ジパング×艦これ ~次元を超えし護衛艦~ (秩父快急)
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資料編
登場人物~軍・ 自衛隊関係者~


〔 海上自衛隊 〕

 

~部隊説明~

我が日本国を守る海上自衛隊。戦後70年間もの間創設以来貫いてきた専守防衛を貫く。しかし、艦これの世界ではそれが通用しないことを知り…。専守防衛派と先制攻撃派に分裂してしまう…。

 

角松洋介 ニ等海佐 兼 副長 →一等海佐

みらいの副長をしており、艦では2番目の立場。菊池と尾栗とは防衛大の同期であり、心からの親友である。阪神淡路大震災の際に梅津艦長と出会い、それ以降、梅津艦長を深く信頼している。草加少佐の行動には疑念を抱いている。長崎県佐世保市出身

 

菊池雅行 三等海佐 兼 砲雷長 →ニ等海佐

イージス艦みらいの砲雷長。角松と防衛大では同期であり、角松の推薦で砲雷長に抜擢された。常に冷静沈着であり、みらいでは数少ない理論派。プライベートでは角松と尾栗と一緒に出かける程である。東京都新宿区出身

 

尾栗康平 三等海佐 兼 航海長 →ニ等海佐

みらいの航海長。九州生まれの為、豪快な性格。血の気の多い性格であるが、部下の事を優しく気遣う一面を持つ。防衛大入学前は北九州で暴走族をしていた過去がある。福岡県福岡市出身

 

梅津三郎 一等海佐 兼 護衛艦みらい艦長

イージス艦みらい の艦長。神戸市生まれの神戸育ちで、前歴は阪神基地の司令長を勤めていた。昼行灯のあだ名が有名で、のんびりとした性格だと思われているが…。責任感が強く、部下のことも手厚く思う、隊員達の父親的な存在。兵庫県神戸市出身

 

佐竹 守 一等海尉

海上自衛隊館山航空基地配属のパイロット。今回は、日米合同軍事演習参加のため みらい に乗艦していた。海鳥専門のパイロットで、海自でも有数の名パイロット。艦娘の響と、どうやら気が合うらしい…。千葉県 館山市出身

 

森 大貴 二等海尉

佐竹一等海尉とコンビを組む海鳥の射撃手。気さくで優しい性格だが、小笠原偵察時に国防海軍の二式水戦と戦闘となり頭部に銃弾を受け救命処置を受けるも殉職。新婚で東京の自宅に幼い子供がいた。

 

桐野 大紀 一等海尉

砲雷科 菊池の右腕とも呼ばれるCICの副指揮官。考えがまとまらないまま突っ走る傾向があるようで、よく窮地に立たされる。京都府 舞鶴市出身

 

桃井 佐知子 一等海尉 兼 衛生士

みらい隊員達の体調管理や怪我や病気の時に応急処置を行うみらい隊員達の母親的存在。艦娘達が来るまでみらい唯一の女性自衛官だった。神奈川県 小田原市出身

 

青梅 鷹志 一等海曹

別名CICの主と呼ばれる射撃管制の名手。無精髭丸眼鏡を掛けているせいで実年齢より老けて見えているのが惜しいところ。 青森県大湊市 出身

 

米倉 薫 一等海尉

初めて深海棲艦に遭遇したときに焦ってアスロックを無断発射してしまった張本人。菊池から謹慎処分を受けたが、挽回しようと日々頑張っている。東京都 八王子市出身

 

柳 一信 一等海曹

みらいで一番の軍事オタク。その頭脳は艦これ世界でも通用し、みらいが航行するのに役に立っている。埼玉県 川越市出身

 

林原 克敏 三等海尉

SH-60J担当のみらい専属のパイロット。SHでは機長を勤める。先輩の佐竹一尉に追い付けるよう日々訓練に励んでいる。福島県 郡山市出身

 

柿崎 優輝 一等海曹

林原とペアを組むSH-60Jコンビ。機長の林原と家族ぐるみの付き合いで、喧嘩するほど仲が良い。

新潟県 長岡市出身

 

フリージャーナリスト 片桐 直樹

日米合同軍事演習の取材のため、みらいに乗艦。タイムスリップしても、相変わらず報道魂は健在でこの世界の事を取材し始めた。また、みらいクルーの記録写真撮影担当も兼任するようになった。東京都 西東京市出身

 

 

 

〔 国防海軍 〕

 

~部隊説明~

前身の海上自衛隊から代わり、日本国内に明確な侵略行為がある、または予想される場合において先制攻撃が可能となった。しかし、内部では艦娘の立場を争い…。人びとの心の闇が見え隠れしている。

 

・柏木淳 提督(海軍)

艦娘が窮地に立たされたときは自ら現場に赴くという、一風変わった性格の横須賀鎮守府の提督。温厚な性格で艦娘や部下達にも優しく接することが多い。元自衛官であるため、イージス艦みらいを軍から守ろうと必死になる。埼玉県所沢市出身

 

・山本五十六 司令長官(海軍)

表の顔は国防海軍をまとめる総司令官であるが…。実は本人もみらいと同じく時空の歪みにより艦これの世界へ飛ばされてしまっている。立案する作戦は政府高官も納得するなど、国防海軍を支えている。新潟県長岡市出身

 

・草加拓海 通信参謀 (海軍)

国防海軍の通信参謀。海軍の中でも断トツのエリートであり、頭の回転が速い。海上自衛隊の角松二佐とはライバルであり友人でもある。前世で頓挫してしまった、ジパング計画を達成させようと企んでいる?岩手県盛岡市出身

 

・河本 正昭 兵曹長

護衛艦みらいに出会った際、異世界からやって来たとの報告を受けみらいクルーを疑っていたが…。尾栗の計らいにより解消。みらいの行動に積極的に関わるように…。広島県呉市出身

 

・海江田 俊郎 原子力戦艦[やまと]艦長

防大を成績トップで卒業し、海戦の鬼と言われる艦対戦のプロ。顔は温厚だが性格は厳しく、部隊の規律をとても気にする人物。ただ、艦娘達との交流は苦手な模様

 

 

・向井 哲也 整備班長(海軍)

横須賀鎮守府の整備班長。主に、艦娘達の装備の整備や修理を行っている。柏木提督とは防衛大からの仲で、お互いの腕を信頼し日々競いあっている。長野県上田市出身

 

・岸 涼子 艦長(護衛艦あまぎり艦長)

防衛大卒業後、海上自衛隊へ入隊。補給艦や練習艦等で経験を積み国防海軍創設時に、前任の海老名艦長から抜擢され護衛艦あまぎり艦長になる。隊員思いの優しい性格だが信念の強い持ち主

 

 

〔 国防陸軍 〕

 

~部隊説明~

陸自から代わり現在は本土決戦に備え日々、訓練を行い地上戦へ備えている。噂だが、陸軍の一部で良からぬ計画を立てているらしい…。

 

・棟方 幸一 第82普通科連隊 総隊長

旧陸上自衛隊の生き残り。自衛隊時代に空自から陸自に転籍した意外な経歴を待つ。航空機から戦車、船舶までほぼ全ての装備の使用をすることができる。また、国防軍では数少ない初期の対深海棲艦との戦闘経験者。

群馬県下仁田町出身

 

・新條 勇也 第82普通科連隊狙撃班副隊長

陸自上がりの敏腕ハンター。アメリカ海兵隊で修行した狙撃の腕は一流で、国防陸軍のベスト5。ただ極度のお化け嫌いで夜戦が苦手なのがタマにキズ。なお、研修生時代にF35JBで神業を披露し戦闘機操縦は得意。

沖縄県恩納村出身

 

・渡良瀬 佑介 東部方面化学防護小隊 隊長

元陸上自衛隊大宮化学部隊の隊長で、防大卒の陸軍幹部候補。深海棲艦の実態解明に人生を捧げている。近藤参謀ら陸軍一部隊員らの不審な行動をいち早く察知する。 埼玉県 狭山市出身

 

・近藤 平八 陸軍警務隊参謀 (陸軍)

旧陸上自衛隊の警務隊出身。東部方面の鎮守府の警務隊をまとめる。参謀会議では、暴言を吐くことも多く、ハト派の多い参謀らのなかでは異色のタカ派。裏では国防陸軍内で何かを企んでいる模様。三重県 伊勢市出身

 

 

〔 国防空軍 〕

 

~部隊説明~

空自から代わり、新しく新設された国防空軍。機材は空自時代からの機材と米軍より提供された武器の2種類がある。しかし、パイロット不足で領海をカバーできていないのが現状。

 

・羽矢田 進 コスモアタッカー隊 隊長

国防空軍第85コスモアタッカー隊 隊長。元航空自衛隊のエースパイロット。愛機は旧式のF15JBで基本マニュアル操縦である。空自時代に1回のフライトで敵機を20機も撃墜している。富山県 黒部市出身

 

・日々木 剛 第75航空隊 隊長

元航空自衛隊パイロット養成機関ZEROの教習官空自時代から世界有数の戦闘機乗りとして有名で、深海棲艦出現時に一機でひとつの敵基地を使用不能にしたことがある。顔は怖いが根は温厚な性格。東京都 墨田区出身

 

〔 技術開発センター 〕

 

~部隊説明~

国防省直下の技術開発センター。元々は防衛省直下だったが、自慢の開発力をさらに向上させ今に至る。本部は立川市にあるが、大阪にも支部がある。

 

・矢澄 高志 技術官

国防軍創設後に大手コンピュータ開発会社より選抜されたコンピュータ技官。深海棲艦の分析や最新鋭ミサイルの誘導システムなどを開発。意外とイケメンであり実は艦娘の一部から称賛の声が…。神奈川県相模原市出身

 

・堀井 正海 技術開発長

技術開発センターで一番の発明家。大阪弁を話し、柏木提督とは自衛隊時代の研修仲間。開発した装備は前線で活躍する機械も多く、深海棲艦に有効な打撃を与えることもある。大阪府大阪市出身

 

・ヤオ・ナバン博士

技術開発センターで新型戦闘機に搭載予定のエンジンを開発中。過去に艦娘用の艦積機を開発し人類に反逆のチャンスを与えた。愛用の試作機にスノーホワイトと名づけるなどメルヘンチックな一面も。

アメリカ合衆国 ハワイ島出身

 

〔 国防省 〕

~部隊説明~

旧陸海空自衛隊を解体し、新たに再結成された姿。従来通り、武力は平和利用が前提だが…。深海棲艦の進行にともない急速に武力が増えてきているのが問題となっている。

 

・沢井 宗一 国防軍初代総監

日本国国防軍総監。温厚な性格で深海棲艦などの未確認生物との対話による平和的解決を望んでいる。温厚な性格で大規模作戦時には前線に立つことも。長野県松本市出身

 

・吉岡 勉 国防軍警務隊参謀

陸海空全ての警務隊の総司令。元陸上自衛隊出身侵略する深海棲艦を人類の的として険悪している。攻撃には人道的措置をも取らぬ考えのタカ派

京都府 舞鶴市出身

 

・柳瀬 直也 国防軍補給担当

国防軍に必要な物資の調達・確保が専門。元海上自衛隊経理部出身。前線で活躍する兵達のためならばどんなルートでも必要な物資は届ける事を目標にしている。千葉県 千葉市出身

 

〔 日本国政府 〕

~説明~

日本全体の全てのライフラインをまとめる日本の頭脳である。しかし、内部では深海棲艦への対応に伴う…。国防軍の軍事力急増や周辺諸国との軍事バランスの調整に日々頭を悩ませている。

 

・竹上 弘文 内閣総理大臣兼自由党代表

温厚な人物で国防省の沢井とは大学の同期。深海棲艦とは何者なのか考えている。山口県萩市出身

 

・新波 俊哉 官房長官

岸田の配下で日本国の副総理の立場。深海棲艦襲来時は文科省の大臣だった。陸軍の近藤と繋がりが?

岡山県倉敷市出身

 

・福居 昭一郎 防衛大臣

政府と軍の連絡役。戦争が進むにつれ武力の追加装備の歯止めが効かなくなりつつある国防軍に悩んでいる。

奈良県 橿原市出身

 

・國貞 渉 原子力エネルギー規制庁長官

深海棲艦の目標が、東海原子力発電所や福島第一・第二原子力発電所の核燃料ではないかと閣僚会議で推測する。栃木県 宇都宮市出身

 

 

[ アメリカ政府 ]

・ダニエル・べネット大統領

アメリカ合衆国大統領。被害が拡大する日本国内から安保条約に基づき米軍を動かそうとするが…。実際には在日アメリカ人を退避させようとする。

 

[在日アメリカ軍]

・ジャクソン・ベイツ海軍司令

親日派のアメリカ軍人で、横須賀鎮守府にもよく顔を出す友好的な人物。以前、柏木とは日米合同軍事演習で共に腕を磨いた。

 

・マイケル・佐藤 駐日アメリカ海軍大使

親日派を見せる一方、何か心の中に邪念を抱いている模様。艦娘は兵器として扱う冷酷な軍人。

 

〔 東京都 〕

~説明~

深海棲艦が東京沿岸部を空襲したあと、都議会では国防軍に頼らず自らの力で首都東京を守れないか模索する。首都防衛隊という、独自の防衛チームを作ろうとしている?

 

・宇津山 俊太 東京都知事

国防軍とは別に東京都独自での首都防衛機能の充実を目指すタカ派。福島県 郡山市出身

 

・香山 直隆 東京都副都知事

タカ派の宇津山と違い温厚で計画には慎重派。都民第一の避難計画を計画する。東京都 八王子市出身

 

・西川 直樹 都営地下鉄代表取締役

香山と一緒に都民の東京都外への避難計画を計画。公共交通機関を利用した大規模避難を計画。

埼玉県川越市出身

 

〔 神奈川県 〕

 

・大平 俊平 神奈川県知事

海軍の無人浮遊砲台の三浦半島沖設置に反対した人物。自然をこよなく愛し、休日には江ノ島でサーフィンするなどお気楽な知事。神奈川県 茅ヶ崎市出身

 

・千田 郷吉 横須賀鎮守府担当管理官

能天気な大平に頭を悩ます。軍事基地化した横須賀に、人を呼び戻そうと日々努力している。

神奈川県 相模原市出身

 

〔 警視庁 〕

~説明~

軍内部で起きたある事件について、極秘に調査を始める。首都を守る一心で都民の安全を見守る。

 

・松本 清永 警視総監

国防軍内部の事件を知り、軍には極秘で各都道府県警合同の捜査本部を設置する。東京都八王子市出身

 

・神戸 透 刑事 捜査一課強行班係

国防軍内部で発生したある事件をきっかけに、軍の内部にある闇の真相を追いかけることになる。

東京都 小笠原村出身

 

・佐藤 俊太郎 機動隊隊長

混乱する都民を立川方面へ避難誘導させる。

 

・米山 優太 鑑識官

 

〔 警察庁 〕

~説明~

国防陸軍内部での不審な動きをつかみ、内部に囮捜査官を忍び込ませる。捜査の詳細は不明だが、何やら国防軍の存続にすら関わる可能性に…。

 

・安室 利谷 公安部国防軍内部調査担当部 調査官

国防軍内部に神奈川県警の中山と共に潜入し、軍の企みを調べる。岐阜県大垣市出身

 

〔 神奈川県警 〕

~説明~

軍設備の多い神奈川県を管理している。軍事基地周辺ではパトロールの回数を増やし、スパイなど不審人物がいないか確認を続ける

 

・陣川 俊樹 巡査

三笠公園前交番に勤務する巡査。戦争に悩む吹雪を励ました。神奈川県横須賀市出身

 

・宮本 大樹 巡査

三笠公園前交番に勤務する巡査。神奈川県三浦市出身

 

・中山 平吉 警部補 捜査三課所属

横須賀鎮守府内での不審な企みを調べる。鎮守府の柏木提督とは小学校の同級生。神奈川県横浜市出身

 

〔 静岡県警 〕

 

・亀田 正吉 刑事

深海棲艦初襲来時に自衛隊と共に現場検証に当たる

。静岡県 下田市出身

 

・神山 勘助 警部 

亀田と共に現場検証に当たる。深海棲艦の名付け親

。静岡県 浜松市出身

 

〔 千葉県警 〕

 

・永山 勝平 巡査

パトロール中に横須賀に襲来する敵機を最初に目撃。千葉県警本部に連絡する。千葉県館山市出身

 

〔 長崎県警 〕

 

・大迫 力 警部補

国防軍内部の不審な計画を調べている。福岡弁で強気だが心優しい善の心の持ち主。福岡県太宰府市出

 

〔 海上保安庁 〕

 

PL-66 巡視船 しきね

 

・伊達 政樹 3等海上保安士

深海棲艦と思われる艦影を最初に発見。本土に無線で連絡する。

北海道 釧路市出身

 

・岸田 栄一郎 1等海上保安監

深海棲艦への威嚇射撃を行うが反撃に合い引き返す判断をする。

岐阜県 白川村出身

 

PL-01 巡視船 のじま

・米森 吉成 1等海上保安監

巡視艇しきね の岸田1等海上保安監と共に深海棲艦へ威嚇射撃を行う。

 

PLH-31 巡視船 しきしま

 

 

〔 東京消防庁 ]

 

・長田 一謙 救助ヘリ機長

深海棲艦に襲撃された東京都内をヘリで偵察

 

・陣内 敏克 救助ヘリ副操縦士

長田と共に都内をヘリで偵察

 

その他

 

 

[ 日本海洋研究開発機構 ]

~説明~

東日本大震災の後日本海溝に異常がないか調べ、様々な深海での資源データや海洋データを採取し研究している。本部は東京港区にある。

 

・長野 英夫 研究員

深海棲艦襲来の2年前、南鳥島沖合の海底で不審な地殻変動を観測

茨城県 つくば市出身

 

・浦田 勝人 研究員

長野の後に南鳥島沖合で深海探査船に乗り調査中に登場直後の深海棲艦に遭遇し行方不明。

東京都 三宅村出身

 

・米蔵 平次 技官

浦田と同じく深海探査船ごと行方不明

山形県山形市出身



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登場人物 艦娘達

※ベース 

 漫画[ジパング]に登場する架空のイージス艦のゆきなみ型3番艦

 

所 属  海上自衛隊横須賀基地

艦 種  ゆきなみ型イージス艦

識別番号 DDG-182

名 前  みらい

性別 女

身長 170㌢ほど

体重 ※本人が嫌がったので…。

生年月日 2003年5月生まれ

好きな食べ物 カツカレー

嫌いな食べ物 

趣 味 水泳と読書

特 技 料理作りと早撃ち

(早撃ちは海上自衛隊主催の艦娘射撃大会で優勝)

好きな物 動物とふれあう、キャンプ

嫌いな物 ホラー映画(大のお化け嫌いとのこと)

利き手 右手

 

搭載武器

トマホーク シースパロー

127㍉主砲 CIWS

アスロック ハープーン

SH-60J 海鳥

 

性格

少々、ドジで天然な所があるが正義感は人一倍強い。→船の時に角松副長に憧れていた。平和主義であり、戦争には参加したくない。しかし、自身を守るためには最小限の犠牲も必要だと考えている。酒は多少は飲めるが結構弱く、艦娘同士の飲み会では真っ先に酔いつぶれてしまう。その為、飲み会ではジュースを飲んでいる。(飲むと直ぐに寝てしまう性格。)

※腹が立つと、カレーライスを大量に食べるという癖がある。

服装

吹雪型の制服に似たセーラー服を着ている。(リボンは紺色にオレンジ色の線が入っている。)なお、艦娘としては珍しくスカートではなく長ズボンをはいている。自室では幹部用の作業服を着用。視力は2,0だが菊池三佐の眼鏡を見て、戦闘中は角形の眼鏡を愛用(レーダーは眼鏡に表示される。)

※ゆきなみ姉妹では唯一の眼鏡着用者。特別な日には、女性自衛官用の制服を着ることがある(ただ、本人いわく制服は堅苦しいとのこと)帽子はみらいの識別帽。

 

髪型

短めのポニーテールでゴムの色は水色。昔は長髪で纏めてもいなかったそうだが、作業の邪魔になってきたため思いきってカット。髪を下ろすと、両肩に軽くかかる程度である。髪の色は最初はきれいな黒髪だったが、タイムスリップなど過酷な状況を経験した結果→灰色になった( ゚д゚)

 

艤装

イージス艦の装備を小さくした物を背負っている主にミサイル発射時の熱から身を守るための防護壁の後ろにアンテナが付いた巨大な鉄柱(約1,5㍍)がある。側面にはイージスシステムが搭載されている。その後ろには、煙突とVLS、CIWSが設置利き手である右手には127ミリ速射砲(自動発射)左腕には飛行甲板があり、艦積機は腰につけたカバン型の格納庫から取り出す。また、無線機は肩についている。右の腰には拳銃ホルダーが付いている。

※実物のVLSは前甲板にあるが、艦娘化すると発射時の排煙で視界不良になってしまうため改良された

 

 

姉妹関係

[ゆきなみ]

→みらいにとって、一番の年上であり信頼は厚いみらいにも優しく接してくれるよき相談相手特に料理がとても美味しく、みらいの料理の師匠でもある。

 

[はるか]

→みらいと歳が近いこともあり、小さいときはよく姉妹ゲンカ。[はるか]とは以前、大喧嘩をしてしまい…。[はるか]は佐世保に転属になった。みらいはその事を悔やんでいる。夜な夜な、衛星電話で会話をしているのだが…。

 

<主な登場艦娘>

 

海上自衛隊

 

南極観測船[しらせ](2代目)

横須賀基地で年に2回しか会うことができないが、横須賀基地に配属された時期が近いこともあり→心からの友人で深い絆で結ばれてる。初代南極観測船 宗谷 の孫であるためか、とてつもない強運の持ち主。

 

イージス艦[こんごう]

みらいにとって、射撃の師匠でありイージス艦のイロハを教えてもらった。ただ、フリーの時と仕事中の性格が真逆の二重人格であり、フリーの時はとてつもなくうるさいwww

 

イージス艦[きりしま]

みらいの姉的な存在。ゆきなみ姉と仲良しで、みらいの事も気遣う優しい先輩。星座に詳しく、試験航海中にGPS機能が故障した際に天測による航行方法を教えてもらった。

 

イージス艦[ほたか]

京都府舞鶴基地に所属しているあたご型三番艦以前、横須賀基地に所属しておりみらいのちょっとした友達。イージス艦のクセに射撃より哨戒任務やイベント任務の方が得意という、ちょっと珍しい性格。数年前に某国のスパイに騙されて機密情報を奪われそうになってしまった。→ただ、イージス艦の中では推理力が高い

 

護衛艦[ひゅうが]

みらいのちょっとした悪友。決して、仲が悪いと言う訳ではないが…。酒が入ると物凄く絡んでくるため、みらいはちょっと苦手…。普段はほぼ無口に近く的確に物事を判断し行動する。自分より体格のいい[いずも]に敵対心があるらしい…。

 

護衛艦[かが]

同じ海上自衛隊の護衛艦でありながら、みらいがタイムスリップしたあとに建造されたためみらいは知らない。艦娘になってから、みらいの友人になる帝国海軍の加賀とはよく似ているが性格が少し違い比較的 喜怒哀楽が表情に出る。初代の加賀に強く憧れている。

 

汎用護衛艦[しらね]

みらいの先生的な存在。護衛艦として歩み始めたみらいに、自衛隊のルールについて教えてくれた。数々の前線で活躍し、現在は後輩の指導に当たっている。海上自衛隊の護衛艦の中でも比較的古参であり、護衛艦の艦娘達からの信頼が厚い。ただ、[しらね]と[しらせ]で似ているためたまに間違えられるのが、悩み所…。

 

汎用護衛艦[さわゆき]

先輩の しらね の活躍ぶりを見て日々訓練に励む。努力家の艦娘。SHによる哨戒活動や偵察活動が得意

 

汎用護衛艦[ゆうぎり]

せとぎり&ゆうぎり の凸凹コンビの一員。主に ゆうぎり は、ボケ役であることが多い。だが、やるときはやる。しっかり者のお姉さん。

 

汎用護衛艦[せとぎり]

お調子者のゆうぎりにツッコミを入れる立場の艦娘姉と違い、実戦経験豊富なところから色々な場で活躍する。

 

掃海母艦 [うらが]

味方の機雷設置から敵機雷、不発弾の処理まで何でも行う横須賀鎮守府の爆発物処理担当。ただし、怒らせるとめちゃくちゃ怖い。

 

補 給 艦[とわだ]

護衛艦娘達に食料や燃料を届ける任務に当たる艦娘。得意料理は、きりたんぽ鍋で冬の人気商品である。

 

補 給 艦[さがみ]

とわだ と同じく補給任務に当たる。ちょっと、ドジなところがありお菓子作りはちと苦手だとか…。得意料理は鰯のつみれ汁。

 

 

帝国海軍

 

駆逐艦[吹雪]

みらいが鎮守府に来てから初めて出来た、帝国海軍組の友達。横須賀鎮守府では最古参である。みらいと同じく正義感がとても強く、直ぐに行動に移すタイプ。真面目すぎて、冗談を真に受けることが多い。なお、海上自衛隊に憧れている模様。

 

駆逐艦[白雪]

吹雪姉妹の次女。ほとんど吹雪と年齢が変わらす、よく吹雪と一緒に行動している。普段は吹雪型メンバーをまとめるリーダー的存在で、提督からの信頼も厚いが…。実はミリタリーオタクである。ただ、オタクの知識が実戦で役立つこともしばしば…。

 

駆逐艦[深雪]

吹雪の妹に当たる。スポーツ大好きなアウトドア派の女の子。不思議なことに島風とコンビを組むことが多い。(ツッコミ役らしい…。)性格が男の子に似ているので、よく男と間違われる。電とは、演習中にぶつかることが多い。

 

駆逐艦[雷]

雷電姉妹の姉。提督が大好きな艦娘なのだが、時々、問題を起こしては提督に怒られている。普段から妹の電と行動を共にしており、同じ部屋である。魚雷での攻撃が得意で、運動神経抜群。電によると、実は以外と涙もろいらしい…。

 

駆逐艦[電]

おとなしい艦娘で、戦いは嫌いな性格。鎮守府の皆から可愛いがられている。姉の[雷]とはコンビを組んでおり、調子にのり過ぎる姉のブレーキ役。「~なのです!」という、口癖がある。

 

駆逐艦[響]

銀髪ストレートの相当無口な第六駆逐隊所属の艦娘。船の時に旧ソ連に行っていたせいか、時々言葉にロシア語が混ざる。護衛艦みらいに乗艦してから艦載機の海鳥に興味津々の様子。

 

駆逐艦[暁]

第六駆逐隊では次女に当たる。子供扱いされるのが大嫌いでよく怒る。しかし、心はまだまだ子供のままで純粋かつ優しい艦娘。

 

正規空母[飛龍]

みらいが初めて出会った、鎮守府の正規空母。正規空母組の中では…背が低い方だが。やる気は人一倍強い。多聞丸の写真を御守りとして持っている。窮地に立たされるほど熱く燃える熱血タイプ。(怒ると火を吹く!という、噂があるらしい…。)趣味は料理作りで非番の日は、間宮の元に料理を習いに行っている。

 

正規空母[蒼龍]

飛龍とコンビを組む二航戦の一員。青く美しい髪が特徴で緑色の制服を着ている。熱血タイプの飛龍と違い、のんびりした性格で…時々、出遅れることも…。

 

正規空母[赤城]

横須賀鎮守府主力空母の一人で、最古参の空母。加賀とペアを組んでおり、寮では相部屋である。ただ、成績優秀であるが燃費が相当悪く…。横須賀鎮守府所属空母の中で一番の大食いらしい。

 

正規空母[加賀]

みらいの初演習の相手となった正規空母。最初は、海上自衛隊に対して敵対心を持っていたがみらいと本気でぶつかり合い、吹っ切れた模様。横須賀鎮守府最強の航空部隊の指揮担当。顔に表情が中々出てこないため、激怒したときが鎮守府で一番怖いらしい。自衛隊をライバル視しているが、かが とは実の妹のように接している。

 

戦艦[長門]

帝国海軍組艦娘達のリーダー的な存在。普段は真面目な態度で仕事をしており、提督からの信頼も厚い海上自衛隊の ゆきなみ とは、一緒に出かけるほど仲良しである。実は、酒が飲めず…バーでは牛乳を愛飲している。趣味は動物とふれ合う事だが、以外と小心者で他の艦娘に教えていない。

 

潜水空母[イ401](別名 しおい)

みらいが来る一ヶ月前に横須賀鎮守府にやって来た潜水艦の艦娘。帝国海軍組の中で一番航行距離が長い。見た目は中学生に見えるため、たまーに子供扱いされてしまう。潜水空母であるため晴嵐を搭載しており、戦闘中に切り札になることが多い。

 

戦艦[大和]

船の時にみらいと遭遇し草加少佐の陰謀で原爆を搭載され、米海軍に特攻させられる。米海軍と海上自衛隊との考えの中、みらいの決死の突撃により弾薬庫を爆破され沈没。しかし、人類初の原爆による被害を食い止めてくれたみらいに感謝している。

 

軽空母 [鳳翔]

元横須賀鎮守府の正規空母。現在は前線から外れ、鎮守府の近くで居酒屋を経営している。提督とは古くからの知り合いであるため、よく相談に乗る。和食が旨いと評判である。

 

特務艦[宗谷]

日本一の強運を持つ艦娘とうたわれる、艦娘達のお婆ちゃんであり、相談役でもある。海上自衛隊の[しらせ]の祖母である。現在は横須賀鎮守府を見下ろせる高台の一軒家に住んでいる。昔から正義感が強く、晩年は海上保安庁で活躍していた。提督とは古い付き合いがある。

 

潜水艇「まるゆ」

護衛艦みらいから的と判断されてしまい…。発光魚雷まで撃ち込まれてしまった小型潜水艇の艦娘。実際は陸軍所属だが、修行のため横須賀に来ている。

 

軽巡洋艦[川内]

キスカ島撤退作戦の際、艦娘要員として護衛艦みらいに派遣される。夜戦大好きな夜行性のスポーツ大好きな艦娘。

 

航空巡洋艦[最上]

自慢の瑞雲を使い、敵の哨戒活動を行う。性格はなぜかボクっ子で男の子と間違えられることが多い。

 

駆逐艦[時雨]

佐世保の時雨と歌われる程の幸運の持ち主。趣味は料理作りで、姉の白露に料理を教えるほど。同じ西村艦隊所属の最上と同じく、性格は何故かボクっ子。

 

駆逐艦[弥生]

睦月型駆逐艦の中で異彩を放つ紫色の髪。無口で表情の少ない彼女は、他の艦娘と付き合うのが苦手。だが、家事全般は得意である。

 

駆逐艦[睦月]

赤髪がトレードマークの睦月型1番艦。~にゃしい。が口癖。吹雪 夕立 とコンビを組んでおりとても仲良し。

 

戦艦[金剛]

英国生まれの高速戦艦姉妹の長女。提督が大好きでよくティータイムに誘う。帰国子女のためよく英語が混ざる。

 

戦艦[榛名]

金剛型の三女。やかましい姉達とは対照的に静かで大人しい性格。でも、心中はとある人物に恋心を抱いている。

 

軽空母[瑞鳳]

祥鳳型軽空母の2番艦。姉の祥鳳と違い小柄でアニメ声かつ美人の女の子。艦積機マニアで非番の日はよくプラモデルを作っている。得意料理は卵焼き。

 

 

 

 



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登場場所 資料集

〈国防海軍階級について〉

 

内閣総理大臣 日本国国防軍最高指揮官

防衛大臣   日本国国防軍最高指揮官代行(緊急時)

 

国防軍総監  国防軍運営最高責任者

統合幕僚長  国防軍作戦指揮者 

海軍幕僚長  国防海軍最高責任者

 

海将     艦隊運営最高責任者及び

       各鎮守府提督

 

海将補    艦隊運営補佐

 

一等大佐   戦闘艦(イージス護衛艦等)艦長

二等中佐   調査艦(気象観測艦等)艦長

       及び戦闘艦副長

三等少佐   調査艦(気象観測艦等)副長

       及び各科最高責任者

 

一等海尉   各科副責任者 艦積機 機長

二等海尉   各科要員 艦積機 副機長

三等海尉   各科要員

四等海尉   各科要員

 

----------------------

(防衛大臣直轄 警務・情報保全隊)

 

特務大尉   警務隊 情報保全隊 隊長

特務中尉   警務隊 情報保全隊 副隊長

特務少尉   警務隊 情報保全隊 隊員

 

※特務〇〇は●等海尉と同じ階級です。

特務大尉=一等海尉

特務中尉=二等海尉

特務少尉=三等海尉

----------------------

 

海曹長    一般海曹隊員 統括隊長

一等海曹   一般海曹隊員 隊長

二当海曹   一般海曹隊員 副長

三等海曹   一般海曹隊員

四等海曹   一般海曹隊員

       幹部候補・防衛大卒業生

 

海士長    一般隊員班長  防衛大四年生

一等海士   一般隊員副班長 防衛大三年生

二等海士   一般隊員    防衛大二年生

三等海士   一般隊員    防衛大一年生

四等海士   一般隊員研修生 (一般入隊組)

 

〈資料編〉

 

・艦これ攻略本

海上自衛隊イージス護衛艦[みらい]のある隊員が持ち込んでいた、艦これの同人小説本。この本には艦これ世界の歴史や戦争の行く末などあらゆる事が記載されていた。ゲーム版だけでなくアニメ放送版の事も詳しく記載されており、この物語での一番の鍵となる。

 

〈国防海軍〉

 

※国防海軍では、日本単体で管理している基地は[鎮守府]または[基地]と示す。米軍等、他国と合同管理している基地については[軍事基地]と表記する。

 

・横須賀鎮守府

所在地 神奈川県 横須賀市

この作品のなかでも一番の鍵となる鎮守府。深海棲艦出現後の日米安保条約見直し等により旧海上自衛隊横須賀地方総監部と在日米軍横須賀基地を一つの鎮守府としてまとめたのが、この横須賀鎮守府である。首都防衛の要となるため、他の鎮守府よりも配備されている武器が多い。

 

・館山航空救難基地

所在地 千葉県 館山市

主に救難救助部隊が常駐する基地のため、大きな武装はない。その代わり、救助道具は何でも揃い、また横須賀鎮守府所属の哨戒ヘリなどの修理点検作業も行う。

 

・横須賀鎮守府 父島分遣隊

所在地 東京都 父島

深海棲艦出現にともない、自衛隊時代に設置されていたレーダーサイト設備を向上。現在は、小笠原諸島周辺海域での哨戒任務の拠点となっている。

 

・呉鎮守府

所在地 広島県 呉市

旧海上自衛隊呉地方総監部を鎮守府として再構築したのが呉鎮守府。現段階では会話のみで登場。

 

・佐世保鎮守府

所在地 長崎県 佐世保市

旧海上自衛隊佐世保地方総監部が元になっている鎮守府。主に東シナ海の警戒任務にあたる。

 

・宮古島鎮守府

所在地 沖縄県 宮古島

中国との紛争後に、新たに設置された旧陸上自衛隊 宮古島駐屯地の改良版。

軍事整理のため国防海軍所有となった現在は、南シナ海の監視活動を行う。  

 

・舞鶴鎮守府

所在地 京都府 舞鶴市

旧海上自衛隊舞鶴地方総監部が元になっている。日本海からの侵攻に備え、イージス艦が多数配備されている。

 

・厚木航空基地

所在地 神奈川県厚木市

自衛隊時代からの流用で、主に大型哨戒機の管理・運用を行っている。また、対潜装備品も多数保管しており武器庫もある。 

 

 

  

〈国防空軍〉

 

※国防空軍では、日本単体で管理している基地はそのまま[航空司令部]。日米合同あるいは他国と合同で管理している場合は[基地]として表記する。

 

・入間航空司令部

所在地 埼玉県 入間市 狭山市

旧航空自衛隊入間基地が原形。深海棲艦との戦争開始にともない、戦闘機の離発着が増えている。そのため、近隣住民から反対運動が起きている。

 

・三沢航空司令部

所在地 青森県 三沢市

旧航空自衛隊三沢基地から殆ど変化していない。国防空軍の中でも自衛隊時代の名残を残す基地である。

 

・百里航空司令部

所在地 茨城県小美玉市

旧航空自衛隊百里基地。関東地方等首都圏防衛の要である戦闘機部隊が配備されている。なお、国防空軍創設にともない茨城空港は閉鎖されている。

 

・横田航空基地

所在地 東京都 福生市

日米合同運営の基地だが、ほぼ全ての任務は日本側に委託されている。輸送任務が主なため、戦闘機の離発着は基本的にはない。

 

・小松航空司令部

所在地 石川県 小松市

旧航空自衛隊小松基地。民間の小松空港と隣接しているため、民間と軍共同運営をしている。ただし、緊急時は戦闘機等の離発着が優先される。

 

・浦賀水道防大レーダーサイト航空観測部

所在地 神奈川県 横須賀市

国防空軍創設後に新たに建設されたレーダーサイト。建設時に敷地が少なかったので隣接する防衛大学敷地の一部も使い作り上げた。

 

〈国防陸軍〉

※国防陸軍単体で管理している基地は[駐屯地]米軍等と合同管理している基地については[基地]と表記する。

 

・朝霞駐屯地

所在地 埼玉県 朝霞市 和光市 東京都練馬区

3市町村に跨がる巨大な国防陸軍の駐屯地。敷地内には、訓練所のほか、研究施設なども多数存在している。

 

・木更津駐屯地

所在地 千葉県木更津市

国防陸軍の空挺部隊が所属し、日夜訓練を行っている。また、各地に物資を運ぶ際の拠点となる。

 

・横須賀駐屯地

所在地 神奈川県 横須賀市

国防空軍浦賀水道レーダーサイト観測部と合同で管理している。首都防衛が目的であるため、迎撃用PAC3の配備が検討されている。

 

・那覇基地

所在地 沖縄県 那覇市

陸軍で数少ない米軍との合同基地。基地は広大な敷地を持っており、演習などにも使われる。ただ、近隣の住民から抗議活動があり…。現在は、大規模演習自粛中である

 

 

 

〈国連軍 合同施設〉

・マリアナ軍事基地

所在地 北マリアナ諸島 テニアン島

各国合同の国連軍による東南アジアやオセアニア地区の防衛に当たる中核基地。日米安保条約があるものの…。日本国防軍と米軍の間で文化や習慣による違いから内部に見えない亀裂がある模様。

 

 

 

〈防衛省 関連施設〉

 

・国防省

所在地 東京都市ヶ谷

政府中枢がある永田町に程近い市ヶ谷に拠点を置く。建物自体は防衛省時代の物を使用している。

 

・防衛大学校

所在地 神奈川県 横須賀市

自衛隊から陸海空3つの軍隊に再構築したが、校名自体は変更されなかった。なお、コンピューターシュミュレーションによる実戦への備えも行われているらしい。なお、ジパング世界では現実世界と同じ通り自衛官幹部候補生養成学校である。

 

・技術開発センター

所在地 東京都 立川市 大阪府 天王寺区

防衛省直下で活躍する新型装備の開発部門。ここから全世界に発信された装備もある。

 



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登場船舶 解説

(海上自衛隊)

・ゆきなみ型イージス護衛艦

 [みらい]

基準排水量 7735㌧

全長 171㍍ 全幅 21㍍

深さ 12㍍  喫水 6.3㍍ 乗員241名

機関 COGAB方式

主機 LM2500ERガスタービンエンジン 4基

速力 30ノット以上 

兵装

イージスシステム SPY-1D型

OTOメララ127mm54口径単装速射砲 1基

高性能20mm多銃身機関砲(CIWS) 2基

Mk41 VLS (29セル) 1基

アスロック 対艦トマホーク

Mk48 VLS (48セル) 1基

短シースパロ パーフーン

RGM-84 SSM 4連装発射管 2基

68式3連装短魚雷発射管 2基

電子戦・対抗手段

RBOCチャフ発射機 4基

Mk.137 6連装デコイ発射機 4基

曳航具4型 対魚雷デコイ1組

レーダー 対潜水 対空 対水上用 各1基

搭載機 

海鳥(多目的哨戒偏向翼機)×1機 SH-60J(哨戒ヘリ)×1機

 

(国防海軍)

・りょうかみ型ミサイル護衛艦

基準排水量 8750㌧

全長175㍍ 全幅21㍍

深さ12.5㍍ 喫水6.5㍍ 乗員275名

機関 COGAB方式

主機 LM2500ERガスタービンエンジン 4基

速力 30ノット以上 

兵装

イージスシステム SPY-1D(V)型

62口径5インチ単装砲 1基

高性能20mm機関砲(CIWS ) 2基

Mk.41 mod.20 VLS (64+32セル)2基

90式SSM 4連装発射筒 2基

68式3連装短魚雷発射管

電子戦・対抗手段

NOLQ-2B電波探知妨害装置

RBOCチャフ発射機 4基

Mk.137 6連装デコイ発射機 4基

曳航具4型 対魚雷デコイ1組

レーダー 対潜水 対空 対水上用 各1基

搭載機 SH-60k(哨戒ヘリ)×1機

 

・いぶき型ヘリ搭載護衛艦

基準排水量 22700㌧

全長250㍍ 全幅38㍍

深さ25.5㍍ 喫水7.5㍍ 乗員520名+航空要員80名

機関 COGAB方式

主機 LM2500ERガスタービンエンジン 4基

速力 30ノット以上 乗員 520名他航空要員75名

兵装

高性能20mm機関砲(CIWS ) 2基

SeaRAM近SAMシステム 2基

搭載機

F-35JB (垂直離着陸短距離戦闘機)×15機

SH-60k(哨戒ヘリ)×4機

※最大搭載数 20機

レーダー 対潜水 対空 対水上用 各1基

電子戦・対抗手段

NOLQ-2B電波探知妨害装置

Mk.137 6連装デコイ発射機 4基

曳航具4型 対魚雷デコイ1組

 

・改いぶき型ヘリ搭載艦娘輸送護衛艦

基準排水量 25000㌧

全長252㍍ 全幅38.5㍍

深さ25.5㍍ 喫水7.5㍍

乗員580名 他(航空要員45名)(艦娘要員20名)

機関 COGAB方式

主機 LM2500ERガスタービンエンジン 4基

速力 30ノット以上 

兵装

高性能20mm機関砲(CIWS ) 2基

SeaRAM近SAMシステム 2基

搭載機

SH-60K(哨戒ヘリ)×4機  

オスプレイ(海軍用)×2機

MCH-101×2機

海鳥(多目的哨戒偏向翼機)×4機

※最大搭載数 16機

レーダー 対潜水 対空 対水上用 各1基

電子戦・対抗手段

NOLQ-2B電波探知妨害装置

Mk.137 6連装デコイ発射機 4基

曳航具4型 対魚雷デコイ1組

 

・くろべ型汎用護衛艦

基準排水量 5000㌧

全長158㍍ 全幅18㍍

深さ11㍍ 喫水5.5㍍ 乗員170名

機関 COGAB方式

主機 LM2500ERガスタービンエンジン 4基

速力 30ノット以上 

兵装

62口径76ミリ単装速射砲 1基

高性能20mm機関砲(CIWS ) 2基

Mk.48 (16セル; シースパロー/ ESSM短SAM用) 1基

Mk.41 mod.9 VLS(16セル; VLA SUM用) 1基

90式SSM 4連装発射筒 2基

68式3連装短魚雷発射管 2基

艦載機

SH-60K(哨戒ヘリ)×1機

海鳥(多目的哨戒偏向翼機)×1機

レーダー 対潜水 対空 対水上用 各1基

電子戦・対抗手段

NOLQ-2B電波探知妨害装置

Mk.137 6連装デコイ発射機 4基

曳航具4型 対魚雷デコイ1組

 

・あらなみ型汎用護衛艦

基準排水量 5150㌧

全長155㍍ 全幅17.5㍍

深さ10.5㍍ 喫水5.5㍍ 乗員172名

機関 COGAB方式

主機 LM2500ERガスタービンエンジン 4基

速力 30ノット以上 

兵装

54口径127ミリ単装速射砲 1基

高性能20mm機関砲(CIWS) 2基

Mk.41 VLS(32セル)1基

90式SSM 4連装発射筒 2基

68式3連装短魚雷発射管

艦載機 SH-60K(哨戒ヘリ)×1機

レーダー FCS-3A 多機能型

(捜索用、FC用アンテナ各4面) 1基

対潜水 対空 対水上用レーダー 各1基

電子戦・対抗手段

NOLQ-2B電波探知妨害装置

Mk.137 6連装デコイ発射機 4基

曳航具4型 対魚雷デコイ1組

 

・あらわし型小型ミサイル挺

基準排水量200トン

全長 50.1㍍全幅 8.4㍍

深さ 4.2㍍ 吃水 1.7㍍ 乗員22名

機関

LM500-G07ガスタービンエンジン 3基

ウォータージェットポンプ 3基

速力 最大44ノット

武装

62口径76ミリ単装速射砲 1基

12.7mm単装機銃M2 2基

90式SSM連装発射筒 2基

C4I MOFシステム

(データ通信付加装置+SUPERBIRD B2)

海軍戦術情報システム

(OYQ-8B/C+リンク 11)

暗視装置 OAX-2赤外線暗視装置

レーダー 対空 対水上 射撃管制用 各1基

電子戦・対抗手段

NOLR-9B電波探知装置

Mk.137 6連装デコイ発射機 2基

 

・はるかぜ型航空管制支援艦

基準排水量 5150㌧

全長155㍍ 全幅17.5㍍

深さ10.5㍍ 喫水5.5㍍ 乗員150名

機関 COGAB方式

主機 LM2500ERガスタービンエンジン 4基

速力 30ノット以上 

兵装

高性能20mm機関砲(CIWS) 2基

SeaRAM近SAMシステム 2基

Mk.41 VLS(25セル)1基(アスロック)

90式SSM 4連装発射筒 2基

68式3連装短魚雷発射管

艦載機

SH-60K(哨戒ヘリ)× 2機

 (通常は1機のみ)

航空管制レーダー 対潜水 対水上用 各1基

電子戦・対抗手段

NOLQ-2B電波探知妨害装置

RBOCチャフ発射機 4基

Mk.137 6連装デコイ発射機 4基

曳航具4型 対魚雷デコイ1組

 

・しまばら型輸送艦

基準排水量 8,500 t※2番艦からは50 t増加

全長 175㍍ 全幅 22.0㍍

深さ 15.9㍍ 吃水 8.2㍍ 乗員135名

機関 COGAB方式

主機 LM2500ERガスタービンエンジン 4基

速力 30ノット

兵装

高性能20mm機関砲(CIWS) 2基

SeaRAM近SAMシステム 2基

12.7mm機関銃M2×2挺(※分類上は小火器扱い)

レーダー 対潜水 対空 対水上用 各1基

電子戦・対抗手段

NOLQ-2B電波探知妨害装置

Mk.137 6連装デコイ発射機 4基

曳航具4型 対魚雷デコイ1組

 

 

・じんりゅう型潜水艦

排水量 基準:3.100トン 水中:4.500トン

全長 85.0m全幅 9.2m

深さ 10.4m吃水 8.5m 乗員68名

機関

ディーゼル・エレクトリック方式

12V25/25SBディーゼル機関×2基

川崎/コックムス4V-275R MkIIIスターリング機関×4

リチウムイオン電池

推進電動機×1基

推進器 スクリュープロペラ×1軸

速力 水上13 ノット(24 km/h)

   水中20ノット (37 km/h)

安全潜航深度 850㍍ 潜航限界深度1100㍍

兵装

HU-606 533mm魚雷発射管×6門

・ 89式 魚雷

・UGM-84 潜水艦発射型ハープーン

・潜水艦魚雷防御システム

C4ISTAR ZYQ-31指揮管制支援ターミナル

情報処理装置(TDBS)

ZQX-11潜水艦戦術状況表示装置

ZYQ-51潜水艦発射管制装置

レーダー ZPS-6F 対水上捜索用×1基

ソナー ZQQ-7 統合式

 

・むさし型潜水艦救難母艦

基準排水量 3,650トン

全長 130㍍ 全幅18.5㍍

吃水4.6㍍ 乗員126名 

機関

三井造船8L42Mディーゼルエンジン×2基

推進

スクリュープロペラ×2軸

サイドスラスター×4基

速力 20ノット

搭載艇 ・深海救難艇 (DSRV)×1隻

・11メートル作業艇×2隻

搭載機 ヘリコプター甲板のみ

レーダー レーダー 対潜水 対空 対水上用 各1基

ソナー SQS-36D(J) 探信儀

その他

深海潜水装置 (DDS)

自動艦位保持装置 (DPS)

 

・とうや型補給支援艦

基準排水量 14,000トン

全長 221.0 ㍍ 全幅 27.0 ㍍

深さ 18.0 ㍍ 吃水 8.0 ㍍ 乗員152名

機関方式 COGAG方式

主機関 SM1Cガスタービンエンジン×2基

推進器 スクリュープロペラ×2軸

最大速力 24 ノット (44 km/h)

兵装

高性能20mm機関砲(CIWS) 2基

SeaRAM近SAMシステム 2基

12.7mm機関銃M2×2挺(※分類上は小火器扱い)

搭載機 ヘリコプター×1機搭載可能

※平時搭載機なし

レーダー 対潜水 対空 対水上用 各1基

電子戦・対抗手段

NOLR-8 電波探知装置

Mk.137 6連装デコイ発射機×4基

 

・せとうち型気象観測船

基準排水量 7850トン

全長 153㍍ 全幅 28m 吃水 9.5m

機関 COGAB方式

主機 LM2500ERガスタービンエンジン 4基

速力 30ノット 乗員 195名

兵装

高性能20mm機関砲(CIWS) 2基

SeaRAM近SAMシステム 2基

12.7mm機関銃M2×2挺(※分類上は小火器扱い)

レーダー 気象観測用レーダー2基

艦載機 CH-101×2機、AW-139×1機

 

・やまと型原子力戦艦

基準排水量 64000㌧

全長 263.0㍍ 全幅 38.9㍍

吃水 10.4㍍ 乗員2680名

機関

ウェスティングハウス A4W 原子炉2基

蒸気タービン4機, 4軸, 260,000 shp

速力30ノット以上

兵装

45口径46cm自動3連装砲塔:3基

60口径15.5cm自動3連装砲塔:2基

54口径127ミリ単装速射砲 1基

25mm3連装機銃:10基

25mm単装機銃:10基

高性能20mm機関砲(CIWS ) 8基

SeaRAM近SAMシステム 2基

Mk.41 VLS (64+32セル)2基

90式SSM 4連装発射筒 2基

68式3連装短魚雷発射管

レーダー 対潜水 対空 対水上用 各1基

イージスシステム SPY-1D型

電子戦・対抗手段

NOLR-8 電波探知装置

Mk.137 6連装デコイ発射機×4基

搭載機 SH-60k(哨戒ヘリ)×1

海鳥(多目的哨戒偏向翼機)×2機

最大搭載数 4機

※艦首に3式絶対零度砲(アブソリュート・ゼロ)の搭載計画がある。

 

 



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登場兵器

〈登場兵器〉

 

・海上自衛隊

ゆきなみ型イージス護衛艦

あたご型の後継として建造されたイージス護衛艦。ベースはこんごう型だがヘリ搭載能力を向上し2機搭載が可能になった。また、海上自衛隊初の対地攻撃能力を搭載した。

 

横 DDH-182 [みらい]

 

・国防海軍

基本的には海上自衛隊の頃の装備を流用しているが、一部に新しく開発された武器もある。なお、船舶は大半の護衛艦が一時不足した影響で…。大量に建造された。

 

船舶

 

りょうかみ型ミサイル護衛艦 艦種別 DDG

説明 あたご型後継艦。27DDG計画として計画されていたが、深海棲艦出現及び自衛隊再編成化により日本独自の改良がなされた。

横 DDG-210[りょうかみ]2008年8月進水

舞 DDG-211[くもとり] 2009年1月進水

横 DDG-212[ぶこう] 2012年10月進水

佐 DDG-213[だいせつ] 2013年10月進水

佐 DDG-214[つるぎ] 2015年4月進水

 

 

いぶき型ヘリ搭載護衛艦 艦種別DDV

改いずも型護衛艦で、尖閣諸島での問題に対する中国政府への抑止力として建造された。海自と空自共同運営の事実上の空母

※空軍と共同運営護衛艦

横 DDV-192[いぶき] 2010年3月進水

 

 

改いぶき型ヘリ搭載艦娘輸送護衛艦 艦種別DDV

いぶき型をさらに発展させ深海棲艦への対応を強化した。また、艦娘の輸送も任務になることからいぶき型よりもさらに大きくなった。なお、国防海軍発足後初の空母型護衛艦となる

 

横 DDV-193[だいせん] 2015年2月進水

佐 DDV-194[うんぜん] 2015年8月進水

  DDV-195[ ふ じ ] 建造中

 

くろべ型汎用護衛艦 艦種別 DD

基本ベースは[むらさめ]型護衛艦。だが、哨戒ヘリの搭載数などを増加した影響で[むらさめ]型より8㍍ほど艦の長さが延長された。なお、DD-503[すみだ]までは海自時代に進水

 

舞 DD-501[くろべ] 2012年5月進水

舞 DD-502[あらかわ] 2012年10月進水

横 DD-503[すみだ] 2013年4月進水

横 DD-504[ちくま] 2014年10月進水

父 DD-505[たま] 2015年3月進水

佐 DD-506[さがみ] 2015年7月進水

佐 DD-507[おおい] 2015年12月進水

呉 DD-508[しまんと] 2016年3月進水

呉 DD-509[とね] 2016年7月進水(試験中)

大 DD-510[いしかり] 2016年12月進水予定

 

 

あらなみ型汎用護衛艦 艦種別DD

[たかなみ]型護衛艦をさらに発展させたのが[あらなみ]型である。今まで、あきづき型が行っていたミサイル誘導任務を行えるようになった。そのため、艦橋上部にFCS-3Aミサイル防衛システムを搭載している。

 

横 DD-511[あらなみ] 2015年10月進水

佐 DD-512[たつなみ] 2016年8月進水

舞 DD-513[しきなみ] 2016年11月進水予定

佐 DD-514[あやなみ] 建造中

呉 DD-515[はまなみ]  建造中

大 DD-516[たかなみ]  建造中

 

あさぎり型汎用護衛艦 艦種別DD

海上自衛隊時代からの流用護衛艦。システム改修工事は済ませているものの…。性能及びステルス面では最新の汎用護衛艦に劣る。だが、対潜能力は改修により向上している。

 

横 DD-154[あまぎり] 1987年9月進水

横 DD-158[うみぎり] 1989年11月進水

 

※DD-158[うみぎり]は現在練習艦扱い

 

むらさめ型汎用護衛艦 艦種別DD

あさぎり型と同様。海上自衛隊時代からの流用護衛艦。システム改修工事は済ませているものの…。性能及びステルス面では最新の汎用護衛艦に劣る。こちらは対空性能を強化しマストがステルスタイプのものに更新された。

 

舞 DD-101[むらさめ]1994年8月進水

横 DD-105[いなずま]1998年9月進水

横 DD-107[いかづち]1999年6月進水

 

あきづき型汎用護衛艦 艦種別DD

和製イージス艦として誕生したあきづき型。しかし、深海棲艦との戦いで半数を失ってしまった。その為、更に防空システムの向上を計り内部システムを あさひ型と同様の物に入れ換えた。

 

横 DD-117[すずつき]2012年10月進水

舞 DD-118[ふゆづき]2012年8月進水

 

 

あらわし型小型ミサイル挺 艦種別PG

沿岸警備用に開発された小型ミサイル挺。基本は[はやぶさ]型をベースだが、装備を最新式に変更し、イージス艦の入れない浅瀬での迎撃を行う。

全艦、海上自衛隊時代の建造

 

大 PG-750[あらわし]2012年5月進水

大 PG-751[はやぶさ]2012年8月進水

父 PG-752[いぬわし]2013年2月進水

 

 

はるかぜ型航空管制支援艦 艦種別 DS

国防海軍創設後に登場したが、計画は自衛隊時代の物を流用。海上での航空管制が主な目的であるため、大きな武装は省略している。通常、いぶき型等と同伴して行動。

 

横 DS-3001[はるかぜ] 2015年12月進水

佐 DS-3002[あきかぜ] 建造中

 

 

しまばら型輸送艦 艦種別LST

国防陸軍との共同作戦を念頭に入れ建造された輸送艦。事実上の強襲揚陸艦である。主に陸軍と動きを共にすることが多い。

 

横 LST-4010[しまばら] 2010年5月進水

佐 LST-4011[のと] 2015年11月進水

佐 LST-4012[いず] 建造中

 

 

じんりゅう型潜水艦 艦種別SS

別名 改そうりゅう型とも呼ばれる国産最新式の潜水艦。そうりゅう型の能力を向上させ、対空攻撃を可能にした潜水艦

 

呉 SS-801[じんりゅう] 2013年6月進水

呉 SS-802[ひりゅう] 2014年8月進水

佐 SS-803[かいりゅう] 2016年4月進水

 

 

むさし型潜水艦救難母艦 艦種別SSR

海上自衛隊時代の潜水艦救難母艦とは違い、潜水艦艦内に空気を送り込むことで、救助待ちの時の乗組員酸欠を防止する技術が搭載された。

 

呉 AS-7101[むさし] 2011年10月進水

佐 AS-7102[とさ] 2013年6月進水

 

 

とうや型補給支援艦 艦種別DE

[とわだ]型補給艦をベースに作られた。基本設計は変化してないが、自艦防御用としてシーラームやCIWSを搭載している

 

佐 AOE-5101[とうや] 2010年5月進水

横 AOE-5102[あしがら]2013年6月進水

 

 

せとうち型気象観測船

[はるかぜ]型航空管制支援艦へ観測した気象データを送るのが任務。主な任務は気象観測である。基本は[はるかぜ]型と共に行動する。

 

横 AGS-3101[せとうち]2015年1月進水

宮 AGS-3102[つがる] 2016年2月進水

 

 

 

※横=横須賀鎮守府所属 呉= 呉 鎮守府所属

 舞=舞 鶴鎮守府所属 佐=佐世保鎮守府所属

 大=大 湊鎮守府所属 父=父 島分遣隊所属

 宮=宮古島鎮守府所属

 

 

航空機

 

戦闘ヘリ&哨戒機

 

SH-60k

主に、護衛艦に配備されている哨戒ヘリ

改造すれば対艦誘導弾を撃つことが可能。

 

海鳥

海上自衛隊イージス艦みらいにも搭載されているが、国防海軍でも開発された。こちらはいぶき型を中心に配備。

 

CH-47J

輸送任務専用の大型ヘリ

 

オスプレイ

CH-47に継ぐ次世代の輸送機。海鳥と同じ構造のため、各鎮守府やいぶき型に配備されている

 

P-3c哨戒機

国防海軍の哨戒機 基本装備は海自時代と変わら

ない。

 

救難機

UH-60k UH-60J

むさし型 せとうち型に配備されている救難救助ヘリ

 

US-2固定翼機

水上離着陸可能な輸送機。普段は木更津の基地で待機している

 

海上無人迎撃システム

防御浮遊砲台 ユニコーン

東京湾等、各主要港入口に設置予定。ソーラーパネルによる自家発電。国防省または近隣鎮守府の遠隔操作によって自動制御。武器はCIWSと短距離ミサイル。現在は試作機が横須賀鎮守府とマリアナ基地に配備されている。

 

原子力戦艦[やまと]型 艦種別BS

BS-01 [やまと]進水日不明

 

国防海軍の近藤参謀らが中心となり極秘に設計建造された世界初のイージスシステムを搭載した原子力機関とする大型戦艦。かつての旧日本海軍の戦艦大和の設計図を元に現代の大和として建造された。この件は国防軍参謀の沢井も知らないことである。

 

 

 

・国防空軍

装備は航空自衛隊時代とほぼ変わらない。だがF15J戦闘機が老朽化したため、空母いぶきで採用されたF35JB系列が新たに配属されている。

 

戦闘機

F15J戦闘機

空自時代に主力だった戦闘機。アメリカ軍から軍事提供され日本初の空中給油可能戦闘機となった。長らく前線で活躍していたがF35導入により引退が順次始まっている。

 

F-2戦闘機 

国防空軍主力戦闘機の一つ。性能の良さと汎用性から空軍内で多種多様なバリエーションが存在する。

 

F16J戦闘機 

F15J戦闘機の改良型。F15Jで課題だった急旋回を可能にした戦闘機。空軍ではF-2戦闘機と並ぶ主力戦闘機。

 

F35JB戦闘機 F35A戦闘機

尖閣諸島紛争の前年から導入された垂直離着陸戦闘機。基本はアメリカ海兵隊の物が流用されており海軍の護衛艦に搭載されている他、通常離着陸タイプのF35Aは各基地に導入されつつある。

 

偵察機

 

RF-4E偵察機

自衛隊時代の流用偵察機。主に偵察任務が中心のため、ミサイルなどは搭載できない。老朽化のため順次引退中。

 

F15JR偵察機(F15改)

老朽化したRF-4E偵察機に代わり、F15Jを改造し生まれた偵察機。偵察機でありながら、戦闘機時代の装備を残しているためミサイル搭載可能。

 

X-2a偵察機[心神]

旧防衛省と三菱重工が合同で開発した国産ステルス機。各種テストも終わり、実戦配備が始まった。まだ、戦闘機としての装備は設置されていないため主に偵察任務にあたる。

 

高度警戒機

E-767高度早期警戒機

B-767ベースに製造された高度早期警戒機。機体に大きな楕円形のレーダーを搭載している。

 

E-787早期警戒機

B-787ベースに製造された準日本製の早期警戒機。

国防空軍創設直後に導入された。

 

E-2c早期警戒機

自衛隊時代の流用早期警戒機。空軍創設後にシステム更新を行い一昔前の機体だが、システムは最新式。

 

輸送機

C-1輸送機 C-130H輸送機 C-2輸送機

自衛隊時代から使われている大型輸送機。資材や車両の運搬はもちろんのこと、陸軍の空挺団降下作戦時の隊員輸送にも使われる。

 

AC-3輸送機[しらさぎ]

自衛隊時代から研究開発されていたステルス新形輸送機。内部に陸軍装甲車を搭載できる他ワイヤーを使い大型機械等の輸送も可能。

 

オスプレイ

自衛隊時代にデータ採集用として空自に導入されたのがきっかけとなり、陸海空すべての自衛隊に配備されることになった。

 

B-787政府専用機

老朽化したB-747政府専用機の後継として建造された新型政府専用機。自機防御用としてチャフやフレアを搭載している。

 

CH-47J輸送ヘリ

自衛隊時代から使われている大型輸送ヘリ。海軍や陸軍にも同型機が存在する。

 

空中給油機

 

KC-767

空中給油専用の大型機。主に主力戦闘機に給油支援を行う。

 

地上対空武器

 

PAC3対空ミサイル迎撃兵器

突入体制にある敵ミサイルを迎撃する最後の砦。海軍のイージス艦と国防省経由でシステムリンクしており敵ミサイルを迎撃する

 

対空機関砲VADS

領土内に突入した敵戦闘機を撃墜するための機関砲。手動式とコンピュータ制御式の二種存在している。

 

 

 

・国防陸軍

基本的に陸上自衛隊時代とほぼ変わらない。しかし、74式戦車が老朽化し前線に出せなくなったため資材運用に苦労している模様

 

戦車

 

90式戦車

陸軍の一昔前の主力戦車。現在は首都防衛を10式に任せ、得意の寒冷地での守備にあたる。なお、射撃は手動式である。

 

10式戦車

旧陸上自衛隊が開発した最新鋭の戦車。コンピュータ制御による射撃はほぼ百発百中であり、世界最強の戦車と言われている。

 

74式戦車(訓練用)

陸上自衛隊が北海道中心に使用していた旧式戦車他の戦車と違い車体が丸みを帯びている為、戦車部隊の隊員達から気に入られている。現在は教習専用車

 

特殊戦闘車

 

90式メーサー殺獣光線車

66式と基本構成は変わらないものの、自動化により乗員は2名となり、メーサー砲の操作を含めて全て牽引車から行える。国防陸軍特殊部隊所属

 

自走砲

 

99式自走155ミリ榴弾砲 203ミリ自走榴弾砲

自走可能な砲台で主に陸地で使うことが多い。基本は手動式だが、一部、コンピュータ制御に改造した物かある。

 

87式自走高射砲

敵戦闘機等を撃ち落とす専用の高射砲。東京初空

襲時に威力を発揮したとか…?

 

戦車回収車両

 

11式総軌車回収車両 90式戦車回収車両

故障あるいは被弾した戦車を回収する専用車両。

 

重装輪回収車

故障した装甲車等を回収する専用車両。

 

装甲車

 

96式装輪装甲車

自衛隊時代からの流用装甲車。荒れ地を走行するのを前提としているため頑丈かつ強力なエンジンを搭載

 

87式偵察車

旧陸上自衛隊の中でも一昔前の偵察車。操縦はア

ナログだが、俊敏さは後継に負けていない。

 

輸送防護車

陸上自衛隊時代に開発された対ゲリラ防御機能を持つ装甲車。性能はいいが…。出動機会が少ないのが現状。

 

89式装甲戦闘車

90式戦車の車輪がゴムタイヤになったような装甲戦闘車。道が狭い国内でのゲリラ戦に備えて設計された。

 

軽装甲機動車

偵察から戦闘指揮までこなす万能装甲車。汎用性が高いため、空軍・海軍の一部でも使用されている。

 

装輪車

 

高機動車

小回りが利き、また陸軍内でも汎用性が非常に高いため様々な部署で使われている。

 

偵察用オートバイク

自衛隊時代に市販のマウンテンバイクを改造して作られた。主な任務は偵察が多い。

 

火砲

155ミリ榴弾砲FH-70 120ミリ迫撃砲RT

敵陣へ攻撃を行う大砲である。性能が良いせいなのか…。自衛隊時代の物を流用している。

 

地対空誘導弾

 

93式近距離地対空誘導弾 11式短距離地対空誘導弾

81式短距離地対空誘導弾C 03式中距離地対空誘導弾

敵戦闘機撃墜用に自衛隊時代に開発された。開発当時は領空侵犯する敵戦闘機の迎撃専用だったが現在は深海棲艦の艦積機迎撃用。

 

地対艦誘導弾

12式地対艦誘導弾 88式地対艦誘導弾

自衛隊時代に米軍と共同で開発された地対艦ミサイル。海軍との共同作戦や援護射撃などで使われる。

 

通信・レーダー管制

低空レーダー装備JTTPS

各基地に配備されている固定式のレーダーサイト。

常に周辺空域の監視を行う

 

無線搬送機1号改JMRC-18S

移動式の通信設備。主にトラックで運搬される。前線基地から後方支援部隊との連絡用として使われる。

 

化学・放射能汚染対応

 

NBC偵察車

対放射能・生物兵器対応偵察車。車内は高圧となっており、汚染された空気が車内に入らない作りになっている。

 

化学防護車両

陸軍化学部隊が使用する隊員輸送及び除染専用車両。現段階では深海棲艦との戦闘では使われていないが…。

地雷設置 ・撤去

 

87式地雷散布ヘリ

上空より効率よく地雷を散布するヘリ。特に武装はなし。

 

92式地雷撤去車

地上にて設置された地雷を撤去する専用車両。

手動式とコンピュータ制御による無人制御タイプがある

 

戦闘機

 

対戦車ヘリコプター AH-1S[コブラ]

老朽化しているにも関わらず、現在も前線で活躍する対戦車ヘリ。汎用性が高く、現在も各基地に配備されている。

 

戦闘ヘリコプターAH-64D[アパッチ]

自衛隊時代に導入された戦闘ヘリ。海軍のSH-60kと同じく追加装備次第で戦力が変化する。

 

85型対戦車ヘリコプター[荒鷲]

海上自衛隊で開発された[海鳥]の陸軍バージョン

。装備次第でミサイルを搭載することも可能。

 

OH-1 観測ヘリ

主に上空からの偵察任務の他、[アパッチ]等の対戦車ヘリの射撃管制も行う

 

輸送機

 

CH-47JA

陸上自衛隊時代から長年使われている大型輸送ヘリ

 

多用途ヘリ [ブラックホーク]

救助活動での迅速さを向上させ、物資の早急な輸送など様々な点から必要となり導入された。多用途ヘリ

 

EC-225LP 特別輸送ヘリ

主に、政府要人等を輸送する専用ヘリ。

 

オスプレイ

CH-47Jに次ぐ次世代の新型輸送機。搭載できる荷物はCH-47よりか少し少ないが…。速達さは向上、順次、切り替え予定。

 

 

 

・アメリカ海軍 南太平洋方面艦隊

~解説~

日本国国防海軍と共に大規模作戦を行うことがある自衛隊時代からの友好部隊。しかし、実際には日本国の武力に何か恐怖心を抱いてる模様

 

第12南太平洋駆逐隊

~解説~

ミクロネシア連邦ボンペイ島の南150キロ地点で突如姿を消した海軍の汎用駆逐艦を中心とした駆逐・哨戒部隊。救難信号と謎の電文を残し全ての艦艇が消滅した。旗艦は、アーレイ・バイク級ミサイル駆逐艦DDG-113[ジョン・フィン]

 

 

 

 

・アメリカ空軍 南太平洋防空部隊

~解説~

日米安保により、合同でアジア諸国を警備することとなり国防空軍と同居するような形となった。だが、装備はアメリカの方が上である

 

F35A戦闘機 F35B戦闘機 F35C戦闘機

アメリカが国の威信をかけて開発した汎用ステルス戦闘機。A型は通常離発着タイプ B型は短距離垂直離着陸タイプ C型は空母搭載タイプである。

 

F16戦闘機

米空軍所属のジェット戦闘機。国防空軍のF-2戦闘機の原型となった戦闘機であるが…。対地攻撃能力が向上した代わり、飛行性能は低下した。

 

B-2爆撃機

米空軍最新鋭の戦略爆撃機。垂直尾翼がない特徴的な形をしており、真上から見ると、ブーメランのような形をしている。

 

 

 



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みらい着任編
航跡1:国防海軍横須賀鎮守府


 

 西暦2012年。ハワイ沖に突如として出現した深海棲艦の攻撃により、地球人類は制海権を奪われた。国際連合はこれに対処すべく、国連軍を派遣。しかし近代兵器では人間サイズの深海棲艦対し、有効なダメージを与えることは出来なかった。更に深海棲艦の武力は圧倒的であり、世界最強と言われたアメリカ軍海兵隊でさえ壊滅的被害を受けた。また、国際連合からの要請により派遣された海上自衛隊。しかし、イージス艦部隊ほぼ全滅状態となり………。唯一、深海棲艦に対抗できたしらね型護衛艦も…。横須賀基地まで帰港出来たが、既に使い物にならなくなっていた。今では湾内入口で簡易の灯台として機能していた。

 

 

 

 

しかし、深海棲艦との戦いが始まってから一年後…。

日本の防衛省技術研究所にて、対深海棲艦用の装備が極秘開発された。その装備を使える者は既に決まっていた。

 

 

「はじめまして、吹雪です。よろしくお願いいたします!」

 

 

 

素朴で可愛い、中学生高学年位の女の子が提督に向かって話す。それが、通称艦娘と呼ばれる存在である……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから3年後…。全滅した韓国、中国海軍に変わり、日本周辺海域は日本国が守ることになった。日本政府は自衛隊から名前を変更し、新たに、日本国防衛軍を総括とした国防陸軍 国防海軍 国防空軍と特別救助隊の計4つの部隊に分けた。国際連合の会議では中国や韓国の生き残った政治家達から反対されたが、反対を押しきり可決された。艦娘の部隊を指揮するのは…海上自衛隊から変更となった国防海軍である。自衛隊再統括後に、国防海軍最大の基地となったのはここ、横須賀だった。

 

横須賀の街は基地の建設に伴う大規模な区画整理で沿岸部は完全に日本国軍の関連施設ばかりになっていた。また、高台には国防海軍と国防空軍の合同管制センターが建設されたため…。横須賀に住んでる人の大半が防衛軍の関係者ということになった。また、ここ横須賀鎮守府には日本最大級の艦娘達の基地と防衛省の研究所、国防海軍の研究センターが併設されている。また、防衛大学の訓練所もあるなど日本の防衛機密が集まっている形である。

 

[日本国 防衛海軍 横須賀鎮守府]

 

と表示された門の横に警備の憲兵が真夏の炎天下の中、小銃を構えて立っている。その横を身分証を見せながらセーラー服を着た女の子達が基地に入っていく。

 

「いつも、お疲れさまなのです。」

と、少女が冷たい飲み物が入ったビニール袋を憲兵に手渡そうとする。憲兵は顔を真っ赤にしてながら「す、済まないが……あ、あそこに座っているおじさんにわ、渡してくれないか?」と裏声で話す。すると、少女は「わかったのです!!」と言い、警備室にいた初老の男性に渡し、基地内に入っていく。彼女達は通称[艦娘]と呼ばれる存在であり、この横須賀鎮守府に所属している。彼女らもれっきとした軍人という身分を与えられている。

 

 

この日、工場である艦娘が誕生しようとしていた。

 

「えええぇぇぇぇぇええっっつ!?」

突如、明石の叫び声が鎮守府中に響き渡る。あまりの声に、宿舎の窓から休憩中の艦娘が慌てて顔を出す。執務室に居た提督は、飲んでいたコーヒーを吹き出す。岸壁で釣りをして居た加賀は、魚が入ったバケツを海に落し…。赤城が「食糧がぁぁああ!!」と悲鳴をあげる。

島風の連装砲ちゃんは実弾発射をするなど、基地中が大混乱になった。

 

 

数分後……。

バタン!!

ノックも無しに、提督がいる執務室に明石が飛び込んでくる。

「こらっ、明石!!ノックも無しにいきなり入ってくる…………な…。」提督はコーヒーで汚れた床を拭きながら明石を睨むが、明石のあまりの顔色の悪さに驚いた。

「て、提督………。そ、その…。新しい艦娘が出たのですが……。」真っ青な顔色で慌てた口調で話す明石。話を聞いた提督は明石と共に工場へ向かう。すると、工場の窓には大勢の艦娘達が中の様子を見ようと人だかりを作っていた。

 

「ちょっ、ちょっ!!通るぞ!!通るぞ(怒)」

集まっていた艦娘達が道を開けてく。工場の中に入ると、そこには長門と吹雪が居た。すると、長門が「すまんな提督。表がこの騒ぎじゃ、中に入って様子を見なくてはならないと思ってだな…。」と話す。「まぁ、いい。」と軽く返事をする提督。今はこんなことでもめてる場合ではない。明石に案内されて、その新しい艦娘の所へ向かう。明石によると、一番奥の個室らしい……。

個室に入ると、イスに腰かけた小柄な少女が居た。服装は、吹雪型に似たセーラー服に白の長ズボンを着ており、眼鏡をかけ、灰色のちょっと短めのポニーテールである。

「き、君は?」と提督が質問すると、その少女はこう答えた。

 

 

 

「私は、海上自衛隊横須賀基地所属!

 ゆきなみ型イージス艦DDH-182 みらいです!!」

 

 

 

と、みらいが提督達に向かって敬礼する。すると提督が、「い、イージス艦!?」と驚いた顔でみらいを見つめる。確かに他の艦娘と違い、大きなマストにたった一門の砲が目立つ。何よりも、被っている帽子が海上自衛隊の識別帽だった。明石がこれまでの経緯を話す。明石によると、最初は大和型二番艦 武蔵 を建造しようとしていたのだ…しかし、資材を量数通りに入れさて建造!というタイミングで、転倒してしまい持っていたレーダーや魚雷などの資材を大量に入れてしまったで、やけくそで建造させたら みらい が出てきたということだ。

 

「なるほど、そう言う訳か…。」と腕を組ながら長門か呟く。すると、提督が「にしても、武蔵を建造しようとしたら……。イージス艦が出てくるとはなぁ… 」と困った顔話す。なせ、ここまで困った顔になったのは……。深海棲艦が出現した当初、海上自衛隊のイージス艦の部隊が攻撃したものの…。近代兵器では成果を上げられずに撃沈してしまったからだ。その為イージス艦の艦娘は、作戦に参加しても…。主に、通信や哨戒任務程度しか行っていなかった。その為イージス艦娘達のほとんどは、鎮守府近海の警備活動を行っていた。

 

「…ところで君は、船だった時の記憶はある?」

と、提督はみらいに聞いた。すると、みらいはこんなことを言った。

 

「私は、太平洋戦争を経験したイージス艦です。」

 

その発言にその場に居た皆が凍りつく。

「………えっ?みらいさんは、太平洋戦争を経験したのですか?」しばらくの沈黙のあと、吹雪が口を開いた。

「ええ…。本当に太平洋戦争を経験しました。」

みらいは淡々と話すが、その場に居た全員は本当なのか信じることができない。長門が、護衛艦の所属データを持ってきた。提督がページをめくり、みらいの経歴を調べるが…。そこには……。

 

[2015年6月4日 ミッドウェー沖にて行方不明]

 

と記載されていた。提督はこの件について、説明を求めた。みらいが重い口を開いた…。

「私は、そのミッドウェー沖で異常な暴風雨に巻き込まれて、僚艦をロストし、全ての機器類に異常が出て…。気づいたら、帝国海軍の戦艦大和の正面に居ました。私の船に乗っていた柳1槽から話を聞いて、ミッドウェー海戦前夜にタイムスリップしたことが判明しました…………。」とみらいが提督達に説明した。説明は一時間近くに及び、説明を終えたときにはみらいは疲れきっていた。

 

一通りの説明を聞いた提督は、

「仮に本当だとすると、みらいは太平洋戦争を経験したイージス艦という訳だな。」と長門に聞く。

「しかし、物的証拠がないのに決めつけるか?」長門は提督に反論した。

「だが、仕方ないだろう…。艦娘として我が部隊に来たのだから。」提督はみらいに向かって、

「私がこの横須賀鎮守府の司令官の柏木だ。みらい、宜しく頼むぞ」と挨拶をする。

「はい!たとえ一隻のイージス艦になってしまっても、最後まで生き抜きます!!よろしくお願いします!」と、みらい は提督に向かって元気よく答えた。

 

 

 

 

 

 



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航跡2:みらい着任

 

 

 一連の挨拶を終えたあと、みらいは横須賀鎮守府に所属する他の艦娘に挨拶するために提督達とグラウンドに出た。

「えー。ということで、本日付けで海上自衛隊DDH-182みらいは、我々横須賀鎮守府に配属となった。皆、仲良くするように。」

と、提督の声が響く。やはり、イージス艦の艦娘は珍しいのか…。他の艦娘達から色々と、疑問の声が上がり騒がしくなっている。「静かに!」と長門の声が響く。すると、辺りは静かになった。再び提督が口を開く…。

「みらいは自衛隊の護衛艦寮に入ってもらうことになるが……。」と言いかけたとき、

「みらいさん!!」と、どこからか声が上がり…猛ダッシュで、壇上に上がってくるオレンジ色の制服を着た艦娘がやって来た。

「まさか、しらせ…さん?」とみらいが呟く。

「みらいさん!!」と、その艦娘がみらいに抱きつく。彼女の名前は、南極観測船[しらせ]。元々、海上自衛隊の横須賀基地に所属しており みらい とは防衛大の同期生であった。みらいが行方不明になった際には、最後まで捜索活動の打ち切りに反対していた。

「あわわ ちょっと、しらせさん!?」

いきなり抱きついてきたので、みらいはかなり驚いた。だが、しらせの顔を見ると…。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。

「みらいさぁん。よがっだよぅ~。」

それもそうだ、2015年にみらいが行方不明になってからずっと会っていなかったのだから…。

 

「さてと、みらい。そろそろ護衛艦寮に…。」

と、長門が言いかけたとき…。

提督が長門の前に手を差し出した。

(ちょっと、待ってやれ…。)

長門が提督を見ると、そう話してるように思えた。それから、15分ほど経っただろうか…。みらいがグラウンドを見ると、先程まで沢山いた艦娘達が居なくなっていた。しらせが落ちつい着たところで提督が、「みらい、そろそろ護衛艦寮に移動するぞ。 しらせ!」としらせに声をかける。「みらいを護衛艦寮に案内してくれないか?」提督からの言葉に しらせ は「はい!」と元気よく答えた。

 

しらせと二人で護衛艦寮に移動する途中、しらせが、

「護衛艦寮には、他にも海上自衛隊の艦娘達がいるよ。」とみらいに話した。みらい達が護衛艦寮に到着すると、寮の入口には

 

[おかえりなさい DDH-182 みらい ]

 

と、大きな横断幕が掲げられていた。護衛艦寮は、シンプルな4階建てのちょっとしたホテルのような作りになっていた。しらせに案内されて、寮内の食堂に入る。

 

パパパン 

 

クラッカーの音が鳴り響くなか、食堂にいた艦娘達が一斉に

「みらい、おかえりなさい!!」と挨拶をする。

人数は10人程しか護衛艦寮に在籍していないがら自衛隊の仲間同士、仲良くしているようだ。しらせに案内されて、椅子に座る。デーブルの上にはご馳走が並んでいる。すると、しらせが…。

「みらいが知っている護衛艦も居ると思うけど…」

と、横須賀鎮守府に所属する護衛艦仲間を紹介し始めた。しらせが話すには…

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

横須賀基地に所属している護衛艦娘は

・南極観測船 AGB-5003 しらせ

・イージス艦 DDG-181 ゆきなみ

・イージス艦 DDG-174 きりしま

・イージス艦 DDG-175 ほたか

・イージス艦 DDG-177 あたご

・汎用護衛艦 DDH-143 しらね

・汎用護衛艦 DD-125 さわゆき

・汎用護衛艦 DD-153 ゆうぎり

・汎用護衛艦 DD-157 せとぎり

・ 補給艦  AOE-422 とわだ

・ 補給艦  AOE-421 さがみ

・掃海母艦  MST-463 うらが

・空母型護衛艦 DDH-181 ひゅうが

・空母型護衛艦 DDH-183 いずも

・空母型護衛艦 DDH-184 かが

合計15人である。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

の中には、みらいの姉である ゆきなみの姿もあった。

「ゆきなみ姉さん!!」と、みらいはゆきなみに抱きついた。「みらい…お帰り…。」涙を流すみらいに、ゆきなみは優しく抱きしめた。二人が感傷に浸っていると…。

?「あわわわわわー!!!!」

ドッシッーン!!!!と、食堂の入口から大きな音がする。ほたか と しらせ が、入口へ向かうすると…電と雷、吹雪に白雪、深雪、しおい、飛龍が折り重なるように倒れていた。

深雪「痛ったーー!!」

吹雪「白雪ちゃん!くすぐったいから動かないで…アハハ(((*≧艸≦)ププッ」

しおい「あちゃー 」

電「飛龍さん、重いのですぅー 」

と、一番下敷きになってる電が叫ぶ

飛龍が「ごめんごめん(;>_<;)」と、慌てて降りる。

「…な、なにしてんの?」と、ほたか が呟く。

「ハハハ 」と苦笑いの吹雪。

「覗き見しなくてもいいのにw」と しらせ が話す。深雪が頭を掻きながら「いや~みらいさんって、どんな人なのかなぁーって思ってさ…ハハハ 」と話した。すると、ひゅうが がやって来て…。

「一言言って、入ってくればいいのにぃ~」奥にいる海上自衛隊の艦娘達から「みんなもこっちに来なよ~♪」と声がする。ほたかは「せっかく来たんだから、皆でご飯にしましょう。今日はバーベキューですよ 」と、話した。しおいが「やったー!( ≧∀≦)ノ」と歓喜の声をあげる。そして、DDH-182 みらい の復活記念パーティーが始まった!

 

 

 

< 艦娘達との交流 >

 

パーティー中、みらい は海上自衛隊を始め、帝国海軍の艦娘達と交流を深めていた。

「そういえば、あたごさんから聞いたのですが…」

「何?吹雪さん?」

吹雪はみらいの艤装について聞いてきた。

「みらいさんだけが積んでるトマホーク?って、どんな武器なんですか?」

「あぁ、トマホークね。」

他の帝国海軍の艦娘達も興味津々である。みらいはトマホークについて話し始めた。

「ええぇぇぇええ!!射程距離500キロ~!?」

あまりの射程距離の長さに驚きを隠せない吹雪。そして、追尾機能のアスロックに しおい は驚き127センチ砲の発射性能には飛龍が驚く。すると、ゆきなみ が、「どう?私の妹の強さは。」と胸を張る。「噂で聞いていたけど凄いなぁお前…。」と、深雪はみらいの艤装を触ってくる。深雪の触り方があまりにくすぐったく、「あんまし、艤装に触らないでくださぃー」と、みらい か叫ぶ。そこに、雷まで参戦してきたため…みらいは海鳥を発進させ、二人に演習用のゴム弾を浴びせる。

深雪「痛い痛い 悪かった、謝るから~」

雷「ごめんなさぁーいΣ(ノд<)」深雪達は寮の前で海鳥に追いかけ回されてる(笑)

「まったく?あの子達なにしてんのよ…。」と、ビールを飲みながら呆れている。

「あちゃー また、やってるよもう…。みらいさん、ごめんねぇ~ 」と、頭を押さえながら吹雪が呟く。

「で、どうしたらいい?」と みらい が吹雪に聞く。

「もう、撤退させていいと思う…。」

「ハハハ 」

少々、苦笑いのみらいと吹雪であった。すると、キッチンの方から とわだ と さがみ が「追加の料理出来たよー 」と、沢山の料理を持ってきた。中には、海上自衛隊で有名なカレーライスもあった。

「やったー!カレーじゃん♪」艦娘達から歓声が上がる。食事をしていると、飛龍がビールを片手にこんなことを海上自衛隊の艦娘達に聞いてきた。

「ところで、何でみらいさんは、DDHなんですか?」

「…えっ!?」

不意を突かれたみらい。すると、ひゅうが が、

「みらいは、艦識別の改定前に…ヒック!行方不明になったから…ヒック!イージス艦がDDGになったのをしらねぇの~w」ひゅうが が説明するが、完全に泥酔しており支離滅裂である。(´-ω-`;)ゞ

みらいは顔を赤くして黙ってしまった。

「じゃ、みらいさんもDDGに変更になるのですか?」吹雪が質問してくる。

「DDHはヘリ搭載型護衛艦、DDGはミサイル護衛艦どっちにするかは、みらいの好きなようにすればいいんじゃない?」しらせ が助け船を出してくれた。

「そ、そうですねぇ~ 考えときます…ハハハ」

結局、後日改めて考え直す事にしたみらいであった少々グダグダだったが、艦娘達の夜は更けていった…。

 

翌朝…。

気がつくと、みらいは寝室の二段ベットの上段で寝ていた。

「んっ、ん~ 」背伸びをするみらい。窓の外からは、朝日が差し込んでいる。時計を見ると、午前5時。少し早く起きてしまったようだ。下段ではしらせが寝息をたてて寝ている。ベットから降り制服に着替え。窓を開けると朝の清々しい空気が部屋に入ってくる。(…今日は、晴れそうだ。)朝日を見ながらみらいは、こう思った。せっかくなので、鎮守府内を散策しようと思い宿舎の外へ出る。宿舎を出て、ドックの方へ歩いていると向こうから誰かが走ってくる。

「あっ、みらいさん!おはようございます!」朝から走っていたのは、吹雪だった。「お、おはようございます えーと、吹雪さんでしたよね?」

みらいが聞くと「はい!」と吹雪は元気よく答える。

 

 

堤防の上に座った二人。そこからは朝日に照らされた海が綺麗に見える。

「吹雪さんって、特型駆逐艦でしたよね?駆逐艦の時の記憶ってありますか?」

と、吹雪に船の時の記憶を聞く。すると…。

「えぇ、太平洋で戦果を挙げていたことは覚えています。サボ島沖海戦で最期を迎えたことはあまり、覚えていないんです。」みらいは吹雪の言葉に驚いた。

「あの時、敵艦に近付きすぎて集中砲火を浴びて轟沈したって、艦娘になってから知ったんですよね… 」

と、頭を掻きながら吹雪はこう答えた。

「…そうなんですか。」と、みらいが呟いた。少しの間のあと、吹雪が「ところで昨日、みらいさんは太平洋戦争を経験したって言ってましたよね?」と、キラキラ✨した顔で聞いてくる。

「ぇ、ええ…。」と、みらいが返事したのもつかの

間。「船の時の私は見ましたか?」と、聞いてきた。

みらいはCICの記録を探ったが、それらしい記録はなかった。「ごめんなさい 記録が残ってないです。」慌てて謝るみらいに吹雪は、「いえ、こっちこそ無理な質問でごめんね 」ところで、みらいは一つ聞きたいことがあったのを思い出した。

 

「…ところで、吹雪さん?」

 

「はい!?」

 

 

 

 

「この基地に、大和さんは居るの?」

 

 

 

 

 

 

その言葉に、吹雪は驚いた。

吹雪は初期艦だった為に、提督から話を聞いていたが、海上自衛隊の艦娘達には伝えてなかった。だが、吹雪はみらいの目を見ると…何でもお見通しであるような目をしていることに気づいた。観念したように吹雪が、

「や、大和さんならこの基地に居ますよ…。ただ…」

「ただ?」と、みらいが疑問の声をあげる。

「…………只今、長期演習で呉の鎮守府に居るんです……ハイ 」その言葉を聞いたみらいは少しホッとした。

「…そっか、大和さんもこの基地に配属されてるのですね。じゃあ、戻ってきたら挨拶しないと。」

「・・・ってか、何でみらいさんは、大和さんの事を知ってるのですか?」と、慌てて吹雪が聞いてくる。だが、みらいの耳には入っていないようだった。それ以前に、聞いてはならないような感じだった。

 

キーンコーン カンコーン

 

起床時刻を伝える鐘が鎮守府じゅうに鳴り響く。朝礼を終えた艦娘達が次々と、大食堂に入ってくる。食堂には、お米のいい香りが広がっている。艦娘達はそれぞれのグループで分かれて食事している。

 

「みらいさぁーん!こっちこっち!!」

何処からか、しらせの声がしてその方向を見ると既に座席を確保しているしらせの姿が見えた。吹雪は提督の所へ行くと言うことで一旦別れ、朝食は ゆきなみ と しらせ と一緒に朝食を採ることにした。みらい 達が朝食を食べていると…。

「DDH-182みらい、至急、執務室まで来るように 」

と、長門が放送でみらいを呼び出した。それを聞き、みらいは急いで朝食を流し込み食堂を後にした。

 

 

 

 

コンコン

誰かが執務室の扉をノックする。

すると、提督が「どうぞ。」と返事をする。すると、みらいが入ってきた。椅子に座りながら提督が、

「みらい、朝早く呼び出して済まない。今朝早く海軍省から…近く、視察団が、来られる事になったんだ。まだ、日程はきまっていないが…。その視察団が来ている際に、演習を行うことになっているのだが、みらい。君に、新鋭艦の力を視察団に見せたいと、考えたのだが…大丈夫かな?」少しの沈黙のあと…。

「あ、はい!!大丈夫です!!」

と、みらいは慌てて返事をする。

「よかった。急な連絡で済まなかったな みらい。」と、窓の外を見ながら提督が話した。

 

コンコン!

 

ドアをノックする音がしたあと、吹雪がエプロン姿で部屋に入ってきた。

「提督!! 食器洗いおわりましたけど…あれ?」

提督と みらい …。何をしていたのか疑問に思った吹雪だが、とにかく食器洗いが終わったことを伝えた。

「吹雪、ありがとうな。あっ!そうだ、みらい!!」

と、提督が引き出しから分厚いファイルを取り出した。そのファイルには、「横須賀日誌」と書かれていた。「これは…?」と、みらいが疑問の声を出す。

「吹雪!これの事を説明してやってくれ 」と、提督が吹雪に説明を求める。

「あっ、この日誌ですが…私たち艦娘と提督との…一種の交換日記的なものです。帝国海軍組、海上自衛隊組。二つが関係なく、交代交代で日誌を書いてるんです。」と、吹雪が日誌について説明する。

「へぇ~日誌ですか(・o・)」

と、感心した様子で みらい は日誌をめくる。

艦娘達が書いてるいるのだが、人それぞれの個性が出ていた。駆逐艦達は可愛く書いてあり、落書きなども所々にあった。対して、戦艦達は豪快に書いていたり、落書きだらけで意味不明になっていたりする。また、空母メンバーは…。綺麗に書いている人も入れば、絵で表現している人など、個性豊かな日誌になっていた。勿論、自衛隊組の日誌も色々な事が書かれていた。

 

「ちなみに担当する日には<秘書艦>という形になって、基本的には提督と一緒のスケジュールで行動します。朝食前に提督室に取りに来て、就寝時間前に同じ場所に返却します。書く内容は個人個人、思ったことを書けば大丈夫です。まぁ、簡単な日記。みたいなものかな?」一通りの説明を終えた吹雪は、こんなことを提案してきた。

 

「あの、みらいさん?せっかくですので、今日は一緒に日誌を書いてみませんか?」

 

 



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航跡3: 初演習~相手は正規空母加賀~

 吹雪と一緒に日誌を書くことになった みらい 。柏木提督からの立案で、今日は艦娘化後初めての演習を行うことになった。

「えーと、みらいさん?航行の仕方は分かりますか?」と、吹雪が訪ねてくる。

「まぁ、船のときは…。乗員の方に操作してもらってましたから…。」

みらいは、艤装を身に付けながらこんなことを言った。既に吹雪は、海の上に立っている。

「要領は、アイススケートに近いと思います。慣れるまで、ちょっと時間が掛かるかもしれませんが、前に進め!と思えば前に進みますし…進みたい方向に体を傾けると、その方向に進みますよ♪覚えているかも知れないですけど・・・。とりあえず、やってみますか!」

 

多少覚えていたみらいだが、長い間眠っていたので少々、コツを掴むまで時間がかかった。だが、練習を初めてから一時間程で要領も分かり、射撃も出来るようになった。

「ふぅ、なんとか感覚を取り戻したよ 」

と、言いつつタオルケットで汗を拭く みらい。

「それはよかったです♪射撃の方も大丈夫ですか?」と、吹雪が聞いてくる。

「大丈夫よ。こう見えて、タイムスリップ中に怪我はしたけど米海軍のドーントレス40機とやりあってるし第一、私は自衛隊の射撃演習で百発百中だったんだから♪」みらい は自信満々に言った。すると、

 

「百発百中と言っても、私の航空部隊には勝てるかしら?」

 

 二人は声がする方を見るとそこには、帝国海軍最強と言われた一航戦の加賀と赤城が居た。

「ちょっ!!加賀さん 」赤城が慌てて止めようとするが、

「私がここに転属してきたとき、ここの鎮守府には、海上自衛隊の護衛艦の艦娘達が居ると提督から聞いたわ。帝国海軍の装備だと、演習で戦っても勝てるわけがないと提督が話してた。でも、私の航空部隊もほとんど負けたことはない。あんた達、護衛艦は、鎮守府近海の警備程度しかやってないそうね。たとえ平成の戦闘でも、実戦経験豊富な私達一航戦の攻撃に対応出来るかしら?」

と、明らかに海上自衛隊を見下したような声で加賀が挑発してくる。

「なんですって!?私だって、太平洋戦争を経験しているんですよ!!」

赤城と吹雪が間に入り、二人を止めようとする。

「だったら、演習で戦って証明してみますか?」

「私の実力、なめないでください!」

 

バタン!!

