「チートなんてな、皆でやっちまえばただの標準仕様なんだよ」な作品です。
「その落ちこぼれに負けて、お前は超落ちこぼれになるんだよ!」
那須蒼一、『ゼロ』『持たざる者』――。
他人に言われるまでもなく、本人がそれを一番理解している。一族として継ぐべきチカラがない。それは異常でも特殊でも超能力でもなく、だからこそどうしようもなくどうしようもなくどうしようもない。
(90行省略されています)
だが、それがどうしたというのだろうか?
武偵らしく頭はよくなくて、『ゼロ』で、それがなんだというのだ? たったそれだけのことで諦められるだろうか?
答えは否。諦められないからこそ彼は、いや、彼らは輝こうとする。生き生きとしている。
そんな彼らの活躍を見ていると、それだけで胸の奥が熱くなる。猛ってくるとさえ言える。
クールが流行りのような現代であえて逆行する『熱さ』と『根性』。むさ苦しいかもしれないが、彼らはどこまでもその二つを地で行く。だからこそ格好いい。
……なんてアツアツ展開だと思ってたら。
「蒼一さんは、たまにそういう殺し文句普通に言ってきますよね」
突然ラブコメに発展する。なんだこの温度差。思わず口元が緩んでしまう。甘党でない方には、是非ブラックコーヒーを用意していただきたい。
……と、ある種アツアツ場面を展開していたはずなのに。
「いつもニコニコあなたの隣に這い寄る魔弾」
今度はコミカルだ。折角用意していただいたコーヒーを吹き出させたいのだろうか。
方向性の異なる温度差だが、そこがまた笑いのツボを的確につついてくる。
……とゲラゲラ笑っていたら。
「では、斬っても斬れぬ縁の下にまたお会いしましょう」
いきなりシリアスモード突入。しかもシリアス化の回数を重ねるほどに、登場する敵が強力になっていくインフレスタイル。終いには星を砕いたりしないだろうな。
ここまで柳之助氏のオリ主人公である蒼一及び周辺キャラのセリフ抜粋。原作主人公のキンジだって、この物語では重要なファクターである。
彼もまた、熱いハートの持ち主だ。
「俺がお前のことを嫌いになる? ――それだけは、ありえない。俺は勿論、アリアも、蒼一も、レキもな」
初期はヒステリアスモードでも若干見劣りして原作のままだが、戦いを重ねていくうちに『強襲科生』遠山金次も成長していく。
「……体中痛いし、血流し過ぎて頭ぼーっとするし、感電したせいでなんか感覚変だし、足フラフラして視界がヤバい」
そんな文句を言いながら、それでも口元を釣り上げ、胸に刺さったサバイバルナイフを思いきり引き抜き、
「つまり--ベストコンディションだ」
経験を重ね成長し、キンジの台詞にも心を打たれる。
「なんだよ資格って、俺たちはそんなものを気にしたことない。俺たちはただ、喧嘩したり馬鹿やったり笑ったり泣いたり、自分らしくやってただけだ」
大体なぁ、
「誰かにならなくていいだろ、お前はお前なんだから」
「――お前の方が、策士だ。卑怯じゃないか」
「思ったことを言っているだけだぜ」
誰もが認める器のデカい男になっていく彼の成長も、もしかしなくてもこの物語の醍醐味の一つかもしれない。
注)男女問わず惹きつける彼には、ホモ要素こそないもののハーレム要素には警鐘を鳴らさせていただく。
この作品のW主人公とも言うべき蒼一と金次は逆ベクトルの強さを持つ。
曰く、あらゆるチカラを霧散させる「静かさと道理を極めた姿」と、あらゆるチカラを強引に吹き飛ばす「派手さと不条理を極めた姿」。
この二つを対比させながら読み進めるのも面白いかもしれない。
では、最後はそんな彼ら二人の代名詞とも言うべき台詞で締めさせていただく。
「その落ちこぼれに負けて、お前は超落ちこぼれになるんだよォ!」
「この桜吹雪、散らせるものなら、散らせてみやがれッ!」
~了~
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蒼鋼/2015年09月06日(日) 15:57/★ (参考になった:40/ならなかった:117)