南の島の大冒険!! -Alola Generation- (natsuki)
しおりを挟む

本編
第一話 VSイワンコ


 南国にあるアローラ地方、その中でも風土が豊かな島として知られているのがこのメレメレ島だ。

 

 メレメレ島、その中心街から少し離れた場所。そこが僕の新しい住まいだった。

 

「噂に聞いていた通りだけれど、すごい自然豊かな場所なのね……」

 

 お母さんが僕に声をかける。遠い地方から引っ越してきて、僕もお母さんもへとへとだった。

 

 それにしてもほんとうに豊かな場所だと思う。事前知識でしか仕入れていなかったけれど、このアローラ地方は四つの島で構成されている島嶼地方だということらしい。正直、島嶼の意味が解らなかったけれど、お母さん曰く、大小さまざまな島が点在していることを言うらしい。成る程、だったらそのアローラに素晴らしいものなのかもしれない。

 

「そうだ。お隣さんにも挨拶しないと。……あと、確か、ククイ博士? でしたっけ。お父さんの知り合いの方。あの方にも挨拶しておかないといけないわね」

 

 挨拶……か。なんというか、あんまりしたくないことではある。内向的だと言われてしまえばそれまでだけれど。

 

 そういうことで、僕はお母さんの言葉に従って、家を出るのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 お隣さん。

 

 正直響きとしては、不安と期待が入り混じる単語だと思う。仲良くなれるといいな、怖いな、という微妙な感じだったりする。うーん、やっぱり出来ることなら仲良くなりたいな。

 

 文字通り隣接している家の扉をノックする。

 

 少しして、扉が開かれる。

 

 中に入っていたのは、褐色の少年だった。緑色の髪を頭の上で束ねている。見るからに温厚そうに見える。

 

「やあ、どちら様?」

 

「あ、あの……。実はここに引っ越してきたばかりで……」

 

「そうなんだ。俺の名前はハウ。よろしくねー。名前は?」

 

「僕は、サン」

 

「サン、か。いい名前だねー。実はさ、俺、今度『島めぐり』をするんだよねー。サンは、島めぐりって知っているかな?」

 

 島めぐり。

 

 聞いたことがないけれど、ただの観光というわけでも無さそう。

 

 そう思って、僕はその言葉に首を横に振ることで返した。

 

「そうか。知らないか。まあ、しょうがないかな。だってここに引っ越してきたばかり、って言っていたもんね。詳しくはククイ博士に聞くといいよ。ククイ博士の研究所は高台にあるから、そこを目指すといいよ。……あー、でもあの道路はポケモンが出てくるなあ。サン、君はポケモン持っているの?」

 

「いや、持っていないよ」

 

「じゃあ、俺もついていくよ。俺もポケモン持っていないけれど……おいで、イワン」

 

 そう言ってハウは家の中から一匹のポケモンを呼び寄せた。

 

 犬のようなポケモンだった。ハウがその名前を呼ぶと、ハウに近寄ってそのままジャンプした。そしてハウはキャッチすると、イワンはぺろぺろとハウの顔を舐め始める。

 

「くすぐったいって……。こいつと一緒に行くから、たぶん道路は問題ないよ。ほら、挨拶しなよ」

 

 そう言ってハウはイワンを地面に置くと、俺を見つめて――やがて笑みを浮かべた。

 

「イワン……って言ったっけ」

 

「種族名でいえば、イワンコが正しいかな。こいつはうちで飼っているペットに近い感じ。とはいっても、そこそこレベルは強いから番犬に近い感じかな」

 

「へえ。頼りにしてるぞ、イワン」

 

 僕はイワンの頭をなでる。イワンは慣れているようで、笑みを浮かべつつ僕の足にすり寄ってきた。

 

 こうして僕たちは一路高台にあるというククイ博士の研究所へと向かうのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 VSイワンコⅡ

 ククイ博士の研究所までそう時間はかからなかった。イワンが戦うことも無かったのは、有り難かったような気もするし、戦う場面を見られなかったというのは若干寂しかったような気もした。

 

 ドアをノックして中に入る。

 

「やあ、いらっしゃい。ハウくん。……それと君は確か、」

 

「サン、です」

 

 僕はククイ博士に自己紹介した。

 

 しかしまあ、うわさには聞いていたけれど、結構ワイルドな恰好だよな。上半身裸の上に白衣を羽織っていて、何か眼鏡をかけている。目が悪そうには見えないし、恐らくサングラスの類なのだろうか。

 

「おお、サンくんか。君のお父さんにはお世話になっていたよ。どうだい、アローラ地方は。いいところだろう?」

 

「ええ、そうですね。何というか、自然に溢れている、というか……」

 

「そうともそうとも。それに、このアローラには他の地方で育まれているようなものが無いというのも見どころだよね。アローラには独特の文化が形成されているから、君が昔居た地方にあったようなジムや秘伝技といったものが存在しない。その代り、ポケモンの力を借りたり、島めぐりという伝統が残っていたりしている」

 

「島めぐり……。そうだ、それは確かハウも言っていた……」

 

「おや、ハウ。君もそれを言ったのかい?」

 

「だって、とっても楽しみだからね。その楽しみをみんなに分け合う! それっていいことじゃない?」

 

 それを聞いて腕を組み云々と頷くククイ博士。

 

「成る程ねえ……。確かに君らしい考えだ。……そうだ、サンくんに自己紹介をしておこうか」

 

 そう言ってククイ博士は僕に目線を合わせる。

 

「改めましてこんにちは! 僕の名前はククイって言うんだ。このアローラのポケモンを研究している研究者だよ。よろしく。……それはそうと、サンくん、島めぐりに挑む気はあるかい?」

 

「島めぐり……そういえば詳しく話を聞いていないのですが」

 