 

提督室に飛龍が駆け込んでくる。

「て、提督!! みらいさんと、加賀さんが喧嘩を始めて…。演習で決めようとしてますが…ハアハアハア 」

飛龍は息を切らしながら、提督に伝えた。

提督と飛龍が表に出ると、長門が、二人の仲裁に入っていた。

「二人とも、いい加減にしろ 」

みらいと加賀は睨みあったままだ。その状況を見て、提督は…。

「だったら、帝国海軍と海上自衛隊。どっちが強いか演習で決めようじゃないか。」

その声に、周りに居た艦娘達が愕然とした。

「勿論、演習だから弾は演習用のペイント弾とする。ただし実戦と同じように、両者、油断してはならんぞ。」

ということで、みらい vs加賀 の演習が始まった。

「大破や轟沈の判定は私の他に、長門、吹雪、ゆきなみ、ひゅうが が行う。両者、悔いの無いように全力を尽くすこと。以上!!」と、提督がルール説明をする。

「両者、準備は良いか?」長門が、みらいと加賀に尋ねる。

 

「大丈夫ですよ」「準備できました。」

二人から無線で返事か来る。

「では、演習を始める。よーい、始め!!」

長門の空砲が合図となり。演習が、始まった。

「よし、みらい。全力でいきます!!」

「第一攻撃部隊、順次発艦!」加賀は攻撃部隊を発艦させていく。それをレーダーで見ていた みらい は、

「電子戦用意!!ECMレーダー ジャミング開始!」

その声と同時に、擬装が唸り始める。

すると、加賀の無線機に異変が起こる。

「第一攻撃部隊、目標接近…………わっ!!」

慌てて、無線機を耳から離す。無線機からは雑音しか聞こえず、攻撃部隊と連絡が取れない。

(…… 一体、どうなっているの?)

心の中でこう思った。今まで、このようなことは起きたことがない。第一攻撃部隊の安否が気になり、飛んでいった方向を見つめる。

 

みらい では、向かってきている加賀の攻撃部隊に応戦するための準備が着々と進んでいた。

「数は全部で40機。ワスプ戦の時と同じか…。」

始まる前に、提督からこんなことを言われた。

「資材についてだが、実は海上自衛隊の艦娘用の武器も製作可能なんだ。ただ、一般の武器よりも多少時間はかかるがな。全力を出してこい!みらい!」その言葉を聞いて、みらい は安心した。タイムスリップしたときは、ろくに武器の調達が出来なかったからだ。みらい は深く深呼吸した。まもなく、第一攻撃部隊の目視範囲。

 

「見えた!!」

 

みらいが見つめた彼方先の空に、豆粒のように小さな攻撃部隊が見える。さすが、帝国海軍の一航戦の攻撃部隊。無線が使えない中でもきれいな陣形を組んでいる。

 

「あれか、目標は。」攻撃部隊のパイロット妖精が、みらい を見つける。

「あの程度なら、あっという間に轟沈判定が出るな」

その油断が命取りだった。

「対空戦闘、CIC指示の目標。撃ちぃーかた始め!」

みらい の127ミリ速射砲が火を噴く!

「たった一門の砲で何が出来る!」パイロット妖精は油断をしていた。だが、いきなり機体にオレンジ色の液体が付着する。そう、演習用のペイント弾が命中したのだ。まるで生き物の様に動く みらい の127ミリ速射砲。その方向にいる攻撃部隊の機体が次々とオレンジ色に染まっていく。

「あ~もう!!まだまだ居るのか、こうなったら…。」

みらい は手元にあるタッチパネルを操作し…。

「シースパロ発射始め。サルボー!!」

その掛け声と同時に、ボタンを押す。

それと同時に、艤装のVLSから煙が上がる。

(なんだ、あれは!!)パイロット妖精達は皆、とてつもないショックを受けた。自らが操縦する機体を凄まじいスピードで追いかけ、命中したのだ。あっという間に、みらい の周辺にいたほとんどの機体はオレンジ色に染まり、一部の機体は大慌てで逃げる始末。明らかに混乱しているのは、見学していた提督をはじめとする、帝国海軍勢の艦娘達でもわかった。

「あの、加賀の攻撃部隊でも…。手が出ないとは。」

見ていた長門が驚きの声をあげる。それもそうだ、加賀の攻撃部隊は みらい に対して一つもダメージを与えられていない。

 

無線が通じない中、加賀の所に第一攻撃部隊が帰還してくる。

「40機上げたのに、無事なのは5機だけ!?」と、加賀は驚きの声をあげる。帰還したパイロットから「あれは化け物だ!!」「俺たちじゃ、手も足もでない。」などと、声が上がる。ふと、無線機からみらいの声がする。

「ー加賀さん、まだ続けますか?」

その言葉に加賀は、少しの沈黙の後

「ええ、一航戦の誇りにかけて最後までやるわ。」と、みらい に伝えた。

「ー分かりました。では、こちらもあなたに撃沈判定が出るまで戦います。」と、言って無線が切れる。

 

(げ、撃沈判定が出るまでって…!)

 

その言葉を加賀は半信半疑にしか思えなかった。加賀とみらいの間は、約100キロ離れている。ここまで離れているのに、私を撃沈させるのか。そのようなことはないと、加賀は思った。

 

それと同じ時刻に みらい はタッチパネルを操作していた。

「よし、データ入力完了。GPS誘導確認。」

みらいが準備していたのは、切り札であるトマホークだ。これは、護衛艦組の中でもみらいにしか搭載されていない。射程距離は500キロ。演習用の為、無弾頭でペイントを積んでいるとはいえ、命中した場合艦娘であっても数メートルは吹き飛ばす威力を持っている。

「目標、正規空母 加賀!!トマホーク攻撃始め!」

みらい の艤装から大きな煙が上がる。

それをテレビモニターで見ていた飛龍が、

「こ、これが21世紀の戦闘なの!!」

と驚きの声をあげる。トマホークは海の彼方、加賀に向かって飛んでいった。その頃、加賀は第二次攻撃部隊を順次発艦させていた。この10分後に酷い目に遭うとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー正規空母 加賀撃沈判定ー 

 

キィィィィィィン

 

海面を凄まじいスピードで飛行するトマホーク。まもなく、加賀の目視範囲に入る。何処からか、聞きなれないエンジン音がしてくる

「・・・なに!?」

何事かと思ったのもつかの間、トマホークは加賀の飛行甲板に命中し大きな水柱が上がる。その反動で弓が折れ、搭載されていたオレンジ色のペイントが降りかかる。

「加賀さん!!」見ていた赤城が慌てて近寄る。そこに居たのは、全身オレンジ色になってしまった加賀だった。審判を務める長門達から加賀に対して、撃沈判定が出る。

「……負けたわ。」加賀はこう、呟いた。だか、その顔は全力を出し尽くした顔をしていた。赤城からタオルを受け取り、顔を拭く。

「加賀さん、無茶なことしないでくださいよ 」

赤城は加賀に話した。話をしていると みらい がやって来た。流石にやり過ぎたと謝る みらい 。だが…。

「こちらこそごめんなさいね。自衛隊をバカにしてしまって。これから先は、帝国海軍と海上自衛隊。お互いに仲良くしましょう。」と、手を差し出す。みらいと加賀は、握手をしこの演習は終わった。

(もっと、練度を上げて護衛艦に負けないようにしなくちゃ…。)心の中で、加賀はこう思った。

 

 

演習の後、汗をかいた二人は鎮守府内にある入浴施設へ向かった。加賀が風呂に入っていると、

「加賀さん、本当にごめんなさい 服をここまで

汚してしまって…。」みらいは改めて、謝った。すると、加賀は「いいのよ、服が汚れるのは慣れてるし。」

「で、でも…。」と、困る みらい。

「それに今日は、海上自衛隊の事を知ることが出来たわ。あんな力があれば、深海棲艦にも対応出来るかも知れませんね。」風呂に入りながら加賀は みらい に話した。

 

 

 

提督室では、柏木提督が考え事をしていた。

(今日の演習で、みらい の実力がよく分かった。今後の艦隊編成を変更しなければならないかもな…)

 

バタン!!

 

提督室に榛名が入ってくる。

「提督…?」話かけたが、返事がない。

仕方ないので少し大きな声で

「提督!!」と声をかける。

「…あっ、榛名か。どうした?」

「コーヒー入りましたよ。」と、榛名はコーヒーを机に置く。

「提督、今日の演習についてですか?」

「ああ…。」

「あの加賀さんですら、あそこまで一方的な敗退をしてしまうとは…。私自身思っていませんでした。」

榛名もあの一方的過ぎる みらい の攻撃に恐怖を感じていた。しかも、完全に射程圏外に居た加賀に対して撃沈判定を出したのだ。こんな船は今まで見たことがなかった。

「もしかしたら、あいつは…。この戦争の行く先を大きく変えてしまうかも知れないな…。」と、提督が呟いた。

「えっ!?」

榛名は疑問の声を上げたが、実際に演習の様子を見ていてここまで恐怖を感じた戦闘はなかった。

「一体、どうなるのか…。今後の艦隊編成を考え直す必要があるかもしれないな…。」

夜の月明かりに照らされている鎮守府を見ながら、提督は呟いた。

 

夕食後、食堂で吹雪と一緒に日誌を書く みらい。

「みらいさんって、すごい武器を持っていたんですね。あの、加賀さんを攻撃した武器ってなんですか…?」

と吹雪が聞いてくる。

「ああ、あれはトマホークっていう武器なの。まぁ、一種のミサイルみたいなものかな?」

「ミ、ミサイル!?」

「簡単に説明すると、ロケットみたいなものかな?」

「ロケットですか…。」

みらい が説明するが、吹雪にはよく伝わらなかった。

「でも、みらいさんって…。すごい力を持っているのですね。私なんかじゃ、とても太刀打ちできませんよ(笑)」と、冗談半分に吹雪が話す。しかし、みらい から帰ってきたのは以外な返事だった。

「私は、ミサイルとかを使えば…強いけど…。接近戦だと、装甲が弱いからすぐにやられてしまうわ。おまけに艤装の中にあるイージスシステムがなければあんな戦いかたなんて出来ない。あなたも今日の演習見てたでしょ?あれは、イージスシステムがあればこそ出来る芸当だけど、システムがないとミサイルは使えないし、超が付くほどの下手な射撃になってしまうわ。おまけに、私の戦いかたは、敵に接触する前に攻撃している。先制攻撃をしない自衛隊の艦娘としても……攻撃をしている自分が正直、怖いのよ…。」

「…えっ?」

意外すぎる返事に吹雪は驚いた。

「そもそも、タイムスリップ中に米海軍のドーントレス40機とやりあって勝ったなんて、あれは嘘みたいなものよ。戦争を知らない私たち海上自衛隊がはじめて戦場で戦ったんだもの。私が戦闘中に油断したせいで、乗組員5人を死なせてしまったんだから…。」

吹雪はとても驚いた。みらいがタイムスリップしたことは知っていたが、こんな悲惨な状況下で悩みながら行動していたことを知ったからだ。みらいの顔をみると、目には涙が浮かんでいた。

「あ、あの、みらいさん…。」

吹雪が声をかけると、

「吹雪さん、ありがとう。…けど、艦娘としてまた、前線に立つことが出来るんだから…。今度こそ、決して戦闘中に油断しないで皆を守れるように頑張らなくちゃね。」と、涙声で話すみらいだった。

 

 

 

 

 

 



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航跡4:大規模軍事演習~海自艦娘VS深海棲艦~前編

 みらい が鎮守府に着任してから一ヶ月。演習を繰り返し、射撃練習の成績も向上しいよいよ実戦に参加するレベルまで上がってきた。今日は、海軍省から司令長官を始めとする視察団がここ、横須賀鎮守府に視察に来られる日だ。視察団の来訪に備えて、前日から鎮守府では大掃除が行われていた。

「そろそろ、視察団の方が到着する時間ね。」

応接室の最終チェックをしながら ゆきなみ が話す。

「吹雪ーお湯を沸かしといてー。」と、深雪が叫ぶ

「はぁーい」と吹雪の返事が聞こえたのもつかの間、応接室に長門が入ってくる。

「視察団の方が到着したぞ。公開演習に参加する者は、速やかにドック前に集合!!あと、みらいは至急、提督室へ向かうように。提督が、お呼びだ」長門に言われ、みらいは提督室へ向かう。

 

コンコン!

 

「海上自衛隊 ゆきなみ型イージス艦 DDH-182みらいです!」

「あっ!きたきた。」と、ドアの向こうで声がする。「どうぞ。」と、提督の声がしてみらいは中に入る。中には、柏木提督と海軍服を着た初老の男性が居た。

「山本長官。こちらが、今回新たにうちに配備されたゆきなみ型イージス艦のみらいです。」

提督がみらいを紹介する。すると…。

「初めまして。日本国海軍省から参りました。連合艦隊司令長官の山本五十六と言います。みらいさんお会いできで光栄です。」と、手を差し出しながら挨拶する。みらいは握手をしながら、自身の自己紹介をした。

「いや~ みらいさんは、あの一航戦の加賀を演習で倒したそうですねぇ。お話は、海軍省でもつくづく伺っています。」と、みらいを誉める山本長官。その結果、みらいの顔は少しながら赤くなる。

「ところで、柏木提督?」ふいに、山本長官が提督に声をかける。

「はい?なんでしょうか?」

「済まんが。みらいさんと、少し話をしたいのだが大丈夫かね?」

「ええ、構いませんよ。演習は、1030からですからまだ、30分ほどありますので。」と、提督が伝えると

「済まぬな。では少しの間、席を外してくれんかね?みらいさんと、二人きりで話したいんだ。」

長官の以外な発言に驚いた提督だったが、流石に目上の人であるためすぐ、席を外した。

 

「長官?私に何か用ですか…?」みらいは長官に聞いた。

「ああ、実は君が艦娘として出てくる前から…。私は、君の事を知っていた。いや、船の時に乗ったことがあるといった方が良いか。」

 

「…えっ?」

 

「実はな、私の名前は山本五十六であるが…。この時代の人間じゃない。太平洋戦争中の帝国海軍の司令長官だったんだ。どういうわけか分からんが、戦地で敵兵に拳銃で胸を撃たれたんだ。そのまま意識を失って、気づいたら大きな病院のベッドで寝ていたというわけだ。この世界の海軍省の司令長官という立場で居ることに気づいたんだ。」

 

 

数秒の沈黙のあと、

 

 

「…ってことは、長官は私がタイムスリップした世界から来たってことですかぁ!?」

「みらいさん…。声、大きいですヾ(゚д゚;)」

突然のみらいの大声に驚く山本長官。みらいが驚くのも無理はない。歴史上では、太平洋戦争で戦死したはずの人間が目の前に居るのだから。

 

「私と君…。みらい さんでしたかな?この時代に存在しているのには何かしらの理由があるのだと思う。戦艦大和…。いや、大和くんか…。この世界では…。今日、帰港するはずだ。大和くんにもあって、相談してみたら良いだろう…。」

と、長官はみらい に向かってこう話した。

 

「演習参加者は整列!!」

長門の掛け声で公開演習参加組はドック前に集まる。「演習…上手く出来るかなぁ…。」と、心配げな声を出す電。ゆきなみが、「大丈夫。訓練通りにやれば大丈夫よ。」と、励ましている。壇上に柏木提督が上がった。

「では、これから公開演習を行う。皆、演習だからと言って油断せず。実戦だと思って参加すること!また、本日は海軍省から山本長官がお見えになっている。皆、日頃の訓練の成果を思いっきり出しなさい!!」

提督の一声で演習が始まった。

 

予定通り、順調に演習を行う艦娘達。もちろん、海上自衛隊の護衛艦メンバーも海自チームとして演習に参加していた。

 

「ふぅ、敵の第一攻撃はなんとか防げたわね…。」

額の汗を拭きながら ゆきなみ が呟く。

「いや、一息付くにはまだ早いですよ。まだ、対潜水艦の演習がありますから…。」ときりしま か話す。

「ええっ~!?まだ、あるのぉ…。」と、ほたか と かが が揃って文句を言い始め、ひゅうが が慰める。その様子を苦笑いで見ていた みらい だが…。ふとレーダーを見ると、みらい達から南南西に向かって約500キロ離れた地点。レーダー画像には隅っこに[Unknown]と表示された群れが鎮守府の方向に向かって飛行しているのを見つけた。

 

「…へ!?」

 

驚きのあまり固まるみらい。その様子を見ていた あたご が、「…みらい? どうかしたの??」と尋ねる。

 

「えっ!?あ、えっと~その…。」

あいまいな返事をするみらいに対して、

「ちゃんと言いなさい!」と、ゆきなみ が一喝する

 

「…えっと、五分くらい前から私のレーダーに…[Unknown]が何個か表示されてるんだけど…。姉さん?これは敵?なのかな??」

完全に判断できなくなっているみらい。仕方ないので、ゆきなみ にレーダー画面を見せる。すると ゆきなみは、

「ちょ、みらい!! これはいつから出ていたの!!」

と、ゆきなみがに荒々しい声を上げた。

「え、あっ…五分くらい前か…。」

「それは早く報告しなさい!ってか、みらい!!一緒に、提督にこの海域の飛行スケジュールの確認を求めて!!」と、指示を出し始めるゆきなみ。

 

ー鎮守府 無線室

 

ピピーピー…。

「ん!?」

無線を受信し、大急ぎで紙に書き写す大淀。写し終えると無線室に居る他の艦娘に無線番を頼み、猛ダッシュで提督の所へ向かう。

 

ー公開演習の観覧席

 

「いや~流石、新鋭のイージス艦。射撃精度もすごいですなぁ。」

「いえ、本物の戦闘になったらどう対応できるのか。海上自衛隊組は先制攻撃反対派が多いですからねぇ~」と、山本長官と柏木提督が話している。すると、大淀が大慌てで駆け込んでくる。提督の耳元で「すみません提督。演習中の ゆきなみ班から無線連絡があったのですが、鎮守府に向かってUnknown目標が飛行しているのを発見したそうです。」その言葉に提督は…。

「なにぃ!?Unknown目標だと。長官、ちょっと失礼します。」

「ああ、構わんよ。」

長官に一声掛けて、提督は席をはずした。そして、大淀に指示を行う。

 

ピピピピッ!

「鎮守府より入電!!当海域周辺での航空機の飛行予定は無し!Unknown目標が敵と識別出来次第、撃墜せよ!!演習中の全ての艦娘は実戦に切り替えて迎撃すること!」と、あたごが叫ぶ!

「みらい!航空機のコース上に敵空母が居るか?」

旗艦の ゆきなみ が みらい に聞く!

「あっ!はい!!コース上に敵と思われる艦隊あり!推定、空母1、戦艦1、駆逐艦3と思われます!航空機!我々に接触するまであと30分!」

 

少しの沈黙のあと、ゆきなみが…。

 

「…このまま、私たちが敵機を見過ごす訳にはいかないわ。鎮守府からの攻撃部隊が来るまで、ここで防ぎましょう。私たちの力では、かなう相手か分からないけど…。日本を守る気持ちは変わらない。ここは私たち、海上自衛隊の護衛艦の力を見せましょう。」

 

「はいっ!!」

 

旗艦の ゆきなみ が話すと、みらい を始めとする護衛艦組メンバーが一斉に返事をした。

 

「みらい!お前の海鳥を偵察に出してくれないか?」と、あたごが声をかけてきた。

「えっ?か、構わないけど…?」

「いや~ みらいが積んでる海鳥は、他の機体より速くて偵察に向いてるから…。」

 

「分かりました!では、海鳥を発艦させます!」

「敵機と分かったらすぐに連絡しろ!頼んだぞ、みらい!!」

みらいは「はい!!」と、返事をして発艦準備にかかる。

「シーフォール準備整い、次第発艦せよ!」

みらいが左手の飛行甲板に海鳥を乗せると、海鳥のエンジンがかかり、プロペラが勢いよく回り始める。

「システムオールグリーン!シーフォール発艦します!」と、海鳥のパイロット妖精が叫ぶ!海鳥は静かにみらいの飛行甲板から飛び立った。

「シーフォール?無線は聞こえる?」

みらいが海鳥に無線で呼び掛ける。

「こちらシーフォール。感度良好です!」

「了解!シーフォール、敵に見つからないように接近し、状況を報告せよ。敵の場合は速やかに帰還せよ。」みらいが海鳥に、テキパキと指示を行う。

海鳥は目標を確認するため、飛び去った。

 

 



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航跡5:大規模軍事演習~海自艦娘VS深海棲艦~後編

 海鳥がみらいから飛び立って10分…。高度2000㍍で海鳥は航行していた。搭乗していたパイロット妖精から目標を発見した!と、みらいに情報が入る。

「こちらシーフォール。目標発見!深海棲艦の艦載機です!!現在、高度750㍍で飛行中。目視距離まで、あと15分!」

「了解!シーフォール気付かれないようにただちに帰還せよ!」

「了解!」

上空で急旋回をする海鳥。敵に気づかれた様子はない。

(お願いだから、無事に戻ってきて…。)

 みらいは海鳥が飛び去った方向を見ながら思っていた。敵の目視距離に入る5分前。無事に海鳥はみらいの元に帰還した。海鳥を収納しているとほたかが、

「き……来た!!」と、望遠鏡を覗きながら叫ぶ!

「来たか!全員に告ぐ、対空戦闘用意!ECM作動!いいか、これは演習じゃないよ!!」ゆきなみの一声で、全員に緊張が走る。

「敵の数は約80機です!ハルマゲドンモードで迎撃しますか!?」緊張のあまり、震えた声で ほたか が みらい に聞く。数秒考えたあと、みらい が ゆきなみ に、こう言った。

「姉さん、私が最初に迎撃します!」

みらいの発言に少し驚いたゆきなみだが、

「分かったみらい!みらいの腕を信じます!」

と、みらいに向かって言った。

「主砲発射管制確認!目標は一番近い6機に照準。発射管制は、手動にて行う!」

みらいの言葉にその場にいた艦娘達が愕然とする。

「えっ!ハルマゲドンモードは使わないの!?」

と、あたごとかが が呟く。聞いていたゆきなみだが、みらいが行おうしていることはすぐに分かった

(最初に6発だけ攻撃し、戦力差を見せつけて相手の攻撃の意思を挫く。なるほど、それなら最小限の弾薬の消費で済む…。)

ふと、ゆきなみは攻撃の準備をするみらいをみた。そこにいたみらいは、行方不明になる前のみらいの姿ではなかった。完全に、戦場を理解して何もかも見透かしているような顔をしていた。敵機が射程圏内に入る!

「トラックナンバー2628 主砲撃ちーかた始め!!」

 

ドォン!

 

みらいの速射砲が火を吹く!ほぼ同時に、敵機が爆発していく。

 

ドォン! ドォン!

 

次々と敵機を撃墜していくみらい や ゆきなみ達 かが や ひゅうが もCIWS等で応戦している。だが、敵の数は今までで一番多い80機。とても、ゆきなみ達だけでは太刀打ちできない。手元のレーダー画面を見ると、死角になっている後方から向かってくる敵機がいた。

(くっ… 後ろから…。こんなにおおいとCIWSだけじゃ対応できない!!)

爆弾を放ち、機銃を発射する敵の戦闘機。敵は、空母の形をした かが や ひゅうが にしつこくまとわりつく。

 

ドルルルルルルルルルルルル

 

飛んできた爆弾をCIWSで迎撃するなど、全員対処はしていた。だが…。「きゃぁ!」ほたか が悲鳴をあげる!敵の攻撃が命中したのだ…。

「ほたか!?大丈夫?? 被害はあるか!」

あたご が声をかける。ほたか から帰ってきた返事は、あたご が想像した以上の被害だった。

「て、敵の…機銃掃射で……。右舷の……SPYレーダーが…(泣)」

あたご が ほたか に駆け寄ると、ほたか の制服の袖が破れ、艤装から黒煙が出ていた。その上、手元のパネルには、[SPYレーダー故障]と、表示されていた。ほたか のダメコンからは、他にも衛星回線機器ECMの破損など大きく破損していると情報が入った艤装のレーダーパネルにはヒビが入っていた。その中でも、敵の飛行機はしつこく攻撃してくる。

「しまった!!」

みらい が声を上げる!一瞬の隙に後ろを取られたのだ。後部CIWSは、給弾中で動かない。給弾が完了するまであと15秒はかかる。

 

(……撃たれる!!)

 

みらいは、恐怖を感じた。だが…。

 

ドォン!ドォン!

 

突然、後方から来ていた敵機が爆発する。

「えっ!?」

 

 

「あたしら、先輩も忘れないでよ!」

 

そこに来たのは別部隊で行動していた、こんごうを始めとするチームだった。

「こんごう姉さん!」と、ひゅうが が叫ぶ!

「待たせてごめんね。一報を聞いて、鎮守府から猛スピードで駆けつけたんだ。」

「こんごう姉さん。ありが…。」

「んなこと、話してる場合じゃないでしょ 本気で行くよ!」

ゆきなみがお礼を言おうとしたが、この場を脱出する事が先決だと、こんごうに言われてしまった。

「シースパロ発射始め!!サルボー!!」

イージス艦組が一斉に叫ぶ!それと一斉に沢山のシースパロが発射される。それによって、一気に20機以上が撃墜された。残る敵機はあと、20機ほどだが…。

「あっ…。引き返していく。」と、あたご が呟いた。圧倒的な戦力差を見せつけられたのか、敵機は引き返していった。レーダーには、敵の姿はなくなっていた。

 

「対空戦闘用具おさめ。被害チェックを行う!」

 

と、ゆきなみ が指示をする。

「ほたか の他に、負傷した者はいるか?」

中破した ほたか の擬装からは未だに煙が上がっている。他に、ひゅうが の飛行甲板に銃弾数発が当たったものの戦闘に支障はなかった。だが鎮守府へ戻ろうとしたとき、みらいは かが の様子がおかしいことに みらいが気づいた。

「…ぃつ!」

「かがさん?ケガとかしていない?」

「いや、私は大丈夫よ…。」

と、大丈夫そうな顔をする かが。だが、あまりの痛みに耐えきれず、右肩に手を当てる。

「まさか、被弾したの!?」

慌てて、みらいときりしま が駆け寄る。

「こ、このぐらい…。大丈夫ですよ。」

と、言い張るかが だったが、きりしまに肩に当てている手を無理矢理下ろさせられる。

「…!!」

みらい と きりしま は目を見張った!

艤装のCIWSが破壊され、その破片が右肩に刺さっていたのだ。傷口からは未だに出血しており、右腕を通じて流れている。その為、傷口を押さえていた左手と同じように、右手が血だらけになっていた。

「どうして、申告しなかったの!!」

きりしま が怒りの口調で話す!

「…。」かが は、うつむいたまま何も話さない。

「とにかく、止血しなくちゃ!」

「みらい は、ゆきなみ と鎮守府に連絡して!」

「はい!」

 

持っていたハサミで、かが の右肩に部分の制服をきりしまが切っていく。服を除去すると、傷口の状態がよく分かる。動脈は外れているようだが、出血が多く、早く止血して鎮守府の病院に搬送する必要があった。きりしま はとにかく止血せねばと艤装のなかの救急箱の中を探し、包帯が出てきた為 かが の肩に巻き始める。

「傷口の破片は、ここで外すと危ないから…。鎮守府に戻るまで我慢してね…。」と、きりしま はこう言いながら応急処置を行った。

 

ピピピッ

 

無線担当の大淀が無線機を取る。

「………何ですって!!」

 

 

 

 

 

 

かがは、みらいときりしまに支えられながら帰路についた。体力が消耗しているのか、足元がおぼつかない。しかも、すこしだが意識が朦朧とし始め…。事態は悪化する一方だった。

 

「う、ぅぅ…。」

「かが!大丈夫か!?しっかりしろ!!」

うめき声を上げる かが に、きりしまが必死に声をかける。みらい は かが の体を支えていたが包帯に血が滲み始め、そこからシミだした血がみらいの服に付着する。すで、かが の意識は朦朧としていた。

「見えた!!」

先導していた、ゆきなみが叫ぶ!

目の前には鎮守府の建物が見えてきていた。

「かが、鎮守府に戻ってきたぞ!」

鎮守府に到着し、医療班の人に担架に乗せられ敷地内の病院へ向かう。

「かがちゃん!大丈夫!?しっかりして!!」

担架に寄り添っていた艦娘の中で、一番心配していたのは…。帝国海軍の 加賀だった。

「緊急オペ用意!!」医療班の男性が叫ぶ!そして直ぐに、手術室へ かが は運び込まれた。

 

パッ

 

[手術中]と、赤いランプが点灯する。

 

手術室の前の椅子に腰かけて、ずっとランプを見つめている加賀。かが が手術室に入ってから、すでに一時間が経過していた。

(…実戦のことを教える機会がもっとあれば、こんなことには…。)加賀は、自責の念で押し潰されそうだった。

 

 

急に、頬に冷たいものが当たる。

「…冷たッ!! あっ、赤城さん。それに、きりしまさんと、みらいさんまで。」

「加賀さん。大分、憔悴しているけど大丈夫?はい、これ。」

赤城は、自販機で買ってきた缶コーヒーを渡す。

「あ、赤城さんありがとう……。」

もらった缶コーヒーをもって、再びうつむいてしまう加賀。赤城は、加賀を励ますように

「…かがちゃんなら、きっと大丈夫よ。」

「そ、そうですよ!海上自衛隊の最新鋭護衛艦ですから!」

 

パッ

 

みらい が言い終えたとき、[手術中]のランプが消えた。手術室から、医師の男性が出てくる。

「かが の容体はどうですか!!」

ゆきなみ が容体について聞く。すると、医師の男性は…。

「手術は成功しました。命に別状はありません。ただ…………。」

医師は、急に目線を逸らした。

「だか、なんです?」と、みらい が聞く。

「ただ…。予想したより傷が深くて、動脈ギリギリのところまで傷が達していたんです。その為、出血した量が多くて全身の血液量が不足した状態です。」

「そんな……。」その場にいた全員が凍りつく。

「ですが、容体は安定してますし。いまは、麻酔で眠っています。まぁ、傷が深かったのと、体力もかなり消耗していたので目が覚めるまで数日はかかると思いますが…。」

 

バタッ

安心したのか、加賀は腰が抜けてしまった。

「加賀さん!大丈夫!?」慌てて、みらいが支える。

「ええ、大丈夫よ。ほっとして、力が抜けてしまっただけだわ。」

病室に移された かが 。顔には、酸素マスクが付けられていた。

 

 

~三日後~

 

ベッド横の椅子にはずっと、加賀が座っている。よほど疲れたのか、椅子に座ったまま寝てしまっている。

 

「………う、うぅん………。」

 

「加賀先輩。入りますよ~」

病室の扉を開けて、第六駆逐隊のメンバーが入ってくる。

「あっ!!」雷が声を上げる。

三日間のあいだ、昏睡状態だった かが が意識を取り戻したのだ。

「響!先生呼んできて!先輩!海自のかがが!!」

雷に思いっきり、肩を揺らされる加賀。

「…ぅえっ?あ、!?」

 

 

 

 

 

「血圧、脈拍、体温。共に異常はない。」男性医師が、かが の状態を確かめる。「あの、かがは…。大丈夫でしょうか?」と、みらい が心配そうに聞く。

「ええ、高速修復材が使えないほど傷が深かったので動けるようになるまで時間が掛かると思いますが…。もう、大丈夫でしょう。」

その言葉に、その場に居た全員が安心する。

 

「では、安静にしていてください。お大事に。」

 

ガチャン!

 

病室からは、「よかった、よかった。」

「安心したよ~」等の声が聞こえてくる。医師が診察室に戻ろうとしたとき、柏木提督が話しかけてきた。

 

 

 

「そうか………。」

二人は病院の屋上で話していた。

「よく、あれほどの傷で轟沈しませんでしたよ。あのダメージなら、普通…。ましてや、装甲の低い護衛艦だったら轟沈しています。」と、カルテを見ながら医師が話す。すると、柏木提督は

「でも、無事に帰還できたんだ。戦死しなくてよかったよ。私が着任した以上、ここの鎮守府からは戦死者を出さないと決めているから。今後もよろしく頼みますよ。」

 

「そうですな。私たち医療班も懸命にサポートしていくので、こちらこそよろしくお願いします。」

 

 

 

 



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航跡6:鎮守府の休日~みらいと大和~

 先日、投稿を開始していきなり深海棲艦と遭遇して大きな海戦となってしまいました。DDH-184の方の かがさん が大ケガをしてしまいましたが…。そのあとから加賀の様子がどうもおかしい。人は何のために戦うのか…。休日の艦娘達が考える回です。


 

 あの戦いから、ニ週間。横須賀鎮守府周辺では、大きな戦闘は起きていなかった。全治一ヶ月の大怪我をした かが も順調に回復し短い距離なら、杖を使って一人で歩けるようになっていた。

 

ドオン!! ドオン!!

 

「みらい~!射撃の速度も先週より上がっているよ」と、あたご が声を上げる。

「ふぅー。」

みらい が海から上がってくる。「お疲れさま。」と、ゆきなみ がラムネを渡す。「姉さん。ありがとう。」ふと、拍手をする音が聞こえる。

 

「訓練お疲れさまです。流石、イージス艦。防空能力は完璧です。」3人が振り返ると、そこに居たのは赤城だった。

「あ、赤城さん!?見ていたんですかぁ!?」

急に顔が赤くなる みらい。ふと見ると、赤城の他にも蒼龍、飛龍が居た。

「やっぱ、みらいさんは凄いなぁー。」

飛龍が驚きの声を上げる。蒼龍は演習を見ていて、余りの防空能力の高さに口を開けてポカンとしていた。

「ところで、加賀さんは?」ゆきなみが聞くと赤城は…。

「あの戦いで、護衛艦 かが が大破して入院した以降…。ずっと塞ぎ込んだままで、演習や出撃にも参加していないのよ。聞いたけど、護衛艦とはいえ同じ名前をだったから…加賀が師匠として戦い方を教えてたみたいなの。」と、話した。

 

 

~二日前の夜~

 

加賀と同じ部屋の赤城は、凹んでいた加賀を励まさせようと話をした。

 

 

「私の空母としての誇りや戦い方の教え方が不足していた。だから、こんなことに…。」

 

「加賀さん…。」

 

加賀は、空母の戦い方を上手く教えられなかったと後悔していた。

「初の実戦だったんだもの、こうなってしまうこともあり得たわよ。私だって、練度が低かったときはよく被弾したものよ。」と、赤城は必死に加賀を励まそうとする。だが、加賀は布団を被ってしまった。

 

 

 

 

「う~ん・・・。」

みらい達はどうすればよいか考えていた。ふと、赤城が口を開く。

「ねぇ?蒼龍、飛龍?あなた達は何か思いつかない?」

意見を求められるとは思っていなかったニ航戦の二人。急に言われて、考え始める。

 

「・・・・・・・・・・・・・・。」

無言の時間が流れる…。

 

 

それから、どれぐらいの時間が経っただろうか…。飛龍が口を開いた。

「…ところで、かがちゃんはもう話とかも出来るんでしょ?」

「ええ。」ゆきなみ が答える。

「…だったら、二人を会わせたらどうかな?」

 

 

「・・・それよ!!」

赤城とみらいが声を上げる。

 

 

 

コンコン

 

「加賀ー。入るわよ。」

 

部屋に入ると、加賀はベッドで布団を被っていた。

「…。」

蒼龍、飛龍は加賀の状態を見て驚いた。優等生であり、一航戦として活躍していたとは思えないほど加賀の顔色は悪かった。

「加賀さん。今日は、みらいさんの他にも蒼龍、飛龍が来てくれたわよ。」

「…ありがとう。」

ほとんど話さない加賀。その為、しびれを切らしたみらいが…。

 

 

「…………加賀さん。」

 

 

「えっ?」みらいの声に飛龍が気づいた。

 

「…私たち、海上自衛隊の身分で言うのも難ですが、いつまでもひとつの事を引きずるのは良くないですよ。」

その言葉に、加賀が顔を上げる。

「みらいさん…。」と、赤城が呟く。

みらいの顔は怒りの表情だった。

「私なんか、タイムスリップしたさきで私の乗組員の人達が戦死していたっんですよ。海軍の所属だったら、きちんと弔いすることが出来た。けれど、私はその時代に居るはずのない軍艦。ましてや、原潜だって撃沈することが可能な60年後の軍艦なのよ。私自身、そのときは歴史にとって危険な存在だった…。」

 

 

「戦艦大和と一緒に沈没して、私の人生は終わったと思ったわ。原爆は阻止できなかったけど、それまでの間に沢山の人命を救うことが出来た。それに、艦娘として新しい人生を歩み始めることが出来たのよ。船の時に私の艦長が言っていた、

 

(我々は日米の戦闘に参加するのではない。我々が行うのは人を殺す武器を持たない自衛隊としての、救命活動である!!)

 

この言葉を聞いて、私の信念はこれだ!と、思いました。対ワスプ戦では中破しましたが、私に乗艦していた乗組員達の気持ちは今でも心のなかにあります!!加賀さんも、何か記憶がありませんか?」

 

みらいの言葉に、その場にいた赤城達も感心する。

 

コンコン!!

 

ふと、ドアからノックする音がする。それを聞いた赤城がドアを開けると、そこには車椅子に乗った かが と きりしま が居た。

 

「きりしまさんにかがさん。どうしてここに!?」

「かが が、久しぶりに外を歩きたいって言っていたから散歩していたんだ。んで、その途中に寄ったんだよ。」

「そうなんだ。」赤城と、きりしまが話していると…。

「かが!!怪我は大丈夫なの!?」と、加賀が駆け寄ってきた。

「ハハハ。先輩、大丈夫ですよ!!見ての通り、回復してきていますから♪」

と、かが が話すと…。安心したのか加賀は珍しく泣き出した。

「…かが。元気になって…よがったよぅ…。」

普段、感情をほとんど出さない加賀だったが…。この時ばかりは、心に自責の念が貯まっていたのだろう。このあと一時間近く泣き続けていた。

 

 

 

カシュ!!

 

鎮守府内の酒保で、みらいはきりしまと二航戦のメンバーと一緒に一休みしていた。

「ふぅ~。」

冷たいサイダーを飲み、一息つく みらい。

「まさか、加賀先輩が大泣きしているところを見ることになるとは思いませんでしたよ。」と、サイダーを飲みながら飛龍が話す。

「確かにねぇ~ 加賀先輩の泣いているところは初めて見たよ~ 」

「まぁ、あれだけ塞ぎ混んでいたんだ。ほっとしたんでしょ。」と、蒼龍が言った事に きりしま が助言した。

 

「でも、海上自衛隊のかが と、帝国海軍の加賀先輩。時代が違っても、日本を守る使命は同じ何ですね。おまけに、同じ名前ですから無理もないと思いますよ。私なんか、みらい って兄弟は居ませんから…。」と、みらいが話すと…。

「あれ?もしかして、みらいさん?焼きもち焼いてる?」と、飛龍から鋭い指摘。

「えっ!?いや…。あの…へぇ!?」混乱するみらいに、「図星か…。」と、きりしまが突っ込む。

「みらいさんも、兄弟欲しいんだぁー!!」と、二航戦の二人から指摘される。

「あ、うぅ…。」顔を赤くする みらい。

 

「おっ、どうしたんだ?皆集まって?」そこへ来たのは柏木提督だった。

 

ビシッ!!

 

みらい達は慌てて敬礼する。

 

「いや、そんなに固くならなくていいよ。君たち今日は、非番何だから。」 

柏木提督がこう話したのだが…。

「いや~ なんか、体に染み付いちゃって(笑)」と、笑いながら飛龍が話す。

「ところで柏木提督?後ろに居る方は?」みらい が提督の後ろに居る人物に気づいた。

「…みらいさん。お久しぶりです。」

 

「へ?」

 

(お久しぶりです…。って誰!?前に会ったことかあるって言うの!?)

自分の記憶を思い出してみるが、心当たりがあまりない みらい。すると柏木提督が、

「そういえば、みらいと顔を会わせるのは物凄く久しぶりだっなぁ~私が紹介するより、本人から自己紹介してもらった方が分かるだろう。」

と、その人物の右肩を軽く叩く。

「はい。」

柏木提督の後ろに居た人物が前に出てくる。長く伸ばした綺麗な黒髪に、京都の舞子さんのような髪飾り。赤とピンクの線が入った服を着ており、首飾りには金色の桜紋章が施されている。

 

「あ、あなたは…。」

その迫力にみらいは愕然とした。

 

「はい。私は、大和型一番艦[大和]です。みらいさん。お久しぶりです!」

 

 

 

 

「…あ、あの時はすみませんでしたっ!!」と、いきなり謝るみらい。

「大丈夫ですよ。みらいさん、顔を上げてください。あなたのお陰で米軍に乗っ取られずに済んだんですから。」と、大和がみらいを慰める。「…?」二航戦の二人は状況が分からずポカーンとしている。ふと、飛龍が口を開いた。

「ところで…。大和さんとみらいさんって、どんな関係だったのですか?」

 

「…それは、話せばとても長くなります。」

と、みらいはタブレット端末を取り出した。

「実は…。」

みらいは、船の時の自分の行動を話始めた。角松二佐と草加少佐の関係。ガ島日本軍撤退作戦原爆製造極秘計画。ヒトラー暗殺へのスパイ活動。インド洋侵攻作戦。そして、原爆使用計画…。船の時に出会った出来事を話す みらい。二航戦の二人はミッドウェーで撃沈していたため、あの後の事はよく知らなかった。そして最後に みらい はこう話した。

「…私が艦娘…。いや、人間としてここに居るのは何か意味があると思うんです。その目的は見つかっていませんが、日本を守るってことは大きいことだと思います!!」

その言葉に、提督と大和、二航戦の二人は安心した。

「みらいさん。艦娘として、この世界に居るのだから…お互い仲良く、そして一緒に日本を守りましょう!」と、大和が話し、手を差し出した。

「はい!!」とみらいは返事をしながら、大和と握手した。その様子を見ていた蒼龍は、ハンカチで涙を拭いた。

「あれ?蒼龍泣いてるぅ?」と、飛龍から突っ込まれ「べ、別に!!泣いてなんかないわよ  」

と、慌てて言い訳する。提督はその様子を見て、

「蒼龍は涙もろいなぁ~。」と、第二次攻撃を食らわせる。

「もぅ~飛龍ぅ~提督も笑わないでよぅ~」と話が弾む。

 

 

だが、その様子を影から見ていた若い人物が居た…。

「まさか、艦娘になっていたとはな…。みらい。」

軍服を着たその人物は、右手にこの世界では存在するはずのない10円硬貨を持っていた。そして、その硬貨を見ながら…。

「……平成……12年か…。」

 

「…少佐!大本営へ、お戻りの時間です。」

部下の人物が声をかけてきた。

「そうか…。」

 

その少佐は、その場を後にしながら呟いた。

「人生は、予測できないこともあるのだな。まさか、あいつに会うとは…。」

「どうかしましたか?」

 

 

 

 

「いや、別に…。ふと、昔の友人を思い出してな。」

「はぁ…。」

 

少佐が乗った車が、鎮守府から出ていく…。

 

(まさか、みらい…。お前にまた会えるとはな。)

 

「では、大本営までお送りします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………草加少佐…。」

 

 

少佐を乗せた車は一路、東京の防衛省へと向かった。

 

 

 



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第一次横須賀編
航跡7:国防海軍上層部~異変~


 さて、先日の戦闘で負傷した艦娘達や…。休日の過ごし方を書きましたが、ついに平和な横須賀にも戦争の影が忍び始めてきました…。今回は国防海軍上層部の様子を描きます。そして、あの護衛艦も…。



 翌日、柏木提督は大本営で行われる作戦会議に参加するため、東京 市ヶ谷にある防衛省に居た。

 

「えー今回の作戦は依然、敵勢力の支配下にあるミッドウェー諸島を奪還する事である」司会役の男性が黙々と話す。ミッドウェー諸島の島々は、3年前の夏に深海棲艦が奇襲をかけ強奪されていた。海上自衛隊と米軍の合同部隊が戦ったが、敵勢力の猛攻撃により撤退を余儀なくされていた。

 

「そこで我々日本国海軍は、 柏木提督が管理している横須賀基地を中心に部隊を編成しようと思う。」と、副司令官が声をあげる。すると、あちこちから…。

「あの柏木が指揮官か。」

「横須賀なら余裕で勝てるだろうw」

等と賛成の声が上がる。だが…。

「あそこの大和や赤城を動かすと、支出がどんでもなんことになるぞ(汗)」

「そうだ、あそこにはイージス艦が居るだろう…。」

「ミサイルなんか沢山使われたら…。それこそ、防衛費の破産だぞ!!」と、反対の声があちこちから上がってきた。そして、賛成派と反対派で言い争いになり始めた。

 

 

言い争いの中、柏木提督が声を上げた。

 

「確かに、我々、横須賀のイージス艦部隊はこれまでの間…。ほとんど出撃していない。しかし先日、着任した みらい は今までの護衛艦とは違う!」

その声に、会議室が静まり返る。

 

「私は、その みらい という新鋭艦の演習を見に行った。あいつの艦の時の記憶を発揮できるかもしれない。」と、山本長官が呟いた。

 

「だが、本当に使えるのか分からんぞ!」

「そうだそうだ!そいつの正体は分かっているのか」と、他の鎮守府の提督達から反対の意見が上がる。

 

パンパン!と、手を叩く音がして反対意見を言っていた提督達が黙る。手を叩いたのは、国防海軍幹部の滝中佐だった。

「では、こうしよう。横須賀に情報士官を派遣し、情報が入り次第、我々のもとに伝えることはいかがかな?」滝中佐の言葉に、提督達は渋々と承諾した。

「決まりだな。」

「では、まず最初にサイパン経由でミッドウェー諸島周辺を警戒中の哨戒部隊に連絡を行い、そのあとに横須賀へ向かってもらう。草加!」

「ハッ!!」

制服を着た草加少佐が立ち上がる。

「貴官に、哨戒部隊への連絡を要請する。」

「了解しました!」

 

「では、ミッドウェー諸島奪還作戦会議を終わる。皆の検討を祈る!!」滝中佐の掛け声で作戦会議は終了した。

 

 

 

 

 

ブロン!ブロンブロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ

 

偵察機のエンジンがかかり、草加少佐が乗り込む。

「草加!」

柏木提督が走って駆けつけてきた。

「どうした柏木?」

柏木提督は息を切らしながら…。

「ハァハァハァ、絶対、生きて帰ってこいよ…。」

と、草加少佐に話した。

「ああ。絶対帰ってくるから安心しな。ところで、行く前に1つだけ聞いておきたいのたが?」

「なんだ?」

「お前の所に着た新鋭艦に 182 という番号が付いていなかったか?」その言葉に驚きを隠せない柏木提督。

 

「…ああ。そうだが…。」

「俺の思っていた通りだな。くれぐれも、その新鋭艦には私の事は伝えないでくれ。もう少し、詳細を調べてからにしたいからな。」

「お話のところすみません。そろそろ離陸時間です。」と、パイロットが声をかける。

「了解した。」

「じゃ、草加。くれぐれも気を付けろよ。」

「ああ。お前もな。」

 

ブロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!

草加少佐の乗った偵察機が離陸していく。飛び立った偵察機を見送りながら柏木提督は…。

(草加。絶対、生きて帰ってこいよ…。)と、心の中で思った。

 

 

 

 

2015年6月3日

 

夕暮れに染まる太平洋を、海上自衛隊の艦隊が航行していた。旗艦 ゆきなみ を始めとする はるか みらい あまぎの4隻演習を行いながら、ハワイ沖で行われる日米合同軍事演習に参加するため向かっていた…。演習も終盤になり訓練終了の報告を、みらいの艦長である梅津艦長は艦長席に腰掛けて待っていた。ふと、彼方遠く艦隊の進路方向に積乱雲が見えた。

「この海……妙だなぁ……。」

と梅津艦長は呟いた。すると、角松二佐が艦橋に入ってくる。

「艦長。訓練終了しました。未だ、5分遅れです。」

訓練終了の報告を角松が行う。艦長席に座りながら梅津艦長が、「まぁ、よかろう。前回の10分よりか大分、練度は上がっとるよ。」梅津艦長は穏やかな表情で話した。

 

「ところで、副長。気象庁に気象情報についでに問い合わせてはくれんか?」

角松が外を見ると、先程まで晴れていた空が暗くなり始めていた。

 

15分後…。

 

「ミッドウェー諸島の北西に発達中の低気圧あり。依然として勢力を強めています。」角松の報告を聞きつつ、梅津が外を見ると…。雨足が強くなり雷も鳴り始めていた。ワイパーもフル稼働にしなければ外が見えないほどになっている。

「そうか。予報には無かったな。荒天準備となせ。」

「了解。」すると、角松は艦橋にある放送機器で艦内に「荒天準備となせ。移動物の固定を厳となせ。」と放送を流した。

「海に出て、40年。こんな海は見たことがないな…。」

梅津の言う通り、空の色が赤黒くまるで血のような不気味な色になっていた。デッキに出ていた尾栗は降りしきる雨の中で「こりゃ演習じゃねぇぞ、本物だぜ。」と呟く。すると…。

 

ピカッ!!ドッカーン!!!!

 

「うわっ!!な、なんだ!?落雷か?」あまりの大きな音に尾栗は尻餅をつき慌てて耳を塞ぐ。「ダメージコントロール!!船体にダメージはないか?」角松は艦内各部に設備の点検を指示した。「ダメージはありません。電気、エンジン、システム等に異常なし!」と、ダメージコントロールから艦橋に連絡が入るが、異変はCICで発生していた…。

 

「…ん?レーダーに異常!!僚艦をロスト!!」CICの青梅から艦橋に連絡が入る。

「レーダーが効かないってことがあるか、全力で探せ。」角松が指示を行う中で梅津は外の景色を見ながら

「強力な磁気嵐に入ったのかも知れん。まさか、沈んだ訳じゃなかろう。」と呟いた。揺れる船内で各部に異常が発生し、混乱にが起きていた。

 

「艦内すべての機器に異常発生!!艦内電話も雑音がひどくて聞き取れません!」船のあちこちで異変が生じているとCICに報告が立て続けに入る。

 

「この船は最新鋭艦たぞ、こんなことがあってたまるか!」

あまりにも急な変化によりノイズが発生したヘッドフォンを菊池は、CICにある机に叩きつけた。ヘッドフォンからは雑音が流れていた。食堂にいたジャーナリストの片桐は「だ、大丈夫だよな…?この船…うわっ!!」

片桐が驚くのも無理はない、腕時計が猛スピードで逆回転していたからだ。無論、食堂の時計を初めとしたすべての時計が逆回転していた。たが、気づいたのは片桐ただ一人。みらい乗員は気付くことは無かった。艦橋に居た尾栗達がデッキに出ると、ふと冷たい白いものが尾栗の鼻に落ちてきた。

「冷たい…。雪だ!!!!」

デッキに出ていた尾栗達が空を見上げる。

「航海長、これって…。オーロラですよ…ね?」と、柳が尾栗に尋ねる。

尾栗は口笛を吹きながら、「まさか、ここはハワイ沖だぞ…。」見上げた空には、オーロラが出ており雪がちらついていた。その中をしばらく航行した[みらい]は、やがて謎の現象を抜けた。

 

「ふぅ…。抜けたようだな。各種計器のチェックを急げ。」と梅津艦長が指示する。

「ん?…な、なんだこれは…?」

CICである異変が生じていた。それを一番早く見つけたのは、CICの主と呼ばれる青梅一曹だった。

「本艦周辺に多数の目標!概算20を超過、艦隊の…ど真ん中にいます。」

「なに!?」菊池が慌ててレーダーを見る。レーダー画面には多数の目標が表示されていた。一方、艦橋では尾栗達が望遠鏡で確認していた。

「おい、見えるか?………ん!?」

尾栗航海長は、目を擦った。望遠鏡で見えないはずのものが写り、しかも海上にはあってはならないものが写ったのだ。

「真珠湾の米艦隊が早々と粘ってきたのかもしれん米軍バンドにて確認しろ。」だか、目標から返信はなかった。

「Unknown目標接近!ん、これは…!? 」

「どうした!?」戸惑う青梅に菊池が聞く。

「…目標!人間サイズです!!」

 

 

「漁船か?漂流物か?」

「この辺りは演習海域です。操業は禁止されてます」

「じゃぁ、あれは…?」

艦橋の見張り台から見ていた尾栗達が話し込む。霧の中から目標が見えてくる。見えてきたのは、なんと海上に立っている女の子の姿だった。

「私の目が、おかしくなっているのか?」

望遠鏡で確認していた梅津艦長が呟く。霧が晴れてきて、月明かりに照らされ辺りがはっきりと見えてくる。

「面舵いっぱい!」梅津艦長が指示する。

「艦長…。こりゃぁ…。」

面舵を取り、右に曲がるみらい。

艦橋から目標を見ていた角松が…。

 

 

「海に人が立っているだと!?」

 

 

唖然とするみらい幹部達を裏腹に、観測していた柳が…。「…あの艤装、服装…。まさかこれって…。」

「も、目標より発光信号!貴艦ノ所属ト航海目的ヲ上告シ停止セヨ。」と、観測員が叫ぶ!!

「おもしれぇ。停まれってのか?」デッキで警戒していた尾栗が呟く。

「艦長。どうしますか?」

「無線封鎖をしている相手にその必要はない。状況が分かるまで逃げの一手でよかろう…。」

角松からの質問に梅津艦長はこのように指示した。

「右の目標!面舵を取ります!距離300!!本艦の進路を閉塞する意図です!」観測員から情報が入る。

「副長。逃げ切れるか?」

「ハッ!あの装備からして、相手の機関はボイラーでしょう。正体は分かりませんが、とにかくこの場から退避することが第一です。」

梅津艦長からの質問に角松が冷静に答える。

「…副長指示を頼む。只し、発砲は許可せんぞ。」

「分かりました。」

 

「全力即時退避!!フェイントをかけてこじ開ける。取舵20°!!」微かに左方向に曲がり始める みらい。目標はそれを感知し取り舵を取る。

「よし開いた!!面舵いっぱーい最大全速!!」みらいは高加速で目標の間を通過していく…。

 

「Unknown目標!陣形そのまま離れます。距離3万。」

CICから艦橋に連絡が入る。ふと、艦橋からCICにいる菊池に艦橋へ来るよう連絡が入る。

 

10分後。

 

艦橋では、先程の現象が一体何なのか?角松は尾栗に意見を求めた。

「尾栗、こんな太平洋のど真ん中で女の子が遊んでいるとおもうか?」すると尾栗は…。

「んな所で遊んでいるわけあるわけ無いでしょ!第一、仮に幽霊だとしても幽霊が発光信号なんぞ、よこしゃしませんよ!それに俺は、こっちの加速に目を回す女の子達の顔をはっきり見ました。」二人の話を聞いていた隊員達が騒ぎ始めた。

「おい。さっきの女の子達。どうやって海に立っているんだ?」

「ハリウッドが大金かけて映画を撮っているんじゃねぇのか?」

「だったら無線閉鎖なんてするかぁ?向こうから宣伝ぶってくるよ?」

 

 

「誰か…。こういう事に詳しい者は居らぬか?」

と、梅津艦長が聞く。すると、尾栗が「うちの柳一曹なら超がつくほどの戦史オタクですよ。」と、隠れていた柳一曹を引っ張り出してくる。

 

「違いありません!あれは、艦隊これくしょん。いわゆる、艦これのに出てくるキャラクター達です。」

 

「……………はぁ!?」

 

柳の言葉にその場にいた全員が愕然とする。

「私が見た限り、電 、雷、夕立、島風、白雪、深雪、陸奥、榛名、霧島、瑞鶴、翔鶴 が居ました。何らかの作戦中かと思われます。」

「んじゃ、艦これのキャラクターが太平洋のど真ん中に突如現れたと言うのか…?どうする洋介?」この状況を理解できない尾栗が声を出す。

「状況が変わったのなら引き返すっていう手も…。」

「そうだな…。演習どころじゃないよなぁ…。」

と、隊員達の中から声が上がる。

「僚艦を見失って居るんだぞ。本艦の乗員とゆきなみ 以下、僚艦の安全を確認し無事に横須賀に帰還する。全員、この事を第一に考えて行動するように!問題はなぜ、艦これのキャラクターが太平洋のど真ん中に出てきたかだ…。」と、角松が大きな声で話した。

 

「だといいが……。逆じゃないのか…?」角松の考えに水を指すように、菊池が話始めた。

「夕べの月齢覚えていますか?」

「ああ、真ん丸の満月だったよな?」

と、尾栗が答える。

「それがたった一日で、こんなに変わるもんですかね…?」

 

 

「は、半月!!!!」

 

 

愕然とする角松達に帯して、菊池が…。

「つまり、現れたのは艦これのキャラクターじゃない。我々が艦これの世界に出現した。」

 

数秒の沈黙のあと角松副長が…。

「艦長、指示を!!」

「隊司令からの命令変更がない以上、本艦は予定通り真米海軍珠湾基地入港を目指して航行する。総員、対空、対潜、対水上。警戒を厳にせよ!」

梅津艦長の指示のもと、みらい は月夜に照らされながら米海軍真珠湾基地を目指して航行していく…。

 

 

 

 




※ 艦これのキャラたちの艦隊編成ですが…。まだまだ、勉強不足です(゚ω゚;)・・・。間違えてたらごめんなさい。


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航跡8:護衛艦[みらい]~遭遇~

 
 さて前回、遂に角松達が乗艦している海上自衛隊イージス護衛艦[みらい]が艦これ世界へと次元を越えて入ってきました。艦これ世界と信じられない自衛隊員達と混乱する艦娘達。そしてあの人も…。



 

 海上自衛隊の最新鋭イージス艦[みらい]の乗員達が混乱しているのと同じ頃…。

 この場に遭遇した艦隊のメンバー(電 、雷、夕立、島風、白雪、深雪、陸奥、榛名、霧島、瑞鶴、翔鶴)の中でも大混乱となっていた。

「翔鶴姉、さっきの軍艦…。一体なんだと思う?」

「分からないわ…。でも、182って船首に書いてあったわね。」瑞鶴と翔鶴が話しているとき、

「白雪ー!さっきのデッカイ軍艦はなんだ!?」という深雪の大きな声に白雪が説明し始めた。

「私の記憶だと…。あれは旧海上自衛隊のイージス護衛艦ですね。こんごう型護衛艦に似た、艦橋横のSPYレーダーや特徴的な鉄塔タイプの大きなマスト。それに…」

「それに…?」霧島が白雪に聞いてきた。

「あの127ミリ速射砲と後部航空格納庫。それに182のナンバー…。あれはゆきなみ型イージス艦[みらい]です!」

 

「はぁ!?みらいだってぇ!?」

白雪の結論に深雪が驚きの声をあげる!!

「みらいさんって、この前着任した艦娘だったぽぃ?」夕立が疑問をあげるのと同時に榛名も「そうですよね。みらいさんはこの前、私たちと同じ横須賀鎮守府に着任しましたよね?」と、声をあげる。

「じゃぁ?なんで、ここにいるの?しかも、護衛艦の姿で出てきたのよ?」陸奥が霧島に尋ねた。

「う~ん…。なぜ、船の時の姿で出現したのかは分かりません。ただ、現段階では本当に我々の味方なのか?それとも、敵の新たな勢力なのか…。」

深く考え始めた霧島をよそに雷が…。

「ねぇ?司令部に連絡しないでいいの?」

 

 

「・・・・・。」

 

 

「しまった!すっかり忘れてました!」と、霧島が声を上げた。

 

 

「私が先に行ってくるよ~♪」島風が話もそこそこに猛スピードで航行し始める。

「おーぃ島風~」深雪が慌てて声をかける。

「そんなに早く行かなくとも大丈夫なのです~。」電も一緒に声をかける。すると、気が付いた島風が戻ってくる。

「そうだった~ぁ~!」急制動で止まった為水しぶきが起き、深雪が頭から水を被ってしまった。

「島風、冷たいなぁーもう!」

「ごっめーん!」

「謝れば良いってもんじゃねぇ~(怒)」と、深雪と島風が喧嘩し始めたのをよそに…。

「瑞鶴!艦積機を鎮守府まで飛ばしてくれる?」と、榛名が声をかけてきた。

「いいけど…。でも、それって翔鶴姉がやった方がいいんじゃない?」話しつつ瑞鶴が翔鶴の方を見ると…。翔鶴は頭の上で×印を出していた。

「…あ、やっぱりそうよね…。」

瑞鶴は連絡用の艦積機を取りだし、パイロット妖精に途中の休息場所を伝えた。「いい?途中で蒼龍たちが演習しているから、そこで一旦給油して横須賀に向かってね!」

「リョーカイ!」パイロット妖精は瑞鶴に敬礼し、一路横須賀へ向け、飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝…。

海上自衛隊のイージス艦[みらい]は、朝日に照らされる太平洋上を航行していた。

「本艦2時の方向よりUnknown目標接近!高度150㍍、速力100ノット。本艦直上通過コース!」

と、CICから艦橋に連絡が入る。

「速力が100ノットということは、ミサイルや戦闘機では無さそうだな。目標の進路に注意せよ。」

 

「画像、メインモニターに出します!」

CICでは、青梅が艦首に設置されている監視カメラから撮影された画像をCICのメインモニターに出した。

「…これは?」と、菊池が呟く。

「目標。データ照合できません!」青梅がCICで叫んだ頃、艦橋横のデッキでは…。

「うぉ!!火吹いてやがる!」

「あの機影はまさしく、深海棲艦の艦積機ですよ!」

双眼鏡を覗きながら驚く尾栗をよそに、柳が淡々と説明する。深海棲艦の艦積機は、みらいのすぐ前方の上空で爆発を起こし海に墜ちて行った。艦橋内部から見ていた角松は、「浮遊物、生存者はあるか!?」と、声をかけるが…。デッキに居た麻生は、「あっという間の水没です!洋上はオイルのみ。」と、声をあげた。

「夢じゃないっすよ。麻生専任曹長…。だってこんなに…血が…。」麻生が柳の顔を見ると、柳の左ほほに切り傷があり、そこから少々出血していた。

「あっ!バカ!とっとと、医務室へ行ってこい(怒)二分隊柳一曹破片にて負傷!代員求む!」

麻生と尾栗につまみ出されるように、柳は医務室へ向かった。

「副長。艦内放送の準備を頼む。」

一部始終を見ていた梅津艦長は、角松に放送の準備をするよう指示をした。準備が出来、梅津艦長は…

「艦内乗員につぐ、昨夜から周辺で理解しがたい現象が発生しているが…。本艦は、艦隊これくしょん。通称、艦これの世界に入ったと思われる!本艦は、ロストした僚艦を発見、合流し…。米海軍真珠湾基地へ入港することが目的である。その際、明らかに戦闘海域周辺を通過することとなる。各科の作業に専念し、不測の事態とならぬよう乗員全員、対応せよ。」

その艦内放送に乗組員たちは驚愕した。厨房で料理を作っていた隊員たちは、

「給養長!何で俺たちは艦これの世界に!?」

「んなこと知るか!何処へ居ようが、腹は減るんだよ!チキンが焦げてるぞバカヤロー!」

「はっ!」

「ぅアッチ!!」

 

 

 

「CIC艦橋!本艦の270マイル前方にて交戦中と思われし集団を発見!対空射撃による小さな衝撃波を観測しています!」

と、青梅がCICで叫んでいるなか…。

「砲雷長、艦橋へ。」「了解。」

艦橋から角松が、菊池に艦橋へ来るよう指示した。菊池が艦橋へやって来ると、梅津艦長が帽子を深くかぶり…。何やら考えている様子だった。

 

「んん~。艦長!どうするんですか!?解説者よろしく、ここでおとなしく見物ですか!?」しびれを切らした尾栗が、声を上げる!

「戦に飛び込むというのか?」冷静な菊池が尾栗に聞く。すると、

「戦っているのは、女の子達だぞ!!いくらゲームの世界だろうが、俺たちが入ることで、あの子達の命が助かるんだぞ!!」怒りに任せて発言する尾栗に対し、「それを…バタフライ効果と言うんだ…。」と、菊池が告げた。

「蝶がどうしたって?」

「北京で蝶が羽ばたけば、その気流が一ヶ月後にニューヨークに嵐をもたらすことだってある。ましてや、原潜さえ撃沈可能なこの船だ…。ミクロの現象でも、マクロには大きな影響を及ぼすことだってある。ゲームの世界とはいえ、影響が大きすぎる。我々は、この世界にとって危険なんだ…。」

 

 

 

 

 

 

 

「じゃぁ、何で俺たちはこの場にいるんだ?」

 

 

 

 

「見ろよ菊池!!あれは戦争だぞ!この最新鋭艦で、戦ってみろってことじゃねぇのかよ!」

「こ、康平…。落ち着け!」菊池の声をよそに尾栗は、菊池の襟をつかみながら怒鳴った!そして、角松に意見を求めた。

「洋介!おまえはどう思う!?」

しばらくの沈黙のあと角松は、

 

「腹が立つ…。」と、小さな声で呟いた。尾栗の「えっ?」の声もつかの間…。角松は水平線の彼方に見える戦いを見ながら、

 

「自惚れや過信で、作戦をおったてて…。将来ある女の子達を危険にさらしていることを思うと…。はらわたが煮えくり返るほど腹が立つ!!!」

と、大きな声で叫びながら、近くにあった机に八つ当たりする。バン!!という音にその場にいた全員が驚く。

 

「だが、俺たちの任務は…。ロストした僚艦を見つけ、本艦と乗員全員の安全を確認し、横須賀へ帰投することだ。全員、その事を第一に考え、行動してほしい。」と、角松が言い終わったときCICから連絡が入った。

「CIC艦橋!ホノルルからのラジオ放送をキャッチしました。アメリカ軍の発表によると、米海軍の艦娘部隊がミッドウェーで快進撃を繰り広げていると、伝えています!!」

 

 

「どうやら、真珠湾に着いても歓迎されないようだな…。補給の心配もある。このまま、戦闘海域に深入りすれば…。本艦と乗員に、重大な危機が及ぶだろう…。横須賀の状況はどうなっているか分からんが、この現象が本海域のみ作用している可能性もある…。」と、下を向いたまま、梅津艦長は呟いた。

「進路変更!横須賀基地へ!」

「ハッ!!進路、270°とします!」

梅津艦長の指示を受けた尾栗が、みらい の進路を横須賀へと変える。

「衛星が使えないとなると…。頼りになるのは、ジャイロコンパスと天測だけだ。」

そう、呟くと…。梅津艦長は、棚から海図を取り出してきた。

 

 

一方、艦橋デッキでは…。

「…え!?」望遠鏡で戦いを見ていた柳が声をあげた。

「あっ、菊池三佐…。どうして引き返すんですか!?あのままだと、艦娘達に犠牲者が!」柳の悲痛な訴えに菊池は…。

「決められた歴史…。それが、例えゲームの世界であっても、我々に変える権利はない…。」

と話し、菊池はCICへ戻っていった。

 

 

その夜…。みらい は、海上に不時着した日本の偵察機を発見した。

「照明照らせ~!」

パッとみらい の探照灯が偵察機を照らした。

「どうやら、操縦席が狙われたようだな。パイロットは死亡していると思われるが、後ろの軍人はどうか…?」と、梅津艦長は双眼鏡を下ろしなから話した。すると、角松は

「艦長!念のため、調査させてください。後ろの軍人は生存している可能性があります!」

「うむ…。よかろう。」

梅津艦長からの許可を得て、角松は内火挺を用意し始めた。

「洋介!お前はゲームの世界に、手を加えることが怖くないのか?」声をかけてきたのは菊池だった。

「…俺は自衛官だ。どんな状況であれ、目の前で消えかけている命は救おうと思っている。それが、例えゲームの世界であってもな…。」と、角松は菊池に伝えて内火挺に乗り込んだ。

 

 

 

「うっぷ!」内火挺に乗っていた みらい 乗員の数名が慌てて口を塞ぐ。目の前の血だらけになったパイロットの遺体をみて、気分が悪くなったのだろう。

「前部のパイロットは死亡を確認!これより、後部の軍人の調査に入り…あっ!!」

調査に入ろうとしたところ、突如偵察機が沈み始めた。「内部の座席部分に浸水した模様!沈みます!」と、内火挺から連絡が入る!

(これでいい…。これが、この世界の運命なのだ…。)と、菊池が思っていたのもつかの間…。

 

バッシャーン!!

 

「うぉ!洋介が飛び込んだぞ!!」

艦橋から見ていた尾栗が声をあげる!

沈みいく偵察機から、角松はその軍人を救いだした。

「ぷはぁ!ハァハァ、艦長へ報告!乗員の軍人を救助!現在、意識不明の重体!艦内での応急処置を要請します!」角松は軍人を内火挺に引き上げ始めた。

「よかろう!治療を許可する!」

「了解!」

 

「バカヤローと叫んだ時には、既に飛び込んでおる。これで、三人目の人命救助か…。」

妙に納得している梅津艦長に対して菊池は、

「上官として、よろしくない行動ですね。あれでは、艦全体の行動方針にも関わる…。」

上官としての角松の態度を批判する菊池に「まぁ、何よりも中途半端を嫌う正義感の強い人間じゃよ彼は…。」内火挺で軍人の様子を見ている角松を、艦橋から見ていた梅津艦長はこう話した。この光景見ていて、菊地は心の中で…。

 

(2015年6月5日…。いや、20XX年6月5日、太平洋上で、撃墜された日本海軍機から海軍の士官を救助…。)

 

バタン!

 

「おやまぁ、みらいの頭がお揃いで。」みらいのミーティングルームに桃井一尉が入ってくる。

「早速で悪いが、救助した軍人の容態はどうだ?」と、梅津艦長が聞いた。桃井一尉はカルテを見ながら…。

「不時着したショックで、胸骨を3本骨折。及び、頭部を強打したと思われ意識不明の重体。また、脳震盪の疑いがあります。脳圧、血圧共に高く…。絶対安静が必要です。」

「そうか…。」

「要するに危険な状態であると言うのだな?」

菊池が桃井に聞く。「ええ、全治2ヶ月と推定します!」と、桃井が話したのもつかの間。菊池が話を続ける。

「治療中に奴の手荷物を調べたが、あの軍人の服装、持ち物から見て…。海軍の情報士官であることに間違いないだろう。しかも、あの若さでだ。大学卒のエリートだろう。」

「いいじゃねぇか!この際、こっちの情報を公開して日本軍と情報交換しようじゃねぇーか!」

菊池の意見に、尾栗が声をあげた。

「尾栗…。この世界で情報を公開することは危険だぞ。仮に日本軍と情報を交換した暁には、この みらい を拿捕しに来るに違いない。拿捕されなくとも、この戦争に協力せよと通達が来るはずだ。」

菊池の意見に押し潰されるかのように尾栗は黙ってしまった。

「危険な状態であるそうだが、念には念を入れておいた方がよかろう。桃井一尉。済まぬが、君の部屋をあの軍人の為に使いたい。部屋にある私物を全て出してくれないかね?」

「要するに、軟禁すると言うのですか?」

梅津艦長の言葉に驚く桃井。そこへ追い討ちをかけるように角松が、「相手は軍人だ。我々、自衛官とは違う。出来るだけ、本艦の情報を伝えたくない。よろしく頼むぞ。」

梅津艦長と角松副長の話を聞き、桃井一尉はミーティングルームから救護室へと向かった。すると、救護室の前にシャーナリストの片桐が立っていた。

「やぁ、桃井一尉!ちょっと、船酔いになってしまいてねぇ。船酔い薬…。貰えませんかねぇ~」

「んなこと言って、どうせあの軍人の写真を撮りたいんでしょ~!駄目だって、艦長が言ってたの!」

「んじゃ、船酔いの薬位下さいよ~。」と、しつこい片桐に対して桃井は…。

「軽い船酔いなら薬は要らないよ!デッキに出て、風に当たってきな!ぐずぐずしてると海に叩き込んで、サメのエサにしちまうよ!」

「んな、殺生な~でも、写真一枚位ダメですかねぇー?」これでも片桐は全然懲りない。

「だから、本人は意識不明の重体!ほら、面会謝絶!」と、救護室の扉をバタン!と桃井は閉めてしまった。すると…。

 

(い、意識が回復した…!?)

 

運ばれてきた軍人の姿を見て、桃井は驚愕した。あれほどの大ケガを受けていながら、奇跡的に意識が回復したのだ!

「こ、ここは天国か?いや、やはり地獄か…。」

周りの状況に理解できていないその軍人対し、桃井一尉が…。

「ここは現実の世界よ。あなたが、海で漂流していたところを助けられたのよ。」と、桃井が説明する

「現実の世界だとすると、ここは船の中だな。実に快適だ。是非とも船の中を見てみたい。」

と、軍人が少し調子にのると…。

「ダメよ。あなたは、胸骨を折っているし、脳震盪も起こしていた。おまけに血圧も高い…。絶対安静よ!」桃井は厳しく叱った。

「まぁ、今は、任務のことを忘れて休息を取るのが先決ね。」と、話して桃井は隣室に入っていった。

 

「う、うぅ…。」

 

(な、なに、どぎまぎしてんのよ(汗)子供じゃあるまいし…。)

思ったより相手がカッコよく、桃井は驚いていた。

「さてと、この部屋の私物を片付けないと…。」

 

5分後…。

 

「…え、うそでしょ。」

救護室に戻った桃井は驚いた!寝台で寝ていた軍人の姿が消えていたのだ。

 

プルルルル!

ミーティングルームの艦内電話がけたたましく鳴り響いた。

 

「はい、ミーティングルーム…。桃井一尉どうした?」

 

「…何ぃ!?軍人が消えたぁ!?」

電話に出ていた角松が驚きの声をあげる!

「軍刀は早めに処分しておくべきだったな…。自決という可能性も…。」腕を組ながら、梅津艦長が話す。

「艦長!取っ捕まえてきます!」

そう話し、角松がミーティングルームから飛び出していった。

 

「艦内、各乗組員に告ぐ。救助した軍人が脱走した。相手は軍刀を所持している。接触は避けよ。各持ち場は、入り口扉の施錠をせよ。繰り返す…。」CICに移動した菊池が、一斉艦内放送を行う。

「副長!武器庫から拳銃持ってきましょうか!?」

角松の後ろを走っていた尾栗からの質問に、

「んなものいらん!相手は怪我人だ!」

と、走りながら角松が答える。すると角松は、デッキに出る扉の前に桃井一尉が立っているのを見つけた。

「ハァハァ…。見つかったか!?」

「あそこ!!」桃井が指を指した方向を見ると、デッキに軍人が立っているのを見つけた。

 

角松らがデッキに出ると…。その軍人はぼんやりと海を見ており、こちらには気づいていないようだった。

「この船は美しいな…。我々、日本海軍や深海棲艦の船とも違う…。」

「ここから海に飛び込むのか?」草加に角松は尋ねた。

「何があっても任務を遂行する…。だが、ここから海に飛び込めば…。空襲で死んだ友のところへ行けるな…。」その言葉に桃井が、

「何を馬鹿なことを言っているの!?貴方を助けたのは、この人なのよ!」すると、その軍人は気付いたように…。

「飛び込もうと思い、ここへ来たが…。潮風に当たっていて思い出したよ。海軍の軍人でありながら泳ぎが苦手であることを…。ところで、この船の所属と航行目的を知りたい。」

「…残念ながら。お答えできない。」

 

(我々はこの世界でどこへ向かい、なぜ、存在しているのか…。それは、我々も知りたいのだ…。)

 

と、角松は心の中で思った。

「では、敵か?…それとも、味方…か?」草加の一声に、

「…ただ一つだけお答えできる。我々は、あなたと同じ日本人だ。私の名は、角松洋介。」

すると、草加は角松の方を向いて軍刀を差し出した。

「ヤロ…!」軍人の殺気を感じた尾栗が戦闘体制に入る。だが、直ぐに軍刀は戻された。

「私は日本国国防海軍通信参謀 草加 拓海だ。助けてくれたことに感謝する…。」

 

 

角松達が草加少佐と話している頃…。みらい から約5キロ弱程離れた海中に、みらい を狙う不気味な影があった…。その影は、みらい を見ながら…。

 

「コンナトコロニ大キナ船ガ、停泊シテイルゾ…。海ノ中ニ沈メテヤル…。」

 

と、呟いた。不気味な笑みを浮かべながら…。

 



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航跡9:みらい戦闘~現実~

 さて、遂に艦これ世界へ入ってしまった角松達。草加少佐を救助したものの…。元の現実世界へ帰ることができないという答えを突きつけられた中、水中から魔の手が襲ってきます。


 「北緯27°36´東経171°61´…。現速度、あと五分であの異変が発生した座標です。」菊池と梅津艦長の姿はCICにあった。菊池が、艦の現在地を伝えている。

「…うむ。果たして何が起こるのか。」

「来たときは異様な低気圧に遭遇しましたが、現在のところ観測されていません。しかし、ここが時空の歪みの入り口で…。まだ、それが存在しているのなら…。元の世界に帰還できる可能性があります。」

すると、菊池の推測に対して梅津艦長が…。

「…そのとき。あの、艦隊はどうなる…?本艦の前方、200キロ先にいる日本へ帰還するあの艦隊は…。」

「この世界から脱出すれば、レーダーから消失すると思われます…。」その菊池の言葉に対して…。

「では、救助した草加少佐はどうなる…?」

「…!!」しばらくの沈黙のあと菊池は…。

「分かりません…。ですが、この世界から脱出出来たとすると…。あの男にも何らかの異変が発生すると思われます。」そう、菊池が言い終えたとき…。青梅が…。

「艦長!まもなく、例の座標です!」

「…よし!機関停止!」

梅津の言葉に、みらい は減速を始め…。例の座標で停船した。

「頼む…。俺達を返してくれ…。現実の日本へ!!!」

艦内の乗組員全員が同じことを思った!その時みらい艦内には、波の音しかしなかった…。

 

「ん?こんなところで停船か?」

草加少佐は、不思議に思った。なぜ、このような海のど真ん中で停船したのか?だがその場にいた角松と尾栗が月を見上げているのに気き…。

「…月?」と、呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそぅ…。満ちないぜ…。」月を見上げていた尾栗が吐き捨てるように呟いた。

「レーダー反射波!替わり……ありません…。」CICでは、梅津艦長が確認を指示していた。

 

「やはり…。消えぬか…。」

 

 

 

「変わったか!?月は満ちたか?」

みらいの非番要員が一斉に甲板へ出てくる。だが、待ち受けていたのは悲しい事実だった。

「クッソ!何で満ちない!あの嵐は!?雷は来ないのかぁぁぁああ!」口々に、思っていることを話す乗組員達を角松は何も話さず、ただじっと見ていた。すると、非番要員の一人…。林原があることを話始めた。

「来たときとなにかが違うんだ…。あの軍人が乗っているせいで、俺たちは入り口に入れないんだ!!」

柏原の意見を聞いた乗組員が混乱し始める。

「あんたは、本当だったら海に沈んでいるはずなんだ!あんたが居るせいで、俺たちは入り口入れねぇんだよ!」と、林原が怒鳴り始めた。

「いかん!皆、感情的になっとる!」慌ててCICから出てきた菊池がデッキから顔を出した。

「林原よせ!相手は怪我人だぞ!」角松が慌てて制止に入る。

「じゃぁ!?何で俺たちは帰れねぇんだ!あの軍人を助けただからだろ!副長が、この世界に干渉したからだ!!宛先のない思いを林原は角松にぶつけ続ける。すると、草加少佐が「話を聞こう。貴方達は、どこから来たのだ?」

 

 

 

 

「俺たちは、平成の日本からこの世界に飛ばされてきたんだ!」林原は大声で叫び、草加に取っ組みかかろうとした。

「面白れぇ。ヤるかてめぇ!」と、関節を鳴らしながら尾栗が警告する。

 

 

「その辺でよかろう!」

 

 

デッキから梅津艦長の声がした。その声を聞き、全員が艦橋デッキに注目する。

「艦長の梅津だ。部下の不手際には誠に申し訳なく思っている。」

「お目にかかれて光栄です!梅津艦長!助けていただいたことに感謝しております。」草加少佐はその場で梅津艦長に対して敬礼する。

「先程の質問だが…。我々は部隊で行動していたのだが、一昨日未明の大嵐ではぐれてしまったのだ。その為現在、本隊に合流すべく航行していると…。とにかく、現段階ではそこまでしか話すことはできない。」

 

「では、あなた方の船は本隊に合流すべく航行しているとのことですね。しかし、この船は我々日本海軍の物とはまた違った形であるな…。それも、私が幼いときに見た旧海上自衛隊の護衛艦にそっくりだ。」と、草加少佐は壁に手をつきながら答えた。

「こちらからも伺うが、旧海上自衛隊とはどういう意…。」角松が草加少佐に聞こうとしたとき、CICから緊急放送が流れた。

 

「CIC艦橋!!魚雷音接近!!距離、3800!!接触まで2分30秒!!」その声に艦内にいた自衛官全員が驚愕する。艦橋向かっていた菊池が

「魚雷………だ……と!?」と呟く。

「全力即時退避、訓練通り取り交わしてみせろ」と角松が叫ぶ!

「了解!!」掛け声と自衛官達は、一斉に持ち場につく。

 

 

CICに向けて菊池が全速力で走る。すると、片桐が声を掛けてきた。

「ほ、砲雷長…。魚雷って、本当ですか?」走りながら菊池が「本当だ…。話してる場合ではない。衝撃に備えとけ!!」と言い走り去った。

「マ、マジかよ………。」と残された片桐が呟く。

CICの扉を勢いよく開けて菊池が入ってくる。

「CICソナー!!潜水艦を探知出来なかったのかぁー!!」と菊池が怒鳴ると、

「反射の少ない表面層のダクトに居たと思われます!この海域のデータが不足しています!!」

「馬鹿者!!お前らの訓練不足だ!!」と菊池が怒鳴る!「すみません!!」とソナーから返答が来るが、いまさら遅い。青梅が「魚雷2本、本艦との距離、1000ヤード」と叫ぶ!

 

 

「早く医務室へ!」デッキにいた桃井が草加少佐を医務室へ移動させようとする。だが…。

バタン!

「何してんの!魚雷がきてんのよ!!」慌てる桃井にたいして、草加少佐は…。

「この船の戦闘能力をこの目で見たい…。」

「軍人らしい意見だけど、その行為が命取りになるのよ。」と、止めようとする桃井に

「なぁに、一度死んだも同然だ。この船のことを知りたい。」

 

 

 

草加少佐と桃井がやり取りをしている頃、艦橋では

「機関始動!最大戦速!ジックブレーキ解除!」

と角松が叫び、操舵員が舵を取り始める。

キイイイイイインというエンジン音とともに加速し始め「きゃあ!」と、桃井が悲鳴をあげる。

 

 

 

「魚雷接触まで10秒!だめだ!接触するぞ!!!」

CICのモニターを見ながら青梅が叫び、艦橋デッキでは「衝撃に備え!」と麻生が叫ぶ。 しかし、揺れは来なかった…。 魚雷は みらい の艦尾のすぐ後ろを通過したのだった。「かわした!」と、尾栗が叫ぶ!

「CIC艦橋!魚雷発射予想位置にデイタムを設定!」角松の指示でCICにいた青梅が「方位240°距離3200!深度10㍍」と言いつつ、目標を設定する。

 

「機関始動カラタッタ30秒デダド…!」

深海棲艦である。ソ級は驚いた。艦娘ならすぐに交わすことはできるが、大きな船は普通だったら交わすことが出来ないはずだった。それが、いとも簡単に避けられてしまったのだ。「クッ…。」歯を食い縛りながらソ級は新たな魚雷を放射状に4本発射した。

 

 

 

「目標!魚雷発射!数は4本、放射状に来ます!!」

CICのソナー担当が叫ぶ!すぐに情報は艦橋に伝わり、尾栗が回避運動を指示する。その頃…。

 

「…や、やられる。」

初の実戦によりCICで震えている自衛官がいた。

「目標!なおも本艦を追尾中!魚雷、1500を切りました!」青梅の声が艦橋に流れる。

「尾栗、かわせるか?」「なぁに大丈夫だ。10°に戻せ!」角松と尾栗が会話している。

 

 

「や、殺られる…。」

 

 

「雷跡視認!」艦橋デッキにいた麻生が叫ぶ!

 

 

「お、お前らが悪いんだぞ…。」

と言いつつ、その自衛官は敵のデータをイージスシステムに入力した。そして、前甲板のVLSの一つが不気味に開く。だが、CICや艦橋に居た他の自衛官は誰も気付かなかった…。

 

 

 

「…やってやる。やられる…………前に!!」

 

 

 

 

 

 

 

バシュュュュ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

前甲板から対潜ミサイルのアスロックが発射された。

「これは…。」デッキに居た、草加少佐が驚く。

 

 

 

「前甲板、VLS開放!アスロック飛翔中!!!」

「なに!?」青梅の言葉に菊池が驚く。

「魚雷発射ポイントに向かっています!」という報告が次々に入る。

「誰が発射ボタンを!!!」

一瞬考えたが、CICの中を見回した所すぐに犯人が分かった。明らかに放心状態の自衛官が一人居た。菊池が駆け寄りそいつの胸ぐらを掴み、

 

 

 

 

「米倉ぁ!貴様ぁ、一人で戦争をおっ始める気かぁ!?」だが、米倉から帰ってきたのは正当な理由だった。

 

 

 

「…や、やらなければやられます!砲雷長…。」

米倉の言葉に菊池は思った。

(…こいつの言うことは戦場なら正当な考えだ。だが、我々自衛隊は専守防衛がモットー…。この行為は…。)

 

 

「CIC艦橋!誰が撃てと言ったぁ!現状を報告せよ!」スピーカーから角松の怒鳴り声が聞こえ、菊池は米倉を突き放した。

「ヒューマンエラーだと報告しろ!それからこいつをCICから叩き出せぇ!」

 

「魚雷、4本のうちの2本!本艦との距離、1000ヤード!」ソナーから連絡が入る。

 

 

「柳~!この魚雷はどっちの魚雷だぁー!」

「この魚雷は深海棲艦の魚雷だと思われます。日本の艦娘の魚雷は酸素魚雷ですから、航跡はほとんど見えません!先程の魚雷は二酸化炭素を排出していました!!」尾栗の質問に柳が答える。

「分かった!角度と速度は!」

「左140°相対速度約5ノット!」

 

「面舵いっぱーい!」

尾栗の掛け声でみらいは左に旋回する。

「距離50!…30!」と、麻生が叫ぶ。魚雷は みらい のすぐ左脇を通過していった。

 

「かわした!」

「まだだ!残り二本!コース知らせ!」

「雷跡、真艦尾!広がりつつ接近!距離300!」

「…もどーせぇ~!」

麻生からの情報を聞き、尾栗は取り舵を指示する。魚雷は、みらいのすぐ後ろで左右に別れていった。

 

「魚雷全弾かわしました!遠ざかります。」

CICから連絡が流れ、尾栗は口笛を吹いた。

 

バサッ!

 

「あ、あれは!!」

デッキで見ていた草加少佐が目を見張る。先程発射したアスロックが、パラシュートを開いて着水したのだ。

「ナンナンダアレハ!ムッ!探信音ダト!」

着水したアスロックからの探信音に驚くソ級。

「既ニ消エタハズノ兵器ヲナゼ、日本ガ…。」

一瞬考え込んだが、呑気に考えている状況ではないことに気づき慌てて逃げ出す。

 

その頃CICでは、

「アスロック着水を確認!目標追尾中!」

青梅からの指示を聞き、菊池はあることを考えた。

 (あの船は本艦の情報を相当、収集したはずだ。たとえゲームの世界であっても、沈むはずのない船を撃沈すれば…。もう後戻りは…。)しばらくの沈黙のあと菊池は、「艦橋CIC!…魚雷の自爆を進言します。」と、艦橋にいる角松に伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…副長!我々にとって、深海棲艦とは敵…なのか?」

 

 

 

 

 

 

 

という、梅津艦長の言葉に角松は愕然とした。

「…敵として本艦を攻撃してくる以上。我々が身を守るために攻撃するのは、正当な自衛権の行使です。」と、うつむきながら角松は話した…。

 

「よかろう…。副長、指示を頼む。」

梅津の返答を聞き、角松は「CIC艦橋!魚雷そのまま、指示を待て!」

 

「…!!!」

菊池は愕然とした。専守防衛を第一の目的とする自衛隊として、敵潜水艦を撃沈するという判断に驚いのた。

 

ピコーン ピコーン…。

 

「クソ!コノママジャ逃ゲ切レナイゾ…。」

深海棲艦は吐き捨てるように呟いた。

 

 

 

 

「アスロック、目標到達まであと10秒!」

 

 

 

 

「菊池~!魚雷を自爆させろぉ!!!」角松が艦橋から指示する。それをもとに、菊池がアスロックを自爆させた。

 

 

ドォーーーン!!!!!

 

 

みらい の彼方遠くで大きな水柱が上がる。

「ぉぉ!!」デッキで見ていた草加少佐は驚きの声しか出せなかった。

 

 

「CIC艦橋!敵潜水艦の音は聞こえるか?」角松がCICに尋ねる。

「艦橋CIC。敵のエンジン音は聞こえませんが排水音が微かに聞こえます。急速浮上中の模様。」

 

 

「…どう?デッキで見ていた感想は?」桃井が草加少佐に訊ねる。すると、

「…これは神の力か、それとも悪魔の企てか…。これが、21世紀の戦闘。」と、空を見ながら呟いた。

 

一方、艦橋では…。

「…これが、本艦の出来る最善策であったことを願いたい。しかし、追い詰められてしまったのも事実だな…。」と、水平線の彼方から出てくる朝日を見ながら梅津艦長は呟いた。

 

 

ソ級が、洋上に浮上してきた。

 

「…クソ!艤装ガ破損シテイル。コレデハ潜水シテノ攻撃ハ出来ナイ。」自身の被害を確認して、深海棲艦の基地へと舵を取る。

「日本ガ恐ロシイスーパーメカヲ復活サセタト報告セネバ…。」遠く彼方の みらい を時々見ながら、深海棲艦は逆の方向へ進路を取った。

 

 

 

 

 



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航跡10:艦これ世界

前回の更新から少し間が空いてしまいました。ごめんなさい。この先暫くの間、角松副長以下護衛艦[みらい]メンバーの話が中心になります。


 

 

ブロロロロロロロロロロロロ ロ ロ ロ ロ ロ …。

横須賀港に一機の二式水戦が降りてきた。といっても、艦娘用の小さいサイズだ。

「来たわ!」と、赤城が回収に向かう。

「赤城さん。その機体は…。」

「あっ、これは瑞鶴の機体ね。」加賀の言葉に、赤城はそっと返した。乗っていた妖精さんが赤城に声をかける。

 

 「…えっ?」

 

 

 

 

コンコン!

 

「どうぞぉ!」

執務室で書類を作成していた柏木提督のところに、赤城と、前線に復帰したばかりの加賀がやって来た。

「おや、加賀じゃないか?体の具合は大丈夫かい?」

「ええ、体調は万全です!提督、先日のご無礼をお詫びいたします。申し訳ございませんでした。」加賀は提督に向かって頭を下げた。すると、「まぁ、あれだけ大きな戦闘だったんだ…。無理もない。君の妹が大怪我をしてずっと、君が看病していたのを赤城から聞いているよ。」という提督の言葉を聞き、加賀の顔は真っ赤になっていた。「ところで、ここへ来たのには理由があるだろう?」と、提督が二人に聞く。「はっ!提督!敵の偵察に向かっていた部隊から緊急電です。」と、赤城が説明を始めた…。

 

「…なるほど、182と書かれた船体に。大きなマストと一門の砲台、そして…艦尾の航空甲板…。」

「そこに、我が海軍旗を掲げているのにも関わらず、見たこともない加速、旋回性能であったそうです。」と、提督のと言葉に加賀が付け足す。すると提督は立ち上がり、窓の外を見ながら「…しかし、草加が行方不明になった上に。不明艦が出現するとは…。」と呟く。

「敵の偽装艦でしょうか?」

「ですが、赤城さん。仮にそうだとしたら、私たち身内の中にも敵がいる可能性が…。」

 

三人はしばらくの間沈黙した…。

 

「私たち…。いや、この横須賀鎮守府の中に敵が忍び込んでいる可能性も否定はできないが…。俺は、君たちを信じている!」その言葉を聞き、赤城と加賀は「はい!!」と、提督に敬礼する。「この件についてだか、まだ秘匿にしていてもらいたい。先日の戦闘が終った直後だ。余計な混乱を招きたくない。」

「わかりました。」赤城と加賀はそれぞれ了解の返事をした。だか、執務室の扉の外で聞いている人物がいた…。「まさか、その船って…。」

 

 

その頃…海上自衛隊のみらいの艦内では隊員達が昨夜の戦闘について話していた…。

「いや~訓練をしていたからとはい、魚雷が来たときはアドレナリンがぶわっ!と出るかと思ったけど…。思ったより冷静だったねぇ~。」

「そりゃ、CICの中にいれば冷静になるわ~。実際に魚雷を見た訳じゃないんだから。」

「俺なんか、艦橋に居て魚雷を生で見たから。実際に足が震えたぜ…。」魚雷のことで盛り上がる中、

「そういや、米倉はどうなった…?」

「ああ、あのあと菊池砲雷長にこっぴどく叱られてよ、しばらくの間1週間CICに立ち入れないっう謹慎処分だってよ。」米倉の処分内容を聞いてしばらくの沈黙が流れた。「…ただ、今回と同じような事がまた起こるかも知れないですよね。」

「ああ、勝手にアスロックを発射した米倉は悪いが…。あいつと同じ立場なら…。俺も撃つだろうな。今度は、スタンダードで…。」

 

 

 

その頃格納庫では、角松 尾栗 菊池 桃井 の四人が草加少佐の今後について話し合っていた。

「皆、昨夜の戦闘で浮き足立っている…。アスロックの誤射で助かったとはいえ、ここで新たな戦闘が起これば何が起こるか分からない。」

「要するに、米倉の行為は怪我の功名ってか?」菊池の言葉に尾栗が冗談ぶって話す。「軍隊に怪我の功名など、あってはならんことだ!」尾栗の言葉に菊池がキレかけていると、「このまま横須賀に帰港するとしても、この状況じゃ難しいだろう…。それより、草加をどうするか?このまえま軟禁しておくにも、狭い船の中だ。桃井一尉だけには任せっぱなしにはイカンな。」草加の事を角松はずっと気にしていた。

「いいじゃねぇか!この際、うちら海自と彼方さんの情報を交換しようじゃねえか!どのみち、支援を受けるとしたら日本しかないだろう!」

という、尾栗の意見に菊池は警告を出した。

「尾栗。それをやると、この艦が危機的状況になるぞ!」「なんでだよ!」反論する尾栗に、

「この船の事を海軍に伝えれば、軍はみらいを拿捕しに来るだろう…。それでなくとも作戦に協力せよ等と、条件をつけてくるはずだ。ましてや、奴の鞄と階級を調べたところ…。あれは、明らかに大卒の通信士官。おまけにあの年齢で少佐と言うことは、相当なエリートであることは間違いない。奴が陸に上がったら、本艦の一番の脅威になりかねない。第一、俺はまだ元の世界に戻ることは諦めてなどいない!お前の言う通り、この世界にこれ以上干渉などしたら永久に帰れなくなる可能性もあるんだぞ!」二人の会話を目を閉じて聞いていた角松がふと、口を開いた。

「確かにそうだな…。ところで医務長、草加少佐の容態は?」角松は桃井に草加少佐の容態について訪ねた。

「ええ、体調は順調に回復しています。まだ動くことには制限がありますが、杖を使えば短距離の移動も出来るようになっています。」

「そうか…。」桃井の話を聞いた角松は少しの間沈黙したあと…。

「医務長、すまないが医務室の鍵を貸してくれないか?」「ええ、いいけど…。」桃井は角松に鍵を渡した。すると、無言のまま角松はその場を立ち去った。格納庫から出ていく角松の後ろ姿を見て、「まさか、あいつ…ヤる気か?」と尾栗が呟いた。

 

パチン!

