行別ここすき者数
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履歴はこちら。
(0) こんなのあんまりだ。
(0) レベル47? しかもこの周りにいる無数のナメクジが、全部それと同程度のレベル?
(0) 終わってる、詰みだ。
(0)
(0) カリバーを適当にぶん投げて、ハリツムリに突撃したくなってきた。
(0) 多分あの大きさに踏みつぶされたら一発で死ねると思うし、どうせなら苦しむ前に終わらせてしまえ。 なんならナメクジ共の酸を頭からかぶれば、ちょっと苦しいだけで済む。
(0)
(0) ナメクジが鎌首をもたげ、喉が脈打った。
(0) 気分は絞首台を前にして、すべてを諦めた死刑囚。
(0) ほら、前に進め。一直線上に飛んでくるであろう粘液を受ければ、私は簡単に……
(0) 心はそういって諦めてしまいたいのに。
(0)
(0)「……っ!」
(0)
(0) 気が付けば身体は勝手に動いて、いつも通りカリバーの先に粘液を絡めとっていた。
(0)
(0) まだだ。
(0) 私はまだ戦える。
(0) 走って、息をして、飛び回れる。
(0)
(0) 冷静に考えれば、この状況を上手く使う事で逆に、勝利への道が開けたのかもしれない。
(0) 深く呼吸。
(0) 酸素をしっかりと取り入れて、大してよろしくない頭を上手く回転させる。
(0)
(0) レベルは上がっていても、対処方法は変わらないはずだ。
(0) いつも通り粘液で顔面を張り倒して、酸で死ぬのを待つ。
(0) 『ストライク』はこのまま温存だ、どうせこいつらには打撃が全く効かない。
(0) それにMPが切れてしまえば直接的な殴打しか攻撃手段がなく、そうなれば高いHPと耐久を誇るハリツムリを倒すのはほぼ不可能。
(0)
(0)「『ステップ』!」
(0)
(0) 前後左右から襲い掛かる粘液弾、その間隙を縫ってナメクジたちに接近。
(0) 確実に顔へ叩きつけ、即座に離脱。
(0)
(0)―――――――――――――――
(0)
(0)種族 メタルホイールスネイル
(0)名前 クレイス
(0)LV 60
(0)
(0)HP 1358/1360 MP 407/557
(0)
(0)―――――――――――――――
(0)
(0) 叫びでどれだけ変わるかと思ったハリツムリの動きは、相変わらずちんたらとどんくさい。
(0) 人間でいうなら召喚士。本体の棘はあくまで飾りで、メインの攻撃手段は大量に呼び出したナメクジによる圧殺かな。
(0) 注目するべきはMPが相当減っていること、ナメクジを呼ぶのもノーコストというわけにはいかないようだ。
(0) 使えて後二回、それさえ乗り越えればあとはデカい的だろう。
(0)
(0) そしてこの呼んでくれたナメクジ、使わないわけにはいかない。
(0)
(0) カリバーを溶かしてしまうほどの強烈な酸だ、きっとあいつの針にもよく効くだろう。
(0) さばききれない数のナメクジはこちらで処理しつつ、ヘイトを稼いでハリツムリを盾にする。
(0)
(0)「そりゃっ! 『ステップ』!」
(0)
(0) 蹴る、カリバーで顔を殴る、蹴る。
(0) 私の背後には見慣れた、自身の酸にもだえ苦しむピンクな奴ら。
(0) いくらレベルが変わろうと多少耐えられる時間が延びるだけで、基本的な体の構造は変わらないのはモンスターも同じだ。
(0)
(0) 外周を全力で駆け抜け、酸を擦り付けるのとヘイトを稼ぐのを半々で行っていく。
(0)
(0)『レベルが上昇しました』
(0)
(0) 背後から薄い光が立ち上ったかと思えば、レベルが上昇した。
(0) 流石トンボ以上の高レベルに、ボスが呼び寄せたナメクジなだけはある。
(0) 今は『ストライク』を使う必要がないので、『経験値上昇』に『スキル累乗』を重ねているおかげでもあるだろう。
(0)
(0) 数えて行けばジャスト五十匹、これがハリツムリの一度に呼べるナメクジの数か。
(0)
(0) 全身に無数の針が生えているハリツムリだが、つるつると硬質な殻には大きな針が点々と着いているのみ。
(0) 動きも遅い、ならばすることは一つ。
(0)
(0)「よっ……こいしょっ!」
(0)
(0) 足をかけ、よじ登る。
(0)
