中学生になってからはアカデミアの寮に入った亮が弟と一緒にいれた時間は非常に少ない。それでも亮が弟のことを大事に思っていないということではなかった。

 

(翔は元気にやっているだろうか……?)

 

 最近は忙しく直接会うどころか電話すらしていなかった。夕方にでも一度家に電話を入れておこう。

 

「……ん? 丸藤か」

 

 廊下の突き当りに差し掛かったところで偶然一人の教員と出くわした。

 丁寧にカットされた黒い髪と鋭利な刃物のような鋭い目つき。わざと着崩したアカデミア教員の制服は本人の容貌も相まって挑発的なオーラすら纏っている。 

 主観的にも客観的にも、このデュエル・アカデミアにおいて丸藤亮は最強クラスのデュエリストだ。教職員の中でも太刀打ちできるデュエリストなど例外を除いて存在せず、互角に戦えるのは吹雪と丈だけだ。

 そして唯一の例外である教師が彼、田中先生だった。

 田中先生の本名は田中ハル。亮がアカデミアに入学するより以前、連戦連勝を重ね暴帝と怖れられたデュエリストである。

 一説によれば次期キング・オブ・デュエリストになるのではないかと噂されていたほどの腕前だったが、Sリーグで不動の頂点に君臨しているDDに挑む直前になって唐突にプロリーグから姿を消したことでも有名だ。

 無敵を誇る強さに反し相手デュエリストのプレイイングやカードを否定することが多く、社会的モラルにかけた振る舞いや黒い噂が絶えなかったことから゛暴帝゛や゛史上最低のプロデュエリスト゛として現在でも名が知られている。

 

「先生」

 

 気付けば亮は声を発していた。

 

「なんだね? 私は忙しい。用件があるなら手短に済ませてくれ」

 

「ご存知ですか。卒業模範デュエルの対戦相手は在校生の中から選ぶのがセオリーですが、条件はアカデミアに所属しているデュエリストに限ると記載されているだけです」

 

「ほう。それがどうした?」

 

「対戦相手に教職員を指名することも出来るということです」

 

 田中先生の過去の所業については亮は特に気にしていない。過去がどうだろうと今の亮にとって田中先生は口調が刺々しいものの良い授業をする先生だ。

 だからこそ気になる。

 彼ほどの実力をもつデュエリストがどうして突然プロリーグから去ってしまったのか。後一戦、DDにさえ勝てば最大の栄誉が手に入ったにも拘らずだ。

 一人のデュエリストとして、嘗てこの人が立ったプロリーグを目指す者として知りたい。どうして彼がプロリーグを去ったかを。

 だがそれだけではない。なにせ田中先生はこれまで、

 

「私と?」

 

「はい。それに先生ご自身のデッキとデュエルをしたことはありませんでしたから」

 

 これまで授業などで田中先生とデュエルする機会は多くあった。だがそのデュエルで田中先生が使用したのは授業用のデッキで、プロデュエリスト時代に使っていたデッキと戦った事は一度もない。

 一人のデュエリストとして強いデュエリストと戦いたいと思うのは本能のようなものだ。

 

「面倒な事を言う。しかしお前が私を対戦相手に選ぶと言うのなら拒否することはできないだろうな。拒絶すれば私の立場が面倒くさいことになる。厄介事を押し付けるものだ」

 

「……すみません」

 

「まぁいいだろう。もう行っていいかな。私も暇じゃないのでね」

 

 田中先生は時計を確認しながら、亮の返事もまたずに去っていってしまう。

 デュエルを職業として、デュエル一つで生きぬくプロデュエリスト。その中でもトッププロに属していた男。そんな相手と戦うと思うとらしくもなく興奮してきた。

 カイザーだのなんだのと持て囃されようと結局自分はデュエリストでしかないのだろう。

 

「楽しみにしています先生」

 

 本人は聞いてはいないだろうが、その背中に一言だけ声をかけると亮もやや速足になって逆方向に向かう。

 卒業模範デュエルのためにデッキを構築し直さなければならない。



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第75話  暴帝

 通常なら卒業生首席による卒業模範デュエルは一日を丸ごと潰して行われる伝統となっている。模範デュエルが終われば基本的にその後はフリーなので、生徒からすれば最高のデュエルを観戦できて授業もなしという美味しい日といえるだろう。

 今回は首席が三人という異例の事態が発生しているため三日間を費やして行われることとなった。

 しかし三日も平常授業を潰すことはアカデミアのスケジュール的に不可能なので、本来の予定日であった金曜日に一回目の模範デュエルを行い、一週間後と二週間後の日曜日に二回、三回をやる手はずとなった。

 金曜日の模範デュエルは全校生徒の出席が義務づけられているが土日の方は休日なので参加は任意である。用事がある者や一日をフルにプライベートに使いたければ欠席が許される。

 だがアカデミアの生徒に卒業模範デュエルを欠席しようとする者はいないだろう。なにせ在校生からすれば三年生が三年生としてデュエルをする所を見れる最後のチャンスなのだから。

 卒業模範デュエル第一戦。

 既に対戦相手の定まっている丸藤亮と天上院吹雪の両名のうちオープニングを飾ることとなったのは――――抽選の結果、丸藤亮となった。

 

「始まるね」

 

「あぁ。賭けをしようか。吹雪はどっちが勝つと思う?」

 

「うーん。田中先生が強いことは知ってるけど、やっぱりここは親愛なる我等のカイザーを応援しようかな」

 

「なるほど。それじゃ賭けが成立しないか」

 

 一際デュエル場が良く見える位置に陣取っている丈と吹雪は腕を組んでこれから始まるデュエルを見守っていた。

 観戦者の生徒たちも心なしか緊張していた。張りつめた沈黙は決闘を始める前のガンマン同士の睨みあいを思わせる。この緊張感を普段の授業に活用していればアカデミアの成績は頭二つほど上昇するだろう。

 

「――――きた!」

 

 それは誰が零した声だろうか。丈や吹雪を含めた観戦者は一斉にデュエル場へ続く通路に視線を向ける。

 カツカツと規則正しい足音を鳴らして堂々と歩いてきたのはカイザーと謳われた亮だった。これから始まるショーの主役の一人だというのに亮の顔には緊張の色は見られない。しかし戦士特有の闘気のようなものを全身から漲らせていることは目ざとい一部の人間には分かった。

 

「毎年思うが、たかが模範デュエル一つに大袈裟なものだ。これも派手好きなオーナーの意向なのか」

 

 昔を懐かしむように語りながら、こちらも気負った様子もなくデュエル場に足を踏み入れたのは対戦者である田中先生だ。

 デュエルディスクは市販品とかわらないものだが、そこにセットされているデッキからは邪神の途方もないプレッシャーとはまた違ったエネルギーを感じることができる。

 数多くのデュエルを潜り抜けたデッキだけが備える場数の威厳というものだろう。

 

「さぁ。こればっかりは海馬社長ご本人に聞かない事には。けど一つだけ言えることは――――――アカデミアのこういう雰囲気は嫌いじゃない」

 

 亮のデュエルディスクが起動する。表示される4000の数字。亮はデッキケースよりなによりも信頼するデッキを取り出すとデュエルディスクにセットした。

 

「……………そうか。これも仕事だ、私も相手が教え子だろうと手を抜くつもりはない。全力を望むと言うのなら完膚なきまでに叩き潰すだけだ」

 

 敵は徹底的に叩き潰す。デュエルにおいても、精神的にも。それが暴帝と怖れられたこの人物のデュエルだった。

 教師として授業をしていた時は毒舌を披露することはあっても、生徒の心を叩きおることまではしてこなかったがこの分だとこのデュエルではどうだか分からない。

 機会さえあれば、それこそ徹底的に丸藤亮というデッキの可能性を潰してくるだろう。

 これから三年間の集大成をぶつけるデュエルをするというのに、亮の心は小川のせせらぎのように落ち着いていた。

 相手がどこの誰だろうと自分にはサイバー・ドラゴンたちがついている。それだけで亮にとっては万の味方を得ているも同然だ。

 少し自分の隣を見てみれば、そこにいる。他人には見えないだろうがサイバー・ドラゴンがしっかり亮の隣についてくれているのだ。

 これまでは声を聞けるばかりで見ることはできなかったというのに。一度闇のゲームに敗北されバクラの魂に取り込まれたからだろうか。

 

「相手が誰だろうと俺のやることは変わりありません。相手とカード達に対するリスペクトの精神を忘れず、全力をもってデュエルをする」

 

「あー、それは楽しんでかね」

 

「はい」

 

 迷いなく断言する。デュエルを楽しむというのはリスペクトの精神以上にデュエルモンスターズの根っこにあるものだ。

 リスペクト・デュエルもお互いに楽しんでデュエルをする為にあるといっても過言ではないだろう。

 そして亮も楽しんでデュエルをするということを忘れた事はない。アカデミアで改めて学んだ大事なことの一つだった。

 

「楽しんでデュエルをする。良い言葉だ、デュエリストなら基本といってもいい。だがデュエルは常に楽しいことばかりではない。子供の時は楽しんでいるだけでいいだろう。だが大人になってもデュエルにしがみつこうというのなら楽しくないことも多々ある」

 

「………………先生はデュエルを楽しんでないんですか?」

 

「私が愉しいのはデュエルじゃない。デュエルで対戦相手を徹底的に叩き潰すことだよ」

 

「貴方がどう思おうと、俺は俺のデュエルをするだけです」

 

 話はこれまでだ。余り長話をして観戦者を待たせるわけにもいかない。話の続きはデュエルで語ればいい。

 どれだけ考えが異なろうと自分達はデュエリストなのだから。デュエルでこそ分かり合えることもあるだろう。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

丸藤亮 LP4000 手札5枚

場  

伏せ

魔法

 

田中  LP4000 手札5枚

場 無し

伏せ

魔法

 

 

 そして丸藤亮にとってデュエル・アカデミア中等部での最後のデュエルが始まる。

 互いのプレイヤーは五枚のカードをドローした。

 

「先生。先攻はお譲りします」

 

「ふん。サイバー流は後攻有利なのにいけしゃあしゃあと。あぁ良いだろう。譲られたのなら譲られよう。私の先攻、ドロー!」

 

 この日の為にというわけではないが、亮はこれまで何度かDVDなどで現役時代の田中先生のデュエルを見る機会があった。

 一口にプロデュエリストといっても多くのタイプがいる。亮のように一つのテーマに深い愛着をもち、それ以外のデッキを使おうとしないデュエリストもいれば、複数のデッキを場合に応じて使い分ける丈のようなデュエリストもいる。

 田中先生はどちらかといえば後者に近いだろう。デュエルごとにデッキを入れ替える、というほど数多くのデッキを使うわけではないが軽く見積もって五つ以上ものデッキを使い分けていた。

 その中で最強を誇ったのが混沌帝龍や開闢の使者などのカオスモンスターを筆頭としたデッキだが、現在ではデッキの主軸を担った混沌帝龍は禁止カード。これを使ってくる可能性は低い。

 もう一つは以前も丈が使用していたという『剣闘獣』だが、これも起点となるベストロウリィが制限カードになり全盛期の力を失っているので恐らくないだろう。

 となれば混沌帝龍と同じく『暴帝』という異名の元となったデッキを使ってくる確率が最も高い。

 

「私はカードガンナーを攻撃表示で召喚。そして魔法カード、機械複製術を発動。攻撃力500以下の機械族モンスターを複製する。二体のカードガンナーを守備表示で召喚」

 

 

【カードガンナー】

地属性 ☆3 機械族

攻撃力400

守備力400

1ターンに1度、自分のデッキの上からカードを3枚まで墓地へ送って発動する。

このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、

墓地へ送ったカードの枚数×500ポイントアップする。

また、自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

【機械複製術】

通常魔法カード

自分フィールド上に表側表示で存在する

攻撃力500以下の機械族モンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターと同名モンスターを2体まで自分のデッキから特殊召喚する。

 

  

 一瞬にして三体のモンスターが亮の前に並んだ。カードガンナーは一見するとたかが攻撃力400の弱小モンスターに見えるが、その真価はその効果にある。

 

「カードガンナーのモンスター効果。自分のデッキからカードを三枚まで墓地へ送り発動、墓地に送った枚数×500ポイント攻撃力を上昇させる。

 私は全てのカードガンナーの効果を使い、九枚のカードを墓地へ送る。三体のカードガンナーの攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで1900となる」

 

 カードガンナーの厄介な効果はこのデッキからカードを墓地へ送ることに尽きるだろう。

 オーバー・ロード・フュージョンやミラクル・フュージョンなど墓地にカードが大量にあってこそ真価を発揮するカードは多い。

 デュエルモンスターズにおいて『墓地』とはカードの墓場ではなく、手札と同じくらいの可能性が眠る金山なのだ。そこにカードを眠らせることは大きな意義をもつ。

 亮は見た。カードガンナーの効果によって墓地へ送られたカードの中に『黄泉ガエル』があったことを。

 黄泉ガエルは自分のスタンバイフェイズ時に魔法罠カードゾーンにカードがなければ墓地から何度でも蘇生できる能力をもったモンスター。

 このカードが墓地へ早々に送られてしまったのは亮にとって大きな痛手だ。もはや田中先生にとって上級モンスターの召喚に生け贄が必要なくなったも同然なのだから。

 

「私はカードを二枚セットし、ターンエンド」

 

 二枚のカードが伏せられる。ここで敢えて黄泉ガエルの効果発動条件を満たせなくするリバースカードを置いたということは、あの二枚はミラフォなどのような発動条件のあるカードではなく、いつでも発動可能なフリーチェーンのカードなのかもしれない。

 なんにせよ油断は禁物だ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 とにかく相手が相手だ。攻め急げば墓穴を掘る。かといって石橋を一々叩いていたら橋ごと落とされる。ここは慎重かつ大胆に攻める。

 しかし亮の出鼻を、歴戦のデュエリストはここぞとばかりに挫いてくる。

 

「リバース発動。ダスト・シュート。相手の手札が四枚以上の時、相手の手札を確認しモンスターカードを一枚デッキに戻す」

 

「っ!」

 

 

【ダスト・シュート】

通常罠カード

相手の手札が4枚以上の場合に発動する事ができる。

相手の手札を確認してモンスターカード1枚を選択し、

そのカードを持ち主のデッキに戻す。

 

 

 発動条件があるとはいえ手札のピーピングとハンデス、両方を同時に行える強力な効果をもつダスト・シュート。

 先攻1ターン目でセットすればほぼ確実に効果を発揮できるため後攻有利のサイバー流にとっては厄介なカードの一枚だ。

 

「さぁ。手札を公開して貰おうか」

 

 淡々と言いながらも、どこか嫌らしく表情を歪ませた田中先生は手札の開示を迫る。

 悔しいがこれが効果である以上、亮には従う以外の道はない。デュエルディスクを操作して手札の内容を明かした。

 

「どれどれ。サイバー・ドラゴン、パワー・ボンド、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ、融合、カップ・オブ・エース、ガード・ブロックか。残念だったな、ダスト・シュートがなければサイバー・ツイン・ドラゴンを高速召喚できていたというのに。

 しかしサイバー流後継者が聞いて呆れるな。カップ・オブ・エース、こんな博打要素の高いギャンブルカードをデッキに投入するなど。ガード・ブロックもそうだ。こんなカードを入れるくらいならもっとマシなカードがあるだろう」

 

「俺が自分で選んだ俺のデッキのカード達です。否定される謂れはありません」

 

「昔、同じような事を何度も言われたよ。対戦相手のプロに。全員が最初は粋がっておきながら最終的には私に倒されていたが。さて、私はサイバー・ドラゴンを選択する。君がなによりも信頼するそのカードをデッキに戻したまえ」

 

 サイバー・ドラゴンをデッキに戻しシャッフルする。最初は手札六枚からデュエルを進めるのが常というのに、いきなり一枚の手札がなくなってしまった。

 手札には融合素材が足りないため融合とパワー・ボンドも今は役に立たない。

 

「……俺はサイバー・ドラゴン・ツヴァイを攻撃表示で召喚」

 

「おっと! その行動も読んでいた。私はそのモンスターの召喚に対して罠カード、激流葬を発動! フィールドのモンスターを全て破壊する」

 

 

【激流葬】

通常罠カード

モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時に発動できる。

フィールド上のモンスターを全て破壊する。

 

 

 フィールドの真ん中に隕石のような勢いで濁流が落ちてきて、モンスターの悉くを呑み込んでいく。

 無差別にフィールドを駆け巡る荒々しい暴水は見境がない。終末の日に訪れる大洪水もこれほどまでに無慈悲なものではないだろう。あらゆるモンスターがその濁流により消し去る。

 それは田中先生の場のカードガンナーも例外ではない。

 傍から見れば相手モンスター1体だけを道連れに自分のモンスター三体を巻き込んで破壊したデメリットの多いプレイングに見える。けれどカードガンナー第二の能力がデメリットをメリットへと変換する。

 

「激流葬により私の場の三体のカードガンナーが『破壊』されたことにより、カードガンナーのモンスターが発動。このカードが破壊された時、私はカードを一枚ドローする。破壊されたカードガンナーは三体のため私は三枚ドロー」

 

 二枚だった田中先生の手札が一気に五枚へ戻る。対して亮の手札は既に四枚。しかも手札の内容は見通されているときた。

 これが田中ハル、否、暴帝ハルのデュエル。暴虐に相手のプレイングを嘲笑し嘲笑いながらも、冷徹なまでに最小限の労力で最大限のアドバンテージを稼いでいく。

 自分の犠牲は最小限に、寧ろ犠牲を出さずに相手にのみリスクを強いていくデュエルが暴帝の真骨頂だ。

 

「見事です。だが俺もこの三年間を寝て過ごしたわけじゃない。そしてデュエルには計算では測れないことが存在する。決して測れぬ天運というものがあることを戦いを通じて俺は知った」

 

 手札が総て見通されているというのなら、未知の可能性を呼び込むまで。

 

「魔法カード、カップ・オブ・エース! カードを回転させ正位置ならば俺は二枚ドローする」

 

「だが失敗すれば私が二枚ドローする。確実性にかけるギャンブルカードだ。君が二枚ドローできる可能性は50パーセント。逆に50パーセントの確率で君は自身を追い詰める」

 

「リスクは承知の上。それに俺は丈と違ってこの手のギャンブルは強い方だ。――――廻れ運命!」

 

 カップ・オブ・エースが回転を始める。観客が見守る中、亮がストップというと回転が止まる。

 

「出たのは当然!正位置ィ! 俺は二枚のカードをドローする」

 

 田中先生は舌打ちこそしなかったものの、僅かに眉を潜ませた。

 だがともあれこれで田中先生にとって未知の手札が二枚加わった。これが少しでも追い風となればいいのだが。

 

「俺はカードを二枚伏せターンエンド」

 

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズ時、黄泉ガエルを墓地より蘇生させる」

 

 

【黄泉ガエル】

水属性 ☆1 水族

攻撃力100

守備力100

自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、

自分フィールド上に魔法・罠カードが存在しない場合、

このカードを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

この効果は自分フィールド上に「黄泉ガエル」が

表側表示で存在する場合は発動できない。

 

 

 やはり黄泉ガエルをスタンバイフェイズに蘇生してきた。

 亮のリバースカードにスタンバイフェイズに発動できるカードはないのでこの場は黙って見ているしかない。

 

「ふむ。リバースカードは二枚か。ならば黄泉ガエルを生け贄に捧げ、風帝ライザーを攻撃表示で召喚」

 

 

【風帝ライザー】

風属性 ☆6 鳥獣族

攻撃力2400

守備力1000

このカードが生け贄召喚に成功した時、

フィールド上のカード1枚を選択して持ち主のデッキの一番上に戻す。

  

 

 全身に甲冑の如く風を纏わせ、緑色のマントをはためかせながら現れるのは八体の『帝』のうち『風』を象徴する帝、風帝ライザーだ。

 闇帝、光帝、邪帝、風帝、氷帝、炎帝、雷帝、地帝。全部で八種類ある帝モンスターは攻撃力が2400であることを共通とするモンスターたちである。

 帝の中でも細かい分類があるのだが、闇と光以外は生け贄召喚した時に効果を発揮するのが特徴だ。

 中でも風帝は強力なモンスター効果から汎用性が非常に高く『邪帝』と並んで抜きんでた存在である。

 

「風帝ライザーの効果、このカードが生け贄召喚に成功した時、フィールド上のカードを一枚持ち主のデッキの一番上に戻す。私が選択するのはお前の左のリバースカードだ。バースト・トルネード」

 

 風帝が左手から発した旋風がセットされていたリバースカード一枚を亮のデッキトップに戻す。

 このデッキの一番上に戻すというのが風帝の厄介なところだ。手札に戻すならまた召喚すれば良いだけだが、デッキトップに戻すことにより場のカードを減らすだけでなく次のドローを封じることも出来るのだ。

 モンスターを除外しバーンダメージを与える邪帝と並び風帝が強力とされる所以である。

 

「バトルフェイズ。風帝ライザーでダイレクトアタック、サイズ・オブウィンド」

 

 風帝が腕を振るうと鎌鼬が発生して亮に襲い掛かって来た。これを喰らえば亮のライフは一気に1600となって不利になる。この攻撃は通さない。

 

「トラップ発動、ガード・ブロック。戦闘ダメージを一度だけ0にしてカードを一枚ドローする」

 

「私も運がない。外したな……」

 

 亮は囮としてセットしていて、風帝の効果でデッキトップに戻された融合を再び手札に加えた。

 これで風帝の厄介な効果である次のドローを封じる効果を無効とすることもできた。

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

 けれどデュエルはまだ漸く先攻の2ターン目が終わったばかりだ。そして亮がアドバンテージにおいて下回っていることは動かしようのない事実。

 ここからどう挽回するかがカギとなるだろう。




 剣闘獣、混沌帝龍などから察しの方も多いと思いますが、田中先生は夢もロマンも糞もないガッチガッチのガチデッキ使いです。そのうちBF使いとなりガエル使いとなり甲虫装機使いとなり征竜使いとなり魔導使いとなるでしょう。


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第76話  帝王たちの戦い

丸藤亮 LP4000 手札4枚

場 なし  

伏せ なし

 

田中  LP4000 手札5枚

場 風帝ライザー

伏せ なし

 

 

 

 田中先生の場には攻撃力2400の風帝ライザー。リバースカードはセットされていないため、次のターンに黄泉ガエルをコストに再び帝モンスターを召喚できる用意が整っている。

 リバースカードがなくモンスターが一体だけしかいないというのは亮にとって寧ろ喜ばしいことのはずだ。なにせクリボーのような手札誘発がなければ確実にサイバー・ドラゴンの融合体の火力をぶつけることができるのだから。

 しかし相手が相手だけに喜び以上のプレッシャーがある。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 ドローしたカードは残念ながらサイバー・ツイン・ドラゴンやサイバー・エンド・ドラゴンを召喚することを可能にしてくれるカードではなかった。

 少しばかり不味い状況だ。田中先生の手札如何によっては次のターンにでもチェックをかけられる恐れがある。

 

(あぁ、そんなのはいつものことか)

 

 デュエルにおいて本当の意味での代わり映えもない連続は存在しない。どれだけ優位に立とうと、どれだけの劣性にあろうと、ドローカード一枚で全てが引っ繰り返るものだ。

 亮はプロリーグのデュエルで手札0枚でライフ50、相手の場には最上級モンスターとリバースカードが五枚づつという状況から、ドローカード一枚で引っ繰り返した奇跡の逆転劇すらお目にかけたことがある。

 

(手札がないなら……引き寄せるのみ)

 

 亮はカードをデュエルディスクにおく。

 

「俺はモンスターをセット。そしてカードを三枚セット。ターン終了だ」

 

「私のターン、ドローフェイズ終了後のスタンバイフェイズ。私は墓地より黄泉ガエルを蘇生させる」

 

 田中先生の手札は合計6枚。あれだけあれば帝モンスターの一体くらいは既に持っているだろう。仕掛けてくるか。

 亮の思考を読んでいたかのように田中先生は一枚のカードを手札から抜き取った。

 

「私は黄泉ガエルを生け贄に捧げ、氷帝メビウスを攻撃表示で召喚」

 

 

【氷帝メビウス】

水属性 ☆6 水族

攻撃力2400

守備力1000

このカードが生け贄召喚に成功した時、

フィールド上の魔法・罠カードを2枚まで選択して破壊できる。

 

 

 風の帝たる風帝ライザーに続き降臨するのは、氷の甲冑に身を包む氷の皇帝。氷帝メビウスだった。

 二体の帝が並ぶとその様子は壮観である。周りの観客たちが感嘆の声をあげたのが亮の耳にも届いた。しかし観客は呑気でいいが、対戦者である亮は感心ばかりしていられない。

 なによりメビウスは全帝モンスターの中で唯一、ノーリスクで二枚以上のカードを破壊する効果をもっているのだ。

 

「生け贄召喚に成功した時、メビウスのモンスター効果が発動。フィールド上の魔法・罠カードを二枚まで破壊できる。フリーズ・バースト」

 

 氷の礫が襲い掛かり亮のセットカードを二枚破壊した。二枚以上のリバースカードがあれば一体の生贄で確実に二枚を破壊する。これがメビウスの恐ろしさだ。ミラーフォースのような攻撃誘発の罠などには天敵といっていい。

 

「破壊したカードは……ほほう。パワー・ボンドと融合か。明らかにセットしておくべきカードではないな。となると……魔法カード、抹殺の使徒を発動」

 

 

【抹殺の使徒】

通常魔法カード

フィールド上に裏側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊し、ゲームから除外する。

それがリバース効果モンスターだった場合、お互いのデッキを確認し、

同名カードを全てゲームから除外する。

 

 

「セットしたモンスターを一体破壊し除外する……」

 

「くっ……!」

 

 亮のセットしたモンスターが真っ二つに引き裂かれた。そして表側表示になったモンスターはメタモルポット。

 

「メタモルポットはリバース効果モンスター。よって抹殺の使徒の第二の効果。互いのデッキを確認し同名カードを全て除外する。

 しかしメタモルポットは制限カード。よって君のデッキにはもうないが、私のデッキには存在する。私は私のデッキよりメタモルポットを除外する」

 

 一旦デュエルディスクからデッキを引き抜いた田中先生は、山札からメタモルポットのカードを取り出すと除外ゾーンに置く。

 これで相手のメタモルポットを失わせることが出来たが、この状況では亮にとってなんの救いにもなりはしない。

 

「バトルフェイズ。氷帝メビウスで相手プレイヤーをダイレクトアタック。アイス・ランス!」

 

「罠発動! 攻撃の無力化、バトルを無効にしてバトルフェイズを終了させる」

 

 

【攻撃の無力化】

カウンター罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 

 

 氷帝メビウスの攻撃が亮の前に発生した渦に呑まれ消失した。

 間一髪のところだった。もしこのカードが無事でなければ合計4800のダメージを受けて敗北が決定していたところだ。

 

「……攻撃の無力化を予めセットしておきながら、敢えて二枚のリバースカードを次の自分のターンではなくメタモルポットと同時に伏せたのはメビウスを警戒してのことか。慎重なことだ」

 

「俺の目指すプロリーグに嘗て名を馳せた人物を相手にしているんです。慎重にもなりますよ。俺のターン、ドロー!」

 

 少しは運が向いてきたらしい。パワー・ボンドと融合を失ったためサイバー・エンドを召喚することはできなくなっているが、ドローソースを引き当てることができた。

 

「俺は天空の宝札を発動、手札より光属性天使族を除外して二枚ドローする。ただし俺はこのターン、特殊召喚とバトルを封じられる。シャイン・エンジェルを除外して二枚ドロー」

 

 

【天空の宝札】

通常魔法カード

手札から天使族・光属性モンスター1体をゲームから除外し、

自分のデッキからカードを2枚ドローする。

このカードを発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚する事ができず、

バトルフェイズを行う事もできない。

 

 

 バトルも特殊召喚も出来ない為、速効性を捨てることになるがデュエルモンスターズは兎に角ドローすればドローするだけ可能性が広がる。

 事情がなければドローソースはバンバンと使うのが吉だ。

 

「モンスターとカードを一枚セット、ターン終了」

 

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズ時に黄泉ガエルを蘇生させ……強欲な壺、デッキよりカードを二枚ドローする。そして黄泉ガエルを生け贄に炎帝テスタロスを召喚。攻撃表示だ」

 

 

【炎帝テスタロス】

炎属性 ☆6 炎族

攻撃力2400

守備力1000

このカードが生け贄召喚に成功した時、

相手の手札をランダムに1枚捨てる。

捨てたカードがモンスターカードだった場合、

そのモンスターのレベル×100ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 

 風・氷と続いて次は炎だ。全身を西洋騎士を思わせるフルプレートで包み、手から灼熱の焔を発している姿は正に炎の皇帝だ。

 

「炎帝テスタロスの効果は相手手札を一枚捨てさせるハンデス。だが俺の手札は0、よって効果は発動できない」

 

「理解しているとも。今はそれで十分だ。私は炎帝テスタロスでセットモンスターを攻撃、灼熱鬼神斬ッ!」

 

 炎帝が手から炎で構成された大剣を現出させる。煌々と輝き空気を燃やす炎剣は幻想的でありながら見るものに恐怖心を植え付けるだろう。

 テスタロスは炎の剣で十文字にセットモンスターを引き裂いた。

 

「セットしていたモンスターはサイバー・ラーバァだ。効果によりデッキからサイバー・ラーバァを守備表示で召喚」

 

 

【サイバー・ラーバァ】

光属性 ☆1 機械族

攻撃力400

守備力600

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが攻撃対象に選択された時、

このターン戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

自分のデッキから「サイバー・ラーバァ」1体を

自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 サイバー・ドラゴンの蛹のようなモンスターはステータスこそ弱小だが、その身を挺してプレイヤーを守る。

 こういう時は本当に頼りになるカードだ。

 

「ならば続いて氷帝メビウスの攻撃」

 

 二枚目のラーバァが氷柱が突き刺さり破壊される。

 

「サイバー・ラーバァのモンスター効果、三体目のサイバー・ラーバァを守備表示で召喚」

 

「こちらもモンスターはまだいる。風帝ライザーでサイバー・ラーバァを攻撃」

 

 三体目のサイバー・ラーバァは風の刃により切り裂かれた。しかしこれで攻撃モンスターは全て攻撃したことになりバトルは終了する。

 

「上手く回避しつつデッキを圧縮したか。しかし防戦一方とはカイザーの名が泣くな。それとも悶々とサイバー・エンド・ドラゴンを召喚する準備でも整えているのか?」

 

「………………」

 

「まぁいい。私はターンエンドだ」

 

「俺のターン。一時休戦を発動、互いのプレイヤーは一枚カードをドローする。そして次の相手ターン終了時まで互いのプレイヤーが受ける全てのダメージは0になる」

 

 

【一時休戦】

通常魔法カード

お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。

次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。

 

 

 これでまた1ターン、時間を保たせた。田中先生にもドローを許し、手札を増やすことになるが止むを得ないだろう。

 

「カードを一枚セット、ターンエンド」

 

「私のターン、黄泉ガエルを蘇生して……邪帝ガイウスを攻撃表示で召喚する」

 

 

【邪帝ガイウス】

闇属性 ☆6 悪魔族

攻撃力2400

守備力1000

このカードの生け贄召喚に成功した時、フィールド上に存在するカード1枚を除外する。

除外したカードが闇属性モンスターカードだった場合、

相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

 

 

 風帝ライザーと同じく帝モンスターでも頭一つ飛び抜けた性能をもつ帝モンスター、邪悪なる皇帝。邪帝ガイウスが現れた。

 邪帝ガイウスは腕から闇の波動を発しながら、亮を見下ろす。

 これで帝の中で邪、風、氷、炎の帝が揃ったこととなる。これで地帝がいれば風林火山の発動条件が揃っていたところだ。

 

「邪帝ガイウスの効果、生け贄召喚に成功した時にフィールドのカード一枚を除外する。バーン効果は今は色々な意味で関係はないがね。デス・ヘイル・リジェクター」

 

 亮の伏せていたカードのうちミラーフォースがゲームから除外される。

 一発逆転のカードを消し去った田中先生は口元を釣り上げた。

 

「さて、これで追い詰めたな。一時休戦の効果で攻撃しても無意味なのでしないが……君の手札は0枚。所謂、絶体絶命の窮地というやつだ」

 

「手札は0枚だがライフはまだ1ポイントたりとも失っていない。尤もそれは貴方も同じですが」

 

「ライフなどものの数ではない。デュエルモンスターズにおいてより重要となるのはライフではなく手札コスト。手札0枚とはそれだけで絶望的だ。ましてやリバースカードが一枚ではな」

 

「……………」

 

「私は更にカードを二枚セット、ターンエンドだ」

 

「俺のターン」

 

 確かにこのままでは亮の負けだろう。伏せているもう一枚のカードもこの状況ではなんの役にも立ちはしない。

 しかも田中先生は黄泉ガエルの蘇生効果を捨ててリバースカードを二枚もセットしてきた。となればあの二枚は亮の逆転のカードを封じるカードに違いない。

 どちらにせよ次のドローでどうにかしなければ勝ち目はないだろう。

 

「ドロー!」

 

 そしてデッキは応えてくれた。

 

「光の護封剣を発動! 相手は3ターンの間、攻撃を封印される」

 

 

【光の護封剣】

通常魔法カード

相手フィールド上のモンスターを全て表側表示にする。

このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。

このカードがフィールド上に存在する限り、

相手フィールド上のモンスターは攻撃宣言できない。

 

 

 天空より三つの光剣が落ちてきて、帝モンスターたちの前に立ち塞がる。これでもう帝は獲物を前にして攻撃を封じられた。

 後は田中先生の手札に光の護封剣を除去するカードがないことを祈るしかない。

 

「ターンエンドだ」

 

 この3ターン、それが勝利のカギとなる。



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第77話  強さを求めた果てに

「不味いね。亮のリバースカードはこれまでの状況からみて大逆転を可能にする類のカードじゃない。もしも田中先生が光の護封剣を破壊するカードを引いたら終わりだ」

 

 デュエルを観戦していた吹雪は友人の圧倒的劣勢を苦虫をかみつぶしたような顔で見守る。

 吹雪の言う通り状況は絶体絶命といえるだろう。上級モンスターを四体並べ、防御も手札も万全な田中先生。対して手札ゼロでモンスターゼロの亮。デュエルモンスターズ初心者が百人見ても百人が亮の不利だと断言するだろう。

 ライフは互いに1ポイントも削られておらず4000のままだが、邪帝の一斉攻撃の前では4000のライフなど吹けば消える小火に過ぎない。

 

「しかも田中先生の帝モンスターの多くは場のカードを破壊、または除去する効果をもっている。もしも田中先生の手札にもう一枚の帝モンスターがいれば……」

 

「炎帝や闇帝とかならまだ良いが氷帝や風帝、それに邪帝ならもうこの時点でアウトだな」

 

 丈も同意する。場のカードを除外する邪帝、場のカードをデッキトップに戻す風帝、場の魔法・罠カードを二枚まで破壊する氷帝。

 この三体は帝モンスターの中でも強力な効果をもつカードたちで、恐らく田中先生も使い難い雷帝や地帝などは一枚も投入せず、風帝と邪帝を中心としたデッキを組んでいるだろう。

 田中先生の場にはリバースカードがあるため黄泉ガエルの蘇生効果は働かないが、それなら現在フィールドにいる帝を生け贄に新たな帝を召喚すればいいだけだ。

 同じモンスターを生贄にして同じモンスターを召喚するなど普通なら無意味な行動でしかないが、生贄召喚に成功して初めて真価を発揮する帝モンスターにとっては有効な戦術となりうる。

 

「けど……そう上手くいくかな。田中先生が最初にカード・ガンナーの効果を使って九枚のカードを墓地へ落とした時、墓地に送られてこそ意味のある黄泉ガエル以外にサイクロンや神の宣告、それにガイウスとメビウスが巻き添えを喰らっていた。

 亮が勝利の女神に見捨てられていないのなら、光の護封剣が保つ可能性は少なくはない」

 

「全ては運次第、か」

 

「……プレイイングや知識なんてものは練習や努力で幾らでも磨くことはできる。だけどここぞと言う時にキーカードをひく運までは努力してどうこうなるものじゃない。そして亮はここぞという時に強い勝負強さをもったデュエリストだ」

 

 これまで幾度となく丸藤亮というデュエリストとデュエルをしてきたからこそ分かることがある。

 丸藤亮という男はこんなことくらいで負けるような男ではない。カイザーという異名は伊達ではないのだ。

 仮に3ターン持ち堪えたとしても、ここから逆転するのは並大抵のことではないだろう。3ターンという時間は亮に逆転のカードを呼び込むかもしれないが、同時に相手に戦備を強化する時間を与えるということでもあるのだ。

 それでも丈は信じている。この三年間を共に過ごした幼馴染の実力というものを。

 

「泣いても笑ってもこれが俺達がこの学園でする最後のデュエルだ。頑張れ」

 

 デュエルは勝敗が全てではない。本当のデュエルとは勝ち負けなど超えたところに価値がある。

 しかしどうせなら勝ちたいというのが人情というもの。それが最後のデュエルだというのなら猶更だ。

 二人は静かにフィールドで暴帝と向かい合う友人にエールを送った。

 

 

 

丸藤亮 LP4000 手札0枚

場 なし  

伏せ 一枚

魔法 光の護封剣

 

田中  LP4000 手札4枚

場 風帝ライザー、氷帝メビウス、炎帝テスタロス、邪帝ガイウス

伏せ 二枚

 

 

 

「私のターンだ、ドロー」

 

 カードを引いた田中先生の表情が――――集中して観察していなければ分からないほど僅かに、歪む。

 首の皮が繋がったようだ。あの様子だと光の護封剣を除去するカードはなかったらしい。

 相手を倒す方法は攻撃以外にもバーンや特殊勝利などというものがあるが、田中先生のデッキタイプからしてそれはないだろう。攻撃以外に相手にダメージを与える手段は精々が炎帝テスタロスくらいだろうか。それだって一撃でライフを削りきれるほど大規模のものではない。

 

「ふん。更にリバースカードを一枚セットしてターンエンドだ」

 

「俺のターン……封印の黄金櫃を発動。デッキよりカードを一枚選んでゲームより除外。2ターン後のスタンバイフェイズ時、除外したカードを手札に加える」

 

 

【封印の黄金櫃】

通常魔法カード

自分のデッキからカードを1枚選択し、ゲームから除外する。

発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にそのカードを手札に加える。

 

 

 亮の半歩下がった後方に巨大な黄金の箱が出現した。眩い黄金の光は一目で純金であると事実を突きつけてくる。

 箱の中心にはサクリファイスなどにもあるウジャト眼が刻まれていた。

 

「デッキより俺が選ぶカードは……パワー・ボンド。俺はパワー・ボンドを黄金櫃に封印する」

 

「パワー・ボンドか。どうせならサイバー・エルタニンや激流葬でも選んだらどうだ? パワー・ボンドを手札に加えたところで手札に融合素材がなければ何にもならん」

 

「パワー・ボンドは俺の信じる最強の融合カードだ。確かに貴方の言う通り合理性でいうなら他のカードを選択するべきだったのかもしれない。だがデュエルには時に理屈や常識を超えた判断力を求められることもある。

 俺は俺の内より沸き立つ飽くなき本能に従ってデュエルをしている。仮にその果てに敗北が待っていたとしても、それが全力を尽くした結果ならば……俺は満足だ」

 

「…………」

 

「ターンエンドだ」

 

「私のターン。このターンはなにもせずターンを終了する。……どっちにせよ光の護封剣の効果は二ターン後に消える。それまでにこの布陣を打開することができなければ、やはり君の負けは動かない」

 

「だが光の護封剣の効果が消えた後、俺の手札には封印の黄金櫃よりパワー・ボンドを加えることができる」

 

「そう上手くいくかな。現在の君の手札は0。まぁ二連続でサイバー・ドラゴンをドローできればどうにかなるかもしれないが……」

 

 田中先生はそう挑発してくるが、本当のところはどうだか分からない。

 確かに二連続でサイバー・ドラゴンをドローできれば、パワー・ボンドで攻撃力5600のサイバー・ツイン・ドラゴンを召喚することができる。サイバー・ツイン・ドラゴンには二回攻撃できる効果があるので、二体の帝を攻撃すればワンショットキルの完成だ。

 しかしそんなことを暴帝と畏怖されたほどのデュエリストが予想できていないはずがない。

 あの三枚のカードにこちらの行動を妨害するカードが一枚もない、などと楽観を抱くことなど出来ようはずがなかった。

 サイバー・ツイン・ドラゴンを召喚しようとすれば、絶対になにかリバースカードで妨害してくる。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 このドローに丸藤亮というデュエリストの命運がかかっている。

 

「……っ!?」

 

 引いたカードはこの状況を100%逆転できるカードではなかった。サイバー・ドラゴンですらなかった。

 相手を破壊することも出来なければ、モンスターを特殊召喚もできない。けれど可能性を秘めたカードだった。

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

「伏せた、ということはサイバー・ドラゴンを引き当てることはできなかったようだな。私のターン、ドロー」

 

 最後の3ターンが訪れた。このターンで田中先生が光の護封剣を除去するカードを引いていたとしたら、亮はほぼ間違いなく敗北するだろう。

 それだけではない。田中先生がある行動に出ても、亮は本当の窮地に追いやることになる。

 亮の前には一本だけ天国へ続く細く長い糸がたらされているが、それが切断されることになるだろう。

 

「運が良いな丸藤。私はこの3ターンの間、遂に光の護封剣を除去するカードを引き当てることができなかった。あぁ、もしも次のターンで君が見事逆転しなければ……それも無駄になるがね」

 

「田中先生」

 

 これまでずっと学園生活を送る最中、亮はたびたび疑問に思うことがあった。そしてこのデュエルで田中ハルという男のデュエルを通して疑問は確信にかわった。

 田中先生は強い。『暴帝』の名に恥じぬプレイイングセンス、洞察力、読みの深さ。どれも超一流だ。プロリーグを引退して長いそうだが、今直ぐ復帰してもたちどころにトッププロに合流できるだろう。

 そう……田中先生は余りにも場違いなのだ。

 勿論プロデュエリストが引退後、後進の育成のためアカデミアの教師やプロのコーチになることはある。だがそれにしたって引退するのはプロでの活躍に限界を感じ始めた者や、年齢的にデュエルが困難になった者などが殆ど。田中先生のように栄光の絶頂から突然にプロを引退して教師になるような例はないだろう。

 ましてや田中先生はアカデミア本校の教師ではなくアカデミア中等部の教師なのだ。

 野球やサッカーでも同じように、中学生と高校生が戦えば大抵は高校生が勝つ。それはアカデミアでも同じで―――亮たちのような例外はさておき――――高等部の実力は中等部より上だ。

 そうなると必然、レベルの高い教師は中等部ではなく高等部に配属されることとなる。

 なのに田中先生は高等部ではなくここにいる。それが余りにもおかしい。

 

「どうして貴方ほど実力のあるデュエリストが中等部の教師に。いいえ、俺は教師になることを否定しているつもりはない。だが貴方は――――何故、DDへの挑戦という栄光への切符を手にしていながら、それを捨ててプロリーグから去ったんですか? 教えてください」

 

「……わざわざ聞かせるような話ではない。私から言えるのはプロリーグが子供が思うほどに健全な場所ではないということだ」

 

「健全では、ない」

 

「私に言わせれば魔窟だね。日々のデュエルで勝利すれば観客は喜び万雷の喝采が降り注ぐが、一度観客の期待に応えられなかっただけで簡単に歓声は非難にかわる。

 暴帝、暴君などと言われた私だがね。私からすれば移り気な観客の方が余程暴君だよ」

 

 そうして「気紛れだ」と前置きしてから、田中先生は話し始めた。

 田中先生――――田中ハルは高校一年生の頃に参加した大会で優勝し、そこでスカウトからプロに誘われプロリーグ入りした経緯をもつ。

 今でこそ暴帝と畏怖され、全盛期の頃は敵の精神を完膚なきにまで叩き潰し、多くの再起不能者を出したことから史上最低最悪のプロデュエリストとまで言われた田中ハルも最初からそんな人間だったわけではない。

 プロデュエリストになった最初の頃はレベルの高いプロでのデュエルを純粋に楽しんでいた。

 

「゛ズレ゛が出始めたのはプロ入りして一年後のことだ。弱かったせいで観客にそっぽむかれたんじゃあない。逆だ。今思い返せばそっちの方がどれだけ良かったか。

 運の悪いことに、私はあまりにも活躍し過ぎた。プロリーグに入った私は連戦連勝、一年間で敗北知らずだった。その頃にはマスコミも天才ルーキー現るって大騒ぎでね。私はヒーローだった」

 

「ヒーロー? それのどこが悪いことなんですか。活躍できなかったのならまだしも、活躍できているのなら何の問題も――――」

 

「あるんだよ。言っただろう、本当の暴君は観客だって。華々しい活躍をすれば、それだけ周りの期待は大きくなってしまう。今日勝ったなら次も勝てる。次も勝てばその次も勝てる。私自身はなにもかわらないというのに、期待だけがぶくぶくと肥え太っていく」

 

 それから必死に目を背けようとした。プロとしての責任よりも「デュエルを楽しむこと」。それが一番大事なことなのだと、同じくデュエリストだった従兄より教わって来たのだから。

 だが同時に観客をなによりも恐れていた。積み重ねた連勝記録。もしそれが破られたら、観客の歓声は一旦して中傷にかわる。

 実際そうやって誹謗中傷に耐え切れず潰れたデュエリストを見た事があったからこそ恐怖は一入だった。

 相手のプレイイングを研究し、把握し、それの対策を用意し、万全の用意をもって最適の戦術を選択し勝利する。

 けれどある日、気付いてしまったのだ。

 

「私は、楽しんでデュエルなどしていなかった。デュエルをしていて……まるで楽しくなかったんだよ。子供の頃は楽しかったデュエルは、もはや私にとって最適の戦術を淡々と選択するだけの作業に成り果てていた。

 それを自覚したら色々と吹っ切れてね。今までの馬鹿丁寧で良い子をしていた自分なんて捨てて、徹底的に最悪の人間になっていったよ。相手のプレイイングの穴をつき、相手の心を叩きつぶすのは何にも勝る鬱憤晴らしだった。なにより史上最低という響きが良い。評価が最下層ならどれだけ観客が非難しようと下がるということがない。気分的にも楽だった」

 

 史上最低のプロなんて言われ非難されても、田中ハルという暴君が君臨できたのはプロにはそういう人間が必要だったからである。

 人は勧善懲悪を好む。皮肉なことだが、その構図を成立させるためには悪役の存在が必要不可欠だったわけだ。

 暴帝ハルというデュエリストは正に悪としてうってつけだった。

 だがやがてそれも飽きた。悪役としての自分は中々にはまり役だったが、デュエルが面白くないという根本的な問題が解決しない以上、田中ハルの生活が灰色以外の色になることはなかったのだろう。

 

「暫く表面上の暴帝を演じる無味乾燥の日々が続いたが、やがてSリーグの不動の王者DDと挑戦するって話がきてね。その時には二代目キング・オブ・デュエリスト候補だとも騒がれていたが……」

 

 そして田中先生は一度だけ過去に浸るように目を瞑ると、

 

「私がDDに挑む前日、あの男が私の前に現れた。そう……海馬瀬人が」

 

「海馬、瀬人!?」

 

 デュエリストなら誰でも知っている名前だ。デュエルディスクの開発者にして海馬コーポレーション社長。

 そしてキング・オブ・デュエリスト武藤遊戯と肩を並べる伝説のデュエリストだ。一説によれば純粋なパワー勝負なら武藤遊戯を上回るとすら言われている。

 

「海馬瀬人は私にデュエルをもちかけてきた。相手は天下の海馬コーポレーション社長、拒否権などあるわけがない。そして私は海馬と戦い、敗北した。これ以上ないほど完膚なきまでに……どんな言い訳も霞んでしまう完敗だった。

 どんなにデッキを変えても、相性最悪のアンチデッキを構築して挑んでも、奴は一度もデッキのカードを変更していなかったにも拘らず敗北だった……。

 だが海馬とのデュエルは私に教えてくれたよ。私はデュエルが面白くなくなって、デュエルをまるで楽しめなかったんじゃない。私はたかが完璧なる計算と対策と戦術だけで倒せてしまうデュエリストたちとの戦いそのものに退屈していただけだった。

 それからの事は語ることのほどでもない。私は強さを追い求める為、つまらない相手ばかりのプロリーグを出奔し、気付けばここで教師などをしている。強さを求める旅の果てに出会った男に一度原点に戻れ、と駄目出しを喰らったからだろうな」

 

「旅の果てに、出会った男。それは一体」

 

 彼ほどのデュエリストに駄目押しできるほどの人物。そんな人間がいるというのか。

 

「あぁ。その男の名前は武藤遊戯とか言ったか……」

 

「武藤、遊戯……そんな、ここ暫く一度も公の場に姿を現してない最強のデュエリスト」

 

 デュエリスト・キングダム、バトルシティ・トーナメント。デュエルモンスターズ創始者ペガサス・J・クロフォードや海馬瀬人などの並みいるデュエリストを倒しキング・オブ・デュエリストの称号を得た生きる伝説。

 時がたちDDなど多くのデュエリストがプロリーグに出現した現代においても、彼の名は史上最強のデュエリストとして歴史に刻まれている。

 

「丸藤亮、いやカイザー亮。この世には常識では測れない力をもったデュエリストがいる。もしお前がその一人だというのなら、この私を倒してみろ。――――私は自らのターン終了を宣言する。この瞬間、光の護封剣の効果が消える」

 

 亮を守り続けた光の護封剣の消滅。次のターンからは並べられた四体の帝の攻撃が解禁となる。

 だが亮には一か八かのカードが伏せられている。

 

「……俺は、この瞬間を待ち望んでいた。貴方の手札が充実し尽くし、俺の手札が限界ギリギリまでなくなるこの瞬間を」

 

「なに?」

 

「これがカイザー亮としての一世一代の賭けだ! リバースカードオープン! ギャンブルッ!」

 

 

【ギャンブル】

通常罠カード

相手の手札が6枚以上、自分の手札が2枚以下の場合に発動する事ができる。

コイントスを1回行い裏表を当てる。

当たった場合、自分の手札が5枚になるようにデッキからカードをドローする。

ハズレの場合、次の自分のターンをスキップする。

 

 

「ギャンブル、だと?」

 

「このカードは自分の手札が二枚以下、相手の手札が六枚以上の時のみ発動できる。コイントスを行い、表か裏かを当てる。当たれば五枚ドロー、外れれば俺は次のターンをスキップする」

 

 田中先生はこれまで最小限の消費で最大の効果を齎すことを念頭にデュエルを進めてきた。

 だがデュエルモンスターズにはピンチの時でこそ発動できない逆転のカードがある。このカードはそのうちの一枚だ。

 

「ちなみに言うならターンがスキップされた場合、帝モンスターたちの総攻撃を防ぐ術は俺にはない。外れた瞬間、俺の負けが確定する」

 

 勝てば五枚のドロー、外れればターンのスキップ。敗北が死に直結するハイリスクハイリターンのギャンブルカードだ。 

 

「可能性は50%……そんな賭けなど」

 

「外しはしないさ。さっきも言ったはずだ。俺は丈と違ってこの手のギャンブルは得意だと。コイントス! 俺は表を選択!」

 

 ソリッドビジョンのコインが空中で回転する。それが止まった時、出ていたのは表。

 

「賭けに勝ったぞ。俺は五枚のカードをドロー。そして俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズ時、パワー・ボンドが手札に加わる!」 

 

 0枚だった手札が一気に七枚になった。そして七枚の手札の中には逆転のカードが眠っている。

 

「永続魔法、未来融合-フューチャーフュージョン発動! 自分のデッキの融合モンスターを互いに確認し、決められた融合素材モンスターを墓地へ送る。そして2ターン後のスタンバイフェイズ、その融合モンスターを特殊召喚する」

 

 

【未来融合-フューチャーフュージョン】

永続魔法カード

自分の融合デッキに存在する融合モンスター1体をお互いに確認し、

決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。

発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、確認した融合モンスター1体を

融合召喚扱いとして融合デッキから特殊召喚する。

このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。

そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 

 

「俺はキメラテック・オーバー・ドラゴンを選択、キメラテック・オーバー・ドラゴンはサイバー・ドラゴンとそれ以外の機械族モンスターを素材とする融合モンスター。

 よって俺はサイバー・ドラゴン三枚、プロト・サイバー・ドラゴン三枚、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ二枚、サイバー・エルタニン。サイバー・ジラフ、サイバー・ヴァリー三枚を墓地へ送る!」

 

「墓地へ送ったモンスターは合計13枚か。だがキメラテック・オーバー・ドラゴンが召喚されるのは2ターン後。だというのにここで使ったと言う事はあのカードがあるということか」

 

「お察しの通りだ。魔法カード、オーバー・ロード・フュージョンを発動ッ!」

 

 

【オーバー・ロード・フュージョン】

通常魔法カード

自分フィールド上・墓地から、

融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを

ゲームから除外し、機械族・闇属性のその融合モンスター1体を

融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

「俺はサイバー・ドラゴン三体、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ三体、プロト・サイバー・ドラゴン三体、サイバー・ラーバァ三体、サイバー・ヴァリー三体、サイバー・エルタニン、サイバー・ヴァリー三体、サイバー・ジラフをゲームより除外! キメラテック・オーバー・ドラゴンを融合召喚するッ!」

 

 

【キメラテック・オーバー・ドラゴン】

闇属性 ☆9 機械族

攻撃力?

守備力?

「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが融合召喚に成功した時、

このカード以外の自分フィールド上のカードを全て墓地へ送る。

このカードの元々の攻撃力・守備力は、

このカードの融合素材としたモンスターの数×800ポイントになる。

このカードは融合素材としたモンスターの数だけ

相手モンスターを攻撃できる。

 

 

 融合素材としたモンスターの数は20。よって攻撃力は16000だ。

 更にキメラテック・オーバー・ドラゴンは融合素材モンスターの数だけ攻撃できる効果がある。この攻撃が通れば亮の逆転だ。

 だが田中先生もさるもの。それを許しはしない。

 

「させはしない。私は奈落の落とし穴発動。召喚したキメラテック・オーバー・ドラゴンを破壊して除外する」

 

「読んでいた。リバースカードオープン、禁じられた聖槍! エンドフェイズまで選択したモンスターの攻撃力を800ポイントダウンさせ、このカード以外の魔法・罠の効果を受けなくする。俺はキメラテック・オーバー・ドラゴンを選択ッ!」

 

 

【禁じられた聖槍】

速攻魔法カード

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。

エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は800ポイントダウンし、

このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない。

 

 

「これで奈落の落とし穴の効果は不発に終わる」

 

「それはどうかな。こちらも速攻魔法、禁じられた聖杯を発動! モンスターを一体選択、そのモンスターの攻撃力を400あげ、効果をこのターンの間まで無効化する。チェーンにより逆順処理により、後に発動した禁じられた聖杯の効果が先に適用され……キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は400ポイントとなる! 更にお前の禁じられた聖槍が適用され攻撃力800ダウン!」

 

 攻撃力16000のキメラテック・オーバー・ドラゴンが一気に攻撃力0の弱小モンスターに早変わりした。

 幾らこのターン、魔法・罠の効果を受け付けないと言ってもこれでは壁にもならない。

 

「まだまだァ! 魔法カード、次元融合! 2000ポイントのライフを支払いお互いに除外されたモンスターを場に特殊召喚する! 現れろ三体のサイバー・ドラゴンッ! プロト・サイバー・ドラゴンッ!」

 

 

【次元融合】

通常魔法カード

2000ライフポイントを払う。

お互いに除外されたモンスターをそれぞれのフィールド上に可能な限り特殊召喚する。

 

 

 場に三体のサイバー・ドラゴンが勢ぞろいする。更に亮の手札には封印の黄金櫃により手札に加えたパワー・ボンドのカードがある。

 

「いくぞ。俺はパワー・ボンドを発動! 今こそ降臨しろ、我が魂! 我が信念! 我が命の化身! サイバー・エンド・ドラゴンッ!」

 

 

【サイバー・エンド・ドラゴン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力4000

守備力2800

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 ここまでのデュエルで召喚しなかった時などないのではないか、そう思わせるほど常に共にあったサイバー・エンド・ドラゴンが主の前に降り立つ。

 攻撃力はパワー・ボンドの効果により8000ポイント。彼のオベリスク、オシリスといった神々でさえこの攻撃力の前には膝を屈しよう。

 

「場のプロト・サイバー・ドラゴンとキメラテック・オーバー・ドラゴンを融合しキメラテック・フォートレス・ドラゴンを召喚! 総攻撃を仕掛ける! サイバー・エンド・ドラゴンで邪帝ガイウスを攻撃! エターナル・エヴォリューション・バーストッ!!」

 

「まだだ……まだ超えられると思うな。罠カード、次元幽閉! 相手が攻撃してきた時、その攻撃モンスターをゲームより除外する」

 

 邪帝ガイウスの前に次元の歪が現れ、それがサイバー・エンド・ドラゴンを呑み込む。

 幾ら神をも超える攻撃力をもとうとサイバー・エンド・ドラゴンに罠に抗う力はない。為す術もなくそれに呑まれるしかなかった。……………はずだった。

 

「な、に?」

 

 けれど田中先生が目にしたのは次元に呑まれるサイバー・エンド・ドラゴンではなく、亮の前に並ぶ三体のサイバー・ドラゴンだった。

 

「貴方ならサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃を回避できると思っていた。これが……俺の本当の切り札。速攻魔法、融合解除。サイバー・エンド・ドラゴンの融合を解除し三体のサイバー・ドラゴンを墓地より召喚した。

 田中先生、貴方は強さを求めてプロリーグをやめて旅に出たと言った。俺もデュエリスト、強さを追い求める気持ちは俺にもある。その果てに丈や吹雪たちと道を違える日がくることもあるかもしれない。

 だが俺は一人ではない。孤高であっても孤独ではない。何故ならば俺には常にサイバー・ドラゴンがいるからだ! 俺は超えてみせる。パーフェクトという限界を求めず、超え極限を超えた先へ辿り着く! これが最後の力だ! 速攻魔法、リミッター解除! 場の機械族モンスターの攻撃力を倍にする!!」

 

 三体のサイバー・ドラゴンの攻撃力は2100。それの二倍なのだから攻撃力は4200だ。

 チェックメイトを告げるように亮は振り上げた手を落とした。

 

「三体のサイバー・ドラゴンの一斉攻撃、トライアングル・エヴォリューション・バーストッ!」

 

 同時に放たれる三つの攻撃はまるで亮と丈と吹雪。三人常に共にあった学園生活を象徴するものだった。

 三つの閃光が三体の帝王を貫き、暴帝の命を断つ。

 田中先生のデュエルディスクが0を刻んだ。

 

「……これだからデュエリストというのは。どれだけ若くても馬鹿に出来ない。この爆発力、常識を超えた強さこそが……私が、俺が敗れた力そのものだったか。

 見事なデュエルだった。丸藤亮、卒業おめでとう」

 

 自然と会場中から拍手が鳴り始める。喝采の中、亮は握手を求めたが田中先生は応じる背中を向けてしまう。

 

「私は歓声や拍手というやつが大の嫌いでね。失礼する」

 

 最後まで嫌味たっぷりに、田中先生は背中を向けると行ってしまった。

 

「先生! 最後にもう一つ、なんで貴方はレベルの高い高等部ではなく中等部に? 貴方の実力なら高等部の教師になるのも楽だったでしょう」

 

「ん? 私は歩いて五分以内に24時間営業のコンビニがある場所にしか住まない主義なんだ」



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第78話  兄妹対決、キングの力

 カイザー亮と田中先生こと暴帝ハルのデュエルから一週間。今年の三人の首席の一角を担い、去年の首席でもあるキング――――天上院吹雪の卒業模範デュエルがやってきた。

 吹雪が指名した相手は天上院明日香。苗字で分かるようにキング吹雪の実の妹である。

 その実力は三年首席三人を除けばアカデミア中等部でもトップクラスで、女生徒だけのランキングなら学園ナンバーワンは固いだろう。

 学年が違うということもあって、プライベートはさておき吹雪と明日香が大勢の人が見守る中でデュエルをした事は一度もない。そのため天上院兄妹が遂に正面から激突するという情報は雷光の如きスピードで学園中を駆け巡った。必然、卒業模範デュエルの会場は観戦しにきた生徒や教師などで満員である。

 

「きたわ!」

 

 デュエル場へと歩いていく吹雪を見つけた生徒の一人が叫ぶ。するとそれを切欠に吹雪のファンクラブである女生徒を中心とした歓声が降り注いだ。

 

「吹雪様ーーーーーーーー!」

 

「素敵です、フブキング! こっちを見て下さい!」

 

「きゃぁぁぁあああ! 吹雪様と目が合ってしまったわ!!」

 

 吹雪も慣れたもので、爆発的な歓声に動じたりはせず逆に観客たちの方を向くと、

 

「応援ありがとう! 君達の熱い思い……受け取ったよ」

 

 そう言うと吹雪は茶目っ気に微笑み悪戯っぽく投げキッスをした。ファンである女生徒たちの興奮はピークとり、一部の人間は余りの興奮でそのまま失神してしまった。

 吹雪のような女生徒に絶大な人気を誇るアイドル的な人間は、その殆どが逆に男子生徒からは冷たい視線を向けられたり嫉妬を抱かれたりするものなのだが、こと吹雪に関してはそれらとは無縁だった。寧ろ男子生徒にも吹雪を尊敬する人間は非常に多い。吹雪のもつ人徳が故だろう。

 しかし歓声を受けることに慣れ親しんでいる吹雪はともかく、対戦者である明日香の方はどことなく居心地が悪そうにしていた。

 兄妹だからといって性格まで似ているわけではない。端正な顔立ちやデュエルセンスは兄妹ともに恵まれているが、お茶目でプレイボーイでお祭り好きな吹雪に対して、明日香はクールで真面目な少女だった。

 

「おや明日香、浮かない顔だね」

 

「……誰のせいだと思ってるの。けど、兄さんらしいといえばらしいかしら」

 

 頭を抑えながらも、僅かに口元を緩める明日香。

 どれだけ普段の吹雪がハイテンションで自重しない人間だったとしても、明日香にとって吹雪は尊敬すべき兄でありデュエリストだ。そんな彼の中学生最後の対戦相手に指名されて嬉しくないわけがない。

 明日香のそんな内心を知ってか知らずか、吹雪は少しだけ真面目な顔つきになる。

 

「明日香、僕はこのデュエルが終わればアカデミアを卒業する。このアカデミアで明日香と過ごしたのは一年だけだったし、授業も教室も学年も違かったけど一緒に学生をできて楽しかったよ」

 

「私もよ。昔は私、兄さんより強いデュエリストなんていないと思っていたわ。最強のデュエリストは兄さんで、私は兄さんに次ぐナンバーツーのデュエリストだった。……けどこのアカデミアで自分が見ていた世界の小ささを知ったわ。

 ここには亮や宍戸先輩みたいに兄さんと互角の腕をもつデュエリストがいて、世界にはまだまだ強いデュエリストたちがいる。そのことをこの一年間に身に刻んできたつもり」

 

「……僕は君の兄であると同時に一人のデュエリストだ。妹が相手でも手加減はしない。君の一年間を見せてくれ、僕もこの三年間の成果を見せよう」

 

「ええ!」

 

 吹雪と明日香のデュエルディスクが同時に起動する。

 自分に負けじとデュエルディスクを構え堂々と立つ妹を見て、吹雪は嬉しいと同時に寂しい気持ちも抱く。これは我が子が独り立ちするのを見送る親の心境にも近いかもしれない。

 学園ではI2カップでの騒ぎの余韻も手伝いあまり一緒にいれた時間は多くなかった。だが自分が見ていない間にも大切な妹はしっかりと成長していたのだ。

 昔はデッキ構築も色々と手伝ってあげていたが、もうそれも必要ないだろう。明日香はしっかり自分の両足で立つデュエリストだ。

 

「レディース・エーンド・ジェントルメーン!!」

 

 大きく両腕を広げ、観客席を一望する。視界の端に腕を組み観戦している二人の友人を見咎めて小さくウィンクする。

 

「御集りの諸君! 君達の瞳にはなにが見える?」

 

 吹雪が真っ直ぐ指を差すのは天井だ。その答えに最初に思い至ったらしい女生徒がポツリと呟く。

 

「……天井?」

 

「ノンノン。もっと縮めて」

 

「えと、じゃあ天?」

 

「ん~~~~~~~~~~~JOINッ!!」

 

『きゃぁぁぁああああああああ!! 吹雪様ぁぁぁああああああああああ!!』

 

 天上院、二つにわけると天と上院。上院だからJOIN。合わせて天JOIN。サインなどの時、吹雪が好んで使う呼び方だった。同じものにフブキングなどがある。

 最初の真面目な雰囲気はどこへやら。吹雪はダンサーのようにくるくると舞いながら拍手に応えている。

 けれどチャらけているようでいて、対戦者である明日香を見る視線だけは真面目そのもの。

 

「さぁ! 明日香、デュエルだ!」

 

「ええ!」

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

天上院明日香 LP4000 手札5枚

場 無し

 

天上院吹雪 LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

「レディーファーストだ。先攻は後輩である明日香からだよ。僕は後攻をもらうね」

 

 髪をかきあげながら吹雪は最初のターンを譲る。以前の田中先生と亮のデュエルでも首席である亮は後攻だったが、あれは亮のデッキが後攻有利なデッキだったからだ。

 対して吹雪のデッキはセオリー通りの先攻有利なタイプ。それが分かっていて後攻を譲るのは……吹雪の言葉に全てが集約されているだろう。

 

「私に先攻を譲ったこと後悔させてみせるわ。私はマンジュ・ゴットを攻撃表示で召喚する」

 

 

【マンジュ・ゴッド】

光属性 ☆4 天使族

攻撃力1400

守備力1000

このカードが召喚・反転召喚に成功した時、

自分のデッキから儀式モンスターまたは

儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。 

 

 

 数えきれないほどの無数な手に銀褐色に濁った全身。瞳は赤く、怒りの形相を浮かべている。外見は中々凶悪なものだが、その見た目に反してマンジュ・ゴッドは光属性天使族のモンスターである。

 

「およ、マンジュ・ゴッドということは……?」

 

 マンジュ・ゴッドは召喚・反転召喚した際に儀式モンスターか儀式魔法をデッキからサーチするという優れた効果から、儀式モンスターを主軸とするデッキにおいては必須とすらいえるカードだ。

 丈のトラウマであるショタコン教諭のサクリファイスデッキにも投入されていた。

 

「マンジュ・ゴッドのモンスター効果、私はデッキより機械天使の儀式を手札に加える。カードを一枚伏せてターンエンドよ」

 

「僕のターン」

 

 明日香の先攻ターンは攻撃が出来ない為、一気にカードを展開するようなことはせず、次のターンでの準備をするだけに留まった。

 吹雪は自分の手札に視線を落とす。

 

「…………」

 

 この手札なら明日香のように次のターンのための布石を整えることも、逆にこのまま一気に展開することも出来る。

 やや妹馬鹿に聞こえるかもしれないが、吹雪は明日香の実力を誰よりも知っていた。クールなように見えて明日香は自分の身を削っても相手を倒してみせるという気迫に溢れたデュエリストだ。下手に行動を渋っていれば痛い目に合う。

 

(それに)

 

 これは天上院吹雪がアカデミア中等部でする最後のデュエル。このデュエルくらい後先考えずに思いっきり戦うのも悪くない。

 吹雪の心は決まった。いや既に決まっていた心が定まった。

 

「魔法カード発動、竜の霊廟! デッキからドラゴン族モンスターを一体墓地へ送る」

 

 

【竜の霊廟】

通常魔法カード

デッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る。

墓地へ送ったモンスターがドラゴン族の通常モンスターだった場合、

さらにデッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

「竜の霊廟」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

 弘法筆を選ばずという諺がある。優れた人間はどんな道具でも優れた結果を生むという意味だ。けれど良い道具を使った方が良い結果が生まれるというのも一つの事実である。

 吹雪は優れたデュエリストでどんなデッキをもっていたとしても十全に使いこなせるが、やはり優秀なカードがあればあるほど強さは増すだろう。

 そういう意味でI2カップで入賞した者に配られた大会限定パックは本当に良い贈り物だった。吹雪のドラゴン族デッキにぴったりのカードを多く封入してくれていたのだから。

 お陰で吹雪のデッキは大会前よりも格段に強化された。

 

「僕はデッキより真紅眼の黒竜を墓地へ送る。さらに墓地へ送ったモンスターがドラゴン族通常モンスターだった場合、もう一体ドラゴン族モンスターを墓地へ送ることができる。

 墓地へ送ったレッドアイズは当然通常モンスター。よって僕は追加で輝白竜ワイバースターを墓地へ送る」

 

 デッキのモンスターを墓地へ送るカードには『おろかな埋葬』があるが『竜の霊廟』は通常モンスターを投入するドラゴン族デッキであれば上位互換として使用できる優秀なカードだ。

 吹雪のデッキにはレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンなど墓地を利用する効果が多いため非常に便利である。

 

「そして! 僕はアレキサンドライドラゴンを攻撃表示で召喚する」

 

 

【アレキサンドライドラゴン】

光属性 ☆4 ドラゴン族

攻撃力2000

守備力100

 

 

 アレキサンドライトの鱗をもった幻想的なドラゴンが舞い降りる。

 I2カップではレベッカの使用したアメリカで先行発売されたカードだが、I2カップ大会の限定パックに封入されていた為に吹雪も手に入れていたのだ。

 通常モンスターのため効果はないが、逆に言えばデメリット効果もない。星4で攻撃力2000というのは単純故に強力だ。

 だが吹雪がこのカードを召喚したのは、このカードで攻撃する為ではない。

 

「いくよ。僕はフィールドのドラゴン族モンスターをゲームより除外し、降臨せよ! レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン!」

 

 

【レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン】

闇属性 ☆10 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力2400

このカードは自分フィールド上に表側表示で存在するドラゴン族モンスター1体を

ゲームから除外し、手札から特殊召喚できる。

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に手札または自分の墓地から

「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外の

ドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる。

 

 

 吹雪のデッキの中核を担うドラゴンにして、レッドアイズの最終進化形態。レベルは破格の10であり攻撃力も2800と高い。

 

「レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン……こんなに早く見ることになるなんて」

 

 いきなりの最上級モンスターの召喚に気丈な明日香が僅かに動揺の色を垣間見せた。

 しかしこのデュエル、容赦はしないと吹雪は決めている。

 

「レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンのモンスター効果! 1ターンに1度だけ墓地または手札のドラゴン族モンスターを特殊召喚する。蘇れ、真紅眼の黒竜!」

 

 

【真紅眼の黒竜】

闇属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力2000

真紅の眼を持つ黒竜。怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす。

 

 

 二体の紅き目をもつ黒竜が並んだ。融合を主軸とする亮、生け贄召喚を主軸とする丈に対し吹雪はレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンの効果を始めとした特殊召喚でモンスターを並べていくデュエリスト。

 こと展開速度に限っていえば三人の中でも随一だろう。

 

「バトルフェイズ!」

 

 明日香のフィールドには攻撃力1400のマンジュゴッドが一枚だけ。モンスターの攻撃が通ればライフを一気に減らすことができる。

 けれど、

 

「……と、いきたいところだけど今はやめておこうか」

 

「なっ!? 攻撃を止めるですって……?」

 

 相手に大ダメージを与えるチャンスを棒に振る決断に明日香の目が大きく見開かれる。

 

「兄さん、全力で戦うのじゃなかったの。手加減をしてくれているつもりなら寧ろ屈辱だわ」

 

「怒らないでくれ明日香。僕は君のことを舐めているわけじゃないし侮っているつもりも侮辱しているつもりもない。僕は全力で戦っているさ、今もね。それとも明日香は僕に攻撃して欲しいのかな?」

 

 吹雪の視線が明日香の場にセットされたリバースカードに注がれる。さすがに明日香も表だって動揺をみせることこそしなかったが、ほんの少し頬の筋肉が歪んだのを吹雪は見逃さなかった。

 普段の態度から勘違いされがちだが、吹雪は鋭い洞察力の持ち主である。空気を読めない行動をする時が多いが、それはわざと空気を読んでいないだけで読めないわけではない。読めないと読まないは似ているようで全く違うのだ。

 その優れた洞察力は伏せられた危険性を敏感に嗅ぎ取っていた。

 

「さて。僕はカードを二枚セットしてターンを終了しよう。明日香のターンだ」

 

「私のターン、ドロー! 強欲な壺を発動して新たに二枚をドローするわ。……兄さんが攻めてこないなら、こちらから攻めるだけ。

 前のターン、マンジュ・ゴッドの効果で手札に加えた儀式魔法、機械天使の儀式を発動! フィールド上のマンジュ・ゴッドと手札のブレード・スケーターを生け贄に捧げ、サイバー・エンジェル―茶吉尼―を攻撃表示で召喚!」

 

 

【サイバー・エンジェル―茶吉尼―】

光属性 ☆8 天使族

攻撃力2700

守備力2400

「機械天使の儀式」により降臨。

このカードが特殊召喚に成功した時、相手プレイヤーは相手フィールド上の

モンスター1体を選択して破壊する。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。

 

 

 吹雪は儀式召喚されたモンスターをしげしげと観察する。

 機械染みた装飾のされた服装に四つの腕にもった武器。茶吉尼という名前から察するに仏教の荼枳尼天を由来とするカードだろう。

 レベル8の最上級儀式モンスターだけあってカオス・ソルジャーに劣るものの攻撃力も2700と高い。けれど吹雪の場には攻撃力2800のレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンがいる。これをどう突破してくるか。

 

「サイバー・エンジェル―茶吉尼―のモンスター効果、このカードが特殊召喚された時、相手モンスター1体を破壊する。けどその破壊するモンスターは相手が選ぶことができる」

 

「……なら僕が破壊するのは真紅眼の黒竜だ」

 

 レッドアイズが茶吉尼の武器に貫かれ撃破される。だがレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンがいる以上、茶吉尼がレッドアイズを破壊したところで無駄だ。次のターン、レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンの効果で直ぐに復活するのだから。

 ドラゴン族デッキは場にレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンがいる限り不死身の力を授かるといっても過言ではないだろう。

 

「そうすると思っていたわ。けどね、私の攻撃はこれで終わるほど温くないわよ。私は召喚した茶吉尼を生け贄に捧げる!」

 

「儀式召喚した機械天使をまた生け贄にするだって!?」

 

「新たに私はサイバー・プリマを攻撃表示で召喚するわ」

 

 

【サイバー・プリマ】

光属性 ☆6 戦士族

攻撃力2300

守備力1600

このカードの生け贄召喚に成功した時、

フィールド上に表側表示で存在する魔法カードを全て破壊する。

 

 

 フィールドを舞い踊るプリマドンナ。上級モンスターにしては攻撃力2300と及第点に少し及ばないものの、場の表側魔法カードを全て破壊する効果がある。ロック系デッキには天敵として機能するだろう。

 しかし吹雪の場に表側の魔法カードはなく、この状況で茶吉尼を生け贄にしてまで召喚する価値のあるモンスターではない。

 一体なにを考えているのか。その答えはすぐに示される。

 

「勝利の布石は整ったわ! 私は魔法カード、死者蘇生で墓地に眠るサイバー・エンジェル―茶吉尼―を蘇生する! そして茶吉尼の効果が再び発動するわ」

 

「そうか。サイバー・エンジェル―茶吉尼―の効果は特殊召喚をトリガーにするもの。儀式召喚時のみを指定する効果じゃない」

 

「当たりよ兄さん。茶吉尼の効果で相手フィールド上のモンスターを一体破壊する。その選ぶモンスターだけど……必要ないわね。兄さんの場にはレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンしかいないのだから」

 

 明日香の宣言通り、茶吉尼がレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを破壊してしまう。

 怒涛の効果二連発。吹雪のフィールドはゼロになった。

 

「サイバー・エンジェル、機械天使……どれも前は使っていなかったカードだ。お気に入りのカードを見つけられたみたいだね」

 

 アカデミアに入学する前、明日香は勝つ為に単純に強いカードばかりを入れたデッキを使っていた。

 確かに強いカードばかりを入れれば単純に強いデッキが出来上がるだろう。しかしデュエルモンスターズというゲームは強いカードばかりを入れれば良いわけではない。デュエルモンスターズの真価はカードとカードの力を組み合わせることにより可能性(コンボ)にこそある。そして同時にカードとの信頼関係、これも大切なことだ。

 好きなカードと信頼関係を結び、そのデッキだけの可能性を見つける。明日香はそのことをもう身に着けていた。これはもう自分もうかうかしてはいられなさそうだ。

 

「兄さん、新たな門出に泥を塗るようで悪いけど……やるからには勝つわ! バトルフェイズに突入!」

 

 吹雪のフィールドはがら空きだ。二体のモンスターの攻撃力の合計は5000。

 二体のモンスターの攻撃が吹雪に襲い掛かった。

 

「妹の全身全霊の攻撃、受け止めてあげたいのが兄の情だけど時に突き放すのも愛情ってね。リバース発動、和睦の使者! このターンのダメージを0にする。よって二体のモンスターの攻撃は無意味」

 

「っ! 後少しだったのに……!」

 

 掴みかけた勝利を逃した悔しさで明日香が唇を噛む。

 このターンで勝負をかけるため明日香はかなりの数の手札を消費していて現在の手札は僅か一枚。最上級モンスターと上級モンスターがいるとはいえど痛いだろう。

 

「私は、これでターンを終了するわ」

 

「僕のターンだね、ドロー」

 

 幸先が良い。待っていたカードがこのタイミングできてくれた。それにこのフィールドの状況……悪くない。

 慈しむように明日香を守る二体のモンスターを見つめる。明日香が見出した自分だけのフェイバリットカード。それに応えるにはこちらのフェイバリットで応じなければならないだろう。

 

(だろう? レッドアイズ……)

 

 明日香には見えないし、ここにいる観客のほぼ全員が見えないだろう。コレが見えるのは吹雪が知る限りでは同じようにバクラに一度取り込まれた亮と、三邪神の担い手となった丈くらいだ。

 あのペガサス会長にすら気配を感じることはできても姿を視認することは出来なかった存在――――お伽噺の中だけの存在だと思っていたデュエルモンスターズの精霊。

 吹雪の隣には黒竜の雛が赤い瞳で真っ直ぐに明日香を見ていた。そしてデッキの中にはレッドアイズも眠っている。

 

「明日香、僕はこのターンで……茶吉尼とプリマを倒す!」

 

「そう簡単にいくかしら。幾ら兄さんでも上級モンスターと最上級モンスターを一気に倒すのは至難の業じゃなくて?」

 

「至難の業をしてみせてこそのフブキングさ! 僕は光属性モンスター、輝白竜 ワイバースターと! 闇属性モンスター、レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンをゲームより除外するよ」

 

「この召喚方法は!?」

 

 吹雪の行動に最初に反応したのは『カオス・ソルジャー開闢の使者』をエースモンスターとする丈だった。

 魔王と怖れられる男の反応で周囲もざわめき始める。口ぐちに「まさかカオス・ソルジャー……?」「いや、カオス・ソーサラーなんじゃないか」などと囁かれる。

 

「……I2カップの三位入賞者にカオス・ソーサラーのカードが送られていたけれど、兄さん」

 

「ふふふっ。確かに闇属性と光属性モンスターを其々除外するっていうとカオス・ソルジャー、混沌帝龍、カオス・ソーサラーが先ず思い浮かぶね。

 けどこの方法で召喚できるモンスターはこれだけじゃないんだよ。混沌の宇宙(ソラ)より現れろ、ダークフレア・ドラゴンッ!」

 

 

【ダークフレア・ドラゴン】

闇属性 ☆5 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力1200

このカードは自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを

1体ずつゲームから除外し、手札から特殊召喚できる。

1ターンに1度、手札とデッキからドラゴン族モンスターを1体ずつ墓地へ送る事で、

自分または相手の墓地のカード1枚を選択してゲームから除外する。

 

 

 暗黒の閃光星より地上に降り立ちし漆黒の龍。真紅眼の黒竜と同じ黒竜であり攻撃力も同じ2400だ。

 ダークフレア・ドラゴンは威嚇するように天に向かって嘶くと、翼を羽ばたかせながら吹雪の前に降り立つ。

 

「そんなドラゴンが兄さんのデッキにいたなんて! でもダークフレア・ドラゴンの攻撃力は2400よ。サイバー・プリマは倒せるけど、サイバー・エンジェル―茶吉尼―を倒すことはできないわ」

 

「それはどうかな。僕は伏せておいたリバースカード、竜魂の城を発動する」

 

 

【竜魂の城】

永続罠カード

1ターンに1度、自分の墓地のドラゴン族モンスター1体をゲームから除外し、

自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで700ポイントアップする。

また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが墓地へ送られた時、

ゲームから除外されている自分のドラゴン族モンスター1体を選択して特殊召喚できる。

「竜魂の城」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

 

「竜魂の城?」

 

 このカードが初見だった明日香が首を傾げる。

 

「ふふふ。このカードは、1ターンに一度自分の墓地のドラゴン族モンスターをゲームから除外し、自分フィールドのモンスターの攻撃力を700ポイントアップさせることができる永続罠カードだよ」

 

「その効果でダークフレア・ドラゴンの攻撃力を上げて茶吉尼を倒す気!?」

 

「NOだよ! それでもまだ不正解。本命はこれだよ。速攻魔法発動、ダブル・サイクロン! 自分の場の魔法・罠カード一枚と相手の場の魔法・罠カードを破壊する。僕が選択するのは竜魂の城。そして明日香のフィールドにあるリバースカードだ」

 

 

【ダブル・サイクロン】

速攻魔法カード

自分フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚と、

相手フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して発動する。

選択したカードを破壊する。

 

 

 二つのサイクロンが吹雪の竜魂の城と明日香のリバースカードを破壊した。

 破壊した明日香のリバースカードはミラーフォース。もしも前のターンで攻撃を仕掛けていれば吹雪のモンスターは全滅していただろう。

 

「ど、どうして……そのカードを発動して、私のリバースカードを破壊するなら竜魂の城を発動する必要なんてなかったのに」

 

「先輩として兄としてワンポイントレッスンだよ。明日香、デュエルモンスターズにはね。破壊されてこそ真価を発揮するカードというものがあるのさ」

 

「破壊してこそ、効果を発揮するですって!」

 

「竜魂の城も数あるうちの一つさ。フィールドで表側表示で存在する竜魂の城が墓地へ送られた時、このカードの隠された効果が発動する。除外されているドラゴン族モンスターを一体、フィールドへ帰還させるよ」

 

「……除外? まさか最初からその為にダークフレア・ドラゴンを召喚してレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを除外していたというの!?」

 

「Yes! これで全部正解だよ! 僕は除外されていたレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンをフィールドへ帰還、更にレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンの効果で墓地の真紅眼の黒竜を蘇生させる!」

 

 相手の罠カードを除去しつつ、場に強力なドラゴン族を三体呼び出す。モンスター召喚の布石が次のモンスター召喚の布石となっている。

 無駄のない華麗なプレイイング。これがキングと呼ばれる吹雪のデュエルだった。

 

「バトルフェイズ。真紅眼の黒竜でサイバー・プリマを攻撃、ダーク・メガ・フレア! そしてレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンでサイバー・エンジェル―茶吉尼―を攻撃、ダークネス・メタルフレア!」

 

 二体のドラゴンの黒炎が明日香の呼び出したモンスターたちを燃焼破壊する。

 しかし攻撃はまだ終わらない。吹雪にはまだ一体のモンスターの攻撃が残っている。

 

「ダークフレア・ドラゴンの攻撃、ダークフレア・ストリームッ!」

 

「きゃぁぁぁあ!」

 

 

 明日香LP4000→1400

 

 

 黒いレーザー光線が口から吐き出され、明日香の体を貫いた。けれど闘志を失わなかったのは流石は吹雪の妹というべきか。

 

「僕はリバースカード二枚を場にだし、ターンエンドだ」

 

「……私、恥ずかしいわ。兄さんの力を侮っていた。私より強いと思っていたし、そう考えてデッキを調整してきた。けど、私の認識していた強さより兄さんは強過ぎた」

 

「明日香?」

 

「でも、私はデュエリストよ! どれだけ劣勢でも膝を屈したりはしないわ! 私のターン、ドロー! 光の護封剣を発動! 相手は3ターンの間、攻撃を封じられる。そしてモンスターを守備表示でセットしてターンエンド」

 

 我が妹ながら逞しい。女性に逞しいというのは失礼かもしれないが、明日香はデュエリスト。賞賛の言葉に値するだろう。

 世の中は甘くない。諦めなければ絶対になんとかなるほど優しいシステムでは成立していないし、努力が報われないことも悲しいが起こり得てしまう。

 だが諦めない者だけがその先にある『奇跡』を掴む権利を得ることができるのだ。

 

「僕のターン、ドロー! 仮面竜を攻撃表示で召喚」

 

 

【仮面竜】

炎属性 ☆3 ドラゴン族

攻撃力1400

守備力1100

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

自分のデッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を

自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 これでフィールドには四体のドラゴン族。召喚できるのは残り一体だけだ。

 

「ターン終了だ」

 

 問題は……明日香がここからどう挽回してくるか、だ。これはデュエリストとしての直感だが、あのセットしたモンスターに仕掛けがある

 吹雪の直感は的中した。

 

「私のターン! 私はセットモンスターを反転召喚、私が反転召喚したモンスターはメタモルポットよ。互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚カードをドローする」

 

 リバース効果モンスターのために少し遅いが、その効果は最強ドローソースである『天よりの宝札』に迫りうるものだ。

 ただしこれは天よりの宝札にもいえることだが、相手にもドローを許してしまうのがネックといえばネックだ。

 

「いくわよ。機械天使の儀式を発動、手札の氷の女王を生け贄に捧げサイバー・エンジェル―茶吉尼―を攻撃表示で召喚!」

 

 二度目の正直ならぬ茶吉尼だ。しかし茶吉尼の効果は吹雪の場に四体ものドラゴン族が並んでいる現状では余り役に立たないだろう。

 

「茶吉尼の効果、相手のモンスターを一体、相手が選んで破壊するわ」

 

 攻撃力が一番低いのは仮面竜だが仮面竜には後続をリクルートする効果がある。レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンは論外。

 ダークフレア・ドラゴンにする手もあったが、通常モンスター故に蘇生手段が豊富なことだから吹雪は真紅眼の黒竜を選択した。

 

「……僕が選ぶのは、真紅眼の黒竜だ」

 

「ふふっ」

 

「なにが可笑しいんだい?」

 

「兄さんなら仮面竜を残すと思っていたわ。お蔭で私にも勝利の可能性が見えてきたわ!」

 

「……ふっ。そうかい?」

 

「手札より装備魔法、巨大化によりサイバー・エンジェル―茶吉尼―の攻撃力を倍にする!」

 

 

【巨大化】

装備魔法カード

自分のライフポイントが相手より下の場合、

装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値になる。

自分のライフポイントが相手より上の場合、

装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を半分にした数値になる。

 

 

 サイバー・エンジェル―茶吉尼―が二倍に巨大化していった。

 巨大化はライフが相手より下でなければ倍加することが出来ない装備魔法だが、明日香のライフは1400なので問題なく倍加が起動する。

 

「サイバー・エンジェル―茶吉尼―の元々の攻撃力は2700。よって攻撃力は5400に倍加するわ!」

 

「そして仮面竜の攻撃力は1400、か」

 

 仮面竜への攻撃が通れば、吹雪は一気に4000のライフを失い敗北する。

 

「バトル! サイバー・エンジェル―茶吉尼―で仮面竜を攻撃!」

 

 無論、通ればの話だが。

 

「この瞬間、トラップ発動。ガード・ブロック、戦闘ダメージを一度だけ0にしてカードを一枚ドローする。仮面竜は破壊されるが僕への戦闘ダメージは0になるよ。

 そして速攻魔法、奇跡の逆鱗を発動。自分の場のドラゴン族モンスターが破壊された時、デッキから魔法・罠カードをフィールドにセットする。最後に仮面竜の効果で新たな仮面竜を守備表示で特殊召喚」

 

「そんな……攻めきれなかった、なんて。私はカードを一枚セットして……ターンを終えるわ」

 

「僕のターン、ドロー……サイクロンを発動して光の護封剣を破壊。さらにレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンのモンスター効果、墓地のレッドアイズを蘇生するよ」

 

 メタモルポットとガード・ブロック、竜の逆鱗で伏せられた二枚のカードとこのドロー。

 勝利への方程式はもはや何通りも出来上がっている。だが、やはり最後は自分の全力で倒すのが相手へのリスペクトというものだろう。

 

「明日香……僕からの模範デュエルの申し出を受けてくれてありがとう。一人のデュエリストとして、このデュエルは一生忘れられない思い出として胸に刻む。

 僕が最後に見せるものは僕のフェイバリット『真紅眼の黒竜』がもつ可能性だ」

 

「レッドアイズの、可能性?」

 

「青き龍は勝利をもたらす。しかし、赤き竜がもたらすのは勝利にあらず、可能性なり。……レッドアイズはそれ単体ではそれほど強いカードでもない。けどね、他のカードたちと組み合わせることで無限大の可能性をデュエリストに齎すんだ。

 その可能性の一つ、攻撃力というパワーにおける最終形態を――――僕は呼び起こす!」

 

 吹雪は一枚のカードをデュエルディスクに置く。

 

「魔法カード、竜の霊廟。デッキよりメテオ・ドラゴンと真紅眼の黒竜を墓地へ送る! そして龍の鏡を発動! 僕は墓地の真紅眼の黒竜とメテオ・ドラゴンを融合する」

 

 

【龍の鏡】

通常魔法カード

自分のフィールド上または墓地から、

融合モンスターカードによって決められたモンスターをゲームから除外し、

ドラゴン族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 

 

「照覧せよ! 勝利をも砕く可能性の竜が最強形態! メテオ・ブラック・ドラゴンッ!」

 

 

【メテオ・ブラック・ドラゴン】

炎属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3500

守備力2000

「真紅眼の黒竜」+「メテオ・ドラゴン」

 

 

 レッドアイズの細い四肢は隕石のような隆々とした胴体で覆われ、その鱗からは灼熱の焔を撒き散らす。

 存在するだけで周囲に熱量をばら撒くそれはレッドアイズとメテオ・ドラゴンが融合した――――純粋な攻撃力ならば最強の姿だ。

 

「攻撃力3500……? ブルーアイズを超えた!」

 

「それだけじゃ終わらないよ。僕は奇跡の逆鱗でセットした装備魔法、団結の力を発動してメテオ・ブラック・ドラゴンに装備」

 

 

【団結の力】

装備魔法カード

装備モンスターの攻撃力・守備力は、自分フィールド上に表側表示で存在する

モンスター1体につき800ポイントアップする。

 

 

 メテオ・ブラック・ドラゴンに四体のドラゴンたちの力が流れていく。

 フィールドのモンスターが一体につき装備モンスターの攻撃力守備力を800あげる団結の力。吹雪のモンスターカードゾーンは完全に埋まっているため攻撃力は4000ポイントアップする。

 よってメテオ・ブラック・ドラゴンの攻撃力は7500だ。

 

「メテオ・ブラック・ドラゴンでサイバー・エンジェル―茶吉尼―を攻撃、メテオ・ダイブ!」

 

「ただではやられないわ。罠カード、ドゥーブル・パッセ! 相手モンスターの攻撃をダイレクトアタックとして受け、自分のモンスターは相手プレイヤーへダイレクトアタックをする!」

 

 

【ドゥーブル・パッセ】

通常罠カード

相手モンスターが自分フィールド上の表側攻撃表示モンスターを攻撃してきた時に発動できる。

その攻撃を直接攻撃としてプレイヤーが受ける。

この時攻撃対象となったモンスターは相手に直接攻撃できる。

 

 

 このカードが決まれば、互いにメテオ・ブラック・ドラゴンとサイバー・エンジェル―茶吉尼―の攻撃を喰らいドローゲームだが、そこは吹雪も予想済みだ。

 吹雪はセットしたもう一枚の効果を発動する。

 

「カウンター罠、魔宮の賄賂。相手の発動した魔法・罠カードを無効にする」

 

 ドゥーブル・パッセが消滅してメテオ・ブラック・ドラゴンの攻撃がサイバー・エンジェル―茶吉尼―を撃破した。

 その戦闘ダメージにより明日香のライフが0を刻む。

 

「………………負けたわ、完敗よ。まさか1ポイントのライフを削ることも出来ないなんて」

 

「兄としての矜持は見せられたかな。ナイスデュエル、明日香」

 

 にっこり笑いながら手を差し伸べると、明日香もその手を掴み握手をする。

 瞬間、会場中から莫大な歓声が降り注いだ。

 

 

 

「……亮に続いて卒業生サイドは二連勝か。これで俺が負けたら一人だけ恥さらしになるな」

 

 腕を組んだ丈は「やれやれ」と言いながら溜息をついた。それを見ていた亮が苦笑する。

 二人の眼下では勝利した吹雪が強引に明日香の手を握りながら観客席に手を振っていた。明日香の方が恥ずかしさで頬を赤く染めてうつむいているのが印象的である。

 

「お前はデュエルのことを考える前に対戦相手を決める事を考えた方が良い。俺達が前にいたから今まで呑気にしてられたが、お前のデュエルは一週間後だ。そろそろ決めないと不味いだろう」

 

「ふー、同じ人間を選択することも出来ないから……そうだな。セオリー通りに二年生の首席を指名しておこうか」

 

 丈はその場から離れる。

 

「どこへ行く?」

 

「指名、だよ。準備もあるだろうし当日いきなり指名ってわけにもいかないだろう」

 

 丈が向かうのは生徒たちのいる場所ではなく職員室だ。

 二年生首席を指名する、と決めてみたものの生憎と丈は二年生の首席が誰なのかを知らない。卒業模範デュエル中だからとはいえ職員室を留守にするということはないだろう。職員室に行けば二年生の首席が誰なのか教えてくれるはずだ。

 

(まてよ? 別にわざわざ職員室に行かなくても亮に聞けば良かったじゃないか。あぁ、間抜けしたなぁ~)

 

 自分のちょっとしたドジに苦笑いするが、もうここまできたら観客席に戻るよりも職員室へ行く方が早い。

 面倒な用件は手早く済ませようと足を速めたところで、

 

「宍戸さん」

 

 背後から鋭い声で呼び止められた。

 振り向くと特徴的な黒い髪の少年が真っ直ぐに丈のことを見ている。いや、もはや睨んでいるといった表現の方が正解だろう。

 少年の両隣には同年代と思われる二人の少年がいる。しかし同年代にしてはどことなく畏まった態度を黒髪の少年に向けていた。きっと真ん中にいる少年がリーダー格で二人は取り巻きのようなものなのだろう。

 さしずめ真ん中がジャイアンとするなら他二人はスネ夫か。

 

「えーと、見たところ後輩のようだけど……俺に何の用かな? 俺はこれから職員室に行こうと思っていたのだけど……」

 

「俺は万丈目準、一年生の首席だ。宍戸さん、アンタの卒業模範デュエルの相手がまだ決まってないと聞いてね。その模範デュエルはこの万丈目準が引き受けた!」

 

「ちょ、ちょっと万丈目さん!」

 

「相手はあの魔王ですよ……流石に失礼じゃ……」

 

「ええぃ喧しい! 俺は常にナンバーワンを目指してデュエルをしている。相手が魔王だろうとカイザーだろうとキングだろうとへーこらしていられるか!?」

 

 同じ一年生同士なのに万丈目以外の二人が万丈目に敬語を使って会話しているあたり、やはり二人は取り巻きなのだろう。丈を含めた三人も同じような人間がなにかと多いので良く分かる。

 にしても元気が良い一年生がいたものだ。思わず自分が一年生だった頃を思い出して微笑ましい気分になってしまう。

 

「すまないが万丈目くん、俺はその卒業模範デュエルの相手には二年生の首席を指名する予定だ。悪いんだが――――」

 

「その二年生首席なら昨日倒しておいたよ。卒業模範デュエルの対戦相手を賭けたデュエルで。二年生首席がこの俺、万丈目準に敗れた以上! 俺はアンタの相手として一番相応強いはずだ!」

 

「……ふぅ。そういうことなら、分かったよ。いいだろう、俺は君と卒業模範デュエルを行う」

 

 どの道、卒業模範デュエルそのものに消極的だったこともあってあっさりと丈は頷く。

 それに二年生首席を倒したというのなら実力も資格も申し分ない。

 

「ただしやるからには俺にとっても学園最後のデュエルだ――――油断する気はない」 

 

 卒業模範デュエルの相手は決まった。二年生首席の名前を聞くために職員室へ向けていた足を逆にする。

 万丈目の横を通り過ぎると、亮たちのいる観客席へ戻っていった。




 遂に遊戯王世界どころか現実世界のカードまで先取りし始めました。新しいストラクのせいで吹雪のデッキが超絶強化されました。吹雪さんは自重しませんね。


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第79話  アカデミアの魔王

 最後の模範デュエルだから観客も少しは控え目になるだろうという丈の期待は見事に裏切られることになる。人間、最後だから適当に、ではなく最後だからこそド派手にしたがるようで観客席は嘗てない大騒ぎだった。

 『魔王、命』という気合の入ったタトゥーをしている男女入り混じった集団は見なかったことにして、デュエル場に足を踏み入れる。

 自分はもうこういった大観衆にもある程度慣れてしまったが一年生はそうではないだろう。もしかしたら対戦者である万丈目は観客を前にして萎縮しているかもしれない。

 そう思った丈だったが、どうやら杞憂だったらしい。

 万丈目はかなり自然体で……というより逆に自信満々に腕を組んでいた。そこに緊張のきの字を見受けられない。

 世の中には注目を集めるのが大好きな吹雪のようなタイプがいるが彼もその類なのだろう。亮のように観客などではびくともしない図太い精神をもつようなタイプもいるがそれはおいておく。

 

「少し待たせてしまったかな」

 

「ふふふっ。ノープロブレム、俺の滾る闘争本能を抑えていたら、時間の経過なんて失念していたよ」

 

 気取ったように万丈目が言う。やはり典型的な劇場型タイプだ。本人の性根などはさておき、エンターテイナーであるプロデュエリスト向けの性格ともいえる。

 それに一年生なのに二年生首席を倒してまで模範デュエルの対戦相手の座を獲得しようとするあたり中々の向上心を持ち合わせているらしい。

 

「宍戸さん、アンタはI2カップでカイザーを倒し頂点に君臨した。この俺、万丈目準が目指すのもナンバーワン。手始めにアンタを倒すことでデュエル・アカデミア最強の称号を頂く」

 

「……勘違いしているところ悪いが。確かに俺は亮を倒してI2カップで優勝した。だが俺や亮、吹雪に勝敗はあっても力の差なんてない。俺達の実力は互角だよ。俺が三人の中で一番強いっていうわけじゃない」

 

「どっちにしろ同じこと。魔王、カイザー、キング。三人の実力が同じだっていうならアンタを倒せばこの俺が頂点に君臨できる。だがこのままでは終わらん。アカデミアの頂点に君臨した後は日本……いや世界の頂点にたち、この俺こそがカードゲーム界のナンバーワンとなる!」

 

「デカい夢だな。先輩として応援しているよ……だが前に言った通り、油断する気はない。遠慮するつもりも毛頭ない」

 

 丈を差し置いて闘争心を煮えたぎらせているグラファやバルバロスなどを下がらせる。精霊が見えるようになってからというもの、どうにも周囲が騒がしくて仕方ない。

 しかし暗黒界やHEROたちには悪いが今日使うのは彼等ではなく、バルバロスたちだ。

 これが学園最後のデュエルだというのなら、学園最初のデュエルで使用したデッキを使いたい。

 

「いくぞ……万丈目」

 

「今宵俺の新たなる神話が始まる! アカデミアの蒼い稲妻と呼ばれた俺の実力を見せてやる!」

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

宍戸丈 LP4000 手札5枚

場  なし

 

万丈目 LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

「先攻は後輩からだ」

 

 以前二回の模範デュエルでも亮や吹雪は後攻を選択していた。だからというわけではないが先攻は譲ることにする。

 なにより一年生にも拘らず自分にこうも果敢に挑んできたデュエリストに興味があった。

 

「ふんっ! 兄相手とはいえ先に敗北した天上院くんの仇もついでに討ってやる。俺のターン、ドロー!」

 

 万丈目は自分のことを学年首席だと言っていた。彼は一年生なので彼が首席ということは順当に考えれば彼は明日香より強いということになる。

 もっとも学校で算出される『成績』がデュエリストの『強さ』にイコールで結びつくかどうかは首を傾げるところではあるが。

 

「俺は地獄戦士を攻撃表示で召喚」

 

 

【地獄戦士】

闇属性 ☆4 戦士族

攻撃力1200

守備力1400

このカードが相手モンスターの攻撃によって破壊され墓地へ送られた時、

この戦闘によって自分が受けた戦闘ダメージを相手ライフにも与える。

 

 

 ポビットのように小柄な体型の戦士が出現した。地獄と名がつくだけあって顔は悪魔のように凶悪である。

 地獄戦士はステータスはリクルーターの平均たる1400に届かないが、戦闘ダメージを相手にも与えるモンスター効果をもっている。

 亮のように攻撃力を8000に上げて攻撃したら共倒れになりかねない。気を付けなければ。

 

「俺はこれでターンエンドだ。さぁ! 見せて貰おうか、魔王の実力ってものを!」

 

「ふふっ。俺のターンだな、ドロー。モンスターをセット、カードを二枚セットして……ターンエンドだ」

 

「ふははははははははは! 魔王ともあろうものが俺のデュエルに怖気ついたのか! 俺のターン、ドロー!」

 

 カードをドローした万丈目はニヤリと笑う。

 

「だが俺様の攻撃を守備表示などで防げると思うなよ。俺は地獄戦士を生け贄に捧げ地獄将軍・メフィストを攻撃表示で召喚!」

 

 

【地獄将軍・メフィスト】

闇属性 ☆5 悪魔族

攻撃力1800

守備力1700

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、

その守備力を攻撃力が越えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。

相手に戦闘ダメージを与えた時、相手の手札からカードを1枚ランダムに捨てる。

 

 

 地獄戦士が消えかわりに将軍が現れる。将軍だけあって単なる歩兵に過ぎなかった戦士とは違い馬にのり、巨大なランスをもっていた。

 最初の地獄戦士といいこの地獄将軍といい、万丈目は地獄と名のつくカードが好きなのかもしれない。

 

「地獄将軍は上級モンスターだが攻撃力は下級モンスターと同じ1800……だが、こいつの真価はその効果にある! こいつが相手に戦闘ダメージを与えた時、相手は手札を一枚捨てる。

 魔王ともあろう者が手札の重要性を知らないということはないだろう。更にこいつは守備表示モンスターに攻撃した時、貫通ダメージを与える特殊能力もある! だが俺のタクティクスは更に上をいく! 装備魔法、デーモンの斧をメフィストに装備!」

 

 

【デーモンの斧】

装備魔法カード

装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。

このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、

自分フィールド上に存在するモンスター1体を

生け贄にする事でこのカードをデッキの一番上に戻す。

 

 

 団結の力と比べることも多い装備魔法、デーモンの斧。メフィストが自前のランスから悪魔の顔のついた斧に武装を変えた。

 

「デーモンの斧は装備モンスターの攻撃力を1000あげるカード。これでメフィストの攻撃力は2800となった」

 

 単純な攻撃力ならサイバー・ツイン・ドラゴンと同等か。二連続攻撃とハンデス+貫通ダメージ。果たしてどちらの方が厄介なのか意見の分かれるところだろう。

 

「バトル! 地獄将軍・メフィストでセットモンスターを攻撃! デーモン・ヘル・ザンバー!」

 

「俺の伏せていたモンスターは守備力0のレベル・スティーラー。本来なら俺は2800のダメージを受けるところだが……リバースカードオープン、ガード・ブロック。一度だけ戦闘ダメージを0にしてカードを一枚ドローする」

 

 貫通ダメージは戦闘ダメージとして扱うためガード・ブロックの効果範囲内だ。丈はカードを一枚ドローする。

 

「さらにメフィストのハンデス効果は戦闘ダメージを与えなければ発動しない。よって俺は手札を捨てずに済む」

 

「……くっ! だが先にモンスターを撃破したのは俺だ! カードを一枚伏せターンエンド……」

 

 万丈目の言う通り最初に戦闘破壊されたのは丈だが、レベル・スティーラーは墓地にあってこそ意味のあるカード。

 破壊されたことはデメリットどころかメリットだ。

 

「俺のターン、そろそろいくか」

 

 前のターンは謂わば準備だ。丈のデッキはなにかと本領発揮するのに準備がかかるため速効性ではサイバー流の亮に劣るが、腰の座ったデュエルならば丈に軍配が上がる。

 

「手札より魔法カード、フォトン・サンクチュアリ発動。フィールドに二体のフォトントークンを守備表示で特殊召喚する」

 

 

【フォトン・サンクチュアリ】

通常魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は光属性以外のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

自分フィールド上に「フォトントークン」(雷族・光・星4・攻2000/守0)

2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは攻撃できず、シンクロ素材にもできない。

 

 

 フィールドに並ぶ二つの光の塊。トークン二体を並べるカードはよくあるが、このトークンの攻撃力は2000ポイント。トークンの中でもかなり高いレベルにある。

 新しいカードを手に入れデッキを大幅強化したのは吹雪だけではないのだ。

 

「攻撃力2000のトークンを二体だと……?」

 

「焦る必要はない。このトークンは守備表示、それに攻撃をすることは出来ない。このトークンたちがお前に危害を加えることはないさ。とはいえこのカードは、の話だ。

 フォトン・サンクチュアリを発動したターン、俺は光属性以外のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない。よって俺は光属性モンスターを召喚する。

 永続魔法、冥界の宝札を発動し準備は完了。二体のフォトントークンを生け贄に捧げ光神機-轟龍を攻撃表示で召喚!」

 

 

【光神機-轟龍】

光属性 ☆8 天使族

攻撃力2900

守備力1800

このカードは生け贄1体で召喚する事ができる。

この方法で召喚した場合、

このカードはエンドフェイズ時に墓地へ送られる。

また、このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、

その守備力を攻撃力が越えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 名前に機械の機と龍がつくところから、機械的でドラゴンのような造形をしている。見た目はサイバー・ドラゴンにも通じるところがある。

 けれどこのモンスターはれっきとした天使族モンスターだ。

 

「攻撃力2900……糞っ! 俺のメフィストの攻撃力を上回っている」

 

「冥界の宝札、二体以上の生け贄召喚に成功したため二枚ドロー。バトル! 光神機-轟龍で地獄将軍・メフィストを攻撃、マジェスティック・キャノン!」

 

 轟龍の口から放たれた砲撃が地獄の将軍を消し飛ばす。攻撃力の差分はたったの100だったが先制ダメージには違いない。

 万丈目は悔しそうに表情を歪めた。

 

「カードを一枚伏せてターンエンド」

 

「いい気になるな、ここからが俺の本領だ! 俺のターン、ドロー! 俺は……モンスターをセットしてターンエンドだ」

 

「エンドフェイズ時、終焉の焔を発動。黒焔トークン二体をフィールドに出現させる」

 

 

【終焉の焔】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」

(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。

 

 

 これで再び二体の生け贄要因が揃った。終焉の焔の発動したターンにモンスターを召喚できないというデメリットも、相手ターンに発動してしまえば問題はなくなる。

 

「俺のターン、ドロー。永続魔法、アドバンス・ゾーン発動」

 

 

【アドバンス・ゾーン】

永続魔法カード

ターンのエンドフェイズ時に発動できる。

このターン自分が生け贄召喚のために

生け贄したモンスターの数によって以下の効果を適用する。

●1体以上:相手フィールド上にセットされたカード1枚を選んで破壊する。

●2体以上:デッキからカードを1枚ドローする。

●3体以上:自分の墓地のモンスター1体を選んで手札に加える。

 

 

 丈のデッキにとっては冥界の宝札に次ぐドローエンジンである永続魔法。このカードと冥界の宝札が並んだことにより、丈のフィールドはより盤石なものとなった。

 これで『虚無の統括者』か『神の宣告』でもあれば更に完璧だっただろう。 

 

「アドバンス・ゾーンは生け贄にしたモンスターの数によって効果を適用できる。さて……この攻撃を防げるか、見せて貰おうか万丈目。二体の黒焔トークンを生け贄に捧げThe supremacy SUNを召喚!」

 

 

【The supremacy SUN】

闇属性 ☆10 悪魔族

攻撃力3000

守備力3000

このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できない。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、

次のターンのスタンバイフェイズ時、

手札を1枚捨てる事で、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

 バルバロス、堕天使アスモディウスと同じくThe SUNもこれまでずっと丈を支え続けてくれたカードの一枚だ。

 自分の効果以外に特殊召喚できない効果をもっているが、比較的ローリスクでの蘇生効果をもっている。

 名前が似通っていて星の名前がつくというところから世界に一枚しかないとされる『プラネットシリーズ』なのではないか、と囁かれていたが丈は同名カードを三枚もっているので違うだろう。第一太陽は星ではあるが惑星ではない。

 The SUNは世間でも普通に流通しているカードだ。レアカードには違いないが時価数十万のレッドアイズよりはレアリティも低い。

 

「冥界の宝札で新たに二枚ドローし、バトルフェイズへ移行する。光神機―轟龍でセットモンスターを攻撃、マジェスティック・キャノン!」

 

 セットモンスターがリバースし表側となる。万丈目の伏せていたカードはキラー・トマトだ。

 

「戦闘破壊された時、キラー・トマトのモンスター効果が発動! デッキより攻撃力1500以下の闇属性モンスターを特殊召喚する!」

 

「一つ言い忘れていたが、光神機―轟龍には貫通効果がある。キラー・トマトとの守備力の差分である1800のダメージを受けてもらうぞ」

 

「なんだって!」

 

 他に轟龍には一体の生贄で妥協召喚できる効果もあるのだが今は関係ないので黙っておく。

 最上級モンスターはその召喚難易度に相応強い強力な特殊能力をもっているモンスターが多い。丈のデッキにはそういうモンスターがうじゃうじゃと入っている。轟龍もそのうちの一枚だ。

 

「まだだ……俺はクリッターをデッキより特殊召喚!」

 

「しかしトマトの効果で召喚されたモンスターは攻撃表示。The SUNの攻撃も受けて貰おう。SOLAR FLARE!」

 

 

 万丈目LP3900→100

 

 

 The SUNと光神機―轟龍。二体の最上級モンスターたちの連続攻撃を受けて万丈目のライフは風前の灯だ。

 それでも万丈目は――――あれはもう意地だろう。歯を食いしばって耐え凌いだ。

 

「クリッターのモンスター効果だ。俺はデッキより偉大魔獣ガーゼットを手札に加える……」

 

 ガーゼットは生け贄にしたモンスターの倍が攻撃力となるモンスター。しかし元々の攻撃力は0なのでクリッターでサーチすることが可能だ。

 つまりもしも次のターンで万丈目が攻撃力1500を超える生け贄要因を確保できればこの状況を覆せるかもしれないということだ。ダメージ覚悟でクリッターを召喚した理由もここにあるのだろう。

 

「バトルフェイズを終了。俺はこれでターン終了

 

「俺のター――――」

 

「ストップだ。まだ俺にはエンドフェイズ時、アドバンス・ゾーンの効果を発動していない。このターン、俺が生け贄に捧げたモンスターは二体。よってお前の場にあるセットカードを破壊しカードを一枚ドローする。……と、破壊したカードは盗賊の七つ道具か。破壊しなくても意味はなかったな」

 

 盗賊の七つ道具のコストは1000のためライフ100の万丈目では発動させることも出来ないカードだ。

 魔法・罠ゾーンを空けてしまったと考えれば丈にとってマイナスだったとすらいえるかもしれない。しかし万丈目の顔に力はなかった。

 

「最上級モンスターを召喚する度に手札が減るどころか逆に増えるだと……? しかもリバースカードの破壊まで。ええぃ! しかし、まだまだだ!

 ここまでのピンチは俺の大逆転勝利を演出するための演技に過ぎない。ここからが本当の本気の本番だ! 俺のターン、ドロー! 宍戸さんにもドローさせることになるが、壺の中の魔魔術を発動。互いのプレイヤーは三枚カードをドローする」

 

 

【壺の中の魔術書】

通常魔法カード

互いのプレイヤーはカードを3枚ドローする。

 

 

 祈るように万丈目は三枚カードをドローした。幾ら強力なドローソースといえど壺の中の魔術書は相手にもドローさせるリスクのあるカード。

 この状況で丈の手札を三枚も増やすことは万丈目にとって命取りにしかならない。このドローで逆転のカードを引けなければ負けるという背水の陣だ。

 三枚のカードをドローし終えた万丈目は手札を見比べていき――――大笑いを始めた。

 

「く、ふはははははははははははははははは! 宍戸さん、アンタに見せてやるぜ。運命に魅入られた男のデステニードローってやつを!」

 

「……面白い」

 

 こんな時だというのに、いやこんな時だからだろう。丈の気分も高揚してきた。

 鼻持ちならず生意気なこの後輩がどんな風に逆転劇をしてくるのか楽しみで仕方ない。無論どんな逆転を仕掛けてこようとそれに対する迎撃は万全にしてあるが。

 

「俺は魔法カード発動、死者蘇生! 墓地のクリッターを守備表示で復活させる! クククククククッ。これで俺様の墓地には闇属性モンスターが三体だけとなった。

 手札にあるこのカードは墓地の闇属性モンスターが三体の時だけ手札より特殊召喚できる。現れろ、ダーク・アームド・ドラゴンッ!」

 

 

【ダーク・アームド・ドラゴン】

闇属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力1000

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の闇属性モンスターが3体の場合のみ特殊召喚できる。

自分のメインフェイズ時に自分の墓地の闇属性モンスター1体を

ゲームから除外する事で、フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

 

 

 デュエルモンスターズ界にはLvアップするごとに力を増していくレベルアップモンスターがいる。

 キング・オブ・デュエリスト、武藤遊戯も愛用したカードでどれも相当のレアカードだ。丈も揃って持っているレベルアップモンスターは一種類だけである。

 アームド・ドラゴンもそんなレベルアップモンスターの一体で噂によればアカデミア・ノース校の選ばれたデュエリストに授けられると聞いたことがあるが、万丈目の召喚したダーク・アームド・ドラゴンはアームド・ドラゴンが闇に染まった姿だ。

 召喚条件に難はあるものの、その爆発力はアームド・ドラゴン以上のものがある。

 吹雪も愛用しているカードなので丈にとっては馴染のあるモンスターだ。

 

「いくぞ! クリッターを生け贄に捧げ地獄詩人ヘルポエマーを召喚。クリッターの効果でレジェント・デビルを手札に加える。更にレジェント・デビルを墓地に捨てることでダーク・グレファーを攻撃表示で召喚!」

 

 

【地獄詩人ヘルポエマー】

闇属性 ☆5 悪魔族

攻撃力2000

守備力1400

このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた場合効果が発動する。

このカードが墓地に存在する限り、相手バトルフェイズ終了時に

相手は手札からカードを1枚ランダムに捨てる。

このカードは墓地からの特殊召喚はできない。

 

 

【ダーク・グレファー】

闇属性 ☆4 戦士族

攻撃力1700

守備力1600

このカードは手札からレベル5以上の闇属性モンスター1体を捨てて、

手札から特殊召喚する事ができる。

1ターンに1度、手札から闇属性モンスター1体を捨てる事で、

自分のデッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る。

 

 

 地獄詩人ヘルポエマーとダーク・グレファー。どちらも攻撃力ではThe SUNどころか轟龍にも及ばない。

 だが万丈目の狙いは墓地に弾薬を装填することにあるのだろう。

 

「ふふふふ。ダーク・アームド・ドラゴンのモンスター効果、墓地の闇属性モンスターを除外することでフィールドのカード一枚を破壊する。

 俺は五枚のカードを除外して宍戸さんのフィールドのカードを全滅させる! ダーク・ジェノサイド・カッター!」

 

「その効果にチェーンして、威嚇する咆哮発動。このターンの攻撃宣言を封じる」

 

「なに? だが他のカードは破壊だ!」

 

 攻撃宣言そのものを封じられた為、このターンで万丈目がバトルによって丈のライフを0にすることは不可能となった。

 けれど万丈目の言う通り轟龍もThe SUNも破壊耐性をもってないため悉くダーク・アームド・ドラゴンの前に撃破される。

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

「……俺のターン。スタンバイフェイズ時、手札を一枚捨てることでThe SUNを墓地より蘇生することができる」

 

「させてたまるかっ! 手札よりD.D.クロウを捨てることでThe SUNを除外する!」

 

 

【D.D.クロウ】

闇属性 ☆1 鳥獣族

攻撃力00

守備力00

このカードを手札から墓地へ捨てて発動できる。

相手の墓地のカード1枚を選択し、ゲームから除外する。

この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

 上手い。The SUNの蘇生効果は墓地にいなければ働かない。除外されてしまっては太陽は再び昇ることはないのだ。

 正真正銘これで丈の場はがら空き。相手の場には墓地に闇属性モンスターがいれば何度でもフィールドのカードを破壊できるダーク・アームド・ドラゴン。少しだけピンチだ。

 

「俺はカードを三枚伏せる。さらにクリボーを攻撃表示で召喚……ターンエンド」

 

「クリボーだと!? そいつは手札から捨ててダメージを0にするくらいしか能のないクズカード! 俺のことを舐めているのか!?

 この状況を一気に大逆転できるカードがあるとすれば、アンタがペガサス会長から託されたっていう三邪神くらい……。そんな雑魚を出す前に三邪神を出せ!」

 

「ご期待に添えずすまないが、俺のデッキに三邪神は入ってない」

 

「嘘を言うな。アンタが三邪神をもってることなんてアカデミア生なら誰でも知ってることだ」

 

「持ってはいるさ。だが入れてはいないだけだ。三邪神は召喚すれば勝利を確定してしまうほどの力をもったカード。はっきりいってその強さはゲームバランスそのものを崩壊させてしまうほどだ。

 これに頼ってデュエルしていれば、俺自身が邪神の力に縋るデュエルをするようになってしまうだろうし…………邪神の攻撃は相手デュエリストの魂をも砕くほどのエネルギーをもっている。亮や吹雪とのデュエルでも投入してはいない」

 

「ふざけるなよ……っ! 俺は三邪神を束ねた最強のアンタを倒したいんだ! 三邪神が入っていない、しかもクリボーなんていうクズカードを召喚するアンタと戦いたいんじゃない!」

 

「万丈目、力だけがデュエルモンスターズの全てじゃない。俺はI2カップの後、亮や吹雪と共に三邪神と戦った。そのうち三邪神の一角を倒したのはパワーじゃなく……ただの何の変哲もないノーマルカードだった」

 

「ば、馬鹿な。ノーマルカードが邪神を倒すなんて出来るわけがない」

 

「出来るんだよ。どんなカードにもそのカードにしかない可能性が眠っている。クリボーは俺が無数にあるカードたちの中から選び抜いた40枚のうちの一枚。あまり馬鹿にしないで欲しいね。それともう一つ、俺は三邪神を使ってI2カップを制したんじゃない」

 

「口で言っても分からないなら、いいだろう。ならその口を俺のデュエルで閉ざすまで。そのライフを0にすることによって。俺はダーク・グレファーを生け贄に偉大魔獣ガーゼットを召喚!」

 

 

【偉大魔獣ガーゼット】

闇属性 ☆6 悪魔族

攻撃力0

守備力0

このカードの攻撃力は、生け贄召喚時に生け贄に捧げた

モンスター1体の元々の攻撃力を倍にした数値になる。

 

 

 自分が以前にパンドラとのデュエルで召喚したこともあるため、ガーゼットの効果については頭に入っている。

 攻撃力1700のダーク・グレファーを生け贄にしたためガーゼットの攻撃力は3400だ。

 

「さらに! ダーク・アームド・ドラゴンのモンスター効果を再び発動! D.D.クロウとダーク・グレファーの二体を除外しリバースカードを二枚破壊する。消え去れぇ!」

 

「……ダーク・アームド・ドラゴン、その能力は確かに厄介だ。だが力に固執したデュエルは脆い。俺はダーク・アームド・ドラゴンの効果にチェーン。速攻魔法、機雷化を発動」

 

 

【機雷化】

速効魔法カード

自分フィールド上に表側表示で存在する

「クリボー」及び「クリボートークン」を全て破壊し、

破壊した数と同じ数まで相手フィールド上のカードを破壊する事ができる。

 

 

「このカードは自分フィールドのクリボーを全て破壊。破壊した数と同数の相手カードを破壊する」

 

「ハハハハハ! それでダーク・アームド・ドラゴンを破壊したところで俺の場にはガーゼットとヘルポエマーがいる。俺の勝ちは動かない」

 

「万丈目、それは早合点だ。俺が破壊するカードは一枚のクリボーじゃない。五体だ。俺は自分の機雷化にチェーンして速攻魔法、増殖を発動。クリボーを生け贄にして場にクリボートークン五体を出現させる」

 

 

【増殖】

速効魔法カード

自分フィールド上に表側表示で存在する「クリボー」1体を生け贄にして発動する。

「クリボートークン」(悪魔族・闇・星1・攻300/守200)を

可能な限り自分フィールド上に守備表示で特殊召喚する。

このトークンは生け贄召喚のためには生け贄にできない。

 

 

 フィールドを埋め尽くす五体のクリボー。最初は万丈目も「雑魚モンスターを増やしたところで」と馬鹿にしていたのだが、直ぐにその真意に気付いたらしく顔を真っ青にした。

 

「クリボーは中々神経質で触れると時々爆発してしまうんだ。……いくぞ、機雷化の効果。増殖したクリボーを全て破壊してその数だけ相手カードを破壊する」

 

「ええぃ! 俺は罠カードを――――」

 

「残念。こちらもカウンター罠、魔宮の賄賂だ、その効果は無効だ」

 

「なぁーーーー!?」

 

『クリクリ~』

 

 クリボーが鳴き声をあげながら万丈目のフィールドに突進していく。クリボーたちは万丈目のフィールドのカードに触れると一気に爆発していく。

 五体のクリボーの機雷。それの一斉破裂が終わった後、焼野原となった万丈目のフィールドだけが遺された。

 

「なっ。力って脆いだろ」

 

「お、俺の……完全無欠なフィールドが、クリボーなどに……」

 

「狼狽えているところ悪いが魔宮の賄賂の効果で一枚ドローするのを忘れているぞ」

 

「う、五月蠅い! 忘れてなどいない、俺はドローは後にするタイプなんだ! ドロー! 俺は天使の施しを発動、三枚ドローして二枚捨てる。カードを二枚セットしてターンエンドだ」

 

「俺のターンだな、ドロー」

 

 万丈目のフィールドはがら空きで残りLPは100しかない。今ならレベル・スティーラーのダイレクトアタックでも倒すことが出来る。

 しかしあの二枚のうちの一枚、或いは両方は万丈目を守る防御カードだろう。となれば、

 

「二枚目のフォトン・サンクチュアリを発動。場に二体のフォトン・トークンを特殊召喚する」

 

「くるか……」

 

「二体のフォトントークンを生け贄に捧げ、光と闇を束ね生来せよ! 光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)!」

 

 

【光と闇の竜】

光属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力2400

このカードは特殊召喚できない。

このカードの属性は「闇」としても扱う。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にする。

この効果でカードの発動を無効にする度に、

このカードの攻撃力と守備力は500ポイントダウンする。

このカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。

自分フィールド上のカードを全て破壊する。

選択したモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 その片翼はまるで天使のように純白の翼だった。純白の翼と同じ純白の肢体は触れるだけで汚れてしまいそうなほど清純だった。

 その片翼はまるで悪魔のように漆黒の羽だった。漆黒の羽と同じ漆黒の肢体は触れるだけで溶けてしまいそうなほど邪悪だった。

 光と闇、二つの属性を重ねもったドラゴン。それが光と闇の竜。

 

「光と、闇の竜……このカードは」

 

 光と闇の竜を仰ぎ見る万丈目は心奪われたように凝視する。その目が離れることはなく、放っておけば何時間でも見つめていそうなほどだった。

 だがこれはデュエル。無粋でも先に進めなければならない。

 

「バトルフェイズだ。光と闇の竜で相手プレイヤーをダイレクトアタック、シャイニングブレス!」

 

「っ! 罠カード、聖なるバリア ーミラーフォースー! これで光と闇の竜は破壊。更に俺の伏せたもう一枚のカードはリビングデットの呼び声だ。このカードで次のターンで墓地へ捨てたヘル・バーナーを蘇生すれば、俺の手札にあるモンスターとの直接攻撃で俺の勝ちだ!」

 

「この瞬間、光と闇の竜のモンスター効果が発動。このカードが表側表示で存在する限り、モンスター効果・魔法・罠を攻守を500下げて無効にする」

 

「なんだって!」

 

「ミラーフォースは無効、攻撃は続行される」

 

 攻撃の直前、咄嗟に万丈目はデュエルディスクを操作して光と闇の竜のテキストを読む。

 

「だがその効果は同一チェーン上では発動できない。俺はリビングデットの呼び声を発動し――――」

 

「それも読んでいた……速攻魔法、サイクロン。リビングデットは破壊して貰う」

 

「っ!」

 

「正真正銘の止めだ、ダークバプティズム!」

 

「うわぁああああああああああ!」

 

 光と闇の竜が吐き出した光と闇の入り混じったブレスが万丈目のライフを奪い去った。

 どうやら……卒業生代表で唯一の敗北者にならずに済んだらしい。丈は悔しがり地面を叩く万丈目に歩み寄る。

 

「ナイスデュエル、万丈目。学園最後のデュエル……楽しませてもらったよ」

 

「ナイス、だと……? 全然ナイスじゃない! くそくそくそっ! この俺様が……俺様が負けた、だと? 相手が魔王だからといって、畜生……」

 

「敗北は悔しいか。まぁどうだろうな、俺だって幾ら互角だのなんだのと言っても亮や吹雪にデュエルで負けると悔しい。だけど、それでいいんだ。常勝無敗、一度も負けたこともない人間は脆い。敗北して悔しさを知ってるからこそ、次は絶対に勝つって思える。その気持ちがあるから人間は成長できる。

 勝利以上に敗北は多くのことを教えてくれるものだ……。そのことを俺はこの三年間で学んできたつもりだ。万丈目、これを」

 

 丈は一枚のカードをデッキから抜くと万丈目に渡す。

 

「……これは?」

 

「ラッキーカードだ。こいつが君のところに行きたがっている。光と闇の竜、そいつは自分のステータスを下げても味方を守る力をもっている。お前がなによりも重要視するステータスを、だ。いつかそのカードを操るに相応しいデュエリストになって三年後、また会おう」

 

「宍戸、さん……」

 

 三年後。万丈目もいずれ丈と同じようにアカデミアを卒業し高等部へ上がる日がくる。

 その時、また宍戸丈と万丈目が同じ学び舎で過ごすことになる三年後に彼が『光と闇の竜』に相応強いデュエリストに成長しているか否か。

 

(高等部での楽しみが一つ増えたな)

 

 デュエルを始める前とは違う晴れ晴れとした表情で丈は退場していく。

 観客たちの拍手がそれを見送った。




 地獄デッキだと余りにも切り札にかけているので、TF3の万丈目デッキを流用しダムドをもってきました……。
 あとちゃっかりプラネット・シリーズに関する伏線投入。The SUNはプラネットの一枚じゃないかって? それが伏線です。


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第80話  卒業

 プロデュエリストになる第一条件はまずプロのライセンスをもつことである。スポンサーがなくとも、ライセンスさえあれば一応はプロデュエリストを名乗ることは出来る。

 尤も現実的にスポンサーがいないとプロデュエリストは収入も見込めない上にプロとしての活動もできず、リーグで戦うことすら難しいのでスポンサーの存在は必須とすらいえる。

 ライセンスだけで戦い抜けるようなデュエリストはそれこそ伝説クラスの実力者くらいだろう。有名なノースポンサーのプロとしては武藤遊戯などと幾度も戦った事のある歴戦の決闘者のハーピィ・レディ使いなどが挙げられるだろう。

 しかしスポンサーがなくともプロデュエリストを名乗ることはできても、ライセンスなくてはどれだけの大企業や大財閥がスポンサーになろうとプロデュエリストになることは出来ない。

 プロのライセンスをとる方法は幾つかあるが、一番メジャーなのはスポンサーからの推薦を得るというものがあるだろう。プロリーグで活躍するプロデュエリストを多く抱える団体がプロリーグ協会にライセンスを申請し受理されれば新たにライセンスが発効されるのだ。デュエル・アカデミアの卒業生などの多くもこの方法でプロへの道を歩んでいるし、有名大会で優勝したデュエリストがスカウトされる時もこの方法でプロになっている。

 もう一つの方法はプロデュエリスト試験をクリアして獲得することだろう。ただし上記の方法とは異なり、実技試験や筆記試験双方を突破する必要があり、突破したとしても面接を通らなければならないので狭き門といえる。仮に全てクリアして合格できたとしても、ライセンスを獲得しただけの無名ではスポンサーになってくれる企業も見つかり難いので、合格したからといって成功が約束されるわけでもないだ。

 しかも有望株のデュエリストの殆どはスカウトが発掘済みであることが多いので、プロになって活躍できるデュエリストは一握りだ。この方法で見事プロデュエリストとして大成を果たした者にはミズガルズ王国のプリンス・オージーンやデステニー・オブ・デュエリスト、DDこと本名カイル・ジェイブルスなどがいる。

 そんな中……今日のプロデュエリスト試験会場はざわめきに満ちていた。

 ある日ふらりと現れた一人の男。その男は筆記試験で合格点を優に出すと、その後の実技試験でも驚くべき成績を叩きだした。

 実技試験は合計三十人の試験官と連続でデュエルを行い、その総合成績で判断される。

 試験官は誰も彼も元プロデュエリストばかりなので、一勝するだけでも難しい上にそれが30通りである。大体15勝もすれば合格は硬いといわれ、20勝なら文句なしで合格だ。

 だというのに彼はその試験で30戦30勝0敗。しかもそのうちの17はワンターンキルで決着をつけている。もはや次の面接試験すら必要ないほどの圧倒的な成績。

 試験官の一人はこれほどの男がどうしてスポンサーの目にも留まらずに、と疑問に思ったが、

 

「そうかっ!」

 

 どこかで見た事があると思っていた彼の顔を思い出したことで疑問は氷解する。

 アメリカ国旗の柄のバンダナと目を覆い隠す黒いサングラス。生えた無精髭は不衛生さよりも年季の入った野性味を醸し出していた。

 彼の名を試験官は良く知っていた。あの当時を生きたデュエリストなら知らないはずのない名前だった。

 

「バンデット・キースが、帰って来たのか……」

 

 この日、嘗ての伝説が表舞台へと舞い戻った。

 だが試験官は気付かなかったが表舞台に戻って来たのは彼だけではない。

 キースと同じくネオ・グールズに身をやつしていたパンドラもまたキースと同じように別の場所でプロのライセンス試験を受けていた。

 人形と呼ばれた少年も自分の罪の贖罪のためにも、得意とするパントマイムを活かし人々を喜ばせるような仕事を探して努力していた。

 明けない夜はない。終わりのない嵐もない。長い長い暗闇から漸く抜け出した彼等はこれから堂々と光りの道を歩いていくのだろう。

 ちなみにその頃、

 

「フフフフフ、私レアハンターはここに新たにニュー・ネオ・グールズの結成を宣言する。伝説のデュエリスト、城之内を倒し三千年前の神官シモン・ムーランの生まれ変わりの私がリーダーだ。……私がリーダーだ! 大事な事だから二度言ったぞ」

 

「よっ! リーダー格好良い!」

 

「ヒャッハー! いつかあの三人から三邪神を奪い返してやるぜぇーー!」

 

「グールズに栄光あれぇえええ!!」

 

 アホはいなくならなかった……。

 しかし肝心のリーダーの頭もアホなので危険性は少ないだろう。出来る事といったら精々丈が三邪神の所有者であると言いふらしまくったり、海馬コーポレーションのブルーアイズ像に落書きをすることくらいだ。

 頭の残念なレアハンターがリーダーでいる限り、彼等は少しだけ迷惑な愉快な集団として生きていくことになるだろう。

 

 

 

 

 終わりというのは新たなる始まりであると人は言う。

 丈もその言葉に賛成だった。終わるにしてもただ終わるだけというのは悲しい。エピローグは同時にオープニングが始まるのだと思えば、これからの未来に思いを馳せることもできるだろう。

 だがこれが新たな始まりだと言い聞かせても、なんともいえぬ切なさは消えてくれないものだ。

 丈と亮がアカデミアに入学し、そして吹雪という新たな友を得てからの三年間は振り返ってみればほんの一瞬の出来事のようであった。

 楽しい時間ほど早く終わってしまうというが正にそうだ。楽しい三年間はあっという間に終わってしまった。

 デュエル・アカデミア中等部は今日卒業式を迎えた。

 檀上では卒業生代表ということで首席兼生徒会長でもあった亮が話している。亮はクールでいるようで基本的にはデュエル馬鹿だが、ああいった仕事もそつなくこなす器用さも持っている男だ。卒業生代表のスピーチもスラスラと話していた。

 

『私達はこの三年間、アカデミアで多くの事を学んできました……』

 

 檀上で喋る亮の言葉が耳に届く。何気なく隣を見ると、吹雪も今度ばかりは真剣に檀上を見守っていた。

 亮のスピーチに釣られて、丈もこれまでのことを回想する。

 

「ライバルは多ければ多い方が良い。丈、俺はお前と一緒にデュエルアカデミアという新天地で実力を高め合っていきたい。どうだ、お前も一緒にアカデミアに来ないか」

 

 あの言葉から全てが始まった。もし亮が自分をアカデミアに誘っていなければ、確実に現在はなかっただろう。

 

「君だね、出席番号2番くん。僕の対戦相手は」

 

 最初の授業で吹雪と知り合って、それから亮と三人でつるむようになった。

 振り返ってみるとこの三年間、ずっと三人で行動していたような気がする。二年生の頃の林間学校に三年生の修学旅行、I2カップやネオ・グールズとの戦い。適当に数えても常に側には二人がいた。

 腐れ縁もよくもここまで続いたものだ。我ながら感心してしまう。

 

『――――以上で終わります』

 

 スマートにスピーチを終えた亮が壇上を降りていくと拍手が降り注ぐ。卒業式なのだから遠慮する必要もない。丈も吹雪も力いっぱい両手を叩いた。

 ふと視線を在校生の席に向けると何人かの生徒が泣いているのが目に入る。……これまで実感したことがなかったが、後輩から慕われるというのは良いものだ。

 その後、校長の長い話を最後だから我慢して真面目に訊くと漸く卒業式が終わる。

 

『卒業生退場』

 

 司会の言葉で起立する。……特待生組である丈たちのクラスは最初に退場することになっていた。

 四方から拍手が浴びせられる中を歩いていく。

 

「先輩! 高等部にいったらまたデュエルして下さい!」

 

「ジーク・カイザー!!」

 

「吹雪様ーーー! こっち向いて下さい!」

 

「魔王様、命!」

 

 最後の言葉にはツッコミを入れたいところであるが、ぎこちなく笑いながら丈も退場していく。亮はクールに歓声を流していたが、吹雪などはまるで自重することなく辺りに笑顔を振り撒いていた。

 一年生の方に目をやると吹雪の妹の明日香が自重しない兄の姿を見て頭を抑えている。

 

「ともあれ卒業おめでとうだな」

 

 拍手の中を通りすぎ外へ出ると、最初に亮が口火を開いた。

 

「まぁ卒業といっても高等部に進級するだけだし、アスリンと一つの屋根の下で学べなくなるのは悲しいけどお別れってかんじはしないかな」

 

「……それは言える」

 

 丈も吹雪に同調した。

 高等部に入ればオベリスク・ブルー、ラー・イエロー、オシリス・レッドに別れることになるし高等部からの編入組も新たに加わることになる。

 しかし丈を含めた首席三人は高等部進学後も学費免除の特待生扱いでオベリスク・ブルーになることが決まっており、高等部へ進学するからといって三人が離ればなれになるというわけではないのだ。

 

「だから俺もともあれと言っただろう。だが高等部があるのは島だ。中等部と違い簡単に本土の大会に出ることもできない。かわりに毎日デュエルに集中することができるのは有り難いが」

 

「コンビニマニアの田中先生なら発狂ものだ」

 

 からかうように丈が言うと亮も苦笑する。流石の亮も卒業模範デュエルでのコンビニ発言に度肝を抜かれたのだろう。

 けれど島の中にあるアカデミアだがそれなりに島内での行動は自由だ。パンフレットや実際に見学にいって見聞きした話によれば、オベリスク・ブルー内には24時間営業の自販機オンリーの売店部などもあるらしい。

 TVゲームなども本土から届けてもらうなどのことはしてくれるので、そこまで不自由はしないだろう。

 

「そういえば亮、高等部の校長って確か……」

 

「あぁ。鮫島師範だよ、サイバー流で俺の師だった人物だ。いや、俺もこれからデュエル・アカデミア高等部の一生徒になるのだから、鮫島校長と呼ばないとならないか」

 

 亮の強さは身近でいつもデュエルしている丈は良く知っている。そんな亮の師匠というのだから、鮫島校長はかなり強いのだろう。

 もしかしたら初手サイバー・エンド・ドラゴンからのリミッター解除&融合解除くらいやってのけるかもしれない。

 

「マスター鮫島か。デュエルモンスターズ最初期から活躍したデュエリストの一人だね……。そういえば何時だったかキースが以前に戦ったことがあるとかないとか」

 

 吹雪に言われて丈も思い出した。キースとのデュエルの際、彼が亮のことをサイバー流の小僧呼ばわりしたのもそれが原因だろう。

 キースによれば完封勝利だったらしいが……そのことを亮に聞くと。

 

「俺も何度か師範から現役時代の話は聞いたからな。バンデット・キースと戦った時のことも話してくれたことがある。雲の上で……」

 

「雲の上?」

 

「なんでもない」

 

 非常に気になる単語が出たが亮が聞いて欲しくなさそうな顔をしていたので、なにも聞かなかった事にした。

 

「まぁ鮫島師範はミーハーなところはあるが分別のある人だ。校長としてアカデミアにある以上、サイバー流師範としては振る舞わないだろう。だから……コネで宿題免除になるなんて考えないことだ」

 

「さ、さてなんのことだろう」

 

 わざとらしく口笛を吹いて誤魔化す。やはり悪いことはできないものだ。実行に移す前に釘を刺されてしまった。

 もしもうっかりと宿題を忘れるなんてことがあれば中等部の頃と同じようにこっそり亮か吹雪に見せてもらうしかないだろう。

 

「はぁ。お前は相変わらずだな」

 

「に、人間誰だって物忘れくらいするさ!」

 

「俺はしないぞ」

 

「それは亮が凄いんだよ。吹雪も宿題忘れたことあるし」

 

「え? そうだったっけ」

 

「とぼけても無駄だ。俺はしっかり覚えてる。昨日の夜ナンパして24時間カラオケで歌いまくった挙句にフラフラで学校にきたお前を誰が助けたと思ってるんだ?」

 

「あはははは、その節はどうも」 

 

 こうしてみると首席だのなんだのと言われているが、わりと優等生らしからぬことも結構してきている。

 特に吹雪の24時間熱唱など下手すれば補導ものだ。丈もレアカード泥棒を捕まえる為に夜な夜な徘徊したことがあるので人の事を言えないが。

 

「と、もう着いたか」

 

 気付けば校門前に立っていた。

 三年間潜り慣れた校門だが『生徒』としてここを潜るのはこれが最後となるだろう。自然と生唾を呑み込む。

 丈と吹雪と亮、三人は同時に頷くと、そこから一歩を踏み出した。

 

 

 

 

――――デュエル・アカデミア中等部 卒業――――

 




 作中で語られた通り、丈が三邪神をもってることが全員にばれてたのは、こっそりキースと丈たちのデュエルを観戦していたモヒカンが言いふらしまくったからです。
 そして漸く藤原を出せます。


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第五章 ダークネス編
第81話  入学試験


 デュエル・アカデミアはデュエリストならば誰もが憧れるデュエリストの聖地だ。

 伝説のデュエリスト、海馬瀬人がオーナーとして誕生したデュエル・アカデミアは毎年多くのプロデュエリスト、カードデザイナー、デュエル講師などデュエルモンスターズ界の第一線で活躍する人材を輩出しており、その輝かしい実績に比例して倍率も高い。

 前年度の倍率は全国の高等学校ナンバーワンだというのだから、デュエル・アカデミアが如何に狭き門なのか分かるだろう。偏差値表でもデュエル・アカデミアは最も高い位置に記述されている。ランクとしては最下層のオシリス・レッドの学生も一般の野良デュエリストからみればエリートには違いないのだ。

 そしてオーナー海馬瀬人の苗字を冠した巨大レジャー施設、海馬ランドのドームではアカデミア高等部入学試験の実技テストが行われていた。

 アカデミア高等部の試験は中等部と同じく、まず筆記試験で篩いにかけられ、それを突破した者から更に実技により絞り込まれる。

 この試験方法はプロデュエリスト試験とほぼ同一のものだ。プロデュエリストの育成を第一の目標と掲げるアカデミアだからこそだろう。違うところは面接試験がないことくらいだ。

 またこの入学試験で優秀な成績を出した者はラー・イエロー、優秀とはいえない成績で合格した者はオシリス・レッドに配属されるので、単に合格すればそれで良いというものでもない。

 そんなアカデミア高等部入学試験本部では、一つのアクシデントが発生していた。

 

「な、なななななな! なんということナノーネ!!」

 

 金髪のおかっぱ頭に特徴的な語尾をつける外国人が頭を抱えて蹲る。彼はクロノス・デ・メディチ。

 変な語尾と外見に目がいきがちだが、イタリアの名門メディチ家の出身で、デュエル・アカデミア実技最高責任者でもある。

 そして今回の実技試験においての最高責任者でもあった。

 

「栄光あるアカデミア、その第一歩たる入学試験において実技試験試験官が五人も欠席するトーハ、どういうことナノーネ!」

 

「はぁ。どうもアカデミアからのフェリーが難破してしまったようで……。幸い全員が無事救助されましたが、試験にはこれないでしょう」

 

 クロノスの部下で試験官の一人がしどろもどろに言う。

 普段ならクロノスもいきなり事故で同僚が五人も休んだからといってとやかく言うほど心が狭い人間ではない。むしろ「お大事にナノーネ」の一言くらいは言うだろう。

 けれど入学試験は『普段』ではない。五人の試験官の欠席というのはかなりの大打撃となる。

 入学試験とはこれからアカデミアに入り、無限の可能性を開花していく期待の新鋭を迎える大事な行事だ。ここで失敗などすれば、全責任は最高責任者であるクロノスの両肩に降りかかるだろう。

 

(不味いノーネ! 入学試験失敗なんてことになったら平教諭に降格……最悪、クビ! リストーラ! マンマミーア! ヘルプミーナノーネ!)

 

 路頭に迷い、四畳半のアパートでフリーターをしながら細々と生活している自分を想像してクロノスの顔が青くなる。

 

「冗談じゃないノーネ! 今年のアカデミアはただでさえ筆記試験合格者が多いノーニ、さらに五人試験官が減るなんて駄目なノーネ! 許せないノーネ!」

 

「けど本当にどうしますかクロノス教諭。まさか試験日を一日ずらすなんて出来ませんし……」

 

「むむむ……。こうなったら試験時間を予定よりも大幅延長するしかないノーネ。校長になにか言われたら、難破した船の船長に全責任を擦り付けてやるノーネ」

 

 地味に酷いことを言いながらも、クロノスは頭の中で実技試験参加者と試験官の数と、一人あたりが試験にかかるであろう時間などを計算していく。

 五人の試験官が欠席した以上、予定通りに試験を進めるのは不可能だ。予定通りでは出来ないなら、もはや予定を変更するしかない。

 けれどクロノスが新たなプランを算出し終えるよりも前に、

 

「く、クロノス教諭! お電話です!」

 

「私は忙しいノーネ! 誰か他の人がかわりに電話に出ルーノ!」

 

「そ、それが……電話の相手は影丸理事長です……」

 

「の、ノーネ!?」

 

 影丸理事長といえば、校長の鮫島よりも更に上の権力者だ。

 デュエル・アカデミアのオーナーは海馬社長で、現場で学園を取り仕切っているのは鮫島校長だが、海に浮かぶ孤島にアカデミアを建造させ細かな校則などを取り決めたのは理事長の影丸である。

 クロノスのようなアカデミアの教諭からすれば王様の如き人物だ。ちなみにオーナーは神。

 

「か、変わるノーネ!」

 

 忙しいからといって、理事長の電話にでんわ、ではいけない。クロノスは慌てて受話器をひったくる。

 

「もしもーし。お電話変わりましたノーネ」

 

『……船が難破し試験官が足りなくなったそうだな、クロノス教諭』

 

「な、何故それーを!?」

 

 地獄耳どころの話ではない。実技試験の最高責任者であるクロノスですらついさっき知ったばかりだというのに、アカデミアとは距離をおく理事長がもう情報を掴んでいるとは。

 理事長恐るべしというものだろう。壁に耳あり障子に目ありとはこのことだ。

 

『だが試験官が足りないのなら、補充すればいい。恐らく丸藤亮、天上院吹雪、宍戸丈の三人も実技試験を見に来ているだろう。彼等を試験官としたまえ』

 

「せ、セニョールたちは成績最優秀の首席デスーガ、生徒であることに変わりありませンーノ! 生徒に試験官をやらせるなんて前代未聞ナノーネ!」

 

『世の物事は常に前代未聞から始まる。前例などなければ作ればいいのだよ……。それに彼等は若くしてI2カップの表彰台を独占し、復活したネオ・グールズを倒すほどの実力者たちだ。能力に申し分はないだろう』

 

「し、しかーし……」

 

『クロノス教諭、君は一つ思い違いをしているようだが、私は君にお願いをしているのではない。命令を、しているのだ。まぁ君が私の命令を逆らうだけの権威をもっているというのなら、どうしようと勝手だが。その時は露頭に迷う覚悟をしておくのだな……』

 

「モッツァレラ!?」

 

 再びクロノスの脳裏にフラッシュバックする四畳半のアパートでひもじい暮らしをする自分。

 理事長に逆らえば、その光景は現実のものとなるだろう。クロノスの決断は早かった。

 

「りょ、了解でスーノ! け、けど三人が断った場合は無理に強要させることはできないーの!」

 

『フフフフッ。彼等ならこんな面白いイベントを断りはすまいさ。なにせ……私が見出した彼と一足早くデュエルをするチャンスなのだから……』

 

「彼?」

 

『君も知っているだろう。オーストラリア・チャンピオンシップを若干13歳で制し、その後三年間王者の座に君臨し続けた天才……藤原優介だよ』

 

「セニョール藤原はセニョール丈たちと同じ特待生待遇のはーず! なんで彼も入学試験を受けるノーネ!?」

 

 藤原優介はその輝かしい実績に目をつけた影丸理事長が直々にアカデミアにスカウトしたほどの人物であり、そのため中等部からの編入でないにも拘らず特例としてオベリスク・ブルーへの入寮が確約されている。

 アカデミア中等部を首席で卒業した三人と同じ学費免除の特待生待遇を受けていることからも、その実力が分かるというものだ。

 

『出る杭は打たれるというやつだな。如何に過去の実績が輝かしくとも、やはり特別扱いというものは嫉妬を買いやすい。それを避ける為にも彼は入学試験をもって自らの力を見せて貰う必要がある……。手始めの筆記試験では全教科満点を叩きだしてくれた。私の期待通りだよ』

 

「い、一理あるノーネ」

 

 藤原以外にも過去に素晴らしい戦績を収めたデュエリストは受験者の中にもいる。関西大会優勝、北海道大会準優勝などなど。彼等をさしおいて藤原を特別として扱うには、彼が編入組で最優秀の人間であるという証を見せるのが一番手っ取り早いだろう。

 

『では頼むぞクロノス教諭。……そうだな、君が藤原優介とアカデミア中等部首席の三人の誰かと戦わせてくれたのならば、特別ボーナスも考えておこう』

 

 最後に見え透いた飴を残すと、理事長の電話は切れた。

 

 

 

 デュエル・アカデミア高等部に自分達の荷物を置きブルー寮に慣れるのに丈たちは二日間かかった。

 本来ならブルー寮は西洋の城みたいなところなのだが、丈たちは特待生であり特待生用の寮が別に用意されていたのだ。そこは使う生徒が丈を含め『四人』しかいないこともあり、多くのブルー生が使用する一般ブルー寮よりはこじんまりもしたものだったが、四人で使うには余りにも豪華過ぎるものだった。

 四人しか使わない寮だというのにその敷地面積や大きさがイエロー寮よりも上、といえば少しはその凄まじさが伝わるだろうか。

 雑魚寝すれば100人は眠れるような部屋が一人用で、TVや個人用PCやバスルームなどは当然の如く完備。世話係として家政婦が常にいて、ルームサービスを頼めば24時間ポテトでも寿司でもハンバーガーでも食べれる。

 デュエルディスクなどの整備をする専用のエンジニア、専用デュエルスペースまであるというおまけつきだ。

 それでも意外と短い期間で城での暮らしに慣れたのは、アカデミア中等部の最高級ホテルのような学生寮で三年間生活してきたからだろう。

 普通よりランクが100は上の場所で生活していたから、ランクが300上の場所にも耐性ができている。これで普通から一気にランク300なら驚きのあまり失神したかもしれない。

 とはいえ新学期が始まるまで時間がある。

 高等部の学生寮に慣れた丈たちは一先ず本土へと戻ってきた。その一番の目的はデュエル・アカデミア中等部の実技試験を観戦するためである。

 編入組は最初からオベリスク・ブルーに入ることはないので、同じ寮生になることはないが、これから同じ学園で共に学ぶことになるデュエリストがどんな人間なのか見ておいて損はない。

 

「宍戸さん、この席空けておきました。どーぞ!」

 

「…………あ、ああ。どうも」

 

 入学試験会場に入るなり、ブルー生の集団が立ち上がり一番良い席を譲る。

 席を譲れたことは嬉しいのであるが、何故か素直に喜べない。

 

「大したカリスマじゃないか、丈」

 

 亮がくくっと笑いながらからかってくる。悔し紛れに「うるさい、なら座るな」とだけ言うと、丈は譲って貰った席に腰を落とす。

 理由がどうあれ折角の行為だ。無駄にするのは宜しくない。

 

「可愛い子はいるかな」

 

 吹雪は我慢せずとばかりに、女子の受験者たちの方を眺めていた。

 万年頭がピンク色な吹雪にとっては可愛い女子は強いデュエリスト以上に重要なことに違いない。

 

「吹雪、折角来たんだから容姿だけじゃなくデュエルの腕の方も見ておけよ」

 

 一応友人として吹雪に忠告する。

 

「信用ないなぁ。真の恋愛デュエリストは外面だけに囚われないものさ! 恋とデュエルは同じ、真のデュエリストは恋愛においてもデュエリストなのさ!」

 

「……初耳だな」

 

 面食らったように亮は目をぱちくりしていた。恋愛はデュエルと同じというのは面白い理論だが、恋愛に関しては鈍感の極みの亮を見ていると途端にチープな嘘に聞こえてくる。

 顔も良いから吹雪ほどじゃないにせよ女生徒に途轍もない人気をもつのに彼女が出来ないのも、基本的にデュエルのことばかり考えているからだろう。

 ちなみに丈が彼女が出来ない理由は告白してくる相手というのが重度のドMだったり悪魔信者だったりレディースの頭だったりというのばかりなのが原因なのだが、今は特に関係ないので置いておく。

 

「セニョールたち、ちょっといいデスーノ?」

 

「く、クロノス先生?」

 

 いきなり背後からツンツンと肩をつつかれ、振り向くと――――そこにオベリスク・ブルーの寮長でもあるクロノス先生がいた。

 丈たちはアカデミアに荷物を置きに行った時に面識がある。最初はその特徴的な外観や語尾、それに薄紫色の口紅などに仰天したものだ。

 

「実ーは、かくかくファルコーネで試験官が五人欠席してしまったノーネ。そこーで、セニョールたちに試験官を手伝って欲しいと理事長からのお達しがあったノーネ。協力してくれたら嬉しいノーネ」

 

「……どうする?」

 

 なんとなく二人の答えは分かったが、それでも念のために吹雪と亮に話を振る。

 

「フッ。編入組の実力を生で知れる良いチャンスじゃないか。俺はやらせて貰いますよクロノス教諭」

 

「やっぱりデュエルは見るより自分でやってこそだよね」

 

 亮と吹雪はやはり受けるようだ。だとしたら丈の心も決まっていた。

 

「俺も、やらせて貰います」

 

 普段からデュエルディスクとデッキを持ち歩く癖をつけておいて正解だった。急にデュエルをしなければならなくなった時にも即座に対応することができる。

 丈はブラック・デュエルディスクを、亮と吹雪はアカデミアから支給されたオベリスク・ブルー用のデュエル・ディスクを装着した。

 

「さーて、久しぶりに暗黒界でも使うか」

 

「フフフッ……今宵のサイバー・ドラゴンは血に飢えている」

 

「折角だしI2カップ限定パックに入っていたBFっていうカテゴリーでも……」

 

「なにを勘違いしてるノーネ。セニョールたちが使うデッキは試験用デッキで自分のデッキじゃないノーネ」

 

「「「え?」」」

 

 衝撃発言に丈たちの動きがピタリと止まる。クロノスは何を当然のことをと言わんばかりの表情で腕を組んでいた。

 

「そもそもセニョールたちが本気のデッキでデュエルしたりなんてしたら不合格者続出で試験どころじゃないノーネ。それじゃ任せたノーネ」

 

 暫く三人は固まっていたが、暫くして自分のデッキでデュエル出来ない事実を受け入れると、少しだけ残念そうに試験会場へと向かった。

 




 おい、次に藤原が出るって言ったの誰だよ……。出たのクロノス先生と第一期のラスボスだけじゃないか。
 それはさておき、次こそは本当に藤原でます。こうご期待。


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第82話  四人目の天才

 実技試験開始から二時間が経過していた。五人の試験官が急遽来れなくなった為、一時は窮地にあった実技試験だったが丈たち三人が『試験官』となることで、どうにか予定通りに試験を進めることができていた。

 少しだけ問題だったのはいつも使うデッキが使えないということだろう。あくまで実技試験は受験者の中からアカデミアに相応強い実力者を選定するのが目的。誰彼かまわず叩き潰せば良いというものでもない。

 故に試験用デッキは相手デュエリストの力を最大限発揮できるような構成にされている。

 そのデッキパワーは丈の本来のデッキよりパワー面でもかなり劣るものだったが……中等部での授業が役に立っている。いきなり使用する試験用デッキだったが、直ぐにデッキ内容を頭に入れると直ぐに満足のいく運用ができるようになった。

 

「ラビードラゴンで相手プレイヤーへダイレクトアタック! ラビー・オブ・フレイム・ショットッ!」

 

 これで何人目、否、何十人目だろうか。丈が自分の使役するモンスターに攻撃命令を下すと、白亜の大竜が白いブレスを吐き出した。

 受験番号三番を守るモンスターもリバースカードもゼロ。彼にこれを防ぐ手段はない。 

 

「うわぁあああああ!!」

 

 受験番号三番のライフがゼロになる。受験番号三番は一瞬遅れて自分が敗北したことを理解すると、へなへなと崩れ落ちた。

 丈はそんな三番に歩み寄ると声をかける。

 

「良いデュエルだった」

 

「え?」

 

「そう落ち込まなくても、実技試験の合否は勝敗で決定されるわけじゃない。デュエルの中でアカデミアに相応強い実力を示せればいいんだ。……俺のライフも500まで追い込まれていたし、これなら問題なく合格だよ」

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ。ラー・イエローでね」

 

 本当はこんな事を教えるのは良くない気がしないでもないが、別にクロノス先生から止められてるわけではないのだ。こっそりと三番の知りたがっている情報を教えると、三番は顔を一転して明るくさせてデュエル場より出ていく。

 しかし試験官なんてものになってしまったからだろうか?

 立場は違えど年齢は同じなのだから敬語は使わなくてもいいと言うのに、これまで戦った男女受験者全員が敬語を止めてくれない。

 

(試験官も楽じゃないな)

 

 次の受験者が来るまでの僅かな間、丈は誰にも見られないよう嘆息する。

 相手の実力を測るのが試験の目的である以上、実技試験ではある種の手加減が必要だ。幾ら手札が揃っていようと先攻ワンキルや後攻ワンキルは自重しなければならない。

 ただただ相手に本気でぶつかればいいデュエリストと、相手の実力を引き出さなければならない指導者。難しいものだ。

 そんな時だった。

 丈の担当するデュエル場に一人の少年が足を踏み入れた。

 

「―――――――」

 

 体が凍てついた、かと思った。一目で、いや目を使わずとも肌で感じるほどのプレッシャー。

 デュエル場に来たのはやや緑がかった髪をした長身の少年。ここにくるくらいだから年齢は丈と同じくらいだろう。だが同じなのは恐らく『年齢』だけではない。

 

「受験番号一番、藤原優介です。よろしくお願いします」

 

 丁寧に藤原と名乗った少年は会釈をした。

 デュエル・アカデミアの実技試験で受験番号はそのまま筆記試験のランキングを意味している。つまり受験番号一番は筆記試験でナンバーワンだったという意味なのだ。

 だがそれ以上に丈は藤原優介という男の名前を知っていた。

 

(そうか……彼が)

 

 自分達と同じ特待生としてアカデミアへの入学が確約された唯一の編入組。オーストラリア・チャンピオンシップを三年連続で制した天才少年。

 住む場所の違いから直接会うこともデュエルしたこともなかったが、その名声は良く知っていた。

 けれど丈が意識を向けるのは藤原だけではない。もう一人、彼の隣にいる黄金の羽をもつ男性。

 

『マスター、彼のデッキケースからは途轍もない……禍々しいほどのエネルギーを感じます。どうか、お気を付けを』

 

 その男性は藤原の隣に控え、助言をしていた。藤原は丈を前にしているからか声に出して返答はしなかった。だが僅かに首を縦に振ったのを丈は見逃さなかった。

 黄金の翼を背中から生やした人間などいるはずがない。そもそもそんな人間が街中を歩いていたら大騒ぎだ。それがないということは彼はデュエルモンスターズの精霊なのだろう。

 そして藤原優介は丈と同じ精霊を見ることが出来るデュエリストだ。

 

「……仲間内以外では初めて見るな。そうか、お前も見えるのか精霊が」

 

 気付けば丈はそんなことを言っていた。吹雪や亮以外で見える人間に巡り合えて少しだけ気分が高揚していたのかもしれない。

 

「オネストが見えるんですか!? 貴方も……!」

 

 藤原も自分以外に精霊を見ることができるデュエリストに会うのは初めてなのか驚いた表情をした。

 

「゛オネスト゛っていうのか君の精霊は……。あと敬語はいいよ。同じ精霊を見れるデュエリストのよしみだし、第一俺と君は同級生だ」

 

「え、えーと……宍戸丈さん?」

 

「丈でいい」

 

「それじゃあ丈、君もオネストを見ることが出来るのかい?」

 

「あぁ。前に三千年前の盗賊王の魂やら三邪神やらとどんぱちしたら――――気付いたら見えるようになっていた。ほら」

 

 丈は自分の側にいる精霊のうちの一体、カオス・ソルジャーを見せる。すると守護霊のように半透明のカオス・ソルジャーが丈の隣りに出現した。

 

『カオス・ソルジャー、デュエルモンスターズ界において伝説の最強剣士とこのような場所で見えることになるとは』

 

「伝説って?」

 

「ああ! それってハネクリボー?」

 

「「……………………」」

 

 二人してアホなやり取りをした丈と藤原は暫くの間、見つめ合い同時に咳払いをした。

 気を取り直して丈は真面目に言う。

 

「さ、さぁ。そんなことよりも早速デュエルをしようか。試験用デッキなのが残念だけど相手が相手だからな、俺も遠慮はしない」

 

「望む所だよ。頼んだよオネスト」

 

『お任せを』

 

 藤原と丈のデュエルディスクが起動する。ソリッドビジョンシステムが二人の周囲を囲った。

 受験番号一番。オーストラリア・チャンピオンシップを制した技量、実に楽しみだ。なによりも手加減なんてする必要がないと言うのが正しく最高である。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 デュエルディスクが指定した先攻デュエリストは――――試験官である丈の側。

 前までの試験なら気を使って相手に先攻を譲り渡していたが、相手が藤原優介だというのならば遠慮はしない。

 

「俺の先攻、ドロー! 永続魔法、凡骨の意地を発動」

 

 

【凡骨の意地】

永続魔法カード

ドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、

そのカードを相手に見せる事で、自分はカードをもう1枚ドローする事ができる。

 

 

「この効果で俺はドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、そのカードを相手に見せてもう一枚ドローすることができる」

 

 強力な効果をもつ効果モンスターの台頭に従い、通常モンスターは活躍の場を奪われたかにみえた。

 だがそうではなかったのだ。通常モンスターは何の効果も持たない故に通常モンスター専用のサポートカードが豊富で、効果モンスターにはない通常モンスターだからこその立ち回りも出来るようになっている。

 凡骨の意地もそんなカードの一枚だ。このカードがあれば、もし通常モンスターしかモンスターカードがないデッキなら確実に魔法・罠カードを引くことができるのである。しかも大量のハンドアドバンテージのおまけつきで。

 

「さらに魔法カード、古のルールを発動! 手札よりレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚することが出来る。俺が呼び出すのはこいつだ。ゴギガ・ガガギゴ!」

 

 

【ゴギガ・ガガギゴ】

水属性 ☆8 爬虫類族

攻撃力2950

守備力2800

既に精神は崩壊し、肉体は更なるパワーを求めて暴走する。

その姿にかつての面影はない…。

 

 

【古のルール】

通常魔法カード

手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 正義の為に力を求めるあまり暴走した悲劇のモンスター、ゴギガ・ガガギゴ。その精神を失う代償に手に入れた力は強大だ。

 ゴギガ・ガガギゴの攻撃力2950という数値はブルーアイズに劣るものの通常モンスターでは第二位のパワーである。

 

「俺はカードを二枚伏せ、天よりの宝札を発動! 互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードをドローする。俺の手札は0! よってドローするカードは六枚だ」

 

「僕は一枚ドローする……」

 

「よし。俺は永続魔法、絶対魔法禁止区域発動。このカードがある限り、フィールドに表側表示で存在する効果モンスター以外のモンスターは魔法の効果を受け付けない」

 

 

【絶対魔法禁止区域】

永続魔法カード

フィールド上に表側表示で存在する全ての

効果モンスター以外のモンスターは魔法の効果を受けない。

 

 

 薄青色のバリアーがゴギガ・ガガギゴを包み込む。これでゴギガ・ガガギゴには魔法耐性が付与されたも同然。

 ブラック・ホール、地砕き、ライトニング・ボルテックスなどの除去カードも無意味だ。

 

「このターン、俺には通常召喚が残っている。ジェネティック・ワーウルフを攻撃表示で召喚」

 

 

【ジェネティック・ワーウルフ】

地属性 ☆4 獣戦士族

攻撃力2000

守備力100

遺伝子操作により強化された人狼。

本来の優しき心は完全に破壊され、

闘う事でしか生きる事ができない体になってしまった。

その破壊力は計り知れない。

 

 

 単純な攻撃力ならアレキサンドライドラゴンに並び下級モンスターで第一位の通常モンスター、ジェネティック・ワーウルフ。

 このカードといいゴギガ・ガガギゴといい強力な力を得るには心という代償が必要ということを暗示させる……どことなく悲劇的なモンスターたちである。

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 丈が今伏せたカードは魔法カードを無効化するカウンター罠、マジック・ジャマー。絶対魔法禁止区域が効果を発揮するのは場のモンスターに対してだけ。別に魔法カードそのものを封じるわけではない。

 けれどマジック・ジャマーがあれば、藤原の逆転の魔法カードを封じることが出来る。

 そして天よりの宝札を発動前に伏せた一枚は罠カードを封じる『王宮のお触れ』。これを次のターンに発動すれば、絶対魔法禁止区域と合わせてゴギガ・ガガギゴなどのモンスターは更に強力となるだろう。

 仮に効果モンスターを駆使して攻めてこようと、攻撃反応型では最上位に位置する罠カード、ミラーフォースもある。

 これ以上ないほどの鉄壁の布陣だ。普通の受験者ならまずこのロックを突破することは出来ないだろう。だが、

 

(藤原優介……その実力、見せて貰う)

 

 オーストラリア・チャンピオンシップを三年連続制した実力が本物なら、理事長に見いだされ特例扱いで特待生となったタクティクスが本物なら、こんな布陣など突破してみせるはずだ。

 亮や吹雪が平然とこの陣容を圧巻するのと同じように。

 

「僕のターン、ドロー! 僕は魔法カード、大嵐を発動。フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する」

 

「その動きは読んでいる。カウンター罠、マジック・ジャマー! 手札を一枚捨てて魔法カードを無効にする。俺が墓地へ捨てるカードはブラッド・ヴォルスだ」

 

 発生しかけた大嵐が静まっていく。

 大嵐が発動成功していれば、丈の伏せた多くのカードは全滅。大きなアドバンテージを失っていただろう。こういう時、カウンター罠というのは頼りになる。

 これまでの受験者なら逆転のカードが不発に終わり、絶望の表情でも浮かべそうなものだが、

 

「ふふふっ」

 

 逆に藤原は微笑みすら浮かべていた。そこに追い詰められたものの脅えは微塵もない。

 

「なにが可笑しいんだ?」

 

「……僕にとっても読み通りだったからだよ。確かに大嵐が成功していればいたらで嬉しかったけど、オネストが危険と断言するほどのデュエリストがそんな温い方法で簡単に倒せるはずがない。

 だから僕は敢えて大嵐を囮に使ったのさ。僕の本命はこっちだ。手札より天使族モンスター、ヘカテリスを墓地へ捨てる。ヘカテリスのモンスター効果、デッキより神の居城―ヴァルハラを手札に加える」

 

 

【ヘカテリス】

光属性 ☆4 天使族

攻撃力1500

守備力1100

このカードを手札から墓地へ捨てて発動する。

自分のデッキから「神の居城-ヴァルハラ」1枚を手札に加える。

 

 

 神の居城―ヴァルハラ。丈の頭がボケてなければ、それは確か最上級天使族をノーリスクで召喚できる祭壇。

 明らかに天使族モンスターのオネストを精霊としていることから予想はしていたが、藤原のデッキは天使族デッキなのだろう。

 

「ヘカテリスで手札に加えた永続魔法発動。神の居城―ヴァルハラ!」

 

 

【神の居城―ヴァルハラ】

永続魔法カード

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

 フィールドに天国への入り口のような宮殿が現れる。ソリッドビジョンだというのに空気が神聖なものへとかわり、今にも女神の歌声が聞こえてきそうだった。

 

「神の居城―ヴァルハラの効果発動、自分の場にモンスターがいない場合、一ターンに一度だけ手札より天使族モンスターを一体特殊召喚できる。

 僕が召喚する天使族モンスターはこれだ。光神テテュス!」

 

 

【光神テテュス】

光属性 ☆5 天使族

攻撃力2400

守備力1800

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

自分がカードをドローした時、そのカードが天使族モンスターだった場合、

そのカードを相手に見せる事で自分はカードをもう1枚ドローする事ができる。

 

 

 女神の歌声が聞こえそうな場所に本当に女神が降臨してしまった。

 純白の翼と美しい容貌をした女性。百人が百人、女神と断言するだろう。しかし女神も分類上は天使族だ。正真正銘の『神』を名乗ることが許されたモンスターはデュエルモンスターズ界広しといえど六枚しか存在しない。少なくとも丈が知る限りでは。

 

「そして強欲な壺を発動、僕はデッキよりカードを二枚ドローする。この瞬間、光神テテュスのモンスター効果発動。自分のドローしたカードが天使族モンスターだった場合、自分はもう一枚ドローすることができる」

 

「……厄介な効果だ」

 

 言うなれば天使族版の凡骨の意地というべきか。だがドローフェイズ以外でも効果が発動するというところは凡骨の意地よりも上だ。

 

「僕が強欲な壺でドローしたカードのうち一枚はこれだ。天使族モンスター、神光の宣告者! もう一枚ドローする。ドロー、大天使クリスティア! ドロー、マンジュ・ゴッド! ドロー、創造の代行者ヴィーナス! ドロー……これで終わりだ。

 だがこれでパーツは揃った。僕は手札より儀式魔法発動、高等儀式術! 

 

 

【高等儀式術】

儀式魔法カード

手札の儀式モンスター1体を選び、そのカードとレベルの合計が

同じになるようにデッキから通常モンスターを墓地へ送る。

その後、選んだ儀式モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「手札の儀式モンスター、神光の宣告者とレベルの合計が同じになるよう通常モンスターを墓地へ送り、儀式モンスターを降臨する。

 デッキに眠る三体の神聖なる球体を生け贄に捧げ、降臨し神の生来を告げろ。儀式召喚、神光の宣告者!」

 

 

【神光の宣告者】

光属性 ☆6 天使族

攻撃力1800

守備力2800

「宣告者の預言」により降臨。

手札から天使族モンスター1体を墓地へ送って発動できる。

相手の効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

 

 

 藤原のフィールドに光が充満し、そこから一体のモンスターが生来する。

 光神テテュスと同じ天使族であるが、こちらはより機械的な天使だった。

 

「そして墓地にはヘカテリスと三体の神聖なる球体。このカードは自分の墓地の天使族モンスターが四体のみの場合、生け贄なしで特殊召喚することが出来る。大天使クリスティアを召喚!」

 

 

【大天使クリスティア】

光属性 ☆8 天使族

攻撃力2800

守備力2300

自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、

このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

この効果で特殊召喚に成功した時、

自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。

このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、

墓地へは行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。

 

 

 白ではなく赤い羽根を生やした大天使。上級天使三体が並ぶと壮観という他なかった。

 しかも大天使クリスティアは場に存在する限り全ての特殊召喚を封じる。虚無の統括者と異なり自分の特殊召喚まで封じるデメリットはあるものの、特殊召喚を多用する殆どのデッキにおいてのメタになりうるカードだ。

 

「大天使クリスティアのモンスター効果、墓地の天使族モンスターを一体手札に加える。僕はヘカテリスを手札に戻す。このターン、僕には通常召喚が残っている。マンジュ・ゴッドを攻撃表示で召喚。マンジュ・ゴッドのモンスター効果で二枚目の神光の宣告者を手札に加える」

 

「たまげたな。初期手札から手札消費ゼロどころかプラス2しつつ場に下級モンスター1体、上級モンスター2体、最上級モンスター1体、全部で四体を並べるなんて。けど一番攻撃力の高いクリスティアでも2800……ジェネティック・ワーウルフは兎も角、ゴギガ・ガガギゴには及ばない。どうする気だ?」

 

「攻撃するのさ。バトル! 僕は大天使クリスティアでゴギガ・ガガギゴを攻撃、無慈悲なる断罪!」

 

 攻撃力がゴギガ・ガガギゴより下なのにも拘らず大天使クリスティアで攻撃を仕掛けてきた。

 なにをするか分からないが、ヤバいことはデュエリストの直感で理解できた。故に、

 

「リバースカードオープン! 聖なるバリア-ミラーフォース-! 攻撃を跳ね返し、相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する」

 

「……悪いけど、そうもさせない。神光の宣告者のモンスター効果、手札より天使族モンスターを一体墓地へ送り発動。モンスター効果・魔法・罠の発動を無効にして……破壊する」

 

「なんだって!?」

 

 星6の儀式モンスターにしては攻撃力1800と弱小モンスター並みなのが気になっていたのだが、そういうカラクリがあったとは。

 手札に天使族がいる限りどんな効果も封殺できる。天使族モンスターをドローする限り無限にドローできる光神テテュスとの相性も最高だ。

 

「大天使クリスティアの攻撃は続行される。……そしてダメージステップ時、僕は手札のオネストを墓地へ捨てる」

 

「オネスト……それは精霊の」

 

「オネストは自分の光属性モンスターがバトルを行うダメージステップ時、このカードを手札から墓地へ送ることでバトルする光属性モンスターの攻撃力は、このターンのエンドフェイズ時までバトルする相手モンスターの攻撃力分アップする」

 

 

【オネスト】

光属性 ☆4 天使族

攻撃力1100

守備力1900

自分のメインフェイズ時に、フィールド上に表側表示で存在する

このカードを手札に戻す事ができる。

また、自分フィールド上の光属性モンスターが

戦闘を行うダメージステップ時にこのカードを手札から墓地へ送る事で、

エンドフェイズ時までそのモンスターの攻撃力は、

戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。

 

 

 大天使クリスティアの赤い翼が太陽の光を受け止め跳ね返すほどの輝きをもつ黄金の翼へと変わる。クリスティアの攻撃力はゴギガ・ガガギゴの2950を加算して5750だ。

 

(なんて強力無比な効果だ。オネストがある限り、光属性モンスターは例え攻撃力が0だろうとサイバー・エンドだろうとF・G・Dだろうと撃破できる攻撃力をもつことが出来る)

 

 しかも攻撃が通れば、ダイレクトアタックと同じだけのダメージも与えることができるときた。

 手札からの発動のため奇襲性も高く、無効化されにくい。亮が見たら喉から手が出る程に欲しそうな顔をすることは間違いないだろう。

 

「なるほどね。つまりは……俺の、負けか」

 

 ゴギガ・ガガギゴが破壊され、丈は2800ポイントのダメージを受ける。

 けれど藤原のバトルフェイズはまだまだ終わりはしない。

 

「光神テテュスでジェネティック・ワーウルフを攻撃、ホーリー・サルヴェイション。続いて神光の宣告者で相手プレイヤーを直接攻撃、デクレアラー・フラッシュ!」

 

 二体の攻撃を受けて丈のライフは0になった。ライフ0になったことでデュエルが終了する。

 蓋を開けてみれば受験者側、藤原の後攻ワンターンキルだ。周囲からもデュエルを見ていた者達の声が聞こえてくる。

 

「幾ら試験用デッキとはいえあの魔王をワンキルなんて」

 

「藤原優介……その実力は本物か」

 

「理事長直々にスカウトしたっていうのは伊達じゃないわね」

 

「天使族をあれほどまでに使いこなすタクティクス、アカデミアの三天才と同格の特待生扱いされるだけある」

 

「魔王様に栄光あれぇえ!」

 

「丈くーん、いつでも待ってるから来てネー!」

 

 またも一部変な声もあったが、概ね藤原のワンターンキルに度肝を抜かれているようだ。

 丈はデュエルディスクを畳むと、藤原に手を差し出す。藤原はキョトンとしていたが、直ぐにこちらの意図を理解したようでその手を握り握手をした。

 

「やられたよ、凄いデュエルだった。今度は俺の本当のデッキでデュエルをしよう」

 

「あ、あぁ。僕もそれまでにデッキを調整しておくよ」

 

 どうやら次も控えているようなので、そこで藤原と別れる。しかしもう直ぐアカデミア高等部の授業も始まる。

 同じ特待生寮に藤原もくるので、再戦のチャンスはいつでもあるだろう。

 気を入れ直し丈は次のデュエルに意識を傾けた。

 

 




――――おまけ――――


『もしも三人がデッキを変えずに試験をしていたら……』


宍戸丈「俺のターン! 手札抹殺、三体のグラファを墓地へ送り相手のカード三枚撃破ァ! 続いてレイヴン召喚して三体のベージを捨ててベージ特殊召喚、その後でグラファ三体蘇生! ダイレクトアタック!!」

受験生A「ぎゃぁぁぁあああああああああああ!!」

吹雪「僕のターン! 大嵐を発動してBF-暁のシロッコ召喚! 更に黒槍のブラスト二体に疾風のゲイル召喚! ゲイルの効果で相手の攻撃力を半分にしてシロッコの効果! シロッコに全攻撃力を集中して攻撃、さらにダメージステップにBF-月影のカルートを捨てて攻撃力1400アップ! 合計攻撃力は8100だァ!」

受験生B「いやぁぁぁぁあああああああああああああ!!」

カイザー「大嵐&ブラック・ホール! からのパワー・ボンド、三体のサイバー・ドラゴンを手札融合。融合召喚、サイバー・エンド・ドラゴン! サイバー・エンドの攻撃、エターナル・エヴォリューション・バーストォォ!!」

受験生C「ひぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいい!!」

宍戸丈「うぉぉぉぉぉお! いけぇえええグラファぁぁぁ!」

藤原「オネスト、やれぇえ!!」


クロノス「今年の合格者は一名、藤原優介だけナノーネ!」


宍戸丈「少し……やり過ぎたかな……」

クロノス「少しどころじゃないノーネ!」

















……アカデミアの試験でワンキルする主人公は数あれど、ワンキルされて負ける主人公は初めてかも。なんの自慢にもなりませんが(笑)


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第83話  入学

 藤原優介という新たなライバルとのデュエルの記憶も新しい九月の今日。デュエル・アカデミア高等部――――或いはデュエル・アカデミア本校――――は入学式を迎えていた。

 幾らデュエリスト養成校といえどアカデミアも高等学校であることには変わりない。寮毎に制服が異なるなど独特な校風はあるが、デュエル以外は普通の授業もやるし、入学式も普通の学校と似たようなものだった。

 しかし世間一般の学校と明確にアカデミアの入学式が異なるのは『保護者が一人も出席していない』ことだろう。これはアカデミアが絶海の孤島にあるという立地条件もあるが、アカデミアのオーナー海馬社長の、

 

『真のデュエリストを目指す者なら、親の庇護など受けず己が力で自らの(ロード)を切り開いてみせろ!! フハハハハハハハハハーーッ!』

 

 という有り難い訓示の影響である。これは自らの才能一つで孤児院暮らしの身の上から海馬コーポレーション社長にまで上り詰めた海馬社長らしい意見であろう。

 こんな訓示もあってアカデミアでは基本的に入学式でも卒業式でも保護者の参列はない。授業参観など皆無だ。これを寂しいという生徒も中にはいるが丈に限っては寧ろ有り難い。

 

「本日より皆さんはデュエル・アカデミアの生徒として共に学び共に遊び共にデュエルをしていく訳ですが――――」

 

 檀上で話しているのはアカデミアのボス、もとい鮫島校長だ。

 弟子だった亮によればミーハーなところはあるが分別のある人らしい。実際に目にして成程と思う。

 鮫島校長はどことなくミーハーというべきか童心というものを持っていそうな顔をしていた。しかしミーハーだろうとなんだろうと校長の話は長いという法則を鮫島校長が打ち破ってくれることはなかった。

 丈は三年前にも似たような事を考えていたことを思い出しながら、隣にいる亮の手前、舟をこぐのだけはギリギリのところで堪える。ここで眠ったら後で亮に睨まれてしまう。高校生活の記念すべき一年目で幼馴染からの不興など買いたくはなかった。

 鮫島校長の話は長いが、話が脱線した挙句にフェルマーの最終定理について語りだす中等部の校長と比べればマシだと自分を納得させる。だが、

 

「ええ……即ちデュエルモンスターズにおけるワンターンキルとは梅干しに通じるところがあるわけです……」

 

「――――――」

 

 その余りにも訳の分からない超理論を語りだしている校長を見て、丈は僅かに残っていた我慢の糸を切る。丈は静かに眠りの世界に入っていった。

 頭の中がぐわんぐわんする。

 どれくらいの時間が経っただろうか。どこからか自分を呼ぶ声がした。

 

「おい、起きろ」

 

「痛い!」

 

 訂正。頭をポカっと殴る音がした。

 頭に痛みを覚えて目を覚ます。隣りを見てみれば呆れた顔をした亮。ふと周囲を見渡すと既に入学式は終了していた。どうやら入学式が終わっても一向に起きない丈を起こしてくれたらしい。やり方は乱暴だったが。

 

「いきなり熟睡とは暢気な奴だな。今後が思いやられるぞ」

 

「大丈夫大丈夫、中一の最初もこんな感じでなんだかんだで首席卒業したから」

 

「はぁ。首席は免罪符じゃないぞ」

 

 あからさまに深い溜息をつく亮。言っていることが正論なだけに反論できない。このまま怠けていたら本気で亮に見放されるかもしれないので、自分で自分を叱咤する。

 寝起きで体の節々が訛っていたが伸びをして強引に肉体の方も起こすと、気を取り直して立ち上がった。

 入学式が終わって何人かの生徒はまばらに散りお喋りなどをしていたがほとんどの生徒はもういなくなってしまっている。寮で開かれると言う新入生歓迎会に出席するために自分の学生寮へ戻ったのだろう。

 

「吹雪と……えーと、藤原は?」

 

「あの二人なら先に寮へ戻ったぞ。吹雪のやつは藤原の案内もついでにやっておくとか言っていたな」

 

 どうやら吹雪はこれから一緒に暮らすことになる三人以外の同居人である藤原ともう打ち解けたようだ。

 ちなみに丈たちアカデミアからの進級組は見学などでアカデミアには何度も来ているので地理はバッチリである。しかし藤原は編入組。アカデミアで分からないことも多々あるだろう。他の寮なら先輩に聞けばいいが、特待生寮は丈たち四人っきりしかいない。必然三人のうち誰かが教えなければならないのだが、その任は吹雪がやってくれたようだ。

 

「そうか。じゃあ俺達も行こうか」

 

 歓迎会に遅れるのも不味い。四人しかいない分、遅刻などすれば一発でばれてしまう。

 丈はやや速足で特待生寮へと向かった。

 

 

 

 特待生寮はブルー寮やブルー女子寮より更に奥の方へある。

 中身の豪華絢爛さや装飾華美さは以前に言った通りだが、この特待生寮一つだけ難点がある。なんということはない。単純に高等部まで少しばかり距離があるのだ。

 これは毎日の登校に体力を使いそうだ――――と思ったのも途中までのこと。アカデミアから出て少し進むと何故かリムジンが止まっており、そこから黒服の運転手が降りたかと思えば『お送りいたします』ときた。

 やはり特待生寮はとことんまで特別だったらしい。

 快適なのは良いことであるし、丈も悪い気分はしないのだが少しばかり予算の使い方というものを間違っているような気がするのは……丈が当事者だからだろうか。

 

「やぁ! 二人とも遅かったじゃないか。そろそろだよ歓迎会」

 

 寮につくや否や先についていた吹雪が言った。その手にはなにやらノートなどをもっている。吹雪が入学早々授業の予習などをするとは思えない。大方ラブレターをくれた女子の名前を律儀にメモしたりしているのだろう。

 丈は呆れ半分感心半分で苦笑する。

 吹雪のこういうマメさがモテる秘訣なのだろう。自分の今度から真似してみるのも悪くないかもしれない。

 そして、

 

「君とは初めましてだよね。これからこの寮で一緒に暮らす藤原優介。宜しく亮くん」

 

 藤原が亮へ手を差し出す。そういえばこの二人は実技試験でデュエルした丈や学校を案内した吹雪と違って直接の面識はなかった。

 

「こちらこそ、実技試験での君のデュエルは自分のデュエルをやりながらだが見せて貰った。君のように鎬を削り合うライバルがいるのは俺にとっても嬉しい。あと呼び捨てで構わん」

 

 固く握手をする藤原と亮。この二人の方も仲良くやれそうだ。

 それから丈たち四人は指定された部屋に向かうと、長テーブルに並べられた豪華な料理が並んでいた。

 フランス料理、イタリア料理、ドイツ料理、中華料理、和食……。国という括りに囚われずに、けれど独特の規則性によって並んだ料理の数々。

 幾つか丈も知らない料理があったが一目で超一品であると確信できるのは料理人の腕が良いからだろう。ご馳走を前にして丈はごくりと唾を呑み込んだ。

 

『ようこそデュエル・アカデミアへ、栄誉ある特待生の諸君』

 

「なんだ!?」

 

 唐突に部屋に響くどこが年季の入った声。声の発生源を探すと、丈は壁にかかったモニターに目が止まった。

 映像こそ映ってないが音はあそこから発声されている。

 

「あなたは……?」

 

 恐る恐るこちらを見ているのか定かではないが、声の主に話しかける。すると、

 

『自己紹介が遅れたな。私は影丸、このデュエル・アカデミアの理事長をしている』

 

「理事長、貴方が」

 

 聞く所によればこの特待生寮は影丸理事長の肝入りで『次代を担う伝説級デュエリストを養成する』という名目で通常のカリキュラムの他に新たに創設されたという。

 藤原も影丸理事長直々のスカウトを受けてこのアカデミアに入学している。

 故に影丸理事長がこうして丈たちを歓迎するのは特におかしいことではない。

 

『まずは非礼をわびよう。本来なら直に赴くべきなのだろうが、儂はお主らと違って若く逞しい肉体は何十年も昔に置き去りにしてしまった。儂がそちらに直に行く事になる日はその置き去りにしたものを取り戻す時くらいだろうて……』

 

「?」

 

 不思議な言い回しをする。影丸理事長は要するに自分はかなり年を取って元気もないから孤島であるアカデミアに足を運ぶことが出来ないということだろう。

 しかし後半の置き去りにしたものを取り戻す時というのはどういうことだろうか。言葉通りに受け取るなら若く逞しい肉体を取り戻す時、ということになるのだろうが……。

 

(まぁ気にしても仕方ないか)

 

 自分を若者よりも上に置こうとするあまりわざと面倒な言い回しをしようとするお年寄りは多い。

 影丸理事長もその類なのかもしれない。

 

『諸君等特待生にはオベリスク・ブルー含め他の一般生徒たちとは隔絶した待遇をしている。この特待生寮、専用のデュエルスペース、専属の執事やメイド……。

 君達に口を酸っぱくして言う必要はなかろうが念のために言っておこう。これらは別に君達に快適かつ悠々自適な学園生活を送って貰う為のものではない。

 特待生に選ばれた君達は通常のアカデミアのカリキュラム以外にも特待生用のカリキュラムを受けて貰うことになる……。その内容はエリートであるブルー生徒でも耐え切れないほど過酷なものもあるだろう。だがこれらのカリキュラムをクリアしていけば、君達が卒業するころには今以上の実力をつけているのは間違いないだろう。

 特待生とは特別な待遇を受ける生徒と書く。特待生である以上、一般生徒に劣る無様は決して許されない。私からは以上だ。では私はこれから用事があるので失礼しよう』

 

 音声が途切れる。新入生歓迎会の挨拶にしては随分と厳しい内容だった。

 けれど同時に正論でもある。丈たちはこのアカデミアに入るにあたり学費を払っていない。大豪邸に執事とメイドありの暮らしを与えられながら一円たりとも学園に支払っていないのだ。

 世の中は等価交換で成り立っている。コンビニ一つをとってもお金を払い、それと等価の品物を受け取るという構図が成り立っている。

 当然このアカデミアでも例外ではない。

 謂わば丈たちは誰よりも優れた成績を叩きだすことを『学費』として、このアカデミアに入学したのだ。つまり成績を出さなければ単なる無駄飯喰らいも同じということである。

 

「ま、なんとかするさ」

 

「……俺はいつもと変わらん。カードと相手に敬意を払いつつ自分の力を高めるだけだ」

 

「変わらないね。クールを装って暑苦しいというか……けど厳しくもありがたい激励だったね」

 

「三人とも、全然余裕そうだね」

 

 丈たちも伊達にI2カップやネオ・グールズとの戦いを潜り抜けてきたわけではない。今更理事長の厳しい言葉で狼狽するほど軟な精神はしていなかった。

 藤原はそんな三人を見て呆れと感心の入り混じった声を出す。

 

「そういう藤原も余裕そうじゃないか?」

 

「……僕にはオネストがいるから」

 

『はい。私は常にマスターのお傍に』

 

 三年生の途中から精霊を見る事が出来るようになった丈たちと違い、藤原はずっと前の幼少期から精霊と触れ合うことが出来たらしい。

 だからその分、精霊であるオネストとの絆は深いものなのだろう。藤原からはオネストに対する全幅の信頼を感じることができた。

 

「はいはい。厳しい話は終わりにゃ」

 

「……あー、今度は誰です?」

 

 くたびれたスーツを着て、何故かデブ猫を抱っこしながら現れた人に尋ねる。

 

「オシリス・レッドの寮長の大徳寺だにゃ。今季はオシリス・レッド生が数が少なかったから、レッド寮と兼任する形でこの特待生寮の寮長になったのにゃ」

 

 大徳寺と名乗った寮長(仮)は朗らかに笑った。

 しかし最下層であるオシリス・レッドと最上層である特待生寮、真逆に位置する二つの寮を兼任するとは、ふざけた口調に反してこの先生、実はかなり凄いのかもしれない。

 

「寮長といっても私は普段はレッド寮にいるから、なにかあったら執事さんやメイドさんに言うといいにゃ」

 

「これより皆様のお世話をさせて頂く執事の室地戦人(しつじばとら)と申します」

 

 大徳寺先生が紹介すると黒い燕尾服を着こなした初老の老人が華麗に会釈をした。

 洗礼された動きは一目で彼がベテランなのだと教えてくれる。しかし名は体を現すというが、この人の場合、そのまんまである。

 

「それじゃ君達四人の入学を祝して乾杯にゃ!」

 

「か、かんぱーい」

 

 大徳寺先生がノンアルコールのシャンパンを掲げたのに釣られる形で四人もバラバラに乾杯と言う。

 乾杯することに夢中になっていた丈は大徳寺先生の瞳が一瞬だけ鋭く丈を睨んだのに気づくことはなかった。



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第84話  特別カリキュラム

 特待生寮で行われる特別カリキュラムは大まかに二つに分けられる。

 一つは特別講義だ。アカデミアは月~金の授業は六時間目まで。土曜日は二時間目まであるが、特待生の場合はこれに追加して平日であれば七時間目が土曜日であれば三時間目と四時間目があるようになっている。

 特別講義の講師は交代制となっており定まってはいない。クロノス先生が担当することもあれば、大徳寺先生が受け持つこともある。丈たちはまだ一度も受けていないが大徳寺先生の話によれば、外部講師を招くこともあるそうだ。

 一般生徒より長い時間を『授業』に拘束されるのは平均的学生の感性をもっている丈としては嬉しくないのだが、特別な待遇を受けておいて授業だけサボるというわけにはいかない。それに特別講義は全てデュエルに関する内容ばかりなので数学や化学よりはマシだ。

 そしてもう一つのカリキュラム――――これが中々に厄介だ。

 デュエルマシーンというものがある。呼んで地の如くデュエルをするマシーンだ。デュエルではなくチェスだが、機械にゲームをプレイさせる、という事は20世紀の昔から行われていた。

 コンピューターの歴史とコンピューターチェスの歴史は並行しているといってよく、最新のコンピューターが生まれれば最近のコンピューターチェスが生まれていった。

 デュエルマシーンは主に海馬コーポレーションが主導で開発したコンピューターチェスをコンピューターデュエルにしたものである。

 難易度は最上級者、上級者、中級者、凡骨、下級者、馬の骨、雑魚から選ぶことが出来ており、難易度MAXの最上級者はプロにも安定して勝利を収めることができるほどだ。

 この最新式デュエルマシーンが特待生寮には設置されている。その数は合計で五つ。つまり特待生四人につき一人ずつと予備が一つという形だ。

 特待生全員にこのデュエルマシーンの最上級レベルと50回デュエルすることがノルマとして義務づけられてる。50回といってもデュエルマシーンはデュエルする度にデッキを変更してくるので、毎日50通りのデッキと戦うことになる。

 あらゆるデッキに対応できる柔軟さ、数多くのデュエルをこなせる体力的強さ……この二つを鍛えることが目的であると執事の人に説明された。

 

『私のターン、ドロー』

 

 デュエルマシーンがドロー宣言をする。

 現時刻は8時10分。本日のノルマのデュエルマシーンとの50デュエル、その49デュエル目を丈は行っていた。

 

『私は光属性モンスター、ワタポンと闇属性モンスター、クリッターをゲームから除外。カオス・ソルジャー―開闢の使者―を攻撃表示で召喚します』

 

「……また厄介なモンスターを」

 

 デュエルマシーンが世界に四枚しかないカオス・ソルジャーを召喚してきた。デュエルマシーンが使用するカードは本物ではなく、あくまでシステムにインプットされたカードのデータなので、カオス・ソルジャーのような超レアカードでも普通に使用してくる。

 その気になればブルーアイズだって使わせることができるし、もっといえば遊戯デッキや海馬デッキを再現することも可能だ。

 ただし伝説級デュエリストのデッキを十全に使いこなすには優れたタクティクスと選ばれたデュエリストがもつ引きの強さ、二つを兼ね備える必要があるので思考ルーチンが高いだけのデュエルマシーンでは扱いきれないだろう。

 

『バトル! カオス・ソルジャーで相手プレイヤーを直接攻撃』

 

「罠発動! 魔法の筒(マジック・シリンダー)! その攻撃は跳ね返す」

 

 カオス・ソルジャーの攻撃力分のダメージがそのままデュエルマシーンを襲い、ライフをゼロにした。

 

『デュエル終了。私の敗北です』

 

 デュエルマシーンのモニターに『YOU WIN』という文字が出た。先程これが『YOU LOSE』になったばかりだったので小さくガッツポーズをした。

 難易度最上級とはいえ丈もそれなりの技量をもつデュエリストだ。最初の方はそれこそどんなデッキが来ようと連戦連勝でいけた。

 しかし段々と数をこなすにつれて体力が減り、集中力が弱まるにつれてプレイングミスなどを出すようになってしまい……敗北することもあった。48デュエル目が正にそれで、カードを使う順番を間違えてしまい逆転の好機を活かすことが出来なかったのだ。

 普通ならば勝ててたデュエルで負けたのは丈が未熟だったからだろう。このノルマを楽にこなせるようになるにはもっと体力をつけなければならない。

 

「さて……あんまり先延ばしにしてもなんだし、最後の1デュエルといくか」

 

 一度ノルマをこなさずダラダラしていて、深夜眠らずにデュエルする羽目になったことがあるので丈は早めにこれを済ませる癖をつけていた。

 デュエルマシーンのスタートボタンを押すと、マシーンのランプが緑色に点灯する。

 

『デュエルマシーン起動、デュエルを開始します』

 

「最後だからな……残ってる体力を全部叩きつける」

 

 

 

「デュエル!」

 

 

 

 初期手札の五枚を見比べると実に素敵な内容だった。最後のデュエルのために勝利の女神が微笑んでくれたのだと思うくらいに素敵な内容だ。

 この手札ならばいけるだろう。

 

『私の先攻、ドロー。私は終末の騎士を攻撃表示で召喚』

 

 

【終末の騎士】

闇属性 ☆4 戦士族

攻撃力1400

守備力1200

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、

デッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

 

 

 終末の騎士は闇属性限定の『おろかな埋葬』を内臓したカードだ。攻撃力は1400とリクルーターレベルに届く程度だが、闇属性モンスターにはアンデット族などを代表に墓地で効果を発揮するカードが多い。

 またダーク・アームド・ドラゴンの召喚を助けることも出来るので、闇属性主体のデッキでは必須カードに近いモンスターであるといえるだろう。

 

『終末の騎士のモンスター効果、デッキより甲虫装機ホーネットを墓地へ送る』

 

「出たな……ホーネット」

 

 

【甲虫装機ホーネット】

闇属性 ☆3 昆虫族

攻撃力500

守備力200

1ターンに1度、自分の手札・墓地から「甲虫装機」と名のついた

モンスター1体を装備カード扱いとしてこのカードに装備できる。

このカードが装備カード扱いとして装備されている場合、

装備モンスターのレベルは3つ上がり、

攻撃力・守備力はこのカードのそれぞれの数値分アップする。

また、装備カード扱いとして装備されているこのカードを墓地へ送る事で、

フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

 

 

 甲虫装機は丈たちがI2カップで入手したパックに入っていたカテゴリーカードでも群を抜いて極悪だったカードたちだ。

 そしてテーマ全体の鍵であり凶悪性を象徴するモンスターというのがホーネットである。

 ホーネットは装備カードとして装備している時、このカードを墓地へ送りフィールドのカード一枚を破壊する効果がある。そして下級甲虫装機は全て墓地の甲虫装機を装備する効果をもつため、このカードが墓地にあるだけで甲虫装機は1ターンに1度だけフィールドのカードを破壊する効果をもつも同然の状態となるのだ。

 当初デュエルマシーンにこのカテゴリーのデータはなかったのだが、吹雪が面白がってBFなどのデータを入れていたのを見て全員で悪乗りしたため、このマシーンには大会オリジナルパックの最新鋭カードカテゴリーもコンプリートしているのだ。

 

『私はカードを三枚セットし、ターン終了です』

 

「俺のターン、ドロー」

 

 墓地に甲虫装機を送り、カードを三枚伏せ布石は万全。次のターンで一気に攻勢に出る、とでもデュエルマシーンは考えているのだろう。だが、

 

「お前に次のターンは訪れない。このターンで決着をつける。俺は手札より沼地の魔神王を墓地へ送り、融合のカードを手札に加える。さらにE・HEROエアーマンを攻撃表示で召喚! デッキよりE・HEROオーシャンを手札に加える。

 更に魔法カード、融合を発動! 手札のオーシャンとE・HEROプリズマーを融合。現れろ極寒のHERO、E・HEROアブソルートZero」

 

 

【E・HEROアブソルートZero】

水属性 ☆8 族

攻撃力2500

守備力2000

「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する

「E・HERO アブソルートZero」以外の

水属性モンスターの数×500ポイントアップする。

このカードがフィールド上から離れた時、

相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 最強のHEROとの呼び声も高い氷の英雄、アブソルートZero。

 デュエルマシーンは動かない。仮にZeroを除去するカードがあったとしてもZeroを除去しても発動するカードを恐れての事かもしれない。

 もっとも激流葬を発動しようと何をしようと無駄だったが、

 

「速攻魔法発動、マスク・チェンジ! 自分フィールドのHEROを墓地へ送り、同じ属性のM・HEROを特殊召喚する。変身召喚、舞い降りろ! M・HEROアシッド!」

 

 

【M・HEROアシッド】

水属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2100

このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し、

相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。

 

【マスク・チェンジ】

速攻魔法カード

自分フィールド上の「HERO」と名のついた

モンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターを墓地へ送り、

選択したモンスターと同じ属性の「M・HERO」と名のついた

モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

 

 

 Zeroが変身してマスクを被った英雄、アシッドへとなる。だがZeroからアシッドへ変身させたのは攻撃力をあげるためではない。

 極寒のHEROを変身させる恐怖は別にあるのだ。

 

「墓地へ送られたZeroの効果、相手フィールドのモンスターを全て破壊する。さらにM・HEROアシッドの効果、相手フィールドの魔法・罠を全て破壊する!」

 

 極寒の風がデュエルマシーンの場のモンスターを凍てつかせ、氷結の嵐がリバースカードを氷漬けにする。

 やがて凍りついたカードたちに皹が入り始めると、音もなく砕けて消えた。

 デュエルマシーンは機械である。だから何のリアクションもしなかったが、これが人間なら自分フィールドが一瞬にして焼野原――――いや氷河期になったことに動揺を露わにしていただろう。

 

『リバースカードオープン』

 

 だが海馬コーポレーションの技術力を結集して開発されたマシーンの思考ルーチンとて伊達ではない。

 常人なら絶体絶命の状況下でも完全にしてやられはしない。

 

『M・HEROアシッドの召喚に対して私は奈落の落とし穴を発動します。M・HEROアシッドは破壊され……ゲームより除外されます』

 

 アシッドがフィールドにぽっかりと空いた底なし穴に落ちていく。

 奈落の落とし穴が発動しなければエアーマンとアシッドの攻撃によりライフを一気に削りきれたが、アシッドがいなくなったことによりそれも出来なくなった。

 

「……と思ったか? 魔法カード、ミラクル・フュージョン! 墓地のプリズマーとオーシャンを融合し降臨せよ! 輝く英雄、E・HERO The シャイニング!」

 

 

【E・HERO The シャイニング】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2100

「E・HERO」と名のついたモンスター+光属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、ゲームから除外されている

自分の「E・HERO」と名のついたモンスターの数×300ポイントアップする。

このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、

ゲームから除外されている自分の「E・HERO」と名のついた

モンスターを2体まで選択し、手札に加える事ができる。

 

 

 フィールドに一筋の光が落ちてくると同時、腕を組んだ純白のHEROがその身を白日に晒す。

 水属性HEROのアブソルートZeroに並び光を象徴するHERO――――シャイニング。

 

「The シャイニングの攻撃力は除外されたE・HERO一体につき300ポイントアップする。除外されたHEROは二体、よってその攻撃力は3200ポイント! バトルだ。エアーマンで相手プレイヤーへダイレクトアタック!」

 

 もしかしたら何か手札誘発を使ってくるかと思ったがデュエルマシーンはなにもしなかった。

 1800のライフが失われ、残るは2200。詰みというものだ。

 

「止めだ。シャイニングで相手プレイヤーを直接攻撃、オプティカル・ストーム!」

 

 シャイニングから放たれた光の旋風がデュエルマシーンに襲い掛かった。

 ピーという音が鳴り画面にまた『YOU WIN』の文字が並ぶ。

 

『デュエル終了。私の敗北です。――――本日のノルマ終了。結果報告50戦46勝4敗、勝率92%。お疲れ様でした』

 

「ふぅ」

 

 デュエルディスクを畳む。一日50回デュエルをするのはやはり疲れる。幾らデュエルをするのが好きでも、だから疲れないということはないのだ。

 だが同時に段々とこのノルマにも慣れてきている。数をこなすうちに体力もついたのだろう。多くのデッキと毎日デュエルをすることで知識もついてきている。

 ノルマを終えた丈はどうやら亮たちはまだデュエル中のようなので先にロビーへ行く。するとそこには先客がいた。

 

「あっ! 丈もノルマを終えたのかい?」

 

 ソファに座っていた藤原が立ち上がる。TVを見ていたようでニュースキャスターが目地押しの新カードについて話していた。

 

「あぁ。そっちはどうだった、勝率?」

 

「91%だよ。……最後で少しミスしちゃってね」

 

「それじゃ今回は俺の勝ちだな。ギリギリ俺の方が1%上だ。――――あ、オレンジジュース貰えます?」

 

「畏まりました」

 

 控えていたメイドさんの一人に頼むとテキパキと動いていく。

 最近身近に執事やメイドさんがいる生活にも慣れてきた。別に丈自身がなにか変ったわけではないのだが、王様や貴族様にでもなった気分である。

 にしてもあのメイドさん、髪の色が銀髪なところに理事長の趣味を感じさせる。ちなみに名前は明弩瑠璃。ファーストネームはまだしも苗字がまんまだ。

 

「そういえば丈」

 

「ん?」

 

 受け取ったオレンジジュースを飲んでいると藤原が神妙な面持ちをして丈を見ていた。

 

「又聞きになるんだけど、丈が三幻神と対になる三邪神のカードを持ってるって。あれ本当なのかい?」

 

「あぁ。別に隠しておくことじゃ……いや隠しておくことだったんだけどもう皆知ってるから白状するけど……。持ってるよ三邪神、あんまり強すぎるし危険性も高いから普段のデュエルじゃ使ってないんだけど」

 

「……見せてくれないか?」

 

「んー。いいよ」

 

 デュエリストなら三幻神に匹敵する超レアカードがあるとなれば、それを見て見たくなるものだろう。

 別に見せたところで減るものでもない。丈は一度席を立つと、自分の部屋から特別なカードケースをもってくる。ペガサス会長から三邪神のついでに渡された特別製のカードケースだ。

 

「ほら」

 

 

【THE DEVILS ERASER】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/?

DEF/?

A god who erases another god.

When Eraser is sent to the graveyard,

all cards on the field go with it.

Attack and defense points are 1000 times

the cards on the opponent's field.

 

 

【THE DEVILS DREAD-ROOT】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/4000

DEF/4000

Fear dominates the whole field.

Both attack and defense points of all the monsters will halve.

 

 

【THE DEVILS AVATAR】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/?

DEF/?

 

 

 藤原の目は三枚のカードに釘づけとなる。それは藤原だけでなく精霊のオネストも同じだった。

 オネストは畏敬と恐怖の入り混じった表情で三邪神を見つめている。

 

「これが……三邪神、テキストは英語なんだね……。邪神ドレッド・ルートに邪神イレイザー、なんて規格外な性能なんだ……。これがデュエルモンスターズの『神』。だけどこの邪神アバターだけはテキストがないけど、これは?」

 

「それは面白い仕掛けがあってね。デュエルディスクにカードを置くとテキストが浮かび上がる仕組みになってるんだよ」

 

「へぇ。凄い仕掛けだね……オネスト?」

 

『マスター、自画自賛になりますが私はそれなりの力をもつ精霊です。ですがこの三邪神は私など到底及ばないほどの力を秘めている。それこそ悪意持つ者が使役すれば世界を壊しかねないほどに』

 

 オネストは神妙に三邪神の強さを口にする。

 デュエルモンスターズの精霊であるオネストには丈や藤原以上に邪神の秘めた力を理解できるのだろう。

 

『しかし貴方の手にある三邪神は……そう、まるで家の中で転寝する子供のように、非常に安らいでいる。丈、貴方はどうやってこの三邪神を担ったんですか?』

 

「正直、三邪神を初めて召喚した時は無我夢中で当時の心境とかはあんまり覚えてない。ただまぁ……強いて言うなら真心?」

 

『真心、ですか』

 

「暴力や憎悪や力なんていうのは結局は゛愛゛に破れるもんさ。邪神だってそうだ。力ずくで従えてもいずれはボロが出る。暴君も力で民衆の不満を抑えつけようとするけど、いずれ立ち上がった誰かに倒される。向けた悪意がそのまま自分に跳ね返ってくるんだ。

 邪神もそうじゃないか? 邪神の力を力で抑えようとすれば邪神も力で返してくる。だったら邪神の力に真心を込めれば、邪神の方も真心を返してくれるかも?」

 

「……凄いね、丈は。普通の人なら邪神をそういう風に思うなんて出来ないよ」

 

「俺だけの力じゃない。三邪神と戦ったあのデュエルだって亮や吹雪がいなきゃ負けてたし、ここでこうしてもいなかっただろうしね」

 

 バンデット・キース、正確にはそこに潜んでいた盗賊王バクラの魂。デュエルをしていてあれほど恐怖を感じたのは初めてだった。自分一人で挑んでいれば確実に心を折られていただろう。

 だからあの勝利は宍戸丈の勝利ではなく、三人の勝利なのだ。

 

「ところで話は変わるがオネスト……『キングは一人、この俺だ!』って言ってくれないか」

 

『は? 何故、なにをいきなり』

 

「頼む。なにか俺の失ってしまった魂が叫ぶんだ」

 

『はぁ。……では――――キングは一人、この俺だ!』

 

「おおおおおおぉおおおおおお!!」

 

「丈? 僕には何がなんだか分からないんだけど」

 

『キングのデュエルは、エンターテインメントでなければならない!』

 

「オネストもさっきから何を言ってるんだ!? あれ、なにか手に赤い痣が……」

 

『凡人共よ、心に刻め!キング・オブ・キングの三歩先を行くデュエルを!』

 

 一時間後。丈とオネストはノルマを終えて戻って来た亮と吹雪に、変な生き物でも見た様なリアクションをされることになる。

 ちなみに藤原が見た赤い痣は単なる目の錯覚だった。




 前回のデュエルでワンキルされた主人公でしたが、今回は逆にワンキルしました。甲虫装機なんて死ねばいいのに。
……とまぁ私怨はさておき、最小限のデュエルで話がサクサク進むためついワンキルしてしまいます。相手には非情、だけど作者には温情、それがワンターンキル。


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第85話  帝王VS天才

「来たぞ」

 

「さーて、注目の一戦だね」

 

 丈と吹雪は腕を組みながら眼下のデュエル場で向かい合うカイザーこと丸藤亮、そして新たに特待生としてアカデミアに編入してきた藤原を見下ろす。丈たち以外にも青、黄、赤の制服を着たアカデミア生が固唾をのんで状況を見守っていた。

 サイバー流の正当後継者というサラブレットでありI2カップでは優勝こそ逃したものの準優勝に輝いた帝王。そしてオーストラリア・チャンピオンシップで中学生でありながら並みいるプロやベテランを倒し三年連続で優勝を果たした天才、藤原優介。

 果たしてどちらが強いのか。……否、理事長が直々にスカウトしたほどの『才能』はアカデミア中等部が誇った三天才の一角と本当に張り合う事が出来るのか。このデュエルを見守る観衆の気持ちはそれに尽きるだろう。

 藤原は一度三天才に数えられる丈を倒しているが、その時に丈が使っていたのは試験用デッキで本当のデッキではない。つまりこれが本当の三天才と天才の真っ向勝負なのだ。

 

「まぁ……この日が来れば俺達のうちの誰かがやると思ってたけど、藤原との最初の本気デュエルは亮に奪われたか~。ちょっと悔しいな」

 

「いいじゃないか。丈は入学試験で一度戦ってるんだし」

 

 アカデミアには中間試験や期末試験以外に月一試験というものがある。月一だけあって中間や期末よりも出題範囲は狭いが、この成績で寮の昇格や降格もあるというのだから上を目指す者や成績が危ない者にとっては油断できない試験だ。

 試験は入学試験と同じく筆記試験と実技試験両方行われる。

 午前の筆記は毎日厳しいノルマをこなしているだけあり完璧といっていい出来だった。それよりも丈たちが一番気にしていたのは実技の方だったのだ。

 実技試験は同じ学生寮所属の者の中から成績が近しい者が対戦相手として選ばれるシステムとなっている。故にオベリスク・ブルーすら超える最上級の特待生寮に所属する丈たちは必然的に他の三人のうち誰かと戦うことになるわけだ。

 丈と吹雪のデュエルは先程終えたばかり。

 結果は丈が吹雪のライフを300まで追い詰めたところで、惜しくも逆転され吹雪の勝利。20ターン近くに及ぶ熾烈な攻防だった。

 

「で、一度藤原と戦った丈はこのデュエル……どう見るんだい?」

 

「難しいな。藤原のデッキは俺のデッキと似てるところが多い。下級モンスターや永続魔法でサポートしつつバンバンと攻撃力3000に近い最上級モンスターを並べていくデッキ。対して亮は同じ火力でひたすら押すデッキだけど……普通の火力重視デッキとは一味もふた味も違う火力を叩きだしてくる」

 

 機械族専用の融合カードにより融合召喚されるサイバー・エンド・ドラゴンやサイバー・ツイン・ドラゴンは軽く5000や8000なんてパワーを出す。これにリミッター解除すれば一万のラインすら超える。

 攻撃力3000のモンスターなどサイバー・エンド・ドラゴンの前では一溜まりもないのだ。

 

「だから俺はこれまで大抵はサイバー・エンド・ドラゴンを真っ向勝負で倒すんじゃなくて魔法カードや罠カード、またはモンスター効果で撃破してきた。けど……」

 

「藤原のデッキにはあらゆる攻撃力を超越する゛オネスト゛がいる」

 

 丈は同意するように頷いた。

 オネストが藤原の手札にあれば、それこそ亮が攻撃力10000……いやそれこそ一兆万だろうとオネスト一枚で戦闘破壊できる。

 

「一度限りとはいえ正面からのバトルではほぼ最強を誇るオネスト、あれを使われて尚も単独で戦闘破壊できるモンスターなんてそれこそ天使を超える゛神゛くらいだよ」

 

 あらゆるモンスターの攻撃力を常に上回る邪神アバター。あらゆるモンスターの攻撃力を半減するドレッド・ルート。

 丈が担う邪神であればオネストなど怖れるに足らない。真っ向から戦闘破壊できる。

 

「後はオネストにオネストでもぶつけることくらいか。まぁ力に対して力でぶつかる必要もない。天罰、次元の裂け目……オネストが弱いカードはある」

 

 とはいえ攻略カードがあるからといってオネストが弱くなるわけではない。

 

「この勝負、長くはならない。恐らく一瞬……亮が大きな一撃を通せるか通せないか。それで決着がつく」

 

 オネストをどう攻略するかがこのデュエルの鍵となるだろう。サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃が通れば亮の勝ち、通らなければ藤原の勝ち。シンプルな構図だ。

 

 

 

(フッ。二人には悪いが俺が一番ノリだな)

 

 三人全員が望んでいた藤原とのデュエルを最初にやる機会を掴んだ亮は内心でガッツポーズをしていた。

 大観衆の視線を感じるが、もはや慣れたものである。この程度の視線では今更どうもならない。大会出場経験豊富な藤原も同じらしくこれだけの観客を前にして寧ろリラックスしているようだ。

 

「少しだけ派手なことになってしまっているが、今日こういう場でお前とデュエルできることを嬉しく思う。お互い満足のいくデュエルをしよう」

 

「サイバー流の噂はオーストラリアに留学する前から……日本にいた頃から聞いていた。だけど実際にデュエルするのは初めてだ。遠慮はしないよ」

 

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 機械龍を操る帝王か、天使を率いる天才か。どちらが強いのかはこのデュエルではっきりするだろう。

 亮は闘志を漲らせる。亮の隣りに並び立つ精霊のサイバー・ドラゴンも主の闘志を受け、自らとデッキを鼓舞するように天に向かって嘶いた。

 

『マスター!』

 

「分かってる、いくぞオネスト! 相手はプロ級……いや、それ以上の実力者だ!」

 

 だが相対する藤原とオネストも数多のデュエリストたちを倒してきた猛者だ。カイザーとサイバー・ドラゴンの闘志を前にしても一切の動揺なし。

 

「先攻は譲ろう」

 

 亮は藤原に最初のターンを譲る。デュエルモンスターズは基本的に先攻有利だが、亮のデッキの場合は後攻有利だ。だからこれは譲るというより自分を優位にするための布石でもある。

 それを藤原は勿論知っている。知っていてそれを受ける。藤原のデッキはセオリー通りの先攻有利。相手の不利な先攻ではなく自分の有利な先攻。それが藤原の決断だった。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 藤原が入学試験でいきなり後攻1ターン目で丈をワンターンキルした記憶は新しい。

 最初のターンだからといって油断は禁物だ。亮は身構えた。

 

「魔法カード、天空の宝札。光属性天使族モンスターを手札より除外して二枚ドローする。僕はアテナを除外し二枚ドロー。ただしこのターン、僕は特殊召喚とバトルを封じられる。

 僕はモンスターをセット。リバースカードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 先ずは様子見ということだろうか。しかし相手が攻めてこないならばこちらから攻めるのみ。

 元よりサイバー流は防御よりも攻撃に秀でた流派。攻撃こそが最大の防御だ。

 

「相手の場にモンスターがいて自分の場にモンスターがいない時、このモンスターは特殊召喚できる。サイバー・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚」

 

 

【サイバー・ドラゴン】

光属性 ☆5 機械族

攻撃力2100

守備力1600

相手フィールド上にモンスターが存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

 サイバー流の象徴たるサイバー・ドラゴンが先ずは現れる。召喚した白亜の機械龍は敵である藤原を睨むと威嚇した。

 

「それがサイバー・ドラゴンか……。オネストと同じ精霊で、カイザー亮のエースカード」

 

 ただしサイバー・ドラゴンはそれ単体では汎用性の高い便利な半上級モンスターに過ぎない。

 サイバー・ドラゴンが真価を晒すのは融合を使用した後だ。

 

「さらに俺はカードガンナーを攻撃表示で召喚」

 

 

【カードガンナー】

地属性 ☆3 機械族

攻撃力400

守備力400

1ターンに1度、自分のデッキの上からカードを3枚まで墓地へ送って発動する。

このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、

墓地へ送ったカードの枚数×500ポイントアップする。

また、自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 これで亮の場にはモンスターが二体。

 もしも万事上手くいけばダイレクトアタックできるかもしれないが、そう生易しい相手でもないだろう。だが攻撃あるのみ。

 

「カードガンナーの効果、一ターンに一度デッキの上から三枚まで墓地へ送り発動。送った枚数×300ポイント攻撃力を上げる。俺が墓地へ送ったカードは三枚。よって攻撃力は1900となる。

 バトルフェイズ。カードガンナーで守備モンスターを攻撃だ!」

 

「……僕が伏せていたモンスターはシャイン・エンジェル。このカードが破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の光属性モンスターを特殊召喚する。僕は二枚目のシャイン・エンジェルを攻撃表示で召喚」

 

 

【シャイン・エンジェル】

光属性 ☆4 天使族

攻撃力1400

守備力800

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

デッキから攻撃力1500以下の

光属性モンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚できる。

 

 

 新たに後続モンスターが出てくる。やはり攻めきることは出来なかった。けれどシャイン・エンジェルの効果で新たに召喚されたモンスターは攻撃表示。

 

「サイバー・ドラゴンで攻撃、エヴォリューション・バースト!」

 

 サイバー・ドラゴンの一撃がシャイン・エンジェルを撃破した。

 戦闘力超過分のダメージが藤原を襲った。

 

 藤原LP4000→3300

 

 ライフを失いながらも藤原には余力は十分。むしろこの程度は藤原にとっては必要経費でしかないだろう。

 

「シャイン・エンジェルのモンスター効果、デッキより攻撃力1500以下のモンスターを…………オネストを召喚」

 

「オネストだと!?」

 

 藤原のデッキの要というべきモンスターにして相棒。黄金の羽をもつオネストがフィールドに降臨する。

 しかしオネストは手札にあってこそ効果を発揮するモンスター。一体どういうつもりなのか。

 

「俺はカードを二枚伏せターン終了」

 

「僕のターン、ドロー! 亮……オネストには手札を捨てることで攻撃力を上げる以外にもう一つ隠された特殊能力がある」

 

「隠された能力だと?」

 

「オネストのモンスター効果、メインフェイズ時にフィールドにいるこのカードを手札に戻すことが出来る」

 

 フィールドのオネストが光の粒子となり藤原の手札へと戻っていった。

 

「なるほど、だからシャイン・エンジェルで……」

 

 これで藤原のデッキで一番厄介なカードであるオネストが手札に加わってしまった。

 しかしあるかどうか分からないよりも確実に゛ある゛と分かっている方が寧ろ心置きなく戦えるというものだ。

 亮はそっと手札に戻ったオネストを見据えた。

 

「僕はヘカテリスを墓地へ捨て、その効果で神の居城―ヴァルハラを手札に加える」

 

「――――来るかっ!」

 

「永続魔法発動、神の居城―ヴァルハラ」

 

 神が住まう荘厳な神殿が地面から湧き上がる。城門の向こう側からは天使たちの降臨を予感するように聖なる空気が流れてきていた。

 

「ヴァルハラの効果。自分フィールドにモンスターがいない時1ターンに1度だけ手札の天使族を特殊召喚できる。現れろ堕天使スペルビア!」

 

 

【堕天使スペルビア】

闇属性 ☆8 天使族

攻撃力2900

守備力2400

このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、

自分の墓地に存在する「堕天使スペルビア」以外の

天使族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 

 

 ヴァルハラの城門を潜りやってきたのは――――その静謐な空気とは相反する邪悪なるモンスター。

 神に反逆した罪により地獄へと堕天した天使。堕天使だった。

 

「攻撃力2900のモンスターがいきなり、やるな……!」

 

「ふふふっ。けどこれだけで終わりはしない。天使の降臨はまだまだこれからだ! 手札よりマンジュ・ゴッドを攻撃表示で召喚、その効果により高等儀式術をサーチ!」

 

「っ!」

 

「高等儀式術を発動、デッキより――――」

 

「それだけは通すわけにはいかんな! カウンター罠、魔宮の賄賂。魔法・罠の発動を無効にし破壊する。ただし相手は一枚ドローするがな」

 

「カウンター罠っ! くっ、それじゃあ……」

 

 天使の降臨を遮られた藤原が表情を歪める。

 間一髪のところだった。もしもあらゆるカード効果を無効化する神光の宣告者なんて召喚されていれば、下手すれば丸藤亮のサイバー流そのものの回転がストップしかねない。

 

「安々と勝たせてはくれないってことか。だが! 僕はバトルフェイズへ移行! マンジュ・ゴッドでサイバー・ドラゴンを攻撃ッ!」

 

「サイバー・ドラゴン、まさか!」

 

「この戦闘のダメージステップ時、僕はオネストを捨ててマンジュ・ゴッドの攻撃力を上昇!」

 

「ここでオネストだと!?」

 

 マンジュ・ゴットの背中から翼が黄金が噴出する。藤原の相棒であるオネストの力を得たのだ。

 マンジュ・ゴッドの攻撃力はサイバー・ドラゴンの2100を加え3700ポイント。その力は容易くサイバー・ドラゴンを破壊した。

 

「ぐぁぁぁああああ!」

 

「まだ攻撃モンスターは残っている。堕天使スペルビア、カードガンナーを死滅させろ!」

 

 堕天使スペルビアの闇の波動が近付いてくる。

 今の自分に堕天使スペルビアの攻撃を防ぐ術はない。ここは受けるしかないだろう。

 

「カードガンナーは破壊される……! だがカードガンナーの効果、このカードが破壊された時、俺は一枚ドローする」

 

 丸藤亮LP4000→100

 

 オネストの力を得たマンジュ・ゴッドに続くスペルビアの連続攻撃を受け亮のライフは風前の灯となった。

 しかし解せない。オネストは強力無比なカードだが決して軽々しく使うようなものではなく、ここぞという時にだけ使う切り札のはず。亮のライフを一気にゼロにできるならばまだしも、ただダメージを増やす為だけに使用するようなものではない。そんなことは藤原が一番分かっているはずなのだ。

 

(待てよ。そうか藤原の墓地には――――!)

 

 藤原の意図を察した亮は身構える。もしも自分の推理が正しければ、あのモンスターが新たに降臨してしまう。

 当たりたくない予想というものは当たるもので、亮の推理は正解だった。

 

「これで僕の墓地には二体のシャイン・エンジェルとヘカテリス、オネストの合計四体。このカードは墓地にいる天使族が四体のみの場合、特殊召喚が出来る。大天使クリスティアを攻撃表示で召喚! その効果により僕は墓地のオネストを手札に戻す」

 

 

【大天使クリスティア】

光属性 ☆8 天使族

攻撃力2800

守備力2300

自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、

このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

この効果で特殊召喚に成功した時、

自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。

このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、

墓地へは行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。

 

 

 敵ながら見事という他ない。オネストの効果を発動しダメージを上昇・墓地に天使族を送りクリスティア発動条件を揃える・クリスティア召喚・オネストの回収。これら四つの事を同時にするとは。

 行動にまるで無駄がない戦術。天才の名は伊達ではないということか。

 藤原優介。認めたくはないが、その実力は自分よりも高みにあるのかもしれない。

 

(だが、だからこそ戦い甲斐がある)

 

 自分より相手が格上だというのならば、それを倒せば自分は更なる高みに行くことが出来るということだ。

 戦意がみるみると湧き上がってきた。

 

「僕はカードを一枚伏せ、これでターンを終了」

 

 そして自分のターンがやってくる。亮は劣勢でありながら意気揚々とカードをドローした。

 



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第86話  天帝

丸藤亮 LP100 手札2枚

場 なし 

伏せ 一枚

 

藤原優介 LP3300 手札2枚

場 大天使クリスティア、堕天使スペルビア、マンジュ・ゴッド

伏せ 二枚

魔法 神の居城―ヴァルハラ

 

 

 

 自分ライフは100で相手の場には特殊召喚を封じるクリスティア、手札にはあらゆる攻撃力を超越するオネスト。

 絶体絶命というものに自分はあるのだろう。どんな攻撃力の高いモンスターを出そうとオネストにやられ、逆転のモンスター召喚はクリスティアに封じられている。ライフが100しかないので自爆特攻もできなければライフコストを必要とするカードも使えないときた。

 

「だが良い塩梅だ。俺のターン、ドロー!」

 

 ピンチを嘆く事など誰でも出来る。デュエリストならば今やるべきことは嘆く事ではなく考えることだ。どれだけ劣勢でも考える事を辞めれば、諦めることを止めればそこで負けだ。

 勿論諦めなければ必ず逆転できるというほどデュエルは甘くない。どうあっても状況的に逆転不可能なほどにチェックメイトをかけられることはある。しかし諦めてしまったら、あるかもしれない逆転への道筋を見逃してしまうことになるだろう。

 

「強欲な壺を発動、デッキよりカードを二枚ドローする。さらに速攻魔法、月の書を発動。フィールドのモンスターを一体裏側守備表示にする。俺が選択するのは当然……大天使クリスティアだ!」

 

「クリスティアが!?」

 

 大天使クリスティアが裏側表示になっていたことで亮を縛っていた鎖の一つが粉々に砕ける。

 クリスティアの特殊召喚を封じるモンスター効果はフィールドで表側表示になっている時のみ有効だ。裏側守備表示にしてしまえばその効果が発動することはない。

 これで亮には特殊召喚が許された。

 

「クリスティアはこれで封じた。俺はリバースカードオープン、リビングデッドの呼び声! 墓地のモンスターを一体フィールド上に攻撃表示で特殊召喚する!」

 

「今度は通させないよ。それにチェーンして僕も罠カードを発動、王宮のお触れ」

 

 

【王宮のお触れ】

永続罠カード

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。

 

 

 永続罠の王宮のお触れだがこのように罠カードの発動にチェーンして使うことで疑似的なカウンター罠としても利用できる。

 亮のリビングデッドの呼び声は逆順処理によりその効果を無効にされてしまった。効果を無効にされたリビングデッドの呼び声は意味もなくフィールドに残り続ける。

 

「こういう風に使おうって直ぐに発動せず温存しておいたんだけどね。さっきは亮が発動したのがカウンター罠だったせいで使えなかった。スペルスピードの関係上カウンター罠にチェーンして永続罠を発動することは出来ないからね」

 

「しかし今度はこちらも永続罠だったから成功というわけか。だがな藤原、ここまでの展開は読んでいた。魔法カード、天使の施し! 俺はデッキから三枚ドローして二枚捨てる。……俺が墓地へ送ったカードの一枚は人造人間サイコ・リターナーだ」

 

 

【人造人間―サイコ・リターナー】

闇属性 ☆3 機械族

攻撃力600

守備力1400

このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

このカードが墓地へ送られた時、自分の墓地の

「人造人間-サイコ・ショッカー」1体を選択して特殊召喚できる。

この効果で特殊召喚した「人造人間-サイコ・ショッカー」は、

自分のエンドフェイズ時に破壊される。

 

 

「サイコ・リターナー!?」

 

「フッ。俺はカードガンナーの効果で墓地へ送っていたサイコ・ショッカーを場に蘇生させる。サイコ・ショッカーのモンスター効果は言うまでもないな。フィールドの罠カードの効果と発動を無効にする」

 

 

【人造人間サイコ・ショッカー】

闇属性 ☆6 機械族

攻撃力2400

守備力1400

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

お互いに罠カードを発動する事はできず、

フィールド上の罠カードの効果は無効化される。

 

 

 脳味噌を剥き出しにした人間を模した機械が王宮のお触れを無力化する。もっとも無効にしようとしまいと罠カードが無効化されるという点に変わりはないのだが。

 罠カード封じ。伝説のデュエリストの一人、城之内克也が愛用したカードの一枚だけあってその力は強力無比だ。

 

「だがこれだけでは終わらない。俺は場のサイコ・ショッカーを墓地へ送り、手札よりサイコ・ロードを守備表示で特殊召喚する。躍り出ろ! サイコ流最強モンスター、サイコ・ロード!」

 

 

【人造人間サイコ・ロード】

闇属性 ☆8 機械族

攻撃力2600

守備力1600

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に表側表示で存在する「人造人間-サイコ・ショッカー」

1体を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

お互いに罠カードの効果は発動できず、

フィールド上の全ての罠カードの効果は無効される。

1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在する罠カードを全て破壊できる。

この効果で破壊したカード1枚につき300ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 

 サイコ・ショッカーの外装が砕け散ると、そこからショッカーを超えたロード(支配者)がその身を晒した。サイバー流と同時期に創設されたデュエル流派、その究極であるサイコ・ロード。

 そういう意味で亮がなによりも頼りとするサイバー・エンド・ドラゴンに並び立つ存在ともいえるだろう。

 

「サイコ・ロードだって? なんでサイコ流のカードを、サイバー流の継承者である亮が持ってるんだ!?」

 

「I2カップで戦った好敵手より譲られた絆のカードだ。サイコ・ショッカーは丈より譲られ、このサイコ・ロードはサイコ流の継承者たる猪爪に託された。俺のデッキにはこれまで戦った好敵手たちの魂も宿っている。…………俺のサイバー流の切れ味は一味違うぞ?

 サイコ・ロードのモンスター効果、1ターンに1度だけフィールドの罠カードを全て破壊し破壊した数×300ポイントのダメージを与える。ハイパー・トラップ・ディストラクション!」

 

 

 藤原LP3300→2700

 

 効果を無効化され無意味に存在していたリビングデッドの呼び声と王宮のお触れが破壊される。

 どうにかライフを半分近くまで削ることが出来た。問題はこれからだ。

 クリスティアの守備力は2300。今ならサイコ・ロードで破壊することも出来ただろう。けれどそれをすれば返しのターンで藤原はオネストを使いサイコ・ロードを戦闘破壊してくる。そうなればジ・エンドだ。

 だから敢えてサイコ・ロードも守備表示で出さざるを得なかった。守備表示なら攻撃されてもダメージは受けない。

 

「……俺はモンスターとリバースカードを一枚セットする。ターン終了だ」

 

 攻撃出来ないのは悔しいが耐えるしかない。

 

「僕のターンだ。ドロー、僕は大天使クリスティアを反転召喚。バトルだ!」

 

 このターンで藤原は決着をつける気だろう。クリスティア、スペルビア、マンジュ・ゴッド。この総攻撃が通ってしまえば亮のライフは一溜まりもない。

 

「大天使クリスティアでセットしているモンスターを攻撃、無慈悲なる断罪!」

 

「……セットしていたモンスターがリバースする。そしてリバースモンスター、メタモルポットの効果発動。互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚カードをドローする。これでオネストも墓地へ送られるぞ」

 

「っ! けどまだ僕には二体のモンスターの攻撃が残っている。堕天使スペルビアでサイコ・ロードを攻撃。スペルビア・オブ・ヘル!」

 

 黒い羽が断罪の雨となりサイコ・ロードの体を貫いた。サイコ・ロードは苦悶の叫びをあげながら、その体を雲散させる。

 

「最後だ、マンジュ・ゴッドで相手プレイヤーをダイレクトアタック!」

 

「この瞬間を待っていた! サイコ・ロードが撃破されたことで俺は罠カードの使用が可能になる。リバースカードオープン! 聖なるバリア ーミラーフォースー!」

 

 

【聖なるバリア ーミラーフォースー】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。

 

 

 亮の前に出現した透明なるバリアがマンジュ・ゴッドの攻撃を弾き返し、藤原のモンスターを全滅させた。

 相手が攻撃してこなければ発動できないという弱点はあるが、やはりミラーフォースは強い。

 

「ここでミラーフォースとはね……。このターンで決着をつけることは出来なくなってしまったけど、僕にはヴァルハラが残っている。僕も天使の施しを発動。カードを三枚ドローして二枚捨てる。クリスティアはフィールドから墓地へ送られるとき、墓地ではなく自分のデッキの一番上に戻る。僕はヴァルハラの効果で手札より大天使クリスティアを再び特殊召喚。更にモンスターとカードを一枚ずつ伏せターン終了だ」

 

 つくづく簡単に逆転させてくれないものだ。しかし勝利への布石は既に整っている。

 

「俺のターン、ドロー! 速攻魔法、禁じられた聖杯を発動。モンスターの攻撃力を400ポイント上昇させ、その効果をこのターンの間だけ無効化する。俺が選択するのは大天使クリスティア、その効果は無効だ」

 

 大天使も聖杯の力には敵わなかったのか、その力を上げるものの特殊能力は奪われてしまう。

 クリスティアの特殊召喚を封じる効果は融合を多用する亮のデッキにとってオネスト以上の天敵といえる。そのためクリスティアを攻略するためのカードはオネスト以上に多く採用していたのだ。

 

「魔法カード、死者蘇生。天使の施しで墓地へ送ったプロト・サイバー・ドラゴンをフィールドに守備表示で蘇生させる。更に速攻魔法、地獄の暴走召喚!」

 

 

【地獄の暴走召喚】

速攻魔法カード

相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に

攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。

その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から

全て攻撃表示で特殊召喚する。

相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、

そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。

 

 

「俺が攻撃力1500以下のモンスターを特殊召喚に成功した時に発動可能。手札・デッキ・墓地より同名カードを全て攻撃表示で特殊召喚する。ただし相手も自分の場の表側表示モンスターを特殊召喚することが出来るがな……」

 

「しまった……! 僕のデッキにクリスティアは一枚しか入っていない」

 

 大天使クリスティアはかなりのレアカード。そのため藤原はクリスティアを一枚しか持っておらず、二枚目を求めてよくカードショップでクリスティアを当てたパックを買っていたのだ。

 藤原と同じようにオネストを求めてパックを買いまくっていた亮はそのことを良く覚えていた。

 

「プロト・サイバー・ドラゴンはフィールドではサイバー・ドラゴンとして扱われるモンスター。よって俺はデッキと墓地から三体のサイバー・ドラゴンを特殊召喚。

 これで俺の場にサイバー・ドラゴンが揃った。手札よりパワー・ボンドを発動、三体のサイバー・ドラゴンを融合。融合召喚、降臨せよ! サイバー・エンド・ドラゴンッ!」

 

 

【サイバー・エンド・ドラゴン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力4000

守備力2800

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 サイバー流最強モンスターにして丸藤亮が最も信頼するモンスター、サイバー・エンド・ドラゴン。三つの首をもった機械龍は天地を鳴動させるほどの咆哮をあげた。

 パワー・ボンドにより融合召喚された為、その攻撃値は8000。神をも凌駕する数値へと達している。

 

「バトルフェイズ! サイバー・エンド・ドラゴンで大天使クリスティアを攻撃、エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンから吐き出される巨大な光のエネルギー。

 しかし藤原はそれを前にして大胆不敵に笑う。

 

「この瞬間、リバースカードオープン! 光の招集。僕は手札を全て捨て、その数だけ僕は光属性モンスターを手札に加える!」

 

 

【光の招集】

通常罠カード

自分の手札を全て墓地へ捨てる。

その後、この効果で捨てた枚数分だけ

自分の墓地から光属性モンスターを手札に加える。

 

 

 デッキを墓地へ送った藤原は手札の光属性モンスターを手札へと戻す。

 手札全てを要求する大胆な墓地回収……いや、ここまでくると手札交換カードというべきか。藤原に墓地へあったカードが手札へと戻る。

 その中には当然。

 

「オネストを手札に加えたか……!」

 

「もう攻撃宣言は出されている。止めることは出来ないよ。これで終わりだ、ダメージ計算時にオネストを捨てることでサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力分だけ大天使クリスティアの攻撃力をアップさせる。迎撃しろ、オネスティ・コンヴィクション!」

 

 黄金の羽を噴出させたクリスティアが光槍をサイバー・エンド・ドラゴンに投擲する。

 光槍はサイバー・エンド・ドラゴンの光を押し返していく――――ように見えた。

 

「なに?」

 

 が、そうはならない。サイバー・エンド・ドラゴンの光は逆に大天使クリスティアの光槍を凌駕し呑み込もうとしていっている。

 

「こ、これはどうして……?」

 

「ふふふ。それは俺がこのカードを発動していたからさ。速攻魔法、決闘融合-バトル・フュージョン!」

 

「決闘融合だって!」

 

 

【決闘融合-バトル・フュージョン】

速攻魔法カード

自分フィールド上に存在する融合モンスターが戦闘を行う場合、

そのダメージステップ時に発動する事ができる。

その自分のモンスターの攻撃力は、ダメージステップ終了時まで

戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の数値分アップする。

 

 

「このカードは自分の場の融合モンスターが戦闘を行う場合、そのダメージステップ時に相手モンスターの攻撃力を自分モンスターの攻撃力に加える事が出来るカード。謂わば融合モンスター限定のオネストだ。そして計算時、チェーンブロックは一度しか作られない。そして優先権により俺はお前のオネストよりも先にこのカードを発動することが出来る!」

 

「しまった! オネストの効果は逆順処理の関係上、先に出した方が勝つ」

 

 決闘融合は厳密には異なるが、対象が融合モンスターのオネストとほぼ同じ効果をもっている。

 この場合、効果はオネスト→決闘融合の順に処理され先にオネストの効果によりサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力8000がクリスティアに加わることとなる。そして更にその後、オネストの効果により攻撃力11200となったクリスティアの攻撃力がサイバー・エンド・ドラゴンに加わるのだ。

 よってサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は19200。大天使クリスティアを完全に凌駕した。

 

「流石はカイザー亮。確実に勝ったと思ったのにこうも引っ繰り返される。けど……最後に僕も足掻かせて貰う! リバースカードオープン、決戦融合-ファイナル・フュージョン! このカード効果でお互いのプレイヤーは互いの戦闘モンスターの攻撃力の合計分のダメージを受ける!」

 

 

【決戦融合-ファイナル・フュージョン】

通常罠カード

お互いのプレイヤーは、お互いの攻撃モンスターの攻撃力の合計分のダメージを受ける。

 

 

 サイバー・エンドとクリスティアの攻撃力の合計。

 亮は呆気にとられた後、苦笑してしまう。天才だとなんだの言いつつこれは、

 

「負けず嫌いめ……」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンと大天使クリスティアがぶつかり合い、その波動が二人のデュエリストを襲った。

 そのライフが二人ともゼロになるのは同然の帰結であった。

 

 

 

 

 デュエル場は静寂に包まれていた。

 だが漸くデュエルが決着したことを観客の一人が悟ると、一転して凄まじい歓声が爆発した。

 

「亮が大きな一撃を通せるか通せないか。それで決着がつく……だったっけ? 丈の読み通りになったね」

 

 吹雪が感心したように話しかけてくる。

 

「そうでもないよ。流石に引き分けなんて結末は予想外だった」

 

 にしてもお互いに30000オーバーのダメージを受けて引き分けとは、プロリーグを見渡してもそうは見れないほどに派手な結末だった。

 この観衆たちの興奮も頷けるというものである。

 

「すみません、ちょっといいですか?」

 

 丈がデュエル場で大の字になって倒れ、笑い合っている亮と藤原を見下ろしていると隣から声をかけられる。

 

「どーも新聞部の者なんですけど、このデュエルについてご友人のお二人に是非インタビューをと思いまして」

 

「後は任せたよ、丈」

 

「あっ! 吹雪、こら待て!」

 

 インタビューに来た新聞部が女子ではなかったからだろう。吹雪はさっさと何処かへ消えてしまった。

 丈もそれに倣い逃げようとしたが、新聞部の生徒が立ち塞がる。強引に突破しようと思ったが……どうも敬語を使ってきているが相手は上級生らしい。上級生相手に力ずくというのは駄目だろう。

 

(……まてよ。これは寧ろ)

 

 高等部に入り自分達と同じ特待生になった藤原。しかし藤原には自分の魔王や亮のカイザー、それに吹雪のキングのような恥ずかしい二つ名がない。

 同じ特待生としてこれは実に不平等といえなくはないだろうか。

 丈は賄賂を貰う御代官のような顔をすると、一転営業スマイルで取材を受ける。

 

「ええ、いいですよ。なんでも聞いて下さい」

 

「では遠慮なく。アカデミアの三天才とも謳われた一角カイザーと〝天才〟藤原優介のデュエルでしたが、この結果について〝魔王〟はどう思われますか?」

 

「――――間違ってますよ」

 

「は?」

 

「あらゆる攻撃力を無為とするオネストを傍らに、神の居城―ヴァルハラを支配し無慈悲なる大天使や地獄に堕ちた堕天使、全てを支配する存在。そんな彼はもはや〝天才〟なんていう矮小な枠組みに収まる器じゃありません」

 

「!」

 

 出来るだけ大仰に聞こえるように芝居がかった仕草で丈はあることないこと捲し立てる。

 

「で、では天才でないなら藤原優介はなんだというのですか?」

 

「フッ。決まっているでしょう。人の身でありながら人を超え、天界をも制するデュエリスト、その名は――――〝天帝〟藤原優介!」

 

 この日、藤原に新しい二つ名が出来上がった。後日、元凶である丈は藤原に追及され、一時はしらばっくれようとしたものの「ドボゲラァ!」の一喝の前に自白することになるが、それはまた別のお話である。 




……オネストとの差別化とか、強さ調整やら、原作における十代VSカイザーの再現などを模索していったら最終的に決闘融合がTF効果、決戦融合がアニメ効果という訳のわからない事になってしまいました。混乱したらすみません。


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第87話  校長のオ・ネ・ガ・イ

ルールとマナーを守って楽しくデュエルしよう!!


