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(0) バスタードの合図で現れた2体の剣士は、やはり同じような銃士ふうの姿をしており、同じようなレイピアを武器としていた。さながら、バスタードを含めて氷の三銃士といった趣きである。
(0)「裏切り者と侵入者に死の裁きを!」
(0) 仰々しいバスタードの号令で、左右の剣士がそれぞれマグショット、サーベラスに斬りかかる。必然的に、バスタードの相手は百合香が務める事になった。
(0)「くそっ、獲物を百合香に取られちまう」
(0)「そのような心配は無用です。貴公は私の剣の露と消えるのですから」
(0) バスタード同様、慇懃な銃士がサーベラスの胸を狙ってレイピアを突いてきた。サーベラスはそれを大剣で強引に弾く。
(0)「そのような鈍重な剣で、この突きをいつまでかわせるでしょうか」
(0)「ぬかせ!」
(0) 今度はサーベラスが、大振りに剣を払う。リーチは圧倒的に長く、相手の銃士はかわし切れないと思ったのか、大きく後退した。
(0)「くっ」
(0)「ほれほれ、どうした!!」
(0) サーベラスの、大剣の質量を無視したかのような連撃は、剣技のセオリーが通用しない勢いがあり、銃士は反撃の隙を見つけられずにいた。
(0)
(0) 他方、マグショットの相手は長髪が特徴的な銃士だった。目だけの仮面が不気味である。
(0)「素手だからとて容赦はせぬぞ」
(0) 長髪の銃士は、マグショットの首めがけてレイピアを突いてくる。それを難なくかわすマグショットだったが、リーチは相手に分があるように見えた。
(0)「はっ!」
(0) 強烈なスピードの突きを、銃士は繰り出してきた。しかし、次の瞬間予想外の出来事が起きたのだった。
(0)「なに!?」
(0) 甲高い音がして、マグショットの頭上で長髪の銃士の剣は何かに止められたのだ。それは、どこからかマグショットが出現させた、2本の中国式のサイだった。
(0)「貴様、サイを使うのか!」
(0)「俺が武器を持っていないなどと油断した貴様が悪い」
(0)
(0) 百合香とバスタードは互いに、剣を構えてジリジリと相手の隙を窺っていた。バスタードは高く水平にレイピアを正面に向け、百合香は聖剣アグニシオンを低く、相手に対して横向きに水平に構えていた。
(0)「話によれば、カンデラの剣を受け止めたと聞く。この私とて、それほど容易い仕事ではない。にわかには信じ難いが、それが実力であれば、相手に取って不足はない」
(0) バスタードは、さきほどの慇懃さが少しだけ後退した様子で語った。
(0)「ご期待に沿えるよう努力するわ」
(0)「ふっ」
(0) バスタードは余裕を見せながらも、まだ先に動こうとはしなかった。先手を取るのが有利か、あるいは逆か。互いの剣が方やロングソード、方やレイピアと、特性が異なるのも不確定要素だった。
(0) 沈黙を破ったのは百合香だった。剣を水平に構えたまま、猛ダッシュでバスタードの懐に飛び込む。
(0)「むっ!」
(0) 速い、とバスタードは驚いた。バスケットボール仕込みの百合香の脚は、その瞬発力において剣技をカバーしていた。
(0)「せいっ!」
(0) 百合香は、まずバスタードのレイピアを跳ね上げる。そのまま、高く上げた位置から胴体を袈裟がけに斬り伏せようと試みた。
(0) しかし、バスタードは回避でも反撃でもなく、打ち上げられた自分の剣で、逆に百合香の剣の動きを封じてきたのだった。
(0)「あっ!」
(0) まるで、蝶が舞うような華麗な動きで、バスタードのレイピアは高い位置で百合香の剣を絡め取る。振り下ろす動作を封じられた百合香は、蹴りを警戒して飛び退くしかなかった。
(0) しかしそこに好機を見出したバスタードは、飛び退く百合香に思い切り踏み込んできた。
(0)「それ!」
(0) バスタードのレイピアが、百合香の胴体の脇をかすめる。さらに続けてレイピアの突きが繰り出された。百合香はそれを避けるため、さらに後退する。しかし、そのままでは生け垣に追い詰められるのは必至だった。
(0) 強い。百合香は思った。しかも、魔法のような離れ業は一切用いていない。純粋に、剣一本のみでバスタードは百合香を追い詰めていた。
