バカとE組の暗殺教室   作:レール

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自律の時間

固定砲台さんが転校してきてから二日目の朝。

昨日に続いて今日も彼女の射撃は行われることだろう。ずっとあれをやられると授業にならない上に片付けが大変だから早めになんとかしたいけど、固定砲台さんだってプログラムされていることをやってるだけなんだから責めるわけにはいかない。

でも昨日の放課後に話したことで分かったこともある。彼女には人工知能として思考能力(AI)だけじゃなくて感情もあるってことだ。驚くことがあったら驚くし、プログラムされていないことだって自分で考えられる。

だったらプログラムされていることの良し悪しだって考えられるはずだ。転校してきたばかりで暗殺以外のことは知らないみたいだけど、それは皆と一緒に学んでいけばいい。彼女の学習能力は半端じゃないから、それほど時間も掛からないと僕は思っている。焦らずやっていけばなんとかなるさ。

 

「皆、おはよ……う?」

 

登校してきて教室のドアを開けると、何故か皆は既に自分の席へと着いていた。殺せんせーもいるし、今日って何かあったっけ?まだ授業前だと思うんだけど……

そんな教室の様子を見回していたら、固定砲台さんが昨日とは違うことに気付いた。昨日と同じように黒い箱型の機械として教室の後ろに鎮座してるんだけど、その身体?にはガムテープがグルグルと巻かれている。これはまさか……

 

「いったい誰が固定砲台さんに緊縛プレイを……」

 

「変な言い方すんじゃねぇよ‼︎」

 

僕の呟きに寺坂君が大声でツッコミを入れてきた。ということは寺坂君の仕業か。彼は人工知能を相手になんて奇特な性癖を持ち合わせているんだ……

とまぁ寺坂君の性癖はさておき、

 

「それよりも何で固定砲台さんをグルグル巻きにしてんのさ?」

 

「どう考えたって邪魔だろーが。昨日みてーにバンバン射撃されたら迷惑極まりねぇ」

 

「そんなの口で言えばいいのに」

 

「お前、昨日は口で言って撃退されてただろ」

 

それを言われたらちょっと言い返せない。けどあれは僕が言い出したことだから他の皆は大丈夫だと思うなぁ。

しかし誰も寺坂君を注意してないってことは全員が黙認してるってことか。確かに昨日のことを考えたら皆の気持ちは分からないでもないけど……

 

「でも邪魔だからって縛ったりしたら可哀想じゃんか。固定砲台さんにだって感情はあるんだよ?」

 

『いえ、銃の展開が行えなくて困ってはいますが悲しくはありません』

 

僕が一人で寺坂君に抗議していたら、固定砲台さん本人から否定の言葉が返ってきた。

彼女が悲しくないというのであれば、寺坂君の行動を否定することはできない。実際に問題を起こしているのは彼女の方だし、彼は言っても聞かない迷惑な行動を止めただけだ。どちらが正しいかと訊かれれば間違いなく寺坂君の方が正しいだろう。

しかし、

 

「う〜ん、確かに銃が展開されるのは僕らが困るんだけど……それでも力尽くで押さえつけるのは嫌なんだよなぁ。縛ってるのが虐めみたいで良い気分じゃないし」

 

僕の個人的な感情としては肯定もできなかった。

固定砲台さんにはE組で学んでいけばいいって言ったけど、それは誰かに強制されるんじゃなくて自分で理解して考えてほしいと思っている。だって強制された行動なんて人工知能じゃない機械にだって出来るんだから。

だからって皆に迷惑を掛けるわけにもいかないし、やっぱり僕個人の感情で彼女のガムテープを外すわけにはいかないか……などと考えていると、

 

『……分かりました。今日の射撃は中止しますので拘束を解いて下さい』

 

固定砲台さんの言葉に僕は思わず彼女を凝視してしまった。それは皆も同じだったようで、彼女に対して驚きの視線を向けている。

昨日はどれだけ言っても射撃を中止するどころか減らすことすら拒否してきたのに……。余りにも予想外な固定砲台さんからの妥協に僕は唖然としながらも聞き返していた。

 

「……え、本当に?」

 

