鬼灯の聖杯戦争 (吾朗)
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鬼灯の聖杯戦争①鬼灯side1

ここは、亡くなったものが逝く所と言われるあの世である。更に言うならば、この地は生前に悪行を行った者が落ちるとされている地獄である。

 

空は常に雲で覆われ赤黒く、空気も重く淀んでおりとてもではないが生物が住めたものではない。

 

そんな所を、二本角と三本角の小鬼達が慌てた様子で駆けていた。

 

小鬼達が駆け込んだ先は、十王の一人であり、地獄全272部署を治めている閻魔大王がおわす閻魔殿であった。ここ閻魔殿は亡者達を天国逝きか地獄落ちかを決める場所である。

 

小鬼達が慌てて駆け込んだ先には、一人の鬼神が作業をしていた。

 

「鬼灯様ーーっ!鬼灯様ーーっ!た、大変ですっ!」

 

「そんなに慌てて一体どうしたんですか?唐瓜さん、茄子さん」

 

慌てた小鬼達に対応した鬼灯と呼ばれた鬼神は、作業の手を休めることなく返答した。

 

この鬼灯と呼ばれる者は、閻魔大王の第一補佐官であり、非常に有能であり鬼の中でトップの立場にある。

 

「それがですね、佐々木小次郎の亡者が居なくなってしまったんですよ!」

 

「なんですって、佐々木小次郎というとあの剣豪の?」

 

「はい、あの巌流島で有名なあの佐々木小次郎です。」

 

「そして、行方の方は分かっているのですか?」

 

「それがですね探しだした所見つかりはしたのですが、その場所がなんと日本の冬木市だったんです。」

 

「冬木市ですって!?そうなると、もしかすると。」

 

鬼灯が考えている所に、他の獄卒が慌てた様子で駆け込んできた。

 

「鬼灯様ただいまEU地獄の方から緊急の伝書が届けられました。急ぎお目通しを。」

 

EU地獄とは、文字通りEU地方の地獄の事であり、そこはサタン王が治められている。

 

「こんな非常時に一体どうしたんですか。なになに……っ!」

 

愚痴を溢しつつ伝書を読み出した鬼灯はある程度読んだ所で固まってしまっていた。

 

「どうしたんですか、鬼灯様?一体何が書かれているんです?」

 

と、普段見られない様子に思わず唐瓜が聞いてみると、

 

「なんでもEU地獄の方でも、ここと同じ事が起こっているようなんです。まさかとは思いましたが少し面倒な事になりそうですね。」

 

「それってどういう事なんでしょうか?」

 

「ああ、唐瓜さん達は新卒で前の聖杯戦争の事は知らないんでしたね。」

 

「「聖杯戦争?」」

 

普段聞きなれない単語に唐瓜達は思わず聞き返してしまう。

 

「ええ、聖杯戦争とは、その昔魔術師達が何でも願い事を叶える事の出来る聖杯を作り上げ、その聖杯を求める七人のマスターと、彼らと契約した七騎のサーヴァントがその覇権を競う。他の六組が排除された結果、最後に残った一組にのみ、聖杯を手にし、願いを叶える権利が与えられる。そういったものです。」

 

「サーヴァント?マスター?魔術師?」

 

一気に説明され専門用語がたくさん出たことにより、唐瓜達の許容範囲は軽く越えてしまったようである。

 

「まあ、簡単に言うと英霊と呼ばれる亡者とそれを扱う生者のタッグが7つあり、それらが何でも願いの叶う聖杯を求め戦い合うバトルロワイアルです。ここまでは大丈夫ですか?」

 

「えーと、なんとか」

 

「詳しい事はまた時間があれば話しますが、その聖杯戦争、昔はお互いが殺し合うだけで、亡者も現世に出てもすぐに戻っていたので見逃していたんです。」

 

「それだけでもかなりの大事だと思うんですけど、他にも何か問題が?」

 

と、唐瓜が若干引きつつもその先を聞いてみる。

 

「それがですね、前の聖杯戦争の時に戦いの舞台であった冬木市が聖杯戦争の影響で大災害に見舞われたんです。私もその時、あまりの事態だったので現場に派遣され、鬼の私が言うのもあれですが、あの光景はまさしく地獄でしたね。」

 

「そ、そんなことがあったんですね。」

 

「ええ、現世の者が主にやっている事とは言え、その大災害は亡者によって引き起こされており、無関係の人達も巻き込まれた事もあり、全世界地獄会議によりこれから先に聖杯戦争が行われる際にはあの世の者達でなんとかするって事になったんです。」

 

「なんとかするって、一体どうするんですか?現世の事なんですよね?」

 

「簡単な事です。基本的にはお盆の時にやった時と同じです。現世に行った亡者達を力ずくでもあの世に連れ戻すんですよ。」

 

 

 



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鬼灯の聖杯戦争②鬼灯side2

 

「連れ戻すって事は、俺達獄卒達が行けばいいんですか?」

 

「簡単な事とは言いましたが、些か面倒な事もありまして、唐瓜さん達は桃太郎さんの時の事を覚えていますか?」

 

「あ~、そういやそんな事もありましたね。」

「俺も覚えてますよ。」

 

桃太郎とは今では桃源郷で仙桃の栽培の仕事をしつつ、漢方の権威である神獣の白澤の元で薬剤師の勉強をしている青年の事である。

その桃太郎も少し前まではヤンチャであり、武者修行かなんだか知らないが、地獄で強者を求め暴れそこを鬼灯によって絞められたのである。

 

「それなら話が早いですが、あの体ですがあの方地味にしぶとかったでしょう?」

 

「あ~確かに地味に強かったですね、地味に。」

 

「あんまり地味、地味、言ってあげないでおきましょうよ。」

 

と、唐瓜が少し呆れた感じでツッコミを入れる。

 

「ともかく、聖杯戦争で脱獄した亡者達はどれも桃太郎さんの様に歴史に名を残した者達ばかりです。それも一騎当千の強者ばかりです。そのため一般の獄卒には少し荷が思いのです。」

 

「なるほどそうなって来ると鬼灯様が向かわれるのですか?」

 

「ええそのつもりです。ですが出来るだけ手早く事を済ませないと行けないので、私だけでなく少数精鋭といった形で向かう事となっています。」

 

「確かに七人もいるとそうなって来ますよね。ちなみに他の方って決まってるんですか?」

 

「そうですね、またEU地獄や他の所の方とも話し合って決めないといけないのですが、先程EU地獄から送られてきた書面を見るに、お香さんを推薦しようかと思っています。」

 

「お、お香さんをですか!?」

 

思わず唐瓜の思い人である女性の名が出たことにより、驚いてしまい思わず声が裏返ってしまう。

 

「ええ、脱獄した亡者のリストの中にメドゥーサがいたので相性が良さそうだと思いまして。蛇の調教ならあの方長けてますので。」

 

「そんな神話に出てくる人を動物と同じように扱わないで下さいよ。」

 

と、唐瓜が呆れている所に部屋のノックが鳴り獄卒が入ってきた。

 

「失礼します。鬼灯様只今EU地獄の方から聖杯戦争についての使者が到着致しました。」

 

「わかりました。それでは向かわせてもらいます。」

 

そして、鬼灯は少し見学をしていきたいと言った唐瓜達を引き連れ応接室の方へと向かった。

 

「失礼します。」

 

と、鬼灯達が入った所

 

「遅い!日本人って言うのは時間に厳しくて、客人に対しては礼儀がなっているんじゃないのか?」

 

と、入ってきて早々文句を言ってソファーに座っている男は、EU地獄から来たベルゼブブである。この者は鬼灯と同じくEU地獄ではNo.2である。といっても性格はプライド《誇り》が高く、精神的に脆い所があり鬼灯と同じ立場ではあるが中身の方は大きく違ってたりする。

 

「こちらとしても何分急な事でありまして、対応が遅れてしまい大変申し訳ありません。」

 

「まあいいよ、この件に関しては早急に方をつけたいからね。早速誰を現世に向かわすか決めようではないか。」

 

「そうですね、こちらとしても早いことに越したことはありません。」

 

と、二人が話し合って現世に向かう面子を考え出して1時間程経過した所、

 

「ある程度決まっては来たが、もう一押し人が欲しいな。」

 

「そうですね、もうあと一人か二人欲しい所ではありますね。」

 

と、二人が行き詰まり、唐瓜達が二人にお茶を出しているところに突然扉が開かれ

 

「お~い、この間の酒騒動の時の酒レンタルの継続料貰いに来たんだけど」

 

白い服装に白い三角巾を巻いている中国人が入ってきた。

 

「よし、これで人員は揃いましたね。」

 

 




鬼灯

CLASS セイバー(仮)
性別 男性
属性 秩序・中庸
筋力 EX  魔力 E
耐久 A  幸運 B
敏捷 A 宝具 ?

クラス別能力
対魔力 E
騎乗  E

保有スキル
カリスマ B
心眼   C
獄卒   EX


なんちゃってキャラ表です。スキルの獄卒は亡者に対して働きEXで全てのステータスが2ランク上がります。


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鬼灯の聖杯戦争③鬼灯side3

 白澤がここに来てから、ベルゼブブは決定した人員を連れてくる為にも一度EU地獄の方へ帰っていった。

 

「あなたはこれから現世に行ってきて聖杯戦争止めてきて下さい」

 

「一体何なんだよ人が来て早々、てか何それ?聖杯戦争?」

 

「チッ!……万物を知る神獣の癖に知らない事もあるんですね、まあいいです」

 

「おい、今明らかに舌打ちしただろ!」

 

「はい、そうですが?」

 

「ああ、もうお前って奴は!」

 

 と、眉間に青筋を立てて鬼灯に対して怒鳴ってる男の名は白澤といい、漢方の権威で生薬に精通しており、天界の桃源郷で漢方薬局「極楽満月」を営んでいる。先程話に出ていた桃太郎の上司でもある。

 

 そして、森羅万象を知る神獣でもあるのだが、大の女好きであり、漢方に手を出したのも、女の子と遊びまくってたら体がもたなくなって「元気になる薬」を作り始めたのが切っ掛けという、なんともがっかりな神獣である。

 

「……というわけで、今から現世に行かないと行けないんです。分かりましたか?」

 

「ああ、なんとなく事情は分かったさ。でもな、何で地獄側の問題に僕が行かないといけないんだよ!!」

 

「ったく、一々面倒な人ですね本当に」

 

と、深いため息を吐きながら鬼灯は呟く。

 

「うるさいわ!僕はそんな面倒臭そうな事絶対に行かないからな!」

 

「はぁ……、ではこちらを見て下さい」

 

 と、鬼灯は懐から複数の写真を取り出して白澤に差し出す。

 

「こちらの写真に写っているのが、今回連れ戻さないといけない亡者達の写真です」

 

「はぁ?亡者が何だっていうんだよ……!!」

 

 白澤は出された写真を文句を言いながら渋々見始めるが、いざ見始めると目の色を変えて凝視している。

 

「それで、どうしますか?」

 

「そういう事だったら仕方ないね、もちろん報酬の方は期待していいんだろう?」

 

「これくらいでどうですか?」

 

 そう言って鬼灯は懐から小切手の用紙を取り出して報酬の金額を書いて白澤に見せる。

 

「うん、悪くないね。これなら妲己ちゃんの所のツケを返すだけでなく、もう2、3回は遊びに行けるね。仕方ない、この件了解したよ」

 

「それは良かったです。それでは早急に現世の方へお願いします」

 

「はいはい、わかったよ。僕も可愛い娘ちゃん達に早く会いたいしね」

 

 と、白澤が言うと直ぐに部屋を出ていき、さっきまで不機嫌だったのが嘘のように上機嫌で去っていった。

 

「鬼灯様、いったい白澤様に何が起きたんですか?」

 

今の経緯を見ていた唐瓜が思わず聞いてしまう。

 

「簡単な事です。言うよりも見てもらった方が早いでしょう。」

 

 唐瓜と茄子が先程白澤が見たものと同じ写真を渡される。

 

「うわー、きれいな人達ですね」

「本当だぁ、色っぺえ姉ちゃん達だなぁ」

 

 二人が言うように、写真に写っていたのは一人はエルフ耳をして色っぽい大人の魅力を持った女性で、もう一人は背の高いモデルの用な美人なお姉さんであった。

 

「これで、お分かりになりましたよね。その二人が今の所分かっている女性の亡者達です」

 

「これなら白澤様が目の色を変えて行くのも頷けますね」

 

「これで後は、こちらの決定した人達を召集したらいいですね」

 

「それで一体他に誰を派遣されるんですか?」

 

「そうですね、獄卒は勿論の事ですが亡者にも手伝ってもらうつもりです。折角の機会ですし、ここまで来たんです。一緒に行ってみますか?」

 

「え?いいんですか?」

 

「はい、確か唐瓜さんと茄子さんは新卒でしたので阿鼻地獄の方は行ったことが無かったですよね?」

 

「はい、話は聞いてますが見学はまだ行ったことがないですね。確か八熱地獄の内で一番深い所ですよね?」

 

「その通りです。ここに落ちる亡者の特長としては、仏教に関わっている者つまりお坊さんなどを殺めた者等が落ちる所です。まあ、言ってもここに落ちるまでには約二千年かかるので、その亡者は今も落ちている途中なんですけどね」

 

「それでその亡者は一体誰なんですか?」

 

「それは見てからのお楽しみという事で」




亡者の落ちる地獄を焦熱から阿鼻に変更しました


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鬼灯の聖杯戦争④士郎side1

「これは一体どういう事なんだ」

 

 衛宮士郎は、今日一日でもう何回考えたか分からない疑問を口にする。しかし、その言葉は自分の目の前で行われている、金髪少女と全身青タイツの男の壮絶な剣と槍の合いによる剣戟の音により、あっさりと掻き消されてしまう。

 どうしてこうなってしまったのだと、衛宮士郎は目の前の殺し合いから目を反らす為にも今日起きた出来事を思い出していく。

 

 あれは確か夜中の九時位だったはず。

 

 友人の頼みの為に弓道場の掃除をしていて、それが思ったよりも時間がかかってしまい、気付いたら夜中の九時になってしまっていた。今日は藤ねえも桜も家には来ないとは言っていたので、一人暮らしの身としては困る事は無いが、学生としてはこんな夜遅くまで学校にいるのは些か気が引ける。

 昔から一度集中しだすと、回りが見えなくなる程で、自分の特技ではあるのだが今回の様な事が今までも多々あった為に気を付けないとも思う。

 そんな事を考えながら、少し早く歩き学校を出ていこうとすると、キンッ!と普段聞き慣れない音が急に聞こえてきた。こんな時間に一体何だと思い、不良の喧嘩でも起きているのかと考え、気になり音が聞こえてくるグラウンドの方へと足を向ける。

 

 思い返せばこの時、素直に家に帰ってしまってさえいればこんな事にならなかったのでは?、と思わずにはいられない。

 

「なんだ?あいつら?」

 

 そこで士郎が目にしたのは、訳が分からないの一言につきた。遠目ではっきりしないということもあったのだが、行われていたのがどう見ても人間離れをしていた。

 グラウンドに居たのは、双剣を持った赤い服装の男と赤い長槍を持った全身青タイツの男であった。その二人は士郎からでは目にも止まらない速さで動き合い、聞こえてくる剣戟の音は大きく響き渡り、その戦いがどれだけ激しいのかを物語っていた。

 その様な光景を目の前にした士郎は、その場から一歩も動けずに見ていると、

 

「誰だっ!?」

 

「…………っ!!」

 

 槍を持った男が気付いたのかこちらを見て歩いてくる、そこで士郎はようやくここにいては危険だと気付き走り出す。

 

 あれは巻き込まれたら絶対にやばいやつだ。訳が分からないがとにかく逃げないと、でもこのまま真っ直ぐに学校から出ていってもあの速さなら直ぐに追い付かれてしまう!取り敢えず一回校舎に逃げ込んで隠れて巻かないと!