 ある日のこと、丈たち特待生四人は校長室に呼ばれていた。

 中等部にいた頃に何度か校長室は訪れたことはあるが、高等部のそれは中等部よりも内装が質素だった。広さならこちらの方が上だか並べられた調度品に飾り気がないのである。

 部屋にはその部屋の主の性格が現れるという。これが本当ならこの部屋に鮫島校長の人となりが現れているのだろうか。

 

「よく来てくれました。宍戸くん、天上院くん、藤原くん、亮……いえ、丸藤くん」

 

 今は校長という立場であって、サイバー流師範ではないという意思表示だろう。鮫島校長が名前呼びから丈たち三人と同じ苗字読みに直した。

 校長という職業、いや大人というのは大変なものだ。子供なら考えなくていいことを考えなければならない。

 

「校長、僕達に用事ってなんですか?」

 

「宿題なら特別カリキュラムの方も通常授業の分もしっかりしてますけど」

 

 吹雪と藤原の言葉を受け鮫島校長は「いえいえ」と手を振った。

 

「貴方達が真面目な優等生であることは私も知っていますよ。そもそも貴方達がもしも宿題忘れの常習犯だったとしても、いきなり校長室に呼んだりはしません。最初は実技担当のクロノス先生か特待生寮の寮長をしてもらっている大徳寺先生がやんわりと注意をするでしょう。

 私が貴方達を呼んだのは一つお願いがあるからです」

 

「お願い?」

 

 校長がわざわざ自室に招いてまでする頼み。それも呼び出したのが自分達特待生ということは特待生にしか出来ないようなお願いということだろう。

 そこはかとなく厄介事の臭いがしてきた。

 しかし相手はアカデミアの校長で亮の師匠でもある。ただでさえ特別カリキュラムで一般生徒より忙しいというのにこれ以上に厄介事を抱え込みたくはないが…………仕方ないだろう。

 

「はい。知っての通りデュエル・アカデミアは次世代を担うデュエリストを要請するためのデュエリスト養成校です。毎年多くのデュエリストやカードデザイナーを排出している本校ですが、卒業後すぐにプロ入りできるのは一握りです」

 

 デュエル・アカデミアはエリート・デュエリスト養成校であるが、ストレートにプロデュエリストになれるのは多くとも十人前後。そこからプロ入り後も第一線で活躍するという条件を付け加えれば更に絞り込まれるだろう。

 プロの世界は厳しい。学生時代は多くの大会で優勝を飾ったデュエリストが卒業後プロになってからは全く活躍できずに消えていくというのは珍しいことではないのだ。

 

「勿論アカデミアではプロ入り以外にもカードデザイナーや大学進学なども目標としています。けれどやはり殆どの生徒が卒業後にプロになることを目指しているのも事実。

 プロになるにはタクティクスやセンスも必要ですが、カードに対する深い知識も必要不可欠です。多くのカードの特性を知り、それを使いこなす。強力なカードの固執するのではなく、数多くのカードを組み合わせた『コンボ』を考える。これがプロデュエリストに必要な素養なんです」

 

「それは分かりますが、ここに俺達を呼んだこととどんな関係が?」

 

 丈が尋ねると鮫島校長は眉を寄せて押し黙る。そして重々しく口を開いた。

 

「カードの特性を知るには使うのが一番手っ取り早い。ですがこのアカデミアで少々困った事態が起きているのですよ」

 

「困ったこと?」

 

「こう言ってはこそばゆいかもしれませんが、特待生である貴方達はこのアカデミアで代表のような立ち位置にいます。事実多くの生徒は貴方達をそういう目で見ているでしょう。だから、ですね」

 

 言い難そうに一度口をつぐんだ校長だったが、ここまできて話すのをやめるという選択肢もないのだろう。

 申し訳なさそうに先を続けた。

 

「皆さんは全員が高いステータスのモンスターを豪快に召喚して押して押しまくるという戦術をとるでしょう。人とは有名人の影響を受けやすいもので、アカデミア内でもそれにつられて低ステータスモンスターを軽視し、高ステータスモンスターを偏重するような風潮が生まれつつあるのですよ」

 

「!」

 

 アカデミア内で自分が有名人であるという自覚は丈もあった。だがそれがこのような事になるとは考えてもいなかった。

 他の三人もそうだったのか亮は複雑そうに腕を組む。意図してのものではないとはいえ自分が他の生徒に悪影響を与えてしまった事を気にしているのだろう。

 

「特待生に選ばれるような皆さんに今更言うことでもありませんが、デュエルモンスターズは決して高いステータスのモンスターだけが強いわけじゃありません。ステータスが低いモンスターにも低いことを活かした利用法や、低くともモンスター効果が有用なモンスターが多くいます。

 デュエルモンスターズ初期から存在する伝説の超レアカードにして、あの伝説のデュエリストの一人も愛用していたという『時の魔術師』などその一つでしょう。別に高ステータスモンスターだけがレアカードではありません」

 

 時の魔術師はタイムルーレットに成功すれば相手フィールド上のモンスターを全滅させるという擬似的なサンダーボルトを内蔵したモンスターだ。ただし失敗すれば逆に自分のフィールドを全滅させ、更に破壊されたモンスターの攻撃力の半分のダメージを受けるデメリットをもっている。

 吹雪から借りた決闘王国(デュエリスト・キングダム)のDVDに時の魔術師で戦う城之内克也のデュエルがあったので良く覚えている。

 

「そこで皆さんにはアカデミアの生徒に高ステータスモンスターがデュエルの全てでないことを教えて欲しいのです。こんなことを生徒に頼むのも恥ずかしい限りなんですが、今回は貴方達に憧れる形でこのようなことになったので、私達教師がするよりも効果的でしょう。私もこのことを頼んだ身として協力します」

 

 自分達が起こしてしまった問題だ。自分達で拭うのが正解だろう。

 丈は隣にいる三人とアイコンタクトでの会議を終える。会議の結果は全員が了承。代表して丈がコクリと頷いた。

 

「分かりました。俺達に出来ることでしたら、でもどうするんですか? 幾らなんでも俺達に全校生徒の前で特別講義しろ、とかは止めてくださいよ。人に教えることなんて慣れてませんし、そもそも俺達は一年生ですから」

 

「はははははは。私もそんな無茶は言いませんよ。宍戸くん、ここはデュエル・アカデミアですよ。ならばここはデュエルをするのが一番効果的でしょう」

 

「デュエルを?」

 

 しかし自分達がデュエルをしたのでは結局は元の木阿弥だ。四人の中で一番下級モンスターをデッキに多く投入しているのは、丈のHEROデッキだろう。

 ただしHEROデッキを使えば低コストモンスターが見直せるかと問われれば首を傾げるところだ。確かにデッキに投入されているモンスターは下級モンスターが殆どでも、メインで活躍するのは融合モンスターなのだから。

 

「ただし単にデュエルをするのではありません。全員に、とは言いません。皆さんのうち誰かが高ステータスモンスターに頼らないデッキを構築して貰い、そのデッキで最上級モンスターが多く投入されているデッキとデュエルをし勝利する。そうすればアカデミア生もステータスばかりに固執するのを止めてくれるでしょう」

 

「成程。良い案だと思います」

 

「丈に同意します。鮫島師範……いえ鮫島校長、デュエルで高ステータスモンスターに頼らないデッキの力を見せれば他の生徒も考えを改めてくれるでしょう」

 

「おや亮は乗り気なのかい? じゃあこれは亮に任せるということで……」

 

「断る」

 

 議論終了と思い喜んだのも束の間。亮は吹雪の提案をバッサリと却下する。

 

「前にも言っただろう。俺はサイバー流一筋だと。授業などならば妥協するが、それ以外でサイバー流を捨てる気はない」

 

 キッパリと迷いなく言い切った。サイバー流馬鹿と言ってしまえばそれまでだが、ここまでくると逆に尊敬してしまう。

 亮を除く三人はこんな風に育てたサイバー流師範、鮫島校長に冷たい視線を送る。

 

「亮……そんなにサイバー流を愛して。私は良い弟子をもった。門下生の中では若かったが、お前に未来を託して正解だった」

 

 しかし当の鮫島校長は亮の言葉に感激してハンカチで涙を拭いていた。丈たちの視線などまるで気付いていない。

 

「だがお前がそう言うのであれば止むを得ない。無理に他のデッキを使うことを強要するのは私の本意ではない。ーーーー宜しい、ここはこの私が亮と……丸藤くんとデュエルをします。そして高ステータスがデュエルモンスターズでないことを全校生徒に示しましょう」

 

 鮫島校長はグッと力強く拳を握った。心強い発言なのだがそれはそれで一つ問題がある。

 

「校長。でもサイバー流師範で亮の師匠なら校長のデッキもサイバー流なんじゃないんですか? 校長と亮がデュエルしてもサイバー流師弟対決にしかならないような」

 

「問題ありません宍戸くん。そういえば亮にも見せたことがありませんでしたね。私にはサイバー流以外にもう一つ……『秘密デッキ』があるのですよ」

 

「本当ですか師範!」

 

「しかも都合よく私の『秘密デッキ』は低ステータスカードを中心としたデッキです。このデッキで亮、お前のサイバー・エンド・ドラゴンを倒し師匠の背中が厚いことを改めて教えてあげましょう。私の頭皮は薄いですけどね」

 

「師範の髪は薄いんではなく無いんですよ」

 

 弟子からの若干酷いツッコミを気にせず鮫島校長が宣言した。秘密デッキが校長の言うように低ステータスモンスター中心のデッキで、もしも亮のサイバー・エンドを倒すことがあれば作戦は成功するだろう。

 ただし問題は校長が亮に勝てるか、ということだ。亮の師範である以上、強いのは間違いないが亮だってこれまでの日々でその実力を格段に増している。もはやサイバー流を継承した当時の亮ではないのだ。

 

「とまぁ対戦カードの一つは決定しましたが、万が一ということもあります。亮以外の皆さんのうちもう一人、頼まれてはくれないでしょうか。出来れば高ステータスモンスター中心ではないデッキを構築して貰えれば嬉しいのですが……」

 

「高ステータスモンスターに頼らないデッキといっても」

 

 デッキを新たに構築するとなると当然ながらカードが必要になる。

 全校生徒に高ステータスモンスター以外の可能性を見せるという目的がある以上、対戦相手も強いデュエリストでなければならない。もっといえば構築するデッキはそんな強いデュエリストに勝てるだけの強さが必要ということだ。

 

「………………あっ!」

 

 天啓のように『余り物のカードで簡単に作れるデッキ』を閃いた丈はポンと手を叩く。

 

「丈?」

 

「少し待っててくれ。ちょっと作ってくる」

 

 特待生寮のスーパー執事こと室地氏……は、休暇でラスベガスに行っていて留守だったので、スーパーメイドの明弩さんに寮にある丈のカードの中から指定したカードを持ってきてもらう。流石の丈もデッキ以外のカードまでは持ち歩いていない。というより量が多いので物理的に持ち歩くのが困難だ。

 

「宍戸様、ご所望のカードです」

 

「ありがとうございます」

 

「……仕事ですから」

 

 相変わらず仕事が早い。電話してから校長室までくるのに十五分しか経っていない。特待生寮にこんな凄いメイドさんを雇ってくれた理事長に初めて感謝だ。

 丈の指定したカードは全て四十枚揃っている。このデッキに融合デッキは不必要なのでこれで完成だ。直ぐにでもデュエル出来るだろう。

 

「良し。それじゃ試に、藤原。少し相手してくれ」

 

 デッキタイプがデッキタイプだけに当日いきなりお披露目するのは気が退ける。

 そこで入学試験で負けを取り返す意味も込めて藤原に相手を頼んだ。

 

「僕は構わないけど、一体どんなデッキを作ったんだい?」

 

「ふふふふふ。それはデュエルしてからのお楽しみさ。鮫島校長もいいですか?」

 

「ええ構いませんよ。デュエル・アカデミアの校長が生徒のデュエルを止めさせることなんてありませんとも」

 

 校長のお許しも出た。それでは遠慮なくやるとしよう。

 総ては運次第だが果たしてどうなることやら。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

「俺の先攻だ! ドロー!」

 

 このデッキでだけは後攻を譲る訳にはいかない。素早くカードをドローした。

 手札を確認すると中々ベストな内容である。朝に見た占いで運勢が最高だったがそれは正解らしい。今日はついている。

 

「俺は永続魔法、魔力の枷を発動! このカードの効果により互いのプレイヤーはライフを500払わなければ、手札からカードを召喚・特殊召喚・発動・セット出来ない。魔法カード、強欲で謙虚な壺を発動。デッキの上から三枚めくりそのうち一枚を手札に加える。俺は成金ゴブリンを手札に。そして成金ゴブリンを発動。相手ライフを1000回復させ自分はカードを一枚ドローする。

 魔法カード、深淵の指名者を発動。1000ポイントのライフを支払い属性と種族を選択し、相手は選択された条件に合致するモンスターを墓地へ送る。ただし該当カードが無ければ不発に終わる。俺が選択するのは神属性天使族!」

 

「え、いや……あるわけないよそんなモンスター。自分からライフを減らすような真似をしてなにを企んでるんだ?」

 

「俺はカードを一枚セット。俺のライフは深淵の指名者のコスト1000、一枚のセットと三枚のカードの発動により残り1000ポイントだ。これでラスト、これが逆転へのキーカード! 俺は魔力の枷の500ポイントを払い手札より魔法カード発動、大逆転クイズ!」

 

「大逆転クイズだって!?」

 

「このカードは自分の手札とフィールド上のカードを全て墓地に送り、デッキの一番上のカードの種類を当てる。成功すれば互いのライフポイントは入れ替わる」

 

「……このギャンブルが成功すれば僕のライフは一気に500。だけどギャンブルが成功する確率はモンスター、魔法、罠の中から一つ選ぶから三分の一」

 

「それはどうかな。俺のデッキは全て魔法カード。よって俺がこのギャンブルを成功する可能性は100%だ。俺が選択するのは当然、魔法カード。デッキの上のカードは魔法カード、強欲で謙虚な壺。よって俺達のライフは入れ替わる。更にここでフィールドから墓地へ送られた風魔手裏剣の効果発動。このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、相手に700ポイントのダメージを与える。おりゃああああ! 手裏剣アタック!」

 

「…………………」

 

 大逆転クイズにより藤原のライフは500となっている。飛んできた手裏剣攻撃を藤原は防げず、ライフが一気にゼロとなった。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 無言。ひたすら無言だった。その無言の空気に耐え切れなくなったのか、亮がおずおずと口を開いた。

 

「なぁ丈。お前のデッキについてとやかく言うつもりはないんだが、そのデッキを使って生徒たちが『カードはステータスだけじゃない』と考えを改めると思うか?」

 

「それに下手してこのデッキを他の生徒が真似し始めて生徒全員緑一色なんてことになったら私がオーナーの社長に殺される。お願いですから他のデッキにして下さい。主に私の命の為にも」

 

 海馬社長だと冗談だと思えないのが凄いところだ。

 確かに丈もこんなアホみたいなゴミデッキで本番に挑むのもどうかと思うので、構築したデッキは早々にばらす。今日は綺麗にワンターンキルが決まったが、このデッキには安定感というものがまるでない。はっきりいって成功確率の方が遥かに低いくらいだ。

 

「あっ! そうだ、もう一つ今度はまともなデッキで良いデッキがあった!」

 

「……頼みますよ、宍戸くん」

 

「任せて下さい。今度はたぶん、なんとかなりますから」

 

 そして次に構築したデッキを鮫島校長たちに見せたところゴーサインが出たため、そのデッキでデュエルをすることとなった。

 問題は勝てるかどうかだろう。




※現実で友人相手にソリティアすると友情のマインド・クラッシュの切欠となります。この場合はソリティアデッキ使用にチェーンして予めソリティアデッキ使用を説明を発動しましょう。この発動が通った場合、友情のマインド・クラッシュを防げます。


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第88話  弱小モンスターの逆襲

 ノルマの50デュエルを早めに終わらせた丈は自室で新しいデッキを構築していた。

 作っているデッキは当然鮫島校長からの依頼である低ステータスモンスターを中心としたデッキである。

 バルバロス、The SUN、堕天使アスモディウスなど最上級モンスターを多用したデッキを愛用している丈だが、だからといって低ステータスモンスターの重要性を知らぬわけではない。確かに最上級モンスターを並べて攻撃するのは好きだが、同時に最上級モンスターを並べるには低ステータスモンスターが欠かせないことも理解している。丈のデッキからレベル・スティーラーやトークンを出現するカードを抜けばデッキのバランスは著しく悪くなるだろう。

 

「デッキ構築は順調か?」

 

 今さっきノルマを終わらせたばかりの亮がドアから顔を出してきた。

 丈は首だけそちらに向けると頷く。

 

「メインとなるカードの一枚はわりと前から使ってたし、このカードも気に入っていたからな。構築は特に問題ないよ。他の脇を固める汎用性の高いカードで足りないのは藤原が持ってたのと交換したから大丈夫だ」

 

「なら良かった。期限は明日だからな。俺の相手は師範だが、お前の相手は当日に発表される。……一体誰なんだろうな、対戦相手は」

 

「三年の藤林先輩じゃないのか? あの人、中学時代からスキルドレインでバルバロスUrとかのデメリットを打ち消してグイグイ押すデッキ使ってたしピッタリじゃないか?」

 

 三年ともなればオベリスク・ブルー寮も高等部からの編入組と中等部からの進級組が大体1:1のバランスになっていく。中等部で良い成績を出して入学時にブルー所属だったとしても最後までそうかは分からない。過去にはブルーからレッドにまで転落し最終的に退学に至った生徒もいるという。

 実力が絶対のアカデミアでは血筋も身分も関係なくデュエルの実力で全てが決定する。待遇もその後の人生も。

 そんな中で藤林先輩は中等部からの進級以来三年間ずっとオベリスク・ブルーから動いた事のない先輩だ。丈も何度か中等部で戦った事がある。

 

「先輩を悪く言うのは忍びないが……丈。お前は一度藤林先輩とデュエルして勝ってるじゃないか。デュエルの目的を考えれば別の先輩じゃないか?」

 

「けど藤林先輩は三年の首席だぞ。他に強い先輩といっても――――あぁ、そうか。必ずしも同じ生徒が相手とも限らないよな。亮の相手は校長なんだし」

 

「生徒でないとすれば教員か。さすがに師範が二度続けてデュエルはしないだろう。そういえば確か――――」

 

 亮は顎に手をやり考える仕草をすると、言葉を途中で区切る。

 

「どうした?」

 

「……いや、なんとなく対戦相手に予想がついた。頑張れよ、明日のデュエルは楽しみにさせて貰う。お互い勝利で終わりたいものだな」

 

「ちょっとストップ! 心当たりがあるなら教えてから行ってくれ!」

 

「俺だって師範の秘密デッキなんて見当もつかないんだ。これでお互いフェアじゃないか」

 

「えぇー」

 

「ふふふっ。俺は明日のため少し早いが休ませて貰う。それじゃあな」

 

 バタンとドアが閉じる。亮に「薄情者!」と言うことすら丈には出来なかった。

 一つ浅い溜息をつくと、デッキ構築を再開する。恐らくは明日の一度だけしか使わないデッキになるだろうが、共に戦うことになるデッキには違いない。心を込めて、どうすれば勝率を少しでも上げられるか考えながら一枚ずつカードを加えたり抜いたりしていった。

 

 

 

 翌日、アカデミアで一番大きいデュエル場には全校生徒と教員たちが観客席に集まっていた。

 ここで開かれるのは表向きには『新入生代表二名によるお披露目デュエル』ということになっているが、本当は『デュエルは高ステータスモンスターだけが強いわけではない』ということを全校生徒に示すためのデュエルだ。

 予定としては最初に丈のデュエルが、その次に鮫島校長と亮のデュエルが行われることになっている。

 

「皆さん静粛に!」

 

 これから始まるデュエルに興奮して、お喋りに興じていた生徒たちがマイクから響いてきた校長の言葉で口をつぐむ。

 

「これから新入生代表によるお披露目デュエルを行います! 最初にデュエルをしてくれるのは昨年開催されたI2カップでは見事優勝を果たし、復活したネオ・グールズ打倒に大きく貢献してくれた魔王! 宍戸丈くんです!」

 

 巨大な魔王コールが円形の観客性中から轟いてきた。

 その中を丈は苦笑いしながら歩く。こうして魔王魔王と連呼されると自分がRPGのラスボスにでもなってしまったような気分だった。

 

(で、肝心の俺の対戦相手は誰なのか)

 

 丈の心の声を知ってか知らずか鮫島校長が先を続けた。

 

「そして宍戸くんの対戦相手は――――我が校の実技最高責任者にして若かりし頃は祖国であるイタリア・チャンピオンシップで優勝を飾ったこともあるデュエリスト、クロノス先生です!!」

 

 歓声の中をクロノス先生が調子よく手を振りながらやってきた。照れているのか少しだけ顔が赤くなっている。

 

「どうもどうもナノーネ! セニョール宍戸、こういう場所でセニョールと戦うことになるとは私にとっても理解の外だったノーネ。生徒とはいーえ、セニョールは元全日本チャンプや元全米チャンプを倒しI2を制したデュエリスト。相手にとって不足はないノーネ」

 

「俺もですよ……。けど、成程とも思ってます」

 

 チラリと亮たちの座っている席を見ると、亮は頷いていた。

 クロノス先生が使用するデッキは『古代の機械(アンティーク・ギア)』と名のつく機械族を中心とした『暗黒の中世デッキ』だ。パワー・ボンドに対応する機械族融合モンスターをも有しており、サイバー流に匹敵するほどの豪快な戦術をとれるデッキだ。系列は異なるが同じ機械族モンスター中心としたデッキを使う亮だから直ぐに閃いたのだろう。

 

「しかーし、栄光あるアカデミア実技最高責任者として生徒相手に負けることは許されませンーノ! セニョールに世界の広さを教えてあげルーノです!」

 

 首からかけるようになっているアカデミア教員用デュエルディスクがONになる。

 エリートデュエリスト養成校デュエル・アカデミアで実技の最高責任者に任じられるほどだ。その実力は間違いなくプロ級だろう。丈としても楽しみだ。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

「俺の先攻、ドロー!」

 

 丈のデッキは鮫島校長と話した通り低ステータスモンスターを中心としたデッキ。故に高レベルモンスターを並べて押していくような戦術はとれない。

 低ステータスモンスターを活かすには力を最大限発揮する場所と時を用意してやらなければならない。

 そしてそれらが揃った時、低ステータスモンスターは高ステータスモンスターを超えるような爆発力を生み出すのだ。

 先ずは導火線を用意する。

 

「俺はモンスターを裏側守備表示でセット。更にリバースカードを二枚セットする。ターンエンド」

 

「私のターン、ドロー。セニョール宍戸、このデュエルの目的と意義については私も鮫島校長より聞き及んでいるノーネ。ですが私もデュエリスト、だからといって手加減はしないノーネ!」

 

「望む所です……!」

 

「ベネ! まずは小手調べナノーネ! 私は手札より古代の機械騎士を攻撃表示で召喚すルーノ!」 

 

 

【古代の機械騎士】

地属性 ☆4 機械族

攻撃力1800

守備力500

このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、

通常モンスターとして扱う。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、

このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。

●このカードが攻撃する場合、

相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

 

 

 古めかしい外装に覆われた機械騎士がランスを丈へ向ける。古代の機械の下級モンスターとしては1800という中々の数値をもつモンスターだ。しかもこのカードはデュアルである。

 

「古代の機械騎士はデュアルモンスター。その効果はこのカードが攻撃する時、ダメージステップ終了時まで相手の魔法・罠カードを封じるノーネ。もっともまだ古代の機械騎士は再度召喚していないノーデ、関係ないことでスーガ」

 

 デュアルモンスターは再度召喚しないと効果モンスターになれないことから、初心者デュエリストには忌避されやすい。しかしフィールドと墓地では再度召喚されない限り通常モンスターとして扱われることを活かして、通常モンスターのサポートカードを受けることが出来るため非常に戦術の幅が広いモンスターだ。

 初心者には分かりにくいモンスター群ではあるので玄人向けのカードといえるだろう。 

 

「さらーに、私は手札より魔法カード発動、古代の採掘機!」

 

 

【古代の採掘機】

通常魔法カード

自分フィールド上に「アンティーク・ギア」と

名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、

手札を1枚捨てて発動する事ができる。

デッキから魔法カード1枚を選択し、

自分フィールド上にセットする。

このターンこの魔法カードを使用する事はできない。

 

 

「このカードは自分フィールド上に『アンティーク・ギア』と名のつくモンスターが表側表示で存在する時、手札を一枚捨てデッキより魔法カードをセットすることが出来ルーノです! 私はフィールド魔法ゾーンにカードを一枚セットすルーノ!」

 

「……!」

 

 アンティーク・ギアでフィールド魔法といえば思いつくカードは一枚。アンティーク・ギアの生け贄を軽減し尚且つ破壊された時にモンスターを特殊召喚する効果をもったカードだろう。

 となればあのカードを除去するのは余り得策ではないだろう。いきなり攻撃力3000のモンスターを呼び出され押し切られかねない。

 

「バトル! 古代の機械騎士でセットモンスターを攻撃するノーネ! リバースカードの発動はありまスーカ?」

 

「ないノーネ」

 

「マルガリータチーズ! ベネなノーネ! だけど口調を真似しちゃ駄目なノーネ」

 

 古代の機械騎士がランスでセットモンスターを突き刺すと、中から飛び出してきたのは三つ目のモンスター、初期から活躍するサーチカードでもあるクリッターだ。

 

「クリッターが墓地へ送られた時、デッキより攻撃力1500以下のモンスターを手札に加えることが出来る。俺はクリボーを手札に加える」

 

「クリボー? 防御を固める気なノーネ? 魔王と呼ばれるわりには消極的でスーノ。永続魔法、強欲なカケラを発動。このカードは通常のドローをする度にカウンターをのせ、二つカウンターがのった時、このカードを消すことで二枚ドローできるノーネ。私はこれでターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 手札にクリボーをサーチすることが出来た。これで先ずは準備が一つ完了だ。

 

「俺はクリボーを攻撃表示で召喚!」

 

「クリボーを攻撃表示でスート? ま、まさか既にあのカードを手札にもっていたノーネ!?」

 

「そのまさかですよ。速攻魔法、増殖を発動。場に五体のクリボートークンを出現させる」

 

 

【増殖】

速効魔法カード

自分フィールド上に表側表示で存在する「クリボー」1体を生け贄にして発動する。

「クリボートークン」(悪魔族・闇・星1・攻300/守200)を

可能な限り自分フィールド上に守備表示で特殊召喚する。

このトークンは生け贄召喚のためには生け贄にできない。

 

 

 丈を守るように増殖したクリボーたちが周囲を固めた。その攻撃力は貧弱であるものの、何度となくキング・オブ・デュエリストの命を身を挺して守ってきたデュエルモンスターズのマスコット的カードである。

 

「ぐぬぬ! わらわらと沢山クリボーがでてきたノーネ」

 

「カードを二枚伏せターンエンド」

 

「セニョールの狙いは読めてるノーネ。クリボーまたはクリボートークンを全て破壊することで、破壊した数だけカードを撃破するカード、機雷化を使おうとしていルーノ! そのカードを使われれば私のフィールドは焼けたアツアツのピッツァのようにまっ平ら! かなり危険なことになルーノ!」

 

「…………」

 

「私のターン、ドローにょ。この瞬間、通常のドローを行ったため強欲なカケラにカウンターが一つのるノーネ。

 セニョール宍戸、危険性はここで摘ませて貰うーのです! 永続魔法発動、禁止令なノーネ! このカードはカード名を一つ選択し選択したカードをプレイすることを禁じるノーネ。私の宣言するカードは機雷化! これで機雷化は発動できないノーネ!」

 

「くっ!」

 

 クリボートークンを爆発させる火元である機雷化を封じられてしまった。

 これで丈は禁止令を破壊しない限り機雷化を使うことは出来ない。精々手札コストとして役立てることくらいだ。

 

「私は前のターンに伏せたフィールド魔法、歯車街を発動するノーネ!」

 

 

【歯車街】

フィールド魔法カード

「アンティーク・ギア」と名のついたモンスターを召喚する場合に

必要な生け贄を1体少なくする事ができる。

このカードが破壊され墓地へ送られた時、自分の手札・デッキ・墓地から

「アンティーク・ギア」と名のついたモンスター1体を選んで特殊召喚できる。

 

 

 周囲の風景がアンティークな歯車があちこちについている街へと変化する。

 絶え間なく鳴る歯車が回転する音が全てアンティーク・ギアの部品となり力となるのだろう。

 

「歯車街の効果、アンティーク・ギアと名のつくモンスターを召喚する場合、必要とする生け贄を一つ減らせるノーネ。つまり最上級モンスターならば一体で、上級モンスターなら生け贄なしで通常召喚できルーノ! 私は手札より古代の機械獣を攻撃表示で召喚するノーネ!」

 

 

【古代の機械獣】

地属性 ☆6 機械族

攻撃力2000

守備力2000

このカードは特殊召喚できない。

このカードが戦闘によって破壊した相手効果モンスターの効果は無効化される。

このカードが攻撃する場合、

相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

 

 

 古代の機械騎士と同じ系列のデザインをされたモンスターが並ぶ。本来なら六ツ星の上級モンスターだが歯車街があるため下級モンスターと同じように扱うことができるのだ。

 しかも古代の機械騎士が再度召喚しないと得られない効果をこのカードは既にもっている。

 

「バトルフェイズ! 古代の機械獣で――――」

 

「ストップ。そちらがバトルフェイズになる寸前に俺はこのカードを発動する。罠カード、威嚇する咆哮。このターン、相手は攻撃宣言をすることが出来ない」

 

「むむむっ。私はカードを一枚伏せターンエンドするノーネ」

 

「俺のターンだ、ドロー。俺はフィールドのクリボートークンを全て攻撃表示に変更」

 

「なななな、なんなノーネ!? 弱小トークンを全部攻撃表示にするナード、血迷ったのでスーカ!?」

 

「弱小? それはどうかな。俺は伏せていたリバースカード、暴走闘君を発動。それにチェーンして二枚目の暴走闘君も発動する」

 

「モッツァレラ!?」

 

 

【暴走闘君】

永続罠カード

このカードがフィールド上に存在する限り、

攻撃表示で存在するトークンの攻撃力は1000ポイントアップし、

戦闘では破壊されない。

 

 

 クリボートークンたちが身を震わせると、その体が二倍に膨れ上がった。大きくなったクリボーは威嚇するように鋭い目を古代の機械たちに送る。

 

『クリクリクリクリクリクリクリクリ~~~~!』

 

 塵も積もれば山となる。けれどもし一つ一つの塵が石にまで膨れ上がれば、それが積もった時なにが起きるのか。

 クリボーたちは鳴き声をあげながらその答えをこのデュエルを見守る全員に示していた。

 

「暴走闘君、このカードがフィールド上に存在する限り攻撃表示で存在するトークンは攻撃力を1000ポイント上昇させバトルでは破壊されなくなる」

 

「発動した暴走闘君は二枚。それにクリボーが五体……ということは、攻撃力2300のモンスターが五体でスート!? 信じられないノーネ!」

 

「バトルフェイズ、いけクリボートークンたち!」

 

 クリボートークンの突進が古代の機械獣と古代の機械騎士を撃破する。しかし、

 

「三体目のクリボートークンの攻撃に対しトラップ発動、ドレイン・シールド! 相手モンスターの攻撃を無効にしその攻撃力だけライフを回復するノーネ」

 

「だがまだ二体のクリボートークンが残ってる。やれ!」

 

「ふんぬがぁ!」

 

 クリボーの突進がクロノス先生の股間と顔面を強打する。……如何にソリッドビジョンとはいえ、あれは痛い。女性には決して分からぬ男の痛みだ。

 ともあれクロノス先生のライフはクリボーたちの総攻撃で900。流石に削りきることは出来なかったが十分の戦果だ。

 

「なるほーど。セニョール宍戸、あなたの新たに構築したデッキとは」

 

「はい。クリボーデッキ、それが俺の作ったデッキの正体ですよ」

 

 キング・オブ・デュエリストが愛用した弱小モンスター、クリボー。

 ステータスが全てでないことを示すには正に最高のモンスターだ。



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第89話  俺のクリボーに常識は通用しねえ

宍戸丈 LP4000 手札2枚

場 クリボートークン×5

罠 暴走闘君×2

 

 

クロノス LP900 手札0枚

場 なし

伏せ 一枚

魔法 強欲なカケラ 禁止令

フィールド 歯車街

 

 

 

 丈とクロノス先生とのデュエルは先ず初めに丈が先制した。

 場には攻撃力2300で戦闘耐性まで付与された五体のクリボートークン。対するクロノス先生の場にモンスターはおらず手札は皆無。丈が完全に優勢だ。

 

(だがクロノス先生は伊達に実技最高責任者になってるわけじゃない)

 

 この程度で押し切れるようでは実技試験の責任者になどなれはしないだろう。

 

「グヌヌ。この私に一撃与えるとは特待生の名に恥じぬ実力ナノーネ。しかーし、余り物にあるフェリーチョ。後だしジャンケンの怖さを教えてあげルーノです! 私のターン、ドロー!」

 

 通常のドローを行った為、強欲なカケラに二つ目のカウンターが乗った。

 これで強欲なカケラは強欲な壺として機能する。

 

「私はカウンターが二つのった強欲のカケラを墓地へ送り二枚ドローすルーノ! 更に手札より強欲な壺も発動! 追加で二枚ドローするノーネ!」

 

 クロノス先生の手札が一気に0枚から四枚にまで回復した。怒涛の連続ドロー、この辺りはアカデミア教員の面目躍如といったところだろう。

 

「そして私はカードを二枚伏せルーノ。……ふふふっ! ここからが私の逆転ナノーネ。魔法カード、大嵐! フィールドの魔法・罠カードを全て破壊するノーネ!」

 

「さっき自分で伏せたカードまで破壊するだって!? チェーンしてクリボーを呼ぶ笛を発動、手札にクリボーをサーチする!」

 

 丈のフィールドにある暴走闘君二枚が破壊されたことでクリボーの攻撃力が元に戻っていく。だが事はこれだけに留まらない。

 フィールド魔法である歯車街が破壊されたことで周囲の風景が元に戻り、クロノス先生が大嵐を発動する直前に伏せたカードも破壊された。

 

「モッツァレラチーズ! 心配ご無用ナノーネ。私が伏せた二枚のカードは黄金の邪神像、このカードが破壊された時に邪神トークンを特殊召喚するノーネ!

 そして破壊された歯車街の効果も発動。このカードが破壊された時、手札・デッキ・墓地から『古代の機械(アンティーク・ギア)』と名のつくモンスターを特殊召喚することができるノーネ!

 私はデッキより古代の機械巨竜を攻撃表示で特殊召喚すルーノ!! そして二体の邪神トークンを生け贄に捧げ古代の機械巨人を攻撃表示で召喚するノーネ!」

 

 

【古代の機械巨人】

地属性 ☆8 機械族

攻撃力3000

守備力3000

このカードは特殊召喚できない。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、

このカードの攻撃力が守備表示モンスターの守備力を超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

このカードが攻撃する場合、

相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

 

 

【古代の機械巨竜】

地属性 ☆8 機械族

攻撃力3000

守備力2000

このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

以下のモンスターを生け贄にして表側表示で生け贄召喚した

このカードはそれぞれの効果を得る。

●グリーン・ガジェット:このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、

その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

●レッド・ガジェット:このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、

相手ライフに400ポイントダメージを与える。

●イエロー・ガジェット:このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、

相手ライフに600ポイントダメージを与える。

 

 

 伝説のレアカードの一角に数えられる古代の機械巨人。これだけでも厄介だというのに巨人の隣りには巨竜がその翼を羽ばたかせている。

 古代の機械が誇る二体の大型モンスター。それが同時に丈の前に降臨してしまったのだ。

 

「古代の機械巨竜でクリボートークンを攻撃するノーネ! アルティメット・ギア・ストーム!」

 

 

 宍戸丈LP4000→1300

 

 暴走闘君を失ったクリボートークンは攻撃力300の弱小モンスターでしかない。古代の機械巨竜の攻撃力に抗うこともできずに消し飛ばされる。

 その様子を見た観衆から失望の溜息が出た。

 

「……最初は凄いと思ったけど、やっぱり古代の機械巨人と古代の機械巨竜を前にしちゃあな」

 

「可愛いけどクリボーじゃね」

 

 弱小モンスターでも活躍できるということを教える為のデュエルである以上、なんとしても二体の大型モンスターを倒さなければならない。

 我ながら面倒な仕事を引き受けてしまったものだ。

 

「続いて古代の機械巨人で二体目のクリボートークンを攻撃、アルティメット・パウンド!」

 

「古代の機械巨人は攻撃する時、ダメージステップ終了時まで魔法・罠カードの発動を封じる効果をもっている。けどモンスター効果はその限りじゃない。俺はクリボーを墓地へ捨てることでダメージを0にする……」

 

 クリボーが丈の身を守ってくれたお蔭でダメージがなくなる。古代の機械巨人の攻撃がそのまま通っていた場合、丈の敗北が確定していたところだった。静かにクリボーに感謝する。

 

「上手く躱してきたノーネ。私はターン終了でスーノ」

 

「俺のターン、ドロー。……カードを一枚セット、モンスターをセット。ターンエンド」

 

「防戦一方なノーネ。私のターン」

 

 にんまり笑いつつクロノス先生がドローした。そして、

 

「バトルフェイズ!」

 

 このまま勝負に決着をつけるためバトルフェイズへの移行を宣言した。

 

「バトルフェイズ突入前にこのカードを発動。和睦の使者。このターンの戦闘ダメージを全て0にする」

 

「むむっ。往生際が悪いノーネ。カードを一枚伏せてターン終了ナノーネ」

 

「俺のターン……ドロー」

 

 取り敢えずセットしたモンスターを守ることが出来た。

 古代の機械巨竜と古代の機械巨人、どちらも攻撃する際にダメージステップ終了まで魔法・罠を封じる厄介な効果をもったモンスターたちだ。しかも古代の機械巨人は貫通効果までもっているため守備表示で時間を稼ぐことも出来やしない。

 このターンであの二体をどうにかしなければ敗北は必至。そのためには、

 

「俺はセットしていたメタモルポットを反転召喚! その効果により互いのプレイヤーは手札を五枚捨てて五枚ドローする!」

 

 五枚のドローに賭けるしかない。もしも丈のデッキが丈を見捨てていなければ、このドローで可能性を手繰り寄せることができるはずだ。

 

「……! 俺はモンスターをセット、カードをセット。ターンエンド」

 

「ふっふっふっ。私の古代の機械たちの前に手も足も出ないようでスーネ! けど手は抜きませンーノ! これが私とセニョールのラストターンになるノーネ! 私のターン、ドロー!

 私はリバースカード発動、トラップ・スタン! このターン、このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にするノーネ! これでセニョールの逆転のカードは封印したノーネ」

 

「ぐっ!」

 

「バトルフェイズ! 古代の機械巨人でクリボートークンを攻撃――――これで終わりなノーネ」

 

「それはどうかな」

 

「ニョ?」

 

「古代の機械巨人が攻撃に入るよりも前に速攻魔法発動、進化する翼!」

 

 

【進化する翼】

速効魔法カード

自分フィールド上に存在する「ハネクリボー」1体と手札2枚を墓地に送る。

「ハネクリボー LV10」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。

 

 

 このカードこそが丈が待ち望んできた一発逆転のキーカードだ。

 そしてこのデッキの双璧ともいえるクリボーと対を為すモンスターの最終形態へ進化させるトリガーでもある。

 

「俺はセットしていたハネクリボーと手札を二枚墓地へ送る。そして俺はハネクリボーLV10を手札かデッキより特殊召喚する! 現れろ、ハネクリボーLV10!!」

 

 

【ハネクリボーLV10】

光属性 ☆10 天使族

攻撃力300

守備力200

このカードは通常召喚できない。

このカードは「進化する翼」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。

自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを生け贄に捧げる事で、

相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊し、

破壊したモンスターの元々の攻撃力の合計分のダメージを相手ライフに与える。

この効果は相手バトルフェイズ中のみ発動する事ができる。

 

 

 ハネクリボーの小さな体が輝いたかと思うと、そこから雄大な純白の翼がより大きく鋭利に噴出した。

 それを生やしているのは小さい身で巨大な敵にも臆さず相対できる勇気をもったモンスター、ハネクリボー。

 

「は、ハネクリボーLV10でスート! で、ですーが、幾らクリボーが進化したところで攻撃力はたったの300! 私の古代の機械巨人の十分の一でスーノ!」

 

「それはどうかな。ハネクリボーLV10には特殊能力がある。それはこのカードを生け贄にすることで相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える」

 

「にゃ、にゃんこー!?」

 

「行け! ハネクリボーLV10!」

 

『クリクリクリクリ~~!』

 

 ハネクリボーLV10が古代の機械巨人たちに突進する。

 そしてハネクリボーが古代の機械巨人にぶつかると、光が爆ぜた。充満していく光は古代の機械巨人と古代の機械巨竜の二体を巻き込んでいく。

 光が晴れる頃、そこにはもう二体の古代の機械はどこにもいなくなっていた。

 

「ま、マンマミーア。ガックリンチョ」

 

 デュエルが終わると、クロノス先生が膝を突く。如何に特待生相手だろうと教え子に敗北するのはショックだったらしい。

 けれど丈とて危ないところだった。もしも前のターンで和睦の使者を引き当てることが出来なければ、そのまま古代の機械の総攻撃で負けていただろう。

 最後のひとつ前のドロー。それが総てを分けた。

 

『お見事、勝者は宍戸丈くん。弱小モンスターであるクリボーを最大限活用し、クロノス先生の最上級モンスターを打倒してみせるタクティクス。流石は特待生です』

 

 鮫島校長のアナウンスと共に爆発的な歓声が轟く。

 これで少しでも低ステータスモンスターが見直されれば嬉しいところだ。



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第90話  マスター鮫島VSカイザー亮

 クロノス先生とのデュエルをどうにか勝利で終えた丈は、少しだけ疲労を体に溜めつつ観客席へ戻った。

 

「お疲れ様」

 

「お、気が利くね」

 

 丈たち特待生の専用席と化している一体へいくと藤原がジュースを差し入れしてくれた。正直ありがたい。I2カップ以来人前でデュエルをするのも慣れてきたが、やはり公衆の面前でデュエルをするのはプライベートなものと違った疲れがあるものだ。

 ジュースを飲んだ丈はどっかりと椅子に腰を下ろした。

 

「吹雪は何処へ行ったんだ? 姿が見えないけど」

 

「あぁ。吹雪なら……ほら、あそこでファンクラブの子たちと遊んでるよ」

 

「…………相変わらずだな」

 

 藤原が指を差した方へ首を向ければ、黄色い歓声を浴びながら何故かアロハシャツを着てウクレレを鳴らす吹雪がいた。

 色々と突っ込みたいところはあるが……一体全体あのウクレレとアロハシャツはどこから出して、いつ着替えたのだろうか。

 吹雪のいつもああやって笑いを絶やさないところが丈は友人として好きだったが、偶にあの自重しなさには頭を抱えたくなる時が多々ある。

 

(まぁ誰に迷惑かけてるわけでもないし、ファンの女子も喜んでるからいいのか。しかし……ファンクラブに一年生から三年生まで全員揃っているのはまだいいとして、一部教員まで混ざっているのはどういうことだ?)

 

 吹雪がよく卒業後はアイドルプロデュエリストとしてデビューするなどと言っているが、あの人気を見ているとあながち冗談では済まないかもしれない。

 丈の脳裏に東京ドームで歌って踊りながらデュエルをする吹雪が浮かび上がってきた。

 妹の明日香があんな性格になった理由が分かったような気がする。毎日こんなお祭り騒ぎな兄と一緒にいれば反動でクールにもなるだろう。

 

「次は亮と校長のデュエルか。藤原は鮫島校長がどういうデッキを使うか心当たりはあるのか?」

 

 苦笑いしながら藤原は首を横に振った。

 

「僕も何度か以前開かれた大会の試合でマスター鮫島のデュエルは何度か見たことはあるけど、その時に使ってたのは全部サイバー流デッキだったよ。他のデッキを使った事は少なくとも僕の知る限りはなかったね」

 

「うーん。亮も知らないくらいだからな。藤原が知ってるわけもないか」

 

「そ、そういえばさ! ちょっと丈に相談したいことがあるんだけど……」

 

「相談?」

 

 いきなり話を切って来たことに面喰いつつも頷く。

 藤原がこうも面と向かって相談なんて言ってきたのは初めての経験だ。何事かと思いつつも丈は先を促す。

 

「亮はこんなこと興味ない上に年中デュエルしか考えていない朴念仁だし、吹雪はあんなんだし……丈は〝魔王〟なんておどろおどろしい異名をもってるけど一番まともな感性をしてるからね」

 

「おい。途中までは兎も角、最後はなんだ?」

 

「で、相談なんだけど――――」

 

 綺麗なまでにスルーされた。これまで特待生寮で一緒に過ごしてきたせいで藤原も随分と手馴れてきたようだ。最初の初々しく人見知りをしていた藤原はもうどこにもいないのだろう。

 これは果たして打ち解けたと喜ぶべきか、逆に純粋な藤原を惜しむべきか。悩みどころだ。

 

「実はさ。僕には本土のアカデミア女子に通ってる二つ年下の従兄妹がいるんだけどさ」

 

「へぇ。初耳だな、従兄妹なんていたのか」

 

「うん。僕の両親はちょっと色々あってね。僕はその従兄妹の家でお世話になってたんだけど……。その従兄妹の両親が有名な俳優でね。そのせいなのかは知らないけど、従兄妹が学校で」

 

「苛められているのか?」

 

 芸能人の娘が学校で親の知名度故に苛めに合うのはわりとよくある話だ。

 だが丈の懸念はハズレだったようで藤原は首を横に振る。

 

「違うんだ……。どうもね、従兄妹が学校で――――女王様扱いされているらしくて」

 

「は?」

 

「……バレンタインになると女子から大量のチョコを貰ったり、逆に下級生を自室に連れ込んでなにかやってるとか。そういう話を聞くんだよ!」

 

「は、はぁ。えーとそれって偶にお嬢様学校を舞台にした漫画である『お姉様と妹』の関係みたいな?」

 

「そう! それだよそれ! 苛められているとかいうよりはマシなんだけどさ。最近僕と話しする時もやたらとアダルトというか危ない口調を使ってくるし。僕はどうしたらいいんだろう」

 

 藤原は頭を抱えて蹲ってしまう。

 悩みの内容は丈からすると笑い話で済ませそうなものだったのだが、藤原はかなり真剣に悩んでいるようだ。同時に納得する。確かにこの手の相談は吹雪ではまるで役に立たない。もしも吹雪にこんな相談を持ち掛けたら『それじゃあ彼女をアイドルにプロデュースしようじゃないか!』とか言い出すだろう。亮? あんな朴念仁に女性心理に関する悩みを相談するなど、チンパンジーに人生相談をするようなものだ。

 

「俺には従兄妹なんていないし、兄弟もいないから具体的なアドバイスとかは出来ないけどさ。従兄妹って中学生だろ? そのくらいの年齢の子は大人ぶってわざとエロい言い方とかしたくなるもんだから生暖かく見守ってやればいいさ」

 

「い、いつまでたっても治らなかったら!?」

 

「……諦めてくれ」

 

「そんな殺生な」

 

「人間、これも個性だと大らかな心で受け入れることも必要だ。女王扱いに関してはなぁ。友達なんて誰かがアドバイスしてどうこうってもんじゃないし……。結局は当人の問題だしなぁ」

 

 けれど丈にとっても他人事ではないことだ。

 今でこそ丈は亮や吹雪、それに藤原など気の良い友人に囲まれて学園生活を過ごしている。だがもしも三人がいなければ、丈は一人だけ特待生寮で黙々とノルマを熟すだけの毎日を送っていたのかもしれないのだ。

 

「うーん、分かった」

 

「あんまり参考にならなくて悪かったな」

 

「そんなことないよ。話しただけでも少しは楽になった。――――あ、亮のデュエルが始まるみたいだよ」

 

 眼下にあるデュエル場では幼馴染である亮と、ライトを反射させキラキラと頭を輝かせた鮫島校長が対峙していた。

 この師弟対決がどういう結末を迎えるのか。

 丈としても楽しみだった。

 

 

 

 思い返せば師範とデュエルするのは何年ぶりだろうか。自分がサイバー流道場を免許皆伝して以来なので大凡四年と少しだろう。

 サイバー流道場にいた頃はお互いにサイバー流デッキを使い日夜デュエル三昧の毎日だった。入門したては一度も勝てなかった師範だったが、免許皆伝する頃には五分五分の勝負が出来るようになっていた。

 それから四年である。

 自分はこの四年間に如実に強くなった。これは決して自画自賛ではない。丈や吹雪というライバルを得て切磋琢磨した中等部での三年間。そして一年に満たないとはいえ藤原を交え厳しいノルマに励んできた特待生としての生活。

 今や自分の実力はあの頃の自分の比ではない。成長した自分が師匠である鮫島校長とどれほど戦えるのか……楽しみで仕方なかった。

 

「亮、大きくなりましたね」

 

 感慨深げに鮫島校長が言う。

 

「I2カップでのデュエルは私も仕事を休んでTVの前に缶詰になって観戦してました。優勝こそ出来なかったものの、貴方は私の……サイバー流の誇りです。そしてネオ・グールズとの激闘。貴方は私の想像も出来ないほどの激戦を潜り抜けてここにきたのでしょう。

 しかしデュエル・アカデミア校長として、サイバー流師範として、まだまだ若い者に負けるわけにはいかん。来い、亮ッ! 四年ぶりの稽古だ!」

 

「――――遠慮はしません。本気で、勝ちにいかせて貰いますよ師範」

 

 

 

「「デュエル!」」

 

 

「サイバー流は後攻有利。しかし私の使っているデッキは以前言った通りサイバー流ではなく、私秘蔵のデッキ。よって後攻は譲ろう。私のターン、ドロー!」

 

 何度も戦った事がある相手だが、鮫島師範の秘蔵デッキと戦うのは初めてだ。

 蛇が出るか鬼が出るか……或いは龍でも飛び出すか。なにが出ていても不思議ではないのがデュエルモンスターズだ。心を緩ませることは出来ない。

 

「速攻魔法、手札断殺を発動。互いのプレイヤーは手札を二枚捨て二枚ドローする。さらに私は成金ゴブリンを発動。相手にライフポイントを1000回復させるかわりに私はカードを一枚ドロー!」

 

 

 丸藤亮LP4000→5000

 

 怒涛の手札交換の連続。亮のライフも1000回復したが、あれほどの手札交換をしたのだ。マスター鮫島ほどの人物が手札事故なんてこともないだろう。

 既にデッキのキーカードを呼び込んでいる。そう考えて挑むべきだ。

 

「私はモンスターを裏側守備表示でセット、リバースカードを一枚場にだしターンエンド」

 

「……俺のターン、ドロー」

 

 相手のデッキの正体は未だに不明な上にリバースカードの存在も気になる。

 しかし攻撃をしなければ正体を掴むことも出来ない。

 

「相手の場にモンスターが存在し、自分の場にモンスターがいない場合このカードは手札より特殊召喚できる。サイバー・ドラゴンを攻撃表示で召喚」

 

 

【サイバー・ドラゴン】

光属性 ☆5 機械族

攻撃力2100

守備力1600

相手フィールド上にモンスターが存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

 サイバー流の要であるサイバー・ドラゴン。サイバー・エンドなどの融合素材になる以外にも、汎用性のある半上級モンスターとしても優秀なカードだ。

 先ずはサイバー・ドラゴンで様子を見る。

 

「バトル! サイバー・ドラゴンでセットモンスターを攻撃、エヴォリューション・バースト!」

 

「セットモンスターがリバースする。見習い魔術師。このカードが戦闘により破壊された時、自分のデッキよりレベル2以下の魔法使い族モンスターを一体自分フィールド上にセットすることが出来る」

 

 

【見習い魔術師】

闇属性 ☆2 魔法使い族

攻撃力400

守備力800

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、

フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを

置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。

このカードが戦闘によって破壊された場合、

自分のデッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体を

自分フィールド上にセットする事ができる。

 

 

 サイバー・ドラゴンの攻撃を浴びた見習い魔術師が撃破される。だが魔法使い族のリクルーターが入っているということは、鮫島師範の秘蔵デッキとやらは低ステータスモンスター主体の『魔法使い族デッキ』なのかもしれない。

 

「私は見習い魔術師の効果で××××をセット」

 

「ん?」

 

 妙だ。鮫島師範は確認のためセットするカードを公開したはずなのに、どうしてかそのカードを認識することが出来なかった。

 かといって今更もう一度見せてくれと言うのもマナー違反だ。自分の不注意がいけないのだから、相手にその負債を払わせるのはよくない。

 

「俺はリバースカードを一枚伏せ、モンスターをセット。ターンエンド」

 

「私のターンです。ドロー! モンスターをセット。……ふふふふっ」

 

 鮫島師範がしてやったりといった風に不敵に笑った。

 弟子だった亮には分かる。あれはなにか良からぬことを考えている顔だ。

 

「見せてあげましょう! これが私の秘蔵デッキの二枚看板その一角! 反転召喚、出でよ! 白魔道士ピケルちゃん!」

 

 

【白魔道士ピケル】

光属性 ☆2 魔法使い族

攻撃力1200

守備力0

自分のスタンバイフェイズ時、自分のフィールド上に存在する

モンスターの数×400ライフポイント回復する。

 

 

「…………………」

 

 無言。ひたすらに無言だった。

 亮の前では白魔導士だけあって白く可愛らしい服を着たピンクの髪の少女が立っている。羊を象った帽子を深く被っているせいで、前髪が下がって目が少し隠れてしまっている。

 これで分かった。あの時、自分はセットしたカードを認識出来なかったのではない。現実を受け入れることが出来なかっただけだ。

 サイバー・ドラゴンを従え華麗なるプレイングで亮を魅せてきた歴戦のデュエリストにしてサイバー流師範、マスター鮫島。そのイメージががらがらと崩れ去っていく。

 

「ふふふっ。亮には言ってませんでしたね。実は私、サイバー流師範以外にもピケクラ愛好会の現会長も務めているんですよ」

 

「……………」

 

 自慢気に鮫島校長が胸を張った。

 リスペクトデュエルの精神にはカードへのリスペクトも含まれている。だからどんなカードを使おうと相手を最大限にリスペクトしなければならないのだが、

 

(これは、幾らなんでも――――)

 

 残酷、過ぎる。お気に入りのあの子にわき毛が生えているのを目撃してしまったような虚脱感を亮は味わっていた。

 

「どうですか亮! この愛らしい少女を! これが私の秘蔵デッキの正体、ずばり愛のピケクラデッキだ!!」

 

「……………………」

 

 初めてだった。人と赤の他人になりたいと思ったのは。

 亮は現実から目を背けるように呆然と天を仰いだ。




 というわけで鮫島校長の秘密デッキの正体はピケクラでした。…………正直、すまんかった。
 鮫島校長がサイバー流以外のデッキを使うのか考えていたら何時の間にピケクラ使ってました。後悔はしてない。
 ともあれサイバー流師範対決序盤でした。最近はちょくちょく時間もとれてきたので、自分のssばかりではなく他の方のssも見たりする毎日です。ではまた。


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第91話  帝王の憤怒

丸藤亮  LP5000 手札3枚

場 サイバー・ドラゴン、セットモンスター 

伏せ 一枚

 

鮫島校長 LP4000 手札3枚

場 白魔導士ピケル、セットモンスター

伏せ 一枚

 

 

 

「私はこれにてターン終了。さぁ亮、お前のターンだ」

 

 エンド宣言をされても亮は暫く動くことが出来ないでいた。亮ほどのデュエリストの精神を凍てつかせるほどのインパクト……それがピケルにはあったのだ。いやピケルがどうこうというより、幼い頃より尊敬し敬愛していた師範の見たくなかった部分をまざまざと見せつけられたせいで軽く欝になっていたのが主な原因なのだが。

 そういえば自分がサイバー流道場の門下生だった頃にパワー・ボンドのデメリットを消すのに役立つからと『ピケルの魔法陣』のカードを師範がくれたことがあった。

 あの時は特に疑問もなくカードを受け取ったのだが、今になって思い返せば……。

 

(いかん。デュエルに集中しなければ……!)

 

 頭を振るい過去のエピソードを脳内から叩きだす。

 例え鮫島師範が影でピケクラ愛好会現会長なる怪しい肩書をもっていたとしても、自分がサイバー流後継者であることに変わりはない。

 フィールドにいるサイバー・ドラゴンを見ることで改めてそのことを認識する。

 

「……俺の、ターン!」

 

 デッキトップからカードを引く。まだ融合は出来ない。ここは、

 

「セットしていたサイバー・ドラゴン・ツヴァイを反転召喚」

 

 

【サイバー・ドラゴン・ツヴァイ】

光属性 ☆4 機械族

攻撃力1500

守備力1000

このカードが相手モンスターに攻撃するダメージステップの間、

このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

1ターンに1度、手札の魔法カード1枚を相手に見せる事で、

このカードのカード名はエンドフェイズ時まで「サイバー・ドラゴン」として扱う。

また、このカードが墓地に存在する場合、

このカードのカード名は「サイバー・ドラゴン」として扱う。

 

 

 亮の場にはモンスターが二体並んだ。上手くいけば白魔導士ピケル諸共師範のフィールドを一掃できるだろう。

 

「バトル! サイバー・ドラゴンで白魔導士ピケルを攻――――」

 

「亮ォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 鮫島校長が何故かフィールドに飛び出してきたかと思うと、両手を広げてピケルを守る体勢をとった。

 目が羅刹の如く血走っている。悲しいことに、サイバー流師範だった頃にみせた闘気を超えるオーラを纏っていた。

 

「お前はァ! お前はこの愛らしい少女を! こんな可愛らしい少女を! 無慈悲にお前のサイバー・ドラゴンの餌食にするというのですかァ!? 私はお前をそんな風に育てた覚えはないですぞッ!」

 

「俺も……ピケクラ愛好会現会長などを師範にした覚えはありませんよ」

 

 鮫島師範の場にいるピケルはサイバー・ドラゴンの鋭い眼光に圧され体を縮こませて震えている。

 普通のデュエリストなら罪悪感で攻撃を躊躇いたくなるかもしれないが、今の亮にはそんな情けなど欠片もない。

 

「ええぃ! サイバー・ドラゴンで白魔導士ピケルを攻撃、エヴォリューション・バースト!」

 

「ピケルちゃんは……私が、守る! トラップ発動、アストラルバリア!」

 

 

【アストラルバリア】

永続罠カード

相手モンスターが自分フィールド上モンスターを攻撃する場合、

その攻撃を自分ライフへの直接攻撃にする事ができる。

 

 

 鮫島師範はピケルを庇うように前に立ち――――微動だにしない。

 エヴォリューション・バーストの一撃が鮫島師範を吹っ飛ばしてライフを削り取る。だがそこには愛すべき少女を守りきった自負からくる笑みがあった。

 

 鮫島LP4000→1900

 

 ライフを半分以上削ることは出来たが、何故か負けた気がするのはどうしてだろうか。

 これほど疲れるデュエルは生まれて初めてだ。

 

「ならば……サイバー・ドラゴン・ツヴァイで白魔導士ピケルを」

 

「亮ォォォォオォォォォォォォオォォ!! お前はまたしてもピケルちゃんを無情にも攻撃しようというのですか!? 宜しい、何度でも来ると良い。その度に私が身を挺してピケルちゃんの命を守り通してみせる!! さぁ!! 来なさい!!」

 

「…………サイバー・ドラゴン・ツヴァイでセットモンスターを攻撃」

 

 観客席で丈と藤原が「あの亮が押し切られた!?」「まぁ、あの暑苦しい顔で詰め寄られればねぇ」などと他人事のように頷いていた。

 

「私のセットしていたモンスターは……希望の創造者です!」

 

 

【希望の創造者】

光属性 ☆2 戦士族

攻撃力500

守備力900

このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた

次の自分のターンのドローフェイズ開始時に

自分のライフポイントが相手より少ない場合、

「かっとビングだ!オレ!」と宣言して発動できる。

デッキからカード1枚を選んでデッキの一番上に置く。

 

 

 ツヴァイの攻撃でアストラル体のゴーストにも戦士にも少年にも見える不思議なモンスターが墓地へ送られた。

 なんとなくだが、果てしなく嫌な予感がする。なにかがおかしいということは直感で理解できているのに、思考回路がその違和感に明確な名前を与えることが出来ない。

 

「俺はこれで、ターン終了」

 

「ふふっ。私のターンですね」

 

 鮫島師範は思わせぶりにデッキトップに手をかける。

 

「希望の創造者が相手により破壊され墓地へ送られた次のターン、私のドローフェイズ開始時に希望の創造者のモンスター効果発動!」

 

「この瞬間に発動するモンスター効果!?」

 

 デュエルマシーンとのノルマなどで亮はこれまで知る機会のなかった珍しいカードについても知ることが出来た。

 けれど希望の創造者なんてカードは今まで聞いた事もなければ見た事もない。どういう効果なのかまるで予想もつかなかった。

 

「ドローフェイズ開始時、私のライフが相手より少ない場合『かっとピングだ!オレ!』と宣言して発動。デッキからカードを一枚選んでデッキの一番上に置く!」

 

「つまり……デッキの中にある好きなカードをドロー出来るということか!?」

 

 クリッターのように直接手札に加える効果ではない為に手札を増やすことは出来ないが、確実に好きなカードをドロー出来るのは強力だ。

 選ばれたデュエリストが土壇場で一発逆転のキーカードを引き当ててみせるデステニードロー。謂わば希望の創造者は作為的にデステニー・ドローを再現するカードといえるだろう。

 ちなみに意味さえ同じなら『かっとピングだ!オレ!』とは違う言葉でも発動可能である。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 鮫島師範が飛んだ。特に意味も理由もないが跳躍した。あんな体型のどこにあんな跳躍力があるのかと小一時間問い詰めたくなる程の高度に師範が達すると、肺の中の空気を絞り出して吠える。

 

「かっとビングだ! 私ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 くるくると体を回転させながらも華麗に地面に着地すると、勢いよく塗り替えられたデッキトップのカードを抜き取る。

 

「シャイニングドロー!!」

 

 使用する時代やら世界観やらが激しく間違っているような気がするのだが、これが希望の創造者のモンスター効果なのだから仕方ない。

 テキスト通り鮫島校長は自分のデッキの中にある好きなカードをドローした。

 

「いきますよ。先ずはピケルちゃんのモンスター効果発動、スタンバイフェイズ時に自分のフィールドのモンスター1体につき400ポイントライフを回復する。

 私のフィールドにはピケルちゃんが一人だけ。よって私は400ポイントライフを回復!」

 

 

 鮫島LP1900→2300

 

 白魔導士ピケルがせっせと鮫島師範に白魔法を送る。回復値としては最小の400だが当の鮫島師範は満足そうにしていた。

 ライフ回復の数値がどうのこうの以前にピケルに回復させて貰えればそれで良いのだろう。

 

「そしてメインフェイズ。私は二人目のピケルちゃんを攻撃表示で召喚!」

 

 最初のピケルと同じピケルが並ぶ。二人のピケルはきゃっきゃと嬉しそうにじゃれ合いながら再び亮と対峙した。

 

「二体目のピケル……?」

 

「ふふふっ。亮、いいことを教えてあげましょう。実はピケルちゃんは……三つ子なのです」

 

「つまり師範のデッキにはピケルが三体入っているということですね?」

 

「三体じゃない! 三人です!」

 

 鮫島師範の抗議はスルーする。これがデュエルでなければ頭をひっぱたたいていたところだ。

 

「そして亮、貴方は目撃する。ピケルちゃんには三つ子の姉妹以外にも年上の姉がいることを。私は天使の施しを発動、カードを三枚ドローし二枚捨てる。

 更に死者蘇生を発動、人生の墓場に眠りし黒魔導師クランちゃんをフィールドに特殊召喚します!」

 

「………………」

 

 

【黒魔導師クラン】

闇属性 ☆2 魔法使い族

攻撃力1200

守備力0

自分のスタンバイフェイズ時、相手フィールド上に存在する

モンスターの数×300ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 

 白魔導士ピケルと対を為す黒魔導師。ピケルが羊を象った帽子をかぶっているのに対して、クランの方は兎を象った帽子を被っている。

 手にはナニに使うのか知らないがピンク色の鞭をもっていた。

 亮には色々と言いたいことは山ほどある。だがここまで師範を見ていて理解できた。

 師範はもう駄目だ。もう諦めるしかないのだ。諦めなければ道を切り開けると言った人間を知っているが、諦めなくてもどうにもならない事例とて世の中には存在するのである。例えば初手エクゾディアなど。

 もはや師範に何を言っても無駄だ。意味などない。

 

「はははははは! 括目しなさい亮、クランちゃん三姉妹集結シーンを! 私は速攻魔法、地獄の暴走召喚を発動!」

 

 

【地獄の暴走召喚】

速攻魔法カード

相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に

攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。

その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から

全て攻撃表示で特殊召喚する。

相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、

そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。

 

 

「自分のフィールドに攻撃力1500以下のクランちゃん(モンスター)が特殊召喚成功した時に発動。手札・デッキ・墓地よりクランちゃんを特殊召喚する!

 集結するのです! クランちゃん黒い三連星! ジェットストリーム・クランちゃんッ!」

 

 ぽぽん、と小さな爆発音がすると二体の黒魔導師クランが最初に特殊召喚されたクランの両隣りに並んでいた。

 これで鮫島師範のフィールドには二体のピケルと三体のクランが揃った事になる。この展開力は腐ってもマスター鮫島ということか。

 

「だが地獄の暴走召喚は俺にも特殊召喚が許される。デッキより二体のサイバー・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚」

 

 本来ならばフィールドに三体のサイバー・ドラゴンを揃えることは亮にとって大きな有利である。けれどサイバー流師範ともあろう男がそのことを分かっていないはずはない。

 恐らくクランのスタンバイフェイズ時に相手フィールドのモンスターの数×300ポイントのダメージを与えるバーン効果を最大限活かすためにあえてサイバー・ドラゴンを展開させたのだろう。

 モンスターの展開がそのままダメージ増大に繋がっている。ピケクラだの頭のおかしい言動を除けば、やはり実力は高い。

 

「私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 サイバー・ドラゴン三体が並んだがこのまま攻め切れるとは思えない。

 黒魔導師クランと白魔導士ピケルが攻撃表示のままということは攻撃表示で問題にならないという理由があるからに他ならないのだから。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 それでも踏み込まねばならぬのが辛いところだ。

 

「バトルフェイズ! サイバー・ドラゴンで攻撃、エヴォリューション・バースト!」

 

 サイバー・ドラゴンから吐き出される破壊の光。しかしやはりというべきか鮫島師範は攻撃を防ぐ術を既に用意していた。

 

「リバースカードオープン! スピリットバリア!」

 

 

【スピリットバリア】

永続罠カード

自分フィールド上にモンスターが存在する限り、

このカードのコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

 

 

 モンスターへの攻撃を自分への直接攻撃にすることが出来るアストラルバリアの効果により再び鮫島師範が立ち塞がる。

 しかし最初と違うのはサイバー・ドラゴンの攻撃を受けた鮫島師範は微動だせずに攻撃を受け切ったということだ。

 

「永続罠カード、スピリットバリア。このカードがある限り私への戦闘ダメージはゼロとなる。更に私の場にある永続罠、アストラルバリアによりモンスターへの攻撃は全て私への直接攻撃となる。

 アストラルバリアとスピリットバリア、この二つこそピケルちゃんとクランちゃんを守る愛の障壁! この防御を突破できるものならしてみなさい亮!」

 

「くっ……! 俺はバトルフェイズを終了。手札より融合のカードを公開することでサイバー・ドラゴン・ツヴァイのカード名をサイバー・ドラゴンにする。

 魔法カード、融合を発動。サイバー・ドラゴン・ツヴァイと二体のサイバー・ドラゴンを融合。融合召喚、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

 

【サイバー・エンド・ドラゴン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力4000

守備力2800

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 サイバー流の看板にして亮の魂というべきサイバー・エンドだが相手に勝つために召喚したのではない。

 融合することで場のモンスターを減らしクランのバーンダメージを少なくするために融合したのだ。そのことが悔しい。

 

「……ターンエンドだ」

 

「私のターンです。ドロー! スタンバイフェイズ時に二人のピケルちゃんと三人のクランちゃんの効果を発動! 私の場には五人の少女たちがいるためピケルちゃんの効果により2000のライフを回復。そしてピケルちゃんはもう一人いるため更に2000回復!」

 

 回復値は合計で4000。初期ライフに相当する量だ。白魔導士ピケル、見た目はアレだが能力は決して馬鹿には出来ない。

 

「そして三人のクランちゃんの特殊能力も発動! 亮、貴方の場には二体のモンスターがいるため一人につき600ダメージ。合計で1800ダメージを受けて貰います!」

 

 

 丸藤亮LP5000→3200 鮫島LP2300→6300

 

 ライフポイントの数値が一気に逆転してしまった。

 鮫島師範のフィールドに五体のモンスターがいる限り1ターンごとに4000ものライフを回復する。早いところなんとかしなければ逆転不可能な数値にまで膨れ上がってしまうかもしれない。

 

「魔法カード、命削りの宝札発動! 手札が五枚になるようカードをドローし、5ターン後全ての手札を墓地へ捨てる。私は五枚のカードをドロー! リバースカードを二枚セット、ターンエンド!」

 

「俺のターン……ドロー。これならばっ! 魔法カード、エヴォリューション・バースト! 俺の場にサイバー・ドラゴンがいる時に発動可能。フィールドのカード一枚を破壊する。ただしこのターン、サイバー・ドラゴンは攻撃することが出来ない。

 俺が破壊するカードは当然スピリットバリアだ。やれ、サイバー・ドラゴン!」

 

 サイバー・ドラゴンの攻撃がスピリットバリアに向かっていく。アストラルバリアを残す形になってしまうが、スピリットバリアさえなくなれば攻撃を通すことは出来る。サイバー流の火力ならライフを一気に削り取ることは十二分に可能だ。

 けれどエヴォリューション・バーストの直撃を浴びたスピリットバリアは破壊されることなく場に留まっていた。

 

「破壊されていない……?」

 

「それはお前ののエヴォリューション・バーストの発動に対してこのカードを発動したからだ。永続罠、宮廷のしきたり」

 

 

【宮廷のしきたり】

永続罠カード

このカードがフィールド上に存在する限り、

お互いのプレイヤーは「宮廷のしきたり」以外の

フィールド上に表側表示で存在する永続罠カードを破壊できない。

「宮廷のしきたり」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

 

「このカードがフィールド上に存在する限りフィールド上で表側表示で存在する永続罠カードを破壊することは出来ない。エヴォリューション・バーストは無駄撃ちに終わる。

 甘いですね亮。私はサイバー流師範。サイバー流の戦術は100%この頭に入っている。だからお前がどういう風にしてこのフィールドを突破してくるかも読み切れているのですよ!」

 

「実力そのものは曇ってはいないということですか、師範……!」

 

「更に! 罠カード、おジャマトリオを発動。相手フィールドに三体のおジャマトークンを特殊召喚」

 

 

【おジャマトリオ】

通常罠カード

相手フィールド上に「おジャマトークン」(獣族・光・星2・攻0/守1000)を

3体守備表示で特殊召喚する(生け贄召喚のための生け贄にはできない)。

「おジャマトークン」が破壊された時、このトークンのコントローラーは

1体につき300ポイントダメージを受ける。

 

 

『どうもー!』

 

 ナメクジとマスコットを合体してハンマーで潰した後に作り直したような三体のモンスタートークンが亮のフィールドに出てきた。

 ご丁寧にイエロー、グリーン、ブラックに分かれている。

 

「おジャマトリオ……このトークンを生け贄にすることはできず、破壊された時に300ダメージを受けるトークン。文字通り邪魔なモンスターだ。しかも……」

 

「その通り。これでお前のフィールドは三体のおジャマトークンとサイバー・エンド・ドラゴンとサイバー・ドラゴンによって埋まった。これにより次のターン、お前はクランちゃんの効果で4500のダメージを受ける。私の勝ちです」

 

「……俺は神秘の中華なべを発動。このカードは自分のモンスターを一体生け贄にすることで、そのモンスターの攻撃力または守備力分のライフを回復するカード。

 許せサイバー・エンド。仇は取る。俺はサイバー・エンドを生け贄に4000ポイントのライフを回復する」

 

 

 丸藤亮LP3200→7200

 

 苦渋の決断だった。だがサイバー・エンド・ドラゴンを生け贄にしなければ亮は敗北していた。サイバー・ドラゴンを生け贄にする選択肢もあるが、三体のクランがいる現状2100程度の回復量では心許ない。

 サイバー・エンドにはすまないと思うがここは耐えるしかなかった。

 

「俺はモンスターとカードをセット。ターンエンド」

 

「このターンでの決着は防いだようですね。私のターン、ドロー! スタンバイフェイズ時、クランちゃんの効果で亮に4500ダメージ! そしてピケルちゃんの効果で私は4000回復!」

 

 

 丸藤亮LP7200→2700 鮫島LP6300→10300

 

 ピケルの白いオーラが鮫島師範を回復させ、クランの黒いオーラが亮のダメージを奪う。

 遂に鮫島師範のライフが10000をオーバーしてしまった。僅か2ターンで一万である。これがこのまま7ターン、8ターンと続けば……もはや逆転不可能な数値までライフが膨れ上がってしまう。

 

「私はカードを一枚セット、ターンエンドです」

 

「……俺のターン」

 

 静かにカードをドローする。

 鮫島師範はやはり自分から攻撃することはせず、防御カードで身を守りながらクランとピケルの効果でライフの差を広げていく戦術を続行するようだ。

 それにモンスターを召喚してくともフィールドが埋まっていてはそれも出来ないだろう。

 

(時間が経てばたつほどに不利になるというのならば、このターンに全ての力を注ぎこむのみっ!)

 

 布石は整っている。後は実行するだけだ。

 

「カードを一枚伏せ、セットしていたモンスターを反転召喚。俺がセットしていたのはメタモルポットだ。よってそのリバース効果により互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚ドロー!」

 

 そして信じればデッキは必ず応えてくれる。

 鮫島師範はサイバー流の戦術は全て頭に入っているといった。ならばサイバー流のとりうるあらゆる戦術について攻略法も頭に入っているのだろう。

 ならば頭で分かっていても防ぎようのない攻撃をすればいい。

 

「俺はメタモルポットを生け贄に捧げ、人造人間サイコ・ショッカーを攻撃表示で召喚!」

 

 サイコ流のエースカード、サイコ・ショッカー。このカードなら鮫島師範の強いている防御網を崩す事が出来る。

 

「まだまだ! お前がサイコ・ショッカーを使うのはI2カップの生放送で見ている! カウンター罠、方舟の選別!」

 

 

【方舟の選別】

カウンター罠カード

1000ライフポイントを払って発動する。

フィールド上に表側表示で存在するモンスターと同じ種族の

モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚を無効にし破壊する。

 

 

「このカードは1000ライフを払うことにより、フィールド上に存在する同じ種族のモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚を無効にし破壊する。亮のフィールドにはサイコ・ショッカーと同じ種族であるサイバー・ドラゴンがいる。よってこの効果が有効だ。

 人造人間サイコ・ショッカーには罠カード封じの力があります。しかし召喚時のカウンター罠はサイコ・ショッカーをもってしても無効に出来ない」

 

 召喚されたサイコ・ショッカーの体が砕け散る。召喚そのものを無効にされたため、サイコ・ショッカーの効果が発動することもなかった。

 ライフコストのせいで師範のライフも9300となったがまだまだ十分な余裕があるといえるだろう。

 

「亮、お前の場にはおジャマトークン含みモンスターが四体。次のターンで3600のダメージを受け敗北だ」

 

「……嫌だ」

 

「亮?」

 

「俺は、負けたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 師範の懐にある勝利をもぎ取ってでも俺は勝ぁぁぁぁぁつッ!!」

 

「なっ! そんなことが出来るわけが」

 

「魔法カード発動、サイクロン! 魔法・罠カードを一枚破壊する! 消えろ、宮廷のしきたり!」

 

「だ、だがッ! 宮廷のしきたりを破壊しても、私の場には二つのバリアカードが……」

 

「まだまだァ! 速攻魔法発動、サイクロン! 第二打ァ!」

 

「に、二枚目のサイクロンですと!?」

 

 風の渦が宮廷のしきたりに続きスピリットバリアを破壊する。これで師範のライフにダメージが通るようになった。

 

「なんという強引な……力技。し、しかし私には9300のライフが残っている。これを削りきるのは例え貴方をもってしても」

 

「速攻魔法、サイバネティック・フュージョン・サポート! ライフを半分払い、このターン俺は機械族モンスターを融合する場合に墓地のモンスターを除外することで融合素材とすることが出来る。

 俺はセットしたパワー・ボンドを発動! 三体のサイバー・ドラゴン、サイバー・エンド・ドラゴン、人造人間サイコ・ショッカー、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ、サイバー・ラーヴァ、サイバー・フェニックスの八体を融合!

 降臨し全てを蹂躙せよ! 融合召喚、キメラテック・オーバー・ドラゴンッ!」

 

 

【キメラテック・オーバー・ドラゴン】

闇属性 ☆9 機械族

攻撃力?

守備力?

「サイバー・ドラゴン」+機械族モンスター1体以上

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが融合召喚に成功した時、

このカード以外の自分フィールド上のカードを全て墓地へ送る。

このカードの元々の攻撃力・守備力は、

このカードの融合素材としたモンスターの数×800ポイントになる。

このカードは融合素材としたモンスターの数だけ

相手モンスターを攻撃できる。

 

 

 機械族八体を素材として闇の中よりその身を晒したキメラテック・オーバー・ドラゴン。サイバー流にとって光の融合モンスターがサイバー・エンド・ドラゴンならこちらは闇の融合モンスター。

 現役だった頃のマスター鮫島の『奥の手』として嘗ては名を轟かせたモンスターだ。

 その効果によりキメラテック・オーバー・ドラゴン以外のカード、おジャマトリオが墓地へ送られるが『破壊』ではないのでダメージはない。

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は融合素材としたモンスターの数×800となる! 俺が融合素材としたモンスターは八体。よって攻撃力は6400ポイントッ! 更にパワー・ボンドの効果により倍加! 攻撃力12800ポイントッ!!

 最後に速攻魔法、リミッター解除を発動。キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は更に倍加する。よって攻撃力は25600ポイントとなった!!」

 

「攻撃力25600!?」

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンは融合素材としたモンスターの数だけ相手モンスターを攻撃できる。師範の場にはモンスターが五体のため五回の攻撃が可能だ」

 

「な、何故だ亮ぉぉぉぉ! お前にはピケルちゃんとクランちゃんの愛らしさが分からないというのですか! 貴方は鬼ですか!?」

 

「鬼にならねば見えぬ地平がある! バトルフェイズ! キメラテック・オーバー・ドラゴンで攻撃、エヴォリューション・レザルト・バーストッ!! グォレンダァ!!」

 

「うおおおおおおお! 私はアストラルバリアの効果を発動、その攻撃を私への直接攻撃に変更する!!」

 

「最後までそのモンスターたちを庇うのならそれでも良いでしょう。やれ、キメラテック・オーバー・ドラゴン!」

 

 キメラテック・オーバー・ドラゴンの大火力の攻撃を浴びて、鮫島師範の体がゴムボールのように飛んでいく。

 三回地面にバウンドした後に鮫島師範はデュエル場の外へ放り出された。

 

「…………………」

 

 静寂が支配する観客席。だがやがて一人のブルー寮の男子生徒がおもむろに立ち上がったかと思うと大声で宣言する。

 

「鮫島校長、実は俺も……ピケクラ愛好会の会員なんス」

 

「貴方は三年の山原くん!」

 

 鮫島校長が跳ねるように飛び起きた。山原と呼ばれたブルー生は何故か両目を涙で潤ませながら、がしっと拳を握りしめた。

 

「けどいい年してピケクラ愛好会会員なんて恥ずかしいと思って、今までピケルちゃんもクランちゃんもデッキに入れてませんでした。けど校長、いいや会長! 俺、今度からピケルちゃんもクランちゃんもデッキに入れます!」

 

 すると堰を切ったかのように声が溢れる。

 

「校長! 俺もです! 俺もピケルちゃんとクランちゃん大好きです!」

 

「僕は……ブラック・マジシャン・ガール!」

 

「俺は霊使いの美少女たちが」

 

「斬首の美女に萌えが詰まっている!」

 

「モリンフェン様に栄光あれ!」

 

「ドリアードちゃんが……ナンバーワンだ」

 

「リリーちゃんに夜の検診でお注射されたい」

 

「ウホッ! いいグレファー」

 

「男子たち黙りなさい! ブラック・マジシャン様こそナンバーワンよ!」

 

「ダルクきゅんかわゆす」

 

「カオス・ソルジャー×カオス・ソルジャー―開闢の使者―について語る同志はいないというの!?」

 

「黙れよ腐女子共! そこはピケル×クランちゃんだろうが!!」

 

「いいや蠱惑魔ちゃんの3Pだね! 異論は認めん」

 

「腐女子馬鹿にしないでよ百合豚!」

 

「「「「「コ・ウ・チ・ョ! コ・ウ・チ・ョ! コ・ウ・チ・ョ! コ・ウ・チ・ョ!」」」」」

 

 観客席から溢れ出た生徒が何故か鮫島師範……いや鮫島校長の胴上げを始めていた。

 亮は肩を落としながら観客席に戻る。

 

「まぁ……元気出せよ」

 

 戻ると温かい目をした丈にポンと肩を叩かれた。

 これほどデュエルで疲れたのは初めてのことだった。




 果てしなくしょうもない理由でカイザーがヘルカイザーになりましたが、あの後すぐに元に戻ったので安心して下さい。
 最後に――――――正直色々とすまんかった。
 


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第92話  アイドルカード論争

 低ステータスモンスターを中心としたデッキでデュエルをする……という企画から数日。

 ピケクラの悲劇により、尊敬していた師範のイメージを完膚なきまでにクラッシュされ一時期ヘルカイザーと化していた亮もどうにか元の調子を取り戻していた。

 今でも校長について尋ねると黄昏たように天を仰ぐが問題はないレベルだ。少なくともいきなり硬直して『俺の……敬愛したサイバー流は……』などとぶつぶつつぶやくことはもうない。

 

「でもさぁ。鮫島校長がまさかピケクラを使うなんていうのは全く予想外だったよね」

 

 吹雪がそう言いながらメイドさんの作ってくれたクッキーを撮む。

 今日のノルマを全てこなした後の23時。亮を除いた三人はロビーに集まっていた。ちなみに亮は心労のため早めに寝ている。

 

「好きなカードを使って戦う……悪いことじゃないけど、尊敬してた師匠があれじゃねえ。亮にはご愁傷様としか言いようがないな」

 

 丈はポリポリとクッキーを摘まむ。最初は貴族のような生活を許される特待生寮に面を喰らった丈だが慣れると便利なものだ。

 少しお願いするだけでこんな美味しいお夜食を作ってくれるのだから。ちなみにこのクッキー、カロリー控えめなので夜に食べても安心だ。

 

「けど強かったね校長。言動はアレだったし、亮本人がショックでペースが崩れて序盤は自分のデュエルが出来ていなかったことを鑑みても……ピケルとクランの効果を最大限活用した大量展開とロック戦術は流石だった」

 

 藤原がこの前のデュエルをそう評した。これは丈も吹雪も、今は休んでいる亮も同感だろう。

 単に強いカードを入れれば強いデッキを作るのは簡単だ。だが本当のデュエリストならば自分の好きなカードでデッキを組んで、好きなカードと一緒に強くなっていく。デュエリストならば当たり前のことだが、鮫島校長のデュエルはそれを体現したデュエルだった。

 あの亮をあそこまで追い詰めるなど並みのデュエリストに出来ることではない。

 

「〝マスター鮫島〟といったら最近復帰したバンデット・キースとも戦った事があるデュエルモンスターズ黎明期からのデュエリストだからね。サイバー流師範は伊達じゃないってことか」

 

 デュエルモンスターズの歴史は大きく三つに分けられる。

 最初にペガサス会長がデュエルモンスターズを世に送り出し爆発的ヒットした黎明期。

 黎明期はデュエルモンスターズの生みの親であるペガサス会長が不動の頂点として君臨していた時代であり、バンデッド・キースやマスター鮫島はこの頃に数多くの大会で勝利を飾り名を馳せていた。

 そして次に成長期。この年代には彼のデュエルキング武藤遊戯、海馬瀬人、城之内克也など今もなお全世界のデュエリストから畏敬の念を禁じ得ぬデュエリストとして人望を集める伝説のデュエリストが活躍した時代だ。

 デュエリスト・キングダムにおける不動の絶対者ペガサスの敗北やバトルシティトーナメントにおける三幻神の戦いなど多くの名勝負がここで行われたが、この年代が成長期とされるのにはもう一つ大きな理由がある。それが海馬コーポレーションの開発したデュエルディスクだ。

 当時ソリッドビジョンシステムは一部の店舗などに設置されているのみで、フリーでのデュエルの殆どは卓上で行われていた。それがデュエルディスクの登場により一人のデュエリストが一つのデュエルディスクをもつようになったのだ。ソリッドビジョンシステムで行われるリアリティーあるデュエルはたちまち世界中の人々を魅了し、今までデュエルに興味をもっていなかった人々や国の間でもデュエルがヒットしたのだ。

 もしも海馬コーポレーションが……いや海馬瀬人がデュエルディスクを開発していなければ、確実にデュエルは今ほど世界中で流通してはいなかっただろう。これがこの時代が〝成長期〟とされる所以だ。曖昧だったデュエルモンスターズのルールもこの辺りで整備された。

 最後に丈たちが生きる今の時代がプロリーグ黎明期。これまでデュエリストがデュエリストのまま生きるにはI2社やKC社に入るか、カード・プロフェッサーギルドに所属するか賞金稼ぎになるしかなかった。だがプロリーグの登場で新たにプロデュエリストという職業が誕生し、より高次元のデュエルがそこで行われるようになったのだ。

 プロデュエリストはたちまち世界中のデュエリストの憧れの職業となり、数多くのデュエルファンがプロリーグで行われるデュエルに熱狂していった。

 現在日本において不動の頂点に君臨し続けているデステニー・オブ・デュエリスト、カイル・ジェイブルスなどが頭角を現してきた年代でもある。

 

「ところでさ」

 

 おもむろに吹雪が切り出す。

 

「亮があんなんだから、亮がいない今に話すけどさ。丈とか藤原にはアイドルカードみたいなのはあるのかい?」

 

「……ん? どうだろ。マスコットならクリボーとレベル・スティーラーがいるけど、俺のデッキにアイドル……女性型のモンスターなんて特に入って。あ、いやサイドデッキにヘル・エンプレス・デーモンが入ってたか。

 それに前に便利だからマドルチェ・マジョレーヌを入れてたこともあったっけ」

 

 丈はデッキケースから女性型の悪魔族モンスターカードと絵本に出てくる魔女のようなモンスターカードを取り出す。

 イラストに映るヘル・エンプレス・デーモンは妖艶さを醸し出しているスタイルをしているが――――アイドルかどうかと問われれば首を傾げてしまう。ヘル・エンプレス・デーモンはアイドルというより女優の方があってるし、そもそも別に毎回デッキに投入しているわけではない。マドルチェ・マジョレーヌはアイドルカードに相応しいデザインをしているが投入率はヘル・エンプレス・デーモンよりも低い。

 毎回デッキに投入しているカードといえばカオス・ソルジャーやバルバロスはいるが完全にアイドルではない。カオス・ソルジャーなどをアイドルにしようものなら腐女子に餌を与えるだけだ。

 

「僕は――――」

 

「藤原、お前にはオネストがいるじゃないか」

 

「ち、違うよ! 流石にオネストはないから!」

 

『そんなマスター……私は常にマスターの側にいると誓ったのに……』

 

 オネストはあろうことか藤原の言葉にダメージを受けていた。

 黄金色の翼が心なしかぐったりとしおれているような気がする。

 

「いやね、オネストは男じゃないか。僕はそういう趣味はないし、そもそもオネストはアイドルじゃなくて家族みたいなものだよ」

 

『ま、マスター!』

 

 落ち込んでいたかと思えば、今度は感動で目から涙を溢れはじめた。これまで丈はオネストのことを固い人間(精霊)だと思っていたのだが意外と愉快な奴なのかもしれない。

 気を取り直して丈は吹雪に話しかける。

 

「言いだしっぺのお前はどうなんだよ。アイドルカード」

 

「僕のデッキは純ドラゴン族だからね。アイドルカードいたらBLよりアブノーマルになっちゃうよ。あれだねケモナー」

 

「…………そうか」

 

 このお調子者で騒動の火種でもある友人に新たにケモナー要素など加わってはたまったものではない。

 丈は深く追求する事を止める。

 

「失礼、ご自分にあったアイドルカードをお探しということで」

 

 三人で話していると執事の……名前を忘れた。兎に角執事さんが話しに入ってきた。

 

「それならば良い機器があります。これを」

 

 執事さんが小さなコンピューターのようなものをテーブルに置く。

 

「これは?」

 

「そのデュエリストに相応しいアイドルカードを占う機械です。使い方は単純、ご自身の名前を入力するだけです」

 

「へぇ。そんな機械があるんですか」

 

「この特待生寮にはデュエルモンスターズに関わるものであれば大抵は揃っています。用がおありでしたらいつでも仰って下さい。では」

 

 執事さんは堂にいったお辞儀をするとスマートに退室していった。丈たちの視線は自然と執事さんのおいていったコンピューターに注がれる。

 このままだんまりしていても仕方ない。丈はコホンと咳払いをすると口を開く。

 

「試してみるか。えーと、じゃあ俺からやってみるよ」

 

 キーボードを操作して名前覧に『丈』と入力した。

 するとカタカタとコンピューターが動き出して結果の書かれた紙をプリントアウトする。

 

 

『丈さんが求める真のアイドルカードは、白魔導士ピケル、または魔轟神クルスです!』

 

 

 思わずその結果を見つめて黙り込んでしまう。

 

「……ピケル、あったね」

 

「うん」

 

 今や亮にとってトラウマとなってしまっている白魔導士ピケルのカード名が結果にはのっていた。

 

「でも魔轟神クルスの方は俺のデッキに合ってるかも」

 

 クルスは手札から墓地に捨てられた時、レベル4以下の魔轟神を蘇生するモンスターだ。

 イラストこそはアイドルカードらしいものであるが、丈の暗黒界デッキとは中々と相性が良い。光属性のため闇属性の暗黒界モンスターと除外することで開闢を呼ぶコストにすることも出来る。

 

「成程ね。もしかしてこの占い結構当たるのかも。僕もやってみようかな」

 

 今度は吹雪が自分の名前を入力する。すると丈の時と同じようにコンピューターがカタカタと動き出した。

 

 

『吹雪さんが求める真のアイドルカードは、リチュア・ノエリア、または月の女戦士です!』

 

 

「吹雪のアイドルカードは二つとも気が強そうなカードだな」

 

 そういう意味では可愛い系の多かった丈とは正反対である。吹雪は喜びながら、

 

「アスリンも気が強いからね。気が強い女性は寧ろ大歓迎さ」

 

「アスリン?」

 

「ああ。藤原には言ってなかったね。僕の妹、天上院明日香だからアスリン。君さえその気なら兄としてアスリン争奪バトルに立候補することを認めようじゃないか!」

 

「……やめておくよ」

 

 苦笑いしながら藤原が拒否する。藤原は明日香との面識などないが、どれだけ明日香が魅力的な少女だろうとこの兄貴が一緒についてくるとなれば遠慮したくなるだろう。

 

「最後は藤原だな。ほら俺と吹雪もやったんだ。早くしろ」

 

「わ、分かったよ。えーと優介っと」

 

 カタカタとコンピューターが動き出した。出で来る髪に三人のみならず精霊のオネストまでが注目する。

 

 

『優介さんが求める真のアイドルカードは、リチュア・エミリア、または光神テテュスです! 』

 

 

「す、凄い! 僕がデッキに入れているカードの名前が出てきた!」

 

 藤原が驚いて声をあげる。

 リチュア・エミリアは兎も角、光神テテュスの方は藤原のデッキに入っている上級天使族モンスターの一枚だ。

 

「もう一枚の方はリチュアのカテゴリーデッキじゃないと意味がないな。もしかして藤原、リチュアデッキとも相性良いんじゃないか?」

 

「ど、どうだろ」

 

「けど丈といい僕といい藤原といい……この占いマシンの的中率は馬鹿に出来ないね。藤原なんてピンポイントで使っているカードだし。そうだ」

 

「お、おい吹雪?」

 

 吹雪が入力した名前は『亮』だ。このマシンの取扱説明書には本人が名前を入力しなければならないというルールはない。

 名前を入力されるとカタカタと紙を吐き出し始めた。

 

 

『亮さんが求める真のアイドルカードは、紅蓮の女守護兵、または黒魔導師クランです! 』

 

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

 三人の目は一つのカード名、黒魔導師クランに釘づけとなっている。

 師範である鮫島校長が会長と務めるピケクラ愛好会の看板アイドルカードの一角。それがあろうことか亮の求める真のアイドルカードだという結果となった。

 

「この診断結果は亮には黙っておこう」

 

 吹雪の提案に全力で同意した。

 亮が求めていたアイドルカードは……紅蓮の女守護兵だけだったということにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――おまけ――――

 

 

「なぁ吹雪、サイレント・マジシャンってカードあるよな」

 

「なんだい丈。サイレント・マジシャンがどうしたって?」

 

「ソリッドビジョンだとさ。攻撃力が上がるたびに成長していくじゃないか。けど……普通は途中でLV8にレベルアップさせるからそれ以上に上ってみた事ない」

 

「うんそうだね」

 

「もしだよ。LV8に進化させないでずっと成長させていったら……どうなるんだ?」

 

「それは、えーとどんどん単純に考えてどんどん成長するわけだから――――」

 

「「……………………………」」

 

「じょ、丈。この話は忘れよう!」

 

「そ、そうだな。誰もサイレント・マジシャンLV40(熟女的な意味で)とかLV64(高齢者的な意味で)とか見たくないものな!」

 

「最終的にはLV200(白骨化的な意味で)になったりして」

 

「いやLV3000(現世に残った魂的な意味で)になるかも」

 

「というかそもそもサイレント・マジシャンって五つまでしかカウンターがのらなかったような」

 

「……………………………あ」



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第93話  七時間目の授業

 六時間目の数学が終了し、アカデミアでの日程が終わる。――――というのは一般生徒だけだ。

 特待生寮に所属する丈たちには六時間目の後に七時間目の授業が控えている。

 アカデミア高等部に進級してから早数か月。自分たちより一限早く下校する生徒を最初は恨めしそうに見送ったものだが、今となってはもう慣れた。

 それに七時間目の特別授業には特別講師としてプロリーグの第一線で活躍するデュエリストなどが招かれることもあるので非常にタメになる。授業も基本的にはデュエル中心なので一般科目より遥かに面白い。

 

「みなさーん、それじゃ着席するにゃ。皆さんといっても四人だけですが」

 

 ガラガラと教室のドアを開けると飼い猫のファラオを抱き抱えた大徳寺先生が入ってきた。

 大徳寺先生が来たということは今日の講師は大徳寺先生なのだろうか。七時間目の特別授業は講師も日ごとに変わるので丈たちも当日まで知らないのだ。

 

「出席をとりますにゃ。……天上院吹雪くん、宍戸丈くん、丸藤亮くん、藤原優介くん。全員揃ってるにゃ」

 

 出席者が四人だけなのでわざわざ名前を呼んで返事をまたず、全て目で確認して出席票にサインをしていく。

 そこで丈が少し妙なことに気付いた。

 

「大徳寺先生、手ぶらなんですか?」

 

 教室に入ってきた大徳寺先生がもっていたのは飼い猫のファラオだけ。教科書類は愚かデュエルディスクすら持っていないのだ。

 

「うん? あぁ心配しなくてもうっかり授業用具を職員室に忘れてきたわけじゃないのにゃ。……というより私は出席をとっただけで今日の講師は私じゃないにゃ。

 今日は前のプロデュエリストの沢中さんと同じく、外部から特別講師を招いているのにゃ」

 

「またプロの方ですか?」

 

 亮が興味津々といった様子で挙手をした。デュエル・アカデミアの特待生の特別講師を引き受けられるような人間だ。前もその前もそうだったので今回もそうだろうというつもりだったのだが、

 

「違うにゃ。今日お呼びしたのはプロリーグに所属するプロデュエリストではなく、本土の大学に通う学生さんだにゃ」

 

「そうですか」

 

 少しだけ残念そうに亮が引き下がる。一応今のところ丈を含めた四人全員が将来の進路がプロデュエリストだ。プロデュエリストに対する興味は人一倍である。だからこそ特別講師がプロではないと知ると残念にもなる。

 けれど大徳寺先生は悪戯っぽく満面の笑みを浮かべると、

 

「そんなに落ち込まなくてもいいにゃ。確かに彼はプロデュエリストでこそありませんが、並みのプロなんて及びもつかないような実力と知名度を誇る人物なのにゃ。

 はっきりいってその実力はトッププロクラス……いや、それ以上なのにゃ」

 

「?」

 

 プロデュエリスト、それもトッププロクラスより高い実力をもちながらプロではない。

 だとすればプロを引退したデュエリストかも、と思い浮かぶがそれもないだろう。大徳寺先生は先程特別講師は本土の大学に通う学生といった。つまりは大学生ということである。

 大学生なら浪人した可能性を含めても大体二十代前後であると予想される。二十代といえばプロデュエリストとして駆け出しといったところで引退するような年齢ではない。

 プロで挫折を経験し直ぐ引退したのなら二十代ということもあり得るが、そんなデュエリストが特別講師に採用されるとは思えなかった。

 

「あんまり焦らしても仕方ないので早速登場してもらうにゃ。入って下さいにゃ!」

 

「お、おう!」

 

 ドアの向こうから緊張した声が返ってくると、がらがらと教室にその特別講師が入ってきた。

 入ってきた人物は背中に定規でも入れているかのようにぎくしゃくとした動きで教壇まで歩いていく。

 その顔に見覚えがあった。その目元に、その髪型に、その顔立ちに――――デュエリストの誰もが等しく見覚えがあった。

 

「あー、おほん。自己紹介させて貰うぜ」

 

 ポリポリと照れくさそうに頬を掻きながら、その男は口を開く。

 

「特別講師ってことで来た城之内克也だ。宜しくな」

 

 史上最強のデュエリストにして決闘王の称号をもつ武藤遊戯。デュエルディスクの開発者であり三体の青眼の白龍を操る孤高の君臨者、海馬瀬人。

 そして才能において二人に劣りながらも持ち前の精神力と根性で遂に『伝説』の頂きに上り詰めた究極の凡骨、城之内克也。その彼が丈たちの前の前に立っていた。

 

「な……ん……だと……?」

 

 これには嬉しさを通り越して純粋な驚きしかない。これまでも特別講師に有名なプロが招かれたことはあったが、今回はそれと比べても別格である。

 お寺で写経をしていたら冥界から空海がこんにちわしてくるようなものだ。教会でお祈りをしていたところにローマ教皇が突撃してくるようなものだ。それくらいの超VIPの登場である。

 

「まさか本物ですか」

 

 唖然とした吹雪が躊躇いがちに尋ねる。

 

「おいおいマリクじゃあるまいしなんで別人に城之内って名乗らせるんだよ。燃える闘魂、城之内克也様は世界に一人だぜ」

 

 さらっと出てくる前グールズのボスの名前。これだけでも城之内克也というデュエリストが潜り抜けてきた修羅場を想像できるというものだ。ネーミングセンスはさておき。

 

「ペガサス島、バトルシティトーナメント、KCカップ……城之内さんのデュエルは何度もDVDやTVで見てました。実を言うと僕、貴方のファンなんです。後でサインくれませんか?」

 

「お、おぉ? 俺のファンってマジで?」

 

 華麗に立ち上がった吹雪に凡骨――――もとい城之内さんは呆然としていた。

 仮にも伝説のデュエリストならこうやってサインをせがまれることは珍しいことでもないと思うのだが、どうやらそれに慣れていないらしい。

 

「ってお前って確か天上院……吹雪で良かったよな」

 

「はい。気軽に吹雪って呼んでください。皆そう呼ぶんで」

 

 珍しいことに吹雪は畏まった態度をしていた。流石の吹雪も相手が伝説のデュエリストともなると自重するらしい。

 こんな吹雪は滅多に見れないのでまじまじとそれを眺める。

 

「そっかそっか。俺も羽蛾とかレベッカが出てたし、I2カップのデュエルは見てたぜ。お前も真紅眼の黒竜を使うんだよな」

 

「ええ。僕のデッキのエースです」

 

 和気藹々と二人が親交を深めているところで大徳寺先生が「こほんっ」と咳払いをしつつ割って入る。

 

「二人とも交友を深めるのは良いことだけど、とっくに授業は開始してるにゃ。サインは後にするにゃ」

 

「お、おうそうだったな。じゃあえーと、せ、席に就けー!」

 

 わざとらしく教師ぶる城之内さんがこれまたわざとらしく教師らしく着席を命じた。

 吹雪も折角の伝説のデュエリストの教えを受けられる時間を無駄にしたくないのか素直に席に戻った。しかし、

 

「…………なぁ、大徳寺さん」

 

「どうしたのにゃ」

 

「講義って、俺なにすりゃいいんだ?」

 

 全員してずっこける。まさか何を講義するのかを講義する張本人に聞かれる日が来るとは思いもしなかった。

 

「えーと、城之内さんはなにか決めてないのかにゃ?」

 

 冷や汗を流しながら大徳寺先生がらしくもなく真剣な顔になる。

 

「決めるもなにも……。久々にアメリカにいる舞のやつに会いに行こうとしたら、アメリカまでの旅費が二万円足りなくてな。

 賞金が出る大会も近場にはなかったし、仕方なく二万円借りようとしたら遊戯はどこぞに旅に出てて遊戯の爺ちゃんも変な愛好会の旅行で店閉まってて、本田も御伽も留守。杏子はアメリカにダンスの勉強しにいってたから……」

 

「だから?」

 

「仕方ねえから海馬コーポーレーションに行って海馬の奴に二万円貸してくれって頼んだんだよ」

 

「…………………」

 

 もはや唖然とするしかない。恐らく武藤遊戯に次ぐデュエリストであり、世界屈指の大企業海馬コーポレーション総帥に、よもや二万円貸してくれと頼みこみに行くとは。

 器が大きいのか、それとも何も考えていないのか判別に迷うところだ。

 それと武藤遊戯の祖父が留守だった件は現在鮫島校長が休暇で温泉旅行にいっているのと関係あるのだろうか。

 

「そしたら海馬の奴、お前に貸す金なんぞないって追い払うんだぜ」

 

「はぁ。でもその話と城之内さんがここで特別講師していることと何が関係あるんですか?」

 

 藤原が挙手をする。

 

「うん? 海馬の奴がそう言うから帰ろうとしたんだけどな。いきなり海馬の奴がアカデミアで特待生に特別講義の一つでもしたら旅費など恵んでやるって言ってきてよ……」

 

「受けたんですか?」

 

「いや、言い方がムカついたから断った。そしたら海馬の野郎『お前に拒否権はない』とか言い出しやがって、気付いたらアカデミアに連れてこられてたんだ」

 

「……………………」

 

 海馬社長も城之内さんもどっちもどっちだ。

 

「でも講師を引き受けちまった以上は授業終了まで自習ってわけにもいかねえし。おっし! こういう時はやっぱりデュエルだな! アカデミアの学生ってことは当然デッキは持ち歩いてるだろう」

 

 結局はそこに行きつく訳だ。城之内さんはバトルシティ時代に使われていた旧型のデュエルディスクを装着するとデッキをセットした。

 伝説のデュエリストだけあってデュエルディスクを構える姿は堂に入っている。

 

「それがいいにゃ。デュエル・アカデミアではデュエルが全て。けど授業時間的に城之内さんとデュエルできるのは一人だけなのにゃ。皆さんは一人代表を選ぶのにゃ」

 

「ん? 別に俺は全員とデュエルしてもいいんだぜ」

 

「帰りのフェリーの時間に間に合わなくなって、アカデミアで一日を過ごすならそれもOKにゃ」

 

「そ、そりゃ困る! 遅れたら舞の野郎にどやされる……」

 

 いきなりの伝説のデュエリスト、城之内克也の登場に驚きはしたが、伝説の一角と戦えるチャンスなど滅多にある機会ではない。

 意を決して丈はゆっくりと立ち上がり、

 

「ここは俺が――――」

 

「駄目、こればっかりは譲れないね」

 

 丈よりも早く吹雪が前に出てしまった。

 

「吹雪?」

 

「同じ真紅眼の黒竜使いのデュエリストとして尊敬していた相手だからね。暑苦しいのは本来なら僕のタイプじゃないけど――――ここは熱くならせて貰う」

 

「はぁ。そっか」

 

 伝説のデュエリストと戦うチャンスをふいにするのは正直惜しい。だがこの中で誰が一番城之内克也とのデュエルを望んでいるかは明白だった。

 そもそも吹雪は自重しないお祭り騒ぎな行動ばかりに目がいきがちだが、基本的に自分より他人を優先する男だ。そんな吹雪が我儘を言っているのだ。我儘を聞くのも友情というものだろう。

 

「分かった。だがやるからには勝てよ吹雪。相手が伝説であろうとな」

 

 苦笑しながら亮がエールを送る。

 

「ベストを尽くすよ。勿論、倒す気でね」

 

 そう言って吹雪はデュエルディスクを起動させ伝説と対峙した。

 これから始まるであろう死闘を思って丈はゴクリと唾を呑み込んだ。

 

 

 

 

 吹雪は深呼吸して息を整える。

 目の前にいるのは城之内克也、比喩ではなく現代の〝伝説〟そのものだ。まだ幼い頃、天上院吹雪が掛け替えのない友人たちと出会う前はTVの向こう側で活躍する彼に焦がれたこともある。

 いや過去形ではない。現在でも吹雪は一人のデュエリストとして城之内克也というデュエリストを尊敬していた。

 そんな尊敬している伝説とこれからデュエルするのである。らしくもなく緊張していた。

 

「うっし準備完了! 講義だからって遠慮はしねえぜ。デュエリストならいつでも全力全開だ」

 

「勿論。けど僕だって伝説が相手でも負ける気はない。勝たせて貰いますよ」

 

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 世代を超えた真紅眼の黒竜使いのデュエルが始まった。勝つのは伝説か、それとも新世代か。

 デュエルディスクが示した先攻デュエリストは吹雪ではなく対戦相手の城之内克也。

 

「俺の先攻だ、ドロー! アックス・レイダーを攻撃表示で召喚するぜ!」

 

 

【アックス・レイダー】

地属性 ☆4 戦士族

攻撃力1700

守備力1150

オノを持つ戦士。片手でオノを振り回す攻撃はかなり強い。

 

 

 カードテキスト通り斧をもった戦士が飛び出してきた。   

 同じ真紅眼の黒竜使いである城之内克也だが、彼のデッキは吹雪のような純ドラゴン族で固めたデッキではない。寧ろ比率としては戦士族や獣戦士族モンスターの方が多いだろう。

 

(いざと言う時の勝負運。これが厄介だ)

 

 天上院吹雪という男が未だ嘗て相対したことのないようなデュエリスト。それが城之内克也という伝説だ。油断はしない。

 

「更にリバースカードを二枚場に出してターンエンドだ」

 

「僕のターン!」

 

 デッキトップから勢い良くカードを抜く。

 呼吸を整える。相手が伝説だからといって変に力み過ぎてもいけない。あくまでも自分のデュエルをしなければ勝てるデュエルも勝てなくなる。

 だからいつもの自分のように――――攻める。

 

「僕は黒竜の雛を攻撃表示で召喚。黒竜の雛のモンスター効果。このカードをフィールドから墓地へ送ることによって手札の真紅眼の黒竜を特殊召喚できる」

 

「げ、げぇ! もうレッドアイズを召喚するのかよ!」

 

「言ったでしょう。勝つ気でいると。――――カモン、僕のエースモンスター! 真紅眼の黒竜!!」

 

 

【真紅眼の黒竜】

闇属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力2000

真紅の眼を持つ黒竜。怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす。

 

 

 後攻1ターン目から吹雪のフィールドにはレッドアイズが降り立った。デッキをドラゴン族で固め三体ものレッドアイズを投入している吹雪のデッキは、レッドアイズの召喚速度のみに限れば城之内のデッキを超えているだろう。

 

(もっともだから勝てるってわけじゃないんだけどね)

 

 真紅眼の黒竜はブルーアイズとは異なり可能性のドラゴン。その可能性を活かすも殺すもデュエリスト次第だ。

 

「真紅眼の黒竜の攻撃力は2400ポイント。アックス・レイダーの攻撃力を上回っている」

 

「へへへっ。けどそう簡単にはいかねぇぜ! リバースカードオープン、モンスターBOX!」

 

 

【モンスターBOX】

永続罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時、コイントスを1回行い裏表を当てる。

当たった場合、その攻撃モンスターの攻撃力はバトルフェイズ終了時まで0になる。

このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払う。

または、500ライフポイント払わずにこのカードを破壊する。

 

 

「永続罠、モンスターBOX! このカード効果によりお前の攻撃宣言時コイントスを行い裏か表かを当てる。当たればお前のモンスターの攻撃力はバトルフェイズ終了時まで0になるぜ!」

 

 ただし毎ターン、ライフコストとして500ポイントを要求する。

 もっともライフコストや二分の一でしか効果を発揮しないことを含めても、場に残り続け攻撃モンスターの攻撃力を0にする力は厄介だ。このままレッドアイズで攻撃し、もしも相手がコイントスを当てれば吹雪はアックス・レイダーの攻撃力1700のダメージを受けることになるのだ。

 

「だけど相手にダメージを与える手段はなにも攻撃だけじゃないんですよ。魔法カード発動、黒炎弾!」

 

「レッドアイズの必殺技と同じ名前のカード?」

 

「……魔法カード、黒炎弾。この魔法効果により相手プレイヤーに2400ポイントのダメージを与える!」

 

「レッドアイズの攻撃力は2400……ってことはいきなりライフの半分以上のダメージかよぉ!」

 

 城之内克也ともあろう人物がなんと頭を抱えて仰天していた。

 

「城之内さん。僕も一つ尋ねたいんですが、どうしてバトルフェイズ前にモンスターBOXを発動させたりなんかしたんです? こんなタイミングで発動しなくてもモンスターの攻撃時に使っていれば確実に効果を使えたんじゃないんですか?」

 

「……………あ」

 

「もしかして忘れていた、とか?」

 

「ち、違ぇよ! これには、伝説のデュエリスト! 城之内克也様の深淵な戦略があってだなぁ!」

 

 慌てた様に取り繕う。それが逆に怪しい。

 そういえばバトルシティトーナメントのDVDでも、最初のデュエルでいきなり上級モンスターを生け贄なしで召喚しようとして自滅していたシーンがあったのを思い出す。

 

「……黒炎弾の効果。やれレッドアイズ!」

 

 だがここは深く追求しないのがデュエリストの人情だろう。吹雪は先程のことは見なかったことにして、レッドアイズに命令を下す。

 主の命を受けたレッドアイズはその口から森羅万象を焼き尽くす黒炎を放った。

 

「そう簡単にダメージを喰らうわけにはいかねぇな! 俺はもう一枚の伏せカード発動、レインボーライフ!」

 

 

【レインボーライフ】

通常罠カード

手札を1枚捨てて発動できる。

このターンのエンドフェイズ時まで、

自分は戦闘及びカードの効果によって

ダメージを受ける代わりに、

その数値分だけライフポイントを回復する。

 

 

「手札を一枚捨て発動。こいつはこのターンのエンドフェイズまで俺が受ける戦闘ダメージと効果ダメージを回復に変換するカードだ。この効果により黒炎弾でウケる2400分のライフを俺は回復するぜ!」

 

 

 城之内克也LP4000→6400

 

 虹色のシールドが展開され黒炎弾のパワーを吸収。吸収されたエネルギーはそのまま命となって発動者であるデュエリストを癒した。

 さすがに簡単には攻めさせてくれないらしい。もっともだからこそ挑む甲斐があるというものだ。

 

「僕はカードを一枚伏せターンエンド」

 

 こんなものは序盤に過ぎない。これだけの戦いでは伝説の底などはまるで見えない。

 ここからが本当の勝負だ。




Ⅳ「受け取れ! 俺の本当のファンサービスを!」


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第94話  真紅眼の黒竜VS真紅眼の黒竜

天上院吹雪 LP4000 手札2枚

場 真紅眼の黒竜  

伏せ 一枚

 

城之内克也 LP6400 手札2枚

場 アックス・レイダー

罠 モンスターBOX

 

 

 

 盤上はほぼ互角の立ち上がりだ。

 これまで憧れていた相手とのデュエルということで騒いでいた感情のうねりも互いの最初のターンを消費したことで収まってきている。

 ライフはレインボーライフの効力で相手が勝っているが問題にならない範囲内だ。別に鮫島校長のデッキのようにターンごとにライフが回復していくというわけでもない。レッドアイズの一撃を通らせることが出来ればもとに戻すこともできるだろう。

 

(さて、と。本番はこれからだね……)

 

 最初のターンはジャブのようなものだ。返しのこのターンで伝説がどう巻き返してくるのか。

 

「いきなりレッドアイズを召喚するなんてやるな吹雪」

 

「伝説のデュエリストにそう言われると光栄ですよ」

 

「俺も負けてられねぇな。いくぜ俺のターン、ドロー!」

 

 吹雪のレッドアイズを前にしてもまるで萎縮せずに力強くカードをドローした。

 自然と空気が変わったのを感じる。なんとも凄まじいものだ。城之内克也というデュエリストはたった一度のドローだけでデュエルの流れそのものを持って行ってしまった。

 

「俺はモンスターBOXのコスト500を払いモンスターBOXを維持する」

 

 

 城之内LP6400→5900

 

 コイントスに正解すれば戦闘するモンスターの攻撃力を0にするモンスターBOX。しかしそのモンスターBOXをフィールドに留めるにはスタンバイフェイズ時に500ポイントのコストが必要だ。

 まだ序盤でライフも十分ということで城之内さんは維持する決断をしたらしい。

 

「そしてメインフェイズ、いくぜ! 俺は手札より魔法カード発動! クイズだ!」

 

 

【クイズ】

通常魔法カード

発動中、相手は墓地のカードを確認する事ができない。

相手プレイヤーは「クイズ」発動プレイヤーの

墓地の一番下にあるモンスター名を当てる。

当てた場合、そのカードをゲームから除外する。

ハズレの場合、そのカードは持ち主のフィールド上に特殊召喚される。

 

 

「クイズ?」

 

 条件さえクリアすれば死者蘇生と同じ働きをできるギャンブルカードの一枚だ。

 城之内克也は不敵に笑いながらカード効果について説明する。

 

「このカードの効果によりお前は俺の墓地の一番下にあるモンスターを当てなきゃならねえ。当たった場合、そのモンスターはゲームより除外する。だが外れた場合、そのモンスターは俺のフィールド上に特殊召喚されるぜ。

 さぁ! クイズの時間だ。俺の墓地の一番下にあるカードを当ててみやがれ!」

 

「一番、下……?」

 

 記憶の糸を手繰り寄せる。記憶にある限りこのデュエル中、自分が城之内さんのモンスターを破壊したことは一度もなかったはずだ。

 墓地にモンスターが送られたことなどは一度も、

 

「いや、あの時か!」

 

 一番最初に城之内さんのモンスターが墓地に置かれたのはレインボーライフのコストで捨てた手札一枚だ。

 こうしてクイズを発動してきたということは、そのカードがモンスターカードだったのだろう。

 

「一番下にあるカード、それは……」

 

 当てられない。もしもモンスターを戦闘破壊して墓地に送っていたとすれば記憶の片隅に留めていることもあっただろう。

 だがレインボーライフのコストとして墓地で送ったモンスターがなんであったかを吹雪は記憶していなかった。

 

「答えられねえみてえだな。ならシンキングタイムは残り10秒だぜ。1、2、3、4、5、6、7、8、9……」

 

 カウントダウンを止めることは出来なかった。そして最後に城之内さんが「10」と告げる。

 

「タイムアップだ。モンスターは俺のフィールドに特殊召喚される! 俺が墓地へ送っていたのはこいつだ。――――真紅眼の黒竜!」

 

「レッドアイズ……!」

 

 城之内が見せてきた黒竜のカードは見間違うはずもない。ブルーアイズと並び称される伝説のレアカード、真紅眼の黒竜だった。

 デュエリストキングダムで入手して以来、数多くの激闘を繰り広げ主を助けてきた城之内克也の魂のモンスター。

 

「来いッ! 真紅眼の黒竜!!」

 

 

【真紅眼の黒竜】

闇属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力2000

真紅の眼を持つ黒竜。怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす。

 

 

 吹雪のレッドアイズの向かい側に己こそが真のレッドアイズであると見せつけんばかりに漆黒の四肢と紅の瞳をもった竜が現れる。

 天を睨み嘶く真紅眼の黒竜は吹雪に威圧と畏敬、両方を与えてきた。

 

「目には目を。真紅眼の黒竜には真紅眼の黒竜を! お前が自分のエースモンスターを出すってなら、俺も魂のカードでそれを迎え撃つぜ!」

 

「だが真紅眼の黒竜の攻撃力は互角。相打ち覚悟で――――」

 

「いいや相打ちなんてことにはならねえさ。速攻魔法、天使のサイコロを発動!」

 

 

【天使のサイコロ】

速効魔法カード

サイコロを1回振る。

自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターの攻撃力・守備力は、

エンドフェイズ時まで出た目×100ポイントアップする。

 

 

「このカードはサイコロを振り、このターンのエンドフェイズ時まで俺のフィールド上に存在するモンスターの攻撃力守備力をサイコロの出た目の数×100ポイントアップさせるカードだ! ダイスロール!」

 

 小さな羽を生やした天使が自分の身の丈ほどの青いサイコロを投げた。

 サイコロの出た目により攻撃力の上限は決まるというのであれば最大値である6ならば600、1ならば100ということだ。

 コロコロと地面を転がるサイコロが止まる。出た目は1。

 

「うえ1かよぉ! だがこれでも十分だ。天使のサイコロの効果により俺のモンスターの攻撃力が100ポイントアップする!」

 

 元々真紅眼の黒竜同士の攻撃力は同じなため、それこそ1ポイントの上昇でも問題はなかったのだ。

 天使のサイコロにより真紅眼の黒竜の攻撃力は2500。吹雪の真紅眼の黒竜を上回った。

 

「バトルフェイズ! 真紅眼の黒竜でお前の真紅眼の黒竜を攻撃! ダーク・メガ・フレア!!」

 

「迎撃しろ! 真紅眼の黒竜、黒炎弾!」

 

 二つの黒い炎がぶつかり合う。だが天使のサイコロの力で強化されたレッドアイズが上回った。

 吹雪の真紅眼の黒竜は勝負に敗れ爆散する。

 

 吹雪LP4000→3900

 

 どうやら先制ダメージを受けてしまったようだ。失ったライフはたったの100だがされど100だ。流れをもっていくための一撃としては十分すぎる。

 

「これでお前のフィールドからモンスターはいなくなった! アックス・レイダーで直接攻撃――――」

 

「その攻撃まで通すわけにはいかない! リバースカードオープン、ガード・ブロック。戦闘ダメージを一度だけ0にしてカードを一枚ドローする」

 

「流石に簡単にダメージを貰ってはくれねえか。俺はこれでターンエンドだぜ」

 

「……僕のターン、ドロー」

 

 自分のデッキも相手が伝説ということで高ぶっているのかもしれない。吹雪が求めていたカードをダイレクトで手渡してくれた。

 吹雪はにっこりと笑うと、強い意志をもって伝説を見据える。

 

「僕は真紅眼の飛竜を攻撃表示で召喚する」

 

 

【真紅眼の飛竜】

闇属性 ☆4 ドラゴン族

攻撃力1800

守備力1600

通常召喚を行っていないターンのエンドフェイズ時に、

自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、

自分の墓地に存在する「レッドアイズ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 最初に召喚した黒竜の雛がレッドアイズの子供だとするなら、この飛竜は雛と成体の中間あたりだろうか。

 攻撃力も守備力も成体である真紅眼の黒竜に劣っているが、それでも果敢に城之内さんのフィールドの真紅眼の黒竜に相対してみせた。

 

「レッドアイズの派生カードか。でもそいつの攻撃力は俺のレッドアイズを倒すことはできねぇぜ!」

 

「確かにこのままだと倒せない。なら倒せるようにするだけ。僕は永続魔法、一族の結束を使う。このカードは自分の墓地に存在する元々の種族が一種類のみの時、自分の場のその種族のモンスターの攻撃力を800ポイントアップする!

 僕の墓地にあるのは黒竜の雛、真紅眼の黒竜の全てドラゴン族モンスター! よって真紅眼の飛竜の攻撃力は800ポイントアップだ!」

 

「自分のモンスター全員を800アップだって。天使のサイコロの最大値よりも凄ぇじゃねえか!」

 

 それもそうだろう。デッキを一つの種族に統一するメリットにこのカードが使用出来ることがあげられるくらい『一族の結束』は強力なカードだ。

 吹雪のデッキに眠るモンスターたちが強化されれば、それこそ下級モンスターすら最上級モンスターを倒せるような攻撃力を得ることができる。

 

「一族の結束により攻撃力2600となった真紅眼の飛竜で真紅眼の黒竜を攻撃、ダーク・フレイム!」

 

「……っ。相手が攻撃宣言した時、モンスターBOXの効果が発動するぜ。俺は表を選択、コイントス――――!」

 

 これは賭けだ。この賭けに成功すれば真紅眼の黒竜を撃破し伝説のライフにダメージを与えることができる。相手のエースを撃破することでゲームの流れも取り返すことも可能だろう。

 だが失敗すれば、真紅眼の飛竜の攻撃力は0となり逆に2400ポイントのダメージを受ける。そうなれば次のターンの総攻撃で吹雪は敗北するだろう。

 失敗が敗北に繋がるギャンブル。だがリスクを怖れたデュエルでは伝説には勝てない。

 コイントスの結果は、

 

「ちっ! 裏かよ! モンスターBOXの効果は発動しない」

 

 悔しそうに城之内さんが拳を握りしめ自分の膝を叩く。

 モンスターBOXの守りを突破した真紅眼の飛竜の一撃が城之内さんのレッドアイズを吹き飛ばした。

 

 城之内LP5900→5700

 

 伝説に初ダメージを与えたことと、危険なギャンブルに成功した喜びで小さくガッツポーズをする。

 しかしまだ最初の山場を乗り越えたばかり。大変なのはここからだ。

 

「バトルを終了。ターンエンド」

 

「レッドアイズがやられっちまったか。俺のターン、ドロー。モンスターBOXのコスト、500を払いモンスターBOXを維持する」

 

 再びライフコストを払ったが、まだ城之内さんのライフは5200。初期ライフ4000をオーバーしている。余裕は残っているといえるだろう。

 

「強欲な壺を発動、デッキからカードを二枚ドロー! 俺はアックス・レイダーを守備表示に変更。ターンエンドだ」

 

「僕のターン!」

 

 城之内さんのフィールドには守備表示のアックス・レイダーが一枚だけ。モンスターBOXはあるが、リバースカードは一枚もない。

 これ以上ないほどの絶好のチャンスだ。

 

「僕は手札よりアレキサンドライドラゴンを召喚。そしてアレキサンドライドラゴンをゲームより除外!」

 

「自分で自分のモンスターを除外しただと!?」

 

「降臨しろ! 真紅眼の最終形態! レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンッ!」

 

 

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】

闇属性 ☆10 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力2400

このカードは自分フィールド上に表側表示で存在するドラゴン族モンスター1体を

ゲームから除外し、手札から特殊召喚できる。

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に手札または自分の墓地から

「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外の

ドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる。

 

 

 全身を鋼に覆われた真紅眼が銀色に光り両翼を広げ、ゆっくりとフィールドに降り立つ。

 ドラゴン族の総大将ともいうべき威厳を放つその姿に伝説の目が見開かれる。

 

「レッドアイズ……ダークネスメタルドラゴン。こいつが……」

 

「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンのモンスター効果。一ターンに一度、手札または墓地よりドラゴン族モンスターを特殊召喚でえきる! 僕は墓地の真紅眼の黒竜を場に復活!!」

 

 真紅眼の黒竜を中心にその派生モンスター二体が並び立つ。

 最上級モンスター二体に下級モンスターが一体。だが一族の結束の効果により全てのモンスターの攻撃力が800上昇している。最大の攻撃力をもつレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンに至っては3600の攻撃力だ。

 

「バトルフェイズ! 真紅眼の飛竜でアックス・レイダーを攻撃!」

 

「モンスターBOXの効果だ。コイントスをするぜ。俺は表を選択!」

 

 ソリッドビジョンのコインが宙を舞う。それが地面に落ちた時、天井にその姿をみせていた側は裏。

 

「また裏かよ! ……モンスターBOXの効果は発動しねえ」

 

 アックス・レイダーは抵抗らしい抵抗も出来ないままに破壊される。

 遂に伝説の首元に剣を当てるほどまでに追い詰めた。

 

「まだ攻撃モンスターは残っている! 真紅眼の黒竜の攻撃、黒炎弾!」

 

「モンスターBOXの効果! コイントスをする! 俺が選択するのは……今度こそ出ろよ、表だ!!」

 

 三度目の正直。果たしてコインは、

 

「おっしゃあ!! 表だぜ! お前の真紅眼の黒竜の攻撃力は0になる!」

 

 攻撃力0では幾ら攻撃が通っても意味はない。レッドアイズは黒炎弾を吐き出すこともできずに攻撃を終了してしまった。

 

「最後だ。レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンで相手プレイヤーを直接攻撃! ダークネスメタルフレア!」

 

「モンスターBOXの効果発動! コイントス、今度は裏を選択するぜ!」

 

 先程のコイントスに失敗したためこのターンで伝説を倒す可能性は泡と消えた。けれどレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの直接攻撃を成功すれば大ダメージを与える。

 だが勝利の女神は平等に微笑むものらしい。先程からの不運を挽回するように出た目は裏。

 

「よし成功だ! レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの攻撃力は0になる!」

 

 土壇場の悪運強さはやはり『城之内克也』健在ということだろう。

 二度に渡った直接攻撃を全て防がれてしまった。

 

「僕はこれでターンを終了」

 

 状況は一気に自分の有利となった。だが伝説ともあろう男がこのまま終わるとは思えない。

 その証拠に吹雪の前にいる城之内克也は自分が優位にあるかのようにワクワクとした表情を浮かべていた。 



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第95話  蘇る結束

天上院吹雪 LP3900 手札2枚

場 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン、真紅眼の黒竜、真紅眼の飛竜  

魔法 一族の結束

 

城之内克也 LP5200 手札3枚

場 なし

罠 モンスターBOX

 

 

 

「場には三体のレッドアイズ……か。くぅー! 凄ぇな、デュエル・アカデミアの特待生ってのは。他の奴等もこんなに強ぇのか」

 

 城之内さんが真剣に吹雪の場に並ぶ三体のドラゴンを見つめる。

 フィールドは吹雪の優勢だ。リバースカードも壁モンスターもなく今や伝説を守護するのはモンスターBOXが一枚だけ。

 追い詰めている感触はある。自分は勝利に近付いていると信じることが出来る。

 なのに全く「嬉しさ」がないのは相手が伝説だからだろうか。

 

(いやこれでいい)

 

 相手は数多くのデュエルを潜り抜け、逆転不可能な状況をも覆してきた歴戦のデュエリストだ。

 ライフを0にするまで気を抜いていい相手ではない。

 城之内さんがデッキに手をかける。

 

「けどな。デュエルってのは勉強が出来るだけじゃ強くはならねぇんだぜ。見えるんだけど見えねえもの。――――それがなにか分かるか?」

 

「僕は絆だと思いますよ」

 

 吹雪は自分のデッキに視線を落とす。自分の剣である40枚のカードの一枚一枚がじっくり考えて、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながらデッキに加えていったカードである。

 カード一枚一枚に『理由』がありデッキに加えた『思い』がある。その積み重ねがデッキを作り、絆となった。

 思えば中等部の教諭であった田中先生。彼も合理性を突き詰めたデュエルをするだけで勝利できる状況に飽き飽きして、最終的に合理性を追求したデッキで伝説の一角に挑み敗れた。

 合理性だけでは辿り着けない真のデュエリストという境地。そこに至る鍵こそが〝見えるんだけの見えないもの〟なのかもしれない。

 

「いい答えだな。だが俺のデッキだって絆ってなら負けてねぇぜ! 俺のデッキの一枚一枚が俺の大切な仲間だ! 頼むぜ俺のデッキ、応えてくれ…………来いっ! ドローだ!!」

 

 カードをドローした城之内克也の口元が――――綻んだ。

 吹雪は確信する。今この瞬間、城之内克也はこの状況を覆すカードを引き当てたのだと。

 

「俺はモンスターBOXの維持コストを払う。そして手札より魔法カード、簡易融合を発動! 1000ポイントのライフを払いレベル5以下の融合モンスターを融合召喚扱いで特殊召喚するぜ! 現れろ、炎の剣士!!」

 

 

 城之内LP5200→4700→3700

 

 

【簡易融合】

通常魔法カード

1000ライフポイントを払って発動できる。

レベル5以下の融合モンスター1体を融合召喚扱いとして

エクストラデッキから特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、

エンドフェイズ時に破壊される。

「簡易融合」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

【炎の剣士】

炎属性 ☆5 戦士族

攻撃力1800

守備力1600

「炎を操る者」+「伝説の剣豪 MASAKI」

 

 

 赤い鎧を着こみ、燃える大剣を構えた剣士が飛び出してきた。

 融合モンスターでありながら攻撃力は下級モンスターの1900ラインにも届かない――――今では弱小とすら呼ばれるであろうモンスター。

 だがそれでいいのだ。

 世間の評価などは関係ない。好きだから入れる。思い入れがあるから入れる。真のデュエリストなら、そういうカードの思いを背負ってカードと共に強くなっていけばいいだけ。今目の前に立つデュエリストのように。

 

「簡易融合で融合召喚したモンスターは攻撃できずエンドフェイズ時に破壊される。だが、だったらこうするまでだぜ。手札より融合を発動。炎の剣士と手札の沼地の魔神王を融合!」

 

「炎の剣士を融合素材にするだって……?」

 

 炎の剣士ともう一体を融合素材とするモンスター。そんなカード、吹雪の知る限り一枚しかない。

 それは最上級魔術師と炎の剣士の力を持ちし黒炎の騎士。キング・オブ・デュエリスト武藤遊戯と城之内克也の結束が生み出したモンスター。

 

「俺に力を貸してくれ遊戯! 降臨せよ、黒炎の騎士-ブラック・フレア・ナイト-!」

 

 

【黒炎の騎士-ブラック・フレア・ナイト-】

闇属性 ☆6 戦士族

攻撃力2200

守備力800

「ブラック・マジシャン」+「炎の剣士」

戦闘によって発生するこのカードのコントローラーへのダメージは0になる。

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

自分のデッキまたは手札から「幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-」を1体特殊召喚する。

 

 

 第一印象は〝黒〟だった。黒でありながら闇を照らすような輝きをもった黒炎。ゆらゆらと黒い炎を衣服のように纏いながら、赤黒い剣をもった騎士がその姿を晒す。

 最上級魔術師ブラック・マジシャンの力を受け継いだ新たなる炎の力をもつ剣士、ブラック・フレア・ナイト。

 

「バトルだ! ブラック・フレア・ナイトでレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを攻撃! ブラック・フレア・ソードッ!」

 

 黒炎の騎士が刃を鋼鉄のドラゴンに振り落した。だが鋼鉄の皮膚が叩き斬られることはなかった。黒炎の剣を跳ね返すと逆襲とばかりにレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンがブラック・フレア・ナイトをブレスで焼き尽くす。

 それを見た二人のデュエリストは其々〝苦渋〟と〝喜び〟の表情を浮かべた。

 ただし苦渋の色を露わにしたのは吹雪で、喜んだのは城之内だった。

 

「ブラック・フレア・ナイトの効果。こいつの戦闘によって発生する戦闘ダメージは0になる。よって俺にダメージは届かないぜ。

 更にブラック・フレア・ナイトは戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキまたは手札から幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-を特殊召喚する!」

 

 

【幻影の騎士-ミラージュ・ナイト-】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力2800

守備力2000

このカードは「黒炎の騎士-ブラック・フレア・ナイト-」の効果でのみ特殊召喚が可能。

ダメージ計算時、このカードの攻撃力に相手モンスターの元々の攻撃力を加える。

戦闘を行ったターンのエンドフェイズ時に、このカードをゲームから除外する。

 

 

 滅びたはずの黒炎の騎士の影から金褐色の鎧を着込んだ新たなる騎士が現れた。

 これは幻影に過ぎない。幻想や夢の姿というのは強く美しいだろう。だがいずれは夢から冷める時が来る。幻影の寿命は陽炎より儚い。

 黒炎の騎士の幻影が生み出した騎士の寿命もまた同じ。ミラージュ・ナイトに許された攻撃は唯の一度のみ。唯の一度の攻撃でその身は砕け現世から消え去る。墓地にすらいくことはない。

 だからこそ幻影の一撃は重く険しい。

 

「――――来るか!」

 

「もちろん行くぜ! バトルフェイズ中の特殊召喚のためミラージュ・ナイトには攻撃権が残っている。今度が本当の一撃だ! ミラージュ・ナイトでレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを攻撃。幻影のミラージュ・サーベルッ!」

 

 跳躍しレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンに斬りかかるミラージュ・ナイト・幻影の騎士の刃にレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの姿が映し出される。

 

「ダメージ計算時、ミラージュ・ナイトの特殊能力が発動! このカードの攻撃力にバトルする相手モンスターの元々の攻撃力を加える!

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの元々の攻撃力は2800! よってミラージュ・ナイトの攻撃力は5600になるぜ!」

 

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンは一族の結束の効果により攻撃力が3600まで上昇している。

 だがその力も武藤遊戯と城之内克也、どれほどの年月が経とうと衰えない結束の力の前には無力だ。

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンが両断され、その超過ダメージが吹雪を襲った。

 

「ぐぅ! 流石は……伝説。レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンをこうも」

 

 

 吹雪LP3900→1900

 

 吹雪のデッキにおいて展開の軸となるレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンがやられてしまったのは痛い。

 それでも吹雪はデュエルを諦めることはなかった。

 絶望の先にこそ光はある。ミラージュ・ナイトの攻撃で受けたダメージは大きいが、ミラージュ・ナイトは一度しか攻撃ができない。その攻撃をしてしまった以上、ミラージュ・ナイトはエンドフェイズ時にゲームより除外される。そうすれば城之内さんのフィールドは再びがら空きだ。

 勝負は次のターンだ。

 

「俺はリバースカードを一枚伏せターンエンド。エンドフェイズ時、ミラージュ・ナイトはゲームより除外される」

 

 レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを倒したミラージュ・ナイトはその名の通り幻影のように消滅する。

 

「僕のターン、ドロー! 僕は手札より竜の霊廟を発動。デッキよりドラゴン族モンスターを墓地へ送る。僕は二体目の真紅眼の黒竜を墓地へ。更に墓地へ送ったのがドラゴン族通常モンスターだった場合、更にもう一枚墓地へモンスターを送ることが出来る。僕はメテオ・ドラゴンを墓地へ」

 

「なに考えてるんだ、自分からレッドアイズを墓地に送るなんて。……まてよ、レッドアイズにメテオ・ドラゴンって。おいまさか!」

 

「そのまさかですよ。魔法カード、龍の鏡! 墓地の真紅眼の黒竜とメテオ・ドラゴンを融合。――――これがレッドアイズの攻撃力という意味における極致! 融合召喚、メテオ・ブラック・ドラゴン!」

 

 

【メテオ・ブラック・ドラゴン】

炎属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3500

守備力2000

「真紅眼の黒竜」+「メテオ・ドラゴン」

 

 

 隕石のようにごつごつとした皮膚の内側からは灼熱のマグマが沸き立っている。溢れあがる赤黒い熱気を漂わせ、メテオ・ブラック・ドラゴンは自らの存在を誇示するように嘶いた。

 その力強い咆哮に地面が揺れているかのような錯覚を覚えた。

 

「メテオ・ブラック・ドラゴン……懐かしいな。いつだったか海馬の野郎の青眼の白龍3体連結を倒したモンスターじゃねえか」

 

「メテオ・ブラック・ドラゴンもドラゴン族。一族の結束の効果によって攻撃力は3500から4300へ上昇。バトルフェイズ! 真紅眼の飛竜で相手プレイヤーを直接攻撃、ダーク・フレイムッ!」

 

「モンスターBOXの効果発動。コイントスをする、俺が選ぶのは表だ!」

 

 コインが宙を舞い落ちる。出た目は――――裏。つまりは不正解。

 

「真紅眼の飛竜の攻撃力は変動しない。やれ!」

 

「うぉぉお!!」

 

 城之内LP3700→1100

 

 最初の賭けは吹雪の勝利。ライフを1100まで、あと一度の攻撃成功で倒せるところまで追い詰めた。

 そして吹雪のフィールドにはまだ二体の攻撃モンスターが残っている。

 

「続いて真紅眼の黒竜の攻撃!」

 

「モンスターBOXの効果、コイントスを行う。俺は表を選択!」

 

 再び宙を舞うコイン。これが不正解ならレッドアイズの攻撃によりライフを削りきることが出来て吹雪の勝利だ。

 

「よっしゃぁ! 出たのは表、正解だぜ! よってレッドアイズの攻撃力は0になる! 戦闘は無意味だ」

 

 レッドアイズが火を吐いて攻撃しようとするも、モンスターBOXの効果で攻撃能力を失ったレッドアイズのブレスは不発に終わる。

 残るモンスターは一体。メテオ・ブラック・ドラゴンのみ。この攻撃が通るか通らないか。これで決着がつく。

 

「メテオ・ブラック・ドラゴンで相手プレイヤーをダイレクトアタック」

 

「コイントスだ。俺が選択するのは……裏」

 

 三度目のコイントス。出た目は、

 

「や、やべぇ表だ!? モンスターBOXの効果は発動しねえ」

 

「どうやら最後のギャンブルは僕の勝ちのようですね。メテオ・ブラック・ドラゴンの攻撃、メテオ・ダイブ! これでこのデュエルは僕の勝ちだ!」

 

 メテオ・ブラック・ドラゴンが隕石のように身を固め城之内克也へ突進していく。

 伝説を打ち倒す喜びに吹雪は打ち震える。しかし、

 

「へへへっ。悪ぃな。俺は往生際が悪いんでね。足掻かせて貰うぜ、リバース発動。体力増強剤スーパーZ!」

 

 

【体力増強剤スーパーZ】

通常罠カード

このターンのダメージステップ時に相手から

2000ポイント以上の戦闘ダメージを受ける場合、

その戦闘ダメージがライフポイントから引かれる前に、

一度だけ4000ライフポイント回復する。  

 

 

「なんだって!?」

 

「このカードの効果により、俺は2000ポイント以上のダメージを受ける場合、戦闘ダメージによりライフポイントが引かれる前に4000ポイント回復できる!――――――うおっ!?」

 

 メテオ・ブラック・ドラゴンに体当たりされ、城之内克也の体が吹き飛ぶ。

 それでもその命は尽きない。メテオ・ブラック・ドラゴンの直撃を受けた伝説はよろよろと立ち上がると大胆不敵に笑う。

 

 城之内LP1100→5100→800

 

 正にギリギリの攻防。モンスターBOXの効果が二度失敗していれば吹雪の勝利だった。

 しかも攻撃を受け切ったとしても城之内には手札が一枚もないのだ。幾らこのターンを凌いだとはいえ、強力なドラゴン族モンスターをドローカード一枚で倒し切るなどは普通ならば不可能だ。

 

(だけどなんでだろうね。城之内さんならやってしまいそうだよ、大逆転ってやつをね)

 

 それは伝説のデュエリストなら出来るだろうという安直な思いではない。

 城之内克也という等身大のデュエリストと死力を尽くして戦ったからこそ分かるものがあったのだ。

 

「バトルフェイズを終了。カードを一枚伏せターンエンドだ」

 

 吹雪が伏せたのは罠カードを封じる王宮のお触れ。これで次のターンからはモンスターBOXの力を使うことが出来ない。

 例えミラーフォースなどの逆転の罠を防ごうと意味はなくなる。

 絶体絶命の戦況をどうするのか。吹雪は勝利を望むデュエリストでありながら、これから見せるであろう城之内克也という男の足掻きにワクワクしてしまっていた。

 

「……なぁ吹雪。たぶんこれがこのデュエルのラストターンだ」

 

「でしょうね」

 

「次のターンで俺が逆転のカードをドローすることが出来なけりゃ俺の負けだ。だが引き当ててみせるぜ」

 

 城之内克也が胸を張って宣言する。

 

「望むところですよ。僕の真紅眼の黒竜たちだって貴方のデッキに劣らない絆で結ばれている。この布陣はそう簡単に突破できない」

 

「突破してみせるぜ! 荒ぶる炎のデュエリスト、城之内克也様の名にかけてな!」

 

「っ!」

 

「やっぱりデュエルってのはこうでねえとな。お互いの力を振り絞って全力で戦う。相手のライフポイントを0にするまで全然気が抜けない限界のバトル。吹雪、お前とのデュエルは楽しいぜ。だからこそ俺も全力で戦う。俺の持つ全ての力を出し切ってな」

 

 城之内克也にデュエリストとして認めて貰えた。そのことの感動が全身を駆け巡る。

 しかし吹雪はデュエリストだ。認めて貰えただけでは飽き足らない。伝説をこの手で倒したくなってしまう。これがデュエリストの性というものなのだろう。

 本当に楽しい。こんなに楽しいデュエルはI2カップ以来だ。

 どれだけ優勢でも次のターンには全てが引っ繰り返されているかもしれないスリル。

 どれだけ劣勢でも次のターンには全てを引っ繰り返しせているかもしれない興奮。

 デュエルには全てが詰まっている。

 

「俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズ時、俺は500ポイントのライフコストを払わずモンスターBOXを破壊する」

 

 モンスターBOXが消滅する。ライフコストが重くなったというのもあるだろうが、それ以上に次のターンを迎える前に倒すという意思表示だろう。

 

「俺のドローしたのはこいつだ。魔法カード、貪欲な壺! 墓地の真紅眼の黒竜、アックス・レイダー、沼地の魔神王、炎の剣士、ブラック・フレア・ナイトをデッキに戻しシャッフル。その後、二枚ドローする!」

 

 融合モンスターである炎の剣士とブラック・フレア・ナイトは融合デッキに、他の三枚はデッキに戻った。

 この土壇場でドローソースを引き当てるとは、やはり城之内克也の名は伊達ではない。

 

「きたきたきたきたーーっ!! 俺はこのモンスター、時の魔術師を攻撃表示で召喚するぜ!」

 

 

【時の魔術師】

光属性 ☆2 魔法使い族

攻撃力500

守備力400

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。

コイントスを1回行い、裏表を当てる。

当たった場合、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

ハズレの場合、自分フィールド上に存在するモンスターを全て破壊し、

自分は破壊したモンスターの攻撃力を合計した数値の半分のダメージを受ける。

 

 

 小さな爆発音が響き、一人の魔術師が召喚される。見た目は赤い縁の昔ながらの時計そのもの。時計の秒針や長針は目がキョロキョロと動いていることもあってヒゲのように見える。

 両手両足が生えており、片手には魔法使いのステッキをもっていた。そして頭にはマジシャンのシルクハットを模したネジがある。

 

「時の魔術師、伝説のレアカードをこのタイミングで引き当てたのか!?」

 

 城之内克也が愛用する前から強力な効果をもつ超レアカードとして扱われ、絶版となった今では伝説が愛用したこともあって真紅眼の黒竜に匹敵……或いは凌駕するほどのカード。

 吹雪も直接前にするのは初めてだった。

 

「時の魔術師の効果発動! タイム・ルーレット!」

 

 時の魔術師のもつステッキの先にあるルーレットが回転し出した。

 これが外れてくれれば城之内克也のフィールドは再びがら空き。次のターンの攻撃で吹雪の勝ちだ。だがもし成功すれば、禁止カードクラスの破壊効果が吹雪のフィールドに落ちることになるだろう。

 そしてルーレットが止まる。

 

「――――賭けは俺の勝ちだぜ、吹雪!」

 

 タイムルーレットの結果は成功。つまり吹雪のフィールドのモンスターは全滅。

 

『タイムマジック~』

 

 時の魔術師が杖を振り落すと、時空風が吹雪のフィールドを包み込む。

 あまりの突風に視界を奪われ、次に目をあけると、

 

「ぼ、僕のレッドアイズたちが……骨になっている!?」

 

「時の魔術師の効果だ。お前のフィールドは100年の時を超え、レッドアイズたちは骨になるぜ! そして破壊される!」

 

 骨格標本のようになったレッドアイズたちが崩れ去る。 

 攻撃力4300のメテオ・ブラック・ドラゴンを始め圧倒的攻撃力のドラゴン族モンスターが並んだ吹雪のフィールドが一転してがら空きとなった。

 

「だがまだ時の魔術師の攻撃じゃ僕のライフを削りきることはできない」

 

「それはどうかな。確かに時の魔術師じゃライフを削りきることは出来ねえ。だったら他のモンスターを呼び込むまでだぜ。魔法カード発動。モンスター・ゲート!」

 

 

【モンスターゲート】

通常魔法カード

自分フィールド上のモンスター1体を生け贄にして発動する。

通常召喚可能なモンスターが出るまで自分のデッキをめくり、

そのモンスターを特殊召喚する。

それ以外のめくったカードは全て墓地へ送る。

 

 

「時の魔術師を生け贄にして発動。通常召喚可能なモンスターが出るまで俺はデッキをめくり、そのモンスターを場に特殊召喚する。

 一枚目、スケープ・ゴート! 二枚目、悪魔のサイコロ! 三枚目、鎖付きブーメラン! 四枚目、右手に盾を左手に剣を! 五枚目…………俺の引いたカードはこいつだ。真紅眼の黒竜!」

 

「……!」

 

 貪欲な壺の効果でデッキに戻したばかりの真紅眼の黒竜。それをこうも引き当てるとは。

 吹雪のようにデッキに三枚投入しているわけでもないというのに。伝説の頂きに吹雪は武者震いを抑えることが出来ない。

 

「真紅眼の黒竜を攻撃表示で召喚。バトルだ! 真紅眼の黒竜で吹雪を直接攻撃、ダーク・メガ・フレア!!」

 

 レッドアイズの黒炎が吹雪のライフを焼き尽くす。ライフが0となり吹雪の負けが確定した。

 胸には悔しさが溢れている。けれど『後悔』はない。自分の全力を振り絞って戦い、そして結果が負けだといいうのなら『後悔』などありはしない。

 

「そこまで! 二人ともいいデュエルだったにゃ」

 

 大徳寺先生の合図でソリッドビジョンも消えていく。

 パチパチと拍手の音が響いてくる。丈たち三人が手を叩いていたのだ。

 

「ナイスデュエル、吹雪」

 

「流石だな。伝説のデュエリストをあわやというところまで追い詰めるとは。今度は俺の調整にも付き合ってくれ」

 

「感動したよ。他人のデュエルを見てこんなに楽しかったのは初めてだ」

 

 勝っていたのなら盛大に歓声に応じることも出来たのだが、敗北しておいてそれは吹雪もさすがに恥ずかしい。

 軽くウィンクするだけに留めておいた。

 

「ありがとうございました」

 

 悔しさの色を残しながらも吹雪は晴れ晴れとした表情で頭を下げる。

 

「いや、こっちこそありがとな。最近、あんまデュエルする機会がなくてよ。楽しかったぜ」

 

 差しのべられた手を握り、握手をする。伝説の掌は大きかった。

 

「城之内さんは大学を卒業したらプロですか?」

 

「うーん、どうだろうな」

 

「……? 城之内さんの実力ならプロ入りは問題ないでしょう?」

 

 伝説のデュエリストがプロ入りともなれば、あちこちの企業で取り合いが発生するのは想像に難しくない。

 一時期世界中の企業がキング・オブ・デュエリスト、武藤遊戯をプロに引き込もうと躍起になり騒ぎを起こしたことがあった。結局それは海馬社長によって鎮圧されたが、伝説のデュエリストというのはそれだけ世界に影響力をもつ存在なのだ。

 

「そりゃまあ、わりと色んな企業からプロにならねえかって誘いは受けてるんだけどな。プロデュエリストって道を選ぶのは、言ってみりゃ自分の人生ってものをチップにした大博打だ。俺も真剣になるぜ」

 

「大博打、ですか」

 

 信じられなかった。大博打か安定なら迷わず大博打を選びそうな城之内克也というデュエリストが、デュエリストなら誰もが憧れるプロリーグに進むのに『慎重』になっているなんて。

 

「意外か? 俺がこんなことを言って。でもさ、上手く口では言えねえんだけど……家族のために汗水たらして働いているサラリーマンだってプロデュエリストに負けねえくらい格好良いと思うぜ」

 

「…………っ!」

 

「真のデュエリストってのは別にプロのライセンスをもっているかどうかじゃねえ。デュエリストの魂さえもってりゃ職業がなんだろうとそいつはデュエリストなんだ。

 俺がプロの道に進むかどうかは俺自身も分からねえ。だけど俺はデュエリストを止めるつもりはねえぜ」

 

「僕の、完敗ですね」

 

 デュエリストの実力や経験だけではない。他のものでも城之内克也というデュエリストは自分よりも上だった。

 別れを告げるようにチャイムが鳴る。

 

「じゃあな。またデュエルしようぜ」

 

 再戦の約束だけをして、城之内克也というデュエリストは嵐のように去っていった。



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第96話  邪悪なる胎動

 デュエル・アカデミアでの暮らしは本当に楽しい。

 両親が事故で死んでしまった後、引き取られた遠縁の親戚の家では、その親戚が世間では有名な俳優一家ということもあって『居場所』が不安定だった。

 疎外感というやつだろう。従兄妹もその両親も『俳優』という血が流れているのに自分にはそれがない。その家の人達は悪い人間ではなかったが、悪い人間となら必ず良く付き合えるという道理はない。きっと自分と彼等の間ではなにかが噛み合わなかったのだ。だから親戚の一人という立場から家族になることは出来ない。別々の会社の作る製品同士に互換性がないように。

 或いは自分で近付く事を拒絶していたのだろう。

 人はいずれ死ぬ。死ねば無となり、その人がもっていた記憶は消えてなくなる。――――永久に忘れ去られるのだ。だったら誰もいない方がいい。それが両親を失ってから出した一つの結論だった。

 やがてその疎外感に耐えられなくなって、オーストラリアへの留学という形で家を……両親の生まれた日本という国そのものを飛び出した。

 オーストラリアでの生活は大変ではあったが、それでも日本での疎外感に満ちた暮らしよりはマシだった。自分一人だけの生活なら、誰かに忘れ去られる恐怖やなにかを失う恐れもない。楽しくはなかったが、たまらなく『楽』だったのだ。

 デュエル・アカデミアの影丸理事長からアカデミアに特待生として入学しないか、という誘いがきたのはオーストラリア・チャンピオンシップで優勝した次の日のことだ。

 元々留学期間は三年ということになっていて、それが終われば自分は日本に帰国することとなっていた。だが高校三年間をあの疎外感を感じながら暮らすのは嫌だった。だからその誘いを受け入れたのだ。

 デュエル・アカデミアは孤島にある学生寮で三年間を過ごす。特待生ともなれば学費すら免除されるから、保護者に迷惑もかけないで済む。冬休みや夏休みの長期休暇は基本的に家へ戻ることになっているが、それだって強制ではない。申請さえすれば学生寮に留まることもできる。高校三年間を一度も家に帰らず、そのまま就職すれば一生あの家に戻らないことも可能なのだ。

 そしてアカデミアへやってきて、出会ってしまったのだ。両親以来、決して誰も入らなかった場所に入って来てしまう友人と。

 三人の友人との寮生活は楽しかった。勿論特待生のカリキュラムは厳しく億劫で、辛い時もあったが楽しい時間がそれに勝った。

 人生のどの瞬間よりも充実した日々。はっきりと自分が幸せであると認識できる。

 

「丈、亮、吹雪……」

 

 部屋の壁には友人たちの写真が張り付けられている。どれもこの学園に来て撮ったものだ。

 これまで自分にとって心許せる存在は精霊のオネストしかいなかった。オネストだけは自分と一緒にいて、オネストだけとしか一緒にいない。これからもそうなのだろうと、ずっと決めつけてきた。

 しかし今の自分には仲間がいる。友人がいる。もう藤原優介は『孤独』ではない。

 

「…………嫌だ」

 

 だからこそ、藤原の胸中は絶望で満たされる。恐怖、絶望、不安、あらゆる負の感情が蠢く。

 写真の中で自分と一緒に笑う三人は最高の友人達だ。親友と言い換えてもいいのかもしれない。それほどの大切な人だ。

 しかしいずれ彼等も藤原優介を忘れる時がやってくる。

 

「…………!」

 

 写真の中でまず最初に亮の姿が消えた。次に吹雪、最後に丈が消え、自分だけが残った。

 勿論本当に写真の中の人影が消えたわけではない。これは単なる藤原の錯覚だ。だとしても、

 

「人は死ぬ。死んだら忘れる」

 

 あれだけ愛していた両親も死んでしまった。事故死なんていう有り触れた理由で自分を残して死んでしまった。

 残ったのは遺骨とかいうものだけ。記憶を留めておく脳味噌も、心もなにもない抜け殻。

 悪いことなどしていなかった。聖人君子というほどでないにしても、両親は悪い人ではなかった。なのに死んだ。理由すらない理不尽で死んでしまった。

 

「嫌だ……忘れたくない!」

 

 自分が忘れ去られるのが嫌だ。誰かを失うのが恐い。誰よりも大切な友人たちだからこそ、彼等に忘れられ死なれるのが嫌なのだ。

 人はいずれ死ぬ。

 神の血と人の血をもった英雄も、史上最初に皇帝となった男も、その冷酷なる運命から逃れることはできなかった。

 不老不死などは存在しない。あらゆる生命はいずれこの世から消滅し忘れ去られる。

 

「こんな、ことなら……!」

 

 最初から友人などいなければ良かった。この世界に自分一人しか人間がいなければ、なにを愛することもなかった。

 誰も愛さなければ、失う苦しみを味わわずに済んだ。いや、そもそも、

 

「生まれてこさえ、しなければ」

 

 どうせ最後に行きつく果てが死という『虚無(ゼロ)』ならば最初から虚無のまま1という『実数(人間)』になどならねば良かった。

 生まれてこない生命ならば、死ぬことだってないのだ。死がなければ滅びもない。滅びがないから誕生もない。簡単なロジック。

 

『……マスター』

 

 オネストだけが静かに藤原を見下ろしている。

 デュエルモンスターズの精霊、生物学の枠に当て嵌まらない精霊であれば或いは死という運命もまた存在しないのだろうか。

 ふとそんなことを考えた。

 

『汝、我を欲するか?』

 

「――――っ! 誰だ!?」

 

 心に直接語りかけてくるような声を感じ、藤原が立ち上がる。

 だが周囲を見渡しても誰もいない。精霊であり人間の藤原よりもよほど勘の鋭いオネストもきょとんとしている。

 

『どうなされたのですかマスター? ここには私とマスター以外に誰もいません』

 

「……なんでもない。ちょっと疲れていたみたいだ」

 

 頭がズキズキと痛む。まるで死そのものに触れてしまったかのようだった。

 その時。ガシャンと窓ガラスが割れるような物音がした。

 

『マスター!』

 

 今度の音はオネストにも聞こえたらしい。険しい顔をしたオネストが窓へ駆け寄る。すると、

 

「あれは!?」

 

 隣り部屋の窓から男が一人飛び降りてきた。手になにか持っている。

 藤原はあれを一度見た事があった。あれはたしか三邪神の入っている専用のカードケース。藤原は慌てて窓から飛び降りた。

 

 

 

 

 寝る前にトイレに行ってから部屋に戻った丈は驚きの光景を目の当たりにすることとなった。

 部屋に入った丈の前に飛び込んできたのは鍵のかかった引き出しを壊して三邪神のカードが入ったカードケースをもっている男の姿。

 明らかに学園の関係者ではない。泥棒だと一目で分かった。

 

「ま、待て!」

 

 泥棒を追うが、待てと言われて大人しく動きを止める泥棒などいる筈がない。泥棒はカードケースをもって、そのまま窓を破壊し飛び出してしまった。

 PDAで通報している時間すら有りはしない。丈は泥棒を追って窓から飛び降りた。 

 

「逃がすか!」

 

 三邪神はペガサス会長より託された大切なカード。そして同時に宍戸丈の大切な仲間であり、普通のデュエリストにとっては危険極まりないカードでもある。

 なんとしても取り戻さなくてはならない。

 

「丈!」

 

 すると藤原も自分の部屋の窓から飛び降りてきた。どうやら丈の部屋から泥棒が飛び出していくところを目撃したらしい。

 

「藤原か」

 

「……やっぱり三邪神のカードを」

 

「ああ。あいつが持って走っている。捕まえて取り返さないと」

 

 走れど走れど泥棒はどんどん引き離していっていく。あの泥棒、かなりの俊足だ。

 アカデミアまで泥棒に入るくらいだ。逃走経路は用意しているだろう。当然この孤島から脱出する足も。もし海まで逃がられたら終わりだ。

 しかし丈は失念していた。今自分の隣りを走る友人のことを。

 

「オネスト、無理をさせるようで悪いけど大丈夫か?」

 

『お任せを』

 

「っ! オネストが実体化した!?」

 

 丈についている精霊たちのように幽霊のように半透明の姿ではない。人間のような確かな存在感をもってオネストが藤原の隣りに現れていた。

 オネストは翼を広げ飛び立つと瞬く間に逃走する泥棒に迫っていく。幾ら泥棒といえど空を飛ぶオネストに速度で勝てるはずがない。

 

『はぁぁあ!!』

 

 オネストが羽を手裏剣のように泥棒目掛けて飛ばす。それで御縄につくと思いきや、あろうことか泥棒はデュエルディスクから一枚のカードを取り出すと、

 

「攻撃の無力化を発動!」

 

 泥棒の前に出現した渦がオネストの羽を呑み込んで行ってしまう。

 

「ふん。まさか精霊の力をここまで使いこなすようなデュエリストがいたとはな。いやこれはデュエリストではなく精霊そのものの力の強さか。ランクA以上の精霊、本来なら欲しいところだが今はランクEXのカードを相手にした仕事中。お預けだな」

 

 泥棒はオネストをしげしげと観察して攻撃の無力化のカードをデッキに戻す。

 そういえば聞いた事がある。デュエリストの中にはソリッドビジョンによる立体映像を現実に出来るような力をもった超能力デュエリストがいると。

 前は都市伝説として聞き流していたが、もしかしたらこいつが。

 

「超能力を使う……デュエリスト!」

 

「ふふっ。通の間ではカード泥棒のデュパン十五世と呼ばれているけどね」

 

 デュパン十五世、何度かテレビニュースになったこともあるデュエルモンスターズ専門の泥棒だ。

 経歴は一切不明でデュパン十五世というのも本名でないと言われている。

 

「どうして三邪神を盗んだんだ、それは丈のカードだ」

 

 藤原が声を張り上げると、泥棒、デュパンはくだらなそうに笑うと。

 

「どうして? 三邪神は彼の有名な三幻神と対を為すデュエルモンスターズ最高峰にして最強のレアカード! デュエリストなら欲しがって当然だろう」

 

 やはり三邪神のことを分かった上で忍び込んでいる。

 ネオ・グールズ残党は本当に面倒なことをしてくれた。彼等があることないこと言いふらしてくれたお蔭で大変だ。

 

「三邪神を返してくれ! それは危険なカードなんだ。幾ら超能力みたいなものが使えても、お前にそれを扱うことは出来ない」

 

「断る。どうしてもというのならデュエルで私を倒してみるがいい。そうすれば三邪神は返してやろう」

 

「…………いいだろう」

 

 丈のブラックデュエルディスクが起動する。

 自分の三邪神だ。奪われてしまったのも自分が不注意だったから。そのつけは自分で払う。

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 デュエルモンスターズのカードを実体化させるような男だ。デュエルの実力もかなりのものがあるのだろう。

 負けられない一戦だ。丈は気を引き締めた。先攻は自分。

 

「俺の先攻、ドロー! 俺はモンスターを守備表示でセットする。……ターンエンドだ」

 

「ふふふふっ。消極的なターンじゃないか。そんなんじゃ〝魔王〟の名が泣くぞ。もっとも魔王が使役していた三邪神は今日貴様の手から離れるのだがね。

 私のターン、ドロー! 紫炎の狼煙を発動、自分のデッキよりレベル3以下の『六武衆』と名のついたモンスターを手札に加える」

 

 六武衆専用のサーチカードを使ってきた。となるとデュパンのデッキは六武衆なのだろう。

 デュパンなんてフランスの大怪盗ルパンをぱくった名前を名乗っていることから、それを暗示するようなテーマを使うと思ったら別にそういうわけではなかったらしい。

 それにしても底の知れない余裕をもってデュエルする男だ。なにか自信の源でもあるのだろうか?

 

「ふふふふふっ! お前は私のデッキを単なる『六武衆』だと思っているのだろう。だが私のデッキは一味違う。私は真六武衆―カゲキを攻撃表示で召喚!」

 

 

【真六武衆-カゲキ】

風属性 ☆3 戦士族

攻撃力200

守備力2000

このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下の

「六武衆」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。

自分フィールド上に「真六武衆-カゲキ」以外の

「六武衆」と名のついたモンスターが表側表示で存在する限り、

このカードの攻撃力は1500ポイントアップする。

 

 

「なっ!」

 

 フィールドに見参する鎧甲冑を着込んだ武士。だが丈が驚いたのはそのことではない。

 真六武衆は六武衆のカテゴリーに属するカードだが、これが封入されていたのはI2カップ大会限定パック、つまり一般市場にはまだ出回っていないカードなのだ。

 

「その顔じゃこのカードが市場に出回ってないカードだってことは知っているようだな」

 

「……どうして、このカテゴリーを?」

 

「私の職業がなんであるか忘れたのか。未発売のカードをI2社から失敬するなどお手の物さ。デュエルを続けようか。真六武衆―カゲキのモンスター効果発動! このカードが召喚に成功した時、手札よりレベル4以下の六武衆を特殊召喚できる。

 指定されているのは六武衆と名のついたカード。つまり真六武衆も当然それに含まれるぞ。私は真六武衆―ミズホを攻撃表示で召喚。そしてカゲキのモンスター効果、このカード以外の六武衆が自分フィールドにいる時、攻撃力を1500ポイントアップする!」

 

 

【真六武衆-ミズホ】

炎属性 ☆3 戦士族

攻撃力1600

守備力1000

自分フィールド上に「真六武衆-シナイ」が表側表示で存在する場合、

このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上に存在する

「六武衆」と名のついたモンスター1体を生け贄にする事で、

フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

 

 

 ミズホという名に違わぬ女性の武士がカゲキの横に並ぶ。しかもカゲキはミズホが並んだことで攻撃力を1700まで上昇させてしまった。

 下級モンスターの最大ラインである2000には及ばないが十分の数値だ。

 

「そして自分フィールドにミズホがいる時、このカードは手札から特殊召喚できる。真六武衆―シナイを攻撃表示で召喚。更に私の場に六武衆が存在する時、このカードは生け贄なしで特殊召喚できる。六武衆の師範を攻撃表示で召喚!」

 

 

【真六武衆-シナイ】

水属性 ☆3 戦士族

攻撃力1500

守備力1500

自分フィールド上に「真六武衆-ミズホ」が表側表示で存在する場合、

このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

フィールド上に存在するこのカードが生け贄にされた場合、

自分の墓地に存在する「真六武衆-シナイ」以外の

「六武衆」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える。

 

 

【六武衆の師範】

地属性 ☆5 戦士族

攻撃力2100

守備力800

自分フィールド上に「六武衆」と名のついたモンスターが存在する場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

このカードが相手のカードの効果によって破壊された時、

自分の墓地の「六武衆」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える。

「六武衆の師範」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

 

 ミズホやカゲキと同じ真六武衆と、年老いた男性が召喚される。年老いたといっても老いてますます盛んという表現がピッタリ合いそうなご老人だ。

 攻撃力も2100と並んでいる六武衆で最も高い。

 

「いきなり四体ものモンスターを召喚してくるなんて。丈、大丈夫か?」

 

 藤原が心配そうに声をかけてくるが、丈は思わず吹き出してしまう。

 

「なにがおかしいのさ!?」

 

「いやぁ。俺と入試で戦った時に手札を八枚に増やしつつ、最上級モンスターと上級モンスター含めた四体のモンスターを並べてみせた天帝とは思えない発言だったからつい」

 

「天帝ってその渾名をつけたのは丈じゃないか!」

 

「悪い悪い。だって俺たちだけ魔王やらカイザーやらキングなんて恥ずかしい異名をもっておいて、藤原だけフリーなのはずるいだろ。吹雪は自分で名乗ってる節があるけど」

 

「お前達、私を前に呑気にお喋りとは随分と余裕があるじゃないか?」

 

 青筋をたてたデュパンが言う。完全に無視されたことにご立腹の様子だ。

 別に無視していたわけではないのだが、デュエル中に相手のことを無視してギャラリーと話すのはマナー違反だ。亮が見ていたら怒られていたところだ。自粛しよう。

 

「ふんっ! その余裕もいつまで保つかな。私はお前達も知っての通りサイコデュエリスト。このデュエルでもダメージは現実のものとなってプレイヤーを襲う!

 苦痛を味わうがいい! 私のバトルフェイズ。師範でセットモンスターを攻撃! 師範の鉄拳!!」

 

「俺の伏せていたカードは魂を狩る死霊。このカードは戦闘では破壊されない」

 

 師範の拳をさらりと受け流す死霊。丈のデッキとのシナジーは特にあるわけではないのだが、闇属性だということと汎用性のある壁モンスターということで投入しているのだ。

 

「チッ! ならばミズホのモンスター効果発動、六武衆を生け贄にすることでフィールドのカード一枚を破壊する! 私は真六武衆シナイを生け贄に魂を狩る死霊を破壊だ!」

 

 ミズホが手裏剣を取り出したかと思うと、それを投げつけ魂を狩る死霊を破壊する。戦闘耐性のある魂を狩る死霊も効果破壊の前には無力だ。

 

「プレイイングミスだな。最初にミズホの効果を使っていれば残る三体の直接攻撃で俺のライフを0に出来たのに……」

 

 もっとも丈の手札には手札誘発の防御カードがある。もしミズホの効果を使ってからの攻撃だとしても防ぎきれたのだが、勿論自分の手の内を晒すようなことは言わない。

 丈に指摘されたデュパンの顔は段々とトマトのように真っ赤になっていった。

 

「っ! 五月蠅い! 私はカードを一枚伏せターンエンドだ」

 

 思った通りだ。デュパン十五世だかなんだかは知らないが、このデュエリスト。デッキを使い慣れていない。

 恐らく真六武衆デッキ自体が組んだばかりのものなのだろう。盗んだカードのテーマが強かったから、そのまま乗り換えたというところか。

 それにプレイイングミスを指摘されたことで焦っている。畳みかけるなら今だ。

 

「俺のターン、ドロー。俺はE・HEROエアーマンを攻撃表示で召喚。エアーマンのモンスター効果、デッキよりHEROと名のつくモンスターを手札に加える。俺が手札に加えるのはE・HEROキャプテン・ゴールド。

 そして融合を発動、手札のキャプテン・ゴールドとE・HEROオーシャンを融合する。融合召喚、E・HEROアブソルートZero!」

 

 

【E・HEROアブソルートZero】

水属性 ☆8 族

攻撃力2500

守備力2000

「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する

「E・HERO アブソルートZero」以外の

水属性モンスターの数×500ポイントアップする。

このカードがフィールド上から離れた時、

相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 絶対零度を司るHEROが融合召喚された。場を離れた時に相手フィールドのモンスターを全滅させる効果は、モンスターの大量展開が売りの真六武衆には刺さるだろう。

 だからこそアブソルートZeroを融合召喚先として選択したのだが。

 

「バトル! エアーマンでミズホを攻撃!」

 

 風の旋風がミズホの体を引き裂く。そして続いてアブソルートZeroが跳躍する。向かう先は六武衆の師範。

 

「アブソルートZeroで師範を攻撃、凍てつけ!!」

 

 師範の体が一瞬で氷漬けとなる。もはや身動きのとれなくなった師範にZeroは拳のラッシュを浴びせて粉々に破壊した。

 

 デュパン十五世LP4000→3400

 

 ライフは合計で600のダメージを受けたに過ぎないが、デュパンの手札はたったの一枚。次のドローを加えても二枚しかない。

 丈の手札がまだ全然余力を残している状態であることを考えれば完全にデュパンは負けムードだろう。

 

「デュパン、大人しくカードを返すんだ。今ならまだ間に合う」

 

「まだだ! 貴様のような小僧に、舐められたままで終われるか! 私のターン、ドロー!」

 

 舐めているわけではない。ただ三邪神は……担っている丈だから良く分かる。相当のじゃじゃ馬だ。

 なんといったって大邪神ゾーク・ネクロファデスの分身というとんでもないカードだ。デュパンが下手なことをすれば、不味いことになる。

 けれど丈の怖れを嘲笑うかのように最悪のカードをデュパンはドローしてしまった。

 

「は、ははははははははははははーーっ! やった! このデュエル、私の勝ちだ!」

 

「なに?」

 

「特別に私の引いたカードを見せてやろう。私がドローしたカード、それは邪神ドレッド・ルートのカードだ!!」

 

「まさか、デッキに入れていたのか!?」

 

 良く見ればデュパンの足元にあるカードケースのカギが強引に破壊されている。

 デュエルを始める前にあらかじめ三邪神のカードをデッキに入れていたのだろう。デュパンの自信の源は三邪神だったのだ。

 だがこのままでは、大変なことが起きてしまう。

 

「やめるんだ、三邪神を召喚するのは……」

 

「命乞いが遅いのだよ! 私は諸刃の活人剣術を発動。墓地に眠る二体の六武衆を復活させる! 蘇れミズホ、シナイ! これで私の場に三体の生け贄が揃ったぞ!!

 私は三体の真六武衆を邪神の供物とする! 降臨せよ、邪神ドレッド・ルートッ!!」

 

 デュパンは自分が邪神を召喚して、その圧倒的パワーで丈を蹂躙することを夢想していたのだろう。恍惚感すら宿した笑い声をあげていた。

 

「はははははははっはははははははははははははは、は?」

 

 だがそうはならなかった。フィールドに邪神は現れなかった。代わりに出現したものは『恐怖』そのもの。

 デュパンという人間が抱く『恐怖』がそのまま形となって出現した。

 恐怖は悪魔の姿で出現した。人の何倍もの体躯をもつ悪魔はデュパンを鷲掴みすると、そのまま自らの口へと運ぶ。

 

「や、やめろ! なにをしてるんだドレッド・ルート! お前が戦うのはあいつだ、宍戸丈だ! 私じゃない!」

 

 悪魔は喋らない。人間が料理を口に運ぶときに料理を憐れんで躊躇わない様に、悪魔はなんの温情すら与えず無情にデュパンを自らの口へ、

 

「い、嫌だ! 私は超能力を持つ選ばれた人間なんだぞ。い、いや、助け――――」

 

「やめろ!」

 

 悪魔がその鋭利な牙でデュパンの肉を喰らう直前、デュパンのデュエルディスクから邪神ドレッド・ルートのカードを取り返した丈が一喝する。

 

『……………』

 

 どれだけデュパンの惨めな悲鳴を聞いても止まらなかった悪魔がピタリと手を止めた。そして悪魔は最初から幻だったかのように掻き消える。

 ほっと一息つくとデュパンのデッキを探り他の邪神たちを奪い返した。

 

「丈が三邪神を使おうとしない理由が、分かったよ」

 

 藤原が後ろから声をかけてくる。背中越しのため藤原がどういう表情でそう言ったのかは分からなかった。しかし驚いた顔をしているのだろう。邪神の力を前にすれば、誰だってそうなる。丈も最初はそうだった。

 けれど丈の予想は違っていた。

 邪神を目にした藤原の表情は恐怖ではなく、口元が釣りあがり三日月のようになっていた。そのことに丈が気付いていれば、或いはその後の事件は起こらなかったのかもしれない。

 しかし全ては後の祭りだ。

 

 

 

 

「……宍戸くんから三邪神を奪う計画は失敗に終わったにゃ」

 

 誰もいない岩盤で特待生寮の寮長を兼任する大徳寺はある人物に連絡をとっていた。古い付き合いの友人に失敗を報告するために。

 

「デュパンくんも精神にかなりのダメージをおって再起不能。明日、警察に引き渡されるそうですが果たして元に戻れるかどうか。前のデュパンくんなら脱獄は難しいことでもなかったけれど、今の彼には超能力そのものが残っているかも怪しい」

 

『大した問題ではない。元々デュパン十五世は邪神の力を見定めるための使い捨てのティッシュのようなもの。惜しくはない』

 

「セブンスターズ候補の一人を失ったのに余裕だにゃ」

 

『私の前でふざけた口調をする必要はない。それにあくまでも候補だ。決定ではない。代わりなど幾らでもいる。私を誰だと思っている?』

 

「影丸理事長にゃ。デュエルモンスターズ界の重鎮の」

 

 その通り。大徳寺が連絡をとっている人物は誰であろう、デュエルアカデミアの理事長である影丸本人だ。

 デュパン十五世が最も高度なセキュリティーで守られている特待生寮に侵入できたのも影丸の手引きあってこそである。

 

「それよりどうする気なのかな? 三邪神に呼応する形で特待生寮によからぬ者が近付きかけている。三邪神そのものにしても、あれは私達の手には余る。はっきりいってアレは三幻魔に匹敵、或いは凌駕するほどの力をもっている。

 もしも相手するとしたら本腰を入れていく必要があるが……それは貴方の本意でもないだろう?」

 

 影丸理事長の目的は三幻魔であり、三邪神ではない。三邪神もまた強大な力をもつカードであるが、影丸が欲しいのは三幻魔だけだ。三邪神では彼の目的を果たすことはできない。

 だからこそ三邪神という三幻魔に匹敵する脅威に本腰を入れる余裕など彼にはないのだ。

 

『私の計画の成就に精霊と心通わす能力をもったデュエリストは不可欠だ。デュパンの奴のように闇のゲームの真似事をすることはできても、精霊と心通わすことの出来ない小物とは違う本物がな。だがアカデミアには精霊を見ることが出来るデュエリストが三人もいる。わざわざ宍戸丈を使う必要はない』

 

「彼を排除する気かにゃ」

 

『それも一つの手だが、三邪神がいることを鑑みると直接的にどうこうするのはベストとは言えん。なに上手くやるさ。悪意をみせずにアカデミアから追放する手段など幾らでもあるのだ。一先ずはさらばだ、アムナエル。後は頼むぞ』

 

 影丸理事長はそう言って通信を切る。

 アムナエルという錬金術師の顔も持つ男はメガネを持ち上げると、完全に大徳寺の顔に戻りアカデミアの校舎へ戻っていった。



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第97話  這い寄る暗黒

 これまで『三邪神』のカードを丈に見せて貰う機会は何度もあったが、実際に丈が三邪神を召喚したところを目撃したことは一度もなかった。

 三邪神はデュエルモンスターズのゲームバランスを根底より崩壊させかねないほどのパワーをもつカード。その攻撃はソリッドビジョンでありながら確かな痛みを相手プレイヤーに与える為、普通のデュエルで使用する事は出来ない。

 どうして邪神を召喚しないのかという藤原の問いに丈はそう言っていた。

 オネストの口振りから三邪神が凄まじい力をもっていることは分かっていたが、予期せぬアクシデントで他の男が邪神を召喚しようとしたことで実感をもって『理解』できた。

 恐怖を具現化したような悪魔が自らを召喚した不相応なデュエリストに裁きを下そうとする光景。もしも丈が寸でのところで止めなければ、あの男は文字通り邪神に食い殺されていただろう。

 アレを見てしまってはソリッドビジョンの故障なんてチープな理屈では済ませない。アレは決して嘘やマヤカシなどではなかった。

 デュエルモンスターズのカードが相応しくないデュエリストを食い殺そうとするなど、巷の人に尋ねれば漫画の見過ぎと笑われるだろう。

 だがアレを見てしまってはどんな人間でも否応なく知るだろう。カードでありながら人を凌駕する三邪神という存在を。

 三邪神を目にした藤原の魂は震えていた。

 どうしてなのか、自分でも良くは分からない。ただ単純に邪神の力に憧れたというわけでもなかった。それでも心が邪神に手を伸ばせと騒いでいるのだけは分かった。

 

「ふっ、ふふふふふふ…………」

 

 自分の部屋の床に藤原は一心不乱に魔法陣を描く。魔法陣を描くための材料は己の鮮血。藤原の人差し指はカッターで切られトクトクと血を流していた。

 

『マスター、なにをしているのですか? それは良くないものです。どうか止めて下さい』

 

 オネストが魔法陣から浮かび上がってくる闇の波動を悟ったのか止めようとして来る。

 これまで常に共にあったオネスト。もはや家族とすら言っていい彼を「五月蠅い」と一蹴した。

 

「やっぱり僕があの時に聞いたのは空耳なんかじゃなかった。丈、君が三邪神を見せてくれたお蔭で僕もこれに気付くことが出来たよ」

 

 三邪神は冥界の大邪神ゾーク・ネクロファデスを三分割したカードだ。そこには当然ゾークの力が宿っている。

 現世と冥界は光と影。表裏一体の存在だ。あらゆる物事には表があり裏がある。さながらカートの裏表のように。

 冥界とは現世に対する裏だ。ならばこの『世界』そのものにも裏が存在する。同じ裏側に属するカードを『視る』ことで藤原はこの世界の裏の存在を知覚することが出来た。

 恐らくはこの世界の裏は現世の裏である三邪神と共鳴している。だからこそ心の根っこでその世界を求めている藤原に向こう側から語りかけてきたのだ。

 魔法陣を書き終えると、赤い鮮血がまるで生きているかのように蠢き始めた。

 

『マスター! どうか止めて下さい! 一体なにを――――』

 

 オネストの必死の懇願に藤原はなにも答えなかった。一つのカードケースを取り出すと、そこへオネストのカードを入れる。鍵をしっかりとかけると、オネストは『マスター……』と言い残し消え去った。

 これでいい。自分はこれからあちらの世界に向かうがオネストまで連れていく必要はない。

 

「さようならオネスト」

 

 全ての用意を終えた藤原は魔法陣の中心に一滴の血を垂らす。

 瞬間、闇が爆ぜた。

 

「ぐ、うぅぅうぅぅぅぅぅうぅう!!」

 

 闇が藤原の体に入り込んでいく。青と白を基調としたアカデミアの制服が暗黒に染まっていった。

 そしてその面貌を黒い仮面が覆っていく。

 

『汝か。我を願い、我を欲したのは……?』

 

 仮面の先で闇そのものの化身が君臨している。

 体全体をすっぽりと包み込む魔法使いのようなローブと巨大な漆黒のマント。藤原は思わず七十二柱の悪魔を束ねたソロモン王をイメージしてしまった。

 けれどローブの奥から覗く顔は人間のものではなく、西洋悪魔の髑髏だけがそこにあった。

 

「お前が、僕に、俺に語りかけてきたのか?」

 

『我に問いを投げるか。それも良かろう。人間よ、我こそはダークネス。この十二次元宇宙の裏、ダークネス世界の化身にしてそのものである』

 

「ダーク、ネス」

 

 藤原は確信した。自分がこの世界を、ダークネスを欲した理由を。

 誰かに忘れられるのが恐かった。自分の存在が恐かった。死が恐ろしかった。

 ならば――――。

 誰かに忘れ去られるのが嫌ならば、自分から全てを忘れてしまえばいい。

 藤原優介はこの日、全てを捨ててダークネスと『契約』した。

 

 

 

 

 

 

 七時間目の授業が終わる。今日の特別講師はクロノス先生だった。……授業内容は昼にやったデュエル実技の応用編のようなものだったが、非常に有意義なものだった。

 特にテーマは違えど同じ機械族デッキを使う亮には掴むものがあったようで、授業中誰よりも真剣に授業を受けていた。

 丈は教科書類をしまうと振り返る。

 

「これから購買行くけど、どうする?」

 

「購買か。まぁ特に予定があるわけでもない。付き合おう」

 

 亮の方はあっさりと了承する。だが、

 

「ごめん。僕は今日は直帰するよ。具合悪いからって病欠した藤原が気になるしね」

 

「あぁ」

 

 今日の授業、いつも一緒に行動している藤原の姿はなかった。それというのも早朝、藤原が具合が悪いと申告した為に休みをとったのが理由である。

 いくら特待生寮のノルマが厳しいといっても流石に病気の人間にノルマを強要するほど非人道的ではない。病気の時は一日50デュエルのノルマも免除されるので今頃藤原は自室のベッドで休んでいるだろう。

 

「けど藤原が風邪を引くなんてね。オネストがついるし大丈夫だとは思うんだけど……」

 

「オネストはしっかりしてるし特待生寮には執事さんやメイドさんがいるけど、やっぱり心配だからね」

 

 なんだかんだで友情に熱い吹雪らしいことだ。

 

「じゃあ俺たちは購買でなんか体に良さそうなものでも買ってくか。……あ、でもそれなら特待生寮で頼めば幾らでも出て来るか」

 

「いいんじゃないか? こういうのは気持ちの問題だろう」

 

 亮が腕を組んでらしくないことを口走る。丈と吹雪が仰天すると亮は不機嫌そうに「なんだ?」と言ってきた。

 

「だってねぇ。あの亮が気持ちの問題なんて……」

 

「朴念仁の亮らしくないよね」

 

 吹雪と二人、顔を見合わせる。

 

「お前達は俺をなんだと思っているんだ? 俺だっていつもデュエルのことだけ考えているわけじゃない」

 

「!」

 

「丈、一々驚かないでくれ。少しショックだ」

 

「あはははは。じゃあ俺と亮は購買寄ってくから吹雪は藤原を頼む」

 

「任されたよ」

 

 吹雪と別れると、丈は亮と一緒にアカデミアの購買部へと向かう。

 アカデミアの購買部はデュエル専門校にある設備ということでパンや文房具、雑誌以外にもカードパックも絶版になったもの以外は完備している。

 人気商品は紙袋に包まれ、買うまで何が当たるか分からないドローパンだ。生徒の引きの強さを鍛えるためのパンであり、一日一個だけの黄金のタマゴパンを求めて日々多くのデュエリストが挑んでいる。また具なしパンを当てると、三枚珍しいレアカードが入っているのでそこも人気の秘密だ。

 ドローパンを始めここでしか手には入れない商品も多いので生徒たちの間では好評の購買だが、24時間営業ではないので中等部の田中先生は満足できないだろう。

 

「トメさん、ドローパン一つ」

 

「おや丈くん。あいよ、ドローパン」

 

 購買部を仕切っているトメさんにお金を払いドローパンを受け取る。

 紙袋から取り出してみると……残念ながら黄金のたまごパンではなく普通のカレーパンだった。

 

「まぁいいかカレーパン好きだし」

 

「……よくパンを食うなお前は」

 

 どうやらカードパックを買ったらしい亮が呆れながらパックを開封する。余り目ぼしいカードを当てられなかったらしく、亮の顔が苦いものとなった。

 

「俺はパン党なんだよ。亮はどっち? ごはん、パン? それとも、ところてん?」

 

「どっち、という程でもないな。ごはんもパンも万遍なく食べている。お前のように朝は絶対にパン、というポリシーがあるわけでもない」

 

「ふーん」

 

 カレーパンをもぐもぐと口へ運びながら、藤原へのお見舞い品を持って校舎を出る。

 七時間目終了後だからなのか周りに一般生徒の姿はない。

 

(妙だな? この時間ならまだ学校に残ってる生徒や部活中の生徒がいるはずなのに)

 

 今日は特にイベントもなく、プロデュエルで好カードが切られたという話もない。別に特に早く寮へ戻らなければならない理由はないはずだ。

 単なる偶然だろうか。チラリと亮を見るが、特に疑問に感じている様子はない。

 きっと自分の考え過ぎだろう。首を振って疑念を振り払う。気を取り直すため少し刺激の強い話題を新たに切り出す。

 

「そういえばさ。鮫島校長が会長をしてるピケクラ愛好会にあのプロデュエリスト、ドクター・コレクターも所属してるらしいよ。驚きだよな」

 

 ドクター・コレクターは終身刑を喰らい獄中にありながら、FBLに捜査協力をしており、司法取引によって囚人でありながらプロデュエリストとしての活動を許されているその筋では有名な男だ。

 デュエリストとしての実力も非常に高く、何度か全日本最強デュエリストのDDにも挑戦している。

 

「……鮫島、校長?」

 

「ん」

 

 てっきり亮はピケクラ愛好会に対して苦い顔でもするのだろうと思っていたが、どうにも反応がおかしい。まるで鮫島校長の名前を初めて聞いたようにきょとんとしている。

 

「ど、どうしたんだ? そんな鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をして……」

 

「すまない丈。少しド忘れしたのかもしれない。鮫島とは、誰だ?」

 

「おいおい笑えないぞ。幾らピケクラ愛好会が受け入れられないからって、それじゃ性質の悪い苛めっ子みたいだよ」

 

「何を言っているんだ。俺は真剣に聞いているんだ。誰なんだ、鮫島という人は? 校長……このアカデミアの校長はそんな名前の人だったのか」

 

「………はい?」

 

 一瞬、亮が頭をうっておかしくなったのかと疑った。しかし亮は至って平常な顔をしている。狂っているようにはとても見えない。

 信じられない事だが、亮は真面目に自分の師範である鮫島校長が誰なのか尋ねているのだ。

 

「整理しよう。鮫島校長はこのアカデミアの校長でサイバー流の師範で、お前の師匠だよな」

 

「――――すまない。俺にはお前が何を言っているか分からない。いや、サイバー流の師範? くっ……っ! 駄目だ、何故か分からない。サイバー流に師範がいたことは記憶として知っている。だがそれが誰だったのか、さっぱり思い出せない。まるで存在だけがすっぽり抜け落ちたかのようだ」

 

「亮!?」

 

 ここに至り確信する。何かが起きている。良くない何かが現在進行形で発生している。

 肌身離さず持ち歩いている三邪神からドクンッと心臓が脈打つのような音を聞いた。

 

「……お前は」

 

 ふと道を塞ぐように一人の男が立ち塞がっていることに気付く。

 サングラスと肩パットのついたライダースーツに身を包んだ怪しげな男性。明らかにアカデミアの人間ではない。

 

「誰だ?」

 

「真実を語る者、トゥルーマン、ミスターTと呼んでくれたまえ。宍戸丈、我がダークネスと別種であり同極にして同質のデュエリスト」

 

 ミスターTと名乗った男は不気味に笑うと、腕からデュエルディスクを出現させた。



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第98話  U.N.オーエンは魔王なのか?

「真実を語る者、トゥルーマン、ミスターTと呼んでくれたまえ。宍戸丈、我がダークネスと別種であり同極にして同質のデュエリスト」

 

 ミスターTと名乗った正体不明のデュエリストに警戒して身構える。

 このデュエリストが漂わせている雰囲気、明らかに真っ当なデュエリストのものではない。抽象的なイメージであるが、キースに憑りついていたバクラの魂と同じような臭いがする。

 

(つまり……闇の、デュエリスト!)

 

 だとすればこの男こそが丈と亮、二人の間で発生した認識の祖語の原因とみて間違いないだろう。

 

「〝トゥルーマン〟か。まさかアカデミア島はドラマのロケ地で、俺達は今24時間5000台のカメラに監視されているリアリティ番組の登場人物、そして貴方はその主人公とか? ミスター・トゥルーマン」

 

「…………何を言っている?」

 

「ふうむ。あの名作を知らないなんてね。と、それより――――お前なのか、鮫島校長を……」

 

 鮫島校長の名前を出したところで言葉に詰まる。

 亮の認識から鮫島校長を消滅させる。そんなことを一体どのように表現すればいいのか分からない。殺したというのも違うだろう、ならば。

 

「お前が〝消した〟のか?」

 

「当たらずとも遠からず。確かに鮫島という男をこの世界より消したのはこの私だよ」

 

「っ!」

 

 あっさりとした自白。隠そうという素振りすらなかった。

 真っ当な犯罪者なら自分が犯罪を犯したのを必死に隠そうとするものだ。誰だって警察に捕まりたくはないのだから当然である。だがミスターTは堂々と自分で自分の犯行を認めた。

 捕まっても言い、と思っているのも考えられる。だがこの男の尋常ではないオーラを含んで推測すれば、捕まってもいいというより、そもそもその程度のことは問題にもならないのではないだろうか。この男にとっては。

 

「話していても埒が明かないな」

 

 詰め寄るように一歩前に出た亮が鋭くミスターTを睨み声を張り上げた。

 

「お前は、誰だ?」

 

「先程も名乗ったはずだがね。真実を語る者、トゥルーマン。ミスターTとでも呼んでくれたまえ、と」

 

「お前の名前を聞いているのではない。お前の出自を聞いている。目的を答えろ!」

 

「カイザー亮。せっかちな男だ。改めて名乗ろうか。私はダークネスの尖兵、目的は…………そうだな。君達にも分かりやすくいうなら、この世界の人間を我々ダークネスの世界に誘うことと言っておこうか」

 

「ダークネス、それに誘うだと!?」

 

 ダークネスなんて単語聞いた事はない。いやデュエルモンスターズのカード名に〝ダークネス〟とつくカードはあるが、ダークネスという存在についてはさっぱりだ。

 

「そうだ。ダークネスとは世界の裏、このデュエル・アカデミアはデュエルモンスターズにおける聖地。強大なる精霊が眠る土地でもある。そこにダークネスと同種の存在が現れたことで徐々にだが次元にひずみが生じ……我々ダークネスの世界を招きよせた。

 デュエル・アカデミアは全人類をダークネスへ誘う第一歩でもある。丸藤亮、お前の師範だった鮫島や多くの生徒たちも我々の『一歩』の足跡が一つ……」

 

 ふと丈は今日の授業風景を思い出す。いつも通りの授業にいつも通りの日程。だがよくよく思い出せば、出席していた生徒の数が少なかったような気がする。しかも次の時限ごとに教室にいる生徒たちが減っていっていた。

 これが意味するのはミスターTのいうダークネスとやらは、本当に少しずつ一人ずつ確実に生徒を消していったということだ。

 

「ふざけるなっ! 貴様は……そんな訳のわからない理由で鮫島校長や生徒たちを殺したのか!?」

 

 常にクールな態度を崩さない亮が激高した。鮫島校長の存在そのものを記憶から失っていた亮に鮫島校長への感情など何処にも残っていないはずだ。

 だが城之内克也の言葉を借りれば〝見えるんだけの見えないもの〟に残っていたのだろう。見えない何かが。それが亮の感情を憤怒へと導いた。

 

「〝殺した〟とは心外だな。人を殺人犯呼ばわりとは礼儀作法のなっていない帝王だ。鮫島にしても生徒たちにしても殺してはいない。何度も言っただろう。私の目的はダークネスの世界に誘うことだと。

 丸藤亮、君もターゲットの一人だ。己が師範と同じくダークネスへ旅立つといい。そうすれば全ての苦しみから解放される」

 

「っ! 来るか!」

 

 亮がデュエルディスクを起動させる。が、

 

「おっと。やる気になっているところ悪いが、今の私のターゲットは君じゃない。宍戸丈、君の方さ」

 

「……俺?」

 

「君はダークネスと同じ裏側に属するカードの力により守られている。だからこそ君は存在をこの世から抹消されて尚も消えた人間を忘れずに覚えていることができた。

 ダークネスとはカードの裏そのもの。表を向いているカードの裏側を見ることが出来ない様に表側の人間は裏側にあるものを認識できない。認識できない以上、忘れるしかない。だが君の三邪神は現世に対する冥界。裏側に属するカード。それほどの力なら表と裏の壁を超えて、裏の存在を認識できるだろう」

 

「世界の、裏?」

 

「いや、そもそもだ。君自身もまたダークネスと同種の存在なのだよ」

 

「な、なんだって!?」

 

 ミスターTの発した言葉が理解を超えていて丈は思わず聞き返してしまう。

 ダークネスと同種、ミスターTは言うがそもそも丈にはダークネスがなんなのかということすら分かっていない。自分でも分かっていない存在に、他人に同種だと言われてもどうリアクションしていいのか分からない。

 

「宍戸丈、黒とは如何して黒いか知ってるかね? それは黒があらゆるものを受け入れ吸収するからだ。逆に白が白いのは全ての光を反射してしまうからだ。君は正にそれだよ。全てを受け入れるという君の性質はダークネスの在り方と同質のものだ。さしずめ純黒といったところかな。

 しかし純黒は決して暗黒と溶け合うことはない。君とダークネスもまた相容れない存在だ。故に……君に対しては私も殺人犯になるしかないな。ここで始末させてもらうぞ」

 

 ミスターTの腕のデュエルディスクにライフポイントの4000という数値が表示される。

 どうやらミスターTはデュエルで丈を消し去るつもりでいるようだ。

 

「丈、大丈夫か?」

 

 心配そうに亮がこちらの顔を伺ってくる。

 丈は努めて「ああ」と力強く頷くと、愛用しているブラックデュエルディスクを起動させた。まだ今起きている事件の内容を把握できたわけではない。しかしミスターTが事件の中心にいるというのは明らかな事実。

 ここでミスターTを倒すことが確実に事件解決に繋がる。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 デッキトップから五枚のカードをドローする。

 ミスターT。まるで得体の知れない男だ。どんな攻め方でくるか分かったものではない。だからこそ先手はこちらが貰う。

 

「先攻は俺だ、ドロー! おろかな埋葬を発動、暗黒界の龍神グラファをデッキより墓地へ送る」

 

「ククッ。恐いな、いきなり不死身の龍神を墓地へ送られてしまったか」

 

 デュエルモンスターズには墓地にいてこそ真価を発揮するカードがある。グラファは手札にあっても効果を発揮するカードだが、墓地にある時に発揮する力は手札にある時よりも極悪だ。

 なにせ不死身の龍神という異名の通り条件さえ揃えば墓地にある限りグラファは何度でも復活するのだから。

 

「そして俺は手札より暗黒界の尖兵ベージを攻撃表示で召喚」

 

 

【暗黒界の尖兵ベージ】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1600

守備力1300

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

 各種リクルーターモンスターを倒せる及第点の攻撃力をもつベージだが、別にこのカードをアタッカーとして運用するために召喚したのではない。

 ベージはあくまで不死身の龍神を蘇らせるための憑代だ。

 

「更に! 俺は墓地の龍神グラファのモンスター効果を発動。フィールドの龍神グラファ以外の暗黒界と名のつくモンスターを手札に戻し、このカードをフィールドに蘇生する!

 地獄より蘇れ、暗黒界の龍神グラファ! 攻撃表示で召喚!」

 

 

【暗黒界の龍神グラファ】

闇属性 ☆8 悪魔族

攻撃力2700

守備力1800

このカードは「暗黒界の龍神 グラファ」以外の

自分フィールド上に表側表示で存在する

「暗黒界」と名のついたモンスター1体を手札に戻し、

墓地から特殊召喚する事ができる。

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合

相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

相手のカードの効果によって捨てられた場合、

さらに相手の手札をランダムに1枚確認する。

確認したカードがモンスターだった場合、

そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 ベージの体が粒子となり丈の手札に戻ると、墓地より暗黒の風が吹き出しフィールドへ舞い落ちて形となった。

 隆々とした四肢。視線だけで悪魔すら殺せそうな眼光。暗黒界における龍神、グラファがフィールドに顕現した。

 

「さらに俺は暗黒界の取引を発動、互いにカードをドローしその後カードを一枚捨てる。俺は暗黒界の狩人ブラウを墓地へ捨て、ブラウの効果発動。このカードがカード効果により手札から墓地へ送られた時、カードを一枚ドローする。俺は一枚ドロー」

 

 普通に発動すれば手札を一枚消耗する暗黒界の取引もブラウと併用することで手札消費なしで運用することが出来る。暗黒界では中々の働きをするカードだ。

 

「……テラ・フォーミングを発動。デッキよりフィールド魔法、暗黒界の門を手札に加える。そして暗黒界の門をそのまま発動」

 

 

【暗黒界の門】

フィールド魔法カード

フィールド上に表側表示で存在する

悪魔族モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。

1ターンに1度、自分の墓地に存在する

悪魔族モンスター1体をゲームから除外する事で、

手札から悪魔族モンスター1体を選択して捨てる。

その後、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 フィールドに神話の一ページにでも描かれていそうな地獄の門が地面から出現した。

 グラファやブラウたちの住まう暗黒界へ繋がる門からの力の供給により悪魔族モンスターの攻撃力と守備力は300ポイントアップする。

 

「俺はカードを二枚伏せる。ターンエンドだ」

 

「いきなり長いことターンを使ったものだ。安心したまえ。私のターンは直ぐにすみそうだ。私は強欲で謙虚な壺を発動。デッキの上から三枚カードをめくり、一枚を手札に加える。

 私はカードをめくる。一枚目のカードはカードカーD、二枚目のカードは威嚇する咆哮、三枚目のカードは一時休戦。私は一時休戦を手札に加える」

 

「……………」

 

 ここまでの流れにおかしなところはない。至って平凡なプレイイングだ。

 ただ一つ。三枚めくった中に攻撃的なカードが一枚もなく、ドローソースと防御カードしかなかったのが気になるといえば気になる。

 三枚とも特に普通のデッキに入ってもおかしくない汎用性のあるカードだ。単なる偶然だろうか。

 

「ふふっ」

 

 ゾクリという悪寒が背筋に奔った。これは偶然ではない。デュエリストとしての直感がミスターTがなにか仕掛けてくるであろうことを教えてくれていた。

 

「宍戸丈、君は始めこの私がどういう風に攻めてくるかに思考をめぐらしたのではないかな?」

 

「!」

 

「その疑問に答えよう。私は〝攻撃〟などそもそもする気がない。一度の攻撃もせずに君を倒す!」

 

「なんだと!?」

 

「私は2000ライフを払い魔法カード発動、終焉のカウントダウン!」

 

 

【終焉のカウントダウン】

通常魔法カード

2000ライフポイント払う。

発動ターンより20ターン後、自分はデュエルに勝利する。

 

 

 フィールドに特別な変化は起きなかった。だが完全にミスターTがカードを発動した瞬間、空気が別物に成り変わった。

 真綿に首を絞めつけられた気持ち悪い感覚。丈は一筋の汗を流した。

 

「終焉のカウントダウン。2000ポイントのライフを代償に20ターン後に自分の確実な勝利を約束するカード」

 

 ミスターTのライフが一気に半分の2000ポイントになる。だがそんなのは気休めになりはしない。

 確かに終焉のカウントダウンでの勝利を目指すなら攻撃する必要はない。ただ相手の攻撃を防ぎきり2000ポイントのライフを守り切れればそれで勝利が決定するのだから。

 

「その通り。しかもこのカードが恐ろしいのは一度発動に成功してしまえば、もはや止めることが出来ないと言うことだ」

 

 ミスターTの言葉は正しい。終焉のカウントダウン以外にもターン数を費やすことで問答無用に勝利できる所謂特殊勝利カードはある。

 フィールドに死のメッセージを並べていき、DEATHの文字が揃った時に勝利が決定するウィジャ版などもその一つ。しかしウィジャ版などはウィジャ版本体や死のメッセージカードを途中で破壊してしまえばカウントは無効になる。

 しかし終焉のカウントダウンにはその常識は当て嵌まらない。終焉のカウントダウンはフィールドにも残らない為、発動が通れば20ターン以内に相手を倒さない限り死の運命から逃れることは出来ないのだ。

 完全に予定が狂わされた。伏せた次元幽閉が完全に腐ってしまった。もう一枚のカードは終焉のカウントダウン相手ならば使えそうだが、果たして今使っていいものだろうか悩む。

 

(……今は待つしかない。逆転のチャンスを)

 

 発動しかけた手を止める。切り札は軽々しく使うものではない。ここぞという時に叩きつけてやるものだ。

 

「では早速、魔法カード発動。一時休戦、互いにカードを一枚ドローする」

 

 

【一時休戦】

通常魔法カード

お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。

次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。

 

 

 しかも次の丈のエンドフェイズまで互いの受けるあらゆるダメージは0になる。

 ドローと防御を同時に出来る特殊勝利デッキでは必須扱いを受けるカードだ。

 

「私はこれでターンを終了だ。この瞬間、終焉のカウントダウンにカウントが刻まれる」

 

 空に一つの火の玉が浮かび上がる。あれが20揃った時に丈は負けるのだ。

 ミスターTの手札は五枚。恐らくあそこには伏せてないだけで和睦の使者を始めとした防御カードや、手札誘発の防御カードがわんさかあるだろう。

 この鉄壁の守り崩すのは難しそうだ。

 

「俺のターン……ドロー。暗黒界の門を発動。暗黒界の門は墓地の悪魔族モンスターをゲームから除外することで、手札から悪魔族モンスターを捨て一枚ドローする。墓地のブラウを除外し、カードを一枚捨て……ドロー。ターンエンドだ」

 

 一時休戦がある以上、グラファで攻撃しても無意味だ。まだなにもできない。

 

「君がエンド宣言したことでカウントは二つとなる。後18ターンだな。私のターン、ドロー。カードを一枚伏せターンエンド。エンド宣言をしたためカウントは三つとなる」

 

 三つ目の火の玉が空に灯された。デュエルフィールドの外に並ぶ火の玉は丈を囲むようになっているのだろう。

 20ターン後にはあの火の玉が一斉に丈へと襲い掛かるのだろうか。

 

「想像したくないな俺のターン、ドロー」

 

「君のスタンバイフェイズ時、トラップ発動。覇者の一括! 君のこのターンのバトルフェイズをスキップする!」

 

「カードを一枚伏せターン終了」

 

 四度目のカウントが刻まれた。死を暗示させるようで不気味ではあるが、特に終焉のカウントダウンに4ターン後で発揮する効果はない。13も同じだ。

 

「私のターン、このターン私はなにもせずターンを終了する。そしてカウントが五つ目。残り15ターンだ」

 

 伏せカードもなしモンスターもなし、相手ライフは2000でこちらには攻撃力3000となった龍神グラファ。

 いつもなら必勝を誓えるタイミングだが相手が『終焉のカウントダウンを主軸としたデッキ』で、手札が六枚ともなれば別に嬉しいことでもなんでもない。

 

「それでもやるしかないわけだが。バトルフェイズ、グラファでミスターTを攻撃」

 

「させはしない。手札より速攻のかかしを捨てる」

 

 

【速効のかかし】

地属性 ☆1 機械族

攻撃力0

守備力0

相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から捨てて発動する。

その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 

 

「速攻のかかしは直接攻撃宣言時に手札から捨てて発動できる手札誘発の一枚。その攻撃を無効にしバトルを終了させる」

 

「……カードを一枚セット、モンスターをセット。ターンエンドだ」

 

 空に六つ目の火の玉が出現する。段々と円の形に近付いてきた。

 

「私はカードを一枚伏せる。ターンエンドだ。そしてカウントダウンも七つ目。丁度ラッキーセブンだな。どうかね宍戸丈。ここらで一つ奇跡でも願ってみては?」

 

「奇跡? どうして?」

 

「おかしなことを聞く。君は自分がどういった状況に置かれているか――――」

 

「あぁ。確かにラッキーセブンかもしれないね。ミスターT、お前にとっては」

 

「……私に?」

 

「そうだよ。さっきのターン、カードを一枚伏せたお陰で首の皮一枚で繋がったんだから」

 

「面白い。口ではなんとでも言える。そこまで大きな口を叩くなら証明して貰おうか。これをどうやって逆転してみせる?」

 

 答えはしなかった。丈はこれまで意味の解らないことばかり言ってくれたお返しだと言わんばかりに、口元でニヤリとしただけで終わらせる。

 最初のターンに伏せたリバースカード。そしてこれまで伏せてきたカードたち。――――カードを温存したのは力を限界にまで溜めて、最大最悪の効果を発揮するところで爆発させるためだ。

 

「俺のターン、ドロー! セットしていたメタモルポットを反転召喚。リバース効果により互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚のカードをドローする!」

 

「メタモルポット。これが君の言う秘策かね? だったら愚かとしか言えないな。手札を全て入れ替えたところで、私のデッキにあるのはドローソースと防御カード、後は終焉のカウントダウンのみ。手札交換に意味などない」

 

「それはどうかな。俺はカード効果により墓地へ捨てた暗黒界の術師スノウの効果を発動。デッキより暗黒界と名のつくカードを手札に加える。俺が手札に加えるのは暗黒界の龍神グラファ。そして手札に捨てた尖兵ベージのモンスター効果発動。このカードをフィールド上に特殊召喚する。

 そして手札抹殺を発動。互いのプレイヤーは手札を全て捨て捨てた枚数分カードをドローする。俺が捨てたカードは五枚。よって五枚ドロー。墓地へ捨てた二体の龍神グラファのモンスター効果発動。相手フィールドのカード二枚を破壊する」

 

「まだだ。チェーンして罠発動、和睦の使者。このターン、私への戦闘ダメージを全て0にする」

 

 和睦の使者、フリーチェーンのため相手の破壊効果にチェーンして発動することで相手のカード効果を無効にすることが出来る便利なカードだ。

 だがそんなことは今の丈にとってなんの問題にもなりはしない。

 

「俺が墓地へ捨てたのはグラファだけじゃない。ベージもいた。ベージの効果によりベージを場に特殊召喚」

 

 丈のフィールドには暗黒界の龍神グラファとメタモルポット、そして二体のベージが揃った。

 これで勝利への条件は完全にコンプリートした。

 

「いくぞ。俺は二体のベージを手札に戻し墓地より二体の暗黒界の龍神グラファを特殊召喚。ミスターT、これが俺の逆転のキーカードたちだ! 三枚のリバースカード発動、闇のデッキ破壊ウイルス二枚! 魔のデッキ破壊ウイルス!!」

 

「な、なにィ! さ、三枚のウイルスカードだとォ!?」

 

 

【魔のデッキ破壊ウイルス】

通常罠カード

自分フィールド上に存在する攻撃力2000以上の

闇属性モンスター1体を生け贄にして発動する。

相手フィールド上に存在するモンスター、相手の手札、

相手のターンで数えて3ターンの間に相手がドローしたカードを全て確認し、

攻撃力1500以下のモンスターを破壊する。

 

 

【闇のデッキ破壊ウイルス】

通常罠カード

自分フィールド上に存在する攻撃力2500以上の闇属性モンスター1体を生け贄にし、

魔法カードまたは罠カードのどちらかの種類を宣言して発動する。

相手フィールド上に存在する魔法・罠カード、相手の手札、相手のターンで数えて

3ターンの間に相手がドローしたカードを全て確認し、宣言した種類のカードを破壊する。

 

 

 丈は最初に闇のデッキ破壊ウイルスを伏せていた。もし終焉のカウントダウンが発動前に使っていれば、カウントダウンの使用を防げたかもしれないが、それを読み切れなかったのは丈自身のツメが甘かったからだ。

 それはいい。しかしその後、カウントダウンが発動されてもこのカードを温存したのはこの普通のデュエルならまず出来ないようなコンボを決めるためだ。

 

「魔のデッキ破壊ウイルスは攻撃力2000以上の闇属性モンスターを生け贄にして発動。相手のフィールド・手札、相手のターンで数えて3ターンの間にドローしたカードを確認し、攻撃力1500以下のモンスターを全て破壊する。

 そして闇のデッキ破壊ウイルスは攻撃力2500以上の闇属性モンスターを生け贄にし魔法カードか罠カード、どちらかを宣言して発動。相手フィールド・手札・3ターンの間にドローするカードを確認し、宣言した種類のカードを破壊する。俺は一枚目の闇のデッキ破壊ウイルスで魔法カードを、二枚目で罠カードを選択する!」

 

「な……なんだとッ!?」

 

「ミスターT! お前はさっき自分のデッキには〝ドローソースと防御カード、終焉のカウントダウンしかない〟と自ら言った。そして! 汎用性の高いドローソース、防御カード、終焉のカウントダウンの全てがこのウイルスの影響範囲内にある!」

 

「ぐ、ぐぅぅぅぅぅうぅぅう!」

 

「つまりお前のデッキは3ターンの間、完全に死滅する!」

 

 三体の龍神グラファがウイルスのための生け贄となり、ウイルスがミスターTのフィールド・手札・デッキに侵食する。

 ミスターTの手札が全て吹き飛んだ。手札誘発もドローソースも防御カードも揃っていたがなにもかもが問答無用で破壊された。

 

「俺のターンはこれで終了。おっと終焉のカウントダウンに8つめのカウントが乗ってしまった。俺の寿命も残り僅か12ターンというわけだ。はて、どうしたものか」

 

「……わ、私のターン、ドロー!」

 

「ドローしたカードを確認させて貰う」

 

 ミスターTは悔しげにドローカードを公開する。ミスターTが引いたのは一時休戦。魔法カードなので当然破壊される。

 

「では俺のターン」

 

「ま、待て! まだ私のターンが……」

 

「な に か す る こ と で も?」

 

「………………………ターン終了だ」

 

「俺のターン、ドロー! 暗黒界の取引を発動、互いにカードをドローする。その後、手札の中から一枚選んで捨てる。俺は魔轟神クルスを捨てる。この瞬間、魔轟神クルスの効果発動」

 

 

【魔轟神クルス】

光属性 ☆2 悪魔族

攻撃力1000

守備力800

このカードが手札から墓地へ捨てられた時、自分の墓地からこのカード以外の

レベル4以下の「魔轟神」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。

 

 

 小さな羽を生やし、恥ずかしそうに顔を隠した少女が幽霊のように半透明となってフィールドに出現する。

 そして魔轟神クルスは顔を隠していた手をどけると、その小さな手で祈り始めた。

 

「クルスのモンスター効果、このカードが手札から墓地へ捨てられた時、自分の墓地からこのカード以外のレベル4以下の魔轟神と名のつくモンスターを一体選択し特殊召喚する。俺は墓地より魔轟神レイヴンを攻撃表示で特殊召喚」

 

 

【魔轟神レイヴン】

光属性 ☆2 悪魔族 チューナー

攻撃力1300

守備力1000

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。

自分の手札を任意の枚数捨て、その枚数分このカードの

レベルをエンドフェイズ時まで上げる。

このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、

この効果によって捨てた手札の枚数×400ポイントアップする。

 

 

 クルスと同じ魔轟神というカテゴリーに属するカード。

 I2カップ大会限定パックに封入されていたこのカードたちを手に入れたことで丈の暗黒界デッキは数段強化されていた。

 

「魔轟神レイヴンの効果発動。自分のメインフェイズ時、手札を任意の枚数捨て、その枚数だけこのカードのレベルをエンドフェイズ時まで上げる。更にこのカードで捨てた枚数×400、攻撃力はアップする。

 俺は三体の尖兵ベージを捨て、その効果により三体のベージを特殊召喚。三体のベージを手札に戻し、三体の暗黒界の龍神グラファを復活させる!!」

 

「三体の龍神グラファだと!?」

 

 不死身の龍神、その恐ろしさはなんといっても不死性にこそある。

 手札に暗黒界があり、龍神が墓地に眠る限り何度でも場に甦る最上級モンスター。相手からすれば悪夢以外のなにものでもないだろう。

 

Good Morning(おはよう)

 

「なにを……?」

 

「……心の底から同情するよ。ダークネスの世界とやらにはあんな名作が存在すらしてないなんて。だから容赦もしない。バトルフェイズ! 三体の暗黒界の龍神グラファでダイレクトアタック! アルティメット・ダーク・ストリームッッ!!!」

 

「うううああああああああああああああああ!!!!」

 

 グラファの総攻撃にミスターTのライフポイントが0を刻んだ。

 ミスターTの敗北により進んでいた終焉のカウントダウンも止まる。

 

And in case I don't see ya(そして会えないときのために),good afternoon,good evening,and good night(〝こんにちは〟と〝こんばんは〟も)!」

 

 デュエル終了の挨拶に馬鹿丁寧なお辞儀をする。デュエルが終わりソリッドビジョンも解除された。

 

「……私の負けだな」

 

 デュエルに負けたミスターTは――――特に悔しそうな表情もなく、さも当然のように結果を受け入れる。

 だが丈にはミスターTにまだまだ聞きたいことがあった。

 

「俺の勝ちだ。さぁ話してもらう。……ダークネスがなんなのかを、もっと具体的に」

 

「……その必要はない。君達ならばいずれ対面するだろう。ダークネスをこの世界に呼び寄せた、深い心の闇をもつデュエリストと。なにせ彼は――――いや、黙っておこう。私から教えるのも野暮だろう」

 

「っ!」

 

 ミスターTの体が無数の黒いカードとなってバラバラになっていく。さっきまでミスターTだった黒いカードはそのまま風など吹いてないのに、天高く舞い上がっていく。

 

『さらばだ。また機会があえば会おう。……その機会は君達にとって人類最後の瞬間になるかもしれないがね』

 

 らしい捨て台詞を残し、ミスターTの気配は完全に消滅した。




 余りにも強すぎるという全体未聞の理由で封印された暗黒界デッキ、おまけを除けば実に65話ぶりの登場です。そして気になる内容といえば……ご覧の通りの有様でした。暗黒界デッキには再び長い眠りに入って貰いましょう。


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第99話  黒き天帝

 ミスターTは消え去った。体が無数の黒いカードとなり消失するという形で。

 逃げ方一つとっても明らかに普通ではない。こんな些細なことまで普通ではないというのなら、現在進行形で普通ではない常軌を逸した事件が発生しているということなのだろう。

 

「…………そういえば吹雪と藤原は?」

 

 ミスターTの消失を見送った亮はポツリと呟いた。丈もハッとなって目を見開いた。

 

「ダークネスに取り込まれた人間は確か存在を失って、どういうわけか俺には効かないみたいだけど人間の記憶から忘れ去られるんだよな?」

 

「ああ、ということは逆に俺が二人を覚えているということは」

 

 吹雪と藤原はまだやられていない。ダークネスの世界に囚われていないということだ。

 皮肉なものだ。存在を消すという恐るべき罰ゲームがそのまま『生存者を確かめる』最適な方法となってしまっている。

 被害者が人間の記憶から忘れ去られてしまう以上、覚えている人間は無事な人間だという証左に他ならないのだから。

 丈は吹雪と連絡をとるためPDAで通信を送るが……繋がらない。

 

「くそっ! 駄目だ、電波がおかしくなっているのか?」

 

「急ぐぞ丈。ミスターTはデュエルで負けた相手をダークネスの世界とやらに取り込む。……あの二人ほどのデュエリストならミスターT如きにやられるとは思えないが万が一ということがある」

 

「……ああ」

 

 藤原が病欠したのがここで祟ってしまった。

 こういった事態に直面した時、最もとっていけないのが分散することだ。数を少なく分散させれば、それだけ各個撃破の危険を招く。

 奇しくも藤原が病欠し、吹雪がその見舞いのため早く下校してしまったため、丈たちは相手に各個撃破のチャンスを進呈してしまっている。

 もしも藤原が休んでなどいなければ、この場所には自分や亮だけではなく吹雪と藤原もいただろう。

 

「急ごう」

 

 だからこそ早く二人と合流しなければならない。ミスターTは手始めにデュエル・アカデミアを襲ったと言っていた。

 つまりこの異変はまだアカデミアの外では発生していない。

 しかしそれも時間の問題だ。もしも時が経てば、ミスターTたちはアカデミアの外まで出て行きかねない。そうなれば事は世界の危機にまで発展してしまうだろう。

 

「まったく。三邪神といい今回のことといい二年連続世界の危機に立ち会うなんて俺の学園生活はスリリング過ぎる」

 

 自分自身の運命を愚痴りながらアカデミア特待生寮に向かって全力疾走する。

 アカデミア特待生寮は遠い。一番待遇が悪いとされるオシリス・レッド並みに本校舎とは距離がある。

 普段は送迎の車を執事の室地さんなどが出してくれたりするので気にならないのだが、当然こんな状況でそんなものは期待できない。

 亮に尋ねたところ特待生寮に勤めていた執事やメイドなど全員を忘れていた。

 

「スリリングなら可愛気があるだろう。ここまでくると、もはやクレイジーだ」

 

「……確かに」

 

 丈の手元でいつもは眠ったまま使われずにいる三邪神たち。その三体がどうも騒がしい。三邪神もダークネスの接近を感じ取っているのだろう。

 暫く走ると特待生寮の屋根が見えてきた。それと同時に出会いたくない者が二人の前に立ち塞がった。

 

「おっと。ここから先へ通すわけにはいかないな」

 

 つい先ほど、丈が倒したミスターTがデュエルディスクを構えて立っていた。

 やはり逃げただけで消滅した訳ではなかったらしい。

 

「ミスターT、またやる気なのか?」

 

「無論そうだとも。私の任務は人間をダークネスの世界へと導くこと。宍戸丈、君はイレギュラーのためダークネスへ誘うことは出来ないが丸藤亮、君の方はそうではない。受けて貰おうデュエルを」

 

「――――丈。どうやらこいつは俺をご所望のようだ」

 

「亮?」

 

「ミスターTは俺が相手をしておく。お前は吹雪と藤原を頼む」

 

 一々ミスターT一人に二人が足止めを喰らっていては吹雪と藤原の下へ行くのが遅れる。それよりも先に丈が二人と合流した方が効率が良く安全だ。

 だがここに残る亮はそうではない。負ければ消滅という過酷な闇のゲーム、それが横行しつつある島内で一人となる危険性が分からぬ亮ではないだろう。知ってて敢えて言っているのだ。先にいけ、と。

 友人としてその「覚悟」を無駄には出来ない。

 

「分かった。武運を」

 

「ふふふふっ。熱い友情じゃあないか。感動するね。だが……その必要はないよ」

 

「な、なんだ!?」

 

 一人、二人、四人、八人、十六人。さっきまで一人だったミスターTが合わせ鏡のように無限に増殖していく。

 数えきれないほどの大量のミスターTが丈と亮、二人を取り囲んだ。

 

「ふ、増えただと!?」

 

「不味いぞ丈。このミスターTの大群、ざっと200人以上いる」

 

 100人以上の人海戦術による一斉攻撃。数という名の暴力による圧殺。実に単純なやり方だが、シンプル故に強い。

 古の戦争において最も重要視されるのは数。数が多いというのはそれだけで優位なのだ。

 

「さぁ」

 

『デュエルをしようか』

 

 200人のミスターTが一斉にデュエルディスクを起動させる。200人のデュエリストに同時に襲い掛かられるという事態。

 アカデミア入学前の丈なら或いは腰を抜かしていたかもしれない。しかしこれ以上の危機は一年前にとうに乗り越えている。億する必要など、ない。

 

「亮、どうする?」

 

「これだけの数だ。ミスターTが200人いるとして、俺とお前で一人辺り100人の計算になる。一人ずつ相手をしていたら日が暮れてしまうな。……いやもう日は暮れているから、さしずめ朝を迎えてしまうか」

 

「ならば……」

 

 丈と亮は同時に別々の勝利方法を宣言する。

 

「無限ループコンボを組んで一掃する!」

 

「100倍の火力で全員同時に葬り去る!」

 

「「デュエルだ!」」

 

 丈と亮は強い意志をもって、200人のミスターTにデュエルを仕掛けた。

 特待生寮にいるであろう吹雪と藤原もこれと同じような襲撃を受けていて、特待生寮から出られないのかもしれない。だが二人ならば例え1000人のミスターTがやってきても追い返せるはずだ。

 二人を信じるからこそ、敢えて二人のことを思考の隅へ追いやりデュエルに全神経を集中させた。

 

 

 

 吹雪が異常に気付いたのは特待生寮に戻ってきて直ぐのことだった。

 誰もいない。いつもなら常駐している執事やメイドさんが「おかえりなさいませ」の一言でもいうというのに、下校してきた吹雪を迎えたのは静かなる沈黙だけだった。

 なにより奇妙なのは執事やメイドが特待生寮に存在していることを知識として知っているというのに、それが誰だったのかまるで思い出せないということだ。

 怪しさを感じた吹雪は藤原が休んでいるであろう部屋に向かったが、そこで見たものは空っぽのベッドと血で描かれた不気味な魔法陣。

 藤原はデュエルモンスターズの精霊と心通わすことができるデュエリストの一人だが、別にオカルトが好きなわけではない。しかも床に描かれた魔法陣は血を模した絵具などではなく、本物の血液で描かれていたのだ。

 明らかに異常。普通ではない非日常の出来事が発生している。

 中学三年の頃、ネオ・グールズや三邪神、それに三千年前のミレニアムバトルの延長戦に巻き込まれた吹雪はそういった非日常の出来事にもある種の耐性があった。だから驚きはしても慌てず冷静に次の行動に移ることができた。

 吹雪が次にしたのはPDAで連絡をとること。しかしアカデミア本校舎や丈たちどころか、学園の外に通信を入れることも出来なかった。

 この時点で発生している事件の規模を感じつつも、特待生寮を隅から隅まで人がいないか探し回った。しかし結果として誰一人として見つけることが出来なかった。

 だがふと歩いていた一階の片隅で見つけてしまったのだ。執事やメイドさんなどの人間しか入れず、生徒である自分達には立ち入り禁止とされていた場所にあった地下室の入り口を。

 もしかしたら藤原たちは地下室にいるのかもしれない。そうでなくともなにか手掛かりがある可能性はある。

 吹雪は意を決して地下室の階段を下りた。そこで待っていたのは、

 

「――――――吹雪か」

 

 立っていたのは藤原らしき男だった。表現が曖昧なのは、明らかに藤原らしくなかったからだ。

 他人を威圧し萎縮させるような冷徹な声。そして着ているのはいつものアカデミアの制服ではなく、丈や亮の黒い衣装にも似た暗黒の外套。

 

「藤原、君は一体そこでなにを!」

 

 藤原の部屋にあったものと同じ、されど大きさがまるで異なる地下室全体を包み込むような魔法陣の中心に藤原優介は悠然と立っている。

 その姿はまるで地獄で死体の山の上に座る死神のようだった。吹雪はそんな藤原を見て恐ろしい推測を抱く。

 

「ま、まさかこれは君がやったのか?」

 

「これ? なんのことかな。特待生寮やアカデミアにいる人間をダークネスに誘ったことか? それとも……今君をこの手で眠らせようとしていることか」

 

 振り向いた藤原には狂的なまでに晴れ晴れしい笑みが広がっていた。最高の栄誉を授かったスポーツ選手のように笑み自体は健全なのに、何故か死刑囚が末期に浮かべる笑みのように毒々しい。

 

「見ろよ。吹雪、〝俺〟はこれ程までに手に入れたぞ。素晴らしい力を!!」

 

 一年前、バクラの精神が宿ったキースが漂わせたものに似た闇を藤原が放ち始める。

 腕に装着されたデュエルディスクもその闇が邪悪なそれへと変貌させていた。

 

「素晴らしい、力? い、一体きみは何をしたっていうんだ!?」

 

「ダークネスだ。この世界を表とするのならば、ダークネスとは裏の世界。俺は裏の世界、ダークネスの力をこの世に招き力の憑代となった。これが今の俺さ」

 

「――――っ!」

 

 非常に恐ろしいことだ。信じられないことだが、藤原は『人間』でありながら召喚された三邪神に匹敵、凌駕するほどの力を全身から発していた。

 デュエリストの闘気に無尽蔵の邪気が溶け込んだような波動に吹雪は目を背けそうになる。

 だが背けない。闇が全身にすりついてくるのを意志力でねじ伏せると真っ直ぐに藤原を見やる。

 

「どうしてだ藤原! お前は既に十分なほどに強いじゃないか! なんでダークネスの力まで欲して、強くなろうとするんだ!」

 

「――――いつも楽しそうに、ずっと先の未来に確実に待つ絶望を考えもせずに笑っているお前には永久に分からないだろう。俺の抱く意志など」

 

「未来に待つ絶望、なにを言って……いや、それよりもオネストはどうしたんだ?」

 

 いつも藤原の側についているデュエルモンスターズの精霊であるオネスト。彼の姿がない。

 

「オネスト? あぁアイツならもういない。ダークネスの力を得た俺には必要のないものだからな。どこぞに捨ててしまったよ」

 

「藤原っ! 冗談でもそんなことを――――」

 

「冗談じゃない、俺の語ることは真実だ。そして俺の行為もまた真実の履行。とはいえ吹雪、俺も友人であるお前に対しては少しだけ選別をやろう。受け取れ」

 

 藤原が投げてきたカードを掴む。そこに記されていたのはダークネスというカード名と黒い仮面の絵柄のみ。カードテキストには何も記されていない。

 しかしそこから溢れてくる邪悪なるオーラは藤原が纏っているものと同種のものだ。

 パチン、と藤原が指を鳴らすとカードから邪悪なる力が飛び出してきて吹雪の全身に流れ込んできた。

 

「ぐ、な、がぁぁぁあああああぁぁああああああああああ!!」

 

 一年前、バクラに取り込まれた時と同じだ。魂を塗りつぶし、存在そのものを消し去られる感覚。

 オベリスク・ブルーの青と白の制服が黒いものに呑まれ染まっていく。

 ダークネスが染めるのは服だけではない。吹雪の意識は一瞬、その邪悪なる意志に呑まれそうになるが、耳の奥に木霊してきた精霊である『真紅眼の黒竜』の嘶きが力をくれた。

 歯を食いしばり、自分の腕にツメを食いこませて――――どうにか寸でのところで堪える。

 

「ほう。いきなり持ち堪えたか。流石は俺と同じ精霊を使役する力をもったデュエリストだ」

 

「操ったりなんかしてはいない。僕は……僕達は精霊と心を通わすことが出来るだけだ! 藤原、僕達の誰よりも早くから精霊と心通わせていた君がどうしてそんなことを言うんだ!?」

 

「質問ばかりだな吹雪。お前もデュエリストなら口で語る前にカードで語ればいいだろう?」

 

「っ!」

 

「この素晴らしき力の試金石にしてやる。いくぞ吹雪、デュエルだ――――!」

 

「やるしか、ないのかっ」

 

 デュエルディスクがONになり、二人のデュエルディスクに己が命を現す4000の数字が表示された。

 藤原優介。実力では丈や亮と互角の腕をもち、アカデミアの一般性の間では自分も含めて『四天王』と渾名されるうちの一人。そして単純な才能に関していえば恐らく四人でも随一のデュエリスト。

 そんな相手と命をかけた闇のゲームをすることになるとは思わなかった。

 けれど負けるわけにはいかない。藤原がどうしてこんな行動に出てしまったのか事情はさっぱり分からない。どうしてここまで追い詰められる前に相談してくれなかったのだという苛立ちもある。

 それ以上に闇に囚われた友人を取り戻さなければならない。吹雪は強い覚悟をもってデッキより五枚のカードを引いた。



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第100話  無色なる世界、クリアー・ワールド

「「デュエル!」」

 

 特待生寮の秘密地下室で誰に知られることもなく、吹雪と藤原のデュエルが始まった。

 吹雪はらしくもなく追い詰められた表情で藤原優介というデュエリストに視線を送る。憮然とした藤原からはどことなく余裕のようなものが感じられた。

 デュエルディスクが示した先攻デュエリストは吹雪。

 はっきりいって有り難かった。いつもの藤原も強敵だというのに、今の藤原は底知れぬ力をもっている。先攻を譲ってしまっては何も出来ないままやられてしまう恐れすらあった。

 だがこちらが先攻なら相手にターンを譲る前に場を整えることは出来る。

 

「僕の先攻、ドロー」

 

 デッキが応えてくれたのか手札にはそれなりに良いカードが揃っている。この手札ならそう安々と負けはしないだろう。

 相手が天帝と謳われるほどに才能溢れたデュエリストでも遅れをとりはしないはずだ。

 

「手札より永続魔法発動、未来融合-フューチャーフュージョン! 融合デッキの融合モンスターを一体選択。デッキより融合素材に指定されたモンスターを墓地へ送り、2ターン後のスタンバイフェイズ時に選択したモンスターを融合召喚扱いで特殊召喚する。

 僕が融合デッキより選ぶカードはF・G・Dだ。僕はミンゲイドラゴン、真紅眼の飛竜、真紅眼の黒竜、ライトパルサー・ドラゴン、ボマー・ドラゴンを墓地へ送るよ」

 

「いきなりやってくれるじゃないか吹雪」

 

「………………」

 

 吹雪のデッキは墓地にドラゴン族がいればいるほどに力を増していくデッキだ。それ故にいきなり五体ものドラゴン族モンスターを墓地へ送ることが出来たのは大きなメリットである。

 いや吹雪のデッキからすれば最上の立ち上がりと言って良い程だ。だというのにやはり藤原の余裕は微塵も崩れる様子がない。

 

「僕はカードを一枚伏せターンエンド。そしてエンドフェイズ時、墓地の真紅眼の飛竜のモンスター効果発動。通常召喚を行っていないターンのエンドフェイズ時、このカードを除外することでレッドアイズと名のつくモンスターを墓地より復活させる!

 墓地に眠る真紅眼の黒竜を攻撃表示で特殊召喚!」

 

 

【真紅眼の黒竜】

闇属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力2000

真紅の眼を持つ黒竜。怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす。

 

 

 墓地から黒い影が飛び出して、デッキのエースカードであるレッドアイズのカードがフィールドに翼を広げて降り立った。

 真紅の眼光が藤原の体を貫く。

 

「レッドアイズのお出ましか。属性は〝闇〟だったか……? 哀れなものだな、如何にレッドアイズといえど属性なんてものがあるからこそ多くに縛られる」

 

「なに?」

 

「教えてやるよ吹雪。多くを持つというのは多くの柵を受けること。強い力とは強い制約を受けてしまうもの。レッドアイズもその運命に抗うことはできない!

 俺のターンだ、カードをドローする。……ククッ。お前にも見せてやろう。この下らない世界で『己』という存在に特定の個性という名の色を宿そうとする愚かさと空しさを」

 

 藤原が手札から一枚のカードを抜くと、それをデュエルディスクのフィールド魔法ゾーンに置いた。

 

「フィールド魔法発動、無色なる世界。クリアー・ワールド!」

 

 

【クリアー・ワールド】

フィールド魔法カード

自分フィールド上に存在するモンスターの属性によって、そのモンスターをコントロールするプレイヤーは以下の効果を得る。

●光属性:手札を公開し続けなければならない。

●闇属性:攻撃宣言を行えない。

●地属性:1ターンに1度、自分フィールド上のモンスター1体を破壊する。

●水属性:エンドフェイズに手札を1枚捨てる。

●炎属性:エンドフェイズに1000ポイントのダメージを受ける。

●風属性:魔法カードを発動できない。

 

 

 フィールド魔法が発動すると大抵は周りの風景が一変するものだ〝森〟のフィールド魔法なら辺り一面が森に、〝海〟ならば辺り一面が海になるといった具合に。だがクリアー・ワールドはそんなものとは次元が違っていた。周囲の風景がどこか現実感のない透明的な空間になるだけではなく、天上院吹雪という一人の人間を真っ黒に塗り潰そうとする嫌なプレッシャーが全身に降りかかってきた。

 

「ぐっ……! なんだそのフィールド魔法は、見た事がない」

 

「ふふふふふふふっ。それはそうさ。これがダークネスと契約した俺が手に入れた力なんだからな。まだダークネスを受け入れないお前の為に説明してやろう。

 クリアー・ワールド、このカードは自分がコントロールするモンスターの属性によってプレイヤーは其々異なるネガティブ・エフェクトを受ける」

 

「属性によって変わる効果だって!?」

 

「そうだ。自分フィールドにいるモンスターが光属性ならば手札を公開し続けなければならず、闇属性ならば攻撃宣言を封じられ、地属性であれば一ターンに一度だけ自分モンスターを破壊しなくてはならず、水属性ならエンドフェイズ時に手札を一枚捨て、炎属性ならエンドフェイズに1000ポイントのダメージ、風属性なら魔法カードを発動できない」

 

 一番軽いのは手札を公開し続けるだけで実害のない光属性のネガティブ・エフェクトだろう。だがそれにしても多くの情報アドバンテージを相手に与えることになる。

 吹雪のデッキのモンスターは殆どが光属性と闇属性のドラゴン族モンスター。特に闇属性が多いが……闇属性のネガティブ・エフェクトがこれがまた面倒だ。なにせ攻撃宣言そのものを封じられては相手を倒すことが出来ない。

 レッドアイズは闇属性モンスター。高い攻撃力もクリアー・ワールドが存在し続ける限り意味をなさないということだ。

 

「……どれも重いね、クリアー・ワールドのネガティブ・エフェクトは。そのカードがある限り多くの属性のモンスターを並べれば並べるほど不利になっていく。

 こんなんじゃ真っ当にデュエルをすることだって出来やしない。モンスターの展開という基礎に制限を設けられるわけだからね。だが藤原、それは君だって同じだ」

 

「何が言いたい?」

 

「クリアー・ワールドはフィールド魔法。よってその効果は藤原、君にも有効なんだよ。これがデュエルである以上、僕を倒す為にはモンスターを召喚しなければならない。それとも君のデッキにはモンスターカードが一枚も入ってないのかい?、

 

「ヒ……ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 吹雪ィ~! お前はそんなことを愚かにも! 愚図にも! 間抜けにも! 考えていたのかぁ~? だとしたら甘い。お前の頭はゴミ以下だ!!」

 

「な、なんだと!?」

 

「さっきから何度も言っただろう。個性を持つ事の愚かさと無意味さを。個性があるからこそ制限を強いられるというのならそんなもの僕は要らないねぇ!

 未だに個性に執着するお前に拝ませてやる。これが……個性をなくし、ダークネスを受け入れた先にある力だ! 僕はクリアー・ファントムを攻撃表示で召喚!」

 

 

【クリアー・ファントム】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1200

守備力800

このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、闇属性として扱わない。

攻撃表示のこのカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、相手モンスター1体を破壊して墓地へ送る。

その後、相手のデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。

 

 

 藤原の前に薄透明のクリスタルに全身をすっぽりと包み隠した亡霊(ファントム)が出現した。

 カードに示された属性は闇。よって藤原は『攻撃宣言ができない』というネガティブ・エフェクトを受ける事となる。

 

「ククククッ。クリアー・ファントムの攻撃力は1200。レッドアイズとの攻撃力は1200も離れている。しかしお前のレッドアイズには在って、俺のクリアー・ファントムに無いもの! それこそが勝敗を左右する。

 吹雪、貴様は真理を悟るだろう。俺は装備魔法、アトリビュート・マスタリーをクリアー・ファントムに装備!」

 

 

【アトリビュート・マスタリー】

装備魔法カード

装備時に属性を1つ指定する。

装備モンスターは指定した属性のモンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずに戦闘する相手モンスターを破壊する。

 

 

「このカードは装備時に属性を一つ指定する。そして装備モンスターが指定した属性のモンスターとバトルを行う場合、ダメージ計算を行わずに戦闘する相手モンスターを破壊する。

 俺が選択するのは真紅眼の黒竜と同じ闇属性だ。これでクリアー・ファントムは闇属性モンスターとの戦闘において無敵の強さをもった!」

 

「だ、だがクリアー・ワールドのネガティブ・エフェクトがある! 闇属性のクリアー・ファントムが君のフィールドにいる限り君は攻撃できないはずだ」

 

「それはどうかな。バトルフェイズ、クリアー・ファントム! 真紅眼の黒竜を葬り去れ! クリーン・ナイトメア!」

 

 透明なクリスタルから手を出したクリアー・ファントムが真紅眼の黒竜を不可視の波動で押し潰し破壊した。

 ダメージ計算を行わなかったため吹雪に戦闘ダメージはない。だがモンスターが破壊された苦痛がそのまま吹雪を襲った。

 

「ぐ、がっ……こ、この痛みはやはり闇のゲームっ! だがどうして攻撃できたんだ……。クリアー・ファントムは闇属性のはずなのに」

 

「まだ分からないのか? クリアー・ファントム。こいつはフィールドに存在する限り闇属性としては扱わない。つまりこいつには元から属性なんてものがないのさ。

 属性なんて……『個性』なんてないからクリアー・ワールドのネガティブ・エフェクトも受けない。お前の愚かなるモンスターたちと俺のモンスターは違うんだよ」

 

「……ッ!」

 

 確かに属性が無いならば、属性によってネガティブ・エフェクトを与えるクリアー・ワールドの効果を受けないのも道理というものだ。

 これが藤原が手にした新しいカード。無色なる力、クリアー。クリアー・ワールドのネガティブ・エフェクトで相手を苦しめ、自分は属性のないクリアー・モンスターで攻撃する。

 ロックと攻撃を両立した恐るべきデッキだ。

 

「俺はカードを一枚伏せる。俺のターンはこれで終了だ。さぁ吹雪、お前のターンだ」

 

「僕のターン……」

 

 真紅眼の黒竜は僅か1ターンで破壊されてしまった。しかし逆に考えればこれはチャンスだ。

 闇属性のレッドアイズがいなくなったお蔭で吹雪は『攻撃宣言が出来ない』というネガティブ・エフェクトから逃れる事が出来ている。

 ここは攻撃する絶好のチャンスだ。

 

「竜の霊廟を発動。デッキよりメテオ・ドラゴンを墓地へ送る。そして墓地へ送ったのがドラゴン族通常モンスターだった場合、更にもう一枚のカードを墓地へ送ることができる。僕はマテリアルドラゴンを追加で墓地へ送るよ。

 更にカードを一枚伏せ、手札のアックス・ドラゴニュートとアレキサンドライドラゴンを墓地へ送り、墓地に眠るライトパルサー・ドラゴンをその効果により特殊召喚する!」

 

 

【ライトパルサー・ドラゴン】

光属性 ☆6 ドラゴン族

攻撃力2500

守備力1500

このカードは自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを

1体ずつゲームから除外し、手札から特殊召喚できる。

また、手札の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ墓地へ送り、

このカードを自分の墓地から特殊召喚できる。

このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、

自分の墓地のドラゴン族・闇属性・レベル5以上の

モンスター1体を選択して特殊召喚できる。

 

 

 地球上のものとは思えない鱗に覆われたドラゴンが光と闇、二つの力を受けて轟臨した。

 ライトパルサー・ドラゴンの属性は光。攻撃宣言が出来ないというネガティブ・エフェクトは発動しない。

 

「クリアー・ワールドの効果だ。手札を公開して貰うぞ吹雪」

 

「……分かっているさ。ほら」

 

 手札に残った黒竜の雛のカードを公開する。情報アドバンテージにはかわりないがたった一枚のモンスターカードを晒すくらいなら大した事はない。許容範囲内のことだ。

 

「バトルだ。ライトパルサー・ドラゴンでクリアー・ファントムを攻撃、ライトニング・カオス・ストーム!」

 

 ライトパルサー・ドラゴンの吐き出したブレスがクリアー・ファントムを襲う。

 装備魔法の力で闇属性相手には無敵となったクリアー・ファントムも光属性モンスターの攻撃には無力だ。あっさりと破壊される。

 

「リバース発動、ガード・ブロック。俺の戦闘ダメージを一度だけ0にしてカードを一枚ドローする。そしてクリアー・ファントムのモンスター効果、こいつが戦闘で破壊された時、相手モンスターを一体破壊する。失せろライトパルサー・ドラゴン」

 

「ならライトパルサー・ドラゴンのモンスター効果発動! このカードが場を離れる時、墓地よりレベル5以上の闇属性ドラゴン族モンスターを復活させる。

 甦れ真紅眼の黒竜! ……そう簡単にライフを削らせてはくれないか。ターンエンド」

 

 最初のクリアー・モンスターを破壊し、レッドアイズを復活することは出来たが……油断は出来ない。

 藤原はデッキのエースとなる上級モンスターを一枚たりとも召喚してないのだ。本当の勝負は寧ろここからだろう。

 

「俺のターンだ。ドロー」

 

 藤原の場にはモンスターがいない。対してこちらのフィールドには攻撃力2400の真紅眼の黒竜が一体。

 如何に藤原といえどこれを簡単に突破することは出来ない筈だ。果たしてどうくるか。

 

「速攻魔法、サイクロンを発動。吹雪、お前がさっき伏せたリバースカードを破壊する」

 

「……ミラーフォースが」

 

 強力な攻撃誘発、場合によってはこれ一枚で形勢を引っ繰り返すほどの力をもったミラーフォースもサイクロンの標的にされては為す術もない。

 デュエルモンスターズにおける防御カードの代名詞ともいえるカードはあっさりと破壊された。

 

「ククククッ。俺はモンスターとリバースカードを其々一枚伏せる。ターンエンドだ」

 

「僕のターン、ドロー! このスタンバイフェイズ時、未来融合の効果により融合デッキよりF・G・Dが融合召喚扱いで特殊召喚される!」

 

 

【F・G・D】

闇属性 ☆12 ドラゴン族

攻撃力5000

守備力5000

ドラゴン族モンスター×5

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードは闇・地・水・炎・風属性モンスターとの戦闘では破壊されない。

 

 

 時間を超えて五体のドラゴンを融合素材にフィールドに降り立つFGD。デュエルモンスターズにおいて単純な攻撃力ならオベリスクの巨神兵などの4000を超える大型モンスターだ。

 しかし攻撃力5000のモンスターを前にしても藤原はまるで動じない。

 

「忘れていないだろうな。FGDは闇属性、よってお前は攻撃宣言を行えないネガティブ・エフェクトを受ける。ご自慢の攻撃力も攻撃できなければ形無しだな。え? 吹雪」

 

「元より真紅眼の黒竜がいる時点でそれは同じだ。僕のデッキの性質上クリアー・ワールドのネガティブ・エフェクトを逃れつつ戦うことは不可能に近い。しかし召喚する属性を統一すれば、犠牲は最小限で済む。ターンエンドだ」

 

 その時、藤原が心底見下したように嘲笑った。まるでごみ溜めにある空き缶を見下ろすかのような視線に背筋が凍りつく。

 

「クッ、アーハハハハハハハハハハハッ!! 属性を統一すれば受けるネガティブ・エフェクトも一つで済むだって? 甘いんだよ、そんなチープでノロマな考えでお前は俺の前に立ち塞がっていたのか!

 だったら改めてお前に教えてあげるよ。俺はお前のエンドフェイズ時、リバースカードを発動する。永続罠、属性変化-アトリビュート・カメレオン!」

 

 

【属性変化-アトリビュート・カメレオン】

永続罠カード

相手ターン中に1度、相手モンスター1体を選択して属性を宣言する事が出来る。

選択したモンスター1体の属性はこのターンのエンドフェイズまで宣言した属性になる。

 

 

 カード名通りカメレオンのイラストが描かれた永続罠が発動する。

 心臓が早鐘を告げた。属性変化、というカード名に記された四文字が示す効果とはつまり。

 

「アトリビュート・カメレオン。このカードは相手ターンに一度、相手モンスターの属性を俺が選ぶ属性に変更することができる永続罠カード。

 分かるか吹雪。つまり俺はお前が受けるネガティブ・エフェクトを俺の思うが儘にすることが出来るんだよ。俺はFGDを選択、その属性を闇属性から地属性に変更!」

 

「地属性……そのネガティブ・エフェクトは『自分のモンスターを一体破壊』する……」

 

「その通りだ。クリアー・ワールドのネガティブ・エフェクトによりお前はフィールドにいるFGDがレッドアイズか、どちらかを墓地へ送らなければならない!」

 

「……っ!」

 

 FGDと真紅眼の黒竜の二体を見比べる。FGDは攻撃力は5000と非常に高いが、未来融合がフィールドから消えれば道ずれに破壊されてしまう弱点がある。対して真紅眼の黒竜はそんなデメリットはない。

 FGDにある光属性以外のモンスターとのバトルで破壊されないという効果も属性がないクリアー・モンスター相手には無意味だ。

 しかしFGDは融合召喚以外で特殊召喚することのできないモンスターだ。墓地へ送ってしまえば蘇生はできない。だが真紅眼の黒竜はドラゴン族通常モンスター。蘇生手段は幾らでもある。

 

「僕は、真紅眼の黒竜を墓地へ送る」

 

「俺のターン! FGDを残した、か。だが吹雪、幾ら攻撃力が高かろうと属性なんて個性があるうちは意味なんてないんだよ! 