(0)
(0) バスタードの攻撃は、一切の隙を見せなかった。百合香が打ち込めばそこをかわされ、百合香が防げばわずかな隙を突いてくる。後退すれば追い込まれ、踏み込めば逆に誘い込まれる。次第に、百合香は体力を削られて行くのがわかった。バスタードは一切無駄に動くことなく、最小限の動きで百合香を追い詰めてくる。このままの状態が続けば、百合香が消耗しきった所を突かれて、敗北するのは必至だった。
(0)
(0) だが、百合香もまたこの氷巌城に乗り込んでから、あらゆる敵と戦ってきた。その経験が、百合香の武器だった。
(0)「でやぁ―――っ!!」
(0) 百合香は、一瞬の隙を突いてバスタードの横に出ると、そのまま思い切り足首に踵をぶつけた。
(0)「ぐっ!」
(0) 予想外の攻撃にバランスを崩したバスタードの胴体に、百合香はさらにチャージングをかける。
(0)「おわっ!!」
(0) たまらず、バスタードは左膝を地面についた。バスタードの胴がガラ空きになる。
(0)「ええ―――いっ!!」
(0) 百合香は、渾身の突きを胴体に入れた。
(0)
(0) しかし。
(0)
(0)「ふっ、ブラボー!!素晴らしい才能だ!!」
(0) 片膝をついて不格好な姿勢であるにかかわらず、バスタードは百合香に唐突な賛辞を送る余裕を見せた。
(0) 百合香の剣の切っ先は、間違いなくバスタードの胴体を捉えた。並大抵の氷魔であれば、すでに上半身と下半身が分かれて崩れ落ちているだろう。だが、バスタードの胴体には、全くダメージがなかったのだ。
(0)「そっ、そんな!!」
(0)「ふん!!」
(0) バスタードが百合香の剣を跳ね上げる。百合香は冷静さを僅かに欠き、押されるように後退した。
(0)
(0) バスタードの体躯は、サーベラスに比べると細い。しかし、聖剣アグニシオンの切っ先が全く入らない強度を備えている。それは、細い体躯に氷魔エネルギーが高密度に凝縮されているためだった。
(0)「こっ、こいつ…」
(0) 百合香は戦慄した。ふざけた態度こそ取っているが、その強さは本物である。
(0)「(こいつの装甲を破るには、大技を繰り出す以外にない…けれど)」
(0) 再び襲ってくるバスタードのレイピアを受けながら、百合香はどうにかして技のエネルギーをチャージする時間を確保しなくては、と考えた。
(0)
(0) 瑠魅香がいれば。
(0)
(0) 百合香はそう思った。瑠魅香なら、相手の手足を魔法で縛ってくれる。その間に、エネルギーをアグニシオンにチャージして、相手の脳天に叩き込む。いつもなら、それが出来た。
(0) しかし、今は瑠魅香を頼る事ができない。百合香の力で、ここを切り抜けなくてはならないのだ。
(0)「逆だな」
(0) 百合香は呟く。
(0)「一人で切り抜けられないようじゃ…起きてきた瑠魅香に…笑われる!!」
(0) 百合香は、恐れを捨てて突進した。
(0)「なにっ!!」
(0) バスタードのレイピアが、百合香の左上腕をわずかに斬りつける。しかし、百合香はそのままアグニシオンに全体重をかけ、バスタードの右肩関節に強烈な突きを入れた。
(0) ゴキッ、という嫌な音がして、バスタードの右肩の根本が大きく軋む。
(0)「うっ…ぐぐぐ!!」
(0) やられた、という様子でバスタードは後退る。装甲が頑丈であろうと、関節はそうではない。弱い部分を最小限のパワーで狙う、マグショットの教えだった。
(0)「あいつ…」
(0) 横目で見ていたマグショットがニヤリと笑う。百合香の左腕には、一筋の血が流れていた。
(0) 利き腕が氷魔にあるのかどうか、百合香にはわからない。しかし、片腕に決して軽くないダメージを負うのは、剣士として不利になると言えた。
(0) だが、バスタードに怯む様子はいささかも見えなかった。
(0)「面白い。この腕は、ちょうどいいハンディキャップといえよう」
(0)「強がらない事ね。悪いけど、時間をかけるわけにはいかない」
(0) 百合香はすでに、アグニシオンにエネルギーを込めていた。バスタードは十分リーチの範囲内にいる。この好機を逃してたまるかと、百合香は炎の剣を振り下ろした。
(0)
