『Dies irae』試し書き

ちょっとDiesへの愛が抑えられなくなったので。波旬戦後、残った水銀の蛇の物語です。





「ああ、嫌だ――――絶対に認めない、認める訳にはいかない」

 永遠に情景を残す黄昏の空を見上げて、第四天・水銀の蛇は独りごちた。
 影法師と形容される彼の輪郭は欠けていた。右腕は削ぎ落ち、左脚は擦り切れている。髑髏の帝国の軍服はボロボロで、最早衣服としては機能していない。これでは只の布切れと大差無いが――――そもそも彼にとって、衣服とは重要視する代物ではなかった。
 無くなった右腕と左脚、その傷口を覗けば深淵が此方を見ていた。森羅万象全てを掌握した蛇にとって、肉体など関係無い。肉体を象っているのは単純に見栄えの為であり、女神と親友と愚息に見せた姿が人間体だったので今更変えるのが億劫なのだ。

 だが――――彼が愛した女神は、彼が認めた親友は、彼が創った愚息は既に存在しない。

「認めてなるものか、こんな結末。私はこんな結末を――――こんな未知を求めたつもりではない。
 純愛なる女神の抱擁を。完全なる黄金の破壊を。永遠なる刹那の停止を。
 それ等を望んだと言うのに――――何故、どうしてこうなった」

 黄昏の空に浮かぶ光の残滓。慈しみの光や破壊の光、刹那の光が空に溶けていく。それ等全てが彼女らであり、溶けていくとは消えるという事。幾ら宇宙の中心点である『座』であろうと、そういう渇望を抱いていない限り死者を蘇らせる事は出来ない。
 そして、水銀の蛇は死者蘇生などという渇望は持っていない。彼が持つのは『やり直したい』という渇望のみ。超新星爆発を引き起こし、時空を超越し、ブラックホールを展開させる事が出来ても――――輪廻転生させるのは、黄昏の女神の仕事なのだから。

「決して認めん、断じて認めん。許すものか、許してなるものか。
 あの自己愛の権化を。あの天狗道の体現者を。あの――――第六天波旬を…………!」

 黄昏の空の一点――――そこには孔が空いていた。奥に見えるのは無限に広がる宇宙であり、悪魔が居座る単一の宇宙。黄昏の女神を殺し、黄金の獣を滅し、永遠の刹那を倒した怨敵が孔の先には居る。
 名を第六天波旬。究極の自己愛の塊、恐るべき渇望の持ち主。辛うじて撃退したが、それでも奴は生き残っている。つまり再び襲いかかってくるという事。三柱神ですら適わなかった相手に、女神の加護を失った水銀の蛇が勝てる道理は無い。力で負け、渇望で敗けた相手を討ち滅ぼす術が無いのならば――――

 ――――かつて彼が『座』に居座っていた時のように、永劫に回帰させるのみ。

「済まないマルグリット。君が愛し抱いた世界を、再び回帰させる。
 君に座を譲ると決意した筈だと言うのに、こうして破ってしまう私を笑っておくれ。君が居ない世界など、私には耐えられないのだから――――」

 目を細めて女神の残滓を吸う。身体には黄金の加護を、体感時間は永遠に続く刹那のように。
 渇望を乗せて――――波旬への憎悪を込めて、詠唱を綴る。

Et arma et verba vulnerant Et arma(武器も言葉も人を傷つける).Fortuna amicos conciliat inopia amicos probat Exempla(順境は友を与え、欠乏は友を試す).」

 それは彼の渇望。愛する者の腕に抱かれて死にたい、それ以外は認めないという渇望が流れ出たもの。渇望の中では最高位である流出の中でも、反則中の反則。

Levis est fortuna(運命は、軽薄である).id cito reposcit quod dedit(運命は、与えたものをすぐに返すよう求める).」

 黄昏が塗り替えられる。永遠の黄昏から、漆黒の宇宙へ。第五天・黄昏の女神が治めていた世界から、第四天・水銀の蛇が治める世界へと。

Non solum fortuna ipsa est caeca sed etiam(運命は、それ自身が盲目であるだけでなく、) eos caecos facit quos semper adiuvat(常に助ける者たちを盲目にする).」

