ビーストマンの習性 ※猟奇描写のみ

そこに細かく記されたビーストマンの習性は凄惨を極めた。

都市の陥落に成功した彼らは、手始めに人間を一か所にまとめる。
この時点で老人は食いでがなく、繁殖にも使えないので軽食と断定され、衆人環視の中で生きたまま食われる。
ビーストマンは軽食を終えてから家畜を見張る者と宴の支度をする者に別れる。

やがて夜、酒と調理器具を揃え、巨大なたき火を囲んで勝利を祝う宴が始まる。

宴において料理人は存在しない。

皆が思い思いの方法で人間を殺し、調理器具を勝手に使いまわして調理する。

彼らは肉の鮮度が上がると信じ、人間という名の戦利品を生きたまま調理する。
だがそれは、支配した下位種族に対する惨たらしい拷問と阿鼻叫喚の殺戮だった。

勝利の宴だからという大義名分の下に行われる殺戮は、肉食獣の攻撃性だけに特化した吐き気を催す狂宴。

親の目の前で子を食い殺す。子の目の前で親を殺し、それから子を生きたまま喰らうなどは、まだ生ぬるかった。

彼らの調理法は選択が少ないが、殺す方法は多岐に渡った。
頭を握り潰す、四肢を末端から削いで刺身にする、骨を引き抜いて骨髄を啜る、皮を剥いで串焼きにする。
頭蓋頭頂部を開口して酒を注ぎ、酒漬けされた脳みそを白子のように飲み干す。
丁寧に頭蓋骨を取り出し、ひっくり返して深めの杯にする。
生きながら子宮を引き摺り出されたメスは発狂し、オスは気絶する。
開腹して腸を引き摺り出し、丁寧に塩もみして家畜が排泄物を垂れ流すのを嗤いながら肴にする。
心臓を剥き出しにして、筋肉質なそれを人間が砂肝でも齧るようにぐにゅぐにゅと咀嚼する。
視神経は脳に次ぐ珍味であり、眼球は必ず生きたまま抉り出される。

対して乳房や女性の臀部は酷く人気がなく、スープにまとめて放り込まれればまだましな方で、最悪なのはそれを家畜に食わせることだ。
竜王国から攫われて目の前で親を食われたのみならず、母親の乳房を生で食わされた子供は発狂し、また獣はその様子を手を叩いて嗤った。

胎児や赤子の肉は戦の功労者にのみ許されるが、影に隠れて懐妊している家畜の数が宴の前後で減る。
自然と繁殖サイクルは低下し、絶えず肉の供給を行わなければ間に合わない。
それほど赤子の肉は美味だという。
他に掌の肉は味が良くこなれており、そして適度の柔らかさを持っている。熱した鉄板に掌を押し付け、簡易バーベキューにすれば肉の焼ける匂いが辺りに満ち、食欲は彼らの攻撃性は際限なく高めていく。
一度焼いた掌に特製のタレを付け、二度焼すると香ばしくなるので好評だという。

これらの作業は徹底して家畜を生きながら行われる。

酒を浴びるほど飲み、腹がはちきれるまで人間を食い散らかし、ようやく彼らの宴は終わりを迎える。

勝利の宴で好まれる方法に目立って多かったのが、身内の惨殺を見せつける行為で、彼らは肉の味が良くなると信じていた。
「実際には何の効果もないが、一種の宗教に似たもの」とデミウルゴスの殴り書きがあった。

ヤトは眩暈を覚え、頭がグラリと揺れた。
彼らが誇り高き獣人とは真実であったが、残酷性を知った今ではそう思えない。


人間の地獄は更に続く。運よく宴を生き延びた家畜、特に生き残った女性に対する扱いは地獄だった。

子を孕んで生み続けるだけの母親機械として生かされたとしても、何らかの理由で子が産めなくなったらメスは食肉に回される。順番が遅いか早いかの違いである。
度重なる妊娠の負荷で内側からボロボロになった肉は評判が悪い。
女性器の味は個体差があって珍味として扱われるが、それも妊娠の度合いが多ければゴムのような味にしかならない。

誰が書いたのか不明だが、乳房を捥がれて排泄物を垂れ流す女性の挿絵が描かれていた。
周囲を取り囲む獣は家畜の苦悶を嗤い、文字通りの地獄絵図だった。
表情を見る限り、正気を保っているとは思えなかった。