「そうか。……島めぐりとは、このアローラに残された風習のことだよ。ほとんどの地方ではポケモン協会管轄のリーグ・ジム制が導入されているが、ポケモン協会が存在しないアローラではリーグも無ければジムも無い。代わりにそれぞれの島に『キャプテン』と『しまキング・しまクイーン』が居る。まずはキャプテンと戦って最後にキング・クイーンと戦うことで道が開かれる。次の島に向かうことができる、ということだね」

 

「……つまり、修行みたいな感じなのですか?」

 

「修行、か。それとは少し違うかな。正確に言えば、子供たちの鍛錬、子供たちが大人になるための儀式、と言ってもいいかもしれない。アローラに住む子供たちは皆島めぐりをして、そしてキャプテンになっていく。それがこのアローラのルールになっているのさ」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 VSイワンコⅢ

 アローラのルール。

 それを聞いた僕は、気付けば心の中がそれでいっぱいになっていた。

 見たこともなければ、聞いたこともないポケモンの数々。さらにそれをはるかに上回るような、独特な気候とシステム。

 聞いているだけでチャレンジしたくなる内容ばかりだった。

 

「……いやあ、うずうずしているようだね?」

 

 ククイ博士に言われて、僕は我に返った。どうやら僕の表情はとっても笑顔だったらしい。

 

「まあ、この地方が特殊な地方だからね。いろいろなシステムがほかの地方とは違うものになっている。だから、君がそう気になってしまうのは解る」

「島めぐりの始まりは、しまキングのじっちゃんに聞くといいよー。俺も明日から島めぐりするんだ」

 

 ハウはそう言って笑みを浮かべる。

 それを聞いたククイ博士は背を向けると、机の上に置かれていた小さいテレビのようなものを持ってきた。

 

「そうだ。だったら、ハウとサンくん、君たちにはこれをお願いしようかな。ついで、という形になってもうしわけないけれど」

「あれ? でもククイ博士、いいのかい? 俺とサンと、もう一人島めぐりを行う人間がいたはずじゃ……」

 

 ハウがそう質問した、ちょうどその時だった。

 玄関のほうで何かがぶつかったような音が聞こえた。

 

「……噂をすれば」

 

 ため息をして、ハウは玄関を開ける。

 そこにいたのは、転んでしまって頭を搔いている女の子だった。背格好的には僕と年齢があまり変わらないになるだろうか。赤い帽子をかぶっていて、木の実柄のシャツはかなりゆったりしているのか下のほうで結んでいる。緑のショートパンツに赤い肩掛けカバンをかけている。

 

「いてて……。あれ、ハウ。どうしてここにいるの?」

「どうして、って。俺はこのサンに島めぐりのこと、あとククイ博士のことを紹介していただけだよ」

「へえ!」

 

 少女は立ち上がると、そそくさと僕の前に立って笑顔を浮かべた。

 

「はじめまして! 私、ムーンっていうの! あなた……サンくんも、島めぐりをするの?」

 

 そしてムーンは僕の両手を握ると、ぶんぶんと効果音がついてもおかしくないような激しく上下に振った。

 突然のことで何を言えば解らなかったけれど、僕はそれを聞いて何度も頷いた。

 

「そっかあー。それじゃ、島めぐりの子供たちはこれで三人になるんだね」

「そうだねー。……あ、そういえばククイ博士、俺たちに頼みたかったことっていったい?」

 

 ククイ博士は漸く自分に話が回ってきたと思って、咳払いを一つした。

 そして、ククイ博士は手に持っていたその小さいテレビのような何かを、ぼくたちに差し出した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 VSロトム

「これはポケモン図鑑だ。……とはいっても、君たちにはなじみがないだろうから、簡単に説明するね」

 

 そう言って、ククイ博士はポケモン図鑑のボタンをぽちりと押した。

 

『はじめましてロ! トレーナーさんの名前と指紋を登録するロ!』

 

 ポケモン図鑑の画面に目と口が浮かび上がり、それが言葉を発するたびに動き出した。

 その動きはまるでその中にポケモンか何かがいるような――。

 

「そう、その通りだよ。サンくん」

 

 そしてククイ博士は僕のその言葉を読み取ったように、頷く。

 

「これはロトムというポケモンの特別な力を引き出すために、ポケモン図鑑にロトムを入れた。まさに新世代のポケモン図鑑だよ!」

「ロトム??」

 

 僕たち三人は一斉にそう言った。

 ロトムということは今ククイ博士にポケモンであることを聞かされて、初めて知った。けれど、こういうものに入り込むということは電気タイプのポケモンになるのかな……。

 

「ロトムは電化製品に入る性質がある。冷蔵庫や掃除機、あとは……電子レンジか。まあ、そういう家電製品に入りこんで、その力を使いこなすという性質があるんだ。そうして、それをポケモン図鑑にも応用できないかと思ってね……、それがこのたび完成したんだ。それがこの! ロトム図鑑だ!」

「……あの、ククイ博士。ポケモン図鑑っていったい……?」

「よくぞ聞いてくれた、ハウくん!」

 

 ククイ博士はロトム図鑑を持ち出すと、僕たちに画面を見せてくれた。

 

「このポケモン図鑑は、君たちが旅をしていくうちに出会う様々なポケモンを記録することができる。見つけることでも情報は記録されるが、まあ、一番は捕まえることでそのデータが蓄積されるかな。そういうハイテクなものなんだ。そうして、そのポケモン図鑑を埋めること。これが、僕の夢なんだ。このアローラは気候が豊かだから、ほかの地方に住んでいるポケモンでも、アローラ独自の特性……『リージョンフォルム』を持つポケモンが多く住んでいる。けれどね、そういうポケモンも併せて、このアローラにどれくらいポケモンがいて、どこにどれだけどんな種類が住んでいるかは、あまりそこまで明らかになっていないんだ……」

