行別ここすき者数
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履歴はこちら。
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(0)まだ昼とは呼べない、朝の時間帯。
(0)夏休み中の小学生など、まだ寝ていてもおかしくない時間であるにも関わらず、会場の熱気は早くも最高潮に達そうとしていた。
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(0)準決勝第二試合先鋒戦は、南2局に移っている。
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(0)「やっと全力ってとこかしら?」
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(1)「いやいや、最初から全力だよ。皆が手強いだけ」
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(1)「……ま、なんでもいいわ。やっと……楽しくなりそうね」
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(0)ガラガラと回り続ける自動卓の音を気にも留めず、やえと多恵の会話は行われていた。
(0)交わる視線。挑戦的なやえの笑みは、心底この状況を楽しんでいるように見えた。
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(0)休まる時間などない。やえにしてみれば、夢にまで見た舞台なのだ。全身全霊で戦うのは当然のことだろう。
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(0)南2局 親 白望
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(1)(下家の姫松がまたダルい感じ……2回戦と同じだ……)
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(1)多恵の感覚が、極限まで研ぎ澄まされているのがわかる。
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(0)白望は2回戦で多恵と戦っている。その時も、あの染め手とは思えない河での染め手と、強烈な多面待ちにかなりの点数を削られてしまった。
(0)今回も、同じ道をたどるわけにはいかない。
(0)最大限の注意を払って、親番の手を進行させる。
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(0)8巡目 白望 手牌 ドラ{三}
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(0)白望 手牌
(0){②②③④④567二三四六七} ツモ{八}
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(0)白望が持ってきた牌に、波紋が広がる。聴牌だ。
(0)一息つくと、白望はまた同じように左手を頭に当てた。
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(0)(タンヤオが確定する{②⑤}待ちがセオリー……だけど)
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(0)白望はチラ、と下家の多恵の河と手牌を見つめる。
(0)多恵は{白}を鳴いてポン出しが{②}。{④}は危ない部類。河は染め手にはあまり見えないが、先ほどの清一色が、白望の頭をよぎる。
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(0)「……少し迷ったけど……リーチ」
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(0)白望が横に曲げた牌は、{②}だった。仮に多恵が聴牌しているとしたら、高確率で多面待ち。当たる可能性の高い{④}を切るよりは、多恵への安牌でリーチを打つことを選択した。
(0)曲げた{②}にも、波紋が広がる。
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(0)が、波紋は広がりきらずに、乱暴に踏みつぶされたことによって霧散する。
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(0)「ロン」
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(0)表情を歪めたのは白望。
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(0)その静謐な空間に生まれたはずの波紋は、1人の王者によって土足で踏み込まれた。
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(0)やえ 手牌
(0){①③④赤⑤⑥二二三四五中中中}
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(0)「……5200」
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(0)王者に迷い家は通用しない。
(0)問答無用で点棒を奪い取られる。
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(0)『晩成の小走選手の和了り!カン{⑦}にとらず、カン{②}待ちを選択したのには、何か理由があったのでしょうか?』
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(0)『まあ、注目を集めてる姫松の騎士様の安牌で待つことによって他2人からの出和了りを狙った……って感じじゃねえの?』
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(0)ここまで派手な和了りが少なかったやえだが、ここは高打点とまではいかないものの、確実に点棒を稼ぐことに成功する。
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(0)南3局 親 多恵 ドラ{2}
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(0)4巡目。
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(0)「リーチ」
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(0)やえが勢いづいた。
(0)わずか4巡にして今度は横に曲げられた牌に、流石の多恵も顔をしかめる。
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(0)「……私の親番で……私がオリると思ってる?やえ」