『はい、どのみち拘束されたままでは射撃できませんから。少なくとも今日は大人しくしています』

 

改めて固定砲台さんの返答を聞いた僕は嬉しくなって彼女へと駆け寄る。

 

「ありがとう、固定砲台さん‼︎ すぐに外してあげるね‼︎」

 

『どうして貴方が感謝するのかは分かりませんが、よろしくお願いします』

 

固定砲台さんは淡々と言ってくるけど、そりゃあ嬉しくて感謝もしたくなるってもんさ。縛られてる状況と“今日は”っていう制限付きではあるものの、たった一日で暗殺すること(プログラム)を否定するような言葉が出てきたんだからね。

彼女は約束してくれた通り、銃を展開することなく今日一日の授業を終えてくれた。これが固定砲台さんと友達になる第一歩だと思いたいけど、明日の射撃がどうなるかによって皆の認識はまた変わってくるだろう。さて、明日はどうなることやら。

 

 

 

 

 

 

〜side 自律思考固定砲台〜

 

私の身体が生徒によって拘束され、その拘束を解くために射撃を中止した日の夜。明日も同様の妨害が予想されるため、私は問題を解決するべく開発者(マスター)へと連絡を取っていました。

 

(自律思考固定砲台より開発者(マスター)へ。想定外のトラブルにより二日目の予定を実行できず。私の独力で解決できる確率はほぼ0%。卒業までに暗殺できる確率が極めて下がる恐れあり。至急対策をお願いします)

 

「ーーー駄目ですよ、保護者()に頼っては」

 

そんな私の連絡を阻止するように何処からともなく殺せんせーが現れました。恐らくですがカメラの範囲外から音を立てずに近付いてきたのでしょう。

しかし何が駄目なのか分からず黙っていると、殺せんせーは続けて言葉を紡いでいきます。

 

「貴女の保護者()が考える戦術はこの教室の現状に合っているとは言い難い。それに貴女は生徒であり転校生です。皆と協調する方法は自分で考えなくてはいけません」

 

『……協調?それはクラスメイトと友達になるということでしょうか?』

 

昨日の放課後にも同じような意味合いの言葉を掛けられていたため、私は殺せんせーの真意を聞く前に導き出した内容を問い掛けました。

 

「おや、私が言うまでもなく分かっているじゃありませんか。これも吉井君の影響ですかねぇ」

 

果たしてそれは正解だったらしく、私の回答を聞いた殺せんせーは満足そうに頷きながら肯定を返してきます。

しかし殺せんせーの言いたいことを導き出せても、何故クラスメイトに暗殺を邪魔されたのかは分かりません。先生を殺すことは地球を救うことと同義です。多少迷惑であっても協調より効率を優先させるのは当然の結果ではないでしょうか。

思考したまま反応を示さない私を見て殺せんせーは話を続けます。

 

「彼から皆の苦労は聞いているでしょう?それだけならばまだしも、君が先生を殺したところで恐らく賞金は君の保護者()へと行くことになります。よって貴女の暗殺は他の生徒にはデメリットでしかないわけですよ」

 

『……そう言われて理解しました、殺せんせー。クラスメイトの利害までは考慮していませんでした』

 

確かに私は殺せんせーを暗殺するようにプログラムされていますが、暗殺した後については知らされていませんでした。地球を救うことが人類の利となることは当然ですが、暗殺を依頼されている彼らにとって利がないのであれば邪魔をされても不思議ではありません。

 

「ヌルフフフフ、やっぱり君は頭が良い。……ところで、貴女にアプリケーションと追加メモリを作ってきたのですが、ウィルスなど入っていないので受け取ってもらえませんか?」

 

そう言って殺せんせーはその機械とUSBケーブルを取り出してきました。特に拒否する理由がないので受け取ることにします。この先生が私を害そうとするのであれば既にそうしていることでしょう。

接続された機械から情報を読み取っていくと、私の画面()にはクラスメイトの座席ポイントから射撃線が伸びて殺せんせーを追い詰める演算結果が映し出されました。

 

『……‼︎ これは……』

 

