キメラ(31)、職業:アイドル (罠ビー)
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キメラ(31)、職業:アイドル

 某CALOIDがツボにはまりこんな枠のキャラでもいいかなっと投稿。自己満足。


 一面に広がる光の高原。人々が振るサイリウムの人工的な、その上で幻想的な光の海の前方、ひときわ明るいステージの上、白い光は皆が憧れる純白のスポットライト。それを独り占めして浴びる影は一人。ステージに上がるその影に光る棒を握る観客達は主役の登場に歓声をあげるのであった。

 

「テットテトにしてくれー」

「テトちゃーん」

「テトちゃ、テトさーん」

「てとさんじゅういっさいー」

「さんじゅういっさいー」

「フランスパンあげるよー」

「俺のマイクを握ってくれー」

「73ー」

 

 表れたのは赤褐色の髪をまるでドリルのようなツインテールにした、それでいてそのツインテールが不自然じゃない程度の平均的な体躯。いや一部に関しては平均以下だろうか。アレンジした軍服のようなステージ衣装を身に纏うもその衣装に反したタレ目の瞳には美しい、狂おしいくらいな紅い瞳が見開かれる。その顔は少女というよりかは悪友と遊ぶ少年のような笑みを浮かべて叫ぶ。

 

 

「君達は実に馬鹿だなぁ」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 重音テト。

 弱小とは言わないまでも大手とも言えないUTUプロダクションに所属するアイドルである。そこそこ名は売れており、芸能生活も長くアイドル業界のご意見番……みたいな立ち位置には持ち前の明るいキャラとやや軽い印象を受ける言動からなることもなく、親しみやすい先輩アイドルみたいな位置に落ち着いている。やや芸人的な面から「サッカーで例えるならゴンさん」みたいな言われ方もしばしば。

 31歳とネタにしかならない年齢ながらもデビュー当事からパフォーマンス、スタイルともに維持しており(一部は残念ながら)衰えることもない安定したパフォーマンスも人気のひとつなのかもしれない。

 ボクっ娘(31)、(73)、どんなマイクでも握る(意味深)、レンタル物はきちんと忘れずに延長するなどネタにまみれた公式プロフィールのなかに一際目立つ項目がある。

 

 

 性別:キメラ

 

 

 これにはファンの間でも

 

「やっぱ公式プロフィールは当てになんねーわ」

「キメラで31ってことは俺らの年齢換算したら以外と」

「キメラなのになんであんな戦闘力(73)なんですかねぇ?」

「テトさんじゅういっさいは貧乳なのがいいんだろうが」

「くっ」

 

などと色々な議論がされている。

 

 

 ……まあ事実なんだけどねー。ボク、重音テトはキメラである。なんか色々と犯罪と違法研究を掛け合わせてできたボクはその有り余る力で自分の篭をぶち壊してその後始末で色々と迷惑をかけながら市民権を得て、恩人の一人にアイドル業界に誘われ、それから長く長ーくアイドルをやっている。まあその辺の話はまた今度するお……だからそこそこに交友関係も広くまあいろんな業界関係者と知り合いである。

 

 

「そんな堂々と呑んで良いのかお?ウサミン星人(17)」

 

「ウサミン星は17で成人ですから問題なしです。テトさんこそ大丈夫ですか?」

 

「テトさんは31だから問題ないお。んでなんでいきなりボクを誘ったんだお」

 

 

 ウサミン星人(17)とキメラ(31)の貴重な飲酒シーン。まあ大衆居酒屋でそこそこ見られるからRくらいのレア度かお?

 彼女はウサミン。もとい安部 菜々さん。永遠の17歳を公言して戻れなくなっちゃったアイドルだお。声優を目指してたらアイドルとしてスカウトされたらしい。ちっちゃめなのにしっかりと出るところは出ていて羨ましい限りだ。また菜々さんじゅうななさいとかネタにされてるけど本当に17みたいな、下手したらもっと幼く見えるくらい小柄で童顔。その行きすぎた17歳アピールと頻繁に引き起こす自爆がなければ17歳っていっても違和感は無いかもしれない。まあそこがウサミンのおもしろ……セールスポイントでもあるしね。