 

 それを聞いていたハウはゆっくりと頷いて、そして、ククイ博士に質問を投げかける。

 

「……もしかして、俺たちにそのポケモン図鑑の完成をお願いするとか、そういうことは……」

「その通りだよ、ハウくん。なあに、三人もアローラを旅をするんだ。きっと君たちが力を合わせれば、ある程度のことは解決するはずだ。だから、君たちに一台づつ! 大事なものだから、なくさないようにね!」

 

 そう言って、ククイ博士は僕たちに図鑑を差し出す。

 

「そうだ。図鑑には名前を付けられるよ。愛着がわくからね。それもいいと思うけれど、どうだろう? 名前を付けてみるというのは?」

 

 名前か。つまり、ニックネームということだよな。ポケモンにはニックネームをつけられる。そしてこの図鑑にはロトムというポケモンがいる。……ロトム、ロト……。

 うん、決めた。

 そう思って、僕はポケモン図鑑を見つめる。

 

「じゃあ、今日からこのポケモン図鑑の名前は『ろとろと』だ! よろしくな、ろとろと!」

 

 それを聞いたポケモン図鑑改めろとろとは笑顔にして、

 

『はい! ろとろとですロ! よろしくお願いしますロ!』

 

 そうして僕とろとろとの冒険が、始まるのだった――!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 VSニャビー&アシマリ&モクローⅠ

 

 次の日。

 

 僕とハウはしまキングと呼ばれる人に連れ出されることになった。

 

 ハラという男性は、ハウを連れて僕の家にやってきて、「君が島めぐりを希望する人間だったな」と言って僕についてくるよう言ってきた。

 

 僕は母親に挨拶をして、家を後にする。

 

 そうしてハラさんについていって、向かった先にあったのは大きな舞台のような場所だった。

 

 そしてその舞台には、すでに一人の少女が立っている。ハラさんたちがやってくるのを見て、こちらに手を振っていた。

 

「おーい、ハウくん! はやく、こっちこっち!」

 

「あれえ? ムーンちゃんだ。ムーンちゃんも、受けるんだ。島めぐりの試練!」

 

 ハウが反応をしているけれど、当然のように僕は知らない少女だ。

 

 ハラさんが舞台に上り、続いて僕とハウが舞台に上がる。

 

 そうして、三人がちょうど舞台に横並びする形になった。

 

「……さて、ここに今年の島巡りをする三人が揃ったわけだが、先ず君たちには最初のポケモンを選んでもらおう。それは、この島めぐりをしていくうえで、君たちのパートナーとなるポケモンだ」

 

 そう言ってハラさんは三つのモンスターボールを僕たちに差し出した。

 

「ここには三種類のポケモンが入っている。君たちが好きなポケモンを選ぶがいい」

 

 そう言って、ハラさんはモンスターボールを投げた。

 

 そしてモンスターボールの中から三匹のポケモンがそれぞれ出てきた。

 

 茶色の丸っこいポケモンはモクロー。僕たちを見つめて、首を傾げている。

 

 黒い猫のようなポケモンはニャビー。毛づくろいをしているのか、ぼくたちの視線を気にすることなく毛をなめていた。

 

 青い身体のポケモンはアシマリ。アピールをしているのか、鼻から大きなバルーンを作り出している。

 

「さあ、何を選ぶか。君たちで決めてくれたまえ、けれど、ポケモンは一匹づつしかいないから、同じポケモンは選択できないぞ」

 

「私はアシマリちゃん!」

 

 先にそういったのはムーンだった。ムーンはアシマリを抱えると、そのまま持ち上げた。

 

 アシマリもムーンのことを主人と認めているのか、彼女に顔をすりすりさせていた。

 

「あ、ムーンちゃん、ずるい! ……うーん、どうしようかな。サン、君はどうする?」

 

「うーん、僕は……」

 

 そうして、僕はニャビーの前でしゃがみ込む。ニャビーは毛づくろいをやめてこちらを見つめていたが、僕はそのままニャビーの頭を撫でた。

 

「僕はニャビーにするよ。ハウは? ニャビーじゃなくて大丈夫?」

 

「俺はもともとモクローに決めていたから、別にいいよー」

 

 モクローを抱きかかえて、ハウは笑みを浮かべる。

 

「これからよろしくねー、モクロー?」

 

 そうして僕たちはそれぞれパートナーを手に入れることが出来たのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 VSニャビー&アシマリ&モクローⅡ

「それぞれポケモンを選んでもらったところで、島めぐりについて簡単に説明しよう!」

 

 ハラさんはそう言って、僕たちの注目をひいた。

 そしてその言葉通り、僕たちはその言葉を聞いてハラさんに目線を合わせた。

 

「島めぐりとは名前の通り、このアローラの四つの島をめぐることだ。そして、アローラにはキャプテンとしまキング、しまクイーンが居る!」

「ハラさんのような、しまキングということだね」

 

 気付けば隣にはククイ博士が立っていた。

 

「ククイ博士。いつの間に……?」

「まあまあ、それは別にいいじゃないか。ハラさん、続きを」

「うむ」

 

 ハラさんは頷くと、さらに話を続ける。

 

「そして、しまキング・しまクイーン全員を倒すと晴れてチャンピオンとして認められる」

「チャンピオン……」

 

 僕はそれを聞いて、胸が高鳴るのを感じた。

 アローラにはポケモンリーグが無い、ということは聞いていた。だから冒険をしたくても、あまりモチベーションが上がるようなことが無い。だから普通に過ごすしかないのだろう、と。そう思っていた。

 しかしアローラには島めぐりがある。ポケモンリーグとも違う、また別の仕組み。

 それを聞いた僕は、今にも飛び出したくなるような――そんな感じだった。

 

