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(0) 気分が優れなくて俺はその日学校を休んだ。なのはちゃん達にメールで体調を崩したと伝え学校への連絡は母さんがしてくれた。今頃珍しく学校を休んだ俺に驚いている頃だろう。
(0) 気分が優れないと言っても体調的な意味ではなく本当に気持ちとか気分が悪い。昨日のシグナム達に告げられた突然の決別………は言い過ぎか、距離を置いてくれと言われたのが堪えたのは事実だがそれだけではない。
(0) 疑念は晴れてないのだ、あのはやてちゃんの部屋で見つけたあの本についての。
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(0) ベッドから飛び降りて家を出る準備をしているママンを盗み見る。今は朝食の後片付けをしてくれている所でパパンは俺が起きた頃には既に家にいなかった。
(0) 片付けに夢中のママンにバレないようにリビングのテーブルの上に置かれている書類をバレないように適当に数枚拝借して部屋に戻る。運良く一枚だけ目当ての物が載っている書類だった。
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(0)「やっぱり同じ……だよな」
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(0) 何かの勘違いかと期待したが容易く打ち砕かれる。やっぱりはやてちゃんの部屋にあった物と同じ本だ。クロノ達と俺の両親はこの本を追っている事は関係者じゃない俺でも想像はつく、そして状況的に考えてこの本の所有者がなのはちゃん達を襲撃した張本人の可能性が高い。
(0) はやてちゃんが?いや、何とも想像しづらい。シグナム達……はやてちゃんからは何で一緒に生活しているのかとか経緯は全く聞いてないから断言は出来ない。
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(0) 何にせよ材料が足りない。とにかくこの胸のモヤモヤを早く消し去りたい。消すには俺のこの想像が間違いだと証明できればいい。八神家が襲撃に関わってるなんて俺の妄想だと。その為には………襲撃者の顔は割れてたはずだ。クロノ達に直接聞きに行くか?
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(0)「いや、ダメだ」
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(0) かぶりを振る。あいつらは俺を事件に関わらせるのを嫌がっている、理由もなく情報を教えてはくれないだろうしかといって理由を言えば真っ先にシグナムたちに白羽の矢が立つだろう。それは…避けたかった。真実はどうあれそれは嫌だった。
(0) パパンとママンに相談してみるか?同じあの本を追ってるなら情報も持っているだろうし。適当な言い訳をしてなんとかその襲撃者の顔がわかる映像でも見せてもらえれば……。ママンはまだお片付け中だ、聞くなら今しかない。俺は再び部屋からこっそりとリビングに行き、拝借した書類を元に戻しつつ何食わぬ顔でちょうど片付けを終えたママンに声をかける。
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(0)「なのはちゃんを襲った犯人の顔を知りたい?」
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(0) 俺のお願いにママンは難しい表情を浮かべる。
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(0)「慎司まさか、一人でその犯人を捜そうって魂胆じゃないだろうね」
(0)「違うさ、ただなのはちゃんが襲われたのは海鳴なんだろ?という事は俺もたまたま見かける可能性だってあるじゃないか。顔を知っとけばいざって時クロノや母さん達に連絡できるだろ?」
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(0) もっともらしい理由を告げてみるがママンは難しい表情をしたままだった。
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(0)「確かにその通りだけど……なんだって急に?」
(0)「急じゃないよ、前から考えてはいたんだ。大事をとって学校休ませてもらってるからトレーニングは控えなきゃだし、かといって何もしないのもさ、正直暇つぶしな面もある」
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(0) あははと愛想笑いを浮かべて苦しい言い訳を述べる。ママンも俺がまさか一人で事件を追おうとするだなんて思うまい。俺だって確認して安心したいだけさ、シグナム達は事件に関係ないって言う確認を。
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(0)「はあ、しょうがないわね」