(0)「『ディヴァイン・プロミネンス!!!』」
(0)
(0) 深紅と黄金の炎の刃が、バスタードの正中線を捉えたかに見えた、その瞬間だった。
(0)
(0)「『フリージング・ツイスター!!!』」
(0)
(0) バスタードの、左腕で振り上げたレイピアから巻き起こった強烈な冷気の渦が、百合香の放った炎と、凄まじいエネルギーの衝突を巻き起こした。
(0)「うあああっ!!」
(0)「ぐ…くくっ!!」
(0) 両者のエネルギーは完全に互角だった。その衝突は熱気と冷気の暴風を形成し、周囲で戦うサーベラスやマグショット達にまで影響を及ぼした。
(0)「うわぁ―――っ!!!」
(0)「ぐおおお!!!」
(0) 二人のエネルギーが弾け、百合香とバスタードは互いに大きく弾かれてしまう。
(0)
(0)「ぐおっ!百合香のやつ、またあの技か!」
(0)「サーベラス!俺達もさっさとこいつらを片付けるぞ!」
(0) マグショットはサイを捨てると、右腕を後ろに引いて構えを取った。
(0)「はああぁぁ――――っ!!!」
(0) 凄まじいオーラが、マグショットの全身に満ちる。長髪の銃士氷魔は、一瞬恐れをなして後退した。
(0)「極仙白狼拳奥義!」
(0) マグショットの右拳に、急速にエネルギーが凝縮される。
(0)「狼爪星断衝!!!」
(0) 視認できないほどの速度で横薙ぎに繰り出された拳から、圧縮された巨大な風の刃が地を這うように走り、長髪の銃士を襲う。
(0)「ぬううっ!」
(0) かろうじてレイピアで受けたものの、その刃は容易く切断され、銃士は圧力に耐えきれずそのまま弾き飛ばされてしまった。
(0)「おあが!!!」
(0) 無惨に地に落ちる銃士の前に、マグショットがゆっくりと歩み寄る。
(0)「この技を受けて胴体が切断されなかっただけでも褒めてやる」
(0)「ぐぐぐ…」
(0) 間髪入れず、マグショットは宙に舞うと、回転しながら銃士の首めがけて蹴りを放った。
(0)「狼牙斬!!!」
(0) 銃士の首は一瞬で切断され、その身体はそのまま動かなくなってしまった。
(0)「なかなかの腕前であった」
(0) マグショットは、銃士の亡骸に向かって合掌すると、サーベラスの方を見た。サーベラスはすでに深く考えることをやめたらしく、自分の耐久性とパワーに任せて、大剣を振り回して氷の銃士に突進していった。
(0) 銃士の剣がサーベラスの胴体を直撃する。しかし、サーベラスはそのまま突進をやめようとしない。
(0)「なっ!!」
(0)「ぬおおおお――――!!!!」
(0) 勢いに押されて軸がぶれたレイピアは、そのまま明後日の方向に弾かれてしまう。サーベラスの胸には若干切っ先が突き刺さったものの、さしたるダメージはないようだった。
(0)「デストロイ・ファング!!!!」
(0) サーベラスの大剣に真っ白なエネルギーが満ちると、そのまま獅子の牙のごとき軌跡を描いて刃が振り下ろされた。氷の銃士の身体は、頭から胴体まで一刀両断され、ドサリと地面に崩れ落ちた。
(0)「手こずらせやがって。まあ、この技を使わせただけでも褒めてやる」
(0)「ひどい戦いぶりだ。肉を切らせて骨を断つ、か」
(0) マグショットが呆れ顔で近寄る。
(0)「ところで、どうする。百合香に加勢するのか」
(0)「あん?」
(0) 二人は、百合香とバスタードの戦う様子に視線を移した。
(0)「冗談じゃねえ。あんな所に飛び込んだら、こっちがただじゃ済まなくなる」
(0)「奴は俺が倒す、とか言っていたんじゃないのか」
(0)「斬り込み隊長どのに譲るさ、仕方ねえ!」
(0) やばくなったらいつでも行くぞ、という態勢は取りつつも、サーベラスは百合香の戦いを見守っていた。
(0)
(0) 百合香とバスタードは、互いに仕掛けるチャンスをうかがっていた。
(0)「はあ、はあ、はあ」
(0)「なんという…こんな相手は久しぶりだ」
(0) バスタードはチラリとサーベラスを見る。
(0)「人間の剣士よ、名を聞こう…」
(0)「…百合香」
(0)「ユリカ、その名を覚えておこう」
(0) そう言うと、バスタードはレイピアを、それまでにない奇妙な位置で構えた。もはや役に立たない右腕をダラリと下げ、左腕で真っ直ぐに切っ先を突き出す。
