クロスオーバー作品のひとつの教材のような印象
▼文章、ストーリー、描写などについての紹介など
TRPGの元祖であるダンジョンズ&ドラゴンズと、日本のライトノベルであるゼロの使い魔とのクロスオーバー作品。
文体はやや古めかしい観があるが、丁寧なつくりはクロスオーバー作品のひとつのお手本のようで、しっかりと小説としての体を成している。
古典的で重厚なファンタジー世界と比較的近年のライトなファンタジー世界との組み合わせは意外だが、双方の世界観の擦り合わせや考察が頻繁にかつしっかりと行われており、違和感がない。TRPG関係の部分の解説は本文中や後書きで丁寧に行われているため、ゼロ魔しか知らない人でも読んでいけるのではないかと思う。
(28行省略されています)
特に、主人公のディーキンの人柄が印象深い。
彼はコボルドで、決して他人を見下すようなことをせず自分に対する評価は実力不相応に低いが、かといって卑屈でもない。心から他人を尊敬できる人物で、わざとらしい嫌みのない自然体で善良な性格であり、好き嫌いは分かれると思うが個人的には非常に好感が持てる。
ゼロ魔側の登場人物の行動や内面についても、ちょっとした脇役までみな丁寧に描かれている。アンチ・ヘイトされていると感じられるキャラクターはいない。作者がD&Dとゼロ魔の双方に対して好意を持ち、尊重しているのであろうことがわかる。
複線もかなり前からしっかりと張られていて、計画的に話を進めている様子が見て取れる。たとえば、原作における「フーケの宝物庫襲撃事件」は第40話なのだが、実際に宝が盗まれたのは第35話で、そこに至る複線は見返してみると第20話あたりで既に張られている……といった具合。
まだ未完ではあるが、総じて完成度はかなり高いと思う。色々と参考になるクロス作品である。
▼読む際の注意事項など
描写を丁寧にしているため、必然的に進むのは遅い。展開は着実に、しかしゆっくりと進め、描写や説明などを省かず丁寧にしている。
自分としてはひとつひとつの場面の内容を濃くしてじっくりと進めてくれる方が好きなので気にならないが、テンポよく話をどんどん先に進めていってほしいという人には向かないと思われる。
第二章以降は、原作に沿わないオリジナルの展開が多くなってきているようだ。自分としては召喚対象が違う以上はその方が自然だし先が気になって面白いと感じるが、好みの分かれる部分かとは思う。
また若干ネタバレとなるが、シエスタ(今のところあまり描かれていないが、ジェシカとスカロンも)に関しては設定の改変がある。個人的には安易な改編ではなくまた別の魅力的なキャラになっていると感じるが、原作のままのシエスタが見たい人には注意が必要。
ルイズは序盤でディーキンとじっくりと話し込んで以降は、あまり独占欲や嫉妬心を起こさなくなって目立たなくなってきている。虚無の関係で今後また話に絡んできそうではあるが、現状一番ヒロインという感じなのはタバサのようだ。
最後に、読もうかと思うが話数が多くて躊躇しているという人のため、参考までにいくつかのイベントが起こる大体の話数を上げておく。
・ギーシュとの決闘 … 第20話
・タバサとシルフィード … 第23話
・デルフリンガーの購入 … 第28話
・フーケの宝物庫襲撃 … 第40話
・タバサとの決闘 … 第50話
・タバサとギャンブラー … 第56話
・タバサの母親の治療 … 第65話
・ラグドリアンの屋敷の調査 … 第76話
・虚無の披露 … 第81話
・アンリエッタの来訪 … 第84話
ただし、先述のとおり複線が以前の話で張られていたりするので、上に挙げた話だけ読んでもよくわからないかもしれない。
少し見て興味が持てそうなら、最初から目を通すことをお勧めする。
▲短縮する
おっと星/2016年10月03日(月) 19:56/★ (参考になった:206/ならなかった:46)