 ボクとウサミンは互いにさんじゅうピーさいネタを皮切りにバラエティやたまにアニメなどで共演している。スレでは「お前ら人間じゃねぇ」とか言われてるけど。

 

 

「テトさんは本当に31なんですか」

 

「それはウサミンにとって特大のブーメランな気がするけどなんでだお」

 

 

 笑いながらボクはビールをあおるとウサミンの次の言葉を待つ。

 

 

「だってテトさん何年間アイドルやってるんですか?ちょっと31でも無理あるんじゃないですか?菜々がこどものころからまったく変わってないし」

 

「この前芸能生活15周年のライブやったお。まあ丁度ウサミンがこどもの頃が全盛期かな」

 

「日高舞とかといっしょに……昔の映像みただけですけど」

 

 

 ウサミンの問いかけにビールを一口呑むと枝豆を口のなかに放り込んでから答える。異種返しに世代だよねと返すと流れるように、とても自然に口を滑らした。酔っていることを考慮してもとてもなめらかで、追い討ちをかける事故弁護(誤字にあらず)もタイミング、声音ともにバッチリである。流石に職人芸である。

 

 

「おぉー匠の業を感じる」

 

「茶化さないでください。それに悪意を感じます」

 

 

 悪意あるもん。技というより業だお?それ

 

 

「もしかして人間じゃないんじゃないんですか」

 

 

 口に含んでいたビールを勢いよく吹き出す。いや、プロフィールに書いてある以上隠してるわけじゃないけど本気にされると困る。ならなんでプロフィールに書いてるのか?逆に嘘っぽいお?その方が。

 

 

「あーそんなあからさまな反応。そっちこそ名人芸じゃないですか。っいうか汚いです」

 

「はっはっは。だお。これが芸歴15年のアイドルの技だお」

 

 

 ウサミンも別に本気じゃないみたいだしね。むしろこっからが本題だろう。

 

 

「テトさん」

 

「なんだお?」

 

「どうやって若作りしてるんですか?居酒屋で年確されるくらいの若作りの秘訣を教えてください」

 

 

 そう言ってウサミンはビールを飲み干すとずいっとボクによってくる。あっ注文いいですかー。

 

「聞いてるんですか?菜々はウーロンハイで」

 

「聞いてるお。あっ、ファジーネーブルで。別にウサミンも若いと思うお」

 

「17歳ですから。でもこれからの事を考えると若作りの秘訣を知っておきたいです」

 

 

 酒で少し赤みがかった顔でボクを見るウサミンは可愛いが残念ながら行き遅れたOLのちょっと意外な一面にどきっとしちゃったみたいな可愛さだ。間を置くようにボク達のもとに烏龍茶の香り漂うお酒とオレンジの香りに少しさらに甘ったるさを加えた黄色いお酒が運ばれてくる。方やジョッキに移る茶色。方やグラスに映える黄色。

 

 

「若作りなんてしてないお」

 

「嘘ばっかり。自然培養でそんな31いません」

 

 

 うん。わかってる。だけどウサミンのはそういうところだと思う。そう言って運ばれてきたファジーネーブルに口をつけるとそっと上品に飲む。放り込むのではなく枝豆も綺麗に剥くと一粒をつまんで口に運ぶ。そしてその指をピシィとウサミンに向けてのばす。

 

 

「そういうところだお」

 

「どういうことですか?」

 

「若作りって言葉を口にした時点でウサミンは老いてるお。体より心が。心が焦りを産み不自然さを生み出すお。若いんだお。ボクはそう思って生きてる」

 

 

 ボクはそう言うとニヒヒと笑う。なおこれは肉体が老いをまだ知らないキメラだからの理論で普通は強がっても体に来てしまうだろう。

 

 

「なるほど……って話題逸らしてませんか?」

 

「バレたか……でもなにもしてないのは本当だお」

 

 

 そう言うとボクは席を立とうとする。納得はしてないだろうがこれ以上の回答はない。少し時間をおこうとしたのだが。

 

 

「どうしましたか」

 

「お手洗いだお」

 

「ちょっと菜々も行きたいですね。ちょっとビールかかっちゃいましたし」

 

「ごめんだお」

 

 

