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(0) 光が収まった時カナタの目に飛び込んできたのは巨大な壁画。そして辺りを見渡せば自分達は大きな広間におり、その中でも大きな台座の上に居る。そしてその台座を囲む様に祈りを捧げるポーズをしている人々。やがて一人の老人が自分達の近くに近づいてきて――
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(0)「ようこそトータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
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(0) そう言いながら、穏やかに微笑んでいた。
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(0) その後、案内された大広間でイシュタルから事情の説明を受けていた。纏めると、この世界では人間族と魔人族が戦争を繰り広げており、魔人族の個の力に対し人間族は数で対抗し戦争は膠着状態にあった。しかし、ある時から魔人族が魔物を従える技術を身に付けた事により、人間族は数によるアドバンテージがなくなりつつあった。そうなってしまえば自分達人間族が負けるのは必然。故に、イシュタル達は救いを求め神に祈りを捧げていたとの事だ。
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(0)「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
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(0)「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
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(0) イシュタルの説明に対し、反論しているのはあの時教室に残っていた社会科教師の畑山愛子だ。身長150と言う低身長に童顔、けれど生徒の為にという心構えは人一倍高く生徒達からは“愛ちゃん”の愛称で呼ばれるほど人気がある(本人は威厳ある教師を目指してる事もあり、その愛称で呼ぶと怒り出すのだが)。状況が把握しきれない中でも相手の話を吟味し、生徒を危険な目にあわすまいと抗議する姿は教師の鑑と言える。
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(0)「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
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(0)「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
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(0)「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
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(0)「そ、そんな……」
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(0) ある意味では無責任とも言うべきイシュタルの言葉に愛子もストンと椅子に座る。それをきっかけに生徒達は軽いパニックを起こし騒ぎ始める。そんな中、カナタはイシュタルの顔をジッと観察する。何も言わず、彼らが落ち着くのを待っているイシュタル。けれど、その瞳に彼はイシュタルもまた自分の知ってる大人と同類だと判断する。
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(0)(こちらの事情なんてお構いなし。召喚された以上は是が非でも戦場に出すつもりか……)
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(0) となれば少しでも参戦の意志を示すのは悪手となる。そんな事をすれば最後、仮に戦場に出る直前になって怖気づいても逃げる事は出来なくなる。了承したのはそっちだから、と。
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(0)(兎に角、必要なのは落ち着く為の時間だな)
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(0) このパニック状態が続けば、イシュタルも「突然の事で混乱されるのも無理は無い……」的な流れから表向きは慈悲深さを見せて一端返事を保留にするだろう。そう判断し、カナタは何も言わずに黙っていようと思ったが――
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(0)「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って放っておくなんて俺にはできない。それに人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
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(0) だと言うのに、何時もの正義感に駆られた光輝がそんな事言い出してしまった。
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(0)「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
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(0)「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
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(0)「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
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(0)「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように、俺が世界も皆も救ってみせる!!」
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(0) その問いに今まで何も言わずに沈黙していたイシュタルは即答し、その後は予め打ち合わせされたかの様にトントン拍子で話が進んでいく。更に光輝になまじカリスマがある事も災いし、今まで混乱状態だったクラスメート達も彼の姿に影響され、次々と参戦を表明していったのだった。
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(0) とは言えカナタ達が戦いとは無縁の世界の住人であり、異世界人特有の潜在能力はあっても戦う術を身に付けていない事は彼らも想定済みらしく、彼らが呼び出された聖教教会の総本山【神山】の麓、ハイリヒ王国にてカナタ達を受け入れ、訓練を施す準備が出来ているらしい。その日の夜、王城にて自分達を歓迎する宴が開かれ、訓練は明日から開始すると言う事でお開きとなった。そして次の日――
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(0)「よし、全員に配り終わったな?」
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(0) 戦いに向けて本格的な訓練と座学が開始される前に、自分達の教育を担当する事となったハイリヒ王国騎士団長メルド・ロギンスより一枚の銀色のプレートが全員に配られていた。
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(0)「このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
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(0)(ステータスを数値化、ねぇ。まるでゲームみたいだな……)