 

 そう考え士郎は、こけそうになりながらも校舎の方へと走っていく。このまま外に出た所であの青タイツの先程見た通りの動きで来られたら直ぐに捕まるだろうと思い、一度校舎の中で隠れて隙を見て逃げようと考えたからだ。

 

 校舎に入り二階の所まで来たところで士郎は足がつまづき転がってしまう。

 

「はぁ、はぁ、……すぐ後ろには来てないみたいだな。一体あいつらは何なんだよ。絶対普通の奴らでは…………」

 

 立ち上がり廊下を移動していると、それは急に目の前に現れた。走って来たとかそういうことではなく、言葉通りに目の前の何も無いところから急に先程の青タイツの男が。

 

「よお、また会ったな」

「い、一体何の様なんだよ。俺には関係のないことだろ」

 

 そう士郎が恐る恐る青タイツの男に聞いてみると、青タイツは少し何かを考えている素振りをした後、なにか面倒臭そうな顔をしながら頭をかきながらこう言ってきた。

 

「あーまーなんつーか、すまん。見られたからには部外者は排除することになってんだわ。悪いが諦めてくれ」

 

 一体こいつは何を言っているんだ?排除?それって…………!!!

 

 言われたことを考えていると、青タイツはどこからか出したのか分からないが紅い槍を取り出して、それを自分の方へと突きだしてくる。とっさの事で反応出来なかった士郎は流れるがままに心臓に突き刺されてしまう。

 

『嘘、だろ……?ここで俺は死んでしまうのか?』

 

「運が無かったな坊主。死人に口無しってな、運も力も無かった手前の人生を呪って逝きな」

 

 そうして、衛宮士郎は短い生涯を終えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 遠い昔の記憶を見ていた、これは確かじいさんが亡くなってしまった日の前日の事だ。

 

 縁側に座っている昔の俺とじいさん。いつもは特に何かを話す訳でもなく、只々庭等を見続ける時間。当時の自分にとっては、それだけでとても心が満たされる時間だった。

 

 そしてその日じいさんは言った。昔自分は『正義の味方』になりたかったのだと。

 

 子供だった自分は、じいさんがなぜ『正義の味方』になれなかったのかを聞いてもいまいち納得が出来ていなかった。しかし、それを聞いた時から俺の夢は始まったのだ。

 

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「おい、坊主!さっさと着てるもんそこの木に引っかけて銭を渡しな!早くしないと後ろがつっかえて来るんだよ!」

 

 そして今、死んだはず(?)の俺は気が付いたら、知らない場所で知らない婆さんからかつあげされているのであった。

 

「…………………………なんでさ?」

 

 



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鬼灯の聖杯戦争⑤士郎side2

 

「……ここは一体どこなんだ?」

 

 気が付いたら、見知らぬ所にいた。回りを見渡してみると空は赤黒く、遠くの方に見える山も普段見ている山とは違いなんだか尖って見える。近くには何やら大きな河が流れていて、更には空気もどこか重たく感じ、居心地の良い場所では無かった。

 

 確か自分は夜中の学校で青い男と赤い男の争いを目撃して、そこから逃げ出して……!!?

 

 そこでその青い男に心臓を刺されたのだ。

 

 士郎は慌てて刺された所に手を伸ばして見る、すると有るはずの傷は無く、他も確認してみるが傷一つない、いつも通りの体であった。

 

 訳が分からず、先程の事も今の事も夢なのでは無いのかと思い始めた時である。

 

「おい、坊主!さっさと着てるもんそこの木に引っかけて銭を渡しな!早くしないと後ろがつっかえて来るんだよ!」

 

 後ろから急に怒鳴られて、驚きながらも振り替えってみる。そこに居たのは自分よりも背の低い、腰の曲がった婆さんだった。それだけならその辺にいる婆さんですんだであろう、しかしそれだけでは無かった。婆さんの頭に角が二本、確かに生えていたのだ。

 

「え~と、お婆さん?言っている事が良く分からないのですが、というかここはどこなんですか?」

 

「はぁ、珍しい事では無いけど状況が理解出来ていない奴に説明するのは面倒だねぇ。簡単に言うとお前さんは、死んで今三途の川を渡ろうとしている所さね」

 

 何となく予想は着いていたことだったが、自分は死んでしまったのだ。傷一つ無い状態なので、まだこれが夢なのではと思わずにはいられないが、この回りの状況や婆さんの事を考えると納得せずにはいられない。

 

「……自分は死んでしまったんですね」

 

「ほぉ、言われてすぐに納得するとは珍しいねぇ。なにが原因で死んじまったかは知らないが、諦めが肝心だよ。さぁ、理解出来たならさっさと着てるもん脱いじまって河を渡る準備を……」

 

 お婆さんが、急に話すのを止めてこちらを注意深く見始めた。何をすればいいのか分からずに見られるがまま立った状態でいると。

 

「どうやらお前さんまだ完全に死んではいない様だねぇ。それなら話は別さね、生きるか、死ぬかはっきり決まるまでここで待機だよ」

 

「え?それってどういう?」

 

「言葉通りの意味さ、まだお前さんは生死をさまよっていて、気の早い内にこっちに来ちまったって訳さ。別に珍しくも何ともないさね」

 

 まだ死んでいない、それを聞いて士郎はどこか気が楽になる。しかし、気を失う前の事を思いだし、また気が落ちてしまう。なんせ心臓を刺されたのだ、記憶違いでは無いとしたらそこから生還するのは絶望的だと感じられる。

 

 本当に俺はこのまま死んでしまうのか?人の命を何とも思っていない様な奴に殺されて、やりたかった事も満足に出来ない内に?

 

 そう思ってくると死んでも死にきれない気になってくる、そう考え落ち込んで来たときだ、

 

「なにするんだよ!?やめてくれーーー!!」

 

 今の声は子供の悲鳴!?あっちからか!?

 

 と、思わず声の方に走りだそうとする士郎。しかし、それを止めようと婆さんが立ちはだかる。

 

「まちな、待っとけとは言ったけど、勝手に動いていいとは言っていないよ」

 

「婆さんもさっきの悲鳴を聞いただろ!?しかも子供の声だ早く助けに行かないと!?」

 

「ああ、それならその必要は無いよ。ここでは珍しくも何とも無いね。ただ刑をしているだけなんだから」

 

 刑だってそれって……。

 

「気になるんだったら教えといてやるよ」

 

 そこで婆さん、聞けば名前は奪衣婆(だつえば)というのだそうだ。奪衣婆さんがいうには、ここ三途の川はあの世の玄関口というだけでは無いのだそうだ。

 

 別名、賽の河原と呼ばれ地獄の一つであり、元は「親より先に死んだ子」が堕ちる地獄だったそうだが、今では殆どの子供はここに堕ちるそうだ。何でも「地獄は酷すぎる、かといって簡単に天国に送るわけにもいかない」とかなんとか。それで今はここにいる子供達は転生を待つ間ここで刑もとい修行をしているのだとか。

 

「……なるほどそれで修行って、あの子達は何をやらせられているんです?」

 

「大したことではないさ。ただジェンガを積ませて獄卒共がそれを壊すその繰り返しさ」

 

「なんでさ!?」

 

 思わずツッコミを入れてしまったが、今なんて言った?聞き間違えではなければジェンガと言ったか?あの世でジェンガ?

 

 聞けば、昔は石積みだったらしい。何でも石だとあんまりだと声があがったらしく、それに応じて積み木であるジェンガになったとか。

 

 元よりあの世の事なんてあるとはあまり思っていなかったが、逆に現実味のあることを聞かされて、やはりこれは夢なのではと思わずにいられない。そう思ってきた矢先の事だ。

 

「お前さんどうやら一命をとりとめた様だね」

 

「本当ですか!?」

 

「本当も何もお前さんの身体が透けて来ているだろ?それが何よりの証拠だよ」

 

 そう言われ自分の身体を見渡すと確かに透けて来つつある。

 

「色々面倒見てもらってありがとう、婆さん」

 

「別にあたしゃ何もしとらんよ。ただ年寄りの会話に付き合って貰っただけさね」

 

 そういう奪衣婆の顔はどこか満更でもないような感じである。

 

「じゃあまた」

 

 そう言い残し衛宮士郎は現世に帰っていった。




ハサンで破産しそう………。

どうもここまでお読み頂いてありがとうございます。

この小説で初めてちゃんと出てきた女性キャラが奪衣婆さんって………。


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鬼灯の聖杯戦争⑥鬼灯side4

今回はfate/grandorderの幕間の物語の内容のネタバレも含みますので気をつけて下さい


「さあ、こちらです離れずに着いてきて下さい」

 

「「はい!」」

 

 鬼灯、唐瓜、茄子の三人が歩いているのは、閻魔殿のとある所、曲がり角が多く廊下の至る所に同じ扉が存在し、新卒で慣れていない唐瓜、茄子には迷ってしまう様な所である。

 

「確か、ここにある扉を潜る事によって地獄の色々な所に行けるんですよね?」

 

「その通り、これから行く阿鼻地獄は勿論の事ですが、ここ地獄では物理的には遠い場所は少なくありません。そのためにすぐ着けるように八百万の神々の皆様にお願いし、一種のワープホール的な物を作ってもらったのです」

 

「ワープホール?」

 

「簡単に言うと、ドラ○もんのどこでもドアと考えてもらえばいいです」

 

「なるほど~」

「神様の力の事を簡単に言い過ぎてません!?ていうか、すごく気になるんですけど、どうやって22世紀の技術を再現してるんですか?」

 

「私も仕組みの方は詳しい所まで把握している訳では無いのですが、これらを創られた神様達を挙げていくと、主に『道の神』『間の神』その他百柱ほどの方達に協力してもらい創りました」

 

「鬼灯様も仕組みまでは、わからないんですね。これぞ神のみぞ知るってやつですか」

 

「唐瓜上手い事言うな~」

 

「はいはい、無駄話もそこまでにしてさっさと行きますよ」

 

 そう言って三人がまた目的の所まで行こうとした所である。

 

「あらぁ、鬼灯はんやないかぁ」

 

 少女の声なのだが、どこか艶のある声に呼ばれて鬼灯達が振り返るとそこには角が二本生え、殆どはだけている格好の鬼の少女と、サングラスをかけ金の装飾品を付けた体格の良い男が立っていた。

 

「おや、これは酒呑童子さんに坂田金時さんじゃないですか。お久しぶりです。お二人が一緒にいるのは珍しいですね」

 

「久しぶりだな鬼灯の大将。まあなんつうか、成り行きでよぉ」

 

「そやそや、花街の妲己の店に酒を届ける事になってたんやけどなぁ、茨木に頼もうとしてたんやけど捕まらんくて難儀しとった所にそこの金髪碧眼の小僧が通りかかってなぁ。丁度ええと思て頼んだんやわぁ」

 

「まあ大まかそういうことだ。てか、酒呑っ!俺の事をいつまでも小僧呼ばわりすんじゃねえよ!ちっともゴールデンじゃねえ!」

 

「あらぁ、ええやないかぁ。いつまでもうちにとって、あんたは小僧なんやからなぁ」

 

「……ったく、そおかい、そおかい」

 

 からかうのが楽しい様で、見た目相応に可愛らしく笑う酒呑童子に口では勝てないと悟っているのか、苦虫を噛み潰した様な表情の坂田金時。

 

 会話だけを聞いてるだけなら、お姉さんが子供をからかっていて楽しんでいるだけの場面であろうが、それが自分達と同じ位の背の高さの少女とサングラスをかけた体格の良い男がしているということで、唐瓜と茄子には少し違和感を感じられるやり取りに感じられた。

 

「鬼灯様、あの坂田金時ってもしかしてあの有名な?」

 

「ええそうですよ。想像している通りにあの(まさかり)担いだ金太郎さんですよ」

 

「やっぱりそうなんですね!あの坂田金時なんですね!どうしてあんな事に!?」

 

 唐瓜が取り乱すのも無理は無いのだろう。なぜなら坂田金時の見た目は、絵本に描かれているような金という文字が入った赤色の腹かけを着ている訳では無く、かと言って、平安時代の人ということで着物を着ている訳ではない。

 

 今坂田金時の服装は、黒いズボンに上は裸に白ワイシャツとかなりカジュアルな格好になっており、金の装飾品を幾つか着けている。さらに金髪でサングラスをかけており、とても平安時代の人物には見えないのだ。

 

「あの方、とにかく派手な特にゴールド的な物が好きな方で、ああして俗世に染まってしまってるんです」

 

 と、小声で金時達に聞こえない様に返答する鬼灯。

 

「そういえば、坂田金時さんは歌や俳句などをゴールデンじゃ無いとか言って、毛嫌いしてるんですよね」

 

「……?確かにそおだが、なんでそれを大将が知ってるんだ?」

 

「いえ、この間(たかむら)さんに誘われて紫式部さん主催の歌合(うたあわせ)に参加したときに聞いたんですよ」

 

「あ~なるほどな、言った通りに歌を詠むのはオレには合わねえ、二度とゴメンだね。そんなものより今の時代はバイクだよバイク!あれはいいもんだぜ!」

 

 と、男子小学生の様にテンションをあげて話出す坂田金時、

 

「そういえば、火車(かしゃ)さんとバイク繋がりで仲がよろしかったですよね」

 

「そうなんだ!火車の姉御とは良くツーリングしたりするんだが、あの人のバイクはオレのゴールデン・ベアー号に負けず劣らずに良い音鳴らして走るんだよなぁ!」

 

「なるほどわかりました。坂田金時さん、その話はまた別の機会で」

 

 オタク特有の長話になりそうになった所で鬼灯が遠慮もなしに話を切り上げる。

 

「坂田金時って思ってたよりもぶっ飛んだ人だったんだなぁ」

 

 ついこぼしてしまう唐瓜であった。

 

「鬼灯の大将に小鬼のボーイ、あんまりオレの事を坂田金時、坂田金時ってフルネームで呼ばないでくれ」

 

「え、どうしてですか?」

 

「そ、そりゃあアレだよ、アレ。分かれよ。…………だせえだろうが、金時とかよぉ。」

 

「…………」

 

 もう何からツッコメば良いのか解らなくなる唐瓜。

 

「ええやないやんかぁ、うちは好きやでその名前可愛らしくて」

 

「う、うるせえ!ていうかお前はオレの事、いつも小僧としか呼んでねえじゃないか!」

 

「名前で呼んで欲しいんやったら、うちとちゃあんと目を合わせて喋れる様になってから言うとよろし」

 

「~~~~っ!!?」

 

「どうやっても金時さんは、酒呑さんに()()()勝てない様ですね」

 

「ほんまやわぁ。このうちを退治しはったんやからもっと自信もってやっていったらよろしおすのに」

 

「……!!……それとこれは別だ。てか、そろそろこの酒届けに行くぞ!じゃあな鬼灯の大将。また機会があったら呑もうや」

 

「あん、待ってや。うちの事をおいていかんといて」

 

 二人はそう言いつつ衆合地獄の方へ去って行った。

 

「……なんかキャラが凄く濃い二人でしたね。そういえば、酒呑童子さんってどんな方なんですか?なにやら金時さんと訳ありって感じでしたけど」

 

「彼女今は地獄で酒を造っている方ですけど、昔坂田金時が生きていた頃に現世で人を喰ったりしていたんですよ。それで、源頼光さんと坂田金時さんを含む四天王の人達に退治されたのです」

 

「そんな二人がよく今あんな仲良くしてますね」

「な~、そんな事があったんなら普通仲良く出来ねえよな」

 

「その事ですが、前に彼女に聞いた所なんですが

『まあ、うちもあの時は退治されてもおかしない事を好き勝手にやってはったからなぁ。退治された事はなあんも思うてないわ』とか、おっしゃってましたね」

 

「なんかほんと大物というか凄い方ですね」

 

「そうですね。そうして、退治されて彼女は命からがら地獄に駆け込んで今は退治されたときに使われた酒の味が忘れないからと言って、主に亡者を使用した酒を造っている訳です。彼女、毒の酒も造られているので買わしてもらって、刑に使わさせてもらったりしています」

 

「やっぱり鬼灯様が一番ぶっ飛んでると思います」

「俺もそう思う」

 

「思わぬ道草を食ってしまいましたが、そろそろ行きますよ」

 

「「はい!」」

 

 そうして、目当ての亡者が落ちている近くの所から鬼灯達三人は地獄の穴に飛び込んで行くのであった。

 

 