 成り行きで二人とも立つことになってしまった。これは逃がさないってことだろうか。仕方ないから席を明ける以上荷物は纏める。

 

 

「「よっこいしょ」」

 

 

 訂正、キメラも老いてくるらしい。このあともボクはウサミンに若さの秘訣を聞かれつづけたため、フランスパンで表情筋鍛えるとか言ってごまかした。




重音テト
本編主役のキメラさん(31)。芸能生活15周年。能力的にはvoがやや低めの他は高い感じ。サッカーで例えるならゴンさんでベテランなのに普通にギャグに走る。ネタしかないプロフィールはけっこう事実でネット住民にはコアな人気がある。また本人もけっこうネットを見ている。

ウサミン
みんな大好きウサミン。菜々さんじゅういっさいネタ。コメディ系キャラということで初回のお相手にさせていただいた。彼女のこども時代がテトさんの全盛期らしい。テトさんとは事務所が違うが共演の機会はそこそこあり仲は良好。


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かわいいボク(31)

 テトさんとかわいい幸子ちゃん
 幸子ちゃんが少々独自解釈入ってます。少し注意をお願いいたします。



 

「かわいいボクがいれば全問正解なんて楽勝です」

 

 

 司会進行のベテランの域に入ってきた芸人の質問に彼女はそう答えた。その笑顔は天然物の素晴らしい物なのだが言っている内容とあわせるとなんというか人によっては苛立ちを覚えかねない物に早変わり。またその丁寧な(無自覚だが)フリからの彼女のリアクションはもはや芸と言っても遜色のないレベルであり若冠14歳ながらバラエティを中心に活躍の場を広げている。

 そんな彼女、輿水 幸子ちゃんは346プロダクション所属のアイドルでその低めの身長と比しない自信過剰なコメントがまるで精一杯背伸びをしているようで可愛らしく、また程よくしゃくにさわる、色んな方面にファンを作り出している売りだし中の気鋭のアイドルである。また自信満々なのにやらかすと慌てだしたりとオイシイキャラをしている。そして今回のクイズ番組でのボクの相方である。

 

 

「自信満々だね、幸子ちゃん。なんか秘策でもあるのかい?」

 

「もちろんボクが可愛いからですよ」

 

「無いんかい!!才蔵、なんか言ってやってくれ」

 

「バカヤロウ、幸子ちゃんが可愛いって言ってんだからいいんだよっ」

 

 

 チームメイトであり司会進行を主に行う南雲さんからの

問いかけに幸子ちゃんは胸を張りその素敵なドヤ顔でそう言うと南雲さんは突っ込みながら才蔵さんに振る。才蔵さんは幸子ちゃんの味方になり南雲さんに反論する。

 

 

「ねえねえ幸子ちゃん。俺も可愛い?」

 

「憲一は黙っとれい」

 

「か、可愛くないですね」

 

「幸子ちゃん引いとるやないか」

 

 

 そして絶妙な間合いで憲一さんが幸子ちゃんの前に出ていきよくわからない動きを披露し南雲さんはキレる。微妙に間が開いてから幸子ちゃんは引いたリアクションをとる。いままでの流れに比べるとキレがなく初々しさを感じる。

 

 

「テトちゃんは何回目だったかな?けっこう出てもらってるけど。もう勝手知ったるもんやろ」

 

「確かに何回も遊びに来させてもらってるけどやっぱり慣れないお。いつもライブ前よりも緊張してるお。でも今回は自信あるお」

 

「おっ、今回はなんか秘策あるんかいな?」

 

「超絶可愛いボクととっても可愛いさっちんが一緒なんだお。負けるはずがないお」

 

 

 南雲さんが二人目のゲストであるボクに話を振ってくると緊張してるとの言葉とは裏腹に表情に軽く余裕を滲ませる。そこからのドヤ顔での幸子ちゃんネタに対する天丼芸。

 

 

「アンタもかいな。というか三十路越えがむりすんなや。幸子ちゃん、こんな先輩どう思う?」

 

「テトさんも可愛いですよ。もちろん可愛いボク程ではありませんが」

 

「ありがとうさっちん。さっちんも可愛いお。もちろんボクには劣るけど」

 

 