「さて、そうしてメレメレ島には一つ試練が存在する。その試練こそが……」

「ハラさん!」

 

 ハラさんの言葉に割りいるように、声が聞こえた。

 見るとこちらに走ってくる一人の青年が見える。年齢は恐らく僕たちより三つ四つ上くらいに見える。恰好から推測すると、ある程度裕福な家庭なのかもしれない。

 

「おお、イリマ。どうした。今ちょうどお前の試練の説明を……」

「大変なんです!」

 

 しかしながら、イリマと呼ばれた人はハラさんの言葉に割り入って、

 

「……大変なんです、ハラさん。これは、メレメレ島全体の、いや、アローラ地方全体のことに関わる重要なことで……」

「何があったか解らない。先ずは整理をつけてから話をしてくれないか?」

「そうだぜ、イリマ。ほら、この『おいしいみず』を飲んで!」

 

 ククイ博士が差し出した『おいしいみず』を飲むイリマさん。

 それを飲んでようやく落ち着いたのか、ゆっくりと息を整えていく。

 

「ようやく、落ち着きました。ありがとうございます、ククイ博士」

「別にお礼を言われるようなことじゃない。それで、どうしたんだい? 君がそんなに慌てているなんて、珍しいことじゃないか」

 

 イリマさんはそれを聞いて、目を丸くする。

 どうやら一瞬、自分がここになぜ走ってきたのかを忘れてしまっていたようだった。

 そして、イリマさんはゆっくりと――しかしながらまだ焦りは見えていたけれど――僕たちに告げた。

 

「そうだ、大変なんです! ぬしポケモンが……スカル団に捕まってしまいました」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 VSコラッタ(アローラのすがた)Ⅰ

「何だと!」

 

 それを聞いたハラさんは慌てて僕たちに声をかける。

 

「……済まない、重大なことが起きてしまった。申し訳ないが、ここは一度家に戻っていただいて――」

 

「その必要は無いんじゃないかな、ハラさん!」

 

 そう言ったのはククイ博士だった。

 

 ハラさんがそちらを向くと、ククイ博士はウインクをして頷く。

 

「……ククイ博士。それはいったい? 試練は出来ないのですぞ。それに、ぬしポケモンがスカル団に捕まったのならば、急いで助けにいかねばなりません。彼奴らはポケモンを売り捌くことで資金源にしていると言われていますからな」

 

「簡単なことだよ」

 

 そう言って、ククイ博士は僕たちに視線を向ける。

 

「彼らに、スカル団を見つけてもらえばいい。そうして、もし彼らがスカル団を倒しぬしポケモンを取り戻すことが出来れば……、それは試練達成と言えるのではないかな?」

 

「……成程。それならば問題はない。どうだ、イリマ。それで問題は?」

 

「ええ、大丈夫です。スカル団はハウオリシティのボートエリアへ向かった、という情報があります。急いでそちらへ向かいましょう!」

 

 僕たちは揃って大きく頷くと、イリマさんの後を追いかけていくのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ハウオリシティは巨大な港町だ。このメレメレ島の観光の一つでもあり、多くの人が住んでいる場所としても知られている。また、ほかの地方からアローラ地方への玄関口としても成り立っているためか、多くの観光客がこの町にやってきているのだ。

 

 その南側に位置するボートエリアには、船乗り場がある。造船所も兼ねているその場所は船乗り場にしては大きな建物となっている。メンテナンスも出来るように大きな船乗り場になっているのだ。

 

「……ここにスカル団が?」

 

「ああ、聞き込みした情報ではここに居ると言われているが……、あれか!」

 

 イリマさんは突然大声を上げて走っていく。

 

 目標は恐らく、埠頭にあった黒いヨット。

 

 白い帆には髑髏をモチーフにしたと思われるものが描かれていた。

 

「あれは、あれが、スカル団のモチーフだよ!」

 

 ハウがそう続ける。

 

「ということはあそこに居るのが……!」

 

 ヨットの傍には、スカル団と思われるタンクトップ姿の男女が四人。

 

 そして何か重々しい容器を抱えていた。

 

「待て、お前たち」

 

 そう言ったのは、イリマさんだった。

 

 イリマさんの声に気付いたのか、スカル団の片割れがこちらを向いた。その荷物は相当重たいものなのか、汗を相当かいている様子だった。

 

「……何だよ、こちとら忙しいんでスカら! 手を出してほしくないでスカら!」

 

「そうだ、そうだ! こっちは重要な任務を受けていて、それが漸く終わるんでスカら。手を出してほしくないでスカら!」

 

 スカル団は何というか、スカという単語に変なイントネーションを追加するのだろうか? 変な違和感を抱いてしまうのだけれど。出来ることなら辞めてほしいくらいだ。耳がとても気持ち悪くなってしまう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話 VSコラッタ(アローラのすがた)Ⅱ

「そういう問題じゃないんですよね」

 

 一歩前に踏み出したのは、イリマさんだった。

 

 イリマさんは表情には出していないものの、言葉の語気がどこか強く見えた。それはそうかもしれない。――聞いた話によれば、ぬしポケモンはキャプテンがそれぞれ熱意をもって育てるポケモンらしい。そんな情熱と愛情を注いだポケモンを盗むなどとなっては、怒るのも当然かもしれない。

 

 イリマさんの言葉に怯むことなく、スカル団は話を続ける。

 

「何スカしているんでスカ? そんなスカして、許されると思っているんでスカ? 俺たちを止めることが出来ると思っているんでスカ?」

 

「ああ、出来るとは思っていないね。少なくとも、お前たちみたいな連中は」

 

 そう言って、イリマさんはスーパーボールを投げた。

 

 ボールの中から飛び出てきたのは、コラッタだった。

 

