12年越しの手紙

拝啓
大好きな勇者のお姉ちゃんへ

お手紙を書くのが遅くなってごめんなさい。
あの日から、今日で丁度12年が経ちます。
私もお姉ちゃんと同じ歳、15歳になりました。
ずっとどうすれば良いのか、何をすれば良いのか分からなくて。
12年も待たせてごめんなさい。

今私は【大赦】という所にお世話になっています。
「巫女の素質」が有ったそうで、保護されてからずっと。

あの日の事はそれ程しっかり覚えていません。
ただ、皆んなと一緒に「箱舟」に乗って、何処かにお出かけでもする様な気分で、はしゃいでいた記憶があります。

なので大赦の人やこちらの“勇者様”からお聞きした事を書きます。
まず、四国付近までやってきた「箱舟」は私達の乗ったモノだけで、「海からは何も来なかった」との事です。
そして、私達の乗った「箱舟」はあの日、淡路島という所の上空に差し掛かった所でバーテックス(四国での敵の呼び方です)に襲われて、不時着しました。
その後、私が四国の“勇者様”に救助されるまでの事は分かりません。
私は体の半分を齧られた曹長さんに抱き締められて守られていたそうです。

生き残りは私だけでした

その時の事は記憶にありません。
とても、とても怖かった事ともう一つ。
曹長さんの最後の言葉だけが耳に残っています。

「ざまぁ見ろ、“勇者様”の私たち人間の勝ちだ」

それが曹長さんの最後の言葉でした。



その後、保護された私は大赦で巫女の修行をしながら暮らして居ます。
小学校にも、中学校にも通いました、今年はいよいよ高校受験です。
私の人生の中で、東京で暮らした時間よりも、四国で暮らす時間の方がずっと長くなりました。
けれど、私はあの頃の事を忘れたりなんかしていません。
お姉ちゃんの優しい笑顔とか、頭を撫でてくれたあったかい手の事をずっと覚えています。

でもひとつだけ、ひとつだけ覚えていない事が、ううんひとつだけ知らない事があるんです。

「お姉ちゃんの名前」私はそれを知りません。まだ小さかった私にとって、お姉ちゃんの名前は「勇者様」でした。
お姉ちゃんの名前をこの先の未来に、残せない事が、残念で残念で残念で仕方ありません。

でもお姉ちゃんの存在は、私達を守ってくれた強くてカッコいい“勇者様”がいた事は、ずっと語り継いでいきます、私が必ず。


曹長さんの言葉、あの頃の私は意味が分からなかったけれど、私の服から見つかったと言う「作戦概要書」というのを見せて貰った今なら分かります。
だから私が皆んなを代表して、“勇者様”に報告します。


“勇者様”
箱舟に乗った人類の種は
確かに楽園へと到達しました
そしてそこで地に還り
根を張り芽を出し
花を咲かせようとしています

“勇者様”は
私達人間は
たしかに「勝利」しました。




いつか私もそっちに行きます。
その日まで、“勇者様”に沢山の人に貰ったこの命を精一杯生きて、たっくさんのお土産話しを持って行きます。
今度も遅くなると思うけれど、どうか待っていてください。

命をありがとう
大好きですお姉ちゃん。


敬具
三ノ輪 あさひより


日時:2019年01月13日(日) 12:11

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