乙女ゲーの世界に転生してあれやこれや

あらすぎぃ
 ファンタジー学園系乙女ゲーの世界に主人公として転生した少女(享年17)
 最初は大人しくこの世界に馴染んでみようとしてみるが、学園生活の途中で悪役令嬢からのいじめもあって精神が擦り切れてしまう。
 しかも周りのイケメンどもが彼女を放っておかない。つらい。
 ついぞ動いた物語のなか、本来ならピンチに攻略キャラが割って入るはずの悪役令嬢との決闘にて、彼女が下した決断とは――























---





「――ああ、なんかもう、どうでもいいや」

ぽつりと。
アリーナの中央に立った少女がそう呟いた。

「……貴女、なにを?」
「だから、どうでもいいって言ってんの」

そう言って彼女は制服のリボンを緩めると、上着のボタンを強引に外していく。
風に揺れる黒髪と、真っ白な学園指定の制服。
――壱ヶ谷真子は、まっすぐと眼前の生徒……リデルを睨みつけた。

「なっ……んと、はしたない……!」
「うっさいわね。制服の前開けたぐらいでぎゃーぎゃー騒ぐんじゃないわよ」

下着が見えたワケでもあるまいし、と笑う真子。
そこに今まで見せていた彼女らしさは一切ない。
大人しく王族の男子に囲まれて、困ったように笑っていた姿はどこへやら。
その笑みはまさしく獰猛そのもので、間違っても淑女とは言い難い。

「あたしなりに必死こいて合わせようとはしてみたのよ? 郷に入っては、とも言うし。
 ……でも無理だわ、やっぱり。ヒトそれぞれ十人十色っていうし、
 なによりあたしはあたしでしかない」

見守っていた観衆からざわめきが起こる。
およそ一ヶ月ほど前。
突如としてこの学園に入学してきた彼女は、瞬く間に学校中の噂の人となった。
その珍しい黒髪と、元より有名だった王族たちの興味を惹いたことで。
成績も優秀で何事もそつなくこなし、性格だって大人しめで滅多に大声は出さない。

「淑女としての振るまい? 貴族の常識? ええそうね。素敵だわ。
 マナーもルールも全部ひっくるめて綺麗でお見事。ああ、なんて――

 ――なんて、くだらない」

そんな少女が、今はどうか。

「悪いけどもう我慢の限界。別に、ここの文化を全部一切合切否定するワケじゃないけれど、
 あたしの肌には合わないのよね。
 ……ええ、そうよ。だからもういい。もうこんな芝居はやめよ。
 あたしはあたしらしく行く。
 貴族のアレコレもご令嬢としての立場も知ったもんですか。
 そんなんで縛られたままこの先やっていくなんて、窮屈すぎるっての」
「ずいぶんと……無責任ですわね。ミス・イチガヤ」
「無責任上等。だいたい生きてるかぎり誰かに迷惑はかけんのよ。
 要はそれをなるべく少なくするか、それとも気にせず突っ走るか。
 大体の人間はその二種類でしょう。でもって賢いのが前者だってのも分かる。
 ……分かってるけどね、それでもあたしは後者がいい」

拳を握る手が震える。
彼女は怒りに身を焦がしている。
目の前にいるのは散々苦渋をなめさせられた相手だ。
内心ではもう腸が煮えくり返りそうなほど頭に来ている。

……そもそも、なんというか、立場や振る舞いどうこう以前にやり方が気に入らなくて――

「馬鹿で愚かでごめんあそばせ。けれどせいぜい醜く踊ってあげるわ。
 あたしはあたしの足で走って、あたしの翼で飛んでやる。
 だから先ずは、あんたに一発ッ!」

地面を砕いて少女が爆ぜる。
この決闘は仕組まれたものだ。
入学したてで魔力の制御も魔法もちっぽけな彼女を陥れるための見世物。
婚約者を奪われたようなものであるリデルの計略のひとつ。
故に、真子に勝機はひとつもない――

「っ!?」

筈、だった。

「喰らえぇぇえ――――ッ!!」

空から振り下ろされた拳が、すんでのところで空振り地面を抉る。
――ありえない大きさの、クレーターを作って。

「なっ……!?」
「なぁに驚いてんのよ! 勝負を吹っ掛けてきたのはあんたでしょう!」
「あ、ありえませんわ……! 貴女はまだ強化の魔法しか使えないはず……こ、こんな……!」
「ええそうね! あたしは強化しか使えない。でもね――」

二撃目の拳が、低く構えられる。

「たったひとつだって磨けばやりようは幾らでもあんのよ!!」

瞬撃の拳はリデルの腹部を強く打ち付ける。
まるで弾丸のような超威力。
否、そのカタチを表すのなら弾丸というより砲弾と言ったほうが正しい。
彼女の腕から放たれる一撃は、すでに人の領域には留まらない。

「ぐっ……!?」

突如として襲い来る浮遊感。
ぽっかりと胸から下にかけた穴の開いたような感触。
思考はまったく空白のまま考えるコトもままならない。
それでも分かるのは吹き飛ばされたという事実だけで。
――その激痛と苦しみに、理性を取り戻した瞬間意識を焼かれそうになる。