 しかしそのコラッタは――僕がカントーで腐るほど見てきたあの姿とは違っていた。

 

 まず、身体の色が黒い。そして、髭を生やしていてどこか悪そうな表情をしている。悪そう、というよりも悪だくみを働いているような――と言えばいいのだろうか。

 

 いずれにせよ、その姿は見たことが無かった。

 

「イリマさん……そのコラッタは?」

 

 思わず、僕は質問をしていた。

 

「これはリージョンフォルム。カントーやほかの地方では見られる姿があるかもしれないけれど、ここアローラでは独自の生態系を築いているからか、普通とは違う姿をしている。まあ、アローラ人からすればこれが普通の姿なのだけれど」

 

 若干早口ではあったが、イリマさんが親切に解答してくれた。これはありがたい。リージョンフォルム、か。そういえばククイ博士が言っていたな、それがこのリージョンフォルムなのか。確かに違う、その姿を僕は目に焼き付けるのだった。

 

「さあ、君たちもポケモンを出して。僕とサンくん、そしてムーンちゃんとハウくんで、ダブルバトルをしよう。そのほうが手っ取り早く相手をなぎ倒すことが出来るからね」

 

「まるで俺たちを倒せるような発言でスカ……。倒せると思っているんでスカ!?」

 

「さあ、どうだろうねえ」

 

 イリマさんはスカル団に笑みを浮かべる。

 

 まるでスカル団など眼中になかったかのように。

 

 そして、イリマさんは右手にある――リングをスカル団に見せつける。

 

 それは何か宝石のようなものがついているリングだった。

 

 それを見ていたスカル団は慌てだす。

 

「やべえ……。あいつ、Zリングを持っているぞ。ということは、キャプテンか!?」

 

「何だい、そんなことも解らなかったのかな?」

 

 イリマさんは、構えだす。

 

 まるで何かポーズをとるかのように。

 

「キャプテン、イリマ! カプ・コケコに選ばれしキャプテンの名のもとに、悪事を働くスカル団を倒す!」

 

 そして、僕たちとイリマさんバーサススカル団のポケモンバトルが幕を開けるのだった――!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話 VSラッタ(アローラのすがた)

「……お前たち、何をしているんだ?」

 

 声が聞こえたのは、その時だった。

 

 そこに立っていたのは、黒いパーカーのような服を着た少年だった。やけに前髪が長く、右目は隠れるほどだった。パーカーの胸の部分には何か切り刻まれたような跡を、チャックで加工しているように見える。

 

 一言でいえば、変わった少年。

 

 それが僕のファーストインプレッションだった。

 

「ぐ、グラジオ……。貴様、いったい何をしているんでスカ!? お前は、スカル団の用心棒じゃないでスカ!」

 

「確かにそうだ。俺は、スカル団の……用心棒だよ。だが、それはスカル団のやり方か?」

 

 グラジオと呼ばれた少年は、スカル団が持っていた袋を見て言う。

 

 睨みつけるその様は、どこか威圧感すら感じさせるものがある。

 

「う、うう……。覚えてろよ、グラジオ。お前は、いつかボスに何か言われてもおかしくないんでスカら!」

 

「イリマのポケモンなんかいりませーん!」

 

 そう言って、スカル団は袋を置いて船に乗り込むとそのままどこかへと消えていった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……いやはや、それにしてもあっという間の出来事だったね」

 

 イリマさんは僕たちに向かってそういうと、小さく溜息を吐いた。

 

 気づけばグラジオと言っていた少年もどこかに消えているようだった。

 

 残されていたのは、大きな袋だけだ。

 

「たぶん、その中には……」

 

「ワルイデー!」

 

 ポケモンの……鳴き声?

 

 イリマさんは袋を開けると、そこに入っていたのは――。

 

「わー! アローラッタだ!」

 

 ハウはそういうとぴょんぴょん跳ね始める。

 

 何だ、アローラッタって。ラッタなら知っているけれど。というか、ラッタっぽい風貌ではある。黒い肌に、普通のラッタに比べると肥えた身体をしている。……何というか、ちょっと怖い見た目ではあるかもしれない。

 

「アローラの姿……リージョンフォルムのラッタ、ですね」

 

 イリマさんはこちらを向いてそう言った。

 

 イリマさんの話をまとめると、あのポケモンはぬしポケモンらしい。そして、そのぬしポケモンを育てることもまた、キャプテンとしての務めだというのだ。

 

 ラッタを袋から出して、イリマさんはラッタの頭を撫でた。

 

「さてと……それじゃ、戻ることにしましょうか、リリィタウンへ。きっと、ハラさんも待っていることでしょうから」

 

 そうしてイリマさんと僕たちは、一路リリィタウンへと戻ることになった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 リリィタウンへと戻ると、ククイ博士が僕たちに声をかけてきた。

 

「ククイ博士。どうなさったのですか、そんなに慌てて」

 

「イリマ……リーリエを知らないかい?」

 

 ククイ博士の言葉に首をかしげるイリマさん。

 

 ククイ博士はさらに話を続ける。

 

「そろそろ帰ってくる頃だろうから、サンたちにリーリエのことを紹介してあげようと思ったのだけれど、彼女、どこかに行ってしまってね」

 

「また、戦の遺跡へ向かったのではないでしょうか?」

 

「戦の遺跡。ああ……カプ・コケコの住まう遺跡だね。確かに、その可能性はあるかもしれない」

 

 そう言うと、僕たちに向かって博士は頷く。

 

「そうだ。どうせならサンたちも行ってみるといいよ、戦の遺跡! あそこはいい場所だ。何せ、アローラの守護神たるカプ・コケコを祭っている場所だからね。サンはアローラに来たばかりだし、一度は行ってみるといいと思うよ。運がいいと、カプ・コケコに会えるかもしれないし、さ!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話 VSオニスズメ(前編)