 南雲さんがボクに突っ込みをいれながら幸子ちゃんに振る。幸子ちゃんはボクを見ながらいつもの笑顔でボクにそう言う。ボクも大人の余裕(重要)を見せながら優雅に微笑む。あとは編集さんがうまくやってくれるでしょう。

 今回のメインゲストは気鋭のアイドル幸子ちゃんでボクはまあ引き立て役だ。まあ何回もこのゴールデンのクイズ番組に出させてもらってるし悔しくなんかないんだからね。

 

 オープニングトークの撮れ高はそこそこにクイズの撮影に移る。このクイズ番組はガチ度はそこそこにお茶の間もだいたいの人間がわかる一般常識が主となる。

 

 

「あれっあれっ?」

 

 

 しかし幸子ちゃんは若冠14歳。比較的簡単な問題(ガチな問題を出して幸子ちゃんを虐めるPではなかった)が回ってきてはいるがそこそこにわからない問題も混じってくる。おそらくこの問題は南雲さん達はわかっているだろう。

 

 

「では一斉に答えをどうぞ」

 

 

 回答が開かれる。不正解はボクと幸子ちゃん。

 

 

「幸子ちゃん、それにテトぉ、お前もか。自信満々にペンおいてたやんけ」

 

「わかんないからペン置いただけだお。さっちんだって間違えてるお」

 

「最後まで考えてた幸子ちゃんを見習えよお前は」

 

「ごめん、ごめんだお南雲さん。次はちゃんとやるお。さっ頑張っていくお」

 

 

 南雲さんがお約束どおり突っかかってくる。それに対してボクは不真面目に返す。まあ幸子ちゃんの狼狽えシーンを増やしすぎるのも可愛そうだし、ボクも多少は目立ちたいからインターセプトさせてもらったお。

 

 

◇◇◇

 

 

 その後も収録は無事順調に進み終了となる。残念ながらボーナスゲームへと進めなかったが幸子ちゃんの持ち味をしっかりとお茶の間に届けられたのではないだろうか?

もちろんボクも最低限の存在感を示してきたはずだ。

 

 

「というわけでお疲れ様だお」

 

「お疲れ様ですテトさん。……ていうか普通はボクから挨拶に行くべきなんじゃ」

 

「気にしなくていいお。好きにやってるだけだから。可愛い幸子ちゃんは待ってるだけでいいお」

 

 

 そう言って手土産を手に幸子ちゃんの楽屋を訪れるとなかなかに恐縮した感じで迎えられた。別に事務所違うけどそんなおっかなびっくりな反応されると悲しいお。

 

 

「そ、そこまで言うなら仕方ありませんね」

 

「うんうん。たぶんこれから一緒に仕事する機会増えるだろうし、仲を深めようとね」

 

 

 ボクっ子だし、バラエティ枠だし。ボクは幸子ちゃんの事を枠を争うライバルだとも思っているお。ただ幸子ちゃんはボクと違って育ちの良さがでてるけど。 たとえばこういう先輩がいきなり楽屋に押し掛けたとしてもきちんと対応ができているし。だとしたらなんであそこまで可愛いアピールをするのか?まるで誰かに見てもらいたいみたいに感じる。

 

 

「どうかしましたか?」

 

「別にー」

 

 

 ボクは幸子ちゃんの頭を撫でながら考える。コンプレックス。そういうものが幸子ちゃんのなかになにかあるのではないか?それが学校か家庭か、どこにあるかはわからないけど。人に見てもらいたい。だれしも、アイドルになろうという女の子なら持っていて当たり前の願望だが幸子ちゃんのそれはなんとなく必死でなんとなく歪な感じも受ける。

 

 

「ちょっとテトさん。やめてください。可愛いボクの髪の毛がぁ」

 

「いい子いい子だお」

 

 

 ひととおり幸子ちゃんの髪をワシャワシャしてから口を開く。あまり人のコンプレックスに深入りはしない方がいいだろうけど。一言だけアドバイスするくらいいいお?

