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(0)「さて、全員食料、水、地図、応急キット、その他もろもろ…………それにコンパスは万全ね?」
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(0) サモントン都市部の端にて、モリスの盾によって発生する障壁の前でラファエル、ソヤ、セレサ、バイジュウは合流する。
(0) 皆の背には共通して小さな登山でもするかのように容量の大きいリュックサックを背負っており、その中にある缶詰や飲料水、それに白い箱に入った応急処置の一式など万全だ。後は各々の武器となる得物がある。
(0) しかし、その中で誰の手にも『コンパス』と呼ばれる物はない。だが、その中でただ1人だけ不満そうに眉間に皺を寄せている者がいた。
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(0)「…………私の鼻をコンパス呼びしないでもらえます?」
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(0) それはソヤだ。彼女だけが不服そうに頬を膨らませて、ラファエル相手に無意味だと知りながらも可愛げを持って抗議する。
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(0) ラファエルがソヤをコンパス呼びするのは仕方がない。
(0) それもそのはず。『時空位相波動』の中では通信設備は機能せず、磁力が滅茶苦茶になっているからだ。方位磁石は使い物にならないし、スマホの通信関係の機能は全部圏外。そのような状況では文明の利器など役に立ちはしない。
(0) だが匂いはそのままだ。植物の匂いは漂うし、空気が多少重苦しいとはいえ、風自体は問題なく吹いている。このような状況ならソヤの鼻は機能する。犬や豚が地中に埋まっているトリュフを探し当てるように、ソヤの鼻も目指すべき場所へと匂いを辿れるのだ。であれば頼ってしまうのが普通というものなのだ。
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(0)「仕方ないでしょう。太陽だってただ輝くか、輝かないかだけだから、方角の標にはできないし……。100キロも人は真っ直ぐ歩けないんだから、犬の鼻でも頼らないと迷子になるのよ」
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(0)「私はどちらかと言えば猫ですわ! う〜〜!!」
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(0)「唸り声が犬よ」とラファエルはどうでも良さげに言うと「じゃあ、今一度確認するわよ」と号令して、その場にいる皆で円陣を組んで話し始めた。
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(0)「私たち4人は『モントン遺伝子開発会社』に向かう。セレサは主戦闘要員、バイジュウは戦闘補助とデータ収集要員、ソヤは索敵と道案内、私は研究機関の指紋認証、虹彩認証などのセキュリティ全般の解除のために。ここに関して問題はないわね?」
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(0)「不足してる人員はいませんが……やはりラファエルさんはここに残った方がいいのでは? 治療に関しては『治癒石』があれば何とかなりますし、その力を避難者に向けた方が……」
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(0)「さっきも話したけどデックスしか通れない設備があるのよ。今いるデックスは私とガブリエルだけ……。いくら事情が分かってもガブリエルは信頼するにはまだ怪しいから、こうして私が出るしかないんじゃない」
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(0)「それにバイジュウの治療もまだ終わってないでしょ?」とラファエルは言う。そう言われてはバイジュウだって強くは言い返せない。この場において最も足手纏いは未だ万全ではないバイジュウであり、次点で武器がないソヤなのだ。
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(0)「それとソヤには代わりの武器。見つけといたわよ、ノコギリ。しかも多目的で大型」
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(0) そして、ソヤには代わりの武器がラファエルから手渡される。口にしていた通り木材の裁断から鉄パイプの切断まで可能な大型の多目的ノコギリだ。サモントンのホームセンターに売られていた物であり、物資を探す際に何かの役に立つんじゃないかとエージェントが回収していた。
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(0) もちろんホームセンターにはソヤ好みのチェーンソーはあったが、そのすべては電源が入っていないと使えない物だ。中には充電式もあったがバッテリーは電池切れで、電気が通らない『時空位相波動』の中では充電する場所がないので使い物にならないと判断され、こうしてノコギリが選ばれたのだ。
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(0) そのような事情など知ってか知らずか「使いにくいですわ」と不満を垂れるソヤに「じゃあチェーンソーなんか使うじゃないわよ」とまた別の不満をラファエルは口にしながら荷物の確認を終えて、地図を広げて視界の果てにあるであろう場所に向けて告げる。
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(0)「行くわよ——。『モントン遺伝子開発会社』に」