(0)
(0)「ラ・ヴェルダデーラ・シルクロ!!!」
(0)
(0) バスタードのレイピアを、真っ白なエネルギーが包みこむ。すると、その切っ先を中心として、百合香とバスタードの周囲に円形のエネルギーフィールドが形成された。
(0)
(0)「むっ、あの技は」
(0)「知っているのか、サーベラス」
(0) マグショットが訊ねる。
(0)「ああ。並大抵の奴なら間違いなく死ぬ」
(0) サーベラスは平然とそう言い放った。
(0)「加勢しなくていいのか、百合香に」
(0)「あのフィールドに入ったら俺たちがやばい」
(0)「なに?」
(0)「見ていろ」
(0) サーベラスに言われるとおり、マグショットはバスタードが形成したフィールドを見た。円形のフィールドの外側の地面が、まるで彫刻刀で彫られたかのように抉られている。
(0)「何なんだ、あれは」
(0)「互いの逃げ場を無くす剣だ」
(0)「なに?」
(0)「あのフィールドの境目には、空気の刃ができている。首を突っ込んだらお陀仏だ」
(0) サーベラスは、首を掻き切る真似をしてみせた。
(0)「相手はもう逃げられない。奴の間合いからな」
(0)「それはバスタードにとっても同じ事だろう」
(0)「そうだ。背水の陣ってやつだ。あいつに、こんな気骨があったとはな」
(0)「百合香の真っ直ぐな気持ちが、やつの虚飾の仮面を剥ぎ取ったのだろう」
(0) マグショットは、百合香の戦いぶりを目に焼き付けるため、かっと目を見開いていた。
(0)
(0) もはや互いにフィールドから出られない状態で、百合香とバスタードは剣と剣のリーチを探りながら、円形のフィールドをダンスのように回っていた。
(0) 前に出るということは、相手の剣に自分から向かう事になる。これに対処するには、剣を払いのけるしかなかったが、失敗すればガラ空きの胴を相手に差し出す事になる。
(0) さきほどの技の応酬で、両者ともにエネルギーを消耗していた。だが、このフィールドを形成するために、バスタードはさらにエネルギーを注ぎ込んでいる。百合香には、わずかにそのアドバンテージが残っていた。
(0)「(――――これしかない)」
(0) 百合香はひとつの決意を決め、全身にエネルギーをまとった。バスタードが反応を見せる。
(0)「(エネルギーに任せて攻撃してくるつもりか)」
(0) 百合香の持つ攻撃力は決して侮ってはならない、とバスタードは警戒した。だが、百合香の発しているエネルギーは、それまでの炎のエネルギーとは異なるものだった。何か、この円形のフィールドと反発するようなものを感じる。
(0) だが、すでにエネルギーを消耗しているバスタードは、先手を取って一気に踏み込んだ。
(0)「はっ!」
(0) 百合香の剣を旋回するような動きで封じながら、そのまま一気に百合香の喉元めがけて突き入れる。
(0) だが、百合香の取った行動は予想を超えたものだった。
(0)「なに!!」
(0) 百合香は、エネルギーフィールドの境目に向かって、自ら大きく後退したのだ。サーベラスとマグショットも目を瞠った。
(0)
(0) だが、百合香の身体に満ちていたエネルギーは、バスタードのフィールドに対する障壁となり、その身体を護り切ってみせたのだった。百合香の黄金の鎧が持つ、驚異的な防御力も手伝っての事だった。
(0)「(あっ、あのエネルギーは最初から攻撃ではなく、防御のためだったのだ!)」
(0) バスタードが驚愕した瞬間、百合香はすでに攻撃に移っていた。それまで体に満ちていたエネルギーを、フィールドの外に出た瞬間、一気に剣に凝縮させる。それは、巨大な重力の剣を形成した。
(0) 百合香は大上段に構えた剣を、高く跳躍して一気に振り下ろす。
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(0)「『ゴッデス・エンフォースメント!!!』」
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(0) 空間全体を揺るがすような波動とともに、重力の刃が円形のエネルギーフィールドを外側から粉砕し、そのままバスタードめがけて襲いかかった。