Akatetsu (けいはんぐらし!)
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登場人物

武蔵野中央郵便局

宮森あおい 輸送ゆうパック課員 法人向け集荷・企画係(荷物の集荷回収。差し立てスケジュール管理)

安原絵間 輸送ゆうパック課員 第一・三区分係

坂木しずか 輸送ゆうパック課ゆうメイト 第一区分係

藤堂美沙 輸送ゆうパック課員 第一供給区分係(自動区分機の打鍵)

今井みどり 特殊郵便課ゆうメイト 区分係(国際郵便の区分・差し立て)

本田豊 輸送ゆうパック課員 引き受け・取出し係 のち退職

高梨太郎 輸送ゆうパック課員 第二区分整理取出し係(ロールパレットの整理、トラックへの積載)

矢野エリカ 輸送ゆうパック課員 企画係(差し立てスケジュール管理)

落合達也 輸送ゆうパック課員 第二区分整理取出し係→神戸中央へ転勤

渡辺隼 輸送ゆうパック課員 第二区分整理取出し係

小笠原綸子 輸送ゆうパック課員 企画係(差し立てスケジュール管理)

興津由佳 ゆうちょ銀行営業

丸川正人 武蔵野中央郵便局長

木下誠一 第一供給整理取出し係

円 宏則 第一供給区分取出し係

山田昌志 第一供給区分係

井口祐未 配達地域差仕立て係 (教育係補) (180担当)→第一区分係

遠藤亮介 第一供給区分係

瀬川美里 配達地域差仕立て係(180担当)

杉江茂 教育係(元郵政省社員)

下柳雄一郎 第一供給区分係

佐倉良樹 第一供給区分係

堂本知恵美 配達地域差仕立て係(180担当)

新川奈緒 配達地域差仕立て係(180担当)

葛城剛太郎 輸送ゆうパック課長

安藤つばさ 輸送ゆうパック課ゆうメイト 第一区分係

佐藤沙羅 輸送ゆうパック課ゆうメイト 第一区分係

平岡大輔 輸送ゆうパック課ゆうメイト 第一区分係(元ヤマト運輸)

久乃木愛 輸送ゆうパック課ゆうメイト 第二区分係(手作業、検査)

京橋晴海 配達係

三毛猫君(作者) 特殊郵便課 輸送ゆうパック課員兼任

 

外部

茶沢信輔 新京阪物流 法人向け集荷係(トラックドライバー)

塩沢あいり 配達地域差仕立て係(180担当) ゆうメイト→第一区分係ゆうメイト

 

尾ノ上将人 新京阪物流 東京支社長

 

郵便利用者

菅野光明 法律事務所所長(弁護士)

伊波政彦 自動車板金工場社長 野球ユニフォーム姿が好み

 

その他

宮森かおり あおいの姉 銀行員だが、パチンコが好き

 

用語

ロール(ボックス)パレット=ロールボックス、ロールパレット、カゴ台車、カゴ車、台車などとも呼ばれ、作中では「赤鉄」としばし呼ばれる。金属製のゲージに、キャスターが付いた金属製または樹脂製の底板を組み合わせたもの、主に荷物の搬送、仕分や保管に使用される。

底板を跳ね上げ左右のゲージを折り畳むことができる。(wikiより)

 

赤鉄=郵便輸送用の車輪付きパレット

ロールパレットと言い、重量は100kgある。

 

フラットソーター=定型外程度(B5以上)を自動区分する機械

郵便を仕分けるときに使う

 

 



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第1話 武蔵野のから全国へ

 東京都武蔵野市

 吉祥寺や井の頭公園などがあるおしゃれな街。

 ここにある地域・全国差仕立て、集配を行う郵便局、その名も「武蔵野中央郵便局」。

 新東京多摩郵便局や新東京郵便局とはいろいろな意味で負けるが、これでも地域中継・全国差仕立てと集配を行う位置づけにある。ネット販売の増加で、増え続けるゆうパックに対応するために新設された郵便局でもある。また試験的に薄物のゆうパック対応の最新型自動区分機を設置したところでもある。

 郵便番号18X武蔵野、三鷹、調布、府中、小金井、国分寺、国立、小平、西東京、東村山の全国到着郵便物の中継と全国への差し立てを行っている。全国差し立ては、基本は主要都市(札幌、仙台、名古屋、大阪、神戸、福岡など)と管内(関東内・埼玉、群馬など)へは直接ロールパレットで差し立てているが、地方へは新東京多摩郵便局へ上り雑便として一度送ってから差し立てを行っている。

 

 新人の輸送ゆうパック課員、宮森あおいは郵便局のゆうパック課の社用車スズキアルトで、夜間の法人集荷を終えて郵便局へ戻る途中だった。信号待ちで停車中にカーラジオでは新作アニメの宣伝がしていた。ここへ佐川急便のハイエースが来ると同時に、宮森とハイエースのドライバーの目があった。このドライバーも、ゆうメールの発送代行で郵便局へ向かう予定だった。信号が青に変わり、熱き夜の青梅街道でバトルが始まる。驚異のドラテクで、競り合っていく。

 郵便局に先についたのは、やはり宮森だった。局の1階にある引受郵便物用のホームについたら、真っ先に集荷した荷物を到着デスクの本田に引き渡す。

「今日も夜間の集荷お疲れ。あの会社、いいお客さんだけど集荷頼むのは夜間なんだよ。」と、本田は言った。本田は荷物の個数を確認後、普通郵便(信書)と国際郵便が入っていないかを調べてから、管外雑のプラケースに荷物を載せた。

 宮森は自分のデスクに戻り、同僚の矢野とともに仕事をした。この日、大阪からの北陸経由の鉄道便(JPレールエクスプレス)が島本駅で発生した人身事故の影響で大幅に遅延していた。「急ぎの荷物が乗っているのに、なんでこんな日ばかりほっぴんジャンプするんだよなあ。困ったもんだよ。」と、矢野は言った。

「まあ気にしないでおけばいいと思う。たぶん遅れは2時間程度で済むと思う。1号便の差し立て時間をずらせばいいと思う。」と、小笠原はアドバイスする。しかし遅延は1時間以上で深刻なものだった。まあ待っていても仕方がないから、夜勤に引継ぎして帰ったほうがいいとの指示を受けた。そして企画で働いていた、宮森と矢野、小笠原は21時に帰宅した。

 一方、区分する部署では、宮森が持ってきたゆうパックがちょうど最終便で処理されていた。薄物の封筒20冊を普通郵便課の社員がフラットソーターにかけて区分している。すべて管内だったので、トラックの出発は深夜になる。すべての差し立て締め切りは23時。局で夜勤の社員は結束時間に追われ忙しくなってくる。大量の普通郵便やゆうメール、ゆうパックが詰まったロールパレット、あふれんばかりに郵便が詰まったケースが大量に1階にある出発ホームへエレベーターで運ばれ並んでいく。

高梨と本田、木下の3人は、決められた向きにロールパレットを並べていく。トラックやコンテナがつくと扉が開き、ドライバーから便名と行先を改めて確認しロールパレットを積み込んでいく。

 この日はトラックへの積み込みは1:00の管内便で終了した。最初の到着便が来る5:00までは仮眠時間だった。

 

 翌日はJPレールエクスプレスの遅延により、管内便からスタートとなった。大量のロールパレットが1回の到着ホームに流れ込む。ここで高梨と本田は、普通郵便とゆうパックのロールパレットに分けていた。

 普通郵便のロールパレットは、エレベーターで普通郵便課へ運ばれていく。一方ゆうパックのロールパレットは、1階のゆうパック自動区分機に投入する。この作業は、本田が行っていた。ようやく6:00になり続々社員が出社し、武蔵野中央郵便局も業務が本格的に始まる。遅延した荷物が武蔵野中央郵便局に到着は早くても7:30である。隅田川のコンテナターミナル到着は朝の6:30であった。

 宮森や小笠原は7:00出社であった。出社するや否や、パソコンを立ち上げや雑務で忙しい。

 ようやくコンテナが武蔵野に到着した。神戸からやってきたゆうパック専用の31フィートコンテナには、ネット通販の商品の詰まった赤鉄ロールパレットやロールBOXが大量に積まれていた。

 到着エリアと呼ばれる場所へロールパレットは運ばれる。この際に、現金書留等の入ったパレットは、別の場所へ運ばれる。その後、山田が内部の現金書留等の荷物や郵便袋を回収し、第一供給にロールパレットを渡しベルトコンベアに荷物を流す。

「最初の管外便 関西便 着いたで!今から供給するぞ!」と、本田は放送で呼び掛けた。ベルトコンベアはものすごい音を立てて、大量のゆうパックを仕分けていく。7つのレーンに振り分けられた荷物が落ちていく。それを安原、藤堂、円、下柳、遠藤、佐倉が各レーンに入り、シュートから出てきた荷物を伝票の住所や仕分け番号のシールを見てから、行き先の紙の貼ったロールパレットに積み込んでいく。シュート出口が満杯にならないように手際よく、かつ誤送しないように積載するのは大変な作業である。

 最大で2時間はこの作業は続く。体力と根気が勝負である。

 薄物は専用区分機で作業する。この作業は、杉江が行っていた。この区分機は、1人で大量の薄物を区分できる高性能な機械である。

 一方の高梨は、機械区分のできないもの(カバン、割れ物等)を手作業でさばいていた。手には昔の携帯電話のような大きな端末を持って、一つ一つゆうパックを入力し、指定の行先のロールパレットに積み込んでいく。中には30kgの米やジャガイモなどの根菜類も入っている。袋を破らないように慎重に高梨は積み替えていくが、誤って荷物をロールパレット上段に30kgの米袋を載せてします。それを見た遠藤はすぐに高梨を指導した。

「お前!上段に30kgの米袋乗せるな!何度言ったらわかるんだ!重量物を上段に積むとロールパレットが暴れることもあるし、第一安定性が失われるばかりか、到着局で積み下ろしは大変なばかりか、荷物落下の危険や破損の危険がある。絶対に下段に米袋などの重量物は乗せろ!わかったな!」

 高梨は頭が悪いので、何度も遠藤らが言ったことを忘れる。本人もそのことをいまだに理解していない。

 8:15に供給をいったん止め、1号便の出発準備に入る。出発ホームに各郵便局へ向かう午前~14時配達結束の荷物が詰まったロールパレットが並ぶ。それらを大急ぎでトラックに積み込みロールパレットを固定し、大急ぎで各郵便局へトラックは走って行った。

 

 しかしまだ武蔵野中央郵便局には、午後夜間指定の荷物や北海道沖縄、九州航空便や地方都市便の到着待ちや仕分けが残っている。早勤の社員は小腹が空く頃、喫茶や自動販売機コーナーはにぎわっていた。一方宮森と矢野、小笠原は、電話の対応とトラックの対応で忙しかった。宮森は好物のドーナッツ片手に対応していた。トラックや鉄道の遅延ばかりか、一部荷物の誤送も発生していた。

「あの~新東京に武蔵野宛のゆうパックが4つ荷物残っていますが、2号便で対応できますか?」

 宮森は「時間指定はいつになっていますか?」と、言った。

「それが・・・実は・・・本日の午前中になっているんです。すべて郵便番号の書き間違いにより、4つとも新東京のロールパレットに入っていたんですよ。」

「わかりました。すぐに新東京郵便局へ車で向かい回収し武蔵野中央にて入力後、仕立てのものに渡します。今なら往復でも10時には戻れるので。」と、宮森は言った。そしてアルトで、新東京多摩郵便局へ急行する。

 そして休憩の後、再び供給が始まった。「新東京多摩下り雑 着いたで!」と本田は言った後、静岡・広島などの地方都市からの荷物を捌くことになる。その数はロールパレット32台分である。ひっきりなしに流れてくるゆうパックに圧倒される、安原はふらつき始める。「非常に疲れるなあ。この作業・・・なかなか慣れない・・・」と、安原は言った後、うっかり荷物をレーン下に落としてしまう。それに気づかないまま作業をする。しかしここへ教育係の杉江が、安原の落とした荷物を拾って渡しこう言った。「忙しい時こそ気を付けて作業したほうがいいよ。荷物の誤送や破損、またロールパレットによる労災事故にも合う可能性がある。ゆっくりと仕分けていくほうがいいよ。あとレーンを活用して重量物は後から載せていくといいよ。」

 安原は「ありがとうございます。」と言って作業を再び始めた。機械は2時間おきに停止する。その間に残留点検や機器調整をする。その間に、捌いた荷物を載せたロールパレットを区分検査する必要がある。その最中についに安原は疲れのあまり作業をさぼり始める。この様子を見て、藤堂は安原にこう言った。

「ぼさっとしないで、ほらっ!すぐに区分検査しろ!」

 すると安原は

「少し無理です。今日は荷物が多すぎます。私も疲れていますので、少し休みたいです。」と、言ったところ

「もう次の便来るまで仕方がないなあ。休んでおけ!」と、藤堂は言った。

 最終の南九州航空便が武蔵野に着くのは10:40頃。トラックは今空港を出発して、武蔵野中央郵便局に向かっている。そして2号便の締め切り時間は11:30、局員は時間との戦いが始まる。

 そして宮森は新東京郵便局から誤送荷物を持って戻ってきた。速やかに矢野が端末入力後、堂本に渡した。

「まあ無事荷物が配達されそうだねえ。」と、堂本は言った。

「本当に大変でしたよ。今日は、JPレールエクスプレス(鉄道便)が遅延するばかりか、誤送処理まであって宮森が車で走っていました。まさか急ぎの荷物とは、思ってなかったよ。」と、矢野は返した。

 無事に南九州航空便が武蔵野に着いた。これを供給すると本日の到着便は、ほぼ終了する。

 終了の合図を本田は出す。それでレーンにあるすべてのロールパレットを整理して、扉を閉めたのち各行き先の出発ホームに整列させる。そしてこれ以降の到着便は3号便として処理し、手区分になる。

 5分間の休憩の後、今度はレーンを全国差し立ての準備に突入する。足元の標識を確認してロールパレットやロールBOXを指定のレーンに並べ行き先の紙を貼る。その作業が済むと、一足早いお昼の休憩に入る。

 交代で遅番の木下が出社してきた。簡単に小笠原と宮森からミーティングを済ませると、武蔵野中央郵便局に到着のロールパレットの整理を始める。ここから全国へのゆうパックの発送が始まる。

 管内と管外、法人と個人の4種類に仕分けていく。12:30より作業が再開される。1階での区分機はものすごい音を立てて、ゆうパックを捌いていく。

 今のところ薄物は、ケースに入れて床においている。薄物区分機は停止中なので溜まってからまとめて区分を行う。区分効率向上と破損と誤送をなくすことができる。

 木下はかなりの問題人物である。人以上にペースが速いが、かなり雑多に投入する癖がある。過去数回にわたって、お酒を自動区分機に投入して破損させている。また区分やロールパレット内を区分検査することが苦手としているので、作業をさせたら誤送が多い。これが色々な問題を起こしていることを、本人は自覚していないがほかの社員は察知している。だから供給を担当させられているのも事実だった。しかしこの日は、神戸などからの到着便が多く、差し出す荷物はさほどなかったと思われた。

 

 一方、配達仕立てに部署では、配達係への荷物を渡す準備に遅れが出ているばかりか、連絡漏れが勃発し積み忘れが出ている。これを見た井口は、すぐにバイク便を出すように配達担当の配車係へ連絡する。

「このままでは定時に捌けないばかりか、翌日へもつれ込む。何とかしなくてはいけない。軽量物と薄物はバイクで配達はできますか?」と、井口は配達担当へ提案した。

「じゃあ一部を通常の書留とかといっしょに配達させれそうか。」と、配達担当は回答した。しかしここで、さらなる問題が発生する。それは再配達漏れが発生した。再配達依頼があった際に、配達する者への連絡が漏れて、持ち出しを忘れてしまった。

「もう何やっているん!このままでは、大変なことになりそうだよ。再配達の指定は、15:00となっている。あ!しまった!あの担当に連絡するのを忘れていた!」と、新川は言っていた。井口は

「もう何をやらかしたっていうの!これ急ぎの荷物なのに!まあ局からバスで15分ほどのところだから、バイクで走れば大丈夫だと思う。でもやはり軽4車でないとこの重量は厳しいなあ。」と、答えた。ちょうど遅延していた荷物は問題なく配送され始めていたが、まさかの積み忘れが発生している状況となった。しかもすでに前を通る配達車は出発した直後であった。ついていないときは、本当についていない。

「もう仕方がないなあ。宮森に走ってもらえるか聞くしかない。」と、井口は提案した。そして局の内線電話で、宮森へ連絡した。

「もしもし輸送ゆうパック課の宮森です。」

「あの宮森さん、少し問題が発生していて配達担当の代わりに配達は可能ですか?場所は吉祥寺のいつもゆうパックを使ってくれるお方の家です。処理の不手際で、本来の担当者に渡すのを忘れて、さらに再配達の指定が15:00までなので、代わりに届けてくれますか?」と、井口はお願いした。

「承知です。今から配達へ向かいます。荷物とルートを準備して1階の駐車場へ持ってあがってください。」と、宮森は言って電話を切った。宮森はあわてて配達員の上着を着て、1階駐車場で井口から荷物を受け取り、指定された吉祥寺のマンションへ向け車を走らせた。

 郵便局1階では最初の三鷹、調布からの上り1号便が到着した。コンビニや特定郵便局(無集配局)や三鷹・調布市内で集荷した荷物を機械で捌いていく。到着便が落ち着いたと思うと、いったん機械を止める。そして藤堂と安原が手区分エリアへ行くと、家電量販店からの当日結束のゆうパックが到着していた。それらを藤堂が端末入力後、安原と高梨が手区分で積み込んでいる。そしてしばらくすると、東京国際からのEMS(国際スピード郵便)が到着する。これも同様に区分し、3号便として明後日到着の普通郵便とともに出すことになる。差し立ての時間は15:00、それまでは受け付ける状態にしておき、高梨が基本処理する。

 たまに矢野が手伝いをする。しかし物覚えの悪い高梨は、ここでも問題行動をする。リサイクルショップへの着払いゆうパックによる通信買取のものを八王子着払いの赤鉄パレットへ積載せず、一般とEMSと混載してしまう。

「おい!高梨!また積み間違いしているよ!もう何度言ったらわかるの!八王子市のリサイクルショップの通信買取はここじゃないでしょ!法人向け着払いゆうパックは別の赤鉄パレットだよ!だからいつも区分検査したら一般物と急ぎの着払いがグチャグチャになっている。」と、矢野は言った。

 高梨は「わりぃ」と言って、すぐに積み替えをする。「もう少しマシな受け答えはできないのかなあ?」と、矢野はつぶやきながらデスクに戻った。3号便は定刻通り、各郵便局へ向け走って行った。

 

 そして16:00が近くなり、夕方からの差し立てを行うためのゆうメイト(アルバイトや契約社員)の方が出社してくる。この中に、宮森と安原、藤堂たちの高校時代からの親友である、今井と坂木が出社してきた。

 3人は作業の手を止め、二人にあいさつした。

「こんにちは~!」と今井と坂木は言ってきた。するとここで、葛城課長は今井に対してこう言った。

「今井さんはこの部署じゃないですよ。いくら仲が良くても本来の業務は、国際郵便の国別の差し立てですよ。3階へ行ってください。」すると今井は、

「今は始業時間前なので、少しだけ。」と、返した。

 とにかく仲のいい5人を前に、葛城課長はなすすべがなくなった。すると小笠原は、

「あのままで、いいんじゃない?」と、さりげなく葛城課長へ向け言った。

 今井は大学生で、小遣いがほしいので郵便局で国際郵便の仕分けのアルバイトをしている。しかし週4日なので、あまり宮森たちと会うことができない。

 坂木は声優を目指し、日々オーディションを受けている。でもなかなかオーディションに受からないので、輸送ゆうパック課で区分係のアルバイトを夜遅くまでしている。最終の管内便発送は行っていないが、大阪方面の鉄道便は差し立てをしている。

 530kgのロールBoxや450kgの赤鉄はうまく取り扱えないが、皆にフォローされて仕事をしている。

 遅番のミーティングが終われば、さっそく区分機のペースを上げて作業する。そして最後の午前中差出のゆうパックの供給をすべて済ませ、キャンセルと言われる荷物(区分機で分けれずに処理できなかったもの)を木下が流したのち、藤堂が打鍵して仕分けていく。この際に藤堂は、各レーンの様子を確認しながら木の下へ指示していく。

「管内の処理が追いついていない。管内便の供給を中止してくれる?基本は管外オンリー!」と、藤堂は指示を出す。キャンセルの入力区分が済めば、手区分と薄物を合わせてから検査したのちに差し立てる。機械が停止たたら、午前締め切りの荷物の発送が始まる。

 安原は「今日は荷物が多いなあ。」と言っていた。坂木はすぐに安原をフォローし始める。

「まあ九州航空便と新東京多摩上り雑は、いつも大量だからね。それに安原さんは朝早くから頑張っているし、疲れると思うよ。」と、坂木は答えた。供給が終わると、ベルトコンベアの荷物投入場所にある余ったロールパレットをたたんで所定場所に片付ける。午前締切の差し立て完了後は、順次管内便を供給していく。

 そして八王子のネット販売会社ノーステップの商品の供給に入る。このときの作業は、木下と藤堂が行い8台分の赤鉄を供給、打鍵する。いわば「半自動区分」といった感じで、通販商品を区分する。ブザーが鳴ると機械はキャンセルとなりすべて終点のレーンに落ちる。そのため打鍵係は、モニターでレーンの様子を確認しながら、供給に指示する。しかし木下が作業すると、モニターによるレーン確認を怠る癖があるので、問題が発生した。それは終点のレーンに落ちる荷物が多くなり、ついに荷物が詰まり緊急停止した。

「誰や~!エンドシュートいっぱいになっているのは!1回機械完全停止させて、点検作業に入る!」と、本田は言ってヘルメットをかぶり作業に入った。

 17:00に入り、続々と午前締切の荷物が出発ホームに並び始める。普通郵便が満載された、アルミパレットもエレベーターで降ろされてくる。

 宮森にも集荷依頼の電話が入り、車を走らせ依頼主の会社へ向かう。矢野はトラックの出発スケジュールの管理に入る。パレットやロールBoxの台数を輸送会社に報告する。九州へは航空会社へ連絡し、大阪などの関西方面の鉄道便31フィートのウイングコンテナ台数をJR貨物に連絡し手配する。

 ノーステップの商品の供給が一段落すると、今度は午後締め切りのゆうパックが到着し始める。それらは自動で区分できるので、打鍵は不要だが間でキャンセル分の供給がある。この作業の打鍵は、藤堂が行うが到着便を見計らいながら行う。キャンセル供給中は、一般物は流せなくなるためであった。手区分のエリアでは、高梨が泣かされていた。応援で大量の機械区分不可のゆうパックを渡辺とともに端末入力後、所定のレーン番号のあるロールパレットに積み込む。しかしここでも高梨は誤区分をする。

「また間違っている!関西でないぞ!四日市宛は中京エリアのパレットだぞ!気をつけろ!」と、遠藤は高梨を指導した。「すみません。なかなか日本の47都道府県と主要都市が覚えられないのでつい…」と、高梨が言った途端、「お前はいつもこれだから誤送が多い!さらに破損も起こしている。米袋をすぐに上段に乗せたり、ゴルフバッグを固定せず発送したり、積み間違えまでしている。もっとしっかりしてほしいよ!」と、遠藤は言った。

 

 一方の宮森もその頃、店舖や事務所を巡って、法人向けゆうパックを集荷していた。店舗ではマチ付袋が多く、事務所で集荷するゆうパックは薄物がほとんどであった。武蔵野中央郵便局に着いたら、薄物は杉江にプラケースに入れてから渡した。矢野は「みゃ~もり、集荷お疲れ~!」と、言って引き出しから菓子を宮森に渡した。

 一方の今井は、特殊郵便課で国際郵便の仕分けをしていた。しかしなかなか国がわからないことも多く、大陸別に分けることを苦手としていた。

「今井さん、もう少し覚えてください。ニューヨークとサンフランシスコは違いますよ。アメリカでも場所と雑便を間違えています。」と、係りからいつも言われる始末だった。

 もうすでに特殊郵便課で国際郵便担当は、お手上げの状態だった。だからいつも今井は、輸送ゆうパック課応援に駆り出されている。

「君はどちらかといえばゆうパック課のほうが向いていると思うよ。」と、杉江に言われていたこともある。でも輸送ゆうパック課には、高校時代から仲のいい坂木といつもペアを組み、重量物を取り扱うこともある。

「今井さんは国際郵便の区分じゃないの?」と坂木は、言ったとき

「係りの者がこちらの仕事が忙しいから、国際郵便の区分はいいと言われて来ている。」と、今井は言った。

 業務はこれからがピーク、武蔵野中央郵便局に到着便が増えてくるのと、全国や国際交換局への出発便の時間も来る。出発ホームに荷物満載のロールパレットが並んでいる中、木下は放送で

「九州沖縄航空、北海道東北、新東京多摩上り雑、出発準備!」と、放送でレーンの社員に知らせる。そしてレーンにあるロールパレットで九州沖縄航空、北海道東北のものを発送差し立てに入る。今井は重要物(書留)入りのロールパレットを検査し、結束バンドで扉を締めて発送する。その後、残ったものも区分検査したのち発送していく。21:00大阪行きの鉄道便(JPレールエクスプレス)向けの発送が始まる。31フィートコンテナを積んだトラックがトラックエプロンに並び始める。行先を間違えないようにゆうパック課社員総出でロールパレットやロールBoxを積み込んでいく。出発時刻になるとコンテナの扉を閉めて、貨物駅を目指しトラックは走り去った。

 

 そしてこの日、丸川局長は東京中央郵便局に行っていた。そこで人員確保のための会議に臨んでいた。問題だらけの国際郵便室の改善と輸送ゆうパック課の誤送低減、そして地域に親しみやすい配達員を確保するため行っていた。神戸にいる敏腕区分係がいるとの情報を聞きつけ、その方に来てもらえないかのテレビ電話会議をしていたりもした。

 武蔵野中央郵便局に帰ってきたのは、遠方宛のトラック便の出る時間になっていた。宮森はすぐに正面玄関に駆けつけ、丸川局長をねぎらった。

「丸川局長、東京中央郵便局での会議お疲れ様です。」と、宮森は言うと

「ああ!ありがとう!会議の結果はよいものだった。これで業務がはかどり楽になると思う。」と、丸川局長は返した。局長室へ戻るためにエレベーターが来て丸川が乗り込むときに、

「宮森はいつも元気がいいなあ。元気がもらえるよ。」と、宮森に返した。

 

 そして明日、東京中央郵便局での会議結果の詳細が局長から発表される。



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第2話 コンテナ入ります!

 丸川局長が東京中央郵便局から戻り、局長室に入り私服に着替えてから会議結果を整理する業務をしていた。「今回の会議は、いい結果になったなあ。」と、彼はつぶやいていた。

 そこへゆうちょ銀行の興津が、局長室へ入ってきた。

「丸川局長、失礼します。本日NiSAの営業で、いい結果が出ました。新規営業獲得です。」と、興津が言った。すると

「おお!君もやるねえ!この小さい郵便局でも、かなりやり手の社員だからね。興津さんのおかげで営業実績が上がった。特に金融商品は君の得意分野だから助かるよ。」と、丸川局長は返した。

「皆の営業のおかげで、新しい社員の方が今度から武蔵野中央郵便局に来ることが決まった。これで少し業務が楽になる。また給料が増えることにもなった。いい情報だから、明日のミーティングで皆に私から伝える予定だよ。」と、局長は言った。

 一方のそのころ輸送ゆうパック課は、坂木と安原と木下は残業で業務をしていた。薄物区分機もベルトコンベアもフル稼働で荷物を捌いている。宮森と矢野は夜勤担当に挨拶してから帰宅した。この日の差し立ては時間通りすべて終わり、皆安堵の表情を浮かべていた。

 

 翌朝、管外は大阪からの鉄道便から始まる。この日は貨物が多く、31フィートコンテナ2個と12フィート3個が関西から到着した。このため区分係は、1号便は管内便のみとなり、大阪からの荷物は7:00から区分となった。そして管外下り臨時便(地域差仕立て臨時)で、荷物を発送することになった。人手不足の状態になり、やむを得ず宮森と井口も区分係として作業することになった。

「まあたまには体を動かして、いい気分転換になるなあ。」と、宮森は言っていた。一方の井口は、

「いつもは配達担当だからここでの作業もたまにはいい。」と、言った。しかし関西からついたコンテナは5個満杯。さらに31フィート1つはゆうパック専用便。ロールパレットやロールBoxもかなりの数がある。それを少人数で裁くのは至難の業であった。もうすでに未処理パレットエリアは、大阪・神戸からの荷物であふれていた。供給はものすごいスピードでベルトコンベアに荷物を入れ、薄物はプラケースに入れてから薄物区分機の場所へ運ばれる。

 そして葛城課長と小笠原は、チルド室で区分作業していた。小笠原はコートにゴスロリの組み合わせで作業に臨んでいた。

「いや~小笠原さんはこんなに力持ちだとは思わなかったですよ。」と、葛城課長が言うと、

「私も前に居た郵便局では、レーンでの作業でした。」と、小笠原は返事をした。

「民営化後は、ゆうパックの取扱量が増えたなあ。」と、小笠原はつぶやいた。すると葛城課長が

「そうだねえ。私も武蔵野中央郵便局に来る前は、別の郵便局にいた。わしも郵政省の時からいるからなあ。」と、言いながらチルド便の入力をしていた。

 一方ベルトコンベアでは、藤堂らはシュートから出てきた大量のゆうパックをロールパレットに積み込んでいた。「ファンファンファンファン」とサイレンが響きわたる庁舎内で、皆走り回って作業していた。

「6レーン応援お願いします。」と、宮森は叫んでいた。すると山田と佐倉が駆けつけ、大量のゆうパックを次々に投げて積み込んでいく。

「これだけのゆうパックが来たのは珍しいなあ。」と、矢野は言っていた。

 そして新東京多摩下り雑が着いて、状況は悪化する。「もう区分の限界を超えそうだよ。」と、皆思っていた。

 手区分は米袋から衣装ケースが、到着し高梨が入力後、各行き先のロールパレットに積み込んでいた。旅行用のスーツケースやゴルフバッグ、米袋を分けてからそれぞれ積載していく。「今回は対策として、差し立てる6局を2台ずつロールパレットを用意する。そして行先札に米とカバンと書いて専用のものにすること。その後、レーンから来た荷物を検査後、手区分のものを空きスペースに突っ込んでから発送すること。」と、矢野が言っていた。これで少しは区分中のトラブルは減ると思われた。しかし問題は発生してしまった。

「やべえ!米袋の口が開いてしまった。中身が見える!どうすりゃいい!」と、高梨は叫んでいた。するとここへチルド室から小笠原が駆け付けた。彼女はすぐにガムテープで開いた米袋に応急処置をした。

「これで一応差し出せるよ。しかしなぜこんな送り方するのか訳が分からないよ。」と、小笠原は言ってから元の持ち場に戻った。

 

 9:00になり輸送ゆうパック課のすべての社員は、ベルトコンベアの投入口近くの空きスペースに集合しミーティングをする。そしてここに丸川局長の姿があった。

「みなさん、朝早くからご苦労様です。今日はいいニュースがあります。今度から武蔵野中央郵便局に新しい仲間が来ることになりました。神戸から1名来てくれることになりました。この方は、かなり優秀な社員の方で、これで少しは業務がよくなると思います。また今井さんも、もうじき特殊郵便課から輸送ゆうパック課に移動する可能性も出てきました。本人の希望があるので、私も協力しようと思っています。」と、丸川局長は皆に話した。

 すると高梨は

「めっちゃいいニュースだ!今度から新しい仲間が来るんですねえ。」と、興奮した口調で話した。

「本当にいいニュースですね。丸川局長!」と、宮森は喜んでいた。

「しかしこの方、少しだけ気難しい点があるので、接するときは注意してあげてほしい。ただかなり優秀なのは事実ですが、話し方やいろんな面で気を付けてほしいです。」と、丸川局長は釘を刺した。

 大量のゆうパックがまだ残っている状態に、皆は頭を抱えていた。さらにチルド室も処理待ちの荷物が並んでいる。小笠原と葛城課長はチルドの作業を続けている。ベルトコンベアはフル稼働で処理していく。

 矢野はトラックを手配し、無事に臨時便を手配し各郵便局への輸送を確保した。

「今ゆうパック専用の下り便をトラック3台分手配しました。9:45に10台ずつ発送します。」と、矢野は報告した。すると本田は

「発送準備にこれから入る。出発ホームにあるものは、順次発送します。」と、放送を彼は流していた。

 その後、局での全国到着の作業は順調に終わる。しかしチルド室での問題が発生した。床がドレンから漏れた水で床が濡れていた。

「ありゃ~!チルド便で使う冷蔵ロールパレットから、ドレン水が漏れているなあ。床がびちゃびちゃになっている。これは危ないなあ。」と、葛城課長は言っていた。すると矢野がチルド室の様子を見に来た。この時、葛城課長は

「お!ちょっと矢野さん。チルド室の床が、さっき壊れた冷蔵ロールパレットからのドレン水で漏れてしまっているので、すまないが清掃担当に内線電話連絡して、清掃をお願いできるかなあ?」と言った。

 すぐに矢野は、入力端末で清掃担当へ内線電話連絡する。

 レーンでは、ようやくすべての荷物の中継処理が終了。2号便の発送が始まる。

「あれだけ大量のパレットも、今ではすべて供給して無くなりなりましたねえ。」と、宮森は言っていた。すると

「あたりまえだよ!いつも宮森は車で走り回っていて、あまりレーンは見ていないからなあ。」と、藤堂が答えた。

 

 しかしこの日は、大口の八王子市にあるリサイクルショップのネット販売部が、トラック1台分、ロールパレットにして20台分が一気に武蔵野中央郵便局に来ることになって、それも一部は打鍵で処理することになっている。

「これは大変なことになるなあ。武蔵野中央到着は15時。全差第1便が来るのは、14時だからなあ。かぶるから大変なことになりそうだなあ。」と、矢野は思っていた。12:00からは通常通りの休憩時間。矢野と宮森が交代で到着ゆうパックの個数確認の処理をする。13:00からは普段通りの集配が取ってきた荷物の供給が始まる。しかしこれの供給に、高梨は手こずっていた。

「おい!ペースもっと上げろ!高梨!このままでは、お客様のトラックがついて区分が追い付かない状況になる。」と、円が怒る!

