行別ここすき者数
小説本体の文章上でダブルクリックするとボタンが表示され、1行につき10回まで「ここすき」投票ができます。
履歴はこちら。
(0) 帝国軍を殲滅後、カナタ達はその場に置いてあった馬車とハジメ特製の魔導二輪を使い樹海へと進んでいた。
(0)
(0)「……ハジメ、どうして二人で戦ったの?」
(0)
(0)「ん?」
(0)
(0) あの戦いの前、ユエと香織も実は参戦しようとしていた。しかし、ハジメがそれを手で制していたのだ。
(0)
(0)「そうだよ。私だって帝国の人達と戦うつもりだったよ、殺すのは怖かったけどハジメ君を守る為だもん」
(0)
(0)「ん~、まぁ、ちょっと俺自身確かめたいことがあったのと、まずはカナタに早く人を殺す事に対するハードルを下げて欲しかったって所だな」
(0)
(0) ハジメの中では現状の自分達のパーティの中でカナタは自分と1,2を争う戦力と認識している。だからこそ、そんな彼が人や魔人族と戦う時に殺す事への躊躇いから力を十全に発揮できない状況に陥る事だけは避けたかった。今回の殺人は遭遇前にカナタも言った通り、兎人族を守る為と言う大義名分があったし、帝国の兵士達もおあつらえ向きに下種な連中しか居なかったのも嬉しい誤算。あの帝国兵の一団は初めての殺しを体験するにはうってつけの相手だった。
(0)
(0)(まぁ、理由はどうアレ、その心配は無かった分……別の懸念事項が生じてる可能性は出てきたが……)
(0)
(0)「カナタ君の事は判ったけど……確かめたいことって?」
(0)
(0) そして、ハジメにとって帝国兵との戦いはある種の検証と実験だった。まず実験とは装備の威力についてだ。今後、市街地や人里内での戦闘になった時、周囲の民家に被害が及ぶ事もある。それだけならまだ良いが、最悪建物内に居る無関係の人間を殺す可能性もある。敵対してない相手、ましては無関係の相手まで殺すつもりは無い、幾ら「殺し上等っ!」を謳うハジメでも、そこの線引きだけはしたかった。そうした事態を避ける為にも、銃弾の炸薬量の調整の目安として帝国兵の装備の性能を一つの基準とし、今後の調整の目処も付いた。そして検証は――
(0)
(0)「殺す殺す言っちゃいるが、俺も実際に人を殺したのは今回が初めてだったからな」
(0)
(0) だからこそ不安でもあった。自分が人を殺した時どうなるか、ブレずに居られるか。もしこれで揺らぐ事があれば、今後人や魔人族と対峙した時に仲間達を守れない危険がある。だからこそハジメは、まずは自分が大丈夫かどうか確かめたかったわけだが、それは全くの杞憂で終わった。彼らを殺した時のハジメの心情はまったくと言って良いほど普段と変わらなかった。ただ必要な事をやり終えた、その一点だけだった。
(0)
(0)「とまぁ、初の人殺しだったわけだが、特に何も感じなかったから、随分と変わったもんだと、ちょっと感傷に浸ってたんだよ……」
(0)
(0)「ハジメ君……」
(0)
(0) その事に香織は悲しそうな表情になり、ハジメに抱きついた。
(0)
(0)「けど、これなら誰が相手だろうと、お前達を守る為なら躊躇も容赦もせずに居られそうだ」
(0)
(0) 自分の大切な者達だけを優先し、他を切り捨てる事を躊躇ってしまう心配は無いだろう。
(0)
(0)「……ん」
(0)
(0)「うん……ありがとう」
(0)
(0) 例え変わってない部分はあると判っても、ハジメが変わってしまったのは事実。もしもこうして一緒に居なかったら、ユエを出会わなかったら……もしも一人だったら。果たして彼はどうなっていたか。それを考えるだけでも怖かった。そしてこれからもハジメと一緒に居るのならきっと綺麗なままでは居られない。癒すだけでなく、命を奪う事を求められる。それでも――
(0)