本編はあんまり進んでませんが、お読み頂いてありがとうございました。

酒呑ちゃんと金時さんの絡みが好きなのでぶっこんじゃいました。

早くタイトル通りに、鬼灯様が聖杯戦争に絡める様に頑張ります。


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鬼灯の聖杯戦争⑦鬼灯side5

 鬼灯達三人は、ただ今頭からまっ逆さまに、地獄の下へ下へと降下中である。

 

 鬼灯は慣れたものと言わんばかりに、涼しい顔で落ちていく。新卒である唐瓜や茄子にとっては、絶叫するという程には無いとしても、上を見上げても下を見下ろしても底は見えず、さらに今自分達がどちらの方向に落ちているのかも分からなくなってきて、さすがに恐怖を感じざるを得ない。

 

 しかも、鬼である自分達は平気だとしても回りには炎が燃え盛っており、亡者にとってはたまったものでは無いのだろう。

 

 回りを見渡してみると、少なからず亡者も一緒に堕ちていくのが見ることができる。

 

 その顔を見てみると、亡者と言うにしてもその顔はとても青白く目は虚ろに開かれて流れに身を任せる様にして堕ちていく。

 

 ここ辺りの亡者達は確か四、五百年はこうして堕ちて行ってるはずだ、こんな堕ちていき、熱さ以外なにも感じることが出来ない所で、差は有るにしても最長で二千年もこんなことをするのでは気が可笑しくなっても仕方がないのかもしれない。

 

 だが、本当の地獄は当たり前の事だが目的地に着いてから始まり、堕ちていく何千、何万倍もの長い時間をありとあらゆる拷問を受けていくのだが。

 

 そこで唐瓜はふとある亡者に目が止まった。辺りをよくみると同じ様な亡者が何人か確認できる。その亡者の特徴は、ヘッドホンを着けてテレビを見ているのである。

 

「鬼灯様、あの亡者達は一体何を見ているんです?」

 

「あの亡者達は、生きていた頃の自分を見ているんです」

 

「生きていた頃の自分?何のためなのですか?」

 

「それは、堕ちていく時間が勿体ないという意見が出ていたので、試験的に導入したものなのです。文字通りにただ生きていた頃の自分を見せているだけですよ」

 

 鬼灯様が言うには、生きていた頃の自分を見ると言うには亡者達にとって、思っていた以上に精神的負担を与えられているのだと言う。

 

 確かに考えてみると、ホームビデオなどで自分の映像を客観的に見ると、どこか恥ずかしい気持ちになる。自分を客観的に見るのは思っている以上に来るものがある。

 ホームビデオなどでそうなるのであるから、自分の人生を客観的に見続けるというのは確かにかなりきついものである。

 

「最初の方は、悲鳴を上げ、顔を赤らめ、悶えているだけなのですが、10日もすると、すっかり大人しくなるんですよ、これが」

 

「それ、精神が崩壊しちゃってますよね!?」

 

 唐瓜は周りの亡者達がそれによって、死んだ魚の様な目をしてただ堕ちていく状態になったのだと分かり、本来はするはずもない同情の念を持たずにはいられなくなる。

 

「人間というのは、そこまで己を客観的に正視したくないものなのでしょうか……」

 

「鬼灯様は、人間の全てをわかった上でやってますよね!?」

 

 本当にこの人は鬼の中の鬼なのだと思う。大昔だが、人間だったとはとても思えない。

 

「ただ極稀(ごくまれ)にビデオを見れば見るほど喜ぶ強烈なナルシストもいまして、それは逆に凄いと思いました」

 

「……確かに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 そんなこんなで話ながら落ちていく一同。

 

「目的の亡者が見えて来ましたよ」

 

「え?どれですか?」

 

「あの長い黒髪で女性の亡者です」

 

 そう言われて見てみると、確かにそこには長い黒髪で女性の亡者がいた。特徴をもう少し上げるとすると、その亡者の年齢は14、15位の少女と言えるのであろうか。

 後、その少女は先程話題にあがっていたビデオを見ていたのである。しかし、少女はそれをどこか楽しんで見ている様で、他の亡者とは違い死んだ魚の様な目はしていない。

 

「あの少女の亡者ですか?わざわざ連れていくということは有名な亡者なんでしょうが、一体誰なんですか?」

 

「ああ、そういえば言ってませんでしたね。あの亡者はかの有名な、織田信長です」

 

「…………の、の、信長~~~っ!!?信長ってこと言ったらあの、本能寺やら殺してしまえホトトギスで有名なあの織田信長ですか!?」

 

「どうしたんです?そんなに驚くような事ですか?」

 

「いや、色々言いたいことはありますけど、まず何故に少女なんですか!?」

 

「その事ですか、…………私も最初は驚きましたが、そういうものだと思っていて下さい。ぶっちゃけ私にもよく分かりません、イイデスネ?」

 

「「………………ア、ハイ」」

 

 鬼灯から何とも言えないプレッシャーを感じてしまい、唐瓜と茄子はこれ以上この事に関しては聞くことができなかった。

 

「なんじゃ、せっかく真田丸の本能寺の所を楽しんで見ていたというに騒がしいのは誰じゃ?」

 

「死後の裁判振りですね、お久し振りです。鬼灯です」

 

「鬼灯……、おお確か閻魔の横に控えていた鬼神か!久しいな今日はどうした?前に言ってた獄卒の勧誘か何かか?」

 

「いえ、今回は別の様で来ました」

 

 そうして鬼灯は信長に対して、聖杯戦争の事、それに対して逃げたした亡者を連れ戻すのを手伝って欲しい旨を伝える。

 

「ふむ、聖杯戦争のう……。しかし何故わしが他の亡者達を出迎えに行くことになるんじゃ?」

 

「その事なのですが、今確認している亡者なのですが、何名かが神性を持ちで、こちらとしても少々手を焼く事になりそうなので、あなたを頼りに来たわけです」

 

「なるほどのう」

 

「手伝っていただけますか?」

 

「嫌じゃ、面倒だし真田丸見返していて忙しいからわしは行かんぞ」

 

「仕方がないですね、こうなることは薄々分かってましたが……。現世に出ている間こちらが要請しない時は、自由にしていいという条件でどうですか?」

 

 それまでは、ぐだぐだとしていた信長だったが、鬼灯の言葉を聞くと途端に目の色を変えてくる。

 

「何?それは本当か?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

「そ、それなら仕方がないの~そんなに頼まれると断るのもあれじゃしな。是非も無いよね♪」

 

「新しいもの好きの信長さんなら食い付くと思いましたが、見事な掌返しですね」

 

「う、うるさいのじゃ。そんなことより約束したことは、しっかり守って貰うからな!?」

 

「それではあなたを現世に連れ出す許可とビザを発行してくるので待っていて下さい。その内に烏天狗の方を迎えに出しますので」

 

「わかったのじゃ!早く迎えを使わすのじゃぞ!」

 

 そうして、その場を去る三人であった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「それにしても驚いたな~」

 

「そうだよな、信長があんな可愛い女の子だったとはおもわないよな」

 

「だよな~普通に男だと思ってた」

 

 茄子と唐瓜は鬼灯の後ろを歩きながら、先程会った織田信長について話し合う。

 

「そういえば鬼灯様は信長との会話で獄卒の事が少し話題が上がってましたけどあれはどういう事なんですか?」

 

「あれはですね、織田信長の生前はお二人も知ってはいると思いますが、色々やらかしていて普通に地獄堕ちというのは分かると思います」

 

「はい」

「それは、なんとなく」

 

「しかし、信長のカリスマ力は凄まじく供養とかは、それは大層に届けられており、それから減刑を考えると天国行きにはならないとしても、獄卒に働ける程になっていたんです」

 

「なるほど、でも断られたのですよね」

 

「ええ、理由等はよく分かりませんが、だから本来通りに亡者として今堕ちて行ってる所なんです」

 

 そう言っていると、鬼灯の胸元から携帯の着信音が鳴り響く

 

「失礼します」

 

 そう言って鬼灯は二つ折りの携帯を取りだして電話に出る。

 

「もしもし、鬼灯ですけど……ああ、大王ですか。お疲れ様です、どうかなされましたか?」

 

 それから鬼灯の電話の応答を聞いているとどうやら相手は閻魔大王の様で、これから鬼灯達が現世に向かうので地獄の方でのスケジュール変更についての事のようだった。

 

 そして、10分程話していたときであろうか、

 

「あなたも、こんな時なんですから休日出勤位してください!!」

 

 鬼灯がそう言って怒鳴りあげる。どうやら、スケジュール変更で大王が休日出勤になったことに着いて文句を言って来たらしい。

 

 その事事態は玉に見る光景ではあるので別にいいのではあるが、問題はそこからだ。

 

 怒鳴った鬼灯は直後、二人の目の前から消えてしまったのである。



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鬼灯の聖杯戦争⑧士郎side3

「なんとか家には帰ってこれたな」

 

 夜も遅くなり、日付が変わる頃になんとか家にたどり着いた衛宮士郎。溜め息を吐き、力も抜け床に倒れこんでしまう。

 

 帰る途中にまたあの連中に会ってしまわないかと注意深く行動したため仕方ない事だろう。

 

 しかし、帰り道はいつもと変わらず危険な事は無く、強いて言うとすればいつもよりカラスが沢山いると思った事位だろうか。

 

 そして、士郎は今までのことについて考えていく。

 

 学校で目を覚ました時は、グラウンドで見たことやその後の事も全て夢だろうと思ったが、体には傷痕も何も無いが服には槍に刺された後と血がべったりと付いていた事から、信じられないが現実にあったことなんだろう。

 

 そう考えると不思議に思うことがある。それは、どうして自分は生きているのかということだ。

 

 自分があの槍に刺されたとして普通ならば死んでも可笑しくは無いと思う。運良く生き残ったとしても大怪我であったはずだ。

 

 そう考えると自分はあの場で誰かに治療をしてもらった事になる。しかも、致命傷を跡形も無くだ。常識で考えるのであるならば、そんな事は絶対にあり得ないと断言できるであろう。

 

 しかし、自分はこれを不可能とは思わない。これに説明をすることができる。それは、魔術というものだ。

 

 詳しく知らないが、自分は少し魔術というものを使うことができる。それは、「強化」と呼ばれる物である。これは物を魔術的に構造解析して行う物で、これによって例え紙であっても鉄の強度を持たせるのが可能である。

 

 素人当然の自分でもこういったものが使えるのである。となれば、瀕死の状態でも治すことができる魔術があるのかもしれない。

 

 しかし、そう考えると誰が治してくれたんだろう。起きた所には誰も居なかったからな、手掛かりとしてはこの赤い宝石のペンダント位か。

 

「一体誰なんだろうか、礼位は言わせて欲しい所だけど」

 

 そんな事を横になりながら考えていた時である、突然天井から鈴の音が鳴り響き、そこから何処からともなく学校で襲われた青タイツの男が槍を自分に向け飛びかかってくる。

 

 士郎はそれを間一髪の所でかわすことができ、その場にあったポスターを丸めたものを手に持ち青タイツの男と向かい合う。

 

「はぁ、見えていれば痛かろうと、俺なりに配慮したつもりだったんだが。同じ人間を1日に二回殺す羽目になろうとはねぇ、何時のなろうとも人の世は血生臭いということか」

 

 そんな事を言いつつ男は紅い槍を構える。

 

「――――同調(トレース)開始(オン)

「――――構成材質、解明」

「――――構成材質、補強」

「――――全工程(トレース)完了(オフ)」 

 

 今度は先程の様には行くまいと、手に持ったポスターを自分が覚えている魔術で鉄並の強度まで上げ抵抗しようとする。

 

 青タイツの男は士郎が魔術を使うとは思っていなかったのか、少し驚いた表情を作り槍を突き出してくる。

 

 それに対して士郎は、ポスターでかすりはしたが槍を何とか反らす。

 

「ほう、少しは魔術を使えるようだな。道理で生きていた訳だ。少しは楽しめそうじゃねえか」

 

 そう言って青タイツは攻撃を仕掛け、それに対して士郎は能力(スペック)が全く違うのか、防戦一方で庭の方まで逃げ、更に土蔵の方に逃げ込む。

 

「チッ、男ならしゃんとしやがれって」

 

 青タイツは士郎に対して助走をつけて刺しにかかる。これは殺ったかと思われたが、士郎が機転を効かせ持っていたポスターを広げ盾の様にしてその攻撃を何とかやりすごす。

 

「これでお仕舞いだ。今のは割りと驚かせられたぞ坊主」

 

 そう言いながら今の攻撃の余波で倒れ込んでいる士郎に止めをさそうと近づいてくる。

 

「もしやお前が七人目だったのかもな。だとしてもこれで終わりなんだが」

 

「ふざけるな、助けてもらったんだ。助けて貰ったからには簡単には死ねない。俺は生きて義務を果たさないといけないのに、死んでは義務が果たせない。こんな所で意味もなく」

 

 喋っている士郎に対して興味はもう無いのか、男は槍で止めを指すために突き出してくる。

 

「平気で人を殺すお前みたいな奴に!!」

 

 士郎がそう叫んだ時、呼応したように土蔵の床の魔方陣が浮かび上がり光輝く。薄暗い土蔵が昼間の様に明るくなり、魔方陣の中心から人が飛び出し青タイツに斬りかかる。

 

「七人目のサーヴァントだと!?」

 

 突然の攻撃に対応仕切れなかった青タイツは土蔵の外へと弾き飛ばされる。

 

 突然の出来事に士郎はただ呆然とする。すると、今青タイツに斬りかかった者が振り返りこちらに視線を向ける。

良く見ると、驚く事にその人物は金髪の少女だったのである。

 

 目の前の事についていけない士郎に対して少女は問い掛ける。

 

「貴方が、私の(マスター)か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「どうやら、七騎が揃って早速サーヴァント同士で戦いが始まったようね」

 

「わかりました。私は直ぐにその現場へと向かうとしましょう」

 

「私もその場に向かった方が良いかね?」

 

「いえ、そこには私だけが向かいます。あなた方はこの場に待機で他に動きがあれば対処をお願いします」

 

「うちの主がその場の事を知れば恐らく何としてでも向かいたがると思うのだが」

 

「……ふむ、分かりました。では一緒に向かうとしましょう」



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鬼灯の聖杯戦争⑨士郎side4

 

 

「これは、一体どういう事なんだ?」

 

 士郎は目の前の事についていけず、思わず呟く。

 

 考えてみれば今日はおかしなことだらけだ。学校で襲われ、地獄の様な所に行き、帰ってこれたと思ったらまた同じ男に襲われ、今金髪の少女が自分の事を(マスター)と呼んで男と戦っている。

 

 しかも、戦っているのがまた異常なのである。少女も男も学校のグラウンドで見た時と同じように、常人では考えられない速さで動き回り、踏み込むと地が捲りあがり、得物がかち合うと火花が飛び散る。

 

 しかも、自分の背丈より少し小さい普通に考えるなら華奢な少女が槍を持った男に負ける所か競り勝っているのである。

 

 力の差もあるのかもしれないが、要因の一つとしては彼女の武器にあるのだろう。彼女の武器は一見何も無いように見える。しかし、目を凝らすとそこにはもやの様なものがあり、戦い火花が飛び散っている所、武器は確かに存在するようだ。男はそれで相手との距離感がうまく取れないのかとてもやりにくい様子で、苦い顔をしている。

 

「卑怯者めっ!自らの武器を隠すとは何事か!」

 

「どうしたランサー?止まっていては槍兵の名が泣こう。そちらが来ないのなら、私が行く」

 

「その前に一つ聞かせろ。貴様の宝具、それは剣か?」

 

「さあ、どうかな。斧かも知れぬし、槍かも知れぬ。いや、もしかすると弓かも知れぬぞ、ランサー」

 

「ぬかせ、剣使い!」

 

 男は、そう言いながら槍を構える。

 

「もう一つ聞かせて貰うが、ここいらで分けって訳にはいかないか?」

 

「断る。貴方はここで倒れろ。ランサー」

 

「そうかよ。こっちは元々様子見のつもりだったんだがな」

 

 男は槍を持つ手の力を強め、何時でも投げれる体制をとる。

 

 端から見ていた士郎からでも分かるように、男の雰囲気が先程とは比べ物のない位に豹変する。そこから放たれる一撃はどんなにかわそうとも、決して逃しはせぬと言うような様子だ。

 

