C3キューブ 伝える物達 (アロンダイト)
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1 

CoDシリーズとC3キューブのクロスです

末永くよろしくお願いします


1996年 冬

ウクライナ プリビチャ チェルノブイリ

 

 

「これが、噂の物か・・・」

超過激派テロリストのイムラン・ザカエフがそれ《・・》を見ながら言った

 

 

「ああ、取扱いには気をつけろよ。このお姫様はだいぶ気まぐれだからな」

相手の売人はそう言いながら部下と共にザカエフの渡した武器を見てる

 

「この中に武器を入れるのか?」

 

「そうだな。もともと入ってたのはもう抜かれてるから中身は空っぽだ」

 

 

「そうか・・・」

Mi-24ハインドが飛んでいき風圧が辺りを揺らす

 

「でだ、くそったれなイカレ野郎どもか盗んできてやったんだ、少しおまけしてくれ」

売人がにやにやしながら言ってきた

 

「ふざけるなよ。こいつと、武器を交換する約束だ。値下げはしない」

 

「頼むぜ、これからも〈家族会〉と殺りあうのは俺らなんだから、仲よくしてこうや」

 

「ふざけるな!代金は最初と同じ!変更は無しだ!」

ザカエフが怒鳴ったその時

 

ダァァン!

 

ザカエフの左手が肩の根本から吹き飛び血飛沫が広がった

 

「スナイパー!」

その一声で部下や売人が慌てふためき走り回る中ザカエフは何とか残った右手で地面を這いずり一台の車に乗り込む

 

「ザカエフ、大丈夫ですか?」

部下のマカロフが聞いてくるが答える余裕もない

 

 

 

その後別の部下がそれ《・・》を回収、したと聞いて一安心した

 

しかし、その時それ《・・》にザカエフの血が付着していたのを彼らはまだ知らなかった

 

 

 

 

 

 




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2

「また親父か・・・」

少年、夜知春亮《やち はるあき》は自宅の玄関で溜息をついた

 

春亮少年の前には縦横1mはありそうな一つの黒い立方体が置かれてる

 

世界中を旅する父親が時折ゲリラ的に送りつけてくる様々な物品、これも宅配業者がヒイコラ言いながら運んできたものだ

 

「こう、正しい順序を踏まないと開かないのかな・・・?」

うんうん唸りながら表面をなぞったりしてみる

時たま女の子の声が聞こえたりするが幻聴と断定

 

「よし、放置しよう!」

さわらぬ神に祟りなし、さっそくもちあげる

 

「超重てぇ!なにが入ってるんだ!?」

ふらふらといつもの物置に箱を放り込む

 

「はぁ・・・腰が痛いや・・・」

慣れない重労働で痛くなった腰をさすりながら春亮はちょっと休もうとソファーに横になった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところ変わって夜知家の離れ

 

「あ、このはちゃん、晩飯ですか?お腹すきました・・・」

 

「あら、ゾリショさん。こんばんわ、肉じゃがを作りすぎたので春亮くんにおすそ分けに・・・」

夜知家の離れに住む村雨このはが同じく離れに住む少女ゾリショ・ユアンと話す

本人がチャームポイントといってる頭頂部から飛び出た一本のアホ毛が元気なさそうに垂れてる

 

「肉じゃが、ですか・・・楽しみです」

二人はおしゃべりをしながら春亮の住む母屋に向かう

 

母屋に近づくと

 

「おい、春亮!もう少しなにか無いのか?」

 

「食うの早えよ!」

家主の春亮と言い合う知らない女子の声にこのはの歩みが止まる

 

「・・・・なんだろね、あの声?」

 

「強行突入です!」

若干怒ってるような感じのこのはを先頭にゾリショが続く

 

「こんばんは、春亮くん」

先ほどの怒りを微塵も感じさせない話し方だった

 

「このはか。それにゾリショも、丁度いい二人に話というかなんというか・・・」

 

「春亮!お腹すいたぞ!」

出てきてのは春亮よりも背が低い銀髪の少女

 

「・・・・えーっと、春亮くん?とりあえず、警察行こうか?」

ゾリショが笑顔で呟く

 

「いや、誤解だ!そんなんじゃないから!」

 

「春亮くん、この子は?」

大人の対応をするこのはに

 

「初対面で子供扱いとはな、幸の薄い顔しておるくせに」

 

「幸薄ッ・・・・!」

いきなりの幸薄発言にこのはの怒りに火がつく

 

 

「え、ええと・・・このは、その鍋はなんだ?」

危険を察知した春亮が話題を変える

 

「肉じゃがだって」

春亮の問いにゾリショが横から答える

 

「そ、そうか!じゃあ、夕飯まだなら久しぶりに食べてけよ!ゾリショも一緒にどうだ!?」

 

「そ、それなら・・お言葉に甘えて・・・」

 

「ゴチになりまーす」

なんとか場の空気を転換した春亮だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか。崩夏《ほなつ》さんから・・・ですか」

フィアと名乗った銀髪の少女を含めた四人でちゃぶ台を囲み肉8じゃが2の肉じゃがを食べながら春亮は今までの経緯を話した

 

「崩夏の旦那が送ってきたならまず呪われてるね《・・・・・・》。私たちと同じくらい」

 

「お主らも呪われてるようだな」

僅かな沈黙の後

 

「・・・ええ、あなたの先輩のようなものです」

代表としてこのはが答える

 

「人化できるほどの呪いを受けたのか・・・貴様らはなんだ?なにかの武器か?」

 

「あなたは?と聞いたら答えますか?」

そこでフィアとこのはがにらみ合いしばらくしてフィアとがふと言った

 

「崩夏はここに来れば呪いが解けると言ったが・・・本当か?」

 

「そこは安心していいよ。前例もいるし、このはちゃんもアルバイトとかいっぱいしてだいぶ解けてるもんね」

ゾリショが肉じゃがを食べながら話す

禍具《ワース》は人々の負の思念が集まって呪われたため反対に正の思念を浴びれば呪いは中和するのだ

 

「それに、ここは代々清浄な地脈が集まる場所だからここにいるだけで呪いは中和されるんだよ」

春亮の言葉にフィアは安心したような顔をした

 

「まあ、気長に頑張ってねー」

ゾリショがお茶を啜りながら呟く

 

「ときに春亮くん。フィアさんは今夜どこに泊まるんですか?」

 

「離れは空いてないから、母屋のどこかに泊まらせようかと・・・」

 

「え”?」

このはが氷ついてる

そこへフィアが

 

「そうだ!さっき私の体をあんなに弄り倒したのだ!最上級の寝所を用意しろ!さもないと呪うぞ!」

 

「いや待て!おまえさっきはただのはk・・・」

だが春亮の反論を湯呑みが倒れる音がさえぎる

 

発生源は・・・このはだ

 

「ふ、不潔ですぅぅっぅ!!」

とこのははそのまま駆けていった

 

「・・・警察、いこか?」

 

「だから違うって!」

 




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3

翌日 昼休み

 

春亮は両親がいないため昼ご飯は自炊している

 

そして毎日クラスメイトとおかずの食べ比べをするのが日課で今日も例外ではない

 

「夜知、今日こそ勝たせてもらうぞ!」

成績優秀で律儀に校則を守るザ・委員長を体現したような真面目な女の子上野霧霞《うえの きりか》がお弁当箱を広げた

 

「おおッ!霧霞ちゃん今日は自信ありげだね!」

お弁当勝負の審判を務める実那麻渦奈《みやま かな》がすでに箸を握りしめながら話す

 

「今日はよりによりをかけたからな。絶対に負けん!」

 

「なぜ毎日毎日そんな気合を・・・」

 

「なるほど・・・霧霞ちゃんそんなに夜知を振り向かせたいか・・・乙女だぜ!というわけでいただきます」

もう一人の友人兼中学からの腐れ縁の伯途泰造《はくと たいぞう》が霧霞の卵焼きに箸を伸ばす

 

「な、なにを言ってるんんだ!まったく、ばかげてる!」

霧霞は顔を赤くしながら渦奈と泰造が卵焼きを食べるのを眺める

 

そのうち二人がひそひそと審議し始め

 

「うーん・・・今日の勝負は、卵焼きにアボカドを挟む斬新さを見せた春亮の勝利!」

春晃に軍配が上がった

 

「くっ!そうか斬新さ!私は新たな味の探求をせずについつい保守的になりがちだったとは・・・・」

そこで一回頭を垂れ

 

「男に料理で負けては女が廃る!次こそは勝つ!」

こうして昼休みは過ぎて行った

 

 

 

 

 

 

放課後 下駄箱でこのはと一緒になった

 

「委員会はどうしたんだ?」

 

「休んじゃいました、なんとなく」

とそこに

 