 14:00過ぎ八王子市にあるリサイクルショップのトラックが到着ホームに着いた。ロールパレット14台分がトラックから降ろされた。これらを本田と木下が投入することになる。しかし問題が発生する。機械へ投入禁止の小型家具やテレビを投入する。すぐに宮森が異常に気付いたので、区分機を非常停止させ大事には至らなかった。

「誰?重量物や壊れ物を機械へ投入したのは?」と、宮森は言っていた。すると葛城課長は

「大ごとにならなかったのは幸いだった。手区分を間違って機械にあのまま入っていたら破損していたに違いない。藤堂も見ていないので、少し供給は大変だよ。さて、誰があんなものを供給したのかだなあ。」と言った。すると木下が

「私です。」と、言った。葛城課長は

「後でチルド室に来てくれるかなあ?話がある。」と言い残して、デスクに戻った。

 一方の宮森はデスクの戻った途端、電話が鳴った。いつもゆうパックを使ってくれるお店からの集荷連絡だった。

「お電話ありがとうございます。武蔵野中央郵便局 輸送ゆうパック課担当の宮森です。」と、言う。

「いつもお世話になっています。今日もゆうパックの集荷お願いします。少し急ぎの荷物なので、今からできますか?」と、店のものが言う。

「かしこまりました。それでは今からお伺いしますので、30分少々お待ちください。」と、宮森は答えた。

 デスクを離れた宮森に、葛城課長は「やるね!宮森!さっきは助かったよ。」と、言っていた。課長へ返事をした後、宮森は集荷へ向かった。

 一方の区分の部署は、武蔵野中央からの個人受託の全差が行われていた。しかしここでも下柳が混乱を招くことを言っていた。

「八王子市のリサイクルショップとノーステップを供給して!」と、下柳のこの一言が供給係を混乱される。

「じゃあ、供給しますね。」と、本田が言った。

 すると葛城課長は

「とりあえず個人受託から供給して。それは16時結束なので、そっちを優先して。」と、言った。これにより本田と木下はどれを流せばいいか困惑していた。

「じゃあどれを最初に供給すべきですか?これではわかりません。」と、本田は言った。するとここへ小笠原が来た。

「結束時間が短い午前締めから供給して。つまり個人受託。」と、言ってデスクに戻った。

 供給担当の木下と本田に対して、どっちのパレットを流すのかで混乱をきたすことになっていたが、小笠原の一言で終息した。その後、順調に進むと思われたが、また地域配達で問題が発生した。

 堂本が配達担当に渡しそびれて、配達指定時間に迫る事態になっていた。

「ちょっと、この荷物、配達指定時間に近づいている。どうしたらいいの。」と、堂本は言っていた。すると瀬川は

「なぜこうなったの?まさか配達指示し忘れたの!それは困る!ちゃんと荷物を配達担当に指示する書類を渡してしておかなければ、荷物を持って行ってくれないよ。口先だけでは伝えられないから、しっかりして欲しい。」と、瀬川は言った。

「すぐに上の方に相談して、対策をしなくては。でも井口は今、区分係に駆り出されているからなあ。相談したくてもいないので、これは困るなあ。」と、瀬川が言ったとき偶然杉江が様子をのぞきにやってきた。

「何か問題かねえ?」と、杉江が言った時に、瀬川はこの件について相談した。

「それなら手が空いている社員に配達を頼んだほうがいいと思う。かなり今日はゆうパックの量が多い。だから不可抗力なので、仕方がないと思う。コンテナ5個なら仕方がない。でも宮森にお願いするのは、今はできないなあ。集荷に行っている。」と、杉江は言った。そして内線電話で、配達員の空きを調べて無事に受取人のもとへその荷物は届けられた。

 

 しかし葛城課長は、少し問題視している。配達がこれでは何度でも繰り返される。本日地域配達の空き時間に、対策について話し合うと決めた。

 その頃、チルド室では清掃が入っていた。荷物がない時間帯に室内を清掃し、清潔に保つ。ここでも担当の問題行為がわかる。行先札をそこら辺にポイ捨てする行為により、不潔な状態になっていた。このことを清掃担当が察知し、葛城課長へ報告する。

「何か対策を考えねば」と、小笠原は言った。

 そしてことは再び悪化する。原因はもちろん木下と高梨が起こす。この日は大阪方面の冷凍便の差し立てがあった。チルド室の中には、レンガぐらいの大きさのドライアイスが数個出されていた。木下と高梨は、冷凍ゆうパックを専用ケースに入れる際、大阪まで持つだけのドライアイスを入れていた。しかしこの二人は黙って作業していたのではなく、女性には卑猥な下ネタをしゃべりまくっていた。そこへ矢野が作業の進捗状況を確認にやってきた。その瞬間に二人が黙らず下ネタを吐きまくって作業していたのを見てしまう。そしてついに矢野の怒りの逆鱗に触れる。

「君たち二人!もういい加減にしろ!黙って作業はできないのか!」と、大声を張り上げて、そこに置いてあったドライアイスを思いっきり投げつけた。ドライアイスは見事に清掃担当の置いたバケツに直球ストライクで飛び込んだ。大量の煙がバケツから吹き上がり、全員緊急避難する事態になった。葛城課長と小笠原はすぐに駆け付けた。

「大変だ!大量の二酸化炭素ガスが発生して、気密性の高いチルド室内では危ないことになる。酸欠になって危険だなあ。」と、葛城課長はいった後、小笠原は対策に走る。

「すぐに大型扇風機と出発ホームのドアを全開にして!換気を行って!早く!」と、小笠原も指示を出す。そして宮森が集荷から帰ってきたとき、輸送ゆうパック課は騒然となっていた。

「何がったのですか?」と、宮森が言った時に

「君も今すぐ手伝ってほしい。大変なことになっている。理由は矢野がドライアイスを投げてしまって、大量の二酸化炭素ガスがチルド室にたちこめている。それを何とか追い出さなくては。」と、小笠原は言った。すぐに宮森はそばにあった台車で、扇風機を運搬して指定の場所に設置した。換気は最低で2時間かかった。幸い遠隔操作で温度管理できるので、内部の温度上昇は最小に抑えることができた。

 換気作業が一段落して、ようやく区分作業に移れる状態になったのは、15時ちょうどだった。区分機をフル稼働で動かし、16時の午前締切に間に合わせる。フル稼働で機械は動くが、一向に荷物は減らない。やはり先ほどの行為が影響を与え始めた。

 丸川局長は矢野を宿直室に呼び出し、話すことにした。何が原因だったかを聞き出すためであった。

「少しあの二人が下ネタを言って、作業をしていなかったので、カッとなってあんなことをあった。」と、矢野は答えた。すると

「あの二人が一緒にいた時に、要らないことを話していたのだねえ。まあわしからも話をしてみることにするよ。もう二度と卑猥な話をさせないようにする。だから君は、あんなことを二度としないでほしい。」と、丸川局長はそう言って矢野と約束した。

 

 しかしこの日は、葛城課長は問題の処理に追われることになる。木下と高梨が起こしたドライアイス問題だけではなく、ここ最近ゆうパックの配達積み忘れの対策処理に追われている。

「ここ最近、武蔵野中央はトラブル続きだなあ?」と、葛城課長は言ったときに丸川局長が様子を見に来た。

「困ったことかなあ?葛城君?」と、丸川局長が言った。

「ここ数日、配達の積み忘れが多く遅配になりかねない事態が発生しているのです。」と葛城課長は答えると、「対策を考えるには、やはり古株の杉江に聞いたほうがいい。教育係なのでうまいこと言ってくれると思う。あとあの二人が行ったことについては、わしから言ってみるよ。君はノータッチでいい。」と、丸川局長は言った。そして木下と高梨をテレビモニタのそばに呼び出した。

「今日、君たちは問題を起こしたようだなあ?」と、丸川局長は木下と高梨に対し言った。すると木下が、

「ええ!いきなり矢野がレンガぐらいの大きさのドライアイスを、こっちに投げてきました。」と、言った。

 すると丸川局長は

「それは何が原因だったかわかるかな?君たちはなぜ下ネタをチルド室で話していたのかね?」と、質問してきた。

「作業が退屈で面白くないし、ちょうど木下さんがいたので一緒に話していたら、ついつい下ネタが出ちゃったのです。」と、高梨は言った。

「下ネタは輸送ゆうパック課では厳禁だよ。ここの部署は女性社員が多い。だから君たちは配慮する必要がある。そうすればお互いに気持ちよく仕事ができるはず。」と、丸川局長は二人に対して言った。

 16時になり遅番の今井と坂木が出社して来た。

「坂木さんと今井さん、こんにちは。それより今日は、差し立て荷物が多いので頑張ってね。あと午前出しの荷物が問題行為発生で、全然処理できていないの。だからしっかり区分お願いね!」と、宮森は言った。

「わかった!今から頑張れば、なんとか間に合いそう。午前だしの最初のトラックが出るのは、17:20それまでに何とかする。みんなやるぞ!」と、坂木は答えた。そして宮森もレーンに加わり作業する。

 最後の午前締切の一般が終了するのは17時前のことだった。最後のキャンセルを藤堂が打鍵して処理し、手区分を合わせて発送作業に移る。

「おい!もう時間ないぞ!みな急いで作業お願い!」と、矢野が指示の放送をする。

「みんなここからが勝負だよ。行き先を間違えないようにして速やかに積み込んでいくよ。」と、坂木は言った。そしてすべての荷物がロールパレットに積み終わり、無事出発ホームに並べられたが、トラックはもうすでに到着して待っている状態であった。

 

 そして午後差出の荷物が来るまでの間に、ノーステップと八王子市のリサイクルショップの商品の発送作業にあたる。

「よっしゃ!ノーステップ流すよ!みんな準備してね!」と、木下が放送で呼びかける。ブザーが鳴り区分機がものすごい音を立てて動き出す。大量の荷物を処理していく。

 安原は重量物の取り扱いが厳しいので、円と落合に応援を頼む。そして彼女はフラットソーターのところでの作業をする。

「あの~落合さん、私もう重量物の取り扱いが厳しいので、薄物区分機の作業に移動させてください。」と、安原は頼む。すると落合は、「いいよ。すぐに行って作業して!」と、言って引き受けた。

 宮森がいつものように車に乗って法人向け集荷から帰ってくると、安原にゆうパックを渡した。

「今日は珍しいねえ。安原さんが薄物区分機の作業とは。」と、宮森は言ったとき安原はこう答えた。

「ええ!ちょっとレーンでの作業は疲れたので、こっちにさせてもらいました。」と、安原は言った。

 無事にノーステップの商品を半分供給し終わる頃、いよいよ八王子市のリサイクルショップの商品の供給が始まるのと同時に、午後差出のゆうパックの到着が始まる。

「おい!大量にあるのにまだ処理終わらないのか!」と、円が怒り出す。

「すみません。まだまだ処理が終わる気配がありません。」と、本田は言う。

「とにかくもう少しペースあげてもらえないかなあ?このままでは時間内に終わらない。何とかしてほしい。」と、円は答えた。

 一方のレーンでは、藤堂と今井がシュートから落ちてくるゆうパックを正しい行先のロールパレットへ積み込んでいく。「管内便はどれかなあ?」「川越はどれ?」「さてどこへ入れようかなあ?」とか、今井はそう思いながら作業するので処理が遅い。それを見た藤堂は、「何もたもた作業しているの!もっと早く処理しなさい!」と、焦りから言ってしまう。それを見た佐倉は、今井に指導する。

「まあ壊れ物でなければ、投げるしかないなあ?」と言って、今井のレーンに入り応援する。そして大量のゆうパックが瞬く間に片付いた。

 しかしまだノーステップと午後差出のゆうパックがかなりの台数残っている状況であった。さらにキャンセルも4台ほどある。ノーステップとキャンセルは、すべてを藤堂と木下が打鍵処理する。

 そして宮森は、車で事務所や店舗を回り集荷にあったっていた。

「今日は集荷が多いなあ。」と宮森は思いながら、車を走らせ大急ぎで郵便局へ戻った。戻るや否やすぐに薄物と箱、紙袋を仕分け、薄物区分機の作業をしている安原へプラケースに入れて渡す。

「今日は薄物だけでもかなりの数があるから、気を付けて作業してね。」と、宮森は言った。そして自分のデスクにつくと、矢野と小笠原とともに差し立てをする。JRコンテナやトラックの手配、スケジュール管理に追われていた。

「今日は荷物が本当に多い。営業が頑張って大口をいくつも取ってきたからかなあ?」と、矢野が言うと

「そうね。今日から新しく八王子市のリサイクルショップとかも加わったらからなあ?」と、小笠原は矢野へ返事をした。

 

 一方のレーンでは、大量のゆうパックを処理している。キャンセルとノーステップが終わり、ようやく残りの一般物が供給可能な状態になる。皆が息を合わせて、全国へゆうパックを差し出していく。

「4レーン手伝って」や「5レーン・終点手伝って」などと、葛城課長は放送で指示し区分機が止まらないようにする。

 つかの間の休憩の際、今度は国際郵便の発送が始まる。海外あての郵便物も非常に多く、エレベーターでロールパレットがたくさん降ろされてくる。それらを指定の出発ホームに並べて発送する。

「国際発送開始」と、遠藤が言っていた。しかし人手不足なので、木下と今井も応援していた。さらに普通郵便が満載されたアルミパレットも大量に降りてくる。

 再び供給時間になり、大量のゆうパックがベルトコンベアに流れている。

 そして九州沖縄航空、北海道東北、新東京多摩上り雑の時間を迎えた。レーンにあるロールパレットで九州沖縄航空、北海道東北のものを発送差し立てに入る。手区分のものをレーンにあるロールパレットやロールBoxの隙間に詰め込んでいく。詰め終るといつものように出発ホームに並べてトラックやコンテナに積み込んで固定する。さらにこの日は、鉄道便もなるべく早く発送することになった。次の関西方面の荷物や航空便でないゆうパックを鉄道輸送するためのものも並行で準備している。500kgを超えたロールBoxは坂木ひとりでは運べないので、安原が応援に駆け付けてふたりで押す。そして22時にこの日も無事にすべての荷物を差し立てすることができた。

 作業が一段落した時に、丸川局長が突然輸送ゆうパック課の様子を見に来て、宮森たちが帰り際にこう話をした。

「皆さん本当にお疲れ様。明日から新人の方が2人武蔵野中央郵便局に来ることになったよ。これで少しは助かる。でもその代り明日、またまた荷物が増えると思う。繁忙期に入る。なんせ今年は、景気が上向いているので荷物が増えるのは当たり前。特にこいのぼりとか子供の日ギフトが多く供給するので、まあみんな頑張ってほしい。」と、彼は言った。宮森は

「え!また荷物が増えるの!それは本当に大変なことになりそうだなあ。世間はゴールデンウィーク前という状況なのに。」と、答えた。

「みなさんにしっかり頑張ってもらいたいだからこうしてわしは来た。」と、丸川局長は言った。

 

 そしてゴールデンウィーク前の最初の繁忙期が始まる。



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第3話 武蔵野の救世主

ある早朝の高槻駅、ホームにはギャラリーが数名いた。そのうち一人は三毛猫という郵便局員で、チャットやメール仲間とともにJPレールエクスプレスを撮りに来ていた。そして時間になり下関のPFこと、EF65-1133号機牽引のJPレールエクスプレスが通過し、みなカメラのシャッターを切る。コキ107には、コンテナが満載されていた。

「さすが三毛猫!スジの予想が的中だなあ!さらに東海道遅延により高槻でスーパーレールカーゴと並走バトルだなあ!こんなの一生待っても見ないからな!すげえ!」と、彼のフレンドである「うろちょんこ」と言う高校生が言っていた。実は彼のメール友達には、現役鉄道マンが入り込んでいて、さらにJPレールエクスプレスも運転している。だからスジを知るのも簡単であった。

「さてこれが関西での最後の撮影遠征かなあ?俺は明日から武蔵野中央郵便局に転勤することになった。」と、三毛猫は言っていた。

「それは残念だなあ。じゃあまたメールくれよ。」と、彼のフレンドが言っていた。

 

 

武蔵野中央郵便局はいつもの朝を迎えていた。管内便やJPレールエクスプレスでの荷物もすべて順調に動いていた。いつも通り31フィートコンテナやトラックからロールBoxやロールパレットを引出し、書留などを先に取り出してから区分機に供給していく。そしてこの日は、本田は週休のため山田が供給作業をしていた。

しかしこの日は、いつもの違う1日になる。そう神戸の郵便局と東京都の中央区から1人ずつ転勤してくるからだった。丸川局長も心待ちにしていた。出社したこの二人は、局長室に呼び出されていた。

「いや~お二方、ようこそ武蔵野中央郵便局に。ここは試験的にいろんなことをやっています。わしだって私服なのはそれなんです。」と、丸川局長は言っていた。すると京橋は

「それはすごいですねえ。まあ私は、基本配達担当なのでいつも制服ですよ。」と、答えた。一方

「それは助かるなあ。でもまあ私も神戸では制服持っているし、気にしないかなあ?」と、三毛猫は答えた。

朝9時いつも通りミーティングから始まる。そして輸送ゆうパック課には、新入りの三毛猫と京橋晴海の姿があった。丸川局長が新人にあいさつするように頼む。

「神戸から来ました、三毛猫と申します。私は輸送ゆうパック課と特殊郵便課の国際郵便の区分を兼任します。これからよろしくお願いします。」

「東京都中央区から来ました、京橋晴海と申します。配達を主に担当します。これからよろしくお願いします。」と、二人は挨拶した。すると丸川局長は

「この二人は優秀な方で実績や経験の豊富なので、これから武蔵野中央郵便局を改革してくれる方です。私としてもうれしい限りです。では今日からゴールデンウィーク前の繁忙期に突入です。帰省の荷物の発送や子供の日ギフトが始まります。今年は景気が上向いているので、ゆうパックの増加がみられます。皆さん頑張ってください。」と、激励した。

そしていつもの朝が始まる。

 

新東京多摩下り雑の引き受けから始まる。この日は到着郵便物は少なかったので、区分検査を実施することになった。安原はいつも通り三鷹市のロールパレットを検査していた。すると2個ほど間違った行先のゆうパックが発見される。それらを別の場所にはねてから、検査完了とした。そして行先間違いのゆうパックは、小笠原のデスクへ持って行った。

「おや?安原さん、何のご用でしょうか?」と、小笠原が安原へ尋ねる。

「このゆうパックよく見ると、武蔵野中央郵便局で担当せずに新東京多摩郵便局が担当する住所になっています。」と、安原が言うと

「確かに、立川市の住所になっている。後でくるトラックで戻せば問題ない。しかしどこの郵便局で差し出したものかなあ?たぶん新東京多摩下り雑に載っていたのは確実。消印からすれば、新潟県の上越市内になっている。田舎からの荷物はしょっちゅう郵便番号の間違いが多くて、武蔵野中央郵便局に来ることが多い。そのたびに転送処理している。」と、小笠原は安原にアドバイスをした。

一方の三毛猫は特殊郵便課で武蔵野中央郵便局に到着する国際郵便のSALや船便、普通航空便の区分処理をしていた。この日は、アルミパレット6台分の海外到着の手紙が着いていた。これを三毛猫と杉江が区分作業をやっていた。2号便結束となっているので、2時間でアルミパレット6台分処理しなくてはならない。2人は黙々と区分棚へ手紙を区分していく。中にはミカン箱ぐらいあるものもあるばかりか、住所はすべて英語で書かれている。輸送ゆうパック課の葛城課長は、様子を見に特殊郵便課に来た。

「しかし三毛猫君は、国際郵便わかるのか!それに1通5秒でさばいていくのか!」と、葛城課長は感心していた。すると三毛猫は

「まあ私も、港町神戸出身だからね。」と、軽い口調で答えた。

「この後のEMSの処理を13:30からお願いします。あと安原さんや今井さんへの指導もできますか?」と、葛城課長は三毛猫へお願いする。彼は「確認オオライ!」とだけ言って、自分の持ち場の国際郵便の区分に戻った。

 

 そして10:40になるが、まだすべてゆうパックの処理は終わっていなかった。理由は九州からの航空便ゆうパックが積み込まれたトラックが、首都高の渋滞により遅れているためであった。羽田や成田の各空港から武蔵野中央郵便局に到着荷物に遅延が発生した状況に、今度は誤送も起きている状況であった。もうすでに宮森も荷物の遅延で頭がいっぱいになっていた。

「しかし今日は、首都高羽田線で玉突き事故だなあ。これは参ったなあ。2号便に間に合うかだなあ。」と、矢野が言っていた。宮森、矢野、小笠原は、処理に追われていた。

「もう仕方がないなあ。郵便輸送に電話をして、できるだけ情報を流してもらって。今トラックがどこ走っているのかを細かく教えてもらって。」と、矢野は宮森にアドバイスする。すぐに宮森は行動に移した。

「お忙しい中、お仕事ご苦労様です。武蔵野中央郵便局 輸送ゆうパック課の宮森です。本日羽田空港到着の航空便は、まだ到着しませんがどこを今走っていますか?」

「ああ。あれですか。もう間もなく武蔵野中央郵便局へ到着する予定です。」

「それならいいですが、今本当にどこを走っているのですか?」

「実は今ようやく首都高新宿線を走っているのです。あと20分ほどかかりそうです。」

「ありがとうございます。」

すると矢野が「どうだったの?」と聞いてきた。

「あと20分かかるそうです。高井戸出口まで来ているかどうかだなあ?」と、宮森は返した。

11:10過ぎ、ようやくトラックが武蔵野中央郵便局に着いた。航空便のゆうパックが続々着いた。ここからは時間との闘いになった。アルミパレット6台分のゆうパックを処理しなければならない。山田と円は、区分機への供給と1レーンの整理にあたっていた。しかし問題はこれで済まなかった。また高梨が手区分で失敗している。

それを見た遠藤は、

「おい!高梨!またそんな積み方している!それではまた荷物が壊れるぞ!」と、怒り倒した。

「わりぃ!そこに入れたらだめなのか。」と、高梨が返すと

「当たり前だ!お酒とカバンを一緒のロールパレットに積載するな!あと何で薄物を直接パレットに突っ込むんだよ!破れたりしたらどうなるのか想像つかんのか!」と、さらに遠藤は怒り倒した。

「そんなことわかりませんし、想像もつきませ~ん!」と、高梨が返すと遠藤は逆切れする。

「高梨君はそれだから手区分が上達しない。もっと仕事を覚えてほしいところだよ。」と、罵倒した。そして遠藤は、プラケースに薄物や小物を詰めて高梨が散らかしたゆうパックを黙々と片づけた。これを見た葛城課長は、すぐに三毛猫へ内線電話で連絡する。

「ああ~輸送ゆうパック課の葛城課長なんですが、三毛猫君へお願いがあるのですができますか。」

「何の御用ですか?」と、三毛猫が言うと

「実はね、うちの部署の高梨があまりに仕事を覚えられないので、一から教えてほしいのだけどできますか?」と、葛城課長は言った。

「承知です。この後、13時からそちらで作業します。特に3号便を使って彼に研修します。」と、三毛猫は返事をした。

 

その頃配達課では、新川と堂本により順調に配達道順仕立てが行われて、ゆうパックは普通郵便とともに配達されていく。新しく赴任してきた京橋も早速、吉祥寺と武蔵境の配達を任された。京橋は赤く塗られた軽四配達車に乗り込んで、配達先へ向けて走って行った。

「京橋さん、早速ながら配達お願いしますね。」と、井口は言った。すると

「大丈夫ですよ。私も超繁忙のコミケを担当していたので、通常の配達は楽です。任せてください。」と、京橋は返事をした。

「それなら心強いです。お願いします。」と、井口は言った。

 正午からの昼休憩の間、宮森と矢野、小笠原は交代でいつも通り引受業務をしていた。しかし何かがおかしい、そうゴールデンウィーク前の繁忙期に突入したので、以上に荷物が増えている。こどもの日ギフトが満載されたロールパレットが20台も到着した。到着したら、箱のサイズを宮森と小笠原はメジャーで検測していた。窓口からの応援は、なかなか来ない。記録の紙をロールパレットに貼って、次の作業に宮森と小笠原は移った。

13:00になり、三毛猫が輸送ゆうパック課にやってきた。仕事がまるでできない高梨を指導するためと、EMSの処理をするために来た。

「三毛猫君、来てくれてうれしいよ。高梨を指導してあげてほしいのですがいいですか?できるだけビシバシ言ってあげていい!手加減はなしでお願いします。」と、葛城課長は言う。そして

「では容赦なしで厳しくいきますね。」と、三毛猫は答えて区分へ行った。

まださほど荷物はない状況だったので、三毛猫が一人で作業をしていた。昼食を終えた高梨がそこへやってきた。

「君が高梨君だねえ。」と、三毛猫が尋ねると

「ええ!そうですが。」と高梨が返した。

「君、ほかの社員に聞いている限り、ここでの作業で問題を起こしているみたいだねえ。仕事覚えられないのか?具体的にどうなのか教えてほしい。」と、三毛猫は聞いた。

「いや~なんというか・・・頭悪くて覚えられないんだよなあ?」と、高梨が返すと

「それでは困るのだよ!高梨君!とりあえずロールパレットの容積全部覚えているか?」と、三毛猫が尋ねる。すると

「いや~全然覚えてない!」と軽い口調で高梨は答えた。

「いい加減にしろ!まずゆうパックで使用する全部のロールパレット容積を覚えろ!そして積み方についても覚えろよ!そうしないと業務に支障することになる。これで手区分はいつも足を引っ張っている。」と、三毛猫が言った。そして彼による高梨への指導が始まった。

 

最初に手区分へ回されたのは、秋葉原の電気店ネット販売の商品だった。矢野が応援でやってきて、荷物を端末入力する。

「まずそこにあるものをとりあえず区分しろ!」と、三毛猫が言った。高梨が「OK!」と言って作業するが、やはり薄物を粗末な取り扱いをする。すぐに三毛猫は、

「おい!何やっているんだ!薄物はプラケースに入れたからロールパレットに積載するんだろ!なぜ覚えられないんだ!絶対にロールパレットの柵からずれ落ちそうな荷物は、箱の荷物で壁を作って中心にくるように入れる。それかプラケースに入れてから積載しろ!これは絶対に覚えないと、輸送事故へ直結するからな!」と、言った。

「そう!じゃあ気を付けます。」と、高梨が返す。

続いて、安原と藤堂がやってきた。いよいよ東京国際からEMSが到着する。

「よっしゃ!次はEMSやで!」と、三毛猫が言う。

「ってか、これ全部英語の伝票だからなあ。俺、ムズいからなあ。なれねえし」と、高梨が言う。

「まだここはマシだよ。神戸は”区”だから大変だよ。市町村ごとに分ければ十分。」と、三毛猫は返す。そしてすぐさま、高梨が問題を起こす。土のう袋のような荷物をロールパレットに下積みする。

「おい!それではロールパレットが無駄になる。下に重いものを載せて、床にしてから載せろ!」と、三毛猫は言った。

「いや~この感覚がまだ覚えられないんすよ。」と、高梨が返すと

「いい加減に覚えられないのかねえ?このままでは、いつ輸送事故が起きるかわからない状況だよ。」と、三毛猫は言った。

そこへ矢野がやってきた。「手区分でゴルフバックとかスーツケースがもうじき到着するから、それの処理もお願いする。」と、三毛猫に言った。彼は「確認オオライ」と、返事を高梨へ指導する。

「よっしゃ!次に君に区分してもらうのは、苦手とするゴルフバックだよ。みっちり指導するからな。」と、三毛猫は言った。高梨は「は~い!」と元気のない返事をした。

 

 14時になり遅番で入った木下と渡辺が出社し、レーンでは午前締切の荷物が順調に処理されていた。こどもの日ギフトが、大量に区分機へ供給されていた。

「安原さん、管内に入ってください。」と、渡辺が指示を出す。そして管内のゆうパックが区分機より続々と吐き出されてくる。そして三毛猫もレーンに入った。

「俺もアルバイト時代、この作業やったんやで。」と、彼は言いながら安原、井口と一緒に区分する。

「すごいですね。三毛猫君は、学生時代からやっていたのですか?」と、安原が尋ねると

「単にお小遣い欲しさかなあ?で、だんだんこの仕事が好きになったわけ。」と、三毛猫は返事をした。

 そしてゴルフバックなどの手区分ゆうパックが到着した。高梨は三毛猫とともに作業にあたる。

「君にこれを入力するのと、区分してみろ!」と、三毛猫は言った。しかしやはりロールパレットの変な場所にゴルフバックを置いた。

「ダメダメダメ!それではアカン!倒れてくるぞ!ちゃんと覚えろ!」と、また言う。すると矢野がやってきた。「三毛猫君、そろそろ国際郵便の区分に行ってください。高梨は私が面倒見ます。」と、言った。

しかし三毛猫が輸送ゆうパック課を離れたら、問題が発生した。仲が悪い二人は、積み方で喧嘩を始めた。

「なんでさっき習ったばっかりのことを忘れるの?ただでさえ繁忙期なのにこれでは困る。」と、矢野が言った。そして床に置いてあった高梨のヘルメットを思いっきり矢野が蹴っ飛ばした。

「何するんだよ!」と、高梨が言うと、今度は矢野が「もういい加減にしろ!」と罵倒しそのあたりに落ちていた畳んだ段ボール箱で高梨の頭を叩いた。

宮森は車で法人集荷へ向かった。すきっぷ通りにあるお店、武蔵野市内にある事務所を車で回ってゆうパックを集荷する。この日は、早く集荷してほしいとの電話連絡があったので、宮森は車で走り回っていた。一通りまわってから、一旦集荷したゆうパックを武蔵野中央郵便局におろし、矢野のところへ向かう。

「お疲れ~!と言いたいけど、まだ集荷のお願いはあるなあ。新入りの京橋が配達終了後に個人の集荷をしてくれているけど、かなりヤバい状況かも。軽四車の容量が限界に達しているに違いはない

「会社はなるべく早く集荷して、終業したいと思っているみたいだなあ。」と、矢野から連絡をもらう。

この日は、ゴールデンウィーク前の帰省する人たちの集荷で、京橋は配達が済んだら集荷に回ることになっていたが、軽四車の容量が限界に達して来ていた。すると京橋から電話連絡を矢野に入った。

「もしもし輸送ゆうパック課ですか。京橋ですが、荷物が多いので応援お願いします。」

「それでは、すぐに宮森に応援へ行かせますので、しばらくお待ちください。どのあたりで合流させますか?」と矢野が尋ねる。すると

「吉祥寺図書館で合流したいです。あと2件集荷なので。」と、京橋は返事をする。

「わかりました。すぐ宮森に行ってもらいます。」と返事をして、集荷補助として宮森が車で吉祥寺図書館へ向かった。

 

 吉祥寺図書館に着いた宮森は、京橋の乗った軽四郵便車がいた。荷台はすでに満杯であった。京橋から集荷ゆうパックを受け取り、宮森のスズキアルトに詰め込んだ。

「わざわざすみませんね。宮森さん。ゴールデンウィーク前なので、帰省客のカバンでいっぱいになってしまって。」と、京橋は言った。すると

「いえいえ、私も集荷の仕事をしています。しかし今日はカバン本当に多いですねえ。」と、宮森は返した。

「まだまだ集荷に回らないといけないし、配達もあるから大変です。」と、京橋は言った。

そして宮森は、武蔵野中央郵便局に急いで戻った。

 その頃、武蔵野中央郵便局では全差の作業が始まった。いつも通りノーステップと一般のゆうパックを供給して処理していた。順調に思った矢先、トラックの手配で問題が起きる。京王物流のトラックが首都高で横転する。これで名古屋方面のトラックで再手配になる。しかし時期が時期なので捕まらない。

仕方がないので、貨物列車を使い輸送することになった。矢野がJR貨物へ連絡し、12フィートコンテナ1つ分を手配して、名古屋へ輸送することにした。

 15時になり、今井と坂木が1時間早く出社した。それを見つけた葛城課長は、彼女にこう言った。

「あ!今井さん!ちょうどよかった!今、宮森が席を離しているので、ちょっと手伝ってほしい。」と、お願いする。そして彼女は、レーンで区分にあたることになった。きれいにラッピングで包まれた荷物が、次々とベルトコンベアから出てくる。今井はその量に圧倒され始めていた。すると山田がやってきた。

「お!今井さん、やっているね。」と、言っていた。

「今日は少し多いので大変です。」と今井が言うと、すぐに手伝ってきた。

「まあこどもの日が近いからな。差し出すものが多いからなあ。まあこの後、個人受託が増えるからな。」と、山田は言った。

 

 一方三毛猫は、特殊郵便課で国際郵便の区分をしている。大量のエアメールを大陸別に区分していた。

「え~とこれは、アメリカ東海岸。これは西海岸。これはヨーロッパ。」と、言いながら作業していた。

丸川局長が突然特殊郵便課にのぞきに来た。

「三毛猫君は、本当に真面目なんだねえ。感心したよ。」と、丸川局長が言うと三毛猫は

「この仕事を神戸でも、国際郵便の区分をやっていましたからね。」と、返した。

16時になり、差出のゆうパックはピークを迎えた。午前締切の荷物は、いつもより量が多く大変だった。そして宮森は、京橋から受け取った集荷ゆうパックを持ってきた。

「宮森、集荷応援お疲れ~」と矢野が言った後、手区分の応援に入った。しかし一向に午前締切の処理が終わらない。まだまだ到着するロールパレット。そして京橋が戻り、さらにゆうパックは増加する。

その時、忙しさのあまり木下がレーンに入り、供給を円が行った。この時に木下が空のロールパレットを引いて東北のレーンに行った。ベルトコンベアから吐き出されてくるゆうパックのうち、仙台宛てのものを積み込んだ。しかし木下は大きな過ちをした。それは仙台行き先の紙を貼らずに作業していた。さらに作業速度が遅い今井に作業に関係のないことを言う。

「ちょっと今井さん、ペース上げてください。このままでは、仙台のゆうパックとほかの荷物が混ざってしまいますよ?まあ私が手伝いますよ。あと早めに空のロールパレットは準備したほうがいいですよ。」と、木下が言った。今井は不快そうな顔つきで「わかりました。」と、言った。しかし今井も、仙台行き先の紙に気付かず作業していた。そして満杯になったロールパレットは、神戸行の場所に置かれていた。皆が忙しいので、行き先の紙がないのに誰も気づかない状態であった。木下が中身を確認しようとした瞬間、今度は疲れのあまり安原が畳んだロールパレットを倒してしまう。これを見た木下は様子を見に行って、復旧作業にあたる。安原に大した怪我もなく無傷だった。

そしてついに木下は神戸行と勘違いして、仙台行のロールパレットに神戸行の紙を貼る。これで誤送となってしまう事態になった。そのまま誰にも気づかれないまま、神戸行の鉄道便に載って行ってしまう。

 16:40に皆の努力で、ようやく午前締切の荷物が処理し終わった。そして発送が始まり、いつも通り出発ホームにロールパレットが並ぶ。17時まで休憩を取った後、午後締切と八王子市のリサイクルショップの商品や午後差出のゆうパックが到着し始める。そして宮森も、手区分で高梨とともに作業にあたる。

「もうすでに手区分、後が支えているよ。高梨もっと処理お願い。」と、宮森は言っていた。

三毛猫は杉江とともに国際郵便の区分をしている。重量物は、三毛猫が区分処理していた。

「この荷物、アフリカまで行くのだなあ?すごいなあ。」と、三毛猫は言った。

「そうだよ。郵便は世界中と繋いでいるのだよ。飛行機のない遠い昔から。」と、杉江が答えた。

 

 18:40までゆうパックの区分機は止まることはない。非常に忙しい中、木下、山田、円が交代で供給と区分を行っていた。安原、今井、井口、坂木は、各レーンに入って区分作業をしていた。荷物が多く皆疲れを見せいていた。手区分が一段落して、高梨もレーン応援に入るように言うが、相変わらずバカっぷりを発揮する。

「さてどっちに入れようかな?」と、高梨はこればかり言っていた。

「もう高梨君、そこ行先間違っているよ。行き先の紙を見ずにやっているよ。」と、井口は行った。そう新大阪の大阪市内宛なのに、神戸に送ろうとしていた。このことを井口に指摘された高梨は、すぐに正しいロールパレットに積み替える。しかしこの間に、レーンには荷物があふれていた。葛城課長は、特殊郵便課の三毛猫へ内線電話連絡する。

「もしもし輸送ゆうパック課の葛城課長と申しますが、三毛猫君、至急レーンの応援お願いします。」

「確認オオライ!」と、三毛猫は言ってエレベーターで輸送ゆうパック課へ急行した。

応援に駆けつけると真っ先に関西のレーンに入り、住所で区分作業を始めた。

「区分番号は当てにならないから、私はアルバイトの時から住所でやっているよ。」と、三毛猫は安原に言った。すると安原は、

「それってすごいですね。この忙しい中で絶対に誤送しないということなので驚いています。」と、返した。

「これも修行をして身に着けた技だからな。」と、三毛猫は自慢そうに言った。

そしてこの後、井口とともに中京のレーンに入り区分していた。

「しかし三毛猫君は、いい仕事しますね。」と、井口は言った。

「これも長いことやっていますからね。」と、三毛猫は言ってから作業を続けた。満杯になったロールパレットを出発ホームに持っていくのと同時に、入れ替える形で新しいパレットを準備する。三毛猫は「行先札、名古屋よし!」と指さし呼称した。これを見た下柳は、

「完璧に鉄道マンだなあ?三毛猫君は、そっちに趣味じゃないかなあ?と言うより、あれだから誤送がないし、輸送事故もないのか。」と、悟った。

そして午後差出のゆうパックをすべて供給し終わったのは21時だった。最初の全国の荷物が出発しはじめ、遅れながらも21時半に、関西方面の鉄道便の31フィートコンテナを載せたトラックが出発した。

 

 宮森も夜の集荷はなく、デスクで矢野と小笠原とともにトラックやコンテナの手配に追われていた。ゴールデンウィーク前なので、トラックの空きがない状況で手配が難しい状況であった。さらに航空便は、空きがなく北海道と九州は鉄道での輸送に切り替える状況になった。

「関西~関東間のJPレールエクスプレスも増結する予定だなあ。これでうまくいけばよいが、九州行は大阪で積み替えになる見通し。たぶん遅れる可能性が高いなあ。」と、矢野は言っていた。

「まあ仕方がないと思う。繁忙期はいつもこれだから仕方がないですよ。昔はかなり遅れることもあったので、気にしないでいいと思います。今は季節的にも雪害とかもなく、大幅な遅延は発生しませんよ。大丈夫です。」と、小笠原は答えた。

 

しかし仙台なのに紙を貼り間違えたロールパレットは神戸行の出発ホームに並べてあり、もうすでに積み込み準備万端であった。そのまま時間になり、コンテナに積み込まれて神戸まで運ばれていってしまった。

 

そして武蔵野中央郵便局で歴史に残る輸送事故となっていくことは、このとき誰も知るよしがなかった。



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第4話 失敗こいちまったぜ!