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(0) …………
(0) ……
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(0)「ありがとうございました〜〜。またお越しくださいませ〜〜」
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(0) 課外授業を終えてから一週間経過した。私は依然として毎日の授業を励みながら、社会経験として新豊州商業区のコンビニにてアルバイトに励む。
(0) 働いてる企業は朝から深夜まで幅広くアニメコラボをする『RAMSON』であり、左右非対称の青の縦縞ストライプと紺のツートンデザインが私的にはお気に入りだ。某艦隊擬人化ゲームとのコラボでも話題になることだけはある。
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(0)「宇宙からのメッセージ……『ルーチュシャ方程式』ねぇ……」
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(0) フライヤー商品の解凍作業をしながら、先日の課外授業で耳にした最先端の研究結果である『ルーチュシャ方程式』について思い出す。
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(0) 解読したら、解読しただけ謎を呼ぶ不可思議な情報。
(0) 人類が保有する言語系では到底辿り着けない難解な方式で組み立てられたそれは、日夜父と母の研究欲を刺激して退屈させない。
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(0) それは私も同様であり、あの日以降私は両親の研究経過を毎日聞くのが日課になった。
(0) もちろん研究途中で極秘のものだから、口外できる情報は限られているから根掘り葉掘りとまではいかない。それでも研究者の娘である私にとっては貴重で心惹かれる話なのは変わりない。こうしてバイトの最中でも考えてしまうほどには夢中になっているのだ。
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(0)「やっほー、レンちゃん。バイト頑張ってる?」
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(0) アルバイトする私の前に見覚えのある人物が来店してきた。
(0) 高身長で恵まれたルックス。きめ細やかなピンク髪。それにドギツイほど象徴的な青とオレンジのオッドアイ。
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(0) 地味な私と違ってだいぶ色合いがうるさいのに、それでも美貌が引き立つのは、彼女がその容姿に自信を持ってるが故だろう。
(0) そんな彼女『エミリオ』に私は「いらっしゃいませ」と店員としての挨拶をし、周囲に他の客がいないのを改めて確認してから私語で話し始める。
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(0)「エミが来るってことは今日は月曜日か……」
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(0)「そっ♪ 月曜日は新商品が山盛りだからね。カップ麺も惣菜もサンドイッチやおにぎりも炭酸飲料も。さてさて今日はどんなの……って今回はホットスナックに山賊焼もあるの!? 三つもらっていい?」
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(0)「太るよ〜〜? ホットスナックは軒並みカロリー高いんだから。特に山賊焼は一つ300kcalあるんだよ?」
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(0)「一つは私の可愛いヴィラにだからいいの。それに私って昔からいくら食べても太らないのよ。だったら食べなきゃ損でしょ♪」
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(0)「ラファエルが聞いたら怒るね、それ……。あっ、今置いてる山賊焼は一つしかないし、あと30分もすれば廃棄だから、どうせなら三つとも全部揚げたてにする?」
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(0)「廃棄は出さないのが原則よ。それ含めて四つちょうだい」
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(0)「かしこまりました」と私は注文を受けて、ちょうど解凍作業を終えた山賊焼をフライヤーに入れて調理を始める。当然マニュアルに従って行い、時間にして約6分待つ。その間にレジで予め山賊焼四つ分の入力をして、商品の前出しも兼ねてカゴいっぱいに商品を入れるエミリオの近くに向かった。
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(0) カゴの中身は女子高生とは思えないラインナップだ。どちらかと言えば体育会系なエミリオだと分かっていても、そこにある海老カツサンド、ヒレカツサンド、ハムカツサンド、照り焼きたまごサンドといった見てるだけで満腹になりそうなカロリー豊満なサンドイッチから、爆弾唐揚げ、半熟煮卵、海老マヨなどのおにぎりの数々。
(0) 更にはバラエティ豊富なスパゲティの数々に、お好み焼き+焼きそば+ベーコン山盛りとかいう炭水化物の権化みたいなヤバイ商品さえ見える。
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(0)「……何で生卵いれてるの?」
