自分を追い詰めたいので黄金の魔術師(旧約11巻)の内容を少し(9月までには投稿したい)

   1

 大覇星祭(だいはせいさい)――学園都市の能力者達が(しのぎ)を削る大運動会。実に七日間に渡る学園都市の一大イベントも終わりを迎えた頃、自他共に認める不幸体質を兼ね備えた少年――上条当麻(かみじょうとうま)は珍しく浮かれていた。というのも、大覇星祭で出店している屋台の一つである『来場者数ナンバーズ』――大覇星祭の総来場者数を予想する宝くじの様なもの――で見事一等を当ててみせたのだ。景品は北イタリア五泊七日のペア旅行である。大覇星祭終了後、学生達には振替休日が当てられるので、今回はその期間を利用しての旅行となる。
 一時はパスポートの有無を巡ってひと悶着こそあったものの、無事に荷造りも完了した上条と同居人のインデックス。そんな彼らは今正に世界へ羽ばたかんと学園都市第二三区に存在する国際空港のロビーまでやって来ていた。

「そういやインデックス。お前西崎から旅行用に何か貰ってなかったか?」
「とうまが言ってるのってひょっとして『サムハラ』のこと?」
「サム……?」

 (記憶を失った)上条にとっては初の海外旅行ということで隣人の土御門や西崎に先日アドバイスを貰おうとしたのだが、残念ながら土御門は用事で居らず、西崎に至っては「海外旅行……家族団欒……波乱万丈……うっ、頭が……!」と謎の連想からの頭痛コンボを決めた挙句にインデックスに変なお守りの様な物を渡してきただけだった。……そう言えば、彼の部屋にも自分と同じく同居人が増えていた様な気がするのだが、自分の気のせいだろうか……?

「サムハラっていう神字――神様の字の事だね――を白紙に書いてお守り袋などに入れて携帯していると交通事故や飛行機事故なんかに遭わないって言う日本の護符の一つだよ。あ、後は銃弾除けもだね。元は古代中国の守護神だったサムハラが――――」
「OK、ストップだインデックス。……要するにそれってお守りみたいなものか」
「そう。だからとうまは右手で触っちゃダメなんだよ」

 了解、と口に出そうとして、寸前鳴り響いたビ――ッ!という音に気を取られる。ギョッとして周囲を見渡せば、そこには金属探知機に引っかかり係員に押さえられたインデックスの姿が!

(しまった!インデックスの修道服が安全ピンだらけなのすっかり忘れてた!!)

 すぐさま係員に事情を説明し、空港内にあるショッピングモールへ衣服を買いに走る上条。制限時間は三〇分、上条の海外旅行を懸けたファーストランが幕を開ける――!

   2

「あら、良かったの?イタリア旅行に付いていかなくて?」

 とある学生寮の一室の静寂を破ったのは、同居人であるレディリー=タングルロードのそんな一言だった。

「付いていくも何も、上条が当てたのは()()旅行だ。俺達の席は無いさ」

 対して部屋の主である西崎隆二はそう淡々と答えた。

「そうじゃなくて、またちょっと()()()()()()()()()?様子を見なくて大丈夫なの?」
「大したことはしてないし、どっちにしろ放っておいてもこの展開にはなってたさ。俺はそれを少し後押ししただけだ」

 それに、と言って西崎が水盤を取り出す。レディリーの視線も思わずその水盤を追う。

「何も現地に居なければ何も出来ない訳でも無い」
「エジプト人の王ネクタネブスには、水盤と蝋で造った敵味方の軍勢の像を用い、そこにエジプトの神々や悪魔を降霊させることで敵を撃破したという逸話がある。これを応用すれば、部屋に居ながら向こうのサポートが出来るという訳だ」
「へぇ、そんなのがあるのね」
「まぁ、とにかく俺が態々(わざわざ)ここから動くことも無い」
「よっぽどの事が無い限りは、よね?」
「おい止めてくれ。言霊(ことだま)――今で言えばフラグと言って、そういう言葉を言うと碌な目に――――」

 西崎の言葉を遮る様に、手持ちの携帯から着信音が鳴り響く。チラリと画面を確認すれば、そこには『父』の一文字が映っている。

「…………」

 嫌な予感を感じつつも、通話ボタンを押す西崎。そんな彼に向かって、電話の向こうから陽気な男性が話しかける。

「隆二、聴こえてるかな!僕だよ、君の父さんだ!いやはや、聞いて驚けよ……何と!僕の個人的な知り合いからこの度イタリアの家族旅行をプレゼントされちゃったんだよ!!ついては彼女さんと一緒に――」

 そんな馬鹿な、と思いつつ隣のレディリーを見る西崎。レディリーはそれが現実だと言わんばかりに頷く。
 ――――つまりは、そういう事になった。

   3

「『()()()()』。なぁ、名前位は聞いたことあるんじゃないか?」

 夢を見ている。ローマ正教の修道女(シスター)であるアニェーゼ=サンクティスはそう直感した。夢の内容は今の自分の状況を作る切欠(きっかけ)となった騒動の一幕についてだ。