「ヒャッハー!テメェら!帰る準備はいいか!?春亮くん一緒に帰ろう!」

 

「その世紀末な話し方はなんとかならんのか?」

 

「いやー、なんだか胸騒ぎがしてね!フィアちゃんが心配だから早く帰ろう!」

ゾリショが和気藹々と話しながら春亮に飛びついた

 

そう、春亮もこのはもなんだかんだ言って家に置いてきたフィアが心配なのだ

 

速足で家の門をくぐり扉を開ける

 

「なんじゃこりゃーー!!?」

家はめちゃくちゃだった

 

ひっくりかえったテーブルに倒れた戸棚そして極め付けは縁側に突っ伏すフィアだった

 

「おいフィア!なにがあったんだ!?」

 

「春亮くん!洗面所も大変なことに!」

 

「泡まみれだったねもしや、これは・・・」

 

「まじでなにがあったんだ!?フィア起きろ!」

春亮がフィアを起こす

 

「は、春亮・・・大変だ・・・」

 

「なにがあったんだよ!フィア!」

 

「じ、実は・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黄緑色で三本足の宇宙人が乗り込んできて!」

 

「てい!」

フィアの言葉を遮り春亮のチョップがフィアに直撃した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「掃除、ね・・・」

ゾリショが洗濯機から溢れた泡を掃除しながら呟く

 

居間の惨状とここの状態を見てひらめいた

 

「なんだか懐かしいな・・・」

自分もここに来たときは一般常識が欠如していて春亮くんにはたくさん迷惑をかけた

 

(彼女は私と同じで焦ってる。強大な呪いを一刻も早く解きたいあまりいいことをしようとしてからぶりしてるのだ)

 

「・・・このはちゃんなら気づくだろうし、大丈夫か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、起きてるか?」

 

「うるさい、寝とるわ」

 

「起きてんじゃねーか」

 

「うるさい呪うぞ」

 

「そうか・・・まぁその・・・悪かったな、お前は人みたいだけど人じゃないんだよな。忘れてたよ。このはやゾリショも最初は変なことばっかしてたからな」

 

「あのウシチチと一緒にするな」

 

「へいへい、まあ用はだ。呪いを解くのは時間がかかるから焦らずじっくりでいいから。わかんないことがあったら俺にわかる範囲で教えてやるから」

 

「・・・・・・・フン」

 

「飯は台所に置いとくから勝手に食べな、あと俺たちからのプレゼントだ、とっとけ」

春亮は去り際にこのはとゾリショの二人からの衣服のおさがりを置いて行った

 

 

 

 

 

数分後フィアは部屋から手をだし袋をひったくる

 

中には衣服が何着とメモが入っていた

 

『お子様には下だけで充分ですよ』

 

「死ねっ!」

ストレートに自分の気持ちを手紙にぶつける

 

『ブラが欲しければ自分でアルバイトでもして買いなさい。もっとも、私たちは成長しないから無駄だと思いま』

そこまで読んだフィアは手紙を床に叩き付ける

 

次に出てきたのはなんだかモコモコした服、もといパジャマ

 

『寝間着はゆったりしたものがいいからこれを着て寝るといいよ』

おそらくゾリショとかいうあのロシア人だろう

 

「・・・まあ、感謝しよう」

そして次に出てきたのは立方体のおもちゃ、ルービックキューブとおせんべい

 

「ぬ。ゴマ入りか・・・実に香ばしい・・・」

日本の茶菓子が痛く気に入ったようだ

 

 

 

 

 

 

さらに翌日

 

ゾリショがあげたパジャマをかなり気に入ったようで上機嫌のフィアは台風が近づいて荒れている海が移ってるテレビにくぎ付けだ

 

「これが海か・・・」

 

「テレビの使い方はわかったか?」

 

「バカにするな、このボタンでチャンネルとやらが変わるのだろ!」

フィアはおっかなびっくりでチャンネルを変える

 

「じゃあ、俺たちは学校行くから、暇はテレビでつぶせよ」

 

「わかっておるわ、さっさと行ってしまえ」

今度のフィアは『ワンニャンパラダイス地獄』というよくわからないテレビ番組をみてる

 

「おはよう、春亮くん!」

ゾリショがこのはと玄関で待っていた

 

「じゃあフィア、家事とかはおいおい教えてくから今日はなにもするな」

 

「ぬぬ・・・そうか・・・」

昨日の失敗を思い出したのか苦い顔をするフィア

 

「じゃあフィアさん、私と春亮くんは楽しい楽しい学校に行ってきますから」

 

「このはさーん、あっしは?」

ゾリショが手を振るが黙殺される

 

「な、なんだその嫌味な言い方は!」

やはり出会いが悪かったのか二人の仲は悪い

 

「どうせウシチチのことだ!その巨大なチチをチチらしく使って二人仲よく乳繰り合うのだろう!なんとハレンチな!さっさと行ってしまえ!」

 

「なんか不安だけど・・・時間も時間だし、行ってくるからな」

 

 

 

 

「あほ・・・ほんとに置いてかんでもよかろう・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見られてる気がしますね」

国際空港前か出た一台のタクシーの中、長いタクシードライバーの経験からしてこのお客はとびっきり変だ

 

「あ・・・その、すいません」

 

「おや?貴方もでしたか」

禁煙のタクシーの中で堂々と煙草をくゆらせる金髪の女性は流暢な日本語とともに金属音《・・・》と共に肩をすくめた

 

「日本語お上手ですね。日本へは観光ですか?」

 

「いえ、仕事です」

 

「それはご苦労様です。どのような仕事か、聞いてもよろしいですか?」

そうきくとそ女性はニヤリと凶暴そうな笑みを浮かべた

咥えた煙草がみるみる灰になり濃密な紫煙が言葉と一緒に吐き出される

 

 

 

「ゴミ掃除です」




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4

「退屈だよね、その退屈はどうやって紛らわすのかな?」

ゾリショが屋上に寝ころびながら呟く

 

自分も来たばかりの頃は家で一人退屈だったから顔を隠してこっそり春亮についていったからその気持ちは解る

双眼鏡の先では銀髪の少女が男子生徒となにやら話してる光景が写ってる

 

「まあ、いいか・・・」

手にした双眼鏡を仕舞った

 

 

 

 

 

「ふふふ、来てやったぞ!春亮!」

銀髪の少女、フィアが教室の入り口で仁王立ちしていた

 

「フィア!?なんでここに!?」

 

「学校に来るなとは言わなかったから来た!」

 

「当たり前すぎて言わなかったんだよ!」

ワーワー言い合ってると

 

「キャー!ヤバい!かわいい!なにこの子!?春亮くんの友達!?」

渦奈がフィアに頬ずりする

 

「春亮め!このこの!このはさんに飽き足らず、こんなかわいい子まで!」

泰造も羨ましそうに春亮に絡んでくる

 

「ふむ・・・個人のことにはあまり詮索しない主義だが、学級院長としていくつか確認させてもらおうか?」

何とも言い難いオーラとともに霧霞が春亮に詰め寄る

 

「と、とりあえずこい!泰造、悪いけど席作っておいて!」

この場にいてはまずいと判断しフィアを教室の外に引っ張る

 

「うわっ!なにをする、呪うぞ!」

 

「あ、春ああああっ!」

購買部の帰りのこのはがフィアを見て叫んだ

 

「何で来たんですか!?」

 

「やっぱり暇だからな、それにこの女だけ学校に来れて私はダメというのは不公平だ!それにさっきの受け答えは完ぺきではないか!」

 

「見てるこっちは冷や汗モンだったよ・・・とにかく、日本に来たばっかていうキャラを崩すなよ!、ていうかお前、その制服どうした?」

 

「ウシチチかゾリショの部屋から借りた。しかしなんだあの部屋は?箪笥の上に何とも言い難い下着が」

 

「私の部屋じゃないですか!あれはちょっとした気の迷いというかなんというか・・・とにかくどうやって入ったんですか!?」

 

「窓を一枚ほどぱりーんと」

 

「割ったんですか!?