 手札よりクリアー・レイジ・ゴーレムを攻撃表示で召喚する」

 

 

【クリアー・レイジ・ゴーレム】

闇属性 ☆4 岩石族

攻撃力1800

守備力1600

このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、闇属性として扱わない。

このカードが直接攻撃に成功し相手にダメージを与えた時、相手の手札1枚につき300ポイントのダメージを相手に与える。

 

 

 クリアー・ファントムと同じ薄透明の結晶(クリスタル)に入ったモンスターが出現する。

 レベル4で攻撃力は1800。下級モンスターで効果もちとしてはそれなりのラインだ。当然、クリアー・モンスターで属性は無いためクリアー・ワールドのネガティブ・エフェクトも受けない。

 

「そして二枚目のアトリビュート・マスタリーを発動し、クリアー・レイジ・ゴーレムに装備。この装備魔法の効果は覚えているな。装備時、属性を一つ選択し装備モンスターが選択した属性のモンスターと戦闘する時、ダメージ計算を行わずにそのモンスターを破壊する。

 俺が選ぶのは闇属性だ。よってクリアー・レイジ・ゴーレムは闇属性モンスターとの戦闘において無敵の力を獲得した」

 

 最初にクリアー・ファントムにやられたのと同じことだが、状況は更に悪い。

 今度は最初のように闇属性以外のモンスターでクリアー・レイジ・ゴーレムを破壊しようとしても属性変化-アトリビュート・カメレオンにより属性を変更されてしまえば攻撃宣言を封じられ、最悪の場合は自滅特攻になりかねない。

 藤原を倒すのにはクリアー・ワールドか属性変化-アトリビュート・カメレオンのどちらかを消し去る必要がある。

 

「バトル。クリアー・レイジ・ゴーレムでFGDを攻撃、クリアー・ロック・パウンド!」

 

 クリアー・レイジ・ゴーレムがクリスタルからその身を出すと、FGDに痛烈な一撃を与え撃破する。やはりダメージはないが、かわりに身を切る苦痛が吹雪を襲った。

 最初といいやはり攻撃するその瞬間のみクリアー・モンスターはあの結晶から体を出すらしい。

 

「俺はターンエンドだ。お前のターンだ吹雪」

 

「僕のターン、ドロー。リバースカードを一枚伏せる。ターンエンドだ」

 

「へぇ。モンスターすら召喚せずにターンエンドとはねぇ。確かにクリアー・ワールドは場にモンスターがいなければ意味はない。モンスターを召喚しなければネガティブ・エフェクトもない。

 だけどさ。そんな消極的なターンで俺を倒そうなんて随分とロマンチストなんだねぇ吹雪! 言っておくけど俺は攻撃の手を緩めたりはしない。バトルだ! クリアー・レイジ・ゴーレム、吹雪にダイレクトアタックを仕掛けろ!」

 

 クリアー・レイジ・ゴーレムが真っ直ぐに突進してくる。

 この攻撃、受けてもライフは0になりはしないが……素直に喰らってやる義理もない。吹雪はデュエルディスクに置かれたリバースカードを開くスイッチを入れる。

 

「トラップ発動、ガード・ブロック。戦闘ダメージを一度だけ0にしてカードを一枚ドローする!」

 

 クリアー・レイジ・ゴーレムの攻撃が吹雪に命中するが、それは痛みもダメージも与えることはなかった。

 ガード・ブロックの効果で吹雪は更に一枚ドローする。

 

「凌いだか。俺はモンスターをセットする。ターン終了だ」

 

 自分の手札には今防御カードは一枚もない。次のターン、なにも退く事が出来なければ自分のもつ切り札を防御に使わざるをえなくなりどんどんと不利になっていく。

 そのうち逆転すら出来なくなってしまうだろう。つまりこのターン、なにかを引き当てなければならない。クリアー・ワールドを攻略できるカードを。

 




 藤原の使用するカードの悉くがOCG効果でもTF効果でもなくアニメ効果となっています。この世界のクリアーは不可能です。
 そして祝☆100話達成!…………100話を費やしても原作にすら到達していないこの作品って一体なんなんでしょうね。初めの予定だと中等部から高等部までさらっとキンクリするはずが、I2カップやらネオ・グールズやら三邪神やらに寄り道していって気付けばこんなことになってました。


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第101話  吹雪の闇、友情のデュエル

「僕のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードを恐る恐る確認する。すると、

 

「――――来たかっ!」

 

 ずっと待っていたカードを遂にドローすることが出来た。

 

「スタンバイフェイズ時、僕は墓地に眠るミンゲイドラゴンのモンスター効果を発動。僕の場にモンスターがいない時、このカードをフィールドに特殊召喚する。

 そして魔法カード、大嵐を発動! フィールドの魔法・罠を全て破壊する! これで藤原、お前のクリアー・ワールドも属性変化-アトリビュート・カメレオンも破壊される!」

 

「!」

 

 フィールドに突風が巻き起こり伏せられたクリアー・ワールドを始めとしたカードの悉くを粉砕していく。

 これでもうクリアー・ワールドのネガティブ・エフェクトは消失した。

 

(藤原のデッキはクリアー・ワールドの存在に大きく依存している面がある。デッキにクリアー・ワールドが一枚しかないとは考えにくい。必ず三枚のクリアー・ワールドを投入しているはず)

 

 つまりモタモタとしていたら二枚目のクリアー・ワールドを発動される危険性が大きいということだ。

 このターンで一気に巻き返すしかない。

 

「ミンゲイドラゴンはドラゴン族モンスターの生け贄にする場合、一体で二体分の生け贄とすることができる。僕はミンゲイドラゴンを生け贄に捧げる! 僕は真紅眼の黒竜を召喚!」

 

 吹雪のデッキに眠る二体目の真紅眼の黒竜が降り立った。

 

「飽きもせずまたレッドアイズか。だがその程度のカードで……」

 

「まだだ! 魔法カード、龍の鏡を発動! フィールドまたは墓地のモンスターをゲームから除外。ドラゴン族融合モンスターをフィールドに特殊召喚する!

 僕は墓地に眠る真紅眼の黒竜とメテオ・ドラゴンを墓地融合。頼む……僕に藤原を救い出すだけの力を、貸してくれ! 降臨せよ! 可能性が導きし真紅眼の最強なる姿! メテオ・ブラック・ドラゴン!!」

 

 

【メテオ・ブラック・ドラゴン】

炎属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3500

守備力2000

「真紅眼の黒竜」+「メテオ・ドラゴン」

 

 

 かつて海馬瀬人の操るブルーアイズ三体を束ねし姿をも粉砕した伝説のドラゴン、その最強形態が紅蓮の業火を纏って姿を現した。

 赤黒い熱気を発しながら、メテオ・ブラック・ドラゴンがフィールドを圧巻する。

 

「バトルだ! メテオ・ブラック・ドラゴンでクリアー・レイジ・ゴーレムを攻撃! メテオ・ダイブ!」

 

 メテオ・ブラック・ドラゴンが両手両足を胴体に引込め、隕石のように宙からクリアー・レイジ・ゴーレムに体当たりをした。

 クリアー・レイジ・ゴーレムは腕を出して抵抗したが、その圧倒的質量に為す術もなく押し潰された。

 

 藤原LP4000→2300

 

 クリアー・レイジ・ゴーレムとメテオ・ブラック・ドラゴン。その攻撃力の差の数値が藤原のライフを削り取る。

 初めて藤原が表情を屈辱に歪めた。

 

「俺の(ライフ)に瑕を、与えたっ! 吹雪ぃ!!」

 

「攻撃は終わってない! 真紅眼の黒竜でセットモンスターを攻撃、黒炎弾!」

 

「伏せていたカードはクリアー・キューブだ」

 

 

【クリアー・キューブ】

闇属性 ☆1 機械族

攻撃力0

守備力0

このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、闇属性として扱わない。

このカードがフィールド上から離れた時、デッキから「クリアー・キューブ」1体を特殊召喚する事ができる。

 

 

 文字通り小さなキューブのようなモンスターはレッドアイズの黒炎に焼き尽くされてしまう。

 守備表示だったのでダメージはない。

 

「クリアー・キューブのモンスター効果。このカードがフィールド上から離れた時、デッキからクリアー・キューブを一体特殊召喚することが出来る。

 俺はデッキよりクリアー・キューブを守備表示で特殊召喚する」

 

「流石に倒し切ることはできなかったけど、流れは取り戻した。僕はターンを終了するよ」

 

 このまま押し切ることが出来れば勝てる。吹雪がそう感じた時だった。

 藤原が鬼のように邪悪な笑みを浮かべてみせた。

 

「まさかクリアー・ワールドを破壊しつつ、いきなり最上級ドラゴンを二体並べるなんてね。吹雪、お前のことを少しだけ甘く見ていたよ」

 

「心外だね。これでも僕だって君と一緒にアカデミアの〝四天王〟に名を連ねてるんだよ。簡単にやられたら自分でプリンスを捨ててキングになった意味がない」

 

「プリンスからキング、ねぇ。ククククッ」

 

「なにが可笑しいんだい?」

 

「吹雪、お前はいつもそうやってお気楽に笑って常に幸せそうにして生きている。だが本当にそうなのかな」

 

「…………何が言いたい」

 

「人間である以上、誰しも心の闇をもっている。誰にも教えたくない、特に友人には絶対に晒したくない醜い心を。それはお前だって例外ではないのさ。その幸せそうな仮面の奥でお前はどれだけ醜い願望を抱いているんだ?」

 

 全てを見通すような藤原の眼光が吹雪を射抜いた。ダークネスの力のせいか藤原の瞳は僅かに輝いている。

 まるで自分が極小の小人となって顕微鏡に映し出されているかのような感覚がまとわりついた。

 

「醜い? ふふふふふふっ。僕はブリザード・キング、フブキングさ。アイドルはそんなこと考えないよ」

 

「それはどうかな。アイドルを自称したところでお前が『人間』であることには変わりない。そして人間なら友情や愛情以外に憎悪や嫉妬なんていう醜い心を抱いている。

 そう……人間は皆がそうなんだ。誰だって醜い心をもっているのに、世の中はその醜さを許してくれない。醜い部分を削ぎ落とし、善い部分だけを賛美しようとする。人間っていうのは綺麗なところと醜いところがあるのが自然なのに、おかしなことに人間社会は醜さの方を皮肉するんだ。

 だから俺はその醜さを肯定しよう。人間のもつ醜さも穢れも全てを受け入れよう。それこそがダークネス、真なる救済なんだよ」

 

「…………お喋りはそれまでにしておいたらどうだい。既に君のターンだ。早くしてほしいものだけどね」

 

「図星を突かれて話を終わらせようっていうことかい。いいよ、お前がそれを望むなら受け入れよう。『逃避』だってダークネスは受け入れるんだからな。

 俺のターン、ドロー。魔法カード、テラ・フォーミングを発動。デッキよりフィールド魔法カードを一枚手札に加える」

 

「くっ! ここでサーチカードを……!」

 

「俺が手札に加えるのは言うまでもなくクリアー・ワールドだ。フィールド魔法、クリアー・ワールドを発動」

 

 一度破壊したというのに、またもクリアー・ワールドが場に出現してしまう。

 吹雪の場には炎属性のメテオ・ブラック・ドラゴンと闇属性の真紅眼の黒竜。よって吹雪は攻撃もできず、エンドフェイズ時に1000ポイントのライフを失うネガティブ・エフェクトを受けることになる。

 

「そして俺は場に裏側守備表示でセットしていたモンスターを反転召喚。この瞬間、リバースしたメタモルポットの効果発動。互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚のカードをドローする」

 

「……メタモルポットは地属性だ。クリアーモンスターじゃない。お前も受ける事になる、クリアー・ワールドのネガティブ・エフェクトを!」

 

「俺がそんなミスをする訳がないだろう? 地属性モンスターのネガティブ・エフェクトはモンスターを一体破壊すること。だが俺のターンのエンドフェイズまでにメタモルポットが消えれば関係のないことだ」

 

 吹雪と藤原はメタモルポットの効果により手札を全て墓地へ送り、新たに五枚のカードを手札に加えた。

 五枚も増強した手札と藤原の発言。恐らく藤原はこのターン、モンスターを生け贄に最上級モンスターを召喚するつもりだ。

 吹雪の懸念は的中する。

 

「ククククッ。俺のクリアー・ワールドを一度とはいえ破壊し、ダメージまで与えてくれた褒美だ。お前には俺の切り札を拝ませてやる。

 冥土の土産……いいやダークネスへの土産に目に焼き付けるがいい! 場の二体のモンスターを生け贄に捧げる! ダークネスの世界により生誕せし無色なる竜よ! 未だダークネスを受け入れられぬ哀れなる者に真理を突きつけるがいい!

 ダークネスより舞い降りろ。クリアー・バイス・ドラゴン!!」

 

 

【クリアー・バイス・ドラゴン】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力0

守備力0

このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、このカードの属性は「闇」として扱わない。

このカードが相手モンスターを攻撃する場合、このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ戦闘を行う相手モンスターの攻撃力の倍になる。

このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。

このカードの戦闘ダメージ計算時、手札を1枚捨てる事でこのカードは戦闘では破壊されない。

このカードを破壊する効果を持つカードの効果を手札を1枚捨てる事で無効にする。

 

 

 これまでのクリアーモンスターと同じく全身を薄透明のクリスタルに包んだ白い龍がフィールドに現出した。

 白い……とても白い龍だった。白いというのに、清廉や清浄というイメージから正反対に位置する白。あらゆるものを白く溶かしてしまいそうなほどの狂的な白がそこにある。

 

「バトルフェイズ。クリアー・バイス・ドラゴンでメテオ・ブラック・ドラゴンを攻撃、クリーン・マリシャス・ストリーム!!」

 

「攻撃力0のモンスターでメテオ・ブラック・ドラゴンを攻撃してくるだって……?」

 

「無論クリアー・バイス・ドラゴンは単に攻撃力が0のモンスターじゃない。その真骨頂はモンスター効果にこそある。クリアー・バイス・ドラゴンのモンスター効果、このカードが戦闘を行う場合、このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ戦闘する相手モンスターの攻撃力を倍にした数値となる!」

 

「な、なに!?」

 

「メテオ・ブラック・ドラゴンの攻撃力は3500だ。よってクリアー・バイス・ドラゴンはその倍の数値、7000ポイントの攻撃力を得る!」

 

 クリアー・バイス・ドラゴンが吐き出したブレスが突進してきたメテオ・ブラック・ドラゴンを容赦なく溶かし尽くした。

 攻撃力超過分3500もの苦痛が吹雪の全身に駆け巡った。

 

「ぐっ、がぅぅうああああああああああ!!」

 

「ハハハハハハハハハハハハ! クリアー・バイス・ドラゴンの一撃は痛烈だろう? 俺はバトルフェイズを終了。

 クリアー・バイス・ドラゴンの効果発動。このカードが攻撃したバトルフェイズ終了後、このカードは守備表示に変更となる。俺はカードを一枚伏せターンエンドだ」

 

 藤原が切り札と豪語するだけあって恐るべきモンスターだ、クリアー・バイス・ドラゴン。

 ダメージ計算時のみ攻撃力が戦闘するモンスターの二倍となる効果。この効果がある限り攻撃力が高いモンスターを出せば出すほど吹雪の受けるダメージは大きいものとなる。

 弱点としては効果が使われない限りクリアー・バイス・ドラゴンは攻守が0の貧弱なモンスターだということだが、藤原がこのことを忘れているわけがない。必ずなにかあるはずだ。

 

(取り戻した流れをこうも簡単に奪い返されるとはね。ハハハハハ……笑い話にならないか。でもこういう時こそ笑わないとね)

 

 自分のターンとなったので吹雪はデッキトップからカードをドローする。

 いつもならこの手札内容ならモンスターを並べて総攻撃を仕掛けるところなのだが、クリアー・バイス・ドラゴンとクリアー・ワールドの存在がそれを許してくれない。

 場のレッドアイズは闇属性のため吹雪には攻撃宣言が出来ないというネガティブ・エフェクトが働いているのだ。

 

「僕は強欲な壺を発動。デッキから二枚のカードをドローする。そして速攻魔法サイクロン! クリアー・ワールドを破壊するよ!」

 

「俺がそんな程度のカードを読んでいないとでも? カウンター罠、封魔の呪印!」

 

 

【封魔の呪印】

カウンター罠カード

手札から魔法カードを1枚捨てる。

魔法カードの発動と効果を無効にし、それを破壊する。

相手はこのデュエル中、この効果で破壊された魔法カード及び

同名カードを発動する事ができない。

 

 

「手札より魔法カードを一枚捨てて発動。魔法カードの発動と効果を無効にして破壊する。そして相手はこのデュエル中、この効果で破壊された同名カードの使用を封じられる。

 これでお前のデッキにある〝サイクロン〟は全て役立たずだ」

 

 汎用性の高い魔法・罠除去カードであるサイクロンが使えなくなってしまった。

 吹雪のデッキにはあと二枚サイクロンがあるが、それを引き当てるのを待つという選択肢もこの瞬間泡と消えた。

 

「僕は真紅眼の黒竜を守備表示に変更。モンスターをセット、カードをセット。ターンエンドだ……」

 

「遂に追い詰められたな。最後だ……お前の抱く心の闇を俺に見せてみろ」

 

 藤原の二つの瞳が見開かれると、そこから真紅の眩い光が発せられた。

 

「……っ! 人の心を覗くのは感心しないね」

 

「―――――脅えることはないさ。俺にはもう見えている。お前の心の闇が。吹雪……お前はこれまで中等部でも亮や丈と同じ特待生の……天才デュエリストとして並び称されてきた。

 だが本当はそうじゃないんだろう? お前は自分を〝アイドル〟だなんて自称してニコニコと誤魔化しているようだが、お前の心の奥底には本心が眠っている」

 

「僕の、本心だって?」

 

「そうさ。アカデミアの三天才。同等の実力と同等の才能を有していながらお前は常に丈や亮の後塵を拝しているように周囲から思われていた。

 決定的だったのはI2カップかな。丈や亮が戦った決勝戦、お前は何処にいた? お前は二人のデュエルを観客席から指をくわえて見ていて思ったはずだ。自分こそがあの場所に立ちたかった、と。例え他の誰かを犠牲にしてでも……」

 

 否定することは出来なかった。藤原の言葉は全て吹雪の心に眠る本心。本心を拒絶することはできない。

 

「そしてI2カップがお前達に順列をつけた。丈が一位、亮が二位、そしてお前は三位だ。どれだけアイドルを気取ってキングを名乗ろうと、魔王や帝王には勝てず主役になりきれない三番目の役者。永遠の三番手。それがお前だよ、吹雪」

 

「僕が、二人に勝てないだって……?」

 

「その通り。だからお前は二人と共に笑う影でずっと思ってきたはずだ。二人が妬ましい、二人に勝ちたい、二人を倒して自分こそが第一位になりたいっていう暗い嫉妬心を。ずっと秘め続けてきた。

 俺はお前のその感情を否定しない。寧ろ肯定しようじゃないか。俺はチャンスをあげよう。俺と同じようにお前もダークネスの力を受け入れるんだ。そしてその力で宍戸丈と丸藤亮を倒せ。それが――――――」

 

「ふふふふっ」

 

「ん?」

 

「ふっ、あーはははははははははははははははははははははははははっ!!」

 

「な、何故そこで笑う!?」

 

「いや、だって、ねぇ。君があまりにも可笑しいことを言うからつい」

 

 確かに藤原の言っている言葉は真実だった。ダークネスの力で天上院吹雪という人間の内側を見通したというならそれが嘘であるはずがない。

 そんなことはこの世界の誰よりも吹雪が分かっている。

 

「ああそうさ。藤原、君の言う事は全て正しい。僕はあの二人の横で笑いながら、常にあの二人を倒したいと思ってきた。だけどそれのなにがいけないんだ?」

 

「な、なにがいけないかだと!?」

 

「デュエリストなら自分より強い相手を倒したいって思うのは当然のことだ! 決勝戦の舞台に立てなくて悔しがるのは当たり前のことだ! それが例え友人であっても、友人だからこそ余計に悔しいんじゃないか!

 それは決してデュエリストとして恥ずべきものじゃない! それを心の闇と断じるのなら、藤原それはその心が醜いからじゃない。誰よりもお前がその誰かに勝ちたい、一番になりたいっていう思いから逃げ出したがっているだけだ!!」

 

「ぐっ、お、俺が逃げただと……ッ! ふ、ふざけるなァ!!」

 

「この際だから君には教えてあげるよ。君はどうも僕のことを天才だと思っているようだし、皆もそうだと思ってるけど……それは誤りさ。僕は天才なんかじゃない。僕の才能は……特待生じゃ誰よりも下だ。君は勿論、丈や亮にも劣る。妹の明日香にだって才能だけなら勝てないよ。

 悪く言ってしまえば僕は凡人だ。よくて秀才止まりかな」

 

「よ、世迷言を言うな!」

 

「事実だ! 信じられなければ僕の心でも脳味噌でも見ればいい!」

 

 そもそもそうなのだ。天上院吹雪は決して天才ではない。特待生で誰よりも輝かしい才能の煌めきをもっている藤原と比べれば、自分など単なる土くれがいいところだ。

 だが土くれにも土くれなりの意地がある。才能なんてなくても、天才たちと並ぶことができるはずだ。この同じ地球という大地に立っているなら、同じ頂きに立つこともできるはずだ。

 故にだからこそ天上院吹雪は『伝説の三人』の中で城之内克也に最も憧れたのだ。才能なんてなくても、諦めない心で遂に伝説という頂上に上り詰めた男の背中に憧憬の念を抱いた。

 

「ふ、吹雪は嘘を言ってない……だ、だがこれまで一度もそんな素振りは!」

 

「僕ってさ。努力自慢とか不幸自慢って好きじゃないんだよね。だってあれさ、結局のところ他人に『これだけ努力したんだから』『これだけ不幸になったんだから』って女々しく物乞いするみたいじゃないか。

 常に格好よく女の子たちの理想を演出して、努力なんて泥臭さはみせずに常に優雅であり続ける。それが偶像(アイドル)ってものだろう? ま、丈と亮は長い付き合いだし薄々感づかれちゃってるかもしれないんだけどね」

 

 天上院吹雪という人間を例えるなら白鳥だ。周りからは優雅に水を滑るように見えて、水面下ではじたばたと必死にもがいている。自分を〝天才〟のように見せるために。

 

「ま、そんなわけで僕にも人に晒したくない秘密や心の闇なんていうのは幾らでもある。だけど誰かに全てを話して受け入れて貰おうなんて思わない。そんなのは僕の趣味じゃないしね。

 藤原、才能のない僕に誰よりも才能に溢れた君の苦悩は分からないかもしれない。君がこんなことをした理由は君自身の才能が齎した悲劇だったのかもしれない。

 だが……僕に例え才能がなくとも、君や丈と亮の親友で、ライバルという事実に変わりはない! お前が暗い闇の底にいるというのなら僕も行こう。そして君を闇から連れ戻す!」

 

 吹雪の全身に纏わりついたダークネスの力。吹雪はその恐るべき力を精神力でねじ伏せ制御した。

 暗い闇にいる人間を光へと連れ戻すには手を伸ばす必要がある。手を伸ばすということは自分もまた闇に行かねばならないということ。

 ダークネスが吹雪の中からその精神を操ろうとするが、既に闇を受け入れる覚悟はしている。

 

「ご、ゴミがァ!! 幾ら口先で友情って綺麗事を叫ぼうと……人間なんてどうせいつかは死ぬんだよ! 人間だけじゃない! この国も! 地球も! 宇宙も! どうせ最後は消えてなくなる! 誰からも忘れられて虚無(ゼロ)になる!

 どうせ最終的になにもかも無くなって虚無(ゼロ)になる……どうせ最期に死ぬなら、生まれてこなければいいじゃないか!! そうすれば生きる苦しみも味わわずに済む! 生まれることなんて無価値でしかない」

 

「藤原、僕は偉そうなことは言えない。だけど例え死んで消えたとしても、生きてから死ぬまでの間には必ず意味がある。無価値でも無意味でもない! そして言おう。僕の命がある限り決してお前のことを忘れたりはしない、と」

 

「黙れぇぇえええええ!! クリアー・バイス・ドラゴン、奴の口を塞げぇ!!」

 

 クリアー・バイス・ドラゴンの口から発せられた破壊の極光に真紅眼の黒竜が消し炭にされる。

 だがレッドアイズは守備表示だったためダメージはない。

 

「この程度かい?」

 

「ふ……ぶきぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい!! ぬぅ……俺は……カードを一枚伏せる。……っ! ターン終了」

 

「藤原。お前も心のどこかで気づいてるんだろう。誰かに忘れられたくない。死にたくないっていう願いは今を楽しく生きている人間しか抱かない悩みだ」

 

「黙れぇ!! お前が俺の何を知る!」

 

「何も知らないさ! だが何も知らないからこそ、誰かに歩み寄ることが出来る! 僕のターン! ダークネス、お前が僕を支配しようというのならお生憎様だ。天上院吹雪は貴様等にくれてやるほど安い存在じゃない」

 

 一枚のカードに封印されていたダークネスの力。それが闇の渦となって吹雪のデッキに吸い込まれていく。

 闇の力はやがてデッキトップにダークネスの力を宿した新たなるカードを創造した。

 

「馬鹿、な……。何が起こっている、ダークネスの力がドローカードを創造している……だと? こんな無茶苦茶が、あって……」

 

「僕のターン!」

 

「させるかっ! そのカードを手札に加えさせはしない!」

 

「ドロォーーーーッ!」

 

「カウンター罠、強烈なはたき落とし! 相手がデッキからカードを手札に加えた瞬間、相手は手札に加えたそのカードを墓地へ送る!」

 

 

【強烈なはたき落とし】

カウンター罠カード

相手がデッキからカードを手札に加えた時に発動できる。

相手は手札に加えたそのカード1枚を墓地へ捨てる。

 

 

 例えドローカードを創造されたとしても、そのカードをドローさせなければ意味はない。

 藤原の戦術はなにも間違ってはいなかった。だが藤原は思い出すべきだった。デュエルモンスターズにとって墓地にカードを送ることはデメリットだけではないということを。

 ドローカードを墓地へ置いた吹雪は口元を釣り上げてみせた。

 

「何を……笑っている?」

 

「感謝するよ。君がドローしたカードを墓地へ送ってこれたお蔭で僕のとっておきの魔法カードを使うことが出来る」

 

「とっておきだと?」

 

「ふふふっ。魔法カード発動、思い出のブランコ」

 

 

【思い出のブランコ】

通常魔法カード

自分の墓地の通常モンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊される。

 

 

 このカードとの思い出、それはずっと昔のアカデミアに入学して丈たちと知り合う前の頃。吹雪はよく妹の明日香と大きな木の下でデュエルをしていた。

 そして明日香が一番好きだったのがこの魔法カード、思い出のブランコ。

 

「思い出なんて忘れてしまえばいいと君は言った。いずれ忘れるなら思い出なんてない方がいいと。だけど少なくとも僕は例え最期に死ぬとしてもこの思い出があって良かったと思う。

 思い出は形じゃない。見えるんだけど見えないもの……城之内さんの問いかけに僕は絆だと答えた。だが思い出だって見えるんだけど見えないもの。見えないけど確かに存在する力だ。だって思い出はこんなにも僕に幸福と力を呼んでくれるのだから! 思いでのブランコ、このカード効果により僕は墓地の通常モンスターをフィールドに特殊召喚する!」

 

「通常モンスター……レッドアイズか!?」

 

「違うよ。これは君がついさっき手札から墓地へ送ったカード。暗黒の世界の暴風よ、現世に顕現し世界を消し払え! 降臨せよ、ダークストーム・ドラゴンッ!!」

 

 

【ダークストーム・ドラゴン】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2700

守備力2500

このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、

通常モンスターとして扱う。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、

このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。

●1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する

魔法・罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。

フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

 

 

 黒い暴風がフィールドに吹き荒れる。荒々しい風がクリアー・ワールドの存在を否定する力をも跳ね返していく。

 レッドアイズとは異なる暗黒の風を纏いし黒竜が個を否定するダークネスに逆らうように天に咆哮し自らの存在を強調した。

 

「ダークストーム・ドラゴンはデュアルモンスター。フィールドと墓地にある限り通常モンスターとして扱われるけど、再度召喚することによって強力な力を得る。

 更に僕は龍の鏡を発動、墓地のドラゴン族モンスター五体をゲームより除外。FGDを特殊召喚する!」

 

 

【F・G・D】

闇属性 ☆12 ドラゴン族

攻撃力5000

守備力5000

ドラゴン族モンスター×5

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードは闇・地・水・炎・風属性モンスターとの戦闘では破壊されない。

 

 

 五体のドラゴン族モンスターを除外することにより、二体目のFGDが場に降臨した。しかしこれだけで終わりはしない。

 

「そして僕はこのターン、通常召喚を行っていない。ダークストーム・ドラゴンを再度召喚し永続魔法、一族の結束を発動」

 

 一族の結束の効果でダークストーム・ドラゴンの攻撃力が800ポイント上昇するが、今回は攻撃力を上げるためにこのカードを発動したわけではない。

 ダークストーム・ドラゴンの力を発揮するには場で表側表示となっている魔法・罠カードが必要なのだ。

 

「ダークストーム・ドラゴンのモンスター効果発動。僕の場の魔法・罠カード一枚を墓地へ送り、フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する! 消え去れ、ダーク・スーパー・セル!」

 

「クリアー・ワールドが、俺の、世界が……っ」

 

「こんなものに頼るのはもう止めるんだ。ダークストーム・ドラゴンの効果にチェーンして竜魂の城を発動」

 

 黒い風がクリアー・ワールドの無色なる世界を打ち払っていく。

 嵐が晴れた時、そこにあったのは呆然とする藤原とクリアー・バイス・ドラゴンだけ。

 

「竜魂の城の効果。このカードが破壊された時、ゲームから除外されているドラゴン族モンスターを特殊召喚することができる。除外されたメテオ・ブラック・ドラゴンをフィールドに帰還!

 そして場にセットしたドラゴン族モンスター、ドル・ドラを除外。レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを特殊召喚。レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンのモンスター効果、墓地の真紅眼の黒竜をフィールドに復活!」

 

 

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】

闇属性 ☆10 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力2400

このカードは自分フィールド上に表側表示で存在するドラゴン族モンスター1体を

ゲームから除外し、手札から特殊召喚できる。

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に手札または自分の墓地から

「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」以外の

ドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる。

 

 

【真紅眼の黒竜】

闇属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力2000

真紅の眼を持つ黒竜。怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす。

 

【メテオ・ブラック・ドラゴン】

炎属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3500

守備力2000

「真紅眼の黒竜」+「メテオ・ドラゴン」

 

 

 遂に吹雪のフィールドが強力な五体のドラゴン族最上級モンスターで埋め尽くされた。

 たった1ターンで下級ドラゴン族モンスターが一体だけだった吹雪のフィールドが五体ものドラゴンの巣窟となったのだ。

 余りの出来事に藤原は呆然とドラゴンたちを見上げる。

 

「これが友との思い出がくれた僕の力だ。バトル! モンスターたちよ、藤原の心に憑りつく邪悪なる意志を焼き払え! 真紅眼の黒竜の攻撃、黒炎弾!」

 

「く……クリアー・バイス・ドラゴンの効果。ダメージ計算時に手札を一枚捨てることでバトルで破壊されるのを防ぐ」

 

「まだ最初を防いだだけだよ。FGDの攻撃、邪滅のゴッド・ファイブ・ストリームッ!」

 

「クリアー・バイス・ドラゴンの効果、手札を一枚捨てバトルでの破壊を防ぐ……」

 

「三度目の正直だ! やれ、メテオ・ブラック・ドラゴン! メテオ・ダイブ!」

 

「て、手札を捨てて……戦闘での破壊を……あ」

 

 三枚目の手札コスト。つまり最後の手札を藤原は捨ててしまった。

 これでもうクリアー・バイス・ドラゴンの戦闘耐性は消滅した。

 

「藤原、これが僕のラストアタック。真紅眼の黒竜とダークストーム・ドラゴンの攻撃。ダブル・ダーク・ストーム・フレアッ!」

 

「――――――――――」

 

 二体のモンスターの攻撃によりクリアー・バイス・ドラゴンが撃破され、そして藤原のライフも0となる。体から邪悪なる意志が抜け落ちた藤原は糸の切れた人形のようにその場で倒れた。

 だが切れたのは藤原を操っていた糸だけではなかったのか。天井から大きな瓦礫が藤原のもとに落下した。

  

「危ない、藤原!」

 

 慌てて藤原に駆け寄ろうとするが間に合わない。これから起きるであろう惨劇に思わず目をつぶった時。

 

『――――――良かった。間に合いましたね、マスター』

 

 ずっと藤原と共にいたデュエルモンスターズの精霊であるオネストが実体化して、その黄金の翼で藤原を守っていた。

 

「吹雪、大丈夫か!」

 

 オネストに僅かに遅れる形で亮と丈の二人が地下室に走り込んでくる。二人ともかなり急いでたようで肩で息をしていた。

 

「すまんな。ワンターン100キルをしていて少しばかり遅れた。大体の事情はオネストから聞いている」

 

 駆け寄ってきた亮が倒れていた藤原をオネストから任されると肩を貸す。

 するとオネストは再び半透明となった。デュエルモンスターズの精霊であるオネストがこの世界で実体化するのはかなりの力が要ることなのだ。

 

「オネストは、どうして? 藤原は捨てたって言ってたけど」

 

「あいつの部屋に封印、いやダークネスの影響を受けないよう大切に保管されていたよ。寮に入った時に偶然オネストの呼びかけを聞いてな」

 

「そっか。ありがとうね亮、それに丈も」

 

「……あぁ、けどどうやらこれで円満解決とはいかないみたいだ」

 

 丈が藤原や吹雪を守る様な位置に立ちながら、なにもない虚空を睨む。

 常人ならどうして何もない場所を睨むのだろうと疑問を覚えただろう。しかし数多くの闇のゲームを経験してきた吹雪にはそこにある〝なにか〟を感じることが出来た。

 恐らくはアレこそが藤原に憑りついていたこの事件の真の黒幕。

 

「亮、吹雪と藤原を連れて外へ逃げてくれ。俺は……こいつの相手をする」

 

「無茶だ! 君が戦うなら僕も……」

 

「藤原とのデュエルで消耗しているだろう。俺はここにくるまで単に変なサングラスのおっさん100人と遊んできただけで特に疲れはない。それにここはどうも危ないかもしれない。一緒にいると危険だ」

 

「けど……」

 

「亮、それにオネスト。二人のことを頼んだ」

 

「……分かった、くれぐれも勝てよ。行くぞ吹雪」

 

 正直言いたい事は山のようにあった。しかし確かに吹雪自身、藤原とのデュエルでかなりの力を消耗してしまっている。

 この上、藤原に憑りついていた真の黒幕を相手するのは体力的に無理だ。

 

「ごめん。迷惑をかけるね、僕が不甲斐ないばっかりに亮まで」

 

「気にするな。気にするなら何時か俺がへばった時にでも助けてくれ。それでチャラだ」

 

「ああ」

 

 吹雪は友に任せる覚悟を決め、亮と一緒にその場から逃げる。

 黒く蠢く闇と真っ向から相対する友人の背中が『任せろ』と告げていた。  




 吹雪さんの吹雪さんによる吹雪さんのための話でした。いつも自重しない吹雪さんが自重し過ぎた挙句に自重を限界突破クリアマインドして……まるで意味が分かりませんね。タイトル通り今回は毎度自重せずお調子者で格好良い吹雪さんの普段は絶対に見せないところをクローズアップしました。原作と違いバイツァ・ダストは発動しません。あと取り敢えず原作の戦績0勝4敗という汚名は返上しました。
 そして次回は……原作第四期のラスボスが超フライングで登場します。


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第102話  ダークネス

 丈はゆっくりと何もない場所を見上げる。確かに傍目からすれば何もない様に見える場所だが、丈には分かった。

 そこにこの事件の本当の黒幕が潜んでいる。黒幕は藤原に憑りついて、その精神を操っていた。恐らく藤原を凶行に奔らせたのも、この黒幕が背中を押したからだ。

 幾ら藤原が思いつめていたとしても普通ならここまでの暴走は仕出かさない。

 

「そこに、いるんだろう。出てこい」

 

『我の存在に気付くか。さすがは冥界の大邪神を束ねし男よ』

 

 邪悪でありながら、どこか神の如き威厳を感じさせる低い声が響く。

 つい先ほどまで何もなかった場所に黒い陽炎のように一体の魔が現出していく。最初は透明で存在もあやふやだった魔は徐々にその存在を確固たるものにしていった。

 そして魔が完全に世に現出した時、丈はそれかれ発せられる膨大な力の波動に僅かに怯みそうになった。

 

「お前が、藤原を操ってミスターTを従えていた親玉か?」

 

『従えていた、というのは誤りだ。真実を語る者と名乗り、我が世界の尖兵となりし者は我の配下に非ず。そも元よりダークネスに個体というものなど存在せず。ダークネスという世界そのものが我であり、真実を語る者は我の一部に過ぎん』

 

「ミスターTが、お前の一部……?」

 

 つまりミスターTはダークネスという塊から分離したもので、大本がこのダークネスということなのだろう。

 しかも聞き捨てならないことにダークネスという世界が我、とコレは言った。ということは、

 

『察しが良いな宍戸丈。汝の推察は正に的中している。あらゆる個が溢れ十二次元宇宙の枠組みがあるこの世界とダークネスの世界は異なる。ダークネスの世界には個人も時間も複数の次元もない。全てが一つダークネスというものであり、それ以外のものは何一つとしてない』

 

「じゃあミスターTがダークネスの世界に送った人達は全員お前がっ!」

 

『然り。我の一部となった。ダークネスに誘われた者達はダークネスと一つとなり永遠なる安寧に身を委ねている。もはや彼等が再び現世に戻ることはない』

 

 ダークネスの口振りからすると、やはりミスターTの言った通り消えた人達はまだ死んでいない。ダークネスに囚われてしまっただけだ。

 ならばここでダークネスを倒せば、消えた人達を助けることが出来る。

 丈はデュエルディスクにデッキをセットした。

 

『ほう。我にデュエルを挑むか? それも道理であろう。……そも宇宙とは一枚のカードから生まれた。あらゆるものの源流であるデュエルはやがて多くの国、多くの地方に異なる形で散らばった。

 ペガサス・J・クロフォードがその一つの形である古代エジプトにおける闇のゲームを発見し、この時代においてデュエルモンスターズという一つの形に統一したのも歴史の必然。ならば世界を終焉に導く大儀礼もまたデュエルで決めるのが自然というもの』

 

「一枚のカードによって……?」

 

『然り。貴様等の世界をカードの表側とするのならばダークネスとはカードの裏。藤原優介という個体が何故クリアー・モンスターという属性なきモンスターを使役したか。それは宍戸丈、お前ならば分かるのではないか?』

 

「属性が、ないか。一見すると異常に思える。でもこの現象はどんなモンスターでも起こり得ることだ」

 

 少し考えれば分かることだ。モンスターの属性を無くすという有り得ないようなことは、デュエリストなら誰もが行うことで簡単に実現させることが出来る。そう裏側守備表示でモンスターをセットすることによって。

 クリアー・モンスター、属性のないモンスター群はカードの裏側を暗示させるモンスターだったということだ。

 

『左様。カードの裏側には表側にあるものが何もない。デュエルモンスターズでいう攻撃力・守備力・種族・属性・モンスター効果、あらゆるものが無いのだ。

 我の目的とは即ちそれ。表側に存在するあらゆる命を裏側へと導き、あらゆるものを無くすこと』

 

「……何で、そんなことをするんだ? 別に俺達はダークネスなんて望んでない。カードの裏側は裏側のまま、表に出てくる必要なんてないだろう」

 

『宍戸丈、貴様は風に対してどうして風を吹くのだと文句を言うのか? 我はダークネスという世界そのもの。貴様等の十二次元宇宙の裏側、ただ一色の十二次元宇宙の神たるもの。

 我が行動を開始したのは単に自然の流れにそったまでのこと。お前は大自然に逆らおうとしているだけの、愚かな小人に過ぎぬ』

 

「小人、ね。小人でもなんでもいいさ。それに昔から自然現象に逆らおうとしてきたのが人間だ。今回も逆らうだけだ」

 

 確かに自然現象というのは人間にとって絶対的なものだった。自然が少し顔色を変えるだけで、100万という人間の命が失われたことだってある。

 だがそのたびに人間は自然現象による犠牲を最小限のものにしようと試行錯誤を繰り返してきた。どれだけ自然というものが圧倒的でも、人間は立ち向かうことを止めなかったのだ。

 だったらこの世界にいる一人の人間として、諦めるわけにはいかない。

 

『良かろう。冥界の神を束ねし者よ。貴様もまたダークネスと同じく全てを受け入れる者。だが貴様は溶かすのではなく吸い込む我と対極たる在り方の体現者よ。

 貴様を倒し、我はこの世界をダークネスに堕とす。神のデュエルを、貴様に見せてやろう』

 

「……悪いが〝神〟のデュエルを見るのは、どっちかな」

 

 三枚のカードが封印されていた特別性のカードケースのロックを解除する。

 カードケースから漸く訪れた戦いの刻に歓喜するかの如く膨大なエネルギーが立ち上がった。黒いエネルギーの波動はやがて三枚のカードにその力を集約し始めていく。

 余りにも強過ぎ、高い危険性から普段のデュエルでは封じてきた三邪神。だがこのデュエルにおいて三邪神を出し惜しむ理由は、ない。

 

「さぁ目覚めろ三邪神! お前達に相応しい舞台が整った!」

 

『――――面白い。ダークネスと冥界、どちらの裏が勝つか。勝負といこう』

 

 丈はブラックデュエルディスクを、ダークネスは黒いマントを広げ互いの武器を構えた。

 変化はそれだけに留まらない。フィールド魔法が発動しているわけでもないというのに世界がみるみると異なる世界に侵食されていった。

 

「これは……?」

 

 気付けば丈は先程までいたアカデミア特待生寮の地下室ではなく、果てのない漆黒の海の中にいた。暗黒の海に微かな光を灯す星々が確認できる。

 ここがどこなのか丈には直ぐに分かった。なにせ毎日夜空を見上げればそこに広がっている。ただし見上げたことは何度もあったが、そこに上がったことは一度としてなかった。

 

「宇宙、空間だって。だけど呼吸もできる。これは一体……?」

 

『フフフフッ。我のデュエルに貴様等の星は狭すぎる。相応しき舞台を用意させてもらったぞ』

 

「……まぁいいさ。どこだって、デュエルが出来るんなら」

 

 人類が滅ぶか生きるかの瀬戸際。人類の命運をかけたデュエルが始まった。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 先攻はダークネスからだ。自らを十二次元宇宙の神と豪語するほどの存在。どのようなデュエルをしてくるか予想ができない。

 

『我のターン、ドロー』

 

 ダークネスの髑髏のような白い指から黒いカードが出現する。

 あれがダークネスにとってのドローであり周囲に浮かぶのがダークネスの手札なのだろう。

 

『我はリバースカードを二枚セットする。ターンエンドだ』

 

 ダークネスはモンスターを一体も召喚しないまま自分のターンを終わらせた。

 だがこれを拍子抜けと思えるほど丈はお気楽ではない。相手はダークネスという世界そのものという出鱈目な存在。とんでもないことを仕出かしてくるはずだ。

 

「俺のターン、ドロー! トレード・インを発動、手札の堕天使アスモディウスを捨てて二枚ドロー! ……モンスターを召喚してないところ悪いが、一気に行かせて貰う。俺は手札より神獣王バルバロスを攻撃表示で召喚!」

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 

 三邪神に従う神、従属神に名を連ねる神獣の王バルバロスが神槍を持って大地に駆け降りた。

 バルバロスは神槍を系譜の異なる神であるダークネスへ向ける。神に弓引くならぬ神に槍引くとでもいうべきか。

 

「バトル! バルバロスで相手プレイヤーを直接攻撃。トルネード・シェイパー!」

 

 神の槍がドリルのように高速回転しながらダークネスに突き刺される。 

 だがその寸前ダークネスがリバースカードを発動した。

 

『我はトラップを使用、ガード・ブロック。戦闘ダメージを一度だけ0にしカードを一枚ドローする』

 

「さすがに簡単にダメージを受けるわけもないか。俺はバトルフェイズを終了。カードを二枚セット、ターンエンドだ」

 

『貴様のエンドフェイズ時、速攻魔法発動。終焉の焔。二体の黒焔トークンを我の場に出現させる』

 

 

【終焉の焔】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」

(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。

 

 

 相手のエンドフェイズ時で終焉の焔を発動する。丈もよくやる戦術だ。

 これにより相手モンスターとのバトルで破壊されることなく、発動ターンに召喚・反転召喚・特殊召喚できないというデメリットを無視することができる。

 終焉の焔をこのタイミングで使ったということはダークネスは次のターンで生け贄召喚をする気だ。

 

『我のターン、ドロー。強欲な壺を発動、デッキよりカードを二枚ドローする。そして二体の黒焔トークンを生け贄とし、手札より混沌の黒魔術師を召喚する』

 

「混沌の……黒魔術師だって!?」

 

 

【混沌の黒魔術師】

闇属性 ☆8 魔法使い族

攻撃力2800

守備力2600

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

自分の墓地から魔法カード1枚を選択して手札に加える事ができる。

このカードが戦闘によって破壊したモンスターは墓地へは行かず

ゲームから除外される。

このカードがフィールド上から離れた場合、ゲームから除外される。

 

 

 光と闇、二つの力を束ねし最上級黒魔術師をも超える最強の黒魔術師。

 その攻撃はあらゆるモンスターを消し去り、あらゆる魔法を操るという。丈が亮とトレードした友情のカードであり、I2カップ決勝戦ではフィニッシャーにもなったモンスターだ。

 

『混沌の黒魔術師のモンスター効果。このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、墓地より魔法カードを一枚選択し手札に加えることができる。我は強欲な壺を手札に加え再び発動。デッキよりカードを二枚ドローする』

 

 ダークネスの手札が八枚まで増強される。

 あらゆるデッキにおいて回転の主軸となり、素早く発動することができる魔法カード。それを墓地から回収し手軽に再利用できる混沌の黒魔術師はやはり強力だ。

 

『速攻魔法、手札断殺を発動。互いのプレイヤーは手札を二枚墓地へ送り二枚ドローする。そして我は魔法カード、融合を発動。手札のジャックス・ナイト、クイーンズ・ナイト・キングス・ナイトを融合素材としアルカナ・ナイトジョーカーを攻撃表示で融合召喚する』

 

 

【アルカナ ナイトジョーカー】

光属性 ☆9 戦士族

攻撃力3800

守備力2500

「クィーンズ・ナイト」+「ジャックス・ナイト」+「キングス・ナイト」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが、

魔法カードの対象になった場合は魔法カードを、

罠カードの対象になった場合は罠カードを、

効果モンスターの効果の対象になった場合はモンスターカードを、

手札から1枚捨てる事でその効果を無効にする。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 絵札の三剣士を超えた天位に君臨する最強の融合騎士が降臨する。

 白と黒と金の入り混じった甲冑を纏った剣士は白銀の刃をバルバロスへ向けた。バルバロスも負けじと神槍を掲げるが、アルカナ最強剣士の威容はそれを凌ぐ。

 流石はキング・オブ・デュエリスト武藤遊戯が神の降臨の足掛かりとして多用した絵札の三剣士を束ねた姿というべきだろう。

 

『覚悟は出来たか人の身で魔王を名乗る者よ。我のバトルフェイズ。混沌の黒魔術師で神獣王バルバロスを攻撃。滅びの呪文―デス・アルテマ―』

 

「迎撃しろ! バルバロス!」

 

 バルバロスが神槍で混沌の黒魔術師を付き穿とうとするが、それよりも疾く滅びの呪文がバルバロスの体を滅ぼした。

 混沌の黒魔術師によって倒されたモンスターは墓地へはいかず除外される。丈はバルバロスを除外ゾーンへと置いた。

 戦闘ダメージにより丈のライフはいきなり3100までダウンする。

 

『そしてアルカナナイトジョーカーの攻撃。天位を示すがいい! ロード・ジョーカー・ソード!』

 

 白銀の刃が振り落される。この一撃を喰らってしまえばいきなり丈の敗北が確定してしまう。そうなれば人類の敗北だ。

 丈としてもそう安々と負けてやるわけにはいかない。

 

「目には目を。さっきのお返しだ、リバース発動。ガード・ブロック、戦闘ダメージを一度だけ0にしてカードを一枚ドローする!」

 

 アルカナ・ナイトジョーカーの斬撃が不可視の壁に阻まれ弾かれる。丈はカードを一枚引いた。

 

『命拾いをしたか。我はターンを終了する』

 

「意趣返しその二だ。エンドフェイズ時、終焉の焔を発動。俺の場に二体の黒焔トークンを出現させる。このまま俺のターン、ドロー!」

 

 アルカナ・ナイトジョーカーには手札をコストにモンスター効果・魔法効果・罠効果を無効にする効果がある。

 しかしその効果は一ターンに一度しか使用できず、しかもアルカナ・ナイトジョーカー自身を対象にする必要がある。ならば、

 

「魔法カード、死者への手向けを発動。手札を一枚捨てフィールドのモンスターを一体破壊する。俺はアルカナ・ナイトジョーカーを対象に選び破壊」

 

『児戯よな。アルカナ・ナイトジョーカーの効果。我は手札より魔法カードを捨て死者への手向けを無効とする』

 

「…………」

 

 そうだ。アルカナ・ナイトジョーカーを失いたくない以上、効果で無効にするしかない。

 だがアルカナ・ナイトジョーカーの効果を使ってしまった以上、このターン中に二度目を使うことは出来ない。

 

「永続魔法発動、冥界の宝札。このカードはモンスター二体以上を使った生け贄召喚に成功した時デッキからカードを二枚ドローする」

 

 

【冥界の宝札】

永続魔法カード

2体以上の生け贄を必要とする生け贄召喚に成功した時、

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 丈のデッキの要ともいえるドローエンジン、冥界の宝札。

 これが丈の場で発動したことにより、全ての用意は整った。

 

「俺は二体の黒焔トークンを生け贄に捧げる。そして堕天使アスモディウスを攻撃表示で召喚!」

 

 

【堕天使アスモディウス】

闇属性 ☆8 天使族

攻撃力3000

守備力2500

このカードはデッキまたは墓地からの特殊召喚はできない。

1ターンに1度、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分フィールド上に「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、

「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。

「アスモトークン」はカードの効果では破壊されない。

「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。

 

 

 烏のような真っ黒の翼を生やした堕天使が黒い羽を舞わせながらフィールドに降臨する。

 丈のデッキにおいてバルバロスと同じ切り込み役を引き受けることの多い、ずっと昔から支えてくれたモンスターの一枚だ。

 

「冥界の宝札の効果によりデッキからカードを二枚ドロー。そして堕天使アスモディウスのモンスター効果発動。一ターンに一度、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送ることができる。

 俺はデッキより光神機―轟龍を墓地へ送る。これで俺の墓地に光属性モンスターと闇属性モンスターが揃った。光属性、光神機―轟龍と闇属性、堕天使アスモディウスをゲームから除外!

 光と闇を供物とし、世界に天地開闢の時を告げる。降臨せよ、我が魂! カオス・ソルジャー -開闢の使者-!」

 

 

【カオス・ソルジャー -開闢の使者-】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ

ゲームから除外した場合に特殊召喚できる。

1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●フィールド上のモンスター1体を選択してゲームから除外する。

この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

●このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した場合、

もう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 

 丈にとっての魂というべきデュエルモンスターズ界最強剣士。カオス・ソルジャーが混沌の力を得てパワーアップした姿だ。

 その強さは最強融合剣士アルカナ・ナイトジョーカーをも凌ぐだろう。

 

「カオス・ソルジャー -開闢の使者-の第一の特殊能力を発動。一ターンに一度、相手モンスターを一体ゲームより除外する。天地開闢創造撃ッ!」

 

 カオス・ソルジャーの刃に大気中の魔力が吸い込まれていき、それが振るわれると同時に溜まった魔力がカオス・ソルジャーが内包していたものと合わせて一斉解放される。

 光と闇の魔力を込めて斬撃は次元を歪ませながらアルカナ・ナイトジョーカーを呑み込んだ。

 

『ヌ……アルカナ・ナイトジョーカーをただの一撃で倒すか……』

 

「バトルフェイズ。堕天使アスモディウスで混沌の黒魔術師を攻撃!」

 

 堕天使アスモディウスが魔力で生み出した黒い槍を混沌の黒魔術師に投擲する。投擲された槍が混沌の黒魔術師の心臓を貫く。混沌の黒魔術師は苦悶の声をあげながら、その身を四散させた。

 そして混沌の黒魔術師がフィールドを離れた場合、墓地へはいかずゲームより除外される。

 

「カオス・ソルジャーは除外効果を使用したターン攻撃できない。バトルフェイズを終了、カードを二枚伏せターンエンドだ」

 

 アルカナ・ナイトジョーカーと混沌の黒魔術師。

 まともなデュエルならデッキの中心モンスターであり、この二体を倒した以上このままゲームエンドとなっても不思議ではない。

 だがそんな常識はこのデュエルには当て嵌まらないのだ。人類存亡を賭けたこのデュエルにおいてここまではオープニングを飾る号砲に過ぎない。

 ここからが本当の勝負だ。




……あー、ダークネスのデッキは原作通りのものだと余りにもインパクトが薄いので、全面的に完全変更されました。
 問題です。ダークネスのデッキは何デッキでしょう? 正解した人がいたらゆきのんが登場するかもしれません。本編とは特に関係ないおまけの短編に。


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第103話  超越者

宍戸丈   LP3100 手札二枚

場 カオス・ソルジャー -開闢の使者-、堕天使アスモディウス 

伏せ 二枚

魔法 冥界の宝札

 

ダークネス LP3800 手札二枚

場 無し

伏せ 無し

 

 

 

 アルカナ・ナイトジョーカーと混沌の黒魔術師という二大エースモンスターを撃破されておきながら、ダークネスに動揺らしい動揺はない。

 手札はともかくボードアドバンテージで大きく劣っているにも拘らずだ。

 

『我のターン、ドロー。我は手札より魔法カード、高等儀式術を発動。手札の儀式モンスターを選択し、そのモンスターのレベルと合計が同じになるようデッキからモンスターを墓地へ送る。その後、選択した儀式モンスターを儀式召喚扱いとして場に降臨する』

 

 ダークネスが黒い外套をなびかせ、その白い手より三枚のカードを出現させた。出現させた三枚のカードをそのまま投げ捨て墓地へ送る。

 墓地へ送られたモンスターのレベルの合計は8。デッキより生け贄に捧げられた三つの魂がダークネスの手札に眠る最上級儀式モンスターを降臨させる。

 

『三つの魂は光と闇を導く! やがて光と闇の魂はカオスのフィールドを創り出す!! 疾走れ! 三体の供物たちよ!! カオス・フィールドを駆け抜けろ!! そして超戦士の力を得よ!!

 儀式召喚、現れろデュエルモンスターズにおいて伝説の白龍に肩を並べし剣士よ。カオス・ソルジャー!!』

 

 

【カオス・ソルジャー】

地属性 ☆8 戦士族

攻撃力3000

守備力2500

「カオスの儀式」により降臨。

 

 

 デュエルモンスターズにはリメイクカードというものがある。過去に活躍した人気あるモンスターを、新たな効果をもつ別のモンスターとして生まれ変わらせる。カオス・ソルジャー -開闢の使者-もそんなリメイクカードの一枚だ。

 そしてリメイクする前、謂わばカオス・ソルジャーの原初の姿ともいうべきカードがダークネスが降臨させた最上級儀式モンスター、カオス・ソルジャーなのだ。

 攻撃力は青眼の白龍と同等の3000。最強の剣士だ。

 

「……だがカオス・ソルジャーと俺の場にあるカオス・ソルジャー -開闢の使者-や堕天使アスモディウスの攻撃力と同じ数値。攻撃したところで自爆特攻になるだけだ」

 

『愚か。攻撃力の数値で我のカオス・ソルジャーが貴様の場のモンスターを超えられぬというのであれば超えさせるまでのこと。

 我は天よりの宝札を発動。互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードをドローする。我はモンスターをキラー・トマトを攻撃表示で召喚し、装備魔法、団結の力をカオス・ソルジャーに装備!』

 

 

【団結の力】

装備魔法カード

装備モンスターの攻撃力・守備力は、自分フィールド上に表側表示で存在する

モンスター1体につき800ポイントアップする。

 

 

 団結の力はフィールドのモンスターが一体につき装備モンスターの攻撃力を800ずつ上げていくカードだ。

 フィールドに並べられるモンスターの数は全部で五体のため、攻撃力上昇の最大値は4000。それこそ攻撃力0のモンスターに装備しても神を倒せるようになる数値だ。

 

『我の場にはカオス・ソルジャーとキラー・トマトの合計二体のモンスターが表側表示で存在している。よってカオス・ソルジャーの攻撃力は4600ポイントとなった。

 バトルフェイズ。カオス・ソルジャーでカオス・ソルジャー -開闢の使者-に攻撃。オリジナルの力を示すがいい。カオス・ブレード!』

 

「迎撃しろカオス・ソルジャー! 開闢双破斬!」

 

 世代を超えて二人の最強剣士が真っ向から激突する。二人のカオス・ソルジャーは自らの刃をぶつけ合い鍔迫り合いを行う。

 それでも決着がつかず両者は一旦離れると全身全霊を込めた斬撃を同時に振り落した。

 一瞬の交錯。一体のカオス・ソルジャーから首筋から血を吹きだし、倒れる。倒れたのは……開闢を告げる騎士だった。

 

 宍戸丈LP3100→1500

 

 超過分のダメージが丈を襲い、ライフが半分を切る。

 そしてフィールドには攻撃力4600のカオス・ソルジャー。攻撃力が高いモンスターというのは単純だからこそ強力だ。

 

『我はターンを終了する』

 

「……このエンドフェイズ時、リバースカードオープン。メタル・リフレクト・スライム!」

 

 

【メタル・リフレクト・スライム】

永続罠カード

このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、

自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。

このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)

 

 

 罠モンスターの中で守備力にかけては随一のメタル・リフレクト・スライムが丈を守るように現れる。

 千年の盾と同等の3000の守備力をもつメタル・リフレクト・スライムだが敵に攻撃力4600のカオス・ソルジャーがいるとやや心許ない。

 

「そして俺のターン、ドロー。おろかな埋葬を発動、デッキよりレベル・スティーラーを墓地へ送る。更に魔法カード発動、フォトン・サンクチュアリ!」

 

 

【フォトン・サンクチュアリ】

通常魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は光属性以外のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

自分フィールド上に「フォトントークン」(雷族・光・星4・攻2000/守0)

2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは攻撃できず、シンクロ素材にもできない。

 

 

 丈の場に二体のフォトントークンが出現した。これでメタル・リフレクト・スライムと合計して丈の場には三体の生け贄要因が揃った。

 フォトン・サンクチュアリを発動したターン、光属性モンスター以外を特殊召喚することが出来なくなるが……丈のデッキには三体のモンスターを生け贄にすることで真価を発揮する光属性モンスターがいる。

 

「いくぞ。俺は二体のフォトントークンとメタル・リフレクト・スライムを生け贄に捧げる! 来い、雷の力をもちし伝説の剣士! ギルフォード・ザ・ライトニング!」

 

 

【ギルフォード・ザ・ライトニング】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力2800

守備力1400

このカードは生け贄3体を捧げて召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 白銀の甲冑に黄色く光る紫電を走らせながら、伝説の剣士が巨大な剣を天高く掲げる。

 すると何処からともなく堕ちた稲妻がその剣に雷の力を与え始めた。

 

「冥界の宝札の効果で二枚ドロー。ギルフォード・ザ・ライトニングは三体を生け贄に捧げて召喚された時、相手フィールドに存在するモンスターを全て破壊する。受けろライトニング・サンダー!」

 

 ギルフォード・ザ・ライトニングの大剣からサンダー・ボルトが放たれた。

 サンダー・ボルトはダークネスのフィールドにいるモンスターを問答無用に悉く焼き払う。

 

『ヌゥゥ。我のしもべを全滅させるか……。だがまだ終わらぬ。我はトラップを発動、和睦の使者。このターンの戦闘ダメージを全て0にする』

 

 惜しかった。和睦の使者さえ発動されなければ、二体のモンスターの総攻撃でライフを削り切れたのだが。

 やはりダークネスはそう安々と勝たせてはくれないらしい。

 

「俺はリバースカードを二枚セットする。ターンエンド」

 

『我のターンだ。我は天使の施しを発動する。手札を三枚ドローし二枚捨てる……。さてお遊びはこれまでだ。人の身で我とここまで戦ったことは誉めてやろう。褒美に面白いものを見せてやる』

 

「……なにを、する気だ」

 

 ダークネスの蒼い光を灯していた眼光が一転して赤となる。

 血のような真紅の輝きが増幅し、手札にある一枚のカードを赤黒く染めていった。

 

『手札より魔法カード発動、ダーク・コーリング!』

 

 

【ダーク・コーリング】

通常魔法カード

自分の手札・墓地から、融合モンスターカードによって決められた

融合素材モンスターをゲームから除外し、

「ダーク・フュージョン」の効果でのみ特殊召喚できる

その融合モンスター1体を「ダーク・フュージョン」による融合召喚扱いとして

融合デッキから特殊召喚する。

 

 

『我の手札または墓地より融合素材モンスターをゲームより除外。ダーク・フュージョンの効果でのみ特殊召喚できる融合モンスターを融合召喚する。

 我は高等儀式術の効果で墓地へ送ったE・HEROフェザーマンとE・HEROバーストレディをゲームより除外。人間の心の闇が生み出した暗黒に堕ちた英雄の姿を見るがいい。E-HEROインフェルノ・ウィング!』

 

 

【E-HEROインフェルノ・ウィング】

炎属性 ☆6 悪魔族

攻撃力2100

守備力1200

「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」

このモンスターは「ダーク・フュージョン」による融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が越えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、

破壊したモンスターの攻撃力か守備力の高い方の数値分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 墓地に眠っていたフェザーマンとバーストレディが現世に引きずり出され、黒い力が二体のモンスターを暗黒融合していく。

 そうしてフィールドに姿を現したのがインフェルノ・ウィング。ダークネスの力を得たHEROの暗黒に堕ちた融合体。その力はフェザーマンとバーストレディを正規の手段で融合したフレイム・ウィングマンを凌ぐ。

 

「だがインフェルノ・ウィングの攻撃力は2100。E-HEROじゃスカイスクレイパーの恩恵を得る事も出来ない」

 

『なにを勘違いしている? 貴様への褒美はこれからだ。我はこのターン、まだ通常召喚を行っていない。手札より我はジャンク・シンクロンを通常召喚!』

 

 

【ジャンク・シンクロン】

闇属性 ☆3 戦士族 チューナー

攻撃力1300

守備力500

このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の

レベル2以下のモンスター1体を選択して表側守備表示で特殊召喚できる。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

 

 丸い眼鏡をかけたようなモンスターがダークネスの手札より飛び出してくる。

 ただの弱小モンスターをこのタイミングで召喚してくるダークネスの意図が分からず首を傾げるが、直ぐに丈の視線がカードテキストに記された『チューナー』という文字列に釘づけとなった。

 

『ジャンク・シンクロンの効果。このカードが召喚に成功した時、自分の墓地よりレベル2以下のモンスター1体を効果を無効にして表側守備表示で特殊召喚する。

 我は天使の施しで墓地へ埋葬したドッペル・ウォリアーを蘇生する』

 

 

【ドッペル・ウォリアー】

闇属性 ☆2 戦士族

攻撃力800

守備力800

自分の墓地に存在するモンスターが特殊召喚に成功した時、

このカードを手札から特殊召喚する事ができる。

このカードがシンクロ召喚の素材として墓地へ送られた場合、

自分フィールド上に「ドッペル・トークン」

(戦士族・闇・星1・攻/守400)2体を攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

 

 

『その効果は無効化にされるが関係はない。このモンスターは墓地へ送られた時に発動する効果をもっているのだからな』

 

「――――!」

 

 ジャンク・シンクロンの効果を無効にする効果はフィールドにある限り有効だ。つまり墓地で発動する効果は無効にならないということである。

 

『我が褒美を目に焼き付けるがいい! レベル2、ドッペル・ウォリアーにレベル3、ジャンク・シンクロンをチューニング!』

 

 ☆2 + ☆3 = ☆5

 

 ドッペル・ウォリアーとジャンク・シンクロンが宙へ飛び上がり二つの光の輪に吸い込まれていく。

 二体のモンスターは光の粒子となり輪の中で一体化していった。

 

「一体、なにが……?」

 

『集いし暗黒が、新たな力を呼び起こす。闇へ誘え! シンクロ召喚! 出でよ、ジャンク・ウォリアー!』

 

 

【ジャンク・ウォリアー】

闇属性 ☆5 戦士族

攻撃力2300

守備力1300

「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードがシンクロ召喚に成功した時、

このカードの攻撃力は自分フィールド上に存在する

レベル2以下のモンスターの攻撃力を合計した数値分アップする。

 

 

 ジャンクという名の通りジャンクを組み合わせて生み出されたかのような青い体躯のモンスターが光の環より飛び出してくる。

 飛び出してきた青い戦士は力強く右手を突きだした。

 

「ば、馬鹿な……シンクロ、召喚、それは……?」

 

 ペガサス会長が言っていた現在競合中の新しい召喚方法。まだこの世界に存在しない未来の技術だ。

 それをどうしてダークネスが。

 

『何を唖然としている。我は言ったはずだ。ダークネスの世界には個人も時間も複数の次元もない、と。そして表側に存在するものは裏側においては一つなるダークネスとして存在している。

 ダークネスそのものである我は表側に存在しこれから存在するであろうあらゆる時代・次元のカードを使うことが出来るのだ。当然まだこの時代には存在しえないカードもだ』

 

「時代を超越したカードを扱うだって。……そんな無茶苦茶、許されると思ってるのか!」

 

 こんなものは槍と弓矢で戦っている時代に、戦車とミサイルをもつ現代の軍備をもった国家が殴り込むようなものだ。

 技術力とは決して一朝一夕のものではない。積み重ねてきた年月と多くの科学者や技術者の努力の結晶が――――現代の技術力という形なのだ。

 だから現代の技術力で過去の技術力と戦うというのは時代を嘲笑う暴挙に等しい。

 

『笑止。許す許さぬは太古の昔より人ではなく〝神〟の定めること。我が許し我が許可する。貴様の意見など意味のなき遠吠えに過ぎぬ。

 そして我のデッキはあらゆる時代の最強デュエリストたちのデッキを束ねしデッキ。最初から貴様が勝てる道理などないのだ』

 

「……!」

 

 時代の最強デュエリストたちのデッキを束ねたデッキ。道理で見覚えのあるカードを多く使うはずだ。

 アルカナ・ナイトジョーカーや混沌の黒魔術師、そしてカオス・ソルジャー。これらは全て史上最強のデュエリストと謳われる決闘王〝武藤遊戯〟が操ったカードたちだ。

 インフェルノ・ウィングやジャンク・ウォリアーについては操る最強デュエリストが誰なのか検討もつかないが、これらはこれより後の時代に生まれるであろうデュエリストたちのカードなのだろう。

 

『ドッペル・ウォリアーの効果発動。このカードがシンクロ素材として墓地へ送られた時、フィールドに攻守400のドッペル・トークン二体を攻撃表示で出現させる。

 そしてジャンク・ウォリアーのモンスター効果。このカードがシンクロ召喚に成功した時、我のフィールドのレベル2以下のモンスターの攻撃力を合計した数値を攻撃力に加える。ドッペル・トークン二体の攻撃力の合計は800。パワー・オブ・フェローズ! よってジャンク・ウォリアーの攻撃力は3100となる! 我はバトルフェイズへ移行』

 

 ジャンク・ウォリアーの攻撃力がアスモディウスとギルフォード・ザ・ライトニングを超えた。

 このままだと攻撃してくる。恐らくダークネスが狙うのは厄介なトークン精製能力をもつアスモディウスではなくギルフォード・ザ・ライトニング。

 

「速攻魔法発動、神秘の中華なべ! ギルフォード・ザ・ライトニングを生け贄に捧げ、その攻撃力分のライフを回復する!」

 

 宍戸丈LP1500→4300

 

 ギルフォード・ザ・ライトニングが墓地へ送られ、丈のライフが4300まで回復する。

 これでダークネスは堕天使アスモディウスしか攻撃対象に出来ない。ダークネスのエースモンスターの連続召喚、これを耐えるにはライフが1500では心許ない。出来れば攻撃耐性をもつモンスターも召喚しておきたかった。

 

『ふん。無駄な足掻きを……。ジャンク・ウォリアーで堕天使アスモディウスを攻撃、スクラップ・フィスト!』

 

 ジャンク・ウォリアーが堕天使アスモディウスを殴りつけ撃破する。

 しかし堕天使アスモディウスはただ破壊されるだけではない。自分の分身である二体のトークンを場に残した。

 効果では破壊されないアスモトークンと戦闘では破壊されないディウストークン。次にダークネスが狙うのは恐らく、

 

『インフェルノ・ウィングでアスモトークンを攻撃、インフェルノ・ブラスト』

 

「アスモトークンは守備表示だ。ダメージは受けない」

 

『それはどうかな。インフェルノ・ウィングには貫通効果がある。守備表示でも攻撃力がそれを超えていれば貫通ダメージだ!』

 

「なに!?」

 

 アスモトークンが焼き尽くされる。インフェルノ・ウィングの貫通ダメージが丈を襲いライフを3400まで削り取った。

 だがこれでいい。アスモトークンは残る上、インフェルノ・ウィングのもう一つの効果は発動しない。

 

『インフェルノ・ウィングのもう一つの効果、相手モンスターを破壊した時、その攻撃力または守備力が高い方のダメージを相手に与える』

 

「それはどうかな。インフェルノ・ウィングがフレイム・ウィングマンのモンスター効果を受け継いでいるのは予想していた。インフェルノ・ウィングのダメージは墓地へ送った時に発動する。だがトークンは墓地へはいかない。インフェルノ・ウィングの効果は不発だ」

 

『……まぁいい。バトルを終了。我は魔法カード、トークン収穫祭を発動。フィールドのトークンを全て破壊し破壊した数×800のライフを回復する』

 

 

【トークン収穫祭】

通常魔法カード

フィールド上のトークンを全て破壊する。

破壊したトークンの数×800ライフポイントを回復する。

 

 

 折角のディウストークンやダークネスの場のドッペル・トークンが破壊される。そしてダークネスのライフポイントが6200まで上昇した。

 終わってみれば振出どころかダークネスのライフが初期値を超えてしまった。

 

『ターンエンドだ』

 

 長いダークネスのターンが終わる。

 結果的に二体の最上級モンスターを撃破され、トークンすら場に残せなかったがまだ大丈夫だ。逆転の布石は既に整えている。

 




パラドックス「時代を無視したカードを使うだと!?」

クロウ「インチキ効果もいい加減にしろ!!」


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第104話  ティアドロップ

宍戸丈   LP3400 手札四枚

場 なし 

伏せ 一枚

魔法 冥界の宝札

 

ダークネス LP6200 手札二枚

場 E-HEROインフェルノ・ウィング、ジャンク・ウォリアー

伏せ 無し

 

 

 

 ダークネスのフィールドにはインフェルノ・ウィングとジャンク・ウォリアー。ダークネスの言葉によれば、これより先の時代で最強となるデュエリストたちのエースカードが並んで立っている。

 二体ともに極めて特殊なモンスターであり、方向性と採用基準も異なる二体が同じフィールドに同時に並ぶというのは恐らく今後お目にかかることはないだろう。

 ジャンク・ウォリアーに至ってはまだ存在すらしていないシステムを用いたここより先に生まれるかもしれない未来のカードだ。普通なら勝てるわけがない。だが、

 

(新しい力だろうとなんだろうと……俺のデッキは負けはしない)

 

 何故だろうか。あのカードの枠が白いモンスター。ジャンク・ウォリアーを見ていると自分のデッキが騒いでいるような気がした。

 未だ嘗てない強烈なる闘争心が丈のデッキから湧き上がっている。ドローするためにデッキトップに手をかけると如実に鼓動を感じた。

 

(……そうか)

 

 その時だ。丈はデッキの声を確かに訊いた。

 

「ダークネス、お前がどれだけ新しいシステムや新しいカードを作ろうと――――そんなものは悉く俺のデッキで駆逐する」

 

『威勢が良い人間だ。だがデュエリストなら口先ではなく己のデュエルで示して欲しいものだ』

 

「言われずとも! 俺のターン、ドロー! リバースカード発動、メタル・リフレクト・スライム!」

 

 

【メタル・リフレクト・スライム】

永続罠カード

このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、

自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。

このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)

 

 

 このデュエルで二度目となるメタル・リフレクト・スライムの召喚。前に召喚した際は単なる生け贄要因でしかなかったが、丈のデッキにおいてメタル・リフレクト・スライムが果たす役割とはそれだけではない。

 あらゆるものに千変万化する水は時に白き龍の化身の攻撃すら跳ね返す防壁となり、時に最上級モンスター降臨の生け贄となり、そして或いは生け贄を揃える餌となる。

 

「俺は墓地にいる二体のレベル・スティーラーの効果を発動。メタル・リフレクト・スライムのレベルを10から8に下げ、二体のレベル・スティーラーをフィールドに守備表示で特殊召喚する」

 

 

【レベル・スティーラー】

闇属性 ☆1 昆虫族

攻撃力600

守備力0

このカードが墓地に存在する場合、自分フィールド上に表側表示で存在する

レベル5以上のモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。

このカードは生贄召喚以外のためには生贄にできない。

 

 

 レベルを下げるというノーコストに近い蘇生能力をもつレベル・スティーラー。この攻撃力が1000にすら満たない弱小カードこそが丈のデッキにとって欠かす事ができないモンスターたちだ。

 簡単に特殊召喚できしかもレベル10という高いレベルをもつメタル・リフレクト・スライムとレベル・スティーラー、相性は抜群といっていい。

 

「俺は二体のレベル・スティーラーを生け贄に捧げる。宇宙に輝く星々より大地に降臨せよ! 大いなる土星! The big SATURN!」

 

 

【The big SATURN】

闇属性 ☆8 機械族

攻撃力2800

守備力2200

このカードは手札またはデッキからの特殊召喚はできない。

手札を1枚捨てて1000ライフポイントを払う。

エンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は1000ポイントアップする。

この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

相手がコントロールするカードの効果によってこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

お互いにその攻撃力分のダメージを受ける。

 

 

 ずんぐりとした体躯の巨大なゴーレムが地響きとともにフィールドに実体化する。

 悲劇により突然この世を去った世界的カードデザイナー、フェニックス氏が遺した遺品とすらいえる其々世界に一枚しかないプラネットシリーズ。

 その一枚こそがこのThe SATURNだ。プラネットの名の通り同シリーズは惑星を模したカードで構成されており、The SATURNは土星の名を冠するプラネットだ。

 

『ほぉ。天空に広がる銀河という海、煌めく星々において〝土星〟のエネルギーを宿したカードか。面白いカードを使う』

 

「中等部の修学旅行でアメリカに行った時のデュエル大会で手に入れたものだ。こうみえてプラネットシリーズには目がなくてね」

 

 プラネットシリーズの殆ど全てが強力な効果をもつ最上級モンスターで構成されている。生け贄召喚を多用し最上級モンスターを並べやすい丈のデッキとはこの上なく相性が良い。

 修学旅行でも大会の景品が常々欲しいと思っていたプラネットシリーズの一枚だから多少無理して参加したのだ。決勝戦でやたらとMeを連呼するアメリカ・アカデミアの一年生を下したのも今となっては良い思い出である。

 

「冥界の宝札の効果だ。二体以上の生け贄を使った生け贄召喚に成功したため二枚ドロー。そして魔法カード、二重召喚を発動。俺はこのターン、もう一度だけ通常召喚を行うことができる。

 俺はメタル・リフレクト・スライムのレベルを8から6に下げ、二体のレベル・スティーラーを再び特殊召喚。そして二体のレベル・スティーラーを生け贄に守護天使ジャンヌを攻撃表示で召喚!」

 

 

【守護天使ジャンヌ】

光属性 ☆7 天使族

攻撃力2800

守備力2000

このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、

破壊したモンスターの元々の攻撃力分だけ、自分のライフポイントを回復する。

 

 

 聖騎士ジャンヌが死して天使に名を連ねることを許された姿。守護天使となったジャンヌが聖なる輝きと共にフィールドに降臨する。

 丈の場に二体の最上級モンスターが揃った。これで反撃の狼煙をあげる準備は万端。

 

「俺はThe big SATURNの効果を発動。手札を一枚捨てライフを1000払い、SATURNの攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで1000ポイント上昇する! SATURN FINAL!!」

 

 星々の力を受けThe SATURNがファイナルモードへ変形した。迸るほどのエネルギーがスパークとなりSATURNの装甲を帯電させる。

 1000ポイント攻撃力を増したSATURNの攻撃力は3800。ジャンク・ウォリアーの3100を超えた。丈のライフも2500となったが、丈にはライフ回復能力をもつジャンヌがいる。まるで問題にならない。

 

「バトルだ。The big SATURNでジャンク・ウォリアーを攻撃! 未知なる力を駆逐せよ、エンド・オブ・コスモス!」

 

 SATURNの全砲門が開き全ての攻撃がジャンク・ウォリアーの全身を破壊し尽くした。

 大火力による一斉放火を浴びたジャンク・ウォリアーは文字通りジャンクとなって破壊されフィールドから消え去る。

 

「続いて守護天使ジャンヌでインフェルノ・ウィングを攻撃! 奇蹟のラ・ピュセル!」

 

 守護天使ジャンヌの無心の祈りが天に届き、天上から降り注いだ光が闇に堕ちた英雄、インフェルノ・ウィングを消し去っていく。

 そして守護天使ジャンヌの能力によりインフェルノ・ウィングの力がそのまま丈の命へと還元される。

 

「守護天使ジャンヌのモンスター効果。戦闘で破壊したモンスターの元々の攻撃力分のライフを回復する。インフェルノ・ウィングの攻撃力2100分のライフを俺は得る。逆にダークネス、お前には二つの戦闘ダメージだ」

 

『ヌゥ……』

 

 宍戸丈LP2400→4500 ダークネスLP6200→4800

 

 丈とダークネス、二人のライフポイントがほぼ並んだ。

 しかし並んだといってもお互いのライフポイントは共に4000をオーバーしている。まだまだ勝負の行方は分からないだろう。

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

『我のターン、ドロー。我はカードを一枚伏せる』

 

 フィールドに置かれるリバースカード。奇妙だ、と直ぐに気付いた。リバースカードを伏せるのは普通ならそのターンの終わりだ。

 ターンの初めにリバースカードを伏せると相手のリバースモンスターカードの効果で破壊されるなどの危険性がある。だというのに敢えてカードを伏せてきた。つまりは手札抹殺のような大胆な手札交換、或いは手札増強をするつもりだということだ。

 

『フフフフフ、我は手札より装備魔法を発動。D・D・R! 手札を一枚捨てゲームから除外されているモンスターをフィールドに帰還させる!』

 

 

【D・D・R】

装備魔法カード

手札を1枚捨て、ゲームから除外されている自分のモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターを表側攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。

このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。

 

 

「ここで帰還カード!? しかもゲームから除外されているのは……」

 

『然り。我はD・D・Rの効果により除外されている混沌の黒魔術師をフィールドに帰還させこのカードを装備する!』

 

 強力過ぎる力をもつが故に破壊したモンスターを墓地すらいかせずに除外され、逆に破壊された時に墓地へもいけぬ魔術師たちの頂点に君臨するカード。

 混沌の黒魔術師はD・D・Rの力によって異次元の壁を突き破り、現世に舞い降りた。

 

「不味い……ダークネスの墓地には、あの魔法カードが……」

 

『フフフフフフ。もう遅いわ間抜け。混沌の黒魔術師のモンスター効果だ。このカードが召喚・特殊召喚された時、我の墓地にある魔法カードを一枚手札に加えることができる。

 我が手札に加えるのは天よりの宝札。そして天よりの宝札をそのまま発動。互いのプレイヤーはカードが六枚になるようカードをドローする。

 魔法カード発動、封印の黄金櫃。デッキよりカードを一枚選びゲームより除外。2ターン後のスタンバイフェイズ、除外したカードを我の手札に加える。我は命削りの宝札をゲームから除外』

 

 憎々しげにダークネスを睨む。天よりの宝札の効果によって丈も手札増強が出来たがこのタイミングで六枚のカードをドローするのはダークネスにとってのメリットの方が圧倒的に多い。

 なにせ丈の場には冥界の宝札があるため手札には全く不足がないのだ。対してダークネスの手札は0枚。ご丁寧に発動前にリバースカードまで伏せている。伏せたカードが速攻魔法以外の魔法カードならダークネスには実質七枚の手札があるのと同じだ。

 

『ふむ。宍戸丈よ、ジャンク・ウォリアーを倒した褒美だ。先以上の褒美を貴様にくれてやる』

 

「――――くるか!」

 

『我は魔法カード、死者蘇生を発動。D・D・Rのコストとして墓地へ置いたガガガマジシャンを我のフィールドに特殊召喚する!』

 

 

【ガガガマジシャン】

闇属性 ☆4 魔法使い族

攻撃力1500

守備力1000

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に

1から8までの任意のレベルを宣言して発動できる。

エンドフェイズ時まで、このカードのレベルは宣言したレベルになる。

「ガガガマジシャン」は自分フィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

このカードはシンクロ素材にできない。

 

 

 魔法使い族でありながら魔法使いとは到底思えぬ気迫を発するモンスターが召喚される。

 ガガガマジシャン、属性と種族は最上級魔術師ブラック・マジシャンと同じだ。攻撃力と守備力もなんの巡り合わせかブラック・マジシャンの数値をマイナス1000したものとなっている。

 ただしブラック・マジシャンが如何にも魔術師然としているのに対してガガガマジシャンの方はガラの悪い高校生がそのまま魔術師となったようなイメージがあった。

 

『フフフフッ。これだけでは終わらんよ。更に我は手札よりガガガガールを通常召喚!』

 

 

【ガガガガール】

闇属性 ☆3 魔法使い族

攻撃力1000

守備力800

自分フィールド上の「ガガガマジシャン」1体を選択して発動できる。

このカードは選択したモンスターと同じレベルになる。

また、このカードを含む「ガガガ」と名のついたモンスターのみを

素材としたエクシーズモンスターは以下の効果を得る。

●このエクシーズ召喚に成功した時、

相手フィールド上の特殊召喚されたモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターの攻撃力を0にする。

 

 

 次いで金髪にうっすらと赤い瞳をした魔術師の少女がガガガマジシャンの横に並ぶ。

 ガガガマジシャンがブラック・マジシャンをイメージしたモンスターなら、ガガガガールはブラック・マジシャン・ガールをイメージしたモンスターなのだろう。

 だがまたしても攻撃力の低いモンスターを並べて一体全体どうするつもりだというのか。チューナーがいるならジャンク・ウォリアーと同じことをしてくるのかと警戒するところだが、ダークネスのフィールドにチューナーモンスターはいない。

 しかもガガガマジシャンにはご丁寧にカードテキスト内に『シンクロ素材にできない』という文面まで書かれていた。

 

『そう焦るな。見せてやろう……レベルを足していくというシンクロ召喚とはまた異なるシステム、レベルを重ねる技術を』

 

「レベルを、重ねる……?」

 

 丈の脳裏にフラッシュバックするのはキースとのデュエルで使用した〝未来への思い〟のカード。より正しくは未来への思いに記載されていた一文。

 ペガサス会長は言っていた。シンクロ召喚ともう一つデュエルの新システムとして競合中の召喚方法があると。その名は確か、

 

『ガガガガールのモンスター効果、このモンスターのレベルを我の場のガガガマジシャンと同じレベル4とする。そしてガガガマジシャンとガガガガールをオーバーレイ!』

 

「……ッ!」

 

 シンクロ召喚に出現した光のリングとは異なる淡い粒子の渦。ガガガマジシャンとガガガガール、二体のレベル4モンスターがそこへ吸い込まれていく。

 二つの力が流れ込み、新たなるモノが創造される。それはまるで宇宙の誕生する光景にも似ていた。粒子光が溢れフィールドに眩い光が充満する。

 

『二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚。現れろ、ガガガガンマン!』

 

 

【ガガガガンマン】

地属性 ★4 戦士族

攻撃力1500

守備力2400

レベル4モンスター×2

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

このカードの表示形式によって以下の効果を適用する。

●攻撃表示:このターン、このカードが

相手モンスターを攻撃するダメージステップの間、

このカードの攻撃力は1000ポイントアップし、

その相手モンスターの攻撃力は500ポイントダウンする。

●守備表示:相手ライフに800ポイントダメージを与える。

 

 

 ガガガマジシャンやガガガガールと同じカード名にガガガとつくモンスターが降り立った。西部劇のガンマンのように二丁拳銃を軽快な手つきで弄ぶと悪戯気にBANGと丈に撃つ仕草をする。

 シンクロ召喚とは別系統の技術、同じレベルのモンスターを重ね合わせるエクシーズ召喚。まさかシンクロ召喚に続いて未来の召喚システムを目にすることになるとは。

 もはや驚きや怒りを通り越して感動すらしてしまいそうだ。

 

「……カード枠が、黒いのは分かるが……☆の並びが逆だ。それに色も違う」

 

『エクシーズモンスターには従来のモンスターと違いレベルはない。代わりにあるのはランク。このガガガガンマンはレベル4モンスター二体によりエクシーズ召喚したためランクは4だ』

 

「レベルが、ないだって。また面倒な」

 

 レベルがないのではレベル制限B地区のようなレベルを条件とするロックカードの全てを擦り抜けることができる。

 そういう意味でシンクロ召喚以上に革新的なシステムだった。

 

『無論それだけではない。エクシーズモンスターの殆どは素材としたモンスター、オーバーレイユニットを取り除くことで力を発揮する。ガガガガンマンの素材としたのはガガガマジシャンとガガガガール。よってオーバーレイユニットは二つだ』

 

 ガガガガンマンの周りに守護霊のように飛ぶ二つの光球。あれがオーバーレイユニットなのだろう。

 例えるなら魔力カウンターのようなものだろう。だがエクシーズモンスターが破壊されるかオーバーレイユニットが取り除くかされない限り墓地へいかずフィールドに留まるという点では大きく違う点だ。

 

『ガガガガンマンの効果、オーバーレイユニットを一つ取り除くことで相手モンスターの攻撃力を500ポイント下げ、ガガガガンマン自身の攻撃力を1000ポイント上げる! バトルだ。では貴様に引導を渡してやろう。ガガガガンマンで守護天使ジャンヌを攻撃! ガガガショットッ!』

 

 ジャンヌの攻撃力が2300、ガガガガンマンの攻撃力が2500となり力関係が逆転した。

 ガガガガンマンの弾丸に眉間を討ち抜かれたジャンヌは苦悶の声をあげながら爆散する。

 

『そして混沌の黒魔術師でThe big SATURNに攻撃、破滅の呪文―デス・アルテマ―!』

 

 SATURNと混沌の黒魔術師の攻撃力は全くの互角だ。よって両方のモンスターが共に破壊される。

 これで再び仕切り直しとなった。ただダークネスの場にはガガガガンマンがいるため若干ダークネス有利といえるかもしれない。

 

『我はターンを終了する』

 

「俺のターン、ドロー……っ!」

 

 ドローしたカードを確認して、思わずあっと驚きそうになる。まさかこのようなタイミングでこのカードがくるとはタイミングが良いにも程がある。

 ダークネスが召喚したエクシーズモンスターという餌に釣られて出てきたのかもしれない。

 

(いいだろう)

 

 このカードがその気ならデュエリストとして期待に応えなければならない。

 

「メタル・リフレクト・スライムのレベルを6から4に下げ二体のレベル・スティーラーを特殊召喚。そして二体のモンスターを生け贄に捧げ……。闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕に宿れ! 光の化身、ここに降臨! 現れろ、銀河眼の光子竜ッ!」

 

 

【銀河眼の光子竜】

光属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは自分フィールド上に存在する

攻撃力2000以上のモンスター2体を生け贄にし、

手札から特殊召喚する事ができる。

このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップ時、

その相手モンスター1体とこのカードをゲームから除外する事ができる。

この効果で除外したモンスターは、バトルフェイズ終了時にフィールド上に戻る。

この効果でゲームから除外したモンスターがエクシーズモンスターだった場合、

このカードの攻撃力は、そのエクシーズモンスターを

ゲームから除外した時のエクシーズ素材の数×500ポイントアップする。

 

 

 プラネットシリーズが惑星の力を宿したカードなら、銀河眼の光子竜は銀河という海の力を宿したモンスター。

 そのステータスは伝説のレアカード、青眼の白龍と全くの同じ。丈のデッキに眠る光属性最上級モンスターとしては最強クラスのモンスターだ。

 

「さっきの繰り返しになるけど、二番煎じとは言うなよ。魔法カード、二重召喚。もう一度俺は通常召喚権を得る。そして銀河眼の光子竜のレベルを一つ下げレベル・スティーラーを特殊召喚。そしてメタル・リフレクト・スライムとレベル・スティーラーを生け贄にThe supremacy SUNを召喚!」

 

 

【The supremacy SUN】

闇属性 ☆10 悪魔族

攻撃力3000

守備力3000

このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できない。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、

次のターンのスタンバイフェイズ時、

手札を1枚捨てる事で、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

 The SUNの姿を見たダークネスが『ほう』と小さく声を漏らした。

 

『真なる太陽(ラー)を模した偽りの光か。だが偽物の輝きで我がダークネスを照らすことはできぬ』

 

「それはどうかな。バトルだ! 銀河眼の光子竜でガガガガンマンを攻撃! 破滅のフォトン・ストリームッ!」

 

『させはせぬ。罠発動、炸裂装甲! 戦闘してきた相手モンスターを破壊する』

 

 シンプルな効果ほど強いという意味を体現したカードである炸裂装甲。恐らくThe SUNには蘇生能力があることを知って、銀河眼の光子竜を破壊しようとしてきたのだろう。

 しかしダークネスは銀河眼の光子竜の能力を見抜くことができなかった。これが失敗の元。

 

「この瞬間、銀河眼の光子竜の効果発動。このカードが戦闘を行うバトルステップ時、このカードと戦闘する相手モンスターをゲームから除外することが出来る!」

 

『なんだと!?』

 

「一度異次元へと消えろ、銀河眼の光子竜!」

 

 神隠しにあったかの如く忽然と銀河眼の光子竜とガガガガンマンの姿が掻き消える。

 だが二体のモンスターが消えてもバトルは続行される。そしてダークネスの場にモンスターはいない。

 

「The SUNでダークネスへ直接攻撃! SOLAR FLARE!」

 

『ヌゥゥゥウゥゥゥゥゥ!!』

 

 The SUNの太陽光がダークネスの暗黒の命を削り取っていく。

 ダークネスが苦悶の声をあげた。

 

 ダークネスLP1800

 

 初期値である4000をオーバーしていたライフが一気に初期値の半分以下に成り下がる。

 

「俺はリバースカードを二枚セット、ターンエンドだ。そしてエンドフェイズ時、銀河眼の光子竜とガガガガンマンはフィールドに舞い戻る。そして銀河眼の光子竜の効果! ガガガガンマンのオーバーレイユニットを吸収し、銀河眼の光子竜に攻撃力を500ポイント上昇する!」

 

 ガガガガンマンのオーバーレイユニットを呑み込むと銀河眼の光子竜の攻撃力が上昇する。本来このオーバーレイユニットを吸収してパワーアップする効果はこの時代で役立つはずのないものだった。ダークネスのせいで役に立たない筈の力が役立ってしまった。皮肉なことである。

 そして遂に、ここまできた。ダークネスを追い詰めた。後はこのまま攻めれば、押し切れる。そう思った所で、

 

『ふっふっふっふっふっ……』

 

 ダークネスはさも可笑しそうに笑った。天の上から蜘蛛の糸を垂らし、罪人が昇ってくるのを楽しむ超越者のように。高い場所から宍戸丈のことを見下し嘲笑した。

 

「なにが、おかしいんだ?」

 

『いや、やるものだな。人間としては上々……よもや旧時代の力で新時代の力をこうも容易く駆逐するとはな。

 故に我も真なる力を貴様に見せよう。時代の最強デュエリストたちのデッキを組み合わせた最強のデッキ。それすら超える最強の創造神の力をもってこのデュエルの幕引きとする。これが我が貴様に与える最後にして最上の褒美だ』

 

「っ!」

 

『貪欲な壺を発動、墓地のキングス・ナイト、クイーンズ・ナイト、ジャックス・ナイト、アルカナ・ナイトジョーカー、ジャンク・シンクロンをデッキへ戻しシャッフル。その後二枚ドローする。

 更に魔法カード、魂の解放を発動。互いの墓地から五枚までカードを除外することが出来る。我はカオス・ソルジャー、ジャンク・ウォリアー。貴様の墓地に眠るレベル・スティーラー二体と守護天使ジャンヌをゲームより除外する』

 

 レベル・スティーラー、墓地にあってこそ真価を発揮するカードが除外されてしまった。

 これではレベル・スティーラー二体で生け贄を使い回す戦術が出来ない。

 

(…………ぐっ)

 

 だがこのゾクリと、心臓に槍を突き刺されたような悪寒はそんな生易しいものではない。

 何かとんでもないことがこれから起きようとしている。

 

『フフフフフ。我の手札にあらゆるキーカードが揃った。我は伏せていた罠カード、異次元の帰還を発動。このカード今更説明するまでもなかろう。我のライフを半分し払いゲームより除外されている我のモンスターを召喚可能な限りフィールドに帰還させる。

 我はカオス・ソルジャー、E・HEROフェザーマン、E・HEROバーストレディ、ジャンク・ウォリアーをフィールドに特殊召喚。そして融合を発動、フェザーマンとバーストレディを融合。E・HEROフレイム・ウィングマンを融合召喚!』

 

 

【E・HEROフレイムウィングマン】

風属性 ☆6 戦士族

攻撃力2100

守備力1200

「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、

破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 カオス・ソルジャー、フレイム・ウィングマン、ジャンク・ウォリアー、ガガガガンマン。

 カードの種類も誕生した時代もなにもかもが異なる四体のモンスターがダークネスのフィールドに並ぶ。

 

『お前に……教えよう。我の真なる切り札は我のフィールドにいる儀式・融合・シンクロ・エクシーズ、全てのモンスターを一体ずつゲームより除外した時のみ召喚を許されるカードだ』

 

「なっ! 儀式・融合・シンクロ・エクシーズを全て、だって……!?」

 

 強力な効果を持つモンスターはそれに応じて高い召喚難易度をもっていることが多い。

 シンクロとエクシーズはまだいい。シンクロならばチューナーモンスターをデッキに何枚か入れれば良いし、エクシーズモンスターはどんなデッキにも無理なく投入できる。 

 しかし儀式と融合。これらは専用のデッキを組んでこそ力を発揮するカードたちだ。シンクロやエクシーズと違いどんなデッキにも入れられるような類のものではない。しかもそれを全てフィールドに揃えるなど並みのデュエリストに出来ることではないのだ。

 それこそテーマも性質も異なるモンスターをデッキに投入し、尚且つそれを扱いきれるほどのデュエリストでなければ。

 ダークネスは正真正銘嘘偽りのない十二次元宇宙の神。であれば人の身では不可能なこともやってのけるが道理。

 

『我はカオス・ソルジャー、E・HEROフレイム・ウィングマン、ジャンク・ウォリアー、ガガガガンマンを除外……。異なる歴史において最強なるデュエリストたちが操りし力。それらを供物とし星の創造神が地上に顕現する!

 怖れ慄き懺悔せよ。これが唯一つなる真理。あらゆる戦争に終わりという解答を与えしもの。創星神 sophiaッッ!!』

 

 

【創星神 sophia】

闇属性 ☆11 天使族

攻撃力3600

守備力3400

このカードは通常召喚できない。

自分・相手フィールド上に表側表示で存在する、

儀式・融合・シンクロ・エクシーズモンスターを

それぞれ1体ずつゲームから除外した場合のみ特殊召喚できる。

このカードの特殊召喚は無効化されない。

このカードが特殊召喚に成功した時、

このカード以外のお互いの手札・フィールド上・墓地のカードを全てゲームから除外する。

この効果の発動に対して魔法・罠・効果モンスターの効果は発動できない。

 

 

 この世のありとあらゆる神聖をその身に宿したモンスター、否、神がフィールドに降臨する。

 星の創造者、創星神 sophiaはあらゆるものに侵されぬ尊き神聖を纏っていた。

 左手に「創造の力」を宿した結晶、右手に「破壊の力」を宿した結晶。あらゆるものを創造しあらゆるものを破壊する。星を生み出した大いなる母性をもつ牛頭の女神。

 姿を見ているだけで目が溶けてしまいそうだ。宿している力は正真正銘の〝神〟そのもの。三邪神全てと相対した時の恐怖感が蘇ってくる。

 無限に広がる暗黒の空間を埋め尽くすように君臨している姿は破壊神オベリスクを思わせた。

 大型モンスターである銀河眼の光子竜も大きさで創星神 sophiaの足程度しかない。

 

『冥界の大邪神に魅入られし者よ。創星神の裁きをその身をもって知るがいい! 終束するセカイ!!』

 

「な、なんだっ!?」

 

 丈のフィールドだけではない。森羅万象の悉くが創星神の『破壊の力』を宿した結晶に呑みこまれていく。

 絶対的な力の前に銀河眼の光子竜やThe SUNすらが抗えない。

 

『創星神が場に降誕した時、互いのフィールド・手札・墓地のカードを全てゲームより除外する。星の創造・星の滅亡に立ち会えるのは唯一つ神のみ!』

 

「な、ならばカウンター罠、天罰を……」

 

『笑止!』

 

 発動しようとした天罰が粉々に砕け散った。

 

『創星神の世界浄化に対しあらゆる抵抗は不可能! 創星神に天罰を下そうなど……愚か意外になにものでもない!』

 

 そして全て消える。全部が消える。丈がこれまでのデュエルで肥やしてきた墓地が、揃えたモンスターたちが、魔法・罠が……たった一枚のカードによって全てが〝無〟となった。

 正に世界の浄化。完全なるリセット。なにもかもが洗い流された世界で残るものなどは、いや……丈の目がダークネスの背後にある黄金の箱に釘づけとなる。

 

「封印の、黄金櫃」

 

『然り。封印の黄金櫃はフィールドには留まらず、2ターン後のスタンバイフェイズ時に我が封印したカードを手札に加える。そして我の封印したカードは〝命削りの宝札〟だ。この意味、貴様なら痛い程に分かるだろう?』

 

 命削りの宝札、一気に五枚のカードを加える強力無比なドローソース。5ターン後に手札を全て捨てるデメリットを背負い込むことになるが、天よりの宝札と異なり相手にはドローさせないというメリットがある。

 つまり次のターン、ダークネスは五枚ものカードをドローするということだ。

 

「ここまでの展開を読んで、封印の黄金櫃を発動させていたのか……?」

 

『人間の浅知恵など神の叡智と比べれば大したことなきものであったな。バトルフェイズ、我は創星神 sophiaで貴様を攻撃。智慧のグノーシス・ソフィア!』

 

「ぐ、ぁあああああああああああああ!!」

 

 創星神 sophiaの破壊の力が今度は丈自身の身に天罰として降り注ぐ。

 ライフが4000をオーバーしていたため一気にライフを奪われるということはなく、丈には700ポイントのライフが残った。だが創星神の一撃は丈の精神の力を削り取るには十分すぎる威力をもっていた。

 手札もなくフィールドもなく墓地すらない。なにもかもがゼロ、ここから逆転することなどは、

 

(……いや)

 

 自分の言葉を思い出せ。自分が以前パンドラに向かって偉そうに言った事を。

 あの時、自分は確かに言った。ゼロからの再出発は出来る、と。今の状況はあらゆるものがリセットされ完全なる0だ。ここからしっかり再出発しなければ、あの時に吐いた言葉が嘘になる。

 

「自分の発言には、責任をもたないと……いけないな。俺の、ターンだ……」

 

『無駄な足掻きを。何故そこまで我に刃向おうとする? 貴様は勘違いしているかもしれんが、我は全人類を皆殺しにしようなどとは考えてなどおらぬ。

 寧ろ我がこの世に現出したのは貴様たちがダークネスを望んだからではないか。我がこうして貴様とデュエルをしていることがその証左よ。

 断言しよう。我が世界をダークネスに誘わなければ人間は滅ぶ。邪神や天災などではなく、人は自ら人を滅亡させる。それが分かっていながら……』

 

「さて、ね。人間がいつか滅びるってことを否定する気はないし、ダークネスを求める人間の気持ちを否定する気もない」

 

 人間だって誰しもが強くあれるわけではない。時に泣き言を言い時に逃げ出したくなるからこその人間だ。

 或いは人生を投げ出し逃げてしまうのも選択の一つであるのかもしれない。丈はそのことまで否定するつもりはなかった。だが、

 

「全人類をダークネスに誘うなんていうのは容認できない。確かに人間はいつか滅びるかもしれないし、人間はいつか死ぬ。だとしても……誰もが必ず訪れる死を悲観して絶望しているわけじゃない。

 俺にはまだ分からないけど……俺よりずっと年上の御老人には自分の死期すらジョークの種にする人だっているくらいさ。俺はどうしてもそんなご老人方全員がダークネスの世界を望んでるとは思えない。だから地球に住む一人の人間として戦う。シンプルな構図だ」

 

『無意味だな。この場面、もはや貴様に逆転の可能性はない』

 

「それは……やってみなければ分からない! 俺のターン、ドロー!」

 

 創星神 sophiaには手札・墓地・フィールドのカードを全て除外する強力無比のリセット能力と自身の召喚及び効果を無効にさせない効果をもつが、フィールドで一度効果を発動しまえば何の効果にも耐性のない攻撃力が高いだけのモンスターだ。

 もしも除去カードを引き当てることができれば、持ち直すことは出来る。

 丈はドローしたカードを見て、

 

「……! カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 あらゆるものが除外されていてはやる事もなにもない。丈はデュエリストとしても人間としてもラストとなるかもしれないターンを一分も満たずに終わらせた。

 

『我のターン。大人しくサレンダーをして楽になるという道を選ばなかった以上、貴様が伏せたリバースカード、それが最後の頼みの綱というわけだ。

 単なるフェイクの可能性もあるが、関係はない。フェイクだろうと本当のトラップだろうと――――破壊してしまえば良いのだからな!

 我のドローしたカードはフィールドのカードを除去できるカードではない、が、五枚もドローすれば確実にそのリバースカードを消し去るカードを引き当てることができる。これで終わりだ。我は黄金櫃の封印を解く!』

 

 黄金の箱がゴゴゴと音をたてながら、その封印を解き放つ。

 そして黄金櫃に封印されていた命削りの宝札がゆっくりと出てくる。

 

『我は命削りの宝札をそのまま発動。デッキより手札が五枚になるようカードをドローする』

 

 相手の場には攻撃力3600のモンスターがいる上に手札を五枚までドローされる。この絶望的な展開に並みのデュエリストならダークネスがリバースカードを除去するカードを引き当てないことを祈るだけだっただろう。

 だが丈は祈るどころか逆にふてぶてしくニヤリと笑った。

 

『……なにを、笑う?』

 

「正直危ないところだった。もしお前が創星神 sophiaでそのまま攻撃をしてきたら俺は負けていたよ。だが未知なるリバースカードを恐れたお前の選択が逆に俺に勝利の希望を与えた!」

 

『な、なにを』

 

「俺はこの瞬間、セットしていたリバースカードを発動する。精霊の鏡!」

 

 

【精霊の鏡】

通常罠カード

プレイヤー1人を対象とする魔法の効果を別のプレイヤーに移し替える。

 

 

 精霊がその体ほどの大きさの鏡で『命削りの宝札』の姿を映し出す。

 

『精霊の、鏡だと……?』

 

「このカードの効果により〝命削りの宝札〟の対象となるプレイヤーを別のプレイヤーに移し替えることが出来る。俺が選択するプレイヤーは俺自身! 俺は命削りの宝札の効果により五枚のカードをドロー!」

 

『グ、ヌッ……! だが我には攻撃力3600の創星神 sophiaがいる! バトルフェイズ! 創星神 sophiaの攻撃、智慧のグノーシス・ソフィアッ!』

 

「俺は手札よりクリボーのカードを捨てることで戦闘ダメージを0にする!」

 

 創星神 sophiaが繰り出してきた漆黒の破滅のエネルギーを手札から飛び出してきたクリボーが受け止める。

 クリボーは必死に鳴き声をあげながら創星神 sophiaの攻撃に立ち向かい、そのダメージを完全に防ぎきった。

 

『く、クリボーだと……? よもやそんなカードが……』

 

「どんなカードにも個性がある。デュエルモンスターズに完全にナンバーワンのカードなんて存在しない。確かにクリボーは攻撃力300の弱小モンスターだ。だが〝神〟の攻撃だって受け止められる立派な個性がある。

 個性を否定するということはそれらのカードごとの特色すら否定すること……。やっぱり俺はダークネスと交わることは出来なさそうだ」

 

『ヌゥゥ。我は、ターンを終了する……』

 

「俺のターン――――」

 

 これが宍戸丈にとってラストターンとなるだろう。デッキトップに手をかけた途端に響いてきた。耳ではなく魂に直接届いた。邪神の鼓動が……確かに、届いた。

 

「ドローッッ!!」

 

 もはやカードを確認するまでもなかった。わざわざ確認せずとも魂がそのカードの名を教えてくれていた。

 

「ハードアームドラゴン、このカードは手札よりレベル8以上のモンスター1体を墓地へ送り手札から特殊召喚できる。ハードアームドラゴンを特殊召喚!」

 

 

【ハードアームドラゴン】

地属性 ☆4 ドラゴン族

攻撃力1500

守備力800

このカードは手札のレベル8以上のモンスター1体を墓地へ送り、

手札から特殊召喚できる。

このカードを生け贄にして召喚に成功したレベル7以上のモンスターは、

カードの効果では破壊されない。

 

 

 いつもは召喚した最上級モンスターに破壊耐性を与えるために使用しているハードアームドラゴンだが、今回このモンスターを特殊召喚したのは生け贄のためではない。

 手札にあった〝レベル8以上のモンスター〟を墓地へ送るためだ。このキーカードを使うために。

 

「魔法カード発動、死者蘇生。墓地に眠る〝しもべ〟をフィールドに特殊召喚する」

 

『例えモンスターを蘇生させようと攻撃力3600の創星神 sophiaなどそうは――――』

 

「なにを勘違いしているんだ。俺が召喚するのはモンスターじゃない。〝神〟だ!」

 

『――――っ! 宍戸丈、貴様!』

 

「死者蘇生の魔力により地獄より生還せよ! 破壊神をも駆逐する恐怖の根源、我が絶対の力となりて、 我が領域に降臨せよ!  天地を揺るがす全能たる力によって、俺に勝利をもたらせ! 邪神ドレッド・ルート降臨ッッ!!」

 

 

【THE DEVILS DREAD-ROOT】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/4000

DEF/4000

Fear dominates the whole field.

Both attack and defense points of all the monsters will halve.

 

 

 丈の墓地から爆発したかのような轟音が鳴り響き、冥界の大邪神の力を受け継ぎし〝恐怖〟がフィールドに甦る。

 三邪神が一つ、邪神ドレッド・ルートが丈の下に降臨した。

 

「邪神ドレッド・ルートの特殊能力! 邪神ドレッド・ルート以外のカードの攻撃力・守備力は半分となる!」

 

 創星神 sophiaがドレッド・ルートの力を受け、その巨躯を縮ませていく。星のような威容を放っていた創星神 sophiaは山のようなサイズとなった。

 邪神ドレッド・ルートと創星神 sophia、二体の神が真正面から相対する。

 

「行けドレッド・ルート! 俺達の未来を切り開け!! フィアーズノックダウンッ!!」

 

 ドレッド・ルートの突きだした拳が創星神 sophiaの胴体を穿ち貫いた。

 創星神 sophiaは全身から眩い光条を撒き散らすと、天地がぶつかった様な音をあげながら爆発した。そして倒したのは創星神 sophiaだけではない。ダークネスのライフもまたドレッド・ルートの攻撃により0を刻んだ。

 

『――――認めよう。我の、敗北だ。だがゆめ忘れぬことだ。我を現世へ招きしは我に非ず。人々のもつ心の闇であるとな。人間の心に闇がある限り我は決して消えてなくなることはない。此度は防がれたが、また貴様たち人間が我を求める時が必ずくるだろう』

 

「……人間の心の闇がなくなることなんて……永久にないだろうさ。だけど何度も来るなら何度でも追い返すだけだ」

 

 心の闇は誰にでもある。大切なのは心の闇を否定することでも、消し去ることでもない。闇を受け入れ自分の一部とすることだ。誰にでも光と闇がある。ならば闇だけを追放する理由なんてない。

 光と闇、二つが備わってこその人間。光だけしかもたない存在も、闇しかもたない存在も人間ではないのだ。

 だからこれからも丈は人間として光と闇、両方と根気よく付き合っていく。

 

『では暫しの別れだ…………さらば……だ。……人間……よ』

 

 ダークネスが消え去ると同時に、風景が元の特待生寮の地下室へと戻る。

 ふらりとよろめきそうになった。さすがにかなり精神力を消耗してしまったが戻ってくる事が出来たようだ。

 丈はゆっくりとその瞳を閉じた。




 ダークネスのデッキ最終発表は『歴代主人公夢の共演&創星神 sophiaデッキ』でした。正直絶対に誰も分からないだろうと高を括っていたら、歴代主人公混合デッキの方を当ててしまった方が一人いました。予想外です。想定外です。さすがに102話時点で創星神 sophiaまで予想できた方はいませんでしたが。

 ちなみに気付いた人がいるかは分かりませんが、今回の宍戸丈VSダークネスは「闘いの儀」における遊戯VSアテムとは真逆の形で決着してます。


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第105話  渇いた叫び

「なるほど。ダークネス世界の侵食、とても信じ難いことですが、私自身が体験した現象を踏まえれば信じざるをえないでしょう」

 

 ダークネスとの戦いから三日。丈と亮は鮫島校長の下へ事件のあらましや経緯を報告しにきていた。

 吹雪と藤原はまだ保健室のベッドの上だ。別に命に別状があるわけでも、特に後遺症がどうこうということはないがあの二人の消耗が一番激しかったのである。

 それに藤原には藤原で考える時間が必要だろう。

 

「ところで藤原の処遇はどうなるんでしょう。……確かにあいつは今回こんな事件を引き起こしました。けどそれはダークネスが藤原の心を惑わしたのが一番の原因です」

 

「あいつに問題がなかったとは俺も言いません。しかし師範――――いえ校長。どうか寛大なご処置を」

 

 亮と二人、頭を下げる。鮫島校長はどうしたものかと頬を掻きながら、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

 

「処遇もなにも……ダークネスの世界と契約してはならないなんて我が校の校則にあるわけでもなければ法律で禁止されてるわけでもありませんからね。

 本人も反省しているようですし、今回は反省文50cmで大目に見ましょう。彼の才能ばかりを賛美して、その内面に目を向けなかった我々教師陣にも問題はあったでしょうし」

 

「!」

 

 つまり実質的無罪放免。反省文を50cm分も書くというのはしんどいが、逆に言えばそれだけでしかない。

 これで藤原もこれまで通りアカデミアで一緒にいることが出来る。最悪、ダークネス事件が終わったら藤原はそのまま学校を退学なんてことを想像していたので丈も胸をなでおろした。

 

「とはいえ特待生寮所属の貴方達の進退は私ではなく影丸理事長が握っているので、私の権限では藤原くんを退学にするなんて元々出来ませんよ。

 私の調査によるとダークネスの異変が起きたのはこのデュエル・アカデミア内部だけのようですし、このことは……オーナーである海馬社長とペガサス会長、そして私と貴方たちだけの秘密ですよ。絶対に他に漏らしてはいけません」

 

「分かりました」

 

 そもそも話したところで信じて貰えるわけもない。この十二次元宇宙の裏側に属するもう一つの十二次元宇宙、ダークネスの世界が現世の人間を取り込むために侵食してきたなどと。

 誰かに言ったら現実と空想をごっちゃんにしているアホのレッテルを張られるだけだろう。

 

「あと校長。もう一つ……特待生寮のことなんですけど、あそこは一度ダークネスの世界と繋がって『門』が空いた場所です。一応あそこにあったゲートはダークネスを追い払ったら塞がりましたけど」

 

「成程。万が一、また別の生徒がダークネスの世界へ連れて行かれるか、もしくは契約をしてしまうというのは大いにあり得ることですね。宜しい。特待生寮については私が影丸理事長とどうにか掛け合ってみます。

 短期的には暫く特待生寮は立ち入り禁止とします。貴方達は今後の事が決まるまでオベリスク・ブルー寮で生活をして下さい」

 

「はい」

 

 寮としてのグレードは特待生寮より下がるが一般のブルー寮だってかなりリッチなところだ。特に不満はない。

 しかしダークネスのせいで特待生寮が廃寮になってしまった場合、今後ずっとオベリスク・ブルー寮に住むことになるのだろうか。もしくは新たに特待生寮を建て直すのか……。

 たった四人の生徒のためだけのあれだけ豪華な特待生寮を建て直すメリットとデメリットを鑑みれば恐らく前者となるだろう。

 

(四人だけでの王侯貴族生活ともお別れか。残念だな、折角慣れて来たのに)

 

 慣れとは恐ろしいもので、初めは度肝を抜かれた特待生寮も今では当たり前の物として受け入れることができている。

 しかしそれを当たり前として受け入れてしまうと今後は特待生寮に来る前まで当たり前だったものを当たり前と感じられなくなるのが問題だ。

 人はなにかを得ることを望む心より、元からあるものを守る心の方が強いというが……その意味が実感できたような気がした。

 

「さて、と。ダークネスについてはもういいでしょう。実は私の用件とはダークネスのことだけではないのです。宍戸くん」

 

「なんでしょう?」

 

 鮫島校長の真面目な視線が丈を射抜いた。

 

「実はアメリカにあるI2社、ペガサス会長直々にアカデミアに連絡がありました。I2カップ優勝者でありアカデミア特待生である君をNDLへ迎え入れたい、と」

 

「な……なんですって!?」

 

 NDL――――ナショナル・デュエル・リーグ。アメリカに存在する世界最大規模にして最強クラスのデュエルプロリーグ。野球でいえばメジャーリーグのようなものだ。

 毎年世界各国から多くのデュエリストが集い凌ぎを削り合う。最近奇跡の復活を遂げたバンデット・キース、ハーピィ・レディ使いの孔雀舞といったプロリーグ発足前からのデュエリストたちの多くもそこに名を連ねている。

 そこに自分が入れるかもしれない、ということが信じられず丈は瞬きをしながら頬を抓る。

 ピリッとした痛みが頬に奔った。夢ではない。これは紛れもない現実だ。

 

「けどどうして俺を。……確かに俺は同年代のデュエリストの中では実績はある方です。それは分かります。けど俺はまだ高等部一年生です。こういうのは普通学校を卒業する三年生になってからじゃ――――」

 

「本来ならば、そうです。ですが宍戸くん、貴方はこんな言い方は癇に障るかもしれませんが特別な立ち位置にいます。

 元全日本チャンプや元全米チャンプまで出場するI2カップは全世界に報道されました。そこで若干十五歳で優勝し、そして大会後は復活したネオ・グールズをも倒してしまいました。

 そして今や全世界のデュエリストが貴方が三幻神と対となる三邪神の担い手であることを知っています。I2社としてもそれほどの知名度をもってしまった貴方を学生という立場のままにしておくのは危ないと判断したのでしょう。

 この決定にはアカデミアの理事長である影丸理事長の強い推薦があったともペガサス会長より聞き及んでいます」

 

「理事長が……?」

 

 自分の実力を評価してくれるのは素直に嬉しい。

 けれどこれからも四人一緒に学園生活を思っていた矢先に、自分がNDLにスカウトされたという現実が丈の頭を混乱させる。

 

「NDLがあるのは、アメリカです。幾らなんでもここからアメリカを往復することはできません。……もしこの件を引き受けたら、俺は自主退学ってことになるんでしょうか?」

 

「無論そのようなことはしません。アカデミアとしてもNDLにスカウトされるような生徒を簡単に手放したくはありませんからね。

 スカウトを受ける場合、貴方はアメリカ・アカデミアに長期留学という扱いになります。学生としての単位もプロデュエリストとしての成績である程度は賄えるので両立はそれほど難しいことではないでしょう。それに理事長から貴方のサポートにメイドの明弩さんがつくことになっています。

 学生とプロを両立しているデュエリストは他に幾人かいます。その方々を参考にするのもいいかもしれません」

 

「………」

 

「悪くない話だと思いますよ。しかし勿論決めるのは貴方です。なにも今すぐ決めろという話じゃありません。じっくりと考えて答えを出して下さい」

 

 それで話は終わった。丈は亮に適当に別れの挨拶をすると、逃げるようにその場を立ち去った。

 とにかく今は一人で考える時間が欲しかった。

 

 

 

 四方を海で囲まれたアカデミア島から見える大海原は中々に絶景だ。

 丈は一人岩盤に腰を掛けながら、適当に釣り糸を垂らす。釣りなど特別好きなわけでもやったことがあるわけでもないが、なにか考え事をするにも手持無沙汰だったので、その場に捨てられた釣竿を垂らしてみたのだ。

 捨てられていた釣竿なので餌もつけていない。さながら周の文王を釣り上げた太公望の気分だ。

 

「丈、こんなところにいたのか」

 

 亮がいつも通りクールな表情で丈の隣りにきた。

 

「それで、どうするつもりだ。あのことは」

 

「あぁ、うん。悩んでる」

 

 NDLといえば全デュエリストが一度は焦がれる場所だ。ペガサス会長のスカウトを受ければ丈はI2社というデュエルモンスターズ関連で最大とすらいっていい企業をスポンサーにすることが出来る。

 一人のデュエリストとしてこれほど魅力的な話はない。しかも学籍はアメリカ・アカデミアに長期留学扱いということになるので学校を辞めなくても済む。

 元々デュエル・アカデミアはプロデュエリストを排出するための学校。他にも目的はあるが一番はプロデュエリストに相応しいデュエリストの養成だ。だから他の学校と違い学生とプロを両立できる土壌は備わっているのだ。

 

「贅沢な悩みだとは我ながら思うんだけどさ。あるんだよ……色々と。このままアカデミアに残って亮たちと一緒に学園生活を楽しんで、それからみんな一緒にプロ入りしたいっていう思いと、NDLっていう大きな山に挑んでみたいって急かす気持ちがごっちゃんになってどうすればいいのか」

 

「……いや、前に特別講師にきた城之内さんも言っていたことだ。プロになる、という選択は謂わば自分の人生をチップにした一世一代の大博打のようなもの。

 例えお前がアカデミアに残ろうと、NDLに行くことを決めようと俺はお前の選択を尊重(リスペクト)する。学園に残るならまた一緒につるむだけだし、NDLに行くなら友の一足早い旅立ちを応援させて貰う」

 

「亮、お前」

 

 一見すると随分と友情に溢れた言葉を喋っている亮だが、幼馴染である丈は微かな唇や肩の震えを見逃しはしなかった。

 頭に浮かんだある仮説。それをそのまま口に出す。

 

「もしかして、羨ましがってるとか?」

 

 亮の体がいきなり地蔵のようにカチッと固まった。涼しそうな表情を表面上は浮かべているが唇は真一文字に閉じられ、瞳は大きく見開かれている。

 やはり図星だったらしい。

 

「フッ。丈、お前の言いたいことは分かった。つまり俺にデュエルを挑んでいると、そういう解釈でいいんだな?」

 

「なんでそうなる! だが、ああそうだ。今の態度で俺の腹も決まったよ」

 

 答えなんて決める必要なんてなかった。そもそも最初から答えは宍戸丈の心の中にずっとあったのだ。

 そしてその答えを漸く見つける事が出来た。

 

「俺は、プロデュエリストになる。それが俺の夢でアカデミアに入学した理由だった。そのプロになるチャンスがこうして巡って来たんだ。美味しい話は美味しいだけじゃない。苦いことだって必ずある。だけど――――」

 

 チャレンジするには必ず危険がある。雷に電気が帯びていると初めて証明した男は、人々に馬鹿だの命知らずだのと嘲られながらも自らの命を賭けて遂にその事実を証明したのだ。

 挑戦すれば必ず成功が得られる道理はない。失敗することの方が多いくらいだ。けれど失敗を恐れず困難に飛び込む勇気が人類の歴史を積み重ねてきた。

 その偉大なる先人たちと自分が同列であると憚りはしない。だが偉大なる先人に憧れる気持ちは丈の心に宿っている。

 

「ペガサス会長のスカウトを受けるよ。俺はプロになる」

 

 丈の答えを聞いた幼馴染である友人は「そうか」と満足そうに笑うと、

 

「俺も直ぐに行く。いや俺だけじゃない。吹雪や藤原も必ずそっちへ行く。だから今は先に行ってこい」

 

「ああ」

 

 自然と手を伸ばし握手をする。これは別れの挨拶であり、再会の約束であり、再戦の誓いでもある。

 またいつか。今度は学生同士ではなくプロデュエリスト同士で戦う時まで。

 

「話は聞かせて貰ったよ二人とも。水臭いじゃないか本当に!」

 

「ふ、吹雪! さっきはこっそり隠れていようって言ったのに……」

 

「吹雪! それに藤原!」

 

 完全にいつもの調子を取り戻した吹雪と、ダークネスの件があって少しだけ神妙にしている藤原が正反対の表情で駆け降りてきた。

 

「やっぱり友人の門出は祝わないといけないからね。こっそり保健室を抜け出してきたんだよ」

 

「…………ごめん」

 

 藤原が申し訳なさそうに頭を下げる。どうやら藤原の方は吹雪に連れられて強引に保健室脱出の共犯者にされてしまったらしい。

 だがそれにしても藤原も特に体に問題なさそうで良かった。

 

「吹雪、今頃保健室の先生が怒ってるかもしれんぞ」

 

「ノープロブレムだよ亮! 後で精一杯のスマイルで謝れば許してくれるよ」

 

「……まぁお前だから、そうなるだろうな」

 

 難しそうな顔で亮が同意する。そういえば保健体育の先生で保健室の主でもある先生は吹雪のファンクラブの会員だった。

 吹雪がスマイルを見せればイチコロだろう。それに保健室にいるのはあくまで念のためで体に特に異常があるわけでもない。

 

「それよりも、さ。丈はこれからプロになるから僕達と中々デュエルをするチャンスもなくなるだろう? その前にデュエルをしようじゃないか」

 

「デュエル?」

 

「ああ。僕と亮、藤原と丈。四人で丈の門出祝いバトルロワイアルデュエル。どう?」

 

「フッ。いいだろう、俺も先程のこいつの言動にカチンときたところでな。サイバー・エンド・ドラゴンの力、プロになる前に脳裏に刻ませておこうか」

 

「僕とオネストたちとの再出発、手伝ってくれるかい?」

 

「待て待て! それは実質三対一じゃないか!」

 

「問答無用だ! いくぞ、デュエルディスクを構えろ――――!」

 

「ええぃ! もう自棄だ!」

 

 そう口では言いながらもブラックデュエルディスクを起動させた丈の口元には笑みがあった。

 四人は自分が信頼する最高のデッキをデュエルディスクにセットすると同時に宣言する。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 そして宍戸丈がデュエル・アカデミアを去ってから二年の月日が流れる。

 アメリカにあるとある空港には星条旗のデザインのバンダナを巻いた金髪の男と、眼鏡をかけた同じく金髪の女性がある人物を待っていた。

 どちらの人物も非常に容姿は整っているが、男の方が猛禽類染みた野性味を感じさせるのに対し、女性の方はどことなく知性を思わせる容貌をしている。

 やがて二人のもとに待ち人がやってきた。

 

「あっ。キース……それにレベッカまで。お見送りありがとう」

 

 やってきた男は二人とは対照的に黒髪黒目の東洋人だった。黒い外套を羽織り、黒いアタッシュケースを手に持つ姿は見事なまでに黒一色だ。

 現在は意図的に人払いされているため周囲に他の人影はないが、もしもそれがなければちょっとした騒ぎになっていただろう。

 なんといっても三人が三人ともアメリカではかなりの有名人だ。一人は奇跡の復活を遂げて再び全米オープンを制した現全米チャンプで、一人は史上最年少の全米チャンプで、一人は日本人初の全米チャンプだ。

 三人が目立つ外見をしていることもあり、どうしても人目につき易い。

 

「ふん。俺も今日ここで試合があるからな。ついでだよついで」

 

「まったく素直じゃないんだからキースは。同じチームメイトじゃないの」

 

「五月蠅ぇよ餓鬼。武藤遊戯にフラれた後はこいつに乗り換えるつもりか?」

 

「……へぇ。面白いこと言うじゃない。言っとくけど私まだアンタがブルーアイズのことで私を騙したの完全に許したわけじゃないんだからね」

 

「あァ?」

 

「おいおい。いきなり空港で一触即発の状態に進展しないでくれると嬉しいんだけど……。ほら俺も今日はフライトの時間もあるし」

 

「チッ。仕方ねえ。今日はこのへんにしておいてやるよ。――――つぅか丈、なんで今更アカデミアに戻るんだ? 今のテメエは全米チャンプにしてNDLのトッププロなんだぜ」

 

「全米チャンプは去年の話だ。今年はお前に負けたじゃないか」

 

「去年は俺に勝った癖によく言うぜ」

 

「けど本当にいいの? プロデュエリストとしての活動を一旦停止してまでアカデミアに戻るなんて」

 

 レベッカの問いかけに、青年は薄く笑いながら頷く。

 

「元々ハイスクール最後の数か月はアカデミア本校で過ごす予定だったからな。……ただ少し予定を早めることになったけど」

 

 青年は懐からある人物からの便りを取り出す。宛名はアカデミア本校の校長である鮫島となっている。

 そこに記されているのはセブンスターズと呼ばれる集団がアカデミアに封印された三幻神に匹敵するだけの力をもったカード、三幻魔の封印をとくために七星門の鍵を狙っているという内容が記載されていた。

 青年が担う三枚の特別なカードが『三幻魔』という超常のカードの存在を感じてか強く反応していた。

 

「それじゃ行ってくる」

 

 そして青年、宍戸丈はキースとレベッカに別れを告げるとI2社の用意してくれた飛行機に乗り込む。

 彼が離れて二年の月日が経過したデュエル・アカデミア。そこで何が起こっているか、どんな事件が待っているか丈はまだ知らない。




 取り敢えずはI2カップ終了の時と同じように一区切りです。明日、この作品の詳しい設定資料を公開しようと思います。
 ともあれ次章では原作主人公の十代も出せそうです。


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設定資料集

【主要キャラクター】

 

 

 

■宍戸丈

特技:弁護、謎のカリスマ

好きなもの:デュエルモンスターズ、友人との団欒

嫌いなもの:ショタコン

趣味:洋画鑑賞、パン

デッキタイプ:冥界軸最上級多用(混沌軸)、暗黒界(少し魔轟神)、HERO(V・M・H混合)

天敵:ショタコン、サクリファイス

『経歴』

 本作品の主人公。I2カップでの戦いぶりから〝魔王〟という二つ名をつけられ、カイザー亮、キング吹雪、天帝藤原と共にアカデミアの〝四天王〟に数えられる。その活躍により最も新しい伝説となりつつある。

 カイザーこと丸藤亮とは小学生からの幼馴染。お互い近くにまともに戦えるデュエリストがいなかったため、デュエルをして直ぐに意気投合。中学、高校、そして恐らくは生涯の腐れ縁となる。

 I2カップでは元全日本チャンプ、三千年前の神官の精霊(ブラック・マジシャン・ガール)、元全米チャンプなど錚々たる面子を下して決勝へ進出。親友でありライバルである亮を倒し見事優勝する。

 カオス・ソルジャー―開闢の使者―はそういった戦いを勝ち抜いた末に手に入れたカードであり思い入れは深い。丈曰く「魂のカード」。ちなみに相棒は神獣王バルバロスでマスコットはクリボー及びレベル・スティーラー。

 I2カップ終了後のネオ・グールズとの戦いでは武藤遊戯を苦しめたブラック・マジシャン使いパンドラと激闘を繰り広げた末に撃破。最後のキースとのデュエルでは真の黒幕であるバクラに苦しめられながらも、三邪神の存在を全肯定し受け入れ『居場所』となることで三邪神を担うことに成功。ただしこの際、バクラに魂の一部を喰われたために前世の記憶と魂を消失する。だが前世がなくなったせいで寧ろ迷いや葛藤が消え歯止めが効かなくなりより遊戯王らしい人間となった。ぶっちゃけ前世の魂なんて無い方が強い。

 高等部入学後は新たに特待生となった藤原と共に学園生活を謳歌し、藤原やダークネス事件を亮と共に解決に導く。そこで第四期のラスボスを第一期が始まってすらいないのに倒すという超絶フライイングをやらかしてしまった。そのため藤原も吹雪もダークネスの世界へ行くことはなかった。

 ダークネス異変終了後、ペガサスの誘いでI2社をスポンサーにアメリカのプロリーグであるNDLに入った。本人がパンを始めとした洋食マニアの上に洋画マニアの洋物かぶれなので、日本のリーグではなくアメリカのリーグに入ったのはある意味必然かもしれない。

 NDL入り後は連戦連勝を重ねつつ、プロ入り二年目(高校二年時)の全米オープンで去年の全米チャンプであるキースを倒し優勝。全米チャンプとなる。ただし翌年の全米オープンでは逆にキースに負かされて全米チャンプの座をキースに奪還される。

 その他にも数多くの名だたるデュエル大会で優勝。また団体戦の大会ではレベッカやキースと全米チャンプチームを組んで優勝を飾る。

 彼が本校に帰還するのは、セブンスターズの襲来を鮫島校長が察知してアメリカにいる丈に連絡をとってからになるので、十代たちが入学して暫くは本校にはいない。

 元々高等部最後の年はプロではなくアカデミアの学生として過ごすつもりだったが、鮫島校長の頼みを受け、予定を少し切り上げて日本に帰国する。

『家庭環境』

 元ホスト崩れの父親と神経質な母親の間に生まれる。ただし両親は既に離婚積み。父親の方は蒸発して居場所も掴めず、母親の方は子供を自分を彩るアクセサリーだと思っている節があり、そのため丈の側は両親に良い感情を抱いていない。

 入寮以来一度たりとも自宅に帰っておらず、連絡も必要最小限しかとっていない。

一応は自分を生んでくれた人間として最低限の敬意を払い、義理でプロ入り後は年俸の一部を仕送りしている。

『使用デッキ』

 主人公でありながら三つのデッキを使い分けるが、これは読者の意見を聞きつつバランスをとった結果。

 HEROデッキは主にアニメ版十代の使っていないモンスターカード群で構成されており十代との差別化を図っている。プリズマーやスパークマンなど一部例外あり。HEROデッキとしては主要カードである超融合とアナザー・ネオスが原作の諸事情もあって入っていないので全体的に決定力に欠けている。

 ただし属性HEROやV・HEROやM・HEROを駆使した臨機応変な戦術がとれることは他のデッキにはない強み。

 暗黒界デッキは夢もロマンもないガチデッキ。少しだけ魔轟神が入っているが精々レイヴンが二枚、三枚とクルスが一枚程度で暗黒魔轟神にデッキ名を変更するほどではない。

 時と場合によってスキドレ、ウイルス各種、ハンデスなんでもござれと入る極悪仕様。余りにもガチ過ぎるので相性の悪いデッキ相手じゃないと戦わせて貰えないと言う悲劇のデッキでもある。

 最後に一番最初から使っている冥界軸最上級多用(混沌軸)。コンセプトは『時代遅れの古いやり方で、新しい戦術とカードを駆逐する』ためのデッキ。別名、懐古厨の意地デッキ。使う時はリリースやアドバンス召喚という用語は封印して、大きな声で『生け贄』と連呼しましょう。

 通常、冥界軸最上級多用といえば闇属性軸か主流なのだがI2カップ以後は光属性軸と混沌のギミックも加えた混沌軸という訳のわからない構成となっている。場合によっては三邪神フル投入のおまけつき。手札事故の確率三割増しといえば良く分かるだろう。ただし丈にも主人公ばりの引きの強さがあるので事故などなく平然と回している。

 最初の頃はよくどうしてバルバロスなどを始めとした物凄い高価なレアカードを主人公が手に入れることが出来たのかというツッコミが来たが、これらのカードはトレードで入手した一部を除き全てカードショップで購入したパックで当てたもの。

 このようなレアカードを当てることが出来たのも丈が三邪神に選ばれしデュエリストなのが確定していた未来だったのが原因。

 邪神とセットで運用することを想定され製作された従属神は勿論、三邪神を操るに最も相応しいデッキを構築するためのカードが自然と丈の元に集まった。ペガサスの言葉を借りればデュエリストがカードを選んだのではなく、カードがデュエリストを選んだ一例である。

 冥界軸最上級多用には三邪神やカオス・ソルジャーを始めとした超絶レアカードが多く入っているため、デッキを丸ごと売り払えばそれだけで一財産築けるが、本人に自分のカードを売る気はない。

 現実で三つのデッキで戦ったら一番強いのは間違いなく〝暗黒界〟だが設定上、一番強いのは冥界軸最上級多用の方である。

 余談だが冥界軸最上級多用を構築する前は剣闘獣デッキを使っていたのだが、冥界軸最上級多用デッキの完成及び剣闘獣ベストロウリィ制限化に伴い使用することはなくなった。本編でも一度も使用されていない。

『詳細』

 散々と魔王扱いされているが本質的にはお人好しであり優しい人物。相手がどんな悪人だろうと先ず美点を見つけようとするタイプ。悪徳より美徳を探すのが円滑な対人関係を作るコツとは本人の弁。どんな相手にもやり直しのチャンスが与えられるべきという甘い考え方も持っている。

 性格の根幹となったのは〝どれほど救いようのない人間にも救いの手を差し伸べられる人間〟と〝どんな存在もありのままに受け入れることができる人間〟、そして〝社会から拒絶された異端者や敵対者にとって最後の居場所となれる人間〟の三つ。

 大邪神ゾークの魂を三分割した存在である三邪神を担うことができたのも、創造主にまで誕生を否定された三邪神の全て受け入れ居場所となったから。ただしこれは本作のテーマの一つでもある『本当の強さは優しさ』ということを現す事例でもある。…… 最初はもっと普通のキャラを想定していたのに、三邪神を担えるような人間をイメージしていたら徐々に設定がぶっ飛んでいったというのはここだけの秘密。 

 特技に「弁護」とあるのは上述の性格から。他人の悪徳より美徳を多く見出そうとするので、真面目な議論だと大抵は弁護側に回ることが多い。この性格が幸いしキース、パンドラなどのデュエリストが表舞台に復帰する切欠を作っている。デュエリスト以外だと弁護士が天職かもしれない。

 そんな性格なので基本的にあらゆる考え方に対して一応の理解と肯定を示すが、そういった性格のため自分には厳しくても他人に厳しさを求めることは少ない。常に全力投球のカイザーとは別の意味で教育者には向かない性格。

 ただしトラウマであるショタコンやサクリファイスを前にするか、限界までガチガチにロックされると弾けて魔王モードになる。そうなった時は対戦相手の精神はズタズタに引き裂かれること間違いなし。本編ではマナが犠牲となった。

 趣味はパンと洋画鑑賞。パンといってもパン作りが趣味なのではなく、パンを食べるのが好きなだけ。一人で米を炊けないのにパンを焼く事は出来る立派とはいえない日本人。朝は必ずパンを食べるというポリシーをもつ。……ごはんがデフォのレッド寮は丈にとっては地獄の環境。

 他に洋画鑑賞を趣味としているが、日本の映画もそれなりに見ている。日本映画で一番のお気に入りは椿三十郎。わりと時代劇が好みらしい。

 主人公だけあって高い実力と相応の引きの強さをもつ。土壇場での引きは亮にも決して劣らない。ついでにビルの四階から飛び降りても足が痺れるだけで済むなど、身体能力もデュエリストになっている。

 特待生のノルマで数多くの多種多様なデッキと対戦経験をもつため苦手なデッキはないが、ロック系のデッキは本人の性格的には苦手。もっとも最終的にはどんなロックも突破に成功しており苦手なだけで別に〝弱点〟というわけではない。

 ルックスは父親の血を継いだためか、亮や吹雪と一緒にいて違和感がないほどには整っている。遊戯王主人公らしい奇抜な髪形はしておらず普通に黒髪黒目。少しだけ髪が長いがロン毛という程ではない。

 魔王という異名の影響なのか彼のファンにはドMや不良、悪魔信者などの色物が多い。レディースの頭に告白されたこともあるが丁寧にお断わりしている。ちなみに一応普通のファンもそれなりにいる。

 良くも悪くも目立つのが色物というだけである。不良の間に人望があるのは中学時代に近所の不良グループや暴走族をデュエルで鎮圧したのが原因。所謂、若気の至り。また生け贄召喚を多用する昔気質のデュエルスタイルから熟年層のファンからも熱い支持を受けている。

 バクラとの戦いで精霊と心通わせることが出来るようになり、精霊を見ることも出来るようになった。

 ちなみに彼についている精霊はカオス・ソルジャー -開闢の使者-、レベル・スティーラー、クリボー、バルバロス、暗黒界の龍神グラファ、アブソルートZero、魔轟神クルス、そして三邪神と錚々たる面子が揃っている。第三期になるとグラファを従えているということで暗黒界の皆さんに崇められるようになるかもしれない。

 

 

■丸藤亮

特技:デュエル、学業全般

好きなもの:サイバー・ドラゴン、デュエルモンスターズ

嫌いなもの:ショタコン

趣味:サイバー・ドラゴン、修練

デッキタイプ:サイバー流

天敵:鮫島校長

『経歴』

 カイザー亮という渾名でお馴染みの本作品のライバルキャラ――――を通り越して第二の主人公だった人。デュエル回数と出番は主人公の丈に次いで多く、一部では主人公よりも活躍することがあったという凄い御仁。

 そしてまだGXが始まっていないのにライディングデュエル・アクセラレーションしたり四階から飛び降りてへっちゃらだったり、牛尾さんのバイクを盗んで走りだしたり、スカル・ライダーを使ったことがあるからバイクの運転が出来ると豪語したりなど一番やりたい放題していた人。本人によれば雲の上でデュエルしたこともあるらしい。

 高等部一年までの流れは主人公である丈とほぼ同一なので省略。丈がNDL入りした後、自身はアカデミアに残るも二年半ばにアメリカ・アカデミアへ留学し数多くの経験を積む。そして三年生進級と同時に本校へ戻った為、十代が入学する頃には本校にはいる。

『使用デッキ』

 サイバー流正当後継者だけあって使用するのはサイバー流デッキ。ただし今のところサイバー流裏デッキの方は入手していない。

 最初からいきなりサイバー・エンド・ドラゴンのような超大型モンスターを召喚してワンショットキルを狙うか、サイバー・ドラゴンのような半上級モンスターやサイコ・ショッカーなどの上級モンスターで場を維持しつつ巨大な一撃を狙うのが主なデッキの動き。

 ただしサイバー・エンド・ドラゴンの一撃を乗り切ったとしても、キメラテック・オーバー・ドラゴンやサイバー・エルタニンが出てくる恐れがあり油断は禁物。機械族中心のデッキでありながらキメラテック・フォートレス・ドラゴンがあるためアンチ機械族デッキとしても強い。

 デッキの座右の銘は一撃必殺。

『家庭環境』

 弟である翔がいることは確定しているものの両親については不明。ただし幼い頃よりサイバー流道場で寝泊まりをしていたので鮫島校長が親代わり同然でもある。弟のことを大切に思う一方で「優しすぎてデュエリストには向かない」と評しており、弟がアカデミアに入ることには良く思ってない。

 これは弟が嫌いだからではなく、弟の将来を思っての判断。

 ちなみに親代わりである鮫島校長があろうことはピケクラを使ったせいで、亮の中の師範像が崩壊。一時期軽い欝状態になりヘルカイザー化しそうになったものの友人一同の献身的な支えもあり回復した。

『詳細』

 実力はトップクラス。というよりただでさえ原作だけでも凄まじい強さを誇っていたと言うのに、丈がサイコ・ショッカーやサイバー・エルタニンをあげたり、猪爪誠との戦いでサイコ流デッキまでギミックに組み込んだせいで更に手がつけられなくなった。無論それだけではなくI2カップやネオ・グールズの激戦を経験したことでタクティクスも練磨され、その実力はもはや師匠であるマスター鮫島どころか原作のヘルカイザーすら超えてしまっている。サイバー流裏デッキという強化フラグが残っているあたり成長の余地はまだまだある。

 また多くのギミックを自らのデッキに混ぜているが本人曰く「サイバー・ドラゴン一筋のサイバー流バカ」とのことなので、授業での強制以外で他のデッキを使うことはない。

 そんなカイザーだが恋愛方面に関しては恐ろしく鈍感。丈に「亮に恋愛相談を持ち掛けるならチンパンジーにした方がまし」という有り難くない評価を受けた。

 デュエルに対してはリスペクトデュエルが祟って常に全力投球というスタイルなので、相手が幼稚園児だろうと容赦なく攻撃する。そのため丈とは別の意味で教育者には向かない。

 だがデュエルに対するひたむきに一途な姿がネオ・グールズの「人形」などの心を動かすこともある。本作品の最強キャラ候補。地味に主人公よりも勝率が高く、負けたのはI2カップ決勝戦の一度きりである。

 バクラに取り込まれた影響で精霊と心通わせることが可能となり、精霊を見ることが出来るようになった。ついている精霊は安定のサイバー・ドラゴン三体。

 

 

■天上院吹雪

特技:モテる、デュエル

好きなもの:妹、友人たち、気の強い女性

嫌いなもの:暑苦しいムンムンとした空間、男だけの環境、努力を見せること

趣味:ナンパ、デート、妹の婿探し

デッキタイプ:真紅眼の黒竜(純ドラゴン)

天敵:強気な明日香

『経歴』

 丈や亮とはアカデミア中等部からの合流。二人とは少し遅れた登場のため総デュエル数は二人より少ないが、それでも第三の主人公といえる活躍をしている。

 高等部一年では新たに特待生になった藤原と積極的に交流し逸早く親友となった。丈のNDL入り後は三年時にアメリカ・アカデミアへ留学。そこで出会ったレジー・マッケンジーに熱を入れたため留学期間を延ばしに延ばしているため当初の帰国予定になっても戻ってこない。

『使用デッキ』

 「真紅眼の黒竜」とその派生モンスターを中心とした『純ドラゴン族デッキ』を使用。フィールドにドラゴン族モンスターを展開しつつ、一族の結束で攻撃力を底上げしてビートダウンするのが基本的な動き。

 I2カップでオリジナルパックを入手してからは「カオスドラゴン」に近いデッキ構成となった。

 他に漫画版で鳥獣族モンスターを使用していた繋がりでBFを使おうとしたこともある。

『家庭環境』

 両親についての描写は亮と同じく存在しないが、果てしなくシスコンであることは明らか。

 妹の明日香のことをアスリン呼ばわりし、日々明日香の婿候補探しに目を光らせている。妹に恋愛感情を抱くよりは健全だが、それでも愛情の方向が果てしなく間違っているが……本人は気にしていない。ちなみに現在婿候補の優良株は丈、亮、藤原の三人。

『詳細』

 空気を読まず自重しない行動と言動は目立つが、これは実は空気を読めないのではなく敢えて読んでいないだけ。亮とは異なり恋愛を含めた感情の機微には敏感。

 なによりも異性にモテる。女生徒のみならず女性教諭までファンクラブに入ることからもモテモテっぷりが分かるというもの。所謂モテ夫くんなのだが、まったく嫌味に感じないのは彼の人望によるものだろう。

 丈たちと同じ特待生として中等部から高等部までを過ごし、普段は優雅でアイドルのような振る舞いをしているが、実際のところ彼の才能は三人どころか妹の明日香にも劣っており凡人でしかない。なのに彼が三人と同じ場所へ立てているのは、誰にも見えない場所で血の滲むような地味な練習を重ねた結果である。

 努力を見せることを嫌うのは吹雪曰く「それが偶像(アイドル)だから」とのこと。自身が凡人であることを自覚しているため伝説の三人の中では誰よりも城之内克也を尊敬している。

 付き合いの長い丈や亮はそれとなく吹雪が影で努力を重ねていることに気付いているが、それ以外の目は妹の明日香も含めて完全に誤魔化しており周囲には〝天才〟として認知されている。

 性格はアニメ版をベースに若干漫画版が混ざっているが、基本的に友情にも熱い好青年。不幸な時でも笑える強さをもっている。

 亮と同じく精霊が見えるようになっており、彼についている精霊は真紅眼の黒竜と黒竜の雛。

 

 

■藤原優介

特技:デュエルモンスターズ、勧誘

好きなもの:友人、デュエルモンスターズの精霊、死んでしまった家族

嫌いなもの:誰かに忘れられてしまうこと

趣味:友人と遊ぶこと

デッキタイプ:代行儀式天使、クリアーモンスター(ダークネス時)

天敵:忘却、死

『経歴』

 オーストラリア・チャンピオンシップで三年連続優勝をした天才デュエリスト。ジュニア・チャンピオンシップではないところがミソ。過去に両親を事故で失っている。

 幼い頃から精霊であるオネストを心通わせており、そのためデュエリストとしての実力も抜きん出ていた。

 そして精霊を見る力が影丸理事長の目に留まり特待生扱いとしてスカウトされる。

 同じように精霊を見ることが出来る丈たちと友好をはぐくむが、いずれ自分が誰からも忘れ去られることに恐怖しダークネスの世界への道を開いてしまう。だが吹雪の説得もあり現世に戻ってきた。

 丈のNDL入り後、三年時に吹雪と交代する形でアメリカ・アカデミアに留学する……はずだったのだが、吹雪が留学期間を残したため吹雪が帰国しないまま留学することとなった。そのため十代たちが入学して暫くはアカデミアにいるが途中からいなくなる。

 一人だけ恥ずかしい異名がないことを根に持った丈により〝天帝〟という渾名を頂戴してしまった。

『使用デッキ』

 通常時はオネストを最大限に活用するため光属性天使族モンスターを中心とした「代行儀式天使」を使う。神の居城―ヴァルハラのギミックも混ざっているので「終世」のような動きをすることも可能。

 オネストの存在故にサイバー流の一撃必殺のカウンターになりうる強力なデッキ。

 ダークネス時は打って変わって属性の存在しないクリアーモンスターを使用。クリアーワールドのネガティブエフェクトを属性のないクリアーモンスターで受け流しつつ、相手にネガティブエフェクトを強いていくロック系デッキを使いこなす。

『家庭環境』

 幼い頃に両親が事故で死んでしまったため、暫くはオネストと二人で生活するが最終的に両親の弁護士をしていた人物が遠縁の親戚がいることを発見しその親戚に引き取られる。

 引き取られた先の家というのはTFを齧った人なら誰もが知る藤原雪乃の家である。作中で雪乃のことを従兄妹としているが、これは言い難いので便宜上そう言っただけで正しい意味で従兄妹ではない。あくまで雪乃は遠縁の親戚の一人である。

 俳優一家の雪乃の家に馴染むことはできず、中学生の時に雪乃パパの伝手でオーストラリアへ留学。そこで三年間を過ごす。とはいえ丈の家のように雪乃の両親は藤原を迫害していたというわけではなく、あくまで藤原の性格的に俳優一家に馴染むことが出来なかっただけである。

 雪乃との仲はそれなりに良好だが、最近はやたらとアダルトな口調で話すようになったことに頭を悩ませている。

『詳細』

 高等部編のキーキャラクターにして主要メンバー最後の一人。ただ高等部からの合流なので主要メンバーの中では一番登場した時期が遅く出番も少ない。原作でも第四期からの登場なので、ある意味では原作リスペクトともいえるのかも。

 原作では亮や吹雪に並ぶ天才デュエリストにして三人を超える才能の持ち主だった。原作で実質二対一で二十代とヨハンとデュエルし互角以上に戦ったことからもその強さの程が伺える。

 この作品でもその設定は受け継いでおり、数多くの困難を乗り越え三邪神とのデュエルにより大きく成長した丈たち三人とも互角の実力を既に備えていた。もしもI2カップや三邪神との戦いを経験しなければ確実に三人の実力は藤原に劣っていただろう。また単純な〝才能〟に限って言えば主要キャラでも一番上。

 幼いころの両親の死の影響で「大切な人に自分を忘れられる事」に強い恐怖感をもっている。そのせいで学園生活を楽しめば楽しむほど逆に恐怖感を増大させていた。もっとも最終的には吹雪とのデュエルを通して改心する。

 ついている精霊はオネストで藤原にとって自分の家族そのもの。決して元キングの前世ではない。

 ダークネス状態になると一人称が俺になり使用デッキもクリアーモンスターを中心としたものに変わる。クリアーデッキより普段のデッキより強いとは分かっていても言っちゃいけないこと。

 

 

 

【初代のキャラクター】

 

 

■武藤遊戯

 原作『遊戯王』の主人公にしてキング・オブ・デュエリストの称号をもつ〝史上最強のデュエリスト〟。

 使用するデッキは冥界へ旅立ったアテムのデッキと自分自身で構築したデッキの二つをもっている。分けて使う時もあるが、一番強いのは二つのデッキを組み合わせた時。

 十代、遊星、遊馬と恋愛ごとがさっぱりな主人公が多い中、王様は兎も角として彼の方は年相応にそちらにも興味があった模様。

 現在は三幻神やブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールと共に世界を旅している。

 

 

■アテム

 本作には未登場。原作遊戯王主人公、武藤遊戯のもう一つの人格にして三千年前のファラオの魂。

 闘いの儀で表の遊戯に敗北したことで冥界へ旅立つ。よって現世には存在せず、彼の足跡だけが残るのみである。

 その引きの強さはもはや常に好きなカードをドロー出来るというレベルに達していた。

 

 

■海馬瀬人

 キング・オブ・デュエリスト武藤遊戯の永遠のライバル。そして冥界に旅立ったファラオの魂とは三千年前からの因縁がある。

 直接の登場は少なかったもののI2カップのスポンサー、城之内を特別講師としてアカデミアに送るなど影でストーリーに関わっていた。

 伝説のレアカード、ブルーアイズの所有者でもある。そしてブルーアイズと青眼の乙女の婿。カイバーマン? 知らんなぁ。

 使用するのは当然『青眼の白龍』。最近コンマイを買収でもしたのか、やたらと豪華な内容のブルーアイズのストラクが発売したせいで超絶パワーアップした。

 ハイテンションで高笑いしながらブルーアイズを召喚してデュエルする所に目がいきがちだが、ソリッドビジョンシステムやデュエルディスクなど時代を超え5D'sやZEXALにも継がれていく技術の開発者でもある。

 またメインであった軍需産業を突然に凍結させ、方針をゲーム産業に180°転換させながらも大成功を収め、アカデミアの学校経営や海馬ランドの経営まで成功させ、ジェット機の運転や銃の扱いもでき、更にリアルファイトも最強クラスなど実は某蟹並み、或いはそれ以上に多才な人物。

 

 

■城之内克也

 武藤遊戯の生涯の友と評される伝説の一人。上記の二人とはスタートラインから違う凡骨であるが、その精神力と諦めの悪さで遂に伝説まで上り詰めた。

 ちなみに現在は三年間の浪人の末に大学生をしている。明るい性格からは想像がつきにくいが、父親は仕事もせずに朝から酒を飲んでいる駄目人間。高校の頃は杏子とは違い許可をとって新聞配達をしながら学費を稼ぎ、借金も少しずつ返済していく苦学生だった。現在は大会で獲得した賞金や偶に招かれる講演会でのギャラで賄い、妹に仕送りまでしているという実はかなり出来た人間。

 NDLのプロデュエリストとなった舞とは遠距離恋愛中。妹との仲は良好だが父親とは縁が切れた状態。

 本作では同じ伝説の三人のデュエリストでは唯一丈たちと直接関わり、新旧レッドアイズ使い対決をするなど優遇されている。

 使用するデッキは『ギャンブル&戦士・獣戦士族&真紅眼の黒竜』の混合デッキ。

 

 

■武藤双六

 通称〝Gちゃん〟。初代遊戯王における真ヒロインである。

 原作出身の遊戯王の大人キャラにしては例外的に人格者な大人。その容姿や使用していたデッキから三千年前ファラオに仕えていたシモン・ムーランの生まれ変わりだと思われる。

 元々は天才的なギャンブラーとして世界中を暴れまわっていた。古代エジプトの王の墓にある究極の闇のゲームをクリアして、千年パズルを手に入れたのも彼である。もっとも現在は現役を退き、亀のゲーム屋の店長として風来坊の孫を温かく見守っている。ちなみに今でも孫に三幻神のカードをくれとせがんでいるらしい。

 Gちゃんを語る上で欠かせないのは、遊戯王屈指のヒロイン属性である。

 話は変わるが有名な「マリオ」シリーズでは一部例外はあるものの、基本的にピーチ姫が誘拐され、それをマリオが助けに行くというシナリオで構成されている。

 そのピーチ姫の役割がまんまGちゃんにも当て嵌まるのだ。

 DEATH-T、ペガサス島と原作遊戯王が本格的にデュエルをメインにする路線へと変更する転換期にあった二大イベントで、立て続けに敵にさらわれたり、敵に襲われたりするGちゃん。更にはKCカップでも敵にさらわれるGちゃん。

 Gちゃんのヒロインっぷりは原作が終了しようと衰えず、世代を超えて遊戯王GXでゲスト出演した際も人質とされてしまった。

 さらには遊戯王十周年を記念して製作された映画『超融合!時空を越えた絆~』ではパラドックスの歴史改変に巻き込まれGちゃんが死亡。Gちゃぁぁぁぁん!と泣き叫ぶ初代主人公AIBOは嫌でも目に留まっただろう。

 ついでに余談だが映画にはGXの真ヒロインと呼ばれる〝ユベル〟と5D'sの真ヒロインと呼ばれる〝スターダスト・ドラゴン〟の二体も登場している。

 もしかしたら夢の共演したのは主人公だけではなかったのかもしれない。

 時代をも超えてヒロイン属性を発揮するGちゃんこそ遊戯王の真のヒロインといって過言ではないだろう。杏子? 知らんな~。

 

 

■ペガサス・J・クロフォード

 デュエルモンスターズの生みの親。インダストリアル・イリュージョン社のTOPを長年に渡り務めていたが、現在は一線を退き名誉会長となっている。

 名誉会長となってからは自分の養子に会社を切り盛りさせているらしい。ただ元々ペガサスはデザイナーなので名誉会長となってからも主にカードのデザインに関わることはある。

 三邪神を担うことの出来るデュエリストを見出す為I2カップを開催するが、優勝者である丈に邪神イレイザーを託す寸前でネオ・グールズのモヒカンに邪神を強奪される。

 彼が千年眼の所有者でまだ改心してなかった頃に起こした出来事が巡り巡って三邪神強奪を引き起こしたあたり因果である。

 ネオ・グールズ編後は三邪神を丈に託し自身はアメリカへ戻った。一年後、丈をNDLにスカウトする。

 

 

■孔雀舞

 直接の登場こそないが歴戦のハーピィ・レディ使いとして存在が仄めかされたり、城之内の口から名前が出たりした。

 アメリカのNDLでトッププロとして活動。大学生の城之内とは遠距離恋愛中の模様。

 

 

■インセクター羽蛾

 みんな大好きバーサーカー・ソウルを喰らった人として遊戯王を知らない人にも名を知られているある意味人気キャラ。通称HA☆GAさん。エクゾディアに対して最も有効な戦術を生み出した人としても有名。

 他にゴキボールという超絶レアカードを使い王様の精神に大ダメージを与えるなど心理フェイズでも中々の強さをもつ。相手のデッキに自分のカードを入れるという戦術を最初に生み出す他のも彼。HA☆GAさんの生み出したこの戦術はGXのラスボスであった斎王を始めとして多くのデュエリストに受け継がれている。

 ラスボスにまでリスペクトされるHA☆GAさんは正に敵役の鏡というべきだろう。

 元チャンプという経歴と汚い手段を使うという点で下記のキースに似た設定をもっているのだが、何故かHA☆GAさんと違って小物臭が少ない。一体何故だろうか。

 その漂う噛ませ臭と小物臭に人は彼を敬意をもってHA☆GAさんと呼ぶ。

 

 

■マナ

 元祖アイドルカードことブラック・マジシャン・ガールの前世。デュエルモンスターズの精霊なのだが、マナという前世の名前を使い一般人に変装してI2カップに紛れ込んでいた。

 魔法族の里と王宮のお触れのロックで丈を苦しめたが魔王モードに入った丈のグラファ三連攻撃により爆☆殺された。丈が魔王という異名になる原因を作った御仁。

 

 

■レベッカ・ホプキンス

 最年少で全米チャンプとなったこともある天才少女……だったのだが今では成長して幼女ではない。

 使用デッキはドラゴン族とキュアバーンでアニメの頃から現実的な戦術をとるキャラクターとしてOCGファンから高い評価を受けていた。

 どうもあれから遊戯にフラれたらしく、そのことを丈に言われて怒った。そして最終的に初恋の人のエースモンスターで止めを刺されるなどわりと散々な目にあった。

 地味に丈がフラグをたてた一人なのだが……その後、国家という壁により完全放置を喰らった。今後どうなるかはフラグクラッシュをするのが恒例の遊戯王なので良く分からない。

 

 

■牛尾さん

 唯一初代から5D'sまで皆勤の凄い御仁。学生時代の通称は鬼風紀の牛尾。王様に罰ゲームを喰らった記念すべき第一号でもある。原作ファンならボディーガード料20万円と言えば分かるだろう。

 レベルの高いリアルファイターである城之内と本田を一方的にボコボコにしたことからリアルファイト最強キャラは誰かという話題では確実に名前が上がる。

 ちなみに亮が強奪したバイクの持ち主。I2カップにも地味に参加していたが蟹パパに敗れた。

 

 

■ダイナソー竜崎

 出番は皆無だったが一応I2カップに参加していたデュエリストの一人。吹雪に敗北し初戦敗退。

 城之内の真紅眼の黒竜の元々の所有者でもある。

 

 

■ゴースト骨塚

 中の人がカイザーの弟と同じ人。アンデット族デッキを使うデュエリストで王国編ではキースの子分のようなポジションにいた。

 バトルシティトーナメントでバクラに敗北し闇に囚われていたが、バクラがマリクに敗北したことで生還する。一応あれからプロになったらしい。

 

 

■本田くん

 プロフェッサー・コブラの若かりし頃……ではなく遊戯や城之内の同級生。

 しかし城之内と違ってデュエルもせず基本的に観客しているのが仕事なので背景と呼ばれたりする。

 何故かI2カップに参加していたが初戦でマナに敗北した。

 

 

■御伽

 全く売れなかったゲームとして通の間では有名なダンション・ダイス・モンスターズの生みの親。

 ルックスが良いため上の本田と比較されて綺麗な背景と呼ばれたりする。ドーマ編ではみんなの足として活躍していた。料理もできるなど意外と多才。

 

 

■トム

 ペガサスの「トムの勝ちデース」で有名な元初心者デュエリスト。

 あれからデュエルに熱中し今ではプロデュエリストになったのだが、復活したキースに八つ当たりも含めて何も出来ずに先攻ワンターンオーバーキルされた。合掌。

 

 

■キース・ハワード

 I2カップ編からネオ・グールズ編までを通してのラスボスというべき存在。

 盗賊(バンデット)の異名をとるデュエルモンスターズ黎明期に名を馳せたデュエリスト。そのためベテランデュエリストの間での知名度は伝説の三人に匹敵する。

 嘗てペガサスの千年眼の力で初心者デュエリスト、トムに大舞台で完敗を喫したことで落ちぶれ、それはペガサスが遊戯に敗れグールズが消滅してからも変わることはなかった。

 麻薬に溺れ、ロシアンルーレットと地下デュエルで生計をたてて荒んだ心に目をつけたバクラにより、嘗てのグールズを再編しネオ・グールズを結成。ペガサスがデザインしたまま封印した三邪神を世に解き放ち復讐しようとした。

 最終的に丈とのデュエルを通しデュエリストとしての初心を思い出し再起。一年後ニューヨーク・ドームで再びペガサスに挑む。

 忘れられがちだが使用するデッキは『機械族』だけではなく、あらゆる属性・種族のカードを常に持ち歩いており他のデッキを使うこともある。ただやはり本人にとって一番馴染があるのは機械族デッキ。

 

 

■パンドラ

 ブラック・マジシャン使いのデュエリストにして過去のグールズではレアハンターでナンバーツー(ナンバーワンはリシド、マリクはボスなのでランク外)の実力者だった。

 遊戯(闇)に敗北した後、人生をやり直す為恋人であったカトリーヌに会いに行くがそこで現実に打ちのめされ絶望。再結成したネオ・グールズに舞い戻ってしまう。

 丈とのデュエルで希望を取戻し、ゼロからの再出発の決意をもった。現在はブラック・マジシャン使いのデュエリストとしてプロリーグで活躍している。

 余談だが彼は原作において遊戯が召喚するまでブラック・マジシャン・ガールの存在を知らずにいたのだが、アニメだと後のノア編でエロペンギンが「ブラック・マジシャンの無いデッキにいるブラック・マジシャン・ガールなど、福神漬けの付いていないカレー同然!」なる発言をしたため、この二つを両立するとパンドラはブラック・マジシャン使いでありながらBMGの存在を知らなかった残念な人になってしまう。

 そのため原作リスペクトも含めてエロペンギンのBMGに関する発言は全てなかったことになりましたとさ。

 使用するのはやはり『ブラック・マジシャン』を中心としたデッキだが、マナが魔法使い族のみでモンスターを固めているのに対し、パンドラの方は闇属性で固めている。

 

 

■人形

 本名は不明。親殺しの罪により自ら心の牢獄に引きこもっていたため、グールズ時代はマリクに自分の意のままに動かせる人形として使われていた。

 ネオ・グールズ結成後も自分の意志などなく惰性のまま引き込まれた。しかし亮にデュエリストとしての闘争心があることを指摘され、自分の殻から出る決意を固めた。

 一連の事件が終わってからデュエルも出来るパントマイマーとしてサーカス団に入団したらしい。

 

 

■レアハンター

 エクゾディア使いのレアハンター。公式ガイドブックにも名前がないので本名は不明。

 伝説のデュエリスト、城之内克也に勝ったという戦績が独り歩きをしてネオ・グールズ幹部の地位についちゃったちゃっかり者。その戦績を見込まれてネオ・グールズよりコピーではない本物のエクゾディアのカードを与えられている。

 原作ではエクゾディア全パーツ三積みという色んな意味で凄いデッキを使っていたが、誰もそのことについてルール違反だと指摘していなかったことから当時はエクゾディアは制限カードではなかったのだろう。もっとも現在ではしっかり制限カードなので三積みはしていない。

 ネオ・グールズ解散後、グールズを再々結成してボスになる。組織の名前をニュー・ネオ・グールズにするかネオ・ネオ・グールズにするか新生ネオ・グールズにするかで悩んでいるらしい。

 

 

■光の仮面&闇の仮面

 ちょっとだけ登場したタッグデュエルを得意とするレアハンター。コンビニ帰りの田中先生に瞬殺された。

 登場した原作出身のグールズでデュエル描写がまるでなかったという悲劇のコンビ。

 

 

■バクラ

 東映版アニメでラスボスを務め、原作とアニメDMでも実質的にラスボスを務めた遊戯王では由緒正しいラスボス。話の都合上負け星の方が多いが、それでも遊戯や海馬に劣らぬ実力の持ち主である。記憶編では城之内を文字通り瞬殺したこともある。

 本作でネオ・グールズの黒幕だったバクラはパラサイトマインドで分割された魂の欠片であり、千年リングに宿っていたバクラの魂は既に消滅している。

 現世に復活するためキースを利用し、大邪神ゾークの力をもつ三邪神を創造。それを核にして一時は復活するものの、丈に三邪神の制御が奪われたことにより肉体が崩壊。丈の魂の一部を食い何処かへ逃走した。

 もっとも丈たちとのデュエルで使用したデッキはキースのものであり、しかも戦いの途中で退場してしまったため丈たちはバクラ本来のデッキと戦ってはいない。彼もこのまま泣き寝入りするほど弱い精神はしていないので、再びなにか事件を引き起こすのは間違いないだろう。

 

 

 

【GXのキャラクター】

 

 

■遊城十代

 ちょろっとだけ登場したGXの主人公。作品がまるでGXに入らないせいで全然出番がこない。

 思えば彼という主人公が魅力的だったことでGXの人気が出始め、原作終了と混沌全盛期のダブルパンチで衰退すると思われていた遊戯王OCGを生き長らえさせ、アニメも5D'sやZEXALに続いていったと考えると彼が遊戯王の歴史において果たした役割は中々大きいだろう。

 第四期では十代から二十代になったりする。

 

 

■万丈目準

 十代と違ってデュエル・アカデミア中等部に通っていたお陰で出番があった一人。

 使用デッキは地獄と名のつくモンスターを中心とした地獄デッキ。切り札はダーク・アームド・ドラゴン。

 第一期から登場&攻撃力3000のドラゴン族モンスターを使うということから遊戯にとっての海馬、遊星にとってのジャック、遊馬にとってのカイトに当たるライバルキャラだと思われる。しかし他のライバルキャラと違い攻撃力0の通常モンスターであるおジャマイエローをエースと呼ぶなど異色の存在。

 恰好付けて先輩風を吹かしていた丈から卒業模範デュエルにて「光と闇の竜」を渡される。原作でも数少ない精霊の見えるデュエリストの一人。GXはまだしも5D's主人公の遊星が精霊を見る力がないことを鑑みると結構凄い。

 中一で原作開始時点よりも弱かった事もあり、丈に1ポイントのダメージを与えることもできずに敗北した。

 

 

■天上院明日香

 万丈目と同じく中等部にも所属していたため出番があった人。そして兄の珍行動に日々頭を悩ませている苦労人でもある。

 GXのヒロインなのだが……主要キャラの誰よりも男前な御仁。この男前のところは5D'sのアキさんにもしっかりと受け継がれている。

 万丈目と同様、卒業模範デュエルでは対戦相手の吹雪に1ポイントのダメージも与えることができなかった。

 使用するデッキはサイバー・エンジェル……なのだがOCG化に恵まれない不遇な人。

 

 

■丸藤翔

 ほんのちょっとだけ出番のあったカイザーの弟。使用デッキはビークロイド。優秀な下級モンスターに支えられたその安定性、そしてパワー・ボンドによる爆発力はサイバー流にも遅れをとらないものがある。

 兄である亮に優しすぎてデュエルで冷酷に徹しきれず、調子に乗り易いところがあるためデュエリストには向かないという評価を受けている。そのこともあり優秀な兄にコンプレックスを抱いている。

 

 

■早乙女レイ

 GXのロリヒロイン枠。TF3では絶望と希望の両方をプレイヤーに与えた恋する乙女。

 NTRの絶望を味わいながらも、私は歩き続けた。それは…………絶望(十代エンド)をしながらも希望(ブルーレイ)を失っていなかったからだ!

 まだ小学生の頃の丈と亮に助けられる形で巡り合い、少しの間だが二人からデュエルの手解きを受ける。ちなみにその際にキメラテック・オーバー・ドラゴンのルォクレンダァを喰らったりした。

 無謀にも朴念仁レベルにおいて十代を超えるカイザーに対して恋愛感情を抱いているが……彼女の想いが実ることは、あるのだろうか?

 

 

■猪爪誠

 サイバー流とほぼ同時期に創設されたデュエル流派、サイコ流の免許皆伝。

 主にサイバー・ドラゴンとサイコ・ショッカーの人気の差により邪道流派と蔑まれてきたサイコ流復興のため、サイバー流正当後継者である丸藤亮を倒すべくI2カップに参戦。

 しかし亮とのデュエルを通じてサイコ流という既存の枠組みに拘り続けることをやめ、再戦と友情の証としてサイコ流の看板でもあるサイコ・ロードのカードを亮に託した。どこぞのトーテム・ポールとは違いサイコ・ロードはそれなりに亮に召喚されている。

 I2カップ終了後はサイバー流や他の流派の力も取り入れた新たなサイコ流を旗揚げした。 

 

 

■鮫島校長

 デュエル・アカデミア校長、サイバー流師範、ピケクラ愛好会会長など数多くの肩書をもつ人物。亮の師匠でもある。デュエルモンスターズ黎明期の頃にマスターの異名で活躍したデュエリストでありバンデット・キースとも一度戦っている。

 基本的にデュエルのことには目がないミーハーだが、一応校長としての節度はある。

 ピケクラに並々ならぬ感情を抱くピケクラマニアでもあり愛好会の現会長をも務めているが、弟子である亮はそれを知らずヘルカイザー化の原因になりそうだった。

 サイバー流デッキを使う時は兎も角、ピケクラデッキを使う際は墓地を「人生の墓場」と言ったりピケクラのことを一体ではなく一人という呼称を使ったりとふざけた言動が目立つが、実力は腐っておらず亮を後一歩のところまで追い詰めた。

 

 

■クロノス・デ・メディチ

 デュエル・アカデミアの実技最高責任者。一応オベリスク・ブルーの寮長でもある。

 本人によればイタリアの名家メディチ家の出身であるらしい。使用デッキは「古代の機械」を中心とした「暗黒の中世デッキ」。

 実技最高責任者だけあってデュエルの実力はかなり高く並みのプロよりは確実に強い。原作でも「特殊召喚できない」という制約をもつ「古代の機械巨人」を七通りもの手段で召喚しており、OCGファンにも高い評価を受けている。

 海馬の父や城之内の父を始め基本的にロクデナシばかりの遊戯王の大人としてはトップクラスの人気をもつ。

 

 

■影丸理事長

 遊戯王GX第一期のラスボス。藤原を特待生としてアカデミアに引き入れた張本人。

 丈の持つ三邪神を使い色々とよからぬことを企むが、三邪神が自分に制御できず三幻魔復活の大いなる障害になると感じ丈を早期にプロ入りさせるよう仕向けた。

 

 

■大徳寺先生

 本名はアムナエル。鮫島理事長の友人であり高名な錬金術師でもある。

 そのこともあってオシリス・レッド寮と兼任する形で特待生寮の寮長を引き受けている。使用するデッキは除外。

 

 

■ミスターT

 他に真実を語る者、トゥルーマンなどの名前をもつダークネスの尖兵。容姿が闇堕ちした磯野に見えるので闇磯野と一部では呼ばれている。

 ダークネスさえあれば幾らでも増殖でき、しかも毎回デッキが違い、倒しても次が出てくるという便利な悪役。

 丈に闇魔ウイルスでデッキ完全死滅を喰らったり、丈とカイザーにワンターン100キルを喰らったりトラウマなデュエルばかりをやらされている苦労人。

 アニメ本編では未来融合からの龍の鏡など実戦的コンボを多用することからOCGファンに高い評価を得ている。

 親玉であるダークネスがやたらと地味なデュエルをしたことも手伝って、親玉より強いんじゃないかという疑惑もあるが……たぶんダークネスの方が強いのだろう。

 

 

■ダークネス

 数多くの闇磯野を率いるGX第四期のラスボス。宇宙の裏側のダークネスという世界そのものであり、世界に闇がある限り決して死ぬことはないというとんでも存在。

 十二次元宇宙の神であり、もはや悪魔や死神の枠を超えた自然現象そのものとすらいえる。

 しかし記念すべきGXのラスボスにしては使用するデッキがロックバーンだったり、ラスボスの切り札モンスターがやけに防御向きの能力だったり、自分のカードのピーキングなどユベルにツッコまれるほどセコイ手を使ったり、威厳やカリスマがなかったり、たった二話でやられたり、部下の闇磯野や藤原の方が強そうだったり、それほど十代を追い詰めていなかったり、GX第一期でカイザーが攻撃力36900だしているのに攻撃力4000程度でいい気になっていたりなどインパクトに激しく欠けている。

 本作品ではまだGX本編が始まってすらいないのにフライングして登場。流石にデッキが原作のままだと、ダークネス編で三邪神をフィールドに三体揃えるなんてことをしたキースと比べて著しくインパクトに欠けてしまうのでデッキを完全変更。

 ダークネスという世界に時間の概念などなく、裏側世界には表側の世界のカードが全てあるから全ての次元と全ての時間軸のカードが使えるという無茶苦茶設定でシンクロ・エクシーズをばんばん使用して丈を苦しめた。

 使用デッキは武藤遊戯、遊城十代、不動遊星、九十九遊馬、遊戯王歴代主人公のデッキを結集し更に創星神まで加えた超ロマンデッキ。三幻神、ネオスペーシアン、シグナーの竜、ナンバーズのような特殊なカードを使用しないのがせめてもの良心。

 普通の人間ならとても回すことなど出来ない歴代主人公混合デッキをガン回しさせるラスボスに相応強い運命力をもつ。これはダークネスの使用するデッキもまたダークネスそのものであり、ダークネスからしたら自分の手足を動かすようなものというとんでもない理由。

 他に創星神 sophiaのリセット効果による弊害を防ぐために予め封印の黄金櫃でドローソースを除外しておくなどテクニカルなプレイングも見せる。

 

 

 

【5D'sのキャラクター】

 

 

■不動博士

 通称は蟹パパ。遊戯王の父親にしてはまともな部類。

 海馬コーポレーションに所属する科学者でモーメントの開発やシンクロ召喚にも大きく関わっている。I2カップではチューナーモンスターの試験運用のため参加。シンクロモンスターが一枚も入っていないジャンクデッキで牛尾さんを倒すことに成功する。

 だが流石にシンクロなしはきつかったようで二回戦で吹雪に敗れた。

 

 

■十六夜英雄

 5D'sのヒロインことアキさんの父親。未来のことはさておき現代では本土にあるデュエル・アカデミア男子校に通うデュエリストでI2カップにも参加していた。

 未来の娘と同じく植物族デッキを使用する。ただしシンクロモンスターは当然の如く投入されていない。

 ゴースト骨塚を破り二回戦まで駒を進めるが亮に敗北した。

 

 

 

【オリジナルキャラクター】

 

 

■田中ハル

 史上最低最悪のプロデュエリストや暴帝という異名をもつ元プロのアカデミア中等部教師。高等部の教諭になる実力はあるが、コンビニマニアのため中等部を選んだ。

 プロデュエリスト時代は当初は高潔で楽しみながらデュエルをするデュエリストだったが観客やファンのプレッシャーでモラルもマナーも守らず相手を徹底的に叩き潰す暴帝へと変化する。

 暴帝となることで一時は現状に満足するが、徐々に合理性を追求すれば勝てるデュエルに情熱を失っていく。しかし合理性を突き詰めるだけでは勝てない非常識なデュエリストである海馬瀬人に完敗したことで情熱を取り戻す。

 アカデミアの教師になったのは合理性以外の説明できない『強さ』を若い可能性の中から見つける為。

 使用するのはOCG的な意味で時代の〝最強〟デッキ。プロ時代は〝混沌帝龍-終焉の使者 -〟と〝八汰烏〟をメインに据えた八汰ロックデッキを使っていた。

 プロ時代にそのデッキで余りにも酷いデュエルを行ったせいもあって混沌帝龍-終焉の使者 -と八汰烏が禁止カードとなってからは帝コントロールを使用。シンクロが出ればBFを、エクシーズが出れば甲虫装機を、そしてそのうち征竜を使いだす。

 

 

■モヒカン

 ヒャッハーが口癖のモヒカン頭のネオ・グールズ構成員。

 亮にオーバーキルされてバイクから投げ捨てられても少し鼻血を出しただけでピンピンしているなど生命力は高い。

 先攻1Killされたので使用デッキは不明。

 

 

■小山内子月

 変態のショタコン。ショタコンという名の変態。変態という名のショタコン。

 丈のトラウマで、使用デッキは「捕食デッキ」ならぬサクリファイスデッキ。取り敢えずペガサスに謝れと言いたい。

 名前をひらがなにして再変換すると「幼い子好き」になる。

 

 

■十和野鞭地

 デュエル・アカデミア中等部時代は永久の四番手。そして高等部からは永久の五番手。

 名前をひらがなにして再変換すると「永久のベンチ」になる。……生まれてくる年が一つ違えば首席になれた可哀想なキャラ。

 ちなみに使用するデッキはサイエンカタパだった。

 

 

■室地戦人

 オベリスク・ブルー特待生寮所属のスーパー執事。お願いする前にお願いに応えてくれる凄い執事さん。

 名前をひらがなとカタカナにすると執事バトラーになる。名前にも執事魂が現れた執事の権化。

 

 

■明弩瑠璃

 オベリスク・ブルー特待生寮所属のスーパーメイド長。理事長の趣味なのか某PAD長を思わせる銀髪である。

 もっとも優秀なのは見た目だけでなくスペックも高い。室地戦人と異なりファーストネームが普通だがファミリーネームにメイド魂が現れている。

 影丸理事長の命令で付き人としてプロデュエリストとなった丈を監視する任務についた。

 

 

■デュパン十五世

 カードは盗んだ、という人。デュエルモンスターズ専門の泥棒。カードの力を現実にできるサイコデュエリストでもある。ただしその力は5D'sのおじさんには劣る。

 影丸理事長の手引きで三邪神を盗み出そうとするが、召喚したところ神の裁きを受け比喩ではなく食い殺されそうになった。

 ぎりぎりで丈に救われるが心理的にかなりのショックを受け再起不能。

 

 

■藤原雪乃

 正確にはこの作品のオリキャラではなくTFのキャラクターなのだが他に書く所もないのでここに記述する。

 別名〝有名な方の藤原〟。TFがカードゲームも出来るギャルゲーであることを如実に示しているキャラの一人。やたらとエロい口調が特徴的。好物は肉まん。胸のサイズも肉まん。

 使用デッキはデミスドーザー及び丈がトラウマのサクリファイス。どうやらまだリチュアは手に入れていない模様。

 苗字が同じだからという理由で藤原優介の従兄妹という設定が与えられた。 藤原にエロい口調について相談された丈に本人の知らぬ間に厨二病扱いされた悲劇の人物。

 ちなみに丈とゆきのんがデュエルをした場合、トラウマのサクリファイスに丈がプッツンして暴走するだろう。

 

 

 

 

【キーカード】

 

 

『三邪神』

 ペガサス・J・クロフォードが三幻神の抑止力、神を殺す神として創造した邪神のカード。

 邪神アバター、邪神ドレッド・ルート、邪神イレイザーの三種類がある。中でも邪神アバターはラーと同じく最上位のランクを与えており、同格であるラーを除いた神の効果すら全く受け付けない。

 潜在的な危険性と凶悪性に関しては三幻神をも超えるカードであり、これを恐れたペガサスによりデザインの段階で封印された。

 ただしそれは表向きの事情で、ペガサスは自分の意志で邪神をデザインしたと思っているが、本当は千年眼に残っていた「闇の大神官(ゾーク・ネクロファデス)」の邪念が生み出された三幻神のカードを操るであろうファラオの魂に対抗するため、ファラオと戦うことになるであろうバクラの魂に「大邪神ゾーク・ネクロファデス」の力をカードという形で与えようとしたから。もっともその目論見はペガサスがデザイン段階で邪神を封印したことでふいとなってしまう。

 しかし三千年の因縁に決着がつき、ファラオの魂もゾークも滅んだあとも生き延びたバクラの魂の欠片により封印が解き放たれ、創造前に創造主により誕生を否定された三邪神は世に出ることとなる。

 三幻神と対となる神だけあってその力は通常のデュエルモンスターズの常識に当て嵌まらない強さをもつ。

 その強さを示す一つの事例として三邪神にはモンスター効果と罠カードの効果を受けず、魔法効果は1ターンのみしか受け付けないという強力な耐性をもっているが、恐ろしいことにカードテキストには耐性に関することは一切記述されていない。つまりどういうことかというと三邪神は効果だから耐性をもっているわけではなく神だから耐性をもっているということ。具体的にいえば俺ルールの塊。

 一枚でゲームバランスを根底から崩壊しかねないほどの強さをもち、下手な精神のデュエリストなら一度の攻撃で再起不能なダメージを与えてしまうようなカードのため担い手である丈は滅多に邪神を使おうとはしない。

 OCG版とは異なり死者蘇生などにより墓地からの特殊召喚も可能。だが三幻神と同じく墓地から特殊召喚された邪神は1ターンで墓地に戻る。だがこの特性を逆に利用し邪神イレイザーを敢えて墓地へ送り、蘇生カードをノーコストの最終戦争として利用する活用法もある。

 ただし一方でOCG版ではなく原作効果による弊害もあり、三幻神と同じ神属性・幻神獣族が与えられたため「終焉の焔」など相性の良いサポートカードの使用が不可能になってしまった。

 三幻神と異なり選ばれないデュエリストが使おうと裁きを下すことはないが、精神を乗っ取り自分のものにしようとするので寧ろ三幻神より危険である。

 最終的に宍戸丈が存在を全肯定し、存在を受け入れたことにより三邪神は丈のことを担い手として認めた。

 丈が所有者となってからは丈以外の選ばれないデュエリストが使用した時に極悪な神の裁きを下すようになった。これは三邪神なりの信頼の現れのようなもの。

 丈によれば三邪神を担うコツは「真心」らしい。ちなみにオネスト曰く丈の手にある三邪神は「家の中で転寝する子供のように安らいでいる」とのこと。

 ちなみにカードテキストは全て「英語」であり邪神アバターにはラーと同じく召喚するとテキストが浮かび上がってくる仕掛けとなっている。

 

『邪神アバター』

 ランクにおいてラーの翼神竜と同じ最上位に君臨する邪神。他の邪神は同じ〝神〟の効果は受けるのだが、邪神アバターとラーの翼神竜は下位ランクの〝神〟の効果も全く受け付けない。

 モンスター効果・魔法・罠に対する凄まじい耐性と常にフィールドのモンスターの攻撃力を1上回るという特殊能力から全邪神の中で最も〝無敵〟という称号が相応しい邪神。倒すには〝痛み分け〟などのような特殊なカードを使うか、同じランクであるラーの翼神竜を用いるか、下位の神のカードに〝神の進化〟でランクを上げてから倒すくらいしかない。

 ただし唯一の欠点として〝フィールドのモンスターの攻撃力を常に1上回る〟という効果のため、フィールドにモンスターがいない場合は攻撃力が1となること。他に攻撃力より守備力が高いモンスターが守備表示でいる時、単体で戦闘破壊することが出来ない。攻撃したモンスターが〝千年の盾〟などの場合は反射ダメージでそのままライフを削り取られる危険性もある。

 その他、自分フィールドにこのカードしかモンスターがいない場合はどうしても相手のライフを削りきる決定力に欠けてしまう。無敵ではあるが最強ではないと呼ばれる所以。

 

 

『邪神ドレッド・ルート』

 オベリスクに対応する邪神。このカード以外のあらゆるモンスターの攻撃力と守備力を半減させる特殊能力をもつ。

 三邪神の中では唯一攻撃力が?ではなく4000という数値が設定されている。フィールドのモンスターの有無などに拘わらず高い攻撃力を安定して持っているのは他の邪神にはない強み。

 4000という攻撃力と半減能力により戦闘破壊するには攻撃力8000のモンスターで攻撃するしかない。もっともパワーボンドからのサイバー・エンド・ドラゴンのような超火力を生み出せるサイバー流のデッキでもない限り8000の攻撃力を叩きだすことは非常に難しい。またその半減能力の永続効果により並大抵の攻撃力アップカードでは逆に攻撃力が下がるという悪循環を生んでしまう。

 邪神アバターほど〝無敵〟ではないが戦闘においては無類の強さをもち〝最強〟の邪神と呼ばれる。

 

 

『邪神イレイザー』

 オシリスの天空竜に対応する邪神。相手フィールドのモンスターの数×1000ポイントの攻撃力になる特殊能力と、フィールドから墓地へ行った時にフィールドのカードを全て破壊するリセット効果をもつ。

 モンスターが一体だけで魔法・罠カードもなければイレイザーの攻撃力はたったの1000ポイントになるので、他の邪神とは異なり戦闘破壊は容易。ただしOCG版と異なりリセット効果のトリガーが〝破壊〟ではなく〝墓地へ送られた時〟なので死者蘇生などの蘇生カードを利用することでノーリスク最終戦争として利用できる。フィールドにカードが並びやすいタッグデュエルや多対一の変則マッチでは非常に大きな存在感を放つ。

 彼の有名な〝ドジリス〟に対応した邪神だけあってその扱いは不遇の一言。ペガサスから丈に手渡される寸前でモヒカンに強奪されたのに始まり、そのリセット効果を逆に利用され他の邪神を巻き込んで死亡、邪神で唯一持ち主である丈に召喚して貰えないなど色々と悲惨。

 

 

『三幻神』

 ペガサスがファラオの墓にあった石版を元にデザインした三枚の神のカード、オシリスの天空竜、オベリスクの巨神兵、ラーの翼神竜のこと。

 三千年前は選ばれたファラオのみが操ることが出来る最上位の精霊であり、カードになってもそれは変わらず選ばれたデュエリストのみが操ることを許される究極のレアカードだった。もし相応しくないデュエリストが神を召喚した場合、そのデュエリストには神の裁きが下り最悪死に至る。

 紆余曲折あり現在ではファラオの魂をその身に宿していた決闘王〝武藤遊戯〟が三枚全て所有している。

 カードテキストはオベリスクの巨神兵とオシリスの天空竜が英語。ラーのみが通常は何も書いておらず、フィールドに召喚すると古代神官文字が浮かび上がってくる仕掛けとなっている。これはペガサスに古代神官文字を解読することができず、石版にある文字をそのまま書き写したため。そのため古代神官文字を読めない限りラーを使役することは不可能。召喚するとテキストが浮かび上がるトリックは邪神アバターにも引き継がれている。

 

 

『カオス・ソルジャー -開闢の使者-』

 OCGでも悪名高き最凶禁止カードの一角、混沌帝龍と対となるカオスモンスター。カオス・ソルジャーのリメイクカードでもある。

 余りの強さと性能から青眼の白龍と同じく四枚で開発がストップしたという逸話をもつ。

 I2カップで丈が優勝賞品として手に入れた。多くの困難と死闘を乗り越えて手に入れたカードだけあって丈はこのカードに深い思い入れをもっており『魂のカード』と呼んでいる。I2カップ以降、使用デッキに拘わらずこのカードが必ず投入していることからも思い入れの深さが伺い知れるだろう。

 

 

『クリボー』

 初代DMにおいて遊戯が愛用していたマスコットモンスターにして、丈のデッキにも一枚は入っているマスコットモンスター。手札誘発という特性上、丈の最後の防衛線として何度となく(ライフ)を救ってきた。

 社長に毎度の如く雑魚モンスター呼ばわりされ、創造主であるペガサスにも『眼中にありまセーン』とか言われてしまう可哀想なカードでもある。

 ちなみに丈がクリボーを愛用するのはマスコットとして以外に、バトル・フェーダーや速攻のかかしだと亮のサイバー・エンド・ドラゴンの貫通ダメージによるワンショットキルを防ぐことができないからというシビアな理由がある。

 

 

『サイバー・ドラゴン』

 亮の魂のカード。サイバー流の看板モンスターでもある。亮のこのモンスターに対する愛着は相当のもので、召喚しないデュエルはないというほど毎度の如く召喚しまくっている。

 サイバー・ドラゴンそのものを召喚しない時でもサイバー・ドラゴンの派生モンスターは必ず召喚しており、また鮫島校長から他のデッキを使ってデュエルして欲しいという以来を受けた時は『サイバー流以外のデッキを使う気はない』とこれを拒絶している。

 言うなれば社長にとってのブルーアイズのようなものである。

 

 

『オネスト』

 みんなのトラウマ、光属性を超絶強化した救世主、ガチムチ天使。

 藤原の精霊で幼い頃に両親を失った藤原と常に共にあり続けた。現実世界で実体化することが出来るなどデュエルモンスターズの精霊の中でも強い力をもつ。

 中の人は未来の元キングと同じだが別に元キングの前世というわけではない。

 

 

『真紅眼の黒竜』

 吹雪のエースモンスターにして魂のカード。プレミア価格で数十万とブルーアイズほどでないにしても相当に高価なカードなのだが、吹雪はこれを三枚デッキに投入している。

 ブルーアイズが勝利を齎す竜とされるのに対して、こちらは可能性を齎す竜とも呼ばれている。その看板に偽りはなく派生モンスターの数ならブルーアイズをも上回り、特にレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンはドラゴン族デッキであれば必須級の超レアカード。

 余談だがよく吹雪は初手、真紅眼の黒竜からの黒炎弾二連発のようなことをかなりの頻度でしでかすので先攻ワンキルした回数は四人の中でもトップ。

 

 

『プラネットシリーズ』

 カードデザイナーのフェニックス氏が生み出した惑星の名を冠したカード群。其々世界に一枚ずつしか存在しない。全部で〝9枚〟存在しており、現在誰がどのカードを所有しているかは不明。

 ただし原作GX本編開始時点で丈はThe tripping MERCURY、The grand JUPITER、The big SATURN、The tyrant NEPTUNE、The suppression PLUTEの五枚を所有。これは丈がデュエリストとしてのコレクター魂と、自分の冥界軸最上級多用デッキに入れる為、あちこちのプラネットシリーズが優勝賞品となる大会に出たから。

 ちなみに「The big SATURN」のカードは修学旅行中に出た大会でやたらとMeを連呼するアメリカ・アカデミア生を倒して手に入れた模様。

 そして漫画版GXでプラネットの頂点に君臨していたはずの「The supremacy SUN」だが何故かこのカードのみ他のプラネットと違い量産されており、丈はこのカードを三枚も所有している。これがなにを意味するのか、どうしてThe SUNがプラネットシリーズにカウントされていないかは不明。

 ちなみに冥王星は惑星ではないがこのカードが生み出された時は惑星扱いだった。

 

 

『創星神 sophia』

 儀式、融合、シンクロ、エクシーズを除外して初めて特殊召喚できる〝神〟の名をもつカード。

 その大がかりな召喚条件に比例して互いのフィールド・手札・墓地のカードを全て除外するという強烈なリセット効果をもつ。

 デュエル・ターミナルにおいて全てをリセットするために動き出した神であり、ダークネスの歴代主人公混合デッキの真の切り札。

 作中では歴代主人公のエースモンスターであるカオス・ソルジャー、フレイム・ウィングマン、ジャンク・ウォリアー、ガガガガンマンを除外して特殊召喚された。

 

 

『宝札シリーズ』

 デュエルのプロットを書く際に一番のネックとなるのが、なんであろう手札である。劇的な逆転劇をするのも、難しいコンボを成立させるのも手札がなければ始まらない。

 しかしデュエルが進めば当然手札がなくなっていく。そんな時に救いの手を差し伸べてくれるのが宝札シリーズである。互いの手札が六枚になるようドローをする原作効果の天よりの宝札を始め、宝札シリーズには強力なドローソースが揃っているのでどうしようもない時はこれを使えば手札を仕切り直しの状態までもっていくことが出来る。

 もっとも余り使用し過ぎるとどうせ宝札くるだろ、と思われてしまうので多用厳禁。ダークネスは〝天よりの宝札〟を回収して使い回すという一番やっちゃいけない戦術を使っていた。

 

 

『強欲な壺&天使の施し』

 GX時代は合法だったドローカード。強欲な壺は汎用性の高い手札増強、天使の施しは手札消費0で手札交換+墓地肥やしが出来るので宝札シリーズほどでないにしても執筆者に優しいカードといえる。

 メタネタ的にはデュエルのプロットをたてていて墓地に特定のモンスターを送りたいときや手札の枚数が足らなくなったときに使う。

 

 

『ガード・ブロック』

 困った時のガード・ブロック。執筆者御用達の防御カード。デッキに一枚ガード・ブロック

 効果はダメージを0にしてカードを一枚ドローというOCG的にガチとまではいえないカードだが、こういったssではダメージ調整が出来てしかも手札消費がなしで済むという素晴らしく執筆に優しいカードである。

 

 

『メタモルポット』

 困った時の汎用ドローソース。制限カードでありながら互いにカードを五枚させるという執筆の為に存在してくれているようなカード。

 吹雪のような純ドラゴン族デッキのような例外を除き全員のデッキに一枚は入っている。

 

 

 

 

【用語一覧】

 

 

『ブラックデュエルディスク』

 カード・プロフェッサー頂点の証。キースが所有していたが現在ではキースを倒した丈が所有している。全米オープンで負けた際にキースに返還しようとしたが受け取らなかった。

 丈はデュエル・アカデミアやプロデュエリストとしての活動中もこれを使ってデュエルをしている。不正防止機能付きで頑丈さも普通のデュエルディスク以上という優れもの。闇のゲームで実体化したモンスターの攻撃だろうと、銃弾の雨だろうとたぶん防ぎきれる。

 

 

『サイドデッキ』

 マッチ戦が全く行われないこの世界においてサイドデッキの存在意義は無いに等しい。

 そのためサイドデッキはマッチ戦でデュエルの合間にデッキのカードの入れ替えるカードというより単なる予備カードの集まりに近い。

 

 

『サイバー流』

 サイバー・ドラゴンを中心としたデュエル流派。カイザーこと亮はこの流派の正当後継者である。

 超絶火力によるワンショットキルという男のロマンを体現した流派だけあって一般での人気も高い。

 別に作者がサイバー流デッキを愛用していたからカイザーのデュエルが多かったというわけではない。繰り返す。決して作者が愛用しているデッキだからカイザーの出番が多かったわけではない。

 

 

『ピケクラ愛好会』

 変態紳士の集い。現会長は〝鮫島校長〟であり愛好会の創設者にして現相談役が〝武藤双六〟。

 キング・オブ・デュエリストの祖父やデュエル・アカデミアの校長が所属しているあたり一応デュエルモンスターズ界への影響力は高い。

 現会長の影響でデュエル・アカデミアの生徒の間で続々と入会者が増えている。

 類似の愛好会にBMGファンクラブやダルクきゅんを愛でる会などの存在が確認されている。

 

 

『インダストリアル・イリュージョン社』

 デュエルモンスターズを世に送り出した企業。ペガサスが創始者で長年トップを務めていたが、彼が引退して第一線を退き名誉会長となってからの社長は不明。

 海馬コーポレーションとは過去に買収騒動で不仲にもなったが現在は完全に和解しており関係は良好。

 新たなカードの開発、ルールの整備、禁止・制限の改定などを一手に引き受けておりアメリカがデュエルモンスターズの本場と言われる所以でもある。

 

 

『海馬コーポレーション』

 世界最大級の大企業であり日本では最強の企業。そして学生に聞いた就職したい企業ランキング十年連続ナンバーワンのスーパー企業。

 社長は海馬瀬人で副社長は海馬モクバ。元々は軍需産業メインだったが〝海馬瀬人〟が社長になってからはゲーム産業に方向転換した。ゲームでも主にデュエルモンスターズを専門としている。

 他に全世界のデュエル・アカデミアの経営や海馬ランドを始めとしたアミューズメント経営にも手を広げ悉く成功を収めてきている。これにはトップである社長の実力が大いに物を言っている。

 基本的に社長のワンマン。よくワンマン企業の場合だと部下に反逆されて失脚するというパターンが大きく見られ、海馬コーポレーションも御多分に漏れずBIG5がペガサスと内通して社長を追い落とそうとしたことがあるのだが――――そのBIG5がカイバーマンショーの敵役に落ちぶれたことに恐怖したのか、社長のカリスマが限界突破したのか現在はそういうことはなくなっている。

 社内ではブルーアイズと社長の弟の悪口を言うとリストラされる、という全く笑えない噂が流れているとかいないとか。

 

 

『デュエル・アカデミア』

 海馬瀬人がオーナーを務めるデュエリスト養成校。理事長は影丸で校長は鮫島。デュエル全盛の世界なので偏差値は全校でもトップクラス。絶海の孤島に学園が置かれているのは影丸理事長の意向が大きく関わっている。

 毎年多くのプロデュエリストを排出しており知名度は高い。若手デュエリストの憧れの場所であり、アカデミア島はデュエリストの聖地の一つでもある。本校の他にアメリカ校やノース校などの分校も存在している。

 コースは寮ごとにオベリスク・ブルー、ラー・イエロー、オシリス・レッドの三つが存在し、オベリスク・ブルーが最上位でオシリス・レッドが最下層、ラー・イエローはその中間。

 一年の初めは高等部の入試の成績下位者はオシリス・レッドへ、中等部からの進級組の成績下位者と編入組の成績上位者はラー・イエローへ、進級組の成績上位者はオベリスク・ブルーに振り分けられる。ただしこれは永久のものではなく、入学後の成績次第で寮の昇格・降格はそれなりの頻度で発生している。

 待遇も所属寮によって大きく変わり、オベリスク・ブルーならば中世の城のような学生寮で富豪さながらの生活が約束され、ラー・イエローもオベリスク・ブルーほどでないにしてもペンション風の寮で快適に過ごすことが出来る。

 ただしオシリス・レッドは同じ学校の学生寮とは思えないほど環境が劣悪で、昭和のボロアパートのような学生寮に質素な食事という極貧生活を強いられることになる。また修学旅行も河原で野宿であったり、校舎との距離も長いなど明らかな差別がされている。

 こういった明らかな待遇格差は海馬社長の「実力のない凡骨以下の負け犬デュエリストは永遠に地べたに這いつくばっていろ! それが嫌ならばせめて凡骨程度には這い上がることだ。フハハハハハハハハハ!!」という有り難いようなそうでないような訓示の影響。

 他作品ネタになるがオシリス・レッドの扱いに関しては椚ヶ丘中学校における3年E組みたいなものだろう。……真面目に頑張って成績をあげれば、ラー・イエローに上がれるチャンスは十分あるので、それよりはまだ良心的。

 

 

『特待生』

 主人公である丈や丸藤亮、天上院吹雪、藤原優介の四名がこれに該当する。特待生に選ばれた者は学費が全額免除され、専用の特待生寮に住むことが許される。 

 便宜上の所属寮はオベリスク・ブルーであるが、コースやカリキュラムも一般ブルー生徒とは異なるのでオシリス・レッド、ラー・イエロー、オベリスク・ブルーの他の四番目の寮といっても過言ではない。

 特待生寮にはメイドと執事が常駐し、登下校に送迎用の車が使えるなど待遇はオベリスク・ブルーすら超えて王侯貴族同然。

 ただしカリキュラムは一段と厳しく平日であれば七時間目が、土曜日であれば三時間目と四時間目に特別授業が入る。そしてプロデュエリスト級の難易度のデュエルマシーンと一日50デュエルというノルマを熟さなければ眠ることも許されない。

 

 

『デュエルマシーン』

 海馬コーポレーションが開発した最新式のコンピューター・デュエル・マシーン。特待生寮には五基配備されている。

 使用するカードは本物ではなく「データ」なので、データさえ入れれば世界に四枚しかない「青眼の白龍」や世界に一枚の「プラネットシリーズ」を使わせることも可能。

 ただし三幻神と三邪神のカードはデータでさえ非常に危険なのでカードデータを入力できないようブロックが掛かっている。

 

 

『I2カップ』

 インダストリアル・イリュージョン社が主催しKC社もスポンサーを務めたデュエル大会。

 集められたのは大きく分けて新進気鋭の若手デュエリストとベテランの一流デュエリストの二つ。

 この大会の真の目的は三邪神を担うことができるデュエリストを見つけることであり、その試金石としてベテランデュエリストたちは用意された。

 

 

『I2カップ大会オリジナルパック』

 I2カップ入賞者に送られた大会限定パック。中には試作段階のチューナーやそれを含むカテゴリー及びエクシーズ関連のカードやそのカテゴリーカードが入っている。ただしシンクロモンスターとエクシーズモンスターは入っていない。

 現在シンクロ・エクシーズという二つの新しいシステムが競合しており、それに関連したカードのデータ収集と実地調査のために封入された。ペガサスによれば競合に敗れたシステムの関連カードは発売されなくなるだろうとのこと。

 

 

『ネオ・グールズ』

 バンデット・キースをボスとしてかつてのグールズを基盤に再結成したデュエル・ギャング。

 マリクがボスを務めていた全盛期の頃は地下デュエルの管理運営、カードの偽造、レアカードの強奪などデュエルモンスターズの暗部全てに関わっていた。

 ちなみに前ボスのマリクと異なりキースは千年アイテムなどもっていないので、組織を成り立たせているのは彼自身のカリスマの賜物である。

 そのカリスマであるキースや主要な幹部二人を失ったことで組織は離散。残党はエクゾディア使いのレアハンターの下でニュー・ネオ・グールズ(仮)として再復活をした。

 

 

『四天王』

 アカデミア特待生である宍戸丈、丸藤亮、天上院吹雪、藤原優介の四人のこと。全員が王に因んだ異名をもっていることから一般生徒の間でそう呼ばれるようになった。

 一般生徒たちと比べて実力は別格であり入学時点でNDLのトッププロクラスの強さをもっていた。その強さと威光は上級生ですら畏まるほどで、待遇や寮生活や授業などあらゆる面で特別扱いを受けていた。

 理由は色々だが丈と亮はI2カップ決勝戦で、吹雪と藤原はダークネス異変時に黒くなっている。アカデミア特待生たるもの一度は黒くならないといけない。

 

 

『地下デュエル』

 衝撃増幅装置をつけて行われる非合法デュエル。観客には財閥の関係者や富豪、マフィアなどもおりデュエルの度に多くの金が賭けられ、そしてデュエリストの苦痛を楽しみとする。

 プロデュエリストや落ちぶれたデュエル・ギャングが行きつく成れの果て。原作でカイザーがここでのデュエルを通しヘルカイザーに堕ちてしまった。

 かつてはグールズが主な主催者を務めていたらしい。

 

 

『デュエル先進国』

 その名の通りデュエルが他の国よりも進んでいる国家のこと。I2社の本社があり、デュエルモンスターズの本場であるアメリカ、決闘王を始めとした「伝説の三人」の生まれた国であり海馬コーポレーション本社のある日本がデュエルのツートップである。

 アメリカと日本のプロリーグは他の国のものよりもレベルが高く外国からの挑戦者も数多い。日本のナンバーワンに君臨している〝DD〟も外国から挑戦してきたデュエリストの一人。

 他にデュエルモンスターズ発祥の地として知られるエジプトもデュエリストのレベルが高く、プロリーグこそないものの毎年多くのデュエリストがアメリカや日本のリーグにスカウトされ海を越えてやってくる。

 

 

『プロデュエリスト』

 デュエルを生業とする人々のこと。形態としてはプロ野球選手とプロゴルファーのシステムを両立したものに近い。

 プロデュエリスト試験を合格すればプロになることは出来るがプロになっただけでは当然収入はない。プロデュエリストの収入は所属するチームまたは団体から貰う年俸か、もしくはデュエル大会での賞金である。

 多くのデュエリストはスポンサーの援助を受けつつランキング戦でランキングを伸ばしつつ、デュエル大会に参加して賞金を手にして生計をたてているが中にはスポンサーなしで単独で活動するデュエリストもいる。

 スポンサーつきに比べてリスキーなため自分からなろうとする者は殆どおらず、大抵は食いはぐれるのだが、バンデット・キースや孔雀舞はフリーで行動して成功している数少ないデュエリストたちである。

 

 

『シャイニングリーグ』

 日本にあるプロリーグの一つ。名前の由来は青眼の光龍(ブルーアイズ・シャイニングドラゴン)

 その由来から察しの通りこのリーグの開設を主導したのは海馬社長である。

 デュエル先進国日本で一番メジャーなプロリーグだけあって日本人のみならず外国からも多くのデュエリストが加盟している。

 

 

『NDL』

 正式名称はナショナル・デュエル・リーグ。アメリカに存在するプロリーグ。

 アメリカではデュエルモンスターズはバスケットボール、フットボール、ベースボール、アイスホッケーに並ぶ人気をもつエンターテイメントであり、プロデュエリストは国民中から羨望を集めるヒーローでもある。

 デュエルモンスターズの本場であるためプロリーグの規模は決闘王の故国である日本に匹敵、或いは凌駕するもので毎年世界中のプロリーグからはるばる挑戦してくる者が後を絶たない。

 丈はデュエル・アカデミア一年時にI2社をスポンサーにこのリーグに入った。

 

 

『伝説の三人』

 デュエルモンスターズ成長期に決闘王国、バトルシティなどで活躍した三人の伝説のデュエリスト、武藤遊戯、海馬瀬人、城之内克也の三人のこと。

 彼等はデュエルモンスターズの生みの親であるペガサスが認める程の実力をもち、プロリーグで活躍するトッププロとも一線を画す実力をもつ。ただし其々の事情があって三名が三名ともプロリーグには参加していない。

 ちなみに丈と藤原が遊戯、亮が海馬、吹雪が城之内に対応するようになっている。遊戯に対応しているのが二人なのは〝遊戯〟は二人存在していたので、対応するのも二人となった。

 

 

『遊戯王の父親』

 原作者曰く「ロクデナシ親父の品評会」とまで言うほど遊戯王(特に初代DM)には駄目な父親が多い。GX以降はまともな父親も出てくるのだが初代は酷いとしか言いようがない程に駄目な父親しか存在しない。

 英才教育という名の虐待を行い、更にソリッドビジョンシステムを軍事利用した海馬剛三郎。無職で朝から酒を飲みギャンブルに明け暮れる城之内の父親。マリクを虐待しリシドを虐げ闇マリク誕生の切欠を作ったマリクの父。息子を自分の復讐のために育て、暴力も振るってきた御伽の父。セトの実父であり愛情の余り「闇の大神官」となったアクナディン。本当に父親としては「駄目」な人間ばかりである。

 アテムの父であるアクナムカノンは遊戯王では珍しいまともな父親だという説もあるが、そもそもアクナムカノンが無能だったせいでアクナディンがあんなことになった挙句、千年アイテムの遺恨を解決しないまま死んだからアテムが死ぬことになったと思えば「駄目」の烙印を消すことは難しい。

 本作はこの傾向を(無駄に)リスペクトし、丈の両親もまた駄目人間ということになった。

 ちなみに初代リスペクトの多いZEXALでも遊馬の父はさておき、駄目な親父が多く登場している。

 

 

『フラグクラッシュ』

 遊戯王のお約束の一つ。メインヒロインだろうとサブヒロインだろうと立てたフラグはクラッシュする、それが遊戯王。一級フラグ建築士がフラグを建築するなら、遊戯王の主人公たちは建築したフラグをぶち壊す。

 一級フラグ建築士と対を為す一級フラグ破壊士。

 ちなみに本作の主人公である丈のフラグクラッシュ法は「フラグを立てるだけ立てて後は放置プレイ」である。

 

 

 

 

【戦績】

 

 

『宍戸丈』

 

VS丸藤亮 ×

VS不良A ○

VS入試試験官 ○

VS天上院吹雪 ○

VSショタコン ○

VSグールズA ○

VS羽蛾 ○

VSマナ ○

VSレベッカ ○

VS丸藤亮 ○

VSパンドラ ○

VSキース ○

VS万丈目 ○

VS藤原 ×

VSデュエルマシーン ○

VSクロノス ○

VSデュパン十五世 無効試合

VSミスターT ○

VSミスターT100体 ○

VSダークネス ○

 

総合戦績 19戦17勝2敗

 

 

『丸藤亮』

 

VS宍戸丈 ○

VS早乙女レイ ○

VS不良B ○

VS試験官B ○

VS十和野鞭地 ○

VS猪爪誠 ○

VS天上院吹雪 ○

VS宍戸丈 ×

VSモヒカン ○

VS人形 ○

VSキース ○

VS田中ハル ○

VS藤原優介 △

VS鮫島校長 ○

VSミスターT100体 ○

 

総合戦績15戦13勝1敗1引き分け

 

 

『天上院吹雪』

 

宍戸丈 ×

丸藤亮 ×

レアハンター ○

キース ○

天上院明日香 ○

城之内克也 ×

藤原優介 ○

 

総合戦績7戦4勝3敗

 

 

『藤原優介』

 

宍戸丈 ○

丸藤亮 △

天上院吹雪 ×

 

総合戦績3戦1勝1敗1引き分け

 

 

 

【遊戯王ではよくあること】

 

 

 遊戯王ではよくあることとは、その名の通り遊戯王ではよくあることである。

 普通のアニメではおかしいことでも、遊戯王では良くあることなので問題ない。以下、本作で登場した遊戯王ではよくあることの数々。

 

 

・デュエル>超えられない壁>法律

・ヒロインは三邪神

・ナリとはなんだったのか

・特に奇天烈でもないストーリー

・タイトルは飾り

・世代という名の年功序列

・高価な超レアカードを三邪神に選ばれたデュエリストだから全部パックで当てる

・異名の数々

・政界、財界、そしてカードゲーム界

・ガード・ブロックの異常な採用率

・アカデミアの四天王

・強すぎて四枚しか製造されなかったカオス・ソルジャー -開闢の使者-

・手札事故? なぁにそれぇ?

・デュエルに負けると死ぬ

・デュエルに負けると人類が滅亡する

・人類存亡のデュエル

・オゾンより下なら問題ない

・オゾンより上でも問題なかった

・神に○○なんて効くか!!

・ピケクラ愛好会の全て

・魔王モード

・デッキに存在しないカードをドローする

・ショタコンの全て

・ゆきのんの存在

・フラグクラッシュ

・ヒロイン(笑)

・フラグクラッシュ法、放置プレイ

・事ある毎にブルーアイズ関連の名前をつけようとする社長

・事ある毎に凡骨をディスる社長

・カイザーのスーパー・オーバーキル

・スーパーリスペクトデュエル

・カードは盗んだ

・カードは創った

・カードに告った

・デュエルモンスターズの精霊

・それはどうかな

・よく人にカードをあげる主人公

・名が体を表し過ぎなネーミング

・ミスターTにダークネスと同種認定される主人公

・DQNで一話しか出番のない両親

・最初の相手が小学生の幼イザー

・初デュエルで敗北する主人公

・禁止制限無視デッキを使う不良

・幼稚園児のレイを容赦なくボコるカイザーと主人公

・幼稚園児のレイにフラグをたてるカイザー

・デュエルはフェルマーの最終定理より難解かつ、宇宙の真理にも通じるという校長の演説

・クラス名:青眼の究極竜組

・デッキ交換デュエルでサイエンカタパを使うカイザー亮

・デュエルに負けても不屈のショタコン

・描写すらなく撃破される光の仮面&闇の仮面

・三邪神の担い手を選ぶために大会を開催するペガサス

・地味に初代、GX、5D's勢揃いな大会参加者

・MCは5D'sのMCの親です

・MCのヘアスタイルは安定のリーゼント

・HA☆GAさん

・エクゾディアを倒す方法=海に捨てる

・元チャンプという経歴なのにキースと違って小物臭しかしないHA☆GAさん

・こんなカードオレは36枚持っているよ…

・検診のお時間だ!

・サイバー流なのにサイコ・ショッカーを使うカイザー亮

・俺の股間がクリアマインド!

・ブラック・マジシャン・ガールに彼氏や夫を寝取られる

・里ロックを仕掛けてくるブラック・マジシャン・ガール

・魔王ジョー生誕

・AIBOにフラれたレベッカ

・よりにもよって初恋の人のエースカードで止めを刺す主人公

・なのにたつフラグ

・そして放置プレイしてクラッシュするフラグ

・明らかに主人公のデュエルより派手な準決勝カイザーVS吹雪

・フブキング

・カイザー亮の裏・切り札

・もうカイザーが主人公でいいんじゃね?

・エクセレント・ダイナマイト・エヴォリューション

・俺達の満足はこれからだ!

・サイト消滅による打ち切りEND

・一年もの時を経て移転復活するこの作品

・三邪神は一年間ずっと昼寝をしていました

・バイクでビルの四階に侵入して、壁を爆破して突撃してくるモヒカン

・記念すべき一年ぶりの最新話の内容がモヒカン

・四階から飛び降りても足がしびれるだけで済むデュエリストという存在

・牛尾さんのバイクを盗んで走り出すカイザー亮

・スカル・ライダーを使った事があるからバイクの運転ができる

・アクセルは分かるのにブレーキを知らないカイザー亮

・GXすら始まってないのにライディングデュエル・アクセラレーション!

・カイザーの先攻ワンターンキル

・普通なら死んでも不思議ではない派手な転倒をしてもピンピンしているモヒカン

・あのビルに入ったぞ→閉じ込められた!(この間、五秒)

・警備会社に当然の如くあるデュエルスペース

・デュエルに勝つと開く屋上のロック

・ラスボスの動機がペガサスの自業自得

・ロシアンルーレットで生計をたててきたキース

・DMが終わっても何故か生きているバクラ

・三邪神に告白をする主人公

・それを受ける三邪神

・デュエルに負けたら魂を奪われる

・デュエルに負けてないのに何故か魂の一部を食われる主人公

・主人公が記憶喪失

・記憶を魂ごと失ったはずなのに下らないネタだけはうっすら覚えている主人公

・一度も役に立たずに消滅する前世の記憶

・デュエリストの名誉よりコンビニを選んだ田中先生

・現実世界ですら発売していないカードをフライングして使う吹雪

・本人に了解をとらずに勝手に模範デュエルの相手を決めるデュエルをする万丈目

・学生なのに試験官をする主人公たち

・入学試験でワンキル喰らって負ける主人公

・貴族並みの生活を約束された特待生寮

・特待生寮には執事とメイドさんが常駐している

・メイドさんの髪が銀髪と明らかに狙ってるとしか思えない理事長の人選

・プロ級のデュエルマシーンと一日50デュエルしないと眠ることもできない過酷カリキュラム

・Q:普通のデュエリストが一度のデュエルに平均五分かかるとします、それを50回やったらどうなるでしょう?

・A:殆ど1Killで終わらせる

・元キングの前世のガチムチ精霊

・子供のように安らいでいる大邪神ゾークの魂たち

・雲の上でデュエルをするサイバー流

・藤原に天帝という二つ名を命名する主人公

・ドボゲラァ

・俺のクリボーに常識は通用しねえ

・アカデミア校長とピケクラ愛好会会長を兼任する鮫島

・頭がピケクラでもやたらと強い鮫島校長

・かっとビングだ、私ーーーーーーーーーーーーー!!

・シャイニングドローする鮫島

・アイドルカードやカップリングについて叫びだすアカデミア生

・アイドルカードを占う機械がある

・進路に関してリアリストな凡骨

・世界的大企業の社長に二万円借りに行く凡骨

・世代を超えた真紅眼の黒竜同士のデュエル

・見えるんだけど見えないもの

・デュパン十五世というネーミング

・唐突に始まるリアルファイト

・突然の外出は安定の窓からジャンプ

・サイコデュエリストの泥棒

・デュエルモンスターズ専門の大泥棒という概念そのもの

・丈以外の選ばれないデュエリストが使うと使用者を食い殺そうとする邪神

・パンをこよなく愛する主人公

・U.N.オーエンは魔王なのか?

・闇魔デッキウイルスでデッキ完全死滅

・な に か す る こ と で も?

・感想覧で巻き起こる魔王コール

・増殖する闇磯野

・100人に絡まれた時の主人公の対処法→無限ループで一掃すればいいんじゃね?

・100人に絡まれた時のカイザーの対処法→100倍の火力で抹殺すればいいんじゃね?

・ワンターン100キル

・ダークネスドロー

・ダークストーム・ドラゴンの謎の大出世

・ダークネス教組藤原

・個性を否定しているはずなのに、個性バリバリのダークネス藤原

・ダークネス化する前の方が強そうに見える藤原

・勝っただけで異様に読者から驚かれる吹雪

・宇宙空間でデュエル

・宇宙空間で何故か息をしている主人公

・ダークネスだからシンクロもエクシーズも全部使える

・歴代主人公を合体させたデッキを使うダークネス

・ラスボスなのにデッキにテコ入れが入る

・創星神 sophiaを召喚するラスボス

・第四期のラスボスを第一期開始前に倒す主人公

・原作とは関係ないところで原作に関わるストーリーが勝手に進む

・100話費やしても始まらない原作GXのストーリー

 

 

 

 

【世界観】

 

 基本的にはアニメ遊戯王デュエルモンスターズから始まるアニメシリーズをメインとしている。ただしエロペンギンの発言についてなど、一部アニメ設定を排除し原作設定が優先された。

 また東映版アニメの設定やストーリーも加えており、海馬は青眼の白龍3体連結を召喚し遊戯の召喚したメテオ・ブラック・ドラゴンに敗北した経験がある。遊戯王デュエルモンスターズ第一話以前のストーリーは大体東映版アニメと同じ。

 ただし漫画版設定が完全にないわけではなく『三邪神』や『プラネットシリーズ』という概念も存在。アニメをベースとして漫画版の設定を一部混ぜ合わせた世界観というのが適当。

 例をあげるとアニメ準拠なのでペガサスは生存しており、よって遊戯王Rで発生したイベントは起きてないが、三邪神という概念そのものや夜行や月光などペガサスミニオンやブラックデュエルディスクが存在している。

 以下アニメ版との違いを一覧表を記載する。

 

 

・GX後に登場したカードも普通に一般的に流通している

・シンクロモンスターとエクシーズモンスターは存在せず

・チューナーとエクシーズ関連のカードはI2カップのオリジナルパックなどの方法で一部のデュエリストが所有している

・シンクロ召喚とエクシーズ召喚がI2社で競合中、実装は早くても三年後、遅くて十年後

・不動博士がシンクロ召喚の製作に関わっている

・城之内克也はGX開始二年前時点では大学生

・アテムが冥界へ旅立った後、彼のデッキと三幻神は〝武藤遊戯〟が受け継いでいる

・千年アイテムはその役目を失い消滅済み

・パラサイトマインドでバクラの魂の欠片が現世に残っている

・エロペンギンの発言抹消

・ブラック・マジシャン・ガールはかなり珍しいカードで遊戯が使う前は知名度もそれほどではなかった

・レベッカは遊戯にフラれて、現在は大学で父と共に考古学の研究をしている

・夜行を始めとしたペガサスミニオンも存在している、ただしペガサスが生存しているのでRのストーリーは発生せず

・三邪神が存在している

・吹雪が常に真紅眼の黒竜デッキを使用する

・藤原雪乃が藤原優介の従兄妹ということになっている

・アメリカ・アカデミアが存在する

・漫画版GXキャラであるデイビットとマックが十代たちと同年代として存在している

・プラネットシリーズも存在、ただし何故かThe SUNがシリーズのうちの一枚として数えられていない

・響紅葉及び響みどりはハネクリボーとHEROとエド関連でアニメとの整合性がつかなくなりそうなので存在しない

・殆どはOCG効果の方が採用されているがラスボスなどが使うカードはアニメ効果が、三幻神と三邪神については原作効果が適用されている

 

 

 

 

【デュエルモンスターズの変遷】

 

 

 

―デュエルモンスターズ誕生―

・ペガサスがエジプトにてモンスターたちの描かれた石版を発見

・その石版が太古の闇のゲームで使用されたものであることを知る

・アメリカ本国へ戻り、石版に描かれたモンスターをカード、闇のゲームをカードゲームという形で再現する

・ペガサスが社長を務めるI2社が〝デュエルモンスターズ〟という名のカードゲームを発売される

 

 

―デュエルモンスターズ黎明期―

・アメリカでデュエルモンスターズ(DM)が爆発的な大ヒット

・デュエルモンスターズがたちまち子供達の人気ナンバーワン娯楽に発展

・人気は子供だけに留まらず次第に大人たちの間でも流行する

・アメリカで多くのデュエルモンスターズの大会が開催されるようになる

・ペガサスが石版に描かれていたモンスターだけではなく、漫画や機械をモチーフとしたオリジナルのモンスターのデザインを始める

・デュエルモンスターズの人気は海を越え、世界中にも伝わる

・ペガサスが三幻神を創造するも、その危険性を恐れエジプトに封印される

・アメリカでの人気は留まることを知らず、DMはベースボールなどに匹敵するエンターテイメントとなる

・日本では伝説的なゲーマーであった武藤双六などがデュエルモンスターズにも熱を入れるようになる

・キース・ハワードが多くの大会で優勝を飾り〝盗賊〟という異名で呼ばれるようになる

・I2社の開いた全国大会でバンデッド・キースが全米王者として君臨する

・キースが最強伝説を築くのと並行して、創造主であるペガサスが不敗神話を築き上げる

・キースが不動の頂点であるペガサスに挑戦する

・ペガサスVSキース、夢の戦いがニューヨーク・ドームで実現

・キースが最悪な形でペガサスに敗北したことで栄光・名誉・地位の全てを失いDM界から姿を消す

・奇しくもその際のデュエルが全世界に放映したことで、更にDMのブームが加速する

・海馬瀬人がバーチャルシミュレーション具現化システムを開発するも、剛三郎により軍事シミュレーターに悪用される

・グールズが暗躍を始める

・グールズがエジプトからオシリスの天空竜、ラーの翼神竜の二枚を強奪

・武藤双六が第一線を退く、ほぼ同時期に青眼の白龍をホプキンス教授から譲り受ける

 

 

―デュエルモンスターズ成長期―

・海馬コーポレーションの御曹司である海馬瀬人が数多くのDMの大会で優勝、名を馳せる

・武藤遊戯と海馬瀬人が闇のゲームを行う

・海馬瀬人が海馬コーポレーションを養父である剛三郎から奪い乗っ取る

・海馬瀬人がバーチャルシミュレーション具現化システムを元にしたソリッドビジョンシステムを開発する

・ソリッドビジョンシステムを用いたデュエル・ボックスが誕生する

・また携帯可能なデュエルディスクも並行して開発が進む

・デュエル・ボックスにより闇のゲームでなくともモンスターが実体化するようになる

・ペガサスが恋人をソリッドビジョン化するために海馬コーポレーションに目をつける

・DEATH-Tにおいてソリッドビジョンシステムを用いたデュエルが海馬と遊戯の間で繰り広げられる

・海馬が武藤遊戯に敗北、罰ゲームにより意識不明に

・ペガサスが自分の所有する島においてデュエリスト・キングダムを開催する

・決闘王国決勝戦でペガサスが武藤遊戯に敗北する

・バクラに千年眼を奪われ重傷をおったペガサス、療養のためにも一時的に姿を晦ます

・ペガサスの不敗神話が崩れ武藤遊戯が〝決闘王〟の称号を得る

・イシズがグールズに奪われた神のカードを取り戻すべく、海馬瀬人にオベリスクの巨神兵を渡す

・曖昧だったルールが徐々に整備されていく

・生け贄召喚や直接攻撃の概念がデュエルに追加される

・海馬瀬人がデュエルディスクを開発する

・バトルシティ大会開催

・最新式のデュエルディスクが大会参加者に無料で配布される

・武藤遊戯がバトルシティを制して名実ともに三幻神の真の所有者となる

・デュエルディスクで手軽にリアルなデュエルを楽しめるようになったことで、DMの人気が更に高まる

・これまでDMに興味をみせなかった高齢者や主婦層にもデュエルが浸透し始める

・三千年前のファラオの魂が冥界へと旅立つ

 

 

―プロリーグ黎明期―

・I2社主導でアメリカにナショナル・デュエル・リーグが創設され、プロデュエリストという新たな職業が誕生

・デュエルモンスターズのルールが完全に整備される

・サイコ流とサイバー流というデュエル流派が同時期に誕生する

・ペガサスが経営の第一線を退き名誉会長となる

・各企業が〝決闘王〟武藤遊戯をプロにスカウトするため熾烈なる争奪戦を始める

・武藤遊戯は精霊たちと共に全世界を回る旅へ出る

・海馬コーポレーションとI2社の警告により武藤遊戯の争奪戦が沈静化する

・カードデザイナーのフェニックス氏がE・HEROというカテゴリーを世に送り出す

・海馬コーポレーション主導で日本にシャイニング・リーグというプロリーグが創設される

・プロリーグ発足とほぼ同時期にデュエル・アカデミア本校が開校

・フェニックス氏がE・HEROに続く新たなるHEROの開発を始める

・同時期にプラネット・シリーズの開発も始まる

・バクラの魂の欠片が地下デュエルに身をやつしていたキースを発見

・キースとバクラが契約する

・デュエル・アカデミアを卒業したプロデュエリストがプロリーグで活躍をし始め、アカデミアの名声が広まる

・アカデミアの名が高まった事で、アメリカ・アカデミアやサウス校などの分校を新たに開校する

・プラネットシリーズが完成するも、とある事件により暫く世には出ず封印される

・The SUNがプラネットシリーズより除名

・カイル・ジェイブルス、後のDDがシャイニング・リーグに加盟

・カードデザイナーのフェニックス氏が何者かに殺害され死亡

・DDが日本のリーグで不敗神話を築く

・ペガサスが未来のための新しいシステムとしてシンクロとエクシーズという概念を思いつく

・I2社でシンクロ召喚とエクシーズ召喚の開発が行われる

・海馬コーポレーションから不動博士がシンクロ召喚開発協力のため出向

・キースにより復活したネオ・グールズの暗躍が始まる

・アメリカと日本のプロリーグの頂点同士でのドリームマッチがニューヨークで行われる、日本の代表はDD

・DDがドリームマッチを制して世界王者の称号を得る

・田中ハル、プロデュエリストとして数々の暴虐を行い〝暴帝〟と怖れられるようになる

・ランキング二位の田中ハルがDDへ挑戦するも、デュエル前に突如として田中ハルがプロを引退する

・丸藤亮がサイバー流の正当な後継者となる

・長い時を経て漸くプラネットシリーズが世に送り出され始める

・I2カップが開催され宍戸丈が優勝する

・三幻神と対となる三邪神をI2カップ優勝者である宍戸丈が担うこととなる

・ネオ・グールズが事実上の消滅

・キース・ハワードがDM界に復活

・復活したキースが全米チャンピオンに返り咲く

・宍戸丈がNDLに加盟

・高校二年時、宍戸丈が全米チャンピオンとなる

・宍戸丈、キース、レベッカがチームを組んで多くの大会を荒しまわる

・歴史改変事件が発生する

・宍戸丈がプロとしての活動を一旦休止しアカデミア本校へ帰還




 どうも「宍戸丈の奇天烈遊戯王」を愛読してくれた読者の方々。改めまして著者のドナルドです。この作品も取り敢えず一つの大きな区切りを迎えたので、こういう場で設定資料と共にここまでの総後書きのようなものをしようと思います。……設定資料集が過去最長の長さというのも変な話ですが。

 宍戸丈の奇天烈遊戯王、原作前から始まる二次創作ssは数あれど100話を超えながらまるで原作に突入しない作品も稀でしょう。正直私もこの作品を執筆し始めた当初はカイザーと出会ってからはさらっと高等部まで流して、高等部のダークネス編から本腰を入れようと思ってました。
 それがI2カップやらネオ・グールズやらで完全に脱線。あれやこれやで原作に突入しないまま100話まできてしまいました。
 原作に突入しないままでいるのも、どうなんだと思う方もいるかもしれませんが、そのあたりはこの作品の特色だと諦めて下さい。私も諦めました。

 そしてこの作品のテーマは原作リスペクトということで「友情」と「優しさ」です。王道と言えば王道ですがなんでも王道が一番ですからね。王道にのっかりました。最後にもう一つテーマらしきものは「やりたい放題」です。もっともこれはテーマというより悪乗りみたいなもので、これのせいでカイザーがライディング・デュエル・アクセラレーションしたり鮫島校長がピケクラ使ったりしました。
 こういったことが転じてこの作品も「原作とは関係ない場所で原作と関係のあるストーリーが勝手に進んでいく」というスタンスを確立することができました。

 さて。この作品も漸くダークネス編を乗り越えて、原作に手が届きました。次の章からは漸く原作主人公である十代を出せそうです。次章からは十代出ます。ドナルド、嘘は言いません。
 とはいえ次章にいくまでに「魔王、プロリーグ初陣」とか「藤原家の家庭訪問」とか「キースVSペガサス、リベンジマッチ」とか合間の話をやるかもしれません。ただ私も疲れたので少し休ませて下さい。充電期間プリーズです。
 それでは最後に次章予告と共にお別れしましょう。




















 
  【次章予告】



――――遠い未来の果て、滅びてしまった世界があった。

「アポリア…アンチノミー…パラドックス…」

――――同じ絶望に苦しんだ者達は、

「私の心は三つの絶望によってできている」

――――破滅の未来を救うために、

「無限の力よ! 時空を突き破り、未知なる世界を開け!」

――――行動を起こした。

「クククッ……これで私の大いなる計画は遂行された…!」


――――世界を滅ぼした原因ともいえるデュエルモンスターズを消去するために。


「さらばだ……歴戦のデュエリスト達よ!」


――――逆刹を象徴する男は時代を超え、デュエリストたちを滅ぼすための行動を始める。だが、


「パラドックス! デュエルだ、決着をつけよう!」


――――その時代最強のデュエリストたちが逆刹の前に立ち塞がった。


「オレは人の命を 踏み台にする未来など認めない!」

「お前をぶっ倒す事にワクワクしてきたぜ!」

「オレたちの未来を、貴様の好きにはさせない!」


――――そして


「宍戸さん、俺達と一緒に来てくれ!」

「このままでは未来が滅んでしまいます!」

「去年のダークネスといい一昨年の三邪神といい、やることが尽きないね本当に」


――――正史には存在しないデュエリストが時を越えた舞台に招かれる。


「勝たせて貰う、パラドックス!」



宍戸丈の奇天烈遊戯王~超融合!時空を超えた絆~ 


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第六章 間話
第106話  宍戸丈、NDL最初の戦い


 あらゆる物事には終わりがあるように必ず始まりがある。リレーだってそうだ。スタートがなければゴールはないし、そもそもスタートがなければレースを始めることだって出来はしない。

 それはプロデュエリストの世界にとっても同じことだった。

 ペガサス会長の誘いと影丸理事長の陰謀、他にも様々な思惑があって宍戸丈はナショナル・デュエル・リーグに加盟した。

 その決断を丈は後悔していない。だがいざプロとして最初のデュエルの日を迎えてみると体が興奮して抑えがきかないものだ。

 I2カップでペガサス会長が丈のために用意した黒い服についたゴミクズをパっと手で払い立ち上がる。

 

「なんだテメエ、まさか今更になってビビッてんのか?」

 

 入場口では星条旗のデザインのバンダナを巻いた男がニヤニヤと笑いながら立っている。

 男の名はバンデット・キース。丈がNDLになってからは以前のいざこざの縁もあって色々と助けてくれた人物だ。お礼を言うと本人は「別にお前のためにしたんじゃねえ」と否定するが一種の照れ隠しだろう。

 

「ビビってるとは少し違う。ただやっぱり一生に一度のプロ初試合だし緊張はするよ」

 

 緊張はある。不安が欠片もないとも言えない。だがそれ以上に高揚がある。これまでテレビの向こう側から眺めるだけだったプロデュエリストの世界にこれから飛び込むのだという興奮が冷めてくれない。

 

「テメエには三邪神のことで借りがあるからな。一つだけこの俺、バンデット・キース様直々に助言してやるよ。幾らプロデュエリストの試合つっても別に負けても死ぬわけじゃねえんだ。気張る必要なんざねえよ」

 

「あんまりジョークにならないな、それ」

 

 だがキースの言う通りだ。丈はこれまで負けたら死ぬどころか負けたら人類が滅亡するというデュエルを何度かやってきたのだ。

 それに比べればこのデュエルにかかっているのはプロとしての黒星と宍戸丈の名誉。人類の滅亡と比べれば大した価値のあるものでもない。無意味に緊張する必要もないだろう。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 気合を取り直して丈はキースに言うと、入場ゲードを堂々と歩いていく。

 これまでの人生で一つだけ分かった事がある。デュエリストはその人生で様々なデュエルをするし、多くの駆け引きも経験する。しかし結局のところいざデュエルとなればベストを尽くす以外に出来ることなどないのだ。

 だから丈は相手が誰であろうとベストを尽くすことだけを考える。

 

『さぁ! 北のゲートから入場するのは奇跡の復活を遂げたバンデット・キースを除けば今年ナンバーワンの超大型ルーキー! 宍戸丈だぁぁあああああああああああ!!』

 

 入場口から出るとMCの雄叫びのような声と観客の視線と喝采が降り注ぐ。

 数年前ならその熱気に萎縮したかもしれないが今となっては慣れたものだ。三邪神を前にした時と比べれば大したものではない。

 

『年齢は若干15歳! キング・オブ・デュエリストの故郷ジャパンより海を越えての参戦だぁぁぁああああああああああ!!

 ジュニア・ハイスクール時代に出場したI2カップではインセクター羽蛾、レベッカ・ホプキンスなどを下しての優勝!! そして復活したネオ・グールズを倒しあの三幻神と対を為す三邪神の担い手でもあるという新たなるレジェンド!! プロ初試合のこのデュエル、一体どのようなプレイングを見せてくれるのかっぁああ!?』

 

 三邪神というフレーズを聞いて更に観客が盛り上がる。ネオ・グールズ残党は本当に面倒なことをしてくれたものだ。

 宍戸丈が三邪神の担い手であることを言いふらしまくってくれたせいで過度な期待を抱かれてしまう。

 

『そして新進気鋭の大型ルーキーに対するはあの武藤遊戯や城之内克也との対戦経験もあるベテランデュエリスト、孔雀舞だぁぁああああああああああ!!』

 

 観客の歓声を颯爽と受け流しつつ綺麗な足取りで美しい金髪をもつ妙齢の女性が歩いてくる。

 孔雀舞、その名前をデュエリストで知らない者はいないだろう。武藤遊戯を筆頭とする〝伝説の三人〟にネーミングで及ばないまでも、ペガサス王国やバトルシティなど名だたる大会で必ず本選に出場してきた歴戦のデュエリストだ。

 初戦の相手が伝説級のトッププロとはつくづく厄介事に事欠かない星の下に生まれてしまったらしい。

 対戦相手である孔雀舞はしげしげと丈の顔を観察するとクスリと笑う。

 

「アンタが宍戸丈? へー、城之内のやつがアカデミアに凄そうなやつが四人いたって言ってたけどアンタがその一人なわけね」

 

「伝説のデュエリストの城之内さんにそう言われてくれると光栄ですね」

 

 丈がそう言うと孔雀舞は呆気にとらわれたように目を丸くしてからクスクス笑いだした。

 

「?」

 

「ふふふっ。悪いわね、いきなり笑って。けど城之内の奴が伝説だなんて余りに可笑しかったから。あいつも偉くなったわね。つい少し前まではドのつくような初心者だったのに」

 

 丈のような、伝説のデュエリストたちの活躍をテレビで眺めてきた身としてはそんなこと言われても恐れ多いだけだ。

 だがきっと同じ時代を駆け抜けてきた者にしか分からないことがあるのだろう。

 

「それじゃいつまでもお喋りしても仕方ないし始めるわよ。言っておくけど、私は相手がプロ入りほやほやのルーキーだからといって手は抜かないわよ。折角大型ルーキーだなんて宣伝されてるところ悪いけど、記念すべき初試合に黒星をプレゼントしてあげるわ」

 

「だったら俺は白星をもぎ取るまで」

 

 バトルシティ時代からの愛用品なのだろう。孔雀舞の旧式のデュエルディスクと丈のブラックデュエルディスクが同時に起動した。

 表示される4000のライフポイント。こうして向かい合った以上、もはやベテランもルーキーの違いもない。ただ二人のデュエリストが勝つか負けるかの戦いをするだけだ。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 宍戸丈と孔雀舞は同時に力強く宣言した。

 

『遂に始まったぁぁああああ!! NDLが誇るハーピィ・レディ使い孔雀舞と超大型ルーキー〝魔王〟宍戸丈の一戦!! 宍戸丈、初試合からいきなりドリームマッチ開始だぁああああああああああああああああ!!』

 

 ドーム中の観客が興奮して二人の立つデュエル場を見つめる。

 長い髪を手で払いつつ舞が言う。

 

「NDLでは初試合のルーキーに先攻を譲るのが恒例になっているのさ。最初のターンはアンタにあげるよ」

 

「……ではお言葉に甘えて。俺のターン、ドロー!」

 

 亮のように後攻有利なデッキなら兎も角、先攻を譲ってくれるというのに受け入れないという選択肢はない。

 丈はデッキからカードを引いた。

 

「俺は神獣王バルバロスを攻撃表示で召喚! 来い、バルバロス!」

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。 

 

 

 丈のデッキの切り込み隊長にして神に仕える従属神では最強の力をもつバルバロス。

 フィールドに駆け降りたバルバロスは紫電を纏ったスピアを舞へ向ける。だが孔雀舞は歴戦のデュエリスト。形の良い眉を少し動かした程度で全く動じなかった。

 

「リバースカードを二枚伏せてターンエンド」

 

「伏せカードを警戒せず自由に動ける先攻ターン。妥協召喚できるモンスターを呼んでカードを二枚伏せる。ま、妥当なプレイングかしらね。

 だけど当たり障りのないプレイングで勝てるほどNDLは甘いところじゃないよ! 強欲な壺でカードを二枚ドロー。アタシは手札からハーピィの狩場を発動!」

 

 

【ハーピィの狩場】

フィールド魔法カード

「ハーピィ・レディ」または「ハーピィ・レディ三姉妹」が

フィールド上に召喚・特殊召喚された時、

フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を破壊する。

フィールド上に表側表示で存在する鳥獣族モンスターは

攻撃力と守備力が200ポイントアップする。

 

 

 周囲が巨大な鳥の巣のような風景に変化する。いや真っ平らな地面だけで見晴の良いそれは巣というよりも狩場というべきだろう。

 フィールドにいるバルバロスが緊張したように身を固める。ここが狩場であるなら当然狩人がいるはずだ。そしてその狩人は舞の手札の中に潜んでいる。

 

「そしてアタシはハーピィ・チャネラーを攻撃表示で召喚!」

 

 

【ハーピィ・チャネラー】

風属性 ☆4 鳥獣族

攻撃力1400

守備力1300

手札から「ハーピィ」と名のついたカード1枚を捨てて発動できる。

デッキから「ハーピィ・チャネラー」以外の

「ハーピィ」と名のついたモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する。

「ハーピィ・チャネラー」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

また、自分フィールド上にドラゴン族モンスターが存在する場合、このカードのレベルは7になる。

このカードのカード名は、フィールド上・墓地に存在する限り

「ハーピィ・レディ」として扱う。

 

 

 狩場に住まう狩人たるハーピィが翼を羽ばたかせて木の上に降り立つ。そして地面にいるバルバロスを見下ろし舌なめずりをした。

 

「ハーピィ・チャネラーはフィールドと墓地に存在する限りカード名を『ハーピィ・レディ』として扱う。そしてハーピィの狩場の効果、ハーピィ・レディまたはハーピィ・レディ三姉妹が場に召喚・特殊召喚された時、フィールドに存在する魔法・罠を一枚破壊する!

 アタシが刈り取るのはアンタの左のリバースカードよ。やりなさい!」

 

 ハーピィ・チャネラーが長いかぎ爪をリバースカード目掛けて振り下ろしてくる。だが丈としてもただその様を眺めている義理はない。

 

「この瞬間、チェーンしてリバースカードオープン。速攻魔法、終焉の焔! 俺の場に黒焔トークンを二体出現させる」

 

 

【終焉の焔】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」

(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。

 

 好きなタイミングで発動できるのはこういう時、相手の破壊効果を無効にして発動できるので便利だ。

 本当なら終焉の焔は相手のエンドフェイズ時に発動したかったのだが贅沢は言ってられない。

 

「小賢しいわね。けどまだ終わりじゃないよ。ハーピィ・チャネラーの特殊能力、手札よりハーピィと名のつくカードを捨てることでデッキよりハーピィと名のつくモンスターを表側守備表示で特殊召喚できる!

 アタシは手札のハーピィ・ガールを捨ててハーピィズペット竜を表側守備表示で召喚!」

 

 

【ハーピィズペット竜】

風属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2000

守備力2500

このカードの攻撃力・守備力は、

フィールド上の「ハーピィ・レディ」の数×300ポイントアップする。

 

 

 いきなり最上級モンスターのドラゴンがフィールドに降り立った。名前の通りハーピィ・レディに飼われているドラゴンなのだろう。主であるハーピィの前に立ち塞がるとギロリと睨んでこちらを威嚇してきた。

 最上級モンスターにしては攻撃力はたったの2000だが場に「ハーピィ・レディ」扱いのハーピィ・チャネラーがいるため攻撃力は2300だ。

 

「更に万華鏡-華麗なる分身-を発動! 私の場にハーピィ・レディが表側表示で存在する場合、自分の手札またはデッキよりハーピィ・レディまたはハーピィ・レディ三姉妹を特殊召喚できる!」

 

 

【万華鏡-華麗なる分身-】

通常魔法カード

フィールド上に「ハーピィ・レディ」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。

自分の手札・デッキから「ハーピィ・レディ」または

「ハーピィ・レディ三姉妹」1体を特殊召喚する。

 

 

 万華鏡に映し出されたようにハーピィ・チャネラーの姿が残像のように増える。残像はやがて姿を変え三体のハーピィ・レディを映し出す。

 

「現れなさい。私の可愛いしもべ、ハーピィ・レディ三姉妹!」

 

 

【ハーピィ・レディ三姉妹】

風属性 ☆6 鳥獣族

攻撃力1950

守備力2100

このカードは通常召喚できない。

「万華鏡-華麗なる分身-」の効果で特殊召喚する事ができる。

 

 

 三姉妹の名に違わず三体のハーピィ・レディが得物を前にした狩人特有の猛々しい笑みと共に舞の前に降り立った。

 ハーピィ・レディ三姉妹とハーピィズペット竜。ハーピィを代表するモンスターが最初のターンから揃い踏みだ。やはり孔雀舞、歴戦のデュエリストは伊達ではないということか。

 

「三姉妹が特殊召喚されたことでハーピィの狩場の効果が再び発動。アンタの場のリバースカードを破壊する」

 

 これで丈の場に残るのは攻撃力1900のバルバロスと二体の黒焔トークン。傍から見れば絶体絶命だろう。だが、

 

「それはどうかな」

 

「なんですって!?」

 

「万華鏡-華麗なる分身-が発動した時、俺もチェーンして魔法カードを発動していた。速攻魔法、禁じられた聖杯を。

 禁じられた聖杯はこのターン、モンスターの攻撃力を400ポイント上昇させ効果を無効にするカード。バルバロスは妥協召喚されたモンスター。禁じられた聖杯によりその効果はなくなり元々の攻撃力に戻る。そして更に禁じられた聖杯で攻撃力が400上昇し攻撃力は3400だ」

 

「……攻撃力3400。幾らハーピィの狩場でハーピィの攻撃力が200ポイントアップしても勝てないわね。だけどアンタが華麗なる分身を使ったタイミングで禁じられた聖杯を発動した理由は他にもあるんでしょう?