 少女も何かを感じ取ったのか剣を構え直し、これから来る攻撃に対し対応出来るように、身構える。

 

「その心臓、貰い受ける───!」

 

 男がそう言い放ち、槍を投げる動作に入った時である。

 

「そうはさせませんよ」

 

 上空から声が聞こえたと思ったら、男の真上から金棒を持った男が落ちてくる。そして、そのままランサーの脳天へと金棒が叩きこまれた。

 

 余程強い力でぶん殴られたのか、ふぎゃっ!、とランサーは地面にめり込み、頭からは白い煙が出ている。

 

 突然の出来事に対して、さすがの少女も少し呆然としている。

 

「あなたは一体何なのですか!?何処の英霊だかは知りませんが、騎士の戦いに横出しをするとは、恥を知りなさい!」

 

 少女は激怒して金棒の男に怒鳴り付けるが、その男は涼しい顔をしてこう答える。

 

「こちらとしては仕事で来ているものでして、この場合こうするのが一番手っ取り早いと思ったので、騎士の戦いとか知った事ではないですね」

 

「なっ……!?」

 

 この答えに対し少女は、眉間にしわを寄せ、更に激怒し、今にも飛びかかりそうになる。

 

「貴女は確か、アルトリア・ペンドラゴンさんでしたよね?前の聖杯戦争にも参加されていたようで、貴女は特殊な立ち位置で釘をさせなかったとはいえ、まさかまた出て来られるとは」

 

「なっ何故、それをあなたが……!?」

 

 少女は、今までの様子とは打って変わって、見るからに狼狽し、顔色も青白くなる。

 

「それについては、落ち着いてから話しましょう。取りあえず今はこの場をどうにかしましょう」

 

 そう言いつつ、男はふらつきながらも立ち上がったランサーに対して振り返る。

 

「起きられましたか、気絶させるつもりでやったのですが。やはりお強いですね」

 

「チッ、やられっぱなしは性に合わないし、聞きたいことも色々あるが、マスターの命令もある事だ。ここは引かせてもらう」

 

 そう言うや否や、ランサーは敷地の外へと跳躍し逃走をはかる。

 

「状況が悪くなると一目散に逃げ出す。……まるで犬ですね」

 

「犬って言うなーっ!!」

 

 よっぽど言われたく無かったのか、ランサーは逃げながら叫ぶ。

 

「正に負け犬の遠吠えですね。アーチャーさんっ!ランサーが逃げ出したので後をお願いします!」

 

 男が叫ぶと塀の上に突然男が現れる。士郎の見間違えでは無ければ、学校にいた赤い服を着た男である。

 

「了解した。マスターがここにいる坊主に用がある見たいなのでここに置いていかせて貰うぞ」

 

「分かりました。くれぐれも深追いはしないようにお願いします」

 

 赤い男は、言葉は発せずに首を縦に振り。夜の暗闇へと消えていった。

 

「さて、では話し合いといきましょうか。それでいいですか?アルトリア……いえセイバーさん?」

 

「私はマスターがそれで良いと言うなら従うまでです」

 

「そうですか、ではあなたはそれで構いませんか?」

 

「待ってくれ、話すもなにもこれは言ったらどういう事なんだ!?」

 

「ふむ……、仕方のない事かも知れませんがかなり取り乱させれていますね。なにから話したものか」

 

 男はそう言い、悩み始める。そこで更なる人物が現れる。

 

「その説明は私に任せて貰っても良いですか?鬼灯さん?」

 

「なっ!?」

 

 士郎は門から現れた人物に今日何度めか分からない、驚愕をする。

 

「取りあえずこんばんは、衛宮くん」

 

「お前は、……遠坂っ!?」

 

 そこに現れた少女は、士郎のよく知る人物だったのだから。




ここまでお読み頂いてありがとうございます。

ようやく鬼灯様を現世にちゃんと出すことが出来ました(笑)

鬼灯様が現世に来てからここに来るまでの話はまた追々という事で


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鬼灯の聖杯戦争⑩士郎side5

今回は少しホロウ等のネタバレが含まれています、御注意してください。

この辺りから、原作とは大きく変わって行きます


「ということなの、理解は出来たかしら?」

 

「この現状に納得出来ないことはあるが、大体は理解した」

 

 現在の時刻は午前1時を少し過ぎた頃。ここ衛宮邸で士郎は同じ学校で、同学年の遠坂凛から聖杯戦争の説明を受けている。

 

 セイバーと呼ばれていた金髪で碧眼の少女と鬼灯と呼ばれていた角が生えていて長身でつり目の男は、別に話があるとの事でここにはいない。

 

 たった今遠坂から聞いたのは、聖杯戦争とは昔から行われていたもので、それは七人のマスターとそのパートナーのサーヴァントで行い、何でも願いが叶うと言われている願望器である聖杯を奪い合う、血で血を洗う殺し合いだということ。

 

 そして、その殺し合いの最後の参加者に自分、衛宮士郎がマスターとして選ばれてしまったというのだ。

 

「この話が出来るということは、遠坂もこの戦いの参加者なのか?」

 

「うーん、そうねぇ。だったと言うのが正しいかしら」

 

「だった?」

 

「ええ、ここからがこの話の本題とも言えるわ」

 

 そう言うと遠坂は、俺が出した緑茶で少し喉を潤した後こう語り出した。

 

 遠坂の家は代々と受け継がれている魔術師の家系らしく、父親が前回の第四次聖杯戦争で果たせなかったのを娘である遠坂がやり遂げようとこの第五次聖杯戦争に参加したらしい。

 

 ここの話は、何故か色々とぼかして話されたが、本当ならば遠坂は残っていたサーヴァントのクラスの中で一番能力が高いとされる、セイバーのサーヴァントを召喚しようとしたようだ。しかし、手違いがあったらしく召喚されたのは何処の英霊かも分からない赤い服を纏った白髪のアーチャーになってしまったらしい。

 

 このアーチャーが普通の英霊だったならセイバーを呼べなかったとはいえ、何の問題も無く聖杯戦争を行えたであろう。

 

「私も今は協力している事なんだけど、びっくりしたわよ。アーチャーを呼んで、最初に言われたのが聖杯を封印するのに協力しろ、だもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(遡ること数日前、ここは遠坂邸。そこで遠坂凛は人生で一番と言っていいほどの衝撃を受けていた)

 

「なんですって!?アーチャーもう一回言ってみなさい!」

 

 時刻は深夜1時頃、普通であれば皆が寝静まり静かであるはずの時刻に、この家の主である遠坂凛は絶叫していた。

 

 この日、遠坂はかねてより念願であった聖杯戦争に参加するために、サーヴァント召喚の儀式を行った。

 

 しかし遠坂はそこで色々な手違いで、本来深夜2時にする予定が深夜1時にやるという、うっかりをしてしまう。

 

 そうして呼び出されたサーヴァントは、白髪で赤い服を纏い、どこか含んだ笑みを浮かべる青年であった。

 

 そうしてお互いがマスター、サーヴァントのアーチャーであると確認する。

 

 遠坂は呼び出してしまったのは、狙っていたセイバーでは無かったものの、英霊によっては勝ち残る見込みは無い事はないと前向きに検討していた時。

 

 アーチャーがとんでもない発言をしたのだ。

 

「ちゃんと聞こえていなかったか?マスターである君には、聖杯戦争を止めてもらって、聖杯を封印するのに手伝いをしてもらいたいのだが」

 

「ちゃんと聞こえてたわよ!何でサーヴァントのあんたがそのような事をする訳!?」

 

 肩で息をしながら怒り心頭の遠坂。遠坂家の家訓に『どんな時でも余裕を持って優雅たれ』というものがあるが、さすがの遠坂もそれ所ではなかった。

 

「やれやれ、説明をする前からこんなに怒鳴り散らすとは。これは貧乏くじを引いたかな」

 

「うっさいわね!ならさっさと説明するなりなんなり、してみなさいよ!」

 

 アーチャーは、やれやれと言葉にはしなかった物の仕草では此方を明らかに嘗めきっている態度を取っており、それがまた遠坂の気を逆撫でる。

 

「そうだな、どこから話したものか……。では第三次聖杯戦争の辺りから話させてもらおうか」

 

 

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━━━━━━━

 

 

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「う、うそでしょう?」

 

 そこから、アーチャーから話された今行われている聖杯戦争の真実に遠坂は驚愕を露にする。

 

 聖杯戦争の真実とは第三次聖杯戦争で、聖杯戦争を始める切っ掛けを作った御三家の一つ(遠坂家も含まれている)のアインツベルンが勝つためにルール違反を犯し、本来呼び出される筈の無い、八つ目のクラス復讐者(アヴェンジャー)、「殺すことだけに特化した英霊」であるアンリマユが召喚される。

 

 しかし、アンリマユはとても弱く聖杯戦争の開始早々に脱落してしまい、通常通りに大聖杯に収められる。問題はここからで、アンリマユは周りからの身勝手な願いで「この世全ての悪であれ」と摸造された「願い」その物であったがために、敗れて「力の一端」に戻り聖杯に取り込まれた際に「願望機」としての機能がその願いを叶えてしまい聖杯は汚染され、以後聖杯戦争は狂っていくことになる。

 

「そうして、起こったのが十年前のあの冬木の大災害だと言うの?」

 

「そういうことだ」

 

 冬木の大災害、それはここ冬木市に十年前に起こった原因不明とされていた、死者数百名を出した大災害の事である。

 

 当時の凛はまだ幼く、父親が聖杯戦争に参加しており戦いから避難していたため直接的被害は無かったが、それでもあの惨事は未だに自分にとってはまだ新しいものである。

 

「そして今回もこのままだと同じ事になるの?」

 

「それは勝ち残った者の願いによって多少は変わるかは知れないが、どうせろくでもない事になるだろう」

 

 アーチャーはそう説明を終えると遠坂は黙りこんでしまう。

 

「私としては、協力してくれると好ましいのだが……」

 

 そこまで言うとアーチャーも口を閉じる。

 

 ……ふむ、黙り込んでしまったか。無理は無いのかもしれんな、本来魔術師とは他人などは二の次で全ては自分のために行動する生き物。根元へと至れる可能性を捨ててまで嘘か本当か分からない私の話を信じ、更には聖杯戦争を台無しにするような事は無いのだろうな。

 

 根は優しい筈なので、駄目元で話はしてみたが、どうやら説得は無理そうだな。仕方ない、本来予定していた通りに何とかして契約を解除し行動を起こさないとな。

 

 そうアーチャーが諦め動き出そうとした時である。

 

「――――Anfang(セット)……!」

Vertrag(令呪に告げる)……! 

Ein neuer Nagel(聖杯の規律に従い)Ein neues Gesetz(この者、我がサーヴァントに)Ein neues Verbrechen(戒めの法を重ね給え)―――!」

 

「なっ!?それは!?」

 

 突然の遠坂の行動に、今まで余裕を持っていたアーチャーも流石に動揺する。

 

 彼女が行おうとしているのは、令呪の使用。それは、マスターに三回だけ行える自分のサーヴァントに対して出来る、例えサーヴァントの自殺だとしても可能な絶対命令権の事である。

 

「おい馬鹿よせ!そんな事で令呪を使う奴が!」

 

 彼女の性格を()()()()()アーチャーは、言うことの聞かないからと自分を自殺させる様なことはしない断言出来るが、彼女の性格から後先考えずに令呪の効力が余り効かない、絶対服従辺りをと予想する。それは無駄遣いだと咄嗟に動くが彼女はアーチャーの予想を上回る事をする。

 

「うるさい!そんな急に説明されて手伝えって言われたって信用出来る訳ないでしょ!それなら、自分なりに信用出来る方法を取るまでよ!!」

 

「っ!!」

 

「今の話をもう一回包み隠さず、嘘は言わず本当の事を言いなさい!!」

 

 そう遠坂が言い放つと、右手の甲に刻まれていた三画ある令呪の内一つが消え、問題無く令呪は発動する。

 

 そうして、限定的な命令のためにアーチャーは令呪の魔力に抗えず、今話した内容をもう一度話し出す。

 

 

 

 

 

 

「…………本当の事だったのね」

 

「これで信じて貰えたかね?」

 

「一応ね」

 

 令呪の命令によりアーチャーから嘘偽り無く話された内容は、初めに遠坂が聞いた内容と同じで信じざるおえない状況にある。

 

 そうして、自分のサーヴァントが嘘を言ってあるだろうと予想していた凛は、自分の宛が外れ更には大切な令呪が無駄になったことに少し顔を赤らめ恥ずかしがっている。

 

 そんな少女の様子を見て、アーチャーは口を出さずとも関心していた。

 

 まさか絶対服従を命令してくると思えば、真実を話せとはな……、彼女はああして恥じているが、あの場に置いてはこれ以上に無い信用出来る材料になる。令呪を使ってしまったとはいえ、恥じる使い方では無いな。

 

「それでマスター、協力の件なんだが?」

 

 そうアーチャーが言い出すと、遠坂は少し顔を下げ髪を揉みくちゃにして、悩んだ後。

 

「あーーーっ!!わかったわよ!あんたの話に嘘はないと分かった事だし、遠坂家がこの冬木の地の管理を任されている以上、冬木の大災害の様なことは起こさせないわ!!」

 

「理解のあるマスターで感謝する」

 

 そう言いながらアーチャーは笑みを浮かべながら、遠坂凛は何処か吹っ切れたような顔で握手する。

 

 そして、二人はこの聖杯戦争を止める為に動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「所で、最初の衝撃でうっかり忘れてたけど、あなた何処の英霊なのよ?」

 

「その事なのだが、その辺りの事は忘れていて分からない」

 

「…………なによそれ」

 




ここまで読んで頂きありがとうございます。

書き始めると止まらなくなり長くなってきたため、今回はこの辺りまでで一回切り、次はすぐに投稿出来るかと思います。

感想に書いて下さっていたのですが、現在芥子ちゃんは出すかどうかまだ迷っています。原作の方で強さを求め、ヘラクレスに面会を求める描写もあったので出来れば出したいのですが、これ以上キャラが増え素人の自分に扱いきれるかが不安なのが本音です。


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鬼灯の聖杯戦争⑪

気付けばお気に入りも200を越えて、ありがとうございます!


