けれども、海の底に思いを馳せるたび、懸命に戦う艦娘たちの笑顔が脳裏をよぎる。

「わたしたちには、提督しかいない」

　やはり、どこまでもけなげな彼女たちを裏切ることはできない。この苦悩は実際に本作を読んだものにしか味わえまい。

　また、本作には人間、艦娘、深海棲艦という、三種類の多種多様な登場人物が物語を紡いでいる。提督ならこの意味がお分かりいただけるだろう。そう、登場人物の数が異常に多くなるのである。これだけのキャラクターを深く掘り下げようとすれば物語が停滞し、進行のためにおざなりにすれば感情移入がむずかしくなる。
　本作ではこの絶妙なバランスをたもち、どのキャラのどのセリフにも違和感がない。綱渡りを全力疾走するようなものだ。書き手がそれほどの労苦を割いているだけあって、われわれ読者は物語に円滑に没入することができるだろう。ひとことでいえば、すばらしい、のである。


▼読む際の注意事項など

　艦これの二次創作はだいたいふたつに大別できる。人間の姿の艦娘が艤装をせおって海上を駆ける水上スキー方式と、実物大の艦を艦娘が操艦するメンタルモデル方式（またはアルペジオ方式、艦魂方式とも）である。本作は後者だ。そのため、前者をこよなく愛する提督には好みがあわないかもしれない。なお、原作にて重要な道具であるバケツ、人によっては艦娘と不可分な存在と位置づけているであろう妖精さん、われら提督を一喜一憂させる最強の敵たる羅針盤は登場しない。以上が寛恕できないかたには物足りないかもしれない。その点はなにとぞご了承いただきたい。

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