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(0)【002】
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(0) ルークには一つ不安材料があった。
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(0)「……そういえば、メソトどうしたんだ」
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(0) メソトはよくゲームセンターに遊びに行く人間だった。
(0) そして、今日もゲームセンターへ向かう旨をルークに伝えていた。
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(0)「何も問題が無ければいいんだが……」
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(0) 呟いて、ルークは再び街を駆け出した。
(0) 街の中心にあるリンドンバーグ・ゲームセンターは街唯一のゲームセンターであり、学生が挙って訪れる場所である。メソトも例外にもれず、不良学生ではないものの、ここに遊びに来ていた。
(0) ここにあるゲームの種類は様々である。シューティングからロールプレイングゲーム、格闘ゲームなどがある。流石は、街唯一のゲームセンターである。殆どのゲームが満席となっていた。
(0) その中でも彼はレースゲームが好きだった。架空の峠を自動車で走り、その早さを競うものだ。彼はこれが得意だった。
(0) コインを入れ、愛車を選ぶ。まだ十五歳の彼にとって、『愛車』と呼ぶのもナンセンスだが、このゲームの中では、彼はこの車の持ち主だ。だから、愛車と呼んでも間違ってはいないのだった。
(0) メソトがレースゲームを始めたそれと同時に、ルークもリンドンバーグ・ゲームセンターへ足を踏み入れていた。足を踏み入れた瞬間、周囲の視線が痛く感じられた。母親がした通報は、相当に範囲が広いということを物語っていた。
(0) そんな視線を無視して、一先ずメソトを探すことにした。彼の言い分通りに行けば、今日もゲームセンターに居て、レースゲームで遊んでいるはずだった。
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(0)「居た」
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(0) 小さく呟いて、ルークはそちらを見た。そこにはレソトが予想通りレースゲームで遊んでいた。
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(0)「おい、メソト――」
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(0) ルークがレソトの肩を叩こうとした、その時だった。
(0) ドゴン!! と轟音が響いた。
(0) 始め、それは何の音だったのか解らなかった。しかし、音が発生した場所を見て、それが何かを理解した――。
(0) それは、壁が破壊された音だった。
(0) 何に?
(0) それは、巨大な猫だった。
(0) 大きさは、ルークの身長の十倍ほど。
(0) ピンクの毛をした、猫がルークたちを睨みつけていた。
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(0)「……おいおい、どういうことだよこりゃあ!? こんなものが出歩いていたら街中大パニックだぞ!!」
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(0) ルークは叫んだが、ここで漸く彼は何かに気が付いた。
(0) 人が、居ないのだ。
(0) あんなに居た人が、メソト一人を除いて居なくなってしまっていたのだ。
(0) そして、そんな事態を気にもせず、メソトはまだレースゲームに夢中になっていた。
(0) 猫はゆっくりとこちらに向かってきている。急いで逃げなければ――死ぬだろう。
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(0)「お、おい! メソト!」
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(0) ルークはメソトの肩を叩く。
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(0)「今いいところだからちょっと待ってくれ……! おっと、こいつ手ごわいな……」
(0)「そんなことより、化け猫が目の前にいるんだよ! ティラノサウルスくらいの大きさのが!」
(0)「はっはっは、何を言っているんだよルーク。風邪でもひいたか?」
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(0) だめだ。メソトはまったく気にしてやいなかった。
(0) ルークはそう考えると、強引にシートからメソトの身体を引き剥がした。そして、無理やりその猫の方向に、メソトの身体を向けた。
(0) はじめ、嫌悪を露わにしていたメソトだったが、猫を見ると、
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(0)「う、うわっ!?」
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(0) 大きな声を上げ、後ずさった。
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(0)「お、おい! ルーク、こいつはどういうことなんだよ!?」
(0)「俺に言われても解んねえよ! ……ただ、母さんに『クッキー』のことを訊いただけで……!」
(0)「クッキーのこと?」
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(0) メソトが何か感付いたと同時に、猫はルークたち目掛けて走り出した。
(0) それを見て、慌てて二人は立ち上がる。
(0) 踵を返し、一目散に走り出した。
(0) 走る。走る。走る。
(0) 店の奥にある『STAFF ONLY』と書かれた扉をくぐって、彼らは漸く息をついた。
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(0)「……なあ、さっき『クッキーのことを訊いただけで』こうなった、って言ったよな?」
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(0) 話は、メソトから切り出された。その言葉に、ルークは小さく頷く。
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(0)「クッキーのことを言いだしたら、通報されて、こんなことになっちまったんだ」
(0)「……ならよ、答えはたった一つじゃねえか」
(0)「?」
(0)「クッキーについて知られたくないことがある。それは大人の共通認識として残っていて、それを知られないようにするために、感づかれた子供を殺す……おおかた、こういうことなんじゃねえか?」
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(0) ◇◇◇
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(0) クッキーについての共通認識。これについては、誰も疑問に思うことなどなかった。それについては、『そうあるから、そうなんだ』としか誰も思わなかった。
(0) だからこそ。
(0) それについて、考えられた人間にはあるプロセスを施さなくてはならない。何も、殺そうとか思ってはいない。
(0) それはそれだと思い込ませ、仲間にすることだ。
(0) 非常に簡単なことだ。
(0) 平和な――ことだ。
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(0) ◇◇◇
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(0)「……社長、ニュージャージーにおいて、『反逆者』が出たとのことですが、いかがなさいますか」
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(0) リンドンバーグ社、社長室。一人のスーツを着こなした青年が、回転椅子に腰掛ける人間に対し、そう言った。
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(0)「反逆者が出るのは、どれくらいぶりだ」
(0)「おおよそ、三年ぶりです」
(0)「何名だ?」
(0)「二名です」
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(0) 会話は続く。
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(0)「……ならば、私自ら向かおうではないか」
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(0) そう言って、社長と呼ばれた人間は立ち上がる。それを見てスーツの青年が狼狽えた表情を見せる。
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(0)「……! 社長自らが出向くことなどございません! 私たちにご命令くだされば……」
(0)「何を言う。先ずは社長が出向いてこそ、部下がそれを見て働くのだ。先ずは私が手本を見せねばなるまい」
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(0) そう言って、社長は机からあるものを取り出した。それは銃のようだった。
(0) 銃を構え、窓へ撃つ。窓には弾丸が当たらず、代わりにそこに空間の穴が出来た。それを見て、青年は訊ねる。
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(0)「これは……ポータル、ガン……ですか?」
(0)「そうだ。私はこれで向かう。君もついてきたまえ」
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(0) その言葉に、青年は小さくお辞儀をした。