行別ここすき者数
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(0)「チチッ!チチチチチ!!」
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(0)「ピヨヨ~」「ピヨッチ~」「ピヨチュウ」
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(0)「ふふっ」
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(0) 怒ったように弟妹達を追いかけ回すメルを見て笑みを溢す。
(0) 彼女たちの元に連れてこられてからここでの生活にもだいぶ慣れてきた。
(0) そうすれば今まで見えてこなかったものが見えてくる。
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(0) 天帝ヴィルゾナーダ。ここに連れてきた強大な魔物の名前であり、彼女たちの母親あり――――伝説の一つでもある。
(0) ミルと相方の男の子の命を助けてくれた大恩人……、大恩鳥(?)でもある。
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(0) 彼女はかなりの子煩悩だ。何かと自分の子を気にかけ過保護に扱っているようにも見える。メルはいろんな意味でお気に入りのようだ。
(0) 最初はこの魔物に恐怖しか持っていなかったが、ここまで過ごす中でかなり慣れてきた。多少礼を失することがあっても特に怒ることはない。下手な貴族よりも器は広いように感じた。
(0) とは言えあくまで両者の関係は利害関係によるものだ。それも魔物側にかなり有利な。完全に心を許すことはできていない。
(0) 今のところ母としての顔が前面に出ていると言っても、あくまで魔物。
(0) 圧倒的な力の差はなくなってはいないのだから。
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(0) そして件の子鳥、メル。
(0) 彼女は本当に不思議な子だ。彼女の母親や弟妹達と普段過ごしていると時たま魔物的な要素が垣間見えるのだが、彼女にはそれがない。
(0) 中に人間が入っているのではと思わせられる人間性と、貴族と接しているのでは錯覚するほどの気品。彼女にはそれがある。
(0) 子供の筈なのに理性的な行動が出来、自然と上位者と認めてしまうような気質。
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(0) そして特筆すべきはその戦闘力だ。ミルは最初メルと他の子鳥たちが同じだけの戦闘力を有していると考え、逃げられないと思った。
(0) しかしそれは大きな間違いだった。他の小鳥たちはミル一人が全員を相手しても切り抜けられるだけの強さだった。
(0) 単純にメルが異常だったのだ。彼女一人だけ強さが突出していた。聞けば当時生まれて一ヶ月経っていなかったという。
(0) 魔物だとしても明らかに異常だ。比較対象がいる分余計にそれが際立つ。
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(0) だからといってミルがメルを遠ざけることはなかった。
(0) その理由はただ一言に尽きる。
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(0) 絆されたのだ。
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(0) 彼女がミルを心の底から思ってくれているのは事実だと認めざるを得なかった。
(0) 天帝に無理難題を押しつけられそうになったら抗議してくれるし、困ってることがあれば積極的に助けてくれる。
(0) 来た当初、恐怖から眠れない日があったけれど、そっと寄り添ってくれた。何をしに来たのかと固まってしまったけど、なんだか暖かくて、ふわふわしてて。ぐっすり眠れたのを覚えている。
(0) ここで彼女だけはずっとミルの味方だった。
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(0) 今となれば彼女の最初の行動もミル自身を助けるためのものだったのではないかと思うときがある。メルを出し抜いて、巣から逃げ出すことを考え始めた頃遠目に山が動いているのを見た。何より遠くから地響きがやって来たり遠目にかなり高い砂埃を目にすることもあった。
(0) 十中八九魔物が戦った影響だろう。ここから無策で逃げ出せば命はないと思わせるに十分だった。
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(0) ここで安心して過ごせるのも彼女のおかげだと言える。料理という武器を見つけ出してくれなければ、初日に殺されることがなかったとしてもいつそうなるかと怯える毎日が待っていたことだろう。
(0) それがないのは自身に唯一無二の利用価値が存在しているからだ。天帝が料理を気に入っていて、今料理を作れるのはミルだけ。この事実が絶対の盾となってミルの心身を守ってくれる。
(0) 子を守らなければならない天帝はミルがいなくなったからと言って、他の人間を探しに行くのは難しい。かなりの時間巣を空けることになるのでリスクが高すぎる。そのままミルがいる方が圧倒的にコスパが良い。
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(0) そこまでメルが考えてくれたのだとしたら、結果的にとは言え命を助けてくれた彼女の母親と並んで彼女には返しきれない恩が生まれる。
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(0) それにここは頼れるものが何一つない場所だ。何かと気にかけてくれる相手に絆されるのは仕方だないことだと言えるだろう。
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(0) ――ただそれでも。
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(0) 視線を手の平の中に落とす。
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(0) 何も問題ないかと言えばそうではないのだから。