 女神が全てを抱擁する世界は消えて、人生を定められ未来永劫同じ道を繰り返す牢獄のような世界と成る。
 ああ、懐かしきこの既知感。かつては地獄の如き苦しみと感じたこれすら、女神を思えば微塵も苦しくない。

Misce stultitiam consiliis(僅かの愚かさを思慮に混ぜよ、) brevem dulce est desipere in loc(時に理性を失うことも好ましい).」

 これから始まるは那由多まで繰り返される世界。愛しき女神を救う為に、水銀の蛇は悠久の時を過ごすのだ。
 ――――唐突に。水銀の蛇はとあるフレーズを思い出し、気付かぬ内に口へ出していた。

Ede bibe lude post mortem nulla voluptas(食べろ、飲め、遊べ、死後に快楽はなし).」

 貴女に恋をした。跪かせていただきたい、花よ。
 最後にそれだけを吐露して――――蛇は詠唱を締めくくった。 



Acta est fabula(未知の結末を見る)――――」



 そうして世界は回帰する。『座』の持ち主は水銀の蛇となり、彼が望む結末へ至るまで繰り返される。
 女神の腕の中で死にたい。その為には障害となる天狗道を排せねばならない。
 そして万が一――――億が一、第六天波旬が現れた際に女神を護る器を。女神を受け止める杯を製造しなくてはならない。

 回帰する世界。その中で水銀の蛇が感じたのは女神の残滓と親友の愛情、そして愚息の無念だった。
 ああ…………それ等を晴らそう。その為にはまず、彼の可能性となる種を摘まなくては――――!




 終了。そうして玲愛√に進む……とでも思っていたのか?
 そこは阿部が許さねえ! オリ主には頑張ってもらいます。


日時:2016年03月28日(月) 18:13

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返信コメント

阿部高知

女神の守護者三柱+波旬なんで、多分大丈夫じゃないでしょうか。
尚戦闘が行われると崩壊する模様。


日時:2016年04月02日(土) 10:56

手師目諺

覇道神三柱抱え込んでいる時点で座はギリッギリだから余裕とかないんだが…そこがどうなるのか気になるな


日時:2016年04月02日(土) 03:16

阿部高知

感想ありがとうございます。

そのように褒めて頂き至極恐悦。
ベア子は屑兄さんが居るので無理! そうなると残ったヒロインがリザしかいないんだよなあ…………。
どうでもいいですが、「くずにいさん」で櫻井戒が出てきて草不可避。

うんこ程救いの無い悪役もいないでしょう。

追記
ヴィルヘルムが主人公の次回作にあった獣殿とニートのCG、ニートの表情がうざすぎる。


日時:2016年03月11日(金) 22:53

~永遠の刹那~

素晴らしい!

KKKは名作だよ!しかし、Diesが最高過ぎて・・・
もう、この内容を書いてくれてありがとう!

オリ主はベアトリスと恋仲になって欲しいな!不幸すぎる・・・・

うんこはもう・・・あれはここまで嫌いになれる悪の一位だ


日時:2016年03月11日(金) 22:46

阿部高知

感想ありがとうございます。

HAHAHA、宇宙全てを抱きしめている黄昏の女神がたった一柱増えたところで重荷を感じる筈が…………無いよね?


日時:2016年03月02日(水) 06:38

ポチ@たま

オリ主が入った場合って、下手したら女神、4柱も覇道神抱え込むことになって、寿命がマッハになるんじゃなかろうか?


日時:2016年03月01日(火) 22:34

阿部高知

感想ありがとうございます。

未知を感じれたのなら重畳。Dies二次では珍しいような気がする、ニート視点の物語でした。
オリ主は…………少なくとも覇道神に至れる器ですね。ちゃんと設定はありますが、DiesはKKKをプレイして短編を終了させてから投稿する予定なので相当後になりそうです。

波旬はうんこって、それ一番言われてるから(断言)。


日時:2016年02月29日(月) 23:18

うりゅぅ

未知…! 圧倒的未知…!

オリ主君どんな子なんだ。
未知…未知だぞぉ!!

続き期待してます。

やっぱり波旬はウンコ
はっきりわかんだね。


日時:2016年02月29日(月) 22:59



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