(1)(ハジメ君の傍に居る為なら、やっと手に入れたこの居場所を守る為なら、私は……)
(0)
(0) そんな決意と共に、香織はハジメに抱きつく力を少しだけ強くした。
(0)
(0)
(0)
(0)
(0)
(0)
(0)
(0)
(0)
(0)「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~、皆さん、がわいぞうですぅ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」
(0)
(0)「だから言ったろ。あんま良い話じゃないぞってな」
(0)
(0) ところ変わり、大型馬車の天井の上に乗り、後方の警戒に当っていたカナタとシア。ある時、ふとシアから今までの経緯や旅路について聞きたいと言われたので「聞いてて、あんま良い話じゃないぞ」と前置きしてから、シアと出会うまでの経緯を話した。その結果、彼女は何時かのユエ同様……いや、それ以上に泣いている。
(0)
(0)「カナタさん! 私、決めました! みなさんの旅に着いていきます! これからは、このシア・ハウリアが陰に日向にみなさんを助けて差し上げます! 遠慮なんて必要ありませんよ。私達はたった五人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」
(0)
(0)「いや、遠慮しとく」
(0)
(0) カナタは速攻でシアの申し出を却下する。それはもう、一瞬の迷いも無い、見事なまでの即答である。
(0)
(0)「即答っ!? な、なんでですか? 私の未来視だってきっと役に立ちますよっ!!」
(0)
(0)「と言うより、止めといた方が良い。俺達の目的は各地の大迷宮の攻略、つまりさっき話した地獄の様な場所を最大でもあと六箇所も回る事になる。厳しい言い方だが、ライセン大峡谷の魔物程度に逃げ回るしかない程度の実力じゃ話にならないし、大迷宮攻略中はシアを守る余裕はきっと俺達にも無い。」
(0)
(0) 他の迷宮の中がどうなっているかは判らないが、恐らくオルクス大迷宮に迫る程の危険が待っている事は確実だ。だからこそシアがカナタ達と一緒に大迷宮に挑むのは殆ど自殺行為にも近いし、完全な足手纏いを庇いながら攻略できるほど実力は自分達にも無い。その言葉にシアの表情は暗くなり、俯いてしまう。その様子にカナタは「気持ちは嬉しいけど」と付け加えてから言葉を続ける。
(0)
(0)「さっきシアも自分で話したとおり、俺らと違ってシアにはあんたを想ってくれる家族が居るんだ」
(0)
(0) 以前に聞いたフェアベルゲンの掟等を考えると、もしもシアがハウリア族以外の種族に生まれていたら、きっと彼女はとっくの昔に殺されていただろう。
(0)
(0)「比較的恵まれた環境に生まれたのに、無理してそれを捨てる必要は無いだろ? まぁ、この後どうするかは兎も角、俺達に着いてくるよりは仲間達と一緒に過ごした方がマシなのは確実だ」
(0)
(0) この話はこれでおしまいだと言わんばかりにカナタは再び後方の警戒に意識を向ける。
(0)
(0)(違うんですカナタさん。みんなが良くしてくれるからこそ、私は……)
(0)
(0)
(0)
(0)
(0)
(0) ※
(0)
(0)
(0)
(0)
(0)
(0) それから一行は程なくして樹海へと到着。そこからは馬車を乗り捨て、徒歩で樹海を進んで行く。樹海にも勿論魔物は居るが峡谷の魔物よりも弱く、ハジメは主兵装であるドンナー&シュラークすら用いず、義手に仕込まれたニードルガン等、副兵装の試し撃ちの相手にしていたほど。そんな中、ハウリア族達が突然足を止め、ウサミミをせわしなく動かしている。兎人族は直接の戦闘能力こそ低いが、その分というべきか、索敵や気配遮断の能力に優れている。いや、優れているなんてものでは無い、その部分だけは奈落で著しく成長した香織や、吸血鬼として高いスペックを誇っているユエにも匹敵する。そんな彼らは、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を見せ、シアに至っては、その顔を青ざめさせている。
