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(0) 重々しく響くのは、凛には聞き慣れた声だった。その主の姿も良く知っていた。広間を満たす薄闇よりも黒い髪と僧衣。胸の白銀のロザリオとは対照的な、昏く澱んだ瞳。傍らに黄金の王。
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(0) 凛は、歯の隙間から声を絞り出した。
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(0)「綺礼……」
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(0) こんなに動揺するなんて、言峰が敵だと信じたくなかったのかも知れない。……まったく、これこそ心の贅肉だわ。
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(0)「やっぱり、あんたがこの金ぴかのマスターだったのね」
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(0)「ほう、それも予想していたか」
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(0) 言峰は、凛からアーチャーに視線を移した。
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(0)「そちらも凛ではなく貴様だろう? 実に賢い。
(0) だが、そろそろ目障りなのでな。――ギルガメッシュ」
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(0)「おのれ、雑種め」
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(0) 黄金の髪は乱れ、秀麗な顔は血に濡れて、憤怒に歪められていた。彼の背後から、変わった形の刃の切っ先が顔を覗かせていた。
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(0)「これを貴様らごときに使うことになるとは……。――天の…… 」
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(0) アーチャーは、制止しようとした白い騎士を消して進み出た。
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(0)「そういえば、あなたの願いは聞いていませんでしたね。
(0) あなたは聖杯に何を望むのですか?」
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(0)「なに?」
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(0) 風変わりな刃の動きが止まり、美青年の眉が釣り上がった。エクスカリバーも傷が治りにくい性質を持つ宝具だ。眉間の傷は消えていない。
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(0)「戯言だ。耳を貸すな」
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(0) ギルガメッシュは動かず、アーチャーの問いを一蹴した。
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(0)「望みなどない。わが財を取り戻すまでのこと」
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(0) アーチャーは首を傾げた。
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(0)「つまり、聖杯があなたの物だったということですか?」
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(0) ギルガメッシュは嘲笑を漏らした。
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(0)「このような紛い物、我が財ではない」
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(0) 黒髪の青年は目を伏せた。どこか悲しげな表情で続ける。
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(0)「そうとばかりも言えないでしょう。
(0) アインツベルンの願いの一つが、魂の物質化という魔法の復活だそうです。
(0) 不老不死、あるいは死者の復活ではないかと、私は推測するのですがね。
(0) 友を亡くしたあなたが、地の果て、海の底まで追い求め、
(0) 一度は手にし、失ったものではないのですか?」
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(0) 落日の色の瞳が大きく見開かれた。
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(0)「不死など、蛇にくれてやったわ!」
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(0) 黄金の短剣と、そこから繋がった鎖が飛び出す。蛇のようにうねり、アーチャーに殺到しようとした。
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(0) その一瞬前である。涼やかな声が高らかに命じたのは。
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(0)「魔術師の英霊が令呪に告げる。
(0) 我が下僕アサシン、来たりて宝具を使うべし」
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(0) 空間が揺らぎ、真紅の外套が姿を結ぶ。鋼色の瞳が開かれ、最後の一節が唇に上せられる。
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(0)「Yet, those hands will never hold anything.
(0) So as I pray, unlimited blade works. 」
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(0) 力が足りないならば、あるところから持ってくればいい。
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(0) アーチャーが時間を稼ぎ、キャスターが令呪でアサシンを転移させたのである。英霊エミヤの魔術には、詠唱時間の長さという弱点があった。それを排除するために、アーチャー、キャスター、アサシンが講じた策だった。主従間の感覚共有でタイミングを合わせ、令呪で転移させることにより、タイムロスをゼロに近付けるのだ。
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(0) これが、魔術師たちのもう一つの切り札。
(0)セイバーが戦う間も、他の面々は次の手を打ち続けていたのである。
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(0) ――そして世界は変容する。毒に満ちた洞窟から、赤い空と赤い荒野に。空には鉄の歯車、地には無数の墓標のように剣が突き立つ。生者なき世界の剣の王。英霊エミヤシロウの宝具、無限の剣製の発動だ。
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(0)「なんだ、これは!? おのれ、贋作か!」
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(0) 激した王の宝物庫から、剣と鎖が打ち出される。
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(0)「確かにな」
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(0) エミヤの前から、倍する数の剣が浮き上がり、迎え撃つ。贋作の剣の幾振りかが砕け散った。しかし、砕けぬものは相手を砕く。白い眉の片側が器用に上げられた。
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(0)「だが、贋作が真作に劣ると誰が決めた?