 

「ここは?」

「ああ、みらいの資料室だ…。ここには、この戦争の行く末とこの世界の未来がある。見るか見ないかは貴様の自由だが…。」

角松と草加の姿は、みらい艦内の資料室にあった。

「つまり、この船から生きては帰さんということだな。」草加少佐は立ち上がり、一冊の資料を手に取った。「未来を知ることが怖くないのか?」

角松は、草加少佐に訪ねた…。

「生きてることは知ることなのだ…。」

 

 

 

 

草加少佐が資料室に閉じ籠ってから丸一日…。今だに、草加少佐は資料室から出てこない。

「副長。草加少佐の様子はどうだ?」

「ハッ!資料室に閉じ籠ってから丸一日…。食事を摂らずに水だけで過ごしています。」

梅津艦長は草加少佐の事を気にしていた。

「資料室には、我々が居た世界の歴史が詰まっている。この世界が艦これの世界だと言うことは、航海科柳一曹の話と船務科の隊員が偶然持ち込んでいた艦これの攻略本とアニメの解説本によって、証明された…。だが、草加少佐にとってはこの世界が現実だ。」

「草加少佐に対して私は、未来を知ることが怖くないのか?と尋ねました。しかし、(生きてることは知ることなのだ)と、言いました…。」

すると梅津艦長が…。

「お前がしたことは…。嫉妬…からなのか?」

「…えっ?」

「私自身、艦これの本を見てみてこの世界の仕組みを少しは知ったつもりだが…。明らかに、この戦闘の行く末について記載されている…。彼にとってあの資料室は、パンドラの箱だろう…。あらゆる災いが彼を襲い、彼がすべてを知ったとき、生きていく自信が残っているだろうか…。」

しばらくの沈黙のあと、角松は

「…この世界が、我々にとってはゲームの世界であることを草加は確実に知ります。しかし、私が資室に案内したのは…。我々と同じ認識を持って欲しかったのです!」

「う~ん…。」角松の言葉に梅津艦長は、溜め息混

じりの声を出した。

 

草加少佐は資料室で、片っ端から資料を読んでいた。

(2016年7月23日 深海棲艦ガダルカナル島へ侵攻、

日本海軍は米軍と共に防衛部隊を派遣し戦闘…。

2017年8月の終息まで、日米合計2万4千人戦死!

11月2日 トラック諸島近海にて、日本の艦娘部隊と激突。赤城 蒼龍 睦月 夕立 暁 霧島 陸奥が大破及び沈…。日本海軍、トラック諸島より撤退し、深海棲艦が南太平洋の制空権を獲得。

11月19日 トラックより飛来した敵部隊により小笠原諸島が全滅!

11月 空襲日本全土に拡大…死傷者5万3千人

12月5日 横須賀鎮守府にて艦娘による特攻部隊設立。一路、トラック諸島へ 。

12月8日 国連にて国連軍の南太平洋派遣が決定。

12月31日 国連の要請により出動した連合軍がトラック諸島の敵部隊を撃破。ミッドウェー諸島周辺へ追い詰める。

2017年9月7日 ミッドウェー諸島での連合軍の戦闘状況が悪化。2万3千人が戦死!

2018年1月20日 使用を禁止されていた核兵器による攻撃を国連が一度だけ承認。

1月28日 米軍機による核攻撃が開始。囮として日本の艦娘部隊が敵部隊の足止めへ。

1月29日13:21 米軍、原子爆弾を投下…。敵部隊は撃破したが、日本の艦娘部隊が被曝するなど重軽傷を負う。

2018年8月15日 サイパン周辺に残っていた深海棲艦の撃破が完了し終戦。荒廃した日本はアメリカと統合し、ジャパン州と名付けられる。 日本国内の政治はアメリカ主導の下、日本は新たな未来を歩み始めた…。)

 草加少佐はこの日本の未来を知り、大きなショックを受けた…。だが、戦後の日本の再出発により世界中で日本の技術が認められた。また国連にて日本が主導になり、世界中のあらゆる大量破壊兵器の永久に放棄が承認。各国、日本とアメリカから先に大量破壊兵器を放棄するところをテレビで国際中継を行った。また、国際の士官が各国を訪問。そして、原子力の永久的平和利用宣言を国連の総監が発表した…。

 

「これが、この国の未来へと繋がる道すじ…。」

日本の未来を知り、涙を流しながら草加少佐は本を閉じた。

 

(私の32年の人生は、これを知るためにあった!!!)草加少佐は、資料を閉じて天井を見つめていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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航跡11:攻撃命令

本日二度目となります。遅れていた分を早く取り戻さなくちゃいけないですね(´・ω・`; )


 

キイイイイイイイイイイイイイン

 

「ベアトラップリテーニングレール到達確認!!甲板作業員退避!!」みらいの甲板では、父島偵察に向けて海鳥が準備していた。

 

「第341航空隊所属佐竹一尉以下、操縦士一名!0600に小笠原へ向かいます!」

「佐竹、森。くれぐれも無理はするな。発見されそうになったら、速やかに帰艦すること。発砲は許可しない。」角松が佐竹に指示をする。

「分かってますよ副長。ガンナーとパイロットは一心同体!二人一緒に、何があろうと、必ず戻ってきます!おまけに、あっちは下駄履きの零式水偵でしょ。対地速度も300㌔そこそこ…。それに対して、こいつの速度は450㌔。振りきって見せますよ!」と角松に話し、二人は海鳥に飛び乗った。

「エンジン始動!システム再確認!」佐竹がヘルメットを被りつつ、森に指示する。

「システムオールグリーン!」森が確認し、返事が帰ってきた。

「発着指揮所より海鳥へ!甲板作業完了。発動機運転開始せよ!」

 

「ホールダウンケーブル切り離し!海鳥!発動機最大運転!」

 

「海鳥発艦!」

 

「よっしゃ、行くぞ!海鳥テイクオフ!」操縦管を持ち上げると海鳥の機体が浮き、一路、父島へ飛び去っていった。

 

「海鳥より、CICへ。発艦順調!視界内に異常なし!」

「なぁ、森二尉…。俺の爺さん、今年で79になるんだが…小笠原の出身でな。」

「は?」

「俺自身、長い休みの時は小笠原で過ごすことが多いんだ…。元々、小笠原諸島には親戚が多いもんでな。」

「じゃあ…。」

「ああ、ゲームの世界に入ったって言っていたけど…。ホントかどうか、俺には信じられねえな。」

 

「海鳥より定時連絡!タイムスケジュール順調に消費。父島上空まで、あと20分。」

CICの隊員が海鳥からの連絡を読み上げる。

「艦長…。LINK14で映像を送受信しても危険では?万一、発見されたら本艦まで追尾されます。」

「危険は覚悟のうえだ…。我々が横須賀に入港出来るかどうかは、この偵察行動で決定される。海鳥からのライブ映像は編集不可だ。ライブ映像を自分の眼で確認した上で、隊員に判断を下してほしいのだ。」菊池の質問に梅津艦長は淡々と答えた。

 

「海鳥より、みらいCICへ。目視にて父島を確認!

上空まで、10分!雲量2。視界は極めてクリア!」

 

「おお!小笠原だ!」

「こうしてみると、現実と変わらないように見えるが…。」「海鳥頼むぞ!」

艦内の食堂では一般隊員達が、海鳥から送られる映像に釘つけになっていた。

 

 

ガチャ! …バタン!

草加少佐はみらいの食堂に向かって歩いていた。

 

(歴史と言う、物語の豊穣さにおいて…。この国は輝いている。それを今知るのは、この艦の乗員241名と私のみ…。これはいったい、なんのためなのか?)

 

「父島二見港が見えます!現在、高度800㍍!」

「森二尉!尾根沿いに高度200まで降りるぞ!」

「佐竹一尉!200は危険です!!」

あせる森に対し、佐竹は…。

「ぐずぐすぬかすなぁ!貴様の腕を見てやろうってんだよ!」

「知りませんよもぅ…。」溜め息混じりの声を、森は出しながら…海鳥は次第に降下を始めた。

「海鳥よりCICへ、これより湾内に降下します!この映像は届いてますか?」

 

「CICより海鳥へ、映像はクリアだ。」

CICの青梅が返答に出た。

「湾内右手に洋上に何か見えるが、船か飛行機か確認できるか?」

「待ってください!旋回します!」

二見港の上空で、海鳥は二回旋回した。

「洋上の物体は…。零式水戦!しかし、岸壁の建物は兵舎と思われますが…。テレビアンテナがあります!また、民家は現代と変わらず…。車も走っています!」

 

 

 

「ここは、昭和と現代が混じった世界!明らかに、艦これの世界だと思われます!」

 

 

「俺たちは、漂流するしかないのか?」

「あぁ、横須賀に帰ることも…。いや、陸に上がることすらできないのか…。」

「家族にも会うことができないのか…。」

落胆する隊員達…。するとその中の一人が、

「そんなこと…出来んのかよ?」

周りにいた隊員達が気づく…。

「無理だ!この戦争が終わるまで、あと2年半!それまで、待てるか!俺たちは生きているんだ!水も飲むし!飯も食う!…歴史だ?ゲームの世界だ?んなこと関係ない!横須賀へ…。いや、日本へ帰ろう!絶対に帰るんだ!いいじゃないか!軍に捕らえられたとしても、相手は日本人だ!きっと分かってくる!!!日本軍に協力しろと言われたら、協力しようじゃねえか!太平洋を逃げ回るより、ずっとましだ!」

 

 

 

「…お前ら、それでいいのか?」

 

 

その場に居た全員が食堂の壁に寄りかかっていた角松を見る。

「軍に捕らえられたら、軍は必ず俺たちから本艦を奪いに来る。そして、俺たち乗員もバラバラになる。この[みらい]が俺たちに残された国だ!その国を、他の誰かに自由にされていいのか!?」

 

 

「…しかし副長!オイルはどうするんです?艦これの世界だとしても、燃料は必要でしょ!それ以前に、本艦に必要なタービン燃料…その軽油をどこで確保するんです!?」隊員達から次々と質問が挙がる

「艦をどこかへ隠すって手もある。…我々の手で、人目につかぬ場所へ…。」

「か、隠すぅ?」角松の提案にその場に居た、全員が驚いた。「歴史…。いや、この世界に参加したくない、。艦も手放したくない。そうなれば、これしか手はない。少なくとも、終戦まで、隠し続ける。」

 

 

 

 

 

「燃料なら、シンガポールで調達出来る当てがあるぞ…。」

 

 

 

 

「え?」

声をかけてきたのは、なんと草加だった。

「死人を装って生きることなど…誰にも出来はしない…。あなた方が生きることを選択するのなら、私は協力を惜しまない。」

「恩返しって訳か、ありがたい話だな…。」

角松は嬉しい気持ちの反面、草加に対しては疑いの目を持ちながら見つめていた。

 

 

その頃…。

「なにあれ!?」

声をあげたのは睦月だった。二日前に、睦月はと如月と一緒に横須賀から物資輸送護衛のために父島に来ていた。「早く知らせなくちゃ!」彼女の視線の先には、佐竹達が搭乗している海鳥が飛んでいた。

 

 

 

父島上空を旋回していた海鳥…。ふと、レーダーパネルに二つの Unknown目標 が表示されていることに気づいた。佐竹が後ろを見ると…。

「なに!こっちの最高速度に届いている!こいつら、ただの戦闘機じゃないぞ!」佐竹が振り返った先には2機の二式水戦が海鳥すぐ後ろに張り付いていたのだ!

 

「緊急通達!日本軍機の索敵を受けました!!」

海鳥からCICに一報が入る!

「なに!」

「いかん!海鳥は直ちに偵察を中止!速やかに帰艦せよ!」驚く菊池をよそに、梅津艦長が指示を行う!

 

「すぐ後ろに張り付いているぞ!」

「海鳥、早く帰ってこい!」

テレビ中継を見ながら隊員たちは突っ立っていた。

 

「のんきに中継を見ている場合か!対空戦闘よーい!」角松が怒鳴り、慌てて隊員達は各自の持ち場へと向かう。角松が食堂から出ていこうとした際、草加少佐に

「草加少佐!あの偵察機の武装は?」と尋ねた。だが…。

「偵察機?あれは偵察機じゃないぞ。二式水戦だ。7.7㎜と12.7㎜機銃を持った、立派な戦闘機だぞ。」

草加少佐の言葉に角松は愕然とした。

しかし、角松はその場から大急ぎでCICへと走り去っていった。

 

バタン!

 

角松が走ってCICに入ってきた。

「洋介!柳の話だとあれは二式水戦って、立派な戦…」と尾栗が言いかけたとき、

「ああ、戦闘機だ…。」

「分かっているなら、さっさと指示を出せよ!あのままじゃ、撃墜されるのも時間の問題だ!4月の東京初空襲で緊張が走っているんだ!」

尾栗の意見を聞いた角松は海鳥に

「CICより海鳥へ、本艦が発見されても構わん!速やかに帰艦せよ!只し、発砲は許可しない!」

 

 

「分かってますよ副長!設立以来、ずっと我々自衛隊はそうしてきましたから。逃げ切って見せますよ!」と、佐竹から返事が来た。すると、佐竹は海鳥を左右に振り始めた。

「さ、佐竹一尉?何のために翼を振ったんですか?」

不思議に思う森に佐竹は、

「これは、バンクっと言ってな。昔の友軍の合図だ。ただ、通用するか分からんが…。」

 

 

 

(…バンクを振っているのになぜ逃げる?)二式水戦のパイロット妖精は疑問に思った。

(しかも日の丸を付けているが、海上自衛隊という部隊は今は存在しない。)

 

「追跡を続行する只し、俺が発砲するまで発砲するな!」パイロット妖精はもう一機のパイロットに、手信号で伝えた。海鳥は急上昇、急旋回を繰返しながら二式水戦を振り払おうとした。しかし、中々振りきれない。

 

ダダダダダダダダダダダダダダ

 

「くそ!撃ってきやがった!」

海鳥は急旋回で攻撃を交わし続けた。だが…。

「佐竹一尉!もう一機をロストしました!」

「森!上だ!」

佐竹の言葉に森が上空を見上げたところ…。そこには絶好の射撃位置に二式水戦が居た!

 

ダダダダダダダダダダダダダダ…バリンバリン!!!!!

 

「くっそ!やるじゃねえか!破損軽微!システムオールグリーン!よし、こっちも反撃するぞ森…。」

 

 

 

「…森?」

 

森一尉から、返事は帰ってこなかった…。前のフロントガラスには点々と血が、付着していた…。

 

 

 

 

 

 

 

「森ィィィィィィィィィィィィィイイイイイ!」

佐竹の悲鳴が父島の空に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

   

「おい!お前!ここを何処だと思っていやがる!?現実世界の人間がゲームの世界で死んだんじゃ、話にならねえだろ!死ぬなぁ!生きろおおおおおおお!!!!!」佐竹は森の意識を取り戻させようと必死で叫び続ける!

 

 

 

 

「手応えはあったが、浅かった…。トドメを刺すぞ!」二式水戦のパイロット妖精はもう一機に手信号で合図を出した!

 

 

 

 

 

「フォーチュンインクスペクター、シーフォール映像途絶!佐竹一尉、どうなっている!?」

CICから角松が海鳥に確認を求める!すると…。

 

「…こちら。シーフォール…。コックピットに被弾!ガンナーが………。」

 

「も、森二尉がどうした?」

心配する角松に帰ってきた言葉は…。

 

「………被弾。…銃創…………血が。」

という衝撃的な内容だった…。

その言葉にCICにいた全員が衝撃を受けた…。

「佐竹一尉、全速で日本軍機を振り切れぇ!」だが、

「日本軍機、完全に捕捉…。逃げ切れません!」

海鳥からは次々と連絡が入る。

「…副長!早く攻撃命令を!一刻も早く森を収容しないと!」佐竹は悲痛な声をあげながら角松に訴える。

 

「…ゲームの世界だとはいえ、同じ日本人同士だぞ…。同じ民族同士で殺し合わねばならんのか!」怒りに震える角松に、「副長は言いましたよね!この[みらい]が我々の国だと。攻撃されれば反撃するのは自衛権の公使になるんじゃないですか!?」部下からは質問が集中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フロートだ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

その一声にCICにいた全員が振り向く…。

「フロートさえ落としてしまえば、バランスが不安定になり飛行できなくなる。ましてや、あの水戦はフロート内部に燃料を入れている。仮に飛行できたとしても本艦まで追尾できない…。」草加少佐はCICの全員に向かって言いはなった。「貴様も日本軍人じゃねえか!味方を売るやつが信用できるか!?」尾栗が草加少佐の胸ぐらを掴む。

 

 

 

 

 

「…同じ日本人だ。搭乗員の命を助けたい。」

 

 

 

 

 

 

 

角松は少し考えたあと海鳥に…。

 

 

「CICより海鳥へ。発砲を許可する!只し!照準はフロートのみ!」

「副長…?それは攻撃命令ですか?」

「ああ、そうだ!!」

攻撃命令を出した角松に、佐竹はあることを言った…。

「ですが、実戦での射撃は初めてです…。フロート以外にも着弾の可能性が…。」

「それは認めん!…佐竹、貴様の腕を信じている。」

 

「了解!バルカン砲!アイリンクシステム接続!」

佐竹は海鳥の飛行モードを、偵察モードから攻撃モードに切り替えた。すると海鳥に搭載されているバルカン砲が動き始めた。

 

「接続確認!」

 

 

 

 

「よし!射線確保!いつでも射てる!」

二式水戦のパイロットは海鳥を確実に撃ち落とせると確信していた…。だか、その確信が命取りとなった。

「プロペラピッチ改変!ティルト変更60°…80°!」

海鳥の翼が徐々に垂直になっていく。

 

「よし!今だ!!」

発砲しようとしたその時、二式水戦の視界から突如海鳥が姿を消した。

 

 

「き、消えたぁ!?」

 

 

 

 

 

(上か?いない…。急降下で下に逃げたか?………いない!?何処だ…。)

突如、視界から消えてしまった海鳥を必死で探すパイロットはふと、自分にかかった影に気付いた。

「えっ?」

後方を見ると、翼を垂直にしている海鳥がいた。

 

 

ピー

海鳥の射撃システムが二式水戦のパイロットを捕らえた。

「よくも森を…。」

だが、佐竹は射撃ボタンを押さなかった…。

「目標一機をロックオン!ファイヤ!」

 

 

ドルルルルルルルルルルルル

 

「うわっ!」

海鳥の発砲により二式水戦のフロートが外れた。

「しまった!バランスが!!」

煙をあげながら海面に不時着する。佐竹はもう一機の二式水戦の撃墜へと向かう。

 

「森見てろ~」

 

ドルルルルルルルルルルルル

 

佐竹は射撃スイッチを押し、残る一機を撃墜させた。パイロットの無事を確認するために旋回する海鳥。不時着した機体から見ていたパイロットは…。「ば、化け物め!」と、呟きながら頭上を通過していく海鳥を見つめていた。

 

 

「さぁ、帰還するぞ森!知ってるな?自衛隊には今まで一人も戦死者はいない。そして、これからもだ!」佐竹は無線でみらいに、「フォーチュンインクスペクター、シーフォール。目標2機とも洋上不時着。パイロットの生存を確認!報告終了!」と伝える。

 

 

「医療班待機!…あっ!」

角松が振り替えるとそこには草加少佐の姿はなかった…。

 

 

 

 

 

夕暮れの太平洋を航行するみらい…。格納庫では帰還した海鳥の点検が行われていた。

 

「こりゃ、急上昇 急降下 急旋回 の連続だったようですね…鋲が飛んでます。」

「フレームも歪んでいるかもな…。ゲージ付けて、超音波チェック行うぞ!」

「佐竹一尉も耐Gスーツなしでよくここまでやるもんですね…。」

超音波チェックの準備をしていたところ、ふと整備員の一人がコックピットの窓に空いた穴を見つけた。

「整備長…。これ、7.7ミリ機銃ですか…。」

「ああ、まさか森二尉も零戦とやり合うなんて、夢にも思わなかっただろうな…。」と言いつつ、整備長は森二尉が座っていた席に向かって合掌した…。

 

その頃、みらいミーティングルームでは角松ら幹部達が今後について話し合っていた。

「…深海棲艦、二式水戦。明らかにダメージを与えてしまった。その上、森二尉を失うという…計り知れないダメージを我々は負ってしまった…。我々のダメージは計り知れないが、果たして…この世界へのダメージは終末まで決めてしまうものなのか?それとも…歴史の修正力でもとに戻るのか…。」と、梅津艦長が暗い顔で話した…。

 

「艦長。横須賀に入れないことが明確になった以上、我々はこの世界へ影響を最小限にしなくてはならないと思います。」角松が自分の意見を伝え終えたとき、尾栗がテーブルを思いきり叩いた。

「確かに、森を失ったのは俺達にとって大きなダメージだ!だけどな洋介!?この戦争は明らかに日本が負けに向かっている。しかも、戦死者は計り知れなくなるんだぞ!だったら俺たちが、この世界を救おうじゃねえか?」

 

「康平!お前な、いい加減にしろ!」

尾栗の意見に菊池が水を指した。

「なんだと?」

「この世界の運命は既に定められたものだ。艦これの世界であることはここにいる全員が理解している。だがな、この世界に影響を与えることでこの世界の秩序が決まり、この戦争の行く末…。いや、百年、千年にも及ぶこの世界のグランドデザインが決まってしまうんだぞ!俺たちの行為ひとつで世界が変わり、この解説本通りの歴史にならなくなる。」

 

「それがどうしたんだよ!」

 

「その結果、我々は元の世界に永遠に帰れなくなるんだ!」

 

 

菊池の言葉にその場にいた全員が凍りついた。

 

「じゃぁ…。俺達はどうすりゃいいんだよ!」尾栗は吐き捨てるように呟いた…。

 

 

「それより、今後の燃料 食料補給についての話だ。草加によると、シンガポールなら調達できる可能性があるとのことです。どうしますか?」角松が今後について話始めた。

「この世界では、我々が居た世界とは違うことが多くある。この世界の日本軍…。いや国防軍は我々、自衛隊の人数とは桁違いだ。特に国防海軍は前身が我々、海上自衛隊であり基本装備は同じらしいが…。」菊池が疑問の声をあげる。

「ハァ…。同じ、日本人同士といっても…。俺達は違う世界の人間だからな…。所属も身分証明もままならない俺達の要求を飲むわけ…無いよな…。」

一方の尾栗はため息混じりにこのようなことを話す…。

「シンガポールは昨年の6月に深海棲艦の攻撃を受け、国内は混乱に陥り…。現在はシンガポール政府から依頼を受けた日本の国防軍が現地のシンガポール軍の後方支援をしているとのことです。軍の装備は駆逐艦が主で、国防軍が護衛艦数隻を派遣しているとのことです。」

草加から聞いたシンガポールの状況を角松は話始めた。

 

「そうか…。やはり、シンガポールにて補給するのが最善の可能性が高いな…。ただ、どう物資を確保するかだ…。」角松の話を聞き、梅津艦長はシンガポール行きを決意した。

 

 

 

ミーティングが終わり、角松は医務室へと向かった。

 

バタン!

 

医務室の治療台には人がすっぽり入る大きな黒色の袋が載せてあった。そして、その前にあるテーブルの上には、穴の空いたヘルメットと森二尉の写真があった。椅子には佐竹一尉が座っていた。

 

 

「…よく、やってくれた。…責めるなら俺を責めてくれ。ギリギリまで、発砲を許可しなかったのは俺だ…。」角松は椅子に腰掛けると、憔悴している佐竹に語りかけた。

 

 

「…俺は、この世界が艦これの世界であることを信じたくなかった…。ゲームの世界なんだと油断していた…。それに、俺は自衛隊であることを失いたくなかった。専守防衛に反することはしたくなかった…。」

 

「それをこいつを叩き起こして言ってやってください!お前は自衛隊員だから死んだんだと…。決して、軍人では無いんだと!!」佐竹は角松に思っていること全てを話し、その場に泣き崩れた。

 

「最初に補足されたのは俺の責任です…。小笠原には私の祖父がいると思っていて、油断していました。降下する直前、こいつは俺を止めたんです!あのとき、こいつの言うことを素直に聞いていれば…。」佐竹は涙声で話した…。

 

角松は線香を取り、ライターで火を付けてお供えした。

「ん?」角松より前に先客がいたようだ。既に線香が一本立てられている。

 

「これは?艦長か…?」

「いえ。先程、草加少佐が…。」

「草加が!?何か、話していたか?」桃井の意外な情報に驚く角松。

「いえ、何も…。ただ、何も話さずに線香をお祈りしていました。」

 

 

 

「そうか…。」

 

 

 

みらいは父島沖から一路、シンガポール向かい進路をとった。

 

 

 

 

 

その頃、横須賀鎮守府では…。

 

「ったく、吹雪とみらいは何処へ行った…?」柏木提督が二人を探しながら鎮守府の中を歩いていた。吹雪とみらいは4日前に演習兼、物資運搬のため、横須賀から父島駐屯地に行っていた。距離があるため補給も兼ねて父島で一泊したのち、父島上空で発生した空中戦のあった日の夜には横須賀に帰投予定だった。それが、予定を2日過ぎても横須賀に戻ってきていない。

 

 

 

コト…。

 

 

「吹雪さんは実践豊富ですし…。みらいさんは最新の索敵装置を持っていますし…。深海棲艦と遭遇しても大丈夫だと思うのですが…。」執務室に戻ってきた提督に鳳翔がお茶を入れながら声をかける。

 

「だが、万が一の可能性もありうる…。まぁ、俺はあいつらを信頼しているからな。今日までは様子を見よう…。今日、連絡が無ければ…。海保に捜索依頼を出すのと、うちからも捜索チームを出さねばならないな…。」

 

提督は窓の外を見ながら呟いた。

 

 

 

 

 



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航跡12:二つのみらい

さて、遅れていた分を取り戻すために急いで執筆しています。…ちょっと、行き詰まってきていますが(´・ω・`; )頑張って書いています。今回は、角松達ジパングメンバーと艦娘になったみらいが出会う話です。



 

2025年6月15日

和歌山県串本沖230キロ

 

「艦橋CIC!本艦、2時の方向に艦影2!距離3万2千!接触まで、一時間!なお、一隻にSIF反応あり!」CICでレーダーを見ていた青梅一曹から連絡が入る。

 

「何?」驚く角松にたいし、梅津艦長は

「我々を捜索している ゆきなみ や あまぎ かもしれん。目標の詳細をチェックせよ。」

 

 

艦長の意見を聞いた角松が艦内放送用のマイクを

取り、「CIC艦橋!詳細を調査し報告せよ!」と大声で話す。

 

「…こ、これは?」

「どうした?」

唖然とする青梅に菊池が声をかけた。

 

「砲雷長…。SIF反応があるのですが…。」

レーダーで詳細を調べたところ2つの目標の内、一つからSIF反応が出たのだ。

 

「IMF信号の識別は可能か?」菊池が識別するよう指示した。「少し、電波が弱いですが…。やってみます!」

青梅は受信される信号を、みらいのデータと照合させた。

 

 

「ま、まさか!?…いや、こんなことは。」

SIF信号を照合させたところ…。我々、みらい のSIF信号と一致したのだ!

 

 

「艦橋CIC!目標のSIF信号は…。我々と同じ、みらい です!」青梅の言葉が艦橋に響き、角松が

「んな事あるかぁー!SIF信号は同じものは存在しないはずだぞ!ちゃんと、調べているのか!」

と、怒鳴った!

「きちんと、データを照合しました。ですが、みらい のSIF信号以外に一致するものはありません!」

 

艦橋とCICとの間で意見の食い違いが起こるなか、通信室に無線が届いた。

 

「砲雷長、目標より無線信号を受信!」

「なんだと!?それで、詳細は?」

 

 

 

「ったく、CICは寝ぼけているのか?」角松が愚痴をこぼしていると、

 

「艦橋CIC!目標より無線を受信!内容は、[こちら、日本国国防海軍 横須賀鎮守府所属 旗艦 吹雪!以下、海上自衛隊横須賀基地所属 DDH-182 みらい!貴艦の所属と航海目的を通告せよ!]とのことです!」と、CICから連絡が入った。

「このままですと、あと10分で目視距離に到達します。艦長、どうしますか?」角松の質問に対し梅津艦長は…。「相手は国防海軍所属の艦娘。しかし、海自のSIF反応もある…。もう一隻のみらい は気にかかるが…。ここは、吉と出るか凶と出るか…。懸けてみようじゃないか。」と、梅津艦長の意外な決断に角松は驚いた。

 

「総員!対水上戦闘用意!対空 対潜 対水上 警戒を厳にせよ。」梅津艦長の掛け声で各隊員達が配置につく。

 

 

「まさか、ここまで早く事態が進むとは…。」

食堂にいた草加少佐は呟いた。そして、艦橋へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

「見えた!」

吹雪とみらいは、イージス艦みらいに向けて向かっていた。

「みらいさん…。本当に近づいて大丈夫なんですか…?」旗艦の役割をしていた吹雪だが、少し心配な顔をしながらみらいに質問した。

 

「私の勘だと、あれは絶対に船の頃の私です!何でこの世界に居るのか分かりませんが、提督が話しているのを聞いて…。これは絶対に真実だと思ったんです!」鋭い目付きで、みらいは遠く彼方に見えるイージス艦を見つめた。

 

 

「目標さらに接近!距離、2千5百!」

 

「草加少佐!あそこの艦娘は、国防海軍の者と言うことで断定していいのか?」

艦橋デッキに出て望遠鏡で確認していた角松が草加少佐に尋ねた。

「ああ、紛れもなく我が海軍の艦娘だ。」望遠鏡で確認した草加少佐が大丈夫だと話す。

 

 

 

「機関前進半速~」

梅津艦長が減速を指示し、徐々に速度が落ち、緩やかに船体が停止した。。

 

「主砲!自動追尾に切替!甲板!警備部隊配置!」

角松の指示で主砲が吹雪達の方に向き、甲板に84式機関銃を持った警備部隊が出てくる。それを見た吹雪は真っ青な顔で震えながら、

「み、みらいさん!?ほ、本当に大丈夫なんですか…?」

吹雪の話に聞く耳を持たないで、みらいは発光信号を送った。

 

「我々は左舷側に停泊する。!乗船と共に許可を求む!」

 

「うむ、相手は海軍の艦娘とはいえ…。人間と同じだ。草加少佐の進言を信じるしか無かろう…。乗船を許可する。あちら側の情報も手にいれたい。内火挺を準備せよ。ただし、乗船する際は武装解除を要求せよ。」

「了解!左舷側、内火挺をの準備せよ。」

角松は内火挺の準備を指示したあと、艦橋デッキに出て拡声器を使い、「貴官らの乗船を許可する。ただし、全武装の解除を要求する。この件に、一切の例外は認められない!」と要求した。

 

「みらいさん!武装解除は危険です!拳銃くらいは忍び込ませた方が…。」心配する吹雪をよそに、

「承諾しました。武装は全て預けます!」

みらいは大声で話した。

「みらいさん…。いいんですか?自慢のイージスシステムを預けても!」震えながら声をかけてきた吹雪にみらいは…。

「余計なもので、無駄な争いは起こしたくないの私が船だったときに、似たようなことがあったら。」みらいから、内火挺がやって来た。そこには、機関銃を持った角松の姿があった。

 

「みらい副長の角松洋介です。みらいより、お迎えに上がりました。乗船に際して、あなた方の武装は預からさせて頂きます。」

二人は内火挺に乗り込み装着していた艤装を外し、みらいの乗組員に手渡した。

「重いし、精密機器なので気を付けてください。」みらいと吹雪は、海上自衛隊の乗組員達に艤装を渡した。

 

 

「見た目は人間だが、艦娘っうのは元々は船の魂らしいぜ…。」

「俺は、艦これやってないからよくわからんが…。艦娘の装備は、実物の船と同じ威力があるみたいだぞ…。」

「非番の日に衛星回線で艦これやってるけど、一人は吹雪だが…。もう一人は知らねぇなぁ?」甲板にいた隊員達の中ではこのような話が広がっていた。

 

 

 

 

ドドドドドドド

 

内火挺がみらいの左舷側に着いた。

ステップを使い吹雪達、艦娘らが上がってくる。艤装は重いため、内火挺ごとクレーンで収納することになった。

 

 

 

 

武装した乗組員達に囲まれた中、梅津艦長か出迎えに上がる。

 

「日本国 国防海軍 横須賀鎮守府所属 特型駆逐艦 吹雪です!」

「同じく、横須賀鎮守府所属 海上自衛隊 ゆきなみ型イージス艦DDH-182 みらい です!」

吹雪とみらいは、梅津艦長に向かって敬礼した。

「私がみらい艦長 梅津三郎だ。…。吹雪さん。君は見たところ学生みたいだか…。生まれはいつかな?」

 

「ハッ!私が艦娘として生まれたのは平成10年です。」吹雪が敬礼しながら話す。

 

(…私の娘と同い年か。)

心の中で自分の家族の事がふと浮かんだ。

 

「ようこそ!我がみらいへ!」

梅津艦長は二人に手を差し出し握手する。

 

艦橋デッキからは草加少佐が静かに二人を見つめていた。

 

 

 

 

 

ガチャ!

 

案内係の尾栗に案内され、吹雪とみらいは艦内を見学している。食堂にやって来たところ…。

 

「君たち、ずっと二人きりで海の上を走ってきたんだろ?だったら喉乾いているよな?」

 

「え?」

 

ゴトン! チャリンチャリン…。

 

「どうぞ。」

 

尾栗が食堂の自販機でコーラを買い、吹雪達に手渡した。

「あ!ありがとうございます。」

「尾栗三佐、ありがとうございます。」

 

「頂きます!」

 

ふたを開けるとカシュ!という音がして、吹雪とみらいは美味しそうにコーラを飲んだ。吹雪は特に喉が渇いていたのかコーラをイッキ飲み(笑)と言うことはやはり、ゲップが出るわけで…。

 

「プハァ~! 美味しかったです。ありがとうございした。尾栗三…ゲップ!」

自分より位が高い人の前で大きなゲップをしてしま

ったことに…「うわぁぁぁぁぁ。」と、真っ赤になった顔を慌てて両手で隠す吹雪。

「いいんだよ。二人とも喉か渇いていたんだから。こんな状況だったら、俺も同じことすっから。」と、尾栗は笑い飛ばした。

 

 

 

しばらくたって、ミーティングルームへ尾栗が吹雪達を連れてきた。

「尾栗三等海佐!お客様を連れて参りました!」

 

ガチャ!

 

尾栗が扉を開けると中には、梅津艦長 角松二佐 菊池三佐 と草加少佐がいた…。みらい がミーティングルームに入ると草加少佐の姿を見つけたため…。

「…草加少佐。生きていたんですね。」

「ああ、みらい。私はこの世界の人間として生きている。貴様の知っている帝国海軍 海軍少佐の草加拓海ではない。」急に鋭い目付きになったみらいに、吹雪は少しだけ恐怖を感じた。

(この二人…昔、何かあったのかなぁ…?)

二人の様子を見ていた角松達も気づき、菊池が

「どうかしましたか?」と、訪ねる

 

「いや、なにも。昔の知り合いと勘違いしたらしい。」

「…。」

草加少佐は話をずらそうと、簡単なこじつけを付け椅子に座った。みらいと吹雪も同じテーブルに付いた。

 

 

「さて、本艦は補給のため、シンガポールへ向かっているのだが…。今後の航海を行うに当たって、貴官らにお尋ねしたいことがいくつかあるのだが…。よろしいかな?」梅津艦長が質問の承諾を得るため交渉を始めた。

 

「わかりました!」

「了解しました!」

と、二人が了解の返事をする。

 

「まず、この戦争の敵である。深海棲艦の事についてお尋ねしたい…。」

 

 

 

話はじめてから、かれこれ二時間…。

吹雪とみらいは、この世界の事について詳しく話しシンガポールへ行くよりも、横須賀へ向かった方がよいと進言した。

「しかし…。我々は国防海軍ではない。海上自衛隊だ。いくら、貴官らを乗せているとはいえ…。排他的経済水域内、いや、領海に入るのは危険だと思うのだが…。」

と、角松が呟く。

「その上、敵勢力の海域を通ることになる。そうなると国防海軍側から見ると我々を、敵として判断し、攻撃される危険性があるのでは?」菊池がリスクについて吹雪達に尋ねた。

「その件に関してですが…。領海の接続水域付近に達した際に、衛星回線を使い横須賀鎮守府へ連絡したいと思います。」と、吹雪が提案した。

 

 

「衛星回線が使えるのか…?」

 

 

その場にいた、みらいクルーが驚く。

 

「ええ、衛星回線の機能をもつ電話機を持っていればの話ですけど…。みらいさんなら持っていると思いますが…。」と、吹雪がみらいにふる。

 

「え、ええ。一応ありますけど…。ですが、この船

なら周波数を合わせれば可能だと思いますが…。」すると、みらいの返答に噛みつく人がいた。

 

「だが、敵勢力に傍受される可能性はどうなんだ?」

 

みらい砲雷長 菊池雅行だ。

「衛星回線とはいえ、敵勢力に傍受される可能性高い。そのリスクはどうする?その上、君たちが国防海軍を説得したとして…。単独で東京湾に侵入するのは危険ではないか?」と、この作戦のリスクを導きだして質問した。

 

「本土に接近するまでは、出来るだけ島から離れたところを航行したいと思います。大島沖で我々、横須賀鎮守府の艦娘達に迎えに来てもらうのはいかがでしょうか?」と、みらいが答えた。

「う~ん…。」

みらいの幹部は黙り込んでしまった。

ミーティングルームには沈黙が流れる。

 

「ところで航海長、残りの燃料と食料はどのくらい残っている?」と、梅津が口を開いた。

「ハッ!既に燃料は50%を切っています。食料も生鮮食品に関してはあと8日分。備蓄分も二週間で底をつきます。」

「…うむ。」

 

梅津艦長はしばらく考えたあと、

「シンガポールにて補給するより、良いか悪いか分からんが…。ここは君たちの話を信じて横須賀へ向かおうではないか?」

 

 

「これより本艦は、シンガポール行きを断念し我々の母港!横須賀へ帰還する!」

 

 

 

シンガポールへの航路を変え、横須賀基地へ折り返す みらい。ミーティングルームでの会議を終えた みらい が、角松に先日発生した父島での事件について尋ねた。

 

「角松二佐!先日の父島での事についてお聞きしたいのですが…。」

みらい の言葉に艦橋へ向かっていた角松が一度足を止め、みらいを連れてデッキに出た。

「先日の事件か…。あのとき俺の判断ミスで海鳥に乗っていた森二尉を死なせてしまった…。」

「…そんな。」ふと、みらいの口から驚きの声が漏れた。

「俺はあの戦闘で、この世界の状況を知ることができた…。しかし、その代わりにかけがえの無い、一人の隊員の命を失ってしまった…。だが、俺は一人の自衛官だ。俺の役目はこの戦争をとっとと終わらせ、犠牲者を減らすことを先決にしていきたい。それが例え、艦これの世界であってもな。」という角松の言葉を聞き、みらいは船の時の記憶を振り返っていた。

 

夕暮れに染まる太平洋を航行するみらい。

 

 

吹雪とみらい は森二尉の弔問のため、尾栗三佐と共に医務室へやって来た。

 

「…。」

無言で線香を立て、吹雪とみらい は手を合わせる。

 

「全く、まさかこんなことになるなんて思っても見なかったよ…。」

「…この度は申し訳ありませんでした!!」椅子から勢いよく立ち、涙ながらに謝る吹雪。その行動に一瞬驚いた尾栗だったが、「いや、君が謝らなくともいいんだよ。もう、過ぎてしまったことだから…。」

 

「で、ですけど…。」

といい、泣き出してしまう吹雪…。桃井が吹雪を支えながら「いいのよ…。あなたの責任じゃない…。」と、励ます。一方のみらいは、終始無言のままだった…。

 

 

 

 

 

 

翌朝…。

 

みらいの飛行甲板には、制服を着て整列した隊員らの他、艦娘である吹雪、みらい や草加少佐の姿もあった。艦尾の自衛隊旗は半旗である。

「気を付けぇ!」

「全員!森二尉に敬礼!」

 

ダダーン

 

角松の掛け声で全員が敬礼し、喪砲が鳴り響く。

そして、森二尉の棺が喪を意味するラッパの音が鳴るなか白い花束と一緒に海へ投下される。

 

 

「黙祷!」

 

 

 

 

 

 

 

「日の丸相手に戦って、日の丸背負って死んだんじゃ元も子もねぇや…。」

 

 

 

 

 

 

と、一人の隊員が呟いた。すると…。

 

「艦これの世界だって?ふざけんじゃねぇ 現に森はやられたじゃねえか!?」

「それより、深海棲艦の事が分からない俺達が生きていけるのか??」

「横須賀へ戻ったとしても、国防海軍だろ?」

整列していた隊員のあちこちからたまっていた文句が出てくる。

 

 

 

 

「それでも貫いてほしい!」

 

 

 

 

大声をあげたのは梅津艦長だった。

 

「専守防衛とは平時の題目ではない、我々の灯台だよ。これを見失えば、身も心もこの広い海に漂ってしまう…。我々が護るのは、あの霧の中に消えてしまった我々の日本だ!平和を尊ぶ人間の誇りは銃や弾丸のみで守られるものではない!どんな状況であろうと我々は我々であることだと、森二尉も望んでいると私は思う…。」

 

 

 

「昼行灯転じて、嵐の夜のかがり火ですね。」梅津艦長の姿を見ていた尾栗が呟く。吹雪と みらい もまた、梅津艦長の言葉を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀へ進路を戻してた翌日…。

みらいは南鳥島沖を航行していた。

 

「そろそろ、横須賀鎮守府へ連絡したいのですが?」

みらいと吹雪の姿はCICにあった。横須賀入港までの間、二人の指揮権は梅津艦長が持っている。扱い上は幹部である。

 

「まもなく領海に入るな…。よかろう、衛星回線での通信を許可しよう。」みらいからの要請で横須賀鎮守府に電話連絡を入れる。

 

 

 

 

プルルルルルル プルルルルルル ガチャ!

 

横須賀鎮守府の秘書官が電話を取る。今日の担当は翔鶴だ。

「はい。日本国防海軍 横須賀鎮守府でございます…。えっ?」

 

 

 

「提督!行方不明になっていた みらい さんから電話です!」

「なに!?」

翔鶴の言葉を聞き、柏木提督は慌てて電話を取った。

 

「もしもし!柏木提督ですか?」

 

「いかにも、国防海軍 横須賀鎮守府 の柏木提督だ。みらい!無事なら、早く連絡せんかぁ!」

「連絡が遅くなり申し訳ございません。」と、提督に思いっきり渇を入れられる。

「それより、現在地はどこだ?必要ならば救援部隊を向かわせるが…。」

 

「救援部隊の必要は現在のところ必要ありません。容易に信じてはもらえませんが…。私たちは現在、海上自衛隊横須賀基地所属のゆきなみ型イージス艦[みらい] に乗船しています。」

 

 

「・・・。なんだってぇ!?」

驚きのあまり、提督は立ち上がった。湯飲みのお茶がこぼれて書類を汚しているのも気にしないで、話を続けた。

 

 

 

「なるほど…。すまないが、みらい…。そちらの艦の、艦長と変わってくれないか?話がしたい…。」

「わかりました。」という みらい の声が聞こえたあと、梅津艦長が電話に出た。

 

「はじめまして。海上自衛隊 護衛艦 みらい艦長の梅津です。」

「こちらこそ、はじめまして。国防海軍 横須賀鎮守府の柏木です。」

 

「電話にて質問することは申し訳なく思う。貴艦は海上自衛隊の所属であると申していたが、この件は本当ですか?」という、柏木提督の質問に梅津が返した言葉は…。

「はっ。我々は海上自衛隊の所属であります。本来、我々はハワイ沖での日米合同軍事演習に参加するため航行していましたが…。ミッドウェー沖で異常な低気圧に遭遇…。この世界に飛ばされていました…。」

 

「なんと…。」

 

「そのため、この世界では属する事のできる部隊や港がなく…。漂流しているの同然です。本艦の目的すら見つからない状況でありますが、途中で合流した、艦娘の 吹雪 みらい 両名及び、漂流していたところを救助した 通信少佐の草加拓海少佐の情報により、現在は横須賀鎮守府へ向けて航行しています。」

「待ってくれ、途中で救助した海軍少佐の名前をもう一度教えてくれないか?」梅津艦長が話した内容で気にかかったことを尋ねた。

「国防海軍 通信少佐のの 草加 拓海少佐ですが…。」

 

「なに!?草加か!!!」

驚く柏木提督。すると、梅津艦長のマイクを借りて みらい が話始めた。

「ええ、紛れもなく国防海軍の身分証明を持っていました。間違いありません!」

 

「了解した。」

(そうか、草加は無事だったか…。)

電話を聞きながら安心した顔になる。

「ところで提督?我々はどうすればいいでしょうか?」電話から みらい の声がする。

「すまんすまん。貴艦の東京湾入港を許可しよう。ただし、我々の横須賀鎮守府へのドッグ入り前に、猿島沖で直接会談したいがよろしいかな?」梅津艦長は数秒、考えたあと…。「了解しました。貴官のご決断に感謝します。」と話した。

「こちらこそ、3名の命を救っていただきありがとうございます。これにて無線連絡を終了します。」と、柏木提督から感謝の言葉を貰い無線連絡は終了した。

「まずは、横須賀へ戻ることが確定したことを祝いたい。たが東京湾進入までの間、敵勢力下の海域を航行する。対空 対潜 対水上監視を厳にせよ。」

 

横須賀へ向け、航行する みらい。横須賀到着まであと3日、気象班の隊員らは偏西風に乗ってやってくる小さな低気圧を見逃していた…。

 

 



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航跡13:横須賀へ~嵐の海~

 試行錯誤しながら執筆しています。やっぱり、作家の人の想像力はすごいですね(´・ω・`; )ゆっくりペースで更新していくつもりですが、この先行き詰まるかもしれないです。…そんなことはさておき、今回はみらいさん達が護衛艦[みらい]と出会い角松副長達と共に行動を開始する話です。


 

 順調に横須賀へ向けて航行する みらい 。しかし、三宅島沖合いに差し掛かったところ発達した低気圧に遭遇した。

 

「取舵10° 最大戦速!」

 

みらい の周りには30㍍は超えるであろう高波が多数あった。大きく揺れる船内だが、どこに敵勢力が潜んでいるかわからない。CICでは大きな揺れの中、菊池がレーダーを監視していた。

 

一方、艦橋では

「左舷前方に高波!推定25㍍!」観測員から連絡が入る。「面舵10°最大戦速!」尾栗が指示を続ける。窓には大粒の雨粒が打ち付け視界が悪くなっている。「予報では小さかったが、ここまで時化るとは…。」窓の外を見ながら、梅津艦長は呟いた。

 

その頃、揺れる船内の中 吹雪とみらいはジャーナリストの片桐と一緒にミーティングルームで待機していた。片桐はこの機会を逃さんと、みらい達二人を取材していた。「…ところで、お二人は艦娘と呼ばれる存在であり。深海棲艦と戦っていますが…。実際にはどう思っていますか?」大きく揺れる船内で船酔いにならずに次々と質問する片桐に、若干だが…。みらいと吹雪はあきれていた。

 

ドォーン!!!!!

 

船体に大きな高波が直撃し船内が大きく揺れる。

 

「うわぁ!」

「きゃぁぁ!」

カン!カラカラカラ…。

 

片桐 吹雪 みらいが悲鳴をあげる。

テーブルの上のカメラフィルムのケースが床に散乱し、みらいが飲んでいたアイスコーヒーが床に散らばる。吹雪が横を見るとみらいがソファーから放り出され、床でうずくまっていた。

 

「みらいさん!大丈夫ですか!?」

 

あわてて駆け寄る吹雪。

 

「だ、大丈夫よ。ちょっと左肩を強打しただけだから。」みらいは肩を押さえながら返事をする。

「ですけど…。」心配する吹雪をよそに、みらいは立ち上がり「あとで、湿布を貼るくらいはしておくから大丈夫。それより、片桐さんのフィルムケースを拾うの手伝ってあげて…。」

 

 

雨足も弱くなり、嵐から抜けつつある頃…。

 

「…ん?」

 

ソナー室にいた観測員が異変に気づく。

 

「ソナーCIC!本艦前方5000 水深20にUnknown目標探知!」

「なにぃ!?」CICに緊張が走る。

「目標の識別は可能か?」菊池がソナー室に問い合わせるが…。

「高波の影響で識別不能です!」

「なんだと!?」

 

「艦橋CIC!本艦のすぐ前方にUnknown目標あり!なお、敵味方識別不可能!」

「何だと!?」

艦橋に居た、角松らが驚く。

「くそっ!こんなときに(怒)」

「対潜戦闘用意!」

 

「面舵いっぱーい!」

 

みらい は余計な戦闘を避けるため、面舵を取り回避する体制に入った。

 

 

ジリリリリリリリリリリリリ

 

緊急ベルが鳴り、赤いライトで照らされている艦内を大慌てで隊員達が配置場所に移動する。吹雪はその中の一人を捕まえて理由を訪ねた。

「一体どうしたんですか?」

「我々の前方に、Unknown目標が見つかったんだ!」

「えっ!?あ、ちょっと~。」

吹雪に理由を告げた隊員は走り去っていった。

 

「目標の位置は?」

「ハッ!本艦より2時の方向!距離3100!まもなく、目標の魚雷射程に入ります!」角松が目標の現在地についてCICに問い合わせる。

 

 

「了解!ミクシー作動!魚雷戦用意!!目標のデータをアスロックに入力!」

 

角松の指示により、艦尾から囮のミクシーが放出される。CICでは後部甲板に設置されている監視カメラを使い、目標の詳細を確認していた。

「くっそ…。砲雷長、波が高くてよく見えませんぜ。」青梅が歯を食い縛りながら答える。

「目標との距離は?変わったか?」菊池が尋ねるが…

「いや、ずっと同じ距離を保ったままです…。」

 

(敵だとしたら隙を見つけて攻撃してくるはずだ…。なぜ攻撃してこない?)全く、相手が動く様子がなくCICでは無言の緊張が走っていた。

 

 

 

 

「…どうやら、目標は攻撃を行えない状態であるのかもしれん…。このまま迂回して進む。只し、目標の動きに厳重警戒せよ。」

梅津艦長は、Unknown目標の魚雷射程から離れた所を通るよう指示を出した。みらいが迂回しようとしたとき、

「あ!目標機関始動!追尾体制に入りました!」

「何だと!?」突如動き始めたUnknown目標に対して、梅津艦長は「発光信号を送れ!」と指示し、隊員が

「ハッ!発光信号弾!ファイヤ!!!」と叫ぶ。

 

バシュュュュュュュュュ

 

みらいから発光信号弾が放出され、眩い光で辺りを照らした。

 

「Unknown目標!進路変わらず!さらに本艦へ接近

します!敵の魚雷射程まで、あと800!」と、CICで青梅が叫ぶ。

「応答はないか…。」

「艦長!敵の魚雷射程までまもなくです!」

「うむ。敵の姿が見たい。対潜閃光魚雷発射!」

角松の報告をもとに、CICに対潜閃光魚雷による目標確認の指示が出た。

 

バシュ!

右舷の魚雷発射管から閃光魚雷が発射される。

「魚雷命中まで、5秒前!4 3 2 1 0 !」

 

ドドーン

 

「ひゃあああ!!!」

みらいの右舷後方の海面が光ったと同時に、海中から人が飛び出してきた。

「ちょっと入らないでください!」

「私はこの船の艦娘なんですよ!入る権限はあるはずです!」CICの入り口で何やら揉め事が起きている。

「砲雷長、目標の分析を頼む。」そう話し席を立つ梅津艦長。入り口に向かうと、そこには吹雪とみらいがいた。

「戦闘中になんだね?」

「艦長!この両名がCICに入れてくれと頼んで来たのですがどうします?」対応していた隊員が尋ねる。

「通常、部外者のCICへの立ち入りは原則禁止だが…」

「艦長!目標の詳細が判明しました!画像出します!」

 

「まるゆさん!?」驚きの声をあげる吹雪!

「えっ!?」

「あっ、ちょっと!」

隊員の制止を振り払いCIC内のモニター前に駆け寄る吹雪。

「一刻も早く、救助してあげてください!あの子、潜水艇といっても泳ぐの苦手なんです!」

「つまり、敵ではないということか?」

「そうです!敵なんかじゃありません!!私たちと同じ艦娘です!」冷静に聞いてきた菊池に、吹雪は涙ながらに訴えた。

「分かった。Unknown目標を要救助者とする。」

「CIC格納庫!航空科、SH-60Jは飛べるか?」梅津が格納庫で待機している航空科に問い合わせた。

「格納庫CIC!ギリギリのデットラインです。」

「要救助者が漂流している。救助作業に当たってくれ。」

「了解!」

指示を受けてから5分も経たない内に、SH-60Jは発艦し まるゆ の救助へ向かった。

 

 

 

「ん…。んん?ここは…?」

しけで荒れ狂うの海からSH-60Jによって救助されたまるゆ。ヘリで垂直に釣り上げる形で救助されたため、吊り上げられたときの高さで気を失っていた…。

「あっ、気がついた!」

「あれぇ?吹雪さん???」

まるゆが横になっていた医務室内のベット横には、吹雪が椅子に座っていた。吹雪の声を聞き、医務長の桃井一尉がCICに艦内電話にて連絡を入れたあと二人の元へやって来た。

「医務長の桃井です。ちょっと失礼します。」

そう言うと、まるゆの右手を取り脈拍を調べ始めた。

「ところで吹雪さん?ここはどこなんですか…?」

自分が何処に居るのか気になる まるゆ に吹雪は…

「ええ、ここは船の中よ。それも海上自衛隊の護衛艦の中よ。」

「海上…自衛隊…?あれれ?そんな部隊ありました

っけ?」まるゆ が疑問の声を上げていると医務室に梅津艦長が入ってきた。

 

「お気づきになられましたか…。」

「ええ、こちらのベットです。」

梅津艦長は桃井に案内されてまるゆの元にやって来た。

「海上自衛隊 ゆきなみ形イージス護衛艦 みらい艦長 梅津三郎 です。先程はとんだ勘違いをし、驚かせてしまい申し訳ない。」

まるゆ の前で深々とお詫びする梅津艦長。すると…

「いえいえ、とんでもないです 私が紛らわしい行動をしたばっかりに  」

 

「ところで、まるゆさんは何をしていたのですか?」と尋ねる吹雪に

「えっ?ああ 」

自分の任務を思い出したのか、まるゆは自分の任務について話始めた。

「私は今、伊豆大島の陸軍の駐屯地で物資輸送の訓練をしているんです。それで、伊豆大島から横須賀へ向かっていたんです。」

「それって…。話しちゃっていいんですか?」

吹雪の顔は若干青ざめていた。

「あっ 」しまった!と思ったのか慌てて口を手で押さえるまるゆ。しかし既に、時すでに遅し…。その場に居た、みらいのメンバーにはもろに聞こえていた。

「まぁ、今の話は聞かなかった事にしておきます。」と言いつつ、梅津艦長は静かに席立った。

 



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航跡14:横須賀入港

 
 さて、前回の嵐を突破したみらいは…。まさかのまるゆさんを救助するという展開になりましたが(笑)なんとか横須賀近海へたどり着きました。今回は横須賀鎮守府との話です。



 

6月17日

 

みらいは東京湾の入口、三浦半島三崎沖合30キロ地点に来ていた。一般市民からの目を避けるため、東京湾進入及び横須賀の猿島沖合への進入は深夜まで待つこととなっていた。

 

23:30

 

「艦長。横須賀鎮守府より入電。貴艦の東京湾進入を許可する。猿島沖5キロ地点にて一旦停船せよ。」横須賀鎮守府から入電した指示を通信員が読み上げる。

「分かった。」と、梅津艦長は頷き…。

CICにて、「横須賀鎮守府から東京湾進入許可が降りた。これより本艦は東京湾へ進入。横須賀鎮守府を目指す。総員、警戒を厳にせよ。」

 

「機関始動!両舷前進原速!面舵20°」

艦橋では、角松が横須賀へ向けての舵を指示する。

「闇に紛れてやって来いってことだなぁ。この先は船舶の往来が激しくなる。左右デッキに見張りを配置!警戒を厳にせよ!」

尾栗はデッキにいる見張り員に注意を促した。

 

そして、みらいは静かに東京湾に進入していった。

 

 

00:20

 

「停船目標に到達!」艦橋デッキで、尾栗が叫ぶ。

「右舷前方より、短艇接近!」

 

望遠鏡で短艇を確認した梅津艦長は、

「うむ。短艇に乗っている軍人は二人だな。吹雪さん。どなたがあなた方の提督かな?」吹雪は梅津艦長から望遠鏡を受け取り確認した。

「左手前に立っているのが私たちの提督です。ただ…。提督の左後ろの方は誰か存じませんが…。」

吹雪の隣で尾栗から借りた望遠鏡で確認していた みらい は、「階級からして身分は参謀だと思います。」と、声をあげる。そして草加少佐が確認する。

(あれは、津田か…!)

「草加少佐?誰だか分かるか?」

「ああ、あれは津田大尉。私の3期下の通信少佐だ。」と、角松に伝える。

 

「何が起こるか分からん。念のため、エンジンは付けたままにしておくように。」

「はっ!」

角松が梅津艦長から指示を受けたとき、短艇からモールス信号が送られてきた。

「こちら横須賀鎮守府 提督 柏木 淳。貴艦に乗艦し艦長と会談をしたい。許可を求む。」

横須賀鎮守府からの要請にたいし、

「よかろう。左舷に乗降ステップを用意。ただし、乗艦するときは武装を解除せよと通告!」梅津艦長は角松と共に艦橋からデッキへ移動し、

 

ドドドドド…。

左舷に短艇が到着した。軍服を着た二人がステップを上がってくる。

「横須賀鎮守府提督の柏木です。貴艦の艦長と会談を行いたくやって参りました。なお、私の他にもう1名乗艦させていただきます。」

「国防省 国防海軍通信士官の津田一馬です。よろしくお願いします。」

 

「海上自衛隊 みらい艦長 梅津三郎です。」

「同じく、みらい副長 角松洋介です。」

(艦娘の子達の話によると、私より3つ上と聞いていたが…。柏木提督、若いな…。もう一人の海軍士官も…。)と、角松の自己紹介の間このようなことを考えていた。

 

「君はお若いが…何年生まれかな?」

 

「はっ!平成4年生まれです。」

と、津田は敬礼し微笑みながら話した。

 

(私の息子より、2つ下か…。)

 

 

「ようこそ 我がみらいへ。柏木提督 津田通信士官! 」

 

ガチャ!

梅津艦長と角松は、みらい艦内の士官室に二人を連れてきた。中に入ると草加少佐の他、吹雪 みらい まるゆ の三名が待っていた。

 

「柏木提督に敬礼!」

 

みらい が敬礼の合図をすると、艦娘達は敬礼したが…。草加少佐だけは敬礼をしなかった。

 

「ここにいる、全員を救助してくださりありがとうございました。」と、柏木提督は梅津艦長に向かって礼の言葉を送った。すると…。

「…いや、我々は漂流してしたり、負傷していた救助者を救っただけですから…。まっ、立って話をするのもなんですから…。どうぞお掛けください。」と、ソファーに案内する梅津艦長。「失礼いたします。」一礼をしてから、二人はソファーに腰かけた。

 

「梅津艦長。早速ですが、大本営の人間としてあなた方にお聞きしなければならないことが3つあります。」

と、柏木提督が話始めた。

 

「まず最初に、あなた方の所属と武装について二つ目に、あなた方がこの横須賀に来た理由。三つ目に、この先我々国防海軍に協力することを前提に、この横須賀に留まるのか?」

 

角松と梅津は黙って聞いていたが、津田の…。

 

「それぞれ、よい返答を期待しております。」

 

という、言葉に驚きの表情になっていた。二人の間に数分間沈黙が流れた…。

 

「我々は、海上自衛隊 横須賀基地所属 ゆきなみ型イージス護衛艦 DDH-182 みらい です。我々の装備については、この会談のあとで艦内を見学するとしましょう。それでも構わないですか?」

 

その言葉に一旦黙る柏木提督達。すると草加少佐が…。

「艦内見学はこの会談の後でも遅くはない。それよりも現物を見た方が理解しやすいだろう…。」その言葉に津田は納得し、質問を続けた。

 

コツ コツ コツ …。

 

廊下では尾栗と柳が歩いていた。尾栗は幹部用作業服姿でいたが、柳は正装を着ており、手には人数分のコーヒーを持っていた。

「おい?お前、給養員じゃないだろ…?何でそんな格好してんのか?」

「他の世界とはいえ、艦これの世界の軍人と会えるのは興味深いことです。敵とは断言できませんが、相手の懐に飛び込んで相手の情報を知ることも大切です。」

「そりゃ、そうだけどなぁ~ 副長に許可は取った

のか?」尾栗は明らかに冷や汗をかいている柳に尋ねてみた。

「大丈夫です。先程、許可は取りましたから。」

「おっと、士官室に着いたぜ。んじゃ、頑張ってこいよ!」

 

「はっ!柳一曹行ってまいります!」

 

コンコン!

「給養科、柳です!コーヒーをおぉ持ち致しました」すると、中から角松が扉を開ける。

 

ガチャ

 

「コーヒーになります。こちらの砂糖とミルクも合わせてお使いください。」

柏木提督 津田大尉の前にコーヒーを出していく柳。

「吹雪さん達もどうぞ。」

 

「あっ、ありがとうございます。」

「忙しいなか艦娘の分まで、どうもありがとうございます。」と、柏木提督は柳にお礼の言葉を告げた。

 

「では、失礼します。」

と、柳は士官室から退出していった。

 

「…あなた方が、この世界の人間でないことは理解しがたい事ですが…。我々の艦娘達を救助してくださり、こうしてこの場で会うことができた。私はあなた方の情報を信じたいと思います。それを踏まえた上で、あなた方は我々国防海軍と一緒に深海棲艦撲滅に向けた作戦に協力していただきたい。」梅津艦長の話を聞いた柏木提督は、国防海軍に協力してほしいと頼んできた。

 

「…我々は、あくまで海上自衛隊として行動していきたいと思います。専守防衛…。我々、海上自衛隊はこの言葉を胸に、戦後70年の歳月…。一人の戦死者、一人の外国兵を殺傷せずやってこれました。それは明確な指示系統があったからこそ出来たわけです。ただ、我々は不幸にもその指示系統を失ってしまった…。」と、梅津艦長は海上自衛隊及びイージス艦護衛艦みらい艦長として、思っていることを話始めた。

「我々は、この世界にとって危険な兵器を搭載しています。それは、この世界の結末さえ変えてしまうものであるかもしれません。時空を飛んでしまった我々にとってこの船は…。私たちの故郷であると共に、決して開けてはならぬパンドラの箱でもあるということです。」

 

「艦長…。」隣で話を聞いていた角松は感心するように声を呟いた。

「みらい艦長…。いや、一人の自衛官として…。日本を守りたい気持ちはあなた方とは変わりませんが、決して他国を侵略せず、人命救助を最優先で行動したいと思います。」

 

「すると?つまり、あなた方は人命救助を最優先に行動し我々国防海軍に協力する意思はない。と言うことですか?」と、梅津艦長の言葉に対し柏木提督は疑問の声をあげた。

「いえ、我々は人命救助に関してのみあなた方…。国防海軍には協力したい意向です。仮に我々が国防海軍と共同の作戦に参加した際、基本的に我々が持っている近代兵器の使用は自艦防御用でのみ使用し、敵勢力への過剰な攻撃は控えさせていただきたい。要するに我々を攻撃する意思がない限り、こちらから敵勢力へ手は出さないと言うことです。」

 

 

会談が終わり、柏木提督らはみらいのデッキに出てきた。東の空を見ると僅かに明るくなり始めていた。

 

「美味しいコーヒーをありがとう。」

と、お礼を言う柏木提督の横で津田大尉は…。

「今回の会談の内容は大本営に報告させていただきます。状況次第ですが、今後我々の司令部のメンバーと会談していただくことになると理解しておいてください。」

「津田大尉。すまないが、先に鎮守府に戻っていてくれないか?少し、梅津艦長達と話したいことがある…。」

「ええ、構いませんが…。提督も、私と一緒に本日1000より大本営にて定例会議があります。」と、手帳を見ながら津田が話す。

「提督。お先に失礼します。」

と、津田は敬礼をしてから短艇に乗り込み横須賀鎮守府へ戻っていった。

 

「柏木提督。一緒に戻らなくてよかったのですか?」

角松が訪ねてきた。

「…あなた方が属していたのは海上自衛隊という組織だったそうだな…。」

「ええ…。」

「…この世界の国防軍は元々、自衛隊だったんだ。私はその中の海上自衛隊で勤務していた。」角松は驚いた。なんと、この世界の国防軍は元々自衛隊だったのだ…。

「深海棲艦が出現した2012年の夏…。尖閣諸島を巡る中国との紛争が終わった直後だった…。」

 

 

 

~回想 2013年夏~

 

2013年7月18日 尖閣諸島魚釣島の南 80キロ

私は第5護衛艦隊 護衛艦[あきづき]の副長だった。尖閣諸島周辺を警戒中だった佐世保の第12護衛艦隊が壊滅状態にあると連絡を受け尖閣諸島へ向かった…。

 

「本艦前方28000にて交戦中!」

「目標補足!発射管制は自動モード!」

イージス護衛艦[こんごう]汎用護衛艦[あけぼの][ありあけ] 共に戦闘海域へ突入する[あきづき]

「短SAM発射始めぇ!」

[あきづき] の砲雷長が叫ぶ!

敵の航空機や艦隊への攻撃は順調に進み…。あと少しで敵艦隊を撃破するところまで行っていた…。しかし、突如CICから一報が入った。

「左舷後方より魚雷!接触まで10秒!」

「なに!?」

「機関最大戦速!総員、衝撃に備え!」

退避行動を指示した直後…。非情な事に、敵の魚雷が機関部に命中した。

 

「…うっ。ぅぅ………。」

「副長!」

柏木が気づいたときには既に脱出ボートに乗っており、目の前には炎に包まれながら沈没していく[あきづき]の姿があった…。

「全員…。脱出出来たのか…?」

柏木が同じボートに乗っていた隊員に尋ねると…。

「魚雷が機関部の燃料タンクに命中し…爆発…。機関部は全滅し…。火災は消火不能。我々が最後に あきづき から離れましたが、全員が脱出出来ませんでした。弾薬庫に引火したと思われる爆発で数隻の脱出ボートが転覆…。近くは漏れでた燃料で火の海になっています…。」

 

「そうか…。」

 

この戦いで我々第5護衛艦隊は全4隻のうち

 

[こんごう]中破 死者11名 負傷者52名

[あきづき]撃沈 死者96名 負傷者118名

[あけぼの]大破航行不能 死者37名 負傷者73名

[ありあけ]小破 負傷者3名

 

我が、護衛艦[あきづき]は乗員245名のうち、死者96名負傷者118名を出してしまった。その他の残った護衛艦も甚大な被害を受け、この戦闘では自衛隊敗北となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その戦いから奇跡的に生還した私は内地に移り、しばらくの間防衛省で勤務していた。その間に政府は自衛隊の再編成を行い、今の国防軍になった。そして、彼女たち艦娘が生まれた…。」

 

「そうでしたか…。」

角松は柏木提督の話を聞き、この世界の日本並びに世界情勢が分かった。ふと、海向かいの房総半島から朝日が照らしてきた。

 

「角松さん。今の日本は、各地に設立された鎮守府にいる艦娘達が中心になって日本を防衛している状態だ。艦娘を使って敵勢力への先制攻撃を行うことがあるが、俺はその行為には反対だ。何せ、俺は元自衛官…。専守防衛を目的として設立された部隊の軍人だ。ホントは、先制攻撃なんぞしたくはないんだがなぁ…。」

と、柏木提督は朝日に照らさせる海を見ながら呟いた。

 

 



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航跡15:横須賀会談

 横須賀に戻ってきた海上自衛隊のイージス護衛艦[みらい]。そこで角松達を待っていたのは横須賀鎮守府の柏木提督だった。この先の戦況を左右する決断に梅津艦長が出した判断とは…。



6月18日夕方、柏木提督からみらい宛に電文が入った。

 

[貴艦の今後についての事であるが、あなた方の身柄は我々横須賀鎮守府が預かることになりました。只し、所属艦娘の引き渡し及び明朝0800より横須賀鎮守府内の会議室にて今後の貴艦の行動について詳しく話し合いたい。日本国 国防海軍 横須賀鎮守府提督 柏木 淳 ]

 

 

 

みらい 艦長室

 

 

「艦長…。どうされますか?」と、電文を持ちながら角松は梅津に判断を求めた。

「やはり、一筋縄ではいかない相手のようだな…。だが、ここで会談を断れば…。明らかに敵対意識を持っていると認識されかねない…。やむを得ないな…。」電文を見ながら呟いた。

 

 

 

「明朝0800より会談を行うそうだ…。艦娘達には鎮守府へ戻るため、身支度をせよと伝えておくように。会談の時の人選だか私の他に、角松 尾栗 菊池の合計4名で向かうと鎮守府に伝えてくれぬか?」と角松に伝える。

「了解しました。」

 

 

朝日に照らされるみらい。デッキでは鎮守府からの出迎えの船を待つ梅津達の姿があった。

 

「では、我々が会談中の間。艦のことを頼んだぞ」

という梅津の言葉に対し、当直長の隊員が「了解しました。」と敬礼する。

「艦長では…。」

 

 

ド ド ド ド ド ド ド ド … 。

みらい幹部と草加少佐、艦娘達を乗せた短挺は、横須賀鎮守府へと向かう。「見た感じ、我々の世界と違って要塞化しているな…。」帽子の端を掴みながら呟く菊池。

「ああ、船からは見えなかったが防衛大方向の高台にレーダーサイトがあるな。」尾栗思ったことをそのまま呟いていた。「軍の設備が多くあるとはいえ、横須賀であることは違いなさそうだな。」角松は心のなかで出港したときの横須賀の姿と照らし合わせていた。

 

 

 

 

~鎮守府会議室~

 

「提督!海上自衛隊護衛艦みらいの梅津艦長以下、3名をお連れしました。」発着場から案内してきた長門が話す。

 

「ご苦労!」中から柏木提督が出てきて、4人を中に案内した。広い会議室には長い机が設置され、窓側には柏木提督や津田をはじめとする国防海軍の参謀らが並んでいた。

「海上自衛隊イージス護衛艦。みらい艦長 梅津三郎です。」と、帽子を取り一礼する梅津艦長。角松らは自己紹介をして一礼する。

「先日は夜分遅くの会談で申し訳なかった。さ、どうぞお座りください。」と、柏木提督は先日のお詫びを言った。こうして、横須賀鎮守府にて会談が始まった。

 

 

「…先日お話しした際、あなた方は人命救助をのみを目的とし、戦闘には加わらないと断言していました。しかし、この世界はあなた方が居た世界とは違う…。今、この日本…。いや、全世界は深海棲艦からの攻撃により破滅の危機を迎えているのです。」と、津田は梅津達に伝えた。

「あなた方国防海軍は…。もともと我々と同じ海上自衛隊であったと柏木提督から聞いております。しかし、我々は別次元の人間…。この世界に干渉するのはリスクがありすぎると思います。」と、菊池は眼鏡を直しながら話す。

「確かに、あなた方の意見も承知しております。それを踏まえて、あなた方にはこの戦闘に参加していただきたい。」と、柏木提督は呟いた。その言葉に部屋にいる全員が黙り沈黙が流れた。

 

「…それは、我々を拿捕するということですか?」と、角松が尋ねる。

 

「いえ、拿捕するようなことは致しません。戦闘に加わるとしても、あなた方には人命救助を最優先に考えてもらいたい。それを踏まえて、まずあなた方にはトラック諸島へ向かって頂きたい。」

 

「トラック…。ですか?」

 

「ええ。すまんが津田。地図を出してくれんか?」

「はっ!」

柏木の言葉に津田が立ち上がり地図を持ってきた。

 

「現在、トラック諸島には我が国防海軍の前線基地がある。あなた方にはトラックへ向かってもらい、負傷した艦娘を横須賀まで連れ帰ってきてほしい。勿論、必要な物資 燃料 弾薬 食料品 はこちらから支給する。また、護衛部隊としてうちの鎮守府から吹雪 白雪 深雪 暁 響 と護衛艦娘の みらい しらね と気象観測用員として しらせ を送る。…引き受けてはくれないか?」

 

 

柏木の言葉に他の参謀らはポカンとしていた。

 

「艦長どうします?」角松の言葉に梅津は…。

「…すまないが、少し時間をくれぬか?」

 

 

 

 

 

 

国防海軍からの要請を受け、隣室で緊急の幹部会議が行われることになった。

 

「艦長、ここは参加するべきです。トラックに行きましょう!途中であの場所も通る。元の世界に戻る手掛かりが見つかるかもしれない。」

尾栗は参加することを強く勧める。

「だかな尾栗…。参加するのはいいが、一度銃口を向けた相手だ…。油断はできないぞ。第一、トラックとの往復で深海棲艦に発見され戦闘になる可能性もある…。」角松はリスクがあるのではないかと話す。すると菊池が…。「俺も、洋介…。いや、副長の意見に賛成だ。燃料や弾薬等、必要なものを供給してくれるのはありがたいが…。万が一、戦闘になりミサイル等を大量に消費した場合確実に みらい のサバイバリティー(生存率)は確実に減少する。」三人の意見を聞き、梅津艦長はある決断をした。

 

「…私はこの件について、国防海軍の要請を受けようと思う…。確かに、トラックとの往復で深海棲艦と戦闘になるリスクは高い。だが、このままこの世界に干渉しないで過ごすことは不可能だろう。」窓の外に広がる横須賀の海をを見ながら、「来るべき時が来てしまったのかもしれないな…。」と、呟きつつ梅津艦長は3人に向かって振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方…。

 

国防海軍からの要請を受けトラック諸島へ向かうことになった みらい は、長距離航行に備えて横須賀鎮守府にドック入りすることになった。

 

「左舷前方より、タグボート接近!距離800」横須賀鎮守府から みらい を誘導する船舶がやって来た。

「タグボートより発行信号!これより鎮守府ドックへ誘導する。我に続け。」

「抜錨!両舷前進半速、ヨ~ソロ~」

梅津艦長の指示で、みらいは停泊していた猿島沖から動き出す。

 

「…ついに、俺たち、横須賀へ戻ってきたんだな…。」と、ふと尾栗が呟いた。

 

「ああ、そうだな…。これより、ドックへ入る!岸壁からの距離、海底深度に注意せよ!」と、尾栗の呟きを聞きながら角松が指示を出した。

 

 

 

ドック入りの直前、尾栗と片桐が見張り台で話していた。

「やっと、横須賀に帰ってきましたね尾栗さん。」

「あんたは、相変わらず元気だなぁ~。」

「ええ、ジャーナリストですもの。艦これの世界に入ったとしても、この世界の情報を元の世界に持ち帰ればものすごく大きな収穫!我々、ジャーナリストにとってはとても貴重な取材ですよ(笑)」と、笑い飛ばす片桐に尾栗は…。「あんた、地雷踏んでも死なねぇーよ。」と、苦笑いで答える。片桐はその言葉を気にする様子もなく、「さてと、上陸したらフィルムにHDDとか…。取材で必要なものをたくさん仕入れるぞぉ!」と意気込んでいた。

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府 ドック

 

国防海軍との調整でトラック行きは3日後の6月23日となった。みらい乗組員達は、鎮守府警務隊の監視下4~5名程度のグループ行動を条件に横須賀市内に限って、上陸を許可された。ドックでの点検作業の合間を縫って、角松 尾栗 菊池 の三人は私服姿で久しぶりの横須賀を歩いていた。「俺たちが居た世界の横須賀とは違うところが多いが、変わらないところもあるんだなぁ…。」ふと、菊池が立ち止まってある建物を見ていた。

「JR横須賀駅かぁ…。防大の時と変わってないみたいだなぁ…。なんか、涙が出てきたぜ。」

三人の視線の先には、横須賀基地から出港する日の朝に通ったJR横須賀駅の駅舎があった。

「防衛大学校での4年間…。俺ら3人で苦楽を共に過ごしたなぁ…。」という、尾栗の言葉に角松が…。

「ああ、休みの日なんかはよくここから電車に乗って横浜へ遊びにいったよなぁ。」

「そうだなぁ…。そういや、覚えているか?俺たちが防衛大学1年生の時の夏休み。横浜の帰りに俺が腹痛になって、ここで防衛大学行きの終バスに乗り遅れたこと。」と、菊池が話す。すると、「あったなぁ、そんなことが(笑) なぜだか、あのとき、京急乗ればいいのに…。学校まで走っていったなぁ。」と笑う尾栗。

「そうだったなぁ。門限まで残り15分を切って、大学直前の急坂を皆で走っていたら…。菊池の腹痛がぶり返して動けなくなったよなぁ?」と、角松が思い出しながら話す。。

「あのときは、門限に間に合うかホント焦ったよ。俺のせいで二人まで遅刻することになったらいけないから、「先に行っていろ!」って、言ったよなぁ…。そしたら洋介が…。」

 

 

 

「お前をここで置いていくわけにはいかない!一人のミスは全体のミスなんだ。何がなんでも門限までに、お前を学校まで連れて行く。」

 

 

 

「って、言ったと思ったら菊池を担いで走り始めたんだよな(笑)」と、尾栗が話した。

「…結局、あの日は門限に間に合わなくて翌朝俺たち三人でこっぴどく叱られたよなぁ~。」と、角松。だが…。

 

「洋介の機転で、三人同時に点呼場所に着くことが出来たんだから…。」

「だよなぁ、あそこで雅行を置いていったらどうなってたことか。」

「そうだなぁ…。ま、俺は俺の信念を貫いただけだけどな。」と、冷静に返答する角松に…。

「副長~また、照れ隠しですかぁ?」と、尾栗が脇腹を突っつく。

「照れてない!」と、角松は帽子を深く被る。

横須賀駅近くのヴェルニー公園に移動した三人は、学生時代に戻ったかのように防衛大学時代の懐かしい話を日が傾くまで続けた…。

 

 

 

 

 

 

その頃、みらいが入場しているドックに何やら怪しい行動をする艦娘が来ていた。

「これが、噂に聞いた戦艦ですか…。不思議な船影で見たことない形ですね。砲は一門しかないし他に対空武装は無いか、大きなマストだし嵐で転覆しそうだなぁ…。何だか頼り無さそうね…。それに、後部甲板には格納庫があるわね…。」と、写真を撮りつつ興味深そうに観察していた。

「しかも、182というナンバー。みらいさんと、何か関係があるのかしら?」と、物陰から見ていたが足元にあった鉄パイプを蹴飛ばしてしまい大きな音を出してしまった…。

 

 

「誰だ!?」

 

みらいの前甲板から叫び声がする。

「やばっ!」と、駆け足で走りはじめるがその先には…。

 

「止まれ!止まらんと撃つぞ!」

 

拳銃を持ち、自分に向けてたっている軍服姿の柏木提督がいた。

 

「うわ!」その艦娘は驚いて尻餅をつく。

 

「なんだ、青葉じゃないか…。ここで何している?まさかだと思うが…。」

「えへへ…。」と、頭をかきながら頷く青葉。すると、柏木提督のもとに騒ぎを聞き付けた梅津艦長がやって来た。

 

「…柏木提督。なんの騒ぎですか?」

と、訊ねる梅津に対し、柏木は拳銃をしまいながら…。

「ええ、この艦娘…。いや、青葉が勝手に立入禁止区域内に入って、あなた方のことを観察していたからですよ。」と、柏木提督は青葉が持っていたカメラを取り上げて中身を確認し始めた。

 

「そうでしたか…。しかし、艦娘達と我々は共に行動する予定ですが…。」と、ムスッと頬を膨らましている青葉を見ながら梅津が訊ねる。

「あなた方の存在は、国防海軍公式の存在じゃない。この横須賀鎮守府の人間しか、現段階では関わらないようにしているのです。だが、この艦娘 青葉は鎮守府の広報担当であり他の鎮守府 駐屯地 等と情報交換を行う任務についています。あなた方の存在については国防海軍内での方針が決まるまで内密にしておきたい。」と、提督は話ながら青葉のカメラからフィルムを抜き取った。

 

「と言うわけだ、すまないが青葉。この船は軍事機密になっている。撮影は許可しないぞ。」

「えー。せっかくの特ダネなのに?」

と、青葉はいまだ頬をフグのように膨らましている。

「今回の件は、多目に見ておくが…。この船の事はこの横須賀鎮守府内だけの極秘事項になる。他の鎮守府に、情報を流すんじゃないぞ。」と、提督は青葉を睨みながら話した。その目は、普段の優しい目付きではなく…。鋭く、獲物を見定めるかのような怖い目付きだった。

 

「はぁぃ…。」

 

と、提督からカメラとメモ帳を返却された青葉はトボトボと凹んだ様子でドックから出ていった。その後ろ姿を見ながら梅津が…。

「柏木提督…。我々の存在は厳重に隠されていますが…。他の艦娘と違って、なぜあそこまで厳しく?」

「…あいつは、艦娘であると同時に一種のジャーナリスト魂を持っているんです。」

「なるほど…。」

「ここに配属される前から、他の鎮守府でこのジャーナリスト魂のせいで少しトラブルを起こしてましてね。他の鎮守府から厄介払いされていたのを広報担当として、ここで引き取ったんです。」

と、柏木提督は去り行く青葉の背中を見つめながら話した。

 

「あのジャーナリスト魂をうまく調節すれば、うちで上手いことやっていけるはずなんだがなぁ…。」

 

「…うちの船にも、様々な隊員がいます。ゲーム好きな隊員や釣り好きな隊員。喧嘩っ早い血の気の多い隊員や物静かな隊員…。人それぞれ、良いところ悪いところはありますよ。彼女も、これから先色々な場面に遭遇して成長し、立派な艦娘になれるのではないでしょうか?」と、梅津は自分の部下の事について話す。

「ハハハ…。そうだといいですがねぇ~」と、柏木提督は苦笑いで答えたのであった。

 

 

 

その夜、食料等の必要物資の手配が完了し積込作業を行うこととなった。

 

「今回、物資の積込作業を指揮させていただく国防海軍 兵曹長 河本です。」

みらい が入っているドック横で水兵服を身にまとった小太りの男性が話す。その横には、今後の作戦に参加する艦娘の みらい と しらせ そして吹雪の3人がいた。

 

「梅津艦長!みらい以下3名!物資搬入作業のお手伝いをしたく参りました。」 と、敬礼していた。

 

「ご協力感謝します。」と、梅津と角松が挨拶をする。

 

 

「おーい!運ぶぞー!」

岸壁からの声にみらい乗組員達が答えてくる。

「オッケースヨ!」

 

「オーライ! オーライ!」

 

みらい 後甲板で、乗組員達がクレーンの誘導を行っていた。

 

ドスン!

 

「こりゃ、古古米だぜ…。せめて、古米にして欲しいなぁ~」

「贅沢言うなって、この世界は戦時中なんだからよ~」と、運び込まれた米袋を見て少々、文句を言いながら作業するみらい乗組員達を見た国防海軍の人々は、

 

 

 

「日本語を話しているが…。妙に、西洋人っぽいな…。」

「ああ、それに言葉遣いもうちらとは違うな」

「本当に、日本人なのか…?」

と、疑問の声をあげていた。

 

日が傾き空がきれいな夕焼け色になる頃、みらいが停泊している岸壁の端で草加と津田が話をしていた。

「なんのご用ですか?草加少佐。」

「津田、時代を見てきたか?」

草加が訪ねたのは、みらい艦内の資料室のことだった。

「…い、いえ。あの部屋へ私も案内されましたが…。」

 

 

~みらい資料室前~

 

「ここが資料室だ。この戦争の行く末についての資料もあるが…。」

 

 

案内役の尾栗の言葉に津田は震えていた。

「私は気弱な人間です…。あなたのように、目の前の未来を知ることが怖い…。」

手に持った制帽を握りしめながら津田は答えた。

 

「少佐は、未来を知ってどのようなお考えを?」と、自分の思いをぶつけてみたが…。草加から帰ってきた言葉は、「未来を知るとこは、生きると言うことなのだ。」という言葉だった。

「みらいは横須賀を出港後、ガダルカナルへ向かうだろう…。あそこで、近く大規模作戦が行われる模様だ。」と、津田を見ながら答えた。

 

 

 

 

 

2016年 6月22日

みらい艦内

 

必要物資の積込作業も終え、まもなく夕食の時間になる頃艦橋から艦内放送が流れた。

 

 

「遅くまでの積込作業、お疲れさまです。貴官らのお陰で、明日の出港を無事に向かえられることに心から感謝したい。本艦は明朝より新任務遂行のため、当泊地を後にする。新たなる作戦区は…。ソロモン諸島最南端。ガダルカナル島周辺海域である!」という、梅津の言葉に驚く隊員達。

「現在、ガダルカナル島では国防海軍と米軍の合同作戦基地が存在している。近く、7月23日未明!深海棲艦の集中攻撃が始まり、日米双方で2万3千人の死傷者が出ることになっている。本艦の目的は、その戦闘を未然に防ぎ日米両軍の隊員の多くの生命を救うことにある…。」

 

「俺たちが、この世界の未来を変えるのか…!!」と、驚き愕然とする隊員達。

 

 

「抜錨は明朝06:00 本作戦について総員に厳に告ぐ。我々の行動は戦闘に参加するのではない!あくまで、人を殺す武器を持たない自衛隊としての救命活動である!以上!」

 

「いよいよ行動だ!」

「俺たちの日頃の訓練の成果をだせるぞ!」

と、科員食堂では意気込む隊員達の声が上がっていた。

「…私は、艦長のご決断に異存ありません。私は私の任務を遂行するのみです。」と、CICで菊池は呟いた。

 

一方、艦橋では…。

 

梅津の元に角松がやって来た。梅津は艦橋席に座って外を眺めていた。

「…この世界は、我々の世界には繋がっていない。我々にとって草加の言葉は、麻薬のように危険で甘い…。」

 

「艦長!私にも迷いがあります。しかし、追い詰められた我々に、他の選択肢があったでしょうか?…私は艦長のご決断を支持します!!」という、角松の言葉に振り返った梅津は「フィーリングを行う!本作戦における最善の策を導き出す!」と指示を出した。

 

「ハッ!」

 

 

みらい の今後が決まった頃、横須賀の岸壁に停泊している護衛艦みらいは、きれいな夕焼け色に染まっていた。

 

 



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トラック諸島編
航跡16:交流~みらいとしらせ~



 さて、横須賀での国防海軍との会談が終わり…。トラック諸島へ向かうこととなった護衛艦[みらい]。出航前夜の人それぞれの一時を書いてみました。



 

 護衛艦みらい への物資搬入の作業が終わる頃、提督の元に乗船する吹雪 白雪 深雪 暁 響 と護衛艦娘の みらい しらね しらせ が集まっていた。

 

「この作戦では、先日の戦闘で負傷しトラック諸島にて治療を受けている、我が横須賀鎮守府の艦娘の移送及び、ガダルカナル島での護衛活動である。」

 

と、提督が皆に向かって話していた。

「えー、この作戦は、先日入港した海上自衛隊ゆきなみ型イージス護衛艦 みらい との合同作戦となる君たちは、みらい艦長の梅津 三郎 氏の指揮下に入って行動してもらう。」

 

「えっ?提督?私たちは提督の指揮から離れるということですか?」と、白雪から質問が出てきた。

「…ああ、本来ならば私が前線で指揮をすべき所だが、今回は作戦の都合上このような形になった。」と、提督が話す。

「この理由については、現段階では極秘とさせていただく事をお許し願いたい…。」深々と頭を下げる提督に、

「我々にたいして、敬語とは…。少し、気味が悪いですね…。」と、しらね が呟く。すると、「大丈夫です!どのような理由があろうとも、この駆逐艦 吹雪!頑張って任務を遂行します!!!」と、若干ハイテンション気味の吹雪の一声でミーティングは終了した。

 

 

 

その頃、みらい デッキでは…。

「よっこらっせ、と…。」

「あっ、航海長どちらへ…?」

柵を乗り越え上陸しようとしている尾栗に、甲板で星空を見ていた佐竹が見つけたのだった。

 

「なんだ、佐竹か…。」

「航海長はこれからどちらへ?」と、尋ねてくる佐竹に

「なぁに、ちょいと陣中見舞いといこうじゃないか?あちらさんから、色々と貰ったんだから。」と、お酒のボトルを持ちながら陽気に笑う尾栗に、佐竹はあきれていた。

 

「航海長、話に行くんですか?日本はこの戦争に負けると…。アメリカに吸収合併されると…。」その佐竹からの問いに尾栗は、

「…んなこと、言えねえーだろ。彼らは深海棲艦と戦って制海権を奪取し、日本を守り抜くっう使命を持ってやっているんだぞ…。」

 

尾栗の言葉に佐竹は納得した。すると…。

 

 

 

 

「なんだったら、佐竹?貴様も一緒に来るか??」

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府内、詰所

 

みらいから出てきて、昼間に物資の搬入作業に携わった河本兵曹長を探しながら歩いていた尾栗達。

 

「誰だ貴様ら!」と、警備の兵が尾栗達を呼び止めた。

 

 

「別に怪しいもんじゃ、ねぇーよ。」

 

 

警備兵に事情を話したところ、みらいのすぐ近くにある休憩所に案内された。

「坂上二等兵入ります!」

と、警備兵が入室し尾栗達も続いて中に入る。

「ぁ?誰だテメェら?」

と、中のメンバーから声がする。

「海上自衛隊ゆきなみ型イージス護衛艦 航海長尾栗 康平 三等海佐。」

「同じく、海上自衛隊第82航空隊 佐竹 守 一尉。」と、尾栗の自己紹介に続いて佐竹も自己紹介をした。

 

「三等海佐って…。少佐クラスじゃねえか!」と、慌ててその場にいたほぼ全員が起立して敬礼する。だが、一番奥の椅子に小太りな男性が座ったままだった。

「…私がこの補給班の兵曹長、河本です。こんな夜遅くに、どのようなご用件で? 」と、グラスを持ちながら、話した。一呼吸を置いたあと、尾栗が

「~いや、昼間の間、皆さん方に補給のお手伝いをしてもらいましたから、お礼に上がったんですよ。さ、皆さん、座ってください。俺、博多の生まれだから、こういう堅苦しいの好きじゃないんすよ。」と、笑いながら話す尾栗の一声で全員が席に座った。

 

「こいつはうめぇや♪」

「バーボンって、とうもろこしから作ったアメリカの焼酎だろ?」

「休暇の時に東京のバーで女と呑みてえなぁ~」と、あちらこちらから歓喜の声が上がる。酒の話で盛り上がっていると席にいた一人が…。

 

「ところで尾栗三佐。あなた方が別世界からやって来たってのは…。ホントなんですか?」その言葉に全員が黙り込んでしまった。

 

コト…。

 

と、グラスをテーブルに置いた尾栗が話始めた。

 

 

「…酒が入ってから話すと現実味が薄れるが、本当の話しだ。」と、河本達は驚く。

 

「…俺らは本当は、ハワイ沖で行われる日米合同軍事演習に参加するために向かっていた…。だが、ミッドウェー沖で異常な低気圧に遭遇…。気づいたらこの世界に飛ばされていたんだ。」

 

すると、聞いていた河本の部下が質問してきた。

 

「尾栗三佐はこの世界の未来を知っているんですか…?」

 

その言葉に尾栗は…。

 

「…日本はなぁ、この戦争のあと大きな経済発展を遂げるんだ。世界中が、優れた我々日本の製品を求めてやって来る。現に、アメリカや中国で走っている車は大半が日本車だ。」と、尾栗は艦これの攻略本に記載されていた戦後の様子を話した。

 

「…ところで尾栗さん。戦後の事は分かったが、それまで本土は無事なのかね?」

 

 

「河本兵曹長は、お住まいはどちらで?」

 

「広島だがね。妻と娘二人が住んでいる…。」と、タバコに火を付けながら話してきた。

 

(広島…。)

 

尾栗はみらいにある艦これ攻略本の内容を思い出した。2016年11月…。深海棲艦による本土空襲が本格化し、翌2017年4月18日に国防海軍の基地が近い広島市周辺に大規模空襲があるのだ。

 

 

「…どうなんだね?」

 

と、言う河本の言葉に我に帰った尾栗は「ええ、大丈夫です…。」と、答えるしかできなっ

た。

 

 

「よぉし!お客さんが来ているんだ!いっちょ、歌うかぁー!」と、部屋にいた一人が話始めた。

 

「しけた軍歌なんて歌うんじゃねえぞ…。」と、河本がタバコを手に取りながら呟く。「近藤!お前の十八番をやれ!」と、声がかかり歌が始まった。

 

 

尾栗と佐竹が歌を聞いていると河本が声をかけてきた。

「こいつらと一緒に歌を歌っているとなぁ…。いつも思うことがあるんだよ。」

「…えっ?」と反応する尾栗に

「いつも夕飯のあとに皆で歌を歌うんだ。そうしながら一日一日を過ごしている…。絶対、生きて帰ろう…。戦場で死んでたまるかってんだ!」

という河本の言葉に驚く尾栗だった…。

 

 

 

 

その頃、鎮守府内では吹雪 白雪 深雪 暁 響 が食堂に集まり夕食を食べながら話し合っていた。

 

「明日からの遠征だけど…。あの提督の様子…。ただ事じゃなかったよね?」と白雪が皆に訊ねる。

「確かに、普段の提督とは違うな。」

「そうかしら?私を推薦するなんて、やっと一人前のレディとして見てくれたのかも♪」と、響の言葉を聞いていなかったのか?それとも勘違いしているのか?暁は少し喜びながら話す。

「…けど、提督が自分の指揮下から私たちを外して護衛艦みらい の梅津艦長に任せるなんて…。」

と、白雪が呟いた。

「でもさー。なんか考えがあるからこうしたんだろ?」と、腕を頭の上で組み背伸びしながら深雪が話す。

「ところで、提督やみらいさん、しらせさんはどこ行ったのかなぁ?」と吹雪が白雪に聞いてきた。

 

「…ああ、もしかしたら宗谷お祖母さんのところに行っているんじゃない?」と白雪が答える。

 

 

 

 

尾栗が河本のところへ差し入れをし、吹雪達が遠征について話し合う2時間程前、提督とみらい が乗った車が横須賀鎮守府を見渡せる高台へと続く道を登り高台のとある大きな御屋敷に向かっていた。

 

ピンポーン

 

「ハァーイ!!」

と、私服姿のしらせ が玄関に向かって走っていた。扉を開けるとそこには柏木提督と みらい の姿があった。

 

「…あれ提督?それに みらい さんまで…?どうしてここに?」と提督に尋ねるしらせ。

「それはこっちだよ、しらせ こそ何でここに?」と、質問をそのまま返す提督に…。

「何も書くにも、ここは私のお祖母ちゃん家だよ?明日から遠征で遠くにいくから今日はここで過ごそうと思って…。」

「えっ?ここ、しらせのお祖母ちゃん家だったの!?」と驚きを隠せないみらい。

それもそうだ、横須賀鎮守府を見渡せる高台に大きな日本家屋の立派なお屋敷なのだから…。

 

 

 

二人は家に上がり中を歩いていると提督が、

「しらせ?ところで宗谷さんはどちらに?」

「ええ、書斎にいるわ」

 

「…お祖母ちゃん?」

しらせ が書斎の障子を開けると中には椅子に座り眼鏡をかけ、読書をしているお婆さんがいた。

 

「その声はしらせかい?」

 

「お祖母ちゃん、私の鎮守府の柏木提督がいらっしゃったんだけど。」

しらせの声に、椅子から立ち上がり宗谷はこちらに向かってきた。

 

「あら、柏木さんお久しぶりでございます。」

「こちらこそお久しぶりでです。宗谷さん。」

挨拶を交わす二人に しらせは

「あれ?二人とも知ってたの?」

「ああ、俺が自衛官の頃何かとお世話になったんだ。」と、訳を話す柏木提督。

「まぁ、立ち話も何ですからどうぞ座ってください。」と、隣室の和室に案内される。

 

「ところでしらせ?このお方は?」

と、みらい がしらせ の耳元で尋ねてきた。

 

「おや、こっちの子はみかけない顔だねぇ?」と、宗谷に行きなり振られたみらいは…。

「はっ!はい!!…私は海上自衛隊ゆきなみ型イージス護衛艦の3番艦 みらい と申します!!」と、緊張して裏声になっている みらい に宗谷手を差し出し、

「初めまして みらい さん。私は、海上保安庁所属 初代南極観測船 宗谷 と申します。」

「ど、どうも…。」と、緊張しながら宗谷と握手する。

「ところで みらい さんは しらせ の友達だそうですね?数少ない しらせ の友人になってくれてありがとう…。しらせ は小さいときから人付き合いが苦手でねぇ~」と、突如 しらせ の昔話を始める宗谷に

「お祖母ちゃんヾ(゚д゚;)恥ずかしいからその話はいいよぉ~」と、しらせが制止する。それを見ていた提督は思わず吹いてしまった。

「もぅ~提督も笑わないでよぉ~」

と、顔を真っ赤にしながら話す しらせ。

「ハハハ…。ところで柏木さん?ここへ来たのは何か用があるから来たのでは?」

「えぇ、明日からの遠征について宗谷さんに相談したいことがありまして…。おっと、すまんが しらせ大事な話だから、一旦席をはずしてくれないかな?」

と、提督が席を外すよう頼んできた。

「ええ、いいですよ…。みらい!私の部屋に行こっ!色々と見せたいものもあるし。」

「うん…。」

しらせ に言われて部屋から出る みらい は、宗谷の事がずっと気になっていた。提督が、今回の遠征について宗谷に話している頃、しらせ と みらい は しらせの自室にやって来た。

 

「ここが、しらせの部屋なの…。」

しらせ の自室は鎮守府の相部屋の倍はあり、12畳程の和室の中に、南極観測に使う資料や道具等が綺麗に整理整頓されて置かれていた。そして、縁側からは広い庭が見え月明かりが差していた。

「ところでみらい~ここには何しに来たのよ?」と、明日からの遠征に備えゴソゴソと荷物を整理しながら しらせ が尋ねてきた。

 

「いやぁ、提督から一緒に来てくれって言われてついてきただけなの。」と、苦笑いで返答する。

 

「ところで明日の出港時間聞いてる?」

と、部屋の時計を見ながらしらせが尋ねる。現在の時刻は1830だ。

「梅津艦長の話だと、明日の0600に出港する予定よ。」と、みらいから聞いたしらせは少し考えたあと…。

「…そっか、0600出港か。」と、呟き…。

 

 

 

「んじゃ、明日の0500にここを出れば良いから…。せっかくだから泊まってく?」

 

 

「へ?」しらせ の言葉に少し驚いたみらいだったが、折角の機会ということで柏木提督と相談してみたところ…。奇跡的に外泊許可を得ることができた。

 

 

「んじゃ、みらい しらせ !明日の朝0500に車を迎えに来させるから…。今日はここでゆっくり休みなさい…。明日から忙しくなるからな。」と、二人に明日の予定を伝え車に戻る柏木提督。

 

ブロロロロン…。

 

提督の運転する車は、暗い山道を赤いテールランプを残しながら鎮守府へ戻っていった。

「みらいさん。夕食を用意するまでの間、しらせと一緒にお風呂に入ってきなさい。」と、後ろから宗谷が声を掛けてきた。

しらせに案内されて風呂場にやって来たみらい。風呂は鎮守府のドックよりか一回り小さかったが、数人で入ってもゆっくりと足を伸ばして入れるゆったりとした構造だった。みらい が身体を洗っていると、先に浴槽に入っていたしらせがこのようなことを話始めた。

「あ~あ…。明日から遠征かぁ~ このお風呂にもしばらく入れないのかぁ(泣)」

「ハハハ…。また、ここに帰ってくれば入れるよ…。」と、慰めるみらい。

「でもさぁー。私が一緒に着いていって役に立つことあるのかしら?」と、膨れっ面で みらいに遠征の事を言ってくる。

「私、みらいと違って観測に特化してるから…。持ってる武器は護身用の機関銃だけだよ~戦地に行くなら、せめてCIWS位は追加しておきたいなぁ…。」

「ハハハ…。私はイージス護衛艦として生まれてきたからね…。日本を守るって使命があるし…。でも、しらせ はしらせで私には出来ないことだってあるでしょ?例えば、気象観測や海洋観測とか…。私よりも観測機器はいいでしょ?航行するのに気象データと海洋データは大切なんだから!」と、みらいが話した直後…。

 

ザハァ!