 戦の遺跡。

 

 リリィタウンから北にあるマハロ参道を通ると向かうことができるその場所は、めったに人が入ることができないと言われている。そう確定的な発言ができないのは、ククイ博士から聞いた発言をそのままオウム返しよろしく思い返しているだけだからだ。

 

「ここに、カプ・コケコが……?」

 

「居るとは言われているけれどね。でも、あくまでも守り神が僕たち人間の前に姿を見せるのは気紛れだから、いつでも出会えるとは限らないよ。ククイ博士も言っていたと思うけれど、カプ・コケコはアローラの守護神なんだ」

 

 アローラの守護神。

 

 カプ・コケコだけではなく、島に一匹ずつ居ると言われる守護神は、一言で言ってしまえばポケモンだ。

 

 しかしながら、たかがポケモンだと侮ってはならない。

 

 神に認められた彼らに逆らってしまうと、裁きが下ることもあるのだという。

 

「……まあ、それは普通に何もしなければいいし、実際に裁きが下ったらそのときはそのとき。カプに認められなかっただけのことだ」

 

 イリマさんはそう言って、マハロ参道を上っていた。

 

 聞いた話によると、キャプテンや島キング、島クイーンもカプに認められた者が為ることを許されるらしい。

 

 とどのつまり、カプのご機嫌が悪ければ――なれるものもなれない、ということになる。

 

 言い方は悪いかもしれないけれど、しかし、間違っていない。

 

 聞いた話だけれど、カプの怒りを買って滅ぼされた村もあるらしい。だから日々人々は、カプの怒りを買わないように生活をしているとのことだった。

 

 そして僕たちが向かっているのは――カプ・コケコが祀られている『戦の遺跡』。

 

 戦の遺跡、というかこういう感じで神様に近い存在が遺跡に祀られているのは、どこか別の地方を想起させる。雪国の地方だったと記憶していたけれど、あそこも確か神話についての研究が盛んに行われていたような気がする。かつて数度だけ、兄を訪ねに行ったことがあるけれど、寒すぎてあまり記憶が無い。

 

 それはそれとして。

 

「ここが戦の遺跡……。でもまあ、カプ・コケコも居ないようだし、どうする? 戻るかい?」

 

「いや、でも、確か……ククイ博士が言っていた話だと、助手の人が居るんだろ。ええと、名前は……」

 

「きゃあっ!」

 

 声が聞こえたのは、ちょうどそのときだった。

 

 声の方角を見ると、吊り橋に一人の少女が座ってしまっていた。

 

 もちろん、ただ座っているわけではない。オニスズメの群れに襲われているのだ。

 

 そして、そのオニスズメの群れから、鞄を守ろうとしている。よく見ると鞄の口は開けられていて、何か覗かせているように見えるのだが……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話 VSオニスズメ(後編)

「何しているの、サン!」

 

 そう僕に声を掛けたのはムーンだった。

 ムーンはそう言うと走り出して、吊り橋向かって走り出す。

 

「お願い、アシマリ!」

 

 モンスターボールをオニスズメの群れに投げると、橋の真ん中でちょうどアシマリがモンスターボールから出てきた。

 

「あわ攻撃!」

 

 アシマリはあっという間にあわを放ち、オニスズメの群れを遠ざけていく。

 オニスズメの群れもそこまで執着心が無かったのか、そのまま姿を消した。

 

「……ふう、大丈夫?」

「ええ。ありがとうございます。あなたは……?」

 

 ムーンはアシマリをモンスターボールに戻しつつ、告げる。

 

「私の名前はムーン。あなたは?」

「私は……」

 

 お互いが自己紹介をしようとした、ちょうどそのときだった。

 橋の縄が切れて、そのまま橋が崩れていく。

 

「きゃあああああああああ!」

「不味い! おい、ハウ。どうにか出来ないのか!」

「そんなこと言われたって~。とりあえず、大人を呼んでくるよ。少なくとも空を飛べるポケモンが居ないし……」

 

 僕とハウには、確かに空を飛べるポケモンが居ない。

 それはムーンにも言えることだった。

 目の前で危機に直面しているのに、何も出来ないのが非常にもどかしい。

 どうすれば良いのか……! そんなことを考えていた、そんな時だった。

 奥の穴から、何かが飛んできた。

 その何かはムーンたちめがけて飛び出して、ムーンたちを捉えると、そのまま地上へムーンたちを運んでいった。

 それは翼の生えたポケモンのように見えた。そのポケモンは見たことの無いポケモンだったけれど、どこか荘厳な雰囲気を放っていた。

 

「カプ……コケコ?」

 

 ハウがゆっくりと、そのポケモンの名前を告げた。

 カプ・コケコ。

 戦の遺跡に住まうといわれているアローラの守護神。

 それが今、僕たちの前にふわふわと浮かんでいた。

 そしてカプ・コケコはムーンたちを一瞥すると、そのまま戦の遺跡へと戻っていった。

 

「大丈夫かい、ムーン」

 

 僕とハウがそれぞれ彼女に質問する。

 彼女は服についた泥を手で払い、ゆっくりと立ち上がると笑みを浮かべる。

 

「ええ、問題ないわ。それより……」

「あ。すいません」

 

 白い帽子を被った少女は立ち上がると、鞄の中身を確認してから、僕たちに頭を下げる。

 

「あなたたちのおかげで助かりました。それにしても……あなたたちはどうしてこちらへ?」

「僕たちはカプ・コケコを見に来たんだよ。あと、ククイ博士からリーリエという人を探して欲しい、って言われてて」

 

 正確にはそう言われていないけれど、まあ、探してくれと言っているようなものだと思う。だから僕はそう答えることとした。

 そうして少女は僕の言葉を聞くと、目を丸くして、

 