(0) この聖杯だとて同じことだ。
(0) 否定の矢を放つなら、召喚に応じた貴様に落ちてくるだろうよ」
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(0)「言わせておけば!」
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(0) 剣の矢の応酬が激しさを増す。両者は拮抗、いやアサシンが僅かに押している。背後から剣を打ち出す英雄王に対し、彼は前面や空中からも打ち出しているせいだ。士郎の目は、その光景に釘付けになった。
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(0) 自分の未来の可能性の一つが、あれほどの強さを持つのか。逞しい背が、巌のように屹立する。衛宮士郎の一つの到達点。宝具をも投影し、世界さえ染め変える異能。憧れないといえば嘘になる。
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(0) だが、なんて悲しい呪文に、空漠たる世界なのだろう。剣と歯車のほかは、地にも空にも何もない。草木や雲も、生き物の姿も。無数の剣は墓標のごとく、天地を赤く染めるのは、戦火と流血の象徴か。
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(0) 目の前にあるのに、遠い遠い背中だった。夢で見た賢者の言を思い返す。
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(0)『その剣を抜いたら、もう戻ることはできない』
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(0) どこかの世界の衛宮士郎は、彼にとっての選定の剣を抜いたのだ。
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(0)「士郎! 呆けてないでセイバーを呼びなさい!」
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(0)「あ、ああ、遠坂……。わかった」
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(0) 凛はアーチャーの指示に従って動いた。士郎はセイバーを心話で呼び戻す。居合わせたランサーとバーサーカーだが、ギルガメッシュとエミヤの応酬に割って入ることはできなかった。
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(0) ランサーは残念そうに槍をしごいた。黄金の王と真紅の将の、剣の軍勢からのはぐれ者か、言峰が打ち込んでくる短剣――黒鍵というらしい――を弾くぐらいしか出番がない。この世界は、エミヤシロウの心象が具現化した固有結界。黒い水は姿を消し、憎い神父を討ち取る絶好の機会が訪れているのにだ。
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(0)「ちっ、またお預けか」
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(0) 凛は呆れた。これは想像以上の戦闘マニアだ。背後からランサーに歩み寄ると、指先に魔力を込め、ピアスが揺れる耳を引っ張った。
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(0)「うぁ!? い、いてて! 嬢ちゃん、痛え!」
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(0) 思わぬ急所攻撃に、ランサーは涙目になった。ランサーは三騎士の一角。セイバーには劣るものの、ちゃんと対魔力を備えている。かなりの規模の魔術でなくては通じないレベルだ。そして、常人の数十倍の身体能力を持ち、戦士としての絶頂期の技量も再現されているはずだった。
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(0) ランサーは、華奢な美少女に畏怖の目を向けた。
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(0)「……嬢ちゃん、あんた何者だ? アーチャーよりも、絶対に強いんじゃねえか!?」
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(0) 凛は答えず、引っ張った耳へと囁いた。
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(0)「ランサーとバーサーカーは今は駄目よ。
(0) あの鎖は、神の血を引く者を束縛するんですって」
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(0) ウェイバー・ベルベットからの情報は、値千金、いや、ダイヤモンドやエメラルドよりも価値があった。
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(0)「あんたたちは完全にアウト。キャスターとライダーも正直危ないのよ。
(0) わかった?」
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(0)「わかった! よーくわかったから、手を放せ! な?」
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(0) ランサーの懇願に、あかいあくまは指を放した。
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(0)「逸話的に、人間を封じる概念はないだろうって、
(0) エルメロイ二世はおっしゃってたけどね。
(0) でも、わたしのアーチャーが、あれをどうにかできると思う?」
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(0) ランサーは真っ赤になった耳をさすりながら、首を横に振った。
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(0)「だから、今は撤退のチャンスを狙うの」
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(0) 凛の視線は、アーチャーに注がれていた。漆黒の目が、剣の応酬をじっと観察している。
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(0)「そろそろ潮時か」