 城之内が言うだけあるわね。まだ高校生の坊やにしては強かなことをするじゃない」

 

 ハーピィの狩場が消失し元の風景に戻っていく。

 これがハーピィの狩場の弱点。魔法・罠カードを破壊する効果は任意ではなく強制のため丈の場に魔法・罠がなければ舞は自分のカードを自分で破壊することを強いられるのだ。

 だからこそフィールドにある唯一の魔法カード、ハーピィの狩場が破壊されたのだ。他ならぬハーピィの狩場によって。

 

「まぁいいわ。バトル! ハーピィ・チャネラーとハーピィ・レディ三姉妹で黒焔トークンを攻撃!」

 

 黒焔トークンの攻撃力守備力はゼロ。ハーピィの前に為す術もなく撃破される。

 

「バトルを終了。メインフェイズ2へ移行。手札より魔法カード、テラ・フォーミングを発動。デッキからフィールド魔法を手札に加える! アタシはハーピィの狩場を手札に。そしてそのままハーピィの狩場を発動!」

 

 再び周りの景色が元の狩場に戻っていく。上手く狩場を消し去れたと思ったのに、既に次の用意があったとは。やはり油断できない相手だ。戦術の奥に更にもう一つの戦術を用意してきている。

 

「カードを一枚伏せる。ターンエンド!」

 

 だがデュエルは始まったばかり。本当の勝負はこれからだ。




 お久しぶりです。適当に休んだのでちょくちょく投稿します。


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第107話  隠し玉

宍戸丈 LP4000 手札3枚

場 神獣王バルバロス

 

孔雀舞 LP4000 手札1枚

場 ハーピィ・チャネラー、ハーピィズペット竜、ハーピィ・レディ三姉妹

伏せ 一枚

フィールド ハーピィの狩場

 

 

 

 序盤。いきなりの召喚ラッシュとハーピィの狩場による除去ラッシュにより当初の計画は崩壊。終焉の焔をエンドフェイズで発動し生け贄要因を揃える計画は完全に台無しになってしまった。

 孔雀舞が積み重ねてきた戦績は伊達ではない。数多くのデュエリストたちとの対戦経験はルーキーでは到底出せない深みを戦術に与えている。

 丈はそれなりのデュエリストではあるが〝年季〟に限っていえば孔雀舞とは勝負にもならない。

 

(年季で勝てないなら、ルーキーの〝勢い〟で勝負するしかないな)

 

 ベテランにはルーキーがもっていないものを多く持っている。だが同じようにルーキーだってベテランが持っていないものを多く持っている。

 ここで丈が武器とすべきはそれだ。ルーキーだけがもつ勢いを活かさない手はない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 バルバロスは攻撃力3000の強力なモンスターだが、逆に言えば攻撃力だけしか強味がない。

 孔雀舞のハーピィ・レディを中心としたデッキは攻撃以外の除去を豊富にもつデッキだ。攻撃力だけのバルバロスではやや相性が悪い。ここは少し勿体なくても除去に強いカードを出す。

 

「おろかな埋葬を発動。デッキよりモンスターを一体墓地へ送る。俺が墓地へ送るのはレベル・スティーラーだ」

 

 

【おろかな埋葬】

通常魔法カード

自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

 

 

【レベル・スティーラー】

闇属性 ☆1 昆虫族

攻撃力600

守備力0

このカードが墓地に存在する場合、自分フィールド上に表側表示で存在する

レベル5以上のモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。

このカードは生贄召喚以外のためには生贄にできない。

 

 

 デュエルディスクにセットされていたデッキを抜き、レベル・スティーラーのカードを墓地へ置いた。

 フィールドのモンスターのレベルを一つ下げるだけという緩い蘇生能力をもつレベル・スティーラーは、丈のデッキにおいて『終焉の焔』に次ぐ召喚の要ともいうべきカードである。

 

「俺はバルバロスのレベルを一つ下げて墓地よりレベル・スティーラーを蘇生。そして俺はバルバロスとレベル・スティーラーを生け贄に捧げる!」

 

「攻撃力3000のバルバロスを生け贄にするですって!」

 

 強力な最上級モンスターを敢えて生け贄に捧げる。そうそう見ないプレイングに孔雀舞の目が見開かれた。

 だが最上級モンスターの数が下級モンスターの数より多いという非常に特殊な構成となっている丈のデッキにおいては至極よくあるプレイングである。

 

「降臨せよ、堕天使アスモディウス!」

 

 

【堕天使アスモディウス】

闇属性 ☆8 天使族

攻撃力3000

守備力2500

このカードはデッキまたは墓地からの特殊召喚はできない。

1ターンに1度、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分フィールド上に「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、

「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。

「アスモトークン」はカードの効果では破壊されない。

「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。

 

 

 象徴とする大罪は〝色欲〟。男性的な鎧で体を包みつつも、どことなく女性的でもある堕天使が黒い羽を舞い散らしながらゆっくりと地面に降り立つ。

 ハーピィと堕天使。これで奇しくも同じ翼をもつモンスター同士が相対する形となった。

 

「堕天使アスモディウス。破壊された時に破壊耐性と効果耐性をもつトークンを残す最上級堕天使カード。デッキと墓地から特殊召喚できない制約をもつ大型モンスターをこうも簡単に。

 あのペガサス直々にNDLに招いただけあるわね。とても十五歳だか十六歳の坊やとは思えない戦い方だわ」

 

「……お褒めに頂き上々。堕天使アスモディウスのモンスター効果。1ターンに1度、デッキより天使族モンスターを墓地へ送ることができる。俺はデッキより守護天使ジャンヌを墓地へ送る。

 バトルフェイズだ。堕天使アスモディウスでハーピィ―・チャネラーを攻撃!」

 

 堕天使アスモディウスの瞳が妖しく光る。空に舞い上がったアスモディウスは本来狩人の側であるハーピィ―・チャネラーを逆に刈り取った。

 

「っ! まさか私が先手を……!」

 

 孔雀舞LP4000→2600

 

 堕天使アスモディウスとハーピィ―・チャネラーの攻撃力の差が戦闘ダメージとなって孔雀舞の(ライフ)を奪った。

 リーグ加盟したてのルーキーがいきなりベテランにダメージを負わせたことで観客の熱気が高まる。

 

『おおっと!! なんとも痛烈ゥゥ!! 最初にダメージを貰ったのはハーピィ・レディ使いの孔雀舞!! 宍戸丈。攻撃力3000の神獣王バルバロスを生け贄に捧げるという〝魔王〟の名に恥じぬプレイングによって先制したァーーーッ!』

 

 やや暑苦しいMCの声が会場に響き渡った。

 もはやこの暑苦しさと熱気にも慣れたものである。丈は特に動揺しないまま「ターンエンド」を宣言する。

 

「アタシのターン……ドロー。まったく驚いたわ。三邪神だなんだいって騒がれていたとはいえ、初試合のルーキーにこのアタシがキツいやつを喰らうなんて。

 お陰でいきなりデッキに投入したばかりの隠し玉を見せることになったわ!」

 

「隠し玉、だって?」

 

『ここで孔雀舞!! なにやら奥の手を出す構えをみせたぁぁぁぁッ! 一体孔雀舞のいう隠し玉とはなんなのか!!』

 

 MCの大音響もまるで耳に入って来ない。

 孔雀舞の浮かべる自信満々の笑顔。恐らくはこの戦況を一気に引っ繰り返すだけのカードを既に手札に持っている。

 

「アタシはフィールドにいるハーピィズペット竜、ハーピィ・レディ三姉妹。墓地のハーピィ・ガールをゲームより除外!

 フィールドを大気で取り込み制圧しなさい! 現れろ、The アトモスフィア!!」

 

 

【The アトモスフィア】

風属性 ☆8 鳥獣族

攻撃力1000

守備力800

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に存在するモンスター2体と自分の墓地に存在する

モンスター1体をゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。

1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを

装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、このカードの効果で装備した

モンスターのそれぞれの数値分アップする。

 

 

 この空間中の大気がブラックホールに吸い込まれるかの如く一か所に集まりだし、集まった大気がやがて一つの姿を形作る。

 雄大な翼が広がっていく。足のあたりには透明な白い球体状のカプセルがあった。

 そして風と大気が生んだ鳥獣モンスターが威嚇するように鋭く丈を睨んだ。

 

「レベル8で攻撃力が1000……?」

 

 最上級モンスターにしては異常なまでに低い攻撃力。だからといって丈にはThe アトモスフィアを舐める気は毛頭なかった。

 レベル8の最上級モンスターにランク付けされるには必ず理由がある。でありながら攻撃力が低いということは、そのモンスターの効果によって最上級のレベルを与えられたということに他ならないのだ。

 

「The アトモスフィアはフィールドのモンスター2体と、墓地のモンスター1体をゲームから除外した場合に特殊召喚することが出来る最上級モンスター。

 その効果は相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを装備カードとして吸収! その攻撃力と守備力を奪うことができるのさ!」

 

「ま、不味い!」

 

 丈のフィールドには攻撃力3000の堕天使アスモディウスがいる。The アトモスフィアからしたら恰好の得物だ。

 しかも最悪なことに堕天使アスモディウスのトークン精製能力は破壊されて墓地へ行った時に発動する。だが装備カード扱いとして吸収されてはその効果は発動できない。

 

「The アトモスフィア! 堕天使アスモディウスを吸収しなさい!」

 

 空間中の大気が今度は堕天使アスモディウスを吸い寄せていく。アスモディウスも抵抗したが抗え切れず、アスモディウスはThe アトモスフィアのカプセルに封じ込まれてしまった。

 アスモディウスの攻撃力である3000がアトモスフィアに加算された。ハーピィの狩場の上昇効果も合わせてアトモスフィアの攻撃力は4200。神のカードであるオベリスクやドレッド・ルートを上回った。

 そして丈のフィールドに壁モンスターはいない。

 

「バトルよ。アトモスフィアで相手プレイヤーを直接攻撃。テンペスト・サンクションズ!!」

 

 アトモスフィアの吐き出した大気の波動が丈へ襲い掛かった。

 丈には壁となるカードも攻撃を跳ね返す罠カードもない。だが手札にはまだ可能性があった。

 

「俺はクリボーを捨てることで戦闘ダメージを一度だけゼロにする!」

 

 大気が丈にぶつかる直前、手札から飛び出したクリボーが身を挺してその攻撃から主の身を守った。

 

「く、クリボーですって!? また懐かしいカードを」

 

 クリボーは弱小モンスターではあるもののキング・オブ・デュエリスト武藤遊戯が愛用したことで有名なカードでもある。

 武藤遊戯とは共に戦い戦った仲である孔雀舞からしたら馴染のあるモンスターだろう。

 しかし危ないところだった。もしもクリボーがなくアトモスフィアの攻撃が通っていれば、丈のNDL初デュエルにして初敗北が決定していただろう。

 

「仕方ないわね。バトルフェイズを終了しメインフェイズ2。私はこのターン、まだ通常召喚を行っていない。モンスターを一枚セットしてターン終了よ」

 

 取り敢えずこのターンは凌いだが中々不味い展開だ。

 ライフだけは上回っているが、手札はそれほど差がなくボードアドバンテージは明らかに相手の優勢。次のターンでもしもモンスターを引けなければ、そのままクリボーの奮戦空しく惨めに敗れ去るということすら有り得る。

 

「俺のターン……」

 

 丈は意を決してデッキの一番上に手をかけた。




 実はここだけの話、当初は丈の最初の対戦相手はラフェールの予定でした。ガーディアンのカードが余りにも少なすぎることで没となりましたが。


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第108話  紅蓮の弓矢

宍戸丈 LP4000 手札1枚

場 なし

 

孔雀舞 LP2600 手札0枚

場 The アトモスフィア、セットモンスター

伏せ 一枚

魔法 堕天使アスモディウス(装備カード扱い)

 

 

 

 攻撃力4200ものモンスターとリバースカードも壁モンスターもない状況で相対していると流石にプレッシャーが半端なものではない。

 だが一年前の三邪神ほどではないと丈は自分を奮い立たせる。三邪神の触れるだけで蒸発してしまいそうなエネルギーの奔流と比べれば大したことがない。

 

「俺のターン、ドロー! 強欲な壺を発動。デッキからカードを二枚ドローする。速攻魔法、サイクロン! フィールド魔法、ハーピィの狩場を破壊だ」

 

 突風が巻き起こりフィールドに発動していたハーピィの狩場のカードを吹き飛ばす。カードが破壊され墓地へ送られると、周囲の風景もまた元のデュエル場へと戻った。

 

「よし。これで……」

 

 ハーピィの狩場は最初に丈が仕掛けた様に下手をうてば自分で自分のカードを破壊する事を強要されてしまうという弱点があるが、それを加味してもやはり魔法・罠カードを安定して除去できる性能は恐ろしいの一言である。

 特に永続魔法を多く並べる丈のデッキにはかなり刺さるカードだ。ここで破壊できた意義は大きい。

 

「ハーピィの狩場を破壊して一安心してるとこ悪いけど忘れてない? アタシの場には無傷のアトモスフィアがいるってことを」

 

「勿論忘れてない。俺はモンスターをセット。…………そしてリバースカードを一枚セットする」

 

「!」

 

「ターンエンド」

 

 これ見よがしにニヤリと笑いつつ手札のカードを伏せる。しゅん、とフィールドに裏側表示でセットされた伏せカードが実体化した。

 舞が苦々しそうに丈を睨みつける。

 

「可愛い顔して嫌らしいことするじゃない。一丁前に私と駆け引きをするつもり?」

 

「さぁ。どうでしょう?」

 

 ハーピィの狩場がなくなりダウンしたとはいえ攻撃力4000という脅威の力をもつアトモスフィア。そのアトモスフィアがある舞は一見すれば優位に立っているように見えるだろう。

 だが例え攻撃力が高くともそれだけで押し切れないのがデュエルモンスターズというものである。

 攻撃力が10000だろうと1000000だろうとたった一枚の伏せカードであっけなく破壊されるなんてことはよくあることだ。

 だからもしも丈の伏せたのが〝ミラーフォース〟のようなカードならば、それこそ一気に形勢逆転することもできるのである。

 しかし〝孔雀舞〟はそんな程度のブラフで攻撃を躊躇するヤワなデュエリストではなかった。

 

「賢しい手にはのらないよ。アタシは裏側守備表示でセットしていたメタモルポットを反転召喚! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚のカードをドローする」

 

(ここで大量の手札交換か)

 

 一筋の汗が流れる。ここでメタモルポットとは色々な意味で丈にとって想定外にして予想外だった。

 丈は手札が0枚のため何のカードも捨てることなくデッキからカードを五枚ドローする。ドローした五枚はどれも悪くないカードなのだが、こんな時では余り嬉しくない。

 

「アタシは手札よりハーピィ・クィーンを攻撃表示で召喚」

 

 

【ハーピィ・クィーン】

風属性 ☆4 鳥獣族

攻撃力1900

守備力1200

このカードを手札から墓地へ捨てて発動できる。

デッキから「ハーピィの狩場」1枚を手札に加える。

また、このカードのカード名は、フィールド上・墓地に存在する限り

「ハーピィ・レディ」として扱う。

 

 

 クィーンと名のつくだけあって他のハーピィ・レディより妖艶さの際立つハーピィが、長い緑色の髪を靡かせながらクスクスと丈を嘲笑する。

 これが普通の女性にされたらイラっとくるところだが、ハーピィ・クィーンの嘲笑が余りにも様になっているせいで怒りの感情すら湧いてこない。

 その攻撃力は1900ポイント。ハーピィデッキの下級モンスターではエース級ともいえるモンスターである。

 

「ハーピィ・クィーンはフィールドまたは墓地にある時、カード名をハーピィ・レディとして扱う。よってこのカードの条件もクリアできるわけよ。万華鏡-華麗なる分身-の、ね。

 女王の姿を映しだし、再び三つの姿に分身しなさい。私の可愛いしもべ達!」

 

 

【万華鏡-華麗なる分身-】

通常魔法カード

フィールド上に「ハーピィ・レディ」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。

自分の手札・デッキから「ハーピィ・レディ」または

「ハーピィ・レディ三姉妹」1体を特殊召喚する。

 

 

【ハーピィ・レディ三姉妹】

風属性 ☆6 鳥獣族

攻撃力1950

守備力2100

このカードは通常召喚できない。

「万華鏡-華麗なる分身-」の効果で特殊召喚する事ができる。

 

 

 孔雀舞のフィールドに三姉妹を三体とするならば合計四体のハーピィが並んだ。四体のハーピィに囲まれて佇むアトモスフィアはさしずめハーピィたちの守護神とでもいったところか。

 いや4000という高い攻撃力を踏まえれば守護神というよりかは破壊神と言う方が相応強いかもしれない。

 

「バトル! ハーピィ・クィーンでリバースモンスターを攻撃!」

 

 ハーピィ・クィーンが飛び上がり、そのかぎ爪でセットモンスターを攻撃した。

 攻撃対象となったことで表側表示となるセットモンスター。出てきたモンスターはあろうことかメタモルポット。

 

「…………はい?」

 

「あー、この瞬間。メタモルポットの効果発動。お互いのプレイヤーは手札を全て捨ててカードを五枚ドローする。うん」

 

「ま、待ちなさい! ということはアンタもメタモルポットを伏せてたわけ?」

 

「ご覧の通りですよ」

 

 だから良いカードがきたところで余り嬉しくなかったのだ。どうせメタモルポットの効果で捨てられるのに良いカードがきたところで宝の持ち腐れ以外のなにものでもない。

 あんまりな展開に丈も肩を落とし嘆息する。

 

『なんと宍戸丈、孔雀舞両選手。共にメタモルポットを伏せていた!! 宍戸丈、プロ初デュエルにして珍プレイだぁぁぁ!!』

 

 手に汗握る展開で熱くなっていた会場が別の意味で沸き立った。観客の笑いがあちらこちらから響く。

 だが対戦相手である孔雀舞は溜息をつきながらも、獰猛なデュエリストとしての殺意を引込めてはいなかった。

 

「はぁ。変な事になったけど、あたしのやることは全くこれっぽっちも変わらないよ。メタモルポットがなくなったことでアンタのフィールドから壁モンスターは消えた。

 行くよ。アトモスフィアで相手プレイヤーを直接攻撃。テンペスト・サンクションズ!!」

 

「リバースカードオープン。罠発動、ガード・ブロック。戦闘ダメージを一度だけゼロにして、デッキからカードを一枚ドローする」

 

 

【ガード・ブロック】

通常罠カード

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。

その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 アトモスフィアの放った大気は不可視の壁に阻まれ丈へは届かない。そしてメタモルポットの五枚とガード・ブロックのドローで手札が六枚になった。

 そしてこのターンで丈のライフが0になることもなくなった。

 

「チッ。完全にブラフってわけでもなかったわけね。ハーピィ・レディ三姉妹、生意気な坊やを痛めつけてやりな! トリプル・スクラッチ・クラッシャー!」

 

「ぐっ!」

 

 三姉妹の息の合ったコンビネーション攻撃が丈の身を切り刻んだ。無傷だったライフが2150、半分近くまで削り込まれる。

 

「おまけだよ。メタモルポットで攻撃」

 

 反転召喚されたメタモルポットも当然攻撃権はある。攻撃力は低いが確かなダメージが丈に襲い掛かりライフポイントが半分を切った。

 1350。なんとも中途半端なこの数値が丈に残って命数だった。

 

「メインフェイズ2。フィールド魔法、ハーピィの狩場を発動。ターンエンド」

 

 三度目の正直とばかりに周囲の風景が狩場へと姿を変化させる。

 ともあれガード・ブロックのお蔭で九死に一生を得た。孔雀舞の表情が暗いものへと変わる。彼女からすれば先程のターンで決着をつけるつもりだったのだろう。

 或いは手札には攻撃が防がれても丈のライフを削る手段があったのかもしれない。だがそれは丈のメタモルポットによりふいとなった。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 そして丈のターン、ドローしたことにより手札は合計で七枚。七枚もの手札が齎すであろう可能性。孔雀舞ほどのデュエリストが警戒しないはずがない。

 警戒する、というのはデュエルにおいても重要な心構えではあるが物事には警戒したから防げるということばかりではない。

 丈がドローしたカードと他六枚の手札。キーカードは揃っている。

 

「――――ここから、攻める」

 

 まずは、と丈が一枚のカードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「永続魔法、冥界の宝札を発動!」

 

 

【冥界の宝札】

永続魔法カード

2体以上の生け贄を必要とする生け贄召喚に成功した時、

デッキからカードを2枚ドローする。  

 

 

 丈のデッキの回転の軸となるドローエンジン。冥界の宝札が遂に発動した。

 これで漸く宍戸丈のデッキが真価を発揮する条件が揃う。だが今回はそれ以上だ。プロ最初のデュエルがいつも通りのデュエルではしまらない。

 初陣はやはり100%以上の全力を超えた全力というものを披露しなければならない。

 

「さらに! 俺は冥界の宝札に続き永続魔法……進撃の帝王を発動!!」

 

 

【進撃の帝王】

永続魔法カード

このカードがフィールド上に存在する限り、

自分フィールド上の生け贄召喚したモンスターは

カードの効果の対象にならず、カードの効果では破壊されない。

また、このカードがフィールド上に存在する限り、

自分は融合デッキからモンスターを特殊召喚できない。

 

 

 ハーピィの狩場に閉じ込められた丈とそのデッキたち。だが狩られているのはもうここまでだ。

 攻守はここに交代する。これからはハーピィが狩るのではない。ハーピィたちが狩られるのだ。ここから魔王の反撃が始まる。

 

「閉じ込められた被捕食者は烈火の如き怒りを携え拳を振るう……。フォトン・サンクチュアリを発動、二体の生け贄をフィールドに揃える。そして二体のフォトンを生け贄に捧げ、白竜の忍者を攻撃表示で場に繰り出す」

 

 

【フォトン・サンクチュアリ】

通常魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は光属性以外のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

自分フィールド上に「フォトントークン」(雷族・光・星4・攻2000/守0)

2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは攻撃できず、シンクロ素材にもできない。

 

 

【白竜の忍者】

光属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2700

守備力1200

このカードを特殊召喚する場合、

「忍法」と名のついたカードの効果でのみ特殊召喚できる。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

自分フィールド上の魔法・罠カードはカードの効果では破壊されない。

 

 

 白竜の力を宿した〝忍〟が降り立つと主である丈に跪く。そして冥界の力が宍戸丈に新たに二枚の手札を捧げた。

 強力な最上級モンスター、白竜の忍者。さらには冥界の宝札と進撃の帝王。これだけのカードを出しておきながら以前として丈の手札は五枚。

 ここまでやっておきながら余力は十二分。

 

「進撃の帝王がある限り生け贄召喚したモンスターはカード効果では破壊されず対象にもならない。そして白竜の忍者がいる限り俺のフィールドの魔法・罠はカード効果では破壊されることがない。この意味、貴女なら分かるでしょう?」

 

「っ! 〝白竜の忍者〟がある限り進撃の帝王を破壊できないし、〝進撃の帝王〟がある限り白竜の忍者を戦闘以外では破壊できない…………お互いがお互いを守り合ってその耐性を何十倍にも高めた無敵コンボ!」

 

「魔王の進撃はなんびとたりとも阻めない」

 

 丈は苦笑する。我ながら芝居がかった言い方だが、プロデュエリストとはデュエリストであると同時にエンターテイメント。ファンのためこういったファンサービス染みたこともしなければならない。

 とどのつまり「受け取れ! 俺のファンサービスを!」ということだ。開き直り(ヤケクソ)とも言う。

 

「……いいわ。来なさい!」

 

「いやまだ行かない。このまま攻撃したところで白竜の忍者の攻撃力は2700。ゲームエンドに持ち込むには残念ながら足りない。返しのターンでアトモスフィアに攻撃されては折角の〝無敵〟も台無しだ。だから――――」

 

「まさかまだモンスターを召喚するというの!?」

 

 やるならば徹底的に。敵が息絶えるまで手を緩めるつもりは微塵もない。殺意を消す気も毛頭ない。

 

「ご名答。俺は墓地の守護天使ジャンヌとクリボーをゲームより除外。光と闇を供物とし、世界に天地開闢の時が告げられる。降臨せよ、我が魂! カオス・ソルジャー -開闢の使者-!」

 

 

【カオス・ソルジャー -開闢の使者-】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ

ゲームから除外した場合に特殊召喚できる。

1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●フィールド上のモンスター1体を選択してゲームから除外する。

この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

●このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した場合、

もう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 

 墓地より光と闇のしもべが生け贄として捧げられ、天地創造の光が降り注ぐ。

 あらゆる音が消えた時、フィールドに降臨したのは漆黒の鎧に身を包んだデュエルモンスターズ界において〝最強〟の呼び名を創造主より頂いた剣士。カオス・ソルジャー -開闢の使者-だ。

 

『き、きた……』

 

 人間は想像を絶するものを目の当たりにすると逆に静かとなるらしい。あの騒がしかったMCすら息をのみ、歓声を控えた。

 最強の剣士の威容に誰もが息をのみ目を奪われる。

 唯一人。萎縮も畏怖の念も露わにしていないのはカオス・ソルジャーの主である宍戸丈だけ。丈はカオス・ソルジャーに向かって左手を振り下ろす。それが合図となった。

 堰を切ったように会場中の人々の喉が爆発する。

 

「カオス・ソルジャーの特殊能力。1ターンに1度、フィールド上のモンスター1体を選択し除外する。消え去れ、天地開闢創造撃!」

 

 大気を支配していた〝The アトモスフィア〟が天地開闢の一撃を前に為す術もなく雲散する。

 そして丈はただ一言「バトル」と告げた。

 

「ハーピィ・クィーンにはさっき嘲笑された借りがあったけどまだ倒さない。……そう最初に狙うのは攻撃表示で無防備を晒しているメタモルポットだ。白竜の忍者、屠殺しろ」

 

 白竜の忍者が小さく頷くと、目にも留まらぬ速度でメタモルポットを十八の残骸に解体した。

 

「いつっ……やってくれたわね!」

 

 孔雀舞のライフが1000をきって600を刻む。遂に、だ

 あの城之内克也と互角の戦いを繰り広げてきた歴戦の決闘者にチェックをかけた。

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 一転して絶体絶命の窮地へと追い込まれた孔雀舞。しかし舞もまた戦意を折ってはいない。

 歴戦のデュエリストという称号は勝利の歴史であると同時に敗北の歴史である。孔雀舞もまた華々しい勝利を幾度となく積み重ねてきたのと同じように、その陰で惨めな敗北というものを積み重ねてきた。

 勝利と敗北。それを知るからこそ人は真の強者たりえるのだ。故に歴戦のデュエリストがこの程度で膝を屈するなど有り得ない。

 

「アタシのターンよ。白竜の忍者と進撃の帝王のコンボ。一見攻略不可能にみえるコンボだけど攻略法はある。誰にでも思いつくシンプルな攻略法が。

 このターンでアタシは白竜の忍者を戦闘破壊するわ!」

 

 そう単純にしてシンプルなことだ。白竜の忍者にも進撃の帝王にも戦闘破壊耐性を与える効果は何一つとして記述されていない。そして白竜の忍者の攻撃力は2700。戦闘破壊は十分に可能な数値なのだ。

 

「手札を一枚捨て永続罠、発動! ヒステリック・パーティ!」

 

 

【ヒステリック・パーティー】

永続罠カード

手札を1枚捨てて発動できる。

自分の墓地から「ハーピィ・レディ」を可能な限り特殊召喚する。

このカードがフィールド上から離れた時、

このカードの効果で特殊召喚したモンスターを全て破壊する。

 

 

「このカードの効果によりアタシは墓地から『ハーピィ・レディ』を召喚可能な限り特殊召喚する! アタシはハーピィ・クイーン、ハーピィ・レディ1二体を墓地から特殊召喚!」

 

 

【ハーピィ・レディ1】

風属性 ☆4 鳥獣族

攻撃力1300

守備力1400

このカードのカード名は「ハーピィ・レディ」として扱う。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

風属性モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。

 

 

 効果は重複する。ハーピィ・レディの攻撃力を上げる効果は二体がフィールドに現れたことで倍の600ポイントの上昇となる。

 孔雀舞のハーピィたちが一気にその攻撃力を上昇させた。狩場の強制効果は破壊耐性を付与された丈の魔法・罠を選択し不発とする。

 

「さらに! 永続魔法、強者の苦痛を発動! このカードがある限り相手モンスターはレベル×100ポイント攻撃力をダウンさせる!」

 

「むっ!」

 

 カオス・ソルジャーのレベルは8、白竜の忍者はレベル7。強者の苦痛の効果を受けカオス・ソルジャーは2200に白竜の忍者は2000まで攻撃力を低下させた。

 これで攻撃力が完全に逆転した。ハーピィの総攻撃を受ければ丈のライフは消し飛ぶだろう。だから、

 

「罠発動、威嚇する咆哮! このターン、相手の攻撃宣言を封じる」

 

 攻撃される前に攻撃を先に潰す。

 

「っ! 威嚇する咆哮を、ここで……! カードを二枚セットしてターンエンドよ」

 

「俺のターン。カオス・ソルジャーのレベルを二つ下げ二体のレベル・スティーラーを特殊召喚。二体のレベル・スティーラーとカオス・ソルジャーを生け贄に捧げ神獣王バルバロスを攻撃表示で召喚!

 そしてバルバロスのモンスター効果。相手フィールド上のカードを全て破壊する!」

 

「リバース発動、奈落の落とし穴――――」

 

「残念だが進撃の帝王が俺のフィールドで発動中。破壊は無意味だ。そしてバルバロスで攻撃、トルネード・シェイパー!」

 

 バルバロスの槍から放たれた雷が孔雀舞のハーピィたちの全てを粉々にする。

 がら空きとなったフィールドを駆け抜けバルバロスが槍を突きだした。舞のライフが0を刻む。

 

『決まったぁぁぁぁッ! 宍戸丈VS孔雀舞! 激闘を制したのはルーキーの宍戸丈だぁぁぁッ!』

 

 デュエルが終わると舞が手を出してくる。丈は緊張が解けて思わず朗らかに笑いながらその手を握った。

 

「良いデュエルだったわ。まさかルーキーに足元掬われるなんてアタシもまだまだね」

 

「いや俺も偶然冥界の宝札で引いたカードに威嚇する咆哮がなければあのまま押し負けてましたよ」

 

「まったく謙虚なんだか剛胆なんだか分からないわね」

 

 ともあれ宍戸丈のプロ最初のデュエルは終わった。紙一重の攻防だったが、どうにか最初の戦いを白星で飾ることができたらしい。

 歓声が降り注ぐ中、丈の口元には確かな笑みがあった。

 



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第109話  アメリカ・アカデミア

 海馬コーポレーションが資金を捻出し、デュエル界の重鎮であった影丸理事長等と共に曰くつきの孤島にデュエル・アカデミアが創設されて以来、アカデミアは毎年多くのプロデュエリストを排出してきた。

 アカデミア卒のデュエリストはプロリーグに加盟してからも着実に成績を伸ばし、シャイニング・リーグなどではランキング上位の三分の一はアカデミアを卒業して者達で占められている。

 その輝かしい実績が第二、第三のデュエル・アカデミア創設気運に発展するまでそう時間がかかることはなかった。

 現在アカデミア本校に続き世界各地には数多のアカデミア分校が新たに創設されている。アカデミア本校にとって一番馴染み深いのは毎年代表者同士の交流戦が行われるノース校だろう。

 ノース校は距離的にアカデミア本校に一番近いのでそういった意味での交流も多い。ノース校以外にはアークティック校、イースト校、ウエスト校、サウス校などがある。他に異色の校舎としては学業重視の本土にあるアカデミア男子校や、お嬢様学校でもあるアカデミア女子なども存在する。

 一口に分校といっても学校ごとにコースは様々でデュエル・アカデミアのように寮ごとに待遇がまるで異なるようなシステムもあれば、どんな学生にも平等の教育を受けさせる方針をとる学校など様々だ。

 ただし多くの分校に言えることだが、やはり規模・実績・学生数において大本であるアカデミア本校には劣る。

 アカデミア本校が最も歴史があることや、近年でいえばアカデミアの〝四天王〟の存在がアカデミア本校のレベルを上げる一因にもなっているといえるだろう。

 だが数多ある分校の中で唯一つの例外がある。それが丈がNDL加盟と同時に留学することになったアメリカ・アカデミアだ。

 ペガサス・J・クロフォードの生まれた国でありインダストリアル・イリュージョン本社のあるアメリカ。キング・オブ・デュエリスト武藤遊戯の生まれた国であり海馬コーポレーションの本社がある日本。

 この両国は常に最先端デュエル先進国の座を争っているツートップであり、日本で二冠王が出ればアメリカでは三冠王が出るという言葉すらあるくらいだ。

 それはデュエル・アカデミアにおいても例外ではなく、アメリカ・アカデミアは唯一本校以外の学校で本校に比肩しうるだけの規模をもっている。もっともだからといって仲が悪いというわけではなく、言うなれば良きライバル関係とでもいったところだ。

 

「……やれやれ。さすがに少しは緊張したな」

 

 マッケンジー校長に留学の挨拶を終えた丈は少しだけ疲れた面持ちで校長室から出た。

 今日は日曜日。日曜日が休みなのはアメリカにおいても日本と同じで、アメリカ・アカデミアの校舎に人気は余りない。平日であれば生徒で賑わうであろう食堂も今はガランとしている。

 丈がわざわざ日曜日に挨拶をしにきたのは偶然ではない。日曜日なら校舎にいる生徒も少ないだろうと分かった上で狙って来たのだ。その理由は、

 

「おい見ろよ。あれが」

 

「ああ。アカデミア本校四天王の一角。〝魔王〟ジョー・シシドだ。本当に留学してくるなんて」

 

「しかも学生でありながらNDLのトップリーグに入って、いきなり孔雀舞を倒すような怪物だ」

 

 なにかの事情で校舎にいたアメリカ・アカデミアの生徒たちのヒソヒソとした囁き声が聞こえてくる。

 英語という学問に対して真面目に取り組んでいたことをこれほど感謝したことはない。もしも日々の努力がなければ丈は頭の上にクエスチョンマークを浮かべるしか出来なかっただろう。

 丈が嘆息しつつ一人でヒソヒソ声の合唱の中を歩いていた時だった。その背中に声が掛けられる。

 

「どうやらお疲れのようね」

 

「……………ん? あ、貴女は」

 

 振り向いてみると、そこには理知的な眼鏡をかけ学者らしい白衣に身を包んだ女性がいた。

 スラリと長い身長と長い金髪を靡かせた姿は見る者に〝やり手の天才女性研究者〟というイメージを植え付ける。或いは天才と女性の間に美人と付け加えてもいいかもしれない。

 

It’s been a long time(久しぶり).こうして顔を会わせるのはI2カップの時以来ね」

 

「こちらこそお久しぶりです。ミス・ホプキンス」

 

「ふふふっ。ちょっと見ない間に随分と有名になったわね。三邪神に、アカデミアの四天王に…………数えてたら指がなくなるわ。ちょっと前の遊戯を思い出すわ」

 

「あは、は」

 

 これまでならキング・オブ・デュエリストと準えるなど恐れ多いと恐縮していただろう。だが三邪神なんてカードの担い手となっりダークネスなんて存在と戦ったりした手前、武藤遊戯並みに騒動に巻き込まれているという言葉を否定することはできなかった。

 丈は改めて自分が歩んできた数奇な巡り合わせを思い苦笑いした。

 

「ところでミス・ホプキンスはどうしてアメリカ・アカデミアに? まさか学生ってわけじゃない……ですよね」

 

「当たり前でしょ! バトルシティトーナメント前からとっくに大学生だったのになんで今更高等部に逆戻りしてるのよ。留年どころか降年してるじゃない」

 

「バトルシティから大学生って……え?」

 

 まじまじとレベッカの表情を見つめる。が、やはりどう見てもバトルシティの時には大学生してたようには見えない。

 余程レベッカが童顔でない限りバトルシティの頃なら精々小学生か中学生くらいの年齢だろう。そんな丈の内心を悟ったのだろう。

 

「あぁ。私、飛び級して十二歳の時には大学生だったの」

 

「そういえば最年少で全米王者になった天才でしたね。ミス・ホプキンスは」

 

「あんまり畏まった風に喋らないでOKよ。年だってそう離れてないしレベッカでいいわ。それで何の話だったかしら?」

 

「ミス……オホン。レベッカはなんでアメリカ・アカデミアの生徒でもないのにここに?」

 

「アメリカ・アカデミアと私とお祖父ちゃんの大学は近くにあるの。だから偶に特別講師として実技とかを教えに来たりしてるのよ。ついでに私は私で将来有望な生徒をうちの大学に誘ったりしてるわけ」

 

「凄いですね。確か大学で考古学の研究もしているのに」

 

「これでも最年少で全米チャンプになった天才(ジーニアス)。これくらいは当然よ」

 

 自分で自分を天才と言っているのにまるで嫌味に感じないのは、レベッカ・ホプキンスという女性が本物の天才だろう。

 凡才が自分を天才というのは単なる見栄だが、天才が自分を天才というのは自分の名前を言うようなものでしかない。

 日本だと仮に本物の天才だとしても謙遜するのが美徳とされているが、このあたりはお国柄だろう。国ごとの特色による性格や考え方の差異も異文化交流の醍醐味だ。

 

「ジョウはこれから予定はあるの?」

 

「当日迷ったら困るから、これから一通り校舎を見て回ろうかと思ってたんだけど」

 

「なら道案内がいた方が都合が良いわね。案内してあげるわ」

 

 レベッカがクスリと笑いながら胸を張る。

 丈としても一人で好機の視線があちこちから突き刺さってくる校舎を回るのは心細かったところだ。レベッカの提案は願ってもない。

 

「迷惑でなければ」

 

 丈がそう返事するとレベッカが微笑む。だが二人が校舎の探索に行こうとした所で、

 

「――――ジョウ・シシドがここに留学してくるっていうっていう話は本当だったようだな」

 

 アメリカ・アカデミアの白い制服に身を包み制服と同じ白い帽子を被った男子生徒が、丈にありありと敵意を滲ませた言葉を投げつけてきた。

 隣には興味なさげに男子生徒を見守りつつ、密かに丈のことを注意深く観察している女生徒がいる。髪色はレベッカと同じ金色だが長さはロングではなくショート。どことなく吹雪の妹の明日香に似た雰囲気がある。

 

「き、君は!」

 

「フッ。ジョウ・シシド、あの時の借りをここで」

 

「……すまない。誰だっけ?」

 

 ずっこけそうになった男子生徒だったが寸前のところで踏みとどまった。

 男子生徒は怒りで顔を真っ赤にして怒鳴る。

 

「だ、誰だと!? まさかMeのことを忘れたんじゃないだろうな?」

 

「はて」

 

 自分にアメリカ人の知り合いなどそう多くはない。もしも彼の言う通り自分と彼に面識があるなら、記憶の糸を手繰れば思い出せるだろう。

 しかし本当にいつこの男子生徒と知り合ったのか覚えていないのだ。

 丈が記憶の人を手繰り寄せる前にレベッカが口を開く。

 

「デイビット・ラブ。中等部でナンバーワンの成績の貴方が高等部……いえ、ジョウに何の用?」

 

「思い出した!」

 

 レベッカの語った〝デイビット〟という名前。Meという変な喋り方。さらにアメリカ・アカデミアの生徒であること。

 それらのキーワードを満たす丈が知る人物といえば一人しかいない。

 

「思い出した? というと本当にデイビットと面識があるの?」

 

「ああ。中学の頃、アメリカに修学旅行に来たときに偶然プラネットシリーズの一枚〝The big SATURN〟が優勝賞品になってる大会を見つけて、賞品欲しさに出場したんだ。

 その大会で決勝を戦ったのが二つ年下のアメリカ・アカデミアの生徒だったんだ。俺の記憶が正しければその決勝戦の相手がデイビットでやたらとMeを連呼してたはず」

 

「その通りだ! 漸く思い出したのか!」

 

 デイビットはかなり憤慨していた。デイビットからすれば丈は決勝戦で己を下し優勝を掻っ攫った因縁の相手。そんな相手に自分の名前を完全に忘れ去られていたのである。怒りは至極もっともだろう。

 丈もさすがにばつが悪かったので何も言えずに鼻を掻くことしか出来ない。

 

「デイビットについては分かったけど、そっちは?」

 

 丈はデイビットの隣りにいる女生徒に尋ねる。

 

「レジー・マッケンジーよ。不本意ながら一応はこのデイビットと同級生をしてるわ。私は特に貴方に用はない。ただデイビットの付添できただけ」

 

 こっそりと耳元でレベッカが「マック……レジーはデイビットに次いで次席、しかもマッケンジー校長の一人娘よ」と補足した。

 デイビットとレジー。一緒にいる二人だが友好的なオーラはお互いから感じられない。寧ろ仕事上だけのビジネスパートナーといった雰囲気を醸し出している。

 それにしては何故かお揃いのピアスをつけているが何か深い理由でもあるのだろうか。

 

「宍戸丈。MeがYOUに要求することはオンリーワン。YOUが優勝賞品として手に入れたカード、The big SATURNと真の優勝者を賭けてMeとアンティデュエルをしろ」

 

「滅茶苦茶言うわね。丈、別に聞く必要はないわよ」

 

「いや受ける」

 

「は? なんでまた。本校と違ってここはアンティも問題ないけど丈が受ける理由なんてないでしょう」

 

 アンティ勝負。そのものずばりお互いのカードを賭けあい、勝利者が賭けたカードを手に入れるというデュエルだ。

 彼のバトルシティではこのアンティ勝負がルールに盛り込まれたことでも有名だろう。武藤遊戯が三幻神のカードを集めることができたのも、このルールによってグールズがもっていた二枚の神と海馬瀬人のオベリスクを入手したからだ。

 ただし複数の不良デュエリストが一人を囲んでアンティ勝負を強引に受けさせてレアカードを奪う、といった新しいカツアゲが一時期日本では社会問題となったこともあってアカデミア本校ではアンティ勝負は禁止されている。

 

「理由は三つある。こちらの不手際とはいえ、一度戦ったデュエリストの名前を忘れるっていう無礼をしてしまった罪滅ぼしというのが一つ。ここで要求を突っぱねてもたぶんデイビットは諦めないだろうというのが一つ。

 最後の一つはわざわざ高等部まで乗り込んでアンティを持ち掛けるくらいだ。これから彼の先輩になる身として、後輩の要求には応えないと」

 

 丈はデイビットのようなタイプは嫌いではない。

 貪欲に勝利を求め、カードを集め、時に人を見下す精神は万人受けはしないだろうが反骨精神旺盛な者ほどデュエリストとしては大成するものだ。

 大局に唯々諾々と従っているだけでは人間は大成することができない。このあたりは光と闇の竜を渡した万丈目にも共通するところがあるといえるだろう。

 

「フフフフッ。Meの要求を受け入れて感謝しよう。だがYOUは直ぐに後悔することになる。そういえばMeのアンティはどうする? 決める必要のないことかもしれないが一応はマナーだ。YOUが万が一ウィナーとなった場合、YOUはMeのなんのカードを望む?」

 

「カードは要らない。ただ今後『The big SATURN』を賭け金とするアンティ勝負を挑んでこないこと。それが条件だ」

 

「おいおい。魔王ともあろう男が随分と謙虚じゃないか! OK。その要求を呑もう。デュエルだ」

 

「…………」

 

 丈は最近使ってない暗黒界デッキを取り出そうとするが止める。デイビットは〝The big SATURN〟のカードを望んでデュエルを挑んできている。

 ならばお望みのカードが入ったデッキで戦うのが礼儀というものだ。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 デュエルディスクが示した先攻デュエリストは丈。亮と違って丈のデッキは先攻絶対有利なのでこれは有り難いことだった。

 手札も有り難いことに最初から冥界の宝札がきている。これなら上手い立ち上がりができるだろう。

 

「俺のターン、ドロー。手札よりトレード・インを発動。手札よりレベル8のモンスターを捨ててカードを二枚ドローする。さらに手札よりフォトン・サンクチュアリを発動。フィールドに二体のフォトントークンを特殊召喚する」

 

 

【トレード・イン】

通常魔法カード

手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動できる。

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

【フォトン・サンクチュアリ】

通常魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は光属性以外のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

自分フィールド上に「フォトントークン」(雷族・光・星4・攻2000/守0)

2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは攻撃できず、シンクロ素材にもできない。

 

 

 ラッキーな時というのはラッキーが続くものだ。トレード・インでドローしたお蔭で最初のターンでいきなり最上級モンスターを召喚できる用意まで整ってしまった。

 丈はニヤリと笑い手札から一枚のカードを抜く。このモンスターを召喚する前に最後の準備がいる。

 

「手札より永続魔法、冥界の宝札を発動! そして二体のフォトントークンを生け贄に捧げ降臨せよ! 銀河眼の光子竜!!」

 

 

【銀河眼の光子竜】

光属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは自分フィールド上に存在する

攻撃力2000以上のモンスター2体を生け贄にし、

手札から特殊召喚する事ができる。

このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップ時、

その相手モンスター1体とこのカードをゲームから除外する事ができる。

この効果で除外したモンスターは、バトルフェイズ終了時にフィールド上に戻る。

この効果でゲームから除外したモンスターがエクシーズモンスターだった場合、

このカードの攻撃力は、そのエクシーズモンスターを

ゲームから除外した時のエクシーズ素材の数×500ポイントアップする。

 

 

 海馬瀬人の最強のしもべ、青眼の白龍にも似た宇宙の瞳をもつドラゴンが天高く咆哮しながら飛翔する。

 まだ誕生していない新しいシステムに関連する効果をもつ銀河眼の光子竜だが、そのシステムがない今ではその能力は余り意味がない。だがそれを抜きにしても銀河眼の光子竜は他に強力な特殊能力をもっている。

 

(もう一つの効果も先攻1ターン目じゃ使えるはずもないんだけど)

 

 最上級モンスターの生け贄召喚に成功したことで冥界の宝札の効果が発動する。丈はデッキから二枚のカードをドローした。

 このターン、丈が使用ないし召喚したカードは合計で四枚。でありながら丈には手札が五枚もある。

 並んでいく最上級モンスターと途絶えない手札。これこそが丈のデッキの強味だ。

 

「カードを一枚伏せターンエンド」

 

「いきなり最上級ドラゴンを召喚してくるとは……。やはり〝魔王〟は健在ということか。クククククッ。だが丁度良いくらいさ。これくらいのモンスターを召喚してくれなければ倒しがいってものがないじゃないか。フンフンフーン。Meのターン、ドロー!」

 

 何故かアメリカ国歌を鼻歌で鳴らしながらデイビットがドローする。

 丈の記憶にあるデイビットは亮やキースと同じく機械族を中心としたデッキを使っていた。あの頃とデッキタイプを百八十度変更していなければ恐らくは、

 

「Meは手札より永続魔法、機甲部隊の最前線を発動。機械族モンスターが破壊されMeの墓地へ送られた時、そのモンスターより攻撃力の低い同属性機械族をデッキより特殊召喚できる」

 

 

【機甲部隊の最前線】

永続魔法カード

機械族モンスターが戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた時、

そのモンスターより攻撃力の低い、

同じ属性の機械族モンスター1体を自分のデッキから特殊召喚する事ができる。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

 やはり推察は正しかった。デイビットの使用するのはあの頃と同じ機械族、それもマシンナーズを中心としたデッキだ。

 大火力のサイバー流とは趣の異なる、途絶えぬ手札と物量を活かしたタイプのデッキである。

 

「そしてMeは手札よりマシンナーズ・フォースを捨て、マシンナーズ・フォートレスを攻撃表示で召喚する!」

 

 

【マシンナーズ・フォートレス】

地属性 ☆7 機械族

攻撃力2500

守備力1600

このカードは手札の機械族モンスターを

レベルの合計が8以上になるように捨てて、

手札または墓地から特殊召喚する事ができる。

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

また、自分フィールド上に表側表示で存在する

このカードが相手の効果モンスターの効果の対象になった時、

相手の手札を確認して1枚捨てる。

 

 

 近未来的な戦車のようなモンスターがキャタピラを動かしながら砲口を銀河眼の光子竜に向けてくる。

 攻撃力は銀河眼の光子竜が勝っているが、戦闘で破壊された時に相手フィールドのカードを一枚破壊する効果により格上のモンスターを倒すこともできるカードだ。

 しかも破壊したとしても手札に機械族があれば何度でも蘇ってくるため面倒という他ない。

 

「さらにMeはカードを二枚セット! ターンエンドだ」

 

 攻撃力で劣るマシンナーズ・フォートレスを攻撃表示で召喚しつつ自信満々にカードを伏せたところを見ると、あの中の一枚または両方ともがミラーフォースのような罠カードだろう。

 だが罠カードなら今のフィールドならば恐くはない。

 

「俺のターン……ドロー。手札より死者蘇生を発動。トレード・インで墓地へ送ったThe big SATURNを特殊召喚する!」

 

「なっ!? 既にSATURNを墓地へ送っていたのか!」

 

 

【The big SATURN】

闇属性 ☆8 機械族

攻撃力2800

守備力2200

このカードは手札またはデッキからの特殊召喚はできない。

手札を1枚捨てて1000ライフポイントを払う。

エンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は1000ポイントアップする。

この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

相手がコントロールするカードの効果によってこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

お互いにその攻撃力分のダメージを受ける。

 

 

 デイビットが両目を開いてその巨大なる体躯を見上げる。古のゴーレムが如き巨体の機械の巨人は雄々しく丈の前に出現した。

 表示形式は当然攻撃表示。手札を一枚捨て1000ライフを払うことで、エンドフェイズまで攻撃力を1000上昇させる能力。そして相手のカードの効果で破壊された時に互いのライフに攻撃力分のダメージを与えるモンスター効果。

 SATURNの真骨頂は防御ではなく攻撃にあるのだ。

 

「SATURN、2800のダメージを受けるのは痛いが止むを得ない。SATURNが特殊召喚したタイミングでMeはリバース発動。サンダー・ブレイク! 手札を一枚捨てSATURNを破壊する!」

 

「そうはいかない。サンダー・ブレイクの発動にチェーンして罠発動、トラップ・スタン!」

 

「っ!」

 

 

【トラップ・スタン】

通常罠カード

このターン、このカード以外のフィールド上の罠カードの効果を無効にする。

 

 

「このターン、このカード以外の罠カードの効果を無効にする。これでサンダー・ブレイクの効果は無効となる」

 

「おのれ……。Meにカードの無駄撃ちを強いるとは。だが如何にSATURNがあろうとMeのフィールドには破壊された時に相手フィールドのカードを道連れにするマシンナーズ・フォートレスがいる! さらにマシンナーズ・フォートレスが破壊されたとしても機甲部隊の最前線が後続を呼ぶ!

 この布陣、YOUといえど安々とは突破できまい!」

 

「そうだな。確かにマシンナーズが厄介なのはそれだ」

 

 フォートレスを戦闘破壊すれば、こちらのカードが一枚道連れになる。機甲部隊の最前線があればそれに追加して後続のモンスターまで飛び出してくる。

 かといってフォートレスをモンスター効果で除去しようとしたとしても、効果の対象にすれば手札を確認して一枚捨てるというハンデス効果が発動してしまう。

 フィールドからモンスターを絶やさずに相手のフィールドを除去する。シンプル故に強力だ。

 

「だが俺もアカデミア特待生寮で惰眠とただ飯を貪っていたわけじゃない。そのデッキと戦術の攻略法は編み出している!」

 

「馬鹿な! Meの戦術を崩すなど、出任せもいい加減に……」

 

「ぶっ倒してもぶっ倒しても次から次に後続が出てくるなら一撃で全てを終わらせればいい!」

 

「!?」

 

「俺はThe big SATURNと銀河眼の光子竜を生け贄に捧げる!」

 

「SATURNを生け贄にするだとぉ!?」

 

 通常のデッキならばデッキの要ともなりうるThe big SATURNのカード。さらにはSATURNに並ぶほど強力な最上級モンスターである銀河眼の光子竜。

 その二体を生け贄にすることが信じられないデイビットは絶句する。

 

「巨大なる土星と宇宙を飛翔する竜を供物とし、海王星に宿りし暴君を降臨する! 現れろ、The tyrant NEPTUNE!」

 

 

【The tyrant NEPTUNE】

水属性 ☆10 爬虫類族

攻撃力0

守備力0

このカードは特殊召喚できない。

このカードはモンスター1体を生け贄にして生け贄召喚する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、生け贄召喚時に生け贄にしたモンスターの

元々の攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値分アップする。

このカードが生け贄召喚に成功した時、

墓地に存在する生け贄にした効果モンスター1体を選択し、

そのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

 

 

 The big SATURNと同じプラネットシリーズの一枚、土星のSATURNに対して海王星のNEPTUNE。

 爬虫類染みたワニのような頭部。両足も頭部と同じくワニのようであるが、上半身には甲冑に包まれた力強い体をもっている。ギリシャのケンタウロスをワニのようにしたモンスターだった。

 手には暴君の名に相応強い大鎌をもっている。

 

「あ、新たなプラネットシリーズ……The tyrant NEPTUNEだと? まさか、こんなことが」

 

「The tyrant NEPTUNEのモンスター効果。このカードの攻撃力と守備力は生け贄にしたモンスターの元々の攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値分アップする。

 そしてこのカードが生け贄召喚に成功した時、墓地に存在する生け贄にした効果モンスターを一体選択し、そのモンスターの名前と効果を自らのものとして奪い取る! 俺はThe big SATURNを選択、SATURNの名前と力を奪う!」

 

 生け贄にしたモンスターの力と名を我が物とする特殊能力。暴君の名に恥じない強力な能力だ。

 攻撃力3000と2800のモンスターを生け贄としたため攻撃力は脅威の5800。

 

「そしてSATURNから奪い取ったモンスター効果発動。手札を一枚捨て1000ライフを払い、NEPTUNEの攻撃力を1000ポイント上昇させる」

 

「攻撃力6800のモンスターだと!? ま、不味い……っ! マシンナーズ・フォートレスの攻撃力は2500しかない。これを喰らえば」

 

「バトル! NEPTUNEでマシンナーズ・フォートレスを攻撃、Sickle of ruin!」

 

「馬鹿なぁぁああああああああああ!」

 

 NEPTUNEの大鎌がマシンナーズ・フォートレスを両断し、4300ものダメージをデイビットに与えた。

 デイビットの4000のライフは火力に耐え切れず一撃で吹き飛ぶ。丈の勝利が確定した瞬間だった。

 

「そんな……Meが………二枚目のプラネットが出てきたとはいえ、ワンショットキル……だと? あ、あ、あ、あ、あ、あ……アンビリーバボォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!???」

 

 デイビットが白目を向いて叫ぶと、泡を吹いて失神する。どうやら余程ショッキングだったらしい。

 

「あー、こういう場合。どうすればいいんだろう?」

 

「さぁ。そこに放置しておけばいずれ目を覚ますんじゃない」

 

 デイビットのクラスメイトのレジーが冷たく突き放すが、さすがに後味が悪いので職員室に失神した倒れた生徒がいると報告しておいた。

 丈のアメリカ・アカデミア初日はそんなこんなで騒々しく始まり終わった。




デイビッド「なんだこのフィールドは?」

デイビット「銀河眼の光子竜、ネプチューン、そしてサターン!! オイオイこれじゃ……Meの負けじゃないか!」


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第110話  突撃!藤原家のお家事情

「ここが藤原の家かぁ」

 

 初めて眺める藤原家を見て最初の感想は立派、だ。

 藤原は両親が亡くなった後、遠縁の親戚でもある俳優一家に引き取られたといっていた。俳優の藤原といえばデュエル関連以外は余りTVを見ない丈も名前だけは知っているというレベルの知名度をもっている。

 そんな有名人の住む場所だけあって藤原の家は以前に行った亮や吹雪の家よりも大きかった。駐車場には高級そうなスポーツカーが何台も止まっている。

 

(まぁ流石に特待生寮ほどじゃないか)

 

 というより王侯貴族同然の生活を保障される特待生寮と比べる方が間違いだろう。あれはもはや豪邸というレベルで片付くものではないのだから。

 NDLでの活動が一段落した丈は春休みを使い日本へ帰国していた。春休みになれば当然デュエル・アカデミアも長期休暇に入り、所属する生徒も余程特別な事情があって家に帰れない生徒を除けばほぼ全員が実家に戻る。

 そこでその休みを利用し学生旅行に洒落こもうということを主に吹雪が企画。丁度吹雪と亮の実家の真ん中あたりにある藤原の家が集合場所となったわけだ。

 丈は玄関口にあったチャームを鳴らす。すると、

 

『はーい……あ。なんだ丈か。随分早かったね。まだ二人とも来てないよ』

 

 藤原の声がインターホンから聞こえてくる。心なしか前よりも調子が弾んでいるようにみえた。

 どうやら藤原もダークネスのことを吹っ切ることが出来たらしい。

 

「というと俺が一番乗りか。うーん、距離的には俺が一番遠いんだけどな」

 

『こういうのって遠くからの人の方が時間を気にして早く出るから一番早く着いちゃったりするんだよ。僕も一度オーストラリアから帰国した時に似た事があった』

 

「へぇ」

 

『じゃ、上がって。幸い叔父さんと叔母さんは仕事で明日までいないし誰もいないから』

 

 自動的に藤原家の門が開いていく。自動ドアならぬ自動門……世の中も便利な時代になったものだ。こういう細かいところからも時代の流れをしみじみと感じる。

 

「おじゃましまーす」

 

 家の中に入ると見慣れたアカデミアの制服ではなく、カジュアルな私服を着た藤原が出迎えた。

 

「いらっしゃい。亮と吹雪の二人が来るまでだけど、ゆっくりしていってね」

 

「それじゃ遠慮なく……」

 

 それにしても少しの間、アメリカへ行っていただけだというのに随分と長い間会ってなかったような気がする。

 丈にとってアカデミアでの生活は日常というべきものだった。その日常を離れ一人NDLへ行ったが、心のどこかではまだ寂しさのようなものが残っているのだろう。

 

「NDLでは大活躍だったね。TV、見てたよ」

 

 リビングに通された丈はソファに腰を下ろした。話ながら藤原が紅茶をコトンとテーブルに置く。

 

「プロリーグでのデュエルはやっぱりアカデミアとは勝手が違ったからな……。今は兎にも角にも我武者羅にやってるだけだよ。偶には余裕をもっていきたいけど……それが出来るまでには経験を積まないと」

 

「え? けど相手がサクリファイス使いのデュエリストだった時は暗黒界で対戦相手を血祭りに」

 

「あれは言うな」

 

 頭を抱えてその時の記憶を振り払う。あれは不幸な事故だった……。対戦相手が悪いのではない。使用したカードが悪かった。

 より深く言えば丈にトラウマを植え付けたショタコンが全ての原因だ。

 

「ま、目下一番悔しいのはキースに新人王を奪われたことだよ。まったく。キースのどこか新人なんだ! 超がつくベテランじゃないか!」

 

 あの時のことは思い出したくないのでさっさと話しを変える。

 

「デュエルモンスターズ最初期からの古豪だからね。表舞台に復帰したのは最近だけど」

 

 新人王に選ばれる条件は野球などでもそうだが、デュエリストになった年月ではなくプロになった年月によって測られる。

 キースはデュエルモンスターズ最初期に活躍したベテランであり、その強さと老練なタクティクスはルーキーなど及びもつかないものであるが、プロの資格をとってプロリーグに加盟したのはつい最近だ。よって新人賞に選ばれる資格をもっているのである。

 極端なことを言えばプロリーグに在籍した経験のないキング・オブ・デュエリスト武藤遊戯や海馬瀬人も仮にプロに入れば新人王に選ばれることが可能なのだ。

 

「ま、キースのことで『まるでルーキーとはいえないキャリアをもつデュエリストが新人賞はどうなんだ』って新人王の規定についても問題視される声があるから、来年か再来年あたりには規定のところが修正されてるかも」

 

「ふーん。けど今やNDLのスター選手のキースのことを友人みたいに話すなんて。やっぱり丈はプロになったんだね。ちょっと羨ましいかもしれない」

 

「お前だって卒業してプロになれば分かる。なる前は憧れてたプロだけど、いざなってみるとなる前は分からなかった苦労に気付くものだって。

 アカデミアの頃から魔王だなんだのって騒がれてたけど、プロになってからはそれが日常茶飯事。街を出たら心休まる暇がない」

 

「それで今日サングラスしてたのか」

 

「まぁな。……ま、俺はNDLに入って日が浅いから来年も新人王になる資格がある。来年に向けて調整を頑張らないと」

 

 それから藤原と亮たちが来るまでの間、お互いの近況報告をかねて雑談となった。

 藤原によれば特待生寮は正式に廃寮となり、特待生はオベリスク・ブルー寮へそのまま住む場所を移ることになったらしい。また特待生コースは今後廃止。それに伴いデュエルマシーンとの一日50デュエルという過酷なノルマも廃止となった。ただし授業自体は一般生徒よりも多く、学費免除も卒業するまでは持続するとのことだ。

 鮫島校長あたりがそうやって処理したのかとも思ったが、藤原によれば過酷なカリキュラムの廃止を率先して主導したのはカリキュラムを提唱した張本人であるはずの影丸理事長だそうだ。

 自分で提唱したカリキュラムを自分で廃止にする。そこにどんな意図があるのか気にならないといえば嘘になるが、一学生が理事長の決定に一々文句をいっても仕方ない。理事長にもなにか事情があったのだろう。

 二人の話に熱が入り始めたその時だった。藤原家のドアががしゃんと開く。それから規則正しい足音がスタスタと近付いてきた。

 

「ん? 亮たちが来たのか?」

 

「たぶん……ち、違うよ」

 

 何故か藤原が困った顔をしていた。声も僅かにどもっている。

 

「二人ならチャイムを鳴らすはずだし、やっぱり……けど、丈がいるのはこれはこれで……」

 

 なにやら藤原がブツブツと呟いている。どうしたのか、と丈が尋ねる前に足音がリビングに入ってくる。

 リビングに入ってきたのは薄い青色の髪をツインテールにした少女だった。年齢は丈や藤原より年下だろう。見たままだが吹雪の妹である明日香くらいの年にみえる。

 整った顔立ちをしているが、それ以上に蠱惑的で危険な色香を放つ少女だ。

 

「あら? 見ないボウヤがいるわね。優介のオ・ト・モ・ダ・チかしら?」

 

「ぼ、坊や?」

 

 丈はつい無意識のうちに周囲をキョロキョロと探す。だがリビングにいたのはツインテールの少女を除けば丈と藤原だけだ。

 藤原のファーストネームは優介というので藤原も除外するにしても、どこにも彼女の言う〝坊や〟に該当する人間が見当たらない。

 

「どこを見ているのボウヤ? 貴方よ貴方」

 

 少女は自分の唇を指でなぞってから二本の指で丈を指し示す。

 さりげない動作の一つ一つに男の劣情を刺激させるものがあった。

 まるで演じた様子もなく自然体でそんな色気を放てるあたりこれは天性の才覚の一つといってもいいだろう。

 

「もしかしなくても、俺のことだったのか」

 

 まさか年下に坊や呼ばわりされるとは予想だにしなかった丈はガクッと肩を落とした。

 

「雪乃! 初対面の人にいきなり坊や呼ばわりはないだろう。これまでも僕が友達を連れてくる度にそんな風に接して……」

 

「ふ、藤原?」

 

 藤原がまるで昭和の頑固親父のような剣幕で怒りを露わにする。

 雪乃といえば藤原が前に言っていたやたらアダルトな口調で話す従兄妹の名前だ。しかし従兄妹が相手だと藤原はこんな風に話すとは。

 親友の知らなかった一面を知り丈は少し驚いた。

 

「あら? 優介のお友達たちだって最初は初めての刺激に戸惑ってたけど、最終的には皆悦んでいたじゃない」

 

 よろこぶの文字が変だった気がするが、ここは気にしたら負けというやつなのだろう。

 兄弟喧嘩……もとい従兄妹喧嘩に巻き込まれるのは嫌だったので丈は沈黙を守ることにした。

 それに、

 

(ああいった口調で喋る相手は苦手だ)

 

 劣情を誘い誘惑してくるような口調は否応なく中学生の頃にトラウマを植え付けられたショタコンを思い出してしまう。

 丈はあらゆるものを受け入れ、あらゆる考え方を肯定するという面倒臭い性質の持ち主だが、これには但し書きでショタコンは除くとつくのだ。

 

「雪乃、残念だけどここにいる丈は一味違う。なにせ学生でありながらNDLに入って活躍してるスーパールーキー。きっと君のその口調とかあれこれを矯正してくれるはずだよ」

 

「あぁ。どこかで見た顔だと思ったら……なるほど。そこのボウヤが私のクラスでも噂になっていた宍戸丈なのね。ふふふふふふっ。面白いわ。魔王とまで怖れられたオトコを私色に染め上げるなんて」

 

「またそんな言葉使いを!」

 

「喋り方だって立派な個性の一つじゃない。私のオトモダチだって私の個性をとっても愛してくれてるわよぉ」

 

「個性も大事だけど、他人との和を重んじるのも大切だよ」

 

「ふぅ。そこまで言うならいいわ。それじゃ賭け事しましょう。私が貴方ご自慢のボウヤにデュエルで勝てば、金輪際私の言葉使いのことで文句を言わない。ついでに貴方達にはこの春休みの間、私の下僕になって貰おうかしら」

 

「……分かった。その条件を呑もう。ただし丈が勝てばその口調は改めて、春休みは僕の言いつけを守ること。丈、出番だよ」

 

「は? 悪い。話聞いてなかったんだけど、なにがどうしたって?」

 

「デュエルだよ! 雪乃にデュエルして勝ってくれ。そうしないと君も僕も春休み中、雪乃の下僕になることになる」

 

「はぁ!?」

 

 自分の知らないうちに、話がオーバートップクリアマインドで進んでいたらしい。

 気付けば藤原の従兄妹の雪乃と春休みの身分をかけてデュエルすることになっていた。自分に断りの一つもなく。

 

「さぁ。行くわよ――――――デュエル」

 

「しかも勝手に始まってるし!」

 

 おまけに知らぬ間にリビングから庭に移動していた。隣りには丈のデュエルディスクをもつ藤原がいる。

 

「丈、これデュエルディスク」

 

「もう俺がデュエルをするのは決定事項なのか」

 

 完全に意味不明だが断れる雰囲気でもない。取り敢えず勝てばいいのだろう勝てば。負けた場合は藤原を身代わりにしてなんとかすればいい。

 事の顛末について全く掴んでいない丈だったがデュエリストの本能がそうさせたのか。デュエルディスクを起動させ雪乃と相対する。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 そして春休みをどういった身分で過ごすかを決める戦いが始まった。

 勝てば今まで通り魔王。だが雪乃に敗北すれば藤原共々――――本当にどうしてこうなったのか知らないが――――雪乃の奴隷になってしまう。

 魔王から奴隷への転落。過去、戦争に敗北した王様が庶民に落とされたりということはあったが、これほどの転落は史上類のないことだろう。

 

「先攻は私ね。私のターン、ドロー。………………ふふ、優介があそこまで認めてるオトコだもの。私をたっぷり感じさせて頂戴ね」

 

「……善処する」

 

 デュエルを始めたはいいが、やはり雪乃の口調は苦手だった。丈も普段とは異なり完全に鉄面皮となる。

 

「私はモンスターを攻撃表示で召喚するわ。現れなさい、マンジュ・ゴッド」

 

 

【マンジュ・ゴッド】

光属性 ☆4 天使族

攻撃力1400

守備力1000

このカードが召喚・反転召喚に成功した時、

自分のデッキから儀式モンスターまたは

儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。

 

 

 万の手をもつわけではないが、数えきれない手をもった仏像とオークを足して二で割ったようなモンスターが召喚される。

 マンジュ・ゴッドは儀式モンスターを主軸とするデッキならば必須ともいえるカードだが、逆にそれ以外のデッキでは何の役にも立たないモンスターだ。

 十中八九、雪乃のデッキは儀式モンスターを使うタイプだろう。

 

「マンジュ・ゴッドのモンスター効果を発動するわ。このカードが召喚・反転召喚に成功した時、私のデッキから儀式モンスターか儀式魔法を手札に加えることができる。

 ふふふふっ。いきなり私のデッキのエースカードを召喚する準備が整るわ。私はデッキより〝サクリファイス〟を手札に加える」

 

「!?」

 

 サクリファイス、聞き間違いではない。確かに雪乃はサクリファイスと言った。

 三年以上前、中学一年生の頃に保健室で起きた事件がフラッシュバックする。

 

「私はカードを二枚セットしてターンを終了するわ。さ、貴方のターンよ。魔王のデュエル、私に堪能させて貰えるかしら?」

 

 男を誘い溺れさせるような口調。そしてモンスターを捕食してその力を奪うサクリファイス。あらゆるものが――――あの記憶を思い起こさせてしまう。

 サクリファイスは相手の場にモンスターがいなければ単なる攻撃力0でしかないモンスター。だから雪乃は最初のターンで召喚しなかった。

 だが丈のターンでなにか高い攻撃力のモンスターを召喚すれば、確実に雪乃はサクリファイスを出してくるだろう。

 

「俺のターン……ドロー」

 

 どうすればサクリファイスを封じることができるのか。ふと手札を見た丈は気付いた。

 

(なんだこの手札は? エアーマン、マスク・チェンジ、融合、そしてミラクル・フュージョン!! オイオイこれじゃ……俺の勝ちじゃないか!)

 

 簡単なことだった。次のターンでサクリファイスを召喚されたくないのなら、このターンでデュエルを終わらせればいい。

 

「手札よりモンスターを召喚。E・HEROエアーマン! エアーマンの効果発動、デッキよりHEROと名のつくカードを手札に加える。俺はE・HEROオーシャンを選択し手札に加える。

 さらに手札より魔法カード、融合を発動。場のエアーマンとオーシャンを融合。降臨せよ、絶対零度の氷戦士。E・HEROアブソルートZero!!」

 

 

【E・HEROエアーマン】

風属性 ☆4 戦士族

攻撃力1800

守備力300

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

次の効果から1つを選択して発動する事ができる。

●自分フィールド上に存在するこのカード以外の

「HERO」と名のついたモンスターの数まで、

フィールド上に存在する魔法または罠カードを破壊する事ができる。

●自分のデッキから「HERO」と名のついた

モンスター1体を手札に加える。

 

 

【融合】

通常魔法カード

手札・自分フィールド上から、融合モンスターカードによって決められた

融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を

融合デッキから特殊召喚する。

 

 

【E・HEROアブソルートZero】

水属性 ☆8 族

攻撃力2500

守備力2000

「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する

「E・HERO アブソルートZero」以外の

水属性モンスターの数×500ポイントアップする。

このカードがフィールド上から離れた時、

相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 光、闇、炎、風、水、地の六属性分ある属性融合HERO。その中において最強の名を欲しいままにする丈のHEROデッキのエース。アブソルートZeroが主のトラウマを粉砕するためにフィールドに降り立った。

 そういえばアブソルートZeroやHEROデッキが最初に相手したのもまたショタコンだった。……HEROデッキはトラウマキラーに定評があるらしい。

 

「あら。アブソルートZero? これじゃサクリファイスで吸収しても、私のモンスターまでやられちゃうわね。優介が認めるだけあって、それなりの――――」

 

「まだだ。さらに俺は速攻魔法マスク・チェンジ発動!」 

 

 

【マスク・チェンジ】

速攻魔法カード

自分フィールド上の「HERO」と名のついた

モンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターを墓地へ送り、

選択したモンスターと同じ属性の「M・HERO」と名のついた

モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

 

 

「自分フィールドのHEROと名のつくモンスターを一体選択し墓地へ送る。そして墓地へ送ったモンスターと同じ属性の〝M・HERO〟を融合デッキより特殊召喚する。

 アブソルートZero、仮面を被り変身せよ。変身召喚、M・HEROアシッド!」

 

 

【M・HEROアシッド】

水属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2100

このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し、

相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。

 

 アブソルートZeroが無地の仮面を被ると、その姿かたちをM・HEROに変身させる。マスクを被って変身、というのは日本の特撮ヒーローをモデルとしているのだろう。

 アメコミ的なHEROであるE・HEROとは赴きの異なるHEROだった。

 

「そしてアブソルートZeroがフィールドから消えたことでZeroの効果発動。相手フィールドのモンスターを全滅させる! さらにアシッドの効果! このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールドの魔法・罠を全て破壊する!

 他に攻撃力を300下げる効果もあるけど関係ない。相手フィールドにモンスターがいないんだから。更に――――」

 

「藤原、邪魔するぞ」

 

 だが丈が最後の一手をかける直前、亮が到着した。

 

「りょ、亮?」

 

「なんだ丈、鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をして。俺の顔になにかついているのか? ……む、デュエルをしていたのか。これはすまなかったな。続けてくれ」

 

 亮は先を促してくるが……丈は自分の手札にあるカード、ミラクル・フュージョンを見つめる。

 このカードを発動し墓地のHERO二体を融合、新たに融合HEROを召喚すればフィールドのアシッドと合わせて攻撃力の合計が4000を超える。

 相手フィールドは魔法・罠もなくがら空き。雪乃の手札に手札誘発がなければ、丈のワンターンキルが成立するだろう。だが、

 

「やめよう。亮もきたし、吹雪もあとちょっとで来るだろう。このデュエルはこれまでだ」

 

「え、ちょっと」

 

「待ちなさい」

 

 藤原もなにか言いたそうだったが、それ以上に強い雪乃の口調が丈へ向けられる。

 

「アナタ、最後になにかカードを発動させようとしていたわね。どんなカードを使おうとしたのかしら?」

 

「別に大したカードじゃない。召喚師のスキルでモリンフェンをサーチしようとしただけだよ」

 

「みえみえの嘘を吐かないで。本当のことを教えなさい」

 

「本当だって? 魔王、嘘つかない。つまり何が言いたいかと言うと……従兄妹同士の問題は従兄妹同士で解決してくれ」

 

「良く分からんが、話が纏まったようだな」

 

 不思議そうに状況を見守っていた亮が頷く。もし亮が寸前で来なければ勢いに任せて従兄妹の問題を無理矢理に解決してしまっていただろう。亮には自覚はないだろうが密かに感謝しておく。

 丈は最後にこっそり耳打ちする。

 

「(なぁ藤原。もしかしてお前がダークネスの力で個性を無くそうとしたのって、本当は従兄妹の性格を矯正させるためだったのか?)」

 

「(流石に違うよっ! …………と、言いたいけど心の奥底で否定できない自分がいるよ)」

 

 藤原はげんなりとする。どうも従兄妹同士の問題が解決するのはまだまだ遠い日のことになりそうだ。




 いつだったかダークネスのデッキを当てた方が一人だけいてしまったので、出す予定の皆無だったゆきのん出しました。ゲスト出演的なキャラなので今後特に話しの大筋に関わってくることはありません。


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第111話  報讐雪恨

 雪辱を果たすという言葉がある。報復、仕返しなどの意味で使われる。雪辱が復讐と違うのは、復讐がただ相手を倒すことだけを目的するのに対して、雪辱は相手を倒した後に掴むものがあるということだろう。

 アメリカ中、否、世界中のデュエルファンが集まったニューヨーク・ドームにて因縁の雪辱戦が始まろうとしていた。

 ニューヨーク・ドームは建設以来、多くの名デュエルが繰り広げられてきたデュエル用のドームである。

 日本における海馬ドームに相当するといえるだろう。数年前に行われたNDL王者とシャイニング・リーグ王者のドリーム・マッチが行われたのもこのニューヨーク・ドームだ。

 そしてニューヨーク・ドームはその戦いの歴史にまた新たなる一ページを加えようとしていた。

 これはNDLのランキング戦ではない。かといって多くのスポンサーが出資した大規模な大会でもない。

 ここで行われるのはただ一度のデュエルだけだ。

 NDLの試合でもなく大会でもなく、このドームに立ち見客が行列をつくるほどの観客が押し寄せるのは数年前のドリーム・マッチ以来だ。いやもしかしたらドリーム・マッチの時よりも多くの観客が詰め寄せているかもしれない。

 ドームのモニターにはこれからここで対戦する二人のデュエリストの名前が表示されている。

 

 ペガサス・J・クロフォード VS キース・ハワード

 

 これがこのドームで戦う決闘者の名前だった。

 それは十年以上は前のこと。ニューヨークにてデュエルモンスターズ黎明期、不敗神話をもつ創造主と最強伝説を築き上げた王者の戦いがあった。

 全米が待ち望んだ夢の戦いは〝千年アイテム〟という超常の力をペガサスが使ったこともあって、キースの屈辱的敗北に終わった。

 以来キースは落ちぶれ、デュエルモンスターズ界の表舞台から姿を消した。

 デュエリスト・キングダムで一度だけ再び表舞台に現れたことはあったが、その戦いで当時初心者だった城之内克也に敗北し再び姿を消した。

 それから幾年も経ちキース・ハワードの名は人々の記憶から忘れ去られてしまった――――はずだった。

 ネオ・グールズの滅亡と同時に表舞台に戻ってきたキースはプロリーグに入るや否や連戦連勝。プロリーグでキャリアを積み重ねてきたトッププロを全く寄せ付けない強さを見せつけ、バンデット・キースの完全復活を世界中に示した。

 しかし復活すれば人々の目は再びキースが表舞台を去る原因となった出来事に目を向けるようになる。

 元初心者デュエリストで現在はNDLで活躍中のプロであるトムは、キースとのデュエルで何も出来ずワンターンオーバーキルを喰らい失神。

 キースは雪辱の一つは果たし、取り敢えずは汚名返上をした。そうなるとキースと、そして人々が望むのは因縁の相手であるペガサス・J・クロフォードとの再戦である。

 NDLで新人王を始めおおくの称号をその渾名通り盗んでいったキースは、記者会見の場で高らかに告げた。デュエルモンスターズ創始者ペガサスへの挑戦を。

 ペガサスは強い。なにせ武藤遊戯に敗北するまで誰一人として黒星を許さなかったデュエリストなのである。その実力はトッププロ以上、〝伝説の三人〟にも並ぶほどだろう。

 だがデュエルモンスターズ創造主といってもペガサスはプロではない。現場の第一線を退き、今はI2社の名誉会長として隠棲している身だ。

 プライベートなものを除けば、デュエルをしたのは数年前のエキシビションマッチの一回きりだ。何度かプロデュエリストがペガサスへの挑戦を望んだものの、ペガサスは「もう自分の時代ではない」とそれを拒否している。

 故にキースのペガサスへの挑戦にマスメディアは湧いたものの、それをペガサスが受けることはないだろうというのが殆どの見方だった。

 しかしその予想に反してペガサスはキースの挑戦を真っ向から受けた。

 恐らくそれは嘗て自分が犯した過ちに対するせめてもの罪滅ぼしだったのだろう。

 自分のポケットマネーでドリーム・マッチの宣伝から施設使用料まで全ての準備を済ませ、十数年ぶりとなる戦いが成立したのだ。

 

「遂にこの時が来た、か。俺も少しだけ感慨深いものがあるよ」

 

 選手控室、キースはコーラで乾いた喉を潤しながらデッキの最終調整をする。

 何故か一緒に控室に詰めている丈はそれを黙って見ていた。

 

「はっ。テメエには関係ねえだろうが。……あぁ、いや全く関係ねえわけでもねえか」

 

 キースとしては素直に認めるのは非常に癪だが、キース・ハワードが表舞台に戻る切欠を作ったのはここにいる宍戸丈だ。

 もしもバクラに憑りつかれネオ・グールズを結成していなければ、もしも三邪神を巡って宍戸丈たちと戦っていなければ。そんなもしもが一つあるだけでキースはこの場にいなかっただろう。

 そういう意味で丈もこのデュエルの関係者であるといえた。

 

「だがな。これは俺のデュエルだ。テメエの力なんて借りねえぞ」

 

「勿論、俺もそんなつもりはない。大体相手が相手……俺だってどうやって助けたらいいのか分からないし、そもそも人の戦いに口出しするほど無粋じゃないつもりだ」

 

「ならいい」

 

 デッキの最終調整は、もういい。キースの精魂を注いだ対ペガサス用に自分のデッキを改良し尖らせたデッキである。

 コンディションはいい。デッキも万全。ならもし負けることがあれば……それはキース・ハワードがペガサスに劣るという証明となるだろう。

 

(絶対に、負けねえ)

 

 今もキースの脳裏には十数年前の戦いが焼き付いている。デュエルモンスターズ宣伝の餌にされ、全米が見守る中で初心者の子供に敗北するという屈辱を味わわされた最悪の記憶。

 思い返す度に腸が煮えくり返る。このことを自分が忘れることは永久にないだろう。そして例えこの戦いに勝ったとしても、ペガサスへの怒りが消えることもない。

 

「月並みな言葉だけど、頑張れ」

 

「本ッ当につまんねえ言葉だな」

 

 キースはそう吐き捨てると控室のドアを開ける。この先にペガサスがいると思うと足が止まった。

 このデュエルは雪辱以上の意味がある。キース・ハワードの時間はあの時の敗北以来止まってしまった。止まった針を動かすためにも、このデュエルはやらなければならなかった。

 デュエル場に出ると四方八方から歓声が降り注ぐ。そういえば前にペガサスと戦った時も似たようなものを浴びたな、とキースはらしくもない感傷に浸る。

 そしてデュエル場には既にペガサスが立っていた。

 

「―――――――」

 

 サングラスの奥のキースの目が見張った。もしもペガサスが罪悪感から手を抜こうとしているようなら、この場で殴りつけてやるつもりだったのだが、そんな必要はないらしい。

 そこにいたのは名誉会長ペガサス・J・クロフォードではなく往年の絶対王者ペガサスだった。 

 ペガサスは十数年前の罪滅ぼしのために、一切の躊躇も油断もせず全力でキース・ハワードを叩きつぶすつもりだ。

 

「はっ! そっちの方が潰し甲斐があるってもんだ。よぉペガサス、こうして面ァ合わせるのは………いつ以来だ?」

 

「キース、私は貴方に対して人としても、デュエリストとしても許されざる行いをしました。愚かにも一時は貴方に勝利を譲るべきではないのか、などと考えもしました。

 しかしそれは貴方というデュエリストに対する侮辱以外のなにものでもないでしょう。なので私も遠慮はせず貴方と戦います」

 

「望むところだ。……………ぶっ潰す!」

 

 キースとペガサスのデュエルディスクが同時に起動した。

 フラッシュバックする記憶。死の恐怖を味わったこともあった。罵詈雑言を浴びせられたこともあった。

 最悪の人生からここで決別する。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 今日はキースが挑戦し、ペガサスが受けたという形なので先攻はキースからだ。

 

「俺の先攻、ドロー」

 

 最初にきた六枚の手札を確認する。

 今日という日のために数少ないペガサスが行ったデュエルを何遍も見て研究してきた。それに対する用意もしてある。だがそのカードはまだ手札にない。

 けれど運命の女神が少しは笑ってくれたのか、それ以外は悪くない手札が揃っている。

 

「先ずは手札より可変機獣ガンナードラゴンを攻撃表示で召喚するぜ」

 

 

【可変機獣 ガンナードラゴン】

地属性 ☆7 機械族

攻撃力2800

守備力2000

このカードは生け贄なしで通常召喚する事ができる。

その場合、このカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。

 

 

 サイバー・ドラゴンとはまた異なる姿の機械龍が降臨する。攻撃力2800の最上級モンスターだが、その効果により生け贄なしで通常召喚された。

 しかし妥協召喚したことで攻撃力と守備力が半分まで低下する。

 効果と攻撃力・守備力なら神獣王バルバロスの下位互換ともいえるカードであるが、種族がサポートカードの多い機械族なのでその意味では優れている。

 

「そしてカードを二枚セットしてターンエンドだ」

 

「私のターン、ドローデース」

 

 キースの伏せた二枚のカードは禁じられた聖杯とリミッター解除だ。

 禁じられた聖杯は攻撃力を400ポイントあげてモンスター効果を1ターン無効にする速攻魔法だ。これを妥協召喚したガンナードラゴンに使用すれば攻撃力は3200になる。

 更にそこにリミッター解除で攻撃力を倍にすれば一気にその数値は6400となる。

 もしもペガサスが攻撃力2400以下のモンスターで攻撃してくれば、反撃でワンターンキルだ。しかし、

 

「フフフフフフ、キース。ユーの伏せた二枚のリバースカード。それはリミッター解除と禁じられた聖杯ですね?」

 

「な、何でテメエがそれを! まさかイカサマを―――」

 

「NO!デース! イカサマなどではなく、経験に元ずく推測デース。もっとも推測なだけで確証などありませんでしたが、貴方のリアクションで確信がもてました。サンキューデース」

 

「テメエ……!」

 

 歯噛みするが、ペガサスはあくまでも自然体だ。

 イカサマといってもペガサスは既に千年眼を失った身である。嘘など吐いていないだろう。ペガサスは本当に自分の頭脳だけでキースのリバースカードを見切ったのだ。

 

「ところで…ユーは漫画(カートゥーン)は好きデスか?」

 

「あ? ンな下らねえもん知らねえよ。俺が好きなのはロメロのつくるゾンビ映画だよ糞野郎」

 

「OH! 彼の作品は私も好きデース! けどそれ以上に私は漫画(カートゥーン)が大好きなのデース! 特に私が好きなのは子どもの頃からずーっと愛読してきたファニーラビット。

 テレビの画面いっぱいに暴れまわるキャラクター達は最高デース。彼らは昔から私の親友であり、憧れであり、理想であり、そして共に戦う仲間でもある。フフフ…彼らは決して私を裏切らない。そして永遠に死ぬ事もない。

 そんな世界にユーを招待しましょう。 私が発動するカードはトゥーン・キングダム!!」

 

「いきなり来やがるのか――――!?」

 

 

【トゥーン・キングダム】

通常魔法カード

自分のデッキからカードを5枚ゲームから除外して発動する。

このカードのカード名は「トゥーン・ワールド」として扱う。デッキからカードを1枚ゲームから除外する事で、

自分フィールド上の「トゥーン」と名のついたモンスターは戦闘で破壊されない(ダメージ計算は適用する)。

 

 

 ペガサスのフィールドに漫画本が出現する。漫画本は大の大人が両手でやっと持ち運べるようなサイズで、ページが開くと中からキングダム――――王国が飛び出してくる。

 さながら現実に飛び出してくる漫画のごとし、だった。しかしまだその時ではないからなのか、勿体ぶるように漫画本が閉じられる。

 

「私はさらにトゥーン・ゴブリン突撃部隊を攻撃表示で召喚しマース!」

 

 

【トゥーン・ゴブリン突撃部隊】

地属性 ☆4 戦士族

攻撃力2300

守備力0

このカードは召喚・反転召喚・特殊召喚したターンには攻撃する事ができない。

自分フィールド上に「トゥーン・ワールド」が存在し、

相手フィールド上にトゥーンモンスターが存在しない場合、

このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。

フィールド上の「トゥーン・ワールド」が破壊された時、このカードを破壊する。

このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になり、

次の自分のターンのエンドフェイズ時まで表示形式を変更する事ができない。

 

 

 ゴブリン突撃部隊をカートゥーン風にしたゴブリンたちが漫画本から飛び出してくると、ベーと舌を出してキースを挑発する。

 キースは苛々しげに手で払おうとしたが、ゴブリンは下品に「あひゃひゃ」と笑ってから漫画本の中に引っ込んでしまう。

 

「トゥーン・ゴブリン突撃部隊は召喚されたターンに攻撃することが出来まセーン。よってユーの狙うリミッター解除と禁じられた聖杯によるコンボも今は役立たずデース。

 私はカードを三枚伏せターンエンド。ではキース、ここからの逆転を私はエクスペリエンスしてマース」

 

「チッ。俺のターン」

 

 トゥーンには直接攻撃能力がある。ゴブリン突撃部隊の攻撃力2300のダメージは4000のライフには致命的だ。

 キースは絶対に逆転するという意義込みでカードを引いた。




 ゾロ目記念、111です。


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第112話  神の叡智

キース LP4000 手札?枚

場 可変機獣 ガンナードラゴン

伏せ 二枚

 

ペガサス LP4000 手札1枚

場 トゥーン・ゴブリン突撃部隊

伏せ 三枚

魔法 トゥーン・キングダム

 

 

 

 リミッター解除と禁じられた聖杯。勝負を決めるつもりで伏せた二枚のリバースカードをあっさりペガサスに見切られたことで、早くもキースの戦術には狂いが生じてしまった。

 しかもペガサスのフィールドには直接攻撃能力をもった攻撃力2300のトゥーン・ゴブリン突撃部隊。更にはトゥーンの破壊を防ぐ『トゥーン・キングダム』と三枚のリバースカードである。

 手を拱いていれば最悪次のターンでゲームエンドに持ち込まれかねない。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 トゥーン・ゴブリン突撃部隊……というよりトゥーンモンスター全般にはトゥーン・ワールド(トゥーン・キングダムはトゥーン・ワールドとして扱う)が破壊された時に自壊するデメリット効果がある。

 故に一番効果的なのはトゥーン・キングダムを破壊してしまうことだ。だが生憎と今のキースにトゥーン・キングダムを破壊するカードの持ち合わせがない。トゥーン封じのために入れておいた〝禁止令〟も手札にはなかった。

 

(禁じられた聖杯を使えば……トゥーンの直接攻撃能力を1ターンの間、封じることはできる。だがそんなことをしても攻撃対象がプレイヤーから俺の場のモンスターに変わるだけだ)

 

 トゥーン・ゴブリン突撃部隊の攻撃力が禁じられた聖杯で強化された場合、その攻撃値は2700。妥協召喚をして攻撃力1400となっているガンナードラゴンでは太刀打ちできない。

 リミッター解除を使ってやっとといったところだろう。

 

(いや、俺の場に禁じられた聖杯とリミッター解除が伏せられてることはペガサスの野郎は見切ってやがる。手の内を見切られちまってる以上、この二枚は事実上役立たずと考えた方がいい)

 

 効果的に使えないのならばせめて、ペガサスの伏せた三枚のリバースカードのうち一枚でも減らす役に立ってもらうとしよう。

 

「強欲な壺を発動、二枚ドローだ。……バトル、ガンナードラゴンでトゥーン・ゴブリン突撃部隊を攻撃! ガンショット・バースト! そしてリミッター解除を発動しチェーンで禁じられた聖杯を発動! 攻撃力は6400だ!」

 

「OH! これは大変デース! 私の可愛いトゥーン・ゴブリン突撃部隊の攻撃力は2300! 6400のガンナードラゴンの攻撃を受けたらアンビリ~バボ~! 私の負けデース!」

 

 大仰なリアクションをしてピンチを演出するペガサス。だが無論本当にこんなことでペガサスが負けるわけがない。これは単なるペガサスの演技だ。

 ガンナードラゴンの攻撃がゴブリンたちのいるトゥーン・キングダムの漫画本に直撃する直前、ペガサスがピッとデュエルディスクのスイッチを押す。

 

「しかしキース、無粋な(ピストル)では私の可愛いトゥーンを倒すことはできまセーン! 私はリバースカードをオープンしマース! 永続罠、スピリットバリア!」

 

 

【スピリットバリア】

永続罠カード

自分フィールド上にモンスターが存在する限り、

このカードのコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。

 

 

 漫画本の周囲に橙色の障壁が現れ、それがガンナードラゴンの攻撃を防ぐ。ガンナードラゴンの攻撃に慌てふためいていたゴブリンたちは自分が安全圏にいることを知ったのか、それとも事前に分かっていたのか。剽軽に大爆笑すると棍棒で仲間同士をふざけて殴り始めた。

 ペガサス専用モンスターであるトゥーンだからなのか、やたらとソリッドビジョンの芸が細かい。

 

「スピリットバリア、この効果により私のフィールドにモンスターが存在する限り私へのダメージは全て0になりマース。もっともこのカードは戦闘ダメージを0にするだけ。それ以外にはなんの効果もありまセーン。

 バット。私の発動しているトゥーン・キングダムにはデッキからカードを一枚除外することで戦闘での破壊を無効とすることができるのデース」

 

「つまりスピリットバリアとトゥーンキングダムがある限りトゥーンは戦闘でも破壊されねえし、テメエも戦闘ダメージを受けねえってことか。面倒な真似しやがる」

 

 そしてトゥーンモンスターは直接攻撃能力をもっているので、このコンボが発動している限りペガサスは相手からの攻撃を無効化しつつ一方的に相手に直接攻撃を仕掛けることができる。

 とぼけた顔して使ってくる戦術は理に叶ったトゥーンの性能を最大限に活かしたものだ。デュエルモンスターズの創造主は伊達ではないということだろう。

 

(ま、こうなることは予測済みだ)

 

 元々今の攻撃でペガサスを倒せると微塵も思っていなかったので、キースの心に衝撃はない。むしろペガサスの伏せたカードの一枚が分かっただけでも儲けものだ。

 

「バトルを終了しメインフェイズ2に移行するぜ。俺はこのターン、通常召喚をしていねえ。よって手札よりグリーン・ガジェットを召喚」

 

 

【グリーン・ガジェット】

地属性 ☆4 機械族

攻撃力1400

守備力600

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

デッキから「レッド・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。

 

 

 ネオ・グールズのトップをしていた頃は三邪神召喚の生け贄要因として活用されてきたガジェットだが、ガジェットの真骨頂は手札にモンスターが途切れないという一言に尽きる。

 丈のように投入されているモンスターの殆どが最上級モンスター、なんて狂った構成のデッキはそうそうあるものではない。多くのデッキにとって手札に召喚可能な下級モンスターがないというのはそれだけで悪いことだ。

 モンスターに召喚できるモンスターがないという危険を、デュエルモンスターズ黎明期からの超ベテランであるキースは死ぬほど理解している。

 ガジェットを始めとした下級モンスターで戦線を維持しつつ、上級・最上級機械族モンスターを召喚して押す。これがキースのデッキのメイン戦術だった。

 だが無論それだけではなく、

 

「ついでに永続魔法、一族の結束を発動だ。墓地に一種類の種族しかねえ時、俺の場のその種族のモンスターの攻撃力は800ポイントアップする」

 

 

【一族の結束】

永続魔法カード

自分の墓地に存在するモンスターの元々の種族が1種類のみの場合、

自分フィールド上に表側表示で存在する

その種族のモンスターの攻撃力は800ポイントアップする。

 

 

 ガジェットの弱点である貧弱な攻撃力を補うカードもしっかりと用意している。

 ネオ・グールズ時代はデッキに三邪神を投入していたため、この手のカードを入れることは出来なかったが、三邪神がいなくなりモンスターが機械族で統一された今は遠慮なく使えた。

 

「カードを二枚セット。ターンエンドだ」

 

 そしてペガサスの攻撃に対する防御カードを伏せることも忘れない。一族の結束で攻撃力が強化されたとはいえグリーン・ガジェットの攻撃力は2200。ぎりぎりでトゥーン・ゴブリン突撃部隊に劣る上に直接攻撃の危険性があるのだから。

 

「攻めきれないと理解し、守備を固めてきましたね。実はキース、恥ずかしい話ですが私は防御より攻撃の方が大好きデース! 自分でも良い年して子供っぽいことは百も承知ですが、カートゥーンのキャラクターは守るよりフリーダムに暴れまわる方が魅力的デース。ユーもそうは思いませんか?」

 

「ベースボールでも攻撃より守備が好きって奴は少ねえだろ」

 

「So! 私もここからはばんばんオフェンスのターンデース! ユーのエンドフェイズ時、私は速攻魔法スケープ・ゴートを発動しマース! 四体の羊トークンをフィールドに召喚デース!」

 

 

【スケープ・ゴート】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、自分は召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

自分フィールド上に「羊トークン」(獣族・地・星1・攻/守0)

4体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは生け贄召喚のためには生け贄にできない。

 

 

 喧しい鳴き声をあげながら、攻撃力0のトークンがペガサスのフィールドに出現した。

 デュエルモンスターズに疎い者なら生け贄召喚の生け贄にも出来ないトークンを召喚したところで単に防御を固めたようにしは見えないだろう。だがキースは羊トークン召喚の先にある意味が分かった。

 エンドフェイズにスケープ・ゴートを発動したのは召喚・反転召喚・特殊召喚できないというデメリットを消す為。ペガサスは羊トークンを〝生け贄〟にしてモンスターを召喚するつもりだ。

 

「自分のターンじゃなく俺のターンのエンドフェイズでの発動、ペガサス……テメエ……!」

 

「私のターン、ドロー! 流石デース、私の意図に気付いたようデスね。だけどユーにはそれを阻む術はありまセーン。

 けどその前に私の少ない手札を増やしておきましょう。魔法カード、コピーキャットを発動しマース!」

 

 

【コピーキャット】

通常魔法カード

相手の墓地に存在するカード1枚を選択して発動する。

このカードを選択したカードとして扱い手札からプレイする。

 

 

 

「こ、こいつっ!」

 

 コミカルにデフォルメされた黒猫がペガサスのカードから飛び出し、キースの墓地に飛び込んでいく。墓地を好き勝手に荒しまくったキャットがとったのは〝強欲な壺〟のカードだった。

 

「コピーキャットは相手の墓地にあるカード一枚に変身して、そのカードに成り変わることが出来マース! コピーキャットが変身するのはユーの墓地の強欲な壺! 私は二枚ドローしマース!

 OH! エクセレント! 良い手札がきました! ベリー・ラッキー! 私は羊トークンを生け贄に捧げトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールを召喚しマース!」

 

 

【トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール】

闇属性 ☆6 魔法使い族

攻撃力2000

守備力1700

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に「トゥーン・ワールド」が存在する場合のみ特殊召喚できる

(レベル5以上は生け贄が必要)。

相手フィールド上にトゥーンモンスターが存在しない場合、

このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。

存在する場合、トゥーンモンスターを攻撃対象に選択しなければならない。

フィールド上の「トゥーン・ワールド」が破壊された時、このカードを破壊する。

お互いの墓地に存在する「ブラック・マジシャン」「マジシャン・オブ・ブラックカオス」

1体につき、このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

 

 

 武藤遊戯が使ったことで一躍有名となったデュエルモンスターズ界で最も有名なアイドルカード。ブラック・マジシャン・ガールをトゥーンにした少女が漫画本から新たに飛び出してきた。

 観客は人気カード、ブラック・マジシャン・ガールに沸いているがキースからしたらそれどころではない。

 トゥーンには召喚されたターンに攻撃できないというデメリットがついているのだが、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールは唯一そのデメリットがないトゥーンモンスター。

 つまりペガサスが総攻撃すれば2000+2300ダメージでキースの負け決定ということなのだ。

 

「……あれ? なんでスケープ・ゴートは生け贄にできないはずなのに、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールを生け贄召喚にできたんだろう?」

 

 一番前の列に座る観客の子供がそんな悩みを呟いた。

 ペガサスはそれを聞いたのかにっこりと笑いつつマイクを取り出すと、

 

「Oh! ボーイ、ナイスな質問デース! スケープ・ゴートには確かに生け贄できないというテキストが記載されていマース! なので羊トークン二体を生け贄にブルーアイズを召喚するなんてことはインポッシブル! 不可能デース!

 バット。出来ないのはあくまで生け贄召喚のための生け贄デース! トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールは一体のモンスターを生け贄に〝特殊召喚〟するモンスター。なので羊トークンを生け贄にして召喚することができるのデース!

 トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール以外にもフィールドのモンスターを生け贄に特殊召喚するという特殊な召喚条件をもつモンスターは沢山いマース。しかしそれはあくまで特殊召喚であって生け贄召喚ではありまセーン。間違いやすいことなので注意が必要デース」

 

 I2社名誉会長直々のデュエルのワンポイントアドバイスに会場が賑やかになる。

 その間、待ち惚けを喰らったキースは苛々と青筋をたてながら怒鳴った。

 

「いつまで観客と遊んでやがる! さっさとデュエルを進めやがれ!」

 

「ソーリー! 失礼しまシタ。けど私もI2社の会長ですから、デュエルモンスターズのルールが分からないボーイにはアドバイスをしなければありまセーン」

 

「はっ! そんなにガキが大好きかよ」

 

「勿論デース! 子供は我が社の一番のお得意様、お得意様が嫌いな商人なんていまセーン。そう言うユーは子供が嫌いですか?」

 

「あぁ嫌いだね。行きつけのレストランでぎゃーぎゃー騒ぐ奴もいるわ、バスん中で走り回る奴もいるわ……ガキなんざ五月蠅くて仕方ねえよ。鬱陶しいだけだ」

 

「OH! それはとんだバット・ボーイデース! 子供といえど、人様に迷惑をかけるような子にはしっかりとオセッキョーしなければなりませんね。

 しかしキース。デュエリストならば誰しも純粋にデュエルを楽しむ子供のようなハートを忘れてはなりまセーン。何故なら我が社の生み出したデュエルモンスターズは遊ぶためのもの。決して人を傷つけるためのものではないのですから」

 

「……良く言うぜ。テメエがよ」

 

「……………………―――――――――」

 

 剽軽に笑っていたペガサスの表情が一転して無表情なものとなる。

 

「ええ、自分でもどの口でと思います。純粋に子供のような心でデュエルをする。これは簡単なようでいて難しい。

 デュエルモンスターズの生みの親である私自身、愛という名のモンスターに取りつかれデュエルモンスターズを己の願望を成就するための道具として扱った。その過程で多くの人を傷つけてしまいました……。

 だからこそ私はもう道を踏み外しまセーン。デュエルモンスターズは老若男女、子供からお年寄りまで楽しめる最高のホビー。この理念を私は貫き通します」

 

「チッ。……テメエのターンだ。早くしろ」

 

「失礼。長話が過ぎたようデース。バトルフェイズ、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールでプレイヤーを直接攻撃しマース! ブラック・バーニング!」

 

 漫画本から飛び出してきたトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールがステッキをキースへ向ける。

 ステッキから放たれる桃色の光。これを防ぐ術はある。だが……ペガサスのことだ。確実にこちらの防御カードを防ぐカードを用意しているはずだ。ならば、

 

「カウンター罠、発動! 攻撃の無力化。これで攻撃は無効にされバトルは終了だ」

 

 

【攻撃の無力化】

カウンター罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 

 どうせペガサスはリバースカードでカウンターしてくるだろう。そのキースの目論見はあっさりと外れた。

 攻撃の無力化はなんの障害もなく攻撃を呑み込んでいくとテキスト通りの効果を完了させていく。

 

「………………」

 

 防げると思っていなかっただけに拍子抜けするキース。しかし直後にキースはそれ以上の驚愕を味わうこととなった。

 

「私のバトルフェイズはこれで終了しました。しかしまだ私の攻撃は終わっていません。メインフェイズ2で私はトゥーン・ロールバックを発動しマース!」

 

 

【トゥーン・ロールバック】

通常魔法カード

トゥーンモンスターが自分フィールドに存在する場合に発動する事ができる。

このターン自分はバトルフェイズを2回行う事ができる。

 

 

「このカードは私の場にトゥーンが居る時、二回目の攻撃を可能とするカードデース」

 

「に、二回目のバトル……くそっ! 無茶苦茶しやがる。こっちも罠発動だ、スピリットバリア!」

 

 ペガサスが先程発動した永続罠カードをキースも発動する。

 自分フィールドにモンスターがいる限り戦闘ダメージを0にするスピリットバリア。普通のデッキ相手には他のカードと組み合わせない限り大して役に立たないが、直接攻撃能力をもつトゥーン相手にはメタカードとなるのだ。だが、

 

「させまセーン。カウンター罠を発動デース! トラップ・ジャマー!」

 

 

【トラップ・ジャマー】

カウンター罠カード

バトルフェイズ中のみ発動する事ができる。

相手が発動した罠カードの発動を無効にし破壊する。

 

 

 対トゥーン用に投入していたキーカードの一枚、スピリットバリアが消滅していく。

 だがそれだけではキースもそれほど驚きはしなかった。キースが驚いたのはペガサスが単にスピリットバリアを無効にしたからではなく、

 

「なんで、だ……? なんでテメエ、攻撃の無力化の時にそいつを発動しなかった。そうすりゃ」

 

「ふふふふふふっ。ユーならば必ずトゥーンの攻略法の一つにスピリットバリアと思っていました。いえ他にもトゥーンを攻略するカードは幾つかありマース。ユーならば絶対にそれらのカードを入れて来たでしょう。

 よって私がカウンターすべきなのはたった一度攻撃を無効化にする攻撃の無力化ではなく、トゥーンを根本から封じるスピリットバリアのようなメタカードデース」

 

「こい、つ」

 

 ペガサスはイカサマをしていない。正々堂々と戦っている。

 デュエルモンスターズの創造主、その意味について認識がまるで足りなかった。デュエルモンスターズの創造主ということはこの世界にある全てのカードの能力と使い方について熟知しているということだ。そしてそれに対する攻略法も分かっている。

 プロリーグにも統計上のデータなどを収集し、それを実際のデュエルで使うタイプのデュエリストはいる。だがペガサスのそれはそんな次元ではない。

 言うなれば神の叡智。究極のデータ・デュエル。

 これがペガサス・J・クロフォード。デュエルモンスターズを生み出した―――――――創造主の力だ。

 

「トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールで再びの攻撃デース! ブラック・バーニング!」

 

「させるか! 手札から速攻のかかしを捨てる。このターンのバトルは終了だ」

 

 ペガサスの攻撃が来て咄嗟にキースは手札誘発の効果を使用した。どうやらペガサスも手札誘発までは見通してはいなかったらしく、その攻撃はキースに届く前に止まった。

 

「残念デース。あと少しのところでしたが届きませんでした。勝てそうで勝てない。これこそデュエルの醍醐味デース。

 私は羊トークン一体と、もう二体を其々生け贄にしトゥーン・デーモンとブルーアイズ・トゥーン・ドラゴンを召喚デース。ターンエンド」

 

 

【ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン】

光属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に「トゥーン・ワールド」が存在する場合のみ特殊召喚できる

(レベル5以上は生け贄が必要)。

このカードは特殊召喚したターンには攻撃できない。

このカードは500ライフポイントを払わなければ攻撃宣言できない。

相手フィールド上にトゥーンモンスターが存在しない場合、

このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。

存在する場合、トゥーンモンスターを攻撃対象に選択しなければならない。

フィールド上の「トゥーン・ワールド」が破壊された時、このカードを破壊する。

 

 

【トゥーン・デーモン】

闇属性 ☆6 悪魔族

攻撃力2500

守備力1200

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に「トゥーン・ワールド」が存在する場合のみ特殊召喚できる

(レベル5以上は生け贄が必要)。

このカードは特殊召喚したターンには攻撃できない。

このカードは500ライフポイントを払わなければ攻撃宣言できない。

相手フィールド上にトゥーンモンスターが存在しない場合、

このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。

存在する場合、トゥーンモンスターを攻撃対象に選択しなければならない。

フィールド上の「トゥーン・ワールド」が破壊された時、このカードを破壊する。

 

 

 最後にトゥーンの中でも攻撃力が一際高いモンスターたちを出してペガサスはターンを終了した。

 これでペガサスのフィールドには四体のトゥーン。しかも全てが戦闘では無敵ときている。次のターン、何も出来なければトゥーンの総攻撃でキースは無残に敗れ去るだろう。



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第113話  愚かなる選択

キース LP4000 手札1枚

場 グリーン・ガジェット

魔法 一族の結束

 

ペガサス LP4000 手札0枚

場 ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン、トゥーン・デーモン、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール、トゥーン・ゴブリン突撃部隊

伏せ 三枚

魔法 トゥーン・キングダム

 

 

 

 

 最上級含め攻撃力2000以上のトゥーンが並ぶと壮観なものだった。

 といってもトゥーンモンスターは攻撃する時か攻撃を受ける時を除いて、普段はトゥーン・キングダムの漫画本に潜んでいるので四体が並んだ威容を見ることは出来ないが。

 

(ペガサスの野郎……。デュエリスト・キングダム以降、世界大会やらのエキシビションマッチ数回くらいしか表舞台じゃデュエルしてねえってのに実力に全然陰りがねえ)

 

 ペガサスのことを死ぬほど恨んでいるキースをもってしても、ペガサスが途方もないデュエリストであるという事実は受け入れざるを得なかった。

 恐らくはデュエルモンスターズの知識という分野においてペガサスを超える人間はこの世界に誰一人としていない。そんなペガサスと知恵で勝負を挑んでも勝ち目はないだろう。

 

(………………〝知恵〟で勝てねえなら〝本能〟でいくしかねえってことか)

 

 野性的な風貌をしているキースだが、その戦い方は力押しに重点を置いているものの知恵を凝らした隙のないものである。

 悪く言えば狡猾。良く言えば深謀。戦う前の策をこらし、勝てる用意を整えてから勝負を決めるのがバンデット・キース本来のやり方だ。このデュエルでも事前にペガサスのデュエルを研究し、その対策としてのカードを何枚も投入してきた。だがデュエルモンスターズ創造主であるペガサスはそんな対策を完全に見切っていた。

 神の叡智を崩すには神すら思いもよらぬ蛮行しかない。

 

「俺のターンだ、ドロー。天使の施しを発動し、更に三枚ドローし二枚捨てるぜ」

 

 しかし蛮行にせよなんにせよ手札がなければ始まらない。キースは多少苦々しげに天使の施しで手札に加えた一枚の魔法カードをデュエルディスクに置いた。

 

「リバースカードを一枚セット。そして魔法カード、天よりの宝札! 互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードをドローする!」

 

「ホワッツ? Oh! 天よりの宝札とはサンキューデース! 一枚もなかった私の手札がユーのお蔭で六枚になりました」

 

 強力なドローソースである天よりの宝札だが、タイミングを間違えると相手を利することになりかねないのがネックだ。

 本来なら天よりの宝札は自分の手札が少なく、相手の手札が多い時に発動するべきカード。ペガサスの手札が0枚なんて時に発動するべきではなかった。

 だがそうも言ってられないのだ。天よりの宝札ともう一枚のカードではどうしたってペガサスの布陣を突破し、次のターンのトゥーン総攻撃を防ぐことはできない。

 例えペガサスに大量ドローを許しても、キースは自分の引く未知の六枚に賭けざるを得なかったのだ。

 

「……! 俺はイエロー・ガジェットを召喚する。イエロー・ガジェットの効果でデッキよりグリーン・ガジェットを手札に加えるぜ」

 

 

【イエロー・ガジェット】

地属性 ☆4 機械族

攻撃力1200

守備力1200

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

デッキから「グリーン・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。

 

 

 三色のガジェットでも最弱の攻撃力のガジェット、イエロー・ガジェットが現れる。

 攻撃力は〝一族の結束〟の効果で800上昇し丁度2000。効果なし下級通常モンスターの最大攻撃力と同じ数値だ。

 トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールと互角だがブルーアイズ・トゥーン・ドラゴンやトゥーン・デーモンを倒すことは出来ない。

 

(ま、仮に攻撃力が上だったとしてもペガサスのフィールドにはトゥーン・キングダムとスピリットバリアがある。攻撃したところで無駄。強いて言えばデッキのカードを除外する事は出来るが、あの野郎のことだ。除外したカードを利用するカードを入れてねえとも限らねえ)

 

 やはりこのターンは攻撃は出来ない。

 

「カードを一枚伏せターンエンド」

 

 最後の可能性を伏せたリバースカードに託しキースはターンを終わらせた。

 そして四体のトゥーンを並べたペガサスにターンが移る。

 

「私のターン! ドローデース!」

 

 さっきのキースのターンでの天よりの宝札による六枚のドロー、さらに今のドローと合わせてペガサスの手札は合計七枚。

 フィールドに既に四体のトゥーンがいることを鑑みると恐ろしい手札枚数だ。ペガサスのドローした手札によっては、このまま為す術なくやられることもあり得る。

 しかしここは賭けるしかないのだ。

 

「手札より手札断殺を発動しマース! 互いのプレイヤーは手札を二枚捨て二枚のカードをドローする。私はトゥーン・アリゲーターと幻想術師ノーフェイスを捨てて二枚ドローしマース」

 

 二枚の手札交換を行った持ち札をペガサスは一枚一枚じっくりと観察する。もしあの中にサイクロンなどの魔法・罠カードを破壊する類のカードがあれば、キースは一気に不利へ追い込まれる。

 たった一つのもしがキースの命運を断ち切るという極限、ペガサスはふっと口元を綻ばせる。

 

「アンラッキーデース。私はトゥーン・ゴブリン突撃部隊を生け贄に二体目のトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールを召喚しマース!」

 

 ゴブリンが生け贄にされると聞いて目を形容ぬきで飛び出させるが、ペガサスが「ドーモ、ごめんなさいデース!」と言うと頬をぽりぽりと掻きながら消えていった。

 かわりに二体目の魔導師の少女がフィールドに降り立った。

 

「バトルフェイズデース。キース、これでユーはジ・エンドデース! トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールでユーへダイレクトアタック! ブラック・バーニング!」

 

 トゥーン・キングダムから飛び出してきたトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールは本来ならば避けて通れないイエロー・ガジェットを素通りして、その魔導師の杖をキースへと向けた。

 

「…………そうは、問屋がおろさねえよ。こいつがペガサス! テメエの叡智を超えるための俺の切り札だ! 罠カード発動、スキルドレイン!」

 

 

【スキルドレイン】

永続罠カード

1000ライフポイントを払って発動できる。

このカードがフィールド上に存在する限り、

フィールド上の全ての効果モンスターの効果は無効化される。

 

 

「ホワッツ!? スキルドレインですって! あ……アンビリーバボー。そんな馬鹿な……信じられまセーン。そんなカードが……」

 

 初めてペガサスの表情に演技ではない焦りが生まれる。

 ペガサスほどのデュエリストがスキルドレインというカードの存在を知らない訳はないだろう。ペガサスはスキルドレインそのものではなく、キースがスキルドレインを入れていた事について驚いているのだ。

 

「1000ポイントのライフを払い効果発動。テメエには説明するまでもねえことだが、スキルドレインはフィールドに存在する限りフィールドのモンスター効果を無効化する永続罠。

 トゥーンってのは扱いが難しいが、一度決まると厄介なモンスターだよ。特にテメエの作り上げた布陣じゃな。戦闘では破壊されねえし、直接攻撃はできると最悪だ。壁モンスターを出しても防げねえし、直接攻撃を受ける前にテメエを倒そうにも無敵のトゥーンがテメエを守る。もたもたとしてたら俺の方がゲームエンドになっちまう。

 だがスキルドレインの効果によりトゥーンは直接攻撃能力を失う。こうなりゃ戦闘で破壊されねえだけのモンスター。俺のモンスターを素通りして攻撃することは出来ねえ」

 

「ですがスキルドレインの効果は諸刃の剣! その効果範囲は私だけではなくユーにも及ぶ。ユーのデッキの要であるガジェットたちの最大の持ち味であるサーチ効果をも失いマース」

 

「ンなことテメエに言われなくても分かってんだよ。あぁ、そうだ。ガジェットを中心としたデッキにスキルドレインを入れるなんざ正気の沙汰じゃねえ。つぅか馬鹿の所業だ。

 対策カードってのは相手のデッキの強味を殺し、自分のデッキの強味を最大限に活かすために入れるもんだ。自分のデッキの強味まで殺しちゃ意味なんてねえ。

 だがな。だからこそ入れる価値があった。幾らテメエも俺がこんなカード、入れる筈がねえ(・・・・・・・)って決めつけてただろう」

 

「……!」

 

 敢えて自分のデッキの力をも殺すスキルドレインを入れるという愚行、それが初めて全知全能を誇った叡智を突き崩した。

 賢人を倒すのはそれ以上の賢人とは限らない。時に蛮人の蛮行が賢人を打倒してしまうこともある。賢人は賢人故に蛮行を読み切ることはできないのだから。

 

「ですがまだデース。スキルドレインにより直接攻撃能力を失いはしましたが、普通に攻撃する分ならば問題ありまセーン!

 トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールでイエロー・ガジェットを攻撃デース!」

 

「そうもさせねえ! 永続罠、血の代償!」

 

 

【血の代償】

永続罠カード

500ライフポイントを払う事で、モンスター1体を通常召喚する。

この効果は自分のメインフェイズ時及び

相手のバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。

 

 

「こいつは自分のメインフェイズか相手のバトルフェイズにのみ発動できる。500ライフを払うことで俺は手札よりモンスターを通常召喚できる。

 俺は500のライフを支払い、拝んでおきな。とっておきだ。二体のガジェットを生け贄に捧げパーフェクト機械王を召喚!!」

 

 

【パーフェクト機械王】

地属性 ☆8 機械族

攻撃力2700

守備力1500

フィールド上に存在するこのカード以外の機械族モンスター1体につき、

このカードの攻撃力は500ポイントアップする。

 

 

 白亜の巨大ロボットがペガサスのトゥーン軍団の前に立ち塞がる。スキルドレインにより機械族一体につき500ポイント攻撃力を上げる特殊能力は失っているが、キースの場には一族の結束がある。

 パーフェクト機械王の攻撃力は永続魔法効果により3500。ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴンの攻撃力を上回った。これでペガサスはもうキースに攻撃することができない。

 

「これでは手出しができまセーン。やむを得ません。私はバトルフェイズを終了しマース。そしてモンスターをセットしターンエンド」

 

 スキルドレインと血の代償のライフコストによりキースのライフは一気に2000へと低下してしまった。ペガサスのフィールドには五体ものモンスターがおり、ライフは未だに無傷。

 しかしデュエルの流れが自分の方に向いてきているのをキースは実感していた。



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第114話  復活の日、そして始まりの日

キース LP2500 手札3枚

場 パーフェクト機械王

魔法 一族の結束

罠 血の代償 スキルドレイン

 

ペガサス LP4000 手札4枚

場 ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン、トゥーン・デーモン、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガール×2、セットモンスター

伏せ 

魔法 トゥーン・キングダム

 

 

 

 何人たりとも手が出せず、手を伸ばすことすら許されない絶対的存在、創造主――――ペガサス・J・クロフォード。

 あらゆるカードを知り、その攻略法をも記憶する神の叡智はあらゆる戦術を見透かし、創造主としての運命力はその戦術を打破する力を掴む。

 大凡同じ人間とは思えない程の強さは神というしかない。

 プロリーグで名を馳せた歴戦のデュエリストでも、ペガサスを前にしたら膝を屈するしかないだろう。

 だがキースが本来ならばバンデット・キースともあろうデュエリストが入れる筈のないスキルドレインを使った事で、初めてペガサスの叡智に陰りが生じた。

 あらゆるカードを知り、あらゆる戦術を知る頭脳。

 しかし頭脳を倒すのはそれよりも上の頭脳とは限らない。否、頭脳という意味で創造主たるペガサスに勝るデュエリストなどこの地上には存在しないだろう。頭脳でペガサスを上回るのは最初から不可能なのだ。

 

(遂に、見えてきたぜ。……あいつの足元が)

 

 これまでのデュエル、キースはペガサスの作った箱庭で弄ばれるだけの人形に過ぎなかった。自分が特定の役割(ロール)を与えられて、プレイヤーの良いように動かされているキャラクターであることすら知らない人形。

 だがキースは漸くペガサスの箱庭を抜け出し、その足元を見つけることができた。足元が見えたのならばあとは簡単である。足元を掴んで引きずりおろせばいい。

 

「俺のターンだ……ドロー!」

 

 このデュエルで初めて追い風というものが吹いて、自分の背中を押しているのをキースは感じた。

 

「運命の宝札を発動。サイコロを振り、出た目の数だけカードをドローし、同じ枚数分デッキの一番上からカードを除外する」

 

 

【運命の宝札】

通常魔法カード

サイコロを1回振る。出た目の数だけデッキからカードをドローする。

その後、同じ数だけデッキの1番上からカードをゲームから除外する。

 

 

 ソリッドビジョンのサイコロが転がり、3つの黒い点を真上に向けた。

 

「出た目の数は3! よって俺は3枚ドローし、3枚のカードを上から除外する」

 

 追い風が吹いていたからだろうか。良い手札が揃った。

 ペガサスは初めて自分にとって予想外の出来事が発生したことで軽い混乱状態にある。だがペガサスほどの歴戦のデュエリストがそう長く混乱してはいないだろう。このまま何もしなければ、次のターンには元の調子を取り戻す。

 キースのデッキにはもうスキルドレインのようなペガサスの予想を崩せるイレギュラーな切り札はない。ここで押し切れなければ、体制を整えたペガサスに敗北する未来しかなくなるだろう。

 

(ここは憶さず攻める!)

 

 攻めるべき時に攻め、守るべき時に守る。これが出来るのが一流のデュエリストである証だ。そしてキースは一流のデュエリスト。攻め時というものを見過ごしはしない。

 

「手札より魔法カード、融合を発動するぜ! 手札のリボルバー・ドラゴンとブローバック・ドラゴンを融合! 蜂の巣にしてやれ! 融合召喚、ガトリング・ドラゴン!」

 

 

【ガトリング・ドラゴン】

闇属性 ☆8 機械族

攻撃力2600

守備力1200

「リボルバー・ドラゴン」+「ブローバック・ドラゴン」

コイントスを3回行う。表が出た数だけ、フィールド上のモンスターを破壊する。

この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

 

 

 リボルバーを模した機械龍であるリボルバー・ドラゴン、オートマチック拳銃を模したブローバック・ドラゴン。

 その二体が融合されて降臨したのはより過激なガトリングを模した機械龍。ガトリング・ドラゴンだった。

 戦車(チャリオット)のような車輪を回しながら、ガトリング・ドラゴンのガトリング砲がペガサスのフィールドにあるトゥーン・キングダムへ照準された。

 

「Oh! ガトリング・ドラゴン、下手をすると自分のモンスターすら破壊してしまう危険性をもったベリーデンジャラスな融合モンスター。ユーの切り札ですね」

 

「よくご存知なこって」

 

 ペガサスの言う通り、ガトリング・ドラゴンは下手をすると自分のモンスターすら破壊しかねないモンスターだ。

 効果テキストにある破壊効果は相手のフィールドと指定されているわけではないので、破壊するモンスターの数が相手フィールドのモンスターの数を上回った場合、ガトリング砲の弾丸はキースのフィールドに襲い掛かってくるのである。もっともスキルドレインがあるためその効果を使う事は出来ないが。

 

「ついでだ。地砕きを発動、ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴンを破壊。そして速攻魔法サイクロン! テメエの場のスピリットバリアを破壊する!」

 

 スキルドレインの効果はなにもトゥーンにとってマイナスばかりではない。トゥーンがもつ共通の弱点である〝トゥーン・ワールドが破壊されると破壊される〟という自壊効果も無効となっているため、トゥーン・キングダムを破壊したところでトゥーンは死なないのだ。

 だからこそここはトゥーン・キングダムではなくダメージをゼロにするスピリットバリアを破壊する。これでペガサスのライフにダメージが通るようになった。

 

「バトル。パーフェクト機械王でトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールに攻撃。アルティメット・ジェット・パンチ!」

 

 トゥーン・キングダムから飛び出してきたトゥーン・ブラック・マジシャンが必死になって迎撃するが、いかせん攻撃力が違いすぎる。

 パーフェクト機械王の電磁パルスが唸るパンチの直撃を喰らい、ゴムボールのように吹っ飛んでいった。

 

「トゥーン・キングダムの効果デース。私はデッキの一番上のカードを除外し、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールの破壊を防ぎマース」

 

 頭でもうったのかトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールが目を回す。しかしキースの攻撃はまだ終わったわけではない。

 

「戦闘破壊は免れるだろうが、スピリットバリアがなくなった以上、肝心のダメージの方は通るぜ。ガトリング・ドラゴンでもう一度、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールを攻撃! ガトリング・キャノン・ファイヤ!」

 

「NOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

 ペガサスLP4000→1100

 

 ガトリング砲の連射を浴びて、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールが二度目のノックダウンした。戦闘破壊はトゥーン・キングダムの恩恵で防がれたが、トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールのダメージはそのままマスターであるペガサスのものとなる。

 これまで不可侵であり、1ポイントのダメージも受けなかったペガサスのライフが初めて削られた。

 

「カードを二枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「……………私の可愛いトゥーンたちが、こうも攻略されるとは。ふふふふふ。敵ながらグッド。ベリーグッド、ナイスファイトデース。

 ここまで追い詰められたのは前に遊戯ボーイや海馬ボーイとデュエルして以来かもしれまセーン。ですが私もインダストリアル・イリュージョン社、名誉会長。全国の子供達が見ている前で不甲斐ないデュエルはできまセーン。

 キース。ここからは私も本気の本気、限界のデュエルでユーを倒しマース」

 

 ぞくっ、と背筋に冷たいものが流れた。

 ペガサスの纏っていた雰囲気が変わる。これまでどれだけ追い詰められようと剽軽でコミカルな態度を崩さなかったのが、目は細まり懐に凶器を潜ませた殺し屋めいた気配を放ち始めた。

 

「私のターン、ドロー。強制転移を発動、私のフィールドのモンスターと貴方のフィールドのモンスターを其々一体ずつ入れ替える。私はトゥーン・ブラック・マジシャン・ガールを選択、貴方が選択するのは……パーフェクト機械王ですね」

 

「……ふん。パーフェクト機械王を選択する。チッ、さっさとしやがれ」

 

 トゥーン・ブラック・マジシャン・ガールとパーフェクト機械王が居る位置を互いにチェンジした。

 

「更に私は手札よりアドバンスドローを発動。私の場のレベル8以上のモンスター、パーフェクト機械王を生け贄に捧げ……二枚のカードをドロー。そして私は大嵐を発動。フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する」

 

「大嵐だとっ!?」

 

 ペガサスは答えない。まるで人が変わったかのように淡々とゲームを進める。

 まるでペガサスの全神経がデュエルをするためだけの機械となってしまったかのようだ。だが口調と動作は機械的だというのに、瞳の奥にはデュエリストとしての闘志が爛々と輝いているのが恐ろしい。

 人間の感情と人間の情熱と人間の本能をもちながら、機械的な合理性でペガサスはデュエルをプレイしていた。

 

(あの野郎がなに考えているか知らねえが、今のあいつはやべえ)

 

 キースはついさっき伏せたばかりのリバースカードをオープンする。

 

「大嵐の発動にチェーンして速攻魔法、非常食発動!」

 

 

【非常食】

速効魔法カード

このカード以外の自分フィールド上に存在する

魔法・罠カードを任意の枚数墓地へ送って発動する。

墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

 

 

「スキルドレインと一族の結束、血の代償、そしてセットしているカードを墓地へ送り俺は4000のライフを回復する」

 

 フィールドに吹き荒れた嵐はペガサスのトゥーン・キングダムを破壊したが、キースのカードは非常食により破壊される前に墓地へ送られたために破壊されなかった。

 四枚ものカードを失ったのは痛かったが、代わりに4000のライフを得て相手の大嵐を素通りできたのならばそれほど痛くはない。

 

「残念だったな。当てが外れて、これで俺のライフは初期ライフを超えた6500ポイント。形勢逆転だな」

 

「いいえ。ここまでは概ね予定通りです。私が大嵐を発動したのはあくまでもスキルドレインを消し去るため。ライフを回復されたのは残念ですが、その目的は達せられました。

…………本当に、懐かしい。私がデュエルでこのモンスターを召喚するのは遊戯とのデュエル以来です。手札より儀式魔法発動、イリュージョンの儀式」

 

 

【イリュージョンの儀式】

儀式魔法カード

「サクリファイス」の降臨に必要。

手札・自分フィールド上から、レベルが1以上に

なるようにモンスターを生贄にしなければならない。

 

 

 専用儀式魔法でモンスターを生け贄にすることで初めて降臨される儀式モンスター。

 当初儀式モンスターはステータスの高いモンスターばかりであったが、それに革命を起こすモンスターが現れた。誰であろう創造主自身の手によって。

 儀式モンスター史上最低レベルにして、最初の特殊能力をもった儀式モンスター。その名は、

 

「私は手札の千眼の邪教神を生け贄にし、サクリファイスを降臨です」

 

 

【サクリファイス】

闇属性 ☆1 魔法使い族

攻撃力0

守備力0

「イリュージョンの儀式」により降臨。

1ターンに1度、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択し、

装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、このカードの効果で装備したモンスターの

それぞれの数値になる。この効果でモンスターを装備している場合、

自分が受けた戦闘ダメージと同じダメージを相手ライフに与える。

また、このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりにこのカードの効果で

装備したモンスターを破壊する。

 

 

 闇の中から先ず現れたのは千年アイテムにあるものと同じウジャト眼。

 そして全身を覆う傘のような羽。全体の体は青白く染まっており、そこを網目のように白い血管が通っている。

 

「サクリ、ファイス……。出やがった、か」

 

 キースとしても、まさかという思いが強かった。

 公式に残っているペガサスのデュエルで、ペガサスがサクリファイスを召喚したのは武藤遊戯とのデュエルただの一度きり。以降、如何な敵と戦う時もペガサスがサクリファイスを召喚する事はなかった。

 だからキースもサクリファイスを攻略するためのカードは特にデッキに投入していない。

 つまりここからは、データなど通用しない正真正銘の殴り合いだ。

 

「サクリファイスの効果、ガトリング・ドラゴンを吸収しその力を得る」

 

 サクリファイスがガトリング・ドラゴンを吸い取り、その機械の胴体を拘束した。

 縛り付けられたガトリング・ドラゴンはもがいているが、力をサクリファイスに吸い取られてしまったのかその動作は頼りない。

 

「サクリファイスでダイレクトアタック、イリュージョン・ガトリング・キャノン・ファイヤ!」

 

「ぐぅ、おぉぉおぉおおおおおおおお!!」

 

 ガトリング・ドラゴンの力がそのままサクリファイスのものとなり、その攻撃力は2600だ。

 6500まで回復したキースのライフがいきなり3900まで削り取られた。

 

「バトルを終了。ターンエンドです」

 

 ペガサスは静かにターン終了を告げた。

 あれだけ自分の所に来ていた流れが、一気に奪い返された。サクリファイスが奪ったのはガトリング・ドラゴンだけではなくデュエルの流れも吸収していった。

 

「この、野郎っ」

 

 キースの手札は0枚。幸い非常食のお蔭でライフにはまだ余裕があるが、肝心の手札がないのではどうしようも出来ない。

 ペガサスのフィールドにいるのがサクリファイスというのも最悪だった。

 仮にサクリファイスを超えるモンスターを呼ぶことができたとして、戦闘しようにも装備カードとして吸収したモンスターを身代わりに戦闘破壊を逃れることができる。更にサクリファイスを残しておけば、今度はサクリファイスを攻撃したモンスターを吸収され同じことの繰り返しとなってしまう。

 サクリファイスを戦闘で倒すには二体のモンスターが必要だが…………これからドローするカード一枚だけで攻撃力2600以上のモンスターともう一体のモンスターを呼びこむなど不可能にも程がある。

 それでもやらなければ自分が負けることは明らかである以上、やる以外の選択肢は最初からなかった。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 果たして勝利の女神は微笑まなかった。キースがドローしたのはサクリファイスの攻撃を防ぐ防御カードでも、モンスターでもないカード。

 このタイミングではまるで役に立たないカードだった。

 

(畜、生!)

 

 流れだけでなくツキまで何処かへ行ってしまったようだ。ここに至ってキースは崖っぷちに追い込まれた。

 

「カードを一枚伏せターンエンドだ」

 

「私のターンですね。ドロー」

 

 キースの残りライフは3900。ペガサスが攻撃力1300以上のモンスターを引き当てたら、そこでジ・エンドだ。

 

「……………………」

 

 自分のドローしたカードを確認したペガサスはゆっくりと口を開く。

 

「バトルです」

 

「!」

 

 ペガサスはモンスターを召喚せずにバトルフェイズへと移行した。つまり……モンスターカードを引き当てることができなかったのだ。

 

「サクリファイスの攻撃、イリュージョン・ガトリング・キャノン・ファイヤ!」

 

「ぐっぅうう! まだ、まだァ! この程度の弾丸、屁でもねえ!」

 

 ライフが遂に1500ポイントをきり1300ポイントとなる。

 だが1300残った。このターンで勝負が終わらなかった。絶望的な状況だったがたった1ターンの猶予を得ることができたのだ。

 

「私はターン終了です。さぁ――――正真正銘、貴方と私の運命を分ける貴方のラストターンです」

 

 キースはデッキトップに手をかける。

 運よく、最後の最期で悪運強さが発揮されてキースのライフは800ポイント残った。だが泣いても笑ってもこれがラストターン。

 このターンも何も出来なければキースの敗北は殆ど確定的となる。

 

(……俺のデッキにはこの状況を打破できる逆転のカードが一枚ある。だが俺にそのカードを引き当てることができるのか?)

 

 デッキの一番上とは未知の可能性。ドローするその瞬間まで無限の可能性を内包しているが、引いた後、可能性は唯一つの運命へと変わる。

 デッキに眠るあるカードを引けるか引けないか。たったそれだけがこのデュエルの勝敗を決定的に分けることとなるだろう。

 キースの手がカードを引く直前で止まった。

 本当に自分があのカードを引き当てることができるのか……いや、引けないという不安だけが渦巻いて足を止めさせた。

 

(引いたら最後、俺の負けが確定するかもしれねえ)

 

 だがドローしなければ、デュエルは終わらない。負けないでいられる。

 例えばここでサレンダーしてデッキトップを見ずにシャッフルしてしまえば、永遠にあるはずだった運命は闇の中だ。

 後から振り返って、もしかしたらあの時に勝っていたかもしれないと生温い勝利の可能性に浸ることもできるだろう。

 

――――ここでペガサスに負けたらどうなる?

 

 また自分は地獄に逆戻りになるかもしれない。プライドもなにもかもが消えた暗い闇の底に。

 折角表舞台に戻ってきて、それなりの地位と力を取り戻したのだ。わざわざペガサスに挑まなくても、

 

「―――――――――」

 

 ふとペガサスの顔が視界に映る。ペガサスは何もせず、静かにキースのことを見下ろしていた。

 その視線は天上から人々の生活を眺める神のもの。誰にも到達できぬ頂きより、ペガサスはバンデット・キースという人間を見下ろしている。

 ペガサスの瞳に宿るのは憐み――――ではなかった。

 双眸の中で輝くのは期待だ。ペガサスの目はただ一言「這い上がってこい」と告げていた。

 

「ククッ」

 

 上等だ。サレンダーという逃げの選択に流れようとしたチキンな心は焼き鳥にして食ってしまえばいい。

 這いあがれというのならば這い上がる。そして、その時こそ本当にバンデット・キースは復活するのだ。

 

「俺のターンッ! ドローッ!!」

 

 運命のラストドロー。キースは不思議と穏やかな気分で引いたカードを見る。そして口元を僅かに釣り上げた。

 

「来たぜ。魔法カード、発動! 死者蘇生!」

 

 

【死者蘇生】

通常魔法カード

自分または相手の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 死者蘇生、デュエルモンスターズ最初期から多くのデュエリストに使われている蘇生カードの元祖。

 正にバンデット・キースの復活の日には相応しいカードだ。

 

「俺が地獄から蘇らせるのはリボルバー・ドラゴンだ。蘇りな、リボルバー・ドラゴン!」

 

 

【リボルバー・ドラゴン】

闇属性 ☆7 機械族

攻撃力2600

守備力2200

相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。

コイントスを3回行い、その内2回以上が表だった場合、そのモンスターを破壊する。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

 そして蘇るキースにとって暗い過去を彷彿とさせるモンスターでもあるリボルバー・ドラゴン。

 最悪の時は自分で自分に向けたリボルバーは、この日は真っ直ぐにキースの敵であるペガサスに銃口を向けた。

 

「リボルバー・ドラゴン……ギャンブル効果であるものの、ノーコストでモンスターを破壊する力をもつモンスター」

 

「テメエに説明するまでもねえよな。サクリファイスには戦闘耐性はあっても効果破壊耐性はねえ。リボルバー・ドラゴンの効果が成功すりゃテメエのフィールドはがら空き。俺の勝ちって寸法よ! 

 リボルバー・ドラゴン効果発動、ロシアン・ルーレット!」

 

 ガタンッとリボルバー・ドラゴンの撃鉄が落ちた。だがトリガーが引かれた時、フィールドに響き渡ったのはカチッという無機質な音。

 銃口からサクリファイスを破壊する弾丸が放たれることはない。効果は……失敗だ。

 

「残念でしたねキース。断言しましょう、貴方は強かった。私が絶体絶命の窮地に追い込まれるほどに。ですがこれも一つの結末。運命の女神が最後に微笑んだのは私の方……ただ運命の歯車が少し狂えば、負けていたのは私の方だった」

 

 キースは力なくうなだれ、

 

「なに勘違いしてんだ?」

 

 とっておきの悪戯を成功させた子供のようにニヤリと笑った。

 

「勝つのはこの俺だ。バトルフェイズ、リボルバー・ドラゴンでサクリファイスを攻撃だ! ガン・キャノン・ファイヤ!」

 

「馬鹿な! サクリファイスとリボルバー・ドラゴンの攻撃力はまったくの互角……。そんなことをしても、私にダメージを与えることもサクリファイスを撃破することもできない。ただリボルバー・ドラゴンが破壊されるだけ」

 

「ンなこたァ知るかァ!!」

 

 サクリファイスの攻撃とリボルバー・ドラゴンの攻撃がぶつかり合い、互いの弾丸がお互いを襲い掛かった。

 リボルバー・ドラゴンが粉々に破壊され消滅する。だがサクリファイスは吸収していたガトリング・ドラゴンを盾とすることで戦闘破壊を免れる。

 フィールドに残るのは攻撃力0のサクリファイスと、キースの場に伏せられた一枚のカードだけ。

 キースは天を仰ぎ、宣誓する。

 

「これが俺の――――正真正銘、最後の切り札だ。リバースカードオープン、時の機械-タイム・マシーン」

 

 

【時の機械-タイム・マシーン】

通常罠カード

モンスター1体が戦闘によって破壊され

墓地へ送られた時に発動する事ができる。

そのモンスターを、破壊された時のコントローラーの

フィールド上に同じ表示形式で特殊召喚する。

 

 

 ペガサスとの戦いでの屈辱的敗北。あれ以来、失われてしまったキースの時間。だがキースは今を生きる一人の人間だ。生きていれば、人生をまたやり直すこともできるだろう。

 フィールドの時間が逆行していく。

 サクリファイスの攻撃力はそのままに、死んで墓地へ行ったはずのリボルバー・ドラゴンが元の姿となって戻ってきた。

 

「復活したリボルバー・ドラゴンには攻撃権がある。リボルバー・ドラゴンでサクリファイスを攻撃。ガン・キャノン・ファイヤ」

 

 リボルバー・ドラゴンの砲火が攻撃力0となったサクリファイスを吹き飛ばす。

 ペガサスは微笑みながらそれを受けて、遂にライフが0を刻んだ。

 

「見事でした、キース」

 

 それはどういう意図が込められていたのか。満ち足りた様にペガサスが言う。

 爆発的な歓声が会場に響き渡ったが、何故かキースにはそれが遠く聞こえた。視線は真っ直ぐにペガサスへ向けられている。

 

「ここは通過点だ。テメエに勝って漸くあの頃に戻ってきたに過ぎねえ。次は、ここからだ」

 

 止まっていた時間を動かし、失われた時間を取戻し、過去に戻ってくることは出来た。

 ならばキースの人生はここからまた始まるのだ。キースは観客席の方を見ると、そこに切欠を作った張本人である丈が立っていた。

 ペガサスとの戦いは通過点に過ぎない。

 この時代のライバルとの戦いが、これからも待っているのだ。

 

「ふふふっ。最初貴方が今年の新人王に輝いた時、あなたのようなベテランが新人など、と思ったものですが……案外と似合っていたのかもしれませんね」

 

「うるせぇよ」

 

 それ以上、言葉を交わすことはなかった。

 ペガサスへの恨みが完全に消えたわけではないが、これで区切りはついた。憎しみはこの場に置き去りにしていく。

 キースはこれからの戦いへ向けて、過去の不敗神話の神へ背を向けて歩き出した。



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第七章 超融合! 時空を越えた絆
第115話  未来の英雄達


それは嘗てでもあるし、遠い未来でのこと。

 技術の発展。欲望の増大。それにより滅んだ世界があった。

 

「クククッ……これで私の大いなる計画は遂行された…!」

 

 逆刹を象徴する男は、破滅の未来を救うために。

 

「さらばだ……歴戦のデュエリスト達よ!」

 

 デュエルモンスターズに対して宣戦を布告した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 丈がNDLに入って一年間が過ぎた。

 学生からいきなりプロ、しかもアメリカのということで最初は戸惑うことも多かったが、住めば都というのは本当らしい。

 一年も経てばアメリカでのプロ生活にも段々と慣れてきた。来たばかりはつたないものだった英語も、今となってはペラペラ喋ることができる。

 そして十一月。

 季節を間違えて夏がうっかり顔を覗かせてしまったような気温の中、丈はNDLのトッププロとして大観衆の前でデュエルをしていた。

 

「フィニッシュだ。カオス・ソルジャーでプレイヤーへ直接攻撃!」

 

「ぐぁああああああああああ!!」

 

 カオス・ソルジャーの攻撃が通り、相手デュエリストのライフが0となる。

 

『決まったぁああああああああああ!! 宍戸丈、二か月前のスランプが嘘のような絶好調! これで二十連勝です!!』

 

 5ターン目でライフ無傷での快勝。一時期酷い負け方をしてしまい、不調に陥った時もあったがこの成績なら順調に今年の新人王は手に入れられるだろう。

 去年はどう考えても新人ではない〝新人〟のキースに新人王を盗まれてしまったため、今年こそは是が非でもとりにいかなくてはならない。

 今年を逃せば宍戸丈が新人王のタイトルをとるチャンスは永遠に失われてしまうのだから。

 

「良いデュエルだった。また腕をあげたようだな」

 

 パチパチと賞賛してくれたのは――――丈にとって掛け替えのない友人であり、最大の好敵手でもある丸藤亮だった。

 亮は丈と違いプロでもあって学生でもあるという特殊な立ち位置ではなく、足から頭のてっぺんまで正真正銘のアカデミアの学生だ。

 デュエル・アカデミアは遠い日本の領海内にある孤島にあり、11月の平日に本来ならこのアメリカにいるわけがない。

 だが亮は現在アメリカ・アカデミアに短期留学しにきており、そのためこうして暇があれば丈のデュエルに顔を出しているのだ。

 

「腕を上げたのはお互い様だよ。留学しにきていの一番にデュエルしたけど…………なんだ、あれは? 攻撃力100000なんて馬鹿げてるにも程がある。

 攻撃をどうにか防いで絶対に勝ったと思ったら、オネストまで使ってくるし。いつ手に入れたんだ?」

 

「最近だ。……I2カップの賞金をほぼ全て費やした甲斐があったというもの。空きパックの山脈ができてしまったよ」

 

 満足気にふっと微笑む丸藤亮ことカイザー亮。

 もしかしなくても、亮はクールキャラに見えたわりと天然入っている馬鹿だ。そしてアカデミアの〝四天王〟では誰よりもデュエルに一途な男でもある。

 

(しかしデュエルの神も酷いことをする)

 

 ただでさえ通常のデュエルではまずお目に掛かれない馬鹿火力のサイバー流に、オネストが加われば鉄壁だ。

 純粋な攻撃力でサイバー流に勝ることができるのはもはやオネストにオネストをぶつけるか、それに似た効果をもつカードで攻めるしかない。

 もしくは、

 

(三邪神、か)

 

 丈のもつ三邪神の中で最高位に位置する無敵の邪神、アバターを使えば如何な攻撃力だろうと無意味とすることができる。

 だが三邪神は危険なカードだ。今は安らいで丈に身を委ねていてくれるが、だからといってデュエルで使った場合、ソリッドビジョンの度を越えたダメージを相手に与えてしまう。

 使うべきとこは必勝を誓った時、闇のゲームの時と決めている。

 そのため丈はNDLに入ってからも三邪神を使った事は一度もなかった。

 

(けれど)

 

 相手が亮ともなれば、いずれ使う日がくるだろう。

 丈としても三邪神を使わずに死蔵するのは本意ではない。稀には三邪神も存分に暴れたいはずだ。

 

「――――んっ!」

 

 驚きが脳天を貫く。それは何の予兆もなくいきなり起きた。

 さっきまで丈がデュエルしていた会場が大きく揺れた。

 

「まさか地震か?」

 

 近くにあった手摺に掴まりながらも亮は冷静に判断した。

 

「……いや、そうじゃない」

 

 丈の視線の先には連続で爆発音を放ち、火花を散らすデュエル場があった。

 明らかに異常事態だ。爆発音の発生源からは途方もない、三邪神に迫るほどのエネルギーを感じる。

 なにかとんでもないことが起きているのは明らかだ。

 丈の脳裏に昨年のダークネス事件や一昨年のネオ・グールズ事件が過ぎった。

 

「行こう!」

 

 デュエリストとしてじっとしていることは出来なかった。

 丈は亮と一緒に〝原因〟がいるであろう場所へ走っていく。廊下を通り抜け、飛び出た瞬間。

 

「――――――!」

 

 最初に目に入ったのは巨大な虹色のドラゴンだった。七色の光を辺りに撒き散らす姿は溜息をもらしてしまいそうなほど美しかったが、何故か神聖さよりも、背徳的な〝罪〟の臭いがした。

 虹色のドラゴンは丈たちを視界に捉えると、その輝きと同じブレスを放ってきた。

 

「伏せろ!」

 

 二人は同時に飛び退いた。

 背後で鳴り響く轟音。恐る恐る目を開いて立ち上がると、飛び散った瓦礫の破片が頭にあたったのだろう。亮が意識を失い、倒れていた。

 

「お、おい亮! しっかりしろ!」

 

 呼びかけるが亮の返事はない。だが幸い呼吸音はしっかりしていた。この分なら命に別状はないだろう。

 だが次の瞬間、新たな驚きが丈に襲い掛かった。

 

「……これは?」

 

 亮の腰にあるデッキケースから光の粒子が漏れ出して、それが何処かしらへ飛び去っていく。

 慌てて丈はデッキケースの中を開き、中を確認すると、

 

「サイバー・エンド・ドラゴンのカードが、消えている?」

 

 丸藤亮にとって魂ともいうべきカード、サイバー・エンド・ドラゴンからはイラストが完全に消滅していた。

 見間違いかと疑うが、カード名の欄にはしっかりとサイバー・エンド・ドラゴンと記されている。

 

「まさ、か」

 

 一抹の不安をもって光の粒子が飛んでいった方向を振り向くと、そこに青眼の白龍は真紅眼の黒竜といった伝説のドラゴン族モンスターに囲まれ、まるで舞台の主役のように一人の男が立っている。

 体型からいって男だろう。金色に青紫の色が若干混ざった不思議な髪をしていた。顔は白黒の仮面に覆われているせいで分からない。

 

「お前が、亮のサイバー・エンドを……!」

 

 男は不気味に笑いながら、黒い淵のカードを見せつけた。

 そのカードに映し出されていたのはイラストこそ反転していたものの、間違いなくサイバー・エンド・ドラゴンだった。丈がサイバー・エンドを見間違えるはずがない。

 

「サイバー流の象徴、サイバー・エンド・ドラゴンは貰っていく」

 

「ふざけるな! それは亮のカードだ、返せ!」

 

「……三邪神の担い手。あらゆるものを受け入れる性質をもつ者か。その性質は得難いが私の計画においては単なる邪魔者に過ぎない。ここで排除させて貰う」

 

 男の周囲にいるドラゴンたちが一斉に蠢いた。

 直感的に不味いと悟る。ブルーアイズ、レッドアイズ、それに虹色のドラゴン。どうしてか分からないが男はデュエルモンスターズにおいて伝説と称されるほどのモンスターを従えている。

 気付けば丈はブラックデュエルディスクに邪神イレイザーを叩きつけていた。

 

「邪神イレイザーを召喚! ダイジェスティブ・ブレス!」

 

「レインボードラゴンの攻撃、オーバー・ザ・レインボー!」

 

 黒い波動と虹色の閃光が激突する。虹色のドラゴン――――レインボードラゴンもかなりのモンスターのようだ。精霊も宿っているらしく、攻撃の重みが段違いだ。

 だが邪神イレイザーは三幻神と同等の力をもつ邪神。邪神イレイザーの攻撃がレインボードラゴンを押し返そうとしていた。だが、

 

「ククククッ。我が前にひれ伏せ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

「なに!?」

 

 男が新たにモンスターを召喚する。全身を鋼の皮膚に包んだ三頭の機械龍はまさしくサイバー・エンド・ドラゴン。

 サイバー・エンド・ドラゴンはまるで宍戸丈こそを敵だというように咆哮し威嚇してきた。

 

「やれ、エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 

 レインボードラゴンの攻撃にサイバー・エンド・ドラゴンの力が加わる。それが勝敗の天秤を逆転させた。

 押していたのが逆に押される形となる。イレイザーの黒い波動は徐々に押しこめられ、やがてサイバー・エンド・ドラゴンとレインボードラゴンのブレスがイレイザーを消し飛ばした。

 

「ぐぅぅ!」

 

「止めだ」

 

 男が最後に召喚したのは、青い姿の細身のドラゴンだった。

 きらきらと光る星屑を散らせながら、そのドラゴンが舞いあがる。

 

「スターダストの攻撃、シューティング・ソニック」

 

 丈は急いで回避しようとするが、間に合わない。スターダストの攻撃はもう目の前に迫っていた。

 数瞬後の死を覚悟して丈が目を瞑る。

 直後だった。

 

「チッ! もう追ってきたか……不動遊星、そして遊城十代」

 

 赤い竜がスターダストの攻撃から丈を守り、飛び去っていく。

 男も竜の接近を知ったからだろう。追撃することはなく、不思議な造形のバイクに飛び乗るとそのまま姿を消してしまった。

 丈が次に目を開けると、そこは男の襲撃があった会場から1㎞ほど離れたビルの屋上だった。

 

「……な、なにが起きたんだ?」

 

「一年ぶりくらいだっけ。久しぶり、丈さん」

 

「はぁ?」

 

 いきなりクラゲみたいな髪形の青年にフランクな挨拶をされた。しかもやたらと慣れ親しんだ風に。

 隣には蟹みたいな頭をした青年もいる。……どこかしらのチームにでも入っているのか、顔には黄色いタトゥーがある。

 

「久しぶりって、助けて貰っておいてすまないけど誰なんだ? 俺には見覚えがないんだけど」

 

 オシリス・レッドの制服を着ているということはアカデミアの生徒なのだろう。だが丈はアカデミアでこの青年を見たことは一度もなかった。

 必死に記憶の糸を弄るが、やはり該当する名前も顔もゼロ。彼とは完全に初対面だ。

 

『十代。この時代の彼はまだ君と出会ってすらいないんだ。久しぶり、って言われても意味が分からないよ。きっと』

 

『そうだにゃ。私達は遊星くんの赤き竜の力で過去にタイムスリップしてきたばかりにゃんだから』

 

「デュエルモンスターズの精霊に、大徳寺先生!?」

 

 十代、というらしい青年の両隣に黒い羽をもつ精霊と、特待生寮の管理人でもあった大徳寺先生が出現した。しかも大徳寺先生の姿はまるでデュエルモンスターズの精霊のように透けていた。

 

「な、なんで大徳寺先生がここに……?」

 

『それは死んで幽霊になった私をファラオが呑み込んじゃって』

 

「えぇ!! 大徳寺先生死んだの!?」

 

『あ、いやまだ死んでないにゃ! いやこの私は死んでるんだけど、ここの私はまだ死んでないというか……』

 

「落ち着いて下さい。余り未来のことを詳しく話すと、タイムパラドックスが起きる可能性があります」

 

 蟹みたいな頭の青年が割って入る。

 はっきりいって怒涛の新情報ラッシュに頭が混乱していたので有り難かった。

 

「えーと、君は?」

 

「俺は不動遊星です。そして……」

 

「丈さんの未来の後輩の遊城十代、この時代の丈さんとは初対面ですよね」

 

「十代くんに、遊星くんか。それと」

 

 チラリと大徳寺先生と、その横に佇む中性的な顔立ちをした精霊に視線を移す。

 いや大徳寺先生の幽霊の足元には大徳寺先生の飼い猫であるファラオまでいた。

 

『ご覧の通りデュエルモンスターズの精霊の〝ユベル〟だよ。〝魔王〟宍戸丈。十代と同じくこの時代では初めましてになるね』

 

『今は十代くんの付き人ならぬ付き幽霊をやってる大徳寺だにゃ。…………どうして死んでるかは、遊星くんの言った通りタイムパラドックスが発生するかもしれないから、聞かないで欲しいにゃ』

 

「…………タイムパラドックスに、タイムスリップって」

 

 もしかしなくてもこの二人と一幽霊と一精と一匹は未来からタイムスリップしてきた、と主張するらしい。

 大概にして出鱈目なことだが、そのことを素直に信じかけている自分にも嘆息ものだった。

 どうも思った以上に宍戸丈という人間はこういった出来事に慣れてしまっているらしい。

 

「兎も角、事情を説明してくれないか?」

 

「あ、はい」

 

 一度に全員が話すのもなんなので、代表して遊星と名乗った青年が説明する。

 丈を襲った男は先ず遊星の時代に現れ、遊星のカードでありシグナーの竜でもあるらしいスターダスト・ドラゴンを強奪していったこと。そして次に十代の時代に現れ、数多くのモンスターたちを奪っていったこと。

 そして遊星の「竜の痣」の力が実体化したような存在である赤き竜によって、男を追って過去にタイムスリップしてきたらしい。

 

「なるほど。じゃあ正真正銘、遊星くんも十代くんも未来人なわけだ。俺と十代くんはあんまり時代的に離れてないみたいだけど、遊星くんの時代とはかなり離れてそうだ。あ、これが未来のデュエルディスク?」

 

「はい。Dホイールと言います」

 

 遊星の乗って来たらしい赤いバイクにはこれまた未来的なデュエルディスクが装着されている。

 どうやらバイクに乗ってデュエルをするらしい。ふといつだったかモヒカンを追う途上、盗んだバイクで走りだして(亮が)デュエルしたことを思いだした。

 

「………………宍戸丈。まさかライディング・デュエルが生まれる切欠となった人に会うとは」

 

「なにか言ったか遊星くん?」

 

「い、いえ。なんでもありません」

 

「おい、そんなことより二人とも。急がないとやばいんじゃないか!」

 

「……! そうだった」

 

 十代の指摘に遊星が動揺する。

 

「なにやら込み入った事情があるようだけど、どうかしたのか?」

 

「丈さん。詳しい事情は後で説明するけど兎に角大変なんだ。アイツの本当の目的は時代の最強カードを集めることなんかじゃない。デュエルモンスターズを歴史から抹消するつもりなんだ!」

 

「な、なんだって!?」

 

 歴史の抹消。つまりは歴史の改変。あまりにもスケールの大きいことに瞠目する。

 

「俺はスターダストを取り戻さなければならない。それだけじゃない。あの男を放っておけば歴史は狂い、世界は滅びてしまう。お願いです丈さん。俺達と一緒に来てください」

 

「………………」

 

 十代と遊星、二人の目は真剣そのものだ。愚直すぎる両目は嘘を知らないかのように澄んでいる。

 三年連続で世界滅亡の危機に巻き込まれるなど自分の運の無さを嘆きたくなるが、ある意味で丈は運が良い。世界が危ない事を知らないまま安穏と過ごすよりも、世界の危機に立ち向かえる方がよっぽど幸運だ。

 それに丈にもあの男を追わなければならない理由がある。

 

「分かってる。俺もアイツからは返して貰わなければならないものがある」

 

「ありがとうございます!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンは亮のものだ。亮が気絶している間にしっかりと取り返さなければならない。

 そう話している時だった。

 地面が揺れ、ビルがどんどんと倒壊していく。揺れは徐々に大きくなり、世界はみるみると崩壊していった。

 

「なるほど。世界が滅ぶっていうのは本当らしい」

 

「急ぎましょう!」

 

 赤き竜が再び三人とその他三名を呑み込む。過去へ逃走した男を追って、赤き竜は時代の波を逆走していく。

 そこで待つのは〝史上最強〟の名を欲しいままにしたキング・オブ・デュエリストだった。



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第116話  集結する最強デュエリスト

 それはデュエルモンスターズが成長期から、プロ黎明期に移り変わる狭間の時期。

 名も無きファラオの魂が冥界に帰る前、二つのキング・オブ・デュエリストの魂が一つの肉体にあった時代。

 現在と未来、或いは過去すらも巻き込んだ〝異変〟が集約した。

 

「まったくすごい人ゴミじゃのー」

 

 決闘王の祖父こと武藤双六はのんびりと言った。

 昔は天才的ゲーマーとして世界で名を馳せた武藤双六も現在では亀のゲーム屋の店主だ。往年にあった生と死の狭間で戦いを繰り広げるギャンブラーとしての顔は面影を留めるのみだ。

 ちなみに孫に黙って並々ならぬ愛情を注ぐピケクラの愛好会を立ち上げようと計画を練っているが今は関係ない。

 

「今日のデュエル大会は、特別ゲストにペガサスも来るからね」

 

 祖父にそう返したのは――――武藤遊戯だった。

 現在におけるキング・オブ・デュエリストであり、未来においては史上最強のデュエリストと謳われる生きる伝説。

 昔は都心にある有り触れた街の一つでしかなかった童美野町だがバトルシティ―トーナメントなどを契機に知名度はみるみると増してきている。

 今回ここ童美野町で開催されるデュエルカップもそういった背景あってのことだ。

 そしてバトルシティの覇者である遊戯は今日の大会にゲストとして招かれているのである。ちなみに友人の城之内は学校の補習。ライバルの海馬は仕事でアメリカだ。

 祖父と二人、のんびりと待っているとやがてヘリコプターが降りてくる。ヘリコプターにはインダストリアル・イリュージョン社のロゴ。ペガサスが来たのだろう。

 

「皆さん! お待たせいたしました」

 

 ヘリコプターの着陸と共に司会が声を張り上げた。

 いよいよとなって会場の盛り上がりが増してくる。

 

「デュエルモンスターズの産みの親、インダストリアルイリュージョン社、ペガサス・J・クロフォード会長の登場です !」

 

 ヘリコプターからペガサスが出てくると、爆発的歓声があちこちから轟いた。

 ペガサスは慣れた様子で手を振りながら、ニコニコと挨拶する。

 

「こんにちは皆さん! 今日このシティでデュエルモンスターズの大会が開かれることを、ミーは心からうれしく思ってマース」

 

 バトルシティでの開幕が嘘のように、今回のデュエルカップは至って平穏な始まり方をした。

 だが――――平和な大会の会場は一瞬で地獄と化す。

 

「あれ?」

 

 遥か上空に遊戯は無数の影を見つけた。

 重力などに縛られず空を悠然と飛ぶ五体の竜。星屑を凝縮した竜がいた、虹色の竜がいた、鋼鉄の機械龍がいた。

 見た目から察するにデュエルモンスターズのモンスターだろう。だが遊戯はデュエルモンスターズのカードについてはそれなりの知識があるが、その三体のドラゴンはどれも見たことのないモンスターだった。

 

「ほ~! 最近のソリッドビジョンは進んどるの~」

 

 双六がのんびりと言う。

 瞬間だった。星屑の竜がデュエル会場を睨みつけると、風のブレスを吐きだしてくる。

 ブレスはまるで本物のように、否、本物そのものの現実的な脅威として会場を焼き払った。

 ビルが破壊され、瓦礫が会場へ落ちてきた。

 

「違う……これはソリッドビジョンなんかじゃない!」

 

 遊戯は千年パズルの所有者になってから多くの闇のゲーム、超常現象と遭遇してきた。だからこれがソリッドビジョンなどではなく、モンスターが現実のものとして実体化しているのだと直ぐに看過できた。

 だが他の観衆はそうはいかない。

 平和な大会が一転して地獄となったことでパニックに陥った人々は、純粋な生存本能に突き動かされ一斉に逃げ出した。

 

「んがっ……遊戯!」

 

「じーちゃん!」

 

 人混みが遊戯と双六を離れ離れにする。

 そして逃げ惑う人々に構わず三体の竜は止めを刺すべく同時にブレスを吐きだした。

 

「オーマイガー、大変デース!」

 

 混乱していたのはペガサスも同じだった。まったくの想定外の出来事に頭を抱えるが、ペガサスは直ぐにその悩みから解放されることになった。

 

「!?」

 

 死という形によって。

 

「オー、ノォーーーー!」

 

 ビルが倒壊し、落ちてきた瓦礫に押し潰されデュエルモンスターズの創造主、ペガサス・J・クロフォードはあっさりと死亡した。

 残るのは瓦礫に潰された人々と、無残にも崩壊したデュエル会場。そして唯一人の生存者、武藤遊戯だけだ。

 

「うう……あ、え?」

 

 遊戯は血濡れの祖父のバンダナを見つける。だがどこを探しても祖父の姿はどこにもない。

 バンダナは瓦礫の隙間から見つけた。更に言えばバンダナは血に濡れていた。ならば祖父、武藤双六がどこにいてどういうことになってしまったのかは――――自明の利というものだった。

 

「じーちゃん、そんな……じーちゃあぁーん!」

 

「ははははははははは、くっくっくっくっははははははははははは!」

 

 悲痛な叫びを嘲笑うかのように男の笑い声が響く。

 遊戯が上空を眺めると、まず天空を回るように動く三体のドラゴンがいた。そしてビルの屋上には白と黒の仮面をつけた男が立っている。

 あの男こそが、この光景を作り出した元凶なのだと遊戯は直感した。

 

「これで私の大いなる実験は遂行された。世界の歴史は変わる。クククッハハハハハハハハハハ!!」

 

 仮面のせいで表情は分からないが、恐らくその顔は勝利の余韻に浸り破顔しているだろう。男はビルの屋上に立ち高らかに自分の勝利を謳っていた。

 しかし遊戯に休む間もなく新たな事態が襲い掛かった。

 

「え?」

 

 いきなり何もない空間から赤い竜が出現すると、その竜が大口をあけて遊戯に迫って来たのだ。

 

「わ、あああああああああああ!!」

 

 あまりのことに避けることもできなかった。遊戯は赤い竜に呑みこまれ、そして武藤遊戯はその時代から消滅した。

 

 

 

 

 赤き竜とやらの力で遊星と十代のタイムスリップに同行したのはいいのだが、ここで一つ問題が発生してしまった。

 どうにも遊星はDホイールにのってタイムスリップしてきたらしく、十代も二人乗りする形で過去へと移動してきた。だがバイクというのはサイドカーつきなどの例外を除けば多くとも二人乗りしかできないようになっている。

 なんていうことはない。Dホイールに三人乗りはきつかったのである。精霊であるユベルや幽霊の大徳寺先生はいいが、人間である丈は空中に浮かぶなんて器用な真似はできない。

 結果として遊星がDホイールを運転し、丈と十代の二人が曲芸染みた乗り方をするという危険運転状態となっていた。

 

「遊星くん! 過去へはまだつかないのか? このままだと、ちょっと不味い」

 

「もう少しです!」

 

 Dホイールの海老反りになっている部分に捕まりながら、どうにか三人乗りをしながら丈が言う。

 タイムスリップというのは思った以上に揺れるもので、気を抜けば今にもDホイールから落ちてしまいそうだ。

 だがここで落ちれば交通事故どころか、どことも知れぬ時間軸に一人放り出されるという洒落にならない事態になる可能性があるので丈も必死だ。

 

「丈さん、変わろうか?」

 

 十代が気を利かして提案する。

 

「幾らなんでも走行中に席を譲れ、なんていうほど非常識じゃないよ。ただし出来れば帰りは交替してくれ。帰りもこれはきつい」

 

「二人とも、見えました!」

 

 目的の時代が近付いたからだろう。Dホイールがより一層振動する。ぱっとキング・オブ・デュエリスト武藤遊戯の驚愕の表情が見えた様な気がした。

 赤き竜が武藤遊戯を呑み込むと、Dホイールはその時代へと飛び出す。

 

「うおっととととととととととと!」

 

 ゲートから出ると同時に、咄嗟にDホイールから飛び降りた丈はどうにか着地を果たす。遊星と十代も無事だった。

 こうしてタイムトラベルを経験するとドラえもんのタイムマシンがどれだけ素晴らしいものだったかが身に染みて理解できた。

 しかしいきなり赤き竜に呑みこまれ、訳も分からずタイムスリップしてしまった御仁はそうはいかなかったらしい。

 丈は慌ててその人物に駆け寄る。

 

「すみません。いきなり手荒な真似をして」

 

 緊張しながら話しかける。

 こうしてタイムトラベルなんてことを経験した今でも信じられなかった。自分の前にいるのは〝武藤遊戯〟である。

 バトルシティを制し、三幻神のカードを担った伝説の決闘王。

 デュエルモンスターズが成長期を終え、プロ黎明期に入ってから多くのデュエリストが生まれたが今をもってなお〝史上最強〟の称号を欲しいままにしているのが武藤遊戯という人だ。

 そんな人物がこうして目の前にいるのが信じられない。

 丈のもつ三邪神が、武藤遊戯のもつ三幻神に反応して脈動したような気がした。

 

「君は?」

 

「俺は宍戸丈です。そして……」

 

「俺は不動遊星」

 

「で、俺は遊城十代。この時代の遊戯さんとはまだ会ってないのか。俺」

 

 遊星と十代が其々遊戯さんに挨拶する。やはりキング・オブ・デュエリストを前にした緊張があるのか、どことなく二人の声は固いものがあった。

 

「丈くんに、十代くんに、遊星くん?」

 

「俺のことは遊星で構いません。遊戯さん」

 

「なぜボクの事を?」

 

 流石はキング・オブ・デュエリストというべきか。あれほどの出来事に巻き込まれたというのに動揺はあっても混乱はなかった。

 恐らくこういうことを何度も経験し慣れているのだろう。……不本意ながら丈にも覚えがある。

 

「俺達は未来から来たんです。今から三十分後の悲劇から皆を救うために。遊星、あれを」

 

「これを見て下さい。未来の新聞です」

 

 遊星が十代に見せたのは現時刻から三十分後の出来事が記載されている新聞記事だ。

 新聞には謎のドラゴンがデュエルカップを襲撃し、ペガサス会長が死亡したというニュースがのっている。

 

「これは!?」

 

「……ペガサス会長はデュエルモンスターズの生みの親で今もなお……未来でも強い影響力と、新しいカードを生み出し続けた人です。

 そんな人がデュエルカップで、しかも実体化したモンスターに殺されたなんてことになれば」

 

 デュエルモンスターズの歴史は終わるだろう。

 事実、この時代に来る直前、丈の世界は今まさに崩れ落ちようとしていた。

 

「遊戯さん。お願いです」

 

「俺達と一緒に戦って下さい!」

 

「共に未来を救いましょう!」

 

 遊戯さんはコクリと力強く頷くと立ち上がった。

 

「僕で良ければ幾らでも力になるよ」

 

「よっしゃ! 遊戯さんがいれば百人力だぜ!」

 

 十代が子供のように喜ぶが無理もないことだろう。

 未来においてもデュエリストなら憧憬の念を抱かずにはいられない最強のデュエリストと共に戦うなど――――デュエリストにとっては最大級の栄誉だ。

 世界が危機だというのに緊張感どころか昂揚感の方が湧き上がってきている。

 

「そうと決まれば、まずは大会ですね」

 

 丈は大会の準備をしている人達を見下ろす。あの人たちに罪はないが、未来とペガサス会長の命のためだ。

 少しばかり悪戯を仕掛けさせて貰わなければならない。

 

 

『ふんっ』

 

 どこか不機嫌そうに、十代についている精霊のユベルが火の玉を出す。

 火の玉は丁度近くに誰もいない看板に命中して小さな爆発をあげる。

 

「みんなー! はやく逃げろー!」

 

「テロリストとかミスターTの大群が迫ってるぞー!」

 

「急がないと死ぬよ!」

 

「…………これで、後はペガサス会長に連絡がつけば」

 

 遊星が呟く。

 ペガサスは三邪神のことといい千年眼の所有者だったことといい、この手のオカルトには理解がある人物だ。

 残念ながらこの時代のペガサス会長とは丈と十代は面識がないのだが、遊戯さんはそうではない。

 遊戯さんの言葉ならペガサス会長も信じるだろう。

 

『はぁ。十代の頼みとはいえ、なんで僕がこんなことを……』

 

 しかしこんな茶番に付き合わされたユベルはどことなく不満げだった。

 

「まぁまぁ。これも世界を救う為なんだから我慢してくれよ」

 

 十代がそう宥めるとユベルがぷいとそっぽをむく。まるでその様子は初々しい恋人のやり取りのようで………………いいのか、それで?

 

(ま、まぁ恋愛観は人其々だな)

 

 丈は取り敢えずそういうことに納得する。

 人間と精霊(しかも両性具有)との恋愛には障害もあるだろうが、未来の後輩らしい十代ならきっと乗り越えてくれる。

 

「――――なるほど。私を追ってこの時代まで来たか。だがそうはいかない」

 

「!」

 

 四人が一斉に振り返ると、そこには白と黒の仮面をつけた男がいた。

 間違いない。亮のサイバー・エンド・ドラゴンを奪い、ペガサス会長を殺そうとしていた男だ。

 

「ほう。決闘王、魔王、正しき闇の力を持つ者、そして不動遊星。時代の最強デュエリストたちが集っているとはな」

 

「お前は何者なんだ! どうしてこんなに恐ろしいことをするんだ!」

 

 三十分後の未来で祖父を殺されたばかりだからだろう。遊戯さんは怒りを僅かに滲ませながら言う。

 

「どうして? ふっ、よかろう……私の名は、パラドックス。イリアステル滅四星の一人、逆刹のパラドックス」

 

「イリアステル、だと?」

 

 その単語に反応したのは遊星だった。 

 パラドックスが白黒の仮面をとる。露わになったのは端正な男の面貌だった。年齢は二十代と三十代の間あたりだろう。

 双眸に宿る深い絶望の色が特徴的だった。

 

 



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第117話  始まる戦い

「どうして? ふっ、よかろう……私の名は、パラドックス。イリアステル滅四星の一人、逆刹のパラドックス」

 

 遊星だけがイリアステルという単語に反応する。

 きっとだがパラドックスのいうイリアステルというものは遊星の時代で関わってきたことなのだろう。 

 丈自身、そして遊戯さんと十代もイリアステルという言葉に聞き覚えはないようだった。

 

「どうして君はこんなことをするの?」

 

 遊戯さんが静かな怒りを混ぜてパラドックスに訊く。

 

「私は最善の可能性を探るもの。数多くの歴史を俯瞰し、調査し、検証し、導き出した結論を実行している」

 

「最善の歴史だと!?」

 

「ふざけるな! お前のやってることはただの破壊だ! 俺の時代はお前のせいで崩れかかってたんだぞ!」

 

 自分の時代が崩壊する景色を目の当たりにした十代が怒りを露わにした。

 十代からしたら自分の世界の崩壊が正しい歴史であると言われたようなものである。その怒りは至極真っ当なものだった。

 

「破壊に犠牲? ふふっ、そうか、君達にはそう見えるか。だがそれは違う。正しいと思える未来は間違っていて、一見間違っていると思える未来こそが正しい。考えてみるがいい。私が何もしていなくても、既に世界は矛盾だらけではないか。

 環境破壊、世界紛争、人間同士の差別、まさにこれら全て破壊や犠牲ではないかね?  このいまだ解決出来ない人類の悪行を、君達は一体どう説明する?」

 

「論点をすり替えるな! とにかく奪ったカードを返せ。……こんなことをする以上、なにか理由はあるんだろうけど、ライバルの奪われたカードを黙認することはできない」

 

「すり替えてなどいない。宍戸丈、私は事の大小の話をしている。君達の目からは大袈裟に見えることも私にとっては決して大袈裟ではない」

 

「……お前の言う通り人間はまだ多くの問題を抱えている。俺の時代も……あった。差別が、戦いが、破壊が。だが――――」

 

「復興してきた! 和解し励まし合い平和を掴み取った! 今もこれからも!」

 

 遊星の言葉をかぶせるようにパラドックスが声を張り上げた。

 絶望に染まった双眸がらんらんと輝いて、四人の英雄を睨みつける。まるで貴様等こそが元凶だとでもいうかのように。

 

「認めよう。確かに君達は紛れもない英雄だ。其々の時代において最強のデュエリストとなり、世界滅亡の危機を幾度となく救ってきた。

 だが所詮はそれだけ。一つの時代を救うことはできても、それは結局のところ応急処置でしかない。人類滅亡までのカウントダウンを伸ばすだけの延命行為!」

 

「そんなことは――――」

 

「あるのだよ武藤遊戯! 何故ならばこの私自身が絶望の生き証人だからだ! 私は人類が滅亡した未来から来たのだよ!」

 

「ッ!」

 

 パラドックスの告白に全員が戦慄する。人類滅亡。丈にとってはその四文字は絵空事、それこそ遥か先の未来のことだ。

 だがパラドックスにとってはそうではない。パラドックスは実際に世界が滅んだ終末より来訪した。

 気になってはいたのだ。まるで一切の正の感情が消滅してしまったかのような眼光。あれが世界の滅びを目の当たりにしたものだと考えると納得できる。

 そしてパラドックスが戦う理由も分かった。

 

「分かったかね? 私は世界を滅ぼすために行動しているのではない。逆だ……歴戦のデュエリストたちよ。私は世界を救うために戦っている! 人類滅亡。絶望の未来を回避するために私は戦っている!

 人類の滅亡を回避する……この大義名分の前にはいかなる理由も命すらも無力だ。それとも君達は私の理由を超える大義名分を提示できるのかね?」

 

「待て! それがペガサス会長を殺すのとどう関係するっていうんだ!」

 

 人類の滅亡を回避するために戦う、というのは丈にも理解できる。自分がパラドックスと同じようにそんな絶望の未来を見たとして、過去へ渡る術があったとしたら、同じように滅亡を回避するための行動に出る筈だ。

 だからパラドックスを否定することはできない。しかし人類滅亡を防ぐこととペガサス会長を殺すことは決してイコールになりはしないはずだ。

 

「私は時空のあらゆるデータを分析し、デュエルモンスターズには不思議な力がある事を突き止めた。そしてその歴史に手を加えることを思いついたのだ。

 ペガサス・J・クロフォード、デュエルモンスターズの創造主を殺せばデュエルモンスターズの歴史は大きく狂う。そうすれば破滅の未来が救われる可能性もある」

 

「可能性、だと? それじゃペガサス会長を殺しても、なんにもならない可能性もあるってことじゃないか!」

 

 十代がその両目をオッドアイに変色させながら叫んだ。

 

「無論その可能性は否定しない。だが大したことではないだろう。疑わしきは罰せよ。ペガサス・J・クロフォードが人類滅亡のトリガーとなる可能性があるのならば、それだけでその者には生きる資格などありはしない。

 可能性の一つを一つの歴史の何百人程度の犠牲で潰せるならば安いものだ。そうは思わないかね?」

 

「…………!」

 

 誰よりも怒りをあらわにしたのは遊戯さんだった。

 遊戯さんはつい三十分先の未来で自分の祖父を殺されている。パラドックスが安いといった命は、遊戯さんにとっては祖父の命なのだ。

 

「可能性と、君は言ったね。けどパラドックス、本当にお前は全ての可能性を検証したの?」

 

「……なに?」

 

「可能性は無限にある。例えばこのコイン一枚だって表と裏、二つの可能性がある。それが歴史なら別の可能性は100や200どころか、それこそ無限にある」

 

「遊戯さんの言う通りだ。パラドックス、お前は本当に全ての可能性を調べ尽くしたのか!」

 

「――――――――――――――」

 

 遊戯さんと遊星の指摘にパラドックスは沈黙した。

 それで勇気が湧いた。

 パラドックスは目的達成のために非情に徹してはいるが、決して外道ではない。可能性を調べ尽くしたならば兎も角、調べ尽くしてないのに否と断言することはできないだろう。

 これで全部の可能性を調べて、ペガサス会長を殺すしかないというのならば、止めはするだろうが勇気が今一つ湧いてくれないところだった。

 しかしパラドックスが全ての可能性を検証していないのならば、パラドックスの提示した未来とも違う未来を勝ち取る可能性はある。

 

「新しい未来を勝ち取る権利はお前だけのものじゃないぜ。俺にだって、遊戯さん、丈さん、遊星。遊戯さんのお爺さんやお前がその手で殺そうとしてきた人間全員にある。その未来をお前だけの判断で殺させるわけにはいかないな」

 

「……はぁ。未来の顔も知らない後輩に俺の言いたいことを全て奪われてしまった。パラドックス、お前の考えは分かるし理解もできる。

 正しいと思える未来は間違っていて、一見間違っていると思える未来こそが正しい。 けどその間違っていると思える未来が本当に間違いの可能性もある。出来れば話し合いで解決したい」

 

「話し合いだと? 歴史に記されている通り〝魔王〟などと大仰な異名をもつにしては甘い男だ。だがもはや話し合いの時は過ぎている。

 お前達に私の提示した未来とは違う別の可能性を掴む力があるというのならば、その力を証明して貰おうか!」

 

 破滅の未来に絶望した、時の裁定者が四人の前に立ち塞がる。

 デュエリストとして目の前に敵がいるのならば、やることは一つ。

 

「パラドックス! デュエルだ! 決着をつけよう!」

 

 遊星の兆戦にパラドックスが挑発的に笑う。

 

「良かろう。君達が信じるデュエルモンスターズでお前達を叩き潰してやろう」

 

 パラドックスのDホイールが変形し、空中に浮きあがっていく。遊星の時代よりも更に未来の、遥か未来のデュエルディスクなのだろう。

 四人も全員が其々のデュエルディスクを起動させ相対する。

 

「お前をぶっ倒す事にワクワクしてきたぜ!」

 

 十代は両目に緑と赤色の二つの輝きを灯し、その頭上でユベルが翼を広げる。

 

「オレたちの未来は、貴様の好きにはさせない!」

 

 遊星の腕にある赤き竜の痣もまた赤い輝きをより一層増していた。

 

「去年のダークネスといい一昨年の三邪神といい、やることが尽きないね本当に」

 

 もっともここまでくるとこれも一つの運命なのだと、丈としても諦めがつく。

 パラドックスはいわば絶望の可能性の具現だ。その絶望を超えずして、希望を手にする事は出来ない。

 デッキの中に眠る三邪神が来たるべき戦いに反応し雄叫びをあげた。

 

「勝たせて貰う、パラドックス!」

 

 その時だ。遊戯さんが首にかけていた千年アイテムの一つ、千年パズルのウジャド眼が眩い黄金の輝きを放った。

 光が止むと、そこに立っていたのは優しげな顔の遊戯さんではなく、バトルシティを制した〝決闘王〟が立っていた。

 

「きたか。最強のデュエリスト、三千年前の名も無きファラオの魂……。あらゆるゲームの覇者たる〝遊戯王〟!」

 

 力強く雄々しい瞳がパラドックスを射抜く。

 最強のデュエリストとパラドックスに名指しで呼ばれた武藤遊戯は堂々と言った。

 

「オレは、人の命を踏み台にする未来など認めない!  丈、十代、遊星。行くぜ!」

 

 

 

『デュエル!!!!』

 

 

 

 そして破滅の未来をかけたデュエルがスタートした。

 四対一の変則デュエル。ライフは遊戯、丈、十代、遊星で4000のライフを共有。パラドックスのライフも同じ4000。先攻ターンはパラドックス。

 

「私のターン、ドロー。私はフィールド魔法〝罪深き世界〟Sin Worldを発動する」

 

 

【Sin World】

フィールド魔法カード

このカードがフィールド上に存在する限り、

自分のドローフェイズをスキップする代わりに発動する事ができる。

自分のデッキから「Sin」と名のついたモンスター1体をランダムに手札に加える。

このカードのコントローラーは「Sin」と名のついたモンスター以外で攻撃宣言する事ができない。

 

 黒い紫電が奔ったかと思うと、周りの風景が紫色の宇宙空間染みたものへと変わる。

 いきなりのフィールド魔法の発動。そしてやはり未来のカードなのだろう。丈にも、一番先の時代からきた遊星にすら未知のカードのようだった。

 

「このカードがある限り、私はドローフェイズにドローしない代わりに、Sinと名のつくモンスターをデッキからランダムに手札に加えることができる。

 私はデッキの青眼の白龍を墓地に送り、現れろ、Sin青眼の白龍!」

 

 

【Sin 青眼の白龍】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは通常召喚できない。

自分のデッキから「青眼の白龍」1体を墓地に送った場合に特殊召喚できる。

「Sin World」がフィールド上に存在しない場合このカードを破壊する。

 

 

 デュエルモンスターズをする者ならば、そのモンスターを知らぬはずがない。

 余りの強力さに四枚で生産がストップになった伝説のレアカードにして、決闘王の永遠のライバル海馬瀬人の魂、青眼の白龍。

 だが全体的な雰囲気が清いものから邪悪なものへと反転していた。

 

「デッキのモンスターを直接墓地に……」

 

 Sin Worldのことといい遊星もSinというカテゴリーに見覚えはないようだ。

 パラドックスは遥か遠い未来よりの来訪者。誰も知らないカードを使っても不思議ではない。

 

「おいおい。青眼の白龍の召喚には生け贄が必要のはずだろ」

 

「……攻撃力3000」

 

 十代も遊戯さんも、まったくの未知の方法でいきなり攻撃力3000のモンスターを召喚してきたことに驚きを隠せない様子だった。

 別に攻撃力3000のモンスターを召喚したことだけが驚きなのではない。例え1ターン目だろうと相応の力をもつデュエリストならば、攻撃力3000のモンスターを召喚することくらいは出来る。

 問題なのはたった一枚で大したリスクもなく召喚してみせたことだ。歴史の修正者を語るだけあって一筋縄ではいかない相手らしい。

 

「まだ私のターンは終わっていない。続いてデッキより真紅眼の黒竜を墓地へ送り、Sin真紅眼の黒竜を召喚する!」

 

 

【Sin 真紅眼の黒竜】

闇属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力2000

このカードは通常召喚できない。

自分のデッキから「真紅眼の黒竜」1体を墓地に送った場合に特殊召喚できる。

「Sin World」がフィールド上に存在しない場合このカードを破壊する。

 

 

 ブルーアイズに続いてレッドアイズまでが現れた。青き竜と赤き竜。伝説のドラゴン族モンスターが揃い踏みだ。

 多くの歴史を検証する中でパラドックスは最強カードを集めたのだろう。亮のサイバー・エンド・ドラゴンを奪ったのと同じように。

 

「私はカードを二枚伏せ、天よりの宝札を発動。互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードをドローする」

 

 あれだけのモンスターを召喚しておいて、パラドックスの手札が六枚に戻ってしまった。

 

「だがモンスターを召喚したところで先攻ターンは攻撃はできない」

 

「……と、思ったかね宍戸丈。甘いぞ! 魔法カード発動、時の女神の悪戯!」

 

 

【時の女神の悪戯】

通常魔法カード

このターンをスキップし、次の自分のターンのバトルフェイズになる。

 

 

「なっ! そのカードは!」

 

 パラドックスの発動したカードに見覚えがあるらしい十代が目を見開いた。

 

「時の女神の悪戯、このカードを発動した瞬間。ターンをスキップし次の自分のターンのバトルフェイズになる。宍戸丈、君の言う通り先攻1ターン目は基本的に攻撃できない。

 だが歴史の中にはそんな常識を打ち破るカードもあるということだ。呆気ないがこれで終わりだ。Sin青眼の白龍とSin真紅眼の黒竜でダイレクトアタック! 死ね、歴戦の英雄たち!」

 

「そんなことはさせるか!」

 

 パラドックスの死刑宣告に抗う姿勢を見せたのは遊星だ。

 

「手札より速攻のかかしを捨て、相手からの直接攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

 

 

【速効のかかし】

地属性 ☆1 機械族

攻撃力0

守備力0

相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から捨てて発動する。

その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 

 

 ブルーアイズの攻撃を幽霊のように半透明なかかしが受け止めて防御した。

 パラドックスの攻撃が通ればいきなり4000のライフを失い負けていたが、どうにか助かったらしい。

 

「ふーっ! 危なかったぜ、ナイスだ遊星!」

 

「いえ、そんな」

 

「謙遜しなくていい。俺も肝が冷えた」

 

 十代の言葉に同調する。残念ながら今の丈の手札には二体のモンスターを完全に防ぎきる術はなかった。

 今回は遊星様様である。今度プロとして獲得した賞金の一部を蟹の養殖場に寄付しよう。

 

「ふん。上手く躱したか。しかし最強のデュエリストたちがそうあっさりと倒れても味気ない。ターンエンドだ」

 

 パラドックスのターンが終わり、ここから反撃が始まる。



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第118話  シンクロ

 パラドックスに奪われ全くの未知の〝Sin〟モンスターになってしまっているとはいえ、青眼の白龍と真紅眼の黒竜という二体のモンスターの威圧は相当のものだ。

 並みのデュエリストであればこの二体を前にしただけで心が折れたかもしれない。

 しかしここに集った四人は全員が〝並み〟という二文字から程遠いデュエリストである。

 自分とカードの力で世界の危機を救ったこともある者達だ。

 この程度の危機ならば各々の時代で既に乗り越えてきている。

 

「十代さん、丈さん、遊戯さん、俺から行かせて下さい。ヤツはあらゆる時代からモンスターを奪い、Sinモンスターへと変貌させ世界を滅ぼす道具にしている。

 そしてそれには奪われた俺のスターダスト・ドラゴンも含まれています。 俺は各時代の人々や、俺たちの街、大切な仲間を守るためにも、このデュエル、持てる力のすべてをかけて戦いたいんです!」

 

 四人の中で一番遠い時代から来ている遊星が前へ出る。

 遊星の実力は最初にパラドックスの掟破りの先制攻撃を見事に防いでみせたことからも証明済みだ。三人は遊星の実力を信頼し頷いた。

 

「任せた」

 

「ぶちかましてやれよ!」

 

「遊星、その熱い気持ちを奴にぶつけてやるんだ!」

 

「はい!」

 

 三人の同意を得て遊星は力強く頷いた。

 青眼の白龍と真紅眼の黒竜、それは遊戯、丈、十代の時代だけではなく遊星の時代においても、否、遊星の時代だからこそ〝伝説〟とされているレアカード中のレアカードだ。

 だが伝説を前にしても遊星は動じない。――――〝伝説〟や〝神〟などこの身はとうに超えてきている。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 最初のターンでいきなり優秀な手札誘発の防御カード、速攻のかかしを使わされた遊星だが、パラドックスが発動した『天よりの宝札』で一枚ドローしていたため、手札の枚数は合計六枚。通常のデュエルと変わらないスタートだ。

 だがこれは敗北者が死ぬ闇のゲーム。このデュエルには自分達の命が、否、世界の命運がかかっている。

 パラドックスは遊星を英雄といったが、遊星本人はそんな大それたものになった覚えなどない。

 だが土壇場や窮地でこそ力を発揮するのが真の英雄だというのならば、少なくとも遊星は英雄だった。

 

「おろかな埋葬を発動、デッキよりレベル・スティーラーを墓地へ送る」

 

 

【おろかな埋葬】

通常魔法カード

自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

 

 

 レベル・スティーラーは墓地にいてこそ真価を発揮するカード。ここでいきなり墓地へ送ることができたのは幸先が良い。

 けれど無論このまま手を休める気は毛頭なかった。

 

(俺の後ろには遊戯さんたちが控えてくれている)

 

 罪なものだ。自分の背中に最強のデュエリストたちがいると思うだけで気分が最高潮だった。

 

「手札のモンスターを一枚捨てることで、クイック・シンクロンを特殊召喚。そしてチューニング・サポーターを通常召喚」

 

 

【クイック・シンクロン】

風属性 ☆5 機械族

攻撃力700

守備力1400

このカードは手札のモンスター1体を墓地へ送り、手札から特殊召喚できる。

このカードは「シンクロン」と名のついたチューナーの代わりに

シンクロ素材とする事ができる。

このカードをシンクロ素材とする場合、

「シンクロン」と名のついたチューナーをシンクロ素材とするモンスターの

シンクロ召喚にしか使用できない。

 

 

【チューニング・サポーター】

光属性 ☆1 機械族

攻撃力100

守備力300

このカードをシンクロ召喚に使用する場合、

このカードはレベル2モンスターとして扱う事ができる。

このカードがシンクロモンスターの

シンクロ召喚に使用され墓地へ送られた場合、

自分はデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 ガンマンの恰好をしたモンスターと中華鍋のような被り物をしたモンスターが出現する。

 いきなり二体のモンスターを召喚した遊星だが共に攻撃力は1000に満たない弱小モンスター。ブルーアイズとレッドアイズには到底敵わない。

 しかし遊星の時代には弱小モンスターでも力を合わせることで高ステータスモンスターを倒す力があった。

 

「……来るか」

 

「――――――――」

 

 未来のシステムを知るパラドックスと、その一端を垣間見たことのある丈が目を見開く。

 

「チューニング・サポーターの効果。このモンスターをシンクロ素材とする時、レベル2モンスターとして扱うことが出来る。

 レベル2、チューニング・サポーターにレベル5、クイック・シンクロンをチューニング!」

 

 ☆2 + ☆5 = ☆7

 

 チューニング・サポーターとクイック・シンクロンが空中に出現した光の輪に飛び込む。

 光へと吸い込まれた二体は粒子となって新たな形へと変貌していった。

 

「集いし思いがここに新たな力となる。光差す道となれ!」

 

 二体の変貌した姿、それは例えていうのならば凶悪な面貌のオーガ。

 

「シンクロ召喚! 燃え上がれ、ニトロ・ウォリアー!」

 

 

【ニトロ・ウォリアー】

炎属性 ☆7 戦士族

攻撃力2800

守備力1800

「ニトロ・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

自分のターンに自分が魔法カードを発動した場合、

このカードの攻撃力はそのターンのダメージ計算時のみ1度だけ

1000ポイントアップする。

また、このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した

ダメージ計算後に発動できる。

相手フィールド上に表側守備表示で存在するモンスター1体を選択して攻撃表示にし、

そのモンスターにもう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 

 灼熱の業火を滾らせながら遊星の前に鬼のような戦士が降り立った。

 丈を除いた過去の人間にとって全く未知のシンクロというシステム。十代は勿論、決闘王と謳われた遊戯ですら目を見張った。

 

「シンクロ召喚……これが未来のシステム」

 

「すげぇな遊星! 未来じゃそんな召喚方法があるのか!」

 

 別に遊星がシンクロ召喚の概念をデュエルモンスターズに取り入れたわけではないのだが、二人の伝説のデュエリストに目を輝かされるとこそばゆいものがあった。

 けれど今はデュエル中。遊星は目の前の敵を倒すことに専念する。

 

「魔法カード、調律を発動。デッキより『シンクロン』と名のつくモンスターを一枚手札に加える。俺はジャンク・シンクロンを手札に加える」

 

 

【調律】

通常魔法カード

自分のデッキから「シンクロン」と名のついたチューナー1体を

手札に加えてデッキをシャッフルする。

その後、自分のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

 

 

 本来ならサーチカードは最初に使うのがベターだが、敢えてこのタイミングに使ったのには相応の理由がある。

 その理由を遊星は実行した。

 

「ニトロ・ウォリアーでSin青眼の白龍を攻撃、ダイナマイト・ナックル!」

 

「攻撃力3000のブルーアイズに攻撃力2800のニトロ・ウォリアーで攻撃?」

 

 パラドックスではなくニトロ・ウォリアーの能力を知らない丈が疑問を口にする。

 それに答えるように遊星は叫んだ。

 

「ニトロ・ウォリアーは自分のターンに魔法カードを使用した場合、そのターンのダメージ計算時に一度だけ攻撃力を1000ポイントアップする!」

 

「上手いぞ遊星! それならニトロ・ウォリアーの攻撃力は3800、ブルーアイズを上回る!」

 

 十代の言う通りとなった。

 攻撃力を1000ポイント上昇させたニトロ・ウォリアーがブルーアイズに殴りかかる。ブルーアイズも口からバーストストリームを吐き出して応戦するが、ニトロ・ウォリアーをそれを乗り越えてブルーアイズを殴り倒した。

 

「チッ。よもやこうも早くブルーアイズがやられるとはな。流石は不動遊星、ダークシグナーと地縛神から世界を救った英雄……。

 しかしお前の正しいと思った選択、それにも必ず穴がある。リバースカードオープン、Sin Tune! Sinと名のついたモンスターが戦闘によって破壊された時、デッキよりカードを二枚ドローする」

 

 

【Sin Tune】

通常罠カード

「Sin」と名のついたモンスターが戦闘によって破壊された時、

自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 遊星も強いが、パラドックスも負けていない。

 ブルーアイズという強力なモンスターを失いながらも、二枚のカードをドローし手札を増強してみせた。

 

(……奴のSinモンスターは墓地にモンスターを送るだけで強力なモンスターを特殊召喚できる強力な力。増えた手札が気になるが)

 

 残念ながら遊星の手札に追撃を可能とするカードはない。

 

「俺はカードを二枚伏せてターンエンド」

 

 だが怖れはない。そもそも自分の力だけで勝とうと思うほど遊星は自惚れてなどいなかった。

 デュエルは始まったばかり。そして自分の後ろにいるのは誰も彼も時代の最強デュエリストたちなのである。

 そしてパラドックスにターンが移った。

 

「Sin Worldの効果、私はドローするかわりにデッキからSinと名のつくモンスターをランダムに手札に加える。

 フフフ。Sinブルーアイズを倒して一安心といったところだが、私のデッキはそうそう温くはない。君達に面白いものを見せてやろう」

 

「面白いもの、だと?」

 

 底知れぬ悪寒が遊星たちを襲う。心に直接流れ込んでくる悪寒の発生場所はパラドックスの手札だった。

 

「まずは最初の絶望だ。私はデッキの究極宝玉神レインボードラゴンを墓地に送り、Sinレインボードラゴンを特殊召喚!」

 

 

【Sin レインボー・ドラゴン】

闇属性 ☆10 ドラゴン族

攻撃力4000

守備力0

このカードは通常召喚できない。

自分のデッキから「究極宝玉神 レインボー・ドラゴン」1体を墓地に送った場合に特殊召喚できる。

「Sin World」がフィールド上に存在しない場合このカードを破壊する。

●自分フィールド上のこのカード以外のモンスターを全て墓地へ送る事で、

このカードの攻撃力は墓地へ送った数×1000ポイントアップする。

この効果は相手ターンでも発動する事ができる。

●自分の墓地の「Sin」と名のついたモンスターを全てゲームから除外する事で、

フィールド上のカードを全て持ち主のデッキに戻す。

 

 

 虹色の極光を放ちながら白亜のドラゴンが降臨した。攻撃力4000、ブルーアイズすら超えた虹色のドラゴン。

 遊星も名前だけは知っていた。レインボー・ドラゴン、世界に一人だけ存在する宝玉獣使いが操る世界に一枚だけの超レアカードだ。

 

「貴様! よくもヨハンのカードを……!」

 

 大切な友人のカードをさも自分のエースカードのように使われた事に、十代が普段の陽気さを消した怒りの表情をパラドックスへ向けた。

 

「まだだ! 私のデッキはあらゆる時代から最強カードを集めた別次元の領域……。たかが攻撃力4000のモンスターが一体現れたくらいでそう驚かないで貰おうか。

 私は更にデッキより二体の青眼の白龍を墓地へ送り、現れろ!! 二体のSin青眼の白龍よ!」

 

 

【Sin 青眼の白龍】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは通常召喚できない。

自分のデッキから「青眼の白龍」1体を墓地に送った場合に特殊召喚できる。

「Sin World」がフィールド上に存在しない場合このカードを破壊する。

 

 

「なん……だと……?」

 

 攻撃力4000のレインボードラゴンだけでも厄介だというのに、更に攻撃力3000のブルーアイズ二体。

 これでパラドックスのフィールドには四体もの伝説のドラゴン族モンスターが揃った。

 

「バトル。Sinレインボー・ドラゴンでニトロ・ウォリアーを攻撃、オーバー・ザ・レインボー!」

 

「罠発動、くず鉄のかかし! モンスター1体の戦闘を無効にする」

 

 

【くず鉄のかかし】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

その攻撃モンスター1体の攻撃を無効にする。

発動後このカードは墓地へ送らず、そのままセットする。

 

 

 レインボー・ドラゴンの攻撃の前にボロボロのかかしが立ち塞がる。

 4000という破格の攻撃力をもつレインボー・ドラゴンの攻撃だがどうにか防ぐことができた。

 

「発動後、このカードは墓地へ送らず再セットする」

 

「面倒なカードを使う。しかし第二、第三の攻撃を躱し続けることができるかな。Sinブルーアイズの攻撃、滅びのバースト・ストリーム!」

 

「……くっ!」

 

 先程ブルーアイズをやられたお返しと言わんばかりに、ニトロ・ウォリアーはブルーアイズにより撃破された。

 遊星たちのライフが3800となる。けれどパラドックスにはまだブルーアイズとレッドアイズの攻撃が残っていた。

 

「二体目のSinブルーアイズの追撃、バースト・ストリーム!」

 

「これは防がせて貰う! 罠発動、ガード・ブロック! 戦闘ダメージを一度だけゼロにしてカードを一枚ドロー!」

 

 

【ガード・ブロック】

通常罠カード

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。

その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 攻撃が防がれパラドックスが若干目を細める。残っている攻撃可能モンスターはレッドアイズのみ。

 これでこのターンでパラドックスが勝負を決めることはできなくなった。

 

「Sin真紅眼の黒竜の攻撃、ダーク・メガ・フレア!」

 

「くっ!」

 

 ライフが0にならないとはいえ2400のダメージはかなりの痛手だ。

 出来れば防ぎたいがもう遊星には防御カードは残ってはいない。けれど、

 

『クリ~ッ!』

 

 救いの声にしては可愛らしい毛玉の声を遊星は聞いた。

 

「……残念だが、その攻撃は通さない」

 

「丈さん!」

 

 クリボーがレッドアイズの攻撃から身を挺して遊星たちを守る。

 クリボーは速効のかかしやバトル・フェーダーのような手札から墓地へ捨てることで攻撃を防ぐ防御カードの元祖というべきカードだ。

 最初に決闘王、武藤遊戯が愛用してからというものの、それなりの数のデュエリストの間で防御カードとして愛用されてきている。

 そしてその愛用している人物の中には丈も含まれていた。

 

「小癪な真似を。私はカードを一枚セット、ターンエンド」

 

 パラドックスのターンが終わり、次に動いたのは、

 

「よっしゃ! 次は俺の番だな!」

 

 遊城十代、正しい闇の力を持つ者だった。

 



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第119話  コンタクト

 世界滅亡の危機、そして強力無比なSinモンスター。

 それらを前にしながらも十代にはまったく怯んだ様子すらない。……というより十代の貌に浮かんでいるのは恐怖や緊張ではなく純粋な嬉しさだ。

 時代の異なる三人のデュエリストと共闘して、パラドックスという強敵と戦っているという現在の状況を十代は完全に楽しんでいた。

 

「いくぜ。俺のターン、ドローだ!」

 

 だからこそ十代のドローには迷いというものがない。デッキのカードをめくった十代は嫌みのない笑みで、自分のペースを崩さず自分のデュエルをする。

 

「強欲な壺を発動、デッキからカードを二枚ドローするぜ!」

 

「強欲な壺!?」

 

 十代の発動したカードに驚愕を露わにしたのは遊星だった。

 遊星は目を見開いて十代……もっといえば十代の発動したカードを凝視している。

 

「ん、どうしたんだ遊星。十代がそんなに可笑しいプレイングをしたのか?」

 

「いえ丈さん、そういうわけではありません」

 

 強欲な壺はノーリスクで二枚のカードをドローする最高峰のドローカードだ。手札に温存していては万が一にもハンデスなどで墓地へ送られる可能性もあるので、あれば速攻で使うのがベストな選択だ。

 そんなことはこの時を超えた舞台に集ったデュエリストならば誰もが分かっている。

 故に遊星が驚いたのはそのことではない。

 

「俺の時代では〝強欲な壺〟は禁止カードに指定されていたので、正直そのカードが使われるところは初めて見ました」

 

「へぇ。未来では強欲な壺が禁止なのか。良いカードなんだけどな」

 

 十代は不思議な面持ちで自分のデュエルディスクにセットされた『強欲な壺』のカードを眺める。

 遊星の時代は兎も角、少なくとも十代のいた時代まで強欲な壺は『強欲な壺のないデッキはデッキじゃない』という格言が生まれる程の必須カードだ。

 それが未来では禁止になっているとなると寂しいものがある。

 

「良いカード過ぎるからこそ、禁止になったのかもしれないな」

 

 十代と同じように『強欲な壺』をデッキに入れている丈も腕を組んで難しい顔をしていた。

 

「――――パラドックス」

 

 そんなやり取りを眺めていた遊戯がパラドックスへ鋭い声を投げた。

 

「なんだ武藤遊戯。デュエル中の私語は関心しないな」

 

「本来ならデュエル前に確認しておくべきだったが、言い忘れていたんでね。今確認させてもらうぜ。俺達は全員が異なる時代からここに集められている。

 そしてカードの環境もまた時代によって変化するものだ。遊星の時代では禁止カードの『強欲な壺』が、十代の時代ではそうじゃないように」

 

「心配せずとも不動遊星の時代で禁止であるカードを使ったところで、遊城十代にペナルティなどはない。このデュエルでは禁止・制限は各々の時代のものが適用される。

 よって『強欲な壺』が禁止されている時代から来た不動遊星は強欲な壺を使えないが、『強欲な壺』が禁止されていない時代から来た不動遊星以外の三人は『強欲な壺』の使用を認められる」

 

「俺が聞いているのはそんなことじゃないぜ。当然俺達はそのルールでやらせて貰う。だがパラドックス、お前は一体どういう禁止・制限が適用されているんだ?」

 

 遊戯以外の三人の視線がパラドックスに突き刺さる。

 未来の住人といえばパラドックスは遊星以上に遥かな未来からの来訪者である。禁止・制限リストも遊星の時代の物よりさらに変化していることは想像に難しくない。

 だがパラドックスはニヤリと笑った。

 

「クククククッ。言った筈だ、私は世界が滅んだ未来から来ていると。そう世界は滅んだのだよ武藤遊戯。デュエルモンスターズの禁止・制限を制定していたインダストリアル・イリュージョン社も含めて。

 よって私の時代の禁止・制限を制定したのは私でありイリアステル滅四星。教えておこう、私の時代において制限・準制限カードはあっても禁止カードは存在しない」

 

「なんだって!?」

 

「私は全ての時代の力をその時代の力のまま操り、君達を倒す。何度も言わせるな、言っただろう? 私は歴史上の最強カードを集めた最強のデッキを使うと」

 

「貴様……!」

 

 まるで悪びれた様子もなくパラドックスは宣言する。

 遊星より後の時代でありながら、まったく禁止という枷のないパラドックス。だがこれでパラドックスの最強の力を留めるものはどこにもなくなってしまった。

 けれどパラドックスと向かい合っている十代にはやはり恐れはない。

 

「面白ぇ。ってことはお前、遊星すら知らないようなカードもばんばん出せるのか。倒しがいがあるぜ」

 

「……ふん。流石は覇王の魂をもちしデュエリスト、私の力を前にしてそうも平然としているとはな。だが私の最強のSinモンスターたちの布陣、果たして突破できるかな?」

 

「してみせるさ! HEROは必ず勝つ、お前にもそれを見せてやるぜ! メインフェイズ、俺はコンバート・コンタクトを発動。

 自分の手札とデッキからネオスペーシアンを一枚墓地へ送ることで俺は二枚のカードをドローする」

 

 

【コンバートコンタクト】

通常魔法カード

このカードは自分フィールド上にモンスターが存在しない場合のみ発動する事ができる。

自分の手札及びデッキから1枚ずつ「N(ネオスペーシアン)」と名のついた

カードを墓地に送り、デッキをシャッフルする。

その後、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

「フレア・スカラベを手札から、グラン・モールをデッキから墓地へ送り、二枚ドローだ!」

 

 強欲な壺に続いての手札増強。これで十代の手札は合計8。全ての用意は整った。

 

「いくぜ。俺はE・HEROプリズマーを攻撃表示で召喚だ!」

 

 

【E・HEROプリズマー】

光属性 ☆4 戦士族

攻撃力1700

守備力1100

自分の融合デッキに存在する融合モンスター1体を相手に見せ、

そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体を

自分のデッキから墓地へ送って発動する。

このカードはエンドフェイズ時まで墓地へ送ったモンスターと同名カードとして扱う。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

 数あるHEROの中でもHEROデッキ以外でも力を振るうHERO、プリズマーが降りたつ。

 攻撃力は1700と下級モンスターとしてはそこそこの数値だが、このカードの真骨頂は特殊能力にある。

 

「プリズマーのモンスター効果を発動、自分の融合デッキに存在するモンスター1体を相手に見せ、その融合モンスターの融合素材モンスターを一体デッキから墓地へ送り、このターン。プリズマーのカード名はそのモンスターカードと同じになる。

 俺が見せるのはこのカードだ。E・HEROマグマ・ネオス! 俺はプリズマーの効果によりE・HEROネオスを墓地へ送り、プリズマーのカード名をネオスへ変更する」

 

「カード名を変更したところで、私のSinモンスター達は倒せはしない」

 

「そいつはどうかな。魔法カード発動、ラス・オブ・ネオス!」

 

「ネオスの必殺技と同じカード名だと!?」

 

 

【ラス・オブ・ネオス】

通常魔法カード

自分フィールド上に表側表示で存在する

「E・HERO ネオス」1体を選択して発動する。

選択した「E・HERO ネオス」をデッキに戻し、

フィールド上のカードを全て破壊する。

 

 

 水晶のような体にネオスを映したプリズマーの手に不思議なエネルギーが宿っていく。

 緑色の光を放つそれはまさしく宇宙の力の結晶だ。

 

「ラス・オブ・ネオスは自分フィールドのE・HEROネオスをデッキに戻すことで、フィールド上のカードを全て破壊する魔法カード。

 俺はカード名がネオスとなっているプリズマーをデッキへ戻し、フィールドのカードを全て破壊する!」

 

「そうか! SinモンスターはSin WORLDがなければ存在できない。つまりSin WORLDを破壊してしまえば……」

 

「今いるSinモンスターを倒すだけではなく、続くSinモンスターを抑えることもできる」

 

「考えたな十代」

 

 遊星、丈、遊戯の三人が十代の戦術に舌を巻いた。

 十代は照れているのを隠すように鼻を掻く。遊城十代、冷徹な計算をしてデュエルを進めるタイプではないが、十代は本能的にベストな戦術をとれるセンスというものを持ち合わせている。

 

「流石だと誉めておこう、遊城十代、だが私はそう甘くはない。ラス・オブ・ネオスにチェーンして私は速攻魔法カード、禁じられた聖衣を発動。

 フィールドの表側表示モンスターを一体選択して発動。選択したモンスターはこのターンのエンドフェイズまで600ポイント攻撃力をダウンさせ、カードの対象にされず破壊されない耐性を与える。 私が選択するのは当然Sinレインボー・ドラゴンだ」

 

 

 【禁じられた聖衣】

速効魔法カード

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。

エンドフェイズ時まで、

選択したモンスターは攻撃力が600ポイントダウンし、

カードの効果の対象にならず、カードの効果では破壊されない。

 

 

 Sinレインボー・ドラゴンがラス・オブ・ネオスの一撃を耐え凌ぐ。

 けれどSinレインボー・ドラゴンは無事でもSinワールドはそうではない。Sinモンスターを維持している空間はラス・オブ・ネオスによって砕けつつあった。

 しかし、

 

「更に私の伏せていたもう一枚のカードは『Z-ONE』!」

 

「Z-ONEだと?」

 

「このカードは破壊をトリガーにして発動する魔法カード。私の手札・墓地・デッキに眠るフィールド魔法カードをゲームより除外。墓地にあるこのカードを、除外したカードとして発動できる。

 更に発動したこのカードは如何なる手段によっても破壊する事は不可能だ!」

 

 

【Z-ONE】

通常魔法カード

フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時に

自分の手札・デッキ・墓地からカード1枚を選択して発動する。

選択したカードをゲームから除外する。

墓地に存在するこのカードを選択したカードとして

フィールド上に発動する事ができる。

この効果でフィールド上に現れたこのカードは破壊されない。

 

 

 破壊されたSin WORLDが復活する。だがただ復活したわけではない。厄介な事にSin WORLDは破壊耐性まで得てしまった。

 これではもうフィールド魔法を破壊するという攻略法は使えない。

 

「なに勘違いしてるんだパラドックス。俺の狙いはSin WORLDを破壊するだけじゃないぜ。見せてやる、ネオスペーシアンの本当の力を!

 魔法カード発動、ミラクル・コンタクト! 自分の手札・フィールド・墓地から融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターをデッキへ戻し、E・HEROネオスを融合素材とする融合モンスターを特殊召喚する!

 俺はE・HEROネオス、フレア・スカラベ、グラン・モールをデッキに戻しコンタクト融合!」

 

 

【ミラクル・コンタクト】

通常魔法カード

自分の手札・フィールド上・墓地から、

融合モンスターカードによって決められた

融合素材モンスターを持ち主のデッキに戻し、

「E・HERO ネオス」を融合素材とする

「E・HERO」と名のついた融合モンスター1体を

召喚条件を無視してエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

 十代の墓地より三つの光が飛び上がり、それが一つの人型を形造る。

 宇宙から来た新たなるHERO、ネオスはネオスペーシアンたちとコンタクト融合することによって真の力を発揮する。

 その究極といえる三体のコンタクト融合体の一体が降臨しようとしていた。

 

「現れろ、E・HEROマグマ・ネオス!!」

 

 

【E・HERO マグマ・ネオス】

炎属性 ☆9 戦士族

攻撃力3000

守備力2500

「E・HERO ネオス」+「N・フレア・スカラベ」+「N・グラン・モール」

自分フィールド上の上記のカードをデッキに戻した場合のみ、

エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」魔法カードは必要としない)。

このカードの攻撃力は、フィールド上のカードの数×400ポイントアップする。

また、エンドフェイズ時、このカードはエクストラデッキに戻る。

この効果によってこのカードがエクストラデッキに戻った時、

フィールド上のカードを全て持ち主の手札に戻す。

 

 

 大地の力と炎の力を得たネオスが十代の前に降り立つ。その迫力はSinレインボー・ドラゴンと比べて尚も上回るものだった。

 

「装備魔法、インスタント・ネオスペースをマグマ・ネオスに装備。これでマグマ・ネオスはエンドフェイズ時に融合デッキへ戻る効果を発動せずにずむ。

 カードを一枚セット。マグマ・ネオスはフィールドのカード一枚につき攻撃力を400ポイントアップする。フィールドにカードは合計五枚。よって攻撃力は5000ポイントだ!」

 

「攻撃力5000だと!?」

 

「マグマ・ネオスでSinレインボー・ドラゴンへ攻撃!」

 

 マグマ・ネオスの放ったマグマがレインボー・ドラゴンを焼き尽くしていく。

 さしものレインボー・ドラゴンも攻撃力5000のマグマ・ネオスの相手にはならなかった。パラドックスのライフが一気に1600まで下落する。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 パラドックスに大ダメージを与えた十代はガッツポーズをしながらエンド宣言をする。

 しかし――――パラドックスからはまだ闘志が失われてはいなかった。

 




 遊星がシンクロしたので、十代はコンタクトしました。
 告知しお忘れてましたが「遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々―」の作者であるmasamune様がこの作品とのコラボを書いて下さりました。この場を借りてお礼を言わせて頂きます。ありがとうございました。


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第120話  融合

 イリアステル滅四星にその名を連ね、歴史の修正による救済を目論むパラドックス。

 そのパラドックスの精神はE・HEROマグマ・ネオス――――正しい闇の力を担う者のしもべにして、炎の力を得たHEROを前にしても屈する事はない。

 マグマ・ネオスは強力な能力をもつコンタクト融合体。ネオスペーシアンが実質的に十代専用カードであるため、コンタクト融合がどのようなものかについての具体的な知識を持つ者は歴史的に非常に少ないといえるだろう。

 十代より以前の過去から来ている武藤遊戯や宍戸丈は当然知らないだろうし、十代より後の時代の人間である不動遊星もネオスについては知っていても、ネオスペーシアンとコンタクト融合については知っているか怪しいものだ。

 だがパラドックスはそうではない。

 歴史を修正するにあたりパラドックスは多くの歴史をその目で俯瞰してきた。

 古代エジプトから続くデュエルモンスターズの歴史。

 パラドックスの時代においても史上最強とされたデュエリスト、武藤遊戯が千年パズルを完成させた時から始まった戦いの日々。

 決闘王国、バトルシティ、オレイカルコスの神との戦い、大邪神ゾークネクロファデスとのミレニアムバトルの決着、戦いの儀。

 伝説のデュエリストの系譜はそれからも脈々と受け継がれ、歴史の一つの起点において活躍した彼等は自分の時代で自分の伝説を築いてきた。

 故に遊城十代がこれより辿る歴史や辿って来た歴史についても当然パラドックスは知っているし、遊城十代がどういうデッキを使ってどういうカードを使うかについても熟知している。

 相手の戦い方を知るということはそれだけで有利だ。

 マグマ・ネオス、一見強大に見えるモンスターにある弱点を見逃さずにすむのだから。

 

「私のターンだ、ドロー。遊城十代、ご自慢のHEROを召喚して勝ったつもりでいるかもしれないが、それは愚かなる誤りだ。どれほど強い力で防衛しようと、どれほどの暴力で踏み躙ろうと……決して完全などは有り得ない。

 優れた文明を築き上げた王朝がたった一人の暴君や叛逆者の誕生により滅ぶのと同じ。お前の足元は脆い地盤で出来ている」

 

「おっ! 強気だな。いいぜ、来いよパラドックス。お前がどういう方法でマグマ・ネオスを倒すのか気になって来たぜ」

 

「その減らず口がいつまで続くかな。私は手札抹殺を発動、互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数分カードをドローする」

 

 

【手札抹殺】

通常魔法カード

お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから

捨てた枚数分のカードをドローする。 

 

 

 手札交換、狙い通りのカードを引き当てパラドックスは邪悪に笑った。

 

「マグマ・ネオスの攻撃力は強大。まともにぶつかっては私のSinモンスターでも分が悪い。なにせ私がモンスターを下手に召喚すれば逆にマグマ・ネオスは攻撃力を上げてしまうのだからな。

 だからマグマ・ネオスを戦闘では倒しはしない。魔法効果で消えて貰おう。手札より魔法カード発動、地砕き」

 

 

【地砕き】

通常魔法カード

相手フィールド上の守備力が一番高いモンスター1体を破壊する。

 

 

 真上から巨大な圧力がマグマ・ネオスにかかる。マグマ・ネオスはふんばるが、圧力がどんどんと強くなり遂にマグマ・ネオスを押し潰して、粉々に砕いた。

 マグマ・ネオスの破片がフィールドに飛び散り、粒子となって消滅する。

 

「マグマ・ネオス!? けどHEROはただじゃやられはしないぜ。マグマ・ネオスの装備していたインスタント・ネオスペースの効果発動!

 このカードは装備モンスターがフィールドを離れた時、手札・デッキまたは墓地からE・HEROネオスを特殊召喚できる。現れろ、ネオス!」

 

 粒子となって飛び散ったマグマ・ネオスの破片が集まり、それが白亜の戦士を形作る。

 再びフィールドに現れたネオスは雄叫びをあげながら、十代の前に降り立った。

 だがこうやってネオスが召喚されることなどパラドックスは想定済みである。

 

「お前がネオスを召喚するのは分かっていた。なにせ貴様が共に伝説を築き上げたデッキの中心カードだからな。英雄のエースモンスターたるネオス。だとすればそれを滅ぼすのもまた英雄のエースカードが相応強い」

 

「英雄の、エースだって?」

 

「なにをするつもりなんだ、奴は」

 

 悪寒を感じて十代はパラドックスを睨み、十代以上の悪いものを感じた遊星は知らずの内に拳を握りしめた。

 パラドックスがあらゆる時代から集めた最強のカードたち。その中で英雄――――歴史の中心人物から奪ったカードはただの一枚。そのカードの名は、

 

「私はエクストラデッキからスターダスト・ドラゴンを墓地へ送り、シグナーに使役されし五体の竜が一角よ。我が下に頭を垂れよ」

 

「貴様――――!」

 

「飛翔しろ、スターダスト・ドラゴン!」

 

 

【Sin スターダスト・ドラゴン】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2500

守備力2000

このカードは通常召喚できない。

自分のエクストラデッキから「スターダスト・ドラゴン」1体を墓地に送った場合のみ特殊召喚できる。

「フィールド上のカードを破壊する効果」を持つ

魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、

このカードをリリースする事でその発動を無効にし破壊する。

この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、

この効果を発動するためにリリースされ墓地に存在するこのカードを、

自分フィールド上に特殊召喚できる。

「Sin World」がフィールド上に存在しない場合このカードを破壊する。

 

 

 瞬間、星屑が弾けた。

 辺り一面に星の欠片が舞う。巨大な翼を雄大に広げ嘶くのは星の光を集めた竜。幻想的なその光景であったが、四人に浮かぶのは怒りだ。

 武藤遊戯、宍戸丈、遊城十代、そして不動遊星。各々が様々な理由はあれど、等しくデュエルモンスターズの精霊と深く関わってきた経験がある。だから分かるのだ。幻想的な星屑を散らすスターダストの苦しみが。スターダストは暗い牢獄に囚われ、偽りの主によって強引に使役されている。

 

「パラドックス、俺のスターダストを……!」

 

 自分にとって何よりも大切なカードを使われている遊星の怒りは他の比ではない。明確な怒気をパラドックスへ向ける。

 

「今は私のしもべだ。バトルフェイズに移行。Sinスターダスト・ドラゴンでE・HEROネオスを攻撃、シューティング・ソニック!」

 

「Sinモンスターとなっても俺のスターダストの攻撃力は2500。十代さんのネオスと同じ。相打ちにするつもりか?」

 

「相打ち? 違うな不動遊星。私が求めるのは両者相打つなどという無様な終焉ではない。私の……私達の完全なる勝利だけが我々の望み。

 速攻魔法発動、収縮! ネオスの攻撃力を半減する」

 

 

【収縮】

速攻魔法カード

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズ時まで半分になる。

 

 

 ネオスの体がみるみるうちに半分に小さくなっていく。小さくなったのは体だけではなく存在密度というべきものまでだ。

 攻撃力2500のネオスの攻撃値はこれで1250。スターダストの半分に低下してしまった。

 

「不味い! このままじゃ十代さんのネオスが――――」

 

「おいおい慌てるなよ遊星」

 

「十代さん?」

 

「俺のHEROたちは俺に似てしぶといんだぜ。こんくらいじゃ倒れやしないさ」

 

 自分のエースカードがやられようとしているにも拘らず、十代には子供のようなワクワクとした笑みが失われていない。

 そして十代は悪戯を披露する子供のような表情で宣言した。

 

「俺も速攻魔法発動だ! ……俺の心の闇が生み出した絶対無敵の力、超融合!!」

 

「ちょ、超融合だと!?」

 

 十代が発動を宣言した途端、スターダストを凌駕しかねないほどの別格の暴風が吹き荒れる。

 スターダストの攻撃が掻き消え、十代だけが暴風の中でまるで動じず雄大に君臨していた。その背中は太古に大陸を駆け抜けた覇王を想起させる。

 

「手札を一枚捨て、超融合はその力を発揮される。フィールドのモンスターを融合し、融合モンスターを降臨するぜ。だが超融合が対象とするのは俺のフィールドだけじゃない。超融合はお前のフィールドのモンスターをも融合素材として利用する!」

 

「……スターダストの効果はあくまで破壊に対してのみ。融合に関しては効果は発動できない。いや、どちらにせよ超融合の前にあらゆる耐性は無力。発動した超融合を止める術はない。

 遊城十代、伊達に伝説となってはいないというわけか」

 

 

【超融合】

速攻魔法カード

手札を1枚捨てて発動できる。

自分・相手フィールド上から融合モンスターカードによって決められた

融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を

融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

このカードの発動に対して、魔法・罠・効果モンスターの効果を発動できない。

 

 

 暴風にスターダスト・ドラゴンが巻き込まれ、ネオスは自ら進んで暴風の中にその身を投じる。

 HEROとドラゴン、二つのモンスターが暴風の中で一つになろうとしていた。

 

「待ってろよ遊星。お前の大切なモンスターは取り返してやるからな」

 

「十代さん……」

 

「クッ、ハハハハハハハハハハハハハ。喜んでいるところ悪いが残念だったな」

 

「なにが可笑しいんだ、パラドックス?」

 

 超融合という掟破りのカードの発動にも動じずに構えていた伝説の男、武藤遊戯が静かに訊く。

 

「私は歴史を見てきたといっただろう。残念だが遊城十代、お前のエクストラデッキにはネオスとSinスターダストにより召喚できる融合モンスターなどありはしない。

 融合したところで完成する融合モンスターがいないのであれば融合召喚など無意味。だから残念だと言ったのだ。この融合は無意味に終わるのだからな」

 

「それはどうかな。例えお前の言う通りでも、俺の目から見て十代はそんなチャチなミスをするほど軟なデュエリストじゃないぜ。だろう?」

 

「遊戯さんには敵わないな。そうだぜパラドックス。確かに俺の融合デッキにネオスとSinスターダスト・ドラゴンで融合できる融合モンスターはいない。ただし俺の融合デッキには、だけどな」

 

「――どういうことだ?」

 

「こういうことだよ」

 

 答えたのは十代ではなく丈。ブラックデュエルディスクを掲げ、そこから融合モンスターが眠る融合デッキの扉を開いていた。

 

「十代の融合デッキになくとも、俺のデッキにはある。受け取れ十代!」

 

「よっしゃ! やっぱ丈さんは頼りになるぜ! Sinスターダスト・ドラゴンの属性は闇! 一体のHEROと闇属性モンスターの融合により闇のHEROが降臨する。

 融合召喚。フィールドを圧巻しろ、E・HEROエスクリダオ!」

 

 

【E・HEROエスクリダオ】

闇属性 ☆8 戦士族

攻撃力2500

守備力2000

「E・HERO」と名のついたモンスター+闇属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する

「E・HERO」と名のついたモンスターの数×100ポイントアップする。

 

 

 闇のHEROという謳い文句に違わぬ、漆黒を纏った戦士が召喚される。

 モンスター効果により墓地にいるE・HEROの数だけ攻撃力が100ポイントアップした。

 

「私としたことが……。宍戸丈が複数のデッキを使い、そのうちの一つがHEROデッキだったことなど知っていたというのに」

 

 Sinスターダストが消えたことで、パラドックスには攻撃可能なモンスターは失われた。

 バトルフェイズが終わっていなくても、バトルするモンスターがいなければ話にならない。

 

「バトルフェイズを終了。カードを一枚伏せターンを終了する」

 

「さて。俺のターンだな」

 

 そして遂に宍戸丈のターンが始まる。




 このたびは更新が遅れに遅れてしまい申し訳ありません。
 余り大声ではいえない事情により、感想返しすら出来ない日々が続いていました。まだなにかと立て込んでいますので、更新間隔があくかもしれませんが、少なくとも二か月放置などはないよう努めます。


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第121話  三邪神

「俺のターン」

 

 丈は落ち着いた仕草で指をデッキの一番上にかける。

 デュエリストであれば誰しもが経験するデッキからカードをドローするという行為。三邪神やダークネスとの戦いを繰り広げてきた丈だが、隣りにキング・オブ・デュエリストがいると、らしくもなく緊張してしまう。

 パラドックスの場にはモンスターがおらずがら空き。……言うなれば絶好のチャンスにターンが回ってきたわけだ。

 チャンスがきたのならば最大限それを活かすのがデュエリストのやるべきことである。

 

「ドロー!!」

 

 このターンで勝負を決める、その意気込みでカードをドローした。

 

「丈。パラドックスのフィールドにはモンスターはいない。だが奴ほどの男がただ無防備にターンを譲るとも思えない。だとすればあのリバースカード、あれには警戒しておく必要があるぜ」

 

「はい」

 

 遊戯の忠告に丈も同意する。

 四対一という不利の中で互角以上に戦うパラドックスの強さは想像を絶するものがあった。丈がこれまで戦ったどのデュエリストより、もしかしたらパラドックスは高い位置にいるかもしれない。

 以前に戦ったダークネスもまた生きとし生きる者全てを呑み込もうとする底しれなさを感じたが、パラドックスは世界そのものと戦い打ち勝とうとする苛烈な精神を感じるのだ。

 それにパラドックスの表情はどうみても追い詰められた男のそれではない。パラドックスのライフはたった1600、下級モンスターの攻撃一つで敗北する数値だ。

 やはりあのリバースカードがパラドックスの防壁と見て良いだろう。

 

(攻撃を妨害する防御カード、もしくは激流葬のような全体除去、ミラーフォースの可能性もあるか……)

 

 どちらにせよ安易にモンスターを召喚して攻撃するのは得策ではない。ならば、

 

「罠など踏み躙るほどの絶対的な〝力〟でフィールドを圧巻するだけ。メインフェイズ、神獣王バルバロスを攻撃表示で召喚する。

 バルバロスはレベル8だが生け贄なしで妥協召喚することができる。ただし妥協召喚したバルバロスの攻撃力は1900となるが」

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 巨大な槍をもつ獣戦士が現れ、丈の前に立った。

 従属神において最上位に位置する神獣たちの王は獰猛な唸り声をあげて、パラドックスという時間を超越した化身を睥睨する。

 

「神獣王バルバロス……。〝魔王〟の渾名で畏怖された宍戸丈が愛用した斬り込み隊長か。それでどうする? バルバロスの槍で私の心臓を穿つ気かね?」

 

「ノーだよ。幸いというべきかこれまでのプレイングで墓地にはそこそこモンスターが溜まっている。俺はもう準備万端だ。

 永続魔法、冥界の宝札を発動。このカードは二体以上の生け贄を必要とする生け贄召喚に成功した時、デッキからカードを二枚ドローするカード。未来の住人のお前には蛇足だったかな?」

 

 

【冥界の宝札】

永続魔法カード

2体以上の生け贄を必要とする生け贄召喚に成功した時、

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 遊星が先陣を切ってくれて助かった。速効性のある遊星や十代のデッキと違い、丈のデッキはエンジンがかかるまでやや時間がかかる。

 けれど遊星たちがパラドックスとぶつかりあってくれたお蔭でデッキのエンジンは既にフルスロットル。アクセルを踏めば月まで吹っ飛んで行ける。

 

「妥協召喚して攻撃力は下がったが、バルバロスのレベルは8のまま。俺は遊星の墓地に眠るレベル・スティーラーと俺の墓地に眠るレベル・スティーラーのモンスター効果を発動。

 遊星くん。君のカード、使わせて貰う」

 

「はい。……レベル・スティーラーはモンスターのレベルを一つ下げ、フィールド上に特殊召喚する。レベル・スティーラーを丈さんのフィールドに召喚!」

 

「俺のレベル・スティーラーも同じく召喚」

 

 

【レベル・スティーラー】

闇属性 ☆1 昆虫族

攻撃力600

守備力0

このカードが墓地に存在する場合、自分フィールド上に表側表示で存在する

レベル5以上のモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。

このカードはアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。

 

 

 バルバロスのレベルが6に下がり、その低下したレベルを食って二体のレベル・スティーラーが出現する。

 600という弱小モンスターの枠を出ないステータスしかもたないレベル・スティーラーだが、別に丈はレベル・スティーラーでパラドックスを倒すわけではない。

 レベル・スティーラーは丈のデッキに眠るデュエルモンスターズにおいて頂点に君臨するカードを降臨するための布石だ。

 

「これは……風、だと?」

 

 パラドックスが怪訝な顔をする。

 フィールド魔法が入れ替わったわけではない。時が止まった空間で風が吹きすさぶ筈もない。なのに五人のデュエリストが戦う決闘場に禍々しい凶つ風が吹き荒れたのだ。

 その中心に丈は立っている。

 怒り、憎悪、復讐、嫉妬、殺意。あらゆる負の感情を肯定し、受け入れたデュエリストは真っ直ぐにパラドックスを見ていた。

 純粋なまでの黒が丈が手札より引き抜く一枚のカードに集約される。

 

「手札より魔法カード、二重召喚を発動。このターン、俺はもう一度通常召喚を行える」

 

 フィールドには三体のモンスター、冥界に送られた魂を可能性へと変換する永続魔法も場にある。

 丈は口端を釣り上げ、自らの担う邪神の真名を謳いあげた。 

 

「我が内に住みし最高位の邪神よ。時空を越えた舞台に宵闇を齎すがいい。従属神と二体のしもべの魂を供物とし、降臨せよ! 邪神アバター!」

 

 

【THE DEVILS AVATAR】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/?

DEF/?

God over god.

Attack and defense point of Avatar equals to the point plus 1 of that of

the monster's attack point which has the highest attack point among

monsters exist on the field.

 

 

 雷鳴が落ちた。

 世界が黒く染まる。太陽はさんさんと照りつけているというのに、まるで太陽が影に隠れたかのように暗闇が広がっていく。

 宍戸丈の頭上、そこに浮かぶは太陽を呑み込みし暗黒の太陽。あらゆるものに千変万化し、あらゆるものを超える力をもつ無敵の邪神。

 

「これが魔王が使役した三体の邪神……その中で無敵と称された最悪の化身。邪神アバターか」

 

「……………」

 

 パラドックスはアバターに目を細め、邪神と対になる三幻神を担う武藤遊戯はじっと静かにそれを見つめた。

 遊戯の首にかかった千年パズルが同胞であり宿敵でもあろうそれを感じてか、妖しく黄金の光を放つ。

 

「さらに墓地の光属性モンスター、光神機―轟龍と闇属性モンスター、闇の侯爵べリアルをゲームより除外。

 光と闇を供物とし、世界に天地開闢の時を告げる。降臨せよ、我が魂! カオス・ソルジャー -開闢の使者-!」

 

 

【カオス・ソルジャー -開闢の使者-】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ

ゲームから除外した場合に特殊召喚できる。

1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●フィールド上のモンスター1体を選択してゲームから除外する。

この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

●このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した場合、

もう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 

 邪神アバターの下に丈の魂のカードであるデュエルモンスターズ最強戦士、カオス・ソルジャーが現れる。

 場にカオス・ソルジャーが出現すると邪神アバターにも動きがあった。

 

「アバターの姿が変わっていく、これは……?」

 

 遊星が目を見張ると、みるみる間に邪神アバターの姿は完全にカオス・ソルジャーのそれとなっていた。

 カオス・ソルジャーの姿を完璧以上に投影し、上回ったアバターがカオス・ソルジャーの隣りに並ぶ。

 

「邪神アバターはフィールドで最も攻撃力の高いモンスターに変化し、その攻撃力を常に1上回る。パラドックス、お前がどんなモンスターを召喚しようとアバターを超えることはできない。そして神の前にあらゆる障害は無意味となる」

 

 モンスター効果・罠を完全に寄せ付けず、魔法効果すら上級スペルでなければ1ターンしか受け付けない。さらに戦闘破壊ですら、常に攻撃力を1だけ上回るアバターには通用しないのだ。

 故に無敵。まともな手段では絶対的に破壊不可能な最高位の邪つ神。それが邪神アバターだ。

 

「やっぱいつ見ても丈さんの邪神はおっかねぇな」

 

「この気配、どことなく地縛神に似ている……? だが、どこか違う。禍々しさはあるが地縛神にあった世界を壊そうとする悪意があれにはない……。丈さんはあれを完全に支配……いや、受け入れているのか」

 

 未来において何度か邪神を目にしている十代と、初見の遊星の反応は其々だ。

 もう一人、ある意味で丈よりも三邪神に深い関わりのあるデュエリストは暫く邪神を見つめていたが、やがてふっと笑う。

 

「驚いたぜ、丈。まさかそんなカードを出してくるなんてな。邪神ならパラドックスの仕掛けた罠も通用しない。今がチャンスだぜ」

 

「はい。いくぞパラドックス!」

 

 カオス・ソルジャーとカオス・ソルジャーに変化した邪神アバターが動く。

 しかしパラドックスもこの程度でやられるほどの器ではなかった。

 

「甘いな宍戸丈。デュエルモンスターズについて研究を重ねてきた私が、デュエルモンスターズの頂点に君臨する神のカードになんの対策も用意していないと思ったか?

 リバースカードオープン、威嚇する咆哮! このターン、貴様は攻撃宣言そのものを封じられる」

 

「!」

 

「神には罠は通じないが、これはデュエリスト本人に作用するカード。如何に邪神と言えどモンスターカードであることに変わりはない。モンスターである以上、デュエリストが命令を下せなければ無力だ」

 

「……そう簡単には、勝たせてくれないか。カードを二枚伏せターンエンドだ」

 

 勝ちきれなかったとはいえ無敵の邪神アバターとカオス・ソルジャーを前にしたパラドックスの命は風前の灯。どんなデュエリストでもここからの形勢逆転は困難極まるだろう。

 だが次のターン、四人は知る事となる。逆刹のパラドックス、真の恐ろしさを。

 



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第122話  神々の戦い

 丈のフィールドにはあらゆるモンスターを超える無敵の邪神アバター。更にはその異常なる強さ故に四枚で生産停止となった曰くつきのカード、カオス・ソルジャー―開闢の使者―。

 これだけでも凡百のデュエリストが膝を屈するであろう布陣だというのに、丈の隣りにいる十代の場にはE・HEROエスクリダオがあり、このパラドックスのターンが終われば、その次にバトンを受け取るのは史上最強の男だ。

 パラドックスが追い詰められているのは誰の目にも明らかだった。 

 仮にここでパラドックスが巻き返しを失敗すれば、返しのターンで武藤遊戯により押し切られるのは疑いようがない。

 

「邪神アバター……デュエルモンスターズは時に人の手には到底負えない強力無比なカードを生み出す。精霊の宿るカードもまた特殊な力をもつが、その中でも最上位に位置するカードはそれ単体で世界を犯すほどの力を発揮する。

 宍戸丈。君が担う三邪神もそのうちの一つ。〝精霊〟を超えた〝神〟の力を宿すカードだ。だが私は相手が例え神であろうと折れはしない」

 

「――――なんて気迫」

 

 丈の目にはパラドックスがビルを超えるほどの巨人に錯覚して映った。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 人間が犯してきた罪の数々――――Sinを使役する男は邪神アバターという最大の壁を前にして、果敢に自らの運命を引いた。

 パラドックスとて伊達や酔狂で己のデッキを最強と称したのではない。パラドックスがあらゆる時代より集めたカードの中には〝邪神アバター〟に対抗できる力も眠っているのだ。

 

「強欲な壺を発動、デッキからカードを二枚ドローする。……そして更に魔法カード、Sin Selectorを発動しよう。

 私の墓地のSinモンスター二体をゲームより除外。自分のデッキよりSinと名のつくモンスターを二枚手札に加える」

 

 

【Sin Selector】

通常魔法カード

自分の墓地に存在する「Sin」と名のついたモンスター2体をゲームから除外する。

自分のデッキから「Sin」と名のついたカード2枚を手札に加える。

 

 

 墓地のSinモンスターを除外する必要はあるとはいえ、一度に二体のモンスターをデッキよりサーチする効果は有力だ。

 パラドックスは手札の枚数を一気に増やす。だがまだ足りない。パラドックスは一枚の魔法カードをデュエルディスクへと叩きつけた。

 

「魔法発動、魔法石の採掘。このカード効果により私は手札を二枚捨てることで、私の墓地より魔法カードを一枚手札に加える」

 

 

【魔法石の採掘】

通常魔法カード

手札を2枚捨て、自分の墓地の魔法カード1枚を選択して発動する。

選択したカードを手札に加える。

 

 

 ここにきての魔法カード限定の墓地回収カード。

 モンスター回収カードである死者転生と比べると手札コストが一枚上だが、魔法カードのデュエルにおける重要性を考えれば妥当なところだろう。

 

「ククククククッ。これで私は墓地の魔法カードを再利用できるわけだが、君達には私がどのカードを選択するか分かるかな」

 

「選ぶカード、だと?」

 

 十代がこれまでパラドックスが使ってきた魔法カードを思い返しながら考える。遊星や丈も同じように思考した。

 Sin Worldは論外だ。Z-ONEがある以上、このタイミングで回収するはずがない。地砕きのようなモンスターを直接破壊するようなカードはアバター相手には無力。だとすれば汎用ドローソースたる強欲な壺……。

 

「まさか!」

 

 最初にそれに思い至ったのは遊戯。パラドックスは笑みを深める。

 

「察しが良いな武藤遊戯。手札とは可能性、これは君が後世に残した言葉だったかな。流石はキング・オブ・デュエリスト、真理をつくものだ。

 然り。手札とは可能性、手札があればあるほどに戦術の幅は広がり、逆に手札がなければ碌な戦術は使えない。もっとも不動遊星、君の友人のような例外もいるが」

 

「鬼柳のことか!」

 

 遊戯たち三人は知らないことだが、遊星にとって嘗ての自分のボスでもある友人、鬼柳京介のインフェルニティは手札ゼロ――――ハンドレスでこそ真価を発揮する特殊なカード群だ。

 しかしインフェルニティはあくまで特殊な事例。殆どのデッキにとって手札の枚数が少ないのは不利でしかない。

 

「私が選ぶのはこのカードだ。魔法カード、天よりの宝札! 手札に加えそのまま発動。互いのプレイヤーはカードが六枚になるようカードをドローする!」

 

 挑発するような言動をとっているが、パラドックスは決して四人全員の実力を侮ってもいなければ、過小評価もしていなかった。

 宍戸丈、遊城十代、不動遊星。誰もがその時代において〝英雄〟と呼ばれ、幾度となく世界の危機を救ってきたデュエリストであるし、武藤遊戯に至っては史上最強の男である。

 自分にとって同胞であり友であるイリアステル滅四星、彼等と戦うつもりでパラドックスは挑んでいる。

 そのパラドックスが四対一の不利な戦いを互角以上に戦うために辿り着いたのがこれだ。

 天よりの宝札、不動遊星の時代においては禁止カードになっているそれを最大限有効活用し、手札を尽きさせないようにする。

 言ってみればこれだけ。たったこれだけだがシンプルであるが故に有効な一手だった。

 

「そして私の手に邪神アバターを倒せるカードが来たぞ、宍戸丈」

 

「なに!?」

 

「魔法カード発動、死者蘇生……。墓地のモンスターをフィールドに復活させる」

 

「蘇生? だがアバターに勝てるモンスターなど、そうは」

 

「勘違いするな宍戸丈。私が復活させるのはモンスターではない。神だ!」

 

「!」

 

「我が勝利のため冥府より蘇ろ! デュエルモンスターズが三幻神、その最高位に君臨せし太陽神よ!」

 

 

【THE SUN OF GOD DRAGON】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/?

DEF/?