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(0) ため息を交えつつママンはリビングから書類を取り出して俺に手渡す。
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(0)「あんたどうせミッドの文字は読めないんだしこの中からその襲撃者の映像の切り抜きがあるから探してみなさい。コピーは別にあるから部屋でゆっくりと見てなさいな」
(0)「あ、ありがとう……」
(0)「言っとくけど、遊び半分な気持ちで見ていいものじゃないからね。もしもの時のためって事を忘れちゃだめよ」
(0)「わ、わかってるよ」
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(0) ならよしと頷いてママンはさっさと支度を済ませて家を出た。玄関先で昼食は冷蔵庫にあるからチンして食べなさいと言い残して。俺はそれを見送ってすぐに部屋に戻った。
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(0)「大丈夫、大丈夫だ……」
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(0) そう言い聞かせて震える手で書類をめくる。心臓が早鐘を打つ。違うきっと違うはずだ。目当ての書類はなかなか見つからない。じれったくなる気持ちを抑えて一枚一枚丁寧に確認していく。そして……
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(0)「あ……あああ……」
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(0) 見つけた。文字は何が書かれているかさっぱりだが写真の切り抜きがある。バリアジャケットを身にまとい臨戦状態のなのはちゃんと相対しているハンマーらしき物を持った見覚えのある子を。見たことのない表情でハンマーを振りかぶりなのはちゃんに襲いかかっている……ヴィータちゃんの姿を。
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(0)「違う、嘘だ…」
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(0) さらに資料をめくる、次に切り抜かれていたのはフェイトちゃんに対峙する剣を持ったシグナムの姿。互いに戦っている最中なのは映像じゃなくてもわかる切り抜きだ。
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(0)「嘘だ……嘘だ…」
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(0) 次に切り抜かれていたのは魔法陣を展開して何らかの魔法を行使しているシャマルの姿と見覚えのない筋骨隆々とした体つきの男。咄嗟にザフィーラの姿が思い浮かんだ。アルフの一例を知っている俺はすぐに答えに結び付いた。
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(0)「嘘だあああぁぁぁぁぁ…………」
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(0) かすれたような情けない声が漏れ出る。違う、違う、こんなの……絶対に間違い…じゃないのは明らかだった。言い訳もできない彼女らがなのはちゃんを襲った襲撃者でありアースラが両親が追っている事件の容疑者だという事の。
(0) ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな
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(0)「クソがぁ!!」
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(0) ドンと拳を机に叩きつける。知りたくなかった、こんなこと知りたくなった。知らないほうがよかった、見て見ぬふりをしたかった。そんな現実逃避を考えたがそんなことをしても状況は変わらない。冷静になれ、とにかく落ち着くんだ。そうだ、よく考えるんだ、俺は知ってるはずだ。シグナム達が私欲が理由でそんな犯罪行為に手を染めるとは思えない。
(0) 管理局が知らない皆のこころ優しい一面を知っている。試合を精一杯応援してくれたことも、俺を励ましてくれたことも。はやてちゃんに対する親愛を俺は知っているんだ。だからきっと、仕方のない理由があるはずなんだ。そう、信じたい。だから考えろ、振り絞って考えろ。
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(0) まず、はやてちゃんの事だ。この子がどう関わっているかだ。襲撃に関わっているのか否か、恐らくだが俺ははやてちゃんは襲撃どころか魔法にすら無縁なんじゃないかと思う。証拠があるわけではないが俺が今まで見てきたはやてちゃんの姿を思い浮かべるとそう考えたほうがしっくりくる。