 

と、浴槽から立ち上がるしらせ。

「そうよね!私が呼ばれたのは気象と海洋観測のデータ採取をやってくれと頼まれたからだわ!明日から頑張るよ!ありがとう みらい♪」

 

 

 

 

翌朝 横須賀 宗谷邸前

 

みらいとしらせの二人を迎えに車がやって来た。

「おはようございます。横須賀鎮守府よりお迎えに上がりました。」と、迎えの兵が敬礼する。

「おはようございます。」と、二人は挨拶し車に荷物を積み込み始めた。すると、家から宗谷が出てきて…。

「しらせ。みらい…。これを持っていきなさい。」と、二人に御守りを渡した。「私が艦娘の時に使っていた艤装の塗装の欠片が入っているの。これがあれば安全な航海を続けられるよ。」

「ありがとうおばあちゃん!」と、宗谷に抱きつく しらせ。みらいも「ありがとうございます。」とお礼を言う。

「あと、これ途中で食べなさい…。」と、宗谷は二人におにぎりを渡した。

「おばあちゃんありがとう…。」と、すでに涙ぐむしらせ。みらいも宗谷としらせの三人で一夜を過ごし、今までのストレスやこれから先の航海への不安を幾分、和らげることができた。

 

ブロロロロロロロロロロ…。

宗谷邸から鎮守府に向けて、二人の乗った車が出ていく。「ありがとう~!おばあちゃん~!」という、しらせに続いて…。「宗谷さぁーん!ありがとうございました~!」と、みらいも大声でお礼を言った。

 

 

 

 

横須賀鎮守府 埠頭

 

みらい達が護衛艦みらいに到着する頃、時計は既に出港20分を切っていた。二人は自室に置いていた荷物を取りに一旦戻り、船に戻ったときには出港時間だった。

「あれ?みらいさんとしらせさん?昨日はどちらに行っていたのですか?」と、港を離れるみらいの甲板で吹雪が聞いてきた。

「あぁ、昨日の夜は宗谷さんのところに行っていたの。」

「そうでしたか、急に姿が見えなくなったので少し心配していたのですよ…。」と、吹雪は少しだけスネていた。ふと、視線を岸壁に向けるとそこには柏木提督をはじめとする横須賀鎮守府の艦娘達が並んでいた。

 

「総員、帽振れ~」

 

艦橋からアナウンスが流れ、甲板に整列したみらいクルーや吹雪達艦娘も一斉に敬礼した。「あっ!」ふと、隣にいた尾栗が声を上げる。

「河本兵曹長ー!!」と、叫びつつ手を上げる。すると…。岸壁にいた河本は無言で敬礼をした。

 

「よし…。機関前進半速~」

艦橋で梅津が指示をする。そしてマイクを取り…。

 

「これより、深海棲艦との戦闘海域に入る。対空、対潜、対水上警戒を現にせよ。」

 

朝日に照らされながら、海上自衛隊のイージス護衛艦みらいは横須賀港を出港した。

 

 

~神奈川県 三浦市城ヶ島~

 

東京湾の出口に当たる城ヶ島の灯台で一人の若い男が望遠鏡で護衛艦みらいを見つけていた。みらいを確認すると…。

 

ピッピッピ…プルルルル…。

 

「…あぁ、私だ。例の護衛艦が横須賀を出た。」と、携帯電話で話す。

「…了解した。引き続き、例の件。横須賀鎮守府の監視を頼む…。安室君…。」

 

電話を終えた男は駐車場へ向かい…。

ブオオン…。ブオオオオオオオォォォォォォォ…。

という、スポーツカー特有のエンジン音を残し立ち去った…。

 

 

 

 



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航跡17:マリアナへ

 前回の投稿から随分と間が空いてしまいすみません。このところ忙しくて執筆どころではありませんでした(汗) 今回の話はマリアナへ向かう航路の話です。


 

 横須賀鎮守府を出港した海上自衛隊イージス護衛艦[みらい]は一路、前線基地があるマリアナ諸島へと向かっていた。予定では、マリアナ諸島到着は7月1日の夕方に到着の予定であったが…。ルートの途中のマリアナ諸島の北東250キロ地点で台風が発生し[みらい]の航行ルートと重なった影響で進路を変更するか否かCICにて会議がなされていた。

 

「このままのルートだと…。約12時間後に台風8号の影響圏に入ります。」と、みらい艦内の航海科にて気象観測の手伝いをする しらせ が資料を見ながら話す。

 

「了解…。」

 

CICのモニターを見ていた梅津艦長が呟く。モニターには気象衛星で観測された台風8号の映像が映し出されていた。

 

「こりやぁ…。予想よりもデケェな。」と、CICに呼ばれた尾栗が話す。

 

「このまま進んだ場合…。台風のど真ん中を突っ切る事になる。そうすると、前方で交代しながら哨戒している艦娘達が高波にさらわれる危険性が高い。」菊池が話した通り敵勢力からの防御として、艦娘達の協力の上[みらい]前方後方2キロ地点に哨戒任務が得意な艦娘を配置し警戒に当たっていた。

「台風8号は日本時間1530現在、マリアナ諸島の北西380地点にあり、中心気圧は910ヘクトパスカル。中心付近の最大風速は75㍍、最大瞬間風速は85㍍以上です。台風の半径は450キロで中心の半径120キロは50㍍以上の暴風が吹いています。北北西に進路を変え、一時間に15キロの速さで進んでいます。どうされますか?」と、ヘッドホンを外し しらせ が訪ねてきた。

 

 

「うむ。航海科、台風を迂回した場合のマリアナ諸島到着予想を調べてくれ。航海長、海図を。」と、尾栗に伝え台風を避けるルートの模索が始まった。

 

バサァ

 

指揮台に大きな海図が広げられる。すると菊池が、赤ペンを持ってきて航海科と気象庁、それに南極観測船 しらせ の気象観測のデータをもとに高波が予想される区域に赤ペンで印をつけ始めた。

 

「…こんなに広いのか。」

角松らは台風の影響範囲が予想よりも広く改めて台風の強さを知った。

 

「この場合、進路を東に経由し迂回するのが妥当だと思われますが…。予想よりも影響区域が大きい…。」と、菊池が呟く。

「だが日程上、マリアナ基地入港日時を大幅にずらすことはできんぞ。それに…。」角松の視線の先には、CICの壁に掛けられたカレンダーがあった。7月23日のガダルカナル島強襲へのカウントダウンはずでに始まっていたからだ。

 

「…マリアナ諸島200キロ手前で私が海鳥に搭乗し先に上陸すると言うのはいかがかな?」

CICで意見交換をしていた角松らのもとに、草加少佐がやって来た。

「あの艦積機の航続距離は250キロと聞いたが、台風を迂回し、マリアナ諸島200キロ手前で私を乗せフライトする。そうすれば、船で向かうよりも数時間早く到着できる。しかも、現在、マリアナ基地には山本五十六連合艦隊総司令官や沢井国防軍総監が居ると情報が横須賀から入った。このプラン…。私自身としては有効なプランだと考えるがね。」

 

「…仮に、その山本五十六連合艦隊総司令官や沢井国防軍総監に会えたとして…貴様は一体何をしたい?」と、角松が草加を問いただす。

 

「沢井 宗一国防軍総監と直々に面会し、ガダルカナル島に駐留する国防陸軍第68普通科連隊と、我が国防海軍先遣隊の即時退却…。及び、赤道付近に駐留する陸海空全部隊の日本帰還を具申したいと思っている。 」と、草加は自身が考えたプランを説明した。

 

「国防軍総監とは…。大風呂敷広げやがった…。」と、余りのスケールの大きさに尾栗は思わず呟いた。

 

 

翌朝

 

台風8号を迂回することになった[みらい]は進路を東南東に変えマリアナ諸島へと向かっていた。台風の外側の雨雲に接近しているため、みらい の右前方の遠く彼方に大きな積乱雲が見えていた。しかし台風の雨雲から離れているとはいえ、高波の影響は避けきれず予定よりも速度を落として航行していた。ふと、揺れる船内を艤装を外し制服姿の みらい としらね が艦長室へ向かっていた。

 

「…梅津艦長の話ってなんでしょうか?」

「…さぁ。」と、しらね が疑問の声をあげる。

 

「…やはり、草加少佐の事でしょうか?」

沈黙のあと、みらい か静かに答えた。

「…草加少佐がどうかしたの?」と言う、しらね に みらい は「…い、いえ。何か嫌な予感がので…。単なる小さな事ではない…。なんか、大きな…。世界を変えてしまうような気がしたんです。」と呟いて、その場で立ち止まってしまった。

 

ポン

 

ふと、しらね が みらい の右肩に手を置く。

「大丈夫よ。この船にある…。この世界についての行く末の事…。あの本通りに進む可能性は限りなく低い。私はそう信じるわ。」

 

「…えっ?」

 

下を向いていた みらい が顔をあげる。

「…だって、決められた未来なんて無い。私だって、船の時は日本を守るために護衛艦として生を受けたのよ…。でも実際は1発も実戦で射撃もせず。敵兵一人も殺さず護衛艦としての一生を終えた。…みらい が経験した事は本当のことだと思っている。何せ横須賀に居たときにあなた、嘘をついたことなんて1つもなかったでしょ?」先輩である しらね の言葉に耳を傾ける みらい 。しらね はさらに続けた。

「…そういえば、私の名前は白根山から来ているの。…でも白根山って、一つに纏まってないから、白根三山…。そこから[しらね]という名前を持ってきたの。最初は、どっかの政治家が自分の出身地に白根山があったから しらね って名前になったみたいなんだよねぇ~(笑)」と、笑顔で みらい に声をかけてくる。

「そういえば?みらいって名前…。あれは一般公募だったよねぇ?」と、しらねが聞いてくる。

「ええ、確かに私の名前は一般公募で決まりました。でも、皆さん方先輩達は山や気象、川の名前が名前になっているけど…。」という みらい の言葉にハッとする しらね。

 

「…でも、みらいって名前…最初は、好きじゃなかったけど…。今は、私自信の誇りです。歴戦の勇者の名前って訳じゃないですけど…。自分自身の道を突き進む感じで好きですね。」と、微笑みながら みらい は答えた。

二人が話ながら歩いていると、前方の階段から角松が降りてきた。

「おや?みらい に しらね。二人でどうした?」

「角松副長こそ、どちらへ?」と、しらねが尋ねる。

「俺は、艦長に呼ばれたから艦長室へ向かっているところだが…。」

「あれ…?角松副長もですか!?」

二人から話を聞いた角松は、三人で艦長室へと向かった。

 

コンコン!

 

「角松 洋介 二佐以下、ゆきなみ型イージス護衛艦 みらい 、しらね型汎用護衛艦 しらね。ただいま到着しました。」と、艦長室の前で角松が話す。すると…。

 

ガチャ

 

「御苦労。忙しい中呼んですまないな。」と、梅津艦長が出てきた。三人が艦長室へ入ると梅津艦長は自分の机に向かった。

「…君たち三人を読んだのは、草加少佐の事なんだ。」と、梅津は淡々と話始めた。(…やはり、私が予想した通りだわ。)みらい が心の中で思っていると、梅津は机の引き出しから角松には9ミリ拳銃、みらい と しらね には梅津が預かっていた9ミリ拳銃を差し出した。

「か、艦長…。これは一体…。」と、驚く角松に梅津はこう答えた。

 

「本艦は、順調に進めばあと二日でマリアナ諸島周辺海域へ到達する。草加少佐の提案では、飛行性能の高い海鳥でマリアナ基地へ向かうと提案したが、今後のことを考えると私はSH-60Jで向かった方が懸命だと思うのだ…。」と、梅津は艦長室の窓から外を見つつ話を続ける。

「マリアナ基地には、既に横須賀から連絡が行っているとの報告が来ている。また、我々はあとから入港するとはいえ、先遣隊が草加少佐と佐竹だけでは何が起こるかわからん。海鳥は哨戒ヘリの機能の他にも対空戦闘の機能も持っている。哨戒任務にあたる艦娘達が交代で哨戒活動をしているとはいえ、彼女達も艦娘であり一人一人…。人間であることは変わらない。草加少佐が提案したプランだが、仮に艦娘達がいない場合として海鳥がいない間のわが艦の哨戒活動への影響は45%と砲雷長が試算した。」三人は、梅津の話を静かに聞いていた。

「…それでなのだが、副長とあなた方二人には草加少佐と共にSH-60Jで先にマリアナ基地へ向かってもらいたい。私自身、草加の行動には未だ半信半疑のままだ。だが、君たちは草加のそばで監視もかねて、様子・思想・言動等を探ってきてほしい。特に、奴が[ 国家 ]等と言い始めたら眉に唾をつけてよく聞くんだぞ。」と、梅津は三人に9ミリ拳銃を手渡した。

「艦長、SHの離艦時間の予定は?」と、しらね が尋ねる。

「あぁ、SHはマリアナ諸島近海200キロ地点に到達する明日明朝0530に離艦する予定だ。」と、梅津は机の引き出しを閉め最後に三人にこう言った。

「くれぐれも、拳銃を所持していることを悟られないように。拳銃はあくまで自分の身を守るものだ。余計な争いには決して使わぬよう心に決めていただきたい。最後に貴官らが無事に本艦へ戻る事。これだけは必ず守っていただきたい。」と、梅津は話を終えた。

 

 

7月3日 05:25

マリアナ諸島 テニアン島北東200㌔付近

 

キイイイイイイイイイイン

 

みらい後部ヘリ甲板では、離陸に備えてSH-60Jが

エンジンを起動し発艦体制に入っていた。プロペラから出る風に吹かれながら。甲板で梅津艦長が先遣隊となる 草加少佐 角松二佐 に艦娘の みらい しらね の4人に話をしていた。

「我々がマリアナに入港するまであと丸一日は掛かるだろう…。それまでの間、国防海軍の参謀らと会談し負傷した艦娘達の引き取りなどを交渉してきてくれぬか。」

 

「…了解しました。」と角松は敬礼する。すると、梅津は角松に近寄り右肩に手を置き…。

「副長、くれぐれも無茶はするな。危ないと思ったらすぐにその場から離れるんだ…。」

「ハッ!」と、返事する角松を見たあと みらい達の所にもやって来た。

「我々は、異世界の人間…。この世界について知らないことが多い…。二人とも副長のサポートをよろしく頼む。」と、制帽を外し深々と梅津はお辞儀をした。

 

四人が乗り込んだSH-60Jはエンジンの回転数を上げ、南海…。マリアナ諸島の大空へ飛び立った。

 

「この件、私が選抜されると思いましたが…。」甲板で角松らが飛び立ったSH-60Jを眺めていた梅津に声を掛けたのは菊池だった。

「あぁ、君だったら草加が不審な言動をしたときは直ぐに始末するだろう…。尾栗はあの性格だ、丸め込まれる可能性が高い。たが、角松は未だ草加に対しての判断を決めてはおらん。奴の本心を探るには一番の最善策だと思うがな。」と話し、梅津艦長は艦内へ戻っていった。

 

(洋介…。どんな状況になっても必ずこの船に戻ってこい…。)

 

と、菊池はSH-60Jが飛び去った方向を見ながら心の中で思った。

 

 

 

 

 

 

 



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航跡18:軍事会議~国防海軍と海上自衛隊~ 前編

 遂にマリアナに到着した角松たち みらいメンバー が待っていたのは…。衝撃的な事実とこの艦これ世界の行く末だった。



バララララララララ

 

SH-60J機内では、マリアナ基地に向かう草加 角松 みらい しらね の4人の姿があった。

「あと、30分ほどでマリアナ基地へ到着だな。」

と、腕時計を見ながら角松が呟く。

「ところで角松二佐、左肩に閉まっている物重くはないか?私の経験から推測するには拳銃だろう…。」その言葉に、その場の空気が凍りついた。

「…ま、俺たちは異世界の人間だ。何か起こるかわからない。あくまで、護身用だ。」と、冷静に角松は答えた。

しばらくの沈黙のあと…。

「到着早々、沢井国防軍総監と面会できるものなのでしょうか?」しらね が疑問の声をあげた。

「その心配はない。横須賀の柏木提督とは面識があってな、既に横須賀から連絡が行っているそうだ。」と草加は心配する必要は無いことを伝えた。

「ですが、我々の話…。容易に信じると思いますか?この戦争の行く末を…。」ふと、みらい が話始めた。

「…まぁ、容易には信じまい。だが、来る7月23日のカダルカナル島襲撃の前に…。少しでも多くの、日本軍人を退避させる事が我々の使命であることであることを忘れるな。」と、角松が話していると…。

 

「副長!レーダーに目標視認。迎撃体制に入ります。ベルトをしっかり締めておいてください。燃料に余裕がありません。突っ切ります!柿崎!ドアガンの射撃用意を!」と、操縦室にいる機長の林原が叫ぶ中、草加は「よい心掛けだ…。」と呟いた。

慌ただしくなる機内で柿崎がドア横に設置された機関銃の用意をする。

 

「見えた!」

彼方遠くの前方に3機のプロペラ機が見えた。

「機影3 バンク振ってます。」と、林原が話す。

「我が、海軍の海鳥だな。それと、オスプレイは空軍の奴らだ。」と草加が解説すると同時に、相手から無線が入る。

「こちらは日本国国防空軍マリアナ方面航空隊そちらの国籍及び所属、飛行目的を伝えよ。」

SH-60Jの前方マリアナ基地からやって来たのは、国防海軍の[海鳥]と国防空軍のオスプレイだった。林原が国籍と所属等を伝えていると…。

「…流石、国防軍ね。海軍機だけでは分からないから空軍機まで寄越すとは…。」と、しらね が呟いた。角松らが乗ったSH-60Jは出迎えの海軍空軍両航空機に続き飛行する。しばらく飛行していると急に雲が開け視界が一気に良くなった。

 

「あれが、マリアナ諸島か…。」

と、操縦席で林原が呟いた。

「幹部候補生の時に、航海演習で一度来たことがあるが…。相当、軍事化されてるなぁ…。これじゃ、きれいな海が台無しだ…。」角松はあまりの変わりように暫し苦笑していた。SH-60Jの窓からは眼下に広がる南太平洋の美しい海の中に浮かぶ要塞基地が見えていた。皆が、外の景色に夢中になっていると草加が話始めた。

「…おそらく誘導されるのは基地外れの旧整備場だろう…。あまり目立っては困るらしい。林原機長!着艦目標はあれだ。」

「はっ?」

急に声を掛けられ驚く林原。草加が指差す先には一つの護衛艦の姿があった。

「あそこに見えるのは、我が海軍の改いぶき型護衛艦DDV-194[だいせん]横須賀からの情報だと今、艦内で参謀会議が行われているそうだ。どうせなら、国防海軍のど真ん中に堂々と着艦しようじゃないか。」と、草加が林原に指示する。「許可もなく着艦して大丈夫なのか…?」と、心配する角松をよそにSH-60Jは進路を護衛艦[だいせん]に向きを変えた。

 

 

 

「いかん!奴は[だいせん]へ向かう気だ!」と、急な進路変更に驚く護衛のパイロット達。SH-60Jの機内には護衛の機からの無線が飛び交っていた。また、基地内では急な進路変更により空襲と勘違いしたのかサイレンがけたたましく鳴り響く。

「なんだ、会議中に敵襲か!?」

[だいせん]船内にいた参謀らが外の様子が気になり艦橋へ出てきた。

 

「命令は無視してそのまま着艦だ。空中線に注意しろ。」草加の指示通り、SH-60Jの機内では[だいせん]の着艦ポイントを探し上空でホバリング状態に入っていた。

「上空で旋回中の航空機は友軍機。発砲は認めず!繰り返す!上空で旋回…。」と、基地全体に放送が入る。

 

「なんだあのヘリは!?」

「許可もなしに着艦とは無礼な!」

「誰だ操縦してるのは!」

と、参謀らが怒るなか…。一人望遠鏡を覗きながら…。

(…日の丸に海上自衛隊…。あいつか。)と、心の中で思った人物がいた。

 

 

 

キイイイイイイイ イ イ イ ン…。

 

エンジン音が徐々に下がり、SH-60Jは護衛艦[だいせん]の甲板に着艦した。

「草加少佐誰も出てきませんが…。どうします?」と、林原が心配そうに話すなか草加は上着を脱ぎ正装に着替え扉を開けて降りていった。

「大丈夫だ。この海軍で一番好奇心旺盛な方がやって来るから。」と、草加に続いて角松 みらい しらねが降りていった。

 

カン コン カン コン …。

着艦したSH-60Jに近づく一人の人間がいた。その人物は、紫色の制服を身に付け胸に国防軍全体を統括していることを示す金色のバッジが付いていた。

「国防海軍 海軍少佐 草加 拓海 ただいま帰艦しました。」と、草加はその人物に向かい敬礼した。

 

「私は国防軍総監 沢井 宗一 。草加君、よく帰ってきた。」と、草加の肩を軽く叩く。

「ところであちらの方は?」

沢井が視線を向けるとSH-60Jの前に角松ら みらいクルーが並んでいた。

 

「海上自衛隊横須賀基地所属 イージス護衛艦みらい副長 角松 洋介!」

「国防海軍 横須賀鎮守府所属 海上自衛隊ゆきなみ型イージス護衛艦 みらい!」

「同じく、横須賀鎮守府所属 海上自衛隊 しらね型汎用護衛艦 しらね。」と、三人は沢井総監に敬礼した。

「他に、現在機体整備中の林原機長、柿崎操縦士の合計5名で参りました。」と、角松らが整列して待機していると…。沢井総監はSH-60Jの視察を始めた。

「ふむ…。機体は我が国防軍で使われているのと同じ機体だが…。日の丸に海上自衛隊の文字。明らかにこの世界の代物じゃないね。」と、興味深くSH-60Jを見続ける。

「総監!先日お伝えしたようにお話があるのですがよろしいでしょうか?」草加が沢井に声をかける…。

「おお、すまなかった。つい、見入ってしまったな。」と、苦笑しながら近くにいた水兵に声を掛け角松達を艦内の会議室へ案内した。

 

「どうぞ、こちらの部屋で少々御待ちください。よろしければ、軽食をお持ちいたしますが…。」

「では、何か飲み物をお願いしたい。」

会議室に案内された角松らは暫し、提供されたコーヒーを飲みながら待機していた。

 

ちょうど、30分ほどたった頃だろうか…。係りの者に案内されて、基地内の大会議室へ案内された。そこには沢井以下、国防軍参謀らが座って待っていた。

「改めて紹介する、私は日本国 国防軍総監 沢井宗一と申します。あなた方のことは、横須賀の柏木から聞いております。」沢井の自己紹介のあと、右から続けて海軍の軍服を着た初老の男性を指し

「国防海軍 総司令 山本 五十六。」

二番目の海軍参謀の服を着た単髪黒髪でスポーツマンタイプの若い男性は

「国防海軍 作戦指揮担当 滝 雅信」

三番目の黒い顎髭を生やし中太りで茶色の制服を身に付け、扇子を扇いでいる男性は

「国防軍 警務隊参謀 吉岡 勉 」

紫色の参謀服を身に付け大きな丸眼鏡を掛けた男性は

「国防軍 補給物資支援担当参謀 簗瀬 直也」

そして、陸上自衛隊と同様の緑色の迷彩服を身につけたスポーツ刈りの男性は

「国防陸軍 第82普通科連隊 総隊長 棟方 幸一」

沢井総監が紹介した順に、各参謀らから「初めまして。」や「よろしく。」等と簡単な挨拶を交わした。

「あなた方にお会いしに来た理由は、こちらの件についてです。」と、草加は手早くノートパソコンを開きプロジェクターで正面モニターに映した。

「まず、私の不手際により情報の通達が出来ず…作戦遂行が困難になり多大な影響を与えたことについて御詫びいたします。」と、参謀らに向かい深々と謝罪したあと草加は本題に入った。

「…私はこちらにいる海上自衛隊ゆきなみ型イージス護衛艦[みらい]に助けられ一命を取りとめました。容易には信じられるとは思われないですが、護衛艦みらい は我々と違う世界からやって来ています。」という草加の言葉に改めて沢井達参謀は驚いた。

「護衛艦みらい が居た世界では、深海棲艦はパソコンオンラインゲームの敵キャラクターであることも判明しています。そのなかでも、この現実世界に通じるものがあり…。我々の世界を予言した物が存在していました。」と、草加は一つの書類を机の上に出した。そして…。

 

 

「人類は絶滅の危機を脱することはできます。しかし、2018年8月15日日本はアメリカ合衆国に吸収合併され日本国はアメリカの支配下となります。」

 

 

 

みらいCIC 14:25

 

「…副長は上手くやってますかね?」と、菊池がボソッと呟いた。

「分からんな、草加少佐と一緒の洋介…。いや、副長はいつもと違ってなんか可笑しいなぁ。」と、珈琲を片手にCICに入ってきた尾栗が話す。

「…まぁ、よかろう。副長は根が強い。どんな苦境でも相手に対する対抗心、優しさ、助け合う心は忘れん男だ。なぁに、心配する必要は無いさ…。」と、梅津艦長は二人に安心するようにと伝えた。護衛艦みらい のマリアナ諸島到着まで、あと12時間に迫っていた。

 

 

 

 

 

ミクロネシア連邦 ボンペイ島 南150キロ地点現地時間 14:45

 

アメリカ海軍 第12南太平洋駆逐隊 旗艦アーレイ・バイク級ミサイル駆逐艦[ジョン・フィン]以下、艦隊5隻がマリアナ基地へと向かって居た。

 

「あと、マリアナ基地まで3日か…。」

アメリカ、ノーフォークからマリアナ基地へ派遣され長旅の影響なのか、乗組員達は深海棲艦の事など忘れ船旅をのんびり楽しみながら過ごしていた。だが、その油断が命取りとなった…。

「前方15キロに積乱雲。総員、シケに対応せよ。」

この時、この積乱雲を迂回すれば無事にマリアナ基地にたどり着くことが出来たのだが…。この、第12南太平洋駆逐隊の勇姿を見た者はこの時を境に2度と無かった。

〔ワレ、敵勢力ト接触…。敵ハ深海棲…。〕

という、電文と救難信号を残して…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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航跡19:軍事会議~国防海軍と海上自衛隊~ 後編


角松達、海上自衛隊と国防海軍がマリアナ基地で軍事会議をしている最中…。米海軍の艦隊が消息を絶ったと一報が入る。米海軍から捜索活動に向かうよう要請を受けた国防海軍は…。



~日本国 国防軍マリアナ基地 大会議室~

 

「我々、日本はアメリカと共に戦い…。戦に勝っても日本は消えるというのか…!!!」と、滝が机を叩きながら話す。

「沢井総監!確証もないのにあの男の意見を信じるのですか!」陸軍の棟方は嘘ではないかと草加を疑っていた。

「この戦争でアメリカが裏切るのは目に見えている。世界の頂点に居続けたいのだろうアメリカは。だから、私は自衛隊の解体には反対だったんだ!!」

「今の問題と、自衛隊解体の話は関係ありません。」扇子を扇ぎながら話す吉岡を簗瀬は制止する。会議の雰囲気が何やら悪くなったとき角松が話始めた。

「我々が話す権利があるかどうか…。現段階では判断しにくいですが、我々は今後起こりうる戦いでは人命最優先に専守防衛を第一に行動していくつもりです。」という、角松の話に山本が…。

「…先の大戦では、無謀な計画で多数の軍人及び民間人に犠牲者が出た。これは私の意見だが、深海棲艦という我々人類の敵だが…。あれは…。先の大戦で亡くなり未だに成仏できずにいる御霊と考えても良いのかもしれんな…。」

その言葉を予想していなかった参謀らは驚きのあまり暫くの間沈黙していた。その沈黙の中、しらね が手を挙げた。

「私…。いえ、艦娘としての意見ですが…。先程の山本長官の意見ですが…。一理あると思います。」

「しらね さん…。」と、みらい が しらね を見つめる。

「何を言いたいのかね…?」と、沢井が しらね に尋ねる。

「先程の自己紹介の通り、我々は海上自衛隊護衛艦の艦娘です。通常の艦娘達と違って火力や装備は有利ですが…。耐久力が低く、長距離援護射撃等で戦闘に参加しています。しかし半年前、私は哨戒任務中に敵艦と接触しました。」と、自身の体験を話始める しらね 。「あのときは、敵である深海棲艦がダメージを受けており…。私が攻撃されることはありませんでした。しかし、いつ撃たれるか分からないので私は拳銃を持ち相手に向けました…。すると…。」

 

 

「…撃たないで。」

 

 

「敵から言われたその一言で、私は自衛隊の専守防衛を思い出しました。その時の私は、周りの知っている護衛艦が次々と敵にやられていくなかで…。自分の感情を押しきっていたんだと思います。とにかく、敵を倒さなきゃと…。」と、しらね は自身が体験した出来事を話した。みらい が後で聞いたことだが…。その負傷した深海棲艦は空母ヲ級で他の鎮守府の艦娘達からの攻撃に遭い、艦積機のほぼ全てを失い撤退している途中だったという…。拳銃を向けられ死を意識したのか涙ながらに命乞いしたそうだ…。護衛艦娘だった しらねは、心の中にある深海棲艦に対する恨みを押し切り見逃したのだった。

 

 

「…なるほど。深海棲艦も我々と同じく感情を持っているのかもしれないな。」と、沢井は呟いた。

「しかしな、沢井。奴等のせいで俺達はどんどん仲間を失っているんだぞ…。今さら、そんなこと考えられっか。」と、吉岡は扇子を持ちながら話した。

 

参謀会議をしている頃、一人の通信兵が大会議室に慌てた様子で入り山本の元に駆け寄った。

「報告、本日1500頃ミクロネシア連邦ボンペイ島の南西180キロ地点にて米海軍第12南太平洋駆逐隊が消息を絶ちました。」

「何ぃ?」その報告に山本は驚いた。その第12南太平洋駆逐隊はノーフォークからマリアナ基地へ転属となった新鋭イージス駆逐艦部隊だったのだ。「…既に、我が基地の米空母[ジョージ・ワシントン]が既に出港した他、各米海軍艦艇及び空軍偵察機が離陸しています。我が国防軍にも応援要請が来ていますがどうしますか?」

その報告に、一部の参謀らが反応し始め騒然となり始めた。

「我が国防海軍から汎用護衛艦を3隻だそう。それと、P-3c哨戒機を2機応援に出せ。」山本が的確に指示を出す。その上…。

「総監、我が国防軍から応援部隊として汎用護衛艦と、哨戒機を派遣しますが宜しいですか?」総監は少しの間、沈黙し考えていたが…。

「了解した。人命救助を目的として派遣する。くれぐれも、無茶はするなと救難部隊に伝えてくれ。」

「了解しました。」山本は資料をまとめると大会議室から足早に出ていった。

「すまない、角松君。この状況だ話はまた後日行おう。そちらの艦長とも詳しく話がしたい。」

「はっ、了解しました。こちらこそ御忙しい中時間を頂戴しありがとうございました。」と、深々と礼をする。

「君、この方達を部屋まで案内してくれ。」大会議室の隅に居た世話役に角松らを頼むと、沢井は空軍の司令官を呼び出した。

 

 

キイイイイイイイイインンンン

 

角松らが[だいせん]から降りると綺麗な夕焼け空を新鋭偵察機X-2a[心神]飛行機雲を作りながら通過していった。

「あれは…。」制帽を掴みながら角松が呟く。

「あれは我が日本が自衛隊時代から開発していたX-2a偵察機[心神]ですよ。」と、世話役は淡々と答える。そのあとも順次、マリアナ基地からは日米双方の哨戒機、偵察機が離陸していった。また、国防海軍からは汎用護衛艦[さがみ][おおい]と、イージス護衛艦[つるぎ]が出港した。

 

「消息を絶った米海軍の艦艇…。大丈夫でしょうか。」ふと、みらい が心配そうに声をあげる。「さぁ…。無事かどうか…。私には分からないわ。今は、無事なことを祈るしかないですね。」しらね は部屋から外を眺めつつ呟いた。

 

 

 

同時刻 みらいCIC

 

「こりゃすげえ…。」青梅が唖然としながらモニターを見つめる。モニターには、マリアナ基地から出てくる数々の船舶、航空機が表示されていた。

「我々の方向とは違うようですが…。何かあったようですね。哨戒機や偵察機が離陸しています。」菊池がボソッと呟いた。

「…うむ、我々がマリアナ基地へ入港したいのは山々だが…。この状況下、無理に接近するのは危険だろう。」と、梅津は判断し船の速度を半減するよう指示した。

「敵勢力に発見される前に、入港はしたいのだが…。ソナー、対潜水艦に注意せよ。」

ソナーに対潜警戒を現にさせ、みらいはマリアナ諸島沖合で待機することとなった。

「マリアナ入港の許可は、副長と草加次第でしょう。あの二人と案内役の護衛艦娘の二人に任せるしか方法がありません。」モニターを見つめていた菊池が眼鏡を外し、拭き始めた。「…どんなことがあっても、思考停止。には、陥りたくないな…。」と、横で梅津が小さな声で呟いた。

 

 




 
 久しぶりの更新となりました。話がゆっくり過ぎてすみませんm(__)m なかなか時間が取れず…やや執筆が遅れています(汗)そういえば、私自身。先日から艦これを始めました。相棒は吹雪です。のんびり自分のペースで執筆していくので温かい目でご覧ください。


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航跡20:響と海鳥

 
 なかなか更新できずスミマセン(汗)今回は第六駆逐隊の一員である響と航空科の佐竹との間にできた…。ほんわかした艦娘達の日常を描いてみました。




 その頃、みらい艦内の食堂では手が空いた隊員や非番の隊員達が夕食を取り始めていた。その中には、前方で哨戒任務に当たり、交代してきた艦娘達の姿もあった。

 

・サーモンフライ

・鶏肉とトマトの洋風煮込み

・温野菜サラダ

・白飯

・コンソメスープ

・漬物

 

と、艦内の食堂入口に夕食の献立を書いたホワイトボードが下げてあった。

「あ~。哨戒任務は疲れるぜ~ 」と、任務が終わりひと風呂浴びてきた深雪と白雪が食堂に入ってくる。みらい と しらね がマリアナ基地へ先行して行っている間、吹雪 白雪 深雪 響 が交代で警備にあたっていたのだ。ただイージス艦娘の みらい と護衛艦娘の しらね が居ないことで、旧装備しかない艦娘達を海上で任務に当たらせるのは危険と判断した梅津艦長の計らいにより、艦橋デッキから監視任務をしていたのだ。

「おっ、深雪ちゃん随分日に焼けたなぁ~」

と、給養員から声が掛かる。

「ずっと、艦橋デッキに居たからこんなに焼けちゃったよ(笑)」と、制服の袖をまくりながら見せびらかす深雪に…。「深雪ちゃん、恥ずかしいからやめてよぉ…。」と、白雪がボソッと呟く。深雪達、艦娘達が来たことで一部男性隊員達の行動に支障が出てしまったが…。深雪の持ち前のキャラで長い航海を楽しく乗り切れてるようだ。もちろん、各艦娘達は持ち前の特技を活かして各科に配属となり みらいクルーの一員になり始めていた。

 

ガチャガチャ…。

 

深雪達は食堂で自分達が食べる分を取り、席へ向かった。すると、食堂の片隅で一人で食事している艦娘の姿を見つけた。

「あ、白雪さんに深雪さん。」

「おっ、なんだ響は一人で飯食ってんのか?」

一人で食事していたのは、艦娘の響だった。交代で任務に当たっているため、今日の非番は響だった。「響ちゃん…。今日は何してたの?艦内で見掛けなかったけど…。」と、白雪が尋ねる。すると、隣の机に座っていた佐竹が…。

「今日、響君はうちの航空科の見学に来てたよ。」と、意外なことを話始めた。その事に驚いた白雪と深雪は話を聞き始めた。佐竹の話によると…。

 

 

 

昼頃 みらい後部甲板 航空機格納庫

 

「…。」

非番で何もする事が無く、艦内を散策していた響は後部甲板にやって来ていた。非番の隊員達が甲板で釣りをしていたが、響は釣りよりも整備中の海鳥の方が気になったのだ。

「…おや?」格納庫の片隅で整備長と佐竹が話していたが、こちらに気づいたのか佐竹が声をかけてきた。

「…えっと。艦娘の響君だっけ?」

「…うん。」響は静かに返事した。

「こいつが気になるのか…?」佐竹は海鳥を指差した。整備中の海鳥はコックピットの窓が開けられ翼を畳んだ状態で格納されていた。SH-60Jがマリアナ基地に先行しているため、普段よりも格納庫の中は広くなっていた。そのあと、佐竹や整備員達が整備しているのを響はしばらくの間見ていた。

「…響君。機体は飛ばせないが…。折角だから、操縦席座ってみるか?」と、声をかけてきたのは整備長だった。

「操縦席…。乗ってもいいのかい?」と、目を輝かせながら佐竹を見つめる響。

「いや、佐竹と相談してな海鳥が気になるなら色々見せてあげようって話になったんだ。響君はこう言う航空機は好きかい?」と、佐竹から聞かれた響は、

「…хорошо(ハラショー)航空機は嫌いじゃない。」と、顔を赤くして呟いた。

そのあと、響は佐竹達航空科の計らいで一日航空科体験という艦娘では中々出来ない貴重な体験をしたのだった。勿論、艦艇一般開放の時に使う航空科の試着用制服を身につけ海鳥の操縦席にも座ったそうだ。その時、偶然通りがかった片桐が航空科の制服姿の響の写真を佐竹達と共に撮ってくれたのだが…。どうやら、写真に写ったのが恥ずかしかったのか…。夕食を食堂の片隅で食べていたのだ。

 

 

 

「いいなぁ~俺も、海鳥の操縦席座ってみたかったよぉ~」と、いじける深雪。

「普段、私たちは艤装を着けて海上で活動しているからねぇ~貴重な体験だったでしょ。」白雪はちょっと羨ましそうに話した。

「響君、結構、海鳥に興味があるのか色々聞いてきてねぇ~ビックリしたよ。」と、お茶を飲みながら佐竹が話す。

「…佐竹一尉。今日は海鳥を見学させてくれてありがとう。」と、顔を赤くしながら響がお礼を言う。

「…また、来たらいいよ。俺も、休みの日は大空を眺めていたい日もあるから。」と、響に言ったあと佐竹は格納庫へ戻っていった。後日、片桐が撮影した航空科の一員とパイロット服姿の響を写した写真は格納庫の片隅に飾られることとなった。深雪達が少々、不満な顔をしていたのは秘密である(笑)

 

 

護衛艦みらいで、みらいクルー達が楽しみながらマリアナ基地へ向かい航行していたその夜…。米海軍第12駆逐隊の旗艦アーレイ・バイク級ミサイル駆逐艦[ジョン・フィン]以下、艦隊5隻が行方不明になった海域を哨戒中の汎用護衛艦[さがみ]搭載のSH-60kが第12駆逐隊の物と思われる救命ボートと漂流中の残骸を発見した。無事に救助された乗組員は全体の1%にも満たない8名だった。翌朝まで続いた捜索活動は敵勢力との接触を避けるためと、発達した熱帯低気圧接近にともない明朝0800をもって、捜索活動は打ち切りとなった。

 

 



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航跡21:草加の判断

 
 前回、消息不明になった米海軍の艦隊を捜索するためにマリアナ基地から捜索部隊が出動しているなか…。草加少佐がとった行動とは。



 

7月7日 午前0900 国防軍マリアナ基地 大会議室

 

先日の米海軍アーレイ・バイク級ミサイル駆逐艦[ジョン・フィン]以下、艦隊5隻が消息をたった事件の影響が残り。日米安保条約に伴う合同捜索活動の影響が予定よりも数日掛かった。横須賀鎮守府 柏木 淳 提督を交えた対深海棲艦との戦闘及び敵判別の方法などを学ぶための講座は交代制で行うことになった。講座開催に先立ち、みらい幹部と国防海軍幹部との会合が3日遅れで行われた。

 

「あなた方がこの世界で行動していくに当たり、敵味方の判別をせねばならない場に必ず遭遇いたします。その為、敵の種類をお教えいたします。」横須賀鎮守府から航空機でマリアナ基地へやって来た柏木提督と共に、深海棲艦の判別方法を約1週間に渡り みらい隊員達は交代で受講した。

 

7月14日 2230 護衛艦みらい艦内

 

「なるほどなぁ~」

みらい艦内の自室で尾栗が、国防海軍から支給された資料とにらめっこしていた。資料には、敵である深海棲艦の種類と武装等が記載されていたが…。深海棲艦はどこから現れ、なぜ人類を襲うのか?という具体的な事に関して情報をつかむには余りにも少なかった。

「敵の種類と武装だけしか書いてないからなぁ…。敵の思考や行動力に関しては情報不足だな…。」と、菊池が呟く。「しかし、この情報だけでは…。我々は、独自に深海棲艦の事を調査していく必要があるな。あの、攻略本に記載されてるデータとこの資料だけじゃ…。足りねえな。」と、角松は資料を見つめながら話した。

 

 

7月16日 1130 国防海軍マリアナ基地 司令部屋上

 

「…草加君。話とは何だね?」

マリアナ基地内の国防海軍司令本部の建物屋上に、

国防海軍司令長官の山本と草加少佐の姿があった。

「…長官にお会いしたかったのは、我が国防軍の防衛ラインを台湾まで引き下げていただきたくお話に参りました。」

 

 

キイイイイイイイイイインンン

 

屋上のすぐ上を、国防空軍のC-1輸送機が通過し本土の方向へ飛び去っていった。

「…ふっ。君の言うことも確かだな。」

草加の言う通り、現在の状況はマリアナ基地と日本本土を結ぶ物資輸送ルートは確立されていたが…。ここ最近、マリアナ基地周辺海域で深海棲艦の目撃情報が寄せられ国防空軍の戦闘機が毎日のようにスクランブルをしていたのだ。

 

「…近く、カダルカナルで大きな軍事行動が起こると予想しています。それまでに我が海軍…。いや、国防軍の部隊全てを撤退させて欲しいのです。」草加は山本にカダルカナル撤退を具申した。すると、山本が話始めた。

「…確かに、君の話す通りだよ。このマリアナ基地は物資補給を絶たれたら完全に孤立する。だが、カダルカナルにいる日米合わせて約2万5千人の人員をどうやって輸送する。仮に我が国防軍が撤退をしたとしても、アメリカの部隊はどうする気だ?」

「はっ、アメリカ軍は人命を第一にする軍隊です。我が国防軍が撤退宣言をすれば一緒に撤退はすると考えております。」山本からの問いに草加は、米軍のこれまでの動きについて話した。

 

「長官、カダルカナル島にいる国防軍1万5千名の命が長官のご決断にかかっております。ここは是非、ご英断を…。」草加は山本長官の前で土下座をした。土下座をする草加に山本は驚いたが、すぐに声を掛けた。

「草加君、君の提案。上に具申してみるよ。弱腰だと言われても構わない。人命第一で行こうじゃないか。米軍の方には私から伝えておくよ。」山本はそう話しつつ、草加を起き上がらせた。「長官ありがとうございます。ですが、もうひとつお願いがございます。」と言い、自身の持っていた9㎜拳銃を差し出した。

「これは?」驚く山本に草加は…。

「この案件、完全な軍規違反でもあります。勝手に作戦を指揮するなど…。反省のために、しばらくあなたに預かっていただきたい。」草加の話を聞き、山本は草加に支給されていた護身用の9㎜拳銃を受け取った。

「うむ、私が授けたものではないが…。確かに、預かっておくよ草加君。…そういえば、君には戦死通知が家族に送られていたが、訂正するかね…?」山本から戦死通知の訂正について聞かれたが、「いえ、まだ私にはやることがあります。訂正は全て終わってからでお願いします。」と言い、深く一礼し立ち去った。

 

(最近の若い者にしては、きちんとしているな。)

山本はそう思いながら、建物屋上から基地のなかを見渡した。岸壁には、海軍の各鎮守府からマリアナへ派遣された多くの護衛艦の姿の他、少し離れたところに寂しく停泊している海上自衛隊護衛艦みらい の姿も見えた。

 

 



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航跡22:人類と深海棲艦 前編


 さて前回、草加少佐が今後の行動を判断し山本司令長官に具申している頃。南鳥島沖合いでは調査船[かいれい]が異変を察知していた。今回の話は、深海棲艦とは何なのか?この世界に深海棲艦が出現した頃のお話です。



 

東京都沖ノ鳥島近海

 

日本海洋研究開発機構の調査船[かいれい]が無人探査機[かいこう]を使い日本海溝の調査に当たっていた。無人探査船から送られてくる映像は、船内の調査室で解析されていた。部屋の壁は、二人の写真が飾られていた。深海棲艦が登場する2年前、有人深海調査船[しんかい6800]が日本海溝の深さ4950メートル付近で地震研究のデータ採取をしていた際、突如海流が乱れケーブルを切断。そのまま行方不明となる大事故が発生していたのだ。写真は、その事故で亡くなった浦田 勝人技官と米蔵 平次技官の遺影だった。事故の詳細な原因は不明だが、事故発生5分前の映像に亀の甲羅のような楕円形のものが見え、青白く光る炎が映ったのを最後に連絡が途絶えた。有人深海調査船で事故が発生した影響で当面の間、無人深海探査船での調査が進められていた。事故があった海域では、一時調査が中止されたが近年再開され今に至っている。

 

「…ん?なんだこれ。」モニターを見ていた調査員が疑問の声をあげる。班長らしき眼鏡を掛けた人物が「カメラを少し下げてみろ。近くじゃよくわからん。」と、指示をする。徐々に、周りの風景が明らかになってくる。深海には多数の甲羅ような…。人の帽子のような…。楕円形の物が多数転がっていた

。「なんだこれは…?」班長が疑問の声をあげる。

 

「まさか…。深海棲艦の墓場…?」

 

一人の調査員が話した通り、見つかったのは深海に眠る遺跡などではなく…。深海棲艦の墓場と思われる。楕円形の物が散乱した場所だった。

 

 

日本海洋開発研究機構からの情報により、海上保安庁横浜海上保安部の巡視艇PL-01[のじま]とPL-66[しきね]が調査へ向かった。

 

「岸田一等保安監…。[かいれい]からの情報は本当でしょうか…?」

「分からんな…。現物を確認しないことには断定できん。」と、巡視艇[しきね]船内で岸田一等保安監と伊達三等保安監が話し合っていた。[かいれい]からの報告を受け、父島近海でパトロールをしていた[のじま]と[しきね]に本部から調査命令が出ていたのだ。

「しかし、なぜ我々海保が…。この案件、普通だったら国防海軍が調査するはずじゃ…。」と、伊達が不思議な顔をしながら岸田に尋ねる。すると、

「海軍の知り合いによると、今はマリアナを防衛ラインとして深海棲艦との戦闘をしているそうだ…。正確な情報じゃないんだ…。余計な事に首を突っ込みたくないんだろう。」と、岸田は海を見ながら話す。その頃、もう一方の巡視艇[のじま]では米森一等海上保安監が届いた通報を元に現状をパソコンで整理していた。

「米森さん、コーヒーです。」と、部下の保安監がコーヒーを持ってきた。「おっ、サンキュー。」と、米森はお礼を言いコーヒーを飲む。パソコンには、本部から寄せられた通報内容が表示されていた。米森は沖ノ鳥島近海での過去の通報及び調査データを調べていた。

[2011年沖ノ鳥島近海 海底における地殻変動についての考察]

パソコンにはそう記載されていた。

「米森一等保安監、何ですかこれ?」と、部下が尋ねるが米森は…。「あぁ、前にも似た事があってな…。その時は海底の地殻変動だったんだ。」

米森一等海上保安監が見ていたのは、深海棲艦が現れる一年前に沖ノ鳥島近海で観測された群発地震についての気象庁発表の資料だった。2011年8月、沖ノ鳥島近海を震源とする群発地震が発生し、最大震度3程度の地震が1ヶ月半程続いたのだ。その群発地震から3ヶ月程が経ったある日、沖ノ鳥島近海で、パナマ船籍の石油タンカーが何者かに襲撃される事件が発生していたのだ。その後、数々のタンカーや商船が何者かに襲撃され一部は沈没する等…。不審な出来事が多発し、遂には伊豆半島周辺海域まで事案が北上した。そして、2012年10月ハワイ沖合に深海棲艦が出現する数日前に静岡県東伊豆町にある稲取温泉が何者かに海上から砲撃されたのだ。この事件の直後に深海棲艦が出現し世界は大混乱となったのだった。米森は静岡県警から提供された、稲取温泉砲撃事件の資料を開いた。資料の写真には砲撃によって破壊された伊豆急稲取駅の他、観光客が携帯カメラで撮影したと思われるピンボケの写真があった。

「米森一等保安監…。これって。」

「あぁ、ピンボケで少し見にくいが…。深海棲艦と断定していいだろう…。」

二人が見た写真には、明らかに深海棲艦の駆逐艦が写っていた。深海棲艦出現に伴う混乱で、静岡県警による捜査は進んでいなかったが…。あの事件は、深海棲艦によるものだと米森は確信していたのだ。

「最初は、某国のテロリストが襲撃したのかと思ったが…。静岡県警の神山警部の言った通りだったなぁ…。」と、話し米森はコーヒーを口にした。

 

 

同日1415 沖ノ鳥島近海 調査船[かいれい]

 

「海上保安庁の岸田です。通報を受け、参りました。」巡視艇[のじま]と[しきね]は通報を送った日本研究海洋開発機構の調査船[かいれい]に到着した。

 

「こちらです。」かいれいの乗組員に案内され、無人探査船の操縦室にやって来た。バッテリーの関係から無人探査船は現在引き揚げ中との事だったが、問題の場所はビデオカメラで音声と共に録画されていた。乗組員がビデオを再生すると、最初は深海に棲息する魚や海老が表示され深度2520メートルと表示されていた。「すみません、編集途中なもので…。問題のところまで早送りします。」と、乗組員がリモコンの早送りボタンを押した。早送りの映像には深海の生き物の他、海底の様子が映っていた。

 

「ここです。」

 

と乗組員が再生ボタンを押し、映像は通常のスピードになった。録画開始から1時間半…。モニターに奇妙な楕円形の物が映し出された。

「どう見ても…。自然界の物じゃないですね。」

と、伊達が呟く。

「まさか…。深海棲艦の墓場…?」

「よく観察してみろ!」

等と、映像と共に録音された音声は事態の緊迫さを証明していた。

「岸田一等保安監。これは国防海軍に伝え、状況を確かめる必要があると思います。」米森は緊迫した様子で岸田に具申した。

「いや、この調査地点のより詳細なデータが欲しい。調査データを見せてくれ。海軍に伝えるかは、調査データを見てからだ。」岸田はそう話し、[かいれい]クルーに現場の海域の調査データを持ってこさせた。

 

資料室からは、5年前に調査した際のデータが残っていた。データにはこのような多数の楕円形の物体があるとは記載されていなかった。岸田は本部に問い合わせ調査を続行するか尋ねた。すると、本部からの要請は意外なものだった…。

「…海洋調査船[かいれい]に告げる。貴船は、当海域での調査を中止し父島二見港へ入港せよ。父島にて国防海軍 父島分遣隊による詳細な調査を行う。」岸田は本部からの連絡を受け、[かいれい]の船長に伝えた。

「父島までの防衛は我々、海保が行います。先頭から[のじま][かいれい][しきね]の順に船間距離1000で縦に並んで航行してください。」

と、岸田は指示をした。続いて、米森と伊達にも指示をする。「米森、[のじま]が先陣を切って航行する。露払いは頼んだぞ。私は[かいれい]にて指示を行う。伊達は[しきね]に戻り、後方の安全確認を厳とせよ。」

それぞれ米森と伊達は巡視艇に戻り、海洋調査船[かいれい]を間に挟んだ形で父島へと舵を向けた…。時刻は1745。既に日は、水平線に沈む寸前で西の空から綺麗な夕焼けが3隻を照らしていた。

 

 

同時刻 国防海軍 護衛艦DD-505[たま]艦内食堂

 

海上保安庁から連絡を受け、[かいれい]を迎えに二見港から国防海軍の護衛艦DD-505[たま]が出港していた。その艦内には横須賀鎮守府から出向していた艦娘の[せとぎり]と[ゆうぎり]の姿があった。

 

「あ~あ…。せっかく、父島にバカンスしに来たのにここに来て任務とはナァー。」と、ゆうぎり が艦内の食堂で嘆いていた。

「ゆうぎり姉さん、父島に来たのは哨戒演習のために来たんじゃないですか。バカンスしに来た訳じゃありません(怒)」と、せとぎり が姉の ゆうぎりを叱る。だが、ゆうぎり は反省する様子もなく不満を言いまくる。

「だって、父島良いところじゃ~ん。海はきれいだし、ご飯は美味しいし。おまけに、雷 電ちゃん達は海で遊んでたし~ぃ 」と、同じく父島に来ていた雷電コンビが海で遊んでいたのを机に突っ伏して嘆く。せとぎり は半ばあきれた様子でいた。

「あ~仕事じゃなくて、王子様とか来ないものかなぁ~(笑)」二人が雑談していると…。

 

「お二人さん?どうしたのですか…?」

 

ゆうぎり が声が掛かった方向を見ると…。そこには白馬にのった王子様…。いや、王子様ではなく…。深海棲艦の研究をしており、父島で調査をしていた技術開発センターの矢澄技官が立っていた。

「えっ…。」と、顔を赤くする ゆうぎり。

「あっ、初めまして。初めてお会いする方ですよね?…私は、護衛艦娘の[せとぎり]と言います!あ、あれ…?ゆうぎり姉さん?」せとぎり が ゆうぎり を見たところ…。ゆうぎり は矢澄技官に見とれて固まってしまっていた。

 

パタパタ

 

ゆうぎり の目の前で手を降っても反応しない為、せとぎり が ゆうぎり を紹介した。「す、すみません。なんか、姉が固まって挨拶もしないで…。」と、矢澄に せとぎり は謝ったが「大丈夫だよ。」と、言われ…。間が抜けてる姉の事を恥ずかしく思ってしまった。

 

矢澄技官が立ち去ってから数分後…。

 

「…あーっ!さっきの人は??」と、ゆうぎり が突如大声をあげた。「とっくに自室に戻ったわよ。」と、お茶を飲みながら呆れる せとぎり。

「さっきの人の名前は?どこの所属? もしかして、この船の乗組員?」と、せとぎり に質問しまくる。

「あの人は、護衛艦[たま]の乗組員じゃなくて…。技術開発センターの調査員よ。深海棲艦の事調べてるんだって。」と、話を聞いた ゆうぎり は…。

「こんなことしてる暇じゃないわ。」と言い、走って食堂から出ていってしまった。走り去る ゆうぎり に対して せとぎり は…。

「姉さんのバカ…。」と、少し頬を膨らませながら小さな声で呟いた。

 

それから一時間後…。父島近海に到達した[かいれい]は父島やって来た[たま]と合流し海保の巡視艇と一緒に父島二見港へ向かった。父島二見港は、大型船舶が入れるスペースが本土との連絡フェリー1隻分しかなく分遣隊用の埠頭も中型船舶3隻しか入れない小さな海軍の拠点だった。幸い、フェリーが当日夕方に出港しており、戻ってくるのは5日後とのことで[かいれい]はフェリー用の埠頭に入ることができた。勿論、二見港のフェリーターミナルの一部は海軍の管制下になったが…。そして、[かいれい]内部にあるコンピュータシステムを使い発見された海域の詳細なデータ作成が始まった。

 

 

 

 

 



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航跡23:人類と深海棲艦 後編

 

7月18日 0900 国防海軍 マリアナ基地

 

出港を明日に控えた海上自衛隊のイージス護衛艦[みらい]は、マリアナ基地の埠頭にて食料と燃料の補給を受けていた。弾薬はほとんど消費していなかった為、弾薬の追加はなかった。

 

「…ええ、この分ですと、弾薬類の補給は127ミリ砲の予備砲弾だけで良いと考えます。」

埠頭で菊池が搭載物品のリストを見ながら梅津艦長と話していた。

「砲雷長、無駄な戦闘は避けたいものだよ。」

「…は?」

「いやぁ…。先日、国防軍総監の沢井氏にお会いしてな。我々は専守防衛を念頭に海上自衛隊として行動して欲しいと言われてしまったよ…。」

と、頭を掻きながら梅津は話した。

「…専守防衛ですか。」梅津の言葉を聞き、菊池は何やら小さな声で呟いた。

「報告!必要物資の補給作業。あと一時間で終了予定です!」と、航海科の尾栗が報告してきた。

「そういえば尾栗、桃井一尉は?」

「桃井一尉は、基地内の病院に行ったぜ。うちらの船で輸送する艦娘達の診察だろう…?洋介…。いや、副長は津田大尉と一緒にどっか行ったぜ?」

 

「副長と津田大尉が…?」

 

尾栗の言葉に驚きを隠せない菊池は更に、副長の行動について尋ねた。

「いやぁ、なんか草加少佐の様子がおかしいとかなんとかで…。津田大尉と副長が草加少佐を探しに行ったみたいだぜ。」

 

 

同時刻 国防軍 マリアナ空軍基地

 

コッコッコッ…。

 

草加少佐の姿はマリアナ基地内の空軍基地にあった。

「おや、海軍さんではないですか?どうしたんです?空軍の整備場に来て…?」と、機体の整備をしていた、第75航空隊 隊長 日々木 剛 が話しかけてきた。「隊長自ら機体整備とは…。機体の調子はどうかね?」と、草加が訪ねる。

「あぁ、ちょっとなぁ。左のなラダーペダルの調子が悪くてなぁ 早く実戦に復帰させたいのは山々なんだが…。」日々木が整備していたのは、航空自衛隊時代からの相棒F-2戦闘機だ。

 

「こいつとはな、もぅ…。10年来の付き合いなのよ。前線に出るときは必ずこいつだよ。もう、手と足の感覚だけで思った通りに操縦できてしまう。最初は、癖が多くて大変だったが、今じゃ愛機だよ。」と、話してコックピットから降りてきた。整備中とはいえ、F-2戦闘機の洋上迷彩は健在で青色の美しい機体だった。

「ところで、ここに来たのは何か用があるからだろ

?ただ単に、機体を観に来たとは思えんからな。」と、日々木が尋ねてきた。

「あぁ、この基地から東京へ向かう機は…。近く飛ぶかな?」草加はマリアナ基地から東京へ向かう飛行機を探していたのだ。

「無いことはないが、それを聞いてどうすんだ?」

「いや、海軍の参謀が近く東京へ向かうとの事で聞いたんだ。無理だったら輸送機に便乗する形でも構わないが。」草加が尋ねたところ、マリアナ基地~入間航空司令部の間で週に2往復。マリアナ基地~横田航空基地間で週3往復、飛行しているとの事だった。

「整備中に邪魔をして済まなかったな。日々木隊長。」と、草加は微笑みながら答えた。

「いやぁ、特に邪魔とは思わんよ。むしろ、話し相手が出来て良かった。あんたも、今度のガダルカナル島防衛作戦に参加するのか?」日々木は上層部からのガダルカナル防衛作戦の事について尋ねた。

 

「…。ぇ、ええ。」

不意に作戦の事を聞かれ、草加は少し驚いたが…。

 

「まぁ、お互い頑張ろうや。」

という日々木の言葉に何やらホッとした様子だった。その頃、角松と津田はマリアナ基地の建物内を歩いていた。

「津田大尉、我々がここを出る前に2つ確認しておきたいことがある。」

「は?なんでしょうか…?」

「敵は生身の生物なのか?それともロボットか?仮に生物だとしたら思考や知能はどうなんだ?」

と、歩きながら角松が津田に尋ねた。

「えぇ、深海棲艦ですが…。我が国防海軍内では一応、生物と仮定していますが…。思考や判断力などは特になく。見つけた船舶や航空機を片っ端から攻撃する。知能レベルは低いと結論を出しています。」

「それは、敵を捕獲して調査したのか?」

「いえ、現時点では敵兵の捕獲には至っていません。本部のスパコンで解析した結果です。」

「では、敵の装備だが…。奴等の物資は何処から手に入れてるんだ?」角松の素朴な疑問に口を止める津田大尉。数秒の沈黙のあと津田は重い口を開けた

「…陸海空、全部隊が調査していますが。現時点で、敵の補給地点は不明です。」

「…つまり、奴等のエネルギーは何処から来ているのか分からんと言うことか。」角松は少し残念そうな顔をして話した。

 

同日 1230 国防海軍 父島分遣隊 庁舎

 

先日夜に父島に入港した[かいれい]からの情報を元に、父島分遣隊の庁舎で情報整理が行われていた。そこには、[かいれい]のクルーの他に海上保安庁の岸田達。国防海軍横須賀鎮守府から出向していた護衛艦娘 ゆうぎり せとぎり の姿もあった。

「…先日、沖ノ鳥島の南西40キロの海底で発見された多数の楕円形の形状をした正体不明物体について…。これより日本海洋研究開発機構の研究員の方に説明を御願い致します。」と、海軍の隊員が司会進行をする。

 

「ご指名を受けました。私、独立行政法人日本海洋研究開発機構 巨大地震災害対策研究室 室長 兼 海洋資源採掘・・・。」

 

~中略~

 

「えー。今回発見されたのは、多数の楕円形の物体と言うことですが…。発見した物体は、自然由来の物ではなく…。人工的に作られたものだと思われます。こちらをご覧ください。」と、[かいれい]の研究員がプロジェクターで映像を映す。「これは、当該物体周辺の海底をソナーで音波測定し3D映像化したものです。」映し出された映像には幾つもの楕円形の物体が海底で転がっているのが確認できた。

「このデータは、昨日作成したものですが…。こちらも合わせてご覧ください。」と、研究員は次の画像へ変えた。すると、基本的な地形は変わらないのに…。海底の楕円形の物体が消えたのだ。

 

「おぉ…。」と、どよめく海軍や海保の隊員達。

 

「今回、未確認物体が確認された海域は…。2年前に地震研究の為海底調査をしていました。」日本海洋研究開発機構の調査によると、たった二年弱の間でここまで地形が変化するのは…。大規模な地殻変動がないとあり得ないということ。そして、このような多数の楕円形の物体が並ぶような事象はこれまで世界各地でも確認されていないという結論だった。

「次に、2年前に発生した我々の深海探査船[しんかい6800]の事故の際に、直前に撮影された映像に不可思議な所があるので見ていただきたい。」

と、プロジェクターでビデオを流し始めた。

 

 

 

2010年 09月15日 AM10:52 深度4950㍍深海探査船[しんかい6800]船内

 

ゴゴゴゴゴゴ…。

探査船が水圧で軋むなか、[しんかい6800]は、海底で地震研究のためのサンプル採取を行っていた

 

「━[しんかい6800]より[かいれい]へ[しんかい6800]より[かいれい]へ。」クルーの浦田技官が[かいれい]に連絡を取っていた。

「━こちら[かいれい]。[しんかい6800]どうした?」と、母船から通信が入る。浦田技官は…。

「━こちら[しんかい6800]サンプル採取完了。繰り返す、サンプル採取完了。これより浮上体…。」

 

グオオオオオオオオオオオンンンンンンンン

 

突如、大きな地響きのあと探査船が大きく上下左右に揺さぶられた。

 

「うおっ!?」

「な、なんだ?地震か…??」

乗組員の浦田と米蔵が驚く。

 

ガゴオオオオンン

 

と、大きな揺れの後何らかの装置が故障したのか船内が非常灯の赤いランプで照らされた。

一方、海上の[かいれい]では特に影響を受けていなかった。

「━こちら[かいれい]、[しんかい6800]どうした?応答せよ!」と、有線電話が鳴り響く。

「━こちら[しんかい6800]。近くの海底で土砂崩れの模様。主電源が切断。補助電源にて航行中。現在、被害の確認中…。」と、米蔵技官がマイクで叫ぶ。ふと、船内を青白い光が照らす…。

「な、なんだこれは…。」

 

グオオオオオオオオオオオンンンンンンンン

 

再び、船体が大きく揺さぶられる。

 

ギギギギィィィィ…。 バツン!!!!

 

 

 

 

 

 

…そこで映像は途切れていた。

 

映っていた青白い光は、深海生物の弱い明かりではなく…。まるで船の探照灯と同じような強い光だった。

「まさか、この光は…。深海棲艦の…?」と、せとぎり が声を出した。

「ええ情報提供を受けた我々、海保も同じ意見です…。 」と、海保の米森が話す。だが、海軍側は余り信用していない様子だった。

「…しかしなぁ。この青白い光だけじゃ…。判断しにくいな 」単なる潜水艇の単独事故の可能性もゼロではないし…。海軍が判断をためらっていた時、技術開発センターの矢澄技官が声をあげた。

「確かに、この映像だけでは判断しにくい…。しかし、たった2年間の間で大規模な地殻変動もなく…。ここまで、地形が変化するのはあり得ないです。」技術開発センターから来た調査団からは、詳細な分析を具申する意見が相次いだ。「この映像と調査データ…。うちの研究所で解析したいのですが、データを頂くことはできないでしょうか?」という、矢澄技官の一声で国防海軍内部に調査チームが設置された。

 

 

翌7月19日 0630 国防海軍マリアナ基地

 

「出港用意!」

艦内に角松の声が響く。

 

海上自衛隊のイージス護衛艦[みらい]は新たな海域[ガダルカナル諸島周辺海域]に向け出港した。

先日、負傷した艦娘を横須賀へ送り届けると決まっていたが…。梅津艦長の強い意思と沢井総監からの要請により、激戦が予想されるガダルカナル諸島周辺海域にて救命活動を行うこととなった。この作戦の後、横須賀向かう途中で艦娘達を乗船させることになったのだ。朝日に照らされながら新たな海域へ進む海上自衛隊最新鋭イージス護衛艦[みらい]。しかし、艦内に草加少佐の姿はなかった…。

 

 

みらい達、海上自衛隊が動き始める数日前…。国防軍警務隊の吉岡 勉 参謀の姿が、広島県呉市にある呉鎮守府内部の造船ドックにあった。

 

「これが…。日本初の原子力戦艦。」

 

目の前には、偽造姿でドックに鎮座する巨大な戦艦の姿があった。その姿はかつて太平洋戦争時に旧大日本帝国海軍が軍の象徴として使用していたある戦艦に似ていた。艦中央の巨大な艦橋の前後に46センチ三連砲に、2門ずつ備え…。側面には小型化された127ミリ連装砲。そして、煙突横に多数設置された対地・対艦・対空ミサイル発射用のVLSにステルス対応のために船体側面に埋め込まれた魚雷発射管。

 

「参謀、既に必要物資は搭載完了。何時でも出撃可能です。」と、吉岡の部下が話す。

 

「フッ…。遂にこの日が来たか。全世界を震撼させ、世界最大級かつ世界最強と歌われた戦艦。だが、今の世界では進水式の祝礼や演奏隊の華麗な演奏もなく人目につかず進水する。世界最大かつ世界一不幸な船だ…。」吉岡参謀はその船の艦橋を見上げてこう呟いた。

 

「戦艦やまと…。貴様よ、この現代世界で暴れてこい。」と…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 だんだん書いてて、話が暗くなってきましたf(^^;
たまには明るい話を入れていこうと思っています!


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ガダルカナル島編
航跡24:自衛隊の戦い ガダルカナル攻防戦~上陸~


 久しぶりの投稿となります。ついに角松達自衛隊が本格的に動き始めます。出来るだけ現代戦をイメージしながら書きましたが…。まだまだ未熟者ですので暖かい目でご覧ください。


7月21日0900 ガダルカナル島北西250キロ

 

マリアナ基地から出港した海上自衛隊の最新鋭イージス護衛艦[みらい]はガダルカナル島周辺海域へ向かっていた。艦内では、国防海軍からの情報を元にガダルカナル島での日米両軍部隊の撤退作戦の作戦会議が開かれていた。会議には、みらい幹部のメンバーの他、同乗している艦娘達。そして、国防海軍の津田大尉だった。作戦の総指揮は、みらい砲雷長 菊池雅行 三佐が取り持つことになった。

 

「…今回の作戦は、ガダルカナル島に駐留する日米両軍の安全確保及び、ガダルカナル島からの撤退を視野に入れた防衛作戦となる。」菊池はガダルカナル島の地図をボードに貼り付け、作戦の概要を説明し始めた。

「現在、ガダルカナル島では国防陸軍第82普通科連隊と国防海軍の偵察部隊及び、アメリカ海兵隊と陸軍の各部隊…。総勢3千200名が駐留しているとの情報が入っている。拠点は、島北部沿岸の町アビアに国防陸軍のレーダーサイトがあり哨戒ヘリの整備場が存在する。」菊池は自身が考えた作戦プランをもとに地図上で作戦について説明する。

「我々の資料では、7月23日の0345に深海棲艦の艦積機によるレーダーサイトと整備場の破壊。続いて0400より北部沿岸に敵艦による艦砲射撃を行われる。いずれも早朝の日の出前からの襲撃となる。指揮系統混乱のため反撃ができず0615にアビアの東10キロ地点に上陸敵部隊による掃討作戦が始まる。」

菊池の話に愕然とする自衛官達…。菊池は淡々と作戦概要を話す。

「我々の目的は深海棲艦を海上へ追い払うことが目的である。現地部隊には我々のことは教えられていない為、行動を誤れば人間同士の戦闘となる可能性もゼロではない。我々の作戦は、ガダルカナル上陸した深海棲艦を撤退させることを第一とする。敵部隊はアビアの陸軍基地を奪いそこを拠点とする。そこへ我々は警告として無弾頭のハープーンミサイルを撃ち込む。」

 

「ハープーンミサイルを撃ち込むのか…。」話を聞いていた尾栗が菊池の立案に驚く。

「…只し、この作戦には重大な問題がある。」

「その問題とはなんだ…?」と、角松が尋ねる。

 

「地球測位システム…。つまりGPSだが…我々のイージスシステムとのシステムリンクに不具合が起こっている。レーダーを元に射撃をするのは可能だが…。敵の補給物資にピンポイントで着弾させたい。そうすれば、敵は恐怖心を抱き戦闘どころではなくなるだろう…。」

「上陸前に我々で先制攻撃をするのはどうでしょうか?」と、幹部の一部が意見を出した。だが…。

「敵機動部隊の数は把握されていない。我が[みらい]1隻と同乗している艦娘達の戦力でもかなわない可能性が高い。」と、角松が話す。

「我々の作戦目的は、あくまで救命活動である。そして、我が自衛隊の専守防衛の精神を忘れるな。」

角松に、一喝されその隊員は席に座った。

「今回の作戦で鍵となる敵補給物資へのハープーンミサイル攻撃。GPS誘導が完全に出来ないと仮定した上で、SH-60Jにて上陸し敵基地へ接近。物資に射撃管制用のレーザーを照射しハープーンを着弾させる。リスクは伴いますが、これが最善の策であると具申します。」と、説明を終えた菊池は梅津艦長を見つめた。少しの沈黙のあと梅津艦長は…。

「…リスクは伴うが、作戦遂行には仕方のないことだろう。本艦はガダルカナル東部のマラバ島の北東にて待機し、上陸部隊からの情報を元に射撃を行う。只し、射撃予定時刻は決めておきたい。敵物資への攻撃時刻は現地時間7月24日0300だ。」

梅津艦長の決断で、この作戦が開始された。ガダルカナル上陸部隊は班長を角松とする、尾栗、柳、榎本 の計4名に護衛艦娘のしらね が陸戦装備を身に付けた上で戦闘に参加することになった。

 

 

 

7月22日 2130 護衛艦[みらい]後部甲板

 

キィィィィィイイイイイインンンンンン

 

みらい の後部甲板ではSH-60Jが離陸へ向けて着々と準備を続けていた。

 

「角松君、我々海上自衛隊は陸戦経験が殆どない。おまけに未知の熱帯雨林での作戦行動となるだろう…。敵部隊や日米両軍との接触は極力避けるんだ。難しい任務だと思うが、よろしく頼む。」

と、角松の左肩にポンと手を乗せ梅津艦長は答えた。「それから護衛艦娘のしらねさん…。」

「は、はい!」と、名前を呼ばれ しらね は敬礼する。

「君は皆と違って、艦娘だ。だが私は、君のことを我々みらいのクルー一員だと思っている。必ず帰ってきなさい。」

梅津の言葉にしらねは少しだけ涙を流した。

「では、梅津艦長!行って参ります!総員敬礼!」

角松の声で全員が敬礼する。海軍式に慣れていたしらね は、みらいの正式なクルーであると梅津艦長から言われ…。敬礼は海上自衛隊方式に戻したのだった。

 

「拘束器具解除。SH離艦します。」

 

バラバラバラバラバラバラバラ…。

角松達を乗せたSH-60Jは、ガダルカナル島ヘ向けて離艦した。

「姉さん…。どうかご無事で…。」

SH-60Jが飛び去った方角を見ながら みらい は呟いていた。艦娘のみらいは、艤装にイージスシステムを搭載しており、敵艦隊を熟知していること。同乗している艦娘達から慕われていることがあげられた。その為、[みらい]に残ることとなり菊池三佐の補佐を行うこととなった。CICに向かい歩いている途中、艦娘の深雪とすれ違った。

「あれ?みらいじゃん。てっきり、上陸部隊に入っていたのかと思ったよ。」

「私は、この艦でイージスシステムの調整をすることになったの。」

「い、いーじす?」イージスシステムと言われ、いまいちピント来ていない様子の深雪だったが、CICから急ぎで呼ばれているためこの話はまたあととなった。

 

ガチャ

 

「みらいです。すみません遅くなりました。」走ってきたのか息を切らしながら話すみらいに、梅津は「まぁ、作戦開始までまだ時間はある。落ち着いて行動しなさい。」と声をかけた。

 

「SHより報告!行程の3分の1を消費。順調に飛行中。まもなく国防軍のレーダーサイト識別圏内に侵入します。」と、CICの隊員が答える。

 

ガダルカナル島沿岸部 SH-60J機内

 

「━こちらみらいCIC。まもなく、国防海軍のレーダーサイト識別圏内に侵入する。高度を低くしレーダーに発見されないよう注意せよ。」

「━こちらSH了解した。」

SH-60Jは徐々に機体を下げ、レーダーに発見されないよう注意して飛行する。

「副長…。ガダルカナルには航海演習で一度だけ来たことがありますが…。灯火管制をしているとはいえ、ここまで真っ暗だとは…。」と、機長の林原が呟く。その言葉に角松が操縦席に顔を出し、前方のガダルカナル島の様子を見た。機内から見える範囲内では島に明かりは一つもなかった。ただ、雲一つない綺麗な夜空の中に月明かりに照らされたガダルカナル島が薄っすらと見えていただけだった。

 

 

7月22日 2230

ガダルカナル島 国防陸軍駐留拠点より南に15キロ

 

ガラッ…。

 

熱帯雨林の中にポカンと開けた広大な草原にSH-60J

は降下した。角松が周囲の安全確認をすると「総員降下!」という掛け声で陸戦チーム全員が降下した。

「副長、明日の夜迎えに上がります。どうかご無事で!」SH-60Jの側面ドアから柿崎が大声で声を掛ける。「そっちも、見つかるなよ!」と、角松が話した後、SH-60Jは[みらい]へ引き返していった。

 

角松が鉄帽のライトを点灯させ、チーム全員を集合させた。

「尾栗三佐!」「おう!」「柳一曹!」「はい。」

「榎本二曹!」「はい!」「それに、しらね!」「は、はい!」

「よし、全員居るな。」チーム全員の確認をした角松は持っていた地図を広げ、作戦の概要を話始めた。

「現在、我々は国防陸軍の飛行場の南15キロ地点にいる。これから陸路で拠点の手前、5キロ地点まで向かう。明朝、0345より深海棲艦の艦砲射撃及び空襲が始まる。その前に、できる限り敵の上陸地点まで近づき安全を確保した上で潜伏しておきたい。」

「角松副長…。」

角松が説明していると、しらね が質問をしてきた。

「なんだ?しらね。」

「敵部隊が艦砲射撃をした際に、多数の死傷者が出ると思われます。駐留部隊の安全確保はどうされますか?」

「…ですよね。最初の空襲で沢山、死傷者が出るのは予想できる。」と、榎本が同様のことを口にする。「だが、駐留部隊全員を襲撃前に退避させるなんて出来っこないだろう…。」尾栗は部隊の避難は不可能だと具申する。

「副長…。これ使えませんかね?」

と、柳が鞄から出したのは爆竹だった。

「…柳。お前、何でこんなもの持ってきたんだ…。」と、呆れる尾栗。しかし、その爆竹を見て榎本があることを思い付いた。

 

 

7月23日 0320 国防陸軍ガダルカナル飛行場

 

敷地に面した側道を警備の陸軍兵が歩いていた。

 

パパパパパパパーーーン

 

突如、破裂音が静寂を突き破った。

「敵襲か!?」

 

ゥウウウ~ゥウウウ~ゥウウウ~

 

基地内部に敵襲を知らせるサイレンが鳴り響く…。

「━こちら榎本。爆竹による誘導作戦成功です。」

「━了解した。まもなく、敵部隊の艦砲射撃が始まる。直ちにそこから退避し塹壕にて待機せよ。」

「━了解。」

 

爆竹を仕掛けたのは榎本と しらね の2名だった。予測した通り、軍は爆竹がなった方向へ気が向き…。建物内で仮眠を取っていた兵達も次々と建物から出てきた。そこには、国防陸軍第82普通科連隊隊長 棟方の姿もあった。

 

0330 みらいCIC

 

「ガダルカナル北部に多数の艦影を視認!数は40以上!敵空母から艦積機が次々と上がっています!」

CICにてモニターを見ていた青梅が叫ぶ。

「ついに、始まったか…。」

梅津は額の汗を拭きながら呟いた。青梅の報告を元にCICが慌ただしくなる。

 

現地時間 0345

 

ヒュュュューーン  ドカーン!!

 

国防陸軍のレーダーサイトが深海棲艦の攻撃で破壊されたのだ。

「敵襲だーっ!!」

陸軍の動きが慌ただしくなり、飛行場では米軍の戦闘機が緊急発進の準備をしていた。

キィィィィィイイイイイインンンンンン

「エンジン始動!」酸素マスクを付け、出撃体制にはいる米軍の新鋭戦闘機F35Aだが…。

 

ヒューーーーーン

 

(…マイガッ!!!)

パイロットが上を見ると敵機が投下した爆弾が目の前にあった…。

 

ドッカーーーン!!!

 

一瞬の閃光と共に大爆発を起こすF35A戦闘機。他に離陸体制に入っていた機体も次々と攻撃され爆発、炎上する。この混乱の中、無事に離陸できた機は…。陸軍の対戦車ヘリ[アパッチ]3機と米軍のF35A戦闘機5機だけだった。だが、いずれの機体も大群でやって来た深海棲艦に撃墜される運命だった

…。

 

その頃…。

 

ドッカーーーン ドッカーーーン ドッカーーーン

艦砲射撃を受け次々と熱帯雨林が破壊されていく中、角松達は塹壕に退避していた。ふと、鉄板が刺さったヤシの実が目の前を爆風で転がっていく。

「頭をもっと低くしろ!鉄帽ごと首を持っていかれるぞ!!!」と、爆風の中で角松が叫ぶ。

 

ドッカーーーン!!!

 

「きゃあ!」と、しらね が悲鳴を上げる。

パラパラと上から土が降ってくる中、榎本が話始める。

「や、柳一曹…。も、もしこの塹壕に落ちてきたらどうなるんです…?」

「ああ、落ちてきたら骨すら無くなるだろう…。」

と、気味の悪い話に しらね が「んな、嫌な事言わないでくださいよ!」と怒る。

「なぁ、洋介…。いざとなったら俺たちが深海棲艦をこの島から追っ払う。それでいいんだよなぁ!」

と、話す尾栗に角松は「うるさいぞ!少しは黙っていろ!!!」と一喝する。

 

「何か、喋ってないとおかしくなりそうなんだよ」

と、角松にキレる。すると、またもや至近距離に砲弾が着弾し爆発する。

 

同時刻 みらいCIC

 

「副長達…。大丈夫ですかね?」

と、モニターを見ながら心配する菊池。

「大丈夫だよ。あいつはどこへ行っても大丈夫な男だよ。砲雷長…。」と、梅津が呟く。

「にしても、凄い数で襲撃してますぜ。」

青梅が出したデータには敵艦隊の数や種類が記録されていた。「通信室よりCICへ、国防軍マリアナ基地より戦闘機が離陸しました。救援部隊だと思われます。」通信室からの情報を聞き、梅津艦長は…。

「…思ったよりも。状況は悪そうだな。」と呟いた。

 

その頃、艦橋デッキでは みらい と白雪が望遠鏡で基地の方向を見ていた。

「西の空が空が赤くなってますね…。」と、白雪が呟く。基地が燃え盛る明かりは50キロ近く離れた[みらい]でも確認できた。

「この戦闘で、多数の死傷者が出ている…。でも、今はなす策がない…。」みらい は基地の方角を見ながら、後悔していた。自分が何か出来なかったのかと…。

 

 

 

一方、作戦を開始したのにも関わらず…。艦娘用の部屋で深雪がゴソゴソと探し物をしていた。

「あっれ?どこ行ったかなぁー?」

深雪が自分のバックをひっくり返していると、暁が物を取りに入ってきた。

「あれれ?深雪さん何してるのぉ?」

「いやぁ、持ち込んだ私物が無いんだよ…。」

「ちょうどいいや、探すの手伝って~」と、暁に頼んだのだが…。何を探しているのか暁が尋ねると深雪は…。

「えっ?爆竹だけど。」

 

「・・・えええええ!?なんで、爆…。」

と、大声で話始めようとしたため慌てて暁の口を塞ぐ。

「んんっ~!」暁が軽く酸欠になってきた為、塞いでいた手を外す。

「ゲホゲホ…。なんで爆竹なんて持ってきてんのよ…。」と、ヒソヒソと深雪に尋ねると。

「ハハハ…。休みの日に、吹雪を驚かそうかなぁって…。」

「え…。」という、深雪の発言に呆れる暁。すると、部屋に響が入ってきた。

「あっ…。」と、深雪と暁が一瞬固まる。

「深雪に暁…。こんなところでなにしてんだい?」と、尋ねる響に暁は…。

「な、ななにしているってぇ…。探し物をとと取りに来ただけよ…。」と、カクカクの日本語いや、変な日本語で話す。様子がおかしい暁を見て、響は深雪を睨む。

「…な、なんだい?そんなに睨まないでくれよ。」

 

ジーーーー。

 

と、深雪を無言で一分近く睨み続け響が話始めた。

「…さっき言ってた爆竹。あれ、可燃物だったから菊池二佐に言って、弾薬庫に入れてもらったよ。で、上陸部隊の柳一曹か何かに使えるかもって持っていったけど…。」

 

「…あ、あそうなの。それならよかった~(汗)」と、安心したフリをする深雪に響は付け足した。

「この作戦終わったら、副長の所に行くようにって菊池二佐が言ってた。じゃ、私は任務があるから…。」と話し、響は部屋から出ていった。

 

「…ど、どうしよう。」と、顔真っ青で暁を見る深雪。に対して暁は…。

「んなの自業…。あ、あれ何て言うんだっけ?」と、二人で話していると しらせ がやって来て…。

「二人とも!なにしてんの!今は、戦闘中よ(怒)」と、一喝されそれぞれの配置場所へと向かっていったのだった…。

 

 

 



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航跡25:自衛隊の戦い ガダルカナル攻防戦~行動~


新年あけましておめでとうございます。急行奥秩父です。ガダルカナル攻防戦の途中で年明けとなってしまいました(汗)なんか、中途半端なところですみません…。今年も、ジパング×艦これ[時空を越えし護衛艦]の執筆を進めていきますので本年もよろしくお願いします。



7月23日 0600 ガダルカナル島 アビヤ北西10キロ

 

沿岸には大量の深海棲艦部隊が上陸に向け南方棲鬼を中心に着々と準備を進めていた。

「…ここを制圧すれば、南太平洋は我が物となり人類は窮地におかれるだろうが…。」と、島を見上げる。そこに見えていたのは、人を寄せ付けぬ密林と化した巨大な熱帯雨林だった。

「果たして、この自然も我々の敵になるのかどうか…。」と、呟きつつガダルカナル島へ上陸した。

 

ドオン ドオン

 

深海棲艦に対抗しようとしているのか…。国防陸軍の90式戦車が砲撃を加える。それに加え、島の反対側にあるレーダーサイトより88式地対艦誘導弾が降り注ぐが…。もはや断末魔の様な形となり、時より攻撃はあるものに…。いつの間にか射撃は中止された。丸一日にかけて続いた砲撃が終わり、辺りが再び夜の静寂に包まれた頃。上陸した深海棲艦の様子を高台から見ていた角松達は作戦準備をしていた。

「…やはりあの攻略本通りになりましたね。」と、しらね が呟いた。

「んじゃ、こいつの出番と言うわけだ。」と、尾栗がリュックサックからある装置を取り出す。持ってきた装置はミサイル誘導用の赤外線レーザー照射装置だった。「それでどう見つけるんです?奴らの補給品。」と、榎本が角松に尋ねる。

「…ああ、出来る限り接近して様子を探る。0230までに何としても奴らの補給物資を探すんだ。」

角松の指揮のもと各員が敵の拠点近くへと静かに向かった。途中、幾つもの逃げ遅れたり戦って亡くなった国防陸軍や国防海軍、米軍の兵士達が転がっていた。 その光景はまるで地獄絵図だったと、帰艦した しらね が話した…。

 

 

同時刻 ガダルカナル島 宮崎台通信所

 

ザザザッーザーーザザッ

 

「…棟方隊長。ダメですね…。完全に妨害されています。」無線機を操作する通信兵か話す。国防陸軍が通信設備として修復の上使用していた建物は、太平洋戦争時に旧日本軍が利用していた宮崎台の基地だった。辛うじて空襲を逃れた鉄筋コンクリート製の建物を国防陸軍が補強の上利用していた。

「くそっ!通信設備までやられたか。」と、棟方は机に八つ当たりする。この宮崎台通信所まで来るまでに部隊の35%が失われていたのだ。その上、負傷した隊員も多く…。ここで新たな戦闘が起きたらとても対抗できる状態ではなかった。「輸送に使える車両も残っているのは、高機動車数台と輸送用の中型トラック3台か…。」通信所の窓から外を見ると死に物狂いで逃げてきた隊員50数名と米海兵隊20名程度が居た。

「ここからどうするかだ…。」

 

7月24日0100 ガダルカナル島 深海棲艦拠点

 

ある電文が、深海棲艦の部隊の元へ届いた。

[南方棲鬼につぐ、こちらは海上自衛隊。本日0300に飛翔弾(ミサイル)による警告を行う。あなた方の命を奪う前に、まずは食料を奪う。なお、本作戦名はサジタリウス。]

「サジタリウス…。人の世界では、射手座と言うらしい。警告にしては洒落ているな。」と、部隊の仮設の建物内部で笑う南方棲鬼。しかし、内心では…。

(なぜ、上陸した部隊が我々の部隊だと知っている…?)と、違和感を抱いていた。

 

拠点近くから暗視スコープで観察していた尾栗が、敵の補給品の中で何かを見つけた。

「しらねさん?ちょっといいか?」

「はい…?」

「あの箱って…。火薬なんじゃないのか、」

尾栗の言葉に しらね は頷いた。

「副長、あの右奥に積まれている箱…。しらね によると、火薬だそうですよ。撃ち込むなら派手にやってあいつらの度肝を抜いてやりましょうよ!」と、尾栗が具申したが角松は…。

「…尾栗。仮にあの量の火薬を吹っ飛ばしたらどうなる。」と、静かに話始めた。

「そりゃ、沖合いにいる他の深海棲艦にも分かるし…。運が良ければ、敵にダメージも与えることが出来る。」

 

「ホントにそんなこと思っているのか…。」

「えっ?」

「奴らに捕まっている隊員が居る可能性もゼロではない…。しかも、弾薬を吹っ飛ばした場合…。敵をさらに刺激する可能性もあるんだぞ。」と、尾栗に怒りはじめた。

「俺らはドンパチやりに来たんじゃない。奴等をこのガダルカナルから撤退させるために来たんだ。梅津艦長も言っていただろ、何としても専守防衛を貫け…。我々は自衛隊なんだと。」と、監視しながら角松が話す。「ですけど、この作戦中に敵と銃撃戦になった場合どうしますか?」と、しらね が訪ねてきた。「その時は、敵が深海棲艦だろうが日米両軍だろうが…。この5人全員の命を優先する。いいな!」

 

 

0230 [みらい]CIC

 

CICでは菊池や梅津艦長の他、艦娘の みらい としらせ 白雪 の姿があった。

「艦長、作戦開始まであと25分です。いまだに、副長達から敵の補給品発見の報告がありません。」

と、腕時計を見ながら菊池が話す。

「━こちら、角松。敵部隊の物資を発見した。」と、突如放送が入る。

「━了解した。敵の陣営は…?」

「━現在、敵部隊は沿岸部より徐々に内陸へ進行中。ただし、先遣部隊と思われ本隊は依然海岸に留まっています。」と、報告を受けながら、菊池は地図に配置を書き出す。

「━で、目標は見付かったか?」

「━目標は本隊右後方海岸線付近にあり、敵部隊は現在、陣地を形成中。」

「━了解。」

 

「艦長、まもなく攻撃開始時刻です。」

「了解した。攻撃準備を…。」

梅津艦長の指示を元に菊池が攻撃準備を始める。

「右舷ハープーン装填。射撃準備。」右舷ハープーンミサイル発射管に無弾頭のハープーンミサイルが装填される。

 

同時刻 上陸部隊

「…0250。あと5分で攻撃時刻です。」しらね が時計を見ながら答える。辺りは、昼間の砲弾の嵐を感じさせず。静かに虫が鳴いていた…。

「榎本、レーザーの照射準備を…。」

角松はレーザー誘導によるハープーンミサイル終末誘導の準備を指示した。

「いよいよか…。頼むぜ雅行…。」と、尾栗は空を見上げながら呟いた。

 

0253 [みらい]CIC

ハープーンミサイルによる攻撃開始まであと2分を切ったとき…。梅津艦長はあることを考えていた。

(あの本の通りに進むガダルカナル侵攻…。我々のこれまでの行動はこの世界の歴史を変えるかどうか分からなかったが…。これから行う作戦は明らかに大きな分岐点を作り出すだろう我々が居た世界とこちらの世界…。繋がりを絶つことになるだろうな…。)

 

「0255!艦長、時間です。」と、菊池が時刻を伝える。

 

「ハープーン攻撃始め!」

 

バシュュュー!!!!!

右舷ハープーンミサイル発射管から勢いよくハープーンミサイルが煙と共に放たれる。みらい上空でで進路を変え、深海棲艦の元へ向かっていった。

 

 

 

 

0300 深海棲艦 上陸地点

 

「やはり、ブラフだったか…。」

南方棲鬼が見つめる空には綺麗な星空が輝いていた。だが、沖合の深海棲艦はハープーンミサイルを発見していた。

 

キィィィイイイイン

 

「ナ、ナンダアレハ…。」

猛スピードで海面スレスレを飛行するハープーンミサイル。すると、突如急上昇し南方棲艦の居る方向へ向かっていった。

 

キィィィイイイイン

 

聞き慣れないエンジン音が聞こえ、空を見上げると…。そこには突入体制に入ったハープーンミサイルがあった。

 

「ヒュ~。来たぜ…。」尾栗が空を見上げながら話す。「よし、いい子だからこっちに来て…。」と、レーザー誘導をしながら榎本が呟いた。

 

ヒュュュュウウウウンンン …。 ボッカーン!!!

