行別ここすき者数
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(0)強い身体に憧れた、強い人に憧れた、屈強な背中に憧れた。
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(0)父に憧れた、母に憧れた、兄に憧れた、姉に憧れた、弟に憧れた、妹に憧れた、従兄弟に憧れた、従姉妹に憧れた。
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(0)誰かに憧れた、他人に憧れた、世界に憧れた―――自分に絶望した。
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(0)脈々と受け継がれていった家系の血筋、その中に刻まれていく生物の力、それらが極限に凝縮された者こそが―――自分。無数の獣、虫の力を発現する事が出来る力はキメラなどと呼ばれつつも差別される事も疎まれる事も無く将来が期待されていた。一族の中でも最高峰の個性を身に着けた少年、明るい未来が待っていると思われるのだが―――彼の肉体が個性について行けなかった。
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(0)「っ―――ゴホッガハァッ!!」
(0)「お、おい大丈夫か!?救急車だ救急車ぁ!!」
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(0)一族全ての個性全てを一つに集めたかのような個性。血の集約の果てに生まれた個性は全ての力を発揮する事は出来るが、その力が余りにも強力すぎてしまった。何処まで行けるのか、それを試そうとした時に血反吐を吐いて倒れこんでしまうという事態が起きてしまった。個性を使おうとすれば一気に力が解放されてしまい肉体が崩壊する。
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(0)「お子さんは個性を使おうとすればそれが一気に解き放たれてしまうのでしょう。個性を限界まで張り詰められた風船と考えてください、使用すると内部の空気が一気に外に飛び出してしまうのです」
(0)「そ、そんなっ……!?だ、だってこの子はヒーローになりたいって……!!」
(0)「とんでもない!!御覧になった筈です、唯個性を使おうとしただけでこれなんです。ヒーローなんて以ての外です!!」
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(0)呆気無く彼の夢は奪われた。夢を目指すどころかその身に宿す力を使う事も許されない。その日から彼は部屋から出られなくなった。個性の暴発が何時起こるかも解らぬ故に家に繋ぎ止めておくしかなくなったのだ。
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(0)「……」
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(0)個性に耐えられない身体、そしてそれを鍛えようにも何時暴発するかも解らぬ為に器を鍛える事も許されぬ己に絶望した。家族が、親戚が、一族が誰もが彼の味方をし慰めようとした。だが何も意味を成さぬまま……8年が経過した時の事―――彼の元を一人の男が訪れた。
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(0)「やぁっ君の夢は何かな、聞いてもいいだろうか」
(0)「俺の夢……」
(0)「そう、夢だよ」
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(0)不思議な問いかけに自らの手を見た。同年代から見ても細く小さい手、背だけは一族の影響か高いが痩せてしまっている身体が酷く恨めしかった。この身体さえ確りしていれば自分は……いや違う、もっと根本的な所を間違っていると思い夢を振り返る。ヒーローに……いや違う。
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(0)「俺の夢はっ……夢はっ……個性を使いたいっ……!!自由に使いたいっ……父さんみたいに、母さんみたいに……皆と同じ風になりたい……!!!」
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(0)大粒の涙を流しながらの懇願、ヒーローになりたいなんてよりも根本的な願い。個性を使いたい、家族の皆のようになりたい……それが一番の願いだった。それを聞いた男は満面の笑みを浮かべながら言った。
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(0)「そうそれだよっ!!それこそが君の夢、ひいては胸に秘め続けた欲望だよ!!」
(0)「欲望……?」
(1)「そうっ欲望!!君は絶望の中に居続けた、だが生きる力をっ欲望を持ち続けた!!《big》《b》素晴らしぃッ!!!《/b》《/big》」
(0)「ッ!?」
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(0)突然の大声に身を震わせるが、直後に彼は御付の女性が持ってきた箱を開けた。そこにはHappy Birthdayという文字と共にデコレーションされたとても豪勢なケーキともう一つ―――コインでも入りそうなスロットが3つほどある長方形の箱のような物があった。
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(0)「まずは祝わせてくれ………新しい君の誕生だ!!おめでとう!!そしてこれは君が持つに相応しく、君の欲望を満たす究極のアイテム!!これさえあれば君は欲望を叶えられる、そして次の欲望を持つ事が出来る!!」