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(0) とは言え、ただでさえ辛い事をする為の訓練。せめて成長を実感できるような何かがないとモチベーションに響く為、割とありがたいものだった。
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(0)(まぁ、モチベ云々関係無しに真剣に取り組まないと死にかねないんだけどな……)
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(0) そう考えながら、説明された持ち主登録の手順に従い、針で指を軽く刺して自分の血をプレートに付ける。すると、血はプレートに吸い込まれる様に消えて、代わりに文字が浮かび上がってきた。
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(0)竜峰 カナタ 17歳 男 レベル:1
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(0)天職:竜魂士
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(0)筋力:40
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(0)体力:27
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(0)耐性:22
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(0)敏捷:36
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(0)魔力:32
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(0)耐魔:25
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(0)技能:竜核形成・言語理解
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(0)(筋力と敏捷が高い……まぁ、順当な所か)
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(0)「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない。ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」
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(0) ゲームとは逆でレベル上昇→ステ上昇と言う訳では無いらしい。つまるところ、レベルと言うのは本当の意味でその人の総合的強さの指標でしかないわけだ。
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(0)(装備か……この世界、刀とかあると良いんだが)
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(0) カナタは地球ではある道場で剣術を習っていた身だ。とある事情でやめざるを得なくなったが、それでも他の武器を使うよりはマシな筈と考えた。
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(0)「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」
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(0) 見慣れない文字がいきなり識別できたのはこの《言語理解》の技能のお陰だろう。エヒト神が彼らを召喚した時点で全員に付与されたものである。
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(0)(竜魂士……ダメだ、全然判らん……)
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(0)「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
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(0) カナタの周りからは「俺風術士だったー」等、自分の天職について話している声が聞こえた。そんな中、光輝は真っ先にメルドさんにプレートの中身を報告。
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(0)天之河光輝 17歳 男 レベル:1
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(0)天職:勇者
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(0)筋力:100
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(0)体力:100
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(0)耐性:100
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(0)敏捷:100
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(0)魔力:100
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(0)魔耐:100
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(0)技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
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(0) ここでも完璧超人は完璧超人らしく、初期の能力が凄い事になっていた。天職も勇者と来て、まさに物語の主人公さながらである。それから暫く、カナタが報告する番となったのだが。
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(0)「コレは……? う~む、少し困った事になったな」
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(0)「どうかしましたか?」
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(0)「いや、君達の今後の訓練の方針の為に能力を申告してもらってる訳だが、竜魂士と言う天職は今まで見た事が無いのだよ。どういう武器が得意なのか、どんな戦い方をするのか、そう言ったものがまるで見当が付かん。そうなってくると、どう言った訓練をすれば良いのかも判らなくなるのだ」
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(0) ありふれていないと言う事は、裏を返せば運用方法や訓練の仕方についての前例が少ないと言う事であり、才能を十全に活かせる活用方法や育成の仕方のテンプレと言えるモノが出来ていないと言う事。どうやらカナタの天職はあまりにありふれなさ過ぎて逆に扱いに困る形になってしまったらしい。
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(0)「ま、まぁ、こちらの方で竜魂士と言う天職について調べさせるからそれまでは前衛職の訓練に参加してれば良い。ステータス的に君は前衛向けみたいだからな」
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(0) その後、それぞれのステータスを元に訓練が開始された訳だが、竜魂士と言う天職はトータスの歴史をひっくり返してもその名前すら見つからず、全てが詳細不明と言う結論となった。そんなカナタと、全ての能力が平均値で天職も錬成師と言う10人に1人は発現するありふれた生産職であったハジメの二人に対して無能の烙印が押されてしまったのは当然の流れなのだった。