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(0) そして地味すぎて目立つのは、特に味付けも何もしてない卵が1パックが入ってることだ。
(0) そんな疑問を抱く私に、エミリオは「ふふん♪」と自慢気に鼻を鳴らすと、二つ目のカゴにカップ麺を全種類一個ずつ入れ始めたのだ。
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(0)「最近カップヌードルの汁で茶碗蒸し作るのにハマってるの。特にシーフードが一番いいわね、海鮮茶碗蒸しになって風味豊かでボリュームがあるわよ」
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(0)「本当にいつかデブになるよ……」
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(0) もしくは生活習慣病。そんな私の不安なんて露知らず、エミリオは「これ復刻したんだ〜〜」とトムヤムクンヌードルやスナック菓子のガールおばさんなどを溢れんばかりのカゴにさらに入れていく。お値段はざっと見た限り学生には高い一万を裕に超える。
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(0) 別に金銭面に関しては不安はないだろう。エミリオだってラファエルほどではないが、マサダの政治家の娘さんだ。その特徴的なオッドアイから一度は政治的に不安視されていたが、父の演説と説得、それに伴う確かな実績によってそういう差別的な思想や社会的格差は淘汰されて、彼女はこうしてオッドアイを気にせずに自由に振る舞えている。
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(0) まさに親子だからこそ成せる愛だ。そう考えた時に頭の中で違和感が滲み出す。「本当にそうだったか?」と自分に訴えかけるような強い違和感が。
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(0) …………まただ。一週間前から続く唐突な違和感。
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(0) いったいこれは何なのか。暇さえあれば、ずっと考えたけど未だに答えなんか見つからない。自分の中にいる感情の動きというか流れというか……それが不明瞭で全容が掴めない気持ち悪さだけが残る。
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(0) …………そういえばエミリオには『読心術』があった。だったらエミリオに聞けば、答えまでは聞けなくても何かしらのヒントぐらいは得られる可能性がある。
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(0)「……ねぇ、エミリオ。私が今何を悩んでるか分かる?」
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(0) そう思ってエミリオに話しかけた。
(0) 悩みの主題は出さず、自分の中で漠然とした思いを心の中で抱えながら。
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(0)「ん? 悩んでるって? ダイエットとか恋とかの相談?」
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(0)「こ、恋じゃない! 私だってそりゃ彼氏欲しいとは思うけど、今はそういうのじゃなくて……」
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(0) 心の中で自分がどういう感じなのかをより強くして訴えてみる。
(0) 私は今、何とも言えない違和感を抱いている。それをエミリオなら分かってくれるんじゃないかと思ってこうしている。
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(0) だけど心の中で念じても一向にエミリオは反応してくれずに、両手にお菓子の箱を持ちながら怪訝そうにオッドアイで見つめてくるだけ。
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(0)「ほら、エミリオって『読心術』があるでしょ? それで私の悩みが深く分からないかなぁ〜〜って」
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(0)「はぁ? 読心術? なにそれ? 私、そんなのできないわよ?」
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(0) …………それを聞いて私は心の中で絶句した。
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(0) いやいや、そんなはずがない。エミリオはいつだって私の心を見透かし揶揄ってくるような姉貴肌にして性根が悪い性格だ。私を揶揄い、ラファエルを手玉に取り、ヴィラを褒め殺すようなすごい良い意味で性根が悪い。
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(0) そんな特徴を忘れるはずがない。ましてや勘違いだってことで済ますこともできない。
(0) それはラファエルが毒を吐かない、ハインリッヒが露出狂じゃない、マリルが穏やかで優しい性格をしているのと同じくらいあり得ないことなんだ。
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(0)「心を読む、なんてことはとても難しいことよ。完全に読むなんて尚更ね。そんなことできるのはアニメや漫画みたいな世界だけよ。いくら現代が異質物で近未来化してるとはいえ、人の心や思考だけは一定のまま進化するんだから」
