また、全体的に落ち着いた文体で丁寧な描写がされており、穏やかな雰囲気が物語の内容にもマッチしている。登場人物たちの心の動きもすんなりと入りこんでくることだろう。

　前半は、主人公の少年が紅魔館に置いてもらうため、住人に認めてもらおうと奮闘する話。
　主人公はただの人間として等身大に描かれていて、感情移入しやすくなっている。
　我儘な妖精たちに、読んでいて腹が立つことだろうが、主人公はあきらめない。知恵を絞り、行動を起こし、ときには辛抱して、ときには強く出て、彼が信頼を勝ち取った時には安堵と達成感を共有できることだろう。

　八年後となる後半は少年の家族が殺された事件を追うことになる。
　どうして母と兄は死んでしまったのか。事件を起こした妖怪は何者で、何が目的だったのか。伯父やその娘、そして慧音先生は事件にどう関わっているのか。
　サスペンス風の展開……というと語弊があるかもしれないが、物語の中にさりげなく情報や伏線が散りばめられ、少しずつ事件の全貌が明かされていく様は、読者に緊迫感と興味を抱かせるに違いない。
　特に終盤は二転三転する急展開で、物語に引き込まれた末の意外な真実に、きっと心を動かされることだろう。

　また、「一生を妖怪の館で過ごすか、人間としての生活を取るか」という選択を迫られた主人公の心の動きにも注目すべきだ。
　一度心を決めかけた矢先、折悪しくも主人公は人里の女性に恋心を抱いてしまう。自らの主人（レミリア）に対してずっと持ち続けてきたひとつの疑問（あるいは隔意）もまた、迷いに拍車をかけ、主人公を揺さぶる。

　絶妙なドラマ性に、主人公を中心とした心の動き。落ち着いた雰囲気の作風が好きな人には是非とも一読していただきたい作品である。
　最終的な決着については賛否両論あると思うが、終盤はじっくり読み進めていってほしい。作品タイトルの意味も合わせて、読後感は良くも悪くも筆舌尽くし難いものになるはずだ。

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