乳房を生きたまま引き剥がす場所まで読み進め、ヤトは深呼吸をした。
ラキュースやレイナースがそうなったらと余計な想像してしまい、精神の沈静化もない彼は落ち着くのに時間を要した。既にビーストマンを生かすという選択肢は存在しなかった。

「デミウルゴス、ここに書いてあるのは事実か……?」
「透明化できる部下に確認をさせております。間違いないかと。一部の獣に見られるのですが、家畜を残酷に殺すのを嫌う個体がいます。主に軍の上層部に多いようです。圧倒的少数派ですが、肉の味に関する評価は等しいようです」
「……そうか」

 これは人肉人食(カニバリズム)の物語だと自分に幾度となく言い聞かせ、再び書類に目を落とす。獣人たちを躊躇いなく殺すために、彼らへ憎悪を向けるだけの材料を知らなければならない。

ビーストマン国家で女性の乳房は貴重な栄養源であるが、彼らが食すのではなく家畜に与えるためだ。
脂肪の多い部位は、無駄な贅肉をつけて戦士として動きのが鈍くなるのを恐れて好まれない。
味もべちゃべちゃした脂肪の感触が酷く気持ち悪い。

家畜は脂肪の多い肉を好み、彼らにステーキとして与え、肥えさせるのに効率がよかった。
特に交尾相手の乳房を与えられた家畜は、食べる快楽でも得ているように体を細かく痙攣させ、食べ終えると絶頂する。交尾回数の多い相手であれば症状は顕著に出る。

人肉は人間の生命維持に必要な栄養素を豊富に含んでいると、ビーストマンの大国では周知の事実であった。
獣人は共食いする人間をせせら嗤い、見下し、自分たちが食べない肉の欠片を与える。

ヤトの中で獣の評価が地に堕ちた。
食べるというのなら綺麗に捌けばよい。宴の名の下に惨殺し、拷問する意味は存在しない。
改めて彼らが劣等種なのだと知った。小説でも読んでいるように遠い気分を感じながら、ヤトの瞳は文字を追って動き続ける。

続いて調査されたのは、家畜を捌く工程だったが、冒頭から気分を害した。

彼らは宴でなくても基本的に生きたまま調理することを好んだ。

手始めに頭髪を燃やし、手袋で擦ってから髪の燃えかすを落とすが、毛根が残るように優しく行う。
中には毛根のつぶつぶとした感触を好む者もいるため、頭皮を引き剥がす荒っぽい真似はしない。
絶叫する彼らの大動脈に穴をあけ、逆さ吊りにして専用トレイに血を溜めていく。
溜まった血は血液専用の保管庫に運ばれ、煮凝りに料理して保管される。

血を抜かれた時点で家畜は絶命するが、それはビーストマンからすればどうでもいいことだ。
すぐに内臓を種類別に引き抜く作業に取り掛からなければならない。

但し書きが書かれていた。

《成人の小腸と大腸は、死後数時間は蠕動を行う。のたうって動いている内に素早く処置を行い、肉屋へ届けられる。大抵は踊り食いか焼肉にされる》

ミミズのように単体でのたうつ腸が浮かんだ。

内臓を綺麗に取り除かれた肉はぶら下げられ、10日前後の熟成を行う。
防腐処理はしておらず、地下深くの貯蔵庫が保管場所だ。
少し古い方が肉の味が良いと知っているが、家畜の生産量に比べて消費量が多かった。
彼らはそれに気付いたので、家畜の絶対量を増やそうと竜王国に狙いをつけた。

それに拍車をかけているのが家畜の赤子と胎児。

骨までしゃぶれるほど胎児の肉は柔らかく、皿に盛られて出されたそれらは骨さえも残らず綺麗に食される。
人気は非常に高く、中にはお腹の大きくなった家畜を見ただけで涎を垂らす者もいる。
しかし、人気の割に生産効率が悪く、家畜の腹を掻っ捌いて胎児を攫う窃盗犯まで出て、確実に家畜の数は減っていた。
胎児の肉はそれほど美味で、強すぎる食欲を根源とする獣の理性は人間ほど強くなかった。

調味料漬けの家畜や、自らの排泄物だけ食わされて育てられる特殊な家畜の項目まで進めたが、それ以上は精神が耐えられなかった。

挿絵の数は少ないが、量に反比例して精神は多大な被害を被った。


ヤトの視界は黒く塗りつぶされていった。


日時:2018年12月10日(月) 15:06

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