 

 

「幸子ちゃんは人を笑顔にさせるアイドルになるんだお。笑われる道化には、なるんじゃなくてお」

 

 

 そうすれば今より、ボクより輝けるはずだお。




幸子ちゃん
かわいい。ボクっ子、コメディ系キャラということで二回目のお相手。なぜか承認欲求の高さからキメラさんのなかではコンプレックス持ちじゃないかと思われている。わかるわ。最後のキメラさんのセリフは遊戯王を参考に
南雲さん、才蔵さん、憲一さん
なんとなく見覚えがある天体系三人組お笑い芸人。ジュピターじゃないよ。番組は彼らの冠番組のクイズ番組。


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正義のヒーローと元悪の合成魔獣(31)

 

「もうたくさんだおっ!!いくらベテランだって言われても頂点をとることは出来ずみんな僕を追い抜いていくおっ」

 

 

 ボクはテレビ局の駐車場で追ってきたアイドルの子相手にうずくまりながらそう叫ぶ。違うとアイドルの子は否定するもその声音は弱々しくボクの疑念を晴らす事は敵わず逆にボクの疑念を強くする。

 

 

「みんなみんな嘲笑っているんだお。旬の過ぎたおばさんが惨めにしがみついてるって」

 

 

 それでも必死に励まそうとするアイドルの子に顔を向ける事はなくうつむきながら、捲し立てるように言葉を続ける。アイドルの子はその負の情念が込められた言葉にたじろぎ一歩後ずさる。……これくらいの事で後ずさってちゃ大成しないおと馬鹿にしたようにボクは呟く。そんな時ボク達しかいない地下駐車場に走り込んでくる影がある。小さな体躯は力強く、それでいて意思の籠った目でボクを見つめる。ああ、君は強いね。ボクなんかよりもずっと。だからボクなんか追い抜いてすぐに上にのぼっていくお。綺麗に輝く世界に羽ばたいていくお。その裏側がどんなに汚かろうと。

 

 

「もうわかったお。みんなみんな上から下にいる僕を嘲笑っているんだ。……南条ちゃんだってそうだお?」

 

 

 遅れてきた少女、南条 光に対してボクは首を反らし傾けながら流し目で、某アニメ製作会社が得意なあのポーズで笑いながら、その奥に潜む南条ちゃんのような純白な少女に向けるには黒い内心を表現しながらボクの姿は豹変を始める。

 

 

「テトっ!!どうしてそんな事を言うんだ。テトはみんなを笑顔にするアイドルじゃないか。長い間みんなを笑顔にしてきた……ヒーローじゃないか」

「南条ちゃんにはわからないお。追い抜かれる寂しさ、伸び悩む苦しさ、ファンが離れていく恐怖が」

「わからないよ。追い抜かれたら追いかければいい、もう伸びないなんて決まってない、テトを応援してくれるファンは……本当のファンはテトを見てくれる」

 

 

 南条ちゃんはボクの怨嗟の声に強い声で答えてくれる。ボクの体はそのどす黒い想いのように醜く変化していく。 禍々しい悪魔のような翼が生えて肌は黒く変化し柔らかさの感じられない甲殻質のものへと変わる。人々に夢を与えたアイドルの姿はみる影もなくそこには悪しき力に飲み込まれた哀れな女の姿があった。

 

 

「……テト、私はテトがどんなに悩んだか知らない。だけどそれでもダメだよ。人を傷つけたら、どんな理由があったって、ダメなんだよ」

 

 

 ゙変身゙

 

 

 南条ちゃんがポーズをとってヒーローに変身する。そう、君はヒーローで、正義の味方で、自分の夢を叶えた現代における英雄で

 

 

 ……画面が黒く染まる。って

 

 

「今良いところなんだけどデフォ子」

 

「自分の出てる番組見て悦に浸っているなら暇だね」

 

「違うお、反省してるんだお」

 

 彼女はデフォ子。UTUプロの職員で一応ボクのPということになっているお。……一応ね。唄音 ウタって名前も本名じゃないしね。まあでも今はUTUプロのスタッフだお。

 

 

「邪魔されたくないのだったら自宅で見ればいい」

 

「自宅にいてもデフォ子なら突入してくるでしょ」

 

「否定はしないね」

 

「そうだお。家の物壊されちゃたまらないからね」

 

 

 ボクの苦笑混じりの皮肉もデフォ子は表情を変えることなく受け流す。昔から代わらないお。

 

 

