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(0) 天の牡牛 、敗れる。
(1) 驚天動地の知らせが古代シュメルの神々を襲った。
(0) 天の牡牛 、それは古代シュメル最大最強の神獣。
(0) 神々ですら手を焼く特級の災厄である。
(1) だからこそ『天の楔』としての役割を放棄したギルガメッシュに懲罰を加えるため、イシュタルの我が儘を許容したのだ。
(0) でなければ何故あのような災厄を自由にするものか。
(1) 天上から見下ろせばどれほどの災厄であったかが一目で分かる。地上の事物悉くが磨り潰され、消し飛ばされたま っ た い ら な大地を。
(0)
(0)『皆、集まれ』
(0)
(1) 最高神アヌが号令をかけると、神々は天に集まり、話し合った。
(0) ただイシュタルだけはいなかった。
(2) ギルガメッシュ達と手ひどく争い、敗れたからだろうと神々は気にしなかった。
(0) アヌは言った。
(0)
(1)『フンババとグガランナを打ち倒したギルガメッシュとエルキドゥ。彼奴等は最早捨て置けぬ。二人のうち一人でも殺さねば…』
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(0) ギルガメッシュ達の力は強く、神々が力を結集しても一人を呪うのが精いっぱいであった。
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(0)『我らの期待を裏切りし者に死を』
(0)『彼奴等が生きていることが耐え難い…』
(0)『最早我らに再び『天の楔』と『天の鎖』を作る余力は無い。だがだからと言って彼奴等をこのままにしてはおけん』
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(0) 神々は皆口々に同意した。
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(0)『ではどちらを?』
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(0) 呪うべきか、という問いにエンリルが答えた。
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(0)『エルキドゥを呪うべきである』
(0)
(1) エンリルはエルキドゥをひと際愛し、力を貸した神だった。
(0) 愛憎は反転し、祝福は呪詛へと変じた。
(0) その憎悪に引きずられ、神々もまたエンリルの言葉に同意した。
(0)
(0)『では』
(0)『然様』
(0)『エルキドゥを』
(0)『うむ、エルキドゥを』
(0)『我ら一丸となって呪詛を向けるべし』
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(0) かくしてエルキドゥ…ひいてはウルクの処遇は決まった。
(0) そしてもう一つ、神々の議題に挙げられる存在があった。
(0)
(1)『皆に問う、冥界の女神エレシュキガルの処遇を如何せんとす?』
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(0) 問われた神々は答えた。
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(0)『罰を』
(0)『然様』
(0)『同意する』
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(0) 満場一致で神々は答えた。
(0) 此度の企て、エレシュキガルによる邪魔がなければ成功していたであろう。
(1) そしてなによりもエレシュキガルが地上で見せたあの『力』…間違いなく自分達にも脅威であると神々は理解した。
(0) ならばいち早く女神を叩き、その頭を押さえるべし。
(0) そんな中、ただ一人反対した神がいた。
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(0)『気に食わぬ』
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(0) いいや、正確には神々の振る舞いに文句を付けた。
(0) 真夏の太陽がもたらす災禍を象徴する太陽神、ネルガルである。
(1) 強大で尊大、暴力的な大神は神々の集まりにおいても一切態度を変えることは無かった。
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(3)『此度どころかあの女が冥界に赴いて後、神々はただの一度も顧みることなく捨て置いた。最早あの女が神々に抱く義理なぞとうに時の果てに消えうせておるわ。
(3) だのに後からグチグチと不平不満を抱くなどこすっからい! よしんば文句を付けるならば、我ら一丸となって旗を立て、堂々と冥界へ進軍すべし! その覚悟なくエレシュキガルを敵に回そうなど愚行の極み。皆の衆にそれほどの覚悟があるか、太陽神ネルガルが問う』
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(0) 怒気すら漲らせて詰め寄るネルガルに神々は手を焼いた。
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(0)『しかしエレシュキガルは捨て置けぬ』
(0)『あの力は神々にすら脅威。もしやすれば我らが座す天にまで…』
(0)『危険だ』
(0)『然様、あまりにも危うい』
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(0) 神々の顔にあるのは、怒りではなく危機感であった。
(1) 即ち彼らを動かすのは義憤ではなく、保身である。
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(1)『汝らに道理無し! ただただ気に入らぬ!!』
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(0) 憤懣遣る方なしと気炎を吐くネルガルに、ではどうするのかと一柱の神が問いかけた。
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(0)『今は捨て置くべし。いずれ余が冥府を制圧してみせん。その暁にはかの女神は我が掌中の珠と化すだろう』
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(0) 予言が如く告げるネルガルに、神々は失笑した。
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(0)『馬鹿な』
(0)『狂ったか、ネルガル』
(0)『如何にお主と言えど、冥府であの女神に勝てるものか』
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(0) 冥界ではエレシュキガルが敷く法は絶対である。
(0) このルールは神々ですら例外ではない。
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(0)『その程度のことなど、言われずとも承知しておるわ』
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(0) だがネルガルは尊大に答えた。
(0) 神々はまた尊大なネルガルに憤懣を抱いたが、その自信の源は気になった。
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(0)『詭道もまた軍略の一つなれば。余はエレシュキガルが欲してやまぬモ ノ を握っておる。それを利用すればあの純粋な女神を操るは容易いことよ』
(0)
(0) 神々は気付いた。
(0) ネルガルが冥界への罰を止めたのは義憤にあらず、私心である。
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(0)『かつては蛆と瘴気の蔓延る地と捨て置いたが、中々どうして近頃の冥界は悪くない。我が手に接収し、あの美しき女神を妻として見せようではないか』
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(0) ネルガルの顔が最早隠す気もない純粋な欲望に染まった。