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(0) 家族みんなで食べる初めての夕食を食べ終わった後、泉さんは風呂を進めてきた。寝汗で少し気持ち悪かったので、ありがたい提案だったが横にいる順を見て首を横に振る。
(0)『順を先にしてやりませんか?緊張しっぱなしで疲れたでしょうし。』
(0) 順は首を横に振るが、泉さんも少し考え納得してくれる。順は俺の服を引っ張り首を振り続けるが、俺は無視を決め込む。見かねた泉さんが助け舟を出す。
(0)「順、わがまま言ってないで、早く行ってきなさい。八幡君が入るの遅くなるでしょう?」
(0) その一言で思いついたように順は携帯に文字を打ち込み、俺の目の前に見せてくる。
(0)『お兄ちゃんと一緒ならいいんだよ!待たせないし、きっと楽しいよ!』
(0) どす、順の頭に手刀を落とし、スマホで文字を打ち込み、涙目で頭を押さえながら、頬を膨らませ拗ねている順に見せる。
(0)『馬鹿な事言ってないで早く入れよ。俺はこれから段ボールとか運んで汚れるんだし、今入っても意味ねーんだよ』
(0) 順は未だに拗ねた顔のままだが、納得はしてくれたようで、椅子から立ち上がり、舌を出して威嚇してから風呂へ向かう。
(0)(やっと行ったか……)
(0) ため息をつき少し体の力を抜く。
(0)「ごめんなさいね。あの子お兄ちゃんがよっぽど嬉しいみたい。あんなに楽しそうなあの子久しぶりに見たもの。」
(0) 泉さんは微笑みながら俺にそう言う。
(0)「八幡、一日でずいぶんと仲良くなったんだな。」
(0) 父さんが俺に羨ましそうな目を向ける。
(0)『まあね、俺も別に嫌なわけではないし、むしろああしてくれるのが嬉しいから平気ですよ。』
(0) それだけ見せると俺も立ち上がり、自分の名前が書いてある段ボールを探す。段ボールが合計三個。一度に全部行けそうだったが、疲れるのも嫌だったので比較的に軽い服関係の二箱を先に運ぶ。玄関を出て階段を上がり先ほどの部屋を目指す。
(0) 扉を開け部屋に入る。適当な場所に段ボールを下ろし、部屋を見渡すと先ほどは気にならなかったがこの部屋の異常性に気が付いた。
(0)(家具がベットしかない?ここはこれから俺と順の部屋になるんだよな……)
(0) そう、この広い空間にはベットが端にポツンと置いてあるだけでそのほかの家具が一切なかった。そのため、俺は少しだけさみしいと感じ背中がぞくっとする。
(0)(そうか、さっきまでは順がいたから、そこまで気にならなかったんだな。)
(0) 順がいないことでとても静かになっている空間をもう一度眺め、少しだけベットに腰を下ろす。それから少し経ったとき突然扉が開く。
(0)「八幡君、ちょっと話があるんだけどいいかしら。」
(0) 泉さんだった。特に断る理由もないので、頷き、ベットに座るように促す。
(0)「ありがとう、それで話なんだけけどね……この部屋元々旦那の……離婚相手の部屋だったのよ。それで家具とか全部持って行ってね、残ったのがベットだけなのよ。嫌味よね……浮気相手のところに行くからってベットだけ置いていくんだもの……ううん、何でもないわ、忘れて頂戴。」
(0) ……そういうことだったのか。俺はこの部屋の事情を理解したが、一つだけ疑問なことがあった。
(0)『俺と順はこの部屋なんですよね?家具、どうするんですか?』
(0) そう、これからの家具のことだった。家具なんてかさばるものはそうそう簡単には運べない。軽く見積もっても三日はかかるだろう。
(0)「そう、本題はそれなのよ。家具は明日見に行くとして届くのは三日後になるのよ。それでね、順が寝てたベットはもう小さくなって捨てたし、布団もないの。だから最近順にはこの部屋で寝てもらってたんだけど。……つまりね、三日間は順と一緒にこのベットで寝て欲しいのよ。」
(0) ………は?