「お客さん。テトに用らしいよ」

 

「誰だお?」

 

「小さな英雄。」

 

 

 そう言ってデフォ子は部屋から出ていく。……やっぱり少し変わったかお。

 

 

 

◇◇◇

 

 

「テトさん、お邪魔します」

 

「いらっしゃいだお。この前は一緒に仕事できて楽しかったお」

 

「光もテトさんと仕事できてよかったよ」

 

 

 そう言いながらボクの用意したおやつを頬張るのはさっきボクが見てた特撮ドラマで主人公の一人、ジャスティスイエローを演じる南条 光ちゃんだ。

 特撮ヒーローが大好きでヒーローものに出るためにアイドルになる事を決意した子だお。ヒーローものに対する知識もすごく、なによりとてもまっすぐですなおなとてもいい子である。ちょっと身長が小さいがそれでも件の特撮ではそんなことが気にならないような堂に入った演技っぷりである。また件の特撮では主題歌も一部歌っている。

 ちなみに件の特撮ではボクは何年もアイドルをやっているが芽が一向に出ない先輩アイドルでその焦りにつけこまれ怪人になるアイテムを使ってしまうという役どころだお。まあ南条ちゃんが主役の回のゲストキャラだお。……ちゃんと変身は特殊メイクだお。素でできなくもないけど。ボクとしても少しなつかしいような複雑な感じだけれども。

 

 

「それで南条ちゃんはボクに何の用だお」

 

「テトさんはなんでそんなに悪役が上手いんだ?ドラマでも戦闘中とかすごかったし」

 

 

 そりゃアイドルになる前はリアル悪の組織の兵器やってたからだお。……なんて言えるはずもなく

 

 

「昔採った杵柄だお」

 

「ふーん。そうなんだ。それでテトさん」

 

 

 悪役ってどうやったらいいの?

 

 

 

 

 なるほど。南条ちゃんは今度やる346プロの舞台公演で悪役をやらなければならなくなったわけかお。まあたしかに独り善がりな英雄はあまりよくないお。……ボクは独り善がりな英雄に救われたのだけれど。それに悪役をやることで南条ちゃんの演技に幅が出てくるだろうし。346のプロデュースはよく考えられてるお。

 

 

「んでどんな悪役なんだお?」

 

「お宝を狙う怪盗って役なんだ」

 

「怪物強盗?」

 

「怪物強盗って?新しい怪人か」

 

 

 あながち間違ってないけど通じなかったか。まあでもそういう感じではないならあんまりハードな悪役というわけではなさそうだ。……怪物強盗だったらスプラッター待ったなしだけど。あっ怪物強盗役なら自信あるお。

 

 

「悪には悪の理由があるんだお。怪盗を主人公にした物語もあるし」

 

 

 猫の目三姉妹とか。世紀末の奇術師とか。古くは鼠小僧とか。

 

 

「でも人のものをとったらダメだ」

 

「うん。それは南条ちゃんが正しいお。でも例えばそれが盗られたものだったら?」

 

 

 ボクの問いにしばらく考えたあと南条ちゃんはそれでも盗んじゃダメだと答えた。おばさんには眩しすぎるまっすぐさである。

 

 

「じゃあどうしたらいいお?」

 

「ちゃんと話し合うべきだ」

 

「応じて貰えなかったら?」

 

「ヒーローの出番じゃないか……あっ」

 

 

 何か気づいたかお。……なんかヒーローを悪堕ちさせてるようなシチュのような気がするけど気のせいだ。

 

 

「向こうからしたら盗られたってなるお。まあ物事善悪の二つで測れないことが多いお」

 

「だからさ、正当化しちゃうんだお。こうだから自分は悪事をするんだって。それが悪役のコツだお」

 

 

 なんか戦争のやり方説いてる気がしてきたお。そういうとしぶしぶながら南条ちゃんは考える。

 

 

「理由があれば……いやダメなものはダメだろ。」

 

 

 ……先は長そうだお。まあヒーローに葛藤は付き物だお。じっくりとなやんで欲しいお。悩んだ時間は信念の強さにつながるから。

 

 