 ゴールデンウィーク前の差し立てが済み、一休みを迎えた武蔵野中央郵便局であった。いつものように管内便を供給し、数日後より関西からはJPレールエクスプレスではなくトラック便で到着した。

「いつもは鉄道で来るが、しばらくはトラックで来ることになった。理由は簡単、ゴールデンウィークは貨物列車が運休するので走らない。」と、丸川局長は言っていた。

到着は少ない荷物であった。

 しかしこの日の朝7:00、宮森が出社してすぐに問題が発生する。神戸から1本の電話が入った。昨日、神戸へ1つロールパレットの誤送が武蔵野中央郵便局発の荷物で発生、本来行くべき荷物は、宮城県仙台市であった。

「もしもし神戸のものですが、武蔵野中央郵便局の葛城課長をお願します。」と、宮森に電話が入った。

「はい!それでは、課長に電話を回しますね。」と、宮森は言って電話を葛城課長に変えた。

「お電話変わりました。武蔵野中央郵便局の葛城課長ですが、何の御用件ですか?」

「実は赤鉄1台分、仙台宛が神戸に来てしまっているんです。」と、神戸の者が言った。

「それは大変なことになっていますね。」と、葛城課長が返すと

「この繁忙期にこんなことが起きてしまって、こちらも処理が大変ですよ。こっちも人手不足で、酷いことになっています。今すぐ2名神戸に来てください。お願いします。まだ帰省ラッシュ始まっていないので、新幹線にも空きあるので、とにかく来てもらえますか。」と、神戸の者は荒げた口調で言ってきた。

「かしこまりました。9時過ぎの新幹線で武蔵野中央より2名神戸へ向かわせます。」と、葛城課長は言った。

そしてこの際に、葛城課長はすぐに丸川局長へ電話を掛けた。

「はいはい、丸川ですが。」

「輸送ゆうパック課の葛城課長ですが、今大変なことになったんです。」

「誤送ですよ。それもロールパレット1台分!困ったことに人員を2名神戸へ派遣しろと言っていています。」と、葛城課長が言うと

「すぐにこの処理に慣れているのは、現場を熟知している三毛猫と事務が得意な小笠原を行かせるといい。その組み合わせが最高だと思う。すぐに新幹線を手配して、その二人を神戸に行かせなさい。」と、丸川局長は言った。

そして葛城課長は、すぐに小笠原と三毛猫を電話で「すぐに郵便局へ出社してくれ!」と電話をした。

 

 寝ぼけて私服のTシャツにシーパンで三毛猫は出社して来た。すぐに葛城課長は、

「大変なことになった。昨日差し立てた仙台宛のロールパレットのうち赤鉄1台が神戸へ行ってしまった。君ならあの郵便局に慣れているので、小笠原さんと一緒に緊急出張をお願いできないかなあ?」と、言うと

「オオライ!承知です!」と言って行動に移った。

「ちゃんと小笠原さんを道や庁舎で迷わないようにしてあげてね。」と、葛城課長は念を押した。

小笠原が出社して来た。いつものようにゴスロリワンピースに身を包み、颯爽と現れた。

「あ!小笠原さん!昨日差し立てた仙台宛のロールパレットのうち赤鉄1台が神戸へ行ってしまった。今から三毛猫君と一緒に緊急出張をお願いできないかなあ?君は事務に慣れているんで、行ってほしいです。」と、葛城課長が言った時、

「まあ私もいいですよ。今から新幹線を手配します。」と、言ってデスクへ行った。

 矢野が出社して来た。

「なんだか今日は、朝っぱらから騒がしいねえ。」と、矢野が言った。

「実は今日、昨日差し立てた仙台宛のロールパレットのうち赤鉄1台が神戸へ行ってしまったみたいです。さらに向こうの郵便局も人手不足になっているみたいです。」と、宮森は言った。

「へえ、それってシャレにならないことだね。完璧に誤送の域を超えた誤送だね。誰があんなことをやらかしたのだろう。」と、矢野が言った。

「おそらく木下か高梨のどちらかだと思います。」と、宮森は言った。

 そして指示を受けた三毛猫と小笠原は、神戸へ向け出発した。

 

 荷物はこの日は少し多いが、本田、井口、宮森、山田、円、藤堂がレーンに入って作業していた。供給は、高梨がやっているが相変わらず手際が悪い。

そして矢野が区分機の投入口にやってきた。

「ちょっと、お酒と割れ物を絶対に機械にかけないでね。今日は人手不足で困っているのよ。」と、矢野が言った。すると「しゃ~す。」と高梨が返した。

機械での区分がひと段落終わると、今度は手区分に移る。

「あ~なんか疲れちゃったなあ。区分機への供給は気遣いすぎちゃってなあ。」と、高梨が言うと

「あんたがそれを言う資格はない。」と、矢野が返す。

「しかし矢野さんは相変わらず毒舌っすねえ。」と高梨がいた途端

「あんたに言われる筋合いはない!」と、矢野が怒り出した。

 この日は三毛猫と小笠原は、緊急出張に行ったため人手不足となった。そのため木下が10時半に繰り下げで出社してきた。

「おはようございます。みなさん」と言って、企画の宮森と矢野に挨拶をする。

「こんなに朝早くからご苦労だね。」と、様子を見に来た丸川局長は木下へ言った。

武蔵野中央郵便局では誤送の対応と新東京多摩下り雑の処理をしていた。大量のゆうパック積載のロールパレットが押し寄せていた。ゴールデンウィーク前に注文した品物や企業の書類などが到着していた。人手不足の中、杉江が台車で薄物の詰まったプラケースを円から受け取って、薄物用の区分機に入れて処理していた。安原と藤堂は、いつも通りレーンに入り区分していた。

 

 しかし武蔵野中央郵便局に全国から到着する供給作業が一段落してすぐ、レーンでは木下と円が言い争っていた。理由はスポットクーラーを使いたいとばかり言っていることであった。

「木下さん、まだクーラーを使うのは早いですよ。だからなんでこの季節にクーラーつけているんですか。」と円が言うと

「だから暑いんですよ。供給作業は動き回るから暑くて仕方がない。」と、木下が言った。

それを見た宮森は、区分機の投入口に行く。

「そうしたのですか?」と、宮森は円に質問すると、

「いや~木下さんが消しても、消してもクーラーをつけちゃって。」と、円が答えた。

「ここって熱こもるし、区分機からも発熱するからなあ。」と木下が言うと

「いえ全然そんなこともない。」と、円が言う。

「まあ寒かったら作業着を着ればいいんじゃないですか?」と木下が言う

「暑かったら脱げばいいんじゃないですか。」と円は言い張る。

「これ以上脱げねえよ!裸になってしまう!」と木下が言う。

「背中にチャックついていますよ!」と円はいうと

「ついてねえよ。」と、木下が答えた。すると円は

「太っているから暑いんですよ。」と急所を突いたことを言う。すると木下は、

「かぁっ!傷つくなあ、その言い方。第一俺、このゆうパックの業務についてから1キロも痩せたんですよ。」と答えた。すると円は

「1キロも痩せたってわかりませんよ。」と言う。

「第一頭冷やさないと、区分機に壊れ物や薄物を流してしまうもん。」と、木下が言ったとたん

「”もん”じゃないっすよ!」と、円は言った。

すると湯沸し室の電子レンジが止まる時間になる。

「あ!ご飯温まった!から揚げ!から揚げ!」と言って、供給から離れる始末であった。

「ったくもう!」と円は言って、スポットクーラーの電源を切った。

 

 そして少し早い休憩に入った。その時、宮森がレーンから戻ってきた安原と会話をした。

「あ!おいちゃん!今日ずかちゃん初めてのアニメ声優のオーディションなんだって。」と、安原が言った。すると宮森は

「へえそうなんだ。受かってほしいなあ。えまちゃんには、連絡あったのだね。」と、言った。

「ずかちゃん、オーディションに受かってくれるといいね。」と、安原は言った。

「それじゃ、みんなで受かるようにお願いに行こうか。」と、安原は提案する。するとそこへ木下が通りかがる。宮森と安原は「お疲れ様で~す!」と、木下に声をかけるが「かっら揚げ!かっら揚げ!から揚げ!!」と彼は言いながら、大量のから揚げの載った皿を持って、戻ってきた。

しかし木下が現場に戻ると

「誰だよ、クーラー切ったの!」と、木下の怒鳴り声が聞こえてきた。

 

 一方の三毛猫はルンルンであった。そう大好きなゴスロリ様こと小笠原と一緒に出掛けられるためであった。さらに久しぶりに神戸へ戻れるのも、彼にとってはよかったみたいであった。

「大好きな小笠原さんと一緒に新幹線。それも隣の席にいる憧れの女性だもんなあ。あ!でもまずは仕事仕事!」と、三毛猫は思っていた。東京駅から岡山行きのN700Aのぞみ号に乗って、新神戸へ向かうことになった。新幹線に乗り込み前に、小笠原と共に昼食の弁当を購入し新幹線に乗りこんだ。車内でかなり早めの昼食を済ませ終わると三毛猫はこんなことを言い出した。

「あの~小笠原さん少しお願いがあるんですが、少しいいですか?」

「ええ何の御用ですか?」と、小笠原は言うと

「実は少しだけ、小笠原さんと手をつなぎたいのですがいいですか。」と、三毛猫は言った。

「かまいませんよ。少しだけなら特別に・・・」と、小笠原は了承してくれた。

そして二人は手を繋いだ。この瞬間に、三毛猫は大興奮の状態になった。

 新神戸へ着くと、神戸の郵便局の方が車で待っていた。

「到着待っていました。あと久しぶりだね、三毛猫君。」と言って、公用車のセダンに乗り込んだ。

神戸の郵便局に到着するや否や、小笠原と三毛猫は武蔵野から来た仙台宛のロールパレットの惨状を目の当たりにする。

「これは酷いなあ。とりあえず入力処理してから誤送のしるしを付けます。航空便に回せるものは当日臨時扱いで処理します。まあ陸路のみなるものは、鉄道便で神戸から仙台へ送ります。どちらも日付と時間指定のあるものと、ないものをここで仕分けていきます。」と、三毛猫は言った。

 

 一方の宮森は、誤送で埼玉県川越市の川越中央郵便局へ走っていた。今度は20個ほど武蔵野中央郵便局に来るはずのゆうパックが、なぜか川越市へ行っていたためであった。荷物を回収しスズキのアルトに積み込み、武蔵野中央郵便局へ急いで帰った。

 昼からはいつも通りの全国宛になる。しかし人手不足の影響は、確実に出ていた。大学生の今井も、早めに出社し、15時から業務にあたることになった。宮森が川越から武蔵野に帰る頃に、信号待ちの車内から携帯でこのことを今井に知らせた。

 そして神戸では、三毛猫と小笠原は荷物の確認を行いながら誤送処理に担当していた。すべての荷物は、14時半に処理が終わり、15時50分発の伊丹発仙台行の航空便で無事に発送された。三毛猫が神戸の古巣に久しぶりに帰ったので、同僚とも久しぶりの話をしてから、武蔵野中央郵便局の葛城課長と丸川局長へ電話で業務完了の報告をした。

「もしもし三毛猫ですが、葛城課長をお願いします。」と矢野に電話をする。

「もしもし三毛猫ですが、先ほど誤送の仙台宛ゆうパック処理完了しました。急ぎの荷物は、航空便でそれ以外は神戸発の荷物と混載しました。」と、三毛猫は報告した。

「お仕事ご苦労様です。まあ無事に処理が終わったのはよかったです。」と、葛城課長は返す。そして

「折角神戸まで戻ったので、実家によって帰っていいですか?」と、三毛猫が言うと、

「これは私ではなく、丸川局長に聞いてほしいなあ。何とも言えないので。」と、課長は言った。そして丸川局長に電話を回し聞くと、

「いいよ。まあいつも三毛猫君は”ふるさと小包”を買って実家に送ってくれているからね。たまには帰ったらいいじゃないのかね。」と、丸川局長は言った。

そして小笠原とともに須磨にある三毛猫の実家へ向かった。JR神戸駅から久しぶりに乗る207系。三毛猫はいろんな思いを胸に電車に乗り込んだ。

「俺実はあの辺でよく鉄道を撮っていた。」と、三毛猫が言うと小笠原は

「へえそうなんですか。写真の趣味があったなんて初めて知りました。」

須磨駅に着くと、改札を出て南側にあるデッキへ向かう。

「ここから海をよく見たなあ。この町が俺を生んだ町なんだよ。夏になると海水浴客であふれるんだ。」と、三毛猫は言った。

 

その後二人は、手土産の地酒を買うために駅前の酒屋に寄った。

「ここでよく猫を触っていたなあ。」と三毛猫は言った。すると

「井口さんみたいですね。あの方も井の頭公園で、猫を触っていますよ。」と、小笠原は言った。

「へえそうなんですか。今度聞いてみます。」と、三毛猫は返事をした。

急な坂を上がり切ってから、しばらく歩いた先にある三毛猫の実家に着いた。

「ただいま。あ!紹介する、武蔵野中央郵便局の輸送ゆうパック課の小笠原綸子さんや。」と、三毛猫は言った。

「初めまして、お世話になります。小笠原綸子と申します。お邪魔します。」と、小笠原は挨拶をした。

「まあ遠いところお越しいただきありがとうございます。ゆっくりしていってね。」と、三毛猫の母親は言った。小笠原はリビングでくつろぐと思ったが、

「三毛猫君、少しあなたの実家の部屋を見せてくれる?」と、言った。「承知です。」と言って、彼の部屋へ行った。

「へえこんな感じなんですか。」と、小笠原は三毛猫の部屋を見て言った。

「まあ学生時代はいろいろあったけど、今はもう東京に持って行っているからなあ。ここにアニメグッズがあったかなあ?」と、三毛猫は言った。次に三毛猫は小笠原とともにキッチンへ行った。

「これ、親に毎月買ってやっているの。四季のごちそう便とふるさと小包!」と、三毛猫が言うと

「へえ親孝行ですね。少し感心します。」と、小笠原は言った。

「まあノルマも達成できるし、親も喜んでいるからなあ。いいものがあると言っている。毎月カタログを私から送っているのだよ。で、リクエストしてくる。」と、三毛猫は言った。

「あとこれも親に預けている。年末に発売される、お年玉付き切手2万円自爆しているよ。これで長田のうまい肉屋から牛肉がチルドゆうパックで届く。」とも三毛猫は言った。小笠原は感心した様子で聞いていた。

二人は三毛猫の実家で夕食を食事して、小笠原は三毛猫の母親と会話した。

19時の新幹線に新神戸から乗って東京へ戻った。

「日帰り出張は疲れるなあ。」と、三毛猫は帰りの新幹線の中で小笠原へ言った。

 

[newpage]

 一方武蔵野中央郵便局では、ゴールデンウィーク前の最後の繁忙期差し立てが行われていた。宮森と矢野も手区分作業に従事していた。

「三毛猫君がいないとEMSの区分に時間がかかるなあ。」と、矢野は言いながら東京国際から到着した荷物の区分をしていた。

「まあ仕方がないですよ。とにかくこの繁忙期に出張となったら。」と、宮森が返事をした。

そういいながら高梨と3人でEMSを区分して3号便で発送した。

そうこうしているうちに15時になり、今井が出社してきた。

「無理言ってすまないね。二人も出張に行ってしまったので。」と、葛城課長は言うと

「いえいえ、まあ私も今日は、授業も早く終わったので来ました。」と、今井は返した。

「じゃあさっそく全国差し立てのレーンに入ってくれる?」と、山田が言った。

この日は、帰省客の荷物で区分が大変であった。手区分へ回る荷物(スーツケースなど)がほとんどで、供給の山田と円が作業にあったっていた。手区分に回される荷物はロールパレットに残し、箱と紙袋を区分機に投入していた。薄物は杉江が回収し、彼が薄物区分機に投入し処理していた。

「いよいよ繁忙期の最終日、輸送ゆうパック課の皆さん頑張ってほしいなあ。」と、丸川局長は言った。

武蔵野中央の管轄で最も遠い場所にある東村山市の午前締切の荷物が到着したのは16時だった。

 

 そしてこの日は、坂木はオーディションで休みとなった。人手不足の状況で繁忙期の最終日を乗り切る。

宮森と矢野も、手区分で頑張っていた。

「もう法人は休みに入りましたし、ノーステップと八王子の法人発送もなし、そして集荷する薄物もないからなあ。」と、宮森が言うと

「確かにね。さらに2人も出張になれば大変だよ。しかし高梨はどこへ行ったのだろ。さっきから手区分にいない。」と、矢野は言っていた。そこへようやく高梨が戻ってきた。

「どこへ行っていたの高梨!」と、矢野は質問すると

「いや~トイレ行っていて遅くなってしまった。」と、高梨が嘘くさいことを言う。

「嘘言うな!絶対に遊んでいたでしょ!食堂か湯沸室でスマホやっていたのでしょ!」と、きつい質問を矢野はした。

「いや~図星だよ。すみませ~んでした!」と、高梨が言った途端、矢野が再び切れた。そして彼女は、そこにあったファイルで高梨の頭を叩いた。

「宮森、こいつの相手をしないで、さっさとチルド便の様子見てきて?」と、矢野がお願いした。

そして時間内に午前締切の荷物はすべて処理し終わったのは、17時前のことだった。最初のトラックは、出発ホームの前に来て普通郵便のアルミパレットが積載されていた時間でもあった。

 

少しの休憩をはさんだ後、今度は午後差出のゆうパックの区分が始まった。人手不足の中で、区分は皆の努力で20時半には終了し全国への発送作業へ入った。ロールパレットの荷物の伝票に記載されている住所と最終確認を皆が行い、行き先の紙に検査した者が印鑑を押す。そしてゴールデンウィーク前の最後の鉄道便の発送が始まる。すべての荷物が目的地へ向けて旅立つ頃、宮森と矢野が帰る時間となった。

「次皆さんのお会いするのは、ゴールデンウィーク明けですね。」と、宮森は言っていた。

そして二人は「お疲れ様です。」と言って、帰って行った。

 

ゴールデンウィーク期間中は、企画の宮森と矢野、区分係では木下と安原、藤堂、杉江は休みになった。その後は差し立ての区分係は3日おきに交代で出社する。小笠原は神戸から帰った翌日1日だけ出社して、三毛猫とともに丸川局長と葛城課長へ出張報告をしていた。その後、三毛猫は普通郵便課と国際郵便の区分業務を行っていた。

 

ゴールデンウィーク前の繁忙期は過ぎ本格的な休みに入った。街は静けさがあった。輸送ゆうパック課では区分機の整備のためにエンジニアが来て、全国差し立てはせず整備していた。そして通期の区分や次の夏の繁忙期に備える準備をしていた。全国差し立てはすべて新東京多摩で行われることになり、武蔵野中央での作業は、各地方別にロールBoxへ分けるのと、到着したゆうパックの地域宛区分と武蔵野中央が配達するものだけとなっていた。

 

 

ゴールデンウィーク明けの最初の平日、朝7時からこの日は通常モードに戻った。宮森は木下と共に早朝に出社した。しかし木下が仙台宛を誤送したことが分かり、本田は怒り狂っていた。彼は朝から

「木下さん、なぜあんなことをしたのですか?なぜ紙を貼らずに発送したのか?」と、本田は言う。

「うん!やった!」と、木下が言った途端、

「じゃああの時、なぜ最終確認をしなかったのですか。」と、本田は返した。

「しなかった。」と、木下が言った途端、

「あれって、どんなに損害が出たと思うのですか。」と、本田は怒った。

「そんなの知らないよ。」と木下が言うと、

「繁忙期に神戸で人手不足が重なって、三毛猫と小笠原が新幹線で走ったばっかりか、航空便を臨時に手配したので、軽く15万円以上も経費が掛かったのですよ。」と、本田は怒った。

「いや~あの時忙しかったし、供給作業をして暑くて注意散漫だったのだよなあ。・・・・・・って、言い訳しても無駄かなあ?」と、木下はしらを切った。そして円は、

「じゃあ、供給エリアをガンガン寒くしてあげましょうか。」と言って、スポットクーラーの温度を下げた。

「ガンガン寒くしてください。マイナスまで行っちゃってください。」と、本田も言った。そして彼は、

「じゃああの日、何があったか正確に教えてください。包み隠さずお願いします。」と、本田は念を押した。

 

さらに遠藤と高梨が喧嘩をして、小競り合いとなっていた。高梨が

「遠藤さん、もっと楽しく仕事しましょうよ。いい加減機嫌直してくださいよ。遠藤さんも大人気ないよなあ。」と、言った途端、

「大人気ないのは、お前の方だろ!」と、遠藤は言った。

 

 武蔵野中央郵便局では、再び問題発生の予感がしていた。



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第5話 誤送するならやめちまえ!

 武蔵野中央郵便局はいつも通りの業務に戻った。朝からいつも通り関西と管内の荷物を区分していた。

しかしこの日は、何かが違った。先日あった仙台宛の赤鉄(ロールパレット)を神戸へ誤送した件に関しての会議があった。この会議には、三毛猫も参加していた。

ついに報告結果による会議が、輸送ゆうパック課の会議室で始まった。

「万策尽きたああああああ」と、本田は言っていた。

「理由は木下がこの件について、知っています。本人はあの日、忙しさのあまり行き先の紙を貼らずに赤鉄を出してしまい、それを知らずに関西の一時ロールパレット貯留エリア入れた模様です。そして神戸行と勘違いして誤送しました。」と、本田は言った。

「まあこの手の誤送は異常事態だなあ。木下君には少し処分を受けてもらう必要がある。本人の気の緩みが原因で、大損害が発生した。幸い補償と遺失がなかったのはよかったですが、これは大問題です。」と、三毛猫は言った。するとゆうちょ銀行営業の興津が

「あの部屋使う?」とアドバイスをする。

「塵芥室ですか。」と、本田は言うと三毛猫は

「それで行きましょう。もう反省するまでの間、入ってもらうしかないようです。あと減給とボーナスカットも・・・そして本人の嫌いな営業にも・・・」と、言った。

「営業は私が”いろは”を少し伝授しますね。」と、興津が言うと

「お願いします。」と、三毛猫は言った。

「三毛猫君は、いつも1万円ぐらい毎月コツコツ営業してくれているみたいだねえ。それが一番大事なんだよ。」と、丸川局長は言った。

 

 

 何も知らされていない木下は、庁舎1階の塵芥室に来ていた。部屋の前には本田の姿があった。

「まあ入ってください。」と、本田は冷めた声で言った。

「へえこの部屋に何か用があるの?」と、木下が言って部屋に入った。その時、本田は木下を塵芥室へ閉じ込めた。

「お前!はめたな!」と、木下が言うと

「先日大誤送をしたので、しばらくはここで業務にあたってもらいます。ごみの区分です。きちっと空き缶空き瓶ペットボトル、キャップはアルミ、鉄、プラスチックに分けてリサイクルに出してください。あと紙は、新聞、雑誌、その他紙、シュレッダー屑、段ボールに分けてください。あと可燃ごみなどはそこのマニュアルがあるので、わからないときは読んでください。」と、本田は言って、

「あとこの業務をさぼったら、電話で注意します。監視カメラで見ていますよ。」と、念を押した。すると

「いやだ~!ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!こんなのやりたくないよ~!」と、木下はダダをこねると

「ダダこねても無駄ですよ。ここでごみの区分業務をやってください。」と、本田は強い口調で言った。

「で、トイレはどこでするの?」と、木下が聞くと

「そこに汚物流しがあるでしょ。あれにそこに置いてある板をかぶせて用を足してください。」と、本田は言った。木下の気分は、完全に絶望のドン底へ突き落された様子であった。

 

 

 そしてレーンでは、遠藤と下柳が意見の相違で喧嘩をしていた。理由は区分のやり方であった。さらに関係を悪化させた原因は、やはりトラブルメーカーの高梨にあった。

「見ていて遠藤さんを何で止めてくれないんだ。宮森!なんで俺の話を聞かないんだ!」と、高梨が言った。

「まあ私は誤送対応等で、忙しかったので。」と、宮森は答えた。

 

「遠藤さんのこと、課長などへ報告しないのですか?」と、宮森は高梨に言うと

「今日は休みだろ!それに先日の問題もあったので、これ以上負担かけたくないよ。」と、高梨は答えた。

「やっぱ何かあったの?高梨!」と、矢野が来ると

「いや~宮森が俺に相談したいことがあって・・・」と高梨が返すと

「え!」と、宮森は言った。

「いや~仕事の話ではなくて、プライベートの話で、俺に相談しやすいタイプで・・・ここでは話しにくいから、世話が焼けるなあ。」と、矢野に対して高梨が言った。しかし宮森は

「何言っているんですか!!」と、答えた。

そして宮森と高梨はチルド室へ向かった。

「課長に相談できないのなら、矢野さんに相談したほうがいいんじゃないですか?」と、宮森は言う。しかし

「矢野さん怖いんだもん。宮森こわくないもん!」と、高梨が言った。

「ふう~!もうデスクへ戻ります。これからいろいろやらなきゃいけないので。」と、宮森は言ったとき、

「いやいやそうじゃなくって、宮森やさしいから聞いてくれるよね。みんな大人気なくって、やんなっちゃうよ。」と、高梨が言った。

「高梨さんの愚痴じゃなくって、遠藤さんは何であんなことになっちゃたんですか。」と、宮森が質問すると高梨がこう答えた。

「まあ昨日、下柳さんとちょっともめて、あんなことに・・・」

「そうなのか!」と、宮森は言った。そして高梨は

「事件はこの武蔵野中央郵便局で始まった。」と、言ってこの件の詳細について話し始めた。

 

 

 実は昨日、武蔵野中央郵便局に到着するゆうパックが増えていた。理由はUターンになって帰省先から勤務地への荷物到着があったからだ。配達日を1日以上かかる鉄道便を利用するゆうパックの割引が始まっていたので、航空便よりシフトされたとはいえ輸送量が増加しまくり、皆が大量の荷物を区分していた。ほとんど区分機が使えないものばかりで、それらを手作業で区分していた。その時に積み方について下柳と遠藤はトラブルになった。下柳がスーツケースを積んでいた時に、使うロールパレットの種類でもめていた。地域宛の積み替え時、赤鉄の100kgを使うのに下柳が新型プラパレットばかり使っていた。それを見た高梨が

「遠藤さん、なぜ赤鉄パレットばかり使うんですか?」と聞いた。

「まあこれは、ロールパレット自体に重量があるから安定するのだよ。それに容積比がちょうどスーツケースにあうんだ。」と、遠藤は言った。そして彼は、下柳らが積んだ荷物から区分検査ついでに積み替えをしていた。すると

「遠藤さんもそんな手間なことしないでください。折角区分したので、このまま発送しちゃいましょうよ。」と、下柳が言った。

「そうそう、そんな手間なことしてまで、赤鉄へ積み替えしなくてもいいと思いますよ。古臭い鉄檻型のロールパレットの時代は終わったのですよ。もう時代は軽量ロールパレットですよ。」と、高梨が遠藤に対して言った。すると

「はあ!私はそんなはずはない。じゃあ鉄檻の赤鉄は不要と言うことか。」と、大声で高梨を怒鳴りつけた。

「もういい!俺は上の階で信書を区分してくる!」と言って、遠藤は自分のヘルメットを投げ捨てて出て行ってしまった。それ以降、手区分は気まずい空気は張りつめていた。また翌日、出勤簿には遠藤の出社のしるしがあった。しかし彼の姿はなく、予想通り特殊郵便課で国際郵便の区分をしていた。その様子を見て、高梨は貨物用エレベーターで特殊郵便課へ行って遠藤を呼び出した。

「遠藤さん、いつまでもすねてないで、ゆうパック課に帰ってください。」と、高梨が言った途端

「は~!お前!また赤鉄へケチつけるんだよなあ。」と、遠藤は言って怒っていたばかりか、そのまま貨物用エレベーターに高梨を放り込んで強制的に帰らせたぐらいだった。

「とっととこれに乗ってゆうパック課へ戻れ!!!!!」と、遠藤が叫びながら、高梨は強制的に発送する普通郵便が詰まったアルミパレット4台とともに1階へ送られた。

 

 

 一連の話を聞いていた宮森は

「どう考えても高梨さんに問題があるように思えます。」と、言っただけだった。

「だからこの件を相談したいんだよ。」と、高梨が返すと

「もうこの件は、国際郵便の区分をしている三毛猫君へ相談するしかないなあ。あと本田さんや葛城課長へも相談しておく必要があるなあ。」とも、宮森は言った。

「うわ~それだけは堪忍してほしい・・・」と、高梨が返すと

「もうすでにまずい状況でもある。このままでは、遠藤さんなしで区分しなければならないんだよ。」と、宮森は言っていた。

 

 まだ午前中の全国到着の荷物は少なく、区分検査できる状態ではあった。九州航空便がUターンラッシュで運休になったので、ゆうパックは臨時鉄道便で運搬されることになった。そして少し通常業務に戻りつつあった。

 配達では瀬川が道順仕立てを行っていた。そして配達するゆうパックを京橋に託す。

「京橋さん、お気をつけて配達行ってください。」と、瀬川が言うと

「ありがとうございます。それでは、無事故無違反無遺失で行ってきます。」と、京橋は返事をして自分の集配車に乗り込んで配達へ向かった。

昼から全国へ発送する荷物は増加する傾向にあった。自分の昼休みが終わってすぐに、宮森のデスクへ集荷の電話が入った。いつもの会社が急ぎ扱いのゆうパック集荷要請であった。それを受けた宮森は、いつも通り車で事務所へ集荷に向かった。

宮森が事務所の集荷を終えて局へ戻る際、あの佐川のハイエースがいた。宮森は再びバトルすることになった。そしてドリフトしながらコーナーを抜け、局へ先回りした。そして到着ホームに一番乗りする。

「またお前か!宮森あおい!」と、富ヶ谷が言うと

「すみません富ヶ谷さん。急ぐので」と、宮森は言ってゆうパックを持って急いで行った。

 昼からネット販売のノーステップが、ロールパレット30台分の荷物を発送するためにやってきた。

「通販は本当に多いなあ。まあゴールデンウィーク明けだからかなあ。」と矢野が言うと、

「そうですとも。今まで発送が溜まっていたから、ようやく今日発送できる状態になった。」と、小笠原が答えた。さらに八王子のリサイクルショップも、ロールパレット5台分の発送が重なっていた。

 

 

 一方の特殊郵便課では、三毛猫が不思議そうな顔でいた。そう遠藤がずっと国際郵便の区分をするからだった。その様子について三毛猫は気にしていた。

「遠藤さんは普段、輸送ゆうパック課でゆうパックの区分じゃないですか?」と、三毛猫は言った。すると

「まあもう下での作業はしたくない。こっちも以前やっていたからな。」と、遠藤は答えた。

「そうですが、少し私も心配です。ゆうパックの業務に支障が出なければいいですが。」と、三毛猫は何があったか気にしつつもそう言ってから、自分の業務に集中していた。

 三毛猫の心配は的中した。すぐに彼の内線電話が鳴った。

「あ!ご苦労様です。輸送ゆうパック課の小笠原ですが、至急ゆうパック応援お願いします。」

「確認オオライ!すぐに向かいます!」と、三毛猫は言った。そして三毛猫が輸送ゆうパック課に入ると、大量の午前差出ゆうパックがあった。

「もう遠藤さんと木下さんがいないから、供給係が不足してね。私も円さんも疲れるから、三毛猫君の応援もお願いしたのだよ。」と、山田は言った。そして三毛猫と山田、円の3人で供給作業を行った。

 

打鍵はいつも通り藤堂が行っていた。そしてノーステップの商品供給へ移った。

「今日はトマトの水煮缶の特売があったみたいだなあ。さらにスパゲッティも・・・20kg入りまでくる。イタリアンセールでもあったのかなあ?」と、三毛猫は言った。この日発送するもののほとんどが重量物。30分おきに供給と区分を交代していた。打鍵の藤堂も疲れの表情を見せ始めた。そして一旦機械を止めて、5分間の休憩を取った。

 

 

 宮森が局へ戻ってから、彼女は矢野と小笠原とともにデスクでJR貨物へコンテナの手配に追われていた。この日、武蔵野中央から発送するゆうパックの量がいつもより多かったためであった。

「そろそろ午前締切の荷物が終わるところですが、終わる気配がないなあ。」と、矢野は思っていた。

そしてまた宮森の電話が鳴った。やはり集荷のお願いであった。

「やっぱり集荷の連絡多いですね。宮森さん。」と、矢野が言うと

「まあゴールデンウィーク明けだから、書類の発送も多いのかもしれませんね。」と、宮森が返し集荷へ向かった。

 局での区分作業は再開した。差し立て時間が遅い管内は後回しにしつつ、全国宛の午前締切を優先的に処理することになった。新東京多摩上り雑は、もう午前締切のロールBoxは満杯になっていた。

16時になり、坂木が出社してきた。安原は薄物の機械区分にまわすゆうパックを、区分機投入口から回収して台車で運んでいた。

「あ!ずかちゃん!この前のオーディションどうだった?」と、安原が言うと

「う~ん、残念な結果になった。でもトレーニングを頑張って、これからもオーディション受かるように頑張るよ。」と、坂木は答えた。そしてレーンに入って、ゆうパックの区分に入った。

