この切なさ。まるで『秒速5センチメートル』だ
▼文章、ストーリー、描写などについての紹介など
1999年、通学中の京阪電車で出会ったあの子は、中野梓にそっくりだった……。
この作品は、一人の男が切ない初恋の残像を追いかけ続ける年代記(クロニクル)だ。
(21行省略されています)
1999年から始まる物語は、時代ごとの様々な流行なども踏まえ、ノスタルジアと妙なリアリティに貫かれて描かれている。
京阪電車、墨染、丹波橋、京橋など、実在の地名が出てくることが、物語に地に足のついた味わいを添えている。
私は関西圏に詳しくないが、描写がマニアックになりすぎていないためか、全く問題なく読めたし、地名が出てくるがゆえにむしろ情景描写に説得力を感じた。
作品全体の印象としては、過去への強い渇望や切なさ、ロマンチックでやや文学っぽい書きっぷり、時間の進み方の感覚なども含めて、驚くほどに新海誠の映画を想起させる。
もしも新海作品を小説にしたらこんな感じになるんじゃなかろうか。
特に、すでに失われ損なわれた恋を追い求め迷う主人公の様子は、まるで秒速5センチメートルのようだ。
その意味では、「けいおん!」の二次創作としては相当に異色かもしれない。
だが、読み終えるとはっきりと感じるが、作品に通底的に「けいおん!」への想いがあふれている。
異色ではあるが、これは確かに、「けいおん!」がなければ生まれなかった作品だ。
切ない恋物語。
ノスタルジックな年代描写。
失ったものを取り戻そうとあがく男。
そういったものを読みたい方には、強くこの作品をお勧めする。
▼読む際の注意事項など
切ない物語なので、ヒロインとイチャイチャするとか甘い展開はほとんどない。
中野梓とのイチャイチャを期待して読むと期待ハズレ。
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ソバの実/2017年08月17日(木) 22:18/★ (参考になった:17/ならなかった:7)