(時間は戻り深夜の衛宮邸)

 

 士郎と凛が話し合っている時、鬼灯とセイバーもまた別室で話し合う為に移動している。

 

「では私たちも話し合いましょうか」

 

 そう言って鬼灯は床に座り、それに続きセイバーも腰を落とす。

 

「あなたも現世に来たばかりで分からないことも多いでしょう。質問はそちらからどうぞ」

 

「そうですか。では、単刀直入に聞きましょう。あなたは一体何なんだ?初見で私の正体を看破しましたが、貴方もサーヴァントで良いのですか?」

 

「鬼ですよ」

 

「鬼ですって?」

 

 鬼という聞き慣れない単語にセイバーは戸惑う。

 

「ああ、西洋でしかも貴方は正式な死人では無いので、知らないですよね。簡単に言うと日本のあの世を管理している者です。後、私は聖杯戦争の参加者では無いですよ」

 

「……!?」

 

「厳密に言うと、この聖杯戦争を無かったことにするために来たのです」

 

「なんですって!?」

 

 流石にこれは予想外だったのか、セイバーは声を荒げその場に立つ。そして、目付きも攻撃的な物になり、激怒しているのが目に見えてわかる。

 

 そんなセイバーに鬼灯は、冷静で座ったまま続きを話す。

 

「あの聖杯はとても危険な物なんです。あれは現世にあっては良いような物ではないのです」

 

「確かにあれは悪しき物の手に落ちれば、酷い事になるのかも知れない。だが、私は絶対に勝ち残りそんな事に聖杯は使いません!!」

 

(はぁ、面倒臭いですね。根本的に違うのですが、説明しても信じなさそうですね。他の二人は難なく説得出来たので甘く見てましたか。セイバーさんは当事者ですし、あれを見せてみますか)

 

 そう思い、鬼灯は手のひらサイズの鏡を取り出す。

 

「これは?」

 

「うちの開発局に作らせた。ミニ浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)です。簡単に言うと現世にあった今までの事を見ることが出来ます」

 

「それが本当なら凄い事ですが、なぜそれを?」

 

「まず見てください」

 

 そうやって、鬼灯に流された映像を見てセイバーの顔は蒼白となっていく。

 

 そうなるのは無理も無いのだろう、それは彼女にとってはトラウマに近い出来事。後少しで念願の聖杯に届きそうな所であった筈であるのに、事情はあったとはいえそれを自分の手で壊してしまったのだ。

 

 その映像は第四次聖杯戦争の最後の場面であった。

 

 これを見たのがセイバーで無かったのならば、偽物だと言い張れたのであろう。しかし、その場にいた自分はこの映像が本物だと分かってしまう。

 

「なぜこれを自分に?」

 

 絞り出すような声でセイバーは問う。

 

「私が見てほしいのはこれから先の事です」

 

「どうして!?聖杯からこんな物が!?」

 

 そうして、続いた映像にセイバーは声を荒げる。

 

 その映像は、セイバーが宝具を放ち現世から消えた後の物で、宝具を喰らった聖杯は破壊され、そこからこの世の物では無いような黒い泥が生まれ、瞬く間に戦いの場であった冬木の地一帯に広まり、泥に触れたところは崩壊したり火が上がったりと正に地獄と化していた。

 

「お分かり頂けましたか?今の聖杯はこの様に穢れており、本来の働きをしません」

 

「…………」

 

 この信じられない映像で、しかしそれが本物だと直感してしまっているセイバーは黙りこんでしまう。

 

「あなたの元パートナーの衛宮切嗣さんは分かっていた上でしていたそうですよ」

 

「……っ!!」

 

 自分に悲願であった聖杯を壊すという行為をさせられ、最後の最後で裏切られた男の名に、セイバーは一瞬動揺する。

 

 しかし、あの映像を見た後で考えてみると、自分が仮に勝ち残ったとして、魔力が完全に貯まった穢れている聖杯に自分の願望を叶えて貰う所を想像するとぞっとする。

 

 そうだ、あの人は騎士の立場から見るとやり方は今でも気に入らないし、実際にその場にいると止めるかも知れない。今この場に居たら顔面の一発は殴ってしまうかもしれない。しかし、アイリスフィールも言っていたように切嗣は決して悪人ではない。あの人なりの正義のやり方だったのだ。切嗣は正しかった。彼は、私を裏切ってなどいなかったのだ。

 

 セイバーは、かつて自分のマスターで最後までお互いに解り合えなかった人を思いだし、ほんの少しではあるが彼は彼なりの道を進んでいたのだと、見直す。

 

 であるなら、この冬木の聖杯ではどう転んでも私の願いを叶える事は出来ないでしょう。今回は諦めるとします。なに時間は幾らでもあるのです。いつか私の願いを叶える事の出来る聖杯戦争が起きるまでの我慢ですね。

 

 そう、セイバーが思い至った時、それを見透してか鬼灯は話を進める。

 

「ある程度現状を飲み込んでくれたと見てお願いします。聖杯の封印の為、力をお貸ししてくれないでしょうか?」

 

 セイバーはそう言ってきた鬼灯の顔を見る。感情を読み取れず、正直に言ってどこまで信じて良いのか分からない。

 

 しかし、切嗣と同じで根は悪い人では無さそうだ。それに今回のマスターは切嗣とは違い素直で良い人そうなので恐らく反対はしないでしょう。

 

「良いでしょう。最終的にはマスターに決めてもらいますが、マスターさえ良ければ、私は貴方の言っている事を信じ、協力することを誓いましょう」 

 

 そう言い、二人は手を取り合った。

 

「一応付け加えときますが、これとは違う聖杯戦争に参加した時は、どうなっても知りませんからね」

 

 と、鬼灯は話しながら目では、容赦はしないからな、と言外で告げ。

 

 己の心の内を見透かされたセイバーは、ただただ冷え汗をかくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 そして、場面は戻り遠坂が士郎にあらかたの説目を終えた時である。

 

 二人のいた襖の戸が開きそこから、鬼灯とセイバーの二人が入ってくる。

 

「お待たせしました。そちらはどうですか」

 

「こちらは説明を終えた所で返事はまだです」

 

「そうですか、セイバーさんはどうするかはマスターの士郎さんに委ねるそうでここで答えを聞きましょうか」

 

 そう言って、三人の視線は士郎に注がれる。

 

「正直に言って、聖杯戦争とか色々信じられない所はあるし、こんな自分がって思う所はある。それでも手伝える事があって、誰かを救える事が出来るなら是非協力さして欲しい」

 

 そう言った士郎の目は、やる気に満ち溢れており本心から言っているのだと伺える。

 

「この様な素晴らしいマスターを持てて私は誇りに思います」

 

「そう言ってくれると思ってたわ。これから宜しくね衛宮君」

 

「これからお願いします」

 

 こうして、士郎達は聖杯戦争を止めるべく、鬼灯達と行動を共にする事になる。

 

「はぁ、一息ついたらお腹が空いてきたわね。ねぇ、衛宮君何か摘まめる物は無いかしら?」

 

 今の時刻は深夜の3時少し前である。女子高生といえど、こんな時間まで起きてると小腹も空いてくる。

 

「確かに俺も色々あって夕飯は食えて無かったな。えーと、今あるものだとおにぎり位だがそれで良いか?」

 

「良いわねおにぎり!具は鮭でお願い!」

 

「りょーかい」

 

 返事をしたところで士郎は何か思ったところがあるようで遠坂をまじまじと見る。

 

「な、なによ?」

 

「いやなに、学校であんなに優等生なお前が今だと想像出来なくてな」

 

「~~~っ!!」

 

 恥ずかしい所をつかれたのか、遠坂は途端に顔を赤らめさせ見るからに狼狽える。

 

「う、うるさいわね!あれは外行きの顔なのよ、ずっとあんなだと疲れはててしまうわ!」

 

「そ、そうか、聞いて悪かったな」

 

「ふんっ!」

 

「鬼灯さん達も何かリクエストあります?」

 

「よろしいので?なら梅干しでお願いします」

 

「なんでもマスターにおまかせします」

 

「分かりました。セイバー言おうと思ってたんだが、俺の事はマスターとは呼ばないでくれ」

 

「ではなんと?」

 

「名前でいいよ」

 

「では士郎と」

 

 そんなやり取りもありつつ、士郎は台所に下がり炊いていたお米で人数分のおにぎりを作りお茶と一緒に持ってくる。

 

「沢山あるから遠慮無く食ってくれ」

 

「中々綺麗な形ね。衛宮君って意外と料理上手?」

 

「意外かどうかは分からないが、そこそこ出来る方だと思うぞ」

 

「ではいただきます」

 

「ありがとうございます、士郎」

 

 そう言って、四人はおにぎりを食べ始め、皆が美味しく完食する。

 

 そうやって、食休みを挟んだ所でこれからの事を話し出す。

 

「これからどうするかの指示はこれらから出すことで構わないですか?」

 

「自分は魔術とか詳しくないので、それでお願いします。セイバーもそれで構わないよな?」

 

 セイバーは言葉は出さずに首を縦に振って首肯する。

 

「では、あなた達にはもう一組の協力者達と会ってもらいます」

 

「それは一体誰なんです?」

 

「柳洞寺を拠点にしているキャスター組です」

 

 




fgoの信勝が良いキャラすぎて思わず話にぶちこみたくなってしまった(笑)

予告ですが、また時間は戻って鬼灯様が現世に来た辺りを書きます。

話が進まなくて、申し訳ないです


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鬼灯の聖杯戦争⑫

(今回は士郎が鬼灯達と会合する数日前の話です)

 

 時刻は、日付が変わった位の深夜である。場所は冬木の地の柳洞寺と呼ばれる寺へと続く階段である。

 

 普段であれば、こんな時間に人など来ない所に男二人がその階段を登っていた。

 

「白澤様、どうして俺まで行かないといけないんです?」

 

「現世に来るついでに他の用事を片したかったから、その荷物持ちにね。タオ太郎君も息抜きになると思うよ」

 

「そうですかね」

 

 白澤はそう言い放ち登り、タオ太郎は雇われの身であり、昼間に他の用事を済ませ、この寺に寄ったら後は自由にして良いと言われているので強くは言わず引き下がる。

 

「それでこの先に、サーヴァントと呼ばれる亡者が居るんでしたっけ?」

 

「そうだよ。まだ写真でしか見てないけど飛びきりの美人さんがね」

 

 性別が女性ならどんな人でも愛せると言うほどの白澤は、これから美人に会えるということでテンションは高めである。

 

 そんな事を言いつつ、寺への入り口の門が後少しの所まで登った時である。

 

「待たれよ、そこのお二方」

 

 門の側の何も無いところから急に声が聞こえ、すぐにそこから顔が二枚目な着物を着た長髪の男が立ちふさがる。

 

「急に人が!お、お化け!」

 

「タオ太郎君、君もお化けみたいな物だろう?所で君は?僕達はこの先に用があるんだけど」

 

 その光景に桃太郎は驚き、白澤は冷静にツッコミを入れるが、男に道を塞がれた事に少々イラついている様子である。

 

「私はここの門番でね。主にはここをネズミ一匹通すなと言われている。悪いがここで帰ってもらおうか」

 

「どうしてもと言ったら?」

 

「実力で追い返すまでの事」

 

 そう言うと男は、腰に指している刀に手を乗せ臨戦体制に入る。

 

「どうすんですか、白澤様!?」

 

 話をするだけと聞いていた桃太郎は、まさかこんな事態になるとは思っていなかったため慌てふためく。

 

「落ち着きなよタオ太郎君、これを作っておいて正解だったな」

 

 白澤は懐に手を伸ばすと、そこから取り出した物を力一杯に投げつける。

 

 すると、そこから辺り一面に煙が立ち上ぼり何も見えなくなる。

 

「くっ!?小癪な!」

 

「あんたは時代劇に出てくる忍者か!?」

 

 何も聞かされていなかった桃太郎は、男と一緒に煙に巻き込まれ思わず叫ぶ。

 

「この煙には、僕が調合した薬が混ざっていてね、亡者であろうと直ぐに眠ってしまうよ」

 

「不覚!」

 

「そ、その為に用事でよった薬屋で色々と買っていたのか!?」

 

 桃太郎は薄れいく意識の中、森羅万象を司る神獣がこんなセコい手を使うなよと思い、またこんなことになるなら俺要らなかったんじゃねと考えに至る。

 

 煙が晴れた頃には二人の男が地面に突っ伏して眠っていた。

 

「タオ太郎君には、悪いことしたな。起きたら謝っておこう」

 

 特に悪びれた様子も無く、白澤はそう呟きながら門をくぐり寺へと入って直ぐの事である。

 

「全く門番を任せて直ぐに侵入を許すなんて、これは後でお仕置きね」

 

 声がした方向に白澤が目を向けるとそこには、地面から2、3メートル程の上空に浮かび、フードを深く被った女性がいた。

 

你好(ニーハオ)、君はキャスターのメディアちゃんでいいよね?」

 

「……貴方何者です?」

 

 キャスターは一見何か感じる物はあるが、これと言って驚異を感じさせない目の前の青年に、いきなり本名を呼ばれた事に驚き、笑っていた口元を引き締める。

 

「僕の名前は白澤だよ。今日は君と話がしたくてここに来た」

 

「話というのはなんでしょう?」

 

 白澤という名にどこか引っ掛かりを感じながらも、キャスターは話を続ける。

 

「話というのはね、メディアちゃんにはさっさとあの世に帰ってもらって僕とお茶したいなと思ってね。後、連絡先を教えて欲しいかな」

 

「なるほど、大体は理解しました。要するに貴方はあの世の刺客と言った所かしら?」

 

「理解が早くて助かるよ。で、どうだい?聖杯戦争なんて物騒な争いよりも、僕と一緒に遊んだ方が良いと思うな」

 

「私に帰って欲しければ、力ずくで連れて帰る事ね。それに貴方の様な男はタイプではないわ!」

 

 キャスターがそう言うと、魔術で作った魔弾で白澤に攻撃を仕掛ける。

 

「わわっ!」

 

 その攻撃に白澤は慌てながらも躱す。

 

「何とか躱したわね。でも次はどうかしら?」

 

 キャスターは自分の周りに先程と同じ魔弾を作りだす。しかし、それは1個では留まらず10個程作り上げ、並の身体能力の白澤には厳しい様に思われる。

 

「これで終わりよ!」

 

 10個の魔弾は、ギャーギャーとパニクっている白澤に殺到し、土煙をあげる。

 

 やったかとキャスターが思った時である。今だに立ち上ぼっている土煙の中から自分が放った魔弾が打ち込まれてきたのだ。

 

「これは、呪詛返し!?」

 

 咄嗟に返ってきた魔弾を更に跳ね返そうかと考えたが、何やら術の構造が何やら変になっておりうまく返す事ができず、やむ無しに魔弾を新たに作りだし打ち落とす。

 

 土煙が晴れるとそこには、肩で息をして疲れた顔をした白澤がいた。

 

「まさか呪詛返しをしてくるとは、思っていたよりやるようね」

 

 キャスターは感心しているが、この男は森羅万象と言えどもそれは中国の方の道教とかの事だけなので、本来なら西洋の魔術を返す事は出来ない。しかし、この神獣は昔西洋の女性にちょっかいをかけ、色々あり追い回されその時の経験で魔術を多少知っているだけである。

 

 しかも知識はあるが、技術はからっきしなのでパニクって何とか返したのである。そのお陰で術式は滅茶苦茶になりキャスターは返せなかったのだが。

 

「ちょっと、タンマタンマ!話をしよう!話せばわかる!」

 

「問答無用!私には宗一郎様という方がいるので絶対に耳は貸しません!」

 

「え?君ってもしかして旦那さんいる?」

 

「そ、そうですけど」

 

 キャスターの発言を聞くやいなや態度が急に変わった白澤に、キャスターは少し戸惑いながら答える。

 

 すると、白澤はうわーどうしようと一人言を呟きながら考え出す。

 

 そんな無防備な白澤にキャスターは攻撃をぶちこんでやろうかと考えだした時である。

 

「うん、決めた。諦めるよ」

 

「……はい?」

 

「だから僕では力ずくでメディアちゃんをどうにか出来ないし。第一僕は人妻には手を出さないようにしてるんだ。だから帰るよ」

 

「無事に帰らせると思って?」

 

「う~ん、取って置きのを教えてあげるから見逃してくれない」

 

「…………取り合えず聞きましょう」

 

 正直な所、白澤の様な男は苦手でさっさと何とかしたく、見逃した所で自分の驚異には余り無さそうと考え、聞くだけはと話に乗る。

 

「召喚術の、一つなんだけどね……」

 

 そう言って白澤はキャスターに術を教えて、ちょうど起きた桃太郎を連れて帰っていった。

 

「やっと、帰っていった。とても疲れたわ」

 

「お主の様な者を、これ程疲れさすとは中々の者達であったな」

 

「元はと言えば、簡単に浸入された貴方のせいでしょ!」

 

「まあまあ、そう怒るな。せっかくの美人が台無しだぞ?」

 

「あんたに言われても嬉しくないわよ!」

 

 そう言ってキャスターは、浸入された罰でアサシンの動きを封じ、鼻の穴に大量のワサビを詰めこむ。

 

「こ、これは中々」

 

 流石のアサシンも耐えれず、涙を流しながらのたうち回る。その光景を見てキャスターは幾分か満足し、寺へと帰っていった。

 

 そしてキャスターは、早速白澤に教わった術を試すために準備に取りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

「全く、睡眠薬を使うなら使うで前もって教えて下さいよ」

 

「ごめんよ、タオ太郎君。今度何か奢るよ」

 

 白澤は、柳洞寺の帰り道で怒った桃太郎に謝っている所である。

 

「はぁ、それはもういいです。所で良く俺らを見逃してくれましたね」

 

「それは僕が術を一つ教えたからね。快く見逃してくれたよ」

 

「どういう術を教えたんです?」

 

「召喚術だよ」

 

「妖怪とかのですか?」

 

 白澤は一説では妖怪の長とも言われている存在で知ってても可笑しくないと考える桃太郎。

 

「妖怪は妖怪でも、鬼のだよ」

 

「そ、それってもしかして?」

 

「十中八九、あいつが呼ばれるだろうね」

 

 

 

 

 

 

 

 儀式の準備が出来たキャスターは早速呪文の詠唱に取りかかる。

 

 あの胡散臭い男が言うには、現時点で地獄の中で一番怨みを持った鬼が呼ばれるとの事だけど、本当に使えるのかしら?

