ぽつぽつ と しとしと

 拝啓


 見事に咲き誇っていた桜も散り、緑色へと木々が衣を変えていくこの頃、如何お過ごしでしょうか。こちらは一抹の寂しさを感じながらも、来たる新元号の初日になんだかわくわくとしたような、しかし何も変わっていないような、そんな心持ちでございます。

 さて、新元号「令和」となりました今朝。時代の変わり目には雨が降ると言うそうですが、その例に漏れなかったのでしょう。昨晩から降り続いた雨は今朝まで続き、私はその雨音で目を覚ましました。これを書いている今も、雨はぱらぱらと降って止んでを繰り返しています。
 それこれありまして、ふと、画面に映る英字を帳面に写し取る最中に考えたのですが、雨の降る擬音「ぽつぽつ」と「しとしと」には、一体如何様な違いがあるのでしょうか。どちらも「〜と雨が降る」と使っても違和感が無く、さて何故だろう、と疑問に思ったのです。
 そこで一度手を止め、頭を廻らせたのですが、恐らくそれは雨に注目した時期の違いなのではないか、と思いついたのです。
「ぽつぽつと雨が降る」と言われると、まず思い浮かべるのは雨粒が空より落ちてくる様子。そして、それが舗装路に疎らな模様を描く様ではないでしょうか。
 対して、「しとしとと雨が降る」と言われれば、そこに思い浮かべるのは窓の外に広がる、雨粒たちが落ちていく様と曇天模様。黒く濡れた舗装路も見えるでしょうか。
 要するに、「ぽつぽつ」は降り始めを、「しとしと」は降っている最中を表した擬音語なのではないか、と思いついたのです。そして、その使い分けとは、その人にとって「雨は降るもの」なのか「雨は降っているもの」なのかの違いなのではないか、と。
 
 さあ、これで悩みも晴れた、と爽快な気分で外を見れば、ざあざあと雨が降っています。思えば、遠い記憶の中の私は実家にて、めったに懐かない猫を膝に抱えて、しとしとと雨の降る庭を、軒先からつまらないといった表情で眺めていた気がします。
 雨に濡れるのは好きになりましたが、雨で濡れた靴で歩くのは、今でも好きにはなれません。
 それは、駆け回るのが好きだった幼い私が持っていた濡れた靴の何とも言えない感触の記憶を、今もまだ抱えているからなのかもしれません。
 私にとっては、雨は降っているものなのでしょうね。

 この辺りで、筆を置きたいと思います。其方も、雨に体を冷やさぬよう、雨の日には傘を持ってお出かけください。
 それでは。



 敬具

 雨の冷たさを感じながら  北間悠莉 


日時:2019年05月01日(水) 15:34

<< 個人的天体観賞のススメ


返信

    現在:0文字 10~1000文字