 

「さすがフィアちゃん、私ができないことをわびれもせずにやる。そこに痺れる憧れるぅぅぅー!!!」

 

「お前はいつも急に出てくるな、ゾリショ!」

窓から入ってきた《・・・・・・・・》ゾリショにツッコむ

 

「さっき霧霞ちゃんが日村先生に頼み込んでねフィアちゃんの授業見学を取り付けたんだって!」

どこからだしたのか「勝訴」と書かれた紙を掲げる

 

「マジか・・・」

 

「その通りだ」

後ろからやってきた霧霞が春亮をにらみつける

 

「このは君達がいるとはいえ年頃の女子といるのだ、なにか間違いがあるかどうか聞き出すから覚悟しろよ・・・」

授業見学ではなく確実にこっちがメインだろう

 

「よくわからんが、授業に出てよいのか?キリカ、おまえいいやつだな!」

そんときのフィアはとてもうれしそうだった

 

 

 

 

 

 

 

都内のホテルに陣取った彼女は煙草を吸いつつ荷物を確認する

 

金髪の美女はタクシーから降りた後ホテルに入り本国から届けられた道具のチェックをする

 

「・・・これは?」

覚えのないギターケースの蓋を開け顔を引きつらせる

 

「余計なお世話を・・・最悪《ビッチ》!」

中に入っていたカードを握り潰しケースを投げ捨てる

豪奢な赤いドレスが荒い呼吸と共に上下する

 

「ああ・・・ビッチ・・・」

苛立ちを抑えるために取り出した煙草を吸う。一本、二本、三本と三分程で吸いきる

 

そのとき荷物に中の携帯が鳴り響き電話をとる

 

『本作戦の後方支援員《オーグジラリ》の初期連絡』

 

「そうですか、ご苦労様・・・ところで、荷物の中に一個、余分な物があったんですが、それはあなたの仕業?

 

『・・・・・何のことかわからない?』

 

「知らないならよろしいですわ。では後方支援員よ、さっそく始めましょう」

 

『了解、支援を開始する』



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5

「ここはよいとこだな・・・」

フィアが屋上にもたれかかりながら憂鬱そうに呟く

 

「ねえ、そろそろ帰ろうよー」

 

「ゾリショに賛成だ。早く帰ってメシにしよう」

もう下校時間も近く部活の生徒もほとんどいなくなってる

 

「もう少し・・・もう少しだけ・・・ここにいたいのだ」

悲しそうに呟いたフィアをみて春亮は

 

「十分だけだぞ」

そういうとゾリショは空腹が限界らしく先に帰ってしまった

 

「こんな人もいないし、何もない場所が楽しいか?」

 

「光景や風景ではない、学校というものは今まで縁がなくてな・・・こんなに大勢の人間が楽しそうにしている場所は初めてだ」

 

「そっか・・・」

哀愁漂うフィアの背中を眺めていると

 

「春亮。お前は知りたいか?私が今までどこにいて、今まで何をしてきたどんなものか」

 

「それは・・・・」

春亮が一瞬視線を巡視し答えを告げようとしたら

 

「第一の問いにお答えしましょう。それ《・・》は数百年もの間廃城の隠し倉庫に隠れてたので我々の目を逃れていたのです」

豪奢な赤いドレスを風にはためかせた金髪の美女がそこに現れた

 

 

 

 

 

 

高価そうな赤いドレスにウェーブのかかった金髪に紅をさした口には煙草が咥えられた美女

 

しかし、その彼女の両腕は肩から指先まで真っ黒い鉄で覆われていた

まるで巨大ロボットの腕のようで自身の体よりも巨大な鉄の手甲とでもいうべきかその光景はまさにいびつなヤジロベイのようだ

 

「あ、あなたは・・・いったい?」

警察呼ばれても文句言えない不自然さに若干怯えながらも春亮が聞く

 

「おや、これは失礼を。わたくし【蒐集戦線騎士領】にという組織に所属いたしますピーヴィー・バロヲイと申します。以後お見知りおきを」

巨大な鉄の手でドレスの端をつまみ一礼。ひどくシュールな光景だ

 

「えーっと、よくわからないのですが・・・」

 

「おや、ご存じありませんか。失礼ですが、貴方は夜知性の方ですか?」

 

「そうですが・・・」

 

「では、説明いたします。蒐集戦線騎士領と貴方の父系にあたる夜知崩夏は我等と対立しており、貴方の後ろにいるそれ《・・》を破壊するのが目的です」

 

「あんた・・・何でフィアを狙うんだよ!」

 

「なぜ?愚問です。それは禍具に関わる組織全ての関心ですがわたくしたちの組織は【研究室長国】とも【竜島《ドラコ》/竜頭組織《ドラコニアンズ》】とも【ビブオーリオ家族会《ファミリーズ》】とも当然【夜知崩夏】とも違います。我ら蒐集戦線騎士領は、禍具の存在を赦さない《・・・・・・・・・・》!禍具はこの世に存在するべきではない存在!ゆえにわたくしは、筆頭たる箱型の恐禍《フィア・イン・キューブ》を破壊いたします!」

 

 

 

するとピーヴィーは唐突に春亮達に駆け寄る

 

「逃げろ、春亮!」「春亮くん!」

フィアとこのはが同時に叫ぶが

 

ヂィン!ヂィン!ヂィン!

 

「チッ!」

ピーヴィーの手甲で火花が三回散った

 

「おやおや、まだ腐れ糞《ビッチ》がいましたか」

 

「酷い言われようだ。傷つくなぁ・・・」

屋上の貯水タンクの裏からゾリショが出てくる

 

「まあ、掃除する塵が増えるのはいいことですビッチ!」

ピーヴィーが獣のように前屈姿勢でゾリショに駆けだす

 

「おおっと!」

ピーヴィーの攻撃をゾリショが回避しピーヴィーに向けて右手の人差し指と親指を立てるいわゆる指鉄砲の構えだ

 

「バットヴォーダバロウダニェン!〈唯一無二の相棒〉!」

流暢なロシア語を魔法の呪文のように叫ぶとゾリショの右手に一丁の拳銃が現れた

 

その銃の名前は”コルトM1911A1”通称ガバメント。アメリカをはじめとした世界各国で100年以上使用されてる息の長い自動拳銃だ

ゾリショは昇順をピーヴィーの足元に合わせて引き金を引く

人気の失せた校舎に甲高い銃声が響いた

 

彼女は呪われた”木箱”その箱の中に格納された17個の銃火器装備品で戦うWWⅢ《第三次世界大戦》時代の禍具だ

 

「銃火器の禍具!ビッチ!」

吐き捨てるように叫んだピーヴィーはガバメントから撃ちだされた45ACP弾を腕の装甲とも呼べる手甲で弾き一気に方向転換しフィアに襲い掛かる

ゾリショが人を殺せない(・・・・)のを見越しての選択だ

 

ピーヴィーが腕を振るとあたった個所が砕けフェンスがひしゃげる

攻撃自体は単純な振りおろし、だがしかしその威力は一発一発が即死レベルの攻撃力を誇っていた

 

「どうして逃げてばかりなのですか?フィア・イン・キューブ。話に聞く限りではあなたはそのような物ではないはずですが?」

 

「それ以上・・・・・いうな・・・」

その苦しそうなフィアを見てピーヴィーは合点がいったといわんばかりに顔に笑みを浮かべた

 

「もしやあの少年さんたちはあなたのことを知らないのですか?これはなんとビッチなんでしょう!では、ついでに先ほどの質問にお答えしましょう」

 

「やめろぉぉ!!」

フィアの叫びも虚しくピーヴィーは上機嫌に話し出した

 

「今までに何をしたか?簡単です。大勢の人を殺したんです!男も女も子供も老人も貴族も貧民も黒人も白人も黄人も妊婦も赤子も罪がある人も無い人も!」

 

「あ・・・ああ・・・」

 

「すべてを神のごとく等しく残酷に、一方的に殺したんでしょ・・・?」

 

「ち、ちが・・違う。違う!私は、私は、使われただけだ!やりたかった、わけでは・・・・」

 

「あらあら、いいわけですか物のくせに見苦しいビッチですね。けどやったという事実は変わりません、だからこそ貴女はこうして呪われてる」

 

「黙れ・・・黙れ黙れ!」

 

「さて、最後の問いが残っていましたわね。どんなものか。これはもっと簡単です」

プッと吸ってた煙草を吐き捨てその目に蔑みを混ぜながら高々といった

 

「フィア・イン・キューブ。異端審問末期に開発された凡庸処刑器具ですわ」

 

 

 

 

 

「キサマアアアアアアアア!!」

 

「どれほど喚き散らしたところで貴女には人化するほどの罰がある。物は物らしくさっさとガラクタになりやがれ、ビッチ」

ピーヴィーの両腕につけられた鉄塊が持ち上げられ放心状態のフィアに振り下ろされる

 

いくら人外の力をもったフィアとはいえどコンクリートを一撃で粉砕するピーヴィーの攻撃にかかればまさに一撃だろう

 

そのフィアとピーヴィーの間に割り込む一人の少女、村正このはがピーヴィーの頭上から手刀による奇襲をしかける

ピーヴィーの手甲とこのはの手刀が火花を散らしピーヴィーが距離を取る

 

「あらまぁ、あらまぁビッチな塵がもう一匹!こうもわらわら出てくると胸糞悪いを通り越して気持ち悪いですねビッチ!」

 

「そうですか、けど胸糞悪いのはあなただけじゃないんですよ!」

 

「このはちゃんに同意!」

このはとゾリショが各々の武器を掲げてピーヴィーに駆け寄った

 




あー、小説家になろうとの二足のわらじは大変です

2013年4/5に一部改訂


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6

どうかしてましたね、投稿する小説の順番を間違えるなんて・・・



ダァン!ダァン!ダァン!