(0)
(0)「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」
(0)
(0) そして、樹海の奥から虎模様の耳と尻尾をつけた男性が現れる。そしてその体格は筋骨隆々で見るからに武闘派と言った感じだ。
(0)
(0)「白い髪の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ……!?」
(0)
(0) ドパンッ!と言う発砲音が彼のセリフを中断させた。撃ちだされた弾丸は虎の亜人の顔を掠め、背後の樹を貫通。擦過傷により頬から一筋の血を流している本人は勿論、周りの虎の亜人達も自分達の理解の外にある攻撃に僅かな恐怖を覚え硬直している。
(0)
(0)「今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射出来る。周囲を囲んでいるヤツらも全て把握している。お前等がいる場所は、既に俺のキルゾーンだ」
(0)
(0) やがて、リーダー格と思われる男が視線をある方向にずらす。
(0)
(0)「言っておくが、他の3人もお前等如きに負けるほど弱くない。不意を突いて人質に、なんて考えるなよ」
(0)
(0)「ぐっ……」
(0)
(0)「それでも殺るというのなら容赦はしない。約束が果たされるまで、こいつらの命は俺達が保障しているからな……ただの一人でも生き残れるなどと思うなよ」
(0)
(0) 先ほどと違い、威圧的な雰囲気を纏ったハジメの姿に虎の亜人たちは無意識に一歩後ずさる。
(0)
(0)「だが、この場を引くというのなら追いもしない。敵でないなら殺す理由もないからな。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」
(0)
(0)「……その前に、一つ聞きたい。何が目的だ?」
(0)
(0) 数秒の間の後、リーダー格の亜人がかすれた声で問い掛ける。
(0)
(0)「樹海の深部、大樹の下へ行きたい」
(0)
(0)「大樹の下へ……だと? 何のために?」
(0)
(0)「そこに、本当の大迷宮への入口があるかもしれないからだ。俺達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内のために雇ったんだ」
(0)
(0)「本当の迷宮? 何を言っている? 七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」
(0)
(0)「いや、それはないな」
(0)
(0)「なんだと?」
(0)
(0)「少なくても、俺達が踏破したオルクス大迷宮にはここや大峡谷に生息する魔物よりも遥かに強いやつらで溢れかえっていた。そっちの言うとおり、この樹海そのモノがホントの大迷宮なら、ここの魔物は弱すぎる」
(0)
(0) 亜人の返答に意義を唱えたのはカナタだ。それは実際にオルクス大迷宮を攻略した彼らだからこそ断言できる理由だった
(0)
(0)「それに大迷宮は、〝解放者〟達が残した試練。そしてあなた達にとってこの樹海は庭も同然。これだと試練として成り立たなくなってしまう」
(0)
(0) 樹海の魔物を捌ける程度の実力と亜人の助力、この2つが揃うだけでこの樹海は簡単に踏破できてしまう。オルクス大迷宮は最後に攻略する迷宮である事を想定して作られて居る。ならば他の迷宮はオルクス大迷宮と比べ、ワンランクダウンしている可能性もあるが、それを差し引いてもこの樹海はカナタ達にとってはぬる過ぎる場所だ。
