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(0) そうして、もう何度彼女がレベルアップしたかも分からなくなってきたとき。
(0)『――フカ、久しぶりね』
(0) 目の前に、オーバーオールの少女が現れた。
(0) 俺の部屋のクローゼットの前。
(0) 夕方五時ごろのことだ。
(0) 刺身はまだ学校から帰宅していない。
(0)「リノ……なのか?」
(0) 尋ねたのは、久しぶりだったからじゃない。
(0) 彼女の見た目が、以前会ったときとは決定的に違っていたから。
(0)『そうよ。フカ、すごいね……こんなに早く達成に近づくなんて……』
(0) 顔色一つ変えず、称賛するリノ。
(0) というか……彼女には、感情が一切ないように見える。
(0)「ということは、もう刺身が完全な地球人になるのも近いってことだな……!」
(0) リノが再びやってきた意図を察して問いかける俺。
(0) しかし、彼女は無感情に言い放つ。
(0) その言葉に、俺は声も出なくなってしまった。
(0)
(0)『ああ、そのことなんだけど…………アレは、その場で吐いた嘘よ』
(0)
(0) ――意味が、分からなかった。
(0) リノの言う嘘とは、なんのことを指しているんだろう。
(0) それは、レベルの上限が百だということについてか――それとも、刺身がオードル・ト・レールの遺伝子を色濃く継承しているということについてなのか。
(0) しかし、彼女に受けた説明が嘘だったとして――なぜ、彼女はそんな嘘を……?
(0) 突然のことに、俺は話すどころか動くことさえできなくなる。
(0) だけど、リノはそんなことはお構いなしとばかりに話し始める。
(0) いや――伝え始めると言ったほうが正しかっただろうか。
(0) なぜなら、彼女が俺と取っているコミュニケーションの手段は、声じゃない。
(0) 再開したリノは――ずっと、俺の脳内にテレパシーで直接語りかけてきていたのだ。
(0)『まだ事態が飲み込めていないようね』
(0) 伝えて、リノは目の前にホログラムのような図を展開する。
(0) そこには、刺身のシルエットに九十九%と書かれた数字が浮かんでいた。
(0)「これは……刺身の、レベルか?」
(0) 数字から推測した俺が尋ねると、リノが頷く。
(0) しかし次の瞬間、彼女は俺の想像を否定もしてみせた。
(0)『その通り。だけど……この数字は、地球人の正常な遺伝子に近づいていることを示すものじゃないの』
(0)「……どういうことだ?」
(0) 困惑する俺に、無機質な表情で彼女は説明する。
(0) レベルアップについて、彼女が吐いていた嘘を。
(0)『……集合的無意識、という言葉を聞いたことはあるかしら?』
(0)「…………集合的無意識?」
(0) 聞き覚えのない単語に、オウム返しをしてしまう。
(0)『簡単に説明すると……そうね、意識や個人的無意識の、さらに深層にある人間の普遍的な意識のことよ。どう? これでわかった?』
(0)「いやすまん、全然分からん」
(0) 全然分からなかった。
(0) いや、だって急にそんな難しい単語を並べて説明されましても。
(0) 知らない単語を説明するために知らない単語を使わないで欲しい。
(0)『そ、そう……じゃあ、集合的無意識の例を話すわね?』
(0) 無表情ながら若干呆れ気味に説明を続けるリノ。
(0) 呆れられても困るんだけどな、分からないものは分からないんだから。
(0) と、不貞腐れながら続きを聞く。