(0) 仮に、はやてちゃんが襲撃に関わってないとして、さらには一連のことを知らないとしてどうしてシグナム達と共に暮らしているかだ、これは全く思い浮かばない。
(0) そしてシグナム達があのような行動をしている理由、それについては推測ではあるが心当たりがあった。
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(0)『お前は何も心配するな。主はやての事は私達に任せてほしい、慎司にはこれまで通りはやてに会って笑顔を届けて欲しい』
(0)『すまない、しかしはやての為でも慎司の為でもあるんだ。詳しくは話せないがそれは信じて欲しい』
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(0) シグナムが口にしていたことを思い出していた。詳細な理由はつかめてないが事件を起こしている理由ははやてちゃんの為、俺を遠ざけたのは巻き込まないため。そこまでは推測できる。しかしそれ以上の事はわからない。俺は本来この事実をクロノや両親たちに真っ先に告げるべきなのだろう。しかし、それはそれで何か取り返しのつかないことになりそうな嫌な予感がしてならない。ただ単にシグナム達を庇いたいだけなのだろうが、それでもこのことを報告するのはちゃんとした理由が判明してからでもいいはずだ。他の被害者が出る前に急がなくてはならないが、詳細が分かれば平和的な解決だって望めるかもしれない。俺じゃなくても両親やアースラの面々がシグナム達と管理局に間に立って話し合いで事を済ませれる可能性だって甘い考えだけど出来るはずだ。
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(0) そのためにも、なんとかして理由を突き止めなければならない。俺しか知らないこれらの事実を結び合わせれば可能性はある、そのためにも俺はまずは知らなければならない。基本的なことはまるっきり分かってないんだ。特に、この本のことについては。
(0) 資料を見る、写真の切り抜きに俺がシグナム達を疑ったきっかけとなった例の本が載っている。この周りに記されている文字を解読できればこの本について何か分かるかも知れない。恐らく鍵を握っているのはこの本だろうから。両親達に聞く手もあるが怪しまれるのは避けたい。クロノ達アースラの皆も同じく、シグナム達に聞くのも言わずもがな論外だ。
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(0)「そういえば……」
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(0) パパンは地球出身の魔法使いって前にリンディさんから聞いたな、だけどこの文字読めてるみたいだし、それにママンはミッドチルダ出身だけど普通に日本の文字つかえたよな……。もしかしたら二人の書斎に翻訳書があるかもしれない。
(0) そう思い至りすぐに二人の部屋をあさる。数十分ほどかかってしまったが二人の部屋からそれぞれ別の翻訳書らしきものを見つけた、そしてその二冊ともそれぞれパパンとママンが用意したであろうさらに分かりやすく、詳しく書かれたノートが挟まれていた。そう、まるで次誰かが勉強するときにはかどるように。
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(0)「……………」
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(0) 多分だが、もしかしたら両親は俺が魔法の道を進みたいと思った時の為に用意してくれていたものなんじゃないかと思う。結果的に俺はリンカーコアを持たず生まれたから俺が生まれる前に用意してくれていたのかもしれない。二人の愛情に感謝しつつ俺はそれらを自身の部屋に持ち出して早速翻訳作業に移る。
(0) 言語の勉強をするわけではないからとりあえずこの件の本について記されていそうな資料だけでも翻訳書と見比べて翻訳するしかないだろう。初めて見る文字だし両親の解説書付でも時間がかかるが仕方ない。俺は昼飯を食べるのも忘れて作業に没頭した。
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(0) 翻訳作業を進めて数時間、おかしな文体になったりどうしてもわからなくて穴抜けしたりしているがある程度の概要は分かった。まずあの本は管理局では『闇の書』とよばれる魔道書で他者のリンカーコアから魔力を奪い吸収してページを埋めるのだという。クロノからなのはちゃんが襲撃されたときに身体的な外傷は軽微だがリンカーコアから魔力を奪われたと言っていた。つまり、襲撃の目的は魔力を闇の書に吸収させることで間違いないだろう。そこまでは分かったが因果関係が分からなかった。そうやって魔力を補充してページを埋めてどうなる?それがどうはやてちゃんの為になるのか?