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(0)「フン、あえて言うなら……そうね。『押せるものなら、押してみろ!』よ」
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(0)少し幼く聞こえるようなやえの発言に、白望と優希は首をかしげている。
(0)そんな中1人、目を見開くのはもちろん多恵だ。
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(0)思い出すのは、在りし日の会話。
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(0)『やえはどーんと押せるなら押してみろ!って構えてる方が、きっと似合ってるよ!』
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(0)本当に昔の話だ。
(0)多恵の表情が、優しいものへと変わる。
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(0)「……よく覚えてるね……」
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(0)多恵がやえにした助言を、やえは覚えていたらしい。
(0)セリフを聞いて思い出せるくらいには、多恵もその思い出を大切にしているのもまた事実だが。
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(2)(身内話やめてもらっていいすか……)
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(1)空虚な願いが、背もたれによりかかる白望の身体から抜けていった。
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(0)6巡目 多恵 手牌 ドラ{⑦}
(0){②②②③④④④455678} ツモ{6}
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(0)聴牌だ。{58}のどちらかを切れば、{①②③④⑤}待ちの聴牌。
(0)親であるということも考慮すれば、ここは追っかけリーチと行きたいところ。
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(0)「……」
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(0)無言で、多恵は一瞬やえの顔をみた。
(0)やえの口角が若干上がる。
(0)表情が雄弁に物語っていた。「切れるものなら切ってみなさいよ」と。
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(0)「……嫌だね」
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(0)即座に多恵が切ったのは、{②}。聴牌を取らなかった。
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(0)この打牌選択に、納得いかない雀士が一人、清澄の控室にいた。
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(0)「そんな……クラリン先生ならこの手は絶対に追っかけリーチを打つはず……場況も良い。親。リーチを打たない理由なんて……」
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(0)和は困惑していた。先ほどの清一色を見たことにより、和の中で、多恵=クラリンでほぼ確定だ。
(0)だとすると、今回のこのリーチ打たずが理解できない。自身は親で、{8}の放銃率なんてたかが知れている。
(0)局収支でいえばこの5面張はリーチを打たない理由がない。
(0)何度も何度も、繰り返しクラリンの動画を見たからこそ、この打牌の理由がわからない。
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(0)「でも、仮に{8}切ってたら、晩成に放銃だったわね」
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(0)「それはただの結果論です!」
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(0)食い入るように先ほどの場面に動画を戻した自身のスマートフォンを睨みつける。
(0)久相手に強く出てしまうほど、今の和は冷静さを欠いていた。
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(0)(どうして……?分からない。相手は4巡目リーチ。{8}が特別危ないなんて情報も無ければ、この5面張が弱い理由も見当たらない。点数状況を踏まえたって、いつもの先生なら絶対にリーチしにいく手……)
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(0)立ち上がり、両手を机についてスマートフォンを凝視する和。
(0)情報を整理すれば整理するほど、回る理由は見つからなかった。
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(0)「……じゃあきっと、クラちゃんには今、和に見えてないモノが見えてるのよ」
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(0)「見えていないモノ……?」
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(0)久が何を言っているのか、和には理解ができなかった。
(0)別にモニターの情報を見逃しているわけではない。わずか数順のできごとで、手牌を読むもなにも、そんな時間はなかったはずだ。
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(0)しかしその考え自体が、久からすれば根本から間違っているわけで。
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(0)「じゃあ対局が終わったら聞いてみなさい。あなたの先生に。……あなたの中の何かが変わるかもしれないわ」
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(0)「……」
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(0)腑に落ちないといった顔の和に、久はふふふ、と笑って見せた。
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(0)(先生……もしあなたが本物のクラリン先生だとするなら……教えてください。私に……麻雀を……!)
