俺ガイル13巻のお話、その3。

 以下はネタバレ前提のお話になりますのでご注意下さい。
 昨日は陽乃と葉山の話に材木座・海老名を付け足して終わったので、今日はその続きから。


■まずは軽い話から

 序盤を「描写が重いなー」と思いながら読んでいると、驚きの新事実が明らかになりました。八幡の独白にて「嫁さんが十近く年上って」(p.43)ということは、平塚先生は27歳以下確定ですよね!

 ちょっとマニアなことを考えたのは、マッ缶をもらった八幡が雪ノ下に「何にする?」(p.229)と尋ねる場面。ここは何故「野菜生活100いちごヨーグルトミックス」(1巻p.89)ではないのか……って誰も覚えてないからですよねー。

 そういえばこのシーン、受け取らないという選択を消しに行っているのがダミー案と重なります。マッ缶とお汁粉(p.99)とか、とんすい(p.113)とか、さりげない場面で二択が多かったですね。

 最後に、13巻で一番笑ったセリフ。

八幡「今日からこの実行委員会での挨拶はやっはろーで統一します。異議申し立ては認めない」(p.214)


■雪ノ下と由比ヶ浜に関するあれこれ

 で、本題に入ります。重い話よりも上記のようなくだらない話をしたかったなーと思いますが、仕方ないですね。

 まずは事前情報の整理から。
 11巻の最後で由比ヶ浜はこう言っています。

「あたしは全部ほしい。今も、これからも」(p.311)
「お互いの思ってることわかっちゃったら、このままっていうのもできないと思う」(p.312)
「ずっと、このままでいたいなって思うの」(p.313)

 それを八幡が拒否して、続けて雪ノ下がこう言います。

「比企谷くん、あなたの依頼が残ってる」(p.318)

 以上が、雪ノ下が他の二人について把握している情報です。


 次に12巻にて、雪ノ下は二人にこう言います。

「ちゃんと自分で考えて納得して、……諦めたい」(p.49)

 そして最後のinterludeにて、由比ヶ浜はこう思います。

「あたしはもう助けてもらったから」
「ただ傍にいて欲しかった」「ちゃんと傷つけて欲しかった」
「彼女みたいに諦めたり、譲ったり、拒否したりできなかった」
「全部、彼女のせいにして」「あたしは彼女に依存したの」(p.358-359)

 以上が、雪ノ下と由比ヶ浜の願いに繋がる情報です。


 その上で13巻を描写の順に見ていきます。まずは生徒会室で雪ノ下が八幡に告げた言葉。

「いつもあなたと由比ヶ浜さんに任せきりで……、だからこんな中途半端な状態になってしまった。それをちゃんと清算しないと、誰も前に進めない」(p.82)
「これで……(ちゃんと終わりにできる)」(p.87)

 前者は、幼なじみ三人の関係に対しても同じように考えていそうだなと。後者の補足は「あの小さな小さな声が続けた言葉に似ていて」(p.94)を根拠にしました。


 ここから少しずつ解釈に困る描写が増えて来ます。まずは由比ヶ浜のinterludeから。一つ目は教室で、八幡が雪ノ下と対立したと聞いた直後。二つ目はペアシートで眠ったふりをした場面です。

「あたしと同じであたしと反対。似ているけれど全然違う」
「そんな彼女のお願いを叶える方法はひとつしかない」
「けど、そんなの、絶対ダメだ」(p.132-133)

「こんなことしたって、もう結末は決まってる」
「ただ一緒にいて、三人で過ごせる時間があって、三人でいられる場所があればそれでよくて」
「ずるいのも、言い訳なのも、嘘なのも、本当は全部わかってる」
「あたしがあたしに吐いている嘘をどうか本当にしてください」
「どうか彼女と一緒にこの関係をちゃんと終わらせてください」
「だから、お願い」「終わらせないで」(p.209)

 お願いの内容は後回しにして。
 由比ヶ浜は「雪ノ下が勝ってお願いを叶える」と思っていて(「負けて願いを叶える」方針を察知するのは難しく、由比ヶ浜は「八幡に勝たせるために動いている」ように見えるので)、ダメだと言うのもそれのことだと考えられます。これは少し後で補足します。