「あっ。そうだったんですか。だったら急いで戻らないと……。その前に、先ずは自己紹介ですね。確か、途中で終わってしまいましたよね?」

 

 どこかお嬢様めいた雰囲気を放ちながら、少女は告げる。

 

「私の名前はリーリエ。今はククイ博士の助手をしています。よろしくお願いします」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話 VSマケンカニ(前編)

 

 リリィタウンへ戻ると、ククイ博士が僕たちを待ち構えていた。

 

「やあ、やっぱりリーリエも居たんだね」

「ほしぐもちゃんを探していまして……、申し訳ございません」

 

 ククイ博士に頭を下げるリーリエ。

 対して、ククイ博士はあまりそういうことを気にしていないようで、

 

「ま、終わりよければすべて良し! だし。それもいいんじゃないかな。……ああ、そうだった。戦の遺跡はどうだった? みんな」

「……ねえねえ、ここがアローラ地方なのですね」

 

 声が聞こえた。

 声は、リリィタウンの出口の方から聞こえてきた。

 白いコスチュームに身をまとったその不気味な存在が、二人。

 

「かがやきさまは、光を失っている。今、アローラ地方は、そのかがやきさまの力を使うことが出来る人間が……否、対抗出来る存在が居るというのだろうか」

「さて。あなた方はどなたですかな?」

 

 ハラさんは疑問に思って、質問をする。

 しかし、二人は答えることなく、さらに話を続ける。

 

「ゼンリョク祭り、というものがこの街にはあるようだが」

「おお、ゼンリョク祭り! 確かに御座いますぞ。それがいかがなさいましたか」

「ということは、Zパワーを使うことが出来る人間が……?」

「おお。確かにこちらに」

 

 そう言ってハラさんは僕たち三人に目線を合わせる。

 

「三人も」

「居るのか」

「しかし、Zパワーは完全に使いこなせておりませんよ。Zクリスタルは、すべて集め切れておりませぬ故。……ですが、いったい、どうなりました?」

 

 ハラさんの言葉に耳を貸さず、踵を返す二人。

 

「かがやきさまの力を取り戻す……、そのためには彼らが重要な担い手になり得るのかもしれないな」

 

 そう言って、二人は姿を消した。

 残されたのは、疑問だけを浮かばせた僕たちだけだった。

 

「さて。……奇妙な集団はさておき、イリマの試練を乗り越えたことでしょうから、最後に大試練をすべきでしょうな!」

「大試練?」

「そう! しまキングによる、大試練! そして、この島にいるしまキングといえばわたし、このハラなのですな!」

 

 ハラさんは両手を広げて、大きく頷く。

 しまキングによる大試練。

 確かにそれは、キャプテンたるイリマさんの試練を見事乗り越えた僕たちにとって、受けるべき試練であると言えた。

 

「それをうけることで、この島の試練はすべて終り! アーカラ島へと行くことが出来るのですな!」

「アーカラ島も自然がたくさんあるいいところなんだよー! まあ、メレメレもいいところなんだけれどね」

 

 ハウの言葉に、僕はゆっくりと頷いた。

 確かにメレメレ島はいいところだ。まだ日が浅いわけだけれど、それでもその島の良さが伝わってくる。

 けれど、ハウの話によれば、アーカラ島も良いところだという。アローラ地方自体が自然豊かな場所なのだから、それについては当然と言えるだろうけれど。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話 VSマケンカニ(後編)

「成程……」

「ポケモンバトルを聖なるモノとする、アローラならではのことだよ」

 

 ハラさんの言葉に、ククイ博士が補足する。

 

「確かに。それも有りですね。最初はどうやって彼らに図鑑を手渡すか、その役目をどう担当させようか考えていましたが……それなら、アローラの伝統に則ったやり方ですし、問題もないでしょう」

「え、えーと、つまり?」

 

 質問したのはサンだった。

 

「つまり、君たちには島巡りをしてもらい、アローラ地方とはなんたるかを知ってもらうのですな! そのための確認も……うん、問題ありませんぞ、ククイ。彼らならば、図鑑を渡しても問題ないでしょう」

 

 そうしてククイ博士は僕たちにあるものを手渡した。

 

「これはポケモン図鑑というものでね、様々なデータを記録することの出来る図鑑なんだよ。そして! 他の地方にはない特徴が一つ、あるんだ」

「特徴?」

「そうロト!」

 

 突然、ポケモン図鑑が動き出して思わず俺は落としそうになった。

 しかしポケモン図鑑は不思議な力(パチパチ、という音を立てていることだし、電磁波か何かか?)で浮かび上がると、俺たちに向き直った。

 

「ロトム図鑑、ここに推参、ロト!」

「ロトム……図鑑?」

「ポケモンのロトムと、ポケモン図鑑を融合させたんだ。それにより、得られた物がある。それはポケモン図鑑と人間とのコミュニケーションツールにもなり得た、ということだ。これは大きな研究の成果であるし、その途中経過でもある。だから君たちには是非それを持ち歩いて頂いて……ってこれは話をしたっけ」

「あの……博士? 二台あるのにロトムは一台しか入ってないんですか? 私の図鑑、反応しないんですけど」

「あ、僕の図鑑もー」

 

 疑問を浮かべたのはムーンとハウだった。

 ぎくり、と音を立てたような感じで所作を止めたククイ博士。

 

「あーえーと……それはね。実は……」

「ククイがロトムを無くしてしまったのですな」

「ハラさん! それは言わない約束だって……」

「ククイが目を離した隙に、どこかにロトムをやってしまったのだよ。勿論、ロトムは好奇心旺盛なポケモンだからな。居なくなる可能性だって十分にあり得た。そういうポケモンはモンスターボールに仕舞っておくのが普通だと言うに……」