(0) 大事なことはさっぱりだった。これは……もう少し翻訳を進めないといけないだろう…。ため息を堪えて俺はさらに作業に没頭した。
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(0) 気づけば辺りはすっかり暗闇に包まれていた。色々関係のありそうな資料を翻訳しては見たが闇の書とは違う情報だったりと空振り続きだった。おかげで今回の事件で俺の知らなかったことも分かったがほしい情報はつかめなかった。今日も両親は帰ってこない、作業には気にせず集中出来るのが幸いだった。軽く食事をしてからさらに翻訳を進める。
(0) そうだ、ここで俺が原因を突き止められればもしかしたら全部うまくいくかもしれない。俺はプレシアの事があった時に誓ったはずだ。目指すのは……
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(0)「完全無欠のハッピーエンド」
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(0) ただそれだけだと。その為なら俺は、こんなもの苦と感じない。そう威張るような気持ちで臨む。もう後悔するのは……嫌なんだ。
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(0) 早朝、寝ずに作業を進めたおかげで預かった書類の半分ほの翻訳は拙いながらも終わった。しかし最後に翻訳した闇の書についてのある記述が俺をここまで進ませたことを呪わせた。
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(0)「ふざけんなっ!!!」
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(0) 叫ぶ。当り散らすように書類を叩きつけ机をなぐり頭をかきむしる。どうしようもない事実が俺を苦しめた。いくら俺が暴れようがいくら叫ぼうが何も変わらない。けれどそうするしか無かった。こんな現実を受け止めるなんて出来なかった。
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(0)「何で!なんでなんだよ!!」
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(0) くしゃくしゃにした書類を改めて見る。
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(0)「あの子が一体何をしたって言うんだ!!」
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(0) 翻訳の間違いでも見間違いでも読み間違えでもない。そこに記された残酷な記述。闇の書は魔力を補充しないとその持ち主の体を蝕む。補充しない魔力を己が主から奪うのだ。その行為は体に障害を起こさせ、やがて心臓にまで影響が出て死ぬ。
(0) はやてちゃんは、足が麻痺で動かせない。それは唐突に訪れたと言う。理由も分からず、治療も出来ていないと言う。なぜ?
(0) 分かりきった事だった。闇の書の主人ははやてちゃん、そして最近になって倒れたり、体に不調をきたす事が多くなった。なぜ?闇の書が主であるはやてちゃんから魔力を奪っているからだ。
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(0) ならばそれをさせない為に魔力を蒐集すればいい、他人なんてどうでもいい。はやてちゃんが助かるなら………だがそれもはやてちゃんを救う道とはならない。
(0) 闇の書の完成……魔力によって全てのページを埋めた時、闇の書は暴走すると言う。なぜか?原理は?それは素人の俺には分からない。しかし、事実として闇の書が完成すると暴走し破壊の限りを尽くす悪魔の魔導書と化す。そしてそれは主であるはやてちゃんを命もろとも取り込んでしまうと言う。闇の書の主は魔力を集めようが集めまいが死の運命しか先にはない。
(0) 残酷な真実だった。
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(0) はやてちゃんは自分が望んで主になったわけではない。闇の書は完成と共に大災害を引き起こし、再び空白のページとなった闇の書がランダムに素質のある主人の元へ転生するふざけた機能がある。つまりはやてちゃんはそのランダムで選ばれたのだ。
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(0) シグナム達が襲撃者を初めて起こした事件よ日付とはやてちゃんが倒れて運ばれた時期は一致する。蒐集をしているのは間違いなくはやてちゃんを助ける為だ。
(0) しかし蒐集して完成させても悲劇しか待っていない。それを分かってて一縷の望みにかけているのか、それとも完成させた場合の結果を知らないのかは分からないが理由はハッキリした。だが………解決策なんて見つかる訳がなかった。
(0) 資料を見て過去に管理局が闇の書の破壊や封印に何度も失敗している記録も見つけた。俺なんかがどうにかしようなんてそんなの土台無理な話だった。
(0) 恐らく………時間が……ない。はやてちゃんの命が尽きるまで余裕はない。どうすればいい?俺は、どうすれば?
