行別ここすき者数
小説本体の文章上でダブルクリックするとボタンが表示され、1行につき10回まで「ここすき」投票ができます。
履歴はこちら。
(0) こんな小さな貴族の屋敷に世界を変えてしまう程の魔道具があるのか、それすらも信じがたいわ。
(0)
(0) 頼まれた他の貴族からはオークション品として出され、何でも四億エリスの値段が付いたとか……ま、本体を見れば分かるはず。
(0)
(0) 侵入も簡単に出来た。警報も鳴っていない。後は【潜伏】スキルを使ってやればいい。魔道監視カメラに映らない死角も調べてきている。
(0)
(0) 数分もかからずに目的の金庫前まで到着し、早速【解錠】スキルを始める。今時の金庫ではなく古くさい物ね、ちょっと時間がかかるかも……
(0)
(0) 「ん?」
(0)
(0) 気配を感じる。この部屋に監視カメラはないザル警備のはずだったけど……右を振り返っても左を振り返っても何もない。
(0)
(0)【敵探知】スキルであぶり出す。本当に僅かな反応を確かに捉え正確にナイフを投げつける。天井から落ちてきたのはコウモリのような、カメラのような変わった魔道具だった。
(0)
(0) 「もしかしてこれかしら?」
(0)
(0) しかし、監視カメラならば警報などが鳴っていてもおかしくない。ということは個人の物……依頼主にはめられた可能性もなくはない。
(0)
(0) 「他のお宝も頂く予定だったけど、逃げるが吉ね」
(0)
(0) 再び潜伏し移動を始める。廊下を走り、衛兵に見つからないように移動しているとーー
(0)
(0) 『この辺りから反応ありだな……』
(0)
(0) 男の声。この先にいる。内容から聞くに向こうも探知スキルを持っているようね。
(0)
(0) 小窓から飛び出し二階から一階に移る。がーー
(0)
(0) 「見事に引っ掛かったな、怪盗」
(0)
(0) 道を塞ぐように帽子を被る男。しかも先程の声と酷似して……いや、全く同じ。声まねが【宴会芸スキル】としてあると聞いたことはあるけれど、再現度が高すぎる。
(0)
(0) 何よりーー好んで宴会芸スキルを得るなんて、冒険者をやってる人物でも余程ポイントが余っているか暇なやつくらいしかない。
(0)
(0) 問題は、この暇な奴がそれなりにステータスが高いかもしれないことよ。
(0)
(0) 素早く愛刀のナイフを取り出し戦闘態勢に入る。相手は引っ掛かってしまった私を下に見ているのか武器すら準備しない。ならば隙を突いて逃げた方が速いかしら……
(0)
(0) 「まさか女とはな」
(0)
(0) 「あら、舐めてかかると痛い目見るわよ?美しいものにはトゲがあるっていうじゃない」
(0)
(0) 「んなこと分かってる。さ、物を置いてけ!」
(0)
(0) 男は走りだし、一直線のバカ正直のように拳を放つ。簡単に避けお返しの蹴りを脚に見舞うも倒れない。
(0)
(0) 「結構鍛えてるのね」
(0)
(0) 「ったりめーだ」
(0)
(0) 相手は丸腰、こちらはナイフ。にも関わらず恐れずに立ち向かってくる。根性はあるみたいね。
(0)
(0) 「それだけじゃやっていけないわよ」
(0)
(0) 不適な笑みを浮かべナイフを振り下ろす。が、殺すつもりはもちろんない。どんな鈍感でも避けれる攻撃だし、返り血がつくのも嫌だからーー
(0)
(0) 自分の予想に反し、男は肩でナイフを受け止めた。体重が乗ったショルダータックルを喰らってしまい吹き飛ばされ、胸元からしまっていた目的の盗品が飛び出す。
(0)
(0) 血が滲み出る肩を止血し、男は身を壁に預けながら歩き出す。こちらも相応の威力にすぐには立てなかった。
(0)
(0) 「強盗と怪盗の違いって知ってるか?」
(0)
(0) 「考えたことないわ……あんたが何を考えてるのかもね。普通避けるでしょ」
(0)
(0) 「だろうな。今の振り下ろし方じゃあ、ろくな傷を負わせられない。狙いは避けた後、崩れた体勢からの追撃だろ。怪盗ってのは美学を持つもんーーっ?!」
(0)
(0) 目的の盗品を確認した途端、一目散に走り始める男。急いで立ち上がり私も走り出す。
(0)
(0) 僅差で先に取ったのは私。しかし、男も負けじと飛び蹴りを放つ。紙一重で避け、逃げに徹することを考えるも追撃が止まらない。
(0)
(0) 影に隠れて飛んでくる右ストレートーーいや、違う!
(0)
(0) 判断が遅れてしまった。迫り来る腕を折り曲げ、エルボーが顎下にヒットする。若干の意識の揺れ……まさか、負ける……?
