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(0)「失礼します。バイジュウ様をお連れいたしました」
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(0)「うむ、ご苦労だ。飲み物の準備も頼むぞ」
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(0) 場所は移り、バイジュウは朱雀に連れられて中岳の頂に建つ宮殿の一室へと招き入れられていた。入室すると朱雀は指示通りに手早く飲み物をテーブルの上に置くと「それでは」と軽く会釈をして退室していった。
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(0) 内装としては目で見ても「うるさい」と感じるほどに黄金や宝石などが散りばめられた額縁や、名のある彫刻師が掘ったであろう器や壺などが置かれており、バイジュウは内心「嫌な趣味だなぁ」と思いながらも無駄に小奇麗に準備された来客用の上質な椅子へと腰を掛けた。
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(0) 眼前にいるのは髪を短く切りそろえた女性がいた。色としては『金髪』というより『黄金』といったほうが正しいだろう。光輝とも呼べる艶やかな煌めきと、気品と威圧感が溢れる目付きや佇まいもあり『女傑』と言えそうなほどにその雰囲気は、この嫌味ったらしい宮殿の印象を弾き飛ばすほどに神々しかった。
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(0)「私は無行の扉の代表という立場に置かれているものだ。彼が朱雀なら、私は『麒麟』や『黄龍』……まあ好きなように呼ぶといい。我らの名など貴方様にとってそう大きな価値はないのだから」
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(0)「では麒麟と呼びましょう。……それで私をここに呼んだ理由とは?」
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(0)「こちらの要件から先に聞き入れてくれる寛容さに感謝いたします」
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(0)「それでは」と一呼吸を置くと、麒麟と名付けられた女性は茶を一口飲んで話し始めた。
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(0)「我々の要件はただ一つ。バイジュウ様、貴方を『宇宙飛行士』の一員として華雲宮城に所属していただきたいのです」
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(0)「宇宙飛行士……?」
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(0) 突然の提案にバイジュウはただ困惑するしかなかった。
(0) それが冗談だと言うならば一笑でもしてお断りすればいいだろう。だけど麒麟の態度は整然としたままで冗談でも面白半分でもない。本心からバイジュウが『宇宙飛行士』になってほしいと口にしているのだ。
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(0)「ええ。我々……というより華雲宮城の政府は元々『新しい資源』を求めてあらゆる部門の研究を進めていました。それは『七年戦争』が始めるより以前……六大学園都市が設立する異質物研究の黎明期から考えられていたことです。何せ異質物そのものが地球における歴史上において聖人などの遺産もあれば、空白の歴史から突如として出現した物、そして……」
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(0)「……宇宙から飛来した物もある」
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(0)「聡明で何よりです、バイジュウ様。異質物の黎明期、各学園都市は突如として出現した異質物を次々と解明を始めた。ある学園都市は純粋なエネルギーとして、ある学園都市は他国に牽制する軍事力として、ある学園都市はオゾン層の破壊など筆頭にした環境問題の解決のために……」
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(0) 麒麟からの話はすべて実際にあったことだ。黎明期に置ける異質物研究の数々、それらの成功であれば失敗であれ、その成果によって今の辛うじて成立している学園都市を中心とした世界の経営は成り立っているのだ。それを忘れることなんてバイジュウじゃなくても不可能であろう。
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(0)「そして第一学園都市こと華雲宮城では『新たな異質物の収集』を計画していた。サンプルを増やすことで『人工的に無から異質物を作り出す技術』を確立させようと躍起になったのです」
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(0) その計画にバイジュウは興味深く耳を傾けた。もしそれが実現できたとすれば、黎明期からすれば革新的な物であったはずだ。
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(0) いや、今現在の科学力でも重宝する技術に間違いない。今ある異質物だって人工的に改良することはできても、その根本を変えることは不可能だ。
(0) だから学園都市はXK級などEX級などとランク付けして丁重に扱っているのだ。Safe級でも、些細な物であろうとあまりにも貴重な資源だ。ふとした拍子にsafe級でも利用方法次第では大災害にもなり得る可能性を秘めているほどに。
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(0) それこそ——バイジュウは知らないが——。
(0) レンが目の当たりにした、Safe級なのに世界を変革させた『ロス・ゴールド』のように——。