(0)「欲望を持てる……これさえっあれば……」
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(0)目の前にあるアイテム、何か解らないが異常なまでの自信に満ちあふれる言葉と不思議な魔力のような物に引きつけられるかのように手が伸びる。そして手に取った、凝視続ける中で腰に押し当てろと言わんばかりのボディランゲージをする男に従うように腰へと押し当てるとそれは一気に変形していく。自動的に腰へと装着され何かのスキャナーとコインケースのような物が出現した。何が何だかと言わんばかりの自分を男は更に大声で祝った。
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(1)「《big》《b》素晴らしぃッ!!新しい欲望の誕生だぁ!ハッピバァァァァァァスデイ!!!《/b》《/big》」
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(0)「欲望こそ生きるエネルギー、素晴らしぃっ!!いやはや全くだったね」
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(0)すっかり口癖になってしまった言葉を繰り返しながら道を歩む。何もかもを羨みながらも何も望んでいなかった自分の空白は無くなっていた。いやその空白から湧き出した欲望が新しい物を求めたと言ったほうがいいかもしれない。正しく欲望が新たな欲望を生み出していきそれを求めてエネルギーを生み出していく。無力というよりも、何も思わずいた自分。それが今では……欲望を満たそうとしている 。
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(0)「セイヤァッ!!」
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(0)そう呟きながらも背後から迫ってきた機械の人形を両腕の鋭い爪が切り裂いた。果物を切る包丁、紙を切る鋏を思わせるような鮮やかで滑らかな切れ味。鋼鉄をそんな風に切り裂く彼の姿が周囲の建物のガラスへと移り込むが、それは紛れもなく異形であった。
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(0)人型ではあるが全身は黒で統一されているが、頭部はまるで赤く翼を広げた鳥のように見え、上半身は黄色く鋭い爪があり、下半身は緑色のラインが伸びつつ発達している。そして何よりも―――胸部にある円形のプレートにはそれぞれの特徴が動物の姿となって映し出されており、タカ、トラ、バッタとその身に宿している動物を象徴しているかのようだった。
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(0)「さてもう少しポイントを稼ぐ……ああいや、コンボは駄目だったんだったな……」
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(0)思わず手が伸びそうになった緑色のメダル二種。今使っているメダルと組み合わせるとコンボと呼ばれる状態になり自分の最大出力となるのだが……それは一族から厳しく制限されている。それは個性が普通に使えるようになってからも変わらない規則だった。こればかりは致し方ないと肩を落とすが、ならば―――地道に稼ぐかと思ったが直後に彼はそれを破る。何故ならば―――
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(0)「俺は君を助けたいと思った、それが俺の欲望だから!!」
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(0)「全く以て《big》《b》素晴らしぃッ!!!《/b》《/big》間違いなく彼は合格するだろうね」
(0)『素晴らしくない!!』
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(0)メダルを渡した男はモニターに映っている見事な戦いぶりを鑑賞し称賛するのだが、直後に通話から反論の声が溢れかえった。確かにこの成績ならば確実に合格はするだろうが、その為に決まりを破ってコンボを発動させた事は問題すぎる。結局その影響で倒れてしまったのだから家族からすれば褒められる事ではなかった。
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(0)「何時まで過保護でいるつもりなのかね?何時までもコンボが使えないのでは意味がない、その解決を含めた雄英受験だった筈だが」
(0)『そ、それはそうだけど……だからって一番負担の大きいあれを使う事ないでしょうが!!?』
(1)「いやいやあの場ではあれが適切だったよ、あれこそ正確な選択だよ。フフフッ……君達の個性を徹底的に解析した末に完成したあのドライバーとメダルッ!!それを使いこなした末にどんな欲望を見つけるのかっ私はそれが見たくて見たくてしょうがないんだよ!!!改めて―――《big》《b》ハッピバァァァァァァスデイ!!《/b》《/big》」
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(0)モニターの傍には彼へと送る手筈になっている思いを込めたデコレーションが施された大きなバースデーケーキが置かれている。
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(0)《center》《brown》《big》《b》Happy Birthday《/b》《/big》《/brown》《/center》
(0)《center》《brown》《big》《b》獣王 翔纏 《/b》《/big》《/brown》《/center》