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(0) ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
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(0) 一面の曇り空。数日にわたって昨日まで降り続いていた雨はまだ満足していないらしい。
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(0)「はあ……」
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(0) あれからまた数日が経ち、明るかった生活に影が差し始めた。
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(0) 冒険者カード。冒険者という職業に就いたものがみな提供される身分証のようなそれを見てそっとため息をつくミル。どうやらホームシックになってしまったようなのです。
(0) 最近は天真爛漫な明るさの中に、こうして表情に陰りを見せることが増えてきました。
(0) どうやら本人は私たちに気を遣わせないように隠そうとしているようで。ミルちゃんマジ天使。
(0) ともあれ長年の経験で観察眼も磨いてきた私としてはそれを見抜くのもさして難しくはなく。そもそも表情がコロコロ変わる彼女は腹芸に向いていませんし。
(0) お母様にも相談したところ、帰すか帰すまいか非常に葛藤していたようでした。
(0) 大切になってきたからこそ、手放したくはないし、同時に悲しんで欲しくもない。そこで帰すという選択肢が生まれるということから、私のお母様は思っていたよりも愛情深い方だとようやく理解できました。
(0) どうやら私はお母様を読み誤っていたようです。やはり魔物だからなどと色眼鏡で見るべきではありませんでしたね。
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(0)「チチチ(大丈夫ですか)?」
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(0)「うん?……ごめんね。ちょっと考え事しちゃってた」
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(0) あははと笑った彼女は、声を掛ければすぐさま笑顔を浮かべて私たちの相手をしてくれる。そうじゃないのに……。今こそ話掛けられないことがこれ程歯がゆいと思ったことはありません。ままなりませんね。どれだけの時を過ごそうとも人の心はこうも難しい。
(0) どれほどの力を身につけてもどうしようもないことがいくらでもやってくる。それともどうにかしようとすることは傲慢なのでしょうか。
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(0) 言葉を話せない私ができるのはこの子が気を紛らわせられる様にすることだけ。まったく、ままなりませんね。
(0) 私はミルの頭の上に飛び乗って、髪を優しく撫でつけることしかできなかった。
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(0) ――何でしょう。違和感が……。静かすぎる?
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(0) 今日はどこかおかしかった。
(0) お母様が狩りに出かけてから、周辺の静寂がどうにも気にかかる。まるで嵐の前の静けさのように……。
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(0)「どうしたのメル?」
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(0)「チチチッチ(何でもありませんよ)」
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(0) 私の様子がおかしいことに気づいたのか、訝かしげに声を掛けてきたミルに、何もないよと翼をはためかせることでアピールする。
(0) いつも通りの様子に戻った私の姿に、笑顔で弟妹達との遊びに戻っていったミル。
(0) 不安にすることなく済んで胸をなで下ろしました。
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(0) ともあれ、不穏な空気を感じているのは事実。一度降りて周りの様子を窺ってみるべきでしょうか。とそこまで考えたとき――大樹が揺れた。
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(0)「きゃあ!?」「ピヨヨッ!?」「ピヨッピー!?」「ピヨチュウ」
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(0) バカな!?この大樹が揺らされた!?
(0) 今の揺れ方は地震ではなく何かがぶつかった事によるもの。つまり雲を突き抜ける……とまでは行かないが見渡す限りではこれより高いものなど見つけられないほどの巨大な木を揺らすことのできるものがこの巣の下に居ると言うこと。非常にまずい事態と言うことになります。
(0) お母様、早く帰ってきてください!!
(0) ズルズルといった何かを引きずる様な音がしたから聞こえてきている。しかも少しずつ近くなっている。
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(0)「ピヨッ(ミル、合図を)!!」
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(0)「あっ、合図だね。任せて!」
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(0) 鋭く指示を飛ばせば、弟妹達と身を寄せ合っていたミルは分かってくれた様で、上空に向けて合図の花火を放った。
(0) これは大分前からお母様と決めていた合図で、危険な状況が迫ってきたときのために用意してあったもの。
(0) 打ち上げられた花火が散ればすぐさまお母様が駆けつけ来るはずなのですが……。来ない。
(0) くっ!予行練習ではすぐさま現れたのに!!何をしているんですかお母様!
