身構えずに読んでみてほしい 抱腹絶倒の「私がいる」俺ガイルを
▼文章、ストーリー、描写などについての紹介など
まず、作品タイトルで「私」って誰だよオリ主介入無双か?と思ったあなたへ。
全くそんなことはない。
(18行省略されています)
この作品は、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」の原作時間軸に、森見登美彦著「四畳半神話大系」及び関連作品群に登場する「私」を放り込んだ、まごうことなき、しかしクロスオーバーらしからぬクロスオーバーである。
〝原作小説で大学生だった「私」が、高校時代に俺ガイルの登場人物と関わりがあったら……〟という設定でこのクロスオーバーは進む。大学時代の「私」のことは未来の話なので、この「奉仕部と私」を読むにあたって森見作品についての事前情報は必要ない。そして、一話で「私」のこれまでについては説明している。
つまり、俺ガイル側の知識さえあればこの小説を楽しむのには十分なのである。(推薦者はそう言っても過言ではないと考えている。クロスオーバーらしからぬと言った理由はここにある)
この作品は、基本的に皆俺ガイル原作のままに動き、俺ガイル原作のままに物語が進む。「私」はぼっちの状態から奉仕部に仮入部し、やがてその存在が少しずつ物語を変化させていくというのが大まかなストーリーだが、逆に「私」の預かり知らぬ所で起きたことにはなんの介入手段も持たない。比企谷八幡、雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣の間にある既に起きたひとつの事故については変えられないし、そこから拗れる奉仕部の関係性についても何ら特別なことはできない。ただ物語の登場人物が一人増えただけなのだ。
だがしかしこの作品の面白さは、自分の預かり知らぬ所で俺ガイルのキャラクター達にほんの僅かに影響を与え、そして大事なところで盛大に空回る「私」のキャラクター性にこそある。
読んでもらえば、俺ガイルの世界にいてまるで違和感のない「私」の存在に困惑し、納得し、そしてとりかえしのつかない阿呆を見るような目になるだろう。
最後に、俺ガイル側から「奉仕部と私」を知ったハーメルン読者諸君も、不可思議と偏狭と愉快痛快の森見ワールドへ足を踏み入れていただけると、十二分にこの作品を楽しめるだろう、と言い添えておく。
▼読む際の注意事項など
文体が、森見登美彦ワールドから来た「私」に合わせて非常にまどろっこしく丁寧になっている。
よくよく読めば半分は俺ガイル原作の流れ、もう半分は比企谷八幡がアニメや労働やカーストを引き合いに出しぼやいているのと何ら変わりのない、とるに足らない「私」の怨み言である。
少々読み辛い点ではあると思うが、これがないとこの作品は始まらないのである、ご容赦願いたい。最も過度な心配はいらない、読み進める頃にはあの文体でないと物足りなくなっているであろうから。
また、序盤は時系列の前後が激しい。一話が「私」が高二になるまでに如何に思想を拗らせぼっちになったかという話&二巻の一部であるため、俺ガイル原作に準拠して読みたい方は二話から読むのも一つの術であろう。一話で切られてしまうのはあまりに惜しい作品であると思うのだ。
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銀凱/2020年10月05日(月) 19:11/★ (参考になった:13/ならなかった:5)