ボツ話~姉妹~


本編の筆が進まず気晴らしに書いたものです。
本編の方はもう少しお待ち下さい。







「ねー、ななねぇー」

「……どうした」

ゴロゴロと、私の部屋のフローリングの上で寝転がるういは、まるで猫のようだった。クッションを両手で抱き締めて、うろちょろと部屋を見渡している。

「ひまー」

だらけきった様子でういは間抜けた声を伸ばした。怠惰、という言葉は今の彼女にこそあっていた。

「……外にでも出たらどうなんだ? 」

「ええー。そんな気分じゃないんだよなぁ」

ゴロゴロと転がってきたういが、私の読んでいる科学雑誌のページを勝手にペラペラと捲った。構って欲しいのだろう。しかし、だからと言って私の休息時間を邪魔していい訳ではない。ういのせいでちょうど読んでいた文章が繋がらなくなり、ジロリと睨むと、こわーい、と声を上げながら転がって遠ざかっていった。

「しかし、あれだね。ななねぇの部屋は殺風景だ」

面白いものが何もない、と言いたげだった。

「そこの壁を見てみるんだ。新しい標本があるぞ」

「虫はパスでーす」

珍しい『ゾウムシ』を集めて標本にしたものを作ったのだが、彼女は見てすらくれなかった。

「てかさ、ななねぇいつまで虫が好きなんて言ってるの? そんな女の子、絶対モテないよ」

「別にモテようと思ったことはない」

「はぁー。宝の持ち腐れとはこのことなんだねぇ」

やれやれとため息をつくその姿は、どこが諦めが込もっているように見えた。


そこで、インターホンがなった。

「あ! 誰かきたよ! 」

新しい来訪者がこの何も変化のない空間に新たな風を与えてくれると思ったのか、ういはテンションを上げてドアを見つめた。

明智、いるかー、とドア越しに声を掛けてきたのは、長谷川さんだ。

「千雨ちゃんだ!! 」

ういはばっと立ち上がって玄関まで走っていき、勝手に力強くドアを開けて長谷川さんを迎え入れた。

「千雨ちゃんいらっしゃい! 」

「お、おお。ういか」

乱暴に空いた扉に驚いている長谷川さんを無視して、ういは、どうぞどうぞと中に入れた。

「千雨ちゃん、今日はどしたの? 」

「いや、明智に借りてた本を返しにきたんだが。明智、サンキュ。面白かったぜ」

「それはよかった」

長谷川さんは肩から掛けた鞄から丁寧に文庫本を取り出して、私に渡した。

「んで、ういはなんでここにいんだ」

そう訊かれたういは、よくぞ訊いてくれた、と胸を張った。そんなういに対して、長谷川さんは、はやく言えと適当な物言いで急かす。

長谷川さんとういは、私達が小学生の頃に出会った。長谷川さんが我が家に遊びに来たとき、私でさえ仲良くなったばかりの長谷川さんに向かって、ういはいつもの調子で距離を詰めていった。
そんな彼女に最初は戸惑いを感じていたようだが、もう慣れてしまったのか、ういには気を使う必要がないと気付いたのか、長谷川さんはいつの間にか妹に対して心を開いていた。

「実はね! 暇だからななねぇのとこ来たんだけどね! 驚くことにここに来ても暇なんだよね! 」

「そーか」

「そーか、じゃなくて! ねね、私はどーすればいいの? 」

「もう自分の部屋に戻ったらどうだ? 」

「ななねぇひど! そんなこと言われたらもう逆に絶対帰らない! 泊まってってやるぅ」

ぴょんと跳ねて私のベッドにダイブしたので、部屋に埃が少し舞う。

「……うい、冷蔵庫にプリンがある」

「へっ! プリン!? 」

「帰るか帰らないかは置いといて、とりあえずそれでも食べていったらどうだ? 」

「そだね! とりあえずお腹を満たさないと何も考えられない気がしてきたよ」

ベッドから飛び起きて、トタタと足音を立てながらういは冷蔵庫に向かっていった。

「……ん? どうかしたか長谷川さん」

長谷川さんは、何か思うところがあったのか、じっと私達のやり取りを見つめていた。

「いや、そのよ。お前ら姉妹は仲良さそうだなぁって」

「……どうしたんだ急に」

「私は兄弟ってのがいないからな。どんな感覚か分からんし、1人が嫌いじゃないから別に羨ましくもないんだが……。むしろ、家にこんな風に図々しく居られたら鬱陶しく思わねぇのかなってよ」

「まぁ、思わなくはないが……」

「ええ! 思わなくはないの! 」

プリンの容器にスプーンを刺しながら、ういが私達の間に顔を出した。

「二人は喧嘩とかしないのか? 」

「喧嘩……。したことあったか? 」

「千雨ちゃーん。相手はななねぇだよ? 」

「ああ、そりゃ喧嘩なんぞしないか」

「それはどういう意味の納得なんだ」

「私が勝手にわがままいって騒ぐ時はあるけどななねぇはいつも冷静だし、そりゃ私が悪いしたらななねぇは叱るけど、私もななねぇに言われて言い返そうとは思わないもん」

ういがプリンを持ったまま、私に身を寄せる。

「ななねぇは優しいからねぇ。これで虫好きじゃなければ完璧の姉だったよ」

「虫好きの何が悪いというんだ」

「悪いというか、悪趣味だなぁって」

「……プリンは没収だな」

「ああ! それだけは! 」

私に必死に頭を下げるういを見て、長谷川さんが噴き出すようにして笑ってから言った。

「ま、なんにせよ仲良さそうでなによりだな」





日時:2015年09月01日(火) 07:30

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返信コメント

働くニート様

何というか、微笑ましいです(*´ω`*)

更新待ってます。


日時:2015年09月03日(木) 02:43



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