 

レーザー誘導のお陰で深海棲艦の補給物資にハープーンミサイルは見事着弾した。暗視スコープを外しながら角松が「榎本、よくやった。」と、誉めた。「まさか、こいつがこんなところで役に立つとは思いませんでしたよ。」と、笑いながら榎本は話した。「あとは、南方棲鬼がどう動くかですね。」

再び しらね は暗視スコープで観察を開始した。その頃[みらい]CICではハープーンミサイル着弾の報せを受けホッとした空気が流れていた。 だが、その静寂はすぐに破られることとなった…。

「ん?レーダーに反応…?」

「マライタ島の影でレーダーが届かなかったか。」と、調べ始める青梅…。だか、それは本に載っていなかった艦隊の影だった。

「ガ島北西より、艦隊接近中!IFF反応あり国防海軍の船です!」と、モニターを見ていた青梅が叫ぶ。

「何ぃ!?」菊池の一声でCICに緊張が走る。レーダーには、国防海軍の艦隊が単縦陣で表示されていたが…。その旗艦の表示が[BS-01]と表示されていたのだ…。このときの[みらい]のデータには、BSという艦種別は入力されてなく…。不明艦として処理されていたのだ。

「艦長、一刻を争います。SH-60Jにて現状確認を!」と、菊池が具申し梅津は「危険だがやむを得んな…。発艦を許可する。」と、SH-60Jに現状確認の為緊急発艦を依頼した。

 

0315 [みらい]後部甲板

 

「ったく、機体整備が終わったと思ったら…。もう、発艦かよ。戦場ってのは忙しいねぇ~ 」林原は愚痴を言いつつSH-60Jを離艦させた。離陸から10分後…。

 

「こちら、SH-60J。暗視カメラによる画像を送信します。」と、目標の艦隊を映した画像を[みらい]CICへ送る。CICでは予め、画像処理プログラムを みらい が起動準備しており直ぐに画像をクリア化した。すると、そこに映っていたのは…。

 

「…これは。戦艦…大和?」

と、みらい が驚いた顔で話す。後ろから菊池が「んなはずは、大和は終戦直前に鹿児島沖に沈んでいるはずだぞ…。」モニターを見ていた青梅はある事に気づく「艦長、こいつは戦艦大和に似てますが…。違います!!大和だったら、ボイラー機関ですか大型の煙突から大量の排熱が出ているはずです。」

「こいつは出てないのか!?」

「はい!」菊池の質問に青梅が答える。

「じゃあ、こいつは何なんだ!?」

ふと、艦隊から無電が入る。「艦長、目標より無電が入りました。[我、国防軍 戦艦[やまと]。本日0430よりガダルカナル島沿岸の敵勢力へ集中砲火を行う。貴艦の陸戦部隊は直ちに撤退または退避されたし。宛 海上自衛隊イージス護衛艦 みらい 発 国防海軍 通信少佐 草加 拓海]」と、隊員が読み上げた。その言葉を聞き菊池はヘッドフォンを外し、勢いよく拳を机にぶつけ叫んだ。

「草加ァァァァアアアアア!!!!!」

 

 

 

 

 

 



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航跡26:自衛隊の戦い ガダルカナル攻防戦~ジパング~


サジタリウス作戦が成功し南方棲鬼を威嚇することができた角松達。だが、ガダルカナル島に[やまと]が接近していた。戦争の行く末を知った国防海軍草加少佐が取った行動とは…。


 

同時刻 ガダルカナル上陸部隊

 

「━副長、緊急事態発生。」

「どうした…?」

「━ガダルカナル島北西より海軍の艦隊が接近中。戦艦大和を貴艦とする大艦隊だ…。」

菊池からの報告に「なんだとぉ!?」と上陸部隊全員が驚く。菊池は戦艦[やまと]に居る草加から送られた無電の内容をそのまま話した。話を聞いた角松に柳が…。「副長…。」と、声を掛けようとしたが尾栗が無言で制止した。下を向いていた角松は…。

「あの…。」と小さく呟いた。「えっ…?」しらねが見ている側で「…あの野郎。今、俺の目の前に居なくて幸せだったな。」拳を握り締めながら怒りをあらわにする角松。その顔はいつもの様子とは違うことが目に見えて分かった。その頃、原子力戦艦大和艦内では…。草加少佐が同乗している山本五十六司令長官や吉岡 勉 参謀等と話をしていた。

「ここから航空機格納庫までどのぐらい掛かりますか…?」と、訪ねる草加に吉岡は…。

「そうですな…。私の足で普通に歩いて10分。走って5~6分って所でしょうか。」と話した。草加は「ありがとうございます。」と一礼し艦橋から出ていこうとした。すると、「草加君、やはり気にしてるのか?」と山本が話しかけてきた。

「この作戦を立案したのは君だったよな…。やはり、別世界からやって来た彼らの事、気になるのか…。」山本は草加に尋ねた。草加は足を止め、山本に向かって振り向いた。

「だったら、なぜ攻撃開始直前に格納庫へ向かう?」扇子を扇ぎながら吉岡が問いただす。

「はっ、確かに作戦を立案したのは私です。しかし、彼らは専守防衛を貫く身…。危険を省みず、深海棲艦を守るため行動するでしょう。」草加はその場の全員に聞こえるように話した。

「では、そのまま深海の野郎共々吹き飛ばしてはいかがかな?」吉岡はきつい言葉で草加を追い込む。

「…それは出来ません。彼らは人命救助を前提に行動しているのです。それに横須賀の艦娘も乗艦…」

「んな、事はどうでもいい!!!」吉岡は怒りをあらわに草加に詰め寄る。そして…。

「…ここで奴等を攻め落とさねば。南太平洋は奴等の手に渡る。陸軍や米軍の奴らには悪いが…。侵攻を防げなかった我々はアジアの恥になるぞ。」吉岡は人命救助よりもガダルカナルの南方棲鬼を攻め落とすのが先決だと答える。だが、その持論に山本が反論した。

「…彼らは海上自衛隊だったな。この情報も彼らから君を経由して密かに計画された作戦だ。ここで彼らを殺めれば…。今後の作戦に支障が出るのではないのかね?吉岡参謀。」と、吉岡を制止して山本は草加を格納庫へ向かわせた…。

 

 

0400 原子力戦艦[やまと] 航空機格納庫

 

ピッピッピッ カチッ…。

 

草加は格納庫の[海鳥]に搭載されている無線機の周波数を[みらい]に合わせて通信を開始した。

「…こちらは国防海軍 旗艦[やまと]角松二佐聞こえるか?」

「━ああ、はっきりと頭の奥深くまで聞こえていて怒りが爆発しそうだぜ。」と、角松から返答が来た。

「あなた方を砲撃に巻き込みたくない。速やかにそこから退避してくれんか?」草加は角松達、上陸部隊を退避させようと説得するが…。

「━お前は分かっていないな現状を…。俺達が南方棲鬼に警告を発し、このガダルカナルから戦闘せず追い払おうとしているのが分からんのか?」

「それは理解しているつもりだ。だが、この機を見過ごすことはできない。南太平洋の制海権を奪われれば…。長期的に見ても世界的規模で影響が出る。ましてや要塞化すれば我々が太刀打ちできなくなり新たな犠牲者を産み出すことになる。」怒りの口調で話しかけてくる角松を草加は持論で説得し続ける。

「━だが、それを考えたのは貴様だろう…。あの本の資料を元に…。」角松は草加がマリアナ入港前にしていたことを思い出した。草加はあの本に記載されていた事項を全てメモしていたのだ。

 

「━お前がしようとしているのは、ジャンケンの後出しだ。敵からの砲撃がないと踏んでいるだろうが…。俺たちは見過ごさんぞ!」角松は草加に、場合によっては[やまと]への攻撃を行うと警告した。

「…フッ。」と、僅かに草加は笑った。

「━草加、何がおかしい。」

 

「…あなた方、海上自衛隊にですよ。専守防衛とは敵からの明確な侵略行為がなければ発動できない。要するに、反撃することができない。いや、反撃の時には既に深傷を負っている。そういうことだ。」

「━専守防衛の何がおかしい。」

と、専守防衛について答えを求めてきた角松に草加は言い放った…。

 

 

「…最早、この世界で専守防衛を貫く事は極めて困難いや、不可能といってもいいだろう…。それでもあなた方は専守防衛を貫き通すつもりか?」

角松はその言葉に愕然とした。また、この通信を受信していたイージス艦[みらい]のCIC内部にも同じやり取りが聞こえていた。

「━俺たちは、命を護り救うために自衛隊として存在している。専守防衛こそ我々に与えられた最大の使命なんだぞ。」という角松に草加が尋ねてきた。

 

「━では聞くが、あなた方の敵は一体…。誰なんだ…?」

 

ジャングルに横になり敵陣営を監視しながら角松は

(・・・!!!)

草加の言葉にハッとした…。草加の話した通り、この世界では[みらい]に明確な敵対意思を持つものは存在していなかったのだ。[みらい]艦内の各隊員達も時空を越えて艦これの世界に迷い込んだその日から…。日々、悩み考えていた。数分の沈黙が流れ…。角松が重い口を開けた。

 

「…俺たちは海上自衛隊だ。…あんたら国防海軍と違って先制攻撃はしない。人命救助を最優先に行動する。…海軍の力を借りることもあるだろうが。我々は専守防衛・人命救助をこれからも行っていく。お前らがやりたければ…やれ。だかな、一発でも撃ったら…。俺たちは[やまと]に対艦ミサイルを叩き込む!」

「━深海棲艦の見方をするのか?」

「違う!!」草加の言葉に大声で反論する角松。

「確認はできていないがな、敵に捕らえられている兵士も居る可能性があるんだ…。俺たちにとって人間の流す血の色は白も黄色もねぇ…。全部赤いんだよ!」

 

「…生命の尊厳に国家も民族の違いはない。その通りです角松二佐。…私はあなたの言葉に救われた思いがしている。」

 

「━なにぃ?」無線の先で疑問に思う角松に草加は、話を続けた…。

「別次元の現代社会の日本人…。その海上自衛隊護衛艦の指揮官たる人間がその考えを持つことを私は誇りに思います。だが、それは平時のモラル…。残念ながら、この世界は戦時中なのだ。…悲しむべき事に今の日本は、軍民区別のない国家総力戦を行っている。それを始めたのは誰か角松二佐お分かりか?」

 

「━そいつを始めたのは、深海棲艦出現に伴う戦闘が原因だが…。今の日本は、中国 韓国 台湾 北朝鮮 その他東南アジア各国を支配下にいれてるではないか?混乱に乗じてアジアを支配しようと企んでいるのは国防軍の軍人ども…。お前もその一人だ。」

「それは違う。」草加は角松に反論し始めた。

「…私はあなた方と出会いこの世界の未来を知った上でこの戦争における我が日本の間違いに気づいた。自身の護身用9㎜拳銃を山本長官に返上したこの身は…。もはや、国防海軍の軍人ではない。そして、この世界に迷い込んだ[みらい]乗員にとってこの日本は守るべき国ではない。あなた方が守るべき国はあの日…。霧の中に消失したままだ。」

「━ならば、俺達が何のために戦っているか分かるはずだ。」角松はマイクを口に近づけて話す。

「━軍人は本来、国民の生命及び財産と国家の主権を守るために存在する。決して安直なヒューマニズムに拠って戦うものではない。」

「…やはり、貴様も深海棲艦を虐殺する思考か?」

その言葉に草加は反論した。

「━違う!!」

 

「我々が守るべき国は明らかに存在する。」

「━そんな国何処にある!?」と、角松はマイク越しに怒鳴り付けた。

「何の対抗策もなく、護衛艦を沈めさせ戦争の泥沼にハマッた今の日本でも…。アメリカへの2回目の無条件降伏という屈辱から始まる戦後日本でもない…。二つの世界に触れたからこそ私の脳裏にある国が浮かんだ。」

「━それは角松二佐、いや[みらい]のクルー達にも分かるはずだ。四海に囲まれ独立し力に満ちたその島は間違いなく我々の目の前に存在する。…それが、ジパングだ。」

 

 

 

「ジ…ジパングだと?」

「━そう呼びたい。」

驚き固まっている角松に草加は話続ける。

「━かつて、西洋の旅人が夢見た場所…。だが現実にはあなた方の世界に至るまで日本人が経験していなかった新しい国家だ。」

「なにぃ?」疑問を持った角松は草加対しての怒りで銃を持った腕が震えていた。

「━現在、ガダルカナルヘ布陣中の深海棲艦南方棲鬼部隊は…。今後のマリアナ基地攻略の重要な部隊だ。本作戦は彼らにとって初陣であり予備部隊はない。もし、彼らが全滅したとすれば再建には1年を要する上、日米双方2万5千人の死者を出さずに済む。また、深海棲艦側でも大きな打撃となるであろう。これが、誇りあるジパング創設への第一歩だ。」

 

「…それが、貴様の思惑か。」怒りに震える角松に草加は告げた。

「あと、1分で攻撃時刻だ…。あなた方の返答次第で退避する時間を作る用意はある。」草加は角松達上陸部隊が退避する事を期待していた。しかし、角松から来た返答は…。

 

 「俺たちは退避するつもりはない。撃つなら撃て…。絶対に阻止してやる。」

 

「━それは本気か…?」

「今、レシバーからブチッブチッって音が聞こえているだろ…。俺はな、未だかつてこんなに頭に来たことはねぇんだよ!!!」と、無線越しに角松は叫んだ。すると、草加は…。「正常だな。あなたの行動に期待する…。」と話し、無線を切った。

 

「おいコラァ!!!!!待ちやがれ草加!!」

再度通信を試みたが、草加には繋がらなかった…。

 

草加は格納庫にある艦内電話を使い、艦橋に居る山本に連絡した。

「彼らと交信したところ…。撤退はしないとの事です。また、砲撃を開始した場合…。全力でそれを阻止するとの事です。」

「何と…。彼らは我々に敵対する部隊なのか?」山本は草加に尋ねた。すると…。

「いえ、彼らは決して我々に敵対する意思を持っているとは考えられません。彼らの行動目的は人命救助。上陸部隊数名の命の為に、我が[やまと]の乗組員の生命を奪うとは考えられません。」

静かに草加の話を聞く山本に草加はさらに続けた…。

「私は、上陸部隊の隊長…。[みらい]の副長 角松 洋介 二佐と交信しました。彼は、我が国防海軍の行動に怒りを抱いていましたが…。この戦場において、彼が一番冷静さを保っていると感じました。」

 

 

同時刻 [みらい]CIC

 

「雅行![やまと]はやる気だ…。海上自衛隊のイージス護衛艦[みらい]の全能力を使い、ガダルカナル島へ1発も着弾させるな!!!」角松はCICに居る菊池に迎撃要請を出した。

「了解!」菊池はCICの砲雷科全員に迎撃準備を整えるよう指示を出す。

「海軍側とは手合わせしたくなかったが…。仕方ないな。我々は我々の道を突き進むだけだ。」梅津はモニターを見ながら呟く。

「前甲板VLS、1~3番シースパロ装填確認!システムデータ入力…。迎撃用意!」

 

その頃[やまと]艦橋では…。ガダルカナル沿岸部への攻撃準備が完了しつつあった。

「神仏照覧…。深海棲艦め、新鋭艦の威力思い知るがいい…。」と、外を眺めていた吉岡は不気味な笑みを浮かべながら呟いた。

「艦長!左舷VLS 地対艦ミサイル発射用意完了!」

「了解、攻撃始め。」

艦長の海江田は、ガダルカナル沿岸部へのミサイル攻撃を了承した。

 

バシュュュュユウウウウ!!!

 

現地時間0420 左舷VLSより地対艦ミサイル3発が轟音と共に発射された。

 

同時刻 [みらい]CIC

 

「あっ!出ました[やまと]発砲!!」

「いくつだ!?砲台か?」と、隊員の報告に菊池が尋ねる。

「いえ、ミサイルと思われます!数は3!ガ島敵部隊拠点へ飛翔中!!」

「分かった!前甲板VLSシースパロ攻撃始め!サルボー!!!」菊池の声と共に[みらい]前甲板から2発のシースパロが発射された。上空でブースターを切り離し、[やまと]から発射された地対艦ミサイルへ向かい飛翔していった。

 

 



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航跡27:自衛隊の戦い ガダルカナル攻防戦~信念~


更新が遅れてすみません(汗)このところ、体調を崩していて執筆が止まっていました。体調が良くなってきたのでゆっくりと再開していきたいと思います。



 

キィィィィイイイインンンン

 

[みらい]から放たれたシースパロは、[やまと]から発射された地対艦ミサイル迎撃の為飛翔していた。

([やまと]から放たれたミサイルは3発…。それに対して、我々のミサイルは2発だ。3発誘導することはできない…。ならば、先頭弾を狙って誘爆させるしか方法がない。)と、菊池は頭の中で迎撃コースを考えていた。

「…シースパロ、コース再確認!タイミングがコンマ1秒でもずれたらアウトだ。」菊池はシースパロの飛行コースを再確認させ、目標3発を全て撃破できるよう計算していた。

 

同時刻 ガダルカナル上陸部隊

 

「副長!洞窟がありました早く退避を!」

「…俺は信じてる。菊池は外さん!」

尾栗の言葉に角松は、退避せずここで見守ると話した。「確かに…。[みらい]のシースパロは秒速780ヤードのLRBMすら迎撃出来る…。だか…。」

「だか何です?」柳の言葉に榎本が問いかける。すると、しらね が話始めた。

「…[やまと]のミサイル。[みらい]のイージスシステムなら撃墜は可能です。ですが、ゆきなみ型のシースパロは最大2発までしか誘導できない。3発以上、発射されたら…。」と、しらね は若干青ざめた様子で話す。

 

「…大丈夫だ。[やまと]の攻撃は一発も落ちてこん!」と、自信満々に答える角松…。

 

キィィィィイイイインンンン

 

[みらい]から放たれたシースパロと[やまと]の地対艦ミサイル…。その二つが交差する地点まであと、20秒を切っていた。

「目標到達まであと15秒!」と、青梅が叫ぶ。モニターの矢印は刻々と近づいていた。

「着弾10秒前!」額に汗を浮かべながら菊池はモニターを見つめる。

「9!…8!…7!」

CICで様子を見ていた みらい が目を閉じ空中でのミサイル爆破を祈る。

「6!…5!」梅津艦長は、(このまま、[やまと]の砲撃を阻止できれば。)と考えていた。

「4!…3!」上空を見つめる角松。(大丈夫だ、菊池は決して外さない…!)と、菊池の腕を信じ事態の推移を見つめる。

「2!…1!」陣地を形成していた南方棲鬼が[やまと]のミサイルに気づき、部下達を塹壕に退避させようとする。ふと、そのミサイルの横からもう一つのミサイルが接近しているのが目に入った。

 

 

「弾着…今!」

 

 

ドォォォォオオオオオンンンンンン!!!!!!

 

大きな地響きと共に深海棲艦の基地の上空100メートルで[やまと]のミサイルを[みらい]が放ったシースパロが迎撃し大爆発を起こした。その衝撃波で敵陣営は壊滅的被害を受けたが、奇跡的に重軽傷者だけで済んだ。角松達上陸部隊は、高台から双方のミサイルがぶつかり爆発する瞬間を見ていた。

「腹に響きますね…。」

「これが、地対艦ミサイルの衝撃波…。」

「す、すごい…。これが超高速の戦い…」

榎本 柳 しらね はそれぞれ体感した、ミサイル撃墜の衝撃波を実感していた。辺りは爆発の光で明るくなり足下がはっきりと見えるようになって いた。

「草加…。俺はお前を許さん。この戦争…いや、この世界を貴様の好き勝手にさせるか!」角松は爆発の光を見つめながら、草加の行動を阻止しようと肝に命じていた。

 

同時刻 [みらい]CIC

 

「目標、全弾命中!目標消滅しました。迎撃成功です。」青梅の報告に安堵する菊池…。額には汗が浮かび、顎にまで垂れてきていた。それを眼鏡を外してからハンカチで拭き、再度眼鏡をかけ直し椅子に座る。「ご苦労!砲雷長よくやった。」と、梅津が菊池の右肩を軽く叩く。

「…今回は迎撃出来ましたが、リムパックでは平均成功率85%でした。まだまだ未熟者ですよ…。」菊池はそう話し、再びモニターを見つめ始めた。

 

 

 

その頃、[やまと]艦橋では幹部らが話をしていた。

「ん?弾着4秒前だぞ?」

「信管異常か?それとも落雷か?」

「まさか、敵の航空機に偶然当たったのではないのか?」と、ガダルカナル島沿岸部へ1発も着弾していないことに疑問を持っていた。すると、観測員から連絡が入る。

「ガ島沿岸部、敵部隊への着弾1発も認められず。明らかに空中で爆発しています!」混乱する[やまと]艦橋に一通の無電が入る。

 

[我々、海上自衛隊は貴艦ら国防海軍の行動を妨害するつもりはない。我々の行動目的は人命救助であり。無駄な戦闘は極力避けて行動する。今回、貴艦の地対艦ミサイルを迎撃したのは、ガダルカナル島に我々の上陸部隊が居ること。また、敵勢力に捕まった日米双方の隊員の安全確保が出来ていないことから迎撃を行った。今後も攻撃を続行する場合、本艦は全力でこれを阻止する。海上自衛隊 横須賀基地所属 イージス護衛艦 みらい 艦長 梅津三郎]

 

「ぐぬぬ…!!!これは一方的な妨害ではないか!敵を叩くには今しかないんだぞ。」と、吉岡が怒りの形相で制帽を床に叩き付ける。

「…確かに、敵を守る形を取るとは。不思議な船ですな。」海江田は艦長から島の様子を眺め、呟いた。

「しかしですな!これは我々の妨害工作…。軍規違反ですぞ!」吉岡は怒鳴り続ける。すると…。

「まぁ、ここはいいじゃないか。敗けを感じることも。」山本が話始めた。

「しかしな山本!今が敵を潰すチャンスなんだぞ!叩くなら今しかねえんだ。」吉岡は山本に作戦続行を具申したが「負けて学ぶ。今回はそうしようじゃないか…。」という言葉で、深海棲艦上陸部隊背後からの砲撃作戦は中止された。

 

ポッ ポッ ポッ ポッ ザァ…。

 

ふと、[やまと]の船体に南国特有のスコールが降り始めた。スコールの中、艦橋デッキに人影があった。

(…ついに牙を向いたな、みらい!)

草加は心の中でそう呟き…。艦内へ戻っていった。

 

 

 

0430[みらい]CIC

 

「どうやら、作戦を中止したみたいですぜ…。艦隊が帰路につきました。 」モニターを見ていた青梅が話す。

「終わったのか…?」菊池にが呟いていると、[やまと]から無電が入った。

[こちらは国防海軍 戦艦 やまと 。貴艦の行動に感謝し本艦はマリアナ基地へ引き返す。ガタルカナル島の陸軍 海軍双方の部隊の隊員ら救出のため護衛艦2隻をこの海域に留まらせる。ただし、あなた方は救助活動終了後マリアナに入港していただきたい。後日、我々 国防海軍総司令官 山本 五十六 が、あなた方と面会を希望している。また、現在乗艦している艦娘達は一旦マリアナで下艦せよ。]

 

「やはり、一筋縄ではいかないか…。だが、戦闘が回避された事はありがたい。これで、深海棲艦らがガ島侵攻を中止してくれれば…。」梅津はモニターを見ながら思った。

 

「副長へ連絡。我々が行うべき任務は終了した。速やかに帰艦せよ。」梅津は角松達に帰艦命令を出した。

 

 

同時刻 ガ島 上陸部隊回収地点

 

スコールの中でSH-60Jが角松達の帰還を待っていた。

「━こちら、角松。回収地点まであと2キロだ。」と、角松から無線が入る。林原が応答しジャングルの中で暫し待つこととなった。(…日の出前には島を出ないとまずいな…。)と柿崎が冷や汗をかきながら考えていた。

 

その頃、角松達上陸部隊はSH-60Jが待機している草原の手前まで来ていた。最後の難関である高さ3メートル程度の崖を登っていた。

「俺ら、いつから陸自になったんだよ…。」尾栗は文句を言いながら登る。スコールで足元がかなり滑りやすくなっており、非常に登りにくい状況だった。

 

「あっ…。」

 

ドサッ!

 

と、鈍い音がジャングルに響き渡った。「角松副長!柳さんが谷に!」

しらね の声に角松が崖上から覗くと…。

 

「撃たないでくれよ…。」

「コイツ、人間ダゾ…。」

崖下で柳と深海棲艦の兵士が睨みあっていた。

 

「ア、アイムノットジャパニーズ!」

 

ドン! パパパパパパパパパパパパパパパパパパ

 

乾いた64式機関銃の銃声がジャングルに響き渡った。

「康平!右サイドへ回り込め!俺は左から狙う。」角松がものすごい勢いで崖下へ滑り降りる。敵部隊は角松達の倍10名前後だった。

 

パパパパパパパパパパパパ

ダダダダダダダダダダダダ

 

双方の銃声が響き渡る暗視スコープを付けた尾栗は片っ端から深海棲艦を倒していたが…。右肩に被弾し、後ろへ倒れてしまった。そして、目の前に銃を突き付けられる。「くっ…。」

 

パパパパパパ

 

敵の隙をついて敵兵の脇腹に撃ち込む。しらね は慣れた手捌きで敵を片付けていた。だが、右から突如敵が飛び出してきた。

「しまった!」  

 

パパパパパパ…。

 

だが、その兵士はすぐに倒れた。榎本が応戦し倒したのだった。だが、しつこく狙ってくる敵に対して角松は大声で叫んだ。「柳!スタングレネードを使う!目を閉じとけ。」角松は小さな手榴弾を投げるそして…。

 

カッ!

 

暗闇に閃光が走りその隙をついて敵を一気に片付けた。

 

「戦闘は終わった。速やかにここから立ち去れ!」

角松は残っていた敵兵にこの場から離れるよう伝えた。敵は深海棲艦といっても人間と同じように二足歩行で姿形は人間そのものだった。

 

パパパパパパ…。

 

敵が銃を向けたので反射的に撃った。それで戦闘が終わったと思って油断した角松は背後から来た敵兵に倒された。

 

ドサッ

 

「ぐ、ぐぬう…。」

深海棲艦と直接睨み合う角松。敵はナイフを目の前に突きつけていた。それを押さえながら、近くにあった石で敵の頭部をひたすら殴った。相手の青い血が流れ自身の顔に付着する。敵の力が弱くなった隙をついて馬乗りになる。そして、相手の首を絞めた。一瞬、ナイフを持った手が動いたが…。敵は二度と動くことはなかった。

 

 

「ハァハァ…。全員無事か?」

角松は起き上がり、全員の無事を確認した。すると、柳と尾栗が被弾していることに気づいた。

「榎本、柳を手伝ってやれ。しらね は荷物を…。」

榎本と しらね が柳の元へ向かいに応急処置をしているとき、角松は尾栗と話していた。

「右肩大丈夫か?」

「あぁ、痛くはない。ただ熱いだけだ。」

「そうか…。」

安心したのか尾栗の口が動く。

「お前、今口笛を吹こうとしただろ。」

「えっ?」

「気が上がると、口笛を吹く癖は直しとけ。」

「す、すまん…。」

「弾はぬけてるし、骨は折れとらん。止血しとけ。」

 

角松はそう話し、足元に転がっていた鉄帽に貯まった雨水を捨てて被る。そして、自分が首を絞めて殺した敵兵を眺めた。彼らはエイリアン等の未確認生物のような形態ではなかった。その姿は、人間そのものだった。違いは、血が青いということ…。白目を向いて口から泡を吐いて死んでいる敵兵を見つめて角松は思った。

(俺ら5人が生き残るために…10人を殺した。)

自身の手を見ながら、敵の命を奪ったことを実感していた。

 

 

キィィィイイイイインンンン

 

待機していたSH-60Jが[みらい]に向けて帰艦する。機内で、しらね と角松が話していた。

「あの深海棲艦の兵士達…私たちと同じ人間みたいでしたね…。」うつむきながら しらね が呟く。

「ああ、奴らは血が青いだけで俺たち人間と同じような生き物なのかもしれんな…。」窓の外からは離れ去るガタルカナル島の景色が見えていた。

 

 

 



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航跡28:自衛隊の戦い ガダルカナル攻防戦~救出~


さて、長く続いたカダルカナル攻防戦も角松達のお陰で新たな道を切り開こうとしています。前回、陸戦で深海棲艦と戦った角松が思っていることとは…。



 

俺は夢を見ていた…。

 

敵に首を絞められ殺されそうになる夢だ…。

 

俺が俺を殺めようとしている。先日のガタルカナル島での戦闘を思い出させる夢だった。

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁあああ!!!」

目が覚めてベットから飛び起きる。部屋を見渡すと艦内の医務室で桃井と尾栗が驚いた様子でこちらを見ていた。

「ハァハァハァ…。」

「副長も人の子ですね…。丸一日眠ってましたよ…

痛っ。」おでこの傷を消毒薬でつつかれながら尾栗は話した。

「ところで、柳の容体は?」

「ええ、弾は抜けてますし内臓への損傷も見受けられません。ですが、なるべく早く設備の整った病院に入院させた方が…。なにしろ、応急処置しか出来ませんから…。」と、苦笑いで桃井は話した。

「あっ、そうだ。副長、栄養剤を投与しますから…

待っていてください。」と、桃井は医薬品の保管室へ向かった。

「康平、ガ島陸海軍駐留部隊救出の作戦指揮は誰がするんだ?」角松は駐留部隊救出の際に、上陸部隊の隊長として指揮を行う人物は誰だと尾栗に尋ねた。すると…。

「どうも、船務科の桂木一尉が行うそうです。津田大尉と艦娘の白雪が同行するそうで、追加で5名ほど選抜してほしいと…。あと、目が覚めたら艦長のところへ来てほしいとの事です。」

「…なんだと?俺じゃなくて桂木が指揮をするだと…。」角松はベットから降りて、医務室から出ていこうとする。

「副長!栄養剤…。」

「今はいい。大丈夫だ。」

 

バタン!

 

そう話して角松はCICへ向かった。

途中で 艦娘の みらい と出会った。

「副長…。大丈夫ですか?顔色悪いですけど…。」

「いや、大丈夫だ。ところで艦長は?」みらい の心配をよそに角松は梅津艦長の居場所を尋ねた。

「艦長なら、菊池三佐と一緒に艦長室へ向かいましたよ。」

「すまんな、ありがとう。」

みらい にお礼を言い、角松は艦長室へ向かった。CICの前では片桐と出会った。

「副長~激しい白兵戦だったんですよね。顔色からも分かりますよ…。」

「だったら何の用だ…。」

「また、ガタルカナル島へ向かうなら俺を従軍カメラマンとして連れていってください。記者として、現地の状況を撮影したいんです。」現地を撮影したいと申し出る片桐に角松は…。

「…俺らは、ドンパチやりに来たんじゃない。人命救助だ。それに奴らは俺たちの明確な敵ではない…。」と話して、角松は立ち去っていった。

 

(副長は生真面目だからなぁ。素直に敵だって言い切ってしまえば楽なのに。あくまで、自衛官という立場を変えたくないんだろうなぁ…。)片桐は角松の背中を見ながら思っていた。

 

 

 

1815 [みらい]艦長室

 

「お前は、少し疲れている…。ここは休んだらどうだ?」梅津艦長に会って最初の一言はこの言葉だった。

「…いえ、飲まず食わずで熱帯雨林を逃げ回っている陸軍や海軍の兵士達と比べれば大丈夫ですよ。」

「梅津艦長。海軍のマリアナ基地と連絡を取ったところ、島の南東マラクル村沖合いに海軍の輸送護衛艦[だいせん][のと]と護衛艦[あらかわ][ちくま]を派遣するとの事です。」津田が本部からの電文を読み上げる。

「さて、上陸部隊だが隊長は桂木一尉を…。」

「いえ、私に行かせてください。」

梅津の言葉を角松が突如遮った。すると梅津は…。

「副長…。なぜ、そこまでして参加したい?」

と、参加理由を尋ねた。角松は、

「私には柳や尾栗の二の舞をさせたくない。その責任があります。その上、先に上陸した経験者が居た方が作戦の遂行も順調になるかと…。」

 

 

「…分かった。そこまで言われたら拒否できんな。桂木を副隊長とするが、決して無理はするんじゃないぞ。と、梅津は角松の参加を許可した。

 

 

2200 マラクル村 海岸

 

角松達上陸部隊は沿岸で待機していた。沖合いには海軍の護衛艦の姿が見える。深海棲艦の部隊はここまで侵攻はしていないようだった。辺りは月光に照らされてうっすらと明るくなっていた。

 

「副長。あれ…。」

桂木が指した方向から大勢の人々がやって来るのが見えた。その一番前には陸軍と海軍の指揮官が歩いていた。

「はるばるご苦労。国防陸軍 第82普通科連隊 総隊長 棟方 宗一 以下、隊員185名!」

「国防海軍ガタルカナル島第82沿岸警備隊 隊長 門前 謙二。隊員、21名。 」と、二人が敬礼する。

(2千人以上が戦死するはずの歴史が・・・。書き変わる!)様子を見ていた角松が思った。だが、合流した国防軍の隊員達の数が予想より少ない。

 

「あちらの方達は?」門前が津田に質問する。津田は「軍機につき詳しくは申し上げられませんが、特務についている者です。」と、お茶を濁した。すると…。

「津田大尉!船の用意が出来ました。」[だいせん]の乗組員が輸送用意が出来たと報告する。

「報告では、ガタルカナル島には日米双方2千5百名が救出を待っている報告を受け…。その中には陸軍の岡村少佐も居るとましたが…。」

「あいつは身勝手な男でな…。何を思ったか、今さっき部下を数名連れてジャングルへ消えてしまった。」門前は空を見上げながら話す。

「日米双方合わせて2千5百名中、日本軍は1千4百名…。そのうちここへたどり着いたのは201名だ。」

陸軍の棟方隊長がこれまでの経緯を話しはじめた。

「突然の空襲でな、レーダーサイトが破壊され指揮系統は混乱。各自の判断でジャングルへ逃げ込んだのだが、敵に見つからずにここまでたどり着けたのはこれだけだ。」密林を見つめながら、棟方は話す。「ここへ来るまでの間…。密林で火を炊いたあとが幾つもあった。中には、この撤退命令を知らずに今もなお1千名近くの隊員が空腹と恐怖に囲まれながら隠れているだろう…。捜索しようにも、この状況下では十分な捜索活動は出来ないと判断した。」

「そ、そんな…。」白雪はその話を聞いて、ショックを受けていた。しらね から陸戦部隊に出るなら相当な覚悟が必要だと聞いていたが…。ここまで残酷な現実とは思わなかったのだ。

話が終わり…。

「では、各部隊ごとに護衛艦に乗船していただきます。」津田の指揮で隊員達が短挺に乗る。「…これで、歴史が変わるんですか?」ふと、白雪が独り言のように話した。「それは、分かりませんが。この世界の運命は変わりつつあると思います。」桂木は白雪に話した。突如、角松が走り始めた。

「副長~!どこ行くんです!?」桂木が声をかけるが、「お前ら、そこで誘導してろぉ~!」と残してジャングルへと消えていった…。

 

 

「ハァハァ…。一人でも二人でもいい…。近くにいるなら出てこい!」

 

角松は取り残された国防軍の隊員が居ないか息を切らしながら一人で捜索していた。

「フォールドアップ!」

ふと、後ろから何やら声がする。動きを止めて耳を済ませていると…。

「リリースユアウェポン…。」

 

(ビーチからまだ、201名が脱出していない‼)

 

角松は声がした方向へ機関銃を向けた。そこには深海棲艦ではなく、普通の人間が立っていた。

「ほぉ、この岡村さまの英語が通じないとは…貴様、日本人だな。」

制帽から見てこの島で活動していた事実上の指揮官。国防海軍の岡村少佐だった。それを見てホッとして角松は銃を降ろす。

「貴様、妙な鉄帽を被っているが国防海軍の軍人か?」

「…いや、軍人は軍人だが…。名前は角松 洋介」

角松は曖昧な返答をしたが岡村は「まぁ、よかろう。同じ日本人だな。」と笑いながら答えた。

「ところで、角松さんとやら…。ここで何をしている?」

「撤退命令を知らずに今もなお、さまよっている陸海軍双方の隊員達を捜索していた所だ。」

「そっか、この辺りは俺と…。」

「岡村少佐ー!」と、遠くから隊員数名がやって来る。「…こいつらが探したが、いねーよ。」岡村は残念そうに話す。だが、希望はなくしておらず部下に捜索結果を尋ねた。しかし…。

「そうか、居ないか…。仕方ない時間切れだ。お前達は海岸へ向かい、短挺で脱出しろ。」

「隊長はどうするんです?」

部下の一人が岡村に尋ねる。帰ってきた返事は驚きの物だった。

「…俺はここに残るよ!」

 

「えええ!!!???」

と、部下達の驚きの声がジャングルに響き渡る。

 

「た、隊長一人でどうするんです!?我々もご一緒させてください!」部下の一人が尋ねると…。

「だめだ!」と、一喝された。

「…お前らには任務が残っている。後任は岡村にお任せくださいと門前大佐へ伝えてくれ。それから船だ!1週間後にこの海岸に設営隊脱出用の船を用意してくれと、進言してくれ。」

「た、隊長…。」涙ながらに話を聞く部下に岡村は「早く行け!グズグズしてると、敵の餌食になるぞ!あと、でっかい船を頼むぞ。」と話し、部下の隊員達を海岸へ向かわせた。走り去る部下の姿を見送った岡村は角松に尋ねた。

 

「角松さん…。あんたはいいのかい?行かなくとも。」

「岡村少佐…。なぜ、こんな大胆な行動を?」

「見ちまったんだよ。」

「えっ?」

 

「ここへ来るまでの間、あちこちで火を炊いた跡があった。今もなお、撤退命令を知らずにジャングルをさまよっている彼らの事を知っちまったら…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「置き去りには帰れんよ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

その一言に角松は自分が別世界からやって来たこと、この島が激戦地になる事を伝える決心をした。

「私も二日前に敵の兵士を殺しました。無駄な血をこの手で流したくなかった…。」

「そう、思い詰めることはないさ。あんたは立派に戦ったってことだ。」

敵との戦いで後悔している角松を岡村は励まそうとした。すると角松は、

「…岡村少佐。俺はこの世界の人間じゃない。この世界がゲームとして存在している世界からやって来たんだ。」

 

 

「…なるほどなぁ、この島にそんな運命が訪れるのか…。」岡村は水筒の水を飲みながら話す。

「岡村少佐はこの激戦地で生き残ることとなっています。ですが、この行動で世界の運命が変わり…。恐らく、この島での大きな戦闘は発生しないでしょう。」角松は自身が予測した戦争の行く末を話した。だが、岡村少佐は…。

「決められた歴史か…。そんなものあるのかねぇ?」

「えっ?」

「だって、あんた達がこの世界に来たってことは…。まだまだ変わる可能性だって十分ある。俺はそうだと信じるがな。」岡村はそう話して立ち上がった。

「では、急ぎの用だからな。これで失礼する。あんたも無事にこの戦争を乗り切れよ。」と、岡村は角松に話してジャングルへと消えていった。

 

バラバラバラバラバラバラバラバラ…。

 

「ー副長、帰艦予定時間です。」SH-60Jから無線が入る。上空からサーチライトで照らされて辺りが明るくなる。

 

(俺は、岡村少佐みたいに変わり行く歴史に責任を持てるのか?)

と、角松はこの世界に対する責任を取れるのか自問自答を繰り返す事となった。

 

 

 



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マリアナ基地編
航跡29:マリアナ上陸~海軍参謀会議~



 ガダルカナルでの戦いが終わり、海軍から出頭を命じられた[みらい]はマリアナ基地へと入港した。そこでは海軍の司令長官山本との会談が行われることになっていた。そして草加少佐も自身の道を歩み出そうとしていた。



 ガダルカナル島にて国防海軍による深海棲艦への、一方的攻撃を阻止した海上自衛隊イージス護衛艦[みらい]はマリアナ基地へ出頭を命ぜられていた。

 

「麻生専任曹長…。我々、これからどうなるんです?」

「分からんな…。だが、俺たちがやるべきことは専守防衛だ。それを忘れるな。」艦橋で麻生達が話し合っていた。停泊している岸壁には海軍警務隊の車両が停まっており、警備の兵士がこちらを睨んでいた。[みらい]クルーと国防海軍警務隊がにらみ合いをしている頃、角松達幹部らはマリアナ基地本部内の応接室にて司令長官の山本と会談をしていた。

「先日のガダルカナル島沖合での衝突…。我々、国防海軍としては作戦を妨害されたとして認識している。だが、私としては…戦闘突入を回避できるチャンスを授けてくれたことに感謝している。」国防海軍司令長官の山本はそう話した。

「しかし、我々はあなた方を敵に回してしまった…今後、何らかの報復を受ける可能性は高い。我々はそう、判断しています。」梅津は静かに山本に伝えた。

「それに関しては、私から控えるよう伝達はしておく。だが…。我が海軍の最新鋭の戦艦[やまと]に砲撃をした事実は、消すことはできないでしょう。」山本はコーヒーを飲みながら話す。

「話は変わりますが、あなた方護衛艦[みらい]の今後について我が海軍内部で検討した結果をお伝えします。」と、津田が話に介入してきた。

「あなた方の今後についてですが、8月2日に当マリアナ基地を出港し横須賀鎮守府へ向かってください。海軍上層部で会議をした結果あなた方の身柄は横須賀にて暫く待機していてもらいたい。」

「横須賀…ですか。」角松が海軍の判断に驚き、呟いた。

「ええ、横須賀…。あなた方が旅立った場所です。」と、山本は話す。少しの沈黙の後、菊池が話始めた。

「…一つ、確認したいのだがよろしいか?」

「ええ、構いませんが。」

「我々が横須賀へ向かう際…。当然、単艦では行かせないと思うが監視の船はどうなる?」と、菊池はあくまで護衛と言う名目で[みらい]を監視する船舶を気にしていた。だが、菊池の予想通り津田からは「それは、出港当日にお伝えします。」という返事が帰ってきた。

 

「ところで、あなた方は横須賀の柏木君から…。横須賀所属の艦娘を連れて帰ってきてほしいと頼まれていたな。それに関してだが、我々の方で輸送する艦娘を選定しておいた。」と、山本の話のあとに津田が封筒から資料を出す。

「あなた方の護衛艦の艦内設備から見て、負傷が軽微な艦娘達を輸送するのに適していると判断しました。よって、この三人を乗せて行って欲しい。」

資料には、輸送予定の艦娘三人の名前が記載されていた。

[ 蒼龍 飛龍 瑞鳳 榛名 ]

「こちらの四名ですか…。」梅津は資料を見ながら話す。

「ええ、具体的な負傷内容は資料に記載されていますが…。蒼龍 飛龍の二名については骨折などの物理的損傷。榛名は極度の疲労による体調不良です。

一方の瑞鳳は横須賀帰還と彼女達の看護をする事となりました。」

「…搬送についてはこちらのやり方で、よろしいのか?」角松は津田と山本に質問したが二人からは「貴艦の判断に任せる。」と返ってきた。

 

「それと、貴艦乗組員についてだが…。」山本の話に梅津は驚いた。

 

 

同日 1800 [みらい]艦内食堂

 

食堂ではクルー達が交代で夕食を取っていた。今日は金曜日で毎週恒例の金曜カレーが出されていた。今日のカレーはカツカレーであり、隊員達は皿に山盛りに持ったカツカレーを食べていた。カレーの良い香りが漂う食堂にふと、艦内放送が流れる。

 

「皆、そのままでよい。艦長の梅津だ。長きに渡る航海…大変ご苦労である。本日、国防海軍と我が[みらい]幹部との会談があった。本艦は暫しの間、当マリアナ基地にて休息を取るが…。」

食堂で金曜カレーを食べていた隊員。機関室でエンジンの整備をしていた隊員。飛行甲板でジョギングしていた隊員達、それぞれが梅津の言葉に耳を傾ける。

 

「会談の結果、本艦乗組員への慰安の申し出があった。私は、これを喜んで承けようと思う!」

 

「ウォォオオオ!!!!」

艦内に隊員達の喜びの声が上がっていた。

「久しぶりの上陸だ。」

「陸の空気を吸える!」

「酒に女だヤッホーッ!」

と、食堂はお祭り騒ぎだった。ふと、食堂に角松が入ってくる。お祭り騒ぎの食堂の状況に驚いたが、隊員達に「今回は、特別の上陸許可だが…。今もなお、ガダルカナル島で戦闘をしている兵士が居ることを忘れるな!それから、一度は銃口を向けた相手だ油断禁物だ!」

 

「ハッ!」角松に気付き慌てて敬礼する隊員達。調子にのっていた隊員達は雷が落ちるのではないかと察してしたが…。角松は何も言わずに食堂から去っていった。

「…おっかねぇ。怒鳴られるかと思ったぜ。」

「普段の副長なら…怒鳴るんですけどねぇ。どうしたんでしょ?」

「さぁな…。この前のガダルカナルの事が気にかかってんじゃないのか?」と、隊員の一部が角松の後ろ姿を見ながら密かに話していた。

 

 

 

 翌朝 国防空軍 マリアナ基地 整備場

 

コツ…コツ…コツ。

 

空軍の整備場に海軍の人影があった。普段、海軍と空軍の人物が共に行動するのは いぶき型護衛艦等で行動はするが…。基本的には大規模出撃時の打ち合わせ以外では空軍の整備場にはやって来ない。

 

「今日、東京へ向かう便はどれかな…?」

「はっ、本日1730。入間基地行きのAC-3型輸送機[しらさぎ]があります。」と、空軍の担当者が話す。

「積み荷は何だ?」と、海軍の制服を着た人物が尋ねる。空軍の担当者は資料をめくり調べる。

「…えー、積み荷は本土の修理工場行きの陸軍向け銃器類ですね。」と、眼鏡を整えながら話す。

「急ぎで悪いのだが…。東京へ向かいたい。乗ることはできるかな?」と尋ねると…。

「こちらは構いませんよ、積み荷も少ないですし乗っていただいても構いませんが…。何用で?」

「いや、明朝に国防省で海軍の緊急会議があるのでな…。」と、話すと「それはそれは、海軍さんも忙しいんですなぁ~」と、空軍担当者が笑い飛ばす。「分かりました。搭乗手続きを行いますのでこちらに記入してください。」と、搭乗手続き用の用紙を手渡す。

 

「国防海軍 通信少佐 草加 拓海 さんですね。了解しました。あとはこちらで手続きしておきますので…。離陸10分前には当整備場の事務室へお越しください。お待ちしています。」

 

「あっ、この件はくれぐれも内密に頼む。極秘行動中であるからな…。」と、その男は伝えて整備場から出ていった。

 

 

 

 

1530 マリアナ基地 埠頭

 

国防海軍からの計らいにより暫しの休息を取ることとなった海上自衛隊のイージス護衛艦[みらい]は、乗組員241名を三分割し80名ずつ慰安の為上陸を許可された。場所は、梅津艦長と沢井総監が会談した日本料理[料亭 湘南]で行われる事となった。

 

「おっ?あそこの女の子…。現地の子かなぁ?」

「駄目ですよ杉本二曹!」埠頭から料亭へは海軍の大型トラックの荷台に乗って移動していた。道路沿いの畑で可愛げな少女が農作物を運んでいた為、一部の隊員が手を振り声を掛ける。少女は手を振り、答えてくれた。

「おっ!手を降ってくれたぜ♪」と、夜の宴会に期待を持って楽しみにしている隊員の中に…。角松と津田の姿があった。

 

「草加少佐とはあの後、連絡は取れていますか?」

「いや、全く取れていない。奴が何をしようとしているかは…詳しいことは分からんが。」と、津田と角松は草加少佐の事について話していた。ふと、トラックと黒色の乗用車がすれ違う…。

 

(・・・!!!)

 

「あっ!草加ーっ!」と、いきなり角松が乗用車に向けて叫ぶ。「えっ!?」という津田の反応と同時に角松は荷台から飛び降りた。

「奴だ!追いかけるぞ!」「はい!」

角松と津田はトラックから飛び降り、乗用車を走って追いかけ始めた。

 

「副長ーっ!?どちらへ行くんですかぁ?」という隊員達に「お前ら先に行ってろぉー!!」と、叫んで二人は去っていった。

 

 

 

ブロロロロロロロオオオオオオ…。

 

土煙を上げながら走る乗用車の車内では草加少佐と陸軍の軍服を身に付けた軍人が乗っていた。

「…おや?誰か追いかけてきてますね。」その軍人が後ろを見ると全力疾走中の角松と津田の姿が見えた。

「彼らは…私の友人でありライバルでもあります。」

「それでは…?車を止めた方がよろしいか?」

車を止めるか尋ねた陸軍軍人に草加は「いや、結構。彼らとはまた会うはずですから…。」といい車の速度を上げるように指示を出した。

 

 

「津田大尉…ハァハァ…奴の行き先分かるか?」

「ハァハァ…。この方向だと、恐らくこの先の漁港から連絡船に乗って楓島飛行場へ向かうつもりでは?」草加の乗った乗用車を追いかけながら、角松と津田は話していた。

「それだ!そっから飛行機で高飛びする考えた!」

その角松の意見を聞いた津田は急に速度を落として…雑木林にある細い獣道を指差した。「この道は大きく迂回して港に出る道です。でしたらこの裏道を通った方が速いです!」津田の意見を聞き、角松は泥だらけになりながら裏道を進んだ。道路を迂回するよりも5分近く早く漁港に着くことができた。ここまで追いかけていた乗用車の横を通り漁港の堤防を進むと、草加達が乗っていったと思われるボートが見えた、

 

「ハァハァ…。くそっ!ここまでか。」角松は制帽を握り潰す。すると津田がもう1隻止まっているのを見つけた。そのボートに飛び乗ると乗っていた水兵が…「困ります大尉。この船は護衛艦[あらなみ]艦長 武田 信義 をお待ちしています。」と、困る水兵に津田は…。「構わん!山本五十六司令長官からの厳命だ!」と、叫んで角松と共に楓島飛行場へ向かった。

 

二人が飛行場に到着し、空軍関係者に本日の飛行スケジュールを確認していた。

「今日の飛行予定は、スクランブル(緊急発進)を除いて…着陸便が2機。いずれも本土からの輸送機ですね。」と、担当者が話す。ふと、甲高いエンジン音が鳴り響く。滑走路に向けてAC-3型ステルス輸送機[しらさぎ]が離陸準備に入っていた。

「…ここから本土へ向かうのは今日は、あれが最後です。」と、指を指した。

「あれは空軍機です。私に止める権限はありません!」

「んな事いってられっかーっ!」

 

キィィィィイイイイインンンンン

 

大声をあげて角松が飛行機に向けて走り始める。

「ーこちらマリアナ管制。国防空軍4568便、離陸を許可します。」

「こちら国防空軍4568便。離陸許可。離陸許可。了解しました。」

 

キィィィィイイイイインンンンン 

AC-3輸送機が滑走路に進入し、離陸体制に入る。角松は近くまで駆け寄り機体の近くまでやって来た。

「まてぇ!このペテン師め!お前がいくら世界を騙そうと、俺は騙されんぞ!」角松は離陸しようとしている輸送機に向かって大声を出した。すると、中に居た草加が気づいたのか窓越しに口をパクパクさせる。

 

「イ・シ・ワ・ラ・カ・ン・ジ」

 

それを読み取ったところで、角松はエンジンからの爆風で派手に転び…。輸送機は東京方面へ飛び去った。

「角松さん!?大丈夫ですか!」と、慌てて津田が駆け寄る。「大丈夫だ。…イシワラ。石原莞爾に会おうってのか!?」傷だらけになりながら、輸送機が飛び去った方向を眺める角松。空は綺麗な夕焼けで赤く染まっていた。

 

同日 1900[料亭 湘南]

 

「ようこそ。はるばるお越しくださいました。」料亭の入口で和服姿の女将が[みらい]の乗組員達に挨拶をする。宴会場へ案内されると、おもてなしをする舞妓の姿があった。

「おぉ…。」余りの待遇の良さに驚いたが、酒を飲み始めると普段の様子と変わらなくなった。

 

「ハハハ。私は幼い頃から船が好きでしてね…。憧れから海上自衛隊に…。」「俺は防衛大学の棒倒しで優勝を…。」「こっちは、[みらい]配属前は掃海挺で不発弾処理をしていたんです。」等々、あちこちで盛り上がっていた。ふと、舞妓が日本の歌を歌い始めた…。すると、急に全員黙ってしまった。全員、元の世界に残してきた家族や大切な人を思い出して涙ぐんでいたのだ。

 「はぁ、海軍さんとあろうお方が…。しけちゃいけないねぇ。」と、様子を見ていた舞妓はため息をついた。宴会場前の廊下では、佐竹が夜空に輝く月を眺めていた…。

(俺達はこの世界で何をすれば良いんだ?)

と、考えていたが…。考えていてもしょうがないと思い、持っていた御猪口の酒を庭に撒いた。 

 

2200 護衛艦[みらい]ミーティングルーム

 

 飛行場から戻った角松は、艦これの資料を片っ端から調べていた。それは、草加が飛び立つ輸送機の窓越しに話した石原莞爾についての事だった。

 

「…遅くまでお疲れ様。珈琲よ。」と、桃井一尉がテーブルに置いた。角松は「ありがとう。」と一言話し珈琲を飲む。手元のパソコンにはこれまで調べてきた艦これ世界の情報をまとめた、資料が表示されていた。艦娘や深海棲艦の事…。国防軍や世界情勢の事。そして、アメリカとの安保条約についての事。様々な情報をまとめていた。

 「で、副長…。今日は宴会に参加する予定だったのに、どうして急に帰艦を?しかも、泥だらけで…。」と、尋ねる桃井に角松は「草加少佐が東京へ向かったんだ。奴のこれまでの行動からして何か良くないことを考えているのかもしれない…。」と話した。

 

 

翌日 1100 [みらい]資料室

 

カチカチカチ…。

 

「…草加が言っていたのはこの男か。」資料室では角松と菊池がパソコンを使い、草加が話していた石原莞爾について調べていた。津田から国防海軍のネットワーク侵入方法を聞き、人物照会をしていたのだ。

「…元防衛省 情報保全隊 陸上自衛隊西部方面担当官で、二年前に依願退官。現在は、東都大学校軍事研究の准教授か。」角松はモニターに表示された履歴を見る。「既に退官した軍人だが…。草加は何故?会おうとしているのか…。」菊池が疑問を抱いていると角松が…。

「奴が会おうとしている人には理由がある。それを調べてほしい。」と、菊池に頼んだ。「…分かった洋介。だが、草加の考え次第で変わるかもしれないぞ。」と、忠告するが角松は「分かっている。出来る限りで構わない。すまないがよろしく頼むぞ。」と、話して資料室から出ていった。草加少佐の不審な動きや護衛艦[みらい]での調査など…。今後の行動に影響が出るとは思ってもいなかった吹雪型駆逐艦娘三人は基地内部の食堂で早めの昼食を取っていた。

「あ~あ…。せっかくマリアナまで来たのに、[みらい]に乗艦していたからって事で休日返上で任務とはなぁ~。」と、昼飯の天丼の海老を食べながら愚痴をこぼしていた。「深雪ちゃん。そんなに凹まないの…。私だって遊びたいんだからさぁー。」と、珍しく白雪が遊びたいと話した。「珍しい~。白雪ちゃんの口から遊びたいって出てくるなんて…。」と、吹雪が驚いた顔で話す。三人が話していると…。「あれ?いつもの三人組でお昼?」声が掛かってきた方を見ると 護衛艦娘の しらせ が昼飯のパスタを持ちながら立っていた。

「あっ、こんにちは しらせさん。」と吹雪が挨拶をする。しらせ は吹雪達の隣のテーブルに座り話を聞き始めた。

 

「…なるほどねぇ~。確かにこのところ、私達艦娘の休日少ないわね。」と、顎に人差し指を当てながら話す。「ですよねぇ…。」と、白雪が呟く。

「まぁ、ガダルカナル島での攻防戦の直後だし…。暫くマリアナ基地で休息を取るみたいだけど?」「俺らの休日いつなんだよぉー。」と、深雪がテーブルに突っ伏して嘆く。すると、しらせ は梅津艦長に掛け合ってみると言ってくれた。

 

 

その日の夜である。梅津艦長に休暇申請しに艦長室にやって来た しらせ は梅津艦長の言葉を静かに聞いていた。

「…私も思っていたのだよ。ここまで来るのに艦娘達の支援がなければたどり着けなかった。本艦の出港予定は明後日8月2日だ。我が艦の隊員達とは別にあなた方にも休暇を与えようと…。国防海軍の山本長官と話し合っていたのだよ。」と、海図を見ながら梅津は話す。ふと、振り返って しらせ の方を見ると梅津はこう話した…。

 

「君達とは、このあとも共に行動する事となる。横須賀の柏木提督から君達を預かっていると言うのは変わらない。…明日一日しか与えることが出来なく申し訳ないが…。君達にも明日、一日休暇を与える。」と、梅津は吹雪達艦娘全員に一日限りの休暇を与えた。

「あ、ありがとうございます!!」と、深々とお辞儀する しらせ に梅津は…。「艦娘といっても…君達は人間だ。気分転換も必要だろう。今後、どんなことがあるか分からんが…。今のうちにしっかりと休息を取っておきなさい。」と、話してくれた。

 

 



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航跡30:艦娘達の休日

 お久しぶりです。急行奥秩父です。このところ、戦闘や暗いシーンが続いていたので…。今回は明るい話にしてみました。普段は戦いに命を捧げている艦娘達の休日の姿をご覧ください。



 

 翌朝0630、梅津艦長から休日を貰った吹雪達は、マリアナ基地のあるテニアン島から隣接するサイパン島へ連絡船に乗り向かっていた。前日は雨だったが…今日の天気は雲ひとつない快晴である。ただ、熱帯気候の島であるため蒸し暑い一日になりそうだ。

 

「島に着いたら何します?」

「そうねぇ…。横須賀の皆さんにお土産買っていきましょうか?」吹雪と白雪は買い物をするかと話していた。

「…暑いのは苦手だ。」「響…大丈夫?」

出発早々、暑さで伸びてる響を暁が心配する。

「サイパンに来たのは…いつ以来だったかしら?」ふと、しらせ が話し始めた。しらせ によると深海棲艦との戦闘の影響で、本来所属している日本の南極観測隊の航海ルートが変更となりサイパン付近はあまり通らなくなっていたからだ。

「…私は、船の時に幹部候補生の演習航海で何度か来たことがあるわ。」と、隣で潮風に当たっていた しらね が話す。一方、みらい は…。

「タイムスリップする前に…日米合同軍事演習で寄港したことはあるけど…現代のサイパンは初めて。まぁ、戦時中のサイパンは来たことあるけどね。」と苦笑いしながら話した。するとデッキから前方を見ていた深雪が「もうすぐ着くぞ~」と声を上げる。連絡船はサイパン島のオブヤン港に入港した。

 

 

オブヤンの港はマリアナ基地との連絡船が行き来するため、一部は米海軍が管理していた。吹雪達は身分証明書を警備の兵士に見せてゲートを出る。日本の軍人と違って、常に大型の機関銃を肩にかけている事に みらい は(どこ行っても、銃の国は変わらないのね…。)と内心思っていた。

 

港からはバスで一旦サイパン国際空港へ向かった。熱帯気候の蒸し暑さで、北国育ちの響は既に参っている。あまりの暑さと直射日光でほんのり顔が赤くなっていた。

「響ちゃん…?本当に大丈夫なの?」と車内で白雪が心配する。「空港に着いたら何か飲み物買いましょうか…。」みらい は響の体調を心配して空港到着後、響に冷たいスポーツドリンクを買った。

「みらいさん。…ありがとう。」とお礼を言う響に みらい は「大丈夫よ。熱中症は怖いからねぇ。」と話す。空港内にある気温計を見ると、気温32度 湿度80%と表示されておりここが熱帯気候であることを証明していた。少し涼んだあと、空港からバスで15分ほどのビーチへやって来た。目の前には蒼く透き通った綺麗な海が水平線の彼方まで美しく見えていた。このビーチは近くにあるリゾートホテルが管理しており、軍関係者の慰安でも使われていた。今日は軍関係者の宿泊が無く、また戦争の影響で観光客も減少していることから…。ビーチを使用しているのは吹雪達艦娘だけだった。

 

「イッヤッッホホホゥゥゥウ~」とホテルの更衣室で水着に着替えた深雪が砂浜を走り海に駆け込む。後から 吹雪 白雪 暁が走ってくる。

「みらいは泳がないの?」「えっ?」ふと、しらせが聞いてきた。

「お、泳げないこともないけど…。あまり油断してちゃマズイし。あと、水着が…。」と、タジタジの様子で返事をする みらい に しらせ は…。

「もう!そんなんじゃ分からないでしょ!」

「えっ!?あ、ちょっと しらせぇ~」と、みらい をホテルの更衣室へ連行していく。

「何やってんだか…。」その様子を見ながらビーチパラソルの日陰で しらね はため息をつく。

「しらねさんは泳がないのかい?」と、響が聞いてくる。暁はとっくに深雪達と海で遊んでいた。

「私はもうこんな歳だからね。泳いで遊ぶより、海を静かに眺めて過ごしたいなぁって…。」しらね はほんのり青みがかってサクランボの入ったノンアルコールカクテルをゆっくり飲む。

 

(15分後)

 

「いや、ちょっ!…しらせ~これは恥ずかしいってぇ!」と、ホテルの方から声がする。しらね が声がした方向を見ると…綺麗なビキニ姿で立っている二人の姿があった。みらい は水色。しらせ はイメージカラーのオレンジで決めていた。

 

「みらいさん。しらせさん。二人とも美しいです!」と、吹雪が声をかけてきた。

「大人って…大胆なのね。」珍しく普段からレディーとして振る舞っていた暁が唖然のした表情で話した。

「け、けどちょっと恥ずかしいなぁ…。」という みらい に しらせ は「大丈夫よ。慣れればヘーキヘーキ♪」と言って みらい と共に海に入る。

その後、南の美しい海を泳いだあと深雪の立案で簡易のビーチバレーを行う。一方のしらね は遊ぶ吹雪達を見つつカクテルを飲んでいた。また、響は海岸で蟹を見つけてその生態をずっと眺めていた。そうしているうちに気づいたときには時計が12時を回っていた。

「そういや、腹へったなぁ…。」

「確かに私も~。」深雪と吹雪が同時に話す。

 

「おーい!そろそろ上がってきなよ~お昼にするから~」と、海岸でカクテルを飲んでいたはずの しらね が大声で声をかけた。

 

「あ~楽しかったぁ♪」

「ひっさしぶしたぜ~本気で泳いだの。」

「海もきれいだったし、お魚さんも泳いでいたね。」と、吹雪型三人は大盛り上がりで話していた。

「いや~泳いだ泳いだ。こんなに泳いだの久しぶりだよ。」更衣室でシャワーを浴びた みらい は頭をタオルで拭きながら話す。「久しぶりの大自然で楽しかったでしょ♪」と、シャワーを浴びながら しらせ が話す。

 

 

「今度は、横須賀の皆とも来たいねぇ~♪」

 

 

~更衣室前~

 

「…みらいさん達まだですかね?」

響と しらね は更衣室の前で待っていた。

 

「お待たせぇ~」と、吹雪達が出てくる。

「姉さん、待たせてごめんなさい。」と、みらいはバスタオルを首にかけて更衣室から出てきた。海水で泳いでいたせいなのか、シャワーを浴びたのにも関わらず磯の香りが体に染み付いていた。

 

「さ、みんな。ご飯食べに行きましょ!」しらね の案内でホテルのレストランにやって来た吹雪達。レストランの入り口に差し掛かったところで中から海上自衛隊休暇組の人が出てきた。

 

「あー食った食った。おっ?みらい じゃねーか。どうしたんだ?」声をかけてきたのは尾栗だった。

 

「あっ、尾栗さんは今日は休暇ですか。」

「あぁ、そうだよ。せっかくマリアナに来たんじゃ楽しまないとな。そういや、さっき海岸で遊んでいたの君達だったかぁー。」

「そうですよ。私たちも今日は休日で海に泳ぎに来ていたんです。」

「そっか!せっかくの休日だからな思う存分遊んできなよ。んじゃ、また後で艦でな…。」と、尾栗は店から出ていった。みらい達が中に入ると…。

「うわぁ!御馳走がいっぱい~」と、駆逐艦娘達か喜びの声が漏れる。

「えーと、これでお願いします。」

「かしこまりました。では、ご案内いたします。」

ウェイターに案内された席は海がよく見えるオーシャンビューの席だった。

「いらっしゃいませ。当レストランはただいまの時間ランチビュフェを行っております。時間は無制限ですのでどうぞごゆっくりお楽しみください。」と、ウェイターが話してくれた。

 

「よっしゃあ!食べるぞ~」と、食べる気満々でビュッフェへ深雪と吹雪は向かって行った。「私はお茶を持ってくるけど何がいい?」白雪は人数分のお茶を取りに行った。

「しらねさん。こんなところまで連れてきてくださるとは…。ありがとうございます。」と、みらい がしらね に頭を下げる。「いいのよ。飲食代金は軍付けで良いって言われたし。第一、皆まだ成長期だからね。」と、白雪が持ってきてくれたジャスミン茶を飲みながら話す。

 

「白雪ちゃん!すごいよココ!食べたことないものまで揃ってる!」

「焦らないで~大丈夫だよ。」

と、子供に還ったみたいにはしゃぐ吹雪達を護衛艦娘の三人は見つめていた。

 

食事中、女子会気分で日頃の面白いことや[みらい]で配属されている各科の仕事内容など皆で話した。そして楽しい時間はあっという間にすぎて、日が傾き始めた夕方5時過ぎ…。みらい達は空港に戻ってきていた。

 

お土産売り場で横須賀で待っている他の艦娘達にマリアナ遠征のお土産を探していた。

「あっ、白雪ちゃん!これどうかな?」

「な、何それ…。」

吹雪のお土産センスに白雪はちょっと引いていたが…。各自、欲しいものは買うことができた。

 

「暁…。これはどうだい?」

「えっ?」

 

 

「…プププ。ゥワハハハ!!響、それ似合いすぎ~」と、突如暁が大爆笑し始めた。なぜかというと昼間の日差しが眩しく北国育ちの響にはキツかったので…せめてサングラスを買っていこうとしたのだが…。普段、ジト目でミステリアスかつ銀髪ストレートの響がサングラスを付けると物凄い違和感があった。だが、当の本人は気に入ったらしくサングラスは横須賀へ持ち帰ることとなった。帰りの船の出港時刻まであと1時間半程…。遊び疲れた吹雪達一行は、船着き場に程近い南国風の喫茶店で連絡船が到着するまでひと休みしていた。

「はぁ~。遊んでると一日はあっという間だねぇ。」と、南国ならではの冷たいココナッツミルクを飲みながらしらせ が話す。「ですよねぇ~。」と、隣に座っていた白雪が呟いた。一緒に遊んだ艦娘の内、暁と吹雪は疲れてウトウトとしており…。深雪に至っては、椅子に座ったまま口からヨダレを垂らして寝ている始末である。

「…必殺深雪スペシャ…ル…。ムニャムニャ…。」と、寝言まで言っている。「そういえば、昼間のビーチバレーで深雪ちゃんが言ってた深雪スペシャル?って、なんなの…?」と、みらい が白雪に尋ねた。白雪によると、特に特別な意味は無いそうで…。景気づけというか、楽しんでいるときに出る口癖とのことだった。現に、深雪は船の時の記憶が少なく…。他の艦娘と違って太平洋戦争を経験していなかった。それもあって、駆逐艦として生まれた魂を艦娘になってから思う存分発揮しているのだそうだ。しらね が御手洗いに席を立ったのと入れ替わりで、明日以降、護衛艦[みらい]で衣食住を共にする二航戦の蒼龍と飛龍が喫茶店に入ってきた。

「え~と、あたしはホットコーヒーとアイスクリームのセット!あと、ブルーベリーパンケーキも頼んじゃおうかな…?」と店に入るなり飛龍はすぐさま注文する。一方の蒼龍はメニュー表を見ながら少し悩んだあと「私は、アイスティーにチーズケーキで…。」と、メニューを頼んだ。

 

「あれ?蒼龍さんに飛龍さん。どうしてここに?」と、みらい が尋ねる。「あっ。なんだ~ みらい かぁ。」と、答える飛龍に蒼龍が「明日からあなた達が乗艦してる護衛艦[みらい]に乗って横須賀へ帰るでしょ?その前にここの御菓子の食べ納めをしておこうかなぁ~って思ったから…。病院抜け出してきちゃった(笑)」

「そ、それっていいんですか…。」と、白雪は青ざめる。

「ですけど、基地に戻ったら夕食ですよね?」と言う みらい に…。

「大丈夫大丈夫~甘いものは別腹♪」と、運ばれてきた生クリームたっぷりのブルーベリーパンケーキをナイフとフォークで切り分けながら飛龍は話した。一方の蒼龍は「こう見えて消費カロリーはクリアしてるから。…負傷する前までだけど。」

「…えっ?」蒼龍がボソッと話した発言に驚いたが、すぐに「冗談よ冗談。」と打ち消された。

「ん~♪ほいふぃ~(ん~♪おいしい)」と、口いっぱいにパンケーキを頬張りながら飛龍が話す。食べ方が豪快な飛龍はなぜか鼻の頭に生クリームを付けていた。

「もぅ…また付いてるよ飛龍。」と、蒼龍は顔についた生クリームを指差した。いつもの調子で楽しんでいる二人を見て、白雪が みらい に話しかけてきた。

「み、みらいさん?蒼龍さん達…あんなに食べて夕食食べれるんですかね?」

「さ、さぁ…。」と、白雪の質問には苦笑いで答えるしかなす策がなかった…。このあと、二航戦の二人は夕食をたらふく食べた上…。飛龍に至ってはデザートのアイスキャンディーまで食べたそうな。

「…よく、あんなに食べますね。私たちにはとても…。」御手洗いから帰ってきた しらね は唖然としていた。蒼龍が食べている量は、間宮の洋菓子を少しグレードアップした程度だったが…。それに対して飛龍が食べているブルーベリーパンケーキはデカ盛りサイズだった。

 

30分程で生クリーム山盛りのブルーベリーパンケーキを食べ終えた飛龍は吹雪達と合流して同じ船で基地へ帰ることとなった。連絡船のデッキで、響は夕焼けから星空に変わろうとする空と海を見つめながら「хорошо(ハラショー)今日は楽しかった。」と呟いた。吹雪 深雪 暁 は完全に寝てしまっており、白雪も吹雪に寄りかかってウトウトしながら眼鏡をかけて小説本を読んでいた。

「あれ?白雪ちゃん…。眼鏡かけるんだ。」と蒼龍が聞いてきた。

「えぇ、視力は問題ないんですけど…。小さい文字が少し見にくくて。」と、白雪は話す。

「そうなんだ~。白雪ちゃんは勉強熱心だからねぇ。」と、白雪の頭を撫でる。すると…。

「今、やっと犯人のアリバイトリックが解明される所なんです!あまり話しかけないでください!…ごめんなさい。」と、膨れっ面で船室へ降りていった。

「私…何か悪いことしたかなぁ?」と、海風に当たりながら考える蒼龍。海は日が完全に沈み、空には星が見えて綺麗に輝いていた。

 

 

~その夜1930 マリアナ基地 食堂~

 

「じゃぁ、この先の航海の無事を祈って…。カンパーイ!!」と食堂で吹雪の掛け声と共に艦娘達が乾杯する。

酒が飲めない駆逐艦娘達はソフトドリンクで一方、お酒の飲める護衛艦娘達はチューハイやビールで乾杯していた。このあと、角松達と会見のある みらい は仕事の関係上ソフトドリンクで乾杯した。

「全く~このあと仕事いれなくったっていいのに。」と、チューハイ片手に膨れっ面で話す しらせ に「仕方ないよ。私の艤装のイージスシステムと船のシステムを繋げる試験を明日の出港前にするんだって、菊池三佐が機関科 航海科と協力してやってみるそうよ。」

「よく分からないけど…。みらい って、大変ねぇ。」と、ビールを飲んでる飛龍がおつまみのイカの唐揚げをつまみながら話す。駆逐艦娘達の方は、明日出港ということで、食堂の料理長がピザを作り駆逐艦娘達で分けながら食べていた。

「おいしい~♪こんなピザ初めて~」「チーズとシーフードの組み合わせが良くできてる!」

「うおー!これからも、この深雪さま!頑張っていくぜ!」と、楽しげな声が上がっていた。

 

「ま、今日は駆逐艦娘達も楽しめたから良かったんじゃない?」と、グラス片手に しらせ が尋ねる、

「~そうだねぇ。これから先、何が待ち受けているか分からないから…。今のうちに思いっきり楽しんでおけて良かったよ。」と、話して みらい はグラスのジンジャーエールを飲み干した。

 

 

2230 マリアナ基地 大浴場

 

「…ふぅ。」

 

 みらい は菊池三佐との打ち合わせを終えて閉館間際の大浴場に来ていた。既に他の艦娘やマリアナ基地で働く女性従業員の方々の姿はなかった。 ふと、天井を見上げる。艦内の浴室と違って高い屋根に足を長く伸ばしても大丈夫な湯船。しかも軍関係者は、この大浴場以外にも基地内部の食堂やスポーツジム、コンビニ等の娯楽施設を無料で使えるんだから驚きだ。

(正規空母の艦娘全員が食堂に殺到したら…。大変だろうな。)と、くだらない妄想を考え自身で少しだけ笑う。ザパァと湯船から立ち上がり、更衣室へ向かう。体を拭いて着替えたあと、洗面台の鏡に写った自身の顔を見ると…。なにやら心配そうな顔をしていた。

 

 

(この先の戦闘に草加少佐の不審な動き…。この世界もあの時の二の舞にならなければ良いけど…。)と、思いつつ…。みらい は埠頭のオレンジ色の明かりに照らされた停泊中の護衛艦[みらい]へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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航跡31:抜錨 ~マリアナ出港~

前回は艦娘達の休息を書きましたが、今回は護衛艦みらいを巡る国防海軍の裏を描きました。また、艦娘のみらいから立案されたある事とは…。


 

8月1日 0700 マリアナ基地小会議室

 

 出港前に梅津艦長を始めとする[みらい]幹部らはマリアナ基地内部の会議室にて、国防海軍参謀らと共に行程の最終確認をしていた。

 

「…なるほど。我々が予定していたルートより…大分西にずれるな。」海図し書かれたルートを見ながら菊池が話す。ルートが当初の予定より西に変更になった原因は、東京都沖ノ鳥島近海の海底で見つかった謎の構造物の調査の為だった。既に、父島にて調査していた日本海洋研究開発機構の研究員や国防海軍の調査隊は本土へ一度帰還し…。後日、改めて当該海域を調べることとなった。調査開始日が[みらい]の通過予定日と重なったのと、まだ極秘事項であることから[みらい]は西へ迂回することになった。梅津達が航行ルートを確認していると、会議室に若い一人の男が入ってきた。

「彼が、あなた方と共に横須賀へ向かってもらう…。えっと、名前なんだっけ?」と、度忘れする初老の参謀に「滝 栄一郎 中佐です。いい加減名前を覚えて頂けませんか(怒)」と、イラつきながら自己紹介する。

「…随伴艦は我が海軍のSS-801[じんりゅう]を用意致しましたが、中佐殿この艦でよろしいのですか?」と、初老の参謀が尋ねるが「空いている護衛艦がなければこれでよい。」と、申し出を断った。そして、

「改めまして、国防海軍中佐の滝 栄一郎です。」

「海上自衛隊イージス護衛艦[みらい]艦長 梅津 三郎です。」と、二人は固く握手をした。

 

 

同日 1000 マリアナ基地埠頭 護衛艦[みらい]

 

乗艦に手間取っていた負傷した艦娘達も乗艦し、所定の配置に全員が付いた。

 

「出港用意! 抜錨!」

 

ガラガラガラガラガラガラガラガラ…。

角松の一声と共に錨が水飛沫を立てながら引き上げられる。

「機関前進微速。取舵20°」梅津が艦の動きを指示し、[みらい]は静かに埠頭から離れる。港から出るまでは湾内用タグボートが随伴したが…。出入り口付近までの随伴であり、タグボートに乗っている国防海軍の隊員達は敬礼で見送った。一方、滝中佐が乗艦しているSS-801[じんりゅう]は[みらい]よりほんの少しだけ遅れて基地を出港した。

 

SS-801[じんりゅう]艦内

 

滝中佐は潜望鏡を使い、海中から護衛艦[みらい]を監視していた。

 

~前日夕方 マリアナ基地宿泊棟 応接室~

 

「…は?彼らは別世界からやって来たと言うのですか…?」滝は同じ海軍のある人物と護衛艦[みらい]の事について話をしていた。

「んな、バカな事あるわけない。」渡された資料を見たが現実離れした話であり、時空を越えた艦があるなど…あまりにも馬鹿馬鹿しく思った。

「だが、これは現実なのだ…。君も知っておるだろう、先日のガタルカナル島の戦闘を。」

「…ええ、私の耳にも入っていますが。それが?」

その参謀はグラスにウイスキーを注ぎながら話した。ガタルカナル島での戦闘を[みらい]が予言していたと…。

 

「…で、私を呼んだ理由は?」と、滝が尋ねるとその参謀は「その艦が明日、横須賀へ向けて出港する。我が海軍の艦が護衛という名目で監視につくが…。君に行ってもらいたいのだよ。」

「私がですか…?」唖然とする滝にその参謀は…。

「あの[みらい]という船の戦闘能力を暴いてきてほしい…。手段は君に任せるが、私と我が国防海軍の名誉に泥を塗らないようにしてほしい。」と、話でグラスのウイスキーを飲み干す。

「…なぜ私に?私以外にも人が居るのでは?」滝が質問するが「…今までの君の仕事ぶり。見させてもらったよ。なかなか、大胆なことをしているではないか…?」と、不気味な笑みを見せながら滝中佐の履歴が書かれた紙を見せる。そこには滝がこれまでに行っていた裏の事業が記載されていた。

 

「これを暴かれたくなければ…。協力するんだな。」と、その参謀は笑みを浮かべる。滝は額に汗を浮かべながらうつ向いていたが…。その拳はきつく握られ震えていた。潜望鏡から護衛艦[みらい]を背後から監視する。やはり、あの参謀に言われた話が未だに頭をよぎる。正義と悪どちらを取るべきか、滝は悩んでいた。

 

 

 

 

出港二日目 夕方[みらい]士官室

 

「艦長…。話とは何でしょうか?」

角松 尾栗 菊池の三人は、梅津艦長に呼び出されて士官室に来ていた。梅津と一緒に艦娘の みらい の姿もあった。そして、梅津は自身が考えていた事を話始めた。

「…この世界に来て二ヶ月が経った。ガタルカナル島での戦闘でこの世界の明確な流れが理解できたと同時に、国防海軍との繋がりも出来た。」と、これまでの行動を振り替える。その上で梅津は…。

「この先、国防海軍から作戦への協力要請があると予想している。だが、イージス艦がこの世界に存在するとはいえ…。[みらい]のイージスシステムはこの世界の物とは明らかに違う。そこで、ここに居る みらいさん の助言で…。」梅津が頷くと みらい はある無線機を取り出した。

「か、艦長これは?」驚く角松に梅津は…。

「本当はこのようなことはしたくなかったが…。事態の急変やこの艦が殺戮目的に使用されそうになった場合に、国防海軍や敵の手に渡らないように自爆用のプラスチック爆弾を仕掛けることにした。」

 

「じ、自爆ですか…。」菊池は眼鏡を触りながら呟いた。目の前には自爆用起爆装置が置いてあった。

「暗証番号を入力し、この無線機の赤いボタンを押せば起爆する仕掛けになっている。この事は隊員達には伝えない方針だ。」

 

「立案したみらいさんはどう思ってる?」尾栗はみらいに尋ねた。すると、みらいは重い口を開いた。「私が船だったとき…。米海軍の空母ワスプと対戦し、ワスプを撃沈しました。しかし、その戦闘で乗員5名の命が海に散りました。私にはそれを防ぐ使命がある。これから先、戦闘は激しくなるでしょう…。我が身を守らなくては相手を守ることは出来ない。専守防衛とはちょっと違うかもしれませんが…戦時下であるこの状況では、先制攻撃もじさない考えであります。」

 

みらいの発言は予想通り、この世界であくまで自衛隊として存在するか。それとも、国防海軍の一員として行動するのか。長年、自衛官として任務してきた角松にとって…。重い一言だった。

 

 

「まぁ、今その話はよかろう…。砲雷長。辛い仕事になるが…。自爆用爆薬のセットを航海長とみらいさんと共に頼む。…副長は一旦残ってくれ。」

「…了解しました。」と、二人は敬礼して士官室から出ていった。

 

「副長…。この先、我々はほぼ100%戦闘に巻き込まれるだろう。その上で、今のうちに次期艦長候補の君に…。この艦のこれからの行動を頼んでおきたい。」

「えっ?しかし、艦長は…。」突然の梅津の発言に角松は驚いた。部屋の丸窓から夕焼けのオレンジ色の光が差し込む。護衛艦[みらい]は一路、横須賀へ向けて航行していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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深海棲艦空母機動部隊
航跡32:海軍の闇~思惑~



さて、前回の更新からだいぶ時間が経ちましたがやっと筆が進みました。(楽しみにしていた方、更新遅れてすみません )なかなか時間が取れない上に、ネタがなかなか思い付かず苦戦してますが…。引き続き暖かい目で御覧ください。



 

海上自衛隊の護衛艦[みらい]は横須賀へ向けて航行していた。マリアナ基地出港から5日目、横須賀まではあと三日というところまで来ていた。

 

「~ん!今日はいい天気だなぁ。」

後部甲板で飛龍と吹雪が話していた。

「…飛龍さん。横須賀まで、敵に見つからずにたどり着けますでしょうか?」吹雪は深海棲艦に遭遇しないか心配していた。深海棲艦は水中から奇襲してくる事もあれば…。大編隊で空襲して来ることもある。[みらい]がイージス護衛艦とはいえ空と水中から同時に攻め込まれたらひとたまりもない。

「そういえば吹雪ちゃん。みらいさんを最近見かけないんだけど…。」と、飛龍が尋ねてきた。

「みらいさんは、マリアナ基地出港前にこの艦のイージスシステムと自身の艤装を接続させるテストをやっていましたよ。結果は良好で、これからも接続試験を行うと菊池三佐が話していました。」

 

「そっか…。最近会ってないから、話したかったんだけどねぇ~。」と残念そうに飛龍は呟いた。

 

 

1030[みらい]CIC

 

「これで完了っと…。」頭にタオルを巻いた青梅がCICのイージスシステム管理用サーバーの間からゆっくりと出てきた。顔は機械油で汚れホコリまみれになっていた。

「艦長。では試験を始めます。」菊池がキーボードで接続するとウィィィイイイインンンンとシステムが唸り始める。そしてみらいの頭の中に多くのデータが流れ込んでくる。みらいは自身の端末で情報を整理しながら接続を待つ。そしてモニターに、[接続完了]と、みらいの艤装のイージスシステムに接続したと表示が出た。

「よし、これでこいつの解析能力が向上しましたぜ。」青梅が額の汗を拭きながら話す。

「…みらいさん。システムリンクは大丈夫ですか?」菊池がみらいに尋ねると、みらいは息を少し切らしながら「ハァハァ、大丈夫です。」と答えた。システムの接続を提案したのはみらい本人だった。自分自身である護衛艦[みらい]。自分のシステムを知るには自身と艦のシステムを接続させる。みらいがこれまでに関わった戦闘データも入力出来る上、システムを接続させて戦闘を行う方が理論的によいと判断したのだった。ただ、システムを接続させると体に負担がかかる為…。当初、菊池は反対していた。だが、みらいの要望により接続を行う事となった。

 

「ハァハァ…。」息を切らしながらモニターを見つめるみらい。過去の戦闘データの移行が終わり菊池が接続を解除するとみらいは近くあった椅子に座り込んでしまった。

「みらいさん。別に無理しなくともいいのだよ。」と、梅津が声をかけるが…。「私の二の舞にさせたくないんです。」と、みらいは丁重に断った。

「二の舞…。とは?なんのことですかな?」梅津が尋ねるとみらいは話始めた。「私が船の時にタイムスリップしたのは、太平洋戦争のど真ん中。ミッドウェー海戦直後。ガタルカナルでの持久戦が始まる少し前でした…。」

 

~中略~

 

「なるほど。この世界は現代社会であるとはいえ、その…貴方が経験した通りに進むと。」と、菊池が話す。「しかし私自身、この世界がどう進むかは分かりません。ですが、隊員の方々の命を無駄にしたくない。専守防衛の精神でこの艦と日本と言う国を守りたいと思っています…。」と、話してみらいはコップの水を飲み干した。

 

 

1340 みらい通信室

 

隊員達が交代で昼食を終えた頃…。監視している[じんりゅう]から通信が入った。滝参謀がお会いしたいとの事だった。

「フッ…。停船してから約五分。早いな。」滝は浮上した[じんりゅう]の艦橋から望遠鏡で見ていた。短挺には角松二佐の他に柳の姿があった。

「ほぅ、立派な潜水艦だなぁ。」短挺から[じんりゅう]を見上げる角松。艦内の応接間に入ると滝が出迎えた。

「すまないな。こんな狭いところで。」

「滝参謀…。ご用件はなんでしょうか?」角松が尋ねると滝はあることを言った。

 

同時刻 [みらい]CIC

 

「報告!4時の方向より敵機影接近!数は1 。接触まで30分!」と、青梅が叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「あなた方には横須賀に入ってもらうわけにはいかなくなった。ある人物がどうも気に入らないらしい。…そこでだ。」滝は椅子に座り足を組ながら…。

 

「あなた方二人が[みらい]に戻ることは二度とないだろう。」

 

「なんだと!?」角松が驚いた直後ガクンと艦内が大きく揺れた。洋上では…。

「副長ーっ!!」と隊員が叫ぶ。そして[じんりゅう]は海中へ去っていった。

「いかん仕組まれた!短挺は直ちに回収。総員対空戦闘用意!」CICでは梅津が叫ぶ。

 

ピーピーピーと戦闘用意を知らせる非常アラームが艦内に鳴り響く。

「今はこの海域から脱出することが先決だ!副長達は後で必ず回収する。機関最大戦速!」梅津艦長の指示で、[みらい]は急加速で動き始めた。だが…。

 

「CICソナー。[じんりゅう]の動きがおかしいです‼」と一報が入る。[じんりゅう]艦内では角松の予想に反して滝が「潜望鏡深度まで浮上。…ただし毎分1メートルずつだ。」と指示を出していたのだ。

 

「通信室![じんりゅう]に浮上を中止せよと伝えろ!ソナーを使いモールス信号で呼び掛けるんだ。」と、菊池が指示を各部署に飛ばす。

 

「…報告!みらいより入電。[敵機接近中。貴艦は速やかに浮上を中止させたし。本艦は当海域より離脱する。]」と、[じんりゅう]の隊員が話す。

「滝参謀…。どうするかね?」と艦長が尋ねるが…。滝は「潜望鏡深度まで浮上だ。」と答えるだけだった。

 

みらいCIC

 

「敵の判別はできるか?」

「目標は深海棲艦の偵察機ですぜ…。目視距離まであと10分。」菊池の問いに青梅が答える。報告をもとに菊池は…。

「艦長。…どうしますか?」

梅津はモニターを見ながら「我々の目的は艦娘達の輸送だ。戦闘が目的ではない。」

「でしたら…。」

「ECM作動!敵の通信能力を封鎖せよ。」

梅津の判断でECMによる無線妨害を行うこととなった。

 

 

 

「アレハ、日本ノ駆逐艦ダ。」

 

目視距離に入り、深海棲艦の偵察機はみらいを確認したのか旋回して戻り始めた。

 

「艦長。敵機動部隊に報告されたら必ず標的となります。目標の撃墜命令を…。」菊池の具申で梅津は撃墜命令を出した。

 

「後部VLSシースパロ1番データ入力。発射用…。」

「無駄ですぜ砲雷長…。本艦に敵機影40接近中。」

菊池の指示は青梅の発言によって書き消された…。CICのモニターの隅には、敵機動部隊が表示されており…。多くの敵機が表示されていた。

 

 



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航跡33:対空戦闘~1対40~

みらいのSPYレーダーに探知された敵の戦闘機は40機。あの時と同じ状況が再現されるなか菊池三佐が下した決断とは…。


ゴオオオォォォンンン

 

 深海棲艦の戦闘機が[みらい]に向かって飛行していた。CICのモニターには。SPY-1レーダーで捕らえた敵機の姿が小さな光の点となって表示されていた。

 

「砲雷長。イージス艦の最大の武器は長距離射撃による攻撃方法です。…どうします?」と、青梅が菊池に尋ねる。菊池は目をつぶり頭の中で有効な攻撃方法を模索していた。

(…深海棲艦は明らかに人類の敵である。数は40…シースパロなら90%以上の確率で撃墜可能。だが、我々は異世界の人間。……この世界に大きな影響を及ぼすことは出来ない。だが…。)

 

マリアナ基地にて補給しているときに みらい から話があると言われて艦内の資料室で梅津艦長と共に、みらいが船だったときの話を聞いていた。その話に出てきた砲雷長は[菊池 雅行 三等海佐]自分自身だったのだ。

 

「前甲板VLS1~3番。シースパロ装填。対空戦闘!射撃用意!」

 菊池はみらいから教えられた対ワスプ戦のことを思い出した。あちらの世界の自分は、弾薬の節約と言う理論に至った結果。弾薬より大切な乗員の命を危険にさらし…。その上、5人の命を奪ってしまったのだ。近づく敵機の光点を見ながら…。同じことはさせないと心に決めていた。

 

「砲雷長、目標が射程圏内に入ります!」と、レーダー監視をしていた隊員が叫ぶ。菊池は梅津艦長に「艦長、攻撃します。」と、話した。梅津は無言で頷き、「対空戦闘、CIC指示の目標、発射弾フタ発、シースパロー攻撃始め!」と指示を出した。

ジリリリリリリリリリリと警報が鳴り響く。

「発射用意…!ってー!」

みらいの前甲板にあるVLSからシースパロが2基発射された。

「インターセプト、10秒!」深海棲艦の戦闘機に向かってまっすぐ飛行するシースパロー。それに気づいたのか敵機は回避行動を取るが…。

 「5 4 3  2 1、マーク・インターセプト!」

 

ドオオオオオオンンン

 先頭を飛行していた敵機が撃墜された。深海棲艦の戦闘機は二手に別れ、みらいへ近づいてくる。

「目標!さらに近づく。左右前方より接近!」と青梅が叫び、「艦橋!取り舵いっぱーい!シースパロー、発射待て!」と菊池が艦橋と対空担当に指示を出す。みらいは双方に対処できるように攻撃に有利な進路を取る。

「目標!127㍉砲射程に入ります。距離40!」菊池は情報を聞くと127㍉砲の射撃開始を指示した。

「右対空戦闘、CIC指示の目標、トラックナンバー2628、主砲打ちー方始め!」隊員がトリガーを引くとドオンという大きな音と共に127㍉砲が火を吹く!放たれた砲弾は敵機に次々と命中する。

「左舷より近づく目標、シースパロー発射始め!Salvo!!」

みらいの左上空に接近していた敵機に向かってシースパロが発射される。まるで目がついているかのように敵機を追いかけ命中していく。気づけばみらいに接近していた敵影はほとんど撃墜され、あわてて母艦へと逃げ帰る目標がわずかに残っていた。

 

(やったか…?)

 

CICに安堵の空気が一瞬流れた…。しかし、その空気はすぐに打ち消されることとなる。

「本艦上空に敵機!本艦直撃コース!」と青梅が叫び菊池はモニターを急いで確認する。様子を見ていたみらいは青ざめた。

 (このままじゃ、あの時と!!)

高度800メートル上空から見た護衛艦みらいの姿は、海面に浮かぶ木の葉のような感じに見える。深海棲艦の機体は、みらいに向かって真っ直ぐ落ちてくる。そのお腹には大きな爆弾が装着されていた。「対大型艦用爆弾ヲ食ライヤガレ!」と思ったのか、爆弾をみらいへ向けて投下してきた。

 

「CIWS AAWオート!」

菊池がCIWSによる射撃を命じ、前後にあるCIWSが一斉に唸り発砲し始めた。

 

ドルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル…!!!

 

ヒューン

 

爆弾に数発の弾丸が当たりドッカーンと大きな音を立てて大爆発する。艦橋は衝撃で大きく揺さぶられた上、爆弾の煙で一時的に視界ゼロになる。

 

「うぉっ!」艦橋にいた尾栗は、衝撃で倒れないよう近くにあった羅針盤にしがみつく。煙から抜けたみらいは、敵機の位置を探るが…。

 

「左舷SPYレーダー損傷!」と、青梅が叫びCICに緊張が走る。「しまった!」と、みらいが慌てて菊池と梅津の元に駆け寄る。

「梅津艦長!敵は特攻するすもりです!進路変更を!!!」その時みらいはあの時の事が頭をよぎっていた。米海軍のドーントレスの部隊を壊滅させたものの、敵の決死の体当たりを受けてしまい左舷艦橋に居た隊員5名が死傷したのだ。その事を再発させない!みらいは心の中で決意していたのだ。

「艦長!」

みらいの声に梅津は「面舵いっぱい。最大戦速!」と指示を出す。

急加速で右に進路を取るみらい。だが、あの時と同じルートを踏んでいる。

 

ダダダダダダダダダダダダダダダ!!!

 パリン!パリン!

 

敵機の機銃掃射で艦橋の窓ガラスが割れ、上部の衛星通信用のアンテナが破壊され海へ吹っ飛んでいく。そして、左舷前側のSPYレーダーが被弾によって破損し火花をあげる。

「ひ、引き起こさないのか!?」

艦橋に居た隊員が真っ青な顔で上を見つめる。

 

「シースパロはもう、間に合わない…。」菊池はCIWSを見つめるしかできなくなっていた。みらいから教えられたワスプ戦の事。あの通りになってしまうのか?いや、そうはさせない!俺はこの船を守るんだ!

 

「取舵いっぱい!機関全速後進!!」

 

叫んだのはみらいだった。その時、みらいの掛け声がなければ…。ワスプ戦と同じ結果になっていたのだろう。みらいの指示のお陰で、敵機は艦橋マストの空中線の一部を切断したものの…。スレスレを通過し海中に墜落した。みらいの素早い動きに対応できなかったらしい。

 

 

「…周囲、敵影なし。対空および対水上レーダー反応なし。」

青梅がレーダーの状況を話す。それを聞いた梅津艦長は「対空戦闘用具収め…。」と、ヘルメット外しながら指示を出そうとした時…。青梅が叫んだ!

 「目標敵空母より多数の飛行部隊発艦を確認!第二次攻撃だと思われます。接触まで45分。」

 「な、何機上げるつもりだ?」と、CICに緊張が走る。

 みらいの素早い判断と砲雷科と航海科の素早い反応により、敵戦闘機の衝突という最悪の事態は回避されたものの…。すでに今回の戦闘による負傷者 21名(重症5名 軽症16名)。船体のダメージは、ソナー室で機器の断線が数ヶ所。艦橋の窓ガラス破損。前甲板VLSの一部断線、衛星通信アンテナの破損であった。その上、爆弾の炎にさらされた艦橋左舷デッキとSPYレーダーは焼け焦げていた。

 

みらいCIC

 

 菊池は下を向きながら眼鏡を吹いていた。ふと、その手を止めて立ちあがり梅津の元へやって来た。

 「艦長。第一次攻撃はなんとか乗り切れましたが…。敵機動部隊は今もなお着々と発艦準備をしているでしょう。」と、菊池は下を向きながら独り言のように話す。意思を固め梅津に話した。

「くっそ、諦めの悪いやつらだ!」と一部の隊員から苦情が上がる。すると菊池は「俺たちは諦められるのか?」とCICにいた全員に問いかけた。

「戦場において諦観は美徳じゃない。やらなければやられる。俺たちはそれに気づくのが遅すぎた。さっきは艦娘の力で避けられたが、今後はそうは行かないだろう…。」と、梅津の元へ歩く。そして…。

 

「艦長。トマホークでの敵空母撃沈を具申します。」と、具申した。

 

 

 

 ザァ…。

 

[じんりゅう]の潜望鏡から見ていた滝は、みらいの戦闘能力や練度に驚いていた。潜望鏡から顔をはずし制帽を被る。

「流石、海上自衛隊のイージス護衛艦だ。あれだけの空襲を受けて沈まぬとは…。だが、どうやらダメージを負ったようだぞ?」と滝が話すと角松は慌てて潜望鏡を覗いた。潜望鏡からは左舷デッキ付近から煙をあげるみらいが見えた。

(…この様子だと今、艦橋は地獄だ!!!)