 

ゾリショのガバメントの弾丸がピーヴィーの装甲に当たり火花を散らす

その隙をついてこのはがピーヴィーに肉薄する

 

「元気にとび出してきた割には貧弱ですね。そんな半端な力じゃかすり傷すら追わせられませんよ?」

ピーヴィーの挑発に臆することなくこのははピーヴィーの手甲と手刀を切り結んでく

 

「ばかもの・・・お前には関係ないことだ・・・引っ込んでおれ・・・」

フィアが震えながらも精いっぱいの虚勢をはる

 

「ええそうですね。けどあいにく私はあなたとは関係のないことでキレてますから」

 

「まぁ、フィアちゃんはそこでのんびりこの人が倒されるのを待っていなよ!」

ゾリショの渾身の蹴りがピーヴィーに命中しピーヴィーを吹き飛ばす

 

「あなたはどうするんですか?命を狙われてるのにずっとそうしてうずくまってるのですか?いくら呪いを解きたいとはいえそれくらい割り切らなくては生き残れませんよ?おとなしく破壊されてもよいのですか?」

このはがフィアに問いかけた

 

「嫌だ、そんなの・・・」

 

「自分の身がかかっても人を傷つけるのに躊躇してしまう、ですか・・・」

 

「なんだか昔の自分を見てるみたいだね、このはさん」

ゾリショが呟きガバメントの弾倉をポケットから取り出し交換する

 

「二人とも悪い、混乱してて出遅れた」

 

「春亮くん!」

 

「おまえこそ逃げろ!春亮!」

フィアの渾身の叫びに春亮は

 

「いやーなんだ、手伝いくらいはできるだろ」

 

「少年さん、わたくしも自ら人を殺すのはあまり気が進まなくてよ。もっとも廃棄物の掃除を邪魔するなら手加減はできませんがね!」

 

「そうにもいかない。これは日本人としての義理信条もあるしなにより、俺もこのは達と同じ理由でムカついてるからだ」

 

「・・・あほー、なんでお前が・・・」

 

「そんなにアホかな?」

 

「知らぬは本人ばかりってやつだね」

 

「酷いな、そりゃ・・・悪いこのは、頼めるか?」

 

「わかりました、この姿だと手加減ができませんが、その辺はどうかご容赦を・・・」

 

「わかりました、壊した後には報告書を書かねばならないので今のうちに名前をうかがっても?」

 

「俺の名前はジャック・・・というのは嘘、ほんとはゾリショ・ユアンて言います」

 

「・・・村正このは、けど苗字で呼ばれるのは嫌いです」

春亮がこのはの肩に手を置くと一瞬でこのはの姿が消え春亮の手には黒い鞘に納められた一振りの日本刀gs残った

 

「いつものように楽にしてください!」

 

「おうわかった!」

春亮とこのはの間で短いやり取りがなされ鞘がついたまま《・・・・・》ピーヴィーに駆けだした

 

「あらまぁ!あらまぁ!それが日本のカタナというものなんですね!わたくし初めて見ました!・・・しかしなぜ鞘から刀身を出さないんですか?」

 

「諸事情により血が苦手なんです・・・けどご心配なく、当たるとものすごく痛いですよ!」

鉄鞘がピーヴィーの剛腕と何度かぶつかり合間を縫ってゾリショの銃弾がピーヴィーの装甲に放たれる

 

「だめだ!固い!これじゃあジリ貧だよ!チクショー!」

ゾリショがうんざりした顔で空薬莢を蹴飛ばす

 

「このは、こうなったらあれだあの、前にやった・・・『交叉法』嫌かもしれんがあれしかない」

 

「・・・一晩中こうするわけにもいきませんししかた・・・ありませんね」

 

「邪魔をしないでくださいまし!大戦時代の遺物が!」

ピーヴィーがゾリショを弾き飛ばしこちらに急接近してくる

 

 

 

 

 

どのような物にも弱点はある

 

ダイヤモンドが衝撃に弱いのと一緒でピーヴィーがつけている装甲で最も脆いのはどこか?

 

集中。集中し呼吸を整える

 

(まだだ・・・まだだ・・・)

焦らず、ゆっくりそれでいてなるべく正確にその答えを導き出す

 

(-----今っ!)

張り巡らした集中を一点に集め春亮の体を操り右手を力強く持ち手を握らせ左手で鞘をつかまい、抜刀

 

「剣殺交叉!」

常人には目視すら難しい速度の居合切りをかまし電光のような一瞬の煌めきはピーヴィーの手甲の一番脆い箇所を的確に破壊。それらを一瞬のタイムラグの元破壊した

 

 

 

「・・・・・・ビッチ、ビッチビッチ。ほんの少し驚きましたよ。わたくしの肌を晒して凌辱していただけますとはね・・・・」

剣殺交叉は相手の武器のみ破壊する必殺剣でみごとピーヴィーの左の手甲が砕け散っていた

 

「な、なんだ・・・それ」

春亮の震えた声の原因はピーヴィーの腕にあった

 

腕自体は普通だ。だがしかしその腕自体は歪に曲がり肌の色も壊死したような黒紫色をしていた

 

「なんだといわれても、ただの鉄の塊でコンクリートが壊れるほど殴ったら腕がこうなるのは、当然でしょう?」

 

「え、それって禍具とかじゃないの!?」

 

「誰があんな汚らわしい汚物に触れたいと思いますか!騎士領にはしかたなく禍具を使う者もおりますがわあくしはごめんです!それに・・・痛みが大好きなんです。敵を叩き潰すのと同時に性的興奮も味わえるなんて・・・素敵だと思いませんか?」

 

「く、狂ってる・・・」

 

「ド変態め・・・」

 



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7

さて間違ってた分の投稿です


ピーヴィーが狂喜と恍惚に染まった顔でボロボロの自身の腕を眺める

 

「う・・・うぇ・・・」

 

「このは!?しっかりしろこのは!」

呪いが解けかけてるこのははその性質が反転し今では血を見ると卒倒するのだ

ピーヴィーの腕はところどころから血が垂れ下がりそれがこのはの忌避感の原因だろう

 

「しかし若干バランスが悪いですね・・・まあ、構いませんが」

 

「させるかぁ!」

ゾリショがガバメントを撃ちまくるがどれも決定打にかける

 

今のピーヴィーに傷をつけるのはすなわちギリギリのところにあるこのはの容体を悪化させる要因になりかねないからだ

 

そしてピーヴィーが接近し振るわれた鉄拳をどうにかかわした春亮だが

 

「まさか使うことになるとは・・・つまらない手ですけど」

ピーヴィーの手甲に仕込まれた刃が春亮の腕を貫いた

 

「春亮くん!」

ゾリショが駆け寄り応急処置を施そうとするがピーヴィーがそれを許さない

 

春亮の悲鳴が響き渡る中フィアが感じたのは恐怖と

 

 

 

 

懐かしさだった

 

 

 

 

 

 

 

 

自分がいた廃城の領主たる男。狂気がみちる地下牢。それらがすべて鮮明に蘇り脳裏を駆け巡った

 

「あ、あああ・・・あああああああ、あははははは・・・」

その時の自分はまだ道具だった

 

だが人の感情をもって初めて理解した

 

「は、あはは・・違う・・はははは・・・笑うな・・ははっあははは黙れ!・・・あははははそんなことはおもってくははははははははは!!」

二重人格のように現れる笑いを押さえつけ気を紛らわすためコンクリートを拳で殴る

 

ゾリショの銃声の合間に春亮の悲鳴が聞こえまさに戦場さながらだった

 

(春亮が殺される、けどあの姿になりたくない、やらなきゃみんな死ぬ、けどあれになるわけには、ゾリショももう限界だ・・・どうすれば・・・いい?)