 

 疑問に思いながらももし出来なければ、あの男には使い魔をつけているので、呪殺でもなんなりしてやろうと考えたときである。

 

 儀式に書いた魔方陣の中心から、煙が立ち上ぼりその中から人影が現れる。

 

 これは想像以上に良い買い物をしたかも知れないわね。煙の中から感じるこの力はアサシンよりも遥かに上のようね。

 

 そして煙が晴れるとそこには、目付きが悪く黒髪で何故か携帯電話を持っており、とても機嫌が悪そうな鬼神様がいた。



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鬼灯の聖杯戦争⑬

聖杯は最早どうでも良かった

 

 

欲しかったものは手に入ったのだから

 

 

生前欲しくて欲しくて堪らなかったもの

 

 

それの為ならどんな事でもした

 

 

家族を八つ裂きにした事さえもあった

 

 

今私が望むのはこの生活が何時までも続くこと

 

 

この幸せに満たされているこの時を永遠に

 

 

しかしそれを脅かす者が存在する

 

 

ならば私は手段は選ばない

 

 

どんな外道な手であっても構わない

 

 

嫌いで嫌いで仕方ない宝具(もの)を使うのも躊躇わない(ためらわない)

 

 

あの人の為ならば何だってしてしましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 この鬼が私の使い魔になりさえすれば、あの厄介な筋肉ダルマ(バーサーカー)も何とかなるかもしれないわね。

 

 キャスターは、とてもテンションが上がっていた。先程までキャスターにとって、一番嫌いと言っても良いほどのタイプの男に言い寄られ、一時は気分が最悪だったのだ。しかし、その男を見逃す代わりにある召喚術を教わった。その術を半信半疑で行ってみると、どうだろうか出てきたのは予想以上に強い力を秘めた鬼神なのだ。それにより不機嫌だったのが掌返しで上機嫌に早変わりしたのだ。

 

 あの男が言うには、ルールの隙間をついて召喚したアサシンと違って、この鬼神には変な制約や代償とかも発生しない、怖い位に美味しい話ね。まあ何かあってもこちらには奥の手がある事だし、ここはさっさと契約をして調伏しちゃいましょう。

 

 キャスターはそう思うや否や、直ぐに調伏の準備に取りかかる。とは言え、ここの調伏とはこちらからの報酬を伝えて、もし働きが良ければ報酬を上増しする等と頑張れば頑張るほど良くなる言い、お互いが了承すれば完了するという簡単に言うとマルチ商法である。

 

「貴方にはこの聖杯戦争のあい

「良くわかりませんが、取り合えず確保します」

 …………はい?」

 

 キャスターが鬼神に対して話しかけた所、鬼神は言葉を遮り、お構い無しと言わんばかりにガチャリ、と音を立てながらキャスターの片手にこの場では不釣り合いな手錠をかける。

 

「……えっ?ちょっ!?ま、待ちなさいっ!!」

 

 予想外の展開にキャスターは一瞬放心状態になり、すかさず目の前の鬼神に待ったをかけるが、その鬼神は相も変わらずに取り合ってくれず、懐から出した携帯で何処かに連絡を取り出す。

 

「このいい加減にしなさい!!」

「あ"?」

「すみませんなんでもありません」

 

 余りにもな対応に頭に来たキャスターは文句をつけるが、鬼神のドスの利いた声と針の様に細く鋭い目付きで睨まれたキャスターは思わず謝ってしまう。

 

「……ですから現世に……はいそうです……」

 

「地獄にまで携帯が浸透しているとは、さすが日本と言った所かしら」

 

 そうして鬼神は何処かと携帯で連絡を取りだし、それを大人しく見ているキャスターは何処か的外れな感想を抱く。

 

 何分か経った後、鬼神は携帯を切りキャスターに向かって話し出す。 

 

「お待たせしました。さああれに乗って、あの世に帰りますよ」

 

 鬼神はそう言いながら、何処からともなくカラスが大量に飛んで来て、その一匹、一匹にヒモが繋がれた椅子を指差す。

 

「まさかの鬼太郎!?」

 

「この状況でそのツッコミが出ますか」

 

「少し乗ってみたい気はするけど、今はそういう時ではないわ!貴方は何なの?ただの鬼神ではないの?」

 

「ただの鬼神って、また凄い言葉ですね。まあいいです。説明しないと言うことを聞かなそうですし。私は簡単に言うと地獄の役人です」

 

 そうして、鬼神こと鬼灯はキャスターに自分の役目を話し出す。それは、この聖杯戦争を止めに来たこと、またキャスター等のサーヴァントをあの世に連れ戻しに来たという事を。

 

「こんな所でしょうか。お分かり頂けましたか?」

 

「ふざけないで!!」

 

 説明を終えた鬼灯に対して、キャスターは怒りをあらわにして反抗する。

 

 そして、そんなキャスターの態度を見て、鬼灯は目を細めて黙る。

 

「折角、夢が叶えられたというのに、ここで邪魔されてたまるもんですか!!」

 

 キャスターは、魔術を使い、己にかけられていた手錠を千切り飛ばし、距離を取る。

 

「どうしてもと言うのであれば、力付くで来なさい!」

 

 そう言うと、キャスターの回りには魔術で作られた高エネルギーを圧縮した球が幾つも漂い、臨戦態勢をとる。

 

「やはりこう成りますか。仕方ありません、気絶させてでも連れ帰りましょう」

 

 鬼灯もキャスターに合わせて拳を構えて、臨戦態勢に入る。

 

 両者がにらみ合い、最初に動き出したのはキャスターからである。

 

 キャスターが上空に手を上げ、それを下に振り抜くとその動きに合わせて、回りに漂っていた魔弾が鬼灯に向かって殺到する。動き遅れたのかそれらは、鬼灯にドドドド、と躱される事無く、音を立てながら命中し、砂煙をあげる。

 やったかと思い、キャスターは砂煙が晴れるのを待つ。  

 

「なっ」

 

 しかし、砂煙が晴れた所には、魔弾を受けた影響で服装等は汚れたりしているものの、当の本人はさしたダメージは受けた様子も無く平然としている。

 

 そして、お返しとばかりに鬼灯は地面を思い切り踏み込み、直ぐ様キャスターの懐に入り込む。余りの速さにその動きに対応仕切れず、鬼灯の拳がキャスターの鳩尾(みぞおち)にめり込み、体がくの字に折れ曲がり後ろの塀まで飛ばされる。

 塀の壁に叩きつけられた衝撃でキャスターは、肺の空気と共に口から血の塊を吐き出す。 

 

「かっ、は!?強いとは思っていたけど、こんなにも出鱈目な強さとは」

 

「これでわかりましたか?抵抗するだけ無駄です。大人しくして下さい」

 

 そう言いながら、鬼灯はキャスターに向かい歩き近づいていく。

 

「嫌よ嫌よ嫌よ!!ようやく望みが叶ったというのにこんな所で諦めてたまりますか!」

 

 キャスターはそう言い放ち、震えながらもなんとか立ち上がり抵抗の意思を見せつける。

 

「先程も気になったのですが、望みが叶ったとはどういう事です?叶えるためにこの聖杯戦争に参加したのでは?」

 

「それを貴方に言って何になるって言うのよ」

 

「内容によると、話が変わるかもしれません」

 

 鬼灯がそう提言すると、キャスターは他に方法は無さそうね、と言いこれまでの経緯を話し出す。

 

「最初、聖杯には「自分の故郷に帰りたい」と願うつもりだったわ」

 

「確か、キャスター……メディアさんは結婚詐欺に合われたんですよね?」

 

「あら、私の事を知っているのね。その表現はどうかと思うけど、大まかには合っているわね。後、私の事はキャスターでいいわ」

 

 そして、キャスターは自身が現世に呼ばれてからの事を話し出す。

 

 初めは、呼ばれたマスターに(つか)えていたのであるが、裏切られて見限りマスターを始末したこと。

 そこから、ランサーに追われ何とか逃げ切るも怪我を負い、魔力もつきかけもう駄目かと諦めかけたこと。

 

「そして、私はあの人に出会ったの」

 

「あの人とは?」

 

「今のマスターの事よ。あの人は、血まみれの私を助けてくれるだけでなく、私の為にマスターになると言ってくれたの。その時私はこの人を愛し、共に暮らしていこうと決めたのよ。願いはそれ以外今は無いわ」

 

「なるほど、そういう事ですか」

 

 鬼灯はそれから何やら一人で考え込む。それに対してキャスターはやはりこのまま、あの世に帰ることになるのではないかと諦めかけた時である。

 

「では、あなたのマスターが亡くなられた後、共に過ごせるかも知れないとしたらどうしますか?」

 

「そんな事が可能なの!?」

 

「まあ、その方に罪が有った場合は刑期が終わってからにはなりますが、それさえ終われば特別に措置しましょう」

 

「嘘では無いとして、何か条件があるんでしょう?」

 

「話が早くて助かります。条件としてはこの聖杯戦争を止める為に手伝って貰うことです」

 

 鬼灯の提案に対して、キャスターは即答でこう返す。

 

「そんな事で宗一郎様と暮らしていけるなら、お安い御用よ」

 

「良かったです。ではこれから宜しくお願いします」

 

「ええ、こちらこそ」

 

 こうして、キャスターは鬼灯と共に行動していく事となる。そして、二人でこれからどう動くべきか話し合っている時である。

 

「そういえば、気になっていたのですが、西洋出身の貴女がなぜ、丑の刻参りを知っていたので?」

 

「ああそれは、少し前に白い服を着たチャラくて頭に来る男が来て、見逃す代わりに教えて貰ったのです」

 

「……名前はわかりますか?」

 

「確か、白澤と言ったかしら?」

 

「やはり、あいつか!!」

 

 その男の名を聞くや否や、鬼灯の回りからよからぬ邪気的なものが漂い始める。

 

「し、知り合いだったのね」

 

「本当にあいつは余計な事ばかりする!!結果的には良かったものの。今度会ったら絞めるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「はっくしょん!!誰か可愛い娘ちゃんが僕の噂してるのかな?」

 

「本当にあんたって気楽で良いっすよね」



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鬼灯の聖杯戦争⑭

「まさか、柳洞寺に他のサーヴァントが居るとはな」

 

「何か問題があるのですか?士郎?」

 

「そこには俺の友達が居るからな、それで少し心配になったんだ」

 

「ああ、確か生徒会長の家ってここだったわね」

 

 衛宮士郎がセイバー達と出会って次の日の夕方。昨夜はもう遅いということで、一旦解散し鬼灯達と協力関係にある、キャスターが拠点にしている柳洞寺で再び集まることになった。

 

 そして士郎、凛、セイバーの三人は、昼間学校が終わってから合流し柳洞寺に続く石段を登っている所である。

 

 セイバーは、生身で行動しないといけなく、鎧姿で動き回る為にもいかないので、遠坂に頼んでお古を借りている。

 

 何でも、魔術師として未熟である士郎ではセイバーを霊体化させる事は出来ないのだとか。

 

 ちなみにアーチャーは、セイバーと違い霊体化出来るため姿は見えない物の存在はしている。

 

 余談だが、学校にマスターである、士郎を敵から守る為に何としてでもセイバーが付いて行こうとしたが、霊体化出来ないので、説得に苦労し遅刻しかけたんだとか。

 

「そういや、一成と遠坂って余り仲が良くなかったよな」

 

「あれは、向こうが一方的に敵視してるだけよ。私は別に悪いことはしてないわ」

 

「詳しくは聞いていないが、部費の件で遠坂にはめちゃくちゃにされたと愚痴っていたぞ」

 

「あれは、文化部ばっかり贔屓(ひいき)にしていた生徒会が悪いわ」

 

 会話に上がっている一成とは、凛が言っていた様に二人が通っている学校の生徒会長である。士郎の友人で性格は真面目だが、融通が効かない訳でもない。噂では女嫌いであり、その原因が今話している様な暗闘を、凛と何度もした為だとか。といっても二人がぶつかり合うのは、お互いが認め合うからこそだったりする。

 

「そうかもしれないが、物には限度ってものがな……」

 

「はいはい、善処するわよ」

 

「はぁ……、話は変わるが遠坂はキャスターと会った事はあるのか?」

 

「それが私も初めてなのよね。アーチャーは先に会ってるんだけどね」

 

 そんな事を話し合いながら、石段の頂上があと少しという所に差し掛かった時である。

 

「二人とも下がって!」

 

 会話には余り参加せず、二人の少し後ろにいたセイバーは急に二人の前に飛び出し、警戒体制を取る。

 

「どうしたんだ、セイバー!?」

 

「微かですが、そこの門の辺りから殺気がしました」

 

「嘘っ、敵!?」

 

 そして、セイバーが言った門の辺りに視線が集まった時、何も無いところから急に男が現れる。

 

「ほう、この気配に気付くとはな。面白い」

 

「貴方はサーヴァントですね?」

 

「いかにも、クラスはアサシン、佐々木小次郎。キャスターの命によってここを守っている」

 

「名乗られたからには、こちらも名乗り返すのが騎士の礼ですね」

 

「いや、いい。話はキャスターから聞き及んでいる。なに、どんな者か知りたくてな。すまない」

 

 そう言うと、アサシンは殺気を解き門の中央から退いて、道を開ける。

 

 士郎と凛はそれを聞くと、安堵のため息をつき、セイバーは臨戦体制を解いた。

 

「そうでしたか。見たところ貴方は名のある剣豪の様ですね」

 

「それほどにも無いさ。お互い今は協力関係にはあるが、一度剣を交えて見たいものよ」

 

「そうですね。私も貴方の剣技には興味があります」

 

「では、機会があれば、是非」

 

「ええ、望む所です」

 

 そんなやり取りも有りつつ、三人は柳洞寺の敷地内に入り、話が通っていた様で、掃除をしていた住職に案内され、部屋に入る。

 

「失礼します」

 

 そう言いながら入ると、部屋の中には昨晩出会った鬼灯が座って待って居た。

 

 辺りを見渡すと他にも、ローブを被った怪しげな女の人や、黒いジャージを着て気怠そうに横になっている少女、綺麗に正座している少年がいた。

 

「ようこそ。そこにある座布団に座ってください」

 

 言われた通りに三人は出された座布団に座る。

 

「どうも、昨日振りです」

 

「あれから何かお変わりは?」

 

「特には無かったですけど、さっきそこの門の所でアサシンの佐々木小次郎に絡まれました」

 

「……またですか」

 

 鬼灯は顔に変化は無いものの、どこか呆れた様に士郎の報告に対して返す。

 

「またですか?」

 

「ええ、私も一度剣を交えてみたいと、絡まれたものでして」

 

「な、なるほど」

 

 あの男は、見た目が少女であるセイバーを強者と見抜きちょっかいを出してきていたので、見るからに強いというかヤバそうな気配を放つ鬼灯に対して、絡まない訳ないかと士郎は口に出さずに納得する。

 

「佐々木小次郎って、あの巌流島ので良いんですよね?」

 

「あの人はああ言っていますが、偽物ですよ」

 

「偽物!?」

 

「余り話したくは無いですが、ややこしいですし、説明しときましょうか」

 

 鬼灯曰く、佐々木小次郎を名乗る彼は、剣技については本物と遜色変わらない腕前らしいのだが、間違いなく偽物であるとのこと。

 

 何故こんな佐々木小次郎と名乗っているのかというと、地獄で話の事らしい。ある時、本物の小次郎が地獄の強者を巡って闘いたいと思っていた。

 

 しかし、刑場を逃げたしたのがバレると連れ戻されるという事で中々実行できていなかった。しかし、そこに自分と同じ流派で同じ位の強さであるアサシンと会い、これは使えると思った本物の小次郎は何とか説得し、自分の替え玉にしたらしい。

 

 そして、地獄で佐々木小次郎を演じていたアサシンはその時に聖杯に呼ばれたので、そのまま小次郎を名乗っているとの事。

 

「……そんな理由だったんですね」

 

「ええ、恥ずかしい話です」

 

