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(0)【Intermission:】
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(0) 地図にも描かれていない空間というのは、勿論ながら存在する。存在しないわけがないし、存在していても気づかれない世界だってある。
(0) それはそんな一部。ニュージャージー州から遠く離れた、ある海域。
(0) その海域に飛び込めば、機器が狂い、場合によっては過去や未来へ行くことが出来ると言われている。殆どの場合は、落下したりどこかで難破したりしているのかもしれないが、それでも『船が消える』ということはかわりない。
(0) その何処か。確かにそこには小さな島がある。だが、誰にも気づかれないし、誰も気付くこともない島がある。そこは、土や岩で出来た島ではなく、流れ着いた船の残骸でできている、謂わば人工島のような場所だった。
(0) その名前は――サルガッソーと呼ばれている。
(0) そのサルガッソーにある船の一つ、甲板で小さな少女が鼻歌を歌っていた。少女は、白いワンピースを着ていた。裏を返せば、それだけしか着ていなかった。まるで、凡て人間により設計され開発されたような――一言でいえば、人工物とも言えるような――精巧さだった。金色のウェーブのかかった髪も、黒い眼帯を付けているのも、マリンブルーの目も、足も、薄赤い唇も、腕も。
(0) 少女は鼻歌を唄う。そのリズムはとても不安定で、何か既存の音楽を準えているようには見えない。
(0) 少女の名前は、古代の神々の名前を使っているのだが、彼女自身自分がなんという名前なのかは思い出せない。というより、彼女自身、もう『名無し』でいいのではないかとすら思っていた。
(0) 少女は鼻歌を唄う。
(0) それが何のメロディなのかは――誰も解らない。
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(0)【010】
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(0) 工場長は小さくため息をついた。
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(0)「……なんというか、もう終わりだ。もう終わりなんだよ、凡て。終わってしまえばいい。君たちはゲームオーバーだよ、ああ、これは冗談ではなく、本気で言っているのだけれど。もう一度言おうか。ゲームオーバー、だ」
(0)「冗談じゃねえか。ゲームオーバー? まるでこの世界がゲームの世界みたいな感じじゃないか」
(0)「近くもないし、遠くもない。まあ、それに関してはあんまり話す必要もないし。……とりあえず、処刑前に、呼んでおかなくちゃいけない人物が居るんだよねえ。まずはその人を呼ばなくちゃ」
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(0) そう言うと、工場長は机の引き出しからあるものを取り出した。
(0) それは、ラッパだった。
(0) それも、子供が玩具に使うような、可愛らしいものだ。
(0) 工場長はそれをもって、口につけて吹く。その音色は、とても透き通ったものだった。
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(0)「……やれやれ、そろそろ登場してもいいのか」
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(0) そうため息をついて出てきたのはスーツを着た男だった。しかし、その大きさが規格外過ぎた。三メートルはある天井に頭が余裕でついてしまうほどの大きさだったのだ。だから、今男は頭を屈めて話をしている。
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(0)「私は……いいや、特に今話をすることもなかろう。私の名前は、ない。強いて言うなら、リンドンバーグ社の社長を務めている」
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(0) 社長はそう言うと、その手のひら(手のひらの大きさも勿論規格外で、その大きさはルークの顔の大きさを超えるものだ)でルークの頭を触る。
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(0)「しかしまあ、ここまで頑張ったものだ。どれくらい世界を繰り返した? 覚えてもいないか。パターンは大凡六千万回くらいか?」
(0)「――何を言っている?」
(0)「ああ。まだ理解していないのか、この世界の凡てを。あまりにも残念すぎる。あまりにも過酷すぎる。そして、あまりにも残酷すぎることだ」
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(0) 社長の言っていることは、解らなかった。しかし、この男が何をしているのか解っている以上、腹が立ってしょうがなかった。
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(0)「この世界は、おかしい? そんなわけがないだろう。おかしいと思わなければ、おかしくないのだよ。ルークくん。君だって気付かなかったのではないかね。どれくらいの年月かは解らないが……君は十代後半くらいだろうから、それくらいの年月は最低でも、この世界の『理不尽』とやらを理解できなかったはずだ」
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(0) 社長の言っていることも尤もだった。
(0) たしかに、ルークがこの違和感に気付いたのは、ほんのついさっきのことだ。それまではクッキーだらけの生活に違和感を示すこともなく過ごしてきていた。これは少しおかしすぎる。もしかしたら、誰かが記憶を操作しているのか――!
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(0)「……もう、お仕舞いだよ。気が付いたのまではいつも通りよかったんだが、そっからはダメダメだったね。まったく、どうして学ばないかねえ」
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(0) 社長の言葉に、工場長は静かにため息をついて、答える。
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(0)「社長、それは彼らの記憶が引き継がれないから、ですよ♪」
(0)「ああ、そうか。そうだったな。……ククク」
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(0) ルークはそして、何かに気がついたのだが――。
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(0)「もう遅いよ、そしてまた会おう。機会があれば――ね」
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(0) そして、ルークの意識はそこで途絶えた。