 でも「終わりにする」という結末は決まっていると、由比ヶ浜は考えています。自分の行為は単なる引き延ばしに過ぎないと。何故なら既に11巻で、「各々の感情に蓋をして三人の関係を続ける」案が却下されているからです。

 全部を欲しいと思いながらも(思うからこそ)八幡との関係を棚上げする提案をして、予想通りに八幡に却下されて。12巻に入ってからの由比ヶ浜は、八幡と付き合っているかのような日々を送りながらも、「八幡への想いを諦める」ことを望み続けていました。

 ずるいのは、八幡と疑似恋人関係のような付き合いをしていること。言い訳は「三人」を建前にしていること。嘘は「ただ一緒にいて」という部分。それでも、あらぬ期待は絶対にしない、それと引き替えに。八幡への特別な想いよりも、ただ一緒にいることや三人の時間を望んでいるのだという嘘を、本当にしてほしい。そして三人の関係を終わらせることを、雪ノ下一人にやらせるわけにはいかない。彼女への依存をやめて、一緒に終わらせないといけない(上述のダメな理由がこれ)。

 こんなの泣くしかないですよね。でも、続きます。

 最後の締めが「終わらせないで」なのは、12巻のラストを連想させます。あちらは「涙が止まってよかった」で始まって「止まらなければよかった」(p.358-359)で終わりますが、未練が出たと考えてよいと思います。

 では今回も「八幡への想いが再燃した」と読むべきかというと、断言しにくい部分があります。12巻は逆の結論に至るまでの文章の流れが自然でしたが、ここでは「終わらせないで」だけが唐突に出てくるからです。

 今までの「お願い」を前提にするのであれば、八幡への想いや三人のぬるま湯の関係ではなく、別のものを「終わらせないで」と願っていることになります。それが八幡の依頼(本物)なのか、雪ノ下の想いなのか(由比ヶ浜が把握している二人の想い)。雪ノ下との関係なのか、あるいは気持ちを隠さない状態での三人の関係なのか(由比ヶ浜に残る選択肢)。
 ここではこれ以上は絞り込めませんが、いずれにしても切ないですね。


 そして八幡と雪ノ下のコーヒーブレイクに由比ヶ浜が乱入する形になった場面。

「あたし、ちゃんとしようと思ってる。(略)ゆきのんのお願いは叶わないから」
「私は、あなたのお願いが叶えばいいと思ってる」
「……あたしのお願い、知ってる? ちゃんとわかってる?」
「ええ。たぶん、同じだと思うから」
「そっか……、なら、いいの」(p.234-235)

 まず12巻で由比ヶ浜は、雪ノ下が「(想いを)諦めて、(八幡を)譲って、(三人の関係を)拒否した」と考えています。由比ヶ浜がちゃんとする=雪ノ下と同じことをする、と考えれば、お願いが「同じで反対」には矛盾しません。

 では何が「全然違う」のかというと、ほんとうは八幡を雪ノ下のところに行かせることが正しいと(少なくとも自分と八幡は偽物だと)由比ヶ浜が考えているからではないかと。だから八幡への想いを諦め自分に譲るという雪ノ下の願いは叶わないと、由比ヶ浜は伝えます。八幡が勝つことを(実は雪ノ下と同様に)信じているから。
(ここが少しややこしいところなのですが、八幡と雪ノ下の勝負に由比ヶ浜は協力者として参加しているだけなので、自力で自分の願いを叶えるのは無理なんですよね。)

 一方の雪ノ下は「全部ほしい」が由比ヶ浜の望みだと11巻で知りました。奉仕部が終わってしまうのは避けられないとしても、由比ヶ浜の八幡への想いも、それから自分との関係を続けたいという気持ちも雪ノ下は理解しています。それらが(少なくとも前者だけは)叶えば良いと由比ヶ浜に伝えます。

 由比ヶ浜が確認したのは、自分の望みが「八幡を諦めること」だから。それ以外だと、この後に言葉のすれ違いが起きないと思うのですが、断言はできません。とりあえずそんな理由もあって、前述の「終わらせないで」は未練ではなく「由比ヶ浜と雪ノ下の関係」が有力かなと考えています。

 雪ノ下は、由比ヶ浜の幸せを願いながら「同じだと思う」と答えます。それを聞いた由比ヶ浜は「ともに八幡を諦める」という意味で受け取ります。この解釈の是非はともかく、ここで両者に決定的なすれ違いが生まれているのは確実です。