「だから! あれは申し訳なかった、と言ったじゃないですか」

「言うなら、もう一人別の人間に謝るべきではないかね?」

「う……済まなかった、ムーン」

「いいですよ、別に」

 

 そう言うと、ムーンはサンの手を握る。

 ハウもムーンの気持ちが分かったのか、もう片方の手を取る。

 

「え?」

「三人で旅に出ることが出来る、口実も出来ましたしね」

 

 そうして、彼らは旅に出る。

 それはアローラ地方全体を巻き込む大災害の始まりになろうとは――まだ誰も知らない。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

短編シリーズ 「グズマさんとムーン」
#01 呼び名


「ねえ、グズマって何でも壊しちゃうの?」

 

「おうよお! ぶっ壊してもぶっ壊しても手を緩めないのがグズマ様だぜえ! ってかなんでお前ここにいるんだよ!? まさか毎回下っ端を倒してるんじゃないだろうな!!」

 

「えへへー。だって毎回ポータウンのスカル団の皆、バトルしてくるんだもん」

 

「してくるんだもん、じゃなくてだな……」

 

 ムーンの言葉に頭を掻くグズマ。

 

 しかしながらそれは手を焼いているようで、前からいつもこんな感じだから仕方ないといった諦めモードにも見える。

 

「ねえねえグズマ? 話聞いてる?」

 

「おうよお! ……じゃなくてだな、もうちょっと手加減てものをしてやってくれよ。お前、仮にもアローラのチャンピオンだろ。今はいろいろと大変なんじゃないのか?」

 

 グズマはムーンが忙しいことを知っていた。

 

 とはいえそれは本人から聞くのじゃなくて、風の噂や旧友のククイ博士から手紙をもらって状況を知る程度なのだが。

 

 半年前、ムーンがポケモンチャンピオンになってアローラという地方は大きく変わっていった。

 

 ジムを作るという計画もあったが、それじゃほかの地方と変わらない、アローラはアローラなりのものが無いとダメだとムーンが反対してジムの計画は頓挫した。

 

「……それにしてもよお、どうしてお前はジムの計画を受け入れなかったんだ? 別に、あれはお前には直接関係の無い話だろ。わざわざお前が介入することは……」

 

「ムーン」

 

「ん?」

 

 ムーンはグズマの口に人差し指を当てる。

 

「ムーンって呼んで。お前、じゃなくて」

 

「…………ムーン」

 

「うん?」

 

「あー、もう! べつにいいだろ、名前くらい!!」

 

 グズマは頭を掻いて、掻きむしって、ムーンを見る。

 

 しかしムーンは悪戯っぽくグズマのほうを見るだけだった。

 

 グズマはそれを見て、結局何も言えないのだった。

 

「私もどんどん暇じゃなくなっちゃうんだよね」

 

 ムーンは話題を変えた。

 

 それは今の彼女の近況についてだった。

 

「チャンピオンになったから、しまキングやクイーンとの調整や会合に参加する必要もあるし、バトルツリーで挑戦状を叩きつけられたカントーの二人組が居るし……おっと、そんな言い方しちゃだめだったよね。だって『先輩方』なんだから。それについては、グズマ、何か聞かれたら無視してね? オフレコ、ってやつだよ」

 

 しー、とわざとらしく口で言いながら人差し指を口に当ててムーンは言った。

 

 グズマはそれを見て、ただ何も言えなかった。

 

 ムーンの話は続く。

 

「まあ、それはいいんだよ。けれど、これからずっと忙しくなるようだったら……グズマと会う時間も少なくなるなあ、って」

 

「別にそれくらいいいじゃねえかよ。お前、俺と会うたびに下っ端とプルメリをぶっ潰すつもりかよ」

 

「ムーン」

 

「……ムーンは俺と会うたびに下っ端をぶっ潰すつもりかよ?」

 

「経験値になるから」

 

「経験値扱いかよ」

 

 ムーンはベッドに腰掛ける。

 

「だから……前々から思っていたけれど、そんな邪険に扱ってほしくないんだよ」

 

「あ?」

 

「だーかーら、言っているじゃない。グズマはどうして私のことを邪険に扱うの?」

 

「別に……邪険に扱うつもりはねえよ」

 

「じゃあ、前見てそれを言って」

 

 グズマはずっとムーンの目を見ずにそれを言っていた。

 

 だからムーンは敢えてグズマにそう言った。

 

 グズマは……恥ずかしがっていたようだったが、やがてゆっくりとそちらを向いて、

 

「……解ったよ。次からは邪険に扱わねえ。その代わり、下っ端をボッコボコにするのはやめろよ」

 

「えー」

 

「交換条件! それでいいだろ。解ったらさっさと帰れ」

 

 しっしっ、と手で払いながらグズマは言う。

 

 しかしムーンはそれが気に入らない様子で、

 

「別れの挨拶って、もっといいのがあるんじゃない?」

 

「……ほんと、お前って」

 

「ム・ー・ン!」

 

「……ムーンって我儘だよな」

 

 長い溜息を吐いて、グズマは言った。

 

「また会おうぜ、ムーン」

 

「うん、またね。グズマ」

 

 ムーンは立ち上がって、手を振って部屋を後にした。

 

 グズマはそれにぎこちない感じで合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 後日談。

 

 というか、ムーンが部屋を後にした直ぐの話。

 

「……グズマ、ほんとあんたあの子に弱いよね」

 

「プルメリ。突然やってきたと思ったら……今の俺にそれは傷に塩を塗る感じだぞ?」

 

「あんたにはそれくらいがちょうどいいよ」

 

 プルメリはそれだけ言って部屋を後にした。

 

 プルメリの顔がどこか赤かったようにも見えたが、グズマにはそれが何の意味だったのかはさっぱり解らないのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。