『ハリー・ポッターと獣牙の戦士』賢者の石篇完結記念コラム「クィリナス・クィレルという人物」

 こんにちは、riptideです。

 本日2019/7/28の19:30、無事『ハリー・ポッターと獣牙の戦士』賢者の石篇が完結します。もちろん、本作は死の秘宝篇まで(体調と時間が許せば)駆け抜ける予定ですが、せっかくの節目です、本作についてのコラムを書かせてください。

 もちろん、ネタバレを多分に含むスポイラーですから、未読の方でご興味をお持ちの方はこちらからどうぞ。野性的で口が悪く、しかし知識と友を大切に思い、愛と病によって生じた秘密の呪いを抱える、奇妙なストリートチルドレンの女の子、ジュリア・マリアットがハリーたちの同級生としてホグワーツに入学し、多くのことを学んでいくお話です。



『ハリー・ポッターと獣牙の戦士』
https://syosetu.org/novel/194149/



 さて……もうそろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか。よろしいようですね。では、遠慮なく。



 賢者の石篇を書くにあたって意識したテーマの1つは「個人の力と集団への帰属」です。どのような力をどのように用いればコミュニティに和することができるのか、もしくはコミュニティから蹴られるのか。ジュリア・マリアットというキャラクターの性質上、このテーマは今後も扱っていくことになるでしょう。



 特にこのテーマが如実に表れたのが、クィリナス・クィレルという人物の描写です。彼は原作で「意外な、しかし読み返してみるとある程度納得のいく真犯人」として登場し、そしてハリーの護りによって灰になってしまいます。彼のパーソナルデータについてはほとんど開示されていません。つまり、想像の余地があるということですね。

 私はクィリナス・クィレルを犠牲者だと考えました。少なくとも本作において、ジュリア・マリアットはクィリナス・クィレルを哀れな人だと思っています。もちろん、彼はヴォルデモートの配下です。しかし、加害者は同時に被害者にもなりうるのではないでしょうか。



 彼のパーソナルヒストリーを辿ってみましょう。彼はレイブンクロー出身でした。作中で彼が杖を用いるシーンがないこと、そして誰もそれを指摘しないことから、彼は魔法を得意としない知識偏重型の人物だったのではないか、と考えられます。しかし、レイブンクローで実技が不得手というのは、あまり寮生、特に同級生に好かれる要素には思えません。事実、作中で「クィリナス・クィレルの友人」というポジションのキャラクターは最後まで登場しておらず、また、他の教員や生徒と友好的なコミュニケーションを取っているシーンも見当たりませんでした。彼の「孤独」はすでにスタートしていたように思われます。

 ポッターモアによれば、彼は半純血です。つまり、マグル界、魔法界のいずれにも触れる機会があったのでしょう。その経験はマグル学で存分に発揮され、教鞭を執るまでになった。これは素晴らしいことです。おそらく、当時のアルバス・ダンブルドアも彼を歓迎したでしょう。しかし、マグル学はどうやら発展途上で体系化されていない学問のようです。マグル製品不正使用取締局の局長であるアーサー・ウィーズリーのマグルに関する知識からもそれは明らかです。(まさか、彼がマグル学を履修していないなんてことはありませんよね?)

 サンプルとしてゲーム版を参照してよいなら、「アズカバンの囚人(GC版)」のマグル学の教室は雑多な玩具箱でした。(あのロボットには苦戦させられました。いい思い出です)マグル学は学問としての基盤が形成されていないように思えます。加えて、純血主義者からの攻撃もあるでしょう。マグル学の教授という役職は、少々肩身が狭いものであったと予想できます。やはりここにも「孤独」が垣間見えますね。

 ここから先のクィリナス・クィレルについては皆さんもご存知のとおりです。一年間の休暇を使ってアルバニアに赴いた彼はヴォルデモートの配下となり、憑依されました。そして、力を得てホグワーツに帰還し、闇の魔術に対する防衛術の教授となりました。その後はヴォルデモートの指示に従ってハリーを殺そうと箒に呪いをかけたり、賢者の石を狙ったり、大いに暗躍したわけです。

 彼について、もう少し情報があります。ポッターモアの趣味欄には「旅、押し花」と書かれていました。残念ながら原作で彼の趣味について言及されることはありませんでしたが、私にとっては非常に魅力的な――すなわち、創作意欲をかき立てられる情報でした。



 さて、ここまでの情報を整理した上で、私はクィリナス・クィレルという人物を再構築しました。

 まず、彼の根幹に「孤独」を据えます。これによって「なぜアルバニアに赴いてヴォルデモートを倒そうと思ったか」が補完されるからです。作中でも言及したとおり、当時のアルバニアは政治的混乱の真っ只中にあり、調査先としてはともかく観光目的の旅行先としては適していません。それでも彼が足を運んだのは、名声と力を得ることができる――ヴォルデモートがそこに潜伏しており、それを倒すことができるという確信があったからです。(この情報と確信を彼がいつどこで入手したかはわかりませんが、ジュリアはアルバス・ダンブルドアが吹き込んだのではないかと疑っていましたね)

 では、なぜ名声と力を求めていたのか。それは、名声と力が人の考える「孤独を解消する手段」の中で最も手っ取り早いものだったからではないでしょうか。彼はそのような蛮勇に身を委ねるほど、「孤独」に苛まれていたのです。