 

その時ふと頭を何かがよぎった

 

「人化できるほどの禍具は人の姿でもある程度その性質を操れる・・・」

そう、このはの手刀が刃物になったように、ゾリショの指鉄砲が拳銃になったようにフィアも自分と同じ四角形を媒介にやれるはずだ

ポケットから転がり出たルービックキューブ、これな出来る。やり方もわかる

 

「・・・やらなくては、ならない・・・」

少しだけ、ほんの少しだけ。春亮達を助ける間だけやろう

 

そこでフィアの理性にひびが入った

 

「そうだ、そうしよう・・・」

まるで亡霊かなにかのように立ち上がるフィア

 

「泣くのはお止めになったのですか?今更いったいなにを?」

 

「なにをするかだって?決まってる

 

 

 

 

 

これから、貴様の悲鳴を聞く。楽しみだ、あははは」

歪に、狂気に染まった笑みをフィアが浮かべた

 

 

 

 

 

「偽装立方体(エミュレーション)、展開(スタート)」

その瞬間突き出されたルービックキューブが変質し掌に収まる鋼鉄の箱に変わる

 

その箱から対角同士がくっついた無数の立方体が鎖のようにのびる

 

「二十六番機構・貫式閉鎖態【鋼鉄の処女】ーーー禍動(curse/calling)!」

呪文のように呟かれたその言葉は鋼鉄の箱を変形させ幾多の人々の命を踏みにじってきた拷問処刑具に変貌を遂げる

 

変形し終わったのは巨大な鉄の棺、鋼鉄の処女(アイアンメイデン)

 

「さあ、鳴け。みじめに、豚のように!」

フィアが立方体を操作すると同時にアイアンメイデンが不自然な動きと共に動きピーヴィーを数百の鋼鉄の棘が生えた内部へいざなう

 

「でぇぇりゃあああ!!」

ピーヴィーは逃げずにその場で残った右手の手甲を押し込む

 

ぎちぎち、と火花を散らす手甲と棘

甲高い音と共に鋼鉄の処女が弾かれピーヴィーはそのまま勢いよく駆けだす

 

「八番機構!砕式円環態!【フランク王国の車輪刑】---禍動(curse/calling)!」

今度は鋼鉄の処女がガシャガシャと組み合わさり出来上がったのは巨大な車輪だ

 

フィアが右腕を振ると車輪が躍動し車輪に取り付けられたピラミッド型のスパイクがピーヴィーの手甲とぶつかり合い再び火花を散らす

 

「ガッハ!・・・やっと、やる気になりましたか、ビッチ!」

ピーヴィーの挑発に答えずにフィアどこか虚ろな顔で車輪を引き寄せその形を変化させる

 

「十九番機構・抉式螺旋態【人体穿孔機】!---禍動(curse/calling)!」

新たに変形した形は凶悪なドリルだ

ドリルが恐ろしい音と共に回転を始めピーヴィーの胴体に突き出される

 

「ふふ、そうです。その顔です!人を傷つけるために作られた道具はどんな声で絶頂を迎えるのでしょう!ビッチ!」

巨大な甲冑と凶悪なドリルがピーヴィーの頬をかすめフィアを粉砕するべくピーヴィーの剛腕が振るわれた

 

「悲鳴を上げさせる方法は私とお前とでは数百年もの差がある。鳴け」

フィアが立方体を操作する

 

「三番機構・断式落下態ーーーギロチン!」

長年の直観がピーヴィーを自然と体を引かせる、が無理な体制だったのでピーヴィーの剥き出しの左手が切り落とされる

 

「ぐわあああああああああ!!!」

ピーヴィーの口から悲鳴がほとばしった

 

 




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8


遅れて申し訳ありません


転げまわるピーヴィー

 

唖然とする春亮

 

完全に沈黙したこのは

 

険しい顔で銃を構えるゾリショ

 

大笑いするフィア

 

辺りにはピーヴィーの千切れた腕から飛び散った血が流れ鉄臭いにおいが漂ってる

 

「あれが・・・フィア、なのか・・・」

春亮が呆然と呟く

 

「ぐうう・・・ううぅぐううう!ビッチ!」

ピーヴィーが荒い息で立ち上がる

 

「ハハハハ!無様だな!みじめだな!先ほどまでの威勢はどうした!?」

フィアが黒いルービックキューブを持ち上げる

 

「ビッチ・・糞を・・ブチ壊・・・ビッチ・・・」

ピーヴィーが幽鬼のように立ち上がりフラフラとフィアに歩み寄る

片腕の無い彼女にとってもはや立っていることすら困難であろう

 

そこまでして禍具破壊に暗い執念を燃やすピーヴィーは遥かに人間離れしていた

 

「ほぉ、まだ立ち上がるとは。その執念と根性は称賛に値するなぁ・・・」

そういいつつフィアのルービックキューブは立方体が鎖状になった立法鎖を巻き取り五番機構・刺式佇立態【ヴラド・ツェペシュの杭】を実体化させる

 

「貴様は頑張った方だ。あの世で誇るといい!」

幾多の人体を抉った処刑杭が放たれ空気を荒々しく削る

 

「だめぇぇぇ!」

ゾリショが叫び杭に銃弾を当てるが甲高い音と共に虚しく火花を散らす

 

「フィアぁぁぁぁぁぁ!」

春亮の叫びも虚しくピーヴィーに杭飛んでゆく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、ピーヴィーピーヴィーの胴体に白い『線』が巻きついた

 

その白い何かは目にも止まらぬ速さでピーヴィーを巻き取るとそのまま屋上から連れ去った

 

抉る目標を失った杭が屋上を再び破壊する

 

「・・・・なんだ、あれ?」

 

「さあ?待機していた仲間とか?」

ゾリショが拳銃を消し春亮に駆け寄る

 

 

 

 

「八番機構・砕式円環態【フランク王国の車輪刑】!」

フィアが唐突に拷問車輪を投擲した

 

「バットゥーダバロォーダニェン!【犠牲者の盾】(FSB)|!」

ゾリショの手に現れたのはライオットシールドだ

 

拷問車輪と7.62mm弾すら弾く防弾盾が擦れあいゾリショが車輪を横にそらす

 

「フィア!なにしてるんだ!?」

春亮が驚いてる

そりゃそうだ。味方のフィアに攻撃されたのから

 

「・・・・足りない・・・血が足りない!悲鳴が聞きたい!流血が見たい!」

フィアが拷問車輪を再び投擲。今度もゾリショがそらすも勢いに負けて尻餅をつく

 

「鳴けぇ!悲鳴をあげろ!」

身を護る術を失ったゾリショに車輪が肉薄する

 

『なにをやってるんですか!』

そこへ意識を取り戻したこのはが春亮の体を操りフィアの攻撃をそらし鞘でフィアの体を打つ

 

「がぁ!」

屋上をゴロゴロと転がるフィア

 

「ゾリショ、無事か!?」

 

「大丈夫」

首を回しながらゾリショが立ち上がる

 

「フィア・・・どうしちまったんだお前・・・」

ポツポツと雨が降り始める。台風が近い証拠である

 

「・・・・・は、はは・・雨、これも初めてだ・・・こんなにも、冷たいものなんだな・・・なにもかも、ずぶ濡れではないか・・・」

フィアは寝転がったまま自嘲じみた口調でしゃべった

 

「春亮、わかっただろう。これが私の本性、これが私の正体だ。私は結局、どうしようもなく狂っているだけの存在なのだ・・・人の概念を持って・・・初めて、罪に気付いた」

 

「・・・・・よくあることだよ」

例えるなら相手の足を踏んでからそのことに気付くようなもの

 

しかし、まだ人生経験の薄いフィアにそのことは理解できない

 

「よくある?本当にか?春亮、私の呪いを知っているか?私の呪いもありふれたよくあるものだ《所有者を狂わせる》どんな聡い人間だろうと心を狂わせ快楽のために他人を拷問せざるを得ないようにする・・・こんな私が罪深くなくてなんなんだ?」

 

「フィア、俺にはそんな呪い効かないから!体質だからこれからも大丈夫だ!」

 

「私には、人を殺した、罪がある・・・人を殺し過ぎた罪がある・・・」

 

「なんの話だ、フィア?」

 

 

 

「な、春亮・・・・・私は、私は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 赦されて、いいのか?」

 

 

今まで知らなかった罪の重さに苦しみ罪の重さに潰されそうなフィアの震えた声での問いだった

 

 

 

 

「帰ろう、ここは寒すぎる」

答える意味のない質問と断じてあえて答えなかった

なにも答えず、フィアに居場所を提供したのだ

 

「フッ、優しい・・・優しい答えだ。優しくて、最低だ」

その一言を残し身軽に屋上から飛び降りた

 

「フィア!待て!フィア!!」

春亮の伸ばした手は、届かなかった

 

 





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9

「さて、また血が出てきやがったね春亮くん」

ゾリショがピーヴィーに斬られた箇所をみて呟く

 

「このはが急所を外してくれたんだろ、ありがとう、このは」

 

「礼には及びませんが、心配ですし病院に行きましょう」

日本刀からこのはが元の体に戻り提案する

 

「そうだね、感染症とか怖いし」

このはの意見にゾリショも賛同する

 

しかし春亮は無言だった

 

「・・・・行く気はないと?」

 

「だったらどうする?」

 

「怒りますよ」

 

「・・・既成事実を」

 

「ゾリショ!お前は何言ってんの!?」

 

「そ、そうですよ!ゾリショさん!ふざけないでください!」

このはが真っ赤な顔でいう

 

「春亮くん、あの子が自分の意思で立ち去ったのんですからなにがあっても自己責任です、違いますか?それにあの片腕の人もあきらめた感じではないから今逃げるのは正しい判断です」

 

「ッ!・・・そうだけど、けどあいつ・・・『一人で眠ったほうがいいって』いってた」

 

「え?」

 

「逃げたんじゃない。もっとたちの悪い終わり方をしようとしてるんだ」

春亮は視界の隅で屋上から立ち去るゾリショの姿を認める

複数の禍具をもつ仲間同士、繋がるなにかがあったのだろうか?