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(0)「うわああああああ!!!!」
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(0) 叫ぶ。膝から崩れ落ちる。きっとずっと寝てなくて、作業に没頭しすぎて水もまともに飲んでなかったから掠れきった声だった。叫んで、涙が出てきて、溢れて止まらなくて、情けなく、みっともなく、恥も外聞もなく醜態を晒す。
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(0)「ああああああああああああ!!!!」
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(0) 死んで欲しくない、友達が死ぬなんて嫌だ。嫌だ、そんな思いしたくない。初めて俺はちゃんと自分の罪深さを理解した。山宮太郎として早死にして、俺は友人や家族にこんな苦しみを与えたことに。
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(0)「嫌だあああぁぁぁ…………」
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(0) はやてちゃんがいなくなる何てそんなのは嫌だった。前世で、人の死を見送ったのは一度も無かった。父方も母方の親戚も俺が死ぬまでは皆んな健在だったし友人も不幸にも亡くなった子はいなかった。だから、俺は前世も含めて初めて自分にとって大切な人の死の恐怖に怯えている。
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(0)「うううう………うううぅぅ……」
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(0) 絶望。何も出来ない自分に絶望した。こんなの……どうすればいいんだ。
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(0)『…………最近な、ずっと幸せなんよ』
(0)『慎司君と友達になってな?私もっと幸せなんよ』
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(0) はやてちゃんが伝えてくれた言葉が頭に木霊する。暖かくて、そんな言葉をくれた事が嬉しくて、俺はこの子をもっと人生楽しませて歩ませてあげたいって思ったんだ。
(0) 笑顔を見た、寂しそうな顔を見た、泣きそうな顔を見た。はやてちゃんだけじゃない、シグナム達だって……。
(0) おい………荒瀬慎司、お前はここで泣くだけか?何もしないで諦めてまた後悔するのか?まだ俺は何もやっていないだろう、試しても実行もしてない。ただ最悪の結果を見て勝手に諦めて悲しんでるだけの奴に一体何が出来るって言うんだ?何のために俺は荒瀬慎司として精一杯生きようとしてるんだ?山宮太郎と同じ失敗をしない為だろうが。
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(0)「ぐっ、くぅ………」
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(0) 泣くな……いや、泣いてもいい。けど膝を折るな。絶望はするな。心は折れても魂は燃やせ。前と同じだ、俺は無力だけど出来る事は全てやるんだ。
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(0)「おおおおっ……」
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(0) 気持ちが悪い、頭が痛い、視界がぼやけて足もふらつく。それでも………諦める事は許さない。山宮太郎が許さない。後悔は………したくない。救う、救うために。シグナムを、ヴィータちゃんを、シャマルを、ザフィーラをそしてはやてちゃんを救う。その為に最善を尽くせ、お前が出来ることをし尽くせ。山宮太郎には無理でも荒瀬慎司はそれが出来る。荒瀬慎司は例え絶望しても………。
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(0)……………………………。
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(0) 管理局で妻のユリカと闇の書事件の調査の洗い直しをしている時だった。突然慎司から連絡があった。
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(0)『大事な話があるから、母さんと一緒になるべく早く家に帰ってきて欲しい』
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(0) この時間は学校にいるはずだ。昨日は気分が優れないとかで学校を休んだらしいがどうやら今日も休んでいるらしい。慎司の事だからズル休みとかそう言うものではないと思うが。
(0) とにかく、慎司からそんな風に告げられたのは初めての事だったから自分とユリカは急いで作業を済ませようと努力したが作業が難航しキリのいい所で切り上げられたのは一度日付が跨いだ朝になってからだった。既に慎司には遅くなってしまうことを伝えたが
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(0)『分かった、俺は俺でやる事があるから大丈夫だよ』
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(0) そう伝えられ自分達は慎司が心配になり転移で家路を急いだ。2人でただいまと告げながら家に入ると慎司がおかえりと出迎えてくれる。しかしそこで自分達の動きは止まる。
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(0)「慎…司?」
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(0) 息子の姿に驚愕する。髪はボサボサ、目の下には薄いが隈ができ、心なしか頬も少しこけたように見える。しかしそんな状態にも関わらず目だけが死んでいなかった。何か決意を固めた、燃えるような瞳だった。視線に射抜かれると言うのを本当の意味で味わった気がした。