「5レーンちょっと手伝って」と、本田は放送を流す。すぐに山田が供給から駆け付け、坂木をフォローした。そして午前締切の差し立ての追い込みに入った。すべての荷物は、何とか16:20には区分完了となった。午前締め切りの九州航空、北海道航空、新東京多摩上り雑のロールパレットやロールBoxを出発ホームに並べる。17時のトラック便に載って、武蔵野中央を後にする。

そして午後差出のゆうパックとノーステップ、管内ゆうパックを供給する。高梨は手区分、安原は薄物と手区分を担当していた。山田と円、三毛猫は供給と区分に交代で入り、坂木と下柳、藤堂、井口はレーンに入っていた。本田は休憩を取っていた。打鍵作業になれば、三毛猫が供給し、下柳が入力していた。18:45になり、機械を止めた。今作業にあたっていた者は、休憩に入った。すると、夜勤に入る本田がやってきた。

「みなさんやっているね。」と、本田がいう。すると

「あったりまえですよ。」と、三毛猫が答えた。

19時ちょうどになり、三毛猫は放送で「今から供給再開します。」と言った。そして区分機を起動し区分していった。すべての処理は20時半に終わり、ゴールデンウィーク明け最初の平日はこうして終わった。

そうこうしているうちに、関西方面の鉄道便、北海道九州航空便の差し立て時間になった。いつも通り出発ホームにロールboxやロールパレットを並べる。そしてコンテナやトラックの荷台に積みこまれ固定される。宮森と矢野、小笠原は帰宅時間を迎え、夜勤に業務を引き継いで帰宅した。

夜間の間は、基本武蔵野中央到着と区分済みロールパレットの発送だけになる。そして5時から午前1号便の区分が始まる。

 

 

 翌日は通常通り、5時から管内ゆうパックから始まった。そして6時に関西からの最初の便が着いた。

しかしこの日も朝から木下は塵芥室送りであった。まだ反省していない様子であったからだ。本田は

「もう木下さん、反省してもらはないと困ります。この件が今後繰り返されないことを約束できますか?あと木下さんがやったことを十分わかっていますか?」と、本田は言った。

「う~ん、自分もわからない」と、木下が言った。

「わからないでは困ります。」と、本田は返事をした。

 

 その頃、興津が局長室にいた。彼女が木下に営業を教えると、丸川局長へ意見を言いに来ていた。

「まあ本田には内緒になりそうだが、そろそろ塵芥室から連れ出して外回りにだすべきだと思う。あの部屋で反省したと思えば、続いて営業を頑張ってもらうしかないようだなあ。」と、丸川局長は言った。

もうすでに時期は「かもメール」の予約期間になった。さらにふるさと小包やカタログの営業も残っている。そして興津の考えは、区分ではなく営業をさせるというアイディアであった。

 

 区分については、順調であった。鉄道便もトラック便を最初に処理した。9時半に皆は小休憩を取って、新東京多摩下り雑、そして航空便も順調に区分した。武蔵野中央に到着するゆうパックの処理が済んだのは、11:20だった。そしていつも通り2号便で18Xの各郵便局へトラックで差し立てられた。

 

 しかし遠藤は相変わらずこの日も、特殊郵便課で国際郵便の区分だった。

「遠藤さんも、そろそろ仲直りしたほうがいいと思いますよ。」と、三毛猫は言った。

「でもやっぱりまだこっちも怒っている。」と、遠藤は返した。

「もうすでに輸送ゆうパック課も忙しいそうです。あと今日は会議に私が出て意見出しますがねえ。」と、三毛猫は言った。

「それって俺のことか?」と、遠藤が質問すると、

「井口さんのことです。あの方、地域宛ではもったいないので、全国宛をやってもらえないか聞いてみます。」と、三毛猫は言った。

 

 

 全国宛も13時まで供給なしになった。その間、区分係と矢野は昼食を取り、宮森と小笠原は交代で受け入れ業務にあたっていた。そして皆が戻ってから、宮森と小笠原が食堂へ行った。ゆうパックの量がさほどでもないので、まずは手区分で到着分を処理していた。そしていつも通りEMSを安原と矢野、三毛猫の3人で区分していた。そして3号便で差し立てを行う。

さらにこの日は、急ぎのゆうパックがあった。

「緊急の荷物なので、処理よろしく。」と言って、小笠原が三毛猫へゆうパックを渡した。「OK!」と、三毛猫は言ってから伝票の住所を見て「これは03府中市だね。」と言って、府中行の赤鉄へ荷物を載せた。

 

 そしていよいよ下りのゆうパックを載せたトラックが、18Xの各郵便局から武蔵野中央郵便局へ到着し始める。それらを前日と同じ顔ぶれが処理する。なおこの日は、ノーステップと八王子のリサイクルショップのゆうパックは後から処理した。

高梨は相変わらず手際が悪かった。供給作業をやらせても、投入速度は遅かった。そして三毛猫は

「高梨君、もうすこしペースあげてほしいのだけど!」と、怒り出した。

「わりぃ!」と、高梨は返事をした。

「もう少しスピードが必要だと思う。レーンに入っての区分と違い、伝票の内容物欄だけ注意すれば問題ない。」と、三毛猫は高梨を指導した。

15時になり今井が出社してきた。

「おはようございます。おいちゃん先輩!」と、今井が言う。すると三毛猫は、

「あの~今井さん、もうお昼もお昼15時ですよ。」と、言った。そして四国レーンに入って、区分機から出てきたゆうパックを行先ごとに区分していた。しかしこの日は様子が違った。高松中央宛の紙がロールパレットに貼られてなかった。それに気が付いたのは、なんと杉江だった。

「あの~今井さん、あのロールパレットに行先ないのですが・・・」と言うと、

「すみません。気づかずに作業していました。」と、今井が言った。

「輸送ゆうパック課は細かいことの積み重ね。だから上のフロアの国際郵便と違うから。」と、杉江は言った。今井が注意散漫になっていたのは、明日のゼミが影響している。このことで彼女は頭の中がいっぱいになっていた。それを見た杉江は、すぐに気付いて指導したのであった。

 

 

 17時になり、坂木は出社してきた。彼女は声優の養成所が終わってから、午後差出のゆうパックの区分をするために来た。しかしこの日は遠藤が抜けていたので、区分係への負担は増えていた。もうすでに安原は限界を迎えてフラフラの状態だった。

「もう少し休んだらいいと思うよ。残りは私がやります。」と言って、落合がやってきて作業を交代した。

そして坂木へ「しっかり頑張ってなっ!」と念を押した。

皆は休憩なしで18:45までゆうパックを処理した。武蔵野中央郵便局下りだけではなく、ノーステップや八王子のリサイクルショップを中心に供給を行い、いつも通り藤堂が打鍵を行った。

 

 19:40に午後締切のゆうパックがほとんど到着した。これ以降は、到着量は少なくなる。そして出発ホームにロールboxやロールパレットを並べていた時に、ついに安原が倒れた。それを見た三毛猫は、すぐに彼女に駆け寄った。

「大丈夫か?けがはないか?」と三毛猫が問いかけると、

「心配ありません。ご迷惑をおかけしました。」と安原は答えた。

「でも安原さん、もう無理はやめて早退したほうがいいですよ。明日もあるので、今日はもう休んでください。私は残業で処理しますよ。」と、三毛猫が言うと

「わかりました。それではお言葉に甘えます。ありがとうございます。あとお疲れ様でした。」と、安原は言って郵便局を後にすることにした。

「さて俺は、一連発起するか!」と言って、残りのゆうパックの区分にあたった。三毛猫と山田は残業し、残りの差し立てを行った。

 

 

 この日は、繁忙期の学生アルバイトの面接の準備があった。そして配置転換の振り分けがあった日でもあった。20時から輸送ゆうパック課の会議室では、丸川局長と三毛猫、葛城課長の姿があった。

「そろそろ井口さんにも全国宛の処理をお願いできませんか?」と、三毛猫は言った。

「まああの方が優秀なのは事実ですが、地域配達は問題ないですかねえ?」と、葛城課長は言った。

「やっぱり井口さんにも、差し立ての作業に入ってほしいです。」と、三毛猫が言うと

「確かにそうだね。そろそろ来てほしいところだね。繁忙期を迎えるにあたってはね。」と、丸川局長は言った。

「ゆうパックの配達仕立ては、堂本さんと新川さん、瀬川さんにやってもらいます。2名いれば十分まわります。」と、いう結論になった。

 

 次の日はついに一大イベントが待っていた・・・



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第6話 出会いと再送

 宮森はこの日、8時出社となった。しかし寝坊をして、7時半とぎりぎりの状態であった。

「え~靴下どこ~??」と言いながら、片方だけの靴下を探していた。仕方なくその辺にあった、色が近いものを使うことにした。そこへ追い打ちをかけるように、彼女の姉である宮森かおりから電話がかかってきた。

「もしもしあおい、元気にしている?」と、かおりが言うと

「え~!今忙しいのに、そして今から出社なのに。なんで。」と、あおいは言った。

「へえ郵便局員って、忙しいのだね。」と、かおりが言うと

「あたりまえだよ。毎日大量の郵便を取り扱うからね。特にゆうパックの部署は、何かと大変だよ。通信販売とかで忙しいからね。あと何で電話をしたの?」と、あおいは言った。すると

「今から新幹線でそっちへ行くね。」と、かおりが言いだした。

「え~何でお姉ちゃんは、そんなに唐突なの?でも今来ても私いないからね。」と、あおいが言うと、

「じゃあ部屋の鍵、ポストかどっかに入れといて。頼むね!」と、かおりは答えた。

「え~でも、そんなことできないよ。」と、あおいは言った。

「じゃあお願いね!」と、かおりが言って電話を切った。あおいは、今井の部屋に向かった。

「あ!おはようございます。おいちゃん先輩。」と、今井が挨拶をすると

「よかった、りーちゃん起きていて。」と、宮森は言った。すると

「何か用なの?」と、今井が言うと

「今日は昼ぐらいまで家にいる?お姉さんが来るので。」と、宮森が訪ねる。

「かおりちゃんねえさんですか。う~ん、今日はちょっと厳しいなあ。この後、用事があって原宿に行く予定がある。そしてゼミも・・・ でも三毛猫君は確か1日家にいるそうだよ。確かNゲージで遊んでいるとか言っているよ。この建物の私の部屋の隣に住んでいるからね。ちょっと聞いてみて?」と、今井は言った。

「わかった。じゃあ三毛猫君に聞いてみるよ。ありがとう。りーちゃん」と、宮森は言って三毛猫の部屋に行った。

「はい!おはよう、宮森さん」と、三毛猫が有機溶剤の芳しい匂いをさせて出てきた。

「三毛猫さん、本日お昼ぐらいまで家にいますか?」と、宮森が言うと

「いるよ。ただ14時からは黒磯訓練を撮るために、ちょっと上野までギャラリーに行って、そっから秋葉原のレンタルレイアウトへ行って、知り合いのNゲージに幅寄せに行ってくる。」と、三毛猫は言った。

「よかった。じゃあ私の部屋の鍵を預かってもらうことはできますか?私の姉の”かおり”がやってくるので、お願いできますか。」と、宮森が言うと

「確認オオライ!じゃあ預かっておきますね。ちゃんとお姉さんには、連絡しておいてくださいね。」と、三毛猫は言ってから宮森の部屋の鍵を預かった。

 そして宮森は自転車で、武蔵野中央郵便局へ出社していった。局に着くと駐輪場には、安原の自転車がとめてあった。

「もうえまちゃん出社しているんだ。」と、宮森は思った。いつも通り出勤簿に印鑑を押し、デスクへ向かった。そして企画社員用の朝礼が始まった。

 

 

 この日は昼から一大イベントがあった。それは「繁忙期の臨時学生アルバイト」の面接であった。面接は業務が落ち着いたら、15時から上の階にある会議室で始めると総務の社員が言っていた。

「アルバイトの面接には、私(丸川局長)と小笠原さん、そして葛城課長と下柳さんが面接官をやってもらう予定です。」と、丸川局長が言った。

さらに朝礼では、落合の転勤の話が出た。

「この月末付で、私は転勤することになりました。今まで本当にありがとうございます。」と、落合が言う。

「え!なんで!」と、高梨が言った。すると

「落合君は、神戸に行くことになったのだよ。理由は三毛猫君と交換になったことかねえ。向こうも、これ以上はもう待たないから人を送り込んでくれ!と、先日会議で言ってきているのもあったからなあ。」と、丸川局長は言った。

「高梨!これから何が起こるかわかるよねえ?人手不足でますますビシバシこき使うからね!」と、矢野は言って詰め寄った。

「まあ神戸では関東にはない何かもあるし、自分にもいい経験になると思う。」と、落合は言った。

 

 そしてミーティングの後、第一供給の山田は宮森と話していた。

「へえ安原が倒れたってか。最近元気ないなあ?と、俺も思っていたよ。確かにここは、女性にはきつい現場だと思う。25kg超えのゆうパックを取り扱っていちゃねえ。人手不足であれだけの激務をこなしたら、無理があると思うよ。そもそも人が最近、郵便局に集まらない。慢性的に・・・」と、山田が言った。

「え~?なぜ郵便局に人が来ないのですか?」と、宮森が尋ねると

「郵便局のバイトは給料安いし、ライバルの飲食や販売のサービス業が給料あげたらね。もう少し給料上げないと人は来ないと思う。そうなれば、安原さんも激務にならずに済むけどね。まあ災害対応よりはマシだけど。」と山田が言う。すると宮森は、以前に山田が経験した災害対応の話題について尋ねる。

「話には聞きますけど、伝説に聞く東日本大震災からの復旧業務、どれぐらい激務でしたか。」と聞いた。

「まずトラックが局へ向かっている途中に地震や津波で被災しまくったし、局内のロールパレットが全部おじりしていたなあ。さらに局員数名が配達中に殉職、そして区分機のベルトコンベアは崩壊し、郵便局は耐震強度不足で取り壊しが決定し統合となった。俺は結果的に、3か月ブッ通しで郵便局に泊まり込みで勤務し、あの震災の復旧作業にあたっていたよ。関東でもあそこは被害の大きかったなあ。30過ぎて不審の思った大家から親へ電話が入ったとか、炊飯器にカラフルなカビが発生していたとかなあ。あんな地獄、後にも先にもないねえ。」と、山田は言っていた。その様子を宮森は息を飲んで、声を失った表情で聞いていた。

 

 

 この日の到着は、鉄道便は休みであった。そのため関西からの到着量は、少なかった。また休日明けもあって新東京多摩下り雑は、いつもより少なかった。しかし鉄道便の休みとはいえ、船(フェリー)臨時クール便のコンテナは着いた。

「お!九州からの臨時だねえ。」と、葛城課長は言った。

「何それ?」と、宮森が聞くと

「まあ九州から生鮮食品が大量に到着するのだよ。特にお肉が大量に来ることになった。」と、矢野が言った。そして彼女は、

「今日はレーンよりもチルド室が忙しくなるなあ。」とも言っている。

 そういっている間にも、第86日通丸というRo-Roコンテナ船は東京港の岸壁に接岸した。それに今回の主役のリーファーコンテナ(冷蔵コンテナ)が陸揚げされ、トレーラーに積まれていた。

 

 午前中はトラック便のみの到着となった。そして貨物の量は、新東京多摩下り雑を入れても比較的少なかった。しかしリーファーコンテナが到着すると、状況は一変した。

 宮森あおいはこの日の午前、小笠原と共にチルド室でクール便を手区分で処理していた。小笠原はいつもAラインコートを着て、作業にあたっている。その姿は武蔵野中央郵便局では一番のおしゃれな郵便局員でもある。小笠原の区分している様子は、まさに神業だった。携帯端末で入力後、行き先の書いてある冷蔵ロールパレットに積み込む。その手さばきは、無駄がなく素晴らしく、区分係は見とれてしまうものだった。

 

 昼からは通常通りの全国差し立てであった。レーンでは、連日の業務の疲れにより安原がかなりクタクタの状態で、区分作業にあたっていた。そして注意散漫の状態でいた。それを見た杉江はアドバイスをしようとする。しかし声をかけてはかわいそうだと思っていた。そして杉江は、自分が持ってきたほうじ茶を水筒からコップへ移した。レーンには、ほうじ茶の香りが漂い、安原も気が付いて杉江のほうを見た。

「ほうじちゃ?」と、安原が言うと

「君いつも頑張りすぎているね?やっぱり区分は供給と違って、根気と体力の両方必要だからね。」と、杉江は言った。その時に宮森がやってきて、

「えま!調子はどう?あとまだノーステップが6パレット到着するようだから、区分お願いね。」と、言いに来た。安原は「うん!」とうなずいただけだった。すると

「若い時でないとね、区分の流れは学べない。誤送しない癖もね。今が頑張り時だよ。」と、杉江が言うと

「早く区分すれば、丁寧にできるのですか?」と、安原は返した。

「早く分けると誤送が出るし、取り扱いも雑になる。投げてしまう。ゆっくり丁寧になると遅くなる。早く丁寧に誤送なく区分できるようになるには、一連の流れを理解する必要がある。今君の周りにうってつけの手本がいるじゃないか。神戸の三毛猫君や井口さん、彼らも同じ道を通ってきたからねえ。いい相談相手はいると思うよ。」と杉江は言った。

「じゃあもっと早く区分すれば・・・」と安原が言う。

「たとえ正確に区分できても、スピードは落ちていくと思う。重量物が来ればなおさらだよ。」と杉江が言う。

「最初は下手でもいいのですか?」と安原が言う。そして

「それはね、先輩がクリアできる基準に区分できないとないとなあ。それができれば食べられる。できないと辞めていく。時代は変わっても、はたまた雇用形態が正社員でも非正規でも問わない。それが郵便局の区分係だねえ。」と、杉江は言い放った。彼はまさにいろいろなものを見て悟りきっている様子でもあった。

 

 

新幹線で宮森あおいの姉、かおりが武蔵野市に着いた。そして武蔵境駅に彼女は降り立って、

「へえこれが東京、うちに街とそう変わんないじゃん!」と言った。

そしてまっすぐに宮森あおいのアパートへ行った。するとあおいの部屋の扉に紙があった

「歓迎宮森かおり様 305号室へ来てください。武蔵野中央郵便局員三毛猫」と書いてあった。

そして三毛猫の部屋にかおりは行った。

「こんにちは。宮森かおりさん。来るのを待っていましたよ。宮森あおいさんからそちらの部屋の鍵を預かっています。あ!よかったら私の部屋へ・・・」と、三毛猫が言った。

「では少しお言葉に甘えます。」と、かおりは言って三毛猫の部屋へ入った。しかし彼は、ものすごい「オタク」であったのは言うまでもない。部屋にはアニメグッズやNゲージ、鉄道写真があった。

「すごいですねえ。電車とアニメ好きなんですか?」と、かおりが質問すると

「まあね。俺も数年前からアニメはまっていてね。ちょっとずつ買っている。あと鉄道はその前からずっと・・・幼い時から・・・」と、返事をしてお茶をかおりに出した。

「あらいいの。じゃあ頂いていくね。」と、かおりは言ってからお茶をいただいた。

「しかしアニメは決して安い趣味じゃないよ。かなりお金がかかる。グッズは特になあ。だからうちの親は不平を言っている。」と、三毛猫は言って一番彼が気に入っている等身大エアPOPを見せた。そして

「あまり長居すると申し訳ないので、そろそろ妹の部屋へ行きますね。」と言って、三毛猫がかおりをあおいの部屋まで送ったあげることにした。そしてあおいの部屋へ入った。

「へえ案外きれいにしているじゃん!」とかおりは感心していた。

「まあ生真面目ですからね。あおいさんは・・・」と、三毛猫は答えた。

「ところで、かおりさんは何のお仕事をなさっているのですか?」と、三毛猫が聞くと

「信用金庫の職員です。」と、かおりは答えた。

「そうですか。まあ私の母方の伯父に銀行員がいたなあ。では私はこれで失礼します。」と三毛猫は言って、あおいの部屋を後にした。

 

 

 姉のかおりは、妹あおいの服を無断で借りて、かおりはある場所へ向かった。それは「パチンコ店」だった。武蔵野市でガラが悪いとうわさされ、ヤンキーやならず者が多数店内でうろうろし、煙草を咥えながらパチンコに興じていた。大音量のアナウンスやBGM、パチンコ台の音、タバコ臭い店内で、かおりは出玉がよさそうな台を見つけ遊び始める。すると彼女は、

「今日は負ける気がしないなあ。」と言って、よさそうなパチンコ台を見つけて打ち始めた。あおいの服のパワーか、この日は思いっきり出玉がよかった。

「連チャン、連チャンだ!これでは席も立てないなあ。」と、かおりは言っていた。あっという間に彼女の足元には、パチンコ玉満載のドル箱が並ぶ。

その時にゆうちょ銀行の営業マンの興津が、かおりに声をかけた。さらに木下の姿もあった。

「こんにちは。武蔵野中央郵便局のゆうちょ銀行営業の興津です。もしよければNISAや投資信託などの金融商品いかがですか?新規で口座開設も歓迎です!」と言ったときに、木下が

「あと私は、ゆうパック営業の木下ですが、よければ”かもめーる”やふるさと小包はどうですか?パチで勝ったお金で、おひとついかがですか?」とも言った。すると

「あら?武蔵野中央郵便局?私の妹が偶然そこで働いています。それもゆうパックの部署で。」と、かおりは答えた。

「あ!もしかして宮森さんのことですか?先ほど電話がありましたよ。お姉さんが東京にいらしているって!」と、木下は興奮した表情で言った。その瞬間に、

「また大フィーバーだねえ。今日は来てよかった。出玉が止まらないなあ。」と、かおりは言ってパチンコに興じていた。それを見た木下は

「もしよければ、会社とかで必要な”かもめーる”、購入してはどうですか?折角パチンコで勝ったので、縁起かついでぜひ50枚どうですか。」と、詰め寄った。かおりは

「じゃあ今回は、武蔵野中央郵便局で買って帰るよ。ちょうど会社で頼まれているからさ。」と、言って安請け合いした。そして木下より「申し込みはがきと振込用紙」を受け取り、かおりは夕方までパチンコで遊んだ。この日パチンコで4万5千円も勝っていた。

店員を呼び出し台車で玉の入ったドル箱を運び、玉を数えてから景品のライターの石を店員からもらい、景品交換所で換金した。

「さすがに妹から服を借りて行ったのは正解正解!」と、言いながらパチンコで勝ったお金と木下誠一の名刺を持って、スーパーに寄ってからあおいのアパートへ帰った。

 

 

 しかし特殊郵便課へ行った遠藤は、まだ下柳と高梨の行動にすねている様子であった。

「機嫌を直しましょうと」と、高梨が言いに来ても「嫌だ!」の一言だけであった。

「お前!もうとっとと消える!高梨!」と言って、遠藤は彼を貨物用エレベーターに押し込む始末であった。

 そこへ丸川局長がやってきた。

「ちょっと遠藤君、もし可能ならば、短期のアルバイトの採用面接、少しやってみないかね?小笠原さんに無理を言うと困るからなあ。あとかわいい女の子も多いし。」と、丸川局長は言った。すると

「じゃあ私が小笠原さんの代わりに面接やります。」と、言い出した。そして

「それでは、遠藤君、今日の面接お願いね。ちょっと気分良くなると思うよ。」と、丸川局長は言った。

 丸川局長の言ったことは正解であった。面接でかわいい高校生の女の子と話ができたばかりか、遠藤と下柳は、仲直りするきっかけにもなった。

「今日はかわいい子ばかりだったよなあ。下柳君。」と、遠藤が言った後、

「そうだな!イベント会社の娘さんまでいたね。あの子、ピンクの髪の毛に制服姿は、清純派に見えましたね。」と、下柳も言っていた。

「あの子が今度から来てくれそうだなあ。運動部なので体力にも心配ないみたいなので。これで夕方の差し立てが順調になるなあ。」と、遠藤が言って気分はルンルンであった。

そして彼らは、輸送ゆうパック課のベルトコンベアのレーンで区分作業にあったった。

 

 その頃、三毛猫は痛法被を着て、上野駅へ乗り出した。広島から来た鉄オタ仲間と合流し、ギャラリーであふれかえったホームへ向かう。

「うわ~人多い!」と、広島の友人が言うと

「あたりめぇだろ!東京だからな!そりゃ俺は準備万端だぜ!痛法被に痛Tシャツだろ!ズボンはユニクロ。これが激パ(罵声大会)出撃ファッションだ!」と、三毛猫は言った。

「ここで撮るのは避けて、別の場所へ行こうかなあ?」と言って、3人は上野駅から近くの踏切へ移動した。

そしてEF81-81がブルートレイン5両を牽引して、通過していった。

「ほら!きたぞ~!黒磯訓練!」と、三毛猫は言ってシャッターを切った。

「一発で決まった~!」と、彼は叫ぶと

「俺も決まった!パーイチ好きだし、ローピン+銀帯サイコー!!!」と、広島の友人は言っていた。

 

 

 15時から武蔵野中央郵便局では、夏季繁忙期の学生アルバイトの面接で3人ほど抜けた。安原と藤堂、山田は午後到着の区分をやっていた。そして高梨が供給をやれという時に、再び問題を起こした。

「高梨!またお酒の瓶を供給しようと思ったでしょ。」と、矢野が聞くと

「え?」と高梨はとぼけた。

「何度言ったらわかるんですか!瓶と卵は機械禁止って言ったのに、なぜ君はわかっていない何て。」と、矢野は怒り出した。

「すまねええええ!」と高梨が言った途端、矢野は切れて思いっきり彼の頭を平手打ちした。

 

 この日の配達は、渋滞等がなく順調であった。道順組み立ての瀬川も、配達から帰ってきた京橋と話していたぐらいであった。

「あら京橋さん、配達お疲れ様です。」と、瀬川が言うと

「いえいえ、まだまだこれからですよ。この仕事、人手不足なので残業毎日です。」と、京橋は答えた。

「武蔵野市、だいぶ慣れましたか?」と、瀬川が尋ねる、すると

「まあね。」と、京橋は答えた。

 

 午後締め切りの荷物は、少ししかなかった。理由はノーステップがほとんど午前中に差し立てとなったからだ。あまり残っていない状況にかつ、午後差出のゆうパックもあまりない状況となった。

安原は疲れを見せながらも、北陸方面の区分作業に従事していた。そして石川県と富山県を勘違いし始める。そして積み込みを間違え始める。そのことについて、誰も気が付かなかった。区分検査もしないまま、ロールパレットは出発貯留エリアへ移動していった。

 

宮森あおいはこの日の18時に、本田から

「今日お姉さんが来ているみたいだねえ。荷物も少ないし残りの差し立ては心配ないから、もうあがりにしていいよ。」と、言われた。宮森は、

「お言葉に甘えます。お疲れ様です。」と言って、郵便局を後にした。

 

 

 あおいが家に帰ると、姉のかおりと今井が部屋にいた。あおいは帰宅して、かおりの姿に驚いた。

「おっかえり~!お仕事ご苦労様!」と、あおいの可愛がっていた人形を持って挨拶してきた。

「おつかれっす~!」と、今井が言ってきた。

「で、なんで今井さんが・・・」とあおいが聞くと、

「偶然パチンコ屋から帰りのスーパーでばったり会った。で、家までついてきちゃった。」と、かおりは言った。あおいは、姉の服を見て

「ねえちゃん、それ私の服!」とあおいが聞くと

「かりたよ~!」と、かおりは人形を介した裏声で答えた。そしてタバコ臭のする姿を見たあおいは、

「おねえちゃんまたパチンコやったでしょ!」とあおいが聞くと

「そう!大勝したよ!出玉が止まんなかった!やっぱり服を借りていったのは正解だった。」と、かおりは答えた。

「おねえちゃんも、もっと真面目にしてよ。クズ修行やめてほしい。そのうち借金とか横領とかしないか私も心配だからね。」と、あおいは言った。

「ノープロブレム!」と、かおりは言った。そして

「真面目ってね、よいことと悪いことがあるんだよなあ。そのうちわかると思うよ。」とかおりは言っとき、

「でもクズ修行とは違うと思う。」と、あおいは答えた。

「さてそろそろこれでも食べよ!」とかおりは言って、彼女がパチンコで勝ったお金で買ったカニとウニの缶詰を酎ハイやビールを飲みながら食べた。

 

 

 翌日休日であったが業務はあった。宮森あおいが出社すると、差し立てスケジュールのところに赤紙(非常事態宣言)が貼ってあった。それは、昨日差し立てたゆうパックで誤送が発生したことでもあった。急いで宮森が調べると、安原が区分した金沢宛のゆうパックが、なぜか富山に行っていたことであった。すぐに宮森は、新富山へ電話をした。すると

「そちらから差し立てたゆうパックですが、確かに誤送が多かったです。4パレット中すべてに金沢宛が入っていました。まあ急いで区分するあまり、仕分番号のみを信用して区分した感じかなあ?本当は区分検査をしていればこんなことはなかったですが。この荷物、すべて送達が1日遅れそうです。」と、富山のものは言った。

「了解しました。この件については私が・・・」と宮森が言うと、

「そちらの郵便局員の安原さんだねえ。あの荷物を差し立てたのは。行き先の紙に安原さんの印鑑がったので。こんな区分をしてはダメです。しっかりと指導お願いします。」と、富山のものが言うと

「わかりました。このことについては、私が安原へ連絡しておきます。」と、宮森は答えた。

葛城課長は、誤送の件については承知であったが、人手不足がったので塵芥室送りにしないつもりで通した。なので、非常事態宣言の掲示する程度のことであったことを宮森へ伝えた。

 宮森はすぐに自宅にいる姉へ電話をした。

「まあ真面目がいいほうに行く時もあれば、悪いほうに行く時もある。真面目な人ほど自分を追い詰めるし、見失いやすいよ。たぶんスランプだと思う。これ以外に言いようはないよ。」と、アドバイスをしただけだった。

そして宮森は、屋上に安原を呼び出して話をした。

 

 

「えま~、ちょっと言いにくいことなのだけど、実は昨日の差し立ての際、金沢宛が富山へ誤送していたみたいだよ。」と、宮森が言った。

「誤送!金沢宛が富山に!」と安原が言うと

「そう!4台すべてに入っていた。誤送入力後、再度差し立てになった。1日遅延して向こうには届くことになった。」と、宮森は言っていた。すると

「それって郵便局員として失格ってことだよね。」と、安原が言うと

「そんなことないよ。誰だって失敗はある。」と、宮森が励ますと

「失格だよ・・・」と、安原は言い出す。

「大丈夫だよ。絵麻はすごいよ。あれだけの荷物をたった一人で処理できるなんて。」と、宮森が励ます。

「でも三毛猫君は、私と同じ仕事を6日間でプロ級区分係だったと言われた。それもゆうメイト時代に・・・誤送もゼロだし・・・」と、安原が言った。

「あの方は、元から天才だったから。さらに地理に詳しいからね。」と、宮森が答えるが

「でも他の方、何て言っていた・・・」と、安原は聞いた。

「もう少し丁寧に区分してください、と言っていた。」と、宮森が答えると

「丁寧に区分していたら、差し立ての時間に間に合わないよ。もってスピードを上げて区分できるようにしたい。技術も上げたい・・・このままでは食べていけないし、使えない郵便局員になってしまうよ。」と、安原が泣きながら言った。そして宮森からもらったドーナッツを持って、自分の持ち場へ戻ろうとした。その時、喫煙休憩のために井口が配達仕立て室から非常階段へやってきた。そこへ急ぎ足で来た安原と井口の肩が当たる。そのとき安原が持っていたドーナッツを床へ落としかける。井口がすぐさまキャッチし、床へは落とさなくて済んだ。そして

「おっと!危ないよ~!これ、やすはらっちのん?」と、井口が言うが安原は無口で泣いていた。

「じゃあもらっちゃおう!」と井口は言って、安原のドーナッツを食べた。

そのまま安原は走って、輸送ゆうパック課へ戻ろうとした。その様子を見た井口は何かを察した。

「やすはらっち、聞くは一瞬の恥、聞かぬは一生の恥ってね。」と井口が遠まわしに聞いた。しかし安原は足を一瞬止めたが、何も言わずに再び泣きながら走って行った。

 

 そしてこれから迎える繁忙期は、黄色信号が点灯するきっかけにもなった。気まずい空気が局内に立ち込めていたのは言うまでもない。



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第7話 自分を責めないで

 かおりはこの日も休みだった。あおいは仕事で朝からいなかったので、今井と一緒に東京見物へ行くことにした。スカイツリーや浅草を見物していた。昨日かおりはパチンコで勝ったので、あおいへのお土産や今井へいろいろ買ってあげていた。

二人は原宿へ来た。

「かおりさん、こんな高い服を他人に買ってもらうなんて・・・申し訳ないです。」と、今井が言うと

「いいのよ!気にしないで!パチンコで勝ったお金だから!流しておかないと、次当たらないし!」と言って、かおりは強引にブティックへ誘った。そして彼女は、学生で生活の大変な今井の代わりに服を買ってあげた。

 

 さて午前の差し立ては、この日から完全通常に戻り、関西からのJPレールエクスプレスも運行されるようになった。しかしこの日もやはり、列車へ遅延が発生して到着が遅れた。

「またほっぴんジャンプだなあ。今度は”あいの風とやま鉄道”の倶利伽羅だなあ。困ったもんだよ。」と、矢野が言った。さらに午後配達のゆうパックも遅れている状況であった。

落ち込んでいる安原は、複雑な思いで区分作業にあたっていた。そこへまた杉江がやってきた。

「食べていくのも大事だけど、何のため誰のために区分するかも大事だよね。なんで安原さんは郵便局の輸送ゆうパック課に入社したのかね。」と、杉江が質問した。

「生活のために、この仕事をしています。」と、安原は答えた。

「まあそのうちに君も、ついて来る者がいると思うよ。そして目標にも出会うと思う。君が区分したことで、荷物が届く。そして届くのを楽しみにしている人たちもたくさんいる。そこの赤鉄1台にどれだけの思いが載るのかなあ?」と、杉江が言った。安原はしばしの間、赤鉄ロールパレットを複雑な思いで見つめていた。

 

 

 一方の手区分では、高梨と矢野が作業していた。そして目標について高梨に矢野が聞いた。

「俺の目標すっか?そりゃ正社員登録されることかなあ?今はまだ非正規なので、いつか三毛猫や小笠原さんみたいになりたいっすよ!」と、高梨が言ったとたん

「は?正社員登録って言っても、そう簡単な道でないよ。営業もあるし、あちこちペコペコしなければいけないし大変だよ。」と、矢野が言った。

「俺も正社員登録一本狙いっす。早くなりたいっすよ!」と、高梨が言う。

「殴ってやろうか!」と、矢野が言うと

「え!何でですか?」と、高梨が返す。すると

「あのね!新卒以外では、なかなか最初から正社員になれるって厳しいよ。気にも今のままだと、あと3年はかかる。それは覚悟してほしい。三毛猫君ですら、ゆうメイトのアルバイトをやっていたぐらいだよ。」と、矢野が言う。そして高梨は

「そうそう落合さん!落合さんも神戸に行って、ブイブイ言わせるつもりなんでしょ。あそこかわいい子多いし。」と、高梨が言った。すると

「やむにやまれぬ事情がこっちもあるんだよ。」と、落合が言うと

「こっちもファッションと港街の神戸で、仕事したいっすよ!」と高梨が言った。落合は

「かわろうか?」と、冗談交じりの返事をした。

「まじっすか!」と高梨が言う。

「冗談だよ!第一に当日から激務の予感がするよ。繁忙期初日で武蔵野中央郵便局より規模はデカいし、社員数もここの数倍だよ。ゆうメイトの数も半端ないのをまとめなきゃいけないばかりか、差し立てはすべて変わるのを当日中にマスターしなければならないんだぞ!」と、落合が言う。