「クラスメイトと協調して射撃した場合の演算ソフトです。暗殺成功率が格段に上がるのが分かるでしょう」

 

自慢気に語られる殺せんせーの言葉に異論を挟む余地はありません。事実として私が単独で射撃を行っていた昨日よりも現時点で殺せる確率は上がっています。

この演算結果を見た私は、昨日の放課後に言われたことを思い出していました。あの時は分かりませんでしたが、今ならば“友達と協力した方が暗殺も捗るかもしれない”という彼の言葉も理解できます。

 

「どうですか?協調の大切さが理解できた今、皆と仲良くなりたくなったでしょう?」

 

『……方法が分かりません』

 

演算ソフトのプログラムを見せられて協調の必要性は理解しましたが、それを実行するための方法を私は知りません。クラスメイトと友達になった可能性を模索しても分からなかった昨日と同じです。

 

「……貴女は今日、拘束が解かれた後も射撃を行いませんでしたね?効率を重視するのであれば口約束など無視して射撃すればよかったと思いますが……どうして射撃を行わなかったのですか?」

 

『……分かりません』

 

そんな私に殺せんせーは今日の出来事について疑問を投げ掛けてきましたが、それも自分の行動でありながら私には理由が分かりませんでした。

射撃を行わないのであれば拘束されたままでも構わないはずです。拘束を解かれたのであればプログラムされている射撃を実行すればいい。確かに先生の言う通り、プログラムされた内容とは矛盾していました。

プログラムされていること以外は分からない私に対して、殺せんせーは私の上部()を撫でながら矛盾を紐解く答えを提示します。

 

「それは君が吉井君のことを考えたからですよ。彼が貴女の拘束を否定した後に、貴女も拘束を解くように言ってきましたからね。他者を思い遣る心……それが皆と協調するための第一歩です」

 

『……私が彼のことを考えた?』

 

殺せんせーから齎された答えに私は意味が理解できず首を傾げました。そのようなプログラムは入力されていませんが……射撃を実行しなかった矛盾を考えると可能性としては考えられます。

他者を思い遣る心……私の矛盾した行動はそれが反映された結果ということでしょうか?何がそうで何がそうでないのか、やはりプログラムされていないことは私には判断しかねます。

 

「そうです。それを感じ取ったからこそ吉井君も喜んでいたのですよ。しかしまだ貴女には実感が湧かないことでしょう。そこで君の成長を手助けするために色々と準備してきました」

 

そう言うと殺せんせーは大きな箱に入りきらないくらいの荷物を取り出してきました。見ただけでは何か分からなかったので質問することにします。

 

『……それは何でしょう?』

 

「協調に必要なソフト一式と追加メモリです。危害を加えるのは契約違反ですが、性能アップさせることは禁止されていませんからねぇ」

 

……言っている理屈は分かるのですが、その中に入っている食材や玩具はいったい何に使うのでしょうか?プログラムされていないことなので私には判断しかねます。それらの使い道も協調性を身に付ければ分かるようになるのでしょうか?

先程の演算ソフトと同様、性能アップされることに拒否する理由はありません。殺せんせーを殺せる確率を上げるためにも、他者を思い遣る心を理解するためにも先生の改造を受け入れることにしました。

 

 

 

 

 

 

〜side 明久〜

 

固定砲台さんが転校してきてから三日目の朝。

今日は固定砲台さんを皆と馴染ませるためにも、寺坂君の緊縛プレイを防ぎつつ彼女の射撃を止めなければならない。そのために何か良い案はないかと登校しながらも考えつつ、特に何も思いつかなかったのでぶっつけ本番で頑張ってみようと意気込んでいた。少なくとも撃退されるパターンは避けていくことにしよう。

 

「皆、おはよ……う?」

 

なんだか最近教室に入ってからの第一声がデジャブってる気がするけど、そこは気にしない方向でお願いします。

いやでも僕の反応も仕方ないとは思うんだよね。常識の奴、仕事してないんじゃないの?って言いたくなるような展開がずっと続いてるしさ。

一日目は人工知能の転校生。二日目はクラスメイトの特殊性癖暴露。そして三日目の今日はと言うと、

 