(0)
(0) 受け身を取れずそのまま崩れ去る。男はそれでも尚、油断しないまま構え直す。
(0)
(0) 「浅い入りだぜ。……おい。おい?大丈夫か?」
(0)
(0) 立ち上がろうとしない私に不用意に近づいてきた男に対し、不意打ちに向こう脛を蹴る。流石に効いたのか、膝から崩れ落ちる男に先程の余裕は見えなかった。続けざまに顔面を蹴る。
(0)
(0) 「甘いのね」
(0)
(0) 演技に見事に騙され、飛ばされた帽子を掴む男。今のうちに、そう思うと同時に衛兵が駆けつける。素早く窓から飛び出した。
(0)
(0) 「ふざけやがって……!」
(0)
(0) 帽子を被り直し、俺は走り始めた。
(0)
(0)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(0)
(0) 一斉に衛兵達が動き出したおかげか、女怪盗ーー否、トレジャーハンターの動きは未だ屋敷を出ていない様子だった。
(0)
(0) 傷口も衣服にべったりくっついちまったおかげで出血は止まった。下手に動くとまた開いちまう。
(0)
(0) 数で探し回る衛兵をよそに、俺はある場所に向かっていた。
(0)
(0) こじ開けるように扉を開くと、月を背景にトレジャーハンターは立っていた。場所は強い風が吹く柵のない屋上だ。
(0)
(0) 「また貴方?ストーカーは嫌われるわよ」
(0)
(0) 「生憎、人を追いかけるのが仕事なもんでな。盗んだ物を渡して貰おうか」
(0)
(0) 「仕事に熱心なのね……嫌いじゃないわよ。ひとつだけ聞かせてちょうだい。どうして私の場所が分かったの?」
(0)
(0) いくら数の力があるといえど、それは実力が同じなら通用するだけであって、埋まらない差がある。それを埋めるために工夫するのが探偵ってもんだ。
(0)
(0) 「俺には優秀なアシスタントがいるんでな。盗品を見てみろ」
(0)
(0) 胸元に隠された盗品を見ると、赤く点滅するものがついていた。
(0)
(0) 「時代遅れにはわかんねぇよな。お前がそれを持っている限り、何をしようともお前がどこで何をしてるのか丸分かりって訳だ。説明すんなら、【探知】のスキル機能を持った道具だ」
(0)
(0) 「……いつ、つけたの?」
(0)
(0) 「お前がナイフで切りつけた後だ。盗品を見てすぐ俺は壁際に身を預け、話しながら自分の脚を使って隠すように発射させた」
(0)
(0) その後すぐに動き出したのは相手のタイミングで動き出させるのを防ぎ、見つかるのを阻止するため……あの間合いなら先に動き出した方が不利になるのは確実だったが、時間がかかれば見つかりやすくなってしまう。
(0)
(0) 「確かにお前は実力者だろうよ。でもこっちだって意地がある。相手の話し方一つでどんな性格なのか、どんな生活を送ってるのか、人間性を見抜く観察力も必要だ」
(0)
(0) 「人を小馬鹿にするような口調。見下す態度。プライドは高め。だからこそ自分が思い描いた風にならないと焦りが生まれる」
(0)
(0) 「尤も、最大の敗因はさっきのところで確実に仕留めなかったこと。強盗は殺してでも奪う。怪盗は殺さずに盗む。いや……殺せない質だろ」
(0)
(0) 「Ms.トレジャーハンター。お前の罪を数えろ!」
(0)
(0) だが負傷を負っていてる状態だ。まともに戦って勝てる確率は低い。使っていないガジェットはスタッグフォンのライブモードのみ……いけるか?