「――ッ、ぅ、ぁ……、ミス、イチガヤ……!!」
「ほんともう、こりごりよ」

遠く、拳を振り抜いた少女が嗤う。
握り締めた指を軽くほどいて、虚空にその手を伸ばしたまま揺らす。

――さあ目を見開け支配階級の子供達。

あれなるは傲岸不遜にて身勝手な人の魂。
なによりも鮮烈に、しかしどこまでも泥臭く生きる現代の価値観に染まったひとつの命。
他のすべてを犠牲にしてでも自分を主役に張り続ける最低最悪の自己中心。

「突然知らない世界に飛ばされて、
 なんだか聞いた事のある名前とか単語とか色々でてきやがって、
 その上で魔法だ学園だ貴族だ王族だなんて、もう本当勘弁してほしいぐらい」

この世にあるべきではない、異世界より招かれた醜悪なるヒトの少女……!

「でもさ、あんがい悪くないかもね」

少女が開いた指を握る。
人差し指から固く、強く。
積年……というにはすこし浅いけれど、でも、十分にすぎる恨みを込めるように。

「こういうコトができるなら、異世界転生もあんがい悪くない」

そうして拳をつくりながら、すでに立ち上がりかけているリデルを見る。

「魔法も学園生活も、ぜんぜん悪くなんてない――」

淡い魔力の光を、その手に宿しながら。

「そう思うでしょう? あんたも!」
「ワケの分からないことを……!」
「分かんなくて結構!」

再び地面を蹴った真子が、風のごとく疾駆する。
両者の間にあった距離は秒で零まで縮められる。
リデルが魔力を操るよりも早く、その拳が眼前に迫った。
初歩的な強化の魔法は魔力扱い自体も簡単な単工程だ。
世界そのものに干渉して雷やら火やらを起こす属性魔法とはわけが違う。
言わば自身の内側にのみ意識を向ければいい。
その点に関して言えば、壱ヶ谷真子はこれ以上なく天才だ。
彼女の自己の保ちかたは神懸かっている。
体をどうこうするという強化において、速度も質も常人の遙か上。

「ぐっ……!」
「いま重要なのはたったひとつ!
 ここであんたに対する借りを全部返させてもらう!
 さあどうしたのよリデル・テレジア・アルカンドーラ!
 黙ってあたしに殴られるだけの、そんな女じゃあないでしょう!? あんたは!!」
「っ……! なんと野蛮……! なんという言葉遣い……! やはりあなたはこの学園に相応しくありませんわ!!」
「んなことは先刻承知してんのよぉ!!」

真子はキレている。
それはもうキレている。
なにせ彼女とその取り巻きには散ざ……もとい一杯かわいがってもらったのだ。
あるときは水を頭から被せられ、
あるときは花壇の整理中に後ろから突きとばされれ、
あるときは、あるときは、あるときは――

「でもしょうがないわ! それがあたしなんだからしょうがない! だから真っ直ぐぶちこんでやる!
 ――さっさと構えなさいご令嬢!
 陰湿でネチネチとしたのはもう終わり! これから先は実力勝負ってね!
 そんでもって殴り合おうじゃない! 女だって喧嘩のひとつ、ど派手にやってなんぼでしょう!!」

乙女ゲーだとか主人公だとか悪役令嬢だとかもう知るか。
そんなものはとっくの昔に頭の片隅からも消えている。
キャラクターとかシナリオとかくそくらえ。
原作通り? ハッピーノーマルバッドエンド? ふざけているにもほどがある。
そもそも他人の敷いたレールの上を走るようでは気が済まない。
自分はこうして生きていて、目の前の彼女だってギラギラと目を光らせているのに、それら全て創作だと決めつけられるワケがない。

「このっ……!」
「――ハ」

ニィッと、真子が口の端を吊り上げる。
手のひらを振るうリデルの指先から弾ける雷撃を前に、躊躇う事なく一歩踏みこむ。
防御なんて考えるまでもない。
攻撃こそが最大のそれだ。
ならば、後ろに退くなんて情けない芸当をしてやるつもりはない。

「ちょろぉいッ!!」
「がッ――!?」

全身の痺れる痛みを堪えながら、最大限に引き絞った拳を振り抜く。
脳細胞がジリジリと焼かれていく感触。
まちがいなく心臓にナニモノかの手が伸びていた。
それはかつて体感したような、忘れがたい、
――暗い暗い、“死“の感覚で、

「――、それ、がぁ、どうしたってのよ――ッ!!