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(0) マジだ。マジでエミリオは言っている。エミリオの表情は本人の明るさもあるが、主張が強いオッドアイの影響もあって表情が特徴的で嘘をついてるかどうか程度はすぐに分かる。本当の本気で言っている。私は読心術なんて使えないと。
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(0) やっと確信した。この違和感は欠片でしかないんだ。私が抱いてる違和感なんて、もっと決定的に『狂ってる』部分のほんの一欠片でしかない。私が抱いている違和感なんて、それに比べたら些細なことなんだ。
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(0) なら、何が『狂ってる』んだ——。
(0) もっと根本的などこかが『狂ってる』んだ——。
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(0) だとしたら狂ってるのは——。
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(0) 世界か——。自分か——。
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(0) 分からない。ここがどこか分からない。
(0) ここは本当に……私が知っている場所なのか?
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(0) ……
(0) …………
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(0)「無事着いたわね。『モントン遺伝子開発会社』に」
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(0)「やっとですわ……。ここまで来るのに長い二日間でしたわ……! 道に迷った際は地図と照らし合わせて水脈や杉の匂いを辿っておおよその場所を把握したり、野宿する際は『ドール』に襲われぬように私だけはショートスリープでの交代……他にも食料節約のために、野に生えるキノコが食べれるかどうか確認したり……私の苦労は半端じゃなかったですわ……!」
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(0)「地味すぎてアニメや漫画ならカット間違いなしだけどね」
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(0) セレサの言葉に「自分自身でもそう思いますわ」とソヤは認め、皆はたどり着いた施設を見上げる。
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(0) そこは目的地である『モントン遺伝子開発会社』の正門前——。
(0) 正門には取手も鍵穴もない分厚い防弾性と腐蝕耐性が極めて高い金属の扉があり、それは関係者の遺伝子情報がないと開閉できない厳重な物だ。
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(0) それだけでも防犯性は非常に優れているのに、見上げれば夜でも問題なく来訪者の顔や身長を測れる高性能赤外線カメラがあり、もしものことが会ってもいいように発泡もできる簡易的な機関銃が備え付けているほどに徹底的だ。宗教思想が根強いサモントンにおいて、これほど厳重で近代的な防犯システムはとてもじゃないが似つかわしくない。
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(0)「……思ったのですが、電気が止められてる今なら別にセキュリティを気にする必要がないのでは?」
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(0) バイジュウの言うことは正しい。現在サモントンは『時空位相波動』の中に閉じ込められて発電施設は機能を停止している。それは『モントン遺伝子開発会社』も例外ではなく、正門前の防犯システムはその全てが機能停止している。
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(0) だがラファエルは複雑そうな心境でため息を吐きながら「そういうわけにもいかないの」と正門を越え、内部に侵入しようと足を進めた時、バイジュウの視界に不思議な物が止まった。
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(0)「蔦の扉……?」
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(0) それは一言一句間違えのない、まさに『蔦の扉』としか言えない物だった。
(0) 研究所を象る鉄鋼材の壁や床に苔生した蔦が這い回り、それが扉でも形成するように絡み合ってバイジュウの道を塞ぐ。
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(0) 邪魔だと感じてバイジュウは、その手に握るラプラスで一閃を蔦へと入れる。見事に切れたが、人間の骨でもあるかのように、瞬時に蔦はより硬く、より太く生え変わり、攻撃してきたバイジュウに敵対意識を見せるように、その蔦を鞭のように奮って威嚇してきた。
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(0)「普通の蔦じゃない……。再生速度が早すぎるし、過剰なほどに防衛反応が強い……。これは遺伝子操作されたもの……?」
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(0)「そうよ。これが『モントン遺伝子開発会社』の研究成果の一つでもある『バイオセキュリティ』よ。一般的な意味からは離れてはいるけど、新豊州と違って発電所が多く設置できないから、こういう災害時で働くセキュリティをサモントンは求めたの。その結果がこれってわけ」
