行別ここすき者数
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履歴はこちら。
(0) メリッサとの対決から数日。どうやら俺の活躍がこの町にも伝わってきたようで、ギルドの人から大型新人として期待されている。
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(0) 一匹狼のあいつに認められるなんてよっぽどないようで、逃がしてはしまったものの追い付くのは差程遠い話じゃないかもしれない、今の内に俺と仲良くなっておこうなどと多くの冒険者がすり寄ってきてしまっている。
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(0) おかげで探偵家業も上手く行きそうだと安心はしているが、釈然としない。まず負けてねぇし。
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(0) 「バットショットをダメにしてしまったことに関しては?」
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(0) 「それはしょうがねぇだろ。ダメにつっても写真が撮れなくなった訳じゃないし……」
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(0) あの時、メリッサからの一撃を受けてしまってからバットショットのライブモードが正常に作動しなくなってしまった。一応、普通には使えるのだが……
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(0) 「ここは異世界だ。都合よく素材があるとは限らないし、それが上手く噛み合うかどうかも分からない」
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(0) 不機嫌そうに立ち上がるフィリップ。
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(0) 「どこに行くんだよ」
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(0) 「町外れに魔道具店があってね。そこの店主が元冒険者で高名らしいから、何か知らないかヒントを貰いに行く」
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(0) そう言ってさっさとギルドを出ていく。喧嘩ってわけじゃねーけど、なんか別行動が多くなってきてる気がする。それはそれで構わないが、やはり一抹の不安がある。
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(0) 「翔太郎」
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(0) 背後から別の声。カズマだ。そういえば今日はキャベツとやらの収穫で得た報酬が与えられる日だとか聞いたな。
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(0) カズマの呼び捨てはアルバイトをしている内に自然と呼び会うようになっていた。歳が近いとか、明らかに偉そうな奴とかは平然と強気に出てくるのに中途半端に十歳も離れてるとなんて呼ぶのがいいか分からなかったらしい。
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(0) 「ああ。俺達には関係ないことだな……あ、フィリップの分貰っとくか」
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(0) 「いないのか?」
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(0) 「ちょうど今出ていったよ。お前のところだっていないじゃねぇか」
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(0) 「報酬で色々買い漁ってるよ……それよりさ、魔王軍の幹部がいるって知ってるか?」
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(0) 「小耳には挟んでる。付近の廃城にいるらしいな」
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(0) 魔王軍の幹部ーーアクアが言っていた、魔王を倒せば帰れる方法が分かるかもしれないという僅かな希望だ。そんな奴がここに来て何をしているのか分からない。
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(0) ミツルギというこの町で一番強く、王都という場所でも度々戦っている奴の話によれば、ここは初心者の町でもあるのでわざわざ攻めこんでくる理由が見つからないようだ。
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(0) だが、実際にそいつも念のため戻ってきているので信憑性は高い。先日のアダプターの件もあるし、もしも魔王軍側がメモリについて知っているならば狙っている可能性もある。
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(0) なんにせよ警戒は必要だ。Wも視野に入れておく必要もある。後でフィリップとも共有しておくか。
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(0) 「はぁ、はぁ……この紅く輝くマナタイト……最高です!」
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(0) 「なんでこんなに報酬が少ないのよ!」
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(0) 「見てくれ皆!新調した鎧だ!」
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(0) ……こいつらは自分の町のことなのにもっと危機感を持って欲しい。
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(1) 「それじゃあ翔太郎、行ってくるよ」
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(0) 「おう……どこに?」
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(0) 魔王軍の情報を共有した翌日。纏めた荷物を背負うフィリップはまるで遠足当日の小学生のように楽しげにしていた。
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(0) 「旅行さ。昨日、魔道具店のウィズという人に話を聞いたところ、代替として使えそうなものを教えて貰ってね。その人と一緒に取りに行くのさ。仕入れも見たいとのことだしね」
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(0) 何も聞いてないしそういうことは早めに言って欲しい。というか昨日の今日でその話になるのは違うんじゃねぇの?