 この時点で由比ヶ浜に残っているのは、たった一つだけ。雪ノ下は想いを封印する気で、もしも八幡の本物が雪ノ下だとしても拒否されることは間違いなく、ましてや三人の関係などは望むべくもなく。残るのは、雪ノ下と由比ヶ浜の関係だけ。

 だから、依存をおそれながらも、自分のずるさに辟易しながらも、由比ヶ浜は雪ノ下に抱き付いて未来を語ります。しかしその言葉の中に、八幡はいっさい登場しません。

 こんなの泣くしかないですよね。でも、続きます。


 八幡と由比ヶ浜が陽乃と会う場面。

「避けて、距離とって、そうやって何もしないでいたら、何も変わらないです。それで、たぶん、そのままダメになって終わっちゃうんです」(p.323)

 由比ヶ浜が一番避けたいと考えている終わり方が明らかになります。これは陽乃にとってはクリティカルな発言だったと思いますし、14巻に期待する箇所ですね。
 そして由比ヶ浜が一人で戻って陽乃と向き合って。

「だって、こんなに痛いから……」(p.333)

 由比ヶ浜にとっては、本物とか共依存とか関係なしに、何よりも実感できること。何故それが痛いのかといえば、この想いを諦めると決めているから。

 こんなの泣くしかないですよね。でも、続きます。


 雪ノ下母に呼び出された八幡を見送る場面。「あたしも行ったほうがいいと思う」「大丈夫」の流れで由比ヶ浜は何か言おうとして、小さく息を呑むのと一緒に言葉も呑み込んでしまいます。(p.336)

 作中から得られる情報が少ないのでかなり憶測が混じりますが、普通に読めば「共依存」が頭をよぎった結果かなと。ここで由比ヶ浜は退場となります。


 そして、雪ノ下にプロム開催を伝えに行く場面。

「こんな紛い物みたいな関係性はまちがっている。あなたが望んでくれたものとはきっと違う」
「私は大丈夫。もう、……大丈夫。あなたに助けてもらえた」(p.356)

 12巻のラストで電話を聞いていた由比ヶ浜は「あたしはもう助けてもらったから」と考えています。そして雪ノ下も。二人は同じことを考えて、八幡との関係を終わらせたいと願います。

 何故なら、自分は八幡にとっての本物ではないと、そう考えているから。

 奉仕部の部室で待っていたことから始まって、会話の最後までを、ほぼ予定通りにやり遂げて。雪ノ下は扉の冷たさと痛さを肌に感じながら自分の決断を振り返ります。これも上記の由比ヶ浜の姿と重なって、涙を誘います。


 ほんとに、こんなの泣くしかないですよね。でも、どうにかならなかったのかと思ってしまいます。

 13巻でも、問題の一番の勘所(プロム開催)は八幡がクリアしました。でも地道な準備や当日の運営などは雪ノ下の能力があってこそですし、協力者との関係がうまく行ったのは由比ヶ浜のおかげです。

 三人の関係性は、本質的にはお互いがお互いを補い合える、相性の良いものだったはずなのに。

 とはいえ起きてしまったことは仕方がないですし、最終巻に期待するしかないですね。


■おわり

 八幡の話と14巻に向けて、その他雑談が残っているのですが。これで締めても良いような気がしてきました。

 八幡には、ラノベ主人公としての決断を求めるという感じで。
 それから最初にラノベのお約束という話をしましたが、13巻で明らかになった陽乃の重い設定などは、私の感覚ではラノベ的だと思うんですよね。
 あとは、城廻の存在を思い出して欲しいとか、相模姉の登場はあるのかとか。
 共依存や本物といった言葉を取っ払えば、実は八幡→雪ノ下には憧れが、八幡→由比ヶ浜には甘えがあるだけで、良くあるすれ違いパターンではないかとか。
 関係の落ち着き方が同じになるのは良いとして、その経緯が同じだったらどうしよう……とか(最終章の展開はがちがちに固まっていて、今さら動かしようがないんですよね……)。

 そんなこんなで色々と不安はありつつも、読み応えのある最終巻になりますように。

 では、長々とお付き合い頂いて、ありがとうございました!


日時:2018年11月28日(水) 02:38

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