行別ここすき者数
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(0)これで無事全部移動完了です
(0)ありがとうございました
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(0)「今日行くダンジョンだけど……」
(0)「あ、ちょっとその前に良いですか?」
(0)「なに?」
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(0) きりりとした琉希の顔。
(0) にやけがない、一体何が彼女をそんな顔にしたのか。
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(0)◇
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(0)「髪型はいかがなさいますかぁ?」
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(0) 茶髪を緩く巻いたお姉さんが、私の髪を弄って甘ったるい声で話す。
(0) 目の前には巨大な鏡、そして普段より輪をかけて固まった私の顔。
(0) 何もかもが暖色で構成された部屋……というより街にある美容院だ、ほかにも若い女性が何人か座って、あれこれ談笑しつつ髪の手入れをしている。
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(0) どうして私はこんな場所にいるんだろう。
(0) 今までまともに関わったことのない場所にいるので、全身が凄いむずむずする。
(0) 髪なんて適当に肩から上で切っていたので、髪型をどうするかなんて言われたところで、適当にしろとしか言えない。
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(0) しかし初対面の相手、そう気軽に話すのも気が引ける。
(0) どうしよう……逃げたい、帰りたい、ダンジョンいきたい、希望の実食べたい。
(0) 何なのだこれは、どうすればいいのだ。
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(0) どうしたらいいか分からなくなったので、ここへ連れてきた本人へ救援要請。
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(0)「りゅ、琉希……!」
(0)「フォリアちゃん可愛いんですけど、こう、髪とかあんまり手入れしていないのが気になっていたんですよね! この機に色々やっちゃおうかなって!」
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(0) 後ろから一応返ってきたが、返答が返答になっていない。
(0) くそっ、前も横もニコニコニコニコした奴らに囲まれていて、逃げ道がない。
(0) なんでこいつらこんなに笑顔を貼り付けているんだ、普通の表情はどこに置いてきたんだ。今すぐ私が嵌めなおしてやる。
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(0) 他人へ無防備に首筋を晒すのが、こんなにも不安になるとは思ってもいなかった。
(0) 手癖なのか知らないが、櫛で何度も襟足を梳かれるたびにこそばゆさと恐怖が交互に訪れ、一秒たりとも落ち着けない。
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(0)「髪質は細くて柔らかいのでぇ……してー……トリートメントをー……」
(0)「ウッス……ウッス……」
(0)「あっ、それならカールさせて……ーを……」
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(0) 何言ってるかさっぱりわからん。
(0) ニコニコともはや私は置き去り、琉希と美容師の激しい舌戦が頭上で繰り広げられる。
(0) 下手したら苦手な数学よりも分からない、あーあー、もう少し日本語でしゃべってくれ。
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(0) 硬く目を閉じ、すべて放り投げて椅子へ身を沈める。
(0) 確かにおしゃれはしたいと以前考えていたが、こうも複雑怪奇だとお手上げだ。
(0) もう知らん、お金は払うからあとは全部任せた。
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(0)◇
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(0)「すっごい可愛いですよ!」
(0)「そ、そう?」
(0)「ええ、ええ!」
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(0) パチパチパチとテンション高く拍手、ゆるく巻かれた私の髪。
(0) 髪を洗ったりトリートメントをかけたり……あれこれやっていたらしいのだが、気が付けば既に三時間以上経過していた。
(0) その上その店専売のシャンプーだのトリートメントだのを買わないかと勧められ、よく分からないまま買ってしまった。
(0) もしかして私はいいカモ扱いされたのでは、と気づいたときにはもう遅く、紙袋片手に美容院の前で茫然。
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(0) 怒涛の勢いであれこれと押し付けられ、何を言っていたのか半分……いや、四分の一も理解できなかった。
(0) 取り敢えずそれらは全部、空にしていた『アイテムボックス』へ放り込む。
(0) 髪質は一日二日で改善するものでないし、毎日使ってくれなどと言われた気がするので、一応今日から使ってみようとは思う。
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(0) はあ、疲れた。
(0) 美容師との会話は楽しくもあったが、なんか物凄いあれこれ喋ってくるし、なぜそこまで話すことがあるんだとこちらが聞きたくなるくらい、次から次へと話題が飛び出て目まぐるしい。
(0) 舌噛まないのだろうか、口の中にばねでも仕込んでいるんじゃないか?
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(0) 近くのハンバーガーショップに入り適当に注文、ポテトを食べながらジュースを吸い込む。
(0) うまい。
(0) ポテトが香ばしいのは、揚げ油にラードを使っているからだろう。
(0) 壁に貼ってあった紙にそう書いてあるので間違いない。
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(0)「ふぃー……、それでダンジョンなんだけど」
(0)「次はですねー、服を買いに行きましょう!」
(0)「ま、まだ行くの……!?」
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(0) 終わらない店巡り、一体何が彼女をそこまで駆り立てるのか。
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(0)「何言ってるんですか! コンビニの服ローテなんて、十五の女の子がする生活じゃありませんよ! もっとかわいい服着て、楽しいことしましょうって!」
(0)「い、いや……よく分かんないし……」
(0)「じゃあ私が教えてあげます! なんならお金は私から出しますから!」
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(0) 金を出すから一緒に行こうだなんて、まるで私がヒモみたいじゃないか。
(0) いやお金は私もあるからそんな気にしなくていいのだが、ダンジョン……まあいいか。
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(0) 分厚いハンバーガーを一口、うまい。
(0) 横目で琉希とちらりと見れば、彼女も笑顔でエビバーガーに食いついていた。
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(0) なぜ私なんかに構うんだろう。
(0) 無口だし、自分でいうのもあれだが態度も素っ気ないし。
(0) 人当たりのいい彼女だからきっと友人も多いだろう、わざわざ私とつるむ必要がないだろうに。
(0) 最初は何か企んでいるのかと思いきや、多分大体の行動をそこまで考えてやっているようにも思えない。
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(0) 全くもって理解できない。
(0) まだクロの方が考えを理解できる気がする、どれもこれもが突拍子もなさすぎる。
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(0)「なに笑ってるんですか?」
(0)「……別に」
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(0) ……別に笑ってなんかいない。
(0) ただ顔が、そういう風に見えただけだろう。