気勢をあげながら恐怖を吹き飛ばす。
こんなところで、そんなもので足踏みしている暇はない。
死ぬのがどうした、そこまで怖いのか。
……ああ、きっと怖いだろう。
だってあんなにも死んでいくのは辛かった。
苦しかった。
……寂しかった。
泣きたくなるぐらい悲しくて、でももう泣けなくて。

それでも何の因果かこうして生きて、別の世界で地を踏みしめている。
なら何が歪んだのでも、変わったのでもない。
彼女は彼女自身、いつだって一ヶ谷真子はそうであれと生きてきた。
なら躊躇うな。
迷うな。
退いたら終わりだ、進めなくなる。
なら一歩でも前へ。
――前へ。

それだけが、彼女にできる鮮やかな人の在り方で――

「いくわよ……!」

自分の人生自分が主役だ。
なら、真っ先に自分の納得できる生き方じゃないと、悔しくて夜も眠れない……!

「あたしは我が道を突き進む――――ッ!!!!」

三度目の爆発は、地面に巨大な亀裂を生む。
アリーナ全体を振動させるような踏み込み。
彼女の体は音をも超えてリデルへと届く。

交錯は、刹那の合間に。

「おぉおおらぁぁああああ――――――――ッ!!!!」

振り抜いた拳は、



――けれど

「先ほどからっ……まあ、なんとも、うるさいこと……!」
「……へえ」
「ええ、いま、はっきり分かりましたとも。わたくし、貴女のことが大っ嫌いな理由……!」

彼女を守ったのは石の壁。
二、三度に渡る工程を必要とする属性魔法。
それをこの一瞬で、迫る彼女の拳が振るわれる位置へと展開した。

「貴女の言い分、やり方、生き方、その存在諸々何もかも――私にとって許しがたいんですのよ――!」

濁流のような水がリデルの周りから溢れ出す。
渦巻く水流はその身を防ぐように全方位へと伸びていく。
強化にしか頼る道のない真子がその流れに逆らうのは至難の業だ。
それを見越してのコトでもあるのだろう。

「っ……フリダシか……でも、いいわね。うん、いい。
 ――イイ目になってきたじゃない、お嬢様?」
「……初めてですわ、こんな気持ち」

距離を離したふたりが、遠くで互いを見据えながら構える。

「わたくしはいま、あなたが憎くて憎くてたまらないのに――痛くて痛くて頭にきていますのに――
 どうしてこんなにも、昂ぶっているのでしょう……!」
「え、なに。ドM?」
「ミス・イチガヤ……ええ、そうですわね……!」
「うそ、まじ?」

くすりと、艶やかにリデルは笑う。

「わたくし、勘違いをしておりました」
「……なにを?」
「あなたを潰すのに、手加減なんて要りませんでしたわね――!」
「……うっわ。まじかあ。……いまので手加減かあ……
 ――ごめん、それはちょっと、燃える」

睨み合う少女たちに、他の生徒はついていけない。
正真正銘彼女たちは彼女たちだけの世界で刃を構える。

「死になさい! ミス・イチガヤ――――!!」
「二度目はごめんよ! あんたこそ、その体、二度とお嫁にいけないようにしてやるわ――!」

今此処に、ふたつの信念が衝突する――

~つづかない~


思いついたので書いただけなんです。許してくださいなんでもしまむら(白目)

久々にまほよやってスクライド見て悪役令嬢モノ読んでたらなんか浮かんだ。
カオスかな?(困惑)

(真ん前から撃ち砕く系ヒロインよく)ないすか?

ちなみに悪役令嬢ちゃんは最終的に「そうですわ、それとやりあいたかったんですの!!」とか言いながら喜色満面の笑みで主人公と戦うような仲になりまふ(たぶん)(きっと)(めいびー)(それどこのスクr)

なお攻略キャラは置いてけぼり勢と感化されてジャンキー化する勢ともとより壁として立ちはだかれる勢とに分かれる模様。おまえら攻略される気ある?


日時:2020年04月27日(月) 16:11

<< 久々にISを書きたいなって なんの捻りもないTS >>

▼コメントを書く

返信コメント

HAL・AQUA

続きはどこ!?
そうなった経緯もどこ?!


日時:2020年04月28日(火) 15:43

huntfield

徒手空拳で舞踏会(武闘会)に殴り込みをかけて、貴族の血統(決闘)に挑む。

これは紛れもなく主人公(ヒロイン)ですねぇ……


日時:2020年04月28日(火) 06:06

syoui

うわぁ〜
続き読みてぇっ!!!!!


日時:2020年04月28日(火) 02:24

陣代高校用務員見習い

あ、やっぱスクライドなんだ(笑)
最後は魔力切れからの、完全な肉弾戦ですね。


日時:2020年04月27日(月) 20:31

颯馬

そこはかとスクライド臭が漂ってるなぁと思いながら読んでたらホントにスクライドだったのかw

なら最後はやっぱり
主『私の………勝ちだ!!』
令嬢『あなたの……負けですわ!!』
かなw


日時:2020年04月27日(月) 17:54

カイナ

主人公こと壱ヶ谷真子のイメージが完全にFGOのマルタの姐御かジャンヌ・ダルク・オルタのどっちか(むしろ見た目はマルタ口調は邪ンヌ)でしか想像出来ないんですがどうすればいいのでしょう?(汗)


日時:2020年04月27日(月) 17:32



返信

    現在:0文字 10~1000文字