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(0)和の目がモニターの先の多恵を捉える。
(0)そこには、いつもと違い少し楽し気な表情を浮かべる多恵の姿があった。
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(0)場面は、多恵が{②}を切った状況に戻る。
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(0)「なによ、つれないわね」
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(0)「……やえと何万局打ったと思ってんの?」
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(0)多恵の打牌を見て、やえがツモ山に手を伸ばしながら軽口を叩く。
(0)優希は、多恵が対局中に楽しそうに話すのを、不思議そうに観察していた。
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(1)(姫松のロボット騎士、もっと無表情で打つタイプだと思ってたじぇ……)
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(0)事実、優希が見た映像では大体がそうだった。
(0)しかし今日は幼馴染のやえが同卓している。だからかなと、優希は勝手にあたりをつけた。
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(0)同巡 白望 手牌
(0){⑥⑦⑦⑧⑨6788三三六七} ツモ{八}
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(0)最高で平和三色ドラドラまでつく、絶好の聴牌だ。
(0)白望は1度手牌の{8}を手に取ったが、すぐに手牌の中に戻す。
(0)白望も、この牌が切れないことは気付いていた。
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(0)「……ダル……」
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(0)王者の放つリーチは、他者の手に圧力をかける。
(0)聴牌は入るが、その聴牌が素直に入れば入るほど、当たり牌なのではないかと疑ってしまう。
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(0)白望は{⑨}を切った。
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(0)ここも回らされる。
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(0)7巡目 多恵 手牌
(0){②②③④④④4556678} ツモ{4}
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(0)張り替え完了。見事に聴牌を組みなおした多恵が、改めてリーチをぶつける。
(0)勢いよく、それでいて冷静に。
(0)流れるような動作で河に置かれた牌が、横を向いた。
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(0)「リーチ」
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(0)「来たわね……!」
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(0)王者を討つ為の剣が、3本生成される。
(0)正確無比な狙いで放たれた剣が、王者を討たんと飛んでいく。
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(0)やえが目を見開いた。
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(1)「……でもね、その1巡が命取りなのよッ……!」
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(0)瞳の炎が燃え盛る。
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(0)この日をどれだけ待ち望んだと思っている。
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(1)この日のために後輩達がどれだけ努力してくれたと思っている。
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(1)(たった1巡、1つの打牌でも、無駄にはしないッ……!)
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(0)勢いよく持ってきた牌を、自身の手牌の横にたたきつける。
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(0)「ツモ!!!3000、6000!!」
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(0)やえ 手牌 裏ドラ{2}
(0){③③22234567南南南} ツモ{③}
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(2)3本の剣の内1本を、手を深紅に染めて握りつぶす王者の姿がそこにはあった。
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(0)『決まったあああ!!!!晩成の王者、前半戦南3局で跳満ツモ!!一気にトップに躍り出ました!!!』
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(0)『姫松も追い付いたけどすぐにツモられたね。晩成の王者に先リー打たれたらやりづらいんだなあ。しらんけど!』
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(0)晩成の応援席から、盛大な歓声が上がる。
(0)ここまで苦しい戦いを強いられたやえの、やっと訪れた大きな和了り。
(0)盛り上がらない理由がない。
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(0)南4局 親 やえ ドラ{⑦}
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(0)(このままじゃ後半戦の南場が思いやられるじぇ……どうにかしてこの2人の親を流す方法を探さないと……!)
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(0)前半戦はついにオーラス。東場ではリードできていた点棒も、気付けばすぐに取り返されてしまった。
(0)連荘がないおかげでそこまでひどい目にはあっていないが、優希にはわかる。
(0)この2人は、まだまだ余力を残している。
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(0)後半戦もこのような早い展開になってくれるとは思えない。
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(0)ひとまずは、このオーラスを早く終わらせること。
(0)南場は、自身の主戦場ではないのだから。
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(0)優希 配牌
(0){②⑨13557九東南南白白} ツモ{東}
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(0)(配牌良くはないけど、字牌対子3つ……!南場でも、和了りきるじぇ……!)