 

「それでも・・・」

 

「頼むよ、この姉一生のお願い」

春亮の奥の手が発動した

 

「・・・卑怯です、その呼び方は」

 

「こうでもしないと、勝てそうにないし、それにぶつぶつ文句言いながらも最後には・・・いつも助けてくれた」

 

「ふん、知りませんよ」

拗ねたように後ろを向いてしいまうこのは、しかしその顔はにやけていた

 

「あー・・・実は、俺困ってるんだ」

 

「な、なんですかやっぱり痛みますか!?」

 

「あの・・その・・・服・・」

 

「服?」

 

「そろそろ・・・服着て・・・」

 

「早く言ってくっださいぃぃぃぃぃ!!」

このはが半泣きになりながら制服を取りに行く

人としての意思を持つ禍具は本来の形になると服は脱げた状態になるのだ

 

「この姉!新しい制服だよ!おりゃぁ!」

ゾリショが保健室から持ってきた制服をこのはがキャッチ、ピットインするF1のような感じで着替える

 

「フィアちゃんは、当たり前のことがわかってないだけだよ」

ゾリショがなにやらノートパソコンみたいな機材を取り出しながら呟いた

 

「当たり前?」

 

「そう、わたしも昔おんなじことしなかった?」

 

「ああ・・・」

まだ春亮が中学生だった頃の話だ

お祭りの出店のおもちゃの拳銃がゾリショの手により実銃に変貌し暴発、このはがいたので大事にはならなかったがゾリショは責任を感じて自殺しようとした事件だ

 

「だから、その時とおなじ考えでいいんだよー」

 

「同じ・・考え・・・」

 

「私は【ザミエルの鷹】(プレデター)で空からフィアちゃんを探す。春亮くんはこのはちゃんと思い出でも作ってきな」

 

「・・・・そうだな、どしゃ降りの中を走るなんて、若いころにしかできないからな。このはも一緒にどうだ?」

 

「・・・はぁー、思い出づくりなら、仕方ありませんね」

苦笑いしつつもこのはと春亮は走り出した

 

 

 

 

 

とある廃工場

 

薄気味悪い工場の中を一人の少女が駆けてる

背中には左腕が欠けた女性、ピーヴィー・バロヲイを背負って

 

素人目に見ても重傷のピーヴィーを毛布の上に横たえると羽織ったマントから何かが伸びる

 

「・・・・【怪物繃帯】(チュパカブラバンテージ)

ひとりでに伸び始めた包帯がピーヴィーの左肩に巻きつく

 

「う、ぐああぁぁ!がぁぁ!」

ピーヴィーが悲鳴を上げると体が魚のようにびくんとはねる

 

じゅるじゅると何かを啜るような音が部屋に不気味に響く

 

「ぅあ・・・な、なにを・・・」

想像を絶する痛みと共にピーヴィーの意識が覚醒する

 

「・・・もう満腹。のはず」

 

飛びかかろうとしたピーヴィーはあれほど痛んだ肩が痛まないのだ

 

「【怪物繃帯】はいかなる傷をも治療する。が最初に巻いた瞬間から激痛と共にこれは血を吸う。死に至る傷を防ぐために死に至る痛みを強いる。これがこの禍具のーーーー呪い」

 

後方支援員(オーグジラリ)・・・・」

 

「その状態ではホテルに運べなかった。故に隠れ家の一つであるここで処置した。説明が遅れたのを、謝罪する」

マントでかくれた顔をピクリとも動かさず淡々と事務的な説明をする

 

「・・・まあ、人材不足の騎士領ではしかたありませんね・・・あなた、名前は?」

 

「ん、【ミイラ屋】(マミーメーカー)とでも」

 

「ふふふ・・・そうですか、ちなみに嫌いなものはわかりますか?」

するとマミーメーカーは手帳を取り出しページをめくってく

 

「嫌いな物は禍具全般、特に・・・」

 

「細長い紐状の禍具は吐き気がするほど嫌いです」

ピーヴィーはそこでマミーメーカーの包帯を睨む

 

「・・・【怪物繃帯】の使用を、否定されてる?」

 

「そうではありません、この傷を治すためにやむなく。まあ、そこは譲歩しましょう、けど問題は、今」

 

「今?」

 

「それ、脱ぎなさい」

ピーヴィーが指さしたのはマミーメーカーのマント

 

「私は醜い。酷い火傷があって・・・」

 

「関係ありません。わたくしが見てない場所でならいざ知らず、目の前だと我慢なりません」

 

「・・・・必要とあらば」

マミーメーカーがフードを取る。すると包帯が自動でスルスル」とほどけ近くの廃材の裏に収納されていく

マミーメーカーの体は本人の言った通りうねるような火傷があり処置はされてるものその場所は黒ずんでる

 

「・・・醜いですって?充分きれいですわよ」

そんなマミーメーカーをピーヴィーは優しく頭を撫でた

 

「はぅ・・・」

するとマミーメーカーは顔を赤くしてうつむいてしまった

 

(あまり人と接したことがないのでしょうか・・・まあ、そこはそっとしときましょう)

騎士領の後方支援員や騎士は禍具に関わってしまった孤児や一般人で構成されており内々の事情を邪推するのは暗黙のタブーとされていた

 

「さて、わたくしは少し休みます。何かあったら起こしてください」

そういってピーヴィーは眠りについた







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10

お待たせしました


待ってる人がいたらですけど


雨が冷たく降り注ぐ街中、上野錐霞が路地でずぶ濡れのフィアを偶然見つけた

 

「フィアくん?どうした、こんなとこでずぶ濡れになって。夜知はどうした一緒じゃないのか?」

錐霞が傘を射しながらフィアに近づく

 

「・・・・・寄るな」

暗く、掠れた声で呟いた

 

「・・・そうは言っても。雨の降る中夜道にびしょ濡れの知り合いを放置するのは目覚めが悪い。よければ相談にのるぞ?」

 

「来るなッ!」

その瞬間錐霞の傘を無機質な鋼鉄のドリルが貫いた

 

「フィ、フィアくん・・・それは・・・一体?」

愛らしい少女には似つかない巨大なドリル。その巨大さはまさに重機のようだ

 

「ははっ・・・また私は、傷つけるのか。こんな、簡単に・・・」

フィアは絶望しきった乾いた笑いをあげる

するとドリルが一瞬でルービックキューブに変化し錐霞をまた驚かせる

 

「頼む。ほっといてくれ・・・」

憔悴しきった顔でフィアはふらふらと夜闇に消えて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたか?」

 

「ぜんぜん見当たりません・・・」

このはと春亮がそろって溜息をつく

バスや電車には乗れない(おそらく乗り方を知らない)からそう遠くには行けないはずだしゾリショの空からの捜索もあまり身を結んで無い様だ

 

「どこにいったんだよ・・・」

 

と、そのときポケットの携帯が鳴った。相手はクラスメイトの上野錐霞だ

 

「委員長さん!?悪い今ちょっといそがし」

 

《フィアくんを見た》

おもわず行動が全て止まった

 

「ホント?」

 

《ああ、その・・・なんとも、ばかげたことなんだ・・・見間違いではないと思ったが、実に非科学的で・・・」

ずいぶん動揺しているようだ

 

「どうしたんだいーんちょうさん!まさかフィアがなにかしたのか!?」

春亮の脳裏には先ほどの戦闘がよぎった

 

まさかフィアがどこかで暴れてるのか?

 

《いや、その・・・ルービックキューブがドリルに変形したんだ》

 

「ドリル・・・」

春亮の脳裏には屋上でみた【人体穿孔機】が思い浮かぶ

 

「春晃くん、フィアさんの情報かなにかは?」

このはが聞いてくる

 

「いーんちょうさん、今はちょっと事情で話せないんだ。フィアがなにか言ってなかったか?」

 

《ほっといてくれとしか・・・》

 

「そうか・・・ありがとう」

 

《うむ、こちらこそすまない、大したことを言えなくて・・・》

 

「いいんだ」

携帯を閉じる

 

「結局、わからずじまいか・・・」

 

「こうなったら、もう一度探すしかありませんね」

このはが疲れたように溜息をつく

 

その時春晃の携帯が震える。着信相手は、ゾリショ

 

 

 

 

 

 

《フィアちゃんが見つかったよ》

 

 



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11

この小説向いてなかったのかな?