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(0)「セイバーが着いたぞ。結界のすぐ外にいる」
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(0) 士郎がセイバーの到達を告げる。アーチャーは頷くと、イリヤに語りかけた。
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(0)「じゃ、頼むよ、イリヤ君。アサシンも準備を」
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(0) 頷いた銀髪が二つ。エミヤの指揮により、夥しい数の剣が打ち込まれた。ギルガメッシュの剣と激突する寸前、もうひとつの命令を下す。
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(0)「壊れた幻想 」
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(0) エミヤの射た剣の群れが爆散した。贋作だからできる反則技だ。爆炎の向こうから切れ切れに声が聞こえた。
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(0)「……おのれ、おのれ! 贋作ごときが……!」
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(0) 恐らく、ダメージを与えるには至らないだろう。だが、これは煙幕に過ぎなかった。固有結界の解除を悟らせず、イリヤの声を消すための。
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(0)「バーサーカー!」
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(0) 雄偉な体格の巨人は、アーチャーとランサーを摘み上げて両肩へと乗せた。次に、もう少し丁重な手つきで、大小の銀の魔女を彼らの膝に乗せる。残りの少年少女は、ひとまとめにして左腕を回し、アサシンの襟首に右手を伸ばす。キャスターの憤慨やら、美少女二人と一絡げにされた士郎の驚愕を無視して、アーチャーの膝に陣取ったイリヤは命令を発した。
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(0)「アインツベルンのマスターが令呪に告げる!
(0) バーサーカー、わたしたち全員で、出てきた家に一瞬で帰りなさい!」
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(0) 小聖杯として膨大な魔力を持ち、過程を無視して望みを引き寄せるイリヤの魔術特性。大神ゼウスの息子、ヘラクレスの体格と膂力。双方が揃ったことで、可能になった荒業だった。複数の人間と、サーヴァントを連れての空間転移。誰も振り落とさず、障害物に激突したりもせずに成功したのは奇跡だ。
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(0)「うわぁっ!?」
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(0) 間桐家の客間で、資料を前に苦い顔をしていた慎二の頭上に出現したのは、極小の誤差といえよう。しかしこの落下物、総重量は半トンを超える。
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(0)「あ、危ない、シンジ!」
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(0)「ぐぇっ!」
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(0) 硬直した慎二の襟首を引き、危機から救ったのは居残りをしていたライダーだった。
(0)少年の口から、潰れた蛙のような声が上がった。勢い余ったライダーに宙吊りにされ、床に下りるまでに半回転したからだ。
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(0) そんなライダー主従(仮)を尻目に、バーサーカーは巧みに身を捻って床へと降り立った。ちゃんと慎二を避けた位置だった。
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(0)「……おい、ライダー。僕に恨みでもあるのか」
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(0)「ないと言えば嘘になりますが、今はそんな場合ではないでしょう。
(0) アサシンが転移したかと思えば、今度は全員で戻ってきた。
(0) 何かあったのですね」
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(0) さらりと食えない答えを返してから、ライダーは戻ってきた調査部隊を問い質した。
(0)しかし、人間組は答えるどころではなかった。空間転移は、亜空間跳躍と似た性質があるようだ。眩暈と吐き気に頭痛が襲う。幼少時のアーチャーも散々に苦しめられた跳躍酔いだ。口を開けたら、話す前に吐く。そういう有り様なので、アーチャーとキャスターが交互に答えた。
(0)
(0)「一応、大聖杯には到達したんだよ。
(0) 英雄王主従に襲撃された。三連戦とはタフで恐れ入る。
(0) しかし、それよりも重大な問題が出てきてね……」
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(0)「もっと質の悪いものが巣食っていたのよ。
(0) あれが第三次聖杯戦争の名残り。『この世全ての悪』」
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(0)「やっぱりか……」
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(0) 慎二は苦り切った顔で癖のある髪を掻き上げた。
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(0)「……慎二君は心当たりがあるようだが、それは後にしようか。
(0) 追っては来ないと思うが、キャスターは一応防御を固めてください。
(0) で、手の空いている人はマスターたちの手当を……」
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(0) 物音を聞きつけて、台所から駆け込んできた桜が困った顔になった。
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(0)「だ、大丈夫ですか!?
