コルネリアス帝の親征に関する私考(その1)

この戦争はおそらく帝国が同盟領に侵攻した最初の戦いであったと思われます。
なぜそう考えたのか。

ダゴン会戦の後、帝国人が同盟に流入しました。その規模は「量的な膨張のきっかけ」とされています。
本編開始時点の同盟人口は130億なので、数十億単位の人口が流入したと考えられます。
1年や2年で移動できる数ではありません。しかも、両国の国境は宇宙空間です。歩いて移動することはできません。宇宙船が必要です。
ダゴン会戦から親征までの間は29年。帝国から流出した人口が10億だったとしても、年平均で3000万~4000万人が移動したことになります。実際はそれより多いでしょう。密航みたいな形での移動とは考えられません。巨大な船団を組んで移動しなければ不可能です。
さらに言うと、航路の安全が保証されている必要があります。大勢の人間が長距離移動するのは、同じ国内であってもかなり大変です。帝国軍がいつ追撃してくるかわからない状況では、航行の成否は不透明になり、移民航路は存続困難に陥るでしょう。

原作に描かれたとおりの人口移動が生じるには、
1.膨大な数の宇宙船(足)
2.安全に移動できる航路(道)
3.長期にわたる1と2の提供(時間)
が必要なわけです。

大親征以前は同盟が圧倒的に優勢で、帝国領を広範囲で占領していた。そう考えなければ、上記の条件は揃いません。占領地から同盟領に移動するならば、比較的安全です。帝国領から移動するにしても、同盟軍の占領地が相当食い込んでいるならば、難易度は低くなるでしょう。貴族亡命者の中には、「同盟軍に迎えに来てもらう」「戦うふりをして占領地に駆け込む」という形で亡命した人がいたかもしれません。

外伝一巻によると、晴眼帝は同盟との戦争に消極的であったそうです。暗褐色の六年のみで数十億人が移動できるとは思われません。できたとして、同盟にそれを受け入れるキャパがあるとは思われません。数年で人口が倍増もしくは数割増したならば、国家存続が困難になるレベルの人口圧力です。しかし、同盟は669年まで存続しており、「量的膨張」という表現からして、人口増が発展に繋がったと考えられます。流入のペースは同盟社会が耐えうる程度のもので、暗褐色の六年以降も人口流入は続いていたとみるべきでしょう。

ひどい言い方をすると、晴眼帝は毎年数千万の人口流出を放置していたわけです。これについては、意図的に放置したとの考察をよく見かけます。しかし、私の考えは違います。単に余裕がなかっただけだと思います。

毎年数千万、数年で数億、数十年で数十億。これだけの人口が失われるのです。社会が崩壊しかねないレベルの損失です。不良貴族や共和主義過激派が数十億人もいるわけではありません。大多数はごく普通の農民・労働者・奴隷でしょう。労働力と消費者の数割が抜ける。常識的に考えて看過できない状況です。看過したとすれば、そうせざるを得なかった、防止できる力がなかったと考えるべきです。

外伝一巻によると、晴眼帝の主要な業績は、「冤罪と汚職と陰謀の一掃」です。そして、晴眼帝のほかに”清掃帝”、”再建帝”という異名も持っていました。彼の治世は、充実と安定の時代というイメージが持たれがちです。しかし、原作の記述をもとに考えると、腐敗と混乱の時代であったように思われます。晴眼帝の功績は国家崩壊を阻止した皇帝で、それゆえに尊敬されたのではないでしょうか。ただ、崩壊を食い止める以上の余裕はなく、人口流出(とその原因である同盟軍)はどうにもできなかったのでしょう。

暗褐色の六年間と晴眼帝時代は、同盟軍が一方的に攻め続け、帝国の人口を吸い続けていた。コルネリアス帝はこの状況の打破を目指した。同盟は長年の優勢におごり高ぶっていた。

これが大親征以前の情勢だったと考えます。


日時:2021年06月05日(土) 20:08

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返信コメント

甘蜜柑

ダゴン以降の人口流出は、規模からいうと帝国が崩壊してもおかしくないレベルです。
いや、とっくに崩壊していて、その結果が人口流出だったのかもしれません。


日時:2021年06月26日(土) 21:35

鶴亀屋

人口は上手く取り込めは成長出来るし、逆に引っこ抜かれると発展が阻害されるからのう。
成長ならアメリカ、流出なら中東や東欧の某国家を見つつ


日時:2021年06月06日(日) 12:27



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