 

 

 邪神アバターにより齎せた宵闇が、金色の太陽により払われていく。太陽よりも眩い輝きを放ち、五人のデュエリストを照らすは太陽神。

 デュエリストなら誰もが知っている三幻神の中で最強とされた不死の鳥。

 ラーの翼神竜が邪神アバターに対抗するかの如く降臨した。

 

「どういう、ことだ。ラーの翼神竜なら、ここに」

 

 遊戯が思わず自分のデッキを見る。

 デッキに眠りながらも存在感を放ってやまないプレッシャー。間違いなくラーの翼神竜は遊戯のデッキの中に今も存在している。

 凡百のカードならいざ知らず、神のカードはこの世にただの一枚のみしか存在しない。ではパラドックスが召喚したラーの翼神竜は真っ赤な偽物なのかと言われれば、これが厄介なことにパラドックスのラーも紛れもなく本物のラーの翼神竜なのだ。

 

「三幻神のカードはこの世に一枚だけ。だから二枚以上存在するはずがない、か。それは常識的な思考であるが、この私を相手にするにはその常識は常識として成立しはしない。

 確かに三幻神は一種につき一枚しか存在しない。だがそれはその時間軸での話だ。時間軸Aにラーの翼神竜が一枚あれば、その五分後の時間軸である時間軸Bにもまたラーの翼神竜は存在している。

 そして私は逆刹のパラドックス。時代の観察者にして測定者にして修正者。君のいる時代ではない時代から、別のラーの翼神竜を頂いたのだよ」

 

「なんて奴だ」

 

「これがパラドックスの力なのか……」

 

 つまりはこういうことだ。世界に一枚しかないというレア中のレアカードでも、パラドックスは別々の時間軸からそのカードを集めることで三枚積むことが出来る。

 極論だがラーを三枚投入することも、ネオスを三枚投入することもパラドックスは自由自在なのだ。

 

「さて。ラーの翼神竜を使役するにはカードに浮かび上がった古代神官文字を読み上げる必要がある。読み上げられなければ、ラーのコントロールは読み上げられる別のデュエリストに移る。

 武藤遊戯、もしかしたらお前は私が古代神官文字を解読できず、その支配圏を獲得できないのではないかと考えていたのかもしれないが――――それは甘い、と言わせて貰おう」

 

「まさか古代神官文字を読めるのか!?」

 

「私のハードには世界に生まれ出たあらゆる言語がインプットされている。デュエルモンスターズ発祥の地であるエジプト、その古代神官文字についても我が脳髄は記憶しているのだよ」

 

 パラドックスは両腕を交差させると、常人にはとても理解不能な呪言を唱え始めた。

 それが古代エジプトにおいて神官のみが知り、話すことを許された古代神官文字であることを、武藤遊戯だけが知りえることができた。

 ラーの翼神竜は起動する。

 

――――時一つとして神は不死鳥となる。選ばれし魔物は大地に眠る

 

 選択されし姿は三番目。黄金の球体が開き、そこから現れるのは紅蓮の炎の体をもつ不死鳥。

 

「これが、ラーの翼神竜」

 

 初めて〝三幻神〟という伝説を目にした遊星は、敵であるにも拘わらずその余りの威容に目を奪われた。

 十代もまた嘗て自分が相対した偽物を遥かに超える威圧感に圧倒される。

 そしてラーと対となるアバターを従えた丈は、自らと互角の力を鋭く睨んだ。

 

「ライフを1000支払い太陽神は不死鳥となった。不死鳥となったラーの前にあらゆる干渉は無為となり、その攻撃はあらゆる魔物を焼き尽くす。

 例えそれがラーと同じ最高位に君臨する邪神でもだ! 私はバトルフェイズへと移行する!」

 

 神の力すら弾き返すアバターも、それが同格のラーの力であれば無効とすることはできない。

 だがラーの翼神竜があらゆるモンスターを殺す不死鳥であるのならば、邪神アバターはラーの翼神竜を、不死鳥を殺すためにデザインされた邪神だ。

 

「アバターはフィールドで最も強い力をもつモンスターに姿を変化させる。アバター! 太陽神が不死鳥となるのであれば、お前も不死の力を手にするがいい!」

 

 まるでアバターが丈の言葉に応じるかのように轟音染みた叫び声をあげ、姿をカオス・ソルジャーからラーと同じ不死鳥へと変化させていく。

 不死の力を得たラーと、不死の力を得たラーの姿となったアバター。光と闇、黄金と純黒。聖と邪。二体の不死鳥が真っ向から相対する。

 

「ラーの翼神竜の攻撃、ゴッド・フェニックス!」

 

「邪神アバターの迎撃、ダーク・フェニックス!」

 

 あらゆるものを殺す槍、あらゆる槍を通さぬ盾。不死鳥の力はその二つを兼ね備えたものだ。

 であればその二体の激突とは即ち矛盾。異なる概念と概念の殺し合いだ。その二つが激突した時、どのような結果を生むかは誰一人として分からない。

 赤い炎と黒い炎、二つの膨大なエネルギーがぶつかり収束し、炸裂した。

 

「ぐぅぅうーーーっ!」

 

「ちぃぃっ!」

 

 轟音が轟き、ソリッドビジョンではない確かな熱量が巻き起こる。

 爆風が晴れる。煙が晴れた時、そこにはなにもなくなっていた。

 

「互角……? いや」

 

 消えてしまったのはアバターとラーだけではない。カオス・ソルジャーとエスクリダオ、二体のモンスターが跡形もなく消滅してしまっている。

 二体の不死鳥同士の激突はお互いの存在を滅ぼし尽くすだけには飽き足らず、激突の余波が周囲にいたモンスターを滅ぼしてしまったらしい。

 

「こんな結果になるとはな。ラーとアバターの激突、これほどのものか。今の激突で時空に歪みが生じかけた。……しかし勝負は私の勝ちのようだな。予想外だが予定通り。アバターを葬ることには成功した。

 速攻魔法発動、Sin Cross! 私の墓地に眠るSinモンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する。蘇れ、Sin青眼の白龍!」

 

 

【Sin Cross】

速攻魔法カード

自分の墓地に存在する「Sin」と名のついたモンスター1体を

召喚条件を無視して自分フィールド上に特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターは、

このターンのエンドフェイズ時にゲームから除外される。

 

 

【Sin 青眼の白龍】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは通常召喚できない。

自分のデッキから「青眼の白龍」1体を墓地に送った場合に特殊召喚できる。

「Sin World」がフィールド上に存在しない場合このカードを破壊する。

 

 

 蘇るブルーアイズ。あれだけ手札を増強しただけあって、パラドックスの手札には強力なSinモンスターがかなりの数あった。

 

「ラーとアバターの激突により互いのフィールドは焼野原になったが、バトルフェイズは終了していない。そしてバトルフェイズ中に復活したSin青眼の白龍は攻撃の権利がある。ゆけ、滅びのバーストストリーム!」

 

 ブルーアイズのバーストストリームが四人が共有するライフに痛烈な一撃を与える。

 3800と4000近くあったライフが一気に800にまで削り取られた。

 

「バトルフェイズを終了。私はまだこのターン通常召喚を行っていない。私はチューナーモンスター、Sinパラレルギアを召喚」

 

 

【Sin パラレルギア】

闇属性 ☆2 機械族 チューナー

攻撃力0

守備力0

「Sin World」がフィールド上に存在しない場合このカードを破壊する。

 

 

 明らかに弱小と見て取れる外見のモンスターが現れる。

 けれど警戒すべきはパラドックスのチューナーモンスターという言葉だ。

 

「チューナーだと? まさかシンクロ召喚をするつもりなのか!?」

 

「そのまさかだ。レベル8、Sin青眼の白龍にレベル2、Sinパラレルギアをチューニング!」

 

 ☆8 + ☆2 = ☆10

 

 レベル8とレベル2のシンクロで生み出されるモンスターはレベル10、神と同じレベルをもつ規格外のモンスター。

 

「次元の狭間より現れし闇よ、時空を越えた舞台に破滅の幕を引け! シンクロ召喚! 現れよ! Sin パラドクス・ドラゴン!」

 

 

【Sin パラドクス・ドラゴン】

闇属性 ☆10 ドラゴン族

攻撃力4000

守備力4000

「Sin」と名のついたチューナー+チューナー以外の「Sin」と名のついたモンスター1体以上。

このカードがシンクロ召喚に成功した時、

自分の墓地に存在するシンクロモンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する事ができる。

相手モンスターの攻撃力は、

このカード以外の自分フィールド上に存在するシンクロモンスターの攻撃力の合計分ダウンする。

フィールド上に「Sin World」が存在しない場合、このカードを破壊する。

 

 

 既存のモンスターをSin化させた通常のSinモンスターとは違う、正真正銘パラドックスのための専用カード、Sinパラドックス・ドラゴン。

 歴史修正を象徴するかの竜は下手すれば青眼の白龍やレインボー・ドラゴンすら超える迫力で咆哮した。

 

「Sinパラドクス・ドラゴンの効果発動! シンクロ召喚に成功した時、墓地のシンクロモンスターを召喚条件を無視して復活させる。

 私が蘇生させるシンクロモンスターは……スターダスト・ドラゴンだ」

 

「スターダスト!?」

 

 パラドックス・ドラゴンが墓地よりSinではないオリジナルのスターダスト・ドラゴンを現世へと引きずり出した。

 自分の主と強引に戦わされることにスターダストは強い抵抗をするが、パラドックス・ドラゴンの前にその抵抗は無意味だ。

 

「Sinパラドクス・ドラゴンは復活させたモンスターの攻撃力分、お前達のモンスターの攻撃力を下げる。とはいえ君達のフィールドにモンスターはいない以上、この能力は不発に終わるがな。

 故に変わりといってはなんだがもう一体面白いモンスターを召喚させて貰おう。私はエクストラデッキのサイバー・エンド・ドラゴンを墓地に送り、現れろ、Sinサイバー・エンド・ドラゴン!」

 

 

【Sin サイバー・エンド・ドラゴン】

闇属性 ☆10 機械族

攻撃力4000

守備力2800

このカードは通常召喚できない。

自分のエクストラデッキから「サイバー・エンド・ドラゴン」1体を

墓地に送った場合のみ特殊召喚できる。

「Sin World」がフィールド上に存在しない場合このカードを破壊する。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、

その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 何度もそのカードと戦った丈が間違うはずがない。パラドックスが召喚したのは威圧感もパワーもサイバー・エンド・ドラゴンそのものだった。

 だが全体的な雰囲気が清いものから邪悪なものへと反転していた。

 

「おいおい。サイバー・エンド・ドラゴンの召喚には融合カードが必要のはずだろ」

 

「……攻撃力4000」

 

 遊星も十代も、そして遊戯でさえ攻撃力4000のモンスターを二体召喚し、スターダストまで召喚してきたことに驚きを隠せない様子だった。

 だがそれ以上に丈には言いたいことがあった。

 

「亮のサイバー・エンドをよくも。……しかし残念だがパラドックス、サイバー・エンド・ドラゴンを100%……いや120%使いこなせるのは全世界全時空に唯一人。それは決してお前じゃないぞ」

 

「ククククッ。親友のカードを取り戻すべくわざわざ過去にまで追ってきた君が言うと説得力が違うな。けれど君の意見は見当違いも甚だしい。

 これはサイバー・エンド・ドラゴンではなく絶望と罪悪に染まり反転したSinサイバー・エンド・ドラゴン! 君の知るサイバー・エンド・ドラゴンとは一味違うぞ」

 

「笑うのはこっちの方だ。なにが攻撃力4000だ! たかが攻撃力4000で粋がるなよ。これが亮なら今頃パワー・ボンドで攻撃力8000のサイバー・エンド・ドラゴンを召喚してる頃だ! 下手すればリミッター解除で更に倍の16000だ!」

 

「……攻撃力4000が……たかが?」

 

「丈さん、凄い人が友人だったんですね……」

 

「ま、カイザーだし」

 

 遊戯と遊星は攻撃力を4000をたかがと言い放った丈に目を丸くして、唯一人十代だけが達観していた。

 

「減らず口は一人前のようだな。私はカードを二枚伏せターンエンド」

 

 エンド宣言と同時に未来から来た三人の視線がその人物に注がれる。

 デュエルモンスターズの長い歴史において史上最強とまで畏怖されたデュエリストのターンが遂に始まるのだ。




社長「ドラゴンを呼ぶ笛が墓地に置かれたのでカードをドローさせてもらうぞ」

蟹「強制終了をリリース!」


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第123話  史上最強の男

 デュエルモンスターズの歴史は長い。

 三千年前の古代エジプトで行われていた闇のゲームをペガサス・J・クロフォードがデュエルモンスターズという形で世に出して以来、多くのデュエリストが『最強』の頂を目指し、切磋琢磨してきた。

 時にデュエルが世界の危機を招いた事もあるし、救った事もある。その歴史の転換期にもほぼ必ずといっていいほどデュエルモンスターズは関わって来たし、正に今パラドックスと相対している英雄を生み出してきた。

 だがどれほどの年月が経とうと届かない頂きがある。たった一人、長いデュエルモンスターズの歴史で史上最強の称号を欲しいままにした男がいる。

 そのデュエリストこそが武藤遊戯。初代キング・オブ・デュエリスト、三幻神を担う者だ。

 

「おっと。パラドックス、エンド宣言の際に俺はカードを発動させて貰おう。速攻魔法、終焉の焔」

 

 

【終焉の焔】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」

(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。

 

 丈がデュエルディスクを操作し伏せカードをオープンにすると、場に出現する二体のトークン。

 エンドフェイズでの発動のため、発動ターンに召喚・反転召喚・特殊召喚できないというデメリット効果は無意味だ。

 

「遊戯さん。任せますよ」

 

「ナイスアシストだぜ丈。お前の力、確かに受け取った! 俺のターン、ドロー!」

 

 丈の援護射撃もあり、最高のコンディションで史上最強の男のターンが始まる。

 天よりの宝札で手札は六枚となっていたため、ドローした遊戯の手札は合計七枚。決闘王に七枚の手札を持たせることがどういうことか、実際に武藤遊戯と戦った経験のある十代は味方であるにも拘らず武者震いをした。

 

「強欲な壺を発動し二枚ドロー! まずはお前が遊星から奪ったスターダスト・ドラゴンを返して貰おうか。魔法カード、振り出しを発動するぜ! 手札を一枚捨て、フィールド上のモンスター1体をデッキの一番上に戻す!」

 

「なんだと!?」

 

 

【振り出し】

通常魔法カード

手札を1枚捨てる。

フィールド上のモンスター1体を持ち主のデッキの一番上に戻す。

 

 

「上手い! スターダストの効果は破壊効果にしか対応していない! デッキの一番上に戻す効果を無効にすることはできない」

 

 単純に墓地へ送るのではなくデッキの一番上に戻す。通常のモンスターと異なり融合モンスターやシンクロモンスターは手札やデッキに戻されるときは、エクストラデッキへと戻される。

 墓地ならば死者蘇生などで容易に復活できるがエクストラデッキではそうもいかない。しかもスターダストは遊星のカードであり、スターダストが戻る先はパラドックスのエクストラデッキではなく遊星のエクストラデッキだ。

 誰よりもスターダスト・ドラゴンを知る遊星だからこそ、あっさりと自分の切り札を取り返してみせた武藤遊戯に感嘆の声を漏らさずにはいられない。

 

「遊星。スターダストは取り返したぜ」

 

「ありがとうございます、遊戯さん」

 

 スターダストが粒子となって消えて、本当の主である遊星の所へと戻った。

 消える間際スターダストが嬉しそうに嘶いたのは決して聞き違いではないだろう。

 

「俺は丈の召喚した二体の黒焔トークン二体を生け贄に捧げる! 現れろ! 我が最強のしもべ、ブラック・マジシャン!!」

 

 

【ブラック・マジシャン】

闇属性 ☆7 魔法使い族

攻撃力2500

守備力2100

魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。

 

 

 デュエルモンスターズにその名も高き最上級魔術師。三千年前のファラオに仕えた神官の魂が、時空の果てにおいてファラオの前に現れる。

 奇しくも十代のエースたるネオスや遊星のエースたるスターダストと全く同じ攻撃力だ。

 

「これが遊戯さんのエースカード、ブラック・マジシャン……!」

 

「ブラマジ来たーッ!!」

 

「……いつぞやの戦いを想いだすな。ただあいつのブラック・マジシャンとはデザインが違う」

 

 ブラック・マジシャンに対して三人はまったく違った反応をする。

 

「丈の発動した永続魔法、冥界の宝札の効果は味方である俺にも有効だ! よって俺は二枚カードをドローするぜ。

 そして魔法カード、師弟の絆を発動。自分フィールドにブラック・マジシャンがいる場合、自分のデッキ・手札から最上級魔術師の弟子を守備表示で召喚する。来い、ブラック・マジシャン・ガール!」

 

 

【師弟の絆】

通常魔法カード

自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」が

表側表示で存在する場合に発動する事ができる。

自分のデッキ・手札から「ブラック・マジシャン・ガール」1体を

表側守備表示で特殊召喚する。

 

 

【ブラック・マジシャン・ガール】

闇属性 ☆6 魔法使い族

攻撃力2000

守備力1700

お互いの墓地に存在する「ブラック・マジシャン」

「マジシャン・オブ・ブラックカオス」1体につき、

このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

 

 

 師匠に並びデュエルモンスターズ界で絶大な知名度を誇る魔法使い族モンスター、ブラック・マジシャン・ガール。

 フィールドに降り立ったブラック・マジシャン・ガールはぎらぎらと殺意を滲みだすパラドックス・ドラゴンとSinサイバー・エンド・ドラゴンを前にして「うえっ」と顔を歪めた。

 

「お師匠サマ、なんだかすっごく強そうな敵なんですけどぉ……」

 

「臆するな 私達とマスター達の力を合わせれば、必ず勝てる!」

 

「はい!」

 

 精霊を見る力のない遊星にはなにが起きたか分からなかったが、精霊を見れる三人にはそのやり取りを聞き取ることができた。

 どうやら師弟同士と主従同士の関係は非常に良好らしい。遊戯は二人の魔術師のやり取りに薄く微笑む。だが直ぐにパラドックスという敵に挑むデュエリストの顔に戻ると言い放った。

 

「俺はブラック・マジシャン・ガールのレベルを二つ下げ、丈と遊星の墓地よりレベル・スティーラー二体を蘇生。更に二重召喚、俺は再び通常召喚権を得る!

 いくぜパラドックス。俺は二体のレベル・スティーラーとブラック・マジシャン・ガールを生け贄に捧げる!」

 

「三体の生贄、まさか!」

 

「目覚めよ、我が掌中に眠りし破壊の神。オベリスクの巨神兵、降臨!」

 

 

【THE GOD OF OBELISK】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/4000

DEF/4000

The Player shall sacrifice two bodies to God of Obelisk.

The opponent shall be damaged.

And the monsters on the field shall be destroyed.

 

 

 巌のように雄々しく、山のように猛々しい巨神が雷鳴を轟かせながら降臨する。その迫力は破壊の神に相応強いもので、黙していても隠し切れぬ破壊衝動は完全に他を圧倒していた。

 これこそが武藤遊戯が操りし三枚の神のカードの一枚、オベリスクの巨神兵。バトルシティにおいて海馬瀬人を倒して勝ち取った神だ。

 

「冥界の宝札の効果で二枚ドロー。死者蘇生を発動し、遊星の墓地よりニトロ・シンクロンを蘇生。更に場にチューナーがいることにより、ボルト・ヘッジホッグを特殊召喚する。

 そしてオベリスクの特殊能力。二体のモンスターを生け贄に捧げ、相手フィールド上のモンスターを全滅させる。やれ、オベリスク!」

 

「チッ。スターダストを不動遊星のエクストラデッキに戻したのはこの効果のためでもあったのか!?」

 

「正解だぜ。神にモンスターの効果は通用しない。だが遊星のスターダストは強力な精霊の宿ったカード。神の力を凌駕してくる可能性があったからな」

 

 遊星のスターダスト奪還と不安要素の排除。その二つを容易くこなしてこそキング・オブ・デュエリスト。

 二体のモンスターを両手で握りつぶしたオベリスクが、パラドックスのフィールドのモンスター目掛けて破壊の波動を放った。

 地面を揺らしながら破壊のエネルギーの塊が突き進む。パラドックスは顔を歪めながらも、動いた。

 

「速攻魔法発動、神秘の中華なべ! Sinサイバー・エンド・ドラゴンをリリースし、私は4000のライフを回復する!」

 

「だがまだSinパラドックス・ドラゴンがいるぜ」

 

「ああそうだ……まだ破壊されるモンスターにはSinパラドックス・ドラゴンがいる」

 

 逆刹を象徴するドラゴンも破壊神の蹂躙には一溜まりもない。リリース&エスケープしたSinサイバー・エンド・ドラゴンと違い、パラドックス・ドラゴンはオベリスクの力の前に一方的に破壊された。

 神秘の中華なべでパラドックスは4000ものライフを回復したが、未だに遊戯の場にはオベリスクとブラック・マジシャン。この二体が総攻撃すればパラドックスは終わりだ。

 

「くっ……本当の勝負はこれからだ」

 

「諦めろ、おまえの場にはすでにモンスターはいない!」

 

「諦める? 生憎だが、この程度で諦めるようなら私はこの場所に立ってなどいない。それにまだまだだ。私はまだ終わっていない。

 一見正しいように見えた今の攻撃……だがそれは、大いなる間違い! 罠発動! Sin Paradigm Shift!

 Sinパラドックスドラゴンが破壊されたとき、我が身を生け贄としライフを半分にすることで、Sinトゥルースドラゴンを特殊召喚する!」

 

 

【Sin Paradigm Shift】

通常罠カード

自分フィールド上に存在する「Sin パラドックス・ドラゴン」が破壊された時、

自分のライフポイントを半分にする事で発動する事ができる。

自分の手札・デッキ・墓地から「Sin トゥルース・ドラゴン」1体を自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 パラドックスの体がフィールドに出現したなにかに呑みこまれていく。

 我が身を生け贄にするというのは言葉の綾ではなく真実だった。パラドックスは自らの命を代償にして、最強のドラゴンを呼び寄せる。

 

「う、おおおおおおおおおおおおお! お前達はこの私自らの手で抹殺してやる…!」

 

 

【Sin トゥルース・ドラゴン】

闇属性 ☆12 ドラゴン族

攻撃力5000

守備力5000

「Sin paradigm shift」の効果でのみ特殊召喚できる。

このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、

自分の「Sin」と名のついたモンスターの攻撃で相手モンスターを破壊した時、

相手のモンスターを全て破壊し、破壊した数×800ポイントのダメージを相手に与える。

このカードが破壊される場合、「Sin」と名のついたモンスター1体を

自分の墓地から除外する事でその破壊を無効にする事ができる。

 

 

 攻撃力5000。数値化されているモンスターでは事実上の最高値を叩きだすモンスターが現れる。Sinトゥルース・ドラゴン、溢れんばかりのエネルギーはパラドックスの半分のライフを代償にして余りある力を秘めていた。

 遊戯はモンスターと一体化したその姿にバトルシティで戦った邪悪なる魂を思い出した。

 

「攻撃力5000のモンスター……! 俺はカードを三枚セット、ターンエンドだ」

 

 オベリスクの攻撃力は4000。Sinトゥルース・ドラゴンの5000には及ばない。

 遊戯に出来る事は伏せカードをセットして、ターン終了を宣言することだけだった。

 



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第124話  真理

 Sinパラドックス・ドラゴン。攻撃力4000という最高クラスの攻撃値をもち、その名前からパラドックスを象徴するであろうモンスターは真の切り札ではなかった。

 パラドックスの真の切り札。Sinトゥルース・ドラゴン、真実という名を与えられし竜は時空を超えて集った四人の英雄達に牙を剥いた。

 

「私のターン、ドロー」

 

 そしてパラドックスのターン。

 遊戯のフィールドには三幻神の一角であり嘗て海馬瀬人が使役した破壊神オベリスクがいる。並みの相手どころか一流のデュエリストですら、神を前にすれば恐怖に膝を屈するだろう。

 とはいえ今度ばかりは三幻神といえど相手が悪い。

 Sinトゥルース・ドラゴンの攻撃力は5000、オベリスクの4000を上回っている。無敵に近い耐性をもつ神のカードだが、攻撃に対しては耐性はない。単純な高い攻撃力は三幻神を攻略する最も手っ取り早い方法の一つだった。

 

「バトルフェイズ。Sinトゥルース・ドラゴンでオベリスクの巨神兵を攻撃、トゥルース・フォース・バースト!!」

 

「くっ! 迎撃しろ、オベリスク! ゴッド・ハンド・クラッシャー!」

 

 矛盾を超越し真理に至りし竜と、大地を砕く最強の破壊神。邪悪でありながら神々しさを感じる波動と、破壊の二文字を象徴するかのような力がぶつかり合う。

 オベリスクの体に皹が入っていく。軍配が上がりしは真理。人々を見下ろし時に裁きを下す神は、絶対の〝真理〟の前に敗れ去る。

 

「神のカードが、こんな簡単にやられっちまうなんて」

 

 神の撃破ではなく、僅か1ターンで神のカードを攻略してしまったパラドックスの強さに十代が瞠目する。

 

「終わりは呆気ないものだったな武藤遊戯。この戦いは私の勝利だ」

 

 トゥルース・ドラゴンとオベリスクの攻撃力の差は1000、残り800の遊戯たちの命を消し飛ばすには十分な数だ。だが武藤遊戯もまたそう簡単に敗れるような男ではない。

 

「それはどうかな」

 

『クリクリ~』

 

 研ぎ澄まされた空気には似合わぬ可愛らしい鳴き声が響き渡る。

 茶色い毛玉のモンスター、クリボーが遊戯の前に浮かびながら徐々に薄まり消えていく。

 

「ありがとうクリボー。俺は手札からクリボーを捨てて、戦闘ダメージをゼロにさせて貰った」

 

「狡い手を、よくも使う」

 

「褒め言葉として受け取っておくぜ」

 

 ともあれこれでSinトゥルース・ドラゴンの攻撃でライフが消し飛ぶことはなくなった。

 けれどもパラドックスが浮かべたのは悔しさではなく冷笑。

 

「なにが可笑しい?」

 

 遊星が慎重にパラドックスへ探りを入れる。

 

「ふふふ。たかがダメージをゼロにした程度でSinトゥルース・ドラゴンの攻撃を防ぎきったと思ったら大間違いだ。

 Sinトゥルース・ドラゴンの特殊能力! Sinと名のつくモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、相手フィールド上のモンスターを全滅させ、その効果で破壊したモンスターの数×800ポイントのダメージを相手に与える。

 これで正真正銘のジ・エンドだな。武藤遊戯、宍戸丈、遊城十代、不動遊星!!」

 

「成程。だからオベリスクを狙ったのか」

 

 感心したように丈が呟く。

 三幻神は敵に回せば恐ろしいモンスターだ。それは三幻神と対になる三邪神と戦った丈も良く知っている。デュエリストからすれば一刻も早く退場して欲しいカードだろう。

 だがそれだけがパラドックスがオベリスクを狙った理由ではなかった。

 神のカードはモンスター効果に対しても強力な耐性をもつ。仮にブラック・マジシャンを攻撃してSinトゥルース・ドラゴンが効果を発動しても、オベリスクはその絶対的な耐性で効果を弾いてしまうのだ。

 

「死ね!」

 

 Sinトゥルース・ドラゴンの周囲に黒い針が展開し、それらが一斉にブラック・マジシャンへと飛ぶ。

 

「速攻魔法発動、禁じられた聖衣!」

 

 

【禁じられた聖衣】

速効魔法カード

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。

エンドフェイズ時まで、

選択したモンスターは攻撃力が600ポイントダウンし、

カードの効果の対象にならず、カードの効果では破壊されない。

 

 

 針が黒魔術師を貫く直前、ブラック・マジシャンを純白の聖骸布が包み込む。聖なる衣は黒い針を弾き返し、ブラック・マジシャンを守り通した。

 

「Sinトゥルース・ドラゴンのバーンダメージは特殊能力でモンスターを破壊できた場合にのみ有効だ。

 禁じられた聖衣はカード効果による破壊からモンスターを守るマジック! これでお前のSinトゥルース・ドラゴンの能力は不発に終わる!」

 

「……伊達にキング・オブ・デュエリストなどと謳われてはいないか。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 漸く四人たちのターンが一巡する。

 遊星から始まった時空を超えたデュエルは十代、丈、遊戯へとバトンを渡していき、遊星へと戻ってきた。

 

「遊星、Sinトゥルース・ドラゴンは凄ぇ強敵だ。でもお前なら大丈夫だ。ぶちかましてやれ!」

 

「はい、十代さん」

 

 偉大なる先輩からのエールを受け、遊星はいつになく力強い瞳でパラドックスを睨む。

 

「世界はお前の好きにはさせない! 俺のターン、ドロー!」

 

 遊星のジャンクデッキは〝廃品(ジャンク)〟だけあって墓地のカードを再利用するのが展開の主軸となる。サテライトに押し込められ、捨てられた部品から一つずつ自分のDホイールを作っていった遊星を象徴するデッキといえるだろう。

 そしてパラドックスが度々発動させた手札交換カードの甲斐あって遊星の墓地は十二分に廃品が詰まれている。

 

「手札よりジャンク・シンクロンを攻撃表示で召喚! ジャンク・シンクロンの効果発動、このカードが召喚に成功した時、墓地のレベル2以下のモンスターを効果を無効にして特殊召喚できる!、現れろ、スピード・ウォリアー!

 そして墓地にチューナーがいる時、このカードは墓地より特殊召喚できる。ボルト・ヘッジホッグを特殊召喚」

 

 

【ジャンク・シンクロン】

闇属性 ☆3 戦士族

攻撃力1300

守備力500

このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の

レベル2以下のモンスター1体を選択して表側守備表示で特殊召喚できる。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

 

【スピード・ウォリアー】

風属性 ☆2 戦士族

攻撃力900

守備力400

このカードの召喚に成功したターンの

バトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。

このカードの元々の攻撃力はバトルフェイズ終了時まで倍になる。

 

 

【ボルト・ヘッジホッグ】

地属性 ☆2 機械族

攻撃力800

守備力800

自分のメインフェイズ時、このカードが墓地に存在し、

自分フィールド上にチューナーが存在する場合、

このカードを墓地から特殊召喚できる。

この効果で特殊召喚したこのカードは、

フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

 

 

 たちまち三体のモンスターが遊星のフィールドに集結する。

 レベルの合計はこれで丁度7になるが、まだまだ遊星は止まらない。

 

「魔法発動、ワン・フォー・ワン! 手札のモンスターカードを一枚墓地へ送り、レベル1モンスターを手札またはデッキより特殊召喚する。デッキよりチューニング・サポーターを特殊召喚!」

 

 

【チューニング・サポーター】

光属性 ☆1 機械族

攻撃力100

守備力300

このカードをシンクロ召喚に使用する場合、

このカードはレベル2モンスターとして扱う事ができる。

このカードがシンクロモンスターの

シンクロ召喚に使用され墓地へ送られた場合、

自分はデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

【ワン・フォー・ワン】

通常魔法カード

手札からモンスター1体を墓地へ送って発動できる。

手札・デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 傘を被ったサムライのような恰好をした小さな機械族モンスターが召喚される。

 弱小モンスターの集合、レベル1のチューニング・サポーターが加わったことでその合計値は8になった。

 パラドックスがあることに気付き眉間にしわを寄せる。

 

「レベル8、来るか!」

 

「行く! レベル1、チューニング・サポーターとレベル2、ボルト・ヘッジホッグとスピード・ウォリアーにレベル3、ジャンク・シンクロンをチューニング!」

 

 

☆1 + ☆2 + ☆2 + ☆3 = ☆8

 

 

 空中に出現する光の環。三体のモンスターが光となり、後ろをジャンク・シンクロンが飛び込む。

 単体では到底Sinトゥルース・ドラゴンに及ばないモンスターたちが、新たなる姿へシンクロしていく。

 

「集いし願いが新たに輝く星となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン!」

 

 

【スターダスト・ドラゴン】

風属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2500

守備力2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「フィールド上のカードを破壊する効果」を持つ

魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、

このカードをリリースして発動できる。

その発動を無効にし破壊する。

この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、

この効果を発動するためにリリースした

このカードを墓地から特殊召喚できる。

 

 

 罪過の枷を着せられ、パラドックスに使役されていた星屑の竜は真なる主のもと両翼を広げ飛翔する。

 山々を超えていきそうなほど透き通った鳴き声が響き渡った。キラキラと星の輝きを放ちながら、スターダスト・ドラゴンが遊星の前へ降り立った。

 

「チューニング・サポーターの効果。デッキからカードを一枚ドローする」

 

「スターダスト・ドラゴンか。厄介なモンスターだが、私のSinトゥルース・ドラゴンの前では攻撃力2500程度のスターダストなど無力に等しい。どういうつもりかね?」

 

「確かにスターダストじゃSinトゥルース・ドラゴンを破壊することはできない。だがこれでSinトゥルース・ドラゴンの破壊効果は封じられる。

 俺はカードを二枚セットし、ターンエンドだ」

 

 攻撃力で劣るスターダストを攻撃表示にしてのターンエンド。更にはこれ見よがしのリバースカード。遊星がなんらかの罠カードをセットしたのは確定的に明らかなことだった。

 

「私のターン。そうしてこれ見よがしにリバースカードをセットすれば、私が攻撃を躊躇すると考えたのなら早計だったな不動遊星」

 

「なに!」

 

「たかが伏せカード如き闇など、この身はとうに踏破している。人の身では辿り着けないからこその真理。矛盾(パラドックス)を超え真理(トゥルース)へと昇華された罪過(Sin)を倒せると思うな!

 バトルフェイズ。Sinトゥルース・ドラゴンでスターダスト・ドラゴンを攻撃、消え去れ不動遊星!」

 

 罠カードの存在など無視してパラドックスが攻撃を仕掛ける。

 これはパラドックスの浅慮ではない。Sinトゥルース・ドラゴンには罠カードの障害などを踏み躙る特殊能力がある。自分のカードを信じているからこそ、パラドックスはこんな強引な手を躊躇いなく仕掛けられるのだ。

 しかし、

 

「リバースカードオープン!」

 

 伏せカードの発動を宣言するはやはり遊星。

 

「カウンター罠、攻撃の無力化! モンスター1体の攻撃を無効にしバトルフェイズを終了する」

 

 

【攻撃の無力化】

カウンター罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 

 トゥルース・ドラゴンの衝撃波がスターダストを破壊する寸前、スターダストの前に出現した渦が攻撃を呑み込んでいく。

 バトルフェイズが強制終了させSinトゥルース・ドラゴンは攻撃を停止させた。スターダスト、そして遊戯のフィールドにいるブラック・マジシャンは無傷。

 

「諦めの悪い。メインフェイズ2を終了、ターンエンドだ」

 

 Sinトゥルース・ドラゴンの攻撃は防いだ。しかしパラドックス自身にはなんらダメージを与えられていない。ただ単に時間を稼いだだけだ。

 四人全員が悟る。Sinトゥルース・ドラゴン、あのモンスターを倒さずしてパラドックスに勝利する道はないと。

 



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第125話  みらいいろ

「待っていたぜ。俺のターンだ」

 

 二度目となる十代のターンがやってくる。

 丈ほどではないが十代もまたアカデミアの生徒だった時、何度かカイザーと謳われたサイバー流後継者〝丸藤亮〟と戦っている。だから攻撃力5000のモンスターと相対しても気後れはしなかった。

 寧ろ逆に十代にあるのは昂揚感のみ。子供から大人へと成長する過程で一度は失われた純粋にデュエルを楽しむ心。

 しかしあるデュエルでそれを取り戻した十代は絶望的なピンチでも挑戦的に笑うだけの精神力をもっている。

 

「ドローだ!」

 

 攻撃力5000のモンスター、カイザー亮のような火力が飛び抜けたデッキなら強引に突破することもできるだろう。

 けれどデュエルモンスターズのデッキとは千差万別で一つの常道といえるものは存在しない。攻撃力5000をまともな力勝負で超えることが出来るデッキはそうは多くないだろう。

 他のデュエリストなら攻撃力をなんらかの手段で低下させるか、もしくは魔法・罠、モンスター効果による排除を考えるところだ。

 しかし十代は敢えてSinトゥルース・ドラゴンに真っ向勝負を挑もうと決める。

 特に深い理由があるわけではない。遠望な戦略構想などない。

 ただそっちの方が楽しそうだから、楽しそうなことを全力で万進する。それが遊城十代のデュエルだ。

 

「いくぜパラドックス。手札より融合を発動! 手札のE・HEROバーストレディとE・HEROフェザーマンを手札融合。来い、マイフェイバリットカード! E・HEROフレイム・ウィングマン!」

 

 

【E・HERO フレイム・ウィングマン】

風属性 ☆6 戦士族

攻撃力2100

守備力1200

「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、

破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 赤き竜(レッド・ドラゴン)の右半身に緑の鳥《グリーン・バード》の左半身。炎と風、二つの力を持つ英雄が白い羽と炎を纏い降臨する。

 真紅の瞳が輝き、Sinトゥルース・ドラゴンを凝視する。

 十代にとって掛け替えのないカードといえばE・HEROネオスであるが、このフレイム・ウィングマンもまた同じくらい掛け替えのない価値をもつカードだ。

 アカデミアの入学試験―――――遊城十代というデュエリストの第一歩、その時に十代に勝利を齎したカードこそがこのフレイム・ウィングマン。

 嘗て機械の巨人すら下した英雄は、Sinトゥルース・ドラゴンという強敵にも一歩も退いていない。

 

「フレイム・ウィングマンか。コンタクト融合では勝てぬと見て、歴史に記されている通りお得意の融合戦術に方針転換かね?

 得意気に召喚したところ悪いがフレイム・ウィングマンの攻撃力はたったの2100。攻撃力を倍にしても、私の得た真理には届きはしない」

 

「へっ! 知らないのかパラドックス、HEROは必ず勝つんだぜ! 俺は手札よりもう一枚の融合を発動だ!」

 

「二回連続の融合だと!?」

 

「お前が闇なら俺は光でいくぜ! フィールドのフレイム・ウィングマンと手札のスパークマンを融合」

 

 手札にいたスパークマンが飛び出し、フレイム・ウィングマンとその身を融合させていく。

 融合が完了しフィールドに淡い輝きを放ちながら佇んでいたのは、フレイム・ウィングマンが光の力を得て進化したHEROの姿。

 暗い絶望の闇を光で照らした輝きの戦士。

 

「融合召喚! E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン!」

 

 

【E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン 】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力2500

守備力2100

「E・HERO フレイム・ウィングマン」+「E・HERO スパークマン」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する「E・HERO」と名のついた

カード1枚につき300ポイントアップする。

このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、

破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン。

 丈の友であり十代にとっては先輩でもある男、カイザー亮の操るサイバー・エンド・ドラゴンを真っ向から打ち破ったHEROだ。

 

「シャイニング・フレア・ウィングマンは墓地のHERO一体につき攻撃力を300ポイントアップさせるぜ!」

 

「墓地のHEROは七体、2100ポイントの上昇か。しかし2100ポイント攻撃力を上昇させたところで、シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は4600止まり。惜しかったがこれが限界だ。私のSinトゥルース・ドラゴンには届かない」

 

「それはどうかな」

 

 遊星が不敵に口元を緩ませる。

 

「俺はお前の手札抹殺により墓地に送られたスキル・サクセサーの効果を発動!」

 

「墓地から罠だと!?」

 

 

【スキル・サクセサー】

通常罠カード

自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで400ポイントアップする。

また、墓地のこのカードをゲームから除外し、

自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

選択した自分のモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。

この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できず、

自分のターンにのみ発動できる。

 

 

 ニヤリと遊星が墓地に置かれた罠カード、スキル・サクセサーを除外する。

 遊星の発動したスキル・サクセサーはフィールド上にセットされている時は、自分のモンスターの攻撃力を400ポイントあげるという地味なカードでしかないが、その真骨頂は墓地に置かれた時に発揮される。

 このカードを墓地から除外することで、自分モンスターの攻撃力を800ポイント上昇させることができるのだ。

 800ポイントの上昇だけでは余り飛び抜けた効果ではないが、墓地からの発動という奇襲性は他の追随を許さない。

 

「スキル・サクセサーの効果により十代さんのシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は5400になる!」

 

「サンキューだぜ遊星。これでシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力がSinトゥルース・ドラゴンを超えたぜ!」

 

「しかし私のSinトゥルース・ドラゴンには墓地のSinモンスターを除外することで破壊を無効にする能力がある。スキル・サクセサーの効果が持続するのはこのターンのみ」

 

「へっ! だからこれだけじゃ終わらせないぜ。速攻魔法、禁じられた聖杯! Sinトゥルース・ドラゴンの効果をこのターンの間だけ無効化する!」

 

 禁じられた聖杯によりSinトゥルース・ドラゴンの攻撃力も上がるが、その上昇値は400。

 シャイニング・フレア・ウィングマンとSinトゥルース・ドラゴンの攻撃力が並ぶ。

 

「バトルだ。シャイニング・フレア・ウィングマンでSinトゥルース・ドラゴンを攻撃、シャイニング・シュート!」

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンが跳躍し、Sinトゥルース・ドラゴンに攻撃を仕掛けた。城壁をも砕く力がSinトゥルース・ドラゴンへと迫り。

 その力が真理の竜を破壊する直前、四方から出現した鎖がシャイニング・フレア・ウィングマンを雁字搦めに拘束した。

 

「これは……」

 

「フフフフフ。甘かったな遊城十代。罠カード、デモンズ・チェーンを発動させて貰った」

 

 

【デモンズ・チェーン】

永続罠カード

フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターは攻撃できず、効果は無効化される。

選択したモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。

 

 

 鎖に縛られたシャイニング・フレア・ウィングマンが抜けだそうともがくが、悪魔の鎖は英雄を捕えて離さない。

 

「これはモンスターの攻撃を封じ、モンスター効果を無効化するカード。シャイニング・フレア・ウィングマンの能力が封じられたことにより攻撃力は元に戻る」

 

「くそっ。カードを一枚セットしてターン終了だ」

 

 後一歩、後ほんの僅かにSinトゥルース・ドラゴンに届かなかった。

 禁じられた聖杯とスキル・サクセサーの効果も十代のエンド宣言と共に消失する。

 

「私のターン。発動しているSin Worldの効果発動。ドローフェイズにドローする代わりに、私はデッキに眠る『Sin』と名のつくカードをランダムに一枚手札に加える。

 速攻魔法、Sin Cross! 墓地に眠るSinモンスターを一体召喚条件を無視して特殊召喚。私が蘇らせるのはSinサイバー・エンド・ドラゴン!」

 

 

【Sin サイバー・エンド・ドラゴン】

闇属性 ☆10 機械族

攻撃力4000

守備力2800

このカードは通常召喚できない。

自分のエクストラデッキから「サイバー・エンド・ドラゴン」1体を

墓地に送った場合のみ特殊召喚できる。

「Sin World」がフィールド上に存在しない場合このカードを破壊する。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、

その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 Sinトゥルース・ドラゴンだけでも厄介だったというのに、その横に貫通能力もちで攻撃力4000のSinサイバー・エンド・ドラゴン。

 あらゆる時代から最強カードだけを集めたパラドックスのデッキは、歴代最強デュエリストたちを単独で相手していても、こうも容易く圧倒的な切り札を招きよせる。

 

「バトルフェイズ。Sinサイバー・エンド・ドラゴンでシャイニング・フレア・ウィングマンを攻撃、エターナル・エヴォリューション・バースト!!」

 

「させないぜ」

 

 パラドックスの攻撃宣言に対して遊戯が動く。

 

「リバースカード、聖なるバリア ーミラーフォースー!」

 

 

【聖なるバリア ーミラーフォースー】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。

 

 

 Sinサイバー・エンド・ドラゴンが吐き出したエターナル・エヴォリューション・バースト。それがシャイニング・フレア・ウィングマンの前に出現した不可視の壁に触れるとエネルギーの行き先が反転する。

 跳ね返ったエターナル・エヴォリューション・バーストがパラドックスのフィールドに襲い掛かり、Sinサイバー・エンド・ドラゴンを吹き飛ばした。

 

「ミラーフォースか。厄介なカードを伏せていたようだが、私はSinトゥルース・ドラゴンの効果発動。Sin 真紅眼の黒竜をゲームより除外し、Sinトゥルース・ドラゴンの破壊を無効とする!

 バトルはまだ続いているぞ。Sinトゥルース・ドラゴン、不動遊星のスターダスト・ドラゴンを破壊せよ」

 

「させねぇぜ。言っただろう、HEROは必ず勝つって。罠発動、ヒーローバリア!」

 

 

【ヒーローバリア】

通常罠カード

自分フィールド上に「E・HERO」と名のついたモンスターが

表側表示で存在する場合、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

 

 

 風車のようなバリアがSinトゥルース・ドラゴンの放つエネルギーを受け流していく。

 シャイニング・フレア・ウィングマンと遊星の場にいるスターダスト・ドラゴンは共に無傷だ。

 

「ええぃ、なぜ倒れない! バトルを終了……ターンエンドだ」

 

 パラドックスは舌打ちしたが、先程の攻防で殆どの防御カードは使い果たしてしまった。もう次の攻撃は流石に防ぎきることはできないだろう。

 次の攻防、それで長かったこの戦いにも決着がつく。

 

 

 

 

 

―――――昔の話をしよう。

 

 否、或いは現代に生きる人々にとっては遥かな未来の話、というべきだろうか。

 有史以来、人類は如実に発展してきた。人類が誕生し知恵や言語をもち『文明』を生み出した歴史は、一人の人間からすれば想像すらできないほど長大な時間だろう。

 だがこの星、地球にとってはほんの瞬きの間のことに過ぎない。

 その瞬きの間に、人類は星ですら予想できないほどの進歩を遂げた。

 翼もないのに空を飛び、鰓もないのに深海を泳ぎ、あらゆる命を許さぬ星々の海ですら人間は進出した。地球誕生以来、人間ほど多くの場所に活動地域を広げた生命体は他にはいない。

 けれど人類の進歩とは必ずしも良いものばかりではなかった。

 娯楽のためにと多くの動物を無慈悲に奪い、産業の発達の代償として空を汚し海を汚し、遂には人間は世界を滅ぼす禁断の兵器まで生み出してしまった。

 人間の欲望は無限大。欲望に限界はない。

 あれが欲しいと思って手に入れても、人間は直ぐにそれ以上のものを求め始める。

 求め手に入れ、求め手に入れる。人間の欲望はエンドレス・サイクル。終わりなどありはしない。

 

――――それは違う。

 

 終わりはあった。終わりは訪れてしまった。

 欲望の消滅、即ち人間社会の滅亡という形で驚くほどあっさりと人類誕生以来続いていた欲望の輪廻は終焉を迎えたのだ。

 切欠は一つのシステム。

 無限永久に活動を続け、エネルギーを供給する理想の動力機関モーメント。

 だがモーメントは欲望に反応する機能を備えていた。人々の悪しき欲望をシンクロ召喚とDホイールを通じて吸収し続けたモーメントはやがて逆回転を始め、

 

〝世界は滅びた〟

 

 遥か遠くの中華を祖とする儒教で語られていたことと同じだ。人類を発展させた原動力たる〝欲望〟が対には人類そのものを滅ぼしてしまったのだ。

 しかし滅びた世界にまだ呼吸する命がいた。

 

「アポリア…アンチノミー…パラドックス…」

 

 人類を救うため己を捨て去り〝英雄〟となった男、Z-ONEは三人の同志を集めた。滅亡した世界で自分と同じように生き残ってしまった三人の人間を。

 滅んだ世界、ただただ絶望しかない世界でも四人は歩き続けた。四人が願ったのはたった一つ、滅びの回避。

 命あるものは死ぬのが必然。ならばその滅びを受け入れるのか。――――それはNOだ。

 滅びとは死だ。四人のいる時代に先はない。100年が経とうと1000年が経とうと死んだ世界は死んだままでしかない。

 ならば未来ではなく過去でならば。

 滅んだ世界のたった四人の生き残り、彼等は破滅の未来の回避こそを自分達の義務とした。幸い方法はあった。四人は研究の末、歴史を渡る術を得ることができたのだ。

 発達した科学で延命を重ね、仲間たちが一人また一人と倒れていく中で遂に滅びの原因を見つけ出した。

 シンクロ召喚、そしてデュエルモンスターズ。モーメントの暴走はこの二つが密接に関わっていることに。

 だが本格的な行動に出る頃には、Z-ONEを除いた三人は寿命に倒れ、三人は人格と記憶を受け継いだロボットとして友であるZ-ONEと共にあった。

 

――――同じ絶望に苦しんだ者達は、

 

 人ではなくなった三人は其々の方法から滅びに対してアプローチする。

 絶望の番人アポリアは己を三つの絶望を経験した三人へと分け、遥かな過去でイリアステルを組織し、時間軸に干渉と改変を行った。

 最もZ-ONEと付き合いの長いアンチノミーはZ-ONEの意志を直接受けて動く尖兵となった。

 そしてパラドックス。彼はデュエルモンスターズこそ全ての原因と捕え、その消滅のために動き出した。

 

――――破滅の未来を救うために、

 

 妥協はしない。滅びの未来の回避、その為ならばあらゆるものを犠牲にする。手段も選びはしない。

 例え過去の人間達から非道だと叫ぼうと、決してその身は歩き続けることを止めはしない。

 罪悪感がないといえば嘘になる。人々を殺すのが楽しいはずがない。だが世界を救うためならば例え罪のない赤子だとしても、その手を返り血に濡らそう。

 

――――行動を起こした。

 

 だからパラドックスはここに立っている。

 デュエルモンスターズの長い歴史の中で〝最強〟と謳われた四人のデュエリストたちと相対しているのだ。

 シンクロ召喚、ひいてはデュエルモンスターズの消滅。

 デュエルモンスターズを消滅させるのに一番早いのは創造主ペガサス・J・クロフォードの死、それがパラドックスの導き出した答えだった。

 ただ殺すのではない。一度ペガサスがデュエルモンスターズを生みだし、ある程度世界に浸透したところで叩きつぶす。これが肝心だ。

 歴史には運命づけられた必然事項というものがある。それは核兵器の開発であるし、宇宙船の開発であるし、モーメントの開発であるし、デュエルモンスターズの開発でもある。

 デュエルモンスターズ誕生前にペガサスを殺しても、歴史の後押しを受けた別の人間が同じようにデュエルモンスターズを生み出すだろう。

 だから一度デュエルモンスターズを生み出させ、完全に世界に一般化する前に殺すのだ。

 創造主たるペガサスがデュエルモンスターズそのものに殺されるという最大のスキャンダルをもって、デュエルモンスターズの歴史は終焉へと向かい歴史は変革される。

 他のIFなどはない。シンクロ召喚により滅んだ未来を回避するために、これが唯一の方法だ。

 

――――本当に、そうなのだろうか?

 

 なにかもっと別の方法はなかったのか。誰も殺さずに済むような方法はありはしなかったのか。

 

「馬鹿な。これ以外に正しい答えなどありはしない」

 

 パラドックスは自分に言い聞かせるように囁く。

 迷うのはこれまでだ。もう直ぐ終わる。四人の英雄達を倒し、ペガサス・J・クロフォードを殺し。

 パラドックスは世界を救うだろう。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 二度目となる丈のターン。彼はSinトゥルース・ドラゴンを見据えながらカードを引いた。

 

「這い蹲るがいい、絶望するがいい。ふはははははははははは。もはや貴様等にはSinトゥルース・ドラゴンを倒す術などあるまい」

 

「そいつはどうかな」

 

 あらゆる絶望に包まれた、滅びの世界の如きフィールドでそれでも武藤遊戯は不屈だった。

 心臓が脈打つ。何故か武藤遊戯の顔がパラドックスにとって掛け替えのない永遠の友たちの横顔と被る。

 

「ふん。この状況で他に何ができると言うのだ? この戦いの趨勢は決している。なにもかもが無駄だ」

 

「へぇ。だったらこっちも聞かせて貰うぜパラドックス。お前ならこの状況で諦めるのか?」

 

「なにっ?」

 

 十代からの思いもよらぬ問い掛けにパラドックスは言葉を詰まらせる。もし自分がこの状況に置かれれば諦めるか否か。当然だ、と言い返せなかった。

 涙が枯れ果てても。奇跡を願い未来へと手を伸ばし続けた。滅びではない、光り輝く未来の色を見つける為に。

 どれほど絶望的な状況でも諦めずに戦う四人のデュエリストは、パラドックス自身の姿ではないか。

 

「俺はお前の言う滅びの未来を見たわけじゃない。けれどお前が諦めずに未来を求めるように、俺も未来を求めることを止めることはできない。

 未来で待っている俺の仲間たちの為にもパラドックス! お前と同じように、俺は未来を諦めない!」

 

「誰だって死ぬのは恐い。それが世界の死となればもっと恐い。滅びの未来を回避するために行動するのは正しい選択だ。だが未来には無限の可能性がある。何気ない一日、右を行くか左を行くか。たったそれだけのIFで歴史は簡単に行き先を変えてしまう。お前は本当に全ての歴史を検証したのか。別の可能性が絶対にないと言い切れるのか?」

 

 不動遊星と宍戸丈。二人もまた不屈の闘志でパラドックスを見る。

 

「ふん。口先だけならばなんとでも言える。本当に別の可能性があると言うのならば、それを見せてみるがいい!」

 

 瞬間だった。不動遊星のシグナーの証たる痣が輝き、天空から赤き竜が嘶いて姿を見せた。

 それだけではない。遊城十代のもとからは正しい闇の力――――ネオスペーシアンやユベルが。丈からは三体の邪神たちが。そして遊戯のデッキからは三幻神が。

 四人のデュエリストと共にあった力が集まっていく。

 

「これは……な、なにが……起きているというのだ……。こんなものは、私の研究には――――」

 

「未知の可能性が見たいならば、それを見せよう」

 

「宍戸、丈?」

 

 ブラックデュエルディスクに集められたエネルギーが流れ込んでいく。そのエネルギーの総量は――――計測不能。

 これはシグナーやネオスペーシアンや三邪神や三幻神だけではない。全ての人間たちが持つ当たり前の心〝生きたい〟という願いの塊だ。

 

「行くんだ丈、今こそ俺達の力を結束させるんだ!」

 

「はい遊戯さん! 俺は魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動! フィールドに二体のフォトントークンを特殊召喚する!

 ただしこのトークンは攻撃することもできずシンクロ素材にも出来ない。また光属性以外のモンスターの召喚も封じられる。

 

「今更二体のトークンを増やしたところでなんになる!?」

 

「更に! 手札に眠るこのカードは攻撃力2000以上のモンスターを生け贄にすることで特殊召喚できる。二体のフォトントークンを生け贄に捧げ、銀河より現れよ! 銀河眼の光子竜を特殊召喚!」

 

 

【銀河眼の光子竜】

光属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは自分フィールド上に存在する

攻撃力2000以上のモンスター2体を生け贄にし、

手札から特殊召喚する事ができる。

このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップ時、

その相手モンスター1体とこのカードをゲームから除外する事ができる。

この効果で除外したモンスターは、バトルフェイズ終了時にフィールド上に戻る。

この効果でゲームから除外したモンスターがエクシーズモンスターだった場合、

このカードの攻撃力は、そのエクシーズモンスターを

ゲームから除外した時のエクシーズ素材の数×500ポイントアップする。

 

 

 彼の青眼の白龍と全く同じステータスをもつ〝銀河〟の瞳をもつドラゴンが降臨した。

 だが攻撃力5000のSinトゥルース・ドラゴンには到底及びはしない。

 

「今更攻撃力3000のモンスターを召喚して、なにをするつもりだ?」

 

「それはこれから見せる。十代、遊星、二人の力を貰う」

 

「はい、俺達の未来を――――」

 

「ガッチャ! 任せたぜ、丈さん」

 

 そして三人の声がシンクロする。

 

「「「俺はレベル8の銀河眼の光子竜、シャイニング・フレア・ウィングマン、スターダスト・ドラゴンをオーバーレイ!!!」」」

 

「オーバーレイ……だとッ!?」

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンが悪魔の鎖を引きちぎる。

 そして銀河眼の光子竜、シャイニング・フレア・ウィングマン、スターダスト・ドラゴンの三体のモンスターが光の渦に呑み込まれていった。

 データを検索する。該当……ゼロ。パラドックスが未だ嘗て見た事のない現象が目の前で発生している。

 

「「「三体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!!!」」」

 

 再びエクシーズ召喚を再検索。だがやはり該当するのはゼロ。

 ただし一つだけ言えることがある。あれはシンクロとは全く別のシステム、別の法則によるものだと。

 

「「「「逆巻く銀河よ、今こそ、怒涛の光となりてその姿を現すがいい! 降臨せよ、未知なる可能性! 超銀河眼の光子龍!!!」」」

 

 

【超銀河眼の光子龍】

光属性 ★8 ドラゴン族

攻撃力4500

守備力3000

レベル8モンスター×3

「銀河眼の光子竜」を素材としてこのカードがエクシーズ召喚に成功した時、

このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するカードの効果を無効にする。

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

相手フィールド上のエクシーズ素材を全て取り除き、

このターンこのカードの攻撃力は取り除いた数×500ポイントアップする。

さらに、このターンこのカードは取り除いた数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。

 

 

 全く未知の方法により、全く未知のモンスターがフィールドに舞い降りる。銀河の瞳をもちし竜は星屑の竜と輝きの英雄の力を得て新生した。

 遥かなる未来か或いは未知なる可能性か。ここではない……パラドックスより遠い世界において、兄弟の絆が生み出した魂のカード。

 あらゆる因果を超えて超銀河眼の光子龍は時空を超えた舞台に降臨した。

 

「まだだ! 例えそのモンスターとシステムが私の知らない未知の可能性だったとしても私の得た〝真理〟には届かない」

 

「おいおいパラドックス、俺のことを忘れて貰っちゃ困るぜ。罠発動! ブラック・スパイラル・フォース! このカードはフィールドにブラック・マジシャンがいる時、モンスター1体の攻撃力を倍にする!」

 

 

【ブラック・スパイラル・フォース】

通常罠カード

自分フィールドに「ブラック・マジシャン」が

表側表示で存在する場合に発動する事ができる。

自分フィールドの「ブラック・マジシャン」以外の

表側表示のモンスター1体の攻撃力はエンドフェイズまで倍になる。

このカードを使用するターン、「ブラック・マジシャン」は攻撃する事ができない。

 

 

 遊戯のフィールドに存在し続けた黒魔術師がその魔力の全てを超銀河眼の光子龍に送る。

 四人の力、その全てが超銀河眼の光子龍に集まった。

 

「攻撃力9000だと!?」

 

「バトル! 超銀河眼の光子龍でSinトゥルース・ドラゴンを攻撃!」

 

「ぐっ……だ、だが私はぁぁあああ!! リバースカードオープン、聖なるバリア ーミラーフォースー! 貴様等のフィールドのモンスターを全滅させる!」

 

 例え未知のモンスターだったとしても、モンスターであることには変わりはない。

 Sinトゥルース・ドラゴンの周囲に展開される聖なる障壁。超銀河眼の光子龍の攻撃はバリアに跳ね返され、

 

「諦めはしない! 罠発動、スターライト・ロード! 自分のモンスター二体以上を破壊する効果の発動を無効にし破壊する!」

 

「馬鹿な!」

 

「これが、俺達の未来に向かう力だ! 行け、スターダスト・ドラゴン!!」

 

 スターダスト・ドラゴンの幻影が聖なる障壁を打ち砕く。もはやSinトゥルース・ドラゴンを守る盾はない。

 

「「「「アルティメット・フォトン・ストリーム!!!!」」」」

 

 銀河の光がSinトゥルース・ドラゴンを――――矛盾の果てにパラドックスが手に入れた真理を包み込んでいく。

 夢破れ倒れるというのに不思議と悔しさはなかった。ただどこか光まみれの清々しさがある。

 

「やっと……見つけた……。これが……別の、可能性……」

 

 Z-ONE、アポリア、アンチノミー。三人の友を思い浮かべ、最期に漸く得た煌めきを確かめるとパラドックスはゆったりと瞳を閉じた。

 

 

 

 

「今日のために作ったスペシャルカードデス。お持ち帰りくだサーイ」

 

「やったー! ちょうだい! ありがとう!」

 

 ビルの屋上から丈はデュエル大会後の喧騒を見下ろしていた。

 パラドックスの敗北と消滅により、この大会で起きてしまった惨劇は最初からなかったことになった。だから崖下にあるのは平和で楽しい光景だけ。デュエルモンスターズ創造主ペガサス・J・クロフォード会長にも傷一つとしてない。

 取り敢えず丈はほっと一息つく。

 パラドックスに囚われていたサイバー・エンド・ドラゴンなどといったカードも、彼の敗北と同時に元の世界へと帰っていった。きっと其々の時代のデュエリストたちに引っ張られていったのだろう。

 これで丈が――――いや、この時空を超えた舞台に集まった四人のやるべきことは終わった。

 

「もう行くのか?」

 

 この時を超えたデュエルで誰よりも頼もしい存在だったデュエリスト、武藤遊戯が微笑みかける。

 

「ええ。俺はNDLのシーズン中ですから。全米王者に三冠王と新人王諸々のタイトル総なめ狙っているので浦島太郎になるのは御免です」

 

「そういや俺も後でちょっと用が入ってたっけ。世界中でモンスターが暴れまわってるって異変を聞いて用事後回しにしてすっ飛んできたからな」

 

「でも、また会える気がします そのときは、オレとデュエルしてください!」

 

「あ、遊星! 抜け駆けなんてずるいぜ。遊戯さん、俺ともまたデュエルして下さい!」

 

「十代、こういうのは年功序列だろう。ということで最初に遊戯さんとデュエルするのは俺だ」

 

 三人のデュエルの申し込みに力強く遊戯は頷く。

 

「ああ、もちろんさ。またいつかきっと会える。デュエルモンスターズを信じる限り、俺達の絆はずっと繋がっている!」

 

 赤き竜が遊戯以外の三人を包み込んでいく。

 そう、いつかいっとまた会える。時代という壁が四人の間にはあるが、こうして出会えたということは時間の流れは確かに繋がっているのだ。生きていればそのうち会う機会もあるだろう。

 三人は其々の思いを胸に元の時代へと帰っていった。

 

 

 

 

 元の時代に戻ってきた丈の目に飛び込んできたのはデュエルドームだった。

 パラドックスにより破壊された惨劇の後などはどこにもない。子供達がカードカップを買い、大人たちが贔屓のプロについて語り合う。ごくごく平和でのどかな光景があった。

 丈たちがパラドックスを倒したことで歴史が修正され、パラドックスが引き起こした事件は最初から〝なかったこと〟になったのだろう。

 

「やぁ。今戻って来たのかい? お疲れ様、丈くん」

 

 突然背中に掛かってきた声に振り向くと、丈は目を見開いた。

 

「貴方、は――――?」

 

 そこに立っていたのはついさっき一緒に戦っていた史上最強のデュエリスト、武藤遊戯だ。

 だがついさっきまで居た武藤遊戯と今目の前にいる武藤遊戯は同一人物のようでいて別人だった。それは彼がさっきまで話していた武藤遊戯とは別の魂だからでもあるし、あれから時間が経ち少年から大人へ成長していたからでもある。

 歴史は続いている。だからこういうこともある――――そうは思ったが、よもやこうして元の時代に戻ってきた途端に会うのは不意打ちだった。

 

「こういう場合、さっきぶりか久しぶり。どっちを言うべきなんでしょうね」

 

「ふふふ。僕も過去にタイムスリップしてきた人とこうして現代で再開するのは初めてだからね。どっちにするべきかはちょっと分からないな」

 

「是非感想を教えて下さい。俺も五年後に十代相手に同じことをしようと思うので」

 

「君も人が悪いね。だけどこうやって考えると時間移動っていうのは面白いな。僕は何年か前にパラドックスと戦い倒した。君はついさっきパラドックスを倒して戻ってきた。

 だけどこれから五年後にはパラドックスが活動を始めて、十代くんがパラドックスを倒しに行くんだね」

 

「仰る通りです。ところで遊戯さん、ついさっきした約束を覚えていますか?」

 

「次に会った時はデュエル、だったかい?」

 

 自然と二人はデュエルディスクを起動させていた。

 武藤遊戯はバトルシティトーナメントから愛用し続けているデュエルディスクを。丈はキースとの戦いで手に入れたブラックデュエルディスクを。

 二人はお互いに自分が最も信頼するデッキをセットして向かい合う。

 

「「デュエル!」」

 

 人知れず再会のデュエルが始まった。

 

 

 

 

――――超融合! 時空を越えた絆 完――――




 長かった劇場版編でしたがこれにて完結です。劇場版通り遊星をフィニッシャーにしようと思ったのですが、一応この作品の主人公なので丈にフィニッシャーになって貰いました。とはいえ最後に遊星が美味しいところを持っていきましたが。
 ちなみに「超銀河眼の光子龍」とか出しましたが、これは劇場版だけの特別出演なので今後本編で丈がエクシーズ召喚をするようになる、というわけではありません。
 余談ですが元の時代に戻ってのVS遊戯は――――――20ターンに及ぶ激戦の末、僅差でAIBOが勝利しました。
 劇場版も終わったので、そろそろ原作突入がもう目前ですね。





  【次章予告】





――――長い時間の果てに。

「我が内に住みし最高位の邪神よ。時空を越えた舞台に宵闇を齎すがいい。従属神と二体のしもべの魂を供物とし、降臨せよ! 邪神アバター!」

「朋友の化身たるしもべよ! 今こそその魂を継ぎメタモルフォーゼしろッ! 降臨せよ我が魂! 我が誇り! フィールドを圧巻し、この俺に勝利の美酒を授けろ! サイバー・エンド・ドラゴンッッ!」

「これが友との思い出がくれた僕の力だ。バトル! モンスターたちよ、藤原の心に憑りつく邪悪なる意志を焼き払え! 真紅眼の黒竜の攻撃、黒炎弾!」

「ダークネスの世界により生誕せし無色なる竜よ! 未だダークネスを受け入れられぬ哀れなる者に真理を突きつけるがいい! ダークネスより舞い降りろ。クリアー・バイス・ドラゴン!!」

――――遂に二つの物語が、

「HEROにはHEROに相応しい戦い舞台ってもんがあるんだ!」

「一、十、百、千、万丈目サンダー!!」

「カウンター罠、ドゥーブル・パッセ!」

「小さいからって甘く見るな!」

――――交差する。

「セブンスターズの戦いにあたって、アメリカ・アカデミアに留学中の三人に帰還要請を送りました。程なく彼等が援軍に駆けつけるでしょう」

「フッ。二年ぶりだな。俺達〝四天王〟がデュエル・アカデミアに揃うのは」

「アンタが宍戸丈さんか?」

「そういう君は遊城十代。……一年ぶりだな」



宍戸丈の奇天烈遊戯王~アカデミア卒業編~


――――120話以上の話数を重ね、物語は漸く原作に突入する。





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第八章 アカデミア卒業編
第126話  王の帰還


 ダークネスの脅威がデュエル・アカデミアを襲ってから二年の月日が流れた。

 時代が移ろえばそこにいる人も変わる。カイザーと畏怖された丸藤亮は最終学年たる三年生となり、アカデミアにも新しい風が吹こうとしていた。

 しかし新しい風が吹くのならば、新しい災厄が訪れるが必定。デュエル・アカデミアに再び暗い影が忍び寄ろうとしていた。

 

「たっくなんなんだろうな俺達に用事なんて。……まさか、補習とか」

 

 うげっと露骨に厭そうな顔をするのは遊城十代。アカデミアの一年生にして、本校とノース校の対抗試合の代表に選ばれるほどの天性のプレイングセンスと、凄まじい引きの強さをもつデュエリストだ。

 三年のカイザー亮と比べればまだまだ隙のあるプレイングが目立つが、その実力は三年生を除けば最強クラスといっていいだろう。

 

「馬鹿か十代。俺や天上院くんにカイザー、あと三沢まで呼ばれてるのに補習なはずがないだろう。俺はお前と違って真面目に授業を聞いてるんだからな」

 

 神経質そうに万丈目が言う。アカデミアの学生でありながら万丈目が着込んでいるのは黒を基調としたノース校の制服だ。

 万丈目の言葉に明日香が頷く。

 

「同感ね。私も補習を受けさせられるような酷い成績をとった覚えはないし。捕捉するなら補習を知らせるのに一々校長が呼び出しするなんて変だし、学年の違う亮が一緒に呼ばれるわけないわ。ねぇ亮」

 

「…………………」

 

「亮?」

 

 明日香が話しかけても、カイザーは心ここに非ずといった様子で歩きながらここではない遠くを見るような目をしていた。

 

「どうしたの?」

 

 怪訝に思った明日香が肩を小突くと、漸くカイザーは我に返る。

 

「……っ! すまん。少し考え事をしていた。なんの話だ?」

 

「大したことじゃないわ。それより亮が考え事に没頭して話しかけられても気付かないなんて珍しいこともあるのね」

 

 丸藤亮というデュエリストはデュエルをしていない時であっても、常に落ち着いて隙のない佇まいをしている男だ。

 こうやって歩きながらぼおっとするなんて、明日香はこれまで一度も見た事が無かった。

 

「大した事じゃない。ただ最近なにやら妙な空気だからな。胸騒ぎがしていただけだ」

 

「ふーん。カイザーも大変なんだなぁ――――ってあれ? クロノス先生?」

 

「ど、ドロップアウトボーイ! それにセニョールたち」

 

 十代が呑気に言っていると、校長室の前でクロノス先生と鉢合わせした。クロノス先生は校長室の取っ手を掴んだまま固まる。

 優秀な生徒(主にオベリスク・ブルーの生徒)を贔屓して、成績の悪い生徒は厳しく接するという実力主義社会のアカデミアの校風を現すような先生だが、その先生にとって筆記がドロップアウトでありながら実技がトップクラスのレッド生たる十代は苦手な相手なのだ。

 もっとも苦手に思っているのは実はクロノス先生だけで、十代の方は悪印象をもっていないのだが。

 

「クロノス教諭も校長に呼ばれたのですか?」

 

「なんでスート? ということは、セニョール丸藤たちも校長に。どういうことなノーネ。私は聞いてなイーノ」

 

 クロノス先生まで呼ばれたということはどうやら本当に補習という線は消えたようだ。幾らなんでも先生が補習を受けさせられるわけがない。十代はぼんやりとそんなことを考えた。

 そうなると問題はどうしてカイザー、明日香、万丈目、三沢、クロノス先生、自分が呼ばれたかだが。

 

(なんでだ?)

 

 六人には寮も別々なら、学年も生徒かも統一されておらずバラバラだ。

 共通点があるとすればアカデミアに住んでいるということくらい。どうしてこの六人なのか考えても十代には分からなかった。

 

「ここにいる六人の共通点は全員がデュエルにそこそこ覚えがあるということだな」

 

 だが十代に分からずとも、他の者はそうではない。アカデミア生で一番博識な三沢が六人の共通点を早々に見つけ出した。

 言われてみれば確かにそうだ。クロノス先生は実技の最高責任者で実力は折り紙つきだし、万丈目はノース校でトップになる腕前だし、明日香も女子生徒では一年にしてナンバーワンの実力者だ。三沢はイエロー寮所属でありながら筆記は学年トップ。そして自分はアカデミアの代表生徒に選ばれたことがある。

 

「じゃあ三沢、俺達を呼びだしたのはこれからデュエルをするってことなのか?」

 

「そこまでは分からない。だが理由は校長先生に会えばはっきりするだろう」

 

 尤もな意見だった。

 十代たちは「失礼します」と断りを入れてから、校長室に入室する。校長室の机では頭を輝かせた鮫島校長が珍しく重苦しい表情で六人を待っていた。

 

「よく来てくれました皆さん」

 

「校長。俺達に用事とは」

 

 学校内では校長と生徒という立場を守っているが、カイザー亮と鮫島校長はサイバー流の師匠と弟子の関係だ。

 二年前のピケクラ事件のせいで一時期師弟関係崩壊の危機もあったが、今は一応は仲は修復されている。その亮が代表して単刀直入に本題をぶつけた。

 

「おほんっ。これは一般生徒や一般教員も知らないことなのですが、このデュエル・アカデミアの地下には三幻魔と呼ばれるカードが封印されています」

 

「三幻魔?」

 

 聞いた事のないカテゴリーに十代は首を傾げた。もしかして自分の勉強不足かと隣りにいる明日香を見るが、明日香も首を横に振った。どうやら明日香も知らないカードらしい。

 

「三幻魔とはその名の通り恐るべき魔の力をもつ三枚のカード。その力は彼の三幻神にも匹敵すると言われ、このカードの封印が解かれると、天は荒れ、地は乱れ、世界を闇に包みこみ破滅に導くと云われています……」

 

「ま、マンマミーア! そ、そんなオカルト話なんてありえないでスーノ!」

 

「いえ。そうとも言い切れません」

 

「せ、セニョール!?」

 

 逸早く亮はクロノス先生の言葉を否定する。

 

「俺も三年前、同じような魔の力をもつカードと遭遇し、戦った。最終的に友たちの結束で勝利することが出来たが、あの時に見たカードたちは嘘偽りなく世界を破壊するだけのエネルギーをもっていた。

 三幻魔が本当に三幻神に匹敵しうるだけの力を持っているというのならば、鮫島校長の仰った事は現実に起こりえる脅威となる」

 

 鮫島校長がゆっくりと重々しく頷いた。

 

「丸藤君の言う通りこれは本当のことです。現在セブンスターズと呼ばれる三幻魔封印を解き放つ鍵、七星門の鍵を狙ってきています。

 セブンスターズは全員が恐るべき実力をもつデュエリストたち。彼等はデュエルによってこの鍵を奪い、三幻魔の封印を解き放つ気です」

 

 鮫島校長が古めかしい木箱を開くと、そこには七つの鍵が納められていた。これが七星門の鍵なのだろう。

 

「あなたたちはこの学園でも屈指の実力を持つデュエリストです。その力を見込み、この鍵を託したい。そしてセブンスターズからこの鍵を守ってもらいたいのです」

 

 デュエルに覚えのある者ばかりが集められた理由が氷解した。

 七星門の鍵を奪うには、鍵の所有者を倒さなければならない。例えば凄腕の泥棒が厳重に守られている金庫の中から七星門の鍵を奪ったとして、その所有者をデュエルで倒さない限り〝奪った〟としても鍵が〝奪われた〟と認めないのだ。

 鍵は正しい所有者が封印を解除しようとして初めて成立する。故に鍵を守る最善の方法は金庫に入れることではなく、凄腕のデュエリストに鍵を委ねること。

 そうすればそのデュエリストを倒さない限り鍵を奪うことはできない。

 

「話はここまでです。セブンスターズは危険な相手です。これまでのデュエルとは一味も二味も違う厳しい戦いとなることでしょう。

 だから無理強いはしませんが、ですがもしセブンスターズと戦う覚悟を持っていただけるなら、この七星門の鍵を受け取っていただきたい」

 

「勿論! 勉強なら兎も角、デュエルだってんなら望むところだぜ!」

 

「ええぃ! 十代、この俺より先に出るとはどういう真似だ!」

 

 十代が逸早く鍵を手に取れば、万丈目が対抗して鍵をとる。明日香やクロノス先生もそれに釣られてというわけではないが、鍵を手にとっていった。

 しかし最後の一人、亮は鍵を持つと暫し固まる。

 

「どうかしましたか丸藤くん」

 

「質問を宜しいでしょうか。ここにある鍵は見たところ全部で七つあるようですが、ここにいるのは俺を含めて六人だけ。一人足りないと思うのですが」

 

「それでしたら問題ありません」

 

「どういうことですか?」

 

「セブンスターズの戦いにあたって、アメリカ・アカデミアに留学中の三人に帰還要請を送りました。程なく彼等が援軍に駆けつけるでしょう」

 

「――――!」

 

 亮が目を見開いた。だが驚愕を露わにしたのは亮だけではない。万丈目も、明日香も、三沢も、クロノス先生までもが驚きで固まっている。

 唯一人まるで鮫島校長の言った事の意味が分からない十代だけがポカンと呆ける。

 

「天上院くんと藤原くんは留学先の都合により、少し帰還が遅れることになりそうですが、宍戸くんに関しては既にこちらに向かっているとの報告を受けています。だから最後の鍵は彼に」

 

「ふ、三幻魔を相手するのにあいつほどの適任はいないでしょう。では俺はこれで。あいつが戻って来る前にデッキの調整をしなければなりません」

 

「カイザー」

 

 亮は嬉しそうに微笑を浮かべると、背を向けて校長室から出ていく。その足取りはカイザーと畏怖された男らしくなく弾んでいた。

 

「フッ。二年ぶりだな。俺達〝四天王〟がデュエル・アカデミアに揃うのは」

 

 十代はそんなカイザー亮の背中を呆けながら見送る。

 だが十代の脳裏に引っ掛かるものが一つ。四天王や彼等なんて言われても良く分からないが、宍戸という名前については心当たりがあった。

 どこでその名前を聞いたのかは思い出せないが、どこかで聞いた事のある名前なのは確かだった。

 

 

 

 

 校長室での話を聞き終わった十代たちは、待っていた翔たちと合流してセブンスターズのことを話した。

 セブンスターズの事を聞いた翔は自分が戦う訳でもないのに脅えてどもりながら、

 

「せ、セブンスターズとの戦いなんて、兄貴。本当に大丈夫なんっスか?」

 

「任せろって。セブンスターズがデュエルでくるっていうなら、俺はいつも通り思いっきりデュエルするだけだぜ。そういや三沢、校長が言ってた四天王とか呼び戻すとかなんのことなんだ?」

 

 十代が聞くと、また三沢と明日香、万丈目まで黙り込んでしまう。

 それは翔も同じだった。十代と違って〝四天王〟について心当たりのあった翔は「あっ!」と口を押えて驚いたのだ。 

 

「なんだよ翔も知ってるのか? ってことは俺だけのけもんかよ!」

 

「……アカデミア生に入る様な生徒なら、誰でも知っていると思うんだがな」

 

「ま、十代だし」

 

「ふん。これだからドロップアウトは……」

 

 万丈目たち三人が緊張を緩ませて脱力する。

 だが十代だけ知らないのでは話が進まない、と代表して物知りな三沢が説明するため口を開いた。

 

「デュエル・アカデミアの四天王……その名の通り本校、いや全てのアカデミアにおいて頂点に君臨する四人のデュエリストのことだ。

 その実力もさるものながら、全員が〝王〟に因んだ異名からそう呼ばれるようになった。その強さは学生の領域など入学時点で置き去りにしていて、トッププロすら大きく凌ぐという」

 

「そんな強いデュエリストが四人もアカデミアにいるのか?」

 

「そうっスよ」

 

 三沢の後を翔が引き継ぐ。翔は自分の兄が戻っていったブルー寮の方角を見つめながら、

 

「四天王の一人が兄貴も知ってる僕のお兄さん。帝王(カイザー)の異名をもつサイバー流の継承者っス」

 

「……!」

 

 カイザーが四天王に名を連ねていたことは十代にとって驚きだが、同時に納得できることでもあった。

 一度戦った十代はカイザーの強さを良く知っている。あの強さならアカデミア最強の頂きにいてもなにもおかしくはない。

 だがカイザーが四天王の一角となると、カイザークラスのデュエリストが他に三人いるということになる。

 

「明日香。他の三人はどういう人なんだ?」

 

「二人目の四天王は私の兄の天上院吹雪。(キング)の渾名で呼ばれる真紅眼の黒竜を筆頭とするドラゴン族の使い手。

 性格は亮と違って不真面目というか色々自由な人だけど、アメリカにあったトッププロも参加するハリウッド大会で優勝を飾った実力者よ。普段はふざけているのが瑕なんだけど」

 

「三人目が光属性天使族モンスターを自在に操ることから〝天帝〟と呼ばれた藤原優介。若干十三歳からオーストラリア・チャンピオンシップを三年連続制した天才。

 四天王では唯一の高等部からの編入組だが、本校の理事長が直々に特待生扱いでスカウトしてきたという猛者だよ。こと才能においては四天王随一だという」

 

「そして――――」

 

 明日香と三沢の説明の後、万丈目が過去に浸るように目を瞑りながら言った。

 万丈目のデッキに眠る精霊――――光と闇の竜の心臓が跳ね上がる気配を、十代は感じた。

 

「最後の一人が宍戸丈。十五歳にしてカイザーやキング、そして元全日本王者や元全米王者を下して、I2カップを制して〝魔王〟と呼ばれた男だ」

 

「宍戸、丈……」

 

 そこまで聞いて漸く思い出した。

 宍戸丈が優勝を飾ったというI2カップ。その大会の映像を十代は十三歳の頃にTVで見ている。あの時は画面越しで壮絶なデュエルを繰り広げる魔王と帝王の姿に憧れもしたものだ。

 

「カイザーやキング吹雪と共に復活したネオ・グールズを壊滅させ、三邪神の担い手になり、ペガサス会長の誘いで学生でありながらNDLへプロ入り。アカデミアでは一番の出世頭だな」

 

 三沢が腕を組みながら言うと、万丈目が続ける。

 

「去年は新人王獲得どころか日本人としては初めての全米ランキング1位に上り詰めたが、今年は僅差でバンデット・キースに王者を譲った。

 だが一年とはいえ全日本ランキング一位のDDと同じ場所まで上り詰めた生きる伝説だ。もっとも最後にはこの俺が超えるがな。はははははは!」

 

「いや流石にそれくらいは知ってるぜ。TVで毎日のように放送されてたし」

 

 確か全米王者と全日本王者が戦って世界王者を決めるタイトルマッチは四年に一度だから、もし宍戸丈が来年全米ランキング一位に返り咲けば来年は宍戸丈がDDと戦うことになるのだろう。

 

「尤も他の三人はアメリカ・アカデミアに留学中でここにはいない。――――鮫島校長はその三人を呼び戻したんだ。三人がアカデミアに戻れば事実上の最強戦力が結集することになるな」

 

「そっか。なんかワクワクしてきたぜ。魔王なんて呼ばれて三邪神の担い手なんてゲームのラスボスみたいじゃねえか。どんなデュエルするんだろうな」

 

「ふん! お前みたいな劣等生に宍戸さんが三邪神を解放などするものか。この俺が戦ったときすら三邪神を使わなかったんだぞ」

 

 まだ見ぬ魔王というデュエリスト。それに王と天帝。

 これだけのデュエリストを呼び寄せたというのであれば、万丈目たちが緊張したのも無理はない。

 そして宍戸丈はもう直ぐ戻ってくるという。十代はぐつぐつとした闘争本能で武者震いをした。

 




 漸く原作突入。ここまで長かったなぁ。


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第127話  天空の戦い

 流れゆく雲を眺めながら、飛行機のシートに腰を下ろしてぼんやりとしていた。

 個人用にチャーターした飛行機なので、丈以外に他に客の姿はない。丈を除けば飛行機に乗っているのはキャビンアテンダントが数名と、パイロットが二人だけだ。

 飛行機を丸ごと貸し切るなど普通の金持ちに出来るようなことではないが、丈がプロとして稼いだ金額はかなりのものとなっている。飛行機を一台貸し切ることは不可能なことではない。

 だが別に丈はプロとなり所謂〝金持ち〟といえる人間になったが、浪費癖があるわけでも贅沢が大好きなわけでもなかった。かといって質素倹約が好きではないが、余りこういう風に金を使うことはない。

 けれど今回は特別だ。

 

(三幻魔と、それを狙うセブンスターズか。退屈しない人生だよ本当に)

 

 丈は目を瞑り過去を回顧する。

 三年前。つまり中学三年生の頃はネオ・グールズの戦いに巻き込まれ、三邪神と戦った。

 二年前の高校一年生の時にはダークネス世界の侵食に抗った。

 一年前、去年は歴史改変事件に巻き込まれ、自分と同じように集結した伝説のデュエリストたちとパラドックスと戦った。

 そして今年は三幻魔だ。これで四年連続、丈は世界の危機とやらに関わった計算になる。

 最近もしや自分はなにかに呪われてもいるのではないか、と思わない事もない。

 お祓いでも頼もうかと一時期真剣に悩んだが、どうせ無駄だろう。なにせ自分には悪霊なんて裸足に逃げ出す三邪神が住みついているのだから。

 祈祷師一人で三邪神はどうこうできるものではないし、折角安らいでくれている三邪神を下手に刺激したくもない。

 

「……ふぅ。流石に飛行機一つ丸ごと貸し切りはやりすぎかと思ったが、これはこれで気分が落ち着く」

 

 ここ最近自分の周りでなにやら奇妙な気配を感じていることもあり、多少勿体ないと思いつつも飛行機を丸ごとチャーターすることにしたのだが正解だったようだ。

 プロでそれなりに顔が売れてしまった自分はアメリカにおいても日本においても有名人だ。自画自賛ではなく事実、自分の顔はそこいらのスターよりも知られているだろう。 

 だからこうやって飛行機などに乗ると変装して、他の誰かにばれることを警戒しながら飛行機旅をしなければならないのだ。

 そのため意味で自分以外の客が一人もいないという状況は心安らぐものであった。

 

(子供の頃は自分も芸能人みたく周りにキャーキャー言われたいなんて思った事もあったが、いざそうなると今度は昔が懐かしい。

 普通の女の子に戻りたい、とか言って引退するアイドルとかもこういう気分なのかもしれないな)

 

 紅茶を口に運ぶと、程よい甘さが口内に広がった。

 デュエル・アカデミアに戻ればセブンスターズとの戦いで忙しくなる。その前に飛行機内で気鋭を養っておかなければならない。

 

(亮は、どうしているかな)

 

 自分にとって最大の好敵手にある男、亮の顔を思い浮かべる。

 吹雪や藤原とは今年アメリカ・アカデミアに短期留学した時に会う機会はあったのだが、留学が去年だった亮とは暫く会っていない。

 電話とメールのやり取りで近況は知っているが、それだけでは分からない事もある。

 

「まぁこの前、サイバー流関連に新カードが出たって大騒ぎしていたから大丈夫か。それよりアカデミアか、気になるのは」

 

 一年の頃からNDLのプロとして活動するためアメリカ・アカデミアに長期留学してから、丈は暫くデュエル・アカデミアに戻っていない。

 本当は去年の学園祭には一度顔を出したかったのだが、急にTV出演の仕事が舞い込んできてしまって泣く泣くキャンセルしたのだ。

 三幻魔のことなどなしに、丈にとっては人生最後の高校生活。セブンスターズのことは早めに片付けて、長くはない学園生活を楽しみたいものだ。

 

「――――新入生も、いるんだろうな」

 

 新入生といって思い出すのはアカデミアの頃に卒業模範デュエルで戦った万丈目と、吹雪の妹である明日香。あとは高等部から編入してきたらしい亮の弟である翔あたりだろう。

 だがもう一人、丈には心当たりのある名前があった。

 

(遊城、十代。確か今年に十代は俺の後輩になるんだったか)

 

 パラドックスに共に戦った三人のデュエリストの一人、遊城十代。

 アカデミアのレッド寮の制服を着ていた彼は自分は丈の後輩だと名乗っていた。

 自分どころか史上最強のデュエリストである武藤遊戯や遥かな未来からきた英雄・不動遊星と肩を並べる実力を誇っていた男だ。しかしそんなデュエリストが入学したなんて話、丈は聞いていなかった。

 つまり遊城十代は丈がタイムスリップした時点では後輩ではなかったということだ。今年を過ぎれば丈は卒業してしまう。だから十代が宍戸丈の後輩になるぎりぎりが今年。

 そして亮のメールから『面白い奴が入学してきた』と何度か連絡を貰った。ということは遊城十代はもうアカデミアにいるのだろう。恐らくはセブンスターズから鍵を守る一人としても選ばれている筈だ。

 

(変な感じだ。こっちは向こうのことを過去に会って知っているのに、向こうはこちらとまだ会っていないんだから)

 

 歴史を改変するわけにもいかないので、十代がパラドックスの戦いを終えるまでは、このことについては黙っておかなければならない。

 その時、飛行機全体が地震が起きたかのように強く揺れた。

 

「っ! なんだ一体!?」

 

『アテンションプリーズ。アテンションプリーズ。この度は本機にご搭乗頂き誠にありがとうございました』

 

「――――!」

 

 アナウンスで聞こえてきたのは人の温かみの皆無の無機質な合成音。

 飛行機の揺れは収まったが、不穏な気配は留まるどころか増してきている。丈は自然と肌身離さず持ち歩いているデュエルディスクを装着した。

 

『本機はニューヨーク発、成田空港着の予定でしたが、予定を変更して海面真っ逆さま。あの世逝きとなりました。お客様におかれましては目的地に到着するまで『アーメン』と呟くなり、念仏を唱えるなりしていて下さい』

 

「な、なんだと!?」

 

 アナウンス終了と同時に飛行機のドアが開く。

 そこから姿を現したのはキャビンアテンダントでもパイロットでもなければ、かといって武装したテロリストでもなかった。

 場違いなメイド服を隙無く着用した銀髪の女性だ。そしてその顔は丈が良く知るもの。

 

「明弩、瑠璃?」

 

「――――どうも、宍戸丈様。三日ぶりでしょうか」

 

 スカートの裾を持ち上げて、洒落に一礼する。

 明弩瑠璃。一年生の頃には特待生寮で専属メイドとして働いていて、丈のプロ入り後はサポートとしてアカデミア側から派遣されていたスタッフだ。

 そんな彼女がどうしてここに……と、驚くことはなかった。

 

「最近、どうも誰かに連絡をとりあっていて怪しい動きがあったからもしや……と勘繰ってはいた。だから貴女には三幻魔のことや、アカデミアに戻ることは黙っていた。

 思い違いならば後で謝れば済むと考えていたが、どうも謝罪の必要はなくなったらしい。当たって欲しくない推理は、当たってしまうものだ」

 

「申し訳ありません、宍戸様。メイドとして主を裏切ることは末代までの恥。ですが私の本当に主は貴方ではありませんので。私の主のため、貴方をアカデミアに戻すわけには参りません」

 

「セブンスターズの一員なのか、貴女も?」

 

「お答えする義務はありません」

 

「他の乗務員はどうしたんだ。姿が見えないが……」

 

「無益な殺生は好きではありません。彼等なら空港で眠らせておきました。貴方が見たキャビンアテンダントは全て私の変装です。

 宍戸様。私は主より貴方を妨害、ないし倒す命を受けています。もしご自身の御命が惜しいのであれば、私をデュエルで倒すこと。それだけが貴方の生き残る道」

 

「……分かった」

 

 百の言葉にデュエルは勝る、という格言もある。

 セブンスターズや、彼女の主について詰め寄るよりもデュエルをする方が手っ取り早い。情報はその後に引き出せばいいだろう。

 だが、

 

「――――デッキが、ない?」

 

 デッキケースからデッキを取り出そうとするも、そこにはあるはずのデッキがどこにもなかった。

 一番愛用している最上級モンスター中心のデッキだけではない。HEROデッキと暗黒界、三つの主力デッキ全てがなくなっていた。

 

「まさか!」

 

 自分が命より大切なデッキをなくすはずがない。だとすればデッキがなくなった原因は目の前にいる明弩瑠璃。

 明弩瑠璃はどこか申し訳なさそうに目を伏せ、

 

「宍戸様。貴方のデッキは検査場で空のデッキケースに摩り替えさせて頂きました」

 

「っ! 摩り替えただって!?」

 

 ジュラルミンケースを探るが、あるのはデッキに投入していないカードばかりで、肝心のデッキはどこにもなかった。

 それが彼女の言葉が真実であるという証明でもあった。

 

「アメリカデュエルモンスターズ界で最強の座に上り詰め、最も二代目決闘王に近い一人である〝魔王〟も、肝心のデッキがなければ最強の力を発揮することも叶わないでしょう」

 

「俺のデッキは何処にある?」

 

「――――この機内には存在しない、とだけ言っておきましょう」

 

「……俺は、これまで貴女には何度も助けて貰ってきた。味方のいないアメリカでこれまでやってこれて、去年にはこの国の頂点に立てたのも貴女のフォローがあったからこそと考えている。

 そんな貴女が人のデッキを盗む真似をするなんて貴女なりの事情があるんだろう。だが俺のデッキを奪われるわけにはいかない。なんとしても返して貰う」

 

「主の命といえど、他人のデッキを奪うなど私も本意ではありません。分かりました、私に勝てば貴方のデッキの場所をお教えします。

 とはいえ――――御自身のデッキを持っていない貴方がデュエルを出来ればの話ですが」

 

「!」

 

 不味いことになった。丈はあの三つ以外に『クリボー』など幾つかデッキを構築したことはあるが、今手元にはそれらのデッキはない。

 あるのは余ったカードの山だけ。こうなれば今からデッキを構築するしかないが、

 

「一分だけ待ちます。それまでデッキを用意できないようでしたら、心苦しいですがこのデュエルは私の不戦勝となります」

 

「くっ」

 

 文句を言う時間すら惜しい。丈は急いで余ったカードの山に飛びついた。

 幸い余りカードといっても主力デッキに入らなかったというだけで中々のカードが揃っている。これだけあればそれなりに戦えるデッキを構築するのは難しいことではないだろう。

 ただしそれは時間が許せばの話。

 

「あと四十秒です」

 

「もう四十秒!?」

 

「いえ。正確には38秒になりました。37、36…………」

 

 たった三十秒で――――しかもかなりの実力者であろう明弩瑠璃に――――勝てるようなデッキを構築するなど、難しいどころではない。

 デッキとは一枚一枚、あれこれ考えて作り上げていくものなのだ。一朝一夕にできるものでは断じてない。だが今回ばかりは急ぐ必要があった。

 

(そうだ!)

 

 あることを思いついた丈は目当てのカードと、特定のカードを兎に角集めていった。

 そして急いで四十枚のカードを揃えるとデュエルディスクにセットする。

 

「準備、出来たぞ」

 

「残り二秒。ぎりぎりですね」

 

「間に合って良かった」

 

 たった三十秒程度で構築したデッキで戦うなど、丈にとっても生まれて初めてのことだ。

 しかし勝たねばならない。勝たなければアカデミアに戻るどころか、生還することすら難しいのだから。それに奪われたデッキを取り戻さなければならない。

 明弩瑠璃。かなりの強敵だろうが、負ける訳にはいかなかった。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 セブンスターズと鍵の守護者にとっての初陣は、誰に知られることもなく30000フィート上空で勃発した。

 遥か遠くアカデミア島の奥深くで三枚の〝魔〟が脈動した。 

 




~おまけ~

こんな時空を超える絆は嫌だ!



遊星「パラドックス! デュエルだ、決着をつけよう」

パラドックス「いいだろう。だが君達が四対一でくるなら私は初期手札を二十枚貰おうか」

遊戯「構わないぜ。ただし先攻は俺からだ」

パラドックス(フッ。デュエルモンスターズは手札が多ければ多いほど有利。手札が二十枚もあれば、確実に後攻ワンターンキルができる)

遊戯「俺のターン、手札抹殺を発動!」

パラドックス「な、なんだと!?」

遊戯「互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数分だけカードをドローする」

パラドックス「私の手札は二十枚……そして私のデッキの合計は四十枚。まさか貴様これを狙って!?」

遊戯「デッキからカードをドローすることができなくなったデュエリストはデュエルを続行できない。二十枚の手札を捨て二十枚のカードをドローしたことで、お前のデッキはゼロになる!!」

パラドックス「私の研究は間違っていたのかぁああああああああああああ!!」

遊戯「WIN!!」

十代「これはひどい」


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第128話  1/6インスタント

宍戸丈  LP4000 手札五枚

場 無し

 

 

明弩瑠璃 LP4000 手札五枚

場 無し

 

 

 

 30000フィート上空で行われるでセブンスターズとの三幻魔を巡る戦いの第一戦が始まる。丈と明弩瑠璃は互いに手札を五枚ドローする。

 これまでプロ入りした丈をサポートしてくれた明弩瑠璃。だが丈はこれまで一度も瑠璃とデュエルをしたことがない。それとなく「デュエルをするのか?」と尋ねたことは何度かあったが、その度に答えをはぐらかされてしまった。

 だから彼女がどれほどの実力をもっているかは完全に未知数であるといえる。ただセブンスターズの尖兵として選ばれるほどだ。弱いということはないだろう。

 

(しかも……俺のデッキはたった三十秒で構築した六分の一インスタントデッキ)

 

 丈はかなりの実力をもつデュエリストであり、生半可な相手など相手にもならない実力をもっている。

 だがしかし三十秒の即席デッキでは実力の十分の一も出すことはできない。

 デュエリストにとってデッキとは自分の体も同じ。体が三十秒の即席となれば満足に歩くこともできないのだ。

 

「先攻は頂きます。私のターン、ドロー」

 

「……………」

 

 丈の手札は余り良いとは言えない。というより碌に効果も確かめずに投入されたカードも多いため、まるでシナジーのないカードも手札にはあった。

 取り敢えず次のターンで上手く立ち回るためにもこの先攻ターンで、瑠璃のデッキについて大まかな予測をたてる。

 けれど瑠璃も丈の考えは予測済みだったらしい。

 

「私はモンスターを裏側守備表示でセット。リバースカードを二枚セット、ターンエンド」

 

「消極的なターンだ」

 

「私のデッキ内容について簡単に明かしはしません。僭越ながら宍戸様の実力については間近で見ていたので」

 

「――――俺のターン、ドロー」

 

 思惑は外れたが外れたら外れたで仕方ない。

 新たにカードをドローしたが…………最初のターンにしてはまずまずといったところだろうか。勿論三十秒デッキにしては、という意味でだが。

 自分で構築したデッキながら溜息が出る。こんなデッキでは到底自分本来のデッキに及ばないだろう。

 

「俺のデッキを奪い、勝ったつもりになっているのだったら……まぁ普通のデュエリストならそうだ。しかし生憎と俺はプロデュエリスト。デッキがないなら弘法は筆を選ばないという諺を証明するだけ」

 

「勝ったつもり? それこそまさかです。貴方相手に勝ったつもりになるなど有り得ません。油断なく貴方のライフをゼロにするまで全力でお相手します」

 

「それは残念だ。手札からモンスターを攻撃表示で召喚する。ジェネティック・ワーウルフ」

 

 

【ジェネティック・ワーウルフ】

地属性 ☆4 獣戦士族

攻撃力2000

守備力100

遺伝子操作により強化された人狼。

本来の優しき心は完全に破壊され、

闘う事でしか生きる事ができない体になってしまった。

その破壊力は計り知れない。

 

 

 効果なしの下級モンスターとしては最大の攻撃値をもつワーウルフ。白い獣人は闘争本能を剥き出しにして、理性を無くした形相を向けた。

 瑠璃の伏せたリバースカードとリバースモンスター。あれだけあれば罠カードが伏せられている危険性は高いが、フィールドにはワーウルフ一枚だけ。犠牲は最小限で済む。

 

「バトル。ワーウルフで攻撃、白獣の斬爪!」

 

 ワーウルフが大きく跳躍して伏せていたカードを切り裂く。

 攻撃を受けた事で表側表示になったのはレベル・スティーラー。丈も愛用している生け贄召喚をサポートするのに有効なモンスターだ。

 

「レベル・スティーラーの守備力は0。破壊されます」

 

「発動は無しか。……バトルを終了、ターンエンド」

 

「私のターン。どうやら貴方といえど、即席のデッキではそう縦横無尽なデュエルを行うことはできないようですね。

 これが確認できれば十分。手札よりホルスの黒炎竜 LV4を召喚します」

 

「ホルスの黒炎竜……! レベルアップモンスターとは、珍しいカードを」

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV4】

炎属性 ☆4 ドラゴン族

攻撃力1600

守備力1000

このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する限り、

コントロールを変更する事はできない。

このカードがモンスターを戦闘によって破壊したターンのエンドフェイズ時、

このカードを墓地に送る事で 「ホルスの黒炎竜 LV6」1体を

手札またはデッキから特殊召喚する。

 

 

 鳥のようでありながら黒い炎の力を秘めたドラゴン族モンスターは、真っ赤な双眸でワーウルフを睨みつけた。

 瑠璃の召喚したホルスの黒炎竜はレベルアップモンスター。条件をクリアするごとに上のレベルにレベルアップしていく特殊なモンスターだ。

 特にホルスの黒炎竜は数あるレベルアップモンスターの中でも強力な力をもっている。

 LV4の今はまだ弱い雛鳥だが、これが成長していけば殆どのデッキに刺さり動きを封じる恐ろしいモンスターが出てくるだろう。

 

「バトル。私はホルスの黒炎竜でワーウルフに攻撃、ブラック・ファイヤ! そしてリバース発動、収縮。ワーウルフの攻撃力を半分にする」

 

 瑠璃の魔法効果によりワーウルフが半分の体積に縮まり、そのパワーも半減する。攻撃力を半減させたワーウルフの力は1000。ホルスの黒炎竜の攻撃力がワーウルフを上回った。

 その結果、ワーウルフはホルスの黒炎を防げずその身を焼き尽くされる。

 

 宍戸丈LP4000→3400

 

 ワーウルフが破壊されたことで丈のライフもダメージを受ける。

 それだけではない。ホルスの黒炎竜がモンスターを破壊したことで、ホルスの進化条件が整ってしまった。

 

「ホルスの黒炎竜、ということは貴女の伏せたカードの一枚は――――」

 

「お察しの通りです」

 

 瑠璃はコクンと頷くともう一枚の伏せていたカードを発動する。

 発動したのは丈の思った通り永続罠『王宮のお触れ』。このカード以外の罠カードを封じる罠カード版サイコ・ショッカーというべきカードだ。

 そしてホルスの黒炎竜はLV8まで進化すると任意で魔法カードを無効する効果を得る。

 ホルスで魔法を封じ、王宮のお触れで罠を封じる。このコンボは単純故に強力だ。

 丈の三つのデッキの一つであるHEROデッキなど、融合のカードを封じられてしまうので相性は最悪とすらいっていいだろう。

 

「私はこれでターンを終了します。そして相手モンスターを戦闘で破壊したターンのエンドフェイズ、ホルスの黒炎竜LV4はLV6に進化します」

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV6】

炎属性 ☆6 ドラゴン族

攻撃力2300

守備力1600

このカードは自分フィールド上に表側表示で存在する限り、

魔法の効果を受けない。

このカードがモンスターを戦闘によって破壊したターンのエンドフェイズ時、

このカードを墓地に送る事で「ホルスの黒炎竜 LV8」1体を

手札またはデッキから特殊召喚する。

 

 

 進化したホルスの黒炎竜はLV4を凌ぐエネルギーを纏いながら、天高く嘶いた。

 LV6になったホルスの黒炎竜はあらゆる魔法効果を無効化する力をもっている。LV8ほどでないが面倒なモンスターだ。

 

「……ドロー」

 

 だがLV6の攻撃力は上級モンスターとしては弱い2300。このターンで倒せれば倒しておきたかったが、どうもそれは無理らしい。

 手札に魔法カードがない今、ホルスの効果については考慮しなくて良いが、攻撃力2300を倒せるモンスターがいないのだ。

 だとすれば次善の策でいくだけ。

 

「手札よりカードカー・Dを召喚」

 

 

【カードカー・D】

地属性 ☆2 機械族

攻撃力800

守備力400

このカードは特殊召喚できない。

このカードが召喚に成功した自分のメインフェイズ1に

このカードを生け贄にして発動できる。

デッキからカードを2枚ドローし、このターンのエンドフェイズになる。

この効果を発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚できない。

 

 

 モンスターというには憚れる玩具の車が場に出現する。勿論、丈は攻撃力800の弱小モンスターでホルスに挑むつもりはない。

 カードカー・Dには汎用性の高いモンスター効果があるのだ。

 

「カードカー・Dを生け贄にする。カードカー・Dの効果、このカードを生け贄にしカードを二枚ドローする。ただしこの効果を発動した瞬間、強制的に俺はエンドフェイズを迎えるが」

 

「成程。確かに場にモンスターを召喚しなければホルスの黒炎竜はレベルアップすることはない。ですがその選択は無防備なフィールドを晒すことと同じ。

 私のターン、カードをドロー。天使の施し、三枚ドローして二枚捨てる。ホルスのレベルを一つ下げ、墓地よりレベル・スティーラーを特殊召喚。更にレベル・スティーラーを生け贄に捧げ炎帝テスタロスを攻撃表示で召喚します」

 

 

【炎帝テスタロス】

炎属性 ☆6 炎族

攻撃力2400

守備力1000

このカードが生け贄召喚に成功した時、

相手の手札をランダムに1枚捨てる。

捨てたカードがモンスターカードだった場合、

そのモンスターのレベル×100ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 

 ホルスとは違い黒い炎ではなく紅蓮の業火を纏った帝王が降臨した。

 そして生け贄召喚をしたことで帝の効果が発揮される。

 

「炎帝テスタロスの効果。生け贄召喚に成功した時、相手の手札を一枚ランダムに捨て、捨てたカードがモンスターカードだった場合、そのモンスターのレベル×100のダメージを与える」

 

「その効果は通さない。手札より朱光の宣告者の効果発動。相手がモンスター効果を発動した時、このカードと手札の天使族モンスターを墓地に捨てることで、その効果を無効にして破壊する! 俺は朱光の宣告者とヒステリック・エンジェルを捨て効果発動」

 

 

【朱光の宣告者】

光属性 ☆2 天使族 チューナー

攻撃力300

守備力500

このカードと天使族モンスター1体を手札から墓地へ送って発動する。

相手の効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する。

この効果は相手ターンでも発動する事ができる。

 

 

 朱光の宣告者が炎帝に飛びつき、炎を放とうとした炎帝を逆に爆発させる。

 しかし朱光の宣告者だけではモンスターの攻撃まで止めることはできない。

 

「効果が駄目ならばバトル。ホルスの黒炎竜でプレイヤーを直接攻撃、ブラック・フレイム!」

 

「……ライフで受ける」

 

 宍戸丈LP3400→1100

 

 丈のライフが1100まで削り取られる。けれど丈もただではやられない。攻撃を受けたことにより手札にあるモンスターの召喚条件が整った。

 

「この瞬間、手札より冥府の使者ゴーズを特殊召喚!」

 

 

【冥府の使者ゴーズ】

闇属性 ☆7 悪魔族

攻撃力2700

守備力2500

自分フィールド上にカードが存在しない場合、

相手がコントロールするカードによってダメージを受けた時、

このカードを手札から特殊召喚する事ができる。

この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。

●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」

(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。

このトークンの攻撃力・守備力は、この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。

●カードの効果によるダメージの場合、

受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。

 

 

 ゴーズとカイエン、二人の冥府の使者が降臨する。

 冥府の使者ゴーズは自分フィールドになにもない時にダメージを受けると特殊召喚できる最上級モンスター。場に攻撃力2700のゴーズと、ダイレクトアタックのダメージと同じ攻守のカイエントークンを出現させる。

 場合によっては逆転のキーカードにもなりうる強力なカードだ。

 

「ゴーズとカイエンですか。カードを一枚伏せ、ターンを終了します」

 

 ライフでは完全に劣勢だが手札にあったゴーズのお蔭で逆転の兆しが見えてきた。

 瑠璃のデッキが亮のそれのように速効性のあるデッキでなかったのが幸いしたといえるだろう。そうでなければ今頃洒落にならないことになっていた。

 

 



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第129話  1/1ギャンブル

宍戸丈  LP1100 手札3枚

場  冥府の使者ゴーズ、カイエントークン

伏せ 無し

 

 

明弩瑠璃 LP4000 手札2枚

場 ホルスの黒炎竜LV6

伏せ 一枚

罠 王宮のお触れ

 

 

 

 

「俺のターン」

 

 前のターンで召喚したゴーズのお蔭でライフは兎も角、フィールドアドバンテージは巻き返してきている。

 しかし時間をかければ時間をかけるだけ瑠璃のフィールドは万全の布陣が整い、強力無比なモンスターたちが並んでいくだろう。

 

(これまでの戦いぶりから察するに彼女のデッキはホルスの黒炎竜と王宮のお触れを中心にしたロックに、汎用性の高い帝モンスターを混ぜたもの)

 

 魔法をロックするホルスも強力だが、生け贄召喚するごとにアドバンテージを稼ぐ帝モンスターも厄介極まりないモンスターだ。

 丈とてただいいようにやられているわけではない。

 三十秒で構築したデッキだが、明弩瑠璃を倒せるだけのとっておきを仕込ませている。だがそのとっておきのためには幾らかの準備……というより全てのキーカードを揃える必要があった。

 果たしてこの即席デッキの防御力でキーカードが揃うまで保てるのか、それが勝敗を分ける鍵となるだろう。

 

「ドロー」

 

 幸いというべきか丈の場には攻撃力2700の冥府の使者ゴーズがいる。LV6のホルスの黒炎竜なら倒せるだけの力はあった。

 気にかかるのは彼女の伏せたリバースカード。『王宮のお触れ』が発動中の今、使用できない罠カードを伏せるとは思えない。それに王宮のお触れを投入するデッキである以上、罠カードは少な目に調整しているはずだ。

 だとすればあの伏せカードは相手ターンでも発動を可能とする速攻魔法の可能性が高い。もしくはそうと見せかけたフェイクか。

 

「決めた。虎穴に入らずんば虎子を得ず。バトルフェイズ、冥府の使者ゴーズでホルスの黒炎竜を攻撃。ソード・ブラッシュ!」

 

 ゴーズがホルスの黒炎竜に斬りかかる。ゴーズの攻撃力は2700、この攻撃が通ればホルスを進化させる前に倒すことができるだろう。

 けれどゴーズの刃はホルスを守る様な闇の障壁に阻まれた。

 

「墓地よりネクロ・ガードナーを除外し、その効果を発動させて頂きました。ゴーズの攻撃は無効です。カイエントークンで攻撃なさいますか?」

 

「…………」

 

 カイエントークンの攻撃力は2300だ。相打ち覚悟で特攻させればホルスの黒炎竜を倒すことはできるだろう。

 しかしそう簡単にいくと思わせてくれないのがあのリバースカード。

 虎穴に入る勇気も必要だが、時には危険を避ける判断もまた必要。

 

「バトルを終了。カイエントークンを守備表示に変更、更にモンスターをセットしてターンエンドだ」

 

「私のターン。選択を誤りましたね宍戸丈様。私はこのターンでホルスを進化させて頂きます」

 

「!」

 

「先ずはホルスのレベルを一つ下げレベル・スティーラーを特殊召喚。レベル・スティーラーを生け贄に邪帝ガイウスを召喚します」

 

 

【邪帝ガイウス】

闇属性 ☆6 悪魔族

攻撃力2400

守備力1000

このカードの生け贄召喚に成功した時、フィールド上に存在するカード1枚を除外する。

除外したカードが闇属性モンスターカードだった場合、

相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

 

 

 風帝ライザーと並び帝モンスターでも最強とされる一枚、邪悪なる帝王――――ガイウスが闇を引き連れて降臨する。

 丈は顔を歪めた。丈のフィールドにいるゴーズは闇属性、そして相手が闇属性の場合、ガイウスはその邪悪な力を100%解放するのだ。

 

「ガイウスのモンスター効果。このカードの生け贄召喚に成功した時、フィールドに存在するカード一枚を除外する。更に除外したカードが闇属性モンスターだった場合、相手ライフに1000ポイントのダメージを与える。

 宍戸様。私は貴方のゴーズを対象として選び、ゴーズを抹消する。闇の波動!」

 

 ガイウスが手から放った漆黒の球体に呑み込まれると、ゴーズは断末魔の叫びをあげながら消滅する。

 消滅、だ。破壊ではない。そしてゴーズを倒したことによる闇の残滓がダメージとなって丈を襲う。

 

「追い込まれたな」

 

 

 宍戸丈LP1100→100

 

 闇のゲームの〝苦痛〟に身を焼かれながら、舌打ちしたいのを堪える。

 ガイウスのバーンダメージにより丈のライフはたったの100。あと一撃の攻撃で吹き飛ぶ文字通りの風前の灯というやつだ。

 

「まだです。私は邪帝ガイウスで守備表示のカイエントークンを攻撃、そしてホルスの黒炎竜で裏側守備モンスターを攻撃します」

 

 邪帝の前に冥府の使者の片割れたるカイエンは為す術なく破壊される。続いてホルスの黒炎がセットされたモンスターに襲い掛かった。

 

「リバースモンスターはマシュマロンだ。こいつは戦闘では破壊されない……」

 

「逃がしません。速攻魔法、禁じられた聖杯を発動。マシュマロンの効果をこのターンまで無効にします」

 

 破壊耐性のあるマシュマロンも効果そのものが無効にされては意味を為さない。

 ホルスの黒い炎に為す術もなくマシュマロンは撃破された。カイエンもマシュマロンも守備表示であったためダメージは受けなかったが、これでホルスの進化条件が整ってしまった。

 

「このターンのエンドフェイズ、ホルスの黒炎竜はLV8に進化します。飛び立ちなさい、ホルスの黒炎竜」

 

 

【ホルスの黒炎竜 LV8】

炎属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力1800

このカードは通常召喚できない。

「ホルスの黒炎竜 LV6」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。

このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、

魔法カードの発動を無効にし破壊する事ができる。

 

 

 遂に現れるホルスの黒炎竜の最終進化形態。

 これで丈はもう魔法カードを発動することもできず、罠カードも使えなくなった。しかしホルスの黒炎竜が厄介なのはそこではなく、相手に一方的に魔法をロックするだけで自分は魔法カードを使い放題というところだろう。

 ホルスと王宮のお触れをどうにかするにはホルスの魔法効果無効を無視できる特殊な魔法カードを使うか、もしくはモンスター効果に頼る他ない。

 だがこのフィールドを単独で塗り替えるほどの効果モンスターなどそうはいないだろう。

 

(カオス・ソルジャーなら……いやライフ差はどうにもできないか。逆転の切欠にはなってもこれ一枚で逆転は出来ない)

 

 デッキごと奪われた今、自分の手元にはない魂のカードを思い浮かべ自嘲する。

 三邪神のことといいどうにも自分はカードを盗まれることに縁があるようだ。今後はカードの管理をより厳重にしなければならないだろう。

 

「サレンダーなさいますか?」

 

「……サレンダー?」

 

「主の命で宍戸様とこうして敵対しておりますが、私も貴方ほどのデュエリストをこのような卑劣な手段で終わらせてしまうことに――――いえ、言い訳ですね。

 ですが私が貴方をこの飛行機諸共海の藻屑にしてしまうのは本意ではありません。サレンダーなさり、三幻魔解放の邪魔をしないと約束して下さるのであれば、必ず主に申しあげデッキをお返しします。ですからどうか」

 

「サレンダーしてくれ、か」

 

「はい」

 

 三幻魔など丈にとっては何のかかわりもないことだ。

 自分のデッキを取り戻すため、自分の命のためここでサレンダーするのは恥ではない。なにせ丈のデッキは三十秒で構築した即席。

 はっきりいってしまえば負けて当然という状況だ。

 

「残念だがそれは出来ない」

 

「何故です? デュエル・アカデミアへの義理立てですか?」

 

「いや立場の違いだ。貴女も貴女なりに理由があって、本意ではないデッキを盗むなんてことをして俺を倒しに来たんだろう。もしかしたら立場が違えば俺も同じようなことをやったかもしれない。

 ただ俺と貴女は立場が違う。俺は三幻魔を守る鍵の守護者に校長に頼まれているし、三幻魔が解放されたら俺と俺の友人も困る。だから貴女の理由がどうあれ俺は敵対するし、勝負を捨てることもない。

 もしも貴女の戦う理由が校長や亮たちのためになることなら、俺も提案を受けた可能性もあるが……そうじゃないんだろう?」

 

「――――はい」

 

「だったらやはり俺と貴女は敵同士のままというわけだ。それにサレンダーを勧めているところ悪いが、別に俺はまだ負けが確定したわけじゃない。

 確かに俺の手札にこの状況を打開するカードはないが、次にドローするカードによってはここを引っ繰り返せる」

 

「ホルスの黒炎竜と王宮のお触れ。この二枚に制圧されたフィールドを引っ繰り返すと? そんなことが出来る訳ありません」

 

「それは……ドローをしてみなければ分からない! 俺のターン、ドロー!」

 

 運命を分けるラストドロー。丈の手札に来たのは何の変哲もない効果モンスターだった。

 これ一枚で戦況を引っ繰り返すスペックがあるわけでもなければ、特にレアカードというわけでもない。カードショップで余り物の束に混ざっていることもあるカードだ。

 だがそれは丈が待ち望んでいたカードだ。

 

「――――瑠璃、貴女は選択を誤った」

 

「私が、誤った?」

 

「禁じられた聖杯を使うタイミング。マシュマロンを破壊するのにあれを使うべきじゃなかった。そうでなければ俺も危なかっただろうに」

 

「危ない? まさかなんらかの効果モンスターで突破をするつもり……。ですが私のライフは4000、デュエルが始まって無傷。1ターンでこれをどうにかすることなど」

 

「それはどうかな。俺はコアキメイル・デビルを攻撃表示で召喚」

 

 

【コアキメイル・デビル】

風属性 ☆3 悪魔族

攻撃力1700

守備力800

このカードのコントローラーは自分のエンドフェイズ毎に、

手札から「コアキメイルの鋼核」1枚を墓地へ送るか、

手札の悪魔族モンスター1体を相手に見せる。

または、どちらも行わずにこのカードを破壊する。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

メインフェイズ時に発動する光属性及び闇属性モンスターの効果は無効化される。

 

 

 フィールドに現れたのは特に何の変哲もない、強いていえばそれなりに面倒なロック効果をもつだけのモンスター。

 瑠璃は丈がどうしてこのタイミングにこんなモンスターを、しかも攻撃表示で召喚したのかが分からずに目を見開く。

 

「コアキメイル・デビルのモンスター効果。このカードがフィールド上に存在する限り、メインフェイズに発動する光属性及び闇属性モンスターの効果を無効にする」

 

「ですがコアキメイル・デビルはエンドフェイズ毎に『コアキメイルの鋼殻』を一枚墓地へ送るか、手札の悪魔族モンスター1体を見せなければ破壊されます」

 

「そんなことは関係ない。何故なら……貴女に次のターンは回ってこない!」

 

「なんですって!?」

 

「俺は手札の星見獣ガリスの効果発動! 自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、そのカードがモンスターカードならば、そのモンスターのレベル×200ポイントのダメージを相手に与えこのカードを特殊召喚する! 

 ただしモンスターでなければこのカードは破壊される。俺はデッキからモンスターを墓地へ送る! 俺が墓地へ送ったのはレベル1、エフェクト・ヴェーラーだ! よって200ダメージを与え、このカードを特殊召喚!」

 

 

 明弩瑠璃LP4000→3800

 

【星見獣ガリス】

地属性 ☆3 獣族

攻撃力800

守備力800

手札にあるこのカードを相手に見せて発動する。

自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、

そのカードがモンスターだった場合、

そのモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与え

このカードを特殊召喚する。

そのカードがモンスター以外だった場合、このカードを破壊する。

 

 

 星のように青い胴体の獣が手札より飛び出し、その効果により瑠璃のライフが初めて削られる。

 ダメージを与えられた瑠璃だったが依然として表情には余裕があった。それはそうだろう。受けた効果ダメージはたったの200。4000のライフからすれば微々たるものだ。

 

「三分の一のギャンブルに勝って、私にダメージを与えつつモンスターを召喚したのは良いでしょう。しかしこれから一体どうするのです?」

 

「決まっている。このデュエルに勝つ! 更に手札よりA・ジェネクス・バードマンの効果! 自分フィールドのモンスターを一体手札に戻し発動。このカードを手札から特殊召喚する! 俺は星見獣ガリスを手札に戻す!」

 

 

【A・ジェネクス・バードマン】

闇属性 ☆3 機械族 チューナー

攻撃力1400

守備力400

自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を手札に戻して発動できる。

このカードを手札から特殊召喚する。

この効果を発動するために手札に戻したモンスターが風属性モンスターだった場合、

このカードの攻撃力は500ポイントアップする。

この効果で特殊召喚したこのカードは、

フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

 

 

 星見獣ガリスが丈の手札へと戻った。

 瑠璃は「だからどうした」と言いたげな目で丈を見つめ、暫くしてから異常に気付いた。

 

「どうして……? 星見獣ガリスが手札に戻されたのに、何故A・ジェネクス・バードマンが召喚されていないんですか?」

 

「俺の場にあるコアキメイル・デビルの効果を忘れたか。こいつはメインフェイズに発動する光属性・闇属性モンスターの効果を無効にする。A・ジェネックス・バードマンは闇属性、よって無効だ!」

 

「だったらどうして星見獣ガリスは―――――はっ! まさか……コスト!?」

 

「その通り! A・ジェネクス・バードマンのモンスターを手札に戻すのは〝効果〟ではなく効果を発動するための〝コスト〟だ! 

 効果を無効にされてもコストが無効になるわけじゃない。よって星見獣ガリスは手札に戻されるが、A・ジェネクス・バードマンは特殊召喚はされないのさ。

 そして俺は手札に戻した星見獣ガリスの効果を再び発動! デッキトップを墓地へ送り、それがモンスターならば相手ライフにレベル×200のダメージを与え特殊召喚する!」

 

「三分の一のギャンブルがそう何度も通じるとお思いですか!」

 

「通じるさ。何故ならば俺のデッキには全てモンスターカードしかない! よって星見獣ガリスの効果は100%成功する!」

 

「ば、馬鹿な!?」

 

 本来ならばデッキはモンスター・魔法・罠の三種類で構成される。

 三種類の用途の異なるカードを如何にバランスよく無理なく組み合わせるか、それがデッキ構築の基本とすらいっていい。

 その基本に真っ向から逆らうフルモンスターという暴挙。素人がやればただの紙束にしかならないが、玄人が構築すれば通常のデッキとは一味違う力をもつようになる。

 

「俺が墓地へ送ったカードはダイヤモンド・ドラゴン! レベル7×200、1400のダメージを与え星見獣ガリスを特殊召喚! そしてA・ジェネクス・バードマンの効果、星見獣ガリスを手札に戻しこのカードを特殊召喚! だがA・ジェネクス・バードマンの効果はコアキメイル・デビルによって無効となる!」

 

「この流れはまさか……無限ループ!」

 

 デッキが全てモンスターのためガリスの効果が100%成功し、ダメージを与えつつガリスが特殊召喚され、A・ジェネクス・バードマンがガリスを手札に戻す。コアキメイル・デビルがフィールドにいるため、ガリスは手札に戻されるがA・ジェネクス・バードマンは特殊召喚されない。

 そして手札に戻ったガリスの効果が再び発動しガリスが召喚され、更にA・ジェネクス・バードマンで手札に戻される。

 相手にダメージを与えつつデッキがある限り永久に回り続ける無限ループが丈のフィールドに成立していた。

 

「星見獣ガリスの効果、デッキの一番上のモンスターを墓地へ送り特殊召喚。墓地へ送ったモンスターはレベル3、六武衆―ヤリザ。よって相手ライフに600ポイントのダメージ。

 A・ジェネクス・バードマンの効果で手札に戻しガリスの効果を発動。墓地へ送ったモンスターはレベル5、モリンフェン! よって1000のダメージだ。A・ジェネクス・バードマンで星見獣ガリスを手札に戻し効果発動。墓地へ送ったのはレベル3、青眼の銀ゾンビ。相手ライフに600ダメージ。

 これがラストだ。A・ジェネクス・バードマンで手札に戻し星見獣ガリスの効果発動! 墓地へ送ったのはレベル1、千眼の邪教神! 相手ライフに200ダメージ!」

 

「こんな……こんなことがっ!」

 

 明弩瑠璃LP3800→0

 

 たった1ターン。ホルスの黒炎竜と王宮のお触れによってロックされた圧倒的フィールドをもち、無傷のライフを誇っていた明弩瑠璃。

 それがたったの1ターンで完全に逆転されライフを奪い尽された。余りのことに瑠璃は膝をつく。

 

「どうにか勝てたか」

 

 三十秒で構築するという無理難題をふっかけられた丈が思いついた勝つためのアイディアがこの無限ループだった。

 たった三十秒じゃどうしたって普通に強いデッキなど組めるはずがない。だから星見獣ガリスを使った無限ループコンボだけを確保して後は適当にモンスターカードだけを突っ込んだ。

 

「約束だ。俺のデッキがどこにあるか教えて――――」

 

 瞬間、機内に轟音が響き渡った。嘗てない程に飛行機が大きく揺れる。

 

「っ! これは……」

 

「どうやら私のライフが0になったら、飛行機に仕掛けられた爆弾が作動するようセットしてあったようですね」

 

 他人事のように瑠璃は呟く。

 

「宍戸様。そこにパラシュートが入っております。貴方ならばあれがあれば必ず生きて生還できるでしょう。

 そしてお約束通りデッキの在り処をお教えします。私が貴方から盗んだデッキは私の主の下へ送らせて頂きました。今頃は主のもとに」

 

「なんだって? いや今はそれより、助かることが先決か。貴女も――――」

 

 手を伸ばすが、瑠璃は無表情で首を横に振る。

 

「私は良いのです。主がここで私諸共に爆破させようというのならば、私は用済みなのでしょう。なら私はもうなにもしない。宍戸様もお好きなよう行動なされるよう」

 

「俺の好きなように? なら」

 

 強引に瑠璃の腕を掴む。

 

「俺の寝覚めを良くするために助かって貰う」

 

 そして二人のデュエリストを乗せた飛行機は上空で爆発する。

 ここではない遠くで一人の老人が嗤ったことに、老人の友人の錬金術師だけが気付いた。

 



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第130話  セブンスターズの刺客

 夜になり何時もならとっくに眠っている時間になっても、十代の目はパッチリと開いてレッド寮の天井を眺めていた。 

 眠れなかった。別に同室の隼人や翔のいびきが五月蠅いというわけでは――――いや、五月蠅くはあるが十代はいびきくらいで眠れなくなるチャチな精神ではない。

 十代は自分の首にかかった七星門の鍵を指で絡め取って眺める。見た目は観光地のお土産で100円くらいで投げ売りされてそうな品にしか見えない。

 しかしこの鍵が三幻神に匹敵する力をもつ〝三幻魔〟の封印を解く鍵で、自分はその鍵の守護者なのだ。

 

「セブンスターズかぁ。どういう奴なんだ? やっぱ珍しいデッキとかカード使うのかなぁ」

 

 重大な責務を背負っている十代だが、その表情に守護者としての使命に対する気後れなどありはしない。

 あるのは純粋にセブンスターズという未知の敵と戦えるという高揚だ。その高揚が十代の眠りを妨害する原因でもある。明日の遠足を楽しみにして眠れない子供……の精神状態に近いだろうか。

 

「ふぁ~あ。でも流石に眠ぃな」

 

 セブンスターズの襲撃を待って眠らずにいたが、時計の針が両方とも0を超えようという時刻になって眠らずにいるのが億劫になってきた。

 別に今日セブンスターズが襲ってくると決まった訳ではない。襲撃は明日かもしれないのだ。

 明日の襲撃に備えてそろそろ十代も眠ろうと目を瞑りかけたその時、

 

「うおっ!? なんだ!」

 

 いきなりレッド寮の部屋に眩い光が破裂した。

 十代は咄嗟に手で目を抑えるが、光は弱まるどころがどんどん強くなっていく。もう目を開けていることすら出来なかった。それどころか耳鳴りも酷くなっていく。

 

「十代!」

 

 ドアが勢いよく開かれ、聞きなれた声がする。

 

「明日香!? どうしてここに――――」

 

「気になる事があって会いに来たの。そしたらこの光が……これなんなの!?」

 

「さぁ。少なくとも俺や翔の悪戯じゃないってことは確かだな」

 

 部屋の中に充満する光がとうとう部屋全てを包み込んでいく。明日香の声も光の拡大によって掻き消される。

 

「……おいおい。どうなってるんだ、これ」

 

 そして十代が次に目を開けた時、周囲の景色は一変していた。

 昭和の安アパートのようだったレッド寮の自室は影も形もなく十代はマグマの上に立っていた。より正確にいえばマグマの上にある不可視の床らしきものに立っている。

 

「私に言われても分からないわよ。だけどここアカデミア島の火山の中? どうしてこんな場所に」

 

 セブンスターズの戦いに参加する前、十代は今と同じような体験を経験している。

 大徳寺先生の誘いで錬金術の課外授業で遺跡に行った時も、気付けばここではない何処か。デュエルモンスターズの精霊世界に移動していた。

 だがここは明日香の言う通りアカデミア島の火山。場所こそ煉獄染みているが精霊世界ではなく人間世界である。

 

「そうだ! 翔と隼人は!」

 

 慌てて十代は周囲を見渡した。

 あの時、あの部屋にいた人間がここに連れてこられたのだとすれば部屋にいたのは自分と明日香だけではなく眠っていた翔と隼人もだ。

 

「兄貴~! ここっスよ~!」

 

「翔!?」

 

 幸い翔と隼人は直ぐに見つかった。

 

「た、助けてなんだなー!」

 

「折角ブラマジガールとデートする夢見てたのに、どうして目を開けたら火山の中なんっスか~!」

 

 巨大なガラス玉のようなものに閉じ込められ、真下のマグマに怯え助けを求めている状況を幸いといっていいかは分からなかったが。

 十代は咄嗟に二人を助けようと走り寄ろうとするが寸でのところで立ち止まる。十代のいる地面と、二人が閉じ込められている所にはドロドロのマグマが流れている。

 ジャンプして飛び越えるには些か以上に距離があるし、例えジャンプしたとしても帰りはどうしようもない。少なくとも翔と隼人に溶岩を飛び越えられるだけの跳躍力がないなんてことは普段の体育の授業で知っている。特に隼人はこの手の運動は苦手だ。

 

「十代、もしかしてこれ」

 

「ああ。タイミングからして、たぶんそうだと思うぜ。セブンスターズだ」

 

 セブンスターズのことを校長から聞かされ守護者として選ばれた矢先に起きた超常現象。

 とても偶然だとは考えにくい。だとすればこれはセブンスターズの尖兵による攻撃の可能性が高いだろう。

 

「その通りだ」

 

 二人の推理を肯定するかのように、どこか高貴さをもった声が響いてきた。十代と明日香、そして閉じ込められている翔と隼人も一斉に声のした方向に首を向ける。

 マグマの上に重力という概念を踏み躙るように浮かぶ荘厳な玉座。そこに座るのは暗い闇のような黒い髪と、黒真珠の如き瞳をもつ一人の青年だった。

 全身を黒で統一された服と黒い外套。更に服に纏わりついている鎖が冥界の閻魔染みた雰囲気を醸し出していた。

 

「そん……な……どうして、貴方が……」

 

「明日香?」

 

 男の姿を見た明日香が呆然と口を開けて固まる。玉座に座る男はそんな明日香を見下ろしてニヤリ、と微笑んだ。固まったのは明日香だけではない。翔もまたその青年を見た瞬間に声を失っている。

 そういえば十代も玉座に座る男を何処かで見た覚えがあった。

 

「誰かと思えば吹雪の妹か。お前も七星門の鍵の『守護者』に選ばれたそうだな。吹雪が知ればさぞ喜ぶだろう。だがお前の首級をあげるのは次だ。今はそこのレッド寮の小僧に用がある」

 

「俺?」

 

「そうだ。七星門の鍵をかけて俺とデュエルをして貰う。ちなみに拒否を許すことは出来ない。否というのならば、君の友人には君の臆病のツケとして溶岩に沈んでもらう」

 

「ふざけるな! デュエルがしたいなら俺一人を狙えばいいだろ。翔と隼人は鍵の守護者じゃないんだ。二人を放せ!」

 

「口喧しい小僧だ。そんなに二人を助けたいのならば俺をデュエルで倒せば良い。そうすればそこの二人など解放してやる」

 

「望む所だ!」

 

「待って十代!」

 

「な、なんだよ?」

 

 デュエルディスクを起動させる十代を明日香が肩を掴み制止する。

 

「……危険よ」

 

「知ってるぜ。……闇のゲームってやつを経験したのは今回だけじゃねえからな。でも翔と隼人の命がかかってる戦いだ。絶対に負けられねえ」

 

「そうじゃない。そうじゃないのよ十代。あの人は――――あの人は……」

 

 溶岩が蠢き火竜となって飛び出す。溶岩の動きによる光の反射。青年の面貌がより明確に映し出され漸く十代の記憶にある人物と、目の前の青年の顔が一致する。

 

「まさかアンタ……宍戸、丈?」

 

「気付くのが遅いぞ。デュエル・アカデミアは社会常識に力を入れるべきだな」

 

 青年――――宍戸丈がゆったりと玉座から腰を上げる。一歩一歩近付いてくる様は堂々としていて〝魔王〟という異名に偽りない雰囲気をもっていた。

 

「どうしてですか宍戸先輩。なんで貴方が七星門の鍵を……!」

 

「愚問だな明日香。俺はネオ・グールズを討ち滅ぼし三邪神を手に入れ、最強のデュエリストの座に最も近付いた。だがキング・オブ・デュエリストの頂きにはまだ届かない。

 ならば三幻神に匹敵する力をもつという三幻魔。これを手に入れ三邪神と三幻魔を揃えれば、俺はキング・オブ・デュエリストと匹敵、否、凌駕する力を得ることが出来る」

 

「………!」

 

 三邪神と三幻魔、共に三幻神と同等の力をもつ伝説を束ねる。

 確かにそんなことが実現すれば、武藤遊戯を凌駕するだけの実力を手に入れられるというのも妄言ではないのかもしれない。

 

「さて。小僧、名は遊城十代だったか。この俺を倒すなどと憚ったが、俺の名を知って尚もその意志は変わらないのか?」

 

 遥かな上に立つ者からの、試すような問いかけ。

 だが十代は臆するどころか、より闘争心を剥き出しにして頷いた。

 

「当たり前じゃねえか。セブンスターズになっちまったのは残念だけど、あの魔王とのデュエルなんて凄ぇワクワクするぜ」

 

「口だけは達者な小僧だ」

 

「十代! 相手はあの亮と並び称されるデュエリストなのよ!」

 

「分かってる。でもどっちみち逃げるのを許してくれる相手じゃないだろ」

 

「それは……そうだけど」

 

 明日香の言いたいことは分かる。

 十代は以前、四天王に名を連ねるカイザー亮とデュエルをしたことはある。結果は惨敗。結局十代はカイザーに1ポイントのダメージを与えることもできず敗北した。

 カイザーの強さを思い知らされたデュエルだが、それ以上に楽しい戦いだった。負けたのは悔しいが、負ければ負けたらで次こそは必ず勝つと思える。

 だが今度は闇のゲーム。負ければ次なんてものはない。

 

「脅えて逃げ出さないことだけは褒めてやる」

 

 宍戸丈がアカデミアが採用しているものとは異なる、漆黒のデュエルディスクを起動させた。

 カードプロフェッサーの頂点の証、ブラックデュエルディスク。否応なく高い実力をもつ相手なのだと理解させられる。

 

「いくぞ」

 

「おう!」

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 あらゆる命の息吹を許さぬ火山の中。

 最も新しい伝説のデュエリストと、これより伝説となるデュエリストの戦いが始まった。

 




カイザー「フフフ。今日は俺のスペシャルサイバーカードを拝ませてやる。年賀カード、オープン! 謹賀新年!」

魔王「なら俺はこれだ! 初夢三連コンボ! 一富士二鷹三茄子!」

吹雪「ちょっとなにやってるんだい二人とも」

藤原「ほら挨拶挨拶」


四天王『あけましておめでとうございます! 今年も〝宍戸丈の奇天烈遊戯王〟をお願いします!』


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第131話  HERO VS HERO

遊城十代 LP4000 手札5枚

場  

伏せ

 

 

宍戸丈  LP4000 手札5枚

場 無し

伏せ

 

 

 

「いくぜ。俺のターン!」

 

 宍戸丈はデュエルモンスターズ界に彗星の如く現れ伝説を築き続けているデュエリスト。十代自身、以前敗北を喫したカイザーと同格に位置する相手だ。

 相手にとって不足どころか御釣りが三千円はくるだろう。だからこそ全身全霊でデュエルをする。なにせこの戦いには翔と隼人の命もかかっているのだから。

 

「ドロー!」

 

 手札は上々。相手も上々。

 十代には二つの選択肢がある。慎重に様子を見るか、それとも臆さず強気に行くか。宍戸丈相手にどちらの選択も最善手かどうかの判別は難しい。

 どちらも最善と言えないのなら十代は強気に行く方が好きだった。

 

「一気に行かせて貰うぜ。手札より融合を発動、バーストレディとフェザーマンを手札融合! 来い! マイ・フェイバリットカード! E・HEROフレイム・ウィングマン!」

 

 

【E・HERO フレイム・ウィングマン】

風属性 ☆6 戦士族

攻撃力2100

守備力1200

「E・HERO フェザーマン」+「E・HERO バーストレディ」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、

破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 炎と風、二つの属性により生まれた融合HERO。単体ではなんの力も持たないHEROは融合して力を合わせることで本当の強さを発揮するのだ。

 特にこのフレイム・ウィングマンは十代と最も長い付き合いのお気に入りのモンスターだ。

 

「フレイム・ウィングマン。E・HEROか。フフフフ……早速融合HEROを召喚するあたり伊達に鍵の守護者に選ばれたわけじゃないようだな」

 

「まだだ! 手札よりカードガンナーを攻撃表示で召喚。モンスター効果によりデッキの一番上を三枚墓地へ送りカードガンナーの攻撃力を1500ポイントアップするぜ。

 リバースカードを二枚セット。これで俺はターンエンドだ」

 

 下級モンスターでは超えられない攻撃力のフレイム・ウィングマンに破壊されれば一枚ドローできるカードガンナー。そして二枚の伏せカード。

 最初のターンにしてはそれなりの布陣。

 けれど実際に〝宍戸丈〟のデュエルをその目で見た事のある明日香の表情は明るいものではない。

 

「気を付けて十代。あの人は三つの異なるデッキを主力にしているわ。そしてその一つは――――――」

 

「その通り。遊城十代だったか。お前がHEROデッキを使うのであれば、俺もまた我が三つの力のうち一つ。英雄の力を見せてやる」

 

「英雄の、力……」

 

 何度か見たNDLでの宍戸丈のデュエル。

 デュエリストにはカイザーのように常に一つのデッキを使うタイプと、万丈目のように複数の主力デッキを持つタイプ、三沢のように相手によってデッキを千変万化させるタイプの三種類がいる。

 そして宍戸丈は万丈目と同じタイプ。複数の主力デッキを使い分けるタイプだ。

 

「行くぞ、俺のターン。手札の沼地の魔神王を墓地へ送りデッキより融合のカードを手札に加える。更に魔法カード、E-エマージェンシーコール! 手札よりE・HEROを手札に! 俺はE・HEROエアーマンをサーチだ」

 

「E・HERO!?」

 

 

【E-エマージェンシーコール】

通常魔法カード

自分のデッキから「E・HERO」と名のついたモンスター1体を手札に加える。

 

 

【沼地の魔神王】

水属性 ☆3 水族

攻撃力500

守備力1100

このカードを融合素材モンスター1体の代わりにする事ができる。

その際、他の融合素材モンスターは正規のものでなければならない。

また、このカードを手札から墓地へ捨てる事で、

デッキから「融合」魔法カード1枚を手札に加える。

 

 

 魔王が支配する三つの力の一つ。英雄――――E・HEROデッキ。

 宍戸丈は強力な最上級モンスターを配下として徹底したパワーで敵を蹂躙する以外に、変幻自在のHEROを操るHEROデッキ使いの側面をもつデュエリストなのだ。

 当然、十代のHEROデッキについても熟知しているだろう。

 

「手札よりサーチしたエアーマンを攻撃表示で召喚。そしてエアーマンのモンスター効果、召喚に成功した時デッキから『HERO』と名のつくモンスターを手札に加える! 俺はE・HEROオーシャンを手札に!

 そして融合を発動。手札のE・HEROフォレストマンと水属性モンスター、オーシャンを手札融合! 現れろ水のHERO! フィールドを絶対零度に凍結せよ!

 我がデッキに眠りし最強の英雄。E・HEROアブソルートZeroここに降臨!」

 

 

【E・HEROエアーマン】

風属性 ☆4 戦士族

攻撃力1800

守備力300

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

次の効果から1つを選択して発動する事ができる。

●自分フィールド上に存在するこのカード以外の

「HERO」と名のついたモンスターの数まで、

フィールド上に存在する魔法または罠カードを破壊する事ができる。

●自分のデッキから「HERO」と名のついた

モンスター1体を手札に加える。

 

 

【E・HEROアブソルートZero】

水属性 ☆8 戦士族

攻撃力2500

守備力2000

「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する

「E・HERO アブソルートZero」以外の

水属性モンスターの数×500ポイントアップする。

このカードがフィールド上から離れた時、

相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 高温のマグマの上に相反する属性をもつ〝水〟のヒーロー。巨大な氷柱を突き立て、白い外套を靡かせる絶対零度の英雄が降臨する。

 魔王に仕える最強のHEROは冷たく同じHERO使いたる十代を見下ろす。

 

『――――――』

 

『――――――』

 

 融合HERO同士、睨みあうフレイム・ウィングマンとアブソルートZero。

 水と地の融合体と風と炎の融合体。奇しくも真逆の属性により生まれた者同士、フレイム・ウィングマンとアブソルートZeroは敵意をむき出しにした。

 

「まだだ! 速攻魔法発動、マスク・チェンジ! 自分フィールド上の『HERO』を墓地へ送り、融合デッキより同じ属性の『M・HERO』と名のつく融合モンスターを特殊召喚する」

 

「折角召喚したアブソルートZeroをいきなり融合素材に……?」

 

 最強のHEROと言っておきながら、自分からいきなり消し去るような行為。

 十代はその行動の訳が分からず首を傾げた。しかし兄の傍らでそのコンボを見た事が合った明日香だけが顔を青くした。

 

「不味いわ十代! これは宍戸先輩の必殺コンボよ!」

 

「なんだって!?」

 

「もう遅い! 俺はアブソルートZeroを変身させ、M・HEROアシッドを攻撃表示で召喚!」

 

 

【M・HEROアシッド】

水属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2100

このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し、

相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。

 

 

 Zeroと同じく水の属性をもつHERO。ただし冠につけるアルファベットはEではなくM。

 エレメンタルとは異なるマスクド。アメリカンコミックのキャラクターを原型にしたE・HEROとは違う日本の変身ヒーローを原型としたM・HERO、未知のHEROモンスターの登場に敵でありながら十代は目を輝かせた。

 

「凄ぇ。E・HEROじゃないM・HEROなんて俄然燃えて来たぜ」

 

「なに呑気なこと言ってるの! もうコンボは始まってるのよ!」

 

「え? うおおおおおおおおおおおおお! 俺のモンスターたちが!」

 

 十代のフィールドのモンスターたちの全てが瞬間凍結する。

 抵抗することすら出来やしなかった。あらゆる命を許さぬ絶対零度の冷気は一瞬にして十代のモンスターたちの命を摘み取った。

 だがそれだけには留まらない。

 

「俺の伏せたカードまで」

 

 あろうことか二枚のリバースカードまで凍てついていく。

 完全に凍り付いた十代のフィールドのカードたちは、パチンッという丈の指の音に合わせて砕け散る。

 

「アブソルートZeroのモンスター効果、Zeroがフィールドを離れた場合、相手フィールド上のモンスター全てを破壊する。更にアシッドの効果。このカードが特殊召喚された時、フィールドの魔法・罠を全て破壊する」

 

「……!」

 

 Zeroとアシッド。同じ水属性HEROによる連携攻撃により十代のフィールドのカードは完全に薙ぎ払われた。

 

「融合召喚したZeroをマスク・チェンジさせ相手フィールドを完全に〝ゼロ〟にするコンボ。単純だけどこのコンボで多くのデュエリストが次のターンを迎えることなく敗北してきた」

 

「やばいっスよ! これで兄貴のフィールドはがら空き」

 

「それどころか相手フィールドには攻撃力2600のアシッドと1800のエアーマン。直接攻撃を受けたら十代はおしまいなんだな!」

 

 明日香と翔と隼人の悲痛な声がフィールドに響き渡る。けれどその嘆の声で攻撃の手を緩める程セブンスターズは甘くはない。

 

「これで終わりだ小僧。二体のモンスターで――――」

 

「待った!!」

 

「小癪な、なにを」

 

 絶対勝利を妨害された丈が舌打ちする。だが十代は悪戯小僧そのままの笑みを浮かべながら「チッチッチッ」と指を振る。

 

「焦ると怪我するぜ先輩。俺はアシッドの効果にチェーンして速攻魔法を発動させて貰ったぜ。クリボーを呼ぶ笛をな!」

 

「く、クリボーを呼ぶ笛だと!?」

 

「クリボーを呼ぶ笛、こいつの効果でデッキよりハネクリボーをフィールドに特殊召喚する。頼むぜ相棒、ハネクリボーを守備表示で召喚!」

 

 

【クリボーを呼ぶ笛】

速効魔法カード

自分のデッキから「クリボー」または「ハネクリボー」1体を選択し、

手札に加えるか自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

【ハネクリボー】

光属性 ☆1 天使族

攻撃力300

守備力200

フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時に発動する。

発動後、このターンこのカードのコントローラーが

受ける戦闘ダメージは全て0になる。

 

 

 絶対零度の中、白い羽をつけたクリボーが特徴的な鳴き声をあげながらフィールドに舞い降りる。

 フィールドに召喚されたハネクリボーは直ぐにZeroの絶対零度により凍りつき破壊された。けれどその効果は発動する。

 

「ハネクリボーの効果発動。このカードが破壊され墓地へ送られた時、このターン俺が受ける戦闘ダメージは0となる! ヘヘっ。どうやら俺のフィールドだけじゃなくてダメージまでゼロにしちまったみたいだな。

 更にカードガンナーの効果、俺はカードを一枚ドローする。あれ? カードをドローできたってことは、ゼロじゃなくて1か。ナンバーワンってところかな」

 

「クッ……小癪な真似を……。カードを一枚伏せターンエンドだ」

 

「ふぅ。どうにか凌いだか」

 

 一安心する。鼻持ちならない挑発をしてみせた十代だが、本当に危ないところだった。

 もしもクリボーを呼ぶ笛をセットしていなければ、十代はターンを凌ぎきることなく1ターンで沈んでいた事だろう。魔王という異名とカイザーと同格という評判が偽りでないことを再確認した。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 出来ればこのターンで巻き返したい。しかし残念ながら今の手札ではアシッドとエアーマンを倒し、ダメージを与えるのは不可能だ。

 ここは時間を稼ぐしかない。そして逆転の機を伺うべきだ。

 

「モンスターをセット、カードをセット。ターンエンドだ」

 

 デュエルはまだ始まったばかり。だが丈のフィールドには二体のモンスター。

 形勢は以前として十代の不利。次のターン持ち堪えなければ、勝ち目はない。

 



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第132話  狡猾なる罠

遊城十代 LP4000 手札0枚

場  セットモンスター

伏せ 一枚

 

宍戸丈  LP4000 手札1枚

場 M・HEROアシッド、E・HEROエアーマン

伏せ 一枚

 

 

 

「ハネクリボーのお蔭でワンターンキルを逃れて一安心といったところだが、同じ幸運が俺に二度と通じると思うな。このターンでお前のフィールドを焼野原にしてくれる。ドロー!」

 

「くっ……」

 

 認めたくはないが確かに丈の言う通り不味い状況だ。

 十代のフィールドにはリバースモンスターとリバースカードが一枚ずつ。対して丈のフィールドには二体のモンスター。

 だがここではやられない。このターンを耐えて、次の逆転を狙う。それに全神経を集中させる。

 

「手札よりE・HEROスパークマンを召喚、攻撃表示」

 

 

【E・HEROスパークマン】

光属性 ☆4 戦士族

攻撃力1600

守備力1400

様々な武器を使いこなす、光の戦士のE・HERO。

聖なる輝きスパークフラッシュが悪の退路を断つ。

 

 

 HEROの一枚、スパークマン。下級の通常HEROの中ではトップクラスの攻撃力をもつため十代も愛用しているカードだ。

 ただ十代のスパークマンが黄色いメットに青い体躯をしているのに対して、丈のそれは若干肌が黒ずんでいた。

 

「スパークマンでリバースモンスターを攻撃、スパークフラッシュ!」

 

 手から放たれる黒い稲妻が伏せモンスターを破壊する。

 破壊されたのはE・HEROフェザーマン。とてもではないがスパークマンの攻撃力には敵わない。

 

「今だ! リバースカード、オープン! ヒーロー・シグナル! 俺のモンスターが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、自分の手札またはデッキからE・HEROと名のつくモンスターを特殊召喚する!」

 

 

【ヒーロー・シグナル】

通常罠カード

自分フィールド上のモンスターが戦闘によって破壊され

墓地へ送られた時に発動する事ができる。

自分の手札またはデッキから「E・HERO」という名のついた

レベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 その名の通り十代と丈の頭上に黒いシグナルが出現する。

 丈は目を細めた。十代と同じHERO使いである丈には、十代がこれから召喚するモンスターに当たりを付けているのだろう。

 

「デッキよりE・HEROバブルマンを守備表示で特殊召喚! そしてフィールド上にカードが無い時に特殊召喚に成功した時、デッキからカードを二枚ドローする。俺はカードを二枚ドロー!」

 

 

【E・HEROバブルマン】

水属性 ☆4 戦士族

攻撃力800

守備力1200

手札がこのカード1枚だけの場合、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に

自分のフィールド上に他のカードが無い場合、デッキからカードを2枚ドローする事ができる。

 

 

 逆転の鍵となるのは手札だ。ヒーローシグナルで壁モンスターを増やし、バブルマンの効果で手札増強を行う。

 これで十代の手札はゼロから二枚になった。次のターンでドローすれば三枚になるだろう。しかも、

 

「チッ。エアーマンでバブルマンを攻撃、続くM・HEROアシッドでプレイヤーを直接攻撃!」

 

 二体のモンスターの連続攻撃でバブルマンが破壊され、ダイレクトアタックを受ける。しかし一体の直接攻撃は防げた為、十代のライフは1400残る。

 1400あれば逆転には十分だ。

 また後一歩で勝ちを逃した形となった丈は悔しげに舌打ちする。

 

「ターンエンドだ。また命拾いしたな小僧」

 

「ついでに勝利も拾ってやるぜ。ここからが俺の逆転劇だ! 俺のターン、ドロー。強欲な壺を発動、カードを二枚ドローする!

 E・HEROプリズマーを攻撃表示で召喚! プリズマーの効果で自分の融合デッキにカード名が記載されている融合素材モンスター1体を墓地へ送り、このターンのエンドフェイズまでこのカードをそのモンスターの同名カードとして扱う!

 俺はシャイニング・フレア・ウィングマンを見せ、融合素材のスパークマンを墓地へ送るぜ!」

 

 

【E・HEROプリズマー】

光属性 ☆4 戦士族

攻撃力1700

守備力1100

自分の融合デッキに存在する融合モンスター1体を相手に見せ、

そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体を

自分のデッキから墓地へ送って発動する。

このカードはエンドフェイズ時まで墓地へ送ったモンスターと同名カードとして扱う。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

 水晶のようなプリズマーの表面にスパークマンが映し出される。

 墓地にHEROを送りつつ、融合素材の代用としても扱えるプリズマーはHEROデッキにとって要となるモンスターの一枚だ。

 

「墓地にはスパークマンと融合召喚されたフレイム・ウィングマン。となれば……」

 

「おう! 魔法カード、ミラクル・フュージョン! 墓地のスパークマンとフレイム・ウィングマンを融合! 来い、シャイニング・フレア・ウィングマン!」

 

 

【E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン 】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力2500

守備力2100

「E・HERO フレイム・ウィングマン」+「E・HERO スパークマン」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する「E・HERO」と名のついた

カード1枚につき300ポイントアップする。

このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、

破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 風と炎を纏いしフレイム・ウィングマンに雷の力が合わさり、光の力をもつHEROが降り立った。

 シャイニング・フレア・ウィングマンは眩い光を放ちながら、フィールドを圧巻する。

 

「シャイニング・フレア・ウィングマンは墓地のE・HERO一体につき攻撃力を300ポイントアップさせる。俺の墓地にいるE・HEROは六体! よって1800ポイントアップだ!」

 

「やったわ! これで十代のモンスターが宍戸先輩のモンスターの攻撃力を上回った!」

 

「それで兄貴のシャイニング・フレア・ウィングマンには破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを与える効果があるっス!」

 

「攻撃が通れば十代の勝ちなんだな!」

 

 フレイム・ウィングマンを超えるエースモンスターの登場に、思わず明日香たちも破顔する。十代も自信ありげに笑いながら鼻を掻いた。

 これまで十代が相手してきたデュエリストなら或いはこれで終わっただろう。しかし今目の前に立っているのは仮にも宍戸丈。

 

「甘いなぁ」

 

「なに!?」

 

「俺はミラクル・フュージョンの発動に対してコイツを発動していた。カウンター罠、発動! 神の宣告!」

 

「げぇ!」

 

 

【神の宣告】

カウンター罠カード

ライフポイントを半分払って発動できる。

魔法・罠カードの発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚の

どれか1つを無効にし破壊する。

 

 

 召喚されたばかりのシャイニング・フレア・ウィングマンが召喚を無効にされ跡形もなく消滅する。

 神の宣告、ライフ半分という大きなコストをもつが魔法・罠・モンスターの各召喚まで無効化する汎用性の高いカウンター罠だ。

 光の英雄も神の前には無力に等しい。

 

「さぁ。どうするね遊城十代。頼りのシャイニング・フレア・ウィングマンは召喚することすら叶わず消え去ったぞ。もう手は出し尽くしたかな」

 

「……カードを二枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 今度ばかりはさしもの十代も顔を青くする。

 シャイニング・フレア・ウィングマンでこのターンで勝利を決めるつもりでいたのだ。そうでなくとも巻き返しにはなるだろうと思っていた。

 だというのに頼りのシャイニング・フレア・ウィングマンは召喚することすらできず消滅。嘗てない絶体絶命の危機というやつだった。

 

「これが貴様のラストターンだ。天使の施しで三枚ドローし大嵐を発動、フィールドの魔法・罠を全て破壊する! そしてミラクル・フュージョンを発動! 俺は場のスパークマンと墓地の融合素材代用モンスター、沼地の魔神王を除外し融合!!」

 

「スパークマンに沼地の魔神王……? まさかこの組み合わせは!?」

 

「青ざめたな小僧。御察しの通り貴様の召喚できなかったモンスターは俺が召喚してやろう。現れろシャイニング・フレア・ウィングマン!」

 

 十代にとっては希望の光そのものでもあった頼りがいのある味方フレア・ウィングマン。

 だからこそそれが敵に回った時のショックは大きなものだった。

 

「バトル! シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃、シャイニング・シュート!」

 

 さっき明日香たちが言った通りシャイニング・フレア・ウィングマンには戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果がる。

 これに加え他のモンスターの総攻撃を喰らえば十代は終わりだ。

 

「させるかぁ!」

 

 

【ヒーローバリア】

通常罠カード

自分フィールド上に「E・HERO」と名のついたモンスターが

表側表示で存在する場合、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

 

 

 プリズマーを守るように風車が出現し、、シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃を弾き飛ばした。

 ヒーローバリア、フィールドにE・HEROがいる時だけ発動できる罠カードである。

 

「ヒーローバリアだと!? 馬鹿な。そのカードは大嵐で破壊されたはず……」

 

「……? HERO使いなのに、忘れちまったのか。ヒーローバリアはフリーチェーンのカード。大嵐が発動した時にチェーンして発動してたんだぜ」

 

「無駄な足掻きを……! ならばアシッドによる攻撃!」

 

「それもさせるかぁ! ネクロ・ガードナーを墓地から除外して、アシッドの攻撃を無効にするぜ!」

 

 黒い壁が出現し、それがアシッドの攻撃を阻む。

 

「っ!」

 

 どちらにせよこれで丈のフィールドに残っているモンスターはエアーマンだけ。

 そしてエアーマンの攻撃だけでは十代のライフを削りきる事は出来ない。

 

「っ! エアーマンでプリズマーを攻撃!」

 

 遊城十代LP1400→1300

 

 プリズマーが破壊され再び十代のフィールドががら空きになるが、またも丈は十代のライフを0にできずに終わる。

 

「……ターンエンドだ」

 

 これで再び十代は命を繋いだが、どこか釈然としない気分で宍戸丈を見る。

 強いのは間違いない。十代自身何度も追い込まれたし、逆転のキーカードを潰されもした。しかし以前カイザーと戦った時に感じた圧倒的なまでの強者の気配を丈はもっていないのだ。

 気のせいといってしまえばそれまでだが、十代にはそれが気に掛かった。

 



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第133話  凶気のセブンスターズ

遊城十代 LP1300 手札0枚

場 無し

伏せ 無し

 

宍戸丈  LP2000 手札0枚

場 E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン、M・HEROアシッド、E・HEROエアーマン

伏せ

 

 

 

 互いに手札はなくライフはやや丈の有利。フィールドアドバンテージに限っていえば十代の圧倒的な不利だった。

 流石の十代も一筋の冷や汗が流れ落ちる。流れ落ちた汗はマグマに呑み込まれ一瞬のうちに蒸発してしまった。もしこのデュエルに負ければ自分はあの汗のようにマグマに呑み込まれるのだろうか。

 差し迫った明確なる死という現実に、らしくもなく十代はネガティブなことを考えてしまった。

 

「俺のターン……」

 

 次のドローで全てが決まる。

 ただのモンスターをドローするだけでは駄目だ。壁モンスターを一体召喚したところで次の一斉攻撃を防ぐことはできない。墓地にはもうネクロ・ガードナーもありはしないのだから。

 

「ドロー! ……………おっし!」

 

 果たして運命の女神は十代を見捨ててはいなかった。ドローカードを確認した十代は小さくガッツポーズする。

 

「貪欲な壺を発動! 墓地のモンスターを五枚デッキに戻しシャッフル。その後二枚のカードをドローする! 俺は墓地のバーストレディ、フェザーマン、ワイルドマン、バブルマン、カードガンナーをデッキに戻しシャッフル。二枚のカードをドローするぜ!」

 

「土壇場でドローカードを引くとは悪運強い。だが愚か者だ。小僧、貴様のその行為は自分の断頭台へ続く十三階段を一歩だけ降りただけに過ぎない。

 だがどれほど後ずさろうと死刑囚が断頭台にかけられるという運命が変わる事はないのだ。潔く諦めるのが楽になれる道だと思うが」

 

「―――――――なにを! ん……?」

 

 反論しようとした十代だったが、途中であることに気付いて目を見開いた。

 闇のゲームによる苦痛でありもしない幻覚を見ているのかも、とゴシゴシと制服の袖で目を擦るが……〝それ〟は決して見間違いでも幻影でもなかった。

 息を飲む。もしもそれが本当だとしたら、どうして十代の目の前に立つ宍戸丈はあんなことをしているのか。

 

「どうしたの十代、まさかドローしたカードが悪かったんじゃ」

 

「そ、そんなぁ。兄貴ぃ……」

 

「気張れ! 気張るんだな十代!!」

 

 十代がデュエルをすることを止めて考え込んでいるのを、手札が悪いことによる絶望と勘違いした明日香たちが応援の声を振り絞った。

 その声で我に返った十代は慌てて取り繕う。

 

「心配すんなって! そんなんじゃねえ、ただ」

 

 最初からなんとなく違和感はあったのだ。

 魔王というわりには香ばしいまでに漂ってくる小物っぽい臭い。まるでお手本をなぞるかのようなプレイング。強くはあるが、同じ四天王であるカイザーの常識外れの強さがあの宍戸丈には感じられない。

 もしもこれが宍戸丈だとしたら、あのカイザーがあれほどまでの信頼を寄せるだろうか。

 

(もしかしたら)

 

 十代はある一つの可能性に思い当たる。

 荒唐無稽な話ではあるが、試してみる価値はありそうだ。

 

「なぁ宍戸丈先輩。いいや、こう言わせて貰おうか。なぁ偽物さん」

 

「――――――な、なに?」

 

 露骨に宍戸丈の表情が歪み、顔面がめくれ上がった。

 

「もうメッキは剥がれてるんだよ。お前は宍戸丈じゃない。宍戸丈を語る真っ赤な偽物だ!」

 

「なんですって!? あの宍戸先輩が……偽物!?」

 

 宍戸丈が偽物だという十代の指摘に、明日香たちまでも驚愕する。正面から指を差された宍戸丈を語る何者かは暫く固まっていたが、数十秒を経て元に戻ると。

 

「ははははははははは。楽しい妄言じゃないか小僧。この俺が偽物だって? トチ狂ってなにを馬鹿なことを言いだすんだか。見ろ、このHEROたちを! これは間違いなくこの俺のカードだ。宍戸丈が操るHEROモンスターたちだ! これでも俺を偽物とでも?」

 

「ああ偽物だね!」

 

 力強く断言する。本当は明確な証拠といえるものもなければ十代自身半信半疑だが、さも確信しているといったふうにふてぶてしく笑う。

 十代が自信をもって言い放つと宍戸丈を語る者の顔が少しずつ青くなっていく。

 

「俺は前にアンタと同格だっていうカイザーと戦った。結果は悔しいけど俺の負けだった。だけどなんていうかカイザーのデュエルにはこう凄味みたいなものがあって、心の裏側までワクワクするもんだった。

 だけどお前はなんか違う! カイザーと同じくらい強さのデュエリストにしてはお前は爪が甘いし間抜けすぎるぜ。お前みたいなのが宍戸丈だったら、カイザーのライバルになることなんて出来るもんか!」

 

「き、貴様……。お、俺を間抜けだ、とォ~~~! 黙れ五月蠅い小僧! 見ろ、俺の顔を! 宍戸丈そのものだ。そして俺のデッキも宍戸丈のものだ! この服だって宍戸丈のものだ! そしてなによりもこのブラックデュエルディスク!! カードプロフェッサー頂点の証たるこれこそ俺が本物の宍戸丈だっていうなによりもの証拠!! どうだ恐れいったか!!」

 

「それはどうかな」

 

「なに!?」

 

「言っただろう。メッキは剥がれてるって。お前がブラックデュエルディスクといったそれをよく見てみろ!!」

 

 この場にいる全員の視線が宍戸丈の腕に装着されているブラックデュエルディスクに集まった。

 十代が指さした理由を知るため全員が食い入るようにブラックデュエルディスクを見つめ、やがて翔が「あっ!」と驚いて口元を抑える。

 翔が気付くと連鎖的に明日香と隼人が気付き、一番遅れて宍戸丈を語る者の表情が青ざめる。

 

「デュエルディスクの黒い部分がハゲ落ちて、普通のデュエルディスクの色が出てるんだな!」

 

 隼人の指摘通りだった。きっと黒いペンキやなにかで普通のノーマルなデュエルディスクを黒くしたのだろう。ブラックデュエルディスクは見た目は色が黒いだけのデュエルディスク。故に普通のデュエルディスクをそのまま黒くしてしまえば傍目には見分けがつかない。

 偽物のブラックデュエルディスクに、偽物らしいプレイング。これこそが十代が宍戸丈=偽物という推理に辿り着いたピースだ。

 

「さぁ答えて貰おうか。もしもお前が本物の宍戸丈なら、どうして本物のブラックデュエルディスクを持ってないのかをな」

 

「――――――――――ヒ」

 

「ひ?」

 

 瞬間、宍戸丈だった男の顔が風船のように膨れ上がり破裂する。顔だけではない。全身が破裂し、ぶくぶくと肥え太った肉が露わになっていく。

 そして現れたのはファンタジーなどに出てくるゴブリンに肌色のペンキを塗りたくり、圧縮機にかけられて潰れた顔の男だった。

 

「ぐゅびゃはぎゃはひはひゃほはははははっははぶひゃはははははは!!」

 

 狂った様な笑い声が火山に反響する。非人間染みた狂笑に十代の背筋がナイフに当てられたように冷たくなった。

 

「しょの通りでござぁぁあああいまむぁあああああああああああす! ぎぇへへげへへへへへへへへへへへへへへへへへ! そうさぁぁ~。俺はセブンスターズに雇われた死の物まね師だぁぁ!

 どうだぁ? 驚いたぁ? 驚いちゃったぁ~♪ ギャハハッハハブハハハハハハハハハハハハ。騙されてやんの、バー――――――――カ!」

 

「死の物まね師……!」

 

 嘗てインダストリアル・イリュージョン社に雇われ、闇のプレイヤーキラーとして活動した男の一人。変装の達人。他人のデッキとプレイングをコピーするスペシャリスト。

 明日香から貸して貰ったペガサス島のDVDで十代もその名前だけは知っていた。

 

「ぐびゃへへへっへ。どぅぁ~けど舐めるんじゃねぇーぜぇえええええ! 俺はこの通り真っ赤な偽物だぁ。ンフッ! どっこい俺のデッキまでは偽物じゃねえんだよなぁぁ~」

 

「なんだって。……………まてよ、お前のデッキが本物だっていうなら本当の宍戸丈はどこへ」

 

「本物の宍戸丈ォ? ああ、あいつなら死んじゃったヨ」

 

「っ!」

 

「太平洋の中心で飛行機ことドバァァアアアアアアアアアンってなってオッこっちゃった☆ どうでちゅかぁぁ~。チミたちの希望の星の魔王様は今頃お魚さんたちのウンコになっちゃいましたよぉ」

 

「て、テメエ!」

 

 嫌悪感を湧き立たせるような言い様と、宍戸丈を殺したとでもいうかのような言葉に十代の沸点も頂点に達した。

 激怒して死の物まね師を睨みつけるが、男は気にすることもなく下卑げた笑いを続ける。

 

「ふへへっはぎゃぶひゃはふぐへへはっはははははははははは! あいつが死んじまったから、奴の構築した最強デッキはこの俺のものって寸法よぉぉお!

 ううぅん。ラッキーだぜぇええ。三幻魔とかいうカードにも興味あるが、テメエを倒してこのデッキを報酬として頂戴するだけで元は十分よ。なんたってアメリカの頂点に君臨した男のデッキだからなぁ。これから稼ぎが抜群に良くなるぜぇ」

 

「ふざけんな! それはお前のデッキじゃない。返せ!」

 

「ひひひ! それ怒れ怒れぇ。だぁけぇどぉざぁんねぇん! お前の手札はたったの二枚。そんなんじゃなーんもできやしねぇんだよ!!

 それともあれかぁ? 死んだ魔王様の守護幽霊が降りてくるのでも待っちゃうかなぁ。ま、無駄だけどね☆」

 

「許さねえ……!」

 

 出来れば今直ぐに目の前の男を叩きのめしたい。だが十代の手札には死の物まね師を倒せるカードはない。

 死の物まね師の言う通りデッキは宍戸丈のものなのだろう。デュエリストは兎も角、デッキの強さは本物だ。

 

「モンスターをセット……ターンエンドだ」

 

「げへへはがびはやははははは! もう守備表示でターンを凌ぐことしかできねえってか。だけどぉぉぉぉぉ、俺様のHERO軍団はそんなんじゃ止められねえぜ」

 

「〝お前の〟じゃないだろう。どれだけ変装しようとそれはお前のデッキじゃない。どれだけプレイングを真似したって、本物を100%再現するなんて出来るもんか」

 

 以前、武藤遊戯のデッキを盗み出した神楽坂とデュエルをした十代だから自信をもって断言する。

 だが死の物まね師はにんまりと嫌らしく笑った。

 

「ぎゃへへぶひゃへへへへへへへ……。そいつはどぉかなぁ。俺の脳にはデュエルマシーンから収集した〝宍戸丈のプレイング〟を完璧に記録したチップが埋め込まれている。要するに今お前が相手してんのは宍戸丈じゃなくても紛れもなく宍戸丈の実力ってことなんだよ! マヌケッ!」

 

「っ!」

 

「ぐぇはへへへへ。このターンでテメエはジ・エンド! マグマの藻屑にしてやンぜぇえええええ!! 俺のターン! やれぇ! シャイニング・フレア・ウィングマン! あいつのモンスターをぶっ殺せぇえ!」

 

 偽物の主に使役されているシャイニング・フレア・ウィングマンは命令に対して不服なオーラを放つ。

 だがモンスターである以上デュエリストの攻撃命令に逆らうことはできない。シャイニング・フレア・ウィングマンは苦しみながら、十代の守備モンスターを攻撃した。

 

「俺のセットしていたモンスターはカードガンナーだ。こいつが破壊されたことで俺は一枚ドロー!」

 

「ぼひゃははひひはほへへへははははははははははは! 攻撃は防いでもシャイニング・フレア・ウィングマンの効果発動ォ! カードガンナーの攻撃力、400のダメージだぁああ! 死ぃぃぃぃぃぃいねぇええええええええええ!!」

 

 遊城十代LP1300→900

 

 攻撃力の低いカードガンナーだったのが幸いした。シャイニング・フレア・ウィングマンの効果によるダメージはたったの400に留まり、十代のライフを削りきるには足りない。

 だがしかしこの攻撃で十代のライフも遂に1000ポイントを切った。

 

「続いてアシッドの攻撃、こいつでしまいだぁぁあ!!」

 

「させるか」

 

 けれどカードガンナーはしっかり救いの糸を手繰り寄せてくれていた。

 

「手札より速攻のかかしを捨てる! これにより相手の直接攻撃は無効となり、バトルフェイズは終了となる」

 

 

【速攻のかかし】

地属性 ☆1 機械族

攻撃力0

守備力0

相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から捨てて発動する。

その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 

 

 アシッドの前に透明なかかしが出現し、攻撃が停止する。

 昨日万丈目とトレードしたばかりのカードで、ものの試にデッキに投入していたのが役に立った瞬間だった。

 

「カードガンナーで防御カードを引き当てやがったか。運の良い奴! 俺はターンエンドだ……」

 

「――――俺のターン」

 

 恐らくこれが自分のラストターンになるだろう。さっきの攻撃といい、幾度となく絶体絶命の危機を乗り切ってきたがもう打ち止めだ。

 十代の手札には魔法カードが一枚だけ。ここからあのカードをドローできなければ終わる。

 それでも負ける訳にはいかない。

 相手がセブンスターズで命が掛かっているからではない。死の物まね師は宍戸丈のデッキを盗み名を語ってデュエルをする薄汚い偽物だ。そんな偽物のHERO使いに、本物のHERO使いが負けるわけにはいかない。

 

「ドロー!!」

 

 十代が引き当てたのは何の変哲もないノーマルカードだった。レベル3の通常モンスター。効果も何もありはしない極普通のHEROカード。

 だがそのカードこそ十代の待っていたカードだ。

 

「へへへへへへ。ありがとうな俺のデッキ。ちゃんと来てくれたぜ。来い、E・HEROバーストレディ!」

 

 

【E・HEROバーストレディ】

炎属性 ☆3 戦士族

攻撃力1200

守備力800

炎を操るE・HEROの紅一点。

紅蓮の炎、バーストファイヤーが悪を焼き尽くす。

 

 

 E・HEROの紅一点の女戦士、バーストレディ。だが圧倒的攻撃力のシャイニング・フレア・ウィングマンを始めとしたHEROの前では霞んでしまう力しかない。

 死の物まね師も同じことを思ったのかにんまりと馬鹿にするように笑った。

 

「この期に及んでバーストレディだぁってぇええええ~。ぷげらぎゃぶひょひゃははははははははははははははははははは! そんなクズカードを今更出してどぉすんだよぉぉお!」

 

「俺のデッキにクズなんていやしない。本物の宍戸丈ならそんなこと分かっていただろうぜ。お前に……本物のHERO使いの力を見せてやる! 手札より魔法カード発動、バースト・インパクト!」

 

「ば、バースト・インパクト!?」

 

「こいつは自分の場にE・HEROバースレディがいる場合のみ発動できる魔法カード。フィールドのバーストレディ以外のモンスターを全て破壊し、破壊したモンスター×300ポイントのダメージを相手に与える!」

 

「そ、そんな効果ありかよぉぉ!」

 

 

【バースト・インパクト】

通常魔法カード

自分フィールド上に「E・HERO バーストレディ」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。

フィールド上に存在する「E・HERO バーストレディ」以外のモンスターを全て破壊し、

破壊されたモンスターのコントローラーに破壊したモンスターの数×300ポイントダメージを与える。

 

 

 バーストレディの全身より紅蓮の炎が湧き上がり、フィールド中に炎のエネルギーが放出される。

 破格の攻撃力をもつシャイニング・フレア・ウィングマンもアシッドもエアーマンも、死の物まね師のフィールドに並んだHEROたちがバーストレディによって駆逐されていく。

 そして破壊されたモンスターの合計×300、900のライフが死の物まね師より削られる。残りライフは1100。

 

「これがHEROの可能性だ。どんなHEROにもそのHEROにしかできないオンリーワンの価値がある。HERO使いなら誰だって知ってることだ。先輩の代わりに教えといてやるぜ。

 バトル! バースト・レディのプレイヤーへのダイレクトアタック! やれぇ!」

 

 バーストレディが高く跳躍し死の物まね師の真正面に降り立つ。いつもならバーストレディが攻撃する際は手から炎を放つものなのだが、今回はそうではなかった。

 どうやらバーストレディも自分のことをクズだなんだのと馬鹿にしたことに対して腹を立てていたらしい。勢いよく死の物まね師の股間に強烈なキックを入れた。

 

「○△×■☆!?」

 

 声にならない叫びをあげて死の物まね師が悶絶する。

 ソリッドビジョンならまだしも、これは闇のゲーム。直接攻撃のダメージはそのまま伝わるわけで、要するに死の物まね師はダイレクトにナニを蹴り飛ばされる苦痛を味わったのだろう。十代もこれには同情した。

 

「あれ? 周りが……」

 

 気付くと十代たちは火山の中から元のレッド寮に戻って来ていた。地面には悶絶した死の物まね師。

 どうやらセブンスターズ第一の刺客は撃退できたらしい。

 十代は死の物まね師に近付くと、デュエルディスクからデッキを抜き取る。

 

「これが魔王のデッキ、か」

 

 手に持った宍戸丈のデッキはずっしりと重かった。

 



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第134話  太平洋にて

 太陽からさんさんと降り注ぐ暖かな光は、ゆらゆらと揺れる青い海面に反射されきらきらと光る。空ではウミネコらしき鳥が鳴いていた。

 こんな時でもなければ丈はぼんやりと景色を堪能しながら船旅を楽しんていただろう。だがそういう訳にもいかない。なにせ丈はつい数時間前に爆発した飛行機からパラシュートで脱出して、偶然通りかかった漁船に助けられたばかりなのだから。

 飛行機が爆破された理由が理由だ。飛行機の爆破で丈は海の藻屑となったと思っているだろうし、セブンスターズの刺客とやらが太平洋のど真ん中を航行する漁船に襲い掛かってくる可能性は低いが、だからといって無警戒で良いというわけではない。

 

「ブラックデュエルディスクにパラシュートがセットされていて助かったな」

 

 備えあれば憂いなしというやつだ。

 ブラックデュエルディスクにセットされていたパラシュートがなければ、明弩瑠璃を助けつつ飛行機から脱出するのは難しかっただろう。

 やたら多機能なブラックデュエルディスクに丈は初めて感謝した。

 

「俺だ。……入って良いか?」

 

 コンコンと漁船の一室のドアをノックする。

 

「――――――――――」

 

 しかしノックしても室内からはなんの返事もない。

 彼女に限ってまだ眠っているなんてことはないだろう。仮に眠っていたとしても丈がノックしたその瞬間に目を覚ましたはずだ。

 だから沈黙は消極的了承だと受け取る。

 

「失礼する」

 

 丈は一言断ってから室内に入る。

 すると銀髪の女性が簡易ベッドに寝かされていた。海水でメイド服は濡れてしまったため仕方なく丈の変えのワイシャツを着せて、バスタオルを羽織わせている。

 ちなみに丈の着ている服はプロ用にI2社が仕立てた特別性なので海水程度では駄目にならない。

 

「敗北者にどのような御用でしょうか、宍戸様」

 

 やはり起きていたらしい。室内に入るなり横になったまま瑠璃が言った。

 

「聞きたいことがある」

 

「私にはもうお話することはありません。デュエルに負けたデュエリストとして話すべき事は飛行機で話しました」

 

「俺から盗んだデッキは主の下へ送ったっていうあれか」

 

 コクリと寝たまま瑠璃は頷いた。

 

「だが主の下へ送ったというだけじゃ俺のデッキの場所は分からない。主がどこの誰なのか、送った主のいる場所が具体的にどこなのか。それを聞きたい」

 

「申し上げることはできません」

 

 頑なに瑠璃は発言を拒む。なにがなんでも話さないという強い意志が語彙から感じることができた。

 本来であれば丈も彼女の意志を尊重してこのまま引き下がりたい。しかしこれには自分の命と同じくらい大切なデッキが関わっている。こればかりは丈も引くわけにはいかない。

 

「どうしてそこまで主を庇う? 俺を貴女諸共殺そうとしたというのに。単純な雇い雇われの関係じゃここまで義理立てはしないだろう。なにか理由があるのか?」

 

「………………………」

 

「それも喋れないのか?」

 

「――――――いえ。貴方は私にデュエルに勝ち、死ぬはずだった私の命を救いました。主のことを話す訳にはいきませんが、主の迷惑にならないこと。私のことに関してならお話します」

 

 瑠璃はぽつぽつと話し始めた。自分が主に忠誠を捧げる理由について。

 

「私の生まれた国は……酷い所でした。豊かな日本が天国に思えるくらい、酷い国」

 

 国家の経済状況を無視した子沢山政策。それによって生まれたのは多くの子供達であり、多くの捨て子たちだった。

 当然だろう。貧しければ貧しいだけ養育できる子供の数も限られている。農村であれば子供は労働力になるかもしれないが、国民全てが農村民なはずはない。そして子沢山政策は国民全体に対して施行されたものだ。

 だから子供を育てられなくなった家庭が子供を捨てるのが横行した。それこそ警察が取り締まりできる許容範囲を超えるほどに。いや或いは警察組織などまともに機能していなかったのかもしれない。

 

「私はそんな国で、そんな国のごく普通の家庭に生まれて、そして極普通に他の家庭と同じように親に捨てられた……と、思います。物心ついた時には捨て子でしたので、親については分かりません」

 

「……………」

 

 丈は黙って話を聞く。

 先進国である日本に生まれ、NDLに所属してからは億という金を稼いでいる丈だが、裕福な人間がいる一方でどうしようもなく貧しい国というのは確実に存在して、そこでは豊かな人々がまるで実感できない悲劇が山のようにある。

 ボランティアの一貫として丈もそういう国に赴いたこともあった。

 

「そんな捨て子たちの未来なんて、語るまでもありません。とても運の良い子は国営の孤児院にいれられたでしょう。お世辞にも良い環境とはいえなかったそうですが、それでも孤児院に入れるのと入れないのとでは雲泥の差です。けれど入れなかった子は――――」

 

 碌に食べることもできず餓死する。どこぞのマフィアに使い捨てのヒットマンにされる。ゴミ箱を漁る生活をする。腐敗どころか機能していない警察官の八つ当たりに殺される。食うに困った誰かに殺され、その誰かの腹に収まるなんてこともあるだろう。

 そして下手に外見の良い、それも女性ならば。

 

「少し自画自賛になりますが、私の容姿は他の人から見て整っていたそうなので――――ある程度の年齢までどうにか生きていた私は何処かに売られました。いえ売られるはずでした」

 

「はず……?」

 

「ええ。どこかに売られる前に、私を買い取った人がいたのです」

 

「それがその主か」

 

 もう一度瑠璃は頷いた。

 

「私が生まれながら持っていた『精霊を見る力』。主はそれを見出したのです。もっとも私は精霊が見れるだけ。貴方や他の四天王の方々のように精霊と心を通わすこともできなければ、サイコデュエリストのような力もありません。本当にうっすらと精霊を感じ取れるだけです。

 ただそれでも主は自分の役に立つとお考えになったのでしょう。決して少なくない額で私を購入し、私を日本へ連れて戻りました。瑠璃という名前もその時に」

 

 瑠璃の話を聞く限り彼女の主は決して善意で彼女を助けたのではない。ただ単に彼女の力を自分のために利用する為だけに彼女を買い取ったのだ。だが、

 

「例え主が私の力を利用するために私をあの地獄から連れ出したのだとしても、私は間違いなく主に救われたのです」

 

 生まれた国では考えられないような教養を得る事ができた。

 いずれ三幻魔復活の力となるためデュエルモンスターズを教えられ、その楽しみを知ることも出来た。

 そして名前のなかった少女は〝瑠璃〟という人間としての名前を貰った。

 

「主に救われなければ、私はどこかの誰かに売られて顔も知らない誰か達の慰み者にされ、光を浴びることなくとっくに死んでいたでしょう。

 私の主は私を救った。私の命を、名前を、人間としての暮らしを、幸福を。主は全て私に与えてくれた。だから私はその御恩に応える為、命を懸けて主に尽します。主が死ねと言えば死にましょう。それが私の恩返しです」

 

「……分かった」

 

 彼女の意志は変えられない。これ以上は無駄だし、無理に心変えを頼むのは彼女の忠義に対して侮辱となる。

 丈の両親は馬鹿親に分類される親だが、それでも生んでもらった事には感謝がある。とすれば地獄から救いだし、文字通り全てを与えてくれた主への感謝はどれほどのものか。丈には想像もつかない。

 

「一つ教えて下さい」

 

 足を止める。

 

「どうして飛行機で私を助けたりしたのですか? 私から話を聞く為なのですか?」

 

「……いや」

 

 そんな打算的なことは考えていなかった。そもそも爆発する飛行機内でそんなこと考えられるはずがない。

 

「前に言った通り貴女が好きなようにしろと言うから好きなように行動しただけ。アメリカで世話になった貴女を見殺しにすると寝覚めが悪くなる。貴女が自分を助けず逃げろと言えば俺はその意志を尊重したよ」

 

「やっぱり思った通り。誰よりも優しいのに誰よりも冷酷なんですね、貴方は」

 

 室内から出る。

 瑠璃との話で肝心なことは聞き出せなかったが、これまでのことから分かった事もある。

 日本へ連れ帰った、と瑠璃は言っていた。ということは瑠璃の主は日本人、または日本に住んでいたということだ。

 そしてもう一つ。

 丈があの日あの便で飛行機で日本へ帰国するということは、チームを組んでいたキースとレベッカ、I2社のペガサス会長、それと鮫島校長しか知らないことだ。

 だというのにセブンスターズは瑠璃を飛行機に潜り込ませ、デッキまで盗んでみせた。事前に丈があの飛行機に乗ると分かっていなければそんなことは不可能だ。

 ということはセブンスターズの主はI2社やデュエル・アカデミアに関係のある人物である可能性が高い。或いはセブンスターズのメンバーにアカデミアかI2社の関係者がいる。

 

「おう。話は終わったみてぇじゃな! なんかあの子から話は聞けたか?」

 

「まぁそれなりには。それより本当にありがとうございます。助けて貰ったばかりじゃなくアカデミアに送って貰うなんて……」

 

「なぁに海じゃ困った時は助けあうもんじゃ。そうでなきゃこの戦場じゃ生き残れんぜよ」

 

 海に落ちた丈と瑠璃を助けた漁師は朗らかに笑った。

 

「しかもそれが同じデュエリストとあれば猶更じゃ。といっても俺はデュエリストは二年前に引退したんじゃがな」

 

「なにからなにまで痛み入ります、梶木さん」

 

 嘗てはペガサス王国やバトルシティといった伝説的大会で武藤遊戯や城之内克也といったデュエリストと凌ぎを削ったデュエリスト。

 梶木漁太は照れくさそうに鼻を掻きながら「気にするな」と丈の背中を叩いた。

 

 

 

 

 明かりのない暗闇の中。無数の黒い影が集まり、その視線を大きなモニターへと向けていた。

 パンと機械にスイッチが入る音がしてモニターに人の顔が映し出される。自分達のリーダーの顔が映った事で影たちは緊張するように息を飲む。

 

『―――――報告だ。セブンスターズ第一の刺客、死の物まね師がやられた』

 

「…………………」

 

 仲間が敗北したというのに、彼等には動揺らしい動揺はなかった。

 それも然り。彼等はセブンスターズとして三幻魔を狙う共闘者であるが、背中を預け合う同胞ではないのだ。その関係は言うなれば同盟者に近い。

 

「で、死の物まね師を倒したのは誰? 宍戸丈って坊やと同じ四天王のカイザーって坊やかしら」

 

 フードを被った者の一人がモニターの人物に尋ねる。

 

『いや違う。遊城十代――――鮫島に鍵の守護者に選ばれたオシリス・レッドの生徒だ』

 

 黒い影たちがざわつく。

 オシリス・レッドといえばアカデミアでも最低ランクの寮。待遇も最低、学歴も最低ならば実力も最低の底辺中の底辺だ。

 性格に多大な問題はあったが死の物まね師は海馬瀬人のデッキを使い武藤遊戯を苦しめたこともある実力者。それがドロップアウト生にやられたのだからセブンスターズの驚きは当然といえる。

 

「噂に聞くカイザーならまだしも、よもや我等が先陣を破ったのがレッド寮の小僧とはな。魔王より奪いし三つの力、そのうち一つを与えられながら死の物まね師も案外不甲斐ない。

 あの武藤遊戯を後一歩まで追い詰めたと聞いた時は、もう少しやると思っていたのだがねぇ」

 

「……気持ちは分かるが、同じセブンスターズの同志をそう貶すものではない。それに遊城十代はレッド生といえど、入学試験であのクロノス教諭を倒し中等部首席の万丈目や次席の天上院明日香にも勝利したことがある事実上一年生では最強の使い手。レッド生と侮るものじゃない」

 

「そうだ。なにより彼には四天王と同等クラスの精霊と心を通わす力をもっている。鍵の守護者の中でもカイザーに次ぐ難敵といっていいだろう」

 

 セブンスターズ二人の厳しい言葉を受け、最初に死の物まね師を貶した男は肩を竦ませる。

 彼も一応の仲間二人とここで事を構えるつもりはありはしない。

 

『さて。話を進めよう。次は、誰が行くかね?』

 

 セブンスターズの理想としては一人一殺だが、死の物まね師が返り討ちになったことでそれも叶わぬこととなった。

 誰かが最低でも二人倒す必要が出てきた。

 

「私が行くわ」

 

 セブンスターズの正規メンバーでは唯一の女性が言った。

 

『ほう。君が行くならば心強いなカミューラ。吸血鬼一族の末裔の力、是非とも見せて貰いたい。して奪った魔王の力は残り二つだが、どれを持っていくかね?』

 

「要らないわ。魔王だかなんだか知らないけど、下等な人間風情のデッキなど高貴なる私には不要。私は私のデッキで守護者に選ばれた坊やを骨抜きならぬ血抜きにしてあげるわ」

 

『分かった。ならば征くがいい。それと選別だ、アムナエル』

 

「――――カミューラ、これを」

 

 アムナエルと呼ばれた男はカミューラにカードを渡す。

 カードを受け取ったカミューラはカードテキストを流し読みしながら、そのカードを懐にしまう。

 

「このカードはなに?」

 

『もしお前がカイザーと戦うのであれば、そのカードが役に立つだろう。それと例のカードは使いどころを見誤るなよ』

 

「分かっているわ。私もみすみす幻魔に魂を食われたくはない」

 

 セブンスターズもまた動き出す。

 第二の刺客は吸血鬼一族の末裔たるカミューラだ。

 

 



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第135話  吸血鬼の襲来

 セブンスターズから七星門の鍵を預けられた六人は校長室に集められていた。

 昨夜のセブンスターズ第一の刺客、死の物まね師とのデュエルと、彼によって語られたことについて報告するためである。

 宍戸丈が乗った飛行機が爆破され太平洋の藻屑となったこと、そして丈のデッキがセブンスターズに奪われたことなどを聞くと、殆どの人間が絶望的な顔をした。

 

「まさか宍戸くんがそのようなことになるとは……私が、悪かったんです」

 

 丈をアカデミアに呼び戻した鮫島校長が自分の責任を感じてうなだれる。

 セブンスターズが丈の乗る飛行機を狙ったのは、宍戸丈という戦力が鍵の守護者となることを警戒してのことだ。もしも鮫島校長が丈を呼び戻さなければ、或いは標的となることもなかったかもしれない。

 

「校長の責任じゃないぜ。悪いのはセブンスターズだ」

 

 死の物まね師のことを報告し終えた十代が苦々しく言った。

 ただ昨日の闇のゲームでのダメージがまだ残っているせいで、声にいつもよりも力がなかった。

 

「けれど宍戸先輩のデッキがセブンスターズの手にあるっていうことは」

 

「HEROデッキは十代が取り戻したから良いとして、最低でもあと二回はあの人のデッキと戦うことになるな」

 

 明日香の懸念に、万丈目は腕を組みながら頷く。

 残る丈のデッキは最上級モンスターを中心としたデッキに暗黒界デッキ。どちらも強力無比なパワーデッキだ。その破壊力は並みのデッキの比ではない。

 勿論デッキが強いからといってデュエリストが強いとは限らないし、丈のデッキを操るデュエリストが弱ければ使いこなせず簡単に倒せる可能性はある。

 だが昨夜の死の物まね師も雰囲気はどうあれ嘗て武藤遊戯を追い詰めたこともある実力者。他のセブンスターズも死の物まね師と同等かそれ以上の実力を持っていると考えていい。

 デッキが使いこなせないなんていうのは希望的観測が過ぎるというものだろう。

 

「そ、それだけじゃないノーネ! セニョール・宍戸のデッキといえーば、ささささささ、三邪神のカードも奪われたということなノーネ!」

 

『…………………………………』

 

 クロノスの言葉に全員がしーんと静まり返る。

 三幻神と対極に位置し三幻神を殺すためにデザインされたが、その余りの危険性故に創造主であるペガサスが生み出す前に封印したという逸話をもつカード。

 その力は三幻神と同等といわれ、宍戸丈が二代目決闘王に最も近いと言われるのも、彼がそのカードの担い手であるが故だ。

 三幻魔封印を阻止するために鍵の守護者として戦っているというのに、既に敵は三幻魔と同等の力を手にしている。

 守護者に選ばれた者達を不安にさせるには十分すぎることだった。

 

「そう警戒することか?」

 

 だが一堂は失念していた。

 この場には宍戸丈のライバルであり、彼と同じ四天王に名を連ねる帝王がいるということを。

 

「丸藤くん。どういうことですか、警戒する必要はないとは?」

 

「そのままの意味です、校長。三邪神は確かに凄まじい力を持っている。それは丈や吹雪と共に正面から戦った俺が一番よく知っています。

 だが今の三邪神は全て丈を主と認め……逆に言えば丈以外を主とは認めないほどに心許している。そんな三邪神が丈以外の、それも丈からカードを奪った人間に従うでしょうか?」

 

 神のカードは持ち主を選ぶ。相応しくない者が使おうとすれば、神のカードはデュエリストに天罰を下す。

 これはアカデミアに入るデュエリストならば誰でも知っているような都市伝説だ。しかも比較的多くの人間に信じられている。

 三邪神が三幻神と同格のカードならば、三幻神の時に起きた事例はそのまま三邪神に当て嵌めることができるだろう。

 

「丈のデッキが奪われたところで俺達のやることは変わらない。襲い掛かるセブンスターズの刺客をデュエルで撃退するだけ。そこに丈のデッキを取り返すという仕事が追加されたに過ぎない。あいつも自分が戻って来たときにHEROデッキしか手元になければ困るはずだ」

 

「し、しかしセニョール宍戸は太平洋に――――」

 

「生きていますよ、あいつなら。あいつは三年連続で世界の危機とやらに巻き込まれた男。今更飛行機撃墜くらいで死ぬような男じゃない。

 仮に死んで地獄に堕ちたら、地獄の鬼を打ち負かして現世に侵攻でもしてくるでしょう」

 

 絶対的な信頼をもってカイザーと謳われたデュエリストは断言する。

 その余りにも自信に溢れた言葉に他の守護者たちにも希望が戻ってきた。

 

「カイザーの言う通りだ。こうやってデッキの一つだって取り戻せたんだし、残り二つもちゃっちゃと取り戻しちゃおうぜ」

 

 ぐっと拳を握りながら十代が言う。

 そんな面々を校長室の窓の向こう側から覗き見る蝙蝠に誰一人として気付くものはいなかった。

 

 

 

 

 

 一匹の蝙蝠が海に浮かぶ小舟に立つカミューラのもとに戻ってくる。

 蝙蝠がカミューラの伸ばした手に止まると、つぶらな赤い瞳をカミューラへ向けた。

 

「よしよし。お前が見たものを教えなさい」

 

 蝙蝠の目が赤く発光する。すると蝙蝠が見聞きしてきた情報、鍵の守護者に選ばれたデュエリストたちのデッキがカミューラの頭に流れ込んできた。

 

「ふふふふ。呑気な坊やたち。戦いっていうのは戦う前から始まっているものなのよ」

 

 蝙蝠の首を細い指でなでながら、吸血鬼の美女は妖しく微笑む。

 

「あら」

 

 鍵の守護者たちのデッキを確認している中で、カミューラは面白いものを見つけた。

 カイザー亮。本名は丸藤亮。恐らくは鍵の守護者の中で最強の実力をもつであろうデュエリスト。セブンスターズのボスからもカイザーには一層気を付けるよう五月蠅いくらいに言われている。

 しかしカミューラが注目したのはカイザーのデッキにではない。その自分好みの容姿だ。

 

「端正な容姿、愚かしくない目つき、知性を感じる佇まい…………決めた。カイザーなんて人間には不相応な称号なんて消し去って、私のお人形にしてあげようかしら」

 

 カミューラが顔もなにも描かれていないシンプルな人形を取り出す。

 闇のゲームにおいて丸藤亮を倒したあかつきには、この人形に〝魂〟が宿ることだろう。

 

 

 

 

 カミューラにロックオンされていることなど知りもしない亮は、一人部屋の中で自分のカードと睨めっこしていた。

 サイバー流の新規カードが新たに販売されたのがついこの前である。サイバー流後継者としてのコネもあり、新規サイバーはいの一番に入手した亮だが、実のところ新規サイバーを新たに加えたデッキには多少の不安要素がある。

 多くの新規カードが加わるということは、そのまま戦術の拡大に繋がる。だが戦術が拡大して強くなるとは限らないのだ。あれもこれもと節操なく投入した挙句にデッキの強さが低下するなんていうのはよくあることだ。

 亮は優れたデュエリストであり、そうはならないようバランスよくデッキを構築したつもりだ。

 だがこのデッキで一度も自分と互角の相手とデュエルしていないのが不安として残っている。

 

(前なら寝ている丈を叩き起こしてでもデッキ調整に付き合って貰ったんだが……あいつは今頃ここに向かっている途中。吹雪や藤原もまだアメリカ。やれやれ)

 

 デュエルする相手なら幾らでもいる。それこそ四天王なんて大仰な集団に名を連ねている亮が頼めば誰だって頷くだろう。そもそも亮にはデュエル希望の学生が半年待ちくらいで予約をいれているのだ。デュエルする機会に事欠くということはない。

 だが悲しいかな。この学園で亮と互角に戦えるのは〝四天王〟の面子だけ。そも亮はアカデミアに入学して以来、この学園で四天王以外のデュエリストに敗北したことはないし、それは他の三人も同じだ。

 そして新カードを投入した新デッキを確認するためには、やはり互角の実力をもつデュエリストと戦うのが一番良い。

 

「ままならんものだな。……………ん?」

 

 PDAが震えている。どうやら誰かからの連絡らしい。

 亮がPDAを操作して着信すると、そこに見慣れた弟の顔が映し出された。

 

「翔じゃないか。どうしたこんな夜更けに?」

 

『た、大変っス! セブンスターズの第二の刺客がやってきて、今クロノス先生がデュエルを――――』

 

「なんだと!? クロノス先生が……」

 

『相手はカミューラっていう吸血鬼で、クロノス先生が大変なことに……。お兄さん、速くきて下さいっス』

 

 クロノス先生といえばアカデミア実技最高責任者。鍵の守護者に選ばれていることからいってもその実力は折り紙つきだ。

 これが普通のデュエルなら亮も特に心配はしなかっただろう。

 だがセブンスターズとの戦いは闇のゲームだ。闇のゲームは現実的な苦痛を伴い、場合によっては命すら失う危険なデュエル。

 闇のゲームを知っているどころか、頑固に信じようとしなかったクロノス先生では危険だ。

 

「分かった。直ぐに向かう」

 

 構築中のデッキを纏めると慌てて寮を飛び出す。

 カミューラとクロノス先生のデュエルは海岸で行われている。ブルー寮から海岸まではどれだけ全速力で走っても二十分はかかる。

 しかしサイバー流の厳しい特訓で鍛え上げられた足腰はたった十分で亮を海岸まで送り届けた。

 

「クロノス教諭!」

 

「せ、セニョール丸藤!?」

 

 亮がきたことにデュエルをしていたクロノス先生が驚いて振り返る。

 十代や万丈目、他の守護者の面々や翔と隼人もクロノス先生のデュエルを見守るためにそこにいた。

 

「あら。やっと来たの。こんな弱っちい相手と遊んでいて待ちわびちゃったわ」

 

「よ、ヨワッチイ!? 失礼千万モッツァレラチーズなノーネ!」

 

 赤いドレスに身を包んだ貴婦人、カミューラは口の隙間から吸血鬼の証たる牙を覗かせる。

 艶めかしい視線が亮の全身を這いまわった。亮は不愉快げに顔を歪ませる。

 

「レディを待たせるなんて紳士として足りなくてよ。私もあなたみたいなタイプじゃない男の相手をするなんて面白くないし、そこの坊やとのチェンジを認めてあげるわよ」

 

「チェンジだと?」

 

 亮はクロノス先生とカミューラのフィールドに視線を向ける。

 

 

クロノス  LP100 手札2枚

場  なし

伏せ なし

 

カミューラ LP3450 手札4枚

場 ヴァンパイア・ロード

伏せ 二枚

フィールド 不死の王国ヘルヴァニア

 

 

 ターンこそクロノス先生だが、ハンドアドバンテージもフィールドアドバンテージもライフアドバンテージも圧倒的にカミューラが上回っている。

 このデュエルを引き継ぐとなると、圧倒的不利からスタートすることになるだろう。しかしこの程度で怯んでいては帝王の名が廃る。

 

「……いいだろう。このデュエル、俺が――――」

 

「駄目なノーネ!」

 

 だが亮の言葉は、力強い否定により遮られた。

 

「クロノス教諭、しかし」

 

「チェンジなーど、断じて認めないノーネ……。彼は私の生徒、セニョーラには指一本触れさせませンーノ。それに私はまだ負けたわけじゃないノーネ!」

 

 クロノス教諭の言葉に籠もった強い感情を察した亮は、それ以上なにも言いはしなかった。

 このデュエルはクロノス先生とカミューラの戦い。戦っているデュエリストが闘志を失っていないのなら、ギャラリーが何か言うことではない。

 

「ハッ。愚かしい選択だこと。勝てぬと知って抗うなんてこれだから人間は愚かね。そんなに死にたいなら望み通りにしてあげるわ。

 メインディッシュには程遠いけれど、ナプキンくらいには丁度良いわね。弱いくせにこの私の前に立った愚かさを人形となり呪いなさい!」

 

「それは違うぜ」

 

 カミューラの侮辱を否定したのは、予想外にも十代だった。

 

「ドロップアウトボーイ……」

 

「戦った俺が言うんだ。間違いない! クロノス先生……見せてくれよ、アンタのターン!」

 

 これまでドロップアウトボーイと散々貶めてきた十代からの声援に、クロノス先生の目に力強い炎が宿る。

 

「セニョーラ・カミューラ」

 

 強い声でクロノス先生が口を開いた。

 

「このクロノス・デ・メディチ、断じて闇のデュエルなどに敗れるわけにはいきませンーノ! 何故ならデュエルとは本来、青少年に希望と光を与えるものであり、恐怖と闇をもたらすものではないノーネ!」

 

「言葉だけならなんとでも言えるわねぇ。だけどこの状況で今更なにをする気かしら?」

 

 カミューラの場には効果破壊されても蘇生する効果をもつヴァンパイア・ロードに、アンデット族を手札から捨てることで場のモンスターを全て破壊するフィールド魔法、ヘルヴァニア。そしてリバースカードが二枚ある。

 対するクロノス先生の場はがら空き。絶望的な状況だが、

 

「それはこれから見せてあげルーノ。私のターン! フィールド魔法、歯車街を発動すルーノ!」

 

 

【歯車街】

フィールド魔法カード

「アンティーク・ギア」と名のついたモンスターを召喚する場合に

必要な生け贄を1体少なくする事ができる。

このカードが破壊され墓地へ送られた時、自分の手札・デッキ・墓地から

「アンティーク・ギア」と名のついたモンスター1体を選んで特殊召喚できる。

 

 

 フィールド魔法の上書き。ヘルヴァニアが消滅し、かわりに歯車の街が出現する。

 歯車街はアンティーク・ギアの生け贄を一つ少なくするフィールド魔法だが、今回クロノスはそのためにフィールド魔法を展開したのではない。

 

「そして魔法カード、大嵐! 互いのフィールドの魔法・罠を全て破壊するノーネ。セニョーラの伏せカードはぽぽいのぽ~いなノーネ!」

 

「ははははははははははは。馬鹿なことをしたわね、クロノス先生? ついさっき自分で発動したばかりのフィールド魔法ごと吹き飛ばすなんて正気?」

 

「ドロップアウトなのはセニョーラの方なノーネ! 歯車街が破壊され墓地へ送られた時、自分の手札・デッキ・墓地よりアンティーク・ギアと名のつくモンスター1体を特殊召喚するノーネ!」

 

「なんですって!?」

 

「現れるノーネ! 古代の機械巨竜!」

 

 

【古代の機械巨竜】

地属性 ☆8 機械族

攻撃力3000

守備力2000

このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。

以下のモンスターを生け贄にして表側表示で生け贄召喚した

このカードはそれぞれの効果を得る。

●グリーン・ガジェット:このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、

その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

●レッド・ガジェット:このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、

相手ライフに400ポイントダメージを与える。

●イエロー・ガジェット:このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、

相手ライフに600ポイントダメージを与える。

 

 

 リバースカードが一層したフィールドに歯車により稼働する巨大な竜が出現する。

 カミューラの場のヴァンパイア・ロードの攻撃力は2000。対する古代の機械巨竜は3000。カミューラのモンスターを上回った。

 

「バトルなノーネ! 古代の機械巨竜でヴァンパイア・ロードを攻撃ナノーネ! アルティメット・ギア・バースト!」

 

 ヴァンパイア・ロードも機械の巨竜には叶わず消し飛ばされる。

 戦闘ダメージによりカミューラのライフが2450まで削られた。

 

「私はこれでターンエンド。どんなもんナノーネ! セニョーラのフィールドは一掃! 私の場には古代の機械巨竜! これぞ大逆転なノーネ!」

 

「……ええ。少しはやるじゃない。だけどここまでよ」

 

「にょ?」

 

「生者の書-禁断の呪術-を発動! ヴァンパイア・ロードを復活させ場に攻撃表示で特殊召喚! そして貴方の墓地の古代の機械兵をゲームより除外。

 更に速攻魔法、収縮により古代の機械巨竜の攻撃力を半分にする!」

 

 

【ヴァンパイア・ロード】

闇属性 ☆5 アンデット族

攻撃力2000

守備力1500

このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、

カードの種類(モンスター・魔法・罠)を宣言する。

相手は宣言された種類のカード1枚をデッキから墓地へ送る。

また、このカードが相手のカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、

次の自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

【生者の書-禁断の呪術-】

通常魔法カード

自分の墓地に存在するアンデット族モンスター1体を選択して特殊召喚し、

相手の墓地に存在するモンスター1体を選択してゲームから除外する。

 

 

 棺桶が開き、そこより蘇る吸血鬼の領主(ロード)

 頼みの綱であった古代の機械巨竜も攻撃力は半分にされ1500。残りライフ100のクロノス先生が攻撃を受ければ負けだ。

 もはやどうしようもないと悟り、クロノス先生は覚悟を決めた顔をする。

 

「諸君! 良く見ておくノーネ。そして約束するノーネ」

 

「約、束?」

 

「例え闇のデュエルに敗れたとしても闇は光を凌駕できない。そう信じて決して心を折らぬ事。私と約束してくだサイ」

 

「クロノス教諭……」

 

「最後の授業は終わったのかしら。バトル! ヴァンパイア・ロードの攻撃、暗黒の使徒!」

 

 先程やられた逆襲とばかりにヴァンパイア・ロードが古代の機械巨竜を破壊する。

 クロノス先生のライフポイントが0を刻み、敗北が決定した。

 

「ボーイ……光のデュエルを……」

 

 ライフを失ったクロノス先生は力尽きてその場に斃れる。

 

「約束通り敗者には私のコレクションになって貰うわ」

 

 カミューラが顔のない人形を取り出す。

 するとゲームに負けたクロノス先生の体が消えていき、先生の体が消えていくごとに人形には変化が見え始めていた。

 そしてクロノス先生が完全に消え去ると、人形はクロノス先生の顔に変化する。

 

「それにしても……好みじゃないわね」

 

 カミューラが人間を放り捨て、足で踏みつぶす。

 瞬間、亮の中でなにかが切れた。常に亮の中にあった相手をリスペクトするという精神。しかしその精神をカミューラとのデュエルではすることが出来ないだろうと、他人事のように亮は思った。

 亮の殺意を感じたのかカミューラは蠱惑的に笑うと、

 

「次が楽しみね」

 

 カミューラの姿が掻き消える。かわりにその背後にある霧が晴れ、西欧の造りの城が出現する。

 これがカミューラの居城。わざわざこんなものでアカデミアに乗り込んでくるとは、吸血鬼だけあって派手なことが好みらしい。

 

「楽しみ……だと? 精々楽しんでいるといい。だがお前が楽しんでいられるのは俺とデュエルするその時までだ」

 

 亮についている三体のサイバー・ドラゴンが、主の殺意を敏感に感じ取り嘶いた。

 



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第136話  帝王VS吸血鬼

 クロノス教諭は倒れた。カミューラに敗北し、その体を人形と変えられた。だが圧倒的な敵に対する恐怖を乗り越えて果敢に挑む姿はデュエリストとして素晴らしいものだったろう。

 亮は自分の部屋で一人黙々とデッキを調整する。自分にとって最高のデッキではなく、カミューラを倒すためのデッキを作るために。

 たった一人の相手の為にデッキを調整するなど、アカデミアに入学してから友人である三人以外にはしたことがないことだ。

 しかしカミューラは特別。カミューラは丸藤亮という男の逆鱗に触れることをした。故に全身全霊をもって叩き潰す。

 

「……来たか」

 

 アカデミアの上空で大量の蝙蝠が騒いでいる。

 蝙蝠といえば吸血鬼の眷属として有名な生き物。そしてカミューラもまた吸血鬼。偶然とは考えられない。カミューラの使いだと考えるのが適当だろう。

 やがて蝙蝠の一匹が亮の部屋に近付いてきて窓を叩く。

 開けろ、と言っているのだろう。亮は窓のカギを開けて、蝙蝠を中に入れた。

 蝙蝠が部屋に入ってくる。すると驚くべき事に蝙蝠が手紙へと姿を変えた。

 

「吸血鬼らしい手品だな。差出人は…………カミューラ」

 

 手紙を開いて中を見て、亮は目を細める。

 自分のもとに届けられたこれは招待状だ。今夜九時、自らの城に来いという。ご丁寧に来なければ罪のない他の人間たちで喉の渇きを潤すなんていう脅しつきだ。

 そんな脅しなどなくとも亮には招待を断るなんて考えはない。あちらがデュエルを挑むならば望むところだ。

 

「行くぞ」

 

 自分についている精霊――――三体のサイバー・ドラゴンたちに語りかける。

 クロノス教諭を侮辱するような真似をしたとはいえカミューラの実力は本物だ。心してかからなければならないだろう。

 カミューラの誘い通り昨日クロノス教諭が倒れた場所に行くと、そこには先客がいた。

 

「……カイザー」

 

 十代たち鍵の守護者の面々に翔と隼人、付き添いとして大徳寺先生。クロノス教諭を除く全員が勢ぞろいしていた。

 

「お前達も昨日のことについて言いたいことはあるが――――今回は俺が行かせて貰う。奴も俺と戦うことを望んでいるようだしな」

 

「えと、どれどれ……」

 

 カミューラからの招待状を投げ渡す。

 招待状を器用に掴んだ大徳寺先生が手紙の内容を朗読する。

 

「『親愛なる丸藤亮様へ。今夜九時、私の城にて貴方とのデュエルを所望いたします。もしも招待を断られるのであれば、この渇きは何も知らない貴方の後輩たちの血で潤すことといたします。どうか断らぬよう。誇り高き吸血鬼一族の末裔、カミューラより』」

 

「か、完全に果たし状だな。カミューラはよっぽどカイザーと戦いたいらしい」

 

 ストレートな挑戦文句にらしくなく万丈目が眉を潜めた。

 

「というわけだ。俺が出ることで異論はないな?」

 

「わ、私は良いと思うにゃ。丸藤くんなら三邪神の件で闇のゲームも経験しているし心配いらないのにゃ」

 

 付き添いとして翔と隼人に連れてこられた大徳寺先生がもろ手をあげて賛成すると他の物も頷く。

 プライドの高い万丈目やデュエル馬鹿の十代も誰がこの場で一番強いかを知っているのだ。それにここまで丁寧に誘われて亮以外の者がいけば、逆上したカミューラがなにかをしないとも限らない。

 

「なら行きましょう。もうそろそろ九時よ」

 

 PDAを見ながら明日香が言う。

 亮を先頭に一同は海の上に浮かぶレッドカーペットを渡りカミューラの城へ侵入した。

 

「く、暗いんだな」

 

「なんか前に旧校舎を探検した時のことを思い出すぜ」

 

 隼人と十代が正反対の感想を呟く。

 歩いて一分ほどだろうか。廊下を抜けると一際広いロビーに出た。

 

「ようこそ皆さん」

 

 城に反響する女の声。

 声のした方向に視線をやると、そこには露出度の高い扇情的なドレスを着込んだ美女が一人。吸血鬼カミューラ、セブンスターズ第二の刺客だ。

 

「歓迎しますわ。時間ぴったし、時間を守れる殿方は好きよ。舞台に上がりなさい、坊やたちの帝王様」

 

「……いいだろう」

 

「お兄さん」

 

 翔が心配そうな目を向ける。亮は安心させるように笑うと、

 

「心配するな。俺は負けん」

 

 自信をもって断言し、亮は舞台へと昇る。吸血鬼の城で帝王と渾名されたデュエリストと、吸血鬼の末裔が対峙した。

 亮はデュエルディスクに調整したデッキをセットする。

 背筋にナイフを突き立てられるような懐かしい感覚。これより始まるのは命と命とを奪い合う闇のゲーム。これをやるのはダークネス事件の時以来なのでざっと二年ぶりだろう。

 

「ルールは分かっているわね。勝者は次なるステージへ進み、敗者はこの愛しき人形に魂を封印される」

 

「いいだろう。俺は俺の魂をこのデュエルに懸ける!」

 

「Good!!」

 

 亮とカミューラがデッキより五枚のカードを引く。

 自分が負ければ自分の魂を失い。自分が勝てば奪われたクロノス教諭の魂を取り戻す。シンプルなルールだ。

 

「「デュエル!!」」

 

 

丸藤亮   LP4000 手札5枚

場  

 

 

カミューラ LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

「私の先攻、ドロー!」

 

 相手の先攻を許すが、亮は何もリアクションを起こさない。

 そもそも亮のサイバー流は後攻有利。先攻をとられることはなんのデメリットもない。

 

「テラ・フォーミングを発動。デッキからフィールド魔法、ヴァンパイア帝国を手札に加える! 手札に加えたヴァンパイア帝国をそのまま発動!」

 

 フィールドが中世ヨーロッパの街並みに変化する。夜空に浮かぶのは血のように真っ赤な紅い月。

 ヴァンパイア帝国……確かごく最近発売されたばかりのヴァンパイアのためのフィールド魔法。こんなレアカードを手に入れているとは、カミューラのバックにはデュエルモンスターズ界の重鎮でもついているのかもしれない。

 

「ヴァンパイア・ソーサラーを攻撃表示で召喚、カードを一枚伏せターンエンド」

 

 

【ヴァンパイア・ソーサラー】

闇属性 ☆4 アンデット族

攻撃力1500

守備力1500

このカードが相手によって墓地へ送られた場合、

デッキから「ヴァンパイア」と名のついた闇属性モンスター1体

または「ヴァンパイア」と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加える事ができる。

また、自分のメインフェイズ時、

墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。

このターンに1度だけ、自分が「ヴァンパイア」と名のついた闇属性モンスターを召喚する場合に

必要な生け贄をなくす事ができる。

 

 

 ヴァンパイア・ソーサラー、吸血鬼の魔法使いとでもいったところか。

 先程のヴァンパイア帝国といいカミューラはヴァンパイアと名のつくモンスターを中心としたヴァンパイアデッキ。

 自身もまたヴァンパイアであるカミューラには似合いすぎのデッキといえるだろう。

 

「俺のターン!」

 

 だが相手が吸血鬼でくるのであれば、こちらは人類の英知が生み出した機械の光龍にて対抗するのみ。

 

「相手の場にモンスターがいて自分の場にモンスターがいない時、このモンスターは特殊召喚できる。サイバー・ドラゴンを攻撃表示で召喚!」

 

 亮のデッキのキーカード。サイバー・ドラゴンが飛び出してくる。

 攻撃力はヴァンパイア・ソーサラーを上回っている。このまま攻撃するのも良いが、ここは早速例のカードを使うことにした。

 

「このターン、俺はまだ通常召喚をしていない。サイバー・ドラゴン・コアを攻撃表示で召喚する」

 

 

【サイバー・ドラゴン・コア】

光属性 ☆2 機械族

攻撃力400

守備力1500

このカードが召喚に成功した時、

デッキから「サイバー」または「サイバネティック」と名のついた

魔法・罠カード1枚を手札に加える。

また、相手フィールド上にモンスターが存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

墓地のこのカードを除外して発動できる。

デッキから「サイバー・ドラゴン」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

「サイバー・ドラゴン・コア」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

このカードのカード名は、フィールド上・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。

 

 

 新しいサイバー・ドラゴンの一枚、サイバー・ドラゴン・コア。

 コアというだけあってその姿はサイバー・ドラゴンの外装を取っ払った細すぎるものだ。

 

「サイバー・ドラゴン・コアの効果発動。このカードが召喚に成功した時、デッキから『サイバー』または『サイバネティック』と名のついた魔法・罠カードを一枚手札に加える。

 俺が手札に加えるのは罠カード、サイバー・ネットワーク! そして融合を発動。サイバー・ドラゴン・コアはフィールド・墓地に存在する限りサイバー・ドラゴンとして扱う。

 フィールド上の二体のサイバー・ドラゴンを融合。融合召喚! 現れろサイバー・ツイン・ドラゴンッ!」

 

 

【サイバー・ツイン・ドラゴン】

光属性 ☆8 機械族・融合

攻撃力2800

守備力2100

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は、上記のカードでしか行えない。

このカードは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

 サイバー・ドラゴンの融合体が一体、サイバー・ツイン・ドラゴンが早々に召喚された。

 パワー・ボンドで攻撃力を倍にせずとも、攻撃力2800の二連続攻撃を可能とするサイバー・ツイン・ドラゴンは強力である。それに、

 

「凄ぇ! いきなりサイバー・ツイン・ドラゴンだ!」

 

「それだけじゃない」

 

「ああ」

 

 十代の声援の中で三沢と万丈目が鋭い目を亮の手札へ向けた。

 

「融合は強力な融合モンスターを呼び出せる反面、手札消費が多いのが難点。だっていうのにカイザーの奴。あれだけカードを発動しておいて手札が四枚も残ってやがる」

 

 万丈目の言う通り亮にはまだ十分な数の手札があった。

 これまで亮は手札消費の激しさを補うためあの手この手でドローソースを投入していたが、新しいカードのお蔭で燃費の悪さをかなり補えるようになっている。

 鬼に金棒とは正にこのことだった。

 

「バトル! サイバー・ツイン・ドラゴンでヴァンパイア・ソーサラーを攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト、第一打ァ!!」

 

「ちぃいっ!」

 

 カミューラLP4000→3200

 

 ヴァンパイア帝国の効果でダメージステップ時のみヴァンパイア・ソーサラーの攻撃力は500ポイントアップした。

 だがそれでもサイバー・ツイン・ドラゴンには勝てず撃破される。

 

「ヴァンパイア・ソーサラーのモンスター効果。私はデッキよりシャドウ・ヴァンパイアを手札に加える!」

 

「まだだ。サイバー・ツイン・ドラゴン、第二打ァ!!」

 

「……ふん。サイバー・ツイン・ドラゴンが二連続攻撃ができるなんてお見通しよ。リバースカードオープン、ドレインシールド!」

 

 

【ドレインシールド】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

攻撃モンスター1体の攻撃を無効にし、

そのモンスターの攻撃力分だけ自分のライフを回復する。

 

 

 ドレインシールドによりサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃が吸い込まれ、攻撃のエネルギーがそっくりそのまま回復に変化する。

 削られたカミューラのライフが一気に6000まで回復した。

 

「伊達にセブンスターズに選ばれたわけではないということか。カードを二枚伏せ、ターンエンド」

 

 2800のライフを回復されたが、そんなことは恐れるには足らない。たった2800のライフなどサイバー・ドラゴンのパワーで消し飛ばせる数値だ。

 それに亮の場にはアンデット対策のリバースカードもあった。

 これで止めるようなデュエリストならば良し、止まらないのであればそれなりの実力者だということだ。

 

 



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第137話  ナイトメア・オブ・ヴァンパイア

丸藤亮   LP4000 手札2枚

場 サイバー・ツイン・ドラゴン

伏せ 二枚

 

 

カミューラ LP6000 手札3枚

場 無し

伏せ 無し

フィールド ヴァンパイア帝国

 

 

 

「ご自慢のサイバー・ツイン・ドラゴンを召喚したからって粋がらないことね。私のターン、ドロー!」

 

 亮のフィールドに二連続攻撃を可能とするサイバー・ツイン・ドラゴンがいることで、フィールドアドバンテージに関しては亮が上回っている。

 しかしドレインシールドによりカミューラのLPは6000だ。凡夫であればいざ知れずセブンスターズの一員となるほどのデュエリストならば挽回は十分可能である。

 実際これより更に酷い状況から逆転劇を見せたデュエリストを何度も見ている亮はそのことを良く知っている。だからこそ有利の中にあっても油断は一切しなかった。

 

「墓地のヴァンパイア・ソーサラーの効果を発動! 自身のメインフェイズ時、このカードを墓地より除外することでヴァンパイアと名のつく闇属性モンスターの召喚に必要な生け贄をなくすことが出来る!

 ヴァンパイア・ソーサラーを除外。その効果によりレベル5のシャドウ・ヴァンパイアを生け贄なしで召喚!」

 

 

【シャドウ・ヴァンパイア】

闇属性 ☆5 アンデット族

攻撃力2000

守備力0

このカードが召喚に成功した時、

手札・デッキから「シャドウ・ヴァンパイア」以外の

「ヴァンパイア」と名のついた闇属性モンスター1体を特殊召喚できる。

この効果で特殊召喚に成功した場合、

このターンそのモンスター以外の自分のモンスターは攻撃できない。

また、このカードをエクシーズ召喚の素材とする場合、

闇属性モンスターのエクシーズ召喚にしか使用できない。

 

 

 暗い影に身を包んだ吸血鬼がヴァンパイアの帝国に降り立つ。

 カミューラの隣りに立ちゆらめくそれは、纏う影のせいかぼんやりとしていて姿を上手く視認することができない。

 それに亮は見逃さなかった。〝シャドウ・ヴァンパイア〟はまだ世に出回っていないカードだが、単に未発売なだけのカードではない。

 あれはI2カップ入賞者に与えられる特別パックなどといった特別な方法でなければ入手できない未来に実装される召喚システムに関連する効果をもつカード。

 そんな代物を持つあたりカミューラのバックにはデュエルモンスターズ界の大物がついている可能性が高い。

 

「……シャドウ・ヴァンパイアの攻撃力は2000だ。俺のサイバー・ツイン・ドラゴンには及ばない」

 

「御心配は無用ですわ。だってこうするんですもの。シャドウ・ヴァンパイアの効果発動! このカードが召喚に成功した時、手札・デッキよりヴァンパイアを特殊召喚する!

 影より現れなさい、ヴァンパイアを統べる領主! デッキよりヴァンパイア・ロードを攻撃表示で召喚!」

 

 

【ヴァンパイア・ロード】

闇属性 ☆5 アンデット族

攻撃力2000

守備力1500

このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、

カードの種類(モンスター・魔法・罠)を宣言する。

相手は宣言された種類のカード1枚をデッキから墓地へ送る。

また、このカードが相手のカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、

次の自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

 上級ヴァンパイア二体が並び立つ。

 ヴァンパイア・ロード、昨日クロノス先生に止めを刺したモンスターだ。伝説のデュエリストの一角である海馬社長が使用したモンスターということもあり、ヴァンパイア・ロードのことは良く知っている。

 汎用性の高い蘇生効果からヴァンパイアデッキ以外でも採用できるモンスターだ。

 

「ふふふ。昨日の先生と同じ方法で苦痛を与えてあげる。バトル! ヴァンパイア・ロードでサイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃、暗黒の使徒!!」

 

「っ! サイバー・ツイン・ドラゴンの迎撃。エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 

 光と闇、異なるエネルギーがぶつかりあう寸前。

 

「速攻魔法、収縮。サイバー・ツイン・ドラゴンの元々の攻撃力を半分にする!」

 

 カミューラのマジックによりサイバー・ツイン・ドラゴンはその力を半減させた。

 エネルギーの激突。力を半減させられたサイバー・ツイン・ドラゴンではヴァンパイア・ロードに及ぶはずがなく破壊された。

 亮のLPが戦闘ダメージを受け2900ポイントとなる。

 

「ヴァンパイア・ロードのモンスター効果。相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、カードの種類を宣言し相手はそのカードをデッキから墓地へ送る。私が宣言するのは罠カード。罠カードを墓地へ送りなさい」

 

「カウンター罠、魔宮の賄賂を墓地へ送る」

 

「良くってよ。貴方のデッキからカードが墓地へ送られたこの瞬間、ヴァンパイア帝国の効果発動」

 

 

【ヴァンパイア帝国】

フィールド魔法カード

フィールド上のアンデット族モンスターの攻撃力は

ダメージ計算時のみ500ポイントアップする。

また、1ターンに1度、相手のデッキからカードが墓地へ送られた時、

自分の手札・デッキから「ヴァンパイア」と名のついた

闇属性モンスター1体を墓地へ送り、

フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

 

 

「自分の手札またはデッキからヴァンパイアと名のつくモンスターを墓地へ送り、フィールド上のカード一枚を選択し破壊する。

 デッキのヴァンパイア・レディを墓地へ送り……そうね。貴方の場にある右のリバースカードを破壊する」

 

「っ!」

 

 伏せていた永続罠『輪廻独断』が破壊された。

 輪廻独断は墓地のモンスターの種族を変更する罠カード。アンデット族は蘇生方法が豊富な種族。このカードで墓地のモンスターをアンデット族から変更してしまえば、ヴァンパイアデッキの動きを阻害できると思ったのだが、どうもその目論見は失敗したらしい。

 

「あら。厄介なカードを破壊できてラッキーだわ。カードを二枚伏せターンエンド。さぁ! 坊やのターンよ」

 

「俺のターン、ドロー! 相手の場にモンスターがいて自分の場にモンスターが居ない時、このモンスターは特殊召喚できる。

 手札よりサイバー・ドラゴンを守備表示で召喚。更にリバースカードオープン、サイバー・ネットワーク!」

 

 

【サイバー・ドラゴン】

光属性 ☆5 機械族

攻撃力2100

守備力1600

相手フィールド上にモンスターが存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

 

 

【サイバー・ネットワーク】

永続罠カード

発動後3回目の自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを破壊する。

1ターンに1度、フィールド上に「サイバー・ドラゴン」が存在する場合に発動できる。

デッキから機械族・光属性モンスター1体を除外する。

このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、

除外されている自分の機械族・光属性モンスターを可能な限り特殊召喚し、

自分の魔法・罠カードを全て破壊する。

この効果で特殊召喚したモンスターは効果を発動できない。

この効果を発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。

 

 

 サイバー・ドラゴンを守備表示で出すなど余りしたくない手なのだが状況が状況のため止むを得ない。

 それにサイバー・ネットワークを発動するにはサイバー・ドラゴンがフィールドに存在する必要があるのだ。

 

「サイバー・ネットワークの効果、1ターンに一度、デッキから光属性機械族モンスターを除外する。デッキよりサイバー・ラーバァを除外。

 モンスターとカードを一枚ずつセット。ターンを終了する」

 

「消極的なターンね。カイザーの名が泣くわよ。けど生憎だけど私は攻撃の手を緩めたりはしない。私のターン、先ずはリバースオープン。針虫の巣窟! 私のデッキの上より五枚のカードを墓地へ送る。

 そしてヴァンパイア・ロードをゲームより除外し手札よりヴァンパイア・ジェネシスを攻撃表示で特殊召喚!」

 

 

【ヴァンパイアジェネシス】

闇属性 ☆8 アンデット族

攻撃力3000

守備力2100

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に存在する「ヴァンパイア・ロード」1体を

ゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。

1ターンに1度、手札からアンデット族モンスター1体を墓地に捨てる事で、

捨てたアンデット族モンスターよりレベルの低い

アンデット族モンスター1体を自分の墓地から選択して特殊召喚する。

 

 

 ジェネシス、つまりは始祖。ヴァンパイアの始祖であるとされるモンスターが領主の体を媒介にして現れる。

 紫色の体色をした巨大なオークのような姿をしたヴァンパイアはギロリと真っ赤な瞳で亮とサイバー・ドラゴンを見下ろした。

 

「このターンで終わりにし私のお人形にしてあげるわ坊や。ヴァンパイアジェネシスの効果、手札よりアンデット族モンスター1体を墓地へ送り、捨てたアンデット族よりレベルの低いモンスターを墓地より蘇生させる。

 私は闇より出でし絶望を手札より捨て、カース・オブ・ヴァンパイアを特殊召喚。そして墓地の馬頭鬼を除外し効果発動。アンデット族モンスターを更に蘇生させる。蘇れ、ヴァンパイア・ロード!」

 

 

【カース・オブ・ヴァンパイア】

闇属性 ☆6 アンデット族

攻撃力2000

守備力800

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

500ライフポイントを払って発動できる。

次のターンのスタンバイフェイズ時に、このカードを墓地から特殊召喚する。

また、この効果によって特殊召喚に成功した時に発動する。

このカードの攻撃力は500ポイントアップする。

 

 

【馬頭鬼】

地属性 ☆4 アンデット族

攻撃力1700

守備力800

自分のメインフェイズ時、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、

自分の墓地からアンデット族モンスター1体を選択して特殊召喚する。

 

 

 針虫の巣窟で墓地へ送られた二体のヴァンパイアが蘇る。

 ヴァンパイアの帝国に集結せしヴァンパイアジェネシス、ヴァンパイア・ロード、シャドウ・ヴァンパイア、カース・オブ・ヴァンパイア。

 四体のヴァンパイアが並び立つフィールドは壮観という他ない。

 

「これで終わりよ! バトルフェイズ、ヴァンパイア軍団の総攻撃! やれ、ヴァンパイア・ロード! 暗黒の使徒!」

 

 ヴァンパイア・ロードの闇の波動がサイバー・ドラゴンを消し飛ばす。守備表示だったためダメージは0。

 けれどカミューラにはヴァンパイアがまだ後三体残っている。逆に亮の場にはモンスターが一体だけ。攻撃が全て通ればライフは0となる。

 

「二連目! ヴァンパイア・シャドウ! シャドウ・ファンタジア!!」

 

 シャドウ・ヴァンパイアの攻撃を受けたリバースモンスターが表側表示となる。

 表側となったモンスターはメタモルポット。表側になったことでリバース効果が発動する。

 

「メタモルポットの効果。互いのプレイヤーは手札を全て墓地へ送り、五枚カードをドローする」

 

「無駄な足掻きをするわね。これが最後、ヴァンパイア・ジェネシスの攻撃――――」

 

「残念だがそこからは通さない。リバース発動、ダブル・サイクロン。自分の場の魔法・罠カードと相手の魔法・罠カードを一枚破壊する! 俺は自分の場のサイバー・ネットワークを破壊、そしてお前のヴァンパイア帝国を破壊する」

 

「なんですって!?」

 

 突風が吹き荒れヴァンパイアの帝国を浮き飛ばす。吹き荒れる突風はその勢いで亮のサイバー・ネットワークも破壊する。

 

「そしてサイバー・ネットワークが破壊されたことでその効果が発動・墓地に除外されている光属性機械族モンスターを可能な限り特殊召喚する。

 代償として俺は自分の場の魔法・罠カードが全て破壊されるが、もうないから関係ない。除外されているサイバー・ラーバァを特殊召喚」

 

 

【サイバー・ラーバァ】

光属性 ☆1 機械族

攻撃力400

守備力600

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが攻撃対象に選択された時、

このターン戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

自分のデッキから「サイバー・ラーバァ」1体を

自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 ダブル・サイクロン、普通に使えばサイクロンの下位互換でしかないカードだが使い方によってはサイクロンでは出来ない動きが出来るようになる。

 今回のこれはその一例だった。

 

「だったらヴァンパイアジェネシスでサイバー・ラーバァを攻撃!」

 

「サイバー・ラーバァが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、その効果が発動。デッキよりサイバー・ラーバァを新たに召喚」

 

「っ! まさかそのためにさっきのターンにサイバー・ラーバァを……!」

 

「さて。どうかな。俺をこのターンで終わらせるなどと言っていたが、これで終わりか?」

 

「減らず口を。可愛くない……! カース・オブ・ヴァンパイアでサイバー・ラーバァを攻撃!」

 

「破壊される。もう俺のデッキにサイバー・ラーバァはない」

 

「……バトルを終了。二枚カードをセットしターンエンド」

 

 危なげなくヴァンパイア軍団の総攻撃を回避してみせた亮は薄く笑う。ここからがサイバー流の本領発揮だ。

 亮の手札の中にはパワー・ボンドのカードがあった。



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第138話  ドラキュリーナ・セレナーデ

丸藤亮   LP2900 手札5枚

場 無し

伏せ 無し

 

 

カミューラ LP6000 手札3枚

場 ヴァンパイアジェネシス、ヴァンパイア・ロード、カース・オブ・ヴァンパイア、シャドウ・ヴァンパイア

伏せ 二枚

 

 

 

 

 カミューラの場には四体のヴァンパイアモンスター。しかしメタモルポットの効果で五枚のカードをドローして、逆転のキーカードは揃っている。

 ここからがサイバー流の本領を発揮する時だ。

 しかし亮にはどうにも解せないことがある。

 

「カミューラ、一つ聞きたい」

 

「なにかしら? 降参の申し込みならいつでも受けていいですわよ」

 

「デュエルしていて分かった。三幻魔の力など得ずともお前は自分の実力に自信をもち、自信に見合う実力をもつデュエリストだ」

 

 カミューラが奪った丈のデッキを使わず、あくまで自分のデッキで戦いを挑んできているのがその証明でもある。

 

「お前ほどの女がまさか無理矢理セブンスターズに従わされているというわけでもないだろう。何故三幻魔を狙う?」

 

「女の過去を詮索するだなんて罪な御方。だけど……そうね。これまでの貴方の戦いに免じて、話してあげる。私達ヴァンパイア一族と人間の戦いの歴史を」

 

 ヴァンパイア、即ち吸血鬼は地上に存在する数多の怪物(フリークス)の中でも頂点に位置する存在だった。

 高い知能をもち、変身能力や使い魔を自在に操り、人間を超えた身体能力をもち尚且つ美しい。吸血鬼は怪物たちの貴族として君臨していた。

 

「だが栄華を誇ったヴァンパイア一族を滅ぼした種族がいた。……そう、人間よ。工業の発達によって得た兵器や数の暴力を武器に人間どもは私達に襲い掛かって来た。

 一族で生き残ったのは私一人。他の者は死んだわ。私一人だけが棺の中で眠りについた。ついていたのよ、あの男に起こされるまでは」

 

「あの男?」

 

「そいつは言ったわ。三幻魔の力を手に入れ一族を復興するつもりはないかって。降ってわいた好機だったわ。三幻魔の力を手に居ればヴァンパイア一族の復興なんて夢じゃない。いいえそれどころかヴァンパイア一族こそがこの地上の帝王として君臨することだって出来る。

 人間共を餌として跪かせた栄華を私達は取り戻すのよ。貴方達の命を礎にしてねぇ」

 

 一族の復興……ヴァンパイアは化物。つまりは人間の敵。

 人間である亮は人間を餌として食い潰すヴァンパイア一族が復活するなんてことは阻止しなければならない。

 だがそれはそれだ。カミューラもカミューラの戦う理由があって、このアカデミアに乗り込んできた。だとすればその精神はリスペクトするに値する。

 

「リスペクトしないと言ったのは取り消そう」

 

「……なに、いきなり」

 

「行くぞ。俺のターン、ドロー!」

 

 サイバー・ドラゴンがその力を最も高めるためのキーカード、パワー・ボンドは既に手札にきているのだから。

 後はサイバー流の象徴ともいえるサイバー・エンド・ドラゴンを召喚するだけ。

 

「手札断殺を発動。互いのプレイヤーは手札を二枚墓地へ捨て二枚ドローする。俺はサイバー・ドラゴン・ドライを攻撃表示で召喚!」

 

 

【サイバー・ドラゴン・ドライ】

光属性 ☆4 機械族

攻撃力1800

守備力800

このカードが召喚に成功した時、

自分フィールド上の全ての「サイバー・ドラゴン」のレベルを5にできる。

この効果を発動するターン、自分は機械族以外のモンスターを特殊召喚できない。

また、このカードが除外された場合、

自分フィールド上の「サイバー・ドラゴン」1体を選択して発動できる。

選択したモンスターはこのターン、戦闘及びカードの効果では破壊されない。

このカードのカード名は、フィールド上・墓地に存在する限り「サイバー・ドラゴン」として扱う。

 

 

 ツヴァイの後に誕生したドライ。三機目のサイバー・ドラゴンが出現する。

 見た目はサイバー・ドラゴンと殆ど変らないが、こちらはよりスリムで全身にある機械仕掛けの黄金の鱗が黄色く発光していた。

 これもつい最近発売されたサイバー流カードの一枚で、新生サイバー流の新たなキーでもある。

 

「サイバー・ドラゴン・ドライは召喚に成功した時、フィールド上の全てのサイバー・ドラゴンのレベルを5にする効果をもっている。だがしかしこの効果は任意効果。俺はこれを使用しない。

 そしてサイバー・ドラゴン・ドライが〝サイバー・ドラゴン〟である所以、それはこのカードがフィールドと墓地ではサイバー・ドラゴンとして扱うからだ」

 

「……来るつもり!?」

 

「無論だ。手札より魔法カード、パワー・ボンドを発動ッ!」

 

 

【パワー・ボンド】

通常魔法カード

手札またはフィールド上から、

融合モンスターカードによって決められたモンスターを墓地へ送り、

機械族の融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

このカードによって特殊召喚したモンスターは、

元々の攻撃力分だけ攻撃力がアップする。

発動ターンのエンドフェイズ時、このカードを発動したプレイヤーは

特殊召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける。

(この特殊召喚は融合召喚扱いとする)

 

 

 遂にパワー・ボンドが発動される。これまで数々のデュエルで亮を勝利に導いてきた最強の融合魔法。

 これにより融合召喚される機械族モンスターは攻撃力を倍加させる。

 

「よっしゃ! 漸くのパワー・ボンドだぜ!」

 

「ヴァンパイア軍団もパワー・ボンドで召喚されるサイバー・ドラゴンの融合モンスターの火力に比べたらなんてことはない。このデュエル……カイザーの勝ちだ」

 

 十代と万丈目がそう漏らす。

 二人だけではない。他のギャラリーもパワー・ボンドが発動された瞬間に亮の勝利を確信していた。それほどまでにカイザー亮の実力はアカデミアにおいて絶対的なものだったのだ。

 だが一人だけそうではない者がいる。カミューラはパワー・ボンドが発動したその瞬間、恐怖に震えるのではなくニヤリと口端を釣り上げた。

 

「貴方がそのカードを発動することを、これまでずっと待ってきましたわ」

 

「なに?」

 

「カウンター罠、封魔の呪印!!」

 

「……っ!」

 

 

【封魔の呪印】

カウンター罠カード

手札から魔法カードを1枚捨てる。

魔法カードの発動と効果を無効にし、それを破壊する。

相手はこのデュエル中、この効果で破壊された魔法カード及び

同名カードを発動する事ができない。

 

 

 パワー・ボンドのカードの真下に黄金の魔法陣らしきものが現れ、赤い煙がパワー・ボンドを縛り付けていく。

 封魔の呪印、そのカードに亮どころかギャラリー全員に見覚えがあった。

 

「あ、あのカードは俺が十代とのデュエルで使った……!」

 

「融合封じのカウンター罠!」

 

 三沢が蒼白な顔をした。

 十代の融合対策として投入したカウンター罠は、十代と同じく融合を基本戦術に取り入れるカイザー亮にも有効である。そのことをカミューラがそのプレイングをもって証明した。

 

「クスクスクス。封魔の呪印、このカードは手札から魔法カードを捨てることで、魔法の発動と効果を無効にし破壊する。そして相手プレイヤーはこの効果で破壊されたカードをこのデュエル中使用できなくなる!」

 

「パワー・ボンド封じか」

 

「あの男が私にこのカードを渡した意味が分かったわ。蝙蝠からの情報で貴方がパワー・ボンドをゲームエンドの要にしていることは分かっていた。

 だから貴方のデッキを完全に狂わせるため、貴方がパワー・ボンドを発動する瞬間をずっと待ち望んでいたというわけ」

 

 蝙蝠と聞いて亮の頭に閃くものがあった。

 蝙蝠なんて特に珍しくない、夜になればアカデミアでも飛んでいたりするものだが、それにしても最近はよく飛んでいた。

 亮の所に招待状を送りつけてきた蝙蝠といい、増えた蝙蝠は全てカミューラの差し金だったのだろう。そして、

 

「蝙蝠を使って俺のデッキを盗み見ていたのか」

 

「ふふふ。ご自慢のカードを封じられて絶望したかしら」

 

「いや寧ろ失望した」

 

「なんですって!?」

 

「この俺がパワー・ボンドだけの男だと思われているとはな」

 

「可愛くない負け惜しみを」

 

「負け惜しみ? ならば見せてやる。友より譲り受けたサイバー流の新たなる力。俺の裏・切り札を! 俺は場と墓地の光属性機械族モンスターを全て除外する!」

 

 二体のサイバー・ドラゴン、サイバー・ツイン・ドラゴン、サイバー・ドラゴン・コア、二体のサイバー・ラーバァ。それに手札断殺で墓地へ送られたサイバー・ヴァリー。

 七体のモンスターが墓地より除外されていく。そして除外されたモンスターのエネルギーがフィールドに一体の機光竜の姿を形作っていった。

 

「光属性機械族を場と墓地から除外ですって!? まさか……パワー・ボンドだけじゃなくあのカードまで」

 

「御明察通りだ。八体のモンスターの力を得て起動せよ、サイバー・エルタニンッ!!

 

 

【サイバー・エルタニン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力?

守備力?

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上及び自分の墓地に存在する

機械族・光属性モンスターを全てゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、このカードの特殊召喚時に

ゲームから除外したモンスターの数×500ポイントになる。

このカードが特殊召喚に成功した時、

このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て墓地へ送る。

 

 

 サイバー・エルタニン。亮が中学生の頃、丈とトレードして手に入れた友情のカード。

 融合を封じられて尚、その威光を遮ることのできない裏の切り札。

 

「サイバー・エルタニンの特殊能力! このカードが特殊召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上で表側表示で存在するモンスターを全て墓地へ送る!