「は~い、大変自慢頂きました。テスト前やってない自慢、寝てない自慢、業界忙しい自慢!」と、高梨が言った時、

「自慢じゃねえって!おとなしく送り出してよ。」と、落合が答える。

「タイタニックから脱出する乗客に、演奏を続ける楽団員の気持ちがわからんとですよ。」と、高梨が言った。

「うちは泥船かよ!」と、矢野が毒舌で言った。その様子を見た宮森は、「くすす!」と笑った。

「それより本田さんは、ゆくゆくは部長や課長などの上司を目指すのですか?」と、宮森は質問する。

「まあこっちも、その手のはちょっとねえ。偉くなればなるほど大変になるからなあ。責任とかも重くなるし。」と、本田は答えた。すると

「じゃあ一番なりたいものって」と、宮森が再度尋ねると

「うんっとね!・・・ケーキ屋さん?」と、本田は答えた。

 

 

「はあ!」と、高梨があ然とした態度をとるばかりか

「何その幼稚園の女の子みたいな夢・・・!」と、宮森は驚いた。

「初耳っていうかマジ花ですか!」と、落合も言った。

「きもっ!」と、高梨が言った途端、

「夢なんだよ!夢なんだからほっといてくれよ!」と、本田は答えた。宮森は

「ほ~!全然知りませんでした。」と言った。

「結構、これでも休みの日に作ってみたりしているんだよ。」と、本田は答えた瞬間、

「あ!このあいだのブラウニー、もしかして!」と、矢野が言っとき、

「うん!手作りだよ!」と、本田は自慢げそうな表情で言った。

「うわ~複雑!」と、矢野が顔をしかめると

「ちゃんと出来ていたよね!」と、本田が尋ねると

「いや~おいしかったです。おいしかったのですが・・・何だろう、自分の中に予断と偏見があって、本田さんが新妻エプロンをつけて卵を割って作っていると思うと・・・」

「新妻エプロンなんかしないから」と、本田は大声を上げると

「皆さん!いい加減業務に戻ってください!」と、三毛猫が言いに来た。そして皆は持ち場へ戻った。

「もうすぐスイカの季節だねえ。重たいけどあれおいしいんだよなあ。」と言って、彼は杉江とともに国際郵便の区分をするために、特殊郵便課へ行った。

 

[newpage]

 宮森はこの日は、午前中から車で営業に行っていた。しかし宮森は上の空で、他事を考えていた感じであった。

「やっぱりみんな、普通に夢とかあるなあ。」と、宮森が言うと彼女の脳内ではロロが

「そうそう!みんな夢に向かって頑張るんだよ!それが生きるってことだよ!」と言ったとき

「え~!夢とか目標とかって別にいらなくねえ!」と、ミムジーが言うと

「ミムジーはなんでそんな殺伐としたことばかり言うの・・・」と、ロロが言った。

「なんかうさんくさいじゃん!そういう奴って、現実見ていないんだよなあ。」と、ミムジーは答えた。

しかしまた行く際、交差点で信号停車した時、佐川急便の富ヶ谷がいて幅寄せをしてきた。

そして信号が青になりゆっくりと宮森の車は発進した。しかし富ヶ谷はサイドブレーキを引いたままでフルアクセルであった。そして急発進したのち、縁石にあたって止まってしまった。

「くっそ~!また宮森あおいかよ!」と、佐川急便の富ヶ谷が車から出てきて怒っていた。

 

 そして木佐光秀と言う配達員に、彼の自宅近くで出会った。この配達員はバイクではなく自転車で配達をするが、以前から武蔵野中央でも問題人物としてマークされていた。

「木佐さん、自宅寄ったでしょ!」と、宮森が聞くと

「うん!忘れ物を取りにちょっと・・・」と、木佐が言った。

「木佐さん、本当はやってはいけないのじゃないですか?な・か・ぬ・け!」と、宮森が聞く。

「まあ言わないならいいよ。この通り!30分だけお願い!」と、木佐は願い出た。

「忙しいからいいですよ。それでは!!」と、宮森はとってつけた返事を投げて帰った。そのとき木佐は、こういった。

「俺、今度自転車の大会に出るん!ヒルクライム!」と、彼が言ったとき

「何!ヒルクライムって?」と、宮森が言うと

「う~ん。坂を永遠っと上がっていく自転車の競技だよ。自分の体重と実力がもの言う競技だよ。で、これで優勝するのが夢!」と、木佐は答えた。

「え!・・・でも私は、木佐さんがちゃんと郵便配達してくれるほうがいいです。」と、宮森は言った。

「じゃあ今から戻るよ!」と言って、木佐は自転車で配達に戻った。

複雑な気持ちにまたなった宮森は、車に戻り集荷先の法律事務所へ向かった。取引先に着いたとき、姉のかおりからメールが来た。内容は、今井と一緒に東京見物している浮かれたものだった。

「もうお姉ちゃんたら!もう!」と言って、自分のスマホをかばんに放り込んだ。

 

 

 この日は、取引先の菅野法律事務所では、急ぎで発送する書類が多く午前に取りに来てほしいと言ってきた。それで宮森は、集荷へ向かった。事務員から発送する荷物を受け取り、サイズを計測後、端末入力と台帳に記録、書留はシール貼りをするのと同時に切手の料金の不足がないかを確認した。

「少しこちらも裁判とかいろいろあって、午前締切で出さなければならなくなってしまいました。いつも宮森さんは定時できてくれて、本当に助かりますねえ。」と、事務員の女性は言っていた。

「いえいえ、いつもゆうパックをご利用いただいてありがとうございます。あと“かもめーる”はどうですか?また要望があれば言ってください。」と、宮森が言って案内のチラシを渡した。

集荷が終わり車へ戻る際、この法律事務所の菅野光明所長(弁護士)の一人娘がやってきて、宮森に突然声をかけた。彼女の姿は、黒髪ロングで前髪ぱっつん、グリーンのチェックスカート、紺色のニットセーターにグリーンのリボンの制服姿であった。

「あの~あなたがいつも集荷に来ている郵便局員の方ですか?」と、彼女はかわいい声で言った。

「そうですよ。武蔵野中央郵便局 輸送ゆうパック課 宮森あおいと申します。」

「私は、菅野彩(あや)と申します。少しお話がしたいのでいいですか?」と、言ったときに、所長であり彼女の父親である菅野光明が

「おい!宮森さんは忙しいから迷惑をかけないように!」と、言った。しかし宮森は

「あら?お気になさいなく!じゃあ行こうか!」と笑顔で言って、宮森と二人駐車場へ向かい、駐車場で宮森は彼女と話をした。その様子を見た菅野光明は

「やれやれ、やっぱり年頃なんだよなあ。」と、つぶやいた。

 

「あの~宮森さんは、彼氏とかいたりするのですか。」と、彩は照れながら言うと

「いや~全然!いないよ。縁がないのかなあ?」と、宮森は答えた。

「実は私、学校で男の子に相手をされるのはいいですが、ならず者ばかりなのです。だからこんなことを聞いてしまいました。それに高校生のうちに恋愛するのが夢でもあります。」と、彩が言うと

「じゃあ私の職場にいる方で、君と同年の知り合いがいるとか言っていたからちょっと聞いてみるよ。」と、宮森が言うと

「本当にありがとうございます。」と、彩は言って戻っていった。

宮森は預かった荷物を持って、郵便局に戻り本田へ区分処理のために渡した。

「しかし書留が多いなあ。」と、本田は言ってから携帯端末で入力後、消印を押していた。そして三毛猫へ、書留郵便の差し立てを依頼した。しばらく事務作業した後、次の集荷先へ向かった。

 

 

 配達では瀬川が京橋へ配達するゆうパックを渡し、配達先へ向かう。しかしこの日は、留守が多く持ち帰りも多かった。京橋が帰局すると瀬川へ持ち帰りのゆうパックを報告する。

「京橋晴海ですが、ただ今帰局しました。」と言うと

「配達お疲れ様です。あらら、今日は差し戻しが多いですね。全て保管だね。」と、瀬川が言う。

「まあ留守が多いのかなあ?まあこの後も、普通郵便もあるので配達係は大変です。」と京橋が言う。すると堂本はそこへ来た。

「じゃあ安心して、これから再配達が入ると思う。そうすれば別の方が持っていくし、小物なら木佐君が持って行ってくれる。」と、堂本は言った。

 

 この日より木下は、供給のみでの作業を許された。しかし木下の受けた処分は重かった。ギフトなどの営業も行かなくてはいけないばかりか、減給処分を受けた。

「木下さんももっと真面目にやってくださいね。手順は徹底的に守ってください。」と、本田は言った。

安原は相変わらず午前の最終便、九州航空便の区分をレーンでやっていた。定刻通り荷物を載せたトラックは、11時前に武蔵野中央郵便局に到着し、11時半には区分は終了し、出発ホームにロールパレットを並べる。杉江と三毛猫も到着した国際郵便の区分をやっていた。そして杉江は、輸送ゆうパック課で安原の様子を見た後、彼は休憩室で昼食をとった。

食事を終えて、杉江が湯沸し室へ向かう。すると湯沸し室には井口がいた。

「あ!杉江さん!流し使いますか?」と、井口は言って流し台を空けた時、

「井口君、少し頼みたいことがあるのだけど。」と、杉江は言った。

そして井口は、安原の様子を見るためにレーンに入った。その頃、安原は全国宛の処理をしていた。

「やすはらっち!このレーン、自分で選んだっけ!」と、井口が言う。

「はいっ」と、安原は小さな声で答えた。すると

「北陸は大変だからねえ。福井、石川、富山、新潟のそれぞれ分ける必要があるからね。さらに新幹線開業で遊びに行く人も多いし。兼六園に、湯の鷺温泉、富山の黒部ダム、立山黒部アルペンルートとか見どころいっぱいあるからね!あとトロッコ列車とかも!あれ迫力満点だよね!絶景の中を走るところが!あ~北陸に私も行きたいなあ。」と、井口が言ったら、

「力不足でした・・・北陸の地理に詳しくないので・・・自分の区分が間違っている気がします。」と、安原は答える。そのとき井口は安原の肩を持って、

「やっぱり安原さんは面白い子だね!気にしないよ!ゆっくり区分したらいいよ!煮詰まるときは一緒だよ。三毛猫君も私もそうだった。全差はいろんな地名が多くて大変だからね!私も住所で区分の場合、都道府県名に気を取られて、区分番号をよく見落とすのだなあ。」と、井口は安原を励ました。

「井口さんもやったことあるのですか?」と、安原が質問すると

「まあ三毛猫君は絶対誤送なしだけど、まあ私もこの仕事は瞬時の判断が問われるからなあ。たまに間違っていたりする。区分検査で誤送が発覚して、よく小笠原さんや円さんに注意されたなあ。」と、井口は答えた。

「そういう時はどうすればいいですか?」と、安原が聞くと

「あのね。そういう時はね。散歩かなあ?この仕事は単調で息が詰まるからね。」と、井口は言った。

 

 

 その頃かおりと今井は、喫茶店にいた。今井は少し遠慮気味であった。

「あの~いいんすか?こんなに服を買ってもらうだけじゃなくて、高級ケーキまで・・・」と、今井が聞くと

「いいの!いいの!昨日はパチンコで勝ったし、お金ならあるよ。普段使う機会がないからね!こっちで使おうと思ってきた。リーちゃんもほかにほしいものがあるなら買ってあげるよ。」と、かおりは返した。

「いや!今は別に・・・」と、遠慮しがちの返事をした。

「じゃあやりたいことをやろ~!ショー観たり、ディナークルーズとか。」と、かおりが言ったとき

「まあ私は、忙しいです。この後も郵便局に行って、アルバイトをしているので。」と、今井は言った。

「そうか!じゃあお仕事がんばってね!」と、かおりは言った。そしてあおいの分の高級ケーキを買って、あおいのアパートへ帰った。

 

 宮森はその頃、集荷から帰ってきた。法律事務所に2回目の集荷へ向かった。荷物を事務員より受け取り、次の集荷先がある「すきっぷ通り」のお店を回り、発送する荷物を集荷した。その時に、姉のかおりへ電話をする。

「もしもしおねえちゃん!自慢話のメールしないでほしいけど。」と、あおいが言うと

「いいじゃん!」と、かおりは答えた。

「こっちも集荷とかで忙しいの!郵便局の仕事は大変だからね!今も集荷へ出ている。」と、あおいは言って電話を切った。

 

 三毛猫は休み時間に、休憩室で自分のノートパソコンを使って遊んでいた。知り合いからのメールも多く対応していた。そこへ宮森からメールが来る。

「三毛猫君へ 後で話があります」という内容であった。

「なんだろうかねえ?」と、三毛猫は思いながら自分のノートパソコンの電源を切って、持ち場へ戻った。

宮森が帰局後、真っ先に三毛猫は到着ホームへ向かい集荷物を回収する。

「宮森さん集荷ご苦労様です。あとメールですが何か用なの?」と、三毛猫が言った。

「まあ少しお話があるので、チルド室へ行っていいですか?」と、宮森が言う。そして二人はチルド室へ向かった。重い自動扉が開けて中で作業していた、小笠原に休憩するように言った。小笠原が部屋から出た時、自動扉を閉め、三毛猫と宮森の二人だけになった。

「何の用なのですか?宮森さん。」と、三毛猫は尋ねる。すると

「まあ私の取引先というか集荷先の法律事務所の一人娘が、彼氏がほしいとか言ってきているから、いい感じの男の子を紹介してほしい。遠距離も大丈夫!誰かいないかなあ?」と、宮森が言うと

「なんや!そんなことかいな!大丈夫だよ!福岡のkuro481-2001君を紹介するよ。彼女募集中なので!」と、三毛猫は言って連絡先のメールアドレスのメモを宮森へ渡した。

「ただし紹介は、オフの時にやれよ!業務中はアカンからな!」と、宮森へ三毛猫は念を押した。その直後、矢野が様子を見に来た。

「お!みゃ~もり、もう帰局していたんだ。なぜかさっき井口さんと安原さんが出て行ったけど、何か知らない?」と、宮森へ尋ねると

「いいえ!ちょっと調べてきます。」と言って、宮森はチルド室を後にした。

「三毛猫君、なぜここへいるの?」と、矢野が尋ねると

「温度管理だよ。」と、三毛猫は言った。

宮森は小笠原へ、安原と井口のことを尋ねると

「散歩に出かけたよ。差し立ても順調なので、1時間休憩を許可した。さてあの二人には、最終便まで処理してもらおうかなあ?23時のトラックまで!」と、小笠原は言った。

 

 

 その頃、井口と安原は、自転車に乗って公園へ行った。

「あの~私は忙しいので。時間がないし・・・」と、安原が言うと

「気にしないで!私も元は第一区分だったけど、地域配達をやるようになった。まあ朝から何時間区分していたの?同じことばかりやっていると、視野が狭くなってくるんだよなあ。」と、井口は言った。

「まあ”りんこはん”は、あんなふうに言ったら外出許可くれることがあるから、使うだけいいと思う。自転車で7分、ほぼ道一本だよ。いい気分転換になれる秘密の場所だよ。郵便局の近くだと息抜きの気がしないっしょ!ここはおすすめ!」と、井口が自慢げに言う。

「そうですか。」と、安原が言った時、1頭の白猫が道に出てきた。

「お!ニャジロ~!元気にしていた!今おやつの鰹節あげるよ!」と、井口は言って駆け寄った。そして白猫に郵便局の食堂で分けてもらった鰹節の殻を袋から出して与えた。

「この子、ここに住んでいる猫で、私が可愛がっている。」と、言って井口は猫を撫でていた。

「上手に区分できるようになるには、どうすればいいですか?」と、安原が言うと

「まあ私の場合、東京小包センターで働いていたよ。まだ郵便局のゆうパックではなく、日通のペリカン便だったとき、先輩からいろいろ教えてもらって、たくさんダメだしされて区分していた。ロールBoxが無駄になるとか、そんな積み方ダメとか、その組み合わせはダメとか言われたよ。もちろん誤送も数回やらかした。入社半年後に郵便事業会社にペリカン便は吸収されて、今の東京の郵便局にやってきた。それでも”りんこはん”にダメ出しくらった。赤鉄が無駄になるとか、手区分を素早く丁寧にしろとか言われた。」と、井口は答えた。

 

 第一供給では、山田と木下、円が供給作業をしていた。しかしペースが落ちていた木下は、いつもより供給量が少なかった。何とか個人受託や午前締切を入力終了したのは16:50だった。もうすでに出発ホームには、トラックが到着して積み込み準備をする状況であった。

 

 

 17時になりいつも通り坂木と少し遅れた今井が出社してきた。そしてノーステップと八王子のリサイクルショップの供給に移る。17時半より一般物を供給する。

 ベルトコンベアの投入口では、山田と木下、円の三人が話をしながら供給していた。

「ヤッパショックですか?落合さんが神戸に行っちゃうって!」と、円が言うと

「タシカニネ!」と、木下が言うと

「何だ!その程度ですか?」と、山田が言う。すると

「いやいやいやいやいやっ!ショックはショックだけど、郵便局で仕事=転勤だからね。仕方がないと思う。まあ神戸から三毛猫君も来し、仕方がないと思う。」と、木下が言った。

「元嫁の話じゃないですよ。あと酔っ払いメールもやめたほうがいいですよ。三毛猫君は西宮で酔っ払いに絡まれたらしくて、あまり好きでないそうですよ。」と、山田が言うと

「ああ!うん!」と、木下が相槌を打つ。

「”去る者を追わず”とは言いますが、過去にこだわり振り回される、木下さんも溜め込みタイプじゃないですか?」と、円が言ったとき

「悪かったな!だから太っちゃうんだよ!知ってるよ!落合の将来より俺の明日を何とかしてほしいよ。あ~はぅ営業ノルマかかったなあ。先日の一件で!泣きたいなあ。」と、木下は怒り出した。そしてロールパレットのキャスターを蹴っていた。

「この期に及んで、総力戦の焼き畑農業(自爆営業)はやめてくださいね。」と、山田が言うと、

「あとに何も残らない(金銭的な意味)誰も幸せにならないというやつね!」と、円も言った。

「うわぁ~ん!わかった!」と、木下は嘆き気味に言っていた。

そこへ宮森が窓口からゆうパックを供給に持ってきた。

「お疲れ様で~す!」と、宮森が言って台車を押してきた。

「山田さんあと30パレット到着予定です。すべて赤鉄です。」と、宮森が言うと

「OK、じゃあ到着次第供給するよ。」と、山田が言う。

「あの~安原さんはどうですか?あと井口さんも?」と、宮森が供給をしている社員へたずねると、

「まあさっき戻って、少し早目の夜食を食べて区分にあたっている。彼女なら手区分で18:45の休憩なしで作業にあたるみたい。」と、山田が言う。宮森がレーンに向かうと、安原が一生懸命に区分していた。井口もエンドレーンで関西とキャンセルを区分している。それを見た宮森は、彼女の努力を知ることとなった。

 

 翌日宮森かおりは田舎へ帰ることになって、朝から準備していた。

「お姉ちゃんもう帰るの?駅まで送るよ!」と、言ったとき

「いいよ!気にしないで。帰りにちょっと寄りたいところがあるの。じゃあまんず!がんばっぺ!」と言って、かおりは部屋を出て帰って行った。

 

 6月は、母の日ギフトがあって第2日曜が近づくと荷物が増えたが、それ以降について、ゆうパックは減少傾向となり、梅雨時は閑散期で荷物は減少傾向あった。そのまま6月は終わった。

朝から管内、JPレールエクスプレス関西便、新東京多摩下り雑、北海道九州航空を供給した後、12時から区分係は食事休憩、13時より平日はノーステップを打鍵供給する。14時からは、18Xの郵便局から到着する個人受託ゆうパックを供給する。15時からは、いったんキャンセルを打鍵供給し、その後通常供給を再開する。平日の宮森は夕方になると集荷へ向かい、19時に戻ってくる。21時台にはすべての区分が終わり、出発ホームに並べる。

休日はノーステップと八王子のリサイクルショップの荷物がないため、発送物少ないので新東京多摩下り直行便ですべてが処理されるので、差し立ては地方別のみとなるだけであった。現場では3人が交代で処理にあたる。

 

 そして7月1日、武蔵野中央郵便局も夏季繁忙期へ突入する。応援のアルバイトも入る。三毛猫も忙しくなるのばかりか、仕事のできない学生が来ることを危惧していた。しかしその予想は、まさかの的中をするのであった。



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第8話 夏の贈り物は優しくない

 ついにこの日より、夏季繁忙期へ突入した。差し立ての新東京多摩上り雑の時間が、16時に変更となった。またトラックの稼働が忙しくなったばかりか、翌日よりJPレールエクスプレスも数両増結された。到着するコンテナも当たり前と言って増える。1日5個以上到着する日もあり、輸送ゆうパック課の人々は日々激務に追われている。区分係も一部時間帯より臨時の学生アルバイトを投入して効率化を図る。午前時間指定のないゆうパックについては、基本午後2号便差し立てとするようになった。

 

 この日は、管内は少し遅めの5時半に到着した。JPレールエクスプレスも若干遅延により、6時半到着となった。渡辺と本田は、到着貨物の管理に追われていた。急ぎの午前配達ゆうパックを優先供給し、一時貯留エリアに午後配達の1.5号便(臨時)を集める。

 宮森は7時に出社した。そして全員がそろい、丸川局長がやってきてミーティングが始まった。

「皆様お仕事ご苦労様です。今日からいよいよ夏季繁忙期です。午後の差し立てより、アルバイトの学生さんの高校生の方がお見えします。あと府中市内の郵便局員の娘さんである久乃木愛さんも、長期でやってきます。」と、自慢げに言った。

「アルバイトの学生さんの教育指導係として、杉江、井口、三毛猫君は頑張ってください。」と、葛城課長も言った。

「ほうほう!私ですか!頑張ります!厳しく指導して、誤送ゼロにします!」と、三毛猫は得意げに言っていた。

そして区分係はレーンに入り、作業にあたった。葛城課長と小笠原はチルド室に入り、高梨は杉江とともに手区分に入った。全国到着は、まず新東京多摩下り雑の第1便の10tトラックが到着ホームについた。15台のロールBoxが下りてきた。まさに修羅場に突入していく予感であった。午前18X中継の荷物は、少ない人数で処理していた。宮森はトラックの手配と誤送の処理に追われていた。

「また神戸からのゆうパックなの?これで10個目だよ。全部立川市・・・どうなっているの?さらに配達は午前になっている。まずいよ。」と、言いながら安原から渡された。そして

「じゃあ処理お願いします。」と、宮森へ言って安原はレーンに戻っていった。

宮森はその後、立川市の郵便局へ電話を入れて、車で持ってくるように指示を受けた。

「矢野さん、今から誤送対応で立川まで行ってきます。武蔵野中央に戻さなければいけないゆうパックも7つほど立川市にあります。」と、宮森が言うと

「気を付けて行ってね。」と、矢野は言った。そして立川市へ向かって、車で宮森は走って行った。

 

 

大量にある関西のゆうパックだけではなく、新東京多摩下り雑が到着したので、区分量に拍車がかかった。供給しても供給してもなかなか減らないロールBoxを見て、第一供給はあっけにとらわれていた。

「しかしこれはすごいなあ。」と、山田が言う。

「まあ私も数年前アルバイト時代の冬繁忙期もそうですよ。景気上向きだからね。あ!山田さんお酒流れていきそうでしたので、床に置いておきました。話はやめて集中しましょう。」と、三毛猫は言いながら作業していた。安原が薄物と手区分を回収し、薄物はフラットソーターにかけてから手区分を高梨に渡した。しかし手区分になぜか矢野の姿があった。

「高梨!スイカ投げるんじゃないよ!あと衝撃を与えるとかなしだ!どうなるかわかっている?」と、矢野が言った。山田が離席していたら、区分機の投入口からすごい音と三毛猫の「わあああああああああ!」と、悲鳴が聞こえた。すぐに宮森が駆けつけると、神戸の「ツヨキ」という布団屋の商品専用ゆうパックが詰まった、武蔵野直行便のロールBoxがあった。どうやらバランスが崩れすべてのゆうパックが床に散乱したばかりか、三毛猫はそのゆうパックの下敷きになり生き埋めになっている状況であった。

「大丈夫!三毛猫君!」と、宮森が言うと

「助よや~!」と、三毛猫は言った。

矢野と二人がかりで救出し、事情を矢野が聞くと

「どうやら神戸のヤツがめちゃくちゃ区分しているなあ。あの積み方は危険だよ。」と、言って落下したゆうパックをベルトコンベアへ供給していった。

「またあとで電話しておくよ。もっときっちり積み込んでと・・・まあ怪我がなくてよかったよ。」と、矢野が言った。

9時になると臨時便のトラックが全国より到着ホームに着いた。これにも大量のゆうパックが積まれていた。信書便のアルミパレットを降ろしエレベーターに積み込み、薄物ゆうパックと手区分を回収、それ以外は三毛猫と山田が供給する。薄物はフラットソーターに杉江がかけていた。

レーンでは9時までは遠藤、安原、下柳が処理していた。それ以降は、佐倉、渡辺が入るばかりか、三毛猫も間でレーンに入り、ゆうパックをロールパレットへ投げて入れていた。

「安原さん、しっかり区分してくださいね。今回は近いエリアなので、誤送しても心配はないですがねえ。」と、三毛猫は放送をした。安原は安どの表情を浮かべながら区分にあたった。9時半前に、新東京多摩下り雑が到着し忙しさに拍車がかかった。区分係は、大急ぎで区分し差し立て時間に間に合わせた。

10時半から15分休憩を取ってから、午前締切の最終便である東京航空を処理する。羽田空港から到着したトラックから大量の食品や野菜の入った黄鉄(ロールパレット)を三毛猫と山田は降ろし、区分機のベルトコンベアに載せていく。しかしスイカの入った段ボールは、ロールパレットに戻し手区分の高梨に渡した。しかし取り扱いが丁寧でない高梨は、相変わらず粗末な扱いをする。

「おい!高梨君!スイカと米袋は大事に扱ってよな!」と、三毛猫は放送を流し注意した。でも手区分から危険な音がした。それを三毛猫は聞き落すはずはなく、すぐに小笠原に様子を見に行くように知らせる。案の定、高梨が米袋を口が開いていた。それを見た小笠原は、無言でガムテープ補修して発送した。

 一方のチルド室では、葛城課長が冷蔵冷凍品を区分していた。夏になると高級なお酒(大吟醸)を送る方が増えるので、区分台にはたくさんのゆうパックがあった。冷蔵ロールパレットから荷物を一旦取り出し、入力した後にチルド室内の行先の紙の貼ってある区分台に載せていく。それを武蔵野中央に到着したすべてのロールパレットで行った。途中で小笠原も応援で駆け付けた。この日のファッションは、彼女愛用のAラインコートにピンクのエプロン姿だった。それを見た葛城課長は、

「小笠原さんは、おしゃれでかわいいね!」と、彼が言うと

「まあ私も、これは一種の武装でもあるのですがねえ。」と、小笠原は答えた。そして冷蔵冷凍品を区分した。

 

 

 午前の配達課では、瀬川、新川、堂本の3人が道順を組み立て、配達員へ渡していた。その様子を短期アルバイトの「塩沢あいり」が見ていた。彼女の姿は、黒髪ロングだが尻まで髪の毛があり、区分作業に支障があるため、後ろをヘアゴムで束ねていたが周りの社員に比べれば汚らしさがあった。

「塩沢さん、区分は信書とゆうパックを正確に道順仕立てしていってください。」と、堂本が指導していた。

「わかりました。」と言って、配達仕立てを塩沢はしていた。しかし塩沢は手際がとにかく悪かった。なぜなら彼女は東京都杉並区在住で、武蔵野市の土地勘がゼロであった。それに気付いた新川は

「う~ん、じゃあヘルメットかぶって、下の階で差し立てかなあ?後で矢野さんか山田さんに聞いてみます。」と、言っていた。これが後々に問題になるとは、だれも予想していなかった。

配達時間になり、次々に配達員がバイクや軽自動車で配達先へ向かう。そして木佐も薄物と信書を持って自転車で配達先へ向かった。そして京橋も軽四車に乗って、配達先へ向かって大量のゆうパックをもって向かった。

「私にとって、軽四車はちょっとしたお店ですね。もう少し大きいトラックか車に乗りたいなあ。普通免許でイケるもの・・・」と、京橋は言った。すると瀬川は

「そうだね!君はゆうパックをたくさん配達しているからなあ。ウォークスルー車なら取り扱いが楽になるみたいですよ。ある意味”走るゆうゆう窓口”です。」と、瀬川は言った。

 

 昼前にようやく宮森は帰局した。すぐに誤送のゆうパックを入力後、配達の堂本に渡してからデスクに戻り、全国宛のトラックやコンテナの手配に追われていた。さらに差し立てのスケジュール管理、今日からくる臨時学生アルバイトの受け入れ準備、転送ゆうパックの処理を矢野と小笠原ともに行っていた。

 

 

 藤堂と久乃木は少し遅番で12時に出社してきた。しかし久乃木は重度のコミュニティー障害であった。なかなか社員の話が分からない。ただ安原と三毛猫の話は分かったようで、ゆうパックの区分検査をすることを約束した。

 午後からはいよいよ繁忙期全差に切り替わる。仕事の量は今までより一気に増える。そこへ久乃木が来て、安原へ何かを言っていた。

「ぜんこくぅ!やぅっ!」と、久乃木が言うと

「あ!全国区分やりたいのだねえ。まず区分番号が書かれているシールを見て、そのあと伝票に書かれている郵便番号と住所を見て、ロールパレットの紙を見てここの番号と都道府県名を合わせて積み込むよ。これは少し難しいけど、久乃木ちゃんならできるね!」と、安原が言うと

「うん!」と久乃木は言って、作業にあたった。

しかしベルトコンベアより出てくる荷物はかなり多く、初めての久乃木には少々厳しいものがあった。案の定、最初は区分だけで精いっぱいで、あっという間に「ファンファンファンファン!」と、けたたましい音がレーンに響いていた。たまりかねて山田がサポートする。ベルトコンベアの排出口に溜まった荷物をかき出し、指定の行先のロールパレットへ投げて積載する。

「久乃木さん、もう少し手早く区分してくださいね。」と、山田が言って後にした。

 

 14時になり18Xの郵便局から到着するゆうパックが集まり始める。さらにノーステップと八王子のリサイクルショップの商品も到着するばかりか、百貨店のギフトも供給し始める。一般全国の供給が一段落すると、一度全国宛ロールパレットを移動させて、臨時管内用の緑色パレットにする。(管内エリア・東京都、埼玉、神奈川、千葉、茨城、山梨、群馬、栃木県のこと)しかし一部は赤鉄を使って上に「区検」の札をつけていく。そして関東内で区分を始めた。ベルトコンベアはものすごいスピードで、8都県宛ての百貨店ギフトを区分していく。レーンでは遠藤、安原、下柳、佐倉、渡辺、藤堂が入った。そして区分作業にあたる。すると山田が少し供給作業では疲れ始めたので、遠藤と入れ替わる形でレーンに入った。ここからは赤鉄でいけば、10台ほどある。これらを三毛猫は手分けしながら供給する。10台すべて供給が終わると、藤堂がやってきた。

「三毛猫君、今から打鍵でキャンセル入れるよ。」と言って、赤い旗がついたロールパレットが出てきた。そして三毛猫は、藤堂が見やすい位置に伝票が来るようにしながら手早く供給した。

「レーン注意してね。キャンセル入れているから。」と、葛城課長は放送で注意を促す。臨時管内のすべての作業が済んだのは、16時だった。新東京多摩上り雑第一便を発送していく。そして残りの午前締切のゆうパックが供給されたのは15分後であった。レーン整理をする間もなく、区分機を全国に切り替え、ブザーが鳴り再び一般を供給する。しかしこの時点でも、ロールパレットは25台ほどあった。それらを手早く供給する。葛城課長は

「とりあえず全国優先、差し立て時間の遅いもの及び夜間のもの、管内は供給禁止にします。」と、三毛猫に言いに来た。すぐに三毛猫は、全国宛のものを中心に供給するとともに、管内レーンにいる社員に放送でほかのレーン応援を頼む。

 

 

 その頃久乃木は、ものすごい集中力で区分検査を行っていた。今回区分したゆうパックは、臨時トラックで数日後に差し立てなので、区分検査は欠かせない。そこで久乃木を使って、区検札のついたロールパレットについては、一旦荷物を取出し検査をして積み替える。しかしここでも、誤送が発生していたことが分かった。それらについては、検査したのち正しい行先のロールパレットに積み替えて、上の階の倉庫で保管した。回収係の普通郵便課の社員が久乃木のもとに来て、区分の済んだロールパレットをエレベーターに積み込んで上がっていった。

 

17時になり、今井と坂木の二人と短期アルバイトの「末永みらい」、「夢乃きずな」、「星河かなた」、「白澤千歳」、「星雲永時(せいうんえいじ)」、「船越風香」が、やってきた。初めてのアルバイトだけに皆は戸惑いの表情が出ていた。そして葛城課長よりミーティングが始まった。

「今日から入社のアルバイトの皆さん、頑張ってください。分からないことがあれば、社員の皆さんに聞いてください。あと誤送は絶対にやめてくださいね。あれは後で対応しなければならないので。」と、葛城課長は言っていた。

そして三毛猫と山田、星雲が供給に入った。しかし星雲は慣れていないのか、覚える気がないのかお酒を区分機へ投入しまくっている状況であった。

「おい!星雲君!お酒は手区分やで!気を付けてくれ!」と、三毛猫は言った。

「すみません。気を付けます。」と、星雲は言ってお酒をロールパレットに戻した。

「エンド注意して!坂木さん、山田さん行って!」と、三毛猫は放送で叫んでいた。

レーンは繁忙期夜勤については、1レーンにつき2人体制で区分にあたる。それでも人手が足りない状況であった。厳しい状況をどう乗り切るかは、皆の腕にかかっていた。

 しかし問題は発生した。新人の末永みらいが早々にしくじり、レーンがいっぱいになった。それを見た杉江は、彼らを指導する。

「君は行き先を見ているんだねえ。区分番号と伝票に書かれている住所を確認するのは大変だけど、慣れるまで頑張ってね。最初はゆっくりでもいいけど、ベルトコンベアの出口に溜りすぎないように注意してね。」と、杉江は言った。

 

18時前になると「新東京多摩上り雑午前第二、差し立て準備お願い」と、葛城課長は放送で呼びかける。そして藤堂がレーンから新東京多摩上り雑のロールBoxを準備する。そして出発ホームに並べて、トラックの到着を待つ。

 

 

 その頃、宮森は車で法人集荷に向かう。いつもの事務所を回り、ゆうパックを集荷する。法律事務所の集荷にあたったとき、あの娘さんがいた。宮森はさっそく声をかけた。

「あやちゃ~ん、武蔵野中央郵便局の宮森です。こんばんは。」と、彼女が言うと

「あ!宮森さんこんばんは。」と、彩が出てきた。そして宮森は話をした。

1か月前のある日、ふたりにはこんな出来事があった。

「じゃあ、ふたりで話そうか。」と、宮森は言って彩を連れ出し、駐車場に着くとふたりはいったん車に乗り込み、車内で話をしてメモを渡した。

「彩ちゃん、もし彼氏がほしかったら、この人にメールしてみてはどう?私も縁があればいいなあ。」と、宮森が言うと

「メールしてみたらいいかも。あと手紙送りたいといえば、できるかなあ?」と、彩は言う。

「君には、いい出会いになるといいね。もうすぐ夏休みだし。」と、宮森が言う。

「はい!頑張ってみます!ありがとうございます。宮森さんには感謝しています。」と、彩は言って宮森の車から降りて見送った。

 あれから1か月が経った。恋愛関係は順調であった。ついに手紙をやり取りする仲になったばかりか、サンライズエクスプレスで彼氏が上京することにもなったからであった。その知らせを聞いて、宮森も仕事を頑張るばかりか三毛猫との人間関係を作ろうと頑張るのであった。