 次に、彼の背景に「知識」を置きます。彼はレイブンクローの出身であり、(今回の組み立てでは)杖の扱いに難のある、マグル学に秀でた半純血の人物です。さらに、ここで趣味の旅という要素が活きてきます。先ほど魔法界のマグル学に関する指摘をしましたが、半純血で旅行家の知識人が「気電」だとか「プラグの使い方」だとか、そんな低レベルな観察を行っていたとは思えません。

 ましてや、魔法界は神話伝承が息づく世界であり、マグル界に残る物語や信仰と対照することで多くの知見を得ることができるということは、彼でなくとも気づく人物がいたはずです。彼は先駆者ではなかったかもしれませんが、マグル学の権威となりうる素養の持ち主でした。すなわち、彼は魔法界とマグル界の両方を観察対象とする比較文化学者であり、考古学者でもあり、フィールドワーカーでもあったと考えることも可能なように思えます。彼は「知識」を愛し、また愛されていたのです。


 さらに、彼の主軸に「秘匿」を立てます。まず、セブルス・スネイプが彼に接触して「怪しげなまやかし」について問い詰めるシーンがありましたね。これが何を指すのかは私には見つけられませんでしたが、ハロウィーンの襲撃と地下の罠から、トロールを操る術ではないかと考えました。残念ながら原作の彼はトロールを完全にコントロールしているわけではないようですが、ここは原作改変タグの面目躍如です。本作での彼はトロールとコミュニケーションを取ることができます(極めて知能の高いトロールと出会ったのか、それともトロール語でのコミュニケーションスキルを身につけたのかに関してはわかりませんが)。これをセブルス・スネイプに対して「秘匿」し続けました。さらに、セブルス・スネイプの詰問態度から見て、ターバンの下にヴォルデモートを匿っていることすら「秘匿」していたのではないでしょうか。

 一方で、「知識」と関連づけるならば「秘匿」していなくてはならない情報があります。それは三頭犬の突破方法です。ヴォルデモートは三頭犬の突破方法を知るためにハグリッドと賭けをさせました。ドラゴンの卵という高価な品まで用意して。つまり、ヴォルデモートは三頭犬の突破方法をまったく知らなかったということがわかります。しかし、オルフェウスの冥府下りを知っていれば、三頭犬などというものは脅威ではありません。ギリシア神話を知らないマグル学の教授? お話にもなりません。つまり、彼はヴォルデモートに対して三頭犬の攻略法を「秘匿」し続けていたのです。

 もう一つ、「秘匿」していたと思いたいものがあります。それは生徒への愛情です。彼はどもり、つっかえ、怯える滑稽な教師として描写されていましたが、私は原作にわずかに書かれた授業内容を客観的に精査し、彼がまともな授業を行っていたと判断しました。しかし、ヴォルデモートがそんなことを望むでしょうか? 若き日のヴォルデモートは闇の魔術に対する防衛術の教授になることを望んでいました。その夢は叶わず、憑依した配下が自分勝手に授業をして、それが良質なものであったとしたら? 当然ヴォルデモートは不快に思うでしょう。あるいはヴォルデモートが彼を経由して授業を行っていた可能性も考えましたが、両方を採用することはできません。クィリナス・クィレルという人物を魅力的に描くために、彼には教師でいてもらいました。では、なぜそこまでして教師をやりきったのか。そこには矜恃、そして愛があったように感じます。そして、もしそうであるならば、彼はヴォルデモートに対してその想いを「秘匿」していたでしょう。


 こうして、本作のクィリナス・クィレルは誕生しました。いくら「知識」を求めても次第に深まる「孤独」は埋まらず、解決手段を求めた結果「秘匿」を抱えることとなり、闇の力に溺れながらも良心に苛まれ、「孤独」のうちに没する。あまりに哀れで、あまりに報われない人物です。ジュリアの言葉を借りるなら、「クィレルは群れからはぐれてしまった。群れに戻るために力を求めて、群れから追い出される理由を作ってしまった」といったところでしょうか。



 残念ながら、本作で彼の生命を救済することは叶いませんでした。しかし、本作はファンアート、それもパラレルワールドやイフを扱った二次創作ですから、多少の遊びが利きます――たとえば、彼の友達であったトロールのミークが彼のために命尽きるまで戦ったり、彼の謎に気がつきつつも彼を尊重したジュリア・マリアットがアルバス・ダンブルドアを密かに糾弾したり。加えて、彼の「孤独」は埋まらないまま終わってしまいましたし、「秘匿」は中途半端に暴かれてしまいましたが、「知識」はどうでしょう。マグル学の教授だったころの彼の研究、蔵書、そういったものが残されていても不思議ではありません。そうですよね?



 随分饒舌になってしまいました。彼のその後は明日からの更新でご覧いただきましょう。まだまだ長い旅路ですが、のんびりとお付き合い下さい。更新ペースはいつも通り、【毎日19:30、1話ずつ更新】です。

 現在執筆環境にちょっとした問題を抱えており、場合によっては少しお休みをいただくかもしれません。詳しくはこちらをご参照ください。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=220007&uid=244813



 それでは、読者の皆さまに感謝を込めて。

 2019/07/28 「ヤドカリ」ことriptide


日時:2019年07月28日(日) 20:26


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返信コメント

Riptide

 きこりん様

 コメントありがとうございます。riptideです。

 拙いですが、1つの考察として提示できていれば嬉しいです。私は彼がどれだけ罪を犯していようとも、花を手向けようと思います。


日時:2019年07月29日(月) 09:43

きこりん

とても考えさせられる考察でした。クィレルの冥福とあの世で孤独が解消されることを祈ります


日時:2019年07月28日(日) 21:27


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