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(0)「ならばサンプルを増やすにはどうすればいいか。地上に飛来した物を回収したところで、技術の革新速度は他と変わるはずがない。そんな平等だの、公平だのと言った進歩に華雲宮城の政治家達は納得すると思いますか?」
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(0)「ないでしょうね。昔からプライドだけは無駄に一級品でしたから」
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(0)「ええ。ですから華雲宮城は宇宙開発プロジェクトに手を出した。だが宇宙での有人探索は当時でもそうサンプルは多くない。異質物探索となれば尚更だ。そこで華雲宮城は『先天的に高い適性を持ったある人物』へと目をつけた」
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(0) それが自分のことだとバイジュウはすぐさま理解した。何せ一度サモントンでセラエノに邂逅した時に彼女がこう口にしていたのだから。
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(0) ——お前は観察対象として随分良いな。……その体質は生まれつきか。体温変化が極端に起きていない。となると、どこまでが適応できるのか…….
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(0) ——お前、海に潜ったことはあるか? どこまでの深度にいった? どんな条件下だった? ……もし可能性があるならば、お前は特定の条件さえ満たせば『宇宙空間』で生存が許される希少な人類ということだ。正真正銘『進化した人類』ということだ。
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(0)「どうやら自分だとご理解しているようですね。ならば聡明なバイジュウ様ならもう一つの事柄も理解できましょう」
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(0)「……あの南極基地での探索は……部隊への配属は……私自身の『宇宙飛行士』としての適性を見るテストだったと?」
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(0)「ええ、その通り。もっともミルク様が残した『情報』に載っていたことについては少々予想外ではありましたが……。逆にあれでバイジュウ様は非常事態では迅速に物事を熟す危機的状況下における判断力も本物だということも確信できました。宇宙飛行士としての適性は十二分にあると」
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(0)「……そのミルクについての情報は聞かせてもらうことはできますか?」
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(0)「そういえばそうでしたね。元々アナタ様を呼んだのはそれらを交渉材料にしてましたしね。こちらの用件も終わりましたし、どうぞ答えられる範囲ならお答えしましょう」
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(0) ならばとバイジュウは頭の中で情報の整理を始める。
(0) 彼女が今まで言っていたことに嘘偽りはない。それは『魂』を認識できるバイジュウだからこそ確信できるものだ。
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(0) 故に彼女が嘘をついてもバイジュウには即座にわかる。コーラを振ったら炭酸が噴き出すように、見えすいた結果として。
(0) だから聞くべきは遠回しではなく直球がバイジュウの情報戦において最も効果的な手段となる。時間も惜しむ立場もあってバイジュウはそうして脳内の整理を終えると、自分用に差し出された飲み物を一口だけ通して喉を潤して告げる。
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(0)「ミルクの情報について、貴方はいかにも深く知ってるという雰囲気がありました。だとしたら無形の扉はフリーメイソンの支社を知っているということですよね?」
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(0)「ええ。バイジュウ様の予想通りに我々はフリーメイソンの場所を知っていますよ」
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(0)「だったらその場所……もしくはミルクの情報が入ってるデータを提供してください」
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(0)「可能ですね」
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(0) その言葉を聞けてバイジュウは安心してしまう。『魂』を視認できるからこそ麒麟の言葉はこちらを騙そうとする意図がないことを理解し、こちら側に教えようとしているのが分かる。
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(0) 最初は手がかりなんて物がなくどうしようか前途多難であったが、意外にも日を置かずに情報が手に入りそうだ。
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(0) ——もう少し、もう少しでミルクのことについての手掛かりが掴める。
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(0) 期待と興奮。不安と焦燥。
(0) それら相反する感情が渦巻く中、麒麟が紡ぐ言葉をバイジュウは今か今かと待ち続け——。
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(0)「……ここそのものが『フリーメイソン』ですよ」