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(0)「慎司!あんた一体どうしたの!?」
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(0) 堪らずユリカが慎司を抱き寄せる、怒ったような悲しいような顔を浮かべて。
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(0)「ごめん、色々あって飯も喉を通らないし寝れなくてさ。2人が来るまでずっと資料の翻訳してたんだ。話が済んだらすぐ休むから」
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(0) 声音は特に問題ないように話す慎司だったが心配は尽きない。本来なら話など後回しにしてすぐに休ませるか大事をとって病院に連れて行くべきだ。しかし、それを慎司が受け入れる様子がないのは眼で分かった。先に話が済むまで恐らくテコでも動かなそうだと親だからか自分とユリカはそう感じ取れた。
(0) ならばすぐにでも慎司のその大事な話とやらを聞くのが先決だろうと話は纏まった。それに気にもなった、たった数日で年齢とは分不相応なしっかり者の慎司をここまで追い込んだ理由を………。
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(0)……………………………………。
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(0) 両親からの心配の視線を受けながら俺は事情を話した。俺が書類を翻訳して粗方の事情は理解している事、父さんと母さんが留守の間一緒にご飯を食べて仲良くなった友人達が襲撃事件の犯人であった事。さらに1人の少女が闇の書の主人に選ばれ既に命の危険がある事。襲撃犯は恐らくその主の命を救う為に蒐集をしている事。
(0) 俺が皆んなと過ごして感じたあいつらの人柄、優しい一面。決して悪い奴らではない事。俺が助けたかったけどどうしようも出来なくて、縋るように話している事も、曝け出した。だが、八神家の居場所やその詳細だけは伝えなかった。俺の話を両親は驚愕の表情を浮かべながらも黙って頷きながら聞いてくれた。
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(0)「頼むよ……父さん、母さん…」
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(0) 俺じゃ、何もできない。魔法の才能も、天才的な頭脳も、誰かの心を動かせるほどの高潔さも何もない。俺だけの力じゃ俺の望みは叶えられない。
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(0)「このまま蒐集をさせたらこの町どころかこの世界そのものが危険な事になっちまうのは分かってる!止めるべきだって分かってる!けど……蒐集を止めれば近い将来にあの子も死んじまう……どちらにしろあの子はこのままじゃ死ぬ!そんなのは嫌だ、嫌なんだ……」
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(0) シグナム達に蒐集を辞めさせて、はやてちゃんの命も救う……そんな都合の良いハッピーエンドを迎える為に……
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(0)「俺が皆んなを救う為に、これ以上誰も悲しまない、誰も涙しないそんな結末の為に……俺に力を貸してください。俺を………あの子を助けてくだざい」
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(0) 頭を下げて涙ながらに俺は伝えた。自分の情けなさ、みっともなさを荒瀬慎司としてここまで曝け出したのは初めてだった。父さんと母さんは互いを見合って難しい顔をしていた。今2人の頭の中にはきっと色々な物事を天秤で測っている事だろう。管理局の関係者で闇の書を追っている2人だ、本来なら俺から情報を聞き出して今すぐにでもとっ捕まえに行きたいと思っているかもしれない。
(0) だが、話すしかなかった。俺は魔法については分からないけど俺が望んでる事はとても険しい道のりだと言う事だけは分かっている。だからこそ、信頼できる2人の力が必要なんだ。
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(0)「………お前の言いたい事は分かった」
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(0) 重々しくそう口を開いたのはとうさん。真っ直ぐに俺を見つめて続ける。
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(0)「………お前のその頼みの答えは…お前がちゃんと体を万全にしてから伝える。俺とユリカにも考える時間を欲しい」
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(0) 父さんの言葉に母さんも同意だという意味で頷く。出来れば今すぐにでも返答をして欲しかったが仕方ない。そう簡単に決めれる事じゃないのは素人の俺でも分かりきってる事だから。
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(0)「分かった………」
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(0) そう言って俺は自分でも引くほど体に不調をきたしている自覚はあったので素直に応じる。両親が俺の頼みを受けてくれるにしろ断って犯人逮捕を優先するにしても俺自身が万全じゃないと出来ることも出来ない。
(0) 2日ぶりにシャワーで体を清潔にして、抱えていた事を打ち明けれたからか食事も何とか喉を通り、その後気絶するように寝た。
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(0)「慎司、眠ったみたい」