 余談だが、見抜け無かった担当の鬼は減給で、本物の小次郎は「武蔵が女だと!?」と、ショックを受けていた所を即刻見つけ出され、鬼灯お気に入りの、亡者一人の為にその人にとって一番辛い様にオーダーメイド出来る、弧地獄行きになったとか、ならなかったとか。

 

 そんなこんなで、正座していた少年が皆の前にお茶を出し、アーチャーも姿を見せ、鬼灯が頃合いと見て話始める。

 

「では、まずは紹介からしましょうか。右からキャスターのメディアさん。亡者の織田信長さん。源義経さんです。こちらは皆さん本物ですよ」

 

「なんでさ!?」

「なんでよ!?」

 

 それを聞いて、驚愕を受けた士郎と凛は同時に思わず叫ぶ。まだ、キャスターと義経は理解できる。だが、信長は何処からどう見ても、自分達より若い少女(しかもジャージ姿)にしか見えないのだから。

 

「ほ、本当にあの織田信長なんですか?」

 

「何じゃ?わしを疑っておるのか?失礼な奴じゃのう」

 

 信長と呼ばれた少女は、士郎に言葉に対して不機嫌になり、睨み付けてくる。

 

「すみません、てっきり男性だと思っていたので」

 

「ああ、なるほどのう。あの時代は、女で城主は何かと不利だったからな。表舞台は男の影武者を出して、裏でわしが命令してたのじゃ」

 

「そういうことだったんですね」

 

 その話を聞き本当に歴史ってねじ曲げられているんだなと士郎は思った。

 

「その話とても良くわかります」

 

「おお、わしの苦労を分かってくれるか!」

 

「ええ、私も同じ境遇ですから」

 

 セイバーが信長に対して共感し、盛り上がる二人。

 

 そういや、セイバーってどんな偉人なんだろうか?聞いても教えてくれなかったんだよな。俺が未熟な魔術師ってことで、簡単に相手から心とかを読まれて、真名がバレるとかで。納得はしているが、気になる事には変わらないな。

 

 それから士郎がセイバーの正体を気にしつつも、自己紹介が終わり、皆が情報を出し合い話は進んでいく。

 

「ではセイバー、アーチャーさん達は学校に結界を張ったとされるライダーへ、私と信長さんは冬木市郊外にある城を拠点にしているバーサーカーへ、キャスターさんと義経さんは潜伏しているランサーともう一人のサーヴァントの捜索という事で皆さんよろしいですか?」

 

 鬼灯が出た話をまとめ、周りに確認を取る。概ね全員が肯定で顔を頷かせる中、一人が手を上げる。

 

「セイバーさん、何か問題でも?」

 

「役割自体に不満等はありませんが、潜伏しているもう一人のサーヴァントとは?」

 

「言ってなかったですね。それは、前の聖杯戦争に参加していた、アーチャーのギルガメッシュです」

 

「なんですって!?どうして彼が!?」

 

「原因はわかりませんが、何故か前の聖杯戦争が終わっても元には戻らず行方不明でして、最近尻尾が掴めどうやら現世のここ冬木市にいる様です」

 

「そう、なんですか……」

 

 セイバーはそれから顔を少し俯かせ、見るからに狼狽しているのが分かり、思わず士郎が話しかける。

 

「セイバー?そのギルガメッシュって奴を知っているのか?」

 

「ええ前回の聖杯戦争は私も参加しており、奴とは戦い結果としては勝ちました。しかし次戦うであれば勝てるかどうか」

 

 そして、最後に真名は今知りましたが、と付け加える。

 

「そんなにか……」

 

 昨晩あの人間離れの動きをしていたランサーと互角以上に渡り合っていたセイバーにここまで言わせる相手に士郎は思わず戦慄する。

 

「話はもう他にある方はいませんか?…………では、各自行動をお願いします。今日はこれにて解散です。お疲れ様でした」

 

 鬼灯はそう締めくくり話し合いが終わる。各自各々行動し、キャスターと義経は捜索範囲の話し合い、信長は「疲れたのじゃ~」と言い、寝転がっている。

 

 自分もこれからの事を話し合おうと遠坂に話しかけようよした時、鬼灯が自分に対して話しかけてくる。

 

「衛宮さん、少し良いですか?」

 

「どうしました?」

 

「これを受け取って貰いたいのです」

 

 そう言うと、鬼灯は士郎に少し分厚い封筒を手渡す。士郎が中身が気になり失礼を承知で確認する。

 

「これ、お金じゃないですか!それもこんなに!どうしてまた、受け取れないですよ!」

 

「これは私は関係ありません。衛宮切嗣さんからの物です」

 

「じいさんだって!?」

 

 思わぬ人物の名に士郎は驚き、余り会話に興味を示していなかったセイバーも会話を聞こうと近寄る。

 

「ええ、昨晩あの後地獄に戻って切嗣に会ったら、これをと」

 

「色々と聞きたいですけど、どうしてまた?」

 

「何でもバカ食いするセイバーさんの食費だそうです」

 

 パリィッ!

 

 音のした方向を見ると、セイバーが飲み干していた手持ちの湯呑みを割る音であった。

 

「…………どうしたセイバー?」

 

「何ですか士郎?」

 

「何って、ひょっとして怒ってる?」

 

「いえ、そんなことは全くありませんよ」

 

 にこやかに返答するセイバーは、目が笑って無くとても恐いものだった。切嗣の事を知っているのかと聞きたかったが、気落とされこれ以上聞けずに終わった。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ行動は明日だな」

 

「ええ、明日の放課後仕掛けてやりましょう」

 

 それから遠坂とライダーに対して話し合い、こんなものだと柳洞寺から帰ろうとした時、士郎はキャスターに呼び止められる。

 

「セイバーの坊や、これを」

 

 そう言ってキャスターは士郎に大きめの紙袋を渡してくる。中を見てみると、白のドレスが入っていた。

 

「なんです、これ?」

 

「私の手作りでね、セイバーに似合うと思うのよ。そして出来たらで良いんだけど写真を撮ってほしいのよ。言い値で買うわ!」

 

「か、考えておきます」

 




時系列がごちゃごちゃで読みにくくなってしまい申し訳ないです。


メルトリリスに諭吉さんが8人逝ってしまった……(出たとは言ってない)
最近は茨木ちゃんにその鬱憤をぶつける毎日です


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鬼灯の聖杯戦争⑮ 二月三日

 柳洞寺での話し合いを終えてからは、士郎、凛、セイバーの三人で帰っている所である。

 

 時間はまだ六時前であるが、二月という事もあって辺りは既に日は落ち、冬の寒さが身に染みる。

 

 最近は暖かくなってきたと思っていたが、やっぱり暗くなると寒いな。夕飯は何を作ろうか、思わぬ臨時収入もあったことだし……。今日は少し豪勢にしてみるか。

 

 そんな事を思っていた時である。自分より少し前を歩いていた遠坂が振り返り自分の方を見てくる。

 

「一旦家に帰って、必要な物を揃えたら士郎の家に行かせてもらうわ。今日からよろしくね。取りあえず今日の夕飯は士郎に任せるわ」

 

「了解した。…………?今なんて?」

 

 どういう事だ?今聞き間違えでは無ければ、遠坂がこれから家に来る的な事を言ったのか?

 

「わからない?今日から士郎の家に下宿させてもらうと言ったのだけど」

 

「なんでさ!?どうして遠坂が家に?」

 

「おかしな事かしら?これからお互いに協力する関係だし、いつ他のサーヴァントに襲われるか、分かったものじゃ無いでしょ。それなら二人いつでも近くにいた方がいいじゃない」

 

「それは確かにそうかも知れないが……」

 

 遠坂の言っている事は確かに正しい。しかし、学校のアイドル的な存在である遠坂と一時的とはいえ、同じ屋根の下で暮らすというのは、色々と思うことがある。

 

 しかも今はセイバーがおり、昨晩は隣の部屋のセイバーの寝息が気になり過ぎたため余り寝れておらず。本当にこれ以上はと思い悩む。

 

「煮え切らないわねぇ。ねえ、セイバー?貴方もその方が良いと思うわよね?」

 

「ええ、凛の提案は正しい。是非そうするべきだ」

 

 言い淀んでいた士郎に痺れを切らした遠坂は、セイバーを味方に付け更に迫ってくる。

 

「ああもう分かったよ、好きにしろ!」

 

 美少女二人に真正面から見られ、言い寄られた士郎は視線に耐えきらず、物の数分で折れてしまった。

 

 そんな俺の様子を見て、遠坂がニヤニヤしていた時である。

 

「ねえ、お話は終わり?」

 

 その場いた三人の物ではない、幼い声が響く。

 

 その様に呼びかけられ、士郎と遅れて凛とセイバーが見た、坂の上には見知らぬ人影が二つ。

 

「なっ!?」

 

 それを見て、三人共、大小差はあるにしろ皆が同様に驚愕し歩みを止める。

 

 その人影の一つは、まだ小学生と思われる背丈で紫色のコートと帽子を付け、雪よりも純白な可愛らしい少女。

 

 そしてもう一つが余りにも異様だったのだ。背丈はゆうに二メートルを超え、肌は黒く鉛色、この寒い日であるというのに上半身は裸で身動ぎ一つしない。彫刻と言われた方が信じられる程である。

 

「……バーサーカー」

 

 冷や汗を流しながら、遠坂が呟く。

 

「あれが!?」

 

 士郎も鬼灯達から情報だけは聞いていた。今回の聖杯戦争で一番危険であるとされるサーヴァント。バーサーカー、またの名をヘラクレス。

 

 こうして対峙しているだけで、濃厚な死の気配が満ち、身動き一つ取れなくなる。

 

「こんばんは、お兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね」

 

 この状況で少女は、微笑みながら言った。その無邪気さに、背筋が寒くなる。

 

「やば……。聞いてた以上に桁違いだ」

 

 遠坂はそう溢し、背中越しだというのに、彼女が抱いている絶望が俺の方に伝わってくる。

 

「ふぅん、あの神父が言ってたことは本当だったんだ」

 

 俺達に聞こえるか聞こえないかの声で呟いた後、少女は行儀良くスカートの裾を持ち上げて、とんでもなくこの場に不釣り合いなお辞儀をした。

 

「はじめまして、リン。わたしはイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えば分かるでしょ?」

 

「…………」

 

 遠坂は、何も喋らずにイリヤと名乗った少女に睨み返す。

 

 そんな遠坂の反応が、気に入らなかったのか、少女は不機嫌そうに呟く。

 

「はぁ、やっぱり私の事とかも伝達済みのようね……。まあいいわ。やっちゃえ、バーサーカー」

 

 少女は歌うように、背後の化物に命令した。

 

 すると今まで身動き一つしていなかった、バーサーカーと呼ばれたモノが、坂の上からここまで、何十メートルという距離を一息で飛んで落下してくる。

 

「士郎、下がって!」

 

 セイバーが駆け、バーサーカーの落下地点に入る。

 

「っ……!」

 

 バーサーカーの岩の塊の様な大剣を、セイバーは見えない剣で受け止め、それにより辺りの空気が震動する。

 

「くっ!」

 

 口元を歪め、何とか初撃を防いだセイバーだったが、すかさずバーサーカーが鋭い一撃を放つ。

 

 二人の得物がかち合い、辺りに轟音が鳴り響く。二回目の打ち合いは、セイバーの敗北で終わった。バーサーカーの化物じみた怪力に、受け止めたものの、後方に飛ばされる。

 

「セイバーっ!」

 

 マスターである士郎は、サーヴァントである彼女に対して何もすることが出来ず、ただ見ることしか出来ない状況に腹をたてる。

 

 そして、追い打ちをかけようとバーサーカーが体勢を崩したセイバーに駆け寄ろうとした時である。

 

 何処からともなく、光の弾道がバーサーカーに降り注ぎ、煙を上げ、その歩みを止める。

 

「いいわよ、アーチャー。その調子でやっちゃいなさい」

 

 どうやら、遠坂がアーチャーに命令を出し、ここから遠い所でバーサーカーを狙撃している様である。

 

 なるほど、あのアーチャーは初めて見たときは、あのランサーと互角に打ち合っていて勘違いしていたが、アーチャーが真に力を発揮するのはやはり、遠距離からの狙撃なのだろう。

 

 アーチャーに援護して貰いながらなら、どうにかできる。その様に士郎と凛がなんとか活路を見いだし、希望を持ち出したときである。

 

 それは、少女の声によって書き消される。

 

「退屈な横槍は無視しなさい。アーチャーの攻撃なんて、あなたの宝具を越える事なんて出来ないわ」

 

 煙が晴れた所には、少女の言葉通りに傷一つ無く立っているバーサーカー。

 

 少女はもう飽きた様子でバーサーカーに命令する。

 

「もういいわ、バーサーカー、潰しちゃいなさい」

 

 少女の言葉に合わせて、怪物はまた動きだし、セイバーを潰しにかかる。

 

 バーサーカーの怒涛の攻撃に、セイバーはなんとか対応するが、凌ぐのが一杯の様で、徐々に押されていく。

 

 遂に、耐えきれなくなったセイバーは、またもや飛ばされ、頭からは血を流し、方膝をつく。

 

 そんなセイバーにバーサーカーは、止めを刺す為に大剣を振り上げる。

 

 セイバーもその場にいた誰もが、最早これまでかと思い、士郎はなんとかセイバーをバーサーカーの大剣から逃がせないかと駆け寄ろうとした時である。

 

「なっ、なによあいつ!?」

 

 少女はいつの間にか、バーサーカーに近寄っていた人物に声を上げ驚愕する。

 

 これが、凛であったなら何をしても無駄だと嘲笑ったであろう。これが、士郎であったなら何故にそんな無謀な事をするのかと落胆したであろう。

 

 例え誰であったとしても、少女は自分のサーヴァントが最強であると信じているので、安心していただろう。

 

 しかし、その場に現れた人影は違った。その背中に鬼灯が描かれた黒い着物を着た男を見ただけで、少女は悟った。あれをなんとかしないヤバイと。

 

「バーサーカー!!先にあの近くの男をやっちゃいなさい!!」

 

 少女は、先程の余裕の態度とは、打って変わり、焦りながらバーサーカーに命令を出す。しかし、その命令もむなしく、バーサーカーが行動を起こす前に、男は手に持っていた金棒を、空いていたバーサーカーの胴体にフルスイングし吹き飛ばす。

 

 バーサーカーはそのまま成すすべなく、九の字の様に、正に字の如く体をもみくちゃにさせながら、近くの森へと数十メートル程、木をなぎ倒しながら、飛ばされる。

 

「なっ!?」

 

 その余りにもな光景に、少女を含め全員が驚愕する。

 

 そして、バーサーカーを吹き飛ばした男は喋り出し、膝を付いていたセイバーに手を差し出す。

 

「すみません。こちらで、バーサーカーを誘き寄せる罠を幾つか張っていたのですが、見向きもせずにそちらに向かわれるとは、対応が遅れました」

 

「…………!い、いえ。窮地を救っていただき、感謝します」

 

 呆気に取られていたセイバーは、少し対応が遅れた後、鬼灯の手を取り、立ち上がる。

 

 士郎と遠坂は、もうこの人だけでいいんじゃないかと内心抱いた時である。少女の悲鳴の様な叫びが響き渡る。

 

「う、嘘よ!魔力も何も込められていない、ただの打撃でバーサーカーの命が一つ削られるなんて!?しかもあいつ、サーヴァントじゃ無いじゃない!」

 

 少女は、顔を青ざめ、存在してはいけない化物を見るかのように鬼灯を睨み付ける。

 

「…………。バーサーカーのマスターさん。無駄な抵抗は辞めて大人しく降伏してくれると助かるんですが」

 

 その様に、鬼灯は少女に降伏するように促すが、少女はそれに対し、見た目相応に怒りながら返答する。

 

「うるさーいっ!!誰がするもんですか!神父が言ってたのは、貴方の事ね!いいわ、来なさい、バーサーカー!」

 

 少女がそう叫ぶと、バーサーカーは直ぐに少女の元へと駆け寄り、そのまま少女を持ち上げ自分の肩へと乗せる。

 

「待ちなさい!話はまだ終わっていませんよ!」

 

 逃げる体勢に入ったと気付いた鬼灯は、少女を止めるために近寄っていく。

 

「ベーだっ!誰が待つもんですか!飛びなさい、バーサーカー!」

 