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(0) ――ドオォォォォォォオォォォオオオオオオオオン!!!!
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(0) ぐッ!?次から次に何ですか!?
(0) 爆音とともに地震のような揺れ。遠目に見えるのは光の柱とその近くを舞う小さな影。
(0) これはまさか、お母様が戦っている!?弱い相手なら既に片づけてすぐに戻って来ているはず。つまりあれは少なからずお母様と渡り合える相手と言うこと。それはすなわちこちらの救援もすぐには期待できないと言うこと。
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(0) しかもさっきからズルズルという不吉な音が大きくなってきている。厄日ですね、これは。
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(0) やってくる相手は下から。私を除いて全員飛べないのでこの場からの離脱は不可能。
(0) 相手は大樹を揺らすことができるほどの力、もしくはそれに準ずる程度の力の持ち主。
(0) 今の私では恐らく、いや。普通にやれば確実に勝ち得ない相手。マズい……。
(0) くっ!どうすれば……!!
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(0) 悩んでいる内にも時間は過ぎ、それはとうとうやって来てしまった。
(0) 逆三角の頭に、チロチロと覗く二股に割れた舌。体は強靱な鱗に覆われて、大きすぎてその全容は見ることすらできない。
(0) 大蛇。ウワバミなどと呼ぶのもおこがましいその大きさ。
(0) 新幹線よりも太く、そして長い。人の膝丈しか無い大きさの私にはその巨躯は圧倒的で。
(0) 本っ当に……厄日ですね……!!
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(0) 後ろにはミルと怯える弟妹達。退路はなし。単独逃走など論外!!
(0) やるしか……ない!
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(0) 大蛇の前に単身飛び出し、翼をバサバサと振ってわざと目立ち注意をこちらに持ってくる。
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(0)「メル!?」
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(0) 悲鳴を上げるミルを意識から締め出し、大蛇の動きに全力で集中する。ステータスで見れば相手にもならないであろうそれを、持ち前の技術で補う。
(0) 見て動くのでは遅すぎる。培った観察眼で相手の初動を読む。
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(0) ――――来た!!
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(0) 大口を開けての噛みつき。
(0) それが行使される一瞬前に全力で前に踏み込む。遅れて襲いかかってくる顎の下に潜り込み、そして――
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(0) ――【昇陽《のぼりび》】!!
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(0) 一瞬の溜めの後、片足が揺らめく輝きに包まれ、普段の動きとは一線を画する速度で体を跳ね上げ宙返りの要領で巨大な蛇を蹴り上げた。俗に言うサマーソルトキックになりますね。
(0) 体格差から言えば効果などあるはずもない攻撃は、しかし蛇を力強く蹴り飛ばした。
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(0) ――ドゴオォォォン!!
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(0)「うっそォ!?」
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(0) 強烈な打撃音。
(0) 予想だにしていなかったミルの驚愕の声とともに蛇は巣の側から弾かれ、やがて重力に捕まった。
(0) これが戦撃の力です。
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(0) さて、落ち始めた大蛇が復帰しないように追い打ちをしておきましょう。
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(0) ――【降月《おりつき》】!!
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(0) 空中で体が反らされ、体のバネを駆使したバク転から振り下ろされたつま先が蛇の頭に突き刺さる。
(0) ムーンサルトキックです。戦撃の追撃を受けた蛇は、重力に追加の加速を受けて落ちていきました。
(0) これで時間は稼げるはず……!
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(0)「メル!?大丈夫、凄く辛そうだよ!?」
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(0) 戦撃とは生命力と魔力を練って行使する技です。
(0) 今の私はまだまだ赤子のようなもの。多少成長したとは言え、まだステータスは低いです。
(0) 蛇の巨体を蹴り飛ばすのはかなり体力を使いました。少し、無茶をしたでしょうか。
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(0) 焦ったように駆け寄ってきたミルを翼で押しとどめ、ヨロヨロと立ち上がる。
(0) くっ、スタミナがまだ無いのが痛いですね。碌に動けやしない……!
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(0)「メ、メル……」
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(0) 声を震えさせていた彼女を落ち着かせようとしてふと違和感を感じた。
(0) 青ざめた表情の彼女の視線は私ではなくその後ろ。そこまでされれば見なくてもわかる。
(0) 嫌。もう、ふて寝したい……。
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(0) 視線の先を追ってみればそこには2体目の蛇。状況はさっきと変わらず、そして私は疲労困憊。
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(0) ああもう本当に、今日は厄日ですねッ……!!