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(0)しのぐだけでは、ツモで削られて点棒を失う。
(0)これから先で勝っていくには、多少はリスクを背負わなければいけない。
(0)守りの化身もとある雑誌で言っていた。「振り込まないことが、守りではない」と。
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(0)「ポンだじぇ!」
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(0)更に言えば優希は今やえの下家にいる。これは麻雀の基本だが、親の上家で鳴きすぎると親へのツモが増えるので、親の上家にいる時は鳴きの基準を調整する必要がある。
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(0)逆に、親の下家に座る、つまり今の優希のような状態なら、親のツモ番を飛ばすという意味でも、鳴きは意外と効果的だ。
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(0)「それもポンだじぇ!」
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(0)運よく対面から鳴ける牌が出てくる。これでやえのツモ番は2回飛ばされたことになった。
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(0)6巡目 優希 手牌
(0){35578東東} {南横南南} {白横白白}
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(0)(よしこれでイーシャンテンだじぇ……!)
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(0)別に混一にするつもりは優希にはなかったのだが、1番早く和了れそうだったのがたまたま混一だったので、自然とそうなった形。
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(0)次巡、間髪入れずに対面から{東}が出てくる。
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(0)「ポン……!だじぇ……」
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(0)優希が言葉に詰まった。嫌な予感がしたから。
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(0)ここまでの鳴きは全て対面。
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(0)運よく鳴ける牌が出てきた?誰から?
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(0)おそるおそる、手を伸ばしながら、対面に座る人物を見た。
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(2)多恵 の表情は、今まで優希が見たこともないほどの笑顔で。
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(0)「……?」
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(1)自然にゾクり、と背筋が寒くなった。
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(1)(偶然なわけないじょ……鳴かされた……!!)
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(0)そもそも、当初優希は東をポンするつもりはなかった。東は虎の子の安全牌。混一に向かいながらも、リーチに一発で振り込まないようにするための盾。
(0)しかし、あまりにも上手くいく手牌を眺めていた優希は、思わず手拍子で、聴牌をとってしまった。
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(0)しぶしぶ優希は手牌から{3}を切る。本能的にまずいとは思っているが、ここで和了りきれば問題ない。
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(0)「……ダルすぎ……」
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(0)白望も途中から多恵の狙いに気付いていた。
(0)やえを封殺しつつ、優希の手牌を短くする。
(0)そうすると、なにが起こるか。
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(0)多恵のツモ番だ。
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(0)「リーチ」
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(0)多恵が持ってきた牌をそ の ま ま 横に曲げた。
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(0)優希が目に見えて萎縮する。
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(0)「多恵あんた……」
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(0)やえの問いに、返事はない。
(0)今の多恵の瞳は、無慈悲に優希を貫いている。
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(0)やえのツモ番を飛ばしたことによって、やえに宣言牌を捉えられる危険性を最大まで減らし、狙いをすませたリーチ。
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(0)やえが現物の牌を切る。
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(0)(ぐっ……現物……!それか和了り牌……!現物か和了り牌さえくれば問題ないじぇ……!!!)
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(0)祈るように手を伸ばす。
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(0)優希が持ってきた牌は、{8}だった。
(0)多恵に、通っていない牌。
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(0)優希 手牌
(0){5578} {東横東東} {南横南南} {白横白白} ツモ{8}
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(0)(これ……は……)
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(0)優希は一瞬手牌の{7}を持ち上げて、戻した。また今度は今持ってきた{8}を手に取って、やはりまた戻した。
(0)優希の手は数秒手牌を右往左往したが、何かに気付いたのか、今は膝の上に手をやって、その拳を固く握っている。
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(0)「……はあ……」
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(0)1つため息をつき、やえがパタンと手前に牌を倒した。
(0)それの意味するところは。
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(0)「……{5}が対子で…………だから……か」
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(0)小声で呟かれた言葉。
(0)対局者である3人も聞き取れないそれは、呟きと呼ぶかどうかも怪しい。
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(0)うん、と納得したように頷くと、ゆっくりと顔を上げた多恵。
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(0)口惜しそうに歯噛みする優希に対して、多恵は一言だけ。
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(1)「……終わりだね」
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(0)多恵 手牌
(0){1113456667発発発}
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(0)白銀の甲冑を来た騎士の持つ剣の切っ先が、優希の喉元にあてがわれていた。