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(0) それはあまりにも突然の告白だった。『魂』に嘘はついてなかった。今の今まで確実に。
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(0) だというのに——麒麟の『魂』は瞬きよりも早く塗り変わったのだ。
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(0) バイジュウからすれば、それは驚愕という言葉で形容するには生温い衝撃があったのだ。
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(0)「言いましたよね。こちらの用件は終わったと。ですからこれ以上の話は我々にとってメリットはない。こちらとしては今すぐ貴方様に華雲宮城に戻っていただきたいのですよ」
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(0)「……興味深くはありますが今は無理です。それにそんな無茶苦茶な要求を提案する余裕のなさも悪印象です。私からは今後何があろうとあなた方と関わる気は……」
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(0)「ダメなんですよ。事態は一刻の猶予を争う。バイジュウ様の個人的な感情で華雲宮城の意思を無碍にされるなんて……」
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(0)「ならもっと早くにでも声をかけてくれれば……っ!! それに頼み方だって……!?」
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(0)「こっちだって急場で動くわけがねぇだろ! サモントンでの出来事があったからこうしてんだ!」
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(0) 今度は鬼のような覇気を纏う『魂』が風のように瞬間的に姿を見せて消え去った。
(0) その迫力はとても人間が突発的に起こす怒号では済まされない。まるで器という鍋に、怒りという液体を注ぎ、さらに多種多様の調味料を入れて煮込みに煮込んだようなドロドロとした物だ。確実にその怒りは『怒りだけでは到達し得ない』人としての感情が悪性が浮かんでいた。
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(0)「……失礼。我々無形の扉は精神汚染の異質物対策として予め『精神を二つにする』ように処置されておりまして……」
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(0)「二重人格——という意味ですか」
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(0)「それが一番近い表現ですね、記憶は共有してますけど。ただ細かい経緯とかは省略させていただきますよ。『陰陽』の一環——とでも言えば納得していただけるでしょう」
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(0) そこまで聞いてバイジュウはようやく合点がついた。つまり今までバイジュウが『魂』で認識していた麒麟は『陰陽』で言うところの『陽』の部分でしかなく、瞬間的に見せた暴力的な一面こそがバイジュウの能力を欺くことになった『陰』の部分であると。
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(0) だとしたら彼女が口にした通り無形の扉が訓練でそういう『陰陽』の人格を使い分けられるとすれば、精神的な部分を関与する能力は軒並みこの組織の前では無力となることを意味している。
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(0) それはソヤの『共感覚』もそうであるし、情報を受け取るフィルターが『陰陽』と二つある以上は恐らくは『ミーム汚染』にさえ高い遮断性を持つ可能性がある。
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(0)「話を戻しましょう。貴方も知っている通り、サモントンの土地は荒れ果てて食料の供給面は大変不安定になっております。それはサモントンの政治における絶対的な強みの欠如に他ならない。今はまだ大丈夫ですが、時が経てば学園都市以外の国家は食料問題で争いが起きるのが目に見えている……それぐらいは誰であろうと想像はできるでしょう」
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(0)「……そうですね」
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(0)「それに食料問題というが正確にはエネルギー問題にも関わる。サモントンが栽培する穀物はバイオ燃料として重宝されていますからね。エネルギー供給がなければ、電力などのエネルギー変換で賄っていた資源にも影響が出る。学園都市はXK級異質物を筆頭にエネルギー問題を独自の国で補えるように政策はしているが、学園都市として認められてない国家ではそういうわけにもいかない。ここまではお分かりですね」
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(0) バイジュウは無言で頷く。その後に続く言葉も理解していながら。
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(0)「だが世界を渡り歩いたバイジュウ様ならお分かりでしょう。残念ながら現在の地球は『ほとんどの資源を取り尽くした』と言っていい。もちろん地中や海中に眠る潜在的な資源とかの話ではありませんよ?」
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(0)「ええ。単純に『地球上における純正的な資源』は研究を終えたという意味でしょう」