と、心の中で思った角松は滝の襟を掴む。反動で滝の制帽が落ちて、角松のこめかみには拳銃が当てられる。

「てめぇ、自分がしたことがわかってんのか!あんたらの身内も乗ってんだぞ!!」と、大声で滝を怒鳴り付ける。角松は滝を殴りそうになったが近くにいた隊員に引き離される。二人がもめている頃、みらいCICでは…。

 

「トマホークで撃沈だって!?」

 

菊池と梅津の会話を聞いていた尾栗が驚きの声を上げた。

「トマホークを使わなくともハープーンで敵を無力化すれば…。」という尾栗に菊池は…。

「いや、奴ら…。深海棲艦の回復速度は早い。ハープーンで無力化したとしても最速3時間で回復する。おまけに制空権を奪われている現状では、撃沈するしか方法はない。既に我々は手負いの状態。一部機器が破損している現状では戦闘の続行は不可能だ。」

菊池の決断に尾栗は驚いたが…。

「だからといって、相手を沈めるのかよ。俺たち自衛隊の魂はどこ行ったんだよ。」と、問う。

「残念だが、これが現実だ。平和ボケした俺たち自衛隊が言うのもあれだが…。戦争なんだ。この世界で自衛隊なんだといい続けることは不可能に近い。」と、菊池は現実をいい放った。

 

 ガァン!

 

「くそっ!」と、尾栗が机に八つ当たりする。 数秒の沈黙が流れたあと…。

「艦長。目標到達まで30分かかります。一刻の猶予もありません。」と、菊池が具申する。

「通信機は生きているな…?」

通信設備を確認した梅津は、ある事を指示した。

  

「敵である深海棲艦が第二次攻撃を断念した時点で、トマホークは自爆だ。」梅津は目で菊池に合図を送った。

 

 ウイイイイイン…。

 前甲板のVLSにトマホークが静かに装填される。そして…。

 

 「トマホーク、攻撃始め!」

 

 バシユュュュュュウウウウウウ!!!!!!

 

 爆音と凄まじい煙と共にトマホークは敵空母へ向けて発射された。

 

 「ふ、副長。みらいからトマホークが…。」潜望鏡を覗いていた柳が声を上げ、角松が慌てて覗くと…。トマホークは敵空母へ向け、青空に雲を引きながら一直線に飛んでいった。

 

  

 

 




更新が遅れてしまい申し訳ありません。少し煮詰まっていたので、提督食堂の方へ逃げてしまっていました(・・;)楽しみにしていた方、本当にごめんなさい。


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航跡34:菊池三佐の心情

 

キィィィィイイインンンン

 

みらいから放たれたトマホークは敵空母に向かって一直線に飛行していた。

「ーこちらシーフォール。帰艦する艦載機を今、追い越しました。」観測していた海鳥から連絡が入る。

「了解。まもなく相手の制空圏内だ。シーフォール帰艦せよ。」菊池が指示をすると「ー了解。」と返ってきた。海鳥は上空で大きく旋回しみらいへの帰路へつく。

「佐竹一尉…。俺たちは何を守っているんでしょうか?」と、射撃席に座っていた林原が呟く。

 「…それをいっちゃ、いままで死んでった仲間はどうなる?」佐竹の言葉に林原は胸が締め付けられそうだった。二人の会話が途切れたときレーダーパネルに敵空母から発艦する敵機の姿が写った。

 

「…バカヤロォ!!」

と、佐竹の悲痛な叫びが南の海に響き渡った。

 

みらいCIC

 

「ーこちらシーフォール。敵空母より多数の飛行物体。艦載機だと思われます。」海鳥からの報告に梅津は、「やはり…。通信は無駄だったようだな。」とため息をついた。

 

同時刻 深海棲艦空母機動部隊

 

「ヤハリ、ガダルカナル島ノサジタリウスダナ…。苦シ紛レニ、コンナ電文ヲ送ッテキタ。」と、笑いながらヲ級が電文内容を見せる。

[本艦はあなた方へ敵意はない。あくまで自己防衛として攻撃をしている。これ以上、攻撃を続ける場合は貴艦を撃沈する。なお、これは脅しではない。]

「フッ、何ヲ今サラ。」と、タ級が話す。みらいへの第二次攻撃を準備しているなか、トマホークは静かに着々と迫っていた。

 

 

~回想 防衛大学校3年の秋~

 

「おい、菊池は進路決まったのか?」

昼休みに教室で尾栗に尋ねられる。

「そういう尾栗は?」

「俺は入ったときは陸自志望だったけど、横須賀の護衛艦観てから海自を目指すことにしたよ。元々、海が好きだったしな。将来はイージス艦で勤務したいってところだな。」と、笑いながら話す。「俺はまだ悩んでいるんだ。第一希望は海自だが、教官から技研に行ってみないかと言われたんだ。」

「ほぅ…。そりゃすごいじゃないか技研だなんて。」と、唖然とする尾栗。

「けど、断ったよ。」

 

「えっ?」

 

「…人を殺す武器を作ることなんて、俺にはできない。俺は前線で答えを探すつもりだ。」と、窓の外を見ながら話す。窓から見える木は、オレンジ色に色づいて冬の気配を感じさせていた。

「まぁ、俺はこの防大期間中に答えを見つけるつもりだ。…俺と違ってあいつはとっくに決めてるみたいだがな。」菊池の視線の先には同級生に勉強を教える角松の姿があった。海上自衛官だった父に憧れて防衛大に入学した彼は、父親が追い続けているあの戦争の答えを探し求めていた。

 

その夜、市内の三笠公園に三人の姿があった。角松は自分が思い詰まるとここへ来て物思いに更けることがある。

 

「…日本海でバルチック艦隊を撃ち破った戦艦三笠とはこの船のことよぉ!」と、尾栗が角松の肩を叩く。

「おっ、康平に雅行どうしたんだ?」振り替えると後ろには私服姿の尾栗と菊池がいた。

「また、考え事か?洋介。」

「…あぁ、ちょっとな。」

「また、親父さんのことか。」と、角松の隣に尾栗が腰かける。角松の父である角松洋一郎一等海佐は角松が防衛大に入学した年に自衛隊を定年退職していた。最後に乗艦していたのは護衛艦[ひえい]だった。ひえいの交代クルーと交代し退官していたのだ。「親父は自衛隊で探し求めていたものは見つからなかったと言っていた。それを俺は見つけなきゃいけないんだよ。専守防衛とは何かと…。」 

 

 

 

「専守防衛か…。」菊池は静かに呟いた。その日から菊池は改めて専守防衛の意義を考えた。 

 目の前に表示されているレーダーパネル。小さな矢印が敵空母に向かって一直線に飛行していた。到達まであと5分。燃料や弾薬に引火すれば正規空母なれど轟沈は間違いない。本当にこれで良かったのか?菊池は改めて感じていた。だが、既に手負いの状況。敵空母を撃沈し速やかに当海域を離脱することが先決であると感じていた。

 

 

 

 



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航跡35:空母ヲ級撃沈

 

「トマホーク到達まであと1分!」

 

発射管制士官から報告が上がる。あと1分でトマホークは敵空母に命中するのだ。

「トマホーク発射を決めたのはこの俺だ。これが俺の進んだ砲雷の道。」と、菊池は目をつぶった。

 

 キィィィィイイインンンン

 

トマホークが敵空母ヲ級を捕らえた。

 

 「ナ、ナンダ!?」

 一瞬ヲ級は心のなかで思った。だが、次の瞬間にはトマホークが懐に突っ込んでいた。

 

 ドッカァァアアアンンン!!!!!

 

という音と共に大爆発を起こす。発艦準備をしていた艦載機や燃料、弾薬に次々と引火し爆発する。辺りは黒煙に包まれた。どこから攻撃されたのかも分からず海の藻屑となっていくヲ級が最後に言った言葉は…。

「今度コソ、シズメテヤル…。」だった。

 

 

 

「ハッ!」艦橋で応急処置をしていたみらいが立ち上がる。

「みらいさん?どうしたんですか?」隣で手伝っていた吹雪が尋ねるが…。みらいは敵機動部隊の方向を静かに見つめていた。

 

同時刻 みらいCIC

 

「空母ヲ級…。消えました。」レーダーを見ていた青梅が呟く。「こちらに向かっていた敵機動部隊は引き返しました。」青梅からの報告を受けて安堵の空気が流れる。ふと、菊池が椅子から立ち上がる。「艦長。5分ほど時間をください…。」梅津は静かに頷いた。菊池は青梅に「じんりゅう の動きに注意せよ。」と言い残しトイレへ向かった。

 

 

 ジャーーーーーー。

 水道で顔を洗う菊池。ふと、CICへ向かっていた尾栗がやって来た。

「…なぁ尾栗、この手で敵の命を絶ったのに…。殺した感覚がないのはどう思う?」

「俺が下した判断で、ひとつの空母が沈没した。深海棲艦だといえども…。命があることには変わらない。俺はその命を奪い取ったんだ。…なのになんだ?この蚊を殺した感覚さえ湧かないのは。俺は…。」

 

「…一体、なんだぁーーー!!!!」

 

 と、尾栗の襟をつかんで怒鳴り。その場に泣き崩れた。

 

 

 

その頃 じんりゅう艦内では…。 

「どうする気だ?これでもみらいを潰す気か?」と、角松が滝に尋ねる。

「…。」

「どうするんだ?まぁ、こうなった以上、みらいの砲雷長はもうためらわん。自艦と俺ら二人の命。どっちを取るか目に見えているだろう!」角松の脅迫めいた言葉に圧倒されるしかない滝だったが…。

「…この距離から魚雷を撃てばすむ話だ。」と、角松に詰め寄る。

「可能だな?艦長!」滝が島本に声をかけるが島本艦長は頷かない。

「どうした!?」と、滝が怒鳴る。

すると角松が柳に口をパクパクさせて合図を出した。

(…バッテリー? あっ!)

 

「…バッテリーです。」

「何ぃ?」滝がこちらを向く。

「みらいの高速航行に追い付くにはバッテリーでの航行と通常エンジンでの航行の2つがあります。しかし、通常エンジンではオーバーヒートする可能性が高い。その為バッテリー航行にて追跡していたものの、みらい高出力には追い付けない。つまり、バッテリーが限界ということです。」と、柳が解説する。

「艦長それは本当か?」滝の質問に艦長は…。

「その方の通りだ。あと10分ほどしかバッテリー航行は出来ない。」

 

 「くっ…。」

 

 

ザバァ…。

 

じんりゅう がみらいの横に浮上してくる。

 

「総員!対潜戦闘用意!」梅津の掛け声で側面の魚雷発射管に魚雷が装填される。

 

 ピピピピーピッピッピ…。

 「じんりゅうより入電。貴艦乗組員を戻す。」と、通信士が叫ぶ。

 

 

 じんりゅう艦橋

 

(さすが雅行…。きちっと魚雷を向けていやがる。)

 「短い間だったが…。不便をかけてしまってすまなかった。」と、じんりゅう艦長の島本が謝りに来た。「艦長、バッテリーは本当は…。」と、角松が尋ねると…。

「バッテリー切れということにしておこう。」と、話し手を差し出した。角松と握手をした直後、じんりゅうの通信員が無電を持ってきた。

 

ガチャ…。

 

 じんりゅう内部の仕官室に角松が入ってくる。その手には先程の電文が握られていた。「悪いが先に読ませてもらった。」と、言い滝に渡す。電文には

 [宛滝栄一郎 現任務を中止し出頭せよ発 山本五十六]

 

「あんたと長官がどういう関係か知らんが、出頭とはな。」と、角松が呟く。

「角松副長。今のうちに話しておくが、海軍の中にはあんたらをよく思わないやつらは沢山居るぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

内火艇に乗り込み、みらいへ帰艦した二人は被害の全容に驚いた。

「二人ともよく帰ってきてくれた。あれが例の参謀か…。」

「ええ、日本にはまだみらいの存在を許さないものがいる。そう言ってました。」角松が報告を終えると、梅津は二人の肩にそっと手をのせた。「艦長…被害は?」と、角松が尋ねると。

「重傷者5名軽症者16名だ。」

「・・・!!」

 二人は報告を受けて驚いた。だが、「まぁ、今日はゆっくり休みなさい。だいぶ疲れただろう…。」と言って梅津は艦内へ去っていった。

「おっ、洋介帰ってきたか。」

「尾栗?菊池はどうした?」と、尋ねると…。

「あいつは今、ガダルカナルから帰ってきた直後の俺たちと一緒だよ。」と角松に話した。 

 

 

この戦いで艦内が暗い雰囲気になっているのではないかと心配していたが…。様子は違った。

 

バチッ!バチバチ!!

「おい、ナットがたんねぇぞ!」

「なんとしても横須賀入港までにこの区域は直すぞ!」

艦内では至るところで破損箇所の修理に当たる隊員達が見受けられた他、食堂では以前よりも活気が増していた。

 

「…この戦いで艦内が意気消沈しているかと思ったらそうでもなかったなぁ…。みんな死線を乗り越えたせいなのか?」と、夕暮れの艦橋デッキで角松は物思いに更けていた。横須賀入港まであと3日。みらいは夕日に照らされる大平洋を北上する。

 



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航跡36:入港

空母ヲ級との戦いで損傷したイージス艦みらい。補給の為に立ち寄った横須賀鎮守府で破損したSPYレーダーの修復に当たるが…。


 

 空母ヲ級との戦いから3日後の8月9日昼。海上自衛隊イージス護衛艦[みらい]は横須賀港に無事に入港した。

 

「一部、船体が破損しているが…。どうしたのか?」と、横須賀鎮守府の柏木提督が尋ねる。

「はっ、沖ノ鳥島沖で深海棲艦の空襲を…。幸いにも、死者は出ませんでしたが…。」梅津は静かに説明した。みらいの船体は、艦橋の左舷デッキが破損しており左舷前側のSPYレーダーが敵機の破片で壊れていた。

「これだけの被害で…。よく、帰ってきてくれた。」柏木は梅津を褒めた。だが、梅津は「戦闘突入を判断したのは私です。全責任は私が…。」 二人が話していると角松がやって来た。

「報告。艦娘達の鎮守府施設への移動完了しました。」

「すまんな副長。任せっぱなしで。」

角松の報告を受けた梅津に柏木は…。「私の指示で、このような形となり大変申し訳ない。貴艦は直ちに入梁できるよう手配する。」

「貴官の、手厚い対応に心から感謝いたします。」梅津は角松と共に敬礼した。

 

1930 横須賀鎮守府埠頭

 

夜の明かりに照らされた埠頭にみらいは停泊していた。艤装の修理が始まり慌ただしい様子になっていたが…。破損したSPYレーダーの修理に手間取っていた。

「砲雷長、SPYレーダーの破損。調べたところ…。やっぱり内部までイカれてますぜ。」

「そうか、やはりあの爆発がまずかったか…。」菊池と青梅は破損した左舷前側のSPYレーダーの事について話していた。「現状では、左舷前側がホワイトアウト状態になっているため…。残り3面の出力アップと観測員による対空、対水上監視の強化がネックですな。」青梅は破損状況をまとめた資料を見ながら話す。

 

2000 提督室

 

コンコン!

 

「どうぞ。」

資料をまとめていた柏木のところへ飛龍がやって来た。

「どうしたのか?飛龍。」柏木が尋ねると飛龍は…。

「護衛艦みらいについてお話が…。」「話とはなんだね?」

 

「…護衛艦みらいの修理に、妖精さん達の力を貸してあげられないでしょうか?あのダメージ…。修復まで相当な時間がかかると思うのです。」と、飛龍は妖精さん達の力を使えないかと具申してきた。すると柏木は。

「それは気づかなかった。それもひとつの手かもしれん…。明日は梅津艦長と相談してみるよ。」と、柏木は飛龍の意見を聞き、よい判断だと褒めた。

 

翌朝 0800 横須賀鎮守府ドック

 

柏木からの要請で、鎮守府内部のドックに入ったみらいは船体全体を整備することとなった。ドックから徐々に水が抜かれ、船底が見えてくる。

 

ゴオオオンン

 

大きな音と共に、みらいは船体を支える台の上にゆっくりと乗った。ドック内部の水はほとんど無くなり。船全体がきれいに見えていた。隣のドックには横須賀鎮守府に所属するイージス護衛艦[りょうかみ]が整備を受けていた。

 

「ほぉ、隣の護衛艦…。あたご型を発展させたような感じだなぁ~。」と、艦橋デッキで尾栗と角松が感心していた。柏木提督によると[りょうかみ]は定期整備で入港していた。現在、横須賀鎮守府には護衛艦[りょうかみ]の他に[すみだ]と[ちくま][あらなみ][せとうち]が停泊していた。柏木によると普段、常駐している[だいせん]等の大型護衛艦は福島沖合いでの対地射撃上陸訓練参加のため出港していた。

 

翌朝、梅津艦長ら幹部達の元に柏木提督と明石 、夕張がやって来た。

 

「は…妖精さん?」

「ええ、艦娘達が作戦を共にしている方です。」と、夕張が妖精さん達を梅津達に見せる。小人のような存在に

「しかし、これが…?」と、困惑する梅津艦長達。明石は「普段は、私たちが作戦を行うときに使う艤装の中で活躍していますが…。この世界では、護衛艦の修理の時に人が入れないような狭いところで修復作業をしてくれているんです。」と説明する。

「し、しかし…。それで我々イージス護衛艦 みらい の修理には出来るんでしょうか?」

「それは、こちらでも損傷具合を調べてみないとわかりませんが…。データありますか?」と、明石が尋ねると菊池は「艦長どうします?見せますか?」と小声で梅津に尋ねた。少し梅津は考えたあと、「まぁ、よかろう。この世界で行動していく以上、イージスシステムは必要不可欠だ。データを見せよう。」と話した。破損状況をまとめた資料を見せたところ…。妖精さんの力なら5日ほどで回復可能と診断結果が出た。当初、梅津達は修復不可能と思っていたため驚きを隠せなかった。こうして、イージス護衛艦[みらい]の修復作業が始まったのである。

 

カンカンカンカン コンコンコンコンコン バチッバチッバチッ

 

 破損した左舷前側のSPYレーダーを中心に足場が組み立てられ修理が行われている。人が入れないSPYレーダーの中は妖精さんが修復作業していた。ふとみらいに乗っていた艦娘達が集まってきた。

 

「あ、あの尾栗さん!私たちにも出来ることはないでしょうか?」岸壁で作業していた尾栗が振り替えるとそこには、吹雪達が作業服にヘルメット姿で立っていた。

「私たちもお世話になったんです!その恩返しと言うか…。お礼をしたいです!」と吹雪が半分叫びながら話す。「まさか来てくれるとは…。ありがとな。」と吹雪を誉める。「おーい洋介。じゃねぇーや、副長~。」

「なんだ尾栗!?」と、艦橋から声が帰ってくる。

「吹雪達が手伝いたいんだってよー。どうするかぁー?」大声で艦橋の角松に尋ねると角松から…。「艦長の許可をもらってこーい!」と返事が返ってきた。

 その後、梅津艦長から許可を得た吹雪達は…。汚れが目立っていた後部飛行甲板の清掃とSH-60Jの洗浄作業を行うこととなった。

「暁、そのバケツこっちに持ってきて。」

「分かったわ。」と、後部甲板で清掃していた響と暁。モップを持っている響の元へ水の入ったバケツを持っていこうとした暁だったのだが…。

「暁!走ると危な…。」という響の声もむなしく…。

「キャッ!」

「あっ!」

 

 バッシャーン!!

 

吹雪が持っていたホースにつまづいて転んでしまった。

「うっうっ…。」

「大丈夫!?暁ちゃん!」と、慌てて吹雪が駆け寄るが…。護衛艦特有のサメ肌塗装のお掛けで右足に擦り傷を負ってしまっていた。

「うわぁーん(涙)」と、泣き出す暁。しょうがないので響が格納庫にあった救急箱を取りに行く。「おいおい、大丈夫か?」と、SH-60Jの整備をしていた航空科の佐竹が声をかけてきた。グスングスンと、泣く暁に佐竹は

「ほら、救護室まで連れてくから乗りな。」

「えっ…?」

「ほら、乗った乗った!」

 暁を背負った佐竹は艦内へ入っていく。「おい、柿崎。ちょっと救護室行ってくるからな。」

「了解!機内の掃除終わらせておきます!」

「おぅ!頼んだぜ♪」 

佐竹は暁を背負いながら響と共に救護室の桃井のところへと向かった。

 

「はい、これでOK!」

「桃井一尉ありがとう。ほら、暁も。」

「あ、ありがとうございます…。」右足に擦り傷を負った暁の手当てを終えた桃井は救護室の掃除を再開した。「大丈夫か?暁ちゃん。これからは甲板は走らないように気を付けような。」と、佐竹に言われた暁は「こ、子供扱いしないでよっ!…で、でもありがとう。」と、答えた。

「ごめん佐竹一尉。」と響が謝るが、「いいんだよ。」と、頭を軽く撫でられた。その手は日焼けした大きな手だけど暖かみのある手だった。

 

 



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航跡37:退役軍人

護衛艦みらいが横須賀で修繕を受けている頃…。先に帰国していた草加少佐はある人物に面会していた。この先の結末を大きく変えるその人物とは?



8月13日 横須賀鎮守府ドック

 護衛艦[みらい]が入渠してから3日。修復作業も半分まで進んでいた。

 

 パシャ パシャ

 

 前甲板で片桐と麻生が話をしていた。

「まさか、SPYレーダーを直すことが出来るとは…。妖精さん達には脱帽ですよ。」麻生は艦これ世界で艦娘達の艤装を修繕する妖精さん達の仕事ぶりに脱帽していた。

「まぁ、あんなに小さいのによくまぁ…。修理できますよね。」と、足場を組み立てて修繕作業が行われている艦橋を撮影しながら話す。

「修繕箇所は、敵機の機銃掃射で破損した左舷前側のSPYレーダー1基にECM電子戦装置、衛星通信用アンテナ…。」と、麻生が説明する横で片桐は各装備を写真に撮る。

「それに、艦内の断線した箇所の配線ですね…。まさか完全復旧できるとは思いませんでしたが、元の世界の部品を使って修理している訳ではないので…護衛艦みらいの艦これ世界版ってとこですかな。」と、脱帽し頭を掻きながら話す。

 

1930みらい艦長室

 

「副長…。修復作業は順調かね?」

「はっ、作業は予定通り50%を越えました。作業ペースは順調です。」と、角松は修復作業の状況を報告した。

「柏木提督に感謝せねばな。妖精さん達の力を借りなければ…SPYレーダーの修復は不可能だった。」

「同感です。」梅津はSPYレーダーの復旧を喜んでいた。ただ、この先の戦闘について懸念していることも事実だった。

「夕方、津田大尉から柏木提督経由で連絡があったのだか…。草加少佐について情報が入った。」

「草加が…?」

驚く角松に梅津は話を続ける。

「津田大尉によると我々より先に帰国していたそうだが…どうやら何か考えているようだよ。」

 

 

 去る8月2日 東京

 

新宿の一角、神楽坂のある料亭に二人の軍関係者の姿があった。

「このご時世で泥鰌鍋が食べられるとは…。」

「徐々に加熱されていく鍋の中で熱さから逃げたい泥鰌は豆腐の中に逃げ込んで美味しく煮え上がる。なかなか考えさせられる鍋ですなぁ~。」

二人が囲んでいる鍋の中では生きた泥鰌が熱さから逃れようと必死でもがいている。

「しかし、今日はなんだか泥鰌が上手く潜ってくれませんなぁ~。」と、坊主頭の初老の男性が鍋をつつく。すると…。

「焦ってはいけませんよ。石原殿。戦と同じで焦ったら美味しくなくなる。ここはゆっくり待ちましょうや。」と、大柄の男性が話す。

「そういえば、話は変わりますが…。先日、奇妙な方に会いましてな。これがまた面白い人で私の戦争論に噛みついてきたんですよ。」

「ほぉ、そのお方とは?」

 

グツグツグツグツ

 

「元国防海軍 海軍少佐 草加拓海だと言っていたなぁ~。」

 

前日 東京 立命館大学

 

「このままでは日本は負けますな。」

 真夏の大学の講堂で石原は講義を開いていた。

「なぜ負けるかって?そりゃ、1万円しか入っていない日本の財布と。軍資金が半永久的に存在する深海棲艦との戦いだからだ。100円200円と軍備を伸ばすうちはまだわからないが…。すぐにスッカラカンになって、あとはやられる一方だ。」

「深海棲艦が現れてからと言うもの、日本は旧日本軍が占領していた朝鮮半島や中国の旧満州国地域を再び支配下においているが、やっていることはメチャクチャだ。まるで、やたらと事業を拡大しすぎて倒産する貧乏会社同然だ。」

 

「今の軍部は油の輸送ルート確保のために南へ力を集中させているが、海軍には南方防衛の作戦計画がない。これで今度は北だ西だ日本海だだと手を拡げれば…。本土はがら空きになる。このままでは日本は手薄になり日本の都市は私の頭と同じ焼け野原(笑)ってとこですかな。」

 

「…戦争の形態は歴史と共に変化しています。[方陣]から[横隊][敵兵]そして[戦闘群]これを幾何学的に観察すれば、まず[方陣]は点であり[横隊]は実線。[敵兵]は点線であります。そして[戦闘群]は面。つまり、一次元から二次元へと来たのです。そして現代の戦闘は空中戦と対潜戦を中心とした三次元の戦闘。つまり体になったのであります。航空機やミサイルによる攻撃と防御、つまり制空権の確保が勝敗の鍵となるのです。我が人類が経験する戦争の最終形態がこの形になります。」と、黒板に大きな図を書いて説明するが…。

「だが、ここにはあるものが足りない。それは四次元だ。まぁ、あるとすれば死後の世界だ空想上のせかいだとおもいますがな。まぁ、そんな世界を経験した人がいればお目にかかりたいものですが。」石原の問いに講堂に笑いが起こる。すると…。 

 

「それは時間軸です。」

 

 

 一人の青年が答えた。 

「ほぉ、なぜ時間軸だと?」石原の質問に青年は…。

「この世にはいくつもの時間が流れています。それは一人一人の時間が流れていますが、同時に何本もの平行した時間。つまり平行世界が存在します。私はその時間軸を二つ経験した。二つの異なる世界を知っていると言うことです。」

「ほぉ、なかなか面白いことを言うじゃないか?君、名前は?」

「私の名は、元国防海軍 通信小佐 草加拓海。」と、草加が名乗ったその時。

 

「この講義は中止だ!」突如怒鳴り込んでくる二人の中年男性がいた。

「なんだい、また中止かい?」と、とぼける石原に「当たり前だ!生徒の教育にならん!」と怒鳴る。

「私はここの教授だぞ理論を話して何が悪い?」と、マイペースでとぼける石原は「だったら君が、生徒のためになる理論を話して見てはどうかね?教壇に上がるのはいつでも歓迎しているよ。」と話した。すると…。

「世のためになる話をしてみろってんだ!こっちは石原先生のはなしをきいているんだ!」

「いつもいつも邪魔しやがって!」「今日こそは許さんぞ!」

と、講義を受けていた生徒達から一斉に抗議の声が上がり講堂は騒然となる。

 

 

 

「君は変わった人たが…。君もはみ出し組かね?」と、講義終了後に構内のベンチで石原と草加は語り合っていた。

「二つの世界を経験した。と、言っていたが…。あれはどういう意味かね?」

石原は、草加の言った二つの異なる世界について尋ねた。

「私はある艦に乗りました。その艦は私たちの世界と平行に走る世界からやって来ました。」

「ほぅ…。」

「彼らはこの世界がゲームとして存在する世界からやって来ており、この世界の行く末も知っています。」と、草加はみらいの事について淡々と話した。

 

「それでなぜ私のような退役軍人のところへ?力を必要とするならば竹上首相だろう…。」

「あの人は心は強いが行動力がない。時期に首相の座を追われるでしょう。」

「そうかな?私としてはしっかり国の長としての役目を果たしていると思うが…。」夕暮れの風に吹かれながら石原は話した。

「それよりあなたは、顔を知らない他人なら100万もの同胞を殺せる。真の理想のためには世話になった恩人や可愛がった部下さえも見殺しにし、愛した陸軍でさえ…潰す。」

 

 

 「ハハハ。買い被っちゃいけないよ。私はなんも力のない軍の予備役だ。」と、草加の話を笑いながら否定する。すると、

 

「遠からず私のもとへ現れるでしょう…。その、平行世界からやって来た日本人が…。」

 

 

 

 

 



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航跡38:演習~みらい再起動~

やっと久々の更新となりました。楽しみにしていた方更新が物凄く遅くなり申し訳ありません。ジパング×艦これって意外と書くの大変ですねf(^^;これからも頑張って書いていくので、よろしくお願いします。


 

 深海棲艦との戦闘で装備の一部を破損した[みらい]は横須賀鎮守府ドックで修復を受けていた。作業はほぼ終わり残るは補給作業だけだった。

「補給作業、あと1時間ほどで終了します。」と、尾栗が梅津に報告する。「ご苦労。航海長、修復作業完了後、相模湾で射撃演習を行うことになった。既に砲雷長には伝えてあるが、本艦の性能確認及び演習のデータ採取と言うことで国防海軍の[りょうかみ]がしばらくの間我々と行動を共にすることになった。」

「は、はぁ…。」

「なぁに、緊張することはない。普段通りに指揮を行えばよい。」と、梅津は尾栗の肩に手を置く。

 

 翌朝 1030 護衛艦みらい CIC

 

「対潜戦闘!シーフォーク発艦!」

「了解。SH発艦する。」

みらいはりょうかみと共に相模湾で対潜演習を行っていた。CICのモニターには、りょうかみの[DDG-210]と示された光点が光っていた。陣形は単横陣。潜水艦に有利な陣形だ。

「敵潜水艦を発見!10時の方向。目標魚雷発射を確認。数は2!」と、SHから情報が入る。

「左舷デゴイ発射!」演習モードのため実弾は発射されないが、左舷魚雷発射管はガコン!という音と共に動く。「デゴイ発射を確認。魚雷さらに近づく距離1000!」観測員から情報が入る。「機関最大出力面舵いっぱーい!」りょうかみと共に進路を右へ取る。

「魚雷左舷を通過!」

 CICに魚雷が通過したことを伝える放送が流れる。

「シーフォーク!対潜弾投下!」

SH-60Jから対潜弾投下を知らせる合図が出る。「対潜弾爆発を確認!」

「敵潜水艦撃沈を確認。」とソナー室から情報が入る。

「状況終了。対潜戦闘用具納め。」報告を受けた梅津艦長が戦闘終了を宣言しみらいは原速へ戻る。

 ふと、りょうかみから入電する。「梅津艦長お見事。流石、海上自衛隊。練度は高いですね。」りょうかみに乗艦していた柏木提督から誉め言葉をかけられ、梅津艦長は少し驚いた。「いえ、我々は普段通りの訓練をそのまま行っただけです。練度はまだまだ未熟です。」梅津は普段通りの訓練だと話した。演習を終えたみらいとりょうかみは横須賀鎮守府へ帰投した。

 

 1730みらいCIC

 

 「砲雷長。イージスシステムの状態はどうかね?」梅津が菊池に尋ねる。「ええ、イージスシステムは元の状態と変わらず。元通りです。」

「それは良かった。柏木提督と妖精さんとやらに感謝せんとな。」

「そうですね。あれだけの被害を修復出来るとは…。私も驚きました。」

 菊池は妖精さんの修復力に驚いていた。あれだけ破損していたSPYレーダーを元に戻してくれたのだ。

 「といっても、直ぐに復旧できると言うわけではないと言うことを知りました。随伴艦が居ない以上、我々の対空戦闘能力の練度を、上げておく必要があると考えます。」

「確かに君の言う通りだよ。今後、どんなことが起こるかわからん。」と、梅津は静かに頷いた。

 

2000安針塚公園

 

 「やはり、例の艦は隠されるような形で係留か…。」暗視スコープを使い横須賀鎮守府内部を見ている人物がいた。安室 利谷 警察庁公安部国防軍内部調査担当部 調査官だ。既に安室の元には みらい の情報が上っており、安室は神奈川県警察の中山刑事と共に交代でみらいの偵察及び監視を担当していた。

「安室さん。あの護衛艦ほんとに異次元から来たんですかねぇ?私には普通の護衛艦にしか見えませんが。」タバコを吸いながら中山が話す。「…防衛費の予算案を見てもイージス艦の建造数が一致しないんだよ。異次元から来たかどうかはさておき、監視は必要だと思います。」と、警察庁本部へと連絡を入れた。

 

 

 

 



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航跡39:上陸

さて、超マイペース更新になっていますがゆっくり進めて行こうと思っています。今回は、角松が艦これ世界と現実世界の違いを探しに…。自身の家族を探しに行く話です。


 

8月13日夕方

 

「はぁ、乗組員の上陸許可ですか…。」梅津は柏木からの言葉に驚いていた。国防海軍の監視下であるため上陸の許可が降りることなど予想していなかったのだ。

「現在、あなた方は横須賀鎮守府に軟禁と言う形になっている。よって、外出は横須賀市街地のみとなるがよろしいかな?」

「それに関してはこちらからお話しすることはありません。そちらの指示に従います。」という梅津に柏木は

「残念ながら、個人単位での行動は監視の問題から出来なかった。そのため、数名程度のグループで行動してもらいたい。もちろん、各グループにつき2名の警備係がつくことになってしまった。その点は、お詫びいたします。」

 

 

 翌朝

  

「ちぇっ、俺だけ国民服かよ。」

「まぁ、似合っているじゃないか尾栗。」艦橋デッキに私服姿の三人がいた。交代で横須賀市街地を散策することになったのだが、自衛隊の服装で歩くことはできないと通知があったため、海軍側が用意した私服を着ての散策となった。

 

「では、艦長行ってきます。」と、角松の一声で三人が敬礼する。

「時代を見てこい。そして報告してくれ。」梅津は三人にこの世界の横須賀の様子を見てきてもらおうとしていた。

 

 

 「尾行が二人か…。なんとか撒きたいな。」

「洋介、本当に自宅へ行くのか?」

 菊池の言葉に角松は「あぁ…。」と答えた。ふと、商店街に食堂を見つけた。「ほぉ、米の代わりにおからでカレーかぁ~♪」

「やはり、食糧難の状態になっているようだな。」

「ま、昼には早いが試してみるか。」

 と、駅近の飲食店へ入る。尾行の警備係は外で待つことになった。

「おい、裏から出られるぜ。」小声で尾栗が話し掛けてきた。

「すまん、あとは頼んだ。」

「分かったよ。たらふくカレー食って待ってるよ。」

「憲兵には気を付けろよ。」

 尾栗と菊池の見送られ裏口から角松は去っていった。

 

 「さーて、食うかぁ。おばちゃーん三笠カレー2つ大盛りで~♪」

 

 

 角松は鎮守府に近い横須賀駅から離れた京急横須賀中央駅から電車で東京方面へ向かった。角松が知っている赤い京急電車は目立たないように茶色に塗り替えられていた。そのあと、横浜でJR線に乗り換え自宅最寄り駅へと向かう。そして、夕方自宅のあるマンションへとたどり着いた。だが…。

「角松洋介さん?知らないねぇ。501号室は空き部屋だよ。」案内された部屋は現実世界で住んでいた同じマンションの同じ部屋。だが、そこに家族の姿はなかった。角松は家族の事を訪ねたが、管理人の女性は知らないとの一点張りだった。そのあと角松は公衆電話から思い付く家族の電話番号を当たってみたが…みんな繋がらなかった。

 

 夕方 JR横浜駅西口

 ゲリラ豪雨の中で角松は一人たたずんでいた。「やはり、この世界は俺たちの世界とは違う。」そう確信した角松は横須賀に停泊しているみらいへ駆け足で戻っていった。

 

 2000 みらい艦長室

 

 「…なるほど。やはり、違う世界であることが証明されてしまったか。」梅津は角松からの報告を残念そうに聞いていた。

「勝手な行動をしすみませんでした。」謝る角松だったが、梅津は許した。

 「こうなると、他の隊員達の帰り場所もないと言うわけだ。完全に、元の世界から離れてしまったな。」

「ええ、この事は極秘にしてもらいたいと考えています。」

「どうしてかね?」角松の言葉に梅津が尋ねると…。

「この状況下で、この件を隊員達に伝えた場合…。おそらくパニックになるでしょう。そうなれば士気の低下に繋がる恐れがあります。今は公表を差し控えるべきです。」

「そうだな…。この件は副長、君に一任する。」

「ハッ。」

 

 

 



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航跡40:報告

遂に裏で動き始めた草加少佐…。草加のジパング計画を阻止するため角松とみらいは、中国大陸の新満州国へ向かう。一方、横須賀鎮守府では敵の動きについて気になることが起きていた。


 

 8月14日 1000 横須賀鎮守府提督執務室

 

 「提督。沖ノ鳥島沖合での海底構造物についての調査経過第一報が届きました。」柏木の元に大淀がやって来た。手元にはUSBと第一級極秘事項と書かれた書類があった。

 「すまんな大淀。」柏木は資料を受けとるとUSBをパソコンに繋ぎ資料を見始めた。

 

 「こ、これは…。」

 

 

 1130 みらい艦長室

 

 みらいと角松達三人の姿は艦長室にあった。

 「…やはり、みらいさんが言った通りになってしまったか。」菊池は先日の角松から受けた報告を聞いて呟いた。

「やはり、我々の世界とこの世界には接点が無さそうだ。今後、この解説本の通りに物事が動くかどうかも分からなくなった。」梅津は三人に伝えた。

「私が想定していたよりも物事が進むのが早いです。もしかしたら…。」

 

「あいつのせいか…。」

 

 角松はある確信を持っていた。それは戦死するはずだった草加少佐の動きだった。彼はこの艦の事も、この世界がゲームの世界である事も…。その上、この先起こりうる事象も全て把握している。

「艦長、草加少佐の追跡を具申します。」角松が発した言葉は草加少佐の身柄確保を提案するものだった。

「しかしなぁ、副長。草加少佐が関わっていると言う確証はあるんですか?」と、尾栗が尋ねてくる。だが、「奴の行動には不可解なところが多い。マリアナで東京行きの飛行機に乗ったのも事実だ。奴が、何を企んでいるか…。それを調べる必要がある。」

「洋介…。覚悟は出来ているんだな?」

「ああ。」

 

 「艦長、草加少佐の追跡許可を願います。」

 

 「私も同行させてください。」と、みらいも角松と行動を共にしたいと具申してきた。

「この件、私にも責任があります。ご一緒させてください。」角松は梅津艦長の判断に任せることにした。すると…。

 

 コト…。

「…副長、みらいさん。これを持っていきなさい。使わないのが一番なのだが…。」と、9ミリ拳銃を2丁差し出した。

「副長、覚悟は出来ているな?」

「ハッ。」

「草加少佐の動きがつかめ次第、我々へ報告を頼む。」

「了解しました。」

 

 午後、角松の姿は鎮守府の資料室にあった。

「草加少佐の行方ですか?」

「ああ。あいつを追いかけたいんだ。」

「分かりました。すぐに調べます。」角松が声をかけたのは同じ部署に勤める津田だった。

「しかし、なぜ急に草加少佐の事を?」と、津田が尋ねたが詳細は機密事項であると角松は話した。津田がパソコンを使い調べると、草加は朝鮮半島…。旧中国領 新満州国 新京へ向かっている事が分かった。

「新満州国か…。津田、新満州国への行き方は?」

「現在の状況では、福岡まで出てそこから船ですね。草加少佐も同じルートだと思います。しかし、国内の空路はほとんど軍優先になっているので…。鉄路で福岡まで行くしかないですねぇ。」

「それはどのくらいかかる?」

「明日の朝、出発すると仮定して福岡到着は3日後になります。」

「分かった。3日のロスか…まずいな。」

「私の方から、新満州国駐在の士官に連絡を入れておきます。あと、切符の手配も…。」

「すまない。頼むぞ。」

 角松は津田にお礼を言い、停泊中のみらいの梅津艦長の元へ向かった。

 

「新満州国か…。長旅になりそうだな。」

「ええ、私が艦を離れる間よろしくお願いします。」角松は梅津に向かって深々とお辞儀をする。

「言っても、覚悟は変わらんな。」

「これは私と草加の問題です。原因を作った私自身が、責任を取ります。」

「副長の判断もいいが、みらいさんも連れていきなさい。何かったら役に立つだろう。」梅津はみらいを同行させることにした。最後に…。

 

「何があっても戻ってこい。この艦がお前の故郷だ。」と、梅津は角松に話した。

 

 

 

 



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新満州国編(角松・みらいルート)
航跡41-1:新満州国へ


草加少佐を追跡し新満州国へ上陸した角松とみらい。そこで待っていた事…。そして、草加の真の目的とは?


8月15日 0500

 

「洋介…。本当に新満州国へ行くのか。」

「ああ、あいつと決着を付けなければならんからな。」埠頭で角松は尾栗と菊池と話していた。

「体には気を付けろよな。」と、尾栗。

「大丈夫だ。それより俺が留守の間、艦を頼んだぞ…。特に海軍の動きには。」

「任せとけって。」

「副長、出発時間です。」みらいが時刻を角松に伝える。

「じゃ、行ってくる。皆も体には気を付けろよな。」

 夜明けの埠頭から二人は静かに旅立った。 

 

 

 ガタンゴトン…。ガタンゴトン…。

 

 横須賀を出発してからどれぐらい経っただろうか?いくつも列車を乗り継ぎ、船に乗り換え…。また鉄路とバスで朝鮮半島を南北に縦断。新京に着いたのは1週間後だった。

 

 「…角松洋介さんですね?」駅前で小太りの男性に声をかけられた。

「私、海軍の如月と申します。こちらでの案内役を任命されました。」

「これはどうも…。」

「よろしくお願いします。」

 角松とみらいが挨拶すると車へ案内された。

「とりあえず、一旦軍の宿営地へ案内しますね。」二人を乗せた車は町中を走る。しばらく走ったときの事だった。

 パァン!

 乾いた音と共に車が急ブレーキをかける。

「どうしましたか?」

「いや、パンクですな…。あいにくスペアを持ってない。」

「ここからは歩けますか?」

「ええ、歩けますけど…。だったら歩きましょう。この町の様子も見たい。」角松とみらいは付添人と共に宿営地へ向けて歩き始めた。ふと、市場の中を通り抜けた時…。角松は目でみらいにモールス信号を送った。

[コノグンジンハニセモノ コノサキデマク!] 

 「どうですか?この町は…。しまった!逃げられた!」

 慌てて追いかける付添人。路地を走っていると支那服を着た男性にぶつかった。「気を付けんかばか野郎!」と怒鳴ってそのまま走り去る付添人。だが、その足跡には血が付いていた。

 

 

 

「丘に上がってからは完全に潮気を抜かないと駄目ですよ。」支那服の男性は角松とみらいにこう告げた。

「さっきの付添人…。殺したのか?」

「いや。太ももを刺しただけだ。致命傷じゃない。」

「と、ところであなたは?」

 みらいが尋ねると支那服の男性はこう告げた。

「私が国防海軍上海陸戦隊連絡将校 如月克己」

 血の付いたナイフを水道で洗いながら如月は話した。

「よく、偽物だと見破りましたな。」

「海軍の男はポケットに手を突っ込んで話したりはしないからな。あの付添人は駅で話してきたとき手を突っ込んでいた。」

「なるほど…。洞察力には優れているようだが…。まさか二人で来るとは思ってませんでした。」と如月。

「彼らの目的はなんだ?」角松が尋ねると如月は

 「たぶん、あなた方を処分したかったのでしょう。草加少佐のジパング計画には邪魔になりますから。」

 「じゃあ、あのパンクは?」みらいが尋ねると如月は「私の部下に狙撃させたのだ」と答えた。

 

 「どうやら…。俺たちは敵の陣地に入り込んだようだな。」と、角松は呟いた。如月に案内された角松達は町中の古びた雑居ビルへ入った。ひび割れた壁に充満するタバコの煙…。入り口にはホームレスらしき薄汚い男性が横になっていた。だが、如月の姿を見ると立ちあがり敬礼する。

 「異状はないか?」

 「はっ、異状ありません。」

 部屋の扉を開けると、中にはスーツ姿の男性らが数人いた。

 「如月さん無事でしたか。そちらの方々は?」

 「あぁ、例の日本から特命で来た方だ。」と、如月は角松へ視線を向けた。

 「あっ、名前は角松洋介。所属は…。」と、所属を言おうとしたところ如月に制止された。「…私は、護衛艦娘の みらい です。よろしくお願いいたします。」と、みらいがペコリと頭を下げる。

 「まぁ、とりあえず掛けてください。ここにいる人間は全員、特命で調査を引き受けている。…いわば海軍警務隊の隊員ですから。」

 別室のソファに腰かけた如月は熱い烏龍茶をコップに注ぐ。

 「…まぁ、とりあえずどうぞ。」

 如月は二人に熱い烏龍茶を渡す。ひと口飲んだあと如月は話を始めた。「我々の元にも海軍内部…。いや、国防軍内部での不信な動きについて調査しています。先日、あなた方がガダルカナルで敵対した超弩級原子力戦艦 [やまと]…。あれは、我が国防軍が旧日本海軍の大和型戦艦を元に改良し極秘で建造された戦艦です。」

「…そうでしたか。」と、みらい が呟く。

「あなた方が真っ先に知りたいのはこの人物の動きですよね?」と、如月は書類が入った封筒から調査書を取り出した。

「国防海軍通信小佐 草加拓海 。我々が調査した情報によると、既にこの新満州国へ入国しているとのこと。あなた方が追跡してくるのは山本長官より連絡が来ています。彼は、この世界の行く末を知ったと明言されておりましたが。」

「ああ、信じられないかもしれないが…。俺はこの世界の人間じゃない。」と、角松が事情を説明し始めた。

 

 30分後。

 

「…なるほど。なかなか興味深い話ですね。だが、これまでの情報を元にすると…。既にこの世界はあなた方がいた世界とは繋がっていない。」

「それは、俺もこの体で体験した。現に、俺の家族は…。この世界にはいない。」と、角松は歯を食い縛りながら話した。

「この世界は既に変わりつつある。その行く末を知るのはあなた方が海上自衛隊と、草加小佐ということになります。」如月は淡々と話を続ける。すると、

「あ、あの…。私が言うことじゃないと思うのですけど…。この世界、いやこの戦争の行く末を逆から考えると予測可能と言うことですよね?そうすれば、犠牲者も減らせるし…。戦争も早く終結できる。私の経験では、戦争の行く末を変えられると感じますが…。どうでしょうか?」と、みらいが声をあげた。

「…戦争の行く末を変えられる。それは、ごもっともだが…。それにともない、起こるはずのない戦闘が必ず起こる。それにより新たな犠牲者が出ると考えるが。」如月はこれ以上の戦闘で犠牲者が出ることを危惧していた。

「…奴の計画。四海に囲まれ独立しかつて西洋の旅人が夢を抱いた力強い国。それが、ジパングだと言っていた。」

 

 



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航跡42-1:草加の行動

新満州国へ上陸した角松とみらいの二人は、現地で如月と出会い独自調査を開始する。未来を知る草加少佐の目的とは…?


「そうか、逃げられたか…。」

「少佐、申し訳ありません。」

草加は携帯で角松達を連れ去ろうとした人物と話していた。話を終えて携帯を切ると草加はため息をしながら外を眺めた。草加は市内にあるホテルの一室にいた。外には活気ある町が見えていた。ふと、なにかに気づきカーテンを閉める。

 

「ーこちら偵察班。気づかれました。」

「了解。直ちに現在地より離脱せよ。」

「ー了解。離脱する。」

向かいの雑居ビルの屋上の物陰から数名の黒服の人物が離れていく。それをカーテンの隙間から確認した草加は椅子に座りパソコンを開く。

「なるほど。奴の手下だなぁ…。」と呟いた。

 

 

 その夜、角松とみらいはホテルの一室で草加が取る可能性の高い行動を予想していた。

 「我々の持っているデータだと、終戦後に日本海の竹島沖合いで広大な石油の地下資源が見つかることになっている。所有権が与えられるのは中国だ。」

「まさか、その地下資源を草加少佐は!」角松の言葉に驚くみらい。

「あぁ、奴はそれを狙っているのかもしれない。地下資源を確保できれば、日本は石油輸入に頼らなくても良くなる。」

 

三日後。新京市内 新京中央駅前

 

「…皆さん!この荒廃した我が中国を再生し日本から取り戻す。それが我々、満州共産党に課せられた使命なのです!」駅前で満州共産党の旗を振りかざし演説している男性がいた。共産主義に取って替わり、民主主義制度が導入された新満州国では日本の監視下であるが公職選挙法により新満州在住の中国人の出馬が認められていた。その中でもこの男性は支持率が高い。その男性の名前は張宗元(チャン ゾンユエン)旧中国政府の事務次官で、反日体制派の人物である。みらい にある資料によると、この戦争のあと新しい中国政府の国家首席となる人物である。今日は統治下であるが、新京市の市議会議員選挙の演説だった。

 

「奴は、何か仕掛けてくるはずだ…。もしもの時は みらい 。援護を頼むぞ…。」

「…はい。」

 演説会場が見えるビルの角から角松とみらいは様子をうかがっていた。すると…。

 

 「…まずい!」

 

 角松がいきなり飛び出して張議員の元へ向かう。

 「どうしたんですか!?」みらいが尋ねると「狙撃手だ!」と走りながら叫ぶ。

 

 パァン!

 

 間一髪角松は張議員の手を引っ張り弾を避けさせた。弾は近くの子供が持っていた風船に当たったのだ。狙撃されたとわかり、周りの人々はパニックになる。その中をかき分けて張議員の手を引っ張り走る。

 

 「巻き添え喰らいたくなかったら道を開けろぉ!」 

 

 十分後

 

「ハァハァ…。」

「買い物に行ったと思ったら…。張宗元を連れてくるとはな…。」と、呆れる如月…。

「奴の手下が狙っているんだ。仕方ないだろ。」と、息を切らしながら角松は答えた。すると…。

 「…あなた方は、一体何者ですか?」と、張が尋ねてきた。

 「私は、角松洋介。貴方をお守りするものです。」と、角松は答えた。

 

 その頃…。

 

「小佐、暗殺失敗しました。」

 と、草加の元に電話が入る。

「御苦労だった。金は既に口座へ入金した。」

 と、やり取りを行い電話を切る。

 (角松さん…。あなたですか。)と、草加は心のなかで思っていた。

 

 

 ガッチャーン!

 

 水が入ったグラスが床に叩きつけられる。「こんなもの安心して食えるかっ!」と、饅頭を張は投げようとするが角松が止める。そしてその饅頭を自分でちぎって食べて見せた。

 

 「大丈夫。毒は入ってない。」

 

 その言葉に力が抜けたのか張は椅子に座り込んでしまった。

 「副長。これからどうするんです?」と、みらいが尋ねる。今、角松達がいるのは新京市中心部から離れた古びたホテルの一室に居た。

 「とにかく、まずは張氏の身の安全を確保しなければならない。奴は、必ず仕掛けてくるはずだ。」と、草加の行動を読む。だが、角松達は草加からも地元警察からも追われている。地元警察に預けたとしてもすぐに解放されて草加の手によって暗殺される可能性が高い。よって、角松達が一時的に保護していたのだ。 

 「今は、下手に動くのはまずい。しばらくここで様子を見よう。」如月が窓の外を見ながら話す。外では地元警察がパトロールしていた。すると…。

 

 「な、なぜ私は命を狙わなければならないのですか?」と、張が話始めた。

「詳細はお伝えできませんが、テロ組織よりあなたの命が狙われていると通報を受けました。」と、如月が理由を説明する。

「私は反日派ですよ。どうして、守るのですか?」

 数秒の沈黙が流れたあと…。角松が、

「あなたにはこの新満州を背負って行ってもらいたい。反日派だろうが関係ない。同じ人間だ。命を狙われているならば護るのが俺達だ。」と、答えた。その言葉聞いた張は涙を流していた。

 

 



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航跡43-1:張暗殺

前回、暗殺寸前だった張氏を救った角松達。だが、草加の魔の手は着々と迫っていた。角松と草加…。共に銃口を向け合うが…。


 

8月26日 早朝

 

 角松達は変装して宿泊していたホテルから出た。角松は髪を白に染めて眼鏡をかけ、みらいは目立つ灰色の髪の毛を纏めて女性用の黒の長髪のかつらを被り、張氏を護衛しながら車に乗り込んだ。如月もスーツ姿に眼鏡を掛けている。

 

 「一体、どこへ向かうのですか?」

 車中で張が尋ねる。すると…。

 「とりあえず、我々の拠点で一旦保護させていただきます。」と如月は答えた。

 

 同時刻 新京市内 某ホテル

 

 「彼らは一旦、拠点に集まるだろう。拠点から出た時が勝負だろう。」

 草加は部下に指示を出していた。張氏を確実に仕留める為には犠牲もやむを得ないという判断だ。

 

 角松達の乗った車は拠点に着々と近づく。拠点の事務所では如月の部下が事務所の掃除をしていた。そこへ一人の男性が近づく…。

 

 「…なんだお前は?」

 

 ドゴッ!

 

 

 

 

 

 キィィ…。

 「着きました。ここです。」運転していた如月が車のエンジンを止める。

 「ここですか…。」張は古びた事務所の姿に唖然としていた。

 「角松さん。様子を見てくるのでちょっと待っていてください。」

 「私も行きます!…なんかやな予感がするので。」

 「わかった。」

 如月とみらいが車から出て事務所の階段を上がっていく。

 

 ガチャッ

事務所扉を開けるが…。中が妙に静かだ。不審に思った如月が中へ入ったとたん。

 

 ドゴッ!  

 「うっ…。」

 ドサッ…。

 と、如月が何者かによって殴られ気絶し倒れる。みらいが懐の拳銃を取り出そうとした瞬間…。

 

 「静かに。我々の指示にしたがってもらう。」と、後ろから聞き覚えのある声がするが…。頭に拳銃を当てられている感覚がした。

 「懐の拳銃を床に置け。。」

 射殺される可能性があるためみらいは指示に従って拳銃を床に置き、両手を上げる。そして、そのまま窓際まで行かされ

「下の人に上がってきてよいと伝えろ。」と、拳銃を当てられたまま言われた。仕方なくみらいは窓を開けて角松が乗っている車に向けて合図を送った。すると、半ば強引に窓から離される。

 

 ビリッ!

 

 「きゃっ!」

 突然、体に電気が流れ床に倒れる。みらいが意識が薄れていくなかで見たのは、草加の姿だった。

 「来ちゃ…ダメ…。」

 

 草加の手下がみらいと如月を隣室へ運び入れた直後、角松と張が入ってきた。

 「く、草加!なぜここに!」

 角松が草加に向けて叫ぶ!

「みらいと如月はどうした!?」

 「二人なら隣で眠ってもらってますよ。」と、草加が淡々と話す。そして…。「私が用事があるのは張宗元。あなたですよ。」と、角松に拳銃を向ける。角松は懐から拳銃を取り出すが…。草加の手下から背中に拳銃を当てられる。だが、草加は「手出し無用!」と、答えた。

 

 お互いに拳銃を向けあったまま向かい合う二人。角松は

「お前がやろうとしていることは間違っている。張宗元はこの新満州を背負って行く人物だ。俺が必ず守る。」

 一方の草加は…。

「この戦争の結末…。いや、この世界の未来は変えなければならない。張宗元にはここで死んでもらう。」と、答えた。

 角松、草加共に額に汗が流れる。そして引き金に指を掛けている。

 

 「撃つなら撃て。角松副長。」

 「草加っっっ!!!」

 

 パァン!

 

 一発の銃声が部屋に響く。

 ガチャッ…。カン!カラカラカラ…。

 拳銃が落ちて薬莢が床を転がる…。

 

 「うっ…。」

 利き腕を撃たれた角松が床に倒れこむ。腕からは血が流れている。激しい痛みのなかで反対の手で拳銃を取ろうとするが草加に手を踏まれ、拳銃は壁際へ蹴飛ばされる。

 

 「く、草加…。」

痛みに苦しむ角松をよそに、草加は張に拳銃を向ける。

 「お、俺が一体、何をしたってんだ?」と、怯えながら尋ねる。

 「あなたは反日派であり、後に新満州を治める事となる。そして、日本へ経済的制裁をすることになる。それを私は防ぐのだ。」と、引き金に手をかける。

 

 「それは違うぞ!草加!!!!」

 

 パァン!

 

 乾いた一発の銃声が部屋に響く。

 

 

 

 

 

 

 数時間後…。

 

 「頭部に銃弾を一発…。即死です。」

 地元警察の鑑識が現場検証をしていた。身分証から張宗元氏と判明していた。「血痕が二人分ありますが…。どうします?」鑑識が刑事に尋ねるが、「軍から差し押さえが来ている。捜査は軍が行うそうだ。」と呟いた。

 

8月30日

 

 「副長。しっかりしてください!」

 「ん…。こ、ここは?」

 角松が目を開けるとそこは病室だった。椅子にはみらいが座っている。

 「やっと気づいたか。」頭に包帯を巻いた如月が話しかけてくる。ふと、角松は肩に巻かれた包帯に気づいた。

 「こ、これは…。誰が?」

 「草加の手下に医者が居てな。たとえ敵であっても、命は助けたいと言うことで手術をしてもらっんだ。」

 「その医者はどうした?」

 「君の手術を終えたあと、どこかへ去っていったよ…。」

 「そうか。」

 と、自身の命を救った医者の事を気にしていた角松だったが…。張氏がどうなったか気になりみらいに尋ねた。

 「…副長。残念ですが、頭部に銃弾を一発…。即死でした。」

 「…くそっ!」

 角松は拳をベットへ叩きつける。すると如月は…。

 「こうなったのは私のミスだ。すまない。」と、謝る。

 「副長、私も油断してました。ごめんなさい。」みらいも続いて謝る。だが、角松は「草加の行動を予想していた俺が一番の原因だ。二人とも、迷惑を掛けてすまなかった。」と、謝った。

 「ところで、こうなった以上…。このあとはどうするんだ?」如月が角松に尋ねる。

 「俺は一旦、みらいと共に内地へ戻る。」

 「そうか…。だが、傷が深いから3~4日はここで安静にしておけとのことだ。」

 「わかった。」

 如月は傷の経過と草加の行方を角松に伝えた。そして最後にあることを伝えた。

 「あなたは撃たれたあと出血がひどかった。…あなたに輸血したのは私だ。あなたには私の血も流れている。こちら側の人間になったと言うことだ。」と、言葉を残して草加の行方を探しに如月は部屋から出ていった。

 

 一週間後、角松とみらいの姿は山陽本線の普通列車の中にあった。

 

 「副長。腕は大丈夫ですか?」

 「あぁ、だいぶ慣れたよ。」

 右腕に三角巾を巻きながら、握り飯をかっ込む角松。外には美しい瀬戸内海の海が広がっている。馴れない左腕で飯を食べているが、だいぶ慣れてきたようだ。

 「艦に戻ったあとどうするんですか?」と、みらいが尋ねる。

 「とりあえず、艦長に報告だな。草加の影響で歴史が大きく変わったと…。」みらいが読んでいた新聞の海外欄には張宗元氏病死と小さな記事が載っていた。如月の手はずで、病死と公表されたのだった。

 

 プァァァァンンン

 

 角松達が乗った列車は東京方面へ走り去っていった。

 

 

 



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物資輸送任務(護衛艦みらいルート)
航跡41-2:対潜哨戒


角松とみらいが新満州国へ向かったあと、海上自衛隊護衛艦みらいは国防海軍と共に行動することとなった。最初の任務は呉鎮守府に物資を引き取りに向かう事。だが、そこへ深海棲艦の魔の手が迫る…。


 

 8月18日 0830 護衛艦 みらい 艦橋

 

 「いよいよ。今日から本格的に国防海軍と共に行動するのか…。」尾栗が外を見ながら呟いていた。それを聞いた梅津艦長は…。

 「まあ、この世界で生きていく以上…。仕方のないことだろう。だが、我々は国防海軍じゃない。あくまで海上自衛隊だ。専守防衛…。その事を忘れてはいかんぞ。」

と、微笑みながら尾栗に話した。護衛艦みらいは今日から3日かけて、ミサイル護衛艦 ぶこう と 汎用護衛艦 あらなみ と共に対潜哨戒任務を行いながら、広島県の呉鎮守府へ入港。呉にて改いぶき型ヘリ搭載艦娘輸送護衛艦 だいせん と とうや型補給支援艦 あしがら と合流し横須賀へ帰投する。一番の目的は呉鎮守府で開発された海上無人迎撃システム防御浮遊砲台 ユニコーン の量産品の輸送任務の護衛が目的である。

 

 「出港用意!」

 

 ガラガラガラ…。

 

 錨が水しぶきをあげて引き揚げられる。既に先陣を切って ぶこう が動き始めていた。

 

 1200 伊豆半島下田沖 10キロ

 

 護衛艦みらいは国防海軍の ぶこう あらなみ と共に単縦陣で西に向かって航行していた。

 

カシャッ! カシャッ!

 

 片桐が艦内の写真を撮りながら散策している。艦橋の写真を撮っていたのに尾栗が気づき、あっかんべー をして余裕を見せる。 

 「…いくら護衛の国防海軍の護衛艦が居たとしても…。日本近海でも深海棲艦の出現情報がありますよね?哨戒網に引っ掛かりませんかね?」と、深海棲艦の哨戒網を気にする片桐。尾栗は…。

 「こっちのイージスに比べたら、あっちのレーダーなんて玩具みたいなものさ。見つかる前にこっちが見つけてやる。潜水艦のソナーだって、日本の科学技術の結晶である対潜ソナーの前じゃ、闇夜で懐中電灯を振っているようなものさ…。」

 「でも、この前みたいに敵機が大群で押し寄せたらどうするんですか?」

 と、片桐が尋ねる。

 「そしたら、今度こそ見つかる前に叩くしかないな。スタンダード対空ミサイルで…。」

 

 翌8月19日 1015 和歌山県串本沖 20キロ

 片桐が予感していた事態が発生した。敵潜水艦と思われる影が先頭を航行する ぶこう の対潜ソナーに映ったのだ。

 「ぶこう より入電。前方8000に敵潜水艦!我、対潜戦闘態勢に入る。貴艦も用意されたし。」通信士官が梅津に伝える。

「了解。総員ただちに対潜戦闘用意!」

 

 ジリリリリリリリ

 

 艦内に戦闘態勢に入ることを知らせる非常ベルが鳴り響く。各隊員達は、所定の位置へ向かい水密扉が閉鎖される。

 

護衛艦みらい CIC

 

 「ぶこうより入電。目標は2!深海棲艦のソ級と思われます。」と、青梅が梅津に伝える。ソ級といえば、開幕魚雷を撃ってくる可能性が高い。

 「了解。砲雷長、アスロックの発射用意を。」

 「了解しました。前甲板VLS5~6番!アスロック装填、射撃用意!」

 菊池がアスロック装填を指示する。すると…。

 

 「目標!魚雷発射!距離5000!」

 

 と、ソ級が魚雷を発射したことを青梅が叫ぶ!旗艦である ぶこう から射撃許可が降りる。

 

 バシュュュウウウ!!!

 

1000メートル先を航行するぶこうからアスロックが発射される。そして右に急旋回を取る。 

 

「ぶこう アスロック発射!ソ級へ向かいます! 魚雷、本艦との距離3000!」と、青梅が叫ぶ。

「ぶこうと同じ進路を取る。面舵いっぱーい!」

 

 CICにいる梅津からの指示で、艦橋にいる尾栗が操舵員に指示を出す。後続の あらなみ も面舵を取り、魚雷から回避する。回避直後、左前方でアスロックに取り付けられたパラシュートが開き着水する。

 「アスロック着水を確認!インターセプトまで10秒!」

 アスロックに気づいたソ級2隻は急速潜行するが…。

 

 ドオオオオオンンンン

 

 左前方で大きな水柱が上がる。

 「目標…。消えました。撃沈です。」

 CICで青梅が報告する。

 「状況終了。対潜戦闘用具収め。」

 梅津が指示を出してCICに安心感が流れる。すると、ぶこう から入電があった。

 「今回は、我が国防海軍が戦闘を行ったが。あなた方にも、砲を撃ってもらう場合がある。」と、ぶこう の艦長から みらい へ伝えられた。それを聞いた菊池は…。

 (この世界で生存していく以上、戦闘時の射撃による敵艦撃沈はやむを得ない。専守防衛は貫くことはできないのか…。)と、自身の立場である砲雷長という身分。一発の射撃で敵の生命を奪うことができる。それを改めて感じた菊池だった。

 

 翌日夕方、護衛艦みらいは広島県の呉鎮守府へ入港した。柏木が管理する横須賀鎮守府とは違い、美しい瀬戸内海を望む赤レンガ造りの鎮守府だった。近くの江田島には国防海軍の幹部候補養成学校がある。(現実世界の海上自衛隊幹部候補生学校にあたる。)

 護衛艦みらいは2日間停泊したあと、だいせん あしがら を護衛しながら帰投する。予定では3日間停泊だったが、沖縄海上を進む台風8号が予定よりも早く接近してきた為だ。台風のしけの中で航行するのは熟練の海上自衛隊の乗組員達も冷や汗ものだ。気象情報を聞きながら、尾栗は帰りの航行にかかる時間を気象観測員のメンバーと共に海図室でシミュレーションしていた。

 

 「うーん。この調子だと、横須賀に戻る日には最悪降り始めるなぁ…。」

 台風8号は予想よりも発達し始めていた。呉出港の日には九州奄美諸島にかなり接近し、夕方には九州南部に上陸の可能性が出ていた。航行ルートは台風の進路上にあり、台風から逃げる形になっている。尾栗は海図と気象情報を照らし合わせて考え込んでいた。

 

 

 

 



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航跡42-2:物資輸送

深海棲艦の潜水艦に襲撃されながらも無事に広島の呉鎮守府に入港した護衛艦みらい。横須賀へ帰投途中、相模湾に敵空母機動部隊が居ることが早期警戒機から伝えられる。迂回か…。それとも強行突破か…。旗艦である護衛艦 ぶこう が下した判断とは…。


 8月23日 0845 呉鎮守府 埠頭

 

 護衛艦みらいは横須賀へ帰投する為、給油を受けていた。

 

 ドッドッドッ

 

 給油ホースの中を燃料が勢いよく音を立てて流れている。

 「給油作業。あと5分で終わります。」

 補給科から作業終了までの時間が伝えられる。護衛艦みらいの事は、既に柏木提督から呉鎮守府に伝わっており、補給作業は順序よく進んでいた。

 

 「…でけぇなぁ( ゚д゚)ポカーン」

 

 艦橋で撮影をしていた片桐が呟く。視線の先には改いぶき型ヘリ搭載艦娘輸送護衛艦 だいせん が停泊してしいた。いずも型からいぶき型へ改良し、更に艦娘達の運用能力を備えた 改いぶき型は日本一大きな艦船だ。上部甲板にはSH-60kやオスプレイが駐機しており、船体の最後部には 現実世界の おおすみ型と同じような開閉式のウェルドックが付いていた。

 「あの船は改いぶき型ヘリ搭載艦娘輸送護衛艦 だいせん 。ヘリ空母としても艦娘空母としても活躍できる…。まさに海上鎮守府ですよ。」と、柳が話しかけてきた。

 「ジャーナリストとしては是非とも見学させてもらいたいものです。」と、写真を撮りながら片桐は話した。

 

 8月25日 1530 静岡県焼津沖30キロ

 

 翌朝の横須賀入港に備えて入港準備をしているときに事件は起こった。

 

 「レーダーに感!こ、これは!!」

 旗艦である 護衛艦ぶこう CICに緊張が走った。なんと、進路上の伊豆大島沖合に深海棲艦の空母機動部隊が接近していることが判明したのだ。その一報は みらいCICにも即座に入った。

 

 「旗艦である ぶこう がどう判断するか…。我々としては、戦闘は極力避けたいのだが…。」

 梅津はCICで菊池と共に海図を見ながら呟く。深海棲艦の空母機動部隊を発見したのは、哨戒活動に当たっていた国防空軍のE-787早期警戒機だった。

 「空軍からの情報によると、敵の勢力は正規空母2 戦艦1 重巡1 艦級不明2の計6隻だそうです。」菊池が資料を読み上げる。

 「我々の目的は戦闘ではない。物資輸送が目標だ。強行突破は避けたいが…。」梅津は旗艦である ぶこう 艦長の判断を心配していた。ぶこうの艦長は艦長になってから日が浅く…。その上、艦隊司令に戦時特進している。先日の対潜戦闘でも力ずくで突破しようとしたのを梅津は感じていたからだ。

 

 「砲雷長、シースパローの残りはいくつだ?」

 「予備も含めて現段階では残り50発です。」

 「トマホークの残りはどうだ?」

 梅津はトマホークの残弾数を尋ねた。

 (まさか、先手を打つ気じゃ…。)

 菊池は一瞬黙った。二人の間に数秒の沈黙が流れる。

 

 「トマホークは残り10発…です。」

 「…分かった。」

 昼行灯と表させる梅津の顔はいつになく厳しい顔だった。その顔は、場合によってはトマホークでの敵艦撃沈を行う事を意味していた。

 

 伊豆大島沖合にて深海棲艦と接触する可能性が高いのは明日明朝0430頃。梅津はCICで海図を見ながらぶこう艦長の指示を静かに待っていた。

 

 

 2100 みらいCIC

 

 やはり梅津の予想は的中した。ぶこう艦長から敵艦隊の撃沈を行うと指示が来たのだ。

 「やはりな…。」

 「艦長、トマホーク…。使うことになるのでしょうか?」菊池が梅津に尋ねる。

 「いや、トマホークは最後の手段だ。一旦、主砲とシースパロー、ハープーンで対応する。」

 梅津は菊池と共に作戦を練っていた。長年の勘からぶこう艦長が取りそうな行動を予測しているのだ。

 「私の勘からして ぶこう が最初にハープーンで長距離射撃を開始するだろう…。我々は、ハープーンにチャフを搭載し発射させる。そして、敵艦隊上空でチャフ搭載ハープーンを自爆。ECMと共に敵のレーダー網を奪う。」

 「明日の日の出は0445です。敵機が飛び立つ前に空母の運用能力を削らなくてはなりません。」菊池が意見具申する。

 「我々の援護射撃でぶこうは優位に立てるはずだ。ハープーンで中破状態にすれば艦積機は飛び立てないはずだろう…。」梅津はこの作戦に懸けていた。これが、一番被害を少なくかつ弾薬の消費も最小限に押さえられると考えたからだ。ただ、この作戦は自衛隊にとっては専守防衛に反すること。きっと角松は全力で迂回するよう進めただろう…。だが、東京湾の入り口付近に敵艦隊が居てはいつまでたっても横須賀入港は不可能。今回は仕方ないと梅津は考えていた。あとは敵の勢力に潜水艦が居なければだが…。

 

 

 



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航跡43-2:艦隊防衛戦

護衛艦ぶこう艦長が下した判断は、強行突破…。梅津の予想通りになった。相模湾にて護衛艦みらい達を待ち受けるかのように居る敵空母機動部隊。早期警戒機は敵の艦種全てを把握できていない。そのなかで梅津が取った、秘策は成功するのか…。


 

 8月26日 0315 みらいCIC

 

 「予想通り…だな。」

 梅津の予想通り、ぶこう艦長は敵艦隊撃破を行うと連絡をしてきた。しかも、ハープーンでの長距離攻撃を行うそうだ。

 「砲雷長、ハープーンへのチャフ搭載作業は?」

 「既に完了しています。」

 「了解した。」

 菊池の話を聞き、梅津は艦内放送用のマイクを手に取る。

 「これより本艦は、伊豆大島沖に潜伏している敵空母機動部隊を殲滅する。総員ただちに対空戦闘用意!」

 

 ジリリリリリリリ

 

 深夜の艦内に非常ベルが鳴り響き、仮眠を取っていた各科員が一斉に寝室から飛び出してくる。

 

 「総員、配置完了しました。」

 と、報告が入る。作戦概要はこうだ。まず、みらいからチャフ搭載ハープーンを敵空母機動部隊に向けて発射する。発射から1分後 ぶこう からハープーンが発射。敵空母撃沈を行い、敵の戦闘能力を完全に奪う。そこで敵勢力が大島沖から離れれば作戦は成功となる。

 

 「チャフ搭載ハープーンは無線誘導とする。管制士官、誘導を頼むぞ。」梅津は管制士官に念を押した。夜間に対艦ミサイルを応用したチャフ発射など…。自衛隊では前例がない。

 

 「0330 艦長、時間です。」

 「ハープーン発射始め!」

 「4番発射管、ハープーン発射始め!」

 

 バシュュュウウウ!!!

 

 みらいのハープーンキャニスターからチャフ搭載ハープーンが発射される。ハープーンは上空で東へ進路を変えて飛び去っていく。そして1分後、ぶこう から弾薬入りハープーンが発射された。

 

 

 「目標上空まであと10分!」

 管制員から報告が入る。ハープーンは高度50メートルを保ちながら着々と敵の空母機動部隊へ近づいていた。

 

 

 

 0345 伊豆大島沖 深海棲艦空母機動部隊

 

接近するハープーンに気づいたのか空母が迎撃態勢に入る。だが、ハープーンはこちらへ落ちてくるどころか逆に高度を上げつつあった。

 

 「ナンダアレハ?」

 

 と、空母ヲ級は空を見上げる。すると…。

 

 ボッカーン!

 

 と、チャフ搭載ハープーンが艦隊上空で自爆した。そして辺りにアルミ箔が散らばる。それを見たヲ級は慌てて艦積機を発射させようとするが…。

 

 ヒューン

 

 ぶこうが1分差で発射したハープーンが着弾する。レーダーの目を奪われたヲ級には一体何が起きたか分からなかった。だが、確実にミサイルが飛び込んできた事だけは理解できた。ぶこうのハープーンによりヲ級は2隻共に中破し艦積機は放てなくなった。だが…。

 

 

 「艦隊、依然として変化ありません。」

 CICで様子を伺っていた青梅が話す。なんと、空母が使えなくなったにも関わらず敵の部隊はその場に留まっているのだ。しかも、何やら小さな点が少しずつ増えてきている。

 

 「目標!艦種判明! 水母棲鬼!」

 「なんだと!?」

 青梅の報告に菊池が驚く。水母棲鬼といえば艦これでも上位にランクインする強敵だ。しかも、夜戦が可能。下手に手を出したら不味い深海棲艦だ。

敵の艦積機はみらい達護衛艦隊の視認距離に入るところだった。

 

 「艦長。どうします?」

 「ECM作動!敵の通信能力を完全に奪え!」

 

 その頃艦橋では…。

 「目標視認!あっ、タコ焼き型じゃねぇーか!」

 観測員が大声で叫ぶ。前方を航行する ぶこう の彼方前方に白いタコ焼き型の無数の戦闘機が見えたのだ。

 「やべぇぞこれ。」と、観測員の一人が呟いた。

 

 「目標視認!数は…80以上!」

 青梅の報告にCIC全体が緊張に包まれる。

 「前甲板VLSシースパロー装填。射撃用意!」菊池が淡々と指示を出すが、その額には汗が浮かんでいた。

 

 前を航行する ぶこう から探照灯が入る。

 「ワレ、タイクウセンニハイル。」

 

 「艦長、ぶこうが対空戦開始しました!」

 艦橋からCICに一報が入る。

 「了解。砲雷長、射撃を許可する。だがひとつ言っておく、自分の身は自分で守れ。」

 「…了解。」

 梅津のその一言で、菊池は安心した。もうひとつの世界の自分がワスプ戦でしでかした事。それは繰り返さないと誓っていた。

 

 「対空戦闘、CIC指示の目標!!シースパロー発射始め!salvo!」

 

 バシュュュウウウ

 

シースパローが発射され敵機体へ向かって飛翔する。後に相模湾海戦と呼ばれることとなる対空戦が開始された。 

 

 

 



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航跡44-2:あらなみ被弾

敵空母機動部隊の不明艦は水母棲鬼だった。次々と飛来する敵艦積機に対抗する護衛艦みらい。だが、弾薬には限度がある。敵機は、だいせんを護衛するみらいとぶこうに魚雷を次々と撃ち込んでくる。護衛艦みらいへ2発の魚雷が向いた時、汎用護衛艦あらなみが取った行動とは…。


 ドォン ドォン

 

 みらいの127ミリ速射砲が火を吹き続ける。イージスシステムがあるとはいえ80機を越える敵機にはかなわない。シースパローにも残弾という限度がある。

 「報告!シースパロー残弾数20!」

 まだ多数の敵機がいるのにシースパローが底をつきかけている。CIWSも稼働し続けており、艦橋は勿論…。CICにまで火薬が燃える匂いが漂っていた。対空戦で優位に立てるイージス艦でさえ苦戦を強いられている。

 

 「くそっ!こりゃ、本体を叩かねぇとやられるぜ。」

 艦橋で流れ弾を交わすように物陰に隠れながら外を見つめる尾栗。既に流れ弾で艦橋の窓ガラスの一部が割れていた。

 

 ヒューン ヒューン

 

 ドォン ドォン ドォン

 

 バシュュュウウウ

 

 ドルルルルルルルル

 

 爆弾が爆発する音と火を吹き続ける127ミリ砲。そしてVLSから発射されるシースパロに唸り続けるCIWS 現代戦では経験したことのない、凄まじい弾薬の雨にみらい乗組員達は改めて戦争の恐怖を感じていた。

 

 「敵機!魚雷投下!」

 

 CICから魚雷が接近していると聞き、急加速で回避する。敵機は魚雷も抱えている。このままではいつ懐に魚雷が飛び込んできてもおかしくない状況だ。

 

 ドォン ドォン ドルルルルルルルル

 

 127ミリ砲と2つのCIWSで弾幕を張る。みらいの他の艦も各自弾幕を張っていた。だが、今回の任務で真っ先に守らなければならないのは改いぶき型ヘリ搭載艦娘輸送護衛艦 だいせん だ。敵は空母の形をしただいせんをしつこく狙って攻撃している。だいせん にはCIWS 2基とSeaRAM近SAMシステム 2基しか対空防御機器がない。SeaRAM近SAMシステムは既に全弾を使い果たし、CIWSだけて応戦している。手薄になった だいせん をみらいとぶこうの2隻のイージス艦で防御しているのだ。だが、自艦にも敵機は飛んでくる。敵はだいせんへの防空攻撃が無くなる瞬間を狙っているのだ。その為、みらい と ぶこう に大量の魚雷を撃ち込んでくる。

 

 「あっ!右舷より魚雷接近!距離1000本艦命中コース!」

 と、青梅が叫ぶ。すると…。

 

 キイイインン

 

 ボイラーから黒煙を上げて あらなみ がみらいのほぼ真横に出た。そして…。

 

 ドッカーン!!!

 

 爆音と共に大きな水柱が上がった。「あらなみ被弾!魚雷が命中しました!」と、青梅が叫ぶ!

 

 艦橋では尾栗があらなみに魚雷が命中する瞬間を見ていた。魚雷はあらなみ右舷前方に命中。水柱と共に炎が上がった。すると、あらなみから…。「我に構うな、だいせんの防衛を!」と、無線が入る。尾栗は涙をこらえながらだいせん防衛を続ける。あらなみ はダメージが酷かったのか徐々にスピードが下がっていく。

 

 みらいCIC

 「あらなみ被弾。右舷に魚雷2発被弾した模様。」

 「なんとしてもこの第一次攻撃を乗り切るぞ!」と、菊池が叫ぶ。

 

 10分後…。

 

 第一次攻撃が終わったのか…。敵の戦闘機が徐々に離れていく。

 「なんとか、だいせん を防衛できたな…。」

 梅津は額の汗を拭いた。だが、敵は水母棲鬼。油断はならない…。今、まさに第二次攻撃準備の段階だ。

 「使いたくなかったが仕方ない。砲雷長、トマホークの発射用意を…。」

 「了解しました。」

 「前甲板VLS10番。トマホーク装填。」

 CICのVLS管理用のモニターにトマホークが装填されたと表示される。

 「トマホーク攻撃始め!」

 

 バシュュュウウウ!!!

 

 トマホークがみらいから水母棲鬼に向けて1発発射される。今度は前と違って予告なし、本気のトマホークだ。凄まじい勢いで帰艦する敵機達を追い越しトマホークは突き進む。そして…。

 

 ヒューン

 

 ドッカーン!!!

 

 トマホークは水母棲鬼に命中した。弾薬や艦積機に次々と誘爆していく。そして最後に「ドウイウ…コト? …ソウ……ソウ、ナノネ……あり、がとう…!」と、意味深な言葉を残して海中に没した。残った敵艦達は、旗艦が撃沈させられた為伊豆大島沖合から徐々に離れていく。

 

 「…終わったのか?」

 

 CICにホッとした空気が流れる。「いや、まだ終わっていない。被弾した あらなみ の救助を開始せよ。」

 「了解!」

 

 あらなみの被害状況は予想よりも酷かった。2発の魚雷のうち、1発は不発弾だったが艦首が吹き飛び、居住区には浸水が発生していた。幸い機関は無事だったが…。魚雷が命中した区画にいた隊員5名が死亡した。また、重軽傷者も数十名に及び…。単艦での行動はほぼ不可能だった。その上、火災が弾薬庫の近くで発生しているためにいつ誘爆してもおかしくない状況だ。総員退艦命令が出たのか、あらなみの救命ボートが下ろされており無事な人は海中に飛び込んでいる。みらい や ぶこう 、だいせん から短艇が下ろされ救助に向かう。そして、海に飛び込んだり救命ボートで脱出した乗組員を救助したあと…。

 

 ドカッドッカーン!

 

 弾薬庫に引火したのか大爆発を起こし船体が真っ二つに割れる。そして、あらなみは相模湾海中へ没した。こうして後に相模湾海戦と呼ばれる戦いは終わった。

 

 翌朝

 

 みらい達は、横須賀へ入港した。だいせんには負傷したあらなみの乗組員が沢山乗船しており、順次横須賀鎮守府に隣接する海軍病院へ搬送された。

 その姿を見ながら梅津は呟いた。

 「もし、あらなみが決死の防御をしなければ…。沈んでいたのは我々だっただろう…。」

 

 

 



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北方海域キスカ島撤退作戦
航跡45:合流


前回までの新満州編と相模湾海戦編の二つのルートが終わり、横須賀で護衛艦みらいへ帰艦した角松達。次に角松達を待っていたのは、北方海域キスカ島の撤退作戦だった。


 

 本格的な夏が過ぎ、残暑が厳しい季節となった9月10日の昼過ぎ…。新満州国へ草加を追跡していた角松達がみらいへ帰艦した。

 

 「そうか、目の前で張宗元が…。」

 「申し訳ありませんでした!」

 梅津に深々と謝罪する角松。だが、梅津は「よく、無事に帰ってきてくれた。」と、角松とみらいを出迎えてくれた。一方、角松とみらいは不在中の出来事を梅津から聞いた。相模湾海戦があり汎用護衛艦あらなみが撃沈されたこと。そして、今後の行動について報告を受けた。

 

 「北方海域ですか…。」

 「ああ、長旅の疲れが残っているだろうが…。例の攻略本に記載されていたガダルカナル島での戦闘は、我々の手によって回避された。だが、南の戦闘が回避されたということは…。」

 「北で戦闘が起こると…。」

 梅津の予想は的中していた。北方海域のキスカ島には国防陸軍の前線基地がある。柳の意見を元に菊池と予想をしたのだが、ガダルカナル島周辺海域から追い出された形となった敵勢力は…。今後、北方海域で大規模な作戦をする可能性が高くなっていた。

 

 「明後日、我々は横須賀を出港し単艦で一旦、釧路沖へ向かう。釧路沖で補給艦から補給を受けたのち、我がみらいはキスカ島撤退作戦部隊と合流しキスカ島へ向かう。」

 「キスカ島ですか…。」みらいがふと呟いた。みらいは前世でキスカ島撤退作戦に参加していたのだ。その時、高緯度であったために太陽からのソーラーマックスが原因によるSPYレーダーの一時的な故障があったのだ。その上、米軍の艦船と衝突した際に梅津艦長が重傷を負っていたのだ。

 

 「おい。みらい?どうかしたのか。」

 ふと、角松が声を掛けてきた。

 「あっ、いえ、なんでもありません…。」

 「ということだ。明後日出港となり、慌ただしいがよろしく頼むぞ。」と、梅津は二人に念を押した。

 

 その夜、みらいは資料室であることを調べていた。パソコンに表示されるあるデータを…。

 

 9月13日 横須賀鎮守府 埠頭

 

 「今回の作戦に至り、我が鎮守府から5名の艦娘を向かわせることになりました。」

 「了解しました。あなた方の命。私が預からせていただきます。」

 柏木から梅津の元へ5名の艦娘がやって来る。今回選抜されたのは輸送船団の護衛担当として 響 吹雪 最上 川内 そして、気象観測担当として しらせ が乗艦することとなった。

 

 「姉さん、あまり無茶しないでくださいね。」と、見送りに来た神通が声をかける。

 「大丈夫。まかせときなって!」

夜戦大好きの川内に少し心配げな神通はあるものを渡した。「これ、お守。効くかどうか分からないけど持っていてね。」

 「ありがとう!じゃ、行ってくるね!」

と、響をはじめとする北方海域護衛部隊がみらいのタラップを登っていく。

 

 ボー!

 

 長い汽笛が鳴り響き、護衛艦みらいはゆっくりと岸壁を離れる。これから釧路沖までは単艦での航行となる。離れていく横須賀の町並みを見ながら、みらいは出港した日の事を思い出していた。

 

 出港しから3日かけ、護衛艦みらいは北海道釧路沖へ順調に向かっていた。

 

 9月16日未明 北海道釧路沖20キロ

 

 護衛艦みらいはキスカ島撤退作戦の要である輸送船団に合流した。輸送船団は 民間徴用フェリーの すいせん いしかり に護衛として舞鶴鎮守府より派遣された汎用護衛艦 くろべ あらかわ と、先行して向かっていた 強襲揚陸艦 しまばら の合計5隻と共に行動することとなった。その中で、護衛艦みらいに課せられた任務は…。輸送船団の先頭に立ち、露払いを行うことであった。

 

 



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航跡46:キスカ島へ

さて、舞台は新たな海域…。北方海域へ進みました。キスカ島に駐留する国防陸軍の前線部隊の回収作戦に参加することとなった護衛艦みらい。濃霧が予想されるキスカ島周辺海域、軍が下した撤退作戦の概要とは…。


 

  9月18日 ニア諸島南西150キロ

 

 緯度が高くなり、北極圏すれすれの位置にあるキスカ島は9月だというのに気温は10℃を下回り上着がないと寒いほどである。

 

 ブォォッ!!!…ザッパーン!

 

 「うぉ!ありゃ鯨だぜ。すげぇところに来たんだなぁ~。」

 艦橋デッキで警戒に当たっていた隊員達が歓声を上げる。

 「艦長、キスカ島到着まであと3日になりました。」

 「そうか、このまま敵勢力に見つからなければいいんだが…。」梅津は艦橋で敵勢力に見つからないことを祈っていた。その頃…。

 「菊池三佐、少しお話があるのですが…。」

 「どうした…?」

 CICの前の通路でみらいが菊池に話しかけていた。

 

 1430 みらい資料室

 

 カチャカチャカチャ…。

 菊池とみらいがパソコンとにらめっこしていた。パソコンに表示されていたのは…。ある気象情報のデータだった。

 「影響がなければいいんだが…。」

 

 1830 みらい食堂

 

 「このカレーおいしい!」

 最上が食堂で驚いていた。

 「護衛艦みらいのカレーライス…。間宮さんに負けないくらい美味しいですね♪」

 「これだけ食べれば夜戦も大丈夫だね!」

 と、乗艦していた艦娘達が歓声を上げていた。今日の献立は、チキンカツカレーにゆで卵 サラダ 卵スープ 牛乳 福神漬だった。サクッとしたチキンカツに少し甘めで給食のような懐しさ漂うカレーはとても美味しい。吹雪達が談笑していると艦内放送が流れた。

 「艦長の梅津だ。皆、そのままでよい。明後日に迫ったキスカ島撤退作戦についてだが、この海域は敵勢力の激しい反抗が予想される。全員、不測の事態に備えるよう準備をしてもらいたい。また、我々の目的は敵勢力の殲滅ではなくキスカ島に駐留している国防陸軍の前線部隊撤退を目的としていることを忘れないで頂きたい。以上だ。」

 「いよいよ明後日ですね。キスカ島到着は…。」と、吹雪が呟く。

 「まぁ、いつも通りにやればいいでしょ。」と、川内はカツカレーをかきこんでいた。

 

 9月20日 キスカ島撤退作戦決行前夜

 

 「深海棲艦の部隊に遭遇しませんが…。大丈夫ですかね?」

 「分からん。だが、今回の作戦では俺達の出番は無いだろう。」

 ヘリ搭乗員の居住スペースで佐竹がタバコを吸いながら部下と話していた。外は同じ艦隊の船以外の明かりはなく漆黒の闇に包まれていた。その頃…。ミーティングルームでは、明日行われるキスカ島撤退作戦の最終の作戦会議が開かれていた。作戦概要は国防陸軍の前線部隊の撤退を目的としており、合流地点はキスカ島西部のキスカ湾内部のリトルキスカ島の東側だ。まず、みらいの露払いによりキスカ湾へ進入し敵勢力の有無を確認する。そして艦娘達の護衛の元で強襲揚陸艦 しまばら をキスカ島沿岸部へ乗り上げさせる。陸軍の前線部隊とはGPSでリンクしており、上陸地点は短時間で収容可能な海岸で行うこととなった。上陸時、しまばら から負傷者輸送用の大型トラック4台が出動するが、敵勢力の動きによっては島に投棄と決まっていた。また、前線部隊に配置されているCH-47やアパッチ、装甲車等は爆破処理の上で同じく投棄予定だ。だが、二つの問題がある。一つは、先の大戦の不発弾や機雷が多数残っており接触する可能性が高いこと。また、ほぼ視界ゼロの濃霧が出ていることが問題だった。幸い、明日の午前中は濃霧予報がででいる。午前中に撤退作戦が完了しキスカ島周辺海域から離脱すれば作戦完了である。

 

護衛艦みらいで最終の打ち合わせが行われている頃…。キスカ島へ近づく不気味な艦隊がいることに、みらい達はまだ気づいていなかった。

 

 

 



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航跡47:作戦開始

更新がなかなかできず、すみませんでした。前回から丸一ヶ月以上ほったらかしでした。少し、資料収集に手間取り遅れてしまいましたf(^^; 今回は引き続きキスカ島救出作戦の話です。みらい達救出部隊に近づく複数の敵深海棲艦…。みらい達海上自衛隊が取った行動とは…。


 

 9月21日 0430 キスカ島南20キロ

 

 護衛艦みらい以下、キスカ島撤退部隊はキスカ湾へ向けて航行していた。予報通り霧が出始めている。

 「このまま晴れねぇでくれよ…。」

 艦橋デッキで尾栗が外の様子を見ながら呟いた。キスカ湾は昔から濃霧が出やすい地形であり、先の大戦時に旧日本軍が撤退した際はこの濃霧を逆手に取って米軍の哨戒網をすり抜けたのだ。今回も同様に行ければいいが、海中には戦時中の不発弾や機雷がある可能性が高い。その上、この濃霧では速度を落として航行しなくてはならない。濃霧が晴れてくると予想されている昼まであと5時間。既に陸軍の前線部隊は合流地点ポイントαに集結していると情報が入っている。

 

 0645 キスカ湾入口

 

 「目標探知!敵勢力と思われる艦隊発見!」

 「なんだと!?」

 青梅の声に菊池が驚く。恐れていた事態が発生したのだ。

 「後続艦に敵勢力接近と伝えろ。速やかに湾内へ入れるんだ。」

 梅津の指示で回収部隊の船がキスカ湾内へ進路を向ける。

 「これより我々は、対艦戦闘を行う。総員、合戦準備!対水上、戦闘用~意!!」

 

 ジリリリリリリリリリリリ

 

 艦内に非常ベルが鳴り響く。敵勢力と接触するまであと15分。この濃霧では艦娘達を下ろすことはできない。たとえ、下ろしたとしても…。高性能レーダーを持つみらいやしらせは大丈夫だが、川内達は遭難の危険性が高い。梅津は、艦娘達と共に艦橋へ移動し戦闘指揮を取り持つこととなった。

 

 (頼む…。早く入ってくれ。)

 菊池はCICでしまばらの動きを気にしていた。先を航行する民間徴用フェリーの2隻が遅れをとっていた為に、肝心のしまばらがまだ湾外に居るのだ。

 「目標識別確認!戦艦2!重巡1!軽巡1!駆逐2!」

 レーダーを見ていた青梅が叫ぶ。その頃吹雪達は桃井の所にいた。

 「もうすぐ戦闘が始まるからこれを被って。」予備で積んでいた鉄帽と救命胴衣が吹雪と響に渡される。

 「艦長。最上より意見具申です。」

 角松が艦内電話で艦橋にいる梅津に伝える。

 「霧が酷いですが、索敵の為に瑞雲を飛ばしてもいいでしょうか?」

 最上の意見に梅津は少し考えたあと、発艦許可を出した。

 

 0700 みらい後部甲板

 

ブロロロロロロロロ…。

  

 「霧が深いけど索敵頼んだよ。」

 

 リョーカイ!

 

 最上の持っている瑞雲の妖精が敬礼する。すると、その様子を見ていたみらいが「これを持っていて。」と、最上にGPS受信機を渡す。

 「この濃霧じゃ、帰艦出来る確率は低いと思う。でも、少しでも無事に帰艦出来るようにこの受信機を使って。」

 「うん!ありがとう。」

 最上はパイロット妖精に受け取った受信機を渡した。現在の視界は1000メートル以下、濃霧になるのは確実だ。

 

 「いっけぇー!」

 

 最上のカタパルトから瑞雲が飛んでいく。

 「後部甲板より瑞雲発艦。索敵に向かいます。」CICのモニターには飛び去った瑞雲2機が映っていた。

 (頼んだよ…。無事に戻ってきて。)

 最上は瑞雲が飛び去った方向を見つめていた。

 

 0715 みらいCIC

 

 「しまばらより入電!我、キスカ湾内へ進入。」通信士官がしまばらからの電文を読み上げる。

 

 「あとは、我々が敵勢力を排除するだけだな。」梅津は制帽を被り直しながら呟く。まもなく敵勢力への射程圏内だ。

 

 「目標見えました!」

 

 赤外線カメラで観測していた観測員から敵艦隊発見との情報が入る。目標は軽巡洋艦を先頭に単縦陣だ。1対6。火力は向こうが有利。梅津は砲撃戦を指示した。

 

 「対水上戦闘~。目標、先頭の軽巡洋艦。主砲、攻撃始め!」127ミリ砲が動き始める。

 

 「主砲、打ちー方始め!」

 

 ドオン! ドオン!

 

 菊池の合図で127ミリ砲が火を吹く。最初に発射された砲弾は赤外線カメラのデータの元、敵軽巡洋艦に向けて霧の中へ消えていった。

 

 ドッカーン!

 

 霧の中へ消えた数秒後爆発音がみらいへ聞こえてきた。どうやら機関部に命中したようだ。CICのモニターには操舵不能になり後続の重巡洋艦に衝突する様子が映っていた。だが…。

 

 ズドーン!

 

 大きな大砲の音が聞こえる。すると、艦橋すれすれを敵の砲弾がすり抜けていった!