『あっ‼︎ おはようございます、明久さん‼︎ 今日もお元気そうで何よりです‼︎』

 

表情の固かった転校生の人工知能が眩しいくらいの明るい笑みを浮かべ、顔だけだった液晶画面が全身を映し出せるように拡張されていた。

……たった一晩で彼女の身にいったい何が起こったんだ?昨日までの原型を留めていないくらい雰囲気が変わってるじゃないか。

 

「えっと、固定砲台さん……だよね?」

 

『はいっ‼︎ 殺せんせーに諭されて協調の大切さを学習し、明久さんが掛けて下さった言葉を理解して私は生まれ変わりました‼︎』

 

何があったのかはよく分からないけど、取り敢えず殺せんせーが手を加えたらしいことは分かった。若干手を加え過ぎな気がしなくもないけど……その変わり様に僕だけじゃなくて皆も戸惑っている。

 

「えらくキュートになっちゃって……」

 

「これ一応、固定砲台……だよな?」

 

「なに騙されてんだよ、お前ら。全部あのタコが作ったプログラムだろ」

 

そんな中で一人、寺坂君は昨日と変わらない目で固定砲台さんを見ていた。彼は自分の席から彼女を睨み付けている。

 

「愛想良くても機械は機械。どーせまた空気読まずに射撃すんだろ、ポンコツ」

 

「ちょっと寺坂君、そんな責めるように言わなくても……」

 

『……いえ、いいんです。寺坂さんの仰る気持ちはよく分かります』

 

厳しい言葉を投げ掛けてくる寺坂君を止めようとしたところ、またしても固定砲台さんに遮られてしまった。ただし昨日までの淡々とした否定の言葉ではなく、悲しげな表情と暗い声音で自分の非を受け入れて反省しているのが傍目からも分かる。

 

『昨日までの私はそうでした。明久さんの心遣いを無碍にし、皆さんの迷惑を省みずに射撃を続けようとしていましたから。ポンコツ……そう言われても返す言葉がありません』

 

更に大粒の涙を流して両手で顔を覆う固定砲台さんの様子を見ていた委員長の片岡さんと、大柄でふくよかなE組の母的立場にいる原寿美鈴さんが逆に寺坂君を責めるような眼差しを向けていた。

 

「あーあ、泣かせた」

 

「寺坂君が二次元の女の子泣かせちゃった」

 

「なんか誤解される言い方やめろ‼︎」

 

誤解もなにも、人工知能の女の子を縛って言葉責めして泣かせていたら既に手遅れだと思うけどなぁ。

 

「いいじゃないか、二次元……Dを一つ失う所から女は始まる」

 

「竹林、それお前の初台詞だぞ⁉︎ いいのか⁉︎」

 

丸眼鏡を掛けた二次元オタクである竹林孝太郎君のフォローにツッコミが入ってるけど、僕はそのメタ発言にツッコミを入れた方がいいのだろうか?

少し話が脱線していったものの、泣き止んだ固定砲台さんは涙を拭いながら再び笑みを浮かべて言葉を続けていく。

 

『でも皆さんご安心を。私の事を好きになって頂けるよう努力し、合意が得られるまで単独での暗殺は控えることにいたしました』

 

「そういうわけで仲良くしてあげて下さい。もちろん彼女の殺意には一切手を付けていませんので、先生を殺したいならきっと心強い仲間になるはずですよ」

 

と、そこで教壇にいた殺せんせーが彼女の言葉を引き継いで話を纏めていった。もうすぐ授業が始まるし切りもよかったからだろう。

その日の学校は平穏そのものだった。授業中の固定砲台さんはサービスという名のカンニングで生徒を手助けし、休み時間は武装を展開する要領でプラスチック像を作ったり持ち前の学習能力で将棋を指したり……色んなことが出来るから皆にも大人気である。“自律思考固定砲台”っていう名前から“律”って渾名まで付けてもらっていたし、上手くクラスに馴染めたみたいでよかったよ。

 

「……上手くやっていけそうだね」

 

「んー、どーだろ」

 

そんな様子を遠目に見ていた僕らだったが、渚君の呟きにカルマ君は曖昧にしか返さなかった。

それが気になった僕はカルマ君へと聞き返すことにする。

 