(0) ナメクジは円周上にまんべんなく存在しているが、ど真ん中にいるハリツムリの巨体に遮られ、私の姿を見失う可能性があった。
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(0) できる限り多くの粘液をぶつける方が討伐の成功率は上がるし、それなら丁度いい櫓としてついでに働いてもらおう。
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(0)「おらーかかってこい! 私はここだぞー!」
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(0) どうせ言葉は通じないが、適当に手でメガホンを作りカリバーを振り回す。
(0)
(0) にょきっと地面から伸びるナメクジの目線が、私の全身へ突き刺さった。
(0) 蠢き、さざめき、一斉に脈動しだすピンクの肉塊共。
(0)
(0) そうだ、よく私を狙えよ。
(0) 絶対に外すな……!
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(0) 高台にいるからだろう、普段よりナメクジたちの揺れも、そして溜めも長い。
(0) メトロノームの様に上下へ揺れていた頭が次第に大きく、力強いものへと変わっていく。
(0) 上、下……上。
(0)
(0) コポ……
(0)
(0)「……!」
(0)
(0) 本当に小さく、何かが湧きだすような音が重なる。
(0) その瞬間私は身を空中へ放り投げ、ハリツムリの身体から離れていた。
(0)
(0) 風に舞う前髪、その数センチ先を粘液が掠める。
(0) 刹那、無数の粘液たちが私のいた場所へ殺到、そして合体、巨大な塊となってその下へ落下した。
(0) そのまま軽く後転してエネルギーを分散しつつ着地。
(0)
(0) 立ち上がる白煙、一瞬の静寂。
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(0)
(0)『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!?』
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(0)「『鑑定』」
(0)
(0)――――――――――――――――
(0)
(0)種族 メタルホイールスネイル
(0)名前 クレイス
(0)LV 60
(0)
(0)HP 843/1360 MP 407/557
(0)
(0)――――――――――――――――
(0)
(0) 蒼穹へ絶叫するハリツムリ。
(0) 背中に生えていた巨大な針がでろりと溶け、痛みに引き攣った皮膚が全身の針をピン、と立たせる。
(0) ツン、と生えていた目はぐるぐると弧を描き、その苦しみから逃れようと暴れまわっていた。
(0)
(0) へへ、ざまあみろ。
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(0)『合計、レベルが7上昇しました』
(0)
(0) ついでに近くにいたナメクジたちにも粘液が降りかかり、哀れにも一瞬で絶命した。
(0) もう背中は粘液まみれなのでこの作戦は使えないが、たった一度でHPの四割ほどを一気に削り、その上酸のおかげで継続ダメージも期待できる。
(0)
(0) 勝機が見えてきた。
(0)
(0) もし紙ぺら一枚程度の時間飛び出すのが遅れていたら、私もあそこの仲間入りをしていたのだろう。
(0) 無意識のうちに震えていた手が、カタカタとカリバーを揺らす。
(0) 後頭部が熱い。緊張と興奮、そして間近に迫った死が私を撫で、意識を沸騰させようと笑いかけている。
(0)
(0) 震える手で希望の実を口に放り込み、吐くほどのまずさでむりやり意識を冷静に保つ。
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(0) 大丈夫だ、いける。
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(0) 痛みから逃げるためにか、殻の中へと全身をねじ込むハリツムリを正面に、私は希望を飲み込んだ。