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(1) 学校には中学生の頃から変わらず自転車で向かう。
(1) たまに小町を後ろに乗せて行くが、生憎と今日は小町がいないから一人。昨日学校への行き方は調べたから特に問題はない。万が一のためにと思って早くに家を出たけれど、もしかしたら少し早すぎただろうか。
(0) 高校に入って変わってしまったものはこの景色、景観と慣れない制服。宇治川沿いを走るのは、どこか気持ちが良くて好きだ。
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(1) 俺、比企谷八幡は中学卒業と共に、愛すべき永遠の故郷である千葉を去り、京都の宇治市の高校に通うことになった。理由はありがちだが、会社都合のための父親の転勤。
(0) 子どもの頃から育ってきた千葉を離れるのは心苦しかった。特に別れを惜しむ友人なんてものはいなく、自分の家、さらに言えば何年も使っていた自分の部屋くらいしかもうこれで最後か、と悲しい気持ちになるものはなかったけれどそれでも十分。
(1) だから、きっと友達が多い小町なんかは俺よりずっと辛かろう。それも、俺は中学卒業で苦い青春の黒歴史と共にこっちに来たから良いものの、小町なんて中学一年生が終わってからの転校なんだからなあ。まあ小町ならコミュニケーション能力高いから、二年生からの入学であっても友達とかの心配はしていないが、それでも父さんは単身赴任でも良かったんじゃないですかね。まあ、父さんと母さんが決めたことだから黙ってついて行くしかないけれど。
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(0) 今日は俺がこれから三年間通う、北宇治高校の入学式だ。
(1) この高校を選んだ理由は俺でも入学できそうなそこそこの学力だったから。そして一番の理由は新しい家から近かったからだ。通学時間はできるだけ短く、家にいる時間を少しでも長くしたい。俺ほど家庭を愛している千葉県民、いや、今はもう京都府民なのか。京都府民はいないんじゃなかろうか。
(1) あまりこっちの方の学校の事情はよく知らないが、北宇治高校は何でも制服が可愛い、かっこいいと評判が良いらしい。あまりそういうことを気にするタイプの人間でもないが、確かに悪くはないと思う。小町も朝、俺の制服を見て、『うわー、お兄ちゃんの制服かっこいい! 制服!』と言っていた。いや、なんで制服って部分をそんな強調するんですかね…。
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(0) 学校が近付くにつれて、そのかわいいと噂の制服を着た学生が増えてきた。大体の生徒が友達と一緒になにやら楽しそうに歩いているが、その中でも少しわくわくしたような緊張しているような表情で歩いているのがきっと新入生だろう。こうしてみると新入生は非常にわかりやすい。
(1) その点、俺は他の奴らとは違う。わくわくなんて決してしていない。考えてもみろ。学校とは、強制的に集団行動を強いられる監獄のようなものだ。逆らってはいけないと決められた教師に、将来使う事なんて基本ない知識を教え込まれ、人は一人では何もできないから社会において必要なものは集団で行動する能力と、それに伴うコミュニケーション能力が大切だと刷り込まされる。常に誰かと行動を共にし、バカ騒ぎをすることが青春だとか、まるでそれが輝いていて、必ず正しいかのように言われるのだ。人と違うことをしないと成功しないとか、人と違ってみんな良いとか唱われることだってあるのに、学生生活においては何となく雰囲気で決められた、暗黙の了解とも言える普通が徹底的に求められる。それにそぐわないものは集団から排除され、一人になった者は居場所を失う。
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(0) そんな場所に向かうのに、なぜ楽しみでいられるのだろう。期待なんて持てるのだろう。だから、俺は朝から新環境での入学式だからー、なんて言っていつもより気合いを入れて髪を整えたりだとか、制服を皺一つないようにアイロンを三回かけたりだとかなんてしていない。ほ、本当にしてないんだからね!……まあ、髪は整えて家出ても、どうせチャリこいだら崩れちゃうんだが。
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(0) 北宇治高等学校と書かれた校門をくぐると見慣れたものが目に入った。まだ来たばかりの土地だ。知っている人なんて当然いない。
(0) だが、その金色の輝きは嫌でも目に入る。なんせ小学生の時から見てきたものだ。太陽の光が反射して、悠然と輝く金管楽器。チューバ、トロンボーン、ホルンにユーフォニアム。そしてトランペット。当然、その横にはクラリネットやフルート、サックス、でかいから目につくパーカッションも並ぶ。
(0) どうやらまだ準備しているようで、演奏はまだまだ始まらないようだった。
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(0) 「おいおい、もう結構新入生来てるぞー…」
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(0) 何人もの生徒が通り過ぎていく中、一人呟いた。俺は吹奏楽部に入部することを決めているけれど、まだこれからの青春を謳歌すべくどの部活動に入部するのかを悩んでる人は、それを決めるきっかけになるだろうに。現に離れたところでは運動部を中心に早速勧誘をしている生徒がチラホラ見える。
(1) 少しこの高校の吹奏楽の実力を知りたかったから演奏を聞きたかったが、まあいいだろう。俺はトランペットが吹ければ、学校の実力なんてどうでも良い訳だし。学校の吹奏楽部の実力は事前に調べていたが、以前まではそこそこの強豪校だったものの、近年は銅賞の常連校。関西大会だって出られることはまずない。
(0) おそらくこの辺りの実力者は、大体立華高校に行くのではないだろうか。あの学校のマーチングは千葉にいたときから知っていたほど有名だ。それこそ千葉の超有名なテーマパーク、ディスティニーランドに来るほどだし。
(1) 通り過ぎがてらちらりと見ると、トランペットの奏者は偉い美人。良かった。もう絶対入部する。八幡決めた。
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(0) やがて体育館に向かう途中、後ろから吹奏楽部の演奏が聞こえてきた。
(1) 素直に、ダメだこれは。そう思ってしまう演奏。俺の期待はある意味で裏切られなかったのだった。