行別ここすき者数
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履歴はこちら。
(0) 朝。
(0) 一杯の水を飲み、希望の実を食べようとリュックを漁って……
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(0)「あ……」
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(0) 昨日の夜最後の一つも食べてしまったのだと思い出した。
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(0) 思えばこの一か月間、私の探索者ライフは希望の実から始まって、希望の実に支えられてきたといっても過言ではない。
(0) 心の支えとしても食べていたし、単純に貴重な栄養源としても食べてきた。
(0) 普通の人のガムだとかたばこみたいなもので、とりあえず口に含む生活を送ってきた結果……
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(0)「うあー……取りに行くか」
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(0) 若干依存みたいなものが入っていた。
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(0) いや勿論希望の実に依存性などは確認されていない。第一依存性なぞあったら、次遭難したら食べずに死を選ぶなんて言われないし、そのおぞましい不味さをどうにかする手段も確立されているはず。
(0) しかし一か月食べることがルーチンワークだったせいで、こうやってなくなってしまえば極度の不安に襲われてしまうのだ。
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(0) 現状私が知っているダンジョンは三か所。
(0) 花咲、麗しの湿地、そしてトラウマを克服した落葉だ。
(0) しかし麗しの湿地に落ちている奴はちょっと食べたくないし、落葉に行くなら希望の実よりも、魔石を優先的に詰め込みたい。
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(0) となれば答えは一つ、花咲ダンジョンに向かおう。
(0) リュックに入っていた着替えをポイポイと抜き、空っぽに。
(0) たっぷり採取して、今後も切らさないようにするのだ。
(0) そして最後、カリバーを一応突き刺して、協会のプレートだけ首に垂らして準備完了。希望の実をたくさん食べるための採取という、恐らくこの世の中に私以外存在しえない特異な存在が誕生した。
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(0)◇
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(0) 壊れかけの扉をがたがたと鳴らし、どうにか件の店へ入る。
(0) 中には一人の男が、ライトの元のんびりと本を開きつつ、茶菓子をつまんでいた。
(0) ここに来たのは他でもない、ポーションを買うため。
(0) 勿論花咲ダンジョンで希望の実狩りもするが、どうせなら一緒にポーションも買ってしまった方がいいだろう。
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(0)「やあお嬢ちゃん、お使いかな? スーパーならここから……」
(0)「ん」
(0)「ほう……既に預金へ加入、か。ごめんよ、注文は?」
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(0) 早い切り替えだ、楽でいい。
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(0) ここの店主だという眼鏡をかけた茶髪の青年、古手川さんがにっこりとほほ笑む。
(0) 筋肉に聞いた店はもはや店という体を成しておらず、ただのボロイ民家であった。
(0) なるほど、確かにこれなら知らなければ店に入ってくることもないだろう。
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(0) しかし安全という点ではどうなのか、泥棒に入られたら根こそぎ持っていかれそうだ。
(0) そう聞けば古手川さんは笑みを浮かべ、聞きたいかい? と囁く。まあ当然ダンジョンを牛耳っている協会が絡んでいるのに、何も準備していないわけがなかった。
(0) 別に興味もないので断り、店内の物色を行う。
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(0) 見たことのないモンスターのドロップアイテムや、使いにくそうな武器、そしていくつかの指輪。
(0) 透明な冷蔵庫の中には赤い液体、ポーションの類が当然完備されている。
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(0) はて、ポーションは冷やさないといけないのか。
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(0) 私の告げた疑問へ、古手川さんは眼鏡をきらりと輝かせ、その必要はないと告げる。
(0) 見た目がそっちの方がいい、僕銭湯に売られてるコーヒー牛乳が好きなんだよねとドヤ顔。
(0) どうでもいいこだわりだ。協会はこんな奴に重要そうな店を任せていいのか、予算無駄に使われてるぞ。
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(0) 経営は適当だが品ぞろえ自体はよく、見たことがないほど濃い色のポーションもたっぷり完備されている。
(0) ほとんどはダンジョンで買い取ったものだが、時折研究室の方から人工的に作られたものも卸されるそう。
(0) 前回のポーションは粗悪品だったらしいが、それでも効果は確か。なければ今の私はいなかっただろうし、今回は奮発して五十万するのを一本だけ買った。
(0) 名をドラゴンブラッド、上等な深紅。光に翳せば魔力が多いのか、反対側へ通さないほど濃いのに、不思議ときらきら輝いている。
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(0)「ありがと」
(0)「これからもごひいきに、ね」
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(0) 突然両目を何度も瞬かせる古手川さん。
(0) 何がしたいのかと思えばウィンクか、出来てないけど。
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(0)◇
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(0) 小さな金属製の扉。
(0) これを潜り抜ければ、あの花咲ダンジョンになる。
(0) 不思議な気持ちだ。
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(0) 初めてここへ潜ったときは何も知らず、ただ必死にスライムを殴ってばかりいた。
(0) 今も殴ってばかりな気がするが、身を取り巻く環境も、そして経済状況も随分と良くなった。
(0) そして今度は生きるためではなく、趣味(?)の希望の実を集めるためにここへ訪れることになるとは、卒業だと頭を下げたあの時の私には想像もつかないだろう。
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(0) そうだ、先生にも会いに行こう。
(0) ヒットアンドアウェイ、ソロ戦闘のイロハを教えてくれた壁な彼。
(0) お腹をぶん殴られたときはあまりの激痛に視界がチカチカしたが、今ならまた話は別。きっと直撃を受けても、ちょっと痛いな程度で済んでしまうだろう。
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(0) 小さな吐息、ひんやりと冷たいドアノブへ手を伸ばし……
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(0)「ダメですよ! 小さい子はダンジョンに入るなんて、危ないですからね!」
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(0) 脇の下からひょいと抱き上げられ、遠ざかるドアノブ。
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(0) また面倒そうなやつが来た気がするが、持ち上げられてしまっては仕方がない。
(0) 後ろを振り向くと一人の女が、にこにこと何が面白いの笑顔を浮かべていた。
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(0)「誰?」
(0)「あたしですか? あたしは泉都琉希 です! 琉希お姉ちゃんと呼んでもいいですよ!」
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(0) 離せと伝えれば、割とあっさり地面へ戻された。
(0) しかしダンジョンに入ろうとするたび道をふさがれ、危険だから駄目です! と目の前でバッテン。
(0) ウニがさらにめんどくさくなったような性格だ、一応私の心配をしているようではあるが。
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(0) 琉希は学費を払うために今日からダンジョンへ挑むつもりだと、胸を張ってプレートを見せつけてきた。
(0) ちなみに十五歳らしい、タメじゃないか。
(0) 恐らく人当たりがよさそうとでもいうのだろう、そういった雰囲気をまとっている。
(0) 足元へ乱雑に置かれた小型のチェーンソーがなければ。武器になるものを探して倉庫を漁っていたら、偶然見つけたらしい。
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(0) お前まさか、それでダンジョン潜る気か。