 星の力を得たサイバー流の破壊力を味わうがいい。やれ、サイバー・エルタニン。ヴァンパイア共を一匹残らず駆逐せよ! 星座の包囲網(コンステレイション・シージュ)!」

 

 容赦ない破滅の輝きがヴァンパイアを照らし、消滅させていく。

 伝承通り。闇の支配者たる吸血鬼は光により消滅したのだ。

 

「わ、私のヴァンパイア軍団が全滅!?」

 

「バトル。サイバー・エルタニンで相手プレイヤーへ直接攻撃、竜座の昇天(ドラコニス・アセンション)!!」

 

 サイバー・エルタニンの攻撃力は除外したモンスターの数×500ポイント。

 八体除外して召喚されたためその攻撃力はブルーアイズを超える4000ポイントだ。

 

「が、っぁああああああああああああああ!!」

 

 カミューラLP6000→2000

 

 4000ものダメージを受けてカミューラが大きく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 これは闇のゲーム。4000ポイントものダメージとなればカミューラにはダンブカーに激突されたような苦痛が全身を駆け巡ったことだろう。

 

「ゆ……許さない……」

 

 よろよろとカミューラが立ち上がる、そして、

 

「この生意気な糞餓鬼がァァァァァ!!」

 

 瞳孔は避け、口は獣のように広がり、蛇のように長い舌が口から這いだした。そこに吸血鬼の貴婦人の姿はなく、醜悪な怪物がいるだけだ。

 吸血鬼カミューラは殺意を滲みだして亮を睨みつける。

 

「本性を現したか。天よりの宝札、互いのプレイヤーは手札が六枚になるようカードをドローする。カードを三枚セット、ターンエンドだ」

 

「もう許してあげない。私の人形にした後、たっぷりたっぷり甚振ってあげる! 私のターン! ドロー!」

 

 カードをドローした瞬間、カミューラの表情が変わる。

 化物然とした異形な鳴りを潜め、元の貴婦人としての淑やかさのある顔立ちに戻っていった。

 

「――――良いカードを引いたわ。これで貴方に止めを刺してあげる。魔法カード発動、幻魔の扉!!」

 

「幻魔の扉? 聞かない名だ」

 

 扉というだけあり、カミューラの背後に物々しい扉が現れた。名前からして幻魔の力に関係のあるカードなのだろう。

 直感的に悟る。あれは開けてはならないものだ。開けたら恐らく酷いことになる。

 

「ふふふふ。幻魔の扉、このカードの効果は相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。その後、墓地に存在するモンスターを一体選択し、召喚条件を無視して自分フィールドに特殊召喚する!」

 

「な、なんだと!? そんな馬鹿な効果があるか!」

 

 

【幻魔の扉】

通常魔法カード

相手フィールド上に存在する全てのモンスターを全て破壊する。

その後、墓地に存在するモンスター1体を選択し、召喚条件を無視して自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 言うなればサンダー・ボルトと死者蘇生、その二つの効果を併せ持つカードだ。

 しかも〝召喚条件を無視する〟という項があるため下手すれば死者蘇生の上位互換内蔵とも受け取れる。

 禁止カードのレベルすら超えていた。ゲームバランスを崩壊させかねない強さをもつ禁断のマジックだ。

 

「勿論強いカードには相応のリスクがある。このカードのリスク、それは私の魂を幻魔の生け贄と捧げること。このカードを使い敗北したデュエリストの魂は幻魔のものとなり、未来永劫解放されることはない」

 

「……!」

 

 自らの魂を懸けるカード。

 途轍もない効果に見合う滅茶苦茶な代償だが、これの恐ろしいところはデュエルにおけるコストは一切ないということに尽きる。

 つまり敗北後に魂を奪われるというリスクを除外するならば、実質ノーコストで使用できるのだ。

 

「だけど私は慎み深いことだし、折角だから生け贄は他の人間に譲ってあげようかしら。例えば……そこの坊やとか」

 

「っ!」

 

「え、ぼ、僕!?」

 

 カミューラが射抜くような目を向けたのは丸藤翔、亮にとってはたった一人の弟だ。

 幻魔の生け贄を他人にさせるなど普通なら出来ることではないが、相手は伝説に語られるヴァンパイアだ。人間の不可能を可能にできてもおかしくはない。

 だがしかし、幻魔の扉が発動できればの話だが。

 

「罠カード、リビングデットの呼び声を発動!」

 

「この期に及んでモンスター蘇生の罠? 血迷ったのかしら。このタイミングでモンスターを蘇生させたところで壁にすることは出来ないわよ」

 

「壁? 違うな。俺が召喚するのは――――マジック・キャンセラーだ!!」

 

「マジック・キャンセラー!?」

 

 

【マジック・キャンセラー】

風属性 ☆5 機械族

攻撃力1800

守備力1600

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り魔法カードは発動できず、

全てのフィールド上魔法カードの効果は無効になる。

 

 

 マジック・キャンセラー、その名の通りマジックをキャンセルするモンスター。

 リビングデットの呼び声により召喚されたマジック・キャンセラーが光を放つと幻魔の扉がボロボロに崩れ去っていく。

 

「幻魔の扉が、どうしてっ!」

 

「マジック・キャンセラーの特殊能力。それはこのカードがフィールドに存在する限り魔法カードの発動と効果を無効にする魔法封じの力。

 幻魔の扉は確かに強力なカードだが、魔法カードであることに変わりはない。魔法カードである以上、マジック・キャンセラーの前には無力だ!」

 

「くっ……! 使いたくなかったけど仕方ない。リバースカードオープン、無謀な欲張り! 2ターンの間、ドローフェイズをスキップすることを代償にデッキからカードを二枚ドローする。

 モンスターをセット、リバースカードを二枚伏せてターンエンド」

 

「これがラストターンだ。俺のターン。罠発動、異次元からの帰還! 自分のライフを半分支払い、ゲームから除外されている自分のモンスターを召喚可能な限りフィールド上に特殊召喚する!」

 

 

【異次元からの帰還】

通常罠カード

ライフポイントを半分払って発動できる。

ゲームから除外されている自分のモンスターを

可能な限り自分フィールド上に特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時にゲームから除外される。

 

 

 次元の穴に扉が開き、そこからサイバー・エルタニンの力となるため除外されたモンスターが帰還してきた。

 フィールドに新たに並ぶのは二体のサイバー・ドラゴンとサイバー・ヴァリー。

 

「サイバー・ヴァリーのモンスター効果。このカードとマジック・キャンセラーをゲームより除外しカードを二枚ドローする。

 これで魔法カードが使用できるようになった。魔法カード、エヴォリューション・バースト! 相手のフィールドにあるカードを一枚破壊する。俺が破壊するのはお前の場にあるセットモンスター」

 

「魂を狩る死霊が、こうもあっさりと」

 

 サイバー・ドラゴンの攻撃により、戦闘破壊耐性のある魂を狩る死霊をあっさり突破されカミューラの表情が歪む。

 

「そして魔法カード、融合! 手札と場の二体のサイバー・ドラゴンを融合! 融合召喚、現れろサイバー・エンド・ドラゴンッ!」

 

 

【サイバー・エンド・ドラゴン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力4000

守備力2800

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 遂に降臨するサイバー流の切り札、サイバー・エンド・ドラゴンがサイバー・エルタニンと並び立つ。

 サイバー流の二大切り札の揃い踏みにカミューラが後ずさる。

 

「ゆくぞ! サイバー・エンド・ドラゴン! サイバー・エルタニン! 俺に勝利を齎せ! エターナル・ドラコニス・バーストッ!!」

 

「と、罠発動! 聖なるバリア -ミラーフォース-! あははははははははははは! 残念だったわね、折角の攻撃もこれでおしまいよ!」

 

「それはどうかな。こちらも罠発動、サイコ・ショックウェーブ!!」

 

 

【サイコ・ショックウェーブ】

通常罠カード

相手が罠カードを発動した時、

手札から魔法・罠カード1枚を捨てて発動できる。

自分のデッキから機械族・闇属性・レベル6のモンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 白いウェーブが広がり、フィールドが振動する。

 

「このカードは相手が罠カードを発動した時に魔法・罠カードを一枚捨てて発動できる。自分のデッキより闇属性機械族のレベル6モンスターを一体特殊召喚する。

 俺は手札よりブラックホールを捨て、デッキより人造人間サイコ・ショッカーを特殊召喚! そしてサイコ・ショッカーの効果によりミラーフォースは無効となる!」

 

 

【人造人間サイコ・ショッカー】

闇属性 ☆6 機械族

攻撃力2400

守備力1400

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

お互いに罠カードを発動する事はできず、

フィールド上の罠カードの効果は無効化される。

 

 

 場には異なる二体のサイバー流の切り札が存在し、罠封じのサイコ・ショッカーまでもが現れた。

 完全に詰み。もはやカミューラに残された手は何一つとして存在しない。

 

「攻撃は続行だ。速攻魔法リミッター解除。フィールドの機械族モンスターの攻撃力を倍とする。――――――さらばだ、カミューラ」

 

「あぁ、がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンとサイバー・エルタニンの合体攻撃の直撃で、カミューラは断末魔の悲鳴をあげながら吹き飛んだ。

 カミューラが受けた合計ダメージは15000。その前に受けたダメージも加えればその破壊力は一体どれほどのものか。

 途轍もないダメージを受けたカミューラはもはや立つ力も失い、意識を手放してしまった。カミューラにとって不幸中の幸いだったのはマジック・キャンセラーの能力により〝幻魔の扉〟に自身の魂が生け贄とされていなかったことだろう。

 

「……え、えげつない」

 

 完膚無きにまでに叩きのめした亮のデュエルを見ていた万丈目がげんなりとする。仮にここに亮の友人である三人がいれば同じリアクションしたに違いない。

 ふと気づく。万丈目の持っていたクロノス先生の人形が震えはじめた。

 

「お、おお! ぬおわっ!」

 

 一層光が強まった瞬間、クロノス先生が元の姿に戻った。そして戻った拍子にクロノス先生はそのまま床に落下する。

 

「ペペロンチーノ! こ……これは私はダーレ? ここはドーコ?」

 

「しっかりしてくれよ先生。先生はクロノス先生で、ここはカミューラの城だぜ」

 

「ドロップアウトボーイ。ということは私は……やったノーネ! 助かったノーネ!」

 

 自分が助かったことを全身で喜び震えるクロノス先生。あれほどドロップアウトボーイだのと悪口を言いまくっていたにも拘らず十代と腕を組んで謎のステップをしていた。

 そんな皆を見下ろして亮は珍しく顔を綻ばせる。だが、そんな悠長にもしていられなかった。

 カミューラとデュエルをしていた城が音をたてて崩れ始めたのだ。

 

「カミューラが気絶してここを支えた力が消えたんだわ。早く逃げましょう! さもないとここで瓦礫の下敷きよ!」

 

 明日香が言うと、他の皆も一目散に城から逃げ出していく。

 亮もこれ以上ここに留まる理由はない。一緒に逃げようとして、寸前で斃れるカミューラが目に付いた。

 

「俺は丈ほど甘い男じゃないんだがな。――――道を外れたとはいえ、あれほどのデュエリスト。死なすには惜しい」

 

 気絶するカミューラを抱き抱えると、強靭な脚力で跳躍する。

 そして亮もまたヴァンパイアの城より脱出していった。

 



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第139話  闇からの刺客

タニヤ「アマゾネスデッキの力、見せる時が来た!!」

ボス「キング・クリムゾン!」

タニヤ「!?」


 暗闇の中、以前と同じように夜の闇のようなローブを羽織った人影が、設置されたモニターに視線を向けながら集まる。

 だが集まった人影は明らかに以前よりも頭数が減っていた。

 第一の刺客〝死の物まね師〟。第二の刺客〝吸血鬼カミューラ〟。そして先日新たに送り込んだ第三の刺客〝タニア〟も鍵の一つを奪いとったものの、遊城十代により敗れ去った。

 これでセブンスターズ七人のうち三人が敗れ去ったこととなる。集まったセブンスターズの面々も最初よりもやや重苦しい気配を漂わせていた。

 

『――――お前達をここに集めた理由、説明するまでもなかろう。次は誰が行くか』

 

 モニターに映る人物がセブンスターズの四人へ言葉を発する。

 セブンスターズたちは暫し沈黙するが、やがて大柄で仮面をつけた男が口を開く。

 

「セブンスターズとは即ち真の闇のデュエリストが集まり……そう聞いていたから同胞として頼もしく思っていたのだがなぁ。それはこの私の買い被りというものだったようだ」

 

「何が言いたい?」

 

 大柄な男の侮蔑に対して、理知的な雰囲気を漂わせる男が静かに尋ねる。

 しかし静かでありながらその声色には不用意な発言をするならば許さない、という脅しに臭いが含まれていた。

 

「三人だ! 既に三人倒れた! それもうち二人はカイザーとかいう奴ではなく、学生……それも一年生だそうじゃないか。これのどこが精鋭だ?」

 

「デュエリストの年齢は強さとイコールではない。ペガサス・J・クロフォードを倒し決闘王の称号を手に入れた武藤遊戯が当時何歳であったかレクチャーする必要があるのか?」

 

「むっ」

 

「それに敗北した彼等とて無駄死にだったわけではない。カミューラはクロノス・デ・メディチを。タニアは三沢大地を其々撃破し鍵の奪取を成功している。一人で七人抜きとはいかないまでも一人一殺は成立しているのだ。

 ようは残った我等が一人二殺のノルマをこなしさえすれば、このまま一人一殺でいける」

 

 理性的な男の理路整然とした言い返しに仮面の男は押し黙る。

 偉そうなことを言っていたが仮面の男はセブンスターズの中で所謂新入りに当たる。対して理性的な男はセブンスターズでも一番の古株だ。

 それに真っ向から反抗するほど仮面の男は愚かでも考えなしでもない。

 

「ふん! つまり一つの鍵を奪えず終わったのは死の物まね師だけか! 元同業者として恥ずかしいな」

 

 一番大柄な男がここにはいない死の物まね師に野次を飛ばした。

 今度は理性的な男も何も言わない。折角〝魔王〟より奪ったデッキを使っておいて、誰一人として倒すことなく敗北した死の物まね師は完全に役立たず。弁護するところなどありはしない。

 それに死の物まね師は常日頃から人を侮辱する癖があり、セブンスターズの誰からも良く思われてはいなかったのだ。

 

「……私から一つ提案がある」

 

 モニターとセブンスターズたちの中間に立つと、理性的な男は全員を見渡しながら提案する。

 

『アムナエル、提案だと?』

 

 モニターの人物に〝アムナエル〟と呼ばれた男はコクリと頷く。

 セブンスターズの実質的ナンバーツーにあたる男の提案だ。他のセブンスターズも黙って耳を傾ける。

 

「鍵の守護者で最も強敵なのはカイザー、丸藤亮。これはいいだろうか?」

 

 セブンスターズ全員が頷く。

 四天王の一人としてネオ・グールズを壊滅させ、三邪神を倒し、ダークネス異変にもかなりの深さで関わっていた新しい伝説の一角。

 その実力はトッププロクラスすら超えて、既に〝最強〟の頂きを目視できる位置にいるとさえ言われている。

 彼が鍵の守護者の中で最強なのは疑うべくもないことだ。

 

「もう一人鍵の守護者で厄介なのは宍戸丈だが、彼は太平洋で海の藻屑となっているから一先ず除外する。そしてカイザーの次に難敵なのは誰だと思う?」

 

 セブンスターズたちが沈黙する。アムナエルは彼等が黙り込んだのを見計らい、間を置くと絶妙なタイミングで言い放つ。

 

「遊城十代だ」

 

「…………………」

 

「思い返せばカミューラ以外のセブンスターズ、死の物まね師とタニヤも最初に相手した守護者に勝利しておきながら、次に戦った遊城十代に敗れ去っている。

 つまり遊城十代こそ七星門の守護者で第二位の実力をもつデュエリストということだ」

 

『ならばどうするのだ?』

 

「作戦を変える。これまでは差し向けた刺客の自己判断で相手するデュエリストを決めていた。だが今度からは予めターゲットを絞り込む。即ち丸藤亮と遊城十代の他の守護者。万丈目準と天上院明日香に」

 

『邪魔な二人を排除しておいて、残った遊城十代とカイザー亮を総力をもって叩き潰す、か』

 

 アムナエルはその通りだと頷いた。カイザーが強敵なのは周知の事実。そして遊城十代が難敵なのは彼の戦績が証明している。

 そもそもセブンスターズの面々に『こいつだけは自分の手で倒したい』というような執着はないので、方針転換を拒否する者は誰もいなかった。

 

『決まりだな。では誰が行くかだが――――』

 

「俺が行こう」

 

 一際大柄な男が舌なめずりをしながら挙手する。

 

「死の物まね師の晒した恥はこの俺が注いでやる。宍戸丈のデッキだったか。一つ貰うぞ」

 

『良かろう』

 

 大柄な男がローブを脱ぐ。

 その姿は嘗てのペガサス島において闇のプレイヤーキラーと呼ばれ、孔雀舞を倒した男のそれだった。

 プレイヤーキラーが懐から抜いた短刀を投げつける。投擲された短刀は真っ直ぐな軌跡を描き、万丈目準の映る写真を貫いた。

 

 

 

 

 日曜日が休日なのはどこの学校も変わらない。

 部活動に所属していれば日曜日の方が平日よりも苦痛だ、ということもあるが帰宅部が大多数のデュエル・アカデミアではそんな生徒は稀である。

 夜遅くまでデッキ構築していた万丈目は時計の針が12を超えてから目覚めて、遅めの朝食――――もとい昼食をとるために下に降りて行った。

 しかしそこにあったのは、

 

「……どうしたんだ、あいつは?」

 

 何故かレッド寮の食堂では三沢が悩ましげな目で黄昏ていた。

 

「あ、万丈目くん」

 

「さん、だ! それと翔、あいつ七星門の鍵を奪われて頭がおかしくなったのか?」

 

「たぶんそうじゃないっスよ」

 

 さっきから三沢は窓に視線をやっては寂しげに瞳を揺らせ、それから溜息をつくを繰り返している。

 これが明日香のような美少女がやったなら非常に絵になる光景なのだが、男で少し前まで硬派で通っていた三沢がやっても薄気味悪いだけだ。

 

「ったくあいつは性に目覚めた中学生か。そんなんだから七星門の鍵をみすみす奪われるんだ」

 

「ははは。今回は否定できないっスね」

 

 これ以上三沢のことを考えていても不毛なので、三沢のことを思考から外すと昼食のエビフライに舌鼓をうつことにする。

 はっきりいって料理の質はブルー寮と比べれば雲泥の差だが、それでもエビフライはエビフライ。それなりに美味しい。

 

「だけど三沢くんがやられちゃって鍵の守護者は四人になっちゃったっスね」

 

「ふん! 他の連中がやられてもこの万丈目サンダーある限り三幻魔の復活などあるものか」

 

「はぁ。その自信をちょっとは分けて欲しいっスよ。僕なんて次のテストが心配で心配で」

 

「心配なら勉強でもしろ」

 

 万丈目は翔の悩みを一蹴する。正論のダイレクトアタックに翔のライフは0となった。

 

『兄貴兄貴~。そういう万丈目の兄貴はちゃんと勉強してるのぉ~?』

 

 万丈目の精霊であるおジャマイエローが野次を飛ばすと、兄弟のグリーンとブラックも下品な笑いをする。

 眉間に青筋をたてた万丈目はデコピンをイエローに喰らわせた。

 

「ええぃ黙れ雑魚共。この俺を誰だと思っている? あのカイザーと同じデュエル・アカデミア中等部首席だぞ。テストなんぞ完璧に決まってるだろう!」

 

「筆記は三沢くんの方が上っスけど」

 

「そんで実技は俺が勝ったけどな~」

 

「なっ! 貴様等っ! というより十代、お前いつの間に!」

 

 起きたばかりなのか寝癖の酷い十代がへらへらと笑いながら食堂に入ってきた。

 昨日セブンスターズのタニヤとデュエルをしたばかりというのに疲労は見えない。タニヤが死の物まね師やカミューラとは違うまともなデュエリストだったというのもあるだろうが、それにしてもこの元気さは異常だ。

 

(いや疲労があるからこんなに寝坊したのか)

 

 妙に納得する。

 しかしよくよく思い返せば最初の死の物まね師といいタニヤといいカイザーを除けばセブンスターズを倒したのは十代ばかりだ。

 万丈目は確かに以前十代に負けた。だからといってこれからも負け続ける気は毛頭ない。いつかは自分の手で完膚なきまでに叩き潰してやろうと思っている。

 だというのにここで白星に差をつけられるのは、はっきりいって気に入らない。

 

「よし!」

 

 万丈目はあることを思いつくと拳を握りしめる。

 そんなこんなでアカデミアの昼時は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 そして夜になった。

 万丈目は昼に思いついた策を実行に移すべくレッド寮の外に出ていた。万丈目に強引に連れてこられた十代と翔は露骨に眠そうな顔をしている。

 

「なぁ万丈目~。一体なにする気なんだよ」

 

「そうっスよ。もう眠る時間じゃないっスか」

 

 無理矢理叩き起こされた十代と翔がブーブー不平不満を並び立てるが、万丈目は「いいから少し黙れ」と反論を封殺する。

 万丈目とて無意味に二人を連れてきたのではない。秘策を使ってセブンスターズを誘き寄せるにしても、自分の勝利を誰かに知らしめなければ意味がない。十代と翔はそのためのギャラリーだ。

 

(……本当は天上院くんも来てほしかったんだが。くそっ! 天上院くんの女子寮とレッド寮の距離が近ければ、こんな寝ぼけた阿呆二人でギャラリーを代用する必要などなかったのだ)

 

 理不尽な苛々を心の中で十代と翔にぶつけながら、万丈目は木々がざわめく暗闇を睨みつける。

 

「それでどうするんだよ万丈目。セブンスターズを誘き寄せるとか言ってたけどどうやるんだ?」

 

「さんだ! フフフフフフ、聞いて驚け。俺の名推理を。これまでアカデミアに来たセブンスターズは三人。うち二人は必ず夜に侵入してきている」

 

「そういや、そうだな」

 

 死の物まね師が十代たちを火口に転移させてのも皆が寝静まった夜更けだ。そしてカミューラがやってきたのも太陽が完全に沈みきってから。

 三沢を倒したタニヤを除けば万丈目の言う通りセブンスターズは夜に襲撃を仕掛けてきている。

 

「だけどそれが分かったからってどうするんっスか」

 

「聞いて驚け。夜に来るということは今この瞬間、奴等はこのアカデミアに潜んでいる可能性が高い! ということはここで大声で奴等を挑発すれば、頭にきたセブンスターズが出てくるのは必然だ!!」

 

「そ、そうなんっスか?」

 

「信じていないようだな。俺の推理の正しさを証明してやろう。ゆくぞ―――――――セブンスターズのチキン! バーカ! アホ! ドジ! マヌケぇえ!!」

 

 万丈目は自身が考えうる限り最悪の罵詈雑言を叫んだが、しーんと静まったまま何の返事もない。

 

「ば、馬鹿な!」

 

 万丈目の推理ではここまで虚仮にされれば顔を真っ赤にしたセブンスターズが激高しながら現れるはずだったのだ。

 あの罵詈雑言を聞いて出てこないはずがない。そうなると、

 

「まさかセブンスターズは耳が不自由なのか?」

 

「なんでそうなるんっスか」

 

「ええぃ。ならばもっと大きな声で……。くぉらぁああああああああああああああああ!!! セブンスターズ!! この万丈目サンダーと戦え! もし出てこなければお前達の不戦敗だ!! 俺の勝ちだ!! いいな、分かったか!?」

 

「そんなことしても無駄っスよ」

 

 呆れながら翔が呟くが、

 

「――――呼んだかぁ? 小僧」

 

 木々の間からぬっと天を衝くような大男が姿を現した。腕には凶悪なフォルムのデュエルディスク。

 顔にはまるで拷問を受けたかのような生々しい傷がある。その異様な姿に翔などは男を見ただけでちびりそうになっていた。

 

「ふっ。俺の推理通り現れたなセブンスターズ。貴様、この万丈目サンダーとデュエルしろ!」

 

「クククッ。望むところだ、元から貴様を殺るつもりだったんでねぇ。俺の名はセブンスターズ第四の刺客。闇のプレイヤーキラー。この魔王のデッキで貴様を地獄に送ってやる」

 

「魔王、だと?」

 

 闇のプレイヤーキラーはこれみよがしにデッキを見せ、その中から一枚のカードを取り出した。

 身が凍った。闇のプレイヤーキラーの見せたカード、それはカオスソルジャー 開闢の使者。世界に四枚しか存在しない伝説のレアカードだ。

 

「成程。お前も十代が戦った死の物まね師のように宍戸さんのデッキを使うわけか。良いだろう。あの人には三年前に卒業模範デュエルでやられた借りがあったからな。

 本物と比べれば貴様など雑魚中の雑魚なのに違いはないが、進化したこの俺の強さを試す試金石には丁度良い」

 

「その減らず口がいつまで続くかな」

 

『デュエル!』

 

 万丈目と闇のプレイヤーキラー。

 奇しくも二人の黒衣のデュエリストが暗闇の中で激突する。

 

 




 今週のZEXAL。ドンさんが吸引力のかわらない唯一つの股間にベクターを吸い込んでキャストオフ。インチキカード使い始めた。
 なんというかベクターと遊馬って結婚詐欺師と、騙されたけど相手を諦めきれない男の構図に近いような気がします。


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第140話  魔王デッキの恐怖

闇のプレイヤーキラー LP4000 手札5枚

場 無し

 

万丈目準 LP4000 手札?枚

場 無し

 

 

 

 闇のプレイヤーキラー。自分の記憶が正しければ決闘王国ではI2社に所属したプレイヤーキラーとして暗躍し、あの孔雀舞を倒したほどの実力者だ。

 最低でも十代や翔の戦った迷宮兄弟と同等かそれ以上の実力は持っているだろう。宍戸丈のデッキを100%使いこなせるなどとは思っていないが相手にとって不足はない。

 万丈目は五枚の初期手札を確認しながらプレイヤーキラーを見据えた。

 

「先攻は俺が貰うぞ。俺のターン、ドロー!」

 

 闇のプレイヤーキラーがデッキトップのカードをドローした。

 あのデカブツがどこまで宍戸丈のデッキを使いこなせるのが先ずはこのターンで見極める。

 

「モンスターをセット、カードを四枚セット! ターンエンドだ!」

 

「いきなり四枚の伏せカードか」

 

 初手で四枚も伏せては仮に大嵐などで一掃されてしまえば一貫の終わりになりかねない行為だ。

 となるとあの四枚のカードの中に大嵐などの除去カードを無効化にするカウンター罠があるか、もしくはセットモンスターの正体があのカードかだ。

 自分の直感を信じるなら恐らくは後者。そうなると万丈目としてはカードを伏せてから攻撃に移るべきだが、

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 残念ながら万丈目の手札には伏せる類のカードはなにもありはしなかった。

 だが手札を温存するためになにもしないというのは論外だ。相手が偽物とはいえデッキは間違いなく宍戸丈のもの。そんな消極的なデュエルをしていては一瞬でライフを食い破られる。

 それだけのパワーがあのデッキにはあるのだ。

 

「……仮面竜を攻撃表示で召喚」

 

 

【仮面竜】

炎属性 ☆3 ドラゴン族

攻撃力1400

守備力1100

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

自分のデッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を

自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 だとすればここは臆さず攻める。

 万丈目の召喚した仮面竜は優秀なリクルーターだが攻撃力は1400。お世辞にも下級モンスターとして高い数値ではないがセットモンスターが例のカードなら問題はないはずだ。

 

「仮面竜の攻撃、マスクド・ブレス!」

 

「セットモンスターがリバースし効果発動! 俺がセットしていたのはメタモルポットだ! こいつの効果で互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚のカードをドローするぜぇ!」

 

「やはりか」

 

 万丈目は五枚のカードを墓地に捨てる。対して闇のプレイヤーキラーは一枚だけ。

 しかもその一枚というのがまた面倒なことに墓地にあって真価を発揮するレベル・スティーラーときている。

 一々プレイングに無駄がない。十代の話しだと死の物まね師は宍戸丈のデュエルデータチップを脳に埋め込んでいたそうだが、闇のプレイヤーキラーもその類なのかもしれない。

 けれど万丈目とてただで闇のプレイヤーキラーの思惑にのったのではない。

 

「俺はメタモルポットにより墓地へ送られた魔法カード、おジャマジックの効果発動! このカードが手札またはフィールドから墓地へ送られた時、おジャマ・イエロー、おジャマ・ブラック、おジャマ・グリーンを一枚ずつ手札に加える! 来い雑魚共!」

 

 

【おジャマジック】

通常魔法カード

このカードが手札またはフィールド上から墓地へ送られた時、

自分のデッキから「おジャマ・グリーン」「おジャマ・イエロー」

「おジャマ・ブラック」を1体ずつ手札に加える。

 

 

 万丈目はデッキから三枚の攻撃力0の通常モンスターを引き抜き手札に加える。

 三枚が最低最悪の雑魚モンスターであることを除けば、これで万丈目の手札は八枚になった。

 

「クククッ。おジャマトリオだと? そんな雑魚カードを手札に加えてなんになる。アカデミア中等部首席卒業と聞いて少しは期待したんだがなぁ。所詮お前も雑魚デュエリストか! ぐははははは!」

 

「ふざけるな! 取り消せっ!」

 

『そうだそうだ~!』

 

『万丈目の兄貴。もっといってやって!』

 

 正面から侮辱された万丈目が怒鳴り返し、精霊であるおジャマ三兄弟も闇のプレイヤーキラーに猛抗議する。しかし、

 

「この雑魚共が気品の欠片もない貧弱なクズなのは言う通りだが俺は雑魚じゃない! 万丈目サンダーだ!」

 

 瞬間、おジャマ三兄弟がずっこける。

 だが自分の本心をありのままにぶちまけた万丈目はまったく恥じることなく、闇のプレイヤーキラーを睨んでいた。

 

「クククッハハハハハハハハ!! 学習が足りてないようだなハイスクールボーイ。デッキに雑魚カードを投入する馬鹿を界隈では雑魚と言うんだぜぇ~」

 

「ふん。ならばクズカードを単なる雑魚と貶めている貴様に教えてやる。クズはクズなりに使い道があることを!」

 

『兄貴~』

 

 散々クズだの雑魚だのと言われたおジャマ三兄弟の精神はボロボロでライフ0となっていたが当然万丈目はそんなことは気にしない。

 万丈目は手札から一枚のカードを引き抜くと、デュエルディスクに叩きつけた。

 

「手札より手札断殺を発動! 互いのプレイヤーは手札を二枚捨てデッキから二枚カードをドローする! はははははははは! 屑共! 俺の手札補充のための生け贄となれ!」

 

『そ、そんなぁーー!』

 

 万丈目は手札のおジャマ・ブラックとグリーンを墓地へ送り二枚のカードをドローした。

 おジャマ三兄弟の二人をコストにドローされた二枚はおジャマより遥かに役立つカードばかり。万丈目はニヤリと口端を釣り上げた。

 

「カードを二枚伏せターンエンド!」

 

「ふふふ。エンドフェイズ時、俺はリバース発動! 終焉の焔! 黒焔トークン二体を場に特殊召喚する!」

 

 

【終焉の焔】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」

(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。

 

 

 フィールドに出現する二体のトークン。

 これが発動されたということは闇のプレイヤーキラーには既に闇属性最上級モンスターがあるのだろう。

 

「そして俺のターン! クククククッ。万丈目とか言ったかぁ。貴様に見せてやる、世界にたった一枚ずつしか存在しない超レアカード。プラネットの力ってやつをよぉ!!」

 

「っ!」

 

「先ずは下準備だ。手札より永続魔法、冥界の宝札を発動。伏せていた冥界の宝札もそれに合わせて発動!」

 

 冥界の宝札の二枚発動。冥界の宝札は二体以上の生け贄を擁する生け贄召喚に成功した時に二枚カードをドローする永続魔法。

 そして厄介なことにその効果は重複する。つまり二枚が同時に発動しているということは、生け贄召喚に成功する度にデッキからカードを四枚ドローすることとなる。

 

「行くぞ! 二体の黒焔トークンを生け贄に! 地上に降り立て大いなる土星! The big SATURNを召喚ッ!!」

 

 

【The big SATURN】

闇属性 ☆8 機械族

攻撃力2800

守備力2200

このカードは手札またはデッキからの特殊召喚はできない。

手札を1枚捨てて1000ライフポイントを払う。

エンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は1000ポイントアップする。

この効果は1ターンに1度だけ自分のメインフェイズに使用する事ができる。

相手がコントロールするカードの効果によってこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

お互いにその攻撃力分のダメージを受ける。

 

 

 嘗て宍戸丈がアメリカの大会で優勝した際に手に入れたプラネットシリーズの一枚。

 土星を象徴するプラネットがフィールドに舞い降りた。世界に一枚しかないからか、それともなにか別の要因か。万丈目はビリビリと痺れるようなプレッシャーを感じた。

 

「The big SATURNの特殊能力! 手札を一枚捨てライフを1000払うことによりSATURNの攻撃力を1000ポイントアップする!

 バトルフェイズ! The big SATURNで仮面竜を攻撃、end of COSMOS!!」

 

「ちぃっ!」

 

 闇のプレイヤーキラーLP4000→3000 万丈目LP4000→1600

 

 仮面竜など土星の力の前には為す術もなく無残に破壊される。SATURNのコストで闇のプレイヤーキラーのライフも削れたが、それ以上に万丈目のダメージは大きい。

 闇のゲーム故に全身の骨という骨をハンマーで砕かれたような痛みが駆け巡った。

 

『兄貴! やばいわよあのカード、上手く説明できないけどサターンって奴。普通じゃないパワーがある。兄貴だってきついわよ~』

 

「はぁはぁ……万丈目サンダーを舐めるなよ。この程度で……倒れるものか! 雑魚は引っ込んでいろ!

 仮面竜の効果。こいつが戦闘で破壊された時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスターを特殊召喚する。デッキからアームド・ドラゴンLV3を特殊召喚!」

 

 

【アームド・ドラゴンLV3】

風属性 ☆3 ドラゴン族

攻撃力1200

守備力900

自分のスタンバイフェイズ時、フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で、

手札またはデッキから「アームド・ドラゴン LV5」1体を特殊召喚する。

 

 

 世にも珍しいレベルアップモンスター、ノース校で頂点に君臨した時に手に入れたカードが召喚される。

 今はLV3なため貧弱なカードでしかないが、アームド・ドラゴンはこれから進化していくごとに強力になっていくのだ。

 

「レベルアップモンスターか。少しは見直したぞ。実に珍しいカードを持っている。お前を倒した後、鍵だけではなくそのカードも頂くとするか」

 

「誰が貴様如きに俺のカードをやるか!」

 

「威勢の良さがいつまで続くかな。俺はバトルを終了しカードを一枚伏せターンエンド。エンドフェイズ時、手札が六枚になるようカードを捨てる」

 

 取り敢えず逆転の鍵となるアームド・ドラゴンを場に呼び込むことができた。

 ここからが本番だ。



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第141話  最強のモンスターたち

 万丈目と闇のプレイヤーキラー。二人のデュエルは闇のプレイヤーキラーのデッキが『宍戸丈』のデッキだということもあって、プレイヤーキラー優勢だった。

 既に万丈目のLPは1600。4000をきっている上に次の万丈目のターンでアームド・ドラゴンがLV5にレベルアップしても、その特殊能力の関係上The big SATURNを破壊することはできない。

 しかも闇のプレイヤーキラーの場には強力なドローエンジンである『冥界の宝札』が二枚も発動している。

 あれがある限りプレイヤーキラーは最上級モンスターを生け贄召喚すればするほどに手札が増えていく。

 

「兄貴……。万丈目くん大丈夫かな」

 

「心配すんなって。万丈目は強いぜ。あいつがそう簡単に負けっかよ。それに『冥界の宝札』があったとしてもデッキに最上級モンスターなんてそうありはしないだろ」

 

 最上級モンスターは強力な攻撃力と特殊能力をもつモンスターが多いが、二体の生け贄を必要とするためデッキに一枚か二枚、多くても三枚四枚というのが常識だ。デッキによっては一枚も投入しないこともある。

 かくいう十代のメインデッキにも最上級モンスターで投入されているのはレベル7のエッジマンのみ。他は全て融合デッキだ。

 冥界の宝札がドローソースだろうと、それが発動するには最上級モンスターを召喚するというトリガーが必要となる。しかし最上級モンスターが数枚しかないならば、それが発動するのは数回っきりということになるのだ。

 

「そ、そうっスよね! 最上級モンスターを召喚するには二体の生け贄が必要なんだからThe big SATURNを倒しさえすれば一先ずは――――」

 

「それはどうかな。The big SATURNを倒したくらいで、最上級モンスターのラッシュが止まりはしないだろう」

 

「お、お兄さん!?」

 

 どこか物々しい顔でカイザーが翔の横に並び、闇のプレイヤーキラーとそのデッキを睨む。

 友人のデッキを他人に使われているからか、その瞳には弟である翔だから気付けるほどの怒りの色があった。

 

「カイザー、なんでここに?」

 

「精神統一のため瞑想に耽っていたらサイバー・ドラゴンが闇の力を感じたようだったのでな。急いで来た」

 

 急いできたというわりにまるで疲労しているように見えないのはカイザーのスタミナによるものだろう。

 カイザーの背後では精霊である三体のサイバー・ドラゴンがハネクリボーとなにやら目で会話していた。

 

「それよりどういうことなんっスか。The big SATURNを倒すくらいじゃ駄目って。兄貴の言う通り最上級モンスターなんてデッキに何枚もないんだから、一体倒すだけでも結構な打撃じゃ」

 

「それは普通のデッキの話だ。あいつの……丈のデッキは違う。あいつのデッキには下級モンスターなんて数えるほどしか入っていない。あいつのデッキに投入されているモンスターはその殆どが最上級モンスターなんだ」

 

「!?」

 

 衝撃的な発言に十代と翔が二人して固まる。

 下級モンスターが数枚たらずで、後は最上級モンスターばかり。それは普通のデッキとまるであべこべの構成だ。

 デュエルモンスターズがスーパーエキスパートルールになり生け贄召喚のシステムが実装される前ならまだしも、生け贄召喚があるのに最上級モンスターばかりのデッキなんてもはやデッキとして成り立っていない。

 

「デッキに最上級モンスターばっかって、それじゃ生け贄はどうするんだよ。最上級モンスターばっかじゃ碌にモンスターだって召喚できないじゃないか」

 

「その無茶を可能にするのがあいつのデッキだ。トークンやレベル・スティーラーなどを使い回し、まるで下級モンスターのように最上級モンスターを召喚していく。

 俺のサイバー流はサイバー・ドラゴン融合モンスターによる一撃必殺の火力に特化したパワーデッキだが、あいつは多種多様な最上級モンスターの攻撃力と特殊能力で場を制圧する性質の異なるパワーデッキ。

 使いこなせれば、の但し書きがつくが手強いぞ。闇のプレイヤーキラーは丈のプレイングデータの入ったチップを頭に埋め込んでいるから、その但し書きも意味はないか」

 

「万丈目……」

 

 十代は闇のプレイヤーキラーと戦う万丈目を見る。

 万丈目は中等部で丈とデュエルをしたことがあると言っていた。だとすれば丈のデッキがどのようなものかも知っていただろう。

 通常のデッキであればエースとなるであろうモンスターが数ある〝しもべ〟の一つでしかない恐怖。それを万丈目は味わっているはずだ。

 

「――――だがあいつのデッキには致命的な落とし穴がある。万丈目がそれを見つける事が出来れば、このデュエル」

 

 見定めるかのようにカイザーと呼ばれた男は万丈目を見据える。

 そしてターンが闇のプレイヤーキラーから万丈目へ移行した。

 

 

 

 

 

闇のプレイヤーキラー LP3000 手札6枚

場 The big SATURN

伏せ 二枚

魔法 冥界の宝札×2

 

 

万丈目準 LP1600 手札5枚

場 アームド・ドラゴンLV3

伏せ 二枚

 

 

 

 十代が考えた通り万丈目は宍戸丈のデッキがどのようなものか知っている。

 だが臆することはない。万丈目はあの日、宍戸丈のLPに1ポイントのダメージを与えることも出来ず敗北してから、あのデッキをどうやって攻略するかを常に考えて来たのだから。

 

「俺のターン、ドロー! このスタンバイフェイズ時、アームド・ドラゴンLV3はLV5へとレベルアップ!」

 

 

【アームド・ドラゴンLV5】

風属性 ☆5 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力1700

手札からモンスター1体を墓地へ送る事で、

そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。

また、このカードが戦闘によってモンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時、

フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で、

手札またはデッキから「アームド・ドラゴン LV7」1体を特殊召喚する。

 

 

 弱々しい幼竜に過ぎなかったアームド・ドラゴンが、レベルアップしたことで雄々しく力強い姿へ変わった。

 LV5となったアームド・ドラゴンは手札のモンスターを墓地へ送る事で、その攻撃力以下のモンスターを破壊する効果をもっている。

 だが万丈目の手札にThe big SATURNを超える攻撃力を持つモンスターはいない。ここは危険な賭けに出るしかないだろう。

 

「手札抹殺を発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数だけカードをドローする! 俺は五枚のカードを捨て五枚ドロー!」

 

「また手札交換か。余程テメエは手札に恵まれねえらしいなぁ」

 

「なんとでも言え。……きたか。魔法発動、レベルアップ! 場のアームド・ドラゴンLV5をレベルアップさせる!」

 

 

【レベルアップ!】

通常魔法カード

フィールド上に表側表示で存在する「LV」を持つ

モンスター1体を墓地へ送り発動する。

そのカードに記されているモンスターを、

召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。

 

 

 アームド・ドラゴンLV5がレベルアップするには本来なら相手モンスターを破壊する過程が必要となるが、レベルアップの魔法効果はその過程を吹っ飛ばしてのレベルアップを可能にする。

 魔法効果を得たアームド・ドラゴンLV5がその姿を更に進化させていく。

 

「現れろ、アームド・ドラゴンLV7!!」

 

 

【アームド・ドラゴンLV7】

風属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力1000

「アームド・ドラゴン LV5」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。

手札からモンスター1体を墓地へ送る事で、

そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 アームド・ドラゴンLV5の表面が裂け、より猛々しい武装染みた外装をもつドラゴンが降臨する。

 守備力はLV5時より低下しているが攻撃力は2800まであがり、モンスター破壊効果も相手フィールド全体に変わった。

 

「攻撃力はThe big SATURNと互角……! 相打ち狙いか!?」

 

「ナンセンスだな。宍戸さん本人ならいざしれず、この俺が貴様程度に自爆特攻などするものか! アームド・ドラゴンの進化がLV7までと思ったら甘いぜ。貴様に見せてやる、アームド・ドラゴンの最終形態を!

 恐れ慄け!! そして戦慄しろ! 俺はアームド・ドラゴンLV7を生け贄に捧げ、手札よりアームド・ドラゴンLV10を召喚ッ!!」

 

 

【アームド・ドラゴンLV10】

風属性 ☆10 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2000

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に存在する「アームド・ドラゴン LV7」1体を

生け贄にした場合のみ特殊召喚する事ができる。

手札を1枚墓地へ送る事で、

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 フィールドに降臨するアームド・ドラゴン最終形態。そのレベルは神のカードと同格にあるLV10。

 ここまで進化したアームド・ドラゴンLV10にはもはや捨てる手札コストに関係なく相手フィールドの表側モンスターを殲滅する殺戮竜だ。

 

「アームド・ドラゴンLV10の効果発動! 手札を一枚捨て相手フィールドの表側表示モンスター全てを破壊する! ジェノサイド・ビッグ・カッター!」

 

「馬鹿が! テメエの方から墓穴を掘りやがったな! アームド・ドラゴンの効果で破壊された瞬間、The big SATURNの特殊能力が発動!

 お互いのプレイヤーはThe big SATURNの攻撃力、つまり2800ポイントのダメージを受ける! 俺のライフは3000、テメエのライフは1600。これでジ・エンドだ。雑魚」

 

「雑魚は貴様だ。この万丈目サンダーがそんなプレイングミスをすると思った貴様のマヌケを知れ! リバース発動、ピケルの魔法陣! このターン、俺が受けるあらゆる効果ダメージはゼロとなる!」

 

 万丈目の前に白い魔法陣が生まれ、The big SATURNの最後のダメージから万丈目を守り通す。

 ピケルの魔法陣は自分のみをバーンダメージから守り通すカード。相手に恩恵はない。これで闇のプレイヤーキラーだけが2800のダメージを受け、ライフでも逆転できる。

 しかし闇のプレイヤーキラー、否、彼の使う宍戸丈のデッキはそう甘いものではなかった。

 

「ククククッ。The big SATURNの効果ダメージを防ぐリバースをセットしていたのにはちと驚いたが爪が甘かったな。俺はThe big SATURNの効果に対しレインボー・ライフを発動させて貰った」

 

「レインボー・ライフだと!?」

 

 レインボー・ライフは手札を一枚捨てることでこのターン、自身の受けるあらゆるダメージを回復へと変換する罠カード。

 この効果によりThe big SATURNの2800のダメージはそのまま回復へと変換され、闇のプレイヤーキラーの命を潤ませた。

 2800ライフを回復した闇のプレイヤーキラーのライフは5800。ライフの差を更に引き離した。

 

「ククククッ。どうするぅ万丈目ぇ。俺のフィールドはすっからかん。攻撃のチャンスだぜぇ」

 

「……安い挑発にのるか。ここで貴様を攻撃したところで、お前のライフを回復させることにしかならんことはお見通しだ。一時休戦を発動。互いのプレイヤーはカードを一枚ドローする」

 

 

【一時休戦】

通常魔法カード

お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。

次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。

 

 

 一時休戦、その名の通り次の相手ターンまで互いの受けるダメージを0にする、デュエルの展開を休戦するカードだ。

 エクゾディアなどの特殊勝利を目的としたデッキでない限り次の万丈目のターンまで首の皮は互いに繋がる。

 

「ターンエンド」

 

「クククッ。このデッキのパワーの前には貴様などつまらんカードで時間稼ぎをするしかあるまい。俺のターンだ、ドロー。

 一時休戦のせいでテメエのライフを削ることはできねえが、そのかわり圧倒的なフィールドってやつを作ってやる。リバースカードオープン、メタル・リフレクト・スライム!

 こいつは発動後、守備力3000のモンスターとなり守備表示でフィールドに特殊召喚される」

 

 

【メタル・リフレクト・スライム】

永続罠カード

このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、

自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。

このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)

 

 

 千年の盾と同等の守備力3000。優秀な壁モンスターとして有効なモンスターだが、宍戸丈のデッキに限っていえばこのカードは壁モンスターとして採用されているわけではない。

 このカードが恐ろしいのはレベルが10であるということだ。

 

「俺の墓地ではテメエが手札抹殺で墓地へ送った分も含めて二体のレベル・スティーラーがいる。こいつを使わせて貰うぜ。

 レベル・スティーラーの効果。メタル・リフレクト・スライムのレベルを二つ下げ二体のレベル・スティーラーを召喚! 二体のレベル・スティーラーを生け贄に堕天使アスモディウスを攻撃表示で召喚!! 冥界の宝札で四枚ドロー!!」

 

 

【堕天使アスモディウス】

闇属性 ☆8 天使族

攻撃力3000

守備力2500

このカードはデッキまたは墓地からの特殊召喚はできない。

1ターンに1度、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分フィールド上に「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、

「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。

「アスモトークン」はカードの効果では破壊されない。

「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。

 

 

 最上級堕天使の一枚。破壊されて尚もトークンを残すモンスターが召喚された。

 しかもこの召喚で闇のプレイヤーキラーは手札をまた四枚ドローしている。強力な最上級モンスターの召喚と手札増強を同時にやるこの戦術はやはり厄介なものだ。

 

「良いカードを引いたぜぇ。俺は墓地の闇属性モンスター、闇の侯爵ベリアルと光属性モンスター、虚無の統括者をゲームより除外。光来せよ、カオス・ソルジャー -開闢の使者-!!」

 

「カオス・ソルジャーだと!」

 

 

【カオス・ソルジャー -開闢の使者-】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ

ゲームから除外した場合に特殊召喚できる。

1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●フィールド上のモンスター1体を選択してゲームから除外する。

この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

●このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した場合、

もう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 

 悪名高き混沌帝龍と並び立つカオスモンスターの片割れ。

 余りの強力さからブルーアイズと同じく四枚しか生産されなかったデュエルモンスターズ界最強戦士。

 カオス・ソルジャーが混沌の力を得て降臨した。

 

「カオス・ソルジャーの効果、1ターンに1度、フィールドのモンスター1体を選択し除外する。消え失せろ、アームド・ドラゴンLV10」

 

 アームド・ドラゴンの最終進化形態もカオス・ソルジャーの混沌の力には叶わず跡形もなく消し去られる。

 堕天使アスモディウスにカオス・ソルジャー。宣言通り圧倒的なフィールドというものが構築されつつあった。

 

「一時休戦のせいでバトルする意味はねえからな。カードを二枚伏せてターンエンドだ」

 

「――――この俺がただやられるだけだと思ったら大間違いだ。エンドフェイズ時、心鎮壷を発動! フィールドにセットされた魔法・罠二枚を封印する!

 俺が封印するのは当然お前が今伏せた二枚のカードだ!」

 

 

【心鎮壷】

永続罠カード

フィールド上にセットされた魔法・罠カードを2枚選択して発動する。

このカードがフィールド上に存在する限り、

選択された魔法・罠カードは発動できない。 

 

 

 闇のプレイヤーキラーがなにを伏せたかは知らないが、これでこのカードが存在する限りプレイヤーキラーはあの二枚を発動することはできない。

 

「悪あがきを」

 

 舌打ちするが闇のプレイヤーキラーから余裕は消えない。カオス・ソルジャーの絶対的な力はそれだけの自信をプレイヤーキラーに齎しているのだろう。

 その慢心、そこに一筋の勝機はある。



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第142話  自業自得

闇のプレイヤーキラー LP5800 手札6枚

場 堕天使アスモディウス、カオス・ソルジャー -開闢の使者-、メタル・リフレクト・スライム

伏せ 二枚(心鎮壷により封印)

魔法 冥界の宝札×2

罠 メタル・リフレクト・スライム

 

 

万丈目準 LP1600 手札2枚

場 無し

伏せ 二枚

罠 心鎮壷

 

 

 

 

 ライフアドバンテージ、フィールドアドバンテージ。

 あらゆる点で万丈目は闇のプレイヤーキラーに追い詰められている。宍戸丈――――彼の決闘王に最も近いとまで噂される男のデッキだ。

 それを使うデュエリストも姑息な手を使ったとはいえ決闘王国で武藤遊戯を追い詰めたこともある男。更に宍戸丈のデュエルデータを記録したチップを頭に埋め込んでいるとなればこの強さも当然かもしれない。

 

(だが俺はただでここまでやられてきたわけじゃない)

 

 闇のプレイヤーキラーは自分の力に酔いしれ慢心している。

 それが自分本来の力によるものならまだ良いが、闇のプレイヤーキラーは他人の力を自分の力と勘違いしてそれに浸っているだけだ。

 凡百のデュエリストならいざしれず、やがては四天王すら超えアカデミアの頂点に君臨する自分には通用しない。万丈目は追い詰められて尚もぎらぎらとした戦意を輝かせていた。

 それに闇のプレイヤーキラーは幾つか失態を犯している。

 その一つが魔法・罠カードゾーンを埋めてしまったこと。

 万丈目の心鎮壷で二枚の伏せカードが封印され、冥界の宝札とスライムにより五枚のゾーンを使いきった闇のプレイヤーキラーは、心鎮壷を破壊するか自分の魔法・罠を一枚以上破壊しない限り新たな魔法・罠が使用できない。

 言うなれば闇のプレイヤーキラーは魔法・罠が使えないロック状態にあるといっても過言ではないのだ。

 これはデュエルをする上で万丈目の有利となる。

 

「俺のターン……ドロー!」

 

 かといって万丈目が不利なことに変わりはない。

 堕天使アスモディウス、カオス・ソルジャー -開闢の使者-、メタル・リフレクト・スライム。いずれも強力なモンスターたちを突破して、5800ものライフを削りきるのは至難の業だ。

 カイザーであればサイバー・ドラゴンの一撃で軽くワンショットキルを決められるのだろうが、生憎と自分にはあの火力はない。

 

「どうした長考かぁ? いいぜ別にどんだけ考えてもよぉ。どうせ俺のモンスターたちを倒すことなんざできねえんだ」

 

「黙れデカブツ。俺の優雅なるシンキングタイムの邪魔だ。黙っていろ」

 

「なんだと!?」

 

 闇のプレイヤーキラーから意識を外し思考の海に沈む。

 白状するならば闇のプレイヤーキラーの圧倒的なフィールドを壊滅させる手がないわけではない。

 おジャマ三兄弟がフィールドに揃った時に発動できる魔法カード、おジャマ・デルタハリケーン。あれを使えば一発で闇のプレイヤーキラーのフィールドを焼野原にできるだろう。

 かといってそれを発動するにはおジャマ三兄弟を場に揃えなければならないし、フィールドを焼野原にして勝利が確定するわけではないのだ。

 あれだけドローしていれば手札誘発の一枚や二枚は持っていることはほぼ確実だし、闇のプレイヤーキラーのライフは5800もあるのだから。

 

(となれば)

 

 デュエルは単純な力比べではない。圧倒的なパワーを破るのが圧倒的パワーであるとは限らず、なんの効果も持たない通常モンスターが最強モンスターを撃破することもある。

 闇のプレイヤーキラーが誇るフィールドを真っ向から打ち破るのは難しいが、ならばそもそも打ち破らなければいい。

 別にフィールドを打ち破らなければ相手を倒せないということはないのだ。

 つまるところデュエルの勝敗はモンスターではなくデュエリストを倒すことで決まるのだから。

 

「決まったぞ俺の戦略が……! 俺はカードカー・Dを攻撃表示で召喚! そしてこいつを生け贄に捧げ俺はカードを二枚ドロー!

 ただしこの効果を使う場合、俺は自動的にエンドフェイズに移行する!」

 

「クククッ。まさか手札だけ増やして壁すら召喚しねえとはなぁ。一時休戦の効果はさっきの俺のエンドフェイズで終わっている。もうテメエを守るものはなにもねえ。

 俺はメタル・リフレクト・スライムのレベルを二つ下げ、二体のレベル・スティーラーを特殊召喚!」

 

「またレベル・スティーラーか!」

 

 レベル5以上のレベルをもつモンスターのレベルを一つ下げて特殊召喚されるレベル・スティーラー。レベル10のメタル・リフレクト・スライムとの相性は抜群だ。

 再び闇のプレイヤーキラーの場に生け贄要因が揃う。

 

「行くぜぇ。二体のレベル・スティーラーを生け贄にThe supremacy SUNを召喚!! 冥界の宝札で四枚ドローだぁ!!」

 

「…………!」

 

 ピクリと万丈目の眉が動く。暗い闇雲が避け、暖かな日差しが差し込む。

 ソリッドビジョンとは思えぬ光を放つそれは太陽を象徴するモンスターである証だ。

 

 

【The supremacy SUN】

闇属性 ☆10 悪魔族

攻撃力3000

守備力3000

このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できない。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、

次のターンのスタンバイフェイズ時、

手札を1枚捨てる事で、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 攻撃力と守備力が3000にしてレベル10という破格の重量級モンスター。しかもこのカードは幾ら破壊しても手札を一枚捨てることで墓地から蘇生する効果を備えている。

 正に太陽を名乗るに相応しい不死身のモンスターなのだ。

 

「闇のプレイヤーキラーが太陽か。似合ってないな」

 

「クククククッハハハハハハハハハハハハハ!! 心配してありがとうよ。お礼に一発で沈めてやるぜ。バトルフェイズ、The SUNでテメエに直接攻撃――――」

 

「待て。バトルフェーダーだ。その攻撃は通さん」

 

 

【バトルフェーダー】

闇属性 ☆1 悪魔族

攻撃力0

守備力0

相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。

このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する。

この効果で特殊召喚したこのカードは、

フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

 

 

 The SUNの行く手を十字架の形をした悪魔が塞ぐ。

 バトルフェーダーは相手の直接攻撃に反応する手札誘発。相手のバトルフェイズを強制的に終了することができる。

 その優秀な効果からクリボーのかわりに採用率の高まっているカードだ。

 

「またかよ! いい加減にテメエの相手してる時間はねえんだ。さっさと消えりゃいいものを」

 

「馬鹿め! 万丈目サンダーは不滅だ! 消えることなどあるものか!」

 

「……チッ。ターンエンドだ」

 

 それに闇のプレイヤーはついさっき自分から墓穴を掘った。

 闇のプレイヤーキラーがThe SUNを召喚した時点でプレイヤーキラーの敗北はほぼ確定的なものとなっている。

 万丈目は自信満々に指を一本たててプレイヤーキラーに突きつけた。

 

「なんだその指は?」

 

「1ターンだ。俺と貴様に残されたターンは共に1ターンのみ。そして俺がエンドフェイズして貴様のターンに移った瞬間、貴様は負ける!」

 

「俺が負けるぅ? はははははははははははは。遂に狂いやがったか! 俺には無敵のモンスターたちがいる! こいつらを倒して俺のライフを削るなんざできるものか!」

 

「確かにそうかもしれん。ならば俺はお前のモンスターもライフも削らずにお前を倒す!」

 

「な、なんだと!?」

 

 闇のプレイヤーキラーが顔を歪める。

 けれどもう遅い。既に万丈目の手札にはあのカードがある。それに魔法・罠ゾーンが使用不能となれば、もはや闇のプレイヤーキラーにはどうしようもできない。

 

「俺のターン、ドロー。魔法石の採掘、手札を二枚捨て墓地の魔法一枚を手札に加える。俺が手札に加えるのは手札抹殺のカード。

 そして手札に加えた手札抹殺をそのまま発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て捨てた枚数分だけカードをドローする!

 俺は一枚のカードを捨て一枚のカードをドローする。さぁお前もカードを捨てドローしろ。お前の手札の枚数……六枚のカードをな」

 

「……なにを考えていやがる。手札交換なんざしたところで」

 

 闇のプレイヤーキラーが訝しながら自分の手札を墓地へ置き、一枚ずつカードをドローしていく。

 一枚、二枚、三枚、四枚、そして五枚にきたところで闇のプレイヤーキラーが目を見開き驚愕した。

 

「お、俺のデッキが――――あ、あと一枚しかねぇだと」

 

「どうした? まだ六枚のカードを引き終わってないぜ。さっさと残り一枚、サクッとドローしな」

 

「あ、ああ……」

 

 操られるマリオネットのように促されるまま闇のプレイヤーキラーが最後の一枚を引き終わる。

 六枚のカードを引き終わって闇のプレイヤーキラーの山札はゼロ。つまりはデッキデス。

 

「俺はターンを終了する」

 

「そん……な……。お、俺の最強の……フィールドが…………無敵の、パワーが……」

 

「デッキからカードをドローできなくなったデュエリストに待ち受ける運命は唯一つ。敗北だ。力に溺れ過ぎたな」

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 発狂したように闇のプレイヤーキラーが蹲る。

 実力勝負で負けたならまだしも、こんなマヌケなことで負けたのだ。こうなるのも無理はない。

 万丈目は一枚しかない自分の手札に視線を落とす。

 

「焦るな光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)……。こんな場所でお前を出すなど勿体ないにも程がある」

 

 あの日、宍戸丈に譲られそれ以来万丈目と共に中等部時代を戦い抜いてきた光と闇の竜。

 これを使うべきはこんなデッキを盗んだ偽物ではなく、本物と戦う時だけだ。

 

「デッキデスかぁ。こんな終わり方するなんてな。これがカイザーの言う致命的な落とし穴だったのか?」

 

 十代の問いかけにカイザーは頷いた。

 

「丈のあのデッキには幾つか弱点といえるものがある。そのうち一つがデッキ破壊だ。冥界の宝札は通常のデッキには有り得ないほどのドロー加速を生み出す。それが二枚同時発動となれば猶更だ。

 二枚も冥界の宝札を発動させればデッキの消費もそれに比例して大きいものとなる。1ターンに1度モンスターを召喚すると仮定すれば、通常ドローも合わせて1ターンに五枚もドローする計算となるのだからな」

 

 だからこそデッキ破壊が落とし穴になる。万丈目も丈を打倒する上で『デッキ破壊』が有効な策の一つだと見出した者の一人だ。

 しかしNDLのデュエルでデッキ破壊デッキと遭遇した時に丈があっさりと撃破したのを見て、あの魔王相手に単純なアンチデッキが通用するものではないと知ってからは方針転換をしたのだが……。

 

「う、うがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

「なっ!」

 

 蹲っていた闇のプレイヤーキラーが急に立ち上がると万丈目に突進してきた。

 目は白目を向いていて口元はぐにゃりと捲れ上がっている。明らかに正気ではない。

 

「俺はぁぁあああああああああああああ!! 闇のプレイヤーキラーだぁあああああああああああああああああああああ!1 テメエみてええな餓鬼によぉぉおおおおおおお!! 負けるとかねェンだよぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 闇のプレイヤーキラーが掴みかかってくる。だが闇のプレイヤーキラーの暴挙は、

 

「黙れ」

 

「へぶし!?」

 

 冷徹なる帝王の拳により強制的に黙らせられた。

 ポキポキと拳を鳴らしながらカイザーは冷徹に、後ずさる闇のプレイヤーキラーに近付いていく。

 

「あ、え、あ……」

 

「デュエルではなく生身での決着がお望みか。ならばお望み通り己の肉体で闘争をするとしよう……」

 

「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 万丈目と十代と翔は黙ってその惨劇を見つめる。

 そして事が済んだ後、闇のプレイヤーキラーだったものを見た十代は一言だけ呟いた。

 

「ミンチよりひでぇや」

 

 



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第143話  幻のデッキ

 三幻魔解放を目論むセブンスターズだが今度ばかりは沈黙だけが漂っていた。

 その理由は大きく二つある。一つはタニヤに続き『闇のプレイヤーキラー』までもが鍵の守護者に敗れた事。あともう一つはセブンスターズの生き残りの一人が既にアカデミアに向かっていて、この場に三人しかいないせいだ。

 

『お前の戦術も当てが外れたなアムナエル。カイザー亮と遊城十代の二人以外では楽に倒せるのではなかったか?』

 

 モニターに映る男は意地悪く旧友であるアムナエルに問い掛ける。だがその語彙にはアムナエルを責めるような色はなく、寧ろどこか愉しげですらあった。

 アムナエルも特に気にした様子もなく平然と口を開くと、

 

「私は楽に倒せると言った覚えはないよ。ただ……二人よりは倒し易いだろうと言っただけ。万丈目準と天上院明日香の両名が弱いなどとは口が裂けても言えはしない」

 

 闇のプレイヤーキラーは決して弱いわけではなかった。そもそもペガサスに見いだされあのI2社にプレイヤーキラーとして雇われるデュエリストが雑魚なわけはないのだ。

 だがしかしデュエルの腕前は兎も角として、精神面の方があまりにも脆弱だった。闇のプレイヤーキラーは身体の大きさに反比例するかのように根は小心者。自分自身を安全な場所に置かねば満足に戦えず、いざ有利にたてば容易く調子にのり油断する。

 闇のプレイヤーキラーは『死の物まね師』のことを馬鹿にするような発言を何度もしていたが、出来る限り〝宍戸丈〟のプレイングを再現しようとしていた死の物まね師と比べ、強力なデッキに調子にのって足元を掬われたプレイヤーキラーはそれ以下だろう。

 

『……ふむ。こればかりは私の人選ミスか。仮にも決闘王〝武藤遊戯〟を嘗て追い詰めたデュエリストの一人。もう少しやるとは思ったのだがな……。

 奴如きに宍戸丈のデッキを一つくれてやるのは些か以上に勿体なかった。次の……タイタンは上手くやるのだろうな?』

 

 アムナエルは首肯する。

 

「タイタンは闇を弄んだことで闇に取り込まれ、そして闇の力を得て復活を遂げたデュエリスト。だが真正の闇のデュエリストになった彼が敗北した時に待つのは、今度こそ二度とは這いあがれない闇の底へ堕ちる末路だけ。

 純粋な実力ということならカミューラ以下プレイヤーキラー以上でも、自分の命がチップになっているなら実力以上のものを発揮するはず」

 

『そうかね』

 

 ニヤリとモニターの向こう側にいる男は笑みを深める。

 これまで他のセブンスターズたちの前では決して見せなかった笑みは、奴隷同士を殺しあわせ鑑賞したコロッセウムの主催者にも似ていた。

 彼にとって他のセブンスターズは自分の駒であり、利用する道具に過ぎない。

 だがここに残った二人のセブンスターズは違う。アムナエルは友情から、もう一人は忠誠から従う本物の同胞たちだ。

 

「……一つ宜しいか?」

 

 これまで黙っていた大柄の男が話に入る。

 

『なんだね?』

 

「やや信じ難いことだと思いますが、飛行機墜落で死んだはずの宍戸丈が九死に一生を得てアカデミアに向かっているという可能性があります」

 

『なんだと?』

 

「どうなさいますか? 宍戸丈が守護者に合流するようなことがあれば、三幻魔復活に大きな脅威となりますが」

 

『…………………』

 

 最初は〝三邪神〟も宍戸丈も利用できると思って、特待生扱いで特殊なプログラムを課して鍛えてきた。上手くいけば計画を起こす時にセブンスターズとして、こちらの戦力に引き入れようと。

 だが宍戸丈もその友人である三人は彼の予想を超える程の強さをもっていた。三邪神にせよ、四天王にせよとても簡単に操れるような者達ではない。

 だからこそ彼は四人を排除するのを一先ず諦め、アカデミアから出来るだけ遠くに送ることを選んだ。

 その成果はあがっている。四天王の二人、天上院吹雪と藤原優介は彼の裏工作もあり未だにアメリカ・アカデミアから動けないでいる。

 宍戸丈も太平洋上で物理的に抹殺したはずだった。

 

『アムナエル』

 

「恐らく真実だと思う。これを見てくれ」

 

 アムナエルが鎖で雁字搦めにされたケースを見せる。ケースは黒い光を放ちながら、地震でもないのに震えていて今にも中身のものが飛び出してきそうだった。

 この中に入っているものがなんなのか彼は知っている。

 アムナエルの錬金術で厳重に封印されているが、この中にあるのは三邪神。デッキと共に宍戸丈から奪いながらも、制御不可能と判断しこうして封印しているのだ。

 それがまるで興奮するように反応している。となればこれは、

 

『己の担い手が近付いていることを感じ取っているのか』

 

「そう、だろうね」

 

『……止むを得ない』

 

「どうするんだい?」

 

『追加戦力の宛はある。それに……使えるか分からないが、あれを使う』

 

 これからの不幸を告げるかのように禍々しい風が吹きすさぶ。

 だがしかし。それは宍戸丈の不幸を告げていたのか。それとも宍戸丈の敵対者に告げられていたのか。

 それはデュエルの勝敗のみが知ることだろう。

 

 

 

 

 飛行機ごと太平洋上に墜落し、九死に一生を得てからどれくらい経っただろうか。

 漁師でもなければ、デッキを取り返すまでの臨時デッキを構築し終えた丈ははっきりいって暇なので梶木とオセロをしていた。

 

「はい。角頂きです」

 

「うがーーー! またやられたぜよ!?」

 

 パチンと丈が四隅のうち一つに石を置くと、梶木は頭をかきむしりながら悔しがる。

 オセロを知っている人は分かると思うが、基本的にオセロは如何に四隅をとると有利に立てる。隅を制する者がオセロを制するといっても過言ではない。いや上級者同士の戦いとなると過言になるわけだが、丈にしても梶木にしてもオセロのプロというわけではないので関係ない。

 しかしオセロ初心者である梶木は余り上手く隅をとることができず、結果的に丈の連戦連勝となっている。

 ならば手加減すれば良いのではないかと思うが、仮にも自分より先輩デュエリストである梶木に対して手加減なのは失礼にあたるのでそれはしない。もっともこれはデュエルではなくオセロのわけだが。

 

「ぐぬぬ。デュエルに関してならルールの裏の裏まで分かるんじゃが、どうもこのオセロってやつは難しい。どうして白と黒だけで水がいないんじゃ」

 

「それを言ったらチェスにもトランプにも水属性はありませんよ。では俺はここに」

 

「ぬおっ! 置く所がないぜよ……?」

 

「置く所がないならスキップですね。俺はここに」

 

「ぬおおおおおおおおお!? 俺の白い石が真っ黒に!? あとまたしても置く所がないぜよ!」

 

「更にここに」

 

「うがああああああああああ!?」

 

 結局今度のオセロも丈の勝利に終わった。

 デュエルモンスターズどころかゲーム全般に強い亮と暇なときよく遊んでいたせいで、デュエル以外のゲームに関しても丈はかなりの腕になっていた。

 

「この俺を倒すとはやるのう。アカデミアはお前のような奴がうようよいるのか?」

 

「さぁ。少なくともオセロの強い人なら、オセロの世界大会にいる人の方が強いと思いますが」

 

「ちゃうちゃう。オセロじゃなくてデュエルじゃ」

 

「デュエルですか」

 

 昔は自分など大した事ないと自分を律していた丈だが、NDLで実績を積み若輩で分不相応と思いながら自分は実力者といえるだけの領域に立てたと思う。

 そして失礼になるかもしれないが、自分と互角の強さをもつデュエリストはアカデミアにはいないだろう。三人を除いて。

 

「自分こそ最強なんて言うつもりはありませんが、アカデミア内なら友人の三人以外に負ける気はしません」

 

「大きく出たのう。折角だしいっちょデュエル――――といきたいところじゃが、今デッキを持っていないからな。またの機会とするぜよ」

 

「残念です」

 

 梶木漁太。武藤遊戯や城之内克也といった伝説のデュエリストと互角に戦ったデュエリストの強さに興味はあったのだが、デッキがなければどんなデュエリストもデュエルはできない。

 丈の持っているカードを渡して、それでデュエルをするという手もあるが梶木漁太ほどのデュエリストと戦うのにそれでは少しばかり勿体ない。

 しかし臨時とはいえデッキはデッキ。どこかで試運転くらいはしておきたかったのだが……。

 

(いっそ瑠璃にデッキだけ渡すか)

 

 デュエルディスクではないテーブルでやるようなデュエルなら危険性もないだろう。

 そんなことを丈がぼんやりと考えていると、

 

「っ!!」

 

「な、なんじゃあれ?」

 

 ざばーん、と海が割れる音がしたかと思ったら戦争映画で見るような黒い潜水艦が浮上してくる。潜水艦は梶木の漁船の行く手を塞ぐように停止すると、がこんがこんと機械音を鳴らし始めた。

 だが丈が注目したのはそこではない。黒い潜水艦に紫色で千年アイテムに刻まれた『眼』がペイントされている。このマークを象徴とする集団と丈は嘗て戦った事があった。

 

「まさか、これは」

 

「はーはははははははははははははははははははははははははははははははっ!!」

 

 自信満々な高笑いを太平洋に響かせながら、潜水艦から黒いフードの部下を引き連れて一人の男が姿を現す。

 紫と銀が混ざった様な髪色。耳につけたガラの悪そうなピアス。爬虫類のような目つき。

 

「お前は……確か」

 

 I2カップ終了後、三邪神を強奪し丈たち三人に立ち塞がったグールズ幹部の一人。吹雪が交戦し撃破したエクゾディア使いのレアハンターだ。

 あの事件の後、資料で逃亡したグールズたちの顔写真を見る機会があったから間違いない。

 

「グールズ。どうしてこんなところに連中がいるぜよ!」

 

 バトルシティトーナメントに参加していた梶木も当然グールズのことは知っている。それが武藤遊戯の活躍により潰され、復活したグールズが丈に潰されたことも。

 だからこそ梶木は驚愕の表情でグールズ構成員に囲まれたレアハンターを睨む。

 

「フフフフフ。グールズ、懐かしい名前だ。だが今の我々はもはや嘗てのグールズとは違う! 二度の敗北を味わいながらこの神官シモン・ムーランの生まれ変わりにして最強のエクゾディア使いにして城之内に勝った私により、三度目の正直とばかり不死鳥の如く復活したスーパー組織!!

 その名も新生ネオ・グールズだ!!!! ははははははははははははははははっ! どうだ恐れいったか、宍戸丈!」

 

「よっ! ボスかっこいい!!」

 

「エクゾディアに栄光あれぇーー!!」

 

 取り巻きの部下達に囲まれてご満悦のレアハンター。どうでもいいが新生ネオ・グールズでは〝新〟の意味が二重になってしまっている。

 三度復活したことを現しているのは分かるのだが、せめて新生グールズあたりにしたほうがいいだろう。

 

「……なんでその新生ネオ・グールズがここに?」

 

「フフフ。よくぞ聞いてくれた。嘗てのボスが敗北したことで解散した我々はデュエルマフィアらしく潜水艦の一つでも買うという私の英断により、深刻な資金難に陥ってしまった」

 

「資金難に陥ったなら、英断じゃないんじゃ」

 

 至極真っ当な指摘をするがレアハンターは聞く耳を持っていない。

 

「そして我々が缶詰だけの生活をしていた所に、なんかよく分からない黒服がやってきて金をやるからお前を足止めしろと……」

 

「…………」

 

 新生ネオ・グールズだのと格好良いことやっておいて、要するに単にお金欲しさにセブンスターズのパシリにやってきただけらしい。

 キースがボスだった頃の実にラスボスらしい威厳ある組織だったネオ・グールズは、レアハンターがボスになってラスボスからネタ組織にクラスチェンジしてしまったようだ。

 ここまで落下が激しいと悲しみを通り越して哀れみすら覚える。

 

「というわけだ宍戸丈! 我々全員の明日の食事のためにもここで消えて貰うぞ! お前達を倒せば成功報酬がたんまり貰えるのだ!

 もう潜水艦の維持費のために新生ネオ・グールズ総員でアルバイトに励む日々とはおさらばだ!」

 

「やるしかないか」

 

 丁度臨時デッキの試運転をしたかったところだ。レアハンターには悪いが丁度良い相手が見つかったというべきなのだろう。

 そして太平洋上で因縁? の対決が始まった。

 

「先攻は私だ! 私のターン、ドロー!」

 

 デュエルディスクによる先攻後攻の決定……などを完全に無視してレアハンターが強引に先攻をもぎ取る。文句を言おうにもレアハンターは既にドローしてしまっているので、今更やり直すこともできない。

 これが公式戦ならレアハンターになにかしらのペナルティが課されるか、もう一度やり直しとなるところだが、これは大会やNDLの試合のようなものではなく非公式……否、非合法のそれ。

 以前こういった非合法に精通しているキースから教えられたことがある。地下デュエルや賭けデュエルなんてものは基本的に「やったもの勝ち」だと。

 丈自身ペガサス会長の依頼で地下デュエルに潜り込んだ時に『そちら』のやり方についてもある程度は知っている。だからレアハンターの行動にも今更なにかを言うことはなかった。

 先攻を奪われようと関係ない。最後に〝勝った〟ものがデュエルの勝者。その方式は不変なのだから。

 

「フフフフフフフフフ」

 

「……何が可笑しい。先攻をとっただけで勝ち誇ったような笑みを浮かべて」

 

「チッチッチッ。勝ち誇ったような笑みじゃない。勝ち誇っているのだよ私は!!」

 

「………………」

 

 余程手札が良かったのか。レアハンターは満面の笑みで言い放つ。

 レアハンターのデッキは伝説のレアカード『エクゾディア』を揃える事を目的としたエクゾディアデッキ。

 エクゾディアパーツ一枚ですら法外な値段がつくことを思えば、全パーツ揃えるのは相当の『大金』か、もしくはエクゾディアを引き寄せる程の縁が必要となる。

 そのためNDLでもエクゾディアデッキとデュエルしたことなど一度もないが、それは丈がエクゾディアデッキとデュエルしていないこととイコールではない。

 別に本物のカードはなくとも、データであれば伝説のレアカードも自由に使える。

 特待生時代のデュエルマシーンとこなしたデュエルの中で、何度かエクゾディアデッキと戦った事が丈にはあった。

 だから先攻を貰って勝った気になっているレアハンターを思えば、レアハンターがどういうデッキを組んだのか大体の想像もついた。

 

「ゆくぞ!! 私は王立魔法図書館を攻撃表示で召喚!!」

 

 

【王立魔法図書館】

光属性 ☆4 魔法使い族

攻撃力0

守備力2000

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

自分または相手が魔法カードを発動する度に、

このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大3つまで)。

このカードに乗っている魔力カウンターを3つ取り除く事で、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 守備力2000で攻撃力0のモンスターを攻撃表示で出すという暴挙。

 しかしレアハンターは幾ら何でも表示形式を間違えて召喚するほどドのつく素人などではない。攻撃力0の図書館を攻撃表示で出したのは、レアハンターがこのターンで決着をつける気でいるからに他ならない。

 

「どうだ宍戸丈!! これからお前は戦慄する! 何故ならば私はこのターンで幻の封印神エクゾディアを手中に収めるのだからな!」

 

「先攻1ターンキルか」

 

「そうだ! 嘗て天才たる私は武藤遊戯に敗北し、天上院吹雪にまで敗北を喫した……。そこで私はどうして負けたかを考えることにしたのだ……。私のデッキに不備などなかった。

 エクゾディアは最強だ。相手の場に三幻神がいようと三邪神がいようと、なんか発動したカードを書き換えるチートフィールド魔法が発動していようと、手札に揃えれば即勝利という絶対性。

 それを操る私が最強でなくてなんという! だが何故か私は最強のはずなのに敗北する。何故だ!?」

 

「別にエクゾディアがあれば最強無敵というわけじゃ」

 

「そう!! 私は致命的に勘違いしていたのだ!!」

 

「人生に?」

 

「敗北のショックで自室で一週間ポテチとコーラと共に瞑想していた時にふとネットオークションで全巻競り落としたとある小説が私に教えてくれた……」

 

「それは瞑想ではなく単なる引きこもりでは?」

 

「その小説によれば最強では『もしかして運よく勝てるのでは?』と思われ挑まれるが、最強を超えた『無敵』に到達すれば挑むことすら考えられない絶対者になると」

 

「何の本を読んだんだ一体……?」

 

 レアハンターの頭は大丈夫なのだろうか。もしかして吹雪と戦った時に頭をうってネジが緩んでしまったのかもしれない。

 丈がそんな失礼千万なことを考えるくらいにレアハンターのお頭はあっちの方へ旅立っていた。

 

「そしてその解答こそがこのデッキだ!!」

 

「……なにが?」

 

「先攻1ターン目で相手を倒してしまえば、相手は挑む事すらできない。つまり私は……無敵だ」

 

「そうなんですか?」

 

「いや、俺には意味不明ぜよ」

 

 もしかして自分の方がおかしいのかと思い、梶木に尋ねるがどうやら梶木も意味が解らないらしい。

 丈たちにとっては意味不明の演説だったが、レアハンターを囲む取り巻き達にとってはそうではなかったようで、どこに涙腺が潤む要素があったのか感動の涙を滂沱の如く流していた。

 

「フフフフフフ。恐れ入ったか宍戸丈! これがありとあらゆるデュエリストを1ターンで為す術なく葬り去ってきた無敵のデッキ! 図書館エクゾだ!

 宍戸丈。貴様も数多のデュエリストたちと同じく我が図書館エクゾの前に跪くが――――」

 

「あ。エフェクト・ヴェーラーを捨てて効果発動」

 

「貴様ぁぁああああああああああああああ!!」

 

 

【エフェクト・ヴェーラー】

光属性 ☆1 魔法使い族

攻撃力0

守備力0

このカードを手札から墓地へ送り、

相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。

選択した相手モンスターの効果をエンドフェイズ時まで無効にする。

この効果は相手のメインフェイズ時にのみ発動できる。

 

 

 エフェクト・ヴェーラー。相手ターンにこのカードを墓地へ送ることで、相手モンスター1体の効果をエンドフェイズまで封じる優秀な手札誘発の一枚だ。

 その効果により図書館エクゾのキーとなる王立魔法図書館はエンドフェイズまで単なる攻撃力0のモンスターに成り果てる。

 

「バカヤロォー! 宍戸丈ォ! なにをやってる! ふざけるなァ!! 図書館エクゾを邪魔をするだと!? 空気を読めぇ!!」

 

「生憎と俺の友人は1killが好きな連中ばかりでね。1kill対策は流々だ。ターンエンドか?」

 

「わ、私の最強デッキが……ヒィ! 仕留め仕留め仕留められなかったああ! 1ターンで仕留められなかったあああああ! ヒィィイイイイイイ~~」

 

「…………俺のターン、ドロー。そちらが先攻1killで来るなら、俺は後攻1killで応戦するまで。

 増援を発動。デッキからレベル4以下の戦士族モンスターを手札に加える。俺は重装武者-ベン・ケイを手札に加え、そのまま召喚!」

 

 

【重装武者-ベン・ケイ】

闇属性 ☆4 戦士族

攻撃力500

守備力800

このカードは通常の攻撃に加えて、このカードに装備された装備カードの数だけ、

1度のバトルフェイズ中に攻撃する事ができる。

 

 

 義経に仕えた彼の武将をモデルにしたモンスターにしては500という貧弱な攻撃力。だがベン・ケイは装備された装備カードの数だけ攻撃回数を増やすという恐るべき能力を備えている。

 無論装備カードなど余り採用されない基本的のデッキにこのカードを入れたところで大した意味はない。しかしこの『ベン・ケイ』の特殊能力を最大限発揮するためだけのデッキであれば話は別。

 

「手札より装備魔法デーモンの斧をベン・ケイに装備! 続いて聖剣ガラティーンをベン・ケイに装備! 魔導師の力二枚をベン・ケイに装備!

 四枚の装備カードの力を得てベン・ケイの攻撃力は6000ポイントアップ! 攻撃力6500だ」

 

 

【魔導師の力】

装備魔法カード

装備モンスターの攻撃力・守備力は、

自分フィールド上の魔法・罠カード1枚につき

500ポイントアップする。

 

 

【デーモンの斧】

装備魔法カード

装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。

このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、

自分フィールド上に存在するモンスター1体を

リリースする事でこのカードをデッキの一番上に戻す。

 

 

【聖剣ガラティーン】

装備魔法カード

戦士族モンスターにのみ装備可能。

装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、

自分のスタンバイフェイズ毎に200ポイントダウンする。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、

自分フィールド上の「聖騎士」と名のついた

戦士族モンスター1体を選択してこのカードを装備できる。

「聖剣ガラティーン」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

また、「聖剣ガラティーン」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

 

 ベン・ケイが元々保持していた武器に加え、悪魔の斧と聖なる剣を装備し魔導師の力を得る。

 余りにも物々しいその出で立ちにレアハンターが後ずさった。

 

「重装武者-ベン・ケイは装備カードの数だけ攻撃ができる。バトル! ベン・ケイの攻撃、比叡明鏡殺戮演武!! グォレンダァ!!」

 

「ぎゃぁああああああああああああああああああ!!」

 

 6500×5、つまり32500のダメージを受けてレアハンターが派手に吹き飛んだ。

 レアハンターは「石川や浜の真砂は尽くるとも世に盗人の 種は尽くまじ」などと辞世の句らしきものを残しながらガクリと倒れる。

 

「ぼ、ボスーーーーーーーーー!」

 

「しっかりして下さいボス! ボスに貸した五百円まだ返して貰ってないんですよぉ!」

 

「今度ソー……げふんげふんっ! いい所連れてってくれるって行ったじゃないですか!」

 

「ええぃ! 者共退けぇ! 退けぇ!!」

 

 取り巻きたちが大騒ぎしながらレアハンターを担ぎ上げると、そのまま潜水艦の中に引っ込む。

 やがて潜水艦がまた動き始めると浮上していた時を逆再生するように海の中に潜っていった。

 

「なんだったんぜよか、あれ?」

 

「さぁ」

 

 取り敢えず言えたいことは一つだ。

 

「闇のゲームでもないのに、なんで気絶するんだ……」

 

 丈の問いかけは誰も答えてくれることなく、青い空と青い海に溶けていった。

 



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第144話  五番目の刺客

 死の物まね師、吸血鬼カミューラ、タニヤ、闇のプレイヤーキラー。これで鍵の守護者はセブンスターズ七人中四人を撃退した計算になる。

 だが鍵の守護者側もクロノス先生、三沢がやられ最大戦力の一人である宍戸丈は行方不明。事実上七人のうちで応戦可能なのは四人だけ。まだこちらが優勢だと気を抜いて良い状況ではない。

 宍戸丈のデッキも三つのうち二つは取り戻せたが、最後のデッキと三邪神は戻って来ていないのだから。

 

「闇のゲーム……兄さんの話だと三年前と二年前にそれを経験したらしいけど」

 

 天上院吹雪、キングという渾名で四天王に名を連ねる兄はお調子者だが嘘吐きではない。だが闇のゲームというものを直に見ていない明日香にとってそれが半信半疑だったというのも事実だ。

 最初の死の物まね師の襲撃や吸血鬼カミューラ……闇のゲームが存在することは疑いようのないことだ。

 そして闇のゲームを終えた十代の疲労ぶりからして、闇のゲームにかかる負担は並大抵のものではない。

 まったく恐怖がないといえば嘘になる。しかし明日香とて伊達にアカデミアの女王などと呼ばれているわけではない。

 四天王〝天上院吹雪〟の妹であるという誇りもある。例え相手がなんであろうと、一歩も退く事はできないしする気は微塵もなかった。

 

「風が出て来たわね」

 

 夜の寝静まったアカデミアを明日香は一人で歩く。

 向かっている場所はアカデミアのレッド寮。鍵の守護者のうち二人がレッド寮の所属ということもあって、今やレッド寮は鍵の守護者に選ばれた者の作戦会議場所になっていた。

 今夜もセブンスターズ迎撃のために対策会議をしよう、と万丈目が提案したのだ。

 

(万丈目くんの提案なのがそこはかとなく不安だわ)

 

 明日香は「はぁ」と溜息を吐く。

 だがなんだかんだで万丈目は自分のたてた作戦でセブンスターズの一人、闇のプレイヤーキラーを誘き寄せて撃退したという実績がある。念のためにも対策会議には参加しておかなければならない。

 それにレッド寮には万丈目だけではなく、

 

(やだやだ。なに考えてるのかしら)

 

 脳裏に十代のにやけた顔が過ぎり、明日香は僅かに頬を染めながら雑念を振り払うように首を振る。

 

「――――夜中に女の一人歩きは関心せんな」

 

「っ!」

 

 唐突に背後からかけられた声。明日香は身を強張らせ振り向いた。

 

(嘘っ! この私が気配に気付けなかったなんて……はっ!)

 

 目を見開く。背後に立っていた大男はあろうことか明日香も知っている男だった。

 黒い帽子に黒いコート。全身を黒一色で硬めた巨躯、顔を隠す仮面舞踏会を想起させる白い仮面の奥からは赤く発光する双眸が輝いていた。

 

「貴方は……前に旧校舎にいた闇のデュエリスト、タイタン!?」

 

「おやおや。誰かと思ったらあの時のお嬢さんじゃないかぁ。久しぶりだねぇ」

 

 不気味な猫なで声で明日香の神経を逆なでしながらタイタンは口端を釣り上げた。

 闇デュエリストのタイタン。その男がどういう目的でどういう人物なのかは知らない。

 タイタン、以前十代が肝試しにいこうと廃寮に侵入した時に、十代にデュエルを挑んだ男だ。偽物の千年アイテムを使ってイカサマ闇のゲームを仕掛けてきたが、どういうわけかイカサマのはずが本当に闇のゲームが始まってしまい闇に呑まれてしまった。

 

「タイタン。闇に取り込まれて死んだんじゃなかったの?」

 

「死んでいたさ。出口のない闇の底に幽閉されていた私は社会的にも事実的にも死んでいたとも。しかし神に見捨てられた私も悪魔は見捨てていなかった。

 闇の中に呑まれ閉じ込められていた私は、あの男にセブンスターズの一員となり、三幻魔を手に入れる助けをするのであれば私を助けると持ち掛けた。

 これでこの通りだよ。今の私はあの時の私じゃない。私は本物の闇のデュエリストとして復活したのだよ」

 

「……!」

 

 タイタンの顔面の血管が浮き上がる。煙のような形のない闇がタイタンからオーラのように立ち込め、その眼光の光はより輝きを増していった。

 離れていてもビリビリと痺れるようなプレッシャー。頭ではなく肌で理解できる。タイタンの力は本物だ。

 

「教えて。あの男っていうのは、誰なの?」

 

 タイタンに取引を持ち掛けてきたという男。もしかすればその男こそがセブンスターズを操る黒幕。

 

「さぁて。それは私にも分からんなぁ。あの男は私に名前も名乗りはしなかった。私に取引を持ち掛けた後、あの男は私に闇のアイテムを与えるだけ与えて姿を消した。

 私があの男と会ったのはそれっきり。後はモニター越しから指示を出すだけだったのでねぇ」

 

「モニター越しから?」

 

 もしもタイタンの言うあの男がセブンスターズのボスだとすれば、セブンスターズはモニター越しの男の指示に従って動いていたということになる。

 死の物まね師にしてもカミューラにしても一角の実力を持つ歴戦のデュエリストだ。つまりセブンスターズの黒幕というのは、そんな歴戦のデュエリストを顎で使えるだけの力をもっていることになる。

 その力が単純なデュエルの強さなのか、権力か財力なのかは判断がつかないが。

 

「長話が過ぎたなぁ。天上院明日香。キング吹雪の妹、アカデミア中等部次席……。相手にとって不足はない。今度は貴様を闇に取り込み、新たなる闇のデュエリストにしてやろう」

 

 タイタンから殺気が噴出した。

 成績の良さは必ずしも羨望に繋がるわけではない。時に入らぬ恨みや妬みを買うこともある。故にこれまで明日香も敵意をもってデュエルを挑まれた事もあった。

 しかし本物の殺意を真っ向から浴びるのは流石に初めてだ。

 

 

『デュエル!』

 

 

「私の先攻よ、ドロー!」

 

 タイタンのデッキは知っている。その悪魔の貴族染みた見た目に違わずタイタンが使うのは『デーモン』と名のつくモンスターを中心にした悪魔族デッキ。

 闇のゲームだと思わせ相手の恐怖を誘う様なイカサマもしていたが、それを抜きにしたデュエリストの実力も中々のもの。

 明日香の見立てでは軽く中堅プロと同等かそれ以上の実力はあるだろう。

 

「強欲な壺を発動、カードを二枚ドロー! 私はサイバー・チュチュを召喚するわ」

 

 

【サイバー・チュチュ】

地属性 ☆3 戦士族

攻撃力1000

守備力800

相手フィールド上に存在する全てのモンスターの攻撃力が

このカードの攻撃力よりも高い場合、

このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。

 

 

 直接攻撃能力をもつサイバー・チュチュだが、先攻1ターン目なのでこの効果は関係ない。

 大凡の直接攻撃モンスターがそうであるように、サイバー・チュチュの攻撃力は1000と余り高くはない。低いと言ってもいいだろう。

 だからサイバー・チュチュを無防備に出して放置することなどはしない。

 

「私はカードを三枚セット、ターンエンドよ」

 

 サイバー・チュチュという露骨に攻撃してくれと言わんばかりのモンスターを召喚しつつ、同時に防御を固め罠を張る。

 危険な駆け引きだが、こういうものがあるからこそデュエルは面白い。

 

「ずいぶんとまぁ可愛らしいモンスターを召喚するのだね お譲ちゃん。きっと罠を張っているのだろうが、私にはそんなものは通じんよ。

 私のターン、手札抹殺を発動。互いのプレイヤーは全ての手札を墓地へ送り、墓地へ送った枚数だけカードをドローする」

 

「いきなり手札抹殺? 一体なにを…………はっ! そのカードは!?」

 

 タイタンが墓地へ送る際にこれみよがしに公開した手札に明日香の視線は釘付けとなる。

 最悪。それ以外に言えることがない。チェックメイトだ。明日香のフィールドにあるカードでは、あれに対してどうしようもない。

 今の明日香は断頭台にかけられた囚人と同じ。

 タイタンはニヤリと笑い、

 

「エイメン」

 

 断頭台のギロチンを落とした。

 

 

 

 

「明日香ぁー! おーい、明日香ぁー!」

 

 十代は明日香の名前を呼びながら探し回る。

 万丈目のやろうといった対策会議に来なかった明日香。十代も最初は「サボりか?」と思って特に気にしていなかったのだが、何気なくPDAで連絡したところ明日香は既に女子寮を出たというのだ。

 連続するセブンスターズの襲撃。もしもということもある。十代たちは二手に別れて明日香を探しに出たのだ。

 

「きゃぁああああああああああ!」

 

「明日香!?」

 

 夜の静寂を打ち破るかのような悲鳴。聞き間違えるはずがない。明日香の声だ。

 やはり明日香もセブンスターズの襲撃を受けていたのだろう。十代は急いで声のした方角に走っていった。

 そしてそこにいたのは、

 

「良い月だな、小僧」

 

「お前は……タイタン!?」

 

 あの日、闇に呑まれ消えたはずのタイタンが月を背にして立っていた。

 その手には明日香が首から下げていた七星門の鍵がある。となるとタイタンがセブンスターズ第五の刺客。

 十代が墓守の一族から譲り受けた闇のアイテムが、タイタンのつけている仮面に反応して脈動する。

 周囲を伺う。だが探せど探せどそこに悲鳴の主である明日香の姿はどこにもなかった。

 

「タイタン! 明日香をどうしたんだ?」

 

「とうの昔に始末したよ。とんだ雑魚だった、楽しむ間すらありはしない。……残っているのは貴様と万丈目、そしてカイザーだけ」

 

「お前……!」

 

 明日香はそう簡単にやられるほど弱いデュエリストではない。だがタイタンが明日香の鍵を持っている事と、明日香の姿がどこにもないことがタイタンの言葉が真実であると雄弁に告げている。

 十代は敵意をむき出しにしてタイタンを睨んだ。

 

「今度は俺が相手だ! 俺が勝ったら明日香を解放しろ!」

 

「私の次なるターゲットは貴様ではなく万丈目準なのだがねぇ。だからといって私の退散を許す貴様でもあるまい。良かろう、次はお前を闇へ送るとしよう遊城十代」

 

 タイタンから闇が噴出して周囲を覆い隠す。あの時と同じ。敗北者が闇に取り込まれ現世から消滅する闇のゲームだ。

 危険な戦いだが明日香を助ける為にはこのデュエルに勝つしかない。

 

「「デュエル!」」

 

 遊城十代とタイタン。二度目となるデュエルが始まった。

 



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第145話  暗黒の軍勢

遊城十代 LP4000 手札5枚

場 無し

タイタン LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

 デュエルディスクが指示した先攻はタイタン。

 幸いというべきか一度タイタンと戦った事のある十代はタイタンがどういうデッキを使うかは知っている。だがそれはタイタンも同じこと。十代がタイタンのデッキを知るように、タイタンも十代がHERO使いだということを知っている。故に条件は互角。

 

「私の先攻、ドロー。モンスターを裏側守備表示で伏せる。カードを二枚セットしてターンエンド」

 

「……………」

 

 消極的とも受け取れるターン、だがしかし攻撃ができない先攻1ターン目であればこんなところだろう。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 十代には二つの選択肢がある。

 タイタンの伏せたカードに臆することなく攻めるか、もしくは自分もタイタンと同じように防御を固め様子を伺うか。

 以前タイタンと戦った時のことを思い出す。

 タイタンは得意の手品でインチキの闇のゲームを仕掛けてきたが、その実力は確かなものだった。真の闇デュエリストになったことでその強さは更にパワーアップしていると考えて良いだろう。

 あの明日香をああもあっさり倒してしまった事がその証明である。

 

(だけど防御ってのは俺に似合わねえよな)

 

 仲間である明日香がやられ、今また自分も闇のゲームに囚われているにも拘らず十代はふてぶてしく笑う。

 

「いくぜタイタン! 手札より融合を発動! 手札のE・HEROワイルドマンとフェザーマンを融合するぜ。来い、E・HEROワイルド・ウィングマン!」

 

 

【E・HERO ワイルド・ウィングマン】

地属性 ☆8 戦士族

攻撃力1900

守備力2300

「E・HERO ワイルドマン」+「E・HERO フェザーマン」

このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。

手札を1枚捨てる事で、フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊する。

 

 

 筋肉隆々の戦士にフェザーマンの白い羽が生えた姿のHEROが降りたつ。

 タイタンの眉がピクリと動く。タイタンがどのようなカードを伏せているかは知らないが、ワイルド・ウィングマンであればそれを突破することもできる。

 

「ワイルド・ウィングマンの効果発動! 手札を一枚捨てることでフィールド上の魔法・罠カードを一枚破壊する! 俺は手札を二枚捨てて二枚の伏せカードを破壊するぜ!」

 

「ぬっ!」

 

 ワイルド・ウィングマンが弾丸のように飛ばした白い羽がタイタンの二枚の伏せカードを破壊する。

 破壊されたのはミラーフォースと次元幽閉。どちらも極めて厄介な攻撃誘発の罠カードだ。これでタイタンを守るのはあのリバースモンスターのみ。

 

「カードガンナーを召喚。カードガンナーは一ターンに一度、デッキからカードを墓地へ送ることで攻撃力を500ポイントアップする。

 この効果で一度に墓地へ送れるカードは三枚まで。俺は三枚カードを墓地へ送り攻撃力を1500ポイントアップする!

 バトルだ! ワイルド・ウィングマンで裏守備モンスターを攻撃。ウィング・インパクト!」

 

 突風が伏せモンスターを吹き飛ばす。

 

「――――ッ!」

 

 瞬間、心臓を握りつぶされるような悪寒。リバースし破壊されたカードはメタモルポット。

 手札を全て〝捨て〟てカードを五枚ドローする手札交換リバース能力をもったモンスター。

 

「ゲァハハハハハハハハハ! これが、こんなモノがHEROの切り札ぁ? まるでお話にならない。メタモルポットの効果発動ォ!!

 互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚カードをドローする。私が地獄へ送るはこの化物共だ。括目しろォ! 遊城十代」

 

「そ、それは!?」

 

 タイタンの手札にあるのは暗黒界の武神ゴルド、軍神シルバ、狩人ブラウ。手札から墓地へ送られた時に発動する特殊なカテゴリーに属する暗黒界モンスターたちだ。

 脳裏に蘇る。〝魔王〟と畏怖されるデュエリスト、宍戸丈のデッキは三つ。そのうち二つは既に十代と万丈目とで取り戻している。だが最後の一つは未だセブンスターズの手の中にある。

 その最後のデッキこそが暗黒界。その余りの破壊力と蹂躙力のため、宍戸丈がある一定以上のレベルだと認めた相手以外には絶対に使用しないという曰くつきのデッキだ。

 

「魔王だかなんだか知らんが、このようなデッキを使わずとも私自身のデッキならば貴様等小僧どもなど好きに料理できるが…………これもあの男の指示だ。

 なぁに大したことではない。貴様等小僧どもを殺すには丁度良い。ゆくぞ小童。愉しい愉しい狩猟の始まりだ。

 暗黒界の武神ゴルドとシルバの効果発動! こいつらがカード効果で手札より墓地へ送られた時、このカードを墓地より特殊召喚する! 地獄より這いだせゴルド、シルバ!」

 

 

【暗黒界の武神 ゴルド】

闇属性 ☆5 悪魔族

攻撃力2300

守備力1400

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

このカードを墓地から特殊召喚する。

相手のカードの効果によって捨てられた場合、

さらに相手フィールド上に存在するカードを2枚まで選択して破壊する事ができる。

 

 

【暗黒界の軍神 シルバ】

闇属性 ☆5 悪魔族

攻撃力2300

守備力1400

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

このカードを墓地から特殊召喚する。

相手のカードの効果によって捨てられた場合、

さらに相手は手札を2枚選択して好きな順番でデッキの下に戻す。

 

 

 金色の肌の悪魔と銀色の肌の悪魔。暗黒界の住人にして暗黒界を統べる神の一柱。ゴルドとシルバが墓地より這い出て、十代と相対した。

 攻撃力はともに2300。十代の場にあるE・HEROワイルド・ウィングマンを上回っている。

 

「まだだァ!! 狩人ブラウの効果だ、私はカードを一枚ドロー!」

 

「なんて奴だ。俺のターンで上級モンスターを二体召喚しながら、カードをドローするなんて」

 

 結局自分がやったことはタイタンを有利にすることになってしまった。十代は悔しさから歯噛みする。

 だが不幸中の幸いというべきかメタモルポットの効果で五枚のカードをドローすることができた。

 ここはこの五枚でなんとかするしかない。

 

「……バトルフェイズを終了。カードを二枚伏せターンエンドだ」

 

「私のターン。テラ・フォーミングを発動。デッキからフィールド魔法、暗黒界の門を手札に加える。そして暗黒界の門をそのまま発動」

 

 

【暗黒界の門】

フィールド魔法カード

フィールド上に表側表示で存在する

悪魔族モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。

1ターンに1度、自分の墓地に存在する

悪魔族モンスター1体をゲームから除外する事で、

手札から悪魔族モンスター1体を選択して捨てる。

その後、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 悪魔を模した巨大な門が地面からせり上がってくる。

 〝暗黒界の門〟という名前の示す通り暗黒界のためのフィールド魔法なのだろう。

 

「暗黒界の門の効果。墓地の悪魔族モンスターを除外することで、手札の悪魔族モンスターを一枚捨て一枚ドローする。私は狩人ブラウを除外し、尖兵ベージを捨てる。

 門の効果によりカードを一枚ドローし、ベージの効果でベージを墓地からフィールドに特殊召喚」

 

 

【暗黒界の尖兵ベージ】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1600

守備力1300

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

 通常召喚すらしていないのに新たにモンスターが召喚されてしまう。タイタンの場のモンスターの数が十代の場のモンスターを上回った。

 

「さぁバトルだ――――と、いきたいところだが、その前にその目障りな伏せカードを消し去っておこう。手札より魔法発動、ナイト・ショット!」

 

「ならチェーンして」

 

「ぶるぁあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「っ!」

 

「伏せカードなんて使ってんじゃねえ!! ナイト・ショットの対象となった魔法・罠はこのカードの発動に対しチェーンして発動することができない。残念だったな、遊城十代」

 

 

【ナイト・ショット】

通常魔法カード

相手フィールド上にセットされた魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

このカードの発動に対して相手は選択されたカードを発動できない。

 

 

 十代の場に伏せられていたリバースカードが撃ち貫かれる。

 破壊されたのは進化する翼、ハネクリボーをLV10に進化させるための必須カードだ。

 

「進化する翼とはな。これはこれは良いカードを破壊して貰えた。迂闊に攻撃していたら私の場が焼野原になり、私もまた闇に沈んでいたところだ。

 しかしこれで貴様は無防備。丸い裸、略して丸裸だ。私は暗黒界の狂王ブロンを召喚」

 

 

【暗黒界の狂王 ブロン】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1800

守備力400

このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、

自分の手札を1枚選択して捨てる事ができる。

 

 

 四体目の暗黒界が召喚された。その役割は狂王――――神には劣るが、下級モンスターとしては高い攻撃力をもったカードである。

 

「バトル! 今死ね! すぐ死ね! 骨まで砕けろお!! ジェノサイドブレイバーッ!!」

 

 ゴルドがワイルド・ウィングマンを、シルバがカードガンナーを撃破する。

 カードガンナーの効果で十代は一枚ドローするが、その戦闘ダメージによりライフは1700にまで削り取られた。

 そしてタイタンの場には二体のモンスターが残っている。このまま攻撃されれば終わりだが、十代はそこまで往生際が良くはない。

 

「速攻魔法、クリボーを呼ぶ笛!」

 

『クリクリ~』

 

 

【クリボーを呼ぶ笛】

速効魔法カード

自分のデッキから「クリボー」または「ハネクリボー」1体を選択し、

手札に加えるか自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 クリボーを呼ぶ笛により、十代の場にハネクリボーが守備表示で召喚される。

 ブロンの攻撃がハネクリボーを破壊するが、これでもう十代の負けはなくなった。

 

「ありがとう相棒。ハネクリボーのモンスター効果、ハネクリボーが破壊され墓地へ送られたターン。俺が受ける戦闘ダメージは0となる」

 

「チッ。命拾いしたか小僧。カードを三枚伏せターンエンドだ」

 

「ふぅ。危ないところだったぜ」

 

 冷や汗を拭う。もしも万が一ナイト・ショットの対象になったのが「進化する翼」ではなく「クリボーを呼ぶ笛」なら確実に十代は敗北していただろう。

 それを言ったらナイト・ショットさえ発動していなければ、クリボーを呼ぶ笛と進化する翼によりハネクリボーLV10を召喚して、勝利できていたわけだが。

 兎も角。ここからが挽回だ。



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第146話  同士討ち

遊城十代 LP1700 手札4枚

場 無し

タイタン LP4000 手札2枚

場 暗黒界の武神ゴルド、暗黒界の軍神シルバ、暗黒界の狩人ブラウ、暗黒界の狂王ブロン

伏せ 三枚

フィールド 暗黒界の門

 

 

 らしくなく十代は顔を苦い顔をする。

 タイタンのフィールドには上級暗黒界が二体に、下級暗黒界が二体。しかもフィールドには『暗黒界の門』が発動中ときている。

 暗黒界デッキの秘めた凶悪なまでのパワーは、さっきのタイタンのターンで身に染みて理解することができた。

 このターンで挽回しなければ自分は勝機を失うだろう。

 

「いくぜタイタン! 俺のターン、ドロー!」

 

 信じればデッキは答えてくれる。このタイミングで最高のカードが手札にきてくれた。

 カードガンナーの効果でドローした分も合わせればこれで手札の枚数は五枚。

 さっきのターン、ライフを削り取られるリスクを犯しても無理してハネクリボーLV10を召喚していないで正解だった。もしもハネクリボーLV10を召喚していれば二枚の手札を失い、逆に絶体絶命の危機に追い詰められていただろう。

 

「まずはこれだ! 魔法カード、大嵐! フィールドの魔法・罠を全て破壊する!」

 

「ここで全体除去カードだとぉ!? 味な真似を……。だが私とてただでは破壊されぬわァ!! 大嵐にチェーンして罠発動、針虫の巣窟! 私のデッキより五枚のカードを墓地へ送る!」

 

 針虫の巣窟はデッキトップから五枚カードを墓地へ送る、代表的な墓地肥やしカードの一枚だ。

 ただ本当に墓地へ送るだけしか役に立たないので、汎用性の高いカードとは言えない。だが墓地にモンスターを送れば送るほどに強くなるデッキならば話は別だ。

 タイタンの場で他に破壊されたのは『ミラーフォース』と『天罰』。どちらも厄介極まるカードだっただけに、十代は密かにガッツポーズをした。

 それに凶悪なフィールド魔法、暗黒界の門も大嵐により消え去っている。今が攻めるチャンスだ。

 

「カードガンナーの効果で墓地へ送られていたネクロダークマンのモンスター効果! このカードが墓地に存在する時、一度だけ手札のE・HEROを生け贄なしで召喚できる!

 俺はネクロダークマンの効果でレベル7、E・HEROエッジマンを生け贄なしで召喚するぜ!」

 

「ふん。E・HEROエッジマン。今更そんなモンスターを召喚したところでなんになる」

 

 

【E・HERO エッジマン】

地属性 ☆7 戦士族

攻撃力2600

守備力1800

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、

その守備力を攻撃力が越えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 ネクロダークマンの効果で召喚できるモンスターとしては最大の攻撃力をもつエッジマン。だがエッジマンの攻撃でタイタンのモンスターを撃破したところで、タイタンの場には三体の暗黒界が残ってしまう。

 タイタンほどのデュエリストに魔王宍戸丈の暗黒界デッキの力を十代は舐めてはいない。例え攻撃力2600のエッジマンがいようと、直ぐにそれを倒してこちらのライフに止めを刺してくるだろう。

 だとすれば、

 

「何になるかだって? こうなるのさ! ミラクル・フュージョンを発動! 場のエッジマンと墓地のワイルドマンを除外し融合する!」

 

「ぬぁにぃぃぃっぃいいい! 効果で召喚したエッジマンを更に融合素材にするだとォ!?」

 

「その通りだ。来い、E・HEROワイルドジャギーマン!」

 

 

【E・HERO ワイルドジャギーマン】

地属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2300

「E・HERO ワイルドマン」+「E・HERO エッジマン」

このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。

相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃をする事ができる。

 

 

 筋肉隆々とした戦士であるワイルドマンが、エッジマンの装甲を纏った姿。

 黄金の甲冑を得たHEROは古の剣闘士の如き獰猛な双眸で暗黒界の住人たちと対峙した。 

 

「ワイルドジャギーマンはその特殊能力により相手フィールドの全てのモンスターに一回ずつ攻撃をする事が出来る!

 バトルだ! 行けぇ、ワイルドジャギーマン! インフィニティ・エッジ・スライサー!!」

 

 跳躍したワイルドジャギーマンが暗黒界モンスターたちを問答無用に切り伏せていく。

 武神も軍神もエッジマンの力とワイルドマンの力、二つをもつHERO相手には為す術もない。たった一体のモンスターによりタイタンのモンスターは全滅した。

 

「ふん。やりおる。流石は私を一度闇に葬った男、遊城十代。あの男の指示など破って、やはり私自身のデッキで戦っておくべきだったかぁ」

 

 四体分のモンスターの戦闘ダメージでタイタンのライフは1600。

 ライフアドバンテージでは互角になり、フィールドアドバンテージは引っ繰り返った。だというのにタイタンにはまるで焦りがない。

 

「余裕だなタイタン。自分のモンスターが破壊されたってのに」

 

「それがどうした小童。まだフィールドが全滅しただけじゃねえか。能書き垂れてねぇで来いよ。かかって来い! 早く(ハリー)! 早く(ハリー)!!」

 

「ひゅー。おっかねえ。一度闇に取り込まれて、頭のネジが吹っ飛んじまったのか?」

 

 十代としても追撃したいのは山々だが、相手の場にモンスターがいなければワイルドジャギーマンは追加攻撃することはできない。

 手札にバーンダメージを与えるカードでもあるなら別だが、そんな気の利いたカードは手札にはない。

 

「バトルを終了。カードを二枚伏せターンエンドだ」

 

「さっきのターンで私を殺せなかったこと、貴様は後悔することになる。私のターン、ドロー! 手札抹殺、互いのプレイヤーは手札を全て墓地へ送り、その枚数分のカードをドローする」

 

「手札抹殺……!」

 

 普通のデッキでは手札交換のためのカードでしかない手札抹殺。だがそれが暗黒界デッキで使用された場合、超攻撃的な手札交換カードに化ける。

 

「私が墓地へ送るのはこの二枚。暗黒界の尖兵ベージ、そして暗黒界の龍神グラファ! グラファのモンスター効果発動。このカードがカード効果で手札から墓地へ送られた時、相手の場のカードを一枚破壊する。消え失せろ。ワイルドジャギーマン」

 

 龍神グラファのエネルギーがワイルドジャギーマンに突進し、そのままワイルドジャギーマンを粉砕してしまった。

 だがそれだけでは終わらない。尖兵ベージの効果によって、墓地へ送られたベージは場に特殊召喚される。

 これで不死身の龍神を呼び寄せる準備も整ってしまった。

 

「まだだぁ!! 暗黒界の雷、貴様の伏せカードを一枚破壊する!」

 

 

【暗黒界の雷】

通常魔法カード

フィールド上に裏側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。

その後、自分の手札を1枚選択して捨てる。

 

 

 頭上から落雷が落ち、十代のリバースカードを破壊する。

 破壊されたのはミラーフォース。相手攻撃モンスターを全て破壊できるミラーフォースも、メインフェイズに除去カードを使われては成す術もない。

 

「暗黒界の雷の効果はまだある!! 私は手札の狩人ブラウを捨てる、そして一枚ドロー! 手札より尖兵ベージを攻撃表示で召喚!

 ぶはははははははははははは! 準備は完了だぁ……。覚悟はいいか小童。二体の尖兵ベージを手札に戻し、墓地より蘇れ暗黒界の龍神グラファ!!」

 

 

【暗黒界の龍神グラファ】

闇属性 ☆8 悪魔族

攻撃力2700

守備力1800

このカードは「暗黒界の龍神 グラファ」以外の

自分フィールド上に表側表示で存在する

「暗黒界」と名のついたモンスター1体を手札に戻し、

墓地から特殊召喚する事ができる。

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合

相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。

相手のカードの効果によって捨てられた場合、

さらに相手の手札をランダムに1枚確認する。

確認したカードがモンスターだった場合、

そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 

 地獄から最強最悪の暗黒界。その恐るべき特殊能力から不死身とまで呼ばれた龍神が地獄より蘇る。

 しかも一体ではない。手札抹殺で捨てられた分と針虫の巣窟で送られた分の二体だ。十代の場にはもうワイルドジャギーマンはいない。いや仮にいたとしても不死身の龍神の前には歯が立たないだろう。

 

「これが暗黒界の切り札。龍神グラファ……か」

 

「死ねィ! 遊城十代! 暗黒界の龍神グラファの直接攻撃、ダークストーム・バーストォォーーーッ!」

 

「まだやられるかよ! 墓地のネクロガードナーの効果発動、こいつを除外してグラファの攻撃を防ぐぜ!」

 

 ネクロ・ガードナーの亡霊がグラファの放ったブレスを防ぎきる。しかし、

 

「グラファはまだ残っている! 二体目の龍神グラファで攻撃!」

 

「速攻魔法、収縮! グラファの攻撃力をこのターンのエンドフェイズまで半分にする! ぐっぁあああああああああああああ!!」

 

 グラファのブレスの直撃を浴びて、十代の体が吹っ飛ばされた。

 ただのソリッドビジョンであれば少し痺れるような痛みがするだけだが、これは闇のゲーム。内蔵が潰れたような激痛が十代を襲った。

 

「まだ、だぜ」

 

 よろよろと立ち上がる。

 収縮で半分にしたお蔭でライフが350残った。ライフが0でなければまだ負けではない。

 

(だけど冷や汗かいたな)

 

 カードガンナーで墓地へ送られていたお蔭で九死に一生を得た。もしもカードガンナーが上手い具合にネクロダークマンと一緒にネクロガードナーを墓地へ送っていなければ、本当にここで自分は負けていたはずだ。

 

「ええぃ。しぶとい小僧だ。私はターンエンドだ」

 

「俺のターン……」

 

 モンスターと伏せカードもなく手札はゼロ。相手の場には不死身の龍神が二体。絵にかいたような大劣勢だ。ここでなにか良いカードを引くことができなければ負ける。

 だが負けたくないのならば引き当ててやればいい。逆転のカードを。

 

「ドロー! このカードは手札がこのカードのみの時、特殊召喚することができる。E・HEROバブルマンを特殊召喚。そしてバブルマンの効果によりカードを二枚ドローする!

 更に貪欲な壺を発動! 墓地のモンスター五体をデッキに戻しシャッフル。その後カードを二枚ドロー!」

 

 土壇場での連続ドロー。

 そして全てを賭してドローソースを使い終えた十代は、

 

「っ!」

 

 遂に全ての希望を断たれた。

 十代がドローしたのは融合と融合解除、そしてE・HEROフェザーマン。例え融合でモンスターを召喚したとしても、フェザーマンとバブルマンで召喚できる融合モンスターはE・HEROセイラーマンだけ。

 セイラーマンには直接攻撃能力があるが、攻撃力は1400しかないため直接攻撃したところでタイタンのライフを削りきることは不可能だ。

 

「どうやら終わりのようだな。貴様のデステニードローもここまでだ。大人しく私に頭を垂れ、私と同じ闇のデュエリストへと身を堕とすがいい!」

 

「くそっ!」

 

 なにがないか、と必死になにか策を考える。

 だがどうしようもない。手札は可能性だと十代が憧れるデュエリストは言った。けれど逆を言えば手札・フィールド・墓地のカードが自分の運命の限界。運命にないことをすることはできない。

 今十代がとれるベストな戦術は精々がフェザーマンを守備表示で召喚するくらいだ。

 運よくタイタンが新たなモンスターを召喚しなければ命が繋がるかもしれない。

 

「どうした? なにもできないのなら大人しくターンの終わりを宣言しろ」

 

「……俺はモンスターを守備表示でセット。ターン、エン」

 

 十代がターン終了を、自分のターンの終了。敗北を宣言しようとして、

 

「え?」

 

 瞬間、ドクンッと十代のベルトにセットされているデッキケースが脈打った。

 このデッキケースに入っているのは十代のデッキではない。以前死の物まね師と戦い取り返した宍戸丈のデッキである。

 十代は精霊の姿と声を聞けるデュエリストの一人だ。だからかは分からないが、十代には宍戸丈のデッキの声が聞こえた。

 

――――自分を使え。

 

 宍戸丈の操るHEROたちはそれだけを必死に十代に叫んでいた。

 十代の脳裏に過ぎる宍戸丈のHEROたち。そして自分の三枚の手札。ふとその時、天啓のように十代に閃くものがあった。

 

「俺にとっちゃ明日香を取り戻すためのデュエルだけど、お前達にとっちゃ自分の仲間を取り戻すためのデュエルだもんな。いいぜ、一緒に戦うぞ!」

 

「なにを一人で訳の分からないことを――――」

 

「ターンは続行だ、タイタン。俺は融合を発動! 場のバブルマンとフェザーマンを融合する!」

 

「馬鹿め! 融合召喚だとォ? 貴様のデッキでその組み合わせで召喚されるのはセイラーマンのみ! 今更セイラーマンなど召喚したところでなんになる!?」

 

「それはどうかな。確かに俺のデッキで召喚できるのはセイラーマンだけだ。だが俺のデッキじゃなきゃどうだ?」

 

「なに!?」

 

「今この時だけ力を貸してくれ! 融合召喚、現れろ水のHERO! E・HEROアブソルートZero!」

 

 

【E・HEROアブソルートZero】

水属性 ☆8 族

攻撃力2500

守備力2000

「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する

「E・HERO アブソルートZero」以外の

水属性モンスターの数×500ポイントアップする。

このカードがフィールド上から離れた時、

相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 宍戸丈のHEROデッキで最強のE・HEROと謳われる戦士、アブソルートZero。

 自分たちと同じように囚われたデッキを救う為、今この瞬間のみ遊城十代のHEROとして召喚された。

 

「アブソルート……Zeroだとォ!?」

 

「こいつの効果は知っているよな? 融合解除を発動。アブソルートZeroの融合を解除し、バブルマンとフェザーマンを召喚。

 アブソルートZeroの特殊能力。こいつが場を離れた時、相手フィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

「龍神グラファ、二体が――――それにフィールドには!?」

 

「バトルだ。フェザーマンとバブルマンでダイレクトアタック! いけ、HEROたち!」

 

「ぶるぁあああああああああああああああああああああ!?」

 

 二体のHEROの攻撃でタイタンのライフが0になる。

 勝利を確信してほっと一息つく。本当に紙一重の戦いだった。今回はアブソルートZeroが力を貸してくれたから良かったものの、もしアブソルートZeroがいなければ負けていた。

 

「そうだ。おいタイタン、そのデッキを――――タイタン!?」

 

 十代が気付いた時には既にタイタンの体は半分以上が闇に取り込まれていた。

 

「い、嫌だ……また、あの暗い闇の中に沈むのは、嫌だぁぁああああああああ!」

 

「掴まれ!」

 

 必死に手を伸ばしタイタンの手を掴む。必死に引き上げようとすると、途轍もない力で引っ張られる。

 しかし十代がどれほど力を入れて引っ張ろうと、タイタンはみるみる闇に沈んでいっていった。

 その時、

 

『…………グル』

 

『ハッ!』

 

 デュエルが終わりソリッドビジョンシステムも作動していないというのに、グラファとアブソルートZeroの二体が実体化する。

 悪魔とHEROの二体が闇を押し返していく。

 全てが終わった時、そこにあったのは気絶したタイタンと闇から解放された明日香、そして暗黒界デッキだけだった。

 




『悲報』
皆のアイドル、ドンさん死す。デュエルスタンバイ!


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第147話  降臨

 五人目の刺客がやられ遂にセブンスターズも残り二人になると、いよいよ深刻な空気が流れ始めていた。

 明弩瑠璃の手引きにより奪い取った宍戸丈のデッキも全て奪われ、未だ七星門の鍵は四つも相手の側にある。

 他のセブンスターズと違って七星門の鍵の真のカラクリを知っている彼等は、そこまで絶望してはいないが戦況が不利なのは望ましいことではない。

 宍戸丈の足止めに派遣した新生ネオ・グールズがいともあっさり敗北したという報告がそれに拍車をかけている。

 

「次は私が行きましょう」

 

 重苦しい沈黙の中、体格の良い男がそう口火をきった。

 モニターの向こう側にいる男と、アムナエルという名の錬金術師はじっと見定めるように男に視線を向ける。

 

『妥当なところだ。アムナエルにはまだやって貰わねばならんことがある。だがお前は勝つ自信はあるのか?』

 

 言外に「お前の力で勝てるのか」と告げる。

 自分の実力を侮るような言葉に普通のデュエリストなら激昂しただろう。だが相手が相手であるし、なにより彼は自分がアムナエルは愚かカミューラやタイタンにも実力が劣っている自覚がある。

 故にそのことに対して腹を立てることはなかった。

 

「私の力では恐らく一人道連れにするのが精々かと」

 

 自分の実力を誰よりも分かっているから、彼は出来ないことを出来るとは言わない。ただ冷徹に自分の出来る最大の成果を告白する。

 画面の向こうの男もアムナエルもその言葉を正しいと判断したので特に反論することはなかった。

 一人一殺。これまでカミューラ、タニヤ、タイタンの三人がそれに成功し、死の物まね師と闇のプレイヤーキラーはそれに失敗した。

 たった一人を倒して脱落する、最低限のノルマが今の自分ができる最大戦果であると告げた彼はしかし、ある場所に指を差すと先を続ける。

 

「ですがあれをお貸し頂けるのならば、我が身と引き換えに遊城十代と万丈目準の二人は仕留めてご覧にいれましょう」

 

『ほう』

 

 モニターの男は興味深そうに声を漏らす。

 彼が指さした場所にあるのはアムナエルが錬金術を駆使して何重にも封印に封印を重ねている三邪神のカードである。

 セブンスターズが求める三幻魔や、かの決闘王が所有する三幻神と同格の力をもつ三邪神をもってしてなら、嘗て宍戸丈や天上院吹雪と共に邪神に打ち勝ったカイザーは兎も角、遊城十代と万丈目準を倒すことはできるだろう。

 だが彼の要求には幾らか問題が多い。

 

「だが分かっているのか? 三邪神は宍戸丈以外のデュエリストが使おうとすれば神の裁きを下す。かつてデュパンという泥棒が三邪神を奪い使用した際、死にかけたのを知らぬわけじゃないだろう。

 いやもしもあの時、宍戸丈が三邪神を制止していなければ確実に邪神はデュパンを殺しその魂を地獄へ送っていた」

 

「勿論知っていますとも。あの頃の私は特待生たちの監視を任されていたのですからね」

 

「だったら不可能なことを言うものじゃない。三邪神はこうして封印して尚も我々に牙を剥いてくる……。

 宍戸丈以外で三邪神を操ることができるデュエリストがいるとすれば比類なき魂と魔力を持つ者。かつての千年アイテムの担い手たちか海馬瀬人くらいだ。彼の友人たちでも或いはといったところか。

 残酷なようだが敢えてはっきり断言しよう。君には無理だ」

 

 冷たく言い放つアムナエル。だが彼はアムナエルに対して怒りなど覚えない。

 アムナエルの言葉には冷酷でありながら、彼を労わる声色が潜んでいたからだ。

 

「私には操れない。ならば私じゃなければ」

 

「なに?」

 

「アムナエル殿。あるのでしょう? 三邪神を操るためのなにかが……」

 

「………………」

 

 アムナエルは仮面の奥で口を真一文に閉じて沈黙する。それがなによりもの肯定の意思表示でもあった。

 

「怖れながら貴方の施した封印も宍戸丈の接近に伴い破れかかってきている。このままでは長くはもちますまい。強力なカードは使って初めて価値あるもの。どうせこのまま腐らせるくらいであれば、いっそのこと」

 

『悪くはない提案だな』

 

 モニターの男は顎鬚を撫でながら考え込む仕草をする。

 宍戸丈の三つのデッキと共に三邪神を奪ってから、セブンスターズは三邪神を操る術を模索し続けてきた。

 アムナエルが優秀な錬金術師だったこともあって、どうにか三邪神を一時的に操れるようになる『あるもの』の開発に成功したが、それを使えば確実に命を縮める結果となる。

 三邪神の力は惜しいがそのために命を縮めるのなんて誰だって御免だ。モニターの男もそれは同じ。

 だからこそこうして封印しておくだけに留まってきたわけだが、どうせ使えないのならば彼に託して特攻させるのも一つの戦術だ。

 

『アムナエル。例のものをこやつに』

 

 モニターの男に言われ、渋々とアムナエルは懐からあるものを取り出す。

 

「……覚悟は変わらないのか?」

 

 銀色のケースを手渡しながら、アムナエルは彼にそう忠告する。だが彼の決意は変わらなかった。

 

「食うものにも困り果てていた私とその家族を救って貰った恩があります。その恩に応えねば」

 

「分かった」

 

 彼の決意が変わらないことを知ると、アムナエルはそれを手渡した。

 そして三邪神の封印を破り、中から三枚の邪神のカードを取り出すとそれを自分のデッキに投入する。

 ふと強い風がふいてローブが剥がれる。中から覗いたのはかつて明弩瑠璃と共に特待生寮で働いていた室地戦人の顔だった。

 

 

 

 

 

 夜になると宿直のクロノス先生以外の鍵の守護者に選ばれた者は、恒例のようにレッド寮に集まっていた。

 だがそこには以前までいた明日香の姿はない。闇のデュエリストとして復活したタイタンに敗北したことで、一度は闇に呑まれかかった明日香は今は保健室のベッドの上である。

 命に別状はなくぐっすり休めば元通りになると診断されたのが不幸中の幸いであるが、明らかに明日香一人のところを狙っての襲撃。

 ミステリーかなにかでも集団から孤立した者から死んでいくのがお約束である。こういう時は一人にならず、固まっていた方が良い。

 もっとも、

 

「俺と万丈目は元からレッド寮だし、カイザーは一人でもへっちゃらだろうけどな」

 

 頭を掻きながら十代が言うと、万丈目がはぁと溜息をつく。だがカイザーは腕を組んだまま窘めるように言う。

 

「それは分からない。俺だってアカデミアこそ四天王なんて大それた渾名を頂戴しているが、別に最強無敵のデュエリストというわけじゃないんだ。

 セブンスターズに俺より強い者がいれば負けることもあるし、そうでなくても必ずしも強いデュエリストが勝つとは限らないのがデュエルというものだ」

 

「おぉ。やっぱりカイザーの言うことはなんか含蓄があるぜ」

 

「それよりタイタンの使っていたのは暗黒界デッキだったんだな?」

 

「そうだぜ。これがそのデッキだ」

 

 十代はタイタンを倒して取り返した暗黒界デッキをカイザーに手渡す。

 カイザーは鋭い目つきで受け取ったデッキのカードを一枚一枚確認していき、それを終えると頷いた。

 

「間違いない。あいつのデッキだ。これで奪われたデッキに関しては全て取り戻した計算になるな」

 

「セブンスターズも残りはたった二人。いっそこの万丈目サンダーが二人とも倒して」

 

「あ、ずりぃぞ万丈目! 次は俺だぜ」

 

「馬鹿か貴様! もうお前は三度もデュエルしているだろう! 貴様のターンは当分終了。ここからはずっと俺のターンだ!」

 

 万丈目は自信満々にビシッと自分を指差す。

 そんな鍵の守護者たちの団欒を傍観していた隼人は「呑気過ぎるんだな」と呟き、翔の方は自分が守護者なわけではないのに守護者以上に緊張して頭に死者蘇生のカードを貼り付けていた。

 

「……翔、なにしているんだ?」

 

 自分の弟が頭にカードを貼り付けて、聖母マリアに祈る神父のようなオーラを醸し出していることに気付いたカイザーが問い掛けた。

 

「い、祈ってるんっスよ! こうやってお祈りを捧げていればきっとデュエルの神様がセブンスターズなんて追っ払ってくれるっス」

 

「デュエルの神様ねぇ」

 

 翔の言った『神様』のフレーズに十代は考え込む仕草をする。

 デュエルモンスターズの神と聞いて先ず思い浮かぶのが三幻神のカードだ。しかしながら十代も何度か三邪神の映像を見た事はあるが、どこをどう見ても祈って御利益がありそうな神様には思えない。

 次に思い浮かぶのはデュエルモンスターズの創造主たるペガサス会長か。だが今も普通に生きているペガサス会長に祈りを捧げても、三幻神以上に御利益などないだろう。

 

「馬鹿馬鹿しい。神なんているわけがないだろうに」

 

 万丈目は鼻を鳴らしながら背もたれに寄りかかるが、

 

「――――――いや」

 

 大声を出したわけではない。カイザーは口を開き呟いただけだ。

 だというのにその声に混じった深刻な音に全員が喋るのを止めて静まり返る。

 

「〝神〟は近付いてきているようだぞ」

 

 カイザーの言葉がレッド寮の空間に染み渡る。

 

「ハネクリボー?」

 

 人間よりも気配を察知する能力が高い精霊たちが先ず最初にそれを感じた。

 一歩一歩。普通のデュエルモンスターズの精霊など及びもつかないほどの力あるなにかがここに近付いてきている。

 地震でもないのにカタカタとテーブルが震えた。

 

「ひっ! 兄貴、なんなんっスかこれ!?」

 

「決まってるじゃないか翔。また来たんだろう、奴等が」

 

 セブンスターズ六番目の刺客の襲来。十代と万丈目、そしてカイザー。鍵の守護者の生き残りはレッド寮を飛び出した。

 ついさっきまで風一つ吹かない穏やかな夜だったはずの外は、今や強風が吹く荒れ身も凍るような冷たさに変化していた。

 

「おやおや皆さん、お揃いのようで」

 

 慇懃な口調で一人の男が近付いてくる。

 他のセブンスターズたちと違い身を包んでいるのは黒いローブではなく洒落な燕尾服。

 白と黒が入り混じった髪と、銀縁の眼鏡が特徴的な初老の男性が強風など意にも介さずに立っていた。

 

「貴方は!?」

 

「知っているのか、カイザー?」

 

「ああ。彼は室地戦人。二年前まだ特待生寮が廃校になっていなかった頃、特待生寮で執事をしていた人だ」

 

「その通りでございます、丸藤亮様。これをご覧下さい」

 

 室地戦人は恭しく一礼するとデッキから三枚のカードを抜き取り見せる。驚くべき事にその三枚のカードはデッキと共に丈から奪われた三邪神のカードだ。

 カイザー以外は初めて生で見る三邪神のカードに息を飲む。

 

「……恐れながら我が主人の命により、このカードの暴威をもって貴方様たちを冥府へと送らせて頂きます」

 

「貴方がセブンスターズだったというのは驚きだが、悪い事は言わない。止めた方がいい。三邪神をあいつ以外が使おうとすれば」

 

「存じておりますとも。だからこそ、こういうものを用意したのですよ」

 

「それは――――注射器?」

 

 室地戦人が切り札として用意してきたのは一見何の変哲もない注射器だった。観察するが特に変わった様子はない。病院などでもごく普通に採用されているただの注射器である。

 ただ一つ気になることをあげるなら、注射器の中に赤い薬品らしきものがあることだが。

 

「我が主人の友人にして錬金術の大家アムナエルが『宍戸丈』から採取した血液から生み出した魔法薬。これを私の肉体に……注入ッ!」

 

 ブスッと迷いなく室地戦人は自分の二の腕に注射針を差し込み、薬品を流し込んだ。

 すると信じ難いことに室地戦人の肉体がバクンッと中で巨大な御玉杓子が動いたように跳ね上がる。

 

「う、おおおおおおお゛」

 

 室地戦人の筋肉という筋肉が意志があるように動きのた打ち回り増幅していく。

 初老のバトラーはもはやそこにはない。十代たちの前にいるのは筋肉隆々の巨漢に化けたセブンスターズの刺客だった。

 

「これで私は一時的に『宍戸丈』と同等の魔力と魂を得た……」

 

「宍戸丈になるだって? そんなものを造り上げれるのか錬金術師は」

 

「普通の錬金術師なら無理でしょう。ですがアムナエルならば、あの御方には出来る。ただそれだけのこと。

 体の奥底からパワーが漲ってくる。この力があれば、例え私でも三邪神を操ることができるでしょう」

 

「だがそんな魔法薬、リスクもあるんじゃないのか?」

 

「勘が鋭い。その通り、この魔法薬は一時的な力を使用者に齎す代償に命を削る危険な代物。だが、だからこそその効果は本物! 三邪神の力をもってすれば、貴方達を二人、或いは三人を道連れにすることもできましょう。

 ゆかせて貰いますよ皆さん! 我が命と引き換えに若い才能はここで一輪残さず摘ませて頂く! さぁ! 誰から先に来るのです?」

 

「なら俺が行こう」

 

「勇気がある御方だ、来なさい」

 

 室地戦人は筋肉隆々の腕にデュエルディスクを装着すると、そのスイッチを入れる。

 だが彼がデュエルする準備を整えても、誰も彼の前に出ることはなかった。

 

「どうしました? どうして来ないのです?」

 

「簡単なことだ。俺達三人は誰もお前とデュエルするなんて言っていない」

 

 カイザーがそう告げると、室地戦人は首を傾げる。

 

「はて。ならさっき自分が行くと言ったのは――――」

 

「俺だよ」

 

 あれほどまでに荒れ狂っていた強風が一瞬にして静まる。

 海岸の方から一人の青年が堂々と草木を踏みしめ歩いてきた。闇よりも黒い純黒のコート。アクセサリーなのかコートには銀色の鎖が散りばめられている。コートが黒ならば髪の色も瞳の色も黒。デュエリストの盾たるデュエルディスクまでもが黒だった。

 全身を黒で統一したその青年は懐かしむような顔で薄く笑うと、室地戦人の前に立つ。

 

「あ、貴方は……貴方は!?」

 

「宍戸丈の力を得た、か。俺はいつのまに、そういう扱いをされるようになったんだ? 少し勘弁して欲しいよ」

 

 その男が黒いデュエルディスクを起動させると、万丈目が動く。

 

「これを! 俺が獲り返した貴方のデッキです」

 

「ありがとう、万丈目くん」

 

 偽りのないストレートな感謝の念を告げると、男は自然にそのデッキを自身のデュエルディスクにセットする。

 その男の顔に見覚えがあった十代ははっとした顔になり口を開いた。

 

「万丈目、あの人って!」

 

「良く見ておけ十代。あれが二代目決闘王に最も近いと噂されるデュエリストのデュエルだ」

 

 コートが靡き、雷鳴が鳴る。

 

「デュエル!」

 

 魔王〝宍戸丈〟が遂にデュエル・アカデミアに帰還した。

 

 




……最初は一番人間離れしてたカイトが、今では一番人間らしく見える。


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第148話  魔王のデュエル

宍戸丈  LP4000 手札5枚

場 無し

 

室地戦人 LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

 常識はずれの手段で三邪神の使役を可能とし、襲い掛かって来た室地戦人。そんな時に颯爽と現れ室地戦人と対峙する丈。

 そんな丈がどういう思いでこのデュエルに望んでいるかと言われれば、

 

(手早く校長に戻ってきた挨拶だけするつもりだったんだがな)

 

 周りの期待とは裏腹に、丈は内心で戸惑っていた。

 別にデュエルするのが嫌な訳ではない。ただ漸く長旅を終えて懐かしのデュエル・アカデミアに戻ってきたのだから、ゆっくりと体を休めたかった。

 しかし校長室へ向かう途中でなにか悪寒を感じて、同行していた梶木に先に行って貰い、悪寒のした場所に来てみたら。

 

(こんなことになっていたと)

 

 暴露してしまえばここは他の誰かに任せ、自分はこっそり観戦しておきたかったのだが、相手が三邪神を使うというのなら黙っているわけにはいかない。

 三邪神は自分がペガサス会長から託されたモンスターであり、自分の失態でセブンスターズに奪取されてしまったカード。自分のミスは自分で挽回するのが丈の流儀だ。

 

「丈。手早くすませるといい。疲れているんだろう? なんならサレンダーしてしまうか。それならば直ぐに休めるだろう」

 

 こっちの心中をお見通しだと言わんばかりに、亮がニヤリと笑う。

 

「冗談言うな。疲れているか疲れてないかと言われれば疲れているが、後輩の見ている前で無様を晒すこともできないだろう。さて、それじゃ――――」

 

「先攻はお譲りする」

 

 アムナエルとやらの用意した魔法薬で、その姿を一変させた室地戦人だったが、その瞳の奥には理知的な光が残っている。

 デュエルモンスターズにおいてサイバー流のような例外はおいておいて先攻は絶対有利。それを室地戦人は敢えて譲って来た。

 

「どういうつもりだ?」

 

 まさか魔法薬で命を削ってまで襲い掛かってくる相手が油断している、なんてことはないだろう。

 室地戦人は決死の覚悟をもって襲撃を仕掛けてきている。だとすれば相手の有利と知って先攻を譲ったのは、

 

「こちらは貴方のカードを奪い、使うというデュエリストにあるまじき行いをしている。せめてものデュエリストの矜持故……と言いたいところでありますが、貴方様に一つ尋ねたいことがありますので、そのためと思って頂ければ」

 

「聞きたいこと?」

 

「明弩瑠璃。貴方様を襲った彼女は無事ですか?」

 

「無事だよ。五体満足、しっかり生きている」

 

「そう、ですか」

 

 心の底から安堵の息を零す。

 室地戦人は黄色人種、明弩瑠璃は名前こそ日系だが白人。人種の違いや顔立ちにまるで面影がないことからいっても、よもや彼等が親族ということはあるまい。

 だが肉親同士だけが親愛の情をもつという道理はない。室地戦人からすれば、彼女は娘のような存在だったのかもしれない。

 

「感謝致します。ではどうぞ――――ただし先攻はお譲りしますが、手を抜く気はございませんので」

 

「律儀な人だ。だが」

 

 相手は嘗て自分が戦った三邪神だ。三邪神の強さはそれの担い手である丈が一番良く知っている。

 けれど恐れはない。三邪神の恐ろしさを一番良く知るのが丈のように、三邪神の弱点を一番良く知っているのも丈なのだから。

 

「俺のターン、ドロー! 永続魔法、冥界の宝札を発動。このカードは二体以上の生け贄召喚が成功した時、デッキからカードを二枚ドローする。

 さらにマジックカード、フォトン・サンクチュアリ。俺の場に二体のフォトントークンを特殊召喚する」

 

 

【フォトン・サンクチュアリ】

通常魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は光属性以外のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

自分フィールド上に「フォトントークン」(雷族・光・星4・攻2000/守0)

2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは攻撃できず、シンクロ素材にもできない。

 

 

 攻撃力2000のモンスターが一瞬で二体並ぶ。とはいえこのカードは守備表示であるし攻撃もできない。

 しかもこのカードを発動したターンは光属性以外のモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚を封じられるデメリットもある。だが逆を言えば光属性モンスターなら幾らでも召喚できるということだ。

 

「二体のフォトントークンを生け贄に捧げ、現れろ! 銀河眼の光子竜!」

 

 

【銀河眼の光子竜】

光属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは自分フィールド上に存在する

攻撃力2000以上のモンスター2体を生け贄にし、

手札から特殊召喚する事ができる。

このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップ時、

その相手モンスター1体とこのカードをゲームから除外する事ができる。

この効果で除外したモンスターは、バトルフェイズ終了時にフィールド上に戻る。

この効果でゲームから除外したモンスターがエクシーズモンスターだった場合、

このカードの攻撃力は、そのエクシーズモンスターを

ゲームから除外した時のエクシーズ素材の数×500ポイントアップする。

 

 

 宇宙の瞳をもつドラゴンが場に降り立つ。最上級モンスター降臨により冥界の宝札のドローエンジンが動き、丈はデッキから二枚のカードをドローした。

 攻撃力3000の最上級モンスターを召喚しておきながら未だ丈の手札は五枚。初期手札からたった一枚の消費だ。

 

「カードを三枚伏せ、ターンエンド」

 

「私のターン、ドロー! ……ゆきますぞ」

 

 瞳が妖しく光り輝く。

 三邪神は強力無比なモンスターだが、その召喚に三体の生け贄が必要となる性質上、召喚するのはかなり難しい。

 恐らく室地戦人のデッキは三邪神召喚のみに特化したデッキ。だとすれば或いはこのターンで出してくるかもしれない。

 そんな丈の予想は的中した。

 

「このカードは手札を一枚捨てて特殊召喚できる。THEトリッキーを攻撃表示で召喚! 更に幻銃士を召喚。その効果により自分フィールドのモンスターの数だけ銃士トークンを召喚する。

 私の場にはTHEトリッキーと幻銃士の二体。よって二体のトークンを場に出現させる!」

 

 

【THE トリッキー】

風属性 ☆5 魔法使い族

攻撃力2000

守備力1200

このカードは手札を1枚捨てて、手札から特殊召喚できる。

 

 

【幻銃士】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1100

守備力800

このカードが召喚・反転召喚に成功した時、

自分フィールド上に存在するモンスターの数まで自分フィールド上に

「銃士トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守500)を特殊召喚する事ができる。

また、自分のスタンバイフェイズ毎に自分フィールド上に表側表示で存在する

「銃士」と名のついたモンスター1体につき相手ライフに

300ポイントダメージを与える事ができる。

この効果を発動するターン、自分フィールド上に存在する

「銃士」と名のついたモンスターは攻撃宣言をする事ができない。

 

 

 これで室地戦人のフィールドには四体のモンスターが並んだ。

 既に通常召喚をしているため、普通ならまだ三邪神を召喚することはできないが、もし手札にあのカードがあるのならば最後の問題もクリアされる。

 

「魔法発動、二重召喚! このターン、私はもう一度通常召喚を行うことができる。二体のトークンと幻銃士を生け贄に捧げ降臨せよ、邪神アバター!」

 

 

【THE DEVILS AVATAR】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/?

DEF/?

God over god.

Attack and defense point of Avatar equals to the point plus 1 of that of

the monster's attack point which has the highest attack point among

monsters exist on the field.

 

 

 夜の闇を一層の暗黒で染め上げ、漆黒の太陽が顕現する。

 

「ぐっ、ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 三邪神の召喚によって室地戦人の全身は、鎖で締め上げられるような負荷がかかる。

 如何に魔法薬で肉体を強化しているとはいえ、あれでは削った寿命をさらに削ってしまうだろう。丈が三邪神を見つめ、目配せをするとその負荷は止まった。

 

「……はぁ……ぐっ……はぁ……邪神アバターはフィールドで最も攻撃力の高いモンスターの攻撃力にプラス1した攻撃力となる……。

 フィールドで最も攻撃力が高いのは銀河眼の光子竜。よって邪神アバターの攻撃力は3001となり、その姿を変化させる!」

 

 アバターの姿が漆黒の銀河眼の光子竜へとかわる。常にあらゆるモンスターの攻撃力を上回るバトルにおける絶対強者。

 これが邪神アバターが三邪神の最上位にあり無敵と称される所以だ。

 

「バトル! 邪神アバターで銀河眼の光子竜を攻撃! 破滅のダーク・ストリーム!」

 

 全く同一質量のモンスターが同時に動く。二体のドラゴンが吐き出す破滅のエネルギー。攻撃力が常に1上回る特性上、どうしようと銀河眼の光子竜でアバターを倒すことはできない。だが、

 

「罠発動」

 

「忘れましたか。神に罠は通用しない!」

 

「忘れていないとも。俺が発動するカードはこれだ。リバースカード、ドゥーブルパッセ!」

 

「あっ! あれは明日香のカード!」

 

 十代が驚きの声をあげる。

 彼の言う通りこれは吹雪の妹である明日香が愛用していたカード。本来は丈のデッキにはなかった罠カードである。

 

「後輩が先輩から教えを受けるように、先輩も後輩から多くを学ぶものさ。ドゥーブルパッセ、このカードは相手の攻撃を直接攻撃として受け、攻撃対象となったモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える! やれ銀河眼の光子竜。破滅のフォトンストリーム!」

 

 邪神に罠が通用せずとも、攻撃対象を入れ替えることくらいはできる。

 

「ぐ、ぁあ!」

 

 銀河眼の光子竜のダメージが襲い掛かり、室地戦人のライフをごっそり削り取る。

 勿論ドゥーブルパッセの効果によりアバターの攻撃も丈に降りかかってきたが、

 

「ダメージ計算時、ガード・ブロックを発動。戦闘ダメージをゼロにしカードを一枚ドローする」

 

「なんと。邪神の攻撃をこうも受け切るとは。流石は魔王、恐るべき実力。しかし貴方とはいえアバターの攻略はそうそう出来るものではないでしょう。私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

「エンドフェイズ時、サイクロン発動」

 

「!」

 

 サイクロンが室地戦人の伏せたカード、ガード・ブロックを破壊する。

 邪神を召喚するため室地戦人は五枚ものカードを消費した。そしてガード・ブロックまでもが破壊されたことで、フィールドには邪神アバターと……攻撃表示のTHEトリッキーのみ。

 

「ま、まさか」

 

「邪神の力を過信したな。確かに邪神アバターは無敵のモンスター。アバターを倒す方法は数多くあるデュエルモンスターズのカードを探しても数えるほどしかない。

 しかしデュエルは別に邪神アバターを倒すのが勝利条件じゃあない。アバターが無敵でも、それを操るデュエリストまで無敵というわけじゃないということに気付けなかったのが敗因だ。

 俺のターン、ドロー。バトル、銀河眼の光子竜でTHEトリッキーを攻撃。破滅のフォトンストリーム!」

 

 銀河眼の光子竜とTHEトリッキーの攻撃力の差は1000。室地戦人のライフも同様に1000。

 ジャストキル。室地戦人は無敵の邪神アバターを召喚しながら、アバターを残したまま敗北した。

 

「たった3ターンで三邪神を操るデュエリストを攻略してしまうとは……。恐ろしい! なんと全く無駄のないプレイングだ。あらゆる行動に無意味なものが一つもない。完封だ」

 

「あ、三沢くんいたんだ」

 

「いたよ!」

 

 外野のラー・イエローの生徒と亮の弟が言い争いをしているが、それはさておき。

 丈は亮のいる方へ振り向くと、

 

「ただいま」

 

 亮だけではなく、このデュエル・アカデミアという場所に対してそう告げた。

 




 デュエリストならば知っていることと思いますが、デュエルモンスターズこと遊戯王OCGのルールが三月で大幅に変更されます。
 具体的には、

・先攻はドローできない。

・フィールド魔法はお互いのプレイヤーが発動できる。

・ペンデュラム召喚追加

 他にも細かい変更はあるのですが、大まかにはこんなところです。
 とはいえこの作品の時系列はGXであり、遊戯王ARC-Vではありません。なので仮にまた『超融合』的なイベントで主人公集結とか、遊戯王ARC-Vの時代に飛ぶとかそういうことが起きない限り、ルールは先攻ドローありのフィールド魔法は片方だけのままです。では。


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第149話  再臨

 デュエルは終わった。

 禁忌の術を用いて、禁忌の力を手にした室地戦人は、魔王と畏怖されたデュエリストにただの1ポイントのダメージを与えることすら出来ず敗北したのだ。

 デュエルが終わったことで、室地戦人の肉体を一時的に増幅させていた呪いも消滅する。呪いという異常が消えたのならば、その肉体は元の自然な形に戻るが道理。

 老人の体躯へと戻った室地戦人には、もう両足で自重を支えるだけの体力もなく、そのままぐらりと大地に崩れ落ちた。

 

「――――」

 

「宍戸……殿……」

 

 そんな彼を『魔王』と呼ばれた男が駆け寄って受け止める。

 

「情けを……かけられますか……? 貴方の信用を…………裏切った相手に……」

 

「〝情け〟じゃない。これは亮風に言うならリスペクトだ。主人のため盗人という泥に塗れてまで尽くそうとした忠義に対しての。それにこれは少々恥ずかしい理由になるが。貴方が疲れた俺に用意してくれた夜食の味が、どうにも忘れられなくてな。また機会があれば作って欲しい」

 

 それは宍戸丈という男の嘘偽りのない本心だった。

 確かに他者のカードを盗むのは悪であろう。そのカードを使うのも悪いことだろう。そこに議論の余地などはなく、地獄の裁判官も同じ裁定を下すはずだ。

 だが行為の価値とは善悪のみで決まる訳ではない。それが悪と呼ばれる行為だったとしても、命を懸けるほどの忠義には尊さがある。例えそれが悪と呼ばれる所業だったとしても、眩く光る宝石に見えるのだ。

 己のカードを盗まれた怒りで、その輝きを踏み躙るほど宍戸丈は狭量ではない。

 

「ふっ。〝魔王〟などと呼ばれる御仁にしては…………随分と、甘い。だが悪すらも受け入れるからこその『魔王』なのかもしれませぬな……。ふふふふ、私の完敗、です。三邪神は御身に……返きゃ……」

 

 デッキから三枚の邪神を抜き取ると、室地戦人は意識を失った。

 呼吸は正常。心臓もしっかりと活動をしてくれている。幸いにして命に別状はなさそうだ。削られた寿命も、この程度ならば精霊が力を与えてやれば快復できるだろう。

 丈は自分の意を汲んで威力を加減してくれたモンスターに、心の中で礼を言った。

 

「丈。久しぶりだな、本当に……」

 

「ああ。大体九か月ぶりか。――――すまん。冗談抜きで待たせすぎた。色々な意味で」

 

 そう、本当に待たせすぎてしまった。予定ならばもうとっくにアカデミアに戻っている筈だったというのに、飛行機墜落から始まるアクシデントのせいで嘗てないほどの大遅刻をしてしまった。

 セブンスターズという闇のデュエルを仕掛けてくるデュエリストが襲来してきたというのに、こんな様では四天王の名折れというものだろう。

 

「気にするな。色々ある一つは兎も角、お前に非はない。それと――――」

 

 亮がニヤリと口端を釣り上げると、親指で後ろにいる二人を指さす。

 どこか制服が馴染みきっていない雰囲気からいって二人とも一年生だろう。そして二人とも宍戸丈にとっては懐かしい顔だった。

 尤も二人のうち一人、オシリスレッドの制服を着ている少年の方は、丈が一方的に知っているだけだが。

 

「宍戸さん。あんたのデッキの一つは、俺が取り返しておいたぜ。この万丈目サンダーがな」

 

「ありがとう。本校とノース校の試合はTVで見たよ。良いデュエルをするようになった。特に不人気どころか人気皆無のおジャマをああも使いこなすなんて、三年後にお前がプロ入りするのが楽しみだよ」

 

「当然だ。俺はアンタを超える男なんだからな。そのためにはアンタには『最強の魔王』でいて貰わなくては困る。最強を倒してこそ、最強の称号を得られるのだからな」

 

「期待して待っているよ」

 

 万丈目は四年前、卒業デュエルをした時とまるで変わっていない。デュエリストなら誰しもが一度は憧れ、現実に挫折する『最強のデュエリスト』という頂きを未だ求め続けている。

 挫折もあっただろう。夢を諦めかけ、涙を呑んだ事もあったやもしれない。アカデミア本校所属だった彼が、ノース校に転校するなどしたあたり、丈が知らない内に万丈目も波乱万丈な日々を送ってきたのだろう。

 だが多くの苦難を乗り越えて、四年前に戦った後輩はこうして目の前に立っている。こういうのを見るとプロデュエリストではなく、人を導く教師というのも悪くないと思ってしまう。

 そして丈はもう一人、オシリスレッドの少年に目を向ける。

 

「やっぱ本物のデュエルは一味も二味も違ったな! 丈さん、今度は俺とデュエルしてくれよ!」

 

「あ、兄貴。いきなり失礼じゃ……」

 

「いや、構わん」

 

 慌てふためく亮の弟、翔を制して丈は遊城十代と向かい合う。

 十代が丈を見る目には先程のデュエルへの興奮、未知への期待、デュエリストとしての闘争心など様々なものが入り混じって爛々としている。

 果たしてこういう時、どう挨拶すれば良いのだろうか。

 十代は丈のことを恐らくTVの画面越しでしか知らないだろうが、丈の方は十代を知っている。実際に会って話したこともあるし、肩を並べて戦いもした。あの時空を超えた決闘の舞台で。

 だがあれは丈にとっては『既知』のことでも、十代にとっては『未知』のことだ。

 下手に未来の事を喋ればタイムパラドックスが起きて歴史が歪む危険性がある――――そう言ったのは確か幽霊となった大徳寺先生だったか。

 兎も角。宍戸丈があの舞台で知り得た未来の情報については、余り口に出すことは止した方が賢明だろう。

 ただ普通に挨拶するのもなんなので、丈は悪戯心を覗かせて、

 

「遊城十代。久しぶり、そして初めまして」

 

「久しぶり? 俺と丈さんってどっかで会ったことあるのか?」

 

「いいや。〝君〟が俺に出逢ったのは今日が初めてだよ」

 

 嘘は言っていない。宍戸丈が一年前に邂逅したのは、この時代の遊城十代ではないからだ。

 宍戸丈にとっての遊城十代とのファーストコンタクトが一年前なのだとすれば、遊城十代にとっての宍戸丈とのファーストコンタクトが現在なのだ。

 

「今日初めて会ったなら、どうして久しぶりなんだ? まさか初めましてには、俺が知らない意味が隠されているとか」

 

「そんなことはない。ま、いずれ分かるさ。いずれ……具体的には三年後に」

 

「?」

 

 十代は完全に意味が分からないらしく頭にクエスチョンマークを浮かべている。だが三年経てば十代にも意味が分かるようになるだろう。

 三年後に十代があのデュエルを経験するその日までは、あのデュエルは宍戸丈と武藤遊戯だけの記憶だ。

 

「おい十代。なにをぐだぐだやっている。それより宍戸さんに渡すものがあるだろう」

 

「っと、そうだった。忘れるところだった。丈さん、HEROデッキと暗黒界デッキの二つ。セブンスターズから取り返しておいたぜ」

 

「――――ありがとう。この恩は忘れないよ」

 

 三枚の邪神のカードと三つのデッキ。ここに『魔王』から奪われた力は、全て所有者の下へと帰還を果たした。〝魔王〟宍戸丈の完全復活である。

 久方ぶりの自身のデッキたちの感触に、丈は知らず知らずのうちに笑みを浮かべた。それも朗らかなものではなく、猛々しいデュエリストとしての笑みを。

 

(いかんな……)

 

 こんな場所で、一年生たちがいるというのに戦意が昂ぶってきた。闘志が疼き、勝利に渇く。

 やはり自分という人間は『デュエル』がなければ、生命の充実を得られない生き物らしい。デュエリストの性というのも中々どうして厄介なものだ。これでは魔王呼ばわりされても仕方がない。

 懐かしいアカデミアの空気を吸いながら、丈はもう残り少ない学園生活に思いを馳せ。そして残る一人のセブンスターズに、複雑な心境を抱いた。

 

 

 

 亮との再会を喜んでから、丈は挨拶のため校長室へと足を運んだ。命の恩人である梶木漁太から渡された『お土産』持参で。

 丈の帰還を知り喜びを露わにして出迎えた鮫島校長だったが、丈の『お土産』を見るとピタリと硬直してしまった。

 

「宍戸くん……それは、なんですか?」

 

「アメリカ土産です。といってもアメリカで買ってきたわけではなく、飛行機から脱出した俺を助けてくれた梶木さんからプレゼントされたものですが。どうぞ、教員の皆さんで食べてください」

 

「食べろと言われても、ですねぇ。その……嬉しくはあるのですが、ええと……」

 

 鮫島校長は死んだ魚のような目で、死んだ魚の目に視線を送る。体長約3m。重量約400㎏。丈がお土産と称して持ってきたお寿司でも御馴染の魚へと。

 

「なんで…………マグロ?」

 

「シャケもありますよ、キングサーモン。ジェノサイドに美味しいと評判です」

 

「あ、ありがとうございます。えーと、ちょっと待ってくださいね」

 

 鮫島校長が電話を入れると、アカデミア倫理委員会に所属する人員がやって来て、丈のお土産を冷蔵庫へと運んでいった。

 ちなみに丈の『お土産』は何故かマグロ解体師の資格をもっていた購買部所属のセイコさんにより解体され、それをトメさんが調理し、セブンスターズとの戦いに参加したデュエリストたちに振る舞われることになるのだが――――それは激しく余談である。

 

「そうですか。デュエリストキングダムにも参戦していた、あの梶木漁太に救出されていたとは。君はつくづく奇妙な縁に恵まれていますね、宍戸君。ところで梶木さんは今どこに?」

 

「俺を送り届けてくれたら、直ぐに帰りましたよ。これからウミのデュエリストと決闘の約束があるとかで」

 

「残念ですね。出来ればサインが欲しかったのですが……」

 

 有名デュエリストやプロデュエリストを見ればサインを欲しがるのは、鮫島校長の習性とすら言っても過言ではないだろう。

 サイバー流師範にしてアカデミア校長という、デュエルモンスターズ界の『重鎮』というべき立場にありながら、子供のような無邪気さを失っていないのは非常に稀有だ。十代が大人になれば、こんな風になるのかもしれない。

 

「それより宍戸君。今回のことは申し訳ありませんでした。私がセブンスターズの一件に呼び出してしまったばかりに、危険な目に合わせてしまい」

 

「良いんですよ、校長。寧ろ気を使って呼ばれなかった方が傷つきます。それに飛行機から墜落するなんて、そうそう経験できることじゃありません。スリリングな体験をさせて貰いました」

 

「そう言ってもらえると幾分か気分が楽になります。では改めて、宍戸丈君。――――お帰りなさい。君のNDLでの活躍は、我々アカデミアにとって誇らしい限りでしたよ。よく……頑張りましたね」

 

「まだまだこれからです。目指すはナショナルデュエルリーグの頂点、そして来年のドリームマッチ出場ですよ」

 

 四年に一度だけ開からるドリームマッチ。別名、世界王者決定戦。そこで行われるのはNDLのランキング一位に輝いたデュエリストと、Sリーグでランキング一位に輝いたデュエリストによる一騎打ちだ。この戦いに勝利したデュエリストには、最強のプロデュエリストとして世界王者の称号が与えられる。

 ここ八年はSリーグ王者のDDが連勝を重ね、NDL――――アメリカから世界王者の称号が失われて久しい。その称号を、日本出身の丈が取り戻すというのも、それはそれで中々に面白い。

 

「四天王といい、今年に入学してきた彼等といい。この世代は人材の宝庫ですね」

 

「そのようです。遊城十代、万丈目準、天上院明日香、三沢大地。セブンスターズの一件に関わっている一年生達は将来有望な金の卵ばかりでした。実際にデュエルしたわけではありませんが、オーラが違いましたよ。それに何人かまだ孵化していない卵もいましたし」

 

「ほう。それはそれは羽化が楽しみですね」

 

「ええ、まったく」

 

 セブンスターズとの戦いには参戦していなかったが、亮の弟である丸藤翔。彼も素晴らしい才能を秘めている。惜しむべきは生来の優しさ(甘さ)のせいでそれが出し切れていないことだが、成長次第では化けるかもしれない。

 今のところは経験の差で丈たち四天王が勝るが、数年後はどうなっているか分からないだろう。少なくとも未来の遊城十代は、四天王を凌駕しかねないほどの勢いをもったデュエリストだった。

 そうやって丈と鮫島校長が一年生達の将来について話していた時だった。唇を紫色にした――――いや、それは元々である。もとい顔を真っ青にしたクロノスが校長室に駈け込んで来た。

 

「た、たたたたたた大変ヘーンでスーノ! 校長、大変でスーノ! 大変でスーノ!!」

 

「落ち着いてください、クロノス先生。三回も言われなくても分かります」

 

「み、ミスクーズィ。おや、セニョール宍戸! いつ戻ったノーネ!」

 

「ついさっきです。相変わらずお元気そうでなによりです、クロノス教諭」

 

「セニョール宍戸も。ペガサス会長には是非このクロノス・デ・メディチのことを報告して欲しいノーネ。――――じゃなくて、校長! 大変なノーネ!」

 

「だからなにがどう大変なんです」

 

「だ、だだだだだだだだ大徳寺先生が、行方不明になったノーネ!」

 

「なんと!」

 

 レッド寮の管理人として、嘗ては特待生寮の管理人として。理事長・校長双方の信頼厚い大徳寺教諭。その大徳寺教諭が行方不明と聞かされ、鮫島校長も目を見開いて驚愕する。

 

「………………」

 

 だが宍戸丈は難しい顔つきで黙り込む。

 丈の脳裏に思い起こされたのは、一年前の幽霊となった大徳寺との出会いだった。

 




 活動報告にも書きましたが、遊戯王から暫く離れていましたが戻ってきました。兎にも角にもアニメ第一期までは終わらせます。
 ちなみにマスタールール3は半分くらい導入しますが、導入しない所もあります。具体的にはペンデュラム召喚、先攻ドロー廃止、フィールド魔法共存可などは導入しません。あとペンデュラムモンスターは、ペンデュラムではないただのモンスターとして扱います。


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第150話  来襲する魔術師

 アカデミア倫理委員会によって、行方不明になった大徳寺教諭の捜索が夜通し行われたが、残念ながら成果は上がらなかった。大徳寺教諭が最後に確認されたアカデミア埠頭、そこからの痕跡が完全に途絶えてしまっている。PDLへの連絡も応答なしらしい。

 大徳寺教諭の担当していた『錬金術』の授業は、暫く別の教員が担当することになり、オシリスレッド寮の管理人は猫のファラオが代行することとなった。

 猫が管理人代行など、本当にそれでいいのかと思わなくもないが、実のところ大徳寺教諭は管理人としての仕事をまるでしていなかったので、いてもいなくても特に変わらないというのが正直なところなのだろう。それに実務的なものは購買部のトメさんが代行するとのことだ。

 時期的なことを踏まえれば、大徳寺教諭失踪事件には十中八九セブンスターズが関わっているだろう。

 だがこんなことを発表しても、生徒たちを無駄に怯えさせるだけでなんのメリットもない。そのため一般生徒たちには大徳寺教諭は『出張中』という風に知らされ、真実は隠されることとなった。

 大徳寺教諭行方不明を知るのは捜索にあたった倫理員会を除外すれば、七星門の守護者と一部の教員だけである。

 

「だからといって、まさかこんなタイミングで学園祭とはな」

 

 一般生徒や一般教員にセブンスターズの件が伝えないとなると、当然ながらセブンスターズを理由に行儀を変更することも出来ない。

 そのためセブンスターズとの戦いの最中でありながら、デュエル・アカデミアでは予定通り学園祭が執り行われていた。

 丈や亮のいるブルー寮の下では、赤・黄・青の生徒たちに外部客も交じって楽し気なムードが広がっている。

 

「やむを得まい。この学園祭は来年度の受験者のための『説明会』も兼ねている。彼等の為にも延期するわけにもいかないだろう。それにいつもいつも戦いでは精神が荒む。稀には祭りに興じて、気を紛らわすのも大切だ。特に十代は七人中三人と戦ってきたからな。休みは必要だ」

 

「…………」

 

 数年前の亮ならば、こんな祭りの日にも気を張り詰めて、一人だけ休まずデッキ調整やイメージトレーニングにも精を出していただろう。しかし亮は気を張るばかりではなく、適度に気を抜くことも覚えた。

 丈はNDLという過酷な環境に身を置くことで成長してきたが、亮は先輩として後輩達の面倒を見ることで、自分自身を見つめ直し更なる進化を遂げたのかもしれない。

 

「三日会わずんばなんとやら、か」

 

「ん? なにか言ったか?」

 

「別に。それより折角の機会だ。アカデミア最後の学園祭……俺達も楽しむとしよう。吹雪や藤原がいないのが残念だが」

 

「ならレッド寮に行かないか?」

 

「レッド寮?」

 

「翔や十代に誘われていてな。コスプレデュエル大会をするらしいぞ」

 

「コスプレ……」

 

 丈は入学時からずっと特待生寮に所属していたし、特待生寮が廃止になってからはブルー寮で生活していた。そのため校舎から離れた位置にあるレッド寮には、一度も足を運んだことがなかった。

 オシリスレッド寮の待遇が他の二つの寮と比べ悪い、というのは耳にしているが、この機会に一度見に行ってみるのも悪くないかもしれない。

 

 

 

 ブルー寮を出た丈と亮の二人は出店でたこ焼きとたい焼きなどを買いつつ、コスプレデュエル大会なるものが開かれているというレッド寮に足を運んだ。

 待遇は最悪という評判に嘘偽りはなく、丈が初めて目にするレッド寮は昭和のドラマにでも出てきそうなボロアパートそのもの。中世ヨーロッパの城そのもののブルー寮、綺麗で洒落たペンション風のイエロー寮と比べれば、その差は余りにも歴然としている。

 レッド寮に所属になった生徒が、一週間で挫折して転校したという噂が囁かれるのも無理はない。ただ寮そのものはオンボロでも、そこに所属する生徒たちの顔には笑顔があった。

 コスプレデュエル大会というだけあって、生徒たちはモンスターのコスプレ衣装に身を包み、その衣装に合ったデッキを使い観客を沸かせている。学園祭ということもあって普段のブルー寮とレッド寮の垣根もなく、観客席には学年・所属寮を問わない生徒たちがいた。

 勝利すれば仲間たちと馬鹿みたいに大笑いして、負けても勝者と一緒になって笑う。

 丈は目を細め、どこか寂しくそれを見詰める。敢えて横を見はしないが、亮も同じような目をしているだろう。

 三天才、四天王、特待生。

 アカデミア屈指の優等生として期せずしてエリート街道を進んできた丈たちには、ああいう風に大勢の生徒と馬鹿みたいに笑い合うなんて経験はなかった。

 自分達の歩んできた道程を後悔してはいないし、特待生として厳しい教育を受けたことは自身の血肉となっている。その経験は決して、目の前に広がるアレに劣りはしないだろう。

 だが自分の届かぬものというのは、想像以上に眩しく見えるものだ。

 

「上手く出来ているな」

 

「前田隼人――――あのコアラみたいな顔をした一年生がデザインをしたらしいぞ」

 

「一年生が?」

 

「翔の言っていたことだがな。彼はデュエル実技は苦手なのだが、絵を描くのは上手いらしい。インダストリアル・イリュージョン社のイラストコンテストにも何度か応募しているそうだ」

 

「成程。流石はアカデミア総本山。人材は眠っているものだ」

 

 ただ単にデュエルモンスターズの絵柄をそのまま書き起こしただけでは、ああも見事なコスプレ衣装にはならない。

 モンスターの全体像を理解しつつ、それを人間が纏うように再構成する。そうして出来上がったのがあのコスプレ衣装たちだ。

 中には人型モンスターのみならず、かなりの重量級モンスターのコスプレをしている生徒もいるが、彼等に衣装を持て余している様子はない。レッド寮に女生徒がいないせいで、コスプレに華がないのが唯一の難点だろうか。

 

「将来はカードデザイナーかな。いやあれほどの才能ならファッションデザイナーもいけるかもしれん」

 

「そうだな。――――丈、そろそろ十代のデュエルのようだぞ」

 

「!」

 

 遊城十代のデュエルと聞いて、丈も目を大きく見開いた。

 セブンスターズ七人のうち三人を撃破し、将来はパラドックスに『伝説の一人』と数えられたデュエリスト。彼が現段階でどういうデュエルをするのか、丈も一人のデュエリストとして大いに気になる。

 十代は様々な衣装を無理矢理合体させたような、珍妙なコスプレを纏って入場してきた。テーマはさしずめ融合事故といったところだろうか。かなり動き辛そうだ。

 そして十代の対戦相手は、

 

「な…なん……だと……?」

 

 時間が停止する。丈の視線の先にいたのは、なんとブラック・マジシャン・ガールだった。

 

『皆さーん! ルールを守って楽しくデュエルしていきますので、今日は宜しくお願いしまーす!』

 

「うぉぉおおおおおおおおおおお!! ブラマジガールきたぁああああああああああああ!!」

 

「やべぇ。俺、アカデミアに入って良かった……」

 

『これは凄いぞ! なんとブラック・マジシャン・ガールのコスプレ衣装に身を包んだ女生徒が飛び入り参戦だ!! 会場と僕も大盛り上がりです!! お父さん、お母さん。産んでくれてありがとう』

 

『ええぃ! なんだこの盛り上がりようは! まるで意味が分からんぞ!』

 

 観客に司会進行役の翔まで混ざって凄まじいヒートアップぶりである。冷静さを保っているのは十代と万丈目の二人だけだ。

 デュエルモンスターズでも不動のナンバーワンアイドルカードに瓜二つな少女が、パーフェクトにコスプレして現れたのだ。無理もないことだろう。

 しかし三邪神との戦いを潜り抜けた丈と亮の二人には分かる。あれはコスプレなんてチャチなものではない。あれは正真正銘、ブラック・マジシャン・ガールの精霊そのものだ。

 

「な、何故ブラック・マジシャン・ガールがこんなところに……? あれは遊戯さんと一緒に世界を旅しているはずでは……」

 

「丈。ブラック・マジシャン・ガールがこちらに手を振っているぞ」

 

「軽く振り返しておいてくれ。俺は知らん」

 

 丈はこれまで二回、ブラック・マジシャン・ガールの精霊と出会っている。

 時間軸上における一度目はパラドックスとの戦いで。そして時間軸上の二度目であり、宍戸丈の人生における最初の出会いだったI2カップ。

 あの大会で丈はマナという名前でエントリーしていたブラック・マジシャン・ガールと戦い、そのせいで『魔王』という二つ名を頂戴してしまったのだ。ある意味ブラック・マジシャン・ガールは『魔王』の生みの親といっても過言ではないだろう。

 今では『魔王』という渾名にも慣れはしたが、そんなこともあって丈は某ショタコン程ではないが、少々ブラック・マジシャン・ガールが苦手だった。

 

「まぁいい。デュエルするのは十代だ。今回は高みの見物をさせて貰うさ」

 

 なにも自分がデュエルをするわけではないのだから、変に意識する必要はない。気を取り直して丈は観戦モードに入る。

 だが丈は理解していなかった。そういう言動を、業界では『フラグ』ということを。

 

『デュエル!』

 

 そうこうしている間に十代とブラック・マジシャン・ガールのデュエルが始まる。

 ブラック・マジシャン・ガールの圧倒的過ぎる人気に、レッド寮のイベントでありながら十代が完全アウェーとなるなどというアクシデントはあったが、内容的には問題なく進行していった。

 こうして離れた位置から眺めていると、やはり逆境における十代の引きの強さには驚かされるものがある。

 

「教え子の晴れ舞台に行方不明とは大徳寺先生も浮かばれないな……」

 

「丈。大徳寺先生は死んだわけじゃないぞ。行方不明になっただけだ。残る一人のセブンスターズが襲って来た時、そいつを捕えて話を聞きだせば……必ず」

 

「だといいが」

 

「やけに悲観的じゃないか。お前らしくもない。なにか懸念事項でもあるのか?」

 

「室地戦人、明弩瑠璃。あの特待生寮に所属していた職員のうち二人がセブンスターズの手先だった。三人目がそうではないとどうして言い切れる」

 

 丈の言わんとした事の意味を悟り、自然と亮の表情が強張った。

 

「大徳寺先生がセブンスターズの一人、だと?」

 

「埋伏の毒。効果的な策の一つだろう」

 

 別に丈は大徳寺教諭を疑いたいわけでもないし、嫌いたい訳でもない。しかし大徳寺教諭に疑わしいことがあるのは事実だ。

 仲間を信じることは大切であるし、信用するのは美徳である。だが仲間の中に一人くらい仲間を疑う人間がいなければ、仲間という集団は唯一人の裏切り者によって壊滅するだろう。

 そしてこういう損な役回りは一年生ではなく、自分のような三年生がやるべきだ。

 

「ともかく俺も精霊たちに頼んで大徳寺先生の捜索をして貰っている。精霊たちならば(バー)の気配を辿ることもできるし、もし彼がまだこの島にいるのならば必ず見つけ出せるはずだ」

 

「もしも大徳寺教諭が実際に裏切り者だったのならば、どうする?」

 

「俺が倒すさ。十代や万丈目たちには知らせずに。大徳寺教諭には『出張』から『転勤』になってもらう」

 

 ただでさえ自分のデッキを盗まれるという失態を演じ、七星門の守護者たちに迷惑をかけてしまったのだ。先輩としてそれくらいやらなければ恰好がつかない。

 丈が先輩として決意を新たにしていると、コスプレデュエル会場の歓声が一段と大きくなる。どうやら決着がついたらしい。

 

「十代の勝ち、か。苦戦しながら最後に勝つあたりは流石だな」

 

 完全アウェーでありながら自身のデュエルを完遂してみせたあたり、タクティクスだけではなくメンタルも中々だ。プロデュエリストになる素養も十分すぎるほどだろう。

 

『いやぁ。ブラック・マジシャン・ガールがドラゴンに乗り始めた時はちょっとヒヤヒヤしたよ。でも楽しいデュエルだったぜ!』

 

『以上。勝者の兄……遊城十代さんへのインタビューでした!』

 

 司会の翔が勝者の十代へのインタビューを終えると、今度は敗者であるブラック・マジシャン・ガールへのインタビューへ移る。

 勝者よりもインタビューへの注目度が高い気がするのは、気のせいではないだろう。

 

『それではブラマジガールさん。惜しくも残念な結果に終わってしまいましたが、今日のデュエルはどうでしたか?』

 

『十代くんと一緒の感想かな。人前でデュエルするのは久しぶりだったから本当に楽しかったです』

 

「うぉぉぉおお! ブラマジガールちゃんサイコー!」

 

「結婚しよ」

 

「メルアド交換しようぜ!」

 

「本名教えてくれぇー!」

 

「彼女は瑠璃ではない!」

 

『どうやら観客の皆さんはブラマジガールさんの本名が気になるみたいですね。かくいう僕も気になります。ブラマジガールさんはアカデミアの生徒さんですか? それとも外部の来客者さんですか?』

 

『外部です。実はアカデミアにはマス……知り合いの頼みで様子を見に来ていただけだったんだけど、皆が楽しそうにしていたのでつい飛び入り参加しちゃった。お師匠様に知られたら怒られると思うけど後悔はしてません! あ、だけど一つだけ。アカデミアでやり残したことがあります』

 

『それはずばりなんですか?』

 

『宍戸丈くんとのリベンジマッチです!!』

 

 その声が響き渡るのと同時、丈が飲んでいたコーラを噴き出したのは言うまでもないことだ。

 

 




「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
『俺はネオニュー沢渡さんのファンデッキを作ろうと思ったら、いつの間にかガチデッキになっていた』。
な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…
BFだとかM・HEROだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…」


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第151話  旋風

 雲一つない空は青く、どこまでも広がり。日輪は燦然と大地を照らす。この天然の恵みと比べれば、一個の人間がどれほどの矮小なることか。

 オシリス・レッド主催コスプレデュエル大会は、コスプレ衣装が高品質なことに加え、ブラック・マジシャン・ガールと瓜二つの美少女の飛び入り参加という嬉しいハプニングも重なって大盛り上がりとなっていた。

 ブラック・マジシャン・ガールの対戦相手が、一年生ではナンバーワンの実力者である遊城十代で、その彼とブラック・マジシャン・ガールが見事に戦ってみせたのも、会場が盛り上がる一因となっていたのだろう。デュエル・アカデミアはデュエリストの聖地。如何にブラック・マジシャン・ガールにそっくりな美少女であろうと、デュエルが無様なものであれば熱狂は沈静化していたはずだ。

 後にBMGファンクラブの会長を務めることになる丸藤翔は「あの日の出会いこそ、私がブラック・マジシャン・ガールを終生の嫁と定めた切っ掛けであった」と述懐していたことからも、大会の大盛況っぷりが分かろうというものである。

 だが熱狂はそれだけでは終わらなかった。

 遊城十代とのデュエルを終えたブラック・マジシャン・ガールは、自身のインタビューでまさかの宍戸丈へのリベンジを宣言。会場は新たな熱狂に包まれることとなった。

 アカデミア四天王の一人にして、カイザー亮の好敵手。〝魔王〟宍戸丈がアカデミアに帰還したことは、既に全生徒の間に知れ渡っている。

 三邪神の所有者でもある宍戸丈の名前は、四天王の中でもカイザーと並んで特別であり、セブンスターズの襲来がなければ、帰還を記念してのデュエル大会が開かれていてもおかしくなかった。

 しかしセブンスターズの件や学園祭の準備などが重なって、そういったイベントが起こることはなく、丈がアカデミア生徒たちの前でデュエルをすることはなかった。

 だからこそブラック・マジシャン・ガールが魔王への挑戦を宣言すると、生徒たちは当人を置き去りにして盛り上がり、遂には消極的だった宍戸丈を決闘場へと引きずり出すことに成功してしまった。

 プロデュエリストとしてのユニフォームであり半ば普段着と化している黒い外套を羽織り、宍戸丈は決闘場の中心へと歩いていく。浮かれきっていた観客も、丈がいよいよ姿を見せると生唾を呑み込んで静まり返った。

 堂々たる登場は、正に魔王の二つ名に偽りのないもので。純黒の双眸は、挑戦者たる魔術師の少女を見据えている。

 ただ当事者である丈は立ち振る舞いとは裏腹に、溜息をつきたい衝動を抑え込むのに必死だった。

 

(どうしてこうなった)

 

 丈の気分を言い表すのに、それは最も適した言葉だっただろう。

 あくまで今日は高校生活最後の学園祭を適当に楽しみつつ、十代のデュエルを見ておくのが目的で、人前でデュエルをするなどまったく予定していなかった。

 なのに気付けばこの流れである。しかも相手は微妙に苦手意識をもっているブラック・マジシャン・ガールときた。

 

(無理に断れば強要はされないだろうが、俺もプロデュエリストとして挑まれた戦いにそう易々と背を向けるわけにもいかん。魔王というのも面倒なものだ)

 

 プロデュエリストは一人のデュエリストであると同時にエンターテイナー。

 エンターテイナーとは即ち観客への奉仕者であり、観客を楽しませることを仕事とする者。面倒な事であるが場の『空気』というものには逆らえない。

 

「人類史における真の暴君は、悪政を強いる王ではなく善良なる一般市民、か」

 

「ん? 何か言った?」

 

「なんでもない」

 

 ブラック・マジシャン・ガールの純粋な視線をさらりと受け流しつつ、丈は暫し思案する。

 一般生徒たちは彼女のことをただのコスプレイヤーな美少女としか認識していないが、その正体は三千年前にファラオに仕えた魔術師の魂であり、ブラック・マジシャン・ガールの精霊そのものだ。

 決闘王〝武藤遊戯〟と数多くの戦いを潜り抜けてきただけあって実力も一級品。I2カップではかなり追い詰められた。そしてあのデュエルでの暗黒界の暴れっぷりのせいで、自分は魔王という二つ名で呼ばれることとなってしまったのである。

 

(……今日は暗黒界デッキは止めておくか)

 

 また変な二つ名を付け足されることになっても困るので、丈は三つのデッキで一番子供受けの良いHEROデッキを選択する。

 同じようにブラック・マジシャン・ガールもデッキをデュエルディスクにセットした。

 十代とのデュエルを見る限り、彼女のデッキはブラック・マジシャン・ガールを中心とした魔法使い族。これなら変な事にはなるまい。HEROデッキに敗北したばかりの彼女には悪いが、もう一度HEROの強さを味わって貰うことにしよう。

 

『さぁ! ブラック・マジシャン・ガールのまさかの一言で始まったエキシビジョン! 我等がアイドル、ブラック・マジシャン・ガールが挑むのはデュエル・アカデミアが誇る〝魔王〟宍戸丈!! 注目の一戦です!!』

 

『中等部時代を思い出すな。あの頃も四天王……いや、当時の三天才が公開デュエルをすると、観客が押し寄せたものだ』

 

 翔と万丈目は堂に入った名実況&名解説っぷりで場を盛り上げる。その姿はとても素人には見えなかった。案外二人にはそういう方面の才能もあるのかもしれない。

 丈がどうでもいいことに思考を割いていると、ブラック・マジシャン・ガールの準備が終わったようだ。丈もブラックデュエルディスクをスタンバイさせる。

 

「(ごめんね、丈くん。こんなことになっちゃって)」

 

「……!」

 

 脳内に直接届いてきた声はブラック・マジシャン・ガールのそれ。丈が驚いて顔を上げれば、肯定するようにブラック・マジシャン・ガールが頷く。

 思念や意識を直接相手の脳内に送る思念通話。漫画などではよくあることだが、いざ実体験すると妙な気分だ。

 

「(謝るくらいなら、わざわざ俺とデュエルしたいと言わなければ良かっただろうに)」

 

「(そう言われると痛いんだけど、私も精霊だけどデュエリストだから、負けたままっていうのも悔しいじゃない。本当は十代くんの様子を身に来ただけのつもりだったけど、折角だしリベンジさせてもらうね)」

 

「(……………是非もなし)」

 

 負けたままは悔しいという気持ちは丈にも分かる。あの亮なんて負けず嫌いの際たるものだ。

 気分の良いデュエルをすることも大切であるが、勝利を喜び敗北を悔しがるのもデュエリストの性。こればっかりはデュエリストである以上は逃れられないものである。

 だから丈も彼女の闘志に応えないわけにはいかなくなってしまった。

 

「いいだろう。来い、デュエルだ」

 

「うん! マスターのデュエルを見学しながら磨いてきたタクティクス! 見せてあげるね!」

 

「「デュエル!」」

 

「「デュエル!!」」

 

 

宍戸丈   LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

BMG(ブラック・マジシャン・ガール) LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

「私の先攻だね。カードをドロー」

 

 お互いに一度は対戦した相手。丈の側はつい先程のブラック・マジシャン・ガールのデュエルを見ているが、ブラック・マジシャン・ガールも丈のNDLのデュエルを何度か見たことくらいはあるだろう。だとすれば情報アドバンテージは甲乙つけ難く差はないと考えていい。

 ともかく丈のやることは変わらない。先攻1ターン目で彼女がどういうプレイをするかを見極めつつ、自分自身のデュエルをする。こういう相手には自分のペースを乱せば不利になるだけだ。

 そう、相手がどんなカードやデッキを用いようと、退かず、媚びず、顧みない不動の精神こそが肝要なのだ。

 

「永続魔法、炎舞-「天璣」を発動します! この効果で私はデッキよりレベル4以下の獣戦士族モンスター1体を手札に加える。更にこのカードがフィールド上に存在する限り、私のフィールドの獣戦士族モンスターの攻撃力は100ポイントアップ! 私はデッキから『妖仙獣 鎌壱太刀』を手札に加えるね」

 

 

【炎舞-「天璣」】

永続魔法カード

このカードの発動時に、

デッキからレベル4以下の獣戦士族モンスター1体を手札に加える事ができる。

また、このカードがフィールド上に存在する限り、

自分フィールド上の獣戦士族モンスターの攻撃力は100ポイントアップする。

「炎舞-「天璣」」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 

 それは宍戸丈にとってとても予想外で想定外で、完璧なまでに埒外のことだった。

 不動の精神で律した心が、早くも揺れ動く。予想の斜め上どころか、マントルを突き抜けて地球の裏側に飛んでいったくらいの事に、丈の思考回路はブレイカーが落ちたかのように停止してしまった。

 ブラック・マジシャン・ガールがなにをしているのかは理解できる。ただ単にサーチカードで獣戦士族モンスターをサーチしただけだ。本当にそれだけなのだが、それをブラック・マジシャン・ガールの精霊がやっているのがあらゆる全てを裏切っていた。

 

「私は永続魔法、修験の妖社を発動! このカードが魔法・罠ゾーンにある限り『妖仙獣』が私の場に召喚・特殊召喚される度に妖仙カウンターを一つ置く。

 いくよ! 私はサーチした妖仙獣 鎌壱太刀を召喚。鎌壱太刀のモンスター効果、このカードの召喚に成功した時、手札から鎌壱太刀以外の妖仙獣を召喚する! 私は鎌弐太刀を召喚。そして鎌弐太刀もこのカード以外の妖仙獣を手札から召喚する効果を持ってます。出てきて、右鎌神柱を攻撃表示で召喚! 右鎌神柱の効果、このカードは召喚された時、守備表示になります。私は右鎌神柱を守備表示に変更。

 私が召喚した妖仙獣は三体。修験の妖社に置かれた妖仙カウンターは三つ。私は三つのカウンターを取り除いて修験の妖社の効果を発動! 自分のデッキまたは墓地から『妖仙獣』と名のつくカードを一枚手札に加える。私は鎌参太刀をサーチするね」

 

 

【修験の妖社】

永続魔法カード

「修験の妖社」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、

「妖仙獣」モンスターが召喚・特殊召喚される度に、

このカードに妖仙カウンターを1つ置く。

(2):このカードの妖仙カウンターを任意の個数取り除いて発動できる。

取り除いた数によって以下の効果を適用する。

●1つ:自分フィールドの「妖仙獣」モンスターの攻撃力は

ターン終了時まで300アップする。

●3つ:自分のデッキ・墓地から「妖仙獣」カード1枚を選んで手札に加える。

 

 

【妖仙獣 鎌壱太刀】

風属性 ☆4 獣戦士族

攻撃力1600

守備力500

(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。

手札から「妖仙獣 鎌壱太刀」以外の「妖仙獣」モンスター1体を召喚する。

(2):このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、

自分フィールドにこのカード以外の

「妖仙獣」モンスターが存在する場合に

相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを持ち主の手札に戻す。

(3):このカードを召喚したターンのエンドフェイズに発動する。

このカードを持ち主の手札に戻す。

 

 

【妖仙獣 鎌弐太刀】

風属性 ☆4 獣戦士族

攻撃力1800

守備力200

(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。

手札から「妖仙獣 鎌弐太刀」以外の「妖仙獣」モンスター1体を召喚する。

(2):このカードは直接攻撃できる。

その戦闘によって相手に与える戦闘ダメージは半分になる。

(3):このカードを召喚したターンのエンドフェイズに発動する。

このカードを持ち主の手札に戻す。

 

 

【妖仙獣 鎌参太刀】

風属性 ☆4 獣戦士族

攻撃力1500

守備力800

「妖仙獣 鎌参太刀」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。

手札から「妖仙獣 鎌参太刀」以外の「妖仙獣」モンスター1体を召喚する。

(2):このカード以外の自分の「妖仙獣」モンスターが相手に戦闘ダメージを与えた時に発動できる。

デッキから「妖仙獣 鎌参太刀」以外の「妖仙獣」カード1枚を手札に加える。

(3):このカードを召喚したターンのエンドフェイズに発動する。

このカードを持ち主の手札に戻す。

 

 

【妖仙獣 右鎌神柱】

風属性 ☆4 岩石族

攻撃力0

守備力2100

(1):このカードが召喚に成功した場合に発動する。

このカードを守備表示にする。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、

相手は他の「妖仙獣」モンスターを攻撃対象にできない。

 

 

 鎌鼬というのは日本に古くから伝わる怪異の一種、妖怪の一つだ。

 一説によれば鎌鼬は三人兄弟で最初の鼬が棍棒で人を倒し、次の鼬が刃物で人を斬りつけるが、最後の鼬がすかさず薬を塗るので大事になることはないのだという。嵐や雷など自然現象が神とされる例は多く存在するが、鎌鼬はつむじ風が妖怪化したものといえる。

 ブラック・マジシャン・ガールの召喚した鎌鼬達も恐らくはそれをモチーフにしたモンスターなのだろう。日本の伝承を元にした風流なモンスターだ。――――と、いつもなら思ったのだろう。

 だが相手が相手なだけに一言言わなければ気が済まない。

 

「ま、待て待て待て! お前はブラック・マジシャン・ガールだろう! ブラック・マジシャン・ガールはどうした!?」

 

「え? 入ってないよ」

 

 あっけからんとブラック・マジシャン・ガールは言ってのける。

 別にブラック・マジシャン・ガールの精霊だから、デッキにブラック・マジシャン・ガールを入れなければならないなんていうルールはない。なのでルール上は問題ないのだが、果たしてこれは如何なものなのだろうか。

 

「さっきまで使っていたデッキは?」

 

「デュエルを始める前に入れ替えたんだ。魔法使い族と全然関係ないデッキの方が対策されなくて良いかなって」

 

(…………り、リアリストだ)

 

 天を仰ぐ。ブラック・マジシャン・ガールに苦手意識を持った自分は間違っていなかった。

 ショタコンほどではないが、ブラック・マジシャン・ガールが丈の中でBランクの危険人物に認定された瞬間だった。

 

「私はカードを二枚伏せてターンエンド。召喚された鎌壱太刀と鎌弐太刀はエンドフェイズに手札に戻る」

 

 




 というわけでブラマジガールがトライブ・フォースの販促し始めました。
 それとどうでもいいことですが、てっきりZEXALはシンクロじゃなくてエクシーズが開発されたGXから分岐した世界なのだと思ってましたが、最近のARC-Vの展開的に5D's、ZEXAL、ARC-Vで全て別世界疑惑が高まってきたような気がします。
 あと融合、シンクロ、エクシーズの世界があるのに、儀式召喚の世界がないのはどういうことなのか……。


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第152話  仮面の英雄

宍戸丈 LP4000 手札5枚

場  

伏せ

魔法 

 

BMG(ブラック・マジシャン・ガール) LP4000 手札3枚

場 妖仙獣 右鎌神柱

伏せ 二枚

魔法 炎舞-「天璣」、修験の妖社

 

 

 

 二体の鎌鼬が手札に戻り、ブラック・マジシャン・ガールのフィールドのモンスターは右鎌神柱だけとなったが、状況は予断を許してはくれない。

 手札にある限り自身の効果で鎌鼬モンスターは何度でも大量展開が可能だ。そして次のターンになれば確実にブラック・マジシャン・ガールは鎌鼬三体を並べてくるだろう。そうなれば修験の妖社にまた妖仙カウンターが溜まり、新たにデッキから『妖仙獣』と名のつくカードをサーチしてしまう。

 宍戸丈を倒すために構築してきた――――というのは伊達ではなく非常に面倒なデッキだった。

 しかし丈とて四天王の一角。帰還早々に後輩達の前で無様を晒すわけにもいかない。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 ブラック・マジシャン・ガールの伏せた二枚のカードは気になるが、臆してターンを譲ればどんどん不利になっていくだけ。

 ならばリスクを覚悟しても臆さず攻めるのがデュエリストというものだ。

 

「強欲な壺で二枚ドロー。手札からE-エマージェンシーコールを発動。デッキよりE・HEROシャドー・ミストを手札に加える。そしてE・HEROブレイズマンを攻撃表示で召喚する」

 

 

【E・HEROブレイズマン】

炎属性 ☆4 戦士族

攻撃力1200

守備力1800

「E・HERO ブレイズマン」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、

いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。

デッキから「融合」1枚を手札に加える。

(2):自分メインフェイズに発動できる。

デッキから「E・HERO ブレイズマン」以外の

「E・HERO」モンスター1体を墓地へ送る。

このカードはターン終了時まで、

この効果で墓地へ送ったモンスターと同じ属性・攻撃力・守備力になる。

この効果の発動後、ターン終了時まで自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

 

【E・HEROシャドー・ミスト】

闇属性 ☆4 戦士族

攻撃力1000

守備力1500

「E・HERO シャドー・ミスト」の(1)(2)の効果は

1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。

デッキから「チェンジ」速攻魔法カード1枚を手札に加える。

(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。

デッキから「E・HERO シャドー・ミスト」以外の

「HERO」モンスター1体を手札に加える。

 

 

 全身から灼熱の炎を放った戦士が、カードから勢いよく飛び出してかと思うと、身体をくるりと回転させながら綺麗に地面に着地する。もしこれが運動の競技であれば、思わず満点を出していた見事な着地だった。

 ブレイズマンの攻撃力はたった1200。レベル4の下級モンスターとしては弱い部類である。しかしブレイズマンにはそれを補って余りある能力があるのだ。

 

「ブレイズマンのモンスター効果。メインフェイズにブレイズマン以外のE・HEROを墓地へ送ることで、ブレイズマンはターン終了時まで、墓地へ送ったモンスターと同じ攻撃力・守備力・属性となる! 俺が墓地へ送るのはE・HEROシャドー・ミスト!

 そして墓地へ送ったシャドー・ミストのモンスター効果。このカードが墓地へ送られた時、シャドー・ミスト以外のE・HEROを手札に加える。俺はエアーマンを手札に」

 

 ブレイズマンの特殊能力は非常に優秀だが、二番目の効果を使ったターン、融合モンスター以外特殊召喚できないというデメリットがある。

 なので丈は『融合』を使って、HEROらしく融合召喚で畳み掛けていく。

 

「魔法カード、融合を発動! 手札のシャドー・ミストとE・HEROオーシャンを手札融合! E・HEROアブソルートZeroを――――」

 

「そうはさせません! 永続罠、融合禁止エリア!」

 

「………………………………………………………………………………………………は?」

 

 

【融合禁止エリア】

永続罠カード

お互いのプレイヤーは融合召喚する事ができない。

 

 

 ブラック・マジシャン・ガールの発動したカードを中心に発生した意味不明の力場が、オーシャンとシャドー・ミストの融合を阻害する。

 融合に失敗した二体のHEROは手札に戻り、融合カードは呆気なく墓地へ送られていった。

 

「融合のメタカード……だと……?」

 

「本当はマクロコスモスと虚無空間を入れたかったんだけど、持ってなかったから代わりに、ね。マスターがラッキーカードだって言ってたし。これで融合召喚は出来ないよ、宍戸君!」

 

(遊戯さん、なにしてくれてるんですか)

 

 柔和な笑みを浮かべながら、ブラック・マジシャン・ガールに融合禁止エリアを渡す決闘王を思い浮かべて、心の中で怒りの念を送る。

 もっとも三幻神を筆頭とした最強クラスの精霊に囲われているあの人に、怒りの念を送った程度でどうこうすることはできないだろうが。

 

「…………」

 

 十代と同じように丈のHEROデッキの基礎となる戦術も融合だ。手札融合、墓地融合、除外融合。それら全てが封じられるというのは大きすぎる痛手である。

 しかも運の悪いことに、丈の手札の中に融合以外で攻めにいけるカードは存在しない。

 

「カードを三枚伏せる。ターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー! 私は鎌壱太刀を召喚、続いて効果で鎌弐太刀を召喚! そして鎌弐太刀の効果で鎌参太刀を召喚。鎌参太刀のモンスター効果、このカードが召喚された時、手札の妖仙獣を召喚する。私は二枚目の右鎌神柱を召喚!

 右鎌神柱は自身の効果で守備表示になります。さらに右鎌神柱はモンスターゾーンに存在する限り、相手は他の妖仙獣を攻撃対象にできない。私の場に二体の右鎌神柱が並んだことで、攻撃は完全に封じたよ」

 

「また面倒なコンボを」

 

 地味に十代相手にやったマジシャンズ・ヴァルキリアのロックと同じコンボだ。

 融合に加えて攻撃まで封じられたわけだが、ここまで封じられると焦るを通り越して笑いすら出てこない。

 

「だが俺もそう易々とコンボを許すほどマグロじゃないぞ。右鎌神柱が召喚された時に罠を発動。激流葬! フィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

「させないよ! カウンター罠、妖仙獣の秘技!」

 

 

【妖仙獣の秘技】

カウンター罠カード

(1):自分フィールドに「妖仙獣」カードが存在し、

自分のモンスターゾーンに「妖仙獣」モンスター以外の表側表示モンスターが存在しない場合、

モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動できる。

その発動を無効にし破壊する。

 

 

「自分フィールド上に妖仙獣以外のモンスターが存在しない場合、モンスター効果・魔法・罠カードの発動を無効にして破壊する。私は激流葬の効果を無効! これで私のモンスターは破壊されないよ」

 

「抜け目がない」

 

 決まれば起死回生の一手となった激流葬も無効化され、流石の丈も少しばかり落ち込む。

 目を向けるのは妖仙カウンターが四つ置かれた修験の妖社。そしてカウンター罠、妖仙獣の秘技にはしっかりと『妖仙獣』の三文字がついている。

 これだけでブラック・マジシャン・ガールがなにをしてくるのか予想がつくというものだ。

 

「修験の妖社の効果発動! 妖仙カウンターを三つ取り除いて墓地から妖仙獣の秘技を手札に加える! 鎌壱太刀のモンスター効果。このカード以外の妖仙獣がいる時、相手フィールド上の表側表示のカードを手札に戻す。私はブレイズマンを手札に戻すよ」

 

 ブレイズマンの炎が烈風にかき消され、丈の手札に戻ってくる。これで丈のモンスターカードゾーンから全てのモンスターが消えた。

 

「鎌壱太刀で丈くんを直接攻撃、壱の太刀!」

 

「ライフで受ける!」

 

 宍戸丈LP4000→2300

 

 丈の体を切り裂いていくつむじ風。

 鎌壱太刀の攻撃力1600に永続魔法でプラス100された1700ポイントが、丈のライフより削られた。

 

「鎌参太刀のモンスター効果。このカード以外の妖仙獣が戦闘ダメージを与えた場合、デッキより妖仙獣を一枚サーチする。私は二枚目の妖仙獣の秘技をサーチ!

 続いて鎌弐太刀で丈くんへの直接攻撃! 弐の太刀!」

 

「やらせはしない。罠発動、ガード・ブロック。戦闘ダメージを0にしてカードを一枚ドローする」

 

「だけど鎌参太刀の攻撃が残ってるよ。鎌参太刀の攻撃、参の太刀!」

 

「……!」

 

 宍戸丈LP2300→700

 

 弐度目のつむじ風に、丈のライフが遂に1000をきってしまった。

 会場中から男子生徒を中心としたブラック・マジシャン・ガールファンの生徒たちからの歓声があがり、女生徒や中等部からの進学組を中心とした魔王ファンの生徒からの悲鳴があがった。

 

『こ、これは大変なことになってしまったぞ! 〝魔王〟宍戸丈VSブラマジガールのエキシビジョンマッチ。先制したのはブラック・マジシャン・ガールだぁあッ! しかも宍戸選手のライフは700ポイントまで削られ絶体絶命! このままやられてしまうのか!?』

 

『いや宍戸さんには五枚の手札がある。あれだけあれば逆転は不可能じゃない。問題はブラック・マジシャン・ガールの手札にある二枚の妖仙獣の秘技をどうするか、だが』

 

 実況兼司会進行役の翔と、解説の万丈目のコメントが的確過ぎて泣けてくる。

 しかしただ一方的にやられるほど宍戸丈は腑抜けてはいない。

 

「私はリバースカードを二枚セット。これで私はターンエンド。エンドフェイズ時、三体の鼬は自身の効果で手札に戻る」

 

「今だ。エンドフェイズ時、リバースカードオープン、心鎮壷! フィールドに伏せられた魔法・罠カードを発動できなくする!」

 

「なっ!」

 

 

【心鎮壷】

永続罠カード

フィールド上にセットされた魔法・罠カードを2枚選択して発動する。

このカードがフィールド上に存在する限り、

選択された魔法・罠カードは発動できない。

 

 

 ブラック・マジシャン・ガールのリバースした二枚のカウンター罠、妖仙獣の秘技が封印されていく。

 さしものカウンター罠も罠である以上はセットされたターンは無力だ。

 

「むぅ。折角サーチしたのに」

 

「これで妖仙獣の秘技二枚はただのハリボテだ。俺のターン、ドロー」

 

 前のターンの猛攻で『妖仙獣』がどれほど厄介な強さをもっているかは身に染みて理解できた。

 このデュエル、迂闊に相手にターンを回した方が負ける。

 

(ならば――――)

 

 もはやブラック・マジシャン・ガールにターンは譲らない。このターンの内に完膚なきまでにブラック・マジシャン・ガールのライフを消し飛ばす。

 それが自らを勝利へ導く最も冴えたやり方だ。

 

「手札抹殺を発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数分だけカードをドローする! 俺は五枚捨てて五枚ドロー。さらにシャドー・ミストのモンスター効果により、デッキからE・HEROオーシャンを手札に加える!

 手札に加えたE・HEROオーシャンを通常召喚。更に手札より速攻魔法、マスク・チェンジを発動。変身召喚、現れろ! M・HEROアシッド!」

 

 

【M・HEROアシッド】

水属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2100

このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し、

相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。

 

 

「どうして……? 融合禁止エリアがある限り融合召喚は出来ないはずなのに」

 

「残念だったな。マスク・チェンジはモンスターを墓地へ送ることで、融合デッキからモンスターを〝特殊召喚〟するカード。融合禁止エリアの管轄外だ。

 そしてM・HEROアシッドのモンスター効果。このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠を全て破壊する。消え失せろ、邪魔な永続罠!」

 

「うわあああああああ!」

 

 フィールドに発生した津波が、発動していた融合禁止エリアと修験の妖社を呑み込んでいく。

 融合禁止エリアが破壊され墓地へ送られたことで、漸く『融合召喚』が解禁となった。

 

「だ、だけど私の場には二体の右鎌神柱が――――」

 

「とんだロマンチストだな。お前に次のターンは廻ってこない。俺に融合召喚を許した時点でお前の敗北は不可避だ!

 ミラクル・フュージョンを発動。墓地のオーシャンとスパークマンを除外し、E・HEROアブソルートZeroを融合召喚。そして速攻魔法、フォーム・チェンジを発動!

 フォーム・チェンジは自分フィールドの融合HEROを対象として選択として発動。そのモンスターと同じレベルでカード名の異なる『M・HERO』を特殊召喚する!

 アブソルートZeroを水から風へフォームチェンジ! 変身召喚Ver2。勝利の神風を巻き起こせ! M・HEROカミカゼを攻撃表示で特殊召喚!」

 

 

【フォーム・チェンジ】

速攻魔法カード

(1):自分フィールドの「HERO」融合モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターをエクストラデッキへ戻し、

そのモンスターの元々のレベルと同じレベルでカード名が異なる

「M・HERO」モンスター1体を、

「マスク・チェンジ」による特殊召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

【M・HEROカミカゼ】

風属性 ☆8 戦士族

攻撃力2700

守備力1900

このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

(1):このカードは戦闘では破壊されない。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、

相手はバトルフェイズにモンスター1体でしか攻撃できない。

(3):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。

自分はデッキから1枚ドローする。

 

 

 フィールドに吹き荒れるカミカゼ。白いマントをなびかせて、森よりも深い緑のHEROがフィールドに降り立った。

 並び立つ風と水の仮面ヒーロー。これで混沌を象徴するHEROを召喚できるようになったが、今はアレを出す必要はない。

 

「アブソルートZeroのモンスター効果は知っているな? Zeroがフィールドを離れた時、相手フィールドのモンスターを全て破壊する」

 

 二体の右鎌神柱が氷漬けとなって砕け散る。

 壁モンスターが消滅したことで、ブラック・マジシャン・ガールのフィールドにモンスターはゼロ。もう風と水の二重奏を阻める者はいない。

 

「バトルフェイズ。二体のM・HEROで直接攻撃、M・HERO DOUBLE ATTACK!!」

 

「きゃぁああああああああああ!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールLP4000→0

 

 風と水がブラック・マジシャン・ガールのライフを根こそぎ奪い尽くす。

 相手ライフをゼロにしたことでデュエルディスクが宍戸丈の勝利を告げた。

 

『決着ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』

 

『やはり逆転してきたか。それにしても宍戸さんのHEROデッキ、また更に磨きをかけてきたな……』

 

 一時はどうなるかと思ったが、どうにか後輩たちの目の前で恥をかかずに済んだようだ。

 二体のHEROに吹っ飛ばされてい尻もちをついたブラック・マジシャン・ガールは、ゆっくりと起き上がると、

 

「あいたたたた。負けちゃったかぁ、やっぱり強いね、宍戸君」

 

「こちらの台詞だ、それは」

 

 

 

 

「遊戯さんはなんて?」

 

 コスプレデュエル大会が終わった後、丈とブラック・マジシャン・ガールは喧騒から離れた森の中で密会していた。

 密会というと男と女同士ということもあってアブノーマルな臭いがプンプンするが、丈とブラック・マジシャン・ガールにそういった意図はまったくない。

 こうして誰にも聞かれない場所で話しているのは、話題が別の意味でアブノーマルなものだからだ。

 

「セブンスターズの件は十代くんに任せておけば大丈夫だろうから、自分は手を出さないでおくって。本当に危険な時は駆け付けるって言ってたけど、そういう万が一の場合は丈くんもいるから大丈夫だよね」

 

「キング・オブ・デュエリストに信頼されるなんて光栄だな。ああ、精々信頼に応えるよう努力するさ。遊戯さんにはなにかと世話になったからな」

 

 神のカードの所有者の先輩である武藤遊戯のアドバイスは、邪神の所有者である丈にとって大きな助けになった。

 それにネオ・グールズの事件でも影で助けてくれていたそうであるし、宍戸丈にとって武藤遊戯は頭の上がらない大先輩だった。

 

「それともう一つ。バクラのことだが――――」

 

「獏良くん……ううん、大邪神ゾークの分霊。盗賊王の……バクラ、だね」

 

 三邪神を取り戻し解決に終わったネオ・グールズ事件。だがしかし事件は未だ真の意味で終わりを迎えてはいない。

 事件の元凶となったバクラの魂。一時は完全復活しかけた彼は、邪神の制御が丈に奪われたことで肉体が崩壊。デュエルから逃走したまま行方知らずだ。

 

「マスターも海馬コーポレーションの人とか、マリクくんとかと協力して世界中を探し回っているんだけどね。まだ足取りは全然掴めてないんだ。ごめんね」

 

「謝る必要はない。元々俺の迂闊が招いたことだ」

 

 あのバクラがただ逃げているだけとは考えられない。確実に復活のため暗躍しているはずだ。案外セブンスターズの事件にもなんらかの形で関わっているかもしれない。

 バクラを見つけ出し倒す。それはあの時、バクラを逃がしてしまった丈がやらねばならない役目だ。

 

「あ。そうそう、これはマスターから」

 

 ブラック・マジシャン・ガールが二枚のカードを渡してくる。カードを受け取った丈は、その二枚に視線を落として目を見開いた。

 

「……これは?」

 

 デュエリストであればその二枚を知らない筈がない。ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガール。武藤遊戯のエースモンスター達だ。

 問題なのはブラック・マジシャン・ガールを経由して、武藤遊戯がその二枚を宍戸丈に渡してきたという意味である。

 

「もしもなにかあったら、このカードに強く念じてね。私かお師匠様の魔力で届く範囲内ならマスターに通じるから」

 

「ケータイで良いのではないのか?」

 

「それが出来たらいいんだけどねぇ。マスターは一年の80%くらいは電波の通じない場所にいるし。異世界とか平行世界とか異次元とか」

 

「なにしてるんだ遊戯さん」

 

 ナチュラルに異世界やら平行世界なんて単語が出るあたり、あの人も大概にして人間を止めている。決闘王・武藤遊戯の武者修行を追うだけで長編映画が五本は作れそうだ。

 

「だが自分のエースカードを他人に渡して、遊戯さんのデッキは大丈夫なのか?」

 

「うん。この二枚はマスターが元々持っていたカードじゃなくて、新しくパックで当てたものだからね」

 

 あっさり言ってくれるがブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールの二枚をパックで当てるなど、砂漠から一粒のダイヤを見つけるようなものだ。

 決闘王はデュエル外でも決闘王ということなのだろう。デュエルモンスターズの頂点は伊達ではない。

 

「ありがとう。もしバクラの足取りが掴めたら知らせてくれ。遊戯さんに宜しく頼む」

 

「うん。じゃあね、丈くん。大変だと思うけど……頑張って」

 

 最後にエールを送って、ブラック・マジシャン・ガールの姿が掻き消える。自分の所有者の下へと戻っていったのだろう。

 キング・オブ・デュエリストに期待をかけられているのならば、丈もうかうかとはしていられない。手始めに残り一人のセブンスターズから対処することにしよう。

 丈はデュエルディスクにデッキをセットして、森の深くへ消えていった。

 

 




紫雲院素良→融合、黒咲隼→エクシーズ、赤馬零児→ペンデュラムという感じにARC-Vには召喚方法に因んだ色を冠するキャラが多数登場しています。
ということは5D'sに登場した青山光平→儀式という可能性が微レ存……。


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第153話  埋伏の毒

 裏切りとは志を同じくした仲間だったにも拘らず、敵方に組する事を言う。

 信頼、忠誠、結束、友情。そういった言葉は常に人々により賛美されてきたし、それらと対極に位置する『裏切り』という所業は唾棄すべきものだろう。

 しかしどれだけ道徳が戒めようと、この世のあらゆる悪行が消えないのと同じように、人間社会から『裏切り』という行為がなくなることはない。愛と友情の二律背反、義理と人情との板挟み、単なる利害。時として人間は様々な理由で、仲間を裏切り敵側に寝返る。

 けれどそういう観点で言えば大徳寺という名で教師をしていた男――――セブンスターズのアムナエルは裏切り者ではない。

 裏切り者が味方だったにも拘らず敵となった者の忌み名であるのならば、最初から敵だった者は裏切り者ですらない。ただ単に元の形へと回帰しただけだ。

 アカデミアの校舎がある場所から離れた森の奥深く。そこに灰色のローブに身を包んだ男がいた。

 ともすれば絵物語の魔法使いにすら見える格好をした男。そのイメージはなにも間違っていない。

 彼は錬金術師。科学をもって、神秘(オカルト)を手繰る真理の探求者だ。

 

『――――アムナエル、もう猶予はないぞ』

 

「すまないな。これも私の不手際だ」

 

 モニターに映る老人に、アムナエルは謝意を述べる。だがその声の性質はまったくの無色。何の色も宿ってはいない。表情も黒い仮面のせいで伺い知ることはできなかった。

 長年の友人の淡白は反応に、モニターの老人が眉を潜める。しかし老人にも友情を感じる心くらいは残っていたのか、敢えて追求してくることはなかった。

 

『まぁいい。あのタイミングで宍戸丈が駆け付けるのは私にとっても想定外だった。お前を責めても仕方がない。第一残るセブンスターズはお前だけだからな』

 

「…………感謝する」

 

『一人一殺、そう言えていた時期が懐かしい。アムナエルよ、我が旧い友人よ。期待しないで聞くが、残る鍵の守護者をお前一人で倒すのは可能か?』

 

「無理だ」

 

 錬金術師とは真理の探究者である。よって老人の問いかけに対して、アムナエルは冷徹なる真実のみを即答した。

 

「一人二人くらいならば私一人でどうにでもしてみせよう。しかし宍戸丈と丸藤亮。四天王二人を倒すのは余りにも分が悪い。あの二人を倒すのならば、せめて三幻魔がなければ不可能だ」

 

『無茶を言う』

 

 鍵の守護者との戦いは、三幻魔復活のためのものだ。なのに鍵の守護者に勝つのに三幻魔が必要では、まるでどうしようもない。これにはモニターの老人も苦笑する。

 

『だが私はお前に新たな無茶を言わねばならん。天上院吹雪と藤原優介の二人が留学期間を終えてアカデミアに戻って来ようとしている。後一週間の内に二人が帰還するだろう。四天王が揃えば手遅れになるぞ。特に藤原優介の精霊は厄介だからな』

 

「承知している。私もそろそろ――――っ! 誰だ!」

 

 背後に敵の気配を感じたアムナエルは、咄嗟に証拠品であるモニターを蹴り飛ばし破壊すると、ヘリオス・トリス・メギストスのカードを投げつける。

 手裏剣のように高速回転をしながら飛んだカードが、敵の潜んでいた木々を切断した。けれど敵の気配は既に大地を離れ上空へ。

 アムナエルは空気中の酸素を燃料に、炎を錬金させると上空にいる敵に放射する。

 夜の闇を切り裂くように、敵へと迫る炎の大斧。

 パチパチと火花を撒き散らせながら、暗闇を照らす様は実に幻想的だった。ただしその威力は決して幻想などではない。虎一人を焼き尽くすだけの火力をもった必殺だ。

 地面から両足を離して跳躍した襲撃者に、この炎を回避する術はない。だが、

 

「カオス・ソルジャーの攻撃、開闢双破斬!」

 

 迎撃の術はあった。

 混沌を切り裂く剣士にとって、アムナエルの錬金した炎など豆腐同然。召喚されたカオス・ソルジャーが炎を真っ二つに両断した。

 

「カオス・ソルジャー、か。ということは――――」

 

 アムナエルは襲撃者の正体を悟る。

 カオス・ソルジャー -開闢の使者-はブルーアイズと同じく、その余りの強さから四枚で生産ストップされたという曰くをもつカードだ。

 そして四人の所有者のうちの一人こそが宍戸丈。NDLでも三本の指に入る〝魔王〟だ。

 

 

 

 

 アカデミアに放っていたカオス・ソルジャーから、大徳寺教諭と思わしき人物を発見したという報告が届いたのが一時間前。

 深夜2時に学生寮を抜け出すという素行違反を行い、三十分ほど森を駆け回り、漸く大徳寺教諭を追い詰めることができた。

 

「大徳寺先生。いやセブンスターズ最後の一人、錬金術師アムナエル。貴方に七星門の守護をかけたデュエルを挑ませて貰う。デュエルディスクを構えろ」

 

「……相変わらず厄介な生徒だよ、君は。否、君達は。常に私達の予想を上回ってくる」

 

「教師の期待に応えるのが優等生というものだろう」

 

「君たちは応え過ぎなのだよ。さて、私としては君とのデュエルは遠慮願いたいな。私には君と戦う前にやらねばならぬことがある」

 

「やらねばならぬこと……?」

 

「宍戸丈。念の為に聞いておくが、デュエルを断ったらどうするつもりだ?」

 

「その時は仕方ない。戦いが荒っぽくなるな」

 

 実体化したカオス・ソルジャーに、バルバロスを始めとした精霊たち。アムナエルが錬金術を駆使してこようと、くれだけの精霊たちが味方してくれるのならば遅れをとることはないだろう。

 アムナエルも丈の背後にいる精霊たちには気付いているのか肩を竦めると苦笑いを浮かべる。

 

「生憎と私は錬金術師、つまるところ学者だ。そういう戦いは遠慮しよう。となるとやはり決着をつけるしかないな……デュエルで!」

 

「…………出来れば俺の考えすぎであって欲しかったよ、大徳寺教諭。だがこうなった以上、貴方には人知れずここで退場して貰う。十代達には貴方は『転勤』したと伝えておこう」

 

「もう勝ったつもりか? 舐めるなよ、宍戸丈。私とて錬金を極めし男。驕っているのならば足元を掬うぞ」

 

「絶対に勝つという意思表示だよ」

 

 月明かりの下で魔王と錬金術師が相対する。宍戸丈は必殺の『意志』を込めて、暗黒界デッキをデュエルディスクに装填した。

 アムナエルがパチンと指を鳴らす。すると彼の腕からデッキをセットしたデュエルディスクが出現する。そしてお互いのデュエルディスクに4000の数字が浮かび上がった。

 

「「デュエル!」」

 

 デュエルディスクが示した先攻デュエリストはアムナエル。

 亮のサイバー流を除外すれば、デュエルモンスターズは先攻が絶対有利。これをとられたのは惜しい。

 

「私の先攻、ドロー。モンスターを裏側守備表示でセット、リバースカードを二枚セット。ターン終了だ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

 特待生寮の寮長だった大徳寺教諭との付き合いは長い。だが大徳寺教諭とデュエルしたことはなかったので、アムナエルがどういうデッキを使うのかは不明だ。

 だが相手のデッキが未知だからといって臆病風に吹かれていても仕方がない。

 

「フィールド魔法、暗黒界の門を発動。フィールド上の悪魔族モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。さらに手札抹殺を発動。互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数分だけカードをドローする! 俺は四枚のカードを――――」

 

「そうくることは読んでいた。手札抹殺にチェーンして永続罠、マクロコスモスを発動する」

 

 

【マクロコスモス】

永続罠カード

このカードの発動時に、手札・デッキから「原始太陽ヘリオス」1体を特殊召喚できる。

また、このカードがフィールド上に存在する限り、

墓地へ送られるカードは墓地へは行かずゲームから除外される。

 

 

「このカードがフィールド上に存在する限り、墓地へ送られるカードはゲームより除外される……。暗黒界は手札から墓地へ送ることで真価を発揮するカテゴリー。除外されれば破壊力は一気に衰える」

 

「――!」

 

 寮長として伊達に自分達のデュエルを観察してきたわけではないらしい。暗黒界が除外に弱いこと程度は御見通しのようだった。

 だがむざむざ除外されることを良しとするほど宍戸丈は諦めが良くはない。

 

「マクロコスモスの発動に更にチェーンしてサイクロンを発動! マクロコスモスを破壊し、その効果を無効にする!」

 

「それも読んでいたぞ。私も更にチェーンする。永続罠、宮廷のしきたり」

 

 

【宮廷のしきたり】

永続罠カード

このカードがフィールド上に存在する限り、

お互いのプレイヤーは「宮廷のしきたり」以外の

フィールド上に表側表示で存在する永続罠カードを破壊できない。

「宮廷のしきたり」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

 

「宮廷のしきたりの効果で、このカードが存在する限り永続罠カードを破壊することは不可能。よってサイクロンは無意味となる」

 

 マクロコスモスのカードに飛んでいったサイクロンは、宮廷のしきたりの守護に弾き飛ばされて掻き消える。

 しかもサイクロンが無効になったことでマクロコスモスの効果も有効となってしまった。

 

「……俺は三枚のカードを除外し、三枚ドローする」

 

「私は三枚除外し三枚ドローだ」

 

「暗黒界の尖兵ベージを攻撃表示で召喚。バトルフェイズ、尖兵ベージでリバースモンスターに攻撃!」

 

「フッ。私の伏せていたモンスターは異次元の女戦士だ」

 

 

【暗黒界の尖兵ベージ】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1600

守備力1300

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

【異次元の女戦士】

光属性 ☆4 戦士族

攻撃力1500

守備力1600

このカードが相手モンスターと戦闘を行った時、

そのモンスターとこのカードをゲームから除外できる。

 

 

 暗黒界の門で攻撃力1900となったベージが、異次元の女戦士を突き殺す。だがその瞬間に発生した異次元へのゲートに、異次元の女戦士諸共に呑まれていった。

 

「……カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

 

 流石の丈もこれ以上、攻めることは手札的に不可能である。

 ブラフのリバースカードを伏せ、大人しくターンを終わらせた。



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第154話  裏切り者

宍戸丈 LP4000 手札1枚

場 無し 

伏せ 一枚

 

アムナエル LP4000 手札3枚

場 無し

伏せ 無し

魔法 無し

罠 マクロコスモス、宮廷のしきたり

 

 

 

 墓地利用を封じて、カードの悉くを除外させる効果をもつマクロコスモス。このカードを採用しているということは、アムナエルのデッキは『除外』でほぼ間違いはない。

 しかし一口に『除外』と言っても、その系統は様々だ。以前に丈が交戦したのは、異次元の生還者による除外ゾーンからの生還効果を最大限活用して、帝モンスターなどを次々に生け贄召喚していくタイプ。あの時は最終的には逆転勝利したものの、苦しい立ち上がりを強いられたので良く覚えている。

 科学をもって神秘を手繰る真理の探究者――――錬金術師。

 千年アイテムをこの世に齎したモノと同種の魔術の担い手は、果たしてどんなデッキを使うのか。不謹慎ながら少しだけ期待している自分がいた。

 

「私のターンだ、カードをドローする。感謝する、君が手札抹殺を発動してくれたお蔭で良いカードを引き込むことができた。永続魔法、魂吸収を発動。カードがゲームより除外される度に、私は500ポイントのライフを回復する」

 

「500ポイント……」

 

 

【魂吸収】

永続魔法カード

このカードのコントローラーはカードがゲームから除外される度に、

1枚につき500ライフポイント回復する。

 

 

 たったの500ポイントと侮ることはできない。一枚ごとに500ポイントなら、十枚除外されれば回復値は5000ポイント。一度のデュエルに二人合わせて合計二十枚のカードが墓地へ送られると仮定すると、アムナエルは10000ポイントのライフを回復することになる。

 ライフをどれだけ回復してもデュエルに勝利できるわけではないが、ライフアドバンテージが広がるということは、勝利が遠くなることと同義だ。

 

「面倒なカードを使ってくれる……」

 

「その台詞は少し早いぞ。私は封印の黄金櫃を発動する」

 

 

【封印の黄金櫃】

通常魔法カード

自分のデッキからカードを1枚選択し、ゲームから除外する。

発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にそのカードを手札に加える。

 

 ウジャト眼の刻まれた黄金の棺がフィールドに出現する。アムナエルはデッキよりカードを一枚抜き取ると、そのカードを黄金櫃へと入れた。

 

「封印の黄金櫃は自身のデッキよりカードを一枚除外し、2ターン後のエンドフェイズに手札に加えるカード。私が除外したカードはネクロフェイス!」

 

「ネクロフェイス、ということは!?」

 

「その通り。ネクロフェイスのモンスター効果、このカードが除外された場合、互いのプレイヤーはデッキの上から五枚をゲームより除外する!」

 

 

【ネクロフェイス】

闇属性 ☆4 アンデット族

攻撃力1200

守備力1800

このカードが召喚に成功した時、

ゲームから除外されているカード全てをデッキに戻してシャッフルする。

このカードの攻撃力は、この効果でデッキに戻したカードの枚数×100ポイントアップする。

このカードがゲームから除外された時、

お互いはデッキの上からカードを5枚ゲームから除外する。

 

 

 丈とアムナエルのデッキから除外される五枚のカード。

 ネクロフェイスはその効果からデッキ破壊デッキに採用されることの多いカードだが、魂吸収の影響下では事はそれだけで終わりはしない。

 

「魂吸収の効果。私はネクロフェイスの効果で除外された十枚、ネクロフェイスと黄金櫃の二枚。合計十二枚分のライフを回復する」

 

 アムナエルLP4000→10000

 

 12×500で回復値はジャスト6000ポイント。3ターン目にしてアムナエルのライフは10000の大台にのってしまった。

 パワー・ボンドで召喚された亮のサイバー・エンド・ドラゴンでも、一撃では削り切ることの出来ない数値である。

 

(いや亮ならリミッター解除を使って普通に削り切って来るな)

 

 友人の叩き出す馬鹿げた火力を思い出して丈は嘆息する。だがお蔭で少し気が楽になった。

 ライフ10000などはどうということはない。自分はもっと絶望的な状況をプロリーグで勝ち抜いてきたのだ。この程度のことは危機にも値しない。

 

「この程度では魔王の意志に傷一つつけられんか。私はモンスターをセット、リバースカードを一枚伏せターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

 丈としてはマクロコスモスを消し去り、除外地獄から一刻も早く抜け出したいところだ。けれど宮廷のしきたりが発動している限り、マクロコスモスを取り除くことは容易ではない。

 容易ではない除去を行うには、それなりの〝用意〟が必要だろう。

 

「モンスターを裏守備表示でセット。ターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー。私は裏守備表示のモンスターを反転召喚。私がセットしていたのはニードルワーム」

 

「!」

 

 

【ニードルワーム】

地属性 ☆2 昆虫族

攻撃力750

守備力600

リバース:相手のデッキの上からカードを5枚墓地へ捨てる。

 

 

 ネクロフェイスと同じくデッキ破壊デッキで見かけるカードの登場だ。

 裏側から表側になったことでニードルワームのリバース効果が起動する。本来それはデッキの上から五枚のカードを墓地へ捨てるというものだが、

 

「マクロコスモスが発動中のため墓地へはいかず除外して貰う。さらに私は魂吸収の効果で2500のライフを回復する」

 

 アムナエル10000→12500

 

 遂にライフポイントが8000以上も差がついてしまった。

 ネクロフェイスにニードルワーム、この二枚が投入されているということは、アムナエルはデッキ破壊の使い手と判断するべきなのだろう。だがなんとなく丈は引っ掛かりを覚えた。

 確かに状況証拠は揃っているのだが、どうにも喉元に魚の骨が刺さったような違和感がある。アムナエルのデッキはもっと危険な『爆弾』があると丈の直感が囁いていた。

 

「私はターンエンドだ。さぁ、君のターンだ」

 

「……俺のターン」

 

 カードをドローした丈は、そのドローカードを確認すると目を瞑った。

 次に目を向けるのはアムナエルが伏せている一枚のカード。まだ使ってこないことを考えると、あのカードの正体にも大体予想がつく。

 

「グラヴィティ・バインドか光の護封壁あたりか。そこに伏せているカードは」

 

「なんのことだ?」

 

 セブンスターズ最後の一人だけあって、露骨に態度に出すことはなかった。アムナエルは声色を一切変えずに聞き返してくる。

 それで十分。丈のとるべき戦術は決まった。

 

「俺はリバースカードを一枚セット、ターンエンドだ」

 

「……私のターン、ドロー。このターンのスタンバイフェイズ時、除外されていたネクロフェイスは私の手札に加わる」

 

 黄金櫃の蓋が開き、そこに封印されていたネクロフェイスがアムナエルの手札へ吸い込まれていった。

 ここまで除外しておいて態々ネクロフェイスを『召喚』して全て台無しにすることはしないだろう。アムナエルは確実に手札のネクロフェイスを除外してくる。

 丈は自分の予想が正しかったことを直ぐに悟ることになった。

 

「天使の施しを発動。カードを三枚ドローし二枚捨てる。私はネクロフェイスと異次元の偵察機を――――」

 

「その瞬間を待っていた! リバースカードオープン、王宮の鉄壁!」

 

「ッ!?」

 

 

【王宮の鉄壁】

永続罠カード

このカードがフィールド上に存在する限り、

お互いにカードをゲームから除外できない。

 

 

 自分のデッキの『天敵』たるカードだけあって、アムナエルは丈の発動したカードを知っているようだった。

 しかし丈は念のために説明する。

 

「王宮の鉄壁、このカードがフィールド上に存在する限り、互いにカードをゲームより除外することが出来なくなる。これにより天使の施しで捨てられたネクロフェイスと異次元の偵察機は墓地へ送られる。当然ネクロフェイスの効果も不発だ」

 

「くっ……! 何故そのようなカードを!」

 

「デュエルは一発限りのシングル戦。対策カードの対策カードを投入しておくのはプロの嗜みというものさ」

 

「……だが後一歩遅かったな。私はニードルワームを守備表示に変更。モンスターとカードを一枚ずつ伏せターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー」

 

「この瞬間、リバース発動! D.D.ダイナマイト! 相手が除外しているカードの数×300ポイントの数値を相手に与える!」

 

 

【D.D.ダイナマイト】

通常罠カード

相手が除外しているカードの数×300ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

 

 丈の除外ゾーンに置かれている17枚分に相当する、17個のダイナマイトがフィールドに現れる。あれの直撃を浴びれば丈は5100ポイントのダメージを浴びて敗北だ。

 ネクロフェイスやニードルワームでデッキ破壊を行いつつ、除外ゾーンにカードが溜まればD.D.ダイナマイトで高出力のバーンを行う。それがアムナエルの戦略だったのだろう。

 

「君やカイザー相手に力比べするのは分が悪いのでね。こういう戦法をとらせてもらった。これで私の勝ちだ、宍戸丈」

 

「それはどうかな。俺は手札からハネワタを捨てる。その効果によりこのターン自分が受ける効果ダメージはゼロとなる!」

 

「なんだと!?」

 

 

【ハネワタ】

光属性 ☆1 天使族 チューナー

攻撃力200

守備力300

このカードを手札から捨てて発動できる。

このターン自分が受ける効果ダメージを0にする。

この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

 ハネワタが弾けると、そこから溢れた光が丈を包み込む。D.D.ダイナマイトの爆風は、ハネワタの光に遮られて丈へは届かない。

 除外を封じ、効果ダメージを封じ、これで勝利のための布陣は整った。

 

「行くぞ、俺のメインフェイズ。まずはセットしていたメタモルポットを反転召喚、互いのプレイヤーは手札を全て捨て、五枚のカードをドローする。

 俺が墓地へ送ったカードはこれだ。暗黒界の鬼神ケルト! 鬼神ケルトはカード効果で手札から墓地へ捨てられた場合、墓地より特殊召喚する。鬼神ケルトを特殊召喚!」

 

 

【暗黒界の鬼神 ケルト】

闇属性 ☆6 悪魔族

攻撃力2400

守備力0

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

このカードを墓地から特殊召喚する。

相手のカードの効果によって捨てられた場合、

さらに自分のデッキから悪魔族モンスター1体を自分または相手フィールド上に特殊召喚できる。

 

 

 鬼を想起させる角に、隆々たる肉体をもつ鬼神が場に顕現した。けれど回り始めて暗黒界にとって、この程度は序の序。

 阿鼻叫喚の地獄はこれから始まるのだ。

 

「天使の施しを発動。三枚ドローし二枚捨てる。俺が捨てた二枚は暗黒界の狩人ブラウと術師スノウ。ブラウの効果で一枚ドローし、スノウの効果で暗黒界の龍神グラファをサーチする! 暗黒界の取引を発動。その効果で互いのプレイヤーは一枚ドローして一枚捨てる。

 龍神グラファのモンスター効果! カード効果でグラファが手札から墓地へ送られた場合、相手フィールドのカード一枚を破壊する。俺は宮廷のしきたりを選択。消え失せろ!」

 

「くっ……!」

 

 宮廷のしきたりが消滅したことで、アムナエルの永続罠を守護する力も消滅した。

 そして丈の万全の手札。ライフがどれだけあろうと関係はない。アムナエルのライフは風前の灯だ。

 

「更にもう一枚、暗黒界の取引を発動。互いのプレイヤーはカードを一枚ドローし、それから手札のカードを一枚捨てる。俺が手札から捨てるのは二枚目のグラファ。セットしているリバースカードを破壊する!」

 

 暗黒の渦がアムナエルのリバースカードを粉砕する。セットされていたのは、やはりというべきかグラビティバインド。

 永続罠の防御カードに続いて、アムナエルは自分を守るカードも失った。

 

「罠発動、暗黒よりの軍勢。墓地のグラファ二枚を手札に加える。神秘の中華なべでメタモルポットを生け贄に、その攻撃力分のライフを回復だ。

 更に俺は魔轟神レイヴンを通常召喚! レイヴンのモンスター効果、1ターンに1度、手札を任意の枚数分捨てることで攻撃力を400ポイントアップさせる。レイヴンの効果で俺は五枚のカードを捨てる。

 俺が捨てた五枚はこれだ。グラファ二体、暗黒界の導師セルリ、暗黒界の武神ゴルド、暗黒界の軍神シルバ。グラファの効果で魂吸収とそこにリバースモンスターを粉砕、玉砕! 武神ゴルドと軍神シルバを俺の場に特殊召喚! 暗黒界の導師セルリがお前のフィールドに特殊召喚される!」

 

 

【魔轟神レイヴン】

光属性 ☆2 悪魔族 チューナー

攻撃力1300

守備力1000

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。

自分の手札を任意の枚数捨て、その枚数分このカードの

レベルをエンドフェイズ時まで上げる。

このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで、

この効果によって捨てた手札の枚数×400ポイントアップする。

 

 

【暗黒界の導師 セルリ】

闇属性 ☆1 悪魔族

攻撃力100

守備力300

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

このカードを相手フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する。

このカードが「暗黒界」と名のついた

カードの効果によって特殊召喚に成功した時、

相手は手札を1枚選択して捨てる。

 

 

【暗黒界の武神 ゴルド】

闇属性 ☆5 悪魔族

攻撃力2300

守備力1400

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

このカードを墓地から特殊召喚する。

相手のカードの効果によって捨てられた場合、

さらに相手フィールド上に存在するカードを2枚まで選択して破壊する事ができる。

 

 

【暗黒界の軍神 シルバ】

闇属性 ☆5 悪魔族

攻撃力2300

守備力1400

このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

このカードを墓地から特殊召喚する。

相手のカードの効果によって捨てられた場合、

さらに相手は手札を2枚選択して好きな順番でデッキの下に戻す。

 

 

 鬼神の両翼に並ぶ軍神と武神。対してアムナエルの場には攻撃力100の導師セルリが一体だけ。鬼神、武神、軍神と比べれば、その優劣は明らかだった。

 尤もこれで終わらせるほど丈のデュエルは温くないが。

 

「導師セルリの効果。そいつが暗黒界と名の付くカード効果で特殊召喚に成功した場合、相手は手札を一枚選択して捨てる。この場合の『相手』とはセルリをコントロールするデュエリストの敵対者。即ち俺だ。この意味、分かるか?」

 

「暗黒界の……特殊能力のために!」

 

「御名答」

 

 暗黒界には相手のカード効果で手札から墓地へ送られた場合のみ発動する強力な特殊能力がある。

 普通は偶々の偶然で発生することなのだが、導師セルリはそれを作為的に発動させることを可能とするモンスターだ。

 

「俺が墓地へ捨てるカードは……暗黒界の魔神レイン! 魔神レインは相手カードの効果で墓地へ捨てられた場合、墓地より特殊召喚する」

 

 

【暗黒界の魔神 レイン】

闇属性 ☆7 悪魔族

攻撃力2500

守備力1800

このカードが相手のカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、

このカードを墓地から特殊召喚する。

この効果で特殊召喚に成功した時、

相手フィールド上の全てのモンスターまたは全ての魔法・罠カードを破壊する。

 

 

 暗黒界において政を司る神、レインが割れた大地より降臨する。

 鬼神、武神、魔神、軍神。ここに暗黒界における四柱の神が集結した。

 

「魔神レインのモンスター効果。レインが自身の効果で特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の全てのモンスター、もしくは魔法・罠カード全てを破壊する。

 俺が破壊するのは全てのモンスターだ。さぁ、アムナエルのフィールドを焼野原にせよ。錬金する素材の一切合財を遺さず徹底的に! 抹殺虹閃ヘルズレイ!」

 

「ぬっ、おおおおおおおおおッ!」

 

 魔神レインの破壊の極光に蹂躙され、アムナエルの場にあるのは役立たずと化したマクロコスモス一枚だけ。アムナエルを守る壁モンスターは全て消えた。

 

「墓地の龍神グラファのモンスター効果。場の暗黒界を手札に戻すことで、墓地のこのカードを復活させる。軍神と武神を手札に戻し、復活せよ! 龍神グラファ!」

 

 二体の龍神グラファ、魔神レイン、鬼神ケルト、そして魔轟神レイヴン。暗黒界の門の強化を受けて合計攻撃力は15100。アムナエルの12500のライフを上回った。

 丈の記憶が正しければ、アムナエルの墓地には墓地から発動できるカードはゼロ。手札誘発がなければジ・エンドだ。

 

「――――待て」

 

 だからアムナエルがバトルフェイズ直前になって、制止の言葉を放ってきたことにも驚きはなかった。

 

「……命乞いか?」

 

「違う、と言えたら格好良いだろうね。だが残念なことにその通りだ。宍戸丈、私にはまだやらねばならぬことがある。遊城十代……いや、敢えてこう言おう。私には十代君にデュエルを通して伝えねばならないことがある。それは私の友人……セブンスターズの黒幕を止める上で大切な力となるだろう。見逃しては貰えないだろうか?」

 

「俺にそれを信じろと」

 

「私にセリヌンティウスはいない。だから『信じてくれ』と言う他ないな。……頼む」

 

 仮面を外したアムナエルは真摯な眼差しを丈へ向け、頭を下げた。そこに他のセブンスターズ達にあった邪悪さはない。

 アムナエルは埋伏の毒であって裏切り者ではない――――それは丈の勘違いだったようだ。

 丈が思い出したのはパラドックスの時間改変事件。あの時、幽霊となったアムナエルは未来の十代と行動を共にしていた。そしてアムナエルの十代に伝えるべきことがあるという言葉。

 この二つを繋ぎ合わせれば丈のとるべき選択は明白だった。

 

「分かった。ただし念のため見張りとしてカオス・ソルジャーをつける。それでいいな?」

 

「…………感謝する」

 

 カオス・ソルジャーがいれば、アムナエルが裏切りに裏切りを重ねようと対処もできる。

 アムナエルのことは見なかったことにして、丈はその場から立ち去った。

 




 暗黒界の回転力に主人公の引きの強さが合わさって最強にみえる。


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第155話  黒幕達の一時

――――デュエルモンスターズの更なる発展のため、次世代を担う若手デュエリストの育成機関は必要不可欠である。

 

 これは海馬コーポレーションの社長、海馬瀬人がデュエル・アカデミア創設前にマスメディアで語った言葉である。

 有言実行、全速前進、即断即決で有名な海馬社長らしく、デュエル・アカデミア創設プロジェクトは、この言葉から一か月後にスタートした。

 勿論デュエル・アカデミアの創設は必ずしも順調だった訳ではない。幾ら世界的なブームになったとはいえカードゲームの高校など、と批判的だった有識者達は多かったし、海馬コーポレーション内部にも、もう少し慎重に事を進めてはどうか、という慎重派も存在していた。

 もしもこれでデュエル・アカデミアがなんの実績もあげられずにいれば、下手すれば海馬社長の責任問題にも発展しただろう。それだけ当時の世論は難しかった。

 しかし蓋を開けてみれば、その懸念も杞憂に終わった。アカデミアの卒業生達が、プロリーグで確実に結果を残し始めたのである。卒業生たちの活躍に反対派も口を閉ざすことになり、中立派が賛成派に回るのにも時間はかからなかった。

 そうして本校だけでは受け入れが足りないということで、ウエスト校、ノース校などの分校が新たに創設されることとなり、現代のデュエルモンスターズ界があるのである。

 アカデミア本校のある島が、童実野町やペガサス島と並びデュエリストの『聖地』とされたことからも、その影響力の程が窺い知れるというものだ。

 だがデュエル・アカデミアはなにも日本にあるものが全てではない。

 そもそも武藤遊戯、海馬瀬人、城之内克也の『伝説の三人』が登場したことで、日本がデュエルモンスターズの中心扱いされることがあるが、デュエルモンスターズの本場はインダストリアル・イリュージョン社の本社があるアメリカである。

 アメリカにあるデュエル・アカデミア、通称アメリカ・アカデミアは分校の中では唯一本校に匹敵するだけの規模と実績を持っていた。アカデミア四天王の登場によって過去形で表記することになってしまったが、四天王を除外すればそのレベルは本校とまるで見劣りしない。特にアメリカ・アカデミア校長のMr.マッケンジーは元NDLのスターであり、校長の持つ権力の強さは本校よりも上だろう。

 絶海の孤島にある本校とは対極の、摩天楼が立ち並ぶビル群に囲まれた街。I2社本社とも程近い場所に、アメリカ・アカデミア校舎は存在する。

 早朝。校長のマッケンジーは本校の鮫島校長より電話を受けていた。

 

「――――つまり貴方の企画していたジェネックスは、今年の開催は難しいと?」

 

『はい、その通りです。面目ない限りですが、本校では少々事件が発生していまして。プロデュエリストを多数招いての大規模大会など、とても開催できる状態ではないのです』

 

「ふむ。参加するプロがSリーグ出身が殆どな以上、こちらで開催するわけにもいきませんからな。となると開催は来年ですか?」

 

『ええ、恐らくはそうなるかと。私としては「四天王」が在籍中にやりたかったのですが中々上手く行きません』

 

 鮫島校長は一般教員達には極秘に、一つの大会の開催に向けて精力的に活動していた。

 その大会の名こそがジェネックス。将来有望な若手プロデュエリストと、アカデミア生徒達全員参加の下で行われるデュエルモンスターズの次世代を担う者を決める大会である。

 アメリカ・アカデミアからも何人かの生徒を参加させる予定であり、そのためマッケンジーはこのプロジェクトのことを事前に知っていた。

 他にジェネックスの情報を掴んでいるのは海馬瀬人、ペガサス程度だろう。

 

「気持ちは分かります。彼等こそ正に次世代の象徴。伝説の三人に続く新たなる伝説ですからなぁ。だがそう悲観的になる必要もないのでは?」

 

『というと?』

 

「ジェネックスはアカデミア生と若手プロ達が参加する大会。既にNDLに所属している宍戸くんは言うまでもないとして、他の四天王も実力的にも実績的にもプロ入りは確実でしょう。

 彼等はアカデミア本校の生徒としてではなく、改めて若手のプロとして出場を依頼すればいい。まぁプロとしての彼等に依頼する以上、それなりのマネーが必要になりますがねぇ」

 

『勿論そうするつもりです。しかし――――』

 

「どうかなされたので?」

 

『四天王の一人、宍戸くんはたぶん出場しないでしょう』

 

「ほう」

 

 宍戸丈が参加しないと聞いて、マッケンジーの眉が僅かに動く。

 NDLに所属して以来、彼はアメリカ・アカデミアへ留学中という扱いだったので、マッケンジーは宍戸丈のことを良く知っている。NDLの先輩として直接話したこともあるし、何度かデュエルをしたこともあった。

 だからこそマッケンジーは宍戸丈の不参加を残念に思う。宍戸丈の『(バー)』はマッケンジーの計画に大いに役に立っただろうに、と。

 

「……理由を聞いても?」

 

『来年は世界王者決定戦です。つまりはそういうことですよ』

 

「成程」

 

 四年に一度だけ行われるNDLとSリーグのドリームマッチ。それに出場するのはNDL、Sリーグ双方のランキング一位のデュエリストだけ。

 そしてランキング一位となってドリームマッチへの出場権を獲得したデュエリストは、ドリームマッチまで公式大会に参加してはならないという不文律がある。

 宍戸丈がドリームマッチ出場を目指しているのなら、ジェネックス出場は時期的に不可能だろう。

 

「それならば仕方ありませんな。他の三人は大丈夫なので?」

 

『それは私が責任をもって出場を依頼するつもりです』

 

「期待していますよ、鮫島校長。では、ごきげんよう。――――健闘を祈りますよ。色々と、ねぇ」

 

 含み笑いをしてから、鮫島校長の言葉も待たずに受話器を置いた。

 そして電話という外部との繋がりが消えた途端、マッケンジーは老紳士の仮面を剥ぎ落とし、欲望に忠実な粗野な本性を露わにする。

 机の上に足をのせるという不作法な恰好で、タバコを吹かしはじめたマッケンジーは、高級なウィスキーの蓋を開け飲み始めた。

 

「今年中に元の力を取り戻すつもりだったが、もう一年お行儀の良い校長職を続ける羽目になるとはな。役に立たん禿狸爺め。禿ならあの糞神官共と同じように、チンケなコソ泥なんぞ縊り殺してみせろというに」

 

 マッケンジーの全身から立ち昇るのは、黒く禍々しい人ならざるものの魔力。

 デュエルモンスターズの『精霊』に深い知識をもったデュエリストならば、マッケンジーの心に凶悪な『魔物』が潜んでいることに気付けただろう。

 そう。こうしてマッケンジーとして活動している男は、本物のマッケンジーではない。マッケンジーの精神を乗っ取り我が物としている三千年前の魔物の魂だ。

 校長室の壁に飾られている砕けた石版。あれこそがマッケンジーの力の根源であり、砕けた力そのもの。あれが元通りに復活したその時、マッケンジーは七神官ですら制御の叶わなかった力を取り戻すことができる。

 

「まぁいい。人生もデュエルも愉しんでこそ、愉しんでこその人生だ。暫くはセブンスターズにきりきり舞いする本校を高みの見物でもするとしようか」

 

 手元にあるThe supremacy SUNのカードを見詰めながら、マッケンジーは笑みを深める。

 それにマッケンジーには、自分の復活以外にも気になることがあった。

 焦燥感とでもいうのだろうか。自分の魂が、なにかを感じるようになったのである。神官達への憎悪にも似ているが、それとは違って不快感はない。むしろどこか懐かしさを覚える。

 

「なんだというのだ、一体……」

 

 マッケンジーがこの焦燥の正体を知るのは、これより一年後のことである。

 

 

 

 人はどうして老いてしまうのか。どうして永久に若く猛々しいままではいられないのか。老いぼさえ骨が浮き彫りになった自分の体を見ると影丸はそう思わずにはいられない。

 デュエル・アカデミアの理事長として地位も名誉もそれなりには手に入れた。その気になれば一国の政治すら動かすだけの『力』を影丸は持っている。

 しかし人類史に残る数多の偉人達と同じように、影丸も永遠の命だけは手に入れることが出来なかった。

 七十を過ぎてから錬金術師アムナエルのスポンサーとなり、永遠の若さを求め続けてきたが、中々結果は出ず気付けば100を超えていた。今では生命維持装置に入らなければ、立つことすらままならない有様である。

 果たしてこのままだと自分の余命は後何年か。五年か、三年か、一年か……。もしかしたら明日には発作を起こして倒れるかもしれない。

 死はゆっくりと、しかし確実に自分を追い抜こうとしている。

 若い頃が懐かしい。若かりし頃、まだ情熱とやる気に満ちていた青春時代。その気になれば巨岩を粉砕することも、樹木を振り回すことも自由自在だった。

 だがそんな自分が今ではこの様である。走ることすら儘ならない自分は、いずれ死に追い抜かれ、他の多くの人間と同じように死を迎えることになるだろう。

 

(そんなものは、御免だ……)

 

 自分はまだ死にたくない。若々しいままの姿で永久に生き続けたいのだ。

 それが独りよがりの勝手な欲望などは百も承知している。しかしそもそも人間は他人の幸福を喰らうことで発展を手にしてきたのだ。

 自由平等など馬鹿な理想家の妄言に過ぎない。奪い、虐げることこそ人間の本質。ならば自分のしている事は、実に人間的な行いだろう。

 

「――――アムナエルがやられたか」

 

 アムナエルを模した人形が砕けるのを見て、影丸は暗い部屋で一人ごちる。

 権力の玉座に一人で座る影丸に友人はいない。昔は親友と呼べる男や、恋人と呼べる女性もいたが、今は全員が時の流れという残酷なものに押しつぶされて世を去っている。

 そんな影丸にとってアムナエルは唯一残った友人だったのかもしれない。少なくとも自分の悩みを素直に打ち明けられるのは、あの男一人だけだった。

 けれど影丸の心を支配するのは友を失った悲しみではなく、それを遥かに超える昂揚感。

 

「ふ、ふふふふふふふふ。漸く、だ。長かった時が……漸く訪れたぞ。デュエル・アカデミアに十分なデュエリストの闘志が充満し、三幻魔復活の用意は整った」

 

 鍵を守らなければ封印が解けるなど、元々の鍵の所有者だった影丸が鮫島に吹き込んだペテンに過ぎない。セブンスターズたちも、強い力をもつデュエリストの『本気』を引き出すための捨て駒だ。

 三幻魔復活に必要なのは『鍵』ではなく、デュエリスト達の闘志。そのために態々三幻魔の封印されている島にデュエル・アカデミアを創設し、多くの若いデュエリストを集めたのである。

 このセブンスターズの襲撃で、アカデミアに封印解除に必要となるだけの闘志が溜まった。後は勝手に七星門の鍵が封印を解除してくれるだろう。

 

(だが私の力では三幻魔を完全に支配することはできん。精霊を操る力をもつデュエリストから、その力を奪うことで私は神となれる……! そのために――――)

 

 精霊を操る力の強い遊城十代。彼をデュエルで倒し、力を奪い取る。それが影丸の計画の最終段階だ。ただしこの計画には大きな懸念事項がある。

 十代と同じく精霊の力を持っていて、尚且つ三幻魔と同格の邪神を所持する宍戸丈。あの男が介入してきた場合、折角の計画が台無しになる恐れがある。

 

「――――さて。アムナエルの作り上げたホムンクルスの体は、約定通り君に渡した。ということは君も約定通り私の計画を手伝ってくれるのだろうな?」

 

 影丸は部屋の隅に佇む黒衣の男に問いかけた。男は不気味に笑いながら、

 

「安心しな。取り敢えずオレ様とテメエの目的は一致してるからな。テメエの計画はオレ様が成就させてやるぜ。マリクの千年ロッドの力を参考にして、丁度いい駒も確保しといたからよ。まぁその後は知らねえがな」

 

「……蝙蝠め」

 

「クッククッ、蝙蝠とは酷ぇなぁ。オレ様は陣営をコロコロと変えたりはしねぇぜ。オレ様が味方すんのは邪悪の側だけだ」

 

 大邪神ゾークの魂の欠片。蘇った盗賊王は獰猛に言った。

 

 

 




 久しぶりのバクラさん。それとトラゴエディアさんの初登場。あと漸くThe SUNの伏線らしいものがちょこっと出てきました。


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第156話  過去からの刺客

――――それは余りにも唐突に起きた。

 

 十代が見事にアムナエルの最後の試験を乗り越え、彼から『賢者の石』のカードを託されて一週間後。

 全てのセブンスターズの撃退に成功し、鍵の守護者達が安心しきったところにそれは起きた。アカデミア島を揺らす大地震は。

 アカデミア島へ充満した闘志を吸い込み発光する七つの鍵。鍵は翼をもつ鳥のように、所有者たちの手から離れて宙を飛ぶ。七つの鍵が向かう先は三幻魔が封印された遺跡だ。

 鍵の守護者に選ばれた者達は直感的に悟った。大いなる力の解放、三幻魔復活の刻限が来てしまったことを。

 

「ちっ。厭なタイミングで起動してくれる……!」

 

 鍵の守護者である宍戸丈もまた三幻魔復活の危機、否、世界の危機を当然の如く察知した。

 だが悲しいかな。そのタイミングというのが最悪だった。丈がいるのはブルー寮の自室。ここから三幻魔の封印されている場所まではかなりの距離がある。

 しかもそれに輪をかけて不味いのは、丈以外の守護者達は封印場所から程近い海辺にいるということだ。なんでも万丈目が明日香に交際を懸けてデュエルを挑んだらしいが、今はそんなことはどうでもいい。

 重要なのは七星門の鍵が封印場所に飛んでいったのを見て、そこにいる全員がどういう行動に出るかだ。

 まず間違いなく亮を含めた守護者達は、丈よりも先に封印場所に向かって行ってしまうだろう。これで偶然にも丈一人だけが出遅れた形になってしまった。

 

(……待て。偶然なのか?)