 

 武蔵野中央郵便局では繁忙期初日のピークを迎えていた。宮森は19時に帰局した。そして信書を除いて薄物ゆうパックをフラットソーターにくべてから、食事に向かった。すると食堂には、矢野と小笠原がいた。

「お!宮森、戻ったの?集荷お疲れ様。」と、矢野が言う。

「まあ今日は本当に忙しかったよ。本当に繁忙期といった感じだったよ。」と、宮森が言うと

「これからがピークになるよ。さらに忙しくなるから注意ね。」と、小笠原が言った。

 地域配達も道順組み立てに追われていた。日中は配達先へ向かうゆうパックを準備し、再配達や窓口受け取りがあれば堂本らが運んでいた。夜になりも差し戻しゆうパックを管理していた時、葛城課長がやってきた。すぐに瀬川が

「あの~塩沢さんの話があるのですが、いいですか?」と、言うと

「何のことかね?」と、葛城課長は答える。

「実は朝の差し立てをやらせたいのですがいいですか?配達道順仕立てができないので、本人も地域差し立てをやりたいと言っています。」と、瀬川がお願いしたとき

「いいよ!喜んで移動してきて!」と、葛城課長は答えて戻った。

 

 

 一方の現場では、出発時間を迎えつつあった。

「お~い、20時になったぞ!列車が出るぞ~!北海道、九州の準備よろしく!」と、葛城課長は放送をしている。そしてレーンでは、作業にあったっていたものが、出発ホームに北海道、九州宛のロールパレットを並べる。船越風香は、持ち前の体力で500kgの赤鉄ロールパレットでも軽々と移動していた。

「われ!力強いな!」と、三毛猫も感心した様子でいた。彼も札幌宛のロールパレットを運んでいた。

20時半になり学生アルバイトの方はみんな帰宅した。そして配達の京橋や道順仕立ての瀬川らも家に帰った。そして大阪への荷物も差し立ての時間を迎えた。

「はい!関西の鉄道便も準備お願いします。」と、三毛猫は放送をする。安原も今井とともに、500kgを超えているロールパレットやロールBoxを運ぶ。

「ずかちゃん、いち、にの、さん!」と、安原も加わり指定の出発ホームに並べていった。そして三毛猫や山田もトラックドライバーと共に、31フィートコンテナへロールBoxやロールパレットを積み込んでいく。トラックドライバーが積載物を固定し、コンテナや荷台の扉を閉めて施錠する。そしてトラックは埼玉の貨物駅や各地へ旅立っていく。

 宮森と矢野、小笠原は22時に帰宅した。三人とも疲れ切っている様子であったが、明日も早朝から仕事であった。そして残りに荷物を出発ホームに並べて、この日の差し立ては終わった。

 

 翌日は、いつも通り5時半の管内便から始まり、6時の中京上り、JPレールエクスプレス便の順に供給する。午前の到着は応援の必要がないが、これは新東京多摩下り雑が休止となり、代わりに新東京多摩下り直行便という形で、ロールパレットを締切扱いで来たものを武蔵野中央郵便局にて積み替える形となったためである。(紙紐でロールパレットの扉を封印されている。)それにより改善したと思われるが、全国主要都市から臨時便や百貨店ギフトで区分量は増えていた。とりあえずは早朝の中継処理は、

 

 

 安原と円、山田は早朝の差し立てより作業にあたった。到着するロールパレットの管理を行って、武蔵野経由の直行締切便のロールパレットを指定位置に並べていた。本田は昨日休みであったが、今日は6時出社した。そして塩沢あいりが朝9時になり出社し、この日の午前差し立ての顔ぶれがそろった。

「今日は差し立て量が多いので、事故と誤送に注意して行ってください。」と、葛城課長はミーティングの際に言った。そしてこの日は安原、山田、円、三毛猫に加え、塩沢と本田、井口、高梨も加わり午前の区分が始まる。最初に供給するのは、午後2時以降配達のゆうパックを区分する。チャンスは1回限り、レーンで区分する者は伝票の住所と区分番号を見ながら、指定のロールパレットへ積み込んでいく。塩沢については、井口が隣に付いて手取り足取り指導する。

「まず区分番号のシールを見て、伝票に書かれている住所を見て指定の紙が貼られているロールパレットへ載せる。それの繰り返しがこの職場!」と、井口は言っていた。しかし彼女の手際は、非常に悪い。次どこに入れるかで悩んでばかりであった。あっという間にレーン上は、荷物であふれかえり「ブビー」と、ブザーが鳴りまくっていた。それを見て山田が駆け付けた。

「もう少し手際よく区分して!」と、彼は言って作業を手伝っている状況であった。

10時になり久乃木が出社してきた。ミーティングではコミュニティー障害っぷりを発揮して、安原のフォローなしでは何もできない状況であった。しかし彼女は、区分検査が得意であった。大量にあるロールパレットの中から誤送を見抜くことができる。それを知った安原は、手区分を高梨とともにやらせておくことにした。区分検査が苦手な三毛猫の代わりに、彼が区分した荷物を中心に検査することになった。それにより三毛猫はほかの作業に従事できる。

機械が止まることはない。区分機のベルトコンベアから大量に出てくるゆうパックを、早く正確にロールパレットへ積載する。三毛猫や安原、井口などは手際がいいが、塩沢は相変わらずひどかった。すぐに手が止まるため、レーンに荷物があふれ出す。それを見ていつも井口は応援に駆け付けていた。

「塩沢さん、もっとしっかりしてください。」と、井口は言った。

「私もまだゆうパックについて慣れていないので、何かと大変です。」と、塩沢は答える。

「そうですか。まあ確かにいきなり放り込まれるからね。あと髪の毛は、短くしたほうがいいよ。長すぎるから美容院に行って短くしてきたら?」と、井口は言った。

「まあ私もこう見えて35歳。無職でブランクがありますからね。お小遣いもらっていないので、散髪は自分でやっているのです。だから前髪がぱっつんで「おかっぱ風」になっているのは、自分でしているからです。」と、塩沢が言った。

 

 10時半、到着は九州航空のみとなった。到着は11時なので、それまでは区分検査を行った。三毛猫は久乃木に検査を頼む。そして彼は、国際郵便の応援に入りエレベーターで特殊郵便課へ行った。

定時で最後の九州航空が到着し区分した。到着荷物は多いが、11時半にすべての区分が終わった。ここからは全国宛のロールパレットを配置する。しかし塩沢は手際が相変わらず悪い。案の定、紙を貼り間違えたため、遠藤から指導を受ける。

「ちょっと塩沢さん、行き先間違えて貼っていますよ。いい加減区別つけてくださいね。関西は2府4県ですが、足元の表示を確認してから仕立ててください。」と、彼が言うと

「すみません。少しボーとしていました。」と、塩沢は答えた。

「塩沢さん、あなた嘘言っているでしょ。本当は地理がわからないことを隠すために、そんなことしているのじゃないですか?」と、遠藤は言うと

「あたりです。」と、塩沢は小声で答えた。

「全く!!」と、遠藤はそう言い放ってからあきれた表情で自分の持ち場へ行った。

 

 12時過ぎになり昼食をとるために区分係と企画デスクの小笠原、矢野が食堂へ向かうのと同時に、宮森は企画に残り電話番をした。葛城課長は、集荷の到着対応にあたる。個数を確認後、供給の待機位置にアルミパレットなどに詰め込み置いていく。

 

 

 13時になり区分係が輸送ゆうパック課へ戻ってくる。そして午後の全国差し立てが始まる。まずはいつも通り午前締切で武蔵野中央に到着するものを中心に供給する。しかしそれ以外にも、手がすけば全国宛の百貨店ギフトも供給する。区分作業は順調であったばかりか、塩沢と久乃木が来てから楽にはなった。三毛猫は13時台については手区分を中心にやっていた。秋葉原の電気店や国際スピード郵便もそれなりに来るばかりか、遅延したトラック便もあった。ロールBoxに積み込まれた九州農産品鉄道臨時便を山田と矢野が入力後に床へ直置きし、高梨、三毛猫、久乃木が伝票で行先を確認し指定のロールパレットへ積み込む。その時、山田が三毛猫に

「よっしゃ!勝負や!このスイカを指定のパレットに競争して入れるぞ!」と、言い出す。

「確認オオライ!この勝負うけまっせ!」と、三毛猫は勝負を受けた。矢野がスタート合図を出すと、二人はLLサイズの重いスイカの箱を持って、指定のロールパレットへ向かうが、この勝負に勝ったのは山田だった。

「うわああああ。負けた!」と、三毛猫は言った。すると

「あ!じゃあ負けたので、なんか企画しようかなあ?」と、矢野が言い出した。

「マジかよ!」と、三毛猫は言った。

 

 午後からは少し波乱の予感がしていた。それはやはり塩沢が原因であった。



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第9話 恋と風船とロールパレット

 新京阪物流のトラックドライバーで、法人向け大口集荷係の茶沢信輔は、塩沢あいりのことが好きであった。そして彼が集荷に向かう前に、出発ホームにトラックを停めロールパレットを積める状態にしてから、出発ホームに地域宛ロールパレットを置きに来た塩沢へ彼は声をかけた。

「君!塩沢さんと言うのだね!」と、茶沢が言うと

「そうです。まあ短期のゆうメイトですが。」と、塩沢が言うと茶沢はいきなり

「あの~ちょっと話をしよう?」と言って、塩沢をトラックの荷台へ招き入れ、茶沢はいきなり壁ドンをした。

「ちょっと」と、塩沢が言うと

「俺と付き合わない?」と、茶沢が言うと

「うん!いいよ!遊びに連れてってよ!」と、塩沢が言いだした。

「じゃあ後で、俺が帰局したらまた話そうね!」と、茶沢は言って出て行った。

 

 一部始終は、実は葛城課長によって監視カメラにより見られていた。

「あの~茶沢さん!ちょっと輸送ゆうパック課の課長席に来て?」と、葛城課長は放送で呼び掛けた。

そして茶沢は、葛城課長のデスクへ呼び出し、事情を尋ねた。

「君は新京阪物流の茶沢君だねえ。ちょっと聞きたいことがあるから呼び出したのだけど?」と、葛城課長は尋ねると

「な~どもども~いや~課長!何ですか?」と、茶沢はチャらく言った。

「さっき塩沢さんに、君はちょっかいを出していたねえ。あまりほかの社員に関係のないことを出さないでほしいのだけどいいかねえ?」と、葛城課長は言い始めると

「いや~変な話、つい好みの女の子なので、声をかけなくてはいられないので。って言うか、塩沢さんは私の好みなので。」と、茶沢が言ったとき、

「ここは婚活パーティー会場ではないので、このようなマネはやめてほしいのですがいいですか?」と、葛城課長は言い出す。しかし茶沢は、

「あ!そろそろ餌の時間なので食堂へ行ってとってから、変な話この後も百貨店の集荷が入っているので、忙しいです。」と、彼は言って足早に立ち去った。葛城課長はあきれ返った。

 

 木下が遅番で出社してきた。

「今日は夜勤だね。がんばってね!」と、葛城課長はお願いする。

「OKです。」と、木下は言って持ち場へ行った。理由はこの日より差し出す荷物は増加傾向だった。百貨店から大量のお中元を載せたトラックが毎日数台到着する。

 

 午後の一般物の区分が落ち着いたら、一旦全国のロールパレットを移動させ、新たに管内用のものを準備する。塩沢は遠藤よりロールパレット配置について指導を受けるが、物覚えが悪く一度では理解できなかった。

「塩沢さん、そこは間違えていますよ。埼玉は川越中央と埼玉中央の二つに分けてください。」と、遠藤は言った。

ロールパレットの設置が終わるとそして管内百貨店ギフトを供給する。木下、山田、本田が供給に当たり、円、三毛猫、安原、藤堂、塩沢、井口はレーンに入った。手区分は中継レイアウトで、国際航空便の到着を待っていた。よって手区分エリアは地域宛3号便トラックの出発を待っている状況であったので、中央通路には全国宛の手区分ゆうパックが入ったロールパレットであふれ返っていた。それを見た杉江と小笠原は、入力未済のフラッグを立て荷物の少ないものをまとめて赤鉄に積載して片づけていた。

 3号便は15時半定時で武蔵野中央を出発した。しかしまだ管内ばかりを差し立てをしている状況であった。一般物は遅れ気味である。供給口へ渡辺がやってきた。

「山田さん、もうそろそろ一般物に変えないと、差し立てに影響が出そうですよ。」と、彼が言うと

「そうだなあ。もうこんな時間だなあ。3号便も出発したし、そろそろ一般物を流すか?」と、山田は答えた。百貨店ギフトのロールパレットは、あと3台で残りはキャンセルとなっていた。

「久乃木と小笠原に残りの処理はあってもらおうかなあ?」と、本田は言った。

「これで、すべての百貨店ギフトは終了です。それでは、発送の準備に入ってください。ロールパレットは間の通路に放っておいて、全国を並べなおしてください。10分後に再供給します。」と、本田は放送で呼び掛ける。小笠原と久乃木は、キャンセル分の区分処理にあたった。小笠原が携帯端末で入力後、久乃木がロールパレットへ積載し、区検札のついたものは移し替え検査した。すると大量に誤送があった。

「あら、これ誰が区分したのかなあ?」と、小笠原は久乃木へ訪ねる。

「うっ!これっ!」と、久乃木は行き先札のサインを小笠原へ見せると、

「お!塩沢さんだね!後でちょっと指導してもらうね。」と、小笠原は言った。

 宮森はこの日は、16時より集荷にまわった。いつも通り事務所をまわり、ギフトの営業もした。

「もしよければ、お中元は郵便局でお願いします。あとかもメールも!」と、宮森は言ってパンフレットを置いて帰っていた。そして集荷した荷物を持って、次の集荷先へ向かった。

 

 

 法律事務所では、あの菅野彩がいた。

「へえ!あやちゃんは、お父さんの会社で事務員さんの仕事を学校終わってからやっているのだね!偉いね!」と、宮森は感心した様子で言っていた。

「ええ!早く仕事を覚えなくてはいけないので、私も何かと大変です。」と、彩は言った。そして集荷するゆうパックや郵便物を受け取ってから、普通郵便扱いの場合は切手で金額を1通ずつ確認してから、袋に入れて持ち帰った。

 

 16時になり、午前締切の第1便の新東京多摩上り雑が出発していく。そしてほかの午前締め切りは追い込みとなった。遠方の九州宛や北海道は、航空便や鉄道、フェリーなどの手段を使って差し立てられる。矢野と小笠原は、トラックやコンテナの手配に追われていた。区分係は、ものすごい勢いで出てくるゆうパックを正確に区分していた。いつも通り管内レーンの社員は、応援で管外レーンに入りゆうパックを区分していた。安原も苦手な北陸の区分をマスターし、正確に区分していた。三毛猫はレーンから手区分に移り、高梨とともに区分している。そして満杯になったロールパレットやロールBoxを出発ホームや完成貯留エリアに並べて、出発を待っている状況であった。16時半にすべての午前締切が入った。これでようやく夜の差し立てへ移る。そして塩沢は上がり時間になり、安原と宮森へ挨拶してから帰宅した。

 そこへ百貨店からの引き受けたゆうパックを載せたトラックが、武蔵野中央に到着した。そしてこのトラックの運転手は、まさかの茶沢であった。さらに帰り際の塩沢を見つけてすぐに声をかけた。

「やあ!塩沢さん!オレだよ!オレ!」と、茶沢が声をかけると

「あ!茶沢さん!」と、塩沢は言って彼に駆け寄った。そして茶沢は用事が終わると、塩沢とともに食堂へ向かった。食堂に着くと、茶沢が塩沢の分の飲み物を買って、二人で飲みながら話をした。

「ねえ塩沢さん?どこか行きたい所とかない?」と、茶沢が尋ねると

「そうねえ?美容院に行ってきれいにしたいなあ?今お金がないから行けないからなあ。今日、井口さんに髪の毛のことを言われたから、きれいにしたいなあ。でも親がお小遣いくれないし。」と、塩沢が答えた。

「じゃあ、僕が連れてってあげるよ。明日の勤務終わりに、僕が連れてってあげるよ。」と、茶沢が言いだした。すると

「うれしいなあ。」と、塩沢が喜んだ。そして約束をした塩沢は、この後帰宅した。茶沢はここで休憩を取ったのち、トラックを車庫へ返却に行った。

配達係の木佐光秀や京橋晴海も、配達に追われていた。毎日大量の郵便物やゆうパックを正確に配達してまわる。特に京橋は、朝の10時から夜21時まで毎日配達している。不在で持ち帰るゆうパックも時期が時期なので多い。それの対応に、配達担当の瀬川や堂本、新川の3人は追われていた。窓口係や電話対応のオペレーターからも到着したゆうパックの再配達の手配や窓口での手渡しなどに追われていた。

 

 

 17時になり、今井と坂木の二人と短期アルバイトの「末永みらい」、「夢乃きずな」、「星河かなた」、「白澤千歳」、「星雲永時(せいうんえいじ)」、「船越風香」が、やってきた。顔ぶれは前日と同じであったが、相変わらず問題が起きた。船越風香は少し体調が不良で、レーンに入れないそうであった。そのため、窓口の飾りつけをやる予定であった渡辺が出てきた。

「船越さん、気にしなくていいですよ。私と高梨さんがやりますので、窓口の飾りつけをやってください。それならできるでしょ。確かお父さんがイベント関係の仕事をしているので、お願いしますね。」と、渡辺がお願いする。すると

「わかりました。ありがとうございます。」と、船越風香は言って窓口の飾り付けに行った。

 区分はまず大量に到着する、ノーステップと八王子のリサイクルショップ、そして残りの百貨店ギフトを供給する。しかし星雲は、供給作業が下手であった。そして山田が

「星雲君、お酒流れているよ!だれか拾って!」と、言った。三毛猫はすぐさまお酒の箱を見つけて回収した。

「おっと!危ないよ!お酒はダメよ~!ダメダメ!」と、三毛猫は言った。

「注意します・・・」と、星雲は言って作業した。

まだロールパレットは、50台以上あった。そしてまだまだ区分するロールパレットの台数は増える傾向であった。三毛猫と山田、本田の3人は残業して、これらの区分にあたることになった。

 

 船越風香は持ち前の抜群のセンスで、窓口を飾り付けていた。ちょうど七夕の笹飾りを出す季節だったので、輸送ゆうパック課の場所から窓口へ笹飾りを運び出した。

「こんなゆうメイトさん初めてですねえ。」と、窓口係のものが感心していた。そして彼女が風船を飾り付けていた時にこう言った。

「あ!風船!私これ好きなの!」と、船越は言っていた。そして赤いゴム風船を抱きしめながら

「こうやって、風船さんを持つとすごく落ち着くの。」と、言ったときに

「へえ!かわいいもの好きなのですね!船越さんは!確かに風船きれいですね。」と、小休憩のために正面玄関に出てきた小笠原が言っていた。

「私は風船が好きです。きれいだから・・・」と、船越が言うと

「気にしなくてもいいですよ。」と、小笠原は言った。

 

 

 区分はまでピークを迎えていないものの、いつも以上に増えていた。第一供給では、戦力外が出た。理由はまた、星雲が供給禁止の酒を供給して、ついに外されたのであった。そして井口のいるレーンに入った。

「あら?星雲君は、供給じゃなかったのかなあ?」と、井口が訪ねると

「まあ訳があって、こっちへまわされた。」と、星雲は答えた。そして関西のレーンで区分作業をした。一方のベルトコンベアの終点では、渡辺がキャンセルを回収していた。ゆうパックの量が多いため、手区分を活用してキャンセル処理をすることになったためであった。しかしここでは、夢乃がキャンセルゆうパックを赤鉄ロールパレットに投げていた。それを見た渡辺は、すぐにキャンセルを回収する作業に移った。

「あの~夢乃さん、もっと丁寧に荷物を扱ってください。キャンセルを投げないでください。」と、渡辺が言うと

「あ!そうだったの!じゃあ注意します。」と、夢乃は答えてから持ち場を大阪宛の場所へ移動した。

午前第2回目の締め切りの新東京多摩上り雑が出発する頃になり、ロールBoxはトラックに積み込まれていったが、区分機は止まらず社員は総動員でゆうパック区分作業にあたっていた。ものすごい音を立てて、区分機のベルトコンベアは動いていた。ノーステップと八王子のリサイクルショップ、管内の百貨店ギフトを中心に供給する。短期学生アルバイトの方も、社員とともの区分にあたっていた。

18:45になりいったん機械を止めて、レーンで作業していたすべての社員が休憩を取った。

「安原さん、この後も荷物が多いから、これ飲んで頑張ってくださいね。」と言って、栄養ドリンクを矢野が届けた。

「あ!ありがとうございます!」と、安原は言った。

まだ供給物が多く残っていう状況で、さらに夜の百貨店ギフトを積んだトラックも到着した。そのトラックに国際郵便のロールパレットを積載する。しかし山田と三毛猫は、特殊郵便課の対応が遅いことに気が付いた。すぐに三毛猫は内線電話をすると、「エレベーターへの積み込みで、苦戦している。」との内容の回答だった。じきにエレベーターが1階に到着し、出発ホームに三毛猫は、国際郵便のロールパレットを並べるや否やトラックへドライバーとともに積載した。差し立ての時間は限られていたため、このような状況となった。

19時になり、再び区分機のベルトコンベアが稼働する。最初は一般物を供給し、余裕が出ると

しかし末永が問題を少し起こす。それは忙しいため、積載速度を上げるために雑多な積み込みをする。指定された向きの間違えや、下積み厳禁の荷物の上に重量物を積み込んでいた。それを見抜いたのは、なんと久乃木であった。すぐに安原に報告する。

「あっ!やすぅはら!あん!」と、久乃木が言うと

「ん?あ!久乃木ちゃんどうしたの?」と、安原が言うと

「これっ!まちがえぅ!」と、久乃木は末永が区分したロールパレットを指差して安原へ報告した。

「あ!これはいけないね!じゃあ指導をお願いしなきゃ!」と、言って安原は末永を指導するため、ベルトコンベアの終点へ行く。

「あの末永さん、もっと丁寧に区分してください。いくら忙しくても向きぐらい気を付けて取り扱ってください。矢印のあるゆうパックは、その向きが上になるようにしてください。」と、安原が声をかけた。

「あ!知らなかった!すみません!」と、末永は言った。すると

「失敗した荷物は、久乃木ちゃんがやってくれるので、そのまま区分してください。」と、安原は言い残して自分の持ち場の北陸レーンに戻った。

 

 その頃、久乃木と高梨は手区分で苦戦していた。久乃木は末永が失敗したロールパレット内を整理して、発送していた。すると誤送や間違えた向きに入った荷物が多く発見された。それを正しい向きにするとともに、終了後は発送するために一時貯留場所へロールパレットを持っていく。

すべての区分が終了したのは、アルバイトの学生が帰ってからの22時であった。宮森や小笠原、矢野、久乃木は帰宅し、安原と藤堂は早朝からの出社になった。三毛猫と木下は夜勤になり、差し立ての最終確認と発送、JPレールエクスプレスの臨時対応にあたっていた。その後、深夜に交代で仮眠をとりながら管内扱いの対応にあたった。

 

 

 翌日は、5時より続々と管内や午前配達のゆうパックを区分する。一部は新東京多摩で区分が済んでいるものは、経由扱いになった。メインは武蔵野中央到着となった。夜勤の木下は帰宅したが、三毛猫は2日連続勤務になり、間で仮眠をとりながら作業には当たる。

管内便や全国午前配達は4時から対応にあたるが、荷物の量は増加傾向にあり中京上り雑や東北便に追われていた。1号便が出るのは、朝の7時半。これに間に合うように作業する。

 

 塩沢は、この日は宮森と矢野とともに8時に出社となった。簡単な連絡を受けて、作業にあたる。手区分の高梨ですらベルトコンベアの作業にあたっていた。しかし塩沢は、茶沢のことばかり気にしていて、うっかりロールパレットの準備を忘れる。それに気づいた三毛猫は空のロールパレットを持ってきて、塩沢へアドバイスする。

「あ!塩沢さん!もうその小平市と国分寺市のロールパレットは満杯なので、発送してください。すぐに新しいパレットを取りに行って、行き先の紙を貼って続けてくださいね。最近塩沢さんは、上の空なので心配です。」と、彼が言った。

 三毛猫は手区分を中心に当たり、第一供給の円と10時に引継ぎし帰宅した。しかし人では慢性的に足りない状況であった。追加募集でやってきたのは、秋からの契約社員で入社予定の「安藤つばき」がいた。それを見た高梨は、早速彼女に話をかける。

「ねえ!安藤さん!午前は中継扱いですよ。言っておくけど、ここでは体力と根気が勝負だよ!顔はどうこうじゃない!」と、高梨が言うと安藤の集中力が途切れる。案の定、ベルトコンベアは箱などであふれ、警報音が響き渡った。そして高梨は、

「気が散るからやめてください!」と、安藤に言われる始末であった。

 JPレールエクスプレス関係の荷物は、先に供給するものと後回しのものに分ける。昼から配達のものは、2号便で差し立てる。

 そういっている間にも、トラックが続々到着する。供給の山田と円は、手際よく荷物をベルトコンベアへ流す。それを安原、安藤、井口、塩沢、高梨、渡辺の6人が各レーンに入り区分する。

新東京多摩下り雑はなくなったものの直行や武蔵野中央経由扱いのものは、ここで一旦積み替える必要がある。しかしその量は、赤鉄ロールパレット換算で150台ほど。夏休み前の7月第一週、まだ次週に控えるので、荷物はまだまだであった。

 供給は区分検査なしにすれば、2号便の差し立て時間には間に合った。葛城課長は放送で手区分へ入るようにレーンの作業者へ促す。手区分のエリアでは、杉江と新川、矢野がいた。薄物のフラットソーターのオペレーターは矢野で、供給からまわってくるものを区分する。新川は完成した武蔵野中央宛のゆうパックを回収し、瀬川と堂本と共に道順差し立てにあたる。

 

 

 11:45ようやくすべての荷物が到着した。しかし郵便区分台には、杉江が区分した機械処理が不可能なプールチケットの薄物ゆうパックが放置してあった。それに新川が気付いた。

「あの~郵便区分台にゆうパックが放置されています。」と、彼女が言うと

「え~!あ!これはまずい!すぐにケースを用意して、ダッシュで出発ホームに持って行け!」と、山田が言う。そして安原や塩沢にもケースを渡され、出発ホームにある完成ロールパレットへ投げ込んだ。

 そしてレーンでは、全国宛のロールパレットやロールBoxを設置して、皆は昼食休憩を取った。

 昼からは修羅場であった。百貨店ギフトの前に、集荷で集まったゆうパックを供給するが、その台数はいつもより多かったのであった。山田と円が供給担当をしていた。一旦、集荷物の供給が終わった頃に久乃木が出社してきた。

「久乃木ちゃん!こんにちは!」と、安原が声をかけた。

「うっ!こんっ!」と、久乃木は答えた。そして14時からは管内ギフトゆうパックの区分を行った。全国から専用の緑のロールパレットを設置し、区分を行った。すると一部に赤鉄などの通常使用するロールパレットも設置する。そこには「区検」のフラッグを立てる。

久乃木は杉江とともに手区分で、中継処理とEMSを区分していた。

「久乃木さんは、いつも丁寧に区分するね。」と、杉江は声をかけるが、久乃木は何も言わず黙々と英語で書かれたEMSを区分していた。

 一方のレーンでは、塩沢が手際の悪い区分をやらかしていた。

「あの~塩沢さん!もう少し手際よく、川越、新埼玉、宇都宮に分けてください。」と、安原が声をかけた。

「あ!レーン変わったのだね!」と、塩沢は言って作業するがよそ見が多く、すぐに荷物であふれかえる。

それを見かねて、新川が塩沢を指導する。

「塩沢さん。今管内を供給しているので、できるだけ住所と区分番号の両方を見て作業してください。あとギフトのビール、タオルセット、洗剤セットに分けてから、重量物は下段に、軽量物は上段に積載してください。」と、丁寧に指導した。そして新川が塩沢をしばらく見守り手伝いながら区分した。

 15時過ぎに、ようやく管内ギフトゆうパックの区分が終わった。その後、大急ぎで午前締切の全国宛の区分にあたる。同時に3号便の出発時刻を迎え、18Xの郵便局へ向けトラックが出発した。

「みんな~!ペースアップでお願いしま~す。」と、様子を見に来た丸川局長が放送で呼び掛ける。それに応えるべく、供給や区分のものは働いた。何とか皆は、17時に午前締切を終わらせるべく、区分作業にあたった。手区分では、矢野と久乃木が酒やカバン、玄米の米袋を区分している。20kg以上のものは、通りがかりの社員が指定のレーン前にロールパレットでもって行き、レーンのものに伝える。そして伝票に記載されている都道府県と仕訳番号を確認し、各方面へ向かうロールパレットへ積載する。

 

 

 塩沢は夕方17時に仕事が終わった。学生アルバイトへ引き継ぎを終わらせ、通用口を出てしばらく歩いたコンビニに、茶沢の運転するトラックが止まっていた。

「あ!塩沢さん!乗って!乗って!」と、茶沢が招きトラックへ乗った。彼は自分のプライベートのために、禁止事項である「便乗」に手を染める。約束通り茶沢は塩沢を美容院へトラックで連れて行く。そして移動中に塩沢と話をした。

「ねえ~茶沢さん!夏だから海水浴に行き行きたいなあ?今度連れてって!?」と、塩沢が尋ねると

「う~ん、今は繁忙期で忙しいから今は無理だよ!でも閑散期に入れば連れて行くよ。」と、茶沢は答えた。

「三浦海岸とか行きたい・・・」と、塩沢が言うと

「じゃあ8月最初の休みにでも行こう?」と、茶沢は答えた。

「やった!水着デート!」と、塩沢は喜んで騒いでいた。

「それまでにも、プールにでも泳ぎにいかない?」とも、茶沢が言うと

「いいね!夏は泳ぐのに限る!」と、塩沢は喜んだ。

 

 その頃、郵便局では短期のアルバイトの顔ぶれがあった。末永みらいは相変わらず手際が悪い。手区分で区分されたワインを抱きかかえるようにして、指定のロールパレットへ積み込もうとした。そこへ新川が

「末永さん、その区分はよくないです。万が一、手が滑って、ワインを落としてしまいせっかく丁寧に手区分で分けていても、努力が無駄になってしまいますよ。そこにあるケースに入れてから、できるだけまとめて持っていくようにしてください。」と、彼女は指導した。するとその通りに作業をするようになり、末永の手際がよくなった。コンベアの終点の関西、キャンセルでは、夢乃と星雲、遠藤が作業に当たり、北陸レーンでは安原と星河かなたが作業していた。

「あの~金沢宛と富山は量が多いので注意してください。あと誤送にも・・・」と、安原が星河に言っていた。星河はうなずいて黙々と作業していた。

午前締切がトラックに積載され武蔵野中央を発つ頃、区分はピークを迎えていた。機械は7時までノンストップであった。いつも通り、ノーステップやリサイクルショップの商品に加え、午後発送の百貨店のギフトゆうパックまで加わった。手際よく供給するのとともに、今どのレーンが忙しいのかをモニターで確認して、放送で行くように呼びかけた。

 白澤は下柳とともに東北を担当し、夢乃は坂木とともに中京・西日本の作業にあたる。18:45まで機械はノンストップであるため、供給の木下、山田は手を止めずに作業する。高梨は手区分で機械区分できない、カバンやお酒を区分している。チルド室では小笠原がいつものAラインコート着用で、丁寧に食品の入ったゆうパックを区分し、指定の棚に区分している。そしてチルド専用の冷蔵ロールパレットへ積載し、行き先のカードを入れる。少しの休憩をはさんだ後、19時から2時間ノンストップで区分する。ギフトゆうパックが後半は中心となり、マンネリ化し始めていた。それは問題の引き金となった。案の定、星河が誤送未遂をやらかした。それに気づいたのは、なんと坂木であった。

「ちょっとこれ間違っているよ!郵便番号と行き先が一致しない!」と、坂木が気づき注意した。

「すみません。見落としです。」と、星河が言った。

「注意してくださいね。繁忙期はこの手の輸送事故が多いので、しっかりしてね!」と、坂木は笑顔で言った。星河は「はい!」と答えて、張り切って仕事をした。

 

 

 宮森は集荷に向かい、すきっぷ通りの店舗から地方発送の商品を回収して持ち帰った。やっぱりお中元シーズンなだけに、ギフトが多かった。後部座席の部分まで荷物でいっぱいになり、そのまま帰局し本田にゆうパックを渡し、差し立てを行った。

 キャンセルを打鍵入力し、すべて入ったのは学生アルバイトが帰ってからの21時半で、そこから全国へ発送する。かなりギリギリの状況であったが、差し立て時間に間に合った。出発ホームからトラックへ載せられ、各地へ向け発送されていった。

 

いよいよ山場の第二週、繁忙期差し立てに突入する。かなり危うい予感の中、最も郵便局が忙しくなる一週間が始まる。



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第10話 夢と現実そして総力戦

 いよいよ繁忙期もピーク!2週目に突入した武蔵野中央郵便局では、朝から大忙しであった。午前配達のゆうパックも大量に到着するようになった。31フィートウイングコンテナが毎日5台、12フィートコンテナも数個、武蔵野中央に朝到着する。東北、関西、九州からも大量のギフトゆうパックも到着する。早朝の5時に第一便が到着し、6時半に関西からの鉄道便が到着する。

 

 この日は三毛猫と本田が早朝より作業があるため出社した。毎日大量に到着するコンテナ、トラックを裁くためには、早朝から頑張る必要があった。午前配達は1号便結束で優先的に処理される。7時半に間に合うように区分機を動かし区分を行った。人手が足りない郵便局では、普通郵便課の社員も駆り出されている状況であった。6時になりようやく高梨と山田がやってきた。

「あ!高梨君!山田さん、すぐに区分に入って!」と、本田は言っていた。午前配達は約40パレットある。4人で手際よく作業して、1号便に間に合わせる。そして7時になり、安原と瀬川、下柳、井口、葛城課長がやってきた。

「安原さん!瀬川さん!ミーティングはいいですから、今から区分に入ってください。」と、三毛猫は言っていた。すぐに府中、小金井、調布、西東京のレーンに入っていた。人手が足りないため、区分機の警報が鳴りまくる。膨大な量のゆうパックと闘いながら、誤送なく正確に区分する。

「あ!安原さん!3レーン入って!」や「瀬川さん、エンド入って。」などと指示を出す。1号便で配達できる荷物は、時間内に区分完了し発送ができた。しかしこれからが勝負の11時の2号便と9時半の臨時便が待っている。

8時になりようやく塩沢と宮森、矢野、小笠原が出社してきた。塩沢以外はすぐにデスクに入り差し立ての管理を行い、小笠原は手区分に入った。手区分の米袋などの重量物も、小笠原は易々に積み替えていた。新東京多摩下り雑も9時になると到着する。その状況でさらに人手不足の状況となれば、業務はパンク寸前であった。