(0)
(0) 「……お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」
(0)
(0) 彼らの言葉を戯言と一蹴し、強硬手段に出るのは簡単だ。けれど、先ほどのハジメの攻撃を見た所、一瞬でこちらを全滅させるのはホントに容易なのだろう、そして彼らはそれを行う事に躊躇いは無い。そして力の関係上、あちらが言葉をごまかしたり、嘘をついてこの場をやり過ごす理由は存在しない。つまり彼らの目的はホントに大樹に向かう事であり、フェアベルゲンを脅かす事ではない。ならば、さっさと目的を果たしてもらって立ち去ってもらう方が無難だ。リーダー格の亜人は僅か数秒でその結論にたどり着き、今の返事を返した。
(0)
(0)「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もおられるかもしれない。お前達に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」
(0)
(0)(法や掟に拘るだけの脳筋野郎かと思ったが、中々柔軟に考えられる奴じゃねぇか)
(0)
(0) 法や掟に固執せず、部下や同族の命を守る為ならある程度の譲歩もやむなし。それは目の前の状況を正しく把握し、キチンと自分で物事を考えられる奴の思考だ。警備体長の判断にハジメはほんの少しだけ感心した。
(0)
(0) そして、この譲歩案はこちらにとっても利がある。大樹が迷宮の入り口だ、と言うのはハジメ達の推測であり、当然、間違っている可能性もある。そうなれば手探りで大迷宮の入り口を探す必要があり、その度にフェアベルゲンの亜人と揉めるのは面倒極まりない。警備体長の案に乗り、フェアベルゲンの長老から直接許可が取れれば樹海内で身動きが取りやすくなる。
(0)
(0)「……いいだろう。さっきの言葉、曲解せずにちゃんと伝えろよ?」
(0)
(0)「無論だ。ザム! 聞こえていたな! 長老方に余さず伝えろ!」
(0)
(0)「了解!」
(0)
(0) 気配の一つが遠ざかったのを確認し、ハジメ達はそれぞれの武器を仕舞う。が、誰もが隊長の様な柔軟な思考を持ち合わせてるわけではない。彼らが戦闘体勢を解いたのを確認し、今なら不意を突けるのでは、と考えた奴も居たが――
(0)
(0)「お前等が攻撃するより、俺の抜き撃ちの方が早い……試してみるか?」
(0)
(0)「……いや。だが、下手な動きはするなよ。我らも動かざるを得ない」
(0)
(0)「わかってるさ」
(0)
(0) が、次のハジメの一言で断言せざるを得なかった。それ約1時間後、先ほどのザムと言う虎の亜人と共に新たな亜人が現れた。亜人といっても彼らに動物的特長は無く、変わりに耳が尖っている。所謂エルフと言った所だ。その中でも中央に居た初老の男性がこちらに近づいてきた。顔には皺がありながら、その髪は今だ綺麗な金髪をしている。
(0)
(0)「ふむ、お前さん達が問題の人間族かね? 名は何という?」
(0)
(0)「ハジメだ。南雲ハジメ」
(0)
(0)「……ユエ」
(0)
(0)「えっと、白崎香織です」
(0)
(0)「竜峰カナタです。貴方は?」
(0)
(0)「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」
(0)
(0)「うん? オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」
(0)
(0)(知った? と言う事はアルフレリックと言う人は歴史の真相を知っているのか?)