「神の、右席……?」

 問いかける様に夢の中の自身の口から出た言葉を聞いて、相対している相手はため息をつく。

「知っていれば話は早かったんだがな。まぁいいさ、どうせ此処には話をしに来たんだ。外の余興が終わるまで、気長に話そうじゃないか」

 とは言え、何から話したものかと思案する相手。彼は、少し間を置いてこう話を切り出した。

「人は生まれながらに原罪を背負っている。と言うのは、俺が言わずとも敬虔な十字教徒なら知っている筈だ」
「……」

 相手を警戒しつつも、彼の言葉に頷き返すアニェーゼ。

「では、()()()()()()()()()()()()()()()?詰まりは神の右席というのは、()()を実際に実行しようとしている奴らの事をいう」
「原罪を……?でもそれは、神の子の御業では…?」
「そうだ。ローマ正教、その最暗部たる彼らは、自身の内より原罪を消去し、神の子――いや、敢えてここは太陽霊、火の霊と言おうか。詰まる所、天使に近づこうとしている」
「天使に……」
「皮肉な事だな。お前達が異端として抹消してきた錬金術を使って、お前達の組織のトップはお前達の崇める対象になろうと言うのだからな」
「ちょ、ちょっと待ちやがって下さい!?どうしてそこで錬金術が出てくるんですか!?」

 浴びせられた情報の衝撃に、ついつい話を遮って質問を入れるアニェーゼ。

「何だ、黄金系の儀式で引っ張りだこの蓮の杖(ロータスワンド)を持っていながら、錬金術については知らないのか」

 彼の言う通り、蓮の杖(ロータスワンド)は本来黄金系の魔術結社の儀式で用いる霊装の一つだ。アニェーゼの持つ杖はシンプルな配色をしているが、実際に儀式で用いる杖は実にカラフルな様相を呈している。というのも、この杖の本来の使い方は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。この蓮の杖(ロータスワンド)が照応させるのは人体では無くセフィロトの樹の方である。アニェーゼは杖とセフィロトの樹の照応にセフィロトの樹と人体の照応を掛け合わせて相手の体を傷つけているのである。

「錬金術には『物的錬金術』と『霊的錬金術』の二種類が存在する」
「前者は現代化学の親となったもの。大衆がイメージする錬金術として一般的なのはこちらだな。蒸留やら置換やらを用いて、文字通り実際に石から黄金を作り出そうとするのがこれに当たる」
「対して後者は余り馴染みが無いだろう。こちらも石から黄金を作るという目的自体は一緒だが、この()()()()()()()が物的錬金術とは異なっている」
「そうだな。お前達に分かり易く言うのであれば、石とは原罪を持った人間、黄金とは原罪を完全に取り除いた人間ということになるか。つまりは自身の存在の霊的位階を上げる為に、自身の中の不純物を取り除いていくのがこの霊的錬金術になる。ダイヤの原石を磨いて綺麗なダイヤを造り上げるようなものだ」

 或いはソーシャルゲームの星三キャラを限界突破させて星六にしたりするようなものだ、と彼は言うが、その言葉の意味をアニェーゼは理解できなかった。

「なぁ、酷いとは思わないか?」

 その言葉は、スルリとアニェーゼの中に入ってきた。

「自分達が異端と認定しておきながら、その異端によって生まれた甘い汁をお前達のトップは独占しているんだぞ?」

 囁く様に、見定める様に、(なだ)める様に、(あざけ)る様に。

「天使に近しい力を持ちながら信徒を救う素振りも無く、汚れ仕事や裏仕事は全部部下任せ」

 呼吸が安定しない、視線が定まらない、頭の奥から血の気が引いていく、物事を正常に判断出来ない。

「その癖信徒の数だけは多いから、一度の失敗でしくじった奴らは全員蜥蜴の尻尾切りの様に斬り捨てても困らない」

 止めろ、と言いたかったが声が出ない。その先を言うな、と言う気力も湧かない。

()()()()()()()()。力を持ちながらそれを振るわない奴らの独断で、お前達も捨てられる」

 体の感覚が無い。自分が立っているのか、座っているのか、生きているのか、死んでいるのかすら判断できない。

「悔しいだろう、それまでの全ての努力を踏みにじられるのは。恐ろしいだろう、そんな傲慢な人間が存在することが」

 まるで人を惑わす悪魔の様だ。或いはアダムとイブを唆したサマエルか。

()()()()()()()()()()()()()()()。自分でも組織のトップを引きずり出せると。天使に近しい人間を翻弄出来ると」

 その為に力を貸そう、と言って彼は手を差し伸べた。その手を掴もうか、払おうか、迷って迷って迷って迷って迷って迷って――――――バン!!という音と共に、ツンツン頭の少年の手によって教会の扉が開かれた。
 残念、と小さな声で彼が言う。――結局アニェーゼは、その手を掴むことが出来なかった。

(何で今更、こんな夢を見るんだか……)

 自身の終わりの時が迫ってきているからだろうか。多少感傷的な気分になったアニェーゼは、そこで目を覚ました。一面の氷が、そんな彼女を迎えていた。


日時:2021年07月29日(木) 17:59

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返信コメント

雑種

感想ありがとうございます。
現時点で物語中盤辺りまで書けているので8月中に書き上げられる様に頑張ります。


日時:2021年08月08日(日) 07:12

聖人P

好きな作品なのでとても応援してます!
無理せず頑張って下さい!


日時:2021年08月08日(日) 06:33



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