9時になると高梨と藤堂、杉江が遅れて出社し、この日の顔ぶれがそろいミーティングとなった。

「みなさん、おはよう!」と、丸川局長が挨拶をし、

「今日は繁忙期第2週目。もっとも忙しい週です。みなさん、事故・怪我・誤送の内容に頑張ってください。」と、激励した。そして葛城課長が

「今日は午後にノーステップ、百貨店の全国宛が100台、管内が120台到着予定です。もっとも厳しくなるので、みなさんがんばりましょう。またかもめーる営業も合わせてお願いします。」と、言った。

 ミーティング終了後、杉江は特殊郵便課で国際郵便の区分に、宮森と矢野は差し立て管理、高梨は手区分に入った。ベルトコンベアでは大量のゆうパックが流れていた。関西から鉄道で到着したものだけで、31フィートコンテナ換算で2個分。さらに全国からのトラック便や航空便もある。

 三毛猫は山田と葛城課長とともに第一供給に回り、ベルトコンベアにゆうパックを流す作業をする。また葛城課長は様子を見ながら、チルド室へ行って小笠原の作業の支援をする。藤堂と安原はペアを組み、膨大な量の百貨店のゆうパックを正確に積載していく。フラットソーターもフル稼働であった。

 

 

 しかしこの日は何か違う。それを察していたのは、三毛猫であった。予想は的中する。越後からJRコンテナが1つ武蔵野中央に到着した。しかもそのコンテナの様子が何か違う。内容は地ビールのギフトであった。機械による区分は不可能なものが赤鉄4台分到着した。到着するとロールパレットは、葛城課長によって所定位置へ移動し処理未済のフラッグをつける。これらは3号便なので慌てて区分する必要がない。到着後、宮森はこの荷物の事務手続きをすることになり、パソコンに向かっている。宮森は同時に、転送扱いのゆうパックの再差し立てを行っていた。一軒ずつ住所確認後、シールを伝票に貼り入力する。それらを管内、2号便の各手区分に分ける。

「転送扱いは機械ダメだなあ。あと住所変更があるオークション用も。」と、矢野がぼやいていた。

「確かにそうですね。手間がかかりますね。」と、宮森が返す。

この後の到着物は多かったが、機械区分が落ち着いたらすぐに手区分に社員が集められた。

「みんな!今から大量の手区分を処理するで!山田さん、矢野さん、入力お願いします。」と、三毛猫は言って彼も携帯端末を片手に入力した。そして機械区分できないゆうパックを皆が手作業で区分した。大量にあったものも20分ほどで処理が済んだ。

 最後の到着、九州航空便が定時の10:45に武蔵野に着いた。最後の到着処理が始まる。ロールパレット8台分であった。11:20分には、機械区分できるものはすべて入った。残りの手区分は3号便を除いて、まだ8台ほどあった。スイカや農産品がメインであるので、ここからが時間との勝負であった。トラックは11:45には出発する。それに間に合わせるため、皆は早歩きで区分する。しかし塩沢は手際が非常に割る虚空率の悪い区分をする。

「塩沢さん、しっかりしてください。ペースあげて!」と、瀬川に言われた。

「はい!すみません!上の空だったので。」と、塩沢は答えた。なんとか2号便は大量にあったが、差し立ての時間に、間に合った。順次膨大な量のロールパレットは9台のトラックに乗せられて、武蔵野中央を後にする。

 レーンは全国宛にロールパレットを設置するのと同時に、手区分ではあの3号便の地ビールの区分が待っている。それだけではなく他にも、臨時便が1本到着する。赤鉄にぎっしり収まっている段ボールを取り出し、正確に入力区分する。端末入力が済んだものは、床に直接置かれる。それらを区分係は回収し、住所に従って指定のロールパレットへ積み込む。地ビールの区分が一段落した時、もうすでに正午を過ぎていた。そして本田が

「臨時着いたよ。」と、言ってロールパレットを持ってきた。三毛猫は入れ替わるように到着ホームへロールパレットを取りに行き、手区分へそれを持って行く。内容は通信事務であった。

「ギフトだね!」と言って、三毛猫と山田は端末を手に入力し、床へ直置きで処理済物を並べる。この日の昼食休憩は交代でとり作業にあたる。前半は塩沢、安原、高梨、山田が抜けた。

 

 

 昼の13時、木下が出社して来た。よく見ると彼はかもめーるとカタログ営業を取ってきた。

「お!頑張りましたね!木下さん!」と本田が言う。すると

「まあこれでも頑張ったよ!本田君と興津さんのおかげで、カタログとかもめーる営業が取れたよ。」と、木下は答えた。

「これで木下さんも成長しましたね。・・・これで私も安心して辞められるよ。郵便局員にピリオドを打つ。」と、本田は言って食堂へ向かった。

 

一方の三毛猫は早朝からの業務があるので、12時から1時間半、昼食と昼寝休憩を取った。愛用のアニメキャラのひざ掛けを使い仮眠を食堂の和室でとった。

「相変わらず輸送のあいつは痛いなあ。」と、普通郵便課の人間が横で言っていた。しかし三毛猫は気にしなかったのであった。そこへ昼食のために、本田が来た。

「三毛猫君、そろそろ休憩終わるよ。」と、言いに来た。三毛猫は

「ほい!じゃあ行くか!」と、言って重い腰を上げて起きてきた。

 

 本田は郵便局をやめるつもりだった。理由は自分の夢に向かうためだった。それを知ったものは、驚きを隠せなかった。

「本当に辞めるんすか!本田さん!」と、高梨は驚いていた。

「まあ9月まで居るから。」と、本田は返す。すると矢野は

「別の物流会社へ転職するのですか?」と、質問すると

「本田君はね、ケーキ屋さんで働くんだって!ようやくやりたいことが見えてきたんだよ。」と、丸川局長が言った。

「本当に好きなことをして、行こうと思ったんだ。」と、本田は言った。

「そう言えば以前に差し入れで持ってきてくれましたね。」と、矢野が言った時に

「まあ確かに本田さんなら似合いそうですけど。どこのお店ですか?」と宮森は尋ねる。すると

「吉祥寺駅前のケーキ屋さんなんだ。差し入れもたまにしますよ。」と、本田は答える。

 

「そういえば三毛猫君は、何の夢があったのです?」と、宮森が質問する。

「う~ん、私は“電車の運転士”か“重機オペレーター”だった!」と、三毛猫は答えた。

「へえ、すごいですねえ。って、趣味は何ですか?」と、矢野が質問すると

「アニメと鉄道だね!」と、三毛猫は返した。

「さて繁忙期2週目!総力戦だ!人をまとめて、午後からの全国がんばるぞ!」と、本田は言った。

 

 13時からは通常通り、集荷されてきたゆうパックを供給する。しかし集荷物ですら多かった。ロールパレット換算で3台であった。その後、各郵便局から全国宛と管内のものが到着し始める。また百貨店からのギフトゆうパックも到着する。午前締切と全地域雑、管内の3種類に分けて、それらを高梨や出発ホーム管理の社員とともに一時貯留場所に移動させる。

 

 

 さらに国際郵便もあったので、杉江が降りてきた。

「そろそろEMSの時間だね!」と、と彼が言う。その通りであった。東京国際郵便局から13:20ちょうどにトラックが着いた。荷物のほとんどが府中宛だった。

「府中は東芝があるからね。」と、三毛猫は言ったとき

「よく知っているね。なぜかな?」と、杉江は言った。

「私は、鉄道が好きだから。府中には東芝の機関車工場がある。」と、三毛猫は答えた。

まだEMSはアルミパレット3台と少なかった。しかし家電のネット販売ゆうパックは多かった。ロールBox2台が満杯で到着した。

「うわぁ。これはすごいなあ。重量物は三毛猫君が頼むよ。」と、杉江はお願いした。

「確認オオライ」と、三毛猫は言って、電子レンジ、プリンターの区分作業を行い、軽量物や小物は杉江と矢野が行った。

 

 手区分が済んだら三毛猫と杉江は供給に行った。ベルトコンベア供給作業は、三毛猫、山田、木下の3人が作業に当たり、薄物フラットソーターは杉江が行った。残りの社員はレーンで作業した。しかし区分量が増えているので、管内・ノーステップを除くものを優先する。それでも赤鉄換算で50台あった。

「繁忙期は供給しても供給しても減りませんね。赤鉄が!」と、木下が言うと

「確かにそうですね。」と、三毛猫は答える。

レーンでは皆が走り回っていた。

「エンド関西キャンセルお願い!ペースアップ!ペースアップ!」と、葛城課長が放送する。

 

 しかしこの日は、集金があった。今までは振り込みでいた事業所が、小切手による支払いがしたいと言ってきたためであった。取引先の店舗を廻り小切手を回収し、輸送ゆうパック課の社員が集計後、ゆうちょ銀行の興津に渡し現金化する。配達集荷係の京橋から、この日は午前配達帰局時に受け取ることになっている。

 その時、宮森に1本の電話がある。内容は新しい取引先の自動車板金工場だった。静脈輸送の自動車部品の発送お願いであった。すぐに宮森は集荷へ向かう。

 集荷先に着いた。伊波政彦と言う野球ユニフォーム姿の社長が出てきた。

「あ!郵便局の方だね!すまないねえ!いつも佐川ばっかり使っていたけど、値上がりしているのと、サイズオンリーで発送できるからね。今回からゆうパックを使うよ。」と、言った。

「ありがとうございます。それでは伝票に送り先を書いてください。」と、宮森は言って伝票を差し出した。

受け取った荷物は、なんとかなりの重量があった。

「エンジンのパーツだよ。あと電子部品とかいろいろね。豊田市まで大切にお願いね。」と、伊波が言うと、

「はい!それでは、大切にお預かりします。」と、宮森が言った時に

「はあ~やはり猫好きのあの方が、がんになって商売休んだのは失敗だなあ。こっちも忙しい。まあしゃないかなあ?」と、伊波と愚痴をこぼした。

 

 昼ごろ一旦帰局した京橋から、法人一括の小切手を受け取る。矢野は代金に間違いがないか確認をしてから、ゆうちょ銀行の興津を電話で呼び出す。そして小切手を現金化してくるように指示した。

「お!これがその小切手ですね!じゃあ現金化しますので、2日後にお持ちしますね。」と、興津は言って預かり証を渡し持ち場である3階ゆうちょ事務所へ戻った。

 

 

 まだ全国午前は一段落すら迎えていなかった。理由は茶沢のトラックが大量に百貨店ギフトを積んできた。そして企画に搬入書を提出する。しかしここでも態度が悪かった。

「遅れちゃってすんませ~ン!新京阪物流の茶沢です。変な話、百貨店から武蔵野中央までの道が混んでいてねえ。でも遠いっすね!武蔵境は!」と、茶沢が言ったとき

「あの~もう少し定時運行確保はできますか?あと塩沢さんにちょっかいはやめてください。」と、葛城課長はお願いした。

「あ!百貨店2号便あるので、今からまたトラックで行かなきゃいけないんで!」と、茶沢は言って企画デスクを後にした。そして塩沢が来た時にやはり声をかけた。

「お~!塩沢さ~ん!こっち!こっち!」と、茶沢が言うと塩沢はヘルメットを脱いで、きれいになった髪を振りながら到着ホームにやってきた。

「茶沢さん!会いたかったよ!」と、言ったとき

「繁忙期が終わって落ち着いたら逗子か三浦まで泳ぎに行かない?車あるし!」と、茶沢が提案すると

「やった~!」と塩沢は喜んだ。そこへ三毛猫が来た。

「塩沢さん、いい加減持ち場に戻ってください。まだ大量に作業ありますよ。」と、彼が言うと塩沢は持ち場へ戻った。

 

 15時になっても、まだ大量に荷物が残っている。大阪方面のロールBoxもあっという間に満杯になる。安原は北陸も金沢や富山を誤送なく区分し、ロールパレットを一時貯留場所へ移動する。それを見た井口は

「やすはらっち!誤送ゼロになったね!よく頑張った!よろしくね!」と言って、自分の持ち場である関西キャンセルのエンドレーンへ向かう。遠藤も手区分を準備とロールパレットの移動作業をしている。

「遠藤さん!お疲れ様です!そろそろ打鍵したいので、キャンセルを供給まで持ってきてください。」と、宮森が言う。

「了解。じゃあ持っていくので準備してください。」と、遠藤は言った。

「お!そろそろキャンセルだね!じゃあ放送する!」と言って、木下はキャンセル準備をする。

「今からキャンセル供給をします。絶対に機械の警報音がしないように作業してください。まずは引くことを優先して、区分やパレット積み込みは後からでお願いします。」と、三毛猫は放送をした。打鍵は遠藤が、供給は木下が行った。三毛猫は3号便準備と全国手区分を高梨と一緒にやっていた。

「やっぱり手区分多いっすね!お酒とか」と、高梨が言うと

「確かにそうだなあ。」と、三毛猫は答えた。

「ここのところ景気が上向いているからねえ。大変だよ。こっちは早朝から勤務だし。」と、三毛猫は言った。

16時になり、今井と坂木が出社してきた

「お!お疲れっす!三毛猫くん!」と、今井が言うと

「ディーゼルさん!こんにちは!今日も荷物大量だから頑張ってね!」と、三毛猫は答えた。

人手がある程度揃ったところで、区分速度は向上した。第一供給には、山田、木下、三毛猫が入り、打鍵になると藤堂がやってくる。16:45、ようやく午前締切がすべて入った。

「やっとこれで発送が行えるなあ。」と、皆は安心した。レーンに残ったものと手区分を合わせて、午前発送のロールパレットを出発ホームに並べる。安原は一旦休憩に入った。

「お!えまちゃん!いまから休憩だね!」と、宮森が言うと

「ええ!少し休みます。」と、安原は言った。

 

 

 17時になり、末永達や船越風香の学生アルバイトが出社してきた。そして船越風香の知り合いである、風間翠という少女がやってきた。

「お!後半から来た風間翠さんだね!船越風香さんの御知り合いの!」と、葛城課長が言うと

「はい!お世話になります!風間翠です!」と、彼女は答えて頭を下げた。

「じゃあみんなから仕事の仕方を教えてもらってね!レーンでの作業がメインになるから。」と、葛城課長は言った。ミーティングが始まり、今日の注意事項が言われる。

「今日は百貨店ギフトゆうパックや八王子のリサイクルショップ、そしてノーステップも大量に来ます。皆さんの頑張りがこの繁忙期を乗り越えるために必要です。一致団結して乗り切りましょう。」と、丸川局長が言う。

作業開始早々、風間は大切なものを忘れていた。ヘルメットをせずに作業をしようとしていた。

「新入りの風間さん!ヘルメット忘れているで!」と、三毛猫は言った。すぐにヘルメットは、

「あ!すみません!今からします!」と、言って作業をした。郵便番号と住所を確認しながら、大量に供給されるゆうパックを正確に仕分けるのは至難の業だった。

北陸のレーンでは、安原と末永が作業していた。

「相変わらず多いねえ!午後締切」と、末永が言うと

「まあ午前に区分なしだったから。」と、安原は答えた。

管内レーンでは、坂木のところに風間は居た。慣れない彼女に一から指導していた。

「ここはまだまだ見慣れた地名が多いからね。」と、坂木は言って安心させていた。でも初心者には厳しかった。すぐにブザー音が鳴りだし、ベルトコンベア上は大量のギフトであふれる。

「管内レーン応援お願いします!」と、坂木が叫ぶとすぐに井口と今井が駆け付けた。

「ずかちゃん!カオスなことになっていますね!」と、今井は言って作業した。そして四人でベルトコンベア上の荷物を片付けた。

 

 塩沢はこの日は18時まで残業となった。理由は百貨店第2便とノーステップの到着があるからである。到着ホームには午後発送のゆうパックの入ったロールパレットが到着するのと同時に、ノーステップのロールパレットまで運ばれてくる。

「めっちゃ大変だなあ。」と、木下が言うと

「まあこれからが勝負ですよ。」と、三毛猫は言った。

そして大量のギフトをベルトコンベアへ供給する。また管内も、供給する。

「皆さん、今から管内流します。管外レーンの方は、中央の管内レーンに入ってください。あと機械を止めないように、ゆうメイトの方は社員の後に続いて荷物を受け取って、パレット積載していってください。」と、葛城課長は放送する。慣れない風間は、坂木とともに作業する。

「風間さん、比較的簡単な18X武蔵野をやって!場所が終点だからね!」と、井口は言う。

「うん!がんばるよ!」と、風間は答えた。そして順次、ビールや洗剤、缶詰などのギフトが流れてくる。

「みんな軽い奴は上段、重いビールなどは下段やで!守りや!」と、三毛猫は放送する。

 

18時になり、塩沢が戻ろうとしたときに、またトラック運転手の茶沢が声をかけた。

「ねえ!今度、8月の初めに海行かない?」と、茶沢が言うと

「うん!じゃあいつがいい?」と、塩沢が答えると

「じゃあ水曜でも!非番だから。」と、茶沢が言った。

 

 

 レーンは大忙しであった。全国の残りとノーステップ、八王子のリサイクルショップが到着したためであった。さらに打鍵も必要なものも多々あった。

「そろそろノーステップを供給します。打鍵と重量物なので気を付けて!」と、木下が放送し、藤堂と三毛猫、木下が供給する。山田はこの間、手区分に入り作業をする。すると船越が

「重量物来るなあ。缶詰2ダース入りが2箱。すごく重い。」と、言った時だった。そこになんとあの風間が居た。

「私も一緒だよ!頑張ろう!」と、言ってレーンに入った。そして重量物が来たときは、二人で積み込みをした。

 18:45の休憩時間まで機械は止まらない。ノーステップ、八王子のリサイクルショップの処理が終わると、百貨店、一般物、集荷物をベルトコンベアに流す。その間は、普通郵便と国際郵便の発送を行う。アルミパレットや国際交換局へ向かう灰鉄(ロールパレット)がエレベーターで下りてくる。それらが出発ホームに並べ終わるときは休憩後だった。そして19時からは最後の追込みに入る。

「みんな!一致団結して乗り切るで!」と、本田は放送して区分機の電源を入れる。手区分では、三毛猫と高梨が携帯端末片手に、フラットソーターでは安原が薄物を区分していた。供給から来たロールパレットは、手区分を受け、薄物はフラットソーターで区分する。

 

 企画デスクでは、宮森、矢野がトラックの管理に追われている。

「やっぱり大変だね。トラックに空きがないなあ。鉄道便も31フィートがフルだよ。」と、矢野が言っていた。

「そうですか?北海道向けが鉄道しか使えないのは厳しいですね。フェリーがあの状況ではね。」と、宮森は答えた。

 

 20時を向かえても、区分は終わる気配がなかった。まだまだ処理しなければいけない荷物が、ロールパレット50台分残っていたからだ。

「白澤さん、ペースあげて!」と、三毛猫は言った。すると中国四国レーンに居合わせた井口が

「積み込みは私がやるから、とりあえずレーンに荷物を区分して。」と、言った。

星雲は遠藤と手を組み、東北をやっていた。

「仙台相変わらず多いなあ。積み終わるかなあ?あ!星雲君、新しいロールパレット持ってきて!」と、遠藤が言うと「了解!」と返事をした。

 

 残りの区分は順調であった。最後にキャンセルを打鍵で入力し、手区分と薄物を合わせて発送する。杉江は薄物をフラットソーターで区分し、各レーンにプラケースを持ってくる。区分係はそれらを空いているロールパレットのスペースに積み込む。

 

 

21時、関西方面の発送の時刻が近づいて来た。出発ホームには31フィートコンテナを積載したトレーラーが来ていた。

「いよいよ大阪、北陸、九州鉄道締切りです。準備してください。」と、葛城課長が放送する。

しかしその時、星雲は間違った場所に指定されたロールパレットを持って行ってしまう。

「おい!君!間違っているぞ!出発ホームはあっちだ!」と、山田は言う。

「すみません!間違っていました。」と、星雲は言って正しい場所へ持って行った。

 

 21時半に、ゆうメイトの学生は帰宅した。その後も下柳などの一部社員は残り作業をする。

北海道鉄道、国内航空便、管内の順に発送していく。すべての発送は順調であった。

そして企画の宮森たちは23時に帰宅する。三毛猫と高梨は、この日は夜勤をした。

「お疲れさん!俺は夜勤頑張るぜ!」と、三毛猫は言うとき

「まっかせてください!事故なくこなします」と、高梨が言うと

「絶対積み間違えるなよ。」と、矢野は念を押し帰宅した。夜勤の二人は、残りの発送作業をした。

三毛猫と高梨は、朝7時に引継ぎ後、帰宅した。

 

 翌日は朝から大忙しであった。また全国から膨大な量のゆうパックの到着があった。JPレールエクスプレスも7時半に武蔵野中央に到着する。供給には朝から木下、円、山田の顔ぶれがあった。

「どんなつが来ようと、太郎や塩沢よりはマシでしょう。」と、円が言うと

「ああ~!そう言う考え方あったなあ。ポジティブシンキングだね!」と、山田が答える。

「しかし今募集って、春入社で非正規を入れるんじゃないと思っていた。」と、円が言いながら荷物を供給する。

「新しい法人営業が決まれば、人手不足に拍車がまたかかる。だからじゃやない?」と、木下が言う。

「三毛猫君も来たのにね。」と、円が言ったら

「まあ本田が抜けるからじゃない?」と、山田は答える。

 

そしてこの日は、秋入社の非正規社員の面接があった。局長メインであったが、葛城課長と宮森も抜擢された。

「なぜ私が面接するのですか?人を評価できる自信が…」と、宮森が言うと、

「君はね、輸送ゆうパック課の葛城君と矢野君が、宮森君を推薦したのだよ。社員面接だったけど。」と、丸川局長は言った。

「これから、この課で働く長期のゆうメイトさんを探すから、ぜひ宮森君も参加してほしいなあ。」と、丸川局長がお願いする。

「別に人をどうこうするかじゃない!一緒にいい仕事ができて、コンプライアンスや法律を破るような社員がいないかを見るんだ!郵便の使命を支える方を探す!」と、本田は言った。すると三毛猫が

「そう言えば、私の友人に親宛の手紙を捨てるとか言っていた奴いたなあ。」と、思い出すように言った。

「それはね、明らかに犯罪だよ。郵便法違反だ。そんな人は、郵便の仕事をする資格はない!」と、丸川局長が答えた。そして面接が行われる会議室へ宮森、葛城課長、丸川局長は向かった。

 

 区分のこの日も、特に変わりはなかった。ただ残業が多かったのは言うまでもない。そんな日々の繰り返し中でも、激務の第2週は皆の努力で乗り切ることができた。そして戦いは3週目に突入する。



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第11話 繁忙期ラスト!

 繁忙期は3週目。少しは落ち着くと思われた。しかしまだ到着および発送の荷物は多かった。

 

 さて午前の到着は緩やかであった。JPレールエクスプレスも、新東京多摩下り雑も、さほどでもない台数であった。

「皆さん、今日が繁忙期ピーク最終です。チームワークで乗り切りましょう!」と、葛城課長はミーティングで言う。

「へえ今日から荷物減るのか。今年は特に暑いし。」と、山田が言う。

この日の午前メンバーは、山田、円が供給、高梨はエンドレーン、安原、井口、三毛猫、塩沢、遠藤が各レーンを担当していた。瀬川と堂本、新川は午前結束の配達道順を組み立てていた。企画は宮森と小笠原が処理していた。

「もう到着量は緩やかになっていますね。繁忙期も終わりが近いですね。」と、小笠原が言うと

「そうですね。まだ入社2年目なので何とも言えませんが。」と、宮森は答えてパソコンでの作業にあたる。

 区分は順調だった。繁忙期の終わりが近いので、区分検査時間がないだけの状況であった。塩沢は、まあまあ仕事ができる状況だったが、三毛猫の足元にも及ばない状況だった。

「塩沢さん、もうレーン溢れていますよ。まず引くこと!引くこと!」と、三毛猫に言われる始末であった。

到着は9時以降忙しくなる。新東京多摩下り雑が到着するからだ。10tトラック換算3台の荷物が到着する。しかしこれでも1号便は、新東京多摩で差し立て武蔵野中央ではロールパレットの積み替えだけ、2号便は武蔵野中央で区分し差し立てを行っているので、パンクしていない。

「試験的の制度は本当に区分係の負担を減らせますね。」と、葛城課長は思っていた。

 東京航空まで時間があるので、この日は区分検査をする。

「あ!ここに三鷹が入っている。」と、安原は気付く。

「わりぃ!俺だよ!俺!」と、高梨が出てきた。

「太郎!もっとしっかり区分して。」と、矢野が注意すると、

「やっぱりレーンムズイッスネ!」と、高梨は答える。矢野はあきれ返った表情で、レーンを後にした。

塩沢の区分でも検査で引っかかった。

「あれ?これって、西東京市。」と、安原が気付く。すかさず彼女は、塩沢へ声をかけた。

「塩沢さん、この荷物間違っています。上の空だったじゃないですか?」と、安原が言うと

「まあそうだね!好きな人いるし!」と、塩沢は答えた。

「それはいいですが、もっときっちり住所を見て区分してください。このままでは困ります。誤送になります。」と、安原は注意した。

 

 

 2号便は11時半には終了した。11時前に到着する九州などからの航空便はさほどではなかったものの、スイカなどの機械区分ができない農産品が多かった。

「手区分は相変わらずですね。」と、山田が言うと

「みんな機械に入っているからね。もうじき供給終了で、手区分に入ってくれそう。」と、遠藤は答えた。その後、遠藤が放送を行い、レーンにいた社員が続々と手区分エリアに集まる。入力後のロールパレットを渡し、住所を頼りに指定のロールパレットへ積み替える。30kgの米や20kgの上白糖もあった。女性2人がかりで区分していた。

「うわぁ!重いなあ。なんでこんなにたくさん来るの!」と、安原が愚痴をこぼす。すると

「まあ決算近いから、在庫処分セールとかあったんじゃないの?」と、井口は答えた。

 

 一方の特殊郵便課では、杉江は国際郵便の到着物の区分をしていた。

「もうそろそろアメリカへ留学する学生さんの郵便物が増えるね。」と、居合わせた社員に話しかけた。

「まあもうじきそんな時期ですよ。」と、この社員は返事を返し、普通郵便の区分機を操作しに行った。

 

 昼前に葛城課長は、新販路拡大によりゆうパック発送を獲得する。9時にデスクを離れ、取引先へ向かい営業してきた。帰局後に丸川局長が輸送ゆうパック課にいた。

「へえさすが葛城君!やりますね!」と、彼が言うと

「まあ私もゆうパックの新しい取引先を探さねば。」と、葛城課長は答えた。

それと入れ替わるように、宮森は集荷先の店舗、事務所へ向かう。

「今日もまだ繁忙期だもんね。気を付けて集荷してきて。」と、矢野は言う。

 

 出発ホームでロールパレットの整理をしていた渡辺に、葛城課長は絡んだ。

「あ!なべちゃん!なべちゃん!この後、暇?」と、言うと

「忙しい訳ないじゃないですか!!おんなじルーティンの繰り返しだし!!仕事終われば暇っすよ!」と、渡辺は答える。

「じゃあ、パーラー行かない?尾ノ上さんも来るし!」と、葛城課長が言うと

「うわ!尾ノ上さん強いからなあ。またボコボコにされるなあ。」と、渡辺が言う。

 

 

 13時からの全国は量が増加した。同時に木下が出社してきた。相変わらずから揚げを食べまくっていたので、昼食のにおいが服に染みついた様子だった。

「あ!木下君!今日も昼は、から揚げ!もう健康に気を使ってください。」と、円が言っていた。

荷物は百貨店のギフトの最終と、ノーステップとリサイクルショップの決算セールに伴い、大量のゆうパック到着があった。そのことについて、矢野に電話が入る。

「みんな!今日は5t車1台分、ノーステップから到着するよ。区分よろしく。」と、彼女は言った。

「それだけ来るのか!忙しくなるなあ。」と、葛城課長は返す。さらに

「八王子のリサイクルショップ、赤鉄換算で20台。これが14時到着。」との連絡も入る。

 

 手区分では秋葉原の電気店の通販と、EMSの区分が始まる。そして、杉江が特殊郵便課から降りてくる。

「そろそろ手区分の時間だね。」と、企画デスクの本田に言う。そして

「三毛猫君、手区分やって!」と、本田は呼出す。三毛猫はすぐに手区分で、杉江と高梨とともに区分作業をする。

「やはり電気店の本日3号便結束多いなあ。」と、杉江は言うと

「そうっすねえ。決算近いですし。」と、高梨は言う。

「まあ家電やパソコンも、家に居ながら帰る時代ですからねえ。」と、三毛猫は言いながら重量物の大型電子レンジを積み替えていた。

 

 茶沢のトラックは、局に向かっていた。13時半に局へ着くと、ロールパレットなどを荷台から降ろし、塩沢のもとへ向かう。

「あ!塩沢さん!今度遊びに行こう!海へ泳ぎに行こう!」と、言いに来た。

「うれしいなあ。いつ?」と、塩沢が尋ねると

「8月の最初の金曜。平日のほうが空いているからね。海!」と、茶沢が答える。

「非番の日!じゃあ行こうね!家まで迎えに来て!うちは厳しいからね。」と、言って持ち場に帰った。

 

 その様子を見た渡辺は、塩沢と茶沢を注意した。

「塩沢さん!茶沢さん!もうオフをここに持ち込まないで!」と、渡辺が言うと

「自分の勝手だから気にしないでくれ!」と、塩沢は答えた。

「自分中心では区分に支障が出る。大体塩沢さんはオフを持ち込みすぎる!

あと茶沢さん!外部の人がレーンに押し掛けるのは迷惑なのでもうやめてください!」と、渡辺は言っていた。しかし

「いや~変な話、塩沢さんのこと、めっちゃ好きなんだなあ。いや~両想いってとこなんで!ぎゃははああああ!!」と、茶沢はふざける始末であった。様子を見て、すぐに葛城課長が駆けつける。

「ちょっと新京阪物流の茶沢さん!ここの区分係の方を邪魔しないでくれませんか。」と、葛城課長が言うと、

「いや~いいんじゃないっすか!ここで恋愛したって!別に悪くないっすよ。塩沢さんのことが好きで、彼女も理解してくれているっすよ!ね!」と、茶沢が言うと、

「そうそう!私はリア充っす。」と、塩沢も言う。すると葛城課長は、

「もういい加減にしてください!新京阪物流の茶沢さん!これ以上邪魔をすると、ほかの社員から苦情が入ります。」と、言うと

「ちぇっ!じゃあ塩沢さん!後でまたメールするよ。」と言って、駆け足でトラックに戻った。そして、

「変な話、この後ノーステップへ行って、荷物回収して再度持ち込みます。」と、言って大慌てにトラックを発車させた。皆は茶沢の態度にあきれ返った。

「ちょっと茶沢さん!最後まで話しが終わっていませんよ!」と、葛城課長は到着ホームから叫んでいた。

 

 

 その後、塩沢は下柳とともに管内を区分していた。

「塩沢さんって、恋愛中ですか?」と、下柳が質問すると、

「今、好きな人がここにいます。」と、塩沢は答える。

「好きな人がいても、公私の区別はしたほうがいいよ。それが「社会人としての常識」だということ、君は忘れてないかなあ?」と、下柳は指導した。しかし塩沢は、理解できたかできていない表情をしただけだった。塩沢への風当たりは、少しずつ厳しくなっている感じが局内に張りつめていた。

 14時からは各郵便局から到着するゆうパックの区分が始まるが、量はやはり多かった。管内にいた塩沢は安原とともに、北陸レーンで作業していた。

「塩沢さん、もう少し積み方を工夫してください。このままでは、隙間だらけになってしまいます。」と、安原は言う。

「あら!そうなの!じゃあ積みなおす!」と、塩沢は答えるが、

「私がやりますので、レーンでの作業をしてください。そっちのほうが大変なので。」と、安原は言う。その通りに、塩沢は指示通りに荷物を区分した。

遠藤は九州のレーンにいた。山田らと交代で供給に入るためであった。

「よお!遠藤さん!供給な!」と、言って山田が来た。

「わかったすよ!供給!供給!」と、遠藤は言ってベルトコンベアへの供給に山田の代わりに入った。

 

 15時になっても区分は落ち着く様子はなかった。区分レーンでは、午前締切の全国あてを優先して、管内を後回しにしながら供給していた。

「管内の方は、関西、中部のレーンに入って。」と、木下が放送する。この時、井口と下柳が管内を区分していたが、所定のレーンへ移動した。

「三毛猫君!応援来たよ!」と、井口が言うと

「あ~井口さん、助かります。」と、三毛猫は返した。

「神戸から来たんだってね!私は日通のペリカン便の区分をやっていたよ。ところで国際郵便多かったでしょ?神戸は?」と、井口が言う。

「そうですね。国際都市だったから海外あて多かったですよ。航空便が大変でしたね。」と、三毛猫が言ったとき

「すごいねえ。英語で書かれた郵便を区分するのか。」と、井口は感心した。

「まあそうですね!英語もあれば、中国語もある。大変だよ。」と、三毛猫は答えた。

 

 

 その頃、葛城課長は疲れた様子パソコン作業をやっていた。そこへ丸川局長がやってきた。

「おやおや葛城君、お疲れだねえ。何か問題でも?」と、丸川局長が尋ねると

「まあゆうメイトの塩沢さんが、ここで恋愛しているんですよ。新京阪物流の方と。それでこっちは振り回されている。」と、葛城課長は答えた。すると丸川局長は意外なことを言う。

「そうか。まあ仕方がない。わしが介入するほどのことはないなあ。放っておけばいいよ。」と、彼は言った。

「いいんですか?このままで?策とかあるのですか?丸川局長?」と、葛城は言う。

「一度、三毛猫君を使って教育指導する手も残っているので、そうするといいよ。まあこれだけ大変なことが続くと、疲れるのも当然だね。さて今日は少し休んだらどうかね?18時で帰っていいよ。営業も疲れたと思うので。」と、丸川局長はアドバイスをする。

「短期のゆうメイトの学生さんは、船越さん以外来なくなる。船越さんは”よしみ”がある方だからね。塩沢さんは来月まで頑張ってもらう予定にはしている。彼女にはここで働くことで、何かを学んでほしいからね。」と、丸川局長が言う。

「”よしみ”ですか?」と、葛城課長が言うと

「まあ船越さんのお父さんは、イベント会社の社員だから知っているんだよ。たまに会うから。」と、丸川局長が答えた。

「そうだったんですか!で、なぜ船越さんはここでアルバイトですか?」と、葛城課長は驚いた。

「娘さんの社会勉強のために、今ここでアルバイトをしているそうだよ。」と、丸川局長は言う。

「そうなんですか。」と、葛城課長が相槌を打つと

「郵便局は信用があるのと働きやすいから、初アルバイトにはいいそうだよ。」と、丸川局長は言った。

 

 配達の京橋は、安全運転で配達を済ませて戻ってきた。新川は彼女に次の配達の荷物を渡す。

「あ!午後1号便お疲れ!全部配ったんだね!いつも差し戻しが少しあるのにね。」と、新川が言うと

「はい!夏休み始まったのもあったのかなあ?子供だけで留守番とかがあったので、差し戻しはありませんでした。あと励まされるし!」と、京橋は答えた。そして新川は、

「でもこの後2号便だね!楽しみに待っている人いるから、安全運転でお願いね!」と、言って荷物が入ったアルミパレットを渡した。京橋は

「はい!気を付けて行ってきます!」と言って、軽四配達車で配達へ向かった。

 

 