 

 丈が一人でブルー寮の自室にいたのは偶然である。亮が万丈目たちのデュエルを観戦しに行ったのは知っていたが、丈はゆっくりデッキの調整をしたかったので、亮の誘いを断り部屋に残ったのだ。

 当然それをカレンダーの予定表に記してなどしていないし、第三者がそれを予測することも不可能である。けれど丈が偶々の偶然一人でいて、他の守護者たちが一塊でいるタイミングで事が始まるなど有り得るだろうか。

 

(俺が一人になったという偶然を予想することは出来ない。かといって完全にただの偶然というのも考えにくい。となると)

 

 丈が一人で自室になったという『偶然』を察知した黒幕が、意図的にこのタイミングで仕掛けてきた。そう考えれば一応の辻褄は通る。

 そこまで考えて丈は一旦思考を中断する。こんな所でぐだぐだと熟考していても仕方がない。今は一刻も早く現場へ急ぐべきだろう。

 黒幕が丈一人の状況で仕掛けてきたということは、敵にとって丈が亮たちと合流することこそ望ましくないことのはずだ。敵の最も嫌がることをするのは戦術の基本である。

 丈は自室の窓を開いて飛び降りると、鍵の気配がする場所へと走った。

 封印場所から徐々に禍々しい魔力が溢れだしていく。丈のデッキに眠る『三邪神』も自身と同格の波動に、武者震いしているようだった。

 これは急がなければならないだろう。三幻魔が三邪神と同格の力をもつカードならば、それが最悪の形で暴走した場合、世界が滅びかねない。

 中等部三年生の時のネオ・グールズから始まり、ダークネス、パラドックス、そして三幻魔。

 よもや四年連続で世界の危機に立ち会う羽目になるとは思いもよらなかったが、なってしまった以上は仕方ない。溜息を殺して丈は先を急ぐ。

 だが黒幕も『宍戸丈と三邪神』を簡単に行かせてくれるほど甘くはなかった。

 

「宍戸丈、止まれ……。この先へは行かせん……」

 

「っ! 貴方はっ!」

 

 丈の行く手を遮るように、蒼いコートを羽織った男が姿を現す。

 黒幕の意図に感付いた時点で、妨害者が出てくることくらいは予想していた。だからそれが見ず知らずの相手ならば、丈は驚かず冷静に対応できただろう。

 しかしながら妨害者は宍戸丈にとって顔見知りの相手だった。まさかの人物に丈は絶句しながら後退る。緊張で掌は汗で湿っていた。

 

「御久しぶりですね、田中先生。かれこれ三年ぶりですか」

 

「…………ここから先は通さん。デュエルをしろ」

 

 田中ハル、中等部の実技担当責任者。プロデュエリスト時代は〝暴帝〟と畏怖され、あのDDに最も近付いた男だ。

 人格的に多大な問題はあったが、実力は正に指折り。高等部まで含めた教員の中でもトップクラスの強さを持っている。

 だが暴帝ハルは賢い人だ。断じて教員という安定した職場を捨ててまで、セブンスターズなどに組するようなタイプではない。

 

「貴方がセブンスターズ側に入るなんてどういう風の吹き回しです? 自分は近くにコンビニのない場所には絶対旅行に行かないっていうのは嘘だったんですか? アカデミアにコンビニはありませんよ」

 

「…………ここから先は通さん。デュエルをしろ」

 

「デュエルはいいですが、少しは質問に答えて欲しいですね」

 

「…………ここから先は通さん。デュエルをしろ」

 

「コミュニケーションは基本ですよ」

 

「…………ここから先は通さん。デュエルをしろ」

 

 田中ハルは完全に丈の言葉を無視して、譫言のようにデュエルをしろ、とだけ口から吐き出す。その様子はさながら与えられた命令をこなすだけのマリオネットのようだった。

 マリオネットなのは言動だけではない。目も虚ろで、顔色も生気が抜け落ちている。明らかにまともではない。

 精霊と心を通わす術を身に着けた丈には、田中ハルの心に人ならざる邪気が巣食っているのが垣間見えた。あの邪気が彼の精神を乗っ取って、田中ハルという人間を人形のように操っているのだろう。

 

「田中先生の実力に目を付けた人間の仕業か。姑息な真似を……」

 

 精神を支配されてしまっているのなら、説得は無意味と判断していい。

 言葉で駄目ならば、デュエリストがやることは唯一つ。タイムロスは惜しいがデュエルに勝利して押し通るだけだ。

 

「いいだろう、望み通りデュエルだ。ただし田中先生の心の内側に巣食っている邪気には、この一戦で退場願う」

 

「…………」

 

 丈がデュエルディスクを起動させると、田中ハルはなんのリアクションもなく淡々と自身のデュエルディスクをONにさせる。

 三年前の中等部で行われた卒業模範デュエルを思い出す。田中ハルはあの亮と互角以上に戦ってみせたデュエリスト。精神が支配されているからといって手加減は出来ない。三幻魔の下へ急ぐためにも全力で倒す他ないだろう。

 

 

「「デュエル!」」

 

 

宍戸丈 LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

田中ハル  LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

 破壊的なデッキパワーから魔王と畏怖されるデュエリストと、暴虐の限りを尽くしたことで暴帝と畏怖されたデュエリストのデュエルが始まった。

 互いのデュエリストは五枚の初期手札をドローし向かい合う。デュエルディスクが指し示した先攻は宍戸丈。

 

「俺の先攻、ドロー!」

 

 丈は自分の手札とドローカードを見比べる。

 100%完璧とまではいかないまでも、それなりに悪くない手札だ。なにより冥界の宝札が初手にきているというのが素晴らしい。冥界軸最上級多用の性質上、冥界の宝札があるのとないのとではデッキの回転が段違いなのだ。

 

「魔法発動、フォトン・サンクチュアリ! 自分フィールドに攻撃力2000、守備力0のフォトントークン二体を守備表示で特殊召喚する。ただし」

 

「……このカードを発動するターン、光属性以外のモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚は出来ない」

 

「その通りだ」

 

 操られてもデュエルモンスターズの『知識』は消えていないようだ。尤も操ったらデュエルの知識や実力が曇るのでは、態々リスクを冒してまで実力者の田中先生を操る必要もないわけだが。

 それよりもフィールドに二体のモンスターが並んでくれた。田中先生の言った通り、このターンの間、丈は光属性以外のモンスターを召喚することは出来ない。しかしそれは逆を言えば光属性モンスターならば問題なく召喚できるということだ。

 

「永続魔法、冥界の宝札を発動。これで準備は整った。俺は二体のフォトントークンを生け贄に捧げる!」

 

 フォトントークンが空中に出現した銀河の渦へと吸い込まれていく。

 銀河の渦は徐々に小さくなっていき、やがてそれは二つの銀河色の眼と化す。

 

「闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕に宿れ! 光の化身、ここに降臨! 現れろ、銀河眼の光子竜!」

 

 

【銀河眼の光子竜】

光属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは自分フィールド上に存在する

攻撃力2000以上のモンスター2体を生け贄にし、

手札から特殊召喚する事ができる。

このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップ時、

その相手モンスター1体とこのカードをゲームから除外する事ができる。

この効果で除外したモンスターは、バトルフェイズ終了時にフィールド上に戻る。

この効果でゲームから除外したモンスターがエクシーズモンスターだった場合、

このカードの攻撃力は、そのエクシーズモンスターを

ゲームから除外した時のエクシーズ素材の数×500ポイントアップする。

 

 

 銀河の眼をもつ光の竜。銀河眼の光子竜がフィールドに顕現した。

 攻撃力はブルーアイズと同等の3000。名前だけではなく、その姿形もどことなくブルーアイズを思わせるモンスターだった。

 邪気に支配された田中ハルも、このモンスターの登場には僅かに眉をピクリと動かした。

 

「冥界の宝札の効果で二枚ドローする。リバースカードを三枚場にだし、ターンエンドだ」

 

 丈がターンの終わりを宣言し、魔王から暴帝にターンが移る。

 そして悪夢が始まった。 

 

 



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第157話  悪夢、訪れて

宍戸丈 LP4000 手札2枚

場 銀河眼の光子竜

伏せ 三枚

魔法 冥界の宝札

 

 

田中ハル  LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 銀河眼の光子竜はバトルステップ時に、攻撃してきたモンスターを自身と共に除外する効果をもっている。3000の攻撃力と合わせてそうそうに戦闘破壊されることはない。相手の出方を伺うにはもってこいのモンスターだ。

 とはいえ他の多くのモンスターがそうであるように、銀河眼の光子竜の特殊能力にも付け入る隙は多くある。暴帝ほどの実力者なら如何な銀河眼の光子竜といえど1ターンで攻略するのは不可能ではない。

 だが〝暴帝〟がその隙をついてきても対応できるよう、丈は三枚のリバースカードをセットしている。暗黒界やHEROと比べて、どうしても初動が遅れがちの冥界軸の1ターン目としては上々の滑り出しだろう。

 

「……私のターン、ドロー」

 

 目は虚ろのまま、しかしカードをドローする手は力強く。冷酷無情な暴帝は全盛期と同等、それ以上の気迫を放ちながらフィールドを睥睨する。

 卒業模範デュエルで亮が彼と戦った時、暴帝が使っていたデッキは帝モンスターをメインとしたデッキだった。しかし田中ハルは常に時代の最先端を取り入れ、デッキを千変万化させることで有名のデュエリストである。一年を超えて同じデッキを使用することはない。

 故に今の〝暴帝〟がどんなデッキを使うのかは不明だ。だがデッキで眠っているだけでも漂ってくる濃密な闘気。一線級の強さをもっているのは確実だろう。

 

「私はマンジュ・ゴッドを召喚する」

 

 血走った赤い目に無数の白い手を生やした観音が召喚された。

 マンジュ・ゴッドは召喚の際に儀式モンスターか儀式魔法をサーチする特殊能力をもったモンスター。そのデッキが投入されているということは、彼のデッキには『儀式召喚』のギミックが組み込まれているのだろう。そうでなければマンジュ・ゴッドを投入する理由がない。

 これで暴帝のデッキが儀式召喚を主軸にしていることは予想できた。残る問題である『どういった儀式モンスターを使うか』についても直ぐに答えは出るだろう。

 丈はじっと田中ハルの行動を伺う。

 

「マンジュ・ゴッドのモンスター効果を発動。私はデッキより儀式モンスターを手札に加える。私が手札に加えるのは――――ブリューナクの影霊衣(ネクロス)だ」

 

「ブリューナクの……影霊衣(ネクロス)?」

 

 聞いたことのない名前だった。ブリューナクというのは、ケルト神話の太陽神ルーが持つとされる神槍ブリューナクのことだろう。だがブリューナクという名前をもつカードを丈は聞いたことがない。それに影霊衣というのもさっぱりだ。

 デュエルモンスターズは広い。まだまだ丈の知らないカードが多くあるし、新たなカードが生まれていっている。つまりはそういうことなのだろう。

 

「私はサーチしたブリューナクの影霊衣を手札より捨てる。そしてその効果を発動。ブリューナクの影霊衣以外の影霊衣モンスターを手札に加える」

 

「手札で効果を発揮する儀式モンスターだと!?」

 

 

【ブリューナクの影霊衣】

水属性 ☆6 戦士族

攻撃力2300

守備力1400

「影霊衣」儀式魔法カードにより降臨。

「ブリューナクの影霊衣」以外のモンスターのみを使用した儀式召喚でしか特殊召喚できない。

「ブリューナクの影霊衣」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードを手札から捨てて発動できる。

デッキから「ブリューナクの影霊衣」以外の

「影霊衣」モンスター1体を手札に加える。

(2):エクストラデッキから特殊召喚された、

フィールドのモンスターを2体まで対象として発動できる。

そのモンスターを持ち主のデッキに戻す。

 

 

 未知のカード故にどんな効果でも驚かないよう覚悟していたが、これには驚かずにはいられない。

 丈のトラウマであるサクリファイスを始めとして、儀式モンスターは強力な力を持つ分、専用の儀式魔法で儀式召喚しない限り力を発揮できないというデメリットをもつモンスターだ。

 儀式モンスターは手札にあるのに、儀式魔法がなくて役に立たない――――なんていうのは、儀式デッキではよくあることである。だが儀式モンスターが手札誘発の特殊能力を備えていれば、儀式モンスターのデメリットをかなり軽減することが可能だ。

 

(影霊衣……これは想像以上に、難敵かもしれないな)

 

 丈の予想を裏付けるように、暴帝ハルは冷酷に自身のデッキを稼働させていく。

 

「私がこの効果で手札に加えるのはクラウソラスの影霊衣だ。だがクラウソラスの影霊衣もブリューナクと同じく手札誘発の効果をもっている。

 クラウソラスの影霊衣を手札から捨て、クラウソラスの第一の能力を発動。デッキより影霊衣と名のつく魔法・罠カードを手札に加える。私がサーチするのは儀式魔法、影霊衣の万華鏡」

 

「……!」

 

 

【クラウソラスの影霊衣】

水属性 ☆3 戦士族

攻撃力1200

守備力2300

「影霊衣」儀式魔法カードにより降臨。

このカードは儀式召喚でしか特殊召喚できない。

「クラウソラスの影霊衣」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードを手札から捨てて発動できる。

デッキから「影霊衣」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

(2):エクストラデッキから特殊召喚された、

フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

ターン終了時まで、そのモンスターの攻撃力は0になり、効果は無効化される。

この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

 ブリューナクに続いてのサーチ効果。マンジュ・ゴッドで直接『影霊衣の万華鏡』をサーチせず、態々ブリューナクとクラウソラスを経由したのはデッキの圧縮と墓地肥しが目的に違いない。操られてもデュエルの堅実さはまるで変わっていなかった。

 しかし暴帝のターンはまだ始まったばかり。悪夢はこれより起こるのだ。

 

「手札より影霊衣の万華鏡を発動! 儀式召喚するモンスターと同じレベルになるよう、手札・フィールドのモンスター1体を生け贄に、または融合デッキのモンスター1体を墓地へ送ることで儀式召喚する。私が墓地へ送るのはレベル12、F・G・Dだ!」

 

「なんだと!?」

 

 

【影霊衣の万華鏡】

儀式魔法カード

「影霊衣」儀式モンスターの降臨に必要。

「影霊衣の万華鏡」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):儀式召喚するモンスターと同じレベルになるように、

自分の手札・フィールドのモンスター1体をリリース、

またはエクストラデッキのモンスター1体を墓地へ送り、

手札から「影霊衣」儀式モンスターを任意の数だけ儀式召喚する。

(2):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、

自分の墓地からこのカードと「影霊衣」モンスター1体を除外して発動できる。

デッキから「影霊衣」魔法カード1枚を手札に加える。

 

 

 万華鏡にF・G・Dのカードが吸い込まれて生き、万華鏡に数多のモンスターの影が生まれた。

 最上の生け贄を捧げられたことで万華鏡は虹色の輝きを強めていく。ソリッドビジョンと分かっていても尚、幻想的光景に目を奪われそうになるが、丈の視線は『影霊衣の万華鏡』のカードテキストの一文へと注がれていた。

 

「儀式モンスターを『任意の数』だけ儀式召喚する、だと……? まさか!?」

 

「その通り。私は万華鏡に捧げた12のレベル分、即ちレベル8とレベル4のモンスターを同時に儀式召喚させる。現れろ、私のモンスター達よ! ヴァルキュルスの影霊衣とユニコールの影霊衣を儀式召喚!」

 

 

【ヴァルキュルスの影霊衣】

水属性 ☆8 魔法使い族

攻撃力2900

守備力1700

「影霊衣」儀式魔法カードにより降臨。

レベル8以外のモンスターのみを使用した儀式召喚でしか特殊召喚できない。

「ヴァルキュルスの影霊衣」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):相手モンスターの攻撃宣言時に自分の墓地の「影霊衣」カード1枚を除外し、

このカードを手札から捨てて発動できる。

その攻撃を無効にし、その後バトルフェイズを終了する。

(2):自分メインフェイズに発動できる。

自分の手札・フィールドのモンスターを2体までリリースし、

リリースした数だけ自分はデッキからドローする。

 

 

【ユニコールの影霊衣】

水属性 ☆4 魔法使い族

攻撃力2300

守備力1000

「影霊衣」儀式魔法カードにより降臨。

このカードは儀式召喚でしか特殊召喚できない。

「ユニコールの影霊衣」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードを手札から捨て、「ユニコールの影霊衣」以外の

自分の墓地の「影霊衣」カード1枚を対象として発動できる。

そのカードを手札に加える。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、エクストラデッキから特殊召喚された

フィールドの表側表示モンスターの効果は無効化される。

 

 

 悪魔を思わせる衣に身を包んだ魔法使いと、ユニコーンを思わせる甲冑を装備した戦士。二人の儀式モンスターが同時にフィールドに降臨した。

 これまでの儀式召喚の常識を覆す出来事の連続に、丈は久しぶりに『戦慄』という感情を味わった。

 

「ヴァルキュルスの影霊衣のモンスター効果! 自分の手札・フィールドのモンスターを二体まで生け贄にし、生け贄にした数だけデッキからドローする。私はマンジュ・ゴッドと手札のトリシューラの影霊衣を生け贄に二枚ドロー!

 さらに手札より新たなる儀式魔法、影霊衣の反魂術を発動! レベル合計が同じになるよう手札・フィールドのモンスターを生け贄に捧げ、手札・墓地より影霊衣儀式モンスターを儀式召喚する!

 私は手札の影霊衣の術師シュリットを生け贄にする。シュリットは影霊衣儀式モンスターの儀式召喚に使用する場合、一体で必要な生け贄分として使用できる」

 

 

【影霊衣の反魂術】

儀式魔法カード

「影霊衣」儀式モンスターの降臨に必要。

「影霊衣の反魂術」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、

自分の手札・フィールドのモンスターをリリースし、

自分の手札・墓地から「影霊衣」儀式モンスター1体を儀式召喚する。

(2):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、

自分の墓地からこのカードと「影霊衣」モンスター1体を除外して発動できる。

デッキから「影霊衣」魔法カード1枚を手札に加える。

 

 

【影霊衣の術師 シュリット】

水属性 ☆3 戦士族

攻撃力300

守備力1800

「影霊衣の術士 シュリット」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):「影霊衣」儀式モンスター1体を儀式召喚する場合、

このカード1枚で儀式召喚に必要なレベル分のリリースとして使用できる。

(2):このカードが効果でリリースされた場合に発動できる。

デッキから戦士族の「影霊衣」儀式モンスター1体を手札に加える。

 

 黄金の輝きがクリスタルに吸い込まれ、ここに生け贄を用いた儀式は完了する。

 眩い輝きを放ちながらクリスタルが弾け、そこから水色の騎士の影が飛び出した。

 

「破壊神より放たれし聖なる槍よ、今こそ魔の都を貫け! 儀式召喚、顕現せよ! トリシューラの影霊衣ッ!」

 

 

【トリシューラの影霊衣】

水属性 ☆9 戦士族

攻撃力2700

守備力2000

「影霊衣」儀式魔法カードにより降臨。

レベル9以外のモンスターのみを使用した儀式召喚でしか特殊召喚できない。

「トリシューラの影霊衣」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドの「影霊衣」モンスターが効果の対象になった時、

このカードを手札から捨てて発動できる。

その発動を無効にする。

この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):このカードが儀式召喚に成功した時に発動できる。

相手の手札・フィールド・墓地のカードをそれぞれ1枚選び、その3枚を除外する。

 

 

 これまで丈は多くのデュエリストと戦ってきたし、その中には儀式使いも多くいた。だが先攻1ターン目から三体も儀式召喚をしてきたデュエリストは初めてだ。

 三つ首の氷龍の霊衣を装備した戦士が、自らこそが先鋒であると名乗りを上げる様に前へと出る。トリシューラの影霊衣から発せられるプレッシャーに、丈の肌がささくれ立った。

 トリシューラの影霊衣は力の解放を告げる様に、自らの武器を天へ掲げた。

 

「トリシューラの影霊衣の特殊能力発動。このカードの儀式召喚に成功した時、相手の手札・フィールド・墓地のカードを其々一枚選び、その三枚を除外する!」

 

「成程、大した効果だ。こんなものを喰らえば俺はいきなり一溜まりもないな。だがやらせはしない! カウンター罠、天罰! 手札を一枚捨て、モンスター効果を無効にし破壊する!」

 

 破滅の氷結を飛ばそうとしたトリシューラは、天より落ちた雷によって消し飛ばされる。

 これでどうにか最悪の事態を免れることはできた。いきなりカード三枚も除外など冗談ではない。

 

「……ふむ。私はカードをニ枚伏せターンエンドだ」

 

「エンドフェイズ時、終焉の焔を発動。黒焔トークン二体を場に出現させる」

 

 

【終焉の焔】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」

 

 

 丈の頬を伝った汗が、地面に落ちる。どうも三幻魔の所へは遅刻することになりそうだ。

 だが遅刻をしないために無理をして『欠席』してしまってはどうしようもない。急がば回れの諺通り、まずは全身全霊を目の前の障害物の突破に費やすべきだろう。

 




 というわけで田中先生のデッキは影霊衣でした。正直シャドールとどっちにしようか迷いましたが、後書きであれだけ儀式を猛プッシュしていたので儀式になりました。
 相変わらずのガチっぷりですが安心して下さい。影霊衣のキーカードの一つでもある虹光の宣告者はシンクロモンスターなので現実ほどヤバくはありません。え? 虹光の宣告者がなくても普通にヤバい? 知らん、そんな事は俺の管轄外だ。


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第158話  破壊の槍

宍戸丈 LP4000 手札1枚

場 銀河眼の光子竜、黒焔トークン×2

伏せ 一枚

魔法 冥界の宝札

 

 

田中ハル  LP4000 手札1枚

場 ヴァルキュルスの影霊衣、ユニコールの影霊衣

伏せ 二枚

 

 

 二体も儀式モンスターが並ぶと流石に壮観である。だがユニコールの影霊衣の融合デッキ(エクストラデッキ)から召喚されたモンスターの能力を封じる効果は、生け贄召喚を主軸にする丈のデッキにはまるで効果がない。それだけが唯一の救いだろう。

 ただヴァルキュルスのドロー加速は面倒だ。デュエルモンスターズの基本はどれだけハンドアドバンテージを稼ぐかどうかといっても過言ではない。出来ることならヴァルキュルスは早々に排除しておきたいところだ。

 

「俺のターン……ドロー!」

 

 そのためにも先ずは新たなるモンスターを召喚することだ。

 

「俺は二体の黒焔トークンを生け贄に捧げる! そして可変機獣ガンナードラゴンを召喚ッ!」」

 

 

【可変機獣 ガンナードラゴン】

闇属性 ☆7 機械族

攻撃力2800

守備力2000

このカードは生け贄なしで通常召喚する事ができる。

その場合、このカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。

 

 

 ガンナードラゴンの攻撃力は2800。ヴァルキュルスの2900には届かないが、そこは銀河眼の光子竜に任せればいい。丈がガンナードラゴンを呼び出したのは冥界の宝札のドロー加速のためである。

 

「……む?」

 

 だが丈が冥界の宝札の効果でドローしようとして気付く。冥界の宝札の効果が発動していない。それどころか冥界の宝札が破壊されている。

 

「どういうことだ? どうして冥界の宝札が発動しない」

 

「――――それは私がこのカードを発動していたからだ。罠カード、砂塵の大竜巻。フィールドの魔法・罠を破壊する。これで冥界の宝札は破壊させて貰った」

 

「!」

 

 冥界の宝札は永続魔法だ。砂塵の大竜巻で破壊されてしまえば効果を発揮することは出来ない。

 二枚ドローが出来なくなったせいでハンドアドバンテージが一気に困窮してしまった。冥界の宝札がやられてしまえば、どうしても手札の消費に補充が追い付かなくなる。冥界軸の最大の弱点だ。

 

「俺はバトルフェイズに移行。銀河眼の光子竜でヴァルキュルスの影霊衣を攻撃、破滅のフォトン・ストリームッ!」

 

「相手が攻撃宣言したその瞬間。罠発動、次元幽閉。攻撃してきたモンスターを除外する」

 

 

【次元幽閉】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

その攻撃モンスター1体をゲームから除外する。

 

 

 銀河眼の光子竜が吐き出した破壊光線が、空間が裂けて出来た穴に吸い込まれていく。だが次元の裂け目はそれだけには留まらず、銀河眼の光子竜をも呑み込まんと迫ってきた。

 冥界の宝札がやられた上に銀河眼の光子竜まで失っては破滅だ。これだけは通すわけにはいかない。

 

「銀河眼の光子竜のモンスター効果! バトルステップ時、自身とバトルする相手モンスターをゲームより除外する!」

 

 次元の裂け目が銀河眼の光子竜を呑み込む寸前、銀河眼の光子竜とヴァルキュルスの影霊衣が場から消滅する。

 対象を失ったことで次元幽閉の効果は不発に終わった。

 

「まだだ! まだガンナードラゴンの攻撃が残っている! ガンナードラゴンでユニコールを攻撃ッ!」

 

「罠発動、攻撃の無敵化。フィールド上のモンスターを一体選択する。このバトルフェイズ中、選択したモンスターは戦闘及びカード効果では破壊されなくなる」

 

「だがダメージは受けて貰う」

 

 田中LP4000→3500

 

 ガンナードラゴンの砲口が無敵のオーラを纏ったユニコールに弾き返された。

 次元幽閉と攻撃の無敵化。厄介な二枚のリバースカードを取り除くことはできたが、結局儀式モンスターを一体も倒すことができなかった。

 

「……バトルフェイズを終了。除外されていた銀河眼の光子竜とヴァルキュルスはフィールドに戻る。ターンを終了だ」

 

「私のターン、ドロー。強欲な壺で二枚のカードをドローする。センジュ・ゴッドを通常召喚、デッキよりブリューナクの影霊衣を手札に加える。

 更にブリューナクの影霊衣を手札より捨ててクラウソラスの影霊衣を手札に。そしてクラウソラスの影霊衣を捨てて影霊衣の降魔鏡をサーチ」

 

 またしても先のターンの同じ流れで連続サーチする。みるみるデッキが圧縮されていくのが見るだけで分かった。

 そしてここまで流れが同じとくれば、これから田中ハルがなにをするのかも予想はつく。もっとも予想できても、それを対処できるかどうかは別問題であるが。

 

「手札より儀式魔法、影霊衣の降魔鏡を発動! 墓地の影霊衣をゲームより除外! 除外したレベル合計と同じレベルの儀式モンスターを降臨させる!

 私が墓地より除外するのはブリューナクの影霊衣とクラウソラスの影霊衣!」

 

 

【影霊衣の降魔鏡】

儀式魔法カード

「影霊衣」儀式モンスターの降臨に必要。

「影霊衣の降魔鏡」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、

自分の手札・フィールドのモンスターをリリース、

またはリリースの代わりに自分の墓地の「影霊衣」モンスターを除外し、

手札から「影霊衣」儀式モンスター1体を儀式召喚する。

(2):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、

自分の墓地からこのカードと「影霊衣」モンスター1体を除外して発動できる。

デッキから「影霊衣」魔法カード1枚を手札に加える。

 

 

 レベル6のブリューナクとレベル3のクラウソラスでレベル合計は9。トリシューラとまったく同じ数値だ。

 

「破壊神より放たれし聖なる槍よ、今こそ魔の都を貫け! 儀式召喚、顕現せよ! トリシューラの影霊衣ッ!」

 

 またしてもあの破壊龍の化身が場に降臨した。

 前のターンは『天罰』を伏せていたので、その反則気味の除外効果を防ぐことができたが、今の丈にトリシューラの力を遮る術はない。

 

「トリシューラのモンスター効果! 相手フィールドのカード、手札、墓地のカードを一枚ずつ選択し除外する!

 私が選択するのは銀河眼の光子竜、一番右の手札、墓地の冥界の宝札。悉く消え去るがいい。氷結のフリーズ・アウト」

 

 銀河眼の光子竜と手札と墓地、三枚のカードが除外されてしまう。

 丈の手札はハンドレス。対して相手の場には三体の儀式モンスター。絶体絶命の窮地というやつだ。

 

「バトル。ヴァルキュルスの影霊衣でガンナードラゴンを攻撃、ヴァルキュリア・ブレイカー!」

 

 ヴァルキュルスの放った極大の魔法が、ガンナードラゴンを木端微塵に消し飛ばした。

 丈のライフが100ポイント削れ、これで丈を守護するモンスター全てが消える。

 

「続いてセンジュ・ゴッドで相手プレイヤーに直接攻撃、千手観音!」

 

「速攻魔法、終焉の焔! 黒焔トークン二体を場に出現させる!」

 

「ならば攻撃対象を黒焔トークンに変更、黒焔トークンを破壊する。続いてユニコールの影霊衣で黒焔トークンを攻撃。そしてトリシューラの影霊衣で直接攻撃!」

 

 宍戸丈LP4000→1200

 

 二体の黒焔トークンが連続で粉砕され、トリシューラの氷の刃が丈のライフをごっそり抉っていく。

 だがどうにか持ち堪えることはできた。ライフさえ保ってくれれば、まだ勝機はある。いつの日だったか三邪神三体が並んだ時と比べればマシな状況だ。

 

「バトルを終了。ヴァルキュルスの影霊衣のモンスター効果、センジュ・ゴッドとユニコールの影霊衣を生け贄に二枚ドロー。ターンエンドだ」

 

 全ては次のターン。次のターンで逆転の糸口を掴むことができなければ、丈はここで負けることになる。

 



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第159話  混沌の剣

宍戸丈 LP1200 手札0枚

場 無し

 

 

田中ハル  LP3500 手札3枚

場 ヴァルキュルスの影霊衣、トリシューラの影霊衣

 

 

 心臓の音がやけに大きく聞こえるのは、高まる緊張のせいか。

 丈の手札はゼロ。リバースカードも壁モンスターも皆無。泣いても笑ってもこのドローで全てが決まる。このドローでなにか引き当てることが出来なければジ・エンドだ。

 

「頼むぞ、俺のデッキ……。ドロー!」

 

 引いたカードを見る。それは形勢を引っくり返す逆転のカードではなかった。されど逆転へ繋げるカードためのカードではある。

 丈は迷わず引いたカードをデュエルディスクに置いて発動させた。

 

「魔法カード、強欲な壺。デッキよりカードを二枚ドローする」

 

「このタイミングでドローソースを引き当てたか。運の良い奴め」

 

「……。モンスターをセット、ターンエンドだ」

 

「だが逆転のカードまでは引き当てられなかったようだな。このターンで決着をつけよう。私のターン、ドロー」

 

 確かに田中先生の言う通りだ。丈は今のターンで逆転のカードを引き当てることはできなかった。

 けれどデュエルモンスターズは、劣勢になった次のターンに逆転しなければ負ける訳ではない。最後までデッキを信じて諦めずに戦うこと、兎にも角にも次のターンに繋げるこそが重要だ。ライフが0になってしまえば、もう戦うことすら出来なくなるのだから。

 それに逆転のキーカードはなくても布石となるカードを引き当てることはできた。後は運を天に委ねるのみ。

 

「手札よりクラウソラスの影霊衣を捨てる。これにより私は影霊衣の降魔鏡を手札に加え、そのまま発動! 墓地のシュリットを除外し、儀式召喚を行う」

 

 墓地のシュリットの魂が鏡に吸い込まれていく。

 影霊衣の術師シュリットは、一体で儀式召喚に必要な生贄となることができるモンスター。故に生け贄にされたレベルから召喚されるモンスターを予想することは不可能だ。

 だが鏡から発せられる魔力(ヘカ)の質から察するに最大級のモンスターが降臨するのは間違いない。

 

「機鋼の甲冑を纏いし龍人が、殺意を宿して進軍する。愚かなる輝きを駆逐せよ! 儀式召喚! 現れ出でよ、ディサイシブの影霊衣!」

 

 

【ディサイシブの影霊衣】

水属性 ☆10 ドラゴン族

攻撃力3300

守備力2300

「影霊衣」儀式魔法カードにより降臨。

レベル10以外のモンスターのみを使用した儀式召喚でしか特殊召喚できない。

「ディサイシブの影霊衣」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードを手札から捨て、

自分フィールドの「影霊衣」モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターの攻撃力・守備力はターン終了時まで1000アップする。

この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):相手フィールドにセットされたカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを破壊し、除外する。

 

 

 術師の生け贄によって降臨するは神に等しいレベルをもつ最上級モンスター。

 巌のような巨体に、戦車が玩具に思える破壊兵器を装備した龍人。察するにこのモンスターこそが影霊衣で最高レベルをもつカードなのだろう。

 こうして立っているだけでディサイシブの影霊衣から発せられる火傷するほどの殺意が感じられた。

 

「ディサイシブの影霊衣の効果発動。相手フィールド上にセットされたカードを破壊し除外する。私が選ぶのは当然そこのセットモンスターだ。駆逐せよ、ディサイシブの影霊衣! ディサイシブ・ディトネイションッ!」

 

「読んでいた。手札よりエフェクト・ヴェーラーを捨てディサイシブの影霊衣の効果を無効にする」

 

「ならば攻撃するまでだ。トリシューラの影霊衣でセットモンスターを攻撃」

 

「……俺が伏せていたのはメタモルポット。互いのプレイヤーは手札を全て捨て、五枚のカードをドローする。俺の手札はゼロ枚。よって五枚ドローだ」

 

「このタイミングで手札交換して何になる。貴様に次のターンは回ってこない。止めを刺せ、ヴァルキュルスの影霊衣!」

 

「それはどうかな」

 

「なに?」

 

 相手ターンでの手札交換は一見すると意味のないことのように思える。攻撃を止める魔法・罠カードは、セットされていない限り相手ターンでは役に立たないのだから。

 だが中にはエフェクト・ヴェーラーや田中先生の影霊衣のように手札から捨てることで効果を発揮する手札誘発のモンスターもいる。

 

「相手プレイヤーの直接攻撃宣言時、手札よりバトルフェーダーの効果発動。こいつを特殊召喚し、バトルフェイズを終了させる」

 

「なんだと!?」

 

 見たところ影霊衣は多彩な能力をもっているようだが、その勝ち筋は他多くのデッキと同じビートダウン。

 バトルが封じられてしまえば、田中先生に勝利を決める術はない。

 

「……ターンを凌いだ上、逆転の手札増強まで行うとはな。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 恐らくこれが宍戸丈にとってラストターンだ。

 先程は持ち堪えたとはいえ、田中先生の手札にはまだまだ余力がある。丈がここで新たにフィールドを万全にさせたところで、暴帝であれば再び引っくり返してくるはずだ。

 そうはさせないためにも、このターンで決着をつけなければならない。

 フィールドを見る。三体の影霊衣と伏せられているリバースカード。そして丈のフィールドにいるバトルフェーダー。

 勝利への道筋はここに完成した。

 

「俺はおろかな埋葬を発動、デッキよりレベル・スティーラーを墓地へ送る! さらに魔法発動、死者蘇生。墓地よりガンナードラゴンを復活!」

 

「だがガンナードラゴンではトリシューラの影霊衣しか倒せはせん」

 

「ガンナードラゴンは導だ、勝利のための活路だ! 墓地のレベル・スティーラーの効果発動、ガンナードラゴンのレベルを一つ下げ、このカードを墓地より特殊召喚する!

 これで俺の場に三体のモンスターが揃った! 俺はレベル・スティーラー、バトルフェーダー、ガンナードラゴンを生け贄に捧げる! 頼むぞ、相棒。神獣王バルバロスを攻撃表示で召喚ッ!」

 

「――――バルバロ、スだと……!?」

 

「バルバロスのモンスター効果は知っているな。三体の生け贄で召喚されたバルバロスは相手フィールドのカードを全滅させる!

 従属神の王、バルバロス。影霊衣を装備した戦士たちを一人残らず消し炭としてやれ。トルネード・ゴッド・ストリームッ!」

 

 バルバロスの槍から放たれた雷に、三体の影霊衣と伏せられていたミラーフォースが破壊された。

 フィールドががら空きになり攻撃の絶好のチャンスが訪れる。しかしバルバロスの攻撃力は3000。このまま攻撃してもライフを削り切ることは出来ない。

 故にもうひと押し。バルバロスに続いて魂のカードの力を借りる。

 

「行くぞ。俺は墓地の闇属性モンスター、ガンナードラゴンと光属性モンスター、ハネワタをゲームより除外!」

 

「この召喚方法は、まさかあのカードまで手札に呼び込んでいたのか!」

 

「光と闇を供物とし、世界に天地開闢の時を告げる。降臨せよ、我が魂! カオス・ソルジャー -開闢の使者-!」

 

 

【カオス・ソルジャー -開闢の使者-】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ

ゲームから除外した場合に特殊召喚できる。

1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●フィールド上のモンスター1体を選択してゲームから除外する。

この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

●このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した場合、

もう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 

 デュエルモンスターズ界最強の剣士。宍戸丈の魂のカード。

 相棒たるバルバロスと魂たるカオス・ソルジャー。この二体が並び立ったのだ。もはや勝利以外の決着などあろうはずもない。

 

「バトルだ! バルバロスとカオス・ソルジャーで相手プレイヤーを直接攻撃! カオス・スパイラル・シェイパーッ!」

 

「ぐ、うぉぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーッッ!!」

 

 カオス・ソルジャーとバルバロスの合体攻撃を浴びた田中先生が、思いっきり後方へ吹っ飛ばされていく。

 田中先生のライフが0になったことでデュエルが終了し、解除されるソリッドビジョン。それと同時に田中先生に憑りついていた邪気も消滅していった。

 

「先生!」

 

 丈は駆け寄って容態を確認する。

 心臓はしっかり動いているし、呼吸も正常。医者ではないのではっきりしたことは言えないが、命に別状はないだろう。

 それでも念のためPDAで保健の鮎川先生に『倒れている人がいる』と伝えると、丈は三幻魔の気配のする場所へと急いだ。

 



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第160話  来援

 田中ハルは凄まじい実力を有するデュエリストだ。プロリーグを引退して久しいとはいえ、現役復帰すれば直ぐさまトップランカーに登り詰められるほどの実力を備えている。

 そんな彼を宍戸丈への足止めとして用意したのだ。まさかもう妨害はあるまい――――という考えが何の根拠もない『楽観』に過ぎなかったことを、丈は現在進行形で思い知らされていた。

 田中先生を倒し先へ急いだ丈に、新たに立ち塞がったモノ。それは人間ではなかった。それどころかデュエリストですらなかった。

 

「十四歳の頃だったな……あれは。俺がまだ『魔王』なんて二つ名を頂戴する前……。まだ出かけるのに変装する必要のなかった頃だ。亮と吹雪と一緒に海馬ランドの『世界一恐いホラーハウス』に入ったが……いや、あれもかなり怖かったが……それが『チープ』に思えるくらい凄まじいな」

 

『ォォォォォォォォォォォォォォオオオオオーーーーーーーーーーーー』

 

 斬首され首を失ったまま彷徨う騎士。死霊が憑りついた貴族の屍。絵画に潜んでいる亡霊。五臓六腑どころか肉の一欠片もないのに動いている骸骨。他にもホラー映画に出てきそうなモンスターやゾンビ共がうようよしている。

 丈はソリッドビジョンで不気味なモンスターを何度か目にした機会はあるので、これらがただの幻影ならば特に驚きもしなければ狼狽えることもしなかっただろう。

 だがそのモンスター達が生々しいまでの殺意と怨念を自分に向けているとなると、流石の丈も冷や汗が止まらない。

 丈は自分の心臓が丈夫なことを神に感謝する。もしも心臓が弱ければ、余りにも恐ろしい光景に心臓が停止していたかもしれなかった。

 

(やはり……セブンスターズの黒幕がこれを操っているのか? しかしなにかが引っかかる。セブンスターズは封印されていた幻魔の力を借り受けることで『闇のゲーム』を行っていたが、ここにいるモンスター達は幻魔というよりも寧ろ……)

 

 ブラック・マジシャンやブラック・マジシャン・ガール。そして三幻神たち。古代エジプトを起源とする『魔力』の気配が強い。

 そうなるとどうしても思い浮かぶのは白髪の盗賊の顔。あの男ならばこのくらいのモンスター達を実体化させ操ることも不可能ではない。

 

「十代達の下へ行く理由が増えたな。しかもより切実な理由が出来てしまった」

 

 三幻魔の封印場所へと急いでいた丈だが、実のところ自分で黒幕と戦うつもりはなかった。

 丈はもう三年生。デュエル・アカデミアの生徒でいる時間は二か月もない。恐らくこれからデュエル・アカデミアは多くの苦難に晒されることになるだろう。その苦難に立ち向かうためにも、黒幕との戦いは十代たちに任せ、自分は万が一の予備戦力となるつもりだった。

 だが相手がバクラとなれば話は別である。盗賊王バクラは丈が倒し損ねてしまった亡霊、丈が倒さねばならぬ相手だ。自分の敵を後輩に任せる訳にはいかない。

 三幻魔封印の場所からは既に神にも等しい魔力が溢れだしている。既に三幻魔の封印は解かれ、デュエルが始まっているのだろう。それくらいは見なくても分かる。

 

「しかし――――」

 

 死霊伯爵の振り下ろしてきた剣をひらりと回避した丈は、カウンターに裏拳を顔面に叩き込んだ。

 ぬちゃり、という生々しい感触が拳に伝わる。人間なら確実に顎が砕けるダメージを与えたが、死霊伯爵はまるで応えた様子もなく立ち上がった。

 

「こいつらを倒し、血路を開かないことには進むことは出来ないか」

 

 死霊伯爵はその名の通り死霊。物理ダメージは効果が薄いのだろう。あれを物理的に倒すには、原型を留めないほどに体を破壊する他ない。

 丈の力ならやって出来ないことはないが、それは幾らなんでも面倒だ。かといって精霊を実体化させるのには、それなりの『魔力』を消耗する。バクラとの戦いが控えているかもしれない現状、ここで消耗したくはない。

 となるとここは恥を忍んで助けを借りるべきだろう。

 丈がカードケースより取り出したのは、学園祭の際にブラック・マジシャン・ガールより渡された彼女のカード。

 魔物達の中で一際大きな体躯をもつ怪物。仮面魔獣デス・ガーディウスが、鋭利な爪をたてて丈に近付いて来る。

 しかし遅い。丈が魔術師を呼び出す方が一手早かった。

 

「遊戯さん、不甲斐ないですが力を貸して下さい。頼むぞ、ブラック・マジシャン・ガール!」

 

 三千年前のファラオに仕えし魔術師の少女――――その魂を引継ぎし精霊。ブラック・マジシャン・ガールが現れて、デス・ガーディウスの爪を受け止め……………受け止めなかった。

 

「は?」

 

 ブラック・マジシャン・ガールが現れるどころか、カードはまったくの無反応だ。

 しかしブラック・マジシャン・ガールは現れなかったとしても、デス・ガーディウスは攻撃を停止してはくれない。無情にも爪は叩き下ろされた。

 

「ぐ、ぐぬぬ……」

 

 両足を踏ん張って、デス・ガーディウスの爪を両腕で受け止める丈。日頃鍛えていた甲斐があったというものだが、流石に攻撃力3300を相手に長くは保たない。

 仕方なく丈は自身のモンスター、カオス・ソルジャーを実体化させようとして、

 

『――――はぁッ!』

 

 それよりも早く武藤遊戯から渡されたもう一枚のカードの精霊、ブラック・マジシャンがデス・ガーディウスの頭を吹き飛ばした。

 

『宍戸丈殿、助けが遅くなり申し訳ない』

 

 くるくるとステッキを回して雑魚を薙ぎ払いつつ、ブラック・マジシャンが丈の前に降り立つ。

 その姿は正にデュエルモンスターズ界の最上級魔術師そのものだった。

 

「助かった、ブラック・マジシャン。ところでブラック・マジシャン・ガールが呼んでも出てこなかったのはどうしてだ?」

 

『……………弟子の恥を晒すようで恐縮なのですが、如何せんマスターがかなり遠方にいたせいで、最近修行を怠けていたマナ……ブラック・マジシャン・ガールは魔力が足りず。こうして私一人が参上した次第』

 

「そ、そうか……」

 

 心なしかブラック・マジシャンの背中が煤けていた。こんな顔をされてしまっては文句も言えない。余りにもブラック・マジシャンが不憫だ。

 きっと彼は神官時代から苦労人ポジションだったのだろう。

 

「それよりブラック・マジシャン。ここを任せても大丈夫か?」

 

 任せた、とは言わない。丈を取り囲む魔物たちは殆どは下級モンスターだが、中には上級モンスターや最上級モンスターもいる。

 ブラック・マジシャンの攻撃力は2500。デュエルではなく『ディアハ』では攻撃力でバトルの勝敗が決まるわけではないが、一つの基準には違いない。歴戦の精霊たるブラック・マジシャンといえど、この物量は些かきついのではないだろうか。

 

『問題はありません。確かにパワーだけならば私に勝るモノもいますが、所詮連中はただの傀儡。パワーで勝っていても、技量は赤子同然。盗賊王の使役した精霊獣や我が同朋たちの精霊と比べれば雑魚に等しい。なにより――――』

 

 そこでブラック・マジシャンは言葉を切る。と、同時に天上から黒炎と黄金の羽が降り注いで魔物たちを蹂躙していった。

 

『手を貸してくれるデュエリストもいます』

 

「――――おやおや。帰還早々に見るのが魔物達に囲まれた親友とブラック・マジシャンだなんて、本当にアカデミアは退屈しないね」

 

「まったくだよ。まぁ二年前は元凶だった僕が言えたことじゃないかもしれないけど」

 

「吹雪! 藤原!?」

 

 アメリカに留学中だった天上院吹雪と藤原優介。魔王とカイザーに並ぶキングと天帝。二人の四天王がアカデミアに帰還した。

 真紅眼の黒竜とオネスト。相棒たる精霊を連れて。

 

「事情は良く分からないけど、急いでいるんだろう!」

 

「丈。ここは僕と吹雪がなんとかするから先に行ってくれ」

 

 そう言って吹雪と藤原は精霊を連れて魔物達の群れに突っ込んでいく。それをサポートするようにブラック・マジシャンも動いた。

 吹雪と藤原ほどの実力者にブラック・マジシャンもいるのならば、万が一にも魔物風情に遅れをとることはないだろう。

 

「分かった。頼んだ」

 

 故に丈がするべきことは、振り返らずに前へと進むことだ。

 

 

 

 

 そうして漸く三幻魔の封印場所に駆け付けることができた丈だったが、到着した頃には既にデュエルの決着はついていたらしい。らしい、というのは丈が目にした光景がまるで意味不明のものだったからだ。

 100を超えた白髪の老人と、それと抱き合う十代。更にそんな二人を温かく見守るギャラリー達。

 

「……なんだ、これは? 十代はまさかそちらの道に目覚めてしまったのか?」

 

 未来で出逢った十代も両性具有の精霊と行動を共にしていたが、案外彼は見た目に寄らずアブノーマルな性癖の持ち主なのかもしれない。

 丈が呆然と抱き合う十代と老人を眺めていると、ごきり、という骨折音が鳴った。どうも十代が抱きしめるのに力を入れ過ぎて、老人の骨が折れたらしい。

 

「丈、随分と遅い到着じゃないか」

 

「亮……。なにが、どうしたんだ、この状況は。まるで意味が分からんぞ」

 

「見ての通りだよ。三幻魔の魔力で若返ろうとした理事長を、今さっき十代が倒したところだ」

 

「十代と老人が抱き合う姿から、そこまで理解しろというのは難題過ぎるぞ」

 

「それより無事でなによりだ。お前のことだから心配はしていなかったが、魔物の群れに襲われたんだろう?」

 

「……気付いていたなら助けに来てくれてもいいじゃないか」

 

「言ってくれるな。お前が足止めを喰らっている中、俺まで十代たちの近くから離れるわけにはいかないだろう」

 

「成程」

 

 理事長の狙いは精霊を操る力をもつデュエリストから、その力を奪い取ること。

 最悪十代が理事長に敗北して力を奪われてしまった場合は、誰かが理事長を倒して奪われたものを奪還する必要がある。そのために亮は敢えて丈の助けには来ずに、ここに留まっていたのだ。

 

「ともあれこれにて一件落着。めでたしめでたし――――」

 

『――――とは、いかねぇよなぁ』

 

 瞬間、世界が闇に包まれた。宙を舞う黒いカードの紙吹雪。黒いカードはやがて一か所に集まって人の形を成していく。

 白い髪に刃物のように鋭い瞳。三千年前の因縁の亡霊。盗賊王バクラが出現した。

 




 昔、初代のアニメを見ていた時は俺ルールと統一感のないデッキにツッコミを入れていましたが、統一感あるデッキばかり見ていると逆に初代が懐かしく思えてくる今日この頃。


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第161話  盗賊王の影

 鍵の守護者達全員が、いきなり出現したバクラに警戒の視線を送る。彼等はバクラが三千年前の大邪神の魂の欠片で、ネオ・グールズ事件の黒幕だった男なんて知りはしないだろう。それでも一目で分かる危ない気配をバクラは放っていた。

 だがここにいる面子の中で『バクラ』の正体を知っている丈と亮の二人は、警戒心なんて生温い次元では留まらない。いつでも動けるよう闘気を滲ませながら、バクラの一挙一動に注意を払う。

 

 黒いコートを羽織ったバクラは顔に喜悦を貼りつかせたまま、十代と影丸理事長、鍵の守護者達を見渡す。そしてその双眸が『宍戸丈』に向けられるとピタリと止まった。

 

「な、なんだ年寄りでもない癖に髪の毛が白い訳の分からん男は! 貴様、どこから湧いて出た!」

 

「クククククッ。訳の分からねえとは酷ぇなぁ。あとこの髪の色は生憎と地だよ。三千年前からなぁ」

 

「三千年前!?」

 

「まさか遊戯さんとなにか関係があるのか!」

 

 驚く万丈目や十代を制して、丈は皆を守るように前へ出る。するとバクラも邪悪な笑みを深めた。

 

「よう、宍戸丈。かれこれ四年ぶりかぁ?」

 

「……バクラ。今の力は」

 

「三邪神を支配下に置くだけあって慧眼じゃねえか。一目でオレ様の力のトリックを見抜きやがるとはなぁ」

 

 黒いカードが集まって、人の形として顕現する。それは三年前のダークネスの尖兵、ミスターTの現れ方そのものだ。

 現れ方が同一なだけならば偶然ということも考えられるが、信じがたいことにバクラから発せられる『魔力』には、ダークネスの気配が色濃く浮かんでいる。

 

「ダークネスの力を、自身に取り込んだのか……ッ!?」

 

「魂を引き裂かれ死に体だったオレ様と、テメエにやられて力を衰えさせたダークネス。お互い手を組むには都合が良かったんでね。そこの老い耄れを使って、ダークネス世界との門を開かせて貰った。

 くくくくっひゃーははははははははははははははははははははは! 三千年前はファラオと神官共を一人で相手取った盗賊王が堕ちたもんだぜぇ。他人と手を組まねえと存在することすら儘ならねえとはよぉ。ま、お蔭で誰かに憑りつかねぇでも活動できる体は得たがな。

 老い耄れ、テメエには感謝しといてやるぜ。あとそこの猫に入っている錬金術師サマにもなぁ!」

 

 バクラの悪意を正面から浴びたファラオが、全身の毛を逆立てて威嚇するようにバクラを睨む。基本的に怠け者のファラオがああまで敵意を剥き出しにするのは初めてだった。恐らくバクラの悪意が錬金術師アムナエル、つまり大徳寺教諭に向けられたものだったからだろう。

 

「……お、おぉ。私はなんと愚かなことを……。若さ欲しさに、あんな邪悪なモノにダークネスの力を渡してしまうとは……」

 

「邪悪とは随分な言い草だな、理事長サマ。これでもオレ様はテメエの計画のためにしっかり協力してやったんだぜぇ~。今でもあっちの森じゃ魔術師野郎とオレ様の手下がやりあっている所だしなぁ。

 ま、オレ様としちゃ動くのに必要な仮の肉体を手に入れ、理事長サマが猿みてえに踊る様を見物できて満足だ。完全に宍戸丈の支配下に収まっちまった三邪神や、そこの三幻魔には対して興味はねえ。盗賊としちゃ欲情の一つはするけどよぉ。

 だからなぁ。そうも戦意を剥き出しにされたら、オレとしては困るんだよ。え? 宍戸丈」

 

 武藤遊戯、海馬コーポレーション、墓守の一族。

 三千年前の因縁に関わる多くの存在が、数年に渡って捜索しても闇に潜むバクラの足取りを掴むことができなかった。盗賊というだけあって、隠れたバクラを見つけ出すことは並大抵のことではない。

 そのバクラが自分から丈の目の前に現れてくれたのだ。この千載一遇の機会を逃すことはできない。

 

「バクラ、四年前の決着をつけよう。――――デュエルだ」

 

「丈さん!?」

 

「十代。お前は影丸理事長相手に戦った後だ。ここは先輩に譲れ」

 

 盗賊王バクラの野心は危険だ。ここで倒しておかなければならない。

 

「デュエルっつってもこのオレ様は単なる影。デッキなんざ持ってねえんだがなぁ。丸腰で戦う訳にもいかねえし、そうなると仕方ねえ、か」

 

 そう言うとバクラは理事長に手を翳す。すると理事長のデュエルディスクにセットされていたデッキが、黒い波動を放つバクラの掌に吸い込まれていった。

 バクラの腕から浮かび上がっていく旧型のデュエルディスク。バクラは自身のデュエルディスクに、そのデッキをセットし直す。三体の幻魔を投入し運用するために構築されていた影丸理事長のデッキを。

 

「折角だ。こいつらで相手してやるよ。神話以来の神同士の潰し合いといこうぜ」

 

「……いいだろう」

 

 海馬瀬人が武藤遊戯の生涯の好敵手、城之内克也が武藤遊戯の生涯の親友ならば、さしずめ盗賊王バクラは武藤遊戯の生涯の宿敵だ。その実力は『伝説の三人』に劣るものではない。

 それが例え悪しきモノだったとしても伝説であることに違いはないだろう。

 遠慮は不要。丈は三邪神のカードをデッキに投入する。

 

「亮、ちと派手になる。後輩たちは任せたぞ」

 

「任せておけ」

 

 サイバー・ドラゴンが光の結界を十代や万丈目たちの周囲に張る。十代のハネクリボーも癒しのオーラで皆を守った。

 

「おい、雑魚共。お前たちはなにか出来んのか?」

 

『無茶言わないでよ万丈目の兄貴~! オイラたちは効果のない通常モンスターなのよぉ』

 

『そんな便利な特殊能力なんて』

 

『あるはずない!』

 

「ええぃ。使えんクズカード共め!」

 

 万丈目とおジャマ三兄弟も相変わらずのようでなによりだった。

 三邪神と三幻魔が正面より戦えば、下手したら地形が変わりかねないほどの余波が飛び交うことになる。だがこの調子ならば心配は無用だろう。

 これで丈もなんの躊躇いなどなく思いっきり戦えるというものだ。

 

『デュエル!』

 

 

宍戸丈 LP4000 手札5枚

場 無し

 

バクラ LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

「先攻はオレ様だ、ドローカード。永続魔法、カードトレーダーを発動。こいつは自身のスタンバイフェイズ時に手札を一枚デッキへ戻し、代わりに一枚カードをドローするマジックカード。当然既にメインフェイズになっちまったこのターンの使用は出来ねえ。

 オレはモンスターをセットし、リバースカードを二枚場に出す。ターンエンドだ。さぁテメエのターンだぜ。三幻魔を出されるのが恐けりゃ、今の内にオレを倒すことだな」

 

「アドバイス感謝する。俺のターン、ドロー!」

 

 三幻魔が神に匹敵するのは能力ばかりではない。召喚の難易度もまた神と同様厳しいものがある。それこそまともなデュエリストであれば専用デッキを構築しない限り、召喚することすら難しいだろう。

 バクラは良くも悪くも〝まとも〟なデュエリストではないが、彼も初手で三幻魔を召喚することは出来なかったらしい。ならばバクラの言う通り三幻魔を出される前に倒してしまうのが、もっとも手軽で安全な三幻魔の攻略法だ。

 

(まぁ生憎と……)

 

 丈は自分の手札を見比べ、心の中で嘆息する。相手が完全な無防備状態ならいざしれず、この手札でワンターンキルを決めることは困難だ。

 とすればここは無理して勝ちを急がず、三幻魔召喚のリスクを冒しても安全第一でゆくべきだろう。

 

「おろかな埋葬を発動。デッキよりレベル・スティーラーを墓地へ送る。そして神獣王バルバロスを攻撃表示で妥協召喚。妥協召喚したバルバロスの攻撃力は1900となるが……十分だ。

 バトルフェイズ。神獣王バルバロスでリバースモンスターを攻撃! トルネード・シェイパー!」

 

 バルバロスの槍に貫かれて、バクラの伏せていたモンスターが破壊される。

 

「クククククッ。ひゃーはははははっははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 

「!」

 

「オレ様の出したモンスターを攻撃してくれてありがとよぉ! お蔭でこいつの特殊能力が発動するぜ! オレ様が伏せていたのはジャイアントウィルス。こいつが破壊された時、デッキから新たに二体のジャイアントウィルスを場に出現させる。そして相手に500ポイントのダメージを与えるんだよ!」

 

 

【ジャイアントウィルス】

闇属性 ☆2 悪魔族

攻撃力1000

守備力100

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

相手ライフに500ポイントダメージを与える。

さらに自分のデッキから「ジャイアントウィルス」を任意の数だけ

表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

 

 

 バクラの場に巨大な細胞のようなものが二つ出現する。しかもライフにも500ポイントのダメージを受けた。

 たった500と侮るなかれ。一体で500ということは三体で1500。初期ライフの八分の三にも値する。厄介なモンスターだ。

 

「……俺はカードを二枚伏せターンを終了する」

 

 バクラのモンスターを倒すどころか、展開の手伝いをしてしまったのは痛いが、現状他にすることもない。

 丈は追撃を諦めてターンを終了した。

 



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第162話  楽園喪失

宍戸丈 LP3500 手札2枚

場 神獣王バルバロス

伏せ 二枚

 

バクラ LP4000 手札2枚

場 ジャイアントウィルス×2

伏せ 二枚

魔法 カードトレーダー

 

 

 びりびりと肌が焼ける緊張感が伝わる。これはプロでやっているような、競技としてのデュエルではない。

 デュエルモンスターズの原型たるディアハと同じ命懸けの闇のゲーム。

 

「オレ様のターン、カードドロー」

 

 ドクンッと丈の心臓が跳ねる。バクラがデッキよりドローしたカードから発せられるのは、隠しても隠し切れない強大なエネルギーだった。

 ほぼ確実にバクラの引いたのは三幻魔のカード。あのデッキは『三幻魔』を召喚し運用することのみに特化したデッキである。だとすればここからが本番ということだ。

 

「ククククククッ、良いカードを引いたぜ。こいつで手始めにテメエのチンケなモンスターを墓地へ送ってやるよぉ! だがその前にオレ様はカードトレーダーの効果を使うぜ。手札のカードをデッキに戻し、代わりに一枚ドロー。そしてオレ様は魔法カード、デビルズ・サンクチュアリを発動」

 

 

【デビルズ・サンクチュアリ】

通常魔法カード

「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を

自分のフィールド上に1体特殊召喚する。

このトークンは攻撃をする事ができない。

「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、

かわりに相手プレイヤーが受ける。

自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。

払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。

 

 

 バクラのフィールドに丈の顔を映し出したトークンが出現する。

 デビルズ・サンクチュアリは戦闘ダメージを相手に返す能力から、武藤遊戯が対マリクのキーカードとして投入したことで有名だ。

 だがバクラの目的はデビルズ・サンクチュアリの特殊能力で相手にダメージを与えることではなく、三体の生け贄を場に揃えること。

 ジャイアントウィルスと合わせてバクラのフィールドのモンスター。三体分の生け贄がここに揃った。

 

「精々震えな。オレ様は三体のモンスターを生け贄に捧げ、幻魔皇ラビエルが降臨する。来やがれ、ラビエルッ!」

 

 

【幻魔皇ラビエル】

闇属性 ☆10 悪魔族

攻撃力4000

守備力4000

このカードを生け贄召喚する場合、三体の生け贄を捧げなければならない。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

罠の効果を受け付けず、魔法・効果モンスターの効果は

発動ターンのみ有効となる。

相手がモンスターを召喚・特殊召喚した時、自分フィールド上に「幻魔トークン」

(悪魔族・闇・星1・攻/守1000)を同じ数だけ特殊召喚する。

このトークンは攻撃宣言を行う事ができない。

1ターンに1度だけ、自分フィールド上のモンスター2体を生け贄に捧げる事で、

このターンのエンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は

生け贄に捧げたモンスターの攻撃力分アップする。

 

 

 亀裂の入る大地。地響きをたてながら、割れた大地より蒼い魔神が昇ってくる。天を衝く巨体と隆々たる四肢。オベリスクの巨神兵にも似た威圧感をもった幻魔が場に顕現した。

 丈のデッキに眠っている三邪神が、自分達と同格の力が現れたことに震えだす。

 ラビエルが背中の翼をバッと広げた。それだけでフィールド全体に突風が吹き荒れる。

 

「ひぁーははははははっははははっははははははははははははははははははははははっ! 邪神相手にしてるだけあってビビっちまうことはねぇようで安心したぜぇ。

 このまま攻撃してもいいが、どうせなら与えるダメージは大きければ大きいほど良いよなぁ。永続魔法、強者の苦痛。こいつがある限りテメエのモンスターはレベルの数だけ100ポイント攻撃力を下げるぜ」

 

「――!」

 

 

【強者の苦痛】

永続魔法カード

相手フィールド上のモンスターの攻撃力は、

そのモンスターのレベル×100ポイントダウンする。

 

 

 バルバロスのレベルは8。よって攻撃力は800ポイントダウンして1100まで低下してしまう。

 こんな所にラビエルの攻撃を受けてしまえば大損害だ。この攻撃をまともに喰らうわけにはいかない。

 

「バトルフェイズ。幻魔皇ラビエルでバルバロスを攻撃、天界蹂躙拳!」

 

「罠発動、ガード・ブロック! 戦闘ダメージを0にし、デッキからカードを一枚ドローする!」

 

 幻魔に罠は通じないが、幻魔ではなくプレイヤー自身に影響を与える罠カードは無効化されない。対三邪神戦でも使用した戦法の一つだ。

 ラビエルはバルバロスを木端微塵に粉砕したが、ダメージを丈に与えることは出来なかった。

 

「狡い手を使いやがるぜ。バトルを終了、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。速攻魔法、終焉の焔を発動! 二体の黒焔トークンを場に二体出現させる!」

 

 

【終焉の焔】

速攻魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は召喚・反転召喚・特殊召喚する事はできない。

自分フィールド上に「黒焔トークン」

(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは闇属性モンスター以外の生贄召喚のためには生贄にできない。

 

 

 二体の黒焔トークンが特殊召喚される。終焉の焔は一気に二体のトークンを出現させる代わりに、このターンの召喚を封じられ、しかも闇属性以外の生け贄には使えないという弱点がある。

 ただこのカードには抜け道があるのだ。

 

「冥界の宝札を発動。二体の黒焔トークンを生け贄にモンスターをセットする。冥界の宝札の効果で二枚のカードをドロー!」

 

 生け贄召喚は出来ずともモンスターをセットすることは出来る。丈の伏せたモンスターはThe SUN。破壊された時に墓地より蘇生する効果を持つ優秀なモンスターだ。

 ラビエルの攻撃力には及ばないが、壁モンスターとしての能力は十分すぎる。

 

「待ちな。テメエが終焉の焔を発動したタイミングで、ラビエルの特殊能力も発動するぜ。テメエがモンスターを召喚・特殊召喚した場合、自分フィールドに幻魔トークンを同じ数だけ出現させる。

 テメエが終焉の焔で呼び出したトークン二体分。つまり二体の幻魔トークンが場に守備表示で特殊召喚」

 

 

【幻魔トークン】

闇属性 ☆1 悪魔族

攻撃力1000

守備力1000

 

 

 トークンとしては攻撃力1000は高い数値であるが、幻魔トークンは攻撃宣言できない制約をもっている。

 壁モンスターにはなっても、戦闘要員にはなりはしないだろう。

 

「――カードを一枚伏せる。ターンエン」

 

「エンドフェイズ時、永続罠を発動!」

 

 

【カース・オブ・スタチュー】

永続罠カード

このカードは発動後モンスターカード

(岩石族・闇・星4・攻1800/守1000)となり、

自分のモンスターカードゾーンに特殊召喚する。

このカードがフィールド上にモンスター扱いとして存在し、

このカード以外のモンスター扱いとした罠カードが

相手モンスターと戦闘を行った場合、

その相手モンスターをダメージ計算後に破壊する。

このカードは罠カードとしても扱う。

 

 

「こいつは発動後にモンスターカードとなって場に特殊召喚されるトラップモンスターだ。カース・オブ・スタチューを場に特殊召喚するぜ。…………ったく、つまらねえカード入れやがって。トラップモンスターならゾーマを使いやがれってんだ」

 

 文句を言いながらもバクラがカース・オブ・スタチューのカードをモンスターゾーンへ置く。

 なんの違和感もなく三幻魔デッキを使いこなしているバクラだが、あのデッキは影丸理事長のもの。バクラとしては投入されているカードにも不満が多いのだろう。

 

「オレ様のターン、ドロー。スタンバイフェイズ時、カードトレーダーの効果を発動するぜ。カードを一枚デッキへ戻し、新たにドロー。魔法カード、テラ・フォーミング! デッキからフィールド魔法『失楽園』をサーチするぜ」

 

「なっ!? あのカードは!」

 

「不味いぞ、丈」

 

「万丈目? 亮?」

 

 影丸理事長のデュエルを見ていない丈には分からないが、バクラのサーチしたフィールド魔法は相当不味いカードらしい。

 ただ丈の場にフィールド魔法の発動を防ぐ術はないので、どれだけ危険なカードだろうと覚悟を決める他なかった。

 

「覚悟はいいか? このフィールド魔法は相当イカれているぜぇ~。フィールド魔法、失楽園を発動! こいつはフィールド上に三幻魔が一体以上存在している場合、1ターンに1度だけデッキよりカードを二枚ドローする!」

 

「1ターンに二枚のドローだと!? インチキ効果もいい加減にしろ!」

 

 

【失楽園】

フィールド魔法カード

フィールド上に「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」

「幻魔皇ラビエル」の内1体以上が存在している場合、

そのカードのコントローラーは1ターンに1度だけ

デッキからカードを2枚ドローできる。

 

 

 1ターンに効果で二枚ドローできるということは、通常ドローも合わせてバクラは三枚ドロー出来るということだ。

 ハンドアドバンテージが大きく勝敗を左右するデュエルモンスターズにおいて、1ターンに三枚ドロー出来るというのは余りにも驚異的である。

 万丈目や亮があれほど警戒するのは当然のことだ。

 

「ラビエルの特殊能力発動! こいつは1ターンに1度、オレ様のフィールドのモンスターを二体まで生け贄に捧げることで、生け贄にしたモンスターのステータスをエンドフェイズまで吸収する。

 二体の幻魔トークンを生け贄に、ラビエルよ! 力を得よ!」

 

 幻魔トークンを両手で握り潰し、その生命力を奪っていくラビエル。4000だった攻撃力は6000まで上昇し、遂にあのF・G・Dをも凌駕する数値となった。

 

「バトルフェイズ。ラビエルでセットモンスターを攻撃、天界蹂躙拳!」

 

「……俺のセットしていたのはThe supremacy SUNだ。破壊される」

 

 守備力3000のThe SUNも6000の破壊力の前では紙同然。至高の太陽は、あっさりと幻魔の天拳によって粉砕された。

 

「続いてカース・オブ・スタチューで直接攻撃するぜ。闇のゲームの苦痛をたっぷり味わいな!」

 

「させない。罠発動、メタル・リフレクト・スライム!」

 

 

【メタル・リフレクト・スライム】

永続罠カード

このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、

自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。

このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)

 

 

 丈の場にモンスターが増えたことで、巻き戻しが発生する。

 メタル・リフレクト・スライムの守備力は3000。バクラは一瞬攻撃するかどうか迷っていたが、結局ダメージを警戒して手を出してくることはなかった。

 

「ラビエルの効果、幻魔トークンを一体特殊召喚するぜ。バトルを終了、ターンエンドだ」

 

 



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第163話  邪神VS幻魔

宍戸丈 LP3500 手札3枚

場 メタル・リフレクト・スライム

伏せ 一枚

魔法 冥界の宝札

罠 メタル・リフレクト・スライム

 

バクラ LP4000 手札2枚

場 幻魔皇ラビエル、カース・オブ・スタチュー、幻魔トークン

伏せ 一枚

魔法 カードトレーダー、強者の苦痛

罠 カース・オブ・スタチュー

フィールド 失楽園

 

 

 

 幻魔皇ラビエルが凶悪な赤い眼で丈を見下ろしている。眼に浮かんでいるのは緋色の殺意だ。

 デュエルモンスターズのカードには精霊の宿った特別なカードがある。精霊と一口に言っても藤原のオネストのように、自分で実体化するほどの魔力を持つモノや、万丈目のおジャマのように単体ではさして力を持たないモノもいるが、三幻魔は三邪神と同じ。最上位に君臨する大精霊だ。

 あれがデュエル・アカデミアから張られている結界を抜け出せば、世界は混沌に包まれることになるかもしれない。

 幸いなのはバクラ本人には三幻魔に対しての興味が薄いことだが、どちらにせよ負ける訳にはいかなかった。

 

「俺のターン……ドロー」

 

 三幻魔に対抗するには同格の精霊、三邪神をもって相手するのが一番手っ取り早い。だが三幻魔の気に当てられて運勢が落ちているのか、丈の手札に三邪神のカードはなかった。

 神の如き力をもつカードもデッキで眠っているうちは単なるカード。ならば、

 

「スタンバイフェイズ時、The SUNの特殊能力が発動する! こいつは破壊されて墓地へ送られた場合、次のターンのスタンバイフェイズ時に手札のカードを墓地へ捨てることで、The SUNは復活する!」

 

「The SUN……成程。忌々しいラーと同じく、墓地に置かれてこそ真価を発揮するモンスターってわけか」

 

「手札よりレベル・スティーラーを捨てる。再び昇れ、至高なる太陽! The supremacy SUN!」

 

 

【The supremacy SUN】

闇属性 ☆10 悪魔族

攻撃力3000

守備力3000

このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できない。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、

次のターンのスタンバイフェイズ時、

手札を1枚捨てる事で、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

 闇に包まれたフィールドを、The SUNの太陽光が塗り替える。だがThe SUNの攻撃力は3000。ラビエルの4000には届かない。

 丈の冥界軸最上級は多種多様な最上級モンスターを召喚していくパワーデッキだが、モンスターの殆どが3000のラインばかりで、相手が3000を超えるモンスターを出した場合、そのまま押し切られかねないという弱点をもっている。

 けれど丈はあのカイザー亮の親友にして好敵手として、彼と1000を超えるデュエルを積み重ねてきた。高攻撃力への対処法くらいは備えている。

 

「少し勿体ないが仕方ない。永続罠、リビングデッドの呼び声を発動! これにより墓地のバルバロスが復活する」

 

「バルバロスは妥協召喚したモンスター。よって墓地から蘇生させた場合は、攻撃力は元の3000になる、か。だがそれじゃラビエルは倒せねえな」

 

 それにバルバロスとThe SUNの特殊召喚でバクラの場に二体の幻魔トークンが召喚され、フィールドが埋まってしまった。

 幻魔を倒し直接攻撃を通すのは並大抵のことではないだろう。

 

「そう、The SUNでもバルバロスでも幻魔は倒せない。故に――――倒せるカードを召喚する。俺はThe SUNとバルバロスの二体を生け贄に捧げる!」

 

「最上級モンスター二体を生け贄だと!?」

 

「喰らい尽くせ! 冷たき暴君、ここに顕現! The tyrant NEPTUNE!」

 

 

【The tyrant NEPTUNE】

水属性 ☆10 爬虫類族

攻撃力0

守備力0

このカードは特殊召喚できない。

このカードはモンスター1体を生け贄にして生け贄召喚する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、生け贄召喚時に生け贄にしたモンスターの

元々の攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値分アップする。

このカードが生け贄召喚に成功した時、

墓地に存在する生け贄にした効果モンスター1体を選択し、

そのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

 

 

 ワニの頭部に恐竜の体、そして命も魂も奪い尽くす大鎌。プラネットシリーズのうち海王星を象徴する暴君がフィールドに降臨した。

 神と同等のレベルをもつプラネットは、幻魔の威圧にもまるで動じずにラビエルを睨み返す。

 

「冥界の宝札の効果で二枚ドロー。NEPTUNEの攻撃力は生け贄にしたモンスターの元々の攻撃力・守備力をアップした数値となる。バルバロスとThe SUNの攻撃力の合計は6000。よってこいつの攻撃力は6000ポイントだ!」

 

「チッ。だが強者の苦痛による攻撃力の減少効果を受けて貰うぜ」

 

「だとしてもラビエルを倒すには十分すぎる。俺はNEPTUNEのレベルを二つ下げて二体のレベル・スティーラーを守備表示で召喚。

 バトルだ! NEPTUNEで幻魔皇ラビエルを攻撃、Sickle of ruin(シグル・オブ・ルーイン)ッ!」

 

「甘ぇぜ。オレ様は1000ポイントのライフを支払い永続罠発動、スキルドレイン!」

 

「――――な……ん……だと?」

 

 

【スキルドレイン】

永続罠カード

1000ライフポイントを払って発動できる。

このカードがフィールド上に存在する限り、

フィールド上の全ての効果モンスターの効果は無効化される。

 

 

 スキルドレインはフィールド上のモンスター効果を無効化するトラップ。モンスター効果によって神をも凌駕する攻撃力を得ていたThe tyrant NEPTUNEは、効果を無効にされてしまえば攻撃力は0だ。

 そして既に『攻撃宣言』は行われている。

 

「大変だわ! もしこの攻撃が通ってしまったら、先輩は4000ポイントのダメージを受けて……」

 

「丈さん! 融合解除……は無理だから、サイクロンだ!」

 

 後輩たちの悲鳴交じりの声援が届く。それにしても十代、この状況でサイクロンを発動しろとは中々に実践的なアドバイスをするものだ。

 ただ丈の手札にサイクロンは残念なことになかったので、代わりに他の速攻魔法を発動することにした。

 

「速攻魔法、月の書! モンスターを裏守備表示に変更する。俺が選択するのは無論The tyrant NEPTUNE。攻撃モンスターが裏守備になったことで、攻撃は無効となる。

 バトルフェイズを終了。カードを一枚伏せターンエンドだ」

 

「上手いこと躱しやがったか。オレ様のターン、ドローカード。失楽園の効果で更に二枚追加ドロー。永続魔法、強欲なカケラを発動!」

 

 バクラのフィールドはカードトレーダー、強者の苦痛、強欲なカケラで三枚の永続魔法が発動した状態になった。

 もしも三幻魔の召喚方法が噂に聞いた通りならば、これで更なる幻魔を呼び出す準備が整ってしまったことになる。

 

「ククククッ。その顔じゃテメエもなにが起こるか気付いているようだな。オレ様はラビエルの効果で二体の幻魔トークンを生け贄にすることで攻撃力を上昇。

 目玉に焼き付けやがれ、これが二体目の幻魔だ。オレ様は三枚の永続魔法を墓地へ送り降雷皇ハモンをフィールドに降臨するぜ!」

 

 

【降雷皇ハモン】

光属性 ☆10 雷族

攻撃力4000

守備力4000

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上の魔法カード3枚を

墓地に送ることで特殊召喚する事ができる。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

罠の効果を受け付けず、魔法・効果モンスターの効果は

発動ターンのみ有効となる。

このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、

相手ライフに1000ポイントダメージを与える。

守備表示のこのカードが破壊されたターン、

コントローラーの受けるダメージは0になる。

この効果は発動ターンのみ有効とする。

 

 

 雷鳴を轟かせ、恐怖と共に二体目の幻魔が降りてくる。幻魔皇ラビエルがオベリスクに似た幻魔ならば、降雷皇ハモンはラーの面影があった。

 ラビエルとハモン。二体の幻魔が顕現したことで、アカデミアの空は天変地異が起きたかの如く荒々しくなっていた。

 

「バトル。降雷皇ハモンの攻撃、失楽の霹靂! NEPTUNEを消し飛ばしっちまいな!」

 

 NEPTUNEはハモンの雷光に抗うこともできず、肉体の一切を蒸発させる。

 

「ハモンの特殊能力。こいつがモンスターを破壊し墓地へ送った時、相手ライフに1000ポイントのダメージを与える 地獄の贖罪!」

 

 宍戸丈LP3500→2500

 

 雷が丈に落ちて、1000ポイントのライフを奪っていった。

 だがまだバクラのバトルフェイズは終了していない。バクラの場にはまだ二体のモンスターが残っている。

 

「ラビエルでメタル・リフレクト・スライムを攻撃、天界蹂躙拳!」

 

 メタル・リフレクト・スライムがやられ、丈の場にはレベル・スティーラー二体を残すのみとなった。

 ライフには余裕があるが、それも幻魔一体の攻撃で失われるものに過ぎない。大ピンチというやつだ。

 

「バトルフェイズを終了。メインフェイズ2にカース・オブ・スタチューを守備表示に変更。リバースカードを二枚場に出しターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードを見た瞬間、丈の目がカッと見開かれた。三幻魔と真っ向から対抗することの出来る『魔力』を秘めたカード。邪神の一枚を漸く引き当てることができた。

 後は三体の生け贄を場に揃えて、邪神を召喚するだけ。いつもやっている延長線上に過ぎない楽な作業だ。

 

「このカードは手札を一枚捨てることで特殊召喚することができる。Theトリッキーを特殊召喚」

 

 

【THE トリッキー】

風属性 ☆5 魔法使い族

攻撃力2000

守備力1200

このカードは手札を1枚捨てて、手札から特殊召喚できる。

 

 

 赤いクエスチョンマークのマスクを被った魔法使いが現れる。THEトリッキーはあの武藤遊戯も使ったことで有名で、尚且つその優秀な効果から非常に人気のあるモンスターだ。

 昔は人気さと実用性に裏付けされた高価さのせいで、手に入れることができなかったが、プロデュエリストの資金力のお蔭で購入することが出来た。

 金をかければ強くなれるわけではないが、金があるにこしたことはない。こういう時、お金の力をしみじみと感じる。

 

「場のモンスターは三体。テメエも引き当てたようだな」

 

「その通り。俺はフィールドの三体のモンスターを生け贄に捧げる!」

 

 黒い邪悪な魔力の奔流が、丈を中心として立ち昇る。空を覆い尽くす灰色の雲も、立ち昇る邪気に退いた。

 高まっていく破壊衝動。地面が震え、ここに邪神が出現する。

 

「破壊神をも駆逐する恐怖の根源、我が絶対の力となりて、 我が領域に顕現せよ!  天地を揺るがす全能たる力によって、俺に勝利をもたらせ! 邪神ドレッド・ルート降臨ッッ!!」

 

 

【THE DEVILS DREAD-ROOT】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/4000

DEF/4000

Fear dominates the whole field.

Both attack and defense points of all the monsters will halve.

 

 

 山のような巨体は幻魔皇ラビエルのものだけに非ず。ラビエルと同等の巨体に、ドス黒さの混じった深緑色の肌。殺意でぎらぎらと光った双眸。

 殺戮衝動を振り撒きながら、世界に恐怖を齎す破壊邪神が主人の剣として出現する。

 幻魔と邪神。もはやモンスターの次元を超えた二大精霊の対峙に、むせかえるほどの魔力が漂い始めるた。

 その濃密過ぎる魔力の余波は、ハネクリボーやおジャマ三兄弟といった精霊が実体化するほどだった。

 

「仮にもゾークの欠片が不甲斐ねえ。宍戸丈に完全に飼いならされやがって」

 

「冥界の宝札の効果で二枚カードをドローする。ドレッドルートの効果でこいつ以外のフィールドのモンスターは全て攻撃力を半減させる。幻魔も例外じゃない。

 これにより攻撃力4000のラビエルとハモンは攻撃力を2000に半減させる。バトルだ。ドレッドルートでラビエルを攻撃」

 

「罠発動、針虫の巣窟。デッキの上からカードを五枚墓地へ送るぜ」

 

 

【針虫の巣窟】

通常罠カード

自分のデッキの上からカードを5枚墓地へ送る。

 

 

 バクラが墓地へ落としたカードは全て罠カード。その中に墓地で発動できるカードはない。

 よってドレッドルートの攻撃を遮ることはバクラには出来なかった。

 

「ドレッドルート、幻魔を地獄へ突き落せ! フィアーズノックダウンッ!」

 

「迎撃しろ、ラビエル! 天界蹂躙拳ッ!」

 

 モーションからタイミングまで全く同じ。ドレッドルートとラビエルは互いの拳を正面からぶつけあった。

 邪神と幻魔の正面激突に核爆発を思わせるエネルギーが炸裂し、デュエル・アカデミア中に破壊魔力をばら撒く。

 アカデミアに張られている結界のお蔭で破壊の魔力が外に漏れることはなかったが、そうでなければ魔力は大気圏を突き破って宇宙にまで飛び出していたことだろう。

 ラビエルは暫くの間、持ち堪えていたが、ドレッドルートの半減で力を落としたのが敗因となって打ち負ける。

 ドレッドルートの巨拳がラビエルの腹を貫いて、その体を粉砕した。

 

「ぐぉぉおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーッ!!」

 

 バクラLP3000→1000

 

 ドレッドルートの攻撃でダメージを受けたバクラが、苦痛の声をあげながら地面に叩き付けられた。、

 闇のゲームであることに加えて、凶悪性に関しては三幻神をも凌駕する三邪神の一撃である。心の強いデュエリストでも、死にかねない苦痛を味わった筈だ。

 なのにバクラはそんな苦痛を受けて尚、邪悪に嗤いながら立ち上がる。

 

「ククククククッ。やってくれるじゃねえか。それくらいはやってもらわねえとゾークの分身を名乗れねえよなぁ」

 

「……バトルを終了。邪神にモンスター効果は通用しない。よってレベル・スティーラーでレベルを下げることも不可能だ。俺はターンを終了する」

 



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第164話  最後の幻魔

宍戸丈 LP2500 手札3枚

場 邪神ドレッドルート

伏せ 一枚

魔法 冥界の宝札

 

 

バクラ LP1000 手札1枚

場 降雷皇ハモン、カース・オブ・スタチュー、幻魔トークン、幻魔トークン

伏せ 一枚

罠 カース・オブ・スタチュー、スキルドレイン

フィールド 失楽園

 

 

 三幻魔のうち一体、ラビエルは倒せたが未だにバクラの場にはハモンが残っている。それに発動している永続罠カードも厄介なものばかり。中々攻め切ることが出来ない。

 特にスキルドレインは面倒だ。罠カードの効果を受けない三邪神や三幻魔にはどうということはないが、丈のデッキに眠る強力な効果モンスターたちは完全にその影響を受けてしまっている。

 それにバクラの場に二枚の永続罠が発動しているという状況も頂けない。

 

「オレ様のターン、カードドロー。失楽園のフィールド魔法効果で更に二枚追加ドローだ」

 

 バクラが邪神ドレッドルートを射抜くように睨めつけ、次いで二体の幻魔トークンへ視線を移す。

 攻撃宣言のできない幻魔トークンは攻撃要因にはなりえず、ラビエルが消えた以上は壁モンスターとして役立たない。

 しかも相手がドレッドルートとなれば壁モンスターとしての役割を果たせるかどうかも怪しいものだ。そう考えたバクラの決断は早かった。

 

「オレ様は強欲な壺を発動して二枚ドローする。ククククッ。いいカードを引いたぜ。装備魔法、磁力の指輪をカース・オブ・スタチューに装備する。こいつの効果でテメエはカース・オブ・スタチュー以外のモンスターを攻撃できねえ」

 

 

【磁力の指輪】

装備魔法カード

自分フィールド上に存在するモンスターにのみ装備可能。

装備モンスターの攻撃力・守備力は500ポイントダウンする。

相手はこのカードの装備モンスターしか攻撃する事ができない。

 

 

 攻撃力・守備力が低下した代わりに、カース・オブ・スタチューから攻撃を引き寄せる磁場が発生する。

 これもモンスターではなくプレイヤー本人に効果を及ぼすカード。よって邪神ドレッドルートにも有効だ。

 

「オレ様はリバースカードを一枚場に出しターンエンド。さぁテメエのターンだぜ」

 

「……俺のターン、ドロー。手札よりバルバロスを妥協召喚。妥協召喚したバルバロスの攻撃力は1900になるが、スキルドレインが発動中のため攻撃力は3000のままだ。バルバロスのレベルを二つ下げ墓地から二体のレベル・スティーラーを守備表示で特殊召喚」

 

 このままバトルといきたいところであるが、磁力の指輪が装備されているため攻撃対象にカース・オブ・スタチュー以外を選ぶことは出来ない。

 そして用心深いバクラのことだ。あの二枚のリバースカードの中に永続罠カードの破壊を防ぐ『宮廷のしきたり』が確実に含まれているだろう。

 

「ならば――――。バトルだ。邪神ドレッドルートでカース・オブ・スタチューを攻撃、フィアーズノックダウンッ!」

 

「やはりドレッドルートで攻撃してきやがったか。この瞬間、永続罠! 宮廷のしきたりを発動! こいつがオレ様の場に存在する限り、このカード以外の永続罠カードを破壊することは出来ねえぜ」

 

「読んでいた。速攻魔法、サイクロン! 宮廷のしきたりを破壊する!」

 

「ヒャーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ! 温いんだよ、餓鬼が! カウンター罠、マジック・ジャマー! 手札を一枚捨て、サイクロンを無効にするぜ!」

 

「――――!」

 

 マジック・ジャマーでサイクロンが無効になったことで、宮廷のしきたりの効果が有効となる。

 ドレッドルートの破壊拳がカース・オブ・スタチューを直撃するが、宮廷のしきたりによって守られたカース・オブ・スタチューは破壊されない。

 

「……くっ。バトルを終了、カードを一枚伏せターンエンドだ」

 

「クククククッ。惜しかったなぁ、今のターンがオレ様を殺す千載一遇の好機だったのによぉ。だがもう遅ぇぜ。オレ様のターン、ドロー! 失楽園の効果で二枚の追加ドローだ」

 

 つくづく厄介でインチキ染みたフィールド魔法だ。失楽園が存在する限り、バクラは1ターンに3枚ものカードをドローしてしまい、手札が尽きるということがないのだから。

 サイクロンで破壊するべきだったのは、カース・オブ・スタチューではなく失楽園だったかもしれない。

 

「手札より名推理を発動するぜ」

 

 

【名推理】

通常魔法カード

相手プレイヤーはモンスターのレベルを宣言する。

通常召喚可能なモンスターが出るまで自分のデッキからカードをめくる。

出たモンスターが宣言されたレベルと同じ場合、めくったカードを全て墓地へ送る。

違う場合、出たモンスターを特殊召喚し、それ以外のめくったカードは全て墓地へ送る。

 

 

「こいつはテメエがモンスターのレベルを宣言した上で、デッキの上から通常召喚可能なモンスターが出るまでカードをめくり続けるカード。

 そして出たモンスターが宣言されたレベルと同じならば、全てのカードを墓地へ送り、違った場合は出たモンスターを特殊召喚する。さぁレベルを選択しな!」

 

 名推理やモンスターゲートを主軸するデッキならば、最上級モンスターを警戒してレベル8と宣言するところである。

 だがバクラのデッキは幻魔を主軸するデッキではあるが、他の最上級モンスターはそうそう入っていないだろう。

 だとすれば丈が宣言するべきなのはレベル8の最上級モンスターではなく、下級モンスターだ。

 

「俺はレベル4を宣言する」

 

「ククククッ、御利巧なこった。それじゃ運命を決めるゲームといこうか。まず一枚目、平和の使者。魔法カードだ。二枚目、光の護封壁。三枚目、レベル制限B地区、四枚目、強欲なカケラ。五枚目…………レベル4、デーモンソルジャーだ。

 大正解だぜ、良かったじゃねえか。これでオレ様は全てのカードを墓地送りにする。モンスター召喚はお預けだ」

 

 ギャンブルに失敗したというのに、バクラには悔しがる素振りはない。それどころかバクラの喜悦に滲んだ顔は、より邪悪さを増していっている。

 あの顔はもしかすれば既に三体目の幻魔を手札に加えているが故のものか。

 丈の予想は残念なことに正鵠をついていた。

 

「オレ様の場にはカース・オブ・スタチュー、スキルドレイン、宮廷のしきたりで三枚の永続罠カードが存在する。オレ様は三枚の永続罠を生け贄に最後の幻魔を召喚するぜ!」

 

 アカデミアにある火山口からボコボコと厭な音が鳴ってくる。火山のマグマはこの地に眠る最後の幻魔の呼吸を受けて活性化し、やがて噴火した。

 火山の噴火と共に紅の体躯をもつオシリスに似た龍が、天空へと昇って行く。

 

「現れやがれ、最後の幻魔! 神の獄炎で生きとし生ける者を焦土と化せ! 神炎皇ウリアを降臨ッ!」

 

 

【神炎皇ウリア】

炎属性 ☆10 炎族

攻撃力0

守備力0

自分フィールド上の罠カード3枚を

墓地に送った場合に特殊召喚する事ができる。

1ターンに1度だけ、相手フィールド上にセットされている

罠カード1枚を破壊する事ができる。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

罠の効果を受けず、魔法・効果モンスターの効果は

発動ターンのみ有効となる。

このカードの攻撃力・守備力は自分の墓地の罠カード1枚につき

1000ポイントアップする。

このカードが墓地に存在する時、手札の罠カードを墓地に送ることで、

墓地のこのカードを特殊召喚することができる。

このターン、自分フィールド上に他のモンスターが存在する場合、

このカードは攻撃をすることができない。

 

 

 遂にラビエル、ハモンに続く最後の幻魔。神炎皇ウリアがフィールドに顕現してしまった。

 ドレッドルートの半減の力はウリアにも作用したが、ウリアのエネルギーはまるで衰えた風がない。

 

「ウリアの攻撃力は墓地にある罠カード一枚につき1000ポイントアップする。オレ様の墓地にある罠カードは合計十枚。よって攻撃力は10000ポイントだ。もっともドレッドルートの効果で半減されっちまうがな」

 

 それでもウリアの攻撃力は5000。ドレッドルートの4000を凌駕している。

 

「ウリアの更なる効果! 一ターンに一度、相手フィールドにセットされている罠カード一枚を破壊する。トラップディストラクション!」

 

「ピンポイント・ガードが……」

 

「これで邪魔なカードは消えた。神炎皇ウリアで邪神ドレッドルートを攻撃、ハイパーブレイズ!」

 

「うぉぉおおおおおおおおおおお!」

 

 宍戸丈LP2500→1500

 

 神炎に焼き尽くされたドレッドルートの断末魔が、そっくりそのまま苦痛となって丈を襲った。生きながらに火葬された痛みを味わい、丈は膝をつきかける。

 だがまだデュエルは終わっていないのだ。ここで斃れる訳にはいかない。

 

「バトルフェイズを終了、降雷皇ハモンを守備表示に変更。ターンエンドだ」

 




やめて! 降雷皇ハモンの特殊能力で、モンスターを焼き払われたら、闇のゲームでモンスターと繋がってる丈の精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないで丈! あんたが今ここで倒れたら、亮さんや十代との約束はどうなっちゃうの?
ライフはまだ残ってる。これを耐えれば、バクラに勝てるんだから!

次回、「宍戸丈、死す」。デュエルスタンバイ!


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第165話  死

宍戸丈 LP1500 手札3枚

場 レベル・スティーラー×2

伏せ 一枚

魔法 冥界の宝札

 

 

バクラ LP1000 手札2枚

場 降雷皇ハモン、神炎皇ウリア、幻魔トークン×2

フィールド 失楽園

 

 

 ウリアとハモンの連続攻撃によって、丈のライフポイントは500まで減らされてしまった。

 プレイヤーのライフを条件なく削るバーン魔法は軒並み禁止されているとはいえ、あのファイヤーボール一枚で消し飛ぶライフである。

 敵の場にモンスターを破壊することで1000ポイントのダメージを与えるハモンがいるため、このターンで挽回しなければ丈に勝機はない。

 だがそんなピンチに置かれて尚も不敵に笑ってみせた。

 

「なにを笑ってやがる? 二体の幻魔のプレッシャーに頭がイカれやがったか」

 

「まさか。これで頭がイカれているのなら、三邪神を目の前にした四年前にとっくにイカれている」

 

「そりゃそうだ」

 

「逆転の布石は既に置かれている。悲観的になるのはまだ早い。俺はこのターンで二体の幻魔を屠り去るぞ」

 

「…………へぇ。デケェ口叩くじゃねえか。ならやってみな、魔王様らしく二言がねえところを見せてみやがれ」

 

「無論だ。俺のターン、ドロー!」

 

 デッキとは数あるカードの中から選び抜かれた試行錯誤の結晶。デュエルという過酷な戦いを共に駆け抜けた最高の朋友。

 故に信じればデッキは応えてくれる。今この瞬間のように。

 

(――――きたか!)

 

 この状況を打破するためのキーカード、正に起死回生のカードが勝利の女神をエスコートして来てくれた。

 女神が態々こんな場所まで来てくれたのならば〝魔王〟としては奮起せねばなるまい。

 

「魔法カード、死者蘇生! 墓地より邪神を復活させる!」

 

「っ! ここで蘇生魔法を引き当てやがったか。だがドレッドルート一体じゃ二体の幻魔を一辺に殺すのは不可能だぜ」

 

「それはどうかな。俺は『邪神』を復活させるとは言ったが、ドレッドルートを復活させると言った覚えはない。俺が蘇らせるのは……邪神イレイザーだ!」

 

「なっ……ん……だとっ!? 馬鹿な、そんなカードをいつ―――――ハッ!」

 

「気づいたようだな」

 

「そうか。THEトリッキーで手札を一枚捨てた、あの時にイレイザーを墓地へ送ってやがったのか。抜け目のねえ野郎だ」

 

「地天よ、遍く消えよ。天空よ、幻と散れ。生きとし生ける者全てを削除する抹殺者、三邪の中で最悪と称されし邪龍。我が敵を殺戮するため顕現せよ! 邪神イレイザー生来ッッ!!」

 

 

【THE DEVILS ERASER】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/?

DEF/?

A god who erases another god.

When Eraser is sent to the graveyard,

all cards on the field go with it.

Attack and defense points are 1000 times

the cards on the opponent's field.

 

 

 オシリスが天空を舞うのであれば、その邪龍は地獄を這いずる。

 この世界そのものを『無』に呑み込む三邪神最凶最悪の抹殺者。極大の呪いを腸に秘め、邪神イレイザーがここに降臨した。

 同じオシリスをモチーフにしているのであろう三幻魔が一体、神炎皇ウリアが自身の影とすらいえるイレイザーに共鳴し咆哮する。

 幻魔と邪神。二柱の竜の咆哮がぶつかりあい、この世が震撼した。

 

「邪神イレイザーの攻撃力守備力は相手フィールドのカードの数×1000ポイントの数値となる。よってイレイザーの攻撃力は3000ポイントだ。

 このままではウリアには到底及ばない。だが邪神イレイザーが神をも殺す邪神だということは知っているな。その能力はこいつが墓地へ逝った時、フィールドの全てを道連れにする殺戮能力!」

 

「確かにイレイザーならオレ様の幻魔二体を皆殺しにするのも訳はねえ。で、自爆特攻でも仕掛けてくるか? オレ様は構わねえぜ。代わりにテメエの500のライフも巻き添えになっちまうだろうがな」

 

「自爆特攻なぞするつもりはない。――――このターン、俺には通常召喚権が残っている。そう言えば分かるかな?」

 

「――――! まさか、テメエ……」

 

 二体のレベル・スティーラーと邪神イレイザーでフィールドのモンスターは丁度三体。

 奇しくも新たなる『神』を呼び出すための供物が揃っている。

 

「死ぬのはお前のフィールドだけだ。俺はレベル・スティーラー二体と、邪神イレイザーを生け贄にする!」

 

「邪神を生け贄にしやがっただと!?」

 

「天照す日輪よ、黒き太陽の前に汝は退け。万物を凌駕し、その姿を現出せよ! 我が掌中に眠りし無敵の神。邪神アバターよ、起動しろ!」

 

 

【THE DEVILS AVATAR】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/?

DEF/?

God over god.

Attack and defense point of Avatar equals to the point plus 1 of that of

the monster's attack point which has the highest attack point among

monsters exist on the field.

 

 

 瞬間、この世界から光が消えた。日輪は姿を消し、代わりに闇を凝縮した黒い太陽が世界に出現する。

 フィールドに存在する全てを必ず上回る無敵の神。ラーと同じく最高位に身を置く神が降臨したことで、デュエル・アカデミア全体が暗闇に包まれていく。

 邪神アバターはフィールドで最高の攻撃力を持つモンスターの姿をとる。よって邪神アバターは神炎皇ウリアの姿となった。

 

「邪神アバター……遂に出てきやがったか」

 

「ふふふふふふっ。そしてこの瞬間、墓地へ逝ったイレイザーの呪いが具現化する。イレイザー、お前の怨念でフィールドを抹殺しろ」

 

 生け贄として墓地へ送られたイレイザーの黒い血が、沼のように地面に広がっていく。黒い血沼は丈のフィールドにある永続魔法や失楽園のみならず、降雷皇ハモンと神炎皇ウリアまで奈落に引きずり込んでいった。

 イレイザーの怨念はモンスターのみならず、デュエリストの精神まで呑み込もうとしたが、バクラは邪神をも凌駕する怨念でそれを弾き返す。

 そして邪神イレイザーが万物を呑み込んだ。しかし唯一つ。この全てが削除される虚無にあって暗く輝くものがある。

 

「邪神アバターは最高位の邪神。よってイレイザーの特殊能力は受けない」

 

 虚無地獄が終わった時、フィールドに残っていたのは邪神アバターのみ。フィールドからアバター以外の全てが消えたため、アバターの攻撃力は1となった。

 邪神イレイザーの特殊能力でフィールドを全滅させつつ、自分の場に無敵のアバターだけを残す。これがイレイザーとアバター、二体の邪神を組み合わせた最悪のコンボだ。

 

「チッ。だが守備表示の降雷皇ハモンが破壊されたターン、オレ様はダメージを受けねえぜ」

 

「……俺はこれでターンエンドだ」

 

 これで全ての幻魔を一掃することができた。

 貪欲な壺などの効果で幻魔をデッキに戻したとしても、その特殊な召喚条件から召喚難易度は半端ではない。

 バクラのデッキのように、ゆっくり布陣を整えていくことで強さを発揮するデッキの弱点だ。一度フィールドをリセットされてしまうと、立て直しに時間がかかる。

 

「オレ様のターンだ。カードドロー」

 

 なのに何故だろうか。バクラがあんなにも機嫌良さげに暗黒の微笑を浮かべているのは。

 

「クククククククッ。ヒャーハハハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

「……なにが可笑しい?」

 

「三体の幻魔を墓地送りにしてホッと一息つきてぇだろうが――――甘ぇんだよ。このデッキにはどうやら隠された奥の手ってやつがあるらしいぜ」

 

「奥の手、だと?」

 

「クククククッ。まぁそこにいる老い耄れ爺みてえな小物には扱いきれねえだろうし、そこの爺ならサレンダーでもするような状況だろうがな。オレ様は一味違うぜ。

 俺は手札より天使の施しを発動。三枚ドローし二枚捨てる。更に死者蘇生を発動、墓地へ捨てたファントム・オブ・カオスを蘇生させる! 混沌たる亡霊よ、フィールドに現れやがれ!」

 

 

【ファントム・オブ・カオス】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力0

守備力0

自分の墓地に存在する効果モンスター1体を選択し、ゲームから除外する事ができる。

このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、

このカードはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同名カードとして扱い、

選択したモンスターと同じ攻撃力とモンスター効果を得る。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

このモンスターの戦闘によって発生する相手プレイヤーへの戦闘ダメージは0になる。

 

 

 バクラのフィールドに現れたのは黒く混沌とした泥の塊だ。

 ファントム・オブ・カオスは墓地のモンスターを除外することで、そのモンスターの全能力を得る変身モンスター。効果を使用すれば幻魔や神の能力すら奪うことが可能だ。

 

「更に速攻魔法、地獄の暴走召喚を発動! こいつは攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚に成功した時、同名モンスターを手札・デッキ・墓地より全て特殊召喚するカードだ」

 

 

【地獄の暴走召喚】

速攻魔法カード

相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に

攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。

その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から

全て攻撃表示で特殊召喚する。

相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、

そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。

 

 

「オレ様はデッキに眠る二体のファントム・オブ・カオスを召喚するぜ。この効果はテメエにも及ぶ。テメエは自分フィールドの同名モンスターを特殊召喚できるが……まさかアバターが二枚もあるはずがねえよなぁ」

 

「くっ……!」

 

 邪神アバターは世界に一枚しかないカード。よって同名モンスターを特殊召喚することは不可能である。

 バクラの場には三体のファントム・オブ・カオス。これで三幻魔全ての能力をコピーすることが可能となった。

 

「だがファントム・オブ・カオスで三幻魔の力を得ようと、邪神アバターを倒すことはできない」

 

「そいつはどうだろうな。オレ様はファントム・オブ・カオスの効果発動! 墓地の三幻魔を除外し、その力を得る!」

 

 幻魔皇ラビエル、神炎皇ウリア、降雷皇ハモン。三幻魔に変身した三体のファントム・オブ・カオスがバクラのフィールドに出現する。

 現身といえど特殊能力は三幻魔そのもの。三体揃うと凄まじい迫力であったが、やはりアバターの前では無力だ。

 

「クククククッ。魅せてやるぜ、こいつがオレ様の切り札だ。魔法カード発動、次元融合殺! 自分フィールドの三幻魔をゲームより除外し、その力を融合させる!」

 

「三幻魔を……融合だと!?」

 

 

【次元融合殺】

通常魔法カード

自分フィールド上に存在する「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」

「幻魔皇ラビエル」をゲームから除外する。

融合デッキから「混沌幻魔アーミタイル」1体を特殊召喚する。

 

 

 ファントム・オブ・カオスは能力をコピーするだけではない。除外したモンスターの『カード名』までも再現する。よって三幻魔融合の礎とするのにはなんの支障もない。

 ラビエル、ハモン、ウリア。三体の幻魔の肉体が溶け合い、ドレッドルートをも超える巨体を形作っていく。

 

「ヒャーハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ! 腑抜けのアバターごとテメエを葬ってやるよ! 原初の混沌より生まれ出でよ! 混沌幻魔アーミタイルッ!!」

 

 

【混沌幻魔アーミタイル】

闇属性 ☆12 悪魔族

攻撃力0

守備力0

このカードは「次元融合殺」の効果でのみ特殊召喚できる。

このカードは戦闘では破壊されない。

1ターンに1度、相手モンスター1体に10000ポイントの戦闘ダメージを与える事ができる。

自分のメインフェイズに、

このターンのエンドフェイズまでこのカードのコントロールを相手に移す事ができる。

エンドフェイズ時に、このカードを除くフィールド上の全てのモンスターをゲームから除外する。

 

 

 左半身をウリア、右半身をハモン。体の中枢をラビエル。黄金の翼を羽ばたかせ、紅の尾を震わせて、蒼い頭部で世界を睥睨し。ここに混沌の幻魔が降臨した。

 下手すればアバターをも凌ぐほどのエネルギーの濁流に、アカデミアの結界は崩壊寸前になる。

 後五分もこのままだと結界は消滅し、幻魔の混沌は世界そのもののバランスを崩壊させるだろう。

 

「これが……三体の幻魔を融合させた、原初の姿」

 

「驚くのは早ぇぜ。混沌幻魔アーミタイルの特殊能力。1ターンに1度、相手モンスターに10000ポイントの戦闘ダメージを与える!」

 

「バトルもなしに戦闘ダメージを与えるモンスターだと!?」

 

「混沌幻魔アーミタイル、目障りな邪神を殺し尽せ!」

 

「終わるものか! 邪神にモンスター効果は通用しない!」

 

「無駄なんだよ! アーミタイルは全ての幻魔を融合させた究極の幻魔! 相手が最高位の邪神だろうがお構いなしだぜ」

 

「だ、だが! まだアバターの特殊能力がある。アーミタイルがどれほどの力で向かって来ようと、アバターは必ず攻撃力を1だけ上回る!」

 

「それも無駄だぜ。アーミタイルの能力は相手モンスターに問答無用で戦闘ダメージを与える効果。アーミタイル自身の攻撃力が上昇するわけじゃねえ。よってアーミタイルの攻撃力は0のまま!」

 

 アーミタイルの攻撃力が0ということは、邪神アバターの攻撃力も1のままだ。

 そして攻撃力1のアバターが、10000ポイントの戦闘ダメージを受ければ。

 

「逝っちまいな。全土滅殺転生波ッ!」

 

「ぬっ、うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーッッ!」

 

 宍戸丈LP1500→0

 

 光が、爆ぜる。

 アーミタイルの混沌は邪神アバターごと丈のライフを奪い去っていた。

 

 



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第166話  極限

 三邪神と三幻魔。デュエルモンスターズ最上位の精霊たちが激突した神話の戦い。そこに居合わせた全員が目撃した。

 宍戸丈。〝魔王〟と畏怖され二代目決闘王に最も近いとまで呼ばれた男。その男のライフが0となって、大地に倒れる様を。

 大地に斃れたまま〝魔王〟はピクリとも動かない。

 古代エジプトから現代にかけて。闇のゲームは時代の流れと共に形を変えてきたが、一つだけ変わらぬことがある。それは闇のゲームの敗者は『死ぬ』という残酷で公平なる掟。

 そしてデュエルモンスターズにも変わらぬことがある。それはライフポイントが0になったデュエリストは敗北するという絶対のルール。

 つまりライフが0になった宍戸丈は、闇のゲームの掟により死んだのだ。

 魔王の死。

 ある者は信じ難い出来事に目を疑い、ある者は絶対的強さの象徴が折れたことに絶望し、またある者は友の敗北に憤怒する。

 

「クククククッヒャーハハハハッハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! 意外に呆気ねえ幕切れだったな、魔王様よぉ~。これでテメエは地獄逝き。オレ様も四年前の因縁も切れてさっぱりしたぜ!」

 

 地獄のような沈黙の中で、否、地獄だからこそなのか。白髪の盗賊王だけは狂ったように笑い声をあげる。

 それを止める者などは誰もいない。止めるだけの気概は、宍戸丈の敗北という絶望的事実が奪ってしまっていた。

 敗者は散り、勝者が勝鬨をあげるのが戦場の倣いならば。それは正しく戦場跡の光景だったといえるだろう。

 しかし中には絶望に折れない精神力を持つ者もいた。

 

「まだデュエルは終わっていない」

 

「あぁ?」

 

「バクラ。今度はこの俺、丸藤亮が相手をする。カイザーの名に懸けて……いや、丈の友として貴様を倒す」

 

「俺もやるぜ、カイザー! クロノス先生だってデュエルに勝てば戻って来たんだ。丈さんももしかしたら……!」

 

「十代、お前は理事長と戦った後なのだから引っ込んでいろ! 魔王の仇討はこの万丈目サンダーがとらせて貰う!」

 

 三邪神やダークネスの事件を潜り抜けてきた亮のみならず、十代と万丈目も自身の精霊に支えながら奮起する。

 それを見てバクラはせせら笑った。

 

「クククククッ。お友達が目の前で殺られた癖に威勢がいいじゃねえか。いいぜ、どうせ長くは保たねえ傀儡の体。消えっちまうまではテメエ等に付き合ってやるよ。三人纏めてかかってきやがれ!」

 

 幻魔の力を得た盗賊王に立ち向かうは十代、万丈目、亮の三人。精霊と心を通わせる力をもつデュエリストたちは、一丸となって邪悪に挑む。

 そう、挑むはずだったのだ。

 

「―――――何を勘違いしているんだ」

 

 地獄の底から響いてくるような声に、世界が停止する。その声を聴いたことでバクラも漸くあることに気付いた。

 

「なっ! ソリッドビジョンが消えて、ねえ……だと!?」

 

 デュエルモンスターズのソリッドビジョンは、デュエルの決着がつくのと同時に自動的に消えるようになっている。これは他のどのデュエルディスクにも共通することだ。

 だというのに未だにバクラのデュエルディスクはデュエル状態で起動したまま。混沌幻魔アーミタイルもフィールドに残り続けている。

 これらが示すことは唯一つ。デュエルはまだ終了していないということだ。

 そして死んだはずの魔王が、朝目覚めるような気軽さで起き上がる。

 赤く輝く妖しい双眸。黒い外套を風に靡かせ、邪神を統べる魔王が復活した。

 

「まだ俺は死んでいないぞ。どうした、もう掛かってこないのか?」

 

 蒼黒いオーラを漂わせながら、丈は冷笑した。

 間違いなく宍戸丈のライフポイントは0となっている。

 どんなデュエリストも超えてはならないラインを超えてしまい、もう戻ることは出来ない奈落の底。

 無限の手札があろうと。無敵のモンスターがいようと、無尽の伏せカードがあろうと。ライフを全て失ったデュエリストに訪れるのは敗北だけ。

 そんな自然法則にも等しい掟を平然と踏み躙り、宍戸丈は生きている。

 

「テメエ……なにをしやがった?」

 

「ライフを0にした程度で魔王を殺れると思うな。俺は不死身だ」

 

「なんだと!?」

 

「俺がダメージを受ける瞬間、手札のこいつが場に特殊召喚されていた……インフェルニティ・ゼロ!」

 

 

【インフェルニティ・ゼロ】

闇属性 ☆1 悪魔族

攻撃力0

守備力0

このカードは通常召喚できない。

自分のライフポイントが2000以下の場合に相手がダメージを与える

魔法・罠・効果モンスターの効果を発動した時、

このカード以外の手札を全て捨てる事でのみ、

このカードを手札から特殊召喚する事ができる。

このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、

自分はライフポイントが0になってもデュエルに敗北しない。

自分の手札が0枚の場合、このカードは戦闘では破壊されない。

自分がダメージを受ける度に、このカードにデスカウンターを1つ置く。

このカードにデスカウンターが3つ以上乗っている場合、このカードを破壊する。

 

 

 紫色の魔力を纏った、土偶にも似たモンスターが、気配もなく気付けばそこに在った。

 インフェルニティ・ゼロの亡霊めいた雰囲気に誰も声を出すことができなかった。

 

「こいつはライフ2000以下の場合に、相手がダメージを与える魔法・罠・モンスター効果を発動した時、手札を全て捨てることで特殊召喚できる。

 インフェルニティ・ゼロがフィールド上に存在する限り俺はライフが0になっても敗北することはない」

 

「なんだと!?」

 

「デュエルモンスターズにおいてライフポイントは決して0を下回ることはない。魔王は死すことで不死身となった……。フフフ、そしてインフェルニティ・ゼロは手札が0の時、戦闘では破壊されない……」

 

「チッ。んなカードを手札に握っていやがったとはな」

 

 ただし自分がダメージを受ける度に、このカードにデスカウンターが一つずつ置かれていき、三個置かれればインフェルニティ・ゼロは自壊する。

 そうなれば当然ライフポイント0の丈は敗北することになるだろう。

 

「だがこのターン中にその土偶野郎をぶっ殺しっちまえば問題はねえ。混沌幻魔アーミタイルのもう一つの特殊能力を使うぜ。アーミタイルはエンドフェイズまでコントロールを相手に移すことができる。

 オレ様からの復活祝いだ。混沌幻魔アーミタイルをテメエにくれてやるぜ」

 

「……俺にアーミタイルを?」

 

 アーミタイルがバクラのフィールドから、丈のフィールドに移ってくる。

 エンドフェイズ時までとはいえ、レベル12の幻魔を味方にした丈だが、最上級モンスターが存在するが故の安心感などはまるで感じない。

 厭な予感だけが丈の心中に渦を巻いていた。その予感は的中する。

 

「そしてエンドフェイズ時、アーミタイルを除く全てのモンスターをゲームより除外する! インフェルニティ・ゼロが除外されっちまえばテメエも纏めてお陀仏だ。今度こそ死にやがれ!」

 

「やらせはしない。アーミタイルが俺のフィールドに移った瞬間、リバースカードオープン。闇霊術-「欲」、闇属性モンスター1体を生け贄に発動。デッキからカードを二枚ドローする」

 

「なに!?」

 

 

【闇霊術-「欲」】

通常罠カード

自分フィールド上の闇属性モンスター1体を生け贄にして発動できる。

相手は手札から魔法カード1枚を見せてこのカードの効果を無効にできる。

見せなかった場合、自分はデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 通常の幻魔は罠カードの効果を受け付けない。よって闇霊術の効果で生け贄にすることも不可能だ。

 しかし幻魔の中で混沌幻魔アーミタイルにだけは例外が適用される。

 

「アーミタイルは凶悪無比な力を得た代償に、三体の幻魔が持っていたモンスター効果・魔法・罠への耐性を喪失している。よって闇霊術の効果で生け贄が可能だ。

 相手は手札から魔法カードを見せることで効果を無効にできるが、お前の手札はゼロ。よって俺はカードを二枚ドローする」

 

「……っ!」

 

 生け贄にされてしまえばアーミタイルも特殊能力を発動することは出来ない。

 アーミタイルは墓地へ送られ、これでバクラへの攻撃を邪魔するカードはなくなった。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 そして既に止めを刺すためのカードは引き当てている。

 

「フォトン・サンクチュアリを発動、二体のフォトントークンを場に特殊召喚。更に二体のフォトントークンを生け贄に銀河眼の光子竜を召喚ッ!」

 

 

【銀河眼の光子竜】

光属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは自分フィールド上に存在する

攻撃力2000以上のモンスター2体を生け贄にし、

手札から特殊召喚する事ができる。

このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップ時、

その相手モンスター1体とこのカードをゲームから除外する事ができる。

この効果で除外したモンスターは、バトルフェイズ終了時にフィールド上に戻る。

この効果でゲームから除外したモンスターがエクシーズモンスターだった場合、

このカードの攻撃力は、そのエクシーズモンスターを

ゲームから除外した時のエクシーズ素材の数×500ポイントアップする。

 

 

 三幻魔と三邪神の死闘に幕を引くのは銀河の眼をもつドラゴン。

 丈のデッキの切り込み隊長として活躍してくれた銀河眼の光子竜だ。

 

「………………」

 

 バクラは苛々しく銀河眼の光子竜を睨んでいたが、手札とフィールドに一枚のカードもないバクラに直接攻撃を防ぐ術はない。

 墓地から効果を発揮するネクロ・ガードナーのようなカードも、丈の記憶が正しければ存在しないはずだ。

 やがて自分の負けは不可避だと悟ったバクラは、一転して口端を釣り上げる。

 

「ククククッ、宍戸丈……。今回はオレ様の負けにしておいてやるぜ。どうせこのオレ様は本体の影に過ぎねえ。消えっちまったところで本体にはなんの影響もねえんだからなぁ。

 だが覚えておけ。オレ様はいつか再びお前の前に現れ、テメエを殺す。その時はこんな二流デッキじゃねえオレ様自身のデッキで相手してやるよ」

 

「……銀河眼の光子竜で相手プレイヤーをダイレクトアタック」

 

「さぁ。来な!」

 

「破滅のフォトンストリームッ!」

 

「ヒャーハハハハハッハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハーーーーッ!!」

 

 狂笑は止むことはなく。闇の魂は銀河の光に呑み込まれて消えていく。

 バクラのライフポイントがゼロを刻むと同時、アカデミアを覆っていた暗雲は跡形もなく消え去った。さっきまで戦っていたバクラも同じ。

 バクラの立っていた場所に落ちているのは、彼の使っていた三幻魔のデッキだけ。それだけがバクラがここにいたという痕跡だった。

 

「……次は、か」

 

 掌を強く握りしめる。今回はなんとか勝てはしたが、バクラは他人のデッキを即興で使ってあれだけのデュエルをやってのけたのだ。もしもバクラが自分自身のデッキで戦っていれば、勝敗は逆だったかもしれない。

 この勝ちに驕ってはならない。次にバクラと邂逅する時、丈自身も強くなっていなければ確実に敗北するだろう。

 

「俺もまだまだ精進が足りないな」

 

 




【悲報】混沌帝龍エラッタされ釈放、カイザーが更に強化される模様


……というわけで烏と共に遊戯王の環境を文字通りカオスに陥れた混沌帝龍が還ってきてしまいます。それによりI2カップで地味に混沌帝龍をゲットしていたカイザーが更に強くなるという不味い事態が発生しました。正直邪神抜きならカイザーがこのssで一番強いかもしれません。


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第167話  嘗ての約束

 十代が影丸理事長を倒し、理事長の背後で暗躍していたバクラを追い払ったことで一先ず三幻魔を巡る一連の戦いは終結した。

 腰をやられてしまった理事長は静養のため入院することになり、その間の理事長としての仕事は鮫島校長が代行することになるという。

 デュエルに敗北して捕虜となっていたセブンスターズも、騒動が収まると共に解放。室地戦人と明弩瑠璃の二人は入院する理事長についていった。

 

「影丸理事長が我々を駒として利用していたのは知っていますが、それでも理事長は我々の恩人ですから」

 

 別れ際に明弩瑠璃がそう言って微笑んでいたのが印象的だった。

 だが二人ほどのデュエリストが、本当に人間を駒としてしか見做さない人物にあれほどの忠誠を誓うとも思えない。

 老いへの恐怖と若さへの憧れは、容易く人間の心を歪めてしまう。影丸理事長もその一人だったのだろう。だが十代とのデュエルを通じて憑き物の落ちた理事長ならば、きっと二人とも上手くやっていけるはずだ。

 もう一人の捕虜。吸血鬼のカミューラは一族復興のため婿探しの旅へ出た。ヴァンパイア一族はカミューラしか残っていないそうなので、復興は色々な意味で大変だろう。見た目は美人なので寄って来る男には事欠かないだろうが、彼女もこれから前途多難そうだ。

 自分の意志でセブンスターズに組したわけではなかったタイタンは、影丸理事長との戦い以前にとっくにアカデミアを出て行っていた。風の噂では『闇のゲーム』の恐怖を味わったことで、闇デュエリストを自称する詐欺からは足を洗い、心を入れ替えて真面目な用心棒デュエリストになるらしい。

 死の物まね師、闇のプレイヤーキラーの行き先は不明だ。

 ただ元々非合法の地下デュエリストとして名を馳せていた二人である。また元の地下デュエル界へと戻っていったのだろう。

 そしてこれからの『未来』のために一番重要な大徳寺教諭は、猫のファラオに魂を呑み込まれたまま依然として成仏しないでいた。

 未来で出逢った十代もファラオを連れていたので、きっとこれから十代と行動を共にするようになるのだろう。歴史を変に改変せずに済んでなによりだ。

 しかし中には問題の発生した人物もいた。

 

「ぬぉぉぉぉおおおおおおおお!! 馬鹿なッ! 月曜日なのにジャンプが売っていないとはどういう了見だ! 弁護士を呼べ、裁判だ!」

 

「仕方ないじゃないか。うちの購買部は本土から仕入れているから、どうしても一日送れちゃうんだよ」

 

「ええぃ! カードパックはしっかり当日に販売しているではないか!」

 

「そりゃデュエル・アカデミアなんだからジャンプよりカードを優先するさ」

 

「阿呆か! ジャンプこそある意味ではデュエルモンスターズ誕生のルーツ! それを当日に売らないとはどういうわけだ! それとファミチキ! ファミチキはないのか!」

 

「それはファミマにいかないとないねぇ」

 

「だから高等部は嫌なんだ、購買なんぞ潰して二十四時間営業のコンビニを置けコンビニ!」

 

「ちょ、購買部のおばさんの前でなんてこと言うんだい!」

 

「なら私がいる間だけ購買を24時間営業にしろ」

 

「無茶言わないでおくれよ」

 

「うぉぉおおおおおおおおおおおおお!! ならうまい棒をあるだけ寄越せ、話はそれからだ!」

 

 結局。田中先生は翌日のフェリーで本土に帰るまで、うまい棒を食べながら血走った目でアカデミアを徘徊することになった。

 暴帝の噂を聞きつけデュエルを挑みに来た十代が、デュエルを諦めるレベルと言えばどれほど不味い状態だったのか分かるというものだろう。

 封印を解かれた三幻魔は、鮫島校長の手によって再度封印。アカデミアの結界も、ブラック・マジシャン協力の下で新たに張り直された。ブラック・マジシャン・ガールの方は修行不足を指摘され、師匠に説教&猛修行を喰らうことになったらしいが、それはまた別の話である。

 セブンスターズが所持していた闇のアイテムも全て破壊。

 卒業直前に四天王は再び集結し、今回の事件を通じて一年生も如実に成長していった。

 ともかく田中先生というイレギュラーはあったが、セブンスターズ事件は一応の大団円という形で幕を閉じたのである。

 だがセブンスターズ事件の終結は、全ての終わりを意味しない。

 丈たち三年生にはセブンスターズよりも重要な、学生生活最大のイベントが残っている。

 デュエル・アカデミアの電光掲示板。そこに映し出されていくのは、今期の卒業生の総合成績だ。

 

 

10位:吉光誠一郎

9位:田川たくや

8位:海野幸子

7位:マー・ン・ゾーク

6位:那須与一

5位:十和野鞭地

 

 

 一気にランキングが五位までが発表されるが、見物している生徒達のリアクションは薄い。

 この電光掲示板を見に集まった生徒達の目的は四位から先。即ち四天王がどういう順になるかに向けられているのだ。

 そして勿体ぶるように止まった電光掲示板が、漸く四位から先を映す。

 

 

3位:天上院吹雪

3位:藤原優介

1位:宍戸丈

1位:丸藤亮

 

 

 発表されたランキングに、電光掲示板を見に集まった生徒達がどよめく。

 四天王はデュエルの実力も学力もまったくの同等とされる。それ故に下馬評では同率一位の可能性が最も高いとされたのだが、蓋を開けてみれば宍戸丈と丸藤亮の同率一位に、藤原と吹雪の同率三位である。

 ただ驚いているのは周囲だけで藤原と吹雪の二人はどこか納得しているようだった。

 

「余り驚いていないな?」

 

「そりゃあね。僕は一年生の時に問題を起こしているから、たぶんそれで評価が下がることは予想していたから」

 

「なるほど」

 

 藤原に言われて丈も納得する。一年生の時、藤原はダークネスの力を目覚めさせることで、あわや世界を滅亡させかねないところだった。

 その事件は藤原以外の三人の奮闘でどうにか最小限の被害で収まったものの、下手な暴力事件なんかよりも遥かに不味いことを藤原がやったことは事実である。

 

「で、吹雪は?」

 

「ははははははははは! 僕はマックを口説くのに留学期間を強引に伸ばしたり、無断欠席とかやっちゃったからね。たぶんそれが原因かな」

 

「アホだな……」

 

 亮のコメントに同意する。ただ吹雪らしいといえば吹雪らしい理由だ。

 中等部・高等部にある卒業生代表による卒業模範デュエルは、基本的に成績最優秀者と指名された在校生によって行われるので、今年は丈と亮が模範デュエルを務めることになるのだろう。

 丈としてはいつか交わした約束を果たす為にも絶対に『首席』にならなければならなかったので、一位になれてほっと一息だ。

 

「亮は誰を指名するつもりだ? 一年生には将来有望な原石が揃ってるが、あれだけ多いと逆に選ぶのに困るだろう」

 

「フッ。無用な心配だ。俺の相手ならもう決めている」

 

「へぇ。誰だい?」

 

 吹雪が興味津々といった様子で亮に尋ねた。

 

「十代だ。前に一度デュエルしたことはあるが、あいつもセブンスターズの戦いで大きく成長したからな。成長した十代と改めて最高のデュエルをしたい」

 

「なるほどね」

 

 ダイヤの原石揃いの一年生の中で最も輝いている者を一人だけあげろ、と言われれば四天王全員が満場一致で遊城十代と答えるだろう。

 学力は振るわず、知識に関しては原石の中でも一番下かもしれないが、あの天性の引きの強さは常人に真似できない凄味がある。

 

「しかし惜しいな。卒業模範デュエルがあと一か月先ならば、長き封印から解き放たれた混沌帝龍の切れ味を披露できたのだが……」

 

「や め ろ」

 

 混沌帝龍-終焉の使者-は余りにも破格な強さから、丈のカオス・ソルジャーと同じく生産が四枚でストップされた曰くつきのカードである。

 現在のところ確認されている所有者は海馬瀬人、田中ハル、そしてカイザー亮の三人のみ。もう一枚はアメリカにあるカード博物館に展示されるのみだ。

 デュエルモンスターズ史上最強最悪の禁止カードとの呼び声も高く、亮がI2カップの賞品として獲得した際もあくまで観賞用としてのものだった。だがどういうわけか最近I2社により混沌帝龍がエラッタされて、制限カードに復帰することが発表されたのである。

 大嵐が禁止カードとなる代わりに、ハーピィの羽箒が戻ってくるなど、一体全体コンマ――――もといI2社はなにを考えているのだろうか。

 

「それよりも、そういう丈は相手は決まっているのか}

 

「俺は三年前から予約済みだ。――――そうだろう、後輩」

 

「その通りだ。三年前の約束、果たしに来たぞ。宍戸さん」

 

 中等部の卒業模範デュエルで、丈は万丈目と戦い再戦の約束をした。

 この三年間には多くの事があったが、嘗て交わした約束は今も忘れていない。約束を果たす日がきたのだ。



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第168話  三年目の模範デュエル

 万丈目はこれまでの三年間、卒業模範デュエルでの敗北を忘れた事は一度としてなかった。

 年の離れた二人の兄達と建てた壮大なる計画。政界、財界、カードゲーム界で万丈目財閥が頂点に君臨することで、世界を我が物にする。

 諸人は荒唐無稽な絵空事と笑うだろうが、万丈目も万丈目の兄達も真剣そのものだった。実際一番上の兄である長作と正司は、政界・財界において一角の人物として名を馳せている。

 末弟である万丈目も兄達に倣うようにカードゲーム界の頂点を目指して、幼い頃から腕を磨いてきた。ジュニア大会で優勝したことも一度や二度ではない。

 数々の優勝経験に、デュエルモンスターズ総本山のデュエル・アカデミア中等部をトップの成績で入学。年が離れているせいで兄達から少し出遅れる形になってしまったが、それでも万丈目の人生は順風満帆といって良かった。そう、あの日までは。

 万丈目が最初に経験した人生最初の挫折。それがあの模範デュエルでの敗北だった。

 周囲の取り巻き達は『相手はあの四天王なんだから仕方ない』などと言ってきたが、そんなものはまるで慰めになりはしない。

 互いにライフを削り合う一進一退の攻防の末に敗れたのならば納得もできただろう。今度こそは、と思うこともできた。しかし万丈目は模範デュエルで宍戸丈のライフをたった1ポイントも削ることもできず、惨めに敗北したのだ。あれほど無様に負けておいては、幾ら万丈目でも『次やれば自分が勝つ』なんて盲信することは出来ない。

 ならば諦めるのか? 宍戸丈や四天王を超えることは諦め、その後塵でお零れでも預かるのか。

 

――――そんなものはお断りだ。

 

 宍戸丈は言った。三年後にまた会おう、と。

 高等部で会おうではなく態々『三年後』を強調したのは、高等部の卒業模範デュエルで待っているという意思表示に他ならない。

 それからの万丈目の努力は『約束』を果たす為のものだったといっても過言ではない。宍戸丈から渡された『光と闇の竜』に相応しいデュエリストとなり、約束の舞台で今度こそ彼を倒すために。光と闇の竜と共に戦ってきた。

 これまでの三年間はとても一言で言い表せないほど様々なことがあった。

 中等部を首席卒業し、高等部からは一人で戦っていくために『光と闇の竜』を封印したこともあった。遊城十代に敗れたことで、名声を失墜させた。全てを失って辿り着いたノース校で、独力で頂点にまで登り詰めた。対抗戦でまたしても十代に敗れたことも忘れられない屈辱であるし、三幻魔ではセブンスターズの刺客達とも戦った。

 それらの積み重ねがあって万丈目準はこの舞台に立っているのである。

 

「待っていたぞ、万丈目」

 

 デュエル場の中心。アカデミアの全校生徒達が見守る場所で、黒衣に身を包んだ宍戸丈は腕を組んで待ち構えていた。

 NDLでのデュエルで場馴れしているからだろう。全校生徒の注目の的になっていても気後れしている様子は欠片もない。だがそれは幼い頃より万丈目財閥の末っ子として育った万丈目も同じだった。

 世の中には人から注目されて緊張するタイプと、人から注目されることで気合いの入るタイプがいるが、万丈目は後者だった。

 

「万丈目ーっ! 頑張れよー! 俺とお前で卒業生に二勝してやろうぜ!」

 

「しっかりね、万丈目くん!」

 

「相手は〝魔王〟宍戸丈。だが彼とて同じデュエリスト、必ず勝機はあるはずだ」

 

 自分を応援する声援を万丈目は当然のように受け入れる。特に明日香からの声援は、記憶の一番深い場所に永久保存しておいた。

 

「宍戸さん。俺はこの時のために自身を磨いてきた。今日こそアンタを倒して、俺は四天王の先へ進む! アンタ達の無敗伝説は、この万丈目サンダーが打ち砕く!」

 

「その言葉を楽しみにしていた。さて――――」

 

 丈は腰のカードケースからカードを取り出した。デッキではない。丈のデッキはとっくにブラックデュエルディスクにセットされている。

 それは三枚のカードだった。たった三枚の、されど破格の力を秘めたカード。

 

「三邪神……」

 

 邪神アバター、邪神ドレッドルート、邪神イレイザー。決闘王が統べるとされる三幻神と対になる邪神。神をも殺す神としてデザインされた最凶カード。

 丈はその三枚を万丈目に見せる。

 

「俺はNDLのデュエルでも基本的に三邪神をデッキに投入することはない。単純にカードパワーが並外れていることもあるが、それ以上に危険だからだ。その意味が今ならば分かるだろう」

 

「…………」

 

 セブンスターズとの戦いで万丈目は闇のゲームを体験した。

 嘗てバトルシティトーナメントで三幻神や千年アイテムを巡って度々行われたという噂の闇のゲーム。最初万丈目はそんなもの信じていなかったが、自分で体験してしまえばそうも言ってられない。

 ソリッドビジョンのはずなのに、本当に自分の肉が抉られ骨が削られるような激痛。奪われていく自分の魂と命。三邪神は闇のゲームではない通常のデュエルにおいてすらも、あの苦痛をデュエリストに与えてしまう。

 下手なデュエリストが邪神の攻撃を受ければ、最悪それだけでデュエリスト生命を絶たれかねない。

 丈が三邪神を普通のデュエルでは投入しないことも当然のことだろう。

 

「だが今日のデュエル。俺はこの三邪神をデッキに投入する」

 

「!」

 

「この意味が分かるな?」

 

 引きずり出してみろ、ということだろう。引きずり出して、神を倒してみせろと丈は挑発しているのだ。

 

「……面白い」

 

 武藤遊戯は神のカードを保有するデュエリストたちを倒して決闘王になった。

 もしも自分が武藤遊戯と同じ決闘王を目指すのならば、神殺しは避けては通れぬ道である。

 

『えー、それでは卒業模範デュエル、宍戸丈くんVS万丈目準くんの第一戦を行います。両者、向かい合って』

 

 この日のためにデッキは念入りに調整してきた。光と闇の竜、アームド・ドラゴン、ついでにおジャマ三兄弟。

 相手が邪神といえど負けはしない。

 

『オマケなんて酷いわ、万丈目の兄貴~! オイラたちだって三人揃えば凄いのよぉ』

 

『そうだそうだ!』

 

「喧しい屑共! いくぞ、宍戸さん!」

 

「ああ」

 

「「デュエル!」」

 

 

宍戸丈 LP4000 手札5枚

場  なし

 

 

万丈目 LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 あの日と同じ立ち位置で、同じ対戦カード。されどデッキの内容と実力は遠い過去。

 万丈目準は紫電のような戦意を漲らせて、宍戸丈とその背後に広がる世界を見据えた。

 

「先攻後攻の決定権は在校生側にある。好きに選べ」

 

「なら俺は先攻だ!」

 

 デュエルモンスターズはサイバー流のような例外を除けば、先攻が絶対的に有利。万丈目のデッキもそれは同じだ。それ故に万丈目は迷わず先攻を選択する。

 

「モンスターを裏守備表示でセット、リバースカードを三枚伏せる。そして天使の施しを発動。三枚ドローし二枚捨てる。俺が手札から墓地へ捨てたのはおジャマジック。この効果で俺はデッキよりおジャマ・イエロー、おジャマ・ブラック、おジャマ・グリーンを手札に加える。さぁ来い、屑共!」

 

 

【おジャマジック】

通常魔法カード

このカードが手札またはフィールド上から墓地へ送られた時、

自分のデッキから「おジャマ・グリーン」「おジャマ・イエロー」

「おジャマ・ブラック」を1体ずつ手札に加える。

 

 

 攻撃力0の通常モンスターに過ぎないが、三枚のモンスターが手札に加わり手札が五枚まで回復する。

 

「先攻1ターン目は攻撃できない。ターンエンドだ」

 

「俺のターンだな、ドロー」

 

 宍戸丈を始めとした四天王のデュエルは、DVDなどで散々研究してきている。

 四天王がデュエルで1Killを決める確率はざっと40%。故に後攻1ターン目とはいえ油断はできない。万丈目は万全の用意をもって四天王を迎え撃つ。

 

「このカードは手札を一枚捨てることで特殊召喚が可能。レベル・スティーラーを手札から捨てTHEトリッキーを特殊召喚する。さらにTHEトリッキーのレベルを一つ下げレベル・スティーラーを蘇生。

 永続魔法発動、冥界の宝札。レベル・スティーラーとTHEトリッキーを生け贄に捧げ堕天使アスモディウスを召喚。冥界の宝札の効果で二枚ドローする」

 

 

【堕天使アスモディウス】

闇属性 ☆8 天使族

攻撃力3000

守備力2500

このカードはデッキまたは墓地からの特殊召喚はできない。

1ターンに1度、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分フィールド上に「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、

「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。

「アスモトークン」はカードの効果では破壊されない。

「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。

 

 

 流れるようなプレイングで、いきなり最上級モンスターを出して手札増強までやってのける丈。

 会場中が最上級モンスターの召喚に盛り上がるが、このくらいは予想通りだ。万丈目は動じることがない。

 

「堕天使アスモディウスでセットモンスターに攻撃」

 

「残念だったな。俺の伏せていたモンスターは仮面竜。こいつが戦闘で破壊されたことにより、デッキからアームド・ドラゴンLV3を特殊召喚する」

 

「それがノース校で手に入れた伝説のレアカードか。バトルを終了、メインフェイズ2へ移行。リバースカードを一枚伏せターンエンドだ」

 

 



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第169話  おジャマの力

宍戸丈 LP4000 手札3枚

場 堕天使アスモディウス

伏せ 一枚

魔法 冥界の宝札

 

 

万丈目 LP4000 手札5枚

場 アームド・ドラゴンLV3

伏せ 三枚

 

 

 最初の丈のターンは、どうにか持ち堪えることができた。これで第一関門はクリアである。

 万丈目のフィールドにはアームド・ドラゴン。リバースカードが気になるが、ここは攻め時だ。

 

「俺のターン、ドロー! アームド・ドラゴンLV3は俺のスタンバイフェイズにLV5へレベルアップする」

 

「来るか、ノース校の秘宝」

 

「俺はデッキよりアームド・ドラゴンLV5を特殊召喚!」

 

 

【アームド・ドラゴンLV5】

風属性 ☆5 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力1700

手札からモンスター1体を墓地へ送る事で、

そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。

また、このカードが戦闘によってモンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時、

フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で、

手札またはデッキから「アームド・ドラゴン LV7」1体を特殊召喚する。

 

 

 貧弱なステータスだったLV3が進化して、一気に獰猛な迫力をもったドラゴンとなる。アームドという名は伊達ではなく、その肉体は鋭利な爪と鱗で武装されていた。

 しかしアームド・ドラゴンLV5の攻撃力は2400。このままでは堕天使アスモディウスを粉砕することは出来ない。

 アームド・ドラゴンLV5には破壊効果もあるが、それを使うには堕天使アスモディウス以上の攻撃力をもつモンスターがいなければならないのだ。

 

『万丈目兄貴~。今こそ兄弟の絆で、あのおっかない堕天使を倒す時よ~』

 

 だが万丈目の手札にアスモディウスを超えるモンスターはゼロ。いるのはおジャマ三兄弟だけだ。

 

「危険な懸けだが、やってやるさ! 進化した俺様は運命すら支配する。手札抹殺、互いのプレイヤーは手札を全て捨て捨てた枚数分カードをドローする!」

 

『ちょ、兄貴~!』

 

「俺は三枚ドローする」

 

「俺は五枚だ!」

 

 おジャマ三兄弟の断末魔は華麗にスルーして、万丈目は新たに五枚のカードをドローする。

 どんな低ステータスの雑魚モンスターであろうと、一枚のカードであることには変わりはない。三枚のおジャマという雑魚が齎した三枚のドロー、果たしてそこに挽回のカードはあった。

 

「ライフを1000払いおジャマンダラを発動! 墓地のおジャマ・イエロー、おジャマ・ブラック、おジャマ・グリーンを墓地から復活!」

 

 

【おジャマンダラ】

通常魔法カード

1000LPを払って発動する。

自分の墓地に存在する「おジャマ・イエロー」「おジャマ・グリーン」「おジャマ・ブラック」を

それぞれ1体ずつ自分の場に特殊召喚する。

 

 

『うっふぅ~ん。信じてたわよぉ、兄貴。万丈目の兄貴なら兄弟を召喚してくれるってこと』

 

「ふん。そう言った以上、骨の髄まで俺の役にたってもらうぞ、クズ共。このカードは俺の場におジャマ三兄弟がいる時のみ発動できる。おジャマデルタハリケーン!」

 

 

【おジャマ・デルタハリケーン】

通常魔法カード

自分フィールド上に「おジャマ・グリーン」「おジャマ・イエロー」

「おジャマ・ブラック」が表側表示で存在する場合に発動する事ができる。

相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 

 魔法カードの発動と共に、おジャマ三兄弟が空中に跳躍して自分達の尻を重ね合わせる。これぞ正に結束ならぬケツ束の力というべきか。

 三体のおジャマはそのまま超高速回転していき、あらゆるものを薙ぎ払うハリケーンを発生させた。

 

「……成程。これがおジャマの力か」

 

 堕天使アスモディウスと、伏せられていたミラーフォースが破壊される。

 邪魔なミラーフォースが消えてこのままダイレクトアタック、といきたいところであるがそうは問屋が卸してくれない。

 

「堕天使アスモディウスの効果。こいつが破壊された時、カード効果では破壊されないアスモトークンと戦闘では破壊されないディウストークンを場に召喚する」

 

 

【アスモトークン】

闇属性 ☆5 天使族

攻撃力1800

守備力1300

アスモトークンはカードの効果では破壊されない。

 

 

【ディウストークン】

闇属性 ☆3 天使族

攻撃力1200

守備力1200

ディウストークンは戦闘では破壊されない。

 

 

 破壊されても二体のトークンを生み出し、フィールドをがら空きにはさせない。

 これこそが堕天使アスモディウスがもつ厄介な能力だ。しかもアスモトークンのレベルは5。一体だけだがレベル・スティーラーを蘇生する餌にできるというのだから無駄がない。

 

「厄介な能力だが万丈目サンダーには通用しない! アームド・ドラゴンLV5のモンスター効果発動。手札のモンスターを捨てて、捨てたモンスター以下の攻撃力のモンスターを破壊する!

 俺が手札より捨てるのは攻撃力1400の仮面竜。この効果によってディウストークンを破壊する!」

 

 アームド・ドラゴンの放った風刃がディウストークンを切り刻む。戦闘では破壊されないトークンも、破壊効果の前には無意味だ。

 

「手札のクリッターを攻撃表示で通常召喚。バトルだ! アームド・ドラゴンLV5でアスモトークンを攻撃、アームド・バスター! そしてクリッターで直接攻撃!」

 

 宍戸丈LP4000→3000

 

 生け贄の餌になるアスモトークンを消し去り、三年前は傷一つつけられなかった丈のライフに確かなダメージを与えた。

 たった1000ポイントたらずの直接攻撃ではあるが、それでもこれは一つの前進である。

 

「バトルフェイズを終了。俺はターンエンドだ。そしてこのエンドフェイズ時、アームド・ドラゴンLV5はLV7へ進化する!」

 

 

【アームド・ドラゴンLV7】

風属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力1000

「アームド・ドラゴン LV5」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。

手札からモンスター1体を墓地へ送る事で、

そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 戦闘で相手モンスターを撃破したことで増大した破壊衝動が、アームド・ドラゴンを更なる先の姿へと進化させた。

 鬼気すら感じる威圧感は、伝説のブルーアイズにも劣るものではない。

 

「俺のターン、一時休戦を発動。互いにカードを一枚ドローし、次の相手ターン終了時まで互いの受ける全てのダメージは0になる。

 カードを一枚伏せ、カードカー・Dを召喚。このカードを生け贄にし、デッキよりカードを二枚ドローする。この効果を発動した場合、強制的にエンドフェイズになる。ターンエンドだ」

 

 

【カードカー・D】

地属性 ☆2 機械族

攻撃力800

守備力400

このカードは特殊召喚できない。

このカードが召喚に成功した自分のメインフェイズ1に

このカードを生け贄にして発動できる。

デッキからカードを2枚ドローし、このターンのエンドフェイズになる。

この効果を発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚できない。

 

 

 アームド・ドラゴンLV7の脅威にもまったく動じず、宍戸丈は淡々とデュエルを進める。

 一見すると時間稼ぎにしか思えない行動。されどこれは反撃のために牙を研いでいるだけだ。油断はできない。

 しかし流れが自分に向いてきていることは確かだ。ここは宍戸丈が反撃に出る前に畳み掛ける。

 

「俺のターン、ドロー! 融合を発動、おジャマ三兄弟を融合しおジャマキングを融合召喚!」

 

 

【おジャマキング】

光属性 ☆6 獣族

攻撃力0

守備力3000

「おジャマ・グリーン」+「おジャマ・イエロー」+「おジャマ・ブラック」

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

相手のモンスターカードゾーンを3ヵ所まで使用不可能にする。

 

 

 おジャマ三兄弟が融合して現れたのは、シルバーな肉体をもつ筋肉もりもりのおジャマだった。

 サイズは通常のおジャマのざっと十倍はあるが、攻撃力は相変わらずの0。その代わりに守備力はブルーアイズと同等の3000だった。

 

「おジャマキングが場に表側表示で存在する限り、宍戸さん。アンタはモンスターカードゾーンを三か所使用不能になる」

 

「……上手いな。ダメージを与えられずとも、こういう方法で行動を妨害して追い詰めてくるとは。三日で猪から名将に化ける男もいる。三年も経てば蛇が龍になるのにも十分というわけか」

 

「ふん、当然だ! 俺はこの三年間、アンタを倒すことを第一の『通過点』としてきたのだからな! クリッターを守備表示に変更、俺はこれでターンエンドだ」

 

「エンドフェイズ時、終焉の焔を発動する」

 

 宍戸丈を打倒することは、万丈目にとってゴールではない。ありとあらゆるデュエリストを倒し決闘王となる。そしてカードゲーム界の頂点に君臨する。これが万丈目のゴールだ。

 万丈目の目指す場所は宍戸丈ではなく、宍戸丈すらも超えた先にある。少なくとも、今の所は。

 



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第170話  ナイト・ショット

宍戸丈 LP3000 手札4枚

場 黒焔トークン×2

伏せ 無し

魔法 無し

 

 

万丈目 LP3000 手札3枚

場 アームド・ドラゴンLV7、おジャマキング

伏せ 三枚

 

 

 おジャマキングの能力で、宍戸丈はモンスターカードゾーンを二か所しか使用することが出来なくなっている。よって二体の黒焔トークンが場に存在する現状、トークンを廃除しない限り丈が三体目を呼び出すことは不可能だ。

 ただし黒焔トークンはあくまで生け贄のためのもの。このターン中に確実に最上級モンスターを呼び出してくるだろう。

 万丈目の伏せカードにそれを妨害できるカードはない。

 

「俺のターン、ドロー。手札より魔法発動、ナイト・ショット。相手フィールドのリバースカード一枚を破壊する。これに対して相手はリバースカードの発動が出来ない」

 

「チッ……だがこれくらいは必要経費だ」

 

 破壊されたリバースカードは融合解除。おジャマキングがやられる場合の保険ではあるが、それほど惜しいカードではない。

 けれど宍戸丈がこの程度で攻めの手を緩めるはずもなく、猛攻は更に続いた。

 

「続いて魔法カード、ブラックホール。フィールドのモンスター全てを破壊する!」

 

「な、なにぃ!?」

 

 これを通してしまえば苦労して呼び出したおジャマキングとアームド・ドラゴンLV7は二体揃ってお手て繋いで地獄逝き。そうなれば万丈目は一気に不利になる。

 ブラックホール、このカードばかりは通すわけにはいかなかった。

 

「カウンター罠、マジック・ジャマー! 手札を一枚捨て魔法カードを無効にする!」

 

「そうだ、お前は戦線維持のためそうせざるを得ない。だがこれで俺もなんの躊躇いなくこれを使えるというものだ。永続魔法、冥界の宝札!」

 

 

【冥界の宝札】

永続魔法カード

2体以上の生け贄を必要とする生け贄召喚に成功した時、

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 冥界軸最上級多用における最大最強のドローエンジン。ブラックホールもナイト・ショットも、全てはコレを確実に発動させるためのものに過ぎなかった。

 ナイト・ショットはまだしも、制限カードで切り札たりうるブラックホールまで囮にするあたり、丈のデッキにとって『冥界の宝札』の重要性は相当のものなのだろう。

 

「俺は闇属性モンスター、黒焔トークン二体を生け贄に最上級の帝王を召喚する。怨念に身を焼きし邪悪なる帝王よ、世界に滅びを齎すがいい。怨邪帝ガイウス、降臨せよ!」

 

 

【怨邪帝ガイウス】

闇属性 ☆8 悪魔族

攻撃力2800

守備力1000

このカードは生け贄召喚したモンスター1体を生け贄にして生け贄召喚できる。

(1):このカードが生け贄召喚に成功した場合、

フィールドのカード1枚を対象として発動する。

そのカードを除外し、相手に1000ダメージを与える。

除外したカードが闇属性モンスターカードだった場合、

そのコントローラーの手札・デッキ・エクストラデッキ・墓地から同名カードを全て除外する。

このカードが闇属性モンスターを生け贄にして生け贄召喚に成功した場合、

その時の効果に以下の効果を加える。

●この効果の対象を2枚にできる。

 

 

 暗闇を溶かし込んだような黒い甲冑。闇の中で鋭く光る紅の双眸。波のように闇色の外套をはためかせ、それは舞い降りた。

 現役時代の〝暴帝〟が愛用したことでも知られる帝モンスター。その中でも最強とされる邪帝ガイウスの最上位種――――怨邪帝ガイウス。

 ソリッドビジョンでただの幻に過ぎないと理解していても、夥しい怨念が伝わってくるようだった。

 

「冥界の宝札の効果で二枚ドロー。怨邪帝ガイウスの特殊能力、こいつが生け贄召喚に成功した時、フィールドのカード一枚を除外し、相手ライフに1000ポイントのダメージを与える。更にこいつが闇属性モンスターの生け贄で生け贄召喚された場合、効果の対象は二体となる」

 

「なんだと!?」

 

 正しく邪帝ガイウスの上位種だ。あらゆる特殊能力が通常のガイウスよりも格段に強化されている。

 

「おジャマキングとアームド・ドラゴンには退場願おう。やれ、ガイウス。デス・ヘイト・リジェクター!」

 

 怨邪帝ガイウスの放った黒いブラックホール染みた球体がおジャマキングとアームド・ドラゴンを呑み込んでいく。

 破壊とは異なる問答無用の除外。二体のモンスターにこれに抗う術はなかった。

 

「くそっ!」

 

 万丈目LP3000→2000

 

 ライフも2000ポイントまで削られてしまった。除外されるカードが増えても、ダメージまで増えないのは不幸中の幸いだが、4000ポイントのライフで1000ポイントは痛い。

 

「バトルだ。怨邪帝ガイウスでクリッターに攻撃。デス・ヘイト・アヴェスター!」

 

「……クリッターが墓地へ送られたことで効果発動。仮面竜を手札に加える」

 

「バトルフェイズを終了。リバースカードを二枚セット、ターンエンドだ」

 

「くっ……!」

 

 おジャマキングとアームド・ドラゴンを揃え、場には三枚のリバースカード。誰がどう見ても万丈目有利の戦況だっただろう。

 だがあれだけ有利なフィールドを作り上げたのに、過ぎ去って見れば僅か1ターンであっさり形勢を逆転されてしまった。こうまで見事にしてやられると怒りすら湧いてこない。

 これがデュエル・アカデミア史上最強と謳われた四天王の実力。あの『伝説の三人』にも届き得ると称された怪物達の強さだ。

 

「だからこそ俺が超える価値がある! 俺のターンだ、ドロー!」

 

 そのためには手始めに怨邪帝ガイウスを倒して、おジャマキングとアームド・ドラゴンの仇をとる。

 

「速攻魔法、異次元からの埋葬。除外されているおジャマキングとアームド・ドラゴンLV7を墓地へ戻す!

 更に貪欲な壺を発動、墓地のおジャマ・ブラック、おジャマ・グリーン、おジャマキング、アームド・ドラゴンLV3とLV7をデッキへ戻しシャッフル。カードを二枚ドローする。

 罠発動、リビングデッドの呼び声。墓地のアームド・ドラゴンLV5を復活!」

 

 デッキへLV7を戻し、場にはLV5。準備はこれで整った。ここからは万丈目サンダーによる逆転のターンである。

 

「魔法カード、レベルアップ! アームド・ドラゴンLV5をレベルアップさせ、召喚条件を無視してLV7を手札またはデッキより特殊召喚。再び来い、アームド・ドラゴンLV7!」

 

 

【レベルアップ!】

通常魔法カード

フィールド上に表側表示で存在する「LV」を持つ

モンスター1体を墓地へ送り発動する。

そのカードに記されているモンスターを、

召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。

 

 

【アームド・ドラゴンLV7】

風属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力1000

「アームド・ドラゴン LV5」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。

手札からモンスター1体を墓地へ送る事で、

そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 アームド・ドラゴンLV7と怨邪帝ガイウスの攻撃力は互角。このまま攻撃といきたいところであるが、このままでは相討ちにしかならない。

 相討ちも一つの戦法ではあるが、宍戸丈相手にがら空きのフィールドのままターンを譲るのは下策だ。

 

「マジック・プランターを発動。リビングデッドの呼び声を墓地へ送り、カードを二枚ドローする」

 

 

【マジック・プランター】

通常魔法カード

自分フィールド上に表側表示で存在する

永続罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 リビングデッドの呼び声が破壊されるのは、蘇生したモンスターが『破壊』された時だけ。生け贄にされたり、破壊されずに墓地へ送られた時はそのまま意味もなく残り続ける。

 しかしそんな役に立たない永続罠を残してやるほど万丈目は優しくはなかった。役に立たなくなったのならば、魔法を発動させる燃料として利用するまでである。

 

「――――ふふっ。どうやらツキは俺の味方のようだぜ、宍戸さん」

 

「……ほう」

 

「アームド・ドラゴンLV7を生け贄に、アームド・ドラゴンLV10を特殊召喚!」

 

 

【アームド・ドラゴンLV10】

風属性 ☆10 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2000

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に存在する「アームド・ドラゴン LV7」1体を

生け贄にした場合のみ特殊召喚する事ができる。

手札を1枚墓地へ送る事で、

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 アームド・ドラゴンの最終進化系。神に等しいレベルをもち、伝説の白き龍と同等の攻撃値をもつドラゴンが現れた。

 ここまで進化したアームド・ドラゴンの特殊能力には、それまでにはあった煩わしい制限などはありはしない。

 

「LV10のモンスター効果、手札を一枚墓地へ送り相手フィールド上の表側表示カードを全て破壊する。消滅しろ、怨邪帝ガイウス! ジェノサイド・ビッグ・カッター!」

 

 風のカッターが怨邪帝ガイウスをバラバラに切り刻む。アームド・ドラゴンをやられた仇は、アームド・ドラゴン自身の手で晴らした。

 これでフィールドはがら空き。相手ライフは3000、アームド・ドラゴンLV10の攻撃力も3000。

 

「俺の勝ちだ! アームド・ドラゴンLV10でプレイヤーをダイレクトアタック! アームド・ビッグ・パニッシャー!」

 

「……罠発動。ガード・ブロック。戦闘ダメージを0にして一枚ドロー」

 

 必殺を誓って繰り出した一撃は、一枚のリバースカードによりあっさりと防がれた。

 怨邪帝を消し去ることはできたが、肝心の丈のライフは無傷。この結果に万丈目は思わず舌打ちした。

 

「カードを二枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「エンドフェイズ時、メタル・リフレクト・スライムを発動」

 



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第171話  眠りし者

ユーヤ→トマト
ユート→ナス
ユーゴ→バナナ

……ということはユーヤのそっくりさんシリーズは野菜と果物で統一されている可能性は微レ存。ニンジン、ピーマン、レタス、大根、オレンジ、ブロッコリー、メロン、スイカ。次はどんな野菜(果物)が出てくるのか楽しみですね。


宍戸丈 LP3000 手札2枚

場 メタル・リフレクト・スライム

伏せ 無し

魔法 冥界の宝札

罠 メタル・リフレクト・スライム

 

 

万丈目 LP2000 手札0枚

場 アームド・ドラゴンLV10

伏せ 二枚

 

 

 丈のフィールドにはメタル・リフレクト・スライムがあり、墓地には二体のレベル・スティーラー。

 苦労して相手の最上級モンスターを撃破したと思ったら直ぐにこれである。途切れぬ戦線、倒せど倒せど次から次へ湧いて来る最上級モンスターの召喚ラッシュ。

 冥界の宝札が生み出すドロー加速による途方もないスタミナ。これこそが宍戸丈のデッキの厄介さである。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 ターンが回り、丈のターン。

 デュエル場は奇妙なほどに静まり返っていた。アームド・ドラゴンLV10の登場には、ギャラリーも立ち上がって『サンダーコール』をしたものだが、そんな熱気は直ぐに失せてしまっている。

 何もせずターンが回るだけで観客を鎮まらせるだけの気迫――――その源泉に、万丈目は心当たりがある。

 

(まさか、まさか……まさかなのか)

 

 人間である以上は切り離すことのできない根源的な恐怖。万丈目にも当然のように根付いているそれが警鐘を鳴らしている。

 デュエリストとしての本能というより、生物としての危険察知能力が途方もない邪悪の訪れに呼び覚まされているようだ。

 

「万丈目、まずは見事と言わせてくれ。この三年間、よくもここまで練り上げた。大したものだ」

 

「なにを」

 

 丈からいきなり告げられた賞賛の言葉。それはなんの虚飾もない本心からの言葉だった。宍戸丈は真っ直ぐ万丈目を見据えたまま、柔和な笑みを浮かべている。

 だが温かみすら感じられた笑みは、次の瞬間、凍てつく闘気へと変わった。

 

「っ!」

 

 昂ぶるのではない。震えることもできない。恐怖する心すら恐怖させ沈黙させる根源的な鬼気。

 丈の全身から闘気が黒い魔力となって立ち昇り、まだデュエルディスクに何のカードも置かれていないと言うのに、紫電染みたものが丈の周囲で煌めいた。

 

「お前の三年間に報いるため――――俺も〝見せ〟よう」

 

 刹那。アカデミア島にいたデュエルモンスターズの精霊たちが、等しく根源的な恐怖を思い出した。

 デュエルモンスターズの頂点に君臨する最大最強のレアカード、三幻神。その三幻神と対になる最悪最凶の三邪神。

 それが初めて公式で行われるデュエルにて顕現する。

 

「メタル・リフレクト・スライムのレベルを二つ下げレベル・スティーラー二体を墓地より復活。ゆくぞ、万丈目。呑まれるなよ」

 

 邪神の召喚には生け贄が三体必要。ここに邪神降臨の準備は整った。

 いつもなら大型モンスターの登場に盛り上がるアカデミア生たちも、今回ばかりは生唾を呑み込み沈黙する。

 アカデミアに通っている者ならば全員が見たことがあるだろう。公に放映されたバトルシティートーナメント準決勝、オシリスの天空竜とオベリスクの巨神兵の激突を。

 あれを見て誰もが三幻神という絶対的な強さに憧憬の念をもち、同時に恐怖した。それと同格の邪悪なる神が現れようとしているのである。

 声を失うのは当たり前のこと。

 

「破壊神をも駆逐する恐怖の根源、我が絶対の力となりて、 我が領域に顕現せよ!  天地を揺るがす全能たる力によって、俺に勝利をもたらせ! 邪神ドレッド・ルート降臨ッッ!!」

 

 

【THE DEVILS DREAD-ROOT】

DIVINE ☆10 GOD

ATK/4000

DEF/4000

Fear dominates the whole field.

Both attack and defense points of all the monsters will halve.

 

 

 数多のカードの中で三幻神と同じく『神』という属性を持つ者。オベリスクの巨神兵を殺すためにデザインされた恐怖の根源が、ここに出現した。

 デュエルディスクのキャパシティを軽く超えたエネルギーに、デュエル場が大きく振動し烈風が吹き荒れる。

 強烈な風に思わず吹き飛ばされそうになるが、万丈目はどうにか堪えた。

 

「お……俺は、万丈目サンダーだ。いずれ……決闘王になる男だ! 邪神なんぞ……通過点に過ぎん!」

 

 それは空元気だったが、不思議に口に出して叫ぶと邪神の威圧が少し和らいでいくような気がした。

 

「踏みとどまったか。やはり俺の決断は正しかった。お前ならば折れないと信じていたぞ。並みのデュエリストなら邪神と対峙しただけで気絶するからな」

 

「……っ!」

 

 こうして間近で邪神の威圧を受けた万丈目には、それを誇張であると笑うことは出来ない。

 三年間で様々なことを味わってきたからこそ耐えられているが、これが三年前の自分なら今頃気絶していてもおかしくはなかった。

 三幻魔との戦いの際も一度見たが、あの時は邪神は味方だった。だが今回は違う。邪神ドレッドルートは万丈目準の敵。その事実が途方もなく恐ろしいことのように思える。

 

「まずは冥界の宝札の効果で二枚ドローする。そして邪神ドレッドルートは自身を除くフィールドのモンスターのステータスを半減させる。攻撃力3000のアームド・ドラゴンLV10の攻撃力は1500となる」

 

 ドレッドルートとの差分は2500。直撃すれば残りライフ2000の万丈目は一巻の終わりだ。

 

「バトル。邪神ドレッドルートでアームド・ドラゴンLV10を攻撃、フィアーズノックダウンッ!」

 

「こんなところで……俺は負けんッ! 罠発動、ゴブリンのやりくり上手! さらにチェーンして速攻魔法、非常食を発動! 発動したゴブリンのやりくり上手を墓地へ送り1000ポイントのライフを回復する!」

 

 

【ゴブリンのやりくり上手】

通常罠カード

自分の墓地に存在する「ゴブリンのやりくり上手」の枚数+1枚を

自分のデッキからドローし、自分の手札を1枚選択してデッキの一番下に戻す。

 

 

【非常食】

速攻魔法カード

このカード以外の自分フィールド上に存在する

魔法・罠カードを任意の枚数墓地へ送って発動する。

墓地へ送ったカード1枚につき、自分は1000ライフポイント回復する。

 

 

「ゴブリンのやりくり上手は自分の墓地に存在する『ゴブリンのやりくり上手』の枚数+1枚をドローし、それから手札一枚をデッキの一番下へ戻すカード。

 非常食の効果により発動したゴブリンのやりくり上手は墓地へ置かれているため、俺は二枚ドローし、一枚をデッキの一番下へ戻す」

 

「……上手いな」

 

 非常食により万丈目のライフは1000ポイント回復し、3000ポイントになった。更にゴブリンのやりくり上手の効果を上手く使い消費した手札を回復させもした。

 しかしそれは邪神ドレッドルートの攻撃を防いだわけではない。ドレッドルートの神拳が、アームド・ドラゴンを粉々に破壊する。

 

「アームド・ドラゴンLV10を粉砕」

 

「ぐっ、おおおぉぉぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーッ!!」

 

 万丈目LP2000→3000→500

 

 闇のゲームで体感したものを超える、嘗て経験したことのない苦痛が万丈目の肉体を駆け巡る。

 生きながらまな板の上に乗っけられて、包丁で体を切り刻まれる魚の気分が理解できたような気がした。

 苦痛の余り胃の中のものを吐き出してしまいそうになるが、万丈目の高い自尊心が後一歩のところでそれだけは堪える。

 

『ま、万丈目の兄貴。やばいわよぉ、魔王の旦那は本気だわぁ。兄貴をガチで殺しにきてるって!』

 

「……だ……黙……れ。クズ共、俺は……戦える」

 

 震える膝を殴りつけて、万丈目は立ち上がる。呼吸はしっかりとしていた。苦痛は凄まじいものだったが、肉体に傷はない。

 ただ邪神の一撃によって、デュエル場には今も魔力の残滓がバチバチとしていた。

 

「――――サレンダーするか、万丈目」

 

「な、んだと?」

 

「邪神の一撃は下手すれば命を奪いかねない。これは持って生まれた性質のようなものでな。俺がどれだけ抑え込んでいようと消すことはできん。

 もしこれ以上続けるのならば、命を懸けて貰うことになる。どうする?」

 

 デュエルを止めて降参するか、それとも命懸けで邪神に挑むか。

 恐らくここでサレンダーしたところでアカデミアの生徒が自分を軽蔑するということはないだろう。邪神ドレッドルートを前にすれば誰だってサレンダーしたくもなる。だが、

 

「ふざけるな! 俺はサレンダーなどはせん! 言った筈だ、俺は三邪神を倒すとな! 訂正はない!」

 

「……分かった。失礼なことを言った。もう二度とは言わん。俺はターンエンドだ」

 

「くっ。俺のターン、ドロー!」

 

 卒業模範デュエルで邪神と戦うことは覚悟していた。そして邪神を倒すためにデッキの調整も念入りにしている。

 しかし万丈目の手札に邪神を倒すためのカードはない。

 

「強欲な壺を発動。デッキよりカードを二枚ドローする。モンスターをセット、リバースカードを二枚セット。ターンエンドだ」

 

 そのためにも、ここは耐え凌ぐしかない。

 苦渋に滲んだ顔で万丈目はターンエンドを宣言した。

 

「俺のターン。神獣王バルバロスを妥協召喚、バルバロスのレベルを二つ下げレベル・スティーラー二体を守備表示で蘇生させる」

 

 邪神ドレッドルートの能力はフィールド全体に及ぶ。よってバルバロスの攻撃力も半減され950になった。

 だが万丈目の残りライフはたった500なので、攻撃力950でも十分すぎるほどである。

 

「バトル。ドレッドルートでリバースモンスターを攻撃する」

 

「……伏せていたモンスターはメタモルポット。互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚カードをドローする」

 

 破壊されたのが守備表示モンスターだったお蔭で、今度は先程のように苦痛を味わうことはなかった。

 ドレッドルートが壁モンスターを破壊すると、続いてバルバロスが飛びかかって来る。

 

「バルバロスでプレイヤーを直接攻撃、トルネード・シェイパー!」

 

「罠発動、ガード・ブロック! ダメージを0にして一枚ドローする!」

 

 これで万丈目の手札は合計六枚。次のドローで七枚。十分すぎるほどの手札を得ることができた。

 

「バトルを終了。ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 邪神にバルバロスにレベル・スティーラー。レベル・スティーラーは兎も角、丈のフィールドには錚々たる最上級モンスターが並んでいる。

 だが丈の魔法・罠ゾーンにあるのは冥界の宝札が一枚だけ。対して自分はフィールドこそがら空きだが、手札は七枚。

 邪神を倒すのは今を置いて他にはない。キーとなる二枚は手札にきている。

 

「宍戸さん、俺は予言する。このターンで邪神ドレッドルートを倒すとな!!」

 

「!」

 

 万丈目の『邪神撃破宣言』に、ギャラリーがざわめき立つ。

 倒せるはずがない、口ばかりだ、でももしかしたら……。そんな囁きが万丈目の耳にも届いてきた。

 

「面白い。やってみろ」

 

 丈は心底楽しそうにニヤリと笑う。

 

「その余裕がいつまで続くかな。見せてやる、この万丈目サンダーのデュエル革命を! 魔法発動、おろかな埋葬! デッキのモンスターを墓地へ埋葬する。俺が墓地へ送るカードはこいつだ。眠れる巨人ズシン!」

 

「ズシン、だと!?」

 

 万丈目が墓地へ送ったモンスター、眠れる巨人ズシンは三幻神にも匹敵する能力をもっていると囁かれる、誰もが当たり前に持っている単なるノーマルカードだ。

 どうして三幻神にも匹敵するほどの能力をもつカードが『ただのノーマルカード』に分類されているかというと、それは一重にその召喚難易度にある。

 自分のターンで数えて10ターン以上フィールド上に表側表示で存在しているレベル1の通常モンスター1体を生け贄にする――――それが眠れる巨人ズシンの召喚条件だ。

 なんの耐性も持たずステータスも貧弱な通常モンスターを、20ターンに渡ってフィールドに維持し続けなければならないのである。

 そんな面倒臭いことをするくらいならば『終焉のカウントダウン』での勝利を目指した方が一兆倍効率的だ。

 故に眠れる巨人ズシンは三幻神クラスの力をもちながらも、誰もデッキに投入しないノーマルカードという地位に納まっている。

 事実公式戦でズシンが召喚されたという記録はゼロ。誰もが知っていて、誰もが持っているが、誰もデッキに入れたことのないカード。それがズシンなのだ。

 だがおジャマ三兄弟と同じだ。クズカードにはクズカードなりの使い方がある。

 

「これが邪神を倒すための俺の戦略だ! ファントム・オブ・カオスを召喚し効果発動! 墓地のズシンを除外し、このターンの間だけズシンの能力とステータスを得る!」

 

 

【ファントム・オブ・カオス】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力0

守備力0

自分の墓地に存在する効果モンスター1体を選択し、ゲームから除外する事ができる。

このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、

このカードはエンドフェイズ時まで選択したモンスターと同名カードとして扱い、

選択したモンスターと同じ攻撃力とモンスター効果を得る。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

このモンスターの戦闘によって発生する相手プレイヤーへの戦闘ダメージは0になる。

 

 

【眠れる巨人ズシン】

地属性 ☆10 戦士族

攻撃力0

守備力0

このカードは通常召喚できない。

自分のターンで数えて10ターン以上フィールド上に

表側表示で存在しているレベル1の通常モンスター1体を生け贄にする事でのみ

特殊召喚する事ができる。

このカードが戦闘を行う場合、

バトルフェイズの間だけ戦闘を行う相手モンスターの効果を無効化し、

このカードの攻撃力・守備力はダメージ計算時のみ戦闘を行う相手モンスターの

攻撃力+1000ポイントの数値になる。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

このカードはこのカード以外の魔法・罠・効果モンスターの効果を受けない 。

 

 

 泥のような亡霊が、ズシンの姿へと変化していく。オリジナルのズシンとは違って、戦闘ダメージも与えられはしないが能力はそのままだ。

 ズシンを正規の方法で召喚できずとも、ファントム・オブ・カオスを用いることでズシンの能力を得ることはできる。丈とバクラのデュエルを見て思いついた戦術だった。

 ドレッドルートの半減の呪縛がズシンにも伸し掛かる。だがズシンはあっさりそれを撥ね飛ばす。

 

「ズシンの攻撃力は戦闘を行う相手モンスターの攻撃力に1000ポイントプラスした数値となる。邪神ドレッドルートの攻撃力は4000。よってズシンの攻撃力はドレッドルートと戦闘する場合、5000ポイントになる!

 バトルだ。眠れる巨人ズシンとなったファントム・オブ・カオスの攻撃。ファントム・オブ・ズシン・クラッシャー!」

 

 ドレッドルートが殴りつけていた腕を払いのけ、逆にズシンが頭部を捻り潰した。

 ファントム・オブ・カオスの効果のせいでダメージを与えることは出来ない。それでも確かに……万丈目準は邪神を倒したのだ。

 

「うおぉぉおおおおおおお! 凄ェ、サンダーが邪神を倒した!」

 

「サンダー! サンダー! 万丈目サンダー!」

 

 会場中から響き渡るサンダーコール。それを満足気に受け止めつつ、万丈目はデュエルを進めた。

 

「ドレッドフィールドが破壊され墓地へ送られた瞬間、リビングデッドの呼び声を発動! 墓地よりアームド・ドラゴンLV5を復活させる!」

 

「二枚目のリビングデッドだと!?」

 

 

【アームド・ドラゴンLV5】

風属性 ☆5 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力1700

手札からモンスター1体を墓地へ送る事で、

そのモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ、

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。

また、このカードが戦闘によってモンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時、

フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で、

手札またはデッキから「アームド・ドラゴン LV7」1体を特殊召喚する。

 

 

 バトルフェイズ中に特殊召喚されたモンスターはバトルが可能だ。そして丈の場にあるバルバロスには、未だドレッドルートの影響が残っており攻撃力たったの950。

 万丈目は肺の中のものを全て吐き出す勢いで宣言する。

 

「バトルだ! アームド・ドラゴンLV5でバルバロスを攻撃! アームド・バスター!」

 

「むっ……っ!」

 

 宍戸丈LP3000→1550

 

 まだまだ0にするには至らないが、宍戸丈に確かなダメージを与えることができた。

 万丈目は小さくガッツポーズする。

 

「バトルフェイズを終了。メインフェイズ2へ移行。カードを一枚伏せターンエンドだ」

 




 というわけでフライングしてズシンが出ました。チーム太陽涙目。けど別にズシンそのものを召喚したわけじゃないからセーフなはず。


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第172話  光と闇の竜

宍戸丈 LP1550 手札5枚

場 レベル・スティーラー×2

伏せ 無し

魔法 冥界の宝札

 

 

万丈目 LP500 手札4枚

場 ファントム・オブ・カオス、アームド・ドラゴンLV5

伏せ 一枚

罠 リビングデッドの呼び声

 

 

 ライフポイントも手札アドバンテージも宍戸丈の優勢であるが、邪神を撃破したことで確実に流れは自分の方へ持ってくることができた。

 後もうひと押し。もうひと押しで完全に流れを我が物にできる。せめてあと1ターン、このまま攻められれば倒し切る自信が万丈目にはあった。

 だが自分のターンが終われば、次が相手ターンになるのは必然であり自然。流れを断ち切るような、宍戸丈のターンが無情にやってくる。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 本来ならばあのターンで決着をつけたかったが、手札の都合と丈の場にいる二体のレベル・スティーラーが許してはくれなかった。

 最上級モンスターのラッシュに目を奪われがちだが、時に生け贄として、時に壁として墓地より度々蘇生させられるレベル・スティーラーは、宍戸丈のデッキの一番の要なのかもしれない。

 ふと万丈目はそんなことを思った。

 

「場の二体のレベル・スティーラーを生け贄に捧げる」

 

「……くっ! また来るのかっ!」

 

「雷で世界を穿ち貫け。轟雷帝ザボルグを攻撃表示で召喚!」

 

 

【轟雷帝ザボルグ】

光属性 ☆8 雷族

攻撃力2800

守備力1000

このカードは生け贄召喚したモンスター1体を生け贄にして生け贄召喚できる。

(1):このカードが生け贄召喚に成功した場合、

フィールドのモンスター1体を対象として発動する。

そのモンスターを破壊する。

破壊したモンスターが光属性だった場合、

その元々のレベルまたはランクの数だけ、

お互いはそれぞれ自分のエクストラデッキからカードを選んで墓地へ送る。

このカードが光属性モンスターを生け贄にして生け贄召喚に成功した場合、

その時の効果に以下の効果を加える。

●墓地へ送る相手のカードは自分が選ぶ。

 

 

 怨みの力を得た邪帝の次は、轟雷の力を得た雷帝の降臨だ。

 倒しても倒しても、丈のフィールドから最上級モンスターは途切れることがない。敵のライフを刈り取るか、逆に刈り取られるまで延々と最上級モンスターが召喚され続ける。

 

「轟雷帝ザボルグの特殊能力。こいつが生け贄召喚に成功した場合、フィールドのモンスター1体を破壊する。アームド・ドラゴンLV5を破壊する!」

 

「くっ……! しかしこのままやられはせん! 罠発動、和睦の使者!」

 

 

【和睦の使者】

通常罠カード

このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける

全ての戦闘ダメージは0になる。

このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

 

 

 雷がアームド・ドラゴンを打ち抜き破壊する。けれど和睦の使者が発動されたため、轟雷帝ザボルグは『攻撃』でモンスターを破壊しダメージを与えることはできなくなった。

 そしてザボルグにはガイウスと違ってバーンダメージを与える能力はない。

 

「耐え凌いだか。冥界の宝札で二枚ドロー、リバースカードを三枚伏せターンエンドだ」

 

 いきなりLV5を破壊されてしまったのは痛いが、元々LV7が既に墓地へ置かれているため進化がどん詰まりだったのだ。そこまで惜しくはない。

 それに轟雷帝ザボルグは厄介な能力をもっているが、その力はあくまで召喚時点でしか発生しない。よって今のザボルグはただの効果のないモンスターと同じ。

 

「ならば……いける! 俺のターン、ドロー!」

 

 万丈目はドローしたカードを確認して、目を鋭く細めた。

 光と闇の竜。宍戸丈から託され、中等部時代を共に駆け抜けた掛け替えのない相棒。

 高等部に入ってからは自分だけの力で戦うため封印したこともあったが、その存在は片時も忘れたことはなかった。

 

「また……俺と一緒に戦ってくれるのか……光と闇の竜」

 

 光と闇の竜はなにも答えない。ただなんとなく光と闇の竜の絵柄が頷くように光ったような気がした。

 それで万丈目の覚悟は決まった。

 

「いくぞ、宍戸さん! 俺と相棒の力を見せてやる!」

 

「――――くるか!」

 

「手札断殺を発動、手札を二枚捨て、デッキよりカードを二枚ドロー! さらにフィールドのファントム・オブ・カオスの効果を再び発動する!

 俺が除外するモンスターは手札断殺の効果で墓地へ捨てたカイザー・シーホース! こいつは光属性の生け贄に使用する場合、一体で二体分の生け贄とすることができるダブルコストモンスターだ!」

 

「!」

 

 丈の目が見開かれる。万丈目のデッキに投入されている『光属性』で生け贄二体を要求する最上級モンスターがなんなのか、宍戸丈には万丈目の次に分かっていることだろう。

 なにせ光と闇の竜は元々宍戸丈のカードだったのだから。だからこそ宍戸丈を倒すのにこれほど相応しいカードもない。

 

「二体分の生け贄となったファントム・オブ・カオスを生け贄に! 俺と一緒にあの人と戦ってくれ……光と闇の竜!」

 

 

【光と闇の竜】

光属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力2400

このカードは特殊召喚できない。

このカードの属性は「闇」としても扱う。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にする。

この効果でカードの発動を無効にする度に、

このカードの攻撃力と守備力は500ポイントダウンする。

このカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。

自分フィールド上のカードを全て破壊する。

選択したモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 その片翼はまるで天使のように純白の翼だった。純白の翼と同じ純白の肢体は触れるだけで汚れてしまいそうなほど清純だった。

 その片翼はまるで悪魔のように漆黒の羽だった。漆黒の羽と同じ漆黒の肢体は触れるだけで溶けてしまいそうなほど邪悪だった。

 光と闇、二つの属性を重ねもったドラゴン。三年前は万丈目に敗北を齎した光と闇の竜が、今度は勝利を齎すためフィールドに顕現する。

 

「バトルだ! 光と闇の竜で轟雷帝ザボルグを攻撃、シャイニングブレスッ!」

 

「攻撃力は互角。しかし光と闇の竜には破壊された時、墓地のモンスターを特殊召喚する能力がある。敢えて自爆特攻させることで、復活させたモンスターを使い追撃をしかけるつもりなのだろうが甘いぞ

 罠カード発動、針虫の巣窟。デッキの一番上から五枚を墓地へ送る」

 

「……! 光と闇の竜のモンスター効果、このカードの攻撃力と守備力を500ポイントダウンさせ針虫の巣窟の発動を無効にする」

 

「だがこれで攻撃力は下がった」

 

 光と闇の竜の効果が発動したことで攻撃力は2300にまで下がった。既に攻撃宣言はされている。このまま攻撃すれば自滅するだけだが、攻撃を止める術は万丈目にはない。

 もっとも攻撃を止める術がないだけであって、成す術はない訳ではないが。

 

「まだだ! 俺は更にその先をゆく! 俺は光と闇の竜の効果の発動にチェーンして速攻魔法発動、禁じられた聖杯!」

 

 

【禁じられた聖杯】

速攻魔法カード

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。

エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は

400ポイントアップし、効果は無効化される。

 

 

 聖杯の加護が光と闇の竜に齎されて、減少した攻撃力が元に戻り、更に400ポイントの力が加わる。

 かわりに光と闇の竜のモンスター効果は失われたが、それもこのターンの間のみのこと。安い消費だ。

 

「光と闇の竜は同一チェーン上で二度発動を無効にすることは出来ない。更に禁じられた聖杯により光と闇の竜の攻撃力は3200となった。

 今度こそバトルだ! 光と闇の竜、轟雷の化身を漆黒の闇で消し払え! ダークバプティズム!」

 

「……!」

 

 宍戸丈LP1550→1150

 

 轟雷帝ザボルグが光と闇の竜の吐いた闇色のブレスに呑まれ破壊される。

 遂に宍戸丈のフィールドから全てのモンスターが消えた。

 

「バトルフェイズを終了。メインフェイズ2へ移行しリバースカードを二枚セット。ターンエンドだ」

 

「……エンドフェイズ時、メタル・リフレクト・スライムを発動する。そして俺のターン、ドロー」

 

 だが丈の顔に追い詰められた表情はない。寧ろどこか楽しげな表情をしていた。

 楽しげといっても、別に丈が手心を加えているということはない。邪神を繰り出してきたことからしても、間違いなく宍戸丈は全力で向かってきているだろう。

 その笑みに見覚えがある。遊城十代と同じ、ギリギリの攻防を心から楽しむデュエリストの顔だ。

 

「万丈目。お互いエースも殆ど出し尽くした頃合いだろう。恐らくこのターン中で決着がつくはずだ」

 

「……! 望むところだ。アンタがこのターンで俺のライフを削れればアンタの勝ち、そうでなければ――――」

 

「俺の負けだろう。だが俺にも四天王としての意地がある。学生時代最後のデュエルで負けるわけにはいかん。悪いが勝ちは俺がもらっていく!

 手始めに墓地のレベル・スティーラーの効果を発動。メタル・リフレクト・スライムのレベルを一つ下げ、このカードを墓地より復活させる。この効果は光と闇の竜によって無効になるが、お前ならばこの先なにが起こるか理解できるだろう?」

 

「くそっ!」

 

 レベル・スティーラーはコストなく墓地から『何度』でも特殊召喚できるモンスターだ。

 よってフィールドにレベル5以上のモンスターがいれば、光と闇の竜の攻撃力守備力を即座に最低値まで落とすことができる。

 

「俺はレベル・スティーラーの効果を四回発動させ、これで光と闇の竜の攻撃力は800、守備力は400まで下がった。これ以上、ステータスを下げることができないため光と闇の竜は無効化効果を喪失する。

 よって俺はメタル・リフレクト・スライムのレベルを二つ下げ、二体のレベル・スティーラーを蘇生させる。ゆくぞ、三体のモンスターを生け贄に神獣王バルバロスを召喚ッ!」

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 最強の従属神バルバロス。その効果は相手フィールド上全てを破壊する。

 こんな効果を使われてしまえば、如何に光と闇の竜が墓地から後続を呼び出す能力を持っていようと終わりだ。

 

「カウンター罠、天罰を発動! 手札を一枚捨て、モンスター効果を無効にして破壊する!」

 

「……いいプレイングだ。だがカウンターならばこちらに一日の長がある! カウンター罠に対してカウンターを発動! 盗賊の七つ道具!」

 

「なんだと!?」

 

「1000ポイントのライフをコストに天罰を無効にする! 更にカウンター罠の発動により、手札から冥王竜ヴァンダルギオンが降臨する!」

 

 宍戸丈LP1150→150

 

【冥王竜ヴァンダルギオン】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力2500

相手がコントロールするカードの発動をカウンター罠で無効にした場合、

このカードを手札から特殊召喚する事ができる。

この方法で特殊召喚に成功した時、

無効にしたカードの種類により以下の効果を発動する。

●魔法:相手ライフに1500ポイントダメージを与える。

●罠:相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

●効果モンスター:自分の墓地からモンスター1体を選択して

自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 宍戸丈のライフが150ポイントとなり、死に限界まで近づく。それでも宍戸丈は死すことなく、手札から冥界の竜が現れる。

 天罰は無効となり万丈目のフィールドのカードは全て破壊された。頼みの綱でもあったミラーフォースも諸共に。

 

「……光と闇の竜の効果だ。墓地のアームド・ドラゴンLV5……いや」

 

 万丈目の手札にカードはなく、墓地にも、フィールドにも発動できるカードはない。

 清々しいまでの完敗だ。デュエルに負けたことの悔しさはある。

 だが自分はやるだけのことは全てやった。全力を出し切ったのだ。デュエルは勝ち負けが全てではないなんて綺麗事を言うつもりはないが、後悔は欠片もなかった。

 真っ直ぐに冥王竜を見据えると、万丈目は自分のデッキのエースの名を呼んだ。

 

「おジャマ・イエローを墓地から復活させる!」

 

「なに? おジャマ・イエローだと?」

 

 これには丈も驚きを露わにする。しかし一番驚いていたのは当の本人、おジャマ・イエローだった。

 

『ちょ、万丈目の兄貴~! こんな時に攻撃力0のアタイを呼んでどうするつもりなのよぉ!』

 

「自分を卑下するな。光と闇の竜が俺の相棒ならば、お前が……いいやお前たちおジャマ三兄弟がこのデッキのエースなんだ。胸を張れ」

 

『ま、万丈目の兄貴? そ、そこまでオイラたちのことを……。それじゃ万丈目の兄貴には、ここからオイラたち兄弟の力で逆転するプランがあるのねぇん?』

 

「いやない」

 

『へ?』

 

「俺のエースならば、俺と共に死ね!」

 

『いやぁああああああああああああああああああ!』

 

「来い、宍戸さん! バトルだ!」

 

「――――ああ! いくぞ、万丈目。冥王竜ヴァンダルギオンでおジャマ・イエローに攻撃! 冥王葬送ッ!」

 

「――――ッ!!」

 

 万丈目LP500→0

 

 ライフポイントが0となって、万丈目は膝をつく。

 全力を出し切ったのだから後悔はない。後悔はないが、やはり負けたことが溜まらなく悔しい。

 拳を握りしめ思いっきり地面を殴りつける。

 

「万丈目」

 

「……宍戸さん」

 

 丈が差し出してきた手を握って、引っ張り起こされる。

 瞬間。周囲からは爆発的な拍手が鳴り響いた。

 

「うぉぉぉおおおお! あの魔王をあそこまで追い詰めるなんて凄ぇぞ万丈目!」

 

「いいデュエルをありがとう!」

 

「素晴らしいデュエルだったノーネ」

 

「サンダー! サンダー! 万丈目サンダー!」

 

「魔王! 魔王! 魔王! 魔王!」

 

 そこに敗者である万丈目を貶める声はなく、ただ二人の健闘を称える歓声だけがあった。

 

「いいデュエルだった。万丈目、学生時代最後に素晴らしいデュエルをありがとう」

 

「……宍戸さん。俺は諦めん、今度はアンタを倒してみせる」

 

「ああ、楽しみにしているよ」

 

 そうだ。まだまだ万丈目準のデュエル人生は始まったばかり。今回負けたのなら次は勝てばいい。

 万丈目と丈は改めて再戦の約束をした。

 



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第173話  旅立ち

 邪神ドレッドルートの召喚によりデュエル場が一時使用不能になってしまったので、亮と十代の卒業模範デュエルは卒業パーティの後に変更になった。

 ソリッドビジョンにも拘らず相手プレイヤーにデュエル場にも深刻なダメージを与える三邪神。丈は改めて通常のデュエルで邪神を使用しないことを誓った。万丈目が邪神の攻撃に耐えることができたのは、あくまで彼が精霊に選ばれるほどの素養の持ち主で、精神力がタフだったからだ。

 万丈目のレベルをプロ全員に求めるのは無理がある。プロの試合で使用してその度に対戦相手を再起不能にしていては洒落にならない。

 卒業式はつつがなく終了し、その後の卒業パーティー。

 テーブルに所せましと並べられた御馳走と、和やかに談笑したり、馬鹿みたいに騒ぐ卒業生たち。

 ブルー寮、イエロー寮、レッド寮に別れていがみあっていたのも今は昔。

 卒業式を迎えればもうそこに寮ごとの垣根などはない。これから寮の権威には頼れないプロとして、或は社会人として、または大学生として生きていくのだから。

 そして他の生徒たちと同じように、丈たちも高校生活最後のイベントを四人で分かち合っていた。

 

「こうやっていざ終わってみるとあっという間の三年間だったね」

 

 グラスに注がれたワイン――――の雰囲気を出した葡萄ジュースを飲みながら、吹雪がしみじみと言う。

 

「ああ、まったくだ」

 

 吹雪の言うことに同意する。

 高校生活とNDLの二重生活をしている間はスケジュールの都合などで苦労して一日が長く感じられたものだが、いざ終わってみると本当に短く感じられる。

 泣いても笑ってもこれが最後。ここを過ぎれば高校生でいることはもう出来ない。そう思うと寂しさもあった。

 

「〝四天王〟などと呼ばれていても、実際に俺達四人が共に過ごした日々も余りなかったからな。丈がまずNDLへ入るためアメリカへ行って、それから俺達も留学でここを離れた。

 四人一緒に学生生活をしていた期間だけで換算するのなら、もしかしたら一年にも満たないかもしれん」

 

「それに進路も其々別々だし、会う機会は減るだろうね。僕はちょっとだけ寂しいかな。ここは一つ皆でダークネス世界の扉でも開いちゃう?」

 

「おいおい、藤原。俺はまた宇宙空間でダークネスと一騎打ちしなければならないのか?」

 

「ははははははははは! 単なる冗談だよ、冗談。僕も二回もあんなものと契約するつもりはないって。そんなことをしたら今度は吹雪が本気で怒りそうだし」

 

「普段怒らない人間が怒ると恐いというからな。俺達の中で一番怒りとは縁のない吹雪が怒れば、案外あの明日香以上に恐いかもしれん」

 

「まったくもう。酷いなぁ、僕みたいなプリンスはいつもスマイル。怒ることなんてないよ」

 

 そう言いつつ万が一……いや億が一に藤原がダークネスと契約するようなことがあれば、吹雪は誰よりも早く藤原の下に駆け付けるだろう。

 名前に反して、四人の中で一番友情に熱い男なのだ、天上院吹雪は。1ターン目で黒炎弾二連発なんてやられると忘れそうになるが。

 

「おーい、カイザー!」

 

「ん? 十代か」

 

 卒業パーティーに参加しているのは卒業生だけではない。卒業生に招待された在校生も見送りのために参加していた。

 十代もその一人。もっとも十代の場合は招待されたわけではなく、この後に控えているイベントのための特別枠での参加だが。

 ちなみに丈の招待者は万丈目、亮の招待者は弟の翔、吹雪の招待者は妹の明日香だ。藤原も名前の知らないラー・イエローの生徒を招待していた。

 

「どうした、まだイベントまで時間があるぞ」

 

「いやぁ。そうじゃなくってさ、カイザー達は卒業後の進路とかどうするのか気になってさ」

 

「俺達の進路? 突然だな」

 

「実はさっきそこでクロノス先生に『進路調査書』の提出が遅れてるって怒られて、それで先輩の進路を聞いて勉強してくるノーネって言われたんだ」

 

「クロノス先生らしいな」

 

 進路調査書は丈も一年生の頃に書いた覚えがある。丈が書いたことがあるのならば、亮たち三人も同様だろう。

 当時丈は既にNDLに所属していたので、進路調査書に書くことには困らなかったが、十代のようにまだ特定の進路が決まっていない生徒にとっては面倒臭いものかもしれない。

 

「俺はプロデュエリストだ。日本のSリーグに所属することになっている。中々良い条件のスポンサーも見つけることが出来たからな。ただプロで研鑽を積んだらSリーグは止める予定だ」

 

「プロを止めっちまうのか?」

 

「いや、あくまでSリーグを止めるだけだ。プロから降りるわけじゃない。――――実はこれは翔にしか話していないことなんだが、日本に新しいプロリーグを作るのが俺の夢でな」

 

「新しい、プロリーグ?」

 

「新しいリーグが増えれば、新しい環境が生まれる。現在はSリーグが一強だが、それと同規模のリーグが一つ増えればプロリーグはより賑やかになる。

 野球だってセリーグとパリーグがあるだろう。要するに俺のやりたいことはセリーグしかないプロリーグに、パリーグを作ることなんだ」

 

「おおっ! なんか凄いな!」

 

「凄くはない。まだなにも実現していないからな」

 

「なら吹雪さんは?」

 

「僕はアイドルプロデュエリストさ!!」

 

「アイドル?」

 

「歌って踊ってデュエルも出来る最高のエンターテイナーになるのが僕の夢なんだよ。プロになるなら僕一人じゃなくて、観客全員を楽しませられるデュエリストになりたいからね。

 あ、来年の紅白に出演するつもりだから応援宜しく。それとアスリンにもアイドルになることをそれとなく誘ってくれると嬉しい。アスリンはアイドルの素養があると思うんだよ!」

 

「い、言うだけ言っておくぜ……」

 

 十代の笑顔が引き攣っている。

 無理はない。吹雪のようなタイプならまだしも、明日香はどう考えても自分からアイドルになろうとするタイプではない。

 確かにルックスといい実力といいアイドルで大成する器はあるが、それは本人の意志がなければ不可能だ。

 

「じゃあ藤原先輩は?」

 

「僕もプロだよ。お世話になっている人にはプロデュエリスト兼俳優にならないかって誘われたんだけどね。僕は俳優っていう柄でもないから。

 だけど僕も亮と一緒でプロリーグはいつか止めるかもしれないな……」

 

「カイザーのプロリーグ作りに協力するのか?」

 

「いいや。惜しいけど、ちょっと違うよ。僕は日本にプロリーグを新しく作るんじゃなくて、プロリーグのない国にプロリーグを作りたいんだ。

 今は世界大会といえばアメリカと日本メインで、他の国のデュエリストの参加はまちまちだけど、それはプロリーグが少ないのが一因だと思うんだよ。

 だからもっと多くの国にプロリーグが出来れば、世界大会が盛り上がるんじゃないかってね」

 

 藤原はアカデミアに入学するまでは、オーストラリアに留学していた。

 その経験が外国でのデュエル活性化という夢に繋がっているのだろう。

 

「それじゃ最後に丈さんは?」

 

「――――〝決闘王(キング・オブ・デュエリスト)〟」

 

「!」

 

「遊戯さんを倒して、二代目決闘王の称号を得る。これが俺の夢だ。万丈目と一緒だな」

 

「丈さんは遊戯さんとデュエルしたことがあるのか?」

 

「ああ、ある。惜しいところまではいったんだが…………完敗だった」

 

 パラドックスが引き起こした時間改変事件。

 過去から帰還を果たした丈を待っていた武藤遊戯と出会った丈は、そのままデュエルを挑み、正面から敗れ去った。

 あの敗北とデュエルの興奮は片時も忘れたことはない。

 

「まぁ手始めにNDLのランキング一位、次に世界王者だな。来年は四年に一度の世界王者決定戦だ。必ず決定戦に出場し、DDを倒す」

 

 全世界1000人を超えるプロデュエリストの頂点に立つ。

 それでこそ全世界60億人を超えるデュエリスト達の頂点に立つ決闘王に挑めるというものだ。

 

「――――セニョール十代。そろそろ時間ナノーネ!」

 

「あ、クロノス先生が呼んでる。じゃ先行ってるぜ、カイザー!」

 

 名前を呼ばれた十代が忙しなく走っていく。苦笑しながらカイザーもデュエルディスクを嵌めて、会場中央へ降りて行く。

 これからアカデミアの最後を飾るデュエルが始まるのだ。

 パーティー会場の中心で向かい合うカイザー亮と遊城十代。卒業生も在校生も談笑を止めて、二人を見守る。

 十代も亮もパーティーで談笑しているよりずっと楽しそうだ。性格もデュエリストとしてのタイプもなにもかも違う二人だが、筋金のデュエル馬鹿だということは同じなのだろう。

 

「いくぜ、カイザー!」

 

「来い、十代!」

 

 これから十代は多くの戦いを経験するはずだ。

 だがあのデュエルを心から愛する心があれば、どんな苦難の中でも進んでいけるだろう。

 

「「デュエル!」」

 

 この日、宍戸丈はアカデミアを卒業した。

 

 

 

 

 

――――デュエル・アカデミア高等部 卒業――――

 

 




「ユーには海馬コーポレーションから出張してきた社員たちと共に、新たなる召喚システムの開発に加わって欲しいのです」

 全てはペガサス・J・クロフォードの依頼から始まった。
 そして宍戸丈は未来において世界を救う英雄となる男――――その父親と邂逅する。

「初めまして。海馬コーポレーションから出張してきた不動です。彼の魔王とお会いできて光栄ですよ」

「宜しく、プロフェッサー。そちらは?」

「ルドガー・ゴドウィン、レクス・ゴドウィン……頼もしい、私の右腕と左腕です」

 シンクロ召喚。生け贄や融合とはまったく異なる、レベルをプラスするという概念。
 それは時空を超えた舞台で不動遊星がみせた召喚法そのものだった。

「――――異国の邪神を束ねし王よ。娘を返してほしければ、私とデュエルするがいい」

「やるしか、ないのか……!」

 アラスカの地で発見する赤き竜の伝説。シグナーとダークシグナーの戦いの記憶。
 宍戸丈は五体の竜の物語の前日譚に遭遇する。

「集いし願いが、新たに輝く星となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン!」

「研磨されし孤高の光、真の覇者となりて大地を照らす! 光輝け! シンクロ召喚! 大いなる魂、セイヴァー・デモン・ドラゴン!」

 5000年の時を超えて、古の竜達が眠りより覚める。
 宍戸丈の奇天烈遊戯王 第九章『シンクロ覚醒編』


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第九章 シンクロ覚醒編
第174話  決闘革新


『ナショナル・デュエル・リーグも新シーズンが始まって二か月! 彼の決闘王の故郷ジャパンから海を越えてやってきた…………もとい侵略してきた我等が〝魔王〟と対峙するは、FA権を行使してSリーグからNDLに電撃移籍してきたインセクター羽蛾さん!!

 ジョウ・シシドとはI2カップで死闘を繰り広げたこともある因縁の対決だァーーーーーッ!』

 

 血が熱くなる実況と、周りからの大歓声。最初は環境の変化に戸惑いはしたが、宍戸丈にとってそれはもう慣れ親しんだものだ。

 ドームの巨大モニターがランダムに先攻後攻を決定する。結果、先攻は宍戸丈。先攻が欲しかったらしいインセクター羽蛾は僅かに顔をしかめたが、彼もプロデュエリストだ。観客たちの手前、直ぐに元の余裕綽々な笑みを貼りつかせる。

 

「ひょひょひょひょ。ま、後攻なら後攻でもいいさ。俺の新しい昆虫デッキからすれば、先攻のアドバンテージなんて些細なものだからねぇ。

 宍戸丈くん。君は随分と活躍しているようだけど、快進撃もこれにて終了。I2カップで掠め取っていった勝利は、ここで耳を揃えて返済して貰うよ。人から借りたものは、ちゃんと元の持ち主に返さないとダメだろう?」

 

「……どうも」

 

 見え透いた挑発に丈がのることはなかった。

 I2社がスポンサーについているといっても、丈はこの国からすれば外国の人間で、しかも二十歳にも満たぬ若造でしかない。今は実績を出したことで殆どなくなったが、二年ほど前はこの手の挑発は毎日のようにされていた。羽蛾のそれは嘗てのものに比べればまだましな部類である。

 そう、挑発に挑発を返したとしても意味などはない。

 こうしてプロとして活動している以上、未成年だろうと宍戸丈は一人前の大人だ。挑発には粛々と実績を出すことで応えるのが、大人の対応というものだろう。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「モンスターと共に地も蹴らないし宙を舞わないしフィールド内を駆け巡らない!」

 

「見よ! これぞデュエルの原点!」

 

「スタンディング!」

 

「「デュエル!!」」

 

 人の目とカメラの目。人機入り混じる数万以上の視線を感じながら、丈はいつも通りのコンディションで最高のデュエルをする。

 

「俺のターン、ドロー! 終末の騎士を召喚、効果により暗黒界の龍神グラファを墓地へ送る。リバースカードを二枚場に出しターンエンドだ」

 

『墓地へ送られたモンスターは何度ぶっ倒してもぶっ倒しても蘇る不死身龍神グラファ!! ということは今回魔王のデッキは皆のトラウマこと暗黒界かァーーーーーッ!

 これまで数多くのデュエリストに再起不能クラスのトラウマを刻み付けてきた最凶デッキ! 元全日本チャンプであるインセクター羽蛾はどうやって攻略するのか!!』

 

 まだ終末の騎士を出してターンエンドしたばかりだというのに、MCの声には興奮の色がある。

 宍戸丈が所有する三つのデッキ。そのうち最凶の名を欲しいままにする暗黒界は、プロでのデュエルでも使用頻度は一番低いのでそれが原因だろう。

 

「ひょひょひょひょ。先攻1ターン目からグラファを墓地へ送るなんて恐い恐い。だけど勘違いしちゃいけないなぁ。墓地へ送ることで恐ろしいことになるのはグラファだけじゃないんだぜぇ」

 

「…………」

 

「いくぜ、俺のターン! おろかな埋葬を発動だ。この効果でデッキから俺の好きなモンスターを一体墓地へ送る。俺が墓地へ送るのはこいつだ! 甲虫装機ホーネット!」

 

「甲虫装機!?」

 

 

【甲虫装機 ホーネット】

闇属性 ☆3 昆虫族

攻撃力500

守備力200

1ターンに1度、自分の手札・墓地から「甲虫装機」と名のついた

モンスター1体を装備カード扱いとしてこのカードに装備できる。

このカードが装備カード扱いとして装備されている場合、

装備モンスターのレベルは3つ上がり、

攻撃力・守備力はこのカードのそれぞれの数値分アップする。

また、装備カード扱いとして装備されているこのカードを墓地へ送る事で、

フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

 

 

 羽蛾の言葉は単なるハッタリでも自画自賛ではなかった。甲虫装機といえばI2社が新たに送り出した昆虫族の新カテゴリーの一つである。

 まだ発売されたばかりだけあって、専用デッキを組めるほど所持しているデュエリストは稀だが、インセクター羽蛾は最も古くからの昆虫使いのデュエリスト。独自のルートで既に甲虫装機を入手していたのである。

 

「お前も甲虫装機の……いいや、ホーネットの恐さは知ってるよなぁ。こいつが墓地にいれば、お前がどれだけグラファを蘇らせようと何度だって撃破できる」

 

「果たしてそう上手く事が運ぶかな。おろかな埋葬の発動にチェーンして速攻魔法発動! マスク・チェンジ・セカンド!」

 

「マスク・チェンジ・セカンド?」

 

 

【マスク・チェンジ・セカンド】

速攻魔法カード

「マスク・チェンジ・セカンド」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):手札を1枚捨て、自分フィールドの

表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを墓地へ送り、

そのモンスターよりレベルが高く同じ属性の「M・HERO」モンスター1体を、

「マスク・チェンジ」による特殊召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

 

 終末の騎士を薄い光が包んでいき、その体をまったく別のモンスターへと変容させていった。

 仮面を被ることで、終末の騎士は仮面の英雄として再誕する。

 

「馬鹿な! マスク・チェンジはHERO専用のカード! どうしてHEROとはなんの関係もない終末の騎士がその対象に……?」

 

「マスク・チェンジ・セカンドは手札を一枚捨て、自分フィールドのモンスターを墓地へ送ることで、そのモンスターよりレベルの高い同属性のM・HEROを特殊召喚する。マスク・チェンジと違い条件さえ合致すれば、どんなモンスターだろうと関係なく!」

 

「なっ! まさか……そこまで考えて……!」

 

「現れ出でよ、万象を奈落へと葬りし仮面の英傑。M・HEROダーク・ロウを変身召喚ッ!」

 

 

【M・HEROダーク・ロウ】

闇属性 ☆6 戦士族

攻撃力2400

守備力1800

このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、

相手の墓地へ送られるカードは墓地へは行かず除外される。

(2):1ターンに1度、相手がドローフェイズ以外で

デッキからカードを手札に加えた場合に発動できる。

相手の手札をランダムに1枚選んで除外する。

 

 

 終末の騎士と同じ闇属性のM・HEROがフィールド上に降り立つ。獅子や虎を思わせる仮面を被ったHEROは、殺気をありありと立ち昇らせながら羽蛾を見据える。

 

「俺のターンにモンスターを変身召喚してきたのは驚いたけど、どんなモンスターを出そうが無駄無駄ぁ~。直ぐにそんな雑魚HEROは、ホーネットの熱く滾った針で串刺しさ」

 

「それはどうかな」

 

「ひょ?」

 

「M・HEROダーク・ロウの特殊能力。こいつがモンスターゾーンに存在する限り、相手の墓地へ送られるカードは、墓地へは行かずに除外される」

 

「……………………ひょ? お、俺のホーネットが~~!」

 

 おろかな埋葬で墓地へ行くはずだったホーネットが、墓地よりも遥かに遠い除外ゾーンへと消えていく。

 暗黒界や甲虫装機など墓地が肥えることで真価を発揮するデッキの永遠の天敵。その一つが除外だ。マクロコスモスなどとは違い、相手のみに除外を強要させるダーク・ロウは最悪の敵と言っても過言ではない。

 

「ええぃ、まだだ! 闇の誘惑で二枚ドローして、手札の闇属性モンスターを除外! よし、これなら――――」

 

「ダーク・ロウの更なる効果。相手がドローフェイズ以外でデッキからカードを加えた場合、手札のカードをランダムに一枚除外する。俺は一番左のカードを選択」

 

「ぎゃぁああああ! ホーネットに続いてダンセルがぁ~~! インチキ効果もいい加減にしろ!」

 

「ダンセルの方が十分インチキだと思うが……」

 

「五月蠅い! インセクター改めインゼクター羽蛾の再出発を台無しにしてくれた礼は後でたっぷりしてやる。だが今は守りを固めさせて貰うよ。モンスターをセット、リバースカードを場に出しターンエンド」

 

「エンドフェイズ時、サイクロンを発動。伏せカードを破壊」

 

「この人でなしぃぃぃいいいいいいいいいい!!」

 

 羽蛾の防御の切り札、ミラーフォースが今日も仕事をしないまま退場していく。ダーク・ロウの効果があるので行き先は墓地ではなく除外ゾーンだ。

 

「俺のターン。暗黒界の雷を発動、裏守備モンスターを破壊する」

 

 羽蛾にとっては生命線である裏守備モンスターに、無慈悲な稲妻が落ちてくる。

 かつて武藤遊戯との戦いでも色んな意味で活躍したゴキボールも、これには成す術なくやられるだけだった。

 

「暗黒界の雷の効果で手札からカードを一枚墓地へ送る。墓地へ送った狩人ブラウの効果で一枚ドロー。尖兵ベージを召喚し、これを手札に戻すことでグラファを蘇生。

 バトルだ! 暗黒界の龍神グラファとM・HEROダーク・ロウで相手プレイヤーを直接攻撃。ツイン・ダーク・ディトネイション!」

 

 響き渡るインセクター羽蛾の絶叫。MCの興奮する声。この日、NDLのデュエリストに新しいトラウマが刻み込まれた。

 宍戸丈、これで今シーズン23試合め。未だに黒星はついていない。

 

 

 

 アメリカにあるインダストリアル・イリュージョン社の本社を、一人のデュエリストが黒服の執事に連れられて歩いていた。

 闇色のコートに鎖や髑髏を模した銀色のアクセサリ。NDLにおいて〝魔王〟という二つ名で畏怖されるデュエリスト、宍戸丈だ。

 キースや孔雀舞などの極一部の例外を除けば、日米問わずプロリーグに所属するプロデュエリストたちはスポンサーをもっている。

 そして丈のスポンサーとなっている企業こそが他ならぬI2社であり、ペガサス会長の呼び出しに応じる義務が丈にはあった。

 会長室の扉の前に着いた丈は、コホンと咳払いして喉の調子を確認する。そして扉をゆっくりと開けた。

 

「よく来てくれました、宍戸ボーイ。NDLの試合で忙しい中、突然呼び出して申し訳ありまセーン」

 

 いつものワザとらしい似非外国人喋りでペガサス会長が出迎える。

 経営の第一線を退いたとはいえ、未だにカードゲーム界に大きな影響力をもつVIPだけあって、その周囲には屈強なボディーガードが固めていた。

 

「いえ。会長にはお世話になっていますから。どのような御用件でしょうか?」

 

 ペガサス会長は胡散臭いところはあるが、忙しい人間を戯れで呼び出すほど意地の悪い人ではない。

 態々丈を呼び出したということは、それなりに重要な要件あってのことだろう。

 もしかしたらバクラの足取りが掴めたのかもしれない。丈はそんな期待を抱くが、残念ながらペガサス会長の要件はバクラとはまったく関係のないものだった。

 

「単刀直入に聞きましょう。ユーは〝シンクロ召喚〟について知っていますね」

 

「……ええ。I2カップのオリジナルパックで関連カードを入手しているので名前だけは」

 

「遠慮は不要デース。私も遊戯ボーイから九年前の『パラドックス』という者が引き起こした事件については知らされていマース」

 

「!」

 

「時空を超えた舞台でユーは未来のデュエリストが操るシンクロ召喚を目撃した。間違いありませんね?」

 

 パラドックスのことについて知っているのならば隠す必要もないだろう。

 丈は暫し迷ってからコクリと首を縦に振った。

 

「はい。既存の融合召喚とは全く異なるチューナーとそれ以外のモンスターのレベルをプラスするシンクロ召喚。確かにこの目で見ました」

 

 遊星がスターダスト・ドラゴンをシンクロ召喚した光景が、丈の脳裏に蘇って来る。

 あらゆる歴史から最強デュエリストたちが集った夢の共演。あの時のデュエルは一生忘れることはないだろう。

 あのデュエルではシンクロ召喚のみならず『エクシーズ』という更なる召喚法も行われたのだが、そのことは話すと長くなるのでここは黙っておいた。

 

「オー。それはグッド、これで話を進められそうデース」

 

「話とは?」

 

「ユーには海馬コーポレーションから出張してきた社員たちと共に、新たなる召喚システムの開発に加わって欲しいのデース」

 

「俺が、開発に? しかし俺はカードデザイナーではありませんが」

 

「ノープロブレム、問題ありまセーン。実際に開発に加わるのではなく、テストプレイヤーとしてシンクロ召喚を行うデッキとデュエルをして、意見を提出してくれれば良いのデース。

 シンクロ召喚は既存のルールの枠にはない未知なるシステム。これが導入されれば現在の環境は大きく変わることになるでしょう。

 新しいモノが増え、戦略の幅が広がるのはベリーグッド。バット、だからといって昔からある戦略を潰すようなことになってはいけまセーン。

 だからこそ『生け贄』というスタンダードな戦略を駆使し、尚且つシンクロ召喚を知るユーに、シンクロ召喚のことを見極めて欲しいのデース。勿論これは正式な依頼なので特別ボーナスも支払ましょう」

 

「…………」

 

 悪くない話だ。

 これから導入されるであろうシンクロ召喚と一足早く実戦経験をつめるというのは、プロとしては美味しい話である。

 それに気前のよいペガサス会長のことだ。特別ボーナスにも期待がもてる。なにより恩義のある会長の頼みを断ることは、丈には出来ないことだった。

 

「分かりました。俺で良ければ協力します」

 

 

 

 

 I2社内にあるデュエルスペースに通された丈は、余りの衝撃に固まってしまった。

 丈を出迎えたのは科学者らしい白衣を羽織った男性だったのだが、その男性というのが問題だったのである。

 蟹のような髪型、意志の強い瞳、静観な顔立ち。それはどこからどう見てもパラドックスとの戦いで邂逅した不動遊星そのものだったのだ。

 

「私の顔になにか?」

 

「……い、いや失礼。少し知人に似ていたので」

 

「そうでしたか」

 

 合点がいったというふうに頷くと、男性は握手を求めてくる。

 

「初めまして。海馬コーポレーションから出張してきた不動です。彼の魔王とお会いできて光栄ですよ」

 

 暫し不動と名乗った博士の顔を見詰める。

 最初に見た時はあまりのそっくりさに言葉を失ったが、じっくり観察すると細部のパーツが微妙に異なる。

 年代的に考えて遊星はまだ生まれていないはずなので、ここにいる不動博士は遊星の父親だと考えるべきなのだろう。

 そういう考えに至ると気持ちも楽になった。丈は求められた握手に応じ、口を開く。

 

「こちらこそ宜しく、プロフェッサー。そちらは?」

 

「ルドガー・ゴドウィン、レクス・ゴドウィン……頼もしい、私の右腕と左腕です」

 

「兄のルドガーです、ミスター宍戸」

 

「弟のレクスです、活躍はいつも拝見させて頂いています」

 

 兄のルドガーは色黒で金髪。弟のレクスは色白の銀髪。なんとも対称的な兄弟だったが、顔立ちと体格はよく似ていた。

 二人とも研究者だけあって理知的な瞳をしている。

 

「海馬コーポレーションの不動博士といえば次世代型の動力機関を開発中ということで有名ですが、シンクロ召喚の開発にも携わっているだなんて驚きましたよ」

 

「我々が開発中の動力はシンクロ召喚とも密接に関係するので、その縁でテストプレイヤーを務めさせてもらっています」

 

「まだお若いのに凄いものですね」

 

「ははははははははは。若干十六歳からNDLで活躍されている貴方に言われるとこそばゆいものがありますね」

 

「ではプロフェッサー。いつまでも立ち話というのもなんなので早速――――デュエルといきましょう」

 

「ええ、こちらへ」

 

 デュエルと聞くと不動博士の目つきが変わった。理知的なところは変わりないが、そこに闘志が混ざったのを丈は見逃しはしなかった。

 ペガサス会長がシンクロと密接にかかわる動力の開発者だからという理由だけで、新システムのテストプレイヤーを任せるはずがない。

 あの遊星の父親なだけあって、デュエルの実力も相当のものと考えていいだろう。

 デュエルスペースに向かい合う丈と不動博士。

 不動博士がデッキをデュエルディスクにセットすると、デュエルディスクが自動でデッキをシャッフルし始めた。

 

「それが次世代型のデュエルディスク……オートシャッフル機能があるのか」

 

「この機能自体は簡単な改造で元来のデュエルディスクにも取り付けることが可能です。良ければデュエルの後にでも改造しましょうか?」

 

「是非頼む。だが今はそれよりも、どんなモンスターが出てくるのか楽しみだ」

 

「私も彼の魔王とのデュエルが楽しみですよ」

 

「「デュエル!」」

 

 宍戸丈と不動博士。

 現代に君臨する旧き力と、未来に勇飛する新しき力が激突した。

 




~余談・遊戯王の時系列~

 原作漫画で遊戯の読んでいた新聞の日付が平成8年(1996年)。GXの81話に登場した掲示板の日付が06/04/18(2006年)。
 GXはこの時点で二年生。つまりGXがスタートしたのは去年の2005年。また初代遊戯王は作中で二年生に進級したらしい描写があるので、初代終了が1997年と仮定するとGXは原作終了八年後の物語ということになる。
 更にどうでもいい話をすると、初代遊戯王開始時点で牛尾さんの年齢は18歳くらい。となるとGX開始時点で牛尾さんの年齢は27歳。
 更に更に遊戯王5D'sによればゼロ・リバースで童実野町が吹っ飛んだのは17年前というのが公式設定である。GXで修学旅行に行った際に童実野町が平穏無事だったことや、それからもゼロ・リバースが発生したような描写もないことから、最低でもゼロ・リバース発生はGX原作終了一年後以降であると考えられる。つまりは初代開始の30年後以降に5D'sが開始するということである。
 こうして計算してみると今明かされる衝撃の真実ゥ~。牛尾さんの年齢は5D's時点で47歳。どういう……ことだ……!?
 5D'sに登場する牛尾さんは、あのパワフル過ぎる行動&言動からして、だいたい二十代後半~三十路ほどのように見える。少なくともとても四十代後半を超えたオッサンには見えない。
 これで公式から何のアナウンスもなければ、5D'sの牛尾さんは初代の牛尾さんの子孫ということで納得できたのだが、5D'sの牛尾さんは初代の牛尾さんと同一人物であると公式で明言されてしまっている。
 まぁ世の中には70近い癖に未だに若々しい容姿のままで、妻と一緒に戦場デートする天才もいるので、牛尾さんもその類だとすれば遊戯王的には辻褄が合うのかもしれない。

――――それっておかしくないかな?

 いいや。まだだ! まだ終わらんよ!
 初代から5D'sの時系列を計算していくと牛尾さんは最低でも四十代後半ということになったが、ここで発想を変えてみる。ずばり……なにも時系列通りに年をとるとは限らなくね?

上官「まるで意味がわからんぞ!」
勝鬨「何? 初代から約30年後なら40代後半ではないのか!?」

 このように疑問に思う読者の方も多いだろうが、ここで『超融合! 時空を越えた絆』のストーリーを思い出してほしい。
 あの映画でパラドックスは様々な時代に赴いては、最強モンスターをSin化させていった。その中には当然ながら牛尾さんのいた時代も含まれるだろう。
 だが歴代主人公三人相手にデュエルを挑むという無理ゲーに挑んだパラ様も元は人間。間違いの一つや二つくらいはするはずである。別の時間軸へ移動する際に、うっかり偶々近くにいた一般人を巻き込んでしまうことだってあるかもしれない。
 他にもイリアステルは時空改変にも巻き込まれたとか、ダークネス世界に取り込まれ開放される時に不都合があって未来へ飛んだとも考える。
 もしも牛尾さんがタイムスリップを果たしていたとしたら、初代から三十年以上経っても若々しい姿だったとしても不思議ではない。
 以上。無駄話おしまい。


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第175話  ジャンク・ウォリアー

宍戸丈 LP4000 手札5枚

場 無し

 

不動博士 LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 ペガサス会長の話によれば三年後か四年後あたりに本格的に導入され始めるというシンクロ召喚。

 これまで研究チーム内で何度かテストプレイを行われたことはあるそうだが、シンクロデッキが外部のデュエリストとデュエルするのはこれが初めてのことだ。謂わばこれは未来へ羽ばたくシンクロデッキの記念すべき第一戦ともいえるだろう。

 その記念すべき初陣を赤の他人であれば勝利で飾ることを祈っていたところだが、生憎とその初陣の相手は自分だ。となると申し訳ないことに初陣早々に敗北を味わわせてやらねばならない。それがデュエリストたる者の務めというものだ。

 

「ゆくぞ、俺のターン。ドロー!」

 

 シンクロ召喚との対戦経験をもつ丈だが、その回数はたったの二度。

 情報アドバンテージというには余りにも心許ない。逆に不動博士は宍戸丈のデュエルをTVで何度か見ているはずだ。情報ではあちらに利がある。

 だがその程度の不利は自分のデッキの力で埋めればいいだけだ。

 

「このカードは手札を一枚捨てることで特殊召喚できる。レベル・スティーラーを捨ててTHEトリッキーを攻撃表示で特殊召喚」

 

「THEトリッキー……キング・オブ・デュエリストが愛用したカードの一枚、か」

 

 攻撃力は2000。生け贄なしで特殊召喚できるモンスターとしては、サイバー・ドラゴンには劣るが中々の数値である。

 けれど丈のデッキにとって攻撃力2000などは平均以下に過ぎない。

 

「墓地へ捨てたレベル・スティーラーはフィールドのレベル5以上のモンスターのレベルを一つ下げ特殊召喚できる。場にレベル・スティーラーを復活させ、冥界の宝札を発動」

 

「――――くるか!」

 

 丈のデュエルを見たことがあるだけあって、不動博士は即座に丈のやろうとしていることを理解したようだ。

 ニヤリと笑うと、丈は不動博士の考えに正解を与えることにする。

 

「二体のモンスターを生け贄に捧げ、堕天使アスモディウスを攻撃表示で召喚する。冥界の宝札の効果で二枚カードをドロー!」

 

 

【堕天使アスモディウス】

闇属性 ☆8 天使族

攻撃力3000

守備力2500

このカードはデッキまたは墓地からの特殊召喚はできない。

1ターンに1度、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分フィールド上に「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、

「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。

「アスモトークン」はカードの効果では破壊されない。

「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。

 

 

 烏のような翼をもつ天使が不動博士を見下ろす。

 アスモディウスのモチーフとなったのは、その名の通り七つの大罪のうち〝色欲〟を司ることで有名なアスモデウスだろう。

 しかし堕天使アスモディウスは『色欲』を思わせる色気は皆無で、戦う天使に相応しい勇壮さだけがあった。

 

「先攻1ターン目からいきなりレベル8の最上級モンスターを繰り出すとは。なるほど……ペガサス会長がテストプレイヤーの相手として強く推薦するわけです。貴方のデッキほどシンクロの相手に相応しいものはない」

 

「褒め言葉として受け取っておこう。先攻1ターン目は攻撃することはできない。リバースカードを二枚伏せターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー!」

 

 堕天使アスモディウスを召喚したのは、言うまでもなく先攻1ターン目は攻撃できないからだが、それだけが理由ではない。

 その性質上、様々な効果をもつシンクロモンスターを臨機応変にエクストラデッキから呼び出せるのがシンクロ召喚の強味だ。

 丈のデッキも最上級モンスターの層の厚さで負ける気はしないが、流石に柔軟性の高さでシンクロに勝るとは思わない。

 堕天使アスモディウスは破壊をトリガーに耐性もちのトークンを呼び出すモンスター。不動博士の出方を伺うにはうってつけだろう。

 

「魔法カード、調律を発動。デッキからジャンク・シンクロンを手札に加える。その後、デッキの上からカードを一枚墓地へ送る」

 

 

【調律】

通常魔法カード

自分のデッキから「シンクロン」と名のついたチューナー1体を

手札に加えてデッキをシャッフルする。

その後、自分のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

 

 

 デッキトップを墓地へ送った不動博士の顔が変わった。恐らく良いカードが墓地へいったのだろう。

 鉄面皮を僅かに変化させて、不動博士はプレイを続ける。

 

「手札に加えたジャンク・シンクロンを召喚。ジャンク・シンクロンの効果、墓地のレベル2以下のモンスターを効果を無効にして守備表示で特殊召喚する。

 私は調律の効果で墓地へ送られたドッペル・ウォリアーを守備表示で特殊召喚!」

 

 

【ジャンク・シンクロン】

闇属性 ☆3 戦士族 チューナー

攻撃力1300

守備力500

このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の

レベル2以下のモンスター1体を選択して表側守備表示で特殊召喚できる。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

 

【ドッペル・ウォリアー】

闇属性 ☆2 戦士族

攻撃力800

守備力800

(1):自分の墓地のモンスターが特殊召喚に成功した時に発動できる。

このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。

自分フィールドに「ドッペル・トークン」(戦士族・闇・星1・攻/守400)2体を攻撃表示で特殊召喚する。

 

 

 ジャンク・シンクロンはチューナーモンスター。これで不動博士のフィールドのモンスターの合計は5。

 丈の脳裏にシンクロ召喚のシステムが蘇る。態々下級モンスターを二体も並べたということは、やるつもりだろう。

 

「よし! 私はレベル2、ドッペル・ウォリアーにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!」

 

 ☆2+☆3=☆5

 

 カッと不動博士の目が見開かれると、二体のモンスターが緑色の輪の中に飛び込んでいく。

 光の玉となった二体のモンスターはみるみる加速していき、やがて一つの人型を作り出していった。

 

「集いし星が、新たな力を呼び起こす! 光差す道となれ!」

 

 光が弾け、そこからジャンクの肉体をもつ戦士が飛び出してくる。

 

「シンクロ召喚! 出でよ! ジャンク・ウォリアー!」

 

 

【ジャンク・ウォリアー】

闇属性 ☆5 戦士族

攻撃力2300

守備力1300

「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードがシンクロ召喚に成功した時、

このカードの攻撃力は自分フィールド上に存在する

レベル2以下のモンスターの攻撃力を合計した数値分アップする。

 

 

 このモンスターを目にするのはダークネスとの戦い以来だ。

 ダークネスの出したジャンク・ウォリアーはどこか暗いオーラを漂わせていたが、不動博士のジャンク・ウォリアーにはそんなものはない。

 絶望どころか未来への希望に満ちているようだった。

 

「それがシンクロ召喚か、プロフェッサー不動」

 

「ええ。しかしジャンク・ウォリアーの力が発揮されるのはここからです。ジャンク・ウォリアーのモンスター効果! シンクロ召喚に成功した時、このカードの攻撃力は自分フィールド上に表側表示で存在するレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分アップする」

 

「だがフィールドに今ジャンク・ウォリアー以外のモンスターは存在しない」

 

「それはどうかな。ジャンク・ウォリアーの能力の前に、墓地へ送られたドッペル・ウォリアーの効果が発動!」

 

「墓地へ送られることで発動する効果!?」

 

 ジャンク・シンクロンの効果で特殊召喚されたドッペル・ウォリアーは効果を無効にされている。だがそれはあくまでフィールドにあった場合の話。

 フィールドではなく墓地で発動する効果は問題なく使用可能だ。

 

「このカードがシンクロ素材として墓地へ送られた時、攻撃力守備力が400のドッペルトークン二体を場に出現させる」

 

「トークンのレベルは1……。まさか!」

 

「その通り。ジャンク・ウォリアーが二体の攻撃力を得る。パワー・オブ・フェローズ!」

 

 ドッペルトークン二体の攻撃力の合計は800ポイント。よってジャンク・ウォリアーの攻撃力は800上昇して3100だ。

 堕天使アスモディウスの打点を上回った力を得て、ジャンク・ウォリアーが猛々しく拳を突き出す。

 

「バトルフェイズ。ジャンク・ウォリアーで堕天使アスモディウスを攻撃、スクラップ・フィスト!」

 

「……!」

 

 宍戸丈LP4000→3900

 

 たかだか100ポイントのライフである。必要経費と割り切って甘んじて受ける。

 それに堕天使アスモディウスは無駄死にするわけではない。ジャンク・ウォリアーに粉砕されたアスモディウスは、フィールドに二体のトークンを残す。

 

「堕天使アスモディウスのモンスター効果。アスモトークンとディウストークンを場に出現させる」

 

 

【アスモトークン】

闇属性 ☆5 天使族

攻撃力1800

守備力1300

アスモトークンはカードの効果では破壊されない。

 

 

【ディウストークン】

闇属性 ☆3 天使族

攻撃力1200

守備力1200

ディウストークンは戦闘では破壊されない。

 

 

 図らずもドッペルトークンの効果に意趣返しする形となってしまった。

 攻撃可能モンスターが残っていない不動博士には、もうバトルフェイズを続けることはできない。

 

「バトルを終了。カードを一枚伏せターンエンドだ」

 




 サイバー流のストラク&混沌帝龍解禁でカイザーが最強になったと思ったら、自重しない吹雪さん以上に自重しないコンマイによってレッドアイズが強化。吹雪さんが最強になりました。今頃プロリーグでは吹雪さんの犠牲者が増えまくっている頃でしょう。


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第176話  狂戦士

宍戸丈 LP3900 手札2枚

場 アスモトークン、ディウストークン

伏せ 二枚

魔法 冥界の宝札

 

不動博士 LP4000 手札3枚

場 ジャンク・ウォリアー、ドッペル・トークン×2

伏せ 一枚

 

 

 

 不動博士が召喚した記念すべき最初のシンクロモンスターであるジャンク・ウォリアー。その鉄拳によっていきなり堕天使アスモディウスが破壊されてしまったが、ここまでは想定の範囲内である。

 ジャンク・ウォリアーの攻撃力は2300だが、特殊能力で800上昇しているため、その数値は3100。モンスターカードにおける一つの指標である3000ラインを超えているため、普通に最上級モンスターを召喚して殴り倒すのは厳しいものがあるだろう。しかしなにも戦闘だけがモンスターを破壊する手段でもないし、逆転の下準備は既に出来ている。後はそれを実行するだけだ。

 

「俺のターン、ドロー! まずはトークンのレベルを一つ下げ、墓地よりレベル・スティーラーを蘇生させる」

 

「トークンと合わせて場にモンスターが三体……。来るか!」

 

「行くともさ。俺はアスモトークン、ディウストークン、レベル・スティーラーの三体を生け贄に捧げ神獣王バルバロスを攻撃表示で召喚する!」

 

 

【神獣王バルバロス】

地属性 ☆8 獣戦士族

攻撃力3000

守備力1200

このカードは生贄なしで通常召喚する事ができる。

この方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。

また、このカードはモンスター3体を生贄して召喚する事ができる。

この方法で召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

 

 

 全身に漲るばかりの戦意を纏いし、半馬の獣神が飛び出した。バルバロスは悪魔をも震撼させる雄叫びをあげると、紫電を奔らせている大槍を突き出す。

 妥協召喚可能な最上級モンスターであるバルバロスだが、真の力は三体の生け贄を用いて初めて発揮される。

 レベル・スティーラーは兎も角、最上級堕天使の忘れ形見が二体。生け贄としては上等だろう。

 

「冥界の宝札の効果で二枚カードをドロー。神獣王バルバロスの特殊能力が発動。モンスター三体を生け贄にした召喚に成功した時、相手フィールドの全てを全滅させる。出てきたばかりで悪いがジャンク・ウォリアーはここで退場だ。

 やれ、バルバロス! 敵のフィールドを草木一本たりとも残さず殲滅し焦土と化せ! スパイラル・ディザスターッ!」

 

「くっ……」

 

 邪神に仕える従属神にあって最強と称される獣の一撃である。なんの効果耐性も持たないジャンク・ウォリアーに耐えきれる道理はない。

 だが不動博士とてあのペガサス・J・クロフォードから直々にシンクロ召喚を託され、未来において世界を救う『英雄』の父となる男。相手が従属神でもただでやられるほど軟ではない。

 

「だが私のフィールドをがら空きにはさせない。私が伏せていたカードはリミッター・ブレイク。これは墓地へ送られることで初めて効果を発揮する罠カードだ」

 

「クロノス教諭が使っていた黄金の邪神像と同じ効果か……?」

 

「いいや。似ているが少々違う。場に特殊召喚されるのはトークンではなく、私のデッキに眠るモンスターだ。スピード・ウォリアーを守備表示で特殊召喚する!」

 

 

【リミッター・ブレイク】

通常罠カード

(1):このカードが墓地へ送られた時に発動する。

自分の手札・デッキ・墓地から「スピード・ウォリアー」1体を選んで特殊召喚する。

 

 

【スピード・ウォリアー】

風属性 ☆2 戦士族

攻撃力900

守備力400

このカードの召喚に成功したターンの

バトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。

このカードの元々の攻撃力はバトルフェイズ終了時まで倍になる。

 

 

 バルバロスの破壊によってがら空きとなったフィールドに、デュエリストを守るべく飛び出してくる白いウォリアー。

 ステータスは貧弱そのもので、優れた特殊能力があるわけでもない。けれどこれで不動博士がこのターンでダメージを受けることはなくなった。

 

「天災が草木を消し飛ばしても戦士(ウォリアー)はしぶとく残る、か。人間の底力を垣間見たような気がするよ。バトルフェイズへ移行。バルバロスでスピード・ウォリアーを攻撃する」

 

「すまない、スピード・ウォリアー……。よく助けてくれた」

 

 スピード・ウォリアーが槍に貫かれあっさり消滅する。召喚されて直ぐの退場であるが、自分の主人を守り通したスピード・ウォリアーは心なしか満足そうだった。

 あのカードには精霊が宿っていないので、デュエルモンスターズの精霊というわけではないだろう。だがなにも精霊の宿るカードだけが意思をもっているというわけではない。デュエリストがカードを愛すれば、例え精霊の宿らぬカードでも意思のようなものを持つことがある。これはその一例かもしれない。

 

「バトルフェイズを終了。ターンエンドだ」

 

「スピード・ウォリアーの犠牲は無駄にはしない。私のターン、ドロー。このカードは手札を一枚捨てることで特殊召喚ができる。ボルト・ヘッジホッグを捨ててクイック・シンクロンを特殊召喚。

 さらにボルト・ヘッジホッグは自分のフィールドにチューナーがいる時、墓地より蘇生することが可能。ボルト・ヘッジホッグを場に特殊召喚」

 

 

【クイック・シンクロン】

風属性 ☆5 機械族 チューナー

攻撃力700

守備力1400

このカードは手札のモンスター1体を墓地へ送り、手札から特殊召喚できる。

このカードは「シンクロン」と名のついたチューナーの代わりに

シンクロ素材とする事ができる。

このカードをシンクロ素材とする場合、

「シンクロン」と名のついたチューナーをシンクロ素材とするモンスターの

シンクロ召喚にしか使用できない。

 

【ボルト・ヘッジホッグ】

地属性 ☆2 機械族

攻撃力800

守備力800

自分のメインフェイズ時、このカードが墓地に存在し、

自分フィールド上にチューナーが存在する場合、

このカードを墓地から特殊召喚できる。

この効果で特殊召喚したこのカードは、

フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

 

 

 ガンマン風の機械小人に、体にボルトがくっついた鼠。ジャンク・シンクロンに続いて、どことなくジャンクらしい油っぽさを感じさせるモンスターたちだ。そしてチューナーと非チューナーが揃ったということは、ほぼ確実にシンクロをしてくるだろう。

 丈の予想は的中した。不動博士は自分のモンスター達に指示を飛ばすように叫ぶ。

 

「私はレベル2、ボルト・ヘッジホッグにレベル5、クイック・シンクロンをチューニング! 集いし怒りが、忘我の戦士に鬼神を宿す! 光差す道となれ!」

 

 光の環に飛び込んだ二体のモンスターが、力を同調(シンクロ)させて一つのモンスターに新生する。

 

「シンクロ召喚! 吼えろ! ジャンク・バーサーカー!」

 

 まず感じたのはマグマの如く滾った破壊衝動に、強烈なパワーの奔流だ。とても小さな二体のモンスターから誕生したとは思えない力強さは、狂戦士(バーサーカー)という名前に恥じぬものがある。

 レベル5のシンクロモンスターに続いてレベル7のシンクロモンスター。ジャンク・ウォリアーのことを考えるのならば、このバーサーカーにも強力な特殊能力があるとみて間違いない。

 

「ジャンク・バーサーカーの攻撃力は2700。このまま攻撃してもバルバロスには届かない」

 

「……しかしそれを覆す力があると?」

 

「お察しの通りだ。ジャンク・バーサーカーの特殊能力を発動! 自分の墓地に存在するジャンクと名のつくモンスターを除外。その攻撃力の数値分だけ、相手モンスターの攻撃力をダウンする!」

 

「っ!」

 

 

【ジャンク・バーサーカー】

風属性 ☆7 戦士族

攻撃力2700

守備力1800

「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上

自分の墓地に存在する「ジャンク」と名のついたモンスター1体をゲームから除外し、

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。

選択した相手モンスターの攻撃力は、除外したモンスターの攻撃力分ダウンする。

また、このカードが守備表示のモンスターを攻撃した場合、

ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。

 

 

 不動博士の墓地にはジャンク・ウォリアーとジャンク・シンクロンの二体のジャンクモンスターがいる。ジャンク・バーサーカーにこの効果を使われれば、従属神は力のほとんどを喪失するだろう。

 とはいえ丈には不動博士を止める手段は現状存在しない。口惜しくてもここは黙して見守る他なかった。

 

「私はジャンク・ウォリアーを除外し、バルバロスの攻撃力を2300ポイント下げる」

 

「……これでバルバロスの攻撃力はたったの700。攻撃を受ければ大ダメージだ」

 

「バトル! ジャンク・バーサーカーでバルバロスを攻撃――――」

 

「そうは問屋が卸さない。罠発動、ガード・ブロック。戦闘ダメージを0にしてカードを一枚ドローする」

 

 ジャンク・バーサーカーによってバルバロスが破壊されるが、その余波は不可視の壁に阻まれて丈に届くことはなかった。

 ダメージの代わりに丈は山札から一枚カードを手札に加えた。

 

「むっ。やはりそう易々とは通してはくれんか。リバースカードを二枚セット、ターン終了だ」

 




 素良きゅんが本気出したらLDSで付き合いの長い不審者こと黒咲さんが敗北したでござる。どうやら素良の本気とはOCGオリジナルのガチカード(デストーイ・シザー・タイガー)を容赦なく使うことだったらしいですね。敗北が重なり小物化が進行していた素良もこの勝利で名誉挽回。そして逆に黒咲さん『俺はいつだって本気でデュエルしている…たとえ「その価値の無い」相手でもな』という滅茶苦茶カッコイイ台詞を言いながら負けちゃった黒咲さんの株が……。やっぱり黒咲さんのネタキャラ化は不可避なのか。


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第177話  かかし

宍戸丈 LP3900 手札4枚

場 なし

伏せ 一枚

魔法 冥界の宝札

 

不動博士 LP4000 手札0枚

場 ジャンク・バーサーカー

伏せ 2枚

 

 

 押しては押し返され、押されてはまた押し返してという攻防が数ターンに渡って続いたが、そろそろ繰り返しも終わりにする頃合いだろう。

 宍戸丈の三ターン目。今ターンのドローで手札は五枚、場には冥界の宝札というドローエンジン。万が一勝負に負けても挽回する余力は十分ある。対する不動博士はリバースカードが二枚あるが手札はゼロ枚だ。ここで攻め切られれば押し返すのは難しいはずだ。ならばここは敢えて虎穴に入る頃合いである。

 

「俺のターン! 手札よりフォトン・サンクチュアリを発動。場に二体のフォトン・トークンを特殊召喚する」

 

「トークンを二体、それも攻撃力2000だと……?」

 

 

【フォトン・サンクチュアリ】

通常魔法カード

このカードを発動するターン、

自分は光属性以外のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない。

自分フィールド上に「フォトントークン」(雷族・光・星4・攻2000/守0)

2体を守備表示で特殊召喚する。

このトークンは攻撃できず、シンクロ素材にもできない。

 

 

 この手のトークンにしては2000という高すぎる攻撃力に不動博士は目を見張った。

 確かにこれでこのトークンになんの制約もなければ、制限カード級のパワーカードになるのかもしれない。だが強いカードには一部の例外はあるが、相応のリスクがつきものだ。フォトン・サンクチュアリも例外ではない。

 フォトン・サンクチュアリによって特殊召喚されたトークンは攻撃できず、シンクロ素材にすることも出来ない。またこのカードを発動するターン、光属性以外のモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚を封じられる。尤も光属性モンスターであれば召喚も特殊召喚もやりたい放題というわけだが。

 

「……この流れ、また出てくるのか! 最上級モンスターがっ!」

 

「いくぞ。俺は二体のトークンを生け贄に捧げる。闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が僕に宿れ! 光の化身、ここに降臨! 現れろ、銀河眼の光子竜!」

 

 

【銀河眼の光子竜】

光属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2500

このカードは自分フィールド上に存在する

攻撃力2000以上のモンスター2体を生け贄にし、

手札から特殊召喚する事ができる。

このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップ時、

その相手モンスター1体とこのカードをゲームから除外する事ができる。

この効果で除外したモンスターは、バトルフェイズ終了時にフィールド上に戻る。

この効果でゲームから除外したモンスターがエクシーズモンスターだった場合、

このカードの攻撃力は、そのエクシーズモンスターを

ゲームから除外した時のエクシーズ素材の数×500ポイントアップする。

 

 

 二体のフォトンを喰らい、星々が煌めく銀河を眼に閉じ込めた光の竜が降臨する。彼のブルーアイズにも匹敵する威容に、ソリッドビジョンが震えているかのようだった。

 堕天使アスモディウス、神獣王バルバロス、そして銀河眼の光子竜。いずれも普通のデッキであれば中核を担っても不思議ではない最上級モンスター達。それを次々と、まるで下級モンスターのように召喚していくことこそが宍戸丈の真骨頂だ。

 

「バトルフェイズ! 銀河眼の光子竜でジャンク・バーサーカーを攻撃! 破滅のフォトン・ストリーム!」

 

「罠発動、くず鉄のかかし!」

 

 

【くず鉄のかかし】

通常罠カード

相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

その攻撃モンスター1体の攻撃を無効にする。

発動後このカードは墓地へ送らず、そのままセットする。

 

 

 銀河眼の光子竜が吐き出した銀河のエネルギーが、鉄屑で出来たかかしによって受け止められる。

 一瞬銀河眼の光子竜の効果を発動させるか迷ったが、考えた末に丈はここは様子を見ることにした。

 

「くず鉄のかかしは、相手モンスター1体の攻撃を無効にする。そして発動したくず鉄のかかしは再びフィールドにセットされる」

 

「発動しても墓地へ行かず何度でも再利用が可能な罠カードとはな。また珍しいカードを使う」

 

 しかし守ってばかりでは勝利することはできない。

 銀河眼の光子竜の攻撃は防がれはしたが、別に丈のフィールドのモンスターが破壊されたわけでも除外されたわけでもないのだ。

 くず鉄のかかしは中々に優秀な防御カードだが、ミラーフォースのような逆転を可能にするパワーはない。くず鉄のかかしが与えるのは逆転の時間であって突破口ではないのだ。

 

「リバースカードを一枚場に出してターンを終了する」

 

「私のターン、ドロー。罠発動、針虫の巣窟。デッキトップから五枚のカードを墓地へ送る。さらにモンスターを裏守備表示でセットする。ターンエンド」

 

(どうやら1ターンで逆転のカードは引き当てられなかったようだな)

 

 不動博士の場にはリバースモンスターとバーサーカーで二体のモンスターがあり、バックにはかかしも存在している。

 このターンで丈が最上級モンスターを新たに召喚しても、これだけの布陣であれば最低でもモンスターは一体は残る――――とでも考えているのかもしれない。

 けれど予想通りにいかないのがデュエルモンスターズの醍醐味である。プロデュエリストとして、ここは是が非でも予想を上回らねばなるまい。

 

「俺はエンドフェイズ時に速攻魔法、終焉の焔を発動。二体の黒焔トークンを特殊召喚する。そして俺のターン、ドロー! 二体の黒焔トークンを生け贄に捧げThe supremacy SUNを召喚する。昇れ、闇の日輪!」

 

 

【The supremacy SUN】

闇属性 ☆10 悪魔族

攻撃力3000

守備力3000

このカードはこのカードの効果でしか特殊召喚できない。

フィールド上に表側表示で存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、

次のターンのスタンバイフェイズ時、

手札を1枚捨てる事で、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 最高神(ラー)と同じ太陽の名をもつモンスターがフィールドを照らし出す。遍く世界を照らし恵みを与える太陽も、一度牙を剥けばどのような炎をも凌駕する灼熱と化す。

 彼の太陽神と比べれば些か劣るが、こちらの太陽も不死性を持ち合わせている。それを披露するかどうかは今後のデュエル次第であるが。

 

「The supremacy SUN……」

 

「まだだ! 手札より二重召喚を発動。このターン、俺はもう一度通常召喚を行うことができる。おろかな埋葬でデッキのレベル・スティーラーを墓地へ落とし、The supremacy SUNのレベルを二つ下げレベル・スティーラー二体を特殊召喚。

 さぁ照覧あれ。レベル・スティーラー二体を生け贄に捧げ、再びの生け贄召喚だ。千変万化せし機構の竜よ、ここに完全なる力を解き放て! 可変機獣ガンナードラゴンを召喚ッ!」

 

 

【可変機獣ガンナードラゴン】

闇属性 ☆7 機械族

攻撃力2800

守備力2000

このカードは生け贄なしで通常召喚する事ができる。

その場合、このカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。

 

 

 銀河の竜と可変する機械竜。二体のドラゴンを控えさせ、中心に坐すは闇の日輪。

 これらを束ねる丈からすれば圧倒的なパワーに爽快感すら覚えるが、これらと敵対している不動博士の受けるプレッシャーは並大抵のものではないだろう。

 だが下手なデュエリストならサレンダーしても不思議ではない重圧の中、不動博士はまったく臆することなく怪物たちを見据えていた。その瞳には丈が嘗て邂逅した未来のデュエリストの面影がある。いや時系列的には、むしろ彼に不動博士の面影があると言った方が良いのかもしれない。

 

「バトルフェイズ。ガンナードラゴンでジャンク・バーサーカーを攻撃、続いて銀河眼の光子竜でセットモンスターを攻撃する」

 

「私が伏せていたのはメタモルポット。互いのプレイヤーは手札を全て捨て五枚カードをドローする」

 

「ふむ」

 

 強力な手札交換により敵にもメリットを与えるメタモルポットであるが、今回に限ってはデメリットが大きかったといえるだろう。なにせ冥界の宝札というドローエンジンによって七枚あった丈の手札は、全てが墓地送りとなってしまったのだから。

 こんなことならば予めカードを伏せてから攻撃するべきだったと後悔するが、メタモルポットを予測できなかったのは自分の失態。ここは甘んじて受け入れるしかないだろう。

 

「最後にThe SUNのバトルだが、これは」

 

「くず鉄のかかしを発動して防ぐ!」

 

「こうなるだろう? バトルは終了だ。ターンエンド」

 




 昨日のことでした。なにげなく今度の禁止・制限を見てみれば、なんとあの混沌の黒魔術師がエラッタされて制限復帰するじゃありませんか。混沌の黒魔術師といえば、カイザーからもらった友情のカードでありながら、禁止カードのせいでカイザーのエルタニンと違ってI2カップ編くらいでしか活躍しなかったキャード。
 だけどもう制限になったので遠慮する必要はありません。今後は普通に混沌の黒魔術師も使います。


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第178話  旧き秩序と新たなる秩序

宍戸丈 LP4000 手札5枚

場 銀河眼の光子竜、可変機獣ガンナードラゴン、The supremacy SUN

伏せ 一枚

魔法 冥界の宝札

 

不動博士 LP4000 手札5枚

場 なし

伏せ 1枚(くず鉄のかかし)

 

 

 

 デュエルモンスターズ界にはデステニードローという言葉がある。

 どうしようもない劣勢、絶体絶命の窮地。それらをたった一枚のドローで逆転勝利を掴んできたデュエリストを目の当たりにした人々が、実しやかに囁くようになったのが始まりであるとされる。そしてそれは決して都市伝説や絵物語の中だけの存在ではない。

 武藤遊戯、海馬瀬人、城ノ内克也。あの伝説の三人を筆頭として、多くのデュエリストが一枚のドローカードによって、勝利の運命を手繰り寄せてきた。

 だが運命を引き寄せる力をもつデュエリストは、プロリーグという一流デュエリストの集う場所においても決して多くはない。

 どうしてほんの一握りのデュエリストは、運命を手繰ることが出来るのか。デステニードローとは本当にただの偶然なのか。

 この手の議論は現在のデュエルモンスターズ界でも度々行われており、これからもされていくだろう。

 そして此処にも『運命の引き』を実現させる力をもつ男が一人。

 

「私のターン……」

 

 魔王と対峙する不動博士は精神を刀のように研ぎ澄まし、裂帛の気迫をもってデッキに手をかけた。

 

「ドロー!」

 

 精神が刀だというのであれば、さしずめカードを引く様は居合の如く。

 

「――――きたか」

 

 ドローしたカードをゆっくり視界に収めた不動博士は、よく注意していなければ見逃してしまうほど微かに笑みを浮かべた。

 

「このカードは相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合に手札より特殊召喚ができる。アンノウン・シンクロンを特殊召喚! 更に! チューニング・サポーターを通常召喚する!」

 

 

【アンノウン・シンクロン】

闇属性 ☆1 機械族 チューナー

攻撃力0

守備力0

「アンノウン・シンクロン」の(1)の方法による特殊召喚はデュエル中に1度しかできない。

(1):相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

 

【チューニング・サポーター】

光属性 ☆1 機械族

攻撃力100

守備力300

このカードをシンクロ召喚に使用する場合、

このカードはレベル2モンスターとして扱う事ができる。

このカードがシンクロモンスターの

シンクロ召喚に使用され墓地へ送られた場合、

自分はデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 サイバー・ドラゴンと同じ効果で、小さな機械で出来た眼球状のモンスターが呼び出される。ステータスは貧弱そのものだったが、丈の視線が釘づけになったのはカードに記されたチューナーという文字だった。

 シンクロ召喚するために呼び出したアンノウン・シンクロンだが隣にいるチューニング・サポーターのレベルはたったの1。これではレベル2のシンクロモンスターしか呼び出せない。チューニング・サポーターの効果を使用しても最大でレベル3。とてもではないが丈の三体の最上級モンスターたちを倒すには火力が届かない。ならば、

 

「よし。魔法発動、機械複製術! 自分フィールドの攻撃力500以下の機械族モンスターを選択し、選択したモンスターの同名モンスターを二体まで自分フィールドに特殊召喚する。

 私が選択するのは攻撃力100のチューニング・サポーター! よってデッキより二体のチューニング・サポーターを特殊召喚する!」

 

「一気にモンスターを並べてきたか」

 

 

【機械複製術】

通常魔法カード

自分フィールド上に表側表示で存在する

攻撃力500以下の機械族モンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターと同名モンスターを2体まで自分のデッキから特殊召喚する。

 

 

 丈にとっては自分の親友であるカイザー亮も使用したカードだ。機械複製術の効果については熟知している。

 追加で二体のチューニング・サポーターが登場したことで、モンスターの数だけならば不動博士が丈を上回った。チューニング・サポーターのレベル2モンスターとして扱う効果を適用させれば、大抵のシンクロモンスターは呼び出せるだろう。

 

「レベル1、チューニング・サポーターにレベル1のアンノウン・シンクロンをチューニング。集いし願いが新たな速度の地平へいざなう! 光差す道となれ! シンクロ召喚! 希望の力、シンクロチューナー。フォーミュラ・シンクロン!」

 

 

【フォーミュラ・シンクロン】

光属性 ☆2 機械族 チューナー

攻撃力200

守備力1500

チューナー+チューナー以外のモンスター1体

(1):このカードがS召喚に成功した時に発動できる。

自分はデッキから1枚ドローする。

(2):相手メインフェイズに発動できる。

このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。

 

 

 レベル2という理論上最低レベルのシンクロモンスターは、シンクロチューナーという世にも珍しいカードだった。

 時間旅行という常人には埒外の出来事を経験している丈にとっても、まったく初見のカードに目を見開く。

 

「シンクロモンスターの、チューナー。面白いシステムにまた面白いカードを導入したものだ。流石はペガサス会長……」

 

「フォーミュラ・シンクロンのシンクロ召喚に成功した時、デッキからカードを一枚ドローすることが出来る。さらにチューニング・サポーターがシンクロ素材となった時にもカードを一枚ドローする。私はこれらの効果で二枚カードをドロー!

 魔法発動、二重召喚! このターン、私はもう一度通常召喚を行える。シンクロン・エクスプローラーを通常召喚し効果発動。自分の墓地よりシンクロンと名の付くモンスターを効果を無効にして復活させる! ジャンク・シンクロンを特殊召喚!」

 

 

【シンクロン・エクスプローラー】

地属性 ☆2 機械族

攻撃力0

守備力700

(1):このカードが召喚に成功した時、

自分の墓地の「シンクロン」モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

 

 ジャンク・シンクロン、シンクロン・エクスプローラー、フォーミュラ・シンクロン、チューニング・サポーター二体。さっきまではがら空きだったというのに、もうモンスターゾーンが一杯になった。

 この展開力はシンクロ召喚ならではだろう。従来のデッキでは不可能であるし、出来たとしてもこれほどまでに下級モンスターを呼び出す旨みがない。

 

「ミスター宍戸。貴方の召喚した重量級モンスター達は確かに強大にして無比。ステータスが貧弱な下級モンスターにとって、それは届かない頂きだった。だがシンクロ召喚という新たな概念は、これらをモンスター同士の結束によって打倒する。

 括目せよ、これがシンクロだ! レベル1、チューニング・サポーターとレベル2として扱うチューニング・サポーターとレベル2のシンクロン・エクスプローラーにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!