日常シーン書くのがここまで億劫だと今知ったよ!


「これが海か・・・」

フィアが台風で荒れ始めた海を見る

 

風が轟々と吹き荒れフィアに容赦なく冷たい雨粒をぶつける

 

「テレビで見たものより、暗いのだな・・・」

フィアがそういう。だがフィアはこれが台風によるものとはしらない

 

「だが・・・私の、最後にはうってつけだな・・・」

そうフィアが呟く

 

一歩また一歩とフィアは海岸に歩み寄っていく

 

その足取りは重く、まさに亡霊のようだ

 

「・・・・ィアー!!」

 

「えっ?」

自分の名前を呼ばれた気がした。あのどうしようもなく能天気な少年に

 

「・・・・ふ、ははは!私も未練がましいな」

自虐じみた笑いを浮かべフィアはまた歩き出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそッ!本当にここなのか!?」

春亮が雨に濡れながら海岸に続く道を走る

 

「ゾリショさんはここだって言ってましたけど・・・」

このはもぼやきながら走る

 

ちなみにゾリショは《ザミエルの鷹》の代償でしばらく全身が金縛りで動けないため捜索に参加してない

 

「フィアーーー!どこだぁーーー!!」

 

「フィアさーーん!!」

このはと春亮が雨に濡れながら叫ぶ

 

しかし探し人は一向に答えたりはしない

 

「どこにいるんだよフィア・・・」

荒れ始めた海を見てぼやく春亮が目にしたのは

 

「・・・・・あ」

波打ち際に漂う一個の立方体、ルービックキューブ

 

「・・・は、ははは、そうか。そういうことか・・・」

なんとも疲れた笑みを浮かべた春亮はポケットから財布や携帯を取り出す

 

「・・・春晃くん?」

このはが不思議そうに春晃をみる

 

「あいつは二つ、見落としていた。一つはバカだったこと。とりあえず人気が無けりゃなんでもよかったんだな、けど海でよかったよ。そして二つ目」

春亮は大きく深呼吸し軽く体をほぐす

 

「俺のあきらめの悪さをなめるな!」

そのまま、海に、飛び込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブッハ!」

 

「春晃くん!」

フィアを掴んで浮かび上がった春亮をこのはが掴んで陸に引き上げる

 

「生きてるか?」

 

「さあ?けど、私達はこの程度では死にませんし、きっと生きてますよ」

このはが投げやりに言う

 

「あぁ……そういや、おまえ等がそう《・・》なの。すっかり忘れてた……」

 

禍具は並大抵のことでは壊れない。それこそ粉々に砕いたりしないと壊れたりはしないのだ

 

「まったく……そう……またいいんですが……」

 

「このは、何かいったか?」

 

「いいえ、なにも」

このははとっさにごまかし歩き出した

 

「まったく、心配かけやがって……」

背中で安らかな寝息をたてるフィアをみてため息をつく春亮だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あぁー………痺れる」

《ザミエルの鷹》の効果が薄れてきたゾリショは身体の痺れを解す

 

「やれやれ、参ったな……」

ノートパソコンのような機器を仕舞い、縁側に目を向ける

 

そこには蓑虫のように逆さにぶら下がる一人の少女

 

蒐集戦線騎士領の後方支援員の《ミイラ屋》がゾリショを冷たい無表情で見ていた



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12

「あんた、名前は?」

ゾリショがぶら下がった少女に聞く

 

「私は、《ミイラ屋(マミーメーカー)》蒐集戦線騎士領の後方支援員(オーグジラリ)

《ミイラ屋》は表情を変えずにそう呟いた

 

「そうか、で。なにしにここへ?」

 

「提案にきた」

 

「はぁ?」

 

「我々の目的は《箱型の恐禍(フィア・イン・キューブ)》の破壊。それのみが至上命令。よって《箱型の恐禍》を、そちらが破壊するか、無力化し引き渡す、もしくは《箱型の恐禍》の破壊を邪魔しない、のどれかを選べば、他の日本刀や銃火器や夜知家の人員には危害を加えないことを、約束する」

淡々と、逆さづりでそうのべる少女

 

「ふぅーん、何でそんなこと言い出すの?」

この提案はいささか突発的で胡散臭い

 

「……先の戦いで騎士の一人が負傷、した。これ以上の損失は、避けたい」

 

「へぇー……」

向こうはそんなに大勢居るわけではないと

 

「ねえ、なんで今更そんな交渉に来たの?」

確かに、戦ってから「休戦しましょ」は順番がおかしい

 

「……これは、私の個人的な申し出。でも、約束は、守る」

そういうと《ミイラ屋》は袖から飛び出た白い布か何かをスパイダーマンのように木に巻きつけあっという間にどこかへと消えた

 

「……フム、なんだったんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうことがあったんだよ」

 

「なるほど……確かに妙な提案だな」

ずぶ濡れになり、オマケに霧霞さんも付いてきたのでちょっとした騒動もあったが今は全員が身体を拭い、仲良くカレーを食べていた

 

「敵の罠の可能性もありますから、行動は慎重にしたほうがよろしいですよ」

 

「このはの言うとおりですよ。話に乗ってフィアちゃんを渡してもあのバロヲイとかいうイノシシ女が止まるとも思えないし」

ゾリショは深夜アニメを観ながら呟く

 

「そうだな。とりあえずその交渉は放置して向こう側を急襲できたらいいな」

春亮が残念そうに呟く

バロヲイとかいう戦闘員が重傷を負っており、向こうは今戦力が無いときた。ここでさらに追撃を食らわしたら撤退は確実だろう

 

「場所がわかればなぁ……」

 

「ですよね……」

この街も小さくはない。そこから二人の人間を探すのはかなり難しい

 

「《ザミエルの鷹》を街中で使うのは危険だしなぁ……」

うっかりロングヘルファイヤが街中に落ちたりしたら大変だ

 

「そうなると地道に探すより待ってた方がいいな」

霧霞が呟く

 

「ちなみに夜知、その者達が攻めて来たらどうするのだ?法に接するようなことをするというなら……」

霧霞がじっとりとした目で見てくる

 

「いや、そんなことしないよ、装備を破壊するか来る気が無くなるまでシバキ倒すぐらいかな」

事実、それぐらいしか出来ないのだ

 

「わざわざ戦力分散させてさがすより戦力集めて一カ所で護る方が楽だしね、夜はあたしとこのはちゃんで護っとくよ」

深夜アニメを見終わったゾリショが立ち上がる

 

金色のアホ毛を弄りながら狙撃銃を担ぎ上げる

 

夜はますます深まってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃工場

 

プルルルプルルルプルルル………

 

「う、うぅー……」

ピーヴィーが鬱陶しそうに目を開け枕元の携帯を持ち上げ耳に当てる

 

「……hello?」

 

《一等殲滅騎士、ピーヴィー・バロヲイか?》

 

「………領主様!?」

一瞬で眠気を吹き飛ばし声を正す

 

「申し訳ありません!」

 

《よい、いきなりかけたのは私だ。それより、お前に伝えることがある》

そのとき、ピーヴィーは眉をひそめた

 

領主様が直々に伝えることとは何だろうか?それほど重要なのか?