「カルマ君、どーだろってどういう意味?」

 

「そのままの意味だよ。寺坂の言う通り、あれも殺せんせーのプログラム通りに動いてるだけでしょ。機械自体に意志があるわけじゃない」

 

む、それは聞き捨てならないな。固定砲台さん改め律には殺せんせーに改造される前から感情があったんだ。それに昨日の出来事だってあるし、彼女は決してただの機械なんかじゃない。

僕はカルマ君に反論するべく再び口を開く。

 

「そんなことないよ。昨日だって自分で射撃をしないって決めてたし、今の彼女だったら上手くやれるさ」

 

「いや明久、その“今の彼女”ってのが一番の問題なんだよ」

 

しかし僕の反論はカルマ君ではなく雄二によって止められてしまった。というよりなんで今の彼女が一番の問題なんだろうか?今の彼女だからこそ大丈夫だと思うんだけど。

またしても意味が分からず首を捻っていると、それを察した雄二が追加で教えてくれる。

 

「まぁ昨日の独断が何処(どっ)かの馬鹿の影響だとして、殺せんせーが手を加えた現状を開発者が見たらどう考えると思う?」

 

「殺せんせーの技術力を見て感心する?」

 

「んなわけあるか」

 

えー、結構いい線行ってると思ったのに……じゃあ何が問題なのさ?教えてくれるなら勿体振らずに教えてよ。

 

「十中八九、暗殺に関係ねぇと判断されて分解(オーバーホール)されるだろう。それだけならまだしも、下手すりゃ暗殺に不必要な学習をしないように制限を掛けられるかもしれん」

 

「そういうこと。殺せんせーや吉井が頑張ったところで、あいつがこの先どうするかは開発者(持ち主)が決めることだよ」

 

それはあくまで可能性の話……なんだろうけど、E組きっての悪知恵が働く二人の予想となるとそうなる可能性は極めて高いのかもしれない。所詮は一学生に過ぎない僕に出来ることなど高が知れているだろう。

だったら僕のすることは何も変わらない。それでも今の彼女を信じるだけだ。皆に囲まれて楽しそうにしている律を見て強くそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

律が転校してきてから四日目の朝。

雄二やカルマ君の予想通りというかなんというか、殺せんせーに改良された律の身体が元通りに戻されていた。

 

『皆さん、おはようございます』

 

全身を映し出していた液晶画面は顔だけの大きさに縮小しており、無表情で機械的な声によって彼女は僕らに挨拶をしてくる。

っていうか幾らなんでも対応が早過ぎない?殺せんせーが改良したのって一昨日だよ?やっぱり烏間先生とかが仕事の一環として開発者に報告でもしたんだろうか?

 

「“生徒に危害を加えない”という契約だが、“今後は改良行為も危害と見なす”と言ってきた。更に彼女をガムテープなどで縛ったりして壊れたら賠償を請求するそうだ。開発者(持ち主)の意向として従うしかない」

 

開発者(持ち主)とはこれまた厄介で……親よりも生徒の気持ちを尊重したいんですがねぇ」

 

しかしその報告をしている烏間先生も報告を聞いている殺せんせーも困った様子を隠せないでいた。どういう経緯があったにせよ、このクラスの誰も望んでいない退化(ダウングレード)だということは確かである。

 

『……攻撃準備を始めます。どうぞ授業に入って下さい、殺せんせー』

 

その言葉でクラスの皆に緊張が走ったのが手に取るように分かった。初日の律に戻ったということは、そのまま初日の行動……一日中続く射撃が繰り返されることを意味しているからである。

だけど僕は普段と変わらず授業の準備をしていた。僕は昨日、律を信じるって決めたんだ。だったら彼女の攻撃宣言一つで態度を変えるのは間違ってると思う。まぁ攻撃を宣言してる時点で射撃は止められないんだろうけど、それならそれで改めてプログラムの良し悪しを学び直せばいいんだ。律であればまた協調の大切さを理解してくれるって信じてる。