(0) 驚きのあまりショートしてしまいそうになる意識を何とか保ちつつ、冷静になろうと深呼吸をし、手の中にあるスマホを操作する。
(0)『なら泉さんと父さんはどこで寝るんですか?泉さんのベットしかないんですよね?』
(0)「あぁ、それなら私とあの人は一緒に寝る。それだけよ。」
(0) 何にを言っているの?と言いたげに簡単に答える。まあ新婚なんだし、変ではないのだが息子の前でその発言はどうなのだろうかと考えてしまう。逃げ道を塞がれている。もう逃げ場はないと思い、俺は諦めたように息を吐く。
(0)『わかりましたよ。寝ればいいんですよね。』
(0) 簡潔に答え、その場を後にする。後ろから「順のことよろしくね」と声をかけられるが反応できる余裕はなかった。残り一つの教科書や本が入っている重い段ボールを運び終え、リビングでソファーに座りテレビを見ていた。面白い番組はなかったが暇つぶしにはなる。どれくらい経っただろうか。番組が終わりに近づいたころ。
(0) 順に後ろから抱き着かれた。花のシャンプーの香りが鼻孔をくすぐり、濡れた髪が頬を触れる。
(0)「!?!??!?!?」
(0) 突然の出来事に体が固まってしまう。横を見ると順の顔がこちらに向いていた。顔が近く、お互いの息を感じられる距離だ。順は顔を赤くすると体を離す。順はそのまま恥ずかしそうに下を向き耳まで真っ赤にさせる。しかし、それは俺も同じだった。顔が耳まで熱くて、鼓動がうるさい、胸が痛いくらいだった。順は携帯で文字を打ち込むと下を向いたままそれを渡す。
(0)『えっと、上がったのを知らせようとしたんだけど、普通はつまらないなって思って……ごめんなさい』
(0) それは謝罪だった。まだ、心臓がバクバクしていて、怒る気にもなれずに頷くだけで返し、スマホで風呂に入ると伝え、先ほど持ってきておいた寝間着を取って、風呂場へ向かう。
(0) 風呂場へ着き、ドアを閉めると、背中を預け、座り込んだ。
(0)(なんだよあれ……反則だろ……)
(0) 心臓が跳ね回る。顔が熱い。呼吸がうまくできない。
(0)(風呂入ろ、のぼせそうだし、シャワーでいいか。)
(0) 服を脱ぎシャワーを浴び、頭、体を洗ってすぐに出る。まさにカラスの行水だった。服を着てリビングに戻ると順がテレビを見ていた。自然とその横に座るが順が気付いた様子はなかった。おかしく思い順を見ると顔を真っ赤にし、目を回していた。
(0)(恥ずかしいならするなよ……)
(0) そう思いながらもその顔をじっと見ていた。
(0)(このままでもいいけど、そろそろ寝る準備を始めた方がいいよな……明日は早いだろうし。)
(0) そう思い、冷蔵庫から牛乳を取り出し、二つのコップにいれる。片方を先ほど座っていたソファーの前の机におくと、もう片方を順の頬に押し付けた。
(0)「ひゃっっっ!?!?」
(0) 順は驚き声を上げる。
(0)(やっぱり、順の声はかわいいな。)
(0) 牛乳を順の前に置き、飲むように促す。順は牛乳を一口飲んでから何かに驚き携帯で急いで文字を打つ。
(0)『順、今、声出したけど、お腹痛くなってないよ!?なんで!?!?』
(0) やはり、俺の予想は正しかったようだ。順は言葉を封印されただけで声を封印されたわけじゃない。つまり言葉を発しようと声を出すと呪いに引っかかるが、先ほどのように反射的に出てくる声は呪いの対象外なのだろう。スマホで俺の仮説を説明すると順は目を丸くし、
(0)『そうなんだ、知らなかった……お兄ちゃんは賢いんだね!』
(0) と、俺を褒めたので恥ずかしくなり顔をそらし牛乳を一気にあおる。
(0)『順、そろそろ寝に行こうぜ』
(0) 順に呼びかけたが順はきょとんとしたままだった。不思議に思い
(0)『どうしたんだ?』
(0) と尋ねた。そして、順の返答は全くの予想外だった。
(0)『え?順とお兄ちゃんって一緒に寝るの?』
(0) 泉さんは順には説明していなかったのだ。仕方なくさきほど泉さんから聞いたことをスマホに綴っていく
(0)『あぁ、泉さんから聞いてなかったのか。これから三日間、俺のベットが届くまでは順のベットで一緒に寝るんだと。』
(0) 順はそれを読み終え、もう一度読む。こちらにほんとに?という目線を送ってきたので無言で頷く。その瞬間順は飛び上がった。喜びを全身で表現するように跳ね回る。それをやめると順は笑顔を向け、俺の手を引き階段を上がり部屋へと連れていく。
(0)(いや、まだ歯も磨いてないんだけど……)
(0) 八幡は順を止めようかと思ったが、順の笑顔を前にそんなことは出来なかった。
(0)(まぁ、一日くらい大丈夫だしな。)
(0) 部屋に入り豆電球へ電気を変え、順と一緒にベットへ入る。
(0)『おやすみなさい!』
(0) 順は読み終わるのを確認すると、携帯を閉じ枕元に置き、少し俺に近づいてから、目を閉じる。
(0) 俺も寝ようかと試みたが昼寝をしたせいか目が冴えていて寝付けそうになかった。そこで目を閉じて、今日あったことを思い返した。
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(0) 初めて新しい家族と出会い、順と出会った。順の過去の話を聞き、俺の過去を話して、普通の兄弟以上の絆を順と結べたと思う。順にドキドキしながらも、自分はお兄ちゃんを全う出来たと思う。しかし、いつか、自分が順を女として見る時が来るのではないかと思ってしまう、
(0)(その時俺は、どうするのが正しいんだ?)
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(0) そこまで考えたところで、視線に気が付く。目を開けると、順がこちらを見ていた。順は俺と目が合うと、携帯を手に取り、文字を打ち込む。
(0)『お兄ちゃん、順、怖い。このまま、寝たらお兄ちゃんがいなくなるんじゃないかって、考えちゃう。お兄ちゃんはいなくなったりしないよね?お兄ちゃんは、比企谷八幡は順のお兄ちゃんだよね?』
(0) 順は泣きながら画面を見せてくる。順はおそらく久しぶりに人の温かさに触れたのだ。それが消えると考えてしまうのはやはり、父親の影響があるのだろう。そんな順の頭を自分の胸に優しく押し付ける。これだけで順には何が言いたいか伝わったのだろう。順はそのまま少し泣き、携帯で俺にとって一番嬉しいことを伝え、胸に抱き着いて寝てしまった。俺もそれに続き、幸せな気分のまま眠りについた。