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(0)「その通り。資源はまだまだ残っていようと、地球上すべての人類を賄うには百年ほどだ。『七年戦争』で人口が激減したというのに……。学園都市だけに限定すれば千年以上も猶予はありますが……もうこの地球上には『人類の未来的な希望』なんてものはとうに枯れ果ててしまったのだよ」
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(0)「……だからこそ先がない学園都市以外の国家は慢性的で目の前にある希望に縋るしかなかった。明日に繋がる食料……『サモントン』だけが人類が唯一希望を共有できる象徴だったから」
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(0)「退廃的な物ですがねぇ。ですがそれは今は崩れ去ろうとしている、先の一件によって。ならば人類には新しい『希望』が必要なんですよ」
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(0)「それが……宇宙開拓だと?」
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(0)「ええ! そしてその象徴にこそバイジュウ様がふさわしいのです!」
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(0) 狂気的な瞳を持って麒麟はそう答えた。心の底から仕えるべき存在を見出した信仰者のような振る舞いに、バイジュウはその『魂』のありように怖気を感じてしまった。
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(0) ——こいつ、人としての悪性を極めていると。
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(0)「人々は絶望的な状況にこそ偶像を求める! 良き偶像であれ悪き偶像であれ……!」
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(0)「ですが華雲宮城に宇宙開拓するような技術はないでしょう」
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(0)「ところがどっこい。既にその糸筋はあるのですよ」
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(0) そういうと麒麟は指を弾いて鳴らすと「失礼します」という言葉と共に朱雀が再び入室してきた。
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(0)「これは……!?」
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(0)「ええ。『Ocean Spiral』に移送された隕石型のEX級異質物と類似した隕石ですよ」
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(0)「……あなた本当にフリーメイソンなのですね」
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(0) 麒麟が口にした『移送された隕石型のEX級異質物』というSID以外では知る由のない言葉で、バイジュウは『魂』でも理性的な面でも確信した。本当にこの麒麟という人物はフリーメイソンの一員なのだと。
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(0)「……だとしてもこんな無遠慮な方法で交渉する時点で私からの答えは変わりません。ここがフリーメイソンの領地だというのなら、多少手荒になりますが今ここで……」
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(0)「でしょうね。ですから、貴方には拒否権も自由意志も放棄させていただきます」
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(0)「なに、を……っ?」
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(0) すると途端にバイジュウは眩暈を覚えた。それを知覚すると同時に足元もおぼつかなくなって膝から身体が床に倒れてしまう。
(0) 呼吸をしようとすると浅くなって肺が苦しい。指を動かそうとすると鉛がついたように重くて仕方がない。
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(0) そこでようやくバイジュウは理解した。『毒』を盛られたと——。
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(0)「貴方は無意識下で警戒を緩める部分があることを自覚していましたか? 普通なら警戒するはずの敵地で貴方は何の警戒もなく飲み物を口にした。そのせいで今貴方は倒れているのです」
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(0)「……っ」
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(0)「おっと顔の神経も麻痺してきましたか。ではお見せしましょう」
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(0) すると麒麟は本当に可哀想な子供を見るような優して哀れ身を持った瞳でバイジュウが口にしたカップを持ち上げ、その中身を丁寧にバイジュウの視線へと合わせて見せてきた。
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(0) その液体の色は白い。白くて仄かに温かみを保ったバイジュウの好んで飲む物。それは——。
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(0)「ご覧のとおり『ミルク』ですよ、ホットミルク。あなたの親友が持っていたコードネームの由来となる物。貴方はこれを前にすると、無意識に警戒心を緩めてしまう習性がある……お気づきでしたか?」