南条ちゃん
ヒーローアイドルってことで元悪の組織の兵器であるキメラさんとからんでもらった。第三回のお相手。ヒーローオタクでアイドル世界特有の超いい子。ピュア。
デフォ子さん
本名唄音 ウタさん。でも本名じゃない。キメラさんと同じく後ろ暗い事情のあるアンドロイドさん。なぜか重火器の扱いが上手い。お気に入りはRPG(ロケラン)。一応キメラさんのプロデューサー。


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面妖なあいどる(31)

 テトさんの出地である悪の組織ですが現実とは一切かかわりがありません。いまさらですがこの作品はふぃくしょんでありアイドルマスターシリーズ、及びVOCALOID等の二次創作です


 

「トッピングは」

 

「野菜マシマシアブラカラメ」

 

「はいよ、お隣さんは?」

 

「野菜ましましあぶらからめで」

 

 

 ……ん?なんか聞き覚えがあるお。ボクは体の欲するままに油ましましのラーメンを食べに来ただけのはずなんだけど。まさかボクの知り合い≒アイドルがこんなスタイル維持の大敵であり男臭い場所にいるはずないし。

 銀髪が目に入る。ハク姉?いや、ありえそうだけど奴はミクちゃんと一緒にアメリカのはず。じゃあ誰だろうか?銀髪銀髪……

 

 気になるがまあ詮索はやめておこう。話しこんでしまった場合二十郎のマナーに反してしまう。……いやそんな厳しい店じゃないけどさ。ラーメンは冷めたら美味しくないし伸びる。

 

 

「いただきます」

 

 

 箸を手にとり山盛りの野菜の下に隠れている麺をほじくり掴む。すると大量のモヤシの間からラーメンにしては太い麺が顔を出す。モヤシが丼から落ちないように配慮しながらそれを口に運ぶ。

 コッテリとした味が口に広がる。形容し難いが二十郎はだいたいそんなものだ。いや、たぶんボクの語彙が貧弱なだけだお。

 

 続いて豚、もといチャーシューに箸をのばす。まあなんというか少しパサついているが柔らかい肉を口に含むと麺を一口。……うん。

 豚はあとに残すと箸が進み辛くなる。あのパサつきが飲み込み辛く量がお腹に来る。

 しかし二十郎はスピード勝負。麺が伸びてしまえばさらに追い詰められてしまう。素早く麺を食しながら豚を無理なく食べきるのが理想だ。麺がお腹を埋めてしまう前に豚を食べあとはもう野菜しかない安堵感、そしてもう野菜しかない残念な気持ちを味わいながら野菜、というかモヤシを食す。

 うん、美味しい。そしてボクの中の……満足したみたいだお。高カロリー食万歳。美味しいものは脂肪と糖で出来ている。

 

 

「「ご馳走さま」でした」

 

 

 丼をカウンターの上に置き最期にいい仕事をしてくれた大将にお礼を込めてご馳走さまをする。うお、隣の人スープも全部飲んでいるお。

 

 そして扉を開けて外に出る。さてこれからどうしようか。

 

 

「もし?」

 

 

 声をかけられ足を止める。知り合い≒アイドルだからこんなところで声はかけられたくないだろうに誰だろうか。もう店内ではないので振り返る。

 

 

「貴女は重音 テトでは?」

 

「四条……貴音、かお」

 

 

 振り返るとやや大きめな身長、ムチッとしたとても女性らしい体。美しい銀髪を伸ばしとても整った容姿をした女性。765プロの四条 貴音がいたお。

 文句なしのトップアイドルの一人でそのある種浮き世離れした容姿、ミステリアスな雰囲気が人気なアイドルだ。

 今ではグルメアイドルとして広く知られているが大概何でもこなせる器用さもある。文句なしの天才、美希ちゃんの影に隠れているが凄く才能がある。……これがアイドルとしての四条 貴音だ。

 

 

「そんなに警戒されると哀しいのですが」

 

「ちょっと驚いただけだお」

 

 

 嘘。はっきり言うと苦手だお。理由はわからない。だけだボクの中のが彼女に明確に苦手意識をもってる。まあ何となくわかる。彼女はわからないからだ。

 