 集いし闘志が、怒号の魔人を呼び覚ます! 光差す道となれ! シンクロ召喚! 粉砕せよ! ジャンク・デストロイヤー!」

 

 

【ジャンク・デストロイヤー】

地属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2500

「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードがシンクロ召喚に成功した時、

このカードのシンクロ素材としたチューナー以外のモンスターの数まで

フィールド上のカードを選択して破壊できる。

 

 

 四体のモンスターが光輪に吸い込まれて一体化する。そうして現れたのは巨大ロボット――――そう形容するしかない戦士だった。

 ジャンク・デストロイヤーはロボットアニメのようにツインアイを輝かせると、丈の場にいる三体の最上級モンスターを睨みつける。

 

「ジャンク・デストロイヤー……レベル8のシンクロモンスター。塵もつもれば山となるという諺は知っているが、ジャンクも集まればスーパーロボットになるというわけか」

 

「チューニング・サポーター二体の効果により二枚カードをドロー! さらにジャンク・デストロイヤーはシンクロ素材としたチューナー以外のモンスターの数までフィールドのカードを選択し破壊できる!」

 

「っ! チューナー以外の素材モンスターは三体。つまり……合計三枚のカードを破壊だと!?」

 

「私が選択するのはThe SUN、冥界の宝札、銀河眼の光子竜の三枚! いけ、タイダル・エナジー!」

 

「ちぃ! 俺のモンスターをこうも簡単にっ!」

 

 しかもチューニング・サポーターが手札を補強したため、不動博士には未だに五枚の手札がある。追い打ちをかけるように、場にはチューナーであるフォーミュラ・シンクロンが残っているときていた。

 そして不動博士も宍戸丈も墓地にある例のカードの存在を忘れてはいない。

 

「墓地のレベル・スティーラーの効果発動。ジャンク・デストロイヤーのレベルを一つ下げ、レベル・スティーラーを蘇生する。魔法発動、死者蘇生。チューニング・サポーターを墓地から復活させる。

 レベル2、チューニング・サポーターにレベル2のフォーミュラ・シンクロンをチューニング! 集いし星が大いなる力を呼び起こす! 光差す道となれ! シンクロ召喚! 出でよ、アームズ・エイド!

 そして手札のモンスターを一枚捨てることでクイック・シンクロンを特殊召喚。再びジャンク・デストロイヤーのレベルを下げ、レベル・スティーラーを復活させる!

 レベル1、レベル・スティーラーにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング! 集いし絆が更なる力を紡ぎ出す! 光差す道となれ! シンクロ召喚! 出でよ、ターボ・ウォリアー!」

 

 

【アームズ・エイド】

光属性 ☆4 機械族

攻撃力1800

守備力1200

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとしてモンスターに装備、

または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚できる。

この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、

装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。

また、装備モンスターが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、

破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

【ターボ・ウォリアー】

風属性 ☆6 戦士族

攻撃力2500

守備力1500

「ターボ・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上

レベル6以上のシンクロモンスターを攻撃対象としたこのカードの攻撃宣言時、

攻撃対象モンスターの攻撃力をダメージステップ終了時まで半分にする。

フィールド上のこのカードはレベル6以下の効果モンスターの効果の対象にならない。

 

 

 フォーミュラ・シンクロン、ジャンク・デストロイヤーに続いて二体のシンクロモンスターが召喚される。

 今ターンだけで四度目のシンクロ召喚。正に怒涛のシンクロラッシュに息をつく間もないとはこのことだ。

 

「アームズ・エイドは1ターンに1度、装備カード扱いとしてモンスターに装備することができる。アームズ・エイドをジャンク・デストロイヤーに装備! 効果によりデストロイヤーの攻撃力は1000ポイントアップする!

 バトル! ジャンク・デストロイヤーで可変機獣ガンナードラゴンを攻撃!!」

 

「くっ……!」

 

 宍戸丈LP3900→3100

 

 ガンナー・ドラゴンも抵抗するが、アームズ・エイドを装備したジャンク・デストロイヤーの一撃によって粉砕された。

 しかしアームズ・エイドを装備したジャンク・デストロイヤーはそれだけでは許してはくれない。

 

「アームズ・エイドの効果。装備モンスターが戦闘で相手モンスターを撃破した時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

「フレイム・ウィングマンと同じ効果だと!?」

 

 宍戸丈LP3100→300

 

 4000ポイントのライフが一気に十分の一の300にまで追い詰められた。

 ここにターボ・ウォリアーの追撃が容赦なく向かってくる。

 

「ターボ・ウォリアーで相手プレイヤーを直接攻撃――――」

 

「まだだ、そう簡単に新しいシステムに駆逐されるものか! 手札からクリボーを捨てることでダメージをゼロにする!」

 

『クリクリ~』

 

 丈の命運もここまでと思われた瞬間、手札から飛び出したクリボーが身を挺してデストロイヤーの直接攻撃を防ぎ切った。

 

「やはり簡単には勝たせてはくれないか。バトルフェイズを終了。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン……」

 

 ジャンク・デストロイヤーに装備されているアームズ・エイドを含めれば三体のシンクロモンスターと、がら空きのフィールドで対峙している丈。図らずも前のターンと立場がまるで逆転しまった。

 だが不動博士と丈とで違うことが一つ。丈のフィールドには既に日の出が約束されている。

 

「ドロー! スタンバイフェイズ時、The supremacy SUNのモンスター効果が発動する! 手札を一枚捨てることで、破壊されたこのカードを復活させる!

 日輪は何度でも昇る、昇り続ける。銀河の中心にありし暗黒の恒星、天空へと昇り暗黒を照らせ!」

 

 自身の効果以外で特殊召喚不可能な最上級モンスターという超重量級は伊達ではない。The supremacy SUNは召喚難易度に見合った恐るべき力を備えている。

 The SUNが墓地より蘇ったことで、状況は四分にまで持ち直した…………のも束の間のことだった。

 

「罠発動、奈落の落とし穴! 相手が攻撃力1500以上のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時、そのモンスターを破壊しゲームから除外する!」

 

「!」

 

 

【奈落の落とし穴】

通常罠カード

相手が攻撃力1500以上のモンスターを

召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動する事ができる。

その攻撃力1500以上のモンスターを破壊しゲームから除外する。

 

 

 The SUNが抱える弱点の一つをつかれた。破壊され墓地にいれば何度も蘇る日輪も、ゲームから除外されてしまえば復活することはできない。

 前のターン、不動博士はここまで考えてThe SUNを破壊したのだ。The SUNが蘇る瞬間、日輪を永遠の奈落へと突き落すために。

 

「しかし――――これでもう奈落は消えた! 永続罠発動、リビングデッドの呼び声! 墓地より神獣王バルバロスを復活! バルバロスのレベルを二つ下げ、二体のレベル・スティーラーを特殊召喚!

 更に墓地の光属性モンスター、銀河眼の光子竜と闇属性モンスター、堕天使アスモディウスをゲームより除外。光と闇を供物とし、世界に天地開闢の時を告げる。降臨せよ、我が魂! カオス・ソルジャー -開闢の使者-!」

 

 銀河眼の光子竜と堕天使アスモディウスの力を得て、デュエルモンスターズ界最強戦士と最強の従属神が揃い踏みする。

 カオス・ソルジャーの攻撃力は3000だが除外効果を用いれば、攻撃力3600のデストロイヤーを除外することも可能だ。続いてバルバロスでターボ・ウォリアーを撃破すれば再び逆転することが出来るだろう。だが、

 

「………………」

 

(あの目……)

 

 不動博士の強い瞳に、丈は見覚えがある。

 どんなに劣勢になろうと勝負を諦めない強い意思。ああいう目をしたデュエリストは、絶体絶命の窮地を幾度となくミラクルドローで切り抜けてきたものだ。丈自身そうやって勝利してきた一人である。

 故にここは必勝を期すために、このターンにて決着をつける。

 

「許せ、カオス・ソルジャー。その身、供物とさせて貰うぞ」

 

 丈の言葉に承知した、と示すかのようにカオス・ソルジャーがコクリと頷く。信頼するカードの了承も得たことで、踏ん切りもついた。

 勝利を手にするため魔王はここに暴君を招聘する。

 

「まずはカオス・ソルジャーの効果を発動。ターボ・ウォリアーをゲームより除外する。さらに俺は――――カオス・ソルジャーとバルバロスの二体を生け贄に捧げる!」

 

「なに!? カオス・ソルジャーを生け贄にするだと!?」

 

「海王星に君臨せし冷たき暴君よ。民を、財を、臣下を! 万象悉く喰らい己が武力と化せ! 生け贄召喚、The tyrant NEPTUNE!」

 

 

【The tyrant NEPTUNE】

水属性 ☆10 爬虫類族

攻撃力0

守備力0

このカードは特殊召喚できない。

このカードはモンスター1体を生け贄にして生け贄召喚する事ができる。

このカードの攻撃力・守備力は、生け贄召喚時に生け贄にしたモンスターの

元々の攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値分アップする。

このカードが生け贄召喚に成功した時、

墓地に存在する生け贄にした効果モンスター1体を選択し、

そのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

 

 

 カオス・ソルジャーとバルバロスの魂を喰らい、海王星を支配する暴君がフィールドを圧巻する。

 手に持っている大鎌は自らに刃向うものを処刑してきたが故か怨念に染まり、鰐の形相は子供が泣き止むほどに恐ろしいものだった。

 

「海王星……プラネットシリーズの一体か……。これが!」

 

「The tyrant NEPTUNEの攻撃力は生け贄にしたモンスターの攻撃力分だけアップする。よってネプチューンの攻撃力は6000ポイント! そしてネプチューンは生け贄にしたモンスター1体の特殊能力を奪い取り、我が物とする! 俺が選ぶのは無論カオス・ソルジャー! 最後に魔法カード、ナイト・ショットでくず鉄のかかしを破壊。

 バトルだ。The tyrant NEPTUNEの攻撃、Sickle of ruin! 二連打ァ!」

 

「くっ――――! 私の、負け……か」

 

「ガッチャ。楽しいデュエルだったぜ――――なんてな」

 

 不動博士LP4000→0

 

 デュエルに敗北した不動博士は膝をつくが、満足のいくデュエルを出来た達成感からか表情は晴れ晴れとしたものだった。

 丈も同じである。不動博士とのデュエルは、どちらが勝つのか最後の最後まで分からない本当にギリギリの勝負だった。こんなに熱いデュエルは卒業後アメリカに帰国して、キースやレベッカと一戦交えて以来のことである。

 

「流石にお強い。噂に違わぬ実力、感服しました」

 

「そちらこそ。あのペガサス会長から新システムを任されるだけの実力、身を以て思い知らされましたよ。だが初の対外試合に黒星をつけてしまって悪かった」

 

「正々堂々のデュエルの勝敗に文句などありませんよ。それとそう畏まられずとも結構です。告白すればあの魔王ともあろう人物に畏まられると変な気分になってしまう」

 

「そうか、プロフェッサー。なら俺に対しても変な気遣い・遠慮・敬語その他一切は不要だ」

 

「分かりました……いや、分かった。今日は良い日だ。ここへ来て初めて同郷の友人ができた」

 

 デュエルをすれば皆友達――――とまではあのバクラの例もあるので一概には言えないが、少なくともこのデュエルの中で丈と不動博士の間には友情のようなものが芽生えつつあった。

 二人は固い握手をしながら十年来の友のように語り合う。

 

「出来れば明日もここに来てデュエルをしたいところだが、明日からレベッカと用事がある。再デュエルは来週にしよう」

 

「レベッカというとあのレベッカ・ホプキンス女史のことか? アメリカ随一の才媛とデートとは魔王も隅におけないな」

 

「そんなんじゃない。レベッカの祖父のホプキンス教授と一緒に遺跡探検に同行するだけだよ」

 

「ほう。遺跡とは一体どこの?」

 

「メキシコさ」

 

 曰く、其の者は人間に火を齎した。

 曰く、其の者は人間に文明を授けた。

 曰く、其の者は平和の神であり、太陽神であり、創造神でもあったという

 アステカ神話にて語られし蛇神ケツァルコアトルの伝説。五千年周期で冥界の王と死闘を繰り広げてきた人類の守護者。

 その別名を〝赤き竜〟と呼んだ。

 




~おまけ・その頃の天JOIN吹雪さん~

吹雪「真紅眼融合を発動! 真紅眼の黒竜とデーモンの召喚をデッキで融合、悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンを融合召喚!」

プロA「何? 融合は手札とフィールドに融合素材がなければ使えないのではないのか!?」

吹雪「真紅眼融合はレッドアイズ専用の融合カード。その効果はデッキにも及ぶ!」

プロA「デッキから融合だと? インチキ効果もいい加減にしろ!」

吹雪「バトル! 悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンでレオ・ウィザードを攻撃、デーモン・メテオ・フレア!」

プロA「ぐぉおおおおおおおお!! だが俺にはまだライフが――――」

吹雪「バトルフェイズ終了時、悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴンのモンスター効果発動。墓地のレッドアイズをデッキに戻し、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える! 黒炎弾!!」

プロA「ぎゃぁああああああああああああああああああ!!」

トマト「やめろー! こんなのデュエルじゃない!」

MC「決まったぁああああ! 天上院吹雪、これで通算13回目のワンキル勝利だぁぁああああ!! どこまで続くこの快進撃!! この人でなし!!」

トマト「俺が信じるデュエルは、みんなを幸せに……!」


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第179話  落下

 海外という言葉があることからも、日本において外国といえば海を渡った先であるというイメージが強いといえるだろう。これは日本が四方を海に囲まれた島国であり、外国への移動に飛行機や船を必須とするのが一番の原因だ。だが他の国にとってはそうではない。

 態々実行する人間は稀だろうが、日本の隣国である中国などは、その気になれば陸路だけでヨーロッパまで行くことも出来る。アメリカ合衆国にとってのメキシコは、そういう地続きで繋がっている国の一つだった。

 アメリカとメキシコの詳しい関係については一々説明すると長くなるので割愛するが、ともかく宍戸丈はホプキンス教授とレベッカの頼みでメキシコにある古代遺跡へとやって来ていた。

 

「改めて今日はすまなかったね。プロの君にこんな所まで付き合わせてしまって」

 

「構いませんよ。レベッカにはアメリカではなにかと世話になっていますし、教授にも良い家を紹介して貰いましたから恩返しです。

 それに俺も嫌いじゃありませんから。宝探しや遺跡探検っていうのも。にしても……」

 

「どうしたのジョウ? 私の顔になにかついてる?」

 

「いや顔ではなく……」

 

 大学では学者らしく私服の上に白衣をを着込んでいたレベッカだが、今日は遺跡の調査の為に身動きのしやすい恰好で着ている。ホプキンス教授も同様だ。

 対して丈が纏っているのは普段プロリーグの試合でも使っている〝魔王〟の衣装である。この衣装は如何なる状況に巻き込まれようと対応できる動きやすさと、下手な銃弾なら弾き返す防弾性能を備えたI2社の特注品だ。なので遺跡調査という危険な場所に赴くのに決して不適切ではないのだが、やはりどうしても見た目の異物感というのは拭えない。

 自分の姿を客観視すれば、きっと探検隊に秋葉原のコスプレ男が紛れ込んだように映ることだろう。そうやって丈が頭を悩ませていると、レベッカは挑発げに「ふーん」と言うと。

 

「もしかして……いつもとは違う私にドキッとしちゃった?」

 

「ああ、もうそういうことでいいや。レベッカ、普段とは違う君も素敵だよ。貴女の美しさを目の当たりにすれば、天上の女神すら嫉妬と羞恥で頬を染めるだろう」

 

「まったく心がこもってないわね。それなんの台詞よ」

 

「学生時代に吹雪が押し付けてきた小説だ。ちなみにこれは主人公じゃなくてヒロインに横恋慕するイケメンの台詞だよ。更に補足するなら最初こそ主人公とヒロインとイケメンを交えた三角関係だったのが、話が進むにつれて主人公とイケメンの友情がクローズアップされてヒロインが空気になる」

 

「言っておくけど私は空気になるつもりなんてさらさらないわよ」

 

「俺は捨てたものでもないと思うよ。そこに居ることを意識しないほど当たり前で、いなくなられると苦しくなって死んでしまう。素敵じゃないか」

 

「意外。とんだロマンチストなのね」

 

「――――――というようなセリフを、影が薄いことを悩んでいた後輩に吹雪がアドバイスしていた」

 

「アメリカにいた時は一日中女の尻を追いかけているか、女に尻を追いかけられているかのイメージしかなかったけど、そこそこ先輩やってたのね。彼」

 

「吹雪はあれで面倒見の良い奴だよ。だから女にモテても男から妬まれにくいんだ。あいつは男にもモテるからな」

 

 吹雪の名誉のために捕捉するが、ここでいうモテるとは友人的な意味合いであって決してくそみそ的な意味ではない。

 もっともそこらのアイドルが裸足で逃げ出すほどに容姿が整っている吹雪である。日本より同性愛が進んでいるアメリカでの留学中に、同性から色目を使われた可能性は皆無ではない。流石にこんなことは丈も本人に聞いてはいないが。

 

「二人とも。仲が良いのは結構だが、そろそろ中に入るから続きは帰ってからで頼むよ」

 

 ホプキンス教授に言われて丈とレベッカは口を噤む。丈はあくまで今回限りの助っ人のようなもので、レベッカは教授の補佐。この場での上位者の言葉には忠実にならなければならない。探検などの時は特に集団の統率が重要なのだから。

 遺跡発掘の一番のベテランであるホプキンス教授を先頭に、丈、レベッカの順で赤き竜の伝説が眠る遺跡を進む。

 恐らくは千年以上前の建造物なのだろう。造りはしっかりしており『崩れてくるのではないか』という不安を抱かずに済みそうなのが不幸中の幸いである。

 所々の壁には意味不明な文字列や絵が描かれていて、それと出くわすたびにホプキンス教授は立ち止まっては何事かをメモしていた。門外漢の丈にとっては意味不明でも、考古学者の教授にとっては違うのだろう。

 だが遺跡に潜って三十分もすると、もう絵や文字もなくなっていき、延々と続く入り組んだ廊下を歩くだけの作業となっていった。

 

「ところで教授、一つ質問しても構いませんか?」

 

「なにかね?」

 

 このまま黙って歩くのも退屈だった丈は、この際に疑問に思っていたことを教授にぶつけることにした。

 

「どうして俺をレベッカ経由でこの遺跡に?」

 

「…………」

 

「自慢じゃありませんが、俺は考古学なんてまったくの専門外です。そりゃ体力には自信はありますし足手まといにはならないかもしれませんが、俺より遺跡発掘に優れた人材なんてそれほど幾らでもいるでしょう」

 

 ホプキンス教授は孫娘の知り合いだからという理由で、プロデュエリストを遺跡調査に誘うほど酔狂な人物ではない。そのくらいのことは出逢ってまだ数年たらずの丈でも分かる。

 故にホプキンス教授が例え無理をしてでも『宍戸丈』というデュエリストを招いたのには相応の理由があるはずなのだ。

 

「ジョウ。それはね――――」

 

「レベッカ」

 

「お祖父ちゃん?」

 

「彼を招くよう頼んだのは私だ。私が説明するよ」

 

「教授……」

 

 ホプキンスの真剣極まる表情に、自然と丈の口が真一文字に締まる。

 

「宍戸丈くん。君はデュエルモンスターズのルーツは知っているかな?」

 

「三千年前のエジプトで行われていた決闘(ディアハ)でしょう。ペガサス会長がエジプトでモンスターの描かれた石版を発見して、それをカードとしてデザインしたのが始まりだと聞いています」

 

 ペガサス島以前は極々一部の人間しか知らなかったことも、バトルシティトーナメントで三幻神の存在が公になり、デュエルモンスターズが一般化されるにつれて、多くの情報が公開されていった。デュエルモンスターズの起源もその一つである。

 デュエルモンスターズはエジプトが起源なんてことは、アカデミアの中等部入学試験にも出てくるような初歩の初歩だ。一定以上の情報通なら決闘王に三千年前のファラオが宿っていたという噂も掴んでいるだろう。

 

「その通りだ――――いや、敢えてそう思われていたと言い換えようか」

 

「……ペガサス会長の言葉が誤りだと?」

 

「そうは言わないよ。ペガサス会長がエジプトの石版を見つけたのが、デュエルモンスターズ誕生のルーツなのは間違いない。しかしデュエルのルーツはディアハがルーツとは必ずしも断言できないというのが私の学説だ。学会での評価は散々だがね」

 

 デュエルモンスターズの起源は決闘(ディアハ)でも、デュエルの起源が決闘(ディアハ)とは限らない。このまったく同じようで、違う意味合いの言葉を丈はしっかりと咀嚼した。

 

「私はこれまで世界中の遺跡に赴いては、そこでカードやモンスターを戦わせる『ゲーム』の存在らしきものを見つけてきた。例えば旧約聖書に伝えられるソロモン王は七十二の悪魔をカードに封印して使役していたというし、ゲオルグ・ファウストも自分の魂をコストにすることで、冥界の悪魔との契約を結んだという。

 ペガサス会長が最初に見つけたのが偶々エジプトの石版だっただけで、同じような闇のゲームは世界中の至るところで行われてきた可能性がある」

 

「…………」

 

「アトランティスの神が現実に牙を剥いた事件に私は遭遇した。そしてアトランティスの王であるダーツが操っていたのは、全てのカードの創造主であるペガサス会長すら知らないアトランティスの神を宿したカードさ。

 それにこれは一か月ほど前の話だが、ドイツの美術館に展示されていた北欧の三極神オーディン、トール、ロキを描いた絵画に奇妙なことが起こったそうだよ」

 

「奇妙なこと?」

 

「〝消えた〟のだよ。絵画が、じゃない。絵画に描かれていた三極神だけが綺麗さっぱりと消えてしまったんだ。額縁と背景絵だけを残して。

 このことから私は一つの仮説をたててみた。もしかしたら石版や絵画などに宿っている精霊たちが、自らの魔力を使ってデュエルモンスターズのカードに転生を果たしているのではないか、と」

 

 ホプキンスの話を聞いて丈が思い出したのは三幻魔のことだった。

 ペガサス会長が創造したわけでもなく、ただ気付けばカードとして存在し、世界を壊すほどの力からアカデミアに封印されていたカード。

 荒唐無稽なカードが現実に存在していることを知っているがために、荒唐無稽なホプキンス教授の説を否定することは出来なかった。

 

「というと教授。まさかこの遺跡も?」

 

「……五千年周期で地縛神という邪神をしもべに、世界を冥界の闇で包もうとするダークシグナー達。それに五体の竜を使役し立ち向かった、赤き竜に選ばれた五人の英雄(シグナー)達。この遺跡はそのシグナーの伝承を残した遺跡なのだよ」

 

「五体の、ドラゴン」

 

 直感的に丈の脳裏に時空を超えた舞台で共に戦ったスターダスト・ドラゴンの雄姿がフラッシュバックする。

 スターダスト・ドラゴンはとても単なる精霊とは思えないほど強大な力を有していた。そして奇しくもスターダスト・ドラゴンはその名の通りドラゴン族。しかも自分や遊星たちが過去に移動する際に頼っていたのは『赤き竜』だ。

 

(これはもしかするかもしれないな)

 

 抑えきれない興奮に丈の歩く速度が自然と上がる。

 だがその時、突然遺跡中が大地震でも起きたかのように揺れ始めた。

 

「なっ! いきなり……っ!」

 

「ジョウ! カードケースが光って!」

 

「なに?」

 

 丈がカードケースからデッキを取り出すと、三邪神のカードがなにかに呼応するかのように紫色の輝きを点滅させている。

 何事かと丈が三邪神をまじまじと見たその瞬間、まるで砂で出来た城のように足場が崩れ始めた。

 

「なっ――――!」

 

「きゃ、ああああああああああああああああああ!!」

 

 足場を喪失し落ちていく三人。なにも見えぬ暗闇が三人を呑み込んでいく。

 けれど丈たちが暗闇に呑まれても、三邪神の輝きが消えることはなかった。

 




 遊矢以外の遊矢シリーズは歴代主人公の性格を反対にしたものという考察がどこかにあり、ユーゴとユートについてはどこか納得していたところがあるのですが、第二期までの十代に覇王様に第四期の二十代と数々の進化系をもつ十代の反対のキャラというのは意外に難しいのではないかと思う今日この頃。
 まぁあれで十代は熱血のように見えて冷めたところがあったり、友情に熱いようでいてわりと仲間に対してドライなので、ユーリは冷めたようで熱血だったり、薄情のようでいて友情に厚い男なのかもしれません。


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第180話  奈落の決闘

 足場の崩壊に巻き込まれ、奈落の底に落下した丈は、まるで邪神に起こされるかのように唐突に意識を覚醒させた。

 体を強く打ち付けたらしく全身が痛むが、別に動けないほどでもない。このくらいの苦痛は、闇のゲームで受けるダメージと比べれば飯事のようなものである。

 丈の落ちた場所は遺跡の最深部、神を奉る神殿に程近い場所らしく、どことなく荘厳な気配が感じられた。上を見上げれば自分達の歩いてきた通路だったものが無残な姿を晒している。目測だが通路までの高さはざっと50mといったところだろう。これを昇るのは少々骨の折れる作業だ。だが今の丈には遺跡からの脱出よりも気にするべきことがあった。

 

「っ! ホプキンス教授!」

 

「うぐ……丈、くんか…………良かった、君もどうにか無事のようだね……」

 

「教授。足の骨が、折れている……」

 

 丈に医術の心得はないが、足の腫れ具合からも折れていることは一目瞭然だった。これでは元の通路までよじ登るなんて不可能だろう。

 ホプキンス教授は遺跡発掘のために日頃から運動を欠かさないため、高齢ながら若者には負けない体力をもっている。しかし流石に丈とは違って無傷とはいかなかったのだ。

 それにホプキンス教授だけではない。問題はもう一つ、否、もう一人。

 

「教授。レベッカの姿が見えませんが心当たりは?」

 

「なに!? レベッカがっ! ぐっ、痛っ……」

 

「動かないで下さい。大丈夫ですよ。ここにいないということは、きっと先に目を覚まして周囲の様子を見に行ったんでしょう」

 

 ホプキンス教授の手前はっきりと言うことこそしなかったが、もしもレベッカが落下の衝撃で死亡していたのなら、近くに彼女の死体が転がっているはずだ。それがないということは、レベッカが生きているという証明である。

 レベッカが祖父である教授を置いていなくなった理由は幾つかあるが、一番可能性として高いのは丈が教授に言った理由だ。しかし丈は自分で発言しておいて、それが正解であるとは何故か思えなかった。

 どうしてかと問われれば、明確な根拠はないので『直感』としか答えようがない。或は精霊がざわついているから、では理由として不足だろうか。

 

「教授。俺も少し様子を見に行ってきます。直ぐ戻りますからここを動かないで下さい」

 

 冷や汗が頬を伝う。目隠しをされて銃口を頭に突き付けられたような気分だ。

 この遺跡全体から自分に対して滅殺の意思が伝わってくる。巨人の手に握りつぶされている気分を味わいながら、自分の勘が囁く方へと進み始めた。

 遺跡の荘厳なる雰囲気と、濃密な殺意は一歩一歩進む毎にどんどんと強くなっていっている。自分が遺跡の中心部、終着点に近付いていることが丈には理解できた。

 

――――ドクンッ!

 

 丈の担っている三邪神も自分の対極に位置する精霊の気配に脈動しているようだった。

 そして宍戸丈はその場所に到着する。古代の神官と統治者たちが、五人の英雄と五人の竜を奉った神殿。祭壇の奥、生け贄を安置する台座には金髪の女性が寝かされていた。

 

「レベッカ!」

 

 眠っているレベッカに呼びかける。だがレベッカは魔力によって意識そのものを凍てつかされているらしく、呼びかけに答えることはなかった。レベッカの目を覚ますには、まず彼女を縛る魔力を祓う必要があるだろう。

 それには彼女を台座から離さなければならない。丈はレベッカに駆け寄ろうとして、

 

『――――なるほど。冥界の王に魅入られたダークシグナーは貴様だったか』

 

「!」

 

 魔力(ヘカ)を凝固させた紅の魔力弾が丈に殺到する。魔力弾に込められていたのは、これまで押し潰すように遺跡中から発せられていた殺意だ。

 こんなものを喰らってしまえば病院送りは間違いない。後ろへバク転を三回転して魔力弾を躱しきる。

 

「お前は……」

 

 丈の視線の先にいたのは灰色のローブを纏った神官風の男だ。その姿は朧げで幽霊のように現実感に欠けている。ローブには赤き竜がウロボロスの如く自らの尻尾を咥えて環をなしている姿が刻印されていた。

 この男こそが遺跡中の殺意の源泉。通路を倒壊させ、丈たちを奈落の底へ突き落した張本人だ。いや果たして人と呼称して良いモノなのかは自信がもてないが。

 

「お前がレベッカを攫ったのか! どうして彼女を攫った!?」

 

『地縛神の尖兵よ、滅するがいい。ここは貴様の踏み入って良い場所ではない』

 

 神官風の男の手から魔力が鞭のようにしなり振り落された。石柱を容易く砕く破壊の鞭が、変幻自在に動き回りながら丈を追い詰めてくる。

 ブラックデュエルディスクで受けることも考えたが、あの鞭の動きを踏まえれば防御するのは難しい。そう判断した丈は床だけではなく壁や天井を足場にして、立体的に走り回ることで攻撃を掻い潜っていった。

 

「くっ! 俺はそんなものじゃない! それよりレベッカを返せ!」

 

『私は五千年前のシグナーが残した赤き竜の現身、嘗て冥界の王と戦った神官の再生。世界を冥府の闇に包もうとするダークシグナーから、五体の竜の魂を守護することこそが我が使命なり……』

 

「シグナーの……再生だと? ということは、やはりホプキンス教授の学説は――――」

 

『ダークシグナーよ。現世(うつしよ)はこれ須く生者だけのもの。死者は己がいるべき冥府へと還るがいい!』

 

「ちっ! 分からず屋め!」

 

 出来る限り穏便に済ませたかったが、自分だけではなくレベッカの命までかかっている以上は仕方ない。丈は邪神アバターのカードを前に突き出す。

 担い手の強い意思を受けたアバターが、鈍い光を放ち始め、シグナーの化身が振るった鞭を不可視の衝撃波で弾き飛ばした。衝撃の余波でよろめくシグナー。その隙を丈は見逃さなかった。

 

「喰らえッ!」

 

 鋭い踏み込みで距離をつめると、裂帛の気迫でシグナーに掌打を喰らわせた。

 自分の掌に魔力(ヘカ)を込めての一撃。そこいらの低級精霊なら一発KOは確実な威力はあったが、最上位に迫る精霊たるシグナーの化身はこの程度でやられたりはしない。

 吹き飛ばされ壁に叩き付けられたシグナーは、怯むことなく逆襲の火炎放射を手から飛ばしてきた。

 

「ドレッドルート、半減せよ!」

 

 殲滅の意志をもった冷たい炎が、ドレッドルートの恐怖のオーラによって半減した。そして次にイレイザーのカードから放たれた雷によって炎を相殺する。

 次はどんな攻撃を仕掛けてくるか、と思考を巡らせながら丈は次のカードをデッキから抜き取る。

 

『む。この気配は……』

 

 だがシグナーの注意は丈の持っている三邪神のカードに注がれていて、それ以上攻撃を仕掛けてくることはなかった。

 シグナーが攻撃を止めたことで状況が動いたことを悟った丈は、発動しかけたライトニング・ボルテックスを停止する。

 

『地縛神と同じ冥界の力だが、どこか異なる。地縛神とは違い、これは安らぎ……? 全てを受け入れる性質をもつ純黒の王者にほだされたというわけか。ということは、お前は――――そなたはダークシグナーではなく……』

 

 一人ぶつぶつと呟いて、勝手に納得した様子のシグナーが丈には理解できない言葉を呟いた。

 すると遺跡から五つの石版が競り上がって来て、シグナーの化身の周囲を覆う。

 

「なんだ? これは」

 

『汝、私とデュエルをしろ』

 

「なに? デュエルだと?」

 

『そなたが導き手だというのならば、私とのデュエルに勝利するがいい。さすれば娘は返そう。だが負ければ娘は永劫の眠りから覚めぬと覚悟せよ』

 

 いきなりの要求には面食らったが、シグナーの言葉に虚飾は感じられない。そもそも英雄の残滓に過ぎない彼に、嘘を吐くような機能はないだろう。

 どのみちこのまま睨み合っていても仕方がない。丈は頷いた。

 

「……いいだろう。デュエリストとしてその挑戦を受けよう」

 

『フッ。挑戦、とはな。五千年も時を経ればかように面白い人間も生まれるか。ゆくぞ!』

 

「「デュエル!」」

 

 こうして遺跡の最深部で魔王と英雄の残滓の戦いが始まった。

 

 



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第181話  血染メノ華

宍戸丈 LP4000 手札5枚

 

シグナー LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

『先攻は私だ、ドロー!』

 

 ドローを宣言すると、六枚目の石版がシグナーの周囲に並んだ。

 五千年前に地縛神を操るダークシグナーと戦い、世界を救った五人のシグナー達――――の残滓というべきもの。彼がどんなデュエルをするのかはまったくの未知数だ。

 それでもデッキからドローした際に伝わってきた気迫は、まさしく一線級のデュエリストのそれである。丈はパラドックス、ダークネス、バクラ達と戦った時と同等の緊張感に心を痺れさせながら、シグナーの化身のプレイングに集中する。

 

『手札よりモンスターカード、エクリプス・ワイバーンを召喚する。さらにリバースカードを二枚伏せ、ターンエンドだ』

 

 

【エクリプス・ワイバーン】

光属性 ☆4 ドラゴン族

攻撃力1600

守備力1000

このカードが墓地へ送られた場合、デッキから光属性または闇属性の

ドラゴン族・レベル7以上のモンスター1体をゲームから除外する。

その後、墓地のこのカードがゲームから除外された場合、

このカードの効果で除外したモンスターを手札に加える事ができる。

 

 

 赤き竜の痣を持つ者だからか、シグナーの化身が最初に召喚したモンスターはドラゴン族のエクリプス・ワイバーン。

 石版から抜け出してくるようにモンスターが実体化する様は不気味だったが、モンスターそのものは一般にも流通しているものだった。丈の知り合いの中では吹雪が同じカードをデッキに投入していたと記憶している。

 だがホプキンス教授の学説を信じるのならば、まず間違いなくシグナーは自身のデッキに『シグナーの竜』の転生体たるモンスターを投入しているはずだ。油断はできない。

 

「俺のターン、ドロー。カードガンナーを召喚する。カードガンナーの効果、デッキトップから三枚までカードを墓地へ送り、送った枚数×300ポイント攻撃力をアップする。俺は三枚のカードを墓地へ送る!

 効果によりカードガンナーの攻撃力は1900となった。バトルフェイズ! カードガンナーでエクリプス・ワイバーンを攻撃する!」

 

 シグナーLP4000→3700

 

 自分のモンスターが破壊されても、シグナーは顔色一つ変えることはなかった。

 そして予想通りと言うように、淡々とエクリプス・ワイバーンの効果を宣言する。

 

『エクリプス・ワイバーンのモンスター効果。このカードが墓地に送られた場合、光属性か闇属性のドラゴン族レベル7以上のモンスターをゲームより除外する。私が除外するのはレベル8の闇属性モンスター、トライホーン・ドラゴン』

 

「バトルを終了。リバースカードを三枚伏せ、ターンエンド」

 

『エンドフェイズ時、針虫の巣窟を発動。デッキトップから五枚のカードを墓地へ送る。私のターン、ドロー。このカードは墓地の光属性モンスター1体を除外することで特殊召喚できる。私はエクリプス・ワイバーンをゲームより除外し、暗黒竜コラプサーペントを特殊召喚』

 

 

【暗黒竜 コラプサーペント】

闇属性 ☆4 ドラゴン族

攻撃力1800

守備力1700

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地から光属性モンスター1体を除外した場合のみ特殊召喚できる。

この方法による「暗黒竜 コラプサーペント」の特殊召喚は

1ターンに1度しかできない。

(1):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。

デッキから「輝白竜 ワイバースター」1体を手札に加える。

 

 

 コラプサーペントの登場に、丈は厳しい表情を浮かべた。正しくは暗黒竜コラプサーペントそのものではなく、コラプサーペントの召喚のために除外されたエクリプス・ワイバーンに対して。

 エクリプス・ワイバーンは墓地へ送られることでデッキよりドラゴン族モンスターを除外するという、下手すればデメリットにすらなりかねない特殊能力をもっているが、その効果には続きがあるのだ。

 

『この瞬間、エクリプス・ワイバーンの効果が発動。エクリプス・ワイバーンがゲームより除外された時、このカードの効果で除外されたカードを手札に加える。私はトライホーン・ドラゴンを手札に加える』

 

「実質手札消費なしでの特殊召喚、いやコラプサーペントの効果を考えれば、むしろ――――」

 

『魔法発動、トレード・イン。手札からレベル8モンスターを捨て、二枚カードをドロー。私はトライホーン・ドラゴンを捨てて二枚ドローする。さて。どうやら私の用意は整ったようだ』

 

「……! 仕掛けてくるかっ!」

 

『私は手札よりこのモンスターを召喚する。チューナーモンスター、インフルーエンス・ドラゴン!』

 

「チューナーだと!?」

 

 

【インフルーエンス・ドラゴン】

風属性 ☆3 ドラゴン族 チューナー

攻撃力300

守備力900

1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する

モンスター1体を選択して発動する事ができる。

選択したモンスターはエンドフェイズ時までドラゴン族になる。

 

 

 つい数日前に不動博士とデュエルをしたのだ。チューナーという言葉を聞き間違えるはずがない。

 シンクロモンスターをエクストラデッキから特殊召喚に必要不可欠なチューナーモンスター。それを召喚してきたということは、シグナーの狙いはおのずと見えてくる。

 コラプサーペントとインフルーエンス・ドラゴン、レベルの合計は7。

 

『インフルーエンス・ドラゴンは自分フィールドのモンスター1体をドラゴン族にする効果をもっているが、この場においては関係ない。

 いくぞ、純黒の王よ。眼に焼き付けよ、五千年の時を経ても黄金色に輝き続ける我等シグナーの絆の力を! 私はレベル4、暗黒竜コラプサーペントにレベル3、インフルーエンス・ドラゴンをチューニング!』

 

 ☆4 + ☆3 = ☆7

 

 加速する、デュエルは終わりなき果てを目指し加速する。

 暗黒と風、二体のドラゴンが光輪に吸い込まれ力を同調。新たなモンスターへと新生していった。

 

『冷たい炎が、世界の全てを包み込む。漆黒の華よ、開け!』

 

 奈落の底にて咲き誇るは魔性の薔薇。美しくも恐ろしい、触れれば絶対零度の焔に、魂を犯し尽されてしまう血薔薇(ブラックローズ)だ。

 

『――シンクロ召喚。現れよ、ブラック・ローズ・ドラゴン!』

 

 

【ブラック・ローズ・ドラゴン】

炎属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力1800

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードがシンクロ召喚に成功した時、フィールド上のカードを全て破壊できる。

また、1ターンに1度、自分の墓地の植物族モンスター1体をゲームから除外して発動できる。

相手フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択して表側攻撃表示にし、

エンドフェイズ時までその攻撃力を0にする。

 

 

 生きとし生ける者、森羅万象一切合財を滅ぼすべく薔薇の竜がここに降臨した。風など吹くはずもない奈落の底に、肝を凍てつかせる冷風が吹き荒れる。

 危険でありながら、どこか甘く切ない。愛憎は表裏一体。深く憎むからこそ、深く愛している。愛しているからこそ、全てを奪い壊さなければ気が済まない。ある意味では最も情熱的な愛の具現。

 丈はここに確信した。このドラゴンは遊星のスターダスト・ドラゴンと起源を同じくするもの。シグナーの五竜で間違いないと。

 

「薔薇でありながら象徴する属性は華を焼き尽くす〝炎〟。自らを滅ぼすものを象徴するという矛盾。統一性の剥離こそが愛の一側面ということか」

 

『コラプサーペントが墓地へ送られたことで効果発動。デッキより輝白竜 ワイバースターをサーチする。ブラック・ローズ・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した瞬間、私はブラック・ローズ・ドラゴンの効果を発動する。ブラック・ローズ・ドラゴンを含めたフィールドの全てのカード、それらを破壊する! ブラック・ローズ・ガイル!』

 

「最終戦争や邪神イレイザーと同じリセット効果……! だがただではやられん。カードガンナーの効果、こいつが破壊されたことで一枚カードをドローする」

 

 激しい愛の行きつく先は自分すら含めた全ての死。冷酷なる真実を告げるが如く、ブラック・ローズ・ドラゴンが全てのカードを消し去っていく。

 ブラック・ローズ・ドラゴンが召喚された後、残るものはなにもない。そのはずだったのだ。だがシグナーの化身はその先をいった。

 

『言うまでもないがブラック・ローズ・ドラゴンの効果は私の伏せていたリバースカードも破壊する。しかしこの瞬間、私の伏せていた黄金の邪神象の効果が発動する。

 セットされたこのカードが破壊され墓地へ送られた時、自分フィールドに邪神トークンを特殊召喚する。現れよ、邪神トークン』

 

 

【黄金の邪神像】

通常罠カード

セットされたこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

自分フィールド上に「邪神トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守1000)1体を

特殊召喚する。

 

 

 仲間の竜がフィールドをリセットしても、トークンを場に残す。これがシグナーの化身なりの絆の表現の一つなのだろう。なんとも不器用なやり方だった。

 そしてシグナーの手札にはまだコラプサーペントの効果でサーチしたモンスターがいる。

 

『墓地の暗黒竜コラプサーペントをゲームより除外、輝白竜 ワイバースターを特殊召喚する』

 

 

【輝白竜 ワイバースター】

光属性 ☆4 ドラゴン族

攻撃力1700

守備力1800

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地から闇属性モンスター1体を除外した場合のみ特殊召喚できる。

この方法による「輝白竜 ワイバースター」の特殊召喚は

1ターンに1度しかできない。

(1):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。

デッキから「暗黒竜 コラプサーペント」1体を手札に加える。

 

 

 シンクロ素材として墓地へ送られても、後続の特殊召喚モンスターを手札に持ってくる。シンクロ召喚を主軸するデッキにとって、これほど便利なカードはそうはないだろう。

 しかもこうしてブラック・ローズ・ドラゴンで場をリセットしてから、直ぐに追撃にかかれもするのだから。

 

『バトル。邪神トークンとワイバースターでダイレクトアタック!』

 

「ちぃ!」

 

 宍戸丈LP4000→1300

 

 一気にライフポイントの半分以上をもっていかれて丈は顔を歪める。

 二体のモンスターの攻撃がライフポイントと一緒に削っていったのは丈の生命力。予想は出来ていたが、これもやはり敗者が命を奪われる闇のゲームなのだろう。

 

『バトルフェイズを終了。私はこのままターンエンドだ』

 




 もう直ぐ……というか明日はARC-Vの放送日ですが、まさかの敗北を喫した黒咲さんはどうなってしまうのか。にしても黒咲さんの故郷のハートランドがもしもZEXALのハートランドだとしたら、融合次元はシャイニングドローの海老とかナッシュさん率いる七皇の皆さんとか時を止めるカイトのいる世界をどうやって滅ぼしたんでしょうね。


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第182話  王者の鼓動

宍戸丈 LP1300 手札3枚

場 なし

 

シグナー LP3700 手札4枚

場 邪神トークン、輝白竜ワイバースター

 

 

 

 いきなりフィールドのリセットに二体のモンスターを特殊召喚の流れには驚愕したが、前に何度かシンクロ召喚を目の当たりにしていたことも手伝って丈は直ぐに平静さを取り戻す。

 生け贄や融合といった古くからの『ルール』を扱うデュエリストとして、そう易々と新しいシステムにやられるわけにはいかない。故にここから巻き返す。

 

「次は俺のターンだ、ドロー! E・HEROエアーマンを召喚、効果によりデッキからE・HEROブレイズマンを手札に加える! このままバトルフェイズへ移行。E・HEROエアーマンで邪神トークンを攻撃だ」

 

『……邪神トークンは撃破される』

 

 シグナーLP3700→2900

 

 エアーマンの攻撃力はサーチ効果つきの下級モンスターとしては優秀な1800。攻守が1000の邪神トークンはあっさりと破壊された。〝邪神〟の名を冠していても、カードが違えばこんなものだ。

 これでモンスターを一体撃破したが、シグナーのデッキはシンクロ召喚を主軸とするもの。ワイバースターを残したままターンを譲れば、連続シンクロ召喚を仕掛けてくるかもしれない。そうなればエアーマン一体では耐え切れない。

 そうはさせないためにも更なる一手を加える。

 

「速攻魔法発動、マスク・チェンジ! 俺の場のHEROを墓地へ送り、同じ属性のM・HEROを呼び出す。エアーマンを墓地へ送り、M・HEROカミカゼを場に変身召喚する!」

 

 

【M・HEROカミカゼ】

風属性 ☆8 戦士族

攻撃力2700

守備力1900

このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。

(1):このカードは戦闘では破壊されない。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、

相手はバトルフェイズにモンスター1体でしか攻撃できない。

(3):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。

自分はデッキから1枚ドローする。

 

【マスク・チェンジ】

速攻魔法カード

自分フィールド上の「HERO」と名のついた

モンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターを墓地へ送り、

選択したモンスターと同じ属性の「M・HERO」と名のついた

モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。

 

 

 白いマントをたなびかせ、仮面のヒーローが場に出現した。

 緑色のヒーローが全身から放つのは、外敵の侵略を跳ね返し日輪に勝利を齎す神の息吹き。その信仰は決してシグナーの伝説に負けるものではない。

 

「これはバトルフェイズ中の特殊召喚のため、M・HEROカミカゼには攻撃権がある。M・HEROカミカゼの追撃、ワイバースターを破壊せよ! 神風アタック!!」

 

『……っ!』

 

 シグナーLP2900→1900

 

 邪神トークンに続いて、ワイバースターをも破壊した。これでシグナーのフィールド上のモンスターは全滅である。

 それにもう一つ。カミカゼが相手モンスターを破壊した時、カミカゼの特殊能力が発動した。

 

「カミカゼの効果だ。デッキから一枚ドローさせてもらう」

 

『私もワイバースターの効果を使う。ワイバースターがフィールドから墓地へ送られた時、デッキの暗黒竜コラプサーペントを手札に加える』

 

「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2。リバースカードを二枚セットする。ターンエンドだ」

 

『……ドロー。このカードは私の場にモンスターがおらず、相手の場のみにモンスターがいる場合、ステータスを半分にして特殊召喚できる。バイス・ドラゴンを守備表示で特殊召喚。』

 

 

【バイス・ドラゴン】

闇属性 ☆5 ドラゴン族

攻撃力2000

守備力2400

1):相手フィールドにモンスターが存在し、

自分フィールドにモンスターが存在しない場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

この方法で特殊召喚したこのカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。

 

 

 サイバー・ドラゴンと同様の条件で特殊召喚されたバイス・ドラゴンは、ステータスが半分となって攻撃力1000、守備力が1200となる。

 この戦況ではバイス・ドラゴン単体ではステータスの貧弱な壁にしかならないだろう。けれどシンクロデッキにおいてはそうではない。

 シンクロデッキにとって通常召喚権を行使せずに、シンクロ素材となるレベル5モンスターを呼び出せることは非常にありがたいことなのだ。

 

『更に私はチューナーモンスター、ダーク・リゾネーターを召喚する』

 

 

【ダーク・リゾネーター】

闇属性 ☆3 悪魔族 チューナー

攻撃力1300

守備力300

このカードは1ターンに1度だけ、戦闘では破壊されない。

 

 

 1ターンに1度だけの戦闘耐性を備えた、小さな悪魔族であるダーク・リゾネーター。バイス・ドラゴンのレベルを合計した数値はブルーアイズと同等のレベル8だ。

 沸き立つ血潮。シグナーのエクストラデッキに眠る力の権化ともいえる竜が長きに渡る眠りより目を覚ます。

 

『レベル5、バイス・ドラゴンにレベル3、ダーク・リゾネーターをチューニング』

 

 ☆5 + ☆3 = ☆8

 

 ダーク・リゾネーターが手にもっているもので音楽を奏でると、バイス・ドラゴンと共に光へ吸い込まれていった。

 光の輪はこれから招かれる悪魔の竜に反応してか激しく回転していき、やがて爆発する。

 

『王者の鼓動、今ここに列を成す! 天地鳴動の力を見るがいい! シンクロ召喚! 垣間見よ、シグナーの力! レッド・デーモンズ・ドラゴンッ!』

 

 

【レッド・デーモンズ・ドラゴン】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードが相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターを攻撃した場合、

そのダメージ計算後に相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターを全て破壊する。

自分のエンドフェイズ時にこのカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、

このカード以外のこのターン攻撃宣言をしていない自分フィールド上のモンスターを全て破壊する。

 

 

 ブラック・ローズ・ドラゴンが情熱的なまでの愛を感じさせたのならば、レッド・デーモンズ・ドラゴンが全身から発するのは激烈な王者の覇気そのものだった。

 正しく王たる者こそが扱える、王者のカード。例え同朋であろうとも、この誇り高き竜は王器なき者に傅くことはあるまい。

 

(レッド・デーモンズ・ドラゴンの攻撃力は3000。だがカミカゼは戦闘では破壊されない耐性をもっている上、俺の場にはミラーフォースがある。レッド・デーモンズ・ドラゴンが攻撃してきた瞬間、ミラーフォースを発動。レッド・デーモンズ・ドラゴンを破壊して、次のターンのカミカゼの攻撃が通れば……)

 

『ふんっ! 大方けち臭いリバースカードで私の攻撃を防ごうという算段だろうが温いわ! レッド・デーモンズ・ドラゴンのパワーの前にチャチな伏せカードは無力! 魔法発動、クリムゾン・ヘル・セキュア! 私の場にレッド・デーモンズ・ドラゴンがいる時、相手の場の魔法・罠を全て破壊する!』

 

「!」

 

『消え失せろ!!』

 

「ただでは転ばん。永続罠、リビングデッドの呼び声! 墓地よりカードガンナーを蘇生する。リビングデッドの呼び声はクリムゾン・ヘル・セキュアによって破壊され、カードガンナーもリビングデッドの呼び声と同じ末路を迎える。しかしカードガンナーの効果で俺はカードを一枚ドローする」

 

『狡い小細工は終わりか? ならばバトル! レッド・デーモンズ・ドラゴンの攻撃、アブソリュート・パワーフォース!』

 

「M・HEROカミカゼはバトルでは破壊されない!」

 

『だがダメージは受けて貰う』

 

 宍戸丈LP1300→1000

 

 レッド・デーモンズ・ドラゴンの繰り出してきた灼熱の拳撃を、カミカゼはどうにか耐えきった。

 カミカゼはステータスも高いので、受けたダメージも微々たるものである。やはりカミカゼは守りにおいて頼りになるカードだ。

 

『メインフェイズ2。カードを二枚セット、ターンエンドだ』

 




 社長→カイザー→十代→遊星…………お分かり頂けただろうか?
 過去キャラをイメージしたストラクが発売される中、元キングが華麗にスルーされているのだ。満足同盟の中で唯一特定のカテゴリーを使わないジャック。カテゴリーじゃないからといって別に種族で統一されているわけでもないジャックのデッキ。だけどリゾネーターを使いまくったことで、カテゴリー化したリゾネーター。ストラクではまだOCG化していないリゾネーターや、新規リゾネーターが出ると思ったのにスルーされた元キング。そして漸く元キングのストラクが出ると思ったらまさかのガセネタ。
 答えろコン○イ! 一体ジャックがなにをしたというんだ!?


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第183話  絆を紡ぐ星屑と孤高なる王者

宍戸丈 LP1000 手札3枚

場 M・HEROカミカゼ

 

シグナー LP1900 手札2枚

場 レッド・デーモンズ・ドラゴン

伏せ 二枚

 

 

 

 シグナーが五体の竜のうち最も誇り高いカードを出してきたのならば、丈の側も最強のHEROを呼び出さねば対抗できないだろう。

 丈の手札には融合の魔法カードとE・HEROブレイズマンが既にある。これだけあれば融合召喚は十分可能だ。

 

「俺のターン、ドロー。強欲な壺を発動し二枚カードをドロー。E・HEROブレイズマンを召喚。ブレイズマンの効果発動。デッキからE・HEROを墓地へ送り、墓地へ送ったカードの属性・攻撃力・守備力を得る。その効果によりデッキからE・HEROシャドー・ミストを墓地へ送る。シャドー・ミストのモンスター効果。このカードが墓地へ送られた時、デッキからE・HEROを手札に加える。俺が手札に加えるのはE・HEROオーシャンだ」

 

 

【E・HEROブレイズマン】

炎属性 ☆4 戦士族

攻撃力1200

守備力1800

「E・HERO ブレイズマン」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、

いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。

デッキから「融合」1枚を手札に加える。

(2):自分メインフェイズに発動できる。

デッキから「E・HERO ブレイズマン」以外の

「E・HERO」モンスター1体を墓地へ送る。

このカードはターン終了時まで、

この効果で墓地へ送ったモンスターと同じ属性・攻撃力・守備力になる。

この効果の発動後、ターン終了時まで自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

【E・HEROシャドー・ミスト】

闇属性 ☆4 戦士族

攻撃力1000

守備力1500

「E・HERO シャドー・ミスト」の(1)(2)の効果は

1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。

デッキから「チェンジ」速攻魔法カード1枚を手札に加える。

(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。

デッキから「E・HERO シャドー・ミスト」以外の

「HERO」モンスター1体を手札に加える。

 

 

 融合召喚以外の特殊召喚を封じられるデメリットはあるものの、デッキにシャドー・ミストさえあれば擬似的なエアーマンになれる効果は優秀である。場合によってはエアーマンよりも応用が利く。

 これで丈は手札を減らさないまま墓地アドバンテージと手札アドバンテージの両方を得た。そして水属性のオーシャンが手札にいることで、最強のHEROを呼び出す用意が整う。

 

「手札より融合を発動、手札のE・HEROオーシャンとフィールドのブレイズマンを融合。きたれ六大元素が一つ、水の英雄。絶対なる零度で総ての生命を虚無(ゼロ)へと還せ! 現れ出でよ、最強のHERO! アブソルートZero!」

 

 

【E・HEROアブソルートZero】

水属性 ☆8 戦士族

攻撃力2500

守備力2000

「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する

「E・HERO アブソルートZero」以外の

水属性モンスターの数×500ポイントアップする。

このカードがフィールド上から離れた時、

相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 炎に対抗するのには古来より〝水〟が一番と決まっているのだ。全てを焼き尽くすレッド・デーモンズ・ドラゴンと対極の、全てを氷漬けにするアブソルートZero。

 アブソルートZeroのもつ魔力か、これまで丈に伸し掛かっていた熱気交じりのプレッシャーが押し返されていく。

 

『アブソルートZero――――常冬の化身、終わらぬ氷河。なるほど、これもまた世界終末の一つの姿。しかしアブソルートZeroの攻撃力は2500。レッド・デーモンズ・ドラゴンには届かない』

 

「そいつはどうかな。手札よりアドバンスドローを発動。自分フィールドのレベル8以上のモンスターを生け贄に発動。デッキからカードを二枚ドローする」

 

『なに? 召喚した融合モンスターを生け贄にするだと!?』

 

 

【アドバンスドロー】

通常魔法カード

自分フィールド上に表側表示で存在する

レベル8以上のモンスター1体を生け贄に発動できる。

デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 ただでさえ召喚するのに手札消費の激しい融合モンスターを、ドローのためとはいえ即座に生け贄にする行為にシグナーは驚愕を露わにした。

 確かにこれがただの融合モンスターならば、下手すれば自分の首を絞めかねない行為であるが、アブソルートZeroはその限りではない。

 

「アブソルートZeroの効果。このカードがフィールドを離れた時、相手フィールドに存在するモンスターを全て破壊する!」

 

『なんだと!?』

 

「永遠の氷河へ堕ちろ! レッド・デーモンズ・ドラゴンッ!」

 

 攻撃においては無類の強さを発揮するレッド・デーモンズ・ドラゴンも、アブソルートZeroの特殊能力の前には形無しだ。

 アブソルートZeroで相手フィールドを全滅させつつ、手札消費をアドバンスドローで補填する。この流れるような動きにシグナーは瞠目している様子だった。

 

「バトル! E・HEROカミカゼの直接攻撃、これで終わりだ!」

 

『そうはさせん。罠発動、次元幽閉。攻撃してきたモンスターを除外してもらう』

 

「!」

 

 戦闘破壊耐性をもつカミカゼも、流石に罠耐性まではもっていない。空間が裂けて出来た穴に吸い込まれ、墓地よりも遠い除外ゾーンへと消えて行ってしまった。

 千載一遇の好機を逃した悔しさに、丈は小さく唇を噛む。

 

「メイン2……カードを一枚セット、ターンを終了する」

 

『私のターン、ドロー。まずは見事だ、純黒の王よ。レッド・デーモンズ・ドラゴンを倒したことは賞賛に値する』

 

「なんだ突然?」

 

『だが知るがいい。魔王は常に英雄に打ち倒されるものであることを。私はデブリ・ドラゴンを召喚する。デブリ・ドラゴンが召喚された時、墓地の攻撃力500以下のモンスターを効果を無効にして特殊召喚する。私は墓地のスターダスト・シャオロンを特殊召喚。

 罠発動、リミット・リバース。墓地の攻撃力1000以下のモンスターを蘇生する。私は墓地より一眼の盾竜を復活』

 

 

【デブリ・ドラゴン】

風属性 ☆4 ドラゴン族 チューナー

攻撃力1000

守備力2000

このカードをS素材とする場合、

ドラゴン族モンスターのS召喚にしか使用できず、

他のS素材モンスターは全てレベル4以外のモンスターでなければならない。

(1):このカードが召喚に成功した時、

自分の墓地の攻撃力500以下のモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

【一眼の盾竜】

風属性 ☆3 ドラゴン族

攻撃力700

守備力1300

身につけた盾は身を守るだけでなく、突撃にも使える。

 

【スターダスト・シャオロン】

光属性 ☆1 ドラゴン族

攻撃力100

守備力100

自分が「スターダスト・ドラゴン」のシンクロ召喚に成功した時、

墓地のこのカードを表側攻撃表示で特殊召喚できる。

このカードは1ターンに1度だけ、戦闘では破壊されない。

 

【リミット・リバース】

永続罠カード

自分の墓地の攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、

表側攻撃表示で特殊召喚する。

そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。

このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。

そのモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。

 

 

 シグナーの化身が怒涛の連続召喚を仕掛けてきた。一眼の盾竜やスターダスト・シャオロンは針虫の巣窟で墓地に送っていたのだろう。

 チューナーを合わせてのレベル合計はレッド・デーモンズ・ドラゴンと同じ8。

 

「……これは、まさか」

 

 シグナーのエクストラデッキから発せられる懐かしい気配に、丈は思わず目を細める。

 どれほどの年月が経とうと、例え死ぬ間際であろうと色褪せぬと確信できる記憶。時空を超えた舞台で伝説のデュエリストたちと共に戦った思い出。

 現実時間では十年、体感時間では二年の月日を超えて宍戸丈は再び星屑を目の当たりにする。

 

『レベル1、スターダスト・シャオロンとレベル3、一眼の盾竜にレベル4のデブリ・ドラゴンをチューニング』

 

 ☆1+☆3+☆4=☆8

 

 モンスターたちが光玉となり、光輪を駆け抜けていく。

 

『――集いし願いが、新たに輝く星となる。光差す道となれ!』

 

 聞こえてくるのは大いなる翼の羽ばたき。丈はそれを聞いて、やはりという確信を強めた。

 

『シンクロ召喚! 飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン!』

 

 

【スターダスト・ドラゴン】

風属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2500

守備力2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「フィールド上のカードを破壊する効果」を持つ

魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、

このカードをリリースして発動できる。

その発動を無効にし破壊する。

この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、

この効果を発動するためにリリースした

このカードを墓地から特殊召喚できる。

 

 

 眩いばかりの輝きの炸裂。星屑が集まり、其れが1体の龍身を生み出す。

 夜空にて瞬く星屑を結晶化させた、幻想世界の華すら霞む美しさをもったドラゴンが、大いなる翼を広げ飛翔する。

 まさしく〝星屑(スターダスト)〟。この暗い遺跡にて、夜空の星々のように星屑の欠片が煌く。

 レッド・デーモンズ・ドラゴンは王者たる威風をもつ力の竜だった。

 ブラック・ローズ・ドラゴンは深く底のない愛を想起させる破滅の竜だった。

 ならばこの星屑の竜は――――〝繋ぐ〟竜。孤高な王者も、愛を欲する女も、全てを一つに繋ぎとめ結束させる絆の化身。

 一つ一つの小さな星屑が集まって誕生したスターダスト・ドラゴンのように、小さな力も一つに結束させれば大いなる力となる。

 

『見よ、しかして称えよ。これぞ王者の唯一無二の朋友にして好敵手たるシグナーが操った星屑の竜。全てのシグナーの力を一つにする楔にして、全てのシグナーを守る守護の竜』

 

「……!」

 

 星屑の竜は驚異的だが、丈の墓地にはネクロ・ガードナーがある。シグナーの化身が攻撃を仕掛けてきたとしても、このカードを除外することで攻撃を防ぐことが出来る。

 

『このまま攻撃してもいいが、強かなそなたのこと。無防備なままターンを譲るはずもない。故にここはもうひと押ししておこう。墓地のワイバースターを除外し暗黒竜コラプサーペントを特殊召喚する。

 バトルフェイズ。スターダスト・ドラゴンで相手プレイヤーを直接攻撃。響け、シューティング・ソニック!!』

 

 丈の残りライフはたったの1000ポイント。ここでモンスターの総攻撃を浴びれば一溜まりもない。

 

「くっ……! だが相手の直接攻撃宣言時、手札のバトルフェーダーの効果発動。このカードを手札から特殊召喚しバトルフェイズを終了させる」

 

 バトルフェーダーが手札にあったお蔭で、どうにか連続攻撃を防ぎきることができた。

 もっともそれも一時しのぎに過ぎない。スターダスト・ドラゴンを対処できなければ、丈に待つのは敗北の運命だけだ。

 

『バトルを終了、私はターンエンドだ』

 

 といってもブラックホールのようなモンスターを破壊する魔法カードを引いても意味はない。

 スターダスト・ドラゴンはシグナーが守護の竜と言った通り、破壊効果を無効にする特殊能力をもっている。レッド・デーモンズ・ドラゴンの時のようにはいかない。スターダストを突破するには純粋な攻撃力で押し切るか、破壊ではない除去を用いるしかないのだ。

 

『どうした? お前のターンだ、ドローしないのか?』

 

「……」

 

 丈の手札にあるのはマジック・プランターと死者蘇生。マジック・プランターはこの状況ではなんの役にも立たないし、使えるカードは実質的に死者蘇生だけだ。

 融合HEROは墓地からの蘇生はできないので、死者蘇生で特殊召喚できるモンスターの最大攻撃力はレッド・デーモンズ・ドラゴンの3000。スターダスト・ドラゴンを倒せる数値だ。

 だがスターダスト・ドラゴンの破壊に成功しても、暗黒竜コラプサーペントはシグナーのフィールドに残る。そうなれば返しのターンでシグナーは確実に新たなドラゴンをシンクロ召喚してくるだろう。そうなれば今度こそ丈は終わりだ。

 かといって暗黒竜コラプサーペントを攻撃しても、シグナーのライフを削り切ることはできず、スターダストを残してしまう。コラプサーペントを残すのも厄介だが、スターダストを残すのは更に論外である。

 つまりはこのドローこそが、このデュエルの趨勢を決する。

 

(…………このデュエルには俺だけの命じゃない。レベッカの命もかかっている。負けるわけにはいかない)

 

 ゆっくりとデッキトップに指をかけた。すると、

 

「――――なんだ!?」

 

 突如として丈のデッキトップが眩い光を放ち始め、遺跡全体が地震が起きたかのように揺れ始める。デッキに眠る三邪神もそれに呼応するかのように光りはじめた。

 いや光っているのはカードだけではない。遺跡の中枢に刻まれている赤き竜の刻印と、その竜と象った像。それが赤い灯を放ち始めていた。

 

『これは――――竜たちが、嘶いているのか。五千年前のように、一万年前のように……!』

 

(――――いける)

 

 根拠はなにもなかったが、丈は確信した。

 強い決意の下、宍戸丈はデッキに眠る未知の一枚をドローする。

 

「俺のターン……ドローッ!!」

 

 見えるけれど見えぬ未来より引き当てたのは、宍戸丈のデッキに入っているはずのない未知のモンスター。

 入れた覚えのないカードに丈は面食らうが、カードを掴んでいると、それをどう使うべきかの情報が頭の中に流れ込んできた。

 なにも問題はない。勝利への光さす道は既に出来上がっている。

 

「行くぞ、シグナー! 死者蘇生を発動、墓地に眠るモンスターを復活させる! 俺はお前の墓地にて眠る王者の竜、レッド・デーモンズ・ドラゴンを俺の場に召喚する! 来い、レッド・デーモンズ・ドラゴンッ!」

 

『なに? 我等の竜を自らの場に召喚するだと!?』

 

「そしてチューナーモンスター、救世竜セイヴァードラゴンを召喚!」

 

『っ! そのカードは!』

 

 

【救世竜 セイヴァー・ドラゴン】

光属性 ☆1 ドラゴン族

攻撃力0

守備力0

このカードをシンクロ素材とする場合、

「セイヴァー」と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

 

 

 丈のデッキは融合を主軸とするHEROデッキ。言うまでもなくチューナーモンスターは入っていない。なのにこのカードはさも最初からデッキに投入されていたかのように忽然と引き当てられた。

 幾ら三邪神の力をもつとはいえ、丈一人でこんなことが出来るはずがない。これは全て赤き竜の意思あってこそだ。

 

「レベル8のレッド・デーモンズ・ドラゴンとレベル1のバトルフェーダーにレベル1のセイヴァー・ドラゴンをチューニング!」

 

 ☆8+☆1+☆1=☆10

 

 合計レベルは10。三幻神や三邪神と肩を並べるレベルだ。

 レッド・デーモンズ・ドラゴンに〝救世〟の力が加わり、覇王は救世者たるべき姿へと進化していく。

 

「研磨されし孤高の光、真の覇者となりて大地を照らす! 光輝け!」

 

 スターダスト・ドラゴンと同じシグナーの竜でありながら、それと真逆の性質をもつドラゴン。

 故にスターダスト・ドラゴンを倒すのにこれほど相応しいモンスターはない。

 

「シンクロ召喚! 大いなる魂、セイヴァー・デモン・ドラゴン!」

 

 

【セイヴァー・デモン・ドラゴン】

闇属性 ☆10 ドラゴン族

攻撃力4000

守備力3000

「救世竜 セイヴァー・ドラゴン」+「レッド・デーモンズ・ドラゴン」+チューナー以外のモンスター1体

このカードはカードの効果では破壊されない。

このカードが攻撃した場合、

ダメージ計算後にフィールド上に守備表示で存在するモンスターを全て破壊する。

1ターンに1度、エンドフェイズ時まで、

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択してその効果を無効にし、

そのモンスターの攻撃力分このカードの攻撃力をアップできる。

エンドフェイズ時、このカードをエクストラデッキに戻し、

自分の墓地の「レッド・デーモンズ・ドラゴン」1体を選択して特殊召喚する。

 

 

 フィールドに顕現し咆哮するは救世の悪魔竜。

 スターダスト・ドラゴンが星屑として仲間たちとの絆を紡ぐというのならば、赤い悪魔竜は楔を破壊する。

 仲間との絆は確かに尊いものだろう。だが強過ぎる絆は時として仲間を縛る鎖にもなりうる。それを破壊し其々の道へ導くことこそが王者の役割だ。

 

『セイヴァー・デモン・ドラゴンを召喚したということは…………やはり、そなたこそが導く者であったか。ふっ――――漸く我が務めも、終われる……か』

 

「セイヴァー・デモン・ドラゴンの効果。相手フィールドのモンスターを選択し、効果を無効にし、そのモンスターの攻撃力分このカードの攻撃力をアップする。俺が選択するのはスターダスト・ドラゴンだ! パワー・ゲイン!」

 

 スターダスト・ドラゴンの2500の攻撃数値を吸収し、セイヴァー・デモン・ドラゴンの攻撃力は6500となる。

 これで終わりだ。丈はセイヴァー・デモン・ドラゴンに告げる、終幕のための言葉を。

 

「バトルだ。やれ、セイヴァー・デモン・ドラゴン。アルティメット・パワーフォース」

 

 終幕は静かに。スターダスト・ドラゴンはセイヴァー・デモン・ドラゴンの放った業火に焼かれ消えていった。

 

 




 来週はトマトVS素良の再戦のようで、このデュエルに勝って素良が改心&仲間入りという展開……というのが大多数の予想だと思います。
 盛大な顔芸を披露した素良ですが、某真ゲスのように裏切ったわけではなく、最初から遊矢たちに好意的ですしね。柚子に至っては弟子という。しかも結構良い師弟関係。
 まぁ絶対に勝つと思っていた黒咲さんがあっさり負けたり、予想のつかない展開の多いARC-Vなので、素良が遊矢にも勝利して悪役街道をつっぱしる可能性もありますがw


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第184話  五千年の時空を超えて

 シグナーの化身のライフが0となり決着がついたことで、ソリッドビジョンにより実体化していたセイヴァー・デモン・ドラゴンは陽炎のように消えていった。これは普段のデュエルでも見慣れた光景であるが、今回は違う点もあった。

 デュエルが終わるその瞬間まで丈のデュエルディスクに置かれていたセイヴァー・デモン・ドラゴンのカード。それが忽然といずこかへ消え去っている。念のため墓地を確認してみたが、救世竜セイヴァー・ドラゴンも同じように影も形もなくなっていた。

 あの二枚のカードは丈の力ではなく、神殿にいる『赤き竜』がこのデュエルのために生み出したカード。よってデュエルが終われば消え去るのも自然なことなのかもしれない。

 

『……純黒の王よ、見事だ……。娘は、そなたに返そう』

 

「レベッカ!?」

 

 台座に寝かされていたレベッカの体が浮かび上がる。ふわふわと宙を浮きながら戻ってきたレベッカを、丈は傷つけないよう慎重に抱き抱えた。

 まだ魔力の残滓が残っているせいで意識は戻っていないが、呼吸は正常であるし外傷の類も見当たらない。ホプキンス教授に悪い報告をしないで済んだことに、一先ず丈は胸を撫で下ろした。

 

『そしてすまなかった。そなたをダークシグナーと勘違いしたばかりか、娘を人質にとるなどという下種な方法で力を試すような真似をして』

 

「……いいさ。ここはお前の――――シグナー達の神殿。俺達は謂わば不法侵入者だ。それに勘違いされても仕方ないことは自覚している」

 

 三邪神は丈の支配下にあって完全に安定してはいるが、それは決して三邪神が邪悪でなくなったということではない。未だに三邪神は世界を滅ぼしうるだけの邪気をもっているのだ。

 もしも丈が乱心して世界征服の野望に目覚めなどすれば、たちまちパラドックスの一件やダークネス事件のような大騒ぎになることだろう。

 

『ふっ、甘いのだな純黒の王よ。だが納得もしよう。黒とは時に暗い闇の色と化すが、時として優しさと寛容を備えた肯定の色ともなる。全ての色を否定する者が象徴するのは、なにものも映し出さぬ無色透明よ。全ての色を受け入れるが故に、そなたの心は純粋に黒く輝いているのだな』

 

「あんまり恥ずかしい褒め方をしないでくれ。五千年前に世界を救った偉人に褒められてもこそばゆい」

 

『我々もそう大したものではない。一人ではダークシグナーにも歯が立たないちっぽけな存在だ。我々が奴等に勝てたのは、奴等にはない〝絆〟が我々にあったからだろう』

 

「そう胸を張って言えるのは十分英雄だよ」

 

 先程のデュエルによる影響のせいか、シグナーの化身のフードがとれる。フードの中から現れた男の素顔は、素朴な顔をした青年だった。

 それこそ英雄などではなく畑仕事をしていそうな外見をしているが、目の奥で光る尊いと断言できる意思の強さは英雄性の発露そのものである。

 

『……シシドジョウ、確かこれがそなたの真名であったか? そなたが私を……我等を許してくれると言うのであれば、どうか聞いて欲しい。これは全人類の、全世界の運命に関わることだ』

 

「全人類に……?」

 

『我々の戦いから数千年、この世に再び五千年周期が迫っている。恐らくこれより十数年から二十数年の間にダークシグナーが覚醒し、地縛神が復活することになるだろう』

 

「!」

 

 赤き竜の力の一端は、ついさっき丈も経験したばかりだ。三邪神や三幻神にも劣らぬ力をもつ赤き竜と、五千年周期で死闘を繰り広げてきた地縛神。これまで四年連続で世界の危機に巻き込まれた丈であるが、その丈にとっても楽観できる類のものではない。

 

「地縛神復活を止めることはできないのか?」

 

『不可能だ。今の時代の人間達が〝ナスカの地上絵〟と呼んでいる場所に地縛神は縛られているが、それに干渉することはシグナーの力をもってしても不可能だ。

 なにより五千年前に我等が勝利したその瞬間より、五千年後にダークシグナーが覚醒することは不可避の必然として定められていた。デュエルモンスターズ誕生と同様、これを覆すことは何人たりとも出来ない』

 

 世界に定められた必然を変えることは出来ない。これはパラドックスも言っていたことだ。だからこそパラドックスも過去に遡りデュエルモンスターズを誕生しなかったことにするのではなく、誕生したデュエルモンスターズを滅ぼすことで歴史を変えようとしていたのである。

 地縛神復活もそれと同じことだというのならば、それこそ『世界』という枠すら超えた位階に達したもの―――――最高神をも上回る絶対神くらいだろう。

 

「だが……地縛神の復活は不可避でも、ダークシグナーの覚醒を抑制することはできないのか?」

 

『それも不可能だ。ダークシグナーに選ばれるのは強い憎しみ・怨み・未練を残して死んだ強い魂。故にダークシグナーの誕生を防ぐには、世界の全人類が等しく幸福で満たされる世を作らねばならない。汝、それができるか?』

 

「残念ながら」

 

『地縛神は恐らくデュエルモンスターズのカードとして転生し、それをダークシグナーに与えるだろう。必ず五人が選ばれるシグナーとは異なり、ダークシグナーの総数は固定されていないが、最低でも五人以上と考えて良い。

 そしてダークシグナーに対抗するには、五人のシグナーに五体の竜を届けねばならぬ。シシドジョウ、そのことで汝に頼みたいことがあるのだ』

 

 シグナーの周囲に再び石版が浮かび上がる。石版はまるで照明塔のように真っ白に光り輝いていくと、看板ほどの大きさだった五つの石版は五枚のカードに変化していった。

 五枚のカードは宙を舞い、宍戸丈の手へと収まる。

 

「これは……」

 

 

【スターダスト・ドラゴン】

風属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2500

守備力2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「フィールド上のカードを破壊する効果」を持つ

魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、

このカードをリリースして発動できる。

その発動を無効にし破壊する。

この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、

この効果を発動するためにリリースした

このカードを墓地から特殊召喚できる。

 

【レッド・デーモンズ・ドラゴン】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力3000

守備力2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードが相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターを攻撃した場合、

そのダメージ計算後に相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターを全て破壊する。

自分のエンドフェイズ時にこのカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、

このカード以外のこのターン攻撃宣言をしていない自分フィールド上のモンスターを全て破壊する。

 

【ブラック・ローズ・ドラゴン】

炎属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2400

守備力1800

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードがシンクロ召喚に成功した時、フィールド上のカードを全て破壊できる。

また、1ターンに1度、自分の墓地の植物族モンスター1体をゲームから除外して発動できる。

相手フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択して表側攻撃表示にし、

エンドフェイズ時までその攻撃力を0にする。

 

【ブラックフェザー・ドラゴン】

闇属性 ☆8 ドラゴン族

攻撃力2800

守備力1600

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

自分がカードの効果によってダメージを受ける場合、

代わりにこのカードに黒羽カウンターを1つ置く。

このカードの攻撃力は、このカードに乗っている黒羽カウンターの数×700ポイントダウンする。

また、1ターンに1度、このカードに乗っている黒羽カウンターを全て取り除く事で、

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、

その攻撃力を取り除いた黒羽カウンターの数×700ポイントダウンし、

ダウンした数値分のダメージを相手ライフに与える。

 

【エンシェント・フェアリー・ドラゴン】

光属性 ☆7 ドラゴン族

攻撃力2100

守備力3000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

1ターンに1度、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる。

この効果を発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。

また、1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。

フィールド上のフィールド魔法カードを全て破壊し、

自分は1000ライフポイント回復する。

その後、デッキからフィールド魔法カード1枚を手札に加える事ができる。

 

 

 五枚のカードはどれも等しくドラゴン族シンクロモンスター。スターダスト・ドラゴン、レッド・デーモンズ・ドラゴン、ブラック・ローズ・ドラゴンはシグナーとのデュエルで見たが、ブラック・フェザー・ドラゴンやエンシェント・フェアリー・ドラゴンは初見のカードだった。

 

『これこそがシグナーの五竜がカードとして転生した姿。そなたにはこの五竜をシグナーの手に届けて欲しいのだ』

 

「どうして俺に?」

 

『私ではない。赤き竜がそなたを選んだのだ。時代の英雄達を時空を超えて友情という絆で繋ぐそなたであれば、必ずやシグナーにドラゴンを届けてくれるだろう』

 

 赤き竜が時間の流れをも超えた精霊ならば、この時代にいながら時空を超えたデュエルのことも知っているのかもしれない。

 既にあの時空を超えた戦いに参戦したデュエリストには、他に〝決闘王〟武藤遊戯もいるが、彼と宍戸丈では一つだけ違う点がある。それは不動遊星の父、または祖父であろう不動博士と面識があるということだ。

 この五体のドラゴンを不動博士に託せば、きっと巡り巡ってドラゴンたちは、シグナーの一人である遊星へと行き着くだろう。

 

「成程。赤き竜の目は確からしい。分かった、確かに承った。このカードは俺が責任をもってシグナーの下へ届くようにしよう」

 

『ふふ、ダークシグナーとの戦いに備え、五千年もの時を留まっていたが、漸く私も皆のところへ逝くことができそうだ。

 頼んだぞ、シシドジョウ。いいや今この瞬間を生きる全ての人々よ。どうか我等の繋いだ世界を、これからも――――』

 

「待ってくれ! まだお前に――――貴方には!」

 

 礼を言っていない。五千年前に世界を救い、現代までバトンを繋げたことに対して。だが丈が手を伸ばすよりも早く、神殿より赤き竜が現れ丈を呑み込んでいった。

 次に丈が目を開くと、そこには遺跡の入り口。足の骨を折ったホプキンス教授やレベッカも一緒だった。どうやら赤き竜が、遺跡の入り口へと戻してくれたらしい。

 

「シグナーの竜、か」

 

 もう一度、シグナーの化身より託された五枚のカードへ視線を落とす。

 

「重いな……」

 




 どうもARC-Vにまさかのジャックとクロウが登場するらしいですね。これは本格的にエクシーズ次元=ZEXAL、シンクロ次元=5D'sと考えた方がよくなってきました。これは融合次元の正体もガチでGXのデュエル・アカデミアが関わっている可能性もあるかもしれません。
 これまでZEXAL世界はシンクロじゃなくてエクシーズが生まれた5D'sの平行世界と思ってましたが、もしかしたら5D's(シンクロ次元)もZEXAL(エクシーズ次元)も元々は一つの世界で、なんかの事故で五つの次元に分裂してしまったのかもしれませんね。
 あとジャックとクロウが出るということは、大徳寺先生と放浪してる二十代が再登場の可能性もワンチャン……


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第185話  竜の行方、そして盗賊の所在

「これが俺が遺跡で託された五枚のカードです、ペガサス会長」

 

 遺跡から戻った丈は、まずペガサス会長に起こった出来事を説明に来た。

 あの遺跡で託された五枚は全てがシンクロモンスター。現在の世界にとっては未知のカードである。これをどうするかにしても、デュエルモンスターズの生みの親であるペガサス会長に話を通しておいたほうがいい。そう考えてのことだった。

 ペガサス会長はテーブルに置かれた五枚のシンクロモンスターを食い入るように見つめながら、震えながら口を開く。

 

「ありがとうございマース。オー、やはり間違いありまセーン。この五枚のカードは、I2社で開発中のどのカードにも当て嵌まらない。なによりもこうして触れているだけで伝わってくるエネルギー。並みの精霊のカードを遥かに超えていマース。

 三幻神のように相応しくない所有者に天罰を下すようなことはなさそうですが、実際に召喚すればどれほどの力を発揮するのか、私にもまるで想像がつきまセーン……」

 

「それについては『時として神をも倒すほど』と言えるでしょう。なにせこの竜達が敵とするのは地縛神と呼ばれる邪神なのですから」

 

 邪神と戦うためのドラゴンに、邪神を倒す力がないはずがない。そうでなければ五千年前の戦いでシグナーがダークシグナーに勝利できたはずがないのだから。

 今もこの世界が存続していることこそがその証明だ。

 

「邪神、冥界の王。因果なものですね。三千年の戦いが終わり、私自身も千年アイテムを喪失したというのに、冥界という概念はいつも私を縛る」

 

 一瞬の恋人との再会、それを代償にして永遠に喪失した片目を抑えながらペガサス会長はか細く言う。

 人間は現在と未来を変えることはできるが、過去を改変することはできない。それこそパラドックスのように神域にすら踏み込んだ叡智を手にしない限りは。

 デュエルモンスターズの創造主であるペガサス・J・クロフォードもそれは同じだ。

 

「ところで宍戸ボーイ。ユーは五枚のカードをどうするつもりですか? 私としてはシグナーなる者達が目覚めるまでユーに預かってもらえれば安心なのですが」

 

「プロフェッサーに、不動博士に預けます」

 

「ホワッツ!? ドクター不動に? 彼は確かにシンクロ召喚開発に関わる研究者で、彼自身も素晴らしいデュエリストですが一体どうして? ユーのことなのだから明確な理由があるのでショウ?」

 

 まったく予想もしていなかった丈の返答に、さしものペガサス会長も驚愕を露わにした。

 

「はい。下手すればタイムパラドックスを起こしかねないので詳しいことは言えませんが、俺は実際にシグナーと会ったことがあります」

 

 不動遊星という名前はここでは出さない。丈は優れたデュエリストではあるが、時間科学についてはまったくの門外漢だ。というよりタイムマシンが現代で開発されていない以上、この時代にタイムトラベルの専門家など誰一人として存在しない。

 故にどんな些細な切っ掛けが原因で歴史が変わるかはまったくの未知数である。例え相手がペガサス会長でも、いや世界に多大な影響力を持つペガサス会長だからこそ、あの闘いで得た情報を迂闊に漏らすことができないのだ。

 

「まさか遊戯ボーイも言っていた時空を超えたデュエルに参加していた中に?」

 

「その通りです。シグナーの痣をもつデュエリストがいました。それで……」

 

 ペガサス会長はそれだけで全ての事情を大まかに察した様子だった。

 

「分かりました。敢えて私も詳しくは聞きまセーン。ユーが信じたドクター不動を、私も信じましょう」

 

「ありがとうございます」

 

 流石に千年アイテムの所有者だった一人だけあって、この手の話に対する理解は深かった。オカルト嫌いの海馬社長ではこうはいかない。

 話は終わった。丈はこれからNDLでの試合があるので、その場を辞する。

 

「プリーズ・ウェイト! ちょっとタイムデース!」

 

 だが退室する直前、ペガサス会長に呼び止められて足を止めた。

 

「会長? なにか?」

 

「その五枚のカード、五千年周期の戦いに備えてI2社の研究チームで是非とも調査をしたいのデース。なので五枚のうち一枚だけ私に預けてもらえませんか?」

 

「分かりました。そういうことなら……」

 

 スターダスト・ドラゴンは止めた方が良いだろう。これはあの遊星のエースカード。絶対的に不動博士に届けるべきだ。

 となると候補は他の四枚。丈は適当に四枚の中からブラックフェザー・ドラゴンを選ぶとペガサス会長に渡す。理由は特にない。

 

「感謝しマース」

 

「では、俺はこれで」

 

 後は残る四枚のカードを不動博士に渡すだけだ。

 不動博士ならきっとカードをシグナーに届けてくれるだろうし、カードのエネルギーを悪用するようなこともしないだろう。

 

 

 

 

「ヒャーハハハハハハハハハハハハハハハッ! 死霊伯爵の直接攻撃によりテメエのライフは0。受けてもらうぜ、罰ゲーム!!」

 

「ひぃ! や、やめ……あ、のぁあああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーッ!!」

 

 裏路地にて響き渡る男の絶叫。闇のゲームに敗北した男は、肉体も魂諸共にバクラへと吸い込まれ血肉となっていく。残ったのはデュエルディスクとそこにセットされていたデッキだけだ。

 腕っ節の強さとデュエルの強さで不良を束ねていた男も、こうなってしまえば形無しである。

 バクラは男のデュエルディスクからデッキを抜き取ると、そこから使えそうなカードを容赦なく抜き取っていく。

 

「ちっ。しけてやがるな」

 

 男のデッキは所謂テーマデッキで、採用されているカードも多くがそのテーマだからこそ活きるばかり。汎用性の高いカードや、バクラのデッキで役立ちそうなカードは少なかったのだ。

 最初は宍戸丈の魂の一部を喰らうことで、幽霊に等しい存在としてどうにか現世にしがみついていたバクラだったが、三幻魔の力を吸い取り、ホムンクルスの器を得ることで、その力は千年リングの所有者だった頃のそれに近付いていた。

 しかし肉体と魔力が戻ってきても、未だに完全に戻らぬものこそがデッキである。

 ペガサス・J・クロフォードは海馬コーポレーションと共に全カードショップなどをマークしている。バクラがそこからカードを入手すれば、所在が一瞬でペガサスや海馬に伝わるのは間違いない。

 嘗てのバクラよりも遥かに『盗賊王バクラ』としての意識の強い現在のバクラは、あっさりとそれを見破り、結果として未だにペガサス達に所在を掴まれないことに成功しているわけだが、そのせいでカードの入手に余計な手間をかける羽目となった。

 

(最初は嘗てのオレ様の使っていたカードを集め、元のオカルトデッキは戻ってきたが、あの時代と今じゃカードプールにも差がある。

 今のデッキでも、そこいらの雑魚には負けはしねえが、いずれ遊戯や宍戸丈を相手するとなればカードパワーの低さは否めねえ。早ぇところデッキを強化しねえとな)

 

 科学技術が日々進歩していくように、デュエルモンスターズも進化しているのだ。

 その昔は極一部を除いて効果をもたないモンスターばかりだった融合モンスターにも、今では強力なモンスター効果をもつモンスターが多く登場している。それに影丸を通じて掴んだ情報では、I2社はシンクロ召喚という新たなシステムを生み出そうともしているらしい。

 昔は昔で強力なカードもあったが、そういったカードは強力さ故に禁止カードに指定されてしまっている。

 バクラのデッキにあるカードは、全てがバトルシティトーナメント時代のもの。はっきり言ってしまえば、バクラのデッキは時代遅れなのだ。

 

「……ちっ。まぁ使えるカードはこの程度か」

 

 必要なカードを抜き取ると、男のデッキを投げ捨てる。

 ここら一帯のアウトローな連中のカードは殆ど狩り尽くした。あまり成果があったとは言い難いが、そろそろこの場からは離れるべきだろう。

 一か所に拠点を置くのではなく、次々に拠点を移し居場所を掴まれないようにする。それが盗賊の基本だ。下手に徒党を組んで居場所を知られでもすれば、また『あの時』のように皆殺しにされる。

 

「おいテメエだなぁ~。ここらでクズな不良共を襲ってはカードを強奪していやがるクズ野郎ってのは」

 

「……あ?」

 

 バクラに野太い声をぶつけてきたのは、警備員の服をきた大柄な男だった。

 

「牛尾哲、警察に新しく創設されたデュエルモンスターズ関連事件専門の警官。警備員(セキュリティ)様だよ。お前が奪ったカードとお前のデッキは俺が徴収する。覚悟しやがれ」

 

「なるほど。テメエもデュエリストなら丁度いい」

 

 大仰な口を聞くだけあって、牛尾哲という男は先程の雑魚よりは上等な精神力をもっている様子だった。

 ならばそのデッキにも少しは使えるカードがあるだろう。

 

「やれるものならやってみな。王様すら殺し切れなかったオレ様を、ただの人間が殺したらテメエがナンバーワンだぜ。さぁ、デュエルだ」

 

「こんな場所でゴミ漁りしているようなクズ野郎が、この俺とデュエルだとぉ? 思い知らせてやるぜ、身の程ってものをよぉ」

 

「「――――デュエル!!」」

 




 シグナーの竜は原作通り……というより予定調和的に不動博士のところに行くことになりました。そしてブラックフェザーだけはペガサスのところに置いてけぼりに。この残されたブラックフェザードラゴンが紆余曲折あってピアスンのところへいくと脳内保管しておいて下さい。
 そして後半久しぶりにして牛尾さんの本格登場です。といっても5D'sのイベントを経験していない牛尾さんなので、ダークナー編後のように丸くはありませんが。大体第一話で登場した時の牛尾さんを思い出して頂けたら。
 とまぁそんなこんなで次はバクラVS牛尾さんによる初代キャラ対決です。次回! オカルトデッキVS○○デッキ。牛尾さんのデッキを見事的中された方には、ボディーガード料20万円を徴収します(大嘘)


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第186話  DEATH GAME

バクラ LP4000 手札5枚

場 無し

 

牛尾哲 LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

「先攻はオレ様だ。オレ様のターン、カードドロー。首なし騎士を攻撃表示で召喚」

 

 

【首なし騎士】

地属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1450

守備力1700

反逆者に仕立て上げられ処刑された騎士の亡霊。

失ったものを求め、出会った者に襲いかかる。

 

 

 その名前の示す通り首のない騎士が、鎧をがちゃがちゃと鳴らしながらフィールドに這い出てくる。

 アイルランドには首のない男の精霊としてデュラハンという存在が語られているが、こちらは自分の首を失ったまま所有していないという点で異なるだろう。

 

「首なし騎士だぁ? 今時誰も使ってねえ時代遅れのクズカードじゃねえか。そんなカードじゃこの俺のデッキは倒せねえ」

 

「クククククッ。随分とデッキに自信があるようでなによりだ。そうでなけりゃオレ様も奪い甲斐がねえってもんだからよ。チンケな貧乏人から金を盗んでも仕方ねえ。盗むんなら王族の財宝が一番そそるってものだぜ。つってもテメエは王って柄でもねえ。精々が木端役人ってところだな」

 

「よく吼えるじゃねえかクズ野郎。よーし、お前の罪状に名誉毀損に侮辱罪も付け加えといてやるぜ。覚悟しておきな、十年は豚箱入りだ」

 

「随分とお優しいじゃねえか、お役人様。たかが十年で釈放してくれるってわけかい。オレ様の生きた時代なら極刑ものだ」

 

「時代? 何言ってやがるんだ?」

 

「オレ様はリバースを三枚伏せる。ターンエンドだ」

 

「訳の分からねえことを言いやがって。俺のターン、ドロー!」

 

 デュエルモンスターズの一般化に伴い増加傾向のデュエルモンスターズ関連の事件。それに対処するために、警察内部から腕利きのデュエリストを集めたのが警備員(セキュリティ)だ。

 それに選ばれた牛尾は雑魚などでは断じてない。デュエルモンスターズを悪用するマフィアなどとも激しい戦いを繰り広げてきたこともあって、或は下手なプロデュエリストをも凌駕するといえる。

 故に牛尾は本能的に目の前にいる敵――――バクラの危険性に感付いていた。もしかしたら学生時代のトラウマが再燃しているだけかもしれないが。

 

「悪くねえ手札だ。お前みてえなクズは知らねえだろうが、俺達のような警備員(セキュリティ)には常に最新のカードがI2社から支給されている。

 しかも警備員(セキュリティ)特権により一部の禁止・制限は解除されているおまけつきよ。テメエに勝ち目はねえ」

 

「権力ってやつか」

 

「更におろかな埋葬を発動。デッキからカードを一枚墓地へ送る。俺が墓地へ送るのはシャドール・ビースト。こいつの効果で一枚カードをドローだ」

 

「待ちな。オレ様もこの瞬間、リバースを発動する。便乗!」

 

 

【シャドール・ビースト】

闇属性 ☆5 魔法使い族

攻撃力2200

守備力1700

「シャドール・ビースト」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがリバースした場合に発動できる。

自分はデッキから2枚ドローする。

その後、手札を1枚捨てる。

(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。

自分はデッキから1枚ドローする。

 

【便乗】

永続罠カード

相手がドローフェイズ以外でカードをドローした時に発動する事ができる。

その後、相手がドローフェイズ以外でカードをドローする度に、

自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 

 便乗は相手がドローフェイズ以外でドローする度に、カードを二枚ドローする一見強力なドローエンジンだが、これには発動した時にはドローできないという最大の弱点がある。

 ただこれで相手のドローソースを牽制することはできるし、一時休戦などとコンボすれば一気にカードを三枚ドローすることも可能だ。

 

「狡いカードを使いやがるぜ。まずは小手調べだ。手札よりクリバンデットを召喚。カードを二枚伏せターンエンド。そしてエンドフェイズ時にクリバンデットのモンスター効果を使うぜ。

 こいつをリリー……おっと、まだ一般では生け贄だったな。生け贄にし自身のデッキから五枚のカードをめくる。その中から魔法・罠カードを一枚選んで手札に加え、残りは墓地へ送る」

 

 

【クリバンデット】

闇属性 ☆3 悪魔族

攻撃力1000

守備力700

(1):このカードが召喚に成功したターンのエンドフェイズに

このカードをリリースして発動できる。

自分のデッキの上からカードを5枚めくる。

その中から魔法・罠カード1枚を選んで手札に加える事ができる。

残りのカードは全て墓地へ送る。

 

 

 クリバンデットはまだ一般流通していないカードの一つだが、デッキの一番上から五枚という制限はあるが、デッキサーチと墓地肥しを行う優秀なカードである。

 墓地にモンスターがいけばいくほど強くなるオカルトデッキの使い手であるバクラも、墓地を肥すことの重要性は理解していた。

 だが牛尾がセキュリティより支給された『スペシャルデッキ』にとって、これはただの墓地肥しにはならない。

 

「俺がめくったカードはシャドール・ドラゴン、影依融合、シャドール・リザード、バトルフェーダー、暴れ牛鬼……。俺は影依融合を手札に加え、残り四枚を墓地へ送る。

 へっ。今日はラッキーデーだぜ。効果によってデッキから墓地へ送られた時、シャドール・ドラゴン、リザードの効果が発動するぜ」

 

「デッキから墓地へ送ることで発動するモンスター効果だと? シャドールってのはシャドール・ビースト固有の名前じゃなく、シャドールってカテゴリーのカードだったってことか」

 

 カテゴリーデッキということは、バクラのオカルトデッキにも投入できるカードは少ないだろう。

 少々やる気をなくすバクラだったが、牛尾の使ってきたシャドールというテーマは、バクラにとっても初見のものだった。未知のカードにバクラの目つきが鋭くなる。

 

「シャドール・リザードの効果。こいつで俺はデッキからシャドール・リザード以外のシャドールを墓地へ送る。俺はシャドール・ファルコンをデッキから墓地へ送るぜ。

 さらにシャドール・ドラゴンの効果によりテメエの伏せている右のリバースカードを破壊する」

 

 

【シャドール・リザード】

闇属性 ☆4 魔法使い族

攻撃力1800

守備力1000

「シャドール・リザード」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがリバースした場合、

フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを破壊する。

(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。

デッキから「シャドール・リザード」以外の「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。

 

【シャドール・ドラゴン】

闇属性 ☆4 魔法使い族

攻撃力1900

守備力0

「シャドール・ドラゴン」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがリバースした場合、

相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを持ち主の手札に戻す。

(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合、

フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。

そのカードを破壊する。

 

 

 バクラの伏せていた『死霊の巣』が消し飛び、牛尾のデッキからはカードが一枚墓地へ送られる。

 他のカードと同じく『シャドール』とついていたのだ。恐らくシャドール・ファルコンも墓地へ送られることで効果が発動するモンスターなのだろう。バクラはそう判断した。

 

「そして最後に墓地へ送られたシャドール・ファルコンの効果発動。こいつを墓地から裏守備表示で特殊召喚する」

 

 

【シャドール・ファルコン】

闇属性 ☆2 魔法使い族 チューナー

攻撃力600

守備力1400

「シャドール・ファルコン」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがリバースした場合、

「シャドール・ファルコン」以外の自分の墓地の「シャドール」モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを裏側守備表示で特殊召喚する。

(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。

このカードを墓地から裏側守備表示で特殊召喚する。

 

 

 墓地から出て裏守備になる際、ほんの一瞬だがバクラの目にもシャドール・ファルコンのソリッドビジョンが見えた。

 一見すると単なる鳥獣族モンスターかと思ったが、よく見れば全身には数多の繰糸があり、体も機械仕掛けときている。種族が魔法使い族となっているのは、シャドール・ファルコンが何者かに操られている人形に過ぎないという暗示なのかもしれない。

 

「しかも影依融合(シャドール・フュージョン)とはな。名前から察するにシャドール専用の融合カードってところか」

 

「御名答。次のターン、この俺のスペシャルな融合モンスターでお前はジ・エンド。めでたく豚箱行きだ」

 

「そいつはどうかな。このエンドフェイズ時、オレ様もこのカードを発動していた。永続罠、ウィジャ盤!」

 

「なっ! ウィジャ盤だとぉ!?」

 

 ウィジャ盤とは霊界との交信に用いる、死者のメッセージを伝える文字盤。

 バクラの背後にダーク・ネクロフィアの怨霊が現れ、彼女がプランシェットを滑らせ、最初のメッセージを告げる。

 

「ウィジャ盤が示した数字は『D』。さらにこのエンドフェイズに新たにデッキより死のメッセージカードが場に出現する。ウィジャ盤が示すのは……『E』だ」

 

 

【ウィジャ盤】

永続罠カード

相手のエンドフェイズ毎に、手札・デッキから

「死のメッセージ」カード1枚を「E」「A」「T」「H」の順番で魔法&罠カードゾーンに出す。

自分フィールド上の「ウィジャ盤」または

「死のメッセージ」カードがフィールド上から離れた時、

自分フィールド上のこれらのカードを全て墓地へ送る。

全ての「死のメッセージ」カードが

自分フィールド上に揃った時、自分はデュエルに勝利する。

 

【死のメッセージ「E」】

永続魔法カード

このカードは「ウィジャ盤」の効果でしかフィールド上に出す事ができない。

 

 

 ダーク・ネクロフィアがプランシェットを滑らせ示したDとE、二つのアルファベットが霊体の髑髏に抱えられ闇に浮かび上がった。

 あまりにも不気味過ぎる光景に、さっきまでは余裕風を吹かしていた牛尾も青褪める。

 

「な、なんなんだよ……こりゃ」

 

「ウィジャ盤はエンドフェイズ毎に新たな死のメッセージを告げていく。サービスに教えといてやるぜ。ウィジャ盤がこれから続けていく文字はA、T、H……。簡単な英語の問題だぜ、役人様よぉ~。繋げて読めば何になる?」

 

「D・E・A・T・H……………で、(デス)だとぉ?」

 

「そう。DEATHの五文字が完成した時、テメエは死ぬ。ククククッ。テメエに残されたターンは3ターンだ。ヒャーハハハハハハハハハハハハハハッ!!

 




 牛尾さんのデッキは『シャドール』でした。ネフィリムが禁止になる前に、最後の輝きを見せます。対してバクラは初代クオリティーのオカルトデッキ。
 というわけで次回はガチガチのファンデッキなバクラのオカルトデッキVSガチガチのガチデッキな牛尾さんのシャドールの正面対決です。


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第187話  シャドールの恐怖

バクラ LP4000 手札5枚

場 首なし騎士

伏せ 無し

魔法 死のメッセージ「E」

罠 便乗 ウィジャ盤

 

牛尾哲 LP4000 手札5枚

場 リバースモンスター(シャドール・ファルコン)

伏せ 二枚

 

 

 

「オレ様のターン、ドロー」

 

 ウィジャ盤の不気味なプレッシャーに気圧されている牛尾は無視して、バクラは冷静にフィールドと手札を交互に見ながら戦況を見極める。

 

(オレ様の読み通りなら『シャドール』は効果によって墓地に送られた時に発動する効果と、リバース効果の二つを共通して持っているカテゴリー。ってことはシャドール・ファルコンを迂闊に攻撃すれば墓穴を掘る可能性が高い)

 

 かといってリバース効果を恐れて攻撃しないのは論外だ。

 現世に復活を果たしたバクラは、牛尾の使うシャドールのようなテーマデッキと何度かデュエルをした経験があるからこそ、テーマデッキの強さを身に染みて理解している。

 カードがバトルシティ時代のものばかりのせいで火力不足の否めないバクラのデッキでは、キーカードが揃い回り始めたカテゴリーデッキを止めるのは骨が折れる作業だ。

 デッキの回転を防ぐためにも攻め手を緩めるわけにはいかない。しかし馬鹿正直に攻撃してもリバース効果を発動させてしまうだけ。

 

「ならば――――オレ様はこいつを攻撃表示で召喚するぜ。死霊騎士デスカリバー・ナイト!」

 

 

【死霊騎士デスカリバー・ナイト】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1900

守備力1800

このカードは特殊召喚できない。

効果モンスターの効果が発動した時、

フィールド上に表側表示で存在するこのカードを生け贄に捧げなければならない。

その効果モンスターの発動と効果を無効にし、そのモンスターを破壊する。

 

 

 漆黒の巨馬に騎乗するは、翼を生やした髑髏の騎士。

 このモンスターであればシャドール・ファルコンがどのようなリバース効果をもっていたとしても突破できる。

 

「バトルだ。やれ、死霊騎士デスカリバー・ナイト! シャドール・ファルコンを切り刻め! 怨恨の斬撃!」

 

「へ、か、かかったな! シャドール・ファルコンがリバースした瞬間、効果が発動するぜ! シャドール・ファルコン以外のシャドールモンスターを裏守備表示で特殊召喚する。これで俺はステータスの高いシャドールを呼び出せるって寸法よ!」

 

 流石の牛尾もI2社の出資を受けている警備員(セキュリティ)の一員に選ばれるだけあって、いつまでもウィジャ盤に慄いているヘタレではなかった。しっかりとシャドール・ファルコンの効果を発動させる。

 しかしながら今回ばかりは相手が悪かった。

 

「フフフ、ハハハハッハハハハハハ! 無駄だ、無駄なんだよ! 死霊騎士デスカリバー・ナイトの効果発動! こいつを生け贄にすることで、貴様のモンスターの特殊能力を無効にし破壊する!」

 

「な、なんだと!?」

 

 フィールドからデスカリバー・ナイトとシャドール・ファルコンの両方が消え去る。

 効果が無効化されたため牛尾の場にシャドールが呼び出されることはなく、フィールドはがら空き。そしてバクラの場にはまだモンスターが一体残っている。

 

「ククククッ。男気の見せどころだぜぇ~。テメエも公僕ならしっかり耐えてみせな。首なし騎士の直接攻撃、奴に苦痛を与えよ」

 

 首なし騎士が牛尾の体を直接切り裂く。瞬間、牛尾の声にならない絶叫が響き渡った。

 

「――――、――――――ッ!? ……ッ! ぐぉぉ……ぁっ………がぁッ」

 

 牛尾LP4000→2550

 

 ソリッドビジョンはどれだけリアリティがあっても所詮は立体映像に過ぎない。剣で体を両断されても、実際に肉が裂けるわけではなく、あくまでリアリティを演出するためにちょっとした痛みがある程度だ。

 だというのに牛尾の全身を駆け巡った苦痛は、剣で切り裂かれた痛みそのものだった。

 

「地下デュエルの衝撃増幅装置を使ってるわけじゃねえのに…………なんなんだ、なんだんだこの痛みはぁ!? テメエ、なんかトリックを使ってんのか!?」

 

「オレ様のこれに種も仕掛けもねえよ。それと安心しな、なにもテメエだけが苦痛を受ける不平等なルールはオレ様はしてねえ。テメエがオレ様を直接攻撃すりゃ、しっかりオレ様も相応の苦痛を受ける……。これは互いの(ライフ)を奪い合うデスゲームなんだからな」

 

「い、イカれてやがる……! なんでたかがデュエルで命を奪い合わなけりゃならねえんだ。頭おかしいんじゃねえのか!?」

 

 怒鳴る牛尾をバクラは鼻で笑う。

 

「死ぬ覚悟もねえ分際でデュエルの世界に入ってくるんじゃねえ」

 

 バクラにとってのデュエルとは、古の決闘(ディアハ)と同じく殺し合いであり奪い合いそのもの。

 デュエルモンスターズをゲームとして受け止めている現代人と、戦争や財宝のためにモンスターをしもべとして従えた三千年前の人間とでは価値観の差異は大きすぎる。

 そしてこの価値観はどちらか一方が歩み寄らない限り決して埋められることはない。

 

「さて。ここでテメエのライフを0まで削ってゲームセットとしておきたいところだが、オレ様にはもう攻撃可能なモンスターはいねえ。メインフェイズ2に移行、永続魔法『凡骨の意地』を発動しターンエンドだ」

 

 

【凡骨の意地】

永続魔法カード

ドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターだった場合、

そのカードを相手に見せる事で、自分はカードをもう1枚ドローする事ができる。

 

 

 ウィジャ盤は相手ターンのエンドフェイズ時のみ新しい死のメッセージを告げる。よってバクラのエンドフェイズに新しいメッセージが現れることはなかった。そしてターンは牛尾へと移る。

 人間とは奇妙なもので、キャパシティを超える恐怖や情報を一気に頭に流し込まれると逆に冷静になるものであるらしい。先程まで軽くパニック状態だった牛尾は、一周してデュエルをするための思考能力を取り戻していた。もっとも過去のトラウマを思い出し、現在の闇のゲームという事実から必死に逃避しているだけかもしれないが。

 

「とにかく要は勝てばいいんだ、勝てば。そのウィジャ盤だって、よくよく考えりゃ死のメッセージが揃う前にウィジャ盤を破壊しちまえばいいんじゃねえか……! やってやる。俺のターンだ、ドロー!

 マスマティシャンを召喚! マスマティシャンが召喚された時、デッキからレベル4以下のモンスターを墓地へ送ることができる。俺はシャドール・リザードを墓地へ送る。

 墓地へ送られたことでシャドール・リザードの効果発動。デッキからシャドールモンスターを墓地へ送る。俺はシャドール・ビーストを墓地へ送るぜ。シャドール・ビーストの効果で一枚ドロー!」

 

「おっと、それに『便乗』させてもらうぜ。オレ様もカードを二枚ドローだ」

 

 

【マスマティシャン】

地属性 ☆3 魔法使い族

攻撃力1500

守備力500

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

デッキからレベル4以下のモンスター1体を墓地へ送る。

(2):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。

自分はデッキから1枚ドローする。

 

 

 マスマティシャンが優秀な下級モンスターということもあるが、一体モンスターを召喚するだけで牛尾のデッキは休みなく稼働する。

 I2社が開発し警備員(セキュリティ)用に先行配備させたシャドール。その驚くべき強さを、バクラはターン毎に思い知っていっていた。

 

「よし。デスゲームだかなんだか知らんが、これで俺の勝利だ! お待ちかねの魔法発動だ、影依融合(シャドール・フュージョン)

 こいつはシャドールモンスター専用の融合魔法だ。シャドール融合モンスターによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、シャドールモンスターを融合召喚する!」

 

 

【影依融合】

通常魔法カード

「影依融合」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の手札・フィールドから

「シャドール」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、

その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが相手フィールドに存在する場合、

自分のデッキのモンスターも融合素材とする事ができる。

 

 

 影依融合には他に相手フィールドにエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターがいる場合、自分のデッキのモンスターすら融合素材とする恐るべき効果がある。

 だがバクラの場には通常モンスターである首なし騎士しかいないので、そちらの効果はここでは意味がなかった。

 

「ライトロード・ハンター ライコウとシャドール・ドラゴンを融合素材として墓地へ送る。地獄みやげに拝んでおけよ、雨のしずくか血か汗か。融合召喚! 出あえ、エルシャドール・ネフィリム!!」

 

 

【エルシャドール・ネフィリム】

光属性 ☆8 天使族

攻撃力2800

守備力2500

「シャドール」モンスター+光属性モンスター

このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。

(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。

デッキから「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。

(2):このカードが特殊召喚されたモンスターと

戦闘を行うダメージステップ開始時に発動する。

そのモンスターを破壊する。

(3):このカードが墓地へ送られた場合、

自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。

そのカードを手札に加える。

 

 影糸を繰ぐる者が、空より落ちてくる。

 山よりも巨大な人形からは糸が伸び、果たしてそれがどこへ繋がっているのかは三千年の時を彷徨ったバクラにも分からない。神の血を受けながら、神を侮辱する背徳のオブジェ。

 これこそがシャドールの切り札だ。

 

「遂に出やがったか、シャドールの融合モンスター」

 

「まずはシャドール・ドラゴンの効果でウィジャ盤を破壊だ。さらにシャドール・ネフィリムが特殊召喚に成功した場合、デッキからシャドールモンスターを墓地へ送る。シャドール・ファルコンを墓地へ送り、墓地よりファルコンを裏守備表示で特殊召喚。

 バトルだ! マスマティシャンで首なし騎士を攻撃、この俺に切りかかった御礼参りだ!」

 

「……!」

 

 バクラLP4000→3950

 

 たかが50のダメージであるが、闇のゲーム故に弾丸で掌を撃ち抜かれたのと同程度の苦痛がバクラを襲った。

 

「続いてエルシャドール・ネフィリムの直接攻撃を喰らいなぁ! シャドール・ネフィリア!!」

 

「させねぇよ! 永続罠発動。現れろ、 死霊ゾーマ!」

 

 

【死霊ゾーマ】

永続罠カード

このカードは発動後モンスターカード

(アンデット族・闇・星4・攻1800/守500)となり、

自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。

このカードが戦闘によって破壊された時、

このカードを破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

(このカードは罠カードとしても扱う)

 

 

 死霊ゾーマは発動した瞬間にモンスターカードとなるトラップモンスター。よって死霊ゾーマがバクラのフィールドに特殊召喚された。

 場にモンスターが増えたことにより、バトルの巻き戻しが発生する。

 

「死霊ゾーマは戦闘で破壊されても、怨念となって破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える死霊モンスター。クククククッ、ダメージ承知で攻撃してくるかい?」

 

「はっ! そんな手じゃ俺の権力には勝てねえ! シャドール・ネフィリムは特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う場合、ダメージステップ開始時に戦闘するモンスターを破壊する効果を持ってるんだよ!」

 

「なに!?」

 

「消えっちまえな、ゾーマ!」

 

 バトルを行う必要はあるが、シャドール・ネフィリムの破壊は戦闘破壊ではなく効果破壊。効果破壊では死霊ゾーマの特殊能力が発動することはない。

 死霊ゾーマがネフィリムの光によって強制的に浄化され消滅する。幸いゾーマは守備表示だったのでバクラにダメージはなかった。

 

「逃がしはしないぜ。速攻魔法、神の写し身との接触! 手札・フィールドから融合素材モンスターを墓地へ送り、シャドールの融合モンスターを融合召喚する」

 

「……成程。速攻魔法の専用融合カードもあるとはな。つくづく鬱陶しいカテゴリーだぜ」

 

「手札の終末の騎士とシャドール・ヘッジホッグを融合。今が盛りの菊よりも、綺麗に咲かせる男意地! 融合召喚! 出あえ、エルシャドール・ミドラージュ!」

 

 

【エルシャドール・ミドラージュ】

闇属性 ☆5 魔法使い族

攻撃力2200

守備力800

「シャドール」モンスター+闇属性モンスター

このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。

(1):このカードは相手の効果では破壊されない。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、

その間はお互いに1ターンに1度しかモンスターを特殊召喚できない。

(3):このカードが墓地へ送られた場合、

自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。

そのカードを手札に加える。

 

【シャドール・ヘッジホッグ】

闇属性 ☆3 魔法使い族

攻撃力800

守備力200

「シャドール・ヘッジホッグ」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがリバースした場合に発動できる。

デッキから「シャドール」魔法・罠カード1枚を手札に加える。

(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。

デッキから「シャドール・ヘッジホッグ」以外の「シャドール」モンスター1体を手札に加える。

 

【神の写し身との接触】

速攻魔法カード

「神の写し身との接触」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の手札・フィールドから、

「シャドール」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、

その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

 

 新たに現れたエルシャドールは、人形のドラゴンに乗った少女のモンスターだった。

 人形が本体なのか、少女が本体なのかはいまいち定かではないが、そんなことはどちらでも良いことである。問題なのは新たなエルシャドールの能力だ。

 

「シャドール・ヘッジホッグが墓地へ送られたことで、俺はデッキからシャドール・ビーストを手札に加えるぜ。エルシャドール・ミドラージュが場に存在する限り、互いにモンスターの特殊召喚は1ターンに1度に制限され、しかもこいつは効果では破壊されない。

 さらにさらにぃ~。これはバトルフェイズ中の融合召喚。よってエルシャドール・ミドラージュは攻撃が可能だ! さっきのお返しだ。エルシャドール・ミドラージュで直接攻撃、常夜のシャドール・バースト!」

 

「――――、――――!」

 

 バクラLP3950→1750

 

 上級モンスターの直接攻撃で、バクラのライフが一気に半分以下まで削られた。

 闇のゲームの掟通り首なし騎士の直接攻撃の比ではない苦痛がバクラを襲うが、バクラは眉を少し動かしただけでこれに耐える。

 

「はははははははは! 頼りのウィジャ盤は消滅、俺の場にはエルシャドール・ミドラージュとエルシャドール・ネフィリム。お前の勝ち目はゼロだ!

 バトルフェイズ終了後、リバースカードを一枚セット。ターンエンドだ。くくくっ、次の俺のターンで今度こそお前のライフを消し飛ばしてやるぜ」

 




 今日の最強カードというか功労賞は間違いなく『便乗』です。


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第188話  異物

バクラ LP1750 手札4枚

場 無し

伏せ 無し

魔法 凡骨の意地

罠 便乗

 

牛尾哲 LP2550 手札1枚

場 エルシャドール・ネフィリム、エルシャドール・ミドラージュ、マスマティシャン、セットモンスター(シャドール・ファルコン)

伏せ 二枚

 

 

 召喚するまでの手札消費が激しい融合モンスターが二体も並ぶと流石に壮観だった。

 あのI2社が対犯罪者を想定して支給しただけあって、三邪神や三幻魔とは比べものになりはしないが、一般的なカードとしてはトップクラスの力をもっている。

 

(特殊召喚を一度のみに制限する鶏玩具と、特殊召喚したモンスターを問答無用に戦闘破壊する腐れ人形。シャドールは特殊召喚、それも融合デッキからの特殊召喚のメタに秀でたアンチカテゴリーってわけか。

 オレ様のデッキに投入されている融合モンスターは死霊侯爵のみ。融合デッキに対するメタカードは大した影響はねえが、特殊召喚メタはちっとばかし面倒だ)

 

 バクラのデッキに眠るオカルトデッキの切り札、ダーク・ネクロフィアを呼び出すことができれば、取り敢えず時間稼ぎは出来るかもしれない。しかしシャドールは手札消費の激しい融合を中心としていながら、リカバリーが容易なカテゴリー。ダーク・ネクロフィアも所詮は一時しのぎにしかならないだろう。

 牛尾も最初の慄きっぷりはどこへやら。自分の圧倒的なモンスター達を前に少々有頂天になっている様子だった。

 実際、牛尾のデュエリストとしての実力にシャドールの力があれば、一流と呼ばれるデュエリストすら嬲り殺せるだろうし、ここから挽回できるデュエリストは決して多くはない。

 故に牛尾哲は不幸だったといえるだろう。相手がバクラでさえなければ、彼はこのまま勝利を掴めていたはずなのだから。

 

「オレ様のターンだ、ドロー」

 

 自分のドローしたカードが通常モンスターであることを確認したバクラは、フィールドの凡骨の意地を発動させるため口を開いた。

 

「オレ様のドローしたカードは通常モンスター、暗黒魔神ナイトメアだ。凡骨の意地の効果によりドローしたカードが通常モンスターなら、追加ドローできる。よってドロー、夢魔の亡霊。更に追加でドローだ」

 

 

【暗黒魔神ナイトメア】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1300

守備力1100

夢の中に潜むと言われている悪魔。寝ている間に命を奪う。

 

【夢魔の亡霊】

闇属性 ☆4 悪魔族

攻撃力1300

守備力1800

寝ている者の夢に取り憑き、生気を吸い取る悪魔。

取り憑かれてしまった者は、決して自力で目覚めることはない。

 

 

 バクラが三枚目に引いたカードは罠カード。通常モンスター以外をドローしたので、凡骨の意地の効果はこれまでだ。

 一見すると無敵にみえるシャドール融合モンスターだが、どんなカードにも弱点はある。戦闘においては無類の強さを発揮するネフィリムは効果破壊には無力であるし、ミドラージュはステータスが2200と心許ない故に戦闘には弱い。

 ミドラージュの能力で特殊召喚が行えるのは一度のみだが、バクラにとってはそれだけで十分。既にダーク・ネクロフィアに並ぶバクラのデッキの切り札を呼び出す準備は出来上がっている。

 

「ククククッ、オレ様のライフにダメージを与えた褒美だ。〝デュエルモンスターズ〟じゃ王様にも使わなかったオレ様のとっておきを見せてやるぜ」

 

「なにぃ? とっておきだぁ? どんなカードを出してこようが、この俺のモンスターは倒せねえ」

 

「そいつはどうかな。運が良けりゃ……いや、運が悪けりゃテメエのフィールドはこのターンで全滅だ。オレ様は手札より儀式魔法発動、闇の支配者との契約!

 こいつは手札またはフィールドから合計レベルが8以上になるようモンスターを供物として捧げることで、闇の支配者を下僕とする契約を行う儀式魔法。

 オレ様が生け贄とするのは暗黒魔神ナイトメアと夢魔の亡霊! さぁ、モンスター達よ! 闇の支配者に魂を捧げよ!」

 

「儀式モンスターだとぉ!?」

 

 フィールドに現れた紫色のローブを纏う男に、二体の魔物の魂が吸い込まれていく。二つの魂を喰らったローブの男は、その姿を闇の支配者たるべきものへと変化させていった。

 嘗てTRPGを舞台として戦いで、名も無きファラオと仲間たちをラスボスとして苦しめたゾークが、デュエルモンスターズのカードという形でここに再臨する。

 

「見せてやるぜ。この世のものとも知れぬ恐るべき戦術をなぁ! 出でよ、闇の支配者-ゾーク」

 

 

【闇の支配者-ゾーク】

闇属性 ☆8 悪魔族

攻撃力2700

守備力1500

「闇の支配者との契約」により降臨。

フィールドか手札から、レベルが8以上になるよう

カードを生け贄に捧げなければならない。

1ターンに1度だけサイコロを振る事ができる。

サイコロの目が1・2の場合、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。

3・4・5の場合、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。

6の場合、自分フィールド上のモンスターを全て破壊する。

 

【闇の支配者との契約】

儀式魔法カード

「闇の支配者-ゾーク」の降臨に必要。

フィールドか手札からレベルが8以上になるようカードを生け贄に捧げなければならない。

 

 

 冥府の底より這い出る闇の支配者。冥界の大邪神ゾーク・ネクロファデスを原型(オリジン)としたゾークは、バクラにとっては己の分身にも等しいモンスターといえるだろう。

 闇の支配者の発する底知れないプレッシャーに、牛尾は口を金魚のようにパクパクとして言葉を紡げない有様だった。

 

「ククククッ。貴様の命運もこのダイスが地に着く時に尽きる…! ゾークの特殊能力、1ターンに1度ダイスを振るい、ダイスの出た目によって効果を変える。舞え、運命を決めるダイスよ!!」

 

 ソリッドビジョンのダイスがフィールドを転がり、プレイヤーに運命を告げる。

 出た目の数は4。死を暗示させる数字は、モンスター1体の破壊を意味していた。

 

「決まったぜ。ゾークの効果発動、相手フィールドのモンスター1体を破壊する。消えっちまいな、エルシャドール・ネフィリム。魔手刀閃!」

 

 ゾークの手刀によってエルシャドール・ネフィリムが破壊される。影依(シャドール)の天使も、闇そのものが具現化したゾークには及びはしなかった。

 

「お、俺のネフィリムが一撃で……? くそっ! ネフィリムの効果で影依融合を回収する!」

 

「オレ様のターンは終わってねえぜ。バトルフェイズ! 燃え尽きやがれ。ゾークでエルシャドール・ミドラージュを攻撃だ、ダーク・カタストロフィー!」

 

「ま、まだだ! リバースカードを使うぜ! 次元幽閉! 攻撃してきたモンスターを除外ゾーン送りにする!」

 

「……!」

 

 以前にも一度闇のゲームを仕掛けられ手酷い敗北を喫した経験が活きたのか、この土壇場で牛尾が起死回生のリバースを発動させた。

 強力な特殊能力をもっていても効果耐性がないのはネフィリムだけではなくゾークも同じ。次元幽閉により、闇の支配者は異次元へと追放された。

 

「はは、ははは、ははははははははははははははははははははははははははははははは!! ざまぁみやがれ! テメエの頼みの儀式モンスターはめでたく除外ゾーン送りだぁ! もうこれであのおっかねえモンスターは二度と復活できねえぜ!」

 

「成程、少々舐めていたようだ。神官クラスほどじゃねえが、神官の腰回り程度の強さはあるようだ」

 

「負け惜しみをしても無駄だぜ。テメエのフィールドはこれでがら空き。次の俺のターンの直接攻撃でデュエルは俺の勝ちだ」

 

「ククッ。忘れてねえか、役人様よぉ。オレはまだ通常召喚を行ってねえんだぜ。メインフェイズ2、モンスターをセットする。リバースカードを二枚場に出しターンエンド」

 

「ハッ! これ見よがしにリバースカードを伏せてビビらせようったってそうはいかねえ。どうせ単なるハッタリだろうが。このターンで決着をつけてやるぜ。俺のターン、ドローだ」

 

「かっこよく決めたところ悪いが、有言不実行になりそうだな。スタンバイフェイズ時、罠を発動。覇者の一括! このターンのバトルフェイズをスキップする!」

 

「な、なにぃ! これじゃ攻撃が出来ねえじゃねえか!」

 

 あくまでバトルフェイズをスキップするだけなので、バーンダメージなどでライフに直接ダメージを与えれば、このターン中にバクラを倒すことも不可能ではない。しかしながら牛尾のシャドールデッキにはバーンカードは入っていなかった。これで牛尾がなにをどうしようと、このターン中にバクラを倒すことは理論上不可能になった。

 目論見を外したことに牛尾は不機嫌そうに顔を歪める。

 

「面倒臭ぇカードを使いやがって。どうせ負け確定だってのによ。往生際の悪い男ってのは嫌われるぜ」

 

「褒め言葉として受け取っておこうか。オレ様は育ちが悪いんでね。そう簡単に死んだりしねえぜ」

 

「ほざけ。どの道、次のターンには年貢の納め時なんだ。まずは速攻魔法、サイクロンを発動。うざったらしい『便乗』を破壊する!」

 

 激しい手札消費を補っていた便乗がとうとう破壊されてしまう。

 だが『便乗』は十分以上に役目を果たした後のため、バクラに動揺はなかった。

 

「これで遠慮する必要はなくなったぜ! 貪欲な壺を発動、ネフィリム、ドラゴン、ビースト二枚、ファルコンをデッキに戻し二枚ドロー。

 そして影依融合を発動。フィールドのマスマティシャンと手札のシャドール・ビーストを融合し、地属性のエルシャドールを呼び出すぜ。

 親か仁義か女をとろか仁義抱きましょ男の世界! 融合召喚! 出あえ、エルシャドール・シェキナーガ!」

 

 

【エルシャドール・シェキナーガ】

地属性 ☆10 機械族

攻撃力2600

守備力3000

「シャドール」モンスター+地属性モンスター

このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。

「エルシャドール・シェキナーガ」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時に発動できる。

その発動を無効にし破壊する。

その後、自分は手札の「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。

(2):このカードが墓地へ送られた場合、

自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。

そのカードを手札に加える。

 

 

 光属性と闇属性に続いて地属性のエルシャドール。ここまで多様な属性の融合モンスターがいるということは、六属性全ての融合モンスターがいるのかもしれない。

 バクラはそう考えながらも全く思考を表に出すことはなく、平静のまま牛尾の行動を待った。

 

「このまま総攻撃といきたいところだが、覇者の一括のせいでバトルが行えねえからな。リバースカードを場に出し―――――」

 

――――〝ターンエンド〟だ。

 

 聞きたかった言葉が口から出たことを確認すると、バクラが不気味に口端を釣り上げた。

 

「ククククッハハハーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! わざわざ強力なモンスターを召喚してくれてありがとうよ! これでオレ様の戦術は完璧となったぜ!」

 

「な、なんだと?」

 

「オレ様のターン。まずはこいつを発動しておこうか。魔法カード、ポルターガイスト。相手フィールド上の魔法・罠カードを一枚選択し手札に戻す」

 

 

【ポルターガイスト】

通常魔法カード

相手フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して持ち主の手札に戻す。

このカードの発動と効果は無効化されない。

 

 

 幽霊でもない霊体の塊のようなものが、牛尾のデュエルディスクにセットされていたリバースカードを強制的に手札へと戻した。

 牛尾の伏せていたのは速攻魔法『神の写し身への接触』。チェーンして発動することも考えた牛尾であるが、手札に適当なシャドールがないことから見送る他なかった。

 

(だが別に破壊されたわけじゃねえ。それにこれで奴の手札はゼロ。あの野郎に残っているのは二枚のリバースカードと裏守備モンスターが一枚だけ。

 これだけじゃ到底俺の二体のエルシャドールを倒すことは出来ねえ。万が一あの野郎が俺のエルシャドールの撃破に成功したとしても、俺の伏せているもう一枚のリバースカードは聖なるバリア -ミラーフォース-。これでジ・エンドだ)

 

 しかも牛尾は知らないことだが、バクラのデッキはその全てがバトルシティ時代のもの。現代にはある強力なカードがバクラのデッキには一枚も投入されていない。

 これで禁止・制限までもがバトルシティ当時のものならば、サンダーボルトのようなパワーカードに頼ることもできたのだが、バクラのデッキにはそれもないのだ。

 完全なる手詰まり。ここからの逆転は限りなく不可能に近い。

 しかしバクラという『伝説の三人』にも比肩する最凶のデュエリストは不可能を踏破する。

 

「ククククッ。余裕綽々の面をまずは青褪めな。オレ様の恐るべき布石はフィールドに伏せられていたのさ。オレは裏守備表示でセットされているモンスターを反転召喚する。

 これがテメエをあの世へ送る恐怖のカードだ。水底より浮かび上がれ、終焉の異物。リバースしたモンスターはX・E・N・O!」

 

 

【X・E・N・O】

水属性 ☆2 悪魔族

攻撃力200

守備力100

リバース:相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択し、

エンドフェイズ時までコントロールを得る。

この効果でコントロールを得たモンスターは、

このターン相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。

 

 

 反転召喚したことでソリッドビジョンとして浮かび上がったのは竜の生首だった。首の切断面からは血に濡れた白骨が剥き出しになっており、肉の切れ端が尻尾のように首から垂れている。

 デュエルモンスターズのカードには首だけのモンスターというのも存在するが、それらとこれは一線を画していると言えるだろう。なにせこの生首は本当に生首なのだ。首だけのモンスターではなく、浮かび上がった生首は完全に死んでいるのである。

 余りにもグロテスクな異形に牛尾はぎょっとするも、表示されているステータスの脆弱さにどうにか持ち直した。

 

「そ、そんな攻撃力200の雑魚モンスターを反転召喚して何をするつもりだよ! そいつじゃ俺のエルシャドールは倒せねえぜ!」

 

「確かに『倒す』ことは出来ねえなぁ。だがこいつには貧弱なステータスを補って余りある恐ろしい特殊能力がある。X・E・N・Oのリバース効果、相手フィールドのモンスターに寄生することで、このターン中そのモンスターのコントロールを得る!」

 

「そうはさせるか! エルシャドール・シェキナーガの効果、こいつは一ターンに一度、モンスター効果の発動を無効にして――――ハッ!」

 

 効果を宣言しかけて牛尾は気付いた。エルシャドール・シェキナーガの効果を無効にする能力は、特殊召喚されたモンスターに限定されている。

 通常召喚権を使ってセットされ、リバースしたX・E・N・Oの能力にはまったくの無防備だ。

 

「やれ、X・E・N・O! アギウス・メフィストフェレス!」

 

 竜の顎に寄生していた寄生体が飛び出し、今度はエルシャドール・シェキナーガに寄生する。

 エルシャドール・シェキナーガは苦しそうに呻くが、やがて完全に制御を乗っ取られ、持ち主を裏切りバクラのフィールドへとやってきた。

 

「ようこそ、エルシャドール・シェキナーガ。歓迎するぜ」

 

「くそっ! だがエルシャドール・シェキナーガで俺のエルシャドール・ミドラージュを撃破したとしても俺のライフをゼロにすることは出来ねえ!」

 

「ヒャーハハハハハハハハハハハハハハハ! X・E・N・Oの効果は一味違ぇんだよ! X・E・N・Oに寄生されたモンスターはこのターン、相手プレイヤーを直接攻撃することが可能!」

 

「な、なに? なんだそのインチキ効果は!?」

 

 コントロール操作魔法カードの最高峰で、現在では禁止カードの『心変わり』すら超える圧倒的なる性能。

 そして牛尾のライフポイントは2550。攻撃力2600のエルシャドール・シェキナーガの直接攻撃を受ければ終わりだ。

 

「バトル! エルシャドール・シェキナーガの攻撃! 裏切りのシャドール・ヴァルプギア!!」

 

「ええぃ! なら最後の手段だ! 罠発動、聖なるバリア -ミラーフォース-!」

 

「残念だったな。盗賊王に〝罠〟は通用しねえ。カウンター罠、盗賊の七つ道具」

 

 バクラLP1750→750

 

【盗賊の七つ道具】

カウンター罠カード

(1):罠カードが発動した時、1000LPを払って発動できる。

その発動を無効にし破壊する。

 

 牛尾の最後の頼みの綱だったミラーフォースが消え去り、牛尾を守るものは全て消え去った。

 エルシャドール・シェキナーガはX・E・N・Oに寄生されたまま淡々と自分の所有者に接近し、

 

「あ、ぐぉああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 凶刃を振り下ろした。

 




 次回。牛尾さん、死す。デュエルスタンバイ。
 というお約束のネタはさておきバクラ大勝利です。何気に本作だとバクラが自分自身のデッキを使って行った初めてのデュエルにして初勝利でした。これまで丈と二回戦った時は両方とも他人のデッキをその場で拝借して使用しただけでしたからね。
 デスカリバー・ナイトとかの例外除いて、初代アニメの完結した2004年以前のカードだけ&バクラっぽいカード&禁止・制限を守るという数々のハンデがありましたが、そこは元祖遊戯王ラスボスの威厳で見事勝利。初代クオリティーの紙t……オカルトデッキを舐めた牛尾さんは敗北。
 やはりファンデッキでガチデッキを倒すことこそ王道。TFで絵札の三剣士にブラマジにバルキリオンに全て投入した遊戯デッキでクロウのBF軍団を倒した感動は忘れられません。
 まぁガチガチのガチデッキがファンデッキを蹂躙するというのも面白いものではありますが、ぶっちゃけ何度も続けると反感も招く上に確実に飽きられる劇薬ですからね。



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第189話  最悪の契約

 ライフポイントがゼロとなり勝敗がつく。敗者たる牛尾は大地に斃れ、勝者のバクラは狂笑する。そして闇のゲームの掟に従い、敗者への罰を下す時間がやってきた。

 死の恐怖に加え、2600もの直接攻撃を受けた牛尾はショックで意識を失っている。案外それは幸せなことなのかもしれない。こうして意識を失っていれば、自分が魂ごと吸収されるその瞬間の絶望を感じずに済むのだから。

 

「さぁ。テメエの魂を頂戴するぜ」

 

 バクラが大の字に倒れている牛尾に手を翳す。掌から引力のようなものが発せられ、それが牛尾の精神をエネルギーとして根こそぎ吸収していった。

 しかしいざ魂を本格的に吸収しようとした瞬間、それを阻止するように一発の銃弾がバクラの眉間に突き刺さる。

 

「……誰だ?」

 

 バクラの眉間に命中したと思われていた鉛玉は、額から数㎜のところで不可視の障壁に阻まれ停止していた。

 自分の『食事』を邪魔されたバクラは、不愉快さを露わに銃弾の飛んできた方向を睨みつける。

 

「ふぅん。成程、確かに十年前のバクラそのものだ。ペガサスめ、バクラが蘇ったなどと俺に連絡を入れてきた時は、また奇妙なオカルトアイテムでも見つけて狂ったのかと思ったが、こうして直に目にしたならば信じるのも止む無しだな」

 

「ハッ、ハハッハハハッハハハハ、ヒャーハハハハハハハハハ! どこの誰かと思ったら社長じゃねえか。こうして対峙するのはかれこれ十年ぶりかぁ? また会えて嬉しいぜ」

 

 海馬瀬人。武藤遊戯の永遠の好敵手にして、彼に伍する実力をもつ唯一のデュエリスト。そして三千年前に『白き龍』を従え闇の大神官やファラオたちと戦った神官セトの生まれ変わり。

 クル・エルナ出身の盗賊王バクラの魂と人格をもつバクラにとっては、名も無きファラオと同様に因縁深い相手だった。

 

「俺は貴様のような過去の遺物、とうに忘れ去り葬っていたのだがな。未練がましく墓場から這い出てきたのならば、この俺が直々に冥府へ叩き返してやる!」

 

「クククククッ。折角の誘いだが、今日のところはやめておくぜ」

 

「ふぅん。この俺という地上で最強のデュエリストを前に臆したか?」

 

「〝盗賊〟には下準備ってやつがいるんだよ。金も財宝も使い放題の社長と違って、オレ様は遊戯やペガサスにも追われる身なんでね。今はオレ様のデッキを今の時代でも戦えるよう強化中ってことだ」

 

 海馬瀬人は海馬コーポレーション社長としての職務に専念するため、プロリーグには参加しておらず公の舞台でデュエルをすることも最近はめっきりなくなっている。だが職務に励む余りデュエリストの本分を忘れ、実力を腐らせるほど海馬瀬人という男は阿呆ではない。確実に当時の実力を、いや或は当時以上の実力をもっているはずだ。

 しかもバトルシティ時代にはなかったカードをデッキに投入することで、デッキパワーそのものも格段に上昇しているのはほぼ確実。

 牛尾程度の相手なら今のバクラのオカルトデッキでも料理できるが、流石に海馬クラスの相手と今のデッキで戦うほどバクラは己の実力を過信してはいない。

 

(癪だが客観的にみて今のオレ様が海馬と戦って勝つ見込みは10%ってところか)

 

 弘法筆を選ばずという諺が日本にはあるが、弘法同士が違う筆で文字の良し悪しを競えば、良い筆を使っているほうが勝つのが道理というものなのだ。

 筆探しを完了させて、10%の勝因を50%、60%と上げていくためにも此処は逃げるのが正しい選択といえる。

 

「そこで転がっている雑魚ばかりを狙い、百獣の王の如き強さをもつデュエリストを前にすれば尻尾を巻いて逃げる。まるで負け犬だな」

 

「さぁ。犬死にするよきゃマシなんじゃねえか?」

 

「黙れぇ! 貴様には馬の骨すらない! 磯野ぉ!!」

 

「ハッ! 全員、構えぇ!!」

 

 海馬が腹心の名を呼ぶと、黒服に黒サングラスで傍目にもかなり苦労していることが分かる男が指示を飛ばす。

 すると物陰のあちこちに隠れていた迷彩服の兵士達が一斉にアサルトライフルの銃口をバクラへと向けた。

 

「海馬コーポレーションの精鋭達よ! デュエルを穢す惨めな落ちぶれ盗賊を銃殺処刑しろぉ!」

 

 海馬が号令すると四方八方から弾丸の雨嵐がバクラへ降り注いだ。こんなものを浴びれば、どんな人間でも三十秒で人間としての原型を残さず破壊されることだろうが、言うまでもなくバクラはただの人間ではない。

 

「――――罠カード、死霊の盾!」

 

 バクラの周囲に飛び交う死霊達が身を挺して銃弾からバクラを守護した。

 復活しつつあるダークネスから力を受け、更には三幻魔の魔力をも吸収したバクラである。アサルトライフル程度の攻撃力では、バクラに掠り傷一つ負わせることは出来ない。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハ。オレ様をそんな玩具で倒そうなんざ社長も焼きが回ったな。銃なんかじゃ俺の命を削ることは出来ねえぜ」

 

「ふぅん。ならば趣向を変えようか。磯野ぉ!」

 

「はっ!!」

 

 銃弾が止み次に現れたのは青眼の白龍――――――を模した戦車だった。

 法治国家日本の都市で戦車を動かすという暴挙。しかし海馬コーポレーションの権力をもってすれば、政治的法律的問題などは強引にクリアできる。

 そして戦車が放つ砲弾の破壊力は、歩兵の装備しているアサルトライフルとは比べ物にならない。

 

「フフフフフ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! よく噛み締め、味わうがいい! 我が海馬コーポレーションの技術力が世界一、否ァ! 宇宙一であることを!! やれぇ! バクラの肉体を粉砕せよ!」

 

「――――――防げ、我が魂の現身。精霊獣(ディアバウンド)!」

 

 バクラの邪悪な魔力(ヘカ)により、三千年の時を超えて盗賊王の魂が生み出した精霊獣が実体化する。

 下半身が蛇、上半身が人型というある種の神聖さすら感じる姿は、盗賊王とファラオが初めて戦った時のディアバウンドそのものだった。

 ディアバウンドは戦車から放たれた砲弾を右腕を盾にして防ぐと、バクラを包むように覆いかぶさる。

 

「あばよ社長。次に合う時はミレニアムバトルの再戦といこうぜ。今度はオレ様も本気で相手してやるよ。テメエの前世の親父には、オレ様もちっとばかし借りがあるからなぁ」

 

「っ! 戦車すら効果がないのであれば止むを得ん。我がブルーアイズで――――」

 

「おっと、そうはさせねえぜ! ディアバウンドの特殊能力発動! 盗賊王であるオレ様の生み出した精霊獣(ディアバウンド)はあらゆる壁を擦り抜ける!」

 

「なに!?」

 

 更にここでいう壁は地面すら該当してしまう。バクラはディアバウンドを操ると、砲弾の届かぬ地下を擦り抜けていった。

 漸く見つけ出したバクラをみすみす逃がしてしまった海馬は、忌々しげに壁を殴りつける。

 

「小癪なコソ泥め……。磯野ぉ!!」

 

「は、はっ!!」

 

「海馬コーポレーションの総力をあげ、草の根を引っ張り出してでもバクラを見つけ出せ!」

 

「今すぐ手配します!!」

 

 社長の無茶ぶりにこの十年間ですっかり慣れてしまった磯野は、一切余計なことを言わず、海馬の命令を遂行するためすっ飛んで行った。

 

 

 

 

 まんまとバクラに逃げられたことで怒りの焔を燃やす海馬だが、とうのバクラが同じように苛立ちを感じているとは夢にも思わないだろう。

 バクラは傷ついた自分の右腕を見て舌打ちをしながら呟く。

 

「……海馬め。やってくれたぜ」

 

 あのオカルト嫌いの海馬のことである。意図してのものではないだろう。だが海馬はあの瞬間、恐らくは無意識のうちに砲弾に己の魔力を込めていた。

 神官セトの魂を受け継いでいて、三幻神をも統べる器をもつ海馬瀬人は世界最高峰の魂と魔力の持ち主である。その海馬の魔力がこもった一撃を、無傷で防ぐのは今のバクラでは不可能だった。

 

(宍戸丈にダークネスがやられたのが三年前。未だ世界に渦巻く心の闇を吸収し、ダークネスは徐々にその力を取り戻してきている。あと一年もありゃ完全に復活するだろう。

 そして肉体がホムンクルス故に現世じゃ力を発揮しきれねえが、オレ様自身も三幻魔の力を吸ったことで力を取り戻した。魔力の濃度が三千年前と同程度以上にある精霊世界なら、嘗てのオレ様そのものの力を発揮できるはずだ)

 

――――だが足りない。それでは足りないのだ。

 

 嘗ての力を取り戻すのは不可欠なことだ。だが武藤遊戯や海馬瀬人、それに宍戸丈にしても嘗ての力を取り戻せば勝てるというものではない。

 そもそも武藤遊戯は万全な大邪神ゾークと戦い勝利しているわけであるし、宍戸丈にしても万全なダークネスと戦い勝利している。一度負けた相手に今度は勝てると確信するほどバクラは楽観主義ではなかった。

 故にバクラが欲するのは嘗て以上の力。以前の自分を上回る闇の力を得なければ、遊戯たちを倒すことはできない。

 

「まずは駒を揃えねえとな」

 

 幾らバクラでもI2社や海馬コーポレーションという巨大組織を相手に、単独で行動を続けるのは厳しいものがある。

 裏社会で名を馳せている腕利きを何人か、自分の手駒とすることができれば、今後はもっとやり易くなるだろう。幸い以前キースに憑りついていたことで、その手の連中がどこにいるのかなどは知ることが出来た。あとはバクラ自身でどうにかなるだろう。

 どうにかする、と言っても別にオカルトに頼るわけではない。ただ裏社会で名を馳せる連中というのは、現代も三千年前も性根は変わらないものだ。ならば存分に『盗賊王』としての経験が役に立つ。

 

『なにやら良からぬことを考えているようだな。大邪神ゾーク・ネクロファデスの魂の欠片よ』

 

「!」

 

 突如として虚空より響いてきた声。盗賊としての本能が最大級の警鐘を鳴らし、バクラは咄嗟に戦闘体勢をとった。

 

『いや、どうやら既に大邪神からは独立し、邪神の欠片を埋め込まれる前の〝盗賊王〟に回帰しつつあるようだな。しかも多くの神格の力を取り込んだことで、大邪神とは独立した神格になりつつあるとは』

 

「テメエ……何者だ?」

 

『我は――――――我はドン・サウザンド。混沌(カオス)が渦巻くバリアン世界の神。盗賊王よ、汝の野心。我が力を貸そうではないか』

 

 その時、この世界で最も危険な契約が取り交わされた。

 

 




 これも全部ドン・サウザンドってやつのせいなんだ……
 あと社長のお蔭で牛尾さんが命拾いしました。良かったね、牛尾さん。



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第十章 プロリーグ編
第190話  決闘舞台


 ペガサス会長との会合から一か月後。

 NDLでの試合で忙しく自由な時間をとれなかった丈は、漸く粗方の仕事を片付け不動博士を訪ねることができた。要件は言うまでもなく一か月前に預けた四体のドラゴンについて聞くためである。

 

「丈。君が持ってきた四枚のシンクロモンスターについて凄いことが分かったよ」

 

 なにか新しい発見はあったかという丈の質問に、不動博士は難しい表情で答えた。

 未知なるものの探求に胸躍らせる研究者としての高揚、未知なるものの蓋を開け災厄を解き放ってしまうかもという人間としての不安。この二つの相反する感情が、表情にはありありと浮かんでいた。

 

「というと?」

 

「材質や絵柄そのものに特筆すべき異常はない。あくまで物的に判断するのならば、これは市販されているカードと何も変わりはしなかった。

 だが『異常』なのは召喚反応だ。粗方の調査を終えた私は、デュエルディスクにカードを置いて実際にこの『スターダスト・ドラゴン』を召喚してみたのだが、その際に検知された召喚反応が異常な数値を見せた。これがその時のデータだ」

 

「どれどれ……。通常のシンクロ召喚時の召喚反応の300倍じゃないか!?」

 

 召喚反応の強さはカードパワーのみならず、デュエリストの持つ魂の強さによっても決まる。なので同じモンスターを召喚するのでも例えば海馬瀬人と近所の老人Aでは雲泥の差があるのだ。

 不動博士は一流のデュエリスト。更にスターダスト・ドラゴンが優れたカードなら、この二つの相乗作用によって召喚反応が高まるのは寧ろ自然な事と言える。しかしそれにしても三百倍というのは異常な数値だった。

 

「更に『興味深い』ことがまだある。この『スターダスト・ドラゴン』を召喚した後、私は『レッド・デーモンズ・ドラゴン』のシンクロを行った。そしたらこういう結果になったのだ……」

 

「!」

 

 資料にはレッド・デーモンズ・ドラゴンの召喚反応は通常の600倍――――スターダスト・ドラゴンの倍だったという驚くべき事実が記載されていた。

 そして更にレッド・デーモンズ・ドラゴンに加えてブラックローズ・ドラゴンを召喚した際に反応が計測不能になったとも。

 

「最初は単にレッド・デーモンズ・ドラゴンとブラックローズ・ドラゴンの召喚反応がスターダストを上回るだけかとも思った。だがそれにしても計測不能というのは異常だ。

 そこで私は一旦実験を中断し、改めてレッド・デーモンズ・ドラゴンとブラックローズ・ドラゴンを単独で召喚してみたところ、共に召喚反応は通常の300倍。スターダストとまったくの同値だったのだ」

 

「つまりシグナーの竜は?」

 

「ああ。仲間の竜と力を合わせることで、力を無限に高めていく性質をもっている可能性が高い。

 過去のデータによれば彼の〝決闘王〟が三幻神を召喚した際にも、召喚反応は計測不能となったそうだ。シグナーの竜も三体まで場に呼び出されたことで、三幻神と同じ領域にまで踏み込んだ。

 だとすればもしもシグナーの五竜が全て結集すれば、その力は神をも凌ぐやもしれない」

 

「……そうか。プロフェッサー、このことは」

 

「分かっている。決して口外はすまい。このカードに宿る力のことを知っているのは、研究チームでも私とルドガーとレクスの三人だけだ」

 

「感謝する」

 

 デュエルの強さが社会的ステータスにも繋がる現代。強力なカードは例え奪ってでも手に入れようとする輩は少なくはない。

 警察組織にデュエル専門の警備員(セキュリティ)が創設されたのも、そういう時代背景あってのことなのだ。

 そんな中に神をも殺す竜の存在が公になれば、確実にそのカードを強引な手段を用いても手に入れようとする連中が出てくるだろう。

 ネオ・グールズは壊滅し、新生ネオ・グールズ(仮名)はただのアホの集団と化しているので大した脅威ではないが、グールズ以外にも巨大な影響力をもつデュエルギャングは数多い。

 デュエルギャングにも最初からそうだったものと、元々あったマフィア組織がデュエルモンスターズも扱うようになった二つのパターンがあるが、ここは関係ないので省略する。

 ともかく『シグナーの竜』は下手に扱えば世界を騒動に巻き込みかねない爆弾なのだ。もしかしたらシンクロ召喚というシステム以上に秘匿すべき価値があるとすら言えるかもしれない。

 

「っと、プロフェッサー。今は何時だ?」

 

「ん? もう直ぐ朝の二時だが、それがどうかしたかね?」

 

「――――しまった」

 

 自分のうっかりミスに気付いた丈は、思わず天を仰いだ。

 

「一体全体どうしたのだ? 私で良ければ話を聞くが……」

 

「TVの録画をし忘れたんだ! ここと日本との時差は16時間。もう直ぐ日本は午後の六時……。その時間に亮の試合があったんだよ」

 

「亮というと四天王の一人のカイザー亮か! だが彼とてプロ、試合なんて月に何度もやっているだろう。そんなに見逃せない試合だったのか?」

 

「ああ。対戦相手はエド・フェニックス。史上最年少のプロデュエリストで、一応今年から俺の後輩になる男だ」

 

 カイザー亮とエド・フェニックス。

 片やアカデミアの四天王に名を連ね、プロでも常勝を誇るカイザー。片やアカデミアに入る以前よりプロでの実績を積んできた最年少のプロデュエリスト。

 どちらも次世代を代表するプロデュエリスト達が、極東の島国でぶつかろうとしていた。

 

 

 

 

 VSエド・フェニックス戦より三日前。

 カイザー……否、丸藤亮は嘗ては住み込みで修行していたサイバー流道場を訪れていた。

 

『亮。貴方ならば、いつか再びここへやって来ると思っていました』

 

 デュエル・アカデミアではただの生徒と教師という関係であった鮫島校長は、この道場の中に限っては別の顔を見せる。

 マスター鮫島。デュエルモンスターズ黎明期に名を馳せた、サイバー流の師範にしてカイザー亮の師。

 彼は人生の辛みを噛み締めた、どこか達観した表情で弟子を迎え入れた。

 

『師範。俺はサイバー流を、いやサイバー流と共に更なる進化の高みへと上り詰めたい。だから俺に託して頂きたい。サイバー流の歴史に封じられた、あのデッキを――――』

 

『既に私を遥かに越え、伝説にすら迫り得る実力を得ながらも更なる力を欲しますか?』

 

『藤原は一時ダークネスの力に憑りつかれながら、これを克服して折れぬ強さを得た。吹雪もまたダークネスの誘惑を心の強さで断ち切り、闇の力を得た。丈は三邪神を受け入れ、彼等を統べた。

 故に俺が更なる進化を遂げるには、サイバー流の闇ともいえる裏デッキを受け入れ、その力を我が物とせねばならない。だからどうか』

 

『分かりました。そこまでの覚悟があるのであれば止めても無駄でしょう。余りにも危険故に一度は封じた裏デッキ。亮、貴方に託しましょう』

 

『師範!』

 

『それと私のピケクラも――――』

 

『い り ま せ ん』

 

 そして師匠よりサイバー流の闇を託された亮はここに立っている。史上最年少プロデュエリストであるエド・フェニックスとの戦いの場へ。

 カイザー亮とエド・フェニックス両名が高い人気をもっていることや、事前にエドがこの戦いで隠してきた自身の本当のデッキを使うと明言したこともあって、会場である海馬ドームは満員御礼。立ち見すらプレミアがつく有様だった。

 これほどの大観衆の前でデュエルをすることは、プロリーグのランキング一位決定戦でもなければそうそう見かけることは出来ないだろう。

 

『いよいよ実現した本日の一戦。プロ入りしてから連戦連勝、常勝のカイザー亮。そして30戦30勝、最近トップテン入りも果たしたプロリーグの貴公子エド・フェニックス。一体今日はどんなデュエルを見せてくれるのか!』

 

『カイザーの使うデッキは一撃必殺の火力をもつサイバー流だとして、エド・フェニックスの本当のデッキはその火力にどう立ち向かうのか。そこが勝敗を分けるカギとなるでしょうね』

 

 実況と解説の声が響く。

 カイザーは大観衆のプレッシャーなど気にもとめず、それはエド・フェニックスも同様。銀髪にシルバーのスーツという実況の言った通りの貴公子然とした容貌は、このプレッシャーを愉しんでいる風でもあった。

 

「君がエド・フェニックスか。デュエル・アカデミアでは入れ違いになってしまったな」

 

 最年少プロという肩書をもつエド・フェニックスは十五歳。デュエリストでなければハイスクールで学生をしている年齢である。

 エド本人は学生などせずプロに専念するつもりだったらしいが、マネージャーの強い勧めもあって今年デュエル・アカデミアに特別待遇の生徒として入学したのだ。

 つまりは十代や万丈目の後輩である。

 

「こちらこそ。アカデミアの〝四天王〟の噂は聞いていますよ。今日はお手柔らかに〝先輩〟」

 

「「――――デュエル!」」

 

 




 最近ヘルカイザーよろしく勝利をリスペクトして――――コンマイに魂を売ったともいう――――事故率が有り得ないほどハンパない冥界軸最上級多用混沌軸にクリフォートを取り入れたら、なんか成熟期から究極体にワープ進化して、アホみたいに安定力と征圧力が上昇しました。最上級帝とか銀河眼の光子竜とか混沌の黒魔術師とか入れている上に、スキルドレインも抜いているので、勿論純粋なクリフォートと比べれば安定力とか諸々が劣るのですが、その分嵌まった時の火力がえらことになってます。三幻神と三邪神が安定して出せるってどういうことなの……?


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第191話  光のHERO

カイザー亮  LP4000 手札5枚

場 無し

 

エド・フェニックス LP4000 手札5枚

場 無し

 

 

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 最初は飄々としていたエド・フェニックスもいざデュエルが始まると雰囲気が変わる。

 史上最年少、つまりは〝若い〟ではなく〝幼い〟と呼ばれる年齢からプロリーグという魔窟で戦ってきた経験は、決して四天王にも劣らぬものだ。

 

(さて。エド・フェニックス……確かアメリカ・アカデミアのマッケンジー校長が親代わりで、あのDDが後見人という話だが)

 

 エドが今日使用するという真のデッキがなんなのかは、亮は勿論のことマスメディアも知りはしない。亮が昨日軽くインターネットで調べてみたところ、ファンの間では激しい論争が繰り広げられていたが、どれもはっきりとした答えはなかった。

 だがエド・フェニックスの真のデッキがどのような内容であるかで、亮がとるべき戦術も代わって来るだろ。

 エドは自分の手札を確認すると、ニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 

「僕が発動するのはこれだ! 魔法カード、融合! 手札のE・HEROスパークマンと沼地の魔神王を融合する!」

 

「なに? HEROだと!?」

 

 E・HEROは亮にとっては自分の無二の親友が使うデッキの一つであり、学生時代に最も注目した後輩の魂のデッキだ。カイザー亮という男にはサイバー流の次に身近なデッキと言えるだろう。

 そして亮の知るHERO使いの中にまた新しい名前が加わる。エド・フェニックスという男の名が。

 

「沼地の魔神王は融合素材の代わりになることができるモンスター。僕はこのカードをE・HEROフェニックスガイの代わりに使用する。カモン! E・HEROシャイニング・フェニックスガイ!!」

 

 

【E・HERO シャイニング・フェニックスガイ】

炎属性 ☆8 戦士族

攻撃力2500

守備力2100

「E・HERO フェニックスガイ」+「E・HERO スパークマン」

このモンスターは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、自分の墓地の「E・HERO」と名のついた

カード1枚につき300ポイントアップする。

このカードは戦闘によっては破壊されない。

 

 

 二体のモンスターが融合して出現したのは、どこかシャイニング・フレア・ウィングマンの面影のあるHEROだった。

 ただシャイニング・フレア・ウィングマンがHEROらしい輝きを灯しているのに対して、シャイニング・フェニックスガイの輝きにはどことなく影がある。

 もしかしたらこれは純粋なHEROではなく、ダークヒーローをイメージされているのかもしれない。

 

「融合HEROを出してきたということは、やはりお前のデッキは」

 

「そうだ。僕のデッキは遊城十代や宍戸丈と同じHEROデッキだ」

 

「…………」

 

 情報アドバンテージで遅れをとっていた亮にとって、エドのデッキが知り尽くしているHEROデッキだったことは運が良いことなのかもしれない。事実、前に丈のデッキ構築を手伝った過程で『シャイニング・フェニックスガイ』の能力についても把握している。

 シャイニング・フェニックスガイは墓地のHEROの数だけ攻撃力を上昇させる効果に、戦闘破壊耐性をもったモンスター。これを取り除くことは除去方法が戦闘中心のサイバー流にとっては搦め手を必要とされるだろう。ただ別に攻略不能な相手ではない。

 けれど亮のデュエリストとしての直感は警鐘を鳴らしていた。エド・フェニックスの全身から発せられる底知れぬ気迫。デッキから感じられるプレッシャー。あれは丈のHEROとも十代のHEROとも異なるものだ。

 

(まさかエドのデッキには俺の知らないHEROも――――)

 

「先攻は最初のターンに攻撃はできない。僕はリバースカードを二枚セット。ターンエンドだ」

 

「…………」

 

「さぁ。御手並み拝見させてもらいますよ、カイザー」

 

 エド・フェニックスがHERO使いだったことには衝撃を受けたが、亮のやることは変わらない。いつも通り全力でデュエルをするだけだ。

 アカデミアの生徒としては後輩のエドだが、プロとしてはエドの方が先輩である。よって初手から出し惜しみはなしだ。

 

「俺のターン、ドロー。このカードは相手の場にのみモンスターがいる場合、手札より特殊召喚が可能。サイバー・ドラゴンを特殊召喚」

 

『おおっと、融合HEROを召喚してきたエド・フェニックスに対してカイザー亮! いきなりサイバー流の象徴的カード、サイバー・ドラゴンを召喚したぞ!』

 

『ですがサイバー・ドラゴンの攻撃力は2100です。シャイニング・フェニックスガイを戦闘破壊することはできません』

 

 そんなことは解説者に説明されるまでもなく亮とて承知している。

 シャイニング・フェニックスガイを倒すのは、あくまでも別のカードだ。

 

「俺はサイバー・ヴァリーを通常召喚。更に魔法カード、精神操作を発動。相手モンスター1体のコントロールを得る」

 

「!」

 

 

【サイバー・ヴァリー】

光属性 ☆1 機械族

攻撃力0

守備力0

以下の効果から1つを選択して発動できる。

●このカードが相手モンスターの攻撃対象に選択された時、

このカードをゲームから除外する事でデッキからカードを1枚ドローし、

バトルフェイズを終了する。

●このカードと自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を

選択してゲームから除外し、その後デッキからカードを2枚ドローする。

●このカードと手札1枚をゲームから除外し、

その後自分の墓地のカード1枚を選択してデッキの一番上に戻す。

 

【精神操作】

通常魔法カード

相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

このターンのエンドフェイズ時まで、選択したモンスターのコントロールを得る。

この効果でコントロールを得たモンスターは攻撃宣言できず、生け贄にする事もできない。

 

 

 戦闘には強いシャイニング・フェニックスガイもコントロール奪取には無力だった。

 精神操作でコントロールを得たモンスターは攻撃することも生け贄にも出来ないが抜け道はある。

 

「サイバー・ヴァリーのモンスター効果。このカードと自分フィールドのモンスターを除外することでカードを二枚ドローする。

 精神操作が封じているのはあくまでも生け贄。除外することは可能だ。俺はサイバー・ヴァリーとシャイニング・フェニックスガイを除外しカードを二枚ドロー!」

 

「シャイニング・フェニックスガイへの対処と手札交換を同時にやってのけたか。成程、斎王が注意を払うだけはある」

 

「バトル。サイバー・ドラゴンでプレイヤーを直接攻撃。エヴォリューション・バースト!」

 

「罠発動、ガード・ブロック! このカードの効果(エフェクト)により、僕が受けるダメージはゼロとなりカードを一枚ドローする」

 

「易々と通してはくれんか。バトルを終了。カードを一枚伏せターンエンドだ」

 

「僕のターン、ドロー」

 

 三枚もの手札を消費して出したシャイニング・フェニックスガイをあっさり除去されたわりに、エドには動揺らしい動揺は見受けられなかった。

 ということはこれをリカバリーする手段が手札の中にあるという証左である。亮の予感を裏付けるようにエドはカードを発動させた。

 

「僕は強欲な壺を発動。カードを二枚ドローし、融合回収のエフェクトにより僕はスパークマンと融合を回収する!

 それじゃあさっきのお返しといこう。僕は精神操作を発動。このエフェクトにより僕はサイバー・ドラゴンのコントロールを得る!」

 

「なに?」

 

 シャイニング・フェニックスガイが亮のフィールドへやって来たのと同じように、サイバー・ドラゴンが繰糸に捕まってエドのフィールドへ引きずられていった。

 

「精神操作の抜け道は除外だけじゃない。僕は融合を発動、手札のスパークマンと場のサイバー・ドラゴンを融合。カモン! 光のHERO! E・HERO The シャイニング!

 さらに僕はミラクル・フュージョンのエフェクト発動。墓地のスパークマンと沼地の魔神王を融合! カモン! E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン!!」

 

 

【E・HERO The シャイニング】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力2600

守備力2100

「E・HERO」と名のついたモンスター+光属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、ゲームから除外されている

自分の「E・HERO」と名のついたモンスターの数×300ポイントアップする。

このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、

ゲームから除外されている自分の「E・HERO」と名のついた

モンスターを2体まで選択し、手札に加える事ができる。

 

【E・HEROシャイニング・フレア・ウィングマン】

光属性 ☆8 戦士族

攻撃力2500

守備力2100

「E・HERO フレイム・ウィングマン」+「E・HERO スパークマン」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する「E・HERO」と名のついた

カード1枚につき300ポイントアップする。

このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、

破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 並び立つ『シャイニング』の名をもつ二体の融合HERO。レベルはともに8の最上級。前のターンに除外されたシャイニング・フェニックスガイを合わせれば、これで三体目の光のHEROだ。

 亮のフィールドのサイバー・ドラゴンすら利用した怒涛の連続融合に、さしもの亮も目を見開き驚愕した。

 

「E・HERO The シャイニングは自らのエフェクトにより除外されている『HERO』の数だけ攻撃力を300ポイントアップさせる。除外されているHEROはシャイニング・フェニックスガイとスパークマンの二体。よって攻撃力が600ポイントアップし、その数値は3200。

 そしてシャイニング・フレア・ウィングマンは墓地のHEROの数だけ攻撃力を300ポイントアップさせる。だが僕の墓地にはHEROは存在しない。よって攻撃力の変動はなしだ」

 

 どちらにしても3200と2500のモンスターが並び立つというのは驚異だ。パワー・ボンドを使えば軽く凌駕できる数値だが、今はエドのターンであるし、亮のフィールドにモンスターはいない。

 傍から見れば絶体絶命の窮地、大観衆の九割以上がこのターンで決着がつくと思っているだろう。しかし、

 

「バトル! シャイニング・フレア・ウィングマンで直接攻撃――――」

 

「手札から速攻のかかしを捨てる。これによりバトルフェイズを終了させる」

 

「簡単には勝たせてくれないか。僕はこのままターンを終了する」

 




【朗報】ARC-VのOPに250円のドラゴンを召喚するニートを確認

 とまぁ元ジャックがARC-Vに出演するのは知っていましたが、OPにまで出てくるということは、GXに出てきたペガサスとか迷宮兄弟のようなゲストではなく、がっつりストーリーに関わってくるようですね……。というかあれじゃまるで元キングがラスボスのようだ……。あれですかね? 元祖エンタメデュエリストの転倒王者元キングが、遊矢にキングのポーズでも教えるという展開でしょうか。


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第192話  裏サイバー流

カイザー亮  LP4000 手札3枚

場 無し

伏せ 一枚

 

エド・フェニックス LP4000 手札1枚

場 シャイニング・フレア・ウィングマン、The シャイニング

伏せ 一枚

 

 

 

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンとThe シャイニングという強力な融合HEROが出たことで、カイザー側の観客はお通夜ムードに、逆にエド側の観客は大盛り上がりだった。

 だがこれくらいの窮地で絶望し膝を屈するほどカイザーと呼ばれたデュエリストは生温い男ではない。寧ろ追い詰められれば追い詰められるほどに、それを打開するために爆発力を溜めこんでいくのが丸藤亮という男だ。

 

「俺のターンだ、ドロー。…………エド、お前が『真のデッキ』を投入してきたのであれば、俺もまた新たなる力をお前に見せよう」

 

『ここでカイザー亮! 絶体絶命の窮地でまさかの新たなる切り札の登場を宣言だぁぁあああああッ!』

 

『カイザーは正々堂々の戦いを重んじるデュエリストです。となるとこの発言もハッタリの可能性は低いでしょう。問題はエド・フェニックスの場にある二体のHEROをどう攻略するかですが……』

 

 亮の発言にお通夜ムードだった亮側の観客席が活気を取り戻し、それが会場全体に伝染する。実況の声もどことなくテンションが上がっている様子だった。

 そして当事者の一人であるエド・フェニックスは、奥の手の存在を匂わす発言にも不敵な雰囲気を崩すことはしなかった。逆に挑発気に笑みを浮かべると、

 

「それは面白い。サイバー流の新しい力とやらを一番近くで見れるとは光栄ですよ、先輩」

 

「先輩と強調する必要はない。アカデミア生としては俺は先輩だが、プロとしてはお前が先輩だ」

 

「ならばカイザー。君の言う奥の手で僕のHEROを倒せるかな?」

 

「倒すさ。まずは魔法カード、トレード・インを発動。手札のレベル8モンスターを捨ててカードを二枚ドローする。俺はラビードラゴンを捨ててカードを二枚ドロー」

 

「ラビードラゴンだと!」

 

 

【ラビードラゴン】

光属性 ☆8 族

攻撃力2950

守備力2900

雪原に生息するドラゴンの突然変異種。

巨大な耳は数キロ離れた物音を聴き分け、

驚異的な跳躍力と相俟って狙った獲物は逃さない。

 

 

 サイバー流の象徴はサイバー・ドラゴンであり、そのデッキはサイバー・ドラゴン系列モンスターを中心とした機械族で構成されている。その時々によって亮は機械族以外のモンスターを投入することもあるが、それはサイバー流と相性の良いカードであったり、メタモルポットのような汎用性の高いカードばかりだ。

 まかり間違ってもラビードラゴンのようなサイバー流と特にシナジーもないドラゴン族通常モンスターを投入したりなどはしていなかった。

 そのことはエド以外も理解しているため、観客もどこかざわめいていた。

 

「さらに竜の霊廟を発動。デッキからレベル3の通常モンスター、ハウンド・ドラゴンを墓地へ送る。さらにこの効果で墓地へ送ったのが通常モンスターだった場合、更にもう一枚カードを墓地に送ることが可能。俺はもう一枚のハウンド・ドラゴンを墓地へ送る」

 

 一気に二体のドラゴン族通常モンスターを墓地へ送る亮。完全にこれまでのサイバー流とは異なる動きが、亮の発言の信憑性を増させた。

 なにをしてくるのか分からない不気味さから、エドも不敵な笑みを消し去って真剣そのものの目つきで亮の行動を凝視する。

 

「サイバー流の歴史に封じられし闇。サイバー流裏デッキの切れ味をとくと味わわせてやる。俺は手札よりサイバー・ダーク・ホーンを攻撃表示で召喚!」

 

 

【サイバー・ダーク・ホーン】

闇属性 ☆4 機械族

攻撃力800

守備力800

このカードが召喚に成功した時、

自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族モンスター1体を

選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備した

モンスターの攻撃力分アップする。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、

その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

このカードが戦闘によって破壊される場合、

代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊する。

 

 

 奇妙な沈黙の中、亮が召喚したのは外骨格を思わせる機械族モンスターだった。

 サイバー・ドラゴンと同じ『サイバー』という名を冠しながら、ダークという名が示す通り属性は闇。サイバー流裏デッキの名に恥じないカードといえるだろう。

 だが危ういオーラとは反対にステータスそのものは貧弱そのものだ。

 

「攻撃力と守備力が……たったの800だと?」

 

「サイバー・ダークの真価はこれからだ。サイバー・ダーク・ホーンが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族モンスターを選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する! そしてサイバー・ダークは装備したモンスターの攻撃力を自身の攻撃力として獲得する。

 サイバー・ダーク・ホーン! 俺の墓地に眠りしハウンド・ドラゴンをフィールドに引きずり出せ!!」

 

 

【ハウンド・ドラゴン】

闇属性 ☆3 ドラゴン族

攻撃力1700

守備力100

鋭い牙で獲物を仕留めるドラゴン。

鋭く素早い動きで攻撃を繰り出すが、守備能力は持ち合わせていない。

 

 

 墓地での眠りから強制的に覚まされたハウンド・ドラゴンを、外骨格型のサイバー・ダークが挟みこんだ。

 ハウンド・ドラゴンのパワーがサイバー・ダークに流れ込んでいき、その力を増大させる。亮はサイバー・ダークに装備という言い方をしたが、これは装備というよりも寄生と呼ぶ方が適切だろう。

 

「ハウンド・ドラゴンの攻撃力は1700。つまりサイバー・ダークの攻撃力は1700上昇して2500となる!」

 

「……まさかレベル4モンスターが通常召喚されるだけで、帝モンスターのラインを超えた数値になるとは。だがその攻撃力では僕のHEROを倒すことはできない!」

 

「そう慌てるな。まだ俺のメインフェイズは終わっていない。魔法カード、パワーボンド! 手札のサイバー・ドラゴンとサイバー・ドラゴン・コアを手札融合! キメラテック・ランページ・ドラゴンを融合召喚!!」

 

「サイバー・ダーク以外にも新しいモンスターがいるのか!?」

 

 

【キメラテック・ランページ・ドラゴン】

闇属性 ☆5 機械族

攻撃力2100

守備力1600

「サイバー・ドラゴン」モンスター×2体以上

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

(1):このカードが融合召喚に成功した時、

このカードの融合素材としたモンスターの数まで

フィールドの魔法・罠カードを対象として発動できる。

そのカードを破壊する。

(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。

デッキから機械族・光属性モンスターを2体まで墓地へ送る。

このターン、このカードは通常攻撃に加えて、

この効果で墓地へ送ったモンスターの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。

 

 

 キメラテック・ランページ・ドラゴンはサイバー流裏デッキに分類されるカードでこそないが、属性はサイバー・ダークと同じ闇。

 サイバー流の掲げるリスペクトデュエルの精神は、時に相手を真っ向から力でねじ伏せる暴力性を見せる。ある意味ではサイバー・ダークと同じくサイバー流の暗黒面を象徴するカードといってもいいだろう。

 

「キメラテック・ランページ・ドラゴンの攻撃力は2100。しかしパワー・ボンドによって融合召喚されたモンスターは攻撃力が倍となる! よって攻撃力は4200ポイント! そしてキメラテック・ランページ・ドラゴンは素材としたモンスターの数まで、フィールドの魔法・罠カードを破壊する!」

 

「そのエフェクトにチェーンしてリバース発動、針虫の巣窟! 僕はデッキより五枚のカードを墓地へ送る!」

 

「だがキメラテック・ランページ・ドラゴンには更なる特殊能力がある! 一ターンに一度、デッキから機械族・光属性モンスターを二体まで墓地へ送り、その効果で墓地に送った枚数分だけ攻撃回数を増やす!

 俺はデッキからサイバー・ドラゴン・ツヴァイとサイバー・ドラゴン・ドライを墓地へ送る! よってキメラテック・ランページ・ドラゴンは三回の攻撃が可能となる!!」

 

「合計三回の攻撃だと!?」

 

 デュエルモンスターズには連続攻撃が可能なモンスターというのは数多くいる。しかしその多くが精々二回攻撃が限度で、三回以上の攻撃が可能なモンスターでもモンスターにしか攻撃できないという制限がかかっているものだ。

 まったくの制約なしに三回攻撃を可能にするキメラテック・ランページ・ドラゴンは脅威と言う他なかった。

 

「バトルだ! キメラテック・ランページ・ドラゴンでシャイニング・フレア・ウィングマンを攻撃! エヴォリューション・ランページ・バースト! 第一打ァ!! 続いてThe シャイニングを攻撃! 第二打ァ!!」

 

 エド・フェニックスLP4000→1300

 

 攻撃力4100のモンスターの連続攻撃に、エドのHEROたちは殲滅され、ライフもごっそりと削られる。

 そしてモンスターを全て失ったエドに、キメラテック・ランページ・ドラゴンの咆哮が迫ってきた。

 

「止めだ。キメラテック・ランページ・ドラゴンで相手プレイヤーを直接攻撃、エヴォリューション・ランページ・バースト!!」

 

「そうはさせない! 手札からバトル・フェーダーのエフェクト発動! このカードを場に特殊召喚し、バトルフェイズを終了させる!」

 

 後一歩のところでバトルフェーダーが立ち塞がり、エドのライフを守った。

 千載一遇の好機を逃してしまった亮は、流石に悔しげに眉を潜める。

 

「……ターンエンドだ。エンドフェイズ時、俺はサイバー・ランページ・ドラゴンの元々の攻撃力分のダメージを受ける」




 ジャックのARC-V登場(しかもOPまで出るほどガッツリ)が確定したので、ジャックについてのどうでもいい考察……。
 元キングといえばV兄様と並んで遊戯王の二大ニートとして有名である。
 クロウがデリバリーとしてバイトをして資金を稼ぎ、蟹がハイトマンのネジを締め直しに行ったり、Dホイールの開発に勤しむ中、仕事がまったく続かず仕舞いにはブルーアイズマウンテンを愛飲したり高価な服を買ったりするなど浪費の激しいジャック。
 唯一の収入源であるピリ辛レッドデーモンズヌードルの広告収入は、全てカップラーメンに注ぎ込まれるという本末転倒ぶり。
 デュエリストとしての実力は設定上クロウよりも上で、チーム5D'sの貴重な戦力ではあったが、大会の準備ではまったくの役立たずだったと言えるだろう。

――――けれど本当にそうなのだろうか?

 そもそもジャックはキングとしてネオドミノに君臨してきたわけで、当然プロとしてかなりの額を稼いできただろう。
 作中でプロデュエリストの年俸が明確に示されたことはないが、GXのエドが個人で巨大な船を所有していたあたりトッププロになるとかなりの額を稼ぐらしい。
 八百長キングとか元キングとか散々な言われようのジャックだが、キングとして活躍していたのならばエド以上は稼いでいるだろう。
 だというのに作中ではブルーアイズマウンテンを飲んではクロウにどつかれる毎日で、とても元キングらしいリッチっぷりは見られない。ブルーアイズマウンテンやカップラーメンなどにお金を使いまくるジャックも、流石に年俸全てを注ぎ込むことはしないだろう。そんなに一気に購入しても保存に悪いし……。ならば一体ジャックが稼いでいたであろう多額の年俸はどこへ消えたというのか。
 ここで思い出して欲しいのは、遊星たちがお金を稼いでいるのはDホイールを開発するためということ。
 作中の描写によれば、Dホイールの開発は企業がスポンサーになる必要があるほどお金のかかることらしい。そう言われればチーム太陽を除けば、作中登場したチームは皆が皆スポンサーや資金力を持っていそうな面々ばかり。
 幾ら遊星がそこらの廃材からDホイールを作ってしまえるメ蟹ックといえど、やはり最高のDホイールを開発するには最高品質の素材を使うにこしたことはない。
 だがクロウがデリバリーのバイトをどれだけ頑張っても、高く見積もった上にデュエリスト補正含めて月に100万円が限度だろう。蟹が同じ額を稼いだとしても200万円。日々生活していくには十分すぎるが、Dホイールを開発するには心許ない。
 かといって他のチーム5D'sの面々は記憶喪失の未来人ブルーノに学生のアキさんに子供の龍可と龍亞。どう考えてもお金を持っていそうではない。アキさんのパパや双子の親はお金を持っていそうだが、流石にチームメンバーの親にお金をせびるほど情けないことはしないだろう。サテライト暮らしでマーカーつきの遊星やクロウも、貯金などは皆無なのは間違いない。
 しかしチーム5D'sに一人だけ例外がいる。―――――ジャックだ。
 ネオドミノの復興が進み、予告されるWRGPの開催。デュエリストの本能を刺激され沸き立つ遊星たち。そこで突き当たる資金難という現実の壁。だがそこにジャックが颯爽と現れ、キングとして稼いできた全財産をポンと出資。
 クロウが「仕事しろ」と口を酸っぱくして言っているわりに、ジャックに本気で激怒したりしなかったのも「仕事しないのはカチンとくるけど、俺が稼ぐ百倍以上の全財産をポンと出してくれたしなぁ~」という複雑な心境があったからかもしれない。
 更に余談だがニートの定義とは家事をしておらず、就職活動もしておらず、教育を受けてもない若年のことなので、一応長続きしないだけで就職活動をしているジャックはニートではなく無職と言うべきだろう。152話で世界をブラブラしていたことも、キングになるための就職活動だったと言えなくもない。
 以上、無駄話おわり。


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第193話  相反する表裏

 海馬ドームに集まった観客の誰もが、絶体絶命の状況を新たなる切り札たちで覆したカイザー亮の華麗なる戦術に酔いしれていた。

 カイザー側の観客とエド側の観客のムードはまるっきり逆転し、会場には来れなかったデュエリスト達も今頃はサイバー流の強さに感動でも覚えている頃だろう。

 しかし極一部――――カイザー亮という偶像ではなく、丸藤亮を知る人間達の反応はまるっきり逆のものだった。

 不動博士の好意で研究室のTVを見せてもらっていた丈は、サイバー・ダークを見詰めながら眉間に皺を寄せる。

 

「サイバー・ダーク……………これは、ちと不味いかもしれないな……」

 

「君がそこまで深刻になるとは、サイバー流裏デッキはそんなに危険なのか?」

 

「そうじゃない。確かにサイバー・ダークは危険なカードだ。こうしてTV越しでも貪欲なまでの力への渇望がびんびん感じる。下手なデュエリストなら、サイバー・ダークの持つ『力への渇望』に生命力を奪われ、身体を傷つけていくだろう。

 だが亮は三邪神やダークネスとも一歩も引かずに戦い抜いたデュエリスト。今更サイバー・ダークの渇望にやられるほど軟じゃないはずだ」

 

 研究を休みにして、丈と一緒にTVを見ていた不動博士の疑問に応える。

 サイバー・ダークは危険なカードであるが、流石に三邪神や三幻魔のように世界そのものを壊すほどの力は持っていない。四天王の一員であり、幾度となく世界の危機に巻き込まれた亮ならば抑え込むことは難しくはないだろう。

 

「ならば何が危険なのだ?」

 

 不動博士の疑問は同じようにデュエルを視聴していたルドガーとレクスも抱いたようだ。その視線を丈へ向ける。

 

「難しく考える必要はない。デュエルの勝敗だよ」

 

 一方その頃。久方ぶりに実家へ帰郷していた藤原は、従兄妹の雪乃に丈とまったく同じ話をしていた。

 藤原は裏サイバー流のカードであるサイバー・ダーク・ホーンと、禍々しくはあるがサイバー流表デッキに分類されるキメラテック・ランページ・ドラゴンを見比べる。

 

「デュエルの勝敗? それのなにが危険なのかしら? 私にはどこからどう見てもカイザーが押しているように見えるのだけれど」

 

「今のところはね。だけど所詮は今現在の戦況さ。別にエドのライフが0になったわけでもなんでもない」

 

 ある一定以上の実力をもつデュエリスト同士が戦った場合、戦況がターン毎にコロコロと逆転するのはよくあることだ。デュエル・アカデミア時代も四天王同士でデュエルをすれば、何度もそういう事態が発生した。

 エドの手札はゼロで、亮のフィールドにはサイバー・ダーク・ホーンとキメラテック・ランページ・ドラゴン。だがそういう劣勢をたった一枚のドローで覆せるのがデュエルモンスターズというものである。

 

「理屈は分かるけれど、そんなことは他のプロとのデュエルでもあることでしょう。あのカイザーにとってエド・フェニックスは貴方や他の四天王以上にトクベツな男なの?」

 

「それは違うよ」

 

 特別のところを妙にエロティックな響きで発音したことはスルーして、藤原は冷静に続ける。

 

「今回のデュエルがいつもと違うのは、亮のデッキにサイバー流裏デッキのカードが投入されていることさ。一口に表と裏といっても、デュエルを見る限りサイバー流裏デッキ……サイバー・ダークの動き方は、表サイバー流とかなり異なる」

 

「慣れないデッキを使っているから100%の力を出し切れない…………そういうことなのかしら?」

 

「いいや」

 

 藤原が口を開くよりも早く、自室で最愛の妹からの電話を受けていた吹雪が答える。

 吹雪もまた他の二人と同じように、カイザー亮VSエド・フェニックスのデュエルを視聴しながら、珍しく厳しい目をしていた。

 

「亮はサイバー流の爆発的火力ばかりが注目されがちだが、パワーを活かすためのテクニックもトップクラスだ。表サイバー流とは異なるサイバー・ダークも100%力を引き出すことが出来るはずだよ」

 

『意味が分からないわ。サイバー・ダークを100%使いこなせているのに、どうして兄さんは亮が危険だなんて言うの?』

 

「アスリン。カイザー亮というデュエリストはね。僕達『四天王』の中で最もカードへの愛が深い男なんだ……。僕達のカードへの愛が浅いとか言うんじゃないよ? でもね、亮ほどたった一枚のカードを一途に愛せる男なんて、それこそ僕は他に海馬社長くらいしか知らない」

 

 世界に四枚しかないと伝えられる『青眼の白龍』を誰よりも愛した海馬瀬人という男は、余りにも強烈過ぎる愛から、強引な手段を用いてでも『青眼の白龍』を独占し、自分のものにならなかった一枚は破き捨てたという。

 流石に亮は他の誰かがサイバー・ドラゴンを使っても同じ凶行などしたりはしないだろうが、サイバー・ドラゴンに深い愛をもっているのは間違いない。

 

「確かに亮ならサイバー・ダークを100%使いこなせる。だけどこれまで亮はサイバー・ドラゴンの力を300%引き出していたんだ。或は亮が使っているのが純粋なサイバー・ダークだけのデッキで、サイバー・ドラゴンはサポート程度なら問題は起こりはしなかったかもしれない。

 けれど亮が使用しているのは、これまでのデュエルを見る限り表と裏を兼ね備えた表裏一体。これじゃ表が裏を、裏を表が足を引っ張って十分に力を発揮できないよ」

 

 余りにも表サイバー流を極めすぎてしまったが故に、それ以外の異物が混ざるとバランスを崩してしまう。

 亮の強さはサイバー・ドラゴンへのひたむきな愛を柱としたものだったが、サイバー・ダークという表にとっては異物なものを投入したことで、逆にサイバー・ドラゴンへの愛が重荷となってしまっているのだ。

 

「うーん。例えるならサイバー・ドラゴンは十年来付き添ってきた王妃で、サイバー・ダークはいきなり王が連れてきた第二王妃といった感じかな? ほら、正妻と愛人のドロドロした関係だよ。離婚調停とかでもよく見るあれさ」

 

『兄さん。その例えは分かり易いけど、なにかがおかしい気がするわ』

 

「そうかい?」

 

『でも――――――だけど私には、あのカイザー亮が負けるとは思えないわ。だいたいエド・フェニックスは幾らプロといっても、私や十代達よりも年下じゃない』

 

「明日香。それはエド・フェニックスを舐めすぎだよ」

 

 ネオ・グールズとの戦いやダークネス事件。それらを悉く解決に導き、また常勝無敗を誇った四人のデュエリスト達。デュエル・アカデミアの生徒達にとって『四天王』という存在は、ある種の信仰とすらいえる程のカリスマをもっていた。

 それは天上院吹雪の実妹で、四天王に近い位置にいた明日香とて同じである。あのカイザー亮がデュエルで遅れをとるはずがない――――そんな考えがあるのだ。恐らく明日香だけではなく万丈目は翔、あの十代にまでも。

 

「エド・フェニックスはあのHEROシリーズやプラネットシリーズを世に送り出したカードデザイナー、フェニックス氏の息子だぞ。しかも彼の親代わりなのはアメリカ・アカデミアのマッケンジー校長で、後見人はあのDDだ。

 言うなればエド・フェニックスという男は、デュエルモンスターズ界のサラブレッド。万全だったとしても、必勝を誓えるような相手じゃないよ。ましてや万全の力を発揮できない今の亮じゃ、勝つのは厳しいかもしれないね」

 

 吹雪はそう締めくくった。

 場所こそ異なるが不動博士、雪乃、明日香は、カイザーを知る三人のデュエリストの下した評価に沈黙する。

 しかしやはり三人はほぼ同時に悪戯っぽく笑うと、

 

「もっとも亮が負けるとは言ってないけれど」

 

 

 

 

 

 

 

カイザー亮  LP1900 手札1枚

場 サイバー・ダーク・ホーン、キメラテック・ランページ・ドラゴン

伏せ 一枚

 

エド・フェニックス LP1300 手札0枚

場 バトルフェーダー

伏せ 一枚

 

 

 

 丈、吹雪、藤原の三人が言っていたことなどは、当の本人である亮自身が一番身に染みて理解していた。つい先程のターンで満を持してサイバー・ダークを召喚しておきながら、結局相手モンスターの一掃をキメラテック・ランページ・ドラゴンに任せてしまったのもその証明といえる。

 極端な話をすれば、表サイバー流のギミックを廃除して、サイバー・ダークに特化させてしまった方が勝率は上がる可能性が高い。しかしサイバー流を更なる強さへ到達させるためには、どうしても表と裏を一つとする必要があるのだ。

 その為ならばカイザー亮は敢えて茨にも飛び込む。

 

「どうしたんだ、カイザー。追い詰められているのは僕なのに、そちらのほうが切羽詰った表情じゃないか」

 

「…………」

 

 明日香たちは気付かなかった亮のデッキに起こっている異常。それを実際に対戦しているエドは感付いているのか、見透かしたように言ってきた。

 亮は腕を組んだままポーカーフェイスでエドの言葉を聞き流す。

 

「僕のターン、ドロー。僕の手札はこれで一枚……………この戦況を打開するには、手札が心許ない。なので一つ休憩といこう。僕は一時休戦を発動。このエフェクトにより互いのプレイヤーはカードを一枚ドローし、次の相手ターンが終了するまで互いのプレイヤーはダメージを受けない」

 

 

【一時休戦】

通常魔法カード

お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。

次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。

 

 

 これで亮がターンを終了するまでエドも亮もダメージを受けることはなくなった。

 相手にもドローさせるというのが難点であるが、手札を消費せずにターンを引き延ばせる一時休戦は良いカードである。丈が前に『便乗』とのコンボを使用していたので、その効果は亮もよく覚えていた。

 

「僕はこれでターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。バトルだ、サイバー・ダーク・ホーンでバトルフェーダーを攻撃」

 

 一時休戦はあくまでもダメージを0にするだけ。モンスターを戦闘破壊することは可能だ。サイバー・ダーク・ホーンの攻撃で亮の勝利を妨害したバトルフェーダーは破壊される。

 効果によって特殊召喚されたバトルフェーダーは除外されるので、このデュエル中にバトルフェーダーが再利用される可能性は低いだろう。

 

「メインフェイズ2。リバースカードを一枚伏せターンエンドだ」

 




表サイバー「裏に浮気するなんてカイザーの馬鹿! もう離婚よ!」

裏サイバー「カイザーは私のものだ。元嫁……もとい表は消えろ」

混沌帝龍「光と闇が喧嘩してるせいで出てこれない件」


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第194話  D

カイザー亮  LP1900 手札2枚

場 サイバー・ダーク・ホーン、キメラテック・ランページ・ドラゴン

伏せ 二枚

 

エド・フェニックス LP1300 手札0枚

場 無し

伏せ 一枚

 

 

 一時休戦によって、戦いはほんの2ターンの間だけ停滞したが、その効果は亮のエンド宣言と共に消えた。

 これから再び亮とエドによる互いの持つ力の全てを出した、総力戦が繰り広げられる…………と、観客どころかエドの対戦相手たる亮すらがそう思っている。或はこのデュエルをTVで見ている他の四天王たちも同じかもしれない。

 しかし恐らくはDDやマッケンジー校長などの『エド・フェニックス』に極々近しい人間しか知らないことだが、エド・フェニックスは未だに己の全ての力を出してなどいないのだ。

 

「ふふ……」

 

「何が可笑しい?」

 

「いや僕としては『こっち』はHERO使いである遊城十代とのデュエルまでとっておきたかったんだがね。流石にあのカイザー相手にこっちの切り札を温存したままというのは分が悪い」

 

「なに? お前はHERO使いではなかったのか!?」

 

「勿論そうだ。僕がHEROデッキの使い手なのは嘘じゃない。だから僕の奥の手というのも無論『HERO』さ。といっても遊城十代や宍戸丈の『HERO』じゃない」

 

「馬鹿な。そんなHEROがこの地球上に存在するはずがない!」

 

 十代や丈など周りに二人もHERO使いがいたお蔭で、亮はこの地球上に存在するほぼ全てのHEROカードについて知っている。

 異なるモンスターと融合することで真価を発揮するE・HERO、二体のHEROが力を重ねることで誕生するV・HERO、仮面を被ることで新生するM・HERO、そして二体のM・HEROが融合することで誕生する混沌の戦士C・HERO。これがHEROカードの全てだ。他のHEROなど亮の知る限り他に存在しない。

 

「それがあるんだよ。未だ嘗て誰も知らない『運命』を支配する最強のHEROが! 僕のターン、ドロー! 強欲な壺で二枚カードをドロー。僕は手札のD・HEROダイヤモンドガイを攻撃表示で召喚する!!」

 

 

【D-HERO ダイヤモンドガイ】

闇属性 ☆4 戦士族

攻撃力1400

守備力1600

このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する時、

自分のデッキの一番上のカードを確認する事ができる。

それが通常魔法カードだった場合そのカードを墓地へ送り、

次の自分のターンのメインフェイズ時に

その通常魔法カードの効果を発動する事ができる。

通常魔法カード以外の場合にはデッキの一番下に戻す。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

 エドが自らの気高い誇りを言霊にして、誰も知らないHEROの名前を呼んだ。

 アメリカンコミックのヒーローをイメージしているE・HEROとは赴きの異なる、英国のヒーローを思わせるダイヤモンドの戦士がフィールドに出現した。

 

「D-HERO!? こんなHEROがあったのか!?」

 

「D-HERO ダイヤモンドガイはHEROというカテゴリーを世に送り出した僕の父が、人生の最期に生み出した遺作……。その力は地球上に存在する全てのHEROをも凌ぐ!」

 

「!」

 

「ダイヤモンドガイのエフェクト発動。1ターンに1度、デッキトップを確認し通常魔法なら墓地へ送る。違った場合はデッキの一番下に戻す。

 このエフェクトにより僕はデッキの一番上のカードをめくる。めくったカードは通常魔法、終わりの始まり。よってこのカードを墓地へ送る」

 

 

【終わりの始まり】

通常魔法カード

自分の墓地に闇属性モンスターが7体以上存在する場合に発動する事ができる。

自分の墓地に存在する闇属性モンスター5体をゲームから除外する事で、

自分のデッキからカードを3枚ドローする。

 

 

 終わりの始まりは一気に三枚ものカードをドローする、強力なドローソースであるが、厳しい発動条件により投入できるデッキの限られたカードだ。

 D-HEROダイヤモンドガイの属性は闇。もしD-HEROが闇属性ばかりのHEROならば、このカードが入っていても不思議ではない。

 

「僕はリバースカードを一枚セット。ターンエンドだ」

 

「……通常魔法を墓地へ送り、リバースカードを伏せただけでターンエンドとはな。D-HEROの力を見せてくれるのではなかったのか?」

 

「焦らなくても次の僕のターンには、厭だと言われてもたっぷり見ることになる。Eを超えたDの力を!」

 

「ならばお前のターンが来る前に片を付けるまでだ。俺のターン、ドロー。強欲な壺でデッキよりカードを二枚ドローする。

 手札より融合を発動。場のサイバー・ダーク・ホーン、手札のサイバー・ダーク・キール、サイバー・ダーク・エッジを融合。

 そちらが地球上最強のHEROで来るというのであれば、俺はサイバー流裏デッキ最強のモンスターで迎え撃つまでだ。

 サイバー流の歴史の闇に封じられし悪しき機械の竜よ。無間の地獄を踏破し、今こそ我が戦列に加わるがいい! 現れろ、鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン!」

 

 

【鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン】

闇属性 ☆8 機械族

攻撃力1000

守備力1000

「サイバー・ダーク・ホーン」+「サイバー・ダーク・エッジ」+「サイバー・ダーク・キール」

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

このカードが特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在する

ドラゴン族モンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。

また、このカードの攻撃力は自分の墓地のモンスターの数×100ポイントアップする。

このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊する。

 

 

 三体のサイバー・ダークが合体して、一つのモンスターとして生まれ変わる。三体のサイバー・ダークが複雑に絡み合い合体した姿は、どこか不気味で、振れただけで心臓を潰すほど危険なオーラを漂わせていた。

 

「サイバー流の看板は三体のサイバー・ドラゴンの融合体であるサイバー・エンド・ドラゴン。なら裏サイバー流の切り札はサイバー・ダーク三体融合ということか」

 

「その通り。変幻自在にして剛力無双。〝融合召喚〟を極めたサイバー流に隙は無い。サイバー・ダーク・ドラゴンのモンスター効果! このカードが特殊召喚に成功した時、墓地に眠るドラゴン族モンスターを引きずり出し装備カードとする!

 サイバー・ダーク・ドラゴン! 俺の墓地にいるラビードラゴンを引きずり出し糧としろ!!」

 

 引力に引き込まれるように墓地で眠りについていたラビードラゴンが引きずり出され、サイバー・ダーク・ドラゴンがそれに絡みつく。

 下級サイバー・ダークには装備できるのはレベル3以下という制限がついていたが、サイバー・ダーク・ドラゴンにはそのような制限はない。

 

「これによりサイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力は2950ポイントアップ。更にサイバー・ダーク・ドラゴンは自分の墓地にいるモンスターの数×100ポイント攻撃力をアップさせる!

 俺の墓地にあるモンスターカードの数は12枚。よって1200ポイントアップ! ラビードラゴンも合計してサイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力は5150だ!!

 キメラテック・ランページ・ドラゴンの効果でサイバー・ジラフとサイバー・ドラゴン・ツヴァイを墓地へ送る。バトル! サイバー・ダーク・ドラゴンでダイヤモンドガイを攻撃! フル・ダークネス・バースト!!」

 

「罠発動、体力増強剤スーパーZ! このエフェクトにより、僕はダメージを受ける前にライフを4000ポイント回復させる!」

 

 

【体力増強剤スーパーZ】

通常罠カード

このターンのダメージステップ時に相手から

2000ポイント以上の戦闘ダメージを受ける場合、

その戦闘ダメージがライフポイントから引かれる前に、

一度だけ4000ライフポイント回復する。

 

 エドLP→1300→5300→1550

 

 サイバー・ダークの魂を削る一撃は一瞬でダイヤモンドガイを消滅させるが、エドのライフを削り切るには足りなかった。

 けれど亮の場にはまだ三回攻撃が可能なキメラテック・ランページ・ドラゴンが残っている。

 

「キメラテック・ランページ・ドラゴンで相手プレイヤーを直接攻撃! エヴォリューション。ランページ・バースト! サァンレンダァ!!」

 

「フッ。厄介なそのモンスターには退場してもらうよ。速攻魔法、死者への供物! 次の僕のターンのドローをスキップすることを代償に、フィールド上のモンスター1体を破壊する!」

 

「なに!?」

 

 

【死者への供物】

速攻魔法カード

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊する。

次の自分のドローフェイズをスキップする。

 

 

 地面から這い出てきた包帯がキメラテック・ランページ・ドラゴンを包み込み、死者の怨念がそれを締め殺した。

 ドローというデュエリストにとっては大きすぎる代償はあるものの、速攻魔法でモンスターを破壊できる効果は強力である。

 

「またしても仕留めきれなかったか。俺はターンエンドだ……」

 

 エド・フェニックスが口端を釣り上げた。

 このターンで決着をつけきれなかったのは亮にとって最大の失策だったといえる。何故ならばエドが〝逆転〟するという〝運命〟は前のターンに決まっていたのだから。

 終わりの始まりが訪れる。




 遊矢は柚子とユートは瑠璃と融合じゃないユーゴはリンと其々深い仲っぽいのに、まったくセレナと関わりがなさそうなユーリ。しかもOPに未登場でフュージョン・ドラゴン(仮名)の登場はいつになるかまったくの不明。OCG化は更に不明。ユーリは犠牲になったのだ……シンクロ編への移行、その犠牲にな……。
 あと異世界との開戦を宣言しても塾の宣伝を忘れないひみかちゃんは経営者の鏡。


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第195話  裏切りの機光竜

カイザー亮  LP1900 手札0枚

場 サイバー・ダーク・ドラゴン

伏せ 二枚

 

エド・フェニックス LP1550 手札0枚

場 無し

伏せ 一枚

 

 

 物語には多くの作品で使われる常套句のようなものがある。

 復讐なんて死んだ人は望んでいない、人を殺して幸せになれるはずがない、真実を知りたいなどなど。その手の台詞は幾つもあるだろう。

 そして〝運命は変えられる〟という言葉も多くの物語で見かけることのある常套句の一つだ。

 しかし多くの人間が多用するものが必ずしも真実とは限らないし、多くの人間が支持するものが正解とは限らない。

 遥か昔は大勢の人間が世界は水平であると信じていたし、自分の立つ大地は不動のまま星々だけが動いていると信じていた。

 運命は変えられるというが、本当のところは果たしてどうなのだろうか。

 変えられるのか、それとも変えられないのか。もし変えることが出来たとして、変えられた運命はもはや運命とは言えないのではないか。そういった疑問も出てくる。

 だがこの時、カイザー亮とエド・フェニックスとのデュエルにおいてそういったまどろっこしいことを考える必要はない。エド・フェニックスがこのターンに逆転するという運命は覆らないのだから。

 

「僕のターン……このターン、僕は死者への供物のエフェクトによりドローフェイズをスキップされる。だがドローはさせて貰う」

 

「なに?」

 

「僕は前のターンでダイヤモンドガイが定めた〝運命〟を行使する! 僕はダイヤモンドガイの効果で墓地へ送られた魔法カード『終わりの始まり』のエフェクトを発動!!」

 

「墓地から魔法だと!? だが終わりの始まりを発動するには闇属性モンスターが七体墓地にいることが条件のはずだ!」

 

「ダイヤモンドガイの効果で墓地へ送られた魔法効果の発動に制約やコストは不要。どのようなカードでもコストを踏み倒して発動することができる」

 

「馬鹿な……」

 

 亮とて阿呆ではない。ダイヤモンドガイのモンスター効果が単に通常魔法を墓地へ送るだけでないことくらいは予想していた。

 しかし墓地へ送った通常魔法を、コストを踏み倒して発動するというのは、流石の亮にも想定外だった。運命の鎖に首が絞めつけられていく感覚に亮は冷や汗を流す。

 

「終わりの始まりのエフェクトにより僕はカードを三枚ドロー。そして魔法カード、デステニー・ドローを発動! 手札のD-HEROを一枚捨てることでカードを二枚ドローする。僕はD-HEROディアボリックガイをセメタリーへ捨て二枚ドロー!

 更に僕はおろかな埋葬のエフェクトを発動し、デッキよりD-HEROディスクガイを墓地へ送る。リバースカードオープン! リビングデッドの呼び声! 僕のセメタリーに眠るモンスターを攻撃表示で復活させる。僕はディスクガイを蘇生!

 ディスクガイのエフェクト発動! ディスクガイが墓地からの特殊召喚に成功した時、僕はカードを二枚ドローする!」

 

「なんという凄まじいドローを……」

 

 

【D-HERO ディスクガイ】

闇属性 ☆1 戦士族

攻撃力200

守備力200

このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、

自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

【D-HERO ディアボリックガイ】

闇属性 ☆6 戦士族

攻撃力800

守備力800

自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。

自分のデッキから「D-HERO ディアボリックガイ」1体を

自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 

 ドローフェイズをスキップしておきながら、これでエドは七枚のカードを一気にドローした計算となる。手札の数が勝敗を左右するといっても過言ではないデュエルモンスターズにおいて、ここまでのドローは驚異的と言う他ない。

 そしてエド・フェニックスほどのプロデュエリストが七枚ものドローを行ったのである。逆転のカードを引き当てるのも必然だ。

 

「さて、カイザー亮。D-HEROの真の恐ろしさたっぷり味わえ。D-HEROデビルガイを攻撃表示で召喚する!」

 

 

【D-HERO デビルガイ】

闇属性 ☆3 戦士族

攻撃力600

守備力800

このカードが自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する場合、

1ターンに1度だけ相手モンスター1体をゲームから除外する事ができる。

この効果を使用したプレイヤーはこのターン戦闘を行えない。

この効果によって除外したモンスターは、

2回目の自分のスタンバイフェイズ時に同じ表示形式で相手フィールド上に戻る。

 

 

 悪魔を模した衣装に白貌。悪魔(デビル)としか言いようがない不気味なHEROが新たに出現する。

 ステータスはそう高くはないが、サイバー・ダークのように低いからこそ強力な効果をもっている可能性が高い。

 そんな亮の考えを裏付けるようにエド・フェニックスが自らのしもべの効果を発動させる。

 

「デビルガイのモンスターエフェクト! 1ターンに1度、相手モンスターを2ターン後のスタンバイフェイズまでゲームより除外する!」

 

「ダイヤモンドガイは未来の運命を確定させ、デビルガイはモンスターを未来へ飛ばす。D-HEROは時間を操るとでも言うのか?」

 

「その通りだ! 僕はサイバー・ダーク・ドラゴンをゲームより除外する!」

 

「くっ……!」

 

 サイバー流裏デッキの象徴も除外にはなんの抵抗力も持っていなかった。しかも悪いことに装備カードを喪失したサイバー・ダークは攻撃力1000のモンスターに過ぎない。例え2ターン後に戻ってきたとしても大した力にはならないだろう。

 

「このまま攻撃といきたいところだが、デビルガイのエフェクトを発動したターン、僕はバトルを行うことが出来ない。しかし駄目押しはさせて貰おうか。

 墓地のD-HEROディアボリックガイをゲームより除外。その効果により二体目のディアボリックガイをデッキより特殊召喚する!

 魅せてやるカイザー。これがHEROデッキの切り札だ。このカードはD-HEROを含めた三体のモンスターを生け贄とすることで特殊召喚することが出来る。僕は三体のD-HEROを生け贄とする!」

 

『D-HEROが三体……。来るぞ、カイザー!』

 

 実況が青褪めた声で言う。

 三体のモンスターを生け贄に召喚されるモンスターといえば、まず真っ先に思い浮かぶのは三幻神と三邪神。そして次にバルバロスやギルフォード・ザ・ライトニング、あの幻魔の一体であるラビエルなど。

 謂わば三体の生け贄とは強力なモンスターを呼び出すための通過儀礼のようなものだ。

 神と似通った召喚方法で呼び出されるHEROは、真実D-HEROの切り札である。

 

「現れろ! D-HEROドグマガイ!!」

 

 

【D-HERO ドグマガイ】

闇属性 ☆8 戦士族

攻撃力3400

守備力2400

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上の「D-HERO」と名のついたモンスターを含む

モンスター3体を生け贄にした場合のみ特殊召喚できる。

この方法で特殊召喚に成功した次の相手のスタンバイフェイズ時、

相手ライフを半分にする。

 

 

 悪魔の翼を生やした漆黒のD。Dの〝教義〟によって世界にただ一つの真実を示すHEROがフィールドに顕現する。

 ダイヤモンドガイやデビルガイとは比べものにならないプレッシャーに、亮はこのカードをエドが頼りにしていることに納得を覚えた。

 

「僕はターンエンドだ」

 

「……俺のターン、ドロー!」

 

「このスタンバイフェイズにドグマガイのエフェクト発動。相手ライフを半分にする!」

 

「!」

 

 丸藤亮LP1900→950

 

 ダイヤモンドガイにデビルガイに続いて、ライフを半分にするというドグマガイ。D-HEROの能力はこれまでのHEROとは一味違う。

 亮にとって幸いだったのはライフが1900で、ライフ半減の被害が少なかったことだろう。こんなものを序盤で使われては溜まらない。

 

「だが! 如何にお前のHEROが強くとも俺のサイバー・ドラゴンは更にその先をゆく!! 墓地のサイバー・ドラゴン・コアをゲームより除外、デッキよりサイバー・ドラゴンを特殊召喚!

 魔法カード、死者蘇生! お前の墓地よりD-HEROディスクガイを蘇生する! ディスクガイのドロー効果は、このカードを蘇生したプレイヤーに作用する。よって俺はカードを二枚ドロー!」

 

「僕のD-HEROを使って手札を増やした。やるじゃないか、カイザー。だが判断をミスしたんじゃないかな? ディスクガイではなくデビルガイを蘇生していれば、ドグマガイを2ターン先の未来へ飛ばすことができていたというのに」」

 

「俺はこれまでサイバー・ドラゴンと共に生きてきた。勝利も敗北も――――俺はサイバー・ドラゴンと共にある! 俺はカードを二枚ドロー!」

 

 敵のカードではなく自分のカードを信じて、丸藤亮は二枚のカードをドローする。

 そしてドローしたカードを見た途端、亮の目が大きく見開かれた。

 

(…………この、カードは…………)

 

 亮が信じた最強の融合カードであるパワーボンド、なによりも頼りにしたサイバー・ドラゴン、渇望したサイバー・ダーク。ドローしたカードはそのどれでもなかった。

 ドローしたのは二枚とも全て罠カード。それもサイバー流とはなんの関係もないカードだった。

 

(オレを、見放したと言うのか…………サイバー・ドラゴンが……)

 

「どうしたカイザー? なにを固まっている」

 

「………………俺はリバースを一枚伏せる。ターン終了だ」

 

「僕のターン、サイクロンを発動! 右のリバースカードを破壊する」

 

 サイクロンが破壊したカードはマジックシリンダー。

 この発動が成功していれば一発逆転も出来たトラップであるが、サイクロンによってあっさり逆転の目は塞がれた。

 これでもうカイザー亮に逆転の目は何一つとして残されてはいない。

 

「僕はメインフェイズを終了し――――」

 

「罠発動、威嚇する咆哮。これでお前のバトルフェイズは……」

 

「カウンター罠、神の宣告。ライフを半分支払いそれを無効にする」

 

 エドLP1550→775

 

「…………」

 

「もう終わりだ! ドグマガイでサイバー・ドラゴンを攻撃! デス・クロニクル!!」

 

「俺は……俺はッ! リバースカードオープン、破壊指輪! 俺はサイバー・ドラゴンを破壊し、互いのライフへ1000ポイントのダメージを与える!!」

 

「なんだと!?」

 

「サイバー・ドラゴンよ。お前が俺を見捨てるというのならばそれでいい。だが俺と運命は共にしてもらうぞ」

 

 破壊の指輪がサイバー・ドラゴンを破壊し、その残骸は咎めるように亮の体へと降り注ぐ。

 熾烈な戦いの果ての引き分けに盛り上がる会場とは裏腹に、丸藤亮の心はただただ冷え切っていた。

 



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第196話  乙女

 エド・フェニックスとの一戦以来、カイザーこと亮のデュエルは明らかに精細を欠いていた。

 プロ入りから常勝無敗を貫いていた戦績は、今では黒星と白星が均等に並ぶようになり、凡庸な成績が続くようになっていた。初手にサイバー・ドラゴン三体が揃うことはまるでなくなり、手札事故もそれなりの頻度で起こるようになっている。

 数々の修羅場を潜り抜けた経験で失ったものを補っているからこそ、どうにか凡庸で踏みとどまることが出来ているが、もしも命懸けの戦いをした経験がなければ、今頃亮は連戦連敗を重ねてマイナー落ちしていたかもしれない。

 対するエド・フェニックスはといえば、D-HEROのお披露目を勝利で飾ることこそ出来なかったが成績は絶好調。亮とのデュエル以降の試合は全て白星である。風の噂ではデュエル・アカデミアであの十代をも撃破したという話だが、今の亮には後輩と母校のことを気に掛ける余裕はなかった。

 あの海馬瀬人が作り上げただけあって、プロの世界は完全なる実力社会だ。人種、宗教、肌の色、国籍、年季……。その他諸々全てが度外視され、純然たる成績のみが評価される。

 どうにか凡庸な成績を保っているとはいえ、今の自分ではなにかの拍子に最下層に落ちないとも限らない。そのことは亮自身が一番分かっていた。

 

(俺の戦績が……いや、デュエリストとしての引きの強さを失った原因。それは……分かっている……)

 

 亮の引きの強さが落ちたのは、エド・フェニックスとのデュエルからだ。もっと言えばサイバー・ダークを実戦に投入してからである。

 誰よりもカイザー亮という男と共に戦ってきたからこそ、自分の主人がサイバー・ダークを鮮烈に加えたことに不快感をもっているサイバー・ドラゴン。そして力への渇望から丸藤亮という男を己に取り込もうとするサイバー・ダーク。

 この反発こそが亮が思うようなデュエルが出来なくなっている原因である。ならばサイバー・ダークをデッキから排除すれば、サイバー・ドラゴンも機嫌を直し嘗ての力を取り戻すことが出来る筈だ。

 目の前に提示されている安易な解決法。だが亮はそれを振り払う。

 

(駄目だ……。俺は更なる高みへ登り詰める為にサイバー・ダークを師範から託された。今此処でサイバー・ダークを捨てても結局は元の木阿弥。

 嘗ての力を取り戻すことが出来たとしても、それは停滞に過ぎない。デュエルの世界は日々進化していっている。歩みを止めたデュエリストに未来はない)

 

 宍戸丈、天上院吹雪、藤原優介。三人の友の顔を思い浮かべる。

 あの三人は今この瞬間にもプロリーグで鎬を削り、更なる進歩を続けているだろう。自分だけがここで立ち止まっている訳にはいかない。

 

(だがどうする?)

 

 これまで亮は一途にサイバー・ドラゴンを信じ続け、サイバー・ドラゴンもそれに応えてくれた。そのため今回のようにサイバー・ドラゴンが反発してきた場合の対処法など、亮には皆目見当もつかない。

 それにサイバー・ドラゴンをなんとか出来たとしても、サイバー・ダークの問題が解決しない限りは意味などはないのだ。

 

(幼い頃であれば道に迷った時や壁にぶつかった時は、師範に教えを乞えば直ぐに解決策が返ってきた。だが俺はもう幼い子供ではない。それに――――)

 

 サイバー流裏デッキはあの『マスター鮫島』すら制御することができず、封印するしか出来なかった闇のカード。無礼であるが例え鮫島でも、サイバー・ダークの御し方など分かりはしないだろう。

 亮は深い思考に没頭しながら夜の街を歩く。プロとして活動する際の黒いコートではなく、普通の私服を着込んでいるからか、それともカイザー亮というデュエリストが世間から忘れ去られているからなのか。道行く人に見つかって群がられる、というようなことはなかった。

 人間の興味というのは移ろいやすいもの。世間を騒がせたプロデュエリストも、常に成績を出し続けなければ一か月後にはただの人だ。

 だが中にはどれだけ世間の興味が他へ移ろうとも、一途に想い続ける本物のファンというのも存在する。

 

「あのっ!」

 

 人気のない路地に鈴のような少女の声が響く。

 

「……………もしかして、俺のことか?」

 

 数瞬遅れてその声が自分を呼んでいることに気付き、亮はゆっくりと後ろを振り返った。

 まず目についたのは幼いとすら言える小躯。クリッとした目ははっきり開かれていて、ストレートに伸びた髪は月明かりによく栄えている。

 

「はい! あの亮様、御久しぶりです!」

 

「久しぶり? 俺には君のような知り合いなどいないが…………待て。もしやお前は……レイか!?」

 

 早乙女レイ。かれこれ七年ほど前、亮がまだデュエル・アカデミア中等部に入学するよりも前の時。丈と共にデュエルを教えていた少女だ。

 七年間メールと電話ばかりで直接は会っていなかったせいでまったく気付かなかった。

 

「そうか。こうして対面しただけで分かる。デュエリストとしての気迫が七年前とは段違いだ。一見するとスリムなボディも、デュエルに必要な筋肉が良い具合に発達している。成長したな、レイ。立派になったものだ……」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 早乙女レイにとって丸藤亮と宍戸丈の二人は憧れのデュエリストだ。世界で最も尊敬しているデュエリストの名前を二人あげろと言われたのならば、レイは確実に亮と丈の名前をあげるだろう。

 そんな憧れの相手に褒められてレイの頬がトマトのように赤くなる。

 

「今日はいきなりどうしたんだ? 家に来れば茶くらいは出すぞ」

 

「じ、実は…………えと」

 

 レイは周囲をキョロキョロと見渡して誰もいないことを確認すると、気合いを入れるように下唇を噛んだ。そして、

 

「亮さまのことがずっと好きでした! 付き合って下さい!!」

 

 レイはありったけの勇気を振り絞って、七年間ずっと秘めてきた想いをぶつけた。

 

「……………………………………………………なに?」

 

 これまで友人の吹雪が女の尻を追いかけたり、女に尻を追いかけられたりすることは多々あったが、自分自身の恋愛については全くの興味なしだった亮である。エド戦やサイバー・ダークのことが尾を引いている中、いきなり嘗て可愛がっていた妹分の少女の告白に頭の中が真っ白になった。

 なんということはない。百選連覇のデュエリストも、恋愛に関してはド素人だったというだけの話だ。

 

「ずっと好きだったんです、七年前から……。丈サマも憧れのデュエリストではあるんですけど、やっぱりデュエリストじゃなくて恋する相手として好きなのはずっと亮サマで……。だからお願いします。恋する乙女の気持ちを受け止めて下さい!」

 

 変化球のない感情を相手にそのまま叩き付けたストレートな告白。恋愛にまるで興味のなかった亮も、真っ直ぐな本当の気持ちはずっしりと心にきた。

 こういう時、丈や藤原は別として吹雪であれば気の利いたセリフを返すことも出来るのだろう。だがこの手のことに生涯でまったく関わってこなかったせいで、亮にはどう答えたらいいか分からない。

 それでも真面目な性分から黙り込んでいることも出来ず、飾らない本心をそのまま口から吐き出す。

 

「レイ、君の気持ちは嬉しい。七年間一人の人間や一枚のカードを一途に想い続けることが、どれほど凄いことかは俺にも分かる」

 

「じゃ、じゃあ!」

 

「だがすまないが……俺は君と付き合うことはできない」

 

「……っ!」

 

「俺は自分自身のデュエルについて考え直さねばならんことがある。サイバー流とサイバー流裏デッキ……サイバー・ドラゴンやリスペクトデュエルについて……。情けない話だが、今の俺は自分のデュエルに精一杯で、恋人を気遣う余裕なんてないんだ。

 それにこんな自分の道すら見失った男と付き合っても、かえって君が不幸になるだけだろう。レイ、俺と違ってお前は若い。デュエルのことしか考えられん馬鹿な俺より、異性としてもっと素晴らしい人間など幾らでもいる。だから―――」

 

 プロデュエリストという人生を既に歩み始めていて、もう19歳になろうという亮とレイは違う。

 レイはまだ小学六年生。これから中学校に入学し、人生を決めていく年齢だ。今の自分がレイと付き合うことは、かえってレイの可能性を摘むことになりかねない。

 

「亮サマ自身はどうなんですか?」

 

「俺の?」

 

「デュエルのこととかはおいておいて、亮サマ自身はボクのことを好きなのか嫌いなのか……。せめて最後にそれだけ教えてください」

 

「…………嫌いか好きかで言えば、好意をもっているのは確かだろう。嫌いな相手にデュエルを教えるほど俺は酔狂ではないからな。

 しかしデュエルに生きてきた俺には、恋愛の経験は皆無だ。故にその〝好き〟が恋愛対象としての好きかどうかは分からん」

 

 19歳の大人が小学六年生を好きになるというのはロリコンのレッテルを貼られる可能性がある――――――と、いうような常識的な考えは亮にはない。そもそも亮は常識と義理人情を天秤にかければ、義理人情を選ぶ気質な男だ。自己保身のために自分の感情を偽ることなどはない。

 だからこそレイのことを異性として好きなのか、妹分として好きなのか分からないというのは紛れもない本心だった。

 

「分かりました。なら亮サマ、デュエルで勝負だよ!」

 

「なに?」

 

「亮サマがデュエルに生きてきたなら、想いを確かめる方法はデュエルをすることだけ」

 

「成程、一理あるな。…………いいだろう。嘗ての教え子のデュエルを見ることが、俺自身の悩みを砕くことにも繋がるやもしれん。その勝負、受けて立つ!」

 

「「――――デュエル!」」

 



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第197話  ヴァルハラ

丸藤亮 LP4000 手札?枚

場 無し

 

早乙女レイ LP4000 手札?枚

場 無し

 

 

 

「亮サマ、先攻は御譲りしますよ!」

 

「先攻を? 成程」

 

 デュエルモンスターズは基本的に先攻が絶対的に有利。その有利を敢えて捨ててレイが先攻を譲ってきたのは、サイバー流が後攻有利なデッキだと知っているからだろう。

 会うことがなくなってからも自分のデュエルをずっと研究していたのだと思うと、亮は微笑ましい気分になるが、だからといって手を抜きはしない。

 

「いいだろう。俺のターン、ドロー! ハウンド・ドラゴンを攻撃表示で召喚する、リバースを一枚伏せターンエンドだ」

 

 

【ハウンド・ドラゴン】

闇属性 ☆3 ドラゴン族

攻撃力1700

守備力100

鋭い牙で獲物を仕留めるドラゴン。

鋭く素早い動きで攻撃を繰り出すが、守備能力は持ち合わせていない。

 

 

 攻撃の出来ない先攻1ターン目では、いつものように圧倒的大火力によるワンターンキルとはいかない。サイバー・ダークを運用する上で必須ともいえるハウンド・ドラゴンを召喚し、リバースを伏せるだけでターンを終わらせた。

 いつもの亮と比べれば消極的なターンに、レイは自分の目論見の一つが成功したと小さくガッツポーズをする。

 

「いくよ! 今度はボクのターンだ! ドロー!」

 

 七年間ずっとカイザー亮というデュエリストを追い続けてきたレイとは違い、亮の方はレイがどういう人生を歩んできたのか碌に知りはしない。よってレイが今現在どういうデッキを使うのかもまったくの不明だ。

 しかしある程度の予想をたてることはできる。アカデミアへ入学する前、丈がレイに選別として渡したカード。もしもそのカードを中心としたデッキを構築しているとすれば。

 そして亮の予想を裏付けするようにレイは手札のカード効果を発動させた。

 

「ボクは手札からヘカテリスを捨てることで神の居城―ヴァルハラを手札に加えるよ!」

 

「ヴァルハラか……!」

 

 

【神の居城―ヴァルハラ】

永続魔法カード

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

 〝天帝〟と呼ばれた藤原も愛用する天使族専用のサポートカードだ。自分の場にモンスターがいないという制約はつくものの、アレがあれば手札からモンスターをノーリスクで特殊召喚できる。しかも特殊召喚されるモンスターのレベルは問われない。

 

「神の居城―ヴァルハラの効果。1ターンに1度、ボクの場にモンスターが存在しない場合、手札から天使族モンスターを特殊召喚することができる! ボクは手札の堕天使スペルビアを特殊召喚するよ!」

 

 

【堕天使スペルビア】

闇属性 ☆8 天使族

攻撃力2900

守備力2400

このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、

自分の墓地に存在する「堕天使スペルビア」以外の

天使族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 

 

 本来なら生け贄が必要な最上級天使族モンスターが、なんの生け贄もなく降臨する。

 此処は神が住まうヴァルハラの居城。神に従う天使は、自身の神たるデュエリストの命があれば、制約を無視して現れることが出来るのだろう。

 

「バトル! 堕天使スペルビアでハウンド・ドラゴンを攻撃!」

 

「――――!」

 

 ハウンド・ドラゴンではスペルビアの攻撃力に到底及ばない。かといってリバースカードはスペルビアの攻撃を防げるものでもなかった。

 先手を譲ることになってしまうが、今回は仕方ない。

 

「俺はその攻撃をライフで受ける!」

 

 丸藤亮LP4000→2800

 

 堕天使の力にハウンド・ドラゴンが消滅し墓地へ送られる。ライフ4000で1200ポイントのダメージは馬鹿にできたものではないが、これでハウンド・ドラゴンを送ることができた。

 サイバー・ダークにとってハウンド・ドラゴンは墓地にいてこそ役に立つモンスター。これで下級サイバー・ダークを召喚すれば、デーモンの召喚と同等の2500の攻撃力を得ることが出来る。

 

「メインフェイズ2。ボクはカードを一枚伏せてターンエンドだよ」

 

「俺のターン、ドロー! 天使の施しを発動。カードを三枚ドローし二枚捨てる。さらにリビングデッドの呼び声を発動! 俺はこの効果で天使の施しで墓地へ送った――――」

 

「させないよ! リビングデッドにチェーンして永続罠! 王宮のお触れを発動する。これでこのカード以外の罠は効果を無効化される! これで王宮のお触れより前に発動していたリビングデッドの効果は無効になる!」

 

「…………」

 

 王宮のお触れを投入しているということは、レイのデッキには罠カードは王宮のお触れ以外には存在しない、もしくは極めて少ないのだろう。

 亮がリビングデッドの呼び声で特殊召喚しようとしたのはサイコ・ショッカー。罠封じ能力の代名詞的モンスターであるが、仮に召喚できてもあまり役に立たなかったかもしれない。

 

「効果が無効になったリビングデッドの呼び声は破壊されずフィールドに残り続ける。これで亮サマが一度に伏せられる魔法・罠は四枚に制限されたも同然……。これなら……」

 

「それはどうかな。手札より魔法発動、マジック・プランター!」

 

「え?」

 

「俺の場の永続罠を墓地へ送り二枚ドローする。さらに融合を発動、手札のサイバー・ドラゴン三体を融合する!

 レイ。お前に俺の魂を見せてやる。現れろ、サイバー流の象徴にして我が誇り!! サイバー・エンド・ドラゴンッ!!」

 

 

【サイバー・エンド・ドラゴン】

光属性 ☆10 機械族

攻撃力4000

守備力2800

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

 

 パワー・ボンドで召喚されたわけではないので攻撃力の倍加はないが、それでも攻撃力4000の貫通効果もちは驚異的だろう。

 特にレイのデッキの最上級天使族モンスターは殆どが3000ラインを超えないものばかり。3000を超えた攻撃数値というのは攻撃で除去できず面倒なはずだ。

 

「俺はハウンド・ドラゴンを通常召喚、バトルだ! サイバー・エンド・ドラゴンで堕天使スペルビアを攻撃、エターナル・エヴォリューション・バースト!! さらにハウンド・ドラゴンでプレイヤーをダイレクトアタック!!」

 

「うわああああああああああああ!」

 

 早乙女レイ4000→2900→1200

 

 相手がまだ中学生にもなっていない子供であろうと、帝王の牙は容赦なく柔肌に突き刺さる。

 2800ものダメージを喰らったレイは、ソリッドビジョンの余波で体をよろめかせた。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 




 あ…ありのまま昨日起こった事を話すぜ!
「おれは遊戯王ARC-Vを見ようと思ったら、5D'sを見ていた」
 な…何を言っているのか、わからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった…
 頭がどうにかなりそうだった…カード書き換えだとか超融合だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。

 そんなこんなでARC-Vも遂にシンクロ次元突入です。シンクロ次元とかユーゴの境遇とかについての説明会で、結局デュエルは最後の開始宣言しかありませんでしたが、恐ろしく濃厚な回でした。
 シティの民度の底辺っぷりもデュエル脳っぷりも5D'sそのままで懐かしい気分になりましたね。久しぶりのライディングデュエル・アクセラレーションに胸がハーニングソウルです。

 とはいえジャックの出身地がトップスじゃなくコモンズ出身になっていたり、シティとサテライトじゃなくてトップスとコモンズだったりと結構アニメ5D'sとは違う点がちらほらと。
 今のところ遊戯王5D'sに似た平行世界というのが主流な説ですが、敢えて素直にアニメ5D'sと完全に同じ世界であると仮定してみると、蟹の所在とかイリアステルとか時系列ゼロ・リバースとか考察し甲斐のある要素が沢山あります。
 例えばユーゴの出身。どうもユーゴはジャックと同じ孤児院出身のようですが、もし5D's準拠ならジャックのいた孤児院はマーサハウス。
 そして気になったので改めて5D'sを見直してみると、牛尾さんとセキュリティに憧れていた少年の姿が!!
 特徴的な黄色いバナナはないものの、バナナ部分以外の髪の色はそっくり。まさか彼こそが未来のユーゴだったというのか……


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第198話  無情なる攻撃

丸藤亮 LP2800 手札1枚

場 サイバー・エンド・ドラゴン、ハウンド・ドラゴン

 

早乙女レイ LP1200 手札3枚

場 無し

魔法 神の居城―ヴァルハラ

罠 王宮のお触れ

 

 

 

 カイザーとまで畏怖されたデュエリストによる容赦のない直接攻撃。極々平凡な小学生なら、これだけで戦意喪失して膝を屈していただろう。

 だが早乙女レイは七年間ずっと帝王と魔王、二人の王者の背中を追い続けてきたデュエリスト。このくらいで心が折れるなどは有り得ない。

 

――――王宮のお触れで罠が使えない? ならば正面から殴り倒せばいい。あの二人ならば必ずそうする。

 

 幼い日の大切な思い出を支えに、レイは真っ直ぐに遥か遠くの頂に立つ憧れを見据える。

 

「ボクの……ターンだよ、ドロー!」

 

 純粋に自分を憧れるレイを、少しばかり複雑な目で見ながら亮は出方を伺う。

 レイのフィールドはがら空き。一見すると不利だが、これによりヴァルハラの発動条件は満たされている。召喚される天使族モンスターの能力如何ではサイバー・エンドをこのターン中に失う可能性もあるだろう。天使族を自在に操る友人を知るだけあって、亮はそういう最悪の可能性も想定していた。

 そして早乙女レイはその最悪を引き寄せる。

 

「――――きた! ボクはヴァルハラの効果でヘカテリスを特殊召喚するよ!」

 

 

【ヘカテリス】

光属性 ☆4 天使族

攻撃力1500

守備力1100

このカードを手札から墓地へ捨てて発動する。

自分のデッキから「神の居城-ヴァルハラ」1枚を手札に加える。

 

 

 ヘカテリスは手札から捨てることでヴァルハラをサーチする優秀なカードだが、単体でのステータスはサイバー・エンド・ドラゴンに遠く及ばない。

 しかし七年前に宍戸丈がレイへと餞別として送ったカード。それがサイバー・エンド・ドラゴンを倒す突破口となる。

 

「丈サマに貰ったカード、今こそ使わせて貰います。このカードは特殊召喚できない代わりに天使族モンスター1体を生け贄にして召喚することができる。お願い、力を貸して……! ヘカテリスを生け贄に堕天使ディザイアを召喚!!」

 

 

【堕天使ディザイア】

闇属性 ☆10 天使族

攻撃力3000

守備力2800

このカードは特殊召喚できない。

このカードは天使族モンスター1体を

生け贄にして生け贄召喚する事ができる。

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に

このカードの攻撃力を1000ポイントダウンし、

相手フィールド上に存在するモンスター1体を墓地へ送る事ができる。

 

 

 三幻神や三邪神と同等のレベルをもつ最上級堕天使。嘗て魔王から少女へと送られた力が、七年の時を経て帝王に牙を剥く。

 欲望を司る堕天使は、闇にて輝く黄金を放ち帝王の前に現出した。

 

「来たか。堕天使、丈の託した力よ……!」

 

「堕天使ディザイアのモンスター効果! このカードの攻撃力を1000ポイントダウンさせることで、相手フィールドのモンスター1体を墓地へ送る。サイバー・エンド・ドラゴンはこの効果により墓地へ送られる!」

 

 破壊耐性をも無効化する墓地へ送るという異常性。サイバー流の象徴として圧倒的な力の波動を放っていたサイバー・エンドは、断末魔の悲鳴すらあげることなく墓地へ消えた。

 堕天使ディザイアの攻撃力もサイバー・エンドを消し去った代償に攻撃値がダウンするが、亮の場にいるのは攻撃力1700のハウンド・ドラゴンのみ。問題はない。

 

「バトル! 堕天使ディザイアでハウンド・ドラゴンを攻撃! 堕天のコキュートス・デザイア!!」

 

「くっ!」

 

 丸藤亮LP2800→2500

 

 サイバー・エンド・ドラゴンを倒し、帝王にダメージすら与える。これをまだ小学生の少女がやってのけたと知れば、多くの人間は目を丸くして現実の光景か疑うだろう。

 しかし亮は寧ろ『これでこそ』と思う。生涯最大の好敵手よりカードを託された一人だというのならば、これくらいはやって貰わねば張り合いがない。それにデュエリストの実力と年齢は必ずしも比例するものではない。自分だってレイと同い年の頃には、既にサイバー流の免許皆伝を得ていたし、他の四天王とて大会で大人顔負けの活躍をしていた。

 

「スケジュールの忙しいプロリーグの世界で忘れ去っていた。これがデュエルをすることでしか得られぬ高揚、勝利の美酒を渇望する内臓というものか」

 

「亮サマ?」

 

「レイ、まだ勝負はここからだ。何もすることがないのならターンエンドを宣言するといい」

 

「あ、はい! ターンエンドです!」

 

「俺のターン、ドロー! サイバー・ダーク・ホーンを攻撃表示で召喚!」

 

 

【サイバー・ダーク・ホーン】

闇属性 ☆4 機械族

攻撃力800

守備力800

このカードが召喚に成功した時、

自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族モンスター1体を

選択し、装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備した

モンスターの攻撃力分アップする。

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、

その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

このカードが戦闘によって破壊される場合、

代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊する。

 

 

 亮のデッキに不和を齎すこととなった原因、サイバー流裏デッキに属するサイバー・ダーク・ホーンが召喚された。

 個々のステータスが貧弱なサイバー・ダークはこのままでは他のモンスターに届かないが、既に亮の墓地には格好の得物が置かれている。

 

「サイバー・ダーク・ホーンのモンスター効果! 墓地に眠るハウンド・ドラゴンを装備し、その攻撃力を奪う! これによりサイバー・ダーク・ホーンの攻撃力は1700ポイント上昇し2500となった!

 バトルだ! サイバー・ダーク・ホーンで攻撃力が2000となっている堕天使ディザイアを攻撃、ダーク・ホーン・バースト!!」

 

「あ、ああああああああああああああああ!!」

 

 早乙女レイLP1200→700

 

 三邪神ほどではないがサイバー・ダークの切れ味は、ソリッドビジョンすら相応の苦痛を相手デュエリストにも与える。

 亮からすればどうということはないが、小学六年生のレイにこの痛みは堪えるだろう。

 これで斃れるようならば仕方ない。良いデュエルを途中で終わらせるのは勿体ないが、まだサイバー・ダークの相手をさせるには早すぎたと手を引かなくてはなるまい。戦いの興奮と命、どちらが重いかなど分かりきっているのだから。

 だがレイはまだ未成熟な体で痛みによく耐えた。目元に涙が滲んでいるものの、闘志そのものは消えていない。

 

「それでいい。バトルを終了、ターンエンドだ」

 




 やはりというべきかジャックがコモンズ出身と明らかになっていることや、差別がサテライトとシティじゃなくてコモンズとトップスになっていることから、ネット界隈では完全に平行世界説が主流になっていますね。
 しかし平行世界説は万能すぎて、それだとまったく考察し甲斐がないので多少強引にでも5D'sとまったくの同一世界だとすると、かなり問題も出てきます。

・まず時系列は一体いつ頃なのか?

・ジャックの出自がコモンズになっているのは何故なのか?

・サテライトとシティじゃなくてトップスとコモンズになっているのは何故なのか?

・遊星は何処へ行ったというのか?

・シティの市長に就任したイェーガーはなにをしているのか?

 まずジャックの出自については、一応作中で遊星敗北後にサテライト出身だとマスコミにばれていたので、サテライト=コモンという解釈がなされたのなら、ジャックが本編終了後に真のキングになってからコモンズ出身ということになっていても不思議ではない。そして前述のことから時系列はアニメ本編終了後であると考えられる。
 では身分制度がネオ・ドミノとまるで違うことや遊星がいないことやイェーガー不在はどう説明するのかと言われると、これが難題である。
 そもそも5D'sラストの描写から遊星がネオ・ドミノにいるのは確定であり、市長のイェーガーも乱心して嘗ての身分制度復活とかはしないだろう。
 つまりネオ・ドミノに関しては遊星という英雄が常駐で、しかも政治機構がしっかりしているという無敵な布陣なわけで、今更どうこうなるなんてことは考えにくい。
 やはりあの世界は平行世界でファイナルアンサーなのか――――――と、ここでチェス盤というか前提を引っくり返してみる。

 そもそも…………別にあの街がネオ・ドミノとは限らなくね?
 というのもARC-V作中では『シティ』と呼称されてはいるものの、一度もネオ・ドミノとは言われていない。
 満足タウンやチーム太陽の田舎もある5D'sの世界観。別にネオ・ドミノクラスの街が他に幾つかあってもおかしくはない。そう考えると遊星がいないことやイェーガー不在、身分制度がネオ・ドミノと違うという謎も一気に解決する。
 街が違えば身分制度が違っても不思議ではないし、イェーガーはあくまでネオ・ドミノ市長であって、他の街への影響力は薄いだろう。

…………え? ユーゴはジャックと同じ施設出身だって? 知らんがな。


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第199話  離別

丸藤亮 LP2500 手札1枚

場 サイバー・ダーク・ホーン

 

早乙女レイ LP700 手札2枚

場 無し

魔法 神の居城―ヴァルハラ

罠 王宮のお触れ

 

 

 

 

 サイバー・ダークの直接攻撃に精神を抉られ、全身を苦痛に苛まれているレイ。しかしレイは気合い――――レイに言わせれば乙女の一途な想いで痛みを堪えながらデッキトップに指をかける。

 恋愛にはまったく興味を示してこなかった亮であるが、ここまでの気迫を見せられては、恋の力も馬鹿にできないと認めざるをえない。それに一途さが生み出す力も。

 

「ボクの…………ターンッ! ドロー!」

 

 そしてデュエリストの想いにデッキも応える。土壇場で逆転のカードを引き当てたレイの目が希望に輝いた。

 フィールドに顕現しているヴァルハラの門が開く。新たなる天使を決闘場へと迎えるために。

 

「やっときたよ。亮サマのサイバー流を封じるための切り札が! このカードでボクの想いを亮サマに届けてみせる」

 

「自信がありそうだな。来い、レイ。俺は逃げも隠れもしない。お前の切り札も正面から受け止めてやる。来い――――!」

 

「まずボクはヴァルハラの効果発動。二体目のスペルビアをボクの場に特殊召喚する!」

 

 

【堕天使スペルビア】

闇属性 ☆8 天使族

攻撃力2900

守備力2400

このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、

自分の墓地に存在する「堕天使スペルビア」以外の

天使族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 

 

 スペルビアの攻撃数値はサイバー・ダーク・ホーンを凌駕している。だがまさかあれだけ大口をたたいて、サイバー流封じがこれだけの筈がないだろう。

 つまりスペルビアはヴァルハラの効果を無駄にしないためのオマケ。レイの言う『切り札』は別にある。

 

「ボクの墓地には二体のヘカテリス、堕天使スペルビア、堕天使ディザイアで合計四体。そしてボクの手札にいる最強の『天使』は天使族モンスターが四体の時に特殊召喚することができる!」

 

「なに? その召喚方法は、まさかお前のサイバー流封じとは!?」

 

「墓地に眠る天使たち、力を貸して!」

 

 二体のヘカテリス、スペルビアとディザイアが自身の輝きをレイの手札へと送った。

 四体の天使達の光を受け、神聖四文字にて語り継がれる『神』に仕えし大天使がフィールドに降臨する。

 

「現れて! 大天使クリスティア!!」

 

 

【大天使クリスティア】

光属性 ☆8 天使族

攻撃力2800

守備力2300

自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、

このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

この効果で特殊召喚に成功した時、

自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。

このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、

墓地へは行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。

 

 

 薄赤色の六枚羽と白亜の四肢。ヴァルハラにあるその姿は正に聖書の景色の再現そのもの。

 クリスティアの光がフィールドに降り注ぎ、それはサイバー・ダークの暗黒すらも浄化していくかのようだった。

 

「大天使クリスティアがいる限り互いのプレイヤーは一切の特殊召喚を封じられる。亮サマのサイバー流の切り札は融合召喚。そしてサイバー・ドラゴンも容易な特殊召喚を最大の武器にしたモンスター。つまり特殊召喚が出来なくなればサイバー流はまともな動きが出来なくなるも同然。これで亮サマのサイバー流は封じたよ!」

 

「成程、な」

 

 四天王の一人、藤原とのデュエルで最も手古摺った一枚がこのクリスティアだった。

 通常召喚だけで最上級モンスターを呼び出そうとすれば、ダブルコストモンスターを利用しても最低2ターンはかかる。一定レベル以上のデュエリスト同士の戦いでは、召喚したモンスターが次のターンに残っていないのは日常茶飯事であり、そのため特殊召喚はほぼ全てのデッキにあるギミックだ。故にこそ特殊召喚を封殺するクリスティアはサイバー流のみならず他多くのデッキにとっての天敵といえるだろう。

 しかも悪いことにクリスティアの攻撃力は2800。特殊召喚なしで戦闘破壊するには高い数値だ。

 

「バトルだ! 堕天使スペルビアでサイバー・ダーク・ホーンを攻撃!」

 

「くっ……!」

 

 丸藤亮LP2500→2100

 

 堕天使スペルビアの漆黒の翼による攻撃。サイバー・ダーク・ホーンはそれを装備しているハウンド・ドラゴンを盾にすることで防ぎ、自身は破壊を逃れる。

 だがダメージはそのままのため亮のライフポイントが400削られた。

 

「サイバー・ダーク・ホーンは装備しているモンスターを犠牲にすることで戦闘破壊を免れる……」

 

「けどハウンド・ドラゴンを失ったサイバー・ダーク・ホーンの攻撃力はたったの800。やって、クリスティア!」

 

「――――っ!」

 

 丸藤亮LP2000→100

 

 一体こんなことを誰が予想しただろうか。

 アカデミアの四天王に名を連ね、若くして伝説になったデュエリストが。プロリーグに入るや否や常勝無敗伝説を築き上げた帝王が。まだ中学生にすらなっていない少女に絶体絶命の状況にまで追い詰められるなどと。

 カイザー亮の信奉者達は下手すれば幻覚であると疑うかもしれない。だがこれは紛れもない現実の光景だ。

 丸藤亮は追い詰められていた。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 しかし追い詰められた亮に悲壮感はなかった。

 七年間を一途に丸藤亮という男に恋焦がれてきた早乙女レイ。彼女とのデュエルを通して亮にも分かりかけてきたことがある。サイバー流裏デッキ、サイバー・ダークの力を制御するための突破口が。

 あとほんの少し、指がほんの少し伸びる程度で帝王の手は裏へと届く。そのためにもこのデュエルに負ける訳には行かない。

 

「……モンスターをセットする。ターンエンドだ」

 

「あの亮サマが裏守備モンスターを出しただけでターンを終えるなんて」

 

 四天王の中でも最も苛烈な攻勢に定評のあるカイザー亮らしからぬターン。これによりレイは自分に勝利の女神がほほ笑んでいることを自覚する。だが女神というのは気紛れだ。今のうちに倒し切らなければ今度はこちらが追い込まれる――――ということも同時にレイは悟った。

 

「よし。ボクのターン、ドロー! ボクはシャイン・エンジェルを召喚する。そしてこのままバトルフェイズに入るよ!」

 

 亮の残りライフはたったの100ポイント。あと一度でも戦闘ダメージを与えることができれば、恐らくレイの勝ちは確定する。

 

(裏守備表示で出したということは、あのカードはサイバー・ヴァリーじゃない。それに亮サマのデッキには人食い虫みたいなリバースモンスターは入っていなかったはず。この攻撃で押し切る!)

 

 デュエルモンスターズというのはコンディションや運によって勝敗の左右されるゲーム。今回レイがあのカイザー相手に良い勝負を出来ているのは、レイが絶好調なのに対して亮が絶不調だからに過ぎない。両者の間には易々とは埋めがたい差が広がっている。

 だがこの一瞬、このデュエルに限り早乙女レイは七年間ただ追い続けるだけだった帝王の背中に追いつこうとしていた。

 

「バトル! 大天使クリスティアで裏守備モンスターを攻撃! この想い、届け!」

 

「リバースしたのはメタモルポット! 互いのプレイヤーはデッキからカードを五枚ドローする」

 

「手札を増やしたところでもう遅いよ! これでボクの勝ちだ! シャイン・エンジェルで亮サマを直接攻撃――――」

 

「それはどうかな。どうやら俺の悪運はつきていないらしい。レイ、お前の直接攻撃宣言時に俺は手札の速攻のかかしを捨てる」

 

「なっ!」

 

 速攻のかかしは直接攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させる手札誘発の一枚。

 バトルフェーダーと違いフィールドに特殊召喚されることはないが、だからこそ大天使クリスティアの効果にも引っかかることはない。

 

「これでバトルフェイズは終了される。さぁまだお前のターンは続いているぞ、レイ」

 

「…………ボクは、ターンエンド」

 

 吹いていた風がやみ、流れが変わる。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 亮の手札は六枚。うち一枚はパワー・ボンド。亮が信じる最強の融合カードであるが、大天使クリスティアがフィールドに存在している限り『融合』は封じられている。

 他の五枚はいずれもサイバー・ドラゴン系列のカード。中にはフィールドのカードを一枚破壊するエヴォリューション・バーストもあった。サイバー・ドラゴン・ツヴァイを召喚して効果を発動、サイバー・ドラゴン・ツヴァイのカード名をサイバー・ドラゴンに変更することで、大天使クリスティアを破壊することは可能だろう。そうすればパワー・ボンドによる融合召喚が可能になり、この戦況を覆すことができるはずだ。だが、

 

「俺のこれまでの人生は常にサイバー・ドラゴンと共にあった……。サイバー・ドラゴンと寝食を共にし、苦楽を共有してきた。生まれる時は違えど、死ぬ時まで共にあろうと誓いもした……」

 

「亮サマ?」

 

「だが許せ、サイバー・ドラゴン。更なる高みへと昇るため、俺はお前たちを一時捨てる! 手札より魔法発動、手札抹殺! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数分だけカードをドローする!」

 

 レイとのデュエルで亮は知った。ただ一つのことを求めることの強さを、ただ一つを想うことの尊さを。

 亮は表と裏、両方を一度に扱おうとした。けれどそれでは駄目なのである。表と裏を一つとするには、まず裏と一対一で向かい合い、然る後に表と向かい合う必要がある。一度に二つを求めるなど土台不可能な話だったのだ。

 

「ゆくぞ! これが俺の答えだ! サイバー・ダーク・エッジを召喚、効果によりハウンド・ドラゴンを装備! 攻撃力を1700ポイントアップさせる!」

 

 

【サイバー・ダーク・エッジ】

闇属性 ☆4 機械族

攻撃力800

守備力800

このカードが召喚に成功した時、

自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族モンスター1体を選択し、

装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

このカードの攻撃力は、この効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。

このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

その場合、このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ半分になる。

このカードが戦闘によって破壊される場合、

代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊する。

 

 

 サイバー・ダーク・エッジの攻撃力は2500。スペルビアもクリスティアも倒せはしない。

 けれどデュエルに勝つのに必ずモンスターを倒す必要はないのだ。要はデュエリストを倒せればそれでいい。そしてこのカードはそのための能力をもっている。

 

「サイバー・ダーク・エッジのモンスター効果。このカードは相手プレイヤーに直接攻撃することが出来る。代償に攻撃力は半減するがな」

 

「ぼ、ボクのライフは残り700!?」

 

「終わりだ。サイバー・ダーク・エッジよ、レイの懐にある勝利をもぎ取り、我が喉を勝利の美酒で潤すがいい! ダークネス・バースト!!」

 

「きゃ、あああああああああああああああああ!」

 

 早乙女レイLP700→0

 

 サイバー・ダーク・エッジの攻撃力は半減しても1250。700のライフポイントを削り切り0にする。ソリッドビジョンが消失し、レイは膝をついた。

 最後に立つのは光を捨て去り、闇を受け入れた孤高の帝王が唯一人。

 

 




カイザー「俺達、暫く距離を置いた方がいいと思うんだ……」

表サイバー「!?」


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