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(0)「が……っ!」
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(0)「まあ貴方からすれば警戒したくありませんよね。親友と同じ名前の飲み物……これを疑ったら、親友さえも疑うような感覚が少しでも抱いてしまう気がする……そんな些細な人間的な部分が貴方の弱点だ」
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(0) そういうと麒麟は忌々しい物を見るような目つきでカップに残るミルクを睨みつけ、それをカップごとバイジュウの前へと叩きつけてその中身と破片を散乱とさせた。
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(0)「ミルクとさえ合わなければ貴方は純粋無垢なままでいられた。人から離れた知識を持ち、人から離れた。すべてが人並みから離れた選ばれた人間だけが歩める道筋があったというのに……っ!」
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(0) その瞳には『陰陽』で言うところの『陰』——つまりは『マイナス』という感情を凝縮したものを内包していた。
(0) そこでバイジュウはようやく気づく。麒麟という存在の『魂』のあり方を。
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(0) ——これはまさか、彼女自身が——。
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(0)「貴方の極上の資質を穢したミルクを私は許せない。貴方に人間性を芽生えさせたあの女を許せない。バイジュウ様は華雲宮城にとってこれ以上とない唯一無二の存在……それをあの女は穢した! 腐らせた! たかが成り上がりの秀才なだけなくせにっ!!」
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(0)「——ッ」
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(0) それはバイジュウの逆鱗に触れた。常に冷静であろうとする理性ではどうしようもないほどに心が激ってしまう。
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(0) ミルクが私を穢した——? 腐らせた——?
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(0)「そ、れ……以上っ!!」
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(0) そんなわけがない。むしろ逆だ。バイジュウにとってミルクとはかけがえの無い存在だ。
(0) 彼女がいなければバイジュウの人生に色がつくことはなかった。ただただ深海の底で呼吸をするだけの暗くて変化のない生活を送り続けただろう。それが幸せか不幸かも考えることなく漫然と生き続けただろう。
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(0) あの笑顔に何度も心が温かくなった。
(0) あの笑顔に何度も心が和ませてくれた。
(0) あの笑顔に何度も心が救われた。
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(0) 私にとってミルクは——。私の全部なんだ——。
(0) ミルクがいない世界だなんて、考えられないほどに——。
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(0)「それいじょう! 私のミルクを侮辱するなっ!!」
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(0) 鉄の意思の鋼の強さを持って、バイジュウは無理矢理にでも立ち上がった。
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(0) それはセラエノとの戦いで偶然にも得た『環境適応能力』の発露でもある。
(0) セラエノの『プラネットウィスパー』の影響で強制的に情報の次元を跳ね上げられたバイジュウの生存本能は、それに対応するためにその脳と身体が急速な変化に対応できるようになったのだ。
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(0) つまりは即時に宿る『免疫力』——。それがバイジュウを犯す毒をすべて除去したのだ。
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(0)「それですよ。その烏滸がましい自我……っ! あなたは知識を貪る探求者として、宇宙に行けばよかったのに……っ! あの事件さえなければ……っ! あの女さえバイジュウ様を魅きさえしなければ……っ!!」
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(0) 二人の意思は激突する。両者共に華雲宮城にとって意思の象徴。
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(0) かたや自由意志を持って、自らの意思で華雲宮城の目的に背く。
(0) かたや集合意識の代表として、華雲宮城の目的を遂行しようとする。
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(0)「教育してあげましょう。華雲宮城の情報機関『無形の扉』の代表……その肩書きに恥じない実力をっ!!」
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(0) バイジュウは二刀の銃剣。試作機段階である『ラプラスMk-2』を二双として構えながら心の底でどこか感じていた。
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(0) この人はどこか、私に似ていると——。