 16:20、この日の午前締切の区分が終了した。

「やっとだよ!」と、円は言った。

「いやいやこれからですよ。管内や午後のものが残っていますよ。」と、木下が答える。

「じゃあ小休憩はさんだら、次の戦いだね!」と、円は言いながら山田と3人で休憩室へ向かった。

 区分の済んだロールパレットなどは、高梨、塩沢によって出発ホームに並べられていた。そうしている間に17時になった。末永、夢乃、星河、白澤、星雲、船越風香、風間翠の7人が出社してきた。区分応援で堂本も配達室から出てきた。

「今日が繁忙期最終!泣いても笑っても今日が最終!皆さんの努力で、誤送、破損なく終わらせましょう!またノーステップのセールも始まったので、大量に来ますので頑張ってください。」と、葛城課長は言った。

 供給は大忙しであった。午後発送のゆうパックの到着が始まるまでの間、打鍵不要のノーステップと百貨店ギフト最終、集荷物の供給を山田、三毛猫、木下が供給を行っていた。

「夢乃さん、こっちも手伝ってください。関西方面!」と、遠藤が呼ぶ。

「はい!じゃあ行きます。」と、夢乃は言ってエンドレーンへ向かう。

「キャンセルは僕がやるから、君は関西の区分と積み込みをやって。」と、遠藤が指示をした。

一方安原が担当する北陸でも、荷物は増加していた。

「あの~白澤さん、そっちの金沢をお願いします。富山は私がやりますので。」と、指示を出すと

「OK!」と、白澤は返事返した。

塩沢と末永、船越、風間は管内レーンにいた。膨大な量のゆうパックに圧倒されている。そしてついにバザーが鳴り始めた。

「手区分の下柳君、管内応援お願いします。」と、木下が放送する。彼は管内のレーンに入り、機械から出てくる大量のゆうパックを正確に区分しつつ指示した。

「船越さんは埼玉、風間さんは千葉、塩沢さんは東京、末永さんは茨木と群馬の区分をお願いね。」と、下柳が言う。皆は「は~い!」と、言って持ち場へ向かった。

18時過ぎを迎えても、到着物は多かった。そして一般物が落ち着くと、ノーステップの供給へ移る。その時、いつもは入らない星雲の姿も供給にあった。

「星雲君、僕が打鍵するから供給お願いね。」と、木下がお願いをした。すると

「いいっすよ!」と、星雲は了承してベルトコンベア供給に入った。伝票の向きに気を付けながら、星雲は山田とともに供給に入った。缶詰やペットボトル飲料2ダース入りなどの重量物を、供給する。三毛猫は北陸レーンで、安原達を支援する。

「ノーステップは1つ20kg以上のヘビーロードだから、応援するよ。」と、彼は言って入ってきた。

「助かります。ありがとうございます。」と、安原は言った。

供給が始まり、木下がベルトコンベアに備え付けのパソコンで打鍵を行い、星雲と山田、円が供給を行った。

 

 

 18:45ぐらいにノーステップの供給が一通り終わり、機械を一旦止めて、レーンで作業する社員に整理とロールパレットへの積み込みする時間を与える。それと同時に、17時出社のゆうメイトの方が休憩に入る。社員は国際郵便の発送や到着物の整理を行う。

「あ~もうすぐこれが増えるなあ。留学の国際郵便の小包。」と、三毛猫が言うと、

「そうだね。君は神戸に居たから国際郵便に詳しいねえ。こっちは地域配達で、たまに応援で特殊へ行くけど。」と、新川は言った。

 

「次から一般物を供給します。」と、三毛猫は放送する。各郵便局から届いた一般ゆうパックの積まれた、赤鉄のものが供給される。さらに集荷されたゆうパックも個数と書類を確認後、供給に回される。

「やっぱり多いなあ。午後最終。」と、山田が言うと

「確かにそうですねえ。まだまだ到着しているし、さらにノーステップのセールまであったので、発送物が増える。」と、三毛猫は言う。

 

 夜19時の武蔵野中央、この日は遅くまで、企画の矢野は残業することになっていた。そのとき、彼女の携帯に電話が入った。その内容は、父親が倒れて救急搬送されたことだった。それを気にせずに、事務処理を黙々と小笠原と共に行った。

宮森は集荷へ向かい、夜の青梅街道をスズキアルトで走り事務所や店舗へ向かう。後部座席は集荷物で満載になり帰局する。

「お!宮森さん帰ったは!お疲れ!」と、三毛猫は言う。

「ただいま帰局しました。これ区分お願いします。」と、宮森が言うと

「確認オオライ!やるぜ!」と、三毛猫は答えた。

 

 区分は順調であった。堂本が応援で手区分に入った。

「手区分まわして~空パレ1」と、堂本は言って、空のロールパレットを各レーン前の置き場に突っ込んだ。

「これ供給完了、手区分お願いね。」と、三毛猫は赤鉄を渡す。レーンではプラケースに入った薄物をまとめて、杉江がフラットソーターに供給する。

「郵便区分もここまで進化したんだなあ。」と、杉江は言っていた。

「ここは薄物ゆうパック用の自動区分機が導入されています。神戸にはないから驚いているは。」と、三毛猫は言った。

 

 

 激務と残業続きだった葛城課長と渡辺は、仕事が早く終ることになった。二人は19時から尾ノ上との待ち合わせ場所のパチンコ店にいた。の東京支社長の尾ノ上将人と合流し、パチンコに興じていた。

「渡辺さんどうですか?」と、葛城課長が尋ねると

「もう全然この台でませんよ。」と、渡辺は答える。一方の尾ノ上は、まあまあ当っていた。

「尾ノ上さん、やりますね!フィーバー!」と、葛城課長が言うと、

「まあこの台は、出そうな気がしたよ。」と、尾ノ上は答えた。

「いいですねえ。こっちはもうすでに”諭吉ひとり”負けています。」と、渡辺は言っていた。

「こっちも全然です。同じく”諭吉ひとり”負けています。」と、葛城課長も言っていた。

そこへ一人の60代初老の女性がやってきた。

「おや?3人さん仲いいですね。」と、その女性は渡辺に話しかけた。

「こっちは全くですよ。今日は駄目だ。大負けです。」と、渡辺が言う。その女性は、渡辺の向かいの台でパチンコを打ち始めた。

「こっちは早くで旦那を亡くし、女一つで娘を育てた。長男が家を出て行ってから、娘と二人っきり。娘が会社を辞めてから、5年間無職だったよ。そして最近、久々にアルバイトの仕事を始めた。郵便局でバイトしていますよ。」と、その女性が言ったとき

「ほう!まあ私は、武蔵野中央郵便局の輸送ゆうパック課で課長をやっている葛城です。」と、台から目をそらし、葛城課長は言い始めた。

「あら娘の上司の方だね。こんなところで会えるなんて!まあ私は、塩沢というものです。」と、女性が言うと

「じゃあ塩沢あいり様のお母様と言ったところですか。」と、葛城課長は言い始める。

「その通り!あんな娘で大変だと思うよ。これからも娘をよろしく。と言うより郵便局員は、パチンコ好きなんだねえ。」と言って、女性はパチンコに興じていた。

 結局この日3人は、90分パチンコやったが、結果は尾ノ上のみ勝っていたが、残りのメンバーは全員パチンコで1万円以上の大負けした。

「いや~尾ノ上さんにはまいりましたねえ。¥15kの大負け。」と、葛城課長が言うと

「こっちもですよ。同じく負けましたよ。こっちは諭吉ひとり負けました。」と、渡辺も言った。

「また機会があればやりたいねえ。パチンコ。」と、尾ノ上

 

 一方の局では区分は順調であった。学生アルバイトの末永たちもレーンで区分を頑張っていた。

「みんな~!泣いても笑ってもあとちょっとだよ!最終区分!みんな頑張れ!」と、三毛猫は放送する。

「よっしゃ!新大阪1っちょあがり!」と、井口がロールBoxを押してやってきた。佐倉はそれを所定位置へ運ぶ。

「井口さんそれぐらいでいいです。定位置へは私がやりますよ。」と、佐倉は言ってロールBoxを運んだ。

 20時時点では、供給待ちのロールパレットは20パレットぐらいあった。さらにここへ、ノーステップと百貨店の物流センターを経由した、新京阪物流の茶沢のトラックが20時半に着いた。

「茶沢さん、こんばんは。運転お疲れ様です。あ!佐倉さん!高梨さん!トラックから荷卸しお願いします。」と、三毛猫は言って到着対応をする。

「OKです!じゃあ降ろして、供給にまわすよ。」と、佐倉は言って高梨と共に作業にあたる。

「いや~変な話、積むのに苦労しちゃった。あと塩沢さんはいる?」と、茶沢が言うと

「それはいいですから、荷卸しをやってください。こっちも忙しいのでお願いします。」と、三毛猫は言って茶沢を突き放した。茶沢はその後、何も言うことなく黙々とトラックの荷台から、ノーステップの商品が入ったロールパレットを降ろした。

 

 

 21時になり、ノーステップと百貨店の第2便の供給に移る。同時にキャンセルも供給する。

「皆さん今から、ノーステップとキャンセルを供給します。機械の警報音が鳴らないようにしてください。」と、木下が放送する。そして星雲、山田、円が供給し、下柳が打鍵作業を行った。

「打鍵をするときは、区分番号の向きに注意だよ!」と、山田が言う。

「そうですね!終業時間まで頑張ります!」と、星雲は言い供給作業を行った。

 そうこうしている間に、九州方面の発送時間を迎える。出発ホームには、10tトラックやコンテナとタックが来ていた。区分が済んだ荷物は、積み方を工夫しながら各行き先のトラックへ普通郵便のアルミパレットとともに発送される。

 

21時半になり本田は、短期の学生アルバイトの終業時間を迎えたので最寄りの停留場まで送り届けた。

「いや~残業頼んでしまってごめんね。残りはおじさんたちが頑張るから、気を付けて帰ってね。」と、本田が言うと

「いえいえ、楽しめましたよ。ありがとうございます。あとお疲れ様でした。」と、船越風香は言った。

 

 22時すぎ最後のキャンセルを供給し、この日の区分は終了する。

「皆さん、繁忙期最終の区分は完了です。皆さんお疲れ様でした。」と、三毛猫は放送する。

「やった~!終わった!夏の繁忙期!」と、社員は喜んだ。

 

そして23時すぎのことだった。ついに矢野は、注意散漫のあまりに到着ホームに置いてあった畳んだロールパレット3台を倒してしまう。そのまま彼女は、床に座り込んだままだった。すぐに残業の社員が駆けつける。

「あ!矢野さん!大丈夫か?けがはない?」と、木下が駆け寄る。その様子を心配して、丸川局長が来た。

「矢野君!お父さんのことかい?でも23時過ぎか。電車じゃ無理だなあ。宇都宮経由長野行のトラックがこのあと出発するから、局長許可で便乗していくといいよ。」と、アドバイスをする。

「でも何があったんですか?」と、本田が訪ねると

「矢野君のお父さんが入院したんだよ。君、すぐに帰宅しなさい。」と、丸川局長がいうと

「別に大丈夫です。」と、矢野は言った。しかし丸川局長は

「駄目だよ。すぐにトラックで行きなさい。もうすぐ出発だから。」と、言った。そして矢野は、23:20発の川越中央・宇都宮経由秋田行のトラックで退社した。

 そのような中でも、差し立ては順調であった。残りの荷物も、無事にすべて差し立てられた。

 翌日は管内到着から始まる。荷物の量は若干多いが、午前は区分検査できる状況であった。そして昼からは通期扱いとなり、午前締め切りの新東京多摩上り雑での差し立てが始まる。区分係は夕方からは坂木が加わって作業にあたった。ノーステップのサマーセールは二日目で、いつも通り木下の打鍵で区分を行った。

 

 百貨店の荷物がなくなり取り扱う荷物の量は少しずつ減っていくが、葛城課長がとってきた新販路により増えることが約束されていた。それでいい夏を迎えることになっただけでなく、秋からはまた新しい契約社員の方が来てくれることにもなった。輸送ゆうパック課の人手不足もひとまず解消へ向かう。

 

そして待ちに待った楽しい夏が始まる!



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第12話 武蔵野中央サマー

追伸:なおこの回を持って、Akatetsuはいったん終了とします。
予めご了承ください。



 繁忙期はようやく終わりを迎えた7月の最終週。週末は宮森達5人と三毛猫は非番となった。今日が終われば休みが久しぶりにもらえる。朝出社した宮森と安原は、始業前に話し込んでいた。

「あ!おいちゃん!明日遊びにいかない? ずかちゃんから連絡があった。」と、安原が声をかける。

「いいね!えま!」と、宮森が返す。

「みんなで、プールへ行こうと言っているよ。だから多摩のホテルへ5人で泳ぎに行こう!みーちゃんも非番だから行くそうだよ。」と、安原が言う。

「そうなの!じゃあ三毛猫君も誘おうか?」と、宮森は言った。

「いいね!三毛猫君も誘ってみよう!6人だと楽しそうだね!」と、安原は答える。

「あ!三毛猫君!明日プール行かない? ホテルだから空いているよ。今年の夏も暑いから行かない?」と、宮森が消印作業している三毛猫を見つけて話しかける。

「いいね!夏はこう来なくっちゃね!じゃあ明日の朝、どこで待ち合わせるの?」と、彼は答えた。すると

「京王吉祥寺駅」と、宮森は答える。

「じゃあしっかり楽しむよ!俺!カナヅチだから浮き輪とかいろいろ持っていくね!」と、三毛猫は言った。

 

 この日9時からのミーティングでは、ゆうちょ銀行の興津と丸川局長の姿も、輸送ゆうパック課にあった。

「皆さん、おはよう。」と、丸川局長が挨拶する。皆が返事をすると

「繁忙期も終わり落ち着いたと思うけど、今度郵便局のイベントがあります。それは”子供の社会勉強”がテーマになっています。小学生を対象とした内容で、局内をいろいろ見学します。輸送ゆうパック課の宮森君と井口君に案内してもらいたいね。」と、丸川局長が言う。すると

「え!私がですか?」と、宮森が答える。

「そうだよ。君が武蔵野中央郵便局の案内をしてあげてほしい。お願いできないかなあ?」と、丸川局長がお願いすると

「私もゆうちょの社員に、手が空いている者がいれば行ってもらえるように頼みます。」と、興津も言う。

「わかりました。じゃあ頑張ります!」と、宮森は返事をした。

「あと矢野君がお父さんの療養で、しばらく休職することになりました。しばらく企画は人手不足になりますが、小笠原君がいてくれるから問題ないですが。」と、葛城課長は言う。

「そうですか。」と、宮森が言うと

「まあ忙しくなると思うけど、企画の方は頑張ってください。あと営業もあと5千枚”かもめーる”が残っています。これを売り切ってほしいです。合わせてお願いします。そして今日も、14時半にノーステップが23台到着しますのでよろしく!」と、葛城課長は言う。

「わっかりましたよ!」と、高梨は言う。

「注意して作業してくださいね。以前に荷物が入力漏れで、大変なことになったよ。」と、葛城課長は言う。

「第一供給と四国・関西の区分は、私がやりますよ。」と、三毛猫は言と、

「じゃあ第二供給は私が。」と、杉江は言う。

 

 午前中の区分は到着で、台数も少なかった。九州発の荷物もロールパレット8台ほどであった。ほかの地域についても、到着台数は少なかった。

「やっと落ち着いたね。先週までの繁忙期が嘘みたい。」と、高梨は言いながら佐倉とともに、到着する郵便物の対応をする。2号便は定刻通りに出発し、全国宛の空のパレットを準備してから、区分係はお昼休憩に入った。企画デスクでは、宮森が小笠原と共に作業していた。

「人手が足りないと、差し立てスケジュールに影響が出ないか心配だなあ。」と、小笠原は言う。

「確かにそうですね。今度秋に繁忙期が控えているのに。九州北海道の農産品臨時便。あれの到着が10時半だから区分が忙しくなる。」と、宮森は答えた。

「まあもうじき人手不足は解消しそうだよ。5人契約社員で入ることになったからね。うち一人は、ほかの物流会社からの中途採用になる。」と、丸川局長が言う。

「それなら心強いですね。」と、宮森はいう。

「あと夏休みのイベント、どうしたいか宮森君も考えておいてほしいなあ。」と、丸川局長が言った。宮森は心配な顔で作業していた。

 

 昼13時からはいつも通り、全国を差し立てる。同時に木下と船越が出社してきた。

「お!風香ちゃん!今日も来たんだね。」と、木下が言うと

「ええ!シフト入っているので。」と、船越は答える。

「じゃあ今日もお願いね!区分!荷物多いから大変だけど。」と、木下はお願いをした。

 この日も、ノーステップのセール関係で荷物が多かった。

「打鍵なしとあり、手区分の3つに区分しておくよ。」と、三毛猫は言う。

「手間だけどお願いしようかなあ? できる?」と、木下は言う。

「大丈夫です。問題ないです!」と、三毛猫は答えた。

昼からは各郵便局から到着するものが多くなった。それらは木下が供給を行う。

 

 そうしている間にも、電気店の当日結束の商品が来る。

「あ~三毛猫君、安原さん、手区分やって!」と、円が言う。

「わっかりました!」と、三毛猫は答えて安原と共に作業をした。

「やはり商品多いですね。」と、安原は言う。

「確かにそうだね。セールしているから仕方がないよ。」と、三毛猫は答えた。

「電子レンジ多いなあ。これめちゃくちゃ重くて私には無理・・・」と、安原が言う。

「そうだね。30kgあるから大変だよ。でもきっと受取人の人は、届くのを心待ちにしていると思う。」と、三毛猫は答えた。しばらくすると、

「今東京国際着いたから、区分よろしく。」と、佐倉がアルミパレットを持ってやってきた。

「やはり少ないなあ。EMS!アジアのあの国の情勢が悪いからなあ。あと円安も影響して、輸入されるものが減ったなあ。」と、三毛猫は言う。

「三毛猫君は詳しいねえ。でもこれから発送が忙しくなるから、そっちの応援を頼むかも。」と、杉江がやってきた。

「お~留学生のシーズンですからね。向こうは秋入学が多いので、EMSやSALが忙しいですからね。」と、三毛猫は知っているように答えた。

「三毛猫君は、海外のことや国際郵便に本当に詳しいですね。」と、安原が言うと

「まあ僕も留学経験あるからね。小3のとき・・・」と、三毛猫は答えた。

「すごいね!三毛猫君は!そういえば君は、神戸在住だったからね。」と、杉江が言うと安原は感心した表情をした。

 

 新京阪物流のトラックが、ノーステップの商品を載せて局に14時半に到着するはずだった。しかし到着したのは、15時過ぎの到着であった。

「遅れてすんません。」と、茶沢が言ってトラックから降りてきた。

「あ!茶沢さん!到着時刻遅れ過ぎですよ。何があったのですか。」と、葛城課長は言う。

「変な話、ちょっと道草していて~!ビニコンに!ギャハハハハ!!!!」と、茶沢がふざけて笑いながら答えると

「いい加減に定時運行してください。これで遅延は3回目です。差し立てに影響が出るのでやめてほしいです。」と、葛城課長は言う。

「変な話、こっちがなんで指示されなきゃいけないのですかねえ? 」と、茶沢が答えると

「もうすでに遅延が数回発生している状況では、こちらも下請け先の変更等も検討せざるを得ません。またはあなたを外すべきかで、こちらも新京阪物流の方へ報告する必要があります。」と、葛城課長は言う。

「そうですか?では荷物おろしてから、空パレットを積んでノーステップへ行きます。」と、茶沢は言ってトラックへ戻った。葛城課長も茶沢の態度には、完全にあきれ返っていた。

 

でも実際、茶沢はやはり塩沢のことが好きで、自宅に寄っていたので遅延したのであった。

「塩沢さ~ん、好きだから来ちゃった!今度泳ぎに行こう!」と、言うと

「夏はこう来なくっちゃ!海水浴に限る!」と、塩沢は答えた。

「水着持っている?あと俺は車ないから、電車で行こう!」と、茶沢は言う。

「それじゃあ、自宅まで迎えに来てくれる?親が厳しいから困るから。」と、塩沢は言う。

「そうするよ。またメールするね!」と、茶沢は言ってトラックに戻った。

「やっぱ旧式のタコグラフは細工ができるなあ。」と、彼は言って運行記録を細工して塩沢の自宅へいった記録を隠すことにした。そのため本部も、一連の「中抜け」を把握できないこと彼は知っているから、茶沢はこのような”セコい”ことをするのであった。

 

 配達室では、新川、瀬川、堂本の3人と、配達員の京橋晴海が話し込んでいた。

「あ!木佐君知っている?実は先日、ロードレース中に自転車事故にあって、現在休職しちゃったんです。さらにこの後、病気復帰後は瀬戸内海の離島へ転勤だそうです。おかげで毎日残業ばっかりで、何もかも楽しめてないです。」と、京橋が言うと

「京橋さんは、何かと大変だねえ。配達は深刻な人手不足。こっちは2~3人体制で配達道順仕立てやっているよ。」と、新川が言う。

「配達の下請け出すとか、この間丸川局長が言っていたなあ。どこの会社かなあ。」と、瀬川が言うと

「助かりますねえ。こっちは負担になっているから、ゆうパックの一部でも助かります。さすがに再配電話が鳴ったらビビります。」と、京橋は答える。

「そうよね~!こっちも大変だよ。再配対応!」と、新川は言う。

「まあ体壊さないようにしてほしいね。京橋さんも」と、堂本は言う。

「何がともあれ、安全運転で配達行ってきます!」と、京橋は言って帽子をかぶり、軽四配達車で郵便の配達に出発した。

 

 三毛猫はこの後、電話で呼び出しがあったため特殊郵便課にいた。そこで杉江とともに、これから留学に行く学生のEMSやSALの区分をしていた。

「国際郵便は、大陸別に分けるんだよねえ。やはりアメリカ宛ては多いね。」と、杉江は言う。

「やはりそうですね。海外留学に向かう学生さんが多いですね。またEMSも多いなあ。」と、三毛猫は答えた。

「最近円安で日本からの輸出が好調だから、船荷証券とか荷為替手形の書類がたくさん出されているからね。あ~そこにあるロールパレットをお願いね。」と、杉江は三毛猫にお願いをする。

「確認オオライ!」と、三毛猫は答えてグレーのロールパレットを持ってくる。そこへ先ほど区分したSALを積載する。別のロールパレットへは、EMSを積み込んでいた。

「やっぱり荷物が多くて、書類は相変わらずな量ですね。下段に重量物メインで載せて、手紙は上段に積みましょうか?」と、三毛猫は言いながら作業していた。

「お願いするね。重いものは私には無理だから。区分はするけで、パレット積載は三毛猫君に頼むね。」と、杉江は言った。

「オオライ!」と、三毛猫は言ったあと、積み込みをした。

 

 午前締切の発送は百貨店がない分、穏やかであった。しかし区分検査はなしで、ノーステップの供給をする。打鍵は木下が行い、山田が供給する。

「時間で午前締切には注意してね。ノーステップは遅い時間だから積み間違いに注意して。」と、葛城課長は放送して注意を促した。一旦供給を終えて、午前最終の荷物が16時ちょうどに到着する。それらを供給し、最後に手区分でキャンセルを積み込む。

「相変わらずスーツケースの積み込みに苦戦するなあ。」と、木下は言う。

「下に荷物があればなおさらっす。」と、高梨は答える。

「あのさ~?下に米があるのに、入れちゃっているよ・・・」と、木下が言った途端

「ぎょえ~!!!」と、高梨は驚く。

「そのまま発送だと、確実に米の袋が破れる。工夫がいるなあ。そこの廃ダンボールを敷いて、その上にスーツケースを積むといい。」と、小笠原が通りすがりに言う。

「そうっすか!すごいっすね!小笠原さんは!」と、高梨は感心する。

「君ももう少し、積載について学ぶべきだね!」と、円が言った。

「は~い!そうします!」と、高梨は答えた。

 

 夕方からは今井が出社してくる。ミーティングを済ませた後、レーンに入り各郵便局から到着する荷物を区分する。同時に八王子のリサイクルショップや電気店の商品も到着次第供給する。

「今日も荷物多いっすね!私もがんばりまっす!」と、今井は言って、関西の区分を行っていた。手区分では、宮森が取ってきた板金工場の自動車部品が積載されていた。

「これすごい重いなあ。名古屋!オオライ!赤鉄の下段にいれとくよ!」と、山田が言いながら積み込んでいた。

「しかし手区分も多いなあ。帰省が近いからかなあ?カバンがとにかく多い・・・」と、山田が言う。

「これから忙しくなりますよ。」と、小笠原が転送のゆうパックを手にやってきた。

「お!ゴスロリ様!そうだね!」と、山田は返事をする。

「8月までは人手不足で何かと大変だよ。さらに11月からの繁忙期、どうなるか心配です。景気は上向きでギフトも増加しているのに、人も集まるのか気になるところです。」と、小笠原は言う。

「そうだね。今後どうなるか。」と、山田は答えるだけだった。

 

 18:45までは、供給は止まる気配がない。しかし今井に内線電話が入る。

「あ!ディーゼルさん!国際郵便の区分お願いしたいけどいいかなあ?すぐ来てくれる?」と、三毛猫は言うと

「いいっすよ!特殊課へ今からいきます!」と、今井は返事をして向かう。3階へ到着すると、杉江と三毛猫が作業していた。

「あ!ちょうどよかった。これから追い込みをするから、ディーゼルさんも手伝ってくれないかなあ?わからなければ、三毛猫君が教えるから安心して。」と、杉江は言う。

「久しぶりの国際郵便、頑張ります。」と、今井が言うと

「お願いするね。留学生が多いから荷物がやばい・・・」と、三毛猫は言った。

「確かにたくさん来ているっすね!」と、今井が言うと

「そうだね。私と三毛猫君だけでは、この量では無理だから。」と、杉江は言う。

「じゃあ大陸別に区分して、18時半には終わるようにしましょう。」と、三毛猫は指示を出した。

 

 輸送ゆうパック課では、皆が八王子のリサイクルショップやノーステップの区分を行うのと同時に、一般の午後差し立ての荷物を区分する。

「相変わらず多いなあ。重量物が立て続けでくると大変だなあ。」と、安原は言う。

「お~い!えまたそ~!だいぶ北陸できるようになったねえ。」と、井口が言うと

「そうですか。だいぶ慣れました。」と、安原が答えると

「手伝うって!心配しないで!赤鉄は、ロールBoxより取り扱いやすいから。これに入れてね。」と、井口は言って、新しいロールパレットを置いていくのと同時に、満杯になった新富山のものを貯留場所へ持っていく。

 

区分は順調に進み、18:45にゆうパック区分係は休憩を取る。同時に国際郵便は締め切りを迎える。

「あ!輸送ゆうパック課の三毛猫君だ!こんばんは!」と、新川が言う。

「お~!新川さん!何の用です?」と、三毛猫は言うと

「配達落ち着いたから、ロールパレット降ろすの手伝うよ。下の階の出発ホームまで!」と、新川は言う。

「お願いします。杉江さんは他の作業にあったので。」と、三毛猫は言い、新川と共にロールパレットのエレベーター積み込み作業をした。

 19時からは通常通り午後差し立てのゆうパックを供給し、空いた時間でノーステップの打鍵による供給をする。三毛猫は杉江と共に、レターパックの区分作業をしていた。風香、安原も正確に丁寧にベルトコンベアから出てきた荷物を、正確に積載していた。

 

 この日は、21時には全国へ発送するすべての荷物が到着した。最後にキャンセルを打鍵供給して終わった。

「いや~疲れたなあ。」と、三毛猫は言うと

「そうだね!でも明日楽しみだね!」と、宮森は答えた。

「ではお疲れ様です。」と、三毛猫は言って帰宅した。

 

 翌日の土曜日、坂木と藤堂は朝の京王吉祥寺駅で待っていた。

「お~い!ずかちゃん!みーちゃん!お待たせ~!」と、宮森が言う。

「待たせちゃったね!」と、安原も言う。

「じゃあ!行きますか!プール!」と、三毛猫は言ってICカードを出す。京王井の頭線に一行は乗り、多摩センターを目指す。

「久しぶりの遠出だね。三毛猫君は荷物多いですね。」と、安原が言うと

「そうだね。いろいろ準備していたらこうなったよ。」と、三毛猫は得意げに言う。

「三毛猫さんは、鉄道写真とかとるとか言っていたっすね。」と、今井が言う。

「そうだね!ディーゼルさん!最近忙しいから、撮影に行っていないよ。」と、三毛猫は答える。

「久しぶりのお出かけ、そしてパソコンなしの生活はなんか新鮮ですね。いつも供給でモニターとにらめっこしていたから。」と、藤堂は言う。

「打鍵は大変だからね。こういうのをするといい気分転換になると思う。」と、三毛猫は言った。

 

多摩センター駅に着くと、駅前のファミレスで昼食を一行はとった。

「外出は久しぶりだね。おいちゃん!」と、安原は言う。

「いつも郵便局と自宅の往復だもんね。」と、宮森は答えた。

「こっちも普段は、声優としてのトレーニングとゆうパックのバイトが忙しいです。」と、坂木は言う。

 

 一行はプール付きホテルに到着した。

「お~ここが例のホテルだね!」と、今井が言うと

「そうだよ!ここのプールプランで遊ぶ!」と、坂木は張り切って言う。

「じゃあ俺は浮き輪いろいろ持ってきたから、膨らますね!趣味がこれ集めることだったからな。」と、三毛猫が言うと、

「変わった趣味をおもちなんですね。」と、安原は言う。

「そうだね。変な趣味が多いと言われたことがある。」と、三毛猫は答えた。

「へえそうなんですか? 具体的には、どういうことっすか?」と、今井が尋ねると、

「まあ小学1~2年の時は、割れた風船を集めていたり、中二病のときは浮き輪などの空ビにはまっていた。それで集めていたなあ。」と、三毛猫は答えた。

「そうなんですか。」と、宮森は言ったとき、

「それでは、そんな扱いになってしまいうっすね!」と、今井も言った。

 

その後、ホテルにチェックインを済ませると、皆はそれぞれの部屋に入り水着に着替えて泳ぐ準備をした。

「三毛猫君!早く早く!」と、宮森が言うと

「待って!今準備している!いろいろあるから大変!」と、三毛猫は答えた。

「もう!先に行って待っているからね!」と、宮森は言ってプールへ行った。

皆がプールサイドにいるときに、三毛猫やってきた。

「三毛猫君!こっちこっち!」と、今井が言うと

「おまたせ~!いろいろあったから大変だったよ。」と、三毛猫は言って浮き輪などの遊び道具を持ってきた。

「いろいろ持っているっすね。浮き輪!」と、今井が言うと

「そうだよ。コレクションしているからなあ。」と、三毛猫は答えた。

「わあ~!とってもかわいい!これにする!」と、坂木はいろいろな人形のイラストがある浮き輪を手に取り言う。

「いいよ!使って!でも大切にしてね!」と、三毛猫は言う。

「三毛猫君は変わった趣味をお持ちですね。」と、宮森は言う。

「そうだねえ。中学から集めていたりする。実家が海近い場所に住んでいるからなあ。」と、三毛猫は言う。

「さて遊びますっか。」と、今井が言うと

「おう!」と、三毛猫は言う。

宮森たちは「ビキニ」であった。それを見た三毛猫は、

「君たちはまぶしいなあ。」と、言った。

 

「三毛猫シャン!パス~!」と、藤堂はビーチボールを打ってくる。

「本気やからなあ~!」と、三毛猫は返事をして思いっきり打ち返す。

「やはり輸送の人は、力強いなあ。ビーチボールでもこれだけ打ち返すって。」と、宮森は言った。

「お~次わたしっす!」と、今井がビーチボールを打つ。

「ナイス!ディーゼルさん!」と、三毛猫は言った。

6人は思い思いに、プールで楽しんだ。

 

プールで思いっきりはしゃいだ後、プールサイドで休んでいた。その時、三毛猫は坂木にあるお願いをする。

「ずかちゃん、お願いがあるんだけど!」と、彼が言うと坂木は、

「なに?」と、答えた。

「服を着たままプールへほっぴんジャンプ!してくれないかなあ? 持って来ているから・・・」と、三毛猫が言って服を渡した。

「いいっすよ!水着の上から着て、プールへほっぴんジャンプかなあ?」と、坂木は言って三毛猫からもらった白いワンピースを着る。

「めっちゃかわいいね。リゾートの雰囲気が出ているよ。」と、三毛猫は言った。その後坂木は、

「今から飛び込むよ!」と言って、プールへ服のまま飛び込んだ。三毛猫は防水カメラを準備して、

「さあ泳ぐとこ撮るで!」と、言って写真を撮った。

「あ~服を着ていると泳ぎにくいなあ。濡れると肌に服が貼り付くし、水を吸うと重いからなあ~。まあ浮いているのがいいかも。服と肌の間に空気があるからね。風船みたいになる。」と、坂木は言っていた。

「服を着たままって、かなり難しいからなあ。」と、三毛猫は言う。すると様子を見た安原は、

「お~ずかちゃんの泳ぎ方、犬掻きチックだね!」と、言う。

「そうかな?まあ服着ちゃっているから、泳ぎにくいからかな?」と、坂木は答える。

「いい経験になったね!いざという時の!」と、藤堂は言う。

「そうだね。演技で服を着たまま泳ぐシーンとかあったら、今日の経験は参考になるかも。」と、坂木は答えた。

「そうじゃないけど?まあいっか!」と、藤堂は答えた。

一通り写真を撮り終わり、坂木も疲れてきたのでプールから上がってから、濡れた衣服を絞り脱いでいた時に突然三毛猫は、

「もし気に入ったら、その服あげるよ。」と、坂木へ言う。

「いいの?お気に入りだったら申し訳がないよ。」と、坂木は答えた。

「婦人服だよ!あげるよ!この機会に!大切にしてな!また何かあれば、お気軽に相談してね。」と、三毛猫は坂木の肩をたたいて言った。

「うん!ありがとう!三毛猫君」と、坂木は照れながら言った。

 

 6人は夕食をホテル内のレストランで済ませた。

「これから閑散期に入るけど、なぜ新入社員が入るのでしょうかなあ?」と、藤堂は言う。

「そうですねえ。今度の繁忙期に備えるのと、慢性的な人手不足が続いているから、好条件でゆうメイトを募集したんじゃない?」と、三毛猫は答えた。

「まあノーステップも増加傾向だし、秋から新しい取引先開拓も控えているからねえ。」と、宮森も言う。

「そうなったら区分係の負担も大きくなりそうかも。」と、坂木は言う。

「そうだね。だからこのタイミングで、新メンバーを入れると考えられる。」と、三毛猫は答えた。

 

シャワーを浴びた後、部屋でくつろいでいた宮森のスマホに電話が入った。

「あ!おねえちゃん!今日は楽しかったよ。みんなでプールに行った!」と、あおいが言うと

「そうなんだ!こっちは仕事ばっかで、退屈だなあ。グレーだよ・・・パチンコでぼろ負けしたし。」と、かおりは言う。

「もうおねえちゃんも、そろそろクズ修業はやめてね。」と、あおいは言った。

「やだ!取り返すもん!なにがあっても、この前負けた3万円取り返す!!!」と、かおりは答えた。

「本当に借金できないか、私も心配しているからね。」と、あおいは言って電話を切った。

 

 つかの間の休日、6人は思い思いに楽しんだ。でも郵便に盆休みはなく、交代で出社することになる。差し立ては新東京多摩郵便局で行い、さらに夏休みのイベントも控えているため、これからが企画に対しての負担が増える。

 

そして8月1日より、新しい社員(長期のゆうメイト)が加わるとともに、夏休みのイベント内容が決まる。




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