(0)「そっか」
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(0) リビングでソファに背中を預けながら荒瀬信治郎は疲れたように息を吐いた。実際連日の調査で疲れは溜まっているのだが今はそんなことが気にならないくらい慎司の話に衝撃を受けていた。
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(0)「………どうするの?」
(0)「俺もユリカも答えはもう決まってるだろ?」
(0)「………そうね」
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(0) 信治郎とユリカは慎司が生まれる前から闇の書について調査を行い続けてきた。ユリカが特別技術開発局長を辞任して家に専念したのも慎司だけでなく闇の書事件についての調査を中心に活動する為だ。
(0) 管理局の局員としての仕事ではなく友であるクライド・ハラオウンの仇を取る為に。信治郎にとって闇の書は憎き存在だ、だが闇の書の欠陥性を理解している信治郎は好きで選ばれた訳ではない主や命令に逆らえず蒐集を行う守護騎士プログラムについては完全に許せる訳ではないが同情的な感情を持てるほど冷静に考えてもいる。
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(0)「けど、慎司が望むような結果を得る為には……方法が」
(0)「………ユリカ、きっと慎司だけじゃなく俺達も覚悟を決める時なんだと思う」
(0)「信治郎さん……」
(0)「慎司にはずっと隠してきた魔法の事も、自分が魔導師になれない事実もあいつは受け入れて前に進んできた」
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(0) 息子ながらよく出来た子だと信治郎は思う、そんな息子が縋るように頼りにしてきたのなら力になりたいと思うのは当然の事だった。
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(0)「答えを決めるのは慎司だ。だけど、もうこれ以上アイツに隠し事をするのはあいつの覚悟を穢す事になる」
(0)「でも………」
(0)「分かってる、ユリカが慎司のためにずっと大切にして頑張ってきてくれた事は分かってる。けど、やっぱり『アレ』は慎司の物なんだ。どうするか慎司に決めさせるべきだよ。あいつはもう……立派な男の子なんだ」
(0)「……成長が速いって言うのも困りものね」
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(0) ユリカは瞳に涙を見せる。その涙は悲しみに溢れているようにも見えたが信治郎には息子の立派な成長を見れて嬉しく思う母親の涙に見えた。
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(0)「お前の話に乗るよ、慎司」
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(0) 半日以上眠ってしまい慌てて飛び起きてリビングに駆けつけると真っ先に父さんにそう言われる。
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(0)「いいの?」
(0)「ああ、俺も母さんも……お前の頼みは断れないよ」
(0)「慎司が求めてる事はとても困難な道よ。正直私達も上手くいくなんて自信を持って言えないわ。けど、貴方がそれを掴みたいなら全力で応援する。私、慎司のお母さんだしね」
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(0) 2人とも………、俺のこんなわがままを聞いてくれるのか。協力してくれるのか。
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(0)「ありがとうっ」
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(0) 頭を下げて心の底からの感謝の気持ちを伝える。ありがとう父さん、母さん。俺も、俺に出来る事を全力する。
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(0)「さて、早速詳しい話を……と行きたい所だけどその前に…」
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(0) 父さんが手を伸ばして空中で静止させる。
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(0)「あら、年甲斐もなくそんな事するの?いいけど」
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(0) 母さんが何かわかったように同じように手を伸ばして父さんの手に重ねる。え、もしかして円陣的な?
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(0)「こういうのは大切なんだよ慎司、恥ずかしがらないでお前も重ねろ」
(0)「ああ……」
(0)「といっても言い出しっぺはお前だからな、お前がなんか言え」
(0)「おい大黒柱」
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(0) そこ俺に丸投げするのかよ。まあ、いいけど。うん、じゃあ………。今度は、1人じゃない。誰よりも頼もしい味方がついてくれている。安心できる、まだ何も始まってないけど俺の気持ちは今立ち上がって前に進んでいる。だからこそ大声で。
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(0)「荒瀬一家の底力を、見せてやらあああ!!」
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(0) 荒瀬慎司は絶望したって、立ち上がる。
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