没話:遍歴の騎士王

 
 淡く、柔らかな香りが鼻腔をくすぐる。
 直後、後ろ髪をいきなり強く引かれた気分で、ほとんど反射的に振り返っていた。


”----ほら。私を見て、セイバー”


 脳漿を溶かしつくすような甘い声。綿毛みたいにふわりとドレスを舞い上がらせて、「彼女」がにっこりと微笑んでいた。

「--ッ」

 言葉にもならない音が、喉を締め上げてひねり出される。
 腰に下げた聖剣の柄を強く握りしめ--


「----あら、どうかしたのかしら?」


 次の瞬間、どろりと粘的な執着をぶつけてきた少女の姿が、きょとんとした表情で佇む和服の女性に変化していた。

「これは……」

 幻覚、だろうか。それにしては、「彼女」に通じる何かを強く感じ取ったと思ったのだが。
 ひとまずは、現状回帰。
 鞘に伸ばした手を戻し、あらぬ敵意を向けてしまった女性に謝罪する。

「失礼した。私の勘違いで嫌な思いをさせてしまった」

「いいのよ。私も驚いちゃっただけだから」

 嫋やかに女性は笑う。栗色の髪といい、どことなく綾香を思い出させる女性だ。もっとも、彼女はこんなにも儚げな性格ではないのだが。
 視線を軽く逸らし、僅かに思考にふける。それだけに、なぜこの女性に「彼女」が被さって見えたのか。

「すまない。あなたは何か--」

 やはり気になることも残るので、直接に女性に尋ねようと視線を戻して、思わず目を開いた。
 まるで白昼夢でも見ていたかのように、和服の着物姿をした女性は影も形も消失していたからだ。

「……今の女性も、幻覚だったのか?」

 もはや自分で自分を疑ってしまう。こんな短期間に連続で幻覚を見るなど、精神弱体に耐性はあった方だと自負しているのだが。
 いずれにせよ、今は進むしかない。彼女が残した残遺物を取り除くために。
 外していたフードを被り直し、止めていた歩みを再開させる。
 いつかすれ違った無気力感を纏う男がの口にした、愛と希望を担う誰かとの出会いを夢見ながら。


 ----驚いた。彼に私が見えていたのも、彼女に愛されていたからかしら。


 ----彼女、「」というわけではないからあまり詳しくは知らないけれど。


 ----あなたの旅路の終焉には立ちはだかると思うわ。遍歴の騎士王さん。


---------------
クラス:セイバー

真名 :アーサー・ペンドラゴン

キャラクター紹介
 召喚者のみに明かされる。
 


日時:2017年04月21日(金) 18:33

<< 『もしあの英霊がカルデアに召喚されたら』最新話4/2投稿 『もしあの英霊がカルデアに召喚されたら』におけるご意見 >>

▼コメントを書く

返信コメント

出し得玉子

何かと思ったら根源接続者繋がりなのね…成る程


日時:2017年04月23日(日) 18:12



返信

    現在:0文字 10~1000文字