 バーサーカーは、少女の命令に合わせて直ぐにその場で跳躍し、離脱していく。

 

 流石の鬼灯も追いかける気はないらしく、舌打ちの様な音が聞こえた後、こちらを向き近寄ってくる。

 

「危ない所を助けてもらい、ありがとうございました」

 

 遠坂が鬼灯に感謝を告げ、士郎もそれに連なり頭を下げ感謝を告げる。

 

「いえ、感謝される様な事は何も。それよりすみませんでした。こんな事になる筈では無かったのですが」

 

 と言い、今度は鬼灯が頭を下げてくるが、士郎と遠坂は慌てて頭を上げるように促す。

 

 そんなやり取りをした後鬼灯は、今回の経緯について話し出す。

 

 本来であれば、キャスターの協力の元バーサーカーが拠点としている城の回りで、使い魔でちょっかいをかけ、出てきた所を叩く予定であったのだ。

 

 しかし、実際は気づいているのか、いないのかは分からなかったが、それらを無視し一直線に士郎達の方へと来た為に対応が遅れたとの事。

 

 それらをまとめ、話し終わった後。鬼灯は少し考え、士郎に対してこう提案してくる。

 

「どうやら、バーサーカーのマスターは貴方に対して執着している様ですね。……ふむ。遠坂さんも貴方の所に行くようですし、今日から私もバーサーカーからの護衛の為にやっかいになります」

 

 士郎は、それに対して少し驚いたが、今さら一人増えた所で変わらないかと思い、またいつバーサーカーに襲われるか分からない為に快く了解する。

 

 そうやって、衛宮邸へと皆が歩みだした時である。遠坂が、鬼灯に対して問いかける。

 

「鬼灯さん、バーサーカーのマスターとはもう会っていたのですか?」

 

「いえ、あれが初めてですが、どうしてです?」

 

「あの娘、……イリヤがなんだか貴方の事を知っていた口ぶりでしたので」

 

「そういえば、言っていましたね。神父がどうとかと」

 

「神父…………まさかね……嫌でもあいつなら……」

 

 遠坂は何か思い当たりがあるのか、その場で一人考え込み、一人でぶつぶつ話し出す。

 

「まあ、外は寒いですし、一旦士郎さん宅に行ってから続きを話しましょう」

 

 そんな遠坂を見てから、鬼灯はそう発言し、誰も反対せずに家路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 ここは、ある建物の一室。時刻は夜なので当然なのだが、窓は全て厚いカーテンで覆われ、部屋の照明も最低限な為とても暗かった。

 

 そんな所に男と机を隔てて、男女の三人が話し合っていた。

 

「で?話って何なの?わざわざ来たから、家に入れたけど。これって本来ルール違反じゃないの?」

 

 女がいる側の、男が疑いの目をもって話しかける。

 

 それに対しもう一人の男は、笑みを浮かべながら返答する。

 

「本来の聖杯戦争通りであるならばな。しかし、今は緊急事態なのでね、その限りではない」

 

「……?それってどういう?」

 

「こちらの情報網によると。不穏分子がこの聖杯戦争に紛れ込み、本来起こっては行けない事が起きている」

 

「…………」

 

 男は黙りながら、話の続きを促す。

 

「その不穏分子は、次々にサーヴァントを味方に付け勢力を増やしている」

 

「なんだよそれっ!?めちゃくちゃじゃないか!」

 

 話を聞いていた男は、咄嗟に立ち上がり声を荒げる。

 

 しかし、もう一人の男はそれに対して気にした様子も無く、話を続ける。

 

「まだその程度であるならば、今までも一時的に互いに協力するという事例はある。故にそれ事態は、別に問題ではない。しかし、次に起こった事が問題なのだ」

 

「……なんだよ?」

 

「不穏分子の勢力に入ったサーヴァントの内、二騎が聖杯とのラインが切れ、あろうことか未だに現界しているのだ」

 

「なんだよそれ!?ヤバイってレベルってもんじゃないだろ!?」

 

 その反応に、男は意外と頭の回転は速いのだなと、目の前の男の評価を少し上げて話を続ける。

 

「そうだ。原理は未だに調査中だが、これは聖杯の力無しでサーヴァントを現界出来ると言っても過言ではないだろう。最悪、新たなサーヴァントを召喚する可能性だってある」

 

「その話が本当なら、どうやってそんなチート連中に勝てばいい訳!?」

 

 ヒステリック気味に叫ぶ男を、もう一人が「まあ、待てここからが本題だ」と言い、落ち着かせる。

 

「こういった不測の事態に対して、私は監督権限を持って、懐柔されていない陣営で同盟を組むように提案する」

 

「……他はちゃんと協力するのか?」

 

「それに関しては問題ない。既にランサー陣営は、快く受け入れてくれて、バーサーカー陣営は、保留だったのだが先程どういう風の吹き回しか、同盟を受け入れてくれた。後は、君達ライダー陣営だけだ」

 

 そして、男は最後に不穏分子を撃破した時は、報酬も出すつもりだと付け加える。

 

 それから、問われた男は即答でこう返す。

 

「ならこちらとしても、この話は断る理由もない。それでいいだろ?ライダー?」

 

「はい、私はワカ……いえマスターである貴方に従うだけです」

 

「そうだろう…………っておい!今お前ワカメって言いかけなかったか!?今までシリアス的な雰囲気でやってたのに、いきなりぶち壊すなよ!」

 

 その様に、少しメタ的な発言をして騒いでるワカメを気にも止めずに、此度の聖杯戦争の監督役である言峰綺礼は、良い返事を聞けて何よりだ、と言い残して部屋を後にした。




今さらですが、鬼灯様は基本慢心しないAUO並みにチートです。


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鬼灯の聖杯戦争⑯ 二月三日 その2

 悪魔暦十万二千四年、日本地獄から、サタン王の右腕がEU地獄へと帰国した。彼の名は、蠅の王と書いてベルゼブブ。エリート中のエリートである彼は、聖杯戦争を止める人員を連れて来るために活動中なのである。

 

 EU地獄に着いた彼は、直ぐ様普段自分が働いているサタン王の城の自室へと足を運ぶ。

 

 長時間飛行機に乗っていたので、どこか喫茶店でも入って寛ぎたいと思い、足を向けかけた彼であったが、日本地獄を出る前に、鬼灯から一分、一秒でも迅速に行動する様に釘を刺されていたため、泣く泣く断念する。

 

 バレる訳が無いとは思ったが、彼にとって鬼灯は気に食わない奴なので、少しでも早く仕事を済ませて、見返してやろうと思い、自分の与えられた仕事である、人材選びを開始する。

 

 それから、数日が経過した時。ベルゼブブの書室で大声が響き渡る。

 

「あーっ!もう決まらねぇーっ!」

 

 声の主は、当然の如くこの部屋の主である、ベルゼブブの物である。彼は、大声を出しながら座っていた状態から頭かき回しつつ乱暴に立ち上がり、その衝撃で机の上に積まれていた書類等が部屋にバラまかれる。

 

「脱走した亡者は、神代の魔女やアイルランドの大英雄。挙げ句の果てには、ギリシャ神話の大英雄と来たからにはこちらも対抗としてそれなりの人物を選ぼうとしたが……」

 

 そこまで言ったベルゼブブは、拳を固く握りしめ。そのまま今の自分の感情を乗せ、勢いよく机を叩く。

 

 結果的に言うと、彼は未だに連れていく人材を決めきれていなかった。しかし、彼の名誉の為に言うと、決して怠けていた訳でも、作業効率が悪かった訳では無かったのである。サタン王の右腕でEU地獄のNo.2であることを普段からプライド、もとい誇りにしている彼は、言うだけの事だけあって優秀である。何故そんな彼が、手間取っているのかと言うと、原因は国際条約にあった。

 

 ベルゼブブは、先程言った通りに逃げ出した亡者は、どれもが、油断ならない者達であった為に、こちらもと誰もが知っているであろう大英雄の数々をピックアップし、連れていこうとしたのだ。しかし、国際条約では半神半人等の英雄達を国外、しかも現世に連れていこうとするのであれば、その手続きはとてつもない手間がかかってしまい、とてもじゃないが、どれだけ早く行動しても、半年はかかるという馬鹿げた状況であった。

 

 聖杯というチートアイテムで非合法で呼び出された者達は除くとして、官僚という立場である彼は、どうしても規律に従わないといけない。その為に、誰もが知る様な英雄を連れていく事は出来ず、しかしそれ以外となると、どうも決定打になるような者はおらず、その現状にベルゼブブは大声を上げたのである。

 

「くそっ!このままだとアイツ(鬼灯)に無能のレッレテルを張られてしまう。それだけは避けないと!」

 

 そんな事をぶつぶつ呟きながら、なにか妙案は浮かばないかと腕を組みながら、部屋を歩き回っていたときである。

 

 ドアが、コン、コンとノックが響き自分に誰かが会いに来たことを告げる。ベルゼブブは、いつもの癖で、どうぞ、と言いかけたが、先程自分が立ち上がった時になった、部屋の状況に気づき、外で待っている者に少し待て、と叫ぶ。

 

 それから慌てて、散らかった書類等を片付け、少し息を切らしながら席に着き。手を机の上で組み、その上に少し頭を乗せ、格好を付けてから、入ってよいと告げる。

 

「失礼するわ」

 

 そうして入ってきたのは、レディ・リリス。彼女は、ベルゼブブの妻である。しかし、彼女の本分は誘惑であるためか、どんな男でもまず誘うという、とんでもない性格であり、夫であるベルゼブブに結婚するときも、この性質は変わることが無いと告げ、了承した形で今の夫婦関係にあるとか。

 

 そんな彼女が、彼の所に仕事中でも訪れて来るのは、別に珍しい事でも無いので、彼はいつも通りに対応する。

 

「どうしたリリス、また小遣いか?この間カードを渡したばかりだろ?もう限度額一杯まで使ったのか?」

 

「それもそうだけど、今日は違う件で来たの。私の友達が是非貴方に会わせて欲しいって、せがまれちゃって」

 

 リリスが少し気になる事を言った気がするが、ベルゼブブは無視して話を続ける。

 

「俺に?珍しいな。しかし、今仕事が立て込んでいてな。悪いが後日でも大丈夫か?」

 

「それが貴方の今の仕事に関係あるそうよ」

 

「なに?」

 

 そこでベルゼブブは、眉をひそめる。

 

(俺の仕事の事を知っている?……まあ色々と掛け合ったから、情報が多少漏れるのは仕方ないか)

 

 別段、秘密裏に動いていた訳では無かったので、考えはそこまでにする。そして現在作業が滞っていた為に、それなら会ってみるかと思ったベルゼブブは、ここに連れてくる様、リリスに伝える。

 

 それから、そこまで時間がたたない内に、リリスが客人を連れて帰ってくる。

 

「おまたせ、こちらが貴方に会いたがっていて、私が参加してる『世界悪女の会』の会員である。ステンノとエウリュアレよ」

 

 そう、彼女が紹介すると、扉から女性、いや少女の外見をした二人が入って来て、入れ違いにリリスはごゆっくりと告げ、出ていく。

 

 その二人の外見の、特徴を言うとすれば、とても美しくて可愛らしく、それでいて華奢で可憐であり、思わず守りたくなる様な魅力があった。そして大きな特徴としては瓜二つの双子であるようであった。

 

 ステンノとエウリュアレと呼ばれた二人の少女は、ベルゼブブの前まで来ると、礼儀正しくお辞儀をして挨拶する。

 

「初めまして、ベルゼブブ公。私は長女のステンノと言い、こちらは次女の(ステンノ)と申します」

 

「まさか、女神が俺に会いに来るとは……。今日はどういったご用件で?」

 

 そう言って、尋ねるベルゼブブに対し、二人の少女は同じ様にクスクスと笑い、ステンノが答える。

 

「フフフ、貴方なら私達が何故ここに来たのか解るのではないかしら?」

 

「……やはり、末の妹さんの事で?」

 

「察しが良いのね。頭がいい人は好きよ。そうよね(エウリュアレ)?」

「そうね(ステンノ)

 

 そう言って、笑い合う少女達。二人は、聖杯戦争にライダーとして参加しているメデューサの姉達である。

 

 ギリシャ神話で有名なゴルゴンの三姉妹の内の二人。元々は、オリュンポスの神々より古い土着の神で、大地に関係の深い神性である地母神だという。

 

 屈託のない仕種、こぼれるような笑顔、無垢な言動。男の夢見る理想の少女。男は名を呼ばれただけで名誉に身体を震わせ、命を賭した守護を約束するという。

 

 しかし現実は、二人が気に入った人間が自分たちに翻弄され、困惑して破滅する様、……よーするにジタバタする様を見るのが三度の飯より好きなのである。数多くの勇者が、無理難題を押し付けられ、泣く泣く故郷に帰っていったという。

 

 ベルゼブブは、名前は知っていたが、そういった彼女達の性格等は知らなかったために、妹の事が聖杯戦争という訳の分からない戦いに身を投じている事が心配何だなと考える。

 

「妹さんの事が心配で来たのですね?安心して下さい、俺が必ず連れ返しますよ」

 

「「別にあの娘の事が心配で来たわけではないわよ?」」

 

「え?」

 

 ベルゼブブは二人に揃って違うと言われ、予想外の事で、固まってしまう。

 

 そんな様子のベルゼブブに構うことなく、ステンノは話を続ける。

 

「なにか勘違いしてるようですが、私達はあの駄メドゥーサを連れ帰る為に一緒に連れていって欲しいのですわ」

 

「連れ帰るって、女神であるあなた達がやらずとも……」

 

「そんな事はないわ!だってあの娘ったら、私達の世話を放り出して、現世に遊びに行くだなんて許せないわ!お仕置きをしないといけないわ。ねえ、(ステンノ)?」

 

「そうね、(エウリュアレ)。おかげで、部屋は汚くなるわ、洗濯物がたまるわ、散々よ。これはきつく再教育する必用があるわ」

 

「…………そ、そうでしたか」

 

 最初、ベルゼブブはこの女神二人が本当にリリスと同じ、「世界悪女の会」に参加しているのかと疑っていたが、この少ないやり取りで、その片鱗が嫌という程理解でき、苦笑いを浮かべるだけになる。

 

「そういうわけで、私達も現世に連れていって欲しいのですわ」

 

 と、ステンノはベルゼブブに確認をとる。

 

「話は分かりましたが、女神である貴方達を現世に連れていくのには、少々手間がかかりまして。それは難しいですね」

 

 そういうと二人は、そんな事かと言って一枚の紙を差し出す。

 

「これは?」

 

「私達の現世に行く許可証よ」

 

「どうしてこれが!?発行には半年はかかるはずだぞ!?」

 

「私達がお願いしたら、即OKだったわよ?」

 

「………………マジかよ」

 

 それから三人は、話を二人を連れていく方向にまとめる。それからベルゼブブは決まったことを、鬼灯に報告するべく電話をかける。

 

「もしもし、鬼灯です」

 

「もしもし、俺だ」

 

「…………オレオレ詐欺ですか?家には息子等はいないので騙されませんよ」

 

「俺だよ俺!ベルゼブブだよ!!お前わざとだろ!」

 

「はい、そうですが?」

 

「~~~~~っ!!」

 

 この様に一悶着はあったが、報告事態はスムーズに進んでいく。

 

「わかりました。連れてこられるのが、ステンノさん、エウリュアレさん、そしてドレイクさんの三人ですね?」

 

「ああ、そうだ」

 

「それにしてもこの短期間で良く、こんな人材を揃えましたね。正直見直しました」

 

「うん、まあ色々あってな色々」

 

 ほとんど、自分の力では何もできなかったベルゼブブは、笑ってごまかす。

 

「そういえば、私が頼んでいた物は用意できましたか?」

 

「ああ手紙ね。ちゃんと用意したよ。したが、お前よくあの人と知り合いだったな」

 

「ええ、昔世界各地を回っている時、ヒュドラ調理師免許を取ったときに知り合いになりました」

 

「……なんだそれ?」

 

 

 

 

 

 

 

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「マスターっ!今すぐに逃げましょう!」

 

「なんだよライダー!?急にどうしたんだ!?敵か!?」

 

「いえ何かは分かりませんが、なにかとてつもなく良くない者が近づいている気配が!!」



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