(0)
(0) 神の真意と共にオスカー達の真実も改竄され、解放者は反逆者と呼ばれている。つまり、オスカー=解放者と言う構図を否定せず、その情報の元を探ると言う事はそれは彼らもまた本来の歴史を知って居る事になる。
(0)
(0)「ふむ、奈落の底か……聞いたことがないがな……証明できるか?」
(0)
(0)「……ハジメ、魔石とかオルクスの遺品は?」
(0)
(0)「ああ! そうだな、それなら……」
(0)
(0) ハジメはオスカーの隠れ家で見つけた魔石や鉱石といった遺品を取り出し、彼らに見せる。
(0)
(0)「こ、これは……こんな純度の魔石、見たことがないぞ……」
(0)
(0) 他の亜人たちが驚きの声を挙げる中、アルフレリックだけはその表情が殆ど動いていない。けれど彼のこめかみから汗が一筋流れた辺り、彼もまた内心では驚いているのだろう。
(0)
(0)「後は、これ。一応、オルクスが付けていた指輪なんだが……」
(0)
(0) そして最後にオスカーの身に付けていた指輪を見せる。
(0)
(0)「なるほど……確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」
(0)
(0) アルフレリックの言葉に他の亜人達がざわめく。そりゃそうだ、本来なら樹海に居る事を許す事自体特例なのにフェアベルゲンへの入国、しかも正規の客人としてなど異例も良い所。それを他でも無い長老格が許可したのだ。
(0)
(0)「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」
(0)
(0)「えっと、お気持ちは嬉しいんですが自分達は大樹に行くのと、必要ならこの樹海を調査する許可さえもらえればそれでいいのですが……」
(0)
(0)「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」
(0)
(0) 別にフェアベルゲンに行きたいわけでもなし。単純にこの樹海で活動する許可さえくれればそれで十分。むしろ、寄り道する気も無いのでやんわりとお断りしようとしたカナタだったが、次のアルフレリックの言葉で「えっ?」となり、似たような反応してた他の三人と一緒にハウリア族の方に視線を向ける。
(0)
(0)「あっ」
(0)
(0) 数秒後、忘れてたと言わんばかりの間の抜けた声を出すとハジメとユエの視線が冷たくなっていく。
(0)
(0)「カム」
(0)
(0)「あっ、いや、その何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか……私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか……」
(0)
(0) そしてハジメが抑揚ない声で彼の名を呼ぶと、カムは冷や汗をかきながらしどろもどろに弁明していたが、やがて「ええい!」と勢いよく他の仲間達の方に向き直る。
(0)
(0)「シア、それにお前達も! なぜ、途中で教えてくれなかったのだ! お前達も周期のことは知っているだろ!」
(0)
(0)「なっ、父様、逆ギレですかっ! 私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って……つまり、父様が悪いですぅ!」
(0)
(0)「そうですよ、僕たちも、あれ? おかしいな? とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって……」
(0)
(0)「族長、何かやたら張り切ってたから……」
(0)
(0) と言った感じに責任の擦り付け合いが展開された。その様子を眺める香織も流石にジト目になっている。
(0)
(0)「お、お前達! それでも家族か! これは、あれだ、そう! 連帯責任だ! 連帯責任! ハジメ殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」
(0)
(0)「あっ、汚い! お父様汚いですよぉ! 一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」
(0)
(0)「族長! 私達まで巻き込まないで下さい!」
(0)
(0)「バカモン! 道中の、ハジメ殿の容赦のなさを見ていただろう! 一人でバツを受けるなんて絶対に嫌だ!」
(0)
(0)「あんた、それでも族長ですか!」
(0)
(0) さて、一行の中で一番優しいであろう香織ですらこれなのだ。逆に優しさワースト1(仲間に対しては例外)のハジメに至ってはその額に青筋を浮かべている。
(0)
(0)「……ユエ」
(0)
(0)「ん」
(0)
(0) ハジメの言いたい事を汲み取り、ユエは静かに手を掲げる。それに気付いたシア達は一気に青ざめる。
(0)
(0)「まっ、待ってください、ユエさん! やるなら父様だけを!」
(0)
(0)「はっはっは、何時までも皆一緒だ!」
(0)
(0)「何が一緒だぁ!」
(0)
(0)「ユエ殿、族長だけにして下さい!」
(0)
(0)「僕は悪くない、僕は悪くない、悪いのは族長なんだ!」
(0)
(0)「〝嵐帝〟」
(0)
(0) そして静かに告げられると同時に巨大な竜巻が発生し、ハウリア族一同を巻き上げる。各々悲鳴を挙げながら空に昇って行く様子をアルフレリック達も含めた一同は呆れた様子で眺めており、今回ばかりはカナタも「ぶぎゃっ!」と言う悲鳴と共に地面に落ちたシアと他のハウリア族を傍観しているだけだった……。