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(0)「なるほど……。ではここのセキュリティは、エネルギーに依存しない植物が本来持つ機能をセキュリティにしてるわけですね……」
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(0)「その通り。サボテンが花を咲かせる時期があるように、あるいは特定の植物を組み合わせたら麻薬と似た効果を出したりするように、ここのセキュリティは植物などの生体の防衛本能や化学反応などを利用した物なのよ。だから遺伝子操作で都合のいい防衛機能を持った植物もあるから、生体情報によるパスワードが必要なの」
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(0) ラファエルはそう言いながら蔦に手を絡ませると、蔦は迎え入れるように蔦の扉を解かせて内部への道を開かせた。
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(0)「もちろん遺伝子操作で耐熱性とかに関しては対策済みよ。だから天然要塞の計画も上手くいけば確かに成立するとは思うけど…………あっ、ソヤ。そこの植物は踏まないようにね。それは食中植物みたいな物だけど、毒性は人間の運動神経を麻痺させるほど強力だから」
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(0)「うひっ!? それは早く言ってくださいませっ!?」
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(0)「あっと、上の蔦は掴まないようにねぇ〜〜。掴んだら条件反射で絡んで来て宙吊りにしようとしてくるから。腕の一本くらい簡単に折られるよ〜〜?」
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(0) 今度はセレサがソヤを揶揄い、揶揄われた本人は「悍ましいシステムですわ」と珍しく冷や汗を出しながら腕や足の動きを小さくして改めて進み始める。
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(0)「ソヤさん、サモントン出身なのに知らなかったんですね……」
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(0)「私は基本は修道院所属ですわ! こんなのとは無縁ですわ!」
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(0)「にしては怖がりすぎでは……?」
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(0)「植物は『本能』しかないのですから、私の『共感覚』による匂いが全く判別不能ですの……。殺意がないのに、殺されそうになる感覚って中々に怖いですのよ?」
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(0)「まあ、まだまだ完璧じゃないから正門前みたいにセキュリティを共有してる状況だけどね。そういうのは植物が持つ生体電気と合併させているから、独立した電源となってこういう状況下でも機能するわ」
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(0)「例えばこういうのとか」と言って、今度は未だに機能する指紋認証装置へと指を入れた。そうすると花で覆われた扉は萎み、人一人分が通れる通路への道が開ける。
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(0)「すごいですね……。これを発展させれば非常時でも心強いセキュリティになります……」
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(0)「こんなの『黒糸病』が蔓延してないサモントンだからできる欠陥セキュリティよ。何で、こんな物をお祖父様は好んで使うのか……私には理解し難いわ」
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(0) いや、逆に言えば『非常時でも守らなければいけない情報』がここにある事の裏返しではないかと、バイジュウはラファエルの言葉から感じた。
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(0) どんな状況下でも守らないといけない感じるほどに、重要な情報が『モントン遺伝子開発会社』には眠っていると。
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(0)「これね。お祖父様の研究資料は……」
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(0) 通路の先にて、最深部であるデックス博士専用の研究室へと足を運ぶ。
(0) そこには幾重にも積み重ねられた紙の資料や、今は閲覧できないUSBメモリで保管された資料など様々な媒体で情報が記録されていた。
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(0) その中にあるバインダーで閉じられたファイルへと手を伸ばし、ラファエルは数ある資料の中で、なぜか目を惹かれる項目を見つけると手を止めて読み耽った。
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(0)「『魔女の生体』と『五維介質(MEDIUM⁵)』について——」
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