 四条 貴音

 彼女は得体が知れないお。確かに綺麗で整った容姿をしている。立ち振舞いにも品があり育ちの良さというか彼女自身の高貴さのようなものがうかがいしれる。しかし彼女の出地ははっきりとしていない。……ボクもヒトのこと言えないけどさ。

 それでいてとても勘が鋭い。ドッキリ番組とかでも仕掛けを完全に把握しているような素振りや目線配りを見せたこともある。

 そして極めつけは、今相対していて隙が全くないことである。

 

 

「そんなに怖い顔をしないでほしいですが」

 

「別にそんな気はないお」

 

「そうですか?」

 

 

 そう言って貴音はボクに近づいて来る。軽く一歩ボクは後ずさる。

 

 

「トップアイドルが二十郎に変装もせずに来るなんて驚いたお」

 

「それは貴女も同じだと思いますが」

 

「ボクはトップアイドルじゃないお」

 

 

 そう言って苦笑いする。そんなボクの返しにも彼女は表情を変えない。

 

 

「二十郎は好きですか?」

 

「なんだお、藪から棒に……好きだお」

 

 

 唐突な彼女の問いかけにややぶっきらぼうになりながらも答える。嫌いじゃなかったら二十郎なんか行かないお。

 

 

「私もです。それに比べれば小さなことです。私と貴女の面妖な出地くらい」

 

 

 全身の毛が逆立つような感覚がボクを襲う。それと同時に相手の言葉に理があると思い飛びかかりそうな体をとどめる。

 

 

「なんで、そう思ったんだお」

 

「だってぷろふぃいるに書いてあるじゃありませんか」

 

 

 いや、そうだけどね。でもそれだけじゃないんだろう。底が知れない。ん?私と貴女?

 

 

「君もナニか秘密があるのかお?」

 

「さあ、どうでしょうか。どのように思われますか?」

 

「ただ者だとは思えないお」

 

 

 そう言ってボクは笑う。さっきまでの自分を支配していた苦手意識や恐怖はない。

 

 

「でも同じ面妖なニジュリアン。それだけだお」

 

 

 そう言って四条 貴音、いやお姫ちんに手を差し出す。うん。改めてみるとすごく綺麗だ。そしてそのポカンとした表情も可愛らしい。なんかもったいないことをしていたかもしれないお。うん、業界の先輩として大人げなかったお。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてあんなに驚いておられたのでしょうか?」

 

 

 重音 テトと別れたあとそう呟く。同じ二十郎にいたので声をかけただけである。アイドル仲間では二十郎に来るような人間はいないので珍しく嬉しくなったのだ。

 しかしいざ声をおかけすると凄まじい表情を向けられる。ムム、怒らせてしまいましたか。相手は業界の大先輩。機を違えてしまいましたか。確かに素顔でした。騒がれてしまうのは本懐ではありませんね。話題を剃らしましょう。

 

 そして二十郎の話を振ってみる。二十郎にいるなんてお互い面妖な女子である。これを期にお近づきになりたいものです。業界の先輩としてもお話をうかがいたいですしね。……ってもしかして怒らせてしまいましたか?

 

 いや、なんとかなったようです。うん、笑顔は素敵ですね。私より多くを知っているだろうに少年のような笑顔は清々しささえ感じられます。やはりこの業界で長く一線で活躍されている方。すばらしいです。

 

 ん、私ですか。どう思っていただけてるのでしょうか。ただ者ではない。大先輩からの太鼓判、まことに嬉しく思います。それに同じ二十郎好きの同好の士。よい関係を築いていきたいものです。

 

 

 




ハク姉さん
ミクさんと一緒にアメリカにいるらしい。テトさんの昔のアイドル仲間。今はミクちゃんのマネージャーみたいな立場。
ミクちゃん
押しも押されぬトップアイドルだった。当時の日高 舞とほぼ同じくらいまで迫ったが彼女は活動の場をアメリカに移しアメリカで大成功をおさめた。ハリウッドとかブロードウェイで活躍中。
お姫ちん
第4回のお相手。面妖な雰囲気を振り撒いている高貴なお人。765で罠ビーが一番好きな人。面妖なキャラのまま人外にしようと思ったけど超天然というか勘違いキャラになっていただいた。この方が面白いかなって。安定のニジュリアンでありらぁめん愛好家。


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