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(0) 風都にいた頃は旅行とか行かなかったし、行っても付近にあったおやっさんの別荘くらいだし……よくよく考えたら普通なら経験していることをしていないことが多い。
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(0) 「……そのウィズって人に迷惑かけないこと。周りをちゃんと見ること。それからーー」
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(0) 「前は君が僕のことをおかんだと言ったが、君も相当だね」
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(0) そこはどっこいどっこいだ。どっちかが欠けてもダメなんだからよ。
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(0) ウィズ魔道具店に行くとちょうど、店の看板に【Close】の立て札をかけている本人がいた。
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(0) 「今日はよろしく頼むよ」
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(0) 「はい。テレポートで半分程進んだあと、歩きで向かう予定です。それで、お話の方は……」
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(0) 「カメラの商品化だったね。部品等次第だけど協力する」
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(0) 部品の提供をする代わりに商品化する。商いの基本だ。ライブモードなどは搭載するつもりはないから安心してくれ。
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(0) 「それでは……【テレポート】!」
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(0) 彼女が呼び出した魔法陣ととも旅立ち、すぐに目的地の【グレイシア】に着いた。立派な門構えがまるで立ち塞がるように僕達を迎えている。
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(0) 「…………」
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(0) 「どうしました?」
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(0) 「もう少し旅行をしてる気分を味わいたかったかな……」
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(0) 「あっ……すっ、すみません!」
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(0) 昨日の今日で行けるとはこういうことだったのか……テレポートは確か登録した場所にしか行けないと制限があったはずだが納得だ。
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(0) けれど僕の目的の【ミラーストーン】は値段にすると価値の高いものだ。魔道具として使用され、相手の攻撃を一度だけだが跳ね返せるという能力がある。部品の代用の場合、その部分は必要ないのだが。
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(0) とても今の金銭で買えるものじゃない。かといってウィズに、とも言えるはずがない。色んな相場を見て、それから決めかねよう。今回は買い物というより調査に近い。
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(0) 「申請を出せば採掘許可も得れますよ」
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(0) 「採掘か……時間もかかりすぎるだろうし、今日は露店などで売られてないか見るよ」
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(0) 僕達はグレイシアに入国する。しかし、この街で起こっていることを僕達はまだ知らなかったーー
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(0) ウィズによると、グレイシアは付近の山鉱から取れる資源の他、独自の自然地理を活かした栽培法方により薬草やポーション作りによって栄えてきた街だ。
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(0) 観光客はそれを使った美容目的の貴族が多い。冒険者達は基本これからの旅に備えての備蓄購入が専ららしい。
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(0) 「…………」
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(0) 「何かあったかな?」
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(0) 「いえ、もう少し、インパクトがあるものを仕入れたいと思ってます。それに……」
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(0) 初心者が集まる街なのだからインパクト重視じゃなくて堅実に行った方が儲かるのではと、恐らく商人じゃなくても分かることに悩んでいる。
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(0) 「それに?」
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(0) 「人が少ないと思いまして。前まではもう少し人が多かった気もします」
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(0) 「詳しい事情は知らないけれど、やはりアルカンレティアの温泉街が大きいんじゃないかな。疲れも癒せるし尚更ね」
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(0) 「あそこはアクシズ教徒の総本山と言われてますし……」
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(0) 高名なアークウィザードでもあるウィズが怯えているのをみるに相当厄介な宗教団体なんだろうか。検索は止めておいた方がいいかもしれない。
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(0) フィリップはそう思いつつも影から感じる視線に気づいていた。しかしあえて口出しはしない。何が目的なのかも分からないしまだ訪れて数分も経過していない。怨恨はないだろう。
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(0) 道中もほぼなかったようなものだし、狙いがあったとしてもウィズだろう。でもここに来るというのは昨日決まったばかりだし、その時も店には誰もいなかった。少なからず今のところ怨恨を買うような性格でもない。
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(0) アクセルの街でも見かけるチンピラか。だが同じ冒険者ならすぐに喧嘩を吹っ掛けてくるだろうし、品定めでもしているのだろうか。
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(0) 「一緒にいるのが得策か」
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(0) 「何か言いました?」
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(0) 「いや……それよりそんなにも何を買ったんだい」
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(0) 「こっちは衝撃を与えると爆発するポーション、これは温めると爆発するポーションに水を注ぐと爆発するポーション。そして」
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(0) 「返品してきなさい」
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(0) 聞くにも耐えれなくなりフィリップはウィズの説明を強引に遮った。でもーーそれよりも先に、この街で起きている小さな異変をこの時点で勘づいていれば、これから起こることを未然に防げていたかもしれない。