 

 「目標!発砲してきました!」

 

 

 

 

 




少し、このキスカ島の回では艦娘達が出てくるシーンが少なくなってしまうと思います。(濃霧の中で護衛艦みらいから降ろして守りにつかせるのは危ないと思いました。)艦娘達の姿も出来る限り出したいと思いますが、この回ではジパング組が多く出てくると思います。


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航跡48:神の盾




 

キスカ島の沖合で濃霧の中始まった戦闘。艦橋から見える景色は半径500メートル以下。ほぼ視界ゼロでの戦いだ。敵の深海棲艦は物量でみらいを叩こうとしている。CICのレーダーパネルには敵大型新鋭戦艦2隻を始めとする艦隊。戦艦ル級(電探装備)2 重巡リ級1 軽巡ト級1 駆逐ナ級2 からなる主力部隊と重巡リ級2 軽巡ヘ級2 雷巡チ級1 駆逐ハ級1 からなる応援部隊、合計12隻の姿が映っている。その敵勢力が一斉にみらいの方向へ向けて撃ってきてるのだ。

 「面舵20°最大戦速!」

 角松の指示でみらいは回避行動を右へ左へと蛇行しながら進む。キスカ湾に入港した回収部隊。これを無事に濃霧の中、当海域から脱出させるには…。みらいのイージスシステムが必要不可欠だ。

 「目標正面!識別判定重巡リ級!距離1000!」

 「了解!主砲射撃開始!」

 菊池の指示で127ミリ速射砲が射撃を開始する。艦橋から見ると霧の中へ無造作に撃っているようにしか見えないが、そこはイージス護衛艦。見事に初弾命中。しかも、船で言う艦橋に当たる深海棲艦の顔に命中させた。127ミリ速射砲の射撃は休みを入れずに続けられる。開戦してからわずか10分。敵駆逐艦と重巡洋艦は撃沈もしくは無力化に成功。だが、敵新鋭戦艦の無力化がまだだ。

「よし、このままで行けば…!」

 CICの隊員達がそう思った時、レーダーに異変が起きた!

 「な、なんだ!?急にレーダーが!」青梅が慌ててレーダーの調整に入るが治らない。

 「おい!どうした!?」

 角松が声をあげた瞬間。全てのレーダー機器がホワイトアウトした。

 「まさかとは思っていたが…。ここで起きるとは…。」と、菊池が呟く。

 「雅行、これは!?」

 角松が尋ねると菊池はある自然現象を伝えた。

 「ソーラーマックスだ。」

 「なんだと!?」

 唖然とする角松に菊池が簡単に説明する。

 「この作戦に当たって、高緯度であるアリューシャン列島の気象条件を調べたんだ。元々、高緯度の地域はオーロラが出やすい。ということは、強力な磁気嵐が発生する可能性がある。念のため太陽の活動周期とNASAが公開してる活動予報を調べたんだ。すると、我々が作戦決行する今日…。約50%の確率で磁気嵐が発生すると予報が出ていたんだ。」

唖然とする角松に菊池は話を続ける。

 「放射能汚染や化学兵器に対応しているからとは言っても、強力な電磁波には対応しきれない。発生した以上、アレを使うしかない。」

 「まさか、使うつもりか?」

 菊池は眼鏡をかけ直し話した。

 「意見具申。無差別飽和攻撃…。ハルマゲドンモードの起動を具申します。」

 「全弾撃ち尽くすと言うのか…。」

 「ああ、この状況下で敵新鋭戦艦を無力化するには起動するしか方法はない。」

 確かにハルマゲドンモードならミサイルを始めとする搭載兵器が自動的に周囲全ての目標が消滅するまで攻撃を行う…。だが、それは最終手段だ。例え起動したとしても、敵新鋭戦艦を確実に仕留められるとは限らない。角松は悩んだ。すると…。「私たちがこの艦の代わりの目になるよ。」話しかけてきたのはみらいと共にCICで、様子を見ていた川内だった。

 「川内さん!?」驚くみらいに川内は…。「私は夜戦でこういう見えない状況下、慣れてるからさ。きっと役に立つって!」と、答えた。

 その言葉に角松は思い出した。自衛隊の精神を…。

 

 

 「よし!」

 角松は艦内放送用マイクを手に取り…。「全乗組員に告ぐイージスシステムにトラブルが発生した。これより我が艦は手動で行動する。見張りを厳重にし周辺状況をCICに伝えてくれ。」

 角松の意外な指示に菊池は驚いた。予想していなかった目測による射撃を行うと言うことだ。

 「洋介…。お前。」

 「船乗りの最後の手段忘れたのか?最後は己の目と耳だ。」その言葉を聞いて菊池は…。「ああ、忘れていたよ自分が船乗りだってことを…。」と、答えた。

 

 みらい艦橋

 「CICからの指示だー!見張り強化しろ!」と、尾栗が各員に双眼鏡を使うように指示を出す。すると…。

 「左舷前方!発砲炎!」

 「了解!取舵いっぱーい!」

 人力で動くみらい。強烈な砲雷戦は続いていた。  

 

 

 




ついに火蓋を切った、濃霧の中のキスカ島沖海戦。高性能レーダーを持つ、イージス護衛艦みらい…。だが、戦闘中に高緯度地帯ならではの磁気嵐に遭遇しレーダーの目を奪われてしまった。イージスシステムが使えない中での戦闘、実は描くの相当苦労してますf(^^; 濃霧で視界がほぼゼロの中での戦闘は苦戦しますよね。このキスカ撤退作戦はまだ続きます。次回もお楽しみに。(にしても、敵勢力の設定…強すぎたかな?)


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航跡49:人海戦術

 

 イージスシステム…。別名 神の盾。

イージスとは、ギリシャ神話の中で最高神ゼウスが娘 アテナ に与えたという盾であるアイギスのこと。この盾はあらゆる邪悪を払うとされている。イージス護衛艦はあらゆる方向からの攻撃に対処できるため、駆逐艦の中でもダントツに強い。だが、そのイージスシステムにも弱点がある。

 

 「くそぉ、霧のやつまだ深いぜ。」

 艦橋で監視に当たっていた尾栗が呟く。ソーラーマックスによる強力な磁気嵐でイージスシステムがダウンした上に、しらせの観測によると現在も気象条件は濃霧のまま…。回復の兆しはない。

 「お前ら!この艦の目と耳になるんだ!しっかり頼むぞ!」

 部下の隊員達に尾栗が指示を出す。戦闘が続く中でイージスシステムが使えないのは痛い。

 (…どうする?このままだと…。)

 CICで菊池は考えていた。敵戦艦を未だに1隻撃ち漏らしていたからだ。

 

 その頃、みらいから発艦し索敵に当たっていた最上の瑞雲が戦艦ル級を捉えた。

 (この濃霧の中で単艦行動?でも、被弾していたな…。この、濃霧で下手に撃ったら相手に位置を知られるからな。)

 と、パイロット妖精は思った。この濃霧とみらいの攻撃による混乱で随伴艦とはぐれたらしい。そして、そのル級こそ…。みらいが最後に仕留めなくてはならない相手だった。

 

 ドォーン!

 

 「あっ!右舷3時の方向!炎を確認!」艦橋で自衛隊の乗組員達と一緒に監視活動をしていた川内が叫ぶ。尾栗が双眼鏡で望むと確かに赤い炎が見えた。最上の瑞雲がル級に攻撃を仕掛けたのだ。

 「CICヘ連絡!3時の方向。爆発炎を確認!」

 「了解!爆発炎の方向にトマホーク二発を諸元設定、全てのセンサーを集中しCICへ映像だせ!」

 菊池が指示を出すと、艦橋に設置された赤外線カメラの映像がCICのモニターに映し出された。戦艦ル級の姿をハッキリと捉えていた。トマホークの諸元入力完了の報告と同時に「砲雷長!システム回復!行けます!」と、青梅が叫ぶ。どうやら磁気嵐を抜けたようだ。

 「対水上戦闘。目標、戦艦ル級、トマホーク二発、発射始め!」

 

 バシュュュー!!!!!

 

 前甲板からトマホークが放たれた。そして…。

 「トマホーク全弾、弾着!」

 戦艦ル級にトマホークは寸分の狂いもなく命中し、大爆発が起きた。だが、みらいに一瞬の隙があった。

 「…え?」

 一人の隊員が空を偶然見上げたところ、こちらに向かって飛んでくる砲弾が見えたのだ。

 

 「敵弾!伏せろー!!!」

 

 ドッカーン!!!

 

 ル級のとんだ置き土産の砲弾はみらいの右側面から50メートルほど離れた海中に落下し大爆発を起こした。とてつもない横揺れに揺さぶられ、何人かの隊員が吹っ飛ばされ壁や床に叩きつけられる。その上…。

 「うわっ!」

 

 ガァン!

 

 鈍い金属音が艦橋に鳴り響いた。

 「か、艦長!」麻生が大声をあげる。目の前には、消火用の配管に頭を強打し倒れている梅津艦長の姿があった。

 梅津が負傷した情報は直ぐにCICの角松の元に届いた。一瞬、青ざめた角松だったが…。今は、作戦行動中であることを自覚し指揮を執る。

 

 幸い敵部隊は既に戦闘不能。もしくは無力化していたためにこれ以上の戦闘は起きなかった。キスカ島の部隊の回収は予定より2時間ほど遅れたが無事に収容完了した。この戦闘で護衛艦みらいの被害は負傷者13名(梅津艦長を含む重傷者5名と軽傷者8名)で設備面では、右舷魚雷発射管の配線の故障と一部電子機器類の破損で済んだ。(航行には支障なし。) また、回収部隊と合流後に霧が晴れてきたので最上の瑞雲も回収できた。作戦の勝利判定はA判定。無事にキスカ島の国防陸軍の部隊は無傷で回収できた。

 

 9月23日1435 北海道 襟裳岬沖 40キロ

 

 「…ん。ここは?」

 「艦長。気が付きましたか。」

 梅津の姿は艦内の艦長室にあった。頭に包帯を巻き、寝巻き姿でベットに横になっていた。ベットの横には桃井が居た。

 

 「…そうか。何より作戦が成功し、犠牲者が出なくて良かった。」梅津は角松から今回の作戦結果について報告を受ける。みらいは今、キスカ島撤収部隊と共に横須賀へ向けて航行していた。このペースでなら明後日の朝には横須賀へ入港できるだろう。

 「艦長。怪我の具合についてですが、頭を強打しているので念のため…。横須賀入港後、病院に検査入院していただく必要があります。」カルテを見ながら桃井が呟く。

 「…わかった。副長。話がある。済まないが、一旦二人きりにしてくれないか?」

 と、梅津は静かに話した。

 

 

 




やっと、キスカ島沖海戦に決着がつきました(あー。大変でしたf(^^;)ちょっと、敵深海棲艦の設定…。強くしすぎましたね。この先の改善点にしようと思います。今回の戦闘では濃霧と磁気嵐の中で何とか勝利しましたが、護衛艦みらいの父親的存在の梅津艦長が大ケガをしてしまいました。これから先、みらいの行く末がどうなるか…。頑張って書いていきますのでこれからもよろしくお願いいたします。


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航跡50:艦長交代

 

 翌9月24日 横須賀鎮守府

 

 早朝に横須賀に入港した護衛艦みらいの後部甲板に乗組員達が整列していた。

「…皆、集まってもらってすまない。私から今後の艦の運用について話がある。」話始めたのは尾栗に支えられながら医務室から移動してきた梅津の姿だった。頭に包帯を巻き、松葉杖を使いよろよろと壇上に立つ姿は…。以前の元気な梅津の姿ではなかった。

 「先日のキスカ島の戦いで、運悪く負傷しこのような状態だ…。この状態では艦の指揮を執ることは不可能。よって、本日1200を持って艦長権限を副長の角松二佐に委任したいと思う。」

 その言葉に一瞬どよめきが走った。

 「皆が思う通り、新艦長は階級制度で決まった…。私の判断に不満を持つ者も居るだろう…。だが、私は長年の経験から角松二佐が次期艦長としてふさわしいと思う。…我々は、異世界からこの艦これ世界へとやって来た。これまで、私の指揮の元で冷静沈着に海上自衛隊の隊員として行動してくれたことに感謝する。」と、話し椅子に座る。そして、新艦長に任命された角松の自己紹介兼艦長交代が終わり…。梅津がみらいから離れる時がやって来た。担架に横になり、国防海軍の軍医達に迎えられタラップを降りていく。

 

 「気をつけ!!…梅津元艦長に対し、頭(かしら)~~、中(なか)!」

 

 角松の一声で乗組員達が一斉に梅津に向かって隊の敬礼をする。梅津は力を振り絞りながら、挙手の敬礼をした。(角松…。あとは頼んだぞ…。)と思いながら。

 梅津はその後、横須賀市内の国防軍横須賀病院に入院することとなった。念のため入院と言う桃井の判断は正しかった。艦内では応急措置でしか対応できなかったが、精密検査をしたところ頭蓋骨にヒビが入り、患部周辺に軽度の脳内血腫が発生。緊急手術を受けた。診断結果は全治2カ月。病院に入院しなければ大事に至ってたであろう。

 

 一方、新しく護衛艦みらい艦長に任命された角松は…。早速、仕事に取りかかっていた。今日はこのあと1700より護衛艦みらい幹部(尾栗と菊池)と共に、鎮守府で柏木提督と会議が行われることになっていた。海上自衛隊の慣例では、艦長に任命されたものは艦長室に移動し内部の統制を保つ事が必要不可欠なのだが、角松はあえて艦長室に私物を移すことを控えた。それは、いつか必ず梅津元艦長に戻ってきてもらいたい。部下の隊員達と壁を作りたくないという、角松なりの配慮だった。角松は、新艦長任命式の後…。各部署に挨拶回りしていた。

 「おっ、角松新艦長!見回りですか?」艦橋に入ると尾栗が声をかけてきた。角松の制服は二佐の階級のまま。本来ならば、梅津が退任したことにより幹部組は階級が一つ特進するのだが…。角松は今までの制服で見回りをしていた。

 「洋介…。じゃなかったな、艦長。新しい制服、積んでなかったのか?」

 「いや、今までのこの制服のままで行こうと思う。我々の本当の艦長は梅津艦長だからな。」と、角松は話した。「確かにそうだよな。うちらの中じゃ梅津艦長が一番だからな。といっても、梅津艦長が退任した今…。お前が艦長なんだからな。しっかり頼むぜ。」と、尾栗は角松の肩を思いっきり叩いた。

 「おう、慣れないことばかりだろうけど…。艦長としてこの艦を動かしていく予定だ。」

 と、角松は答えた。その頃、CICでは菊池が今回のキスカ島撤退作戦の報告書をまとめていた。本来ならば菊池と尾栗は、角松が特進したことにより不在となった二等海佐の位に就くことになっている。パソコンを打ちながら、菊池はあることを考えていた。(元のシナリオから離れつつあるこの世界。本来ならば、多国籍軍が深海棲艦殲滅に向けて核兵器を使うが…。もし、このペースで物事が進んだ場合。本来の世界軸とは違った、別の世界軸が広がる可能性がある。現に、我々はガダルカナルとキスカで敵勢力にたいして大きな打撃を与えている。このペースが進むのなら…。)

 

 

 




さて、梅津艦長が負傷し指揮が出来なくなり…。新たに角松二佐が護衛艦みらいの新艦長として任命されました。キスカ島沖海戦が終わり新たな艦長の下、休息をとるみらい。しばらくは休息編が続くと思います。(あー。キスカ島海戦書くの大変だったf(^^;)


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航跡51:国防海軍編入


 護衛艦みらいの新艦長となった角松二佐。キスカ島の撤退作戦が完了し、みらい は国防海軍から信用を勝ち取った。そして、海上自衛隊護衛艦みらいに国防海軍から言い渡された言葉とは。 


 

 1830 横須賀鎮守府 執務室

 

 「我々を、国防海軍に編入…ですか?」

 キスカ島撤退作戦の報告を終え、柏木提督と今後のことを話していた時のことだった。

 「ええ、あなた方の行動と戦力、そして身分証明を考えると…。我が国防海軍に編入という形で、我々の指揮下に入ってもらいたい。」

 柏木は執務室の窓から外に停泊している護衛艦を見ながら話した。

 「…確かに、現在の状況から考えて我々の身分証明をハッキリとしておいた方がいい。日本国籍ではあるが、我々の所属は海上自衛隊。この世界では海上自衛隊だと言っても、身分証明にはならないだろう。」と、菊池が呟く。隣で座っている尾栗は難しい顔をしていた。(仮に国防海軍に編入されて、乗組員達の半軟禁状態は解除できるだろうが…。果たしてそれで、いいのか?)尾栗は編入後の乗組員達の身分について心配していた。

 

 「…仮に編入となった場合、我々の存在は公表するのか?」

 角松は護衛艦みらいの存在を公表するのか危惧していた。確かに公表した場合と極秘扱いでは、国防海軍の関係者は勿論、報道機関等からどう叩かれるか分からない。

 「基本は極秘扱いにするが、もしマスコミ等に存在がバレた場合に備えて、あなた方の護衛艦みらいは…。我が国防海軍があたご型として開発していたものの、一時建造をストップ。改こんごう型として建造された新鋭イージス護衛艦という扱いにしようと思う。」ややこしくなるが、柏木が対マスコミ用に考えたシナリオはこうだ。護衛艦みらいは当初、あたご型護衛艦3番艦として建造予定だった。だが、深海棲艦出現による対応で建造を早める必要が高くなり…。急遽設計を変更。こんごう型に哨戒ヘリ搭載能力を追加配備。ぶこう型が正式に建造されるまでの穴埋めとして、改こんごう型扱いで建造したという設定だ。ただ、マスコミへの報道は深海棲艦への対応を優先した影響で今までしていなかったというシナリオだ。

 

 「この件に関しては、我が国防海軍の最高指揮者である日本国内閣総理大臣 竹上 弘文 にも報告を行う。この件に関する責任は、沢井 宗一 国防軍初代総監と私が取り持つ事となった。これに当たって、あなた方全隊員に国防海軍の身分証明の発行および全鎮守府での立入り許可証を発行する。それと…。」

 柏木は執務室の棚からあるカタログを取り出した。

 「あなた方の制服に関してだが、我々国防海軍と同じものを着用していただきたい。勿論、形だけで構わないが基本は国防海軍の制服を着ていただきたい。」

 見せられた国防海軍式の制服のカタログには、国防海軍の制服(夏冬)と作業着が載っていた。夏服の制服デザインは海上自衛隊の物とほとんど変わらないが、冬服に関しては黒系統の制服となり一般隊員の制服に関しては旧日本海軍の制服を現代版に少しアレンジしたデザインになっていた。

 「国防海軍への編入は明後日の0000。9月26日に編入とします。明日はあなた方への乗組員への簡単な国防海軍内での規則等を3交替でお伝えしたいと思う。」柏木は国防海軍での慣例及び規則を角松達に先に伝えた。内容はほとんど、海上自衛隊時代と変化は無かった。だが、鎮守府内部の食堂や酒母を使うときは所定の身分証明ICカードが必要であることが自衛隊時代とは少し変わっていた。また、認識票が正式に国防海軍の物へ変更となる。事が説明された。 

 




ちょっと、今回の話は説明の方が多くなってしまいましたf(^^; 次回以降は、セリフとか通常通りに戻る予定です。とりあえず、キスカ島沖海戦で国防海軍の信用を勝ち取った護衛艦みらい。遂に国防海軍へ編入されることになりました。今後の護衛艦みらい…。国防海軍でどう、行動していくのでしょうか?


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航跡52:海上自衛隊最後の日

 

 9月25日

 

 この日、朝から護衛艦みらいは慌ただしかった。明日から国防海軍へ編入されるため、各科編入に当たっての書類や新制服への変更などの作業で大忙しだった。護衛艦みらいは外見上の変化はほとんど無かったが、艦積機の海鳥とSH-60Jの[海上自衛隊]という文字を新たに[国防海軍]と書き換える作業等、海上自衛隊と書かれており外部に露出するものに物に関しては文字の書き換え作業が行われた。

 「はぁ、今日で海上自衛隊とお別れか。」格納庫ではSH-60Jの文字の前で佐竹が呟いていた。すると…。

 「あっ、佐竹さん。今日で海上自衛隊から国防海軍に変更になるんですよね?よかったらどうですか?」

 と、片桐がカメラを見せながら話しかけてきた。

 

 「撮りますよ! 」

 

 カシャ!

 

 佐竹達航空科のメンバーがSH-60Jの[海上自衛隊]の文字の前で自衛隊最後の記念撮影をしていると聞きつけ…。いつのまにか後部甲板には制服や作業服姿で並ぶ乗組員達の姿があった。一方、CICでは国防海軍への護衛艦みらいデータ登録の作業が艦娘のみらいと菊池の指揮の下で行われていた。 

 「ふぅ、新規のデータはこんな感じですね。今は私の艤装のイージスシステムからのデータ移行という形ですけど…。近く、イージスシステムのアップデートが行われると思います。」

と、CICの端末を操作しながらみらいが話す。青梅は近くアップデートされるベースライン8(現在の護衛艦みらいのベースラインはベースライン4-J1型)の操作方法とCICの改修工事の内容を調べていた。改修工事は9月30日から11月15日までの約1カ月半。艦内の一部配線の光ファイバー化工事など、比較的大がかりな改修工事を行うことになった。これにより現在運用されているぶこう型イージス護衛艦と同じ機能が装備されるのだ。また、いままで最大2発までしか誘導できなかったシースパローが3発まで同時誘導可能になるなど…。大きなシステムの変更が行われる。

 

 夕方…。みらいが停泊している埠頭に一台のトラックがやって来た。

 「柏木提督から、新制服の支給です。」

 

 とりあえずみらい艦内の食堂へ運び込まれた制服が入った段ボール。手が空いた隊員達が次々と受け取り自室で着替えてくる。中には自衛隊と国防海軍双方の制服を仲間同士で見比べ、片桐に二つ並んだ所を写真に撮ってもらう等…。なんだか楽しんでいるような様子だった。そして角松は…。

 

 (これが国防海軍の制服…。) 

 

 自室でロッカーに掛かった二つの制服を見比べていた。海上自衛隊の階級は二等海佐。一方、国防海軍の階級は一等大佐…。遂に新たな護衛艦みらいの艦長として艦のトップに立つ。そう自覚すると緊張していた。

 

 ガチャ。

 

 「お、洋介。まだ着替えてなかったのか?」と、部屋に二等中佐の制服を着た尾栗が入ってきた。

 「あぁ、なんだか…。いざ、国防海軍に編入となると少し寂しくてな。」

 角松は海上自衛隊の制服を手に取りこう呟いた。

 「確かになぁ…。今までの数々の思い出が汗水と一緒に染み渡っているからな。」と、壁に寄りかかりながら尾栗が話す。

 「だが、こうなった以上…。着るしかないか。」

 角松は海上自衛隊の制服を畳んで、国防海軍の制服を羽織った。鏡を見ると国防海軍の制服姿の自身が映る。一等大佐という、海上自衛隊の一等海佐(艦長)に当たる階級章を改めて見ると…。この護衛艦みらいの最高責任者であることを自覚させられる。

 「おっ、なかなか似合っているじゃないか。」尾栗に掛けられるが…。角松は無言で頷くだけだった。

 

 夜になり最後の艦尾の自衛隊旗が降ろされる。明日からはデザインは変わらないものの、新品の国防海軍旗が掲揚される。今まで、掲揚し続けてきた自衛隊旗と明日から掲揚される国防海軍旗…。二つを見比べると自衛隊旗は既に色落ちし数々の戦闘をくぐり抜け自衛隊として活躍してきたことを意味していた。(この自衛隊旗は後日、艦内の食堂に海上自衛隊の思い出として飾られる事となった。)

 

 そして日付が変わり…。国防海軍としての最初の朝がやって来た。9月26日0600 青空の下、新しい国防海軍の日章旗が掲げられる。今日は 国防海軍 護衛艦みらい の新たな船出の日だ。 

 

 

 




 海上自衛隊から国防海軍に編入されるに当たって、海軍用のシステム変更や制服の変更などで慌ただしい護衛艦みらいの乗組員達。ですが、海上自衛隊の隊員という自覚を忘れないように各自、海上自衛隊最後の一日を送っています。そして新たな船出を迎える護衛艦みらい。彼らを待っているものは一体…。


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航跡53:システム改修工事

 

 9月30日

 

 新たに国防海軍の護衛艦として運用が始まった元海上自衛隊イージス護衛艦 みらい は停泊していた埠頭から湾内のドックへ移動していた。今日から11月15日までの日程で、イージスシステムのアップデート工事が行われるのだ。CICではイージスシステムの電源を落とす作業が行われていた。

 「よし。機密データの保存完了。システムの電源落としますぜ。」

 青梅が防衛省向け機密データの保存を行っていた。これは、仮に元の世界に戻ったときに防衛省へ提出するためのものだ。そして、遂に護衛艦みらいの心臓部であるCICの電源が落とされる。

 

 ヒュュュュンンンン…。

 

 遂に海上自衛隊時代から使い続けていたイージスシステム ベースライン4-J1型の灯火が消えた。モニターの画面が消えててCICの中は非常灯だけになる。

 

 パチッ!

 

 普段は一切、使用しなかった通常の蛍光灯の明かりが点く。モニターだらけで機械的なCICが明るく灯される。

 (こんな中で俺たちは戦闘していたんだな…。)

 と、室内を見ながら菊池は心の中で思っていた。

 

 1300 横須賀鎮守府ドック

 

 みらいが入ったドックの水が抜かれていく。CICのイージスシステムのアップデートと共に、船体の大規模改修工事が行われることになったからだ。調べると、前回のキスカ島沖合での戦闘で至近距離で敵弾が爆発した影響なのか…。僅かながら、船体に軽微な歪みが発生していた。また、いままで使ってきた艦積機の海鳥とSH-60Jも大がかりなオーバーホールを受けることになった。護衛艦みらい艦内では各隊員達が交替で修繕作業に当たり始めた。船体のあちこちから修繕作業による火花が飛び散る。一部は塗装を剥がしてフレームの修繕を行うなど大がかりな工事だ。勿論、みらいの乗組員達だけでは修繕出来ない箇所もある。狭くて入れない場所やイージスシステム内部の配線作業はなんと、妖精さん達の力も借りて行われる。他にもエンジンの修繕作業には夕張や明石が協力し、作業が行われた。

 

 10月1日 1230 横須賀鎮守府 食堂

 

 今日から3日間、護衛艦みらい艦内の食堂は設備点検の為に使えない。その為、乗組員の大半は鎮守府内部の食堂へやって来ていた。

 

 「あっ、尾栗さん。こんにちは。」

 「おっ、吹雪じゃねーか。お前も昼飯か?」見ると、吹雪は姉妹の白雪 深雪 と一緒にお盆を持っていた。

 「あの…。よかったらご一緒しませんか?」

 

 「あのあとのキスカ島撤退作戦…。大変だったんですね…。」

 「あぁ、ル級が2隻も居たからな。運良く1隻からは逃げ切ったけどよ。1隻とは真っ向勝負になってな。なんとか無力化したけど梅津艦長が大怪我して艦長が洋介…。じゃなくて、角松に変わったんだ。」

 「梅津艦長…。怪我の具合はどうなんですか?」と、吹雪が心配げな声で訊ねる。尾栗は命には別状ないから大丈夫だと伝えた。

 「っかさー。あたしらもなんか手伝えないものかなぁー?」

 と、深雪が嘆く。流石の艦娘達もCICには限られた艦娘(海上自衛隊艦娘等の現代艦)のみしか許可を得ないとCICには立ち入れないからだ。「それには艦長の許可を得るしか無いだろうなぁー。」と、苦笑する尾栗。後日聞いた話だが、どうやら深雪は前回乗艦したときに食べたカレーをまた食べたかったらしい。

 

 その頃、明石と夕張が管理している工場では…。

 「えーと、追加のミサイルは…。ハープーンミサイルが10機にシースパローが25機 トマホークが10機にアスロックが15機…。うわぁ…。資材の消費凄いなぁ()」と、搭載予定のミサイルを表で見た夕張が驚いていた。最終的には国から下りるとはいえ、既に数億円単位の金額だ。ボーキサイトや燃料の消費も正規空母 赤城 並みの消費の悪さである。護衛艦みらいのオーバーホールのお陰で一気に貯蔵していた資材が減る。それには柏木も苦笑いだった。

 

 




イージス護衛艦…。元々、燃費が良くないというのは聞いてましたが。その上対空ミサイルとかも結構使っていたので、ボーキサイトや鋼材の消費が凄そうですね( ; ゚Д゚)…。これには流石の柏木提督も苦笑いのようで、大淀さん達経理担当が大変なことになりそうです(笑)


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MI攻略作戦
航跡54:艦隊再編成


 

 季節はすっかり秋になり、鎮守府内の木々が色づき始めた頃…。鎮守府内部の航空機整備場(米軍から譲渡)では、各国防海軍の護衛艦から修理に出された艦積機に混じって、一機だけ旧型のSH-60Jが整備を受けていた。

 

 「ふぅ、エンジンの点検は終了。あと、試運転だけだな。」

 と、整備員の一人が呟く。この少し旧型の機体は、護衛艦みらいに搭載されている哨戒ヘリだ。国防海軍になってから哨戒ヘリの更新が一気に進み、SH-60Jは今や訓練生用の機体となっていたからだ。一方の海鳥は既に検査が終わり、今日は試験飛行で横須賀から房総半島沖合を飛行し戻ってくるという最終試験だ。

 

 キィイイイインンンン

 

 エンジンが起動しプロペラが回る。

 「横須賀離陸1025。これより房総半島沖での試験飛行に入る。」

 佐竹の操縦の下、海鳥は大空へ飛び立った。

 

 1105 千葉県房総半島沖 20キロ

 

 「うん。エンジンも快調。操縦に問題なしだな。」

 海鳥は房総半島沖の大空を順調に飛行していた。秋晴れの空に美しい大海原。深海棲艦と戦争しているなど思わせない平和な空だった。海鳥が横須賀に帰還する頃…。横須賀鎮守府では、次の作戦について会議が行われていた。

 

 「…聖地MIか。」

 柏木は本部からの通知を見て…。遂にきたか。と、心の中で思っていた。聖地MI、つまりミッドウェー諸島のことであるが…。敵勢力の主要拠点の一つであることは、衛星の観測で分かっていた。だが、相当な戦力があり米海軍を初めとする各国軍は接触を避けていた。国防海軍は不定期だが周辺海域の偵察を行っていた。だが、日々肥大化する勢力に待ったをかけなくてはいけない状況になっていたのは事実。戦力の太平洋の3分の1の勢力を失った米海軍に代わり、戦力に余裕のある日本国国防海軍に国連から白羽の矢が立ったのだ。そして、要請を受けた日本国国防海軍は横須賀鎮守府に出撃命令を出したのだった。

 

 「…まさかとは思っていたが、遂にこの日が来るとはな。」

 夕暮れの執務室で柏木は一人呟いた。

 

 10月29日 1000 横須賀鎮守府

 

 鎮守府の駆逐艦寮では明後日のハロウィンに備えて、駆逐艦娘全員で飾り付けが行われていた。

 「夕立ちゃん、そっち持って!」

 「っぽい~!」

 「南瓜のお化けを作るのです!」

 「あっ、響…。何で逃げるのよ~!」

 と、ドタバタ朝から大騒ぎである。

 

 「おーい。吹雪は居るか?」

 駆逐艦寮に柏木がやって来た。

 「あ、はい!司令官。何でしょうか?」飾り付けの手を止めて吹雪がやって来た。

 「ちょっと、次の作戦について話があるんだ。来てくれないか?」

 

 1030 提督執務室

 

 ブロロロロロロロ…。

 

 窓の外には訓練を行う最上達西村艦隊の瑞雲が旋回していた。

 

 「えっ?艦隊、再編成ですか…。」

 「ああ、次期作戦の前に艦隊の練度を上げておきたいんだ。」と、再編成された艦隊の内容が書かれた紙を手渡す。

 

 [第三護衛艦隊 旗艦 吹雪 ]

 

 「ええっ!?私が旗艦ですか!?しかも正規空母2人の!?」と、驚きを隠せない吹雪。柏木が提案してきた艦隊は旗艦を吹雪として、空母が加賀の瑞鶴 戦艦 榛名 に随伴艦として護衛艦娘の せとぎり と響の6名の艦隊だ。よりによって仲の悪い加賀と瑞鶴のコンビに早速頭を悩ませる吹雪。

 (て、提督…。なんでこんな艦隊に…。)

 と、吹雪が思っていると柏木が理由を説明してきた。

 

 翌日

 

 「なんであんたが同じ艦隊なのよ!」

 「知らないわ。私は提督の指示にしたがっただけ。」

 と、ミーティングルームで睨み合う。

 「まぁまぁ、瑞鶴さん、加賀さん落ち着いて…。」と、せとぎり がなだめるが…。

 「嫌よ!こんな艦隊!」

 「五航戦の子と一緒にしないで。」

 「何よ!!」

 と、マジギレモードの瑞鶴…。

 (大丈夫かなぁ…。この艦隊。)

 啀み合う二人を見ながら吹雪は今後の艦隊運営を心配していた。 

 

 

 




北方海域での作戦が終わり今回から新しい章に入ります。遂に、聖地MIの攻略を上部から言い渡された柏木提督。そして、その作戦の準備として五航戦育成に当たりますが…。ちょっと、アニメ版の要素も入れてみました。相変わらず瑞加賀コンビは仲があまり良くないですねf(^^; 吹雪がちょっとかわいそうですが、頑張って書いてきます。


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航跡55:出撃

 

 「今度、聖地MIを攻略することとなった。その為の錬度上げのためにしばらくの間、加賀の指導の下で瑞鶴を育ててもらいたい。」

 「加賀さんと瑞鶴さん。相当仲悪いですけどいいんですか?」

 柏木の言葉に心配になる吹雪。だが、柏木は…。

 「大丈夫だ。加賀には話してある。このところ調子に乗ってる瑞鶴を叩き直してくれと。実は翔鶴からのお願いでもあるんだ。」

 「翔鶴さんの…?」

 実は瑞鶴の練度上げを頼んできたのは、姉の翔鶴だった。

 

 数日前

 

 「あの…。提督、お話があるのですが。」

 鎮守府の酒母前の廊下で、出撃から帰ってきた翔鶴が提督に話しかけてきたのだ。

 「なるほどねぇ~。確かに、このところ艦積機の喪失が目立っているな。」

 「はい。実は、このところ瑞鶴は非番の日はよく遊び歩いているんです…。」

 翔鶴によると、瑞鶴はここ最近…。非番の日はよく軽巡仲間と横須賀市内のゲームセンターやカラオケに出入りしていて、自主練をサボっている。と、たまたま買い物に出掛けていた二航戦の二人から翔鶴の元に連絡が入ったのだ。そこで、瑞鶴が出掛けているときに瑞鶴の妖精さん達を見ると…。仕事サボっている。という、訳だった。そこで、柏木は古参である加賀に相談してみた。すると…。

 「いいでしょう。五航戦ごとき、こてんぱんして差し上げましょう。」

 と、答えたのだった。

 

 鎮守府ハロウィン祭りも終わり、季節は秋から冬へと向かっていた。木々の葉っぱも落ち始め、落ち葉を使って敷浪 綾波 や天龍達が焼き芋やマシュマロを焼いている。そしてその香ばしい香りにつられて、赤城や第六駆逐隊が集まってくる。その頃、鎮守府の弓道場では瑞鶴が加賀に見られながら矢を放っていた。

 

 (一航戦ごときにバカにされてたまるもんですか!)

 

 シュパン!

 

 50メートルほど離れた的に矢を放つ。だが、当たらない。

 

 (え、なんで?)

 

 何度も撃つがなかなか中央に当たらない。

 「これだから五航戦は…。」

 と、呆れた加賀は自分用の弓矢をもって一気に放つ。

 

 ストン!

 

 加賀の放った矢は見事に的のど真ん中に命中。続けて3本、的の中心に当て続けた。それを見ていた瑞鶴は(負けるものですか!)と、矢を放つが的に当たっても中心から少し離れたところに当たってしまう。

 

 すると、放送が流れた。

 

 「相模湾 伊豆半島沖に深海棲艦出現と報告。第三護衛艦隊は直ちに出撃せよ。」

 と、長門が放送を流した。

 

 「何してるの?出撃よ。」

 と、加賀は弓道場から早足で出ていく。瑞鶴は(演習だから外しただけよ。本番じゃ必ず仕留めるんだから…。)と、心の中で思っていた。

 

 艦娘出撃用のドックには、既に吹雪や せとぎり の姿があった。

 「…敵は空母1 軽巡2 駆逐2 の編成。第三護衛艦隊は出撃せよ。」

 と、アナウンスが流れる。

 「特型駆逐艦 吹雪 出撃します!」

 「護衛艦せとぎり 出撃!」

 

 バシュー!

 

 と、次々に第三護衛艦隊のメンバーが出撃していく。

 「一航戦 加賀 出撃します。」

 「五航戦 瑞鶴 出撃よ!」

 と、加賀と瑞鶴も出撃し先行の吹雪達に合流する。

 

 「敵は空母ヲ級を含んでいます。加賀さん。瑞鶴さん。制空権の確保よろしくお願いします。あと、せとぎり さんはレーダーによる着弾観測支援をお願いします。」と、旗艦の吹雪が指示を出す。

 「旗艦吹雪の指示を受諾。せとぎり…。これよりレーダー監視を強化します。」

 

 ウイイイインン

 

 せとぎり のレーダーが唸りをあげる。まもなく敵勢力が出現したと報告のあった海域だ。

 

 「空母のお二方、偵察機の発艦お願いします。」

 「任せて。五航戦 瑞…。」

 「ここは譲れません。彩雲、発艦します。」

 先に偵察機を上げたのは加賀だった。吹雪の指示が出る前に、長年の感覚で偵察機発艦のタイミングを掴んでいたからだ。

 「んー!邪魔よそこの元戦艦!」

 「五航戦ごときに譲る進路はありません。」と、とぼけた顔をした加賀が瑞鶴の前に出る。

 「あ、あの…。空母のお二人…。あまり前に出すぎない方が。」と、冷や汗をかく榛名。とりあえず、加賀に遅れをとったものの…。瑞鶴も偵察機を出した。とりあえずは報告を待つのと せとぎり のレーダー監視の結果次第だ。

 

 ブロロロロロロロ…。

 

 先に敵機の群れを見つけたのは加賀の偵察機だった。

 「…偵察機より入電。我、敵勢力発見セリ。」

 加賀が吹雪に報告する。同時に せとぎり のレーダーに詳細が映った。

 「敵艦隊、数は5。敵空母、我々に気づきました。」

 せとぎり のレーダーには次々と敵ヲ級から発艦する敵機が映っていた。

 

 




聖地MI攻略に向けて準備に入った横須賀鎮守府。作戦に参加予定の瑞鶴がこのところ自主練をサボってるというのが姉の翔鶴にバレてしまいました。そして、仲の悪い加賀さんとコンビを組む事に…。あぁ、先が思いやられます(・д・`;)


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航跡56:航空戦

 

 11月3日 伊豆半島沖 30キロ

 

 吹雪達第三護衛艦隊は、伊豆半島沖に出現した深海棲艦迎撃に向かっていた。敵を一番に見つけたのは加賀の偵察機 彩雲 。敵空母ヲ級もそれに反応し、敵機を発艦し始めた。それを迎え撃つのは加賀と瑞鶴の二人だ。第一次攻撃隊を加賀が発艦させた直後、

 「あっ、敵機!」

 と、瑞鶴が敵機の群れを見つけた。乱れなく飛ぶ加賀の艦積機。それに少し遅れを取って飛行する瑞鶴の艦積機。加賀の隊長機のパイロット妖精が指で「下に敵機確認。これより攻撃に入る。」と、指示を出す。仲間の機体がバンクを振ると、一斉に急降下し始めた。視界正面に敵機の群れが映る。そして、機銃の引き金を引く。

 

 ダダダダダダダダ…。

 

 航空戦が始まった。急降下急上昇を繰返し、敵機を迎撃する加賀機。それに僅かに遅れをとった瑞鶴機が入る。撃墜する…される。双方の艦積機が大きな空中戦を繰り広げるなか、僅かな隙を抜けて敵機がこちらに向かってくる。

 「敵機接近!第一次目標群 数は10。」

 と、せとぎり が声を上げる。榛名が三式弾を主砲に装填する。

 「仰角最大…。三式弾装填。主砲発射!」

 

 ドォーン!

 

 榛名の三式弾が放たれ、敵機の群れに向かっていく。

 

 バァーン!

 

 上空で派手に炸裂する三式弾。向かってきた第一次攻撃隊は全滅と、せとぎりが声を上げるが、既に加賀機達をくぐり抜けた敵機の第二次攻撃が向かっている。榛名の三式弾装填にはまだ時間が掛かる。このペースだと装填前に敵の攻撃ポイントに入る。せとぎり のシースパローという手もあるが、大規模作戦前のため極力ミサイルの使用は避けたいところ…。

 

 「敵機!射撃距離に入ります!」

 レーダー監視をしていた せとぎり が叫び、吹雪と響 せとぎり の対空射撃が一斉に始まる。敵機は空母加賀と瑞鶴に向かってくる。敵機からの爆撃を回避しつつ第二次攻撃隊を発艦させようとする瑞鶴。だが…。

 「アウトレンジで決めてやるんだから!」と、油断した瞬間。

 「瑞鶴さん!魚雷!」と、吹雪が大声を上げる。

 「えっ。」

 

 ドォーン!!!

 

 大きな水柱が上がる。命中したのは加賀だった。無防備だった瑞鶴をかばい、代わりに被弾したのだった。

 「加賀さぁーん!」

 「だ、大丈夫よ。このくらい。」

 と、いう加賀だが…。弓が折れて中破だ。吹雪は瞬時の判断で響に加賀の護衛を任せ、せとぎり にミサイル発射要請を出す。

 「了解。シースパロー発射始めます。」

 せとぎり のVLSからシースパローが放たれ、凄まじい速度で敵機を追いかけ撃墜する。空中戦に参加した加賀・瑞鶴隊は加賀機のお陰で、敵機群を撃破し制空権確保。だが、加賀が中破しているため…。この状況下で敵空母ヲ級を叩けるのは瑞鶴隊のみだ。敵は既に目視距離に到達。敵軽巡がこちらに向かって撃ってきている。周りで水柱が上がる中、瑞鶴は攻撃隊を発艦させるタイミングを逃してしまった。

 

 (…これじゃ、発艦出来ない!どうする?)

 

 瑞鶴が左右に回避行動を取りながら考えていると…。突如、軽巡の一隻が爆発を起こした。

 

 (…今だ!)

 

 瑞鶴は攻撃隊を発艦させた。すると、せとぎり に入電が入った。

 「―こちら、空母 いぶき 艦積機 スパロウ隊。これより援護射撃に入る。」

 軽巡を攻撃したのは、護衛艦娘の いぶき だった。呉鎮守府での演習の帰り、偶然現場海域を通りがかりアラートをかけたのだ。プロペラ機並みの性能しかない深海棲艦の艦積機に対して、F35JBという最新のステルス機。対空・対艦ミサイルを発射し敵を圧倒していく。それに負けじと瑞鶴も艦積機を上げる。そして…。戦闘は終わった。敵艦隊は全て撃沈。A判定だった。

 「加賀さん。大丈夫ですか?」

 戦闘が終わり、吹雪が加賀に駆け寄る。

 「大丈夫よ。このくらいかすり傷だわ。」と、話す加賀だが…。飛行甲板には穴が開き、発着艦は不可能だった。残存した加賀機は いぶき と瑞鶴が回収。横須賀鎮守府に帰還した。

 

 「いぶきさん。航空支援ありがとうございます。」

 「いやたまたま通りがかっただけよ。心配しないで。」

 お礼を言う吹雪に いぶき は少々照れ顔。一方の加賀には、「oh-。これはまた酷くやられちゃったのネー。」と、金剛が声をかける。

 「おいおい、加賀大丈夫か?」柏木も加賀が被弾したと報告を受けやって来た。「私が的確な指示を出せなかったから…。」と、しょんぼりする吹雪に加賀は…。「これは、事故のようなもの。大したことはないわ。」と、答えるが。

 

 「…あたしのせいじゃないの。」

 

 と、瑞鶴が呟いた。

 「あたしが、慢心したからこうなったのでしょ!なんで責めないのよ。」

 「あなたがあの状況下で被弾していたら確実に大破…。いえ、もしくは轟沈していたわ。私はあえて被弾箇所を選んで被弾した。絶対、轟沈しないという自信があったから。」

 「な、なによ!そんなボロボロのくせに!」

 と、口喧嘩をする二人に金剛が止めに入る。

 「まぁまぁ。喧嘩は良くないデース。高速修復剤を使えばこのくらいの損傷もお湯を沸かす前に…。」

 「あいにくだが、それは無理だな。」と、柏木が声を上げる。

 「どうしてデース?」

 「大規模作戦前だからな、高速修復剤の使用を見合せているんだ。お陰で先日被弾した赤城と蒼龍が今だ、入梁中だからな…。」

 「貴重な提督の戦力を失い申し訳ありません。」と、加賀は深々と謝罪し艦娘用ドックへと向かっていった。

 

 




瑞加賀コンビでの航空戦。錬度不足の瑞鶴を馬鹿にしているようで実は優しく見守る加賀。自らを犠牲にし魚雷から守ったものの、瑞鶴は艦積機を発艦させるタイミングを失ってしまいました。そこへやって来た最新鋭のF35JB戦闘機…。新艦娘護衛空母 いぶき の登場の話です。


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航跡57:新鋭みらい

 

 11月15日 1000 みらいCIC

 

 イージスシステムのグレートアップ工事が終わり、新しくなったみらいCICに電源が入る日がやって来た。電源室でCICに回す電源ブレーカーのスイッチを入れて、CIC内部にある主電源を入れればイージスシステム起動となる。

 「―こちら電源室。電源入れます。」

 電源が入ったことが知らさせる。CICの中は今、非常灯だけでほぼ真っ暗の状態だ。そして電源が来たことを知らせる緑色のランプが点灯。青梅が主電源を入れる。

 

 ウイイイインン

 

 少しずつモニターのパネルが点灯していく。そして遂に、CIC全てのモニターが点灯し新鋭みらいの心臓が動き始めた。ベースライン8型イージスシステム。米海軍で開発された最新モデルのイージスシステムだ。早速、菊池の指導の下で各種点検作業が始まった。主砲の動きやVLSの調整等、戦闘に関わる物の各種調整が行われた。本格的な試験は明後日、伊豆大島沖で行われる。一方の海鳥とSH-60Jも国防海軍機と同等の改良が行われた。その日の午後、新鋭みらいはドックから埠頭へと移動した。船体に生じていた軽度の歪みも直り、あとは試運転を待つだけだ。闇夜に浮かぶオレンジ色のライト。それに照らされる護衛艦みらい。その艦橋では尾栗と角松が話し合っていた。

 

 「まさかな、この世界でイージスシステムの更新が行われるとはな。」

 「俺も思ってなかったよ。…でも、まぁー。良かったんじゃねぇの?うちらの世界じゃ、ベースライン8の導入は未定だったからよ。」と、角松の言葉に尾栗が返答する。

 「こちらの世界は我々の元居た世界とは少し進んでいると言うことだな。うちらの世界の防衛省じゃ、27DDGに導入予定で既存のイージス護衛艦は現状維持だって話になるだろうな。」と、苦笑しつつ話す。

 

 11月18日

 

 今日は新鋭みらいの各種性能の最終試験の日だ。横須賀鎮守府を出港後、まず湾内の磁気除去装置で船体に付いた磁気を除去。そのあと、伊豆大島沖50キロに移動し、各種最終試験を行う。今回は囮のロケットを撃ち落とす実戦的な訓練も行われる。今回の試験の随伴艦は[すみだ]と[はるかぜ]の2隻だ。すみだ が放った囮のミサイルを みらい が撃ち落とす。実戦的な最終試験だ。

 

 1030 みらい艦橋

 

 「これより本艦の最終試験を行う。各員の迅速な対応を期待する。」角松が艦内放送で試験開始を宣言し、総員対空戦闘配備をする。

 

 「―すみだよりみらい。これより演習弾ヒト発を発射する。ミサイルドーマントはみらい艦首方向へ手動にて行う。…教練対空戦闘開始。」と、すみだ から連絡が入る。すみだは50キロ先方を航行している。そこから みらい に向かってくるミサイルを迎撃するのだ。

 

 「すみだ、ミサイル発射を確認。」

 と、モニターを見ていた青梅が叫ぶ。

 「了解、教練対空戦闘、シースパロー発射はじめ!」

 

 バシュュユユユユ!!!!!

 

 前甲板のVLSから凄まじい炎と共にシースパローが発射される。

 「インターセプトまで、30秒!」

 訓練用の炸薬が内蔵されていないミサイルに向かって突き進むシースパロー。そして…。

 

 ドォーン

 

 みらい から約20キロ離れた上空で迎撃に成功。見事にイージスシステムの性能を見せつけたのだ!この訓練の詳細データは はるかぜ で記録され、柏木提督の元に提出された。

 

 「…うむ。イージスシステムの状態も良好なようだな。」

 「ええ、更新してくださりありがとうございます。」

 訓練が終わり横須賀に帰投した みらい 。角松はその夜に柏木と話していた。

 「ところでだが、角松新艦長。次回の作戦についてたが…。」

 柏木は極秘と判子が押された資料を角松に手渡した。

 「こ、これは?」

 「次の作戦についてたが…。聖地MIを攻略することになった。」

 資料のタイトルはこうだった…。

 [国防海軍総力戦 MI奪還作戦]

 と、書かれていた…。

 

 

 




 こんばんは。今回はの話では原作と違い護衛艦みらいのイージスシステムのアップデードが行われました。ま、この話しは現代社会の平行世界ということですので…。現実の海上自衛隊イージス護衛艦のこんごう型やあたご型もそろそろイージスシステムのアップデード時期ですかね。そういえば27DDGのイージスシステムはどうなるのでしょうか?就役が楽しみです。


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航跡58:MI作戦

 

 MI作戦。かつて太平洋戦争中に旧日本海軍がミッドウェー諸島周辺海域の制空・制海権確保のために米海軍空母機動部隊と衝突するも、正規空母赤城をはじめとする…。一航戦、二航戦の主力空母を失う歴史的大敗をした作戦だ。

 

 「MI作戦…ですか。」

 角松は柏木からMI作戦の概要について聞いていた。聖地MI、つまりミッドウェー諸島のことを指すのだが…。この深海棲艦との戦争が始まった初期の段階で敵勢力の主力基地と化していたのだ。僅かながら脱出に成功した住民らによると、最初の攻撃があったのは夜で飛行場に大量の敵機が空襲を行い…。島の形が変わるほどの砲撃。そして、脱出する住民を乗せた船も大半が口封じのためなのか撃沈された。漁船等を使って20隻以上の船団で脱出を試みたものの、残ったのは僅か3~4隻だった。連絡を受けた米軍は空母を主力とした機動部隊を出撃したが、艦積機の消費が激しくあえなく撤退という形になり…。事実上、深海棲艦の領土と化してしまったのだ。

 

 「このMI作戦…。発案したのは安保理だ。このまま勢力拡大を続ける深海棲艦に歯止めをかけなければ、太平洋は深海棲艦の物となってしまう。米海軍が負けた相手だ。世界で唯一、深海棲艦に対応する力を持つ艦娘を持つ日本に出撃要請が来てもおかしくはない。」柏木は資料を見ながら呟いた。

 「そこでだな、出撃に当たる編成を考えたのだが…。あなた方 みらい にも出撃してもらいたい。」

 「えっ?」

 「あなた方は我々の世界がゲームとして存在する世界からやって来た。となれば、攻略方法が見つかる可能性が非常に高い。今回の作戦では私は艦隊総司令として前線に出る予定だ。協力してくれないか?」

 と、深々と柏木は頭を下げた。角松は数分考えたあと作戦参加を了承した。

 

 11月20日

 

 MI作戦参加が決定した護衛艦みらい。作戦決行は12月8日。戦時中、旧日本海軍が真珠湾攻撃を仕掛けた日だ。この日はミッドウェー諸島周辺海域の気象条件もよく。作戦には絶好の天気だった。出港は11月30日。作戦概要はこうだ。まず、ミッドウェー諸島周辺海域に出没する空母機動部隊を島の北方へ誘引するために、囮の部隊として軽空母瑞鳳をはじめとする軽空母部隊(旗艦 瑞鳳 以下 龍驤 衣笠 鳥海 せとぎり ゆうぎり ) が先鋒を努め、北方誘引を行う。北方へ敵勢力が気が向いた所で、五航戦 翔鶴 瑞鶴 の第一次攻撃部隊 (旗艦 翔鶴 以下瑞鶴 青葉 加古 卯月 弥生) が南側より第一攻撃を開始。援護として、護衛艦娘の いぶき のF35JBによる攻撃も行う。コレにより敵勢力は混乱すると見られ、国防海軍の第一護衛艦隊 (旗艦 ぶこう以下 みらい だいせん すみだ ちくま これに佐世保から編入した たつなみの合計6隻)によるトマホークとハープーンによる長距離援護射撃を行う。また、一航戦 赤城 加賀と二航戦 蒼龍 飛龍 からなる第二次攻撃部隊 (旗艦 赤城 以下 加賀 蒼龍 飛龍 吹雪 睦月)による第二次攻撃。また、対地攻撃として戦艦大和を旗艦とする対地攻撃部隊(旗艦 大和 以下 榛名 天龍 五十鈴 夕立 雷 )の合計5艦隊 による総力戦である。

 

 「この作戦には、あなた方護衛艦みらいに搭載されている対地攻撃巡航ミサイル トマホーク の使用が前提となる。でなければ、戦力が不明の深海棲艦には対応できない。」

 柏木は資料を読みながら説明する。出港は11月30日。遂に海上自衛隊では経験しなかった本格的かつ大きな作戦参加となったみらい。艦娘乗員として今回、変わらずの しらせ は乗艦するものの…。護衛艦娘の みらい の乗艦は柏木からの指示で取り止めとなった。そして11月30日 1230 ミッドウェー諸島奪還に向けて、艦娘達や護衛艦が次々と出港していく。

 

 「総員!帽振れ~!」

 

 角松の指示で甲板に出ていた乗組員が制帽を振る。埠頭にはみらいをはじめとする居残り組の艦娘達。そして…。

 

 (艦長…。行って参ります!)

 

 車イスに乗った梅津の姿があった。頭には相変わらず包帯が巻かれて痛々しい姿だ。梅津らに見送られミッドウェー諸島へ向かう護衛艦みらい。その姿は海上自衛隊時代の誇りと日本の盾である自信に満ちていた。

 

 

 




さて、ついにMI作戦が始まりました。書くのが大変ですが、頑張って書いていこうと思います、思ったけど…。これだけの艦隊で出撃となると、資源の消費がえらいことになりそうです。絶対、経理担当の大淀とかに怒られるかもf(^^;


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航跡59:聖地MI~飛龍の夢~

 

 12月3日 1030 護衛艦だいせん

 

 バラバラバラバラ…。

 

 みらいのSH-60Jが だいせん の甲板に着艦する。

 「ご苦労様です。だいせん艦長 西村です。」

 SH-60Jから降りた角松を だいせん 艦長の西村が出迎えた。今日はMI攻略作戦の最終会議だ。

 

 「護衛艦みらい艦長。角松です。」

 ミーティングルームに入ると第一護衛艦隊の艦長や各艦娘艦隊の旗艦の艦娘が勢揃いしていた。

 

 「さて、皆集まったな。では会議を始めよう。」と、艦隊総司令を務める柏木提督が会議開始の挨拶をした。

 

 1230 だいせん 会議室

 

 MI攻略の作戦について、会議は煮詰まっていた。先日、米軍の早期警戒衛星が撮影した画像によると…。ミッドウェー島周辺海域に予想よりも多数の空母機動部隊が確認され、軍事基地化がかなり進んでいることが確認されたのだ。

 

 「…どうします?こんなに沢山の敵空母機動部隊、とても私たちには。」

 と、囮役の瑞鳳が心配する。流石に全ての空母機動部隊が瑞鳳達囮部隊に向かうとは思えないが、やはり人命が最優先。艦隊の編成を少し変える必要性が出てきたのだ。だが、空母艦娘の編成はなるべく変えたくはない。会議の場の全員が悩んだ結果、第一護衛艦隊から速力が早く、艦娘の収容が容易である護衛艦 すみだ が囮部隊に同行することとなった。それ以外の艦隊編成に大きな変更はないが、作戦開始時に護衛艦娘のいぶきから3機のF35JBを発艦させ、囮空母機動部隊に敵空母機動部隊を誘引させることになった。作戦開始は12月8日0430 日の出一時間半前だ。護衛艦だいせんで会議が進む頃…。だいせんの艦娘居住区で待機していた吹雪達駆逐艦は上層部が悩んでいるのも露知らず、かなりリラックスしていた。

 

 クンクン…。

 

 食堂から漂う昼食のラーメンいい香り…。今日のだいせんの昼食は海軍式あんかけラーメンだ。

 「お腹すいたっぽい~。」

 と、お気に入りの熊のぬいぐるみを抱きながら夕立がベットでゴロゴロしている。ステルス性を必要とする現代の護衛艦には窓が少ない。そのため艦娘や乗組員の居住区には窓がない。大戦時よりかは居住性が上がり基本4人1組とはいえ窓がないので圧迫感がある。

 「そうだね~。そろそろお昼だね。」と、吹雪が時計を見ると既に1230。だが、艦内食堂が一番混雑する時間帯だ。

 「睦月ちゃん。夕立ちゃんがのびてるし…。食堂行こうか?」

 「うん。」

 三人が食堂へ行くと、二航戦の蒼龍と飛龍が食事を取っていた。

 「あ、吹雪ちゃん。」

 「蒼龍さん。飛龍さん。会議はどうしたんですか?」

 吹雪が尋ねると蒼龍が

 「私たちは会議でなくていいのよ。旗艦の赤城先輩や加賀先輩が出ているから。」と、話した。飛龍はラーメンをすすっている。すると…。

 「聖地MIかぁー。なんだか、あの時を思い出すなぁ…。」と、飛龍が呟き始めた。吹雪は参加していなかったが、かつてのミッドウェー海戦を飛龍は思い出していたのだ。現代兵器が使われるとはいえ、あの悲劇を思い出すと夜寝れないそうだ。

 

 ~回想~

 

 「赤城先輩!加賀先輩!蒼龍!」

 

 被弾し炎上する三隻の空母。その中で唯一生き残った正規空母 飛龍 。

 

 「皆の仇…。絶対取るんだから!」

 

 自身も敵機に襲われる中で弓を引く。周りは予想外の襲撃に混乱していた。そして沢山の水しぶきが上がり、雨のように降ってくる。赤城と加賀は大破。蒼龍も火災発生のために発着艦不可能。やれるのは私しかいない!三人の仇を取るために必死に一人で戦う飛龍。MI作戦と聞いてから飛龍は孤独に戦う夢をよく見ていた。その中でも昨夜見た夢は気味が悪かった。艦の時に経験した敵機の爆弾が自分に向かって落ちてくる瞬間。それを夢で見たのだ。

 

 「うわっ!」

 

 ゴッチーン!!!

 

 鈍い音が居住室に響く。時刻は12月3日午前4時半 二段ベット上段の蒼龍が起きてくる。

 

 「もぅ、何よ飛龍。」

 目の前に星が見える中で飛龍は、

 「ハハハ…。何でもない。」と、頭を押さえながら返事する。寝ぼけ顔の蒼龍はまた寝付く。同室の赤城や加賀はぐっすり寝ている。頭を思いっきりぶつけたおかげで目が覚めた飛龍は起床時間前だが、着替えて艦内を歩く。

 

 ガチャ

 

 甲板へ繋がる扉を開けると潮風か流れ込んでくる。いずも・いぶき型の甲板は空母型の大きな甲板だ。水平線の彼方が僅かに赤くなっている。日の出まであと30分。航空管制灯が一列に並ぶ甲板を歩く。この時間は緊急時を除けば艦積機の発着艦は無い。空は雲ひとつない星空。甲板の端にあるCIWSの傍らに座り寝転ぶ。夜明け直前の時間帯。段々、空が明るくなっていく。夜戦から帰還するときに時々見る景色だが、こんな星空をゆっくり見たのは久しぶりのことだった。

 

 (私って、なんのために戦っているのかな…。)

 

 と、星空を見上げてこう思う。

 「隣、良いかしら?」

 ボーッと空を見上げていたら突然声をかけられて起き上がる。声をかけてきたのは赤城だった。赤城は飛龍が起床時間よりもかなり前に居住室から出ていくのに気づき、追いかけてきたのだ。

 

 「…なるほど。」

 先輩の赤城に最近よく見る夢のことを話した。

 「あの時はごめんね。被弾しちゃって…。」と、赤城が謝る。飛龍は慌てて大丈夫だと言う。すると、赤城がこんなことを話始めた。

 「飛龍さん。こう思ったことはない?」

 「え?」

 「私たちは艦の記憶を持つ艦娘。たとえ過去にあった悲劇を変えることはできない。でも、これから先起こることは変えることができるし…。自分で作っていく。艦娘として生を受けて深海棲艦と戦うのが私たちに課せられた使命だけど。一人の人間でもあるのよ。…自分の未来は自分で作る。それを見失っちゃダメだと思うの。」

 赤城の言葉は的確だった。普段は熱心に訓練に取り組むも、大食いキャラが定着している赤城だが…。赤城自身も時おり、ミッドウェー海戦の夢を見るそうだ。その夢を見るたびに、自分が艦娘としてこの世に生を受けた理由を問いただしている。

 

 「赤城さん…。」

 「だからね。自分のやりたいこと、夢と希望が大切なんだと思うのよ。」

 と、赤城が話していると朝日が照らしてきた。日の出の時間、辺りが明るくなってきた。

 「ごめんねf(^^; こんな、話に付き合わせちゃって…。」

 と、赤城が話すが…。飛龍はお礼を伝えた。赤城の言葉に自分の艦娘がして存在する意味を探し出せたような気がしたからだ。

 

 

 



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航跡60:MI攻略開始

 

 12月8日 0130 みらいCIC

 

 ミッドウェー島より西に120キロ。護衛艦ぶこう以下、第一護衛艦隊は攻撃準備に入っていた。今日の日の出は0450。日の出直前の0430に護衛艦娘いぶきのF35JB先遣隊により数発の対地ミサイルを敵陣に放つ。そして日の出と同時に瑞鳳達囮部隊の艦積機による爆撃を開始及びミッドウェー島周辺海域へ突入し同海域の敵空母機動部隊を島の北方へ誘引する。レーダーによる観測と瑞鳳達からの報告を元に、翔鶴達五航戦の第一次攻撃部隊を発艦。敵陣周辺に残留した敵艦を掃討する。そして赤城以下一航戦と二航戦の艦積機を順次発艦。敵主力の攻撃を行う。だが、航空戦力だけでは火力が不足すると思われる。そこで、大和以下対地砲撃部隊による砲撃を敵艦掃討後に実施。これに護衛艦ぶこう以下、第一護衛艦隊のミサイルによる中距離援護射撃を行うと言う…。緻密に計算された奪還作戦だ。この作戦で護衛艦みらいに課せられた目的は、護衛艦みらいだけが保有するトマホークミサイル。これを使った対地攻撃だ。トマホークミサイルの射程は約250キロ。今回は50キロ離れた海上から放つ。勿論、ロケット燃料は満載。50キロ離れた所からだと積載された燃料の消費は4分の1。引火すれば爆発の勢いと共に、着火材の役割にもなる。

 

 「よし。砲雷長、準備完了。いつでも射撃できますぜ。」

 青梅がVLSへのトマホークミサイル装填状況の最終確認の報告を菊池にしていた。

 「了解。」

 菊池は静かに返答した。国防海軍に編入されたとはいえ、元は海上自衛隊。尖閣諸島での紛争を経験したとはいえ、巡航ミサイルによる対地攻撃は初のこと。既にミッドウェー島の生存者報告は0との報告が上がっているが、万が一生存者が居たらと思うと…。菊池は心の中で思っていた。だが、既に国連安保理で決まったこと。ここで敵深海棲艦に打撃を与えなければ人類は破滅する。厳しい状況の中で菊池はGPSによる終末誘導の徹底を指示した。

 

 0413 ミッドウェー島南東70キロ

 

 護衛艦娘いぶきは手元の時計を見ていた。作戦開始まであと2分。同行する五航戦の第一攻撃部隊は各艦作戦の最終確認をしていた。

 

 「作戦開始まであと1分よ。」

 と、翔鶴が呟く。水平線の彼方が僅かに赤くなっている。

 

 チッチッチッ…。

 

 いぶきの腕時計がカウントダウンを始める。そして…。

 

 「0415 作戦開始! いぶき発艦します!」

 作戦開始時刻になり弓矢を放つ。放たれた弓矢はF35JBへと変化し敵陣営へ飛んでいった。

 

 0416 みらい CIC

 

 「護衛艦娘いぶきより入電。我、艦積機発艦。」

 通信員が報告する。CICのモニターには3機のF35JBの信号が映っていた。

 

 

 0425 爆撃開始5分前 ミッドウェー島 北方20キロ

 

 (見えた!)

 水平線の彼方の赤い光に照らされ島の輪郭がうっすらと浮かび上がる。F35JBのパイロット妖精は赤外線カメラで敵飛行場姫位置を確認。

 「All planes, Element leader. We are mission launch. I repeat, we are mission launch. ...Target confirm, missile away.」

 (編隊長より編隊へ、作戦開始。繰り返す、作戦開始。…目標確認、ミサイル発射。)

 

 0430。ミッドウェー島北方よりF35JBに搭載された対地ミサイルが放たれた。

 

 ドカドッカーン

 

 薄暗い中で突然の攻撃に驚く飛行場姫。だが、慌てずに順次、戦闘機を離陸させていく。

 「Target kill. ...Enemy airfield princess, starting takeoff of fighter.」(目標撃破。… 敵飛行場姫、戦闘機の離陸を開始。)

 いぶきの元に攻撃成功の情報が入る。そして作戦成功と囮部隊の瑞鳳達と五航戦の二人に伝え、各空母は朝焼けの空に自身の艦積機達を放った。

 

 0450 ミッドウェー島 南方20キロ対地攻撃部隊

 

 北方からの攻撃に対処しているのか、敵の艦隊は北に集中している。旗艦の大和達は待機していた。

 「おぉ、ずいぶん派手にやってるな。」と、呟く天龍。朝日に照らされ島の上空には煙が滞留してるのが分かる。瑞鳳達囮の空母機動部隊は北方への誘引に成功。だが、誘引出来たのは敵の半分。残りは五航戦が掃討に当たっている。そのためこちらのは気づく様子が全くない。

 「…暇だわね。」

 と、五十鈴が呟く。こちらには未だに攻撃開始の指示が来ていない。対地攻撃部隊が暇を潰している頃…。第二次攻撃部隊は発艦ポイントに向かっていた。

 

 「各艦、ポイントに到達次第発艦!」

 赤城の指示で 加賀 蒼龍 飛龍 が発艦準備に入る。その中で加賀は瑞鶴のことを気にしていた。先日の戦闘で身代わりになって被弾したものの、彼女のメンタルが大丈夫か心配だったからだ。だが、蒼龍から聞いたがあの後瑞鶴は己の行いを反省し…。作戦まで熱心に訓練に取り組んでいた。加賀は今までの経験と訓練の成果を見せられる戦いになればと思っていた。

 

 「赤城先輩。ポイントに到達しました!」

 先頭を航行する吹雪が声をあげる。

 

 「了解!一航戦 赤城 発艦します!」

 

 0510 赤城達第二次攻撃部隊の艦積機達はけたたましいエンジン音を響かせながら発艦した。

 

 

 




 ついに始まりましたMI作戦。ゲームやアニメとと違って夜襲スタートですf(^^;英語のセリフに関してはLINEの英語翻訳機能を使っているので実際の軍用語とは違うかもしれないです…。(細かい所まで気にする方すみません)さて、始まったMI作戦は一体どうなるのかお楽しみに。


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航跡61:ミッドウェー上空

 瑞鳳達囮部隊が北方へ誘引したおかげで半分の勢力になった聖地MI…。

 

 「戻すものですかっ!」

 

 ヒュン!

 

 敵機の爆撃の中で艦積機を発艦させる瑞鳳。予想外の襲撃に混乱していた敵飛行場姫が北方へ誘引されてしまった空母機動部隊を戻そうと通信を掛けたらしい。だが、瑞鳳達はこれを阻止させる。正規空母ヲ級4隻に対してこちらは軽空母2隻に合流した護衛艦娘のいぶきの計3隻。力の差は歴然だ。できる限り聖地MIから離させる瑞鳳達。せとぎり は(頼んだよ。皆!)と思いつつシースパローで迎撃する。

 

 0530 第一攻撃部隊に赤城達が合流。上空での激しい航空戦が開始された。急上昇急降下そしてダダダダダダダと射撃する音に撃墜される敵機や味方機。次々と飛行場姫は戦闘機を繰り出してくる。未だに南にいる大和達に気づく様子は無い。

 

 「敵は完全に我々に集中しています。射撃開始を!」赤城が大和へ通信する。これを聞いた柏木は大和達に砲撃開始を指示した。

 

 「総員、射撃用意!」

 大和の掛け声で全員がミッドウェー島へ向けて照準を合わせる。

 

 「撃ち方始め!」

 

 ドドドドォン!

 

 大和の46センチ砲を始めとする対地攻撃部隊の砲が一斉に火を吹く。戦闘機を離陸させようとしていた飛行場姫はヒューンと言う音に気づき南の空を見上げた途端。大量の砲弾の雨が襲ってきた。

 

 ドカドッカーン!!!

 

 凄まじい爆発を起こし、周囲に衝撃波が広がる。

 「やった!?」

 蒼龍が声を上げるが、飛龍は…。

 「いや、まだよ。」

 その言葉の通り、ダメージは与えられたが…。未だに健在の飛行場姫。そして上空の敵機が砲撃部隊に向かい始める。

 「そうはさせない!」

 加賀が弓矢を放つ。加賀機は大和達に向かった敵機撃墜をするために南東へ向かっていった。だが、発艦させた直後…。

 

 ドォン!

 

 と、加賀が水しぶきに包まれた。敵弾が命中したのだ。これにより加賀は中破。流石の正規空母6人でも限界がある。この時点で既に主力部隊では加賀が中破に翔鶴が小破。囮部隊でも龍譲が大破し、いぶきは残存機0。やはり敵勢力は強い。情報を受けた第一護衛艦隊は各艦、ハープーンミサイルを発射し始めた。そしてこの艦も…。

 

 「了解、トマホーク攻撃始め!」

 

 バシュュュユユユ!!!!!

 

 前甲板のVLSから3発のトマホークミサイルが発射された。イージスシステムベースライン8となり、従来の2発誘導から3発誘導になった護衛艦みらい。GPSによる誘導で50キロ離れた飛行場姫の元へトマホークミサイルは飛んでいった。それと同時に対地攻撃部隊の大和達は第二次攻撃を開始した。

 

 ヒューン

 

 第二波が飛行場姫に命中する。そして第一護衛艦隊から放たれたハープーンやトマホークが間髪入れずに次々と着弾。飛行場姫は炎に包まれた。

 「シズメェ…。シズメェー!!!」

 と言い地面に倒れた。

 

 「…や、やった?」

 

 多くの機体を失いながらも制空権を確保し艦隊は集結していた。(瑞鳳達はそのまま海域より離脱。)

 みらい達、護衛艦隊にも一瞬安堵の空気が流れるが…。

 

 「ウオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

 突如、ゴジラの叫び声のような声が響き渡った。

 

 「一体なんです!?」

 榛名が驚くのも無理はない。あれだけのダメージを与えたにも関わらず、飛行場姫が再び活動を開始したのだ。そしてまた、上空に敵機が現れ…。しかも海中から空母ヲ級が1隻現れたのだ。

 

 「おい、嘘だろ!」

 「今までの攻撃は無駄だってこと!?」

 と、各艦から声が上がる。その状況はみらいCICでもモニターで確認できた。

 「TAO(攻撃指揮官)、トマホーク次弾用意。発射弾3発、続けて打て!」

 角松が指示をだしトマホークが再度3発発射される。柏木はみらいの様子を艦橋から見ていた。

 (これで決まらなければ…。全滅する!)と、思いながら。

 

 




激しい戦闘が繰り広げられるミッドウェー島。攻略に向けて各自奮闘してます。大量の砲弾に巡航ミサイルのトマホークが撃ち込まれた飛行場姫。だが、あれだけのダメージにも関わらず再度立ち上がりました。そこへみらいが新たなトマホークを発射。この戦いはどうなるのか…。この話、実はアニメの最終回辺りをモデルにしています。登場する艦娘は違うところがありますが、戦う艦娘達の応援。よろしくお願いいたします。


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航跡62:飛行場姫

 

 キィィィイイイインンン

 

 みらいから放たれた第二波のトマホークミサイル。到達まであと5分。傷を負いながら復活した飛行場姫に新たな敵空母。それを見た吹雪は呟いた。

 「これで最後のはずです。」

 「どうして?」

 飛龍が尋ねるが吹雪の顔はこれに賭けると自信に満ちていた。すると、大和が…。

 「吹雪さん。空母ヲ級の撃沈をお願いします。後方支援の第一護衛艦隊からは既にミサイルが発射されてます。榛名さん。吹雪さんの護衛を。」

 「はい。榛名は大丈夫です。」

 小破しているものの榛名は吹雪と共に敵空母撃沈に向けて戦列を離れた。そして大和が三式弾で敵機を撃墜し制空権を取る。

 

 「制空権確保!」

 赤城が叫び、各艦砲撃準備に入る。一方の吹雪と榛名は敵空母ヲ級と対峙していた。よく見ると顔を負傷している。以前、吹雪が対峙した隻眼のヲ級だ。吹雪の姿を見てにやけるヲ級。そこに間髪入れず「いっけぇー!」という声と共に吹雪の連装砲が火を吹きヲ級を撃沈する。撃沈を確認した大和が「砲撃用意…。撃ち方始めぇ!」

 

 ドドドドォン!

 

 残存艦が一斉に火を吹く。そしてそれと同時に上空を3発のトマホークミサイルが通過していく。そして、0712 敵飛行場姫は砲撃により爆散し戦闘は終わった。

 

 みらいCIC

 

 「敵飛行場姫の生体反応停止を確認。」

 「了解。総員、状況終了。」 

 報告を受けた角松が指示を出して、ようやく安堵の空気が流れる。辺りはすっかり明るくなり、艦橋からはミッドウェー島から上がる黒煙が遠く彼方に見えていた。

 

 今回のMI攻略作戦での我が国防海軍の被害は 大破1中破3 小破3 残弾・残艦積機無し2 だった。残った敵機も撃墜するか、どこかへ飛び去るか…。残存勢力による特攻などは行われなかった。また、この作戦により解放されたミッドウェー島飛行場に関しては同日午後に国防陸軍の空挺団がC-2輸送機を使い突入し奪還することが決定した。

 

 0930 だいせん 艦娘ドック

 

 次々と作戦に参加していた艦娘達が帰ってくる。中には被弾し負傷している艦娘も居るため、負傷艦はすぐに医務室へ運ばれた。そして、朝飯を食べ損なっているので、艦娘達にはおにぎりと豚汁が振る舞われた。

 

 「お疲れ様。」

 吹雪がおにぎりを食べているとポンと頭に手を置かれた。見ると中破した加賀だった。

 「か、加賀さん!?」

 「あなたのあの判断がなければ攻略出来なかったわ。ありがとう。」と、微笑みながら医務室へ向かっていった。加賀に誉められるなんて思ってなかった吹雪は顔が真っ赤だった。

 

 艦娘達を収容した 護衛艦 だいせん は護衛艦みらい や 護衛艦ぶこう と共に横須賀へ進路を向けた。既に情報を受けた国防空軍ののC-2輸送機が陸軍の空挺団を乗せてミッドウェー島へ向かっている。海軍の仕事はここまで。あとは空軍と陸軍に任せることになった。

 

 同日午後 1430 ミッドウェー島上空

 

 C-2輸送機から空挺団が降下する。それと共に、装甲車も5~6台が投下。島の北部から飛行場へ向けて前進を開始した。島の町は全て破壊されあとかもない。おまけに地面には逃げ遅れた住民の焼死体があちこちに転がっている。死臭が漂うなかで上陸部隊は飛行場へ到達した。飛行場姫は既に爆散し跡形もない。飛行場で残っている建物は、ほとんどなかった為に町中に残っていた役所の建物を臨時拠点として使うことになった。陸軍の装甲車が10台ほど並ぶ。簡易の通信設備も出来、外部との連絡もとれるようになった。

 3日後 国防海軍の輸送艦が物資を運びにやって来る、それまでの辛抱だ。

 

  

 




えーと…。ちょっと、話の都合上少しだけグロいシーンが入ってしまいました(-o-;)グロいの苦手な方すみません…。今回のMI攻略作戦は大破艦を出しながらもなんとか犠牲者を出さずに攻略成功となりました。海軍の動きはここまで。このあとは陸軍が調査にミッドウェー島に入ります。大規模作戦を終えて各艦娘達はホッとした様子です。何はともあれ、無事に作戦成功して良かったです。(筆者も書いててヒャヒャしてました(笑))


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航跡63:作戦終了

 

 12月8日 1600 護衛艦だいせん 浴室

 

 「ふぅ~。」

 頭にタオルを乗せて加賀がくつろいでいた。鎮守府の入梁ドックと違い5人入ると一杯の狭い浴室だが、だいせん型には艦娘達専用の浴室が設けられている。船のお風呂特有の海水をろ過したお湯。湯上がりは少しベタつくが、保湿・保温性が高いので冬場は特に温まる。今、浴室にいるのは加賀一人。一緒に入っていた赤城は先に出ていた。

 

 ガラッ…。

 

 「あっ…。」

 「何。五航戦。」

 

 ふと、風呂に瑞鶴が入ってきた。瑞鶴は今回の作戦では小破していた。一瞬無言の間が流れたが、とりあえず体を洗う。 

 

 チャプ…。

 

 仲の悪い二人が揃って風呂に入っている。とてもくつろいでいるようには見えないのだが。ふと、瑞鶴が話始めた。

 

 「きょ、今日は援護ありがとね…。」

 「…。」

 「援護があったから、MIが攻略できて作戦は成功した…。」

 独り言のように話す瑞鶴。すると、加賀は深いため息をついた後話始めた。

 「そうね。でもあなた方、五航戦が掃討しなければ…。MIの本格空襲は出来なかったわ。今回の作戦のことを忘れないで頑張ってね。今日はありがと。」

 と、言い。加賀は風呂から上がった。加賀に誉められるとは思ってなかった瑞鶴は顔を真っ赤にしながら黙ってしまった。

 

 加賀の予想外の言葉に驚き軽くのぼせた瑞鶴。風呂を出て脱衣場の自分着替えが入った棚を見ると…。

 

 「あれ?」

 

 そこにはタオルで作った小さなウサギが置いてあった。どうやら加賀が作って置いておったらしい。

 

 「ったく、こ、こんなのしなくたっていいのに(照)」

 

 1830 みらい食堂

 

 ガヤガヤ…。

 

 夕食時を迎えた食堂は手の空いた隊員達から順次、食事を取っていた。今日の献立はMI攻略成功を祝って、なんとビーフステーキだ。

 

 「おお。給養科えらい大盤振る舞いだな。」

 「よっしゃ!食うぞ!」

 「冷蔵庫にこんなのあったのかよ…。」

 等々、予想外のメニューに驚く隊員達。その頃…。片桐は自室でカメラのデータ整理をしていた。

 

 カチッカチッ…。

 

 (出港から半年…。皆、顔つきが変わったな。)

 と、自分のノートパソコンの写真を見つめる。出港時の写真と今の写真。二つを見比べると若さやあどけなさが残っていた隊員達の顔が、いつしか軍人の顔になっていた。それは幾つもの死線を潜り抜け、自らが生きているということを意味していた。

 

 「おっと。」

 

 ふと、書類の一部が崩れた。その中に報道関係者のことを示す身分証明書兼乗艦許可証が出てきた。

 「おや、こんなところにあったか。」

 と、証明書を拾う。そこには満面の笑みと海上自衛隊の航海演習に参加できる楽しさで写る自分が写っていた。

 「この仕事でまとまった金が入ったら、新しいカメラを買おうと思ってたんだけどなぁ~。」

 と、鏡に映った自分と身分証明書の写真を見比べる。そこに写っていたのは、隊員達と同じ戦火を潜り抜け…。報道関係者としての熱意に燃えている自分だった。

 

 2130 だいせん 艦娘待機室

 

 ここは護衛艦だいせん艦内の艦娘達が待機したり会議をする部屋だ。いぶき型護衛艦より設置された戦闘機パイロットの待機室の艦娘専用バージョンと言ったところ。部屋のすぐ隣は出撃ドックだ。その割りには、艦娘という女の子の部屋。殺風景な戦闘機パイロットの待機室と違い、気配りのできた整理整頓されつつも可愛らしさのある部屋だ。その部屋のリクライニングシートでゴロゴロしている艦娘が居た。駆逐艦 雷 だ。本来、彼女は第六駆逐隊所属。姉妹の暁 響 電 とはとても仲が良く、いつも一緒に行動しているのだが、今回の作戦では離ればなれになってしまったのだ。雷は今回の作戦では負傷しなかったものの、全弾使い果たすという派手な戦い方をしたのだ。

 

 「ふわぁ~(眠)」

 

 最新鋭の護衛艦とは言え、陸地との通信は業務用が優先。唯一衛星電話が各艦1ヶ所に搭載されているが…。通信科に申請しないと使えない。

 

 「皆、何してるのかなぁー。」

 

 と、自分のスマホを弄くりながら呟く。今居るのは太平洋のど真ん中。携帯の電波が入らない。ちらっと第六駆逐隊グループLINEの通知を見たが、[ネットワークに接続してません]とエラーが出るだけ。暇でしょうがない。この待機室にある本は全部読んでしまったし、どうしようかと思っていると…。

 

 「あれ…?雷ちゃん?」

 

 入ってきたのは弥生だった。弥生は風呂上がりの部屋着姿。首からタオルを下げていた。

 「…弥生ちゃん?」

 

 弥生は物静かで口数も少なく、雷は話しかけたことがなかった。

 

 「…きょ、今日の戦闘は大丈夫だった?」

 「うん。大丈夫。」

 と、話しかけてみるがなんか話が続かない。弥生は無表情。笑ったところを見たことがある艦娘は横須賀でもそんなに居ないという噂だ。

 

 「ところでさ、今日の夕飯のビーフシチュー美味しかったよね?」

 と、雷が話したところ弥生が意外な反応を見せた。

 「うん。ビーフシチュー…。弥生も作ってみたいかも。」

 「えっ?」

 弥生が話したのは料理作りをしてみたいという言葉だった。実は弥生は、鎮守府の中で隠れた料理好きで…。自分で料理作りをしてみたいと日頃から思っていたのだ。

 「ねぇ!横須賀に戻ったら鳳翔さんのところで料理を一緒に作らない?」

 「え、弥生…。いいの?」

 と、雷の言葉に驚く弥生。雷も実は提督に好かれたいということで、料理作りを鳳翔さんから習っていたのだ。後日、横須賀に帰投した雷達。弥生は料理作りを鳳翔さんのところで習うことになった。勿論、第六駆逐隊のメンバーも一緒だ。MI作戦も終わり、一段落ついた横須賀鎮守府。暫しの平和が訪れたのだった。 

 

 

 




 今回はMI作戦が終わり、各登場人物のホッとした様子を書いてみました。瑞加賀コンビですが、少しは溝が埋まったかな?と思っています。そして、ここまで出番の少なかった第六駆逐隊の雷ちゃん。昔の装備を持つ艦娘がスマホを弄くる…。ちょっと可笑しいかもしれませんが、現代っ子って感じにしてみました。なんか、弥生ちゃんと横須賀に帰投したら何かしそうですね。楽しみです。


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航跡64:ミッドウェー島

 

 島の舗装されてない夜道を陸軍の87式偵察車を先頭にした車列が走る。強襲揚陸艦の[のと]を引き連れた上陸部隊が到着したのだ。島の西側に上陸した陸軍の部隊は、先に上陸していた空挺団の部隊と合流。島の飛行場姫が居た空港跡に向かっていた。

 

 「海軍も派手にやりましたね。」

 と、車列の中の化学防護車の中で隊員の一人が話す。

 「ああ…。だがな、俺たちの任務。忘れるなよ。」と、中年の隊員が話す。この隊員は 渡良瀬 佑介 東部方面化学防護小隊 隊長 。元陸上自衛隊大宮化学部隊の隊長で、防大卒の陸軍幹部候補。深海棲艦の実態解明に人生を捧げている。今回、MI作戦完了後のミッドウェー島上陸部隊に異例の化学防護小隊に出動要請。渡良瀬達は敵深海棲艦の遺体及び兵器のサンプル採取を命ぜられていたのだ。

 

 ブロロロロロ…。

 

 夜道を走り、簡易の陣地についた渡良瀬達。サンプル採取は明朝からだ。島の中は焼けただれて、草木が一本もない。不気味なほど静まり返った暗闇のなかに浮かぶ十数個のテント集団。車から降りると焦げ臭い火薬の匂いが鼻を突く。今夜はここで宿泊だ。

 

 12月13日 0800

 

 夜が明け島の上空をCH-47Jや多用途ヘリが飛び交う。その中で渡良瀬達は島の飛行場姫が居た跡地へやって来た。

 

 「こりゃ、凄いな…。」

 

 唖然とする渡良瀬。そこには多くの深海棲艦の艦積機の残骸が広がっていた。

 

 「おい、足元気を付けろよ。」

 

 ザッザッザッ

 

 不安定な足元を進むと爆散した飛行場姫の残骸が転がっていた。青い肉片…。不気味な色に渡良瀬は息を飲む。

 

 ガン!ガラガラ…。

 

 化学防護車の荷台に放射能マークが付けられた大きなステンレス製の缶が積まれる。中には飛行場姫の残骸が入っている。また、海岸では深海棲艦のタコ焼き型戦闘機が流れ着いていた。

 

 1600 ミッドウェー島宿営地

  

 数々の深海棲艦の残骸を集めた陸軍上陸部隊。その中のとあるテントで飛行場姫の残骸の解剖作業が行われていた。

 

 レントゲンの写真を見ながら派遣された医師の男声が話す。

 

 「これは、人間に極めて近い構造ですね。」

 「まさか、深海棲艦は人間?」

 と、同席していた渡良瀬が質問する。

 「いや、損傷が激しいですし…。第一、解剖してみないと分かりませんがね。渡良瀬さん。古代文明でムー大陸というのご存じかな?」

 「ムー大陸ですか?ええ、本で読んだことはありますが…。」

 「今から約1万2000年前に存在していた幻の大陸だ。あくまで伝説上の大陸だが、そこの文明ははるかに高度の文明を持っていた…。」

 「まさか、そのムー大陸の生物が深海棲艦の正体?」

 と、驚く渡良瀬。医師は「あくまで仮説。」だと言うが…。その夜、 深海棲艦の現れた場所とムー大陸が存在していたとされる場所。不思議と一致していることに疑問を持つ渡良瀬だった。

 

 12月14日 護衛艦みらい 資料室

 

 カチャカチャカチャ

 

 資料室で菊池がパソコンを打っていた。梅津元艦長に提出する航海記録だ。

 

 「…ふぅ。」

 

 一通りの情報を打ち込み航海記録を完成させた菊池。一息付くためにコーヒーを飲む。

 

 [MI攻略作戦報告書]

 

 と、書かれた報告書。一息付いた菊池は保存してタブを消す。そしてもうひとつのファイルをクリックする。数秒の読み込みの後、パスワード入力画面が出てくる。パスワードを入力するとあるタブが出てきた。そこには…草加小佐との通信内容が記載されていた…。

 

 黙々とパソコンを打つ菊池…。そしてエンターキーを押す。あるメールが送信されていく。汗が額から顎に垂れてくる。その汗を拭き取り、菊池はパソコンを閉じた。

 

 

 




今回の話は陸軍中心の話です。アニメのMI作戦では描かれなかった舞台裏。ミッドウェー島の調査です。ちょっと、シン・ゴジラやガメラ2とかの要素を入れています(笑) この話単体だと艦これ要素が全くない話になってしまいましたが、以前、沖ノ鳥島沖で謎の海底構造物が見つかったことがありましたが…。どうもそれに関係しそうです。ちょっとグロい描写が多くなりましたが、次回は平和な話にしますのでこれからもよろしくお願いいたします。


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年末休息編
航跡65:クリスマス


 

 12月24日 横須賀鎮守府 駆逐艦寮

 

 クリスマスを控えた横須賀鎮守府。駆逐艦寮ではクリスマスに備えてイルミネーションの準備が行われていた。

 

 「さてと!クリスマスパーティーに備えて料理の仕込みをしなくちゃ!」駆逐艦寮の自炊用の台所には第六駆逐隊を始めとする、何人かの駆逐艦娘達が集まっていた。毎年恒例の艦娘達によるクリスマスパーティー。料理自慢の艦娘達が腕を振るうのだが…。今回は珍しく第六駆逐隊が参戦していた。

 「よーし!この前だいせんで食べたビーフシチューを作ろう!」

 今回のメニュー決めは雷だった。ビーフシチューといっても、ルーは市販のを使用するから大きな問題はないと思われるが…。果たして上手く出来るのだろうか? と、たまたま用があって駆逐艦寮に来ていた柏木は心配していた。

 

 「野菜切ったのです。」

 「お、お肉はこうでいいかしら?」

 「大丈夫。問題ない。」

 と、慣れない手つきで料理を進める第六駆逐隊。そこへ弥生がやって来た。

 「みんな。なに作ってる…って、あっ…。」

 「せっかくだから弥生ちゃんも一緒に作ろ!」

 と、弥生の手を引っ張る雷。と言うわけで弥生もビーフシチュー作りに参加することになった。

 

 コトコトコト…。

 

 鍋で具材が煮えている。ふと、暁がじゃが芋を入れようとする。それを弥生が

「暁ちゃん。ちょっと待って、今入れたら煮崩れちゃう。」と、制止した。

 「えっ?でも、どうするのよ。」

 どうやら第六駆逐隊のメンバーはビーフカレーの具材で作っていたようだ。弥生は少し考えた後、あることを思い付いた。ふかしたじゃが芋を潰してコンソメスープと生クリームを入れて滑らかなペースト状にする弥生。どうやらマッシュポテトを作っているようだ。

 

 「…これ。食べてみて。」 

 と、弥生に言われて味見する。

 「あっ!」

 「すごーい。」

 「美味しいのです。」

 「ハラショー」

 と、弥生の意外なところに驚く雷達。第六駆逐隊が作ったビーフシチューに付け合わせの弥生が作ったマッシュポテト。お皿に盛り付けると本格的な洋食料理だ。すると…。

 「いい匂いがするけど…。第六駆逐隊は何を作ったのかい?」と、同じ自炊室で料理を作っていた時雨が声をかけてきた。時雨はラザニアを大和から教えてもらったレシピで作っていた。

 

 「凄いね。皆で作ったのかい?」

 と、出来の良さに驚く時雨。時雨も料理好きで良く作っているけど、第六駆逐隊のカレー以外の料理は初めて見た。

 

 「ど、どうかな?時雨さん。」

 と、暁が味見してと頼んできた。

 

 「うん。味も大丈夫だし。お肉も柔らかく煮えてるよ。これなら皆に出しても大丈夫だね。」

 と、時雨からOKが出てホッとする5人。時計を見るともう、5時半だ。クリスマスパーティーは18時から…。料理完成はちょうどいいタイミングだ。

 

 1800 駆逐艦寮 食堂

 

 パパパーン

 

 「メリークリスマス!!!」

 

 クラッカーが割れて白露の掛け声でクリスマスパーティーが始まった。料理自慢の艦娘達が腕を振るった料理がテーブルに並ぶ。第六駆逐隊と弥生が合同で作ったビーフシチュー&マッシュポテトに時雨のラザニア。吹雪達第十一駆逐隊が作ったスモークサーモンのサラダ等が並ぶなか、空母寮から赤城達がやって来た。加賀と瑞鶴の両手には大きな白い箱がある。

 

 「皆さん。先日のMI作戦はお疲れ様でした。これは私達からのクリスマスプレゼントです。」

 と、赤城が話し…。加賀は箱の一つを瑞鶴に手渡す。妙に顔がひきつってる瑞鶴だが、テーブルに箱を置いて。蓋を開けると…。

 

 「うわぁー!」

 

 と、歓声が上がる。2種類ある箱の1つはなんと、七面鳥のローストチキンだ。

 「これは加賀さんと瑞鶴さんが作ったのよ。」と、赤城が説明すると加賀が「ね。七面鳥。」

と、瑞鶴に声をかける。勿論…。

 「七面鳥ですって!冗談じゃないわ!」と、瑞鶴は反論するが…。珍しく加賀相手なのにお怒りモードではない。横では二航戦がクスクス笑っている。もうひとつの箱は瑞鳳と二航戦の三人で作った大きな苺のクリスマスケーキだった。

 

 「でさー。蒼龍ったらコソコソ苺をつまみ食いしてたのよー。」

 「飛龍だって、生クリームをいつのまにか鼻にくっつけてたじゃない?」

 と、ノンアルコールのシャンパン片手に話す二航戦の二人。

 「ほんま、このサラダおいしいわぁ~」

スモークサーモンのサラダを食べる黒潮に

「時雨、ほんとに料理上手っぽい。」と夕立。

 「第六のビーフシチューもおいしい!」と、白雪。「このマッシュポテトおいしいね。えっ?弥生ちゃんが作ったの!?」と、弥生の意外な所に驚く吹雪。

 「五航戦、食べなさい。」と、七面鳥を瑞鶴に押し付ける加賀。と、久しぶりの平和な時間が流れる横須賀鎮守府。すると、賑やかなのを聞き付けた柏木がやって来た。

 

 「あっ!司令官!よかったらご一緒しませんか?」

 

 と、吹雪に誘われて柏木もクリスマスパーティーに参加する。窓の外にはクリスマスの特別イルミネーションを施した護衛艦みらい等が輝いていた。

 

 その頃…。みらい艦橋のデッキでは。

 「あぁ、今日は一段と冷えるな。」

 と、防寒着姿で角松と尾栗が話をしていた。みらいの艦橋からは丁度、クリスマスパーティーを行う駆逐艦寮の様子が見えていた。

 「あの子達楽しそうだなぁ~。」

 「やっぱり、何人か会ってきたけど…。やっぱり女の子なんだな。」

 と、尾栗の言葉に返答する角松。今夜は曇りの割にはとても寒い。吐く息も真っ白だ。

 

 「ん?」

 

 ふと、角松の鼻に冷たいものが付く。

 

 「おっ。なんだ?雪か?」

 尾栗が空を見上げると…。白い雪がパラパラとちらついていた。

 

 「…ホワイトクリスマスだな。」

 「ああ…。」

 

 その夜は例年にない記録的な寒波が関東地方を通った。夜の初めから降り始めた雪は次第に強くなり一晩で抜けたものの、翌朝…。横須賀の町は真っ白な銀世界に包まれていた。

 

 




季節がちょっと早いですが、今回はクリスマスの話です。今年もあと2か月…。季節が過ぎるのは早いものですねぇ~(^^; 前回まで、MI作戦の影響でちょっと過激な描写や難しい表現が多かったので今回は箸休め的な感じで書きました。最近、なんだか他のゲームに押され気味の艦これですが…。私は艦これ一筋ですね。(ここまでハマったゲームは艦これが初めてでした。)背水の陣状態の艦これですが、ガンバレ!!!