(0) どうしよう、わたし、治癒の魔術なんて全然……」
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(0) ヤンは苦笑いして首を振った。
(0)
(1)「いやいや、十分もすれば吐き気は収まる。
(0) それから鎮痛剤でも飲めば充分だよ」
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(0)***
(0) 第五次の主従らの逃走で、大聖杯の間は再び闇で満たされた。セイバーが放った風の奔流も、澱んだ空気に含まれる毒を吹き散らすには不十分だったようだ。黒い水面のざわめきも治まっていない。
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(0)「……あれらは何者だ?」
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(0) 僧衣に身を包んだ長身の男が、低い声が呟いた。
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(0)「貴様に似た宝具を使う英雄など、聞いたこともない」
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(0) 黄金のサーヴァントは、忌々しげに吐き捨てた。
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(0)「大方、我を真似た贋作者だろう。知ったことではないわ」
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(0)「では、あの黒いアーチャーはどうだ?
(0) 七騎をまとめ、統率し、貴様相手に無傷で逃げおおせた。
(0) 只者ではなかろう」
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(0) 黒髪黒目で東洋との混血らしき顔立ち。欧州では平均的な身長だが、体重は平均を下回りそうだ。
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(0)「服装は近代以降のようだが」
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(0)「知らぬ」
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(0) 木で鼻をくくったようなギルガメッシュのいらえだが、言峰綺礼も最初から期待してはいなかった。
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(0) 近現代の戦争に動員された兵員の数は、古い時代の比ではない。有名になるのは後方の最高司令官であり、優秀な前線指揮官の多くは無名だ。なにより、サーヴァントは人生の最盛期の肉体で召喚される。凛のアーチャーが壮年期以降に名声を得たならば、歴史資料と容貌が異なる可能性が高い。
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(0)「……まあいい。アーチャー自身は、さほどに強力なサーヴァントではない。
(0) ギルガメッシュよ。次はセイバーにかまけず、さっさとアーチャーを潰すことだ」
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(0)「綺礼よ、貴様は戦士としては悪くないが、将たる器ではないな」
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(0) 第四次聖杯戦争とは見違えるようなセイバーの雄姿。伝説に謳われた、騎士の中の騎士たるアーサー王。その名声を裏切らぬ輝きと武勇であった。迷いと苦悩から脱し、主と友を守るために剣を揮っていた。
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(0) 前回のマスターには不可能だったことだ。あの男には、そうする気もなかっただろうが。あの男の養子の小僧だけで、可能とも思えない。単なる色恋では、女は皆のためには戦えなくなる。
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(1) もっと、高みにある感情が不可欠だ。友情に共感、尊敬。一介の少年と、孤独な王を結びつける者がいたはずだ。ギルガメッシュの心に、言葉の矢を射ち込んだ弓兵が。
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(0)「あれは、見た目よりも遥かに化け物よ。
(1) 死しても、兵を鼓舞することを止めぬだろう。
(0) ――あの男を斃すには、マスターどもと残りの六騎をことごとく屠ってからだ」
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(1) 殺す前に仲間を奪い、己の無力を後悔させてやる。そして、聖杯を前に問うのだ。なにを望むのかを。