未1000字 亡国・酒場の店員

◆酒場の店員

何ともすごい客だ。

着ている服の見事さも、払いの良さと、その思い切りの高さ。

ぽん、と三倍の支払いをしてしまうのだ。

さて。

あの客が自分の待ち合わせの相手の飲んだ酒の支払いをした。

これはいい。

だが、店に支払われるべき金額は、この支払いに使われた三分の一だ。

残りの三分の二は、本来は存在しない金額である。

だからといって、これを自分の懐に納めてしまうのは、あまりにまずい。

そこで、飲んでいた客に話しかける。

あのお客様は一体どういった御方なのでしょうか、と。

相手は不機嫌になる。

当然だ。

こういった店で聞くには、あまりにも問題のある質問なのだから。

当然に相手は答えない。

それでよい。

「代金はご返却させていただきます」

戻す金額は、相手が飲んだ正規金額。

つまり、支払われた金額の三分の一だ。

口止め料ととして、相手は受け取った。

これで支払った相手に知られることはない。

三分の一は、正規の支払いとして店の金庫に入れる。

そして、自分の手元には三分の一。

三方得をした形だ。

店にはちゃんと代金が入っている。

飲んだ男は、口止め料として金が入る。

店には、多い支払い分は酒を飲んだ客へ返却したと言い訳ができる。
支払った客が三倍の代金を払ったことは、自分しか知らない。

だから、自分の手元には支払いの三分の一が残っている。
これだけで、自分の給料の何倍だろう。

「こんな客ばかりだと嬉しいんだがな」

今日はいい日だ。

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あとは、店がこの店員に聞くように押し付けた場合などもあるのかなあ、などと考えたりしました。

亡国は想像の余地が多くて、ちょこちょこ短い話を考えます。


日時:2019年10月03日(木) 17:47

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