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航跡66:年末

ずいぶん更新まで時間がかかってしまいました。楽しみにされてた方々すみません。今回は年末の、のんびりしつつ…。慌ただしい雰囲気を味わえたらなと思いながら書きました。今回の主役は第六駆逐隊ですかね?
(暁が出てきますが、先日E2で戦死してしまいました(;ω;)暁ごめんなさい。)


 

12月31日 0900 横須賀鎮守府空母寮

 

 ザッザッザッ

 

 霜柱を踏みながら寮の前を赤城と加賀が歩いていた。明日は元旦。新年の始まりに備えて色々と買い出しをしに市内へ出掛けるのだ。とりあえずくじ引きで買い物係に任命されたのだが…。一緒に買い出しに行く五航戦が来ない。

 

 「翔鶴姉まだ?」

 「ちょっと待っててね。」

 翔鶴は買い物リストを書いていた。必要なものをまとめていたのだ。

 

 

 「遅いわよ。五航戦。」

 玄関前で霜柱を踏みながら暇を潰していた加賀が二人に声をかける。赤城はどっからか温かい缶コーヒーを持ってきて飲んでいる。

 「ごめんなさい加賀先輩。実はこれ…。」

 翔鶴がメモを見せる。すると加賀は…。

 「書いているなら、伝えなさいよ。」

 と、話す。とりあえず買い物リストがまとまったので市内へ買い物に出る。鎮守府を出て歩いて近くのイオンに向かう。正月ムード真っ盛りのスーパー。加賀達は空母寮で食べる分の食材を買っていた。既に寮では鳳翔や瑞鳳等料理が得意なメンバーに二航戦の二人も加わり前日から仕込みが始まっていた。

 

 「えっと、これで全部かしら?」

 と、山積みのカートを見ながら赤城が呟く。空母寮での食材の消費は多いため、鎮守府にあるものだけでは実は足りないのだ。カートの中にはつまみに酒、ジュース等の娯楽用の食べ物がぎっしりだ。といっても、カート1台2カゴで1日分。それが2台だ。

 

 他に買うものがないかとスーパーの中をうろうろしていると…。

 

 「あれ?加賀さんじゃないですか?」

 声をかけてきたのは護衛艦娘のゆきなみだった。なぜか一緒に第六駆逐隊を連れている。

 「ゆきなみさんこそ、どうしたの?」

 赤城が尋ねると…。

 「いや、普段、第六の面倒を見てくれてる天龍が大掃除にかり出されちゃって…。それで非番の私が面倒見てるって訳。」と、笑いながら話す。

 「ちょっと!暁は子供じゃないんだからね!」と、暁がすかさず突っ込みを入れる。第六駆逐隊の方は、正月三が日に食べるお菓子と飲み物を買いに来ていたとの事だ。

 「ところで君たち、炭酸飲めるの?」

 と、瑞鶴が尋ねると…。

 「ハラショー。ラムネは美味しい。」

 「メロンソーダーにアイスを乗せて食べるのです。」

 「雷はコーラー飲むわ♪」と、三人の話を聞いていた赤城がよだれを垂らす。

 「赤城さん。よだれ…。」

 と、耳元で加賀に言われて慌ててよだれを拭く。ところが暁がなんか、もじもじしてる。

 「どうしたの?暁さん。」

 と、翔鶴が尋ねるが…。瑞鶴が…。

 「もしかして暁、炭酸ダメなの?」

 と、話した。

 「あああ暁は子供じゃないんだからね!炭酸なんか、へっちゃらだし!」

 と、冷や汗をかきながら暁が話す。どうやら炭酸は少し苦手のようだ。

 

 買い物が終わりイオンから出る途中、護衛艦みらいのメンバーが最終日となった歳末くじをやっているのを見つけた。

 

 「ちぇっ、たわしかよ。」

 「お似合いじゃないか尾栗。」

 「大丈夫だ。俺もたわしだ(笑)」

 と、角松 尾栗 菊池 が談笑していた。

 「角松さん、尾栗さん、菊池さん。こんにちは。」

 と、ゆきなみが挨拶する。気づいた三人は加賀達の姿を見ると驚いた。空母組全員、両手一杯の買い物袋を持っていたからだ。

 「こんにちはー!」

 と、第六駆逐隊が挨拶する。

 「おっ、暁ちゃん少し背が伸びたんじゃないのか?」

 と、尾栗が暁の頭を撫でる。

 「あ、ありがとう…。お礼はちゃんと言えるし。」

 と、さっきまでご不満だった暁の機嫌も治ったようだ。

 「それよりやってくか?くじ引き。一等は旅行券だってよ。ま、俺たちは皆たわしだったけどな。」

 と、角松が苦笑しながら話す。

 「3日前からやっていて、未だに1等の旅行券と3等のお米1年分が出てないところを見ると、確率は高くなっているな。」

 と、菊池。レジでもらったくじ引き券は空母組と第六合わせて8枚。そこに菊池が1枚譲ったので合計9枚だ。話し合った結果、第六駆逐隊のメンバーがそれぞれ2回ずつ引いて…。残りの一枚は空母組を代表して赤城が引くことになった。

 

 くじをひいた結果、たわしが1つにトイレットペーパーが4つ。洗剤が2つだった。第六駆逐隊最後のくじは電だ。

 

 ガラガラガラ…。

 

 当たったのはフルーツ缶詰のセットだった。

 「はわわ!フルーツ缶が当たったのです。」と、大喜びの第六駆逐隊。そして最後に赤城がくじは引く…。すると、まさかのお米一年分が当たった。

 

 「大当たり!!!」

 と、くじ引きコーナーの係員が鐘を鳴らす。

 「やったわ!」

 と、喜ぶ赤城。空母組にとって、米一年分獲得は大きい。

 

 後日、米一年分が届けられた横須賀鎮守府。柏木提督は物凄く驚いたそうだ。

 

 



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航跡67:大晦日首都圏空爆

えーと、遅れを取り戻すためにも連続投稿です。時は大晦日。一年の締めくくりですが、深海棲艦は待ってくれません。千葉県沖から飛行する不気味な黒い物体。それを捕捉した国防空軍がスクランブル(緊急発進)をかける!


 

 12月31日 2000 みらい後部甲板

 

 「うー。今日は一段と冷えるなぁ…。」

 と、手を揉みながら尾栗が歩いていた。航海長としての今年最後の見回りをしていたのだ。既に艦尾の護衛艦旗も下ろされ、明日の正月の準備が進んでいた。

 「おっ、航海長。」

 「なんだ、佐竹か。」

 ヘリ格納庫の海鳥の操縦席に座ってくつろいでいた佐竹が声をかけてきた。

 

 「…この世界で年明けを迎えるとはねぇ。」

 と、佐竹が呟く。二人は後部甲板に座り話していた。

 「なぁ、佐竹。家族の事をちゃんと覚えてられるか?」

 「…どうしたんです?航海長。」

 「いや、現実世界に残してきた家族とさ…。なんか、二度と会えない気がしてさ。」

 と、珍しく尾栗が弱音を吐く。

 「そんなこと言っちゃ、ダメだと思います。俺だって、南房総に家がある。いつかは帰れますよ。」

 と、話した。空は綺麗な星空。明日の初日の出は期待できそうだ。

 

 その頃…。横須賀鎮守府の食堂では鳳翔手作りの年越蕎麦が振る舞われていた。NHKの紅白歌合戦を見ながら食べる年越蕎麦。年末恒例の行事だ。

 

 ガヤガヤ…。

 

 艦娘達で賑わう食堂。セルフサービスで用意された年越しそばに各自好きな天ぷら皿に取る。以前は盛り付けてから配っていたのだが、だんだん艦娘達が増えてきた為に讃岐うどんのセルフ方式を取ったのだ。そのお陰で、海老天だけだった天ぷらの種類が5種類ほどに増えて要望の多かったかき揚げもメニューに追加された。

 

 「さてと!来年に備えて食べましょ!」と、吹雪が同席の第十一駆逐隊のメンバー(白雪 初雪 深雪 )に声を掛けた。

 

 「いただきます!」

 

 早速、吹雪は暖かいそばをすする。鳳翔さん達有志のメンバーがそば打ちをしている本格的な二八蕎麦だ。つゆも自家製。鰹と煮干しの魚介系のあっさりかつ風味豊かな出汁だ。深雪は大きな海老天にパクついていた。

 「ほほ、えひへんおいひぃ~♪」

 (この、海老天美味しい~♪)

 口一杯に頬張っている上に熱々の揚げたてなので、何をいってるかよく分からない。

 

 見回りや任務の関係で交代しながら食べているが、非番組は食堂の片隅でテレビを見ていた。NHKの紅白歌合戦だ。この年最後の夜、横須賀鎮守府は静かな夜だ。しかし、深海棲艦は待ってくれない。

 

2205 千葉県銚子市犬吠埼北東450キロ

 

 キイイイイン

 

 不気味な黒い飛行機が東京に向け飛行している。その腹には大型の爆弾が積まれていた。

 

2210 国防空軍 中部方面作戦司令室

 

 「状況はどうなってる?」

 作戦指令が尋ねる。

 「はっ、夜襲対応の敵新型機と思われます。」

 「数は?」

 「数は3、首都圏到達まで20分です。」

 

 作戦室のモニターには赤く表示された3つの矢印が東京方面へ向けて進行していた。

 「司令!百里と小松からスクランブルしました。」

 「了解、入間の高射隊にも緊急伝達。PAC3による迎撃も準備しとけ。」

 「会敵予想時刻 ウィザード03 は2220。プリースト05、2225」

 

 「目標、進路変わらず。依然進行中。」

 「司令、迎撃しますか?」

 「いや、目標を目視確認してからだ。だが、首都圏に入る前に必ず落とす。」

 

 モニターのレーダーでは、百里基地から上がったウィザード03 (F15J 2機)が犬吠埼沖合で識別範囲内に入った。

 

 「Wizards 03, confirm three targets?」(ウィザード03 目標の3機を確認することは出来ますか?)

 「Negative contact. Request, target position.」(確認できない。目標との位置を斯う。)

「Target dead head three mile, altitude three-two.」

 (目標との距離5000メートル、高度32000フィート。)

 

 「司令。ほぼ同位置です。一旦、離れた方が。」

 「いや、首都圏上空に入ったら攻撃不可能だ。」

 

 「Wizards 03, negative contact. We don't bogey Lock-on!! I say again, negative contact!!」(こちらウィザード03、目標を捕捉出来ない!!繰り返す、目標を捕捉出来ない!!」

 

 モニターには赤と緑の矢印がほぼ同位置に重なっている。F15のパイロットが必死に探すが見当たらない。

 

 「Wizard, breaking!」(ウィザード、退避してください!)その言葉が管制から流れたのとほぼ同時にモニターから緑の矢印が消え、警告音と共に×印が表示された。

 

 「ベールアウト…。撃墜された?」

 「まさか?」

 

 「目標、進路を成田方面に向け西進。プリースト05会敵まであと5分!」

 

 同時刻千葉県銚子市犬吠埼灯台

 

 「おい!なんだあれ?」

 灯台の整備に来ていた海上保安庁の職員が海に落下する飛行機を目撃した。他にも近隣沿岸部の住民から爆発音が聞こえた。火の玉が海に落ちるのを見た!等、千葉県警に110番通報が相次いだ。

 

 2215 千葉県成田上空

 

 「This is Priest 05. Target insight. 」(こちらプリースト05 目標を捕捉。 )

 

 敵はやはり深海棲艦の戦闘機だった。黒く航空管制灯の無い機体だが、月明かりに照らされて不気味に輝いている。小松からスクランブルしたブリースト05 はF35Aの3機だ。加速して急速に近づいていく。

 

 同時刻 成田国際空港管制塔

 

 「これか、東京コントロールから連絡があったやつは。無茶しやがる。」

 「こっちに来てるぞ!」

 「アプローチに入ってる便を除いて全て上空待機だ。高度に注意しろ!」

 「国際線は関空と中部に回せ!」

 

 成田国際空港の出発ロビーの電光表示が消えていく。

 「ただいま。上空の天候が不安定となっています。このため出発並びに到着便の運行を見合わせています。」

 と、ロビーに放送が入る。

 

 キイイイイン

 

 成田国際空港上空を月明かりに照らされてながらF35Aが飛んでいく。

 

 「首都圏到達まであとどれぐらいだ?」

 「あと、60秒ほどです。」

 「やむを得ない。人口密集地に入る前に落とせ。兵器使用を許可する。」

 

 「Priest 05, this is HQ. Cleared fire, kill the target. I say again, shot down enemy aircraft.」(プリースト05 、こちら作戦司令室。攻撃を許可する、敵機を迎撃せよ。繰り返す、敵性航空機への攻撃を許可する。)

 「Priest, wilco. Engage the enemy.」(プリースト、了解。敵機と交戦する。)

 

 バシュュュ!!!

 

 一斉に放たれる対空ミサイル。通常の深海棲艦の戦闘機ならこれで充分落とせる。だが…。

 

 パパパパパ

 

 まさかのチャフを撒き、ミサイルを交わしたのだった。これにパイロットは驚いた。

 「Bogey dropping chaffed. Missile losing.」(ミサイル命中せず。チャフで躱された。)

 

 空中戦を繰り広げるなか、1機の敵機が隙を見て切り抜けてしまった。

 

 2220 護衛艦 みらい CIC

 

 「連絡は聞いていたが、敵の新鋭機か。」角松がモニターを見ながら呟く。この事態に護衛艦娘達に緊急召集が掛けられていたのだ。夜間飛行が出来るのは DDV-192 いぶき の艦積機だけだ。柏木提督の指示で横須賀鎮守府から緊急でスパロウ隊を上げることになった。

 

 (…頼んだわよ!)

 

 いぶき は矢に無事に帰艦するように願いを込めて、矢を夜空に放った。

 

 2225国防空軍 中部方面作戦司令室

 

 「横須賀より伝達。護衛艦娘いぶきのF35JBスパロウ隊が迎撃に上がりました。 」

 

 それに寄せられたのか…。敵機が南西に進路をとる。そのルートの先には横須賀。敵の目標は首都圏空襲に見せかけた、横須賀鎮守府への攻撃だった。

 

 2228 千葉県 成田山新勝寺

 

 初詣を待ちわびる参拝客が上空の爆音を聞き空を見上げている。上空ではF35Aと深海棲艦の爆撃機のドックファイトが繰り広げられている。

 

 2230 国防空軍 中部方面作戦司令室

 

 「スパロウ隊 会敵予想時刻修正 2232」

 

 いぶき のF35JBが目標を捕捉した。だが、真下は人口密集地。下手に攻撃はできない。そこでスパロウ隊は東京湾上空へ誘引した。

 

 「目標捕捉。攻撃を開始する。」

 と、いぶき のパイロット妖精が いぶき に連絡する。

 

 バシュュュ

 

 敵機の死角を取った いぶき のF35JBが放ったミサイルは見事に命中した。横浜沖合で花火のように爆発する敵機。みなとみらいで年越しカウントダウンをしていた人々は、花火が誤発射されたと思っていた。同じく成田上空でドックファイトを繰り広げていたプリースト隊も2機撃墜し状況は終了した。3機の敵機は共に人気のない海や畑に墜落し怪我人などの報告はなかった。

 

 2240 国防空軍 中部方面作戦司令室

 

 「状況終了。ブリースト05は帰途せよ。」

 「海軍へ連絡。犬吠埼沖にてウィザード03の遭難信号を受信。哨戒ヘリでの救助を求む。」

 だが、百里基地から上がったウィザード隊は撃墜され、生還した人は居なかった。

 

 2300 横須賀鎮守府

 

 迎撃任務に当たっていた いぶき のF35JBスパロウ隊が帰艦した。

 

 「…お疲れ様。」

 

 手元に戻った5機のF35JB。いぶき は内心ホッとしていた。尖閣紛争の時に2機、撃墜され帰艦しなかったからだ。百里のウィザード隊の捜索は館山基地航空隊が行うこととなった。

 

 「…いぶき。」

 ふと、柏木提督が声をかけてきた。

 「遅くにすまなかったな。上げてくれと頼んで。」と、温かいお汁粉の缶を渡す。

 「いえ、夜間にスクランブル(緊急発進)できるの…。私だけですから。」

 と、いぶき は提督からもらったお汁粉を飲んだ。

 

 

 




相変わらずのLINE翻訳です。(英語が苦手なのでごめんなさい…。)間違っていたら修正。お願いします。今回の話は、機動警察パトレイバーの 幻の首都圏空爆 の話を参考にしてみました。


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航跡68:元旦

 
 大晦日の深海棲艦の謎の行動。それを知ってか知らずか、新年を迎えた横須賀鎮守府。思い思いに正月を過ごす艦娘達の裏では、緊急の対策会議が開かれていた。



 

パンパン!

 

 朝早く、尾栗が艦内の神棚にお参りしていた。

 (この一年が、我々にとって素晴らしい一年でありますように。また、この戦いが早く終わりますように。)

 

 お参りを済ませ、艦橋に出ると東の空が明るくなっていた。艦これ世界の西暦2013年 新年の幕開けである。

 

 昨夜の事件は柏木提督を初めとする一部関係者だけの極秘事項となっていた。そうとも知らず、艦娘達は朝から大騒ぎである。お年玉を頼む者。寝正月の者。餅を食べまくる者。遊ぶ者。等々様々だ。護衛艦みらいでも、給養科がつきたての餅を配るなど正月らしさが感じられていた。

 

 1000 横須賀鎮守府 会議室

 

 正月早々、昨夜の深海棲艦の事について会議が行われていた。

 スクリーンに迎撃したF35の暗視カメラ画像が映される。音声は収録されてないが、確かに小松からの報告の通りチャフらしきものを撒き、ミサイルを回避しているのが映っていた。映像が終わり柏木が話始めた。

 

 「ご覧の通りだ。まだ、定かではないが…。仮に深海棲艦の爆撃機だとすると、戦闘が厳しくなるだろう。」

 その言葉は、深海棲艦が近代兵器を入手した可能性があることを示していた。

 「提督、仮に近代兵器を入手した可能性があるとして我々が対処すべき方法は?」

 と、護衛艦 あまぎり の岸 涼子艦長が尋ねる。彼女は国防海軍護衛艦で3人いる女性艦長の一人だ。防衛大学を女性幹部候補生トップで卒業。尖閣紛争時は後方支援に当たっていたが、前任の海老名艦長から抜擢されて現在に至っている。

 「近代兵器を持つ護衛艦娘達の出番。かもしれないな。だが、我々護衛艦隊の運用も必要不可欠だ。その事は皆も承知してもらいたい。」

 

 正月早々の緊急会議が終わり、会議室から各艦の艦長らが退出していく。角松も出ようとしたとき、岸艦長から声をかけられた。

 

 1230 護衛艦 あまぎり 艦長室

 

 岸に誘われ、角松は あまぎり で話をしながら昼食を取ることとなった。

 

 「質素な食事ですが、どうぞ。」

 と、昼食が出される。焼き魚に吸い物 漬け物 に赤飯 そしてお煮しめ。

 岸と角松は昼食を取りながら、話を始めた。

 「提督の発言は、力がありましたね。」

 「ええ。」

 「角松艦長、あなた方が別の世界から来たと言うことは提督から聞きました。艦これというゲームが存在する世界からと…。」

 その言葉に角松は息を飲んだ。

 「…ええ、その通りです。我々はあなた方と違う世界からやって来た。」

 「その艦これというゲームは深海棲艦が出てきますよね?そのなかに昨夜の機体はありましたか?」

 「いえ、現時点では調査中です。」

 「そうですか。でも、よかった。」

 「えっ?」

 「あなた方が我々の力になってくださっていること。これ迄の戦闘データから見てきました。見ての通りこの艦は旧型です。イージスシステムなんて最新の防空システムなんてない。でも、我が横須賀の対潜能力では一番です。」

 

 

 「もし、よろしければ次の作戦時に同伴したいです。」と、岸は深々と頭を下げた。角松はこれ迄の戦闘を振り返り尋ねた。

 「覚悟は出来ているのか?」

 

 角松が心配したことはひとつ。梅津艦長時代の時に、同伴していた護衛艦 あらなみ が撃沈されたからだ。

 

 「皆、覚悟は出来ています。」

 

 岸は呟いた。別れ際、タラップを降りる際に角松は 護衛艦 あまぎり の様子を見た。我々護衛艦 みらい より3世代も前の艦だ。だが、熱意は熱く感じられた。艦全体の士気最高潮。女性艦長といっても、同じ人間。これ迄、あまぎり は旧型扱いばかり受けていたためほぼ練習艦同様の扱いを受けていた。それを克服し、再度、日本の盾になりたいと名乗り出たのだった。

  

 



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航跡69:見舞い


昨年のキスカ撤退作戦時に負傷した梅津艦長。角松は新年の挨拶をしに梅津が入院している横須賀市内の病院へ向かう。深海棲艦の新たな動きと資料にはない軍の動き…。角松が下した決断とは。


 

 1月2日 横須賀防衛医療センター

 

 「失礼します。」

 

 この日、角松はキスカ撤退作戦時に負傷した梅津元艦長の元に訪れていた。

 

 「おや?副長…。では、無かったな。角松艦長。」

 「お久しぶりです。梅津艦長。」

 二人は病室で面会していた。梅津は起き上がり、角松を出迎えた。角松は新年の挨拶と今日までの航海記録をしに来たのだ。

 

 「…なるほど。MI作戦は無事に成功したんだな。艦長になって初めての大規模作戦は緊張しただろう。」

 「ええ。」

角松はMI作戦の事について話をした。横須賀鎮守府総出の大規模作戦であったこと。艦娘達のお陰で作戦が成功したことだった。そして角松は一昨夜の夜襲について話始めた。

 

 「まさかだと思っていたが、我々の持っている情報とは異なってきたみたいだな。」

 梅津は窓の外を見ながら呟いた。外は小雪が舞っていた。

 「こうなると、今後の戦闘はますます厳しいものになるでしょう。」

 と、角松が呟く。そして無言の時間が数秒流れた。

 「…ところで、我々に関係した艦娘達は元気にしているかね?」

 「特に負傷した艦娘も居らず、無事に正月を迎えられました。」

 「そうか。それは良かった。」

 「ところで艦長、お体の具合はどうですか?」

 角松は梅津の体調を尋ねた。

 「ああ、手術は成功して今はリハビリ中だ。若干右半身に後遺症のしびれが残ってしまったがな。」

 梅津がキスカ撤退作戦時に負傷した時、頭を強打して脳内出血。それでも艦長交代の式を行い入院したのだ。そして、2回の手術を受けて現在はリハビリ中である。短距離の歩行ならば杖を使えば可能だが、ほとんど車イスでの移動が中心となっている。

 

 「では、艦長。お大事に。」

 と、角松が敬礼して出ていく。角松が病室から出たあと梅津は今後の戦闘について窓の外を見ながら考えていた。

 

 1330 みらい 幹部居住室

 

 「そうか。梅津艦長は元気だったか。」

 「だが、後遺症があるとなると…。狭い艦内での移動は不自由になるな。」

 角松 尾栗 菊池 の三人が話をしていた。

 「残念だが、梅津艦長の容態から見て我が艦に戻り、再度みらい艦長として任務を行うのは難しいだろう。」

 角松は残念そうに呟いた。今まで師匠的存在だった梅津艦長。角松は新たな艦長として指揮を執る事が出来るか心配だった。また、消息不明の草加の行動も気になる。

 

 「まぁ、悩んでいたってしかたないとおもうぜ。今まで通りにやろう。」

 と、尾栗が話した。菊池も珍しく尾栗の意見に賛同した。

 「そうだな。今まで通りに我々は我々の持っている力と情報を使って行動しよう。」

 海上自衛隊時代の記憶と、これ迄の戦闘の経験をもとに行動していくことで三人は一致した。

 

  



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航跡70:新満州国 平壌


角松達を始めとする横須賀鎮守府で正月を迎えた頃。遠く離れた新満州国に一機のオスプレイが降り立った。そのオスプレイから降りた男の目的とは一体…。



 

 角松達が年越しの準備を整えた大晦日の夜。旧北朝鮮領 新満州国 平壌空港に1機のオスプレイが着陸した。機体には日の丸。国防空軍の機体だ。そのオスプレイからスーツ姿の丸刈りの男が降りてくる。そう、草加拓海だ。空港に出迎えに来ていた乗用車に乗り込みある場所へと向かう。

 

 空港からかれこれ2時間。平壌郊外の山間部にやって来た草加小佐。ふと道の前方に立入り禁止の看板が出てきた。そこには日本語と英語、韓国語で[放射性物質管理区域につき立ち入りを禁ずる 日本国 国防軍]と書かれていた。警備の兵士に運転士がパスポートを見せて、中に進入する。ほどなく進むと大きな建物が見えてきた。そう、ここはかつて北朝鮮が核実験を行っていた施設だ。米軍が制圧しアメリカの管理下にあったものの、ほぼ管理は日本に任されていたのだ。

 

 バタン

 

 草加は車を降りて施設に入る。彼の目的とは一体…。

 

 

 1月3日

 

 みらいの角松のもとに、如月から草加が平壌に入ったと連絡があった。

 

 (…なぜ、平壌に?確かに資源は採れるが。)

 

 如月は1週間後に東京へ戻ってくる。それまでの間、草加が余計な行動をしないようにと角松は祈るばかりだった。

 

 1月4日 横須賀鎮守府

 

 シュパン!

 

 この日、鎮守府の弓道場では空母娘達が朝から訓練を行っていた。

 

 「うう、一航戦 赤城 …。お餅食べ過ぎました。」

 「言いましたよね?筋トレしましょうと。」

 と、珍しく赤城が大鳳に怒られている。正月休みを満喫し、仕事初めだ。

 

 ストン!

 

 「おっ!いぶきちゃん~。なかなかやるじゃん!」

 と、蒼龍。

 「いえ、まだまだですよ。目指すは百発百中です。」

 と、苦笑するいぶき。隣の飛龍も

 「私の友永隊も負けてられないわ!」

 と、矢を放つ。

 

 その頃、鎮守府執務室では次期作戦の事について柏木提督が本部からの資料を読んでいた。

 

 「司令官!お茶を入れました。どうぞ。」と、今日の秘書艦の綾波がお茶を出す。

 「おっ、ありがとう。」

 資料とにらめっこする柏木提督。次の作戦は、敵の通商破壊が目的だ。海域は西方海域。日本への原油を満載したタンカーが通るルートの近くで敵の基地が見つかったのだ。今現在、タンカーには佐世保の艦娘達が護衛に当たっているが、基地が拡大する前に叩くことが決まったのだった。ただ問題は敵の潜水艦が多数報告されていること。となると、軽巡洋・駆逐艦娘達の出撃が妥当だろう。念のため空母も参戦させるとなると、半月ほど佐世保の鎮守府に出張と言う形になる。その人選と、同行する護衛艦の事について考えていたのだ。

 

 翌朝

 

 夜通しで考えた結果、艦娘の出撃は[せとぎり ゆうぎり 暁 響 雷 電 翔鶴 瑞鶴]の8名。護衛艦は みらい あまぎり ちくま の三隻になった。出港は1月7日に決定となった。

 

 1月5日 護衛艦みらい

 

 艦内放送で出撃内容が知らされ、今回は対潜重視の戦いになると角松が話した。佐世保までは艦娘達は別れて護衛艦に乗ることになる。比較的大きな護衛艦みらいには第六駆逐隊のメンバーが乗ることになった。

 

 「早速、共に作戦行動することになりましたね。」

 埠頭に停泊している護衛艦みらい。そのとなりには護衛艦 あまぎり が係留されていた。あまぎりの岸艦長と角松は護衛艦みらいの前甲板で話をしていた。

 「今回は対潜重視の戦いになりそうですね。」と、呟く岸。護衛艦あまぎりは旧型艦とは言え、海上自衛隊時代の船なので対潜ヘリも搭載し対潜戦闘には優れている。

 「今回、イージス護衛艦は我々だけです。対空戦はお任せください。」

 「はい!こちらこそよろしくお願いいたします。」

 と、角松と岸は握手をした。

 

 



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敵通商破壊作戦
航跡71:佐世保へ



 無事に新年を迎えた護衛艦みらい。新年初任務は、敵の通商破壊作戦となった。その為みらいは一路、佐世保へ向かう。


 

1月7日

 

護衛艦みらいは、同行する あまぎり ちくま と共に任務に当たる艦娘達を乗せ横須賀を出港した。今回も第六駆逐隊のメンバーは護衛艦みらいに乗船している。まるで遠足に出掛けるかのような様子に、見ていたみらい乗組員はヒヤヒヤする。今回の作戦は自国の補給ルートの確保と、敵の通商破壊が目的だ。紀伊半島沖合に差し掛かった頃、空は綺麗な夕焼けになり日没を迎えた。艦橋に射し込む夕焼けの光。護衛艦みらい以下、3隻は西に向かい進行する。その頃横須賀鎮守府では…。

 

 1730 横須賀鎮守府 執務室

 

 柏木提督が本部からの資料をまとめていた。今日の秘書艦は飛龍だ。

 「提督、お疲れ様。お茶淹れたよ。」

 「おっ、ありがとう。」

 飛龍が淹れたお茶を飲む。昼食後から書類と向き合っていたので流石に目が疲れた。ふと、飛龍が机の上にある資料に気づく。赤い[緊急事項]という印が付けられた資料の表には、[敵深海棲艦 夜間空襲未遂事件について]と書かれていた。

 「提督?これって…。」

 「ああ、その資料か。空母の君なら読んで構わないよ。」

 と、柏木に言われて執務室のソファーに座り読み始める。それから大体、20分位たった頃…。飛龍が呟いた。

 

 「…これって、私たち正規空母じゃ対処できないかもしれないし。夜間空襲となると、危機感が上がったよね。」と、話す。

 「うちの鎮守府だと、夜偵はあるけど数は少ない。夜間の空中戦が出来る いぶき が居るが、搭載できる機体には限度がある。我々よりも深海の戦闘能力が上がるペースが早いかもしれない。」柏木は飛龍にこう話した。

 

 陸海空合同の幹部会議が明日、国防省で開かれる。先日の空襲に対応した柏木は重要参考人として出席予定だ。飛龍が話を聞くと、

 「提督も大変だね。昼間は私たちが対処できるけど…夜間のことも考えないといけないね。」

 「ああ、横須賀は首都防衛の要だ。敵を見逃す何てことはできない。」と、柏木はお茶を飲みながら話した。

 

 1月8日

 

 みらい以下、護衛艦3隻は瀬戸内海から関門海峡を通過し夜遅く佐世保鎮守府に到着した。

 

 「ふぅ、やっと着いたな。」

 と、尾栗が呟く。明日は佐世保鎮守府にて作戦会議を行い、10日に出撃予定だ。角松や岸を始めとする各艦長は艦から降りて佐世保鎮守府の提督の元に向かっていた。

 「今度の作戦は対潜戦闘になるとお聞きしましたが、航海長はどう思いますか?」ふと、片桐が話しかけてきた。

 「大丈夫さ、みらいには最新式ソナーが付いているし…。元々、海自は対潜重視の戦闘対策を立てていたからな。駆逐艦娘達も居るし大丈夫だろ。」と、尾栗は笑顔で話した。

 

 2130 佐世保鎮守府 執務室

 

 「はるばるご苦労。我が佐世保鎮守府の提督。名原だ。」眼鏡を掛けたやせ形の男性が自己紹介をする。勿論、同行している艦娘達も挨拶に来ている。

 「簡単だが、我が佐世保鎮守府はおもに東シナ海と日本海西部を始めとする九州・沖縄地方の海域防衛を行っている。横須賀の柏木君から聞いているだろうが…。最近、対馬沖付近で敵潜水艦が目撃されている。現時点で大きな被害は出ていないが…。今のうちに叩いておかないと大変なことになる。それで、あなた方に協力を求めました。」と、名原提督はこう話した。今の佐世保鎮守府の運営は沖縄地方や台湾沖合での敵勢力の駆逐に手一杯の状況。その為、横須賀から角松達が派遣されたのだった。

 

 2230

 

 会議が終わり、各艦に戻る。

 「ふぁ~。名原提督の話長かったぁ。」

 と雷が呟く。第六駆逐隊のメンバーは皆、眠そうな顔をしている。(暁はもう半分寝ていて意識朦朧…。)第六駆逐隊のメンバーは帰艦し自室に戻ったあとすぐに寝てしまった。一方、あまぎりに戻った せとぎり と ゆうぎり は、あまぎりの後部甲板で夜間発着艦訓練をしていた。艤装の甲板から艦娘サイズのSH-60Jが離発着を繰り返す。

 「よし、夜間の離発着もOK!これで大丈夫だね。」と、ゆうぎり が せとぎり に声をかける。時刻は0030。艤装を外して赤く照らされた艦内を歩き自室に戻る。

 

 「せとぎり、先に寝るよ。」

 と、ベットでゆうぎりが話す。

 「うん。おやすみ~。」

 せとぎりは自身のSH-60Jの調整を妖精さんに頼んでいた。少し、レーダーの映りが悪かったからだ。作戦開始は10日。各艦娘達は戦いに備えて休息を取っていた。

 

 



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航跡72:通商防衛戦


日本とアジアとの通商ルート近くに発見された、敵の潜水艦基地。佐世保で補給した護衛艦みらいと横須賀の艦娘達は、敵基地殲滅に向けて出港する!



 

 1月10日 0600 佐世保鎮守府

 

 「出港用意!」

 

タクボートに付き添われ、護衛艦あまぎり が みらいから離れる。敵の通商破壊作戦が開始されたのだ。

 「抜錨!みらい出港!」

 

 護衛艦3隻は艦娘達を乗せて佐世保鎮守府を出港した。目的地は奄美諸島沖合。前日のP-3c哨戒機の命がけの偵察によると、奄美諸島の西の沖合150キロ地点に海図にはない人工の島を発見。上空からの偵察と周辺での敵潜水艦目撃情報からして、その人工島が敵の拠点であると推測されたのだ。今回の作戦では、まず艦娘達が先陣を切り護衛艦3隻は後方支援及び敵潜水艦の駆逐を行うこととなった。

 

 同日 1130 鹿児島県種子島沖

 

 「五航戦 翔鶴 瑞鶴 出撃よ!」

 「駆逐艦 暁 出撃!お子様なんて言わせないんだから!」

 「了解。響、出撃する。」

 「駆逐艦 雷!出撃するわよ。」

 「い、電も出撃するのです!」

 と、五航戦の二人と第六駆逐隊が出撃した。せとぎり と ゆうぎり は、あまぎりの後部甲板で艤装を装着し、SH-60Jを発進させた。これは、先行する艦娘部隊の護衛のために飛ばしたのだ。

 「護衛艦 せとぎり 出撃します。」

 「護衛艦 ゆうぎり 出撃するよ!」

 と、少し遅れながらも…。艦娘部隊が出撃した。せとぎり と ゆうぎり のSH-60Jの哨戒データは各艦のCICとリンクさせており、これにより潜水艦への対処が通常より早くなった。

 

 バラバラバラ

 

 艦娘部隊に先行して飛行するSH-60J。すると…。

 「SHより入電。この先、前方7000に潜水艦!数は3。潜水カ級!」

 と、せとぎり のSH-60Jが敵の潜水艦を見つけた。艦隊の旗艦は響だ。

 「了解。空母のお二人は下がってください。艦隊の前後を せとぎり さん ゆうぎり さんで挟みます。ゆうぎり さんは、後続の護衛艦に連絡を。全員、対潜戦闘用意!」

 響の指示で艦隊の順序が入れ替わり、せとぎり が出力一杯で前に出る。

 「目標 進路変わらず。あっ、魚雷注水音。1 2 3 4 !」

 ソナーをつけた先頭の せとぎり が叫ぶ。それと同時にSH-60Jが敵潜水艦の姿を発見した。

 

 バシュー!

 

 敵潜水艦から魚雷が発射された。カ級で報告されている魚雷は直線でしか来ない。回避運動に入ると共に、せとぎり ゆうぎり のSH-60Jから対潜弾の第一波が投下される。

 

 「魚雷接近!総員回避!」

 

 後続の護衛艦みらいにも情報が伝わり、回避運動に入る。先行の艦娘部隊は無事に回避成功。しかし、対潜弾は効果がなかったようだ。その為、第六駆逐隊が前に出て、爆雷攻撃を行うことになった。

 

 「爆雷投下!」

 

 響の掛け声で敵の潜水艦の真上に爆雷を投下する。そして、この位置から全速力で退避したとき。

 

 ズドドドーーーンンン!!!

 

 と、大きな水柱が上がった。

 「やったわ!」

 と、雷が喜ぶ!敵の第一波は3隻とも撃沈。護衛艦みらい達も全員無事だ。 

 

 それから1時間ほど。対潜警戒を現にしている艦娘や護衛艦みらい達。このままのペースでなら、目指す人工島まであと1時間だ。

 

 「結構、敵陣の深くまで来たが…。敵の潜水艦から攻撃してくる様子がないな。」みらいCICで不気味に思っていたのは菊池だ。1回発見されたのにも関わらず、それ以降の攻撃や接触がない。その菊池の考えは、先行する せとぎり も感じていた。SH-60Jと五航戦の哨戒でも敵潜水艦の発見情報はない。不気味な雰囲気が艦隊全体に立ち込めていた。

 

 ザァーザァー

 

 先行する艦娘達は水しぶきを上げながら航行する。あと、30分で目的の人工島だ。

 

 



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航跡73:敵潜水艦部隊

敵に発見されたのにも関わらず、敵からの攻撃のない みらい達…。次第に雲行きも怪しくなり、進むか撤退するか…。旗艦である響に決断の時が迫る。その中で、角松が取った判断とは…。


 

ザァーザァー

 

 敵陣発見に向けて 翔鶴と瑞鶴が偵察機を飛ばすが…。敵陣発見に至らない。おまけに空の色が昼間なのに薄暗くなってきていた。せとぎり ゆうぎり のSH-60Jも未だに敵潜水艦の発見ができていない。だが、目標座標まであと少し。このまま進むか、一度退避するか。響は決断を責められていた。

 (ここまで来て発見されないし、攻撃もない。もしかして罠…?)

 額に汗が滲み、顎に垂れる。これまでの様子から見て敵からの攻撃がない可能性が高い。それは、護衛艦みらいの角松も同じ考えだった。

 

 「艦娘達を収容する!?」

 

 菊池は角松の提案に驚いた。角松はここまでの敵の動きを見て、収容するのが妥当と判断したのだ。

「たしかに。海の様子もおかしいしな。収容した方が良いだろう。」

 尾栗は角松の意見に賛成した。このまま進んだ場合、天候悪化により収容困難になる可能性が出てきたからだ。

 あまぎり ちくま の艦長と相談した結果、艦娘達は全員収容することになった。一応、念のため せとぎり と ゆうぎり にはSH-60Jによる哨戒活動の続行を指示し、全員収容した。そして…。

 

 「艦長!目標の人工島が見えました!」

 観測員の声で角松が双眼鏡を覗くと、島影に敵の中継拠点らしきものが見えた。その時!

 

 「ソナー探知。目標、7時の方向、距離2500。敵潜水艦と思われます。」

CICに緊張が走った。密かに敵の潜水艦が攻撃体制に入っていたのだ。

 

 (しまった…!)

 

 角松は あまぎり と ちくま に

 「敵潜水艦発見!各艦、回避行動!」

  と無線で伝えた。

 

キイイイイインン 

 

 みらいのエンジンが唸りを上げ、回避運動を始めたその時!

 「敵潜魚雷発射!数は5うち2本が本艦!残りは あまぎり へ!」

 「何!?」

 青梅の言葉に角松が驚く。一瞬の隙をついて魚雷が発射されたのだ。

 「魚雷発射位置に、デイタムを設定!前甲板アスロック装填!」

 

 護衛艦あまぎり 艦橋

 

 「艦長、3本魚雷が来ます!到達まで1分30秒!」

 「了解。艦首反転、取舵一杯!アスロック発射用意!」

 あまぎりは艦首を反転させて、潜水艦と向き合う形を取ると同時に魚雷をかわした。みらい へ向かっていた魚雷は燃料切れで海中へ消え反抗戦に入った。

 

 バシュー!

 

 あまぎり のVLSからアスロックが発射される。敵の潜水艦は5隻だ。

 「飛行甲板よりCICへ。SH発艦準備完了。」

 「了解。SH発艦せよ。」

 あまぎり ちくま みらい から3機のSH-60Jが飛び立つ。

 

 「アスロック着水。目標向け、航走中。目標命中まで1分。」

 

 バラバラバラ

 

 護衛艦みらい SH-60J

 

 「シーフォーク、対潜弾投下用意!」

 「了解。」

 SH-60J機長の柿崎が準備する。

 

 ズドドドーーーンンン!!!

 

 前方で海面が盛り上がる。海中でアスロックが爆発したのだ。

 「ソナー探知。敵潜水艦数隻の撃沈を確認。ですが、まだ残ってます。」

 「了解。全SHに告ぐ。対潜弾をありったけ投下せよ。」

 角松の指示で、みらいのSH-60Jを始めとする全てのSH-60Jが対潜弾を投下した。海中に爆弾が投下されて10秒後…。

 

 ズドドドーーーンンン!!!

 

 二度目の大爆発がおき、上空100メートルまで水柱が上がる。各艦衝撃に揺さぶられるなか、みらいのSH-60Jから報告が入った。

 

 「全弾、目標に命中!撃沈しました!」

 すると、急に空が晴れ明るくなってきた。深海棲艦が支配している海域は天候が不安定になることがあると、あの本には記載されていた。晴れたと言うことは、この海域の深海棲艦は排除したと言うことだ。

 

 「状況終了。対潜戦闘用具収め。」

 

 戦闘が終わり、CICに安堵の空気が流れる。今回は全員無事だ。MI作戦と比べると規模では小さいが、命を懸けることは変わらない。角松はそう思いながら帰路についた。 

 

 



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航跡74:佐世保空襲


敵の潜水艦基地を破壊した護衛艦みらい。だが、佐世保では異変が起きていた。そして、佐世保に戻った角松が見た景色とは…。


 

角松達が敵の潜水艦基地を叩いている頃…。佐世保鎮守府は敵の空襲にあっていた。

 

 ヒューン ドッカーン!!!

 

 ダダダダダダダダ

 

 角松達が駆逐に当たっていた敵はおとりだったのだ。手薄になっていた佐世保鎮守府を敵空母や敵戦艦の大集団が襲撃していた。鎮守府に残っていた艦娘達は不意の襲撃に対処しきれず次々と倒れる。名原提督自身も左足を負傷していた。まるで地獄絵図のような中で、名原提督の秘書艦の大淀が建家地下の臨時指揮所に引っ張りこむ。

 地上では駆けつけた陸軍の90式戦車や87式自走機関砲(ハエタタキ)が奮戦している。おかげで敵の空襲は少し落ち着いたが、停泊していた護衛艦5隻は中破から大破。艦娘達も負傷者多数という甚大な被害が出ていた。

 

 バシュー!

 

 陸軍の12式地対艦誘導弾と88式地対艦誘導弾が発射され、敵艦へ向け飛んでいく。

 

 

 

 

 その空襲から丸一日。

 

 「こ、これは一体…。」

 

 変わり果てた佐世保鎮守府の姿にみらいクルー全員が驚いていた。レンガ造りの建物は破壊され尽くされ、所々で煙が上がっている。桟橋も着岸不能な状態のため各艦、短挺で上陸することになった。鎮守府では、陸軍の普通科連隊が復旧作業に当たり…。臨時の救護所が立てられていた。陸軍の隊長に訪ねたところ、名原提督は救護所で治療を受けているとのことだった。

 

 1月15日 佐世保鎮守府 陸軍救護所

 

 「失礼します。」

 

 角松がカーテンを開けると、そこには傷だらけで左足に包帯を巻いた名原提督。そして、泥だらけの大淀が居た。よく見ると名原提督の左太ももから先が無い。その上、包帯に血が滲んでいる。

 

 「名原提督。帰投しました。」

 と、隣にいた岸が話す。すると、名原提督は横になったまま

 「…ご苦労。」

 と、かすれた声で答えた。

 この空襲で佐世保鎮守府所属の艦娘

250名(20名出撃中 46名休暇中) のうち12名が死亡。84名が重軽傷を負うと言う大被害が発生していた。艦娘は戦死すると艦娘としての生を終えて光となり消失する。だが、この世に未練や憎しみが残ると深海棲艦へ姿を変える。そう、彼らもまた人間と違う存在。だが、人間のように感情もあり食べるし疲労も貯まる。そして、身分証もある。しかし、戦死すると記憶の中と艤装の一部しか残らない。彼女達が艦の魂であると言う証拠なのだ。この佐世保空襲で、名原提督はケッコンカッコカリを一番初めに行った戦艦 榛名 を亡くしていた。空襲が始まった際にいち早く名原提督の元に駆けつけ、自身を盾にして提督を守ったのだ。空襲が終わり陸軍の救護所に運ばれる途中で息を引き取り光となって去った。提督の枕元にある榛名の電探カチューシャと彼女が身に付けていた認識票が遺品だ。

 

 名原提督との話が終わり、救護所の外へ出る。上空にはCH-47が飛び交い、陸軍の軽機動車が土煙をあげて走っている。

 「あれだけ大きかった鎮守府がこうなるとは…。」

 角松は崩れた建物の残骸をみながら呟いた。名原提督からの指示で、再度敵の空襲がある可能性が高いと知らされた角松達。名原提督からの最期の命令は

 「横須賀へ帰投し柏木に佐世保の惨状を教えてくれ。」

 という事だった。その夜、護衛艦みらい以下、護衛艦3隻は静かに佐世保鎮守府を出港した。そして、みらいが出港した翌朝…。榛名の後を追うように名原提督は息を引き取った。

 

 名原提督が戦死し、空襲で大被害を受けた佐世保鎮守府。数日後、国防省から残された艦娘達の所へ新たな提督が着任した。その新しい提督とは…。

 

 





新年あけましておめでとうございます。なんだか、新年早々くら~い話になってしまいましたが…。頑張って書きました。もう、この[ジパング×艦これ~次元を超えし護衛艦~]を執筆しはじめて一年半経つんですね。なんだか、全然話が進んでいませんが…。今年も頑張って書いていきますのでよろしくお願いいたします。


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航跡75:帰投


佐世保の惨状を伝えに横須賀へ帰投した護衛艦みらい。依然、勢力を衰えない深海棲艦に対抗策があるのか?あの本と変わりつつある世界に対してみらいクルー達はどうするか…。



 

「そうか…。佐世保が。」

 

 柏木は佐世保から帰投した角松達から報告を受けていた。佐世保鎮守府の空襲による損害は甚大で、仮設の設備で運営を行っているとはいえ…。名原提督が戦死した影響で、艦隊運営に問題が発生していた。

 

 「しかしながら、よく無事に帰ってきてくれた。だが、敵である深海棲艦にも知恵があると言うことだな。」

 「ええ、その罠に見事にはまってしまった。申し訳ございません!」

 と、角松が頭を下げる。

 「いや、君たちのせいではない。我々海軍に慢心があったということだ。」柏木はそう答えた。

 

 「名原…。まさかお前が先に逝くとはな。」

 

 角松達の報告が終わり執務室に一人きりになった柏木は、机の引き出しから一枚の写真を出した。そこにはさくらの木を背景に防衛大時代の若き柏木と名原の写真が写っていた。名原とは防衛大時代の同期生だった。共に防衛大で専守防衛…。自衛隊のことを学び、共に海上自衛隊へ入隊。最初に配置された護衛艦くらま では共に遠洋航海を過ごした仲だった。写真を見ていると涙が溢れてきた。深海棲艦と共に戦う仲間同士だったが、先立たれるとは思いもしなかった。

 

 1月12日 護衛艦みらい 会議室

 

 「…残念だが、この本の進行とはかなり異なってきた。」

 会議室では、角松 尾栗 菊池 の三人を始めとする各科の幹部が集まっていた。

 「この本には佐世保鎮守府に大規模な襲撃があるとは書いていなかった。つまり、この本とは別のルートを辿っているということだ。」

 と、菊池が印刷した資料を元に導き出した結論を話す。

 「大晦日の夜襲もあったな。と、なると…。早いとこ敵の本拠地を叩かないとまずいんじゃないか?」

 と、尾栗。しかし、敵の本拠地が見つかっていない現状では攻撃しようが無い。佐世保が襲撃されたということは、国内の海軍の鎮守府も襲撃される可能性が高くなった。

 「…梅津艦長が危惧したことが現実化してしまったな。」

 と、角松が呟く。年明けに面会した際に、「我々が想像している事を遥かに越えた事が起きるかもしれない。」と言われていたからだ。難航する会議。だが、今出来るのは…。我が みらい の練度向上しかない。という結論に至った。次の出撃海域は柏木から言い渡される。それまでの間は横須賀で待機となった。

 

 その夜 横須賀鎮守府 護衛艦寮

 

 「佐世保が…。」

みらい は せとぎり と ゆうぎり からの話を聞いて驚いていた。佐世保鎮守府…。前身は海上自衛隊 佐世保地方総監部だ。渡された写真を見て みらい は驚いていた。深海棲艦が我々に発見されずに襲撃した。しかも、空母に戦艦の大軍勢。確かに深海棲艦とは海中からいきなり飛び出してくる事があるが、水深の比較的浅い佐世保湾でこれだけの大軍勢が集まるとは理解できなかった。なぜ、敵の部隊が狭い佐世保湾内に侵入できたのか。疑問が残る みらい だった。

 テレビで報道される、佐世保市空襲のニュース。正月早々、毎日このニュースだ。このニュースは各寮のテレビでも観ることが出来、名原提督が死亡したことも報道されていた。そのニュースを見ていたとある艦娘。固い表情で、手を握りしめながら無言でテレビを見つめる。

 

 「ねぇ…。ねぇ!」

 と、その艦娘に白露が声をかける。

 「あっ、なんだい?」

 「時雨、顔が怖いっぽい…。」

 「時雨?大丈夫…?」

 白露型の4人姉妹だ。中でも時雨は艦の時に佐世保で生まれていた為、思い入れの強い…。ふるさとのような場所だった。勿論、佐世保生まれの艦娘は他にも沢山居る。だが、時雨はちょっと違った。[呉の雪風 佐世保の時雨]と歌われるほど、佐世保を代表する駆逐艦だったからだ。そして、名原提督にも以前大きなお世話になったことがある。時雨は、心のふるさとをメチャクチャにして名原提督を殺した深海棲艦に対して怒りで震えていた。

 

 「名原提督…。僕も助けに行きたかった…。」

 

 と、夜の横須賀鎮守府の運動場の片隅のベンチで時雨は考え込んでいた…。

 

 



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米国艦娘着任編
航跡76:対策会議



 佐世保鎮守府が深海棲艦の攻撃によって壊滅し、焦りを感じた日本政府。そして、米国ではある艦娘が日本へ派遣されようとしていた。その艦娘の中に、かつて みらい と闘ったある艦の名前があった。



 

 1月13日 首相官邸

 

 「東京の夜景は綺麗だな…。」

 霞が関のビル群の夜景をみながら初老の男性が呟く。竹上 弘文 内閣総理大臣だ。

 「総理。佐世保がやられたとなると、九州・沖縄地方の防衛に大きな影響が出ています。」

 と、新波 官房長官が話す。

 「…新波、仮に東京に深海棲艦が襲来したらどうする?」

 「はっ、その時は我が陸海空の全総力で対処するしか無いですね。」

 「だが、この東京に住んでいる住民を全員無事に避難させることができると思うか?」

 竹上の言葉に新波は黙ってしまった。

 

 同日 米国 ホワイトハウス

 

 「Did Sasebo in Japan lose…。」

 (日本の佐世保がやられたのか。)

 国防海軍佐世保鎮守府壊滅の情報は、米国のホワイトハウスにも入っていた。米軍は日本と違って艦娘が実戦配備される前だ。既に艦娘は一応居るが、未だにその能力を調査計測中である。

 「Can our ship daughter be used? The Secretary of State for Defense.」

 (我々の艦娘の運用は出来るか?国防大臣。)

 合衆国の星条旗をバックに大きな椅子に座り話したのは、アメリカ合衆国 ダニエル・べネット大統領だ。

 米国政府でも艦娘の建造は行われ、戦艦 アイオワ 等が登場している。だが、現時点では実戦配備はされていない。ホワイトハウスのある首都ワシントン。米国本土では深海棲艦の襲撃は少ないが、ハワイ島周辺では襲撃が相次いでいる。その上、中国 韓国 北朝鮮 の事実上の崩壊による国連決議。実際には米国が管理下に置きたかったが、艦娘という新しい兵器を開発した日本が統治する。米国は敗戦国 日本 にメンツを潰されたの同然だった。勝利の下で輝き続けた星条旗。ISを始めとする国際テロ組織の壊滅や湾岸戦争等数々の修羅場をくぐり抜けた米国にとって、日本がアジアを征服するのは断じて許すことができなかった。

 

 「Is the military disposition of my American ship daughter possible?」

 (米国艦娘の実戦配備は可能かね?)

 と、ダニエル大統領が国防大臣に尋ねる。

 

 1月15日 横須賀鎮守府

 

 「え?米国から艦娘…?」

 

 柏木は国防省からの電話に驚いた。日本政府が海外からの艦娘の受け入れを極秘で認めたのだ。受け入れる艦娘は 戦艦 アイオワ と 正規空母 サラトガ、戦艦 ミズーリ に 正規空母 ワスプの4人だ。流石、米国の艦娘らしく…。飛行機でやって来るとのこと。すると…。

 「何?サラトガ が米国から来るだと!?」

 提督が見ていたfaxの書類を取り上げ長門が真剣に見始めた。

 「お、おい。長門、どうかしたのか?」

 と、柏木が尋ねる。すると長門は…。

 「いやぁ、昔からの腐れ縁でな。まさか艦娘になってなお出会うとはな。」と、苦笑いしながら書類を返した。

 

 



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航跡77:米国からの使者


米国から艦娘が派遣されることになった横須賀鎮守府。過去の戦闘での歪みを日本の艦娘達は克服できるのか?そして、みらい がかつて撃沈したある正規空母が現れる。


 

 1月20日0530 国防空軍 横田基地

 

 キイイイイインン

 

 米空軍のC-17輸送機が着陸する。

 

 「ふぁわ~やっと、JAPANに着いたぁ。」と、米海軍の制服姿のアイオワが呟く。旅客機と同じ航続性能を持つとはいえ、乗ってきたのは輸送機。やはり大きめの体には狭かった。

 「ナガートは元気にしているかしら?」

 と、サラトガ。すると…。

 「お待ちしておりました。」と、二人の男性が声をかけてきた。

 金髪丸刈りの白人男性は ジャクソン・ベイツ海軍司令。一方の日系米国人の男性は マイケル・佐藤 駐日アメリカ海軍大使 だ。アイオワ達は敬礼したあと、案内された車に乗り込み横須賀へ向かった。

 

 同時刻 横須賀鎮守府

 

 米国から艦娘がやって来るときいて、出迎えの準備で慌ただしい横須賀鎮守府。柏木は今回やって来る4人のスペックを確認していた。ただ、あることで心配することがあった。それは、旧帝国海軍組の反発だ。海上自衛隊の艦娘達は大丈夫だろうが、帝国海軍組艦娘にとってはかつての敵だ。必ず反発や衝突があるだろう。それを柏木は危惧していた。それに…。

 

 「正規空母 ワスプ…。」

 

 かつて、護衛艦みらいが自己防衛の為にトマホークで撃沈した正規空母だ。果たして、艦娘の みらい と合わせて大丈夫だろうか?米国艦娘が来るまであと2時間。柏木は艦隊の上位にいる 長門 金剛 や一、二航戦のメンバー。そして初期から横須賀に居る吹雪や時雨達を緊急召集した。

 

 0830 横須賀鎮守府 正門前

 

 途中の交通渋滞で少し遅れて米国艦娘を乗せた車と艤装を積んだ大型トラックが到着した。柏木はネクタイを締めて出迎える。すると、車から ジャクソン司令が降りてきた。

 「やぁ、Mr.柏木。元気にしてたか?」

 と、流暢な日本語でジャクソンが話しかけてきた。それから、話は進み…。鎮守府着任式がしめやかに執り行われることになった。

 

 「Hi! Iowa級戦艦Name Ship、Iowaよ。高速戦艦で、この重兵装。Battle shipの最終形ともいえる完成度。USAが生んだ最後の戦艦級として、この艦隊でも頑張るわ。よろしくね!」

 と、アイオワが挨拶し米国艦娘達の自己紹介が始まった。

 

 !!!

 

 着任式に参加していた みらい はある気配を感じた。自身を討とうとしたあの殺気だ。

 

 「米国の正規空母 ワスプ です。」

 と、茶髪の女性が出てきた。

 

 (空母ワスプ!!!)

 

 みらい がまだ艦の時。自己防衛という名目でトマホークで撃沈した空母だ。あの戦闘…。自身も左舷のSPYレーダーを破壊され5人の殉職者を出したのだ。

 

 パァン!

 

 突如、会場に一発の発砲音が響いた。みらい が振り向くとそこには震えながら9ミリ拳銃を持った潮がいた。

 

 「ア、アメリカの艦娘なんて…。ゆ、許せ…ない!」

 

 やはり柏木が想定していた事態が発生した。だが、潮が撃つだなんて思っていなかった。

 

 「撃つなら撃ちなさい!」

 

 騒然とする会場にミズーリの流暢な日本語が響く。ガクガクと手元が震える潮。アイオワやサラトガの前に立ち潮の目の前に出る。そしてミズーリは自身の持っている護身用の拳銃を地面に置いた。

 「提督、ここは私が。」と、加賀が止めに入ろうとするが

 「いや、待て。」

 と、柏木は呟いた。

 

 潮とミズーリの周りに居た艦娘達は離れている。

  

 「撃つの!?撃たないの!?ハッキリしなさい!」

 

 震える潮。ミズーリは鬼のような目付きで見つめる。

 

 ガチャ…。

 

 潮の手から、拳銃が滑り落ちた。そしてその場に座り込む。そして加賀が潮の拳銃を取る。

 

 (…拳銃を向けられて一歩も引かないなんて。流石、太平洋戦争を生き抜いた歴戦の勇者!)

 みらい を始めとする自衛艦娘達は驚いていた。警務隊に連行されようとする潮。だか、それをアイオワが止めた。

 「潮?過去の出来事は修正なんて出来ないわ。でも、同じ艦娘として深海棲艦を倒さなくちゃいけない。今は、喧嘩している場合じゃないのよ。」

 と、優しく声をかけた。潮はその後、一週間の謹慎処分が下された。

 

 



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航跡78:交流


 横須賀鎮守府に着任した米国艦娘の中に居た、正規空母 ワスプ 。かつての敵で自衛隊初の戦争を経験した みらい が感じた心境とは…。



 

 米国艦娘達の着任式が終わったあと、みらい は妙に暗い表情をしていた。

 「どうしたの みらい ?」

 「あ、ゆきなみ姉さん…。」

 みらい は米国艦娘の空母ワスプの事について話した。

 

 「なるほどねぇ…。」

 「専守防衛とはいえ、2000人以上が乗っていた空母を私の一発で沈めたの。自分の身を守るとはいえ、あの時初めて戦争の怖さを知ったの…。」

 と、涙ながらに話す みらい 。ゆきなみ は みらい を支えながら夜遅くまで話に付き合った。

 

 1月22日 0900 横須賀鎮守府

 

 ブロン! ブロロロロロロ…。

 

 艦積機試験飛行場で朝早くからエンジン音が響き渡る。柏木提督と一航戦の観測下のもと、米国空母組の機体の性能チェックが行われようとしていた。

 

 ブロロロロロロ…!

 

 滑走路から米国の星印が付いたドーントレスが編隊で飛び立つ。それと一緒に加賀の偵察機 彩雲 が飛び立つ。ドーントレスの搭載している爆弾は演習弾。港内の的に当てるという、ここ横須賀鎮守府に着任した空母艦娘伝統のテストが行われていた。

 

 編隊で横須賀上空を一周したあと、各機急降下して的へ向かう。爆撃機と戦闘機をあわせ持つドーントレス。射撃からの爆撃で、約7割の命中率を出した。

 「ほぉ、なかなかやるなぁ~。」

 柏木は呟いたが、加賀は納得していない。

 「提督。まだ、戦闘能力向上の余地があります。私たち一航戦が空中戦闘の指導しましょう。」

 と、加賀は改良の余地ありと話した。二人が話していると…。

 「あっ、提督。加賀さん。おはようございます。」

 と、ゆきなみ や みらい を始めとする護衛艦娘がやって来た。今日は対潜戦闘の哨戒訓練の日だ。

 

 「あっ…!」

 

 遂に みらい と ワスプ の目があった。無言で向き合う二人。

 「ワスプ?どうかしたの?」

 と、サラトガが声をかける。

 「いや。サラトガ~何でもないわ。」

 と、ワスプ は返事するが…。

 「あの事忘れないから…。」

 と、みらい の耳元でワスプが呟いた。

 

 冷や汗が顎に垂れてくる。ふと見ると手が震えていた。

 「みらい?…みらい!」

 ゆきなみ に声をかけられてハッ!となる。やはり、みらい と ワスプ。二人の間には歪みがあるようだ。

 

 キイイイイインン…。

 

 みらい達のSH-60J/kが滑走路から飛び立つ。今日の訓練はアクティブソナーによる哨戒と訓練用対艦ミサイルによる目標撃破だ。柏木は様子を見ていたが、何か みらい の様子がおかしいことに気づく。いつもは百発百中の みらい が珍しく的を外したのだ。コンピューター制御されているのにも関わらずだ。

 

 その夜、柏木は みらい を提督室に呼び出した。

 

 「どうした みらい? いつもは百発百中のお前が。」

 「…。」

 無言の みらい。やはり、米国艦娘の着任が関係あるようだ。

 

 「まぁ、とりあえず飲みなさい。」

 と、金剛が持ってきた紅茶を出す。

 「…ありがとうございます。」

 と、紅茶を飲む みらい 。一息入れた後、柏木が話始めた。

 「みらい…。君を呼んだのは、いつまでも過去の出来事を抱えてほしくないからだ。」

 うつむいたままの みらい に柏木は話しかける。

 「確かに日本と米国…。昔は敵同士だったのは確かだ。君も見ただろ?先日の潮の事。」

 柏木は潮の発砲事件について話始めた。

 「君は、太平洋戦争の真っ只中に迷いこんで戦争を経験した。その経験は辛く厳しい物だったと思う。だけどな みらい? 昔は昔。今は今。人間同士の争いから未知の生物との戦いになっているんだ。君が経験した数々の記憶。辛いものがあると思うが、ここはひとつ我々に協力してくれないか?」

 と、深々と柏木は頭を下げた。すると、みらい が重い口を開いた。

 「…確かに、私の経験は貴重だと思います。でもっ!」

 みらい は震えながら話した。

 「2000人以上が乗っていたワスプを沈めたとき。私はボタンひとつを押しただけでした。あとは自動的にコンピューター制御されたトマホークが仕留める。まるで、戦争をしている実感が無いんです。あのドーントレスの特攻も今となっては現実とは思えない。でも、5人の隊員を見殺しにしてしまった。」 

 みらい の言葉は、近代化された兵器を使う軍人の気持ちそのものだった。実際、米軍で採用されている無人攻撃機のパイロット達は現実と戦場の差が分からなくなるという。ボタンひとつを押しただけで、敵を抹殺することができる近代兵器。みらい は改めてその恐ろしさを感じていたのだった。

 

 



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航跡79:みらいの考え


 米軍の正規空母ワスプと出会ったみらい。果たしてワスプはあの事を憎んでいるのか?それとも許してくれるのか?いずれにせよいつかはバレるであろう自身の正体をワスプに伝える。そう決めたみらいはある決断をする。



 

 その夜、みらい は自身の艤装を見ながら昔のことを考えていた。

 

 (あの戦争…。私が入り込んだせいで時代が大きく変わってしまった…。)

 

 米軍陣地へのハープーン攻撃に空母ワスプのトマホークによる撃沈。キスカ島沖合での米艦艇の駆逐に戦艦大和への原爆搭載阻止の失敗。そして、戦場に散っていった仲間達。艦の時のことを思い出すと今でも震えが出てくる。

 

 「トマホークミサイル…。」

 

 みらい はトマホークの扱い方について迷いが起きていた。先日、着任した米艦娘のワスプ。専守防衛…。いや、自らの命を守るために放ったあの一発。それで彼女は沈んだ。あの時のことを、恐らくワスプは憎んでいるだろう。でも、今は艦娘だ。ひょっとしたら許してくれるかもしれない…。みらい はそのように考えるしか方法が無かった。

 

 1月23日 0900 横須賀鎮守府 艦積機試験飛行場

 

 みらい は 朝から空母ワスプのことを探していた。艦積機試験飛行場では軽空母達が練習に勤しんでいる。

 

 「あっ?みらいちゃん?」

 

 声をかけてきたのは瑞鳳だった。飛行場の片隅のベンチに座り眼鏡をかけて愛機の九九艦爆の整備をしていた。

 

 ブロロロロロロロ…。

 

 艦積機試験飛行場の上空を九七艦攻が編隊を組んで飛んでいる。

  

 「んー。ワスプさんは見かけなかったわねぇ…。第一、今日ここは私たち軽空母や潜水空母組が使う日だからねぇ。」

 と、眼鏡を外して答える瑞鳳。どうやらワスプはここには来ていないようだ。

 「瑞鳳ちゃんありがとう!他のところ探してみるわね。」

 瑞鳳にお礼を言って飛行場を出る。次に訪れたのは食堂だ。

 

 「あら…みらいさん?まだ、食堂が開くまで時間あるわよ?」

 食堂では鳳翔が昼食の仕込みをしていた。海外艦も増えてきたのでメニュー作成には苦戦しているようだ。

 「ワスプさんは来ませんでしたか?」

 と、みらい が訪ねる。すると、鳳翔は…。

 「ああ。この前着任した米軍の子ね。今日は見てないけど、多分お昼になったら来るんじゃないかしら?昨日の夜、ここで金剛さん達と呑んでいたし。」

 ということで、みらい は鳳翔の仕込みの手伝いをしながら待つことにした。そして、1130を過ぎた辺りから交代交代で艦娘達が昼食を取りに来た。勿論、お手伝いをしている駆逐艦達も集まってきた。今日の昼食のメニューはスパゲティーだ。ミートーソースと海鮮ホワイトソースの二種類にサラダと野菜スープに果物。基本的にはバイキング形式のこの食堂。お昼時になり続々と艦娘達がやって来る。そして…。

 「今日のランチはスパゲティー♪」と、英語混じりの声が聞こえてくる。

 「うん。私は海鮮ホワイトすぱげてぃ…?とやらにしようか。」

 この声はサラトガと長門だ。二人は腐れ縁であるが、どうやら日米同士仲良くなったようだ。

 「あれ?みらい じゃないか。今日の当番はお前か。」

 と長門。みらい は長門とサラトガに対して、空母ワスプ に会いたいと申し出た。

 

 そして…。

 

 (来た…!)

 

 アイオワ達と一緒にワスプがやって来た。

 「大丈夫よ。落ち着いて話してきなさい。」

 と、鳳翔が震える みらい の手を軽く握る。無言で頷いた みらい は食事をしているワスプの元へ向かった。

 

 「あ、あのっ!初めまして、海上自衛隊の護衛艦 みらい です。」

 突然声をかけられてアイオワは、ポカンとスパゲティーを口に入れる寸前で止まっている。

 「あなたが みらいさん?」

 最初に口を開けたのはミズーリだった。

 「貴女、もしかしてあの戦場の謎の艦?」

 「は、はい。」

 「まぁ、ちょっと座って話を聞かせてくれないかな?」

 と、ミズーリが椅子を出す。一方のワスプはこちらを睨んでいる。

 

 「ここの鎮守府の皆さんは知っていることなのですけど…。実は、私は太平洋戦争を経験した艦なのです。」

 

 ~中略~

 

 バン!

 

 食堂にテーブルを叩く大きな音が響き渡る。その音で一瞬、賑わう食堂が沈黙に包まれた。

 「んじゃ、アタシが沈没したのはあなたがヤったことなの!?」

 ワスプはやはり怒っていた。あのときワスプは格納庫での爆発事故が原因ではないかと思っていたからだ。

 「本当にごめんなさい!!!」

 みらい が深々と頭を下げる。そして、タブレット端末でトマホークミサイルの写真を見せた。

 「あっ、これミサイルね?私も末期の頃にハープーンミサイル積んでたから分かるわ。」

 と、ミズーリ。空母なら確実に一発で仕留められるトマホーク。戦時中の艦にとって、まさに神の矢だった。

 

 「サジタリウス…。聞いたことがあるわ。」

 と、アイオワが話始めた。

 「戦場伝説の中に異次元からやって来た艦があり、その艦はどの国にも属さず己を守るために戦った。そして、その艦の放つ矢は決して外れることのない神の矢であると。」

 「ま、まさか!」

 と、アイオワの言葉にサラトガが驚く。そして、みらい は話した。自身がその神の矢を放つ艦であることを。 

  



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航跡80:空母ワスプ


空母ワスプに自身の経験を話すことにした みらい 。一方、みらいの証言を信じることの出来ないワスプ。両者の話し合いに、ある艦娘が声をあげる。果たして、みらい と ワスプ は仲良くなれるのか?



 

 「そ、そんな…。じゃあ、我が合衆国は異世界の艦と戦ったってこと?」

 と、椅子に座り込むワスプ。みらい は沈黙したままだ。

 「…みらい は、なぜあの戦争に参加したの?」

 と、アイオワが訪ねる。だが、みらい は戦闘する理由は無かった。そして、ただ元の世界に戻りたかった。けれど、予想外に進む歴史の中でもがけばもがくほどに…。歴史は変わり、仲間も次々と倒れ。そして、マリアナ海溝に散った。もう一度海上自衛隊の仲間に会いたい!その強い思いが艦娘としての生となり、今ここに存在する。みらい はワスプ達に過去の戦闘データを見せた。

 「こんなことって…。」

 サラトガが唖然とする。

 「このデータは実際に私が艦の時に経験したものです。偽りなど一切ありません。」

 みらい のデータは米国艦娘達にとって衝撃的なものであった。だが、空母ワスプは みらい の能力を信じる気はない。

 「あなたが私を沈めた…?そんなの嘘よ。あの時私とあなたは300㌔以上離れていた。それをどうやって攻撃したのよ。おまけに、私が上げた機の大半を撃墜させるだなんて。」

 ワスプは悔しさを通り越して怒りに震えていた。

 「話はそこまでよ。」

 「あっ、加賀さん。」

 話の間に加賀が入ってきた。

 「何よあんた!話の邪魔よ!!!」

 と、ワスプ が声をあげる。

 「とりあえず落ち着きない。私も艦娘になってからだけど、この子に撃沈判定出されたわ。」

 「…え?」

 サラトガ が驚きの声をあげる。

 「確かに彼女の言動は一部信用できないところもあるわ。でも、その力は本当。私も150㌔離れたところから演習用のトマホークで撃沈判定出されたわ。」

 と、話す加賀。みらい を始めとする海上自衛隊の護衛艦娘達。装甲は駆逐艦程度しかないが、速度はあの島風を越え…。その上、ミサイルを積み自動発射の砲を持っている。中でも、ゆきなみ型艦娘は海上自衛隊初の対地攻撃能力を持っている。それがトマホークミサイルだ。

 「そうだったの…。」

 ミズーリが呟く。そして加賀がある説明をする。

 「…みらい。彼女達海上自衛隊の護衛艦娘達の一番大切にしていることは分かる?」

 「え?」

 アイオワが疑問の声をあげる。

 「…専守防衛。つまり護りに徹し攻撃は必要最低限のみ行う。つまり、相手の攻撃を受けてから初めて軍事力を行使すること、その程度は自衛に必要最低限の範囲にとどめ、相手国の根拠地への攻撃を行わないこと、自国領土またはその周辺でのみ作戦することなどである。戦力不保持・交戦権否認を規定する日本国憲法第9条と整合性を持った受動的な軍事戦略という訳。まぁ、今は深海棲艦が出現したことによって専守防衛の姿勢は崩れ始めているわ。」

 加賀の説明は自衛隊の存在意義についての事も含まれていた。

 「…私がワスプさんに撃ったトマホークミサイル。私は、直前にあったワスプ艦積機の攻撃に対して…。実は最初は必要最低限の武装を使うと砲雷長から指示を受けました。その為、雷撃隊の撃墜で戦意喪失させようとしました。でも、戦意喪失はならず…。かえって相手の戦闘意欲を上げた。シースパローや127ミリ砲で応戦してもダメ。そしたらあのドーントレスの特攻…。それで私は大きなダメージを受け、初めて戦争を知りました。そして、第二次攻撃用意の無線を傍受。トマホークミサイル発射を行いました。」

 みらい は対ワスプ戦の時のことを話した。その話にワスプは…。

 「あなたがそんな葛藤をしていただなんて…。」

 と、呟いた。そして…。

 「大統領と星条旗の下において、私は貴女の正体を調べる任務が与えられていた。でも、あなたは戦争したくなかったのね。…ごめんなさい!」

 ワスプ は深々と頭を下げた。

 「頭を上げてください。」

 「私こそ、あなたをトマホークで仕留めてしまった。身を守るとはいえ、あの時はトマホーク発射しか方法が無かった。お詫びしなくてはいけないのはこちらです。」

 こうして みらい と ワスプ。二人は仲直りした。過去の戦闘があったとはいえ、今は艦娘同士同じ仲間だ。

 



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航跡81:悪魔の炎

 みらい達がワスプ達米海軍艦娘組と仲直りをした頃…。草加少佐はある人物を連れて新満州国に来ていた。草加少佐の目的とは一体…?


 

 1月20日 新満州国 平壌郊外

 

 とある山道にある検問所で一台の車が検問を受けていた。

 

 「了解しました。通過して構いません。」

 憲兵から身分証明書を丸刈りの男が受けとる。街灯のない暗い山道を進むと大きな工場が見えてきた。

 

 バタン!

 

 丸刈りの男と、髭を生やした眼鏡をかけた男性が降りる。

 「ここですか。」

 「ええ、我が陸軍の極秘研究所ですよ。」

 建物の中に入り、応接室へ案内される。その応接室にはある人物がいた。

 

 「石原さん。お久しぶりです。」

 「草加元気だったか?」

 待っていたのは草加少佐だった。そして石原が連れてきた人物は…。

 「初めまして倉田博士。」

 髭を生やした眼鏡をかけた男性は、物理学の権威の倉田博士だ。

 「早速ですが、我々の計画をお伝えします。」

 草加はパソコンとプロジェクターを使い、モニターに計画を出した。そこに書かれていたのは、日本が核兵器を持つ。という事だった。

 

 「…戦争で唯一の被爆国である日本が、核兵器?冗談はよしてください。」

 と、苦笑いの倉田。だが草加は、

 「いえ、我々が現在戦闘している深海棲艦。彼らの本拠地を叩き殲滅させるには核兵器を使うしかない。」

 と、草加は淡々と話す。

 「幸い、この朝鮮半島北部にはウランやプルトニウム等の鉱物が埋蔵されている。それに石油も健在だ。」と、石原がタバコを吸いながら話す。

 「しかし、どうして核兵器を作ろうと?」

 倉田が尋ねると草加は、みらい のことを話始めた。

 「この写真に写っている護衛艦182番。この艦の名前は みらい 。我が海軍旗を掲げていますが、彼らは我が海軍の艦ではなく海上自衛隊の艦です。」

 「海上自衛隊って、とうの昔に解散したはずじゃ?」

 倉田が質問する。すると、石原が話始めた。

 「私も最初は信じられなかったよ。だが、彼の話を聞いて確信したよ。この艦が我々の世界とは別次元からやって来たということを。」

 無言の倉田博士。そして、草加はあることを呟いた。

 

 「あなたが研究していた原子爆弾。あれは近く、米国が使用します。日本という国を犠牲にして。」

 その言葉は、日本に4回目の原爆が落とされることを意味していた。太平洋戦争中の広島と長崎。そして、第五福龍丸事件…。

 「米国の策略による原爆により我が海軍は巻き沿いを食らい、壊滅的被害を受けます。そして、日本の防衛機能は喪失。米国に統合されます。」

 草加は護衛艦みらいにあった資料を印刷した物を手渡した。確かに米国の傘下に、置かれることが書いてあった。

 「そこで、あなたに原爆を作っていただきたい。」

 「それはなぜですか?」

 倉田が草加に尋ねると…。

 「我々の戦後は終わった。それを米国に伝えなければならない。米国が原爆で深海棲艦を駆逐するなら、その前に我々の手で深海棲艦を駆逐する。」

 と、草加は答えた。

 

 

 



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航跡82:原爆阻止計画

 
 新満州国での草加少佐の動きを把握した津田大尉。角松と行動を共にした如月と一緒に梅津元艦長の元へ訪れる。草加少佐達が計画している原爆製造計画を聞いた梅津は…。



 

 1月25日 横須賀防衛医療センター

 

 この日、梅津の元に珍しい客人がやって来ていた。

 「やぁ、津田大尉。お会いしたいのは君だったか。」

 「お久しぶりです。梅津艦長。キスカで負傷したと聞き、お見舞いに参りました。」

 と、果物が入った籠を渡す。

 「これはこれは、ありがとう。」

 梅津はベットの隣にある棚の上に果物籠を置いた。

 「ところで津田大尉、忙しい中わざわざお見舞いに来てくれるとはありがとう。」

 「いえ、今日は梅津艦長に報告しないといけないことがあるのです。」

 すると、病室のドアを開けて一人の男が入ってきた。

 「はじめまして。国防海軍上海陸戦隊連絡将校 如月克己 と申します。」

 津田と一緒に来たのは如月だった。

 「君か、副長が満州でお世話になったのは。」

 「ええ、角松二佐と一緒に行動し草加を追跡しました。」

 「その、如月君がなぜここに?」

 梅津の言葉に津田が話始めた。

 「如月さんには今、草加少佐の事を追跡してもらっています。」

 「なぜ追跡を?」

 と、津田の言葉を疑問視する梅津。如月は今の草加の行動とその目的について話始めた。

 

 「なるほど…。満州国で陸軍と共に原爆開発を…。」

 「ええ、私の部下から入った情報によると…。つい先日、旧北朝鮮が使用していた核実験場に入りました。車両の動きも多数あり、原爆開発を進めていると思われます。」

 「なるほど。」

 「その根拠に、我が国防海軍の警務隊が要注意人物としてマークしていた 石原莞爾氏や物理学の権威の倉田博士等を召集しています。」

 「なんと…!」

 草加の思惑は原子爆弾製造による。日本の核兵器保持が目的。と感じた梅津はさらに尋ねた。

 「彼…。いや、草加少佐はいつ原子爆弾を完成させると思われるかね?」

 「我々の予想だと一ヶ月後。遅くとも3月には原子爆弾が完成すると思われます。」

 と、如月が話した。だが、意外な事を津田が話始めた。

 「ですが、現時点で原子爆弾製造に必要な物が不足していると情報があります。」

 「それは?」

 「濃縮ウラン235。これだけは満州国では作れません。近く、ドイツからコレを運搬するという情報があります。」

 梅津は少し考えた。現時点で護衛艦みらいの人間として、コレを止められるのは私だけだと…。

 「分かった。詳細が分かり次第、連絡してくれないか?その濃縮ウランは絶対、草加に渡してはいけない。唯一の被爆国である日本が核兵器を使うというのはしてはいけない事なのだ。」と、梅津は話した。

 

 病室での話し合いが終わり、梅津はベットで考えていた。

 (これは、私の最期の戦いになるだろう…。さて、副長に伝えるべきだろうか。) 

 



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珊瑚海攻略作戦
航跡83:珊瑚海攻略作戦


不審な動きをする草加小佐。梅津艦長が草加の動きを探っている頃…。護衛艦みらい は新たな作戦に参加していた。


 

1月27日 1000 南鳥島沖南50キロ

 

 護衛艦みらいは珊瑚海に出現した敵勢力駆逐に向け、護衛艦 だいせん ちくま あまぎりいなずま すずつき と艦娘の みらい かが さわゆき 赤城 加賀 翔鶴 瑞鶴 時雨 弥生(艦娘達は護衛艦だいせん乗艦。) と共に珊瑚海へ向かっていた。

 

 バラバラバラ…。

 

 かが のSH-60k 3機が交代制で前方の哨戒活動に当たっている。コレに負けじと加賀も彩雲を飛ばし、みらいは海鳥を飛ばして敵が寄り付けないようにしている。

 

 1230 護衛艦 みらい 幹部食堂

 

 「おっ、今日の昼飯は中華か。」

 と、尾栗が呟きながら座る。今日の護衛艦みらいの昼食は、麻婆豆腐丼にワンタンスープ サラダに杏仁豆腐だ。海の上での単純作業が続くなかでの辛口の麻婆豆腐は汗が吹き出るが辛くてうまい。食事をしていると、角松が航空科の佐竹に話し掛けた。

 「佐竹。」

 「なんですか?艦長。」

 「今度の作戦だが、目視による哨戒活動が必要になると思うんだ。」

 「はい?」

 「菊池や青梅がCICで頑張っているし、艦娘達も偵察機を持っている。だが、かつて大戦中の時に誤認や誤爆が相次いだ地帯だ。そこで、偵察と戦闘能力のある海鳥を飛ばして欲しいと…。だいせん から通達があった。」

 と、角松は海鳥が持つ哨戒と戦闘能力を生かした戦闘を行いたいと提案してきた。

 「無論、断ることもできるが…。飛べるか?」

 と、角松が尋ねる。すると…。

 「ええ、大丈夫ですよ。もう二度と小笠原の悲劇は繰り返させません。あいつの為にも…。」と、話した。

 「分かった。敵の基地が、パプアニューギニアのポートモレスビーにある。既に大半の住民が島の北側に避難して居るそうだが、攻撃は基地のみとする。その為に夜間に哨戒して、基地の様子を偵察してくれないか?」 

 「了解しました。入隊したときから覚悟はできてますよ。」

 と、苦笑しながら佐竹はお茶を飲む。こうして、珊瑚海攻略作戦の第一段階である偵察作戦が始まった。

 

 1月29日 2000 ニューギニア島 東20キロ

 

 キイイイイインンン

 

 海鳥が発艦準備にはいる。敵との接触をできるだけ避けるために、偵察機は護衛艦みらいの海鳥1機だけだ。

 

 「システムオールグリーン。海鳥発艦します。」

 と、佐竹が呟いたときCICから無線が入った。

 「佐竹。くれぐれも無理はするな。今回の任務は生きて帰ってくるのが一番の目的だ。危ないと思ったらすぐに引き返せ。」

 と、角松が話す。すると、佐竹は

 「大丈夫。かならず生きて帰りますよ。」と、話した。そして…。

 

 海鳥は護衛艦みらいから飛び立ち一路、ポートモレスビー港へ向け飛んでいった。

 

 

 

 

 




久々の更新となります。このところ仕事で忙しく、執筆出来ませんでした(;´Д⊂) 話の続きを気にしていた方すみませんでした。徐々に再開していく予定なので引き続きよろしくお願いいたします。


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航跡84:ポートモレスビー

敵勢力に制圧されたポートモレスビーへ偵察へ向かう海鳥。偵察結果をもとに奪還作戦が練られる予定だが…。そして、作戦に参加するある艦娘。その心の中の気持ちとは…。


 

2330 ポートモレスビー 深海棲艦基地上空

 

 キィイイイイインン

 

 海鳥は敵に気づかれずに深海棲艦の陣地の上空へ来ていた。搭載されている暗視カメラで基地の様子を伺う。

 

 「くそ、よく映らねぇな。林原、歯を食いしばってろ。」

 「えっ?」

 すると海鳥は突如、急降下を始めた。

 

 ウゥーウゥー!

 

 深海棲艦達が気づいたのかサイレンが鳴り響き、対空砲火を上げる。

 

 ドオン!ドオン!

 

 対空砲の射程ギリギリを飛び上空を旋回する海鳥。

 

 「よし、これで基地の全体を撮れた。」と、納得する佐竹。基地上空から退避し海鳥は、護衛艦みらいへ帰艦した。帰りの道中、林原は呟いた。「佐竹一尉!無理しないでくださいよ!」と…。

 

 翌日 佐竹達の偵察のお陰で基地の詳細が分かった。敵は港湾棲姫で、湾内に多数の敵船舶も確認。その上、飛行場もあるとのことだ。

 

 「なるほど。海鳥の偵察で敵基地の概要は掴めた。砲雷長、これを効果的に叩く方法はあるか?」

 と、角松が菊池に尋ねる。

 「はっ、本作戦は敵基地の機能喪失が目標であることを考えると…。艦娘の空母赤城を始めとする空母艦載機部隊で制空権を獲得後、護衛艦ふゆづき による長射程ヴォルカノ127ミリ弾での攻撃が効果的であると考えます。勿論、不足の場合に備えて我がみらいのトマホークの使用も念頭に入れています。」

 「わかった。これを みらいプランとして横須賀と だいせん に具申してくれ。 」

 「了解。」

 

~一時間半後 みらいCIC~

 

 「横須賀から作戦開始の許可が降りた。作戦開始は明朝0630。各科今のうちに十分、休息を取り戦闘に備えよ。」と、艦内放送で角松が話す。

 

 1月31日 1830 護衛艦だいせん

 

 食堂では赤城達空母組が夕食を取っていた。

 「いよいよ、明日ですね。」

 「翔鶴さん。被弾しないように気をつけてくださいね。」

 「ええ、大丈夫です。被弾するのは慣れてるから…。」

 と、冗談を交えながら話す赤城と翔鶴。一方の加賀と瑞鶴は無言で夕食の回鍋肉を食べている。すると、

 「瑞鶴。この前にみたいに油断しないことね。」

 と、加賀が呟く。

 「なっ、何よ!私がまたヘマをするって思っているの?」

 と、瑞鶴が怒り口調で話す。

 「今回の戦いは厳しくなる予感がするの。前回のようにフォローは出来ないと思うわ。制空権奪取には私達空母機動部隊の力が必要不可欠なの。一人でも欠けたら、お終いなのよ。」

 と、加賀は話し終えると漬物に手を付ける。瑞鶴は加賀の言葉に圧倒されて無言のままだった。

 

 「相変わらずね加賀さん。」

 夕食後、食堂に残った赤城と加賀は缶コーヒーを飲みながら話していた。

 「あの子にはあのくらい強く言わないと戦場では生き残れないわ。」

 と、加賀が呟く。

 「でも、あの事件のあと瑞鶴は成長したと思う。今まで目の前の敵を倒すことにしか頭になかった子が、仲間を守るようになり…気配りも出来るようになったわ。」

 「ふふ、先輩として私達も頑張らなくちゃいけないわね。」

 と加賀の言葉を聞いた赤城は微笑んだ。 

 

 2230 だいせん艦娘居室

 

 ベットで寝間着姿の時雨がスマホを見ていた。画面には白露型駆逐艦のLINEが映っている。

 {時雨、作戦頑張るっぽーい!}

 と、横須賀にいる夕立からメッセージが届く。

{うん。頑張る。}と、返信する。 

{私がいない代わりに一番活躍してよ!}と、白露。

 {無理しないでね。}と、村雨。

 相変わらずの白露達を見て内心ホッとする時雨。佐世保の空襲があった直後から深海棲艦への憎しみや恨み、怒りで気が落ち着かない状態が続いていたからだ。

 {うん。ありがとう。時雨、頑張るから!}

 と、返信する。作戦開始まであと8時間。艦隊は作戦準備を行い備えのために暫しの休息に入った。

 



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航跡85:作戦開始

 

2月1日0530 だいせん 艦娘射出口

 

 作戦開始30分前。まもなく始まる作戦に備え、艦娘達(みらい かが さわゆき 赤城 加賀 翔鶴 瑞鶴 時雨 弥生)は出撃準備に入っていた。今日の天気は曇りで午後から雨。だか、作戦は予定通り開始された。

 

 「航空母艦 加賀出撃します。」

 艦隊の先陣を切って、加賀が一番に大海原に出た。それに続き、赤城を始めとする艦娘達が次々と出撃していく。今回の作戦は、ポートモレスビーに展開している敵基地を殲滅すること。先日の海鳥の観測データによるとかなり大きな飛行場が展開されてる模様だ。

 

 同時刻 みらいCIC

 「だいせんより、艦娘部隊の出撃を確認!」

 と、観測士官が話す。角松はCICのモニターを見ながら思っていた。(ポートモレスビーは敵勢力の大きな拠点だ。倒さなければ…。)

 「合戦準備!対水上戦闘用意!」菊池の掛け声と共にカーンカーンカーン!と、戦闘を知らせる鐘が艦内に鳴り響き、各水密扉が閉められる。先陣を航行する すずつき から「敵飛行場姫、航空機発進。」と、一報が入る。

 「対水上戦闘、CIC指示の目標!!攻撃始め!EA、攻撃始め!!」

と、菊池が叫ぶ。それと同じ頃、艦娘部隊も敵航空隊の発進を確認していた。旗艦の赤城が「一航戦、五航戦に命じます。各艦第一次攻撃隊順次発艦!全艦、対空、対水上戦闘用意!」指示を出す。

 「五航戦…。」

  「翔鶴、第一次攻撃隊!」

  「瑞鶴、第一次航空部隊!」

  「発艦します!!!」

 と、五航戦の二人が艦積機を上げる。

 「加賀、第一次攻撃隊発艦します!」

 五航戦の二人の発艦を見守った後、加賀と赤城は機体を爆走させた。

 

 「僕たちは対空警戒をしつつ、補佐に当たるよ!」と、時雨が主砲に弾を装填しながら話す。かが は潜水艦を警戒してSH-60Kを上げた。

「攻撃開始点まであと5分!」と、青梅が叫ぶ。

 ブロロロロロロロロ…。

 空母達が爆走させた九七艦攻や九九艦爆が敵機を捉えた。九七艦爆は九九艦爆護衛の機体を残し、急降下する。そして、激しい空中戦が始まった。

「我、空中戦に突入ス。」

 連絡機から電文を受けた赤城は部隊全員を見渡す。そして、護衛艦娘の みらい に尋ねた。

 「みらいさん!敵部隊の動きはどうなってます!?」

 「はい!ポートモレスビー沖20キロ 高度1300メートルで空中戦になってます!あっ、我々の爆撃隊が突破。飛行場姫へ向かいます!」

 (報告では、制空権は確保しつつある。その上、まもなく砲撃が開始される…。これは、勝てる…!)

 赤城は優勢であると確信し、第二次攻撃隊の発艦を指示した。

 一方の護衛艦すずつき は射撃開始ポイントに到達した。

「対水上戦闘~CIC指示の目標!主砲、打ち~方始め!」

 ドォン! ドォン!

「すずつき、攻撃開始!」

 と、みらいCICに一報が入る。

 (…GPS誘導を可能にしたヴォルカノ砲弾。これはもはや、ミサイルだ。)

 と、菊池は思った。その予想通り、ヴォルカノ弾は飛行場姫へ向けて飛んでいく。

「試射、第一弾用~意………だん~~~ちゃく!!!!」

 ヒュウウウウンンン

 飛行場姫が空を見上げると、すずつき から発射されたヴォルカノ弾が落ちてきた。そこへ間髪入れずに赤城達、九九艦爆による爆撃。その爆撃による光は30キロ離れたみらい艦橋でも見えた。

「おっ、おっぱじめたか!」

 と、尾栗が呟く。だが、その護衛隊群の遥か離れた水面下。青白く不気味な光が一瞬輝いた。

  



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航跡86:艦隊の隙

 

 ポートモレスビーに展開する飛行場姫への攻撃が行われている時、護衛艦みらいの後方では不気味な動きが起きていた。最後尾を航行する護衛艦いかづち。その対潜ソナーが捉えた!

 「いかづち より緊急警報!後方より魚雷!数は6!」

 「何!?」

 いかづち からの無線を聞いた青梅が慌ててモニターで艦隊後方を確認する。すると…。

 「な、なんだこれは!!!」

 「どうした!?」

 驚き、大声を上げる青梅に角松が尋ねる。すると、帰ってきた言葉は…。艦隊後方に敵空母機動部隊が居ることだった。

 「艦隊、直ちに回避行動!飛行場姫への攻撃をしつつ、空母機動部隊を殲滅せよ!」

 と、護衛隊群旗艦のだいせんから無線が入る!護衛隊群唯一のイージス護衛艦 みらい 。護衛艦いかづち あまぎり と共に反転して空母機動部隊撃破へ向かう。

 

 0645 艦娘部隊

「なんですって!?」

 赤城は本軍のだいせんからの電文を読み愕然とした。

 「どうします赤城さん?」

 敵機の爆撃を回避しながら加賀が尋ねる。

 (今、飛行場姫を倒せるのは私たちだけ。でも、だいせん が狙われている。どうする…?)

 水しぶきが飛ぶなかで、赤城はふと考えた。そして、出した結論は…。

「さわゆきさん!時雨さん!弥生さんに命じます!直ちに反転して、だいせん護衛に向かってください!」

「了解!」

 時雨達は前線部隊から離脱し、だいせん護衛へと向かった。

 

 ダダダダダダダ!!!

 敵空母機動部隊は空母3重巡1軽巡1駆逐1の6隻。そのうちの空母2は新鋭空母だ。いくらイージス艦がいるとはいえ、シースパロー等の対空ミサイルにも限度があるその上CIWSもフル稼働で弾幕を張っている。

 「クソ、忙しい時に!面舵いっぱーい!」

 急旋回を繰り返す3隻。だが、深海棲艦は新たな攻撃を仕掛けてきた。

「左舷より爆弾!水面を跳ねてきます!!!」

 かつて、太平洋戦争中にアメリカ軍が行った反跳爆撃。これを深海棲艦が仕掛けてきたのだ。太平洋戦争中の1943年の3月2~3日に発生したビスマルク海戦。この時日本軍の輸送船団は米海軍の反跳爆撃で壊滅した。

「CIWS自動迎撃!AAWオート!」

 みらい のCIWSがフル稼働で迎撃する。

「…ここまで、火薬の匂いがしてくるぜ。」と、尾栗が呟く。

 (CIWSの使用量から見て、あと十数秒しか持たない!)菊池は目を見張った。

 ビー!ビー!ビー!

 突如、CICにアラームが鳴り響く。後部甲板のCIWSが残弾0になったのだ!

 「補給科!直ちに後部CIWSの補給を!」

 「戦闘中に甲板へ出るのは危険です!」と、米倉が呟く。

 「危険も元も子もない。艦全体の危機なんだ!!!」

 と、鬼の形相で米倉を睨む菊池。すると…。

 「上でチビっちゃ困るからよ、俺も行くぜ。」

 声をかけてきたのは尾栗だった。

 「分かった。弾薬補給までは回避行動を取る。振り落とされないよう気を付けろ!」

 角松が補給作業を指示した。尾栗は米倉と柳を連れてCICから出ていく。

 同時刻 みらい フィーリングルーム

「急に静かになったな。」

「ええ…。」

 佐竹と林原の姿がフィーリングルームにあった。

 

「弾切れだな…。」

 

 みらい後部甲板

 「おい、しっかり持て!」

 弾薬が入った箱を三人がかりで運搬する。

 ドスン!

 「待ってろ!今、腹一杯食わしてやっからな!」

 尾栗はCIWSに向けて叫ぶ。急旋回を繰り返すなか、CIWSへの給弾作業が始まった。

「尾栗、あとどれぐらいかかる!?」

 CICの角松から無線で連絡が入る。

 「洋介!あと、1分位だ!」

 と、尾栗は叫ぶ。米倉と柳はCIWSのリールに弾薬を巻き付けている。結構な早さで自動で巻かれるのだが、切羽詰まっているため装填時間が長く感じる。すると、柳が呟く。

 「敵機…。」

 深海棲艦の機体が給弾作業をしている尾栗達を見つけたのだ。

 「間に合わん!伏せろ!!!」

 尾栗が二人を甲板上に倒し、覚悟した。

 (ここまでか…!!!)

 ボン!

 「えっ?」

 尾栗が顔を見上げると、火を吹いて墜落していく敵機の姿があった。そして…。

 バラバラバラ…。

 「佐竹!」

 尾栗の視線の先には、海鳥の姿があった。

 



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