(0)
(0) 「……なかなかやるのね。私はメリッサ。貴方は?」
(0)
(0) 「左翔太郎。探偵だ」
(0)
(0) 「探偵……そう。貴方の推理は半分当たり。だって、私は別に不殺とかそんなのないもの」
(0)
(0) メリッサは走り出し、さっきとは違う容赦のない攻撃が襲いかかる。何とか避けきり距離を取る。また相棒にハーフボイルドって言われちまう。
(0)
(0) 「【ミッドナイトエッジ】!」
(0)
(0) 月明かりしかない真夜中でもはっきりと分かる黒いモヤ。ナイフの刀身に纏わりつくそれは誰がどう見てもまずいものだと感じる。
(0)
(0) 【スタッグ】
(0)
(0) スタッグフォンをライブモードに変形させ暗闇に放つ。メリッサの動きは先程よりも素早さが増し、避けることさえ難しくなってきた。
(0)
(0) 迫り来るナイフに思わず片腕で防御してしまう。切られた痛みよりも痺れるような感覚に襲われ動きが鈍る。
(0)
(0) 「おいかけっこはおしまいよーー」
(0)
(0) 迂回していたスタッグフォンは的確にメリッサの手元に突撃した。弾かれたナイフを見て、俺はすぐさまスパイダーショックのワイヤーを発射、身柄を拘束する。
(0)
(0) しかし、お互いが追い詰められよく見えない景色に気がつかなかった。メリッサに押し出される形で屋上から落ちていく。
(0)
(0) 「動けぇ!」
(0)
(0) 痺れる腕でメリッサを抱きしめ、スパイダーショックから残った少ないワイヤーを発射。それをスタッグフォンの胴体巻き付けると落下速度が緩んだ。ナイフで切られた傷口が更に開き激痛が走る。
(0)
(0) スタッグフォンの踏ん張りもあったおかげか、尻餅程度の落下で済んだ。限界と言わんばかりに地面に寝転がる。
(0)
(0) 「……貴方だけでも助かった筈よ」
(0)
(0) 「罪を憎んで人を憎まず。お前にはちゃんと償って貰わないとなっ?!」
(0)
(0) いつの間にか拘束を抜け出していたメリッサから香水のような物を吹き付けられ両目を抑える。チカチカして周りがよく見えない。
(0)
(0) 「やっぱり、甘いわね」
(0)
(0) そう言い捨てられ、俺はメリッサを取り逃がしてしまった。
(0)
(0)
(0)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(0)
(0)
(0) 翌日。メリッサには逃げられたものの、付近に盗まれた物が落ちており結果的には任務達成になった。加えて活躍が認められたのか、報酬も上乗せされた。
(0)
(0) 「で、それは本当なのかい?」
(0)
(0) 「間違いない。盗まれそうになった物……あれはガイアメモリの強化アダプターだ」
(0)
(0) 依頼人の貴族に尋ねたら本人は何に使うのか本当に知らないようで、手に入れた理由は他に欲しがる奴に高値で売り付けるためらしい。オークションでは4億エリスの値段がついたと言っていた。
(0)
(0) それだけの金額、よっぽど買い取られることはないと思うが……
(0)
(0) 「ここに連れてこられたのは偶然ではなさそうだ」
(0)
(0) 「彼女の痛みを癒す……ガイアメモリのせいで悲しんでる人がいるなら放っておくわけにはいかねぇ」
(0)
(0) 疲れはまだ残っているが、アクアのおかげで怪我と痺れは嘘のように消えた。本格的な調査を始めないとな。
(0)
(0) 「面白そうな話をしてるわね」
(0)
(0) 「お前!なんでここに!」
(0)
(0) 昨日、俺を散々な目に合わせた張本人のメリッサはなに食わぬ顔でギルドに現れた。
(0)
(0) 「扱いは盗賊よ。ギルドに来て何が悪いのよ」
(0)
(0) 「はっ、結局盗めなかったのにでかい顔しやがるな」
(0)
(0) 「……やる気?」
(0)
(0) 「いつでも来いよ。貢献してるかどうか知らねぇけど、俺が泥棒を見逃すかよ」
(0)
(0) 二人の会話を疎らに聞き流しジュースを飲むフィリップ。話を聞く限り、彼女はあえて盗まなかったんだろう。認めている、という解釈でいくなら翔太郎の察しが悪い。
(0)
(0) 事実、周りの反応を見るにこちらを見ながらヒソヒソと何かを話している。盗みをやっているのに捕まらないということは実力者ということだろうし、実際に海外ではサイバー犯罪に関してその犯人を利用して味方にしたりなどをしている。
(0)
(0) ならば、と、一触即発の雰囲気を見兼ね、フィリップは立ち上がる。
(0)
(0) 「メリッサと言ったね。僕はフィリップ、翔太郎と同じ探偵で相棒さ」
(0)
(0) 「あんたも……こっちとは違って落ち着いた雰囲気ね」
(0)
(0) 身を乗り出そうとする翔太郎を抑える。そういうところでハーフボイルドって言われるんだよ。
(0)
(0) 「君は名の馳せたトレジャーハンターらしいじゃないか。どうだろう、情報収集役を担ってくれないかな。そうすれば翔太郎も手出しはしないだろうし」
(0)
(0) 町に関しては他の冒険者などから収集出来る。けれどそれ以外となるとどうも難しくなってくる。
(0)
(0) 僕達が帰る方法だけじゃなく、メモリの可能性まで浮上してきた。まだ確実に信じるとまではいかないが、本格的な協力者としては充分だ。
(0)
(0) 「見返りもなしに大きく出たわね」
(0)
(0) 「知識だけは膨大に抱えていてね。知りたいことがあるならこちらも協力する」
(0)
(0) 難しい表情をするメリッサ。しかし、すぐに顎に手を当て考える。
(0)
(0) 「じゃあ、試しに」
(0)
(0) メリッサはフィリップに耳打ちする。
(0)
(0) 「それは翔太郎に聞くのが早い。猫探しに関しては彼は達人さ」
(0)
(0) さりげなくバカにされたこと、秘密にしたかったのにあっさりと暴露されたことに対し二人は憤った。
(0)
(0) 「割と馬が合うんじゃないかな」
(0)
(0) 「「そんなわけあるか!」」
(0)
(0) 探偵とトレジャーハンター、奇妙な関係が生まれた。