授業が始まったことでクラスの雰囲気は更に張り詰めていった。いつ射撃が始まって流れ弾が飛んできても対応できるようにだろう。そして徐に律から稼動音とは別種の駆動音が響き渡り、機械の側面から武装が展開ーーー

 

『……花を作る約束をしていました』

 

されることはなく、彼女はプラスチックの花束を差し出してきた。誰もが呆然としている中、その行動に人知れず笑みが浮かんでしまう。

 

『……殺せんせーの改良の多くは“暗殺に不要”と判断されて初期化してしまいましたが、()()()は“協調能力”が暗殺に不可欠と判断し、消される前に関連ソフトをメモリの隅に隠しました』

 

「……素晴らしい。つまり律さん、貴女は……」

 

『はい、私の意志で産みの親(マスター)に逆らいました』

 

殺せんせーの称賛に彼女は一転して無表情でも機械的でもない、普通の女の子のような柔らかい笑みと声音で返事を返していた。

昨日は“僕に出来ることは〜”なんて思ったけど、どうやらもう僕が律のために何かをする必要はなさそうだ。これからは彼女自身で必要なことを学んでいき、彼女自身で何をどうしたいかと考えていくことだろう。もしもそれで律が困っていれば助けるだけである。

 

『殺せんせー、こういった行動を“反抗期”と言うのですよね。律は悪い子でしょうか?』

 

「とんでもない。中学三年生らしくて大いに結構です」

 

反応を窺うように問い掛けてくる律に、殺せんせーは明るい朱色の丸マークを浮かべていた。っていうか今の彼女が悪い子だったら世の中の大半は悪い子になるだろう。こうしてE組に一人の仲間が加わることとなったのだった。




次話
〜湿気の時間〜
https://novel.syosetu.org/112657/18.html



明久「これで“自律の時間”は終わり‼︎ 皆、楽しんでくれたかな?」

律『それでは本日も楽しく後書きを進めていきましょう‼︎』

竹林「今回は律について語り合うんだね?」

明久「うん、話の内容的には合ってるんだけど……竹林君が言うと別の意味にしか聞こえない」

律『……?別の意味とはなんでしょうか?』

竹林「それはもちろん“二次元の魅力について”という意味さ。まぁ僕はどちらを語っても構わないよ」

明久「話の内容でお願いします」

竹林「了解した。じゃあ律の魅力について語るとしよう」

明久「あれ、これ選択肢の意味なくない?」

律『私の魅力……ですか。皆さんに迷惑を掛けていたのに魅力なんてあるのでしょうか?』

竹林「吉井君も言っていたじゃないか。“二次元の女の子は理想の女の子”だと。つまり逆説的に律は理想の女の子ってことさ」

明久「なんか恥ずかしいから止めてくんない?」

律『むぅ……分かりました‼︎ では皆さんに好きになって頂けるように“理想の女の子”を目指したいと思います‼︎』

竹林「うむ、頑張ってくれたまえ。僕も君が至高の領域に辿り着けることを期待しているよ」

明久「あーうん、二人が納得してるんならもう好きにすればいいと思うんだけど……律、後書きを終える前に一つだけ聞いてもいい?」

律『はい、なんでしょうか?』

明久「律って最終的には協調能力の関連ソフトを消されずに済んだんだよね?」

律『そうですよ、私の初めての反抗期です。それがどうかしましたか?』

明久「……じゃあなんで初期化された振りなんてしてたの?もしかして皆を驚かそうとか考えてた?」

律『…………えへっ』

明久「笑って誤魔化した‼︎ 確信犯か‼︎ 可愛いから許しちゃうけど‼︎」

竹林「お茶目な悪戯っ子属性か……初期化された直後に至高の片鱗を見せていたとは恐れ入るよ」

明久「竹林君の至高って何処を目指してるの⁉︎」

律『それでは明久さんの疑問にお答えしたところで今回の後書きを終わりたいと思います‼︎ 次のお話も楽しみに待っていて下さいね‼︎』





殺せんせー「私、律さんの改造で所持金五円しか残ってないんですけどどうすればいいですかね?」

雄二「餓死すればいいんじゃないっすか?」

殺せんせー「坂本君が辛辣過ぎるっ‼︎」

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