 

《後方支援員から話を聞いて事前情報に無い禍具があったそうだな》

 

「え、えぇ、まぁ……」

 

《最近騎士の殉職が相次いでおる。そのため、お主の元に増援を送ることにした》

 

「ぞ、増援……?」

 

《ああ、『旅に疲れた者(ウォーカー)』を送った。二人で確実にしとめるのだ。期待してるぞ》

 

「は、はい!わかりました!領主様!」

そして電話が切れニヤリとピーヴィーが笑う

 

領主直々の激励だ。失敗するわけにはいかない

 

余所からやってくる人員は正直アレだが領主様の優しさとでも思っておこう

 

「しかし、『旅に疲れた者』か……」

奴は厄介な体質持ちだ。上手く戦えればいいが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京湾

 

一隻の貨物船が港に着岸する

 

「……ついた」

くたびれたように呟く一人の青年

 

首につくかつかないくらいの長さの黒髪に青い眼、そしてくたびれたロシア空軍の軍服

 

彼こそ蒐集戦線騎士領の切り札のうちの一つである【選抜特殊騎士】(スペシャルナイツ)である

 

【選抜特殊騎士】とは禍具を使わずともその身に宿した特異能力や限界まで高められた身体能力や武技などを扱う一般の騎士とはまた毛色が違う騎士である

 

「住所は……遠いなぁ……」

だるそうに呟き歩き始めた

 

近くに空港もあるのにわざわざタクシーを使いピーヴィーの潜伏する廃工場に向かった

 

 



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13

だいぶ間が空いてしまいましたね


結局、あの後は敵が攻めてきたら基本的に徹底的にしばき倒して追い返すことに落ち着いた

 

霧霞ちゃんは帰った。もし攻められたら大変だしね

そのためしばらく交代で見張りをつけることにした

 

ところで、銃火器の音はうるさい

 

ゾリショが使う禍具も例外なく音をまき散らす

 

そして、ここに一個の禍具がある。その名前は《聞こえないが見えはする(ジャックポット)》というサプレッサーである

このサプレッサーの効果は銃声を消す、といったものだ

 

おまけにどんな銃火器にも取り付けれるすぐれものだ

 

そんなサプレッサーを巻いたM240軽機関銃《理想社会への犠牲》という名の銃で、ザカエフ国際空港で起きたテロで使用された銃の内の一丁である

 

屋根に登り、機関銃の二脚(バイボット)を立て、上から辺りを見渡す

 

表は大丈夫と思い、あくびを一つし、機関銃の照準を調節する

 

その瞬間

 

「うッ!?ぅぐあぁあああぁ……」

急に痛み出した左胸を抑える

まるで、いきなり焼け火鉢を突っ込まれたような熱さだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『殺せ、ロシア人だ』

 

「ッ!!?」

その瞬間、ゾリショは空港にいた

 

幾人もの人々が通り過ぎる中、誰もゾリショには気付かない。どころかゾリショはそこにいないように感じられた

 

そこへ巻き起こる殺害の嵐

 

三丁の機関銃と二丁のライフルとショットガンが乱射され、ところ構わず弾痕を開け、人々の命を例外なく刈り取っていく

 

『uraaaaaaaaaaa!!!』

男達が叫びながら重火器で人々を薙ぎ倒していき、警官の持つ拳銃では歯がたたない

 

『やめてッ!撃たないで!!』

男達を止めようにも機関銃による蹂躙は止まらない

 

『あ、ああ………』

 

怖くなった。こんなことをしている人が

 

 

 

そして自分の一部(・・・・・)がそのことに加担していると考えるとたまらなく恐ろしかった

 

男たちは金属探知機をビービ―鳴らしながらホールへ向かう

 

チーン

 

振り向くと胸から血を流した男がフラフラと歩き、やがて倒れた

 

『大丈夫ですか!?』

ゾリショが駆け寄ると男は

 

『マ、マカロフ……』

血混じりの咳をしながら男は落ちていた拳銃を拾い上げる

 

薄れゆく意識の中、彼は拳銃を撃つ。マカロフただ一人を殺すために

 

しかし、装填されている9mm弾はかすりもしない

 

『くそッ……クソォ……』

やがて男は弾切れの拳銃を落とし、そこで倒れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャ――ン!!

 

その音で現実に戻ったゾリショは機関銃を持ち上げる

 

下を見るとローブを羽織り、黒くて細長い何かを伸ばしてさながら探検家のように逃げ出す不審者がいた

 

「逃げすかッ!!」

サプレッサーに減音された機関銃が遠慮なしに撃たれ、逃げ出す不審者の周囲を機銃弾が抉るが命中弾は無い

 

やがて姿が見えなくなり、ゾリショも銃を撃つのを止める

 

7.62mm弾の空薬莢が屋根を転がる音が響く

 

「……」

撃った銃弾のうち当たったのは2、3発しかし、向こうはぴんぴんしていた

 

ゾリショの脳裏にはカードを届けに来た少女、《ミイラ屋》の姿を思い浮かべる

 

(あの子にしちゃ、やけにタフだな……)

 

 

 

 



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14

「春亮くん、怪我はない?」

ゾリショが軽機関銃を脇に置き、春亮にすり寄る

 

「ない、ないから!その手は何だ!?」

 

「念の為調べないとね!大丈夫!痛くしないから!諦めて服を脱げッ!」

手をわきわきと蠢かしながら春亮に詰め寄るゾリショ

 

「脱ぐかッ!」

そんなゾリショと春亮のやりとりもこのはの介入により終わる

 

「敵は取りあえずは撃退?出来ましたね」

このはが肩を回しながら呟く

 

「しかし、まさか日付が変わった瞬間に襲ってくるとはな……」

 

「ごめん、春亮くん。ちょっとボーッとしてたらこのざまでした……」

 

「ゾリショさんが見落としたのも仕方ありません。殺気という殺気がありませんでしたから、私の責任です」

このはが申しわけなさそうに謝る

 

「敵はどっからきたのかな?」

ゾリショが呟くようにこのはに聞く

 

「……わかりまそん。でも次は猫が来てもわかるぐらいにしときますね」

 

「あぁ、わかった……」

春亮があくびをかみ殺す。寝てたところを叩き起こされたのだ、眠いだろう

 

「……では、配置を変えましょう。ゾリショさんは表、私は再び裏を見張りますね」

 

「異論なし!」

機関銃を抱え、立ち上がるゾリショ

 

 

夜はふけていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむぅ……どうしたものか」

ゾリショは先程から左胸を撫でていた

 

原因は先程の激痛。今はすっかり治まっているが未だ原因はわからなかった

 

(……そういえば左胸には切り傷があったな……)

ゾリショは第三次世界大戦の武器が詰まった箱の禍具。であり、大戦中にうけた傷は計り知れない

 

その中でも左胸、丁度心臓の位置にある切り傷はどこで受けたのか記憶が無いのだ

 

「なんだろうかな?心不全!?ヤダー!」

両肩を抱いて軽くふざけていると

 

「んなわけねーだろ」

 

「っ!?」

《理想社会の犠牲》を消し、取り回しの効く《唯一無二の相棒》を抜き放つ

 

「《幽霊の目(エンドレスフォーリング)》」

何かが光り、ゾリショは反射的に目を覆った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、ここ?」

ゾリショが目を開けるとそこは海の上の石油リグだった

 

そして戸惑うゾリショの前には男が一人いた

くたびれたロシア空軍の制服に肩には傷だらけのAK-47、目には血がついたサングラスをかけている

 

「俺の名は……まぁ、ニコライ・ウォーカーとでも呼んでくれ、【蒐集戦線騎士領】所属、まぁ、なんだ。【箱型の恐禍】を潰しにきた…ダルゥ…」

男は首をコキコキ鳴らしながらAKを持ち上げる

 

「ここどこ?」

 

「ここは……まぁ、どこでもいいだろ。強いていうならこのサングラスの持ち主が生前見ていた風景のどっかだ」

サングラスを中指でズラし、こちらを見てくるニコライ

 

「新手か……目的は?」

 

「さっきも言ったろ?お前らフィアと呼ぶ物を、破壊する」

 

「だとしたら、なぜ私をこんなところに?」

 

「……各個撃破ってやつだ、よ!」

ニコライが脈絡もなくAKを乱射した

 

7.92mm弾がゾリショに襲い掛かる

 

「バットゥォーダンバローダニェン!【犠牲者の盾】!」

強化プラスチックのライオットシールドが銃弾を弾き、ゾリショがその距離を詰める

 

「これでも、食らえ!」

AKの銃身に取り付けられたグレネードランチャーが発射される

 

「ヤバッ!」

【犠牲者の盾】は後ろから攻撃を食らうと重症なのですぐさま解除して【唯一無二の相棒】を撃ちながら逃げる

 

「へぇー、いい動きするじゃないか」

ニコライが手榴弾を腰から取り出し投げる

 

放物線を描いていた手榴弾は突如、動きをとめゾリショの真ん前に落ちてきた

 

「なんでだぁ!?」

物理法則を無視した手榴弾の動きに驚き、素早く手近なコンテナに隠れ爆風から身を守る

 

「ハァッハァッハァッ!スペシャルナイツをなめるなよ!」

ニコライの笑い声が響いた

 

 




オリジナル禍具解説

《幽霊の目》
生前このサングラスをかけていた特殊部隊隊員が参加した作戦の風景を再現する禍具
視線を合わせた相手も同じ様に見せることができ、一種の別空間に転移させる禍具
サングラスを外したり、使用者がその空間で死ぬか禍具自体が破壊されると元の空間に戻る
ちなみにその戦いをリプレイするので、実際に敵や味方も出てくる

《その手は血で汚れてる》
アフリカの民兵が使用したAKの内の一丁
集団暴行で殺された人々の怨嗟が込められた銃で代償として悪夢にうなされる




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